p.89 抽出テキスト
ステント血栓症を抑制することが示されている944).これらの指標の日本人への適用の妥当性はまだ評価されていないが,ステント血栓症の危険因子などを加味しながら担当医が個別化して応用する必要がある. 持続性または発作性心房細動を合併するACS 患者に対しては抗凝固療法が必要である643).本邦では,心房細動を合併するACS 患者は5% 前後存在し50),ステント留置後早期であれば,アスピリン,チエノピリジン系抗血小板薬によるDAPT のほかに,ワルファリンや直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)などの抗凝固薬が必要となるため(3剤併用療法),出血リスクと血栓塞栓リスクのバランスを考慮する必要がある.最新のESC ガイドラインでは,3 剤併用療法として虚血リスクを懸念する場合は6 ヵ月,出血リスクを懸念する場合は低リスク患者で1 ヵ月が,高リスク患者では初めからDOAC とクロピドグレルの2 剤併用療法が推奨されている928).最近の2 つの試験では,DOACとクロピドグレルの2 剤併用療法は,従来のワルファリン+DAPT の3 剤併用療法と比較して,血栓イベントおよび再血行再建術の確率を増加させずに,出血イベントを有意に抑制したことが報告されている527, 528).両試験ともACS患者が5 割前後含まれていることから,非ACS と同様の推奨とした.現時点では欧米と同様,出血リスクが高い心房細動を合併するACS 患者では,ステント留置術直後からDOAC に加えて少なくとも12 ヵ月間のクロピドグレル併用が推奨される.アスピリンの血小板凝集抑制作用は投与中止後7 ~10 日間は持続するため,抗凝固薬の併用が必要なPCI患者に対して退院時にアスピリン投与を中止し,抗凝固薬とクロピドグレルの2 剤併用療法を行うことも考慮される. 2.2 β遮断薬ACS 発症後の長期の経口β遮断薬の効果は,メタ解析 の結果ですでに確立しているが,解析された臨床研究の多くは再灌流療法が施行される前の時代のものである946).すなわちβ遮断薬の有効性は,左心室の収縮不全を基礎病態とする患者を対象として検証されている.46% の患者に血栓溶解療法やprimary PCI が行われたCAPRICORN 試験では,LVEF 40% 以下の患者が登録され,カルベジロールによる全死亡の抑制効果が確認された530).一方,心不全を有しないACS 慢性期の患者におけるβ遮断薬の効果が,フランスの全国規模の登録研究によって検証されたが,発症30 日以降の慢性期におけるβ遮断薬の使用は死亡率を有意に減少させなかった537).同様の結果は,さらに大規模のデータベースを用いた長期の観察研究によっても明らかになった947).本邦の無作為化比較試験CAPITAL-RCT (観察期間:中央値3.9 年)では,primary PCI が施行され, 左室機能が保たれた(LVEF 40% 以上)STEMI 患者におけるカルベジロールの有効性が検証された.その結果,カルベジロール投与群と非投与群で,主要エンドポイント(全死亡,心筋梗塞,ACS・心不全による入院)に有意差は認められなかった(6.8% vs 7.9%) 945).以上より,ACSの慢性期におけるβ遮断薬は,左室収縮能の低下例(LVEF 40% 以下)で,禁忌(急性心不全,不安定な血行動態,高度房室ブロックなど)が存在しない場合に限り投与されるべきと考えられる.心筋梗塞既往患者を対象にβ遮断薬とCa 拮抗薬を比較した本邦の無作為化比較試験JBCMIでは,平均455 日の観察期間中,心血管死亡と再梗塞の発生率はいずれも2% 未満であり,欧米の報告にくらべて予後は良好で,β遮断薬群とCa 拮抗薬群の間に有意差は認められなかった556).JBCMI では,PCI を主体とする再灌流療法が80% 以上の例に行われており,このことがβ遮断薬群の良好な予後と関連していると思われる.この問題については現在もなお論争が続いている948). 表85 二次予防におけるβ遮断薬投与の推奨とエビデンス レベル推奨クラスエビデンス レベル 心不全徴候を有する,またはLVEF 40% 以下の患者に対して,β遮断薬を長期経口投与する530–532) I A心不全徴候がなく左室機能が正常な患者に対してβ遮断薬投与を考慮してもよい556, 945) IIb C低血圧,急性心不全,房室ブロックなど重篤な徐脈を合併する患者に対してβ遮断薬を投与すべきではない532) III Harm B表85 つづき 推奨クラスエビデンス レベル 冠攣縮を基礎病態として有する患者に対してβ遮断薬を単独投与すべきではない556) III Harm B心不全を基礎病態として有する患者に対してβ遮断薬を初回から高用量投与すべきではない556) III Harm B