p.44 抽出テキスト
圧を危険因子としてスコアを算出し,出血性リスクを評価する431).通常,高齢者は出血を起こしやすいと考えられるが,CRUSADE リスクスコアには因子として含まれていない. これらのリスク評価の多くは,侵襲的治療の成績に基づいたものではなく,侵襲的治療施行前の入院時の臨床的諸指標を多数例で検討した結果から考案されており,治療選択の際のリスク評価としての限界もある. 2 初期保存的治療戦略と 侵襲的治療戦略 2.1 NSTE-ACS に対する治療戦略 ACS の可能性が高い患者に対する治療戦略は,CAG,血行再建の施行時期によって初期保存的治療戦略と侵襲的治療戦略の2 つに大別される. 前者は,治療抵抗性,症状の再燃,血行動態不安定などが認められないかぎり保存的治療を優先し,ルーチンでの侵襲的治療の実施を回避する治療戦略である.スタチン, 強力な抗血小板薬などの薬物治療によって不安定プラークの安定化を図った後に行う血行再建は手技リスクを低下させ,血行再建を有益性が大きいと想定される患者群に限定することによって不必要な検査を回避できるなどの利点が考えられる. 後者は,禁忌患者以外にはルーチンでCAG を実施し,必要に応じて血行再建を行う治療戦略である.CAG による病変の評価は予後リスクの決定に有用であり,この治療戦略では血行再建が有益な潜在的虚血患者を見落とすことがない利点がある.また,責任病変の血行再建はその後の心事故発生のリスクを軽減し,入院期間を短縮,薬物の使用量を減ずることが可能である. この2 つの治療戦略の優劣を比較した多施設臨床比較試験の成績は,時代とともに変化している. ステントが使用されなかった経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の時代に施行された,不安定狭心症(UA)と非Q 波心筋梗塞を対象としたTIMI IIIB 試験では,6 週間の心事故発生率に早期侵襲的戦略群と早期保存的戦略群との間で有意差はみられなかったが,高リスク患者(心電図変化あり,心筋バイオマーカー上昇,女性,65 歳以上)では,早期侵襲的戦略群で入院日数,再入院率,再入院日数が有意に少なかった435).心筋梗塞後に心筋虚血のある患者を対象としたDANAMI 試験では,1 ~3 年後のいずれの時点でも,侵襲的治療群の心事故(死亡,心筋梗塞,UA による再入院)発生率が保存的治療群より低かった350). しかし,同じ非Q 波心筋梗塞を対象としたVAN- QWISH 試験では,院内および1 年後の心事故発生率は侵襲的治療群で高かった436).侵襲的治療群において,実際に施行された血行再建率が低く,遠隔期の血行再建率に両群で有意差がなく,侵襲的治療群の冠動脈バイパス術(CABG)症例の死亡率が11.6% と高かった点が結果に大きく影響した. ステント留置によるPCI が主体となった後のFRISC II, TACTICS-TIMI 18,RITA 3 各試験では侵襲的治療の有効性が示されている.FRISC II 試験では,6 ヵ月後の心事故発生率は侵襲的治療群が9.4%,保存的治療群が12.1% と侵襲的治療群が有意に低く,狭心症症状,再入院も侵襲的治療群で少なかった192).血小板膜糖蛋白IIb / IIIa 阻害薬tirofiban を併用したTACTICS-TIMI 18 試験では,早期侵襲的治療群に対して無作為化後平均22 時間にCAG,血行再建治療が行われ,6 ヵ月後の心事故発生率は15.9% と保存的治療群の19.4% より有意に低かった432). 一方, ICTUS 試験では,心筋トロポニンT 高値のNSTEMI 患者において早期侵襲的治療は再入院を低下させることが示さ 表35 NSTE-ACS に対する治療戦略の推奨とエビデンス レベル推奨クラスエビデンス レベル 高リスク患者 *に対して早期侵襲的治療戦略を選択する76, 179, 192, 432, 433) I A中等度以上のリスク患者の場合,非循環器専門施設は,CCU またはそれに準ずる病床があり,緊急冠動脈血行再建が可能な循環器専門施設へ,可及的すみやかに搬送するI C薬物治療で安定化した高リスク患者では早期侵襲的治療戦略を,低リスク患者では後期侵襲的治療戦略を考慮してもよい434) IIb B重度の併存疾患(呼吸不全,癌など)を有し,血行再建の利点が小さいと想定される患者に対して,早期侵襲的治療戦略を選択すべきではないIII Harm C ACS の可能性がきわめて低い患者に対して早期侵襲的治療戦略を選択すべきではないIII Harm C *高リスク:薬物治療抵抗性の胸痛持続または再発,心不全合併,血行動態不安定,致死性不整脈または心停止,機械的合併症(急性僧帽弁逆流など),一過性のST 上昇,反復性の動的ST-T 変化,心筋梗塞に合致する心筋トロポニン値の上昇および下降,新たな心電図変化(動的ST-T 変化),GRACE リスクスコア>140 など(表36参照)