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p.20 抽出テキスト

わらず,安定冠動脈疾患において必須の治療である(抗血小板薬や抗凝固薬については,第9章 周術期の薬物療法, P. 83~を参照).

一方,実臨床において至適薬物治療の実践は必ずしも容易でないことが指摘されている91).このため,薬物治療のアドヒアランス向上に常に努める必要がある.

2.2 抗狭心症薬

2.2.1 硝酸薬

硝酸薬は末梢静脈を拡張して前負荷を軽減,冠動脈を拡張,末梢動脈を拡張して後負荷を軽減する.安定冠動脈疾患に対する硝酸薬の有効性については十分な根拠となる大規模RCTがない.一方,硝酸薬が予後を悪化させるという報告は,ランダム化が十分でなく92),また現在では冠動脈血行再建術や薬物治療がより進歩しているので,再検証が必要である.

2.2.2 β遮断薬

β 遮断薬は,陰性変時作用による心拍数抑制と,陰性変力作用による心筋収縮力抑制とにより,心筋酸素消費を軽減させ,抗狭心症効果を発揮する.急性心筋梗塞例に対するβ 遮断薬の長期投与は退院後の死亡率を低下させることが,メタ解析により報告されている93, 94).個別評価では,心筋梗塞後のカルベジロール投与は,不整脈や突然死のリスクを低下させたとされる95).一方,心筋梗塞既往や左室収縮能低下のない安定冠動脈疾患に対するβ 遮断薬の予後改善効果については,十分なエビデンスが存在せず,現在検証が進められている.

2.2.3 Ca拮抗薬

ジヒドロピリジン系と非ジヒドロピリジン系,ともに血管拡張作用による心筋虚血軽減効果を有する.アムロジピンにより心血管イベントが減少し96),長時間作用型ニフェジピンによりPCI施行リスクが低下したとする報告もあるが,いずれも現行の血行再建術ならびに至適薬物療法が確立される前の臨床試験の結果である97).本邦では欧米と比較して冠攣縮患者が多いことを反映し,β 遮断薬の使用が少なく,代わりにCa拮抗薬が多く用いられる傾向がある98).

2.2.4 ニコランジル

ニコランジルは本邦で開発されたATP感受性Kチャネル開口薬であり,硝酸薬様作用,冠血管拡張作用による心筋虚血の改善効果,心筋保護効果を有する.Ca拮抗薬と

同様に21世紀初頭に行われたRCTであるが,IONA試験ではニコランジルにより心血管イベント発生率が17%低下したとされている99).

2.2.5 その他の薬物

海外では選択的洞結節抑制薬ivabradine,遅延Na電流選択的阻害薬ranolazineが臨床応用されているが,本邦では未承認である.

2.3 冠危険因子に対する薬物治療

2.3.1 高血圧

ACC/AHAによる2017年の高血圧ガイドラインでは,慢性冠動脈疾患合併高血圧患者の降圧目標値を130/80 mmHg未満とした100).日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2014」では,冠動脈疾患合併患者の降圧目標値を140/90 mmHg未満とし,危険因子重複例では有意な冠動脈狭窄,心筋虚血や心電図変化がないことを確認したうえで130/80 mmHg未満を目標値とした101).

高血圧合併慢性冠動脈疾患患者では抗狭心症効果を有するCa拮抗薬とβ 遮断薬が第一選択薬になる.冠攣縮の関与が考えられる症例ではCa拮抗薬が第一選択である.アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)は心筋梗塞後の心血管合併症を減少させて生命予後を改善し,心機能障害のない冠動脈疾患に対しても予後改善効果が示されている102).ASCOT試験とACCOMPLISH試験では,アムロジピンとACE-Iの併用により心血管イベントが減少した103, 104).一方,高血圧合併慢性冠動脈疾患患者に対し,アンジオテンシンII受容体拮抗薬の有用性を示した報告はない.アルドステロン拮抗薬であるスピロノラクトンとエプレレノンは,腎機能低下や高カリウム血症のない心不全合併心筋梗塞例に対する投与が推奨される105, 106).

2.3.2 糖尿病

糖尿病合併心血管疾患患者の心血管イベント再発率や死亡率は高い107).しかし,ACCORD試験では強化療法群において死亡率の上昇を認め108),大血管障害のリスク低下に対する厳格な血糖コントロールの有用性は明らかでない.一方,早期からの血糖コントロールは長期の合併症や死亡のリスクを低下させることが報告されている(レガシー効果).日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2016」では合併症予防のためHbA1cの目標値を7.0%未満としている109).