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p.31 抽出テキスト

硝酸薬は,静脈系・動脈系および冠動脈を拡張させる薬理作用をもつ.末梢静脈の拡張は左室前負荷や左室容量の軽減,末梢動脈の拡張は血圧の低下,後負荷の軽減,心筋酸素消費量の減少につながる.また硝酸薬は,冠動脈や側副路を拡張させ虚血心筋の血流を改善させるとともに,冠攣縮の予防や解除にも広く使用されている.

硝酸薬は心筋梗塞急性期のポンプ失調や梗塞後狭心症に対して有効であることが相次いで報告され,また,梗塞巣の縮小,左室心筋リモデリングの予防,死亡率減少の効果も期待されて広く普及していた.しかし,欧米の大規模臨床試験であるESPRIM 235),GISSI-3 236), ISIS-4 237)では硝酸薬の死亡率減少効果は確認されず,その有用性が相次いで否定された.このため,硝酸薬投与により血圧が低下することで予後改善効果があることが証明されてはいるものの,降圧作用のある他の薬剤(β遮断薬やアンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬など)の使用が妨げられないように留意する.

虚血性の胸部症状のある患者には,ニトログリセリンの舌下またはスプレータイプの口腔内噴霧を行い,ニトログリセリン1 錠舌下または1 回噴霧後も症状が軽減しない場合には救急車を要請する.経静脈内投与のニトログリセリンは,胸部不快感が続いている場合や,高血圧管理,肺うっ血の治療にも適応がある.虚血発作を繰り返す患者では最初の24 ~48 時間は硝酸薬投与が適応となる.しかし,収縮期血圧90 mmHg 未満,または通常の血圧にくらべて30 mmHg 以上の血圧低下,高度徐脈(<50/分),頻脈(>100/分)が認められる場合,急性下壁梗塞で右室梗塞の合併が疑われる場合には投与を避ける.また,高齢者や脱水を伴っている場合にも,硝酸薬投与により過度の血圧低下をきたすことがあるため注意を要する.勃起不全治療薬(シルデナフィルクエン酸塩など)服用後24 時間以内の硝酸薬使用は,過度な血圧低下から心筋虚血やショックを誘発する可能性があるため禁忌である234). 2.3 鎮痛薬

胸痛の持続は心筋酸素消費量を増加させ,梗塞巣の拡大や不整脈を誘発するため,鎮痛,鎮静はすみやかに行わなければならない.硝酸薬使用にもかかわらず持続する疼痛には塩酸モルヒネが有効である.また,塩酸モルヒネは血管拡張薬で肺うっ血にも有効であるが,循環血液量が減少している可能性のある患者には投与すべきでない.血圧が低下した場合には,下肢を挙上して輸液負荷を行うが,肺うっ血の増悪に注意する.塩酸モルヒネは2 ~4 mg を静脈内投与し,効果が不十分であれば5 ~15 分ごとに2 ~ 8 mg ずつ追加投与していくが,呼吸状態や血圧変動,嘔吐などの副作用に注意する.とくに,急性下壁梗塞患者では迷走神経緊張により血圧低下や嘔吐を引き起こしやすいので,使用の際には注意を要する.胸部症状にはブプレノルフィン(0.1 ~0.2 mg)や鎮静目的でのジアゼパム(2.5 ~

5.0 mg)の静脈内投与も有用であるが,呼吸抑制に注意す

る.

2.4 抗血小板薬

アスピリンがAMI の予後改善に有用であることは多くの研究で明らかにされており,大規模臨床試験のISIS-2 10)では,血栓溶解療法との併用にくらべ,アスピリン単独でも血管系死亡率を23 ± 4% 低下させることが示された.

表16 初期治療における鎮痛薬投与の推奨とエビデンスレベル

クラス

分類エビデンス

レベル

硝酸薬投与後にも胸部症状が持続する患者に対して,塩酸モルヒネを投与するI C

表17 初期治療における抗血小板薬投与の推奨とエビデンスレベル

クラス

分類エビデンス

レベル

ACS が強く疑われる患者に対してアスピリン(162~200 mg)を咀嚼服用させる10, 238–244) I Aアスピリン服用の禁忌患者に対してチエノピリジン系抗血小板薬を投与するI C重篤な血液異常,アスピリン喘息や過敏症のある患者に対して,アスピリンを投与すべきではないIII Harm C

表15 つづき

推奨クラスエビデンス

レベル

収縮期血圧90 mmHg 未満,または通常の血圧にくらべて 30 mmHg 以上の血圧低下,高度徐脈(<50/ 分), 頻脈(>100/ 分)を示す患者,右室梗塞を合併した急性下壁梗塞患者に対して,硝酸薬を投与すべきではないIII Harm C勃起不全治療薬服用後24 時間以内の患者に対して硝酸薬を投与すべきではない234) III Harm B