p.82 抽出テキスト
つなどの精神・心理的問題,独居や経済的困窮などの社会的問題を抱える状態であるフレイルという概念が出てきている.高齢者の急性冠症候群(ACS)へのアプローチでも,つねにこのフレイルも含めた背景を考えなければならない. 本邦においてさまざまなACS の登録研究が行われている.宮城県における最近の30 年間での年齢の推移をみると,80 歳以上のACS の増加傾向が認められている33).高齢者は若年者とくらべ症状が非典型的なことが多く,ACSの診断が容易でないことも少なくない.このため,高感度心筋トロポニンなどの心筋バイオマーカーによる診断が重要である854).しかし,高齢者では心筋トロポニンは陽性でも虚血性心疾患が認められない患者もおり855),偽陽性の可能性も念頭に置かなければならない.また,高齢のACS 患者における経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の死亡率は低下していることから851),高齢という理由で保存的治療を選択するのではなく,早期の冠動脈造影(CAG),PCI を考慮することも重要である.80 歳以上の非ST 上昇型心筋梗塞(NSTEMI)/ 不安定狭心症(UA)を対象にしたAfter Eighty 試験では,侵襲的治療戦略は心筋梗塞と緊急血行再建の発生率を有意に減少させた856).侵襲的治療戦略は75 歳以上のNSTEMI で,保存的治療にくらべ院内および1 年後の死亡,心筋梗塞の発生率を有意に改善させたという報告もある852).高齢のST 上昇型心筋梗塞(STEMI)でも,血栓溶解療法よりも侵襲的治療戦略のほうが有用性が高いと報告されている853).また,高齢者での冠動脈ステントの種類の有用性を検討した報告として,75 歳以上の安定狭心症,ACS を対象に,薬剤溶出性ステント(DES)の安全性を検証した無作為化試験では,DES は通常型ベアメタルステント(BMS)にくらべ,主要複合エンドポイント(PCI 後1 年での全死亡,心筋梗塞,脳梗塞,虚血による標的病変血行再建)の発生率が有意に低いことが示された857).90 歳以上の高齢者では75 ~89 歳にくらべて治療薬の禁忌が多くなり,十分な薬物治療が行われていないという報告もある858).さらに,高齢者では副作用の発現率が高く,投与量は慎重に検討する必要がある.とくに重要な注意点は抗血栓薬投与時の出血性合併症である859). 2 女性 宮城県の心筋梗塞レジストリーの報告では,現在,女性のACS は60 歳以上では減少傾向である33).女性のACS の特徴は,男性とくらべ高齢発症であり,慢性腎不全,糖尿病,高血圧,脂質異常症などの危険因子を高率 に併存していることである196, 860–862).したがって,ACSの病像はより重症であり,心筋虚血の診断と重症度評価を迅速に行う必要がある.また,ACS の診断の基本となる自覚症状は,男性にくらべ息切れや疲労などの非典型的なものが多い860).症状の性状が非典型的でも,発現状況や症状の持続時間などからACS が疑わしい場合は,心電図や採血などの初期診断検査を積極的に行うことが重要である.さらに,高齢で発症する女性のACS の特徴として,本邦のJ-PCI レジストリーでは出血性合併症が有意に多いことが示されている863).治療薬の投与量には男女別の規制はなく,アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬の用量も男女一律である.したがって,小柄な女性が多い本邦では,男性と同一用量では過剰投与となる危険性を認識しておく必要がある. 予後に関して,米国の報告では女性の心血管死は2000年頃から減少傾向となっている864).しかし,宮城県の心筋梗塞レジストリーでは,2005 年から2014 年の全体の院内死亡率に大きな変化はなく,女性の院内死亡率は男性より高かった.一方,ACS 治療後の院内死亡率には男女差がなく864),1 年予後も有意差はない862)との報告もある. 3 冠攣縮性狭心症 冠攣縮は,狭心症のみならず心筋梗塞の原因ともなる.急性心筋梗塞(AMI)発症後のCAG で器質的狭窄がきわめて軽微な例,または完全閉塞した冠動脈が硝酸薬のみで再開通する例を経験することがあり,MINOCA(myocardial infarction with non-obstructive coronary arteries:冠動脈閉塞を伴わない心筋梗塞の意)という概念でも近年注目されている.また,冠攣縮から冠動脈プラークの破綻と血栓形成が惹起され,心筋梗塞に進展する可能性も報告されている865).MINOCA はAMI の3 ~18% に認められ866),その3 ~5 割はアセチルコリン誘発試験が陽性であった867, 868). 剖検例の冠動脈病変部位の検討では,冠攣縮によって内皮細胞の配列が乱れて線維性被膜が断裂し,さらにプラーク内容物が血管内腔に流出するため,そこに血栓が生じることも報告されている869).血栓形成性に関しては,生体内トロンビン生成の最も鋭敏な指標であるフィブリノペプチドA の冠循環内での産生が冠攣縮時に増加すること870),線溶系マーカーであるプラスミノーゲン活性化抑制因子の活性が冠攣縮発作時に亢進すること871),冠攣縮によるト