p.38 抽出テキスト
あったが,腎機能高度低下の147例と透析下の124例でもそれぞれ75.9%,72.8%と,PCI群に比してCABG群で無イベント生存率が有意に高かった.また,中等度CKDを有する多枝病変例においてCABGはPCIに比べ再血行再建のリスクを下げることが,ARTS試験のサブ解析において報告されている334).このように,高度腎機能障害で冠動脈複雑病変の場合には,再血行再建の回避ならびに生命予後の観点からCABGの優位性が示されている. 3.3 透析症例 CKD患者の中でも透析患者は特に予後不良で,一般人と比較して心血管死が10~20倍多い335).その原因は冠動脈疾患を有することが多い点にあると考えられ336),このため特別な病態として認識されるべきである.しかし,維持透析患者を対象とした血行再建についての報告は少なく,症例数も限られたものとなっている. 冠動脈疾患を有する透析患者のCABG,PCI後の予後を薬物治療と比較検討した報告では,CABGは薬物治療に比べ良好な長期予後を示した.また,PCIも薬物治療に比べ良好な成績であった337).US Renal Data Systemのデータ解析では,1995年から1998年の間に米国で透析導入後にCABGまたはPCIによる血行再建を受けた患者(CABGが6668例,バルーン拡張術のみが4836例,ステント留置が4280例)の長期成績が比較検討された338).2年生存率はCABG群で56.4%,バルーン拡張術群で48.2%,ステント留置群で48.4%と,CABG群が有意に優れていた.また,CREDO-Kyoto PCI/CABG Registry Cohort-2でも,傾向マッチングした透析例のCABG群(130例)とPCI群(258例)を比較し,両者の遠隔期総死亡率に差はないが, PCI群で有意に心血管死亡や突然死の発生率が高いこと,再血行再建率はPCI群で有意に高いことが報告されている339). DESが普及した現在においても,CABGの治療効果がPCIを上回っていることが示されているが,維持透析患者は外科的治療の高リスク群でもあるため,個々の症例の全身状態や予測される生命予後に応じた治療方針の検討が必要である. 3.4 PCI 表19 CKD 合併例に対するPCI に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 術前にGFR を計算して造影剤腎症のリスクを評価する. I C造影剤腎症を考慮した造影剤使用量でPCI を施行する. I C CKDに対するPCIにおいては,造影剤腎症や出血性合併症,アクセス部位に関する留意が必要となる.造影剤腎症は合併率が高く,合併するとCKDの予後を悪化させる(詳細は第8章 造影剤腎症,P. 82を参照).また,CKDは抗血小板薬2剤併用療法による出血性合併症の危険因子である.併用薬の投与量,副作用に関する留意も必要である. CKDでは冠動脈の石灰化病変が多く,特に糖尿病合併症例では石灰化が高度である.したがって,PCIの際ステントの不十分拡張や血管壁との密着不良のリスクが高くなる.これらはステント再狭窄やステント血栓症の手技関連の危険因子である.シャント造影を考慮すべき症例では橈骨動脈以外のアクセスを選択せざるをえない.この場合は出血性合併症のリスクが高くなる. 使用デバイスに関しては,透析患者に対するベアメタルステント(BMS) (204例)とDES(301例)の成績を比較した研究で,6年間のTLR率がDES群で有意に低かった340).しかしながら,非透析患者と比較すると,やはりDESを使用しても再狭窄率は高く,今後の課題と考えられる341).透析患者では高度石灰化病変や長い病変など複雑病変が多く,ステント通過が困難な例や,ロータブレーターRの使用が必要となる例も多い.PCI施行にあたり高い技術が要求される点も,透析患者では注意が必要である. なお,透析患者は非透析患者と比べて冠動脈疾患罹患率が高く,透析導入時から無症候性の冠動脈狭窄があることも少なくない.重篤な心イベントや心臓死につながる可能性もあるため,透析患者においては積極的な冠動脈疾患のスクリーニングを行い,早期発見,早期治療に努めることが重要と考えられる.