p.71 抽出テキスト
ある.CIN はカテーテルに携わる医師なら待機的,緊急症例を問わずつねに念頭に置いておかなければならない合併症である.CIN の定義として,古典的には欧州泌尿生殖器放射線学会の「72 時間以内に血清クレアチニン(SCr)値が前値より0.5 mg/dL 以上または25% 増加した場合」(1999 年) 772)が広く使われており,日本腎臓学会・日本医学放射線学会・日本循環器学会共同編集による「腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018」762)でもこの定義が用いられている. CIN はAKI の1 つであるという考えのもと,AKI の診断基準も導入されてきてはいるものの,CIN とAKI を同義にすることにはまだ意見は統一されていない.現在,CINの重症度分類として,前述の2018 年のガイドライン762)では,RIFLE 分類やAKIN 分類ではなくKDIGO のAKI 基準770)が用いられている(表64). 不安定な循環動態により生じたAKI に対しては,腎臓専門医と緊密な連携を行い,薬物の投与や輸液管理,血液浄化などを検討する. CIN 発症には造影剤の使用量が関与しており,それを減らすことで発症が抑制されることが知られている759–761). PCI を必要とする患者ではCKD の存在自体がCIN 発症の危険因子である762).緊急PCI では待機的PCI とくらべ腎機能が悪化しやすく,治療前の腎機能低下例ほどその傾向は強いという報告がある773).ACS 患者でのCIN 発症に関連する因子は,前壁梗塞,再灌流時間が6 時間以上,多量の造影剤の使用量,貧血,血行動態が不安定,IABP の使用などである774, 775).CKD の併存の有無にかかわらず,血行動態が不安定であればCIN を発症しやすいとする文献776)もあることから,心機能が低下し,血圧が不安定なACS で緊急CAG,PCI の適応例では,腎機能悪化のリスクがあることを十分に説明し,血行再建に支障がないレベルで造影剤使用量を極力制限することや,PCI 前に心不全の発現・悪化に留意して輸液することが重要である. CIN について,日常の現場ではBrown やMehran らが 提唱したリスクスコア777, 778)が使用されることがあるが,これらのリスクスコアの有用性を前向きに検討した報告はなく,3 学会合同のCIN 予防ガイドライン762)では,リスクスコアの使用を推奨するのは適当ではないとされている. CIN 予防のために血液透析を行うほうがよいという明確なエビデンスはない764–766).3 学会合同のCIN 予防ガイドライン762)でも,グレードD,つまり「無効あるいは害を示す科学的根拠があり,行わないように勧められる」とされており,本ガイドラインでもクラスIII とした.ただし,現在までにACS を対象とした検討は行われていない. 予防的な利尿薬の投与,とくにループ利尿薬はCIN を増加させることが報告されている767).このため,肺うっ血などがない場合には使うべきでない. 非ステロイド系抗炎症薬については,腎血流減少から腎機能を低下させる可能性があり,CIN 発症のリスクとなることが示されているが768),非ステロイド系抗炎症薬を用いた場合と用いなかった場合とを直接比較した結果ではない.Society for Cardiovascular Angiography and Interventions の勧告769)や3 学会合同のCIN 予防ガイドライン762)では,造影剤使用前後24 時間での非ステロイド系抗炎症薬の使用は中止したほうがよいとされている. これまでの研究で,明確なエビデンスのあるCIN 予防策は,生理食塩液,重曹輸液などの等張性輸液製剤の造影検査前後の経静脈的投与,造影剤使用量の最大限の制限である.ただし,ACS 患者に対しては十分な検討はなされていない. CIN の予防法は,1生理食塩液を造影開始6 時間前より1 mL/kg/時で輸液し,造影終了後は1 mL/kg/時で6 ~ 12 時間輸液,2重曹液(1.26%,152 mEq/L)を造影開始1 時間前より3 mL/kg/時で輸液し,造影終了後は1 mL/kg/ 時で4 ~6 時間輸液のいずれかである762).しかし,STEMI 患者のように,来院後ただちにPCI の施行が 表64 AKI の重症度(病期) (日本腎臓学会,他.2018 762)より) 病期血清クレアチニン尿量 1 基礎値の1.5~1.9 倍,または ≧0.3 mg/dL の増加 6~12 時間で<0.5 mL/kg/ 時 2 基礎値の2.0~2.9 倍 12 時間以上で<0.5 mL/kg/ 時 3 基礎値の3 倍,または ≧4.0 mg/dL の増加,または 腎代替療法の開始,または 18 歳未満の患者ではeGFR <35 mL/分/1.73m2 の低下24 時間以上で<0.3 mL/kg/ 時,または12 時間以上の無尿