p.22 抽出テキスト
1.5.3 STEMI 本ガイドラインでは,前述のST 上昇を呈する例以外に,胸部症状を有する新規左脚ブロック例,標準12 誘導心電図でST 上昇が認められない純後壁梗塞例もSTEMI として扱う. STEMI では,とくに発症早期に致死性不整脈を生じやすく,早期発見のためただちに心電図モニタリングを行う103, 104).再灌流による心筋救済効果は,心筋傷害が進行していない軽度な時期ほど大きい.しかし心筋梗塞超急性期では,心電図でまだST 上昇が明らかでなく診断が難しい例が少なくない.この時期にST 上昇に先行してT 波が尖鋭・増高することがあり(hyperacute T wave),STEMIの診断の鍵となる15). 急性前壁梗塞で左前下行枝(LAD)の近位部閉塞例では,虚血範囲が広く重症度が高い.LAD の近位部閉塞の診断には,左室基部のST 上昇に対する対側性変化である下壁誘導のST 下降が最も有用とされている118, 119).他にLAD 近位部閉塞の指標として,新規の完全右脚ブロックの合併やaVR 誘導のST 上昇も報告されているが,いずれも特異度は高いが,感度が低い118, 119). 急性下壁梗塞で右室梗塞合併例の予後は不良であり,また初期治療において右室梗塞合併例に対する硝酸薬投与は禁忌である.右室梗塞の診断には右側胸部誘導(V4R誘導)の1.0 mm 以上のST 上昇が有用とされている105–107).急性下壁梗塞では右室梗塞の有無を診断するために12 誘導に加えて右側胸部誘導(V4R 誘導)も記録する.しかし,右室梗塞合併例の約半数では発症10 時間以内に右側胸部誘導のST 上昇が消失したという報告もあり107),発症から時間が経過すると右室梗塞の診断におけるST 上昇の有用性は低くなる可能性がある. 左回旋枝(LCX)閉塞による純後壁梗塞は,標準12 誘導心電図に左室後壁に面する誘導がないため診断が難しい.背側部誘導(V7-9 誘導:V4 誘導と同じ高さで,V7誘導は左後腋窩線との交点,V8 誘導は左肩甲骨中線との交点,V9 誘導は脊椎左縁との交点に付ける)の記録は後壁梗塞の診断に役立つ108, 109).背側部誘導でST 上昇(隣接する2 つ以上の誘導で0.5 mm 以上)を認めた場合はSTEMI として再灌流療法の適応となる.AMI 患者の約4% では背側部誘導でのみST 上昇が認められるという報告もあり108),初回心電図で診断できない場合でも症状が持続しAMI が強く疑われる場合には,後壁梗塞を除外するために背側部誘導を記録することが推奨される. 心電図はAMI の診断だけでなく,梗塞責任血管や閉塞部位,心筋傷害の程度や範囲などの診断,また予後予測にも有用である118, 120, 121).しかし,心室ペーシング例, WPW 症候群や脚ブロック合併例では,二次性ST-T 変化のため心電図診断が困難なことが多い.このような心電図異常を有する例では,他の臨床所見とあわせて総合的に診断する必要がある.また以前の心電図との比較は診断率の向上に寄与する.Sgarbossa ら122)は,左脚ブロック例において上向きQRS を示す誘導で1.0 mm 以上のST 上昇,下向きQRS でV1-3 誘導の1.0 mm 以上のST 低下,下向きQRS を示す誘導で5.0 mm 以上のST 上昇,とくに上向きQRS を示す誘導で1.0 mm 以上のST 上昇が認められた場合に,STEMI の可能性が高いことを報告した.しかし,この診断基準は必ずしも診断能が高くないことが示されており123, 124),左脚ブロック例でAMI の診断が可能なのはST-T 変化が顕著な例に限られるといえる.左脚ブロックを合併したAMI の患者背景および予後は不良であり125),再灌流療法の適用を迅速に判断することが重要である126).左脚ブロック例で症状が持続し,AMI が強く疑われる場合には,再灌流療法を念頭に置いた緊急CAG の施行が推奨される. 1.5.4 NSTE-ACS 心筋虚血の診断には主にST 変化が用いられるが,T 波, QRS 波,U 波の変化や各種不整脈の出現も診断的価値をもつ.以下,心筋虚血の心電図所見について述べるが,これはSTEMI にも共通する. a. ST 下降 ST 下降は心内膜下虚血を反映する重要な心電図所見であり,入院時ST 下降(0.5 mm 以上)は予後不良の強力な予測因子とされている127, 128).さらにST 下降の有無だけでなく,その程度,範囲,経時的変化も評価することでリスクをより層別化できる127).一般に,ST 下降は虚血責任冠動脈にかかわらずV4-6 誘導が中心である.このためST 上昇と異なり,ST 下降から虚血責任血管を診断するのは難しい.しかし,ST 下降はその程度が高度なほど,下降を認める誘導数が多いほど,下降が遷延するほど,より高度な心筋虚血を反映しており,予後は不良である127, 129). 日常診療では,心電図はaVR 誘導を除いた11 誘導で診断されることが多い.しかし,aVR 誘導は右肩の方向から左室内腔を覗き込む誘導で,左室心内膜側の広範な虚血の診断に有用である.広範なST 下降とともにaVR 誘導のST 上昇が認められた場合は,左主幹部や多枝病変による重症虚血が疑われ127, 130–132),緊急CABG も念頭に置いた治療戦略,緊急心臓カテーテル検査を考慮する必要がある. 視覚的にST 上昇よりもST 下降のほうが認識されやすい.このためST 下降発作と診断した場合に,ST 下降は対