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p.69 抽出テキスト

VSR は,1 枝病変で側副血流が欠如した症例で起きやすく,他の機械的合併症も同様の傾向といわれている382, 729, 730). VSP によって心室レベルで左-右短絡が形成される.短絡量,心筋梗塞の範囲,右室梗塞や気絶心筋(myocardial stunning)などの影響を受け,VSR を合併しても血行動態が比較的安定している例から,重度の循環虚脱に陥る例まで多様な病像を示す731). 2 診断

診断法は基本的に聴診,心エコー法,左室造影を含む心臓カテーテル検査である716).聴診では胸骨左縁にLevine 2 ~4 度の全収縮期雑音が聴取される.経胸壁心エコー法では,カラードプラ法により心室中隔の左右血流シグナルが確認されれば診断は確定される.左室造影では,左前斜位で左室から右室への短絡血流が確認できる.また, Swan-Ganz カテーテルにより右房と肺動脈の間で酸素飽和度の上昇が確認されればVSR が強く疑われ,短絡量も算出できる. 3 治療

基本的治療方針は,手術により左室-右室間の短絡血流を遮断することである.2000 年に報告されているGUS- TO-I 試験では,死亡率は外科治療群が47%,内科治療群が94% であった727).

基本となる術式はDaggett 法(パッチ閉鎖術)とDavid法(infarct exclusion 法:梗塞部を大きなパッチで広く覆い,梗塞部を左室から隔絶する術式)の2 つである732, 733).近年,これらの術式の問題点を解決するための変法も多く報告されており,外科治療成績の向上が期待されている.日本冠動脈外科学会の2017 年の全国アンケート集計では,前壁のVSR ではinfarct exclusion 法がやや多く選択されているが,後壁のVSR ではパッチ閉鎖法が多く選択されている734). 4 治療成績

日本冠動脈外科学会の2017 年の全国アンケート集計で, VSR の手術死亡率は,2000 年前後から20 ~30% で推移しており,2017 年は23.2 % と報告されている734).前壁のVSR の死亡率は全体では21.2% であり,術式別ではパッチ閉鎖法が23.8%,infarct exclusion 法が22.9% で,術式による差はなかった.後壁のVSR の手術死亡率は27.1%で,前壁にくらべやや高くなっている.

1999 ~2010 年に米国胸部外科学会(STS)のデータベースに登録された2,876 例を集計した結果では,手術死亡率は全体では42.9% と報告されているが,待機手術で13.2%,緊急手術で56.0%,救命的手術で80.5% であり,発症早期に手術を迫られるような血行動態となった症例では手術成績が不良であった735).発症から手術までの時間と手術死亡率が負の相関を示すことは多く報告されてお

り,死亡率は24 時間以内の手術では60% 以上,一週間以内では54%,7 日以降では18% という報告もある736). AMI 急性期の手術では,梗塞心筋の脆弱性から縫合線の裂開による短絡血流が残存し,早期手術成績の低下を招いていると推測されている.そのため,VSR 発症後の循環動態が機械的循環補助の併用などによって比較的安定している場合は,AMI 発症からVSR 手術までに,梗塞心筋の脆弱性が改善すると想定される1 ~2 週間の待機期間を設けることは,術後の短絡血流残存のリスクを減らすための治療戦略として理にかなっている.ESC の心不全に関するガイドラインでは,短期間の機械的補助はクラスIIa である737).循環不全によって全身状態が悪化している症例では,LVAD などの強力な循環補助を長期間行い,全身状態,心筋の脆弱性が改善した後に外科手術,心移植へ橋渡しすることによって,治療成績が改善する可能性があることも報告されている738–743).

さらに,カテーテル治療として経皮的VSR 孔閉鎖術も行われている744, 745).現状では完全に短絡血流路を閉鎖することは難しいが,短絡血流量を減らしてVSR 閉鎖手術への橋渡しをする効果は十分に期待できる746).

8.3 PMR

1 病態

PMRはAMI 後の再灌流療法の普及によって少なくなり,発生率は1% 以下との報告がある747, 748).PMR は入院治療の開始が遅れた例に合併することが多く,PMR 非合併例にくらべ高齢,高血圧の既往,下壁梗塞の例が多い749). PMR の70 ~80% はAMI 後5 日以内に発症するという報告もある747, 748).

乳頭筋には前乳頭筋と後乳頭筋がある.前乳頭筋はLAD とLCX の2 枝,後乳頭筋はRCA 1 枝から灌流されていることが多く,後乳頭筋断裂の発生率が約90% と高い750–752).また,PMR 全体の21.4% で両乳頭筋が断裂していたという報告もある717).

PMR は貫壁性梗塞でなくても発生する.発生率はSTEMI,NSTEMIとも変わらないという報告が多いが,27%がSTEMI,73% がNSTEMI だったとの報告もある753, 754).

PMR は,乳頭筋の断裂のパターンから完全断裂型と部分断裂型に分けられる.部分断裂型はさらに,乳頭筋の複数に分かれた先端であるmultiple head の1 つが外れる型と,乳頭筋が部分的に断裂して後に完全断裂に進展する可能性のある型に分けられる.完全断裂の発生率は 30% 前後から90% 以上までと,報告による幅が大きい717, 752–754).