p.86 抽出テキスト
は明らかでないが900),患者および患者家族に禁煙の重要性を指導することは必須である.禁煙へのアプローチとして,「5A アプローチ」という5 つのステップが国内外のガイドラインで推奨されている(表81) 901).また,禁煙治療としてニコチン依存性に有効な禁煙補助薬(ニコチン貼付薬,ニコチンガム,バレニクリン)がある.海外の観察研究ではあるが,ニコチン代替療法はACS 発症後1 年間の心血管有害事象を増加させないことが報告されている911).一方,バレニクリンは禁煙達成率の面で有用性が示されているが,心血管イベントのリスクを増加させることも報告されている912).禁煙補助薬が禁煙に有用であることは明らかだが,禁煙補助薬と心血管イベントの関連性を示す臨床試験は少なく,エビデンスは乏しい.少なくとも,禁煙の臨床的意義を啓発し,継続した禁煙が達成できるように医師患者関係を構築することが重要である. 1.2 肥満,体重管理 本邦では,過去の疫学研究から,疾病合併率が最も低い肥満指数(BMI)(体重/ 身長[m] 2)=22 が標準体重, BMI ≧25 が肥満と定義されている.BMI ≧25 の肥満者の中で,肥満に関連する健康障害を併発しているか,内臓脂肪が過剰蓄積した高リスク症例が肥満症と定義されている913).肥満が動脈硬化性疾患の形成・進展や心事故に関連することは多くの疫学研究で示されている.本邦を含む東アジアと南アジアの112 万人以上を対象とした前向きコホート研究,「アジアコホート連合」(Asia Cohort Consortium)では,BMI が高い肥満患者で,心血管疾患などの死亡リスクが高まる傾向が示された.ここで注意を要するのは,肥満と死亡率の関連にはobesity paradox(BMI と死亡率の逆相関の意)が存在することである922, 923).ACS を含む冠動脈疾患患者を対象とした報告でも,BMI と心血管事故の発生は線形の関係ではなく,低体重が予後不良因子であることが国内外問わず明らかにされている918–921).心筋梗塞および心血管疾患による死亡とBMI の関連として,東アジアではBMI が20.0 ~22.4 のときに死亡リスクが最も低くなり,やせ(BMI 15 未満)や肥満(BMI 27.5以上)では死亡リスクが高くなるという「U 字型」の相関が示された.年齢による比較では,53 歳以上にくらべ53歳未満で死亡リスクが高く,この傾向は欧米の報告と一致していた.中年期ではBMI の高い肥満が心血管疾患の重要なリスク要因となるが,高齢では死亡リスクは上昇しないという報告が多い.U 字型の相関において,低BMI の高齢者に生命予後不良例が多い原因は,フレイルやサルコペニア,肝不全,腎不全,悪性疾患などの併存疾患が高率であるためと解釈されている. 一方,非高齢者では体重(BMI)だけでなく,内臓脂肪蓄積に注目した疾患概念である「メタボリックシンドローム」が注目されている.メタボリックシンドロームは,個々の危険因子は軽症でも重複すると心血管リスクが高まるという考え方から生まれた.メタボリックシンドロームでは心血管事故のリスクが高いことが疫学研究やメタ解析によって示されており915–917),単に危険因子の集積だけでなく,アディポネクチンの低下が心血管事故のリスクを高めることも報告されている924).国外のステートメントでは,内臓肥満,高中性脂肪(TG)血症,低HDL-C 血症,血圧高値,血糖高値の5 項目中3 項目該当する場合にメタボリックシンドロームと診断することが提唱され,必ずしも内臓脂肪蓄積は必須項目ではない925).一方,本邦では内臓脂肪蓄積をスクリーニングするために,ウエスト周囲径がメタボリックシンドロームの診断に必須項目として用いられている.肥満症診療ガイドラインでも,ウエスト周囲 表82 二次予防における体重管理に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 正常体重(18.5 ≦BMI <25)の患者に対しては体重の維持,肥満患者に対しては3~6ヵ月間で3% 以上の体重減少を指導する913, 914) I B肥満の基準に該当しない患者に対してもウエスト周囲径を測定し,メタボリックシンドロームに該当するかどうかのスクリーニングを行い,血圧・脂質・耐糖能異常・禁煙指導・運動療法などの包括的介入を行う913, 915–917) I C低体重(BMI <18.5)を目標にする介入は推奨されない918–921) III No benefit B表81 禁煙達成のための5A アプローチ (Fiore M, et al. 2000 901)より改変) Ask診察のたびに喫煙状況を問うAdviseすべての喫煙者に禁煙の必要性を説くAssess禁煙の意思を評価するAssist禁煙希望がある患者を支援する.禁煙治療薬の導入,カウンセリングを行う. Arrange患者が禁煙を試みる場合は禁煙開始日の一週間以内に経過観察日を決める.患者が禁煙を希望しない場合も次回の禁煙を促す.