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診療の手引き COVID-19新型コロナウイルス感染症 Apr 2024 研究班最終報告 第10.1版
診療の手引き COVID-19新型コロナウイルス感染症 Apr 2024 研究班最終報告 第10.1版
*本手引き(第10.1 版)は,2024 年3 月までの情報を基に作成しました.今回が最後の改訂となります.今後は,厚生労働省,国立感染症研究所,関連学会のホームページなどから最新の情報を得るようにしてください. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第10.1 版第1.0 版発行 2020/3/17第2.0 版発行 2020/5/18 (第2.1 版 2020/6/17, 第2.2 版 2020/7/17)第3.0 版発行 2020/9/4第4.0 版発行 2020/12/4 (第4.1 版 2020/12 /25,第4.2 版2021/2/19)第5.0 版発行 2021/5/ 28 (第5.1 版 2021/6/30, 第5.2 版2021/7/30,第5.3 版2021/8/31)第6.0 版発行 2021/11/2 (第6.1 版 2021/12 /28,第6.2 版2022/1/27)第7.0 版発行 2022/2/28 (第7.1 版 2022/3/31, 第7.2 版2022/5/9)第8.0 版発行 2022/7/22 (第8.1 版 2022/10/5)第9.0 版発行 2023/2/17第10.0 版発行 2023/8/21 2024/4/23 令和5 年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業一類感染症等の患者発生時に備えた臨床対応及び行政との連携体制の構築のための研究研究代表者 加藤 康幸 【診療の手引き編集委員会(五十音順)】2024 年3 月現在 足立拓也(東京都立豊島病院 感染症内科)鮎沢 衛(神奈川工科大学健康医療科学部)氏家無限(国立国際医療研究センター 国際感染症センター)大曲貴夫 (国立国際医療研究センター 国際感染症センター)織田 順(大阪大学大学院医学系研究科 救急医学)加藤康幸 (国際医療福祉大学成田病院 感染症科)神谷 元(三重大学大学院医学系研究科 公衆衛生・産業医学)川名明彦(防衛医科大学校 感染症・呼吸器内科)忽那賢志(大阪大学大学院医学系研究科 感染制御学)小谷 透 (昭和大学医学部 集中治療医学)鈴木忠樹(国立感染症研究所 感染病理部)多屋馨子(神奈川県衛生研究所)徳田浩一 (東北大学病院 感染管理室)馳 亮太(成田赤十字病院 感染症科)早川 智 (日本大学医学部 微生物学)藤田次郎 (おもと会大浜第一病院/琉球大学)藤野裕士 (大阪大学大学院医学系研究科 麻酔集中治療医学)迎 寛 (長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 呼吸器内科学)森村尚登(帝京大学医学部 救急医学)倭 正也(りんくう総合医療センター 感染症センター)横山彰仁(高知大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学)〔編集・執筆協力者〕斎藤浩輝(聖マリアンナ医科大学 救急医学)陳 和夫(日本大学医学部 睡眠医学・呼吸管理学)船木孝則(国立成育医療研究センター 感染症科)牧野祐子(東北大学)的野多加志(佐賀大学医学部附属病院 感染制御部)日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会勝田友博(聖マリアンナ医科大学)/菅 秀(国立病院機構三重病院)/津川 毅(札幌医科大学)〔編集協力〕studio0510
改訂を終えるにあたって 4 1 病原体・発生状況 病原体・発生状況 5 1 病原体/2 発生状況 2 臨床像 臨床像 7 1 臨床像/2 重症化のリスク因子/3 小児例の特徴/4 妊婦例の特徴/5 罹患後症状参考:COVID-19 ワクチン(新型コロナワクチン) 3 診断・サーベイランス 診断・サーベイランス 20 1 病原体診断/2 血清診断(抗体検査)参考:定点医療機関における届出基準 4 重症度分類とマネジメント 23 1 重症度分類/2 外来診療/3 入院診療/4 集中治療/5 高齢者の管理/6 小児の管理/ 7 妊産婦の管理 参考:G-MIS を活用した入院調整 5 薬物療法 薬物療法 39 1 抗ウイルス薬/2 中和抗体薬/3 免疫抑制・調節薬参考:国内外で開発が中止された主な薬剤/妊産婦に対する薬物療法 6 院内感染対策 院内感染対策 59 1 職員の健康管理/2 個人防護具/3 妊婦および新生児への対応/4 死後のケア/ 5 病理解剖業務における感染対策参考:感染予防策を実施する期間/医療従事者の就業制限 CONTENTS CONTENTS
(2020 年5月18 日発行) (2020 年3月17 日発行) 第10.1 版 改訂を終えるにあたって 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生から4 年間にわたり,本手引きは国内外の知見を集約して,患者の診療ケアに役立つ情報を医療従事者に届けることをめざしてまいりました.絶えず状況が変化するなか,厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部のご協力のもと,第1 版の公表以来,今回を含めて計22 回の改訂を重ねたことになります. 2023 年5 月には感染症法における位置づけも5類感染症となり,医療機関にも社会全体にもCOVID-19 という新興感染症を受け入れる経験が積まれてきたと感じられます.ここに迅速性を重視した本手引きの役割は終える時が来たものと考え,今回を最後の改訂とすることにいたしました.これまで本手引きを参考に,患者の診療ケアや感染症対策に貢献された医療従事者をはじめ,関係者の皆さまに深く敬意と感謝の意を表します. COVID-19 はこれからも重要な感染症であることに変わりはありません.今後も増え続けるであろう学術的な知見に基づいた,学会等による活発な議論を期待します.診療の手引き編集委員会一同 第2 版 はじめに 本診療の手引きの第1版を公表してから2カ月が経過しました.欧米における流行を背景に,日本国内では3 月下旬から患者数が増加し,4 月7 日には改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき緊急事態宣言が発出されました.日本国内では2020 年5 月13 日現在で感染者15,908 名,死亡者687 名の報告があります.欧米と比較して,死亡者数は少ないですが,医療機関には個人防護具の不足や院内感染など大きな負荷がかかりました.一方,症例も蓄積され,病態の理解も進み,診断や治療の分野で進歩もみられます.このような状況の変化に対応するため,日本感染症学会,日本呼吸器学会,日本集中治療医学会のご協力を得て,本検討委員会に参加していただき,治療に関する記載を大幅に拡充した第2版を作成することができました.国内の患者数は4 月をピークに減少していますが,再流行のリスクもあり,予断を許しません.本手引きが広く医療現場で参考にされ,患者の予後改善と流行の制圧の一助となることを期待します. 令和2 年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業 一類感染症等の患者発生時に備えた臨床的対応に関する研究研究代表者 加藤 康幸 第1 版 はじめに 2019 年12 月,中華人民共和国の湖北省武漢市で肺炎患者の集団発生が報告されました.武漢市の封鎖などの強力な対策にも関わらず,この新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染は世界に拡大し,世界保健機関は公衆衛生上の緊急事態を2020 年1 月30 日に宣言しました.日本国内では,1 月16 日に初めて患者が報告され,2 月1日に指定感染症に指定されました.また,今後の患者の増加に備えて,水際対策から感染拡大防止策に重点を置いた政府の基本方針が2 月25 日に示されました.日本国内では3月4日現在で患者257 例(国内事例246 例,チャーター便帰国者事例11 例)の報告があります.横浜港に停泊中のクルーズ船(ダイヤモンド・プリンセス号)から患者を受け入れた首都圏などの医療機関では患者の診療を経験する一方,まだ患者が発生していない地域もあるのが現状です.医療従事者においても,この新興感染症にどのように対処すべきか,不安を抱えているのが現状ではないでしょうか.医療機関には新興感染症が発生した際,患者に最善の医療を提供するという役割があります.職業感染を防止しながらこの役割を担うには,事前の準備がきわめて重要です.幸い,中国の医師や研究者らにより患者の臨床像などの知見が迅速に共有されてきました.日本国内からも症例報告がなされるようになっています.同時に政府からの通知や学会などからの指針も多数発出され,情報過多の傾向もあるように見受けられます.本診療の手引きは現時点での情報をできるだけわかりやすくまとめたものです.医療従事者や行政関係者に参考にされ,患者の予後改善と流行制圧への一助となることを期待します. 令和元年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業 一類感染症等の患者発生時に備えた臨床的対応に関する研究研究代表者 加藤 康幸 (2024 年4 月23 日発行)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は,コロナウイルス科ベータコロナウイルス属に分類され, 約30,000 塩基からなる1 本鎖・プラス鎖RNA ゲノムをもつエンベロープウイルスである(図1-1).COVID-19 は, 2019 年12 月に中国・湖北省武漢市で初めて確認され,急速に全世界に感染拡大した.2020 年3 月にはパンデミック状態となり, 以後, 世界中で流行の波を繰り返している.2023 年5 月4 日に世界保健機関(WHO)は,国際的に懸念される緊急事態(PHEIC)の終了を宣言したが,引き続きリスクの高い健康課題であり,長期的な対応が必要 であるとしている. 1病原体・発生状況 1病原体 (国立感染症研究所) 図1-1 病原体 SARS-CoV-2 動物由来コロナウイルス S:スパイクタンパク エンベロープにある突起が王冠(ギリシア語でコロナ)のように見える.SARS の病原体(SARS-CoV-1)と同様にアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)をレセプターとしてヒトの細胞に侵入する.3 日間程度は環境表面で安定と考えられる. 2020 年末から,感染・伝播性, 毒力(virulence:病原体が引き起こす感染症の重症度の強さ)および抗原性などに影響を与える可能性がある遺伝子変異を有するSARS-CoV-2 変異株が出現し,B.1.1.7 系統(アルファ),B.1.617.2 系統(デルタ), B.1.1.529 系統(オミクロン)が置き換わりながら流行を形成してきた.2021 年末のオミクロン発生以降は,多くのオミクロンの亜系統が派生し,異なる系統間での組換え体も数多く報告されており,これらのオミクロン亜系統によって流行株が次々と置き換わっていく現象が世界中で継続している(図1-2).オミクロンとその亜系統は,オミクロン以前の系統と比較して感染・伝播性が非常に高いが,毒力は低下し,重症化する症例の割合は低下した.オミクロンの亜系統の中では毒力は大きく変化していないと考えられているが,感染免疫・ワクチン・中和抗体薬へ抵抗性(免疫逃避能)を示す亜系統が継続的に発生している.今後も新たな変異を獲得した亜系統が出現してくることが予想され,継続的な監視が行われており,国立感染症研究所ではSARS-CoV-2 変異株についてリスク評価を実施し,変異株を「懸念される変異株(VOC)」「注目すべき変異株(VOI)」「監視下の変異株(VUM)」に分類している.2024 年3 月現在,オミクロン(B.1.1.529 系統とその亜系統および組換え体のすべて)をVOC としている.
日本では1 月15 日に武漢市に滞在歴がある肺炎の患者が国内初症例として神奈川県で報告された.2 月1 日にCOVID-19 は指定感染症に指定され,全数届出が開始された.1 月末から2 月は武漢からのチャーター便とクルーズ船(ダイヤモンド・プリンセス号)から感染者が報告された.3 月には欧州などでの感染が疑われる患者が増加し,4 月上旬をピーク(感染者数 644 人)に流行が認められ, 全都道府県に緊急事態宣言が発出された(いわゆる‘ 第1波’).次いで,6 月中旬から8 月上旬をピーク(感染者数 1,597 人)とする流行が発生した(いわゆる‘ 第2波’). 2021 年1 月上旬をピーク(感染者数 8,045 人)とする流行では再び緊急事態宣言が発出された(いわゆる‘ 第3波’).2 月13 日にCOVID-19 は新型インフルエンザ等感染症に指定され,改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいたまん延防止等重点措置が実施された.以後,5月をピーク(感染者数 7,244 人)とするアルファ中心の流行(いわゆる‘第4波’),8 月をピークとするデルタ中心の流行(いわゆる‘第5波’), 2022年2月をピーク(感染者数 105,570 人)とするオミクロンBA.1 およびBA.2 系統中心の流行(いわゆる‘ 第6波’),7 月下旬をピークとするオミクロンBA.5 系統中心の流行(いわゆる‘ 第7波’)が発生した.9 月26 日には届出対象が高齢者,妊婦,基礎疾患を有し特定の医薬品を投与された患者に限定された.直近では,2023 年1 月と8 月,2024 年2 月をそれぞれピークとする流行が発生した.2023 年5月8日に5 類感染症に移行となり,定点医療機関を通じて新規患者数のサーベイランスが行われるようになった.最新の発生状況は下記の国立感染症研究所ホームページから入手できる. ☞ 発生動向の状況把握(国立感染症研究所HP) https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/12015-covid19-surveillance-report.htmlまた,最新の世界における発生状況は下記のWHO ホームページから入手できる. ☞ WHO Coronavirus (COVID-19) Dashboard https://data.who.int/dashboards/covid19/cases?n=c ◆引用・参考文献◆ ◆引用・参考文献◆・尾身茂,脇田隆字(監修).新型コロナウイルス感染症対応記録.2023.3.31,日本公衆衛生協会.・国立感染症研究所.新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株JN.1 系統について.2024.2.16.・Alessandro M, et al. SARS-CoV-2 variant biology: immune escape, transmission and fitness. Nat Rev Microb 2023.・Markov PV, et al. The evolution of SARS-CoV-2. Nat Rev Microb 2023. 2 発生状況 図1-2 SARS-CoV-2 変異株の系統図 Nextclade https://clades.nextstrain.org/ 注:2024 年3 月現在,XBB 系統の亜系統からBA.2.86 系統の亜系統であるJN.1系統とその亜系統への置き換わりが世界的に進んでいる
COVID-19は SARS-CoV-2 による急性呼吸器感染症である.2021 年末に流行株が,感染・伝播性が非常に強いオミクロンに置き換わって以降,重症化する患者の割合は低下した.【潜伏期間・感染経路・感染性のある期間】 2 臨床像 1 臨床像 られる.咽頭痛,鼻汁・鼻閉といった上気道症状に加え,倦怠感,発熱,筋肉痛といった全身症状が生じることが多い.インフルエンザに類似しており,臨床症状のみから両者を鑑別することは困難である.咽頭痛はしばしば初発症状となり,嚥下困難を訴えることもある.さらに,喉頭炎から喉頭蓋炎を呈することもある.オミクロンに置き換わる前に比べて,嗅覚・味覚障害の頻度は減少した.軽症の患者では発症後1 週間以内に症状は軽快することが多い(図2−1).発症から3カ月を経過した時点で何らかの症状が2カ月以上持続し,他の疾患による症状として説明がつかない場合には,罹患後症状の可能性を考慮する(『別冊:罹患後症状のマネジメント』参照).図2-1 COVID-19 患者の臨床経過 感染経路感染者から1~2 m 以内の距離で,病原体を含んだ飛沫・エアロゾルを吸入 することが主要な経路換気が悪い屋内では,感染者から遠い場所でも感染ウイルスを含む飛沫や環境表面に触れた手指で粘膜を触ることでも感染・発症前から発症後 5 ~10 日 潜伏期間 ➡ ⬆ 症状消失 感染性消失 症状軽快 発症 曝露 0 日5−10日通常3 カ月以内 (重症化リスクのある一部の患者) 肺炎・ARDS・臓器不全 発熱・倦怠感・頭痛 咽頭痛・鼻閉・咳嗽 潜伏期間 1~7日 気道ウイルス量感染性のある期間発症前から発症後 5~10日 感染性のある期間・1~7日(中央値 2~3日) *1 *2 SARS-CoV-2 はまず鼻咽頭などの上気道に感染すると考えられる.無症候性感染の割合ははっきりしていないが,ウイルスの免疫逃避能や感染者の免疫状態にも影響されるものと考え *1: 日本国内のオミクロン流行期(2021 年 12 月~ 2023 年 5 月)における重症例の重症化まで,死亡例の死亡までの日数は,それぞ れ 3 日と 7 日(中央値)であった. *2:特殊な免疫不全(例:血液悪性腫瘍,キメラ抗原受容体 T 細胞療法,造血幹細胞移植,抗 CD20 モ ノクローナル抗体による治療などで B 細胞が枯渇した状態,固形臓器移植後)がある患者ではウイルス排出が長期間持続しうることが報告されている.
オミクロンに置き換わって以降は,頻度が低くなったものの,重症化リスク(「2-2 重症化のリスク因子」参照)の高い一部の患者では感染は下気道まで進展すると考えられる(中等症に相当).さらに,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や多臓器不全に至る患者もある(重症に相当;図2-2).図2-2 30 代男性(2022 年2 月入院:中等症II→重症) 基礎疾患として肥満(BMI 39).新型コロナワクチン未接種.発症2 日目に抗原定性検査陽性,発症9 日目に自宅から救急要請.入院後,デキサメタゾン,レムデシビル,セフトリアキソン,アジスロマイシンの投与,ネーザルハイフローを開始.翌日,重症対応医療機関に転院.人工呼吸管理となるが短期間で改善し退院.ゲノム解析で検出ウイルスはオミクロンと確定. Day 9 小児は一般に軽症であるが,重篤な基礎疾患を認める場合は重症化に注意する必要がある(「2- 3 小児例の特徴」参照).また,一部の妊婦も重症化しやすいと考えられる(「2-4 妊婦例の特徴」参照).高齢者では発熱を伴わず,せん妄を認めるなどの非典型的な症状を呈することがあり注意を要する.日本国内でも死亡者に占める80 歳以上の割合が高くなっており,基礎疾患の増悪や心不全・誤嚥性肺炎などの発症にも注意が必要と考えられる(「4-5 高齢者の管理」参照).再感染は一般に直前の感染から3 カ月間は起きにくいとされている.オミクロンの流行が始まってから,世界中で再感染の報告が増加している.2022 年10 月から導入されたオミクロン対応のmRNA ワクチンの追加接種は,COVID-19 の発症や重症化を防ぐ効果が確認されている.【その他の主な合併症】 心血管系: 急性期の不整脈,急性心障害,ショック,心停止の他,症状回復後の心筋炎などが報告されている.血栓塞栓症:肺塞栓症や急性期脳卒中などの血栓塞栓症が報告されている.多くはCOVID-19の増悪期に合併するが,回復期に発生することもある.オミクロンに置き換わって以降は頻度が減少していると考えられるが,入院患者では引き続き注意が必要である.【病理像の特徴】 剖検例の検討では,SARS-CoV-2 はII 型肺胞上皮細胞に検出され,肺胞上皮細胞へのウイルス感染によるウイルス性肺炎がCOVID-19 肺炎の本態と考えられている.重症例では, ARDS を反映したDAD(diffuse alveolar damage:びまん性肺胞傷害)の所見が特徴的である.ウイルス抗原は炎症やDAD の所見に乏しく正常な肺に近い形態を示す領域において多く認められる.肺胞上皮へのSARS-CoV-2 の感染が病理形成に先行し,感染後の免疫応答によって上記のような病変が形成されると考えられる.またCOVID-19 肺炎では,同一個体の同一肺葉内において,滲出期から線維化期までさまざまな病期の病変が同時に存在することが特徴的である.すなわち,肺内のすべての部位において同時にウイルス感染が生じるのではなく,ウイルス感染が徐々に広がることによって次第に病変が拡大し,最終的に呼吸不全をきたすような広大な病変が形成されることが示唆される.
【年齢・性別】 高齢は最も重要な重症化のリスク因子である.特に高齢かつ後述する基礎疾患のある患者でリスクが大きい.また,複数のメタアナリシスによって,男性は女性に比べて重症化や死亡のリスクが高いことが明らかにされている.【基礎疾患】 高齢に加えてさまざまな基礎疾患や生活習慣が重症化のリスク因子として報告されている(表2-1).ワクチン接種,COVID-19 の罹患による免疫状態の変化や新しい変異株の出現により臨床像は変化しており,これらのリスク因子は今後の研究結果に応じて変更されることがある. 2 重症化のリスク因子 表2-1 重症化に関連する基礎疾患など(米国CDC まとめ) ☞Evidence used to update the list of underlying medical conditions associated with higher risk for severe COVID-19. 9 Feb 2023.(US CDC. Science Brief) 代謝疾患1型および2型糖尿病肥満(BMI ≧ 30)肥満(25 ≦BMI <30)心血管疾患脳血管疾患心不全虚血性心疾患心筋症高血圧症 呼吸器疾患間質性肺疾患肺塞栓症肺高血圧気管支喘息気管支拡張症慢性閉塞性肺疾患(COPD)結核嚢胞性線維症 肝疾患肝硬変非アルコール性脂肪肝アルコール性肝障害自己免疫性肝炎 精神神経疾患気分障害統合失調症認知症 腎疾患慢性腎臓病(透析患者) 薬物中毒 妊娠妊娠・産褥喫煙喫煙(現在および過去)小児 免疫不全 遺伝性疾患鎌状赤血球症 B 型肝炎C 型肝炎 ダウン症候群 HIV 感染症臓器移植・幹細胞移植ステロイド等の免疫抑制薬の投与原発性免疫不全症候群 エビデンスレベル高低悪性腫瘍悪性腫瘍(血液腫瘍) 気管支肺異形成 基礎疾患のある小児 α 1- アンチトリプシン欠乏症サラセミア 運動不足運動不足
表2-2 2023 年度 新型コロナワクチン接種「基礎疾患を有する方」について【全ての年代の方】 1 慢性の心臓,肝臓,腎臓または呼吸器の病気がある方2 免疫の機能を低下させる病気にかかっている方3 免疫の機能を抑制する治療を受けている方4 免疫異常に伴う神経疾患または神経筋疾患にかかっている方5 神経疾患または神経筋疾患を原因として, 身体機能が低下している方6 染色体に異常のある方7 血液の病気にかかっている方(18 歳以上で,鉄欠乏性貧血にかかっている方は除く) 8 その他,新型コロナウイルス感染症にかかった場合に重症化するおそれが大きいと医師が認める方 【18 歳未満の方のみ】1. 代謝性疾患にかかっている方2. 悪性腫瘍がある方3. 膠原病の方4. 内分泌疾患にかかっている方5. 消化器疾患にかかっている方【18 歳以上の方のみ】 1. インスリンやその他の糖尿病治療薬で治療中または合併症のある糖尿病の方2. 睡眠時無呼吸症候群の方3. 重い精神疾患にかかっている方4. 知的障害がある方5. BMI(BMI =体重kg /身長m 2 )が30 以上の方 なお,2023 年度COVID-19 ワクチン(新型コロナワクチン)接種対象となる基礎疾患を有する方について,国の審議会において検討され,以下のように示されている(表2-2). 【オミクロン流行期における重症例・死亡例の検討】 日本国内で2021 年末〜2023 年5 月までに発生した重症例および死亡例について,厚生労働省により調査が実施された.対象となった重症例(822 名),死亡例(5,549 名)の年齢中央値はそれぞれ72 歳,86 歳であった.死亡例では70 歳以上の症例が90%以上を占めた.重症例では,高血圧,糖尿病,喫煙,慢性腎臓病を有する症例の割合が多く,妊娠合併は5例のみであった.死亡例では,悪性腫瘍の割合が多かった.本検討では,軽症例と比較されていない,ワクチンの効果が検討されていない,などの限界があり,今後の解析が待たれる. 【重症化マーカー】 血液検査は患者の状態把握に参考となるため,入院を考慮する患者においては実施されることが望ましい.特に患者の重症度判定や予後予測に資するバイオマーカー(重症化マーカー)については,国内外で多数の研究が実施されてきた.これらを補助的に活用することで,診療の質向上や医療資源の有効活用などが期待される.パンデミック初期の症例に関する研究のメタアナリシス(研究数32;入院患者10,491 名が対象)によれば,1リンパ球減少,2 血小板減少,3D ダイマー上昇,4CRP 上昇,5プロカルシトニン上昇,6クレアチンキナーゼ上昇,7AST 上昇,8ALT 上昇,9クレアチニン上昇,10LDH 上昇,が人工呼吸や死亡と有意に関連していた.このほか,IFN- λ 3(インターフェロンラムダ3)は,SARS-CoV-2 に感染した患者の血中で,酸素投与を要する中等症II以上の症状を示す1 〜3 日前に上昇することが知られている.また, TARC は,SARS-CoV-2 に感染した患者の血中で,酸素投与を要する中等症II以上の重症化に至る患者では発症初期から重症化するまでの期間は低値を示すことが知られている.
COVID-19 の小児例は,これまで成人例に比較して軽症であるとされてきたが,その臨床的特徴は徐々に変化しており,近年は死亡例も報告されている. 国内小児例の臨床的特徴の経時的変化,小児の重症度,小児における死亡例,小児多系統炎症性症候群 (MIS-C), COVID-19流行下における小児の予防接種,について概説する. 【国内小児例の臨床的特徴の経時的変化】 日本小児科学会の調査対象となった15 歳以下の国内小児COVID-19 患者10,007 例(2020年2 月〜2022 年9 月)の初診時における臨床症状をオミクロン流行前(n=4,209)とオミクロン流行後(n=5,798)で比較した(オミクロン流行前, オミクロン流行後).37.5°C以上の発熱 (46.5%, 86.3%),乾性咳嗽 (25.1%, 29.1%),犬吠様咳嗽 (0.02%, 0.4%),咽頭痛(8.6%, 17.8%),喘鳴 (1.3%, 2.1%),倦怠感 (5.7%, 9.8%),筋肉痛 (0.3%, 1.0%),関節 痛 (0.8%, 1.6%),頭痛 (6.6%, 15.0%),痙攣 (0.7%, 9.0%),腹痛 (2.6%, 5.1%),悪心・嘔吐 (4.6%, 16.4%) を認める割合がいずれもオミクロン流行後に有意に増加した.逆に,味覚障害 (3.6%, 0.4%),嗅覚障害 (3.1%, 0.2%)を認める割合はオミクロン流行後に有意に減少した.一方で,呼吸困難の合併率 (1.7%, 2.0%) に関しては,変異株の違いによる変化はほとんど認めなかった.重症度の指標としては,抗ウイルス薬 (レムデシビル) (0.5%, 1.6%),酸素投与(1.9%, 2.7%) を要した割合はオミクロン流行後に有意に増加したが,ICU 入室 (0.6%, 0.7%),挿管下人工呼吸 (0.2%, 0.3%),ECMO (0.05%, 0%)を要した割合に変化を認めなかった.また,0 〜20 歳未満の患者の4.0% に発症後1 カ月を越えても何らかの症状が残存していた. 【小児の重症度】 小児は軽症のことが多いとされているが,2 歳未満と基礎疾患のある小児患者には重症化リスクのあることが報告されている.日本集中治療医学会小児集中治療委員会による新型コロナウイルス関連小児重症・中等症例の発生把握関連情報によると,いわゆる第7 波・第8 波(2022 年夏と秋の感染拡大)に報告された424 例の主な入院理由は,痙攣(25.9 %),SARS-CoV-2 による肺炎(18.9 %),急性脳症(17.9 %)であった.小児重症・中等症例の年齢層は,新生児(1.7 %),乳児(13.7 %),未就学児(51.4 %),小学生(23.6 %),中学生(5.2 %)であった. 【小児における死亡例】 国立感染症研究所の報告によると,国内においては,2022 年 1 月~9 月の間に COVID-19発症後の 20 歳未満の死亡例が 62 例確認された.その年齢は,0 歳 9 例(14.5 %),1 ~4歳19 例(31 %),5 ~11 歳 25 例(40 %),12 ~19 歳 9 例(14.5 %)であり, 5 歳未満が約半数を占めていた.さらに,62 例のうち実地疫学調査が実施できた症例は 57 例であり,このうち,明らかな内因性死亡とされた 50 例のうち,半数以上の 29 例(58 %)は基礎疾患のない生来健康な小児であった.死亡に至る主な経緯は,中枢神経系の異常 19 例(38 %:急性脳症など),循環器系の異常 9 例(18%:急性心筋炎,不整脈など),呼吸器系の異常 4 例(8 %:肺炎,細菌性肺炎など),その他 9 例(18%:多臓器不全など),原因不明 9 例(18 %)であった.50 例の新型コロナワクチンの接種状況は,死亡時点で接種対象外年齢の者が 24 例(48 3 小児例の特徴
%),接種対象年齢の者が 26 例(52 %)であり,接種対象年齢(当時5 歳以上)の 26 例では,未接種が 23 例(88 %),2 回接種が 3 例(12 %)であった.小児死亡例の症状は,呼吸器症状以外の症状のうち,悪心・嘔吐(46%),意識障害(42%),痙攣(36%),経口摂取不良(22%)などの割合が高かったことから,小児においては,痙攣,意識障害などの神経症状や,嘔吐,経口摂取不良などの呼吸器症状以外の全身症状の出現にも注意を払う必要がある.また,死亡に至る経緯として,中枢神経系の異常と循環器系の異常が多く,いずれも急激な全身状態の悪化が見られたこと,内因性死亡と考えられた小児等の死亡例50 例においても,発症から心肺停止および死亡までの日数は,中央値がそれぞれ2.0 日,3.0日であり,1 週間未満の症例がそれぞれ81%,75% を占めたことから,基礎疾患がない小児においても,特に発症後1週間の症状の経過観察が重要であると考えられた.流行期間を通して,小児における致死率の上昇は確認されていないが,小児感染例の増加に伴う重症例の増加には注意が必要である.【小児多系統炎症性症候群 (Multisystem Inflammatory Syndrome in Children: MIS-C)】 欧米では,COVID-19 パンデミックに伴い,若年感染者の中に複数臓器に強い炎症を認め,その中に川崎病と類似した症例のあることが報告され,小児多系統炎症性症候群(MIS-C または PIMS- TS)と呼んだ.その典型的な経過は,COVID-19 の罹患後 2 ~6 週目に,高熱と下痢,嘔吐,腹痛などの消化器症状と相前後して,血圧低下,ショック,心筋収縮能低下を示し,集中治療を必要とするもので,その多くに全身の紅斑・発疹や,眼球結膜充血,口唇・口腔粘膜の発赤や,いちご舌,指趾の発赤など,川崎病に似た症状を伴い,川崎病の診断基準を満たすものが多数見られるとされた.一部には川崎病と同様に,冠動脈の拡張や瘤形成が報告されている.痙攣,意識障害等の神経症状もみられ,検査所見では,リンパ球,血小板の低下が著しく, CRP, NT-proBNP または BNP, IL- 6,D ダイマー,フェリチンなど多くの炎症性マーカーが上昇する重篤な続発症であると報じられた.米国CDC では,2024 年1 月末までに9,645 例が登録され,死亡例は79 例(0.8%)にのぼる.一方,日本では 2020 年には症例の報告はなく,その年末から 2021 年初頭のいわゆる‘ 第3 波’の時期になってMIS-C と考えられる症例が報告され始め,日本小児科学会が中心となって,エキスパートコンセンサスとして,MIS-C の診断アルゴリズムを公表した(図2-3).小児の感染者数増加に伴い,報告が相次ぐようになり,2022 年夏から,日本小児科学会,日本集中治療医学会,日本小児循環器学会,日本川崎病学会の連携により,MIS-C の全国調査を開始した.その結果,とくに2022 年以降のオミクロンによる小児感染者の急増により,2023 年 11 月の時点で 120 例以上の症例が報告された.それらに基づく疫学・臨床像の分析では,下記のような結果を得ている. 1.患者背景と疫学1 SARS-CoV-2 感染後 5 ~6週後に発症した症例が最も多く,90%以上の症例が2週後から最長10 週後までに発症していた. 2 年齢は中央値 9.1 歳,1 ~16 歳までが報告された.性別は男児が 63.5 %であった. 3 患者数の時期的変動は感染増加に数週遅れてピークがあり,とくにオミクロンに置き換わってからの小児患者の増加に伴い増加している. 4 ワクチン接種歴があるのは 2 例のみで,95 %が未接種者であった. 5 国内では,現在までにMIS-C の死亡例はみられていない.
2 臨床症状・検査所見 180%以上の症例で,嘔吐,下痢,腹痛など腹部症状を認めた. 2 臨床的にショックを呈する症例は全体の約30%以下だが,検査異常は80%以上に認めた. 3 心臓超音波検査で左室駆出率(LVEF)は中央値58% で,50%以下を呈した症例は約30%あった. 4 発熱,発疹(皮膚の発赤),眼症状(結膜充血)など川崎病の主要症状を5項目以上認めた症例は55 %,4項目認めた症例を含めると 69 %であった. 5 冠動脈の拡張あるいは瘤は9%に認められた. 6 急性期のリンパ球数は中央値 764/μL,血小板数14.6 万/μL と減少していた. 7BNP またはNT-proBNP の上昇を 80% 以上,血中トロポニンの上昇を約30%に認めた. 8 治療は免疫グロブリン 2 g/kg の点滴静注(IVIG)+アスピリン 30 mg/kg 内服が 97 %の症例で行われ,ステロイドは 58 %の症例で使用された.初回治療後に追加治療が行われた症例が29 %あり,内容は IVIG 再投与あるいはステロイド(プレドニゾロン経口またはメチルプレドニゾロンパルス療法),少数でインフリキシマブやシクロスポリンA の投与が行われた.いずれの治療も本疾患に対して保険適用外であるが,これらの治療によって病状は改善している. 9 ICU 管理,カテコラミン使用を必要とした症例はそれぞれ 14 %,11 %であった.これらのことから,欧米に比べて,日本ではMIS-C の発症率は低いが,SARS-CoV-2 感染者の増加に伴って増加することが示された.死亡例はなく,川崎病と同様の治療で回復するが,やはり冠動脈瘤を合併することがあり,慎重な経過観察を要する.その他の後遺症の有無については不明である. 図2-3 MIS-C/PIMS * 診断のアルゴリズム 出典:小児 COVID-19 関連多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)診療コンセンサスステートメント 2021.9.16. 改訂 すべてを満たすか? 1. 21歳未満2. 発熱( >38°C ) 3. 疫学的SARS-CoV-2関与(いずれか) • PCRまたは抗原陽性•抗体陽性• COVID-19症状先行• 4週間以内の濃厚接触者4. 2つ以上みたす•発疹(多形性,斑状丘疹,紫斑状,非水疱性) •消化器症状(下痢,腹痛,嘔吐) •手足の浮腫•ロ腔内粘膜病変(口唇発赤・亀裂,イチゴ舌,咽頭発赤) •結膜炎(眼脂のない結膜充血) •頸部リンパ節腫脹•神経症状(意識障害,脳症,局所神経障害,メニンギスムス,乳頭浮腫) 5. 入院を要する重症度 検査(右表)を行いMIS-Cの確定診断標準治療で観察MIS-C診断のための評価を継続 原因不明のショックを呈するか? MIS-Cと他の発熱性発疹症のオーバーラップ存在非MIS-Cの幅広い評価は必要 他の疾患を除外したか? 以下をすべて満たすか? 1. CRP 5mg/dLまたは血沈40mm/hr以上2. 1つ以上の異常・リンパ球絶対数く1,000/μL・血小板数く150,000/μL・血清ナトリウム値く135mmol/L・好中球増多・低アルブミン血症Yes No Yes Yes No Yes No No血液検査項目 画像評価 COVID-19 の検査室診断MIS-C診断のための検査(右表)を行う *疾患名について,米国では MIS-C と一般化しているのに対し,本疾患の発生初期に報告した英国などの研究グループでは, paediatric inflammatory multisystem syndrome temporally associated with SARS-CoV-2 の略称で ‘PIMS- TS’ あるいは ‘PIMS’ と呼んでいる. 血算(分画) CRP Procalcitonin血沈フィブリノーゲン凝固機能(PT,APTT,D ダイマー)フェリチンLDHアルブミンtroponin/NT-proBNP IL-6 (保険適用外)心エコー(z スコアを含む)心電図胸部 X 線胸部 CT(必要時)腹部エコー腹部 CT(必要時) RT-PCR血清学的検査(抗体)抗原検査 血液検査項目 画像評価 COVID-19 の検査室診断
【COVID-19 流行下における小児の予防接種】 COVID-19 流行下でも,すべての年齢において推奨される接種スケジュールを遵守することは,それぞれのワクチンの有効性および安全性を最大限確保するうえでも非常に重要である.一方で保護者が安心して接種するためには,電話などで事前にかかりつけ医等と接種日時を調整するなどの工夫も必要である.また,やむを得ず接種が遅れたワクチンがある場合は,必要に応じてなるべく早期に接種をする必要がある.新型コロナワクチンについても,日本小児科学会では生後6カ月以上のすべての小児に接種を推奨してきた.2023 年5月8日にCOVID-19 が5類感染症に移行となり,感染予防対策が緩和されつつある状況において,改めて国内小児に対する接種の意義について日本小児科学会において検討がなされた.その結果,小児のCOVID-19 を予防する手段として,生後6 カ月~17 歳のすべての小児に新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)を日本小児科学会では引き続き推奨することとなった.
4 妊婦例の特徴 国内外の臨床統計から,妊婦が同年齢の女性と比較して,特にCOVID-19 に罹患しやすいということはない.しかし,妊娠後半期に感染すると,早産率が高まり,患者本人も重症化しやすいという事実が明らかになった.一方,妊娠初期・中期の感染で胎児に先天異常を起こすという報告はなく,子宮内感染も稀である.妊婦本人は軽症であっても,重篤な胎盤炎から流産や子宮内胎児死亡をきたす例があり,ワクチン未接種者に多いとされている.【国内外の疫学】 COVIREGI-JP/REBIND において,2020 年1 月~2021 年4 月に登録された女性(15 ~ 45 歳未満)入院患者(妊婦 187 例,非妊婦935 例)の解析から,妊婦群(18 例,9.6 %)が非妊婦群(46 例,4.9 %)より中等症・重症患者の割合が高いことが判明した.また,感染妊婦(254 例)を軽症群と中等症・重症群で比較したところ,妊娠中期(14 週)以降(OR 5.3 [95%CI: 1.2 ~23.1]),基礎疾患(喘息,糖尿病,高血圧など)の存在(OR 3.9 [95%CI: 1.2 ~ 12.5])が中等症・重症と関連していた.日本産科婦人科学会(周産期委員会)事業COVID-19 妊婦レジストリによれば,2022 年9月20 日までに登録された感染妊婦1,354 例中,軽症1,071 例(79 %),中等症I150 例(11 %),中等症II 120 例(8.9 %),重症 13 例(0.96 %)であった.母体死亡の登録はなかった.特にデルタを主体とした流行(2021 年6 ~11 月)において,中等症II ・重症例が多く(81 例),そのすべてが新型コロナワクチン未接種であった.このレジストリでは,年齢 ≧31 歳,妊娠21 週以降の感染,妊娠前BMI 25,喘息を中心とする呼吸器疾患等の併存疾患(既往・現症の存在など)が重症化のリスク因子であった.欧米ではこれに加えて,人種や喫煙歴,妊娠高血圧症候群,妊娠性糖尿病,血栓傾向などが重症化のリスク因子として報告されている.【妊婦におけるワクチンの効果と副反応】 新型コロナワクチンの効果については,オミクロンが主体となった2021 年から22 年に, 18 カ国41 病院が参加する大規模な前向き観察研究が行われ,4,618 人の妊婦を対象に母体罹患死亡指数(MMMI),重症新生児罹患指数(SNMI),重症周産期罹患死亡指数(SPMMI)が評価された.2,886 人(63%)がいずれかのワクチンを少なくとも1 回接種しており,2,476人(54%)が2 回以上の接種を受けていた.重症合併症に対するワクチンの効果は,74%(95% CI 48 〜87),追加接種後は91%(65 〜98)であり,ワクチン接種は依然として有効とされている.諸外国の統計では,妊娠中のワクチン接種は新生児の入院リスクを減少させる.死産,あるいは母児ともに生命にかかわる事態に陥ったのは,未接種者に多かったと報告されている.わが国においてもオミクロン流行以降は,母体の重症例は減少しているが,一定頻度で妊娠中期の流産や死産が発生しており,そのほとんどがワクチン未接種の妊婦である.諸外国でもわが国でも,妊娠中のワクチン接種による母体と胎児・新生児に対する奇形や流早産などの重篤な有害事象の増加はない.そのため,日本産科婦人科学会・日本産婦人科感染症学会では,すべての妊婦に週数を問わず,積極的なワクチン接種を推奨している.妊婦に対する新型コロナワクチン接種は児に対しても一般に安全と考えられている.米国におけるコホート研究(妊婦2,487 名が対象)によれば,妊娠中にワクチン(主にmRNA ワクチン)接種を受けた母から出生した児とワクチン未接種の母から出生した児において,生後12カ月および18 カ月における神経発達に差が認められなかった.今後の長期的なデータの蓄積と解析が待たれる. ≧
図2-4 代表的な罹患後症状 COVID-19 罹患後の一部の患者に,急性期症状の持続や新たな症状の出現,症状の再燃を認めることがある.WHO は,COVID-19 後の症状*を「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に罹患した人にみられ,少なくとも2カ月以上持続し,また,他の疾患による症状として説明がつかないもの」と定義している.また,「通常はCOVID-19 の発症から3カ月経った時点にもみられる」としている.代表的な罹患後症状を図2-4 にまとめた.罹患後症状の詳細に関しては,『別冊:罹患後症状のマネジメント』参照のこと. *国内における定義は現時点では定まっていないが,WHO が定義する「post COVID-19 condition」を「COVID-19 後の症状」と訳したうえで,本手引きでは,「罹患後症状」とする. ●疲労感・倦怠感 ●関節痛 ●筋肉痛●咳 ●喀痰 ●息切れ ●胸痛 ●動悸●記憶障害 ●集中力低下 ●頭痛 ●抑うつ●嗅覚障害 ●味覚障害 ●下痢 ●腹痛 ●睡眠障害 ●筋力低下 ●脱毛 5 罹患後症状 【参考】COVID-19 ワクチン(新型コロナワクチン) 新型コロナワクチンはmRNA ワクチンが 2021 年2 月14 日に特例承認され,予防接種法に基づく特例臨時接種として,同年2 月17 日より医療従事者への接種が開始されて以降,高齢者などに加えて生後 6 カ月以上の小児にまで対象が拡大されてきた.2023 年秋冬の接種については,XBB.1 系統の成分を含有する1価のワクチンが用いられ,ファイザー社およびモデルナ社のmRNA ワクチンに加えて,12 歳以上の追加接種に対して,第一三共社の開発したmRNA ワクチンの使用が開始された〔ノババックス社のワクチン(従来株)については2023年12 月25 日まで接種が可能であった〕.一方で,COVID-19 の「まん延予防上緊急の必要がある」と認められる状況にはないと考えられることから,2023 年度末までで,生後6 カ月以上のすべての接種対象者に無料で接種の機会を提供してきた特例臨時接種は終了し,2024 年度からは,通常のワクチンの流通に基づく定期の予防接種に移行することとなった. 【2024 年度からの定期の予防接種について】 2024 年度の新型コロナワクチン接種については,厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において,個人の重症化予防により重症者を減らすことを目的とし,COVID-19 を予防接種法のB 類疾病に位置づけた上で,対象者はインフルエンザワクチンにおける接種の対象者と同様(65 歳以上の高齢者及び一定の基礎疾患等のある60 歳から64 歳までの者)とすることとされた(表2-3).定期接種のスケジュールについては,COVID-19 の疫学的状況,ワクチンの有効性に関する科学的知見等を踏まえ,年1回の接種を行うこととし,接種のタイミングは秋冬とされている.定期接種に用いるワクチンに含むウイルス株の検討に当たっては,流行の主流であるウイルスの状況やワクチンの有効性に関する科学的知見を踏まえて選択することとし,当面の間,毎年見直すこととされているが,最新のWHO の推奨株を用いることを基本とし,さまざまなモダリティのワクチンについても,開発状況に応じて用いること,具体的な検討については,イン
フルエンザワクチンにおけるワクチン株の検討と同様に,研究開発および生産・流通部会において行う方針とされている.また,特例臨時接種では,インフルエンザワクチンを除く他のワクチンとの同時接種および接種間隔について,互いに2 週間以上の間隔を空けることとされてきたが,諸外国の状況を踏まえ,その他のワクチン(注射の弱毒生ワクチンを除く)と同様の扱いとなる. 【オミクロン株に対する追加接種の有効性および安全性について】 新型コロナワクチンの有効性は,流行しているウイルス変異株,過去のワクチン接種歴やCOVID-19 罹患歴,年齢,基礎疾患,使用薬剤などによって評価が異なる.オランダの研究報告によると,XBB.1.5 ウイルス株のmRNA を含むCOVID-19 ワクチン(XBB.1.5 対応1 価ワクチン)は,60 歳以上の成人での入院に対して70.7%,ICU 入室に対 して73.3%の有効性を示した.この有効性は,2023 年10 〜12 月までの入院データを分析し,少なくとも1 回のワクチン接種歴のある人を対象にしたもので,同年齢層における2022 年の2 価ワクチンの有効性64%を上回っていた.また,デンマークでのXBB.1.5 対応1 価ワクチンの短期的な入院予防効果を評価した報告では,65 歳以上とハイリスク者を対象に接種が実施され,国民健康データを用いて,ワクチン接種者と未接種者の入院率を比較して評価した結果,ワクチン接種者はCOVID-19 による入院リスクが76.1%低かった.特に過去に追加接種歴がある人において,有意な予防効果があることを示した.加えて,2023 〜24 年に更新されたXBB.1.5 対応1 価ワクチンの有効性を評価するため, 9,222 件のCOVID-19 検査を分析した米国での研究報告では,ワクチン未接種者に比べて症候性感染のリスクを54%減少させた.また,ワクチン接種後119 日までは,ワクチンの有効性に有意な低下はみられず,このXBB.1.5 対応1 価ワクチンは,JN.1 や他の変異株に対しても有効であった.新型コロナワクチン接種開始後の安全性の評価については,接種を受けた者への健康状況に関する調査,副反応疑い報告と審議会での評価,予防接種後健康状況調査などにおいて評価が行われている.直近では,2024 年1 月26 日に開催された審議会*において,新型コロナワクチン接種開始後から評価対象期間の2023 年10 月29 日までにおいて,ファイザー社,モデ 定期接種の対象者 (政令) ・65 歳以上の者 (省令) ・60 歳以上65 歳未満の者であって,心臓,腎臓若しくは呼吸器の機能の障害又はヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害を有するもの * *予防接種法施行規則においては,「心臓,腎臓又は呼吸器の機能に自己の身辺の日常生活活動が極度に制限される程度の障害を有する者及びヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に日常生活がほとんど不可能な程度の障害を有する者」と規定.接種間隔・方法 (省令) ・毎年度一回筋肉内に注射する.長期療養特例 (省令) ・現行のインフルエンザと同様,特例の適用除外とする.定期接種対象者から除かれる者等(省令) ・現行規定のとおりとする.副反応疑い報告基準 (省令) ・現在実施している特例臨時接種と同様の副反応疑い報告基準を定める.定期接種化の開始時期 (政令) ・2024 年4月に,新型コロナウイルス感染症をB類疾病に位置づける. *定期接種の開始は,2024 年の秋とする.他のワクチンとの接種間隔 (通知) ・注射生ワクチン以外のワクチンと同様の取扱いとする. 表2-3 2024 年度以降における新型コロナワクチン定期接種の規定 *厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同部会) *厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同部会)
ルナ社,武田社ワクチン(ノババックス)接種後の副反応疑いとして報告された事例について検討が行われ,いずれのワクチンも,これまでの報告によって,死亡,心筋炎・心膜炎,小児および乳幼児へのワクチン接種後の状況,ワクチン接種後の健康状況調査,ワクチン接種後の遷延する症状に関する実態調査に係る検討を含め,検討時点でワクチン接種によるベネフィットがリスクを上回ると考えられ,引き続きワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められないと評価された.また,オミクロン株対応1価ワクチン接種後の健康状況調査の報告では,ファイザー社のオミクロン株対応1価ワクチンについて,追加接種後1 週間の日誌が回収できた1,751 人では, 37.5°C以上の発熱が16.5%(38.0°C以上は6.5%)にみられ,局所反応は疼痛が87.5% にみられた.加えて,モデルナ社のオミクロン株対応1価ワクチンでは,追加接種後1週間の日誌が回収できた971 人では,37.5°C以上の発熱が39.9%(38.0°C以上は21.7%)にみられ,局所反応は疼痛が93.4% にみられたと報告されている. ◆引用・参考文献◆ ◆引用・参考文献◆ 1. 臨床像・国立感染症研究所.新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染経路について.2022.3.28.・国立感染症研究所.SARS-CoV-2 の変異株B.1.1.529 系統(オミクロン株)の潜伏期間の推定:暫定報告.2022.1.13.・日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会.新型コロナウイルス感染症(オミクロン株)による上気道狭窄への注意喚起.2022.3.2.・Adachi T, et al. Clinicopathologic and immunohistochemical findings from autopsy of patient with COVID-19, Japan. Emerg Infect Dis 2020.・Attaway AH, et al. Severe covid-19 pneumonia: pathogenesis and clinical management. BMJ 2021.・Cevik M, et al. Virology,transmission,and pathogenesis of SARS-CoV-2. BMJ 2020.・Crozier A, et al. Put to the test: use of rapid testing technologies for covid-19. BMJ 2021.・Esper FP, et al. Alpha to Omicron: Disease severity and clinical outcomes of major SARS-CoV-2 variants. J Infect Dis 2023.・Hou YJ, et al. SARS-CoV-2 reverse genetics reveals a variable infection gradient in the respiratory tract. Cell 2020.・Menni C, et al. Symptom prevalence, duration, and risk of hospital admission in individuals infected with SARS- CoV-2 during periods of omicron and delta variant dominance: a prospective observational study from the ZOE COVID Study. Lancet 2022.・Nakakubo S, et al. Associations of COVID-19 symptoms with omicron subvariants BA.2 and BA.5, host status, and clinical outcomes in Japan: a registry-based observational study. Lancet Infect Dis 2023.・Prendki V, et al. Caring for older adults during the COVID-19 pandemic. Clin Microbiol Infect 2022.・Pulliam JRC, et al. Increased risk of SARS-CoV-2 reinfection associated with emergence of Omicron in South Africa. Science 2022.・Sakurai A, et al. Natural history of asymptomatic SARS-CoV-2 infection. N Engl J Med 2020.・Sigal A, et al. Estimating disease severity of Omicron and Delta SARS-CoV-2 infections. Nat Rev Immunol 2022.・Takahashi K, et al. Duration of infectious virus shedding by SARS-CoV-2 Omicron variant-infected vaccines. Emerg Infect Dis 2022.・Whitaker M, et al. Variant-specific symptoms of COVID-19 in a study of 1,542,510 adults in England. Nat Commun 2022. 2 重症化のリスク因子・国立感染症研究所感染症疫学センター,新型コロナウイルス感染症対策本部.新型コロナウイルス感染症重症例および死亡 例の疫学像と死因,重症化に関連する因子.2023.9.26.・ COVIREGI-JP/REBIND 登録患者におけるオミクロン株症例重症化リスク因子の検討(第83 回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料)・Malik P, et al. Biomarkers and outcomes of COVID-19 hospitalisations: systematic review and meta-analysis. BMJ Evid Based Med 2021.・Peckham H, et al. Male sex identified by global COVID-19 meta-analysis as a risk factor for death and ITU admission. Nat Commun 2020.・Sugiyama M, et al. Serum CCL17 level becomes a predictive marker to distinguish between mild/moderate and severe/critical disease in patients with COVID-19. Gene 2021.・Terada M, et al. Risk factors for severity on admission and the disease progression during hospitalisation in a large cohort of patients with COVID-19 in Japan. BMJ Open 2021.・US CDC. Science Brief: Evidence used to update the list of underlying medical conditions associated with higher risk for severe COVID-19. 9 Feb 2023.
3 小児例の特徴・国立感染症研究所.小児の重症度,小児における死亡例・新型コロナウイルス感染後の 20 歳未満の死亡例に関する積極的 疫学調査(第二報).2022.12.28.・日本小児科学会.小児への新型コロナワクチン令和5 年度秋冬接種に対する考え方.2023.10.3.・日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会.新型コロナワクチン接種に関する,小児の基礎疾患の考え方および接種にあたり考慮すべき小児の基礎疾患等.2022.8.17 改訂.・Bellino S, et al. COVID-19 disease severity risk factors for pediatric patients in Italy. Pediatrics 2020.・Katsuta T, et al. Acute and postacute clinical characteristics of Coronavirus disease 2019 in children in Japan. Pediatr Infect Dis J 2022.・United Nations Children’s Fund, The State of the World’s Children 2023: For every child, vaccination, UNICEF Innocenti – Global office of research and foresight, Florence, April 2023. 4. 妊婦例の特徴・出口雅士,山田秀人.日本におけるCOVID-19 妊婦の現状 ~妊婦レジストリの解析結果 (2022 年5 月5 日迄の登録症例). 2022.6.7.・日本産科婦人科学会周産期委員会・周産期における感染に関する小委員会.妊婦の新型コロナウイルスワクチン接種に関する WEB アンケート調査結果について.2022.1.12.・Allotey J, et al. Clinical manifestations, risk factors, and maternal and perinatal outcomes of coronavirus disease 2019 in pregnancy: living systematic review and meta-analysis. BMJ 2020.・Engjom H, et al. Severe COVID-19 in pregnancy is almost exclusively limited to unvaccinated women-time for policies to change. Lancet Reg Health Eur 2022.・Goldshtein I, et al. Association of BNT162b2 COVID-19 vaccination during pregnancy with neonatal and early infant outcomes. JAMA Pediatr 2022.・Halasa NB, et al. Maternal vaccination and risk of hospitalization for Covid-19 among infants. N Engl J Med 2022.・Hayakawa S, et al. Covid-19 pandemic and pregnancy. J Obstet Gynaecol Res 2020.・Hayakawa S, et al. Anti-SARS-CoV-2 vaccination strategy for pregnant women in Japan. J Obstet Gynaecol Res 2021.・Jaswa EG, et al. In utero exposure to maternal COVID-19 vaccination and offspring neurodevelopment at 12 and 18 months. JAMA pediatr 2024.・Komine-Aizawa S, et al. Placental barrier against COVID-19. Placenta 2020.・Shoji K, et al. Clinical characteristics and outcomes of COVID-19 in pregnant women: a propensity score matched analysis of the data from the COVID-19 Registry Japan. Clin Infect Dis 2022.・Villar J, et al. Pregnancy outcomes and vaccine effectiveness during the period of omicron as the variant of concern, INTERCOVID-2022: a multinational, observational study. Lancet 2023.・Wei SQ, et al. The impact of COVID-19 on pregnancy outcomes: a systematic review and meta-analysis. CMAJ 2021.・Zambrano LD, et al. Update: Characteristics of symptomatic women of reproductive age with laboratoryconfirmed SARS-CoV-2 infection by pregnancy status — United States, January 22–October 3, 2020. MMWR 2020. 5. 罹患後症状・新型コロナウイルス感染症診療の手引き 別冊:罹患後症状のマネジメント 第3 版.2023.10.20.・Morioka S, et al. Post COVID-19 condition of the Omicron variant of SARS-CoV-2. J Infect Chemother 2022.・Nalbandian A, et al. Post-acute COVID-19 syndrome. Nat Med 2021.・Soriano JB, et al. A clinical case definition of post-COVID-19 condition by a Delphi consensus. Lancet Infect Dis 2022.・Terai H, et al. Comprehensive analysis of long COVID in a Japanese nation wide prospective cohort study. Respir Investig 2023.【参考】COVID-19 ワクチン・厚生労働省.新型コロナワクチンの副反応疑い報告について. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_hukuhannou-utagai-houkoku.html・厚生労働省.オミクロン株対応1価ワクチン接種後の健康状況調査. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_kenkoujoukyoutyousa_xbb.html・CDC. Early estimates of updated 2023–2024 (monovalent XBB.1.5) COVID-19 vaccine effectiveness against symptomatic SARS-CoV-2 infection attributable to co-circulating Omicron variants among immunocompetent adults — Increasing community access to testing program, United States, September 2023–January 2024. MMWR 2024.・Hansen CH, et al. Short-term effectiveness of the XBB.1.5 updated COVID-19 vaccine against hospitalisation in Denmark: a national cohort study. Lancet 2024.・van Werkhoven CH, et al. Early COVID-19 vaccine effectiveness of XBB.1.5 vaccine against hospitalisation and admission to intensive care, the Netherlands, 9 October to 5 December 2023. Eurosurveillance 2024.
検体と採取法1 3診断・サーベイランス 1 病原体診断 2023 年5 月8 日からCOVID-19 は5類感染症定点把握疾患となり,指定届出機関を除き患者等の届出は行われなくなった.COVID-19 が疑われる重症化リスクの高い患者には,病原体診断(表3-1)を積極的に行い,適切な治療につなげることが重要である. ・滅菌拭い棒を鼻腔孔から耳孔を結ぶ線にほぼ平行に鼻腔底に沿ってゆっくり挿入し,抵抗を感じたところで止め(成人10 cm 程度,小児5 cm 前後が目安),10 秒程度そのままの位置で保ち鼻汁を浸透させ,ゆっくり回転させながら引き抜き,拭い液を採取する・拭った後の先端を保管輸送用容器内の1 〜2 mL 程度の溶液(滅菌生食やウイルス 不活化液,安定剤など,さまざまな種類がある)に浸して,漏れないように容器をキャップする 鼻咽頭拭い液 ・鼻孔から2 cm 程度スワブを顔の中心に向かって挿入し,鼻腔壁に軽く当てゆっくり5 回程度回転させ,5 秒程度静置し湿らせる・採取後は鼻咽頭拭い液と同様*被検者自身が採取する際は,医療従事者の管理下で実施することが原則である.ただし,医療従事者が常駐していない施設などにおいて,迅速に抗原定性検査を実施するために自己採取を行う場合は,検体採取に関する注意点等を理解した職員の管理下で,適切な感染防護を行いながら実施する 鼻腔拭い液 ・広口の滅菌容器(50 mL チューブなど)に1 〜2 mL 程度の唾液を医療従事者による管理下または検体採取の注意点を理解した施設などの職員による管理下(施設などで無症状者に幅広く実施する場合)で被検者が自己採取する・飲食などの後,歯磨きを行った後,最低10 分以上後に採取する 唾液 核酸検出検査2 SARS-CoV-2 に特異的なRNA 遺伝子配列を増幅し,これを検出する検査法である.感度が高いが,短所として,検査時間が長い(1 ~5 時間),専用の機器および熟練した人材が必要,高コストなどがあげられる.〈リアルタイムPCR〉 ウイルスのコピー数の比較や推移が推定できることなどから信頼性が高い.〈LAMP,TMA 法等の等温核酸増幅法〉 簡便な機器のみで実施でき,リアルタイムPCR と比較して感度は落ちるものの,反応時間が35 ~50 分程度と短い.反応によって生じる濁度や螢光強度を測定する機器では,検体種類により偽陽性が生じる可能性がある. ☞国立感染症研究所ほか.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針 第6 版.2022.12.22.
抗原検査3・抗原検査(定性法,定量法)は,SARS-CoV-2 の蛋白質を検出する検査法である.・抗原定性検査は有症状者(発症から9日以内)の確定診断として用いることができる.・抗原定量検査は抗原量を測定でき特異度も高い.無症状者に対する唾液を用いた検査にも使用 できる. *1:唾液検体での薬事承認を得た製品に適用される点に留意. *2:使用可能だが,陰性の場合は臨床像から必要に応じて核酸検出検査や抗原定量検査を行うことが推奨される. *3:確定診断としての使用は推奨されないが,感染拡大地域の医療機関や高齢者施設等において幡広く検査を実施する際にスクリーニングに使用することは可能.ただし,結果が陰性の場合でも感染予防策を継続すること,また,結果が陽性の場合であって医師が必要と認めれば核酸検出検査や抗原定量検査により確認すること.感染拡大地域の医療機関や高齢者施設等以外の有病率が低い場合には,スクリーニングの陽性的中率が低下することに留意が必要である.なお,スクリーニングとは,主に診断目的ではなく感染リスクを下げる目的で実施するものである. *詳細は『国立感染症研究所ほか,新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 病原体検査の指針』参照. 表3-1 各種検査の特徴 2 血清診断(抗体検査) WHO は抗体検査について,診断を目的として単独に用いることは推奨せず,疫学調査等で活用できることを示唆している.日本においては,COVID-19 対策の基礎データとすることを目的として,2020 年度より,SARS-CoV-2 に対する大規模な抗体保有状況の調査が実施され,公表されている.抗体検査には,スパイクタンパクに対する抗体(抗S抗体)の測定とヌクレオカプシドタンパクに対する抗体(抗N 抗体)の測定がある.抗S 抗体は自然感染とワクチン接種により誘導されるのに対し,抗N抗体は自然感染のみで誘導される.このため,既感染者の割合は抗N抗体の有無を使って推定されている.なお,日本国内で体外診断用医薬品として承認を得た検査試薬はなく,さまざまな検査キットが研究用試薬として市場に流通している.国立医薬品食品衛生研究所による患者血清(標準品)を用いた一斉性能評価試験の結果によると,2020 年10 月時点で国内に流通している抗体検査キット(計57 種類)はSARS-CoV-2 に対する抗体を検出できることが確認された. 有症状者(症状消退者を含む) 検査の対象者新型コロナウイルス感染症にかかる各種検査 抗原検査(定性)核酸検出検査抗原検査(定量)鼻咽頭 鼻腔 唾液鼻咽頭 鼻腔唾液鼻咽頭 鼻腔唾液 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ *1 無症状者発症から9日目以内 ○ ○ー○ ○ー△ *2 △ *2ー発症から 10 日目以降 ○ ○ ○ ○ー*3 ○ー*3ー*3ー
【参考】定点医療機関における届出基準 当初,COVID-19 は,疑似症定点医療機関による疑似症サーベイランスを利用して,病原体診断と届出を行う体制であったが,2020 年2 月1 日から指定感染症としての届出が開始された.2021 年2 月13 日より新型コロナウイルス感染症の感染症法における法的位置づけが「指定感染症」から「新型インフルエンザ等感染症」に変更され,届出に基づき都道府県知事等が入院勧告・措置できる対象として重症化リスクの高い患者や中等症・重症の患者等が定められていた.2023 年5 月8 日より,COVID-19 は,流行の状況や症状等を鑑み,感染症法上の位置づけを見直し,5類感染症に位置づけ,インフルエンザと同様,診療科名に内科・小児科を含む指定届出機関による届出対象疾病に追加された.したがってCOVID-19 指定届出機関の管理者が以下の届出基準を満たした患者を診断した場合に届出を行うこととなった.【届出基準】 以下1,2または3を満たす場合,COVID-19 指定届出機関の管理者は指定の方法で届出を行う.なお,潜伏期間は 1 ~10 日(通常 2 ~4 日)とする. 1COVID-19 の臨床症状(発熱,咳,全身倦怠感などの感冒様症状であり,頭痛,下痢,結膜炎,嗅覚障害,味覚障害などを呈する場合もある)を有し,後述する検査方法によりCOVID-19 と診断した場合2 発熱または呼吸器症状(軽症の場合を含む.)を呈する者であって,COVID-19 であることが確定したものと同居している者(飲食,入浴,就寝などを共にする家族や同居者)であり,医師が総合的に判断した結果,COVID-19 と臨床的に診断する場合3COVID-19 指定届出機関の医師が,COVID-19 の臨床的特徴を有する死体を検案した結果,症状や所見から,当該者をCOVID-19 により死亡したと判断した場合なお,これまで届出が必要であった無症状病原体保有者,疑似症患者,感染症死亡疑い者の死体については届出の必要がなくなった.【検査診断】 COVID-19 の検査診断はさまざまであるが,届出には指定された検査材料を用い,指定された検査方法で実施する必要があるため注意が必要である. 分離・同定による病原体の検出 抗原定性検査による病原体の抗原の検出 検査方法 喀痰,気管吸引液,肺胞洗浄液,咽頭拭い液,鼻腔吸引液,鼻腔拭い液,鼻咽頭拭い液,便,唾液,剖検材料,その他検査方法に適する材料 鼻腔拭い液,鼻咽頭拭い液または唾液 検査材料 検体から直接の核酸増幅法による病原体の遺伝子の検出 発生動向調査事業として指定医療機関がCOVID-19 患者を届出る際に必要な検査方法と検査材料 抗原定量検査による病原体の抗原の検出鼻腔拭い液,鼻咽頭拭い液または唾液 ◆引用・参考文献◆ ◆引用・参考文献◆・厚生労働省,国立感染症研究所.2022 年度新型コロナウイルス感染症に対する血清疫学調査報告.2023.8.15.・ 国立医薬品食品衛生研究所.新型コロナウイルスに対する 抗体検査キットの一斉性能評価試験に関する報告.2021.7.14.・国立感染症研究所ほか.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針 第6 版.2022.12.22. 【届 出】 COVID-19 指定届出機関の管理者は,COVID-19 の届出基準を満たした患者または死体を医師が診断した場合,法第14 条第2 項の規定により週単位で,翌週の月曜日に管轄保健所に届け出なければならない.届出内容は年齢(群)と性別ごとの1 週間の累積患者数となっている. ☞ 新型コロナウイルス感染症(病原体がベータコロナウイルス属のコロナウイルス(令和二年一月に中華人民共和国から世界保健機関に対して,人に伝染する能力を有することが新たに報告されたものに限る)であるものに限る)(厚生労働省HP) https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-shitei-01.html
4 ワクチンの普及やオミクロンへの置き換わりに伴い,成人では典型的なウイルス性肺炎を呈する患者が大幅に減少した.しかし,高齢者では誤嚥性肺炎,うっ血性心不全などを合併し,入院治療が必要となる患者は少なくない.また,小児の患者数増加に伴い,入院治療が必要な症例も発生している.個々の患者の病状に応じた適切な治療の選択が重要である(図4-1).本章では,重症度分類と重症度別マネジメントについて解説する. SpO2 96%軽 症 中等症I呼吸不全なし93% SpO2 96% 酸素飽和度診療のポイント重症度 SpO2 93%中等症II呼吸不全あり 重 症・ウイルス性肺炎とARDS に移行したもの がみられる・個々の患者に応じた治療が重要 ≤ < < ≥ 呼吸器症状なしor咳のみで呼吸困難なしいずれの場合であっても肺炎所見を認めない 呼吸困難,肺炎所見 臨床状態 酸素投与が必要 ICU に入室or人工呼吸器が必要・多くが自然軽快するが,急速に病状が進行 することもある・高齢者では全身状態を評価して入院の適応を判断する ・入院を考慮するなど慎重な観察が望ましい・低酸素血症があっても呼吸困難を訴えないことがある ・呼吸不全の原因を推定・高度な医療を行える施設へ転院を検討 重症度分類とマネジメント ・COVID-19 の死因は呼吸不全が多いため,重症度は呼吸器症状(特に呼吸困難)と 酸素化を中心に分類した.・SpO2 を測定し酸素化の状態を客観的に判断することが望ましい.・呼吸不全の定義は PaO2 ≦60 mmHg であり SpO2 ≦90% に相当するが,SpO2 は 3% の誤差が予測されるので SpO2 ≦93%とした.・肺炎の有無を確認するために,可能な範囲で胸部 CT を撮影することが望ましい.・酸素飽和度と臨床状態で重症度に差がある場合,重症度の高い方に分類する.・重症の定義は厚生労働省の事務連絡に従った.ここに示す重症度はWHO や米国NIH 等の重症度とは異なっていることに留意すること.・この重症度分類はSARS-CoV-2 による肺炎の医療介入における重症度である.入院に関しては,この分類で軽症に該当する患者であっても全身状態などを考慮する必要がある(「4-5 高齢者の管理」参照). 1 重症度分類(医療従事者が評価する基準)
図4-1 重症度別マネジメントのまとめ ・重症度は発症からの日数,ワクチン接種歴,重症化リスク因子,合併症などを考慮して,繰り返し評価を行うことが重要である.・個々の患者の治療は,基礎疾患や合併症,患者の意思,地域の医療体制などを加味した上で個別に判断する.・薬物療法はCOVID-19 やその合併症を適応症として日本国内で承認されている薬剤のみを記載した.詳細 な使用法は,「5 薬物療法」および添付文書などを参照すること. オミクロンに対して有効性が減弱している(抗ウイルス薬を優先して検討)
2 外来診療 〇 重症化リスクの低い軽症の患者では,特別な医療によらなくても,経過観察のみで自然に軽快することが多い.〇 重症度評価のため,パルスオキシメーターによりSpO2 を測定することが望ましい.〇 重症化リスクの高い患者では,診断時は軽症と判断されても,発症後数日から2 週目までに病状が進行することがある.〇 重症化リスクの高い患者に対して,早期に抗ウイルス薬を投与することは,入院や死亡を減らすことが期待される.〇 解熱鎮痛薬や鎮咳薬などの対症療法を必要に応じて行う(非ステロイド性抗炎症薬がCOVID-19の予後を悪化させるというエビデンスはない).〇 軽症〜中等症Iの患者に対し,ステロイド薬は使用すべきではない.ただし,他疾患で使用中のステロイド薬を中止する必要はない.〇 発症から5 日間,かつ症状軽快から1 日以上経過するまで,人との接触はできるだけ避けるよう指導する.同居家族がいる場合には生活空間を分けること,マスク着用や手洗いの励行を指導する.〇 急性期の症状が遷延したり再燃する場合には,医療機関を受診するよう指導する.発症から3 カ月を経過しても,何らかの症状が2 カ月以上持続しており,他に明らかな原因がない場合には,罹患後症状を疑う.【外来診療における抗ウイルス薬の選択】(「図4-2」,「5 薬物療法」参照) 入院を要しない重症化リスク因子を有する COVID-19 患者に対する入院・重症化予防効果が,レムデシビル,モルヌピラビル,ニルマトレルビル/リトナビルの3剤に認められている.病状の進行が予期される重症化リスクの高い患者に対して,これらの抗ウイルス薬をできるだけ早期に使用することは予後の改善に役立つと考えられる.ただし,その根拠となった臨床試験はオミクロンに置き換わる前にワクチン未接種者を対象に実施されたものである(p.44 表 5-1).オミクロンでは毒力が低下し,ワクチンも普及していることから,入院・重症化予防効果を証明するには大規模な臨床試験が必要となっている.このため,観察研究を主体としたエビデンス(p.47 表 5-2B)に基づき,WHO や米国 NIHガイドラインは抗ウイルス薬の推奨度に差をつけるようになっている.なお,2023 年 6 月21 日,モルヌピラビルの開発企業は欧州医薬品庁(EMA)に対して承認申請を取り下げた.また,罹患後症状に対するこれらの抗ウイルス薬の有効性については肯定的な結果も否定的な結果も得られており,今後の研究が待たれる. レムデシビル モルヌピラビル ニルマトレルビル/リトナビルWHO(2023 年11 月) 条件付き推奨(免疫不全者) 条件付き推奨(免疫不全者) 強い推奨(免疫不全者)条件付き推奨 (その他のリスク因子のある患者)米国NIH(2024 年2 月) 中等度の推奨 弱い推奨 強い推奨 〈入院を要しない高齢および基礎疾患のあるCOVID-19 患者に対する抗ウイルス薬の推奨度〉 エンシトレルビルが承認を受ける根拠となった臨床試験は重症化予防効果ではなく,症状の早期改善を評価項目としている(p.46 表5-2A).この試験では重症化リスク因子のある患者が約30%組み入れられているが,喫煙歴,肥満,脂質異常症が中心である.一方,65 歳以上の高齢者の組み入れは1%に満たず,重症化リスク因子のある患者一般への本薬剤の使用を支持するエビデンスは現時点で不足している.
図4-2 成人の外来診療における抗ウイルス薬の選択 図4-3 重症化のリスク評価 重症化リスク因子(「2-2 重症化のリスク因子」 参照)年 齢 基礎疾患等基礎疾患等の管理60 歳未満80 歳以上 なし複数あり 発症の6 カ月以内 未接種に追加接種 良好不良 新型コロナワクチン接種状況 咽頭痛・鼻汁のみ呼吸困難高熱の持続強い倦怠感 症状リスク低いリスク高い 〈重症化リスク因子に加えて考慮する点〉 〈参考〉 WHO. Therapeutics and COVID-19: Living guideline. 10 Nov 2023. NIH. COVID-19 treatment guideline. 24 Feb 2024.日本感染症学会.COVID-19 に対する薬物治療の考え方 15.1 版. 14 Feb 2023. *本図は上記の文献を参考に,薬事上の適応なども考慮して本委員会で審議して作成したものである(委員の利益相反開示は章末に記載). 重症化リスク 因子 軽症~中等症Iかつ入院治療が不要 なし あり Yes No 対症療法 発症から7日以内かつ病状の進行が予期されるエンシトレルビル発症から72時間以内 (禁忌)本剤の成分に過敏症妊婦・妊娠の可能性がある女性特定の薬剤を投与中腎または肝機能障害+コルヒチンを投与中 ニルマトレルビル/リトナビル発症から5日以内(禁忌)本剤の成分に過敏症高度な腎機能障害特定の薬剤を投与中 対症療法【点滴】レムデシビル発症から7日以内 (禁忌)本剤の成分に過敏症【内服】モルヌピラビル発症から5日以内(禁忌)本剤の成分に過敏症妊婦・妊娠の可能性が ある女性 症状が強い場合(図4-3 参照) ニルマトレルビル/リトナビルが使用できない場合症状の早期改善 優先的治療代替治療4-1成人の外来診療における抗ウルス薬の選択入院・重症化の予防
3 入院診療 〇 入院の適応はCOVID-19 の重症度だけでなく,全身状態を評価して総合的に判断する.〇 中等症の患者は入院して加療を行うことが望ましい.薬物療法を行うとともに,さらなる増悪に対して,酸素療法など早期に対応するためである.〇 血液検査や画像所見から細菌感染の合併が疑われる場合, 喀痰塗抹・培養検査ののち, エンピリックに抗菌薬を開始する.〇 感染性がある時期には,適切な感染予防策を実施する(「2-1 臨床像」,「6 院内感染対策」参照). 〇 安静にし, 十分な栄養摂取が重要である.また, 脱水に注意し水分を過不足なく摂取させるよう留意する.〇 バイタルサインおよびSpO2 を1 日2 回程度測定する.低酸素血症を呈する状態に進行しても呼吸困難を訴えないこともある.〇 重症化リスク因子を有する場合, 特にワクチン接種を受けていない患者では病状の進行に注意が必要である.〇 一般血液・尿検査,生化学検査,血清検査,凝固検査,血液培養などを必要に応じて行う.〇 血清KL-6 値は,肺障害の程度,および炎症の程度と関連し,また肺の換気機能を反映することから,肺病変の進行の程度を反映するマーカーとなりうる.〇 発熱,呼吸器症状や基礎疾患に対する対症的な治療を行う. 中等症I 呼吸不全なし1 ・呼吸不全がウイルス性肺炎による場合,ステロイド薬の投与が推奨される.その際,レ ムデシビルとの併用が望ましい.ただし,高用量ステロイド投与(ステロイドパルス療法)の有効性と安全性は明らかになっていない・高流量酸素投与が必要な場合には,バリシチニブやトシリズマブの投与を考慮する・血栓塞栓症の合併に注意し,D ダイマー測定などの評価を行い,抗凝固療法も考慮する(「4-4-5 血栓症対策」参照) 中等症II 呼吸不全あり2 薬物療法のポイント 薬物療法のポイント・レムデシビルの点滴投与が考慮される・レムデシビル以外に,発症から5 日以内,かつ重症化リスク因子のある患者には,経口 抗ウイルス薬(ニルマトレルビル/リトナビル,モルヌピラビル)の投与も考慮される・発症から3 日以内,かつ重症化リスク因子がなく,発熱,咽頭痛,咳などの症状が強い 患者には,エンシトレルビルの投与も考慮される・中和抗体薬はオミクロンに対して効果が減弱しているため,抗ウイルス薬が使用できな い場合に検討する・ステロイド薬は使用すべきではない.ただし,他疾患で使用中のステロイド薬を中止す る必要はない
〇 呼吸不全の原因を推測するため,酸素投与前に動脈血液ガス検査(PaO2,PaCO2)を行う.また,必要に応じてネーザルハイフロー(HFNC:High-Flow Nasal Cannula),非侵襲的換気〔NIV: noninvasive ventilation, continuous positive pressure ventilation (CPAP)/noninvasive positive pressure ventilation (NPPV)〕,人工呼吸器やECMOの医療体制の整う施設への転院を考慮する.〇 通常の場合,O2 5 L/min までの経鼻カニュラあるいはO2 5 L/min まで酸素マスクにより, SpO2 ≧93 % を維持する. *注 : 経鼻カニュラ使用時はエアロゾル発生抑制のため, サージカルマスクを着用させる.〇 酸素マスクによるO2 投与でもSpO2 ≧93 % を維持できなくなった場合, HFNC,NIV (CPAP/NPPV)を使用する.HFNC,NIV が困難な医療機関は一時的にリザーバー付き マスク(10 ~15 L/min)の使用も可能である.CPAP/NPPV の使用に関しては,HFNCでは呼気終末圧付加が不十分な患者もしくは肺胞低換気がある患者に対して使用が考慮されるが,HFNC 含めて,いずれも治療に協力可能な患者が適応となる.ステロイド薬やレムデシビルなどの効果をみつつ,臨床症状の変化に注意を払い,改善がなく,酸素化が維持できないときには,気管挿管・侵襲的人工呼吸への移行を考慮する(図4-4). *注:この段階では,HFNC,NIV 使用時には必要に応じて覚醒下腹臥位療法などの体位管理が考慮される.気管挿管のタイミングを逸すると治療成績を悪化させる場合があることに十分留意する.ROX index (SpO2/FiO2/RR)などを参考に気管挿管のタ イミングを逸さないように留意する. 感染性がある場合,呼気ポートのないマスク(Non-Vented mask)および呼気ポートとマスクとの間にHEPA フィルター,人工鼻を装着可能なCPAP/NPPV 機器を用いて治療を行う. マスクフィットが悪いとマスク周囲から漏れが生じることや,吸気相で圧が上昇するNPPV はCPAP よりエアロゾル飛散リスクが大きくなる点など,環境汚染に十分注意する必要がある.ヘルメットタイプのインターフェイスの使用に関しては,使用経験が豊富な施設が望ましい.いずれの機器に対しても,内部汚染の管理にも注意する.在宅でCPAP 使用中の睡眠時無呼吸患者は70 万人以上存在するが,低酸素血症がなく,在宅医療可能な場合は, 症状などにより使用が不可能でなければ睡眠時にはCPAPを継続使用する.感染性がある場合,個室にて,既述のようにNon-Vented mask やフィ ルターなどが装着可能なCPAP 機器を用いて治療を継続する.もし,Non-Vented mask,フィルターなどが調達できないときには,使用中には他人が入らないようにして,換気に留意しつつ個室で使用する. 酸素療法のポイント 〇 高齢者では,うっ血性心不全,誤嚥性肺炎,二次性細菌性肺炎が呼吸不全の原因となることに留意する.これらが呼吸不全の主な原因の場合,ステロイド投与は推奨されない.〇 細菌性肺炎,COVID-19 関連肺アスペルギルス症,ARDS,敗血症,心筋障害,急性腎障害,消化管出血の併発にも注意する.
図 4-4 呼吸療法のアルゴリズム 【参考】ネーザルハイフロー使用時の感染対策 ○陰圧個室またはHEPA フィルターなどを設置したレッドゾーンを使用する○入室する医療従事者の個人防護具は,エアロゾル産生手技に着用するものを基準に患者の状態に応じて施設毎に判断する(「6 院内感染対策」参照) ○患者にはカニュラの上からサージカルマスクを着用してもらうことが望ましい(少なくとも医療従事者の入室前および入室中は必須とする) ○ガス流量増量による飛沫,エアロゾル増加に関しては,十分なエビデンスはなく,30 〜40 L/ 分以上の流量増加を考慮してよい○水抜きが必要な場合は,水分の飛沫に注意すること 陰圧個室あるいはレッドゾーンへの隔離は可能か はい 維持医療者はエアロゾル対策*2が可能か SpO2 ≧ 93% *3不可能可能維持 いいえ 挿管下人工呼吸*1 サージカルマスク装着など呼吸療法実施のための条件を受け入れていること *2 ゴーグル,N95マスク,ガウン,手袋などの完全個人防護具が使用可能で,かつ医療者は十分な訓練を受けていること*3 FiO2 あるいはROX indexを参考に気管挿管のタイミングを逸さないようにすること 低酸素血症 5 L/minまでの経鼻カニュラまたは酸素マスク*1 SpO2 ≧ 93% はい HFNC(30~40 L/分;サージカルマスク装着)またはNIVまたはリザーバー付きマスク(10~15 L/分) (腹臥位療法の併用も考慮) はいいいえいいえ
急速に呼吸状態が悪化することに留意し,気道管理について幅広い経験をもった手技者(救急専門医,集中治療専門医など)をあらかじめ治療チームに含める.さらに,気管挿管はエアロゾルが発生する手技であることに留意し,フェイスシールドあるいはゴーグル装着に加えて空気感染予防策(N95 マスク装着)が必要である.また,エアロゾル感染のリスクを減らすために,前酸素化に引き続き,鎮静薬,鎮痛薬および筋弛緩薬をほぼ同時に連続投与し,バッグマスク換気は行わない迅速導入気管挿管(rapid sequence induction:RSI)が選択され,さらに,直視下での挿管に比べ患者との距離が保て,口腔内を直接のぞき込まずにモニター画面を見て挿管手技が行えるビデオ喉頭鏡の使用を考慮する. a )基本戦略 ・ARDS か判定した上で,挿管人工呼吸管理を行う・地域の医療提供体制に支障がない限り,周囲への感染拡大を最小限とする呼吸療法を実施 するb )環境への影響に配慮した呼吸療法の選択 ・環境に配慮した上で,患者の酸素需要に応じた酸素療法を選択する・人工呼吸器のガス出入口にバクテリアフィルターを使用する・人工呼吸回路の加温加湿には人工鼻あるいはフィルター機能付き人工鼻を使用する・気管吸引では閉鎖式システムを使用する・エアロゾル発生リスクの高い作業は,適切な個人防護具を考慮した上で陰圧環境で行うc )ARDS でない場合の人工呼吸器の使い方 ・低酸素血症は FiO2 の 上昇で対応し, 必要最低限の PEEP を設定する・リクルートメントは必要ない・浅い鎮静管理を行う・腹臥位換気は上記に反応しない場合に実施するd )ARDS の場合の人工呼吸器の使い方 ・肺保護戦略を用いる・挿管後は深鎮静にする・より高いPEEP(10 〜14 cmH2O)を使う・人工呼吸療法に抵抗性の場合は,腹臥位療法が推奨される・さらに治療抵抗性の場合はECMO も考慮する 4 集中治療 気管挿管手技1 COVID-19 重症患者への人工呼吸戦略2 ○SARS-CoV-2 による肺炎にはウイルス性肺炎とARDS に移行したものがみられる. ○いずれも高めのPEEP を要するが,呼吸療法や鎮静の対応が異なる. ○個々の患者に応じた治療が重要で,集中治療の専門知識と監視体制が不可欠である. ○オミクロンに置き換わって以降,肺以外の臓器障害により集中治療を要する患者がみ られる.
e )肺保護戦略・プラトー圧制限を行う・換気圧制限(プラトー圧とPEEP の差 14 cmH2O)・pH >7.25 であれば高二酸化炭素血症を容認するf )腹臥位療法について・COVID-19 重症肺炎に対する腹臥位療法の開始時期や生命予後への効果を示す証拠は得られていない. • イタリアにおける後方視的多施設観察研究では,ARDS と診断されたCOVID-19 重症肺炎患者1,057 人のうち61%は少なくとも1回腹臥位療法が適用され,ARDS 重症度が高いほど実施回数が多かった.腹臥位療法を要した患者はより重篤で死亡率は有意に高かった.腹臥位は PaO2/FiO2 比の有意な増加をもたらした.PaO2/FiO2 比が20 mmHg以上増加した場合を反応ありと定義すると,反応なし患者はより重度の呼吸不全を患い, ICU でより多く死亡した(65%対38%,p = 0.047).・腹臥位療法は,少なくともARDS と診断され,人工呼吸療法で酸素化が維持できない場合には推奨される. *人工呼吸療法の相談は「NPO 法人日本ECMO net コールセンター」が24 時間対応する.〈参考〉・日本集中治療医学会HP https://www.jsicm.org/news/upload/COVID&MVstrategy_ECMOnet_v2.pdf・ビデオ教材 http://square.umin.ac.jp/jrcm/news/news20200415.html ≦ ECMO の適応には慎重かつ総合的に判断し,経験が豊富とはいえない施設においては,専門家の助言を取り入れることを前提に,ECMO 開始前の人工呼吸管理を適切に行い,導入のタイミングを逃さないことに注意が必要である. ECMO を導入しても高度な肺線維化が生じた場合は撤退を余儀なくされることもあり,導入前にインフォームド・コンセントが必要になる.また,ECMO の禁忌・適応外の病態として,不可逆性の基礎疾患,末期癌,慢性心不全,慢性呼吸不全,その他重度の慢性臓器不全の合併が考えられる.その他,カニュラの選択,使用する人工肺・ポンプ,回路内圧モニタリング,ECMO 中の人工呼吸器設定,ECMO 撤退・DNAR, さらには安定した長期管理を行うための詳細について不明な場合には,「NPO 法人日本ECMOnet」に相談できる体制(専用電話番号はメールアドレスの登録がある関連学会会員に配信されている) が整えられており, 積極的な利用が推奨される.ミシガン大学の Barbaro らは,The Extracorporeal Life Support Organization(ELSO)レジストリを用いて 36 カ国 213 施設で 2020 年 1 月16 日〜5 月1 日までに ECMO を使用した16 歳以上の COVID-19 患者 1,035 例を解析した.その結果, ECMO 開始後 90 日以内の院内死亡率は 37.4 %(95%CI 34.4 ~40.4),最終転帰が死亡または退院だった患者 968 例の死亡率は39 %だった.また,V-V ECMO を使用した ARDS 患者の ECMO 開始後 90 日以内の院内死亡率は 38.0 %(95%CI 34.6 ~41.5)と推定された.COVID-19 におけるECMO の治療成績は COVID-19 流行前の呼吸 ECMO の成績と同等であり,有意義なエビデンスが示されていると考えられる.しかし,2020 年5 月2 日~12 月31 日の期間(日本を含む41 カ国,349 施設)の院内死亡累積発生率は初期導入群(2,824 例)で51.9 %(95%CI 50.0 ~53.8),後期導入群(806例)では58.9 %(95%CI 55.4 ~62.3)と悪化していた. 体外式膜型人工肺(ECMO) 3
• 重症感染症および呼吸不全は,深部静脈血栓症の中等度リスク因子である. • さらに,COVID-19 患者においては,サイトカインストームや血管内皮障害などにより凝固亢進および線溶抑制が合併していると推定される. • 肥満,不動,男性,D ダイマーが正常上限の3〜4倍以上を超えるような場合には,ヘパリン(低分子ヘパリンは適応外使用)などによる抗凝固療法が推奨される.・未分画ヘパリンの投与量は確立していないが,低用量(10,000 単位/ 日,あるいは200 単位/kg/ 日)が用いられる.適宜,APTT や血小板数を測定する.〈参考〉日本静脈学会,肺塞栓症研究会,日本血管外科学会,日本脈管学会,日本循環器学会.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における静脈血栓塞栓症予防および抗凝固療法の診療指針Ver.4.0, 2022.6.13. 【参考】ワクチン接種後に生じる血小板減少症を伴う血栓症 TTS : thrombosis with thrombocytopenia syndrome VITT: vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia新型コロナワクチン,特にアデノウイルスベクターSARS-CoV-2 ワクチン(アストラゼネカ製,ヤンセン製)の接種後(4 〜28 日),きわめて稀(10 万人接種あたり1 〜11 名)に重篤な血栓症の発生が報告されている.女性に多く(約80 %),脳静脈や内臓静脈などに血栓が生じることが特徴である.血液検査では血小板減少,D ダイマー高値,抗血小板第4因子抗体(ELISA 法)陽性(国内未承認)を認める.このため,血小板減少症を伴う血栓症(TTS)と記載されることが多いが,本症の医学的な名称は統一されていない.自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症との類似が指摘されている.一方,免疫グロブリン大量静注(適応外使用)の有効性が期待される.抗凝固薬として,ヘパリン類は使用を避けることが望ましく,アルガトロバン,直接作用型経口抗凝固薬(適応外使用)などの使用を検討する.〈参考〉日本脳卒中学会・日本血栓止血学会.COVID-19 ワクチン接種後の血小板減少症を伴う血栓症の診断と治療の手引き・第4.1 版, 2022.7.20. 血液浄化療法4 血栓症対策5 感染対策に留意した 血液浄化療法の施行が必要である.なお,日本環境感染学会『医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド』において,透析に用いた廃液についてはHBV, HCV, HIV の場合と同様に取り扱ってもよいと記載されている.
5 高齢者の管理 高齢者において特に留意すべき患者背景1 高齢者(65 歳以上)におけるCOVID-19 の特徴は,併存疾患の多いこと,非典型的な症状を示すこと,ときに炎症反応が強く出現することなどである.このため高齢者では,若年者と比較して臨床像が異なること,また,重症化するリスクが高いことに留意する.さらに急性期の治療に加え,廃用予防や合併症予防といった機能維持を目標とした適切なリハビリテーションも治療と並行して早期に実施することも重要である.また,消化器症状による摂食障害などから容易に脱水や栄養障害を来すことにも留意する.特に重要なことは,SARS-CoV-2 によるウイルス性肺炎に加え,二次性細菌性肺炎,または誤嚥性肺炎併発に対する考慮である.呼吸不全を認める場合には単純に中等症II のウイルス性肺炎と考えず,二次性細菌性肺炎,誤嚥性肺炎,またはうっ血性心不全の可能性にも留意する. 一般的に,本手引きの表2-1,表2-2 に示される重症化リスク因子の多くが高齢者にも認められる.実際の年齢以上に,フレイル(要介護の一歩手前の健康状態)はCOVID-19 の経過中に進行しやすく,入院の長期化によって寝たきり状態となる可能性もある.このような患者では,一般的に,人工呼吸器からの離脱が困難となることもあり,本人や家族の意思を確認して治療方針を選択する必要がある.本手引きや諸外国のガイドラインで示されている重症度分類は,SARS-CoV-2 によるウイルス性肺炎を意識して作成されたものである.オミクロンに置き換わって以降,二次性細菌性肺炎や誤嚥性肺炎の合併する頻度が高くなった高齢者の重症度や予後を評価する方法に現時点で定まったものはない. 【参考】二次性細菌性肺炎や誤嚥性肺炎を合併している患者の評価には,市中肺炎や医療介護関連肺炎の重症度分類が参考になると考えられる.日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン2017」においては,下記の重症度分類(A-DROP システム)が用いられている. A(Age):男性70 歳以上,女性75 歳以上D(Dehydration):BUN 21mg/dL 以上または脱水ありR(Respiration)SpO2 90% 以下(PaO2 60Torr 以下) O(Orientation):意識変容ありP(Pressure):血圧(収縮期)90mmHg 以下 軽症:上記5 つの項目のいずれも満たさないもの,中等症:上記項目の1 つまたは2 つを有するもの,重症:上記項目の3 つを有するもの,超重症:上記項目の4 つまたは5 つを有するもの,に分類される.ただし,ショックがあれば1 項目のみでも超重症とする.呼吸不全に加えて,脱水,意識障害,ショックの項目が含まれ,患者の総合的な評価に役立つことが期待される.
高齢者における治療の選択2 図4-5 80 代女性(誤嚥性肺炎とうっ血性心不全を合併) 発症時(Day 1)からニルマトレルビル/ リトナビルが投与された.夜間に呼吸困難が出現し,低酸素血症を認めたが,胸部CT(Day 2)では明らかな肺炎像を認めなかった.その後,胸部CT(Day 4)で誤嚥性肺炎が明らかになり,さらに両側胸水が貯留し,うっ血性心不全の合併も示唆された(Day 14). Day 4 Day 14 高齢者ではさまざまな重症化リスク因子を有することが多いため,COVID-19 と診断されたら速やかに病状の評価が行われる必要がある.治療の選択には,ウイルス性肺炎の有無の確認が重要である.高齢者においては身体診察による評価が困難なことが多いため,病状の悪化が懸念される患者では胸部CT 検査の実施を考慮する.このような患者にウイルス性肺炎像が画像上で確認されたら,速やかに抗ウイルス薬の投与を考慮する.画像上,肺炎像を認めない症例においても発症から5 日以内の場合には重症化予防のために抗ウイルス薬の投与を検討する(「4-2 外来診療」「4-3 入院診療」および「5 薬物療法」参照).画像診断が困難な場合には, 身体所見,およびSpO2 などで肺炎の有無を判定せざるを得ない場合もある.ただし,うっ血性心不全でも同様の所見を呈することがあるため,肺炎(二次性細菌性肺炎,または誤嚥性肺炎を含む)やうっ血性心不全の合併を常に考慮する(図4-5).特に細菌性肺炎が疑われる場合には,喀痰の培養検査を行い,抗菌薬を投与する. 高齢者では腎機能が一般に低下している.腎機能評価は血清クレアチニン値をもとに体表面積補正された推算糸球体濾過量[eGFR(mL/min/1.73m 2)]でなされることが多いため,標準的な体格から外れている患者では補正が必要である.特に,ニルマトレルビル/リトナビルは腎機能が低下している場合は投与量を減らす,あるいは投与を控える必要があるため注意する.また,高齢者では多くの薬剤が処方されており,複数の医療機関から薬剤が処方されている事例も多く,『おくすり手帳』の確認をもれなく行い,併用禁忌薬の有無や腎機能にも留意して薬剤の選択を行う必要がある.感染症法上の分類が5類感染症に変更され,かかりつけ医等によって本感染症の患者が診療されることで,重症化リスク因子,内服薬,および腎機能が正確に把握され,より適切な抗ウイルス薬の選択につながることが期待される.
小児のCOVID-19 症例の95%以上は軽症であるが, 2 歳未満や基礎疾患を有する小児は重症化リスクがあることが以前から知られている.国内においてはオミクロンに置き換わって以降,クループ症候群,肺炎,痙攣,悪心・嘔吐,脱水,小児多系統炎症性症候群(MIS-C),脳症,心筋炎を合併した中等症例・重症例が報告されている.さらに,小児感染例の増加に伴って死亡報告も増加しており,その約半数は生来健康な小児が占めている (「2-3 小児例の特徴」参照).日本小児科学会は,新型コロナワクチン接種にあたり考慮すべき小児の基礎疾患を公開するとともに, 基礎疾患の有無に関わらず,6 カ月以上のすべての小児に新型コロナワクチン接種を推奨している. COVID-19 に加えて,インフルエンザ,RS ウイルス感染症,ヒトメタニューモウイルス感染症,パラインフルエンザウイルス感染症,アデノウイルス感染症などでも重症になることがあり,鑑別も必要となる. 日本小児科学会は,小児が発熱した際の適切な対応方法や,救急外来の受診や救急車を呼ぶタイミングなどについて,保護者に下記のような情報を提供しておくことを推奨している. 1 経口摂取(哺乳)でき,普段通りに眠れていれば,緊急で救急外来などを受診する必要はなく,翌日以降にかかりつけ医等を受診してよい. 2 発熱に対しては水分摂取を促し,体温調節をこまめに行う. 3 小児用の市販薬を含めた解熱剤を適宜使用して経過をみてよい. 4 経口摂取(哺乳)不良,尿量低下,末梢冷感,顔色不良,呼吸状態の悪化,ぐったりしている,意識がはっきりしない,痙攣,異常行動,嘔吐を繰り返すなどの症状が一つでもあれば,速やかに医療機関に連絡して相談する. 5 判断に迷った場合は,「こども医療電話相談事業(#8000)」や日本小児科学会による「こどもの救急(http://kodomo-qq.jp)」などから情報を得ることも可能である. COVID-19 を含めたその他の感染症の流行状況,受診までの症状経過,既往歴などの基本的な病歴聴取,バイタルサインの確認,丁寧な身体診察を行い,全身状態の把握や鑑別診断を行う. COVID-19 の診断に加えて,クループ症候群,肺炎,痙攣,脱水症,脳症,心筋炎などの重篤な合併症を見逃さずに対応することが重要である. 日本小児科学会は,「小児 COVID-19 軽症から中等症の治療フローチャート」を公開している. http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/2023-2-20Covid-FC.pdf 6 小児の管理 〇 〇 〇 〇 〇 〇
〇COVID-19 に感染した妊婦の多くは無症状もしくは軽症のままに経過するが,一部は特に妊娠の後半期に重症化し,死産や本人の生命にかかわる事態に陥る.重症者の割合は, オミク ロンに置き換わって以降減少したが,ワクチンの未接種は母体の重症化ばかりでなく,流早産や子宮内胎児死亡のリスクを高めると考えられる(「2-4 妊婦例の特徴」参照). 〇 無症状あるいは軽症で,自宅療養・宿泊療養中の妊婦を訪問する,あるいは電話やインター ネットによる遠隔診療を行う医療者は,呼吸状態,心拍数や呼吸数とその変化などの急速な病状の進行を疑う症状,あるいは産科的異常を示唆する症状を確認する必要がある.可能であればパルスオキシメーターで血中酸素濃度を自己測定し,SpO2 が95%を下回る状態が続く場合は連絡をさせる.また,妊娠の時期を問わず,性器出血,持続する・あるいは周期的な腹部緊満感・子宮収縮感,破水感・胎動の減少などがある場合,妊婦健診を受けているかかりつけの産科医に直接相談するように指導する必要がある.当該妊婦のワクチン接種歴(接種回数,最終接種からの期間)を聴取し,未接種者はハイ リスク者として留意する. 〇 かかりつけの産科医は,COVID-19 に感染した妊婦が上記のような相談をしてきた場合,速やかに地域のCOVID-19 に係る周産期医療体制の関係者と連携して,適切な診察・医療を受けることができる施設への緊急搬送,あるいは自院への受診を指示すること.内科等の産婦人科医以外の医療者が診療する場合は,産科的異常を示唆する症状にも留意するとともに,日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会が2021 年8 月23 日に発出した文章に記載されている症状,所見,検査結果を認める場合,入院の必要性を地域の産科医と相談する. 〇COVID-19 に感染した妊婦に,必ずしも産科的な管理が必要ではなく,COVID-19 患者として内科病棟等に入院する妊婦については,呼吸数,心拍数の漸増は妊婦の代償機能が働いている 徴候であるとされており,その推移に注意すること.また,酸素飽和度を適切な値(SpO2 95%以上)に保つことができるように留意する.児の娩出時期や分娩方法,妊婦に対する薬物療法については産婦人科医,小児科医と密接な連携をとる必要がある. 〇COVID-19 に感染した妊婦から出生した新生児の隔離解除が必要となる場合は,生後24時間以内と48 時間以降の2 回検査(PCR 等の核酸増幅検査)を行うことが推奨される.なお,感染管理の観点から母子分離を行う場合には,患者や家族にその必要性について十分説明すること. 7 妊産婦の管理
【参考】G-MIS を活用した入院調整 5 類感染症への移行に伴って,入院調整は医療機関で行うようになった.
利益相反の開示:厚生科学審議会感染症部会審議参加規程に準じて,下記の委員は「成人の外来診療における抗ウイルス薬の選択」 の審議及び議決に参加しなかった.承認申請資料等作成:足立拓也(ゾコーバ),大曲貴夫(べクルリー,ラゲブリオ,パキロビッドパック,ゾコーバ),承認申請資料等作成:足立拓也(ゾコーバ),大曲貴夫(べクルリー,ラゲブリオ,パキロビッドパック,ゾコーバ),倭正也(パキロビッドパック,ゾコーバ)倭正也(パキロビッドパック,ゾコーバ)寄付金・契約金等受領:川名明彦(塩野義製薬),忽那賢志(ギリアド・サイエンシス,MSD 製薬,ファイザー製薬,塩野義製薬),寄付金・契約金等受領:川名明彦(塩野義製薬),忽那賢志(ギリアド・サイエンシス,MSD 製薬,ファイザー製薬,塩野義製薬),藤田次郎(ギリアド・サイエンシス,ファイザー製薬,塩野義製薬),迎寛(MSD 製薬,ファイザー製薬,塩野義製薬),藤田次郎(ギリアド・サイエンシス,ファイザー製薬,塩野義製薬),迎寛(MSD 製薬,ファイザー製薬,塩野義製薬),倭正也(ギリアド・サイエンシス,MSD 製薬,ファイザー製薬,塩野義製薬)倭正也(ギリアド・サイエンシス,MSD 製薬,ファイザー製薬,塩野義製薬) ◆引用・参考文献◆ ◆引用・参考文献◆【ガイドライン等】・伊藤正明,他.肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017 年改訂版). • 日本環境感染学会.医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第 5 版.2023.1.17. • 日本感染症学会.COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第15.1 版.2023.2.14. • 日本救急医学会,日本集中治療医学会.日本版敗血症診療ガイドライン 2020 (J-SSCG2020) 特別編,COVID-19 薬物療法に関する Rapid/Living recommendations 第 5.0 版.2022.7.15. • 日本静脈学会,肺塞栓症研究会,日本血管外科学会,日本脈管学会,日本循環器学会.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における静脈血栓塞栓症予防および抗凝固療法の診療指針 Ver.4.0. 2022.6.13.・NIH. Coronavirus diseases 2019 (COVID-19)treatment guidelines. 29 Feb 2024.・WHO. Clinical management of COVID-19: Living guideline.18 Aug 2023.・WHO. Therapeutics and COVID-19 : Living guideline.10 Nov 2023.【外来診療】・Congdon S, et al. Nirmatrelvir/ritonavir and risk of long COVID symptoms: a retrospective cohort study. Sci Rep 2023.・Xie Y, et al. Association of treatment with nirmatrelvir and the risk of post-COVID-19 condition. JAMA Intern Med 2023 【入院診療】 ・Ehrmann S,et al. Awake prone positioning for COVID-19 acute hypoxaemic respiratory failure: a randomised, controlled, multinational, open-label meta-trial. Lancet Respir Med 2021.・Krishnan V. COVID-19 and home positive airway Pressure (PAP) therapy. Am J Respir Crit Care Med 2020.・Li J,et al. High-flow nasal cannula for COVID-19 patients: low risk of bio-aerosol dispersion. Eur Respir J 2020.・Mozaffari E,et al. Remdesivir treatment in hospitalized patients with COVID-19: a comparative analysis of inhospital all-cause mortality in a large multi-center observational cohort. Clin Infect Dis 2021.【集中治療】• 厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業) 「新興・再興感染症のリスク評価と危機管理機能の実装のための研究」分担研究班 . COVID-19 急性呼吸不全への人工呼吸管理と ECMO 管理:基本的考え方.日本集中医誌 2020.・Barbaro RP, et al. Extracorporeal membrane oxygenation support in COVID-19: an international cohort study of the extracorporeal life support organization registry. Lancet 2020.・Barbaro RP, et al. Extracorporeal membrane oxygenation for COVID-19: evolving outcomes from the international Extracorporeal Life Support Organization Registry. Lancet 2021.・Langer T, et al. Prone position in intubated, mechanically ventilated patients with COVID-19: a multi-centric study of more than 1000 patients. Crit Care 2021.・Ronco C,et al. Coronavirus epidemic: preparing for extracorporeal organ support in intensive care. Lancet Respir Med 2020.・Sato R,et al. A new challenge of unfractionated heparin anticoagulation treatment for moderate to severe COVID-19 in Japan. Glob Health Med 2020.・Tachil J,et al. ISTH interim guidance on recognition and management of coagulopathy in COVID-19. J Thromb Haemost 2020.【高齢者の管理】• 日本呼吸器学会.成人肺炎診療ガイドライン 2017.2017.4.20. • 日本老年医学会.高齢者における新型コロナウイルス感染症の療養のあり方に関する見解.2022.3.20.・Prendki V, et al. Caring for older adults during the COVID-19 pandemic. Clin Microbiol Infect 2022.・Witkowski JM, et al. Immunosenescence and COVID-19. Mech Ageing Dev 2022.【小児の管理】• 日本小児科学会.新型コロナウイルス感染症等流行時における小児の発熱時の対応について~小児科医を含む医療従事者に向けて.2022. • 日本小児科学会.新型コロナワクチン接種に関する,小児の基礎疾患の考え方および接種にあたり考慮すべき小児の基礎疾患等.2022.8.17. • 日本小児科学会.生後 6 か月以上 5 歳未満の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方.2022.11.2.・Kainth MK, et al. Early experience of COVID-19 in a US children's hospital. Pediatrics 2020.【妊産婦の管理】• 日本新生児成育医学会.新型コロナウイルス感染症に対する出生後早期の新生児への対応について 第6 版.2023.7.31.
COVID-19 に対する治療薬は開発が進められているところである.薬物療法を検討する際には,日本感染症学会がまとめる『COVID-19 に対する薬物治療の考え方』等も参照することが望ましい.有効性の確立した承認薬も増加しており,これらの薬剤を重症化リスク・重症度等に応じて適切に使用することは,患者の予後改善と医療提供体制の確保の点からも重要と考えられる. レムデシビル 商品名:ベクルリー点滴静注用100 mg RNA 合成酵素阻害薬 2020.5.7 特例承認, 2021.1.7 適応拡大, 2021.8.12 保険適用, 2021.10.18 一般流通開始,2022.3.18 適応拡大 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者☞ レムデシビル(医薬品医療機器総合機構HP)レムデシビルはRNA ウイルスに広く活性を示すRNA 依存性RNA ポリメラーゼ阻害薬である.中等症・重症のCOVID-19 患者を対象とした5 つのランダム化比較試験の結果から,レムデシビルはすでに人工呼吸や高流量の酸素投与に至った重症例では効果が期待できない可能性が高いが,そこまでに至らない症例では症状の早期改善などの有効性が見込まれる.投与期間に関しては,挿管例を除く低酸素血症のある肺炎患者では5 日間治療群と10 日間治療群とでは有効性・副作用に差がなかったことなどから,原則として5 日間の投与が推奨されるが,個々の患者に応じた判断を行う.また,重症化リスク因子のある発症7 日以内の非入院患者(軽症・中等症I に相当)を対象に行われたランダム化比較試験(PINETREE)において,レムデシビルを3 日間投与した治療群では,プラセボ群と比較してCOVID-19 に関連した入院または死亡を87%減少させた(表5-1).この結果を受けて,重症化リスク因子を有するなど,本剤の投与が必要と考えられる軽症患者へ適応拡大された. 5 薬物療法 1 抗ウイルス薬 禁忌 【注意】本章の薬剤に関する情報は改訂されることがあります.処方に当たっては,最新の添付文書 を参照するなど,細心の注意を払うようにしてください. 〔成人および体重40 kg 以上の小児〕レムデシビルとして,投与初日に200 mg を,投与2 日目以降は100 mg を1 日1 回点滴静注する.〔体重3.5 kg 以上40 kg 未満の小児〕レムデシビルとして,投与初日に5 mg/kg を,投 与2 日目以降は2.5 mg/kg を1 日1 回点滴静注する.・生理食塩液に添加し,30 分 ~120 分かけて点滴静注すること.・SARS-CoV-2 による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始し,3 日目まで投与する.ただし,SARS-CoV-2 による肺炎を有する患者では,目安として,5 日目まで投与し,症状の改善が認められない場合には10 日目まで投与する. 投与方法(用法・用量)
・肝機能障害があらわれることがあるので, 投与前および投与開始後は定期的に肝機能検査を行い,患者の状態を十分に観察すること.・Infusion reaction,アナフィラキシーを含む過敏症があらわれることがあるので,患者の状態を十分に観察するとともに,異常が認められた場合には直ちに投与を中止し,適切な処置を行うこと.また,これらの発現を回避できる可能性があるため,本剤の緩徐な投与を考慮すること.・添加物スルホブチルエーテルβ - シクロデキストリンナトリウムにより腎機能障害があ らわれる恐れがあるので,投与前および投与後は定期的に腎機能検査を行い,患者の状態を十分に観察すること. 〔腎機能障害患者〕腎機能障害が悪化するおそれがある.〔重度の腎機能障害〕〔成人,乳児,幼児および小児はeGFR が30 mL/min 未満,正期産新生児(7 日~28 日)では血清クレアチニン1 mg/dL 以上〕の患者:投与は推奨しない.治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を考慮すること.透析患者におけるレムデシビルの有効性のエビデンスは限られているが,忍容性は一般に高いと考えられる.欧米における添付文書では,腎機能障害に対する用量調節は不要と記載されている.〔肝機能障害患者〕ALT が基準範囲上限の5 倍以上の患者には投与しないことが望ましい.肝機能障害が悪化するおそれがある.〔妊婦〕治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.〔授乳婦〕治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し,授乳の継続または中止を検討すること.〔小児等〕治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.日齢 28未満の小児等を対象とした臨床試験結果は得られていない.〔高齢者〕患者の状態を観察しながら慎重に投与すること.一般に生理機能が低下してお り,既往歴や合併症を伴っていることが多くみられる. 投与時の注意点 特定の背景のある患者への投与 モルヌピラビル 商品名:ラゲブリオカプセル200 mg RNA 合成酵素阻害薬 2021.12.24 特例承認,2022.8.18 保険適用,2022.9.16 一般流通開始 1本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 2妊婦または妊娠している可能性のある女性 ☞モルヌピラビル (医薬品医療機器総合機構HP) 禁忌 モルヌピラビルは,リボヌクレオシドアナログであり,SARS-CoV-2 におけるRNA 依存性RNA ポリメラーゼに作用することにより,ウイルスRNA の配列に変異を導入し,ウイルスの増殖を阻害する. 日本国内の3 施設を含む20 カ国,107 施設で実施した多施設共同,プラセボ対照,ランダム化二重盲検試験.重症化リスクのある非重症COVID-19 患者(目標症例数 1,550 例)の外
来治療を対象にモルヌピラビル 800 mg またはプラセボを1 日2 回,5 日間経口投与する群に1 対1 で無作為割付した.目標症例数の50%が投与29 日目を完了した時点で行うことと事前に計画されていた中間解析において,発症5 日以内の治療開始でプラセボ群(377 名)の重症化(ここでの重症化は投与開始後29 日目までの入院と死亡)が53 名(14.1%)に対し,治療群(385 名)では 28 名(7.3%)と相対リスクが 48%減少した(p=0.0012).この結果を受け,中間解析以降の被験者登録が中止されたが,組み入れられたすべての被験者(1,433 名)を対象とした解析の結果においては,発症5 日以内の治療開始でプラセボ群(699 名)の重症化が68 名(9.7%)に対し,治療群(709 名)では48 名(6.8%)と,相対リスクが30%減少した(表5-1).また,死亡例は治療群で1 名(0.1%)に対して,プラセボ群では9 名(1.3%)と治療群で少なかった. 投与方法(用法・用量) 投与時の注意点 〔18 歳以上の患者〕モルヌピラビルとして1 回800 mg を1 日2 回,5 日間経口投与する. ・臨床試験における主な投与知見を踏まえ,重症化リスク因子を有するなど,本剤の投与が必要と考えられる患者に投与すること.・重症度の高い(概ね中等症II以上)患者に対する有効性は確立していない.・SARS-CoV-2 による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始すること.臨床試験において,症状発現から6 日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏づけるデータは得られていない.・妊娠可能な女性に対しては,本剤投与中および最終投与後,一定期間は適切な避妊を行うよう指導すること.・本剤の脱カプセルや懸濁・簡易懸濁投与に関しては十分なデータがないため,やむを得 ない場合を除き勧められない.使用経験は開発企業のHP を参照.特定の背景のある患者への投与〔腎機能障害者〕本剤とその代謝物N- ヒドロキシシチジン(NHC)は腎排泄ではないため, 腎機能障害がこれらの排泄に影響を及ぼす可能性は低い.重度の腎機能障害[eGFR (mL/min/1.73m 2) < 30]や透析を必要とする患者における薬物動態の評価は実施されていない.〔肝機能障害者〕肝機能障害者における薬物動態の評価は実施されていない. 非臨床試験の結果,NHC の主要な消失経路は肝代謝でないと考えられた.また,モルヌピラビルは消化管および肝臓でNHC に代謝される一方,モルヌピラビルの加水分解に必要な代謝酵素は広範な組織に分布しているため,肝機能障害がモルヌピラビルおよびNHC の曝露量に影響を及ぼす可能性は低い.〔妊婦〕動物実験で胎児毒性が報告されており,妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与しないこと.妊娠ラットの器官形成期にモルヌピラビルを投与した実験において,NHC の臨床曝露量の8 倍に相当する用量で催奇形性および胚・胎児致死が,3 倍以上に相当する用量で胎児の発育遅延が認められている.また,妊娠ウサギの器官形成期にモルヌピラビルを投与した実験において,NHC の臨床曝露量の18 倍に相当する用量で胎児体重の低値が認められている.〔授乳婦〕 治療上の有益性と母乳栄養の有益性を考慮し,授乳の継続または中止を検討すること.動物において,モルヌピラビルの乳汁移行試験は実施されておらず,ヒト乳汁中への移行の有無および乳汁産生への影響に関するデータはない.〔小児等〕18 歳未満を対象とした臨床試験は実施されていない.〔高齢者〕高齢者におけるNHC の薬物動態は若年者と同等であった(外国人データ).
ニルマトレルビル/リトナビル 商品名:パキロビッドパック 600プロテアーゼ阻害薬 2022.2.10 特例承認,2023.3.15 保険適用,2023.3.22 一般流通開始 1本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2特定の薬剤を投与中の患者(最新の添付文書を参照) 3腎機能または肝機能障害のある患者で,コルヒチンを投与中の患者☞ ニルマトレルビル/リトナビル(医薬品医療機器総合機構HP) ニルマトレルビルは,SARS-CoV-2 のメイン(3CL)プロテアーゼに作用し,その働きを阻害することによりウイルスの増殖を阻害する.リトナビルは,ニルマトレルビルの代謝を遅らせ,体内濃度をウイルスに作用する濃度に維持する目的で併用される.国内外で実施された多施設共同,プラセボ対照,ランダム化二重盲検試験において,重症化リスクのある非入院COVID-19 患者の外来治療を対象にニルマトレルビル300 mg /リトナビル100 mg またはプラセボを1 日2 回,5 日間経口投与する群に1 対1 で無作為割付した.主要有効性解析集団とされたmITT 集団(無作為化され,治験薬が1 回以上投与され,ベースライン後から無作為化28 日目までに少なくとも1 回の受診があり,ベースライン時点でCOVID-19 に対するモノクローナル抗体が投与されておらず投与の予定もなく,かつ, COVID-19 の症状発現から3 日以内に治験薬が投与された被験者)の45%が投与28 日目を完了した時点で行うよう事前に計画されていた中間解析において,mITT 集団のうちプラセボ群(385 名)の28 日目までの入院または死亡27 名(7.0%)に対し,治療群(389 名)では3 名(0.8%)と相対リスクが89%減少した(p<0.0001)(表5-1).この結果を受け,中間解析以降の被験者登録が中止されたが,被験者登録が中止されるまでに組み入れられたすべての被験者(2,246 名)を対象とした解析の結果においては,mITT 集団のうちプラセボ群(682 名)の28 日目までの入院または死亡が44 名(6.5%)に対し,治療群(697 名)では5 名(0.7%)と,相対リスクが89%減少となった.また,副次有効性解析集団とされたmITT1 集団(無作為化され,治験薬が1 回以上投与され,ベースライン後から無作為化28 日目までに少なくとも1 回の受診があり,ベースライン時点でCOVID-19 に対するモノクローナル抗体が投与されておらず投与の予定もなく,かつ, COVID-19 の症状発現から5 日以内に治験薬が投与された被験者)における,被験者登録が中止されるまでに組み入れられたすべての被験者を対象とした解析の結果では,mITT1 集団のうちプラセボ群(1,046 名)の28 日目までの入院または死亡が66 名(6.3%)に対し,治療群(1,039 名)では8 名(0.8%)と,相対リスクが88%減少した. なお,オミクロンに置き換わって以降も,重症化リスク因子のある入院を要しない患者に対して,本剤の早期投与による入院や死亡を予防する効果が観察研究で確かめられている(表5−2). 禁忌 投与方法(用法・用量)〔成人および12 歳以上かつ体重40 kg 以上の小児〕ニルマトレルビルとして,1回300 mg およびリトナビルとして1回100 mg を同時に1日2回,5日間経口投与する. パキロビッドパック 300
・臨床試験における主な投与知見を踏まえ,重症化リスク因子を有するなど, 本剤の投与が必要と考えられる患者に投与すること.・重症度の高い(概ね中等症II以上)患者に対する有効性は確立していない.・SARS-CoV-2 による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始すること.臨床試験において,症状発現から6 日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏づけるデータは得られていない.・中等度の腎機能障害患者[30 ≦ eGFR (mL/min) < 60]には,ニルマトレルビルとして1回150 mg およびリトナビルとして1回100 mg を同時に1日 2 回,5日間の経口投与に減量すること.重度の腎機能障害患者[eGFR(mL/min)< 30]への投与は推奨しない. *なお,通常,eGFR は mL/min/1.73 m 2 で表記されるため,本剤の投与を検討する患者の体表面積が 1.73 m 2 から解離する場合,個々の患者の体表面積で補正する(詳細はeGFR・CCr の計算:日本腎臓病薬物療法学会 https://jsnp.org/egfr/ を参照).・本剤は併用薬剤と相互作用を起こすことがあるため,服薬中のすべての薬剤を確認すること.また,本剤で治療中に新たに他の薬剤を服用する場合,事前に相談するよう患者に指導すること. 投与時の注意点 〔HIV 感染患者〕未治療またはコントロール不良の HIV 感染患者に投与した場合,HIV プロテアーゼ阻害剤に対する耐性が生じる可能性がある.〔腎機能障害患者〕上記の「投与時の注意点」を参照.コルヒチンを投与中の患者には,コルヒチンの血中濃度が上昇するおそれがあり,投与しないこと.〔肝機能障害患者〕肝機能障害が増悪するおそれがある.コルヒチンを投与中の患者には投与しないこと.〔妊婦〕治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.妊娠ウサギにニルマトレルビルを投与した実験において,臨床曝露量10 倍に相当する用量で胎児体重の減少が認められている.また,妊娠ラットにリトナビルを投与した実験において,胎盤を通過して胎児へ移行することが報告されている.〔授乳婦〕治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し,授乳の継続または中止を検討すること.ニルマトレルビルのヒト乳汁への移行性については不明であるが,リトナビルはヒト乳汁中へ移行することが報告されている.〔小児等〕小児等を対象とした臨床試験は実施されていない. 特定の背景のある患者への投与
中和抗体薬 カシリビマブ/イムデビマブ(COV-2067) 7 日以内発症からの日数ソトロビマブ(COMET-ICE)抗ウイルス薬 モルヌピラビル(MOVe-OUT) レムデシビル(PINETREE)薬剤名 (臨床試験名) 29 日目までの入院・死亡(試験薬 vsプラセボ) 1.0 %(7/736 例) vs 3.2 %(24/748 例) 新型コロナウイルスワクチン接種済の場合,いずれの試験も対象から除外されているワクチン 高齢肥満 ◯ (透析患者を含む) 慢性腎臓病◯糖尿病 悪性腫瘍治療, 骨髄・臓器移植,免疫不全,コントロール不良のHIV/AIDS,免疫抑制剤の長期投与 免疫抑制状態臓器移植, 骨髄移植,幹細胞移植後,コントロール不良のHIV/AIDS 心血管疾患,高血圧 心血管疾患重篤な心疾患 (心不全,冠動脈疾患,心筋症) うっ血性心不全(NYHA ≧ II)心血管疾患,高血圧,脳血管疾患 慢性肺疾患 (喘息を含む) 呼吸器疾患COPD COPD, 喘息(中等症〜重症)慢性肺疾患 慢性肝疾患肝疾患肝硬変など重篤な 肝疾患 鎌状赤血球症, サラセミア その他活動性の癌, ダウン症,脳神経疾患(多発性硬化症,ハンチントン病,重症筋無力症など)活動性の癌,鎌状赤血球症 重症化リスク因子 (1つ以上あれば組入)ニルマトレルビル /リトナビル(EPIC-HR) 0.8%(3/389 例) vs 7.0%(27/385 例) 5 日以内(添付文書上は7 日 以内に投与可) 5 日以内7 日以内5 日以内 ≧ 50 歳≧ 55 歳> 60 歳≧ 60 歳≥60 歳BMI ≧ 30 BMI > 30 BMI ≧ 30 BMI ≧ 30 BMI >25 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 免疫抑制骨髄・臓器移植, 原発性免疫不全症,HIV/AIDS免疫抑制・調節薬の投与,がん化学療法 虚血性心疾患,脳 卒中,一過性脳虚血発作,心不全,高血圧慢性肺疾患(喘息 は薬物治療が必要) 喫煙者,鎌状赤血 球症,神経発達障害,医学的複雑性を付与するその他の疾患,活動性のがん,医療技術への依存 1 %(3/291 例) vs 7 %(21/292 例) 6.8 %(48/709 例) vs 9.7%(68/699 例) 0.7 %(2/279 例) vs 5.3%(15/283 例) ◯ (薬物治療が必要) 慢性肝疾患 表5-1 特例承認の根拠となった軽症・中等症I患者を対象とした主な臨床試験(オミクロン流行前)
エンシトレルビル 商品名:ゾコーバ錠125 mg プロテアーゼ阻害薬 2022.11.22 緊急承認,2023.3.15 保険適用,2023.3.31 一般流通開始, 2024.3.5 通常承認 1本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2特定の薬剤を投与中の患者(最新の添付文書を参照) 3腎機能または肝機能障害のある患者で,コルヒチンを投与中の患者4妊娠または妊娠している可能性のある女性☞ エンシトレルビル フマル酸(医薬品医療機器総合機構HP) 禁忌 エンシトレルビルは SARS-CoV-2 のメイン(3CL)プロテアーゼを阻害し,ポリタンパク質の切断を阻止することによりウイルスの複製を阻害する. 12 歳以上 70 歳未満の患者を対象に,1 日目は本剤 375 mg または750 mg を,2 日目~ 5 日目は本剤 125 mg または250 mg を 1 日 1 回経口投与するランダム化二重盲検国際共同第II/III相試験が実施された(2022 年2 月~同年7 月).参加した 1,821 例のうち, COVID-19 の症状発現から 72 時間以内に割付された 1,030 例(解析対象は125 mg 投与群 347 例,250 mg 投与群 340 例,プラセボ群 343 例)において,5 症状(倦怠感・疲労感,体熱感・発熱,鼻汁・鼻閉,咽頭痛,咳)が快復するまでの時間(中央値)は,125 mg投与群で 167.9 時間,プラセボ群で 192.2 時間であった(p=0.04).また,発症から72 時間以降に割付された患者を含めた有害事象の発現頻度は125 mg 投与群で 44.2%(267/604例), プラセボ群で 24.8%(150/605 例)であり,主なものは高比重リポ蛋白の減少であった(31.1%vs 3.8%).なお,重篤な副作用は認められなかった(表5-2).本剤は 2022 年 2 月 25 日に開発企業から承認申請された.7 月 20 日の薬事・食品衛生審議会薬事分科会・医薬品第二部会合同会議では継続審議となったが,11 月 22 日に同会議は緊急承認を認めた.2024 年 3 月5 日に通常承認された. 投与方法(用法・用量)〔12 歳以上の小児および成人〕エンシトレルビルとして,1 日目は375 mg,2 日目〜 5 日目は125 mg を1 日1 回経口投与する. 投与時の注意点・一般に,重症化リスク因子のない軽症例では,経過観察のみで自然に軽快するが多いことに留意する(「4-2 外来診療」参照).・COVID-19 の5 症状(上記を参照)への効果が検討された臨床試験における成績などを踏まえ,高熱・強い咳症状・強い咽頭痛などの臨床症状がある者に処方を検討すること.また,本剤の処方の対象者に関しては,今後の臨床試験等の結果も踏まえた検討が必要となる.・SARS-CoV-2 による感染症の症状が発現してから72 時間以内に初回投与すること.症状発現から72 時間経過後に投与した患者における有効性を裏づけるデータは確認されていない.
特定の背景のある患者への投与〔腎機能障害患者〕軽度[60 ≦ eGFR (mL/min/1.73m 2) < 90],もしくは中等度[30 ≦ eGFR (mL/min/1.73m 2) <60]の腎機能障害患者において用量調節は不要と考えられる.ただし,重度の腎機能障害患者[eGFR (mL/min/1.73m 2)<30]では治療上の有益性が上回ると判断される場合のみ投与を考慮すること.なお,コルヒチン投与中の患者にはコルヒチンの血中濃度が上昇するおそれがあり投与しないこと.〔肝機能障害患者〕重度の肝機能障害がある場合,本剤の投与は推奨されない.中等度(Child-Pugh 分類B)肝機能障害患者においては,現在実施されている臨床薬理試験結果が出るまで,治療上の有益性が上回ると判断される場合のみ投与を考慮すること.なお,コルヒチン投与中の患者にはコルヒチンの血中濃度が上昇するおそれがあり投与しないこと.〔妊婦〕妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与しないこと.ウサギにおいて,臨床曝露量の5.0 倍相当以上で胎児への催奇形性や流産,胚・胎児生存率の低下が認められる.妊娠可能な女性に対しては,本剤投与中および最終投与後一定期間は適切な避妊を行うよう指導すること.〔授乳婦〕授乳しないことが望ましい.ラットにおいて,乳汁への移行が認められるとともに,母動物に毒性が認められた用量で出生児の生後4 日生存率の低下および発育遅延が認められている.〔小児〕12 歳未満を対象とした臨床試験は実施されていない. ・本剤においては,重症化リスク因子のある軽症例に対して,重症化抑制効果を裏づけるエビデンスは限られている.日本感染症学会『COVID-19 に対する薬物治療の考え方 (第 15.1版)』 では,重症化リスク因子のある軽症〜中等症の患者には,レムデシビル,モルヌピラビル,ニルマトレルビル/リトナビルを投与することを検討すべきとしている.・重症度の高い(概ね中等症II以上)患者に対する有効性は確立していない.・本剤は併用薬剤と相互作用を起こすことがあるため,服用中のすべての薬剤を確認する こと.また,本剤で治療中に新たに他の薬剤を追加する場合,相互作用を確認すること.本剤はCYP3A 誘導薬との併用に係る薬物相互作用,CYP3A に対する強い阻害作用, P-gp,BCRP,OATP1B1,OATP1B3 に対する阻害作用などを有するため,薬物相互作用に注意する. 薬剤投与期間研究デザイン 薬剤投与群コントロール群薬剤投与症例の年齢 ワクチン初回完了率研究期間 実施国・地域主要評価項目薬剤投与群vs コントロール 群サマリー 文献 エンシトレルビル5 日間RCT二重盲検低用量(125 mg) 347 名高用量(250 mg) 340 名 プラセボ343 名平均年齢 35.2 91.0% 2022 年2 月〜2022 年7 月 日本・韓国・ベトナム(入院および宿泊療養患者を含む) 5 症状の改善まで(鼻汁・鼻閉,咽頭痛,咳,体熱感,倦怠 感) 167.9 時間(125 mg) vs 192.2 時間(プラセボ) P=0.04・発症から72 時間以内に投与されたエンシト レルビル(125 mg)は,プラセボ群と比較し, 5 症状を約1 日早く改善させた ☞https://doi.org/10.1001/ jamanetworkopen.2023.54991 【A. 軽症〜中等症Iの患者を主な対象に症状の改善を評価項目とした研究】 表5-2 オミクロン流行期以降に実施された外来患者を対象とした抗ウイルス薬に関する主な臨床研究
【B. 重症化リスク因子のある軽症〜中等症Iの患者を主な対象に入院や死亡の予防を評価項目とした研究】 薬剤投与期間研究デザイン 薬剤投与群コントロール群薬剤投与症例の年齢 ワクチン初回完了率研究期間 実施国・地域主要評価項目薬剤投与群vs コントロール群サマリー 文献 レムデシビル3 日間観察研究54 名72 名35 〜63 歳(中央年齢49) 79.4% 2021 年12 月〜2022 年4 月 メキシコ入院または 28 日以内死亡5/54 (9.3%) vs 31/72 (43.1%)調整ハザード比0.16; P<0.01・レムデシビルの早期投与は重症化リスクの高い(多くは免疫不全)患者において入院や死亡を84%低下させた ☞ https://doi.org/10.1093/ofid/ofac502 モルヌピラビル5日間RCT非盲検12,274 名12,934 名18 歳以上(平均年齢56.6) 94% 2021 年12 月〜2022 年4 月 英国入院または 28 日以内死亡105/12,529 (1%) vs 98/12,525 (1%)調整オッズ比1.06 (0.81-1.41)・モルヌピラビルは重症化リスクの高いワクチン接種済者において入院や死亡を減らさなかった ☞ https://doi.org/10.1016/S0140- 6736(22)02597-1 観察研究4,983 名49,234 名18 歳以上(61 歳以上88.7%) 16.1% 2022 年2 月〜2022 年6 月 香港30 日以内死亡 30 日以内入院17.9/10 万人日 vs 22.1/10 万人日ハザード比0.76; P<0.013 107.6/10 万人日 vs 104.0/10 万人日ハザード比0.98; P=0.58・モルヌピラビルの早期投与は死亡を減らしたが入院を減らさなかった ☞ https://doi.org/10.1016/S0140- 6736(22)01586-0 ニルマトレルビル/リトナビル5 日間観察研究2,547 名2,547 名18 〜50 歳(平均年齢37.6) 100% 2022 年9 月 米国救急外来受診または入院または30 日 以内死亡125/2,547 (4.9%) vs 179/2,547 (7.0%)調整オッズ比0.863; P=0.001・ニルマトレルビル/リトナビルは18-50 歳の重症化リスクの高いワクチン接種済者において救急外来受診,入院または30 日以内死亡を減らした ☞ https://doi.org/10.1093/cid/ciad400 観察研究5,542 名54,672 名18 歳以上(61 歳以上85.9%) 33.4% 2022 年2 月〜2022 年6 月 香港30 日以内死亡 30 日以内入院4.2/10 万人日vs 11.6/10 万人日ハザード比0.34; P<0.0001 48.5/10 万人日vs 61.0/10 万人日ハザード比0.76; P<0.0001・ニルマトレルビル/リトナビルは入院や死亡を減らした ☞ https://doi.org/10.1016/S0140- 6736(22)01586-0 観察研究12,541 名32,010 名50 歳以上(65 歳以上:53%) 95% 2022 年1 月〜2022 年7 月 米国14 日以内入院または 28 日以内死亡69/12,541 (0.55%) vs 310/32,010 (0.97%)調整リスク比0.56(0.42-0.75)・ニルマトレルビル/リトナビルは入院や死亡を減らした ☞ https://doi.org/10.7326/M22-2141 観察研究7,274 名126,152 名12 歳以上(60 歳以上:54.1%) 93.9% 2022 年4 月〜2022 年10 月米国30 日以内の入院または死亡51/7,274 (0.7%) vs 695/126,152 (0.6%)発症から5 日以内に投与された場合の推定有効率79.6%; P=0.0080・ニルマトレルビル/リトナビルは入院や死亡を減らした ☞ https://doi.org/10.1016/S1473- 3099(23)00118-4 観察研究3,902 名105,352 名40 歳以上(平均年齢67.4) 90%(既感染含む) 2022 年1 月〜2022 年3 月 イスラエル35 日以内入院 40 〜64 歳: 15.2/10 万人日vs 15.8/10 万人日ハザード比0.74 (0.35-1.58) 65 歳以上: 14.7/10 万人日vs 58.9/10 万人日ハザード比0.27(0.15-0.49)・ニルマトレルビル/リトナビルは65 歳以上の高齢者において,入院や死亡を減らしたが若年者でその効果は認められなかった ☞ https://doi. org/10.1056/ NEJMoa2204919 【B. 重症化リスク因子のある軽症〜中等症Iの患者を主な対象に入院や死亡の予防を評価項目とした研究】
本剤は,単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られたSARS-CoV-2 スパイクタンパクの受容体結合ドメインに対するモノクローナル抗体であり,SARS-CoV-2 に対して抗ウイルス作用を発揮することが期待されている中和抗体薬である.中和抗体薬は,発症から時間の経っていない軽症例ではウイルス量の減少や重症化を抑制する効果が示されている.また,同居家族などの濃厚接触者や無症状病原体保有者における発症抑制効果もある.重症化リスク因子を1 つ以上もつCOVID-19 外来患者を対象としたランダム化比較試験では,入院または死亡に至った被験者の割合は,カシリビマブ/イムデビマブを各600 mg 単回投与した群(736 例)において1.0% であり,プラセボ群(748 例)の3.2% と比較して, 70.4 % 有意に減少した(表5-1). <発症後の重症化抑制><曝露後の発症抑制>〔成人および12 歳以上かつ体重40 kg 以上の小児〕カシリビマブおよびイムデビマブと してそれぞれ600 mg を併用により単回点滴静注する. 2 中和抗体薬 カシリビマブ/イムデビマブ 商品名:ロナプリーブ(点滴静注セット300) 2021.7.19 特例承認 本剤はオミクロンに対して有効性が減弱していると考えられることから,抗ウイルス薬の投与を優先して検討すること. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者☞ カシリビマブ(遺伝子組換え)・イムデビマブ(遺伝子組換え) (医薬品医療機器総合機構HP) 投与方法(用法・用量) 発症後投与時の注意点・臨床試験における主な投与経験を踏まえ,重症化リスク因子を有し,酸素投与を要しない患者(軽症から中等症I)を対象に投与を行うこと.・高流量酸素または人工呼吸器管理を要する患者において症状が悪化したとの報告がある.・SARS-CoV-2 による感染症の症状が発現してから速やかに投与すること.臨床試験において,症状発現から8 日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏づけるデータは得られていない. 〇 中和抗体薬は,2024 年3 月現在の主流であるオミクロンの亜系統に対して有効性が減弱していると考えられることから,抗ウイルス薬の投与を優先して検討すること.〇 安定的な入手が可能になるまでは,一般流通は行われず,厚生労働省が所有した上で,医療機関からの依頼に基づき,無償で譲渡される.厚生労働省から発出される事務連絡については最新のものを確認すること.〇 抗ウイルス薬と中和抗体薬の併用については,十分な知見がなく,各薬剤の供給も限られることから,現時点で併用療法は推奨されない. 禁忌
特定の背景のある患者への投与〔妊婦〕治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.〔授乳婦〕治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し,授乳の継続または中止を検討すること.〔小児等〕12 際未満の小児等を対象とした臨床試験は実施されていない.〔高齢者〕患者の状態を観察しながら慎重に投与すること. 本剤(カシリビマブ/イムデビマブ)は安定的な入手が可能になるまでは,一般流通は行われず,厚生労働省が所有したうえで,対象となる患者が発生した医療機関からの依頼に基づき,無償で配分される.詳細は最新の事務連絡を参照すること. 入手方法 ・新型コロナワクチンの被接種者は臨床試験で除外されているため,ブレイクスルー感染での重症化予防などの有効性を裏づけるデータは得られていない.・本剤の投与中は患者をモニターするとともに,投与完了後少なくとも1 時間は観察する.また,アナフィラキシーや急性輸注反応を含む重篤な過敏症が,投与中から投与24 時間後にかけて起きることがある. ソトロビマブ 商品名:ゼビュディ点滴静注液 500mg 2021.9.27 特例承認 本剤はオミクロンに対して有効性が減弱していると考えられることから,抗ウイルス薬の投与を優先して検討すること. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者☞ ソトロビマブ(遺伝子組換え)(医薬品医療機器総合機構HP) 本剤はSARS に感染した患者から得られた抗体を基にしたモノクローナル抗体であり, SARS-CoV-2 を含むベータコロナウイルス属サルベコウイルス亜属に対して抗ウイルス作用を発揮することが期待されている中和抗体薬である.Fc 領域にLS と呼ばれる修飾が入ることで長い半減期を達成している.カシリビマブ/イムデビマブと同様に,発症から時間の経っていない軽症例において重症化を抑制する効果が示されている.少なくとも1 つ以上の重症化リスク因子をもつ軽症COVID-19 患者を対象とした第III相のランダム化比較試験では,中間解析においてソトロビマブ 500 mg 単回投与群(291 名)は,プラセボ投与群(292 名)と比較して,主要評価項目である投与29 日目までの入院または死亡が85 % 減少した(8 % vs 1 %).また重篤な有害事象は,ソトロビマブ投与群で2 %,プラセボ投与群で6 %と,ソトロビマブ投与群の方が少なかった(表5-1). 投与方法(用法・用量) <発症後の重症化抑制>〔成人および 12 歳以上かつ体重 40 kg 以上の小児〕ソトロビマブ500 mg を単回点滴 静注する. 禁忌
投与時の注意点 特定の背景のある患者への投与 チキサゲビマブ/シルガビマブ 商品名:エバシェルド筋注セット 2022.8.30 特例承認 本剤の発症抑制目的の投与については,同様の対象者に使用可能な他の治療薬がないことから,慎重に投与を検討すること. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者☞ チキサゲビマブ(遺伝子組換え)・シルガビマブ(遺伝子組換え) (医薬品医療機器総合機構HP) 禁忌 重症化リスク因子の有無を問わない,軽症~中等症IのCOVID-19 外来患者822 人を対象としたランダム化比較試験では,発症から7 日以内のチキサゲビマブ/シルガビマブの単回筋肉内投与により,プラセボと比較して,COVID-19 の重症化または全死亡が50.5%(4.4% vs 8.9%,p=0.010)有意に減少した. COVID-19 に対するワクチンの効果が不十分と考えられる,もしくは接種が推奨されない,またはCOVID-19 の感染リスクが高い場所,もしくは状況に置かれる被験者5,172 名を対象としたランダム化比較試験では,チキサゲビマブ/シルガビマブの単回筋肉内投与により,発症に至った被験者の割合は,本剤群8/3,441 例(0.2 %),プラセボ群17/1,731 例(1.0 %)であり,プラセボ群と比較して,発症のリスクが76.7%(p<0.001)減少した.また,SARS-CoV-2 感染者と接触した可能性があり,COVID-19 を発症する差し迫ったリスクがある被験者1,121 名を対象としたランダム化比較試験では,チキサゲビマブ/シルガビマブの単回筋肉内投与により,発症に至った被験者の割合は本剤群23/749 例(3.1%),プラセボ群17/372 例(4.6 %)であり,発症リスクに有意な差は認められなかった(p=0.212).以上のことから,軽症〜中等症I の発症から7 日以内の投与により重症化を抑制する効果と,曝露前の投与による発症抑制効果は示されているが,曝露後予防としての有効性は示されていない.本剤の発症抑制における投与対象は,添付文書においては,新型コロナワクチンの接種が推奨されない者,または免疫機能低下などによりワクチン接種で十分な免疫応答が得られない可能性がある者とされているが,次に掲げる免疫抑制状態にある者が中和抗体薬を投与する意義が大きいと考えられる. カシリビマブ/イムデビマブの項を参照のこと. カシリビマブ/イムデビマブの項を参照のこと. 本剤(ソトロビマブ)は安定的な入手が可能になるまでは,一般流通は行われず,厚生労働省が所有したうえで,対象となる患者が発生した医療機関からの依頼に基づき,無償で配分される.詳細は最新の事務連絡を参照すること. 入手方法
チキサゲビマブ/ シルガビマブの発症抑制における投与対象 ・抗体産生不全あるいは複合免疫不全を呈する原発性免疫不全症の患者・B 細胞枯渇療法(リツキシマブなど)を受けてから1 年以内の患者・ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬を投与されている患者・キメラ抗原受容体T 細胞レシピエント・慢性移植片対宿主病を患っている,または別の適応症のために免疫抑制薬を服用している造血細胞移植後のレシピエント・積極的な治療を受けている血液悪性腫瘍の患者・肺移植レシピエント・固形臓器移植(肺移植以外)を受けてから1 年以内の患者・急性拒絶反応でT 細胞またはB 細胞枯渇剤による治療を最近受けた固形臓器移植レシピエント・CD4T リンパ球細胞数が50 cells/μL 未満の未治療のHIV 患者 また,日本血液学会および日本造血・免疫細胞療法学会より,新型コロナウイルス感染症予防のための中和抗体薬「チキサゲビマブ/シルガビマブ(エバシェルド筋注セット)」の血液腫瘍患者への投与について,より具体的に下記が挙げられている. 1B 細胞枯渇療法(リツキシマブなど)を受けてから1 年以内の患者: 1)治療導入時は入院から外来に移行するタイミング2)治療中または治療終了後(1 年以内) 2同種造血細胞移植の患者: 1)移植前処置開始前2)移植後,生着を確認後,安定期に入った後から退院までのタイミング3)移植後のフォロー中で,免疫抑制剤を服用している患者3CAR-T(キメラ抗原受容T)細胞療法の患者: 1)白血球アフェレーシス以降2)CAR-T 投与後,安定期に入った後から退院までのタイミング3)投与後フォロー中で,B 細胞減少が遷延する患者 投与方法(用法・用量) <発症後の重症化抑制>〔成人および12 歳以上かつ体重40 kg 以上の小児〕チキサゲビマブおよびシルガビマブを,それぞれ300 mg を併用により筋肉内注射する. <曝露前の発症抑制>〔成人および12 歳以上かつ体重40 kg 以上の小児〕チキサゲビマブおよびシルガビマブ を,それぞれ300 mg を併用により筋肉内注射する.
ない 添加剤であるポリソルベート80 は,ポリエチレングリコール(PEG)と構造が類似しているため,PEG 含有の新型コロナワクチン(ファイザー社およびモデルナ社製)と交差過敏症のリスクが指摘されている. <発症後の重症化抑制>現時点では,安定的な供給が難しいことから,本剤特有の効能である発症抑制目的での投与についてのみ,本剤が配分されている. <曝露前の発症抑制>・オミクロンに対して,本剤の有効性が減弱していると考えられるため,曝露前の発症抑制の適応については,同様の対象者に使用可能な他の治療薬がないことから,慎重に投与を検討することとし,その際の用量は,チキサゲビマブおよびシルガビマブを,それぞれ300 mg とすることを基本とすること.・COVID-19 の予防の基本はワクチンによる予防であり,本剤はワクチンに置き換わるものではない.・COVID-19 患者の同居家族または共同生活者等の濃厚接触者ではない者に投与すること.これらの同居家族またはは共同生活者等の濃厚接触者における有効性は示されていない. 投与時の注意点 特定の背景のある患者への投与カシリビマブ/イムデビマブの項を参照のこと. 本剤(チキサゲビマブ/シルガビマブ)は安定的な入手が可能になるまでは,一般流通は行われず,厚生労働省が所有したうえで,発症予防目的の投与については,対象となる患者が発生した医療機関からの依頼に基づき,無償で配分される.詳細は最新の事務連絡を参照すること. 入手方法
デキサメタゾン 副腎皮質ステロイド薬 1本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2特定の薬剤を投与中の患者(最新の添付文書を参照) ☞ デキサメタゾン(医薬品医療機器総合機構HP) 英国で行われた入院患者を対象とした大規模多施設無作為化オープンラベル試験(RECOVERY)では,デキサメタゾンの投与を受けた患者は,標準治療を受けた患者と比較し て致死率が減少したことが示された.この研究は6,425 人の参加者を対象に行われ,デキサメタゾン群2,104 人,対照群4,321 人が参加した.デキサメタゾン群の21.6%,対照群の24.6%が,試験登録後28 日以内に死亡した.予後改善効果は,無作為化時に侵襲的人工呼吸管理を必要とした患者で最大であり,この集団の29.0%が試験登録後28 日以内に死亡したのに対し,対照群では40.7%であった.また,登録時に酸素投与を必要としたデキサメタゾン投与群の21.5%が登録後28 日以内に死亡したのに対し,対照群では25.0%であった.しかし,登録時に酸素投与を要しなかった集団では予後改善効果はみられなかった(RR 1.22;95%CI, 0.93 ~1.61,P = 0.14). デキサメタゾンとして,6 mg 1 日1 回 10 日間まで(経口・経管・静注) ・40 kg 未満の小児等ではデキサメタゾン0.15 mg/kg/ 日への減量を考慮する.・妊婦・授乳婦にはプレドニゾン 40 mg/ 日を考慮する(「妊産婦に対する薬物療法」 参照).・肥満・過体重では用量につき個別に検討する.・血糖値測定やリスクに応じた消化性潰瘍の予防も検討する.・デキサメタゾンが使用できない場合には,概ね同力価の他の副腎皮質ステロイドの使用を検討する. 投与方法(用法・用量) 投与時の注意点 3 免疫抑制・調節薬 禁忌 〈重症感染症〉
COVID-19 と診断された入院患者1,033 人を対象にレムデシビル(10 日以内)に加えて,バリシチニブ(14 日以内)またはプラセボ(対照)を投与したRCT では,バリシチニブを投与された患者の回復までの期間の中央値は7 日,対照群では8 日であり(回復率比1.16; 95%CI 1.01 ~1.32;P =0.03),15 日目の臨床状態の改善のオッズは30%高かった(オッズ比1.3;95%CI 1.0 ~1.6).また,部分解析集団において登録時に高流量酸素または非侵襲的人工呼吸を受けた患者の回復までの期間は,併用療法で10 日,対照群で18 日であった(回復率比1.51;95%CI 1.10 ~2.08).デキサメタゾンとバリシチニブの優位性の検証は現在行われているところである.入院患者1,525 人(標準療法としてステロイド投与79 %,レムデシビル投与19 %)を対象とした二重盲検試験(COV-BARRIER)において,主要評価項目の人工呼吸管理/死亡に至った割合に差は認められなかったが, 治療開始28 日以内の死亡はバリシチニブ群で有意に低かった(8.1 % vs 13.1 %).また,入院患者8,156 人(90 % 以上の患者は低流量酸素管理または非侵襲的人工呼吸管理)を対象に英国で実施されたオープンラベル試験 (RECOVERY)では,標準治療にバリシチニブを追加した群(4,148 人)は標準治療のみの群(4,008 人)に比べて,28 日死亡率比が有意に低かった(514 人[12 % ]vs 546 人[14 %]).同試験ではステロイド,トシリズマブを投与された患者がそれぞれ95 %, 23 % 含まれている.また,この試験を含めた9つの臨床試験のメタアナリシスでは,バリシチニブやその他のJAK 阻害薬の投与により死亡率比が 20 %減少したことが示された. ・入院後から時間的経過が短く(3 日以内),CRP 等の炎症マーカーが増加し,高流量酸素療法や非侵襲的人工呼吸管理を必要とする患者に,入院下で投与すること.・中等度の腎機能障害[30 ≦ eGFR (mL/min/1.73m 2)< 60]のある患者には,2 mg 1 日1 回経口投与とする.重度の腎機能障害[15 ≦ eGFR(mL/min/1.73m 2)<30]では2 mg を48 時間ごとに1回投与(最大7 回まで).なお,eGFR(mL/min/1.73m 2)<15では投与しないこと.・血栓塞栓予防を行うこと.・投与前に結核およびB 型肝炎ウイルス感染の有無を確認すること. 投与時の注意点 レムデシビルとの併用において,バリシチニブとして,4 mg 1 日1 回 最長14 日間(経口) 投与方法(用法・用量)〈SARS-CoV-2 による肺炎〉 バリシチニブ 商品名:オルミエント錠4 mg,2 mg ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤 2021.4.23 追加承認 1本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2活動性結核の患者3好中球数が500 /m 3 未満の患者4妊婦または妊娠している可能性のある女性5透析患者または末期腎不全[eGFR <15 mL/min/1.73 m 2]の患者6リンパ球数が200 /m 3 の患者 ☞ バリシチニブ(医薬品医療機器総合機構HP) 禁忌
トシリズマブ 商品名:アクテムラ点滴静注用80 mg,200 mg,400 mgヒト化抗ヒトIL-6 受容体モノクローナル抗体 2022.1.21 追加承認 1活動性結核の患者 2本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 ☞トシリズマブ(遺伝子組換え)(医薬品医療機器総合機構HP) 投与方法(用法・用量)成人には,副腎皮質ステロイド薬との併用において,トシリズマブとして,1 回8 mg/kg 点滴静注する.症状が改善しない場合には,初回投与終了から8 時間以上の間隔をあけて,トシリズマブ(遺伝子組換え)として8 mg/kg を更に1 回追加投与できる. 禁忌 SARS-CoV-2 による肺炎患者4,116 人を対象に英国で実施された医師主導治験であるRECOVERY 試験(ランダム化非盲検試験)では,28 日目までの全死亡割合はトシリズマブ群で31%(621/2,022 例)であり,標準治療群の35%(729/2,094 例)と比較し有意に死亡割合が低かった.当該試験におけるステロイド薬併用有無別の全死亡割合は,ステロイド薬併用ありの集団では本剤群で29%(489/1,664 例)であり標準治療群の35%(600/1,721 例)と比較し死亡割合が低かったが,ステロイド薬併用なしの集団では本剤群で39%(139/357 例)であり標準治療群の35%(127/367 例)を上回る死亡割合であった.また,WHO において実施されたSARS-CoV-2 による感染症の入院患者における全死亡とIL-6 阻害薬投与との関連性を推定するためのメタアナリシス(27 のランダム化比較試験)において,標準治療またはプラセボを投与した患者に対するIL-6 阻害薬(本剤またはサリルマブ)を投与した患者の28 日目までの全死亡のオッズ比[95%信頼区間]は,全体集団で0.86[0.79, 0.95],ステロイド薬併用ありの集団で0.78[0.69, 0.88],ステロイド薬併用なしの集団で1.09[0.91, 1.30]であった.このうち,本剤が用いられた19 試験における当該オッズ比[95%信頼区間]は,全体集団で0.83[0.74, 0.92],ステロイド薬併用ありの集団で0.77[0.68, 0.87],ステロイド薬併用なしの集団で1.06[0.85, 1.33]であり,ステロイド薬との併用下で本剤投与により全死亡割合が低下することが示唆されている. WHO は上記の知見などを踏まえて,2021 年7 月にトシリズマブとサリルマブについては酸素投与を要する入院患者にステロイド薬と併用することを新たに推奨した(死亡リスク低減効果は1,000 例あたり16 例と推計). 〈SARS-CoV-2 による肺炎〉 特定の背景のある患者への投与〔腎機能障害患者〕上記の「投与時の注意点」を参照〔肝機能障害患者〕副作用が強くあらわれるおそれがある.〔妊婦〕妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与しないこと.〔授乳婦〕授乳しないことが望ましい.ラットで乳汁中へ移行することが報告されている.〔小児等〕小児等を対象とした臨床試験は実施されていない.〔高齢者〕患者の状態を観察しながら慎重に投与すること.
特定の背景のある患者への投与〔肝機能障害患者〕トランスアミナーゼ値上昇に注意するなど観察を十分に行う.〔妊婦〕治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.カニクイザルにおいて,本薬は胎盤関門を通過することが報告されている.〔授乳婦〕治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し,授乳の継続または中止を検討すること.〔小児等〕小児等を対象とした臨床試験は実施されていない.〔高齢者〕患者の状態を観察しながら慎重に投与すること. 投与時の注意点・酸素投与,人工呼吸器管理または体外式膜型人工肺(ECMO)導入を要する患者を対象に入院下で投与を行うこと.・海外医師主導治験は室内気SpO2 が92 %未満または酸素投与中でCRP 値7.5 mg/dL以上のSARS-CoV-2 による肺炎患者を対象として実施され,副腎皮質ステロイド薬併用下で本剤の有効性が確認されている.当該試験の内容を熟知し,本剤の有効性および安全性を十分に理解したうえで,適応患者の選択を行うこと.・海外医師主導治験では副腎皮質ステロイド薬を併用していない患者において本剤投与により全死亡割合が高くなる傾向が認められた.・バリシチニブとの併用について,有効性と安全性は確立していない. 【参考】国内外で開発が中止された主な薬剤 下記の薬剤はCOVID-19 に対する有効性が示されず,使用すべきでない.薬品名 分 類 参考情報ヒドロキシクロロキン 抗マラリア薬の転用 国外での大規模な臨床試験において,有効性(経口薬) が示されずロピナビル・リトナビル HIV プロテアーゼ 中国や英国における大規模な臨床試験において,阻害薬の転用(経口薬) 有効性が示されずカモスタット セリンプロテアーゼ 国内で企業治験が実施されたが,主要評価項目阻害薬の転用(経口薬) を達成せず高度免疫グロブリン製剤 抗体治療薬 米国NIH 主導の国際共同治験が実施され,日本も参加したが,主要評価項目を達成せずファビピラビル RNA ポリメラーゼ 2020.10.16 に承認申請されたが薬食審で継続阻害薬(経口薬) 審議の判断.2021.12.28 に厚生労働科学研究による観察研究が終了.2022.10.14 に開発中止が発表されたイベルメクチン 抗寄生虫薬の転用 国内で企業治験が実施されたが,主要評価項目(経口薬) を達成せず
妊産婦への投与 備考(添付文書での扱い)抗ウイルス薬 レムデシビル 有益性投与 ・ヒトでの疫学研究は少ないが,妊娠中期以降に使用した100 例程度の報告では,薬剤に関 連すると考えられる母児への有害事象は認められていない モルヌピラビル 禁忌・動物試験で催奇形性を認めるニルマトレルビル / 有益性投与 ・オミクロン流行期の米国における調査(47 例,中央年齢リトナビル高度腎機能障害 34 歳,妊娠週数28.4 週,30 例に妊娠以外の重症化リスでは禁忌 ク因子あり)では,副作用のため内服中断したのは2例の併用薬に注意 みであり,母児に重篤な有害事象の増加を認めなかったエンシトレルビル 禁忌・動物試験で催奇形性を認める 免疫抑制薬・ 副腎皮質ステロイド 有益性投与 ・デキサメタゾンは胎盤通過性が高いため,妊娠中には胎盤免疫調節薬 デキサメタゾン 通過性の低いプレドニゾロンの使用が一般に勧められるプレドニゾロン ただし,短期投与であれば,デキサメタゾンの胎児に与えるリスクは小さいとする考え方もある バリシチニブ禁忌・動物試験で催奇形性を認めるトシリズマブ有益性投与 ・関節リウマチ合併妊婦において,児における有害事象の増加は認めないが早産が多かったという報告がある・動物試験で胎盤関門を通過することが報告されている.出産直前に使用した場合,出生児の生ワクチン(BCG など)の接種には注意が必要中和抗体薬 カシリビマブ/有益性投与 ・いずれも妊娠中に使用された経験が少ない.イムデビマブ ・オミクロンに対して有効性が期待できないため,他の治療薬が使用できない場合に投与を検討することソトロビマブチキサゲビマブ/シルガビマブ 【参考】妊産婦に対する薬物療法 ☞ 【医療関係者向け】新型コロナウイルス感染症の主な治療薬の詳細解説(国立成育医療研究センター妊娠と薬情報センターHP) https://www.ncchd.go.jp/kusuri/covid19_yakuzai_medical.html ◆引用・参考文献◆ ◆引用・参考文献◆【ガイドライン等】• 日本感染症学会.COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第 15.1 版.2023.2.14. • 日本救急医学会・日本集中治療医学会.日本版敗血症診療ガイドライン 2020 (J-SSCG2020) 特別編,COVID-19薬物療法に関する Rapid/Living recommendations 第 5.0 版.2022.7.15.・NIH. Coronavirus diseases 2019 (COVID-19)treatment guidelines. 29 Feb 2024.・WHO. Therapeutics and COVID-19:living guidance. 10 Nov 2023.【抗ウイルス薬】・Bernal AJ, et al. Molnupiravir for oral treatment of Covid-19 in nonhospitalized patients. N Engl J Med 2021.・Davis MR, et al. Remdesivir and GS-441524 plasma concentrations in patients with end-stage renal disease on haemodialysis. J Antimicrob Chemother 2021.
・Diaz GA, et al. Remdesivir and mortality in patients with COVID-19. Clin Infect Dis 2021.・Goldman JD, et al. Remdesivir for 5 or 10 days in patients with severe Covid-19. N Engl J Med 2020.・Gottleib RL, et al. Early remdesivir to prevent progression to severe Covid-19 in outpatients. N Engl J Med 2021.・Hammond J, et al. Oral nirmatrelvir for high-risk, nonhospitalized adults with Covid-19. N Engl J Med 2022.・Kikuchi K, et al. Survival and predictive factors in dialysis patients with COVID-19 in Japan: a nationwide cohort study. Ren Replace Ther 2021.・Mozaffari E, et al. Remdesivir treatment in hospitalized patients with COVID-19: a comparative analysis of in-hospital all-cause mortality in a large multi-center observational cohort. Clin Infect Dis 2021.・Pan H, et al. Repurposed antiviral drugs for Covid-19 - Interim WHO solidarity trial results. N Engl J Med 2020.・Yotsuyanagi H, et al. Efficacy and safety of 5-day oral ensitrelvir for patients with mild and moderate COVID-19. The SCOPRIO-SR Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open 2024. 【中和抗体薬】・Chen P, et al. SARS-CoV-2 neutralizing antibody LY-CoV555 in outpatients with Covid-19. N Engl J Med 2020.・Gupta A, et al. Early treatment for Covid-19 with SARS-CoV-2 neutralizing antibody sotrovimab. N Engl J Med 2021.・Imai M, et al. Efficacy of antiviral agents against Omicron subvariants BQ.1.1 and XBB. N Engl J Med 2023.・Levin MJ, et al. Intramuscular AZD7442 (tixagevimab-cilgavimab) for prevention of Covid-19. N Engl J Med 2022.・Levin MJ, et al. AZD7442 (tixagevimab-cilgavimab) for post-exposure prophylaxis of symptomatic COVID-19. Clin Infect Dis 2022.・Montgomery H, et al. Efficacy and safety of intramuscular administration of tixagevimab-cilgavimab for early outpatient treatment of COVID-19 (TACKLE): a phase 3, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet Respir Med 2022.・Planas D, et al. Distinct evolution of SARS-CoV-2 Omicron XBB and BA.2.86/JN.1 lineages combining increased fitness and antibody evasion. Nat Commun 2024.・Siemieniuk RA, et al. Antibody and cellular therapies for treatment of covid-19: a living systematic review and network meta-analysis. BMJ 2021.・Takashita E, et al. Efficacy of antibodies and antiviral drugs against Covid-19 omicron variant. N Engl J Med 2022.・Takashita E, et al. Efficacy of antiviral agents against the SARS-CoV-2 omicron subvariant BA.2. N Engl J Med 2022.・Takashita E, et al. Efficacy of antibodies and antiviral drugs against omicron BA.2.12.1, BA.4, and BA.5 subvariants. N Engl J Med 2022.・Weinreich DM, et al. REGN-COV2, a neutralizing antibody cocktail, in outpatients with Covid-19. N Engl J Med 2021.・Weinreich DM, et al. REGEN-COV antibody combination and outcomes in outpatients with Covid-19. N Engl J Med 2021.【免疫抑制・調節薬】・Horby PW, et al. Dexamethasone in hospitalized patients with Covid-19 - preliminary report. N Engl J Med 2020.・Kalil AC, et al. Baricitinib plus remdesivir for hospitalized adults with Covid-19. N Engl J Med 2020.・Marconi VC, et al. Efficacy and safety of baricitinib for the treatment of hospitalised adults with COVID-19(COV- BARRIER): a randomised, double-blind, parallel-group, placebo-controlled phase 3 trial. Lancet Respir Med 2021.・RECOVERY Collaborative Group. Tocilizumab in patients admitted to hospital with COVID-19 (RECOVERY): a randomized, controlled, open-label, platform trial. Lancet 2021.・RECOVERY Collaborative Group. Baricitinib in patients admitted to hospital with COVID-19 (RECOVERY): a randomized, controlled, open-label, platform trial and updated meta-analysis. Lancet 2022.・Stone JH, et al. Efficacy of tocilizumab in patients hospitalized with Covid-19. N Engl J Med 2020.・WHO Rapid Evidence Appraisal for COVID-19 Therapies (REACT) Working Group. Association between administration of IL-6 antagonists and mortality among patients hospitalized or COVID-19: A meta-analysis. JAMA 2021.【妊産婦に対する薬物療法】・Burwick RM, et al. Compassionate use of remdesivir in pregnant women with severe coronavirus disease 2019. Clin Infect Dis 2021.・Garneau WM, et al. Analysis of clinical outcomes of pregnant patients treated with nirmatrelvir and ritonavir for acute SARS-CoV-2 infection. JAMA Netw Open 2022.・Goulden B, et al. A systematic review of live vaccine outcomes in infants exposed to biologic disease modifying anti-rheumatic drugs in utero. Rheumatology (Oxford) 2022.・Special considerations during pergnancy and after delivery. (NIH COVID-19 Treatment Guideline)
6 COVID-19 の院内感染事例は国内外から多数報告されており,今後も発生が続くことが想定される.医療機関においては,効果的かつ医療現場に負担の少ない感染対策を実施していく必要がある(表6-1).日本環境感染学会による対応ガイド(第5 版)では,飛沫・エアロゾル感染対策を重視し,接触感染対策は従来より緩和された内容となっている.同ガイドや本手引きを参考に,各医療機関において流行状況に合わせた柔軟な対応を行うことが勧められる(図6-1). 院内感染対策 ・患者に触れる前後の手指衛生の徹底・患者や利用者の体液や排泄物に触れたときは,直後に手指衛生を行う・予測される汚染度に応じて,適切な防護具をあらかじめ着用する 標準予防策 接触感染対策 表6-1 医療機関における感染対策の考え方 *1 口腔内の診察,口腔ケア,食事介助,入浴支援など*2 咳嗽がある.喀痰吸引や口腔ケアを実施するなど*3 トイレが病室にない場合は,病棟トイレの一部を当該患者用に使用することも可出典:厚生労働省.第87 回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料.2022.6.8. を一部編集 ・身体密着が想定される場合には,接触度に応じてエプロンやガウンを着用する・患者が触れた環境で,他の人が触れる可能性があるときは速やかに消毒する 飛沫感染対策・患者や利用者,医療者,介護者の双方が屋内で対面するときは,サージカルマスクを着用する ・患者がマスクを着用していない場合*1には,フェイスシールドなどで眼を保護する エアロゾル対策・室内換気を徹底する(十分な機械換気.または,窓やドアから風を入れる) ・エアロゾル排出リスクが高い場合*2には,医療者や介護者はN95 マスクを着用する 空間の分離(ゾーニング)・患者と他の患者や利用者が空間を共用することのないよう,個室での療養を原則とする. トイレも専用とすることが望ましい*3・感染者はコホーティング(感染者同士の大部屋)で対応可・専用病棟(病棟全体のゾーニング)は基本的に不要(図6-1) 廃棄物・すべての廃棄物を感染性廃棄物として扱う必要はない.感染性廃棄物の該否の判断は,環境 省が公表している『廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル』に従う 患者寝具類の洗濯・施設外に患者が使用したリネン類を持ち出す際は,密閉した袋に入れて運搬する ・通常の洗濯で構わないが,熱水洗濯(80°C 10 分間)でもよい 食器の取り扱い・患者が使用した食器類は,必ずしも他の患者と分ける必要はなく,中性洗剤による洗浄後に よく乾燥させる・80°C 5 分以上の熱水洗浄でもよい
図6-1 病室単位での新型コロナウイルス感染対策の1例 ■患者ゾーン(レッド)■ ・新型コロナウイルス感染症患者をケアする領域・マスクに加えて必要に応じて手袋,ガウン,フェイスシールドを着用・患者と濃厚な接触を行わない場合(問診,診察,検温など)には必ずしもガウンは必要ではない(ただし,移乗介助,身体リハ,むせこみ食事介助,おむつ交換などの場合にはガウン,フェイスシー ルドの着用を考慮) ■中間ゾーン(イエロー)■ ・ドアを開けて病室に入った領域(床テープなどで領域を明示)・マスクに加えて必要に応じて手袋,ガウン,フェイスシールドを着用・廃棄ボックスを設置.患者ゾーンから共通ゾーン(グリーン)に出る前に手袋・ガウン・フェイスシールドを脱ぎ廃棄・中間ゾーンを通過するたびに毎回手指衛生を徹底■共通ゾーン(グリーン)■ ・非感染患者をケアする領域・マスク着用を基本とし,必要に応じて手袋を着用・感染者が共通ゾーンに移動する場合には,マスク着用の上で時間的・空間的隔離,換気に注意(たとえばトイレ,シャワーなど)・手袋・ガウン・フェイスシールド置き場を設置し,ここで着用する *中間ゾーン(イエロー)に置き場(着用場所)を設置する選択肢もある出典:厚生労働省.第87 回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料.2022.6.8. 病室ゾーニングの見取り図(案)病室ゾーニングの1例 トイレ 扉・手袋・ガウン・フェイスシールド を脱ぎ廃棄・マスクは廊下に出てから交換・出入りのたびに手指衛生を徹底 PPE置き場 中間ゾーン ・マスク・手袋・エプロン・フェイスシールドを着用する場所・状況に応じてイエローゾーン内に 設定する選択肢もある ・病室にない場合は,病棟トイレの 一部を患者用に使用することも可 廃棄物ボックス ベッド 患者ゾーン 中間ゾーン 共通ゾーン患者ゾーン 中間ゾーン 共通ゾーン(廊下など)
COVID-19 の患者(疑い患者を含む)の診療ケアにあたる医療従事者は,飛沫による粘膜曝露とエアロゾル粒子の吸入を防ぐため,サージカルマスクを着用する.必要に応じてゴーグルやフェイスシールドで目を防護する.エアロゾル産生手技を実施する場合には,N95 マスクの着用が推奨される(表6-2). 2 個人防護具 表6-2 個人防護具の選択 *1:飛沫リスク大:患者がマスクの着用ができない,近い距離での処置など,顔面への飛沫曝露のリスクが高い. *2:飛沫リスク小:患者はマスクを着用し,顔面への飛沫曝露のリスクは高くない. *3:患者搬送:直接患者に触れない業務(ドライバーなど)ではガウンは不要.出典:日本環境感染学会.医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第 5 版.2023.1.17. ○ 必ず使用する △ 状況により使用する 医療従事者の健康管理は院内感染対策上も重要である.体調管理(体温測定や咳・咽頭痛などの有無の確認)を行い,体調に変化があった場合は,早めに申告し,積極的に抗原検査を行うなど勤務先の指示に従う.なお,新型コロナワクチンに関して,前回の接種から一定期間経過している医療従事者は接種を考慮する. 1 職員の健康管理 エアロゾル産生手技:気管挿管・抜管気道吸引ネーザルハイフロー装着NPPV 装着気管切開術心肺蘇生用手換気上部消化管内視鏡気管支鏡検査ネブライザー療法誘発採痰 など 診察(飛沫曝露リスク大) *1ガウン・エプロン △ サージカル マスクN95マスク手袋眼の防護 診察(飛沫曝露リスク小) *2 呼吸器検体採取○ ○ ○ ○ ○ ○ △ △ △ △ △ △ △ △ エアロゾル産生手技○ 環境整備 リネン交換○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ △ △ ○ △ △ ○ 患者搬送*3 ○ △ △ △ △
日本では,母子同室や母乳育児について慎重な対応がとられてきたが,経験の集積に伴い,院内感染対策は施設毎に判断することが望ましい.分娩方法については,母子および医療スタッフの安全と医療体制の維持などに十分に配慮し,個別に産婦人科主治医等が判断する.【感染対策】(1)妊婦健診,出産に際しては標準予防策を遵守する. (2)感染が疑われる患者と,他の患者(妊婦健診来院者)とは動線や待合室を分け,感染の有 無にかかわらずマスクを着用してもらう.特に症状のある患者や濃厚接触者は,来院前に電話相談を受け,他の患者と別に診療する. (3)産科医療機関における院内検査としてPCR あるいは迅速性のある抗原検査を推奨するが, 全妊婦に行うかどうかは地域の感染状況により個別に判断する. (4)感染者(疑い患者も含む)の分娩では分娩室は個室とし,換気を十分に行う.陣痛室や出 産後の回復室もトイレつき個室とし,医療スタッフは院内感染予防のため手袋,マスク,ガウン,ゴーグル(またはフェイスシールド),必要に応じてN-95 マスクを着用する. (5)非感染者の分娩では産婦が必ずしもマスクを着用する必要はないが,分娩スタッフは十分 なPPE を着用する. (6)配偶者の立ち合い分娩は, 感染状況によって個別に判断する.帰省分娩については,受け 入れ先地域の産科医療機関と二次搬送機関の状況により個別に判断する. (7)感染妊婦における母子同室については,本人の希望や施設の感染対策等の状況を考慮して 個別に判断する. (8) 新生児に感染が疑われる場合は,個室隔離,または保育器で管理とする. (9)感染者の授乳については,母親が解熱し状態が安定していれば,手洗いなどを確実に行っ たうえで搾乳し,介護者により母乳を与えることは可能であるが,感染リスクについては十分なインフォームドコンセントを得る. ナースコール,テーブル,ベッド柵,床頭台などの患者周囲環境は,アルコールや抗ウイルス作用のある消毒剤で清拭消毒を行う.聴診器や体温計,血圧計などの医療機器は個人専用とし,使用ごとに清拭消毒する.陰圧室でない分娩室の場合,母体から児へのエアロゾル曝露を避けるために分娩台から2m以上距離をとった場所に蘇生場所を確保するか,蘇生を行う部屋を別に準備することが望ましい.手術室での分娩の場合,陰圧室の使用を第1 候補とし,新生児蘇生を行う場所を分娩室での分娩と同様に確保する.鼻咽頭吸引,呼吸補助〔マスクとバッグ,ラリンゲルマスク/エアウェイによる人工呼吸,持続陽圧呼吸(CPAP)〕,挿管,胸骨圧迫,気管内への薬物(アドレナリン,サーファクタント)投与はエアロゾル発生処置と考えて対応する.蘇生メンバー全員がPPE を適切に装着する必要がある.また,可能ならば,マスクバッグや人工呼吸器回路の呼気側にHEPA フィルターを装着することが望ましい. 3 妊婦および新生児への対応
遺体に適切な感染対策(清拭および鼻,肛門等への詰め物や紙おむつの使用などにより体液などの漏出予防を行うなど)を講じることにより,遺体からの感染リスクはきわめて小さくなる.2023 年1 月に改訂された国のガイドラインでは,COVID-19 で亡くなった方の遺体は,適切な感染対策を講じることにより,通常の遺体と同様に扱うことができ,納体袋の使用は体液漏出のリスクが非常に高い場合に限定してよいとされた.適切に感染対策を行いながら,病室で別れの時間を設けることもできる.葬儀・火葬等において適切な感染対策を講ずるためには,遺体の状況等に関する情報が必要となるため,下記のガイドライン内にある「関係者の情報共有シート」を活用する.感染予防策を実施する期間を満了する前に亡くなった場合の遺体にエンゼルケアを行う人は,サージカルマスク,手袋,使い捨ての長袖ガウン,眼の防護具(フェイスシールドまたはゴーグル)などの個人防護具を着用する.故人の尊厳に十分配慮しながら,それぞれの場面で適切な感染対策を実施することが重要である. ☞ 厚生労働省,経済産業省.新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置,搬送, 葬儀,火葬等に関するガイドライン 第4.1 版.2023.6.14. https://www.mhlw.go.jp/content/001107743.pdf 4 死後のケア 感染者もしくは感染が疑われる症例の遺体の取り扱いについては,感染者もしくは感染が疑われる者の診療等と同様の対策を講じることが求められている.COVID-19 患者の病理解剖では,感染性ウイルスが存在する可能性のある体腔内の臓器に切開や切削等を加えることから,標準予防策に追加して接触・飛沫予防策とエアロゾルによる感染への対策を講じることが推奨される.接触・飛沫予防策とエアロゾルによる感染への対策の具体的な内容については,各施設の判断に依るが,通常の病理解剖業務で使用するPPE(ガウン,防水エプロン,手袋,アームカバー,キャップ,長靴など)の着用に加えて,飛沫対策として目の防護具の着用(アイシールド,ゴーグル,フェイスガード)とエアロゾルによる感染の予防としてN95 マスク(もしくは同等品)の着用が望ましい. ☞ 国立感染症研究所感染病理部.新型コロナウイルス感染症の病理解剖業務における感染対策の考え方.2023.4.21. https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2518-lab/12002-covid19-83.html 5 病理解剖業務における感染対策 ◆引用・参考文献◆ ◆引用・参考文献◆・環境省.廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル.2023.5. • 日本環境感染学会.医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第 5 版.2023.1.17.・日本周産期・新生児医学会.SARS-CoV-2 感染が証明されるか疑われる母体からの分娩での新生児蘇生に係る指針(第 2 版). 2020.6.11.・日本新生児成育医学会.新型コロナウイルス感染症に対する出生後早期の新生児への対応について 第 6 版.2023.7.31.
医療施設内で感染予防策を実施する期間(隔離期間)の基準は示されていないが,新型インフルエンザ等感染症に指定されていた際の退院基準を参考にするなど,医療機関ごとに対応が求められる(表6-3). 【参考】 感染予防策を実施する期間 入院患者0 日目 表6-3 入院継続が必要な患者の隔離期間の例 発症日1 日目 2 日目 3 日目 4 日目 5 日目 6 日目 7 日目 8 日目 9 日目 10 日目 11 日目 個室隔離(あるいはコホート) (例1)発症後10 日間経過かつ症状軽快後72 時間経過すれば,医療機関の中でも特別な隔離などの感染対策は必要でなく,多床室へ移動してもよい*1隔離解除個室隔離(あるいはコホート)ウイルス量が減少し感染性がなくなったと判断でき次第,隔離解除(例2)発症後5 日間経過かつ症状軽快後24 時間経過し,感染性がなくなった*2-4と判断されれば,医療機関の中でも特別な感染対策は必要でなく,多床室へ移動してもよい *1:特殊な免疫不全の背景をもつ(例:血液悪性腫瘍,キメラ抗原受容体T 細胞療法,造血幹細胞移植,抗CD20 モノクローナル抗体による治療などでB 細胞が枯渇した状態,固形臓器移植後,未治療またはコントロール不良のHIV 感染等)COVID−19 患者で,ウイルス排出が長期間持続しうることが報告されている.これらの患者に対して感染予防策を実施する期間については,感染管理部門とも相談し,必要に応じてPCR 検査または抗原定量検査を実施し,その結果を踏まえて判断することも検討する. *2:感染性のある期間は,発症からの日数と臨床症状の改善に基づいて評価することを基本とするが,WHO ガイドラインでは,隔離期間短縮のために抗原検査を参考にすることも選択肢としている.なお,保険診療上,病原体検査はCOVID-19 の診断を目的としていることに留意すること(「2-1 臨床像」,「3-1 病原体診断」参照) *3:無症状者に実施したPCR 検査で,Ct 値が30 未満の検体のうち93% は抗原定性検査でも陽性となる.・厚生労働省.第51 回厚生科学審議会感染症部会 資料 https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000971376.pdf *4:発症後のウイルス排出量の推移を分析したところ,6日目(発症日を0日目として5日間経過後)前後の平均的なウイルス排出量は発症日の1/20 〜1/50 となり,検出限界値に近づく.・厚生労働省.新型コロナウイルス感染症への対応について【更新・第4報】https://www.mhlw.go.jp/content/001159189.pdf 5 類移行後は感染症法に基づく就業制限は行われないが,国は医療機関や高齢者福祉施設等に対して,COVID-19 に罹患した従事者の就業制限を考慮するよう呼びかけている.位置づけ変更後の新型コロナ患者の療養の考え方(発症日を0 日目として5日間,かつ解熱および症状軽快から24 時間経過するまでは外出を控えることが推奨される)等を参考に,罹患した者の体調や業務内容,地域の流行状況,事業継続性等を総合的に判断して,施設ごとに対応することが求められている.【医療機関の就業制限の考え方(例)】 ・発症日*を0 日目として5 日間,かつ症状軽快から24 時間以上経過(6 日目に解除)〔ただし,業務内容等(例:移植患者やそれに準ずるような免疫抑制患者の病棟で勤務等)を考慮して,発症日を0日目として7日間,かつ症状軽快から24 時間以上経過(8日目に解除)のように個々の状況で就業制限の例外を設けている医療機関もある.〕・家族内に感染者が出た場合は,自己の体調管理に気をつけながら出勤・いずれも10 日目まではサージカルマスクの着用や手指衛生などを徹底する*無症状の場合は検体採取日を0 日目とする 【参考】 医療従事者の就業制限 【参考】・厚生労働省.第51 回厚生科学審議会感染症部会 資料 https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000971376.pdf・厚生労働省.新型コロナウイルス感染症への対応について【第4報 2023.10.20】https://www.mhlw.go.jp/content/001159189.pdf・新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q2-4
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第10.1 版