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「輸血療法実践ガイド」 令和8 年2 月 日本輸血・細胞治療学会 ガイドライン委員会
「輸血療法実践ガイド」 令和8 年2 月 日本輸血・細胞治療学会 ガイドライン委員会
目次輸血療法実践ガイドの目的 ........................................................................................... 3 I 輸血療法の実施 .......................................................................................................... 6 1 輸血療法の考え方:過去、現代、未来における在り方 .......................................... 6 2 輸血用血液製剤の種類と保管方法 ....................................................................... 11 3 輸血検査 .............................................................................................................. 16 4 輸血副反応とその対策 ......................................................................................... 21 5 自己血輸血 ........................................................................................................... 27 II 血液製剤の管理体制 .............................................................................................. 32 1 輸血用血液製剤保管管理 ..................................................................................... 32 2 輸血の管理体制の在り方 ..................................................................................... 34 3 輸血の実施体制の在り方 ..................................................................................... 40 4 輸血の有効性・安全性の評価、管理体制および使用記録の保管.......................... 45 III 血液製剤の使用 ..................................................................................................... 49 1 赤血球製剤 ........................................................................................................... 49 2 血小板製剤 ........................................................................................................... 52 3 新鮮凍結血漿 ....................................................................................................... 54 4 アルブミン製剤.................................................................................................... 57 5 免疫グロブリン製剤............................................................................................. 60 6 その他の製剤(フィブリノゲン製剤) ................................................................ 62 IV 特殊な状況における輸血 ....................................................................................... 64 1 大量出血時の輸血療法(手術) ........................................................................... 64 2 大量出血時の輸血療法(外傷) ........................................................................... 67 3 大量出血時の輸血療法(産科) ........................................................................... 69 4 新生児・小児への輸血 ......................................................................................... 71 5 へき地・離島での輸血 ......................................................................................... 74 6 在宅輸血 .............................................................................................................. 75 7 院内での輸血用血液の採取 .................................................................................. 77 V その他の取り組み ................................................................................................... 80 1 輸血機能評価認定(I&A:Inspection&Accreditation) ........................................ 80 2 日本輸血・細胞治療学会の認定制度 .................................................................... 82 3 院内輸血療法委員会と合同輸血療法委員会 ......................................................... 84
輸血療法実践ガイドの目的 現代医療は輸血療法なくして成立し得ない。大量出血を伴う手術や抗がん剤治療は輸血を前提として計画され、外傷や分娩に伴う予期せぬ出血に対しても、輸血療法は患者の救命および予後改善に大きく寄与してきた。しかし、輸血には感染症や免疫反応をはじめとする多様な副反応が存在し、生命予後を悪化させ得ることも周知の事実である。したがって輸血療法は、利益が不利益を明確に上回る場合にのみ実施されるべきである。しかし臨床現場において、その判断は必ずしも容易ではなく、長らく臨床医の経験に依存してきた。近年、ランダム化比較試験をはじめとする科学的根拠に基づき、輸血療法の有効性が検証されるようになったことは大きな進展である。 わが国における輸血療法の適正化および血液製剤の使用適正化のため、厚生労働省により「血液製剤の使用指針」(使用指針)と「輸血療法の実施に関する指針」(実施指針)が作成され、臨床現場で広く使用されている。この2 つの指針は定期的にアップデートされているが、最近では日本輸血・細胞治療学会が作成した科学的根拠に基づいた輸血ガイドラインの推奨度とエビデンス総体の強さを参考に、科学的根拠に基づいた推奨も取り入れられている。ただし、歴史的な経緯によりこれらの指針は別々に改定されてきたため、改定時期が一致しておらず、記載の様式も統一されていない。また、最新の科学的根拠を指針に盛り込むためには、指針とガイドラインを連動させることが必要であり、両指針を統合した指針の作成が望まれていた。 以上の背景を踏まえ、厚生労働行政推進調査事業費による研究班と日本輸血・細胞治療学会が共同で、両指針を統合した「輸血療法実践ガイド」を作成し、使用指針と実施指針を統合したガイドラインとして使用されることを目的とした。本ガイドは、既存ガイドラインの改訂に加え、不足する部分を新たに作成し、それらのエッセンスを集約したものである。詳細な理解には原典となる各ガイドラインの参照が望ましいが、本ガイドのみで輸血療法の理解と臨床実践が可能となることを目的としている。また、本ガイドは「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」(血液法)の理念に則って作成されている。
本ガイドにおいて、輸血療法では副作用ではなく副反応で統一して記載する。https://yuketsu.jstmct.or.jp/medical/side_effect/ 本ガイドの推奨の記載にあたっては、学会ガイドラインの記述方式に従って、推奨の強さは、「1」:強く推奨する、「2」:弱く推奨する(提案する)の2 通りで提示し、エビデンスの強さは以下の4 段階(A,B,C,D)で示している。 A(強):効果の推定値に強く確信がある。B(中):効果の推定値に中程度の確信がある。C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である。D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない。 略語一覧AHTR acute hemolytic transfusion reaction 急性溶血性輸血反応AIHA autoimmune hemolytic anemia 自己免疫性溶血性貧血ATR active transport refrigerator 血液搬送装置CPB cardiopulmonary bypass 人工心肺装置CCI corrected count increment 補正血小板増加数CIDP chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy慢性炎症性脱髄性多発神経炎COI Conflict of Interest 利益相反DHTR delayed hemolytic transfusion reaction 遅発性溶血性輸血反応DIC disseminated intravascular coagulation 播種性血管内凝固症候群FFP fresh frozen plasma 新鮮凍結血漿FNHTR febrile non-hemolytic transfusion reaction 発熱性非溶血性輸血反応GVHD graft versus host disease 移植片対宿主病Hb hemoglobin ヘモグロビンHBV hepatitis B virus B 型肝炎ウイルスHCV hepatitis C virus C 型肝炎ウイルスHEV hepatitis E virus E 型肝炎ウイルスHIT heparin-induced thrombocytopenia ヘパリン起因性血小板減少症
HIV human immunodeficiency virus ヒト免疫不全ウイルスHTLV-1 human T-lymphotropic virus type I ヒトT 細胞白血病ウイルスISBT International Society of Blood Transfusion 国際輸血学会ITP immune thrombocytopenia 免疫性血小板減少症IVIG intravenous immunoglobulin 静注用免疫グロブリン製剤MSBOS maximum surgical blood order schedule 最大手術血液準備量MTP massive transfusion protocol 大量輸血プロトコールNAT nucleic acid amplification test 核酸増幅検査PBM patient blood management PC platelet concentrate 血小板製剤PCC prothrombin complex concentrate プロトロンビン複合体製剤POCT point of care testing 臨床現場即時検査RBC red blood cells 赤血球製剤rFVIIa recombinant activated Factor VII 活性型第VII 因子製剤SBOE surgical blood order equation 手術血液準備量計算法SCIG subcutaneous immunoglobulin 皮下注用免疫グロブリンTACO transfusion-associated circulatory overload 輸血関連循環過負荷TRALI transfusion related acute lung injury 輸血関連急性肺障害TRIM transfusion-related immunomodulation 輸血関連免疫調節TTP thrombotic thrombocytopenic purpura 血栓性血小板減少性紫斑病VVR vasovagal reaction 血管迷走神経反射TXA tranexamic acid トラネキサム酸
I 輸血療法の実施 1 輸血療法の考え方:過去、現代、未来における在り方 1) 輸血療法の歴史的変遷と現代的課題a) 輸血療法の歴史-科学から安全性へ 近代的な輸血療法の最初は、1667 年にフランスのドニが子羊の血液を患者に輸血したこととされている。これは4 人目の患者が死亡したことからいったん禁止されたが、その後1827 年にイギリスの産婦人科医ブランデルによりヒトからヒトへの輸血が試みられるようになった。もちろん、この時代は血液型が未発見で、抗凝固剤や消毒法もなかったため、成功率は極めて低かった。 1900 年にオーストリアの病理学者カール・ランドスタイナーがABO 血液型を発見し、1914 年から1915 年にかけてクエン酸ナトリウムが抗凝固剤として開発されたことで、血液の保存が可能となり、第一次世界大戦で負傷兵の治療に用いられた。1937 年には世界初の血液銀行が設立され、現代的な輸血システムにより第二次世界大戦で多くの命を救うなど、皮肉にも輸血学の発展は戦争とともにあったと言える。 日本においては1964 年のライシャワー駐日米国大使襲撃事件において、大使が輸血後に肝炎を発症したことを契機に、それまで主流だった売血制度から、日本赤十字社を中心とする献血制度への移行が国策として推進された。以降、HBV、HCV、HIV などのスクリーニング検査が次々と導入され、輸血の安全性は格段に高まった。歴史を振り返ると、近年までの輸血学の歴史はまさに感染症との戦いにあったと言える。 b) 現代の輸血療法が抱える課題 輸血副反応とそれへの対応は輸血のインフォームド・コンセントにおける重要なポイントでもあるが、社会全体としては、近年の献血者数、特に若年層の献血者減少が顕著である一方で、出血リスクを抱えた高齢患者の増加により、血液製剤の需要は横ばいかやや高まる傾向にある1)ことが課題となっている。また、輸血にかかる費用は医療費増大の要因の一つとなっている。
2) 輸血医療にあたって医療機関・医療関係者が遵守すべき法的義務a) 血液製剤の自給と血液法の整備 血液製剤は、倫理的観点および国際的公平性の観点から、国内の医療に必要な量の製剤を国内の献血でまかなうこと(=国内自給)が望ましいことはいうまでもない。1980 年代に薬害エイズ事件が発生に至ったことを重くみて、平成6 年には遺伝子組換え製剤を除くヒト血液凝固第VIII 因子製剤の国内自給が達成されたが、依然としてアルブミン製剤、近年はグロブリン製剤においても血漿分画製剤の完全国内自給は未達成で、関係者の一層の取組が求められている。 平成14 年7 月に新たに、「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」(血液法)が制定されるに至った。血液製剤の安全性の向上、安定供給の確保に加え、適正使用の推進を法律で規定すること、また血液事業に関わる関係者(国、地方公共団体、採血事業者、製造・輸入業者、医療関係者)の責務が明確化されるに至った。特に「国は、血液製剤の適正な使用の推進に関する施策の策定及び実施その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」と法律に明記され、国による指針の作成の義務が法律で規定されたことは画期的であった。また医療機関において血液製剤を用いた医療が適正になされるよう、院内の血液製剤を管理し、使用するための体制を整備するため、院内における輸血療法委員会、責任医師の任命および輸血部門の設置を働き掛けることも明記され、行政による医療機関に対する医療監視において必ず確認されている重要なポイントとなっている。 b) 薬機法の改正 平成14 年に改正された医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)では「医療関係者による、生物由来製品の安全性の確保」、特に特定生物由来製品(ヒトの血液や組織に由来する原料又は材料を用いた製品(血液製剤全般))に関する安全確保が盛り込まれた(第68 条の21)。また過去の事件において、製剤の使用前に患者に正しく説明されていなかったこと、診療録の保管期間が十分ではなかった等の問題点をふまえ、(1)医療関係者による特定生物由来製品に係る説明(製剤使用の必要性、感染などのリスク等)を書面その他の手段で行う(インフォームド・コンセント)こと、(2)記録の保存、輸血後感染症など憂慮すべき副反応が発生した場合に使用対象となった患者の特定を容易に行うため、製品を使用した患者の記録を保管(20 年)すること、(3)医薬関係者から厚生労働省への副反応の報告の三点が整備された。
3) 輸血のインフォームド・コンセント インフォームド・コンセントは医療過誤訴訟における医療従事者側の「免責要件」として形式的に捉えられる側面があったが、後述するエホバの証人輸血拒否事件における最高裁判決では、患者の自己決定権を尊重するための「情報提供義務」が強調されている。輸血のインフォームド・コンセントは、患者の権利運動を背景に確立した「説明と同意」の原則に基づき、輸血の必要性やリスク、代替手段を説明し、患者が理解・納得して同意する手続きである。重大な副作用に加え、医療事故や訴訟の増加を背景にその重要性が一層強調されている。今日の患者中心の医療においては、インフォームド・コンセントのプロセスは患者が医療の共同意思決定者として主体的に関与するための、最も重要なツールの一つといえるだろう。そして何よりも患者との丁寧なコミュニケーションを継続することが、患者中心の輸血療法を実践する上で不可欠であると考えられる。 a) 輸血に関する説明の具体的内容輸血療法の必要性と期待される効果:なぜ輸血が必要なのか、他の治療法 では不十分な理由、輸血によってどのような臨床症状の改善が期待されるのか、輸血を行わない場合について使用する血液製剤の種類と量:赤血球製剤、血小板製剤、FFP、血漿由来 の分画製剤など、使用する製剤の種類と、単位数や予測使用量を明確に提示する必要な輸血検査およびその他の臨床検査:血液型、不規則抗体検査、交差 適合試験などの輸血検査、感染症検査と検体保管輸血に伴うリスクと副反応の詳細リスク軽減策: 輸血後GVHD 予防のためFFP を除く全ての製剤に放射線 照射が行われていること。輸血を行わない代替療法の選択肢:自己血輸血救済制度と情報管理:生物由来製品感染等被害救済制度の概要、輸血記録 が20 年間保存され、遡及調査に使用されること 4) Patient Blood Management (PBM) a) PBM の概念と国際動向
PBM は、患者中心の多面的かつ集学的なアプローチであり、患者自身の血液を管理・温存することで、同種血輸血の必要性を最小限に抑え、患者のアウトカム向上を目指す戦略である2,3)。輸血が感染症や免疫学的副反応といった潜在的なリスクを伴い、輸血医療の進歩が輸血そのものの有効性や意思決定の適切性を必ずしも向上させていないという問題意識から提唱されるに至ったものである。 PBM の推進は、世界保健機関を含む国際的な公衆衛生機関によって強く推奨されており、2025 年3 月、世界保健機関からPBM 政策を国および医療機関レベルで実施するための新しいガイダンスが発表された。このガイダンスでは、PBM の重要性を訴える過去の警鐘から一歩進んで、具体的な実装を支援する段階へと移行すべきことが示されており、政策立案者、医療関係のリーダー、および現場の専門家に対し、貧血の検出と治療、失血の最小化・凝固の最適化、輸血閾値の適正化に関する具体的な戦略とツールを提供すべきとしている。同時に、PBM を鉄欠乏や貧血、出血に伴う世界的な疾病負荷を軽減するための実践的な指針として活用し、単なる輸血医療の最適化にとどまらず、すべての地域における医療の公平性を改善し、社会全体の健康を向上させるという公衆衛生的な役割も担っていることが示唆されている。つまりは医療システムが輸血依存から脱却し、限られた資金をより必要とされる分野に再配分することを可能にし、社会的な持続可能性への貢献を期待するものである。 b) PBM を支える「三本柱」 図1 PBM の概念図 i) 第一の柱:術前貧血の改善 術前貧血は、術後合併症や入院期間の延長、さらには院内死亡率の増加と関連することが指摘されており、患者の予後を改善する上でも極めて重要である4)。術前の貧血患者のうち、約70%が絶対的または機能的鉄欠乏を伴うことが示されており、貧血ではない患者でも約40%が鉄欠乏を抱えているという指摘もあ
る5)。すなわち、鉄欠乏を早期にスクリーニングし是正することが、より広範な患者の術後アウトカムを改善するために重要であることが示唆される。ii) 第二の柱:周術期および治療中の出血の最小化 手術や処置中の出血量を最小限に抑えることにより当然輸血の必要性は低下する。出血は、それ自体が合併症や死亡率の独立した予測因子であり、出血量を制限することは患者の予後を改善するために不可欠である3)。また、低侵襲手術やロボット支援手術、トラネキサム酸などの抗線溶薬の術前投与、同種血の回避という点では貯血式、回収式および希釈式の自己血輸血も出血を最小化する技術にあたるであろう。iii) 第三の柱:貧血耐性の最大化と輸血閾値の適正化 赤血球輸血のメリットとデメリットを慎重に比較検討し、個別の患者に最適な「制限的輸血」戦略が推奨されるべきであるという立場を各国はじめ日本のガイドラインもとっている。一方で、虚血性心疾患などの合併症を持つ患者では、より高いHb 値(8-10 g/dL)での輸血を提案するデータも示される6)など、臨床医学の進歩にともない、今後は個別の病態に応じた柔軟な判断が求められるだろう。 5) 宗教的無輸血の法的・倫理的側面a) 成人患者の自己決定権と日本の裁判事例 宗教的輸血拒否の問題は、日本において過去に複数の訴訟に発展、中でも、平成12 年の最高裁判決は、大きな影響を与えた。この事件は、輸血拒否の意思を明確に示したエホバの証人の信者である患者に対し、主治医らが「輸血以外に救命手段がない事態になれば輸血する(相対的無輸血)」という方針を採用しながら、それを説明しないまま手術を行い、結果的に輸血を行った事案であり、医師が「輸血以外に救命手段がない事態になれば輸血する」という方針を事前に患者に説明しなかったことが、「患者が輸血を伴う可能性のある手術を受けるか否かについて意思決定する権利を奪った」と認定された 7)ものである。 b) 宗教的輸血拒否に関するガイドラインと医療機関における対応 日本輸血・細胞治療学会を中心とする関連学会等は「宗教的輸血拒否に関するガイドライン」を2008 年にすでに発表しており8)、多くの医療機関による宗教的理由による輸血拒否患者に対する対応方針の拠り所の一つとなっている。本
ガイドラインは、患者の自己決定権と医療従事者の生命救護義務を両立させることを目的とすると同時に、輸血治療が必要となる可能性がある患者について、法に従ってあくまでも輸血療法におけるインフォームド・コンセントの取得は不可欠としつつ、18 歳以上、15 歳以上18 歳未満、15 歳未満の場合に分けて、医療に関する判断能力と親権者の態度に応じた対応を整理していることが特徴的である。特に15 歳未満のケースにおいて医療ネグレクトに対する強い懸念を表明したものとなっている。 医療機関が対応方針を策定する上で、「絶対的無輸血」と「相対的無輸血」という概念がよく用いられる。絶対的無輸血はたとえ生命の危機に瀕しても、いかなる状況下でも輸血を拒否する患者の意思や信念を指し、相対的無輸血は、患者の意思を尊重し可能な限り無輸血治療に努めるが、緊急時など輸血以外に救命手段がないと判断された場合には、患者の同意が得られなくても輸血を実施するという考え方であり、現在多くの医療機関の基本的な方針となっていると思われる。 相対的無輸血の立場を取る医療機関の多くの具体的な対応は、輸血の可能性が予期される治療において、病院の「相対的無輸血」の方針を患者と家族に事前に、かつ具体的に説明するが、患者が意識不明で意思表示ができない状況下で、輸血が唯一の救命手段であると判断された場合は、同意が十分でなくても緊急避難的に輸血を実施するというものが多い。また時間的余裕があり、患者が絶対的無輸血を強く希望する場合、無輸血治療を専門とする他の医療機関への転院を推奨するなども多くの医療機関が定めていると思われる。 2 輸血用血液製剤の種類と保管方法 血液製剤とは、人の血液を原料として作られる医薬品のことを指し、輸血用血液製剤と血漿分画製剤に分けられる。輸血用血液製剤には、人の血液の全てを使用する全血製剤と、赤血球、血小板、血漿成分を各々分離して調製した成分製剤がある。現在は、主に成分製剤が使われており、全血製剤はほとんど用いられていない。一方、血漿分画製剤は、血漿成分から治療に必要な血漿タンパク質を種類ごとに分離・精製したものであり、アルブミン製剤、免疫グロブリン製剤、血液凝固因子製剤などがある。
1) 献血制度 輸血用血液製剤は、まだ人工的に造り供給することはできないため、人の血液を原料とせざるを得ない。献血とは、病気の治療や手術などで輸血や血漿分画製剤を必要としている患者のために、健康な人が自らの血液を無償で提供するボランティアである。我が国における輸血用血液製剤は、全て献血で提供された血液から製造されている。輸血用血液製剤は、各製剤によって有効期間は異なるが、いずれも長期保存することができないため、献血は一時期に偏ることなく、常に一定の協力を得る必要がある。2024 年は、年間で約500 万人(延べ数)、1 日平均では約14,000 人が献血に協力している。現在、日本の献血制度は大きな課題を抱えている。日本国内では少子高齢化が著しく進んでいることの影響により、主に輸血を必要とする高齢者層が増加し、一方で、献血に協力可能な若い世代は減少している(図1)。10~30 代の献血協力者数はこの10 年間で3 割程度も減少しており、少子高齢化が今後さらに進むと、輸血用血液製剤の安定供給に支障をきたす恐れもある。加えて、近年特に免疫グロブリン製剤の需要が著しく増加しており、その原料となる血漿の必要確保量も大幅に増加していることから、継続的かつ安定的な献血確保は喫緊の課題となっている。 図1 実献血者数9)
2) 輸血用血液製剤の種類と保管方法 献血には、全血献血と成分献血があるが、採血種別により製造される製剤の種類が異なっている。全血採血にて採取された血液からは、赤血球製剤、血漿製剤と血漿分画製剤用原料血漿が製造される。成分採血にて採取された血液からは、血小板製剤、血漿製剤と血漿分画製剤用原料血漿が製造されている(図2)。 図2 輸血用血液製剤の種類と製造プロセス a) 赤血球製剤 赤血球製剤には、赤血球液に加え、洗浄赤血球液、解凍赤血球液、合成血液、凍結赤血球がある。製剤によって異なるが、放射線照射済製剤と未照射製剤があり、各々用途に応じて使用されている。未照射製剤を使用する場合は必ず院内にて照射を行う必要がある。 主に使用される照射赤血球液-LR「日赤」2 単位製剤は、全血採血により採取された400 mL の血液に対し、血液保存液(CPD 液)を56 mL 混合し、白血球および血漿の大部分を除去した赤血球層に赤血球保存用添加液(MAP 液)約 92 mL を加え、放射線を照射して調製したものである。なお、1 単位製剤は血液200 mL に由来する。2~6°Cで保管し、有効期間は採血後28 日間である。 b) 血小板製剤 血小板製剤には、照射濃厚血小板、照射濃厚血小板HLA、照射洗浄血小板、照射洗浄血小板HLA があり、単位数は製剤によっても異なるが、5 単位、10 単位、15 単位、20 単位製剤がある。 主に使用される照射濃厚血小板-LRBS「日赤」は、成分採血により白血球の大部分を除去して採取され、血漿に浮遊した血小板に放射線を照射した製剤であ
る。成分採血に由来する血液保存液(ACD-A 液)を含有している。なお、血小板1 単位とは、血小板数0.2×1011個以上を指す。 照射濃厚血小板HLA-LRBS「日赤」は、血小板減少を伴う疾患で、抗HLA 抗体を有し、通常の血小板製剤では輸血効果が認められない患者に使用される。患者のHLA 型に適合する(供血者のリンパ球と患者の血清との交差適合試験に適合する)献血者から成分採血により白血球の大部分を除去して採取し、血漿に浮遊した血小板に放射線を照射した製剤である。 血小板製剤に対しては、2025 年7 月30 日から、細菌スクリーニングが導入されており、採血後40 時間以上待機保管した原料血液(洗浄血小板の場合は24時間以上待機)から検体を採取し、血液培養自動分析装置にて24 時間培養して陰性と判定された後に供給を行う。有効期間は採血後6 日間となっている。ただし、洗浄血小板は、採血2 日目または3 日目に洗浄し、有効期間は製造後48時間(採血後4 日間を超えない)であるため注意が必要である。 いずれの血小板製剤も、20~24°Cで振盪しながら保管する。 c) 血漿製剤 血漿製剤は、全血採血由来と成分採血由来の製剤があるが、いずれもFFP として供給されている。 新鮮凍結血漿-LR「日赤」480 は、成分採血により白血球の大部分を除去して採取した新鮮な血漿を凍結したものである。成分採血時に添加される血液保存液 (ACD-A 液)を含有しており、総量として480 mL 程度となっている。なお、新鮮凍結血漿-LR「日赤」240 は、血液保存液(CPD 液)を56 mL 混合した血液400 mL から白血球の大部分を除去し分離した新鮮な血漿を凍結したものである。新鮮凍結血漿-LR「日赤」120 は、血液200 mL に由来する。 いずれの製剤も-20°C以下で保管され、有効期間は採血後1 年間であるが、医療機関には日本赤十字社血液センターで6 か月の貯留保管後に供給されている。新鮮凍結血漿への放射線照射は行われていない。 3) 安全性対策 輸血用血液製剤の安全性確保のため、献血の現場、献血後の血液検査・製造の各段階で様々な対策が取られている。 まず、献血会場に来所した全ての献血者に対して、問診が行われている。問診
では、各種感染症や既往歴等が確認されている。来場時に実際に血液を介して感染する病原体に感染していないか、無症状であってもそうした感染症に罹患しているリスクを抱えていないか、自覚症状だけではなく海外渡航歴や性行動等についても回答を求めている。感染症以外でも、現在抱えている疾患や、それらに対する服薬状況も回答を求め、輸血用血液製剤の安全性・有効性に支障となる医薬品を使用していると考えられる場合には、献血不適格となる。こうした問診は、輸血用血液製剤の安全性対策だけではなく、献血者保護の観点からも行われており、さらに医学的所見として体温測定、体重測定、血圧測定、Hb 値測定及び血小板数測定を行って、国の定める採血基準に適合し、採血が献血者の健康に影響を及ぼさないと判断された場合に、採血を行っている。 原料血液への細菌等の混入防止のため、約25 mL の初流血除去が行われている。初流血として除去された血液は、各種の検査用血液として使用されており、肝機能検査等に加え、数種類の病原体の抗原・抗体検査やNAT が行われている。現在実施されている感染症検査として、HBs 抗原・抗体、HBc 抗体、HCV 抗体、HIV-1/2 抗体、HTLV-1 抗体、梅毒トレポネーマ抗体、肝機能検査(ALT)、ヒトパルボウイルスB19 抗原、さらに4価NAT(HBV-DNA、HCV-RNA、HEV- RNA、HIV-RNA)が個別検査として行われている。加えて、中南米出身者などの該当献血者ではシャーガス病対策としてTrypanosoma Cruzi 抗体の検査も行われている。検査の結果、いずれも検査に合格した血液だけが輸血用血液製剤として用いられている。 製造部門では、発熱等の輸血後副反応や感染症を防ぐ目的で、白血球除去フィルター等による濾過にて保存前白血球除去が行われ、1 バッグ中の白血球数は1 × 106個以下に低減されている。さらに、GVHD 予防のため15 Gy 以上50 Gy以下の放射線照射が行われている。また、新鮮凍結血漿-LR240 は、TRALI 予防のため、ほぼ100%男性献血者由来血液から製造されている。 輸血用血液製剤は、検査で合格とされると医療機関に供給されるが、有効期間が短い赤血球製剤や血小板製剤は製造後間もなく出荷されるのに対し、有効期間の長いFFP は、6 か月間以上貯留保管され、その間、献血者等からの献血後の申告や、遡及調査情報、輸血後感染症情報など、安全性に問題となる情報がないことを確認してから出荷されている。
3 輸血検査 輸血療法を実施する前には、患者の血液型を正確に把握する必要がある。ABO血液型不適合輸血は致命的な副反応を引き起こす可能性がある。また、輸血歴や妊娠歴等がある場合、赤血球に対する免疫抗体(不規則抗体)を保有する場合がある。不規則抗体に反応する赤血球製剤を輸血すると溶血性輸血反応を引き起こし、輸血効果が認められないなど、治療の遅延が生じる可能性がある。輸血検査は、安全に輸血を行うために重要な検査である。 本章では、正確な検査や解釈を実践するため赤血球型検査(赤血球系検査)ガイドライン(改訂5 版)10)、並びにコンピュータクロスマッチに適合する患者と輸血管理システムに必要な条件(改訂2 版)11)を元に注意点をまとめた。 1) 赤血球抗体の臨床的意義12) 臨床的意義のある抗体とは、対応抗原を持つ赤血球を生体内で破壊し、溶血性輸血反応を引き起こす抗体である。規則抗体の抗A、抗B は、いかなる場合でも臨床的意義のある抗体である。また、輸血や妊娠などによって産生される抗体を不規則抗体と呼び、間接抗グロブリン試験で陽性を示す抗体は特に臨床的意義のある抗体である(臨床的意義のある抗体については下記8)の表を参照)。 緊急時、救命のためには、臨床的意義のある不規則抗体の存在下でも輸血を行わざるを得ないこともある(「危機的出血への対応ガイドライン」13)II章 参照)。 2) 検査用検体12) 検査用検体の採血では、患者誤認防止のため、患者からの氏名申告やリストバンド照合が重要である。免疫応答による抗体産生には個人差があるため、輸血や妊娠歴のある患者では、輸血日を含めた3 日以内の検体を使用することが望ましい。過去、3 か月以内に輸血歴、妊娠歴がない場合は採血から1 週間を限度に使用できる。検査に使用した残余検体・製剤セグメントは輸血後の副反応の原因を解明するために、7 から14 日間の冷蔵保存が望ましい。
3) 乳児の輸血検査対応 a)生後1 年未満の児に対するABO 血液型判定の対応 いくつかの特別な配慮が必要である。生後1 年未満の児は、通常成人に認められる規則抗体 (IgM 型抗A/抗B) の産生がまだ不十分である。このため、ABO血液型検査において、赤血球の抗原を調べるオモテ検査と血漿(血清)中の抗体を調べるウラ検査の結果が一致しないことが頻繁に起こる14)。このような場合、生後1 年未満の児については、オモテ検査の結果だけで血液型を暫定的に判定してもよいとされている。ただし、生後1 歳未満の児においても異なる時点で採血された別検体での二重チェックを行うことが望ましい。また、輸血の可能性があり検体量が十分ある場合はウラ検査を実施することが望ましい。 b)生後4 か月未満の児に対する対応 輸血による不規則抗体を産生する能力が低いため、赤血球輸血が原因で不規則抗体が作られた例はほとんどない15)。このため、生後4 か月未満の児は、児本人の不規則抗体スクリーニングを省略することができる。この場合、母親の血漿(血清)を使って検査することが児の採血の負担軽減になるため望ましいとされている。母親から移行した抗体(IgG 型抗A/抗B、不規則抗体)が存在しないことを確認できている生後4 か月未満の児については、ABO 同型の赤血球製剤を使用する場合に限り、交差適合試験を省略できる場合がある。 4) 精度保証 輸血検査には、検査業務に係る責任者の選任、機器の保守管理、標準作業書の策定、作業日誌や管理台帳の作成、内部・外部精度管理(日本臨床衛生検査技師会、日本輸血・細胞治療学会等)、検査者の研修の実施が求められる16)。輸血検査では、管理された試薬、方法、手順のもとに正しい判定が行なわれなければならない。特に外部精度管理は全国的な規模で実施され、自施設の検査精度が明確になる。 5) ABO 血液型検査10) ABO 血液型検査では、オモテ検査(抗A・抗B)とウラ検査(A1・B 赤血球)を実施する。
表1 ABO 血液型の分類 (日本輸血・細胞治療学会HP より抜粋) ABO 血液型の判定には、以下の図のような、患者誤認および検査過誤を防止する目的で、異なる時点で採血された検体による二重チェックを原則とする。 図1 輸血検査用検体のラベル添付の間違いによる誤認採血(日本輸血・細胞治療学会 安全な輸血療法ガイドより抜粋)
図2 2 検体での二重チェック 定期メンテナンスや内部精度管理を実施し適切に管理された全自動輸血検査装置や輸血管理システムによる管理は、検査の過誤および検査結果の転記過誤を予防できるため推奨される。オモテ検査とウラ検査の結果不一致や予期せぬ反応にはその原因を明確にするために精査を行う。 6) RhD 血液型検査10) 抗D 試薬は陰性対照(Rh コントロール)を併用する。弱い反応や偽陽性時には再検査や別試薬での確認を行う。直後判定が陰性、かつ緊急で輸血が必要な場合、暫定的にD 陰性として取り扱う。 7) 不規則抗体スクリーニング10) 交差適合試験より検出感度および信頼性の点で優れている。不規則抗体スクリーニングでは、間接抗グロブリン試験の実施を必須とする。Polyethylene glycol (PEG)やLow-ionic-strength solutions (LISS)などの反応増強剤を用いることで反応時間短縮と検出感度向上が図れる。
8) 不規則抗体の同定10) 不規則抗体スクリーニング陽性時に不規則抗体の特異性を検出する目的で、抗体同定検査を行う。臨床的意義のある抗体が検出された場合、輸血時には対応抗原陰性血を選択する。臨床的意義のある抗体を保有する場合は、不規則抗体の情報を記載した輸血関連情報カードなどを発行し携帯させることで、他施設と情報の共有が行え、患者への輸血療法の安全性が向上する。 表2 輸血用血液製剤(赤血球製剤)の選択 輸血用血液製剤の選択抗体の特異性抗原陰性Rh, Duffy, Kidd, Diego,S, s, Kell抗原陰性※ M, Lea抗原陰性の選択が望ましいJra選択の必要なしP1, N, Leb, Xga. JMH, Knops, Cost, Chido/Rodgers, KANNO専門機関に相談上記以外の臨床的意義のある不規則抗体※反応増強剤無添加の間接抗グロブリン試験(37°C、60 分)で陽性の場合 9) 自己抗体10) AIHA 患者の輸血検査は困難である。AIHA 患者は自己抗体に加え同種抗体を保有している場合がある。自己抗体の反応性が同種抗体より強い場合には、同種抗体が隠れてしまい見落としに繋がる。したがって、AIHA 患者の同種抗体の検出には、自己抗体の除去が必要である。そのため、自己赤血球または既知抗原の同種赤血球で吸着処理を行い、自己抗体吸着後の上清で同種抗体の有無を確認する。自己抗体と同種抗体の共存時は、同種抗体に反応しない抗原陰性血を選択する。同種抗体を保有しないAIHA 患者においては、輸血後の遅発性溶血性輸血反応並びに同種抗体産生の回避のため、赤血球輸血を行う場合は、あらかじめ患者のABO 血液型および主要血液型抗原(Rh 血液型)を確認し、これら抗原と一致した赤血球製剤の選択が望ましい。 10) 交差適合試験10) 原則、ABO 血液型検査検体とは異なる時点で採血された検体を使用する。交差適合試験用検体はABO 血液型の二重チェックに利用可能である。交差適合試
験は、主試験(患者血漿(血清)×供血者赤血球)と副試験(患者赤血球×供血者血漿)で構成され、主試験は間接抗グロブリン試験を含む方法で実施することを必須とする。臨床的意義のある不規則抗体により主試験が陽性となる赤血球製剤を輸血に用いてはならない。輸血には患者と同型(ABO 血液型、RhD 血液型)の輸血用血液製剤を用いることが原則であるが、直ちに血液型が確定できず輸血が必要になった場合は、例外的に赤血球製剤はO 型、血漿/血小板製剤はAB 型を使用する17)。交差適合試験は特別な理由がない場合は自施設内で行い、夜間でも輸血を行う施設では、検査実施体制を検討する。まれにしか輸血を行わない、または本章記載の検査体制の構築が困難である場合など自施設で適切な検査体制を整えることができない場合は、専門機関に委託して検査を実施する。 11) 交差適合試験の省略とその他の留意点 日本赤十字社の赤血球製剤を使用する場合、ABO 同型赤血球製剤使用時の副試験は省略可能である。FFP、血小板製剤の交差適合試験は省略可能である。 12) 輸血管理システム JAHIS による最新の患者安全ガイド(輸血編)(https://www.jahis.jp)18)に準じた情報システムの使用が望ましく、検体照合、履歴管理、誤投与防止の観点からシステム化が推奨されている。 13) 分子標的治療薬による影響10) 抗CD38 抗体治療薬剤を投与された患者では、間接抗グロブリン試験で汎反応性が出現するため、0.2M dithiothreitol (DTT)処理赤血球での再検査が有効である。ただしKell 抗原を破壊するため、臨床的意義のある抗K の検出には注意が必要である。 4 輸血副反応とその対策 輸血による有害事象は、製剤自体の問題による「副作用(Adverse Reaction)」と、不適正使用による「事故(Incident)」を含めて「副反応(Adverse Event)」
と総称される。国際輸血学会では、患者に被害のないNear Miss もAdverse Eventに含める。副反応は発生機序や時期により分類されるが、近年は「溶血性反応(急性・遅発性)」「非溶血性反応」「感染症」に分けて考えるのが主流である19)。 1) 溶血性反応 a) 急性溶血性輸血反応(AHTR) AHTR のほとんどはABO 不適合輸血であるが、まれにLewis やKidd 血液型の抗体などでも認められることがある。ABO 不適合輸血の場合、輸血された赤血球と患者の抗体の反応により補体の活性化、血管内溶血、サイトカインの過剰産生、血管透過性の亢進、DIC を呈し、血圧低下や腎機能不全をきたす。症状としては輸血開始後数分で刺入部に沿った血管痛、不快感、胸痛、腹痛、腰背部痛、嘔気、発熱・悪寒、呼吸困難などが起き、赤褐色尿(ヘモグロビン尿)を呈し、血圧低下をきたしショック状態に陥る。このような症状が出現した際には輸血を直ちに中止し、留置針はそのまま残し接続部で新しい輸液セットに交換して、生理食塩水液次いで乳酸リンゲル液などを急速に輸液し、血圧維持と利尿につとめる。直ちに集中治療室での処置や透析が必要になる場合もあるので、患者の処置を優先しながら、患者から採血し溶血の程度を確かめ、ABO 血液型の再検査、血液製剤のABO 血液型の確認を行う。予防として、施設ごとに輸血実施手順書を作成しそれに従って輸血を実施する。従来、スタッフ2名によるダブルチェックによる輸血実施直前照合が行われてきたが、現在では製剤のバーコードと患者リストバンドを利用した電子照合が広く普及している。 b) 遅発性溶血性輸血反応(DHTR) 輸血後24 時間から数週間で起きる二次免疫反応による血管外溶血でおよそ2500 回の輸血に1 回の頻度で発生する20)。発熱、貧血(Hb 値低下)、LDH 上昇、間接ビリルビン上昇などを認める。重症例では、黄疸、赤褐色尿(ヘモグロビン尿)を認めることもあるが比較的まれである。過去の輸血や妊娠により感作された患者が、対応抗原陽性の赤血球を輸血されると抗原刺激により抗体(IgG)が産生されることで、輸血赤血球が遅発性に溶血する。典型例では直接抗グロブリン試験(DAT)が陽性となるが、輸血した赤血球がすでに破壊されている場合、DAT 陰性となるので結果の解釈には注意を要する。不規則抗体の再検査で新規抗体が認められれば、再感作により産生された原因抗体である可能性がき
わめて高い。DHTR を生じる患者では、再度の輸血により別の不規則抗体が産生されるリスクも高いため、追加の輸血は可能な限り回避するよう努め、どうしても必要な場合のみ最低限の量の抗原陰性血を投与する。輸血後に新規不規則抗体の産生を認めるが明らかな溶血を来していない場合、遅発性血清学的輸血反応と呼び、およそ1000 回の輸血に1回の頻度で発生する。不規則抗体スクリーニングと交差適合試験は不適合輸血を防ぐための検査だが、実際には初回感作後の不規則抗体価は多くの場合時間とともに低下してしまうので、検出感度以下になるとDHTR を発症するリスクを生じることになり、検査のみでこれを完全に防止するのは不可能である。そこで不規則抗体が検出された場合はその情報を記載した輸血関連情報カードを作成し、患者を通して医療機関に提出してもらう対策がとられている。輸血関連情報カードにより抗体産生歴が確認できた場合は、直前の不規則抗体検査の結果に関わらず該当抗体に対する抗原陰性血を輸血することでDHTR を予防する。DHTR の原因となる臨床的に意義のある不規則抗体に関しては「赤血球型検査(赤血球系検査)ガイドライン(改訂第5 版)」を参照のこと10)。 c) 物理的刺激などによる溶血(表1 参照) 2) 非溶血性反応a) 発熱性非溶血性輸血反応(FNHTR) 溶血性反応ではない輸血による発熱を伴う反応のことを言う。定義としては、輸血後の38°C以上の発熱か輸血前と比べた場合の1°C以上の体温上昇、もしくは悪寒・寒気があるときとされる。患者の抗白血球抗体(抗HLA 抗体や抗HNA抗体等)はFNHTR の一因であるとされ、輸血用血液製剤中の白血球が患者の抗体に反応し発熱反応を引き起こす。保存前白血球除去した製剤の導入により発熱反応の頻度は減少した。一方、主に常温で保存される血小板製剤の血漿中に保存とともに増加するproinflammatory cytokines であるIL-1β、IL-6、TNF-αなどが血小板製剤で起こるFNHTR の原因であるという説もある。原疾患による発熱や、細菌汚染された血液による発熱との鑑別は重要で輸血以外に起因する発熱の可能性を考えて対処すべきである。 b) アレルギー性反応・アナフィラキシー反応 蕁麻疹やそう痒感などを呈するアレルギー性反応は輸血による有害事象の中
でも多く発生しており、特に血小板製剤で頻度が高い。蕁麻疹・そう痒感以外に、全身紅斑、顔面・喉頭浮腫、呼吸困難などを呈する場合、アナフィラキシー反応と呼び、血圧低下を伴う場合、アナフィラキシーショックと呼ぶ。厚生労働省研究班のヘモビジランス研究によると、血小板製剤では軽症から重症のものまで含めると、約4%程度に認められるとされる21)。日本赤十字社に報告されるのは重症例が多く、血小板製剤では約1000 件に1 件(約0.1%)しか報告されていない21)。血漿蛋白欠損(ハプトグロビン欠損、IgA 欠損)によるアナフィラキシー反応があり、これらの血漿蛋白の欠損が判明した場合には、次回の輸血以降、欠損者からの献血による対応が必要になる場合がある。発生頻度としては年間数例程度であり、それ以外のほとんどのアレルギー性反応の原因ははっきりとはわかっていない。血小板製剤においては血漿部分の除去によりアレルギー性反応が軽減されることが多く、日本赤十字社より供給されている洗浄血小板製剤は、種々の薬剤の前投与の処置等で予防できないアレルギー性反応が2 回以上観察された場合や、アナフィラキシーショックなどの重篤な反応が1 回でも観察された場合に適応となる。洗浄血小板製剤は原則予約(発注)に基づき製造されるため、納品まで時間を要する。血小板製剤の院内洗浄に関しては、日本輸血細胞治療学会の洗浄血小板の使用ガイド(第5 版および第6 版)を参照すること。赤血球製剤の輸血の場合も同様の適応で日本赤十字社供給の洗浄赤血球が利用可能である。 アレルギー性反応、アナフィラキシー反応は即時型の反応であるが、やや遅れて反応が出る場合もある。多くの場合、輸血開始後30~60 分以内に発症するため、輸血開始後の患者の注意深い観察が必要である。アナフィラキシー時の迅速なアドレナリンの筋肉注射についてはガイドラインでも推奨されている。 c) 輸血関連急性肺障害(TRALI) 輸血中または輸血後6時間以内に起こる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)をTRALI と呼ぶ。患者の病態として敗血症、肺炎、多発外傷などのARDS の危険因子を持たない場合はTRALI type I、ARDS の危険因子を持つ場合にはTRALI type II の呼称を使う。基本的には非心原性肺水腫であり、輸血用血液製剤中の抗白血球抗体(抗HLA 抗体、抗好中球抗体)が惹起する炎症により肺毛細血管の透過性の亢進することが、主となる病態であるが、患者側の要因もTRALI の発症に関わるとされている。抗原抗体反応ではない非免疫学的機序によるTRALI も提唱されており、長期保存血液中の活性脂質などが原因とされる。抗
白血球抗体は経産婦の血液中に含まれる可能性が高いため、FFP に関しては男性由来の血液を優先的に使用した製造を行い、血小板製剤については抗白血球抗体のスクリーニングをTRALI 予防対策として行っている国もある。日本では全血400 mL 献血由来のFFP については100%男性由来となっている。その他の製剤についての対策は十分ではないものの、全体としてTRALI の発生は抑えられており、年間数例の発生にとどまっている。 d) 輸血関連循環過負荷(TACO) 輸血用血液製剤投与により循環過負荷を生じ、呼吸困難を伴う心不全となった病態をTACO と称する。TACO は、頻度の高い輸血副反応で、日本赤十字社への報告があった重症例だけでも年間100 件近くに達する。国際輸血学会(ISBT)などの国際機関は、報告基準を設け診断に役立てている。日本赤十字社の診断基準は上記に準じているが、発症時期を輸血後12 時間以内ではなく6 時間以内と定めている。大量輸血に限らず、通常量の輸血用血液製剤投与でもTACO を発症する可能性がある。そのため、2 バッグ以上の輸血用血液製剤を一度に投与することは緊急時以外避けるべきである。また輸血前の患者評価が重要で、特に心機能低下(BNP・NT-proBNP が高値、不安定な循環動態)・腎機能低下・呼吸不全を有するハイリスク患者においては輸血量や投与速度に特段の注意を払う必要がある。 e) 電解質異常と低体温・アシドーシス(表2 参照) f) 輸血後移植片対宿主病、輸血後鉄過剰症、輸血関連免疫修飾(表3 参照) 3) 感染症 血液を介して感染する病原体には様々なものがあるが、献血の際に排除できない不顕性感染で、日本である程度浸淫している病原体が主なスクリーニングの対象となる。現在、抗原・抗体検査としては梅毒、B 型肝炎(HBs 抗原・抗体、HBc 抗体)、C 型肝炎(HCV 抗体)、HIV-1/2 抗体、HTLV-1 抗体、ヒトパルボウイルスB19 抗原検査を行っている。B 型肝炎に関しては既感染者からの感染予防のためHBc 抗体の基準値の変更なども行い、感染のリスクはさらに低くなっている。HBV、HCV、HIV 、HEV に関しては個別NAT を行っている。しかし、NAT でも検出できないウィンドウ・ピリオドの問題は依然として存在し、抗体陰性でNAT でも検出できない感染初期の献血による感染のリスクは残存
している。スクリーニングしていない感染症は依然として存在しており、新興・再興感染症に関しては常に注意を払う必要がある。 細菌感染症に関しては、献血時の問診の強化、皮膚消毒方法の改善、初流血除去、保存前白血球除去、血小板製剤の細菌スクリーニング検査の導入および外観確認などの対策はとられている。赤血球製剤についてはかつてYersinia Enterocolitica の感染による死亡例があり、赤血球製剤の有効期間が42 日間から21 日間に短縮されたが、現在は28 日間となっている。自己血採血でも起こりうる感染症のため、セグメントとバッグの色の違いを確認するなどの外観確認も必要である。血小板製剤に関しては常温振盪保存という保存方法であるが故に、現在でも死亡例を含む細菌汚染の問題は解決していない。上記の対策はとられているものの、問診時の献血者の選別や、スワーリングの消失・凝集物の存在などの外観確認には限界があり、細菌スクリーニング検査導入によるより安全な血小板製剤の供給が開始された。海外の一部の国・地域では病原体低減化技術も導入されている。 表1 機械的溶血など 原因詳細対策加温装置の故障加熱された血液:成人の急速大 量輸血、新生児の交換輸血、小児の急速輸血、心肺バイパス復温期の輸血、重症寒冷凝集素症の患者への輸血時など赤血球は50°Cくらいで溶血す るが22)、安全性の観点から37°Cを超えないように留意。 保管時の温度上昇または過冷却適切な温度での保管他薬剤との混注ブドウ糖溶液との混注 ガンマグロブリン製剤中のIgG型抗A・抗B 抗体(機械的な溶血ではない)など生理食塩水液以外の薬剤との 混注禁止 細菌汚染 表2 電解質異常・低体温・アシドーシス 種別詳細原因・対策電解質異常高カリウム血症貯蔵中に赤血球からカリウムが漏出し、特 に新生児・大量輸血時にリスクとなる。放
射線照射血ではリスクが高いため、保管期間の短い製剤やカリウム吸着フィルター使用が有効 低Ca・低Mg 血症保存液中のクエン酸がキレート作用を示 す。特に肝障害患者では代謝遅延により重症化しやすく、補正が必要 低体温アシドーシス大量出血時に冷えた製剤や薬剤を急速投 与することで発症凝固機能に悪影響を及ぼすため、加温輸血装置や保温が必要 表3 輸血後GVHD・輸血後鉄過剰症・輸血関連免疫修飾 種別原因・症状対策輸血後GVHD HLA 一方向適合の症例でT 細 胞が生着・攻撃する致死的だが、放射線照射の導入 で発症は防止されている 輸血後鉄過剰症慢性輸血患者で体内に鉄が蓄 積し、肝・心・内分泌系障害を引き起こすフェリチン値500ng/mL 以上 かつ20 単位以上の赤血球輸血で診断し、フェリチン値1000ng/mL 以上ではデフェラシロクスなどの鉄キレート療法を開始する 輸血関連免疫修飾(TRIM)赤血球輸血は静脈血栓症、術 後感染、腫瘍再発、早期死亡のリスクを高める自己血輸血での回避が推奨 5 自己血輸血 自己血輸血は、大別して「貯血式」「希釈式」「回収式」の三つの主要方式に分類される(表1)。それぞれの方式は、目的、採血のタイミング、必要な設備、そして臨床的な特性が大きく異なる23)。 1) 貯血式自己血輸血 貯血式は、簡便であるため多くの医療機関で実施されている。この手法は、輸
血を必要とする予定手術が対象となり、特に整形外科(人工関節置換術、脊椎手術)、産婦人科、心臓血管外科などで広く適応されている23-25)。具体的な採血基準は、Hb 値は11.0 g/dL 以上、1 回の採血量は最大400 mL(産科領域はHb10 ~11g/dL の場合は200~300mL、1 回の採血量は200~400mL)、採血間隔は原則1 週間以上であり、初回採血の1 週間前から鉄剤を投与することが推奨されている26)。 貯血式では、採血時の気分不良や血圧低下、徐脈を伴うVVR が生じる可能性があり、若年者や低体重者は特に注意が必要である。また、採血時の不適切な消毒による細菌汚染や、保管中の細菌増殖、そして返血時の致死的な取り違え事故のリスクも指摘されている。 貯血された自己血は、冷蔵全血保存(有効期間は21~35 日間)あるいはMAP添加赤血球液(同42 日間)として保存する。赤血球を凍結すると長期間保存できるが、特殊な設備や、冷凍・解凍の複雑な操作を必要とするため行うことのできる施設は限られる。 採血した血液は、感染症の有無に関わらず他の患者への転用は禁止であり、使用しない場合、感染性医療廃棄物としての処理が必要である。 一方で貯血式自己血輸血は、まれな血液型患者にとっては有効な輸血手段となりうる。この場合、不規則抗体を産生している患者にとってのメリットはさらに大きい。 2) 希釈式自己血輸血 全身麻酔導入後、手術室で患者の血液を採取し、採取した量と同量の代用血漿剤などを投与して血液を希釈した状態で手術を行う。手術の進行に伴い出血が増加した際に、あらかじめ採取しておいた自己血を返血する手法である。 血液が希釈された状態で手術を行うため、実質的な出血量を減少させることができ、新鮮な自己血を使用でき、採血に際しては、血液バッグ、ローラーペンチ、チューブシーラー以外の特別な器具を必要とせず、また高度な貧血がない限り、緊急手術にも対応可能である。 ただし、採血量に制限があり、麻酔および手術時間が延長する可能性がある。また、心筋障害や弁膜症などの心臓予備力がない患者、腎機能障害や出血傾向のある患者、高度の貧血患者、重度の脳血管狭窄患者には禁忌とされており、臨床的有用性については現在も議論が続いている24,27)。
3) 回収式自己血輸血 手術中または術後に出血した血液を回収し、専用の装置を用いて洗浄・濃縮した赤血球を患者に返血する方法であり、大量出血が予想される手術や、緊急手術にも対応できる。回収式のうち洗浄式は、回収した血液を生理食塩水液で洗浄するため、遊離Hb や細菌、脂肪球などの有害物質を高い除去率で取り除くことができるが、非洗浄式では細菌・腫瘍細胞混入や肺塞栓などの合併症リスクが高い。いずれにせよ、腸管手術など細菌汚染のリスクが高い手術や、悪性腫瘍細胞の混入が懸念される場合は、回収式は適さない。 表1 自己血輸血の3 つの方式の特徴 貯血式希釈式回収式 採血タイミング手術前(数週間かけ て)全身麻酔導入後、手 術室にて手術中・術後 必要な医療機器採血用バッグ、保冷庫 採血用バッグ、輸液 用器具など専用の自己血回収装 置 利点術前に計画的な採血 が可能新鮮な血液を使用。 実質的な出血量を軽減大量出血に対応、緊 急手術に対応 問題点採血に伴う貧血、 VVR、保管中の汚染麻酔・手術時間の延 長、心臓予備力のない患者には禁忌細菌汚染、悪性腫瘍 細胞混入リスク。装置が高価 緊急手術への対応原則不可対応可(高度貧血を 除く)対応可 主な適応領域予定手術全般(整形外 科、心臓血管外科など)心臓血管外科手術な ど大量出血が予想され る手術、外傷など 文献 1 田中純子, 鹿野千治, 秋田智之. 厚生労働科学研究費補助金(医薬品・医療機器等レギ ュラトリーサイエンス政策研究事業)令和4年度 研究報告書 新たなアプローチ方法による献血推進方策と血液製剤の需要予測に資する研究. https://mhlwgrants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202225009A-buntan2_0.pdf (2025 年10 月現
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II 血液製剤の管理体制 1 輸血用血液製剤保管管理 輸血用血液製剤は、人体の一部である血液を原料とする点で他の医薬品とは根本的に異なる性質を有している。したがって、その使用にあたっては臓器移植と同様に考え慎重に使用しなくてはならない。また、善意の献血によって得られるものであるため、輸血用血液製剤は無駄にすることがないよう有効かつ適正に使用することが強く求められている。本項では、輸血用血液製剤の適切な保管・搬送・管理方法を明示し、医療現場における輸血療法の安全性と効率性の確保を目的とする。 1) 管理体制の在り方a)輸血療法委員会と輸血部門の設置 輸血療法委員会は、輸血療法の適応、輸血検査項目、実施手順、保管管理、輸血療法に伴う事故や副反応への対応など、輸血療法の質を担保し適正な輸血療法を推進することを任務とする。委員会の開催頻度は年6 回以上が望ましく、その議事録や指針の周知活動も重要である。一方、輸血部門は、血漿分画製剤も含めた輸血用血液製剤を一元的に管理する体制を構築し、24 時間体制での対応が求められる。輸血部門の業務としては輸血用血液製剤の受領(搬入)、搬送(搬出)、保管管理、在庫・返品管理、輸血関連検査、適正な輸血療法の推進、輸血副反応の対応、輸血療法の情報管理がある。 b)輸血用血液製剤の保管場所と保冷庫の条件 輸血用血液製剤の保管場所は、可能な限り輸血部門に限定し、各診療科や病棟での保管は避ける。特定の患者用の輸血用血液製剤は当該患者用であることが識別できるよう明示して保管する1)。保冷庫および保管器具は、自記温度記録計および警報装置が装備されており、自家発電装置付き電源に接続することが望ましい。これらは輸血用血液製剤のみを保管する2)。ATR による保管も推奨する1,3)。 c)輸血用血液製剤の在庫管理と返品等の取り扱い
輸血用血液製剤の発注と在庫管理は輸血部門が24 時間、一括して行う。輸血用血液製剤の管理台帳を作成するか、納入伝票、返品伝票、患者ごとの使用伝票を適切に保管する。輸血管理システムを用いて電子的に記録しておくことも可能である。記録類は少なくとも20 年間保管する4)。 d)小規模医療機関における輸血用血液製剤の保管 小規模医療機関においては、輸血療法委員会や輸血部門が設置されていない場合でも、本ガイドを遵守し輸血用血液製剤は適切な温度の管理が可能な保冷庫または保管器具にて保管すべきである。ATR は温度記録が行われるため、赤血球製剤の保管や搬送に有用である。なお、家庭用冷蔵庫は赤血球製剤の保管には適さない5)。 2) 実施体制の在り方a)温度管理と保守点検 保冷庫や保管器具の温度管理は、輸血用血液製剤の品質を保つうえで最も重要な管理項目の一つである。自記温度記録計は毎日点検し、記録(電子的な方法でも可)し保存する。さらに、保守点検は少なくとも月に一回は実施し、温度計測や警報装置の作動確認を行う。保冷庫や保管器具等に異常が発見された場合には、直ちに製造元等へ連絡し、迅速に対応する。 b)輸血用血液製剤の(受領)搬入 日本赤十字社血液センターから搬入される製剤は、納品伝票に基づき、施設名・製剤種類・製造番号・有効期限を確認し、輸血用血液製剤の本体と照合する。また、輸血用血液製剤の外観に異常がないことを確認後に受領し、輸血管理システムに直ちに登録することが望ましい。一度医療機関が受領した輸血用血液製剤は日本赤十字社血液センターへの返品は原則できない。 c)輸血用血液製剤の依頼 輸血用血液製剤の依頼は、オーダリングシステムまたは依頼伝票に基づいて輸血部門へ申し込む。依頼する場合には、診療科(病棟)名、患者情報(ID 番号、姓名、性別、生年月日、年齢等)、輸血用血液製剤の使用年月日時ならびに名称、数量および血液型(ABO、RhD 血液型)、不規則抗体の有無等を入
力または記載する。赤血球製剤の依頼時は、輸血日を含め3 日以内に採血された患者の交差適合試験用検体を添えて、輸血部門へ提出する6)。 d)輸血用血液製剤の搬出 搬出時には患者情報・診療科(病棟)、血液型の確認を行う。輸血用血液製剤の血液型、製剤種類、製造番号、有効期限、数量等の照合を行い、払い出し者および受領者記載等を行う。一回の搬出量は直ちに使用する最小数量とし、可能な限り一症例一バッグとするよう努める。診療科(病棟等)での保管を行わないようにする。但し、手術室・救急外来・救命センター等で輸血部門が輸血用血液製剤専用の保冷庫および保管器具の管理を行っている場合は、輸血部門と同様に輸血用血液製剤を一時的に保管することができる。搬出の際には、目視での外観検査(確認)を行う。搬送時には温度変化が少なく、保管温度を保つことができる搬送用容器を使用する。製剤種類によって保管温度が異なるため、異なる種類の製剤と同時に搬送するときには同一の搬送容器に入れたり、重ねたりしてはならない。搬出された輸血用血液製剤は原則速やかに患者へ使用する。使用されなかった輸血用血液製剤の取り扱いは、各医療機関において保管状況を踏まえて定義し、院内規則(マニュアル)に明記することが望ましい。廃棄として扱う場合には廃棄処理伝票を作成し、廃棄血液扱いとして処理する。輸血部門の管理下の保冷庫および保管器具で保管されていた輸血用血液製剤は他の患者に転用できる。 e)在宅輸血における患家への輸血用血液製剤の搬送方法 医療機関から患家への輸血用血液製剤の搬送は、往診の順番等に配慮し速やかな使用を心がける。ATR を有さない医療機関では、内部温度変化の少ない搬送容器を使用し、搬送容器内に蓄冷剤(保冷剤)を貼付し、温度ロガー等による温度記録を行い、適切な温度範囲内で搬送されたことを確認することが望ましい。 運用の詳細は「輸血用血液製剤保管管理ガイド」1)を参照する。 2 輸血の管理体制の在り方
輸血療法は、患者の命を救う重要な治療法だが、感染症や免疫学的副反応などのリスクが伴う。これらのリスクを最小限に抑え、安全かつ適切に輸血を実施するためには、医療機関全体で一貫した管理体制を構築することが不可欠である。 1)輸血療法の実施に関する管理体制 輸血療法を実施するにあたり、以下の管理体制が求められる。 a)医療関係者の責務 医療関係者は、輸血用血液製剤が特定生物由来製品であることを認識し、感染リスクに注意を払う必要がある7)。患者や家族に対しては、輸血の必要性、使用する血液製剤の種類、輸血に伴うリスク、代替治療法(自己血輸血など)についてインフォームド・コンセント(説明と同意)( I-1-3)参照)を適切に行い、同意書を取得する必要がある4)。また、特定生物由来製品を使用した際は、使用者の氏名や住所、使用した製剤の製造番号などを20 年間記録・保管する義務がある4)。 b)適応の決定 輸血の目的は、血球成分や凝固因子を補充し、臨床症状の改善を図ることである。輸血はリスクを伴うため、効果がリスクを上回るか十分に考慮し、最小限の量を投与することが重要である。他の薬剤で治療が可能な場合は、輸血を極力避けるべきである。 2)輸血の管理体制の組織構造 輸血療法には複数の部署が関わるため、医療機関内で以下のような一貫した業務体制を構築することが推奨される。 a)輸血療法委員会の設置 輸血の適応、血液製剤の選択、検査、輸血医療事故の対策、自己血輸血の実施方法などを定期的に検討・検証する委員会を設置する。議事録を作成・保管し、院内に周知する。 b)輸血責任医師の任命
輸血業務全般を監督する責任医師を任命する。この医師は、輸血関連の専門知識を持ち、副反応発生時のコンサルテーションに対応し、院内の輸血体制を整備する役割を担う。患者誤認や不適合輸血を防ぐための手順書の作成・改訂も行う8)。 c)輸血部門の設置 日常的に輸血を行う医療機関では、責任医師の監督のもと、輸血用血液製剤の請求、保管、払い出し、輸血関連検査などを一括管理する輸血部門を設置し、業務を集中的に行う。 d)担当臨床検査技師の配置 輸血検査業務は、十分な知識と経験を持つ臨床検査技師が担当し、24 時間体制で検査および輸血管理を実施することが望ましい。 e)職員教育 診療科の看護師や医師、そして輸血部門の専任臨床検査技師だけでなく、日直・当直(日勤・夜勤)の臨床検査技師も含めた全職員の協力が不可欠である。輸血療法に関する注意事項をすべての関係者に周知徹底することが求められる。 3)不適合輸血を防ぐための検査以外の留意点人為的な過誤を防ぐため、以下の点に注意が必要である。 a)血液型検査用検体の採血時の取り違い 血液型判定は、採血時に患者確認を厳重に行い、異なる時点で採血された別検体を用いて実施し、結果が一致した場合に確定する。 採血時には、複数人の採血管を同時に持ち歩いたり、識別子のない採血管に採血したりするなど、誤認が生じやすい行為は避けるべきである。 b)検査結果の誤記や誤入力 同一検体を異なる技師による二重測定により検体誤認や誤判定を防止する。判定結果の記録や管理には、輸血管理システムの活用が有効である。 c)検査結果の適切な保全・結果の転記や入力時に過誤が起こらないよう注意を払う。
・結果の伝達には判定結果用紙等を用いて、口頭での伝達を避ける。 4)輸血用血液製剤の管理体制安全かつ効果的な輸血療法を実施するために、以下の点に注意し管理する。 a)輸血用血液製剤の保管 各種輸血用血液製剤は、専用の保冷庫で厳格な温度管理(赤血球製剤は2~ 6°C、FFP は-20°C以下)をする。 血小板製剤は室温(20~24°C)で水平振盪の下で保管する。赤血球製剤は、適切な温度管理が不可欠である。これまでの研究から、所定の温度外に製剤を取出す際の許容時間について、以下のような知見が得られている。i)経過時間の上限と品質への影響 国内外の研究より、赤血球製剤は30°C以上の環境に60 分間曝露されても溶血やATP 濃度等に大きな変化はなく品質が維持されることが報告されている。以上より室温60 分間は許容される9-12)。ii)細菌増殖と経過時間 細菌を混和した赤血球製剤を室温(中心温度が約14°C)で30 分または60分静置した場合、どちらの経過時間でも細菌の増殖に大きな差は認められなかった。この結果も、60 分以内の使用を支持している10)。iii)複数回の温度逸脱と品質 照射赤血球液-LR「日赤」が、28°Cで3 時間あるいは28°Cで1 時間が2 回以内の曝露の時,赤血球品質に及ぼす影響は少なく、少なくとも28°Cで60 分以内での室温曝露であれば安全に使用可能と考えられる11)。 5)血液製剤の効率的な準備方法 手術時または直ちに輸血する可能性の少ない場合、血液の無駄をなくし、業務を効率化するために、以下の方法が推奨される。 a)血液型不規則抗体スクリーニング法(Type & Screen; T&S) 輸血する可能性が低い手術の場合、事前にABO 血液型、RhD 血液型および不規則抗体を検査しておく。RhD 陽性で不規則抗体陰性の場合、事前に交差適
合試験を行わない。緊急時に輸血が必要になった際は、オモテ検査による輸血用血液がABO 血液型同型の血液(ABO 同型血)であることの確認、生理食塩液法(迅速法、室温)による主試験適合の確認、あるいは、コンピュータクロスマッチ(後述、P43 参照)のいずれかを行い、速やかに輸血を行う。 b)最大手術血液準備量(MSBOS) 過去の手術データに基づいて、術式ごとに適正な準備量を設定する。術式別の輸血量(T)と準備血液量(C)を調べ、両者の比(C/T)が1.5 倍以下になるような量の輸血用血液製剤を、交差適合試験を行って事前に準備する。 c)手術血液準備量計算法(SBOE) 患者ごとの術前Hb 値などを考慮し、より無駄のない輸血準備量を計算する。 6)医療機関における細菌感染への対応13)輸血後に細菌感染が疑われる場合に対応するため、医療機関は以下の手順で対応する。 a)使用済みバッグの保存 輸血に使用したすべての使用済みバッグは、中身が残った状態で清潔に適切な条件で保存しておくことが望ましい(冷凍は不可)。副反応発生時には原因となる輸血用血液製剤の確保と回収が必要になるが、それを円滑に行うには輸血に関わる全職員の理解と協力が必要である。なお、細菌感染症の発症がなければ、数日後に廃棄しても差し支えない。 b)受血者の血液培養と情報提供i)血液培養 輸血後に細菌感染症を発症した患者については、血液培養を行い、原因菌の特定に努める。ii)情報提供 検査結果や健康情報を日本赤十字社血液センターに提供し、調査に協力する。この際、保管していた使用済みバッグをすべて提供する必要がある。iii)感染性副反応報告 公衆衛生上の観点から必要と認められる場合は、厚生労働省(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)へ感染性副反応の報告を行う。
iv)その後の情報提供 患者の病状に変化があった場合、引き続き日本赤十字社血液センターに情報を提供する。 c)輸血後の異常に関する原因究明と回収 輸血後に患者に異常が認められた場合、原因となった可能性のある輸血用血液の特定と、適切な検査・回収を行うことが不可欠である。i)検査項目1細菌感染症 発熱や呼吸困難、血圧低下など細菌感染症が疑われる症状が認められた場合、細菌培養やエンドトキシンなどの検査を実施する。2溶血関連検査 溶血が確認された場合は、患者の血液型等の再確認・再検査などを行う。続けて使用済みバッグについても確認を行う。ii)使用済みバッグの回収上の注意1輸血セットごとの回収 輸血に使用したバッグと輸血セットをすべて回収する。2二次汚染の防止 細菌培養などの検査に備え、輸血バッグや輸血セットが二次的に汚染されないよう注意が必要である。 輸血セットのクランプをしっかり閉め、針を外した後に清潔なキャップでカバーする。 清潔なビニール袋に入れ、速やかに輸血部門に返却する。輸血部門では、チューブシーラーでチューブ部分をシールすることが望ましい。 溶血の場合の確認事項:溶血が認められた際は、輸血針の口径、赤血球液の加温の有無、および同一ルートからの薬剤投与の有無を確認する。 d) 臨床菌株の保管と調査協力輸血後に感染性副反応が疑われる場合、医療機関は以下の手順で対応する。i)菌株の保管患者の血液培養で菌が同定された場合、その菌株または培地を適切に保管する。ii)調査協力
日本赤十字社血液センターから要請があった際には、保管していた菌株を提供し、調査に協力する。これにより、患者および血液製剤から検出された菌株が、遺伝子レベルで同一か否かを解析することが可能となる。 7) 輸血によるウイルス感染のリスク 個別NAT スクリーニングの導入などにより、供血者がウインドウ期にあることによる感染も含め、HBV、HCV およびHIV の輸血後感染は極めてまれとなっている(表1)。医師は感染リスクを考慮し、感染が疑われる場合にはHBV、HCV およびHIV の輸血後感染症検査を実施する。ただし、輸血後感染症の原因究明や遡及調査のため、輸血前検体の保管は全例で実施すべきである。 化学療法や免疫抑制剤の使用により、B 型肝炎既往感染者ではHBV 再活性化をきたすことがある。化学療法と輸血療法を併用した後にB 型肝炎を発症した場合、輸血感染との鑑別が困難となるため、輸血開始前に血液検体を保存し原因を特定できるように備えておくことが重要である。 表1 輸血によるHBV、HCV およびHIV の感染リスク (日本赤十字社輸血情報1804-159 より) 輸血によるHEV 感染は、2002 年以降に国内で45 例が報告されているが、2020 年8 月にHEV 個別NAT スクリーニングが導入されて以降は、輸血による感染例は報告されていない。輸血によるHEV 感染リスクは極めて低いと考えられるが、十分な検証はなされておらず、潜在的なリスクが過小評価されている可能性はある。 3 輸血の実施体制の在り方 安全かつ適切に輸血を実施するためには「輸血の管理体制の在り方」に基づき、医療機関全体で一貫した実施体制を構築することが不可欠である。加え
て、輸血実施体制を整備し、不適合輸血を防止するとともに、安全かつ効果的な輸血医療を実践することが重要である。 1)輸血療法の実施に関する管理体制 輸血療法を実施するにあたり、医療者は責務を果たし、輸血実施のための管理体制を構築することが求められる。輸血医療に携わる医師・看護師・臨床検査技師が、その高い専門性を用いて業務を分担し連携・補完し合い、輸血管理および実施体制を構築するチーム医療が重要である14)。 図1 輸血医療チームの役割 2)適合試験と緊急時の対応 適合試験は、血液型検査、不規則抗体スクリーニング、そして輸血直前の交差適合試験(クロスマッチ)から構成される。(輸血検査の章を参照) a)適合試験の実施方法 i)交差適合試験
1患者検体 原則として、血液型検査とは別の時点で採血した新しい検体を使用する。2輸血用血液製剤の選択患者とABO 血液型が同型の血液製剤を用い、RhD 陰性患者にはRhD 陰性の血液製剤を使用する。臨床的に意義のある不規則抗体が検出された場合は、対応する抗原陰性血を選択する。3コンピュータクロスマッチ15)以下の条件をすべて満たす場合には、輸血管理システムを用いて適合性を機械的に確認することで、人為的な過誤を排除し、手順を合理化できる。なお、輸血管理システムには不一致や選択ミス時等に警告できることが求められる。 表1 コンピュータクロスマッチに適合する患者の条件と輸血管理システムに必要な条件 患者条件輸血管理システム条件ABO、RhD 血液型は異なる検体で2 回以上実施済ABO、RhD 血液型の2 回以上の履 歴が確認できる 輸血日を含む3 日以内の患者検体および過去に臨床的意義のある抗体が検出されていない不規則抗体の履歴が確認できる児が母親由来IgG 型抗A/抗B および不規則抗体を保有しない生後4 か月未満の児は、児または 母親由来の不規則抗体情報を確認できる策を講じている 医療機関で赤血球製剤のABO 血液型がオモテ検査で確認されている。RhD 陰性の赤血球製剤はRhD 抗原検査が実施されている入庫後の輸血用血液製剤のABO 血液型の確認情報が管理できる なお、患者検体は採血時に患者誤認がないように実施されていることが前提である。また、血液型不適合造血幹細胞移植後でも輸血歴や現在の血液型を輸血管理システムなどで適切に管理されていること、また緊急輸血では患者誤認、詐称や検査過誤がないよう十分配慮されていることを条件にコンピュータクロスマッチを行うことは可能である。 ii)緊急時の輸血 出血性ショックなど、緊急に輸血が必要な場合は、以下の手順で対応する。1血液型確定前ABO 血液型を判定する時間がない場合、O 型赤血球液(異型適合血)を使用する16)。
2血液型確定後ABO 同型血を輸血し、並行して不規則抗体スクリーニングおよび交差適合試験を実施する。3RhD 陰性患者RhD 陰性の血液製剤の入手を優先する。ABO 同型のRhD 陰性血の入手が困難な場合、ABO 血液型は異型であるが適合のRhD 陰性血を使用してもよい。特に女児や妊娠可能な女性にはRhD 陽性血輸血からRhD 陰性血輸血にできるだけ早く切り替える。4事由の説明と記録緊急時に交差適合試験未実施の血液や、O 型赤血球を使用した場合は、その経緯と予想される合併症を患者や家族に説明し、診療録に記録する。 iii)大量輸血時の適合血 24 時間以内に循環血液量と等量以上の輸血を行う場合、以下のように対応する。1追加輸血時の交差適合試験時間がない場合、少なくとも生理食塩液法による主試験を行い、ABO 血液型不適合輸血を避ける。2不規則抗体陽性の場合異型適合血も含めて対応する。抗原陰性血が間に合わない場合、救命を最優先し、ABO 同型血を輸血する。3救命処置大量出血時には、同型血のみでは対応できない場合があり、その際はABO異型適合血の使用も考慮する16)。 表2 緊急時の輸血 〈患者血液型が確定している場合〉 患者ABO 血液型異型であるが適合である赤血球 O 型なしA 型O 型B 型O 型AB 型A型もしくはB型を第一選択としどちら も入手できない場合にO型を選択する
〈患者血液型が未確定の場合〉 O 型 3)輸血の実施体制 安全かつ効果的な輸血療法を実施するために、以下の点に注意する。 a)輸血前i)外観検査(確認)輸血前に、血液バッグの色調変化、溶血、凝集物の有無などを目視で確認す る。特に血小板製剤は、細菌混入に注意し、著しい「凝集物」がないこと、「スワーリング」について確認する。ii)一回一患者輸血用血液製剤の準備は患者ごとに行い、複数の患者の分をまとめて準備することは避ける。iii)チェック項目輸血用血液製剤の受け渡し時や輸血実施時に、患者氏名、血液型、製造番号などを二人で声に出して確認し、記録する。患者照合には、ID 番号や生年月日なども併せて確認する。iv)電子機器による確認患者のリストバンドと輸血用血液製剤を電子機器での照合することも有効である。 b)輸血中i)輸血開始直後の観察輸血は1 分間に1mL 程度の緩やかな速度で開始し、開始後5 分間はベッドサイドで観察する。不適合輸血では血管痛、胸痛、腹痛などが出現し得る。ii)輸血開始後の観察15 分経過後も再度観察し、アレルギー症状などがないか確認する。輸血開始10~15 分経過後に副反応の症状が認められなければ、輸血速度を1 分間に5mL 程度に速めてよい。その後も適宜観察を続けて早期発見に努める。 c) 輸血後
i)確認事項輸血終了後に、患者名、血液型、製造番号を再度確認し、終了時間や副反応の有無を診療録に記録する。ii)輸血後の観察輸血終了後も、TRALI、TACO、細菌感染症などの重篤な副反応が起こる可能性があるため、継続的な観察が重要である。 d)患者検体の保存 輸血による感染事例の遡及調査に備え、輸血前の患者血液を-20°C以下で2年間を目安に保存することが推奨される。 4 輸血の有効性・安全性の評価、管理体制および使用記録 の保管 輸血療法では、患者の状態を継続的に観察し、その有効性と安全性を評価することが求められる。輸血用血液製剤は、「特定生物由来製品」に該当するため、法律により使用記録の作成と保管が義務付けられている4,17)。これらの記録は、医療機関内での輸血過誤防止や、万一副反応が発生した場合の原因究明に役立つ重要な情報である。医療機関は、これらの情報を適切に記録・保管するための体制を整備しなければならない。 1)輸血療法の基本的な考え方 輸血は患者を救う有効な補充療法の手段である一方で、臓器移植に準ずるものであり、感染症や免疫反応といったリスクを伴う。そのため、以下の原則に基づいて実施することが求められる。 a)適応の厳格化 輸血は「真に必要とされる患者」にのみ行われるべきである。鉄剤や赤血球造血刺激因子製剤(ESA)などの代替療法を優先的に検討し、他の手段がない場合にのみ輸血を実施する。国際的な動向を踏まえ、術前の貧血管理、術中・術後の出血量削減、適正な輸血指標の設定という PBM の3本柱を総合的に推進する(I-1-4)参照)。
b)客観的指標に基づく判断 輸血が適正に行われているかを評価するため、C/T 比、FFP/RBC 比、ALB/RBC 比といった定量的な指標を定期的に把握・評価する。 c)過剰・過少輸血の回避 過剰な輸血は心臓への負担や副反応のリスクを増やし、逆に少なすぎると病状が悪化する可能性があるため、ガイドラインと患者の状況に応じて適切な量を検討することが重要である。 特に、血小板輸血は過剰投与を避けることを基本とする。 2)輸血管理体制と改善活動 輸血の安全性を確保するためには、医療機関全体で継続的な管理体制を構築することが重要である。 a)院内マニュアルの整備 ガイドラインに準拠した院内マニュアルを作成し、定期的に見直すことで輸血に関する知識の標準化を図る。 b)教育・研修の実施 新入職者を含むすべての職員に対し、定期的な研修を行い、最新の情報を共有する。 c)情報の共有、院内周知 輸血療法委員会の決定事項や最新の輸血関連情報、ヒヤリハット事例などをイントラネットや通知文書など多様な手段で全職員に周知する。輸血療法委員会と病院管理会議が連携し、方針決定と改善策の実行を円滑にして医療機関全体で安全かつ適正な輸血療法を推進する。 d)ヒヤリハット事例の分析 輸血に関するヒヤリハット事例を集積・分析することで、潜在的なリスクを洗い出し、再発防止策を講じる。これは、医療安全文化の醸成にもつながる。 e)院内輸血監査の実施
輸血が法令やガイドラインに沿って適切に行われているか、定期的に年2 回以上の監査を実施する。輸血の適応や効果、安全管理手順の実施状況などを総合的に評価し、改善につなげる。 3)輸血に関する記録の保管と管理 輸血に使用される輸血用血液製剤は「特定生物由来製品」に該当するため、法律に基づく厳格な記録管理が義務付けられている。 a)記録の長期保管の義務 輸血に関する記録は、薬機法4)に基づき使用日から20 年間の保管が義務付けられている。これは、輸血後感染症など、時間を経て発生する可能性のある健康被害の原因究明に備えるためである。 b)記録すべき情報 輸血の目的と根拠、使用した輸血用血液製剤の詳細(製造番号を含む)、実施年月日時、担当者、輸血効果、副反応の有無と対応など、輸血に関するすべての情報を診療録などに正確に記録し、追跡可能な状態にしておく必要がある。 c)情報の活用 記録された情報は、症例検討や輸血監査、教育、学術研究に活用され、医療の質向上に寄与できる。 これらの情報の利活用は、医療機関全体で安全かつ適正な輸血療法を推進する文化の醸成に資する。 輸血に関連する全ての工程(献血から患者への投与まで)の情報を正確に管理し、追跡可能な状態(トレーサビリティの確保)を維持する必要がある。これにより、不適合輸血の防止や、副反応発生時の迅速な対応が可能になる。院内で調製した製剤(分割製剤、同種クリオプレシピテート、自己フィブリン糊など)や、院外で行う輸血についても同様の管理が必要である。 d)副反応の情報管理 副反応が発生した際は、詳細を記録し、原因究明と再発防止に努める。この記録は、日本赤十字社などの血液供給機関への情報提供を通じて、輸血用血液製剤全体の安全性向上に貢献する。
e)輸血適応と効果の評価・記録 輸血が本当に必要だったか、量は適切だったか、代替療法を検討したかなどを多角的に評価し、記録する。 また、輸血後の患者の状態(臨床所見や検査値)を観察し、輸血効果を数値的に判断して記録することが重要である。これらの記録は、輸血療法委員会での検討や輸血監査に活用され、医療の質の向上に役立つ。 文献 1 奥田 誠, 田中 朝志, 藤田 浩, 他. 輸血用血液製剤保管管理ガイド. 日本輸血細胞治療 学会誌 2024;70(6):562-578. 2.田中 朝志, 飛田 規, 紀野 修一, 他. 日本における輸血機能評価認定(I&A)の意義. 日本輸血細胞治療学会誌 2020;66(1):7-12. 3 藤田 浩, 三根 堂, 堀 真樹, 他. 在宅輸血における可搬型血液冷蔵庫の試験運用. 日本 輸血細胞治療学会誌 2020;66(5):680-684. 4 厚生労働省. 医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(令 和7 年4 月一部改正). https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=81004000&dataType=0&pageNo=1 (2025年10 月現在). 5 奥田 誠, 舘野 友紀, 田中 朝志, 他. 各種保冷庫における赤血球製剤保管場所による温 度変化についての検討. 日本輸血細胞治療学会誌 2023;69(3):448-456. 6 池本 純子, 奥田 誠, 石丸 健, 他. 赤血球型検査(赤血球系検査)ガイドライン(改訂 5 版). 日本輸血細胞治療学会誌 2025;71(4):597-628. 7 厚生労働省. 安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律(令和6 年4 月一部改 正). https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=81090000&dataType=0&pageNo=1 (2025 年10 月現在). 8.「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(平成30 年改訂版). https://www.mhlw.go.jp/content/11127000/000547093.pdf (2025 年10 月現在). 9 Thomas S, Hancock V, Cardigan R. The 30 minute rule for red blood cells: in vitro quality assessment after repeated exposure to 30°C. Transfusion 2013;53(6):1169-77. 10 Ramirez-Arcos S, Perkins H, Kou Y, et al. Bacterial growth in red blood cell units exposed to uncontrolled temperatures: challenging the 30-minute rule. Vox Sang 2013;105(2):100-7. 11 内藤 祐, 秋野 光明, 柴 雅之, 他. 低温保存から10°Cまたは28°Cに曝露された赤血球 製剤の品質. 日本輸血細胞治療学会誌 2017;63(6):748-756.
12 Robinson S, Harris A, Atkinson S, et al. The administration of blood components: a British Society for Haematology Guideline. Transfus Med 2018;28(1):3-21. 13 厚生労働省医薬・生活衛生局血液対策課. 血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン(令 和4 年5 月一部改正). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202939_00001.html (2025 年10 月現在). 14 輸血チーム医療に関する指針策定タスクフォース 日細. 輸血チーム医療に関する指針 (第5 版). https://yuketsu.jstmct.or.jp/wpcontent/uploads/2017/12/787520f58e91975cfa77f1a3c641b96c.pdf (2025 年10 月現在). 15 奥田 誠, 名倉 豊, 岸野 光司, 他. コンピュータクロスマッチに適合する患者と輸血管 理システムに必要な条件(改訂2 版). 日本輸血細胞治療学会誌 2024;70(1):7-11. 16.日本麻酔科学会、日本輸血・細胞治療学会. 危機的出血への対応ガイドライン. https://anesth.or.jp/files/pdf/kikitekiGL2.pdf (2025 年10 月現在). 17 厚生労働省. 「特定生物由来製品に係る使用の対象者への説明並びに特定生物由来製品 に関する記録及び保存について」(平成15 年5 月15 日付け医薬発第0515011 号(社)日本医師会会長等あて厚生労働省医薬局長通知) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta7999&dataType=1&pageNo=1 (2025年10 月現在). III 血液製剤の使用 1 赤血球製剤 1) 製剤の使用目的 赤血球輸血の主たる目的は、不足した赤血球を補い組織や臓器へ十分な酸素を供給し、循環血液量を維持することである。酸素供給はヘモグロビンが担うため、赤血球輸血の適応や効果の判定には血中Hb 値を指標にすることが多い。 2) 適応の現状 これまでの赤血球輸血適応のランダム化比較試験の結果から、一般的に輸血
トリガー値(閾値)をHb 7~8g/dL にした赤血球輸血療法で安全で十分な臨床的効果があることが示唆されている。しかし、心肺機能に障害がある患者、虚血性心疾患における輸血トリガー値には議論がある。また、急性出血の場合、Hb 値だけを輸血適応の判断材料にせず、臨床症状(血圧、脈拍など)を参考にする。 3) 使用指針1) a) 原疾患の治療を優先すべき疾患 鉄欠乏性貧血、巨赤芽球性貧血、AIHA では、生命の維持に支障をきたす場合を除いて、赤血球輸血を行わないことが提案されている。AIHA と診断された入院患者450 名の後方視的解析では、Hb 4.0~5.9g/dL がAIHA 患者にとって最良の輸血トリガー値であることが示されている2)。 b) Hb 6~7g/dL を赤血球輸血トリガー値として考慮する疾患 再生不良性貧血、骨髄異形成症候群などでは、Hb 6~7g/dL を輸血トリガー値とした制限輸血が弱く推奨されている。Association for the Advancement of Blood & Biotherapies(AABB)のガイドラインにおいて「造血器疾患および腫瘍性疾患」では、Hb 7 g/dL 未満での輸血が“low certainty evidence”に基づく弱い推奨とされている3)。 c) Hb 7~8 g/dL を輸血トリガー値として考慮する疾患 本邦のガイドラインでは、固形癌化学療法による貧血、造血器腫瘍に対する化学療法、造血幹細胞移植における貧血、消化管出血における急性期貧血、周術期患者の貧血において、輸血トリガー値をHb 7~8 g/dl とすることが推奨されている。また、心臓手術における貧血において、輸血トリガー値をHb 7.5~ 8 g/dL とすることが提案されている。一方、AABB のガイドラインでは血行動態が安定している入院成人患者において、Hb 7 g/dL 未満の場合に赤血球輸血を行うことが推奨されている。AABB のガイドラインは血行動態が安定している入院患者を対象としているのに対し、本邦のガイドラインは血行動態にかかわらず病態別に評価しているため、トリガー値の差が生じたものと推察される。 d) Hb 8~10 g/dL を輸血トリガー値として考慮する疾患
急性冠症候群のある貧血の患者において、もしくは、虚血性心疾患の非心臓手術における貧血の患者において、 Hb 8~10 g/dL を輸血トリガー値とした赤血球輸血が弱く推奨されている。 表1 病態別の赤血球製剤使用の推奨 病態推奨度輸血方針トリガー値再生不良性貧血など2C制限輸血Hb 6~7g/dl固形癌化学療法2C制限輸血Hb 7~8g/dL造血器腫瘍に対する化学療法2B制限輸血Hb 7~8g/dL造血幹細胞移植1C制限輸血Hb 7g/dL鉄・ビタミンB12 欠乏性貧血2C行わない自己免疫性溶血性貧血2C行わない消化管出血1A制限輸血Hb 7~8g/dL周術期2C制限輸血Hb 7~8g/dL虚血性心疾患・非心臓手術2C非制限輸血Hb 8~10g/dL急性冠症候群2C非制限輸血Hb 8~10g/dL慢性腎臓病2C必要最小限心臓手術2B制限輸血Hb 7.5~8g/dL敗血症1B制限輸血Hb 7g/dL 4) 投与量 赤血球液の投与により改善されるHb 値は、以下の式で算出される。予測上昇Hb 値(g/dL)=投与Hb 量(g)/循環血液量(dL) 5) 効果の評価 赤血球輸血後に上述の期待値を下回る場合、出血や溶血などを考慮する。大量出血、周術期の急性貧血の場合、Hb 値だけではなく臨床症状(血圧、脈拍など)を参考にする。 6) 不適切な使用凝固因子の補充を目的としないFFP との併用
患者の意思にそぐわない終末期における輸血根拠に基づかない慣習的な輸血 2 血小板製剤 1) 製剤の使用目的 血小板製剤は、1血小板減少あるいは機能異常による出血の予防と、2すでに起こった出血の止血の二つを目的に用いる。重篤な副反応(TRALI、TACO、 アナフィラキシー)発生率は投与回数に比例して高まるため、常に「必要最小限」を原則とする。 2) 適応の現状 国内で使用できるのは照射・白血球除去・細菌スクリーニング済み濃厚血小板のみである。10 単位(200 mL)が基本単位で、5~20 単位まで規格が設けられている。採血後6 日目24 時が有効期限で、納品時には残り1~2 日しかないことが多い。原材料は献血という希少資源であり、過剰発注や廃棄は厳に慎まなければならない。 3) 使用指針4)表1 血小板輸血推奨トリガー値 病態・手技推奨度トリガーコメント固形癌化学療法造血器腫瘍自家/同種移植2C 2B 2B 1 万/μL予防的輸血を基本とする 慢性造血不全(骨髄異形成症候群など) 2D 5 千/μL発熱・感染あれば1 万/μL へ引 き上げる 中心静脈カテーテル2D 2 万/μL PACER 試験で有益性が確認さ れている 腰椎穿刺2D 2 万/μL 2–5 万/μL は個別に判断する一般外科手術2D 5 万/μL止血が確認されるまで血小板 数5 万/μL を維持する
活動性出血頭蓋内外傷2D 2D 5 万/μL 10 万/μL右記の血小板数を維持するこ とを目標に輸血を行う 非外傷性抗血小板薬関連頭蓋内出血 (血小板10 万/μL 以上) 2B行わない予後改善のエビデンスがない早産児・超低出生体重児1B 2.5 万/μL 5 万/μL 以上での血小板輸血は 控える ITP 2C限定的活動性の出血や手術に際して 止血困難な場合に限り、IVIGやステロイドを併用して限定的に投与する。 TTP 2C避ける予防的輸血を避け、出血時のみ 最小量を慎重に投与する。 HIT 2C避ける予防的輸血は避ける。活動性出 血や出血高リスク手術時には慎重に投与する。 予防的輸血 vs. 治療的輸血:複数のランダム化比較試験において1 万/μL を下回るとWHO グレード2 以上の出血が増加する。一方、予防的輸血が致死的出血を減らす明確な証拠は得られていない。ただし、実臨床においては連休や遠隔地搬送を考慮し早めに予約輸血する運用も許容される。出血リスクに応じた調整:DIC・感染・抗凝固療法併用時はトリガーを2 万/μL、髄注・頭蓋内病変時は5 万/μL に引き上げる。 4) 投与量 日本における標準単位は10単位(約200 mL, 含有血小板数 2.0×1011個以上)であり、体重50 kg なら血小板数が約4 万/μL 上昇する。新生児・未熟児(特に早産児)では、体重換算(概ね5~10 mL/kg、または0.5~1.0×1011個/10 kg)で投与量を検討する。ただし、これらは実務的指標であり、小児一般に一律に適用するものではない。投与量は病態、出血の有無、循環動態を踏まえ個別に判断する。PLADO 試験では輸血を増やしても止血効果に差はなく、副反応のみが増加したため、多量投与は避けるべきである。
5) 効果の評価 輸血後16–24 時間で血小板数を測定し、CCI <5,000 なら不応を疑う。免疫性不応が疑われる場合は抗HLA 抗体検索とHLA 適合製剤使用を推奨する。 CCI は次式により算出する。CCI(/μL)=輸血血小板増加数(/μL)×体表面積(m2)÷輸血血小板総数(×1011) 6) 使用上の注意 ABO 不適合HLA 適合血小板輸血:溶血リスクは小さいが、必要時は低抗体 価製剤を選択する。 資源保全:有効期限が短く廃棄が問題となる。有効在庫を確認し、夜間・休 日分は事前協議で調整する。 3 新鮮凍結血漿 1) 製剤の使用目的 FFP は濃縮製剤が無い血漿成分の補充を目的とする。 2) 適応の現状 FFP は濃縮製剤の無い凝固因子欠乏において唯一の治療法であり、出血時において止血効果を示す。一部を除き血漿交換の置換液はFFP を用いなくても良い。 3) 使用指針5) a) 大量輸血の必要な手術・外傷 大量輸血時にはFFP をRBC と1:1、少なくとも1:2 以上の比で使用する。PT、APTT に明確なトリガー値は無い。これらの凝固検査マーカーが悪化した場合に使用を考慮する[推奨の強さ:なし]。フィブリノゲン濃度は産科領域以外の大量出血においては150mg/dL、産科領域の大量出血では200mg/dLを目安にFFP を使用することを弱く推奨する[2C]。大量出血に対する輸血では、早期からFFP を出来るだけ赤血球液と近い比率で使用することにより死亡
率の低下が期待でき、わが国の「大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン」においても同様の指針が示された6)。フィブリノゲン濃度は、フィブリノゲン製剤の使用に関し150mg/dL がトリガー値として使用される。FFP は凝固因子補充において大量の使用が必要であるためより高いフィブリノゲン濃度が閾値となりうる。妊婦は元々フィブリノゲン濃度が高く、より高値のフィブリノゲン濃度をトリガー値として早めの使用を考慮しても良いと考えられる。 b) 大量輸血を必要としない外傷・手術におけるFFP の予防的輸注大量輸血を必要としない外傷・手術におけるFFP の予防的輸注は施行しないことを推奨する。大量輸血を必要としない外傷・手術においてFFP の予防的使用が有益とする報告は無く、むしろ不利益とする報告が複数ある。この領域においてもPT、APTT、フィブリノゲン濃度の閾値は明らかでないため、FFP輸注は総合的な臨床判断のもと行うことを推奨する。 c) 非手術におけるFFP 輸注i) 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)後天性TTP に対し早期にカプラシズマブと併用しFFP を置換液とした血漿交換を実施すべきである。先天性TTP に対してFFP を使用しないことを弱く推奨する。遺伝子組換えADAMTS13 製剤の使用を考慮する。ii) ワルファリン効果の是正 緊急補正が必要な場合はPCC の使用が推奨される。FFP の使用はPCC が利用できない場合に限り弱く推奨される。iii) 肝障害 重症慢性および急性肝障害に対してFFP が使用されているが適応には慎重である必要がある。急性肝不全患者に限っては大量血漿交換療法が有効である可能性がある7)。iv) 単独凝固因子欠乏症(第V 因子欠乏症、第XI 因子欠乏症) 医学的蓋然性により予防輸注を行って差し支えない。v) ヘパリン起因性血小板減少症(HIT) 人工心肺を使用せざる得ない状況など限定した状況においてFFP を使用した血漿交換を行うことを弱く推奨する。vi) ワクチン起因性血栓性血小板減少症
高容量IVIG に治療抵抗性を示す場合においてFFP を使用した血漿交換を行うことを弱く推奨する。 表1 病態別のFFP 使用の推奨(活用にあたっては本文を参照)病態推奨度至適用量・使用方法大量輸血の必要な手術・外傷1C FFP:RBC 比 1:1 (少なくとも 1:2 以上) にてFFP を使用する 大量輸血を必要としない外傷・手術2B FFP の予防投与を行わないギラン・バレー症候群・CIDP 1A血漿交換にFFP を使用しない後天性TTP 1B血漿交換にFFP を使用する先天性TTP 2B FFP を使用しないワルファリン効果の是正2B (PCC が使用できない場合) FFP を使用する 急性肝不全2C血漿交換にFFP を使用する急性膵炎2C FFP を使用しない単独凝固因子欠乏症なしFFP の予防投与を行う熱傷1C FFP を使用しないHIT 2C (人工心肺使用時など) 血漿交換にFFP を使用する ワクチン起因性血栓性血小板減少症2C (高容量IVIG 抵抗性の場合) 血漿交換にFFP を使用する 4) 投与量 大量出血時には、FFP:RBC が出来るだけ1:1 の用量になるように使用する。 凝固因子を30%増加させるためには 12mL/Kg×回収率のFFP が必要である(回収率例:フィブリノゲン濃度:50%)。
5) 効果の評価 不適切な使用を避けるため、凝固因子欠乏の場合はPT、APTT、フィブリノゲン濃度の確認を行う。TTP の場合は血小板数を確認する。予測上昇凝固因子活性値(%) =(FFP の投与量(mL)×血中回収率(%))/ 循環血漿量(mL) 循環血漿量= 体重 x 40mL 6) 不適切な使用 膵炎・熱傷の治療に有効であるというエビデンスはない。 7) 使用上の注意 凍結状態のFFP バックは衝撃により破損し易く取り扱いに注意を要する。30~37°Cで解凍するが、不十分な解凍は凝集塊(クリオプレシピテート)を生じる可能性があるため、解凍機に示された時間を遵守することが重要である。 FFP には蕁麻疹などの副反応が約1%で生じうる。稀ではあるがTRALI、TACO、感染症などの副反応も生じる可能性がある。 4 アルブミン製剤 1) 製剤の使用目的 アルブミン製剤は血漿膠質浸透圧を維持することにより、循環血液量を確保する目的で投与される。 2) 適応の現状 20~25%高張と5%等張製剤があり、等張製剤は循環血液量減少性ショックや熱傷時の補充に、高張製剤は腹水を伴う肝硬変や肺水腫治療に適応となる。代用血漿剤が使用できない場合に選択される。急性期に目標アルブミン値を設定しても有効性は示されておらず、単なる低アルブミン血症では適応とならない。
3) 使用指針8)表1 アルブミン製剤を使用する主な病態とその推奨度高張アルブミン製剤等張アルブミン製剤使用することについての推奨強 腹水を伴う肝硬変 難治性腹水の管理(1A)大量穿刺排液後循環不全(1A)特発性細菌性腹膜炎(1A)肝硬変に伴う急性腎障害(1A) 凝固因子の補充を必要としない治療的 血漿交換療法(希釈使用)(1A) 凝固因子の補充を必要としない治療的 血漿交換療法(1A) 弱・小児の開心術 (人工心肺充填液への使用)(2B) 使用しないことについての推奨強 頭部外傷(1A/1B) 循環血液量減少性ショック(1A) 敗血症(1B) 弱 難治性の浮腫、肺水腫を伴うネフロ― ゼ症候群(2D) 低蛋白血症に起因する肺水腫あるいは 著明な浮腫(2B) 周術期の循環動態の安定した低アルブ ミン血症(2C) 重症熱傷(2C) 循環動態が不安定な体外循環(2C) 人工心肺を使用する心臓手術(2B) くも膜下出血後の血管攣縮(2C) 不適切な使用 蛋白質源としての栄養補給(2C) 終末期患者(2C) 使用が推奨される主な病態a) 腹水を伴う肝硬変 利尿薬併用の長期投与は腹水消失率や予後改善に有効である。大量腹水穿刺排液後の循環不全予防、特発性細菌性腹膜炎の全身循環改善、肝腎症候群の発症抑制に高張アルブミン製剤投与が強く推奨される[1A]。 b) 凝固因子の補充を必要としない治療的血漿交換療法慢性炎症性脱髄性多発根神経炎などの神経疾患[1A]やABO 不適合移植の抗体除去[1B]において、アルブミン製剤の使用が有効である。 c) 人工心肺を使用する心臓手術(小児) 人工心肺充填液として20%アルブミン製剤追加により循環動態が安定し、ICU 滞在期間および入院期間の短縮が期待される[2B]。
使用が推奨されない主な病態d) 循環血液量減少性ショック 晶質液と比較して優位性がなく推奨されず、第一選択は晶質液である[1A]。ただし、死亡率や人工呼吸管理日数の改善が見込まれるため、病態を考慮した上での膠質液(アルブミン製剤またはHES)の使用が提案される[2B]。 e) 敗血症・敗血症性ショック 晶質液と比べて死亡率改善は認められず推奨されない[1B]。敗血症の初期治療ではアルブミン製剤ではなく晶質液を使用し、大量の晶質液輸液が必要な場合に限り循環動態を安定させる目的でアルブミン製剤を使用することが提案される[2C]。 f) 難治性の浮腫・肺水腫を伴うネフローゼ症候群 一過性効果のみで腎機能障害を増悪する可能性があり、緊急時以外は推奨されない[2D]。g) 循環動態が不安定な血液透析等の体外循環 血液透析時の低血圧には基本的に推奨されない[2C]。 h) 重症熱傷 死亡率改善は不明で推奨されない[2C]。総輸液量減少や腹腔内圧上昇の抑制、合併症予防を目的とする場合に等張性電解質輸液にアルブミン製剤を併用することが考慮される。 i) 低蛋白血症に起因する肺水腫あるいは著明な浮腫 利尿薬無効時に考慮されるが根拠不十分で推奨されない[2B]。 g) 頭部外傷・脳虚血 予後悪化や有害事象増加のため推奨されず、原則使用しない[1B/1A]。 h) 人工心肺を使用する心臓手術(成人) 人工心肺時間が短く全身状態が良好な場合は推奨されない[2B]。 4) 投与量 必要投与量を算出し、通常2-3 日間で分割投与する。成人65kg の例では25%
製剤50mL(アルブミン12.5g)投与により、血清アルブミン濃度は約0.2g/dL上昇する。 5) 効果の評価 投与後3 日以内に前後の血清アルブミン濃度と臨床所見を評価し、診療録へ記載する。継続投与は慎重に判断すべきであり、漫然とした使用は避けるべきである。 6) 不適切な使用 アルブミンは代謝され熱源となり、内因性合成を低下させる恐れがある。術後の栄養補給は静脈・経腸栄養で行い、栄養目的の使用は避ける。終末期の使用も推奨されない。 5 免疫グロブリン製剤 1) 製剤の使用目的 免疫グロブリン(Ig)は、体内の異物を認識・排除する抗体として働くタンパク質で、B 細胞により産生される。IgG、IgA、IgM、IgD、IgE の5 種類があり、それぞれ異なる免疫機能を担う。免疫グロブリン製剤は、ヒト血漿から精製されたIgG を主成分とする血漿分画製剤であり、抗体を補充する「抗体補充療法」と、免疫系を調節する「免疫調整療法」を目的に使用される。 2) 製剤の種類免疫グロブリン製剤は、幅広い抗体を含む「免疫グロブリン製剤」と、特定病原体に対する高力価抗体を含む「特殊免疫グロブリン製剤」に分類される。前者には静注用製剤(IVIG)、皮下注用製剤(SCIG)、筋注用製剤があり、後者には抗HBs 人免疫グロブリン製剤、抗破傷風人免疫グロブリン製剤、抗D 人免疫グロブリン製剤が含まれる。
3) 適応の現状a) 低/無ガンマグロブリン血症 原発性免疫不全症や続発性免疫不全症は、免疫グロブリン製剤による補充療法が行われる。IVIG 0.2~0.6 g/kg を3~4 週ごと、または、SCIG 0.05~0.4 g/kgを1~2 週ごと、促進型SCIG の場合は 0.15~0.6 g/kg を3~4 週ごとに反復投与する。原発性免疫不全症では血中IgG トラフ値500~700mg/dL を目安に感染症を抑制できるトラフ値に調整し、続発性免疫不全症では感染症の反復、ワクチン不応、IgG 値400 mg/dL 未満などを指標に投与が行われる。 b) 重症感染症重症感染症(敗血症、重症肺炎、COVID-19 など)に対する免疫グロブリン療法については、免疫調節効果や抗毒素中和効果が期待されるものの、その有効性を支持するエビデンスは限定的である。 c) 免疫性血小板減少症(ITP) 急性期や重度の出血時に迅速な血小板増加を目的として用いられる。通常IVIG 0.4 g/kg/日を5 日間投与し数日以内に効果が現れる。効果は一過性で、長期維持には適さない。 d) 川崎病 IVIG とアスピリンの併用療法は、冠動脈瘤の予防を目的とした急性期治療の第一選択として推奨される。通常IVIG 2 g/kg を単回で12~24 時間で投与し、第7 病日以前に開始されることが望ましい。 e) 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー CIDP において、IVIG 投与は副腎皮質ステロイドや血漿交換と並ぶ第一選択治療の一つとされている。通常IVIG 0.4 g/kg を5 日間投与し、その後は、1 g/kgを1 日または500 mg/kg を2 日間連続で3 週ごとに反復投与する維持療法が行われる。一方、多巣性運動ニューロパチーでは、IVIG が唯一有効とされる治療法である。初回は0.4 g/kg を5 日間投与し、CIDP と同様に3 週ごとの維持投与が行われる。いずれの疾患においても、IVIG は筋力低下や障害度の改善に有効であり、病勢の進行抑制が期待される。 f) ギラン・バレー症候群 免疫グロブリン療法は、血漿交換と並ぶ第一選択治療であり、発症早期に介入
することで神経障害の進行抑制および回復促進が期待される。通常IVIG 0.4 g/kg/日を5 日間連続で投与する。 g) 全身型重症筋無力症 免疫グロブリン療法は急性増悪時やクリーゼ(呼吸筋麻痺など)の際に行う迅速な免疫調整療法として有用であり、血漿交換と並ぶ治療選択肢である。通常IVIG 0.4 g/kg/日を5 日間連続で投与する。 4) 使用上の注意 免疫グロブリン製剤の有害事象として、悪心、嘔気、皮疹、発熱、頭痛などの軽度なものに加え、重篤な副反応としてアナフィラキシー、ショック、肝機能障害、無菌性髄膜炎、血小板減少、肺水腫などが報告されている。特に高用量や急速投与、IgA 欠損症や腎機能障害のある患者では注意が必要である。投与中は十分なモニタリングと副反応への対処が必要である。 6 その他の製剤(フィブリノゲン製剤) 1) 製剤の使用目的 フィブリノゲンは、血液凝固カスケードの最終産物であるフィブリンの前駆物質であり生体の止血に不可欠な血漿成分である。大量出血時には早期に枯渇しやすく止血障害の原因となる。フィブリノゲン製剤は、ヒト血漿を原料としてフィブリノゲンを濃縮・精製した血漿分画製剤である。フィブリノゲン欠乏により止血困難をきたす病態に対し、フィブリノゲンの補充により止血を図ることを目的に使用される。 2) 適応の現状 C 型肝炎感染被害を受け1998 年以降は先天性低フィブリノゲン血症のみに使用が限定されていた。その後、適応拡大の要望を受け、2021 年に産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症への保険適用が認められた。
3) 投与の実際先天性低フィブリノゲン血症に対するフィブリノゲン製剤の投与は、出血時の止血や、手術・分娩時の出血予防を目的として行われる。止血に必要とされる最低フィブリノゲン濃度は60~100 mg/dL とされている。 産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に対しては、投与前のフィブリノゲン濃度を測定し、フィブリノゲン濃度150mg/dL 未満の症例に投与を行う。1 回フィブリノゲン3g を静脈内投与する。投与後もフィブリノゲン濃度を測定し、必要に応じて同量の追加投与を行う。 フィブリノゲン1 mg/kg の投与により、血漿中濃度は約1.8 mg/dL 上昇するとされており、体重60 kg の患者にフィブリノゲン製剤3g を投与した場合、約90 mg/dL の上昇が期待される。 4) 不適切な投与 適応外疾患への使用、フィブリノゲン濃度の確認を伴わない投与、ならびに出血傾向のない症例への漫然とした投与などが該当する。 5) 使用上の注意 主な副反応は発疹、そう痒感、発熱などの軽度な過敏反応であり、まれにアナフィラキシーやショック、血栓塞栓症などの重篤な症状も報告されている。 製剤はヒト血漿を原料とし、ウイルススクリーニングや複数のウイルス不活化・除去工程を経て製造されている。感染症伝播のリスクは極めて低いが完全には否定できない。 文献 1 園木 孝志, 蒸野 寿紀, 上田 恭典, 他. 科学的根拠に基づいた赤血球製剤の使用ガイド ライン(改訂第3 版). 日本輸血細胞治療学会誌 2024;70(6):579-596. 2. Chen C, Wang L, Han B, et al. Autoimmune hemolytic anemia in hospitalized patients: 450 patients and their red blood cell transfusions. Medicine (Baltimore) 2020;99(2):e18739. 3 Carson JL, Stanworth SJ, Guyatt G, et al. Red Blood Cell Transfusion: 2023 AABB International Guidelines. Jama 2023;330(19):1892-1902.
4 高見 昭良, 緒方 正男, 冨山 佳昭, 他. 科学的根拠に基づいた血小板製剤の使用ガイド ライン:2025 年改訂版. 日本輸血細胞治療学会誌 2026. 5 長谷川 雄一, 玉井 佳子, 鈴木 伸明, 他. 科学的根拠に基づいた新鮮凍結血漿の使用ガ イドライン(改訂第3 版). 日本輸血細胞治療学会誌 2026. 6 松本 雅則, 佐藤 智彦, 青木 誠, 他. 大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガ イドライン(第2 版). 日本輸血細胞治療学会誌 2025;71(6):750-798. 7 Larsen FS, Schmidt LE, Bernsmeier C, et al. High-volume plasma exchange in patients with acute liver failure: An open randomised controlled trial. J Hepatol 2016;64(1):69- 78 8. 野﨑 昭人, 安村 敏, 佐藤 智彦, 他. 科学的根拠に基づいたアルブミン製剤の使用ガイ ドライン(改訂第3 版). 日本輸血細胞治療学会誌 2024;70(3):406-430. IV 特殊な状況における輸血 1 大量出血時の輸血療法(手術)1-4) 1) 基本概念と臨床判断基準 手術領域における大量出血は、24 時間以内に循環血液量相当の出血が生じる、または20 単位以上の赤血球輸血を要する状態として定義される。心臓血管外科手術や肝移植手術、大量出血を伴う腹部・骨盤内手術などでは、術中の急速な出血と凝固障害を合併することが特徴であり、術式や手術領域の特性に応じた早期介入が救命の鍵となる。特に心臓血管外科手術では、人工心肺の使用による凝固機能低下、血液希釈、血小板機能障害などの複合的要因による出血傾向を考慮した対応が重要である。非心臓手術においても、肝移植手術や脊椎手術などの大量出血が予測される手術では、事前の評価と準備に基づく迅速かつ計画的な介入が必要である。
2) 血液製剤の投与方法表1 大量出血時の輸血療法の推奨度のまとめ Cro:クリオプレピシテート, Fib:フィブリノゲン a) 心臓血管外科手術 FFP:PC:RBC=1:1:1 を目標とし、少なくともFFP/RBC 比≧1 を維持できるように各血液製剤を投与する[1C]。大量輸血が予想される心臓血管外科手術に対して、MTP を用いることを弱く推奨する[2C]。フィブリノゲン濃度が150mg/dL 以下の場合に、フィブリノゲン製剤またはクリオプレシピテートの投与を開始する[2C]。フィブリノゲン製剤の場合、通常3~4g(約50mg/kg)を初回投与量とし、以降は止血状況とフィブリノゲン値に応じて追加投与を判断する。 b) その他の外科手術(非心臓手術) 大量出血が発生した、または予測される非心臓手術症例に対して、MTP を用いることを弱く推奨する[2C]。各輸血用血液製剤の最適な投与単位比についての明確な推奨は提示できないが[D]、少なくともFFP/RBC 比≧0.5 を維持することが望ましい。血漿フィブリノゲン濃度測定や血液粘弾性検査などのポイントオブケア検査を実施した上で、フィブリノゲン濃縮製剤の投与を検 CQ心臓血管外科領域外傷領域産科領域その他の領域 Cryo・Fib製剤の投与弱く推奨 (2C)弱く推奨 (2C)弱く推奨 (2C)弱く推奨* (2D: Fib製剤)トリガー値(血漿Fib濃度) 150 mg/dl 150 mg/dl 150~200 mg/dl (2C) ― (大量出血の高リスク時) *Cryo:推奨提示なし MTPの使用弱く推奨 (2C)弱く推奨 (2C)弱く推奨 (2C)弱く推奨 (2C)最適投与比1:1:1 (1C) 1:1:1 (2C) FFP/RBC≧1 (2C)推奨提示なし (少なくともFFP/RBC≧1) (少なくとも≧1:1:2) ― ― PCCの投与弱く推奨 (2C:治療的投与)非使用を弱く推奨 (2C)推奨提示なし (D)推奨提示なし (D) (CPB離脱後の危機的出血)強く推奨 (1B:ワルファリン有) rFVIIaの投与非使用を強く推奨 (1B)非使用を弱く推奨 (2C)弱く推奨 (2C)推奨提示なし (D) (予防投与しない) (危機的出血に限定)再投与しない (2B) ― ― ― TXAの静脈内投与弱く推奨 (2C)弱く推奨 (2B)弱く推奨 (2B)弱く推奨 (2B) (高用量での痙攣に注意) (受傷後3時間以内に投与) (産後3時間以内に投与) (出血が予想される場合) 検査の使用強く推奨 (1B)弱く推奨 (2C)推奨提示なし (D)弱く推奨 (2C) 1 フィブリノゲン濃縮製剤 2 MTP(輸血時のFFP:PC:RBCの最適投与比) 3 PCCとrFVIIa(凝固因子濃縮製剤) 4 抗線溶療法 5 血液粘弾性検査(POCT)
討する[2D]。特に肝移植手術では、術前から凝固障害を有する症例が多く、術中の血漿フィブリノゲン濃度低下に対する早期介入が重要である。MTP の運用においては、あらかじめ定めた手順に基づく輸血用血液製剤の手配、輸血量の管理、製剤投与比率の設定が必要である。特に日本の血液製剤規格は諸外国と異なるため、1:1:1 の輸血を実施する場合は、FFP 12 単位・血小板製剤 15 単位・赤血球製剤12 単位が相当することに留意する。院内の輸血部門、検査部門、外科医、麻酔科医、看護師などの多職種連携体制を整備し、緊急時の対応手順を事前に確認しておくことが重要である。 3) 血液凝固障害への対応a) 心臓血管外科手術 心臓血管外科手術での大量出血症例に対して、血液粘弾性検査を使用することを強く推奨する[1B]。その使用は周術期出血量・輸血量の減少に有用と考えられる。人工心肺離脱後の危機的出血で止血困難な場合には、20~30 IU/kgのPCC 投与を考慮することを弱く推奨する[2C]。ただし、動脈性血栓症の発生リスク上昇が懸念されるため、出血軽減を目的とした遺伝子組換え活性型第VII 因子製剤(rFVIIa)の先制投与はしない[1B]。人工心肺離脱後の危機的出血で止血困難な場合には、40~80μg/kg のrFVIIa 投与は許容されるが、初回投与で十分な止血効果が得られない場合には再投与はしない[2B]。 b) その他の外科手術(非心臓手術) 特に肝移植手術や脊椎手術などの出血が予想される手術において、血液粘弾性検査を使用することを弱く推奨する[2C]。その使用は輸血率・輸血量の減少に有用と考えられる。PCC やrFVIIa の投与に関しては、エビデンスが不足しているため明確な推奨は結論できないが[D]、ワルファリン使用症例では、緊急性が高い侵襲的処置・手術で出血が予想される場合に限り、事前にPT-INR を測定した上で4 因子含有PCC(4f-PCC)とビタミンK による拮抗を行うことを推奨する[1B]。 4) 補助療法a) 心臓血管外科手術
オフポンプ冠動脈バイパス術では、トラネキサム酸を静脈内投与することを弱く推奨する[2C]。その投与は術後24 時間以内の出血量の減少および輸血リスクの低減に有用と考えられる。通常の投与量は、成人で初回に10~ 20mg/kg を緩徐に静注し、必要に応じて1~2mg/kg/時の持続投与を行う。 b) その他の外科手術(非心臓手術) 非心臓手術では、トラネキサム酸を予防的または治療的に静脈内投与することを弱く推奨する(2B)。その投与は周術期出血量・輸血量の減少に有用と考えられる。大規模なランダム化比較試験では、トラネキサム酸投与群でプラセボ群と比較して30 日以内の出血イベントが有意に減少したことが報告されている。 5) 実践上での安全管理 手術に伴う大量輸血に際しては、希釈性凝固障害(凝固因子・血小板数減少)、低体温、アシドーシス、電解質異常(高カリウム血症、低カルシウム血症など)といった合併症の回避や軽減に努めることが重要である。特に心臓血管外科手術では、人工心肺使用に伴う体温・代謝・電解質管理が重要となる。非心臓手術においても、大量輸血実施中および実施後は凝固系パラメータを定期的に測定し、凝固障害の進行を早期に発見する必要がある。また、TACO、TRALI、血栓塞栓症、輸血関連感染症等のリスクに常に注意を払うことが重要である。特に心臓血管外科手術後は、抗凝固療法再開のタイミングや方法について慎重に判断する必要がある。 2 大量出血時の輸血療法(外傷)1-3,5-7) 1) 基本概念と臨床判断基準 外傷領域における大量出血は、24 時間以内に循環血液量相当の出血が生じる、または20 単位以上の赤血球輸血を要する状態として定義される。受傷早期から消費や希釈によらない凝固障害(外傷性凝固障害)を合併することが特徴であり、失血性ショックへの迅速な対応と凝固障害への早期介入が救命の鍵となる。大量出血の初期治療においては、適切な血液製剤の迅速投与に加え、
低体温・アシドーシス・凝固障害(いわゆる「外傷死の三徴」)の是正が重要である。 2) 血液製剤の投与方法 FFP:PC:RBC=1:1:1 を早期の目標とし、少なくともFFP/RBC 比≧0.5、PC/RBC 比≧0.5 を維持できるように各血液製剤を投与する[2C]。大量輸血が予想される外傷症例に対して、MTP を可能な限り早期に発動する[2C]。血漿フィブリノゲン濃度が150mg/dL 以下に低下した場合、またはそのリスクが高いと判断される場合は、フィブリノゲン濃縮製剤またはクリオプレシピテートの投与を開始する[2C]。MTP の運用においては、あらかじめ定めた手順に基づく輸血用血液製剤の手配、輸血量の管理、製剤投与比率の設定が必要である。緊急時には検査結果を待たずに輸血を開始し、その後の治療方針は臨床所見と検査結果に基づき調整する。日本の血液製剤規格は諸外国と異なるため、単位容量を考慮したプロトコール作成が必要であり、院内の輸血部門、検査部門、外傷診療医、麻酔科医、看護師などの多職種連携体制を整備することが重要である。 3) 血液凝固障害への対応 外傷性大量出血症例では、早期からの凝固障害対策が重要である。血液粘弾性検査に基づく治療は、輸血率や輸血量の減少に有用である可能性がある[2C]。PCC や遺伝子組換え活性型血液凝固第VII 因子製剤(rFVIIa)は、外傷性大量出血に対して適応外投与をしないことを弱く推奨する[2C]。これらの製剤は血栓塞栓症のリスクを高める可能性があり、十分な注意が必要である。 4) 補助療法 外傷性出血を伴う成人症例では、その重症度に関わらず、可能な限り早期(受傷後3 時間以内が望ましい)にトラネキサム酸を静脈内投与する[2B]。投与量は成人で初回に1g を10 分以上かけて静注し、必要に応じて1g/8 時間
の持続投与を行う。大量輸血に伴う希釈性の低カルシウム血症に対しては、イオン化カルシウム値を監視しながら適宜カルシウム製剤を投与する。 5) 実践上での安全管理 大量輸血に際しては、希釈性凝固障害(凝固因子・血小板数減少)、低体温、アシドーシス、電解質異常(高カリウム血症、低カルシウム血症など)といった合併症の回避や軽減に努めることが重要である。大量輸血実施中および実施後は凝固系パラメータを定期的に測定し、凝固障害の進行を早期に発見する。また、TACO、TRALI、血栓塞栓症、輸血関連感染症等のリスクに注意を払う必要がある。 3 大量出血時の輸血療法(産科)1,3,8) 1) 基本概念と臨床判断基準 産科領域における大量出血は、生命の危機が迫り輸血治療を含む集約的治療が必要となる「産科危機的出血」として定義される。産科出血の特徴として出血量が過小評価されやすいため、単純な出血量のみで判断せず、母体の全身状態、凝固機能、循環動態を総合的に評価して迅速な対応を開始することが重要である。分娩時大量出血で心停止した産婦の70%以上は、出血発症から3 時間以内に心停止に至るため、早期診断と即座の治療介入が母体救命の鍵となる。 2) 血液製剤の投与方法 RBC とFFP をFFP/RBC≧1 の比率で投与する[2C]。MTP を運用している施設では可能な限り早期に発動する[2C]。血漿フィブリノゲン濃度150~ 200 mg/dL に低下した時点で、フィブリノゲン濃縮製剤またはクリオプレシピテートの投与を開始する[2C]。血液粘弾性検査に基づく治療は輸血率や輸血量の減少に有用である可能性がある[D]。MTP の運用に際しては、あらかじめ定めた手順に基づく輸血用血液製剤の手配、輸血量の管理、製剤投与比率の設定が必要である。MTP の運用にあたっては、輸血部門、検査部門、産科医、麻酔科医、看護師、日本赤十字社血液
センターなど、多職種の連携体制の整備が前提となる。日本の血液製剤規格は諸外国と異なるため、単位容量を考慮したプロトコール作成が必要であり、さらに、緊急時の院内在庫の整備、連絡網の明確化、役割分担の事前訓練も重要である。 3) フィブリノゲン製剤の保険適用とクリオプレシピテートの調製・運用 後天性低フィブリノゲン血症に対するフィブリノゲン濃縮製剤の保険適用は、現時点(2025 年8 月時点)では「産科危機的出血に伴うもの」に限られている。一方、クリオプレシピテートはフィブリノゲン以外にもvon Willebrand 因子や第XIII 因子等の止血因子を含有し、より包括的な止血効果が期待される。ただし、クリオプレシピテートの使用に先立ち、各施設で院内調製体制を整備する必要がある。FFP からの調製では、FFP-LR240 やABO 同型FFP の選択も考慮する。緊急時には、検査結果を待たずに赤血球製剤、フィブリノゲン製剤、FFP の迅速投与を行うべきである。 4) 補助療法 トラネキサム酸の静脈内投与を出産後3 時間以内に行う(弱い推奨:2B)。通常1g 静注を行い、止血不十分な場合には1g 追加投与を検討する。遺伝子組換え活性型第VII 因子製剤(rFVIIa)の使用は、全ての通常輸血治療に反応しない危機的出血例に限定し、血栓塞栓症発生リスクを考慮したインフォームド・コンセントと合併症管理可能な施設での使用に留める[2C]。PCC の使用に関するエビデンスはまだない(推奨は提示できず:D)。 5) 実践上での安全管理 大量輸血に際しては、希釈性凝固障害(凝固因子・血小板数減少)、低体温、電解質異常(高カリウム血症、低カルシウム血症など)といった合併症の回避や軽減に努めることが重要である。また、循環過負荷、肺水腫、血栓塞栓症、アレルギー反応等の輸血副反応リスクに常に注意を払う必要がある。
図1 危機的出血への対応ガイドライン 4 新生児・小児への輸血9) 1) 新生児における赤血球輸血のトリガー値 非制限輸血よりも制限輸血を推奨する[1B]。急性期を脱し、全身状態が安定している児では、Hb 7g/dL をトリガーとする。基礎疾患や病態を考慮したトリ
ガー値としてはエキスパートオピニオンを基にしたガイドライン10)を参照する。投与量は10-20mL/kg。 現在の研究では、非制限輸血と比べて制限輸血は、輸血回数、輸血量が少ないが、輸血効果・合併症には差がない。 2) 新生児における血小板輸血のトリガー値 非制限輸血よりも制限輸血を推奨する。急性期を脱し、出血症状を認めない児では、血小板数2-3 万/μL をトリガーとする。基礎疾患や病態を考慮したトリガー値としてはエキスパートオピニオンを基にした既存のガイドライン10,11)を参照する[2C]。体重の少ない、未熟な児、特に生後数日以内、あるいは凝固障害を併発している児はより高い血小板数を維持することを推奨する。 非制限輸血と比べて制限輸血では、輸血回数、輸血量が少ないが、輸血効果・合併症には差がない。既存のガイドライン10)では、「未熟な児、特に生後2~3日の間は頭蓋内出血の危険が高く、成熟児よりも血小板数を高めに維持するのが良い」、「生後1 週間以下の超低出生体重児」などの特別な病態をあげてトリガー値をまとめている。 3) サイトメガロウイルス抗体陰性血の適応 母体がサイトメガロウイルス(CMV)抗体陰性または陽性が確認されていない場合に行う胎児輸血、また同様の母体から出生した児に、生後28 日未満の間に行う輸血は、可能であればCMV 抗体陰性血の使用を推奨する[2C]。抗体陰性ドナーと白血球除去血液製剤によるサイトメガロウイルス伝播率はほぼ同等であるとされる。 胎児輸血、生後28 日未満の新生児にはCMV 抗体陰性血の使用が推奨されている。CMV 抗体陰性母体からの出生児へのCMV 伝播の研究はわずかに1 報で、現在は白血球除去製剤が提供されていることからCMV 感染症のリスクは減っている。なお、CMV 抗体陰性の造血幹細胞移植レシピエントには、CMV 抗体陰性血の使用は可能であれば選択するとされている。
4) チアノーゼ性心疾患児の赤血球製剤投与のトリガー値。 非制限輸血よりも制限輸血を推奨する。急性期を脱し、全身状態が安定している児では、Hb 9g/dL をトリガーとする。 5) 交換輸血 適応疾患として、高ビリルビン血症、敗血症、薬物中毒、transient abnormal myelopoiesis(TAM)、白血球増加が挙げられる。一方、代謝疾患(高アンモニア血症など)は交換輸血の適応とは言えない。適切な交換輸血量は、160- 200mL/kg で、適切な速度は、2 時間以上かけての実施を推奨する。また、ルート数は2 ルート法を推奨する。使用する血液は、合成血製剤 (赤血球液を遠心し、上清を除去後にFFP を加えた製剤;合成血液-LR「日赤」など)またはFFP +赤血球液の混合液を用いることが出来る。FFP と赤血球液を混合して使用する場合の適切な混合比は、ヘマトクリット値として50%ほどを推奨する。 6) 新鮮凍結血漿の適応疾患 投与(使用)が推奨される:凝固因子障害(多因子欠乏、濃縮製剤のない単一因子欠乏、ビタミンK 欠乏、観血的処置への予防的投与)、高ビリルビン血症の交換輸血、TTP・Goodpasture 症候群・重症筋無力症。投与量は15~ 20mL/kg。 投与(使用)が推奨されない:小児心臓体外循環回路CPB、多血症に対する部分交換輸血、敗血症・呼吸窮迫症候群、低血圧・hypovolemic shock※、仮死に対する低体温療法時の凝固障害、未熟児脳室内出血に対する予防的投与。※大量出血時のhypovolemic shock については、大量出血ガイドラインを参照1) 7) 血液製剤の院内分割12) 新生児・小児は輸血量が少なく、1 単位でも過量投与や廃棄、ドナー曝露増加のリスクがあるため、血液製剤の院内分割が有用である。対象は輸血を要する小児で1 バッグを適切な時間内に輸血完了できない症例とする。無菌接合装置を用いて複数バックに分割する。赤血球液は原則照射血を用い採血後14 日以内とすることが望ましい。濃厚血小板は振盪下で管理し分割後は直ちに使用する。
FFP は分割後2~6°Cで保管し融解後24 時間以内に使用する。分割する際はその後の製剤の取り違いがおきないよう適切な医療安全上の対策を講じる。輸血完了時間は開封後6 時間以内だが、4 時間以内など施設の基準設定が望ましい。 5 へき地・離島での輸血 輸血療法を実施している医療機関は離島に80 施設、へき地に422 施設(へき地の定義は血液供給施設から緊急走行で60 分以上を要する施設)存在している13)。前者は九州、沖縄地区を中心に全国の都道府県の約1/4 に、後者は北海道を始めとして約3/4 に分布している。へき地・離島では血液製剤の搬送に時間を要し、緊急輸血を行う際に困難を抱えている。へき地の施設への搬送時間は2~3時間以内、離島では5~6時間以上かつ夜間搬送不可のことが多い。従って、離島で急性大量出血を伴う病態(外傷、消化管出血、侵襲の大きい手術、産科など)を取り扱っている施設では緊急時の対応方法を検討しておく必要がある。へき地・離島に特化した輸血療法のガイドラインはまだ作成されていないため、各施設の医療機能、立地条件、近隣施設との医療連携の可否などに応じて適切な血液製剤の在庫量を設定しておく。また、患者救命のために異型適合血の活用を考慮に入れることも重要である。一部の離島において導入されているブラッドローテーション(医療機関に定期的に赤血球液を搬送し、一定期間在庫血として運用後、未使用の血液を日本赤十字社血液センターが回収し、地域の中核病院へ再出庫することにより有効利用を図るシステム)は、患者・医療機関の安心・安全の向上と輸血用血液製剤の有効利用に貢献している。但し、様々な課題(施設選定の公平性確保、ブラッドローテーションの費用負担の在り方、輸血用血液製剤の温度管理、日本赤十字社血液センターの業務負担増加)があり、運用するためには合同輸血療法委員会等を通じて関係者の合意を得る必要がある。また、緊急時においては、以下の条件を満たすことにより、近隣医療機関から輸血用血液製剤の提供を受けられることが厚生労働省通達により明確化されている14)。 1 血液製剤を必要とする医療機関に入院等している患者に生命又は身体の重 大な危険が生じており、当該患者への対応において輸血用血液製剤を必要としていること。
2 当該医療機関が在庫する輸血用血液製剤のみでは当該患者への対応ができ ないこと。3 夜間や休日において当該患者の生命又は身体の重大な危険が差し迫ってい る等の緊急性を踏まえ、輸血用血液製剤を供給する卸売販売業者から輸血用血液製剤の供給を受けるよりも、近隣医療機関から輸血用血液製剤の提供を受けることが適切であると認められること。 このような医療機関の間での血液製剤の緊急避難的な融通については、地域中核病院が指導的な役割を担い、条件に沿って運用することが期待される。また、へき地・離島で日本赤十字社血液センターからの血液の搬送が間に合わず、患者の生命に危機が迫っている緊急事態の場合には、院内で採血された血液(院内血)の使用も限定的に検討の余地がある。(7 院内での輸血用血液の採取 参照)。 6 在宅輸血 高齢化社会が進行する中、在宅医療の一環として在宅輸血へのニーズも高まっている。在宅輸血は患者の利便性やQOL を大きく改善する可能性があるものの、安全性の確保が課題である。よって、在宅輸血は輸血の効果がリスクを上回る場合にのみ行われるべきである。特に輸血に伴う重篤な副反応の発生リスクをふまえて緊急時の対応方針を前もって決めておく必要がある。また、患者・家族と輸血を担当する医療スタッフはリスクと効果の両方を理解していなければならない。在宅輸血の具体的な方法については、日本輸血・細胞治療学会が作成した「在宅赤血球輸血ガイド」を参照されたい。特に注意すべき点として、対象患者は原則として過去に病院での輸血歴があり重篤な副反応がないこと、病態は貧血を有する慢性疾患に限定すること、病院での輸血よりもリスクがある可能性について理解を得ておくこと、患者の状態を観察できる付添人を配置すること、などが挙げられる。以下に要点をまとめておく。 1) 対象疾患 慢性疾患(血液・悪性疾患、腎疾患、消化器疾患など)が対象であり、急性出血性疾患は原則として適応外である。
2) 条件 現病態に対する輸血歴があり、重篤な副反応がないこと。輸血による重大な副反応を引き起こす可能性の高い疾患(不安定狭心症、重篤な心不全、腎不全、高度のアレルギー体質等)を有していないこと。 3) インフォームド・コンセント 在宅輸血の目的、条件、リスク(輸血中・輸血後の観察が不十分になりやすく、緊急事態に迅速な対応ができない可能性があること)について文書を用いて説明し、同意を得ること。 4) 実施すべき検査 ABO 血液型、RhD 血液型、不規則抗体スクリーニング、交差適合試験などの検査項目について、自施設で実施できない場合は衛生検査所等へ外部委託する。 5) 患者付添人 輸血開始から輸血後数時間まで観察を担当する、患者家族などの成人を配置すること。 6) 血液製剤注文時の注意 輸血療法実践ガイドに準じていることを確認する。血液製剤の保管・患家への搬送に際して適切な温度管理(2~6°C)を遵守する。 7) 輸血の実際 輸血療法実践ガイドに準じて行う。輸血実施手順書を整備し、遵守する。 8) 診療録への記載 血液製剤選択・輸血量の根拠、輸血前から輸血後の患者状態、輸血中の実施記録、輸血効果について診療録に記載する。 日本で在宅輸血を実施している診療所での年間輸血症例数は2~3 例以下であることが多く、輸血管理体制が不十分であることが指摘されている。特に輸血用血液製剤の品質維持のための温度管理は重要である。家庭用冷蔵庫では適切な温度範囲での保管が難しいため、避ける必要がある。ATR は庫内温度の監視・記録も可能であり、赤血球液の保管・搬送に適している。一般的に在宅輸血で重
篤な輸血副反応の発生は稀だが、TRALI、TACO、血液型不適合輸血などの報告はあり、安全性の確保は何よりも優先されるべきである。今後、輸血管理体制を整備して適切な在宅輸血を実施している診療所での知見を蓄積し、在宅輸血の安全性・有効性を向上させてゆくことが望まれる。 7 院内での輸血用血液の採取 自己血採血を除く院内で採血された血液(以下「院内血」という)の輸血については、供血者の問診や採血した血液の検査が不十分になりやすく、また供血者を集めるために患者や家族などに精神的・経済的負担をかけることから、日本赤十字社血液センターからの適切な血液の供給体制が確立されている地域においては、特別な事情のない限り行うべきではない。 院内血が必要となるのは下記のごとく非常に限られた場合であるが、院内血を使用する場合においては、輸血後GVHD 防止のために、原則として放射線を照射(15~50Gy)した血液を使用する。 1) 院内血輸血の適応a)特殊な血液日本赤十字社血液センターから供給されない顆粒球やリンパ球のほかヘパリン化血を院内で用いる場合b)緊急時離島やへき地などで、日本赤十字社血液センターからの輸血用血液製剤の搬送が間に合わない緊急時、または、自然災害による交通網の遮断により輸血用血液製剤の搬送が困難となる場合c)稀な血液型のため母体血液を使用せざるを得ない場合d)新生児同種免疫血小板減少症で母親の血小板の輸血が必要な場合 2) 院内血輸血の説明と同意 説明と同意の項(I-1-3))を参照し、輸血に関する説明と同意を得た上、院内血輸血が必要な場合について、患者又はその家族に理解しやすい言葉でよく
説明し、同意を得る。また、院内で採用しているウイルス感染症のスクリーニング検査の精度および輸血による感染症伝播の危険性、放射線未照射血の輸血の場合の輸血後GVHD 発症の危険性を説明し、同意を得る。以上の内容の説明による同意が得られた旨を診療録に記録しておく。 3) 院内血輸血に関する記録の保管管理 院内血を輸血された患者について、輸血用血液製剤と同様に、院内血輸血に関する記録を作成し、少なくとも使用日から20 年を下回らない期間、保存する。 4) 院内採血の手順a) 供血者への説明 採血された血液について行う検査内容や採血予定量などを、あらかじめ供血者に説明しておく。なお、供血者が検査結果の通知を希望する場合には、個人情報の秘密保持に留意したうえで供血者本人に通知する。b) 採血基準 院内採血でも、「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律施行規則」に従って採血することを原則とする。問診に際しては、特に供血者の問診の事項を留意しつつ、聞き漏らしのないように、予め問診票を用意しておくべきである。c) 院内採血実施時の留意点 日本赤十字社血液センターの輸血用血液製剤と同様に、患者・血液の取り違えによる輸血過誤に注意が必要である。院内採血では、穿刺部位からの細菌混入や白血球を介した細菌汚染のリスクにも留意する。採血部位の清拭・消毒は日本赤十字社血液センターの手技に準拠し入念に行う。また、採血時の副反応、特に顔面蒼白や冷汗を伴うVVR への対応にも十分注意する。d) 採血の実施体制 採血に携わる者は、指示を出した医師と緊急度や検査の優先順位などについて十分連携をとる。院内採血を行う場所は、清潔さ、採血を行うために十分な広さ、明るさ、静けさと適切な温度を確保する必要がある。e) 院内血の安全性および適合性の確認
院内血の検査も輸血用血液製剤の安全性および適合性の確認の検査と同様に行う。緊急時などで輸血前に検査を行うことができなかった場合でも、輸血後の患者の経過観察と治療が必要になる場合に備えて、輸血に用いた院内血について事後に上述の検査を行う。 文献 1 松本 雅則, 佐藤 智彦, 青木 誠, 他. 大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用の ガイドライン(第2 版). 日本輸血細胞治療学会誌 2025;71(6):750-798. 2 Shakur H, Roberts I, Bautista R, et al. Effects of tranexamic acid on death, vascular occlusive events, and blood transfusion in trauma patients with significant haemorrhage (CRASH-2): a randomised, placebo-controlled trial. Lancet 2010;376(9734):23-32. 3.日本麻酔科学会、日本輸血・細胞治療学会. 危機的出血への対応ガイドライン. https://anesth.or.jp/files/pdf/kikitekiGL2.pdf (2025 年10 月現在). 4 Karkouti K, Callum J, Wijeysundera DN, et al. Point-of-Care Hemostatic Testing in Cardiac Surgery: A Stepped-Wedge Clustered Randomized Controlled Trial. Circulation 2016;134(16):1152-1162. 5 Holcomb JB, Tilley BC, Baraniuk S, et al. Transfusion of plasma, platelets, and red blood cells in a 1:1:1 vs a 1:1:2 ratio and mortality in patients with severe trauma: the PROPPR randomized clinical trial. Jama 2015;313(5):471-82. 6 Tanaka H, Katsuragi S, Osato K, et al. Efficacy of transfusion with fresh-frozen plasma:red blood cell concentrate ratio of 1 or more for amniotic fluid embolism with coagulopathy: a case-control study. Transfusion 2016;56(12):3042-3046. 7 Matsunaga S, Takai Y, Nakamura E, et al. The Clinical Efficacy of Fibrinogen Concentrate in Massive Obstetric Haemorrhage with Hypofibrinogenaemia. Sci Rep 2017;7:46749. 8 WOMAN Trial Collaborators. Effect of early tranexamic acid administration on mortality, hysterectomy, and other morbidities in women with post-partum haemorrhage (WOMAN): an international, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2017;389(10084):2105-2116. 9 北澤 淳一, 小原 明, 東 寛, 他. 科学的根拠に基づいた小児輸血のガイドライン. 日本 輸血細胞治療学会誌 2017;63(6):741-747. 10 O'Riordan JM, Fitzgerald J, Smith OP, et al. Transfusion of blood components to infants under four months: review and guidelines. Ir Med J 2007;100(6):suppl 1-24 following 496 11. Venkatesh V, Khan R, Curley A, et al. How we decide when a neonate needs a
transfusion. Br J Haematol 2013;160(4):421-33. 12 藤田 浩, 池上 正純, 奥田 誠, 他. 血液製剤の院内分割マニュアル 改訂3.0. 日本輸血 細胞治療学会誌 2024;70(3):400-405. 13 厚生労働科学特別研究事業「へき地・離島等での血液製剤の有効利用のための研究」 令和 6年度 総括・分担研究報告書. https://www.mhlw.go.jp/content/11127000/001300966.pdf (2025 年10 月現在). 14 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長、厚生労働省医薬・生活衛生局血液対策課長通 知.緊急時に輸血に用いる血液製剤を融通する場合の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第24 条第1 項の考え方及び地域の実情に応じた血液製剤の安定供給に係る取組事例について.(令和3 年3 月31 日). https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc5817&dataType=1&pageNo=1 (2025年10 月現在). V その他の取り組み 輸血療法の安全性を高め、適正使用を促進するための取り組みとして、輸血機能評価認定制度、日本輸血・細胞治療学会の認定制度、院内および合同輸血療法委員会が挙げられる。いずれも輸血療法を取り巻く環境の変化や最新のガイドラインに沿って、改善を促す効果が期待されるため、積極的な活用が望まれる。 1 輸血機能評価認定(I&A:Inspection&Accreditation) 本制度は医療機関での輸血療法の安全性向上と適正使用の推進を図るためのプログラムである。目的は輸血医療の課題を指摘し、その改善を促すことにある。日本にはISO15189 や病院機能評価等の輸血療法の外部監査システムが存在する。しかし、評価対象としているのは前者では輸血検査、後者では輸血療法の根幹となる部分であり、重要事項を網羅した輸血療法の外部評価はI&A のみである。具体的には、日本輸血・細胞治療学会の認定制度の資格を持つ視察員が施設を訪問し、1 日をかけて輸血管理部門や輸血療法を実施している部署の担当者と面談すると共に実際の業務内容を視察して評価を行う。確認項目は認定事項33項目と重要事項47 項目の計80 項目である(2025 年時点)。視察時に準備すべ
き手順書・実施記録や判定基準は日本輸血・細胞治療学会のホームページに公表されているので参照されたい。 1) 評価方法 I&A では「輸血療法実践ガイド」、「輸血用血液製剤保管管理ガイド」等に準じた標準的な輸血医療が実践されているかを評価する。従って、病床規模によらず全ての病院が対象となる。また、日本での輸血状況に精通した視察員が視察するため、現実的に可能なレベルでの改善が推進されるという特徴もある。認定の更新は5 年毎にあり、最新の指針に基づいた輸血療法にも意識が向けられ、促進されてゆくことになる。本制度で重視している事項を以下に挙げておく。 a) 輸血管理体制と輸血部門 医療機関には輸血療法委員会と輸血部門を設置する。適正使用のための指標を設定して検討する。 b) 輸血用血液製剤管理 輸血用血液製剤は輸血部門において適正な入出庫や在庫管理と照合管理を行う。輸血用血液製剤は常時適正な温度範囲で保管する体制を構築する。 c) 輸血検査 輸血部門は安全な輸血に必要な輸血検査の24 時間体制を構築する。ABO、RhD 血液型検査は異なる時点で採血した検体を用いて2回実施し決定する。 d) 輸血実施 輸血の実施は患者の同意に基づいて安全かつ適正に実施する。実施担当者は必要な照合(2 名で交互に照合確認)と患者管理を行う。 e) 副反応の管理・対策 輸血副反応の発生状況を把握し、その診断・治療のためのシステムを整備し、防止態勢を構築する。 f) 輸血用血液の採血 同種血採血は特殊な場合を除いて行わない。自己血採血は安全を確保して患者の同意に基づいて行う。特にVVR などの採血時副反応に対する緊急時対応策を講じておく。
2) 本制度の効果日本での輸血療法に関する指針は努力目標であり、各施設での安全な輸血医療の実現には第三者評価による保証が重要である。同様の理念を共有している病院機能評価とは連携を進めており、病院機能評価機能種別版評価項目解説集(一般病院2、3)の「良質な医療の実践2」の「輸血・血液管理機能を適切に発揮している」中に「輸血機能評価認定制度(I&A 制度)などの外部認証を受け、輸血・血液管理機能の質向上に向けた活動がなされていれば高く評価される」と記載された。本制度には指針の実効性を高める効果が期待される。 2 日本輸血・細胞治療学会の認定制度 輸血細胞治療は、内科、外科に限定されず、多くの診療科に必要とされている。更に、医師、看護師、臨床検査技師と幅広い職種が関与し、検査、採血、アフェレーシスなど多岐の業務によって成り立つ治療法である。日本輸血・細胞治療学会は、安全かつ効果的な輸血細胞治療の発展と普及を目指し、輸血細胞治療学の基礎および臨床に関する知識と実践力を備えた医師、臨床検査技師、看護師を育成することを目的とし、全ての業務等を網羅すべく6 つの認定制度を設立した。 1) 認定医制度1991 年に発足し、輸血医学の基礎および臨床に関する知識と実践力を備えた医師を育成することを目的とする。指定施設において、認定医(指導医)の下で2 年以上研修し、筆記、口頭、実技試験に合格した医師が認定医となる。更新は5 年ごとで、学術総会参加など必要な単位数を取得する必要がある。2025 年4月現在で認定医数は630 名、指定施設数は病院が160 施設、日本赤十字社血液センターが10 施設である。 2) 認定輸血検査技師制度1995 年に発足し、輸血に関する正しい知識と的確な輸血検査により、輸血の安全性の向上に寄与することのできる技師の育成を目的とする。本制度は、日本輸血・細胞治療学会、日本臨床検査医学会、日本臨床検査同学院、日本臨床衛生
検査技師会の4 団体からなる協議会で運営されている。輸血検査歴が3 年以上あり、検査業務の経験が通算5 年以上ある者で、指定施設研修(病院研修と日本赤十字社血液センター研修)を修了し、さらに合同研修会を受講した技師が受験対象となる。認定試験は、筆記試験と実技試験であり、いずれも合格した技師が認定技師となる。更新は5 年ごとで、2025 年4 月現在で認定技師数は1,784 名、指定施設数は病院が130 施設、日本赤十字社血液センターが32 施設である。 3) 学会認定・自己血輸血医師看護師制度2009 年に適正で安全な自己血輸血を推進する看護師の育成を目的とし、日本輸血・細胞治療学会と日本自己血輸血・周術期輸血学会との共同で設立した。2014 年度に「貯血式自己血輸血管理体制加算」が保険収載されたことに伴い、責任医師も含めた現在の認定制度に変更された。認定看護師は筆記試験があり、合格した看護師が認定を取得する。一方、責任医師は、学会会員、教育セミナーの参加、貯血式自己血輸血管理、自己血輸血関連の論文など必要な条件を満たした医師が取得することが出来る。更新は医師、看護師ともに5 年ごとである。2025 年4 月現在、責任医師数が382 名、認定看護師数が1,018 名である。 4) 学会認定・臨床輸血看護師制度安全な輸血療法を実践するには、医療現場で活躍する看護師の役割が重要と考える。本制度は、2010 年に発足し、輸血に関する正しい知識と的確な輸血看護により、輸血の安全性の向上に寄与することができる看護師の育成を目的とする。本制度は、日本輸血・細胞治療学会、日本外科学会、日本産科婦人科学会、日本麻酔科学会、日本血液学会の5 団体からなる協議会で運営されている。受験対象は、輸血治療を行っている施設に勤務し、3 年以上の臨床経験を有し、かつ所属長と輸血責任医師の推薦が得られていることが条件である。講習会参加、筆記試験、指定施設での研修を得て認定看護師となる。更新は5 年ごとで、2025年4 月現在、看護師数が1,442 名、研修指定施設数が110 病院である。 5) 学会認定・アフェレーシスナース制度血液成分分離装置を用いて行われるアフェレーシスは、末梢血幹細胞、リンパ球、血小板などの採取で広く行われ、看護師が従事している。一方、アフェレーシスには危険性を伴う医療行為である。本制度は、アフェレーシスの正しい知識を有し、安全性の向上に寄与することができる看護師を育成する目的で、2010
年に発足した。本制度は、日本輸血・細胞治療学会、日本造血・免疫細胞療法学会、日本骨髄バンク、日本赤十字社の4 団体からなる審議会で運営されている。講習会参加、筆記試験を得て認定アフェレーシスナースとなる。更新は5 年ごとで、2025 年4 月現在、285 名がアフェレーシスナースである。 6) 細胞治療認定管理師制度安全かつ品質管理された細胞治療を実践するには、細胞調製に習熟した技能者を育成することが重要である。本制度は、医療系の国家資格を有する者を対象とし、造血細胞移植、再生医療などにおいて細胞、組織等の細胞調製や検査を行える技能者を育成することを目的で、2015 年に発足した。本制度は、日本輸血・細胞治療学会と日本造血免疫細胞療法学会からなる協議会で運営されている。更新は5 年ごとで、2025 年4 月現在、認定者数は959 名である。 3 院内輸血療法委員会と合同輸血療法委員会 院内輸血療法委員会と合同輸血療法委員会は、それぞれ医療機関内および都道府県内における血液製剤の適正使用推進強化策として設置が求められている。「血液製剤の安全性の向上及び安定供給の確保を図るための基本的な方針(厚生労働省)」1)では、国は、地域における血液製剤の確保・適正使用を更に促進するため、各医療機関における血液製剤の使用実態や災害時等の輸血医療連携体制、各都道府県合同輸血療法委員会における好事例の収集・周知等を行うこととすることが明記されている。 1) 院内輸血療法委員会 院内輸血療法委員会は輸血療法に携わる各職種から構成され、輸血療法を行う医療機関の管理者が機関内に設ける組織である。「輸血療法の実施に関する指針(厚生労働省)」は、輸血責任医師の任命、輸血部門の設置、担当技師の配置とともに、輸血療法委員会の設置を、医療機関における輸血管理体制構築の一環として求めている2) 。 委員会の検討項目:1輸血療法の適応 2輸血用血液製剤(血漿分画製剤を含む)の選択 3輸血関連の検査項目・検査術式の選択と精度管理 4輸血実施時の手続き 5血液製剤の使用状況調査 6症例検討を含む適正使用推進の方法 7
輸血療法に伴う事故・副反応・合併症の把握方法と対策 8輸血関連情報の伝達方法 9院内採血の基準や自己血輸血の実施方法 輸血療法委員会は、各項目の改善状況について定期的に検証し、上記に関する議事録を作成・保管し、院内に周知する。特に、輸血副反応・合併症に関しては、原因となる輸血用血液製剤の回収・原因検索のための患者検体採取に関して、診療科の協力体制を構築するとともに、これらの業務が可能な臨床検査技師の配置を含む輸血部業務(当直業務)体制の整備を行う。なお、診療報酬制度においては、輸血療法委員会が設置され年6 回以上開催されることが、輸血管理料の算定条件になっている。 2) 合同輸血療法委員会 合同輸血療法委員会は各医療機関の輸血責任医師、担当臨床検査技師、薬剤師、輸血療法委員会委員長、管理者が参画し、他医療機関と血液製剤の使用量・状況を比較・評価するなどして、適正使用を推進する上での課題を明確化し、解消を図る組織である3)。都道府県が主催者として委員会を年数回開催するが、日本赤十字社血液センターと医療機関の協力が不可欠である。参画委員は、輸血医療について指導的立場のとれる医療機関(例えば、日本赤十字社血液センターからの供給量の70%になる上位機関で5~10 機関程度)の輸血責任医師、担当臨床検査技師、薬剤師、輸血療法委員会委員長等であるが、一定以上の効果がみられない場合は、別途、医療機関管理者が集まる場を設けることにより、適正使用に係る各種取組を一層強化する。 委員会の討議課題:1医療機関毎の血液製剤の使用量・状況の比較検討および使用指針に基づいた評価 2各種指針等を用いた適正使用に関する勉強会 3各医療機関における課題の整理・検討(近況報告を含む) 4輸血医療機関に関する相互査察の実施(日本輸血・細胞治療学会のI&A 委員会の協力も念頭に置く) 5県内および他県の使用状況と全国的な傾向の把握(日本赤十字社血液センターや県の情報提供)なお、厚生労働省は、合同輸血療法委員会の調査研究によって、都道府県単位での適正使用の取組を推進するための環境整備を行うことを目的として、平成18 年度より「血液製剤使用適正化方策調査研究事業」を実施している。
3) 合同輸血療法委員会での課題 令和6年2 月に実施された厚生労働省による各都道府県の血液事業の対応状況等についての調査4)では、合同輸血療法委員会は47 都道府県に設置されているものの、多くの自治体において委員会の活動は限定的であり、自治体間で委員会の活用状況に大きな差があることが明らかとなった。同調査では、合同輸血療法委員会の取り組むべき課題として、1へき地医療や在宅医療における血液製剤の安定的な供給と適正な使用に関して、各自治体を取り巻く環境に応じた方策の検討を行うことと、2災害等の緊急時にも医療現場において滞りなく輸血療法を実施するための各種マニュアルを早急に整備することの二つが挙げられた。 文献 1 血液製剤の安全性の向上及び安定供給の確保を図るための基本的な方針. 令和6年3月 29 日厚生労働省告示第153 号. https://www.mhlw.go.jp/content/11127000/001269160.pdf (2025 年10 月現在). 2 厚生労働省医薬・生活衛生局血液対策課. 「輸血療法の実施に関する指針」平成 17 年 9月(令和2年3月一部改正). 2020. 3 血液製剤の適正使用推進にかかる先進事例等調査結果及び具体的な強化法策の提示等 について. 平成17 年6 月6 日厚生労働省医薬食品局血液対策課長. 薬食血発第0606001 号. https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2005/14278/4- 2.pdf (2025 年10 月現在). 4 各都道府県の合同輸血療法委員会の活動等に関するアンケート結果報告. 令和六年度第 一回適正使用調査会. 厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/11127000/001300961.pdf (2025 年10 月現在).
輸血療法実践ガイド作成委員松本 雅則 奈良県立医科大学 血液内科・輸血部藤原 慎一郎 自治医科大学附属病院 輸血・細胞移植部奥田 誠 日本赤十字社 血液事業本部松下 正 名古屋大学附属病院 輸血部田中 朝志 東京医科大学八王子病院 臨床検査医学科・輸血部生田 克哉 北海道赤十字血液センター岡崎 仁 日本赤十字社 中央血液研究所園木 孝志 和歌山県立医科大学 血液内科高見 昭良 愛知医科大学 内科学講座血液内科長谷川 雄一 筑波大学 茨城県地域臨床教育センター野﨑 昭人 横浜市立大学附属市民総合医療センター 輸血部佐藤 智彦 慈恵医科大学 輸血細胞治療部加藤 栄史 福友病院介護医療院河野 武弘 大阪医科薬科大学病院 輸血室池本 純子兵庫医科大学附属病院 輸血・細胞治療センター名倉 豊東京大学医学部附属病院 輸血部松浦 秀哲藤田医科大学病院 輸血部小嶋 俊介信州大学医学部附属病院 先端細胞治療センター日髙 陽子 東邦大学医療センター大森病院 輸血部 日本輸血・細胞治療学会 ガイドライン委員会前ガイドライン委員長 松本雅則現ガイドライン委員長 藤原慎一郎 厚生労働行政推進調査事業費補助金医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業「科学的エビデンス等に基づき医療環境に応じた適切な輸血療法実施についての研究」研究代表者 松本雅則
開示すべきCOI松本 雅則:顧問(アドバイザーなど)(武田薬品、サノフィ、アレクシオンファーマ)、特許(アルフレッサファーマ)、講演料(アレクシオンファーマ、サノフィ、武田薬品)、共同研究費(サノフィ、アレクシオンファーマ)奨学寄付金(中外製薬、旭化成ファーマ)藤原 慎一郎:講演料(ブリストル・マイヤーズ スクイブ)松下 正:顧問・アドバイザーなど(武田薬品工業、ノボ・ノルディスク、中外製薬、ファイザー)、共同研究費(中外製薬、ノボ・ノルディスク)、講演料(武田薬品工業、バイエル薬品、サノフィ、中外製薬、CSL ベーリング、KMB バイオロジクス、ノボ・ノルディスク、シスメックス、ファイザー)園木 孝志:奨学寄附金(中外製薬)高見 昭良:奨学寄付金(協和キリン、中外製薬)、講演料(ノバルティスファーマ)、受託研究費(エア・ウォーター)佐藤 智彦:共同研究費(日本赤十字社)、講演料(Werfen、中外製薬、ゼリア新薬)奥田 誠、生田 克哉、岡崎 仁は日本赤十字社の職員であるその他の著者に開示すべきCOI なし
「輸血療法実践ガイド」参照指針別対応一覧 輸血療法の実施に関する指針令和2 年3 月一部改正(厚生労働省)「輸血療法実践ガイド」章節 ※頁を記載I輸血療法の考え方 II輸血の管理体制の在り方 III 患者の血液型検査と不規則抗体ス クリーニングIV 不適合輸血を防ぐための検査(適 合試験)及びその他の留意点 V手術時又は直ちに輸血する可能性の少ない場合の血液準備VI 実施体制の在り方 VII 輸血に伴う副作用・合併症と対策 VIII 血液製剤の有効性,安全性と品質 の評価I 輸血療法の実施 1 輸血療法の考え方:過去、現在、未来におけるありかた...7 II 血液製剤の管理体制2 輸血の管理体制の在り方...35 II 血液製剤の管理体制2 輸血の管理体制の在り方...35 V その他の取り組み3 院内輸血療法委員会と合同輸血療法委員会...85 I 輸血療法の実施3 輸血検査...17 I 輸血療法の実施3 輸血検査...17 II 血液製剤の管理体制3 輸血の実施体制の在り方...41 IV 特殊な状況における輸血1 大量出血時の輸血療法(手術)...65 2 大量出血時の輸血療法(外傷)...68 3 大量出血時の輸血療法(産科)...70 4 新生児・小児への輸血...72 II 血液製剤の管理体制2 輸血の管理体制の在り方...35 II 血液製剤の管理体制3 輸血の実施体制の在り方...41 I 輸血療法の実施4 輸血副反応とその対策...22 II 血液製剤の管理体制 3 輸血の実施体制の在り方...41
IX 血液製剤使用に関する記録の保 管・管理 X自己血輸血 参考1 院内で輸血用血液を採取する 場合 (自己血採血を除く) 参考2 乳児の輸血検査 参考3 輸血用赤血球製剤の温度管理 について参考4 医療機関における細菌感染へ の対応参考5 原因となる輸血用血液に関す る回収及び検査参考6 免疫抑制・化学療法により発 症するB 型肝炎対策参考7 輸血用血液の安全性 参考8 「輸血用血液製剤の安全対策 の導入効果と輸血によるHBV,HCV,およびHIV の感染リスク」4 輸血の有効性・安全性の評価、管理体制および使用記録の保管...46 I 輸血療法の実施 1 輸血療法の考え方:過去、現在、未来におけるありかた...7 II 血液製剤の管理体制2 輸血の管理体制の在り方...35 4 輸血の有効性・安全性の評価、管理体制および使用記録の保管...46 I 輸血療法の実施5 自己血輸血...28 IV 特殊な状況における輸血5 へき地・離島での輸血...75 7 院内での輸血用血液の採取...78 I 輸血療法の実施3 輸血検査...17 II 血液製剤の管理体制1 輸血用血液製剤保管管理...33 2 輸血の管理体制の在り方...35 II 血液製剤の管理体制2 輸血の管理体制の在り方...35 II 血液製剤の管理体制2 輸血の管理体制の在り方...35 II 血液製剤の管理体制2 輸血の管理体制の在り方...35 I 輸血療法の実施2 輸血用血液製剤の種類と保管方法...12 I 輸血療法の実施2 輸血用血液製剤の種類と保管方法...12 II 血液製剤の管理体制 2 輸血の管理体制の在り方...35
血液製剤の使用指針平成31 年3 月改正(厚生労働省)「輸血療法実践ガイド」章節 ※頁を記載I血液製剤の在り方 II赤血球液の適正使用 III 自己血輸血について IV 血小板濃厚液の適正使用 V新鮮凍結血漿の適正使用 VI アルブミン製剤の適正使用 VII 新生児・小児に対する輸血療法輸 血療法の考え方I 輸血療法の実施 1 輸血療法の考え方:過去、現在、未来におけるありかた...7 II 血液製剤の管理体制4 輸血の有効性・安全性の評価、管理体制および使用記録の保管...46 I 輸血療法の実施4 輸血副反応とその対策...22 III 血液製剤の使用1 赤血球製剤...50 I 輸血療法の実施1 輸血療法の考え方:過去、現在、未来におけるありかた...7 5 自己血輸血...28 I 輸血療法の実施4 輸血副反応とその対策...22 III 血液製剤の使用2 血小板製剤...53 I 輸血療法の実施4 輸血副反応とその対策...22 III 血液製剤の使用3 新鮮凍結血漿...55 III 血液製剤の使用4 アルブミン製剤...58 IV 特殊な状況における輸血 4 新生児・小児への輸血...72
血液製剤保管管理マニュアル平成5 年9 月(厚生労働省)「輸血療法実践ガイド」章節 ※頁を記 載 1 目的 2. 輸血療法員会と輸血部門の設置 3. 血液製剤の適正な保管管理 4. 血液製剤の受け払い 5. 血液製剤の在庫管理と返品等の 取り扱い 6. 血液センターとの連携II 血液製剤の管理体制 1 輸血用血液製剤保管管理...33 II 血液製剤の管理体制1 輸血用血液製剤保管管理...33 2 輸血の管理体制の在り方...35 4 輸血の有効性・安全性の評価、管理体制および使用記録の保管...46 V その他の取り組み3 院内輸血療法委員会と合同輸血療法委員会...85 I 輸血療法の実施2 輸血用血液製剤の種類と保管方法...12 II 血液製剤の管理体制1 輸血用血液製剤保管管理...33 2 輸血の管理体制の在り方...35 II 血液製剤の管理体制1 輸血用血液製剤保管管理...33 II 血液製剤の管理体制1 輸血用血液製剤保管管理...33 (削除)
「輸血療法実践ガイド」参照指針・ガイドライン・ガイド 早見表 表横軸の数字:次頁の【参照指針・ガイドライン・ガイド】と対応表内の●:「輸血療法実践ガイド」の各章節における参考資料 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 1 輸血療法の考え方:過去、現 代、未来におけるありかた●● ● 2 輸血用血液製剤の種類と保管方 法●●●● 3 輸血検査● ● 4 輸血副反応とその対策●● ● ● 5 自己血輸血●● ● ● 1 輸血用血液製剤保管管理● ●● 2 輸血の管理体制の在り方● ●● ● ● 3 輸血の実施体制の在り方● ● ● ● ● 4 輸血の有効性・安全性の評価、 管理体制および使用記録の保管●●●● ● ● 1 赤血球製剤● ● 2 血小板製剤● ● ● 3 新鮮凍結血漿● ● ● 4 アルブミン製剤● ● 5 免疫グロブリン製剤6 その他の製剤(フィブリノゲン 製剤) ● ● 1 大量出血時の輸血療法(手術)● ● ● 2 大量出血時の輸血療法(外傷)● ● ● 3 大量出血時の輸血療法(産科)● ● ● ● 4 新生児・小児への輸血●● ● ● 5 へき地・離島での輸血● 6 在宅輸血● ● ● 7 院内での輸血用血液製剤の採取 1 輸血機能評価認定(I&A : Inspection & Accreditation) ●● 2 日本輸血・細胞治療学会の認定 制度3 院内輸血療法委員会と合同輸血 療法委員会● ●● ● ● V その他の取り組み 「輸血療法実践ガイド」章節参照指針・ガイドライン・ガイド I 輸血療法の実施 II 血液製剤の管理体制 III 血液製剤の使用 IV 特殊な状況における輸血
【参照指針・ガイドライン・ガイド】 1 輸血療法の実施に関する指針(令和2 年3 月一部改正) 2 血液製剤の使用指針(平成31 年3 月改正) 3 血液製剤保管管理マニュアル(平成5 年9 月) 4 輸血用血液製剤保管管理ガイド 5 赤血球型検査(赤血球系検査)ガイドライン(改訂5 版) 6 科学的根拠に基づいた赤血球製剤の使用ガイドライン(改訂第3 版) 7 科学的根拠に基づいた血小板製剤の使用ガイドライン:2025 年改訂版 8 科学的根拠に基づいた新鮮凍結血漿の使用ガイドライン(改訂第3 版) 9 科学的根拠に基づいたアルブミン製剤の使用ガイドライン(改訂第3 版) 10 科学的根拠に基づいた小児輸血のガイドライン 11 科学的根拠に基づいた有害事象対応ガイドライン(改訂第2 版) 12 輸血の有効性と安全性の評価及び適正使用推進ガイド 13 血液製剤等に係る遡及調査ガイドライン(令和4 年5 月一部改正) 14 大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン(第2 版) 15 危機的出血への対応ガイドライン(2025 年4 月改訂) 16 産科危機的出血への対応指針2022 17 在宅赤血球輸血ガイド 18 宗教的輸血拒否に関するガイドライン 19 貯血式自己血輸血実施指針(貯血式ガイドライン2025) 20 輸血チーム医療に関する指針(第5 版) 21 コンピュータクロスマッチに適合する患者と輸血管理システムに必要な条 件(改訂2 版)