p.66 抽出テキスト
塞後の機械的合併症に基づく場合もあるため,心エコー法による原因検索が重要である699).1収縮期血圧90 mmHg未満または平常時より30 mmHg 以上の血圧低下,2乏尿(20 mL/時未満),3意識障害,4末梢血管収縮(四肢冷感,冷汗)のすべてを満たしている場合に心原性ショックと診断されるが,このような病態が疑われた場合には原因検索と同時に緊急処置を開始する.STEMI 後の心原性ショック患者の約10 ~15% では体内水分量が不足しているとされ,約30% では胸部X 線上の肺うっ血が認められないため92),動脈カニューレで血行動態を監視しながらカテコラミン,利尿薬の投与,輸液量の調節を行う.血圧が90 mmHg 以上でも組織低灌流状態がみられる場合にはプレショックと考え,ショックと同様の対応をする必要がある.多数の心原性ショック患者を検討したSHOCK Registry では,来院時にショック状態の患者は9% と少ないにもかかわらず,心筋梗塞発症6 時間以内には47%,24 時間以内には74% に増加することが報告されている700).この理由として,来院時点では重症心不全やプレショックの診断が十分になされていないこと,ようやく代償されている患者に血圧低下作用のある薬剤が投与されていることなどが考えられる.このような重症患者では,ショックの前兆の有無を的確に把握し,再灌流療法を含む的確な治療を迅速に行うことで,ショックを予防することが重要である. 心原性ショックの初期治療の基本は,血圧低下例ではドパミン5 ~15μg/kg/分,血圧維持例ではドブタミン2 ~ 15μg/kg/分の点滴静注である.単剤で効果が不十分の場合は両者を併用し,さらに循環動態が維持できない場合はノルアドレナリン(0.03 ~0.3μg/kg/分)を追加しすみやかにIABP を併用する684).この状況下でも効果が不十分の場合はVA-ECMO(PCPS)を用いる701).ドパミンはノルアドレナリン前駆物質であり,用量により作用が異なる.低用量(<2μg/kg/分)では末梢のドパミン受容体にだけ作用することで腎血流増加作用を示し,中等量(>2μg/kg/分)ではβ受容体に作用することで心筋収縮力を高め,5μg/kg/分以上ではα作用により血管収縮作用を示す.ドブタミンはβ1 受容体を介して心筋収縮力を増加させ,通常,2μg/kg/分程度の低用量で開始し漸増する.カテコラミンの点滴静注でも効果がない低心拍出量の場合は,ホスホジエステラーゼ(PDE)III 阻害薬(ミルリノン,オルプリノンなど)やアデニル酸シクラーゼ刺激薬(コルホルシンダロパート)を投与することもある.今日ではSTEMI に対して再灌流療法が広く行われているが,心原性ショック合併例ではすみやかな再灌流の成否が予後を左右する.1996 年から1998 年に,本邦でSTEMI 患者3,113例を対象として行われた多施設後ろ向きの検討では,心原性ショックの合併は126 例(4%)であり,死亡率は59% と高かった.このうち再灌流療法に成功した群の死亡率は42% であった702).また,心原性ショックを合併したAMI患者を,PCI またはCABG による緊急冠血行再建を行った152 例と,初期内科的安定化を図った150 例の2 群に無作為に割り付け,30 日,1 年までの全死亡率を比較したSHOCK trial では,緊急冠血行再建は30 日の全死亡率を低下させなかったが(46.7% vs 56%),1 年(53.3% vs 66.4%,P <0.03)の死亡率を有意に低下させることが示された271).また,75 歳未満では30 日死亡率も低下させることが明らかにされ,重症心不全や心原性ショックを合併した患者ほど冠血行再建を積極的に考えるべきであるとされている199, 271).心原性ショック患者に対するprimary PCIについては,本ガイドラインの「第4 章1.3 心原性ショック」を参照されたい.緊急の冠血行再建を施行できない場合や専門施設への搬送までに時間を要する場合は,血栓溶解療法が有用であるとされている703).β遮断薬やACE 阻害薬などの降圧薬を服用している例では,血行動態が安定するまではこれらを中断するが,ショックから回復後は肺うっ血の消失を確認した後,退院までにこれらの薬剤を少量から開始すべきである. 7 右室梗塞 下壁STEMI の約半数に右室虚血が合併するといわれているが,臨床的に問題となる右室梗塞の合併率は10 ~ 15% 程度で,右室に加え左室の障害範囲が広い場合には低心拍出状態となる105, 704).RCA 近位部の閉塞により右室梗塞を合併すると,V4R 誘導などの右側胸部誘導で1 mm 以上のST 上昇を認める.身体所見では,低血圧,ショックに加えて,静脈怒張,Kussmaul 徴候,奇脈が重要である105).右室梗塞時に低心拍出状態が発生する機序は,1右室収縮力低下による左室の前負荷減少,2右室拡張に基づく心室中隔左方偏位および心嚢内圧上昇による左室のコンプライアンスの低下である.右室梗塞の診断基準を表61 に示す705, 706).右室梗塞の治療の原則は,右室前負荷の早期維持,右室後負荷の低下,強心薬による右室機能障害の治療,房室同期の維持であり,このためには早期再灌流が重要である.血行動態管理としてSwan-Ganzカテーテルを用いたモニタリングが有効である.典型例では右房圧が10 mmHg 以上に上昇し,右房圧とPCWP の差が5 mmHg 以下となり(右房圧/PCWP >0.8),右房圧波形で深く急峻なy 谷(noncompliant 波形)が認められ