p.63 抽出テキスト
ACS では,刺激伝導系障害の結果,洞徐脈,房室ブロック,脚ブロックなどの徐脈性不整脈が起こりうる.ただし,その頻度は0.3 ~18% と比較的低く,ペースメーカの適応となる症候性徐脈性不整脈はさらに低い.ACS に伴う洞性徐脈は下壁梗塞に合併することが多く,また副交感神経活動亢進もその要因とされ655),多くは無症候性で一時的である.めまい,息切れ,失神,胸痛などの症状や血圧低下などの徴候が現れても,アトロピン(0.5~1 mg,5 分ごとに最高0.04 mg/kg まで)で回復することが多い.効果がなければアドレナリン(2~10μg/分)またはドパミン(2 ~10μg/kg/分)を投与するが,経皮的ペーシングを考慮してもよい594, 654). 徐脈や徐脈に伴う症状がなくとも,今後の完全房室ブロックへの移行が強く疑われる場合には,一時的ペーシングが必要となる場合がある.症候性房室ブロックの治療として,経皮的ペーシングまたはアトロピン投与が推奨される594, 654).下壁領域での心筋虚血発生後早期に認められる房室ブロックは,再灌流自体によりすみやかに洞調律に復帰することが多いとの報告がある656).ACS 急性期において一時的ペーシングが必要とされても,全患者が恒久的ペーシングの適応となるわけではない.また,心静止に対するペーシングの有益性は示されていない657–659).心静止に対しては,心肺蘇生を開始するとともにアドレナリンやバソプレシンを投与する.【恒久ペースメーカ植込みの適応】 房室ブロックに対する恒久ペーシングの適応は,ヒス-プルキンエ系またはより末梢での伝導障害の有無による.必ずしも症状の有無により恒久ペーシングの適応が決定されるわけではない.房室ブロックの消失が期待される場合や長期予後に悪い影響を及ぼさない場合は,恒久ペースメー カの植込みを急ぐ必要はない.房室ブロック合併後1 週間以上経過してから自己の房室結節伝導が回復した例もある.房室ブロックを合併した症例の長期予後は,房室ブロックの程度ではなく,心筋傷害の大きさや心室内伝導障害の特徴に関連する660). 洞機能不全に対する恒久ペースメーカの適応は,心筋梗塞の有無によっては変わらない.ただし,洞機能不全が下壁心筋梗塞発症後1 時間以内または右冠動脈(RCA)の再灌流後に出現した場合は一過性のことが多いため,一時ペーシングが必要になっても,原則として恒久ペースメーカの植込みは避ける. いずれも「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)」に準じて治療する661). 6 心不全の評価と治療 6.1 血行動態の評価 心不全とは「なんらかの心臓機能障害,すなわち,心臓に器質的および/ または機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐用能が低下する臨床症候群」と定義され,臨床的な病態は低心拍出量と肺うっ血である662). STEMI の場合,生存心筋の絶対量が急激に減少することにより,心臓全体として収縮能および拡張能が低下する.左室心筋の20% 以上が梗塞に陥ると心不全徴候が出現し, 40% を超えると心原性ショックに陥るといわれる663).1 回の梗塞による心筋壊死量が少なくても,心筋梗塞の既往例が再梗塞を起こした場合や,入院時に心不全徴候がなくても,経過中に梗塞拡大(extension)をきたした場合には心不全を併発する.心筋梗塞急性期のポンプ失調の重症度を主に聴診所見から評価した分類として,代表的なものにKillip 分類がある93, 664)(表3).Killip 分類は,治療方針の決定や急性期予後の推定に有用であり,今日でも日常臨床において繁用されている93, 664).再灌流療法が普及した今日でも,急性心不全を合併したSTEMI の死亡率は依然として高い22, 665, 666).とくにKillip 分類クラスIV の心原性ショックの死亡率は高く,2012 年の東京都CCU ネットワークの公表データによると,院内死亡率は男性が32.8%,女性が39.8% と,院内死亡の最大原因である.しかし,心原性ショック合併患者でも,早期の再灌流療法を 表58 徐脈性不整脈に対する一時的ペーシング適用の推奨 とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 以下の徐脈性不整脈に対して一時的ペーシングを行う594) 1 完全房室ブロック2 薬物治療に反応しない症候性徐脈3 Mobitz II 型第2 度房室ブロックに2 枝ブロックまたは新規脚ブロックを合併I C以下の徐脈性不整脈に対して一時的 ペーシングを考慮する654) 1) 上記3以外のMobitz II 型第2 度房室ブロック2) 上記3以外の房室結節伝導障害を伴う2 枝ブロックまたは新規脚ブロックIIa C