p.84 抽出テキスト
離断,4動揺性の剥離内膜(intimal flap)が冠動脈入口部を直接閉塞,などがある876–878).一般に,Stanford A 型急性大動脈解離は緊急外科的治療の適応である.大動脈弁逆流,著明な血圧上昇またはショックを伴った大動脈解離で,心電図で虚血性変化を示す例は急性大動脈解離の約25% を占めるという報告がある874, 879).虚血性心電図変化を伴う急性大動脈解離例は,虚血性変化を伴わない例にくらべ診断が遅れることがあり,院内死亡率が高くなる要因の1 つと報告されている879, 880). ACS では,急性大動脈解離との鑑別またはその合併に留意する必要がある.急性大動脈解離ではAMI にくらべて移動性の強い背部痛を訴えることが多い.身体所見では四肢血圧の左右差が重要である.心エコー法で上行大動脈径や剥離内膜の有無を確認し,大動脈解離の合併症である大動脈弁逆流や心膜液貯留の有無も確認する.また,血液検査でD- ダイマーが高値の場合や,胸部 X 線写真で上縦隔陰影の拡大,二重陰影,大動脈壁内膜石灰化の偏位が認められる場合も本症を疑う881).胸腹部造影CT で偽腔が確認できれば確定診断となる.外科チームと連携しながら急性大動脈解離を迅速に診断し,外科的治療を実施することが重要である. 4.2 特発性冠動脈解離 特発性冠動脈解離(SCAD)はACS の原因となりうる稀な疾患である.50 歳以下の若年女性に多く,その発症率は欧米の研究ではACS の0.07~1.1% と報告されている882, 883).本邦からの観察研究では,SCAD はAMI 患者の0.31% に認められ,平均年齢は46 歳,女性が94% と報告されている884).冠動脈硬化の危険因子をほとんど有さないことも重要な特徴である884, 885).また,線維筋異形成を併存している症例が多いことが報告されている886).誘発因子としては妊娠(とくに後期から産褥期),ホルモン療法および感情的ストレスが多いとされている884, 885). CAG で典型的な解離所見を確認できる例は25~43%であり,55~70% の症例では明らかな内膜のフラップがなく,びまん性かつ辺縁が滑らかな狭窄所見のみが認められる.非典型例では,CAG 中に冠動脈イメージングを使用することによって冠動脈壁内の偽腔の存在を確認することが,診断の補助となる882, 884, 887). 急性期治療に関して,保存的加療と比較したPCI の有効性は示されていない884,888).PCI は進行性の虚血が存在する例や血行動態が不安定な例,近位部病変例に考慮される. 近年の観察研究から再発率が高いことが明らかとなっており,本邦の研究では,5 年心血管イベントの発生率は38%(再解離27%),そのうち42% が30 日以内に発生し ていることが報告されている884).海外の研究では,β遮断薬の導入が再解離率を減少させる可能性が示唆されている887). 4.3 冠動脈塞栓 心筋梗塞のuniversal definition(普遍的な定義) 15)では, 冠動脈塞栓はプラーク破綻以外の機序を原因とするタイプ2 に分類されている.Prizel らは冠動脈塞栓を生じる基礎疾患として,主に弁膜症,心筋症,心房細動,感染性心内膜炎を報告している889).また,大動脈弁病変が存在すると冠動脈入口部付近に乱流が生じ,冠動脈塞栓を起こしやすいことを報告している.1970 年代の剖検例の報告以降,系統的な研究はなかったが,2015 年に本邦より新たな診断基準(表79)に基づいた観察研究が報告されている890) それによれば,冠動脈塞栓の発症率はAMI の2.9% で,平均年齢は66 歳であった.基礎疾患は心房細動が79% と最多で,次いで心筋症25%,弁膜症15%,悪性腫瘍10%, 表79 冠動脈塞栓症診断基準 (Shibata T, et al. 2015 890)より) ©2017 Wolters Kluwer Health, Inc. https://www.ahajournals.org/journal/circ 大項目 • 血栓塞栓を疑う冠動脈造影所見かつ血栓病理検査で粥状動脈硬化成分を含まない新鮮血栓• 同時多発冠動脈閉塞• AMI と同時発症の全身性塞栓症(AMI による左室内血栓例は除く)小項目 • 冠動脈造影で責任病変部以外に25% 以上の狭窄なし• 経胸壁心エコー法,経食道心エコー法,CT およびMRI などで塞栓源の存在が証明• 塞栓リスクとなる疾患を併存(心房細動,心筋症,リウマチ性弁膜症,人工弁,卵円孔や心房中隔欠損症の開存,心臓外科手術後,感染性心内膜炎,過凝固状態など)冠動脈塞栓症確定大項目2 つ以上,大項目1 つ+小項目2 つ以上,または小項目3 つ以上可能性あり 大項目1 つ+小項目1 つ,または小項目2 つ除外基準 • 血栓病理検査で粥状硬化成分を検出• 冠動脈疾患の既往• 血管内超音波や光干渉断層画像撮影検査で,プラーク破綻やびらん所見• 冠動脈拡張症