p.19 抽出テキスト
1 一般療法 1.1 禁煙 喫煙の影響は,フィブリノーゲン産生増加65),血小板凝集能亢進66),血管内皮機能障害67),低HDL-C血症68),冠攣縮69)などと多面的であり,喫煙と心血管イベントリスクとの関係には量依存性が存在する70).また,受動喫煙によっても心血管イベントリスクが上昇することが明らかである71).RCTのエビデンスはないが,多くの観察研究やメタ解析により,禁煙が心血管イベントの予防に有効であることが示されている70, 72).完全な禁煙は喫煙の継続に比して死亡リスク,心筋梗塞リスクを30%低下させ73),2~3年の禁煙であってもリスクは低減すると報告されている74). 禁煙のためのアプローチには薬物による介入と非薬物による介入があるが,具体的には「5Aアプローチ」という5つのステップが推奨されている(表8) 75).禁煙治療としては,ニコチン依存に有効な禁煙補助薬(ニコチン貼付薬,ニコチンガム,バレニクリン)がある.禁煙補助薬が禁煙に有用であることは明らかであるが,禁煙補助薬と心血管イベントの関連を検討した臨床試験は少なく,エビデンスに乏しいのが現状である. 禁煙には医師による励ましが有益であり76),職場のみならず家庭内においても継続した禁煙が達成できるように,医師患者関係を構築することが重要である. 1.2 体重管理 BMIと冠動脈イベントとの関連性は疫学研究から報告されており,年齢,性別,身体活動,喫煙などを補正後もBMIは冠動脈イベントの強い危険因子であることがメタ解析でも示されている77).とくに内臓脂肪型肥満はリスクが高いことが知られている78).肥満症例は複数の古典的冠危 険因子を有するのみでなく,交感神経緊張,血液凝固能亢進,炎症などとも関連している79).本邦では,BMI(体格指数:体重[kg]/身長[m] 2)=22を標準体重,BMI≧25を肥満の定義とし,BMI≧25の肥満者の中で肥満に関連する健康障害を併発するか内臓脂肪の過剰蓄積した高リスク症例を,肥満症の定義としている80).内臓脂肪型肥満のスクリーニングとしてはウエスト周囲径(腹囲)が重要であり,本邦ではウエスト周囲径がメタボリックシンドロームの診断の必須項目として用いられている80).体重や腹囲の減少は血糖や血圧・脂質などの危険因子を包括的に改善することが示されており80),減量手術による20~32%の体重減少は死亡率の24%低下につながったという報告もある81).3~6ヵ月の期間で体重や腹囲が3%以上減少することを管理目標として生活指導を行うことは必須である80, 82). 1.3 身体活動および運動療法 運動療法,心臓リハビリテーションの効能はRCT,メタ解析で実証されており83),リスク管理の根幹的な役割を担う.運動療法は生命予後の改善のみでなく,運動耐容能の改善,虚血閾値の上昇に寄与する84, 85).また,禁煙促進効果も期待できる.このような運動療法の有効性は急性心筋梗塞のみでなく,安定した冠動脈疾患でも示されている86).ほとんどの症例で推奨される運動は,1週間に5日以上,30~60分程度,中等度~強度の有酸素運動である87).可能であれば運動負荷試験に基づいた運動処方箋が望ましく,低心機能,心不全症状,低運動閾値,高度残存虚血などを有する例では,監視下の運動プログラム実施が望ましい.運動療法と併せて,日常生活における身体活動を増やすなど生活習慣の改善・維持を勧め,励ます必要がある. 2 薬物治療 2.1 目的 安定冠動脈疾患に対する薬物治療の目的は,虚血の改善と心血管イベントの予防により,QOLと予後を改善することである.実際,冠動脈狭窄を有していても適切に症例を選択すれば,至適薬物治療によって冠動脈血行再建に劣らない生命予後が期待できることが示されている35, 88–90).このため至適薬物治療は,血行再建術施行の有無にかか 表8禁煙治療の手順―5A アプローチ ステップ1 Ask診察のたびに,喫煙状況を問う.ステップ2 Adviseすべての喫煙者に禁煙の必要性を説く.ステップ3 Assess禁煙への意思を評価する.ステップ4 Assist禁煙希望がある患者を支援する.禁煙治療薬の導入,カウンセリングを行う.ステップ5 Arrange経過観察日を決める. (Fiore M, et al. 2000 75) より)