p.13 抽出テキスト
レアチンキナーゼMB 分画(CK-MB)の上昇が用いられていたが,2000 年に欧米の学会が合同で,心筋トロポニンが健常人の99% 値を超える一過性の上昇・下降を示すことをもって心筋梗塞と診断するuniversal definition(普遍的な定義)を提唱した13).心筋トロポニンは感度,特異度が高く,CK/CK-MB が上昇しない程度の微小心筋傷害も検出できるため,従来はUA と診断されていた症例がuniversal definition では新たに心筋梗塞に含まれるようになった.日本人を対象に,universal definition によって診断された心筋梗塞を登録したJ-MINUET 研究では, NSTEMI の約半数でCK/CK-MB の上昇は認められなかった14).CK/CK-MB 上昇がなく,心筋トロポニンのみの上昇によって診断されたNSTEMI は,短期予後は良好であるものの,回復期以降の長期予後はCK/CK-MB の上昇を伴うNSTEMI と同様に不良であった.この結果はNSTEMI の最終診断に心筋トロポニンを用いることの臨床的妥当性を示すものであり,本ガイドラインにおいても,心筋梗塞を診断するための心筋バイオマーカーとして心筋トロポニンを推奨する.その際,AMI の診断には心筋虚血を示唆する症状や心電図・画像所見を伴っていることが必要であることはいうまでもない.また,高感度心筋トロポニンは高齢者や腎機能低下例,心不全例などで心筋虚血とは関係なく高値を示すことがある.そのような場合には1回の検査結果だけで判断するのではなく,経時的に心筋トロポニンの上昇または下降を確認する必要がある.心筋梗塞の再発作については,28 日以内に生じた場合は一連のイベントとして再梗塞とするが,それ以降は異なるイベントとして区分し,心筋梗塞の再発として扱う.なお,universal definition では心筋梗塞を5 つのタイプに分類しているが15),本ガイドラインは,動脈硬化性のプラーク破裂やびらんなどによって生じた冠動脈内血栓を原因とする自発性の心筋梗塞(spontaneous myocardial infarction,Type 1)を主な対象とし,冠動脈攣縮や冠動脈塞栓など,心筋酸素の需要,供給不均衡によって生じる二次性の心筋梗塞(myocardial infarction secondary to an ischemic imbalance, Type 2)については,特別な配慮を要する病態として別記した(第7 章参照). 2 疫学 ACS は,冠動脈プラークの破綻により急速に冠動脈の閉塞や高度狭窄が起こることで心筋虚血が引き起こされる病態の総称であり,AMI,UA,心臓突然死を含む疾患概念である.本項では,疫学的知見が豊富であるAMI を中心 に述べる. 2.1 冠危険因子 日本人のAMI と有意な相関を示す冠危険因子として,高血圧,糖尿病,喫煙,家族歴,高コレステロール血症があげられ,欧米人とほぼ同様であることが多くの疫学研究により証明されている16).一般住民を対象に厚生労働省循環器疾患基礎調査のコホートを長期追跡したNIPPON DATA においても,血圧水準,血清総コレステロール値,喫煙本数は心筋梗塞死亡と正の相関を示すこと,それら冠リスクの集積により循環器疾患死亡の相対リスクがさらに高まることが示されている17–20). 2000 年代初頭のAMI 患者における冠危険因子の保有率を本邦と欧米で比較すると,高血圧合併は50% 前後でほぼ同等だったが,糖尿病と喫煙率は本邦のほうが高かった16, 21, 22).しかし,久山町研究から報告されているように,近年,日本人の血圧水準,喫煙率は大きく低下する一方,脂質異常症や耐糖能異常といった代謝性疾患罹患率は大幅に増加しており23),今後のAMI 発症率の変化・動向についてさらに慎重な観察と分析が必要になると考えられる. 2.2 疫学 これまで本邦においてACS の発症率の推移を検討した大規模な研究は見当たらないが,AMI 発症登録を継続的に行っている地域・病院ベースの疫学研究はいくつか報告されている.宮城心筋梗塞レジストリー研究はその1 つであり,宮城県の人口10 万人あたりのAMI の年齢調整後発症率は,1979 年には7.4 人であったのに対し,2008 年には27.0 人と30 年間で約4 倍に増加していた24).欧米諸国では人口10 万人あたり,フィンランド:824 人,英国: 823 人,カナダ:605 人,米国:508 人,フランス:314 人,イタリア:270 人と報告されており25),本邦におけるAMI発症率は欧米にくらべると近年でも非常に低いことがわかる.男女別に検討すると,滋賀県高島町研究(1990 ~ 2001) 26)では人口10 万人あたり男性100.7 人,女性35.7人,新潟県長岡市研究(1994 ~1996) 27)でも男性41.9 人, 女性5.3 人と,いずれも男性の発症率が高かった.前述の宮城心筋梗塞レジストリーの検討でも,人口10 万人あたりのAMI 発症率は,1979 年には年間で男性18.7 人,女性4.2 人,2008 年にはそれぞれ46.4 人,9.6 人であり, AMI 発症率の男女差は,30 年間を通じて男性が女性の約3 倍高いまま変わらなかった24).さらに,AMI 発症時の年