p.72 抽出テキスト
必要で輸液時間が短時間となる症例には十分なエビデンスがないことに注意が必要である. 重曹液の効果は生理食塩液と同等であるとする研究763)が報告されているが,症例数が限られているためクラス分類はIIb とした.カルペリチドやN アセチルシステイン(NAC)が有効とする少数例の報告もあるが,十分なエビデンスとはいえないため,今回のクラス分類には記載しなかった.また,輸液量は心機能や患者の状態に応じて補正する必要がある. ACS 患者の多くではCAG に引き続いてPCI が施行され,造影遅延(slow flow)やno reflow 現象が出現することがあることから,造影剤使用量が増えることが少なくない.そのためCIN の発症に十分留意することが必要である. 10 出血性合併症 CAG の不利益として,侵襲的手技による合併症の発生,不必要なPCI の増加,それに伴う医療費の増大などがあげられる.一般にCAG の合併症による死亡率は0.2% 以下で,脳血管障害,心筋梗塞,出血などの合併率は0.5% 以下とされている780).本邦での心筋梗塞患者を対象としたカテーテル関連合併症に関する厚生省長寿科学研究事業研究班の調査では,CAG の合併症は60 歳未満で5.4%,70歳以上で9.1% に出現している781).とくに脳塞栓,脳出血などの重篤な合併症は高齢者に多い.したがって,事前に脳血管障害や重症高血圧の既往の有無を確認することが重要である.また,高齢者では皮膚や皮下組織が脆弱であり,カテーテル検査の際には穿刺部血腫や仮性動脈瘤などの血管損傷を生じやすいので注意を要する.十分な病歴の把握と身体所見から,カテーテル手技を安全に行い得るかを判断し,慎重にCAG の適応を決定する.その他,熱性疾患の合併,血液凝固線溶系の異常,重篤な造影剤アレルギー,高度の腎機能障害,高度の閉塞性動脈硬化症などは一般にカテーテル検査の禁忌であり,このような患者には原則として緊急CAG は避けるべきである. 出血はACS の病態として,安定冠動脈疾患にくらべて併発しやすく,また,PCI 後に必要な抗血栓薬の投与に 伴って問題となることが多い429).とくに心房細動合併例では,抗血小板薬に加えて抗凝固薬を併用することから,副作用としての出血の問題がより大きくなる可能性がある.出血性合併症は入院期間を延長させ,割合は低いものの生命予後に関連する場合もあり,出血はACS の予後予測因子として重要である.とくに消化管出血は大出血の基準に達していなくても深刻な状態であり,死亡および虚血性合併症と密に関連する779).また,ステント血栓症は消化管出血の合併例に多くみられ,その多くが致死性であることから,プロトンポンプ阻害薬(PPI)などを併用して早期の消化管出血を予防することが必要である.出血に関連する患者背景因子として,女性,高齢,血清クレアチニン,白血球数,貧血,STEMI または NSTEMI が,治療関連因子として,ヘパリンの投与,本邦では認可されていないが血小板糖蛋白IIb / IIIa 拮抗薬の投与が報告されている430).出血リスクのスコア化が報告されており,1STEMI, NSTEMI,2心原性ショック,3女性,4心不全の既往, 5PCI の既往,6NYHA IV 度の心不全,7血管疾患の既往,8年齢,9推定糸球体濾過量からスコアを算出するしくみとなっている782). また,PCI の穿刺部位は経橈骨動脈アプローチを優先する783).経橈骨動脈アプローチと経大腿動脈アプローチの優劣を比較したRIVAL 試験289)では,30 日後の死亡,心筋梗塞,脳卒中の発生率は両群で同等であったが,血腫と偽性動脈瘤の発生率は経橈骨動脈アプローチ群で低かった.したがって,より出血性合併症の低い橈骨動脈を優先するが,手技自体は経大腿動脈アプローチのほうが容易なことが多く,PCI 術者の技量に応じて経大腿動脈アプローチも選択する. 11 その他の合併症 11.1 再梗塞,梗塞後狭心症 表65 出血性合併症予防に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 消化管出血のリスクが高くアスピリン単独またはDAPT の服用患者に対してPPI を併用する779) I B 表66 再梗塞,梗塞後狭心症の治療に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 内科的治療を強化し,リスクを評価したうえでCAG を施行する(適応があればPCI を施行する) I C