p.42 抽出テキスト
全による再入院が有意に減少した.したがって,再灌流療法前からカルペリチドの投与を開始し,0.025μg/kg/分で3 日間使用してもよい.ただし,カルペリチドの血管拡張作用による血圧の低下に注意する必要がある. 5.2 ニコランジル ニコランジルはアデノシン三リン酸(ATP)感受性カリウムチャネル開口薬である.AMI でprimary PCI を行った患者における,ニコランジル追加療法による微小循環改善や慢性期心機能改善効果は,比較的小規模が主であるが本邦を含め多くの報告で示されており400–403),メタ解析でもその有効性が示されている404, 405). Ishii らは,AMI 368例を,primary PCI 前からニコランジルを約30 分かけて12 mg 静注する群とプラセボ群に分けて比較検討した.その結果,ニコランジル群ではTIMI frame count やST resolution で評価した急性期の冠微小循環障害の改善がみられ,中央値2.4 年の追跡で心血管死,心不全による再入院の減少,予後改善効果が示された401).一方,J-WIND- KATP では,AMI 565 例が,ニコランジル0.067 mg/kgを急速静注後に1.67μg/kg/分を24 時間投与する群とプラセボ群に分けられ,比較検討されたが,梗塞サイズや予後の改善効果は認められなかった399).その要因として,使用されたニコランジルの量がIshii ら401)の3 分の1 程度と少なかったことが考察されている.再灌流前のニコランジル使用量については高用量の優越性が指摘されていることから406),使用する際は再灌流前から十分な量を投与することが重要と考えられる. 韓国における大規模心筋梗塞レジストリー(STEMI 6,370例中1,313 例でニコランジル使用)でも,STEMI 患者におけるニコランジル投与による予後改善効果が示されているが,同様の効果はNSTEMI 患者ではみられなかった412). 5.3 Remote ischemic conditioning Remote ischemic conditioning(RIC)とは,ある血管床,組織,器官で一過性の虚血と再灌流が生じると,別の組織,器官においても虚血,再灌流障害に対する耐性が得 られるという概念である408).近年,この現象をSTEMI の再灌流障害抑制に臨床応用した多くの無作為化試験が行われ,その有効性を示す結果が報告されている409–416). RICの方法として,血圧計のカフを使用して上肢を200 mmHg程度で約5 分圧迫し,約5 分解除することを4 サイクル程度再灌流前に行う.さらなる質の高い試験の必要性が指摘されているものの,メタ解析でも,primary PCI にRIC を追加することによる心筋救済,梗塞サイズの減少,心血管イベント減少などの効果が示されている417).本邦ではまだデータはないこと,実際に再灌流前に行うためには搬送時から救急室(ER)で行う必要があり,その体制を作ることも課題となるが,非侵襲的で安全かつ低コストな補助療法であり,今後の現場への応用が期待される. 5.4 その他 再灌流障害抑制を目的として,その他の多くの治療法も動物実験に基づき臨床研究が試みられてきたが,その効果は限定的であり,とくに本邦でのデータが乏しいことから,参考として列挙するにとどめる. Post-conditioning は,再灌流直後に虚血と再灌流を数回,短時間繰り返すことによって梗塞サイズが縮小するとされる現象である418).その臨床応用が期待され,小規模な試験でその効果が報告されてきたが,近年のより大規模な試験では有効性が証明されなかった411, 419, 420). アデノシンには微小血管拡張作用,抗炎症作用や虚血プレコンディショニング様の効果があると報告されているが,現状では一定した結果は得られていない.最近のメタ解析では,微小循環障害の抑制や心不全発症率の低下は冠動脈内投与でのみ示されたことが報告されている421). 糖尿病治療薬のグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体作動薬は,発症早期の再灌流前に使用することにより梗塞サイズを減少させるという報告がある422). 本邦で,primary PCI 直前にフリーラジカルスカベンジャーであるエダラボンを投与することにより,再灌流障害が抑制されたことが報告されているが423),まだその後の十分なデータはない. エリスロポエチンやシクロスポリンA などの投与による梗塞サイズの減少,再灌流障害の抑制,予後の改善効果などが報告されたが,現在ではその効果は否定的とされている424, 425). STEMI 患者に対する低体温療法による梗塞サイズの減少効果も報告されているが,現状ではその臨床効果は限定的と考えられている426). 表33 再灌流補助としてのニコランジル投与の推奨とエビデンスレベル推奨クラスエビデンス レベル 発症12 時間以内の患者に対してPCIを行う場合に,冠微小循環改善を目的としてニコランジル静注を考慮してもよい400–407) IIb B