p.14 抽出テキスト
齢は,男性が平均65 歳であるのに対し女性は平均75 歳であり,女性の発症年齢は男性より10 歳高齢であった.米国フラミンガム研究28)をはじめとする海外の疫学研究でも同様の結果が得られており,AMI の発症率や発症時年齢には明らかな性差が存在する.エストロゲンに代表される女性ホルモンには心血管系に対する種々の保護的作用があり,閉経後から女性ホルモンが減少するため,女性におけるAMI 発症が急増すると考えられる. 欧米諸国では1980 年代後半から2000 年代にかけてAMI の年齢調整後発症率は減少に転じた29–31).とくに, AMI 発症数のうちSTEMI の占める割合が大きく低下した30).AMI 発症前のアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンII 受容体拮抗薬(ARB),スタチンの服用率が有意に増加していたことから,冠危険因子に対するこれらの一次予防がSTEMI 発症率低下に奏効した可能性が高いと考えられた. 前述したように,ここ30 年間,欧米諸国ではAMI を含めた冠動脈疾患の発症率は一貫して減少傾向であった32).一方,同時期の本邦のAMI 発症率の経時的変化は欧米とは若干異なる.1985 年から2014 年の30 年間を10 年ごとに3 期に分け,AMI の年齢調整後発症率の推移を検討した研究では,1985 年から1994 年の10 年間は発症率が有意に増加したが,その後1995 年から2014 年までの20 年間はほぼ横ばいであった33).さらに,男女別に解析すると,女性では2005 年から2014 年の直近10 年間に発症率は減少に転じていた.同様に,熊本県のAMI レジストリーであるKACE 研究からも,2004 年から2011 年にかけてAMI 発症率は男女ともに有意に減少したことが報告されている34).一方,宮城心筋梗塞レジストリーの年代別解析において,70 歳以上の高齢者では,2005 年から2014 年の10 年間に男女ともに発症率が減少に転じていたが,59歳以下の若年群では,男女ともに30 年間一貫して増加し続けていることが明らかとなった33).多くの観察研究から報告されているように,本邦では若年者の食生活やライフスタイルの欧米化に伴い脂質異常症の罹患率が増加し,さらに喫煙率が若年男性では約50%,女性でも30% 以上と依然として高いことが関与していると考えられる23, 35, 36).今後,現在の若年者が高齢になった際に本邦のAMI 発症率は再度上昇に転じる可能性もあり,若年からの生活習慣の是正やさらなる啓発活動などが必要である.本邦同様,韓国や台湾といったアジア諸国でも代謝性疾患が増加し, 1990 年代から2000 年代にかけてAMI の年齢調整後発症率は増加した37, 38).しかし,韓国では2006 年以降,発症率は減少に転じた39).韓国国内において2000 年代から行われている,慢性疾患と心脳血管疾患の予防プロジェクトが奏功したことがその一因と考えられ,本邦での施策にも 参考になると考えられる. 2.3 予後 本邦におけるAMI の急性期死亡率(30 日以内の院内死亡率)は,OASIS 研究で7.1% 40),HIJAMI 研究で9.4%であった22).近年,心筋トロポニンを根拠に診断されたAMI 患者について,本邦で初めて多施設,前向きに検討されたJ-MINUET 研究では,院内死亡率はSTEMI 7.1%, CK 上昇を伴うNSTEMI 7.8% であり,両群間に差は認められなかった.一方,CK 上昇を伴わないNSTEMI では1.7% であり,前2 群にくらべ有意に低かった41).東京CCU ネットワークの検討では,院内死亡率はSTEMI で7.7% であり,NSTEMI 5.1% とくらべて有意に高かった.両者で共通の院内死亡と相関する因子はKillip 分類高クラスであり,良好な予後と相関する因子はスタチンで治療されている脂質異常症であった42). 院内死亡率について経時的に検討すると,欧米諸国では, primary PCI を中心とした急性期再灌流療法の普及と,急性期治療に関与する因子の改善に伴い,1980 年代から2000 年代後半までの間で劇的な改善がみられた31, 43).また,韓国や台湾を含むアジア諸国でも,1990 年代後半から2000 年代初頭にかけて欧米諸国と同様に院内死亡率が低下した37, 38).本邦では,1985 年から2014 年までの30年間を10 年ごとに分けて解析を行った宮城心筋梗塞レジストリーの報告によると,1985 年から2004 年の20 年間は院内死亡率の継続的な低下が認められたが,2005 年から2014 年の直近10 年間は男女ともにさらなる有意な改善はなく,ほぼ横ばいであった.さらに年代別の検討では, 80 歳以上の超高齢患者において院内死亡率がやや上昇傾向に転じていた33).AMI 発症から来院までに要した時間は短縮し,PCI 施行率も上昇していたが,同時に患者の高齢化,入院時急性心不全合併率の上昇といった患者背景の増悪も伴っており,急性期予後の改善因子と増悪因子が相殺され,結果的に院内死亡率が横ばいに推移していると考えられる.また,現在においても男性にくらべ女性のAMI患者の院内死亡率は高い24, 33).女性は男性にくらべ高齢であること,胸痛などの典型的な症状より非典型的な症状を訴える例が多く,発症から来院までに要する時間が長くなること,PCI 施行率が低いことなどが原因としてあげられている44, 45). ACS 患者の慢性期予後に関しては,GRACE 研究における退院後6 ヵ月以内の死亡率はSTEMI 4.8%,NSTEI 6.2%,UA 3.6% であり46),長期予後はSTEMI にくらべ