p.90 抽出テキスト
2.3 レニン・アンジオテンシン・ アルドステロン系阻害薬 レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)阻害薬の左室機能低下例における心血管イベント抑制効果はすでに確立されている.アンジオテンシンII には動脈硬化促進作用があるため952),RAAS 阻害薬はACS の再発を抑制することが期待される.左室機能が保たれ,心不全の既往のない患者におけるラミプリルの効果を検討したHOPE 試験では,約半数に心筋梗塞の既往があったが,全死亡が16% 抑制された546).同様にペリンドプリルはEUROPA 試験において,心血管イベントを20% 減少させた545).一方,同様の効果はトランドプリル953)やキナプリル954)では確認されなかった.以上より,左室機能低下のないACS 発症後慢性期の患者におけるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の効果は,クラス効果(class effect:薬種共通の効果の意)ではなく,薬剤効果(drug effect:薬剤固有の効果の意)である可能性が示唆される949). アンジオテンシンII 受容体拮抗薬(ARB)のACS 発症二次予防に対する効果が,OPTIMAAL 試験543)および VALIANT 試験542)において検証された.前者では,ロサルタンの投与は心血管イベントを有意に抑制しないことが示された一方,後者ではバルサルタンのカプトプリルに対する非劣性が証明され,ACE 阻害薬の代替薬になる可能性が示唆された.主要エンドポイントではACE 阻害薬とARB 併用の効果は確認されなかったが,事後(post hoc)解析の結果では,左室収縮能の低下例に限ると,ACE阻害薬単独にくらべACS 再発や心不全悪化による入院が抑制された.また,約半数が心筋梗塞既往患者であったONTARGET 試験955)では,テルミサルタンはラミプリルと同等のイベント抑制効果を有することが示唆された.同様に対象の約半数に心筋梗塞既往患者を含むCHARM試験の副次解析950)では,カンデサルタンは心不全例の心血管イベントを有意に抑制することが示された.ARB を用いた本邦の4C 試験951)では,40% 弱に心筋梗塞の既往がある患者集団において,平均6.1 mg のカンデサルタンの投与により,心血管死,非致死性心筋梗塞,不安定狭心症(UA),心不全による入院の複合転帰が有意に抑制された.EPHESUS 試験544)では,左室機能不全および心不全を合併した急性心筋梗塞(AMI)患者において,至適薬物治療に追加された選択性アルドステロン拮抗薬エプレレノンは,死亡率および合併症を有意に減少させた. 2.4 硝酸薬,ニコランジル ACS 発症後の慢性期の硝酸薬の効果に関する無作為化比較試験の多くは,再灌流療法の導入前に行われており,新しいエビデンスは皆無に近い.近年は登録研究において統計学的手法を駆使し,背景因子を補正して薬物の効果を確認する方法が用いられる.同手法を用いた本邦のJCAD研究956)では,硝酸薬の使用は心血管イベントを抑制したことが報告されたが,同じく本邦のHIJAMI 研究958), JACSS 研究959)では,予後への影響は明らかではなかった. 表86 二次予防におけるRAAS 阻害薬投与の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 心不全徴候を有する,またはLVEF 40% 以下の患者に対してACE 阻害薬を長期投与する237) I A左室機能低下はないが,高血圧や糖尿病などを有する高リスク患者に対してACE 阻害薬を長期投与する545, 546) I B ACE 阻害薬に不耐で心不全徴候を有する,またはLVEF 40% 以下の患者に対してARB を長期投与する542) I A左室機能低下(LVEF 40% 以下),心不全,糖尿病を有するACE 阻害薬およびβ遮断薬既投与患者で,腎不全や高カリウム血症がない場合,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を投与する544) I A禁忌のないすべての患者に対してACE阻害薬の長期投与を考慮する949) IIa A腎機能悪化の懸念のない左室機能低下または心不全症状を有する患者に対して,ACE 阻害薬に併用してARB の長期投与を考慮する950) IIb B左室機能低下や心不全症状の有無にかかわらずARB の長期投与を考慮してもよい951) IIb B表87 二次予防における硝酸薬,ニコランジル投与の推奨 とエビデンスレベル推奨クラスエビデンス レベル 冠攣縮性狭心症を合併,または冠攣縮が原因で発症したことが明らかな患者に対して,虚血発作予防を目的として長時間作用型硝酸薬を投与する956) I C狭心症発作を有する陳旧性心筋梗塞患者に対してニコランジルの投与を考慮する957) IIa B