p.34 抽出テキスト
トリーデータの集積が待たれる. 1.3 CABG 一般にCABGによる血行再建ではオフポンプ冠動脈バイパス術(OPCAB)が広く行われているが,特に低心機能例に対しては,心臓脱転時に血行動態が不安定になることへの懸念から,オンポンプ冠動脈バイパス術(ONCAB)も行われている.これらを比較した臨床試験の1つでは, LVEF≦30%の低心機能例934例に対して行われた心停止下でのONCABとOPCABとを,術前背景をマッチさせて比較し,遠隔期まで追跡している.それによると,周術期の心筋梗塞発生率はONCAB群で高値であったが(3.8%対1.3%,P=0.04),周術期死亡率および脳梗塞を含めたその他の合併症発生率に有意差は認めなかった224).遠隔期においてはOPCAB群で冠動脈再血行再建率が高値であったが,生命予後に有意差は認めなかった. 低心機能例では心筋保護を考慮して心拍動下ONCABが行われることもある.LVEF≦35%の低心機能例を心拍動下ONCABとOPCABに割り付け,術後早期成績を比較したある試験では225),心拍動下ONCAB群のほうが受けたバイパスの本数が有意に多く(3.7± 0.8対2.8±0.6,P< 0.001),術前のLVEFは同程度であったにもかかわらず術後LVEFが有意に高値であった.両群間で周術期死亡や合併症に有意差は認めなかった.また多変量解析では,これら2つの手法は周術期死亡や合併症の予測因子とはならなかったと報告されている.別の試験では,平均LVEF 37%でEuroSCOREが12である高リスク患者群に対して,心拍動下ONCAB,OPCAB,および従来のCABGで成績を比較しているが,心拍動下ONCABは周術期の心臓合併症を抑制でき,安全で有用な方法であると述べている226).ただ,これらの臨床研究では症例母数が小さく,遠隔期成績も調べられてはいないため,その臨床的意義は限定的である. 1.4 左室形成術 1.4.1 目的 冠動脈疾患に対する左室形成術(SVR)の目的は,左室の縮小,瘢痕組織の除外,左室形態の改善の3点に要約できる. 心筋梗塞後のリモデリングにより左室が拡大すると生存率が低下するが227),SVR後に一定以上の左室縮小(ESVI <60 mL/m 2)が得られる症例では,そうでない症例よりも予後が良好である228–230).また,左室拡大症例では神経体液性因子の活性化によりさらなるリモデリングが助長され るが231),SVRによりこの活性は低下する232).一方,SVRによる左室縮小は一回拍出量を減少させうるため233),瘢痕部位や左室収縮能に留意するとともに,過縮小を避ける必要がある. また虚血心において,無収縮領域が一定以上を占めると心拍出量が低下し,これを維持するためには心拡大が必要となるが234, 235),SVRにより瘢痕組織を除外することで,一回拍出量を損なうことなく左室縮小を得ることができる236). 一方,心筋梗塞後の左室リモデリングにより左室の球状化が起こると左室収縮効率が低下するが237),SVRの際に左室形態の回復に留意した症例では,そうでない症例に比して予後が良好である238). 1.4.2 効果 虚血心に対するSVRの効果を検討したRCT(STICH試験)では,術前LVEF<35%を呈する単独CABG群499例とCABG+SVR群501例を比較し,CABGにSVRを追加することによる生命予後改善効果は認められないとの結論が示された239).しかし,同試験は手術適応や術前評価,手術内容に問題があるとして,その結果を疑問視する向きもある240).一方,本邦の後ろ向き多施設共同研究(SURVIVE研究)は,術前LVEF<40%の冠動脈疾患患者293例を検討し,CABGに左室前壁切開を伴うSVRを追加することで,有意なESVI低下とLVEF改善が得られることを示した.さらに,術後LVEFが予後に影響することを示したうえで,SVRの追加はLVEFを改善し生命予後改善に寄与すると結論づけている241). 1.4.3 適応 SVRの適応は左室リモデリングの程度,手術リスク,左室形態などを総合的に考慮して決定するべきである. SVR追加により予後改善が期待できる症例(レスポンダー)は,ある程度の左室リモデリングを呈した症例であり,高度進行例やごく軽度のリモデリング例ではその効果は乏しいとされてきたが242),これまでの研究結果はその上下限を術前左室ESVIから特定するには至っていない.一方STICH試験は,術後ESVI≦70 mL/m 2となる症例では,単独CABG群に比してCABG+SVR群で予後が良好であるとして,術後左室容積の重要性を示している230).またSURVIVE研究も,術後ESVIが40~80 mL/m 2 となる症例において,SVR追加によるLVEF改善が術後生存期間延長に寄与することを示し,同範囲の術後ESVIを得られる症例がSVRのレスポンダーであるとしている.同研究で