p.93 抽出テキスト
転換酵素サブチリシン/ ケキシン9 型(PCSK-9)阻害薬(抗PCSK-9 モノクローナル抗体)は,LDL-C 値を約60% 低下させること,その効果はスタチン治療中,スタチン不耐性,FH の患者など治療前LDL-C 値に関係なく認められることが示されている967, 971–973).GLAGOV 試験,FOURIER 試験はそれぞれ,PCSK-9 阻害薬(エボロクマブ)による冠動脈プラークの退縮効果968),高リスク患者を対象に心血管事故抑制効果967)を検討した大規模臨床試験である.FOURIER 試験では,PCSK-9 阻害薬はLDL-C 値を92 mg/dL から30 mg/dL まで約60 mg/dL低下させるとともに,主要心血管イベントの発生を有意に低下させた967).FOURIER 試験において,PCSK-9 阻害薬の3 年間での相対リスク減少率は15%,NNT は50 であった一方,層別解析では,糖尿病群978)でそれぞれ17%,37,末梢動脈疾患979)で21%,29,多枝病変980)で30%,29 であり,高リスク群でより強い有用性が示された.また,ACS 患者を対象にPCSK-9 阻害薬を用いたイベント試験として,ODYSSEY OUTCOMES 試験が2018 年に公表され,アリロクマブが主要エンドポイントを15%,全死亡も15% 有意に低下させることが示された991).追跡期間の中央値は2.2 年で,NNT は49 であった.本試験では,高用量スタチン投与下(アトルバスタチン40 mg 以上,ロスバスタチン20 mg 以上)で,PCSK-9 阻害薬投与前のLDL-C 値が100 mg/dL 以上のサブグループでのみイベント抑制効果が認められた.したがって,スタチンを使用してもLDL-C 値 70mg/dL に達しない高リスク患者に対してPCSK-9 阻害薬投与を検討する意義はある.しかし,日本人のACS 患者を対象としたプラーク退縮試験やイベント試験の報告がないため,ACS 患者全例に対する使用を現在推奨できる段階にはない.ただし,FH 患者はスタチン治療のみでは管理目標値(LDL-C 値70 mg/dL 未満,前値の50% 低下)を達成することは難しく,将来のイベント発症リスクが高いことを考慮すると,管理目標値に達しなければ早期からPCSK-9 阻害薬の併用を推奨する. 2.6.3 残余リスクへの介入 a. TG とフィブラート製剤 高TG 血症が冠動脈疾患の危険因子であることは国内外の疫学研究や観察研究で立証されており,スタチン投与によりLDL-C 値が70 mg/dL 未満となった患者でもTG 200 mg/dL 以上では予後が有意に悪化することから,残余リスクとしても注目されている995–998).しかし,冠動脈疾患を対象にTG を低下させる介入試験(フィブラート製剤)で心血管事故が抑制されたエビデンスはない.臨床試験のメタ解析では,TG の低下に比例してイベント発生率が低下することが示されていることから,TG を下げること への懸念はない.層別解析では,低HDL-C 血症を合併していれば981)フィブラート製剤のイベント減少効果が示されていることから,高TG 血症かつ低HDL-C 血症ではスタチンとの併用を考慮する. b. 高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C) 低HDL-C 血症が冠動脈疾患発症のリスクであることは過去の疫学研究で示されているが,低HDL-C 血症が単独で心血管疾患発症の予測因子になるというエビデンスは不足している999, 1000).観察研究で,スタチン投与によりLDL-C 値が70 mg/dL 未満となった患者でもHDL-C 値40 mg/dL 以下では予後が悪化することが示されており1001),TG と同様,残余リスクとして注目されている.しかし,HDL-C 値を上昇させる薬剤の予後改善効果は示されていない.コレステロールエステル転送蛋白(CETP)阻害薬の有効性は大規模臨床試験でも示されておらず,現在のところ有効な薬物介入はない. c. n-3 系多価不飽和脂肪酸 本邦では,n-3 系多価不飽和脂肪酸はエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)に分類され,摂取量が多くなれば心血管事故が減少するとの報告がある1002–1004).一方,欧米では否定的な報告が多かったが1005–1007),REDUCE-IT 試験で初めてイベント減少が実証された1008).同試験は一次予防高リスク患者と二次予防患者を対象に,スタチンへのEPA 4 g/日の併用効果を検証した8,179 例の大規模臨床試験である.主要エンドポイント(心血管死,心筋梗塞,脳卒中,冠血行再建術,UA)は25% 有意に減少し,NNT は21,総死亡を除く上記エンドポイントのすべてにおいて有意な減少が認められた.また,二次予防,TG が150 mg/dL 以上の集団で有意性が示されていることが注目すべき点である.ただし欧米の報告であり,介入前のEPA が26.1μg/mL と日本人にくらべ低い患者群に,これまでにない量のEPA 投与による有効性が示されていることに留意すべきである.1990 年代に本邦で実施されたJELIS 試験1009)は,スタチン使用患者でEPA 追加の有無によりイベント発生に違いが生じるかを比較した大規模臨床試験である.その結果,EPA 群は対照群にくらべ心血管事故の発生率が有意に低いこと,また,冠動脈疾患二次予防の層別解析982)では,EPA 投与群は対照群にくらべ冠動脈イベント発生率が23% 低く,とくに心筋梗塞とPCI の既往例ではEPA 投与群で41%低いこと,イベント数はEPA /アラキドン酸(AA)比が上昇するほど減少することが示された.EPA/AA 比が高いとPCI 後のイベントが減少するという観察研究1010)もあり,EPA/AA 比はバイオマーカーとしても注目されてい