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p.54 抽出テキスト

日本人を中心としたアジア人のACS を対象に行われたPHILO 試験では,クロピドグレルとくらべてチカグレロルの有効性は認められなかった526).

高齢化に伴い,心房細動が併存するACS 患者は少なくない50).このような患者ではワルファリンや直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)などの抗凝固薬に加えて,アスピリン,チエノピリジン系抗血小板薬の2 剤併用抗血小板療法(DAPT)が必要となり(3 剤併用療法),出血リスクの増大が懸念される.近年,大規模臨床試験が相次いで発表され,抗凝固療法とクロピドグレルの2 剤併用療法は,従来のワルファリン+DAPT の3 剤併用療法と比較して,出血性イベントを有意に減少させ,心血管イベント抑制効果は変わらないことが報告された306, 527, 528).アスピリンの血小板凝集抑制作用は投与中止後7 ~10 日間は持続するため,抗凝固薬の併用が必要なPCI 患者に対して退院時にアスピリン投与を中止し,抗凝固薬とクロピドグレルの2 剤併用療法を行うことも考慮される.抗凝固薬と抗血小板薬の併用における使用薬剤,投与期間などに関して現時点では明確な結論は出ておらず,個々の症例ごとに出血リスクと血栓塞栓リスクのバランスを考慮して検討する必要がある.

重度の腎機能障害患者にはワルファリンは禁忌である.ただし,日本透析医学会が発表している「血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン」では529),心房細動に対するワルファリン治療は安易に行うべきではないが,有益と判断される場合にはプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)<2.0 に維持することが望ましいとされている.

3.2 β遮断薬

β遮断薬は心拍数,心筋収縮,血圧を減少させ,その結果,心筋の酸素需要を抑制する.したがって,心筋虚血が進行する非ST 上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)やSTEMI で発症早期にβ遮断薬を投与することは,心筋

壊死の進展を抑え,予後を改善させることが期待される.ただし,β遮断薬の使用については,半世紀近く前の臨床研究でその利点の可能性が示されたものの539),その後に行われた種々の臨床試験では異なる結果が示され,ガイドラインにおける扱いも変遷し,今なおその是非には論争が続いている.その原因として,STEMI を対象とした臨床試験におけるβ遮断薬の有効性をNSTE-ACS に適用したり,保存的療法または血栓溶解療法が主体だった時代の研究結果を,血行再建術としてPCI が広く普及した現代に取り入れたことが考えられる.また,本邦における大規模臨床試験が十分でないことや,海外の臨床試験で多く用いられるメトプロロールの静注製剤が本邦では未発売であることなども,ACS におけるβ遮断薬使用について本邦独自のガイドライン策定を困難にしている.

NSTE-ACS で発症早期のβ遮断薬の効果を検討した海外の研究は限られている.CRUSADE レジストリー533)では,NSTEMI 72,054 例を対象に,発症24 時間以内にβ遮断薬を投与してその効果を検討した結果,院内死亡率が34% 有意に減少した.経口ビソプロロールの効果を検討した英国の後ろ向き研究534)では,低用量ビソプロロール(1.25 ~2.5 mg)を入院4 時間以内の早期に投与された群では,5 ~24 時間に投与された群にくらべ心室不整脈や心臓死の発生率が有意に低下することが示された.

45,852 例中STEMI が約9 割を占めたCOMMIT 研究538)では,メトプロロールの静脈内投与に続く経口投与の効果がプラセボと比較された.その結果,早期のβ遮断薬の投与は再梗塞や心室細動(VF)の発生率を減少させたが,投与後早期の心原性ショックを増加させることが示された.Primary PCI 時代に施行されたMETOCARD-CNIC研究540)では,STEMI 患者に対し再灌流療法前のβ遮断薬の静脈内投与の効果が検討された.その結果,心不全徴候のない前壁STEMI 患者において,メトプロロールは梗塞サイズを減少させ,左室駆出率(LVEF)を増加させることが示され,投与後24 時間以内の有害事象も生じなかった.一方,同様の概念で行われたEARLY-BAMI 研究541)では,primary PCI 前に投与されたβ遮断薬は梗塞サイズを減少させなかった.このように,再灌流療法をprimary PCI に限定しても,早期のβ遮断薬の効果は一定しない.加えて前述の通りメトプロロールは本邦で未発売であり,これらのエビデンスは本邦での実臨床には応用できない.メトプロロール投与によって有害事象が増加する原因として,半減期が3 ~4 時間と長い点が一部の研究で指摘されている.

表44 入院中のβ遮断薬投与の推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

心不全徴候を有する,またはLVEF 40% 以下の患者に対して,発症早期からβ遮断薬を経口で少量から漸増投与する530–532) I A禁忌のない患者に対して,β遮断薬の経口投与を考慮する533–537) IIa A低血圧,急性心不全,房室ブロックなど重篤な徐脈を合併する患者に対して, β遮断薬を静脈投与すべきではない538) III Harm B