p.20 抽出テキスト
い.心膜摩擦音は発症直後はまれであり,梗塞範囲の大きい貫壁性心筋梗塞で発症2 ~3 日後に出現し,吸気時に増強することが特徴的である.大動脈弁狭窄症でも狭心症と同様の症状がみられることがあるため,駆出性収縮期雑音の有無も必ず確認する. b. 呼吸音 左室コンプライアンスの低下した状態で体液が肺胞や気道に漏出することにより,湿性ラ音が生じる.肺野の聴診では,湿性ラ音の有無と聴取範囲が重要であり,前述のIII 音とともにKillip 分類93)の評価として心不全の重症度を評価する.呼吸数,呼吸の深さ,速さ,呼吸が楽な体位,湿性ラ音,とくに背側面の湿性ラ音に注意して聴取する. 1.4 鑑別すべき疾患 救急部門に急性の胸痛で搬入される患者のうち,STEMIは5 ~10%,非ST 上昇型心筋梗塞(NSTEMI)は15 ~ 20%,UA は10%,他の心臓疾患が15% を占めるが,50%は非心臓疾患であることが報告されており94–99),病歴および身体所見からACS とその他の疾患を鑑別しなければならない(表4) 100).問診により,胸痛が起こる状況や胸痛 の範囲,放散部位を詳細に聴取することが重要である.感冒様症状や発熱などその他の臨床症状の有無により鑑別診断が容易になることもある.心電図検査,胸部X 線写真,血液生化学検査,心エコー法は鑑別診断に有用かつ必須である. 1.4.1 胸痛を伴う非心臓疾患 非心臓疾患のなかでは消化管疾患の割合が高い.逆流性食道炎では胸焼けのような灼熱感を訴え,食後の仰臥位で増強し制酸薬で軽減する.食道痙攣では,痛みが胸骨裏面に生じ頸部や背部に放散する.労作とは無関係で持続時間も一定せず,飲食によって誘発され,しばしば飲水により 寛解する.硝酸薬,Ca 拮抗薬が有効とされるが,診断の根拠となる特異的検査所見が乏しい.食事摂取と関連する上腹部痛で圧痛を伴う場合は,消化性潰瘍や胆石,胆嚢炎を疑う. 呼吸器(肺)疾患として肺血栓塞栓症のほか,胸膜炎,気胸,肺炎も胸痛の原因となる.帯状疱疹,肋間神経痛,肋骨骨折などの皮膚骨格疾患,心因性の心臓神経症も比較的多い鑑別疾患である. 1.4.2 迅速な鑑別が重要な致死性胸痛疾患 迅速な鑑別が重要な疾患に,急性肺血栓塞栓症と急性大動脈解離がある.急性肺血栓塞栓症では,しばしばAMI と類似した胸部症状や背部症状が認められるが,呼吸困難や頻呼吸を伴い,重症例ではショックや意識消失を生じることもある.術後の安静臥床後の初めての歩行,深部静脈血栓症や凝固異常,悪性腫瘍などの臨床背景をもつ患者で起こりやすい.急性大動脈解離は,心筋梗塞とくらべて痛みの程度が強く,激烈なことが多い.突然,引き裂かれるような背部へ放散する鋭い痛みが出現し,呼吸困難や意識消失を伴うこともあり,解離の進行とともに腰部,まれに下肢にまで痛みが移動する.四肢血圧の差(>15 mmHg),大動脈弁逆流性雑音の発現に留意する.Stanford A 型の急性大動脈解離では,解離が冠動脈入口部にまで及び, STEMI を合併することがある(Stanford A 型での合併率は5% 前後で,とくに右冠動脈[RCA]入口部を巻き込むことが多い).身体所見の特徴から疾患を推測することは重要であるが,必ずしも診断を確定できないことに留意する.確定診断にはCT,肺血流シンチグラム,CAG まで必要となることも多い. 表4 急性の胸痛を伴う鑑別疾患 心臓疾患肺疾患大血管疾患消化器疾患整形外科疾患その他 心筋炎,心筋症頻脈性不整脈急性心不全高血圧緊急症大動脈弁狭窄症たこつぼ症候群冠攣縮心臓外傷急性肺血栓塞栓症(緊張性)気胸 気管支炎,肺炎胸膜炎急性大動脈解離症候性大動脈瘤脳卒中逆流性食道炎食道痙攣消化性潰瘍,胃炎膵炎胆嚢炎,胆石骨格筋障害胸部外傷筋障害/ 筋炎肋軟骨炎頸椎病変肋間神経痛不安神経症帯状疱疹貧血高体温甲状腺機能亢進症血液粘度の増加 (Ibanez B, et al. 2018 100)をもとに作表)