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がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き(2018年版) 日本緩和医療学会・2018・336 ページ · 腫瘍・緩和ケア
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A Practical Guide for

Refractory Suffering and Palliative Sedation Therapy

in Advanced Cancer Patients

Revised edition of the 2010 Clinical Guidelines for Palliative Sedation Therapy

edited by

Japanese Society for Palliative Medicine

©2018 All rights reserved.

KANEHARA & Co., Ltd., Tokyo Japan

Printed in Japan
p.5
ガイドライン統括委員会委 員 長小川 朝生国立がん研究センター東病院精神腫瘍科前委員長中島 信久琉球大学医学部附属病院地域医療部,緩和ケアセンター(2018 年7 月まで,

前任)

担当委員池永 昌之淀川キリスト教病院緩和医療内科

鎮静ガイドライン改訂WPG(Working Practitioner Group) WPG員長池永 昌之淀川キリスト教病院緩和医療内科〔緩和医療〕WPG 副員長森田 達也聖隷三方原病院緩和支持治療科〔緩和医療〕W P G 員明智 龍男名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野〔精神医学,精

神腫瘍学〕

安保 博文国家公務員共済組合連合会六甲病院緩和ケア内科〔緩和医療〕今井 堅吾聖隷三方原病院ホスピス科〔緩和医療〕清水 哲郎岩手保健医療大学〔臨床倫理〕新城 拓也しんじょう医院〔緩和医療〕須賀 昭彦中之郷クリニック〔緩和医療〕関本  剛関本クリニック〔緩和医療,消化器肝臓内科〕永山  淳国家公務員共済組合連合会浜の町病院緩和医療内科〔緩和医療〕馬場 美華吹田徳洲会病院緩和医療科〔緩和医療,麻酔科,ペインクリニック〕浜野  淳筑波大学医学医療系筑波大学附属病院総合診療グループ,緩和ケアセンター〔総合診療,緩和医療〕林 ゑり子藤沢湘南台病院看護部〔がん看護〕W G 員角  裕子京都大学医学部附属病院看護部〔がん看護〕久山 幸恵静岡県立静岡がんセンター緩和ケアセンター〔がん看護〕前田 一石ガラシア病院ホスピス科〔緩和医療〕山口  崇甲南病院緩和ケア内科〔緩和医療,内科〕会田 薫子東京大学大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理センター上廣死生学・応

用倫理講座〔外部委員:臨床倫理,臨床死生学〕

稲葉 一人中京大学法科大学院〔外部委員:法律・倫理〕田代 志門国立がん研究センター社会と健康研究センター生命倫理・医事法研究部〔外

部委員:社会学,生命倫理〕

安部 正和静岡県立静岡がんセンター婦人科井上  彰東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野大石  愛UniversityofEdinburgh/かまくらファミリークリニック大谷 弘行九州がんセンター緩和ケアチーム/緩和治療科岡本 禎晃市立芦屋病院薬剤科木下 寛也東葛病院緩和ケア科小杉 寿文地方独立行政法人佐賀県医療センター好生館緩和ケア科小早川 誠広島大学病院緩和ケアチーム竹之内沙弥香京都大学医学部附属病院倫理支援部田中 桂子がん・感染症センター都立駒込病院緩和ケア科橋本孝太郎医療法人社団爽秋会ふくしま在宅緩和ケアクリニック

W P G 員(評価委員)

iii
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濱口 恵子がん研究会有明病院緩和ケアセンター細川 豊史洛和会丸太町病院山代亜紀子京都府立医科大学疼痛・緩和医療学教室山田 岳史日本医科大学付属病院消化器外科天野 慎介全国がん患者団体連合会/一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパン〔外部

委員〕

柄山 正人浜松医科大学臨床腫瘍学講座・呼吸器内科〔外部委員〕松本 陽子全国がん患者団体連合会/愛媛がんサポートおれんじの会〔外部委員〕

 (五十音順)

iv
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v

この度,「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き2018 年版」が,関係者のご協力により発刊できたことに深く感謝いたします。また,前版の「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」の発刊が2010 年でしたので,今回の改訂までに8 年を要したことについてお詫び申し上げます。さて,この期間,終末期がん患者に対する苦痛緩和のための鎮静に関しては,そもそもの定義や安楽死との区別において混乱がみられました。また,医療者のみならず一般市民の方々においても,十分に統一されていない考え方や捉え方がなされてきたと考えています。このような状況を踏まえ,今回の手引きにおいては,苦痛緩和のための鎮静を「治療抵抗性の苦痛を緩和することを目的として,鎮静薬を投与すること」とシンプルに定義しました。また,持続的鎮静においては,これまでのように「浅い/深い」と分類するのではなく,主に苦痛の程度を指標として鎮静レベルを調整する「調節型鎮静(proportional sedation)」と,十分な意識レベルの低下を指標とする「持続的深い鎮静(continuous deep sedation)」を,持続的鎮静の分類に導入しました。このことにより,これまで鎮静における意識レベルの低下を「(手段としての)意図」として取り扱うのか,「(予見される)結果」として取り扱うのかで,混乱をきたしていた定義を整理することができたのではないかと考えています。また,今回の改訂では,タイトルを「ガイドライン」から「手引き」に変更しております。その理由は,第一に作成の基となる苦痛緩和のための鎮静に関するエビデンスの乏しさから,臨床疑問→系統的文献レビュー→推奨というような,通常の診療ガイドライン(Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007 および2014 準拠)の体裁をとることが難しいと判断したこと,第二に現場でより役に立つものにしたいと考えると「手引き(practical guide)」として発刊することがより妥当であると考えたこと,であります。「ガイドライン」から「手引き」にタイトルが変更されることにより,記載されている内容の質が低下しているように感じられるかもしれません。しかしながら,私たちは「手引き」としたことで,現在も議論が続けられていて結論が出ていない事柄を併せて記載することができ,答えがないような臨床疑問に対して現場でいかに考えればよいのかについて,より詳しく記載できるようになり,よりその内容を充実させることができたと考えております。そして,苦痛緩和のための鎮静の実施にあたっては,鎮静の具体的な方法もさることながら,鎮静を必要とする苦痛が治療抵抗性の苦痛であることの判断が最も重要であると考え,その考え方の手順を充実させました。治療抵抗性の苦痛の判断は,その現場や施設,地域の状況に左右されると考えられますので,それぞれのチームにおける検討の基準として参考にしていただけたらと思います。日本緩和医療学会およびガイドライン統括委員会として皆様に伝えたいメッセージは以下のとおりです。1) 終末期がん患者には,さまざまな症状マネジメントを行っても治療抵抗性の苦痛が出現する

ことがある。2) 他に手段がないときに鎮静薬を投与して苦痛緩和をはかろうとすることは,医学的,倫理

的,法的に正しい行為である。3) 鎮静の施行にあたっては,患者の意思の尊重,ならびにチームでの意思決定が重要である。

発刊にあたって
p.8
vi当然のことながら,この手引きを利用すれば,すべての医療行為が理想的に行えるわけでは

ありません。手引きだけに縛られず,それぞれの現場において議論を重ね,患者にとっての最善を追求しようと努力し続ける態度こそが,皆様に示したい大きな柱であることもお伝えしたいと思います。この手引きが,人生の最終段階に寄り添う現場において,医療行為を規制するものではなく支援するものとなるように願いつつ,皆様に公開いたします。終末期における鎮静の課題は,医療者だけで議論するものではなく,患者,家族,そして市民の皆様方とも共通の課題として,考えていかなければならないものと認識しております。この手引きの発刊が,「人生の最終段階において治療抵抗性の苦痛をどう緩和するか」について自分のこととして考え,議論するきっかけとなるのであれば,日本緩和医療学会ならびにガイドライン統括委員会として最大の喜びであります。

2018 年9 月

特定非営利活動法人 日本緩和医療学会

理事長 木 澤 義 之
p.9
vii

1 目 的2 2 適応の注意3

1.対 象3 2.効果の指標3 3.使用者3 4.個別性の尊重4 5.定期的な再検討の必要性4 6.責 任4 7.利益相反4

1 用語の概念と定義8

1.治療抵抗性の苦痛・耐えがたい苦痛8 2.鎮静・鎮静薬8 3.鎮静の分類9 1 間欠的鎮静10 2 調節型鎮静11 3 持続的深い鎮静11 4 まとめ11

治療抵抗性の耐えがたい苦痛への対応に関するフローチャート18

1 はじめに22 2 苦痛に対する緩和ケア24

痛みに対する緩和ケア24 1.概 要24

2.原因の同定と治療25 1 がん疼痛と,がん患者に併存する非がん

性の痛みとの区別25 2 難治性になりやすい痛み27 3 原因の治療27 3.治療目標の設定27 4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア28 1 身体的要因28 2 心理社会的要因28 5.医学的治療29 1 薬物療法29 2 薬物療法以外の治療30 6.未解決の課題32

せん妄に対する緩和ケア34 1.概 要34 2.原因の同定と治療35 1 原因の同定35 2 原因の治療36 3.治療目標の設定37 4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア38 1 身体的要因38 2 環境的・心理社会的要因38 5.医学的治療38 1 薬物療法38 6.未解決の課題40

呼吸困難に対する緩和ケア43 1.概 要43 2.原因の同定と治療44 1 原因の同定44 2 原因に対する治療46 3.治療目標の設定46 4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア47 1 身体的要因47 2 心理社会的要因47 5.医学的治療47

I章 はじめに

II章 定 義

III章  治療抵抗性の耐えがたい苦痛への

対応に関するフローチャート

IV章  実践(1) 治療抵抗性の苦痛に対す

る持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと2

3目 次
p.10
viii 1 薬物療法47

2 薬物療法以外の治療50 6.未解決の課題50 3 苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出

すための精神的ケア52 1.トータルペインとsuffering(苦悩)の概念52 2.全般的な精神的ケア53 1 生きる意味・心の穏やかさ・尊厳を強め

るケアを行う54 2 信頼関係を構築する54 3 現実を把握することをサポートする54 4 情緒的サポートを行う55 5 おかれた状況や自己に対する認知の変容

を促す55 6 ソーシャルサポートを強化する55 7 くつろげる環境や方法を提供する55 8 チームをコーディネートする56 3.スピリチュアルな痛みのケア56 1 スピリチュアルな痛みとは何か? 56 2 スピリチュアルな痛みのアセスメントと

ケア56 4. 治療抵抗性の苦痛をもつ患者に関わる医療者

の心構え59 5.未解決の課題59 4 間欠的鎮静60

1 要 件64 2 相応性の判断65

1.苦痛の強さの評価の仕方65 2.治療抵抗性の確実さの評価の仕方66 3.予測される生命予後の評価の仕方66 4.精神的苦痛の鎮静の対象としての相応性67 5. 生命予後が比較的長いと見積もられる患者の

痛みが緩和されない時の相応性67 3 意図の確認69 4 意思決定過程70

1.意思決定能力の評価の仕方70 2.意思決定能力がある患者の希望の確認の仕方3. 患者に意思決定能力がない場合の意思決定の

仕方71 4.説明内容71 5. 患者と家族の意思が異なる時の考え方:患者

が明確に鎮静を希望するが家族が希望しない場合74 6. あらかじめ患者・家族の意思を確認すること

についての考え方75 7.チーム医療75 8.診療記録への記載76 5 実際の投与方法と評価・ケア78

1.鎮静薬の投与方法78 2.鎮静開始直前の患者・家族への配慮80 3.鎮静中の継続的な評価80 4.鎮静中の患者・家族へのケア81 5.水分・栄養の補給などについての考え方81

1.鎮静の益と害86 2.鎮静の倫理的妥当性86 1 相応性86 2 医療者の意図87 3 患者・家族の意思87 4 チームによる判断88 3.まとめ88

1.鎮静の定義92 2.鎮静の分類92 3.対象患者93 4.対象となる苦痛94 5.意思決定95 1 患 者95 2 家 族98 3 医療チーム99 6.輸液と人工栄養・蘇生に関する決定99 7.薬物の投与方法99 8.評 価100 1 項 目100 2 時間間隔100

V章  実践(2) 治療抵抗性の苦痛に対す

る持続的な鎮静薬の投与VI章 倫理的検討

VII章 国際的なガイドラインの要約
p.11
ix

9.オピオイド100 10.ミダゾラムの投与方法100

1.治療抵抗性の苦痛はどのような苦痛か? 104 2. 鎮静はどれくらいの頻度で行われているか? 104 3. 鎮静にはどのような薬剤がどれくらい

用いられるか? 108 4.鎮静の効果はどうか? 109 5.鎮静の安全性はどうか? 112 6. 患者・家族は意思決定にどのように

参加しているか? 114 7. 鎮静を受けた家族はどのような体験を

しているか? 115 8.鎮静は生命予後を短くするのか? 117 9. 在宅において治療抵抗性の苦痛は生じるか? 119 10.資 料122

1.検討する内容の明確化138 2. 罪刑法定主義の考え方と,検討する具体的な

犯罪138 3.違法性阻却事由と実質的違法論139 1 違法性阻却事由139 2 実質的違法論140 3 限 界140 4. 実質的違法論からみた鎮静の違法性阻却の

根拠の検討141 1 目 的141

2 対象となる患者141 3 侵害される益の程度を最小とすること142 4 必要性・緊急性142 5 患者への説明と患者の意思142 6 チームによる判断142 5. 緊急状態における行為としての位置づけの

可能性143 6.診療記録への記載143 7.鎮静をめぐる国際的な法的議論143 8.鎮静をめぐる日本の法的議論144 9.まとめ144

1 開発過程148

1.概 要148 2.作成方法148 2 開発者と利益相反150 3 今後の検討点153

1.手引き全体の構成と対象について153 2.鎮静の妥当性の評価について153 3.患者や家族の意思について153 4.苦痛の評価について153 5.具体的な治療法・ケアについて154 6.鎮静の定義・概念について154 7.倫理的検討,法的検討について154 8.その他154

索 引155

VIII章 背景知識

IX章 法的検討(資料) X章 開発過程
p.12

        
p.13
1 目 的

2 適応の注意

I章 はじめに
p.14
近年の緩和治療の進歩にもかかわらず,がん患者の一部では,緩和ケアを積極的に行っても緩和することができない苦痛を体験する。このような苦痛を「治療抵抗性の苦痛」(refractory symptom;refractory suffering)と呼ぶ[注1]。治療抵抗性の苦痛として頻度が高いものは,せん妄,呼吸困難であるが,痛みや精神的苦痛も治療抵抗性となることがある。苦痛を緩和するために鎮静薬を投与することは「苦痛緩和のための鎮静(palliative sedation therapy)」と呼ばれ,治療抵抗性の苦痛に対する手段の一つとされている。2000 年代に日本をはじめとする各国の学術団体が鎮静に関するガイドラインを策定した。これまでに日本緩和医療学会では,鎮静のうち倫理的にも実践上も最も配慮が必要な持続的な深い鎮静(苦痛を緩和するために意図的に患者の意識を持続的に深い鎮静状態にすること)を念頭に置いたガイドラインを作成してきた。一方,昨今,持続的な深い鎮静について定義を見直すべきであるとする意見や,持続的な深い鎮静そのものの是非についての議論が国内外にある。また,臨床現場においては持続的な深い鎮静の実施それのみが単独で判断を求められるものではなく,鎮静薬の投与は「治療抵抗性の苦痛に対してどのように対応するか」という状況での選択の一つにすぎない。すなわち,重要なことは,鎮静を行うか行わないかということではなく,「治療抵抗性の耐えがたい苦痛が生じた時,患者や家族の価値観をふまえたうえでどのように対応するか」である。したがって,今回の改訂では,これまでの「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」を,鎮静だけではなく,治療抵抗性の苦痛への総合的な対応という視点に広げて議論を行うこととした。作成方法は,検討課題としている行為の定義そのものが国際的にも議論があるので,標準的な診療ガイドラインの作成方法に基づいて作成することには意義が乏しいと考えた。したがって,既存の代表的な研究知見と専門家の議論をもとに,診療ガイドラインとしてではなく基本的な考え方の手引きとして示すものとした。本手引きの目的は,がん患者の苦痛が治療抵抗性と考えられた時,すなわち,手を尽くしても患者の苦痛が十分に緩和されない状況に直面した時,医師や看護師など患者に関わる医療チームがどのように考えて対応するべきなのかについて基本的な考え方を示すことである。これによって,患者が自分の価値観に沿って苦痛の緩和を受けられることを最終的な目的としたい。

[注]

1) Refractory symptom に対する日本語訳は「治療抵抗性の症状」,refractory suffering に

対する日本語訳は「治療抵抗性の苦悩」とするのが正しいが,患者に苦痛があることを明確に示すために,「治療抵抗性の苦痛」と表記することとした。

目 的1
p.15
治療抵抗性の苦痛に対する手引きという点から,成人で治癒を見込むことができないがん患者を対象とする[注1]。苦痛緩和のための鎮静の対象という点からは,生命予後がより限られた患者が実際上の対象となる。これまでの「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」では,「緩和ケア病棟に入院している」,「緩和ケアチームの診療を受けている」,あるいは,「緩和ケアチームもしくは緩和ケアに習熟した医師の診療・助言のもとで診療を受けている」などの限定を設けていた。しかし,緩和ケアが広く行われることになったことを受けて,使用場所や使用者を限らずさまざまな場で利用されることを前提とすることが,治療抵抗性の苦痛をもつ患者の利益につながると考えた[注2]。一方,心不全・呼吸不全・神経疾患・腎疾患などのがん以外の疾患の治療抵抗性の苦痛に対する対応の参考にすることも可能だが,委員の多くが非がん患者の緩和治療に関する十分な経験がないことや,非がん疾患では標準的な緩和治療(呼吸困難に対するオピオイドなど)もがんほど確立していないことから,今回は非がん患者を対象に含めないこととした。

患者の生活の質(クオリティオブライフ,quality of life)を効果の指標とする[注3]。生活の質として何が重要かは,患者の価値観によって異なるため,画一的には決定できない。一般的には,多くの患者にとって,身体的苦痛が緩和されていること,精神的に穏やかでいられること,人生の意味や価値を感じられること,家族との関係を強めること,死に対する心構えができること,心残りがないことなどの要素が重要である。いくつかの要素は他の要素と両立しない。治療抵抗性の苦痛がある場合,苦痛が緩和されることと,意識がしっかりしていることとが両立しないことがある。身体的苦痛を完全に緩和することによって患者の意識が低下してしまうような場合,患者によっては,意識が維持されることをより重要と考え,苦痛の緩和はある程度できていればそれ以上望まないこともある。一方,患者によっては,他者とコミュニケーションをとることが難しくなっても苦痛の完全な緩和を希望することもある。全体の治療目標を決めるうえでは,このような個々の患者の価値観に十分沿うことが何よりも重要である[注4]。

対象患者を診療する医療者・医療チームを本手引きの使用者とする。

適応の注意2 1.対 象

2.効果の指標

3.使用者I章
p.16
本手引きは,記載に従った画一的なケアを勧めるものではない。手引きでは臨床的,学問的に妥当と考えられる一般的な水準を示しているが,個々の患者への適用は,対象となる患者の個別性に十分配慮し,患者を診療しているそれぞれの医療チームが責任をもって決定するべきものである。本手引きの適用にあたっては,具体的に記載されている各項目を満たすかを判断することだけが医療チームの役割ではないことを十分に認識する必要がある。各項目を十分に検討することを通じて,患者や家族と理解を深め合い,ともに困難な過程を分かち合うことが重要である。

本手引きはもともと2012 年度末までに修正される予定であった『苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010 年版』を発展させたものである。出版後5 年後末までに再検討をする(改訂責任者:日本緩和医療学会理事長)。

本手引きの内容については日本緩和医療学会が責任をもつが,鎮静薬の使用方法を含む個々の患者への適用に関しては患者を直接担当する医師が責任をもつ。本手引きは,治療抵抗性の苦痛に直面した時の基本的な考え方を示すものであり,個々の診療行為を規制または指示する意図をもつものではない。また,医療訴訟等の資料となるものではない。

本手引きの作成にかかる費用は,日本緩和医療学会のガイドライン統括委員会より拠出された。作成のどの段階においても,日本緩和医療学会は本手引きで扱われている薬剤の製造・販売会社など利害関係を生じうる団体からの資金提供を受けていない。委員の利益相反はP150 に示す。

[注]

1) 苦痛緩和のための鎮静が安易に行われないように,対象としてより終末期の(死期が

迫っている)患者に限定するべきだとの意見があった。実際上,苦痛が治療抵抗性であると判断され鎮静が検討される状況は,より終末期に限られる(患者の全身状態が良い場合は苦痛を緩和する他の手段を検討する余地があり,治療抵抗性と判断されにくいため)。一方,緩和が困難な苦痛が生じるのは必ずしも終末期とは限らない。本手引きが「治療抵抗性の苦痛」の可能性が生じた時に参照するものであるという考えから,対象患者は「治癒を見込むことができないがん患者」全体とした。また,対象を成人に限った理由は,小児がん患者においても治療抵抗性の苦痛の課題があることは認識しているものの,ほとんどの委員の臨床経験が成人に限られているためである。

4.個別性の尊重

5.定期的な再検討の必要性

6.責 任

7.利益相反
p.17
2) 使用者の範囲を拡大することについては利益もある一方で,緩和ケアの知識や技術の

習得が不十分な場合に不適切に使用されることを懸念する意見もあった。しかし,今回の内容が診療内容を具体的に規定するものではない(特に薬剤の具体的な投与方法は例にすぎず,個々の患者において効果と安全性が担保されているわけではない)ことと,十分なパブリックコメントの時間を設けることを前提として,利用者の範囲を拡大して検討を行った。

3) 効果の指標として,患者と家族の両方のアウトカムを含むべきであるという意見が

あった。一般的に,緩和ケアでは家族もケアの対象であり,患者と家族の両方が満足いくことを目的とするべきである。一方,治療抵抗性の苦痛がある状況では,しばしば,患者と家族の希望が一致しない場合がある。この場合にも,患者と家族の両方が満足のいく結果に向けて努力することが重要ではあるが,患者の希望と家族の希望のどちらをより重視するかを明確にするために,患者のアウトカムを効果の指標とすると記載した。

4) 鎮静の「実施率」を評価指標とする考え方があるが,本来緩和ケアの評価は患者や家

族が行うべきものであること,鎮静の実施率の算出方法が標準化されていないこと,および,患者の状態によって必要な緩和治療も異なることから,鎮静の実施率のみを緩和ケアの質とみなす立場はとらない。I章
p.18

        
p.19
1 用語の概念と定義

II章 定 義
p.20
本手引きで扱う用語の概念と定義を示す。

「治療抵抗性の苦痛」(refractory symptom)とは,「患者が利用できる緩和ケアを十分に行っても患者の満足する程度に緩和することができないと考えられる苦痛」を指す[注1]。治療抵抗性であると判断されるには,「1すべての治療が無効である,あるいは, 2患者の希望と全身状態から考えて,予測される生命予後までに有効で,かつ,合併症の危険性と侵襲を許容できる治療手段がないと考えられること」が必要である。苦痛の原因の同定と原因に対する治療,苦痛を悪化させている要因の改善とケア(身体的要因,心理社会的・環境的要因),苦痛緩和を目的とした医学的治療(薬物療法など)それぞれについて検討する。十分な評価,治療を行わずに安易に治療抵抗性であるとしてはならない。苦痛の治療抵抗性が不明瞭な場合,期間を限定して苦痛緩和に有効な可能性のある治療を行うこと(time—limited trial)を検討する。苦痛が治療抵抗性であることは,患者の診療にあたっているチーム全体で,かつ,経験のある専門家を含めて判断することが望ましい[注2]。「耐えがたい苦痛」(intolerable symptom)とは,患者にとって耐えられない苦痛を意味する。患者が耐えられないと明確に表現するか,患者が苦痛を適切に表現できない場合には患者の価値観や考えをふまえて耐えられないと想定される苦痛と定義する。

表1 治療抵抗性の苦痛・耐えがたい苦痛の定義治療抵抗性の苦痛(refractory symptom)患者が利用できる緩和ケアを十分に行っても患者の満足する程度に緩和することができないと考えられる苦痛耐えがたい苦痛(intolerable symptom)患者が耐えられないと明確に表現する,または,患者が苦痛を適切に表現できない場合には患者の価値観や考えをふまえて耐えられないと想定される苦痛

これまで,治療抵抗性の苦痛に対して,患者の意識を低下させることを意図して鎮静薬を投与することを「苦痛緩和のための鎮静(palliative sedation therapy)」と呼んできた。2018 年現在,各国で公開されているガイドラインにおける苦痛緩和のための鎮静の定義の中心をなす部分は「苦痛緩和のために患者の意識を意図的に低下させること(意識を低下させる意図をもって鎮静薬を投与すること)」である(P91,VII章 国際的なガイドラインの要約参照)。この定義では,患者の意識が低下することを「意図している」場合を鎮静とすることによる問題が生じる。すなわち,苦痛緩和を目的として同じ鎮静薬を投与した場合でも,仮

用語の概念と定義1

1.治療抵抗性の苦痛・耐えがたい苦痛(表1)

2.鎮静・鎮静薬(表2)
p.21
に「意識の低下を意図していない」と医師が主張したとすれば,結果として意識の低下が生じたとしても鎮静とは呼ばれない。このような鎮静の定義に関するあいまいさは,国際的にも意見の分かれるところである。したがって,本手引きの作成にあたっては意図的な意識の低下か否かに基づいた鎮静の定義をなるべく避けた定義を提案することとした。そもそも,本手引きは,概念上完全に矛盾のない鎮静に関する定義を提言することを目的としていない。現在,国内で実施されている鎮静薬の投与に伴って生じている臨床上の課題に関する見解を明らかにすることによって,患者が適切な緩和ケアを受けられることを目的とするものである。したがって,定義としては完全でなくても,議論がしやすくなることを選択した。本手引きでは,苦痛緩和のための鎮静を,医師が患者の意識の低下を意図するかしないかにかかわらず,「治療抵抗性の苦痛を緩和することを目的として,鎮静薬を投与すること」と定義する[注3]。鎮静薬とは,一般的には,中枢神経系に作用し興奮を鎮静する薬物を指す。鎮静薬の定義を広くすれば鎮静の範囲が広くなり,議論の焦点があいまいになるため,本手引きでは,日本の実臨床で使用されている頻度の高い薬剤を鎮静薬とする。具体的には,ベンゾジアゼピン系の麻酔導入薬であるミダゾラム(注射薬),ベンゾジアゼピン系睡眠薬であるフルニトラゼパム(注射薬),ジアゼパム(坐薬),ブロマゼパム(坐薬),バルビツール系睡眠薬であるフェノバルビタール(注射薬,坐薬)を指すものとする[注4]。オピオイドと抗精神病薬(ハロペリドール,クロルプロマジン,レボメプロマジン)は本手引きで指す鎮静薬には含めない。したがって,痛みや呼吸困難・せん妄の緩和のためにオピオイド・抗精神病薬を妥当な投与量に増量した結果患者の意識が低下した場合は,鎮静とはみなされない。これは,従来は副次的鎮静と呼ばれていたものであるが,症状緩和と鎮静との境界があいまいになるため副次的鎮静という概念を用いないこととした。このことは,「オピオイド・抗精神病薬の増量は鎮静ではないから,無制限に増量してもよい」ことを意味しているのではない。オピオイド・抗精神病薬の適切な増量については,「IV章 治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと」(P21)に記載した。

表2 鎮静と鎮静薬の定義苦痛緩和のための鎮静治療抵抗性の苦痛を緩和することを目的として,鎮静薬を投与すること。鎮静薬中枢神経系に作用し興奮を鎮静する薬物。本手引きでは,ミダゾラム(注射薬),フルニトラゼパム(注射薬),ジアゼパム(坐薬),ブロマゼパム(坐薬),フェノバルビタール(注射薬,坐薬)を指す。オピオイドと抗精神病薬は含まない。

鎮静は,鎮静薬の投与方法によって,間欠的鎮静(intermittent sedation)と持続的鎮静(continuous sedation)との二つに大別され,さらに,後者を調節型鎮静(proportional sedation)と持続的深い鎮静(continuous deep sedation)に区別する(表3,図1)。患者の意識水準は苦痛を緩和しようと鎮静薬を投与した結果であるともいえるため,鎮

3.鎮静の分類[注5] II章
p.22
静水準による浅い鎮静/深い鎮静という分類は用いない。鎮静レベルを表現する必要がある場合は,Richmond Agitation—Sedation Scale(RASS)の定義に従う(P84,資料 鎮静の時に使用される評価尺度参照)。

間欠的鎮静間欠的鎮静とは,「鎮静薬によって一定期間(通常は数時間)意識の低下をもたらしたあとに鎮静薬を中止して,意識の低下しない時間を確保しようとする鎮静」を指す。具体的には,せん妄や呼吸困難,痛みなどの治療抵抗性の苦痛に対して,苦痛を緩和するために鎮静薬を数時間投与し,就眠・鎮静を得たあとに鎮静薬を中止することを指す。治療抵抗性の苦痛を伴わない不眠に対する夜間の睡眠薬の投与は,「治療抵抗性の苦痛を緩和するために」という鎮静の定義に該当しないため,本手引きでは鎮静に含めない。

1

表3 鎮静の分類の定義間欠的鎮静鎮静薬によって一定期間(通常は数時間)意識の低下をもたらしたあとに鎮静薬を中止して,意識の低下しない時間を確保しようとする鎮静

持続的鎮静苦痛に応じて少量から調節する鎮静(調節型鎮静)苦痛の強さに応じて苦痛が緩和されるように鎮静薬を少量から調節して投与すること

深い鎮静に導入して維持する鎮静(持続的深い鎮静)中止する時期をあらかじめ定めずに,深い鎮静状態とするように鎮静薬を調節して投与すること

図1 鎮静の分類

鎮静薬を中止する

■間欠的鎮静

鎮静薬の投与量の調節は,患者の苦痛の程度を基準とする。したがって,結果として,意識が低下する場合も低下しない場合もある。鎮静薬の投与量の調節は,患者が深い鎮静となることを基準とする。定期的に深い鎮静が必

要かを再評価する。結果として,死亡まで継続する場合も,中止する場合もある。

■持続的鎮静

持続的深い鎮静

治療抵抗性の苦痛に対して,一定期間(数時間)鎮静薬を投与する調節型鎮静

はい

いいえ

治療抵抗性の苦痛に対して少量から鎮静薬を持続的に投与する

鎮静薬を漸増する

治療目標:苦痛が患者にとって耐えられる程度になる(e.g., STAS≦2)

苦痛がとれるだけの最小量の鎮静薬を維持投与するはいいいえ

治療抵抗性の苦痛に対して深い鎮静が得られるまで鎮静薬を持続的に投与する

鎮静薬を漸増する

治療目標:患者は深い鎮静状態となる(RASS≦-4)

深い鎮静を維持するのに必要な鎮静薬を維持投与する

※太枠が当面の治療目標を示しているSTAS:Support Team Assessment Schedule, RASS:Richmond Agitation‒Sedation Scale
p.23
調節型鎮静調節型鎮静とは,「苦痛の強さに応じて苦痛が緩和されるように鎮静薬を少量から調節して投与すること」を指す[注6]。具体的には,鎮静薬(主にはミダゾラム)を少量から増量して,患者の苦痛が緩和される最小の量を投与することを指す。鎮静薬の投与量を調節する基準は,患者の意識水準ではなく,苦痛の強さである。したがって,結果として,患者の意識が維持された状態で苦痛が緩和される場合もあり,苦痛が強い場合には苦痛にあわせて鎮静薬を増量した結果として患者の意識が低下してはじめて苦痛が緩和される場合もある。苦痛の強さの指標としては,Support Team Assessment Schedule(STAS)が1~2 以下であることを用いる[注7]。従来の「浅い鎮静」との違いは,浅い鎮静では,鎮静薬の投与量を調節する基準が苦痛であることが明確にはされておらず,患者の意識水準を用いて定義していることである。本手引きでは,調節型鎮静は,苦痛の強さを指標にして鎮静薬の投与量を調節するということを明らかにすることから,意識の水準を指標とした浅い鎮静という表現を用いなかった。

持続的深い鎮静持続的深い鎮静とは,「中止する時期をあらかじめ定めずに,深い鎮静状態とするように鎮静薬を調節して投与すること」を指す。鎮静薬の投与量を調節する基準は,患者の意識水準であり,RASS の-4(深い鎮静)から-5(覚醒不可能)の水準を指す。「中止する時期をあらかじめ定めずに」と定義するのは,鎮静を開始する時点で「患者の死亡まで(必ず)深い鎮静を維持する」と明確に意図するのではなく,状況を定期的に確認して,「苦痛が緩和されていない,または深い鎮静を中止したら患者の苦痛が再燃して不利益となる(であろう)から深い鎮静を継続する」と考えることが妥当であるからである。深い鎮静を中止しても患者の苦痛が再燃せず不利益とならないと考えられる場合には鎮静薬を減量・中止する。結果的に死亡まで持続的な深い鎮静状態が維持された場合は,死亡まで継続した持続的深い鎮静(continuous deep sedation until death)に該当する。鎮静を開始する時点で,死亡まで深い鎮静を維持するという意図をもって行うものではない。

まとめ間欠的鎮静,持続的鎮静(調節型鎮静,持続的深い鎮静)を比較した表をまとめとして示す(表4)。これらすべての医療行為の最終的な目標は苦痛の緩和である。苦痛を緩和するための当面の目的,指標,手段,その背景にある考え方が異なっている[注8]。例えば,以下のような使用方法が可能である。・ 間欠的鎮静で効果がなかったため,調節型鎮静を実施した。調節型鎮静によって苦痛緩

和が得られ,患者の意識はRASS=-1 であった。・ 間欠的鎮静で効果がなかったため,調節型鎮静を実施した。調節型鎮静によって苦痛緩

和が得られたが深い鎮静(RASS=-4)になった(注:意識の低下は鎮静薬のためか自然経過かを区別できない)。

3

4 II章
p.24
・患者の苦痛が著しく,生命予後が数時間から長くても数日と考えられたことと,患者や

家族の希望から,持続的深い鎮静を開始した。患者の苦痛は緩和され,患者は深い鎮静(RASS=-4)となった(意図された深い鎮静)。・患者の苦痛が著しく,生命予後が数時間から長くても数日と考えられたことと,患者や

家族の希望から,最初から持続的深い鎮静を開始した。患者の苦痛は緩和され,患者は深い鎮静状態(RASS=-4)となったが,翌日に身体状況が安定していたため,鎮静薬を減量して調節型鎮静に切り替えた。その結果,数日後に患者の苦痛は緩和された状態で,意識がある程度回復した(RASS=-1)。

[注]

1) 概念上の定義である。例えば,日本のある地域では利用できるが,ある地域では受け

ることのできない治療は存在する。本手引きでは,実際上,患者の利用できるリソースには地域差・施設差があることを認識したうえで,「患者が利用できる緩和ケア」と表現することにした。当然のことながら,将来に向けて,日本のどこであっても利用できる緩和ケアの機会が均等になることを目標とするべきである。実践上の具体的に検討する内容についてはIV章(P21)を参照。

表4 間欠的鎮静,調節型鎮静,持続的深い鎮静の比較

間欠的鎮静持続的鎮静

調節型鎮静持続的深い鎮静

最終的な目的苦痛の緩和苦痛の緩和苦痛の緩和最終的な目的を達成するために当面の目的とすること一定期間(通常数時間)の意識の低下/就眠耐えられる程度になるまでの苦痛の緩和(結果として意識が低

下する場合もしない場合もある)深い鎮静(深い鎮静でなければ苦痛が十分に

緩和されないという見込みを前提としている)

指標と手段一定期間の就眠を指標として,間欠的に鎮静薬を投与する苦痛の程度(例えば, STAS≦2)を指標として,持続的に鎮静薬を少量から投与する意識水準(深い鎮静,例えばRASS =-4)を指標として,持続的に鎮静薬を投与する背景にある考え方一時的でも苦痛を感じない時間を確保することが患者の利益になるできるだけコミュニケーションがとれる状態を確保しながら,苦痛を最大限緩和することが患者の利益になるコミュニケーションがとれなくなっても,苦痛を確実に取り除くことが患者の利益になる対象となる状態(例)せん妄や呼吸困難,

痛み(間欠的に苦痛が強い場合)せん妄や呼吸困難,痛み(持続的に苦痛が強い場合)致死性の消化管穿孔・肝出血などによる鎮痛薬が無効な非常に強い痛み,窒息・気道出血などによる非常に強い呼吸困難,すでに間欠的鎮静や調節型鎮静が試みられたが十分に緩和しないまたは緩和しないことが予測される非常に強いせん妄・呼吸困難

STAS:Support Team Assessment Schedule, RASS:Richmond Agitation‒Sedation Scale
p.25
2) 治療抵抗性の苦痛であるという判断は,本来的には,医療チーム全体が意思決定に参

加して,かつ,経験のある専門家が行うべきものである。しかし,現実的に,患者が緩和ケアを受けている状況によっては,夜間などの緊急時,地域に経験のある専門家がいない時もあるため,「望ましい」という表現にとどめた。チームで判断することが可能で,経験のある専門家にコンサルテーションできる状況であれば,医師1 名の判断ではなく,チームでの判断をするべきである。

3) 治療抵抗性の苦痛も定義が明確でないため,定義から「治療抵抗性の苦痛」を除くほ

うがよいという意見もあった。その場合は緩和ケアにおける鎮静薬の使用全般を検討することになる(例えば,処置時に一時的に鎮静薬を使用するなど)。今回は,治療抵抗性の苦痛に対する対応を検討するという点で,定義に残すこととした。

4) 当然ながら,今回の手引きで規定されている以外の薬剤(例えば,プロポフォール,

デクスメデトミジン,レボメプロマジン)を使用した場合はどうなのか,規定されている他の投与方法で投与したら鎮静に該当しないのか(例えば,フルニトラゼパムを経口で日中に投与する),投与量が違う場合にはどうなのか(例えば,ハロペリドールを非常に高用量で投与する)という疑問がありうる。これについては,今回の手引きでは個々について判断はしない。本手引きは,現在行われている頻度の高い医療行為についての基本的な考え方を示すもので,鎮静の完全な定義を行うことを意図しているわけではないからである。例えば,レボメプロマジンはヨーロッパにおいて治療抵抗性のせん妄に対して鎮静を

行う時に使用頻度が比較的高い。国内でも一定の頻度で使用されている。クロルプロマジンが苦痛緩和のための鎮静に用いられる薬剤に含められる場合もしばしばある。しかし,レボメプロマジンやクロルプロマジンの投与を鎮静と呼ぶか呼ばないかを議論するよりも,どのような対応をすればよいのかを議論することが現時点では妥当であると考えた。薬剤の種類や投与量によって鎮静とみなすかみなさないかについては,さらに検討が

必要である。

5) 鎮静の分類呼称は暫定的に提案するものであり,これ以外にいろいろな考え方があり

うる。本手引きで提案した名称については,今後変更される可能性がある。委員会では,実臨床において,1鎮静薬を間欠的に投与する場合,2苦痛の程度にあ

わせて鎮静薬を少量から調節して持続投与する場合,3苦痛が非常に強い場合に少量からの投与では十分に緩和できないという見込みのもとに最初から深い鎮静に導入する場合,の3 つがあることで一致した(表)。これは,国際的な文献的考察でも裏付けられるものである。英語圏では,この3 つの鎮静を,順に,1respite sedation,2proportional sedation,3continuous deep sedation(sudden sedation/emergency sedation)と呼ぶ傾向にある。これらの概念を最もよく表す日本語訳については相当の議論があった。まず,鎮静薬を間欠的に投与する場合(respite sedation,1)については,「一時的

に患者が苦痛を体験しない休息を与える」という目的を含んだ呼称として,当初,レスパイト・セデーションとカタカナで表記することが提案された。しかし,現在一般的に呼称されている名称から大きく変更することによって生じうる混乱や介護領域で用いらII章
p.26
れるレスパイトとの用語の重複も考え,間欠的鎮静の名称を残すこととした。次に,苦痛の程度にあわせて鎮静薬を少量から調節して持続投与する場合(propor-

tional sedation,2)については,当初,適切な日本語訳がないことから,プロポーショナル・セデーションとカタカナ表記することも検討されたが,プロポーショナル・セデーションや,直訳の相応的鎮静(比例的鎮静)では意味がわかりにくいため,苦痛の程度にあわせて調節するという行為が明確になるように「調節型鎮静」とした。しかし,調節型鎮静と表現すると,間欠的鎮静でも持続的深い鎮静でも患者の苦痛と全身状態にあわせて鎮静薬を調節して投与する点では同じである(「すべての鎮静は調節型である」ともいえる)にもかかわらず,間欠的鎮静・持続的深い鎮静では調節をしなくてもよい印象を与えうるとの意見があった。そのため,例えば「段階的鎮静」という言葉も提案されたが,何に向かって段階的なのかが不明確で,段階的に深い鎮静を目的とする印象を与えうるとの意見があった。そのため,本手引きでは,完全な表現ではないかもしれないが,調節型鎮静と呼ぶことを提案することとした。さらに,最初から深い鎮静に導入する場合(continuous deep sedation,3)につい

ては,急速な鎮静(rapid sedation),緊急時の鎮静(emergency sedation)がわかりやすいとの意見もあったが,現状で使用されている用語からの継続を考え「深い鎮静に導入して維持する鎮静」(持続的深い鎮静:continuous deep sedation)とした。一方,これまで用いられてきた浅い鎮静/深い鎮静という分類は,結果を意味している

のか目的を意味しているのかがあいまいなため今回は用いなかった。例えば,鎮静薬を持続的に投与し,当初意識のある状態で苦痛緩和が得られていたが,徐々に深い鎮静状態でないと苦痛が緩和されなくなった場合,これまでは「浅い鎮静から深い鎮静に移行した」と表現する場合が多かった。今回は,苦痛を緩和するだけの鎮静薬を調節して投与した結果,患者の苦痛が緩和され意識水準が変化したと考える。表現としては,「調節型鎮静を実施した。患者の意識水準はRASS=-1 から-4 に変化した」となる。調節型鎮静の定義では,鎮静薬の投与量を調節する基準が苦痛緩和の程度であり,患者の意識の変化はその結果であることが明確になったと考える。

6) 調節型鎮静が,意図して意識を低下させることによって定義される,「従来の鎮静」に

該当するのかの判断は以下の理由から難しい。まず,医師の意図に基づく定義のあいまいさである。従来の鎮静は医師の意図により

表 鎮静の分類名として提案されているもの

類似の概念に対する他の呼称

間欠的鎮静(intermittent sedation)レスパイト・セデーション(respite sedation),一時的鎮静(temporal/transient sedation),短期鎮静(short‒term sedation)苦痛に応じて少量から調節する鎮静(調節型鎮静:proportional sedation)浅い鎮静(mild/light/superficial sedation),意識のある鎮静(conscious sedation),徐々の持続的深い鎮静(gradual continuous deep sedation),段階的鎮静,必要に応じて鎮静薬を増量する鎮静(sedation with increasing the depth if necessary)深い鎮静に導入して維持する鎮静(持続的深い鎮静:continuous deep sedation)無意識をもたらす鎮静(sedation to unconsciousness),最初から深い鎮静を意図する鎮静(deep sedation right from the start),緊急時の鎮静(emergency sedation),急速な鎮静(sudden sedation),迅速な持続的深い鎮静(rapid continuous deep sedation),死亡まで継続する持続的深い鎮静(continuous deep sedation until death)
p.27
定義されるため,少量の鎮静薬を投与した時に医師が「患者の意識の低下を意図していない」と主張した場合は鎮静とみなされないことになる。一方,同じ薬剤を同じ投与量で使用しても医師によっては「患者の意識の低下を意図している」と主張し,鎮静に該当する場合もありうる。また,実際に,終末期では,鎮静薬を投与したあとに意識低下を生じたとしても,病

状の悪化に伴う自然経過による意識低下が生じうるため,意識の低下が薬物の作用によるものとは必ずしも判断できない。さらに,症状によっては(少量の)鎮静薬そのものに苦痛を緩和させるという場合が

ありうる。例えば呼吸困難に対してミダゾラムが効果があるという知見がある。もともとの苦痛に対して効果がある鎮静薬の投与が「意図的に意識を低下させる」鎮静とみなされるべきかはっきりしない。以上の観点から,本手引きでは,「調節型鎮静は鎮静なのか鎮静でないのか」という議

論は保留し,鎮静薬の使用をすべて鎮静として扱うこととした。調節型鎮静を鎮静とみなすかどうかはともかく,「鎮静薬(例えばミダゾラム)の持続投与を行う時に何を考えるべきか」という視点から整理を行う。

7) 苦痛を評価する指標としては,国内で一般的に使用されているかという観点から

STAS を挙げた。Numerical Rating Scale の代理評価やその他の苦痛の評価尺度の使用を否定するものではない。また,RASS を苦痛の評価として使用するという考えもありうる。しかし,RASS は

本来は意識の指標であり,患者の感じる苦痛の程度とは一致しない場合がある。したがって,本手引きでは,意識の評価指標であるRASS と,苦痛の評価指標であるSTASを分けて使用することとした。

8) 鎮静薬の使用の最終的な目的が苦痛緩和であることは意見が一致するが,当面の目的

や手段について意見が完全に一致するとは限らない。例えば,「苦痛の緩和を目的として鎮静薬を投与しているが,意識の低下は目的とはしておらず,生じたとしたら合併症(副作用)である」という主張もありうる。これは,目的と手段の区別,意図のあいまいさによるものであり,本手引きでは,複数の考えはあることを認めつつも,最終的な目的,当面の目的,指標と手段の考え方を提案した。II章
p.28

        
p.29
III章

治療抵抗性の耐えがたい苦痛への対応に関するフローチャート
p.30
治療抵抗性の耐えがたい苦痛が疑われた場合の対応についての基本的な考え方をフローチャートに示す(図1)。治療抵抗性の苦痛が疑われた場合,すなわち,臨床的には手を尽くしても患者の苦痛がなかなか緩和しない場合,まず行うべきことは,十分な緩和治療が行われているかどうかの再検討である。すなわち,治療抵抗性が疑われている苦痛(せん妄,呼吸困難,痛みなど)の治療が十分に行われているかをチームで再検討し,あわせて,苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための精神的ケアを検討する。苦痛が強く一時的な苦痛緩和が必要と考える場合には,患者の休息を確保するために,夜間・日中の間欠的鎮静を実施するかを検討する。十分な見直しを行っても苦痛が緩和されない場合,患者の意思と状況の相応性から考えて最善の選択が何かという点から検討する(相応性についてはP65 を参照)。患者の意思によっては,意識が低下する可能性のある方法は希望せず,苦痛が持続したとしてもしっかりコミュニケーションできる方法を選択する場合もある。患者の価値観に基づく意思をよりどころにして相談することが基本である。患者の意思と相応性に基づいて妥当だと考えられる場合,持続的な鎮静薬の投与を考慮する。鎮静は患者の意識が低下することによって人間らしい生活を遠ざけるという側面があるため,一般的には,意識への影響の少ない方法を優先する(表1)。すなわち,調節型鎮静を優先して考慮する。一方,苦痛の強さが著しい,治療抵抗性が確実である,予測される患者の生命予後が切迫している(日から時間の単位である),持続的深い鎮静でなければ苦痛が緩和されないと見込まれる,かつ,副作用のリスクを許容しうる場合には,持続的深い鎮静を最初から行うことも検討しうる。

治療抵抗性の耐えがたい苦痛への
p.31
対応に関するフローチャート

図1 治療抵抗性の耐えがたい苦痛が疑われた場合の対応についての,基本的な考え方のフローチャート

治療にもかかわらず苦痛が継続

治療抵抗性である治療抵抗性とはいえない

妥当とはいえない

耐えがたい苦痛

治療抵抗性

持続的な鎮静薬の投与

調節型鎮静持続的深い鎮静

患者の意思と相応性(苦痛の強さ,治療抵抗性の確実さ,予測される生命予後,効果と安全性の見込み)

患者の意思と相応性からみて妥当であると考えられる

状況に応じて(限定的)原則的に持続的な鎮静薬の投与以外の苦痛緩和手段の見直し

1.苦痛に対する緩和ケア・せん妄の緩和ケア・呼吸困難の緩和ケア・痛みの緩和ケア・その他の苦痛の緩和ケア2.苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための精神的ケア3.間欠的鎮静(必要に応じて)

表1 持続的鎮静の2 つの方法のメリットとデメリット

メリットデメリット

調節型鎮静コミュニケーションできる可能性がある苦痛緩和が十分に得られない可能性がある持続的深い鎮静確実な苦痛緩和が得られる可能性が高いコミュニケーションできなくなる(意図されている)原則的には調節型鎮静を優先して考慮し,持続的深い鎮静の使用は限定的である。
p.32

        
p.33
1 はじめに

2 苦痛に対する緩和ケア

1 痛みに対する緩和ケア2 せん妄に対する緩和ケア3 呼吸困難に対する緩和ケア

3 苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための精神的ケア

4 間欠的鎮静

IV章 実践(1)

治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと
p.34
本章では,治療抵抗性の耐えがたい苦痛への対応として持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこととして,治療抵抗性の苦痛として頻度の高いせん妄,呼吸困難,および,治療抵抗性と判断することの難しい痛みに対して検討するべき緩和ケアと,どのような時にも重要な精神的ケアについてまとめる。苦痛は患者の主観的体験であるから,苦痛そのものが完全になくならなくても,苦痛に対する閾値をあげ,苦痛があっても人生に意味を見出すことができるならば,苦痛に耐えることができる。したがって,精神的ケアは,標準化することは難しいものの非常に重要である。痛み,せん妄,呼吸困難が治療抵抗性である場合の対応については,実証研究がほとんどないため委員の合意での記載を行った[注1]。一般的な診療ガイドラインの記載に従うと,エビデンスの高い治療はなく,具体的に示せるものは乏しい。それでは,治療抵抗性の苦痛に苦しんでいる患者の利益にならないと考えたため,エビデンスとしては不十分なものも含めて記載はなるべく具体的に行った。意図としては,治療抵抗性の苦痛の場面において,選択肢として具体的な記述があるほうが患者の利益になると考えたためである。本章の記載内容については今後の実証研究の結果によって修正される可能性があり,一般化できるとは限らないものも含まれている。各症状ごとのガイドラインの記載と矛盾を生じる場合がありうる。本手引きで想定するのは,ガイドラインに従って診療を行ったとしても苦痛が緩和されない場合である。該当する苦痛についてのガイドラインなども,順次改訂される最新のものを参考にしていただきたい1—3)。治療抵抗性の苦痛に対して,「どこまで治療をすれば十分なことができていると考えてよいか」を示す水準を明示することは難しいが,現実にはそれこそが求められている。高度医療機関の間でも実施できる緩和治療には差があるし,高度医療機関で行われている緩和治療のなかには小規模病院・施設などでは実施できないものがある。逆に,心理社会的な要因として,在宅療養でしか得られないもの(家族との距離感や住み慣れた環境)を病院に求めることは難しいし,地域によっては必要なリソースをみつけることが現実的に難しい場合がある。リソースの不均等は社会全体で解決するべき問題である。具体的な治療については「あるべき状態」ではなく「現状で実施可能な状態」を念頭に記載した。また,せん妄や呼吸困難では,間欠的鎮静や持続的鎮静が検討されるタイミングを「持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと」に記載するほうが自然であったため,鎮静薬の投与に関する記述が含まれている。

[注]

1) 本章の内容をどの程度具体的に記載するのかについては賛否があった。学術団体の記

載する手引きとしてエビデンスが不十分であったり,患者にとっての利益と不利益の見

はじめに1
p.35
積もりができないものは記載するべきではないとの意見もあった。しかし,今回の手引きでは,実際に治療抵抗性の苦痛をもった患者を診療する医療チームが「この患者にはこの方法を検討する価値があるかもしれない」と考えるきっかけになることを意図して,具体的な記載をすることとした。具体的な記載をそのまま,あるいは,具体的な記載のすべてを実際に提供することを勧めているのではない。

【文 献】1) 日本緩和医療学会 編.がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016 年版,東京,金原出版,2016 2) 日本緩和医療学会 編.がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2014 年版,東京,金原出版,2014 3) 日本緩和医療学会 編.専門家をめざす人のための緩和医療学,東京,南江堂,2014 IV章
p.36
痛みが治療抵抗性となり鎮静を必要とすることはそれほど多くない。しかし,苦痛が臓器障害を反映している呼吸困難やせん妄に比べると,治療抵抗性の痛みは全身状態の良い患者でも生じうる。場合によっては経口摂取が十分できている患者の痛みが緩和困難となる場合も想定される。全身状態が良い患者に鎮静を実施すれば,患者の全身状態を大きく変化させたり,生命予後を短縮したりする可能性がある。したがって,痛みに対して鎮静を検討する場合は,痛みが「本当に治療抵抗性であるか」,すなわち鎮静以外に緩和する方法が本当にないのか特に慎重に検討する必要がある。

苦痛に対する緩和ケア2痛みに対する緩和ケア1

1.概 要(表1)

表1 痛みの治療の概要

要点主な具体的な対応例

原因の同定と治療原因の同定痛みに関する問診,痛みの場所の確認,触診による知覚鈍麻などの身体的診察,画像検査を確認し,痛みの原因を明らかにする

痛みの原因に対する治療抗がん治療,感染症に対する治療など痛みの原因に対する治療を行えないかを検討するオピオイドによる痛覚過敏の可能性の検討オピオイドの減量や変更などを検討する非がん性の痛みに対する治療非がん性の痛みに対して,オピオイド以外の鎮痛薬,心理社会的要因に対するケア,神経ブロック,リハビリテーションの介入を優先する

治療目標の設定痛みの病態により,治療目標を設定・痛みの病態を患者にわかりやすく説明し,現実的

な治療目標を設定する・意識状態やコミュニケーションできる程度と鎮痛

のバランスを相談する

苦痛を悪化させている要因の改善とケア身体的要因に対するケア痛みが緩和できる動作・体位の工夫や環境調整(マットなど),装具の利用などを行う

心理社会的要因に対するケア不安,恐怖,怒り,孤独感,抑うつを緩和できるようなケアを行う

医学的治療薬物療法・持続痛に対しては,効果があり意識に影響しない

範囲でオピオイドを増量する・突出痛の対応を行う・オピオイドの効果が不十分な場合,オピオイドの

投与経路の変更,オピオイドの種類の変更,鎮痛補助薬の併用などを行う

薬物療法以外の治療・放射線治療を検討する・神経ブロックを検討する
p.37
難治性の痛みに対して,最初に行うべきことは,痛みの病態を正確に把握することである。がん患者の痛みはすべてがんが原因であると医療者が思い込み,誤った病態の認識のもとにオピオイドを漫然と増量すると,鎮痛に効果がないばかりでなく,せん妄や意識障害を合併してさらに痛みの評価を難しくする悪循環に陥る。問診,身体的診察,画像検査などから痛みの原因を明らかにすることが重要である。原因が同定できれば,まず,痛みを生じている原因そのものに対する治療,すなわち,抗がん治療や,感染症に対する抗菌薬の使用などを行えないか検討する。オピオイド増量後に痛みがかえって増悪する場合には,オピオイドによる痛覚過敏が生じている可能性を考慮する。慢性疼痛,たとえばもともとある非がん性の腰痛などに対しては,オピオイド以外の鎮痛薬,心理社会的要因に対するケア,神経ブロック,リハビリテーションの介入を優先するのが原則である。同定した原因からみて痛みが難治性になると判断される場合(がん自体が神経を巻き込んだ神経障害性疼痛や骨転移による体動時痛など)は,痛みを完全に消失させることはできない可能性が高いことを前提として患者と治療目標を相談する。痛みの病態を丁寧に説明し,選択肢となりうる治療(神経ブロックなども選択肢に含めるか)を共有し,治療目標を設定する。痛みの消失と,意識を維持することやコミュニケーションできることが両立できない場合は,患者自身が何を優先するかを相談しながら治療を行うことが重要である。がんによる痛みの治療においては,痛みを悪化させる要因を取り除き(痛みが出にくいような動作で身の回りのことができるように環境調整を行うなど),心理社会的なサポートも十分に行う。がん疼痛の薬物療法としては,持続痛に対して,効果があり意識に影響しない範囲で定期投与されているオピオイドを増量する。突出痛がある場合には突出痛への対応を行う(痛みがある時に即効性のある鎮痛薬を使用する)。あるオピオイドで効果がない場合は,オピオイドの投与経路の変更,オピオイドの種類の変更,鎮痛補助薬の併用などを行う。薬物療法と併行して,放射線治療や神経ブロックを検討する。網羅するものではないが,難治性の痛みをみた場合に検討するべき具体的な内容を表2に示した。

痛みの原因や機序を評価し,原因・機序に基づいた鎮痛法を計画することが基本である。痛みがあるからという理由だけでオピオイドを増量すると効果が得られないばかりか,かえってせん妄などの精神症状を生じて痛みの治療そのものが行えなくなる場合がある。痛みの原因は,それまでに撮影された画像所見と,問診内容(痛みの場所,痛みの性質,体動時痛の有無),身体的診察所見(痛む場所の知覚異常の有無など)によりおおむね明らかにできる。画像検査ができない環境では,問診や身体診察によって痛みの病態を可能な限り明らかにする。

がん疼痛と,がん患者に併存する非がん性の痛みとの区別がん患者に生じる痛みのすべてががんによるものとは限らない。廃用に伴う筋肉や関節の痛み,もともと存在していたがん治療に関連した痛み(遅延性術後痛,化学療法後の末梢神経障害による痛み,放射線治療の晩期障害など),もともと存在していたがんに関係な

2.原因の同定と治療

1 IV章
p.38
い慢性の痛み(慢性腰痛,変形性関節症,肩関節周囲炎,緊張型頭痛など)がある。がん疼痛ではないその他の痛みが現在の「治療抵抗性の痛み」に関与していないかを検討する。廃用に伴う筋肉や関節の痛みであれば,オピオイドによる鎮痛よりも,体位の工夫,マットの工夫,理学療法(筋肉の緊張をほぐす),トリガーポイント注射などでの対応を検討すべきである。鎮痛薬では非オピオイド鎮痛薬の内服や外用が有用な場合もある。がんに関係ない慢性の痛みや,遅延性術後痛などのがん治療に伴う痛みはもともと難治性の痛みである場合が多く,治療目標は,完全な除痛ではなく,オピオイド以外の鎮痛薬による薬物療法の他に,神経ブロック,心理社会的サポート,リハビリテーションなどを取り入れて,日常生活動作(ADL)を維持することを目標とされる状態である。すなわち,これらの痛みは,がん疼痛に対する治療を定めたWHO 方式除痛ラダーに沿ったオピオイド治療の適応ではなく,オピオイドが痛みの緩和手段として第一選択ではない。このような非がん性の痛みは,がんの終末期になると,筋力低下による生活活動動作の低下や心理社会的問題が増えるため,悪化することがある。このような場合には,心理社会的要因に対するサポートを強化するとともに,それでも痛みが緩和しない場合は,生命予後が月単位(2~3 カ月)以下であればオピオイドによる症状緩和を高用量にならない範囲で考慮する。

表2 難治性の痛みをみた場合に検討するべき具体的な内容

原因の同定と治療・痛みの病態をできる限り正確に把握する・痛みの原因そのものに対する治療,例えば,抗がん治療,感染症の治療などの方法があるかを検討する・オピオイドによる痛覚過敏の可能性を考慮する・がん疼痛と,がん患者に併存している非がん性の痛み(慢性腰痛など)を区別する・廃用に伴う筋肉や関節の痛みに対して,体位の工夫,マットの工夫,理学療法(筋肉の緊張をほぐす),トリガーポイント注射などを行う治療目標の設定・病態によっては,痛みの完全な消失は目標とできないことを患者と共有して,現実的な目標を設定する・痛みの消失と,意識を維持することやコミュニケーションできることが両立できない場合,患者自身が何を優先するかをよく相談する苦痛を悪化させている要因の改善とケア・痛みが緩和できる動作・体位の工夫や環境調整(電動ベッドやマット),装具の利用などを行う・不安,恐怖,怒り,孤独感,抑うつを緩和できるようなケアを行う医学的治療:薬物療法・持続痛に対しては,効果があり,意識に影響しない範囲でオピオイドを増量する。増量過程で,痛みの場所や強さなどに対する問診に的確な返答ができなくなった場合は,せん妄・軽度の意識障害を疑い,それ以上のオピオイド増量を行うことが適切かを再評価する・突出痛に対して効果がある量の即効性の鎮痛薬を使用できるようにする(痛い時にすぐに飲める環境整備,患者に説明,鎮痛できる十分な投与量,適切な投与間隔など)・オピオイドの投与経路を変更する(経口・経皮投与を持続皮下・持続静脈内投与に変更)・オピオイドの種類を変更する・鎮痛補助薬を十分量使用する。単剤で効果がない場合には別の鎮痛補助薬に変更するか,副作用に注意しながら作用機序の異なる鎮痛補助薬を併用することを検討する医学的治療:薬物療法以外の治療・放射線治療を検討する・痛みが限局している場合,神経ブロック(硬膜外ブロックなど)を検討する・くも膜下鎮痛法(くも膜下腔にモルヒネなどを投与する方法)を検討する[注1]
p.39
難治性になりやすい痛み痛みのコントロールが難渋しやすい因子は若年者,神経障害性疼痛,突出痛を伴う痛み,痛みに対する心理社会的な要因がある(精神的な苦悩がある),過去に高用量のオピオイドを使用していたことがある,認知機能障害がある場合などである。痛みの病態でみると,腫瘍による神経叢や脊髄の圧迫・浸潤(例えば,脊髄への浸潤,パンコースト腫瘍による腕神経叢浸潤,骨盤内腫瘍による仙骨神経叢浸潤など),膵臓がんの膵実質の破壊による痛み,広範な胸膜播種による痛み,多発骨転移(特に溶骨性の変化の強いもの),会陰部の痛みが難治性になりやすい(表3)。これらの痛みをオピオイドの増量を中心とした薬物療法では「完全に消失させる」ことは不可能な場合が少なくない。痛みを「完全に消失させる」まで鎮痛薬を増量すると,相対的な過量投与による精神症状を呈する場合がある。特に終末期がん患者の場合はせん妄が併発しやすい。せん妄が出現すると認知機能障害からさらに痛みの治療は困難になる。これらの難治性になりやすい痛みに対しては,鎮痛薬を増量するだけでなく,他の鎮痛手段が十分に行えているかを検討する。

原因の治療がんが痛みの原因となっている場合,痛みの原因である腫瘍に対する治療が可能かを考える。腫瘍縮小効果が望める治療があれば,全身状態とバランスをとりながら抗がん治療を行うことを検討する。感染症の合併で痛みが悪化することも多いため,その場合は感染症の治療を検討する。管腔臓器の狭窄や閉塞に対しては,胃ろう,人工肛門の造設,バイパス手術による狭窄/閉塞部周囲の管腔内圧の減圧や,ステント留置による通過障害の改善により痛みを軽減できる可能性がある。このように,痛みの原因を治療するという考え方が重要である。胆囊炎や虫垂炎などは抗菌薬の使用や,手術適応を検討し,肩関節や股関節の変形による痛みは観血的修復術などの適応がないか整形外科に相談する。いずれも全身状態や予測される生命予後,患者や家族の希望,治療によるメリットとデメリットを総合的に検討する。

難治性の痛みが存在することを前提として,患者と鎮痛の目標を共有することが重要である。痛みの緩和と,意識を維持することやコミュニケーションできることが両立できないことがある。眠気が増えても痛みが減ることを優先するか,痛みは完全に消失しなくても眠気がなく意識がしっかりしていることを優先するかは患者によっても異なる。一般的

3

3.治療目標の設定IV章

表3 難治性になりやすいがん疼痛

・脊髄への浸潤・パンコースト腫瘍による腕神経叢浸潤・骨盤内腫瘍による仙骨神経叢浸潤・膵臓がんの膵実質の破壊による痛み・広範な胸膜播種による胸部痛・多発骨転移の体動時痛(特に溶骨性の変化の強いもの)・会陰部の痛み
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には,完全に痛みが消失しなくても,夜は眠れる,日中は時々痛むが鎮痛薬を日に数回使用すれば治まる,といった目標が望まれる場合が多い。目標設定では,痛みの原因を丁寧に説明する。漠然と「がんによる痛みです」と説明するより,痛みの病態をわかりやすく説明する(「○○に再発した腫瘍が,この手や足の神経に触って痛くなっている」など)。これによって,なぜ痛みが難治性なのかの理由を共有して,痛みの治療目標について相談する。なかなか緩和しない痛みの原因を患者自身がより詳しく理解することで,(たとえ痛みが残ったとしても)説明を受ける前より安心する場合は少なくない。痛みの原因を丁寧に説明することそのものが,疼痛緩和が困難となる因子である精神的な苦悩の一部を緩和することにつながる可能性がある。痛みが多少残ってもさまざまな方法で継続的に最大限サポートし,治療者は最後まで見放さないことを伝える。

身体的要因痛みが緩和できる生活の工夫や環境調整を行う。例えば,骨転移では,患部の保護,骨変形の軽減,支持性の補強を行い骨折による強い痛みを軽減する目的で装具を使用する。整形外科へのコンサルテーションにより,骨転移の状態の判定,特に力学的強度の判定や神経学的診断を行い,免荷や装具の必要性について検討する。骨転移痛のうち,持続痛は,定期的な鎮痛薬の投与により緩和されることが多いが,体動時痛はレスキュー薬を予防的に使用するなど工夫をしても薬物療法だけではコントロールが難しい。よって,理学療法士・作業療法士などによるリハビリテーションの導入により,痛みがより緩和されるような動作の工夫,痛みが増強する動きを回避できるような環境作り,装具の活用方法などを調整し,薬物療法と組み合わせて痛みの軽減を図る必要がある。

心理社会的要因がん患者においては,痛みが難治化する場合,心理社会的因子が関与していることが少なくない。また,精神的な苦悩の存在は痛みのコントロールが難渋しやすい因子の一つである。看護師やソーシャルワーカー,精神科医,心理士など多職種で検討する。痛みが長く続く患者では,痛みを反復して認識し,痛みを拡大視することで救いようのなさを感じる(痛みの破局的思考)ようになり,不安,恐怖,怒り,孤独感,抑うつなどの不快な情動が生じ,痛みの認知を修飾する(痛みが悪化する)。このような悪循環は痛みの遷延化を引き起こす。よって,患者の身体的因子だけではなく,心理社会的因子を含むさまざまな側面からアセスメントを行い,不安,恐怖,怒り,孤独感,抑うつなどを軽減することができれば,痛みを緩和できる可能性がある。特に,疼痛時に使用するために処方されたオピオイドを,精神的な問題(不安,焦燥感など)や痛み以外の身体症状(不眠,倦怠感など)を緩和する目的に使用している場合がある。このような場合では,患者がオピオイドを使用している痛み以外の理由,すなわち,精神的問題や,痛み以外の身体的苦痛症状に対してできることを十分にアセスメントし対応する必要がある。

4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア

1

2
p.41
がん疼痛に対する医学的治療を記載する。

薬物療法薬物療法では,非オピオイド鎮痛薬,オピオイド鎮痛薬,鎮痛補助薬を適切に組み合わせる。患者の痛みが,持続痛なのか,突出痛なのかを区別することが重要である。[オピオイドの増量]持続痛に対してオピオイドの定時投与は有効であり,痛みの悪化に応じて増量することで鎮痛効果が得られることが多い。患者の意識が明瞭で,増量に対して有効であると明確に回答できる範囲で,オピオイドの投与量に上限はない。一方,オピオイドは増量するとしばしば副作用により使用が制限される。特に,オピオイドの投与量の制約になる副作用として,中枢神経症状,すなわち,眠気,意識障害,せん妄がある。オピオイドの増量過程で,もともと意識障害のない患者が,痛みの場所や強さなどに対する問診に(返答は可能でも)的確な返答ができなくなった場合は,せん妄(軽度の意識障害)の出現を疑う。痛みの評価が十分にできない時に,オピオイドをさらに増量すると増量後の痛みの評価ができなくなり,せん妄が生じる可能性を増大させることになる。眠気が許容できる範囲でオピオイドを増量することはありうるが,それ以上のオピオイド増量を行うことが適切かは,患者の希望に沿っているのか,オピオイドは増量しただけの鎮痛効果があるのか,オピオイドによる神経毒性(せん妄,ミオクローヌスなど)が生じていないのかといった点から再評価することが重要である[注2]。オピオイドによるせん妄が出現した際は,オピオイドの増量は見合わせるか慎重に減量し,オピオイドの投与経路の変更,オピオイドの種類の変更,鎮痛補助薬の併用で対応する。せん妄を悪化させている可能性があるが鎮痛には有効と考えられる場合,オピオイドの増量と抗精神病薬などのせん妄の治療を並行して行う場合がある。オピオイドを増量しているにもかかわらず患者の痛みの訴えが増加する場合は,オピオイド誘発性痛覚過敏(opioid—induced hyperalgesia;OIH)の可能性がある。この場合,オピオイドの減量や変更により痛みが改善するかを評価する必要がある。

[オピオイドの投与経路の変更]経口的・経皮的にオピオイドを投与して十分な鎮痛が得られなかった場合,静脈内投与,皮下投与でオピオイドを投与する。例えば,経口的に投与されているモルヒネやオキシコドンを持続皮下投与に変える方法がこれにあたる。

[オピオイドの種類の変更] 1 種類のオピオイドを十分増量しても効果が十分でない場合は,オピオイドの種類を変更する。状況によっては,強オピオイドを同時に2 種類使用する場合がある。特に,大量のオピオイドの一部を他のオピオイドに変更していく過程で,鎮痛効果が改善し,副作用が軽減するような良いバランスが得られた場合は,2 種類のオピオイドの使用を継続することになる場合がある。例えば,フェンタニル貼付剤で効果がない場合に,モルヒネやオキシコドンの持続皮下注射に切り替えたり,もともと投与されていたフェンタニル貼付剤

5.医学的治療

1

IV章
p.42
の一部をモルヒネやオキシコドンの持続皮下注射に変更する。メサドンは,μオピオイド受容体への作用以外の作用機序をあわせもつオピオイドであるため,神経障害性疼痛の場合は,μオピオイド受容体への作用が主となるオピオイド(モルヒネ,オキシコドン,フェンタニル)からの種類変更により痛みが緩和する可能性がある。

[鎮痛補助薬の使用]神経障害性疼痛は治療抵抗性の痛みの約1/3 を占め,オピオイドだけで十分な痛みの緩和はできないことが多い。鎮痛補助薬には多くの種類があるが,どのような痛みに対してどの薬剤が最も有効かはわかっていない。したがって,1 つの鎮痛補助薬で効果が十分でなかった場合,異なる作用機序をもつ鎮痛補助薬を(原則的に単剤ずつ,順番に)投与し,効果があるかを評価する。鎮痛補助薬の効果がないと判断するためには,副作用(眠気など)の許容できる範囲で最大投与量まで増量することが必要で,少量の鎮痛補助薬を投与して効果がなかったと判断することは適切ではない。先行して使用した鎮痛補助薬がある程度有効な場合には,他の鎮痛補助薬を追加するが,鎮痛補助薬の併用は,効果よりも副作用の問題が増える可能性があるので注意する。経口薬ではプレガバリン,デュロキセチン,アミトリプチリンなどが使用される。非経口薬では,選択肢が限られるが,ケタミン,リドカインが使用される。神経圧迫など抗浮腫効果が期待される場合には,鎮痛補助薬としてステロイドが使用される。

[突出痛の対応]突出痛については,持続痛が軽減したあとも1 日数回の痛みの増悪は残る場合が多いという認識が重要である。患者に対しては,痛い時にすぐに飲める環境を整備し,痛みの誘発因子が明らかな場合には痛みがひどくなる前に使用するように説明する。その場合,不安や痛みへの恐怖,痛み以外の身体症状に対して使用していないかの評価が必要である。鎮痛できる十分な投与量,適切な投与間隔などに注意する。薬物療法としては,まず,鎮痛できる十分な投与量が必要である。一般的には,疼痛時に使用する経口のレスキュー薬の投与量は1 日オピオイド量の1/6 程度,持続皮下・静脈内投与の早送りでは1 日オピオイド量の1 時間量程度であるが,効果が不十分で有害事象もない場合は増量を検討する。適切な投与間隔も重要である。一般的に経口オピオイドのレスキュー薬は最高血中濃度到達時間(Tmax)や半減期からは1 時間の投与間隔,持続皮下・静脈内投与の早送りでは15~30 分が妥当な場合が多い。骨転移痛など痛みのピークが来るのが早い場合は,持続注射への変更や口腔粘膜吸収性フェンタニルの使用を考慮する。口腔粘膜吸収性フェンタニルの1 回量は,1 日量からの換算ではなく,個別に必要量をタイトレーションする。

薬物療法以外の治療[放射線治療]骨転移による痛みの原因療法であり,効果が得られれば鎮痛薬の減量や中止が期待できる。特に進行がん患者では骨転移の存在を念頭に置き,骨転移による痛みを疑う場合はで

2
p.43
きる限り画像診断を行い,放射線治療の適応を検討する。緩和的放射線治療に関しては,日本放射線腫瘍学会が発行・公表している『放射線治療計画ガイドライン2016』の「10.緩和」の項にしたがう。(https://www.jastro.or.jp/medicalpersonnel/guideline/2016/10palliative_care.pdf)。

[神経ブロック]痛みの部位が限定されている場合,その部位だけに作用するような神経ブロックで鎮痛が得られる可能性がある。硬膜外ブロックや,末梢神経ブロックでは,局所麻酔薬の単回投与により一時的な鎮痛効果が得られた場合,その後,ターゲットとする部位にカテーテルを留置し持続的に局所麻酔薬(およびオピオイド)を投与することによる持続的な鎮痛法を検討することができる。神経ブロックの種類によっては,神経破壊薬(フェノールグリセリンなど),高周波熱凝固を用いて神経を破壊することにより,比較的長期間の鎮痛効果を得ることができる。痛みの場所と,痛みの原因に対する主な神経ブロックの方法を表4 にまとめた。オピオイドの投与量が高用量になり,ミオクローヌス,意識障害などが生じる場合には, IV章

表4 神経ブロック痛みの場所痛みの原因ブロック方法上肢・パンコースト腫瘍,リンパ節腫大などに

よる腕神経叢障害・頸椎,上腕骨,肩関節のがんによる神経浸

潤,および病的骨折・硬膜外ブロック・くも膜下鎮痛法・神経根ブロック・腕神経叢ブロック

腰下肢・小骨盤内臓腫瘍,リンパ節腫大などによ

る腰仙骨神経叢障害,悪性大腰筋症候群・腰椎,仙椎,骨盤骨,大腿骨のがんによる

神経浸潤,および病的骨折・硬膜外ブロック・くも膜下鎮痛法・神経根ブロック・大腿神経ブロック・坐骨神経ブロック

腰背部・筋・筋膜疼痛(筋肉のこり)・トリガーポイント注射胸部・胸椎,肋骨転移による神経浸潤,および病

的骨折・胸膜・胸壁浸潤(限局しているもの)・硬膜外ブロック・くも膜下鎮痛法・くも膜下フェノールブロック・神経根ブロック・肋間神経ブロック

上腹部・肝臓がんの被膜進展・膵臓がんの膵実質の破壊・腸間膜浸潤,大動脈周囲リンパ節腫大・腹壁への転移・硬膜外ブロック・腹腔神経叢ブロック下腹部・結腸,直腸,膀胱,子宮,卵巣のがんによ

る内臓痛・腹壁への転移・硬膜外ブロック・下腸間膜動脈神経叢ブロック

骨盤部・直腸,前立腺,膀胱,子宮,膣円蓋のがん

による内臓痛・上下腹神経叢ブロック

肛門・会陰部痛・直腸切断術後の旧肛門部痛,直腸がん再

発による肛門・会陰部への浸潤・不対神経節ブロック・くも膜下フェノールブロック(フェノール

グリセリンによるサドルブロック)

〔日本ペインクリニック学会編.第II章 部位別のインターベンショナル治療.がん性痛に対するインターベンショナル治療ガイドライン,真興交易医書出版部,2014 を参照して作成〕
p.44
経口投与・静脈内投与・皮下投与から,硬膜外投与またはくも膜下投与に変更を検討する。硬膜外投与では静脈内投与・皮下投与の1/10,くも膜下投与では1/100 のオピオイドの量で同等の効果が得られるとされている。長期間カテーテル管理が必要な場合には,リザーバーの埋め込みを行うことがある。神経ブロックの一般的な禁忌は,施行部位・針刺入経路にがんが広がっている,もしくは感染巣があること,全身性の感染症,出血・凝固機能障害である。神経ブロックは,全身状態が比較的保たれている時に施行するほうが合併症の危険を少なく実施できる。よって,オピオイドの投与量にかかわらず,対象となりうる痛みがあれば神経ブロックの適応があるかどうか早めに相談することが望ましい。がん疼痛の診療経験の豊富な麻酔科医・ペインクリニック医にアクセスが可能な場合はより専門的な多くのブロックを検討できるが,すべての施設ですべてのブロック手技が実施できるとは限らない。しかし,治療環境で実施可能な方法を探す努力は重要である。例えば,硬膜外ブロックは,麻酔科領域で広く施行されている神経ブロックであり,多くの施設で実施可能である。腕神経叢ブロック,大腿神経ブロック,坐骨神経ブロックなどの末梢神経ブロックも手術麻酔で行うことが多くなっている。麻酔科医にアクセスできるならば,まずはこのような比較的一般的な神経ブロックが実施可能か相談する。実施可能であれば専門的な神経ブロックを受けられる施設に紹介するまでの一時的な鎮痛法(架橋的鎮痛法)となる。

治療抵抗性の痛みを考えるうえで注意するべき未解決の課題として主なものとして3 つを挙げておく(表5)。1 つめは,薬物療法について,「どれくらいの鎮痛治療をすれば治療抵抗性と判断してよいのか」の基準があいまいなことである。例えば,以下のことについて回答できるエビデンスはいまだ存在しない:1あるオピオイドを増量する時にそれ以上オピオイドを投与するべきではないとする判断の基準は何か,2あるオピオイドが無効な場合に何種類のオピオイドに変更すれば治療が無効と判断できるのか(それ以上さらにオピオイドを変更しても効果がないとみなせるのか),3オピオイドの種類を変更するのと投与経路を変更するのと神経ブロックを追加するのとではどれを優先して行い,どれが無効なら治療抵抗性であると判断できるのか,4神経障害性疼痛に対してある鎮痛補助薬が無効な場合にどの鎮痛補助薬に変更・追加すれば無効と判断できるのか(それ以上さらに鎮痛補助薬を変更・追加しても効果がないとみなせるのか)。今後,治療抵抗性の痛みと診断するための(逆にいえば,本来は治療抵抗性ではない痛みを治療抵抗性と判断してしまわないための)より客観的な基準を設定する臨床研究が必要である。現状においては,難治性の痛みにも多くの痛み治療の選択肢があることを認識し,患者が治療を受けている環境で実施可能な方法を探求することが重要である。2 つめは,がん疼痛に対して有効な可能性のある神経ブロックをできる医師にアクセスできる環境に,地域や施設による差が大きいと考えられることである。場合によっては,疼痛部位が限局した痛みでは局所の神経ブロック(硬膜外ブロックなど)を行うことによって,また,広範囲に及ぶ痛みでオピオイドが大量投与となった患者ではくも膜下鎮痛法を

6.未解決の課題
p.45
行うことによって,鎮痛が改善する可能性がある。実践上の問題は「どのようにして実施可能な医師にアクセスするか」である。本手引きでは当初「どこまで実施すれば最大限の治療を行ったといえるか」を明記するように検討したが,地域リソースの差が大きい現状では,全国で統一した基準を設けることはできないことで一致した。したがって,本手引きに記載した神経ブロックは地域や施設によっては実際上利用できないものも含まれている。今後,がん疼痛に対して神経ブロックをできる医師に全国でアクセス可能な体制を整備していく必要がある。現状では,地域で利用可能な神経ブロックについての情報を知ったうえで,患者と相談することが重要である。3 つめは,患者の痛みがもともとあった非がん性の痛みである場合,もともと,痛みを完全に消失させることは難しい。その場合,終末期に「痛みがゼロになること」を目標とすることが妥当なのかの視点である。非がん性の痛みの多くは,終末期でなければその治療目的は必ずしも「痛みがゼロになること」ではなく,「痛みがありながらも,生活できること」である。しかし,終末期において相応性の観点から,治療の目標が変わることはあると思われる。この点については,医学的な問題というよりは,価値観に関わる問題であり,社会的なコンセンサス構築が重要である。

[注]

1) くも膜下鎮痛法は神経ブロック手技を使用することから,「薬物療法以外の治療」のな

かに記載した。

2) オピオイドの増量で意識障害がみられていてもなお痛みが残っている場合にオピオイ

ドを増量することについては,「副次的鎮静」と呼ばれる場合があった。しかし,オピオイドは鎮静薬ではないため,意識の低下を目的としてオピオイドを増量することは不適切であるとの観点から,本手引きでは副次的鎮静という概念を用いないこととした。  患者が増量の効果を適切に回答できて眠気が許容できるまでオピオイドを増量するこ

とは適切である。一方,患者に強い眠気や意識障害が生じて痛みを適切に表現できなくなってからもさらに(患者の断片的な表現や表情,姿勢などから痛みがあるだろうという認識のもとに)オピオイドを増量することは慎重にするべきである。眠気のより少ない鎮痛手段を希望する患者の意思に反して,オピオイドの種類や投与経路の変更を検討せずに「痛いより眠いほうがましだろう」と一方的に考えることは慎むべきである。オピオイドによる神経毒性(せん妄,ミオクローヌスなど)がみられる場合には,患者の意識を低下させることを前提としてオピオイドを増量するべきではない。

(馬場美華) IV章

表5 難治性の痛みに関する未解決の課題

・どれくらいの治療をしたら治療抵抗性の痛みであるといえるのかの明確な基準がない・がん疼痛に対して神経ブロックをできる医師へのアクセスに地域差・施設差がある・ (もともと痛みがなくなるわけではないことの多い)非がん性の痛みを治療抵抗性の苦

痛としてよいかのコンセンサスがない
p.46
終末期のせん妄に対して確立された予防法はないため,早期にせん妄をみつけて重篤化する前に対応することが重要である。ほとんどの患者に注意力の障害(話しかけてもぼうっとしていて適切な返答がないなど)と睡眠覚醒リズムの障害(夜眠れず,日中うとうとしてしまう)がみられることに留意して患者を観察する。日付や場所などの見当識障害の有無(「ここがどこだかわかりますか」など)をせん妄のスクリーニングに代用していることがよくあるが,見当識障害の出現頻度は3/4 程度であり,配慮なく見当識について尋ねることは患者を傷つけうるため安易に行うべきではない。せん妄であると判断されたら,せん妄の原因を把握する。回復が可能か否かをもとに治療目標を設定する。せん妄の原因は,せん妄が治療抵抗性となりやすい終末期では,薬剤(オピオイド,ステロイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,抗コリン薬),臓器障害(低酸素脳症,肝不全,腎不全),高カルシウム血症,頭蓋内病変,脱水,感染症などが多い。原因の治療が可能な場合には原因の治療を行う。せん妄の原因や全身状態から,せん妄治療の目標を設定することが重要である。すなわち,回復を目標とするか,一部の症状の緩和を目標とするかを判断する。完全な回復が見込めない場合では,夜間の睡眠と興奮・焦燥の緩和(夜に眠れて,興奮・焦燥がない)が

せん妄に対する緩和ケア2

1.概 要(表1)

表1 せん妄の治療の概要

要点主な具体的な対応例

原因の同定と治療原因の想定薬歴・脳画像検査を確認し,酸素飽和度,血液検査を行う

治療可能な原因の治療例えば,高カルシウム血症に対してビスホスホネートを投与する原因薬剤の減量・中止オピオイド,ステロイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,抗コリン薬を減量・変更する

治療目標の設定回復を目標とするか,部分的な症状の緩和を目標とするかを設定する・臓器障害が原因のせん妄では,回復は目標にできない

ため,夜間睡眠の確保,焦燥・興奮の緩和が目標となることが多い・意識状態やコミュニケーションできる程度と苦痛緩和

のバランスを考慮する

苦痛を悪化させている要因の改善とケア不快な身体症状の緩和痛み,呼吸困難,発熱に対応し,宿便,尿閉がないかを確認する

体動制限の最小化持続点滴の中止を考慮し,ルート・ドレーン類を整理する感覚遮断への対応眼鏡,補聴器の使用,照明の調整(夜間の薄明かりなど),日付・時間の手がかり(カレンダー,時計を置くなど),親しみやすい環境の提供(家族の面会,対応する医療者を同じにする)などを行う

医学的治療薬物療法・定型抗精神病薬(ハロペリドールなど),非定型抗精神

病薬(リスペリドン,クエチアピンなど)を投与する・就眠できない場合,ベンゾジアゼピン系薬剤などを併

用する
p.47
目標となることが多い。意識を低下させる作用のある薬剤を使用することが多いため,常に,患者の意識状態やコミュニケーションできる程度と苦痛緩和のバランスを考慮することが重要である。治療では,せん妄を悪化させている誘発因子である,不快な身体症状,体動制限,感覚遮断への対応を行う。薬物療法は抗精神病薬が中心であり,効果がない時は他の抗精神病薬に変更する。就眠できない場合には,ベンゾジアゼピン系薬剤など(内服可能な場合はオレキシン受容体拮抗薬も含む)と併用する。網羅するものではないが,難治性のせん妄をみた場合に検討するべき具体的な内容を表2 に示した。

原因の同定せん妄の発生要因は,直接原因,誘発因子(直接原因ではないが,発症を促進,重篤化・遷延化する要因),もともと存在する準備因子(せん妄の本態である脳機能の低下を起こしやすい状態)とに分けて考えることができる(表3)。直接原因や誘発因子は治療の対象となるので,可能な限りせん妄の原因や悪化させている要因を同定することは重要である。進行がんでは多くの場合複数の原因があり,通常2~3 つの要因がせん妄発現に関与する。頻度が高いものは,薬剤(オピオイド,ステロイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,抗コリン薬),臓器障害(低酸素脳症,肝不全,腎不全),高カルシウム血症,頭蓋内病変(脳転移・がん性髄膜炎),脱水,感染症,低ナトリウム血症,貧血などである。したがって,頻度の高い原因は,薬歴,身体所見,血液検査,酸素飽和度,脳の画像検査の見直しを行うことで判断できる。血液検査の項目は,一般の血液・生化学検査項目で頻度の高い原因のスクリーニングはできる。もし他に原因が見あたらない場合は,必要に応じてVitB 群,甲状腺機能などを含めるようにする。異常な所見はそれがあるからといって,せん妄の原因になっているとはいえない。せん

2.原因の同定と治療

1 IV章

表2 難治性のせん妄をみた場合に検討するべき具体的な内容

原因の同定と治療・原因の想定を行い,回復できる原因があるかを見直す・治療可能な原因(例えば,高カルシウム血症,感染症,脱水)がないかを確認して,治療する・オピオイドがせん妄の悪化に関与していると考えられる場合,鎮痛方法を見直す(P24,VI章—2—1痛みに対する緩和ケア参照)・ステロイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,抗コリン薬が必要かを見直して,必要でなければ減量・中止する治療目標の設定・現実的に可能な治療の目標を相談する。夜間の就眠,興奮・焦燥の緩和をまず目的とする苦痛を悪化させている要因の改善とケア・せん妄を悪化させている身体的苦痛(痛み,呼吸困難,発熱,宿便,尿閉)に対応する・体動制限を来す処置(24 時間点滴,ルート・ドレーン類)を見直す・見当識への支援や環境整備を行う医学的治療・抗精神病薬の投与を行う。効果がない場合は他の抗精神病薬に変更する・夜間や,日中の興奮・焦燥の強い時など就眠できない場合には,ベンゾジアゼピン系薬剤などを

併用する
p.48
妄症状の発現の前後で所見が悪化している場合や,原因薬剤の投与が開始されていたり増量されている際には,それが原因である可能性がある。せん妄発現に時間的に先立ってその原因が存在し(時間的先行性),その要因が強まる経過でせん妄がさらに悪化していれば原因である可能性が高い(用量反応依存性)。例えば,Na 値が131 mmol/L である時は意識は正常であったが,せん妄が出現した時に122 mmol/L であり,その後の経過でNa が正常化するに従いせん妄が改善していれば低ナトリウム血症が原因と判断できる。しかし,臨床的には他の要因も同時に変化していたり,臨床検査に含まれている項目以外の要因の関与などの可能性もあり,縦断的な経過をみても明確に原因かどうかの判断は実際上つけにくいことが多い。したがって,可能性のあるものはすべて原因の可能性がある病態として挙げておくことが実践的である。原因をどこまで調べるかは,その原因の治療可能性に依存する。原因を同定することで患者の希望する原因治療を行うことに通じるならば,原因の同定を進めるべきである。一方,疾患の進行に伴う原因が明確で,患者の治療目標とも一致しないならば,個々の原因検索を網羅的に行うことは通常必要ない。例えば,顕性黄疸がある場合に,閉塞性黄疸が想定されて患者が減黄術を行う意思があるならば検索を進めることが重要である一方,多発肝転移による肝不全が想定されて患者の検査や治療の希望もない場合には,原因は新たに検査を行わなくても臨床経過から推測できればよい。

原因の治療せん妄の原因のうち,原因の治療によって回復する可能性が比較的高いものは,薬剤,高カルシウム血症,感染症,脱水である。一方,当然ではあるが,がんそのものの進行によってもたらされた臓器不全(呼吸不全,肝不全,腎不全),頭蓋内病変は原因の根本的な治療が有効ではない場合が多い。すなわち,原因が臓器不全であるかどうかによって,回復する可能性をある程度判断できる。

2表3 進行がん患者のせん妄の主な直接原因,誘発因子,準備因子

直接原因頻度が高い・薬剤(オピオイド,ステロイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,抗コリン薬)・臓器障害(呼吸不全,肝不全,腎不全)・高カルシウム血症・頭蓋内病変(脳転移・がん性髄膜炎)・脱水・感染症(肺炎,敗血症など)・低ナトリウム血症・貧血

その他・ウエルニッケ脳症(ビタミンB1 欠乏)・甲状腺機能障害・アルコール・ニコチンの離脱症候群・腫瘍随伴症候群(脳炎など)誘発因子・不快な身体症状(痛み,呼吸困難,発熱,宿便,尿閉)・体動制限を来す処置(持続点滴,ルート・ドレーン類,身体拘束)・睡眠・覚醒リズムの障害(夜間の処置,点滴による頻尿)・感覚遮断(視力・聴力障害,夜間の暗闇,知らない医療者)準備因子・高齢(70 歳以上)・脳の器質的病変(脳血管障害,認知症)
p.49
薬剤としてせん妄の原因となりやすいものは,オピオイド,ステロイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,抗コリン薬である。詳細な評価を行わずに痛みの完全な消失を意図してオピオイドの増量を行った際にせん妄が明らかとなった場合には,オピオイドの増量以外の鎮痛治療を検討する(P24,IV章—2—1 痛みに対する緩和ケア参照)。せん妄では抑制が欠如することが多く,意識が清明な際よりも痛みを強く訴えることがある。痛みの訴えに一貫性がない場合や,痛みに関して尋ねると,痛みの場所を明確に返答できず常に「痛い」と不明瞭に肯定するなどの際には,鎮痛治療の再評価が必要である。ステロイドは終末期の倦怠感にしばしば使用されるが,効果がないにもかかわらず評価を十分に行うことなく増量するとせん妄を生じる原因となる。ステロイドの効果がない場合には,中止するか,投与期間が長期にわたる場合には副腎不全を生じない程度に減量する。抗コリン薬に関しては,可能な場合は減量あるいは中止を考慮する。睡眠に対して用いられているベンゾジアゼピン系薬剤に関しては,せん妄の主たる原因であることが疑われる場合には,抗精神病薬であるクエチアピン,鎮静系抗うつ薬(トラゾドン,ミアンセリン),または,せん妄を発現する頻度が低いオレキシン受容体拮抗薬,メラトニン受容体アゴニストに変更する。ベンゾジアゼピン系薬剤が使用されているがせん妄の原因が他にもある場合には,終末期ではかえって中止することで患者の不眠を悪化させることもある。そのような場合には,抗精神病薬を併用してベンゾジアゼピン系薬剤を減量しつつ継続することも多い。高カルシウム血症に対してはビスホスホネートを用い,感染症に対しては適切な抗菌薬を,脱水に対しては胸水や腹水が増えないことを確認しながら輸液を行う。このような原因の治療をどこまで行うかは患者個々の治療目標によって異なる。可能な限り多職種で相談して決める。例えば,感染症が原因と推定される際,残された時間が限られている場合,どこまで感染症を診断するための検査を行うか,起炎菌の同定を行うか,抗菌薬を使用するか,ドレナージを行うかなどには一定の明確な正解があるものでもないため,個別的な判断が求められる。

せん妄の原因が臓器障害による場合や,患者の全身状態が悪い場合には,せん妄が完全に回復することは困難なことが多い。患者が死亡直前の場合は,意識の混濁は死に向かう自然経過の一部であるともいえる。その場合には,患者ごとに個別的に治療目標を設定することが重要となる。具体的には,緩和する対象となるせん妄の症状を明確にし,目標を設定する。臨床的に問題となることが多いのは,興奮・焦燥,夜間の睡眠障害,幻覚・妄想である。これらに対して,例えば,ベッド上で安静に過ごせる程度に興奮・焦燥を改善させる,夜間のみは睡眠がとれるようにする,軽度の患者にとって苦痛でない幻視に関しては治療目標としない,といったように個別に目標を設定する。一般的に,せん妄に対する薬物療法は多かれ少なかれ鎮静作用のある薬物を使用することになるため,治療の結果として,患者が家族と話をするといったコミュニケーション機能と症状を緩和することを両立させることが難しい場合がある。したがって,症状(興奮・焦燥や不眠)を緩和することと,治療によるデメリット(患者が家族と話をすることがで

3.治療目標の設定IV章
p.50
きなくなるなど)とのバランスをとりながら,治療目標を設定していく。興奮・焦燥,夜間の睡眠障害,幻覚・妄想すべてがみられる典型的な難治性の過活動型せん妄の場合,まずは夜間の睡眠確保を目指し,次に興奮・焦燥を緩和し,そして最後に幻覚・妄想を治療するといった順で目標設定を行うことが多い。

身体的要因特に進行がん患者では,患者の体験している身体的な不快がせん妄を悪化させ,身の置き所のない状態を悪化させていることがある。痛みや呼吸困難といった苦痛に対応することに加えて,特に注意すべきなのが発熱,宿便と尿閉である。発熱に対しては,解熱剤の投与やクーリングを行う。宿便と尿閉に対しては,患者の様子を観察して排尿や排便ができないことを示唆するしぐさがないか観察する。超音波を用いたり,下腹部が恥骨よりも不自然にせり出していないかを確認することによって尿閉がないかを確認する。必要なら,直腸診を行って,宿便がないことを確認する。体動制限を来す処置もせん妄を悪化させる要因として大きい。夜間に目的があいまいなまま行われている持続点滴は,それ自体が患者の動きを抑制してせん妄の発現を促進するし,輸液による頻尿や,点滴の差し替えのために睡眠が障害される。したがって,輸液が必要な場合には日中に行うなどの対応が望ましい。ルート・ドレーン類をなるべく少なくすることも有用である。

環境的・心理社会的要因せん妄の治療において,環境の整備は重要である。特に中程度までのせん妄に対して,抗精神病薬を使用することによって症状が改善しないばかりでなく生命予後が短縮する可能性も示唆されており,「抗精神病薬を投与するだけで,環境整備を行わない」対応は適切ではない。環境整備の一般的目標は,せん妄発現の促進因子を可能な限り軽減,除去することにある。感覚遮断への対応として,親しみやすさと適切なレベルの環境刺激や眼鏡,補聴器の使用などにより感覚刺激を改善する。周囲のオリエンテーションがつくよう夜間も薄明かりをつける,時間の感覚を保つことができるようカレンダーや時計を目に触れやすい場所に置く,親しみやすい環境を整えるために家庭で使い慣れたものを置く,などが挙げられる。家族や慣れ親しんだ医療スタッフとの接触を頻回にすることで安心感を与えることも有用である。

薬物療法抗精神病薬を使用し,就眠できない場合には鎮静作用を有する薬剤を必要に応じて併用することが基本である[注1]。注射薬が使用できる環境を前提として記載したが,注射薬が使用できない場合は代替となる坐薬によって対応することを検討する。

4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア

1

2

5.医学的治療

1
p.51
1 )抗精神病薬の単剤投与まず行う薬物療法としては,抗精神病薬を単剤で投与して1~3 日程度で効果を評価する。

[経口投与ができない時]最も一般的に用いられるのはハロペリドール1.25~5 mg/日程度の点滴静注や皮下注射である。1.25~5 mg/回を1 日1~3 回投与し,不穏時には追加で使用する。ハロペリドールを15~20 mg/日以上使用した場合にさらに効果があるかは明確な指針はなく,実際上はまれに有効な症例がみられる程度である。副作用として,アカシジア,ジストニアなどの錐体外路症状は不快感が極めて強く,投与開始1~2週後に発現することが多いので継続的に注意して観察をする[注2]。終末期など夜間の就眠を目的とすることが優先される場合には,ハロペリドールにヒドロキシジン,または,プロメタジンを併用して使用することもある。例えば,ハロペリドール2.5 mg とヒドロキシジン12.5~25 mg(または,ハロペリドール2.5 mg とプロメタジン12.5~25 mg)を併用して点滴静注や皮下注射で用いる。これらの薬剤は,抗ヒスタミン作用による鎮静作用があるためハロペリドール単剤に比較して就眠しやすくなるが,抗コリン作用も同時に存在するためそれ自体がせん妄の原因になる可能性がある。したがって,可能であれば投与期間は短くするべきであり,投与によってせん妄が悪化する場合には中止する。ヒドロキシジンやプロメタジンの併用よりもさらに確実に就眠を得る必要がある場合は,ベンゾジアゼピン系薬剤,例えば,フルニトラゼパムを併用する。例えば,ハロペリドールを定期的に使用したうえで,フルニトラゼパムの点滴を用いる,または,ハロペリドール2.5~5 mg とフルニトラゼパム0.5~1 mg を生食100 mL に溶解して就眠にあわせて呼吸状態に注意しながら点滴投与する。フルニトラゼパムもせん妄を悪化する原因となるため,可能であれば投与期間は短くするべきであり,投与によってせん妄が悪化する場合には中止する。

[経口投与が可能な時]一般的に用いられるのは少量のクエチアピン(10~50 mg/日),リスペリドン(0.5~2.0 mg/日)である。増量の過程で副作用がなければ各々100~200 mg/日,3~5 mg/日程度まで増量する場合がある。オランザピン2.5~10 mg/日も使用できる。

2 )抗精神病薬を主とした治療で効果がない時の薬物療法最初に投与した抗精神病薬で効果がない(眠れない,興奮・焦燥が改善しない)時は,異なる薬理作用で鎮静作用を有する薬物を併用する。すなわち,抗精神病薬に加えてベンゾジアゼピン系薬剤を併用するか,または,より鎮静作用の強い抗精神病薬に変更する。

[経口投与ができない時]最も一般的な方法は,ハロペリドールを効果が得られている最低用量に設定したうえで(例えば,ハロペリドール2.5 mg/日で部分的な効果が得られたあとに10 mg/日まで増量しても変化がなかった場合は2.5 mg/日まで減量する),加えて薬理作用が異なる鎮静作用IV章
p.52
を有する薬剤としてフルニトラゼパムまたはミダゾラムを併用する。フルニトラゼパムやミダゾラムを点滴や皮下注射として,夜間を中心として,日中でもせん妄症状が強い時に限って時間を区切って就眠目的に使用する[注3]。多くのせん妄では,ハロペリドールの一定量に加えて,フルニトラゼパムまたはミダゾラムの間欠的投与を行うことによって夜間の就眠と日中の興奮・焦燥を緩和することが可能である。しかし,これらの点滴で就眠はいったんできるが覚醒すると再びせん妄となることを反復するような状況では,持続的な鎮静を検討する対象となる[注4]。他の選択肢としては,クロルプロマジンの点滴静注や持続皮下注射がある。クロルプロマジンはハロペリドールに比して抗コリン作用が強いため,せん妄治療として使われることはハロペリドールに比べると一般的ではない。しかし,鎮静効果があるために,ハロペリドールで十分な効果が得られない場合や,錐体外路性の副作用でハロペリドールでの治療が困難な場合などに使用される。その場合,クロルプロマジン5~10 mg/日程度の少量投与から開始する。クロルプロマジンの他に注射投与が可能な薬剤にレボメプロマジンがある。抗コリン作用が強くせん妄を悪化させる可能性や血圧低下作用があるものの,せん妄の治療薬としても鎮静薬としても使用されることがある。

[経口投与が可能な時]内服ができる場合は,抗精神病薬を変更または併用にする。あるいは,抗精神病薬と,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬,ベンゾジアゼピン系睡眠薬,オレキシン受容体拮抗薬,メラトニン受容体アゴニストを併用する。鎮静作用があり抗コリン作用の少ない鎮静系抗うつ薬(トラゾドン,ミアンセリン)も用いられる。

難治性のせん妄に関して,現時点で未解決の課題のうち本手引きに関係する点を3 点述べる(表4)。最も大きな課題は,そもそも,せん妄のある患者はどれくらいの苦痛を体験しているのかが明らかになっていない点である。せん妄状態とは意識が障害されている状態であるため,意識が混濁している患者の主観的な(患者にしかわからないはずの,患者自身に苦痛の程度を尋ねなければわからないはずの)苦痛をどのように判断するかの具体的な方法がない。この点は,「治療目標の設定」に大きな影響を与える。例えば,過活動型せん妄で治療を行う場合,睡眠が確保されて,興奮・焦燥の症状もコントロールできた際,軽度から中程度の幻視が残っていたり,見当識や思考までもは回復しなかった場合,「まだ患者は苦痛なはずだ」という前提に立ってさらに意識の低下を許容するのか,「苦痛ではないはずだ」という前提に立って薬物療法はそれ以上行わないとするのかの判断は難しい。また,低活動型せん妄も過活動型のせん妄と同様に患者にとっては苦痛があるというせん妄から回復した患者を対象とした知見が存在する。低活動型せん妄を体験している患者が「ぼうっとして思考がまとまらないこと自体がつらい」という訴えがあり,有効であると考えられる治療がない場合,鎮静の適応とするかのコンセンサスはない。

6.未解決の課題
p.53
本手引きでは,意識障害のある患者の苦痛を定量する方法が確立していないという限界と,国内の現状をふまえて,夜間の睡眠と興奮・焦燥がある程度コントロールされていれば,一般的には治療目標は達成されているとみなすことを提案する。つまり,多くの場合において,夜間の睡眠の確保,日中の興奮・焦燥がなくなることを治療の目標とすることはおおむね妥当とみなされると考える。一方,患者の価値観によっては,せん妄症状の緩和をさらに求める場合はあると考えられる。患者がどのような苦痛を終末期せん妄で体験しているのかは未知であるという前提のもと,睡眠と興奮・焦燥はコントロールされているが,患者にとっては苦痛かもしれないという理由で鎮静薬を持続投与することも場合によってはありうる。次に,せん妄では患者の意識が不明確なために,家族の苦痛の認識が判断の根拠となりやすいことも問題を生じやすい。例えば,患者の苦痛がそれほどでもないと医療者にはみえたとしても,家族が鎮静を求める場合にどのような対応が求められるのかを明確にしていくことも課題である。もう1点は,せん妄に対する薬物療法などの治療法は現在ほとんど標準化されておらず,エビデンスも一貫していないことである。本手引きでは,緩和されない苦痛を目の前にする医療者の参考になりやすいように,投与薬物の種類と量をなるべく具体的に記載することとしたが,エビデンスは不十分で検証されたものではない。科学的裏付けが不十分な具体的な投与量を記載することについては,手引きの作成中にも賛否があった。本手引きでは,使用者が個々の患者の状態や施設で利用可能な方法を総合的に考慮して投与薬を選択することを前程としており,記載の通りに行えばよいことを保証するものではないことを十分に考慮していただきたい。

[注]

1) 「鎮静作用を有する」という記載の意味は一般的な鎮静作用のことであり,本手引きで

定義した苦痛緩和のための鎮静に使用するという意味ではない。

2) 高用量の抗精神病薬を使用することを「鎮静」と呼ぶか否かは国際的にも明確な指針

がなく,異なる意見がある。本手引きでは抗精神病薬は鎮静薬に含めていないので,抗精神病薬を使用しても苦痛緩和のための鎮静には該当しない。一方で,ハロペリドール5mg/日なら「鎮静ではない」が,20mg/日は「鎮静である」という意見はありうる。本手引きではこのような「何を鎮静と呼ぶか」の議論は本質的ではなく,患者にとっての利益が少ないと考え,「鎮静か鎮静ではないか」の議論は保留する。ここでは,高用量の抗精神病薬を使用する行為を鎮静と呼ぶのか否かはさておき,ハロペリドールを患者の症状をみながら少量ずつ増量し,(通常はそれ以下の投与量であるが)少数例の患者でIV章

表4 難治性のせん妄に関する未解決の課題

・せん妄状態にある患者がどれくらいの苦痛を感じているのかを知る方法がない (どの程度までせん妄症状がコントロールされれば患者は苦しくないのか,低活動性せん妄は苦しくないのか)・患者にとっての苦痛が評価できないなかで,家族が苦しそうだという認識の時に鎮静を行うことは妥当なのかわからない・薬物療法の適切な投与量・投与方法のエビデンスが不足している
p.54
は15~20mg/日使用する行為は,難治性のせん妄に対する対応としては妥当であるということを述べている。

3) 日中にせん妄による苦痛を改善するために患者を就眠させることは,せん妄を治療抵

抗性の苦痛と考えれば間欠的鎮静(時間を限定した鎮静薬の投与)に該当する。せん妄がまだ治療抵抗性ではないと考えれば,せん妄の治療の一環ともいえる。  本手引きでは,フルニトラゼパムやミダゾラムを用いて間欠的に就眠を得ることを鎮

静と呼ぶかどうかを判断するのではなく,抗精神病薬を使用しても緩和しないせん妄による不眠や興奮・焦燥に対して,フルニトラゼパムやミダゾラムを間欠的に投与して就眠を得ることは適切であることを述べた。

4) 治療抵抗性のせん妄では,このように最初に抗精神病薬の投与を行い,不眠,興奮・

焦燥が緩和しない場合に,より鎮静作用のある薬剤の使用や間欠的鎮静が行われる。これらの効果がない場合には,持続的鎮静を検討する。

(明智龍男)
p.55
呼吸困難はせん妄と並んで治療抵抗性の苦痛の多くを占める。治療抵抗性の苦痛という点では(体動時呼吸困難ではなく)安静時呼吸困難を意味し,多くの場合低酸素血症を伴う。呼吸困難を来している原因によっては,原因に応じた治療が呼吸困難の軽減につながる最も有効な手段となる可能性がある。したがって,呼吸困難を治療抵抗性と判断するには,呼吸困難の原因を評価することが必要である。比較的頻度が高いと考えられる原因は,原発性・転移性肺腫瘍の増大・がん性リンパ管症,胸水,肺炎,腹水や肝腫大による横隔膜の運動制限,心不全などである。その他の原因としては,気道の狭窄,上大静脈症候群,心囊水,肺塞栓,横隔神経麻痺,気胸,貧血,代謝性アシドーシス,胸膜播種・胸壁浸潤による胸郭の運動障害などがある。また,局所的な原因がなくても全身の衰弱による呼吸筋の疲労による呼吸困難が生じる。進行がん患者では,複数の原因が重なって治療抵抗性の呼吸困難を生じている場合も多い。原因は病歴とそれまでの画像所見に加えて,理学所見から判断できることが多いが,患者の希望や状態によっては原因を確定するための検査を検討する。終末期の呼吸困難は,臓器不全としての低酸素血症を伴うことが多く,完全な症状緩和が困難なことが多い。患者の意識状態やコミュニケーションできる程度と苦痛緩和のバランスを相談し,患者の個々にあった治療目標を設定する。ケアでは,風を顔に当てる,苦しくない体位をとれるようにするなどの非薬物療法を行

呼吸困難に対する緩和ケア3

1.概 要(表1)

IV章

表1 呼吸困難の治療の概要

要点主な具体的な対応例

原因の同定と治療原因の同定・病歴とそれまでの画像所見,身体所見から呼吸困難の原

因を判断する

治療可能な原因の治療・原因に対する治療が可能な病態として,胸水,腹水,心不

全,気道の狭窄,上大静脈症候群,心囊水などに注意する

治療目標の設定治療目標を設定する・終末期の呼吸困難では,苦痛を完全に消失させるのは難

しい場合があることを患者と共有し,現実的な治療目標を設定する。・意識状態やコミュニケーションできる程度と苦痛緩和の

バランスを相談する

苦痛を悪化させている要因の改善とケア身体的要因に対するケア・呼吸困難が緩和される体位の工夫や環境調整(室温・風な

ど)などを行う・過剰な輸液は減量を検討する

心理社会的要因に対するケア・精神的な支援,特に不安に対する対応を行う・夜間の就眠を確保する

医学的治療薬物療法・オピオイドの持続投与を行う・抗不安薬(ミダゾラムを含む)の併用を行う

薬物療法以外の治療・低酸素血症に対して酸素を投与する
p.56
う。薬物療法としては,オピオイドが主である。経口投与ができない場合には持続皮下注射で投与できる。オピオイドは少量で有効なことも多いが,少量で効果が不十分な場合, 1副作用がない範囲でオピオイドを増量する,2他のオピオイドに変更する(例えば,フェンタニルやオキシコドンをモルヒネに変更する),3オピオイドに加えて少量のミダゾラムを併用するといった選択がある。いずれも,患者の苦痛にあわせて,患者と設定した目標が達成されるように投与量の調節を行う。網羅するものではないが,難治性の呼吸困難において検討するべき具体的な内容を表2に示した。

原因の同定呼吸困難は進行期のがん患者において比較的頻度の高い症状である。治療抵抗性の症状という点では安静時呼吸困難を意味し,低酸素血症を伴うことが一般的である。呼吸困難を来している原因によっては,原因に応じた治療が呼吸困難の軽減につながる最も有効な手段となる可能性がある。つまり,呼吸困難を治療抵抗性と判断するには,呼吸困難の原因を評価することが必要である。

2.原因の同定と治療

1

表2 難治性の呼吸困難をみた場合に検討するべき具体的な内容

原因の同定と治療・原因の想定を行い,治療可能な原因があるかを見直す・胸水,腹水,心不全,気道の狭窄,上大静脈症候群,心囊水など原因治療によって転帰が変わる可能性がある原因に注意する・原発性・転移性肺腫瘍の増大・がん性リンパ管症,気道の狭窄,上大静脈症候群ではステロイドの投与を検討する治療目標の設定・呼吸困難の完全な消失を目標にすることは難しいことを患者と共有して,現実的な目標を設定する・呼吸困難の緩和と,意識を維持することやコミュニケーションできることの両立が困難な場合,患者自身が何を優先するかをよく相談する苦痛を悪化させている要因の改善とケア・呼吸困難が緩和される体位,環境調整(低めの室温,顔に風を当てる)などを行う・輸液が過剰な場合,減量を検討する・精神的支援,特に不安への対応を行う・夜間の就眠を確保する医学的治療・オピオイド(主にモルヒネ/オキシコドン)を使用する。経口投与ができない場合は持続皮下注射で投与できる・高用量のフェンタニル貼付剤を鎮痛で使用している患者にモルヒネ/オキシコドンの持続注射を追加した場合は,呼吸困難時のレスキュー投与量は,追加したモルヒネ/オキシコドンの持続注射による投与量の1 時間量では不足する可能性があるため注意する。逆に,フェンタニル貼付剤と追加したモルヒネ/オキシコドンの合計量に基づいたレスキュー量を設定するとレスキュー投与量が多くなりすぎる可能性もあるため注意する・少量のオピオイドで効果が十分でない時は,1眠気が出ない範囲でオピオイドをさらに増量する, 2他のオピオイドに変更する(例えばオキシコドンをモルヒネに変更する),3少量のベンゾジアゼピン系抗不安薬(ミダゾラム)を症状の緩和を目的としてモルヒネ/オキシコドンに併用する,の3 つの方法がある・オピオイドの神経毒性(せん妄,ミオクローヌスなど)がみられた場合は,オピオイドは増量しない・低酸素血症がある場合には酸素を投与する
p.57
原因は,がんと直接関連するものと関係しないもの,胸腔内に原因が存在するものと胸腔外に原因が存在するものとがある(表3)。さらには,胸腔内・胸腔外に局所病変がなくても,全身の衰弱による呼吸筋の疲労によって呼吸困難を生じる場合がある。特に終末期のがん患者では,複数の原因が重複して呼吸困難の原因となっていることが少なくない。原因はこれまでの病歴と画像所見に加えて,呼吸困難時の理学所見によっておおむね判断することができる。例えば,原発性・転移性腫瘍の増大・がん性リンパ管症は,それまでの画像検査と徐々に進行する呼吸困難で原因が想定できる(他の要因が加わっている可能性はある)。胸水は,聴診で(通常は)片側の呼吸音が低下・消失しており,超音波検査などで確定することができる。肺炎は,感染に伴う喀痰の増加や発熱などの症状と,聴診所見や血液検査から判断できる。腹水・肝腫大による圧迫は身体診察で腹水や腫大した肝臓を触れることで確認できる。心不全は心不全の病歴,聴診所見(crackles),心拡大を示す画像所見,浮腫の悪化などから判断できる。気道の狭窄は,それまでの画像検査で狭窄を生じそうな病変があることと,気道狭窄音が悪化することで判断できる。上大静脈症候群は,それまでの画像検査で上大静脈の圧迫を生じそうな病変があることと,上肢や顔の浮腫が悪化することで判断できる。心囊水はそれまでの病歴や画像検査でわかる場合もあるが,他に原因がない場合に心臓超音波検査で確定する。肺塞栓は急激な呼吸困難と低酸素血症を生じた場合に疑う。両側の横隔神経麻痺は頸髄の横断麻痺で生じるが,頻度は低い。気胸は聴診で(通常は)片側の呼吸音が低下・消失しており,画像検査で確定することができる。貧血は血液検査で確定する。代謝性アシドーシスによる呼吸困難とは,腎不全などに伴うアシドーシスの代償による頻呼吸(呼吸運動の要求増加)が本態である。胸膜播種・胸壁浸潤による胸郭の運動障害はそれまでの画像所見と視診で明らかとなる。以上のように,呼吸困難の原因は臨床経過からある程度想定することができるが,途中で新しい呼吸困難の病態を生じたかの判断は難しいことが多い(がん性リンパ管症は悪化しているだろうが,胸水も増えているかもしれない,など)。原因をどこまで調べるかは, IV章

表3 がん患者における主な呼吸困難の原因と原因に応じた対応

原因原因に応じた対応

比較的頻度の高いもの原発性・転移性肺腫瘍の増大ステロイドがん性リンパ管症ステロイド胸水胸水の排液肺炎抗菌薬投与腹水による横隔膜の運動制限腹水の排液肝腫大による横隔膜の運動制限心不全心不全の治療(利尿薬など)全身の衰弱による呼吸筋の疲労その他気道(気管・気管支)の狭窄ステロイド,ステント,放射線治療上大静脈症候群ステロイド,ステント,放射線治療心囊水心囊水の排液肺塞栓抗凝固療法横隔神経麻痺気胸胸腔内の脱気貧血赤血球輸血代謝性アシドーシス胸膜播種・胸壁浸潤による胸郭の運動障害もともとある呼吸器疾患(COPD,気管支喘息)の増悪気管支拡張薬など
p.58
想定している呼吸困難の原因に対する治療が存在するか,患者の希望はあるか,患者の全身状態が検査や治療を行う負担に耐えられるか,などを十分に考慮したうえで検討する。

原因に対する治療呼吸困難のいくつかの原因に対しては,病態に応じた治療が存在する(表3)。当然のことながら,抗がん治療の効果が見込めるならば抗がん治療の適応を検討する。治療の患者に与える侵襲はまちまちであり,このような原因の治療をどこまで行うかは患者個々の治療目標によって異なる。可能な限り多職種で相談し,患者がその治療を望むかどうかに関しても十分に話し合ったうえで,患者の生命予後や全身状態に照らし合わせて,治療によって期待できるメリット(治療効果が得られる時間的な余裕があるか,治療の負担に耐えられるか)を十分に考慮するようにする。それぞれの原因に対する治療を行った際には,治療によって期待した効果が得られたかを十分評価したうえで,効果がない場合に漫然と治療を継続したり繰り返したりしないことを心掛ける。比較的患者への侵襲が少なくて効果が見込まれる治療としては,ステロイドの投与(原発性・転移性腫瘍の増大・がん性リンパ管症,気道の狭窄,上大静脈症候群),胸水の排液(胸水),腹水の排液(腹水),利尿薬(心不全)などがある。難治性の呼吸困難に対しては,ステロイドは中等量以上を投与して効果を確認する(例えば,ベタメタゾン4~8 mg/日を3~7 日投与して効果を評価する)。ステロイドはせん妄などの有害事象を誘発する可能性があるため効果がなければ減量・中止(長期投与の場合は副腎不全を起こさないよう慎重に漸減)する。

特に低酸素血症を伴う場合,体動時を含めて呼吸困難を完全に消失させることが難しい場合が多い。「息苦しい感じ」が完全になくなることはないことを前提として,患者と緩和治療の目標を共有することが重要である。オピオイドやベンゾジアゼピン系薬剤などの薬物の投与は(意図している/いないにかかわらず)眠気をもたらす可能性があるため,これらの薬剤を使用した苦痛緩和は思考力やコミュニケーションできることと両立しない場合がある。眠気が増えても呼吸困難が減ることを優先するか,呼吸困難はあっても眠気がなく意識がしっかりしていることを優先するかは患者の考え方によっても異なる。どの程度の眠気を許容するか,呼吸困難の緩和と意識の保持のどちらを優先するか(例えば,「夜は呼吸困難を感じずに眠れる程度がよいが,日中は少し呼吸困難を感じていても話ができる程度起きていたい」や「呼吸困難が和らぐのであれば,多少眠気が強くても仕方がない」など)に関しての治療目標を具体的に患者と相談していくことが重要である。特に,苦痛緩和のための鎮静の対象となりうる終末期においては,眠気の原因は必ずしも薬剤(オピオイドやベンゾジアゼピン系薬剤)の影響とは限らず,死亡前の自然経過による意識の低下である可能性もある。医療者は患者が経過のどの位置にあるかということも意識しながら治療目標を設定する必要がある。

2

3.治療目標の設定
p.59
身体的要因患者が呼吸困難を感じない体位になれるように姿勢を工夫する。一般的に,完全に仰臥位にするよりは左右どちらかを下にしているほうが呼吸困難を感じにくく,多少頭部を上げていること(起坐位)を好む患者が多い。呼吸困難のある患者では,一般的に,室温は低いほうが苦しさを感じにくい。気温は患者の好みにもよるが,通常そばにいるとやや寒いくらいの室温のほうが呼吸困難が和らぐことがある。また,風が通るような(風が顔に当たるような)工夫として,扇風機で直接顔に風を当てたり,室内に空気が循環するようにすると呼吸困難が和らぐことがある。体動は呼吸困難を悪化させる。日常生活で動きが少なくすむように環境整備を行う。腹式呼吸や口すぼめ呼吸,徒手的な呼吸介助など,可能であれば呼吸の仕方の工夫を行う。過剰な輸液が喀痰や気道の分泌を増やしたり,肺水腫や胸水など呼吸困難を悪化させていることがあるため,輸液を減量する。オピオイドの持続投与を行う経路を確保する目的で持続点滴が行われている場合には,持続皮下投与に変更することで輸液量を減量できる。

心理社会的要因不安は呼吸困難と密接に結びついている。不安が強くなると呼吸困難が悪化し,呼吸困難そのものが不安をさらに悪化する。精神的支援,特に患者の不安が少しでも軽減するような対応を行う。身体要因よりも不安が呼吸困難の発生・増強に関わっていると判断される場合は,不安軽減を目的とした抗不安薬の投与も検討される。また,不安が増強しやすい夜間の就眠を確保するようにすることは非常に重要である。

薬物療法呼吸困難の緩和を目的とした薬物療法としては,モルヒネをはじめとしたオピオイドと,ベンゾジアゼピン系抗不安薬が主に用いられる。呼吸困難の薬物療法については,鎮静薬でもあるミダゾラムが呼吸困難そのものに対しても効果がある可能性があるという知見から,「通常の緩和治療」と「苦痛緩和のための鎮静」との境界があいまいになる。「痛みの治療としてミダゾラムを持続的に投与する」「せん妄の治療としてミダゾラムを持続的に投与する」という考えは一般的ではないが,「呼吸困難の緩和として,(意図的に意識を低下させるのではなく)少量のミダゾラムの持続投与を併用する」という考えはありうるためである[注1]。

1 )呼吸困難に対するオピオイドの開始呼吸困難に対する薬物療法の標準治療薬はモルヒネであり,複数の臨床試験やメタアナリシスで効果が示されている。モルヒネ以外のオピオイドについては,エビデンスは乏しいものの臨床経験と薬理作用からオキシコドンについては一定の効果があると考えられる。フェンタニルは一般的には使用されない。また,投与経路については,経口投与が可能であれば経口で投与するが,本手引きの対

4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア

1

2

5.医学的治療

1 IV章
p.60
象となる難治性の呼吸困難のある患者では全身状態が不良なため経口投与ができない場合が多い。したがって,投与経路は持続皮下投与が主体となる。静脈経路がすでにある場合には持続静脈内投与でもよいが,持続静脈内投与の場合,持続皮下投与と比較して輸液量が必然的に多くなってしまう。輸液量が多いと胸水や肺水腫の悪化につながる可能性があるため,持続皮下投与のほうが投与経路として望ましい。以上より,呼吸困難の薬物療法として使用するオピオイドは,モルヒネ/オキシコドンの持続皮下注射を使用するのが主である。

1オピオイドを投与されていない患者への対応オピオイドを使用していない患者において,呼吸困難に対してオピオイドを開始する場合,選択するオピオイドの種類としてはモルヒネを選択することを基本とする。腎機能障害の合併など患者の状態を考慮してオキシコドンを選択する場合もある。開始時の投与量に関しては,痛みに使用するよりも低用量から開始する。具体的には,持続皮下投与であればモルヒネ/オキシコドン6~12 mg/日より開始する。

2すでにオピオイドを投与されている患者への対応すでに疼痛緩和のためにオピオイドを使用している患者に関しては,どの種類のオピオイドを使用しているかにより対応が異なる。痛みに対してモルヒネが定期投与されている患者では,定期投与しているモルヒネ投与量を25~50%程度増量する。痛みに対してオキシコドンを定期投与している患者では,定期投与で使用しているオキシコドン投与量を25~50%程度増量するか,または,オキシコドンからモルヒネへ変更する。痛みに対してフェンタニル貼付剤を使用している患者では,基本的には,モルヒネ/オキシコドンに変更する。ただし,中用量以上のフェンタニル貼付剤(例えば50μg/時間以上)を使用している場合,フェンタニルを一度にすべてモルヒネ/オキシコドンへ変更することで生じうる全身状態の変化を避けるために,使用しているフェンタニルの1/3~1/2だけ部分的にモルヒネ/オキシコドンへ置き換える場合も多い[注2]。部分的に置き換えたあとに効果・副作用を評価し,必要に応じて残りのフェンタニルもモルヒネ/オキシコドンへ変更することを検討する。場合によって,フェンタニル貼付剤はそのまま据え置き,モルヒネ/オキシコドンの持続皮下注射を併用(上乗せ)して開始することがある。これは,呼吸困難が急速に進行しているなど全身状態の不良な患者ではオピオイドを別のオピオイドへ切り替えることで全身状態に影響を与える可能性があるためである。併用する場合,通常呼吸困難時のレスキュー薬はモルヒネ/オキシコドンの皮下注射で投与される。レスキュー薬の投与量に関しては,フェンタニル貼付剤の投与量を合計オピオイド量に含めて計算する必要があるため,レスキュー投与量が少なくなりすぎたり,逆に多くなりすぎないように注意する[注3]。

2 )少量のモルヒネ/オキシコドンで呼吸困難に効果のない場合の対応モルヒネ/オキシコドンが少量で効果があった場合は,その投与量を継続する。少量で効果がなかった場合に,どの程度までモルヒネ/オキシコドンを増量するかは明確な基準がない。基本的には,痛みに対してオピオイドを投与した場合と同様に,「息苦しさに対して
p.61
効果がある」と患者自身が表現し,さらに,眠気が出ない範囲で呼吸困難が緩和できる用量まで数段階の増量を行う。呼吸困難が緩和された場合には,その量を維持する[注4]。数段階モルヒネ/オキシコドンを増量しても十分な効果が得られない場合,治療上の選択肢は,1モルヒネ/オキシコドンを副作用のない範囲でさらに増量する,2オピオイドを変更する(オキシコドンを使用している場合モルヒネへ変更する),3オピオイドは無効と判断してベンゾジアゼピン系抗不安薬(非経口投与の場合はミダゾラム)をモルヒネ/オキシコドンに併用する,の3 つである。

1オピオイドの増量モルヒネ/オキシコドンをさらに増量することが適切かは,増量した際に効果が確認できるか,オピオイドによる神経毒性(傾眠やせん妄など)や呼吸抑制が生じていないのか,といった点から総合的に評価する。モルヒネ/オキシコドンの増量中にせん妄などの神経毒性がみられた場合は,さらに増量することは適切ではない。神経毒性があるにもかかわらずオピオイドを増量すると,苦痛緩和が得られないばかりか,過量投与に伴う呼吸抑制や神経毒性の悪化・神経過敏症状(ミオクローヌス,オピオイド誘発性痛覚過敏,けいれんなど)を来す可能性が高い。鎮静を目的としたモルヒネの増量を各国のガイドラインでも認めていない理由の一つである。この場合は,オピオイドを減量して,せん妄に対する治療をあわせて行う(P34,IV章—2—2 せん妄に対する緩和ケア参照)。

2オピオイドの変更呼吸困難に対してオキシコドンを使用している患者でオキシコドン増量後も効果が不十分と判断される場合は,モルヒネに変更することを検討する。モルヒネからオキシコドンへは通常変更しない。

3ベンゾジアゼピン系抗不安薬の併用呼吸困難に対してベンゾジアゼピン系抗不安薬を単独で投与する場合,呼吸困難の増悪因子としての不安を標的として投与される。実際,これまでの臨床研究の結果からは呼吸困難そのものに対するベンゾジアゼピン系薬剤の単独投与の有効性は証明できていない。一方で,オピオイドとベンゾジアゼピン系薬剤の併用でがん患者の呼吸困難の緩和が得られる可能性に関して複数の報告があり,臨床現場においてもしばしば少量のベンゾジアゼピン系薬剤がオピオイドと併用で用いられることがある。具体的には,経口可能であれば,ロラゼパムやアルプラゾラムが用いられる。経口投与ができない場合には,主にミダゾラムが用いられる。呼吸困難の緩和のためにベンゾジアゼピン系抗不安薬としてミダゾラムをオピオイドと併用で投与する場合,通常,眠気が強くなる可能性が少ない2.5~5 mg/日よりミダゾラムを開始して,苦痛の程度に応じて投与量を調節する[注5]。ただし,ベンゾジアゼピン系抗不安薬はもともと鎮静作用をもつ薬剤であり,投与量が多くなると意識を低下させる可能性が高まる。特に,10 mg/日を超えるミダゾラムの投与は鎮静作用が強くなり,意識を保ったまま呼吸困難の緩和効果を期待することが難しくなると考えられるため,投与量は10 mg/日以下で使用するのが一般的である。IV章
p.62
薬物療法以外の治療低酸素血症がある場合には酸素の投与を行う。一方,低酸素血症を伴わない場合には酸素は必ずしも有効ではないが,治療抵抗性の呼吸困難で他に有効な可能性のある方法がないのであれば実際に酸素を投与し,効果を評価してもよい。この場合,効果が明らかな場合は継続するが,効果が明らかでない場合や有害事象(酸素チューブによる拘束感それ自体が患者の不快であったり,拘束感がせん妄の悪化要因になるなど)がみられる場合は酸素投与の中止を検討する。

難治性の呼吸困難に関する課題について表4 にまとめた。1 つめは,痛みやせん妄と同様に,難治性の呼吸困難に対する治療が標準化されていないということである。特に,モルヒネが薬剤として効果がある(薬効がある)ことは示されているものの,どれくらいの量を使用して効果がない場合に無効とみなすのか(逆にいえば,どれくらいの量のモルヒネを最低でも使わなければ治療抵抗性とはいえないのか),モルヒネの効果が不十分であったとした場合に他のオピオイドに変更することは効果があるのか,少量のベンゾジアゼピン系抗不安薬(ミダゾラムを含む)を併用することはモルヒネ単剤で治療する場合より効果や意識に与える影響に差があるのか,が十分に明らかになっていない。今後,難治性の呼吸困難についての治療の標準化が必要である。現状としては,(副作用の許容される範囲での)オピオイドの増量,他のオピオイドへの変更,ベンゾジアゼピン系抗不安薬(非経口投与ではミダゾラム)の併用については,どれか一つの方法が優先して勧められるものではなく,総合的な臨床的な判断で選択せざるを得ない。2 つめは,ミダゾラムの少量投与をオピオイドと併用することが呼吸困難に症状緩和として有効であったとした場合の鎮静の概念との整合性である。仮に,ミダゾラムを併用してもオピオイド単剤に比べて意識の低下を生じずに呼吸困難が緩和されることが実証研究で明らかにされたならば,この場合のミダゾラム少量投与は「意図的に意識を低下させる」と定義する鎮静には含まれないことになる。現状としては,この課題は結論づけられるだけの根拠がないため,「呼吸困難の緩和のために使用されたミダゾラムは鎮静か?」の議論は,現時点では保留することが望ましいと考える。ミダゾラムの持続投与が鎮静と呼ばれるか呼ばれないかは別にして,オピオイドで治療抵抗性の呼吸困難に対して,苦痛を指標にして少量のミダゾラムを使用することそのものは現状では妥当だと考えられる。

[注]

1) あいまいになる理由は,苦痛緩和のための鎮静の定義に含まれる「治療抵抗性の苦痛」

が明示されていないからである。治療抵抗性の呼吸困難をオピオイドで緩和されない呼吸困難と定義すれば,ミダゾラムの持続投与は苦痛緩和のための鎮静に該当しうる。一方,治療抵抗性の呼吸困難とは,オピオイドと少量のミダゾラムの併用でも緩和しない

6.未解決の課題

表4 難治性の呼吸困難に関する未解決の課題

・どれくらいの治療をしたら治療抵抗性の呼吸困難であるといえるのかの明確な基準がない・呼吸困難の緩和を目的としたミダゾラムの持続投与は鎮静に含まれるのかがあいまいである
p.63
ものだと定義すれば,少量のミダゾラムの投与までは苦痛緩和のための鎮静ではなく,一般的な緩和治療となる。本手引きでは,こういった「どこまでが鎮静か」の問題を検討するのではなく,難治性の呼吸困難に対してどのような緩和治療が適切かを示すという立場から意見をまとめている。

2) フェンタニルの中用量を意味する投与量について具体的な表記を試みたが,国際的に

も統一した見解がない。表記は目安である。

3) 例えば,フェンタニル貼付剤でモルヒネ経口換算120mg/日(静脈・皮下投与換算

40~60mg/日)を鎮痛の目的で使用していた患者にモルヒネ持続皮下注射12mg/日を追加で開始した場合,呼吸困難時や疼痛時のレスキュー使用量をモルヒネ持続皮下注射の1 時間分と規定すると,1 回あたりの使用量は0.5mg(皮下投与)になる。しかし,これらの患者では通常それまでに疼痛時のレスキューとしてモルヒネ10~20mg 相当のオピオイド内服(皮下投与だとモルヒネ5~10mg 相当)を使用していることが多い。疼痛時と呼吸困難時に使用するべきレスキュー薬の投与量がどの程度一致するかの根拠はないが,レスキュー薬が追加(併用)されたモルヒネ持続皮下注射の1 時間量では少なくなりすぎる可能性はある。一方で,呼吸困難に対してモルヒネはフェンタニルよりも効果が高いということが想定されるため,併用しているオピオイド全体の総投与量から呼吸困難に対するレスキュー量を算出して,その投与量をモルヒネ皮下注射で投与すると呼吸困難に対しては過量となってしまう可能性もある。したがって,現在使用しているオピオイド全体の投与量やこれまでに使用しているレスキュー薬の効果から,患者の全身状態にあった量を調整する必要がある。

4) 投与量についてさらに具体的な表記を試みたが,国際的にも統一した見解がない領域

であるため,委員会として幅のある表記にとどめることが妥当であるとの結論に達した。増量についても「数段階」とあえてあいまいな表現とした。

5) オピオイドで緩和できない呼吸困難に対して,苦痛緩和を指標としてミダゾラムを併

用することは,オピオイドで緩和できない呼吸困難を治療抵抗性の苦痛と考えれば,本手引きでは調節型鎮静に含まれうる。一方,ミダゾラム自体が呼吸困難に対して,「(意識を低下させずに)効果がある」という立場からはミダゾラムを併用することは「鎮静ではない」という意見もありうる。しかしこの場合でも,ミダゾラムを持続投与して結果的に意識がなくなった場合には「鎮静である」とする解釈もありうる。本手引きではこのような「何を鎮静と呼ぶか」の議論は本質的ではなく患者にとっての利益が少ないと考え,「鎮静か鎮静ではないか」の議論は保留する。ここでは,オピオイドで緩和されない呼吸困難に対してミダゾラムを投与する行為を鎮静とみなすのか否かはさておき,モルヒネ/オキシコドンを患者の症状をみながら少量ずつ増量したが効果がない場合に,呼吸困難が和らぐかを指標にして,ミダゾラムを少量(10mg/日以下)投与するという行為は難治性の呼吸困難に対する対応としては妥当であるということを述べている。

(山口 崇) IV章
p.64
本章では,苦痛が難治性である時に,苦痛の緩和に努める一方で,苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための精神的ケアについて概要を述べる。まず,トータルペインとsuffering の概念を紹介して治療抵抗性の苦痛に対応しようとする場合には,身体的要因,精神的要因,社会的要因,スピリチュアルな要因について包括的にアセスメントしケアを組み立てることが重要となることを述べる。次に,治療抵抗性の苦痛をもった患者をケアする点において,必要なケアの基盤となる基本的な考え方を挙げる。そして,「自分の人生は何だったのか」「今こうしていることに意味があるのか」といったスピリチュアルな痛みに対するケアについて概要をまとめる。

がん患者の苦痛は,身体的要因,精神的要因,社会的要因,スピリチュアルな要因といった多面的なものである。身体と精神は互いに影響しており,治療抵抗性の身体的苦痛に精神的な要因が加わるとさらに身体的苦痛が強くなる。逆に,精神的な苦痛やスピリチュアルな苦痛を軽減することができるならば,身体的苦痛の程度そのものは変わらなくても(わずかしか軽減しなくても),苦痛に耐えられるような人生の意味を見出すことができるようになる場合もある。医療者には苦痛を全人的苦痛(トータルペイン)として理解し,ケアすることが求められる。トータルペインとは,患者の苦痛を身体的要因,精神的要因,社会的要因,スピリチュアルな要因といった多方面で捉える概念であり,医療者は患者に包括的な全人的ケアを提供することが必要とされる。治療抵抗性の苦痛を検討する場合には,難治性の痛みのある患者において,「(身体の)痛み」だけを取り出して緩和しようとするのではなく,痛みがとれないことによって生じている,または,痛みを難治性にさせている精神的要因,社会的要因,スピリチュアルな要因を同時にケアすることの重要性を意味する。Suffering(苦悩)とは,人の統合性や完全性が脅かされ壊された時に生じる苦しみと定義される。症状やつらさ,苦痛よりも広範な概念であって,人は部分として苦痛を体験しているのではなくて,心身が一体となって苦しさを体験していることを指す。治療抵抗性の苦痛の文脈では,緩和されない痛みを抱えた患者が心と体をばらばらに苦痛を感じているのではなく,一人の人として一体としてsuffering(苦悩)を経験しているという意味になる。いずれにしても,治療抵抗性の苦痛に対応しようとする場合には,身体的要因,精神的要因,社会的要因,スピリチュアルな要因について包括的にアセスメントしケアを組み立てることが重要となる。

苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための精神的ケア3

1.トータルペインとsuffering(苦悩)の概念
p.65
治療抵抗性の苦痛をもった患者をケアする点において,基盤となる全般的な精神的ケアを述べる。全般的なケアの根幹にあるものは,患者を一人の人間として尊重し,患者とともにあろうとする姿勢で寄り添い,患者の苦しみを理解しようとすることである。患者の気持ちを理解しようとしている姿勢を伝え,表面的な言葉のみに捉われるのではなく,背景にある患者の気持ちや表現されない患者の感情を理解することが大切である。難治性の苦痛が和らぐような精神的支援となることを目標とするとともに,もし苦痛が緩和されなかったとしても患者自身が生きる意味や価値を見出せるよう支援していくことが求められる。具体的な内容としては,「生きる意味・心の穏やかさ・尊厳を強めるケアを行う」「信頼関係を構築する」「現実を把握することをサポートする」「情緒的サポートを行う」「おかれた状況や自己に対する認知の変容を促す」「ソーシャルサポートを強化する」「くつろげる環境や方法を提供する」「チームをコーディネートする」ことが含まれる(表1)。

2.全般的な精神的ケア

IV章

表1 全般的な精神的ケア

1 .生きる意味・心の穏やかさ・尊厳を強めるケアを行う・生きる意味・心の穏やかさ・尊厳を脅かしている/支えているものを知り,強化する2 .信頼関係を構築する・プライバシーの守られる環境を整え,ベッドサイドに(立ってではなく)座って対話する・患者に常に関心を向ける;患者を理解しようとする;気持ちをわかろうとしていること一緒に考えていくことを伝える・患者とともに時間を過ごし,存在を提供する(being,presence) 3 .現実を把握することをサポートする・今起こっていることを丁寧に説明し,患者の疑問を明確にする・苦痛に対してどのようなことを行うのか,具体的に現実的な情報を提供する・どうしても苦痛が緩和されない場合,(適切であれば)最低限眠るようにすることはできることを伝える・希望を維持する4 .情緒的サポートを行う・患者の感情を批判することなくあるがままにしっかりと受け止める・絶望,孤独,不安,不信,怒りといった否定的な感情をもつことは当然であることを伝え,伝えても大丈夫なのだという受容的な温かい雰囲気をつくるように心がける・反復・復唱,明確化・要約などの技術;非言語的メッセージ(まなざし,姿勢,声の抑揚);沈黙や身体的接触を用いる5 .おかれた状況や自己に対する認知の変容を促す・患者の現実と一致しない否定的な認知の変容を試みる・患者の自己効力感を高めることを意識する・ (患者の知りたい気持ちや状況を慎重に考慮したうえで)苦痛はいつまでも続かないことを伝えることを考慮する6 .ソーシャルサポートを強化する・家族・友人など患者が必要としている関係を継続できるよう配慮する・仕事,季節の行事など社会との交流を維持できるように配慮する7 .くつろげる環境や方法を提供する・「気持ちよい」と一時でも思えることを探して実践する8 .チームをコーディネートする・心理専門職,宗教家,ボランティアなどの関わりをコーディネートする
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生きる意味・心の穏やかさ・尊厳を強めるケアを行う患者が一番大切にしてきたこと,一番重要と考えることを知り,患者の生きる意味・心の穏やかさ・尊厳につながるものを強化する。患者が大切にしていること・意味があると感じられることを知るためには,例えば,「○○さんが一番大切にされてきたことは何か」「困難ななかで,○○さんを支えているものは何か」といった視点で関わる。難治性の苦痛のなかにあっても,そのあいまに愛している人たちと数時間過ごすことができたり,それまで生きる意義として感じていた社会とのつながりをもてるようにすることによって,患者の生きている意味を支えることができる。

信頼関係を構築する難治性の苦痛のなかにいる患者にとって,誰か一人でも医療者に信頼できる人がいることは大きな支えになる。患者の信頼を得ることはすべてのケアの基盤になる。プライバシーの守られる環境を整え,ベッドサイドに(立ってではなく)座って対話するようにする。「あなたに」関心があること,何か力になりたいと思っていることを言葉だけでなく,態度で示すようにする。一人の人間としての歴史を表現する物語を聴くことが信頼関係をつくるきっかけとなることが多い。例えば,病気に関係しない日々のことや,人生において重要と思われること,人生において印象深い思い出,人生において自分が果たした重要な役割,誇りに思うことなどについての話題がきっかけになりうる。医療者という役割から考えると,何かをしてあげなければという思いにとらわれやすく,安易に励ましたり,アドバイスをしがちになるが,重要なことは患者が医療者から「自分のことがわかってもらえた」と感じることである。場合によっては,何もせず黙って患者のそばにいたり,痛むところや苦しいところをさすってそこにいることが求められることもある。

現実を把握することをサポートする難治性の苦痛のなかにあり,患者は,いったい何が起きているのか,どのような状況におかれているのか十分に把握することができないことが多い。今何が起こっているのかを丁寧に説明し,患者の疑問に思っていることが明確になるように促す。難治性の苦痛を緩和するために,いつまでに,どのようなことを実施する計画なのか,具体的に,現実的な内容を正確に伝える。どうしても苦痛が緩和されない場合,適切であれば,最低限夜間は眠るようにすることはできる(眠気が出たとしても苦痛を和らげる方法を選択するかをともに考えていく)ことを伝えることも,患者にとっての安心につながる場合がある。もし現実を伝える過程において,非現実的な希望が患者から伝えられたとしても,患者の生きる意味を支えるものであったり,不安から心を守るために重要である場合には,否定せずに希望は希望のまま維持することが重要である。例えば,歩くことのできない患者が「もう一度歩けるようになりたい」と希望する場合,「それは無理です」と否定するのではなく,「もう一度歩きたいのですね」などと患者の歩きたい気持ちを理解することが大切である。

2

3
p.67
情緒的サポートを行う患者の感情を批判することなく,あるがままにしっかりと受け止める。難治性の苦痛がある厳しい状況のなかで,絶望,孤独,不安,不信,怒りといった否定的な感情をもつことは当然である。患者のなかには,こうした否定的な感情を抱くことそれ自体が良くないことであると捉えて,表出せずに心に閉じ込めてしまうこともある。患者が抱く感情に焦点を当て,こうした感情を抱くことは当然であることを伝え,伝えても大丈夫なのだという受容的な温かい雰囲気をつくる。反復・復唱,明確化・要約などの技術を用いる。非言語的メッセージ(まなざし,姿勢,声の抑揚)に注意を払う。沈黙や,身体的接触を用いる。

おかれた状況や自己に対する認知の変容を促す患者は緩和されない苦痛が持続する場合に,「苦痛を放っておかれている/何もしてもらっていない」「もうだめだ/もう何も良くならないにちがいない」「この苦痛がずっと(何週間も何カ月も)続くのなら早く終わりにしたい」という言葉を発するかもしれない。難治性の苦痛がある場合,患者の体験している状況で肯定的な側面を探すのはより困難になる。実際に行われていることや計画されていることと患者の認識が違う場合には,患者がそのような気持ちになってもおかしくはないことを受容的に対応したうえで,実際に医療者は患者の苦痛を減らすために最大の努力をしていることを,具体的な予定を説明することで伝えることができる。患者の自己効力感を高めるように意識する。すなわち,患者の語る言葉から患者の人生に対する肯定的なフィードバックを伝え,患者が自分のもっている力を肯定的に捉えられるよう支援していく。患者が対応できるであろうこと,今までにも対応できたことを保証する。患者が「今できること」に目が向けられるよう一緒に考えていく。難治性の苦痛のある患者の多くは,いつ終わるのかわからない苦しみと感じている。すなわち,苦しい状況がずっと(患者の予測される生命予後より長く,数カ月にわたって)続くと認識している場合がある。患者によっては(患者の知りたい気持ちや状況を慎重に考慮したうえで),苦痛は患者が思っているほど長くは続かないこと(患者の生命予後がそれほどないこと)を伝えることで逆に「それくらいなら耐えられる」と安心することもある。

ソーシャルサポートを強化する患者にとって重要な人たちとの絆が強まるように人間関係を調整する。患者が苦痛のなかで孤独でいる時間を減らすようにする。家族・友人の面会や付き添いを相談したり,家族・友人と気持ちを伝え合うことを促す。お互いに伝えたいことが伝えられていない場合があるので,必要に応じて気持ちを橋渡しする。医療者と日常のコミュニケーションを行えるように意識して関わるようにする。仕事,季節の行事など社会との交流を維持できるように配慮する。

くつろげる環境や方法を提供する「気持ちよい」と一時でも思えることを探して実践する。もともと散歩や外出を好んでい

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6 IV章
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た患者でも苦痛が緩和されていない場合には実現が難しくなる。それでも,何らかの快につながることを探して実践する。苦痛があるなかでも比較的実施しやすいものとして,音楽,香り,タッチやマッサージ,温かいタオルで顔を拭くこと,思い出になる写真,好きな植物やペットなどがある。療養の場はそれ自体がくつろげる環境となる。

チームをコーディネートする患者の助けとなるような,医師,看護師以外の職種のコーディネートを行う。心理専門職,宗教家,ボランティアなどが想定される。患者に信仰があり,信仰が患者の支えになっているならば,それを尊重し,必要に応じて宗教家や信者との面会,礼拝や集会への出席などを検討する。チームを構成するメンバーは患者を診療している施設だけでなく,その地域の専門職にも及ぶ場合がある。

スピリチュアルな痛みとは何か?患者は終末期に至るまでに,病名の告知,治療,再発・転移,抗がん治療の中止という過程を経て,不安や絶望,孤独などの感情を体験している。病気の進行に伴い,だんだんと身の回りのことが自分で行えなくなり,自己の価値観が揺り動かされ,生き方や人生の意味・目的などの問いを強く抱くようになる。「自分の人生は何だったのか」「今こうしていることに意味があるのか」「なぜこんなに苦しまなくてはならないのか」。これらは生命の危機など受け入れがたい事態に直面した者であれば誰にも起こりうる苦悩であり,スピリチュアルな痛みと呼ばれている。スピリチュアルな痛みは複数の定義が提案されており,日本の臨床現場で統一して使用されているものは確立していない。本手引きでは,国内で比較的多く使用されている「自分の存在と意味がなくなることから生じる苦痛」とする。

スピリチュアルな痛みのアセスメントとケアスピリチュアルな痛みに対してアセスメントする枠組みを参考として示す。スピリチュアルな痛みは対応しにくいものであるが,ある程度構造化した対応をとることが可能である。図1 は「スピリチュアルペインアセスメントシート」と呼ばれるものであり,患者のスピリチュアルな状態をアセスメントする。難治性の苦痛のある患者に対して,この通りにアセスメントすることはできないかもしれないが,患者が話した言葉や診療記録の言葉などから,何に対応することができそうなのかの参考にすることができる。スピリチュアルペインの種類は「関係性の苦悩」「自律性の苦悩」「時間性の苦悩」がある(表2)。「関係性の苦悩」とは,「死んだら何も残らない」「孤独だ。自分一人取り残された感じ」と表現され,死の接近によって他者との関係の断絶を想い,自己の存在と生きる意味を失うことによって生じる。終末期がん患者は,アイデンティティの喪失,孤独,空虚というスピリチュアルペインを強いられる。

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3.スピリチュアルな痛みのケア[注1]

1

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IV章

図1 スピリチュアルペインアセスメントシート

きっかけとする質問の例質問A:「今のお気持ちは穏やかですか」質問B:「今,最も大切なことや支えになっていること,意味や価値を感じるのはどのようなことですか」質問C:「今,気になっていることや心配していることはどのようなことですか」質問D:「今のご自分の状況をどのように感じていますか/今のご自分にどのようなことが起こっている

と思いますか」〔田村恵子,他.看護に活かす スピリチュアルケアの手引き 第2 版,青海社,2017 より引用〕

スピリチュアルペインありスピリチュアルペインなし(ただし観察は継

続的に行う)

I.スピリチュアルの状態のアセスメント

II.特定の次元におけるスピリチュアルペインのアセスメント

【関係性のスピリチュアルペイン】⨎家族・大切な人の心配⨐孤独感⨒負担感/申し訳なさ⨔人間を超えたもの・信仰に関する苦悩【自律性のスピリチュアルペイン】

⨖自分のことができないつらさ⨘将来に対するコントロールの喪失⨚役割・楽しみの喪失⨜自分らしさの喪失⨞ボディイメージの変化【時間性のスピリチュアルペイン】

⨠心残り⨡希望のなさ⨢死の不安⨣身辺整理に関する気がかり⨤人生の不条理

スクリーニング1 A.気持ちのおだやかさB.大切な/支えになっていることYes

No

スクリーニング2 C.気になる/心配なことD.現状の捉え方

次元概念定義表現例

関係性家族・大切な人の心配家族・大切な人に対する心配や気がかり,わだかまり・残していく○○のことが心配・○○を残していくのがつらい・自分が死んだ後,○○はやっていけるのだろうか・つらいことを話すことで家族が悲しむから話せな

い

孤独感寂しさ,他者にわかってもらえないという思い・誰もわかってくれない・○○と一緒にいたい負担感/申し訳なさ家族や他者に負担や迷惑をかけて申し訳ないという思い・みんな(家族やケア提供者など)に迷惑をかけて

いる・人の世話にならないと何もできない,申し訳ない・迷惑をかけたくない・つらい気持ちを家族に知らせたくない・落ち込んだ顔を見せたくない・お金のことで負担をかけて申し訳ない

表2 スピリチュアルな痛みの内容

(つづく)
p.70
次元概念定義表現例

関係性人間を超えたもの・信仰に関する苦悩人間を超えた存在(自然や神・仏など)との関係における苦しみ・神も仏もない(救ってはくれない)・自然の力はどうすることもできない

自律性自分のことができないつらさ自分で自分のことが思うようにできない,または,しっかり考えることができないつらさ・自分の思う通りにできないことがつらい・自分で自分のことができなくて情けない・トイレも一人でできず情けない・ぼうっとして何が何だかわからない・自分のことが考えられない・もっとしっかりしていたい

将来に対するコントロールの喪失自分の将来がどうなっていくのかわからないために,見通しや計画が立たないことに関連した苦悩・この先どうなるのかがわからない・ひどく苦しむのではないか・先々のことを知って,自分で決めておきたい役割・楽しみの喪失仕事や自分の役割,楽しみなどができないために,生きる意味が見出せないこと・私の人生は何だったのか(意味がなかった)・生きていても何の意味もない・〇〇(仕事・役割・趣味など)を続けたい自分らしさの喪失自分らしさを感じることができないこと・私の大切にしていることをわかってほしい・人として扱ってほしい・生きがいになることが何もできないボディイメージの変化容貌の変化に伴い,弱った姿を見せたくないこと・落ち込んだ顔を見せたくない・元気だった時の姿が変わってしまってつらい

時間性心残りやり残したこと,将来を見届けられないことに関するつらさ・子どもや孫の成長が見られなくて残念だ・生まれてくる孫に会えない・これから家族とゆっくりしようと思っていたのに・これからのんびり過ごそうと思っていたのに

希望のなさ希望が見出せないこと・今までしていた仕事に戻りたい・何をしたらいいのかわからない・何もすることがない・楽しいことが何もない・こんなことをやってもしょうがない・病気が良くならないのなら早く終わりにしたい死の不安死に対する恐れや,死んだらどうなるのかという不安・死が怖い・死にたくない・死んだら何も残らない・死んだらどうなるのだろう身辺整理に関する気がかり遺言や葬儀など伝えておきたい,残しておきたい事柄があること・○○に感謝・お礼を言っておきたい・仕事の引き継ぎをしておきたい・自分の葬式の段取りや相続の手はずをつけておき

たい・やらなければならない仕事があり,無念だ

人生の不条理「なぜ自分がこんなこと

になったのか」という不公平感や納得のいかなさ・こんなに治療を頑張ってきたのに・治ると思っていたのに・こんなことになったのは,罰があたったからだ・自業自得だ

〔田村恵子,他.看護に活かす スピリチュアルケアの手引き 第2 版,青海社,2017 より引用改変〕

表2 スピリチュアルな痛みの内容(つづき)
p.71
「自律性の苦悩」とは,患者が自己の不能から生産性を失い,人の役に立てない自己の無価値を体験し,さらに他者に依存しなければならないことによって自律性と私秘性が奪われ,無力な自己を他者にさらす依存から負担と迷惑に苦しむことで生じる。「時間性の苦悩」とは,「私はただ死ぬのを待っているだけだ。こんなことなら早く楽にしてほしい」「私の人生は何だったのか」といった言葉で表現される。間近に死を自覚し,将来をもてない終末期がん患者には,世界と自己の生が無意味,無目的,不条理として現出し,スピリチュアルペインを感じるとされる。スピリチュアルペインアセスメントシートに従ってアセスメントすることによって,ケアの方向をみつけることができる。

苦痛が患者の望むように緩和されない時,医療者も深く傷つく。自分がどのような気持ちにあるのか,敗北感や十分なことがしてあげられないという不全感が判断に影響していないか,同僚やチームで話し合い,言語化しておくことでより妥当な決定をすることができる。

治療抵抗性の苦痛がある場合に,どのようにして精神的な支援を行えばよいかについて確立した方法はない。意味のなさや不条理は,いわゆるスピリチュアルな痛みと表現されるが,その評価方法やケアの方法も定まったものはない。本手引きでは,なるべく具体的な方法を示すという観点から,日本で比較的よく用いられているスピリチュアルアセスメントシートを紹介した。これらの枠組みが,治療抵抗性の苦痛をもった患者で有効かどうかはわかっていない。もとより,緩和できない苦痛のある患者を精神的にケアする方法として何か特定のものがあるものでもない。ここに記載した内容をもとに,「この場合では,このような視点でケアすることも価値があるかもしれない」という糸口となることを意図して記載した。

[注]

1) スピリチュアルな痛みやケアのありかたについてはさまざまな考え方があり,複数の

書籍が出版されている。学会の出版物として一般出版物を参考文献として記載することは適切ではないとする懸念もあったが,何かの参考文献がないと理解が難しいという意見もあった。したがって,参考として以下のものを挙げる。

田村恵子,河 正子,森田達也 編.看護に活かす スピリチュアルケアの手引き 第2

版,東京,青海社,2017

(角 裕子)

4.治療抵抗性の苦痛をもつ患者に関わる医療者の心構え

5.未解決の課題IV章
p.72
間欠的鎮静の治療目的は,一定期間(通常数時間から一晩)患者が苦痛を体験せずに眠ることができることである。意識の低下をもたらしたあとに薬剤を中止・減量して,意識が低下しない時間を確保するようにする。苦痛のために不安が強くなりそれが苦痛を悪化させるという悪循環を一時的にでも遮断することで,患者が持続的な苦痛を体験しなくなることがある。夜間に加えて,日中にも数時間でも就眠が確保できることで患者の休息になり,覚醒した時の苦痛の体験が耐えやすいようになる場合がある。主にミダゾラムやフルニトラゼパムの経静脈投与により行われる。注射薬を使用できない環境では,ジアゼパム坐薬,ブロマゼパム坐薬のベンゾジアゼピン系坐薬を代替薬とする。2018 年現在,いずれの薬剤も苦痛を緩和するために使用する鎮静目的の保険適用はない。表1 に間欠的鎮静に使用される薬剤の使用例を参考として示す。鎮静薬の必要量は患者の状態によって大きく異なるため,注意深く患者を観察して調節することが必須である。投与方法は一定の目安であり,下記の方法で投与すれば十分に効果が出るもしくは過量投与にはならない,というものではない。よって,個々の患者で個別に調節することが重要である。薬剤使用時の患者の状態の評価の考え方については「V章—5—3 鎮静中の継続的評価」(P80)を参照。

間欠的鎮静4

薬剤名投与経路製剤規格投与量特徴ミダゾラム注射薬静脈・皮下10mg/2mL 【持続静脈内・持続皮下投与】0.5~1mg/時間で開始し,患者の状態を観察しながら投与量を調整する投与開始時に0.5~1mg程度早送り*してもよい適宜生理食塩水で希釈する【単回皮下投与】

初回は0.5~1mg を皮下投与し,患者の状態を観察しながら,投与量を調整する・作用発現が早く,作用持続時間

が短い・長期投与によって耐性が生じやすい。投与後に離脱症状(不安・焦燥)を生じる場合がある・拮抗薬(フルマゼニル)がある・無呼吸,呼吸抑制,舌根沈下,循環抑制(低血圧,時に心停止)がある。特に,高齢者,麻薬性鎮痛薬との併用,呼吸予備力が低い,肝腎機能が低下している患者で生じやすい・保険適用は全身麻酔時の導入

および維持,集中治療における人工呼吸中の鎮静である

表1 間欠的鎮静に用いる薬剤の使用例[注1]

*静注の場合,早送りは1 分程度かけて緩徐に投与する。早送り後5 分間は慎重に観察する。患者の状態を観察しながら早送り量を調節する。

(つづく)
p.73
[注]

1) 薬剤の投与量については,確実な根拠がないことや,記載のままに鎮静薬を投与する

ことによって個々の患者の観察が不十分になることの危険性を懸念する意見があった。一方,ある程度の目安を示すべきとの意見もあった。実際,鎮静薬の投与量については効果,安全性ともにエビデンスが不十分であり,現状で最も良い投与方法を具体的に示すことができない。したがって,安全性を重視すると効果が不十分になる可能性があり,効果を重視すると過量投与になる可能性がある。しかし,何らかの目安を具体的に示すことが有用と考えて,注釈をつけたうえで,使用例として一定の合意の得られた使用方法を記載した。IV章

薬剤名投与経路製剤規格投与量特徴フルニトラゼパム注射薬静脈2 mg/1 mL【持続静脈内投与】

0.1~0.2 mg/時間で開始し,患者の状態を観察しながら,投与量を調整する適宜生理食塩水で希釈する中止しても鎮静効果がしばらく持続するため,入眠が得られたら投与をいったん中止することを原則とする・ 作用発現が早く,作用持続時間

が長い・耐性を生じにくい・拮抗薬(フルマゼニル)がある・ 無呼吸,呼吸抑制,舌根沈下,循環抑制(低血圧,時に心停止)がある。特に,高齢者,麻薬性鎮痛薬との併用,呼吸予備力が低い,肝腎機能が低下している患者で生じやすい・ 呼吸抑制について2016年3月

厚生労働省からの注意喚起が出ているため,使用においては診療機関の規則に準拠するなど,適宜対応が必要である[注2]・ 保険適用は,全身麻酔の導入,

局所麻酔時の鎮静である

ブロマゼパム坐薬経直腸3 mg 1.5~3 mg/回を投与する必要時は追加投与する・ 経口薬のあるブロマゼパムの

坐薬である・比較的効果が弱い・保険適用は麻酔前投薬である

ジアゼパム坐薬経直腸4 mg,6 mg, 10 mg 4~6 mg/回を投与する必要時は追加投与する・ 経口薬・注射薬のあるジアゼパ

ムの坐薬である・ 保険適用は,小児の熱性けいれ

んおよびてんかんのけいれん発作の改善である

フェノバルビタール坐薬経直腸15 mg,30 mg,50 mg, 100 mg 50~200 mg/回を投与する必要時は追加投与する・ 注射薬のあるフェノバルビ

タールの坐薬である・ 作用時間が長く,即効性がない。連用により蓄積するので,間欠的鎮静には不適切な場合がある・ 保険適用は小児における経口

投与が困難な場合の催眠,不安・緊張状態の鎮静,熱性けいれんおよびてんかんのけいれん発作の改善である

表1 間欠的鎮静に用いる薬剤の使用例[注1] (つづき)
p.74
  出された懸念は以下の通りである。  本来,鎮静薬の反応は,苦痛の程度や患者の全身状態によって異なり,緩和領域の鎮

静では全身状態を詳細にモニタリングすることなく鎮静薬を使用することから,実臨床においては,鎮静薬を少量ずつ使用して患者ごとの反応を慎重に評価し,投与量を調整するという方法が現実的な施行方法と考えられる。よって,投与量に関する記載は,「患者ごとに注意深く観察しながら~mg から~mg の範囲で調整する」という方法が妥当と考える。今回の手引きでの記載のように,間欠的鎮静,持続的鎮静に分けて投与量・投与間隔,観察時間などを詳細に記載することは,記載された投与方法で鎮静薬を投与すれば鎮静の効果と安全性が得られるような誤った印象を与える可能性がある。鎮静薬の投与量を決定するうえでは「患者ごとの反応を慎重に評価する」ことが最も重要である。

2) 一般的に,快適さと安全の確保とは両立しない場合があり,しばしば難しい選択を迫

られる。鎮静薬の使用についていえば,安全性を高めるためには酸素飽和度の持続的モニターや血圧測定を行うことが勧告されているが,患者の治療目標が「穏やかに最期を迎えること」であることが明確にされている場合,安全性のために行う処置をどの程度行うかは個々の事情によって判断するべきである。
p.75
1 要 件

2 相応性の判断

3 意図の確認

4 意思決定過程

5 実際の投与方法と評価・ケア

V章 実践(2)

治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与
p.76
持続的な鎮静薬の投与は,調節型鎮静と持続的深い鎮静とに概念上区別される。実際にはこれらの区別は相対的なところがあるため,適応となる要件をまとめて示す(表1)。A,B,C はそれぞれ,相応性原則(principle of proportionality),医療者の意図,自律原則に基づく倫理的基盤を与える。D は鎮静の安全性を高める。適応に関する基本的な考え方をまとめたフローチャートはP18 を参照。鎮静を行うに至った意思決定過程や根拠を診療記録に記載するようにする(P76,V章—4—8 診療記録への記載参照)。

[注]

1) 本来的には,医療チーム全体が意思決定に参加して,かつ,経験のある専門家が行う

べきものである。しかし,現実的に,患者が緩和ケアを受けている状況によっては,夜間などの緊急時,地域に経験のある専門家がいない時もあるため,「望ましい」という表現にとどめた。チームで判断することが可能で,経験のある専門家にコンサルテーションできる状況であれば,医師1 名の判断ではなく,チームでの判断をするべきである。

要 件1

表1 持続的な鎮静薬の投与を行う要件

A .相応性苦痛緩和を目指すいろいろな選択肢のなかで,鎮静が相対的に最善と判断される。すなわち,苦痛の強さ,治療抵抗性の確実さ,予測される患者の生命予後,効果と安全性の見込みから考えて,持続的な鎮静薬の投与は妥当な方法である。B .医療者の意図1 )医療チームが鎮静を行う意図が苦痛緩和であることを理解している*。2 ) 鎮静を行う意図(苦痛緩和)からみて適切な薬剤,投与量,投与方法が選択されている。C .患者・家族の意思1 )患者1 意思決定能力がある場合:必要な情報を提供されたうえでの苦痛緩和に必要な鎮静を希望する意思表示がある。2 意思決定能力がないとみなされた場合:患者の価値観や以前の意思表示に照らして,患者が苦痛緩和に必要な鎮静を希望することが推測できる。2 )家族がいる場合には家族の同意があることが望ましい。D .チームによる判断[注1] 1 )医療チームの合意がある。多職種が同席するカンファレンスを行うことが望ましい。2 ) 意思決定能力,苦痛の治療抵抗性,および予測される患者の生命予後について判

断が困難な場合には,適切な専門家〔緩和医療医,精神科医,心療内科医,麻酔科医(ペインクリニック医),腫瘍医,専門看護師など〕にコンサルテーションすることが望ましい。*調節型鎮静では鎮静薬の投与量を調整する指標は苦痛緩和であって意識の低下ではない(意識の低下が明確に意図されているとはいえない)。持続的深い鎮静では,患者が深い鎮静状態となることを指標にして鎮静薬の投与量を調節する。
p.77
鎮静が相応的に妥当であるかどうかは,苦痛の強さ,治療抵抗性の確実さ,予測される生命予後,効果と安全性の見込みから判断する[注1]。原則として,持続的に鎮静薬を投与する場合には,患者の意識に影響を与える可能性がより少なく苦痛が緩和できる調節型鎮静を優先して検討する。その治療目的は,少量から鎮静薬を苦痛の強さに応じて調節し,患者の苦痛を最小にすることである。患者の意識の水準ではなく,苦痛の強さを指標として鎮静薬の投与量を調節する。持続的深い鎮静は,調節型鎮静では緩和することができないと見込まれる苦痛に対して,患者の意識そのものを深い鎮静状態になるように鎮静薬の投与量を調節する。どのような状態の時に何が相応的に妥当と考えるかは,客観的な方法で2 区分にできるものではない。苦痛の強さ,治療抵抗性の確実さ,予測される患者の生命予後,効果と安全性の見込みから考えて,相応と考えられる鎮静を患者個々に検討することが必要である。原則的には,調節型鎮静を優先して選択する。特に,苦痛の強さが著しいと必ずしもいえない,治療抵抗性の確実さがあいまいである(まだ治療できる可能性がある),予測される患者の生命予後が切迫しているとはいえない,持続的深い鎮静でなくても効果が見込まれる,安全性に懸念がある場合には,調節型鎮静を選択するべきである。一方,苦痛の強さが著しい,治療抵抗性が確実である,予測される患者の生命予後が切迫している(日から時間の単位である),持続的深い鎮静でなければ苦痛が緩和されないと見込まれる,かつ,副作用のリスクを許容しうる場合には,持続的深い鎮静を最初から行うことも検討しうる(表1)。具体的には,1出血や窒息など調節型鎮静では苦痛が緩和されないと医学的に見込まれる場合,2すでに間欠的鎮静を反復して施行しており調節型鎮静では苦痛が緩和されないと考えられる場合,3調節型鎮静では患者にとって十分に苦痛が緩和されないことが予測され患者自身が確実な苦痛の緩和を希望する場合,がある。このような場合には,調節型鎮静では苦痛緩和が不十分なまま患者が死に至る可能性があるため,持続的深い鎮静を用いることが適切である。

「耐えがたい苦痛である」とは,1患者自身が耐えられないと表現する,あるいは,2患者が表現できない場合,患者の価値観に照らして,患者にとって耐えがたいことが家族や

相応性の判断2

1.苦痛の強さの評価の仕方V章

表1 持続的深い鎮静を最初から選択しうる状況・苦痛の強さが著しい・治療抵抗性が確実である・予測される患者の生命予後が切迫している(日から時間の単位である)・持続的深い鎮静でなければ苦痛が緩和されないと見込まれる・副作用のリスクを許容しうる・患者の希望に沿っている
p.78
医療チームにより十分推測される場合,苦痛を耐えがたいと評価する。鎮静の対象になりうる主な苦痛は,せん妄,呼吸困難,痛み,悪心・嘔吐などである。希望のなさ・意味のなさなどの精神的苦痛も耐えがたい苦痛の原因となる。ただし,精神的苦痛が単独で持続的深い鎮静の対象となる苦痛になることは例外的であり,適応の判断は慎重に行うべきである。

[コミュニケーションの例] ●鎮静の対象となる苦痛を明確にする「もう一度確認させてください。今つらいのは××ですよね。それは耐えられないくらいつらいのですね。」

苦痛を治療抵抗性と判断する場合,特に持続的深い鎮静を行う場合には,適切な専門家にコンサルテーションすることが望ましい。適切な専門家とは,緩和医療医,精神科医,心療内科医,麻酔科医(ペインクリニック医),腫瘍医,専門看護師などが該当する。日本全国でこれらの専門家が常に利用できるとは限らないことから,適切な専門家がいない場合には,本手引きでは「患者を主に治療している医療チームがアクセスできる他の医療者」に相談することを現実的には勧める。例えば,病院内に緩和医療医や麻酔科医(ペインクリニック医)がいなかったとしても,より緩和治療の経験の長い他の医師に相談する,電話やメールで近隣の施設の専門家にコンサルテーションする,同僚に相談するなどの対応をすることによって,本来は有効な可能性のある治療を実施していないリスクを減らすことができる。

患者の生命予後が日の単位であることは,臨床的な判断で明らかな場合も多い。例えば,低酸素血症の持続や臓器不全によるせん妄がある場合は,日の単位である場合が多い。しかし,死期が迫っていることが明確ではない状況では,医師による生命予後の予測は必ずしも正確ではない。その場合,対象患者の全身状態について,評価尺度を用いた生命予後の予測を参考にすることが望ましい。評価尺度の予測をふまえて,臨床的に総合的に判断する。評価尺度としては,Palliative Prognostic Score(PaP score),Palliative Prognostic Index (PPI)などがある。前者は「医師による予測」が得点のほとんどを占め,後者は呼吸困難,せん妄がある場合には得点が高くなる。したがって,鎮静を検討する場面で生命予後を予測しようとすると,PaP score では生命予後が短いという医師の予測があれば短いと予測され,PPI では鎮静の対象となる呼吸困難やせん妄があること自体で生命予後が短いと診断される。したがって,いずれの尺度にも鎮静の妥当性を検討する場面での使用には不適切な面がある。PaP score やPPI による予測が適切でない場合は,医師による予測や鎮静の対象症状と

2.治療抵抗性の確実さの評価の仕方

3.予測される生命予後の評価の仕方
p.79
なる呼吸困難やせん妄の影響を受けにくいPiPS models(prognosis in palliative care study predictor models)がある[注2]。

身体的苦痛がないにもかかわらず,「生きていることに意味がない」「尊厳を感じられない」といった精神的苦痛が著しく持続する場合に,鎮静の対象として相応的に妥当かの判断は難しい。その理由は,1精神的苦痛を緩和する方法の体系化が十分でなくどの程度行えば十分なケアが行えたのかを判断することが難しいこと,2精神的苦痛は生命予後と必ずしも比例しないため,生命予後が長いと見積もられる患者に深い鎮静を実施した場合は生命予後を短縮する幅が大きくなるからである。まず,予測される生命予後からみて許される範囲内で,夜間の就眠の確保や,場合によっては日中の数時間の間欠的鎮静を行いながら,精神的苦痛に対するケアを十分に行うことが必要である。リソースがあるならば,できる限り,精神的ケアの専門家(精神科医,心療内科医,心理士,宗教家)や専門看護師に相談する。精神的苦痛に対する持続的な鎮静,特に持続的深い鎮静は生命予後が日の単位と見込まれるなど限定された場合にのみ考慮されうるが,原則として対象とならない。

痛みについても,特に,生命予後が比較的長いと見積もられる場合に鎮静の対象として妥当かを臨床現場で判断することは難しい。その理由は,1痛みに対してはオピオイドの変更や鎮痛補助薬など複数の方法があるため,どれくらい治療を行えば治療抵抗性であると判断できるのかが難しいこと,2神経ブロックやオピオイドのくも膜下投与などの治療オプションの実施には治療場所の移動が必要な場合があり,同じ施設内に専門家がいないと提供できないこと,3痛みは生命予後と必ずしも比例しないため,生命予後が長いと見積もられる患者に持続的深い鎮静を実施した場合は生命予後を短縮する幅が大きくなるからである。原則は,患者が希望する限り,より難治性の痛みの診療経験のある医師の診察が受けられるようにすることである。難治性の痛みの診療経験のある医師として,緩和医療医とペインクリック医のいずれかがアクセスしやすいかは地域や施設によって異なる。利用可能な場合は,なるべく早い時期に相談する。医師の所在は,日本ペインクリニック学会ホームページ,日本緩和医療学会ホームページから確認できる(https://www.jspc.gr.jp/shisetsu/ senmonimap.html,https://www.jspm.ne.jp/nintei/list_menu.html)。ペインクリニック医は非がん患者の慢性疼痛を主に診療している(がん疼痛の診療経験が比較的少ない)場合があり,逆に,緩和医療医は神経ブロックなどの鎮痛手技に詳しくない場合がある。がん診療連携拠点病院の相談窓口や緩和ケアチームが,地域で相談が可能な難治性のがん疼痛に対応できる医師を知っている場合が多い。近隣に全く心当たりがない場合は,国立がん研究センターがん対策情報センターに窓口がある(http://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/ fTopKyoten)。痛みの強い患者が診療機関を移動して受診することは難しいことが多いため,まずは診療記録での相談や,電話・メールで相談をすることになるが,実際に,どの

4.精神的苦痛の鎮静の対象としての相応性[注3]

5.生命予後が比較的長いと見積もられる患者の痛みが緩和されない時の相応性[注4] V章
p.80
程度臨機応変に対応できるかは地域や施設によって異なる。生命予後が比較的長い患者の痛みに対して鎮静を検討する場合は,患者の希望とチームによる判断をよりどころにして,総合的に慎重に判断する。

[注]

1) 鎮静を妥当とする相応性の要件として予測される生命予後を含めるべきかについて

は,委員会において異なる考えが示された。すなわち,生命予後に限らず苦痛の緩和はすべての患者が受けられるようにするべきであるため,相応性を検討する要素として含めるのは適切ではないとの意見があった。最終的に,生命予後が長い患者に鎮静,特に持続的深い鎮静が実施された場合,実際

上患者の生命予後を(確実に,相当期間)短くする結果になった場合の倫理的・法的な妥当性が十分に議論されていないことや,そもそも治療抵抗性の苦痛が生じるのは生命予後が切迫した状況であることがほとんどであるという事実から,今回の手引きでは鎮静を行う相応性の判断の基準の一つに予測される生命予後を含めるものとした。

2) PiPS models は,変数から数式を計算して,「日単位(14 日以下)」「週単位(15~55

日)」「月単位(56 日以上)」を予測する。用いる変数は,原発病変,いずれかの遠隔転移,肝転移,骨転移,認知機能(mental test score),脈拍数,食欲不振,倦怠感,呼吸困難,嚥下困難,体重減少,Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)のperformance status,global health,白血球数,好中球数,リンパ球数,血小板数,尿素,ALT (GPT),ALP,アルブミン,CRP である(血液検査所見はなくても算出可能)。http:// www.pips.sgul.ac.uk/(2018 年現在)から算出可能である。国内で用いている単位と異なるものがあるため注意する。

Baba M, Maeda I, Morita T, et al. Survival prediction for advanced cancer patients in

the real world:A comparison of the Palliative Prognostic Score, Delirium—Palliative Prognostic Score, Palliative Prognostic Index and modified Prognosis in Palliative Care Study predictor model. Eur J Cancer 2015;51:1618—29

3) P52,IV章—3 苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための精神的ケア参照

4) P24,IV章—2—1 痛みに対する緩和ケア参照
p.81
鎮静薬を投与する意図は苦痛緩和であり,生命の短縮ではないことを医療チームで共有する。調節型鎮静を行う場合は,苦痛の程度にあわせて鎮静薬の投与量を調整するため,意識の低下そのものも意図しない。意識の低下が生じたとしてもそれは苦痛緩和の結果であることを共有する。持続的深い鎮静を行う場合は,苦痛を緩和するために意識の低下を意図していることを共有する。

意図の確認3

V章
p.82
鎮静薬を投与する倫理的根拠として自律性(患者が希望していること)が重要である。患者自身が患者の価値観に照らして鎮静を希望する,または,少なくとも患者の価値観に照らして鎮静を希望するであろうことが推定されることが必要である。患者が希望しているかの判断が難しい場合は,患者の意思決定能力を評価することが望ましい。また,日本における家族の役割は変わりつつある点もあるものの,鎮静が患者のみならず家族に与える影響を考えると,家族の同意もあることが望ましい[注1]。

意思決定能力は,1自分の意思を伝えることができること,2関連する情報を理解していること,3鎮静によって生じる影響の意味を認識していること,および,4選択した理由に合理性があること,をもとに判断する。特に,抑うつや軽度の意識混濁は見落されやすいが,頻度が高く,患者の意思決定能力に影響を与えうるので,適切な評価が必要である。

患者に意思決定能力がある場合は患者自身に希望を確認する。切迫した状況で詳細な説明や希望の確認ができない場合でも,少なくとも,患者の希望を反映したものであるか意向を確認することが必要である。鎮静を望まない患者に鎮静が使用されることのないことと,治療抵抗性の苦痛があるにもかかわらず鎮静を希望する患者に鎮静が使用されないことのないことの両方が重要である。鎮静を希望する明確な意思表示がある,あるいは,苦痛緩和を希望する一貫した意思表示がある(「苦しまずに最期を迎えたい」と以前から言っていたなど)など,意思が一時的なものではないことを確認することが望ましい。あわせて,心理的・社会的圧力により患者の意思決定が影響されていないことにも気を配る。

[コミュニケーションの例] [注2] ●鎮静の選択肢を提示して,患者の意向を確認する「今,苦痛を和らげるために十分に手を尽くしていますが,今の方法でつらい症状を楽にすることは難しいように感じています。苦しさをさらに和らげるためには,眠気を生じる薬を使用する/ぐっすりと眠る方法もあります。どのくらいの苦しさならよしとするかは,お一人おひとりで違いますので少し相談させていただけますか?」「苦しい感じを和らげられるのなら,今よりも眠気が強くなってもいいとお感じでしょうか? それとも,今より眠くなってしまうのは困るとお感じでしょうか?」

意思決定過程4

1.意思決定能力の評価の仕方

2.意思決定能力がある患者の希望の確認の仕方
p.83
●鎮静がコミュニケーションへ与える影響を説明する「苦しさを和らげることが目的ですので,使うお薬の量は健康な人であれば眠気はでても全く眠ってしまうほどの量ではありません。でも,苦しいのにあわせてお薬を増量すると,結果的に,眠ってしまうことになる時があります。そうすると,お薬を使って楽になったあと,お話ができない状態になる/できないままお別れになるかもしれません。苦しさだけがとれることを目標として慎重にお薬を使っていきますが,もしもの時に備えて,お伝えしておいたほうがいい方や,そばにいていただいたほうがよい方はいらっしゃいますか?」「苦しい感じを和らげる方法をとった結果ぐっすりと眠ってしまい,苦しさは感じなくなりますが,お話をすることは難しくなると思います。」

患者に意思決定能力がないと判断された場合,患者の価値観や以前に患者が表明していた意思に照らし合わせて,現在の状態で患者が何を希望するかについて,家族など患者の価値観を知りうる人とともに検討する。この際,1家族に期待される役割は患者の意思を推測することであり,家族がすべての意思決定の責任を負うわけではないこと,および,2鎮静の意思決定については医療チームが責任を共有することを明確にする。

[コミュニケーションの例] ●患者が意思表示できれば何を希望するかを家族と相談する「本来であれば○○さんに伺うことができれば一番よいのですが,今は難しいので,今後のことについてご家族と少し相談させていただきたいと思います。私たちは,今までの○○さんの生き方や価値観を大切にしたケアをしたいと考えています。もし,ご本人が十分にお話できる状態でしたら,今の状態でどのような治療を一番に希望されるでしょう? 以前に何かおっしゃっていたことはありますか?」●家族からの情報をもとに,鎮静が選択肢になると考えたことを伝え,責任を共有する「今伺ったことから考えると,眠気が強くなる可能性があっても/眠るようなかたちであっても,苦しみを感じなくてすむようにして差しあげることが一番よいと思いますが,いかがですか?」「この決断はとてもつらい決断だと思います。決して,『ご家族の方だけで決めてください』,ということではありません。私たちは,ご家族のお考えを伺ったうえで,一番良い方法を一緒に考え行っていきたいと考えています。」

説明内容は,患者・家族のそれまでの意思決定に関する希望と,情報提供により生じる影響とを十分に検討したうえで個別に判断する。すなわち,知りたいという患者・家族に

3.患者に意思決定能力がない場合の意思決定の仕方

4.説明内容V章
p.84
対して十分な情報提供ができるよう配慮するとともに,患者・家族が知りたくない場合,あるいは,情報提供による害が益を上回る(利益が実際にない)と予測される場合には,提供する情報の内容や伝え方に十分に配慮する。一般的に,苦痛を和らげるために鎮静薬を投与すること,そのために意識の低下が予測されることは,どのような緩和治療を希望するかを確認するうえで明確に説明するほうがよい。しかし,予測される生命予後などの情報は患者・家族によっては明確には知りたくない場合もある。患者・家族に提供する情報として,検討するべき内容は表1 の通りである。これらは「説明することを検討するべき内容」であり,すべてを一律に説明することが必ずしもよいとは限らない[注3]。

[参考 患者・家族に対する鎮静についての説明文書例]図1 に患者や家族に対して,苦痛緩和のための鎮静について説明する場合の文書を例として示す[注4]。使用にあたっては,患者と家族の病状理解や悲嘆反応に十分に配慮し,各々に応じた説明が必要である。説明文書を使用することによって,かえって,「事務的で冷たい」と感じる患者や家族もいるため,説明文書は丁寧で心をこめた説明の代わりにならないことを認識して使用する。

表1 鎮静薬の持続投与にあたって説明を検討するべき情報

項目具体的な内容全身状態身体状況についての一般的説明(根治的な治療法がないこと,予測される状態と生命予後など)苦痛耐えがたく治療抵抗性の苦痛の存在,苦痛の原因,これまで行われた治療,鎮静以外の方法で苦痛緩和が得られないと判断した根拠(専門家へのコンサルテーションの結果など)鎮静の目的苦痛の緩和であること。調節型鎮静では,苦痛の強さを指標として鎮静薬の投与量を調節するため,結果として患者の意識は低下することもしないこともありうる。持続的深い鎮静では,患者の意識そのものが深い鎮静状態になるように鎮静薬の投与量を調節する鎮静の方法鎮静薬を目的にあった投与方法で調節して使用すること鎮静が与える影響予測される意識低下の程度,精神活動・コミュニケーション・経口摂取・生命予後に与える影響,合併症の可能性鎮静後の治療やケア苦痛緩和のための治療やケアは継続されること,患者・家族の希望が反映されること,状況に応じて中止することができることなど鎮静を行わなかった場合に予測される状態他の選択肢,苦痛の程度,予測される生命予後
p.85
V章

図1 患者・家族に対する鎮静についての説明文書例

【全身状態】(                    ) ※ 身体状況についての一般的説明(根治的な治療法がないこと,予測される状態と生命予後など)を記入する

【苦 痛】現在,患者さんに現れている最もおつらい症状は(         )であり,患者さんの訴えやご家族の捉えているご様子,医療従事者の判断から,それは非常に耐えがたいものであり,患者さんの日々の生活を著しく妨げているものであると考えられます。その原因は, (         )であると考えています。私たちは,原因に対する治療,薬物療法,薬物以外の治療方法などさまざまな治療を通して,苦痛を和らげることを目指してきました。しかし,専門家(      など)と相談した結果,現在の方法では和らげることのできない苦痛であると判断しています。

【鎮静薬の投与】そのような苦痛を和らげる治療方法として,鎮静薬(意識を下げるような薬剤,麻酔薬)を使用することにより,苦痛を感じにくくすることを鎮静といいます。鎮静の目的は,苦痛を和らげることです。鎮静薬の使い方として,1少量から苦痛にあわせて調節して,苦痛がとれればそれで増量をしない方法と,2最初から患者さんの意識がなくなるくらいまで使用する方法とがあります。前者の場合でも,結果的に,患者さんの意識が保たれることもなくなることもありえます。現在,患者さんに投与を考えている薬剤は(         )であり,投与方法は, (点滴・静脈注射・持続皮下注射)を考えています。

【鎮静を行うとどうなるのか】鎮静を患者さんに行うと,程度の差はありますが,複雑な会話をすることが難しくなったり,受け答えができなくなる可能性があります。一方,鎮静薬を使用することで,患者さんは苦痛を感じることが少なくなり,現在よりも穏やかに過ごすことができると考えています。鎮静を行うことによって,食事や水分をとることは難しくなります。それに対しては,点滴などの水分・栄養補給を(患者さんにとって効果がない場合には中止します・副作用のない範囲で継続します・別に相談します)。鎮静薬の使用は,一般的には命の長さを短くすることは少ないと考えられていますが,患者さんの全身状態は非常に不安定なので,呼吸停止などを含む急な状態の変化が起こる可能性はあります。

【鎮静開始後のケアについて】鎮静を開始した後も,日々の治療や看護についても患者さんが快適に過ごせるようにこれまでのように引き続き行っていきます。また,患者さんの状況によってはご相談のうえ鎮静を中止したり,薬剤の量を調整します。

【他の選択肢】持続的な鎮静薬の投与を行わない場合は,夜間や日中の数時間だけの鎮静薬の投与を行うことで,なるべく苦痛が少なく,お話しできるかどうかを試みることができます。この他, (        )がありえます。

何かわかりにくい内容がありましたら,いつでも医師や看護師にお尋ねください。私たちは常に,患者さんとご家族が穏やかに安心して生活を送っていただくことを願っています。
p.86
基本的な考えとして,鎮静薬の持続投与を行ううえで,家族の理解と希望が得られることが望ましい。しかし現実には,患者が苦痛緩和のために鎮静を明確に望んでいるが,家族が同意しないことがしばしば生じる。その場合,なぜ患者が鎮静を望むのか,なぜ家族がそれに同意できないのか,をできるだけお互いが理解し,お互いの納得につながるように医療者が両者を支援することが重要である。例えば,家族が患者に付添いのできる環境を整える,家族に十分な説明を行うなど,患者の苦痛や状態を家族が十分に理解できるように配慮したうえで,患者と家族が話し合い,ともに納得できる方法を見出すことができるよう支援する。また,意思の相違に影響していると考えられる家族の心理的要因(悲嘆や自責感など)に配慮した精神的支援を行う。患者と家族の意思が異なるために話し合いを続けている間,患者の意思が最大限尊重され,患者の益が最大になる手段を検討する。例えば,患者が鎮静を希望しているが,家族の同意が得られない場合,間欠的鎮静などにより患者の苦痛を最小にすることを検討する。これらの努力によってもどうしても患者と家族の希望で折り合いのつけられる対応策がみつからない場合は,患者の希望をできる限り尊重できるようにする。患者と家族の意思が一致しないまま患者に意思決定能力がなくなった場合でも,患者の希望をできる限り尊重できるようにする。家族内の意思が異なる時にも,患者の苦痛や状態を家族各々が十分理解できるように配慮したうえで,家族内で直接話し合う機会をつくり,各々が納得できる方法を見出せるよう支援する。

[コミュニケーションの例] ●なぜ家族が鎮静を希望しないのかを聞き,不安に対処する「お話を伺っていると,○○さんとご家族の希望に少し違いがあるように感じました。私たちはできる限り,○○さんもご家族も納得のいく治療を行っていきたいと考えています。最初に,ご家族が......をご希望される理由や心配事を教えていただけますか? なるほど,......を心配されているのですね。ご心配はとてもよくわかります。とてもおつらいと思います。(家族の悲嘆の表出を促進し,個別の心配事に対処する)」

5.患者と家族の意思が異なる時の考え方:患者が明確に鎮静を希望するが家族が希望しない場合[注5]
p.87
●患者の体験や意思を共有することを勧め,当面の妥協できる手段を提示する「例えば,当面,次のことを提案したいのですが,いかがでしょうか。まず,○○さんがどう思われているか,一緒にお部屋で過ごしていただいて,○○さんに聞かれてはどうでしょうか。もし,直接お話しされるのがおつらいようでしたら,私たちがそれとなく話してみますので,側で聞いていただいてもいいかと思います。そのあとで,またご家族みなさんで相談されてはいかがでしょうか。」「これは大切なことなので,しっかりと時間をとって話し合っていきたいのですが,もしこの間,○○さんがとても苦しい場合には,その時間だけ休めるようにお薬を使って1 時間後に中止する(夜間のみ眠れるように睡眠薬を使用する)方法はどうでしょうか。」

鎮静が必要となる状況では患者に意思決定能力がない(意思表示ができない)ことがしばしばある。したがって,患者が将来について知りたい希望があり利益になると考えられるならば,緩和困難な苦痛が生じた時にとりうる手段について,前もって情報を提供しておくことも検討する。患者が「今後起こりうる苦痛」に対する不安を口にした時が(例えば,「先生,この先もっと苦しくなるのでしょうか」「母が亡くなった時とてもつらそうでした。私もそうなるのでしょうか」といった機会)鎮静の選択肢についてあらかじめ相談するきっかけになることが多い。しかし,こうした不安は言語的に表現されるとは限らず,患者・家族の不安そうな態度や表情が話し合いの糸口になることもある。

[コミュニケーションの例] ● 苦痛緩和に努めることを保証し,詳細を話し合う準備があるか確認する。患者の意

向に従ってあらかじめ鎮静について説明する「先々つらいことが増えて苦しむのではないか,と心配されているのですね。以前と違ってつらさを和らげるいろいろな方法があります。私たちは○○さんのつらさがなるべく少なくなるように十分対応していきますので安心してください。今,もう少し具体的な方法についてご相談したほうがよろしいですか?」「息苦しさはこの先少し強くなってくるかもしれません。当面の息苦しさは今のお薬(オピオイド)を調節して和らげることができます。ただ,状況によっては,息苦しさをとろうとすると眠気が増えたり,うとうとするかたちで苦しさを和らげるという方法になる時もあります。もちろん,その折々の○○さんの希望を伺いながら治療していこうと思いますが,今もっと詳しく相談しましょうか?」

意思決定は医療チームの合意として行い,多職種が同席するカンファレンスを行うこと

6.あらかじめ患者・家族の意思を確認することについての考え方

7.チーム医療V章
p.88
が望ましい。現実的に,医師が1 名の施設,夜間や休日,緊急時などスタッフが限られている場合は,複数医師の意見を求めることや正式な多職種カンファレンスに限らず,実施可能な範囲でできるだけ複数の視点からの意見を求めるようにすることが重要である。夜間の場合は翌日にチームで確認するのも一つの方法である。これによって,苦痛緩和の手段のみならず,患者・家族の価値観や意思が多角的に明らかになり,医療者の抱えている無力感などの感情が意思決定に影響している場合の対策となる。意思決定能力,苦痛の治療抵抗性,および,予測される患者の生命予後について判断が困難な場合には,適切な専門家にコンサルテーションすることが望ましい。専門家が近くにおらず相談できない場合は,実施可能な範囲でできるだけより臨床経験の多い医療者の意見を得るように心がける。

鎮静を実施する場合には,表8 の内容を診療記録に記載する。

[注]

1) 本手引きでは,鎮静を実施するうえでの家族の同意を「望ましい」とした。これは,

患者と家族の意思が異なる場合に,誰の意思をより重視するかの観点から検討したものである(P74,V章—4—5 患者と家族の意思が異なる時の考え方の項参照)。

2) ここに挙げた「コミュニケーションの例」は例であって,実際の患者の説明に対する

希望や心の準備など個別に判断することが必要である。

3) 例えば,おそらく患者は鎮静を希望することが推測されるが意識障害のため意思表示

できない状況で,家族から鎮静薬の生命予後に与えうる影響について質問があり,回答する場面を考えてみる。医学的な事実としては,1集団の平均として,鎮静を受けた患者と受けなかった患者

8.診療記録への記載

表8 診療記録に記載するべき内容1  目 的鎮静薬の投与は苦痛の緩和を目的として行われていること2  治療のプロセス1 )苦痛が何か2 )苦痛が患者にとって耐えがたいと判断した理由患者に確認した,患者が意思表示できない場合は一般的に耐えがたい苦痛と判断された,など3 )苦痛を治療抵抗性と判断した根拠4 )予測される患者の生命予後とその医学的根拠5 )鎮静を実施するうえで相談した他職種や専門家がいる場合,その過程6 )患者の状態や苦痛を継続して評価した過程特に鎮静薬の増量をした場合は増量した理由3  説明と同意(検討するべき説明内容についてはP71 を参照) 1 )患者に伝えられた情報と意思表示患者に説明した内容,それに対してどのような話し合いを行い,最終的に患者はどのような希望を表現したか。患者に意思決定能力がない場合には鎮静を希望することが推測された理由2 )家族に伝えられた情報と意思表示
p.89
とで,観察が開始されてから(入院や在宅サービスの開始から)死亡までの生存期間に差がない,2少数の場合で鎮静薬の効果による合併症は生じうる,3もともと鎮静薬の投与を受けなかったとしても生命予後が限られているため生命予後を極端に短くすることはない,といえる(P117,VIII章—8 鎮静は生命予後を短くするのか? 参照)。したがって,説明に含めることを検討する内容としては,理論上は,1もともとの状

態から鎮静薬を投与したからといって極端に生命予後が短くなることはないこと,2頻度は少ないが鎮静薬による合併症が生じうること,3薬剤の影響のためとは限らないが使用後に亡くなられる可能性があることがある。しかし実際には,危険性を強調しすぎると患者が希望していても鎮静が不適切に手控

えられたり,最終的に自分のために患者を苦しめたという家族に精神的負担をかけることにつながる。場合によっては,生命予後には大きな影響がないと伝えたり,苦痛の緩和が主目的であることを強調することによって家族の精神的負担に配慮することも必要である。

[コミュニケーションの例]「鎮静薬を使用したことで,寿命が短くなるのではと心配されているのですね。今の苦

しさは,(酸素が取り込めない,肝臓が機能していないといった)生命を維持することができなくなっていることが原因なので,鎮静薬を使用しなかったとしても数日(数週)くらいと考えられます。ですので,鎮静薬を使用したからといって極端にもともとの寿命が短くなるわけではありません。ただ,普通に使う,例えば解熱剤や睡眠薬でもその作用が強く出るくらい全身状態が不安定なので,鎮静薬を使用してうとうと眠られたかと思うとそのまま呼吸が止まってしまうことはあるかもしれません。それでも,○○さんが望まれていたように,今は苦しくないようにすることが一番大事なことだと思います。うまくいけばうとうととして苦しくない状況になりますので,苦しさをまずとることでお薬を使おうと思います。」

4) 鎮静を行ううえで説明文書を用いて説明をするべきかどうかについては賛否があっ

た。本来説明文書は患者や家族が決定して選択することの助けになることを目的とするためのものであり,医療者の免責のために取得するものではないとの意見があった。本手引きでは参考として示す。文書を使用するとしても,使用にあたっては画一的に使用するのではなく,個々の施設に適するように修正して使用することを勧める。

5) 患者と家族の希望が一致しない場合,鎮静を実施するうえで家族の同意を必要とみな

すかは意見が分かれた。委員全員が家族に対する配慮やケアが必要であるという点では一致したが,努力をしても家族が患者の希望に同意しない場合は,それも患者と家族のありようだと考えて家族の同意を待ってもよいという意見と,家族を説得するなどより家族に働きかけを強めるべきであるという意見が出された。また,患者が鎮静を希望しているにもかかわらず,家族の反対を理由に患者に苦痛を負わせたままにすることは非倫理的である(臨床倫理,医療者の職業倫理に照らして不適切である)との意見もみられた。結論としては,これまで持続的深い鎮静では家族の同意を必要としていたが,今回「望ましい」と変更し,より患者の希望を重視する立場を明確にした。倫理的視点からの検討については,P87 も参照。V章
p.90
持続的鎮静のための薬剤は,少量で緩徐に開始し目的が得られるまで投与量を漸増する。調節型鎮静では苦痛の強さを指標とするため,苦痛が緩和された場合はそれ以上鎮静薬を増量しない。苦痛緩和が得られたが鎮静が深くなりすぎた場合は,減量を検討する。深い鎮静では患者が深い鎮静状態となるまで鎮静薬を増量することが原則であるが,増量する過程で十分な苦痛緩和が得られた場合にはさらに増量する必要はない。投与初期には血中濃度を治療域に到達させるため,必要に応じて(全身状態から総合的に判断して適切ならば),追加投与を行うか,または,一定量のローディングを行ってから減量する。持続的鎮静に用いる薬剤の第一選択薬はミダゾラムである。ミダゾラムが有効でない場合には,フェノバルビタール注射薬などを使用する[注1]。注射薬が使用できない場合にはベンゾジアゼピン系坐薬やバルビツール系坐薬を代替薬とする(調節しにくく効果も不安定なため,坐薬を持続的鎮静として用いるのは他に代替手段がない場合である) [注2]。2018年現在,いずれの薬剤も苦痛を緩和するために使用する鎮静目的の保険適用はない。オピオイドは意識の低下をもたらす作用が弱く,かつ,蓄積により神経過敏性を生じうるため,鎮静に用いる薬剤としては使用しない。ただし,痛み・呼吸困難が苦痛症状である場合には,症状緩和として適切な量を使用するべきである(P24,IV章—2—1 痛みに対する緩和ケア参照;P43,IV章—2—3 呼吸困難に対する緩和ケア参照)。同様に,ハロペリドールは意識の低下をもたらす作用が弱いため,鎮静に用いる薬剤としては使用しない。ただし,せん妄が苦痛症状である場合には,症状緩和として適切な量を使用するべきである(P34,IV章—2—2 せん妄に対する緩和ケア参照)。表1 と表2 に持続的鎮静に使用される薬剤の使用例を参考として示す。ミダゾラムの投与量については,概念の違いがわかるように調節型鎮静と持続的深い鎮静に分けて使用例として示した。後者は出血や窒息など調節型鎮静では苦痛が緩和されないと医学的に見込まれるなど,安全性よりも確実な苦痛緩和が優先される例外的な状況を想定している(P18, III章 治療抵抗性の耐えがたい苦痛への対応に関するフローチャート参照)。鎮静薬の必要量は患者の状態によって大きく異なるため,注意深く患者を観察して調節することが必須である。投与方法は一つの目安であり,上記の方法で投与すれば十分に効果が出るもしくは過量投与にはならない,というものではない。個々の患者で細かく調節することが重要である。特に,ミダゾラムの必要量は個人差が非常に大きいため,投与量,増量・減量間隔,増量・減量幅は患者の状況(体重や全身状態)に応じて適宜調節する。薬剤投与中の患者の状態や苦痛の評価についての考え方は「鎮静中の継続的な評価」の項(P80)を参照。患者の全身状態によっては,(鎮静薬による影響は医学的に明確にはできないが,結果的に),鎮静薬の投与直後(特に静脈内投与の早送りの後)に患者が死亡する場合がある。かといって,危険性を強調しすぎると鎮静が不適切に手控えられたり,家族に精神的負担をかけることにつながる。家族への説明や同意について十分に検討する。

実際の投与方法と評価・ケア5 1.鎮静薬の投与方法
p.91
V章

表1 持続的鎮静に用いるミダゾラムの使用例[注3]

調節型鎮静持続的深い鎮静

導入・ 0.5~1 mg/時間で持続皮下・静注を開始す

る。投与開始時に0.5~1 mg 程度の早送り*を行ってもよい。・ 15~30 分毎を目安に,目標(苦痛緩和)が得られているかと,全身状態の変化を評価する。・ 苦痛緩和が得られない場合は,0.5~1 mg

程度の早送り*を行い,持続投与量を数時間毎に30~50%を目安に増量する。患者の状況によっては,早送りのみを行い持続投与量は増量しないで経過をみる。・ ローディングドーズ†として3~5 mg/時間で持続皮下・静注を開始

する。ローディング時間(通常は数時間)を待てないくらいに患者の苦痛が切迫している場合には,投与開始時に0.5~1 mg 程度の早送り*を行ってもよい。苦痛が軽減できない場合,2~5 分程度をあけて0.5~1 mg の早送り*を苦痛が緩和するまで繰り返し行ってもよい。その際の総量は2~3 mg 程度を目安とする。・ 15~30 分毎を目安に,目標(深い鎮静)が得られているかと全身状態を評価する。・ 深い鎮静が得られない場合は,0.5~1 mg 程度の早送り*を行い,持続投与量を数時間毎に30~50%を目安に増量する。患者の状況によっては,5 mg/時間まで増量する。・ 目的とする鎮静レベルに到達すれば,持続投与量を1/2~1/3 に減

量して継続する(ローディングの終了)。

維持・ いったん苦痛緩和が得られた場合は,数時

間毎に評価を行う。・ 苦痛緩和が不十分な場合は,持続投与量を数時間毎に30~50%を目安に増量し,場合によっては0.5~1 mg 程度の早送り*を行ってもよい。・ 苦痛緩和が得られたが鎮静が深くなりすぎ

た(鎮静を浅くすることが適切と考えられた)場合,持続投与量の減量,中止を行う。場合によっては,拮抗薬(フルマゼニル)の投与を検討する。・ いったん深い鎮静が得られた場合は,数時間毎に評価を行う。・ 鎮静が不十分になった(深い鎮静が得られなくなった)場合は,持

続投与量を数時間毎に30~50%を目安に増量し,場合によっては0.5~1 mg 程度の早送り*を行ってもよい。・ 苦痛緩和が得られたが鎮静が深くなりすぎた(鎮静を浅くすることが適切と考えられた)場合,持続投与量の減量,中止を行う。場合によっては,拮抗薬(フルマゼニル)の投与を検討する。・ 深い鎮静を目的として鎮静薬の投与を開始したが,鎮静薬を調節す

る過程で十分な苦痛緩和が得られた場合には,目的を持続的深い鎮静ではなく調節型鎮静に変更することを検討する。

ミダゾラムの投与方法の例を調節型鎮静と持続的深い鎮静に分けて記載している。調節型鎮静でのみ鎮静薬の投与量の調節が必要で,持続的鎮静では投与量の調整が必要ないという意味ではない。持続的深い鎮静においても調節が必要である。深い鎮静状態に導入・維持することだけに注目するのではなく,患者の状態や苦痛の程度にあわせて鎮静薬を調節して投与する。苦痛が再燃しない範囲で鎮静薬を減量できないかを常に検討することが必要である。維持量は0.2~5 mg/時間(通常1~2 mg/時間)である。持続的深い鎮静の使用例として想定したのは,窒息や気道出血などの緊急時にできるだけ速やかに深い鎮静に導入するような場面であり,その方法の一例を示している。深い鎮静の適応と考えられる場合でも,緊急ではない場合にはより少量の投与量で十分な鎮静を得られる場合がある。ミダゾラムは本来体重あたりの投与を書くことが一般的であるが,使いやすさを重視して/kg ではなく/body で表記した。

*静注の場合,早送りは1 分程度かけて緩徐に投与する。早送り後5 分間は慎重に観察する。患者の状態を観察しながら早送り量を調節する。†ローディングドーズは,目的とする治療効果が得られたあとに減量することを前提としている。ローディング開始から投与量が適切かを判断するまでの期間は,特に注意深く観察する必要がある。

表2 ミダゾラム以外の薬剤を持続的鎮静に用いる場合の使用例

薬剤名投与経路製剤規格使用例フェノバルビタール注射薬*皮下100 mg/1 mL 25 mg/時間で投与する。開始時に50~100 mg の皮下注射を行ってもよい(維持量は通常15~50 mg/時間)。フェノバルビタール坐薬†経直腸15 mg,30 mg,50 mg, 100 mg 50~200 mg/回を患者の状態をみながら定期的に1日2~3回投与する。ジアゼパム坐薬†経直腸4 mg,6 mg,10 mg 4~6 mg/回を患者の状態をみながら定期的に1 日2~3 回投与する。ブロマゼパム坐薬†経直腸3 mg 1.5~3 mg/回を患者の状態をみながら定期的に1日2~3回投与する。*フェノバルビタール注射薬は脂溶性のため蓄積しやすい。鎮静のための維持量は経時的に少なくなる。したがっていったん目標とする鎮静状態に達したあとは日々減量することが多い。†坐薬を持続的鎮静で使用する場合,定期投与を前提とされていれば持続鎮静とみなし,苦痛時のみの指示を使用して適宜使用する場合は間欠鎮静(の反復)とみなす。
p.92
鎮静薬の投与を開始する前にしておきたいこと(大切な人と会っておくこと,話をすることなど)について,患者と家族の気持ちを確認する。

[コミュニケーションの例] ●鎮静薬の投与を受ける前にしておきたいことを説明する「しばらくして先ほどお話したお薬を始めます。少しずつ眠くなってくることが多いと思います(可能性があります/必ず眠くなるとは限りませんが,眠気が強くならないと苦しさがとれないかもしれません)。眠くなる前にお話しておきたい方や伝えておきたいことはありますか?」

鎮静を開始した後,定期的に,苦痛の程度,意識水準,鎮静による有害事象,および,鎮静以外の方法で苦痛が緩和される可能性,病態の変化,家族の希望の変化について評価する。評価回数は,目標とする鎮静が達成されていない状態では15~30 分間に1 回以上,目標とする鎮静が達成されている状態では数時間毎を基本とする。内容や頻度は,患者の状態や治療環境,目標とする鎮静水準によって,個別に判断する。苦痛の程度を評価するためには,Support Team Assessment Schedule(STAS)(P84,資料1)を用いる[注4]。STAS は苦痛そのものを評価する尺度であり,日本の緩和ケアにおいては頻用される評価尺度である。鎮静の時の苦痛を評価するために作成されたものではないものの,苦痛の言語的訴え,表情,体動をもとに他者評価が可能である。STAS 以外にも,認知障害のある患者の痛みを評価するために用いられる尺度も使用可能であるが(日本緩和医療学会編『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2014 年版』),鎮静の場面で使用できるかは確かめられていない。意識の水準を評価するためには,Richmond Agitation—Sedation Scale(RASS)(P84,資料2)を用いる。緩和ケアで使用されることを前提として多少の修正を加えられた緩和ケア用RASS では,評価のために痛覚刺激を加える必要はない。有害事象としては,呼吸抑制(呼吸数,呼吸パターンの急激な変化など),舌根沈下,誤嚥,循環抑制,精神症状(せん妄など)について評価する。苦痛緩和のための鎮静においても適切な鎮静が行われるように継続的な評価を行うことが必要である。どのような方法が適切であるかは患者の状況や希望によって異なる。一般的な診療の場面では鎮静薬の使用においては,低酸素血症や血圧低下を生じないように酸素飽和度や血圧をモニタリングすることや,呼吸停止・心停止に備えた体制をとって使用することが勧められている。一時的な間欠的鎮静など治療目標によって,これらのモニタリングが患者の利益になると考えられるなら,モニタリングを実施する。一方,死期が迫っており治療目標が苦痛緩和であることで合意が得られている場合には,厳密なモニタリングを行うことが患者にとっての利益となるとは限らない。その場合には,視診や触診などで呼吸回数などを観察し,酸素飽和度の持続的モニターや血圧測定は行わないことも適切である。その場合は,治療は

2.鎮静開始直前の患者・家族への配慮

3.鎮静中の継続的な評価
p.93
患者の快適さを目的としており,もし鎮静が予測より強くなり覚醒しなかった場合や呼吸抑制が生じた場合にどのような対応をとるのか,あらかじめよく相談しておく。

鎮静開始前と同じように,誠実に,患者の尊厳に配慮して,声掛けや環境整備などのケアを行う。不快な症状の出現を注意深く観察し,鎮静薬の効果の評価を患者・家族とともに話し合う。口腔・眼のケア,清拭,排泄,褥瘡ケアに関しては,患者・家族の意思や治療目的からみた患者にとっての利益と負担を判断の基準として行う。家族の心配や不安を傾聴し,悲嘆や身体的・精神的負担(鎮静決定後の心の揺れなど)に対する支援を行う。特に,家族が患者のためにできること(そばにいる,声をかける,手足に優しく触れる,好きだった音楽を流すなど)をともに考える。経過に従って必要とされる情報(患者の状態,苦痛の程度,予測される変化など)を十分に提供する。特に,他の手段について十分に検討し施行したが有効ではないこと,鎮静によって生命予後が短縮する可能性は少ないと考えていること,患者の状況によって鎮静を浅くする(中止する)ことも可能な場合があることを伝える。ただし,全身状態によっては,鎮静薬を中止または減量しても意識が回復しない場合もある。

[コミュニケーションの例] ●家族がどんな気持ちでいるのかを聞く「よく休まれているようです。付き添われていて,何かご心配なことやこうしてあげられたらと思われていることはありますか?」

水分・栄養の補給を行うかは,患者の意思や治療目的からみて,患者にとっての利益と負担を総合的に評価する(表3)。水分・栄養の補給は,鎮静とは別に判断するべきものである。鎮静開始前に患者が経口摂取できている場合,あるいは,水分・栄養の補給を受けている場合,鎮静開始後の水分・栄養の補給についてあらかじめ患者・家族と相談しておくことが望ましい。水分・栄養補給による体液過剰兆候が苦痛を増悪させる場合,患者・家族の意思を尊重したうえで減量・中止を検討する。水分・栄養補給が患者の苦痛を和らげている可能性がある場合,患者・家族の意思を尊重したうえで継続する。一般的には,体液過剰となっている場合が多い。バイタルサインの精密な監視,定期的な採血など,治療目的と一致しない治療や検査の実施についても,あらかじめ患者・家族と相談しておくことが望ましい。苦痛緩和のために鎮静前から投与されていた薬剤は,効果がないと判断される場合を除いて継続する。

4.鎮静中の患者・家族へのケア

5.水分・栄養の補給などについての考え方V章
p.94
[コミュニケーションの例] ● 胸水や腹水など体液過剰に伴う苦痛のある患者で輸液の減量・中止を提示し,輸液

を減量したために衰弱が進行するわけではないことを保証する「最近,むくみ(腹水・胸水)が増えてきました。今まで,お食事が召しあがれないので点滴をしてきたのですが,かえって負担になっているようです。今は,体に水分はあるのですが,有効に使うことができず,たまってきている状態です。この状況ですと,点滴の量は少なくしたほうが,体は楽になると思います。」「点滴を減らすと,そのせいで余計に衰弱するという心配をされるかもしれませんが,今の状態では点滴を無理に入れても栄養や水分が吸収されていない状態ですので,点滴を減らしたせいで衰弱するということはないと考えています。」

[注]

1) ミダゾラム,フェノバルビタール注射薬以外に使用しうるものに,本手引きでは検討

の対象としなかったが,プロポフォール,クロルプロマジン,レボメプロマジンなどがある。

2) 坐薬を持続的鎮静に用いる薬剤として記載するかは賛否があった。委員の合意とし

て,持続的鎮静を行うとしたならば,最も適した方法は調節性の高いミダゾラムの持続注射であるとの認識であった。坐薬を記載することに反対する理由として第一に挙げられたことは,持続時間や深さ

を調整しにくいことや,投与後に減量できないため使用するべきではないとの理由であった。坐薬の使用は国際的に文献上ほとんど記載がない。もう一つの理由としては,投与後に患者が死亡した場合,特に家族が坐薬を投与した場合に,家族の精神的負担が大きいことが挙げられた。医学的には,鎮静薬を使用する状況では,鎮静の対象となっている苦痛の病態(例えば,致死的な出血が急に生じたなど)のために,鎮静薬を使用しなくても死期が迫っていることが多い。したがって,鎮静薬を投与したあとに患者が死亡したとしても,薬剤が原因であるとはいえない。しかし,その時期がたまたま鎮静薬の投与後に重なると実際には区別できないため,鎮静薬を投与したために患者が死亡したようにみえる。

表3 鎮静を受ける患者における輸液の益と害

益害

輸液をするオピオイドの代謝産物が排泄されるため,せん妄,ミオクローヌスなどの神経過敏症状が緩和する可能性がある。「最低限の治療が行われている」という家族の精神的安定につながる可能性がある。胸水・腹水・浮腫・気道分泌の亢進など体液過剰に伴う症状が悪化する可能性がある。排尿そのものが患者の負担になることがある。輸液をするための静脈注射・皮下注射が患者の負担になることがある。輸液をしない胸水・腹水・浮腫・気道分泌の亢進など体液過剰に伴う症状が緩和する可能性がある。排尿や輸液に伴う医療行為そのものによる患者の負担がない。オピオイドの代謝産物の排泄遅延のため,せん妄,ミオクローヌスなどの神経過敏症状が悪化する可能性がある。「見捨てられた・何も治療してもらっていない」という家族の精神的負担になる可能性がある。
p.95
一方,坐薬を記載することに賛成する立場としては,ミダゾラムの注射薬が実際上の

理由で使用しにくい治療環境で治療抵抗性の苦痛が生じた場合,坐薬を記載していないことで患者の苦痛を軽減するための方策がなくなる可能性がある。その場合,国際的なガイドラインでは鎮静薬として使用が勧められていないオピオイドの増量が行われれば,かえって患者に害が生じうる。以上のことから,本手引きでは,坐薬を記載する立場とした。

3) 薬剤の投与量に関する記載についての議論の経緯はP61 の注1 を参照。委員は「必要

最小限の鎮静薬を使用して苦痛を緩和すべき」という点では一致していたが,実際に例として記載する早送りの追加量やローディングドーズなど具体的な投与量については意見の違いがあった。経験の浅い医師が具体的に記載された投与量をそのまま使用しても過量投与による副作用の対応で困らないように記載すべきだとの意見があった一方で,例として記載する投与量が少ないと苦痛が強い場合に苦痛緩和が不十分になる懸念や,かえってミダゾラムの有害事象が強調されすぎて鎮静が有益な患者に使用されなくなるとの懸念が示された。最終的には,患者個々に調整する必要があることを明記し,安全性を重視した使用例を記載することとした。本手引きはそもそも診療ガイドラインではなく,かつ,手引きとしても使用例として示しているにすぎないため,記載例以外の使用方法を制限するものではない。議論において,記載するべき投与量の違いの背景にある医師の考え方の違いが明らか

になった。すなわち,ある者は鎮静薬を投与した直後に患者が死亡した場合,病気の自然な経過よりも薬剤の過量投与によって患者を死亡させた可能性が高いと判断された際は,(自己で指示を出した薬剤によって患者を死亡させたかもしれないと認識するために)医療者として後悔する可能性があると考える。一方,「(患者の希望に従って)苦痛が十分にとれたからよかった(少なくともやむを得なかった)」「鎮静薬のために生命予後が短縮したとはいえない(苦痛の原因の病態の悪化のためも考えられる)」と考える意見もあった。自分ではなく,家族や同僚ならそう考えるであろうと推測することを投与量の判断に含めている意見もあった。これらは科学的には実証不可能で価値が伴う判断であるため,専門家の合意よりも社会全体の議論のなかでのコンセンサス形成が重要である点を指摘しておきたい。

4) 苦痛を評価する指標としてSTAS を用いることを勧めるのは,本指標が国内において

比較的普及しているというのが最も大きい理由であり,苦痛緩和のための鎮静を実施する際の苦痛評価の指標として優れているという理由ではない。STAS は医療者による評価であるため,特に使用に慣れていない場合には観察者によってばらつきがでる可能性がある。Numerical Rating Scale の代理評価やその他の苦痛の評価尺度の使用を否定するものではない。V章
p.96
[資料 鎮静の時に使用される評価尺度]

症状が患者に及ぼす影響0...なし1...時折,断続的。患者は今以上の治療を必要としない。(現在の治療に満足している,介入不要) 2...中等度。時に悪い日もあり,日常生活動作に支障を来すことがある。(薬の調節や何らかの処置が必要だが,ひどい症状ではない) 3...しばしばひどい症状があり,日常生活動作や集中力に著しく支障を来す。(重度,しばしば) 4...ひどい症状が持続的にある。(重度,持続的)〔Miyashita M, et al. Reliability and validity of the Japanese version of the Support Team Assessment Schedule(STAS‒J). Palliat Support Care 2004; 2: 379‒85 より引用〕

資料1 Support Team Assessment Schedule(STAS)日本語版 症状版

スコア用語説明

+4好戦的明らかに好戦的,暴力的で,スタッフに危険が迫っている+3非常に興奮しているチューブやカテーテルを引っ張ったり抜く;攻撃的+2興奮している頻繁に目的のない動きがある+1落ち着きがない不安そうだが,動きは攻撃的でも活発でもない完全に意識清明ではない患者で,頻繁に動き,攻撃的でない0意識清明で落ち着いている-1傾眠完全に意識清明ではないが,呼びかけに覚醒状態(開眼・アイコンタクト)が続く(≥10 秒)呼びかけ刺激-2浅い鎮静呼びかけに短時間覚醒し,アイコンタクトがある(<10 秒) -3中等度鎮静呼びかけに動きか開眼で反応するが,アイコンタクトはない-4深い鎮静呼びかけに反応はないが,身体刺激に動きか開眼がある身体刺激-5覚醒不可能呼びかけにも身体刺激にも反応がないRASS 評価手順1 .患者を観察する・意識清明,落ち着きがない,または興奮があるScore 0~+4 2 . 意識清明でない場合,患者の名前を呼び,目をあけてこちらを見るように言う・覚醒し,開眼・アイコンタクトが持続するScore -1・開眼・アイコンタクトがあるが,持続しないScore -2・呼びかけになんらかの動きがあるが,アイコンタクトはないScore -3 3 . 呼びかけ刺激に反応がない時,肩をゆすることで身体的に刺激する・身体刺激に何らかの動きがあるScore -4・どの刺激にも反応しないScore -5 ⎫ ⎪ ⎪ ⎪ ⎬ ⎪ ⎪ ⎪ ⎭ ⎫ ⎪ ⎬ ⎪ ⎭

資料2 緩和ケア用Richmond Agitation‒Sedation Scale(RASS)日本語版

〔今井堅吾,他.緩和ケア用Richmond Agitation‒Sedation Scale(RASS)日本語版の作成と言語的妥当性の検討. Palliat Care Res 2016; 11: 331‒6 より引用〕
p.97
VI章 倫理的検討
p.98
鎮静がもたらす益(好ましい効果:benefits)は,苦痛緩和である。害(好ましくない効果:harms)は,意識の低下により,コミュニケーションをはじめとする通常の人間的な生活ができなくなること,状況によっては生命予後の短縮をもたらす可能性が否定できないことである。このように,鎮静には益とともに害が伴うため,医療者が担う「相手の益になるようにする(与益:beneficence)」と「相手に害を与えない(無危害:nonmaleficence)」という倫理的要件との関連で,鎮静の倫理的妥当性を明確にする必要がある。

鎮静は,以下の4 条件をすべて満たす場合には倫理的に妥当だと考えられる。

相応性患者の苦痛緩和を目指す諸選択肢のなかで,鎮静が相対的に最善と判断されることが必要である。相応性原則(principle of proportionality)とは,「一定の目的をもって何かに対処する際に,その目的を達成すると見込まれる選択肢のなかで最も害が少ないものを選ぶ」という原則である。この場合,「相応である(proportional)」とは,対処が必要な状況に対して,対処法として選んだ選択肢が,他の選択肢に比べて最も適している(=相応である)という意味で使われている。鎮静は,患者の意識を下げ人間的な生活を難しくする(状況によっては生命予後を短縮する可能性があるかもしれない)という害を伴って,苦痛緩和という益を得るものである。そのため,実施に際しては,鎮静の益と害は,他に取りうる治療法と十分比較される必要がある。著しい苦痛があり,他の手段では緩和される見込みがなく,かつ患者の死期が迫っている場合(特に持続的な鎮静の場合)には,鎮静が相対的には最善の選択肢となるが,そうでない場合は他の手段をとることが倫理的に妥当である。なお,鎮静が相対的に最善である場合でも,耐えがたい苦痛の緩和が達成できる限りで,鎮静を実施する時間は長い(持続的鎮静)より短い(間欠的鎮静)ほうが,また,意識の低下は深いより浅いほうが,人間的な生活(コミュニケーション能力)を確保するという観点からは好ましい。そのため,鎮静が相対的に最善と評価される場合においても,鎮静薬の投与期間や投与量は苦痛緩和という目的を達成するために必要最低限であることが求められる。この点で,相応性原則は,鎮静を開始する時のみならず,実施後の定期的な評価の時にも使用されるものである。

1.鎮静の益と害

2.鎮静の倫理的妥当性

1
p.99
医療者の意図鎮静を行う医療者の意図が苦痛緩和にあり,生命予後の短縮にはないことが明示される必要がある。生命予後の短縮を意図して鎮静を行うことは倫理的に許容されない(これは生命予後の短縮を予見することとは異なる)。医療者は鎮静の目的が苦痛緩和にあることを患者・家族および医療チームとの間で明示的に話し合い,目的が関係者間で共有されていることを確認することが望ましい。鎮静を実施する際の医療者の意図は「苦痛緩和」にある。例えば,持続的深い鎮静は「意識を失う」という好ましくない効果を介して「苦痛緩和」という好ましい効果を達成すると一般的に解釈される。その行為は,医療者が単純に「患者の意識を失わせることを意図している」ことと倫理的に同等ではない。医療者は「苦痛緩和を目指してやむなく患者の意識を失わせることを意図する」のであり,「意識を失わせる」ことがどういう意図でなされているか,つまりは意識の低下の目的が倫理的評価を左右するからである。そもそも,調節型鎮静では苦痛の緩和を指標にして鎮静薬を投与するのであり,意識の低下そのものは意図されない。症状緩和の程度に応じて意識状態を保ちつつ苦痛緩和を行う点で,一般的な緩和治療(例えば痛みに対するオピオイドの投与)と本質的に同じである。また,持続的深い鎮静は意識の低下を指標として実施するものの,医療者の意図は苦痛緩和にあり,その他の要件が満たされる限り倫理的に妥当である。なお,ここでいう「意図」とは,当該医療行為の目的を尋ねられた際にその理由として医療者が説明可能なものであり,単に結果を予見することではない。例えば,鎮静薬を投与することによって患者の生命予後が短縮する可能性がある状況を考える。医療者は,生命予後の短縮を予見していたとしても,鎮静をした理由を尋ねられたならば目的は苦痛緩和であり,生命予後の短縮は(もし生じたとしても)副次的な結果にすぎないと説明するだろう。しかし,もしこの場合に医療者が「(命を縮めることで)早く楽にしてあげたい」と患者に伝えて鎮静を行うのであれば,それは生命予後の短縮を意図した行為とみなされるため,許容されない。

患者・家族の意思患者に意思決定能力がある場合,鎮静を希望する明確な意思表示があることが必要である。患者に意思決定能力がない場合は,患者の価値観や以前に患者が表明していた意思に照らし合わせて,当該の状況で苦痛緩和に必要な鎮静を希望するであろうことが合理性をもって推定できることが必要である。「自律原則(principle of autonomy)」に照らす限りでは,原則として患者本人が鎮静の実施を希望していることが必要である。とりわけ,持続的深い鎮静は自律の基礎となる意識をなくしてしまう行為であり,通常の医療行為に比べて本人の自発的な同意がより一層重要である。ただし現実には,鎮静が検討されている時点で患者に意思決定能力がない場合もあり,家族が鎮静の実施に際して大きな役割を果たすことも少なくない。その場合,医療者は家族との話し合いを通じて,鎮静の実施に関する患者の意思を推定する必要がある。鎮静の実施において家族の同意を求めるかは難しい課題であるが,本手引きでは家族の

3 VI章
p.100
同意については必須とせず,本人の明示の意思ないしは推定意思により鎮静が実施されることとしている。もちろん,緩和ケアにおいて家族は患者同様ケアの対象であり,鎮静に関する意思決定に際して十分な配慮が必要である。そのため,本人が鎮静を希望し,家族が反対している場合には,患者にとっての最善について繰り返し家族と話し合い,合意するよう最大限努力することが必要である。しかし,家族の同意を必須の要件とした場合,患者本人が強く鎮静を希望しているにもかかわらず,家族から同意が得られないために患者の希望する鎮静が実施できない可能性がある。そのため,本手引きでは,十分な話し合いを行っても合意が得られない場合には,苦痛緩和のための治療を受けたいという患者の意思を優先する立場を支持することとした。苦痛緩和は医療者の基本的な務めであり,家族の同意が得られないことのみを理由として鎮静を実施しないことは,倫理的に妥当ではないと考えたからである。

チームによる判断意思決定は医療チームの合意として行い,必要な場合については専門家にコンサルテーションを求めることが必要である。多職種が同席するカンファレンスを行うことが望ましい。特に,患者・家族,医療者の間で鎮静の可否について意見の不一致がある場合には,繰り返し患者の最善について話し合う必要がある。もっとも,在宅療養など,担当医療者が限定されている場面における緊急避難的な鎮静の場合,チームでの意思決定が現実的ではない時もある。その場合は,鎮静開始後の可能な限り早期に他のチーム・メンバーと相談することとする。鎮静の倫理的妥当性は,地域や医療機関の特徴や事情,個々の医療者の経験や技術,患者・家族の状況などに応じて個別に検討されるべきものであり,個々の事情や文脈を無視して判断することはできない。そのため,特に判断が難しいケースに関しては,本手引きで原則を示した考え方に即して繰り返し話し合うことが必要となる。一定の情報の収集の仕方や話し合いのプロセスを踏むことは独断による決定を避けるとともに,事後的な説明責任を果たすことにも通じる。

終末期患者の治療抵抗性の苦痛に対して行う鎮静は,相応性,意図,患者の意思,チームでの判断から検討された場合に倫理的に妥当な選択肢であると考えられる。この見解は国際的な見解とも一致している。

[補注]

鎮静の倫理的妥当性に関するその他の重要な議論について,本手引きとの関係を補足

的に説明する。

1) 二重効果の原則鎮静の倫理的正当化においては,しばしば二重効果の原則(principle of double effect)

が用いられている。二重効果の原則では,好ましい効果を意図した行為が,好ましくな

4

3.まとめ
p.101
い結果を生じることが予見される時に,良い意図の存在によって,好ましくない結果を許容しようとする。すなわち,好ましくない結果が生じることが予見されても,1行為自体が道徳的である,2好ましい効果のみが意図されている,3好ましい効果は好ましくない効果によってもたらされるものではない,4好ましくない結果を許容できる相応の理由がある,場合に妥当であると考える。鎮静の倫理的正当化における二重効果の原則の解釈は多様であり,鎮静の好ましくな

い効果を意識の低下と捉えるか,生命予後を短縮する可能性と捉えるかの考え方がある。また,議論の前提であった鎮静による生命予後の短縮について,現在では複数の実証研究によってそもそも鎮静は生命予後を極端に短縮しないという知見が示されている。そのため,鎮静の対象となる生命予後が時間から日の単位と考えられる大多数の場合において,二重効果の原則に基づく議論は不要であるとする見解もある(P117,VIII章—8 鎮静は生命予後を短くするのか? 参照)。さらには,二重効果の原則が重視する意図は本来的にあいまいさであるとの指摘,意図より(少なくとも同じくらい)結果を重視するべきであるという反論,生命予後の短縮や意識の低下を好ましくない効果とすることに完全に同意しない意見もある。以上のように,二重効果の原則はしばしば用いられているものの,解釈は多様であり,

それだけで十分であるとの合意は得られていない。そこで,本手引きでは,二重効果の原則のみによって鎮静の倫理的正当化を行うことはせず,相応性,意図,患者の意思,チームでの判断という4 つの要件を明示することとした。特に,二重効果の原則がしばしば良い意図によってあらゆる状況を正当化しようとするのに対して,本手引きでは医療者の意図以外にも患者・家族の意思やチーム医療といった要件を追加している点が特徴的である。なお近年の鎮静の議論においては,二重効果の原則の4を相応性原則として取り出

し,これによって倫理的正当化を行うことが試みられている。ただし,実際には相応性原則の理解は多様であり,「相応な理由」の解釈も明確化されていない。これに対して,本手引きでは,相応性原則の内容をより明確化し,「目的を達成すると見込まれる選択肢のなかで最も害が少ないものを選ぶ」という定義を採用した。現実に鎮静の実施の妥当性を判断する際には,鎮静とそれ以外の選択肢を比較し,患者に対する益と害のバランスから,いずれが妥当かという判断を行うことになるため,この定義を用いることが妥当だと判断したためである。また,鎮静を実施する際には必要最小限の投与期間や投与量を選択すべきという考え方も本手引きの定義する相応性原則と最もよく一致すると考えられる。

2) 持続的深い鎮静と「ゆっくりとした安楽死」持続的深い鎮静については,実際に生命予後を短縮する効果を伴うかどうかにかかわ

らず,安楽死との異同についての懸念が提示されることがあるという事情に鑑み,この点についての見解を示す。安楽死とは,患者の希望に従って医師が致死性の薬物を投与することを意味し,日本

においては合法ではない。持続的深い鎮静と安楽死は,意図(意識を下げることによる苦痛緩和vs 死による苦痛緩和),方法(深い鎮静をもたらす鎮静薬の投与vs 致死量の薬物の投与),および,成功した場合の結果(苦痛が緩和された生vs 死による苦痛の終わり)の3 点において異なる医療行為である。VI章
p.102
しかし現実には持続的深い鎮静と安楽死との間にはグレーゾーンが存在しているとい

う見解がある(「ゆっくりとした安楽死(slow euthanasia)」とも呼ばれる)。すなわち,比較的全身状態が良く,経口摂取ができているなど死期が迫ってはいない患者に対して持続的深い鎮静が施行された場合がそれである。こうした患者に対して死亡まで持続的深い鎮静が継続され,同時に人工的な水分・栄養補給も中止された場合,医療者が生命予後の短縮を意図していないと説明することは合理的とは考えにくい。本手引きでは,そもそも,最初から患者が死亡するまで鎮静を継続すると決定して開

始される鎮静を許容していないため,常に定期的な再評価が必要となる。また,鎮静の倫理的妥当性の判断においては,医療者の意図や患者・家族の意思と独立して,予測される生命予後を検討の要素とした相応性の原則に従うことを求めている。例えば,患者が「生きている意味がない」といった精神的苦痛のために持続的深い鎮静を求めたとしても,予測される生命予後から考えて相応ではない場合には,原則として鎮静の対象とならないとしている。いずれにしても,比較的全身状態の良い患者に対する持続的深い鎮静には十分議論さ

れていない課題があり,社会全体での議論やコンセンサス形成が必要である。

(田代志門,会田薫子,清水哲郎)
p.103
VII章

国際的なガイドラインの要約
p.104
European Society for Medical Oncology(ESMO)1),National Comprehensive Cancer Network(NCCN)2),European Association for Palliative Care(EAPC)3,4),National Hospice and Palliative Care Organization(NHPCO)5),General Board of the Royal Dutch Medical Association(オランダ)6,7)のガイドラインをレビューした。まとめる際に,これらのガイドラインのレビュー文献2 件も参考にした8,9)。

すべてのガイドラインで共通して,おおむね,苦痛緩和を得るために,薬剤(鎮静薬)を使用して患者の意識を低下させるか完全に意識をなくすことを鎮静と定義している。意識を低下させることを意図している(意図的に意識を低下させる)という記載が多いが,オランダのガイドラインでは意識の低下は手段であるとしている。

鎮静の分類と表記については統一したものはない。大きくいえば,鎮静を行う期間に

1.鎮静の定義(表1)

2.鎮静の分類

表1 鎮静の定義

鎮静の定義鎮静の分類

ESMO1)鎮静(pallaitive sedation)とは,終末期の緩和困難な強い苦痛を緩和するために使用される最終手段(last resort)の一つである。鎮静は,鎮静薬を投与す

ることによって行われ,患者の意識を低下させるか,完全に意識をなくすことを目的とする。鎮静の意図は,他の方法では緩和できない終末期の苦痛を軽減することであり,患者,家族/友人,患者に関わる医療者にとって倫理的に許容できる方法で行われる必要がある。緊急時の鎮静(emergency sedation),レスパイトセデーション(respite sedation)を説明した項目がある。緊急時の鎮静とは,死期が迫っている患者の非常に強い(over ­ whelming)症状を直ちに緩和するために行う鎮静をいう。レスパイトセデーションとは,必ずしも治療抵抗性の苦痛でなくても,強い苦痛(倦怠感,痛み,不穏,悪心など)を緩和するために,一時的に鎮静を行うことを指し,鎮静以外のさらなる症状緩和アプローチを継続する前に,適切な苦痛緩和を得ることができる。

NCCN2)「鎮静とは,患者の意識をなくすような薬剤を持続的

に投与することから成り立つ」という記載がある。分類についての明確な記載はない。

EAPC3) (2009) (鎮静とは),患者,家族,医療者にとって倫理的に許

容できる方法で,他の方法では緩和できない苦痛を和らげるために,患者の意識を低下させるか完全に意識をなくすことを意図して,鎮静薬を調節して投与すること(monitored use)を指す。本文中に深い持続(continuous deep)鎮静,間欠的(intermittent)鎮静,浅い(mild/light)鎮静,一時的(transient)鎮静またはレスパイト(respite)セデーショ

ン,意識のある(conscious)鎮静の表現がある。

EAPC4) (2016)

NHPCO5)治療抵抗性の耐えがたい苦痛に対して,患者の意識を,苦痛が和らぐだけの必要最小限に低下させるために,鎮静薬を調節して投与すること(controlled administration)。レスパイトセデーションを説明した項目がある。

オランダ6,7) (鎮静とは),終末期の患者の意識を意図的に低下さ

せることである。鎮静の目的は苦痛の緩和であり,意識を低下させることはこれを達成する手段である。本文中に,浅い(superficial)鎮静,深い(deep)鎮静,持続的(continuous)鎮静,間欠的(short—term or inter­ mittent)鎮静の表現がある。

ESMO:European Society for Medical Oncology,NCCN:National Comprehensive Cancer Network,
p.105
よって一時的な鎮静(間欠的鎮静,レスパイトセデーション)と持続的な鎮静とを区別し,さらに,鎮静水準によって浅い鎮静(意識のある鎮静)と深い鎮静を区別しているものが多い。この他に,緊急時の鎮静(emergency sedation)と処置に伴う鎮静を分けているものがある。用いられる用語は決まっておらず,一時的な鎮静についてはrespite,intermittent, transient,short—termなどと呼称されている。浅い鎮静についてはmild,light,conscious, superficial などと呼称されている。

治療抵抗性の苦痛がある終末期(根治できない疾患のある)患者を対象としている。予測される生命予後については,特定した日数を記載していないもの,数時間から数日以内,14 日以内,1~2 週間以内と多少のばらつきがある。持続的深い鎮静の適応は数時間から数日,長くても1~2 週間としている。

3.対象患者

VII章

対象患者対象となる苦痛

進行した致死的な(終末期の)疾患のある成人および小児で,他の治療で緩和されない苦痛がある場合に対象となる。一般的には,痛み,呼吸困難,過活動性せん妄,けいれん。

生命予後が数時間から数日以内で,治療抵抗性の症状を有する患者が対象になる。意識の低下を伴わない包括的,かつ多職種による緩和ケアを行っても緩和できない治療抵抗性の症状。治療抵抗性の耐えがたい苦痛がある患者。深い持続的鎮静は,生命予後が数時間から長くても数日と考えられる患者に対してのみ行う。耐えがたい治療抵抗性の身体症状。頻度の高い症状は過活動性せん妄,呼吸困難,痛み,けいれんがある。大量出血,窒息,重度の終末期の呼吸困難,非常に強い痛みなどの緊急時が含まれる。場合によっては,強い精神的苦痛(難治性の抑うつ,不安,生きている意味のなさ)が適応になるかもしれない(may be consid­ ered)が,コンセンサスはない。深い持続的鎮静は,患者が「Palliative Care Phase」における「Terminal Phase」(評価尺度名,数日以内に死亡する可能性が高いことを意味する)の場合にのみ検討する。imminently dying patient(死期が迫っている患者)。生命予後が14 日以内と考えられる終末期患者。一般的には,治療抵抗性で耐えがたい痛み,呼吸困難,せん妄や身の置き所のなさ(restlessness)が挙げられる。また,実存的苦痛を対象とする場合には,レスパイトセデーションを(優先して)試みるなど,細心の注意と慎重な検討を重ねることが必要である。深い持続的鎮静は,生命予後が1~2 週間以内と考えられる患者を対象とする。1 つか複数の治療抵抗性の身体症状が,患者にとって耐えがたい苦痛となっている場合。鎮静の適応症状は,通常は身体症状である。EAPC:European Association for Palliative Care,NHPCO:National Hospice and Palliative Care Organization
p.106
鎮静の適応となる症状は通常は身体症状であり,せん妄(過活動型せん妄,身の置き所のなさ:restlessness),呼吸困難,痛みを挙げているものが多い。緊急時の鎮静の適応として,大量出血,窒息,急激に悪化する呼吸困難や痛みを挙げているものがある。精神的苦痛・実存的苦痛については,慎重に検討するべき(通常の適応ではない)と記載されている。

4.対象となる苦痛

意思決定:患者意思決定:家族

ESMO1)・鎮静に関する同意では以下の事項を記載すること。1 . 患者が,自分の状態,治療の選択肢に関する情報提供を受けたこと2 . 患者が知りたいと希望するすべての情報(自分の状態,治療の選択肢,各治療法に伴うメリットとリスクの可能性)が提供されたこと3 . 患者は,今後の意思決定を代理意思決定者に委任するが,代理意思決定者は,治療のメリット・デメリット,代わりとなる選択肢に関して十分な情報提供を受けていること4 . 代理意思決定者は,患者に代わって決定を行う,または,患者に治療を推奨し患者の承認を得たこと

・ アドバンス・ディレクティブがない場合には,法律上の代

理人と鎮静に関する話し合いを行う。小児患者の場合には,親の同意が必要である。しかし,年齢が高い小児患者の場合には,年齢相応の方法でケアの選択肢について患者と相談し,患者の合意(アセント)を得るように関わる。意思決定に家族が参加していない場合は,家族とも話し合いをすることの了解を,患者から得るようにする。場合によっては,患者同席の話し合いと,家族だけで心配事を話し合う場の設定も有効である。まれに患者が家族と話し合うことを了承しない場合,その理由を明らかにし,その意向を再考することを促すようにする。

NCCN2)・ 患者,およびまたは(and/or),代理意思決定者/家族か

ら鎮静に対する同意を取得する。患者,およびまたは(and/or),代理意思決定者/家族から鎮静に対する同意を取得する。

EAPC3) (2009)・ 患者自身で意思決定が可能であれば,鎮静の目的,メ

リットとリスク,意思決定ができなくなった時の意思決定代理者などについて話し合うようにする。

・ 患者に意思決定能力がない,またはアドバンス・ディレ

クティブがない場合,法的に認められた代理人から同意を取得する。患者の了解のもとに,話し合いに家族が含まれることが望ましい。

家族の同意が必要か望ましいと考えられる文化圏では,家族の同意が得られない時, 1 . 患者の状態,苦痛について家族がより理解できるような十分な情報提供を行う2 . 患者,家族それぞれと話をし,お互いが許容できる解決策をみつけるように支える3 . 悲嘆や罪悪感のような,家族の抵抗感につながっている要因を軽減するために,家族の心理的サポートをする患者と家族が話し合いを続けている間は,医療チームは最大限患者の意思が尊重され,利益になるような治療を探るようにする。代理人または家族が決定するのではなく,患者が望むことや患者が決めるであろうことを推測する役割であることを強調するようにする。家族は決定を求められるのではなく,医療チームが医学的決定の責任をもつことを強調する。

ESMO:European Society for Medical Oncology,NCCN:National Comprehensive Cancer Network,

表2 意思決定
p.107
患 者患者が意思決定できるならば,まず,患者と相談することが勧められている。患者と相談するうえでは意思決定できるだけの十分な情報が必要であるものの,どの範囲の情報を伝えるかは患者の知りたいとする意向に十分に配慮するべきとされている。

5.意思決定(表2)

1

VII章

意思決定:医療チーム輸液と人工栄養・蘇生に関する決定

一般的に,鎮静を検討する際には,多職種チーム(緩和ケアチームの他,精神科医や疼痛専門医などの専門医を含む)が検討を行い,他の妥当な治療が尽くされており,かつ,鎮静が患者の治療目標に合致していることを確認する。地域の専門家が限られている場合には,緩和ケアの専門家と電話でのコンサルテーションを行うことが強く勧められる。水分補給や人工栄養の実施に関する判断は,鎮静の実施とは独立したものである。

鎮静を検討する際には,生命予後を2 名の医師によって確認するべきである。鎮静に同意したということは,以下にも同意したことを説明する。1 . 人工栄養や水分補給は死期が迫っている患者に

は一般的には有益なことはないので,生命維持治療は中止すること2 .心肺蘇生は実施しないこと

緩和ケアに精通した医師が評価する。可能な限り,心理社会的側面に関係する職種,看護師,家族や他の関係者による多職種チームで評価を行う。患者のかかりつけ医にも評価プロセスや推奨に関わってもらうよう最大限努力する。症例検討,チームカンファレンスで話し合いを進めることが適切である。鎮静に関する判断とは独立して決定する。

EAPC:European Association for Palliative Care,NHPCO:National Hospice and Palliative Care Organization (つづく)
p.108
意思決定:患者意思決定:家族

EAPC4) (2016)

NHPCO5)意思決定についての明確な記載項目はなく,「耐えがたい苦痛」の定義のなかに,『耐えがたい苦痛かどうかを判断するのは患者だけである』,と記載されている。意思決定についての明確な記載項目はなく,「耐えがたい苦痛」の記載のなかに,以下の表

現がある。

患者に意思疎通能力がない場合,耐えがたい苦痛の判断は,患者の価値や希望に照らして,もし患者と意思疎通がとれたとしたら,耐えがたいレベルの苦痛であると言うかどうかを,家族と一緒に考える。患者の最善の利益と希望が最も重要である。

オランダ6,7)なるべく患者の同意を得て鎮静を開始する。可能な限り,鎮静しか手段がないという状況になる前に患者と相談しておくようにする。

・患者と相談する時に話し合う内容は以下の通りである。1 .患者の状態,予測される生命予後2 .鎮静の適応と目的3 . 耐えがたく,治療抵抗性の苦痛に対応する選択肢(鎮静と安楽死) 4 .適切に行えば鎮静は寿命を短縮しないこと5 .予期していなかった状態になった時の対応6 . 鎮静で起こりうることと限界(鎮静の深さ,予測に反して意識が戻ってしまい苦痛となる可能性があること) 7 . 鎮静によって起こる結果(部分的に/完全にコミュニケーションができなくなることを含む) 8 .薬剤の実際の投与について(薬剤に関する説明を含む) 9 . 死へのプロセスについての患者の希望や考え方(恐れ,不安を含む)を可能な限りはっきりと言葉に出して話し合う10. 臓器移植,家族へ別れを言うタイミング,鎮静中の身体のケア,どこで最期を迎えたいか,鎮静中の他の医学的治療(人工的栄養,輸液を差し控える,延命治療の差し控え・継続)などに関する希望11. 宗教や倫理的問題に関するサポートを受ける希望が

あるか

・ 患者が意思決定できない場合は,代理意思決定者と相談

する。代理意思決定者は法律(Medical Treatment Con­ tracts Act)に従って決定する。

・緊急時の鎮静非常に死期が迫っている(数分~数時間)状況での耐えがたい苦痛(頭頸部腫瘍からの動脈性出血,肺出血による呼吸困難など)で,患者が意思決定できず代理意思決定者がいない場合,担当医の裁量で鎮静を開始することがある。患者と相談できない場合は,家族からの情報に基づいて鎮静の適応を決定する。

・ 家族への説明において必要なことは以下の通りである・ 患者の家族が状況を理解して鎮静を受け入れることができるように,情報提供しサポートする・患者を丁寧に看護することを伝える・ 患者の代理意思決定者が誰かを明確にしておく・ 他の専門家にコンサルテーションすることも

できることを伝える

代理意思決定者が鎮静への同意を拒んだ場合,患者にとって大切なことを医師の裁量で決定し,代理意思決定者の意向にかかわらず鎮静を開始することがある(Dutch Patients’Act)。

ESMO:European Society for Medical Oncology,NCCN:National Comprehensive Cancer Network,

表2 意思決定(つづき)
p.109
VII章

意思決定:医療チーム輸液と人工栄養・蘇生に関する決定

鎮静を行うかどうかの決定は,チームにより行うか,少なくとも,医師同士でまたはより経験のある医師と相談して行うべきである。鎮静の適応を検討するにあたっては,緩和ケアに精通した医師だけでなく,患者の苦痛を緩和しうる治療・ケアについて話し合える専門家,例えば,薬物療法,痛みやその他の症状緩和,心理的・社会的・スピリチュアルな苦痛に対する対応を行う専門家など,その患者にとって大事な問題に関する専門家を含む多職種でのカンファレンスを行うことを推奨する。人工栄養療法・水分補給などその他の治療に関する判断は,鎮静の実施とは別に行う。蘇生のための処置を試みない(DNAR)指示を行うべきである。患者が現在受けている,患者の苦痛緩和につながる治療は,継続する。

担当医は判断をするにあたって十分な経験をもっていなければならない。十分な専門知識をもっていない場合は,専門家にコンサルテーションする。可能な限り,患者,家族,医療従事者が合意するようにする。

なぜ鎮静が開始されるに至ったか,どのように行われたか,効果の評価,用量の調節を行った基準をカルテに記載する。輸液は鎮静とは別の決定である。一般的には,持続的深い鎮静を行っている患者に対して,輸液は行わない。

EAPC:European Association for Palliative Care,NHPCO:National Hospice and Palliative Care Organization
p.110
アドバンス・ディレクティブや法定代理人が制度化されている国においては,患者が意思決定できない場合には,患者のアドバンス・ディレクティブや法定代理人に従うとされている。鎮静しか手段がないという状況になる前に患者の意向を確認することを勧めるものや,患者の意思決定ができず代理決定者もいない場合で緊急の場合(出血や窒息など)には担当医の判断で鎮静を開始することを記載したものがある。

家 族家族の役割については,患者の了解を得たあとに,家族とも相談することを勧めるものが多い。患者と家族の意向が異なった場合には,家族の同意が必要または望ましいとされる文化圏では,家族がより理解できるような情報提供,家族への精神的サポートを提供し,患者と家族が許容できる解決策をみつけることを方針とすると記載しているものがある。一方,患者にとっての利益という観点から,国内法に従って家族の同意がなくても鎮静を行うことが妥当な場合があると記載しているものもある。意思決定における家族の役割は,鎮静を実施するかを家族が判断するのではなく,患者だったらどのように思うかを推定する役割としている。

2

表3 薬物の投与方法

薬物の投与方法(titration)モニタリング:項目

ESMO1)適切な苦痛緩和を得るためには投与初期には用量調節(タイトレーション)が必要であり,苦痛緩和が得られてから維持投与により効果の持続を図る。一般的に,鎮静のレベルは,適切な苦痛緩和を行うために必要最低限なものとする。持続注射,(定期的な)間欠投与で維持する。死期が迫っている患者では,バイタルサイン(脈拍,血圧,体温など)をルーチンにモニタリングしない。呼吸数はモニタリングを行うが,これは,呼吸困難による苦痛や頻呼吸がないことを確認するためである。死期が迫っていない患者では,鎮静レベルと,通常の生理学的指標(心拍数,血圧や酸素飽和度など)を定期的に測定する場合がある。

NCCN2)過去・現在に使用した薬剤に対する患者の効果に基づいて,適切な鎮静薬の投与方法を選択する。患者の症状を定期的に評価し,鎮静薬などの薬剤用量を調節する。鎮静を継続する必要性を再評価する。

EAPC3) (2009)苦痛が緩和され,かつ,意識低下やその他の副作用が最小になる水準に,投与量を漸増・漸減する。症状緩和が得られたあとに,投与量を減量すること(downer titration)は,苦痛が再発する可能性があるため,患者の死期が迫っている場合たいていの場合では行わない。苦痛の程度,意識水準,鎮静に伴う副作用を評価する。苦痛の程度は,患者の意識と痛みなどから苦痛の程度を評価し,刺激に対する反応,身の置き所のなさや体の動き,表情から意識水準,鎮静に伴う副作用を評価する。Critical—Care Pain Observation Tool(CPOT)やRichmond Agitation—Sedation Scale(RASS)などを用いる。なお,短期間の鎮静,間欠的鎮静,浅い鎮静を行う場合には,鎮静レベルと,通常の生理学的指標(心拍数,血圧や酸素飽和度など)をモニターする。EAPC4) (2016)

NHPCO5)症状に耐えられるのに必要な量で,意識水準の低下が最小限になるように用量調節(タイトレーション)を行う。投与されている薬剤の効果および安全性を評価する。

オランダ6,7)意識水準ではなく,苦痛の程度を基準として,投与量,鎮静薬の組み合わせ,治療期間を決定する。具体的な記述なし

ESMO:European Society for Medical Oncology,NCCN:National Comprehensive Cancer Network,
p.111
医療チームすべてのガイドラインで共通して,多職種チームによる評価が述べられている。特に,緩和ケアの専門家,心理社会的問題に対応する職種,疼痛専門医の役割が述べられている。かかりつけ医について言及しているものもある。検討内容としては,苦痛が治療抵抗性である(他に手段がない)こと,生命予後,心理社会的問題が挙げられている。専門家にアクセスできない状況では,アクセス可能なより経験のある医師や電話でのコンサルテーションが勧められている。

水分・栄養の補給に関する判断は,鎮静に関する判断とは独立して行うとするものが多いが,多少のばらつきがある。すなわち,鎮静を実施する場合,人工栄養や水分補給が一般的には有益なことはないとの理由で,中止することを前提としているものもある。蘇生のための処置を試みない(DNAR)指示を行うべきと記載されている。

一般的な考え方として,苦痛が緩和される必要最小限の投与量に調節する(titration)と

6.輸液と人工栄養・蘇生に関する決定

7.薬物の投与方法(表3)

VII章

モニタリング:時間間隔オピオイドの扱いミダゾラムの投与方法

具体的な記述なし症状緩和を目的として鎮静前から投与していた薬物は,無効であるか苦痛な副作用がない限り継続する。ほとんどの場合,鎮静前にオピオイドなどの鎮痛薬の投与を受けている患者では,副作用があるか,呼吸抑制など過量投与の兆候がない限り継続する。開始量は,0.5~1 mg/時間,必要に応じて1~5 mg を追加する。通常の有効用量は1~20 mg/時間である。具体的な記述なし痛みなどの症状緩和のための治療は継続し,必要に応じて用量を調節する。具体的な記述なし

最初は,適切な鎮静に至るまで少なくとも20分毎に評価し,その後は少なくとも1 日に3 回評価する。ほとんどの場合,オピオイドは,投与量の調節を行いながら,副作用や過量投与の徴候を認めない限り,継続する。症状がよく緩和されていて,オピオイドの過量投与の兆候がある時は,減量するべきであるが,退薬症状のリスクもあるため急速には減量しない。開始量は0.5~1 mg/時間,維持量は1~20 mg/時間(24~480 mg/日)である。

静脈内,皮下投与を用いる。

投与薬・鎮静に関する経験が豊富な医師が継続的にモニタリングを行う。具体的な記述なし具体的な記述なし

担当医は,少なくとも1 日1 回患者を診察する。鎮静開始時には担当医が立ち会うべきである。その後の投与は,看護師・介護者に多くを任せることができる。モルヒネを意識を低下させる目的で使用するのは不適切である(bad practice)。モルヒネは,痛み,呼吸困難を緩和する目的でのみ使用するべきである。患者の様子をみながら段階的に投与する。EAPC:European Association for Palliative Care,NHPCO:National Hospice and Palliative Care Organization
p.112
している。投与量を決める指標は,苦痛の程度であって,意識の水準ではないと明記しているものがある。症状緩和が得られたあとの減量(downer titration)については,苦痛が悪化する可能性があるため患者の死期が迫っている場合であってもたいていの場合では行わないとの記載がある。

項 目効果(苦痛の緩和),安全性(有害事象),鎮静を継続する必要性を定期的に評価すると記載している。評価する内容については,死期が迫っている患者では呼吸数のみを評価する,死期が迫っていない患者では通常通り脈拍,血圧,酸素飽和度などを評価するとしている。評価尺度としては,Richmond Agitation—Sedation Scale(RASS)とCritical—Care Pain Observation Tool(CPOT)を挙げたものがある。

時間間隔評価の時間間隔を明記しているものは少ない。全体的には,投与初期にはより詳細の評価が必要であることが記載されている(少なくとも20 分毎,開始時には医師が立ち会うべきなど)。安定している場合には1 日1~3 回の評価を行うと記載されている。

痛みや呼吸困難を対象としたオピオイドは副作用や過量投与の兆候がない限り継続するとしている。一方,オピオイドで鎮静を行うことは不適切である(オピオイドは痛みや呼吸困難の治療に用いる)との記載がある。

鎮静薬の投与量や投与方法を具体的に記載しているものは少ない。開始量は0.5~1 mg/時間,必要に応じて1~5 mg を追加し,通常の有効用量は1~20 mg/時間としている。

(浜野 淳)

【文 献】1) Cherny NI, et al.;ESMO Guidelines Working Group. ESMO Clinical Practice Guidelines for the management of refractory symptoms at the end of life and the use of palliative sedation. Ann Oncol 2014; 25(Suppl 3): iii143—52 2) National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Palliative Care 2017. https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/palliative.pdf 3) Cherny NI, Radbruch L;Board of the European Association for Palliative Care. European Association

for Palliative Care(EAPC)recommended framework for the use of sedation in palliative care. Palliat

8.評 価

1

2

9.オピオイド

10.ミダゾラムの投与方法
p.113
Med 2009;23: 581—93 4) Radbruch L, Leget C, Bahr P, et al.;Board Members of EAPC. Euthanasia and physician—assisted suicide: A white paper from the European Association for Palliative Care. Palliat Med 2016;30: 104— 16 5) Kirk TW, Mahon MM;Palliative Sedation Task Force of the National Hospice and Palliative Care Organization Ethics Committee. National Hospice and Palliative Care Organization(NHPCO)position statement and commentary on the use of palliative sedation in imminently dying terminally ill patients. J Pain Symptom Manage 2010;39: 914—23 6) Legemaate J, Verkerk M, van Wijlick E, et al. Palliative sedation in the Netherlands: starting—points and contents of a national guideline. Eur J Health Law 2007;14: 61—73 7) Verkerk M, van Wijlick E, Legemaate J, et al. A national guideline for palliative sedation in the Netherlands. J Pain Symptom Manage 2007;34: 666—70 8) Abarshi E, Rietjens J, Robijn L, et al.;EURO IMPACT. International variations in clinical practice guidelines for palliative sedation: a systematic review. BMJ Support Palliat Care 2017;7: 223—9 9) Schildmann E, Schildmann J. Palliative sedation therapy: a systematic literature review and critical

appraisal of available guidance on indication and decision making. J Palliat Med 2014;17: 601—11

VII章
p.114

        
p.115
VIII章 背景知識
p.116
本章では,苦痛緩和のための鎮静の概要を理解するうえでの背景知識をまとめる。鎮静については,国際的にも定義や評価法が明確になっていないことから,結果の量的な統合(メタアナリシスなど)を用いることができない。したがって,本手引きのための系統的レビューは行わずに,既存の系統的レビューを利用して概要を示すことを基本的な方針とした。あわせて,苦痛緩和のための鎮静に関する主な研究の一覧を資料として作成した(P122参照)。

11 論文を対象とした系統的レビューにおける鎮静の対象症状を図1 に示した1)。鎮静の対象となる主要な対象症状がせん妄と呼吸困難であることは他の報告でも見解が一致している。他に,痛み,精神的苦痛,嘔吐,その他の症状(かゆみ,出血など)が対象となりうる。

[解 釈]鎮静の対象となる主要な苦痛は,せん妄と呼吸困難である。痛みそのものは鎮静の対象症状としては頻度が高くないが,難治性の痛みに対してオピオイドを増量した結果生じたせん妄に鎮静が行われている可能性を否定できない(鎮静の対象としているせん妄の背景に難治性の痛みがある可能性がある)。精神的苦痛がしばしば鎮静の対象症状とされているが,治療抵抗性の身体的苦痛と併存して報告されているため精神的苦痛が単独で鎮静の対象症状となることは少ない。

(関本 剛)

表1に1990 年以降の鎮静に関する研究で100例以上を対象としたものを示す2—33)。対象はがん患者が95%以上を占め,療養場所は自宅,緩和ケア病棟,病院などさまざまであった。

1.治療抵抗性の苦痛はどのような苦痛か?

2.鎮静はどれくらいの頻度で行われているか?

図1 鎮静の対象となる治療抵抗性の苦痛(10 論文,774 例)

4%その他(痒み,出血など)

5%嘔吐

17%痛み

19%精神的苦痛

30%呼吸困難

54%せん妄

10 0 20 30 40 50 60(%)

〔Maltoni M, et al. J Clin Oncol 2012; 30: 1378‒831)より引用改変〕
p.117
VIII章

著者/発表年/国定義(英字は原文)症例数(例)頻度(%) Ventafridda/1990/イタリア2)腫瘍の進行や不可逆的な臓器障害による耐えがたい症状を緩和するために,オピオイドと向精神薬(ジアゼパム,クロルプロマジン,ハロペリドール)をそれぞれ単独かあわせて増量すること〔opiates(morphine, methadone)or strong tranquilizers(diazepam, chlor-

promazine, haloperidol), either singly or in combination, were increased to control unendurable symptoms due to tumor progression or irreversible acute organic phenomena.〕120 53

Fainsinger/1991/カナダ3)患者の意識をなくすことによって身体的・精神的な苦痛を緩和するために向精神薬を投与すること(prescription of psychotropic agents to control physical and psychologi-

cal symptoms by making the patient unconscious.) 100 16

池永/1995/日本4)死亡直前の緩和困難な苦痛から解放するために,薬物の投与で治療者が意識的に患者の意識レベルを持続的に下げること202 68 Morita/1996/日本5)意図的に患者の意識を不明瞭にすることで症状緩和を目指す医学的処置(medical procedure to palliative patients’ symptoms by intentionally

making their consciousness unclear.) 143 48

Stone/1997/イギリス6)苦痛の緩和の手段の一つとして,意識レベルを低下させる鎮静薬を投与すること(prescription of sedative drugs where reducing the level of conscious-

ness was part of a treatment strategy with the aim of relieving distress.) 115 26

Peruselli/1999/イタリア7)完全に意識をなくすために薬物を投与すること(administration of drugs to obtain total loss of consciousness.) 356 25 Fainsinger/2000/カナダ8)患者の意識を低下させる鎮静薬の使用(use of sedation to diminish a patient’s level of consciousness.) 150 6.7 Fainsinger/2000/イスラエル9)定義なし(施設ごとに異なる) 100 15 Fainsinger/2000/スペイン9)定義なし(施設ごとに異なる) 100 22 Chiu/2001/台湾10)意図的に患者の意識を不明瞭にすることで症状緩和を目指す医学的処置(medical procedure to palliative patients’ symptoms by intentionally

making their consciousness unclear.) 251 28

Menten/2003/ベルギー11)深い眠りを維持することを意図(terminal palliative patient and his physician intend to obtain a deep

sleep.) PCT:750 PCU:511 PCT:0.1 PCU:3

Sykes/2003/イギリス12)明らかな鎮静を生じるであろう投与量を超えた鎮静薬の使用(the dose threshold for each drug beyond which significant sedation was

likely to have resulted.) 237 48

Muller—Busch/ 2003/ドイツ13)治癒不可能な疾病のため48 時間以内に死亡すると予測される患者に対して,苦痛緩和が十分得られるくらいに意識を低下させるため,持続的もしくは間欠的に鎮静薬を注射で投与すること(continuous or intermittent infusion of sedatives to reduce the level of

consciousness sufficiently deep to provide comfort for the patients with Incurable disease―If death can be expected within the next 48 hrs.) 548 15

Cameron/2004/南アフリカ14)定義なし100 20

表1 鎮静の定義と頻度

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟(つづく)
p.118
著者/発表年/国定義(英字は原文)症例数(例)頻度(%) Morita/2005/日本15,16)治療抵抗性の耐えがたい苦痛を緩和することを目的として,患者が死亡するまで,ほとんどまたは完全に意識がない状態に鎮静薬を持続的に使用すること(continuous use of sedative medications to relieve intolerable and

refractory distress by achieving almost or complete unconsciousness until death.) 1,432 19

Kohara/2005/日本17)治療抵抗性の症状を緩和するために,患者の意識を意図的に低下させる医学的処置(a medical procedure to palliate patient symptoms refractory to standard

treatment by intentionally dimming their consciousness.) 124 50.3

Vitetta/2005/オーストラリア18)苦痛が十分緩和されるくらいに患者の意識を低下させる鎮静薬を死亡まで経静脈的/経皮下的に投与すること。通常鎮静薬はベンゾジアゼピンで,抗精神病薬とオピオイドと併用する〔use of sedative drugs(usually benzodiazepines, with or without neuro-

leptic agents and complementary opioids, given intravenously or subcutaneously)to reduce consciousness sufficient to provide comfort for the patient until death occurs.〕102 67

Cowan/2006/アメリカ19)日単位以下の生命予後の患者に対して,耐えがたい治療抵抗性の症状を緩和するため,オピオイド以外の鎮静薬を投与すること〔use a nonopioid sedative drug to control acute or refractory symptoms

that have not responded to conventional symptom management or have a severity and/or trajectory of illness that requires prompt intervention to relieve distress in patients who are actively dying(death expected in hours or days)with advanced and incurable disease.〕1,200 2.3

Bulli/2007/イタリア(在宅)20)終末期における症状を緩和するため,患者が死亡するまで,薬物によって意識のない状態を持続させること(pharmacologically induced state of continuous coma lasting up until

the moment of death, aimed at controlling the symptomatic state of the patient during the terminal stages of his life.) 1,075 13

Rietjers/2008/オランダ21)医療記録に「持続的な深い鎮静」という記載があること(there was an annotation in the medical records of the use of“continu-

ous deep sedation”.) 157 43

Maltoni/2009/イタリア22)治療抵抗性の症状による耐えがたい苦痛を患者の意識を低下させて緩和するために,鎮静薬を使用すること(use of sedative medications to relieve intolerable suffering from refrac-

tory symptoms by a reduction in patient consciousness.) 518 25

Elsayem/2009/アメリカ23)緩和困難で耐えがたい症状に対して,クロルプロマジン,ロラゼパム,ミダゾラムのいずれかを非経口的・持続的に使用すること(patients who received at least one drug which was used for the pur-

pose of palliation of intractable and refractory symptoms.) 352 41

Rosengarten/ 2009/イスラエル(在宅)24)患者の意識を低下させ,治療抵抗性の耐えがたい苦痛を緩和するために,鎮静薬を使用すること(use of sedative medications to intolerable and refractory distress by the

reduction in patient consciousness.) 720 5

Alonso—Babarro/ 2010/スペイン(在宅)25)患者の意識を低下させ,治療抵抗性の症状による耐えがたい苦痛を緩和するために,特定の鎮静薬を使用すること(use of specific sedatives to relieve intolerable suffering from refractory

symptoms by reducing a patient’s level of consciousness.) 245 12

表1 鎮静の定義と頻度(つづき)

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟(つづく)
p.119
鎮静の施行率は1%以下から60%以上まで大きな差があった。これらの研究で用いられた鎮静の定義はさまざまであった。すなわち,意識の低下を意図して薬剤を投与することとするもの,鎮静薬を使用した場合に鎮静とするもの,一定の投与量を超えて鎮静薬を使用した場合に鎮静とするもの,医療記録に鎮静の記載があることを基準とするものなどがあり,明確な鎮静の定義が示されていないものもあった。VIII章

著者/発表年/国定義(英字は原文)症例数(例)頻度(%) Claessens/2011/ベルギー26)治療抵抗性の症状を緩和するのに必要な意識を低下させる投与量や組み合わせでの鎮静薬の意図的な使用(intentional administration of sedative drugs in dosages and combina-

tions required to reduce the consciousness of a terminal patient as much as necessary to adequately relieve one or more refractory symptoms.) 266 7.5

Jaspers/2012/ドイツ27)症状の緩和を意図して,鎮静薬を手段として使用し,結果として苦痛が緩和されること〔alleviation of symptoms(intention), use of sedatives(means), and relief

from suffering(result).〕1,944 18

Maltoni/2012/イタリア28)意識を低下させることで治療抵抗性の症状による耐えがたい苦痛を緩和するために鎮静薬を使用すること(use of sedative medications to relieve intolerable suffering from refrac-

tory symptoms by a reduction in patient consciousness.) 226 31.9

Caraceni/2012/イタリア29)終末期に治療抵抗性の症状を緩和するために,薬物を用いて意識を低下させること(reduction of consciousness, produced by pharmacological means, to

control symptoms that are refractory to ordinary palliative care approaches at the end of life.) 129 64

Koike/2015/日本30)終末期患者において,治療抵抗性の症状を緩和するのに十分な意識の低下を意図して,鎮静薬や鎮静薬を組み合わせて使用すること(intentional administration of sedative drugs and combinations required

to reduce the consciousness of a terminal patient as much as necessary to adequately relieve one or more refractory symptoms until death.) 1,581 1.4

Mercadante/2014/イタリア31)治療抵抗性の耐えがたい苦痛の緩和を目的として,オピオイド以外の鎮静薬を用いて意識を低下させること(specific sedatives to relieve intolerable suffering from refractory symp-

toms by reducing a patient’s level of consciousness with nonopioid sedative medication in the last days of life.) 176 14

Calvo—Espinos/ 2015/スペイン32)治療困難な苦痛を緩和するために,患者,家族,医療専門職からみて倫理的に許容できる方法で,意識が低下した状態とすることを目的として薬剤を調節しながら使用すること(the controlled use of medicinal products intended to induce a state of

decreased or absent awareness in order to relieve suffering that is untreatable in an ethically acceptable way for patients, families, and health professionals.) 250 14

Maeda/2016/日本33)治療抵抗性の耐えがたい苦痛の緩和を目的として,患者が死亡するまで,鎮静薬を完全に意識がなくなるまで使用すること(continuous use of sedatives to relieve intolerable and refractory symp-

toms by the total loss of a patient’s consciousness until death.) 1,827 15

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟

表1 鎮静の定義と頻度(つづき)
p.120
[解 釈]鎮静の実施率には大きな差があるが,そもそも,研究者や報告によって鎮静の定義が異なるため,同じ薬剤を同じ量で使用していても,ある報告では鎮静に分類され,別の報告では鎮静とみなされないことになる。鎮静の定義が異なる研究で頻度を比較する意義は乏しく,現状では(それを鎮静と呼ぶか呼ばないかは別として),苦痛を緩和するために鎮静薬の投与が必要とされる患者が一定数存在するといえると考えられる。

(関本 剛)

鎮静に用いられた薬剤について,3 件の系統的レビューから検討した1,34,35)。2015 年のコクランレビューは,14 論文に記述された4,167 例を対象として検討した34)。1,137 例(27%)が苦痛緩和のための鎮静を施行されていた。最も頻繁に使用された薬剤は,10 論文でミダゾラムであった。その他,2 論文ではハロペリドール,1 論文ではロラゼパム,1 論文ではベンゾジアゼピン系薬剤(ミダゾラム・ジアゼパム)と抗精神病薬(ハロペリドール・クロルプロマジン)とオピオイドの併用であった。2012 年の系統的レビューは11 論文を対象として検討した(図2)1)。投与薬物の記載のある9 論文に記述された745 例に投与された鎮静薬は,ミダゾラムが49%で最も高頻度に使用されていた。その他,ハロペリドール,ミダゾラム以外のベンゾジアゼピン系薬剤,クロルプロマジンであった。2008 年の37 論文を対象とした系統的レビューのうち,12 論文で投与された鎮静薬について記載されていた35)。そのうち9 論文(75%)でミダゾラムが最も高頻度に使用されていた。ミダゾラムと併用,または単独で使用された薬剤は,ハロペリドール,フェノバルビタール,オピオイドであった。ミダゾラムの投与量については開始量の中央値は0.5~1.7 mg/時間であり,維持量の中

3.鎮静にはどのような薬剤がどれくらい用いられるか?

図2 鎮静に用いられた薬剤(9 論文,745 例)

362(49%)

191(26%) 107(14%) 79(11%) 22(3%) 11(1%) 5(1%)

161(22%)

100 0 200 300 400(例) 症例数(%)

ミダゾラムハロペリドールクロルプロマジン

モルヒネレボメプロマジン

プロポフォールフェノバルビタールミダゾラム以外のベンゾジアゼピン

〔Maltoni M, et al. J Clin Oncol 2012; 30: 1378‒831)より引用〕
p.121
央値は18~62 mg/日,範囲は2~450 mg/日であった(表2,資料)。

[解 釈]鎮静に用いられている最も主要な薬剤はミダゾラムである。ハロペリドール,クロルプロマジン,モルヒネも鎮静に用いられているが,これらの研究では,せん妄に対する緩和治療として投与されたハロペリドールやクロルプロマジン,痛みや呼吸困難に対する緩和治療として投与されたモルヒネも,それぞれの研究での鎮静の定義に従って鎮静薬として含められている場合がある。すなわち,鎮静の定義によって鎮静薬として使用される薬剤の頻度が異なる。ミダゾラムの開始量,維持量には大きな幅があり,患者の全身状態や個人差の影響に加えて,施設によって投与方法に差異がある可能性がある。

(今井堅吾,永山 淳)

鎮静薬の効果に関して,コクランレビューでは薬剤間で比較した無作為化比較試験はなく,鎮静薬として最も用いられているミダゾラムが他の薬剤よりもより優れているかについてのエビデンスはないとしている34)。鎮静中に何らかの評価指標を用いて鎮静の効果を評価した観察研究について,表3 にまとめて示す7,9,10,15,16,19,26,28,31,36—38)。指標として用いられているものはさまざまである。苦痛の強さは,痛みや呼吸困難を評価するNumerical Rating Scale(NRS),苦痛全般を評価するSupport Team Assessment Schedule(STAS),過活動型せん妄の不穏を評価するAgitation Distress Scale(ADS),身の置き所のなさを評価するDegree of restlessness の他,研究のために作成されたものが用いられている。意識水準やコミュニケーションの程度は,Richmond Agitation—Sedation Scale(RASS),Glasgow Coma Scale(GCS),Communication Capacity Scale(CCS)の他,研究のためにad—hoc に作成されたものが用いられている。鎮静の効果は,医療者の主観的評価をみたものでは十分な効果が69~89%,部分的な効果が11~30%にみられ,全般としては効果が高かったと報告されている。本手引きで概念化されている鎮静方法の効果をみた研究では,鎮静開始4 時間後の有効率は,proportional sedation で69%,deep sedation で83%であった38)。意識水準に関しては,達成された意識水準や,達成に要する時間は報告でのばらつきが大きい。例えば,Maltoni らは,鎮静直後よりRASS がマイナスとなり,42%ではRASS- 5 よりも浅い意識水準で苦痛が緩和したと述べている28)。一方,Mercadante らは,鎮静開

4.鎮静の効果はどうか? VIII章

表2 ミダゾラムの投与量・投与速度

中央値範囲

開始量0.5~1.7 mg/時間0.25~20 mg/時間維持量18~62 mg/日2~450 mg/日
p.122
著者発表年効果の測定に用いた指標主要な結果限界Mclver36) 1994意識水準Patient’s level of arousal:1= awake,2=asleep but easily arousable,3=asleep but difficult to arouse,4=unresponsive鎮静開始後中央値2(自宅)~3(入院)

身の置き所のなさDegree of restlessness:1= none,2=mild,3=moderate, 4=severe記載なし全般的効果Effectiveness:1=none,2= partial,3=complete鎮静開始後3=70%,2=30%死亡前3=90%,2=10%効果は観察者の主観的な判断による

Peruselli7) 1999包括的評価Support Team Assessment Schedule(STAS):0(none)to 4(worst)死亡前1 週間の値を記録痛み:0=38%,1=24%,2=19%,3= 12%,4=7%痛み以外の身体症状:0=17%,1=20%, 2=26%,3=28%,4=9%結果は鎮静の効果を直接測定したものではなく,最期の1 週間の症状の評価Fainsinger9) 2000全般的評価Adequacy of symptom control: Good,Fair,Poor死亡6 日前Good=53~75%,Fair=18~35%,Poor =2~16%死亡日Good=74~89%,Fair=11~19%,Poor =0~5%観察者の主観による評価。鎮静を施行した患者のみの結果ではない

意識水準Level of consciousness:Alert, Drowsy,Unresponsive死亡6 日前Alert=69~82%,Drowsy=16~31%, Unresponsive=0~1%死亡日Alert=3~12%,Drowsy=18~29%, Unresponsive=60~73%鎮静を施行した患者のみの結果は不明

Chiu10) 2001 Pain score 0~10医療者による客観評価死亡2 日前の平均値鎮静群2.5 vs. 非鎮静群2.1

鎮静群の値は,鎮静中か鎮静を行っていない状態の値かは不明Dyspnea score 0~10医療者による客観評価

死亡2 日前の平均値鎮静群3.0 vs. 非鎮静群2.9

Delirium score 0~3医療者による客観評価死亡2 日前の平均値鎮静群1.8 vs. 非鎮静群1.1

Morita15,16) 2005苦痛の程度symptom severity scale:0=なし~4=耐えがたい苦痛が前1 時間のうち15 分以上3,4 の患者割合鎮静前46%,4 時間後3%,24 時間後0% Ad‒hoc な指標。観察者の主観的評価

呼吸困難3,4 の患者割合鎮静前39%,4 時間後8%,24 時間後2%痛み3,4 の患者割合鎮静前18%,4 時間後2%,24 時間後1%不穏Agitation Distress Scale:6項目,合計0(best)to 18(worst)平均値(標準偏差)鎮静前7(4),4 時間後2(3),24 時間後1(2)

表3 鎮静の効果を評価した研究

(つづく)
p.123
VIII章

著者発表年効果の測定に用いた指標主要な結果限界

気道分泌過多Back severity scale:0=聴取しない~3=部屋の入口で聴取Back 2,3鎮静前25%,4 時間後18%,24 時間後17%苦痛の直接の指標ではない

Morita15,16) 2005コミュニケーションCommunication Capacity Scale:5 項目,合計0(best)to 17(worst)平均値(標準偏差)鎮静前8.3(5),4 時間後15(3),24 時間後15(3) Cowan19) 2006症状コントロールControlled:8 時間鎮静薬投与量が安定し苦痛がないImproved:症状による不快が軽減したが,controled ではないUncontrolled:上記以外全体:controlled 82%,improved 18%, uncontrolled 0%ミダゾラム:controlled 86%,improved 14%,uncontrolled 0%クロルプロマジン:controlled 81%, improved 19%,uncontrolled 0% Ad‒hoc な指標。観察者の主観的評価Mercadante37) 2009意識水準Communication Capacity Scale, item 1:0=覚醒しており眠気はない,1=眠気がある,2=起きているために努力が必要,3=言語的な刺激により覚醒,4=身体的な刺激により覚醒,5=身体的な刺激でも覚醒しない平均値(標準偏差)鎮静開始前1(1.1),6 時間後4(0.9),死亡直前4.5(0.6)

興奮Agitated Delirium:0=not at all, 1=slight,2=a lot,3=awful平均値(標準偏差)鎮静開始前1.5(1.1),6時間後0.03(0.2),死亡直前0.1(0.3) Ad‒hoc な指標

Claessens26) 2011意識水準Glasgow Coma Scale記載なし評価に痛み刺激が必要Maltoni28) 2012意識水準Richmond Agitation‒Sedation Scale(RASS)直後にRASS はマイナスになった58%ではRASS-5,42%ではそれよりも浅い鎮静レベルで苦痛緩和されたRASS-5 になった患者の割合のみ示されているMercadante31) 2014コミュニケーションCommunication Capacity Scale:5 項目,合計0(best)to 17(worst)平均値(標準偏差)鎮静開始前 12(3) 24 時間後  16(1)

Agitation Distress Scale:6項目,合計0(best)to 18(worst)平均値(標準偏差)鎮静開始前 10(5) 24 時間後   2(3)症状の強さNRS患者が答えられない場合,家族の代理評価平均値(標準偏差)痛み   評価できずせん妄  開始前   6(3) 24 時間後 1(2)呼吸困難 開始前   3(4) 24 時間後 1(2)家族の代理評価が含まれる

Imai38) 2018苦痛の程度STAS:0(best)to 4(worst)平均値(95%信頼区間) Proportional sedation:鎮静前3.8(3.6~3.9),4 時間後0.8(0.5~ 1.2),24 時間後0.8(0.5~1.1) Deep sedation:鎮静前3.7(3.5~4.0),4 時間後0.3 (-4.7~-2.8),24 時間後0.3(0~0.6)観察者の主観による評価

表3 鎮静の効果を評価した研究(つづき)

(つづく)
p.124
始6 時間後には身体的刺激でようやく覚醒する程度の意識水準であるが,死亡直前はさらに深い意識水準になったと報告している37)。RASS を用いて前向きに評価した研究では, 4 時間後,24 時間後に,proportional sedation では鎮静前の+1.2 から-1.7,-2.0 に低下した一方,deep sedation では+1.4 から-3.7,-4.5 に低下した38)。自宅では浅い意識水準で,入院では深い意識水準であったとの報告がある36)。

[解 釈]鎮静は総合的には70%以上で効果があるとみなされている。ただし,効果を評価するための指標として何が適切かに関するコンセンサスは得られておらず,研究ごとに,さまざまな指標が用いられている。そのため,効果の研究間の比較や薬剤間の比較が困難である。さらに,痛みや呼吸困難などの身体的苦痛がどの程度緩和されたかは,鎮静下で患者の自己評価が困難となることから,医療者や家族による代理評価とならざるを得ない。代理評価の信頼性や妥当性は十分に確認されていない。一方,興奮や意識水準に関してはRASSやADS,CCS などが信頼性・妥当性も示された方法として用いられている。総じていえば,鎮静は多くの場合で有効であると考えられるが,評価方法はまだ確立していないといえる。

(今井堅吾,永山 淳)

有害事象については記載されていない研究がほとんどであり,明確な記載があるのは5件の観察研究にとどまる(表4)10—12,15,16,38)。イギリスの単施設のホスピス(St. Chiristphers)の研究では,死亡した患者237 例のうち114 例(48%)が一定量以上の鎮静薬の投与(ミダゾラム10 mg/日,またはレボメプラジン25 mg/日,またはハロペリドール20 mg/日以上)を受けていた12)。大幅な鎮静薬増量(marked increase of sedative drug dose:死亡前48 時間で50%以上の鎮静薬増量,あるいはミダゾラム20 mg 以上・メトトリメプラジン(=レボメプロマジン)50 mg 以上の増量)により生命予後が短縮した可能性があるのは,臨床的な判断で2 例(1.8%)であるとした。

5.鎮静の安全性はどうか?

著者発表年効果の測定に用いた指標主要な結果限界Imai38) 2018不穏・意識水準緩和ケア用Richmond Agitation‒ Sedation Scale(RASS)平均値(95%信頼区間) Proportional sedation:鎮静前+1.2(+0.6~+1.6),4 時間後-1.7(-2.5~-0.9),24 時間後-2.0 (-3.1~-0.9)

Deep sedation:鎮静前+1.4(+0.3~+2.2),4 時間後-3.7(-4.7~-2.8),24 時間後-4.5 (-4.9~-4.0)

表3 鎮静の効果を評価した研究(つづき)
p.125
台湾の単施設の緩和ケア病棟の研究では,死亡した患者251 例のうち70 例(27.9%)が鎮静を受け,そのうち5.7%(4/70)で鎮静薬が原因と考えられるせん妄(drug—induced delirium)を認めたが,呼吸抑制は認めなかったと報告している10)。1997~2002 年に単施設の緩和ケアチームと緩和ケア病棟で実施された研究では,患者801 例のうち26 例(3.2%)にミダゾラムの持続的投与による鎮静を行った11)。鎮静を行った患者のうち1 例(3.8%)に重篤な有害事象が起こったとしている。身の置き所のなさに対してミダゾラムが合計90 mg 静脈内投与されたが,苦痛は緩和せず,投与開始後1 時間以内に死亡した。日本の21の緩和ケア病棟において持続的深い鎮静を受けた102例の患者を対象とした研究では,22 例(22%)に鎮静薬と関連した可能性があると臨床的に判断した重篤な有害事象が認められ,4 例(3.9%)は呼吸停止または心停止であった15,16)。重篤な有害事象とは,呼吸抑制(呼吸数8 回/分以下または前値に比べ50%以上の減少),呼吸停止,循環抑制(収縮期血圧60 mmHg 以下または前値に比べ50%以上の低下),心停止,誤嚥,誤嚥による肺炎,興奮と定義された。重篤な有害事象の予測因子として,せん妄が鎮静の対象症状である,不穏が強い,Palliative Performance Scale が良い,鎮静開始前の呼吸数が少ないことが挙げられた。本手引きで概念化されている鎮静方法の効果をみた50 例を対象とした1 施設の研究では,鎮静薬と関連した可能性があると臨床的に判断された有害事象の頻度は,proportional VIII章

表4 鎮静による有害事象の報告

著者発表年安全性の測定に用いた指標主な結果限界Chiu10) 2001記載なし70 例中4 例(5.7%)で鎮静薬によるせん妄を認めた鎮静薬が原因である判定の根拠について記載なしSykes12) 2003大幅な鎮静薬増量(marked increase of sedative drug dose)を,「死亡前48 時間で50%以上の鎮静薬増量,あるいはミダゾラム20 mg 以上またはメトトリメプラジン50 mg 以上の増量」と定義114 例中2 例(1.8%)で鎮静薬の投与によると考えられる死亡が生じた「大幅な鎮静薬増

量」に該当した場合に,鎮静薬の投与により生命予後が短縮した可能性があると判断した

Menten11) 2003記載なし26 例中1 例(3.8%)で鎮静薬の投与によると考えられる死亡が生じた因果関係の判断は医師の臨床的判断によるMorita15,16) 2005鎮静薬が原因の,呼吸抑制(呼吸回数8 回/分以下または

50%以上の低下と定義),循環抑制(収縮期血圧60 mg 以下または50%以上の低下と定義),心停止,誤嚥性肺炎,奇異性反応について記録合併症22%呼吸・循環停止3.9%(4 例),呼吸・循環抑制17.6%(18例),奇異性反応・興奮2.9% (3 例),誤嚥・誤嚥性肺炎

2.0%(2 例)因果関係の判断は医師の臨床的判断による

Imai38) 2018鎮静薬が原因とおそらく(probably)または明確に(definitely)判断された有害

事象:CTCAE Grade 3 以上proportional sedation の32例中1 例(3.8%),deep sedation の18 例中4 例(22.2%)に無呼吸。致死的

な有害事象は認めなかった因果関係の判断は医師の臨床的判断による
p.126
sedation で3.8%(1/32),deep sedation で22.2%(4/18)に無呼吸を認めた38)。致死的な有害事象は認めなかった。

[解 釈]鎮静薬によって生じうる有害事象について,鎮静をしていない患者群を対照群として比較した研究や,鎮静薬の投与方法によって有害事象の頻度を比較した研究はない。鎮静を行った患者を対象にした観察研究で有害事象を報告しているものは少ない。理由として,鎮静は死亡直前に用いられることが多いため,血圧の低下や呼吸数の減少が生じたとしても,鎮静薬の投与と因果関係があるかどうかを判断することが困難であるためと考えられる。実際,有害事象として報告されているものもすべて臨床医の判断に基づいて鎮静薬が関与した有害事象かの判断が行われており,主観的なバイアスが存在する。限られた情報では,持続的深い鎮静を受けた患者の2~4%で鎮静薬の投与が原因となり死亡を来した可能性があり,20%程度で呼吸数の低下などの合併症が生じうる。特に,過活動性せん妄があり,呼吸数が少ない患者は,重篤な有害事象を来すリスクが高い可能性がある。数値は過大評価,過小評価されているいずれの可能性もあり,対照群を設けた比較研究が行われなければ結論できない。

(今井堅吾,永山 淳)

鎮静の意思決定過程に患者,家族がどのように関わっていたかについて,医療者の評価による観察研究,遺族に対する質問紙調査などで調べられている(表5)10,15,16,35,39—42)。

6.患者・家族は意思決定にどのように参加しているか?

表5 鎮静の意思決定に患者・家族が関わる程度

前向き多施設観察研究(102 例,緩和ケア病棟21 施設,日本)前向き調査研究(251 例,大学病

院の緩和ケア病棟1 施設,台湾)後ろ向き研究(61 例,医療者

への質問紙調査,イギリス)遺族調査(185 例,緩和ケア病

棟7 施設,日本)

患者の参加鎮静直前の同意66% 43% 50% 55%反復した同意40% NA NA NAあらかじめの説明NA NA NA 75%表示できない理由意識障害・判断力低下認知障害:82%

認知障害:50%

家族の参加同意96% 93% 96% 89%説明内容治療の目的が苦痛緩和である:89%可能なコミュニケーションの程度:67%予測される経過: 68%鎮静しなかった場合の経過:60% NA:データ収集なし
p.127
鎮静前に患者の同意があったのは43~66%である。患者本人の意思が確認できなかった場合の多くの理由は,せん妄や意識障害を含む認知機能障害であった。40%では反復した同意があり,75%ではあらかじめの説明があった。一方,家族は,90%以上が意思決定に参加している。鎮静に関する説明をいつどのように聞きたいかの希望については,日本人の一般市民(457 例)を対象とした調査研究がある43)。鎮静によって意識が低下することや話ができる最後の機会になる可能性については,鎮静を受ける前に説明を受けたいと多くが希望している(表6—1,6—2)。しかし,説明を聞くタイミングについては,「病気を受け止められるようになってから説明してほしい」と「病状を受け入れていなくてもあらかじめ説明してほしい」に意見が分かれている。

[解 釈]鎮静は患者へ与える影響が大きいため,患者の希望を確認することは非常に重要である。しかし,実際には,鎮静を検討する前後で患者の意思を確認できるのは半数に限られている。その理由は,「鎮静を希望するか確認する前に意識障害やせん妄になった」「患者が病状を受け入れられる状態になるのを待っていたら,説明する機会がないまま病状が悪化した」「認知症・脳転移でもともと意思決定能力がなかった」のが主であると考えられる。「治療抵抗性の苦痛を生じたらどうするかをあらかじめ話し合っておいたほうがよいと周囲は考えていたが,患者に話を切り出すタイミングを先延ばしにしてきた」状況も考えられる。患者が意思表示できない場合には,家族から患者の推定意思を得て,意思決定の妥当性を担保する方法は90%以上で行われていると考えられる。

(久山幸恵,林ゑり子)

鎮静を受けた患者の家族の体験は,主に遺族調査で調べられている35,39,40,44)。国内外の研究において,多数の家族はおおむね鎮静を受けたことに満足している。日本

7.鎮静を受けた家族はどのような体験をしているか? VIII章

表6—1 鎮静に関する説明の希望:鎮静についてどの程度知りたいか

明確に知りたいそれとなく聞きたい聞きたくない

鎮静によって意識が低下すること85% 8% 7%話ができる最後の機会になる可能性86% 8% 6%

表6—2 鎮静に関する説明の希望:鎮静についてあらかじめいつ知りたいか病状を受け止められるようになってから早めに説明してほしい52%病状を受け入れていなくてもあらかじめ説明してほしい40%あらかじめの説明は必要ない7%

〔Morita T, et al. J Palliat Med 2002; 5: 375—8543)より引用〕

〔Morita T, et al. J Palliat Med 2002; 5: 375—8543)より引用〕
p.128
の調査では,家族の79%は鎮静にある程度満足していると回答し,16%がどちらともいえない,5%が不満足と回答した(図3)40)。鎮静を行った時期についても,77%は適切であったと回答し,7.0%/7.6%がそれぞれ遅すぎた/早すぎたと回答した。海外の研究では,鎮静を受けた患者と受けなかった患者の遺族とでは,抑うつや死に至る過程の質の評価に差がなかったとしている44)。一方,鎮静は苦痛緩和とひきかえに患者との会話をすることができなくなる行為である点から,少なからず家族が精神的な葛藤を経験する。例えば,「話ができなくなることがつらい」「病状の変化に気持ちがついていかなかった」「決める責任を負うことが重荷だった」「自分にまだできることがあると思った」「寿命が短くなったと思った」といった気持ちになりやすいことが示されている(図4)40)。鎮静を受けた患者の家族の気持ちのつらさとケアに対する満足度に関連することとし

図3 国内の鎮静を受けた遺族の鎮静の満足度(185 例,緩和ケア病棟7 施設,日本)

鎮静に満足している(やや満足~とても満足)どちらともいえない不満足

79%

16% 5 %

〔Morita T, et al. J Pain Symptom Manage 2004; 28: 557‒6540)より作成〕

75%患者の希望を優先して考えた49%話ができなくなることがつらかった38%病状の変化に気持ちがついていかなかった

25%決める責任を負うことが重荷だった25%自分にまだできることがあると思った

21%寿命が短くなったと思った

21%一番よいことをしている自信がもてなかった

15%家族全員で話し合う機会がほしかった14%意識がなく眠っている状態には尊厳がない14%医師や看護師に気持ちをくみとってほしかった11%そばにいることに意味を見出すのが難しかった

10%苦痛を和らげる他の方法があると思った3%眠ることを無理強いされている気がした

3%死の過程が長引いていると思った

2%法律的な問題が心配だった

0 20 40 60 80(%)

図4 鎮静を受けた患者の家族の体験(185 例,緩和ケア病棟7 施設,日本)

〔Morita T, et al. J Pain Symptom Manage 2004; 28: 557‒6540)より作成〕
p.129
て,1鎮静後も実際に苦痛が緩和されなかったこと,2説明が不十分だったこと,3鎮静のために寿命が短くなると思ったこと,4苦痛を緩和する他の方法があると思ったこと, 5意思決定をする責任を担うことが負担だったこと,6気持ちがついていかなかったこと,7つらい気持ちをくみとってもらえなかったこと,が挙げられている40)。

[解 釈]治療抵抗性の苦痛に対して実施された鎮静については家族の多くは満足し,実施した時期が適切だったと評価している。また,鎮静を行ったことが家族の悲嘆に悪い影響を与えているエビデンスはない。その一方で,これでよかったのだろうか,他にできることはなかったのだろうかという気持ちをもつ家族もいる。家族の苦痛を和らげるためには,精神的サポートや情報提供を十分に行うことが重要である。特に,手を尽くしたが苦痛を緩和する他の方法がないことを丁寧に伝える;鎮静のために寿命が短くなるかの見通しを具体的に伝える;意思決定をする際には「家族に決めてほしい」と決定を任せるのではなく,患者の推定意思を考える役割を依頼する;鎮静を実際に開始した場合には経過をしっかりと評価して目的とした苦痛緩和が得られるように投与量の調節を行うことが重要であることが示唆される。

(林ゑり子,久山幸恵)

鎮静が生命予後に与える影響は医学的に大きい関心事項であり,比較的多くの研究が行われている。Maltoni らの系統的レビュー,Beller らのコクランレビューに加えて,今回ハンドサーチにより得られた2 件の論文を検討した1,33,34,45)。18 論文に報告された合計6,281 例が対象となった。鎮静実施率は12~67%であった(表7)。鎮静の形式としては,持続的鎮静を対象としているものが多いが,間欠的鎮静を含んでいるもの,持続的深い鎮静のみに限定しているものなどさまざまであった。実施場所は,ホスピス・緩和ケア病棟11 論文,在宅4 論文,病院2 論文,複数にまたがるもの1 論文であった。生存期間の定義は,すべての研究で,入院や在宅サービスの開始が観察の起点となっていた。ホスピス・緩和ケア病棟の入院・在宅サービスの開始後を起点とした生存期間は,鎮静を受けた患者で7~64 日,鎮静を受けなかった患者で6~63 日であった。鎮静を受けた患者のほうが生存期間の長かったとした1 論文を除いて,すべての研究で生存期間に有意差を認めなかった。ほとんどが生存期間を単純に比較したものであるが,患者背景を揃えたマッチドコホートや傾向スコアマッチングによる方法でも生存期間に差はなかった1,33)。

[解 釈]鎮静が生命予後に影響を与えるかという臨床疑問は完全に明らかにすることは理論上難しい。なぜなら,この疑問を検証するには,緩和困難な苦痛のある患者に鎮静を実施するか実施しないかをランダム割り付けして比較試験を行う必要があるが,このような臨床試験を行うことは倫理的にも実施上も不可能と考えられるためである。

8.鎮静は生命予後を短くするのか?

VIII章
p.130
表7 鎮静と生存期間の関係を検討した研究

著者/発表年/国治療場所症例数/鎮静実施率鎮静の定義形式鎮静を受けた患者の生存期間*(日)鎮静を受けなかった患者の生存期間*(日) p 値Ventafridda/ 1990/イタリア2)在宅120/52.5%持続的鎮静中央値25 23 0.57 Stone/1997/イギリス6)緩和ケア病棟115/26.0%持続的鎮静平均値18.6 19.1 >0.2 Fainsinger/1998/南アフリカ46)緩和ケア病棟76/30.3%間欠的鎮静,持続的鎮静平均値9 6 0.09 Chiu/2001/台湾10)緩和ケア病棟251/27.9%間欠的鎮静,持続的鎮静平均値28.5 24.7 0.43 Muller—Busch/ 2003/ドイツ13)病院548/14.6%間欠的鎮静,持続的鎮静平均値21.5 21.1 NS Sykes/2003/イギリス12)緩和ケア病棟237/48.0%持続的鎮静平均値14.3 14.2 0.23 Kohara/2005/日本17)病院124/50.3%間欠的鎮静,持続的鎮静平均値28.9 39.5 0.10 Vitetta/2005/オーストラリア18)緩和ケア病棟102/66.7%間欠的鎮静,持続的鎮静平均値36.5 17.0 0.12 Bulli/2007/イタリア20)在宅331/14%持続的深い鎮静中央値23 23 NS Bulli/2007/イタリア20)在宅744/12%持続的深い鎮静中央値24 17 NA Rietjens/2008/オランダ21)緩和ケア病棟157/43.0%持続的深い鎮静中央値8 7 0.12 Maltoni/2009/イタリア22)ホスピス518/25.1%すべて中央値12 9 0.330 Mercadante/ 2009/イタリア37)緩和ケア病棟77/54.5%間欠的鎮静,持続的鎮静平均値6.6 3.3 0.003 Alonso—Babarro/ 2010/スペイン25)在宅245/12%詳細不明平均値64 63 0.963 Maltoni/2012/イタリア28)緩和ケア病棟327/22%記載なし平均値11 9 0.51 Radha Krishna/ 2012/シンガポール47)緩和ケア病棟238/25%詳細不明中央値8 8 0.78 Gu/2015/中国45)緩和ケア病棟244/34%間欠的鎮静,持続的鎮静平均値27 22 0.066 Maeda/2016/日本33)病院,緩和ケア病棟,在宅1,827/15%持続的深い鎮静中央値27 26 0.20 *生存期間は入院や在宅サービスの開始を観察の起点としている(鎮静期間は数日以下)。NS:有意差なし,NA:not available
p.131
次善策として,観察研究のデータを用いてこの疑問が検討されてきた。観察研究には,さまざまな限界がある。すなわち,1入院や在宅サービスの開始が観察の起点となっており,鎮静の対象となる苦痛が生じてからの生存期間が比較されない(鎮静を受けていない群で「緩和困難な苦痛が生じてから」に相当する時期を特定できないため),2定義があいまいなため間欠的鎮静,持続的鎮静,鎮静の深さなど複数の鎮静方法が混在している,3対象集団の背景の違いや実施された治療・共治療の違いなどさまざまな交絡因子の影響が調整されていないものが多い(補正したとしても,測定されていない要因は補正できない),4単施設での検討が多い,という限界がある。現状明らかになっていることとして,集団の平均として,鎮静を受けた患者と受けなかった患者とで,観察が開始されてから(入院や在宅サービスの開始から)死亡までの期間に差があるという研究知見はない。したがって,もともと鎮静薬の投与を受ける患者の全身状態が不良である(鎮静薬の投与を受けなかったとしても生命予後が限られている)ことを考えれば,苦痛緩和のための鎮静は,臓器障害を伴う生命予後が日の単位と考えられる患者に実施する限りにおいては,生命予後を極端に短くすることは少ないように思われる。一方,全身状態がそれほど不良ではない患者に実施された場合(臓器障害を伴わない患者の精神的苦痛や痛みなど)に生命予後を短縮することは医学的に想定できる。

(前田一石)

在宅における治療抵抗性の苦痛と鎮静の実態については,2011 年の系統的レビューが1件あり,2010 年までに出版された鎮静についての6 件の研究をまとめている48)。今回,これに加えて,2011 年から2017 年6 月までの研究についてPubMed で検索したものとハンドサーチから,在宅での治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する4 論文を追加した合計10 論文について検討した31,32,49,50)。概要を表8 にまとめた。イタリアの研究がほとんどであり,イタリア,イスラエル,スペイン,日本以外の国・地域からの報告はなかった。鎮静の定義は「緩和困難な症状による耐えがたい苦痛を緩和するために,鎮静薬を使用し患者の意識を下げること」としているものが多かった。「薬物の投与で,完全に意識を消失させること」としているものや,定義をしていないものもあった。鎮静の頻度は5~53%と各研究間での差が大きかった。累計すると3,429 例中502 例(15%;95%信頼区間13~16%)に鎮静が実施されていた。鎮静の適応となる主要な症状は,せん妄,呼吸困難,痛みであり,鎮静期間は7 日未満のものがほとんどであった。鎮静に用いられた薬剤はほとんどがミダゾラムであり,投与量は12~144 mg/日であった。レボメプロマジン,フェノバルビタール,オピオイドも使用されていた。日本では,フェノバルビタール坐薬,ブロマゼパム坐薬も使われていた。オピオイドは単独投与されることも,ミダゾラムと併用されることもあった。治療効果は,確立した尺度がないことから,患者・家族または医療者・介護者による苦痛の評価(NRS)や,家族の満足度などが報告されていた。「治療効果は数時間以内に得られた」と記載があるのみや,治療効果についての記載がないものもあった。坐薬の効果を

9.在宅において治療抵抗性の苦痛は生じるか?

VIII章
p.132
表8 在宅療養中のがん患者に対する鎮静に関する研究

著者/発表年/国研究デザイン患者背景全患者数(鎮静を受け

た患者割合)主な薬剤と投与量

(mg/日)主な症状鎮静期間

Ventafridda/ 1990/イタリア2)前向き・単施設年齢全患者(154 例)平均65.5歳(20~89)対象がん患者のみ63/120 (52%)モルヒネ,メサドン,ジアゼパム,クロルプロマジン,ハロペリドール呼吸困難,痛み平均49.2 時間(SD 65.7) Peruselli/1999/イタリア7)前向き・多施設年齢全患者(401 例)平均70 歳(23~94)

対象がん患者のみ90/356 (25%) NA NA NA

Bulli/2007/イタリア20)前向き・多施設年齢鎮静を受けた患者平均68.4歳(2000 年),67.5 歳(2003~2004 年)

対象すべての終末期患者136/1,075 (13%) (がんではな

い患者3 例を含む)抗精神病薬,ミダゾラム,オピオイドNA最頻値1 日(1,2~4,

5~10 日に3区分して頻度が記載されている)

Rosengarten/ 2009/イスラエル24)後ろ向き・単施設年齢鎮静を受けた患者平均65 歳(33~92)

対象がん患者35 例,ALS 1 例36/720 (5%)モルヒネ(12~ 240),ミダゾラム(12~144)痛み,せん妄中央値3 日(4 時間~13

日)

Porzio/2010/イタリア51)後ろ向き・単施設年齢鎮静を受けた患者平均70 歳対象すべてがん患者16/44 (36%)ミダゾラム(24~ 48)せん妄,呼吸困難平均3.6 日(2~7) Alonso‒Babarro/ 2010/スペイン25)後ろ向き・単施設年齢鎮静を受けた患者平均57.6歳対象すべてがん患者29/245 (12%)ミダゾラム(58~ 97)せん妄,呼吸困難平均2.6 日(1~10) Mercadante/ 2012/イタリア49)後ろ向き・多施設年齢全患者の平均72.3 歳(SD 12)対象すべてがん患者49/370 (13.2%)ミダゾラム(平均28.1)+モルヒネ(平均25.4)せん妄,呼吸困難平均86 時間(SD 242) Mercadante/ 2014/イタリア31)前向き・多施設年齢鎮静を受けた患者平均67 歳(SD 19)

対象すべてがん患者24/176 (13.6%)ミダゾラム(23~ 58)せん妄,呼吸困難平均42.2 時間(SD 30.4)

Calvo‒Espinos/ 2015/スペイン32)後ろ向き・単施設年齢鎮静を受けた患者平均70 歳対象すべてがん患者35/250 (14%)ミダゾラム(平均40)またはレボメプロマジン(平均70)せん妄平均3 日新城/2015/日本50)後ろ向き・単施設年齢全患者平均71 歳(SD 13) 24/73 (33%)ミダゾラム(平均12)せん妄平均4.4 日(SD 6) NA:not available(論文中にデータなし),SD:標準偏差
p.133
検証した研究はなかった。

[解 釈]在宅療養中のがん患者にも治療抵抗性の苦痛は生じる。限界としては,治療環境のほとんどが専門緩和ケアサービスであり,国や地域の単位で代表性のある在宅患者における鎮静の頻度や実態は不明である。また,イタリア,スペイン,日本以外の国における実態も不明である。さらに,在宅における研究に限ったことではないが,鎮静の定義そのものが統一していないこと,効果を評価する指標がないことから,個々の研究の結果が何を意味しているのかの解釈は慎重に行う必要がある。

(新城拓也)

VIII章
p.134
10.資 料

著者発表年国研究デザインセッティング年齢全身状態(Performance Status)疾患鎮静頻度(例数)鎮静対象となった症状の割合(例数) Ventafridda 1990イタリア2)前向き観察研究単施設のホームケアプログラム中央値65.5 歳(範囲20~89) ECOG PS 中央値3全例がん肺33%(21 例),上部消化管14% (9 例),頭頸部

13%(8 例),大腸11%(7 例) 53%(63/120)呼吸困難52%(33),痛み49%(31),せん妄17%(11),嘔吐6%(4)

Mclver 1994アメリカ36)前向き観察研究単施設の緩和ケアプログラム(入院,在宅両方)中央値66 歳(範囲16~81)がん95% (19 例,肺6 例,

血液6 例,乳房2例,不明2 例,腎1 例,膵1 例,子宮頚1 例) AIDS 5%(1 例) 24%(20/82)入院(10),在宅(10)呼吸困難50%(10), Restlessness(身の置き所のなさ)50% (10)

Peruselli 1999イタリア7)前向き観察研究56 施設のPCU と2 施設のホスピス(入院・在宅両方)中央値70 歳(範囲23~94)鎮静施行しなかった患者も含む全例がん全体25%(90/ 356)入院32%,在宅23%記載なし

Fainsinger 2000カナダ8)前向き観察研究1 施設のPCT,1施設の急性期PCU,3 施設の入院ホスピスPCT 平均71 歳(標準偏差12)

急性期PCU 62歳(13)入院ホスピス73歳(11)全例がんPCT 6%(3) PCU 10%(5)入院ホスピス4% (2)すべての施設をあわせてせん妄90%(9),呼吸困難10%(1)

資料 苦痛緩和のための鎮静に関する観察研究

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟
p.135
VIII章

薬剤投与量投与期間効果指標評価尺度主な効果重篤な有害事象薬剤: オピオイド,向精神病薬いずれか,または両方の増量投与量:記載なし期間:平均49 時間(標準偏差66) (耐えられない症状が出現してから死亡までの期間)指標:症状コントロール意識水準,眠るまで薬剤を増量尺度:記載なし効果:記載なし記載なし薬剤:クロルプロマジン投与量: 静注,開始時の1 回投与量中央値12.5 mg(範囲6.5~25),4 時間毎投与坐薬,開始時の1 回投与量中央値25 mg(範囲6~50),8~12 時間毎投与期間:中央値1 日(範囲1~5)指標:意識水準尺度: Patient’s level of arousal;1=awake,2=asleep

but easily arousable,3=asleep but difficult to arouse,4=unresponsive効果: 鎮静開始後 中央値2(自宅)~3(入院)

指標:身の置き所のなさ尺度: Degree of restlessness:1=none,2=mild,3= moderate,4=severe効果:記載なし

指標:全般的効果尺度: Effectiveness;1=none,2=partial,3=complete効果: 鎮静開始後初回評価3=70%,2=30%死亡前3=90%,2=10%記載なし

記載なし指標:包括的評価尺度: Support Team Assessment Schedule(STAS);0

(none)to 4(worst)効果: 死亡前1 週間(鎮静なしの患者も含む)

痛み0=38%,1=24%,2=19%,3=12%, 4=7%痛み以外の身体症状0=17%,1=20%,2= 26%,3=28%,4=9%記載なし

薬剤:ミダゾラム50%(5 例)投与量:4 例1 mg/時間,1 例4~6 mg/時間

薬剤:レボメプロマジン30%(3 例)投与量:12.5~25 mg/日

薬剤:ジアゼパム10%(1 例)投与量:10~30 mg/日

薬剤:ロラゼパム10%(1 例)投与量:2~3 mg/日

期間: すべての施設,すべての薬剤投与をあわ

せて中央値2 日(範囲1~5)指標:症状コントロール尺度: 症状コントロール(good,average,poor,missing)効果:記載なし

指標:意識水準尺度: alert,sleepy/drowsy,not responding,missing効果:記載なし記載なし

(つづく)
p.136
著者発表年国研究デザインセッティング年齢全身状態(Performance Status)疾患鎮静頻度(例数)鎮静対象となった症状の割合(例数) Fainsinger 2000イスラエル,南アフリカ,スペイン9)前向き観察研究4 施設の入院PCU または入院ホスピス4 施設それぞれの平均:59 歳(標準偏差19),61 歳(14),66歳(13),

67 歳(14)鎮静施行しなかった患者も含むがん96%(362/ 387 例) AIDS 3%(10/ 387 例)その他1%(5/ 387 例)全施設:25%(97/ 387)施設ごとの数値: 15%(15/100), 22%(22/100), 29%(27/94), 36%(33/93)せん妄61%(59),呼吸困難26%(25)

Chiu 2001台湾10)前向き観察研究単施設のPCU 35 歳以下6.8% (19/276)

36 歳~50 歳13.0%(36 例) 51~64 歳29.1% (80 例) 65 歳以上51.1% (141 例)全例がん肺21%(57 例),肝20%(56 例),大腸10%(27例),耳鼻咽喉6%(16例),膵5%(13例),胃5%(13例)転移がある患者の割合は82%(227例) 28%(70/251)せん妄57%(40/70),呼吸困難23%(16),痛み10%(7),不眠7%(5)

Sykes 2003イギリス12)後ろ向き観察研究単施設のPCU平均69.7 歳鎮静施行しなかった患者も含むがん消化管28%,肺22%,乳房11%,原発不明7%,泌尿生殖器6%,頭頸部3%,その他(非がんも含まれ

るか不明)23% 48%(114/237)記載なし

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟

資料 苦痛緩和のための鎮静に関する観察研究(つづき)
p.137
VIII章

薬剤投与量投与期間効果指標評価尺度主な効果重篤な有害事象薬剤:ミダゾラム71%(69/97)投与量:施設ごと 中央値15~53 mg/日

薬剤:ハロペリドール9%(9/97)薬剤:ロラゼパム9%(8/97)期間:施設ごとの中央値1~3 日指標:全般的評価尺度: Adequacy of symptom control:Good,Fair,Poor効果: 死亡6 日前Good=53~75%,Fair=18~35%,

Poor=2~16%死亡日Good=74~89%,Fair=11~19%,Poor

=0~5%

指標:意識水準尺度: Level of consciousness:Alert,Drowsy,Unresponsive効果: 死亡6 日前Alert=69~82%,Drowsy=16~ 31%,Unresponsive=0~1%死亡日Alert=3~12%,Drowsy=18~29%,

Unresponsive=60~73%記載なし

薬剤:ハロペリドール50%(35 例)ミダゾラム24%(17 例)モルヒネ増量13%(9 例)投与量:記載なし期間:中央値5 日指標:痛み尺度: Pain score 0~10(医療者による客観評価)効果: 死亡2 日前の平均値 鎮静群2.5 vs. 非鎮静群2.1

指標:呼吸困難尺度:Dyspnea score 0~10 (医療者による客観評価)効果: 死亡2 日前の平均値 鎮静群3.0 vs. 非鎮静群2.9

指標:せん妄尺度:Delirium score 0~3 (医療者による客観評価)効果: 死亡2 日前の平均値 鎮静群1.8 vs. 非鎮静群1.1記載なし

薬剤:ミダゾラム投与量: 死亡日中央値23 mg/日で死亡日前日中央値10 mg/日よりも有意に増加(7 日以上ミダゾラム投与を受けている患者を除いた値)

薬剤:メトトリメプラジン投与量: 中央値50 mg/日で,投与日による有

意差はなし

期間: 13%(15 例)は最期の7 日間鎮静を行った56%(64 例)は最期の48 時間以内の鎮

静期間だったが,このうち36 例は24 時間以内だった指標:鎮静薬投与期間と生存期間尺度:記載なし効果: 48 時間未満の鎮静グループ(14.2 日)と,鎮静を

受けなかったグループ(14.3 日)は,鎮静を7 日以上受けたグループ(36.6 日)と比べて入院から死亡までの期間が短かった1.8%(2/114例)で鎮静薬の使用によると考えられる死亡を来した

(つづく)
p.138
著者発表年国研究デザインセッティング年齢全身状態(Performance Status)疾患鎮静頻度(例数)鎮静対象となった症状の割合(例数) Menten 2003ベルギー11)前向き観察研究同一施設内の,1つのPCT と1 つのPCU平均59 歳全例がん全体2% (26/1,261)

PCT 0.1% (10/750) PCU 3% (16/511)実存的苦痛50%(13/ 26),不安と身の置き所のなさ23%(6),精神的苦痛19%(5),痛み15%(4)

Cameron 2004南アフリカ14)前向き観察研究単施設の入院ホスピス平均68 歳全例進行がん20%(20/100)けいれん65%(13),活動性せん妄45% (9),嘔吐25%(5),

呼吸困難10%(2),痛み5%(1)

Morita 2005日本15,16)前向き観察研究21 施設のPCU平均63 歳(標準偏差13)全例がん肺22%(23 例),胃15%(16 例),泌尿器8.8%(9例),結腸6.9% (7 例),卵巣・子

宮6.9%(7 例),膵5.9%(6 例),食道5.9%(6例),肝4.9%(5 例)平均19%(268/ 1,432,268 例中,各施設7 例を上限とした102 例について解析)各施設の中央値11%(範囲0~ 76%)倦怠感43%(44),呼吸困難40%(41),せん妄33%(34),気道分泌過多23%(24),痛み14%(15)

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟

資料 苦痛緩和のための鎮静に関する観察研究(つづき)
p.139
VIII章

薬剤投与量投与期間効果指標評価尺度主な効果重篤な有害事象薬剤:ミダゾラム投与量: 7.5~15 mg 皮下単回投与で開始,範囲15~450 mg/日期間:中央値2 日(範囲1~10)指標:症状コントロール尺度:記載なし効果: 48 時間後92%(24/26)で完全な症状コントロー

ル達成3 . 8 %(1 /2 6例)で鎮静薬の使用によると考えられる死亡を投与開始後1 時間以内に来した

薬剤:ミダゾラム投与量:平均18.5 mg/日(範囲7.5~40 mg)

薬剤:ハロペリドール投与量:平均8 mg/日(範囲5~10 mg)

期間:平均92 時間(範囲6~369 時間)指標:症状コントロール尺度:記載なし効果:記載なし記載なし薬剤:ミダゾラム78 例投与量: 開始時の中央値1.5 mg/時間(範囲

0.25~20),最大投与量の中央値36 mg/日(範囲1.8~330)

薬剤:フェノバルビタール35 例投与量: 開始時の中央値20 mg/時間(範囲5~

80),最大投与量の中央値530 mg/日(範囲20~1,920)

期間(全例):中央値48 時間(範囲0.1~408)指標:全体の苦痛の程度尺度: symptom severity scale(SS scale);0=なし~

4=耐えがたい苦痛が前1 時間のうち15 分以上効果: SS scale 3,4 の患者割合は,鎮静前46%,4 時

間後3%,24 時間後0%

指標:呼吸困難尺度:SS scale効果: 3,4 の患者割合は,鎮静前39%,4 時間後8%,

24 時間後2%

指標:痛み尺度:SS scale効果: 3,4 の患者割合は,鎮静前18%,4 時間後2%,

24 時間後1%

指標: Agitation Distress Scale;6 項目,合計0(best)~ 18(worst)効果: 平均値(標準偏差)は,鎮静前7(4),4 時間後2

(3),24 時間後1(2)

指標:気道分泌過多尺度: Back severity scale;0=聴取しない~3=部屋の入口で聴取効果: 2,3 は鎮静前25%,4 時間後18%,24 時間後

17%

指標:コミュニケーション尺度: Communication Capacity Scale:5 項目,合計0 (best)to 17(worst)効果: 平均値(標準偏差)は,鎮静前8.3(5),4 時間後

15(3),24 時間後15(3)合併症22%呼吸・循環停止3.9%(4 例),呼吸・循環抑制18 例,奇異性反応・興奮3例,誤嚥・誤嚥性肺炎2 例

(つづく)
p.140
著者発表年国研究デザインセッティング年齢全身状態(Performance Status)疾患鎮静頻度(例数)鎮静対象となった症状の割合(例数) Lundström 2005スウェーデン52)前向き観察研究単施設のPCU中央値54 歳(範囲28~84) 2 例は症状軽減で鎮静中止し,1 例は退院,1 例は転院した全例がん(22)

1995 年から2004年までにプロポフォールを使用した患者数は22 例であるが,母数不明のため鎮静頻度は不明不安/不穏41%(9),痛み+不安41%(9),実存的苦痛18%(4)

Cowan 2006アメリカ19)前向き観察研究単施設のPCT(入院・在宅両方)中央値70 歳(範囲45~89)入院86%(24例),在宅14%(4 例) ECOG PS4 82% (23 例),PS 3 18%(5 例)がん57%(16例),肺疾患(非がん) 21%(6 例),心血管疾患14%(4例),神経疾患7% (2 例)全患者の2.3% (28/1,200)

PCT 介入中患者の6%(28/456)痛み39%(11),呼吸困難18%(5),痛み+呼吸困難14%(4),不穏7%(2),ミオクローヌス7%(2),けいれん7%(2)

Elsayem 2009アメリカ23)後ろ向き観察研究単施設のがんセンターPCU中央値58 歳(範囲20~84)全例がん186 例肺33%(61 例),血液15%(28例),消化管15%(27例),頭頸部9% (17 例),泌尿生

殖器8%(15 例),婦人科系6%(12例)生存退院含めた全患者の15%(186/ 1,207) PCU 死亡患者の41%(143/352)せん妄単独82% (153),呼吸困難単独

6%(11),出血4% (7),せん妄とけいれん4%(7),せん妄と呼吸困難3%(5)

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟

資料 苦痛緩和のための鎮静に関する観察研究(つづき)
p.141
VIII章

薬剤投与量投与期間効果指標評価尺度主な効果重篤な有害事象薬剤:プロポフォール100%投与量: 開始中央値1.0 mg/kg/時間(範囲0.6~2.0)維持量平均0.90~2.13 mg/kg/時間(範囲0.5~6.0)期間:中央値3.5 日

薬剤: ミダゾラム(プロポフォール使用に先行してミダゾラムが82%(18 例)で投与されていた)投与量:中央値37.5 mg/日(範囲5~200)

薬剤:ジアゼパム73%(16 例)投与量:中央値20 mg/日(範囲5~50)指標:症状コントロール尺度:Scales for symptoms(0~10)効果:記載なし

指標:全般的な効果尺度: Overall effect(poor,inadequate,good,exellent),医師,看護師による総合評価効果: excellent 59%(13 例),good 32%(7 例),

inadequate 9%(2 例)

指標:意識水準尺度:記載なし効果: 41%(9 例)ではconcious sedation が可能であっ

た記載なし

薬剤:クロルプロマジン75%(21 例)投与量: 開始中央値2 mg/時間(範囲2~4),維持中央値4 mg/時間(範囲2~10)期間:中央値3 日(範囲0~6)

薬剤:ミダゾラム25%(7 例)投与量: 開始中央値0.5 mg/時間(範囲0.2~ 1.0),維持中央値2.4 mg/時間(範囲0.9~15)期間:中央値8 日(範囲3~24)

クロルプロマジンとミダゾラム全体での

期間は,中央値3 日(範囲0~249)指標:症状コントロール尺度: controlled(8 時間の鎮静薬投与量が安定し苦痛が

ない),improved(症状による不快が軽減したが, controled ではない),uncontrolled(上記以外)効果: 全体では,controlled 82%,improved 18%, uncontrolled 0%クロルプロマジンでは,controlled 81%, improved 19%,uncontrolled 0%ミダゾラムでは,controlled 86%,improved

14%,uncontrolled 0%記載なし

薬剤:クロルプロマジン57%(106 例)ロラゼパム33%(62 例)ミダゾラム10%(18 例)投与量:記載なし期間:記載なし指標:症状コントロール尺度:Edmonton Symptom Assessment System(ESAS)効果:記載なし

指標:使用薬物別死亡退院の割合効果: クロルプロマジン76%(81 例),ロラゼパム71%

(44 例),ミダゾラム100%(18 例)記載なし

(つづく)
p.142
著者発表年国研究デザインセッティング年齢全身状態(Performance Status)疾患鎮静頻度(例数)鎮静対象となった症状の割合(例数) Maltoni 2009イタリア22)前向き観察研究鎮静有無の2 群コホート研究(鎮静あり267

例,鎮静なし251例) 4 施設のホスピス中央値70 歳(範囲22~100)全例がん267 例肺26%(68 例),大腸16%(42例),胃9%(25 例),膵8%(21 例),乳房8%(21 例) 2 5 . 1 %(2 6 7 / 1,064)せん妄・興奮79% (210),呼吸困難

20%(52),痛み11% (30),精神的と身体的苦痛19%(50),精神的苦痛のみ6% (16)

Mercadante 2009イタリア37)前向き観察研究単施設のPCU平均61 歳(標準偏差13) Kernofsky Performance Status:全例20 以下全例がん55%(42/77)呼吸困難60%(25),せん妄57%(24),精神的苦痛12%(5),痛み10%(4)

Claessens 2011ベルギー26)前向き観察研究8 施設のPCU中央値70 歳Palliative Performance Scale 中央値20全例がん20 例乳房25%(5 例),腸管20%(4 例),肺20%(4 例) 7.5%(20/266)治療抵抗性症状痛み25%(5),well‒ beingの喪失25%(5),不安20%(4),倦怠感15%(3),呼吸困難15%(3),悪心5% (1),抑うつ5%(1),

眠気5%(1),食欲低下5%(1)

Maltoni 2012イタリア28)前向き観察研究2 施設のホスピス中央値68 歳(範囲18~100) Kernofsky Performance Status 94%は10~20全例がん31.9%(72/226)治療抵抗性症状せん妄61%,実存的苦痛38%,呼吸困難29%,痛み21%

資料 苦痛緩和のための鎮静に関する観察研究(つづき)

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟
p.143
VIII章

薬剤投与量投与期間効果指標評価尺度主な効果重篤な有害事象薬剤:ロラゼパム38%(101 例)投与量:平均4.9 mg/日(標準偏差3.8)薬剤:クロルプロマジン33%(101 例)投与量:平均56 mg/日(50)薬剤:モルヒネ26%(68 例)投与量:平均41 mg/日(40)薬剤:プロメタジン24%(63 例)投与量:平均49 mg/日(52)薬剤:ハロペリドール23%(61 例)投与量:平均4 mg/日(2)薬剤:ジアゼパム9%(24 例)投与量:26 mg/日薬剤:ミダゾラム8%(20 例)投与量:平均42 mg/日(25)期間: 各薬剤をあわせた全体の中央値2 日(範

囲0~43)

鎮 静薬1 種49%,2 種33%,3 種17% Proportional sedation 88% Sudden sedation 12%指標:生存期間効果:鎮静有無で生存期間に有意差なし

指標:意識水準尺度:記載なし効果: 浅い鎮静(mild sedation)と深い鎮静(deep seda-

tion)の割合はおよそ2:1記載なし

薬剤:ミダゾラム投与量:30~40 mg/日で開始平均62 mg/日(標準偏差47)期間:中央値22 時間(範囲2~160)指標:意識水準尺度:Communication Capacity Scale,item 1 0=覚醒しており眠気はない,1=眠気がある,2=

起きているために努力が必要,3=言語的な刺激により覚醒,4=身体的な刺激により覚醒,5=身体的な刺激でも覚醒しない効果: 平均値(標準偏差)は,鎮静開始前1(1.1),6 時

間後4(0.9),死亡直前4.5(0.6)

指標:興奮尺度: Agitated Delirium;0=not at all,1=slight,2= a lot,3=awful効果: 平均値(標準偏差)は,鎮静開始前1.5(1.1),6

時間後0.03(0.2),死亡直前0.1(0.3)記載なし

鎮静薬:記載なし期間:平均2.5 日40%が浅い持続鎮静,40%が深い持続鎮静で開始し,死亡日には85%が深い持続鎮静指標:意識水準尺度:Glasgow Coma Scale効果:記載なし記載なし

薬剤:ミダゾラム96%投与量:中央値60 mg/日(範囲15~450) Proportional Sedationl 99% Sudden Sedation 1%期間:平均32 時間(範囲2.5~253)指標:意識水準尺度: Richmond Agitation‒Sedation Scale(RASS)効果: RASS がマイナスになるまで6 時間毎,それ以降

は24 時間毎に測定したところ,開始直後にRASSはマイナスとなった苦痛緩和するために58%ではRASS-5,42%で

はそれよりも浅い鎮静水準で苦痛緩和された記載なし

(つづく)
p.144
資料 苦痛緩和のための鎮静に関する観察研究(つづき)著者発表年国研究デザインセッティング年齢全身状態(Performance Status)疾患鎮静頻度(例数)鎮静対象となった症状の割合(例数) Caraceni 2012イタリア29)後ろ向き観察研究(カルテレビュー)

単施設のがんセンターPCT中央値58 歳(範囲48~69)鎮静を施行しなかった患者も含むPalliative Progn o s t i c S c o r e (PaP score):鎮

静施行者は全例17.5 以上全例がん129 例乳房23%(30例),肉腫20%(25例),消化管13%(17例),泌尿生殖器9%(12 例),肺8%(10 例),血液7%(9 例),頭頚部7%(9 例)鎮静を施行しなかった患者も含む64%(83/129) PCT が介入した2,033 例中,160例が死亡しそのうち129 例を解析した呼吸困難とせん妄31%(26),呼吸困難23%(19),せん妄(精神運動性興奮を伴う) 17%(14),精神運動性興奮16%(13)

Mercadante 2014イタリア31)前向き観察研究2 施設の在宅PCU平均67 歳全例がん14%(24/176)せん妄83%(20),呼吸困難17%(4)

Imai 2018日本38)前向きデータの後ろ向き解析単施設のPCU平均(標準偏差) P r o p o r t i o n a l sedation 68 歳(11.9)

Deep sedation 70 歳(10.5)全例がん大腸10 例,肺9例,食道6 例,胃6 例,胆管胆囊5例,子宮卵巣5例,膵5 例,軟部組織2 例,その他2 例12.6%(50/398)せん妄74%(37),呼吸困難62%(31),痛み16%(8),悪心・嘔吐10%(5),心理実存的苦痛のみ0% (0)

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟
p.145
VIII章

薬剤投与量投与期間効果指標評価尺度主な効果重篤な有害事象薬剤:ミダゾラム46%(32 例)投与量:中央値17.5 mg/日(範囲5~75)薬剤:ハロペリドール35%(24 例)投与量:中央値4 mg/日(範囲1.5~24)薬剤:クロルプロマジン32%(22 例)投与量:68 mg/日(範囲50~100)期間:中央値18 時間(範囲4~216)指標:症状コントロール尺度: 症状の有無を評価(眠気,興奮,混乱,消化器症

状,呼吸困難,痛み,精神的苦痛)効果:記載なし

指標:全般的な効果尺度:記載なし効果:83%(69/83 例)で鎮静は有効であった無効であった17%(14 例)は,4 例は終末期急性

症状(呼吸困難3 例,出血1 例)を認め,3 例は病棟スタッフが鎮静を実施せず,7例は評価できなかった記載なし

薬剤:ミダゾラム100%で使用投与量: 投与開始平均27 mg/日(標準偏差4),最大値58 mg/日(36)期間:平均42 時間(30)

薬剤:ハロペリドール46%で使用投与量: 投与開始平均9 mg/日(4),最大値13

mg/日(4)

薬剤: クロルプロマジン開始時200 mg/日1例

で使用,48 時間後225 mg/日(163)4例で使用指標:コミュニケーション尺度: Communication Capacity Scale:5—item,total 0

(best)to 17(worst)効果: 平均(標準偏差)は,鎮静開始前12(3),24 時

間後16(1)

指標:不穏尺度: Agitation Distress Scale:6 項目,合計0(best) to 18(worst)効果: 平均(標準偏差)は,鎮静開始前10(5),24 時

間後2(3)

指標:症状の強さ尺度: NRS,患者が答えられない場合,家族の代理評価効果: 平均(標準偏差)は,痛みは評価できなかったせん妄は,開始前6(3),24 時間後1(2)呼吸困難は,開始前3(4),24 時間後1(2)記載なし

薬剤:全例ミダゾラムを使用

Proportional sedation投与量: 投与開始平均0.8 mg/時間(標準偏差0.4),最大値2.1 mg/時間(1.6)期間:中央値75.5 時間(範囲10~444)

Deep sedation投与量: 投与開始平均3.5 mg/時間(標準偏差2.9),最大値4.2 mg/時間(2.7)期間:中央値42.5 時間(範囲1~269)指標:苦痛の程度尺度:STAS item 2効果:平均値(95%信頼区間) Proportional sedation鎮静前3.8(3.6~3.9),4 時間後0.8(0.5~1.2),24 時間後0.8(0.5~1.1) Deep sedation鎮静前3.7(3.5~4.0),4 時間後0.3(0~0.7),24 時間後0.3(0~0.6)

指標:意識水準と不穏の程度尺度: 緩和ケア用Richmond Agitation—Sedation Scale (RASS)効果:平均値(95%信頼区間) Proportional sedation鎮静前+1.2(+0.6~+1.6),4 時間後-1.7(-2.5~ -0.9),24 時間後-2.0(-3.1~-0.9) Deep sedation鎮静前+1.4(+0.3~+2.2),4 時間後-3.7(-4.7~ -2.8),24 時間後-4.5(-4.9~-4.0) Proportional s e d a t i o n の3 . 8 %(1 /3 2例),d e e p s e d a t i o n の22.2%(4/18例)に無呼吸を認めた致死的な重篤な有害事象は認めなかった

(今井堅吾,永山 淳)
p.146
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liative cancer care. J Pain Sympt Manage 2005;30:570—7 VIII章
p.148

        
p.149
IX章 法的検討(資料)
p.150
本稿は,本手引きの法律上の妥当性について資料としての検討を試みたものである。

本稿では,鎮静が刑法上の問題となりうる場合があるかについて法学上の立場から検討する。特に,鎮静の実施後に患者が死亡した場合,鎮静と死亡との間に因果関係がなかったとしても,医療者は「法律上の問題はないのか」という漠然とした不安をもつことがある。したがって,鎮静後に患者が死亡した場合に関係する法について検討する。個人の生命や社会生活上の法益(ここでは,利益/益と表現することもある)を保護する法(ここでは,刑法を指す)のいう利益とは,今回の文脈で検討の対象となるものは,主として生命予後を指す。鎮静がそもそも医学的に生命予後の短縮を伴わなければ,個人の利益を損なうことはなく,違法性を議論する必要性はないといえる。生命予後の短縮を伴わない鎮静は,通常の医学的治療における枠組みで考えられる。さらに,鎮静を行う際に,生命予後の短縮について,医師に何らかの故意または過失がなければ刑法上の罪には該当しない。刑法上の故意とは,罪となる事実を認識し,かつ結果の発生を意図または認容することを指すので,「不利益(生命の短縮)が発生するかもしれないがあえて」と考えた場合でも故意があると判断される可能性がある。そこで,本稿は,医学的事実として鎮静が生命予後の短縮がどの程度生じるかを現状では確実にはいえないことを前提に,「仮に

4 4 鎮静が生命予後の短縮を引き起こすことが想定

されたとして,鎮静が刑法上違法と評価されるか」について検討することとした。

罪刑法定主義の下では,法はあらかじめ何が犯罪に該当するかを明示し,法は違法とされる類型を規定する。したがって,ある行為が違法であるかを検討する場合には,法に規定された犯罪の構成要件の該当性を検討する。例えば,窃盗であれば,刑法235 条は,「他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,10 年以下の懲役又は50 万円以下の罰金に処する」と規定する。このうち「他人の財物を窃取」を構成要件という。そして,構成要件に該当する場合には「違法が推定される」こととなる(図1)。

1.検討する内容の明確化

2.罪刑法定主義の考え方と,検討する具体的な犯罪

図1 ある行為を違法とみなすまでの過程

責任があるか(責任阻却事由:責任能力がない,未成年など)

構成要件に該当するか(構成要件該当性)

↓

違法性があるか(違法性阻却事由:正当防衛,緊急避難,正当業務行為)

↓
p.151
しかし,違法性が推定されることとなったとしても,個別の事情では,違法性がない場合がある。これを法は,違法性阻却事由として規定する。したがって,違法性阻却事由がある場合は,違法ではない。今回検討する内容については,「鎮静薬を投与したあとに患者が死亡した場合」に関する刑法上の規定は(当然ながら)ないため,人の死亡や傷害に関する犯罪を検討する。刑法上の犯罪として,表1 に挙げるものが該当する。鎮静に関しては,医師の間に,「苦痛緩和のためであっても鎮静薬を投与して患者が死亡した場合,自殺幇助(同意が明確でない場合は殺人)に該当するのではないか」という懸念がいまだ存在する。したがって,ここでは,自殺幇助罪(承諾殺人罪)と殺人罪について検討する。一方,過失で,適切な医療行為を行わなかった場合に問われる,業務上過失致死傷等については,他の医療行為と同様であるため鎮静との関連について要点のみを補注に記載する(P145)。

違法性阻却事由違法とは,法令に反することをいう。しかし,形式的には法令に違反しても,考慮するべき事由があるために違法ではない場合があり,これを違法性阻却事由(正当化事由)と呼ぶ。刑法は,正当防衛(刑法36 条),緊急避難(刑法37 条),正当業務行為(刑法35条)の3 つを規定する。例えば,医師が行う外科手術は,形式的には「傷害」に該当する。身体を故意に傷つけることは患者の利益を侵害する侵襲行為と考えられるため,傷害罪に該当し,違法性が「推定される」。しかし,外科手術は正当業務行為(刑法35 条「法令又は正当な業務による行為は,罰しない」)によって正当化されるので,構成要件に該当しても,違法性は阻却され犯罪は成立しない。違法性を阻却する正当業務行為となるには,一般的に,1治療目的に基づく行為である(正当な目的),2行為が医学上一般に承認された方法でなされている(相応な手段),3患者の同意と前提としての説明がある,ことが必要である(表2)。

3.違法性阻却事由と実質的違法論

1 IX 章

表1 生命予後の短縮に関わる刑法上の犯罪・殺人199 条:人を殺した者は,死刑又は無期若しくは5 年以上の懲役に処する。・自殺関与(自殺幇助罪)及び同意殺人(承諾殺人罪) 202 条:人を教唆し若しくは幇助して自殺させ,又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は,6 月以上7 年以下の懲役又は禁錮に処する。・傷害204 条 人の身体を傷害した者は,15 年以下の懲役又は50 万円以下の罰金に処する。・傷害致死205 条 身体を傷害し,よって人を死亡させた者は,3 年以上の有期懲役に処する。・業務上過失致死傷等211 条:業務上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,5年以下の懲役若しくは禁錮又は100

万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も,同様とする。
p.152
実質的違法論違法性阻却事由の考え方は,違法性が形式的でなく,実質的に検討されるべきであるという考え方を基盤としている。すなわち,法律に形式上条文として明確に定められている違法性阻却事由(刑法35~37 条)に限らず,直接記載がなくても実質的な違法性阻却を認めうる。つまり違法性は実際に明示されている法を超えて判断され(最高裁判所判決昭和50 年8 月27 日刑集29 巻7 号442 頁他),このような考え方を実質的違法論と呼ぶ。実質的違法論においては,違法性の阻却を考えるには,一般的に,1目的が正当である, 2手段が相当である(資格のある医師が医療水準に基づいて治療を行う),3法益衡量(守ろうとする益と侵害される益とがバランスを失していない),4法益侵害の相対的軽微性(侵害される益の程度が小さい),5必要性・緊急性が高い,6患者への説明と同意がある,ことなどが挙げられ,それらの総合的な判断として検討され,最終的には,社会的相当性があるかどうかという点に集約される(表3)。近年この考えは,喀痰の吸引や経管栄養の実施を医師でなくても実施可能と判断する議論に援用されている。そもそも喀痰の吸引や経管栄養の実施は,医行為(医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ,人体に危害を及ぼし,又は危害を及ぼすおそれのある行為)であり,医師法17 条において「医師でなければ医業をなしてはならない」とあるにもかかわらず,上記の条件を満たすことをもって,医師以外でも実施することは違法でないとする根拠とされる。

限 界本検討では,実質的違法論の立場から,鎮静についての法的検討を行う。この場合,認識しておくべき限界を述べる。まず,実質的違法論では,違法性阻却を個々の行為ごとにみるため,個々の行為を超えて類型的に違法性がないとする判断が必要な場合は,法規範そのものの変更・改正が必要となる。鎮静に関していえば,個々の鎮静の違法性が阻却されると判断されたとしても,類型的な鎮静には違法性はないとするためには,最終的には鎮静が合法であるという法規範の明示が必要となることである。次に,実質的違法論では総合的判断として議論を行うため,鎮静と生命予後の短縮(侵害されると想定する益)だけを取り上げるのではなく,患者に提供された緩和ケア全体の

2

3表2 違法性を阻却する正当業務行為の要件

1.治療目的に基づく行為である(正当な目的) 2.行為が医学上一般に承認された方法でなされている(相応な手段) 3.患者の同意と前提としての説明がある

表3 実質的違法論からみた違法性を阻却するための要件1.目的が正当である2.手段が相当である3.守ろうとする益と侵害される益とがバランスを失していない4.侵害される益の程度が小さい5.必要性・緊急性が高い6.患者への説明と同意がある
p.153
なかでの鎮静薬の投与の意味づけを考えることとなる。すなわち,鎮静によって生命予後が短縮したかどうかのみを検討するのではなく,患者の希望や意思表示,必要性や緊急性,守ろうとする益と侵害される益のバランスなどを総合的に判断する必要がある。最後に,本検討は,本手引きで想定される鎮静を検討したものであり,臨床で行われるすべての鎮静薬の投与の法的評価を導くものではない。特に,記載された鎮静薬の投与量・投与方法については例として記載したものであり,患者の状況をふまえずに一律に投与した場合の刑法上の問題を検討したものではない。鎮静薬の投与量は患者の実際の状況に応じて個々に検討することが必要である。

本手引きで想定されている鎮静は,仮に,自殺幇助罪(承諾殺人罪)と殺人罪の構成要件に該当したと考えたとしても,以下の理由が備えられている限り,違法性が阻却される(法的には正当業務行為に該当する)と考えられる。すなわち,1目的が正当である(患者の苦痛緩和を目的としている),2手段が相当である(本手引きに沿って行われる),3守ろうとする益と侵害される益とがバランスを失していない(苦痛が緩和される見込みと,侵害される益―生命予後の短縮の可能性のバランスが許容できる範囲である),4侵害される益の程度が小さい(苦痛の強さ,治療抵抗性の確実さ,予測される生命予後,効果と安全性の見込みからみて,侵害される益―生命予後の短縮の可能性の程度は最小限である),5必要性・緊急性が高い(苦痛を緩和する他の手段がなく,苦痛を緩和する必要性・緊急性がある),6患者への説明と同意がある(患者の意思決定能力がある場合は,必要な情報が提供されたうえで,苦痛緩和に必要な鎮静を希望する意思表示がある。意思決定能力がない場合には意思が推定される)の要件は充足しており,社会的相当性があると考えられる。逆に,生命予後が長い患者に鎮静,例えば,精神的苦痛のみに対して持続的深い鎮静が実施された場合,実際上患者の生命予後を(確実に,相当期間)短くする場合の法的評価については,さらなる検討が必要である(このような場合は,本手引きは想定していない)。以下に法的な検討を行ううえで重要な各項目について要約して述べる。

目 的鎮静を行う目的は苦痛緩和である。生命の短縮は目的とされない。さらに,調節型鎮静については,意識の低下も目的とされない。鎮静は患者の意識の低下を積極的に図るものではなく,意識の低下は,苦痛緩和をしようとした結果あるいは過程として生じることを意味している。そのためには,鎮静の目的が明示されているとともに,目的にふさわしい手段が実際にとられていることが必要である。すなわち,苦痛を緩和することに必要最小限の鎮静薬が継続的に評価されて投与されている必要がある。

対象となる患者持続的深い鎮静の対象となるのは死期が迫っている患者,生命予後が時間から日の単位と考えられる患者を前提としている。もともと治療抵抗性の苦痛が生じるのは死亡直前期

4.実質的違法論からみた鎮静の違法性阻却の根拠の検討

1 IX章
p.154
であることが多く,生命予後が数日から数時間の患者に対する鎮静においては極端な生命短縮の可能性は少ない。

侵害される益の程度を最小とすること鎮静は苦痛が緩和されるだけの最小限の鎮静薬を評価しながら使用して実施する。持続的に鎮静薬を投与する場合には,意識に影響を与える可能性がより少ない調節型鎮静を優先して検討することを原則とする。その治療目的は,鎮静薬を少量から苦痛の強さに応じて調節し,患者の苦痛を最小にすることである。持続的深い鎮静は,調節型鎮静では緩和することができないと見込まれる苦痛に対して,意識そのものが深い鎮静状態になるように鎮静薬の投与量を調節する。しかし,鎮静を開始する時点で,患者の死亡まで(必ず)深い鎮静を維持しようとするものではなく,状況を定期的に確認して,患者の不利益とならない場合は鎮静薬を減量・中止することを考える。

必要性・緊急性鎮静の対象となる苦痛は,治療抵抗性の苦痛(主にせん妄と呼吸困難)である。治療抵抗性と判断されるには,すべての治療が無効であること,あるいは,患者の希望と全身状態から考えて,予測される生命予後までに有効であり,かつ,合併症の危険性と侵襲を許容できる治療手段がないと考えられると定義づけられる。鎮静がすべての苦痛への適応をもつのではなく,鎮静以外の方法をとってもなお,苦痛が回避できない,他にとりうる方法をとったうえでの最後の手段(last resort)として位置づけられる。

患者への説明と患者の意思患者の意思決定能力がある場合は,必要な情報が提供されたうえで,苦痛緩和に必要な鎮静を希望する意思表示があること,あるいは,患者の意思決定能力がない場合は,患者の価値観や以前の意思表示に照らして,患者が苦痛緩和に必要な鎮静を希望することが推定できることが,要件として挙げられる。これらは,患者の自己決定を可能な限り保障するために,厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」(平成30 年3 月改訂)などで採用されている手順と同一である。なお,最高裁判所判決平成21 年12 月7 日刑集63 巻11 号1899 頁(いわゆる川崎協同病院事件上告審判決)は,医学的な評価を前提に,家族への説明を十分に行い,家族を通じて患者の推定的意思を探ることができることを示しており,上記ガイドラインの手順を支持している。

チームによる判断鎮静の実施を決定するには,多職種カンファレンスなどによる医療チームの合意や専門家へのコンサルテーションといったチーム医療が勧められている。チームで判断することは,手続的正義,すなわち,情報の収集の仕方や決定の仕方といった手続の公正さの観点からも重要である。

3

4

5

6
p.155
以上,鎮静は正当業務行為として違法性が阻却される観点から述べたが,状況によって鎮静が緊急状態における行為として違法性が阻却される可能性もある。刑法は正当防衛(刑法36 条)と緊急避難(刑法37 条)を規定する。民事上の責任についても,民法は,正当防衛と緊急避難を違法性阻却事由として規定する(民法720 条)。最高裁判所は,民事上の責任を検討するなかであるが,身体拘束について,「入院患者の身体を抑制することは,その患者の受傷を防止するなどのために必要やむを得ないと認められる事情がある場合にのみ許容されるべきものであるが,本件抑制行為は,患者の療養看護に当たっていた看護師らが,転倒,転落によりA が重大な傷害を負う危険を避けるため緊急やむを得ず行った行為であって,診療契約上の義務に違反するものではなく,不法行為法上違法であるということもできない」としている(最高裁判所判決平成22 年1 月26 日民集64 巻1 号219 頁)。したがって,仮に,上記,正当業務行為の観点から違法性阻却が基礎づけられなかったとしても,「苦痛の強さが著しい,治療抵抗性が確実である,予測される患者の生命予後が切迫している(日から時間の単位である)」場合,持続的深い鎮静でなければ苦痛が緩和されないという見込みをもって持続鎮静を開始する場合は,緊急状態における行為に該当するという考えもありうる。

上記のことから,仮に鎮静が生命予後の短縮を引き起こすことが想定されたとしても実質的に違法性を阻却する理由として,相応する記載を残すことが勧められる。具体的には,次のようなことが考えられる(P76,V章—4—8 診療記録への記載参照)。

鎮静を実施する場合には,以下の内容を診療記録に記載する。1.目的2.治療のプロセス1)苦痛が何か2)苦痛が患者にとって耐えがたいと判断した理由3)苦痛を治療抵抗性と判断した根拠4)予測される患者の生命予後とその医学的根拠5)鎮静を実施するうえで相談した他職種や専門家がいる場合,その過程6)患者の状態や苦痛を継続して評価した過程3.説明と同意1)患者に伝えられた情報と意思表示2)家族に伝えられた情報と意思表示

国際的には,死期が迫っている患者の治療抵抗性の苦痛に対して苦痛緩和を目的として

5.緊急状態における行為としての位置づけの可能性

6.診療記録への記載

7.鎮静をめぐる国際的な法的議論IX章
p.156
実施される鎮静は違法ではない(legal)とみなされている。国によっては,患者の権利に関する法律において苦痛緩和を得る権利が患者に明示されていることを根拠としたり,さらに具体的に苦痛を緩和するために仮に生命予後が短縮したとしても相応な鎮痛薬・鎮静薬の投与を患者が受けることができると示した法律を根拠とするもの(ベルギー,フランスなど)がある。しかし,多くの国においては,明示した法が存在するわけではなく,鎮静そのものの合法性について争われた裁判事例も今のところない。鎮静の法学上の妥当性については,上記のように,正当業務行為であり,社会的相応性からみて違法性が棄却されるとする論調がある。また,鎮静そのものについて述べたものではないが,二重効果の原則をもって,「苦痛緩和の目的で鎮痛薬を使用してその結果生命予後が短縮したとしても,法律上の罪には問わない」とした司法判断がしばしば援用される(イギリス,アメリカなど)。

日本において鎮静の合法性に関するまとまった議論は十分なされているとはいえないが[注1],上記のように違法性は阻却されると考えられる。違法性が阻却されるという意味は,明示する法律があるという意味ではなく,日本の法規範から見て違法性がないということである。日本においても多くの諸外国と同じように鎮静に関して具体的に明示した法律はなく,鎮静そのものについて何らかの司法判断を示した裁判例はない。そのなかで,いわゆる東海大学安楽死事件での横浜地方裁判所判決平成7 年3 月28 日判例時報1530 号28 頁は,「ホリゾン及びセレネースを注射して,家族のいう苦痛の除去・緩和の措置を施し,さらにワソラン及びKCL を注射して,同じく家族のいう苦痛から逃れさせる措置として患者を死に致した」ことに関連して,安楽死が許容されるための一般的要件(いわゆる安楽死4 要件)を示すなかで,「間接的安楽死といわれる方法は,死期の迫った患者がなお激しい肉体的苦痛に苦しむとき,その苦痛の除去・緩和を目的とした行為を,副次的効果として生命を短縮する可能性があるにもかかわらず行うという場合であるが,こうした行為は,主目的が苦痛の除去・緩和にある医学的適正性をもった治療行為の範囲内の行為とみなし得ることと,たとえ生命の短縮の危険があったとしても苦痛の除去を選択するという患者の自己決定権を根拠に,許容されるものと考えられる。」という記載がある。もっとも,本記載も判決の結論に対する関係では,傍論(結論を導き出す過程で必須の記載ではない)であることや,一審判決であることから,法学では先例として重きを置くべきでないとされる。

以上,仮に,鎮静が生命予後の短縮を引き起こすことが想定されたとして,鎮静が刑法上違法と評価されるかについて検討した。結論として,終末期患者の治療抵抗性の苦痛に対して継続した評価を行いながら鎮静薬を投与することは,苦痛緩和を目的として,医学的に相当な手段で患者の意思を反映して実施された場合,仮に生命予後の短縮を引き起こすことが想定されたとしても,刑法上,自殺幇助罪や殺人罪として違法であると評価され

8.鎮静をめぐる日本の法的議論

9.まとめ
p.157
ることはないと考えられる。しかも,そもそも,鎮静が医学的に生命予後の短縮を伴わなければ違法性を議論する必要性はない。問題が生じるとすれば,精神的苦痛に対する持続的で深い鎮静など,死期がまだ迫っていないと考えられる場合であり,この場合の法的な妥当性あるいは違法性を阻却する要件については今後の検討が必要である。法学の立場からは,他に緩和手段がない終末期患者に鎮静を行うことについて,医療者が必要以上に法律上の懸念をもたず,本来の目的である患者の希望に沿った苦痛緩和が行えることに本稿が役立つことを願う。

[注]

1)鎮静の法学的側面について検討された文献は日本にはほとんどない。原著論文という

位置づけではないが,以下のものを参考として挙げる。本手引きの前版ガイドラインを題材として,苦痛緩和のための鎮静が刑法上の同意殺人罪が成立することはないと結論している。一方,推定的意思の法律上の意義についてはさらに検討が必要としている。

  一原亜貴子.終末期鎮静の刑法的問題.岡山大学法学会雑誌 2017;67:31

  国際的にも鎮静に限って法学的側面について検討された文献は少ないが,以下のもの

がある。

  DelbekeE.Thelegalpermissibilityofcontinuousdeepsedationattheendoflife:

acomparisonoflawsandaproposal.SterckxS,RausK,MortierF,eds.Continuoussedationattheendoflife:Ethical,clinicalandlegalperspectives.Cambridge UniversityPress,2013,pp132—59

[補注 業務上過失致死傷罪と鎮静の関係]

  業務上過失致死傷罪は,医療事故で刑事責任を問われる場合に,一般的な刑法上の規

定であるので,業務上過失致死罪の一般的な説明と鎮静との関連を,補足的に行う。  業務上過失致死罪(前出表1)が成立するためには,「業務上の過失があること」(過

失),「人が死亡したこと」(結果)に加えて,「過失がなければ死亡するはずがなかった」(因果関係)ことが必要である。  業務上の過失は,一般的には,「医師として通常求められる注意義務を果たしていな

い」と表現され,予見して回避することができた(予見可能性・回避可能性がある)にもかかわらず対応を怠った(予見義務違反・回避義務違反がある)を指す(最高裁判所決定昭和42 年5 月25 日刑集21 巻4 号584 頁)。しかし,具体的に個々の事例でどのような状況で何が過失に該当するかを判断するのは容易ではない。  例えば,投薬の種類や量を誤る,患者や患部を間違えるといった明白な違反行為は,

過失と判断しやすいが,臨床での医師の個々の判断が注意義務を満たしているかは,治療環境(地域や施設の事情),患者の状況(緊急性),医師の経験や能力など複合的な状況をふまえて判断することが必要であり,この判断には通常幅がある。  例えば,いわゆる大野病院事件での地方裁判所への判断では,癒着胎盤であると認識

した以上,直ちに胎盤剝離を中止して子宮摘出手術などに移行することが本件当時の医学的準則であるとする検察官の主張に対して,「臨床に携わっている医師に医療措置上IX章
p.158
の行為義務を負わせ,その義務に反したものには刑罰を科す基準となりうる医学的準則は,当該科目の臨床に携わる医師が,当該場面に直面した場合に,ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じているといえる程度の,一般性あるいは通有性を具備したものでなければならない」として,この点の立証が不十分として無罪を導いている(福島地方裁判所判決平成20 年8 月20 日判例時報2295 号3 頁)。  鎮静の場合についていえば,極端に逸脱した投与量で鎮静薬を使用した,苦痛や効果

の評価を全く行わずに長時間にわたって放置したという限定された場合などでは,過失が疑われる場合も想定される。しかし,常識的な投与量で評価が行われているならば,例えば,鎮静薬の投与量が(やや)多かった(かもしれない)であるとか,鎮静の他に治療法が(本当に)あったのかどうかといった内容については,なお専門家間でも意見や判断の分かれるところ(したがって,専門家の裁量権の範囲内)であるから,刑法上の過失と判断されることとはならないと考えられる。  また,そもそも通常鎮静が考慮される場面では,鎮静薬を投与しなくても患者が死亡

することが予想されているため,本罪の構成要件(鎮静薬の投与によって患者が死亡したとする因果関係)を満たさないことがある。例えば,肝出血による緩和困難な痛みが生じて,鎮静薬を投与した直後に患者が死亡した場合,「鎮静薬を投与しなかったならば,患者は死亡しなかったこと」を示す必要があるが,これを医学的に示すことは不可能である。すなわち,鎮静薬を投与しなくても患者が死亡することが予想される状況では,業務上過失致死罪に該当すると判断されることは考えにくい(このことは,当然ながら,どのように鎮静を行ってもよいという意味ではない)。  以上より,本手引きに記載された鎮静を苦痛緩和のために実施して患者が死亡したと

しても,業務上過失致死罪に問われる可能性は低く,通常そのような事態は想定されない。業務上過失が問われる状況は,鎮静に限ったことではなく,鎮静以外の緩和治療や一般的な医療行為と同様であると考えられる。

(稲葉一人)
p.159
1 開発過程

2 開発者と利益相反

3 今後の検討点

X章 開発過程
p.160
本手引きは,過去の2 つの「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」の内容をふまえている。もともとは,2005 年に公開された「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン(2005 年版)」であり,これは,厚生労働省厚生科学研究「がん医療における緩和医療及び精神腫瘍学のあり方と普及に関する研究」班が作成し,日本緩和医療学会理事会が承認したものである。系統的文献検索,および,国内外の既存のガイドラインをもとに草案を作成し,デルファイ法によって妥当性を審議した。外部委員,エンドユーザー,患者遺族の評価を得たあとに,再びデルファイ法による審議を行い,緩和医学専門誌のレビューを得て作成された。これをもとに,『苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010 年版』は,日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン作成委員会の鎮静ガイドライン改訂作業部会において,全国の緩和ケアチームを対象に実施した質問紙調査をふまえて修正を行い,デルファイ法によって決定した。本手引きでは,内容としてはこれらをふまえながらも,治療抵抗性の苦痛全体を対象とするために新しく草稿を作成し,デルファイ法を用いた討議によって委員のコンセンサスを得るようにした。

治療抵抗性の苦痛に関して十分なエビデンスがないことがコクランレビューの結果からすでにわかっていたことや,そもそも治療抵抗性の苦痛や鎮静の定義に関するコンセンサスに国際的な議論があること,現場で必要とされていることは治療抵抗性の苦痛とみなされる時に実際にどのように考えるのかの具体的な手引きであることから,臨床疑問を設定して文献的検討を詳細に行うことよりも,コンセンサスを得ることに,より時間を費やすべきであると考えた。まず,前版のガイドラインの課題について委員全員の参加する会議を2 回開催して自由に検討した。そののちに,各国のガイドラインのまとめ(VII章),背景知識に挙げた9 つの臨床疑問(VIII章),および,治療抵抗性の苦痛と判断する前に考えるべきこと(IV章)について各担当者が草稿を作成して全体で共有した。その過程において,鎮静に関する定義や概念は,本手引きを作成した時点で国際的にも共通したものがないことを確認し,現在の日本に最も適切と考えられる概念と定義に基づいて委員会で本文を作成することとした。1 名の委員が旧版『苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010 年版』の本文を修正して初回原稿とした。次に,デルファイ法を実施した。治療抵抗性の苦痛に対する考え方が記載されている本文(I,II,III,V章)と,治療抵抗性の苦痛と判断する前に考えるべきことが記載され

開発過程1 1.概 要

2.作成方法
p.161
ている部分(IV章)を対象とした。初回のデルファイには13 名が参加した。本文全体(I章からV章まで)を147 項目に分けてデルファイを行った。0(適切でない)から9(適切である)の評価を得た。中央値が8 以上かつ最小と最大の評価の差が5 未満の項目が20 項目であった。得点分布を公開して討議を行った。2 回目のデルファイには法律担当者と,時間の都合で(内容に反対という主旨ではなく)参加できなかった倫理担当者の1 名を除く全員(18 名)で行った。本文全体を216 項目に分けてデルファイを行った。すべての項目で中央値が9 であったが,最小と最大の評価の差が6 以上の項目が11 項目あった。個々の項目について対面での討議を行い合意を得たため,本原稿をもって決定稿とした。その後,倫理的検討(VI章),法的検討(IX章)をそれぞれの分担執筆者が記載し,メールによる討議を行い修正を得たうえで合意を得た。その後,外部評価委員として本手引きの作成に参加していなかった専門の異なる医師13名(腫瘍学,外科学,家庭医学,在宅医学,緩和医療学,疼痛学,精神医学),看護師2名,薬剤師1 名,一般の方2 名の合計18 名のうち17 名からコメントを得た。評価の結果を委員で共有して全員で文章全体を読み直して小修正を加えた。修正した点は,意味の明確化のための修正が主であった。大きな点として,より具体的なフローチャートやチェックリストの作成をしたほうがよいとの指摘があったが,これに関しては次回の改訂で検討することとした。この他に,パブリックコメントとして,日本がん看護学会,日本ホスピス緩和ケア協会,日本死の臨床研究会,日本サイコオンコロジー学会,日本癌治療学会,日本臨床腫瘍学会,日本放射線腫瘍学会,日本麻酔科学会,日本ペインクリニック学会,日本がんサポーティブケア学会,日本在宅医学会,日本プライマリ・ケア連合学会,日本老年医学会,日本臨床腫瘍薬学会,日本緩和医療薬学会から得たコメントを検討し,同様に反映できるものを反映した。主なものとしては,日本放射線腫瘍学会から指摘があった緩和的放射線治療に関するガイドラインの引用などであった。指摘を受けた点のうち今回対応ができなかった点については,今後の検討点(P153)に追加した。検討するべき点が多く残されているため,次回の改訂の際に検討する必要がある。X章
p.162
開発者と利益相反2 [利益相反開示事項]日本緩和医療学会の利益相反に関する指針,細則,報告事項,Q&A については学会ホームページ(http://www.jspm.ne.jp/rieki)をご確認ください。[役員・委員等の利益相反開示事項(概要)]

1  報告対象企業等の職員,顧問職か2  給与・報酬等100 万円以上3  特許権使用料100 万円以上4  講演料等50 万円以上5  原稿料等50 万円以上6  顧問料100 万円以上7  委受託研究費200 万円以上8  研究助成金(寄付金) 100 万円以上9  奨学(奨励)寄付金100 万円以上10 寄付講座等500 万円以上11 株式等役員,業務執行者かまたは,利益(配当,売却益の総和) 100 万円以上または,当該全株式の5%以上12 旅行・贈答品等年間総額5 万円以上13 自由診療保険外診療(自由診療)を行っていたかどうか[備 考]

1 報告者自身について報告

2~13  報告者自身および,報告者と生計を一にする親族について報告[開示期間] 2016 年1 月1 日~2016 年12 月31 日
p.163
X章

[ガイドライン統括委員会]利益相反委員長小川 朝生国立がん研究センター東病院精神腫瘍科長講演料等:MSD 株式会社前委員長中島 信久琉球大学医学部附属病院地域医療部,緩和ケアセンター診療教授該当なし担当委員池永 昌之淀川キリスト教病院緩和医療内科部長該当なし

[鎮静ガイドライン改訂WPG]利益相反WPG 員長池永 昌之淀川キリスト教病院緩和医療内科部長該当なしWPG 副員長森田 達也聖隷三方原病院副院長,緩和支持治療科部長講演料等:塩野義製薬株式会社WPG 員明智 龍男名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野教授

講演料等:ファイザー株式会社安保 博文国家公務員共済組合連合会六甲病院緩和ケア内科部長該当なし今井 堅吾聖隷三方原病院ホスピス科医長該当なし清水 哲郎岩手保健医療大学学長該当なし新城 拓也しんじょう医院院長講演料等:協和醗酵キリン株式会社須賀 昭彦中之郷クリニック該当なし関本  剛関本クリニック院長該当なし永山  淳国家公務員共済組合連合会浜の町病院緩和医療内科部長

該当なし

馬場 美華吹田徳洲会病院緩和医療科部長該当なし浜野  淳筑波大学医学医療系講師筑波大学附属病院総合診療グループ,緩和ケアセンター

該当なし

林 ゑり子藤沢湘南台病院看護部該当なし

WG 員角  裕子京都大学医学部附属病院看護部該当なし久山 幸恵静岡県立静岡がんセンター緩和ケアセンター該当なし前田 一石ガラシア病院ホスピス科医長該当なし山口  崇甲南病院緩和ケア内科部長該当なし会田 薫子東京大学大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理センター上廣死生学・応用倫理講座特任教授〔外部委員〕

該当なし

稲葉 一人中京大学法科大学院教授〔外部委員〕該当なし田代 志門国立がん研究センター社会と健康研究センター生命倫理・医事法研究部長〔外部委員〕

該当なし
p.164
WPG 員(評価委員)安部 正和静岡県立静岡がんセンター婦人科医長該当なし井上  彰東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野教授講演料等:アストラゼネカ株式会社,大鵬薬品工業株式会社,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社,小野薬品工業株式会社,日本イーライリリー株式会社寄附金:塩野義製薬株式会社大石  愛University of Edinburgh/かまくらファミリークリニック該当なし大谷 弘行九州がんセンター緩和ケアチーム/緩和治療科該当なし岡本 禎晃市立芦屋病院薬剤科部長該当なし木下 寛也東葛病院緩和ケア科科長該当なし小杉 寿文地方独立行政法人佐賀県医療センター好生館緩和ケア科部長

該当なし

小早川 誠広島大学病院緩和ケアチーム該当なし竹之内沙弥香京都大学医学部附属病院倫理支援部特定講師給与・報酬等[親族]:稲盛財団田中 桂子がん・感染症センター都立駒込病院緩和ケア科部長該当なし橋本孝太郎医療法人社団爽秋会ふくしま在宅緩和ケアクリニック該当なし濱口 恵子がん研究会有明病院緩和ケアセンター該当なし細川 豊史洛和会丸太町病院院長講演料等:ファイザー株式会社,塩野義製薬株式会社,久光製薬株式会社寄附金:塩野義製薬株式会社,大日本住友製薬株式会社寄附講座:恩賜財団済生会支部滋賀県済生会山代亜紀子京都府立医科大学疼痛・緩和医療学教室病院助教該当なし山田 岳史日本医科大学付属病院消化器外科准教授該当なし天野 慎介全国がん患者団体連合会理事長/一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパン理事長〔外部委員〕

該当なし

柄山 正人浜松医科大学臨床腫瘍学講座・呼吸器内科〔外部委員〕該当なし松本 陽子全国がん患者団体連合会副理事長/愛媛がんサポートおれんじの会理事長〔外部委員〕

該当なし

(五十音順)
p.165
以下の点については,十分な検討ができなかったため,次回改訂の際に検討する。

・ 本手引きで扱った概念に従ったエビデンスを分析し,推奨文を作成するなど一般的なガ

イドライン(診療ガイドライン)の形として整備すること。各推奨に至った文献の整理を行うこと・ 治療抵抗性の苦痛に対する治療の経過全般を通したフローチャートやチェックリストを

作成すること・がん患者に限らない治療抵抗性の苦痛を含めて検討を行うこと・小児のがん患者における治療抵抗性の苦痛を含めて検討を行うこと・クオリティオブライフの概念や評価について具体的で詳細な検討を行うこと

・ 相応として鎮静が妥当であると考えられる,より具体的な判断基準が明記できるかを検討す

ること。例えば,「○○の治療を行っても痛みが続く場合」「以下の条件のすべてを満たす場合」といった基準を明記すること。この検討には,耐えがたい苦痛は患者評価に加えて社会一般に納得できるものであることが必要か,生命予後が比較的長いとみなされる患者の精神的苦痛に対して鎮静薬を投与することは妥当な場合があるか,生命予後が確実に短い場合に患者の希望で確実な鎮静を選択することが妥当な場合があるかなどが含まれる。・ そもそも終末期の苦痛に鎮静を行うこと(特に,持続的深い鎮静で苦痛をなくすこと)

の是非について,苦痛の価値や意味という視点もふまえて論じること・意思決定するうえで必要な医療チームの具体的な職種構成や特性を記載すること

・ 推定意思のない患者における妥当な意思決定過程について記載すること・ 患者や家族に鎮静を提案したり説明するうえで開示すべき情報や,どのように説明をす

るべきかの具体的な指針を見出すこと・ 鎮静を希望するうえで必要な意思決定能力の定義と評価方法について,詳細に記載する

こと

・ 患者の意識があいまいな場合の苦痛の評価方法や,鎮静が行われている場合にその継続

今後の検討点3

1.手引き全体の構成と対象について

2.鎮静の妥当性の評価について

3.患者や家族の意思について

4.苦痛の評価についてX章
p.166
や中止をどう判断するかの基準について検討し,記述すること・鎮静により苦痛が緩和されている根拠を明示すること・ 評価に用いる尺度〔Support Team Assessment Schedule(STAS),Richmond Agitation‒

Sedation Scale(RASS)など〕に関する詳細な記載を行うこと

・ より具体的な治療方法を明記すること。すなわち,1痛みや呼吸困難などに対して治療

抵抗性の苦痛とみなされる前に行うべき治療について,より具体的かつエビデンスをもとに記載すること,および,2鎮静薬の(使用例ではない)具体的な使用方法を記載すること・ 精神的ケアについて,鎮静の対象となる苦痛としての精神的苦悩に対するケアを記載す

ること(本手引きでは,一般的な精神的ケアを中心に述べている)・「スピリチュアルケア」の内容を明確にしたうえで,精神的ケア,精神的苦悩(suffering)

とより明確に区別して記載すること・ せん妄に対する薬物療法(鎮静)と身体抑制との関係,せん妄といわゆる「お迎え現象」

との関係についての見解を述べること・ 痛み,せん妄,呼吸困難に対する治療の項で,記載した薬物の投与量や禁忌に関する一

般的な情報をさらに追加すること

・ 鎮静の概念を検討対象としなかった薬剤や対象範囲に広げて整理すること。特に,少量

のミダゾラムやクロルプロマジンの投与は症状緩和として位置づけられるべきであるのか,鎮静と位置づけられるのかを検討すること・ 間欠的鎮静の位置づけ(本手引きでは「持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこ

と」のなかに含めたが,別にするべきか),具体的な要件をさらに詳細に記載すること・ いわゆる副次的鎮静(痛みや呼吸困難の緩和のために,患者の意識が低下することを前

提にオピオイドを増量すること)の適応や考え方について,詳細に記述すること・緊急時の鎮静(emergency sedation)の適応や方法を記述すること

・相応性の原則について,より詳細な倫理的検討を行うこと・複数の法律専門家によって詳細に検討を加えること

・医療者の感情や葛藤に関する記載を行うこと・鎮静後の患者・家族へのケアについて記載すること

5.具体的な治療法・ケアについて

6.鎮静の定義・概念について

7.倫理的検討,法的検討について

8.その他
p.167
◆和文◆あアルプラゾラム 49安楽死 89安楽死4 要件 144

い意思決定能力 70痛み 104違法性阻却事由 139

お大野病院事件 145オキシコドン 47オピオイド 29, 44, 78 —誘発性痛覚過敏 29オランザピン 39

か過活動型せん妄 40川崎協同病院事件 142関係性の苦悩 56間欠的鎮静 9, 10, 60

き業務上過失致死傷 139, 145緊急避難 143

くクエチアピン 39苦痛緩和のための鎮静 8苦悩 52クロルプロマジン 40

け刑法 138

こ故意 138抗精神病薬 35呼吸困難 104

さ罪刑法定主義 138

しジアゼパム 60, 79時間性の苦悩 56自殺幇助 139持続的鎮静 9持続的深い鎮静 9, 11, 65実質的違法論 140社会的相当性 141自律原則 64, 87自律性の苦悩 56神経障害性疼痛 30神経ブロック 31

すステロイド 46スピリチュアルな痛み 56スピリチュアルペインアセスメントシート 56

せ精神的苦痛 67, 104精神的ケア 53正当業務行為 139, 141説明文書 72全人的苦痛 52せん妄 104

そ相応性 86 —原則 64, 86たタイトレーション 98耐えがたい苦痛 8他者評価 80索 引

(太字は主要ページ)
p.168
ちチーム医療 75調節型鎮静 9, 11, 65治療抵抗性の苦痛 8, 104鎮静——,間欠的 9, 10, 60 ——,苦痛緩和のための 8 ——,持続的 9 ——,持続的深い 9, 11, 65 ——,調節型 9, 11, 65 ——,副次的 9, 33鎮静薬 9鎮痛補助薬 30

て低活動型せん妄 40手続的正義 142

と東海大学安楽死事件 144トータルペイン 52突出痛 30トラゾドン 40

に二重効果の原則 88, 144

はハロペリドール 39, 78

ひヒドロキシジン 39

ふフェノバルビタール 78, 79副次的鎮静 9, 33フルニトラゼパム 39, 60フルマゼニル 60, 61, 79フローチャート 18ブロマゼパム 60, 79プロメタジン 39

へベタメタゾン 46ベンゾジアゼピン系抗不安薬 47, 49

ほ放射線治療 30みミアンセリン 40

ミダゾラム 47, 49, 60, 78, 79, 108

めメサドン 30

もモニタリング 80, 98モルヒネ 47

ゆゆっくりとした安楽死 89, 90

りリスペリドン 39

れレボメプロマジン 40

ろローディングドーズ 79ロラゼパム 49

◆欧文◆ C continuous deep sedation 9 continuous deep sedation until death 11 continuous sedation 9

E European Association for Palliative Care(EAPC) 92 European Society for Medical Oncology(ESMO) 92

G General Board of the Royal Dutch Medical

Association 92

I intermittent sedation 9 intolerable symptom 8

N National Comprehensive Cancer Network(NCCN)

92 National Hospice and Palliative Care Organization

(NHPCO) 92
p.169
O opioid‒induced hyperalgesia 29

P Palliative Prognostic Index(PPI) 66 Palliative Prognostic Score(PaP score) 66 palliative sedation therapy 8 PiPS models 67 principle of autonomy 87 principle of double effect 88 principle of proportionality 64, 86 proportional sedation 9

R refractory symptom 8 respite sedation 13 Richmond Agitation‒Sedation Scale(RASS) 80, 84

S slow euthanasia 90 suffering 52 Support Team Assessment Schedule(STAS) 80, 84
p.170
がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き2018 年版

苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010 年版:改訂・改題定価(本体2,200 円+税) 2010 年 6 月 20 日 第1 版発行2018 年 9 月 25 日 第2 版第1 刷発行

編 集 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会

ガイドライン統括委員会

発行者 福村 直樹発行所 金原出版株式会社

〒113-0034 東京都文京区湯島 2-31-14電話 編集  (03)3811-7162営業  (03)3811-7184 FAX     (03)3813-0288振替口座    00120-4-151494 http://www.kanehara-shuppan.co.jp/ © 日本緩和医療学会,2010,2018

検印省略Printed in Japan

ISBN 978-4-307-10193-6印刷・製本/三報社印刷(株)

<出版者著作権管理機構 委託出版物>本書の無断複製は著作権法上での例外を除き禁じられています。複製される場合は,そのつど事前に,出版者著作権管理機構(電話 03-3513-6969,FAX 03-3513-6979,e-mail : info@jcopy.or.jp)の許諾を得てください。小社は捺印または貼付紙をもって定価を変更致しません。乱丁,落丁のものはお買上げ書店または小社にてお取り替え致します。
p.171

        
p.172

        
p.173
vii

1 目 的2 2 適応の注意3

1.対 象3 2.効果の指標3 3.使用者3 4.個別性の尊重4 5.定期的な再検討の必要性4 6.責 任4 7.利益相反4

1 用語の概念と定義8

1.治療抵抗性の苦痛・耐えがたい苦痛8 2.鎮静・鎮静薬8 3.鎮静の分類9 1 間欠的鎮静10 2 調節型鎮静11 3 持続的深い鎮静11 4 まとめ11

治療抵抗性の耐えがたい苦痛への対応に関するフローチャート18

1 はじめに22 2 苦痛に対する緩和ケア24

痛みに対する緩和ケア24 1.概 要24

2.原因の同定と治療25 1 がん疼痛と,がん患者に併存する非がん

性の痛みとの区別25 2 難治性になりやすい痛み27 3 原因の治療27 3.治療目標の設定27 4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア28 1 身体的要因28 2 心理社会的要因28 5.医学的治療29 1 薬物療法29 2 薬物療法以外の治療30 6.未解決の課題32

せん妄に対する緩和ケア34 1.概 要34 2.原因の同定と治療35 1 原因の同定35 2 原因の治療36 3.治療目標の設定37 4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア38 1 身体的要因38 2 環境的・心理社会的要因38 5.医学的治療38 1 薬物療法38 6.未解決の課題40

呼吸困難に対する緩和ケア43 1.概 要43 2.原因の同定と治療44 1 原因の同定44 2 原因に対する治療46 3.治療目標の設定46 4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア47 1 身体的要因47 2 心理社会的要因47 5.医学的治療47

I章 はじめに

II章 定 義

III章  治療抵抗性の耐えがたい苦痛への

対応に関するフローチャート

IV章  実践(1) 治療抵抗性の苦痛に対す

る持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと2

3目 次
p.174
viii 1 薬物療法47

2 薬物療法以外の治療50 6.未解決の課題50 3 苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出

すための精神的ケア52 1.トータルペインとsuffering(苦悩)の概念52 2.全般的な精神的ケア53 1 生きる意味・心の穏やかさ・尊厳を強め

るケアを行う54 2 信頼関係を構築する54 3 現実を把握することをサポートする54 4 情緒的サポートを行う55 5 おかれた状況や自己に対する認知の変容

を促す55 6 ソーシャルサポートを強化する55 7 くつろげる環境や方法を提供する55 8 チームをコーディネートする56 3.スピリチュアルな痛みのケア56 1 スピリチュアルな痛みとは何か? 56 2 スピリチュアルな痛みのアセスメントと

ケア56 4. 治療抵抗性の苦痛をもつ患者に関わる医療者

の心構え59 5.未解決の課題59 4 間欠的鎮静60

1 要 件64 2 相応性の判断65

1.苦痛の強さの評価の仕方65 2.治療抵抗性の確実さの評価の仕方66 3.予測される生命予後の評価の仕方66 4.精神的苦痛の鎮静の対象としての相応性67 5. 生命予後が比較的長いと見積もられる患者の

痛みが緩和されない時の相応性67 3 意図の確認69 4 意思決定過程70

1.意思決定能力の評価の仕方70 2.意思決定能力がある患者の希望の確認の仕方3. 患者に意思決定能力がない場合の意思決定の

仕方71 4.説明内容71 5. 患者と家族の意思が異なる時の考え方:患者

が明確に鎮静を希望するが家族が希望しない場合74 6. あらかじめ患者・家族の意思を確認すること

についての考え方75 7.チーム医療75 8.診療記録への記載76 5 実際の投与方法と評価・ケア78

1.鎮静薬の投与方法78 2.鎮静開始直前の患者・家族への配慮80 3.鎮静中の継続的な評価80 4.鎮静中の患者・家族へのケア81 5.水分・栄養の補給などについての考え方81

1.鎮静の益と害86 2.鎮静の倫理的妥当性86 1 相応性86 2 医療者の意図87 3 患者・家族の意思87 4 チームによる判断88 3.まとめ88

1.鎮静の定義92 2.鎮静の分類92 3.対象患者93 4.対象となる苦痛94 5.意思決定95 1 患 者95 2 家 族98 3 医療チーム99 6.輸液と人工栄養・蘇生に関する決定99 7.薬物の投与方法99 8.評 価100 1 項 目100 2 時間間隔100

V章  実践(2) 治療抵抗性の苦痛に対す

る持続的な鎮静薬の投与VI章 倫理的検討

VII章 国際的なガイドラインの要約
p.175
ix

9.オピオイド100 10.ミダゾラムの投与方法100

1.治療抵抗性の苦痛はどのような苦痛か? 104 2. 鎮静はどれくらいの頻度で行われているか? 104 3. 鎮静にはどのような薬剤がどれくらい

用いられるか? 108 4.鎮静の効果はどうか? 109 5.鎮静の安全性はどうか? 112 6. 患者・家族は意思決定にどのように

参加しているか? 114 7. 鎮静を受けた家族はどのような体験を

しているか? 115 8.鎮静は生命予後を短くするのか? 117 9. 在宅において治療抵抗性の苦痛は生じるか? 119 10.資 料122

1.検討する内容の明確化138 2. 罪刑法定主義の考え方と,検討する具体的な

犯罪138 3.違法性阻却事由と実質的違法論139 1 違法性阻却事由139 2 実質的違法論140 3 限 界140 4. 実質的違法論からみた鎮静の違法性阻却の

根拠の検討141 1 目 的141

2 対象となる患者141 3 侵害される益の程度を最小とすること142 4 必要性・緊急性142 5 患者への説明と患者の意思142 6 チームによる判断142 5. 緊急状態における行為としての位置づけの

可能性143 6.診療記録への記載143 7.鎮静をめぐる国際的な法的議論143 8.鎮静をめぐる日本の法的議論144 9.まとめ144

1 開発過程148

1.概 要148 2.作成方法148 2 開発者と利益相反150 3 今後の検討点153

1.手引き全体の構成と対象について153 2.鎮静の妥当性の評価について153 3.患者や家族の意思について153 4.苦痛の評価について153 5.具体的な治療法・ケアについて154 6.鎮静の定義・概念について154 7.倫理的検討,法的検討について154 8.その他154

索 引155

VIII章 背景知識

IX章 法的検討(資料) X章 開発過程
p.176
1 目 的

2 適応の注意

I章 はじめに
p.177
近年の緩和治療の進歩にもかかわらず,がん患者の一部では,緩和ケアを積極的に行っても緩和することができない苦痛を体験する。このような苦痛を「治療抵抗性の苦痛」(refractory symptom;refractory suffering)と呼ぶ[注1]。治療抵抗性の苦痛として頻度が高いものは,せん妄,呼吸困難であるが,痛みや精神的苦痛も治療抵抗性となることがある。苦痛を緩和するために鎮静薬を投与することは「苦痛緩和のための鎮静(palliative sedation therapy)」と呼ばれ,治療抵抗性の苦痛に対する手段の一つとされている。2000 年代に日本をはじめとする各国の学術団体が鎮静に関するガイドラインを策定した。これまでに日本緩和医療学会では,鎮静のうち倫理的にも実践上も最も配慮が必要な持続的な深い鎮静(苦痛を緩和するために意図的に患者の意識を持続的に深い鎮静状態にすること)を念頭に置いたガイドラインを作成してきた。一方,昨今,持続的な深い鎮静について定義を見直すべきであるとする意見や,持続的な深い鎮静そのものの是非についての議論が国内外にある。また,臨床現場においては持続的な深い鎮静の実施それのみが単独で判断を求められるものではなく,鎮静薬の投与は「治療抵抗性の苦痛に対してどのように対応するか」という状況での選択の一つにすぎない。すなわち,重要なことは,鎮静を行うか行わないかということではなく,「治療抵抗性の耐えがたい苦痛が生じた時,患者や家族の価値観をふまえたうえでどのように対応するか」である。したがって,今回の改訂では,これまでの「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」を,鎮静だけではなく,治療抵抗性の苦痛への総合的な対応という視点に広げて議論を行うこととした。作成方法は,検討課題としている行為の定義そのものが国際的にも議論があるので,標準的な診療ガイドラインの作成方法に基づいて作成することには意義が乏しいと考えた。したがって,既存の代表的な研究知見と専門家の議論をもとに,診療ガイドラインとしてではなく基本的な考え方の手引きとして示すものとした。本手引きの目的は,がん患者の苦痛が治療抵抗性と考えられた時,すなわち,手を尽くしても患者の苦痛が十分に緩和されない状況に直面した時,医師や看護師など患者に関わる医療チームがどのように考えて対応するべきなのかについて基本的な考え方を示すことである。これによって,患者が自分の価値観に沿って苦痛の緩和を受けられることを最終的な目的としたい。

[注]

1) Refractory symptom に対する日本語訳は「治療抵抗性の症状」,refractory suffering に

対する日本語訳は「治療抵抗性の苦悩」とするのが正しいが,患者に苦痛があることを明確に示すために,「治療抵抗性の苦痛」と表記することとした。

目 的1
p.178
治療抵抗性の苦痛に対する手引きという点から,成人で治癒を見込むことができないがん患者を対象とする[注1]。苦痛緩和のための鎮静の対象という点からは,生命予後がより限られた患者が実際上の対象となる。これまでの「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」では,「緩和ケア病棟に入院している」,「緩和ケアチームの診療を受けている」,あるいは,「緩和ケアチームもしくは緩和ケアに習熟した医師の診療・助言のもとで診療を受けている」などの限定を設けていた。しかし,緩和ケアが広く行われることになったことを受けて,使用場所や使用者を限らずさまざまな場で利用されることを前提とすることが,治療抵抗性の苦痛をもつ患者の利益につながると考えた[注2]。一方,心不全・呼吸不全・神経疾患・腎疾患などのがん以外の疾患の治療抵抗性の苦痛に対する対応の参考にすることも可能だが,委員の多くが非がん患者の緩和治療に関する十分な経験がないことや,非がん疾患では標準的な緩和治療(呼吸困難に対するオピオイドなど)もがんほど確立していないことから,今回は非がん患者を対象に含めないこととした。

患者の生活の質(クオリティオブライフ,quality of life)を効果の指標とする[注3]。生活の質として何が重要かは,患者の価値観によって異なるため,画一的には決定できない。一般的には,多くの患者にとって,身体的苦痛が緩和されていること,精神的に穏やかでいられること,人生の意味や価値を感じられること,家族との関係を強めること,死に対する心構えができること,心残りがないことなどの要素が重要である。いくつかの要素は他の要素と両立しない。治療抵抗性の苦痛がある場合,苦痛が緩和されることと,意識がしっかりしていることとが両立しないことがある。身体的苦痛を完全に緩和することによって患者の意識が低下してしまうような場合,患者によっては,意識が維持されることをより重要と考え,苦痛の緩和はある程度できていればそれ以上望まないこともある。一方,患者によっては,他者とコミュニケーションをとることが難しくなっても苦痛の完全な緩和を希望することもある。全体の治療目標を決めるうえでは,このような個々の患者の価値観に十分沿うことが何よりも重要である[注4]。

対象患者を診療する医療者・医療チームを本手引きの使用者とする。

適応の注意2 1.対 象

2.効果の指標

3.使用者I章
p.179
本手引きは,記載に従った画一的なケアを勧めるものではない。手引きでは臨床的,学問的に妥当と考えられる一般的な水準を示しているが,個々の患者への適用は,対象となる患者の個別性に十分配慮し,患者を診療しているそれぞれの医療チームが責任をもって決定するべきものである。本手引きの適用にあたっては,具体的に記載されている各項目を満たすかを判断することだけが医療チームの役割ではないことを十分に認識する必要がある。各項目を十分に検討することを通じて,患者や家族と理解を深め合い,ともに困難な過程を分かち合うことが重要である。

本手引きはもともと2012 年度末までに修正される予定であった『苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010 年版』を発展させたものである。出版後5 年後末までに再検討をする(改訂責任者:日本緩和医療学会理事長)。

本手引きの内容については日本緩和医療学会が責任をもつが,鎮静薬の使用方法を含む個々の患者への適用に関しては患者を直接担当する医師が責任をもつ。本手引きは,治療抵抗性の苦痛に直面した時の基本的な考え方を示すものであり,個々の診療行為を規制または指示する意図をもつものではない。また,医療訴訟等の資料となるものではない。

本手引きの作成にかかる費用は,日本緩和医療学会のガイドライン統括委員会より拠出された。作成のどの段階においても,日本緩和医療学会は本手引きで扱われている薬剤の製造・販売会社など利害関係を生じうる団体からの資金提供を受けていない。委員の利益相反はP150 に示す。

[注]

1) 苦痛緩和のための鎮静が安易に行われないように,対象としてより終末期の(死期が

迫っている)患者に限定するべきだとの意見があった。実際上,苦痛が治療抵抗性であると判断され鎮静が検討される状況は,より終末期に限られる(患者の全身状態が良い場合は苦痛を緩和する他の手段を検討する余地があり,治療抵抗性と判断されにくいため)。一方,緩和が困難な苦痛が生じるのは必ずしも終末期とは限らない。本手引きが「治療抵抗性の苦痛」の可能性が生じた時に参照するものであるという考えから,対象患者は「治癒を見込むことができないがん患者」全体とした。また,対象を成人に限った理由は,小児がん患者においても治療抵抗性の苦痛の課題があることは認識しているものの,ほとんどの委員の臨床経験が成人に限られているためである。

4.個別性の尊重

5.定期的な再検討の必要性

6.責 任

7.利益相反
p.180
2) 使用者の範囲を拡大することについては利益もある一方で,緩和ケアの知識や技術の

習得が不十分な場合に不適切に使用されることを懸念する意見もあった。しかし,今回の内容が診療内容を具体的に規定するものではない(特に薬剤の具体的な投与方法は例にすぎず,個々の患者において効果と安全性が担保されているわけではない)ことと,十分なパブリックコメントの時間を設けることを前提として,利用者の範囲を拡大して検討を行った。

3) 効果の指標として,患者と家族の両方のアウトカムを含むべきであるという意見が

あった。一般的に,緩和ケアでは家族もケアの対象であり,患者と家族の両方が満足いくことを目的とするべきである。一方,治療抵抗性の苦痛がある状況では,しばしば,患者と家族の希望が一致しない場合がある。この場合にも,患者と家族の両方が満足のいく結果に向けて努力することが重要ではあるが,患者の希望と家族の希望のどちらをより重視するかを明確にするために,患者のアウトカムを効果の指標とすると記載した。

4) 鎮静の「実施率」を評価指標とする考え方があるが,本来緩和ケアの評価は患者や家

族が行うべきものであること,鎮静の実施率の算出方法が標準化されていないこと,および,患者の状態によって必要な緩和治療も異なることから,鎮静の実施率のみを緩和ケアの質とみなす立場はとらない。I章
p.181
1 用語の概念と定義

II章 定 義
p.182
本手引きで扱う用語の概念と定義を示す。

「治療抵抗性の苦痛」(refractory symptom)とは,「患者が利用できる緩和ケアを十分に行っても患者の満足する程度に緩和することができないと考えられる苦痛」を指す[注1]。治療抵抗性であると判断されるには,「1すべての治療が無効である,あるいは, 2患者の希望と全身状態から考えて,予測される生命予後までに有効で,かつ,合併症の危険性と侵襲を許容できる治療手段がないと考えられること」が必要である。苦痛の原因の同定と原因に対する治療,苦痛を悪化させている要因の改善とケア(身体的要因,心理社会的・環境的要因),苦痛緩和を目的とした医学的治療(薬物療法など)それぞれについて検討する。十分な評価,治療を行わずに安易に治療抵抗性であるとしてはならない。苦痛の治療抵抗性が不明瞭な場合,期間を限定して苦痛緩和に有効な可能性のある治療を行うこと(time—limited trial)を検討する。苦痛が治療抵抗性であることは,患者の診療にあたっているチーム全体で,かつ,経験のある専門家を含めて判断することが望ましい[注2]。「耐えがたい苦痛」(intolerable symptom)とは,患者にとって耐えられない苦痛を意味する。患者が耐えられないと明確に表現するか,患者が苦痛を適切に表現できない場合には患者の価値観や考えをふまえて耐えられないと想定される苦痛と定義する。

表1 治療抵抗性の苦痛・耐えがたい苦痛の定義治療抵抗性の苦痛(refractory symptom)患者が利用できる緩和ケアを十分に行っても患者の満足する程度に緩和することができないと考えられる苦痛耐えがたい苦痛(intolerable symptom)患者が耐えられないと明確に表現する,または,患者が苦痛を適切に表現できない場合には患者の価値観や考えをふまえて耐えられないと想定される苦痛

これまで,治療抵抗性の苦痛に対して,患者の意識を低下させることを意図して鎮静薬を投与することを「苦痛緩和のための鎮静(palliative sedation therapy)」と呼んできた。2018 年現在,各国で公開されているガイドラインにおける苦痛緩和のための鎮静の定義の中心をなす部分は「苦痛緩和のために患者の意識を意図的に低下させること(意識を低下させる意図をもって鎮静薬を投与すること)」である(P91,VII章 国際的なガイドラインの要約参照)。この定義では,患者の意識が低下することを「意図している」場合を鎮静とすることによる問題が生じる。すなわち,苦痛緩和を目的として同じ鎮静薬を投与した場合でも,仮

用語の概念と定義1

1.治療抵抗性の苦痛・耐えがたい苦痛(表1)

2.鎮静・鎮静薬(表2)
p.183
に「意識の低下を意図していない」と医師が主張したとすれば,結果として意識の低下が生じたとしても鎮静とは呼ばれない。このような鎮静の定義に関するあいまいさは,国際的にも意見の分かれるところである。したがって,本手引きの作成にあたっては意図的な意識の低下か否かに基づいた鎮静の定義をなるべく避けた定義を提案することとした。そもそも,本手引きは,概念上完全に矛盾のない鎮静に関する定義を提言することを目的としていない。現在,国内で実施されている鎮静薬の投与に伴って生じている臨床上の課題に関する見解を明らかにすることによって,患者が適切な緩和ケアを受けられることを目的とするものである。したがって,定義としては完全でなくても,議論がしやすくなることを選択した。本手引きでは,苦痛緩和のための鎮静を,医師が患者の意識の低下を意図するかしないかにかかわらず,「治療抵抗性の苦痛を緩和することを目的として,鎮静薬を投与すること」と定義する[注3]。鎮静薬とは,一般的には,中枢神経系に作用し興奮を鎮静する薬物を指す。鎮静薬の定義を広くすれば鎮静の範囲が広くなり,議論の焦点があいまいになるため,本手引きでは,日本の実臨床で使用されている頻度の高い薬剤を鎮静薬とする。具体的には,ベンゾジアゼピン系の麻酔導入薬であるミダゾラム(注射薬),ベンゾジアゼピン系睡眠薬であるフルニトラゼパム(注射薬),ジアゼパム(坐薬),ブロマゼパム(坐薬),バルビツール系睡眠薬であるフェノバルビタール(注射薬,坐薬)を指すものとする[注4]。オピオイドと抗精神病薬(ハロペリドール,クロルプロマジン,レボメプロマジン)は本手引きで指す鎮静薬には含めない。したがって,痛みや呼吸困難・せん妄の緩和のためにオピオイド・抗精神病薬を妥当な投与量に増量した結果患者の意識が低下した場合は,鎮静とはみなされない。これは,従来は副次的鎮静と呼ばれていたものであるが,症状緩和と鎮静との境界があいまいになるため副次的鎮静という概念を用いないこととした。このことは,「オピオイド・抗精神病薬の増量は鎮静ではないから,無制限に増量してもよい」ことを意味しているのではない。オピオイド・抗精神病薬の適切な増量については,「IV章 治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと」(P21)に記載した。

表2 鎮静と鎮静薬の定義苦痛緩和のための鎮静治療抵抗性の苦痛を緩和することを目的として,鎮静薬を投与すること。鎮静薬中枢神経系に作用し興奮を鎮静する薬物。本手引きでは,ミダゾラム(注射薬),フルニトラゼパム(注射薬),ジアゼパム(坐薬),ブロマゼパム(坐薬),フェノバルビタール(注射薬,坐薬)を指す。オピオイドと抗精神病薬は含まない。

鎮静は,鎮静薬の投与方法によって,間欠的鎮静(intermittent sedation)と持続的鎮静(continuous sedation)との二つに大別され,さらに,後者を調節型鎮静(proportional sedation)と持続的深い鎮静(continuous deep sedation)に区別する(表3,図1)。患者の意識水準は苦痛を緩和しようと鎮静薬を投与した結果であるともいえるため,鎮

3.鎮静の分類[注5] II章
p.184
静水準による浅い鎮静/深い鎮静という分類は用いない。鎮静レベルを表現する必要がある場合は,Richmond Agitation—Sedation Scale(RASS)の定義に従う(P84,資料 鎮静の時に使用される評価尺度参照)。

間欠的鎮静間欠的鎮静とは,「鎮静薬によって一定期間(通常は数時間)意識の低下をもたらしたあとに鎮静薬を中止して,意識の低下しない時間を確保しようとする鎮静」を指す。具体的には,せん妄や呼吸困難,痛みなどの治療抵抗性の苦痛に対して,苦痛を緩和するために鎮静薬を数時間投与し,就眠・鎮静を得たあとに鎮静薬を中止することを指す。治療抵抗性の苦痛を伴わない不眠に対する夜間の睡眠薬の投与は,「治療抵抗性の苦痛を緩和するために」という鎮静の定義に該当しないため,本手引きでは鎮静に含めない。

1

表3 鎮静の分類の定義間欠的鎮静鎮静薬によって一定期間(通常は数時間)意識の低下をもたらしたあとに鎮静薬を中止して,意識の低下しない時間を確保しようとする鎮静

持続的鎮静苦痛に応じて少量から調節する鎮静(調節型鎮静)苦痛の強さに応じて苦痛が緩和されるように鎮静薬を少量から調節して投与すること

深い鎮静に導入して維持する鎮静(持続的深い鎮静)中止する時期をあらかじめ定めずに,深い鎮静状態とするように鎮静薬を調節して投与すること

図1 鎮静の分類

鎮静薬を中止する

■間欠的鎮静

鎮静薬の投与量の調節は,患者の苦痛の程度を基準とする。したがって,結果として,意識が低下する場合も低下しない場合もある。鎮静薬の投与量の調節は,患者が深い鎮静となることを基準とする。定期的に深い鎮静が必

要かを再評価する。結果として,死亡まで継続する場合も,中止する場合もある。

■持続的鎮静

持続的深い鎮静

治療抵抗性の苦痛に対して,一定期間(数時間)鎮静薬を投与する調節型鎮静

はい

いいえ

治療抵抗性の苦痛に対して少量から鎮静薬を持続的に投与する

鎮静薬を漸増する

治療目標:苦痛が患者にとって耐えられる程度になる(e.g., STAS≦2)

苦痛がとれるだけの最小量の鎮静薬を維持投与するはいいいえ

治療抵抗性の苦痛に対して深い鎮静が得られるまで鎮静薬を持続的に投与する

鎮静薬を漸増する

治療目標:患者は深い鎮静状態となる(RASS≦-4)

深い鎮静を維持するのに必要な鎮静薬を維持投与する

※太枠が当面の治療目標を示しているSTAS:Support Team Assessment Schedule, RASS:Richmond Agitation‒Sedation Scale
p.185
調節型鎮静調節型鎮静とは,「苦痛の強さに応じて苦痛が緩和されるように鎮静薬を少量から調節して投与すること」を指す[注6]。具体的には,鎮静薬(主にはミダゾラム)を少量から増量して,患者の苦痛が緩和される最小の量を投与することを指す。鎮静薬の投与量を調節する基準は,患者の意識水準ではなく,苦痛の強さである。したがって,結果として,患者の意識が維持された状態で苦痛が緩和される場合もあり,苦痛が強い場合には苦痛にあわせて鎮静薬を増量した結果として患者の意識が低下してはじめて苦痛が緩和される場合もある。苦痛の強さの指標としては,Support Team Assessment Schedule(STAS)が1~2 以下であることを用いる[注7]。従来の「浅い鎮静」との違いは,浅い鎮静では,鎮静薬の投与量を調節する基準が苦痛であることが明確にはされておらず,患者の意識水準を用いて定義していることである。本手引きでは,調節型鎮静は,苦痛の強さを指標にして鎮静薬の投与量を調節するということを明らかにすることから,意識の水準を指標とした浅い鎮静という表現を用いなかった。

持続的深い鎮静持続的深い鎮静とは,「中止する時期をあらかじめ定めずに,深い鎮静状態とするように鎮静薬を調節して投与すること」を指す。鎮静薬の投与量を調節する基準は,患者の意識水準であり,RASS の-4(深い鎮静)から-5(覚醒不可能)の水準を指す。「中止する時期をあらかじめ定めずに」と定義するのは,鎮静を開始する時点で「患者の死亡まで(必ず)深い鎮静を維持する」と明確に意図するのではなく,状況を定期的に確認して,「苦痛が緩和されていない,または深い鎮静を中止したら患者の苦痛が再燃して不利益となる(であろう)から深い鎮静を継続する」と考えることが妥当であるからである。深い鎮静を中止しても患者の苦痛が再燃せず不利益とならないと考えられる場合には鎮静薬を減量・中止する。結果的に死亡まで持続的な深い鎮静状態が維持された場合は,死亡まで継続した持続的深い鎮静(continuous deep sedation until death)に該当する。鎮静を開始する時点で,死亡まで深い鎮静を維持するという意図をもって行うものではない。

まとめ間欠的鎮静,持続的鎮静(調節型鎮静,持続的深い鎮静)を比較した表をまとめとして示す(表4)。これらすべての医療行為の最終的な目標は苦痛の緩和である。苦痛を緩和するための当面の目的,指標,手段,その背景にある考え方が異なっている[注8]。例えば,以下のような使用方法が可能である。・ 間欠的鎮静で効果がなかったため,調節型鎮静を実施した。調節型鎮静によって苦痛緩

和が得られ,患者の意識はRASS=-1 であった。・ 間欠的鎮静で効果がなかったため,調節型鎮静を実施した。調節型鎮静によって苦痛緩

和が得られたが深い鎮静(RASS=-4)になった(注:意識の低下は鎮静薬のためか自然経過かを区別できない)。

3

4 II章
p.186
・患者の苦痛が著しく,生命予後が数時間から長くても数日と考えられたことと,患者や

家族の希望から,持続的深い鎮静を開始した。患者の苦痛は緩和され,患者は深い鎮静(RASS=-4)となった(意図された深い鎮静)。・患者の苦痛が著しく,生命予後が数時間から長くても数日と考えられたことと,患者や

家族の希望から,最初から持続的深い鎮静を開始した。患者の苦痛は緩和され,患者は深い鎮静状態(RASS=-4)となったが,翌日に身体状況が安定していたため,鎮静薬を減量して調節型鎮静に切り替えた。その結果,数日後に患者の苦痛は緩和された状態で,意識がある程度回復した(RASS=-1)。

[注]

1) 概念上の定義である。例えば,日本のある地域では利用できるが,ある地域では受け

ることのできない治療は存在する。本手引きでは,実際上,患者の利用できるリソースには地域差・施設差があることを認識したうえで,「患者が利用できる緩和ケア」と表現することにした。当然のことながら,将来に向けて,日本のどこであっても利用できる緩和ケアの機会が均等になることを目標とするべきである。実践上の具体的に検討する内容についてはIV章(P21)を参照。

表4 間欠的鎮静,調節型鎮静,持続的深い鎮静の比較

間欠的鎮静持続的鎮静

調節型鎮静持続的深い鎮静

最終的な目的苦痛の緩和苦痛の緩和苦痛の緩和最終的な目的を達成するために当面の目的とすること一定期間(通常数時間)の意識の低下/就眠耐えられる程度になるまでの苦痛の緩和(結果として意識が低

下する場合もしない場合もある)深い鎮静(深い鎮静でなければ苦痛が十分に

緩和されないという見込みを前提としている)

指標と手段一定期間の就眠を指標として,間欠的に鎮静薬を投与する苦痛の程度(例えば, STAS≦2)を指標として,持続的に鎮静薬を少量から投与する意識水準(深い鎮静,例えばRASS =-4)を指標として,持続的に鎮静薬を投与する背景にある考え方一時的でも苦痛を感じない時間を確保することが患者の利益になるできるだけコミュニケーションがとれる状態を確保しながら,苦痛を最大限緩和することが患者の利益になるコミュニケーションがとれなくなっても,苦痛を確実に取り除くことが患者の利益になる対象となる状態(例)せん妄や呼吸困難,

痛み(間欠的に苦痛が強い場合)せん妄や呼吸困難,痛み(持続的に苦痛が強い場合)致死性の消化管穿孔・肝出血などによる鎮痛薬が無効な非常に強い痛み,窒息・気道出血などによる非常に強い呼吸困難,すでに間欠的鎮静や調節型鎮静が試みられたが十分に緩和しないまたは緩和しないことが予測される非常に強いせん妄・呼吸困難

STAS:Support Team Assessment Schedule, RASS:Richmond Agitation‒Sedation Scale
p.187
2) 治療抵抗性の苦痛であるという判断は,本来的には,医療チーム全体が意思決定に参

加して,かつ,経験のある専門家が行うべきものである。しかし,現実的に,患者が緩和ケアを受けている状況によっては,夜間などの緊急時,地域に経験のある専門家がいない時もあるため,「望ましい」という表現にとどめた。チームで判断することが可能で,経験のある専門家にコンサルテーションできる状況であれば,医師1 名の判断ではなく,チームでの判断をするべきである。

3) 治療抵抗性の苦痛も定義が明確でないため,定義から「治療抵抗性の苦痛」を除くほ

うがよいという意見もあった。その場合は緩和ケアにおける鎮静薬の使用全般を検討することになる(例えば,処置時に一時的に鎮静薬を使用するなど)。今回は,治療抵抗性の苦痛に対する対応を検討するという点で,定義に残すこととした。

4) 当然ながら,今回の手引きで規定されている以外の薬剤(例えば,プロポフォール,

デクスメデトミジン,レボメプロマジン)を使用した場合はどうなのか,規定されている他の投与方法で投与したら鎮静に該当しないのか(例えば,フルニトラゼパムを経口で日中に投与する),投与量が違う場合にはどうなのか(例えば,ハロペリドールを非常に高用量で投与する)という疑問がありうる。これについては,今回の手引きでは個々について判断はしない。本手引きは,現在行われている頻度の高い医療行為についての基本的な考え方を示すもので,鎮静の完全な定義を行うことを意図しているわけではないからである。例えば,レボメプロマジンはヨーロッパにおいて治療抵抗性のせん妄に対して鎮静を

行う時に使用頻度が比較的高い。国内でも一定の頻度で使用されている。クロルプロマジンが苦痛緩和のための鎮静に用いられる薬剤に含められる場合もしばしばある。しかし,レボメプロマジンやクロルプロマジンの投与を鎮静と呼ぶか呼ばないかを議論するよりも,どのような対応をすればよいのかを議論することが現時点では妥当であると考えた。薬剤の種類や投与量によって鎮静とみなすかみなさないかについては,さらに検討が

必要である。

5) 鎮静の分類呼称は暫定的に提案するものであり,これ以外にいろいろな考え方があり

うる。本手引きで提案した名称については,今後変更される可能性がある。委員会では,実臨床において,1鎮静薬を間欠的に投与する場合,2苦痛の程度にあ

わせて鎮静薬を少量から調節して持続投与する場合,3苦痛が非常に強い場合に少量からの投与では十分に緩和できないという見込みのもとに最初から深い鎮静に導入する場合,の3 つがあることで一致した(表)。これは,国際的な文献的考察でも裏付けられるものである。英語圏では,この3 つの鎮静を,順に,1respite sedation,2proportional sedation,3continuous deep sedation(sudden sedation/emergency sedation)と呼ぶ傾向にある。これらの概念を最もよく表す日本語訳については相当の議論があった。まず,鎮静薬を間欠的に投与する場合(respite sedation,1)については,「一時的

に患者が苦痛を体験しない休息を与える」という目的を含んだ呼称として,当初,レスパイト・セデーションとカタカナで表記することが提案された。しかし,現在一般的に呼称されている名称から大きく変更することによって生じうる混乱や介護領域で用いらII章
p.188
れるレスパイトとの用語の重複も考え,間欠的鎮静の名称を残すこととした。次に,苦痛の程度にあわせて鎮静薬を少量から調節して持続投与する場合(propor-

tional sedation,2)については,当初,適切な日本語訳がないことから,プロポーショナル・セデーションとカタカナ表記することも検討されたが,プロポーショナル・セデーションや,直訳の相応的鎮静(比例的鎮静)では意味がわかりにくいため,苦痛の程度にあわせて調節するという行為が明確になるように「調節型鎮静」とした。しかし,調節型鎮静と表現すると,間欠的鎮静でも持続的深い鎮静でも患者の苦痛と全身状態にあわせて鎮静薬を調節して投与する点では同じである(「すべての鎮静は調節型である」ともいえる)にもかかわらず,間欠的鎮静・持続的深い鎮静では調節をしなくてもよい印象を与えうるとの意見があった。そのため,例えば「段階的鎮静」という言葉も提案されたが,何に向かって段階的なのかが不明確で,段階的に深い鎮静を目的とする印象を与えうるとの意見があった。そのため,本手引きでは,完全な表現ではないかもしれないが,調節型鎮静と呼ぶことを提案することとした。さらに,最初から深い鎮静に導入する場合(continuous deep sedation,3)につい

ては,急速な鎮静(rapid sedation),緊急時の鎮静(emergency sedation)がわかりやすいとの意見もあったが,現状で使用されている用語からの継続を考え「深い鎮静に導入して維持する鎮静」(持続的深い鎮静:continuous deep sedation)とした。一方,これまで用いられてきた浅い鎮静/深い鎮静という分類は,結果を意味している

のか目的を意味しているのかがあいまいなため今回は用いなかった。例えば,鎮静薬を持続的に投与し,当初意識のある状態で苦痛緩和が得られていたが,徐々に深い鎮静状態でないと苦痛が緩和されなくなった場合,これまでは「浅い鎮静から深い鎮静に移行した」と表現する場合が多かった。今回は,苦痛を緩和するだけの鎮静薬を調節して投与した結果,患者の苦痛が緩和され意識水準が変化したと考える。表現としては,「調節型鎮静を実施した。患者の意識水準はRASS=-1 から-4 に変化した」となる。調節型鎮静の定義では,鎮静薬の投与量を調節する基準が苦痛緩和の程度であり,患者の意識の変化はその結果であることが明確になったと考える。

6) 調節型鎮静が,意図して意識を低下させることによって定義される,「従来の鎮静」に

該当するのかの判断は以下の理由から難しい。まず,医師の意図に基づく定義のあいまいさである。従来の鎮静は医師の意図により

表 鎮静の分類名として提案されているもの

類似の概念に対する他の呼称

間欠的鎮静(intermittent sedation)レスパイト・セデーション(respite sedation),一時的鎮静(temporal/transient sedation),短期鎮静(short‒term sedation)苦痛に応じて少量から調節する鎮静(調節型鎮静:proportional sedation)浅い鎮静(mild/light/superficial sedation),意識のある鎮静(conscious sedation),徐々の持続的深い鎮静(gradual continuous deep sedation),段階的鎮静,必要に応じて鎮静薬を増量する鎮静(sedation with increasing the depth if necessary)深い鎮静に導入して維持する鎮静(持続的深い鎮静:continuous deep sedation)無意識をもたらす鎮静(sedation to unconsciousness),最初から深い鎮静を意図する鎮静(deep sedation right from the start),緊急時の鎮静(emergency sedation),急速な鎮静(sudden sedation),迅速な持続的深い鎮静(rapid continuous deep sedation),死亡まで継続する持続的深い鎮静(continuous deep sedation until death)
p.189
定義されるため,少量の鎮静薬を投与した時に医師が「患者の意識の低下を意図していない」と主張した場合は鎮静とみなされないことになる。一方,同じ薬剤を同じ投与量で使用しても医師によっては「患者の意識の低下を意図している」と主張し,鎮静に該当する場合もありうる。また,実際に,終末期では,鎮静薬を投与したあとに意識低下を生じたとしても,病

状の悪化に伴う自然経過による意識低下が生じうるため,意識の低下が薬物の作用によるものとは必ずしも判断できない。さらに,症状によっては(少量の)鎮静薬そのものに苦痛を緩和させるという場合が

ありうる。例えば呼吸困難に対してミダゾラムが効果があるという知見がある。もともとの苦痛に対して効果がある鎮静薬の投与が「意図的に意識を低下させる」鎮静とみなされるべきかはっきりしない。以上の観点から,本手引きでは,「調節型鎮静は鎮静なのか鎮静でないのか」という議

論は保留し,鎮静薬の使用をすべて鎮静として扱うこととした。調節型鎮静を鎮静とみなすかどうかはともかく,「鎮静薬(例えばミダゾラム)の持続投与を行う時に何を考えるべきか」という視点から整理を行う。

7) 苦痛を評価する指標としては,国内で一般的に使用されているかという観点から

STAS を挙げた。Numerical Rating Scale の代理評価やその他の苦痛の評価尺度の使用を否定するものではない。また,RASS を苦痛の評価として使用するという考えもありうる。しかし,RASS は

本来は意識の指標であり,患者の感じる苦痛の程度とは一致しない場合がある。したがって,本手引きでは,意識の評価指標であるRASS と,苦痛の評価指標であるSTASを分けて使用することとした。

8) 鎮静薬の使用の最終的な目的が苦痛緩和であることは意見が一致するが,当面の目的

や手段について意見が完全に一致するとは限らない。例えば,「苦痛の緩和を目的として鎮静薬を投与しているが,意識の低下は目的とはしておらず,生じたとしたら合併症(副作用)である」という主張もありうる。これは,目的と手段の区別,意図のあいまいさによるものであり,本手引きでは,複数の考えはあることを認めつつも,最終的な目的,当面の目的,指標と手段の考え方を提案した。II章
p.190
III章

治療抵抗性の耐えがたい苦痛への対応に関するフローチャート
p.191
治療抵抗性の耐えがたい苦痛が疑われた場合の対応についての基本的な考え方をフローチャートに示す(図1)。治療抵抗性の苦痛が疑われた場合,すなわち,臨床的には手を尽くしても患者の苦痛がなかなか緩和しない場合,まず行うべきことは,十分な緩和治療が行われているかどうかの再検討である。すなわち,治療抵抗性が疑われている苦痛(せん妄,呼吸困難,痛みなど)の治療が十分に行われているかをチームで再検討し,あわせて,苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための精神的ケアを検討する。苦痛が強く一時的な苦痛緩和が必要と考える場合には,患者の休息を確保するために,夜間・日中の間欠的鎮静を実施するかを検討する。十分な見直しを行っても苦痛が緩和されない場合,患者の意思と状況の相応性から考えて最善の選択が何かという点から検討する(相応性についてはP65 を参照)。患者の意思によっては,意識が低下する可能性のある方法は希望せず,苦痛が持続したとしてもしっかりコミュニケーションできる方法を選択する場合もある。患者の価値観に基づく意思をよりどころにして相談することが基本である。患者の意思と相応性に基づいて妥当だと考えられる場合,持続的な鎮静薬の投与を考慮する。鎮静は患者の意識が低下することによって人間らしい生活を遠ざけるという側面があるため,一般的には,意識への影響の少ない方法を優先する(表1)。すなわち,調節型鎮静を優先して考慮する。一方,苦痛の強さが著しい,治療抵抗性が確実である,予測される患者の生命予後が切迫している(日から時間の単位である),持続的深い鎮静でなければ苦痛が緩和されないと見込まれる,かつ,副作用のリスクを許容しうる場合には,持続的深い鎮静を最初から行うことも検討しうる。

治療抵抗性の耐えがたい苦痛への
p.192
対応に関するフローチャート

図1 治療抵抗性の耐えがたい苦痛が疑われた場合の対応についての,基本的な考え方のフローチャート

治療にもかかわらず苦痛が継続

治療抵抗性である治療抵抗性とはいえない

妥当とはいえない

耐えがたい苦痛

治療抵抗性

持続的な鎮静薬の投与

調節型鎮静持続的深い鎮静

患者の意思と相応性(苦痛の強さ,治療抵抗性の確実さ,予測される生命予後,効果と安全性の見込み)

患者の意思と相応性からみて妥当であると考えられる

状況に応じて(限定的)原則的に持続的な鎮静薬の投与以外の苦痛緩和手段の見直し

1.苦痛に対する緩和ケア・せん妄の緩和ケア・呼吸困難の緩和ケア・痛みの緩和ケア・その他の苦痛の緩和ケア2.苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための精神的ケア3.間欠的鎮静(必要に応じて)

表1 持続的鎮静の2 つの方法のメリットとデメリット

メリットデメリット

調節型鎮静コミュニケーションできる可能性がある苦痛緩和が十分に得られない可能性がある持続的深い鎮静確実な苦痛緩和が得られる可能性が高いコミュニケーションできなくなる(意図されている)原則的には調節型鎮静を優先して考慮し,持続的深い鎮静の使用は限定的である。
p.193
1 はじめに

2 苦痛に対する緩和ケア

1 痛みに対する緩和ケア2 せん妄に対する緩和ケア3 呼吸困難に対する緩和ケア

3 苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための精神的ケア

4 間欠的鎮静

IV章 実践(1)

治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと
p.194
本章では,治療抵抗性の耐えがたい苦痛への対応として持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこととして,治療抵抗性の苦痛として頻度の高いせん妄,呼吸困難,および,治療抵抗性と判断することの難しい痛みに対して検討するべき緩和ケアと,どのような時にも重要な精神的ケアについてまとめる。苦痛は患者の主観的体験であるから,苦痛そのものが完全になくならなくても,苦痛に対する閾値をあげ,苦痛があっても人生に意味を見出すことができるならば,苦痛に耐えることができる。したがって,精神的ケアは,標準化することは難しいものの非常に重要である。痛み,せん妄,呼吸困難が治療抵抗性である場合の対応については,実証研究がほとんどないため委員の合意での記載を行った[注1]。一般的な診療ガイドラインの記載に従うと,エビデンスの高い治療はなく,具体的に示せるものは乏しい。それでは,治療抵抗性の苦痛に苦しんでいる患者の利益にならないと考えたため,エビデンスとしては不十分なものも含めて記載はなるべく具体的に行った。意図としては,治療抵抗性の苦痛の場面において,選択肢として具体的な記述があるほうが患者の利益になると考えたためである。本章の記載内容については今後の実証研究の結果によって修正される可能性があり,一般化できるとは限らないものも含まれている。各症状ごとのガイドラインの記載と矛盾を生じる場合がありうる。本手引きで想定するのは,ガイドラインに従って診療を行ったとしても苦痛が緩和されない場合である。該当する苦痛についてのガイドラインなども,順次改訂される最新のものを参考にしていただきたい1—3)。治療抵抗性の苦痛に対して,「どこまで治療をすれば十分なことができていると考えてよいか」を示す水準を明示することは難しいが,現実にはそれこそが求められている。高度医療機関の間でも実施できる緩和治療には差があるし,高度医療機関で行われている緩和治療のなかには小規模病院・施設などでは実施できないものがある。逆に,心理社会的な要因として,在宅療養でしか得られないもの(家族との距離感や住み慣れた環境)を病院に求めることは難しいし,地域によっては必要なリソースをみつけることが現実的に難しい場合がある。リソースの不均等は社会全体で解決するべき問題である。具体的な治療については「あるべき状態」ではなく「現状で実施可能な状態」を念頭に記載した。また,せん妄や呼吸困難では,間欠的鎮静や持続的鎮静が検討されるタイミングを「持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと」に記載するほうが自然であったため,鎮静薬の投与に関する記述が含まれている。

[注]

1) 本章の内容をどの程度具体的に記載するのかについては賛否があった。学術団体の記

載する手引きとしてエビデンスが不十分であったり,患者にとっての利益と不利益の見

はじめに1
p.195
積もりができないものは記載するべきではないとの意見もあった。しかし,今回の手引きでは,実際に治療抵抗性の苦痛をもった患者を診療する医療チームが「この患者にはこの方法を検討する価値があるかもしれない」と考えるきっかけになることを意図して,具体的な記載をすることとした。具体的な記載をそのまま,あるいは,具体的な記載のすべてを実際に提供することを勧めているのではない。

【文 献】1) 日本緩和医療学会 編.がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016 年版,東京,金原出版,2016 2) 日本緩和医療学会 編.がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2014 年版,東京,金原出版,2014 3) 日本緩和医療学会 編.専門家をめざす人のための緩和医療学,東京,南江堂,2014 IV章
p.196
痛みが治療抵抗性となり鎮静を必要とすることはそれほど多くない。しかし,苦痛が臓器障害を反映している呼吸困難やせん妄に比べると,治療抵抗性の痛みは全身状態の良い患者でも生じうる。場合によっては経口摂取が十分できている患者の痛みが緩和困難となる場合も想定される。全身状態が良い患者に鎮静を実施すれば,患者の全身状態を大きく変化させたり,生命予後を短縮したりする可能性がある。したがって,痛みに対して鎮静を検討する場合は,痛みが「本当に治療抵抗性であるか」,すなわち鎮静以外に緩和する方法が本当にないのか特に慎重に検討する必要がある。

苦痛に対する緩和ケア2痛みに対する緩和ケア1

1.概 要(表1)

表1 痛みの治療の概要

要点主な具体的な対応例

原因の同定と治療原因の同定痛みに関する問診,痛みの場所の確認,触診による知覚鈍麻などの身体的診察,画像検査を確認し,痛みの原因を明らかにする

痛みの原因に対する治療抗がん治療,感染症に対する治療など痛みの原因に対する治療を行えないかを検討するオピオイドによる痛覚過敏の可能性の検討オピオイドの減量や変更などを検討する非がん性の痛みに対する治療非がん性の痛みに対して,オピオイド以外の鎮痛薬,心理社会的要因に対するケア,神経ブロック,リハビリテーションの介入を優先する

治療目標の設定痛みの病態により,治療目標を設定・痛みの病態を患者にわかりやすく説明し,現実的

な治療目標を設定する・意識状態やコミュニケーションできる程度と鎮痛

のバランスを相談する

苦痛を悪化させている要因の改善とケア身体的要因に対するケア痛みが緩和できる動作・体位の工夫や環境調整(マットなど),装具の利用などを行う

心理社会的要因に対するケア不安,恐怖,怒り,孤独感,抑うつを緩和できるようなケアを行う

医学的治療薬物療法・持続痛に対しては,効果があり意識に影響しない

範囲でオピオイドを増量する・突出痛の対応を行う・オピオイドの効果が不十分な場合,オピオイドの

投与経路の変更,オピオイドの種類の変更,鎮痛補助薬の併用などを行う

薬物療法以外の治療・放射線治療を検討する・神経ブロックを検討する
p.197
難治性の痛みに対して,最初に行うべきことは,痛みの病態を正確に把握することである。がん患者の痛みはすべてがんが原因であると医療者が思い込み,誤った病態の認識のもとにオピオイドを漫然と増量すると,鎮痛に効果がないばかりでなく,せん妄や意識障害を合併してさらに痛みの評価を難しくする悪循環に陥る。問診,身体的診察,画像検査などから痛みの原因を明らかにすることが重要である。原因が同定できれば,まず,痛みを生じている原因そのものに対する治療,すなわち,抗がん治療や,感染症に対する抗菌薬の使用などを行えないか検討する。オピオイド増量後に痛みがかえって増悪する場合には,オピオイドによる痛覚過敏が生じている可能性を考慮する。慢性疼痛,たとえばもともとある非がん性の腰痛などに対しては,オピオイド以外の鎮痛薬,心理社会的要因に対するケア,神経ブロック,リハビリテーションの介入を優先するのが原則である。同定した原因からみて痛みが難治性になると判断される場合(がん自体が神経を巻き込んだ神経障害性疼痛や骨転移による体動時痛など)は,痛みを完全に消失させることはできない可能性が高いことを前提として患者と治療目標を相談する。痛みの病態を丁寧に説明し,選択肢となりうる治療(神経ブロックなども選択肢に含めるか)を共有し,治療目標を設定する。痛みの消失と,意識を維持することやコミュニケーションできることが両立できない場合は,患者自身が何を優先するかを相談しながら治療を行うことが重要である。がんによる痛みの治療においては,痛みを悪化させる要因を取り除き(痛みが出にくいような動作で身の回りのことができるように環境調整を行うなど),心理社会的なサポートも十分に行う。がん疼痛の薬物療法としては,持続痛に対して,効果があり意識に影響しない範囲で定期投与されているオピオイドを増量する。突出痛がある場合には突出痛への対応を行う(痛みがある時に即効性のある鎮痛薬を使用する)。あるオピオイドで効果がない場合は,オピオイドの投与経路の変更,オピオイドの種類の変更,鎮痛補助薬の併用などを行う。薬物療法と併行して,放射線治療や神経ブロックを検討する。網羅するものではないが,難治性の痛みをみた場合に検討するべき具体的な内容を表2に示した。

痛みの原因や機序を評価し,原因・機序に基づいた鎮痛法を計画することが基本である。痛みがあるからという理由だけでオピオイドを増量すると効果が得られないばかりか,かえってせん妄などの精神症状を生じて痛みの治療そのものが行えなくなる場合がある。痛みの原因は,それまでに撮影された画像所見と,問診内容(痛みの場所,痛みの性質,体動時痛の有無),身体的診察所見(痛む場所の知覚異常の有無など)によりおおむね明らかにできる。画像検査ができない環境では,問診や身体診察によって痛みの病態を可能な限り明らかにする。

がん疼痛と,がん患者に併存する非がん性の痛みとの区別がん患者に生じる痛みのすべてががんによるものとは限らない。廃用に伴う筋肉や関節の痛み,もともと存在していたがん治療に関連した痛み(遅延性術後痛,化学療法後の末梢神経障害による痛み,放射線治療の晩期障害など),もともと存在していたがんに関係な

2.原因の同定と治療

1 IV章
p.198
い慢性の痛み(慢性腰痛,変形性関節症,肩関節周囲炎,緊張型頭痛など)がある。がん疼痛ではないその他の痛みが現在の「治療抵抗性の痛み」に関与していないかを検討する。廃用に伴う筋肉や関節の痛みであれば,オピオイドによる鎮痛よりも,体位の工夫,マットの工夫,理学療法(筋肉の緊張をほぐす),トリガーポイント注射などでの対応を検討すべきである。鎮痛薬では非オピオイド鎮痛薬の内服や外用が有用な場合もある。がんに関係ない慢性の痛みや,遅延性術後痛などのがん治療に伴う痛みはもともと難治性の痛みである場合が多く,治療目標は,完全な除痛ではなく,オピオイド以外の鎮痛薬による薬物療法の他に,神経ブロック,心理社会的サポート,リハビリテーションなどを取り入れて,日常生活動作(ADL)を維持することを目標とされる状態である。すなわち,これらの痛みは,がん疼痛に対する治療を定めたWHO 方式除痛ラダーに沿ったオピオイド治療の適応ではなく,オピオイドが痛みの緩和手段として第一選択ではない。このような非がん性の痛みは,がんの終末期になると,筋力低下による生活活動動作の低下や心理社会的問題が増えるため,悪化することがある。このような場合には,心理社会的要因に対するサポートを強化するとともに,それでも痛みが緩和しない場合は,生命予後が月単位(2~3 カ月)以下であればオピオイドによる症状緩和を高用量にならない範囲で考慮する。

表2 難治性の痛みをみた場合に検討するべき具体的な内容

原因の同定と治療・痛みの病態をできる限り正確に把握する・痛みの原因そのものに対する治療,例えば,抗がん治療,感染症の治療などの方法があるかを検討する・オピオイドによる痛覚過敏の可能性を考慮する・がん疼痛と,がん患者に併存している非がん性の痛み(慢性腰痛など)を区別する・廃用に伴う筋肉や関節の痛みに対して,体位の工夫,マットの工夫,理学療法(筋肉の緊張をほぐす),トリガーポイント注射などを行う治療目標の設定・病態によっては,痛みの完全な消失は目標とできないことを患者と共有して,現実的な目標を設定する・痛みの消失と,意識を維持することやコミュニケーションできることが両立できない場合,患者自身が何を優先するかをよく相談する苦痛を悪化させている要因の改善とケア・痛みが緩和できる動作・体位の工夫や環境調整(電動ベッドやマット),装具の利用などを行う・不安,恐怖,怒り,孤独感,抑うつを緩和できるようなケアを行う医学的治療:薬物療法・持続痛に対しては,効果があり,意識に影響しない範囲でオピオイドを増量する。増量過程で,痛みの場所や強さなどに対する問診に的確な返答ができなくなった場合は,せん妄・軽度の意識障害を疑い,それ以上のオピオイド増量を行うことが適切かを再評価する・突出痛に対して効果がある量の即効性の鎮痛薬を使用できるようにする(痛い時にすぐに飲める環境整備,患者に説明,鎮痛できる十分な投与量,適切な投与間隔など)・オピオイドの投与経路を変更する(経口・経皮投与を持続皮下・持続静脈内投与に変更)・オピオイドの種類を変更する・鎮痛補助薬を十分量使用する。単剤で効果がない場合には別の鎮痛補助薬に変更するか,副作用に注意しながら作用機序の異なる鎮痛補助薬を併用することを検討する医学的治療:薬物療法以外の治療・放射線治療を検討する・痛みが限局している場合,神経ブロック(硬膜外ブロックなど)を検討する・くも膜下鎮痛法(くも膜下腔にモルヒネなどを投与する方法)を検討する[注1]
p.199
難治性になりやすい痛み痛みのコントロールが難渋しやすい因子は若年者,神経障害性疼痛,突出痛を伴う痛み,痛みに対する心理社会的な要因がある(精神的な苦悩がある),過去に高用量のオピオイドを使用していたことがある,認知機能障害がある場合などである。痛みの病態でみると,腫瘍による神経叢や脊髄の圧迫・浸潤(例えば,脊髄への浸潤,パンコースト腫瘍による腕神経叢浸潤,骨盤内腫瘍による仙骨神経叢浸潤など),膵臓がんの膵実質の破壊による痛み,広範な胸膜播種による痛み,多発骨転移(特に溶骨性の変化の強いもの),会陰部の痛みが難治性になりやすい(表3)。これらの痛みをオピオイドの増量を中心とした薬物療法では「完全に消失させる」ことは不可能な場合が少なくない。痛みを「完全に消失させる」まで鎮痛薬を増量すると,相対的な過量投与による精神症状を呈する場合がある。特に終末期がん患者の場合はせん妄が併発しやすい。せん妄が出現すると認知機能障害からさらに痛みの治療は困難になる。これらの難治性になりやすい痛みに対しては,鎮痛薬を増量するだけでなく,他の鎮痛手段が十分に行えているかを検討する。

原因の治療がんが痛みの原因となっている場合,痛みの原因である腫瘍に対する治療が可能かを考える。腫瘍縮小効果が望める治療があれば,全身状態とバランスをとりながら抗がん治療を行うことを検討する。感染症の合併で痛みが悪化することも多いため,その場合は感染症の治療を検討する。管腔臓器の狭窄や閉塞に対しては,胃ろう,人工肛門の造設,バイパス手術による狭窄/閉塞部周囲の管腔内圧の減圧や,ステント留置による通過障害の改善により痛みを軽減できる可能性がある。このように,痛みの原因を治療するという考え方が重要である。胆囊炎や虫垂炎などは抗菌薬の使用や,手術適応を検討し,肩関節や股関節の変形による痛みは観血的修復術などの適応がないか整形外科に相談する。いずれも全身状態や予測される生命予後,患者や家族の希望,治療によるメリットとデメリットを総合的に検討する。

難治性の痛みが存在することを前提として,患者と鎮痛の目標を共有することが重要である。痛みの緩和と,意識を維持することやコミュニケーションできることが両立できないことがある。眠気が増えても痛みが減ることを優先するか,痛みは完全に消失しなくても眠気がなく意識がしっかりしていることを優先するかは患者によっても異なる。一般的

3

3.治療目標の設定IV章

表3 難治性になりやすいがん疼痛

・脊髄への浸潤・パンコースト腫瘍による腕神経叢浸潤・骨盤内腫瘍による仙骨神経叢浸潤・膵臓がんの膵実質の破壊による痛み・広範な胸膜播種による胸部痛・多発骨転移の体動時痛(特に溶骨性の変化の強いもの)・会陰部の痛み
p.200
には,完全に痛みが消失しなくても,夜は眠れる,日中は時々痛むが鎮痛薬を日に数回使用すれば治まる,といった目標が望まれる場合が多い。目標設定では,痛みの原因を丁寧に説明する。漠然と「がんによる痛みです」と説明するより,痛みの病態をわかりやすく説明する(「○○に再発した腫瘍が,この手や足の神経に触って痛くなっている」など)。これによって,なぜ痛みが難治性なのかの理由を共有して,痛みの治療目標について相談する。なかなか緩和しない痛みの原因を患者自身がより詳しく理解することで,(たとえ痛みが残ったとしても)説明を受ける前より安心する場合は少なくない。痛みの原因を丁寧に説明することそのものが,疼痛緩和が困難となる因子である精神的な苦悩の一部を緩和することにつながる可能性がある。痛みが多少残ってもさまざまな方法で継続的に最大限サポートし,治療者は最後まで見放さないことを伝える。

身体的要因痛みが緩和できる生活の工夫や環境調整を行う。例えば,骨転移では,患部の保護,骨変形の軽減,支持性の補強を行い骨折による強い痛みを軽減する目的で装具を使用する。整形外科へのコンサルテーションにより,骨転移の状態の判定,特に力学的強度の判定や神経学的診断を行い,免荷や装具の必要性について検討する。骨転移痛のうち,持続痛は,定期的な鎮痛薬の投与により緩和されることが多いが,体動時痛はレスキュー薬を予防的に使用するなど工夫をしても薬物療法だけではコントロールが難しい。よって,理学療法士・作業療法士などによるリハビリテーションの導入により,痛みがより緩和されるような動作の工夫,痛みが増強する動きを回避できるような環境作り,装具の活用方法などを調整し,薬物療法と組み合わせて痛みの軽減を図る必要がある。

心理社会的要因がん患者においては,痛みが難治化する場合,心理社会的因子が関与していることが少なくない。また,精神的な苦悩の存在は痛みのコントロールが難渋しやすい因子の一つである。看護師やソーシャルワーカー,精神科医,心理士など多職種で検討する。痛みが長く続く患者では,痛みを反復して認識し,痛みを拡大視することで救いようのなさを感じる(痛みの破局的思考)ようになり,不安,恐怖,怒り,孤独感,抑うつなどの不快な情動が生じ,痛みの認知を修飾する(痛みが悪化する)。このような悪循環は痛みの遷延化を引き起こす。よって,患者の身体的因子だけではなく,心理社会的因子を含むさまざまな側面からアセスメントを行い,不安,恐怖,怒り,孤独感,抑うつなどを軽減することができれば,痛みを緩和できる可能性がある。特に,疼痛時に使用するために処方されたオピオイドを,精神的な問題(不安,焦燥感など)や痛み以外の身体症状(不眠,倦怠感など)を緩和する目的に使用している場合がある。このような場合では,患者がオピオイドを使用している痛み以外の理由,すなわち,精神的問題や,痛み以外の身体的苦痛症状に対してできることを十分にアセスメントし対応する必要がある。

4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア

1

2
p.201
がん疼痛に対する医学的治療を記載する。

薬物療法薬物療法では,非オピオイド鎮痛薬,オピオイド鎮痛薬,鎮痛補助薬を適切に組み合わせる。患者の痛みが,持続痛なのか,突出痛なのかを区別することが重要である。[オピオイドの増量]持続痛に対してオピオイドの定時投与は有効であり,痛みの悪化に応じて増量することで鎮痛効果が得られることが多い。患者の意識が明瞭で,増量に対して有効であると明確に回答できる範囲で,オピオイドの投与量に上限はない。一方,オピオイドは増量するとしばしば副作用により使用が制限される。特に,オピオイドの投与量の制約になる副作用として,中枢神経症状,すなわち,眠気,意識障害,せん妄がある。オピオイドの増量過程で,もともと意識障害のない患者が,痛みの場所や強さなどに対する問診に(返答は可能でも)的確な返答ができなくなった場合は,せん妄(軽度の意識障害)の出現を疑う。痛みの評価が十分にできない時に,オピオイドをさらに増量すると増量後の痛みの評価ができなくなり,せん妄が生じる可能性を増大させることになる。眠気が許容できる範囲でオピオイドを増量することはありうるが,それ以上のオピオイド増量を行うことが適切かは,患者の希望に沿っているのか,オピオイドは増量しただけの鎮痛効果があるのか,オピオイドによる神経毒性(せん妄,ミオクローヌスなど)が生じていないのかといった点から再評価することが重要である[注2]。オピオイドによるせん妄が出現した際は,オピオイドの増量は見合わせるか慎重に減量し,オピオイドの投与経路の変更,オピオイドの種類の変更,鎮痛補助薬の併用で対応する。せん妄を悪化させている可能性があるが鎮痛には有効と考えられる場合,オピオイドの増量と抗精神病薬などのせん妄の治療を並行して行う場合がある。オピオイドを増量しているにもかかわらず患者の痛みの訴えが増加する場合は,オピオイド誘発性痛覚過敏(opioid—induced hyperalgesia;OIH)の可能性がある。この場合,オピオイドの減量や変更により痛みが改善するかを評価する必要がある。

[オピオイドの投与経路の変更]経口的・経皮的にオピオイドを投与して十分な鎮痛が得られなかった場合,静脈内投与,皮下投与でオピオイドを投与する。例えば,経口的に投与されているモルヒネやオキシコドンを持続皮下投与に変える方法がこれにあたる。

[オピオイドの種類の変更] 1 種類のオピオイドを十分増量しても効果が十分でない場合は,オピオイドの種類を変更する。状況によっては,強オピオイドを同時に2 種類使用する場合がある。特に,大量のオピオイドの一部を他のオピオイドに変更していく過程で,鎮痛効果が改善し,副作用が軽減するような良いバランスが得られた場合は,2 種類のオピオイドの使用を継続することになる場合がある。例えば,フェンタニル貼付剤で効果がない場合に,モルヒネやオキシコドンの持続皮下注射に切り替えたり,もともと投与されていたフェンタニル貼付剤

5.医学的治療

1

IV章
p.202
の一部をモルヒネやオキシコドンの持続皮下注射に変更する。メサドンは,μオピオイド受容体への作用以外の作用機序をあわせもつオピオイドであるため,神経障害性疼痛の場合は,μオピオイド受容体への作用が主となるオピオイド(モルヒネ,オキシコドン,フェンタニル)からの種類変更により痛みが緩和する可能性がある。

[鎮痛補助薬の使用]神経障害性疼痛は治療抵抗性の痛みの約1/3 を占め,オピオイドだけで十分な痛みの緩和はできないことが多い。鎮痛補助薬には多くの種類があるが,どのような痛みに対してどの薬剤が最も有効かはわかっていない。したがって,1 つの鎮痛補助薬で効果が十分でなかった場合,異なる作用機序をもつ鎮痛補助薬を(原則的に単剤ずつ,順番に)投与し,効果があるかを評価する。鎮痛補助薬の効果がないと判断するためには,副作用(眠気など)の許容できる範囲で最大投与量まで増量することが必要で,少量の鎮痛補助薬を投与して効果がなかったと判断することは適切ではない。先行して使用した鎮痛補助薬がある程度有効な場合には,他の鎮痛補助薬を追加するが,鎮痛補助薬の併用は,効果よりも副作用の問題が増える可能性があるので注意する。経口薬ではプレガバリン,デュロキセチン,アミトリプチリンなどが使用される。非経口薬では,選択肢が限られるが,ケタミン,リドカインが使用される。神経圧迫など抗浮腫効果が期待される場合には,鎮痛補助薬としてステロイドが使用される。

[突出痛の対応]突出痛については,持続痛が軽減したあとも1 日数回の痛みの増悪は残る場合が多いという認識が重要である。患者に対しては,痛い時にすぐに飲める環境を整備し,痛みの誘発因子が明らかな場合には痛みがひどくなる前に使用するように説明する。その場合,不安や痛みへの恐怖,痛み以外の身体症状に対して使用していないかの評価が必要である。鎮痛できる十分な投与量,適切な投与間隔などに注意する。薬物療法としては,まず,鎮痛できる十分な投与量が必要である。一般的には,疼痛時に使用する経口のレスキュー薬の投与量は1 日オピオイド量の1/6 程度,持続皮下・静脈内投与の早送りでは1 日オピオイド量の1 時間量程度であるが,効果が不十分で有害事象もない場合は増量を検討する。適切な投与間隔も重要である。一般的に経口オピオイドのレスキュー薬は最高血中濃度到達時間(Tmax)や半減期からは1 時間の投与間隔,持続皮下・静脈内投与の早送りでは15~30 分が妥当な場合が多い。骨転移痛など痛みのピークが来るのが早い場合は,持続注射への変更や口腔粘膜吸収性フェンタニルの使用を考慮する。口腔粘膜吸収性フェンタニルの1 回量は,1 日量からの換算ではなく,個別に必要量をタイトレーションする。

薬物療法以外の治療[放射線治療]骨転移による痛みの原因療法であり,効果が得られれば鎮痛薬の減量や中止が期待できる。特に進行がん患者では骨転移の存在を念頭に置き,骨転移による痛みを疑う場合はで

2
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きる限り画像診断を行い,放射線治療の適応を検討する。緩和的放射線治療に関しては,日本放射線腫瘍学会が発行・公表している『放射線治療計画ガイドライン2016』の「10.緩和」の項にしたがう。(https://www.jastro.or.jp/medicalpersonnel/guideline/2016/10palliative_care.pdf)。

[神経ブロック]痛みの部位が限定されている場合,その部位だけに作用するような神経ブロックで鎮痛が得られる可能性がある。硬膜外ブロックや,末梢神経ブロックでは,局所麻酔薬の単回投与により一時的な鎮痛効果が得られた場合,その後,ターゲットとする部位にカテーテルを留置し持続的に局所麻酔薬(およびオピオイド)を投与することによる持続的な鎮痛法を検討することができる。神経ブロックの種類によっては,神経破壊薬(フェノールグリセリンなど),高周波熱凝固を用いて神経を破壊することにより,比較的長期間の鎮痛効果を得ることができる。痛みの場所と,痛みの原因に対する主な神経ブロックの方法を表4 にまとめた。オピオイドの投与量が高用量になり,ミオクローヌス,意識障害などが生じる場合には, IV章

表4 神経ブロック痛みの場所痛みの原因ブロック方法上肢・パンコースト腫瘍,リンパ節腫大などに

よる腕神経叢障害・頸椎,上腕骨,肩関節のがんによる神経浸

潤,および病的骨折・硬膜外ブロック・くも膜下鎮痛法・神経根ブロック・腕神経叢ブロック

腰下肢・小骨盤内臓腫瘍,リンパ節腫大などによ

る腰仙骨神経叢障害,悪性大腰筋症候群・腰椎,仙椎,骨盤骨,大腿骨のがんによる

神経浸潤,および病的骨折・硬膜外ブロック・くも膜下鎮痛法・神経根ブロック・大腿神経ブロック・坐骨神経ブロック

腰背部・筋・筋膜疼痛(筋肉のこり)・トリガーポイント注射胸部・胸椎,肋骨転移による神経浸潤,および病

的骨折・胸膜・胸壁浸潤(限局しているもの)・硬膜外ブロック・くも膜下鎮痛法・くも膜下フェノールブロック・神経根ブロック・肋間神経ブロック

上腹部・肝臓がんの被膜進展・膵臓がんの膵実質の破壊・腸間膜浸潤,大動脈周囲リンパ節腫大・腹壁への転移・硬膜外ブロック・腹腔神経叢ブロック下腹部・結腸,直腸,膀胱,子宮,卵巣のがんによ

る内臓痛・腹壁への転移・硬膜外ブロック・下腸間膜動脈神経叢ブロック

骨盤部・直腸,前立腺,膀胱,子宮,膣円蓋のがん

による内臓痛・上下腹神経叢ブロック

肛門・会陰部痛・直腸切断術後の旧肛門部痛,直腸がん再

発による肛門・会陰部への浸潤・不対神経節ブロック・くも膜下フェノールブロック(フェノール

グリセリンによるサドルブロック)

〔日本ペインクリニック学会編.第II章 部位別のインターベンショナル治療.がん性痛に対するインターベンショナル治療ガイドライン,真興交易医書出版部,2014 を参照して作成〕
p.204
経口投与・静脈内投与・皮下投与から,硬膜外投与またはくも膜下投与に変更を検討する。硬膜外投与では静脈内投与・皮下投与の1/10,くも膜下投与では1/100 のオピオイドの量で同等の効果が得られるとされている。長期間カテーテル管理が必要な場合には,リザーバーの埋め込みを行うことがある。神経ブロックの一般的な禁忌は,施行部位・針刺入経路にがんが広がっている,もしくは感染巣があること,全身性の感染症,出血・凝固機能障害である。神経ブロックは,全身状態が比較的保たれている時に施行するほうが合併症の危険を少なく実施できる。よって,オピオイドの投与量にかかわらず,対象となりうる痛みがあれば神経ブロックの適応があるかどうか早めに相談することが望ましい。がん疼痛の診療経験の豊富な麻酔科医・ペインクリニック医にアクセスが可能な場合はより専門的な多くのブロックを検討できるが,すべての施設ですべてのブロック手技が実施できるとは限らない。しかし,治療環境で実施可能な方法を探す努力は重要である。例えば,硬膜外ブロックは,麻酔科領域で広く施行されている神経ブロックであり,多くの施設で実施可能である。腕神経叢ブロック,大腿神経ブロック,坐骨神経ブロックなどの末梢神経ブロックも手術麻酔で行うことが多くなっている。麻酔科医にアクセスできるならば,まずはこのような比較的一般的な神経ブロックが実施可能か相談する。実施可能であれば専門的な神経ブロックを受けられる施設に紹介するまでの一時的な鎮痛法(架橋的鎮痛法)となる。

治療抵抗性の痛みを考えるうえで注意するべき未解決の課題として主なものとして3 つを挙げておく(表5)。1 つめは,薬物療法について,「どれくらいの鎮痛治療をすれば治療抵抗性と判断してよいのか」の基準があいまいなことである。例えば,以下のことについて回答できるエビデンスはいまだ存在しない:1あるオピオイドを増量する時にそれ以上オピオイドを投与するべきではないとする判断の基準は何か,2あるオピオイドが無効な場合に何種類のオピオイドに変更すれば治療が無効と判断できるのか(それ以上さらにオピオイドを変更しても効果がないとみなせるのか),3オピオイドの種類を変更するのと投与経路を変更するのと神経ブロックを追加するのとではどれを優先して行い,どれが無効なら治療抵抗性であると判断できるのか,4神経障害性疼痛に対してある鎮痛補助薬が無効な場合にどの鎮痛補助薬に変更・追加すれば無効と判断できるのか(それ以上さらに鎮痛補助薬を変更・追加しても効果がないとみなせるのか)。今後,治療抵抗性の痛みと診断するための(逆にいえば,本来は治療抵抗性ではない痛みを治療抵抗性と判断してしまわないための)より客観的な基準を設定する臨床研究が必要である。現状においては,難治性の痛みにも多くの痛み治療の選択肢があることを認識し,患者が治療を受けている環境で実施可能な方法を探求することが重要である。2 つめは,がん疼痛に対して有効な可能性のある神経ブロックをできる医師にアクセスできる環境に,地域や施設による差が大きいと考えられることである。場合によっては,疼痛部位が限局した痛みでは局所の神経ブロック(硬膜外ブロックなど)を行うことによって,また,広範囲に及ぶ痛みでオピオイドが大量投与となった患者ではくも膜下鎮痛法を

6.未解決の課題
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行うことによって,鎮痛が改善する可能性がある。実践上の問題は「どのようにして実施可能な医師にアクセスするか」である。本手引きでは当初「どこまで実施すれば最大限の治療を行ったといえるか」を明記するように検討したが,地域リソースの差が大きい現状では,全国で統一した基準を設けることはできないことで一致した。したがって,本手引きに記載した神経ブロックは地域や施設によっては実際上利用できないものも含まれている。今後,がん疼痛に対して神経ブロックをできる医師に全国でアクセス可能な体制を整備していく必要がある。現状では,地域で利用可能な神経ブロックについての情報を知ったうえで,患者と相談することが重要である。3 つめは,患者の痛みがもともとあった非がん性の痛みである場合,もともと,痛みを完全に消失させることは難しい。その場合,終末期に「痛みがゼロになること」を目標とすることが妥当なのかの視点である。非がん性の痛みの多くは,終末期でなければその治療目的は必ずしも「痛みがゼロになること」ではなく,「痛みがありながらも,生活できること」である。しかし,終末期において相応性の観点から,治療の目標が変わることはあると思われる。この点については,医学的な問題というよりは,価値観に関わる問題であり,社会的なコンセンサス構築が重要である。

[注]

1) くも膜下鎮痛法は神経ブロック手技を使用することから,「薬物療法以外の治療」のな

かに記載した。

2) オピオイドの増量で意識障害がみられていてもなお痛みが残っている場合にオピオイ

ドを増量することについては,「副次的鎮静」と呼ばれる場合があった。しかし,オピオイドは鎮静薬ではないため,意識の低下を目的としてオピオイドを増量することは不適切であるとの観点から,本手引きでは副次的鎮静という概念を用いないこととした。  患者が増量の効果を適切に回答できて眠気が許容できるまでオピオイドを増量するこ

とは適切である。一方,患者に強い眠気や意識障害が生じて痛みを適切に表現できなくなってからもさらに(患者の断片的な表現や表情,姿勢などから痛みがあるだろうという認識のもとに)オピオイドを増量することは慎重にするべきである。眠気のより少ない鎮痛手段を希望する患者の意思に反して,オピオイドの種類や投与経路の変更を検討せずに「痛いより眠いほうがましだろう」と一方的に考えることは慎むべきである。オピオイドによる神経毒性(せん妄,ミオクローヌスなど)がみられる場合には,患者の意識を低下させることを前提としてオピオイドを増量するべきではない。

(馬場美華) IV章

表5 難治性の痛みに関する未解決の課題

・どれくらいの治療をしたら治療抵抗性の痛みであるといえるのかの明確な基準がない・がん疼痛に対して神経ブロックをできる医師へのアクセスに地域差・施設差がある・ (もともと痛みがなくなるわけではないことの多い)非がん性の痛みを治療抵抗性の苦

痛としてよいかのコンセンサスがない
p.206
終末期のせん妄に対して確立された予防法はないため,早期にせん妄をみつけて重篤化する前に対応することが重要である。ほとんどの患者に注意力の障害(話しかけてもぼうっとしていて適切な返答がないなど)と睡眠覚醒リズムの障害(夜眠れず,日中うとうとしてしまう)がみられることに留意して患者を観察する。日付や場所などの見当識障害の有無(「ここがどこだかわかりますか」など)をせん妄のスクリーニングに代用していることがよくあるが,見当識障害の出現頻度は3/4 程度であり,配慮なく見当識について尋ねることは患者を傷つけうるため安易に行うべきではない。せん妄であると判断されたら,せん妄の原因を把握する。回復が可能か否かをもとに治療目標を設定する。せん妄の原因は,せん妄が治療抵抗性となりやすい終末期では,薬剤(オピオイド,ステロイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,抗コリン薬),臓器障害(低酸素脳症,肝不全,腎不全),高カルシウム血症,頭蓋内病変,脱水,感染症などが多い。原因の治療が可能な場合には原因の治療を行う。せん妄の原因や全身状態から,せん妄治療の目標を設定することが重要である。すなわち,回復を目標とするか,一部の症状の緩和を目標とするかを判断する。完全な回復が見込めない場合では,夜間の睡眠と興奮・焦燥の緩和(夜に眠れて,興奮・焦燥がない)が

せん妄に対する緩和ケア2

1.概 要(表1)

表1 せん妄の治療の概要

要点主な具体的な対応例

原因の同定と治療原因の想定薬歴・脳画像検査を確認し,酸素飽和度,血液検査を行う

治療可能な原因の治療例えば,高カルシウム血症に対してビスホスホネートを投与する原因薬剤の減量・中止オピオイド,ステロイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,抗コリン薬を減量・変更する

治療目標の設定回復を目標とするか,部分的な症状の緩和を目標とするかを設定する・臓器障害が原因のせん妄では,回復は目標にできない

ため,夜間睡眠の確保,焦燥・興奮の緩和が目標となることが多い・意識状態やコミュニケーションできる程度と苦痛緩和

のバランスを考慮する

苦痛を悪化させている要因の改善とケア不快な身体症状の緩和痛み,呼吸困難,発熱に対応し,宿便,尿閉がないかを確認する

体動制限の最小化持続点滴の中止を考慮し,ルート・ドレーン類を整理する感覚遮断への対応眼鏡,補聴器の使用,照明の調整(夜間の薄明かりなど),日付・時間の手がかり(カレンダー,時計を置くなど),親しみやすい環境の提供(家族の面会,対応する医療者を同じにする)などを行う

医学的治療薬物療法・定型抗精神病薬(ハロペリドールなど),非定型抗精神

病薬(リスペリドン,クエチアピンなど)を投与する・就眠できない場合,ベンゾジアゼピン系薬剤などを併

用する
p.207
目標となることが多い。意識を低下させる作用のある薬剤を使用することが多いため,常に,患者の意識状態やコミュニケーションできる程度と苦痛緩和のバランスを考慮することが重要である。治療では,せん妄を悪化させている誘発因子である,不快な身体症状,体動制限,感覚遮断への対応を行う。薬物療法は抗精神病薬が中心であり,効果がない時は他の抗精神病薬に変更する。就眠できない場合には,ベンゾジアゼピン系薬剤など(内服可能な場合はオレキシン受容体拮抗薬も含む)と併用する。網羅するものではないが,難治性のせん妄をみた場合に検討するべき具体的な内容を表2 に示した。

原因の同定せん妄の発生要因は,直接原因,誘発因子(直接原因ではないが,発症を促進,重篤化・遷延化する要因),もともと存在する準備因子(せん妄の本態である脳機能の低下を起こしやすい状態)とに分けて考えることができる(表3)。直接原因や誘発因子は治療の対象となるので,可能な限りせん妄の原因や悪化させている要因を同定することは重要である。進行がんでは多くの場合複数の原因があり,通常2~3 つの要因がせん妄発現に関与する。頻度が高いものは,薬剤(オピオイド,ステロイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,抗コリン薬),臓器障害(低酸素脳症,肝不全,腎不全),高カルシウム血症,頭蓋内病変(脳転移・がん性髄膜炎),脱水,感染症,低ナトリウム血症,貧血などである。したがって,頻度の高い原因は,薬歴,身体所見,血液検査,酸素飽和度,脳の画像検査の見直しを行うことで判断できる。血液検査の項目は,一般の血液・生化学検査項目で頻度の高い原因のスクリーニングはできる。もし他に原因が見あたらない場合は,必要に応じてVitB 群,甲状腺機能などを含めるようにする。異常な所見はそれがあるからといって,せん妄の原因になっているとはいえない。せん

2.原因の同定と治療

1 IV章

表2 難治性のせん妄をみた場合に検討するべき具体的な内容

原因の同定と治療・原因の想定を行い,回復できる原因があるかを見直す・治療可能な原因(例えば,高カルシウム血症,感染症,脱水)がないかを確認して,治療する・オピオイドがせん妄の悪化に関与していると考えられる場合,鎮痛方法を見直す(P24,VI章—2—1痛みに対する緩和ケア参照)・ステロイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,抗コリン薬が必要かを見直して,必要でなければ減量・中止する治療目標の設定・現実的に可能な治療の目標を相談する。夜間の就眠,興奮・焦燥の緩和をまず目的とする苦痛を悪化させている要因の改善とケア・せん妄を悪化させている身体的苦痛(痛み,呼吸困難,発熱,宿便,尿閉)に対応する・体動制限を来す処置(24 時間点滴,ルート・ドレーン類)を見直す・見当識への支援や環境整備を行う医学的治療・抗精神病薬の投与を行う。効果がない場合は他の抗精神病薬に変更する・夜間や,日中の興奮・焦燥の強い時など就眠できない場合には,ベンゾジアゼピン系薬剤などを

併用する
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妄症状の発現の前後で所見が悪化している場合や,原因薬剤の投与が開始されていたり増量されている際には,それが原因である可能性がある。せん妄発現に時間的に先立ってその原因が存在し(時間的先行性),その要因が強まる経過でせん妄がさらに悪化していれば原因である可能性が高い(用量反応依存性)。例えば,Na 値が131 mmol/L である時は意識は正常であったが,せん妄が出現した時に122 mmol/L であり,その後の経過でNa が正常化するに従いせん妄が改善していれば低ナトリウム血症が原因と判断できる。しかし,臨床的には他の要因も同時に変化していたり,臨床検査に含まれている項目以外の要因の関与などの可能性もあり,縦断的な経過をみても明確に原因かどうかの判断は実際上つけにくいことが多い。したがって,可能性のあるものはすべて原因の可能性がある病態として挙げておくことが実践的である。原因をどこまで調べるかは,その原因の治療可能性に依存する。原因を同定することで患者の希望する原因治療を行うことに通じるならば,原因の同定を進めるべきである。一方,疾患の進行に伴う原因が明確で,患者の治療目標とも一致しないならば,個々の原因検索を網羅的に行うことは通常必要ない。例えば,顕性黄疸がある場合に,閉塞性黄疸が想定されて患者が減黄術を行う意思があるならば検索を進めることが重要である一方,多発肝転移による肝不全が想定されて患者の検査や治療の希望もない場合には,原因は新たに検査を行わなくても臨床経過から推測できればよい。

原因の治療せん妄の原因のうち,原因の治療によって回復する可能性が比較的高いものは,薬剤,高カルシウム血症,感染症,脱水である。一方,当然ではあるが,がんそのものの進行によってもたらされた臓器不全(呼吸不全,肝不全,腎不全),頭蓋内病変は原因の根本的な治療が有効ではない場合が多い。すなわち,原因が臓器不全であるかどうかによって,回復する可能性をある程度判断できる。

2表3 進行がん患者のせん妄の主な直接原因,誘発因子,準備因子

直接原因頻度が高い・薬剤(オピオイド,ステロイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,抗コリン薬)・臓器障害(呼吸不全,肝不全,腎不全)・高カルシウム血症・頭蓋内病変(脳転移・がん性髄膜炎)・脱水・感染症(肺炎,敗血症など)・低ナトリウム血症・貧血

その他・ウエルニッケ脳症(ビタミンB1 欠乏)・甲状腺機能障害・アルコール・ニコチンの離脱症候群・腫瘍随伴症候群(脳炎など)誘発因子・不快な身体症状(痛み,呼吸困難,発熱,宿便,尿閉)・体動制限を来す処置(持続点滴,ルート・ドレーン類,身体拘束)・睡眠・覚醒リズムの障害(夜間の処置,点滴による頻尿)・感覚遮断(視力・聴力障害,夜間の暗闇,知らない医療者)準備因子・高齢(70 歳以上)・脳の器質的病変(脳血管障害,認知症)
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薬剤としてせん妄の原因となりやすいものは,オピオイド,ステロイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,抗コリン薬である。詳細な評価を行わずに痛みの完全な消失を意図してオピオイドの増量を行った際にせん妄が明らかとなった場合には,オピオイドの増量以外の鎮痛治療を検討する(P24,IV章—2—1 痛みに対する緩和ケア参照)。せん妄では抑制が欠如することが多く,意識が清明な際よりも痛みを強く訴えることがある。痛みの訴えに一貫性がない場合や,痛みに関して尋ねると,痛みの場所を明確に返答できず常に「痛い」と不明瞭に肯定するなどの際には,鎮痛治療の再評価が必要である。ステロイドは終末期の倦怠感にしばしば使用されるが,効果がないにもかかわらず評価を十分に行うことなく増量するとせん妄を生じる原因となる。ステロイドの効果がない場合には,中止するか,投与期間が長期にわたる場合には副腎不全を生じない程度に減量する。抗コリン薬に関しては,可能な場合は減量あるいは中止を考慮する。睡眠に対して用いられているベンゾジアゼピン系薬剤に関しては,せん妄の主たる原因であることが疑われる場合には,抗精神病薬であるクエチアピン,鎮静系抗うつ薬(トラゾドン,ミアンセリン),または,せん妄を発現する頻度が低いオレキシン受容体拮抗薬,メラトニン受容体アゴニストに変更する。ベンゾジアゼピン系薬剤が使用されているがせん妄の原因が他にもある場合には,終末期ではかえって中止することで患者の不眠を悪化させることもある。そのような場合には,抗精神病薬を併用してベンゾジアゼピン系薬剤を減量しつつ継続することも多い。高カルシウム血症に対してはビスホスホネートを用い,感染症に対しては適切な抗菌薬を,脱水に対しては胸水や腹水が増えないことを確認しながら輸液を行う。このような原因の治療をどこまで行うかは患者個々の治療目標によって異なる。可能な限り多職種で相談して決める。例えば,感染症が原因と推定される際,残された時間が限られている場合,どこまで感染症を診断するための検査を行うか,起炎菌の同定を行うか,抗菌薬を使用するか,ドレナージを行うかなどには一定の明確な正解があるものでもないため,個別的な判断が求められる。

せん妄の原因が臓器障害による場合や,患者の全身状態が悪い場合には,せん妄が完全に回復することは困難なことが多い。患者が死亡直前の場合は,意識の混濁は死に向かう自然経過の一部であるともいえる。その場合には,患者ごとに個別的に治療目標を設定することが重要となる。具体的には,緩和する対象となるせん妄の症状を明確にし,目標を設定する。臨床的に問題となることが多いのは,興奮・焦燥,夜間の睡眠障害,幻覚・妄想である。これらに対して,例えば,ベッド上で安静に過ごせる程度に興奮・焦燥を改善させる,夜間のみは睡眠がとれるようにする,軽度の患者にとって苦痛でない幻視に関しては治療目標としない,といったように個別に目標を設定する。一般的に,せん妄に対する薬物療法は多かれ少なかれ鎮静作用のある薬物を使用することになるため,治療の結果として,患者が家族と話をするといったコミュニケーション機能と症状を緩和することを両立させることが難しい場合がある。したがって,症状(興奮・焦燥や不眠)を緩和することと,治療によるデメリット(患者が家族と話をすることがで

3.治療目標の設定IV章
p.210
きなくなるなど)とのバランスをとりながら,治療目標を設定していく。興奮・焦燥,夜間の睡眠障害,幻覚・妄想すべてがみられる典型的な難治性の過活動型せん妄の場合,まずは夜間の睡眠確保を目指し,次に興奮・焦燥を緩和し,そして最後に幻覚・妄想を治療するといった順で目標設定を行うことが多い。

身体的要因特に進行がん患者では,患者の体験している身体的な不快がせん妄を悪化させ,身の置き所のない状態を悪化させていることがある。痛みや呼吸困難といった苦痛に対応することに加えて,特に注意すべきなのが発熱,宿便と尿閉である。発熱に対しては,解熱剤の投与やクーリングを行う。宿便と尿閉に対しては,患者の様子を観察して排尿や排便ができないことを示唆するしぐさがないか観察する。超音波を用いたり,下腹部が恥骨よりも不自然にせり出していないかを確認することによって尿閉がないかを確認する。必要なら,直腸診を行って,宿便がないことを確認する。体動制限を来す処置もせん妄を悪化させる要因として大きい。夜間に目的があいまいなまま行われている持続点滴は,それ自体が患者の動きを抑制してせん妄の発現を促進するし,輸液による頻尿や,点滴の差し替えのために睡眠が障害される。したがって,輸液が必要な場合には日中に行うなどの対応が望ましい。ルート・ドレーン類をなるべく少なくすることも有用である。

環境的・心理社会的要因せん妄の治療において,環境の整備は重要である。特に中程度までのせん妄に対して,抗精神病薬を使用することによって症状が改善しないばかりでなく生命予後が短縮する可能性も示唆されており,「抗精神病薬を投与するだけで,環境整備を行わない」対応は適切ではない。環境整備の一般的目標は,せん妄発現の促進因子を可能な限り軽減,除去することにある。感覚遮断への対応として,親しみやすさと適切なレベルの環境刺激や眼鏡,補聴器の使用などにより感覚刺激を改善する。周囲のオリエンテーションがつくよう夜間も薄明かりをつける,時間の感覚を保つことができるようカレンダーや時計を目に触れやすい場所に置く,親しみやすい環境を整えるために家庭で使い慣れたものを置く,などが挙げられる。家族や慣れ親しんだ医療スタッフとの接触を頻回にすることで安心感を与えることも有用である。

薬物療法抗精神病薬を使用し,就眠できない場合には鎮静作用を有する薬剤を必要に応じて併用することが基本である[注1]。注射薬が使用できる環境を前提として記載したが,注射薬が使用できない場合は代替となる坐薬によって対応することを検討する。

4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア

1

2

5.医学的治療

1
p.211
1 )抗精神病薬の単剤投与まず行う薬物療法としては,抗精神病薬を単剤で投与して1~3 日程度で効果を評価する。

[経口投与ができない時]最も一般的に用いられるのはハロペリドール1.25~5 mg/日程度の点滴静注や皮下注射である。1.25~5 mg/回を1 日1~3 回投与し,不穏時には追加で使用する。ハロペリドールを15~20 mg/日以上使用した場合にさらに効果があるかは明確な指針はなく,実際上はまれに有効な症例がみられる程度である。副作用として,アカシジア,ジストニアなどの錐体外路症状は不快感が極めて強く,投与開始1~2週後に発現することが多いので継続的に注意して観察をする[注2]。終末期など夜間の就眠を目的とすることが優先される場合には,ハロペリドールにヒドロキシジン,または,プロメタジンを併用して使用することもある。例えば,ハロペリドール2.5 mg とヒドロキシジン12.5~25 mg(または,ハロペリドール2.5 mg とプロメタジン12.5~25 mg)を併用して点滴静注や皮下注射で用いる。これらの薬剤は,抗ヒスタミン作用による鎮静作用があるためハロペリドール単剤に比較して就眠しやすくなるが,抗コリン作用も同時に存在するためそれ自体がせん妄の原因になる可能性がある。したがって,可能であれば投与期間は短くするべきであり,投与によってせん妄が悪化する場合には中止する。ヒドロキシジンやプロメタジンの併用よりもさらに確実に就眠を得る必要がある場合は,ベンゾジアゼピン系薬剤,例えば,フルニトラゼパムを併用する。例えば,ハロペリドールを定期的に使用したうえで,フルニトラゼパムの点滴を用いる,または,ハロペリドール2.5~5 mg とフルニトラゼパム0.5~1 mg を生食100 mL に溶解して就眠にあわせて呼吸状態に注意しながら点滴投与する。フルニトラゼパムもせん妄を悪化する原因となるため,可能であれば投与期間は短くするべきであり,投与によってせん妄が悪化する場合には中止する。

[経口投与が可能な時]一般的に用いられるのは少量のクエチアピン(10~50 mg/日),リスペリドン(0.5~2.0 mg/日)である。増量の過程で副作用がなければ各々100~200 mg/日,3~5 mg/日程度まで増量する場合がある。オランザピン2.5~10 mg/日も使用できる。

2 )抗精神病薬を主とした治療で効果がない時の薬物療法最初に投与した抗精神病薬で効果がない(眠れない,興奮・焦燥が改善しない)時は,異なる薬理作用で鎮静作用を有する薬物を併用する。すなわち,抗精神病薬に加えてベンゾジアゼピン系薬剤を併用するか,または,より鎮静作用の強い抗精神病薬に変更する。

[経口投与ができない時]最も一般的な方法は,ハロペリドールを効果が得られている最低用量に設定したうえで(例えば,ハロペリドール2.5 mg/日で部分的な効果が得られたあとに10 mg/日まで増量しても変化がなかった場合は2.5 mg/日まで減量する),加えて薬理作用が異なる鎮静作用IV章
p.212
を有する薬剤としてフルニトラゼパムまたはミダゾラムを併用する。フルニトラゼパムやミダゾラムを点滴や皮下注射として,夜間を中心として,日中でもせん妄症状が強い時に限って時間を区切って就眠目的に使用する[注3]。多くのせん妄では,ハロペリドールの一定量に加えて,フルニトラゼパムまたはミダゾラムの間欠的投与を行うことによって夜間の就眠と日中の興奮・焦燥を緩和することが可能である。しかし,これらの点滴で就眠はいったんできるが覚醒すると再びせん妄となることを反復するような状況では,持続的な鎮静を検討する対象となる[注4]。他の選択肢としては,クロルプロマジンの点滴静注や持続皮下注射がある。クロルプロマジンはハロペリドールに比して抗コリン作用が強いため,せん妄治療として使われることはハロペリドールに比べると一般的ではない。しかし,鎮静効果があるために,ハロペリドールで十分な効果が得られない場合や,錐体外路性の副作用でハロペリドールでの治療が困難な場合などに使用される。その場合,クロルプロマジン5~10 mg/日程度の少量投与から開始する。クロルプロマジンの他に注射投与が可能な薬剤にレボメプロマジンがある。抗コリン作用が強くせん妄を悪化させる可能性や血圧低下作用があるものの,せん妄の治療薬としても鎮静薬としても使用されることがある。

[経口投与が可能な時]内服ができる場合は,抗精神病薬を変更または併用にする。あるいは,抗精神病薬と,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬,ベンゾジアゼピン系睡眠薬,オレキシン受容体拮抗薬,メラトニン受容体アゴニストを併用する。鎮静作用があり抗コリン作用の少ない鎮静系抗うつ薬(トラゾドン,ミアンセリン)も用いられる。

難治性のせん妄に関して,現時点で未解決の課題のうち本手引きに関係する点を3 点述べる(表4)。最も大きな課題は,そもそも,せん妄のある患者はどれくらいの苦痛を体験しているのかが明らかになっていない点である。せん妄状態とは意識が障害されている状態であるため,意識が混濁している患者の主観的な(患者にしかわからないはずの,患者自身に苦痛の程度を尋ねなければわからないはずの)苦痛をどのように判断するかの具体的な方法がない。この点は,「治療目標の設定」に大きな影響を与える。例えば,過活動型せん妄で治療を行う場合,睡眠が確保されて,興奮・焦燥の症状もコントロールできた際,軽度から中程度の幻視が残っていたり,見当識や思考までもは回復しなかった場合,「まだ患者は苦痛なはずだ」という前提に立ってさらに意識の低下を許容するのか,「苦痛ではないはずだ」という前提に立って薬物療法はそれ以上行わないとするのかの判断は難しい。また,低活動型せん妄も過活動型のせん妄と同様に患者にとっては苦痛があるというせん妄から回復した患者を対象とした知見が存在する。低活動型せん妄を体験している患者が「ぼうっとして思考がまとまらないこと自体がつらい」という訴えがあり,有効であると考えられる治療がない場合,鎮静の適応とするかのコンセンサスはない。

6.未解決の課題
p.213
本手引きでは,意識障害のある患者の苦痛を定量する方法が確立していないという限界と,国内の現状をふまえて,夜間の睡眠と興奮・焦燥がある程度コントロールされていれば,一般的には治療目標は達成されているとみなすことを提案する。つまり,多くの場合において,夜間の睡眠の確保,日中の興奮・焦燥がなくなることを治療の目標とすることはおおむね妥当とみなされると考える。一方,患者の価値観によっては,せん妄症状の緩和をさらに求める場合はあると考えられる。患者がどのような苦痛を終末期せん妄で体験しているのかは未知であるという前提のもと,睡眠と興奮・焦燥はコントロールされているが,患者にとっては苦痛かもしれないという理由で鎮静薬を持続投与することも場合によってはありうる。次に,せん妄では患者の意識が不明確なために,家族の苦痛の認識が判断の根拠となりやすいことも問題を生じやすい。例えば,患者の苦痛がそれほどでもないと医療者にはみえたとしても,家族が鎮静を求める場合にどのような対応が求められるのかを明確にしていくことも課題である。もう1点は,せん妄に対する薬物療法などの治療法は現在ほとんど標準化されておらず,エビデンスも一貫していないことである。本手引きでは,緩和されない苦痛を目の前にする医療者の参考になりやすいように,投与薬物の種類と量をなるべく具体的に記載することとしたが,エビデンスは不十分で検証されたものではない。科学的裏付けが不十分な具体的な投与量を記載することについては,手引きの作成中にも賛否があった。本手引きでは,使用者が個々の患者の状態や施設で利用可能な方法を総合的に考慮して投与薬を選択することを前程としており,記載の通りに行えばよいことを保証するものではないことを十分に考慮していただきたい。

[注]

1) 「鎮静作用を有する」という記載の意味は一般的な鎮静作用のことであり,本手引きで

定義した苦痛緩和のための鎮静に使用するという意味ではない。

2) 高用量の抗精神病薬を使用することを「鎮静」と呼ぶか否かは国際的にも明確な指針

がなく,異なる意見がある。本手引きでは抗精神病薬は鎮静薬に含めていないので,抗精神病薬を使用しても苦痛緩和のための鎮静には該当しない。一方で,ハロペリドール5mg/日なら「鎮静ではない」が,20mg/日は「鎮静である」という意見はありうる。本手引きではこのような「何を鎮静と呼ぶか」の議論は本質的ではなく,患者にとっての利益が少ないと考え,「鎮静か鎮静ではないか」の議論は保留する。ここでは,高用量の抗精神病薬を使用する行為を鎮静と呼ぶのか否かはさておき,ハロペリドールを患者の症状をみながら少量ずつ増量し,(通常はそれ以下の投与量であるが)少数例の患者でIV章

表4 難治性のせん妄に関する未解決の課題

・せん妄状態にある患者がどれくらいの苦痛を感じているのかを知る方法がない (どの程度までせん妄症状がコントロールされれば患者は苦しくないのか,低活動性せん妄は苦しくないのか)・患者にとっての苦痛が評価できないなかで,家族が苦しそうだという認識の時に鎮静を行うことは妥当なのかわからない・薬物療法の適切な投与量・投与方法のエビデンスが不足している
p.214
は15~20mg/日使用する行為は,難治性のせん妄に対する対応としては妥当であるということを述べている。

3) 日中にせん妄による苦痛を改善するために患者を就眠させることは,せん妄を治療抵

抗性の苦痛と考えれば間欠的鎮静(時間を限定した鎮静薬の投与)に該当する。せん妄がまだ治療抵抗性ではないと考えれば,せん妄の治療の一環ともいえる。  本手引きでは,フルニトラゼパムやミダゾラムを用いて間欠的に就眠を得ることを鎮

静と呼ぶかどうかを判断するのではなく,抗精神病薬を使用しても緩和しないせん妄による不眠や興奮・焦燥に対して,フルニトラゼパムやミダゾラムを間欠的に投与して就眠を得ることは適切であることを述べた。

4) 治療抵抗性のせん妄では,このように最初に抗精神病薬の投与を行い,不眠,興奮・

焦燥が緩和しない場合に,より鎮静作用のある薬剤の使用や間欠的鎮静が行われる。これらの効果がない場合には,持続的鎮静を検討する。

(明智龍男)
p.215
呼吸困難はせん妄と並んで治療抵抗性の苦痛の多くを占める。治療抵抗性の苦痛という点では(体動時呼吸困難ではなく)安静時呼吸困難を意味し,多くの場合低酸素血症を伴う。呼吸困難を来している原因によっては,原因に応じた治療が呼吸困難の軽減につながる最も有効な手段となる可能性がある。したがって,呼吸困難を治療抵抗性と判断するには,呼吸困難の原因を評価することが必要である。比較的頻度が高いと考えられる原因は,原発性・転移性肺腫瘍の増大・がん性リンパ管症,胸水,肺炎,腹水や肝腫大による横隔膜の運動制限,心不全などである。その他の原因としては,気道の狭窄,上大静脈症候群,心囊水,肺塞栓,横隔神経麻痺,気胸,貧血,代謝性アシドーシス,胸膜播種・胸壁浸潤による胸郭の運動障害などがある。また,局所的な原因がなくても全身の衰弱による呼吸筋の疲労による呼吸困難が生じる。進行がん患者では,複数の原因が重なって治療抵抗性の呼吸困難を生じている場合も多い。原因は病歴とそれまでの画像所見に加えて,理学所見から判断できることが多いが,患者の希望や状態によっては原因を確定するための検査を検討する。終末期の呼吸困難は,臓器不全としての低酸素血症を伴うことが多く,完全な症状緩和が困難なことが多い。患者の意識状態やコミュニケーションできる程度と苦痛緩和のバランスを相談し,患者の個々にあった治療目標を設定する。ケアでは,風を顔に当てる,苦しくない体位をとれるようにするなどの非薬物療法を行

呼吸困難に対する緩和ケア3

1.概 要(表1)

IV章

表1 呼吸困難の治療の概要

要点主な具体的な対応例

原因の同定と治療原因の同定・病歴とそれまでの画像所見,身体所見から呼吸困難の原

因を判断する

治療可能な原因の治療・原因に対する治療が可能な病態として,胸水,腹水,心不

全,気道の狭窄,上大静脈症候群,心囊水などに注意する

治療目標の設定治療目標を設定する・終末期の呼吸困難では,苦痛を完全に消失させるのは難

しい場合があることを患者と共有し,現実的な治療目標を設定する。・意識状態やコミュニケーションできる程度と苦痛緩和の

バランスを相談する

苦痛を悪化させている要因の改善とケア身体的要因に対するケア・呼吸困難が緩和される体位の工夫や環境調整(室温・風な

ど)などを行う・過剰な輸液は減量を検討する

心理社会的要因に対するケア・精神的な支援,特に不安に対する対応を行う・夜間の就眠を確保する

医学的治療薬物療法・オピオイドの持続投与を行う・抗不安薬(ミダゾラムを含む)の併用を行う

薬物療法以外の治療・低酸素血症に対して酸素を投与する
p.216
う。薬物療法としては,オピオイドが主である。経口投与ができない場合には持続皮下注射で投与できる。オピオイドは少量で有効なことも多いが,少量で効果が不十分な場合, 1副作用がない範囲でオピオイドを増量する,2他のオピオイドに変更する(例えば,フェンタニルやオキシコドンをモルヒネに変更する),3オピオイドに加えて少量のミダゾラムを併用するといった選択がある。いずれも,患者の苦痛にあわせて,患者と設定した目標が達成されるように投与量の調節を行う。網羅するものではないが,難治性の呼吸困難において検討するべき具体的な内容を表2に示した。

原因の同定呼吸困難は進行期のがん患者において比較的頻度の高い症状である。治療抵抗性の症状という点では安静時呼吸困難を意味し,低酸素血症を伴うことが一般的である。呼吸困難を来している原因によっては,原因に応じた治療が呼吸困難の軽減につながる最も有効な手段となる可能性がある。つまり,呼吸困難を治療抵抗性と判断するには,呼吸困難の原因を評価することが必要である。

2.原因の同定と治療

1

表2 難治性の呼吸困難をみた場合に検討するべき具体的な内容

原因の同定と治療・原因の想定を行い,治療可能な原因があるかを見直す・胸水,腹水,心不全,気道の狭窄,上大静脈症候群,心囊水など原因治療によって転帰が変わる可能性がある原因に注意する・原発性・転移性肺腫瘍の増大・がん性リンパ管症,気道の狭窄,上大静脈症候群ではステロイドの投与を検討する治療目標の設定・呼吸困難の完全な消失を目標にすることは難しいことを患者と共有して,現実的な目標を設定する・呼吸困難の緩和と,意識を維持することやコミュニケーションできることの両立が困難な場合,患者自身が何を優先するかをよく相談する苦痛を悪化させている要因の改善とケア・呼吸困難が緩和される体位,環境調整(低めの室温,顔に風を当てる)などを行う・輸液が過剰な場合,減量を検討する・精神的支援,特に不安への対応を行う・夜間の就眠を確保する医学的治療・オピオイド(主にモルヒネ/オキシコドン)を使用する。経口投与ができない場合は持続皮下注射で投与できる・高用量のフェンタニル貼付剤を鎮痛で使用している患者にモルヒネ/オキシコドンの持続注射を追加した場合は,呼吸困難時のレスキュー投与量は,追加したモルヒネ/オキシコドンの持続注射による投与量の1 時間量では不足する可能性があるため注意する。逆に,フェンタニル貼付剤と追加したモルヒネ/オキシコドンの合計量に基づいたレスキュー量を設定するとレスキュー投与量が多くなりすぎる可能性もあるため注意する・少量のオピオイドで効果が十分でない時は,1眠気が出ない範囲でオピオイドをさらに増量する, 2他のオピオイドに変更する(例えばオキシコドンをモルヒネに変更する),3少量のベンゾジアゼピン系抗不安薬(ミダゾラム)を症状の緩和を目的としてモルヒネ/オキシコドンに併用する,の3 つの方法がある・オピオイドの神経毒性(せん妄,ミオクローヌスなど)がみられた場合は,オピオイドは増量しない・低酸素血症がある場合には酸素を投与する
p.217
原因は,がんと直接関連するものと関係しないもの,胸腔内に原因が存在するものと胸腔外に原因が存在するものとがある(表3)。さらには,胸腔内・胸腔外に局所病変がなくても,全身の衰弱による呼吸筋の疲労によって呼吸困難を生じる場合がある。特に終末期のがん患者では,複数の原因が重複して呼吸困難の原因となっていることが少なくない。原因はこれまでの病歴と画像所見に加えて,呼吸困難時の理学所見によっておおむね判断することができる。例えば,原発性・転移性腫瘍の増大・がん性リンパ管症は,それまでの画像検査と徐々に進行する呼吸困難で原因が想定できる(他の要因が加わっている可能性はある)。胸水は,聴診で(通常は)片側の呼吸音が低下・消失しており,超音波検査などで確定することができる。肺炎は,感染に伴う喀痰の増加や発熱などの症状と,聴診所見や血液検査から判断できる。腹水・肝腫大による圧迫は身体診察で腹水や腫大した肝臓を触れることで確認できる。心不全は心不全の病歴,聴診所見(crackles),心拡大を示す画像所見,浮腫の悪化などから判断できる。気道の狭窄は,それまでの画像検査で狭窄を生じそうな病変があることと,気道狭窄音が悪化することで判断できる。上大静脈症候群は,それまでの画像検査で上大静脈の圧迫を生じそうな病変があることと,上肢や顔の浮腫が悪化することで判断できる。心囊水はそれまでの病歴や画像検査でわかる場合もあるが,他に原因がない場合に心臓超音波検査で確定する。肺塞栓は急激な呼吸困難と低酸素血症を生じた場合に疑う。両側の横隔神経麻痺は頸髄の横断麻痺で生じるが,頻度は低い。気胸は聴診で(通常は)片側の呼吸音が低下・消失しており,画像検査で確定することができる。貧血は血液検査で確定する。代謝性アシドーシスによる呼吸困難とは,腎不全などに伴うアシドーシスの代償による頻呼吸(呼吸運動の要求増加)が本態である。胸膜播種・胸壁浸潤による胸郭の運動障害はそれまでの画像所見と視診で明らかとなる。以上のように,呼吸困難の原因は臨床経過からある程度想定することができるが,途中で新しい呼吸困難の病態を生じたかの判断は難しいことが多い(がん性リンパ管症は悪化しているだろうが,胸水も増えているかもしれない,など)。原因をどこまで調べるかは, IV章

表3 がん患者における主な呼吸困難の原因と原因に応じた対応

原因原因に応じた対応

比較的頻度の高いもの原発性・転移性肺腫瘍の増大ステロイドがん性リンパ管症ステロイド胸水胸水の排液肺炎抗菌薬投与腹水による横隔膜の運動制限腹水の排液肝腫大による横隔膜の運動制限心不全心不全の治療(利尿薬など)全身の衰弱による呼吸筋の疲労その他気道(気管・気管支)の狭窄ステロイド,ステント,放射線治療上大静脈症候群ステロイド,ステント,放射線治療心囊水心囊水の排液肺塞栓抗凝固療法横隔神経麻痺気胸胸腔内の脱気貧血赤血球輸血代謝性アシドーシス胸膜播種・胸壁浸潤による胸郭の運動障害もともとある呼吸器疾患(COPD,気管支喘息)の増悪気管支拡張薬など
p.218
想定している呼吸困難の原因に対する治療が存在するか,患者の希望はあるか,患者の全身状態が検査や治療を行う負担に耐えられるか,などを十分に考慮したうえで検討する。

原因に対する治療呼吸困難のいくつかの原因に対しては,病態に応じた治療が存在する(表3)。当然のことながら,抗がん治療の効果が見込めるならば抗がん治療の適応を検討する。治療の患者に与える侵襲はまちまちであり,このような原因の治療をどこまで行うかは患者個々の治療目標によって異なる。可能な限り多職種で相談し,患者がその治療を望むかどうかに関しても十分に話し合ったうえで,患者の生命予後や全身状態に照らし合わせて,治療によって期待できるメリット(治療効果が得られる時間的な余裕があるか,治療の負担に耐えられるか)を十分に考慮するようにする。それぞれの原因に対する治療を行った際には,治療によって期待した効果が得られたかを十分評価したうえで,効果がない場合に漫然と治療を継続したり繰り返したりしないことを心掛ける。比較的患者への侵襲が少なくて効果が見込まれる治療としては,ステロイドの投与(原発性・転移性腫瘍の増大・がん性リンパ管症,気道の狭窄,上大静脈症候群),胸水の排液(胸水),腹水の排液(腹水),利尿薬(心不全)などがある。難治性の呼吸困難に対しては,ステロイドは中等量以上を投与して効果を確認する(例えば,ベタメタゾン4~8 mg/日を3~7 日投与して効果を評価する)。ステロイドはせん妄などの有害事象を誘発する可能性があるため効果がなければ減量・中止(長期投与の場合は副腎不全を起こさないよう慎重に漸減)する。

特に低酸素血症を伴う場合,体動時を含めて呼吸困難を完全に消失させることが難しい場合が多い。「息苦しい感じ」が完全になくなることはないことを前提として,患者と緩和治療の目標を共有することが重要である。オピオイドやベンゾジアゼピン系薬剤などの薬物の投与は(意図している/いないにかかわらず)眠気をもたらす可能性があるため,これらの薬剤を使用した苦痛緩和は思考力やコミュニケーションできることと両立しない場合がある。眠気が増えても呼吸困難が減ることを優先するか,呼吸困難はあっても眠気がなく意識がしっかりしていることを優先するかは患者の考え方によっても異なる。どの程度の眠気を許容するか,呼吸困難の緩和と意識の保持のどちらを優先するか(例えば,「夜は呼吸困難を感じずに眠れる程度がよいが,日中は少し呼吸困難を感じていても話ができる程度起きていたい」や「呼吸困難が和らぐのであれば,多少眠気が強くても仕方がない」など)に関しての治療目標を具体的に患者と相談していくことが重要である。特に,苦痛緩和のための鎮静の対象となりうる終末期においては,眠気の原因は必ずしも薬剤(オピオイドやベンゾジアゼピン系薬剤)の影響とは限らず,死亡前の自然経過による意識の低下である可能性もある。医療者は患者が経過のどの位置にあるかということも意識しながら治療目標を設定する必要がある。

2

3.治療目標の設定
p.219
身体的要因患者が呼吸困難を感じない体位になれるように姿勢を工夫する。一般的に,完全に仰臥位にするよりは左右どちらかを下にしているほうが呼吸困難を感じにくく,多少頭部を上げていること(起坐位)を好む患者が多い。呼吸困難のある患者では,一般的に,室温は低いほうが苦しさを感じにくい。気温は患者の好みにもよるが,通常そばにいるとやや寒いくらいの室温のほうが呼吸困難が和らぐことがある。また,風が通るような(風が顔に当たるような)工夫として,扇風機で直接顔に風を当てたり,室内に空気が循環するようにすると呼吸困難が和らぐことがある。体動は呼吸困難を悪化させる。日常生活で動きが少なくすむように環境整備を行う。腹式呼吸や口すぼめ呼吸,徒手的な呼吸介助など,可能であれば呼吸の仕方の工夫を行う。過剰な輸液が喀痰や気道の分泌を増やしたり,肺水腫や胸水など呼吸困難を悪化させていることがあるため,輸液を減量する。オピオイドの持続投与を行う経路を確保する目的で持続点滴が行われている場合には,持続皮下投与に変更することで輸液量を減量できる。

心理社会的要因不安は呼吸困難と密接に結びついている。不安が強くなると呼吸困難が悪化し,呼吸困難そのものが不安をさらに悪化する。精神的支援,特に患者の不安が少しでも軽減するような対応を行う。身体要因よりも不安が呼吸困難の発生・増強に関わっていると判断される場合は,不安軽減を目的とした抗不安薬の投与も検討される。また,不安が増強しやすい夜間の就眠を確保するようにすることは非常に重要である。

薬物療法呼吸困難の緩和を目的とした薬物療法としては,モルヒネをはじめとしたオピオイドと,ベンゾジアゼピン系抗不安薬が主に用いられる。呼吸困難の薬物療法については,鎮静薬でもあるミダゾラムが呼吸困難そのものに対しても効果がある可能性があるという知見から,「通常の緩和治療」と「苦痛緩和のための鎮静」との境界があいまいになる。「痛みの治療としてミダゾラムを持続的に投与する」「せん妄の治療としてミダゾラムを持続的に投与する」という考えは一般的ではないが,「呼吸困難の緩和として,(意図的に意識を低下させるのではなく)少量のミダゾラムの持続投与を併用する」という考えはありうるためである[注1]。

1 )呼吸困難に対するオピオイドの開始呼吸困難に対する薬物療法の標準治療薬はモルヒネであり,複数の臨床試験やメタアナリシスで効果が示されている。モルヒネ以外のオピオイドについては,エビデンスは乏しいものの臨床経験と薬理作用からオキシコドンについては一定の効果があると考えられる。フェンタニルは一般的には使用されない。また,投与経路については,経口投与が可能であれば経口で投与するが,本手引きの対

4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア

1

2

5.医学的治療

1 IV章
p.220
象となる難治性の呼吸困難のある患者では全身状態が不良なため経口投与ができない場合が多い。したがって,投与経路は持続皮下投与が主体となる。静脈経路がすでにある場合には持続静脈内投与でもよいが,持続静脈内投与の場合,持続皮下投与と比較して輸液量が必然的に多くなってしまう。輸液量が多いと胸水や肺水腫の悪化につながる可能性があるため,持続皮下投与のほうが投与経路として望ましい。以上より,呼吸困難の薬物療法として使用するオピオイドは,モルヒネ/オキシコドンの持続皮下注射を使用するのが主である。

1オピオイドを投与されていない患者への対応オピオイドを使用していない患者において,呼吸困難に対してオピオイドを開始する場合,選択するオピオイドの種類としてはモルヒネを選択することを基本とする。腎機能障害の合併など患者の状態を考慮してオキシコドンを選択する場合もある。開始時の投与量に関しては,痛みに使用するよりも低用量から開始する。具体的には,持続皮下投与であればモルヒネ/オキシコドン6~12 mg/日より開始する。

2すでにオピオイドを投与されている患者への対応すでに疼痛緩和のためにオピオイドを使用している患者に関しては,どの種類のオピオイドを使用しているかにより対応が異なる。痛みに対してモルヒネが定期投与されている患者では,定期投与しているモルヒネ投与量を25~50%程度増量する。痛みに対してオキシコドンを定期投与している患者では,定期投与で使用しているオキシコドン投与量を25~50%程度増量するか,または,オキシコドンからモルヒネへ変更する。痛みに対してフェンタニル貼付剤を使用している患者では,基本的には,モルヒネ/オキシコドンに変更する。ただし,中用量以上のフェンタニル貼付剤(例えば50μg/時間以上)を使用している場合,フェンタニルを一度にすべてモルヒネ/オキシコドンへ変更することで生じうる全身状態の変化を避けるために,使用しているフェンタニルの1/3~1/2だけ部分的にモルヒネ/オキシコドンへ置き換える場合も多い[注2]。部分的に置き換えたあとに効果・副作用を評価し,必要に応じて残りのフェンタニルもモルヒネ/オキシコドンへ変更することを検討する。場合によって,フェンタニル貼付剤はそのまま据え置き,モルヒネ/オキシコドンの持続皮下注射を併用(上乗せ)して開始することがある。これは,呼吸困難が急速に進行しているなど全身状態の不良な患者ではオピオイドを別のオピオイドへ切り替えることで全身状態に影響を与える可能性があるためである。併用する場合,通常呼吸困難時のレスキュー薬はモルヒネ/オキシコドンの皮下注射で投与される。レスキュー薬の投与量に関しては,フェンタニル貼付剤の投与量を合計オピオイド量に含めて計算する必要があるため,レスキュー投与量が少なくなりすぎたり,逆に多くなりすぎないように注意する[注3]。

2 )少量のモルヒネ/オキシコドンで呼吸困難に効果のない場合の対応モルヒネ/オキシコドンが少量で効果があった場合は,その投与量を継続する。少量で効果がなかった場合に,どの程度までモルヒネ/オキシコドンを増量するかは明確な基準がない。基本的には,痛みに対してオピオイドを投与した場合と同様に,「息苦しさに対して
p.221
効果がある」と患者自身が表現し,さらに,眠気が出ない範囲で呼吸困難が緩和できる用量まで数段階の増量を行う。呼吸困難が緩和された場合には,その量を維持する[注4]。数段階モルヒネ/オキシコドンを増量しても十分な効果が得られない場合,治療上の選択肢は,1モルヒネ/オキシコドンを副作用のない範囲でさらに増量する,2オピオイドを変更する(オキシコドンを使用している場合モルヒネへ変更する),3オピオイドは無効と判断してベンゾジアゼピン系抗不安薬(非経口投与の場合はミダゾラム)をモルヒネ/オキシコドンに併用する,の3 つである。

1オピオイドの増量モルヒネ/オキシコドンをさらに増量することが適切かは,増量した際に効果が確認できるか,オピオイドによる神経毒性(傾眠やせん妄など)や呼吸抑制が生じていないのか,といった点から総合的に評価する。モルヒネ/オキシコドンの増量中にせん妄などの神経毒性がみられた場合は,さらに増量することは適切ではない。神経毒性があるにもかかわらずオピオイドを増量すると,苦痛緩和が得られないばかりか,過量投与に伴う呼吸抑制や神経毒性の悪化・神経過敏症状(ミオクローヌス,オピオイド誘発性痛覚過敏,けいれんなど)を来す可能性が高い。鎮静を目的としたモルヒネの増量を各国のガイドラインでも認めていない理由の一つである。この場合は,オピオイドを減量して,せん妄に対する治療をあわせて行う(P34,IV章—2—2 せん妄に対する緩和ケア参照)。

2オピオイドの変更呼吸困難に対してオキシコドンを使用している患者でオキシコドン増量後も効果が不十分と判断される場合は,モルヒネに変更することを検討する。モルヒネからオキシコドンへは通常変更しない。

3ベンゾジアゼピン系抗不安薬の併用呼吸困難に対してベンゾジアゼピン系抗不安薬を単独で投与する場合,呼吸困難の増悪因子としての不安を標的として投与される。実際,これまでの臨床研究の結果からは呼吸困難そのものに対するベンゾジアゼピン系薬剤の単独投与の有効性は証明できていない。一方で,オピオイドとベンゾジアゼピン系薬剤の併用でがん患者の呼吸困難の緩和が得られる可能性に関して複数の報告があり,臨床現場においてもしばしば少量のベンゾジアゼピン系薬剤がオピオイドと併用で用いられることがある。具体的には,経口可能であれば,ロラゼパムやアルプラゾラムが用いられる。経口投与ができない場合には,主にミダゾラムが用いられる。呼吸困難の緩和のためにベンゾジアゼピン系抗不安薬としてミダゾラムをオピオイドと併用で投与する場合,通常,眠気が強くなる可能性が少ない2.5~5 mg/日よりミダゾラムを開始して,苦痛の程度に応じて投与量を調節する[注5]。ただし,ベンゾジアゼピン系抗不安薬はもともと鎮静作用をもつ薬剤であり,投与量が多くなると意識を低下させる可能性が高まる。特に,10 mg/日を超えるミダゾラムの投与は鎮静作用が強くなり,意識を保ったまま呼吸困難の緩和効果を期待することが難しくなると考えられるため,投与量は10 mg/日以下で使用するのが一般的である。IV章
p.222
薬物療法以外の治療低酸素血症がある場合には酸素の投与を行う。一方,低酸素血症を伴わない場合には酸素は必ずしも有効ではないが,治療抵抗性の呼吸困難で他に有効な可能性のある方法がないのであれば実際に酸素を投与し,効果を評価してもよい。この場合,効果が明らかな場合は継続するが,効果が明らかでない場合や有害事象(酸素チューブによる拘束感それ自体が患者の不快であったり,拘束感がせん妄の悪化要因になるなど)がみられる場合は酸素投与の中止を検討する。

難治性の呼吸困難に関する課題について表4 にまとめた。1 つめは,痛みやせん妄と同様に,難治性の呼吸困難に対する治療が標準化されていないということである。特に,モルヒネが薬剤として効果がある(薬効がある)ことは示されているものの,どれくらいの量を使用して効果がない場合に無効とみなすのか(逆にいえば,どれくらいの量のモルヒネを最低でも使わなければ治療抵抗性とはいえないのか),モルヒネの効果が不十分であったとした場合に他のオピオイドに変更することは効果があるのか,少量のベンゾジアゼピン系抗不安薬(ミダゾラムを含む)を併用することはモルヒネ単剤で治療する場合より効果や意識に与える影響に差があるのか,が十分に明らかになっていない。今後,難治性の呼吸困難についての治療の標準化が必要である。現状としては,(副作用の許容される範囲での)オピオイドの増量,他のオピオイドへの変更,ベンゾジアゼピン系抗不安薬(非経口投与ではミダゾラム)の併用については,どれか一つの方法が優先して勧められるものではなく,総合的な臨床的な判断で選択せざるを得ない。2 つめは,ミダゾラムの少量投与をオピオイドと併用することが呼吸困難に症状緩和として有効であったとした場合の鎮静の概念との整合性である。仮に,ミダゾラムを併用してもオピオイド単剤に比べて意識の低下を生じずに呼吸困難が緩和されることが実証研究で明らかにされたならば,この場合のミダゾラム少量投与は「意図的に意識を低下させる」と定義する鎮静には含まれないことになる。現状としては,この課題は結論づけられるだけの根拠がないため,「呼吸困難の緩和のために使用されたミダゾラムは鎮静か?」の議論は,現時点では保留することが望ましいと考える。ミダゾラムの持続投与が鎮静と呼ばれるか呼ばれないかは別にして,オピオイドで治療抵抗性の呼吸困難に対して,苦痛を指標にして少量のミダゾラムを使用することそのものは現状では妥当だと考えられる。

[注]

1) あいまいになる理由は,苦痛緩和のための鎮静の定義に含まれる「治療抵抗性の苦痛」

が明示されていないからである。治療抵抗性の呼吸困難をオピオイドで緩和されない呼吸困難と定義すれば,ミダゾラムの持続投与は苦痛緩和のための鎮静に該当しうる。一方,治療抵抗性の呼吸困難とは,オピオイドと少量のミダゾラムの併用でも緩和しない

6.未解決の課題

表4 難治性の呼吸困難に関する未解決の課題

・どれくらいの治療をしたら治療抵抗性の呼吸困難であるといえるのかの明確な基準がない・呼吸困難の緩和を目的としたミダゾラムの持続投与は鎮静に含まれるのかがあいまいである
p.223
ものだと定義すれば,少量のミダゾラムの投与までは苦痛緩和のための鎮静ではなく,一般的な緩和治療となる。本手引きでは,こういった「どこまでが鎮静か」の問題を検討するのではなく,難治性の呼吸困難に対してどのような緩和治療が適切かを示すという立場から意見をまとめている。

2) フェンタニルの中用量を意味する投与量について具体的な表記を試みたが,国際的に

も統一した見解がない。表記は目安である。

3) 例えば,フェンタニル貼付剤でモルヒネ経口換算120mg/日(静脈・皮下投与換算

40~60mg/日)を鎮痛の目的で使用していた患者にモルヒネ持続皮下注射12mg/日を追加で開始した場合,呼吸困難時や疼痛時のレスキュー使用量をモルヒネ持続皮下注射の1 時間分と規定すると,1 回あたりの使用量は0.5mg(皮下投与)になる。しかし,これらの患者では通常それまでに疼痛時のレスキューとしてモルヒネ10~20mg 相当のオピオイド内服(皮下投与だとモルヒネ5~10mg 相当)を使用していることが多い。疼痛時と呼吸困難時に使用するべきレスキュー薬の投与量がどの程度一致するかの根拠はないが,レスキュー薬が追加(併用)されたモルヒネ持続皮下注射の1 時間量では少なくなりすぎる可能性はある。一方で,呼吸困難に対してモルヒネはフェンタニルよりも効果が高いということが想定されるため,併用しているオピオイド全体の総投与量から呼吸困難に対するレスキュー量を算出して,その投与量をモルヒネ皮下注射で投与すると呼吸困難に対しては過量となってしまう可能性もある。したがって,現在使用しているオピオイド全体の投与量やこれまでに使用しているレスキュー薬の効果から,患者の全身状態にあった量を調整する必要がある。

4) 投与量についてさらに具体的な表記を試みたが,国際的にも統一した見解がない領域

であるため,委員会として幅のある表記にとどめることが妥当であるとの結論に達した。増量についても「数段階」とあえてあいまいな表現とした。

5) オピオイドで緩和できない呼吸困難に対して,苦痛緩和を指標としてミダゾラムを併

用することは,オピオイドで緩和できない呼吸困難を治療抵抗性の苦痛と考えれば,本手引きでは調節型鎮静に含まれうる。一方,ミダゾラム自体が呼吸困難に対して,「(意識を低下させずに)効果がある」という立場からはミダゾラムを併用することは「鎮静ではない」という意見もありうる。しかしこの場合でも,ミダゾラムを持続投与して結果的に意識がなくなった場合には「鎮静である」とする解釈もありうる。本手引きではこのような「何を鎮静と呼ぶか」の議論は本質的ではなく患者にとっての利益が少ないと考え,「鎮静か鎮静ではないか」の議論は保留する。ここでは,オピオイドで緩和されない呼吸困難に対してミダゾラムを投与する行為を鎮静とみなすのか否かはさておき,モルヒネ/オキシコドンを患者の症状をみながら少量ずつ増量したが効果がない場合に,呼吸困難が和らぐかを指標にして,ミダゾラムを少量(10mg/日以下)投与するという行為は難治性の呼吸困難に対する対応としては妥当であるということを述べている。

(山口 崇) IV章
p.224
本章では,苦痛が難治性である時に,苦痛の緩和に努める一方で,苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための精神的ケアについて概要を述べる。まず,トータルペインとsuffering の概念を紹介して治療抵抗性の苦痛に対応しようとする場合には,身体的要因,精神的要因,社会的要因,スピリチュアルな要因について包括的にアセスメントしケアを組み立てることが重要となることを述べる。次に,治療抵抗性の苦痛をもった患者をケアする点において,必要なケアの基盤となる基本的な考え方を挙げる。そして,「自分の人生は何だったのか」「今こうしていることに意味があるのか」といったスピリチュアルな痛みに対するケアについて概要をまとめる。

がん患者の苦痛は,身体的要因,精神的要因,社会的要因,スピリチュアルな要因といった多面的なものである。身体と精神は互いに影響しており,治療抵抗性の身体的苦痛に精神的な要因が加わるとさらに身体的苦痛が強くなる。逆に,精神的な苦痛やスピリチュアルな苦痛を軽減することができるならば,身体的苦痛の程度そのものは変わらなくても(わずかしか軽減しなくても),苦痛に耐えられるような人生の意味を見出すことができるようになる場合もある。医療者には苦痛を全人的苦痛(トータルペイン)として理解し,ケアすることが求められる。トータルペインとは,患者の苦痛を身体的要因,精神的要因,社会的要因,スピリチュアルな要因といった多方面で捉える概念であり,医療者は患者に包括的な全人的ケアを提供することが必要とされる。治療抵抗性の苦痛を検討する場合には,難治性の痛みのある患者において,「(身体の)痛み」だけを取り出して緩和しようとするのではなく,痛みがとれないことによって生じている,または,痛みを難治性にさせている精神的要因,社会的要因,スピリチュアルな要因を同時にケアすることの重要性を意味する。Suffering(苦悩)とは,人の統合性や完全性が脅かされ壊された時に生じる苦しみと定義される。症状やつらさ,苦痛よりも広範な概念であって,人は部分として苦痛を体験しているのではなくて,心身が一体となって苦しさを体験していることを指す。治療抵抗性の苦痛の文脈では,緩和されない痛みを抱えた患者が心と体をばらばらに苦痛を感じているのではなく,一人の人として一体としてsuffering(苦悩)を経験しているという意味になる。いずれにしても,治療抵抗性の苦痛に対応しようとする場合には,身体的要因,精神的要因,社会的要因,スピリチュアルな要因について包括的にアセスメントしケアを組み立てることが重要となる。

苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための精神的ケア3

1.トータルペインとsuffering(苦悩)の概念
p.225
治療抵抗性の苦痛をもった患者をケアする点において,基盤となる全般的な精神的ケアを述べる。全般的なケアの根幹にあるものは,患者を一人の人間として尊重し,患者とともにあろうとする姿勢で寄り添い,患者の苦しみを理解しようとすることである。患者の気持ちを理解しようとしている姿勢を伝え,表面的な言葉のみに捉われるのではなく,背景にある患者の気持ちや表現されない患者の感情を理解することが大切である。難治性の苦痛が和らぐような精神的支援となることを目標とするとともに,もし苦痛が緩和されなかったとしても患者自身が生きる意味や価値を見出せるよう支援していくことが求められる。具体的な内容としては,「生きる意味・心の穏やかさ・尊厳を強めるケアを行う」「信頼関係を構築する」「現実を把握することをサポートする」「情緒的サポートを行う」「おかれた状況や自己に対する認知の変容を促す」「ソーシャルサポートを強化する」「くつろげる環境や方法を提供する」「チームをコーディネートする」ことが含まれる(表1)。

2.全般的な精神的ケア

IV章

表1 全般的な精神的ケア

1 .生きる意味・心の穏やかさ・尊厳を強めるケアを行う・生きる意味・心の穏やかさ・尊厳を脅かしている/支えているものを知り,強化する2 .信頼関係を構築する・プライバシーの守られる環境を整え,ベッドサイドに(立ってではなく)座って対話する・患者に常に関心を向ける;患者を理解しようとする;気持ちをわかろうとしていること一緒に考えていくことを伝える・患者とともに時間を過ごし,存在を提供する(being,presence) 3 .現実を把握することをサポートする・今起こっていることを丁寧に説明し,患者の疑問を明確にする・苦痛に対してどのようなことを行うのか,具体的に現実的な情報を提供する・どうしても苦痛が緩和されない場合,(適切であれば)最低限眠るようにすることはできることを伝える・希望を維持する4 .情緒的サポートを行う・患者の感情を批判することなくあるがままにしっかりと受け止める・絶望,孤独,不安,不信,怒りといった否定的な感情をもつことは当然であることを伝え,伝えても大丈夫なのだという受容的な温かい雰囲気をつくるように心がける・反復・復唱,明確化・要約などの技術;非言語的メッセージ(まなざし,姿勢,声の抑揚);沈黙や身体的接触を用いる5 .おかれた状況や自己に対する認知の変容を促す・患者の現実と一致しない否定的な認知の変容を試みる・患者の自己効力感を高めることを意識する・ (患者の知りたい気持ちや状況を慎重に考慮したうえで)苦痛はいつまでも続かないことを伝えることを考慮する6 .ソーシャルサポートを強化する・家族・友人など患者が必要としている関係を継続できるよう配慮する・仕事,季節の行事など社会との交流を維持できるように配慮する7 .くつろげる環境や方法を提供する・「気持ちよい」と一時でも思えることを探して実践する8 .チームをコーディネートする・心理専門職,宗教家,ボランティアなどの関わりをコーディネートする
p.226
生きる意味・心の穏やかさ・尊厳を強めるケアを行う患者が一番大切にしてきたこと,一番重要と考えることを知り,患者の生きる意味・心の穏やかさ・尊厳につながるものを強化する。患者が大切にしていること・意味があると感じられることを知るためには,例えば,「○○さんが一番大切にされてきたことは何か」「困難ななかで,○○さんを支えているものは何か」といった視点で関わる。難治性の苦痛のなかにあっても,そのあいまに愛している人たちと数時間過ごすことができたり,それまで生きる意義として感じていた社会とのつながりをもてるようにすることによって,患者の生きている意味を支えることができる。

信頼関係を構築する難治性の苦痛のなかにいる患者にとって,誰か一人でも医療者に信頼できる人がいることは大きな支えになる。患者の信頼を得ることはすべてのケアの基盤になる。プライバシーの守られる環境を整え,ベッドサイドに(立ってではなく)座って対話するようにする。「あなたに」関心があること,何か力になりたいと思っていることを言葉だけでなく,態度で示すようにする。一人の人間としての歴史を表現する物語を聴くことが信頼関係をつくるきっかけとなることが多い。例えば,病気に関係しない日々のことや,人生において重要と思われること,人生において印象深い思い出,人生において自分が果たした重要な役割,誇りに思うことなどについての話題がきっかけになりうる。医療者という役割から考えると,何かをしてあげなければという思いにとらわれやすく,安易に励ましたり,アドバイスをしがちになるが,重要なことは患者が医療者から「自分のことがわかってもらえた」と感じることである。場合によっては,何もせず黙って患者のそばにいたり,痛むところや苦しいところをさすってそこにいることが求められることもある。

現実を把握することをサポートする難治性の苦痛のなかにあり,患者は,いったい何が起きているのか,どのような状況におかれているのか十分に把握することができないことが多い。今何が起こっているのかを丁寧に説明し,患者の疑問に思っていることが明確になるように促す。難治性の苦痛を緩和するために,いつまでに,どのようなことを実施する計画なのか,具体的に,現実的な内容を正確に伝える。どうしても苦痛が緩和されない場合,適切であれば,最低限夜間は眠るようにすることはできる(眠気が出たとしても苦痛を和らげる方法を選択するかをともに考えていく)ことを伝えることも,患者にとっての安心につながる場合がある。もし現実を伝える過程において,非現実的な希望が患者から伝えられたとしても,患者の生きる意味を支えるものであったり,不安から心を守るために重要である場合には,否定せずに希望は希望のまま維持することが重要である。例えば,歩くことのできない患者が「もう一度歩けるようになりたい」と希望する場合,「それは無理です」と否定するのではなく,「もう一度歩きたいのですね」などと患者の歩きたい気持ちを理解することが大切である。

2

3
p.227
情緒的サポートを行う患者の感情を批判することなく,あるがままにしっかりと受け止める。難治性の苦痛がある厳しい状況のなかで,絶望,孤独,不安,不信,怒りといった否定的な感情をもつことは当然である。患者のなかには,こうした否定的な感情を抱くことそれ自体が良くないことであると捉えて,表出せずに心に閉じ込めてしまうこともある。患者が抱く感情に焦点を当て,こうした感情を抱くことは当然であることを伝え,伝えても大丈夫なのだという受容的な温かい雰囲気をつくる。反復・復唱,明確化・要約などの技術を用いる。非言語的メッセージ(まなざし,姿勢,声の抑揚)に注意を払う。沈黙や,身体的接触を用いる。

おかれた状況や自己に対する認知の変容を促す患者は緩和されない苦痛が持続する場合に,「苦痛を放っておかれている/何もしてもらっていない」「もうだめだ/もう何も良くならないにちがいない」「この苦痛がずっと(何週間も何カ月も)続くのなら早く終わりにしたい」という言葉を発するかもしれない。難治性の苦痛がある場合,患者の体験している状況で肯定的な側面を探すのはより困難になる。実際に行われていることや計画されていることと患者の認識が違う場合には,患者がそのような気持ちになってもおかしくはないことを受容的に対応したうえで,実際に医療者は患者の苦痛を減らすために最大の努力をしていることを,具体的な予定を説明することで伝えることができる。患者の自己効力感を高めるように意識する。すなわち,患者の語る言葉から患者の人生に対する肯定的なフィードバックを伝え,患者が自分のもっている力を肯定的に捉えられるよう支援していく。患者が対応できるであろうこと,今までにも対応できたことを保証する。患者が「今できること」に目が向けられるよう一緒に考えていく。難治性の苦痛のある患者の多くは,いつ終わるのかわからない苦しみと感じている。すなわち,苦しい状況がずっと(患者の予測される生命予後より長く,数カ月にわたって)続くと認識している場合がある。患者によっては(患者の知りたい気持ちや状況を慎重に考慮したうえで),苦痛は患者が思っているほど長くは続かないこと(患者の生命予後がそれほどないこと)を伝えることで逆に「それくらいなら耐えられる」と安心することもある。

ソーシャルサポートを強化する患者にとって重要な人たちとの絆が強まるように人間関係を調整する。患者が苦痛のなかで孤独でいる時間を減らすようにする。家族・友人の面会や付き添いを相談したり,家族・友人と気持ちを伝え合うことを促す。お互いに伝えたいことが伝えられていない場合があるので,必要に応じて気持ちを橋渡しする。医療者と日常のコミュニケーションを行えるように意識して関わるようにする。仕事,季節の行事など社会との交流を維持できるように配慮する。

くつろげる環境や方法を提供する「気持ちよい」と一時でも思えることを探して実践する。もともと散歩や外出を好んでい

5

6 IV章
p.228
た患者でも苦痛が緩和されていない場合には実現が難しくなる。それでも,何らかの快につながることを探して実践する。苦痛があるなかでも比較的実施しやすいものとして,音楽,香り,タッチやマッサージ,温かいタオルで顔を拭くこと,思い出になる写真,好きな植物やペットなどがある。療養の場はそれ自体がくつろげる環境となる。

チームをコーディネートする患者の助けとなるような,医師,看護師以外の職種のコーディネートを行う。心理専門職,宗教家,ボランティアなどが想定される。患者に信仰があり,信仰が患者の支えになっているならば,それを尊重し,必要に応じて宗教家や信者との面会,礼拝や集会への出席などを検討する。チームを構成するメンバーは患者を診療している施設だけでなく,その地域の専門職にも及ぶ場合がある。

スピリチュアルな痛みとは何か?患者は終末期に至るまでに,病名の告知,治療,再発・転移,抗がん治療の中止という過程を経て,不安や絶望,孤独などの感情を体験している。病気の進行に伴い,だんだんと身の回りのことが自分で行えなくなり,自己の価値観が揺り動かされ,生き方や人生の意味・目的などの問いを強く抱くようになる。「自分の人生は何だったのか」「今こうしていることに意味があるのか」「なぜこんなに苦しまなくてはならないのか」。これらは生命の危機など受け入れがたい事態に直面した者であれば誰にも起こりうる苦悩であり,スピリチュアルな痛みと呼ばれている。スピリチュアルな痛みは複数の定義が提案されており,日本の臨床現場で統一して使用されているものは確立していない。本手引きでは,国内で比較的多く使用されている「自分の存在と意味がなくなることから生じる苦痛」とする。

スピリチュアルな痛みのアセスメントとケアスピリチュアルな痛みに対してアセスメントする枠組みを参考として示す。スピリチュアルな痛みは対応しにくいものであるが,ある程度構造化した対応をとることが可能である。図1 は「スピリチュアルペインアセスメントシート」と呼ばれるものであり,患者のスピリチュアルな状態をアセスメントする。難治性の苦痛のある患者に対して,この通りにアセスメントすることはできないかもしれないが,患者が話した言葉や診療記録の言葉などから,何に対応することができそうなのかの参考にすることができる。スピリチュアルペインの種類は「関係性の苦悩」「自律性の苦悩」「時間性の苦悩」がある(表2)。「関係性の苦悩」とは,「死んだら何も残らない」「孤独だ。自分一人取り残された感じ」と表現され,死の接近によって他者との関係の断絶を想い,自己の存在と生きる意味を失うことによって生じる。終末期がん患者は,アイデンティティの喪失,孤独,空虚というスピリチュアルペインを強いられる。

8

3.スピリチュアルな痛みのケア[注1]

1

2
p.229
IV章

図1 スピリチュアルペインアセスメントシート

きっかけとする質問の例質問A:「今のお気持ちは穏やかですか」質問B:「今,最も大切なことや支えになっていること,意味や価値を感じるのはどのようなことですか」質問C:「今,気になっていることや心配していることはどのようなことですか」質問D:「今のご自分の状況をどのように感じていますか/今のご自分にどのようなことが起こっている

と思いますか」〔田村恵子,他.看護に活かす スピリチュアルケアの手引き 第2 版,青海社,2017 より引用〕

スピリチュアルペインありスピリチュアルペインなし(ただし観察は継

続的に行う)

I.スピリチュアルの状態のアセスメント

II.特定の次元におけるスピリチュアルペインのアセスメント

【関係性のスピリチュアルペイン】⨎家族・大切な人の心配⨐孤独感⨒負担感/申し訳なさ⨔人間を超えたもの・信仰に関する苦悩【自律性のスピリチュアルペイン】

⨖自分のことができないつらさ⨘将来に対するコントロールの喪失⨚役割・楽しみの喪失⨜自分らしさの喪失⨞ボディイメージの変化【時間性のスピリチュアルペイン】

⨠心残り⨡希望のなさ⨢死の不安⨣身辺整理に関する気がかり⨤人生の不条理

スクリーニング1 A.気持ちのおだやかさB.大切な/支えになっていることYes

No

スクリーニング2 C.気になる/心配なことD.現状の捉え方

次元概念定義表現例

関係性家族・大切な人の心配家族・大切な人に対する心配や気がかり,わだかまり・残していく○○のことが心配・○○を残していくのがつらい・自分が死んだ後,○○はやっていけるのだろうか・つらいことを話すことで家族が悲しむから話せな

い

孤独感寂しさ,他者にわかってもらえないという思い・誰もわかってくれない・○○と一緒にいたい負担感/申し訳なさ家族や他者に負担や迷惑をかけて申し訳ないという思い・みんな(家族やケア提供者など)に迷惑をかけて

いる・人の世話にならないと何もできない,申し訳ない・迷惑をかけたくない・つらい気持ちを家族に知らせたくない・落ち込んだ顔を見せたくない・お金のことで負担をかけて申し訳ない

表2 スピリチュアルな痛みの内容

(つづく)
p.230
次元概念定義表現例

関係性人間を超えたもの・信仰に関する苦悩人間を超えた存在(自然や神・仏など)との関係における苦しみ・神も仏もない(救ってはくれない)・自然の力はどうすることもできない

自律性自分のことができないつらさ自分で自分のことが思うようにできない,または,しっかり考えることができないつらさ・自分の思う通りにできないことがつらい・自分で自分のことができなくて情けない・トイレも一人でできず情けない・ぼうっとして何が何だかわからない・自分のことが考えられない・もっとしっかりしていたい

将来に対するコントロールの喪失自分の将来がどうなっていくのかわからないために,見通しや計画が立たないことに関連した苦悩・この先どうなるのかがわからない・ひどく苦しむのではないか・先々のことを知って,自分で決めておきたい役割・楽しみの喪失仕事や自分の役割,楽しみなどができないために,生きる意味が見出せないこと・私の人生は何だったのか(意味がなかった)・生きていても何の意味もない・〇〇(仕事・役割・趣味など)を続けたい自分らしさの喪失自分らしさを感じることができないこと・私の大切にしていることをわかってほしい・人として扱ってほしい・生きがいになることが何もできないボディイメージの変化容貌の変化に伴い,弱った姿を見せたくないこと・落ち込んだ顔を見せたくない・元気だった時の姿が変わってしまってつらい

時間性心残りやり残したこと,将来を見届けられないことに関するつらさ・子どもや孫の成長が見られなくて残念だ・生まれてくる孫に会えない・これから家族とゆっくりしようと思っていたのに・これからのんびり過ごそうと思っていたのに

希望のなさ希望が見出せないこと・今までしていた仕事に戻りたい・何をしたらいいのかわからない・何もすることがない・楽しいことが何もない・こんなことをやってもしょうがない・病気が良くならないのなら早く終わりにしたい死の不安死に対する恐れや,死んだらどうなるのかという不安・死が怖い・死にたくない・死んだら何も残らない・死んだらどうなるのだろう身辺整理に関する気がかり遺言や葬儀など伝えておきたい,残しておきたい事柄があること・○○に感謝・お礼を言っておきたい・仕事の引き継ぎをしておきたい・自分の葬式の段取りや相続の手はずをつけておき

たい・やらなければならない仕事があり,無念だ

人生の不条理「なぜ自分がこんなこと

になったのか」という不公平感や納得のいかなさ・こんなに治療を頑張ってきたのに・治ると思っていたのに・こんなことになったのは,罰があたったからだ・自業自得だ

〔田村恵子,他.看護に活かす スピリチュアルケアの手引き 第2 版,青海社,2017 より引用改変〕

表2 スピリチュアルな痛みの内容(つづき)
p.231
「自律性の苦悩」とは,患者が自己の不能から生産性を失い,人の役に立てない自己の無価値を体験し,さらに他者に依存しなければならないことによって自律性と私秘性が奪われ,無力な自己を他者にさらす依存から負担と迷惑に苦しむことで生じる。「時間性の苦悩」とは,「私はただ死ぬのを待っているだけだ。こんなことなら早く楽にしてほしい」「私の人生は何だったのか」といった言葉で表現される。間近に死を自覚し,将来をもてない終末期がん患者には,世界と自己の生が無意味,無目的,不条理として現出し,スピリチュアルペインを感じるとされる。スピリチュアルペインアセスメントシートに従ってアセスメントすることによって,ケアの方向をみつけることができる。

苦痛が患者の望むように緩和されない時,医療者も深く傷つく。自分がどのような気持ちにあるのか,敗北感や十分なことがしてあげられないという不全感が判断に影響していないか,同僚やチームで話し合い,言語化しておくことでより妥当な決定をすることができる。

治療抵抗性の苦痛がある場合に,どのようにして精神的な支援を行えばよいかについて確立した方法はない。意味のなさや不条理は,いわゆるスピリチュアルな痛みと表現されるが,その評価方法やケアの方法も定まったものはない。本手引きでは,なるべく具体的な方法を示すという観点から,日本で比較的よく用いられているスピリチュアルアセスメントシートを紹介した。これらの枠組みが,治療抵抗性の苦痛をもった患者で有効かどうかはわかっていない。もとより,緩和できない苦痛のある患者を精神的にケアする方法として何か特定のものがあるものでもない。ここに記載した内容をもとに,「この場合では,このような視点でケアすることも価値があるかもしれない」という糸口となることを意図して記載した。

[注]

1) スピリチュアルな痛みやケアのありかたについてはさまざまな考え方があり,複数の

書籍が出版されている。学会の出版物として一般出版物を参考文献として記載することは適切ではないとする懸念もあったが,何かの参考文献がないと理解が難しいという意見もあった。したがって,参考として以下のものを挙げる。

田村恵子,河 正子,森田達也 編.看護に活かす スピリチュアルケアの手引き 第2

版,東京,青海社,2017

(角 裕子)

4.治療抵抗性の苦痛をもつ患者に関わる医療者の心構え

5.未解決の課題IV章
p.232
間欠的鎮静の治療目的は,一定期間(通常数時間から一晩)患者が苦痛を体験せずに眠ることができることである。意識の低下をもたらしたあとに薬剤を中止・減量して,意識が低下しない時間を確保するようにする。苦痛のために不安が強くなりそれが苦痛を悪化させるという悪循環を一時的にでも遮断することで,患者が持続的な苦痛を体験しなくなることがある。夜間に加えて,日中にも数時間でも就眠が確保できることで患者の休息になり,覚醒した時の苦痛の体験が耐えやすいようになる場合がある。主にミダゾラムやフルニトラゼパムの経静脈投与により行われる。注射薬を使用できない環境では,ジアゼパム坐薬,ブロマゼパム坐薬のベンゾジアゼピン系坐薬を代替薬とする。2018 年現在,いずれの薬剤も苦痛を緩和するために使用する鎮静目的の保険適用はない。表1 に間欠的鎮静に使用される薬剤の使用例を参考として示す。鎮静薬の必要量は患者の状態によって大きく異なるため,注意深く患者を観察して調節することが必須である。投与方法は一定の目安であり,下記の方法で投与すれば十分に効果が出るもしくは過量投与にはならない,というものではない。よって,個々の患者で個別に調節することが重要である。薬剤使用時の患者の状態の評価の考え方については「V章—5—3 鎮静中の継続的評価」(P80)を参照。

間欠的鎮静4

薬剤名投与経路製剤規格投与量特徴ミダゾラム注射薬静脈・皮下10mg/2mL 【持続静脈内・持続皮下投与】0.5~1mg/時間で開始し,患者の状態を観察しながら投与量を調整する投与開始時に0.5~1mg程度早送り*してもよい適宜生理食塩水で希釈する【単回皮下投与】

初回は0.5~1mg を皮下投与し,患者の状態を観察しながら,投与量を調整する・作用発現が早く,作用持続時間

が短い・長期投与によって耐性が生じやすい。投与後に離脱症状(不安・焦燥)を生じる場合がある・拮抗薬(フルマゼニル)がある・無呼吸,呼吸抑制,舌根沈下,循環抑制(低血圧,時に心停止)がある。特に,高齢者,麻薬性鎮痛薬との併用,呼吸予備力が低い,肝腎機能が低下している患者で生じやすい・保険適用は全身麻酔時の導入

および維持,集中治療における人工呼吸中の鎮静である

表1 間欠的鎮静に用いる薬剤の使用例[注1]

*静注の場合,早送りは1 分程度かけて緩徐に投与する。早送り後5 分間は慎重に観察する。患者の状態を観察しながら早送り量を調節する。

(つづく)
p.233
[注]

1) 薬剤の投与量については,確実な根拠がないことや,記載のままに鎮静薬を投与する

ことによって個々の患者の観察が不十分になることの危険性を懸念する意見があった。一方,ある程度の目安を示すべきとの意見もあった。実際,鎮静薬の投与量については効果,安全性ともにエビデンスが不十分であり,現状で最も良い投与方法を具体的に示すことができない。したがって,安全性を重視すると効果が不十分になる可能性があり,効果を重視すると過量投与になる可能性がある。しかし,何らかの目安を具体的に示すことが有用と考えて,注釈をつけたうえで,使用例として一定の合意の得られた使用方法を記載した。IV章

薬剤名投与経路製剤規格投与量特徴フルニトラゼパム注射薬静脈2 mg/1 mL【持続静脈内投与】

0.1~0.2 mg/時間で開始し,患者の状態を観察しながら,投与量を調整する適宜生理食塩水で希釈する中止しても鎮静効果がしばらく持続するため,入眠が得られたら投与をいったん中止することを原則とする・ 作用発現が早く,作用持続時間

が長い・耐性を生じにくい・拮抗薬(フルマゼニル)がある・ 無呼吸,呼吸抑制,舌根沈下,循環抑制(低血圧,時に心停止)がある。特に,高齢者,麻薬性鎮痛薬との併用,呼吸予備力が低い,肝腎機能が低下している患者で生じやすい・ 呼吸抑制について2016年3月

厚生労働省からの注意喚起が出ているため,使用においては診療機関の規則に準拠するなど,適宜対応が必要である[注2]・ 保険適用は,全身麻酔の導入,

局所麻酔時の鎮静である

ブロマゼパム坐薬経直腸3 mg 1.5~3 mg/回を投与する必要時は追加投与する・ 経口薬のあるブロマゼパムの

坐薬である・比較的効果が弱い・保険適用は麻酔前投薬である

ジアゼパム坐薬経直腸4 mg,6 mg, 10 mg 4~6 mg/回を投与する必要時は追加投与する・ 経口薬・注射薬のあるジアゼパ

ムの坐薬である・ 保険適用は,小児の熱性けいれ

んおよびてんかんのけいれん発作の改善である

フェノバルビタール坐薬経直腸15 mg,30 mg,50 mg, 100 mg 50~200 mg/回を投与する必要時は追加投与する・ 注射薬のあるフェノバルビ

タールの坐薬である・ 作用時間が長く,即効性がない。連用により蓄積するので,間欠的鎮静には不適切な場合がある・ 保険適用は小児における経口

投与が困難な場合の催眠,不安・緊張状態の鎮静,熱性けいれんおよびてんかんのけいれん発作の改善である

表1 間欠的鎮静に用いる薬剤の使用例[注1] (つづき)
p.234
  出された懸念は以下の通りである。  本来,鎮静薬の反応は,苦痛の程度や患者の全身状態によって異なり,緩和領域の鎮

静では全身状態を詳細にモニタリングすることなく鎮静薬を使用することから,実臨床においては,鎮静薬を少量ずつ使用して患者ごとの反応を慎重に評価し,投与量を調整するという方法が現実的な施行方法と考えられる。よって,投与量に関する記載は,「患者ごとに注意深く観察しながら~mg から~mg の範囲で調整する」という方法が妥当と考える。今回の手引きでの記載のように,間欠的鎮静,持続的鎮静に分けて投与量・投与間隔,観察時間などを詳細に記載することは,記載された投与方法で鎮静薬を投与すれば鎮静の効果と安全性が得られるような誤った印象を与える可能性がある。鎮静薬の投与量を決定するうえでは「患者ごとの反応を慎重に評価する」ことが最も重要である。

2) 一般的に,快適さと安全の確保とは両立しない場合があり,しばしば難しい選択を迫

られる。鎮静薬の使用についていえば,安全性を高めるためには酸素飽和度の持続的モニターや血圧測定を行うことが勧告されているが,患者の治療目標が「穏やかに最期を迎えること」であることが明確にされている場合,安全性のために行う処置をどの程度行うかは個々の事情によって判断するべきである。
p.235
1 要 件

2 相応性の判断

3 意図の確認

4 意思決定過程

5 実際の投与方法と評価・ケア

V章 実践(2)

治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与
p.236
持続的な鎮静薬の投与は,調節型鎮静と持続的深い鎮静とに概念上区別される。実際にはこれらの区別は相対的なところがあるため,適応となる要件をまとめて示す(表1)。A,B,C はそれぞれ,相応性原則(principle of proportionality),医療者の意図,自律原則に基づく倫理的基盤を与える。D は鎮静の安全性を高める。適応に関する基本的な考え方をまとめたフローチャートはP18 を参照。鎮静を行うに至った意思決定過程や根拠を診療記録に記載するようにする(P76,V章—4—8 診療記録への記載参照)。

[注]

1) 本来的には,医療チーム全体が意思決定に参加して,かつ,経験のある専門家が行う

べきものである。しかし,現実的に,患者が緩和ケアを受けている状況によっては,夜間などの緊急時,地域に経験のある専門家がいない時もあるため,「望ましい」という表現にとどめた。チームで判断することが可能で,経験のある専門家にコンサルテーションできる状況であれば,医師1 名の判断ではなく,チームでの判断をするべきである。

要 件1

表1 持続的な鎮静薬の投与を行う要件

A .相応性苦痛緩和を目指すいろいろな選択肢のなかで,鎮静が相対的に最善と判断される。すなわち,苦痛の強さ,治療抵抗性の確実さ,予測される患者の生命予後,効果と安全性の見込みから考えて,持続的な鎮静薬の投与は妥当な方法である。B .医療者の意図1 )医療チームが鎮静を行う意図が苦痛緩和であることを理解している*。2 ) 鎮静を行う意図(苦痛緩和)からみて適切な薬剤,投与量,投与方法が選択されている。C .患者・家族の意思1 )患者1 意思決定能力がある場合:必要な情報を提供されたうえでの苦痛緩和に必要な鎮静を希望する意思表示がある。2 意思決定能力がないとみなされた場合:患者の価値観や以前の意思表示に照らして,患者が苦痛緩和に必要な鎮静を希望することが推測できる。2 )家族がいる場合には家族の同意があることが望ましい。D .チームによる判断[注1] 1 )医療チームの合意がある。多職種が同席するカンファレンスを行うことが望ましい。2 ) 意思決定能力,苦痛の治療抵抗性,および予測される患者の生命予後について判

断が困難な場合には,適切な専門家〔緩和医療医,精神科医,心療内科医,麻酔科医(ペインクリニック医),腫瘍医,専門看護師など〕にコンサルテーションすることが望ましい。*調節型鎮静では鎮静薬の投与量を調整する指標は苦痛緩和であって意識の低下ではない(意識の低下が明確に意図されているとはいえない)。持続的深い鎮静では,患者が深い鎮静状態となることを指標にして鎮静薬の投与量を調節する。
p.237
鎮静が相応的に妥当であるかどうかは,苦痛の強さ,治療抵抗性の確実さ,予測される生命予後,効果と安全性の見込みから判断する[注1]。原則として,持続的に鎮静薬を投与する場合には,患者の意識に影響を与える可能性がより少なく苦痛が緩和できる調節型鎮静を優先して検討する。その治療目的は,少量から鎮静薬を苦痛の強さに応じて調節し,患者の苦痛を最小にすることである。患者の意識の水準ではなく,苦痛の強さを指標として鎮静薬の投与量を調節する。持続的深い鎮静は,調節型鎮静では緩和することができないと見込まれる苦痛に対して,患者の意識そのものを深い鎮静状態になるように鎮静薬の投与量を調節する。どのような状態の時に何が相応的に妥当と考えるかは,客観的な方法で2 区分にできるものではない。苦痛の強さ,治療抵抗性の確実さ,予測される患者の生命予後,効果と安全性の見込みから考えて,相応と考えられる鎮静を患者個々に検討することが必要である。原則的には,調節型鎮静を優先して選択する。特に,苦痛の強さが著しいと必ずしもいえない,治療抵抗性の確実さがあいまいである(まだ治療できる可能性がある),予測される患者の生命予後が切迫しているとはいえない,持続的深い鎮静でなくても効果が見込まれる,安全性に懸念がある場合には,調節型鎮静を選択するべきである。一方,苦痛の強さが著しい,治療抵抗性が確実である,予測される患者の生命予後が切迫している(日から時間の単位である),持続的深い鎮静でなければ苦痛が緩和されないと見込まれる,かつ,副作用のリスクを許容しうる場合には,持続的深い鎮静を最初から行うことも検討しうる(表1)。具体的には,1出血や窒息など調節型鎮静では苦痛が緩和されないと医学的に見込まれる場合,2すでに間欠的鎮静を反復して施行しており調節型鎮静では苦痛が緩和されないと考えられる場合,3調節型鎮静では患者にとって十分に苦痛が緩和されないことが予測され患者自身が確実な苦痛の緩和を希望する場合,がある。このような場合には,調節型鎮静では苦痛緩和が不十分なまま患者が死に至る可能性があるため,持続的深い鎮静を用いることが適切である。

「耐えがたい苦痛である」とは,1患者自身が耐えられないと表現する,あるいは,2患者が表現できない場合,患者の価値観に照らして,患者にとって耐えがたいことが家族や

相応性の判断2

1.苦痛の強さの評価の仕方V章

表1 持続的深い鎮静を最初から選択しうる状況・苦痛の強さが著しい・治療抵抗性が確実である・予測される患者の生命予後が切迫している(日から時間の単位である)・持続的深い鎮静でなければ苦痛が緩和されないと見込まれる・副作用のリスクを許容しうる・患者の希望に沿っている
p.238
医療チームにより十分推測される場合,苦痛を耐えがたいと評価する。鎮静の対象になりうる主な苦痛は,せん妄,呼吸困難,痛み,悪心・嘔吐などである。希望のなさ・意味のなさなどの精神的苦痛も耐えがたい苦痛の原因となる。ただし,精神的苦痛が単独で持続的深い鎮静の対象となる苦痛になることは例外的であり,適応の判断は慎重に行うべきである。

[コミュニケーションの例] ●鎮静の対象となる苦痛を明確にする「もう一度確認させてください。今つらいのは××ですよね。それは耐えられないくらいつらいのですね。」

苦痛を治療抵抗性と判断する場合,特に持続的深い鎮静を行う場合には,適切な専門家にコンサルテーションすることが望ましい。適切な専門家とは,緩和医療医,精神科医,心療内科医,麻酔科医(ペインクリニック医),腫瘍医,専門看護師などが該当する。日本全国でこれらの専門家が常に利用できるとは限らないことから,適切な専門家がいない場合には,本手引きでは「患者を主に治療している医療チームがアクセスできる他の医療者」に相談することを現実的には勧める。例えば,病院内に緩和医療医や麻酔科医(ペインクリニック医)がいなかったとしても,より緩和治療の経験の長い他の医師に相談する,電話やメールで近隣の施設の専門家にコンサルテーションする,同僚に相談するなどの対応をすることによって,本来は有効な可能性のある治療を実施していないリスクを減らすことができる。

患者の生命予後が日の単位であることは,臨床的な判断で明らかな場合も多い。例えば,低酸素血症の持続や臓器不全によるせん妄がある場合は,日の単位である場合が多い。しかし,死期が迫っていることが明確ではない状況では,医師による生命予後の予測は必ずしも正確ではない。その場合,対象患者の全身状態について,評価尺度を用いた生命予後の予測を参考にすることが望ましい。評価尺度の予測をふまえて,臨床的に総合的に判断する。評価尺度としては,Palliative Prognostic Score(PaP score),Palliative Prognostic Index (PPI)などがある。前者は「医師による予測」が得点のほとんどを占め,後者は呼吸困難,せん妄がある場合には得点が高くなる。したがって,鎮静を検討する場面で生命予後を予測しようとすると,PaP score では生命予後が短いという医師の予測があれば短いと予測され,PPI では鎮静の対象となる呼吸困難やせん妄があること自体で生命予後が短いと診断される。したがって,いずれの尺度にも鎮静の妥当性を検討する場面での使用には不適切な面がある。PaP score やPPI による予測が適切でない場合は,医師による予測や鎮静の対象症状と

2.治療抵抗性の確実さの評価の仕方

3.予測される生命予後の評価の仕方
p.239
なる呼吸困難やせん妄の影響を受けにくいPiPS models(prognosis in palliative care study predictor models)がある[注2]。

身体的苦痛がないにもかかわらず,「生きていることに意味がない」「尊厳を感じられない」といった精神的苦痛が著しく持続する場合に,鎮静の対象として相応的に妥当かの判断は難しい。その理由は,1精神的苦痛を緩和する方法の体系化が十分でなくどの程度行えば十分なケアが行えたのかを判断することが難しいこと,2精神的苦痛は生命予後と必ずしも比例しないため,生命予後が長いと見積もられる患者に深い鎮静を実施した場合は生命予後を短縮する幅が大きくなるからである。まず,予測される生命予後からみて許される範囲内で,夜間の就眠の確保や,場合によっては日中の数時間の間欠的鎮静を行いながら,精神的苦痛に対するケアを十分に行うことが必要である。リソースがあるならば,できる限り,精神的ケアの専門家(精神科医,心療内科医,心理士,宗教家)や専門看護師に相談する。精神的苦痛に対する持続的な鎮静,特に持続的深い鎮静は生命予後が日の単位と見込まれるなど限定された場合にのみ考慮されうるが,原則として対象とならない。

痛みについても,特に,生命予後が比較的長いと見積もられる場合に鎮静の対象として妥当かを臨床現場で判断することは難しい。その理由は,1痛みに対してはオピオイドの変更や鎮痛補助薬など複数の方法があるため,どれくらい治療を行えば治療抵抗性であると判断できるのかが難しいこと,2神経ブロックやオピオイドのくも膜下投与などの治療オプションの実施には治療場所の移動が必要な場合があり,同じ施設内に専門家がいないと提供できないこと,3痛みは生命予後と必ずしも比例しないため,生命予後が長いと見積もられる患者に持続的深い鎮静を実施した場合は生命予後を短縮する幅が大きくなるからである。原則は,患者が希望する限り,より難治性の痛みの診療経験のある医師の診察が受けられるようにすることである。難治性の痛みの診療経験のある医師として,緩和医療医とペインクリック医のいずれかがアクセスしやすいかは地域や施設によって異なる。利用可能な場合は,なるべく早い時期に相談する。医師の所在は,日本ペインクリニック学会ホームページ,日本緩和医療学会ホームページから確認できる(https://www.jspc.gr.jp/shisetsu/ senmonimap.html,https://www.jspm.ne.jp/nintei/list_menu.html)。ペインクリニック医は非がん患者の慢性疼痛を主に診療している(がん疼痛の診療経験が比較的少ない)場合があり,逆に,緩和医療医は神経ブロックなどの鎮痛手技に詳しくない場合がある。がん診療連携拠点病院の相談窓口や緩和ケアチームが,地域で相談が可能な難治性のがん疼痛に対応できる医師を知っている場合が多い。近隣に全く心当たりがない場合は,国立がん研究センターがん対策情報センターに窓口がある(http://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/ fTopKyoten)。痛みの強い患者が診療機関を移動して受診することは難しいことが多いため,まずは診療記録での相談や,電話・メールで相談をすることになるが,実際に,どの

4.精神的苦痛の鎮静の対象としての相応性[注3]

5.生命予後が比較的長いと見積もられる患者の痛みが緩和されない時の相応性[注4] V章
p.240
程度臨機応変に対応できるかは地域や施設によって異なる。生命予後が比較的長い患者の痛みに対して鎮静を検討する場合は,患者の希望とチームによる判断をよりどころにして,総合的に慎重に判断する。

[注]

1) 鎮静を妥当とする相応性の要件として予測される生命予後を含めるべきかについて

は,委員会において異なる考えが示された。すなわち,生命予後に限らず苦痛の緩和はすべての患者が受けられるようにするべきであるため,相応性を検討する要素として含めるのは適切ではないとの意見があった。最終的に,生命予後が長い患者に鎮静,特に持続的深い鎮静が実施された場合,実際

上患者の生命予後を(確実に,相当期間)短くする結果になった場合の倫理的・法的な妥当性が十分に議論されていないことや,そもそも治療抵抗性の苦痛が生じるのは生命予後が切迫した状況であることがほとんどであるという事実から,今回の手引きでは鎮静を行う相応性の判断の基準の一つに予測される生命予後を含めるものとした。

2) PiPS models は,変数から数式を計算して,「日単位(14 日以下)」「週単位(15~55

日)」「月単位(56 日以上)」を予測する。用いる変数は,原発病変,いずれかの遠隔転移,肝転移,骨転移,認知機能(mental test score),脈拍数,食欲不振,倦怠感,呼吸困難,嚥下困難,体重減少,Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)のperformance status,global health,白血球数,好中球数,リンパ球数,血小板数,尿素,ALT (GPT),ALP,アルブミン,CRP である(血液検査所見はなくても算出可能)。http:// www.pips.sgul.ac.uk/(2018 年現在)から算出可能である。国内で用いている単位と異なるものがあるため注意する。

Baba M, Maeda I, Morita T, et al. Survival prediction for advanced cancer patients in

the real world:A comparison of the Palliative Prognostic Score, Delirium—Palliative Prognostic Score, Palliative Prognostic Index and modified Prognosis in Palliative Care Study predictor model. Eur J Cancer 2015;51:1618—29

3) P52,IV章—3 苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための精神的ケア参照

4) P24,IV章—2—1 痛みに対する緩和ケア参照
p.241
鎮静薬を投与する意図は苦痛緩和であり,生命の短縮ではないことを医療チームで共有する。調節型鎮静を行う場合は,苦痛の程度にあわせて鎮静薬の投与量を調整するため,意識の低下そのものも意図しない。意識の低下が生じたとしてもそれは苦痛緩和の結果であることを共有する。持続的深い鎮静を行う場合は,苦痛を緩和するために意識の低下を意図していることを共有する。

意図の確認3

V章
p.242
鎮静薬を投与する倫理的根拠として自律性(患者が希望していること)が重要である。患者自身が患者の価値観に照らして鎮静を希望する,または,少なくとも患者の価値観に照らして鎮静を希望するであろうことが推定されることが必要である。患者が希望しているかの判断が難しい場合は,患者の意思決定能力を評価することが望ましい。また,日本における家族の役割は変わりつつある点もあるものの,鎮静が患者のみならず家族に与える影響を考えると,家族の同意もあることが望ましい[注1]。

意思決定能力は,1自分の意思を伝えることができること,2関連する情報を理解していること,3鎮静によって生じる影響の意味を認識していること,および,4選択した理由に合理性があること,をもとに判断する。特に,抑うつや軽度の意識混濁は見落されやすいが,頻度が高く,患者の意思決定能力に影響を与えうるので,適切な評価が必要である。

患者に意思決定能力がある場合は患者自身に希望を確認する。切迫した状況で詳細な説明や希望の確認ができない場合でも,少なくとも,患者の希望を反映したものであるか意向を確認することが必要である。鎮静を望まない患者に鎮静が使用されることのないことと,治療抵抗性の苦痛があるにもかかわらず鎮静を希望する患者に鎮静が使用されないことのないことの両方が重要である。鎮静を希望する明確な意思表示がある,あるいは,苦痛緩和を希望する一貫した意思表示がある(「苦しまずに最期を迎えたい」と以前から言っていたなど)など,意思が一時的なものではないことを確認することが望ましい。あわせて,心理的・社会的圧力により患者の意思決定が影響されていないことにも気を配る。

[コミュニケーションの例] [注2] ●鎮静の選択肢を提示して,患者の意向を確認する「今,苦痛を和らげるために十分に手を尽くしていますが,今の方法でつらい症状を楽にすることは難しいように感じています。苦しさをさらに和らげるためには,眠気を生じる薬を使用する/ぐっすりと眠る方法もあります。どのくらいの苦しさならよしとするかは,お一人おひとりで違いますので少し相談させていただけますか?」「苦しい感じを和らげられるのなら,今よりも眠気が強くなってもいいとお感じでしょうか? それとも,今より眠くなってしまうのは困るとお感じでしょうか?」

意思決定過程4

1.意思決定能力の評価の仕方

2.意思決定能力がある患者の希望の確認の仕方
p.243
●鎮静がコミュニケーションへ与える影響を説明する「苦しさを和らげることが目的ですので,使うお薬の量は健康な人であれば眠気はでても全く眠ってしまうほどの量ではありません。でも,苦しいのにあわせてお薬を増量すると,結果的に,眠ってしまうことになる時があります。そうすると,お薬を使って楽になったあと,お話ができない状態になる/できないままお別れになるかもしれません。苦しさだけがとれることを目標として慎重にお薬を使っていきますが,もしもの時に備えて,お伝えしておいたほうがいい方や,そばにいていただいたほうがよい方はいらっしゃいますか?」「苦しい感じを和らげる方法をとった結果ぐっすりと眠ってしまい,苦しさは感じなくなりますが,お話をすることは難しくなると思います。」

患者に意思決定能力がないと判断された場合,患者の価値観や以前に患者が表明していた意思に照らし合わせて,現在の状態で患者が何を希望するかについて,家族など患者の価値観を知りうる人とともに検討する。この際,1家族に期待される役割は患者の意思を推測することであり,家族がすべての意思決定の責任を負うわけではないこと,および,2鎮静の意思決定については医療チームが責任を共有することを明確にする。

[コミュニケーションの例] ●患者が意思表示できれば何を希望するかを家族と相談する「本来であれば○○さんに伺うことができれば一番よいのですが,今は難しいので,今後のことについてご家族と少し相談させていただきたいと思います。私たちは,今までの○○さんの生き方や価値観を大切にしたケアをしたいと考えています。もし,ご本人が十分にお話できる状態でしたら,今の状態でどのような治療を一番に希望されるでしょう? 以前に何かおっしゃっていたことはありますか?」●家族からの情報をもとに,鎮静が選択肢になると考えたことを伝え,責任を共有する「今伺ったことから考えると,眠気が強くなる可能性があっても/眠るようなかたちであっても,苦しみを感じなくてすむようにして差しあげることが一番よいと思いますが,いかがですか?」「この決断はとてもつらい決断だと思います。決して,『ご家族の方だけで決めてください』,ということではありません。私たちは,ご家族のお考えを伺ったうえで,一番良い方法を一緒に考え行っていきたいと考えています。」

説明内容は,患者・家族のそれまでの意思決定に関する希望と,情報提供により生じる影響とを十分に検討したうえで個別に判断する。すなわち,知りたいという患者・家族に

3.患者に意思決定能力がない場合の意思決定の仕方

4.説明内容V章
p.244
対して十分な情報提供ができるよう配慮するとともに,患者・家族が知りたくない場合,あるいは,情報提供による害が益を上回る(利益が実際にない)と予測される場合には,提供する情報の内容や伝え方に十分に配慮する。一般的に,苦痛を和らげるために鎮静薬を投与すること,そのために意識の低下が予測されることは,どのような緩和治療を希望するかを確認するうえで明確に説明するほうがよい。しかし,予測される生命予後などの情報は患者・家族によっては明確には知りたくない場合もある。患者・家族に提供する情報として,検討するべき内容は表1 の通りである。これらは「説明することを検討するべき内容」であり,すべてを一律に説明することが必ずしもよいとは限らない[注3]。

[参考 患者・家族に対する鎮静についての説明文書例]図1 に患者や家族に対して,苦痛緩和のための鎮静について説明する場合の文書を例として示す[注4]。使用にあたっては,患者と家族の病状理解や悲嘆反応に十分に配慮し,各々に応じた説明が必要である。説明文書を使用することによって,かえって,「事務的で冷たい」と感じる患者や家族もいるため,説明文書は丁寧で心をこめた説明の代わりにならないことを認識して使用する。

表1 鎮静薬の持続投与にあたって説明を検討するべき情報

項目具体的な内容全身状態身体状況についての一般的説明(根治的な治療法がないこと,予測される状態と生命予後など)苦痛耐えがたく治療抵抗性の苦痛の存在,苦痛の原因,これまで行われた治療,鎮静以外の方法で苦痛緩和が得られないと判断した根拠(専門家へのコンサルテーションの結果など)鎮静の目的苦痛の緩和であること。調節型鎮静では,苦痛の強さを指標として鎮静薬の投与量を調節するため,結果として患者の意識は低下することもしないこともありうる。持続的深い鎮静では,患者の意識そのものが深い鎮静状態になるように鎮静薬の投与量を調節する鎮静の方法鎮静薬を目的にあった投与方法で調節して使用すること鎮静が与える影響予測される意識低下の程度,精神活動・コミュニケーション・経口摂取・生命予後に与える影響,合併症の可能性鎮静後の治療やケア苦痛緩和のための治療やケアは継続されること,患者・家族の希望が反映されること,状況に応じて中止することができることなど鎮静を行わなかった場合に予測される状態他の選択肢,苦痛の程度,予測される生命予後
p.245
V章

図1 患者・家族に対する鎮静についての説明文書例

【全身状態】(                    ) ※ 身体状況についての一般的説明(根治的な治療法がないこと,予測される状態と生命予後など)を記入する

【苦 痛】現在,患者さんに現れている最もおつらい症状は(         )であり,患者さんの訴えやご家族の捉えているご様子,医療従事者の判断から,それは非常に耐えがたいものであり,患者さんの日々の生活を著しく妨げているものであると考えられます。その原因は, (         )であると考えています。私たちは,原因に対する治療,薬物療法,薬物以外の治療方法などさまざまな治療を通して,苦痛を和らげることを目指してきました。しかし,専門家(      など)と相談した結果,現在の方法では和らげることのできない苦痛であると判断しています。

【鎮静薬の投与】そのような苦痛を和らげる治療方法として,鎮静薬(意識を下げるような薬剤,麻酔薬)を使用することにより,苦痛を感じにくくすることを鎮静といいます。鎮静の目的は,苦痛を和らげることです。鎮静薬の使い方として,1少量から苦痛にあわせて調節して,苦痛がとれればそれで増量をしない方法と,2最初から患者さんの意識がなくなるくらいまで使用する方法とがあります。前者の場合でも,結果的に,患者さんの意識が保たれることもなくなることもありえます。現在,患者さんに投与を考えている薬剤は(         )であり,投与方法は, (点滴・静脈注射・持続皮下注射)を考えています。

【鎮静を行うとどうなるのか】鎮静を患者さんに行うと,程度の差はありますが,複雑な会話をすることが難しくなったり,受け答えができなくなる可能性があります。一方,鎮静薬を使用することで,患者さんは苦痛を感じることが少なくなり,現在よりも穏やかに過ごすことができると考えています。鎮静を行うことによって,食事や水分をとることは難しくなります。それに対しては,点滴などの水分・栄養補給を(患者さんにとって効果がない場合には中止します・副作用のない範囲で継続します・別に相談します)。鎮静薬の使用は,一般的には命の長さを短くすることは少ないと考えられていますが,患者さんの全身状態は非常に不安定なので,呼吸停止などを含む急な状態の変化が起こる可能性はあります。

【鎮静開始後のケアについて】鎮静を開始した後も,日々の治療や看護についても患者さんが快適に過ごせるようにこれまでのように引き続き行っていきます。また,患者さんの状況によってはご相談のうえ鎮静を中止したり,薬剤の量を調整します。

【他の選択肢】持続的な鎮静薬の投与を行わない場合は,夜間や日中の数時間だけの鎮静薬の投与を行うことで,なるべく苦痛が少なく,お話しできるかどうかを試みることができます。この他, (        )がありえます。

何かわかりにくい内容がありましたら,いつでも医師や看護師にお尋ねください。私たちは常に,患者さんとご家族が穏やかに安心して生活を送っていただくことを願っています。
p.246
基本的な考えとして,鎮静薬の持続投与を行ううえで,家族の理解と希望が得られることが望ましい。しかし現実には,患者が苦痛緩和のために鎮静を明確に望んでいるが,家族が同意しないことがしばしば生じる。その場合,なぜ患者が鎮静を望むのか,なぜ家族がそれに同意できないのか,をできるだけお互いが理解し,お互いの納得につながるように医療者が両者を支援することが重要である。例えば,家族が患者に付添いのできる環境を整える,家族に十分な説明を行うなど,患者の苦痛や状態を家族が十分に理解できるように配慮したうえで,患者と家族が話し合い,ともに納得できる方法を見出すことができるよう支援する。また,意思の相違に影響していると考えられる家族の心理的要因(悲嘆や自責感など)に配慮した精神的支援を行う。患者と家族の意思が異なるために話し合いを続けている間,患者の意思が最大限尊重され,患者の益が最大になる手段を検討する。例えば,患者が鎮静を希望しているが,家族の同意が得られない場合,間欠的鎮静などにより患者の苦痛を最小にすることを検討する。これらの努力によってもどうしても患者と家族の希望で折り合いのつけられる対応策がみつからない場合は,患者の希望をできる限り尊重できるようにする。患者と家族の意思が一致しないまま患者に意思決定能力がなくなった場合でも,患者の希望をできる限り尊重できるようにする。家族内の意思が異なる時にも,患者の苦痛や状態を家族各々が十分理解できるように配慮したうえで,家族内で直接話し合う機会をつくり,各々が納得できる方法を見出せるよう支援する。

[コミュニケーションの例] ●なぜ家族が鎮静を希望しないのかを聞き,不安に対処する「お話を伺っていると,○○さんとご家族の希望に少し違いがあるように感じました。私たちはできる限り,○○さんもご家族も納得のいく治療を行っていきたいと考えています。最初に,ご家族が......をご希望される理由や心配事を教えていただけますか? なるほど,......を心配されているのですね。ご心配はとてもよくわかります。とてもおつらいと思います。(家族の悲嘆の表出を促進し,個別の心配事に対処する)」

5.患者と家族の意思が異なる時の考え方:患者が明確に鎮静を希望するが家族が希望しない場合[注5]
p.247
●患者の体験や意思を共有することを勧め,当面の妥協できる手段を提示する「例えば,当面,次のことを提案したいのですが,いかがでしょうか。まず,○○さんがどう思われているか,一緒にお部屋で過ごしていただいて,○○さんに聞かれてはどうでしょうか。もし,直接お話しされるのがおつらいようでしたら,私たちがそれとなく話してみますので,側で聞いていただいてもいいかと思います。そのあとで,またご家族みなさんで相談されてはいかがでしょうか。」「これは大切なことなので,しっかりと時間をとって話し合っていきたいのですが,もしこの間,○○さんがとても苦しい場合には,その時間だけ休めるようにお薬を使って1 時間後に中止する(夜間のみ眠れるように睡眠薬を使用する)方法はどうでしょうか。」

鎮静が必要となる状況では患者に意思決定能力がない(意思表示ができない)ことがしばしばある。したがって,患者が将来について知りたい希望があり利益になると考えられるならば,緩和困難な苦痛が生じた時にとりうる手段について,前もって情報を提供しておくことも検討する。患者が「今後起こりうる苦痛」に対する不安を口にした時が(例えば,「先生,この先もっと苦しくなるのでしょうか」「母が亡くなった時とてもつらそうでした。私もそうなるのでしょうか」といった機会)鎮静の選択肢についてあらかじめ相談するきっかけになることが多い。しかし,こうした不安は言語的に表現されるとは限らず,患者・家族の不安そうな態度や表情が話し合いの糸口になることもある。

[コミュニケーションの例] ● 苦痛緩和に努めることを保証し,詳細を話し合う準備があるか確認する。患者の意

向に従ってあらかじめ鎮静について説明する「先々つらいことが増えて苦しむのではないか,と心配されているのですね。以前と違ってつらさを和らげるいろいろな方法があります。私たちは○○さんのつらさがなるべく少なくなるように十分対応していきますので安心してください。今,もう少し具体的な方法についてご相談したほうがよろしいですか?」「息苦しさはこの先少し強くなってくるかもしれません。当面の息苦しさは今のお薬(オピオイド)を調節して和らげることができます。ただ,状況によっては,息苦しさをとろうとすると眠気が増えたり,うとうとするかたちで苦しさを和らげるという方法になる時もあります。もちろん,その折々の○○さんの希望を伺いながら治療していこうと思いますが,今もっと詳しく相談しましょうか?」

意思決定は医療チームの合意として行い,多職種が同席するカンファレンスを行うこと

6.あらかじめ患者・家族の意思を確認することについての考え方

7.チーム医療V章
p.248
が望ましい。現実的に,医師が1 名の施設,夜間や休日,緊急時などスタッフが限られている場合は,複数医師の意見を求めることや正式な多職種カンファレンスに限らず,実施可能な範囲でできるだけ複数の視点からの意見を求めるようにすることが重要である。夜間の場合は翌日にチームで確認するのも一つの方法である。これによって,苦痛緩和の手段のみならず,患者・家族の価値観や意思が多角的に明らかになり,医療者の抱えている無力感などの感情が意思決定に影響している場合の対策となる。意思決定能力,苦痛の治療抵抗性,および,予測される患者の生命予後について判断が困難な場合には,適切な専門家にコンサルテーションすることが望ましい。専門家が近くにおらず相談できない場合は,実施可能な範囲でできるだけより臨床経験の多い医療者の意見を得るように心がける。

鎮静を実施する場合には,表8 の内容を診療記録に記載する。

[注]

1) 本手引きでは,鎮静を実施するうえでの家族の同意を「望ましい」とした。これは,

患者と家族の意思が異なる場合に,誰の意思をより重視するかの観点から検討したものである(P74,V章—4—5 患者と家族の意思が異なる時の考え方の項参照)。

2) ここに挙げた「コミュニケーションの例」は例であって,実際の患者の説明に対する

希望や心の準備など個別に判断することが必要である。

3) 例えば,おそらく患者は鎮静を希望することが推測されるが意識障害のため意思表示

できない状況で,家族から鎮静薬の生命予後に与えうる影響について質問があり,回答する場面を考えてみる。医学的な事実としては,1集団の平均として,鎮静を受けた患者と受けなかった患者

8.診療記録への記載

表8 診療記録に記載するべき内容1  目 的鎮静薬の投与は苦痛の緩和を目的として行われていること2  治療のプロセス1 )苦痛が何か2 )苦痛が患者にとって耐えがたいと判断した理由患者に確認した,患者が意思表示できない場合は一般的に耐えがたい苦痛と判断された,など3 )苦痛を治療抵抗性と判断した根拠4 )予測される患者の生命予後とその医学的根拠5 )鎮静を実施するうえで相談した他職種や専門家がいる場合,その過程6 )患者の状態や苦痛を継続して評価した過程特に鎮静薬の増量をした場合は増量した理由3  説明と同意(検討するべき説明内容についてはP71 を参照) 1 )患者に伝えられた情報と意思表示患者に説明した内容,それに対してどのような話し合いを行い,最終的に患者はどのような希望を表現したか。患者に意思決定能力がない場合には鎮静を希望することが推測された理由2 )家族に伝えられた情報と意思表示
p.249
とで,観察が開始されてから(入院や在宅サービスの開始から)死亡までの生存期間に差がない,2少数の場合で鎮静薬の効果による合併症は生じうる,3もともと鎮静薬の投与を受けなかったとしても生命予後が限られているため生命予後を極端に短くすることはない,といえる(P117,VIII章—8 鎮静は生命予後を短くするのか? 参照)。したがって,説明に含めることを検討する内容としては,理論上は,1もともとの状

態から鎮静薬を投与したからといって極端に生命予後が短くなることはないこと,2頻度は少ないが鎮静薬による合併症が生じうること,3薬剤の影響のためとは限らないが使用後に亡くなられる可能性があることがある。しかし実際には,危険性を強調しすぎると患者が希望していても鎮静が不適切に手控

えられたり,最終的に自分のために患者を苦しめたという家族に精神的負担をかけることにつながる。場合によっては,生命予後には大きな影響がないと伝えたり,苦痛の緩和が主目的であることを強調することによって家族の精神的負担に配慮することも必要である。

[コミュニケーションの例]「鎮静薬を使用したことで,寿命が短くなるのではと心配されているのですね。今の苦

しさは,(酸素が取り込めない,肝臓が機能していないといった)生命を維持することができなくなっていることが原因なので,鎮静薬を使用しなかったとしても数日(数週)くらいと考えられます。ですので,鎮静薬を使用したからといって極端にもともとの寿命が短くなるわけではありません。ただ,普通に使う,例えば解熱剤や睡眠薬でもその作用が強く出るくらい全身状態が不安定なので,鎮静薬を使用してうとうと眠られたかと思うとそのまま呼吸が止まってしまうことはあるかもしれません。それでも,○○さんが望まれていたように,今は苦しくないようにすることが一番大事なことだと思います。うまくいけばうとうととして苦しくない状況になりますので,苦しさをまずとることでお薬を使おうと思います。」

4) 鎮静を行ううえで説明文書を用いて説明をするべきかどうかについては賛否があっ

た。本来説明文書は患者や家族が決定して選択することの助けになることを目的とするためのものであり,医療者の免責のために取得するものではないとの意見があった。本手引きでは参考として示す。文書を使用するとしても,使用にあたっては画一的に使用するのではなく,個々の施設に適するように修正して使用することを勧める。

5) 患者と家族の希望が一致しない場合,鎮静を実施するうえで家族の同意を必要とみな

すかは意見が分かれた。委員全員が家族に対する配慮やケアが必要であるという点では一致したが,努力をしても家族が患者の希望に同意しない場合は,それも患者と家族のありようだと考えて家族の同意を待ってもよいという意見と,家族を説得するなどより家族に働きかけを強めるべきであるという意見が出された。また,患者が鎮静を希望しているにもかかわらず,家族の反対を理由に患者に苦痛を負わせたままにすることは非倫理的である(臨床倫理,医療者の職業倫理に照らして不適切である)との意見もみられた。結論としては,これまで持続的深い鎮静では家族の同意を必要としていたが,今回「望ましい」と変更し,より患者の希望を重視する立場を明確にした。倫理的視点からの検討については,P87 も参照。V章
p.250
持続的鎮静のための薬剤は,少量で緩徐に開始し目的が得られるまで投与量を漸増する。調節型鎮静では苦痛の強さを指標とするため,苦痛が緩和された場合はそれ以上鎮静薬を増量しない。苦痛緩和が得られたが鎮静が深くなりすぎた場合は,減量を検討する。深い鎮静では患者が深い鎮静状態となるまで鎮静薬を増量することが原則であるが,増量する過程で十分な苦痛緩和が得られた場合にはさらに増量する必要はない。投与初期には血中濃度を治療域に到達させるため,必要に応じて(全身状態から総合的に判断して適切ならば),追加投与を行うか,または,一定量のローディングを行ってから減量する。持続的鎮静に用いる薬剤の第一選択薬はミダゾラムである。ミダゾラムが有効でない場合には,フェノバルビタール注射薬などを使用する[注1]。注射薬が使用できない場合にはベンゾジアゼピン系坐薬やバルビツール系坐薬を代替薬とする(調節しにくく効果も不安定なため,坐薬を持続的鎮静として用いるのは他に代替手段がない場合である) [注2]。2018年現在,いずれの薬剤も苦痛を緩和するために使用する鎮静目的の保険適用はない。オピオイドは意識の低下をもたらす作用が弱く,かつ,蓄積により神経過敏性を生じうるため,鎮静に用いる薬剤としては使用しない。ただし,痛み・呼吸困難が苦痛症状である場合には,症状緩和として適切な量を使用するべきである(P24,IV章—2—1 痛みに対する緩和ケア参照;P43,IV章—2—3 呼吸困難に対する緩和ケア参照)。同様に,ハロペリドールは意識の低下をもたらす作用が弱いため,鎮静に用いる薬剤としては使用しない。ただし,せん妄が苦痛症状である場合には,症状緩和として適切な量を使用するべきである(P34,IV章—2—2 せん妄に対する緩和ケア参照)。表1 と表2 に持続的鎮静に使用される薬剤の使用例を参考として示す。ミダゾラムの投与量については,概念の違いがわかるように調節型鎮静と持続的深い鎮静に分けて使用例として示した。後者は出血や窒息など調節型鎮静では苦痛が緩和されないと医学的に見込まれるなど,安全性よりも確実な苦痛緩和が優先される例外的な状況を想定している(P18, III章 治療抵抗性の耐えがたい苦痛への対応に関するフローチャート参照)。鎮静薬の必要量は患者の状態によって大きく異なるため,注意深く患者を観察して調節することが必須である。投与方法は一つの目安であり,上記の方法で投与すれば十分に効果が出るもしくは過量投与にはならない,というものではない。個々の患者で細かく調節することが重要である。特に,ミダゾラムの必要量は個人差が非常に大きいため,投与量,増量・減量間隔,増量・減量幅は患者の状況(体重や全身状態)に応じて適宜調節する。薬剤投与中の患者の状態や苦痛の評価についての考え方は「鎮静中の継続的な評価」の項(P80)を参照。患者の全身状態によっては,(鎮静薬による影響は医学的に明確にはできないが,結果的に),鎮静薬の投与直後(特に静脈内投与の早送りの後)に患者が死亡する場合がある。かといって,危険性を強調しすぎると鎮静が不適切に手控えられたり,家族に精神的負担をかけることにつながる。家族への説明や同意について十分に検討する。

実際の投与方法と評価・ケア5 1.鎮静薬の投与方法
p.251
V章

表1 持続的鎮静に用いるミダゾラムの使用例[注3]

調節型鎮静持続的深い鎮静

導入・ 0.5~1 mg/時間で持続皮下・静注を開始す

る。投与開始時に0.5~1 mg 程度の早送り*を行ってもよい。・ 15~30 分毎を目安に,目標(苦痛緩和)が得られているかと,全身状態の変化を評価する。・ 苦痛緩和が得られない場合は,0.5~1 mg

程度の早送り*を行い,持続投与量を数時間毎に30~50%を目安に増量する。患者の状況によっては,早送りのみを行い持続投与量は増量しないで経過をみる。・ ローディングドーズ†として3~5 mg/時間で持続皮下・静注を開始

する。ローディング時間(通常は数時間)を待てないくらいに患者の苦痛が切迫している場合には,投与開始時に0.5~1 mg 程度の早送り*を行ってもよい。苦痛が軽減できない場合,2~5 分程度をあけて0.5~1 mg の早送り*を苦痛が緩和するまで繰り返し行ってもよい。その際の総量は2~3 mg 程度を目安とする。・ 15~30 分毎を目安に,目標(深い鎮静)が得られているかと全身状態を評価する。・ 深い鎮静が得られない場合は,0.5~1 mg 程度の早送り*を行い,持続投与量を数時間毎に30~50%を目安に増量する。患者の状況によっては,5 mg/時間まで増量する。・ 目的とする鎮静レベルに到達すれば,持続投与量を1/2~1/3 に減

量して継続する(ローディングの終了)。

維持・ いったん苦痛緩和が得られた場合は,数時

間毎に評価を行う。・ 苦痛緩和が不十分な場合は,持続投与量を数時間毎に30~50%を目安に増量し,場合によっては0.5~1 mg 程度の早送り*を行ってもよい。・ 苦痛緩和が得られたが鎮静が深くなりすぎ

た(鎮静を浅くすることが適切と考えられた)場合,持続投与量の減量,中止を行う。場合によっては,拮抗薬(フルマゼニル)の投与を検討する。・ いったん深い鎮静が得られた場合は,数時間毎に評価を行う。・ 鎮静が不十分になった(深い鎮静が得られなくなった)場合は,持

続投与量を数時間毎に30~50%を目安に増量し,場合によっては0.5~1 mg 程度の早送り*を行ってもよい。・ 苦痛緩和が得られたが鎮静が深くなりすぎた(鎮静を浅くすることが適切と考えられた)場合,持続投与量の減量,中止を行う。場合によっては,拮抗薬(フルマゼニル)の投与を検討する。・ 深い鎮静を目的として鎮静薬の投与を開始したが,鎮静薬を調節す

る過程で十分な苦痛緩和が得られた場合には,目的を持続的深い鎮静ではなく調節型鎮静に変更することを検討する。

ミダゾラムの投与方法の例を調節型鎮静と持続的深い鎮静に分けて記載している。調節型鎮静でのみ鎮静薬の投与量の調節が必要で,持続的鎮静では投与量の調整が必要ないという意味ではない。持続的深い鎮静においても調節が必要である。深い鎮静状態に導入・維持することだけに注目するのではなく,患者の状態や苦痛の程度にあわせて鎮静薬を調節して投与する。苦痛が再燃しない範囲で鎮静薬を減量できないかを常に検討することが必要である。維持量は0.2~5 mg/時間(通常1~2 mg/時間)である。持続的深い鎮静の使用例として想定したのは,窒息や気道出血などの緊急時にできるだけ速やかに深い鎮静に導入するような場面であり,その方法の一例を示している。深い鎮静の適応と考えられる場合でも,緊急ではない場合にはより少量の投与量で十分な鎮静を得られる場合がある。ミダゾラムは本来体重あたりの投与を書くことが一般的であるが,使いやすさを重視して/kg ではなく/body で表記した。

*静注の場合,早送りは1 分程度かけて緩徐に投与する。早送り後5 分間は慎重に観察する。患者の状態を観察しながら早送り量を調節する。†ローディングドーズは,目的とする治療効果が得られたあとに減量することを前提としている。ローディング開始から投与量が適切かを判断するまでの期間は,特に注意深く観察する必要がある。

表2 ミダゾラム以外の薬剤を持続的鎮静に用いる場合の使用例

薬剤名投与経路製剤規格使用例フェノバルビタール注射薬*皮下100 mg/1 mL 25 mg/時間で投与する。開始時に50~100 mg の皮下注射を行ってもよい(維持量は通常15~50 mg/時間)。フェノバルビタール坐薬†経直腸15 mg,30 mg,50 mg, 100 mg 50~200 mg/回を患者の状態をみながら定期的に1日2~3回投与する。ジアゼパム坐薬†経直腸4 mg,6 mg,10 mg 4~6 mg/回を患者の状態をみながら定期的に1 日2~3 回投与する。ブロマゼパム坐薬†経直腸3 mg 1.5~3 mg/回を患者の状態をみながら定期的に1日2~3回投与する。*フェノバルビタール注射薬は脂溶性のため蓄積しやすい。鎮静のための維持量は経時的に少なくなる。したがっていったん目標とする鎮静状態に達したあとは日々減量することが多い。†坐薬を持続的鎮静で使用する場合,定期投与を前提とされていれば持続鎮静とみなし,苦痛時のみの指示を使用して適宜使用する場合は間欠鎮静(の反復)とみなす。
p.252
鎮静薬の投与を開始する前にしておきたいこと(大切な人と会っておくこと,話をすることなど)について,患者と家族の気持ちを確認する。

[コミュニケーションの例] ●鎮静薬の投与を受ける前にしておきたいことを説明する「しばらくして先ほどお話したお薬を始めます。少しずつ眠くなってくることが多いと思います(可能性があります/必ず眠くなるとは限りませんが,眠気が強くならないと苦しさがとれないかもしれません)。眠くなる前にお話しておきたい方や伝えておきたいことはありますか?」

鎮静を開始した後,定期的に,苦痛の程度,意識水準,鎮静による有害事象,および,鎮静以外の方法で苦痛が緩和される可能性,病態の変化,家族の希望の変化について評価する。評価回数は,目標とする鎮静が達成されていない状態では15~30 分間に1 回以上,目標とする鎮静が達成されている状態では数時間毎を基本とする。内容や頻度は,患者の状態や治療環境,目標とする鎮静水準によって,個別に判断する。苦痛の程度を評価するためには,Support Team Assessment Schedule(STAS)(P84,資料1)を用いる[注4]。STAS は苦痛そのものを評価する尺度であり,日本の緩和ケアにおいては頻用される評価尺度である。鎮静の時の苦痛を評価するために作成されたものではないものの,苦痛の言語的訴え,表情,体動をもとに他者評価が可能である。STAS 以外にも,認知障害のある患者の痛みを評価するために用いられる尺度も使用可能であるが(日本緩和医療学会編『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2014 年版』),鎮静の場面で使用できるかは確かめられていない。意識の水準を評価するためには,Richmond Agitation—Sedation Scale(RASS)(P84,資料2)を用いる。緩和ケアで使用されることを前提として多少の修正を加えられた緩和ケア用RASS では,評価のために痛覚刺激を加える必要はない。有害事象としては,呼吸抑制(呼吸数,呼吸パターンの急激な変化など),舌根沈下,誤嚥,循環抑制,精神症状(せん妄など)について評価する。苦痛緩和のための鎮静においても適切な鎮静が行われるように継続的な評価を行うことが必要である。どのような方法が適切であるかは患者の状況や希望によって異なる。一般的な診療の場面では鎮静薬の使用においては,低酸素血症や血圧低下を生じないように酸素飽和度や血圧をモニタリングすることや,呼吸停止・心停止に備えた体制をとって使用することが勧められている。一時的な間欠的鎮静など治療目標によって,これらのモニタリングが患者の利益になると考えられるなら,モニタリングを実施する。一方,死期が迫っており治療目標が苦痛緩和であることで合意が得られている場合には,厳密なモニタリングを行うことが患者にとっての利益となるとは限らない。その場合には,視診や触診などで呼吸回数などを観察し,酸素飽和度の持続的モニターや血圧測定は行わないことも適切である。その場合は,治療は

2.鎮静開始直前の患者・家族への配慮

3.鎮静中の継続的な評価
p.253
患者の快適さを目的としており,もし鎮静が予測より強くなり覚醒しなかった場合や呼吸抑制が生じた場合にどのような対応をとるのか,あらかじめよく相談しておく。

鎮静開始前と同じように,誠実に,患者の尊厳に配慮して,声掛けや環境整備などのケアを行う。不快な症状の出現を注意深く観察し,鎮静薬の効果の評価を患者・家族とともに話し合う。口腔・眼のケア,清拭,排泄,褥瘡ケアに関しては,患者・家族の意思や治療目的からみた患者にとっての利益と負担を判断の基準として行う。家族の心配や不安を傾聴し,悲嘆や身体的・精神的負担(鎮静決定後の心の揺れなど)に対する支援を行う。特に,家族が患者のためにできること(そばにいる,声をかける,手足に優しく触れる,好きだった音楽を流すなど)をともに考える。経過に従って必要とされる情報(患者の状態,苦痛の程度,予測される変化など)を十分に提供する。特に,他の手段について十分に検討し施行したが有効ではないこと,鎮静によって生命予後が短縮する可能性は少ないと考えていること,患者の状況によって鎮静を浅くする(中止する)ことも可能な場合があることを伝える。ただし,全身状態によっては,鎮静薬を中止または減量しても意識が回復しない場合もある。

[コミュニケーションの例] ●家族がどんな気持ちでいるのかを聞く「よく休まれているようです。付き添われていて,何かご心配なことやこうしてあげられたらと思われていることはありますか?」

水分・栄養の補給を行うかは,患者の意思や治療目的からみて,患者にとっての利益と負担を総合的に評価する(表3)。水分・栄養の補給は,鎮静とは別に判断するべきものである。鎮静開始前に患者が経口摂取できている場合,あるいは,水分・栄養の補給を受けている場合,鎮静開始後の水分・栄養の補給についてあらかじめ患者・家族と相談しておくことが望ましい。水分・栄養補給による体液過剰兆候が苦痛を増悪させる場合,患者・家族の意思を尊重したうえで減量・中止を検討する。水分・栄養補給が患者の苦痛を和らげている可能性がある場合,患者・家族の意思を尊重したうえで継続する。一般的には,体液過剰となっている場合が多い。バイタルサインの精密な監視,定期的な採血など,治療目的と一致しない治療や検査の実施についても,あらかじめ患者・家族と相談しておくことが望ましい。苦痛緩和のために鎮静前から投与されていた薬剤は,効果がないと判断される場合を除いて継続する。

4.鎮静中の患者・家族へのケア

5.水分・栄養の補給などについての考え方V章
p.254
[コミュニケーションの例] ● 胸水や腹水など体液過剰に伴う苦痛のある患者で輸液の減量・中止を提示し,輸液

を減量したために衰弱が進行するわけではないことを保証する「最近,むくみ(腹水・胸水)が増えてきました。今まで,お食事が召しあがれないので点滴をしてきたのですが,かえって負担になっているようです。今は,体に水分はあるのですが,有効に使うことができず,たまってきている状態です。この状況ですと,点滴の量は少なくしたほうが,体は楽になると思います。」「点滴を減らすと,そのせいで余計に衰弱するという心配をされるかもしれませんが,今の状態では点滴を無理に入れても栄養や水分が吸収されていない状態ですので,点滴を減らしたせいで衰弱するということはないと考えています。」

[注]

1) ミダゾラム,フェノバルビタール注射薬以外に使用しうるものに,本手引きでは検討

の対象としなかったが,プロポフォール,クロルプロマジン,レボメプロマジンなどがある。

2) 坐薬を持続的鎮静に用いる薬剤として記載するかは賛否があった。委員の合意とし

て,持続的鎮静を行うとしたならば,最も適した方法は調節性の高いミダゾラムの持続注射であるとの認識であった。坐薬を記載することに反対する理由として第一に挙げられたことは,持続時間や深さ

を調整しにくいことや,投与後に減量できないため使用するべきではないとの理由であった。坐薬の使用は国際的に文献上ほとんど記載がない。もう一つの理由としては,投与後に患者が死亡した場合,特に家族が坐薬を投与した場合に,家族の精神的負担が大きいことが挙げられた。医学的には,鎮静薬を使用する状況では,鎮静の対象となっている苦痛の病態(例えば,致死的な出血が急に生じたなど)のために,鎮静薬を使用しなくても死期が迫っていることが多い。したがって,鎮静薬を投与したあとに患者が死亡したとしても,薬剤が原因であるとはいえない。しかし,その時期がたまたま鎮静薬の投与後に重なると実際には区別できないため,鎮静薬を投与したために患者が死亡したようにみえる。

表3 鎮静を受ける患者における輸液の益と害

益害

輸液をするオピオイドの代謝産物が排泄されるため,せん妄,ミオクローヌスなどの神経過敏症状が緩和する可能性がある。「最低限の治療が行われている」という家族の精神的安定につながる可能性がある。胸水・腹水・浮腫・気道分泌の亢進など体液過剰に伴う症状が悪化する可能性がある。排尿そのものが患者の負担になることがある。輸液をするための静脈注射・皮下注射が患者の負担になることがある。輸液をしない胸水・腹水・浮腫・気道分泌の亢進など体液過剰に伴う症状が緩和する可能性がある。排尿や輸液に伴う医療行為そのものによる患者の負担がない。オピオイドの代謝産物の排泄遅延のため,せん妄,ミオクローヌスなどの神経過敏症状が悪化する可能性がある。「見捨てられた・何も治療してもらっていない」という家族の精神的負担になる可能性がある。
p.255
一方,坐薬を記載することに賛成する立場としては,ミダゾラムの注射薬が実際上の

理由で使用しにくい治療環境で治療抵抗性の苦痛が生じた場合,坐薬を記載していないことで患者の苦痛を軽減するための方策がなくなる可能性がある。その場合,国際的なガイドラインでは鎮静薬として使用が勧められていないオピオイドの増量が行われれば,かえって患者に害が生じうる。以上のことから,本手引きでは,坐薬を記載する立場とした。

3) 薬剤の投与量に関する記載についての議論の経緯はP61 の注1 を参照。委員は「必要

最小限の鎮静薬を使用して苦痛を緩和すべき」という点では一致していたが,実際に例として記載する早送りの追加量やローディングドーズなど具体的な投与量については意見の違いがあった。経験の浅い医師が具体的に記載された投与量をそのまま使用しても過量投与による副作用の対応で困らないように記載すべきだとの意見があった一方で,例として記載する投与量が少ないと苦痛が強い場合に苦痛緩和が不十分になる懸念や,かえってミダゾラムの有害事象が強調されすぎて鎮静が有益な患者に使用されなくなるとの懸念が示された。最終的には,患者個々に調整する必要があることを明記し,安全性を重視した使用例を記載することとした。本手引きはそもそも診療ガイドラインではなく,かつ,手引きとしても使用例として示しているにすぎないため,記載例以外の使用方法を制限するものではない。議論において,記載するべき投与量の違いの背景にある医師の考え方の違いが明らか

になった。すなわち,ある者は鎮静薬を投与した直後に患者が死亡した場合,病気の自然な経過よりも薬剤の過量投与によって患者を死亡させた可能性が高いと判断された際は,(自己で指示を出した薬剤によって患者を死亡させたかもしれないと認識するために)医療者として後悔する可能性があると考える。一方,「(患者の希望に従って)苦痛が十分にとれたからよかった(少なくともやむを得なかった)」「鎮静薬のために生命予後が短縮したとはいえない(苦痛の原因の病態の悪化のためも考えられる)」と考える意見もあった。自分ではなく,家族や同僚ならそう考えるであろうと推測することを投与量の判断に含めている意見もあった。これらは科学的には実証不可能で価値が伴う判断であるため,専門家の合意よりも社会全体の議論のなかでのコンセンサス形成が重要である点を指摘しておきたい。

4) 苦痛を評価する指標としてSTAS を用いることを勧めるのは,本指標が国内において

比較的普及しているというのが最も大きい理由であり,苦痛緩和のための鎮静を実施する際の苦痛評価の指標として優れているという理由ではない。STAS は医療者による評価であるため,特に使用に慣れていない場合には観察者によってばらつきがでる可能性がある。Numerical Rating Scale の代理評価やその他の苦痛の評価尺度の使用を否定するものではない。V章
p.256
[資料 鎮静の時に使用される評価尺度]

症状が患者に及ぼす影響0...なし1...時折,断続的。患者は今以上の治療を必要としない。(現在の治療に満足している,介入不要) 2...中等度。時に悪い日もあり,日常生活動作に支障を来すことがある。(薬の調節や何らかの処置が必要だが,ひどい症状ではない) 3...しばしばひどい症状があり,日常生活動作や集中力に著しく支障を来す。(重度,しばしば) 4...ひどい症状が持続的にある。(重度,持続的)〔Miyashita M, et al. Reliability and validity of the Japanese version of the Support Team Assessment Schedule(STAS‒J). Palliat Support Care 2004; 2: 379‒85 より引用〕

資料1 Support Team Assessment Schedule(STAS)日本語版 症状版

スコア用語説明

+4好戦的明らかに好戦的,暴力的で,スタッフに危険が迫っている+3非常に興奮しているチューブやカテーテルを引っ張ったり抜く;攻撃的+2興奮している頻繁に目的のない動きがある+1落ち着きがない不安そうだが,動きは攻撃的でも活発でもない完全に意識清明ではない患者で,頻繁に動き,攻撃的でない0意識清明で落ち着いている-1傾眠完全に意識清明ではないが,呼びかけに覚醒状態(開眼・アイコンタクト)が続く(≥10 秒)呼びかけ刺激-2浅い鎮静呼びかけに短時間覚醒し,アイコンタクトがある(<10 秒) -3中等度鎮静呼びかけに動きか開眼で反応するが,アイコンタクトはない-4深い鎮静呼びかけに反応はないが,身体刺激に動きか開眼がある身体刺激-5覚醒不可能呼びかけにも身体刺激にも反応がないRASS 評価手順1 .患者を観察する・意識清明,落ち着きがない,または興奮があるScore 0~+4 2 . 意識清明でない場合,患者の名前を呼び,目をあけてこちらを見るように言う・覚醒し,開眼・アイコンタクトが持続するScore -1・開眼・アイコンタクトがあるが,持続しないScore -2・呼びかけになんらかの動きがあるが,アイコンタクトはないScore -3 3 . 呼びかけ刺激に反応がない時,肩をゆすることで身体的に刺激する・身体刺激に何らかの動きがあるScore -4・どの刺激にも反応しないScore -5 ⎫ ⎪ ⎪ ⎪ ⎬ ⎪ ⎪ ⎪ ⎭ ⎫ ⎪ ⎬ ⎪ ⎭

資料2 緩和ケア用Richmond Agitation‒Sedation Scale(RASS)日本語版

〔今井堅吾,他.緩和ケア用Richmond Agitation‒Sedation Scale(RASS)日本語版の作成と言語的妥当性の検討. Palliat Care Res 2016; 11: 331‒6 より引用〕
p.257
VI章 倫理的検討
p.258
鎮静がもたらす益(好ましい効果:benefits)は,苦痛緩和である。害(好ましくない効果:harms)は,意識の低下により,コミュニケーションをはじめとする通常の人間的な生活ができなくなること,状況によっては生命予後の短縮をもたらす可能性が否定できないことである。このように,鎮静には益とともに害が伴うため,医療者が担う「相手の益になるようにする(与益:beneficence)」と「相手に害を与えない(無危害:nonmaleficence)」という倫理的要件との関連で,鎮静の倫理的妥当性を明確にする必要がある。

鎮静は,以下の4 条件をすべて満たす場合には倫理的に妥当だと考えられる。

相応性患者の苦痛緩和を目指す諸選択肢のなかで,鎮静が相対的に最善と判断されることが必要である。相応性原則(principle of proportionality)とは,「一定の目的をもって何かに対処する際に,その目的を達成すると見込まれる選択肢のなかで最も害が少ないものを選ぶ」という原則である。この場合,「相応である(proportional)」とは,対処が必要な状況に対して,対処法として選んだ選択肢が,他の選択肢に比べて最も適している(=相応である)という意味で使われている。鎮静は,患者の意識を下げ人間的な生活を難しくする(状況によっては生命予後を短縮する可能性があるかもしれない)という害を伴って,苦痛緩和という益を得るものである。そのため,実施に際しては,鎮静の益と害は,他に取りうる治療法と十分比較される必要がある。著しい苦痛があり,他の手段では緩和される見込みがなく,かつ患者の死期が迫っている場合(特に持続的な鎮静の場合)には,鎮静が相対的には最善の選択肢となるが,そうでない場合は他の手段をとることが倫理的に妥当である。なお,鎮静が相対的に最善である場合でも,耐えがたい苦痛の緩和が達成できる限りで,鎮静を実施する時間は長い(持続的鎮静)より短い(間欠的鎮静)ほうが,また,意識の低下は深いより浅いほうが,人間的な生活(コミュニケーション能力)を確保するという観点からは好ましい。そのため,鎮静が相対的に最善と評価される場合においても,鎮静薬の投与期間や投与量は苦痛緩和という目的を達成するために必要最低限であることが求められる。この点で,相応性原則は,鎮静を開始する時のみならず,実施後の定期的な評価の時にも使用されるものである。

1.鎮静の益と害

2.鎮静の倫理的妥当性

1
p.259
医療者の意図鎮静を行う医療者の意図が苦痛緩和にあり,生命予後の短縮にはないことが明示される必要がある。生命予後の短縮を意図して鎮静を行うことは倫理的に許容されない(これは生命予後の短縮を予見することとは異なる)。医療者は鎮静の目的が苦痛緩和にあることを患者・家族および医療チームとの間で明示的に話し合い,目的が関係者間で共有されていることを確認することが望ましい。鎮静を実施する際の医療者の意図は「苦痛緩和」にある。例えば,持続的深い鎮静は「意識を失う」という好ましくない効果を介して「苦痛緩和」という好ましい効果を達成すると一般的に解釈される。その行為は,医療者が単純に「患者の意識を失わせることを意図している」ことと倫理的に同等ではない。医療者は「苦痛緩和を目指してやむなく患者の意識を失わせることを意図する」のであり,「意識を失わせる」ことがどういう意図でなされているか,つまりは意識の低下の目的が倫理的評価を左右するからである。そもそも,調節型鎮静では苦痛の緩和を指標にして鎮静薬を投与するのであり,意識の低下そのものは意図されない。症状緩和の程度に応じて意識状態を保ちつつ苦痛緩和を行う点で,一般的な緩和治療(例えば痛みに対するオピオイドの投与)と本質的に同じである。また,持続的深い鎮静は意識の低下を指標として実施するものの,医療者の意図は苦痛緩和にあり,その他の要件が満たされる限り倫理的に妥当である。なお,ここでいう「意図」とは,当該医療行為の目的を尋ねられた際にその理由として医療者が説明可能なものであり,単に結果を予見することではない。例えば,鎮静薬を投与することによって患者の生命予後が短縮する可能性がある状況を考える。医療者は,生命予後の短縮を予見していたとしても,鎮静をした理由を尋ねられたならば目的は苦痛緩和であり,生命予後の短縮は(もし生じたとしても)副次的な結果にすぎないと説明するだろう。しかし,もしこの場合に医療者が「(命を縮めることで)早く楽にしてあげたい」と患者に伝えて鎮静を行うのであれば,それは生命予後の短縮を意図した行為とみなされるため,許容されない。

患者・家族の意思患者に意思決定能力がある場合,鎮静を希望する明確な意思表示があることが必要である。患者に意思決定能力がない場合は,患者の価値観や以前に患者が表明していた意思に照らし合わせて,当該の状況で苦痛緩和に必要な鎮静を希望するであろうことが合理性をもって推定できることが必要である。「自律原則(principle of autonomy)」に照らす限りでは,原則として患者本人が鎮静の実施を希望していることが必要である。とりわけ,持続的深い鎮静は自律の基礎となる意識をなくしてしまう行為であり,通常の医療行為に比べて本人の自発的な同意がより一層重要である。ただし現実には,鎮静が検討されている時点で患者に意思決定能力がない場合もあり,家族が鎮静の実施に際して大きな役割を果たすことも少なくない。その場合,医療者は家族との話し合いを通じて,鎮静の実施に関する患者の意思を推定する必要がある。鎮静の実施において家族の同意を求めるかは難しい課題であるが,本手引きでは家族の

3 VI章
p.260
同意については必須とせず,本人の明示の意思ないしは推定意思により鎮静が実施されることとしている。もちろん,緩和ケアにおいて家族は患者同様ケアの対象であり,鎮静に関する意思決定に際して十分な配慮が必要である。そのため,本人が鎮静を希望し,家族が反対している場合には,患者にとっての最善について繰り返し家族と話し合い,合意するよう最大限努力することが必要である。しかし,家族の同意を必須の要件とした場合,患者本人が強く鎮静を希望しているにもかかわらず,家族から同意が得られないために患者の希望する鎮静が実施できない可能性がある。そのため,本手引きでは,十分な話し合いを行っても合意が得られない場合には,苦痛緩和のための治療を受けたいという患者の意思を優先する立場を支持することとした。苦痛緩和は医療者の基本的な務めであり,家族の同意が得られないことのみを理由として鎮静を実施しないことは,倫理的に妥当ではないと考えたからである。

チームによる判断意思決定は医療チームの合意として行い,必要な場合については専門家にコンサルテーションを求めることが必要である。多職種が同席するカンファレンスを行うことが望ましい。特に,患者・家族,医療者の間で鎮静の可否について意見の不一致がある場合には,繰り返し患者の最善について話し合う必要がある。もっとも,在宅療養など,担当医療者が限定されている場面における緊急避難的な鎮静の場合,チームでの意思決定が現実的ではない時もある。その場合は,鎮静開始後の可能な限り早期に他のチーム・メンバーと相談することとする。鎮静の倫理的妥当性は,地域や医療機関の特徴や事情,個々の医療者の経験や技術,患者・家族の状況などに応じて個別に検討されるべきものであり,個々の事情や文脈を無視して判断することはできない。そのため,特に判断が難しいケースに関しては,本手引きで原則を示した考え方に即して繰り返し話し合うことが必要となる。一定の情報の収集の仕方や話し合いのプロセスを踏むことは独断による決定を避けるとともに,事後的な説明責任を果たすことにも通じる。

終末期患者の治療抵抗性の苦痛に対して行う鎮静は,相応性,意図,患者の意思,チームでの判断から検討された場合に倫理的に妥当な選択肢であると考えられる。この見解は国際的な見解とも一致している。

[補注]

鎮静の倫理的妥当性に関するその他の重要な議論について,本手引きとの関係を補足

的に説明する。

1) 二重効果の原則鎮静の倫理的正当化においては,しばしば二重効果の原則(principle of double effect)

が用いられている。二重効果の原則では,好ましい効果を意図した行為が,好ましくな

4

3.まとめ
p.261
い結果を生じることが予見される時に,良い意図の存在によって,好ましくない結果を許容しようとする。すなわち,好ましくない結果が生じることが予見されても,1行為自体が道徳的である,2好ましい効果のみが意図されている,3好ましい効果は好ましくない効果によってもたらされるものではない,4好ましくない結果を許容できる相応の理由がある,場合に妥当であると考える。鎮静の倫理的正当化における二重効果の原則の解釈は多様であり,鎮静の好ましくな

い効果を意識の低下と捉えるか,生命予後を短縮する可能性と捉えるかの考え方がある。また,議論の前提であった鎮静による生命予後の短縮について,現在では複数の実証研究によってそもそも鎮静は生命予後を極端に短縮しないという知見が示されている。そのため,鎮静の対象となる生命予後が時間から日の単位と考えられる大多数の場合において,二重効果の原則に基づく議論は不要であるとする見解もある(P117,VIII章—8 鎮静は生命予後を短くするのか? 参照)。さらには,二重効果の原則が重視する意図は本来的にあいまいさであるとの指摘,意図より(少なくとも同じくらい)結果を重視するべきであるという反論,生命予後の短縮や意識の低下を好ましくない効果とすることに完全に同意しない意見もある。以上のように,二重効果の原則はしばしば用いられているものの,解釈は多様であり,

それだけで十分であるとの合意は得られていない。そこで,本手引きでは,二重効果の原則のみによって鎮静の倫理的正当化を行うことはせず,相応性,意図,患者の意思,チームでの判断という4 つの要件を明示することとした。特に,二重効果の原則がしばしば良い意図によってあらゆる状況を正当化しようとするのに対して,本手引きでは医療者の意図以外にも患者・家族の意思やチーム医療といった要件を追加している点が特徴的である。なお近年の鎮静の議論においては,二重効果の原則の4を相応性原則として取り出

し,これによって倫理的正当化を行うことが試みられている。ただし,実際には相応性原則の理解は多様であり,「相応な理由」の解釈も明確化されていない。これに対して,本手引きでは,相応性原則の内容をより明確化し,「目的を達成すると見込まれる選択肢のなかで最も害が少ないものを選ぶ」という定義を採用した。現実に鎮静の実施の妥当性を判断する際には,鎮静とそれ以外の選択肢を比較し,患者に対する益と害のバランスから,いずれが妥当かという判断を行うことになるため,この定義を用いることが妥当だと判断したためである。また,鎮静を実施する際には必要最小限の投与期間や投与量を選択すべきという考え方も本手引きの定義する相応性原則と最もよく一致すると考えられる。

2) 持続的深い鎮静と「ゆっくりとした安楽死」持続的深い鎮静については,実際に生命予後を短縮する効果を伴うかどうかにかかわ

らず,安楽死との異同についての懸念が提示されることがあるという事情に鑑み,この点についての見解を示す。安楽死とは,患者の希望に従って医師が致死性の薬物を投与することを意味し,日本

においては合法ではない。持続的深い鎮静と安楽死は,意図(意識を下げることによる苦痛緩和vs 死による苦痛緩和),方法(深い鎮静をもたらす鎮静薬の投与vs 致死量の薬物の投与),および,成功した場合の結果(苦痛が緩和された生vs 死による苦痛の終わり)の3 点において異なる医療行為である。VI章
p.262
しかし現実には持続的深い鎮静と安楽死との間にはグレーゾーンが存在しているとい

う見解がある(「ゆっくりとした安楽死(slow euthanasia)」とも呼ばれる)。すなわち,比較的全身状態が良く,経口摂取ができているなど死期が迫ってはいない患者に対して持続的深い鎮静が施行された場合がそれである。こうした患者に対して死亡まで持続的深い鎮静が継続され,同時に人工的な水分・栄養補給も中止された場合,医療者が生命予後の短縮を意図していないと説明することは合理的とは考えにくい。本手引きでは,そもそも,最初から患者が死亡するまで鎮静を継続すると決定して開

始される鎮静を許容していないため,常に定期的な再評価が必要となる。また,鎮静の倫理的妥当性の判断においては,医療者の意図や患者・家族の意思と独立して,予測される生命予後を検討の要素とした相応性の原則に従うことを求めている。例えば,患者が「生きている意味がない」といった精神的苦痛のために持続的深い鎮静を求めたとしても,予測される生命予後から考えて相応ではない場合には,原則として鎮静の対象とならないとしている。いずれにしても,比較的全身状態の良い患者に対する持続的深い鎮静には十分議論さ

れていない課題があり,社会全体での議論やコンセンサス形成が必要である。

(田代志門,会田薫子,清水哲郎)
p.263
VII章

国際的なガイドラインの要約
p.264
European Society for Medical Oncology(ESMO)1),National Comprehensive Cancer Network(NCCN)2),European Association for Palliative Care(EAPC)3,4),National Hospice and Palliative Care Organization(NHPCO)5),General Board of the Royal Dutch Medical Association(オランダ)6,7)のガイドラインをレビューした。まとめる際に,これらのガイドラインのレビュー文献2 件も参考にした8,9)。

すべてのガイドラインで共通して,おおむね,苦痛緩和を得るために,薬剤(鎮静薬)を使用して患者の意識を低下させるか完全に意識をなくすことを鎮静と定義している。意識を低下させることを意図している(意図的に意識を低下させる)という記載が多いが,オランダのガイドラインでは意識の低下は手段であるとしている。

鎮静の分類と表記については統一したものはない。大きくいえば,鎮静を行う期間に

1.鎮静の定義(表1)

2.鎮静の分類

表1 鎮静の定義

鎮静の定義鎮静の分類

ESMO1)鎮静(pallaitive sedation)とは,終末期の緩和困難な強い苦痛を緩和するために使用される最終手段(last resort)の一つである。鎮静は,鎮静薬を投与す

ることによって行われ,患者の意識を低下させるか,完全に意識をなくすことを目的とする。鎮静の意図は,他の方法では緩和できない終末期の苦痛を軽減することであり,患者,家族/友人,患者に関わる医療者にとって倫理的に許容できる方法で行われる必要がある。緊急時の鎮静(emergency sedation),レスパイトセデーション(respite sedation)を説明した項目がある。緊急時の鎮静とは,死期が迫っている患者の非常に強い(over ­ whelming)症状を直ちに緩和するために行う鎮静をいう。レスパイトセデーションとは,必ずしも治療抵抗性の苦痛でなくても,強い苦痛(倦怠感,痛み,不穏,悪心など)を緩和するために,一時的に鎮静を行うことを指し,鎮静以外のさらなる症状緩和アプローチを継続する前に,適切な苦痛緩和を得ることができる。

NCCN2)「鎮静とは,患者の意識をなくすような薬剤を持続的

に投与することから成り立つ」という記載がある。分類についての明確な記載はない。

EAPC3) (2009) (鎮静とは),患者,家族,医療者にとって倫理的に許

容できる方法で,他の方法では緩和できない苦痛を和らげるために,患者の意識を低下させるか完全に意識をなくすことを意図して,鎮静薬を調節して投与すること(monitored use)を指す。本文中に深い持続(continuous deep)鎮静,間欠的(intermittent)鎮静,浅い(mild/light)鎮静,一時的(transient)鎮静またはレスパイト(respite)セデーショ

ン,意識のある(conscious)鎮静の表現がある。

EAPC4) (2016)

NHPCO5)治療抵抗性の耐えがたい苦痛に対して,患者の意識を,苦痛が和らぐだけの必要最小限に低下させるために,鎮静薬を調節して投与すること(controlled administration)。レスパイトセデーションを説明した項目がある。

オランダ6,7) (鎮静とは),終末期の患者の意識を意図的に低下さ

せることである。鎮静の目的は苦痛の緩和であり,意識を低下させることはこれを達成する手段である。本文中に,浅い(superficial)鎮静,深い(deep)鎮静,持続的(continuous)鎮静,間欠的(short—term or inter­ mittent)鎮静の表現がある。

ESMO:European Society for Medical Oncology,NCCN:National Comprehensive Cancer Network,
p.265
よって一時的な鎮静(間欠的鎮静,レスパイトセデーション)と持続的な鎮静とを区別し,さらに,鎮静水準によって浅い鎮静(意識のある鎮静)と深い鎮静を区別しているものが多い。この他に,緊急時の鎮静(emergency sedation)と処置に伴う鎮静を分けているものがある。用いられる用語は決まっておらず,一時的な鎮静についてはrespite,intermittent, transient,short—termなどと呼称されている。浅い鎮静についてはmild,light,conscious, superficial などと呼称されている。

治療抵抗性の苦痛がある終末期(根治できない疾患のある)患者を対象としている。予測される生命予後については,特定した日数を記載していないもの,数時間から数日以内,14 日以内,1~2 週間以内と多少のばらつきがある。持続的深い鎮静の適応は数時間から数日,長くても1~2 週間としている。

3.対象患者

VII章

対象患者対象となる苦痛

進行した致死的な(終末期の)疾患のある成人および小児で,他の治療で緩和されない苦痛がある場合に対象となる。一般的には,痛み,呼吸困難,過活動性せん妄,けいれん。

生命予後が数時間から数日以内で,治療抵抗性の症状を有する患者が対象になる。意識の低下を伴わない包括的,かつ多職種による緩和ケアを行っても緩和できない治療抵抗性の症状。治療抵抗性の耐えがたい苦痛がある患者。深い持続的鎮静は,生命予後が数時間から長くても数日と考えられる患者に対してのみ行う。耐えがたい治療抵抗性の身体症状。頻度の高い症状は過活動性せん妄,呼吸困難,痛み,けいれんがある。大量出血,窒息,重度の終末期の呼吸困難,非常に強い痛みなどの緊急時が含まれる。場合によっては,強い精神的苦痛(難治性の抑うつ,不安,生きている意味のなさ)が適応になるかもしれない(may be consid­ ered)が,コンセンサスはない。深い持続的鎮静は,患者が「Palliative Care Phase」における「Terminal Phase」(評価尺度名,数日以内に死亡する可能性が高いことを意味する)の場合にのみ検討する。imminently dying patient(死期が迫っている患者)。生命予後が14 日以内と考えられる終末期患者。一般的には,治療抵抗性で耐えがたい痛み,呼吸困難,せん妄や身の置き所のなさ(restlessness)が挙げられる。また,実存的苦痛を対象とする場合には,レスパイトセデーションを(優先して)試みるなど,細心の注意と慎重な検討を重ねることが必要である。深い持続的鎮静は,生命予後が1~2 週間以内と考えられる患者を対象とする。1 つか複数の治療抵抗性の身体症状が,患者にとって耐えがたい苦痛となっている場合。鎮静の適応症状は,通常は身体症状である。EAPC:European Association for Palliative Care,NHPCO:National Hospice and Palliative Care Organization
p.266
鎮静の適応となる症状は通常は身体症状であり,せん妄(過活動型せん妄,身の置き所のなさ:restlessness),呼吸困難,痛みを挙げているものが多い。緊急時の鎮静の適応として,大量出血,窒息,急激に悪化する呼吸困難や痛みを挙げているものがある。精神的苦痛・実存的苦痛については,慎重に検討するべき(通常の適応ではない)と記載されている。

4.対象となる苦痛

意思決定:患者意思決定:家族

ESMO1)・鎮静に関する同意では以下の事項を記載すること。1 . 患者が,自分の状態,治療の選択肢に関する情報提供を受けたこと2 . 患者が知りたいと希望するすべての情報(自分の状態,治療の選択肢,各治療法に伴うメリットとリスクの可能性)が提供されたこと3 . 患者は,今後の意思決定を代理意思決定者に委任するが,代理意思決定者は,治療のメリット・デメリット,代わりとなる選択肢に関して十分な情報提供を受けていること4 . 代理意思決定者は,患者に代わって決定を行う,または,患者に治療を推奨し患者の承認を得たこと

・ アドバンス・ディレクティブがない場合には,法律上の代

理人と鎮静に関する話し合いを行う。小児患者の場合には,親の同意が必要である。しかし,年齢が高い小児患者の場合には,年齢相応の方法でケアの選択肢について患者と相談し,患者の合意(アセント)を得るように関わる。意思決定に家族が参加していない場合は,家族とも話し合いをすることの了解を,患者から得るようにする。場合によっては,患者同席の話し合いと,家族だけで心配事を話し合う場の設定も有効である。まれに患者が家族と話し合うことを了承しない場合,その理由を明らかにし,その意向を再考することを促すようにする。

NCCN2)・ 患者,およびまたは(and/or),代理意思決定者/家族か

ら鎮静に対する同意を取得する。患者,およびまたは(and/or),代理意思決定者/家族から鎮静に対する同意を取得する。

EAPC3) (2009)・ 患者自身で意思決定が可能であれば,鎮静の目的,メ

リットとリスク,意思決定ができなくなった時の意思決定代理者などについて話し合うようにする。

・ 患者に意思決定能力がない,またはアドバンス・ディレ

クティブがない場合,法的に認められた代理人から同意を取得する。患者の了解のもとに,話し合いに家族が含まれることが望ましい。

家族の同意が必要か望ましいと考えられる文化圏では,家族の同意が得られない時, 1 . 患者の状態,苦痛について家族がより理解できるような十分な情報提供を行う2 . 患者,家族それぞれと話をし,お互いが許容できる解決策をみつけるように支える3 . 悲嘆や罪悪感のような,家族の抵抗感につながっている要因を軽減するために,家族の心理的サポートをする患者と家族が話し合いを続けている間は,医療チームは最大限患者の意思が尊重され,利益になるような治療を探るようにする。代理人または家族が決定するのではなく,患者が望むことや患者が決めるであろうことを推測する役割であることを強調するようにする。家族は決定を求められるのではなく,医療チームが医学的決定の責任をもつことを強調する。

ESMO:European Society for Medical Oncology,NCCN:National Comprehensive Cancer Network,

表2 意思決定
p.267
患 者患者が意思決定できるならば,まず,患者と相談することが勧められている。患者と相談するうえでは意思決定できるだけの十分な情報が必要であるものの,どの範囲の情報を伝えるかは患者の知りたいとする意向に十分に配慮するべきとされている。

5.意思決定(表2)

1

VII章

意思決定:医療チーム輸液と人工栄養・蘇生に関する決定

一般的に,鎮静を検討する際には,多職種チーム(緩和ケアチームの他,精神科医や疼痛専門医などの専門医を含む)が検討を行い,他の妥当な治療が尽くされており,かつ,鎮静が患者の治療目標に合致していることを確認する。地域の専門家が限られている場合には,緩和ケアの専門家と電話でのコンサルテーションを行うことが強く勧められる。水分補給や人工栄養の実施に関する判断は,鎮静の実施とは独立したものである。

鎮静を検討する際には,生命予後を2 名の医師によって確認するべきである。鎮静に同意したということは,以下にも同意したことを説明する。1 . 人工栄養や水分補給は死期が迫っている患者に

は一般的には有益なことはないので,生命維持治療は中止すること2 .心肺蘇生は実施しないこと

緩和ケアに精通した医師が評価する。可能な限り,心理社会的側面に関係する職種,看護師,家族や他の関係者による多職種チームで評価を行う。患者のかかりつけ医にも評価プロセスや推奨に関わってもらうよう最大限努力する。症例検討,チームカンファレンスで話し合いを進めることが適切である。鎮静に関する判断とは独立して決定する。

EAPC:European Association for Palliative Care,NHPCO:National Hospice and Palliative Care Organization (つづく)
p.268
意思決定:患者意思決定:家族

EAPC4) (2016)

NHPCO5)意思決定についての明確な記載項目はなく,「耐えがたい苦痛」の定義のなかに,『耐えがたい苦痛かどうかを判断するのは患者だけである』,と記載されている。意思決定についての明確な記載項目はなく,「耐えがたい苦痛」の記載のなかに,以下の表

現がある。

患者に意思疎通能力がない場合,耐えがたい苦痛の判断は,患者の価値や希望に照らして,もし患者と意思疎通がとれたとしたら,耐えがたいレベルの苦痛であると言うかどうかを,家族と一緒に考える。患者の最善の利益と希望が最も重要である。

オランダ6,7)なるべく患者の同意を得て鎮静を開始する。可能な限り,鎮静しか手段がないという状況になる前に患者と相談しておくようにする。

・患者と相談する時に話し合う内容は以下の通りである。1 .患者の状態,予測される生命予後2 .鎮静の適応と目的3 . 耐えがたく,治療抵抗性の苦痛に対応する選択肢(鎮静と安楽死) 4 .適切に行えば鎮静は寿命を短縮しないこと5 .予期していなかった状態になった時の対応6 . 鎮静で起こりうることと限界(鎮静の深さ,予測に反して意識が戻ってしまい苦痛となる可能性があること) 7 . 鎮静によって起こる結果(部分的に/完全にコミュニケーションができなくなることを含む) 8 .薬剤の実際の投与について(薬剤に関する説明を含む) 9 . 死へのプロセスについての患者の希望や考え方(恐れ,不安を含む)を可能な限りはっきりと言葉に出して話し合う10. 臓器移植,家族へ別れを言うタイミング,鎮静中の身体のケア,どこで最期を迎えたいか,鎮静中の他の医学的治療(人工的栄養,輸液を差し控える,延命治療の差し控え・継続)などに関する希望11. 宗教や倫理的問題に関するサポートを受ける希望が

あるか

・ 患者が意思決定できない場合は,代理意思決定者と相談

する。代理意思決定者は法律(Medical Treatment Con­ tracts Act)に従って決定する。

・緊急時の鎮静非常に死期が迫っている(数分~数時間)状況での耐えがたい苦痛(頭頸部腫瘍からの動脈性出血,肺出血による呼吸困難など)で,患者が意思決定できず代理意思決定者がいない場合,担当医の裁量で鎮静を開始することがある。患者と相談できない場合は,家族からの情報に基づいて鎮静の適応を決定する。

・ 家族への説明において必要なことは以下の通りである・ 患者の家族が状況を理解して鎮静を受け入れることができるように,情報提供しサポートする・患者を丁寧に看護することを伝える・ 患者の代理意思決定者が誰かを明確にしておく・ 他の専門家にコンサルテーションすることも

できることを伝える

代理意思決定者が鎮静への同意を拒んだ場合,患者にとって大切なことを医師の裁量で決定し,代理意思決定者の意向にかかわらず鎮静を開始することがある(Dutch Patients’Act)。

ESMO:European Society for Medical Oncology,NCCN:National Comprehensive Cancer Network,

表2 意思決定(つづき)
p.269
VII章

意思決定:医療チーム輸液と人工栄養・蘇生に関する決定

鎮静を行うかどうかの決定は,チームにより行うか,少なくとも,医師同士でまたはより経験のある医師と相談して行うべきである。鎮静の適応を検討するにあたっては,緩和ケアに精通した医師だけでなく,患者の苦痛を緩和しうる治療・ケアについて話し合える専門家,例えば,薬物療法,痛みやその他の症状緩和,心理的・社会的・スピリチュアルな苦痛に対する対応を行う専門家など,その患者にとって大事な問題に関する専門家を含む多職種でのカンファレンスを行うことを推奨する。人工栄養療法・水分補給などその他の治療に関する判断は,鎮静の実施とは別に行う。蘇生のための処置を試みない(DNAR)指示を行うべきである。患者が現在受けている,患者の苦痛緩和につながる治療は,継続する。

担当医は判断をするにあたって十分な経験をもっていなければならない。十分な専門知識をもっていない場合は,専門家にコンサルテーションする。可能な限り,患者,家族,医療従事者が合意するようにする。

なぜ鎮静が開始されるに至ったか,どのように行われたか,効果の評価,用量の調節を行った基準をカルテに記載する。輸液は鎮静とは別の決定である。一般的には,持続的深い鎮静を行っている患者に対して,輸液は行わない。

EAPC:European Association for Palliative Care,NHPCO:National Hospice and Palliative Care Organization
p.270
アドバンス・ディレクティブや法定代理人が制度化されている国においては,患者が意思決定できない場合には,患者のアドバンス・ディレクティブや法定代理人に従うとされている。鎮静しか手段がないという状況になる前に患者の意向を確認することを勧めるものや,患者の意思決定ができず代理決定者もいない場合で緊急の場合(出血や窒息など)には担当医の判断で鎮静を開始することを記載したものがある。

家 族家族の役割については,患者の了解を得たあとに,家族とも相談することを勧めるものが多い。患者と家族の意向が異なった場合には,家族の同意が必要または望ましいとされる文化圏では,家族がより理解できるような情報提供,家族への精神的サポートを提供し,患者と家族が許容できる解決策をみつけることを方針とすると記載しているものがある。一方,患者にとっての利益という観点から,国内法に従って家族の同意がなくても鎮静を行うことが妥当な場合があると記載しているものもある。意思決定における家族の役割は,鎮静を実施するかを家族が判断するのではなく,患者だったらどのように思うかを推定する役割としている。

2

表3 薬物の投与方法

薬物の投与方法(titration)モニタリング:項目

ESMO1)適切な苦痛緩和を得るためには投与初期には用量調節(タイトレーション)が必要であり,苦痛緩和が得られてから維持投与により効果の持続を図る。一般的に,鎮静のレベルは,適切な苦痛緩和を行うために必要最低限なものとする。持続注射,(定期的な)間欠投与で維持する。死期が迫っている患者では,バイタルサイン(脈拍,血圧,体温など)をルーチンにモニタリングしない。呼吸数はモニタリングを行うが,これは,呼吸困難による苦痛や頻呼吸がないことを確認するためである。死期が迫っていない患者では,鎮静レベルと,通常の生理学的指標(心拍数,血圧や酸素飽和度など)を定期的に測定する場合がある。

NCCN2)過去・現在に使用した薬剤に対する患者の効果に基づいて,適切な鎮静薬の投与方法を選択する。患者の症状を定期的に評価し,鎮静薬などの薬剤用量を調節する。鎮静を継続する必要性を再評価する。

EAPC3) (2009)苦痛が緩和され,かつ,意識低下やその他の副作用が最小になる水準に,投与量を漸増・漸減する。症状緩和が得られたあとに,投与量を減量すること(downer titration)は,苦痛が再発する可能性があるため,患者の死期が迫っている場合たいていの場合では行わない。苦痛の程度,意識水準,鎮静に伴う副作用を評価する。苦痛の程度は,患者の意識と痛みなどから苦痛の程度を評価し,刺激に対する反応,身の置き所のなさや体の動き,表情から意識水準,鎮静に伴う副作用を評価する。Critical—Care Pain Observation Tool(CPOT)やRichmond Agitation—Sedation Scale(RASS)などを用いる。なお,短期間の鎮静,間欠的鎮静,浅い鎮静を行う場合には,鎮静レベルと,通常の生理学的指標(心拍数,血圧や酸素飽和度など)をモニターする。EAPC4) (2016)

NHPCO5)症状に耐えられるのに必要な量で,意識水準の低下が最小限になるように用量調節(タイトレーション)を行う。投与されている薬剤の効果および安全性を評価する。

オランダ6,7)意識水準ではなく,苦痛の程度を基準として,投与量,鎮静薬の組み合わせ,治療期間を決定する。具体的な記述なし

ESMO:European Society for Medical Oncology,NCCN:National Comprehensive Cancer Network,
p.271
医療チームすべてのガイドラインで共通して,多職種チームによる評価が述べられている。特に,緩和ケアの専門家,心理社会的問題に対応する職種,疼痛専門医の役割が述べられている。かかりつけ医について言及しているものもある。検討内容としては,苦痛が治療抵抗性である(他に手段がない)こと,生命予後,心理社会的問題が挙げられている。専門家にアクセスできない状況では,アクセス可能なより経験のある医師や電話でのコンサルテーションが勧められている。

水分・栄養の補給に関する判断は,鎮静に関する判断とは独立して行うとするものが多いが,多少のばらつきがある。すなわち,鎮静を実施する場合,人工栄養や水分補給が一般的には有益なことはないとの理由で,中止することを前提としているものもある。蘇生のための処置を試みない(DNAR)指示を行うべきと記載されている。

一般的な考え方として,苦痛が緩和される必要最小限の投与量に調節する(titration)と

6.輸液と人工栄養・蘇生に関する決定

7.薬物の投与方法(表3)

VII章

モニタリング:時間間隔オピオイドの扱いミダゾラムの投与方法

具体的な記述なし症状緩和を目的として鎮静前から投与していた薬物は,無効であるか苦痛な副作用がない限り継続する。ほとんどの場合,鎮静前にオピオイドなどの鎮痛薬の投与を受けている患者では,副作用があるか,呼吸抑制など過量投与の兆候がない限り継続する。開始量は,0.5~1 mg/時間,必要に応じて1~5 mg を追加する。通常の有効用量は1~20 mg/時間である。具体的な記述なし痛みなどの症状緩和のための治療は継続し,必要に応じて用量を調節する。具体的な記述なし

最初は,適切な鎮静に至るまで少なくとも20分毎に評価し,その後は少なくとも1 日に3 回評価する。ほとんどの場合,オピオイドは,投与量の調節を行いながら,副作用や過量投与の徴候を認めない限り,継続する。症状がよく緩和されていて,オピオイドの過量投与の兆候がある時は,減量するべきであるが,退薬症状のリスクもあるため急速には減量しない。開始量は0.5~1 mg/時間,維持量は1~20 mg/時間(24~480 mg/日)である。

静脈内,皮下投与を用いる。

投与薬・鎮静に関する経験が豊富な医師が継続的にモニタリングを行う。具体的な記述なし具体的な記述なし

担当医は,少なくとも1 日1 回患者を診察する。鎮静開始時には担当医が立ち会うべきである。その後の投与は,看護師・介護者に多くを任せることができる。モルヒネを意識を低下させる目的で使用するのは不適切である(bad practice)。モルヒネは,痛み,呼吸困難を緩和する目的でのみ使用するべきである。患者の様子をみながら段階的に投与する。EAPC:European Association for Palliative Care,NHPCO:National Hospice and Palliative Care Organization
p.272
している。投与量を決める指標は,苦痛の程度であって,意識の水準ではないと明記しているものがある。症状緩和が得られたあとの減量(downer titration)については,苦痛が悪化する可能性があるため患者の死期が迫っている場合であってもたいていの場合では行わないとの記載がある。

項 目効果(苦痛の緩和),安全性(有害事象),鎮静を継続する必要性を定期的に評価すると記載している。評価する内容については,死期が迫っている患者では呼吸数のみを評価する,死期が迫っていない患者では通常通り脈拍,血圧,酸素飽和度などを評価するとしている。評価尺度としては,Richmond Agitation—Sedation Scale(RASS)とCritical—Care Pain Observation Tool(CPOT)を挙げたものがある。

時間間隔評価の時間間隔を明記しているものは少ない。全体的には,投与初期にはより詳細の評価が必要であることが記載されている(少なくとも20 分毎,開始時には医師が立ち会うべきなど)。安定している場合には1 日1~3 回の評価を行うと記載されている。

痛みや呼吸困難を対象としたオピオイドは副作用や過量投与の兆候がない限り継続するとしている。一方,オピオイドで鎮静を行うことは不適切である(オピオイドは痛みや呼吸困難の治療に用いる)との記載がある。

鎮静薬の投与量や投与方法を具体的に記載しているものは少ない。開始量は0.5~1 mg/時間,必要に応じて1~5 mg を追加し,通常の有効用量は1~20 mg/時間としている。

(浜野 淳)

【文 献】1) Cherny NI, et al.;ESMO Guidelines Working Group. ESMO Clinical Practice Guidelines for the management of refractory symptoms at the end of life and the use of palliative sedation. Ann Oncol 2014; 25(Suppl 3): iii143—52 2) National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Palliative Care 2017. https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/palliative.pdf 3) Cherny NI, Radbruch L;Board of the European Association for Palliative Care. European Association

for Palliative Care(EAPC)recommended framework for the use of sedation in palliative care. Palliat

8.評 価

1

2

9.オピオイド

10.ミダゾラムの投与方法
p.273
Med 2009;23: 581—93 4) Radbruch L, Leget C, Bahr P, et al.;Board Members of EAPC. Euthanasia and physician—assisted suicide: A white paper from the European Association for Palliative Care. Palliat Med 2016;30: 104— 16 5) Kirk TW, Mahon MM;Palliative Sedation Task Force of the National Hospice and Palliative Care Organization Ethics Committee. National Hospice and Palliative Care Organization(NHPCO)position statement and commentary on the use of palliative sedation in imminently dying terminally ill patients. J Pain Symptom Manage 2010;39: 914—23 6) Legemaate J, Verkerk M, van Wijlick E, et al. Palliative sedation in the Netherlands: starting—points and contents of a national guideline. Eur J Health Law 2007;14: 61—73 7) Verkerk M, van Wijlick E, Legemaate J, et al. A national guideline for palliative sedation in the Netherlands. J Pain Symptom Manage 2007;34: 666—70 8) Abarshi E, Rietjens J, Robijn L, et al.;EURO IMPACT. International variations in clinical practice guidelines for palliative sedation: a systematic review. BMJ Support Palliat Care 2017;7: 223—9 9) Schildmann E, Schildmann J. Palliative sedation therapy: a systematic literature review and critical

appraisal of available guidance on indication and decision making. J Palliat Med 2014;17: 601—11

VII章
p.274
VIII章 背景知識
p.275
本章では,苦痛緩和のための鎮静の概要を理解するうえでの背景知識をまとめる。鎮静については,国際的にも定義や評価法が明確になっていないことから,結果の量的な統合(メタアナリシスなど)を用いることができない。したがって,本手引きのための系統的レビューは行わずに,既存の系統的レビューを利用して概要を示すことを基本的な方針とした。あわせて,苦痛緩和のための鎮静に関する主な研究の一覧を資料として作成した(P122参照)。

11 論文を対象とした系統的レビューにおける鎮静の対象症状を図1 に示した1)。鎮静の対象となる主要な対象症状がせん妄と呼吸困難であることは他の報告でも見解が一致している。他に,痛み,精神的苦痛,嘔吐,その他の症状(かゆみ,出血など)が対象となりうる。

[解 釈]鎮静の対象となる主要な苦痛は,せん妄と呼吸困難である。痛みそのものは鎮静の対象症状としては頻度が高くないが,難治性の痛みに対してオピオイドを増量した結果生じたせん妄に鎮静が行われている可能性を否定できない(鎮静の対象としているせん妄の背景に難治性の痛みがある可能性がある)。精神的苦痛がしばしば鎮静の対象症状とされているが,治療抵抗性の身体的苦痛と併存して報告されているため精神的苦痛が単独で鎮静の対象症状となることは少ない。

(関本 剛)

表1に1990 年以降の鎮静に関する研究で100例以上を対象としたものを示す2—33)。対象はがん患者が95%以上を占め,療養場所は自宅,緩和ケア病棟,病院などさまざまであった。

1.治療抵抗性の苦痛はどのような苦痛か?

2.鎮静はどれくらいの頻度で行われているか?

図1 鎮静の対象となる治療抵抗性の苦痛(10 論文,774 例)

4%その他(痒み,出血など)

5%嘔吐

17%痛み

19%精神的苦痛

30%呼吸困難

54%せん妄

10 0 20 30 40 50 60(%)

〔Maltoni M, et al. J Clin Oncol 2012; 30: 1378‒831)より引用改変〕
p.276
VIII章

著者/発表年/国定義(英字は原文)症例数(例)頻度(%) Ventafridda/1990/イタリア2)腫瘍の進行や不可逆的な臓器障害による耐えがたい症状を緩和するために,オピオイドと向精神薬(ジアゼパム,クロルプロマジン,ハロペリドール)をそれぞれ単独かあわせて増量すること〔opiates(morphine, methadone)or strong tranquilizers(diazepam, chlor-

promazine, haloperidol), either singly or in combination, were increased to control unendurable symptoms due to tumor progression or irreversible acute organic phenomena.〕120 53

Fainsinger/1991/カナダ3)患者の意識をなくすことによって身体的・精神的な苦痛を緩和するために向精神薬を投与すること(prescription of psychotropic agents to control physical and psychologi-

cal symptoms by making the patient unconscious.) 100 16

池永/1995/日本4)死亡直前の緩和困難な苦痛から解放するために,薬物の投与で治療者が意識的に患者の意識レベルを持続的に下げること202 68 Morita/1996/日本5)意図的に患者の意識を不明瞭にすることで症状緩和を目指す医学的処置(medical procedure to palliative patients’ symptoms by intentionally

making their consciousness unclear.) 143 48

Stone/1997/イギリス6)苦痛の緩和の手段の一つとして,意識レベルを低下させる鎮静薬を投与すること(prescription of sedative drugs where reducing the level of conscious-

ness was part of a treatment strategy with the aim of relieving distress.) 115 26

Peruselli/1999/イタリア7)完全に意識をなくすために薬物を投与すること(administration of drugs to obtain total loss of consciousness.) 356 25 Fainsinger/2000/カナダ8)患者の意識を低下させる鎮静薬の使用(use of sedation to diminish a patient’s level of consciousness.) 150 6.7 Fainsinger/2000/イスラエル9)定義なし(施設ごとに異なる) 100 15 Fainsinger/2000/スペイン9)定義なし(施設ごとに異なる) 100 22 Chiu/2001/台湾10)意図的に患者の意識を不明瞭にすることで症状緩和を目指す医学的処置(medical procedure to palliative patients’ symptoms by intentionally

making their consciousness unclear.) 251 28

Menten/2003/ベルギー11)深い眠りを維持することを意図(terminal palliative patient and his physician intend to obtain a deep

sleep.) PCT:750 PCU:511 PCT:0.1 PCU:3

Sykes/2003/イギリス12)明らかな鎮静を生じるであろう投与量を超えた鎮静薬の使用(the dose threshold for each drug beyond which significant sedation was

likely to have resulted.) 237 48

Muller—Busch/ 2003/ドイツ13)治癒不可能な疾病のため48 時間以内に死亡すると予測される患者に対して,苦痛緩和が十分得られるくらいに意識を低下させるため,持続的もしくは間欠的に鎮静薬を注射で投与すること(continuous or intermittent infusion of sedatives to reduce the level of

consciousness sufficiently deep to provide comfort for the patients with Incurable disease―If death can be expected within the next 48 hrs.) 548 15

Cameron/2004/南アフリカ14)定義なし100 20

表1 鎮静の定義と頻度

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟(つづく)
p.277
著者/発表年/国定義(英字は原文)症例数(例)頻度(%) Morita/2005/日本15,16)治療抵抗性の耐えがたい苦痛を緩和することを目的として,患者が死亡するまで,ほとんどまたは完全に意識がない状態に鎮静薬を持続的に使用すること(continuous use of sedative medications to relieve intolerable and

refractory distress by achieving almost or complete unconsciousness until death.) 1,432 19

Kohara/2005/日本17)治療抵抗性の症状を緩和するために,患者の意識を意図的に低下させる医学的処置(a medical procedure to palliate patient symptoms refractory to standard

treatment by intentionally dimming their consciousness.) 124 50.3

Vitetta/2005/オーストラリア18)苦痛が十分緩和されるくらいに患者の意識を低下させる鎮静薬を死亡まで経静脈的/経皮下的に投与すること。通常鎮静薬はベンゾジアゼピンで,抗精神病薬とオピオイドと併用する〔use of sedative drugs(usually benzodiazepines, with or without neuro-

leptic agents and complementary opioids, given intravenously or subcutaneously)to reduce consciousness sufficient to provide comfort for the patient until death occurs.〕102 67

Cowan/2006/アメリカ19)日単位以下の生命予後の患者に対して,耐えがたい治療抵抗性の症状を緩和するため,オピオイド以外の鎮静薬を投与すること〔use a nonopioid sedative drug to control acute or refractory symptoms

that have not responded to conventional symptom management or have a severity and/or trajectory of illness that requires prompt intervention to relieve distress in patients who are actively dying(death expected in hours or days)with advanced and incurable disease.〕1,200 2.3

Bulli/2007/イタリア(在宅)20)終末期における症状を緩和するため,患者が死亡するまで,薬物によって意識のない状態を持続させること(pharmacologically induced state of continuous coma lasting up until

the moment of death, aimed at controlling the symptomatic state of the patient during the terminal stages of his life.) 1,075 13

Rietjers/2008/オランダ21)医療記録に「持続的な深い鎮静」という記載があること(there was an annotation in the medical records of the use of“continu-

ous deep sedation”.) 157 43

Maltoni/2009/イタリア22)治療抵抗性の症状による耐えがたい苦痛を患者の意識を低下させて緩和するために,鎮静薬を使用すること(use of sedative medications to relieve intolerable suffering from refrac-

tory symptoms by a reduction in patient consciousness.) 518 25

Elsayem/2009/アメリカ23)緩和困難で耐えがたい症状に対して,クロルプロマジン,ロラゼパム,ミダゾラムのいずれかを非経口的・持続的に使用すること(patients who received at least one drug which was used for the pur-

pose of palliation of intractable and refractory symptoms.) 352 41

Rosengarten/ 2009/イスラエル(在宅)24)患者の意識を低下させ,治療抵抗性の耐えがたい苦痛を緩和するために,鎮静薬を使用すること(use of sedative medications to intolerable and refractory distress by the

reduction in patient consciousness.) 720 5

Alonso—Babarro/ 2010/スペイン(在宅)25)患者の意識を低下させ,治療抵抗性の症状による耐えがたい苦痛を緩和するために,特定の鎮静薬を使用すること(use of specific sedatives to relieve intolerable suffering from refractory

symptoms by reducing a patient’s level of consciousness.) 245 12

表1 鎮静の定義と頻度(つづき)

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟(つづく)
p.278
鎮静の施行率は1%以下から60%以上まで大きな差があった。これらの研究で用いられた鎮静の定義はさまざまであった。すなわち,意識の低下を意図して薬剤を投与することとするもの,鎮静薬を使用した場合に鎮静とするもの,一定の投与量を超えて鎮静薬を使用した場合に鎮静とするもの,医療記録に鎮静の記載があることを基準とするものなどがあり,明確な鎮静の定義が示されていないものもあった。VIII章

著者/発表年/国定義(英字は原文)症例数(例)頻度(%) Claessens/2011/ベルギー26)治療抵抗性の症状を緩和するのに必要な意識を低下させる投与量や組み合わせでの鎮静薬の意図的な使用(intentional administration of sedative drugs in dosages and combina-

tions required to reduce the consciousness of a terminal patient as much as necessary to adequately relieve one or more refractory symptoms.) 266 7.5

Jaspers/2012/ドイツ27)症状の緩和を意図して,鎮静薬を手段として使用し,結果として苦痛が緩和されること〔alleviation of symptoms(intention), use of sedatives(means), and relief

from suffering(result).〕1,944 18

Maltoni/2012/イタリア28)意識を低下させることで治療抵抗性の症状による耐えがたい苦痛を緩和するために鎮静薬を使用すること(use of sedative medications to relieve intolerable suffering from refrac-

tory symptoms by a reduction in patient consciousness.) 226 31.9

Caraceni/2012/イタリア29)終末期に治療抵抗性の症状を緩和するために,薬物を用いて意識を低下させること(reduction of consciousness, produced by pharmacological means, to

control symptoms that are refractory to ordinary palliative care approaches at the end of life.) 129 64

Koike/2015/日本30)終末期患者において,治療抵抗性の症状を緩和するのに十分な意識の低下を意図して,鎮静薬や鎮静薬を組み合わせて使用すること(intentional administration of sedative drugs and combinations required

to reduce the consciousness of a terminal patient as much as necessary to adequately relieve one or more refractory symptoms until death.) 1,581 1.4

Mercadante/2014/イタリア31)治療抵抗性の耐えがたい苦痛の緩和を目的として,オピオイド以外の鎮静薬を用いて意識を低下させること(specific sedatives to relieve intolerable suffering from refractory symp-

toms by reducing a patient’s level of consciousness with nonopioid sedative medication in the last days of life.) 176 14

Calvo—Espinos/ 2015/スペイン32)治療困難な苦痛を緩和するために,患者,家族,医療専門職からみて倫理的に許容できる方法で,意識が低下した状態とすることを目的として薬剤を調節しながら使用すること(the controlled use of medicinal products intended to induce a state of

decreased or absent awareness in order to relieve suffering that is untreatable in an ethically acceptable way for patients, families, and health professionals.) 250 14

Maeda/2016/日本33)治療抵抗性の耐えがたい苦痛の緩和を目的として,患者が死亡するまで,鎮静薬を完全に意識がなくなるまで使用すること(continuous use of sedatives to relieve intolerable and refractory symp-

toms by the total loss of a patient’s consciousness until death.) 1,827 15

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟

表1 鎮静の定義と頻度(つづき)
p.279
[解 釈]鎮静の実施率には大きな差があるが,そもそも,研究者や報告によって鎮静の定義が異なるため,同じ薬剤を同じ量で使用していても,ある報告では鎮静に分類され,別の報告では鎮静とみなされないことになる。鎮静の定義が異なる研究で頻度を比較する意義は乏しく,現状では(それを鎮静と呼ぶか呼ばないかは別として),苦痛を緩和するために鎮静薬の投与が必要とされる患者が一定数存在するといえると考えられる。

(関本 剛)

鎮静に用いられた薬剤について,3 件の系統的レビューから検討した1,34,35)。2015 年のコクランレビューは,14 論文に記述された4,167 例を対象として検討した34)。1,137 例(27%)が苦痛緩和のための鎮静を施行されていた。最も頻繁に使用された薬剤は,10 論文でミダゾラムであった。その他,2 論文ではハロペリドール,1 論文ではロラゼパム,1 論文ではベンゾジアゼピン系薬剤(ミダゾラム・ジアゼパム)と抗精神病薬(ハロペリドール・クロルプロマジン)とオピオイドの併用であった。2012 年の系統的レビューは11 論文を対象として検討した(図2)1)。投与薬物の記載のある9 論文に記述された745 例に投与された鎮静薬は,ミダゾラムが49%で最も高頻度に使用されていた。その他,ハロペリドール,ミダゾラム以外のベンゾジアゼピン系薬剤,クロルプロマジンであった。2008 年の37 論文を対象とした系統的レビューのうち,12 論文で投与された鎮静薬について記載されていた35)。そのうち9 論文(75%)でミダゾラムが最も高頻度に使用されていた。ミダゾラムと併用,または単独で使用された薬剤は,ハロペリドール,フェノバルビタール,オピオイドであった。ミダゾラムの投与量については開始量の中央値は0.5~1.7 mg/時間であり,維持量の中

3.鎮静にはどのような薬剤がどれくらい用いられるか?

図2 鎮静に用いられた薬剤(9 論文,745 例)

362(49%)

191(26%) 107(14%) 79(11%) 22(3%) 11(1%) 5(1%)

161(22%)

100 0 200 300 400(例) 症例数(%)

ミダゾラムハロペリドールクロルプロマジン

モルヒネレボメプロマジン

プロポフォールフェノバルビタールミダゾラム以外のベンゾジアゼピン

〔Maltoni M, et al. J Clin Oncol 2012; 30: 1378‒831)より引用〕
p.280
央値は18~62 mg/日,範囲は2~450 mg/日であった(表2,資料)。

[解 釈]鎮静に用いられている最も主要な薬剤はミダゾラムである。ハロペリドール,クロルプロマジン,モルヒネも鎮静に用いられているが,これらの研究では,せん妄に対する緩和治療として投与されたハロペリドールやクロルプロマジン,痛みや呼吸困難に対する緩和治療として投与されたモルヒネも,それぞれの研究での鎮静の定義に従って鎮静薬として含められている場合がある。すなわち,鎮静の定義によって鎮静薬として使用される薬剤の頻度が異なる。ミダゾラムの開始量,維持量には大きな幅があり,患者の全身状態や個人差の影響に加えて,施設によって投与方法に差異がある可能性がある。

(今井堅吾,永山 淳)

鎮静薬の効果に関して,コクランレビューでは薬剤間で比較した無作為化比較試験はなく,鎮静薬として最も用いられているミダゾラムが他の薬剤よりもより優れているかについてのエビデンスはないとしている34)。鎮静中に何らかの評価指標を用いて鎮静の効果を評価した観察研究について,表3 にまとめて示す7,9,10,15,16,19,26,28,31,36—38)。指標として用いられているものはさまざまである。苦痛の強さは,痛みや呼吸困難を評価するNumerical Rating Scale(NRS),苦痛全般を評価するSupport Team Assessment Schedule(STAS),過活動型せん妄の不穏を評価するAgitation Distress Scale(ADS),身の置き所のなさを評価するDegree of restlessness の他,研究のために作成されたものが用いられている。意識水準やコミュニケーションの程度は,Richmond Agitation—Sedation Scale(RASS),Glasgow Coma Scale(GCS),Communication Capacity Scale(CCS)の他,研究のためにad—hoc に作成されたものが用いられている。鎮静の効果は,医療者の主観的評価をみたものでは十分な効果が69~89%,部分的な効果が11~30%にみられ,全般としては効果が高かったと報告されている。本手引きで概念化されている鎮静方法の効果をみた研究では,鎮静開始4 時間後の有効率は,proportional sedation で69%,deep sedation で83%であった38)。意識水準に関しては,達成された意識水準や,達成に要する時間は報告でのばらつきが大きい。例えば,Maltoni らは,鎮静直後よりRASS がマイナスとなり,42%ではRASS- 5 よりも浅い意識水準で苦痛が緩和したと述べている28)。一方,Mercadante らは,鎮静開

4.鎮静の効果はどうか? VIII章

表2 ミダゾラムの投与量・投与速度

中央値範囲

開始量0.5~1.7 mg/時間0.25~20 mg/時間維持量18~62 mg/日2~450 mg/日
p.281
著者発表年効果の測定に用いた指標主要な結果限界Mclver36) 1994意識水準Patient’s level of arousal:1= awake,2=asleep but easily arousable,3=asleep but difficult to arouse,4=unresponsive鎮静開始後中央値2(自宅)~3(入院)

身の置き所のなさDegree of restlessness:1= none,2=mild,3=moderate, 4=severe記載なし全般的効果Effectiveness:1=none,2= partial,3=complete鎮静開始後3=70%,2=30%死亡前3=90%,2=10%効果は観察者の主観的な判断による

Peruselli7) 1999包括的評価Support Team Assessment Schedule(STAS):0(none)to 4(worst)死亡前1 週間の値を記録痛み:0=38%,1=24%,2=19%,3= 12%,4=7%痛み以外の身体症状:0=17%,1=20%, 2=26%,3=28%,4=9%結果は鎮静の効果を直接測定したものではなく,最期の1 週間の症状の評価Fainsinger9) 2000全般的評価Adequacy of symptom control: Good,Fair,Poor死亡6 日前Good=53~75%,Fair=18~35%,Poor =2~16%死亡日Good=74~89%,Fair=11~19%,Poor =0~5%観察者の主観による評価。鎮静を施行した患者のみの結果ではない

意識水準Level of consciousness:Alert, Drowsy,Unresponsive死亡6 日前Alert=69~82%,Drowsy=16~31%, Unresponsive=0~1%死亡日Alert=3~12%,Drowsy=18~29%, Unresponsive=60~73%鎮静を施行した患者のみの結果は不明

Chiu10) 2001 Pain score 0~10医療者による客観評価死亡2 日前の平均値鎮静群2.5 vs. 非鎮静群2.1

鎮静群の値は,鎮静中か鎮静を行っていない状態の値かは不明Dyspnea score 0~10医療者による客観評価

死亡2 日前の平均値鎮静群3.0 vs. 非鎮静群2.9

Delirium score 0~3医療者による客観評価死亡2 日前の平均値鎮静群1.8 vs. 非鎮静群1.1

Morita15,16) 2005苦痛の程度symptom severity scale:0=なし~4=耐えがたい苦痛が前1 時間のうち15 分以上3,4 の患者割合鎮静前46%,4 時間後3%,24 時間後0% Ad‒hoc な指標。観察者の主観的評価

呼吸困難3,4 の患者割合鎮静前39%,4 時間後8%,24 時間後2%痛み3,4 の患者割合鎮静前18%,4 時間後2%,24 時間後1%不穏Agitation Distress Scale:6項目,合計0(best)to 18(worst)平均値(標準偏差)鎮静前7(4),4 時間後2(3),24 時間後1(2)

表3 鎮静の効果を評価した研究

(つづく)
p.282
VIII章

著者発表年効果の測定に用いた指標主要な結果限界

気道分泌過多Back severity scale:0=聴取しない~3=部屋の入口で聴取Back 2,3鎮静前25%,4 時間後18%,24 時間後17%苦痛の直接の指標ではない

Morita15,16) 2005コミュニケーションCommunication Capacity Scale:5 項目,合計0(best)to 17(worst)平均値(標準偏差)鎮静前8.3(5),4 時間後15(3),24 時間後15(3) Cowan19) 2006症状コントロールControlled:8 時間鎮静薬投与量が安定し苦痛がないImproved:症状による不快が軽減したが,controled ではないUncontrolled:上記以外全体:controlled 82%,improved 18%, uncontrolled 0%ミダゾラム:controlled 86%,improved 14%,uncontrolled 0%クロルプロマジン:controlled 81%, improved 19%,uncontrolled 0% Ad‒hoc な指標。観察者の主観的評価Mercadante37) 2009意識水準Communication Capacity Scale, item 1:0=覚醒しており眠気はない,1=眠気がある,2=起きているために努力が必要,3=言語的な刺激により覚醒,4=身体的な刺激により覚醒,5=身体的な刺激でも覚醒しない平均値(標準偏差)鎮静開始前1(1.1),6 時間後4(0.9),死亡直前4.5(0.6)

興奮Agitated Delirium:0=not at all, 1=slight,2=a lot,3=awful平均値(標準偏差)鎮静開始前1.5(1.1),6時間後0.03(0.2),死亡直前0.1(0.3) Ad‒hoc な指標

Claessens26) 2011意識水準Glasgow Coma Scale記載なし評価に痛み刺激が必要Maltoni28) 2012意識水準Richmond Agitation‒Sedation Scale(RASS)直後にRASS はマイナスになった58%ではRASS-5,42%ではそれよりも浅い鎮静レベルで苦痛緩和されたRASS-5 になった患者の割合のみ示されているMercadante31) 2014コミュニケーションCommunication Capacity Scale:5 項目,合計0(best)to 17(worst)平均値(標準偏差)鎮静開始前 12(3) 24 時間後  16(1)

Agitation Distress Scale:6項目,合計0(best)to 18(worst)平均値(標準偏差)鎮静開始前 10(5) 24 時間後   2(3)症状の強さNRS患者が答えられない場合,家族の代理評価平均値(標準偏差)痛み   評価できずせん妄  開始前   6(3) 24 時間後 1(2)呼吸困難 開始前   3(4) 24 時間後 1(2)家族の代理評価が含まれる

Imai38) 2018苦痛の程度STAS:0(best)to 4(worst)平均値(95%信頼区間) Proportional sedation:鎮静前3.8(3.6~3.9),4 時間後0.8(0.5~ 1.2),24 時間後0.8(0.5~1.1) Deep sedation:鎮静前3.7(3.5~4.0),4 時間後0.3 (-4.7~-2.8),24 時間後0.3(0~0.6)観察者の主観による評価

表3 鎮静の効果を評価した研究(つづき)

(つづく)
p.283
始6 時間後には身体的刺激でようやく覚醒する程度の意識水準であるが,死亡直前はさらに深い意識水準になったと報告している37)。RASS を用いて前向きに評価した研究では, 4 時間後,24 時間後に,proportional sedation では鎮静前の+1.2 から-1.7,-2.0 に低下した一方,deep sedation では+1.4 から-3.7,-4.5 に低下した38)。自宅では浅い意識水準で,入院では深い意識水準であったとの報告がある36)。

[解 釈]鎮静は総合的には70%以上で効果があるとみなされている。ただし,効果を評価するための指標として何が適切かに関するコンセンサスは得られておらず,研究ごとに,さまざまな指標が用いられている。そのため,効果の研究間の比較や薬剤間の比較が困難である。さらに,痛みや呼吸困難などの身体的苦痛がどの程度緩和されたかは,鎮静下で患者の自己評価が困難となることから,医療者や家族による代理評価とならざるを得ない。代理評価の信頼性や妥当性は十分に確認されていない。一方,興奮や意識水準に関してはRASSやADS,CCS などが信頼性・妥当性も示された方法として用いられている。総じていえば,鎮静は多くの場合で有効であると考えられるが,評価方法はまだ確立していないといえる。

(今井堅吾,永山 淳)

有害事象については記載されていない研究がほとんどであり,明確な記載があるのは5件の観察研究にとどまる(表4)10—12,15,16,38)。イギリスの単施設のホスピス(St. Chiristphers)の研究では,死亡した患者237 例のうち114 例(48%)が一定量以上の鎮静薬の投与(ミダゾラム10 mg/日,またはレボメプラジン25 mg/日,またはハロペリドール20 mg/日以上)を受けていた12)。大幅な鎮静薬増量(marked increase of sedative drug dose:死亡前48 時間で50%以上の鎮静薬増量,あるいはミダゾラム20 mg 以上・メトトリメプラジン(=レボメプロマジン)50 mg 以上の増量)により生命予後が短縮した可能性があるのは,臨床的な判断で2 例(1.8%)であるとした。

5.鎮静の安全性はどうか?

著者発表年効果の測定に用いた指標主要な結果限界Imai38) 2018不穏・意識水準緩和ケア用Richmond Agitation‒ Sedation Scale(RASS)平均値(95%信頼区間) Proportional sedation:鎮静前+1.2(+0.6~+1.6),4 時間後-1.7(-2.5~-0.9),24 時間後-2.0 (-3.1~-0.9)

Deep sedation:鎮静前+1.4(+0.3~+2.2),4 時間後-3.7(-4.7~-2.8),24 時間後-4.5 (-4.9~-4.0)

表3 鎮静の効果を評価した研究(つづき)
p.284
台湾の単施設の緩和ケア病棟の研究では,死亡した患者251 例のうち70 例(27.9%)が鎮静を受け,そのうち5.7%(4/70)で鎮静薬が原因と考えられるせん妄(drug—induced delirium)を認めたが,呼吸抑制は認めなかったと報告している10)。1997~2002 年に単施設の緩和ケアチームと緩和ケア病棟で実施された研究では,患者801 例のうち26 例(3.2%)にミダゾラムの持続的投与による鎮静を行った11)。鎮静を行った患者のうち1 例(3.8%)に重篤な有害事象が起こったとしている。身の置き所のなさに対してミダゾラムが合計90 mg 静脈内投与されたが,苦痛は緩和せず,投与開始後1 時間以内に死亡した。日本の21の緩和ケア病棟において持続的深い鎮静を受けた102例の患者を対象とした研究では,22 例(22%)に鎮静薬と関連した可能性があると臨床的に判断した重篤な有害事象が認められ,4 例(3.9%)は呼吸停止または心停止であった15,16)。重篤な有害事象とは,呼吸抑制(呼吸数8 回/分以下または前値に比べ50%以上の減少),呼吸停止,循環抑制(収縮期血圧60 mmHg 以下または前値に比べ50%以上の低下),心停止,誤嚥,誤嚥による肺炎,興奮と定義された。重篤な有害事象の予測因子として,せん妄が鎮静の対象症状である,不穏が強い,Palliative Performance Scale が良い,鎮静開始前の呼吸数が少ないことが挙げられた。本手引きで概念化されている鎮静方法の効果をみた50 例を対象とした1 施設の研究では,鎮静薬と関連した可能性があると臨床的に判断された有害事象の頻度は,proportional VIII章

表4 鎮静による有害事象の報告

著者発表年安全性の測定に用いた指標主な結果限界Chiu10) 2001記載なし70 例中4 例(5.7%)で鎮静薬によるせん妄を認めた鎮静薬が原因である判定の根拠について記載なしSykes12) 2003大幅な鎮静薬増量(marked increase of sedative drug dose)を,「死亡前48 時間で50%以上の鎮静薬増量,あるいはミダゾラム20 mg 以上またはメトトリメプラジン50 mg 以上の増量」と定義114 例中2 例(1.8%)で鎮静薬の投与によると考えられる死亡が生じた「大幅な鎮静薬増

量」に該当した場合に,鎮静薬の投与により生命予後が短縮した可能性があると判断した

Menten11) 2003記載なし26 例中1 例(3.8%)で鎮静薬の投与によると考えられる死亡が生じた因果関係の判断は医師の臨床的判断によるMorita15,16) 2005鎮静薬が原因の,呼吸抑制(呼吸回数8 回/分以下または

50%以上の低下と定義),循環抑制(収縮期血圧60 mg 以下または50%以上の低下と定義),心停止,誤嚥性肺炎,奇異性反応について記録合併症22%呼吸・循環停止3.9%(4 例),呼吸・循環抑制17.6%(18例),奇異性反応・興奮2.9% (3 例),誤嚥・誤嚥性肺炎

2.0%(2 例)因果関係の判断は医師の臨床的判断による

Imai38) 2018鎮静薬が原因とおそらく(probably)または明確に(definitely)判断された有害

事象:CTCAE Grade 3 以上proportional sedation の32例中1 例(3.8%),deep sedation の18 例中4 例(22.2%)に無呼吸。致死的

な有害事象は認めなかった因果関係の判断は医師の臨床的判断による
p.285
sedation で3.8%(1/32),deep sedation で22.2%(4/18)に無呼吸を認めた38)。致死的な有害事象は認めなかった。

[解 釈]鎮静薬によって生じうる有害事象について,鎮静をしていない患者群を対照群として比較した研究や,鎮静薬の投与方法によって有害事象の頻度を比較した研究はない。鎮静を行った患者を対象にした観察研究で有害事象を報告しているものは少ない。理由として,鎮静は死亡直前に用いられることが多いため,血圧の低下や呼吸数の減少が生じたとしても,鎮静薬の投与と因果関係があるかどうかを判断することが困難であるためと考えられる。実際,有害事象として報告されているものもすべて臨床医の判断に基づいて鎮静薬が関与した有害事象かの判断が行われており,主観的なバイアスが存在する。限られた情報では,持続的深い鎮静を受けた患者の2~4%で鎮静薬の投与が原因となり死亡を来した可能性があり,20%程度で呼吸数の低下などの合併症が生じうる。特に,過活動性せん妄があり,呼吸数が少ない患者は,重篤な有害事象を来すリスクが高い可能性がある。数値は過大評価,過小評価されているいずれの可能性もあり,対照群を設けた比較研究が行われなければ結論できない。

(今井堅吾,永山 淳)

鎮静の意思決定過程に患者,家族がどのように関わっていたかについて,医療者の評価による観察研究,遺族に対する質問紙調査などで調べられている(表5)10,15,16,35,39—42)。

6.患者・家族は意思決定にどのように参加しているか?

表5 鎮静の意思決定に患者・家族が関わる程度

前向き多施設観察研究(102 例,緩和ケア病棟21 施設,日本)前向き調査研究(251 例,大学病

院の緩和ケア病棟1 施設,台湾)後ろ向き研究(61 例,医療者

への質問紙調査,イギリス)遺族調査(185 例,緩和ケア病

棟7 施設,日本)

患者の参加鎮静直前の同意66% 43% 50% 55%反復した同意40% NA NA NAあらかじめの説明NA NA NA 75%表示できない理由意識障害・判断力低下認知障害:82%

認知障害:50%

家族の参加同意96% 93% 96% 89%説明内容治療の目的が苦痛緩和である:89%可能なコミュニケーションの程度:67%予測される経過: 68%鎮静しなかった場合の経過:60% NA:データ収集なし
p.286
鎮静前に患者の同意があったのは43~66%である。患者本人の意思が確認できなかった場合の多くの理由は,せん妄や意識障害を含む認知機能障害であった。40%では反復した同意があり,75%ではあらかじめの説明があった。一方,家族は,90%以上が意思決定に参加している。鎮静に関する説明をいつどのように聞きたいかの希望については,日本人の一般市民(457 例)を対象とした調査研究がある43)。鎮静によって意識が低下することや話ができる最後の機会になる可能性については,鎮静を受ける前に説明を受けたいと多くが希望している(表6—1,6—2)。しかし,説明を聞くタイミングについては,「病気を受け止められるようになってから説明してほしい」と「病状を受け入れていなくてもあらかじめ説明してほしい」に意見が分かれている。

[解 釈]鎮静は患者へ与える影響が大きいため,患者の希望を確認することは非常に重要である。しかし,実際には,鎮静を検討する前後で患者の意思を確認できるのは半数に限られている。その理由は,「鎮静を希望するか確認する前に意識障害やせん妄になった」「患者が病状を受け入れられる状態になるのを待っていたら,説明する機会がないまま病状が悪化した」「認知症・脳転移でもともと意思決定能力がなかった」のが主であると考えられる。「治療抵抗性の苦痛を生じたらどうするかをあらかじめ話し合っておいたほうがよいと周囲は考えていたが,患者に話を切り出すタイミングを先延ばしにしてきた」状況も考えられる。患者が意思表示できない場合には,家族から患者の推定意思を得て,意思決定の妥当性を担保する方法は90%以上で行われていると考えられる。

(久山幸恵,林ゑり子)

鎮静を受けた患者の家族の体験は,主に遺族調査で調べられている35,39,40,44)。国内外の研究において,多数の家族はおおむね鎮静を受けたことに満足している。日本

7.鎮静を受けた家族はどのような体験をしているか? VIII章

表6—1 鎮静に関する説明の希望:鎮静についてどの程度知りたいか

明確に知りたいそれとなく聞きたい聞きたくない

鎮静によって意識が低下すること85% 8% 7%話ができる最後の機会になる可能性86% 8% 6%

表6—2 鎮静に関する説明の希望:鎮静についてあらかじめいつ知りたいか病状を受け止められるようになってから早めに説明してほしい52%病状を受け入れていなくてもあらかじめ説明してほしい40%あらかじめの説明は必要ない7%

〔Morita T, et al. J Palliat Med 2002; 5: 375—8543)より引用〕

〔Morita T, et al. J Palliat Med 2002; 5: 375—8543)より引用〕
p.287
の調査では,家族の79%は鎮静にある程度満足していると回答し,16%がどちらともいえない,5%が不満足と回答した(図3)40)。鎮静を行った時期についても,77%は適切であったと回答し,7.0%/7.6%がそれぞれ遅すぎた/早すぎたと回答した。海外の研究では,鎮静を受けた患者と受けなかった患者の遺族とでは,抑うつや死に至る過程の質の評価に差がなかったとしている44)。一方,鎮静は苦痛緩和とひきかえに患者との会話をすることができなくなる行為である点から,少なからず家族が精神的な葛藤を経験する。例えば,「話ができなくなることがつらい」「病状の変化に気持ちがついていかなかった」「決める責任を負うことが重荷だった」「自分にまだできることがあると思った」「寿命が短くなったと思った」といった気持ちになりやすいことが示されている(図4)40)。鎮静を受けた患者の家族の気持ちのつらさとケアに対する満足度に関連することとし

図3 国内の鎮静を受けた遺族の鎮静の満足度(185 例,緩和ケア病棟7 施設,日本)

鎮静に満足している(やや満足~とても満足)どちらともいえない不満足

79%

16% 5 %

〔Morita T, et al. J Pain Symptom Manage 2004; 28: 557‒6540)より作成〕

75%患者の希望を優先して考えた49%話ができなくなることがつらかった38%病状の変化に気持ちがついていかなかった

25%決める責任を負うことが重荷だった25%自分にまだできることがあると思った

21%寿命が短くなったと思った

21%一番よいことをしている自信がもてなかった

15%家族全員で話し合う機会がほしかった14%意識がなく眠っている状態には尊厳がない14%医師や看護師に気持ちをくみとってほしかった11%そばにいることに意味を見出すのが難しかった

10%苦痛を和らげる他の方法があると思った3%眠ることを無理強いされている気がした

3%死の過程が長引いていると思った

2%法律的な問題が心配だった

0 20 40 60 80(%)

図4 鎮静を受けた患者の家族の体験(185 例,緩和ケア病棟7 施設,日本)

〔Morita T, et al. J Pain Symptom Manage 2004; 28: 557‒6540)より作成〕
p.288
て,1鎮静後も実際に苦痛が緩和されなかったこと,2説明が不十分だったこと,3鎮静のために寿命が短くなると思ったこと,4苦痛を緩和する他の方法があると思ったこと, 5意思決定をする責任を担うことが負担だったこと,6気持ちがついていかなかったこと,7つらい気持ちをくみとってもらえなかったこと,が挙げられている40)。

[解 釈]治療抵抗性の苦痛に対して実施された鎮静については家族の多くは満足し,実施した時期が適切だったと評価している。また,鎮静を行ったことが家族の悲嘆に悪い影響を与えているエビデンスはない。その一方で,これでよかったのだろうか,他にできることはなかったのだろうかという気持ちをもつ家族もいる。家族の苦痛を和らげるためには,精神的サポートや情報提供を十分に行うことが重要である。特に,手を尽くしたが苦痛を緩和する他の方法がないことを丁寧に伝える;鎮静のために寿命が短くなるかの見通しを具体的に伝える;意思決定をする際には「家族に決めてほしい」と決定を任せるのではなく,患者の推定意思を考える役割を依頼する;鎮静を実際に開始した場合には経過をしっかりと評価して目的とした苦痛緩和が得られるように投与量の調節を行うことが重要であることが示唆される。

(林ゑり子,久山幸恵)

鎮静が生命予後に与える影響は医学的に大きい関心事項であり,比較的多くの研究が行われている。Maltoni らの系統的レビュー,Beller らのコクランレビューに加えて,今回ハンドサーチにより得られた2 件の論文を検討した1,33,34,45)。18 論文に報告された合計6,281 例が対象となった。鎮静実施率は12~67%であった(表7)。鎮静の形式としては,持続的鎮静を対象としているものが多いが,間欠的鎮静を含んでいるもの,持続的深い鎮静のみに限定しているものなどさまざまであった。実施場所は,ホスピス・緩和ケア病棟11 論文,在宅4 論文,病院2 論文,複数にまたがるもの1 論文であった。生存期間の定義は,すべての研究で,入院や在宅サービスの開始が観察の起点となっていた。ホスピス・緩和ケア病棟の入院・在宅サービスの開始後を起点とした生存期間は,鎮静を受けた患者で7~64 日,鎮静を受けなかった患者で6~63 日であった。鎮静を受けた患者のほうが生存期間の長かったとした1 論文を除いて,すべての研究で生存期間に有意差を認めなかった。ほとんどが生存期間を単純に比較したものであるが,患者背景を揃えたマッチドコホートや傾向スコアマッチングによる方法でも生存期間に差はなかった1,33)。

[解 釈]鎮静が生命予後に影響を与えるかという臨床疑問は完全に明らかにすることは理論上難しい。なぜなら,この疑問を検証するには,緩和困難な苦痛のある患者に鎮静を実施するか実施しないかをランダム割り付けして比較試験を行う必要があるが,このような臨床試験を行うことは倫理的にも実施上も不可能と考えられるためである。

8.鎮静は生命予後を短くするのか?

VIII章
p.289
表7 鎮静と生存期間の関係を検討した研究

著者/発表年/国治療場所症例数/鎮静実施率鎮静の定義形式鎮静を受けた患者の生存期間*(日)鎮静を受けなかった患者の生存期間*(日) p 値Ventafridda/ 1990/イタリア2)在宅120/52.5%持続的鎮静中央値25 23 0.57 Stone/1997/イギリス6)緩和ケア病棟115/26.0%持続的鎮静平均値18.6 19.1 >0.2 Fainsinger/1998/南アフリカ46)緩和ケア病棟76/30.3%間欠的鎮静,持続的鎮静平均値9 6 0.09 Chiu/2001/台湾10)緩和ケア病棟251/27.9%間欠的鎮静,持続的鎮静平均値28.5 24.7 0.43 Muller—Busch/ 2003/ドイツ13)病院548/14.6%間欠的鎮静,持続的鎮静平均値21.5 21.1 NS Sykes/2003/イギリス12)緩和ケア病棟237/48.0%持続的鎮静平均値14.3 14.2 0.23 Kohara/2005/日本17)病院124/50.3%間欠的鎮静,持続的鎮静平均値28.9 39.5 0.10 Vitetta/2005/オーストラリア18)緩和ケア病棟102/66.7%間欠的鎮静,持続的鎮静平均値36.5 17.0 0.12 Bulli/2007/イタリア20)在宅331/14%持続的深い鎮静中央値23 23 NS Bulli/2007/イタリア20)在宅744/12%持続的深い鎮静中央値24 17 NA Rietjens/2008/オランダ21)緩和ケア病棟157/43.0%持続的深い鎮静中央値8 7 0.12 Maltoni/2009/イタリア22)ホスピス518/25.1%すべて中央値12 9 0.330 Mercadante/ 2009/イタリア37)緩和ケア病棟77/54.5%間欠的鎮静,持続的鎮静平均値6.6 3.3 0.003 Alonso—Babarro/ 2010/スペイン25)在宅245/12%詳細不明平均値64 63 0.963 Maltoni/2012/イタリア28)緩和ケア病棟327/22%記載なし平均値11 9 0.51 Radha Krishna/ 2012/シンガポール47)緩和ケア病棟238/25%詳細不明中央値8 8 0.78 Gu/2015/中国45)緩和ケア病棟244/34%間欠的鎮静,持続的鎮静平均値27 22 0.066 Maeda/2016/日本33)病院,緩和ケア病棟,在宅1,827/15%持続的深い鎮静中央値27 26 0.20 *生存期間は入院や在宅サービスの開始を観察の起点としている(鎮静期間は数日以下)。NS:有意差なし,NA:not available
p.290
次善策として,観察研究のデータを用いてこの疑問が検討されてきた。観察研究には,さまざまな限界がある。すなわち,1入院や在宅サービスの開始が観察の起点となっており,鎮静の対象となる苦痛が生じてからの生存期間が比較されない(鎮静を受けていない群で「緩和困難な苦痛が生じてから」に相当する時期を特定できないため),2定義があいまいなため間欠的鎮静,持続的鎮静,鎮静の深さなど複数の鎮静方法が混在している,3対象集団の背景の違いや実施された治療・共治療の違いなどさまざまな交絡因子の影響が調整されていないものが多い(補正したとしても,測定されていない要因は補正できない),4単施設での検討が多い,という限界がある。現状明らかになっていることとして,集団の平均として,鎮静を受けた患者と受けなかった患者とで,観察が開始されてから(入院や在宅サービスの開始から)死亡までの期間に差があるという研究知見はない。したがって,もともと鎮静薬の投与を受ける患者の全身状態が不良である(鎮静薬の投与を受けなかったとしても生命予後が限られている)ことを考えれば,苦痛緩和のための鎮静は,臓器障害を伴う生命予後が日の単位と考えられる患者に実施する限りにおいては,生命予後を極端に短くすることは少ないように思われる。一方,全身状態がそれほど不良ではない患者に実施された場合(臓器障害を伴わない患者の精神的苦痛や痛みなど)に生命予後を短縮することは医学的に想定できる。

(前田一石)

在宅における治療抵抗性の苦痛と鎮静の実態については,2011 年の系統的レビューが1件あり,2010 年までに出版された鎮静についての6 件の研究をまとめている48)。今回,これに加えて,2011 年から2017 年6 月までの研究についてPubMed で検索したものとハンドサーチから,在宅での治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する4 論文を追加した合計10 論文について検討した31,32,49,50)。概要を表8 にまとめた。イタリアの研究がほとんどであり,イタリア,イスラエル,スペイン,日本以外の国・地域からの報告はなかった。鎮静の定義は「緩和困難な症状による耐えがたい苦痛を緩和するために,鎮静薬を使用し患者の意識を下げること」としているものが多かった。「薬物の投与で,完全に意識を消失させること」としているものや,定義をしていないものもあった。鎮静の頻度は5~53%と各研究間での差が大きかった。累計すると3,429 例中502 例(15%;95%信頼区間13~16%)に鎮静が実施されていた。鎮静の適応となる主要な症状は,せん妄,呼吸困難,痛みであり,鎮静期間は7 日未満のものがほとんどであった。鎮静に用いられた薬剤はほとんどがミダゾラムであり,投与量は12~144 mg/日であった。レボメプロマジン,フェノバルビタール,オピオイドも使用されていた。日本では,フェノバルビタール坐薬,ブロマゼパム坐薬も使われていた。オピオイドは単独投与されることも,ミダゾラムと併用されることもあった。治療効果は,確立した尺度がないことから,患者・家族または医療者・介護者による苦痛の評価(NRS)や,家族の満足度などが報告されていた。「治療効果は数時間以内に得られた」と記載があるのみや,治療効果についての記載がないものもあった。坐薬の効果を

9.在宅において治療抵抗性の苦痛は生じるか?

VIII章
p.291
表8 在宅療養中のがん患者に対する鎮静に関する研究

著者/発表年/国研究デザイン患者背景全患者数(鎮静を受け

た患者割合)主な薬剤と投与量

(mg/日)主な症状鎮静期間

Ventafridda/ 1990/イタリア2)前向き・単施設年齢全患者(154 例)平均65.5歳(20~89)対象がん患者のみ63/120 (52%)モルヒネ,メサドン,ジアゼパム,クロルプロマジン,ハロペリドール呼吸困難,痛み平均49.2 時間(SD 65.7) Peruselli/1999/イタリア7)前向き・多施設年齢全患者(401 例)平均70 歳(23~94)

対象がん患者のみ90/356 (25%) NA NA NA

Bulli/2007/イタリア20)前向き・多施設年齢鎮静を受けた患者平均68.4歳(2000 年),67.5 歳(2003~2004 年)

対象すべての終末期患者136/1,075 (13%) (がんではな

い患者3 例を含む)抗精神病薬,ミダゾラム,オピオイドNA最頻値1 日(1,2~4,

5~10 日に3区分して頻度が記載されている)

Rosengarten/ 2009/イスラエル24)後ろ向き・単施設年齢鎮静を受けた患者平均65 歳(33~92)

対象がん患者35 例,ALS 1 例36/720 (5%)モルヒネ(12~ 240),ミダゾラム(12~144)痛み,せん妄中央値3 日(4 時間~13

日)

Porzio/2010/イタリア51)後ろ向き・単施設年齢鎮静を受けた患者平均70 歳対象すべてがん患者16/44 (36%)ミダゾラム(24~ 48)せん妄,呼吸困難平均3.6 日(2~7) Alonso‒Babarro/ 2010/スペイン25)後ろ向き・単施設年齢鎮静を受けた患者平均57.6歳対象すべてがん患者29/245 (12%)ミダゾラム(58~ 97)せん妄,呼吸困難平均2.6 日(1~10) Mercadante/ 2012/イタリア49)後ろ向き・多施設年齢全患者の平均72.3 歳(SD 12)対象すべてがん患者49/370 (13.2%)ミダゾラム(平均28.1)+モルヒネ(平均25.4)せん妄,呼吸困難平均86 時間(SD 242) Mercadante/ 2014/イタリア31)前向き・多施設年齢鎮静を受けた患者平均67 歳(SD 19)

対象すべてがん患者24/176 (13.6%)ミダゾラム(23~ 58)せん妄,呼吸困難平均42.2 時間(SD 30.4)

Calvo‒Espinos/ 2015/スペイン32)後ろ向き・単施設年齢鎮静を受けた患者平均70 歳対象すべてがん患者35/250 (14%)ミダゾラム(平均40)またはレボメプロマジン(平均70)せん妄平均3 日新城/2015/日本50)後ろ向き・単施設年齢全患者平均71 歳(SD 13) 24/73 (33%)ミダゾラム(平均12)せん妄平均4.4 日(SD 6) NA:not available(論文中にデータなし),SD:標準偏差
p.292
検証した研究はなかった。

[解 釈]在宅療養中のがん患者にも治療抵抗性の苦痛は生じる。限界としては,治療環境のほとんどが専門緩和ケアサービスであり,国や地域の単位で代表性のある在宅患者における鎮静の頻度や実態は不明である。また,イタリア,スペイン,日本以外の国における実態も不明である。さらに,在宅における研究に限ったことではないが,鎮静の定義そのものが統一していないこと,効果を評価する指標がないことから,個々の研究の結果が何を意味しているのかの解釈は慎重に行う必要がある。

(新城拓也)

VIII章
p.293
10.資 料

著者発表年国研究デザインセッティング年齢全身状態(Performance Status)疾患鎮静頻度(例数)鎮静対象となった症状の割合(例数) Ventafridda 1990イタリア2)前向き観察研究単施設のホームケアプログラム中央値65.5 歳(範囲20~89) ECOG PS 中央値3全例がん肺33%(21 例),上部消化管14% (9 例),頭頸部

13%(8 例),大腸11%(7 例) 53%(63/120)呼吸困難52%(33),痛み49%(31),せん妄17%(11),嘔吐6%(4)

Mclver 1994アメリカ36)前向き観察研究単施設の緩和ケアプログラム(入院,在宅両方)中央値66 歳(範囲16~81)がん95% (19 例,肺6 例,

血液6 例,乳房2例,不明2 例,腎1 例,膵1 例,子宮頚1 例) AIDS 5%(1 例) 24%(20/82)入院(10),在宅(10)呼吸困難50%(10), Restlessness(身の置き所のなさ)50% (10)

Peruselli 1999イタリア7)前向き観察研究56 施設のPCU と2 施設のホスピス(入院・在宅両方)中央値70 歳(範囲23~94)鎮静施行しなかった患者も含む全例がん全体25%(90/ 356)入院32%,在宅23%記載なし

Fainsinger 2000カナダ8)前向き観察研究1 施設のPCT,1施設の急性期PCU,3 施設の入院ホスピスPCT 平均71 歳(標準偏差12)

急性期PCU 62歳(13)入院ホスピス73歳(11)全例がんPCT 6%(3) PCU 10%(5)入院ホスピス4% (2)すべての施設をあわせてせん妄90%(9),呼吸困難10%(1)

資料 苦痛緩和のための鎮静に関する観察研究

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟
p.294
VIII章

薬剤投与量投与期間効果指標評価尺度主な効果重篤な有害事象薬剤: オピオイド,向精神病薬いずれか,または両方の増量投与量:記載なし期間:平均49 時間(標準偏差66) (耐えられない症状が出現してから死亡までの期間)指標:症状コントロール意識水準,眠るまで薬剤を増量尺度:記載なし効果:記載なし記載なし薬剤:クロルプロマジン投与量: 静注,開始時の1 回投与量中央値12.5 mg(範囲6.5~25),4 時間毎投与坐薬,開始時の1 回投与量中央値25 mg(範囲6~50),8~12 時間毎投与期間:中央値1 日(範囲1~5)指標:意識水準尺度: Patient’s level of arousal;1=awake,2=asleep

but easily arousable,3=asleep but difficult to arouse,4=unresponsive効果: 鎮静開始後 中央値2(自宅)~3(入院)

指標:身の置き所のなさ尺度: Degree of restlessness:1=none,2=mild,3= moderate,4=severe効果:記載なし

指標:全般的効果尺度: Effectiveness;1=none,2=partial,3=complete効果: 鎮静開始後初回評価3=70%,2=30%死亡前3=90%,2=10%記載なし

記載なし指標:包括的評価尺度: Support Team Assessment Schedule(STAS);0

(none)to 4(worst)効果: 死亡前1 週間(鎮静なしの患者も含む)

痛み0=38%,1=24%,2=19%,3=12%, 4=7%痛み以外の身体症状0=17%,1=20%,2= 26%,3=28%,4=9%記載なし

薬剤:ミダゾラム50%(5 例)投与量:4 例1 mg/時間,1 例4~6 mg/時間

薬剤:レボメプロマジン30%(3 例)投与量:12.5~25 mg/日

薬剤:ジアゼパム10%(1 例)投与量:10~30 mg/日

薬剤:ロラゼパム10%(1 例)投与量:2~3 mg/日

期間: すべての施設,すべての薬剤投与をあわ

せて中央値2 日(範囲1~5)指標:症状コントロール尺度: 症状コントロール(good,average,poor,missing)効果:記載なし

指標:意識水準尺度: alert,sleepy/drowsy,not responding,missing効果:記載なし記載なし

(つづく)
p.295
著者発表年国研究デザインセッティング年齢全身状態(Performance Status)疾患鎮静頻度(例数)鎮静対象となった症状の割合(例数) Fainsinger 2000イスラエル,南アフリカ,スペイン9)前向き観察研究4 施設の入院PCU または入院ホスピス4 施設それぞれの平均:59 歳(標準偏差19),61 歳(14),66歳(13),

67 歳(14)鎮静施行しなかった患者も含むがん96%(362/ 387 例) AIDS 3%(10/ 387 例)その他1%(5/ 387 例)全施設:25%(97/ 387)施設ごとの数値: 15%(15/100), 22%(22/100), 29%(27/94), 36%(33/93)せん妄61%(59),呼吸困難26%(25)

Chiu 2001台湾10)前向き観察研究単施設のPCU 35 歳以下6.8% (19/276)

36 歳~50 歳13.0%(36 例) 51~64 歳29.1% (80 例) 65 歳以上51.1% (141 例)全例がん肺21%(57 例),肝20%(56 例),大腸10%(27例),耳鼻咽喉6%(16例),膵5%(13例),胃5%(13例)転移がある患者の割合は82%(227例) 28%(70/251)せん妄57%(40/70),呼吸困難23%(16),痛み10%(7),不眠7%(5)

Sykes 2003イギリス12)後ろ向き観察研究単施設のPCU平均69.7 歳鎮静施行しなかった患者も含むがん消化管28%,肺22%,乳房11%,原発不明7%,泌尿生殖器6%,頭頸部3%,その他(非がんも含まれ

るか不明)23% 48%(114/237)記載なし

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟

資料 苦痛緩和のための鎮静に関する観察研究(つづき)
p.296
VIII章

薬剤投与量投与期間効果指標評価尺度主な効果重篤な有害事象薬剤:ミダゾラム71%(69/97)投与量:施設ごと 中央値15~53 mg/日

薬剤:ハロペリドール9%(9/97)薬剤:ロラゼパム9%(8/97)期間:施設ごとの中央値1~3 日指標:全般的評価尺度: Adequacy of symptom control:Good,Fair,Poor効果: 死亡6 日前Good=53~75%,Fair=18~35%,

Poor=2~16%死亡日Good=74~89%,Fair=11~19%,Poor

=0~5%

指標:意識水準尺度: Level of consciousness:Alert,Drowsy,Unresponsive効果: 死亡6 日前Alert=69~82%,Drowsy=16~ 31%,Unresponsive=0~1%死亡日Alert=3~12%,Drowsy=18~29%,

Unresponsive=60~73%記載なし

薬剤:ハロペリドール50%(35 例)ミダゾラム24%(17 例)モルヒネ増量13%(9 例)投与量:記載なし期間:中央値5 日指標:痛み尺度: Pain score 0~10(医療者による客観評価)効果: 死亡2 日前の平均値 鎮静群2.5 vs. 非鎮静群2.1

指標:呼吸困難尺度:Dyspnea score 0~10 (医療者による客観評価)効果: 死亡2 日前の平均値 鎮静群3.0 vs. 非鎮静群2.9

指標:せん妄尺度:Delirium score 0~3 (医療者による客観評価)効果: 死亡2 日前の平均値 鎮静群1.8 vs. 非鎮静群1.1記載なし

薬剤:ミダゾラム投与量: 死亡日中央値23 mg/日で死亡日前日中央値10 mg/日よりも有意に増加(7 日以上ミダゾラム投与を受けている患者を除いた値)

薬剤:メトトリメプラジン投与量: 中央値50 mg/日で,投与日による有

意差はなし

期間: 13%(15 例)は最期の7 日間鎮静を行った56%(64 例)は最期の48 時間以内の鎮

静期間だったが,このうち36 例は24 時間以内だった指標:鎮静薬投与期間と生存期間尺度:記載なし効果: 48 時間未満の鎮静グループ(14.2 日)と,鎮静を

受けなかったグループ(14.3 日)は,鎮静を7 日以上受けたグループ(36.6 日)と比べて入院から死亡までの期間が短かった1.8%(2/114例)で鎮静薬の使用によると考えられる死亡を来した

(つづく)
p.297
著者発表年国研究デザインセッティング年齢全身状態(Performance Status)疾患鎮静頻度(例数)鎮静対象となった症状の割合(例数) Menten 2003ベルギー11)前向き観察研究同一施設内の,1つのPCT と1 つのPCU平均59 歳全例がん全体2% (26/1,261)

PCT 0.1% (10/750) PCU 3% (16/511)実存的苦痛50%(13/ 26),不安と身の置き所のなさ23%(6),精神的苦痛19%(5),痛み15%(4)

Cameron 2004南アフリカ14)前向き観察研究単施設の入院ホスピス平均68 歳全例進行がん20%(20/100)けいれん65%(13),活動性せん妄45% (9),嘔吐25%(5),

呼吸困難10%(2),痛み5%(1)

Morita 2005日本15,16)前向き観察研究21 施設のPCU平均63 歳(標準偏差13)全例がん肺22%(23 例),胃15%(16 例),泌尿器8.8%(9例),結腸6.9% (7 例),卵巣・子

宮6.9%(7 例),膵5.9%(6 例),食道5.9%(6例),肝4.9%(5 例)平均19%(268/ 1,432,268 例中,各施設7 例を上限とした102 例について解析)各施設の中央値11%(範囲0~ 76%)倦怠感43%(44),呼吸困難40%(41),せん妄33%(34),気道分泌過多23%(24),痛み14%(15)

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟

資料 苦痛緩和のための鎮静に関する観察研究(つづき)
p.298
VIII章

薬剤投与量投与期間効果指標評価尺度主な効果重篤な有害事象薬剤:ミダゾラム投与量: 7.5~15 mg 皮下単回投与で開始,範囲15~450 mg/日期間:中央値2 日(範囲1~10)指標:症状コントロール尺度:記載なし効果: 48 時間後92%(24/26)で完全な症状コントロー

ル達成3 . 8 %(1 /2 6例)で鎮静薬の使用によると考えられる死亡を投与開始後1 時間以内に来した

薬剤:ミダゾラム投与量:平均18.5 mg/日(範囲7.5~40 mg)

薬剤:ハロペリドール投与量:平均8 mg/日(範囲5~10 mg)

期間:平均92 時間(範囲6~369 時間)指標:症状コントロール尺度:記載なし効果:記載なし記載なし薬剤:ミダゾラム78 例投与量: 開始時の中央値1.5 mg/時間(範囲

0.25~20),最大投与量の中央値36 mg/日(範囲1.8~330)

薬剤:フェノバルビタール35 例投与量: 開始時の中央値20 mg/時間(範囲5~

80),最大投与量の中央値530 mg/日(範囲20~1,920)

期間(全例):中央値48 時間(範囲0.1~408)指標:全体の苦痛の程度尺度: symptom severity scale(SS scale);0=なし~

4=耐えがたい苦痛が前1 時間のうち15 分以上効果: SS scale 3,4 の患者割合は,鎮静前46%,4 時

間後3%,24 時間後0%

指標:呼吸困難尺度:SS scale効果: 3,4 の患者割合は,鎮静前39%,4 時間後8%,

24 時間後2%

指標:痛み尺度:SS scale効果: 3,4 の患者割合は,鎮静前18%,4 時間後2%,

24 時間後1%

指標: Agitation Distress Scale;6 項目,合計0(best)~ 18(worst)効果: 平均値(標準偏差)は,鎮静前7(4),4 時間後2

(3),24 時間後1(2)

指標:気道分泌過多尺度: Back severity scale;0=聴取しない~3=部屋の入口で聴取効果: 2,3 は鎮静前25%,4 時間後18%,24 時間後

17%

指標:コミュニケーション尺度: Communication Capacity Scale:5 項目,合計0 (best)to 17(worst)効果: 平均値(標準偏差)は,鎮静前8.3(5),4 時間後

15(3),24 時間後15(3)合併症22%呼吸・循環停止3.9%(4 例),呼吸・循環抑制18 例,奇異性反応・興奮3例,誤嚥・誤嚥性肺炎2 例

(つづく)
p.299
著者発表年国研究デザインセッティング年齢全身状態(Performance Status)疾患鎮静頻度(例数)鎮静対象となった症状の割合(例数) Lundström 2005スウェーデン52)前向き観察研究単施設のPCU中央値54 歳(範囲28~84) 2 例は症状軽減で鎮静中止し,1 例は退院,1 例は転院した全例がん(22)

1995 年から2004年までにプロポフォールを使用した患者数は22 例であるが,母数不明のため鎮静頻度は不明不安/不穏41%(9),痛み+不安41%(9),実存的苦痛18%(4)

Cowan 2006アメリカ19)前向き観察研究単施設のPCT(入院・在宅両方)中央値70 歳(範囲45~89)入院86%(24例),在宅14%(4 例) ECOG PS4 82% (23 例),PS 3 18%(5 例)がん57%(16例),肺疾患(非がん) 21%(6 例),心血管疾患14%(4例),神経疾患7% (2 例)全患者の2.3% (28/1,200)

PCT 介入中患者の6%(28/456)痛み39%(11),呼吸困難18%(5),痛み+呼吸困難14%(4),不穏7%(2),ミオクローヌス7%(2),けいれん7%(2)

Elsayem 2009アメリカ23)後ろ向き観察研究単施設のがんセンターPCU中央値58 歳(範囲20~84)全例がん186 例肺33%(61 例),血液15%(28例),消化管15%(27例),頭頸部9% (17 例),泌尿生

殖器8%(15 例),婦人科系6%(12例)生存退院含めた全患者の15%(186/ 1,207) PCU 死亡患者の41%(143/352)せん妄単独82% (153),呼吸困難単独

6%(11),出血4% (7),せん妄とけいれん4%(7),せん妄と呼吸困難3%(5)

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟

資料 苦痛緩和のための鎮静に関する観察研究(つづき)
p.300
VIII章

薬剤投与量投与期間効果指標評価尺度主な効果重篤な有害事象薬剤:プロポフォール100%投与量: 開始中央値1.0 mg/kg/時間(範囲0.6~2.0)維持量平均0.90~2.13 mg/kg/時間(範囲0.5~6.0)期間:中央値3.5 日

薬剤: ミダゾラム(プロポフォール使用に先行してミダゾラムが82%(18 例)で投与されていた)投与量:中央値37.5 mg/日(範囲5~200)

薬剤:ジアゼパム73%(16 例)投与量:中央値20 mg/日(範囲5~50)指標:症状コントロール尺度:Scales for symptoms(0~10)効果:記載なし

指標:全般的な効果尺度: Overall effect(poor,inadequate,good,exellent),医師,看護師による総合評価効果: excellent 59%(13 例),good 32%(7 例),

inadequate 9%(2 例)

指標:意識水準尺度:記載なし効果: 41%(9 例)ではconcious sedation が可能であっ

た記載なし

薬剤:クロルプロマジン75%(21 例)投与量: 開始中央値2 mg/時間(範囲2~4),維持中央値4 mg/時間(範囲2~10)期間:中央値3 日(範囲0~6)

薬剤:ミダゾラム25%(7 例)投与量: 開始中央値0.5 mg/時間(範囲0.2~ 1.0),維持中央値2.4 mg/時間(範囲0.9~15)期間:中央値8 日(範囲3~24)

クロルプロマジンとミダゾラム全体での

期間は,中央値3 日(範囲0~249)指標:症状コントロール尺度: controlled(8 時間の鎮静薬投与量が安定し苦痛が

ない),improved(症状による不快が軽減したが, controled ではない),uncontrolled(上記以外)効果: 全体では,controlled 82%,improved 18%, uncontrolled 0%クロルプロマジンでは,controlled 81%, improved 19%,uncontrolled 0%ミダゾラムでは,controlled 86%,improved

14%,uncontrolled 0%記載なし

薬剤:クロルプロマジン57%(106 例)ロラゼパム33%(62 例)ミダゾラム10%(18 例)投与量:記載なし期間:記載なし指標:症状コントロール尺度:Edmonton Symptom Assessment System(ESAS)効果:記載なし

指標:使用薬物別死亡退院の割合効果: クロルプロマジン76%(81 例),ロラゼパム71%

(44 例),ミダゾラム100%(18 例)記載なし

(つづく)
p.301
著者発表年国研究デザインセッティング年齢全身状態(Performance Status)疾患鎮静頻度(例数)鎮静対象となった症状の割合(例数) Maltoni 2009イタリア22)前向き観察研究鎮静有無の2 群コホート研究(鎮静あり267

例,鎮静なし251例) 4 施設のホスピス中央値70 歳(範囲22~100)全例がん267 例肺26%(68 例),大腸16%(42例),胃9%(25 例),膵8%(21 例),乳房8%(21 例) 2 5 . 1 %(2 6 7 / 1,064)せん妄・興奮79% (210),呼吸困難

20%(52),痛み11% (30),精神的と身体的苦痛19%(50),精神的苦痛のみ6% (16)

Mercadante 2009イタリア37)前向き観察研究単施設のPCU平均61 歳(標準偏差13) Kernofsky Performance Status:全例20 以下全例がん55%(42/77)呼吸困難60%(25),せん妄57%(24),精神的苦痛12%(5),痛み10%(4)

Claessens 2011ベルギー26)前向き観察研究8 施設のPCU中央値70 歳Palliative Performance Scale 中央値20全例がん20 例乳房25%(5 例),腸管20%(4 例),肺20%(4 例) 7.5%(20/266)治療抵抗性症状痛み25%(5),well‒ beingの喪失25%(5),不安20%(4),倦怠感15%(3),呼吸困難15%(3),悪心5% (1),抑うつ5%(1),

眠気5%(1),食欲低下5%(1)

Maltoni 2012イタリア28)前向き観察研究2 施設のホスピス中央値68 歳(範囲18~100) Kernofsky Performance Status 94%は10~20全例がん31.9%(72/226)治療抵抗性症状せん妄61%,実存的苦痛38%,呼吸困難29%,痛み21%

資料 苦痛緩和のための鎮静に関する観察研究(つづき)

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟
p.302
VIII章

薬剤投与量投与期間効果指標評価尺度主な効果重篤な有害事象薬剤:ロラゼパム38%(101 例)投与量:平均4.9 mg/日(標準偏差3.8)薬剤:クロルプロマジン33%(101 例)投与量:平均56 mg/日(50)薬剤:モルヒネ26%(68 例)投与量:平均41 mg/日(40)薬剤:プロメタジン24%(63 例)投与量:平均49 mg/日(52)薬剤:ハロペリドール23%(61 例)投与量:平均4 mg/日(2)薬剤:ジアゼパム9%(24 例)投与量:26 mg/日薬剤:ミダゾラム8%(20 例)投与量:平均42 mg/日(25)期間: 各薬剤をあわせた全体の中央値2 日(範

囲0~43)

鎮 静薬1 種49%,2 種33%,3 種17% Proportional sedation 88% Sudden sedation 12%指標:生存期間効果:鎮静有無で生存期間に有意差なし

指標:意識水準尺度:記載なし効果: 浅い鎮静(mild sedation)と深い鎮静(deep seda-

tion)の割合はおよそ2:1記載なし

薬剤:ミダゾラム投与量:30~40 mg/日で開始平均62 mg/日(標準偏差47)期間:中央値22 時間(範囲2~160)指標:意識水準尺度:Communication Capacity Scale,item 1 0=覚醒しており眠気はない,1=眠気がある,2=

起きているために努力が必要,3=言語的な刺激により覚醒,4=身体的な刺激により覚醒,5=身体的な刺激でも覚醒しない効果: 平均値(標準偏差)は,鎮静開始前1(1.1),6 時

間後4(0.9),死亡直前4.5(0.6)

指標:興奮尺度: Agitated Delirium;0=not at all,1=slight,2= a lot,3=awful効果: 平均値(標準偏差)は,鎮静開始前1.5(1.1),6

時間後0.03(0.2),死亡直前0.1(0.3)記載なし

鎮静薬:記載なし期間:平均2.5 日40%が浅い持続鎮静,40%が深い持続鎮静で開始し,死亡日には85%が深い持続鎮静指標:意識水準尺度:Glasgow Coma Scale効果:記載なし記載なし

薬剤:ミダゾラム96%投与量:中央値60 mg/日(範囲15~450) Proportional Sedationl 99% Sudden Sedation 1%期間:平均32 時間(範囲2.5~253)指標:意識水準尺度: Richmond Agitation‒Sedation Scale(RASS)効果: RASS がマイナスになるまで6 時間毎,それ以降

は24 時間毎に測定したところ,開始直後にRASSはマイナスとなった苦痛緩和するために58%ではRASS-5,42%で

はそれよりも浅い鎮静水準で苦痛緩和された記載なし

(つづく)
p.303
資料 苦痛緩和のための鎮静に関する観察研究(つづき)著者発表年国研究デザインセッティング年齢全身状態(Performance Status)疾患鎮静頻度(例数)鎮静対象となった症状の割合(例数) Caraceni 2012イタリア29)後ろ向き観察研究(カルテレビュー)

単施設のがんセンターPCT中央値58 歳(範囲48~69)鎮静を施行しなかった患者も含むPalliative Progn o s t i c S c o r e (PaP score):鎮

静施行者は全例17.5 以上全例がん129 例乳房23%(30例),肉腫20%(25例),消化管13%(17例),泌尿生殖器9%(12 例),肺8%(10 例),血液7%(9 例),頭頚部7%(9 例)鎮静を施行しなかった患者も含む64%(83/129) PCT が介入した2,033 例中,160例が死亡しそのうち129 例を解析した呼吸困難とせん妄31%(26),呼吸困難23%(19),せん妄(精神運動性興奮を伴う) 17%(14),精神運動性興奮16%(13)

Mercadante 2014イタリア31)前向き観察研究2 施設の在宅PCU平均67 歳全例がん14%(24/176)せん妄83%(20),呼吸困難17%(4)

Imai 2018日本38)前向きデータの後ろ向き解析単施設のPCU平均(標準偏差) P r o p o r t i o n a l sedation 68 歳(11.9)

Deep sedation 70 歳(10.5)全例がん大腸10 例,肺9例,食道6 例,胃6 例,胆管胆囊5例,子宮卵巣5例,膵5 例,軟部組織2 例,その他2 例12.6%(50/398)せん妄74%(37),呼吸困難62%(31),痛み16%(8),悪心・嘔吐10%(5),心理実存的苦痛のみ0% (0)

PCT:緩和ケアチーム,PCU:緩和ケア病棟
p.304
VIII章

薬剤投与量投与期間効果指標評価尺度主な効果重篤な有害事象薬剤:ミダゾラム46%(32 例)投与量:中央値17.5 mg/日(範囲5~75)薬剤:ハロペリドール35%(24 例)投与量:中央値4 mg/日(範囲1.5~24)薬剤:クロルプロマジン32%(22 例)投与量:68 mg/日(範囲50~100)期間:中央値18 時間(範囲4~216)指標:症状コントロール尺度: 症状の有無を評価(眠気,興奮,混乱,消化器症

状,呼吸困難,痛み,精神的苦痛)効果:記載なし

指標:全般的な効果尺度:記載なし効果:83%(69/83 例)で鎮静は有効であった無効であった17%(14 例)は,4 例は終末期急性

症状(呼吸困難3 例,出血1 例)を認め,3 例は病棟スタッフが鎮静を実施せず,7例は評価できなかった記載なし

薬剤:ミダゾラム100%で使用投与量: 投与開始平均27 mg/日(標準偏差4),最大値58 mg/日(36)期間:平均42 時間(30)

薬剤:ハロペリドール46%で使用投与量: 投与開始平均9 mg/日(4),最大値13

mg/日(4)

薬剤: クロルプロマジン開始時200 mg/日1例

で使用,48 時間後225 mg/日(163)4例で使用指標:コミュニケーション尺度: Communication Capacity Scale:5—item,total 0

(best)to 17(worst)効果: 平均(標準偏差)は,鎮静開始前12(3),24 時

間後16(1)

指標:不穏尺度: Agitation Distress Scale:6 項目,合計0(best) to 18(worst)効果: 平均(標準偏差)は,鎮静開始前10(5),24 時

間後2(3)

指標:症状の強さ尺度: NRS,患者が答えられない場合,家族の代理評価効果: 平均(標準偏差)は,痛みは評価できなかったせん妄は,開始前6(3),24 時間後1(2)呼吸困難は,開始前3(4),24 時間後1(2)記載なし

薬剤:全例ミダゾラムを使用

Proportional sedation投与量: 投与開始平均0.8 mg/時間(標準偏差0.4),最大値2.1 mg/時間(1.6)期間:中央値75.5 時間(範囲10~444)

Deep sedation投与量: 投与開始平均3.5 mg/時間(標準偏差2.9),最大値4.2 mg/時間(2.7)期間:中央値42.5 時間(範囲1~269)指標:苦痛の程度尺度:STAS item 2効果:平均値(95%信頼区間) Proportional sedation鎮静前3.8(3.6~3.9),4 時間後0.8(0.5~1.2),24 時間後0.8(0.5~1.1) Deep sedation鎮静前3.7(3.5~4.0),4 時間後0.3(0~0.7),24 時間後0.3(0~0.6)

指標:意識水準と不穏の程度尺度: 緩和ケア用Richmond Agitation—Sedation Scale (RASS)効果:平均値(95%信頼区間) Proportional sedation鎮静前+1.2(+0.6~+1.6),4 時間後-1.7(-2.5~ -0.9),24 時間後-2.0(-3.1~-0.9) Deep sedation鎮静前+1.4(+0.3~+2.2),4 時間後-3.7(-4.7~ -2.8),24 時間後-4.5(-4.9~-4.0) Proportional s e d a t i o n の3 . 8 %(1 /3 2例),d e e p s e d a t i o n の22.2%(4/18例)に無呼吸を認めた致死的な重篤な有害事象は認めなかった

(今井堅吾,永山 淳)
p.305
【文 献】1) Maltoni M, Scarpi E, Rosati M, et al. Palliative sedation in end—of—life care and survival:a systematic review. J Clin Oncol 2012;30:1378—83 2) Ventafridda V, Ripamonti C, De Connno F, et al. Symptom prevalence and control during cancer patients’ last days of life. J Palliat Care 1990;6:7—11 3) Fainsinger R, Miller MJ, Bruera E, Symptom control during the last week of life on a palliative care unit. J Palliat Care 1991;7:5—11 4) 池永昌之,恒藤暁,前野宏,他.死亡直前における末期癌患者の耐え難い苦痛にいかに対処するか? ―鎮静の必要性―.死の臨床1995;18:48—53 5) Morita T, Inoue S, Chihara S. Sedation for symptom control in Japan:the importance of intermittent use and communication with family members. J Pain Symptom Manage 1996;12:32—8 6) Stone P, Phillips C, Spruyt O, et al. A comparison of the use of sedatives in a hospital support team and in a hospice. Palliat Med 1997;11:140—4 7) Peruselli C, Di Giulio P, Toscani F, et al. Home palliative care for terminal cancer patients:a survey on the final week of life. Palliat Med 1999;13:233—41 8) Fainsinger RL, De Moissac D, Mancini I, et al. Sedation for delirium and other symptoms in terminally ill patients in Edmonton. J Palliat Care 2000;16:5—10 9) Fainsinger RL, Waller A, Bercovici M, et al. A multicentre international study of sedation for uncontrolled symptoms in terminally ill patients. Palliat Med 2000;14:257—65 10) Chiu TY, Hu WY, Lue BH, et al. Sedation for refractory symptoms of terminal cancer patients in Taiwan. J pain Symptom Manage 2001;21:467—72 11) Menten J. Palliative sedation for refractory symptoms in terminal palliative cancer patients:Procedure and results in UH Leuven. Cancer pain:Interdisciplinary and comprehensive management. Doctoral dissertation. Catholic University of Leuven, Belgium, 2003 12) Sykes N, Thorns A. Sedative use in the last week of life and the implications for end—of—life decision making. Arch Intern Med 2003;163:341—4 13) Muller—Busch HC, Andres I, Jehser T. Sedation in palliative care— a critical analysis of 7 years experience. BMC Palliat Care 2003;2:2 14) Cameron D, Bridge D, Blitz—Lindeque J. Use of sedation to relieve refractory symptoms in dying patients. S Afr Med J 2004;94:445—9 15) Morita T, Chinone Y, Ikenaga M, et al.: Japan Pain, Palliative Medicine, Rehabilitation, and Psycho— Oncology Study Group. Efficacy and safety of palliative sedation therapy:a multicenter, prospective, observational study conducted on specialized palliative care units in Japan. J Pain Symptom Manage 2005;30:320—8 16) Morita T, Chinone Y, Ikenaga M, et al.: Japan Pain, Palliative Medicine, Rehabilitation, and Psycho— Oncology Study Group. Ethical validity of palliative sedation therapy:a multicenter, prospective, observational study conducted on specialized palliative care units in Japan. J Pain Symptom Manage 2005;30:308—19 17) Kohara H, Ueoka H, Takeyama H, et al. Sedation for terminally ill patients with cancer with uncontrollable physical distress. J Palliat Med 2005;8:20—5 18) Vitetta L, Kenner D, Sali A. Sedation and analgesia—prescribing patterns in terminally ill patients at the end of life. Am J Hosp Palliat Care 2005;22:465—73 19) Cowan JD, Clemens L, Palmer T. Palliative sedaion in a southern Appalachian community. Am J Hosp Palliat Care 2006;23:360—8 20) Bulli F, Miccinesi G, Biancalani E, et al. Continuous deep sedation in home palliative care units:case studies in the Florence area in 2000 and in 2003—2004. Minerva Anestesiol 2007;73:291—8 21) Rietjens JA, van Zuylen L, van Veluw H, Palliative sedation in a specialized unit for acute palliative care in a cancer hospital:comparing patients dying with and without palliative sedation. J Pain Symptom Manage 2008;36:228—34 22) Maltoni M, Pittureri C, Scarpi E, et al. Palliative sedation therapy does not hasten death:results from a prospective multicenter study. Ann Oncol 2009;20:1163—9 23) Elsayem A, Curry Iii E, Boohene J, et al. Use of palliative sedation for intractable symptoms in the palliative care unit of a comprehensive cancer center. Support Care Cancer 2009;17:53—9 24) Rosengarten O, Lamed Y, Zisling T, et al. Palliative sedation at home. J Palliat Care 2009;25:5—11 25) Alonso—Babarro A, Varela—Cerdeira M, Torres—Vigil I, et al. At—home palliative sedation for end—of— life cancer patients. Palliat Med 2010;24:486—92 26) Claessens P, Menten J, Schotsmans P, et al. Palsed Consortium. Palliative sedation, not slow euthana-

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p.306
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liative cancer care. J Pain Sympt Manage 2005;30:570—7 VIII章
p.307
IX章 法的検討(資料)
p.308
本稿は,本手引きの法律上の妥当性について資料としての検討を試みたものである。

本稿では,鎮静が刑法上の問題となりうる場合があるかについて法学上の立場から検討する。特に,鎮静の実施後に患者が死亡した場合,鎮静と死亡との間に因果関係がなかったとしても,医療者は「法律上の問題はないのか」という漠然とした不安をもつことがある。したがって,鎮静後に患者が死亡した場合に関係する法について検討する。個人の生命や社会生活上の法益(ここでは,利益/益と表現することもある)を保護する法(ここでは,刑法を指す)のいう利益とは,今回の文脈で検討の対象となるものは,主として生命予後を指す。鎮静がそもそも医学的に生命予後の短縮を伴わなければ,個人の利益を損なうことはなく,違法性を議論する必要性はないといえる。生命予後の短縮を伴わない鎮静は,通常の医学的治療における枠組みで考えられる。さらに,鎮静を行う際に,生命予後の短縮について,医師に何らかの故意または過失がなければ刑法上の罪には該当しない。刑法上の故意とは,罪となる事実を認識し,かつ結果の発生を意図または認容することを指すので,「不利益(生命の短縮)が発生するかもしれないがあえて」と考えた場合でも故意があると判断される可能性がある。そこで,本稿は,医学的事実として鎮静が生命予後の短縮がどの程度生じるかを現状では確実にはいえないことを前提に,「仮に

4 4 鎮静が生命予後の短縮を引き起こすことが想定

されたとして,鎮静が刑法上違法と評価されるか」について検討することとした。

罪刑法定主義の下では,法はあらかじめ何が犯罪に該当するかを明示し,法は違法とされる類型を規定する。したがって,ある行為が違法であるかを検討する場合には,法に規定された犯罪の構成要件の該当性を検討する。例えば,窃盗であれば,刑法235 条は,「他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,10 年以下の懲役又は50 万円以下の罰金に処する」と規定する。このうち「他人の財物を窃取」を構成要件という。そして,構成要件に該当する場合には「違法が推定される」こととなる(図1)。

1.検討する内容の明確化

2.罪刑法定主義の考え方と,検討する具体的な犯罪

図1 ある行為を違法とみなすまでの過程

責任があるか(責任阻却事由:責任能力がない,未成年など)

構成要件に該当するか(構成要件該当性)

↓

違法性があるか(違法性阻却事由:正当防衛,緊急避難,正当業務行為)

↓
p.309
しかし,違法性が推定されることとなったとしても,個別の事情では,違法性がない場合がある。これを法は,違法性阻却事由として規定する。したがって,違法性阻却事由がある場合は,違法ではない。今回検討する内容については,「鎮静薬を投与したあとに患者が死亡した場合」に関する刑法上の規定は(当然ながら)ないため,人の死亡や傷害に関する犯罪を検討する。刑法上の犯罪として,表1 に挙げるものが該当する。鎮静に関しては,医師の間に,「苦痛緩和のためであっても鎮静薬を投与して患者が死亡した場合,自殺幇助(同意が明確でない場合は殺人)に該当するのではないか」という懸念がいまだ存在する。したがって,ここでは,自殺幇助罪(承諾殺人罪)と殺人罪について検討する。一方,過失で,適切な医療行為を行わなかった場合に問われる,業務上過失致死傷等については,他の医療行為と同様であるため鎮静との関連について要点のみを補注に記載する(P145)。

違法性阻却事由違法とは,法令に反することをいう。しかし,形式的には法令に違反しても,考慮するべき事由があるために違法ではない場合があり,これを違法性阻却事由(正当化事由)と呼ぶ。刑法は,正当防衛(刑法36 条),緊急避難(刑法37 条),正当業務行為(刑法35条)の3 つを規定する。例えば,医師が行う外科手術は,形式的には「傷害」に該当する。身体を故意に傷つけることは患者の利益を侵害する侵襲行為と考えられるため,傷害罪に該当し,違法性が「推定される」。しかし,外科手術は正当業務行為(刑法35 条「法令又は正当な業務による行為は,罰しない」)によって正当化されるので,構成要件に該当しても,違法性は阻却され犯罪は成立しない。違法性を阻却する正当業務行為となるには,一般的に,1治療目的に基づく行為である(正当な目的),2行為が医学上一般に承認された方法でなされている(相応な手段),3患者の同意と前提としての説明がある,ことが必要である(表2)。

3.違法性阻却事由と実質的違法論

1 IX 章

表1 生命予後の短縮に関わる刑法上の犯罪・殺人199 条:人を殺した者は,死刑又は無期若しくは5 年以上の懲役に処する。・自殺関与(自殺幇助罪)及び同意殺人(承諾殺人罪) 202 条:人を教唆し若しくは幇助して自殺させ,又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は,6 月以上7 年以下の懲役又は禁錮に処する。・傷害204 条 人の身体を傷害した者は,15 年以下の懲役又は50 万円以下の罰金に処する。・傷害致死205 条 身体を傷害し,よって人を死亡させた者は,3 年以上の有期懲役に処する。・業務上過失致死傷等211 条:業務上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,5年以下の懲役若しくは禁錮又は100

万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も,同様とする。
p.310
実質的違法論違法性阻却事由の考え方は,違法性が形式的でなく,実質的に検討されるべきであるという考え方を基盤としている。すなわち,法律に形式上条文として明確に定められている違法性阻却事由(刑法35~37 条)に限らず,直接記載がなくても実質的な違法性阻却を認めうる。つまり違法性は実際に明示されている法を超えて判断され(最高裁判所判決昭和50 年8 月27 日刑集29 巻7 号442 頁他),このような考え方を実質的違法論と呼ぶ。実質的違法論においては,違法性の阻却を考えるには,一般的に,1目的が正当である, 2手段が相当である(資格のある医師が医療水準に基づいて治療を行う),3法益衡量(守ろうとする益と侵害される益とがバランスを失していない),4法益侵害の相対的軽微性(侵害される益の程度が小さい),5必要性・緊急性が高い,6患者への説明と同意がある,ことなどが挙げられ,それらの総合的な判断として検討され,最終的には,社会的相当性があるかどうかという点に集約される(表3)。近年この考えは,喀痰の吸引や経管栄養の実施を医師でなくても実施可能と判断する議論に援用されている。そもそも喀痰の吸引や経管栄養の実施は,医行為(医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ,人体に危害を及ぼし,又は危害を及ぼすおそれのある行為)であり,医師法17 条において「医師でなければ医業をなしてはならない」とあるにもかかわらず,上記の条件を満たすことをもって,医師以外でも実施することは違法でないとする根拠とされる。

限 界本検討では,実質的違法論の立場から,鎮静についての法的検討を行う。この場合,認識しておくべき限界を述べる。まず,実質的違法論では,違法性阻却を個々の行為ごとにみるため,個々の行為を超えて類型的に違法性がないとする判断が必要な場合は,法規範そのものの変更・改正が必要となる。鎮静に関していえば,個々の鎮静の違法性が阻却されると判断されたとしても,類型的な鎮静には違法性はないとするためには,最終的には鎮静が合法であるという法規範の明示が必要となることである。次に,実質的違法論では総合的判断として議論を行うため,鎮静と生命予後の短縮(侵害されると想定する益)だけを取り上げるのではなく,患者に提供された緩和ケア全体の

2

3表2 違法性を阻却する正当業務行為の要件

1.治療目的に基づく行為である(正当な目的) 2.行為が医学上一般に承認された方法でなされている(相応な手段) 3.患者の同意と前提としての説明がある

表3 実質的違法論からみた違法性を阻却するための要件1.目的が正当である2.手段が相当である3.守ろうとする益と侵害される益とがバランスを失していない4.侵害される益の程度が小さい5.必要性・緊急性が高い6.患者への説明と同意がある
p.311
なかでの鎮静薬の投与の意味づけを考えることとなる。すなわち,鎮静によって生命予後が短縮したかどうかのみを検討するのではなく,患者の希望や意思表示,必要性や緊急性,守ろうとする益と侵害される益のバランスなどを総合的に判断する必要がある。最後に,本検討は,本手引きで想定される鎮静を検討したものであり,臨床で行われるすべての鎮静薬の投与の法的評価を導くものではない。特に,記載された鎮静薬の投与量・投与方法については例として記載したものであり,患者の状況をふまえずに一律に投与した場合の刑法上の問題を検討したものではない。鎮静薬の投与量は患者の実際の状況に応じて個々に検討することが必要である。

本手引きで想定されている鎮静は,仮に,自殺幇助罪(承諾殺人罪)と殺人罪の構成要件に該当したと考えたとしても,以下の理由が備えられている限り,違法性が阻却される(法的には正当業務行為に該当する)と考えられる。すなわち,1目的が正当である(患者の苦痛緩和を目的としている),2手段が相当である(本手引きに沿って行われる),3守ろうとする益と侵害される益とがバランスを失していない(苦痛が緩和される見込みと,侵害される益―生命予後の短縮の可能性のバランスが許容できる範囲である),4侵害される益の程度が小さい(苦痛の強さ,治療抵抗性の確実さ,予測される生命予後,効果と安全性の見込みからみて,侵害される益―生命予後の短縮の可能性の程度は最小限である),5必要性・緊急性が高い(苦痛を緩和する他の手段がなく,苦痛を緩和する必要性・緊急性がある),6患者への説明と同意がある(患者の意思決定能力がある場合は,必要な情報が提供されたうえで,苦痛緩和に必要な鎮静を希望する意思表示がある。意思決定能力がない場合には意思が推定される)の要件は充足しており,社会的相当性があると考えられる。逆に,生命予後が長い患者に鎮静,例えば,精神的苦痛のみに対して持続的深い鎮静が実施された場合,実際上患者の生命予後を(確実に,相当期間)短くする場合の法的評価については,さらなる検討が必要である(このような場合は,本手引きは想定していない)。以下に法的な検討を行ううえで重要な各項目について要約して述べる。

目 的鎮静を行う目的は苦痛緩和である。生命の短縮は目的とされない。さらに,調節型鎮静については,意識の低下も目的とされない。鎮静は患者の意識の低下を積極的に図るものではなく,意識の低下は,苦痛緩和をしようとした結果あるいは過程として生じることを意味している。そのためには,鎮静の目的が明示されているとともに,目的にふさわしい手段が実際にとられていることが必要である。すなわち,苦痛を緩和することに必要最小限の鎮静薬が継続的に評価されて投与されている必要がある。

対象となる患者持続的深い鎮静の対象となるのは死期が迫っている患者,生命予後が時間から日の単位と考えられる患者を前提としている。もともと治療抵抗性の苦痛が生じるのは死亡直前期

4.実質的違法論からみた鎮静の違法性阻却の根拠の検討

1 IX章
p.312
であることが多く,生命予後が数日から数時間の患者に対する鎮静においては極端な生命短縮の可能性は少ない。

侵害される益の程度を最小とすること鎮静は苦痛が緩和されるだけの最小限の鎮静薬を評価しながら使用して実施する。持続的に鎮静薬を投与する場合には,意識に影響を与える可能性がより少ない調節型鎮静を優先して検討することを原則とする。その治療目的は,鎮静薬を少量から苦痛の強さに応じて調節し,患者の苦痛を最小にすることである。持続的深い鎮静は,調節型鎮静では緩和することができないと見込まれる苦痛に対して,意識そのものが深い鎮静状態になるように鎮静薬の投与量を調節する。しかし,鎮静を開始する時点で,患者の死亡まで(必ず)深い鎮静を維持しようとするものではなく,状況を定期的に確認して,患者の不利益とならない場合は鎮静薬を減量・中止することを考える。

必要性・緊急性鎮静の対象となる苦痛は,治療抵抗性の苦痛(主にせん妄と呼吸困難)である。治療抵抗性と判断されるには,すべての治療が無効であること,あるいは,患者の希望と全身状態から考えて,予測される生命予後までに有効であり,かつ,合併症の危険性と侵襲を許容できる治療手段がないと考えられると定義づけられる。鎮静がすべての苦痛への適応をもつのではなく,鎮静以外の方法をとってもなお,苦痛が回避できない,他にとりうる方法をとったうえでの最後の手段(last resort)として位置づけられる。

患者への説明と患者の意思患者の意思決定能力がある場合は,必要な情報が提供されたうえで,苦痛緩和に必要な鎮静を希望する意思表示があること,あるいは,患者の意思決定能力がない場合は,患者の価値観や以前の意思表示に照らして,患者が苦痛緩和に必要な鎮静を希望することが推定できることが,要件として挙げられる。これらは,患者の自己決定を可能な限り保障するために,厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」(平成30 年3 月改訂)などで採用されている手順と同一である。なお,最高裁判所判決平成21 年12 月7 日刑集63 巻11 号1899 頁(いわゆる川崎協同病院事件上告審判決)は,医学的な評価を前提に,家族への説明を十分に行い,家族を通じて患者の推定的意思を探ることができることを示しており,上記ガイドラインの手順を支持している。

チームによる判断鎮静の実施を決定するには,多職種カンファレンスなどによる医療チームの合意や専門家へのコンサルテーションといったチーム医療が勧められている。チームで判断することは,手続的正義,すなわち,情報の収集の仕方や決定の仕方といった手続の公正さの観点からも重要である。

3

4

5

6
p.313
以上,鎮静は正当業務行為として違法性が阻却される観点から述べたが,状況によって鎮静が緊急状態における行為として違法性が阻却される可能性もある。刑法は正当防衛(刑法36 条)と緊急避難(刑法37 条)を規定する。民事上の責任についても,民法は,正当防衛と緊急避難を違法性阻却事由として規定する(民法720 条)。最高裁判所は,民事上の責任を検討するなかであるが,身体拘束について,「入院患者の身体を抑制することは,その患者の受傷を防止するなどのために必要やむを得ないと認められる事情がある場合にのみ許容されるべきものであるが,本件抑制行為は,患者の療養看護に当たっていた看護師らが,転倒,転落によりA が重大な傷害を負う危険を避けるため緊急やむを得ず行った行為であって,診療契約上の義務に違反するものではなく,不法行為法上違法であるということもできない」としている(最高裁判所判決平成22 年1 月26 日民集64 巻1 号219 頁)。したがって,仮に,上記,正当業務行為の観点から違法性阻却が基礎づけられなかったとしても,「苦痛の強さが著しい,治療抵抗性が確実である,予測される患者の生命予後が切迫している(日から時間の単位である)」場合,持続的深い鎮静でなければ苦痛が緩和されないという見込みをもって持続鎮静を開始する場合は,緊急状態における行為に該当するという考えもありうる。

上記のことから,仮に鎮静が生命予後の短縮を引き起こすことが想定されたとしても実質的に違法性を阻却する理由として,相応する記載を残すことが勧められる。具体的には,次のようなことが考えられる(P76,V章—4—8 診療記録への記載参照)。

鎮静を実施する場合には,以下の内容を診療記録に記載する。1.目的2.治療のプロセス1)苦痛が何か2)苦痛が患者にとって耐えがたいと判断した理由3)苦痛を治療抵抗性と判断した根拠4)予測される患者の生命予後とその医学的根拠5)鎮静を実施するうえで相談した他職種や専門家がいる場合,その過程6)患者の状態や苦痛を継続して評価した過程3.説明と同意1)患者に伝えられた情報と意思表示2)家族に伝えられた情報と意思表示

国際的には,死期が迫っている患者の治療抵抗性の苦痛に対して苦痛緩和を目的として

5.緊急状態における行為としての位置づけの可能性

6.診療記録への記載

7.鎮静をめぐる国際的な法的議論IX章
p.314
実施される鎮静は違法ではない(legal)とみなされている。国によっては,患者の権利に関する法律において苦痛緩和を得る権利が患者に明示されていることを根拠としたり,さらに具体的に苦痛を緩和するために仮に生命予後が短縮したとしても相応な鎮痛薬・鎮静薬の投与を患者が受けることができると示した法律を根拠とするもの(ベルギー,フランスなど)がある。しかし,多くの国においては,明示した法が存在するわけではなく,鎮静そのものの合法性について争われた裁判事例も今のところない。鎮静の法学上の妥当性については,上記のように,正当業務行為であり,社会的相応性からみて違法性が棄却されるとする論調がある。また,鎮静そのものについて述べたものではないが,二重効果の原則をもって,「苦痛緩和の目的で鎮痛薬を使用してその結果生命予後が短縮したとしても,法律上の罪には問わない」とした司法判断がしばしば援用される(イギリス,アメリカなど)。

日本において鎮静の合法性に関するまとまった議論は十分なされているとはいえないが[注1],上記のように違法性は阻却されると考えられる。違法性が阻却されるという意味は,明示する法律があるという意味ではなく,日本の法規範から見て違法性がないということである。日本においても多くの諸外国と同じように鎮静に関して具体的に明示した法律はなく,鎮静そのものについて何らかの司法判断を示した裁判例はない。そのなかで,いわゆる東海大学安楽死事件での横浜地方裁判所判決平成7 年3 月28 日判例時報1530 号28 頁は,「ホリゾン及びセレネースを注射して,家族のいう苦痛の除去・緩和の措置を施し,さらにワソラン及びKCL を注射して,同じく家族のいう苦痛から逃れさせる措置として患者を死に致した」ことに関連して,安楽死が許容されるための一般的要件(いわゆる安楽死4 要件)を示すなかで,「間接的安楽死といわれる方法は,死期の迫った患者がなお激しい肉体的苦痛に苦しむとき,その苦痛の除去・緩和を目的とした行為を,副次的効果として生命を短縮する可能性があるにもかかわらず行うという場合であるが,こうした行為は,主目的が苦痛の除去・緩和にある医学的適正性をもった治療行為の範囲内の行為とみなし得ることと,たとえ生命の短縮の危険があったとしても苦痛の除去を選択するという患者の自己決定権を根拠に,許容されるものと考えられる。」という記載がある。もっとも,本記載も判決の結論に対する関係では,傍論(結論を導き出す過程で必須の記載ではない)であることや,一審判決であることから,法学では先例として重きを置くべきでないとされる。

以上,仮に,鎮静が生命予後の短縮を引き起こすことが想定されたとして,鎮静が刑法上違法と評価されるかについて検討した。結論として,終末期患者の治療抵抗性の苦痛に対して継続した評価を行いながら鎮静薬を投与することは,苦痛緩和を目的として,医学的に相当な手段で患者の意思を反映して実施された場合,仮に生命予後の短縮を引き起こすことが想定されたとしても,刑法上,自殺幇助罪や殺人罪として違法であると評価され

8.鎮静をめぐる日本の法的議論

9.まとめ
p.315
ることはないと考えられる。しかも,そもそも,鎮静が医学的に生命予後の短縮を伴わなければ違法性を議論する必要性はない。問題が生じるとすれば,精神的苦痛に対する持続的で深い鎮静など,死期がまだ迫っていないと考えられる場合であり,この場合の法的な妥当性あるいは違法性を阻却する要件については今後の検討が必要である。法学の立場からは,他に緩和手段がない終末期患者に鎮静を行うことについて,医療者が必要以上に法律上の懸念をもたず,本来の目的である患者の希望に沿った苦痛緩和が行えることに本稿が役立つことを願う。

[注]

1)鎮静の法学的側面について検討された文献は日本にはほとんどない。原著論文という

位置づけではないが,以下のものを参考として挙げる。本手引きの前版ガイドラインを題材として,苦痛緩和のための鎮静が刑法上の同意殺人罪が成立することはないと結論している。一方,推定的意思の法律上の意義についてはさらに検討が必要としている。

  一原亜貴子.終末期鎮静の刑法的問題.岡山大学法学会雑誌 2017;67:31

  国際的にも鎮静に限って法学的側面について検討された文献は少ないが,以下のもの

がある。

  DelbekeE.Thelegalpermissibilityofcontinuousdeepsedationattheendoflife:

acomparisonoflawsandaproposal.SterckxS,RausK,MortierF,eds.Continuoussedationattheendoflife:Ethical,clinicalandlegalperspectives.Cambridge UniversityPress,2013,pp132—59

[補注 業務上過失致死傷罪と鎮静の関係]

  業務上過失致死傷罪は,医療事故で刑事責任を問われる場合に,一般的な刑法上の規

定であるので,業務上過失致死罪の一般的な説明と鎮静との関連を,補足的に行う。  業務上過失致死罪(前出表1)が成立するためには,「業務上の過失があること」(過

失),「人が死亡したこと」(結果)に加えて,「過失がなければ死亡するはずがなかった」(因果関係)ことが必要である。  業務上の過失は,一般的には,「医師として通常求められる注意義務を果たしていな

い」と表現され,予見して回避することができた(予見可能性・回避可能性がある)にもかかわらず対応を怠った(予見義務違反・回避義務違反がある)を指す(最高裁判所決定昭和42 年5 月25 日刑集21 巻4 号584 頁)。しかし,具体的に個々の事例でどのような状況で何が過失に該当するかを判断するのは容易ではない。  例えば,投薬の種類や量を誤る,患者や患部を間違えるといった明白な違反行為は,

過失と判断しやすいが,臨床での医師の個々の判断が注意義務を満たしているかは,治療環境(地域や施設の事情),患者の状況(緊急性),医師の経験や能力など複合的な状況をふまえて判断することが必要であり,この判断には通常幅がある。  例えば,いわゆる大野病院事件での地方裁判所への判断では,癒着胎盤であると認識

した以上,直ちに胎盤剝離を中止して子宮摘出手術などに移行することが本件当時の医学的準則であるとする検察官の主張に対して,「臨床に携わっている医師に医療措置上IX章
p.316
の行為義務を負わせ,その義務に反したものには刑罰を科す基準となりうる医学的準則は,当該科目の臨床に携わる医師が,当該場面に直面した場合に,ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じているといえる程度の,一般性あるいは通有性を具備したものでなければならない」として,この点の立証が不十分として無罪を導いている(福島地方裁判所判決平成20 年8 月20 日判例時報2295 号3 頁)。  鎮静の場合についていえば,極端に逸脱した投与量で鎮静薬を使用した,苦痛や効果

の評価を全く行わずに長時間にわたって放置したという限定された場合などでは,過失が疑われる場合も想定される。しかし,常識的な投与量で評価が行われているならば,例えば,鎮静薬の投与量が(やや)多かった(かもしれない)であるとか,鎮静の他に治療法が(本当に)あったのかどうかといった内容については,なお専門家間でも意見や判断の分かれるところ(したがって,専門家の裁量権の範囲内)であるから,刑法上の過失と判断されることとはならないと考えられる。  また,そもそも通常鎮静が考慮される場面では,鎮静薬を投与しなくても患者が死亡

することが予想されているため,本罪の構成要件(鎮静薬の投与によって患者が死亡したとする因果関係)を満たさないことがある。例えば,肝出血による緩和困難な痛みが生じて,鎮静薬を投与した直後に患者が死亡した場合,「鎮静薬を投与しなかったならば,患者は死亡しなかったこと」を示す必要があるが,これを医学的に示すことは不可能である。すなわち,鎮静薬を投与しなくても患者が死亡することが予想される状況では,業務上過失致死罪に該当すると判断されることは考えにくい(このことは,当然ながら,どのように鎮静を行ってもよいという意味ではない)。  以上より,本手引きに記載された鎮静を苦痛緩和のために実施して患者が死亡したと

しても,業務上過失致死罪に問われる可能性は低く,通常そのような事態は想定されない。業務上過失が問われる状況は,鎮静に限ったことではなく,鎮静以外の緩和治療や一般的な医療行為と同様であると考えられる。

(稲葉一人)
p.317
1 開発過程

2 開発者と利益相反

3 今後の検討点

X章 開発過程
p.318
本手引きは,過去の2 つの「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」の内容をふまえている。もともとは,2005 年に公開された「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン(2005 年版)」であり,これは,厚生労働省厚生科学研究「がん医療における緩和医療及び精神腫瘍学のあり方と普及に関する研究」班が作成し,日本緩和医療学会理事会が承認したものである。系統的文献検索,および,国内外の既存のガイドラインをもとに草案を作成し,デルファイ法によって妥当性を審議した。外部委員,エンドユーザー,患者遺族の評価を得たあとに,再びデルファイ法による審議を行い,緩和医学専門誌のレビューを得て作成された。これをもとに,『苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010 年版』は,日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン作成委員会の鎮静ガイドライン改訂作業部会において,全国の緩和ケアチームを対象に実施した質問紙調査をふまえて修正を行い,デルファイ法によって決定した。本手引きでは,内容としてはこれらをふまえながらも,治療抵抗性の苦痛全体を対象とするために新しく草稿を作成し,デルファイ法を用いた討議によって委員のコンセンサスを得るようにした。

治療抵抗性の苦痛に関して十分なエビデンスがないことがコクランレビューの結果からすでにわかっていたことや,そもそも治療抵抗性の苦痛や鎮静の定義に関するコンセンサスに国際的な議論があること,現場で必要とされていることは治療抵抗性の苦痛とみなされる時に実際にどのように考えるのかの具体的な手引きであることから,臨床疑問を設定して文献的検討を詳細に行うことよりも,コンセンサスを得ることに,より時間を費やすべきであると考えた。まず,前版のガイドラインの課題について委員全員の参加する会議を2 回開催して自由に検討した。そののちに,各国のガイドラインのまとめ(VII章),背景知識に挙げた9 つの臨床疑問(VIII章),および,治療抵抗性の苦痛と判断する前に考えるべきこと(IV章)について各担当者が草稿を作成して全体で共有した。その過程において,鎮静に関する定義や概念は,本手引きを作成した時点で国際的にも共通したものがないことを確認し,現在の日本に最も適切と考えられる概念と定義に基づいて委員会で本文を作成することとした。1 名の委員が旧版『苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010 年版』の本文を修正して初回原稿とした。次に,デルファイ法を実施した。治療抵抗性の苦痛に対する考え方が記載されている本文(I,II,III,V章)と,治療抵抗性の苦痛と判断する前に考えるべきことが記載され

開発過程1 1.概 要

2.作成方法
p.319
ている部分(IV章)を対象とした。初回のデルファイには13 名が参加した。本文全体(I章からV章まで)を147 項目に分けてデルファイを行った。0(適切でない)から9(適切である)の評価を得た。中央値が8 以上かつ最小と最大の評価の差が5 未満の項目が20 項目であった。得点分布を公開して討議を行った。2 回目のデルファイには法律担当者と,時間の都合で(内容に反対という主旨ではなく)参加できなかった倫理担当者の1 名を除く全員(18 名)で行った。本文全体を216 項目に分けてデルファイを行った。すべての項目で中央値が9 であったが,最小と最大の評価の差が6 以上の項目が11 項目あった。個々の項目について対面での討議を行い合意を得たため,本原稿をもって決定稿とした。その後,倫理的検討(VI章),法的検討(IX章)をそれぞれの分担執筆者が記載し,メールによる討議を行い修正を得たうえで合意を得た。その後,外部評価委員として本手引きの作成に参加していなかった専門の異なる医師13名(腫瘍学,外科学,家庭医学,在宅医学,緩和医療学,疼痛学,精神医学),看護師2名,薬剤師1 名,一般の方2 名の合計18 名のうち17 名からコメントを得た。評価の結果を委員で共有して全員で文章全体を読み直して小修正を加えた。修正した点は,意味の明確化のための修正が主であった。大きな点として,より具体的なフローチャートやチェックリストの作成をしたほうがよいとの指摘があったが,これに関しては次回の改訂で検討することとした。この他に,パブリックコメントとして,日本がん看護学会,日本ホスピス緩和ケア協会,日本死の臨床研究会,日本サイコオンコロジー学会,日本癌治療学会,日本臨床腫瘍学会,日本放射線腫瘍学会,日本麻酔科学会,日本ペインクリニック学会,日本がんサポーティブケア学会,日本在宅医学会,日本プライマリ・ケア連合学会,日本老年医学会,日本臨床腫瘍薬学会,日本緩和医療薬学会から得たコメントを検討し,同様に反映できるものを反映した。主なものとしては,日本放射線腫瘍学会から指摘があった緩和的放射線治療に関するガイドラインの引用などであった。指摘を受けた点のうち今回対応ができなかった点については,今後の検討点(P153)に追加した。検討するべき点が多く残されているため,次回の改訂の際に検討する必要がある。X章
p.320
開発者と利益相反2 [利益相反開示事項]日本緩和医療学会の利益相反に関する指針,細則,報告事項,Q&A については学会ホームページ(http://www.jspm.ne.jp/rieki)をご確認ください。[役員・委員等の利益相反開示事項(概要)]

1  報告対象企業等の職員,顧問職か2  給与・報酬等100 万円以上3  特許権使用料100 万円以上4  講演料等50 万円以上5  原稿料等50 万円以上6  顧問料100 万円以上7  委受託研究費200 万円以上8  研究助成金(寄付金) 100 万円以上9  奨学(奨励)寄付金100 万円以上10 寄付講座等500 万円以上11 株式等役員,業務執行者かまたは,利益(配当,売却益の総和) 100 万円以上または,当該全株式の5%以上12 旅行・贈答品等年間総額5 万円以上13 自由診療保険外診療(自由診療)を行っていたかどうか[備 考]

1 報告者自身について報告

2~13  報告者自身および,報告者と生計を一にする親族について報告[開示期間] 2016 年1 月1 日~2016 年12 月31 日
p.321
X章

[ガイドライン統括委員会]利益相反委員長小川 朝生国立がん研究センター東病院精神腫瘍科長講演料等:MSD 株式会社前委員長中島 信久琉球大学医学部附属病院地域医療部,緩和ケアセンター診療教授該当なし担当委員池永 昌之淀川キリスト教病院緩和医療内科部長該当なし

[鎮静ガイドライン改訂WPG]利益相反WPG 員長池永 昌之淀川キリスト教病院緩和医療内科部長該当なしWPG 副員長森田 達也聖隷三方原病院副院長,緩和支持治療科部長講演料等:塩野義製薬株式会社WPG 員明智 龍男名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野教授

講演料等:ファイザー株式会社安保 博文国家公務員共済組合連合会六甲病院緩和ケア内科部長該当なし今井 堅吾聖隷三方原病院ホスピス科医長該当なし清水 哲郎岩手保健医療大学学長該当なし新城 拓也しんじょう医院院長講演料等:協和醗酵キリン株式会社須賀 昭彦中之郷クリニック該当なし関本  剛関本クリニック院長該当なし永山  淳国家公務員共済組合連合会浜の町病院緩和医療内科部長

該当なし

馬場 美華吹田徳洲会病院緩和医療科部長該当なし浜野  淳筑波大学医学医療系講師筑波大学附属病院総合診療グループ,緩和ケアセンター

該当なし

林 ゑり子藤沢湘南台病院看護部該当なし

WG 員角  裕子京都大学医学部附属病院看護部該当なし久山 幸恵静岡県立静岡がんセンター緩和ケアセンター該当なし前田 一石ガラシア病院ホスピス科医長該当なし山口  崇甲南病院緩和ケア内科部長該当なし会田 薫子東京大学大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理センター上廣死生学・応用倫理講座特任教授〔外部委員〕

該当なし

稲葉 一人中京大学法科大学院教授〔外部委員〕該当なし田代 志門国立がん研究センター社会と健康研究センター生命倫理・医事法研究部長〔外部委員〕

該当なし
p.322
WPG 員(評価委員)安部 正和静岡県立静岡がんセンター婦人科医長該当なし井上  彰東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野教授講演料等:アストラゼネカ株式会社,大鵬薬品工業株式会社,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社,小野薬品工業株式会社,日本イーライリリー株式会社寄附金:塩野義製薬株式会社大石  愛University of Edinburgh/かまくらファミリークリニック該当なし大谷 弘行九州がんセンター緩和ケアチーム/緩和治療科該当なし岡本 禎晃市立芦屋病院薬剤科部長該当なし木下 寛也東葛病院緩和ケア科科長該当なし小杉 寿文地方独立行政法人佐賀県医療センター好生館緩和ケア科部長

該当なし

小早川 誠広島大学病院緩和ケアチーム該当なし竹之内沙弥香京都大学医学部附属病院倫理支援部特定講師給与・報酬等[親族]:稲盛財団田中 桂子がん・感染症センター都立駒込病院緩和ケア科部長該当なし橋本孝太郎医療法人社団爽秋会ふくしま在宅緩和ケアクリニック該当なし濱口 恵子がん研究会有明病院緩和ケアセンター該当なし細川 豊史洛和会丸太町病院院長講演料等:ファイザー株式会社,塩野義製薬株式会社,久光製薬株式会社寄附金:塩野義製薬株式会社,大日本住友製薬株式会社寄附講座:恩賜財団済生会支部滋賀県済生会山代亜紀子京都府立医科大学疼痛・緩和医療学教室病院助教該当なし山田 岳史日本医科大学付属病院消化器外科准教授該当なし天野 慎介全国がん患者団体連合会理事長/一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパン理事長〔外部委員〕

該当なし

柄山 正人浜松医科大学臨床腫瘍学講座・呼吸器内科〔外部委員〕該当なし松本 陽子全国がん患者団体連合会副理事長/愛媛がんサポートおれんじの会理事長〔外部委員〕

該当なし

(五十音順)
p.323
以下の点については,十分な検討ができなかったため,次回改訂の際に検討する。

・ 本手引きで扱った概念に従ったエビデンスを分析し,推奨文を作成するなど一般的なガ

イドライン(診療ガイドライン)の形として整備すること。各推奨に至った文献の整理を行うこと・ 治療抵抗性の苦痛に対する治療の経過全般を通したフローチャートやチェックリストを

作成すること・がん患者に限らない治療抵抗性の苦痛を含めて検討を行うこと・小児のがん患者における治療抵抗性の苦痛を含めて検討を行うこと・クオリティオブライフの概念や評価について具体的で詳細な検討を行うこと

・ 相応として鎮静が妥当であると考えられる,より具体的な判断基準が明記できるかを検討す

ること。例えば,「○○の治療を行っても痛みが続く場合」「以下の条件のすべてを満たす場合」といった基準を明記すること。この検討には,耐えがたい苦痛は患者評価に加えて社会一般に納得できるものであることが必要か,生命予後が比較的長いとみなされる患者の精神的苦痛に対して鎮静薬を投与することは妥当な場合があるか,生命予後が確実に短い場合に患者の希望で確実な鎮静を選択することが妥当な場合があるかなどが含まれる。・ そもそも終末期の苦痛に鎮静を行うこと(特に,持続的深い鎮静で苦痛をなくすこと)

の是非について,苦痛の価値や意味という視点もふまえて論じること・意思決定するうえで必要な医療チームの具体的な職種構成や特性を記載すること

・ 推定意思のない患者における妥当な意思決定過程について記載すること・ 患者や家族に鎮静を提案したり説明するうえで開示すべき情報や,どのように説明をす

るべきかの具体的な指針を見出すこと・ 鎮静を希望するうえで必要な意思決定能力の定義と評価方法について,詳細に記載する

こと

・ 患者の意識があいまいな場合の苦痛の評価方法や,鎮静が行われている場合にその継続

今後の検討点3

1.手引き全体の構成と対象について

2.鎮静の妥当性の評価について

3.患者や家族の意思について

4.苦痛の評価についてX章
p.324
や中止をどう判断するかの基準について検討し,記述すること・鎮静により苦痛が緩和されている根拠を明示すること・ 評価に用いる尺度〔Support Team Assessment Schedule(STAS),Richmond Agitation‒

Sedation Scale(RASS)など〕に関する詳細な記載を行うこと

・ より具体的な治療方法を明記すること。すなわち,1痛みや呼吸困難などに対して治療

抵抗性の苦痛とみなされる前に行うべき治療について,より具体的かつエビデンスをもとに記載すること,および,2鎮静薬の(使用例ではない)具体的な使用方法を記載すること・ 精神的ケアについて,鎮静の対象となる苦痛としての精神的苦悩に対するケアを記載す

ること(本手引きでは,一般的な精神的ケアを中心に述べている)・「スピリチュアルケア」の内容を明確にしたうえで,精神的ケア,精神的苦悩(suffering)

とより明確に区別して記載すること・ せん妄に対する薬物療法(鎮静)と身体抑制との関係,せん妄といわゆる「お迎え現象」

との関係についての見解を述べること・ 痛み,せん妄,呼吸困難に対する治療の項で,記載した薬物の投与量や禁忌に関する一

般的な情報をさらに追加すること

・ 鎮静の概念を検討対象としなかった薬剤や対象範囲に広げて整理すること。特に,少量

のミダゾラムやクロルプロマジンの投与は症状緩和として位置づけられるべきであるのか,鎮静と位置づけられるのかを検討すること・ 間欠的鎮静の位置づけ(本手引きでは「持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこ

と」のなかに含めたが,別にするべきか),具体的な要件をさらに詳細に記載すること・ いわゆる副次的鎮静(痛みや呼吸困難の緩和のために,患者の意識が低下することを前

提にオピオイドを増量すること)の適応や考え方について,詳細に記述すること・緊急時の鎮静(emergency sedation)の適応や方法を記述すること

・相応性の原則について,より詳細な倫理的検討を行うこと・複数の法律専門家によって詳細に検討を加えること

・医療者の感情や葛藤に関する記載を行うこと・鎮静後の患者・家族へのケアについて記載すること

5.具体的な治療法・ケアについて

6.鎮静の定義・概念について

7.倫理的検討,法的検討について

8.その他
p.325
◆和文◆あアルプラゾラム 49安楽死 89安楽死4 要件 144

い意思決定能力 70痛み 104違法性阻却事由 139

お大野病院事件 145オキシコドン 47オピオイド 29, 44, 78 —誘発性痛覚過敏 29オランザピン 39

か過活動型せん妄 40川崎協同病院事件 142関係性の苦悩 56間欠的鎮静 9, 10, 60

き業務上過失致死傷 139, 145緊急避難 143

くクエチアピン 39苦痛緩和のための鎮静 8苦悩 52クロルプロマジン 40

け刑法 138

こ故意 138抗精神病薬 35呼吸困難 104

さ罪刑法定主義 138

しジアゼパム 60, 79時間性の苦悩 56自殺幇助 139持続的鎮静 9持続的深い鎮静 9, 11, 65実質的違法論 140社会的相当性 141自律原則 64, 87自律性の苦悩 56神経障害性疼痛 30神経ブロック 31

すステロイド 46スピリチュアルな痛み 56スピリチュアルペインアセスメントシート 56

せ精神的苦痛 67, 104精神的ケア 53正当業務行為 139, 141説明文書 72全人的苦痛 52せん妄 104

そ相応性 86 —原則 64, 86たタイトレーション 98耐えがたい苦痛 8他者評価 80索 引

(太字は主要ページ)
p.326
ちチーム医療 75調節型鎮静 9, 11, 65治療抵抗性の苦痛 8, 104鎮静——,間欠的 9, 10, 60 ——,苦痛緩和のための 8 ——,持続的 9 ——,持続的深い 9, 11, 65 ——,調節型 9, 11, 65 ——,副次的 9, 33鎮静薬 9鎮痛補助薬 30

て低活動型せん妄 40手続的正義 142

と東海大学安楽死事件 144トータルペイン 52突出痛 30トラゾドン 40

に二重効果の原則 88, 144

はハロペリドール 39, 78

ひヒドロキシジン 39

ふフェノバルビタール 78, 79副次的鎮静 9, 33フルニトラゼパム 39, 60フルマゼニル 60, 61, 79フローチャート 18ブロマゼパム 60, 79プロメタジン 39

へベタメタゾン 46ベンゾジアゼピン系抗不安薬 47, 49

ほ放射線治療 30みミアンセリン 40

ミダゾラム 47, 49, 60, 78, 79, 108

めメサドン 30

もモニタリング 80, 98モルヒネ 47

ゆゆっくりとした安楽死 89, 90

りリスペリドン 39

れレボメプロマジン 40

ろローディングドーズ 79ロラゼパム 49

◆欧文◆ C continuous deep sedation 9 continuous deep sedation until death 11 continuous sedation 9

E European Association for Palliative Care(EAPC) 92 European Society for Medical Oncology(ESMO) 92

G General Board of the Royal Dutch Medical

Association 92

I intermittent sedation 9 intolerable symptom 8

N National Comprehensive Cancer Network(NCCN)

92 National Hospice and Palliative Care Organization

(NHPCO) 92
p.327
O opioid‒induced hyperalgesia 29

P Palliative Prognostic Index(PPI) 66 Palliative Prognostic Score(PaP score) 66 palliative sedation therapy 8 PiPS models 67 principle of autonomy 87 principle of double effect 88 principle of proportionality 64, 86 proportional sedation 9

R refractory symptom 8 respite sedation 13 Richmond Agitation‒Sedation Scale(RASS) 80, 84

S slow euthanasia 90 suffering 52 Support Team Assessment Schedule(STAS) 80, 84
p.328
外部評価コメント

項目評価者コメント対応コメントA ・これだけ充実した内容になったので、副タイトルの方がこの本の内容を正確に反映しており、これを機にタイトルを変

えるのも一考かと思います。

・[注]の内容がとても良いと思うのですが、フォントが小さく、明朝体で読みにくいので何か読みやすくする視覚的な工夫をしても良いかと思います。タイトルをガイドラインから手引きに変更した。フォントの調節などを行った。

B ・複数の鎮静法を明確に定義され、現場で用いる際に分かりやすい具体的な記載が多く非常に有用と思いました。注

釈も本ガイドラインのスタンスを理解する上で役立ちました。一部の誤記以外はほとんど異論ない内容と思いました。―

C ・在宅に関わる医師と接することの多い立場として、鎮静に関する問題意識は次の2点です。(いずれも自分の限られ

た経験や見学の中から生じた問題意識にて、日本の在宅医療全体の状況とは差異があるかもしれないことをご了承ください。) 1) 鎮静を行うという決定が、患者・家族・ケアチームとの議論が十分にされないまま在宅医一人で行われることが多いのではないか。また、それに付随して、十分な記録もされていないことが多いのではないか。2) 副次的鎮静を見越して、鎮静と鎮痛を「兼ねて」オピオイドを増量するというケースが意外と多いのではないか。したがって、この二点について明確に方針が記載されていることが望ましいと考えますが、いずれについても言及されており、また特に1)について、現実的にチームで話し合う機会がない場合など、限界がある状況についても記載されていることから、非常に現実的かつ重要なポイントは抑えてあるという印象を受けました。

・各項目についても、WPGの皆様が現場で生かせるガイドラインを作るためにどのような思考をたどってこられたのかがわかりやすく記載されているのは非常に良いと思いました。(あえて言えば、注釈と本文の位置が離れてしまうと読みにくいと思いましたが、致し方ないでしょうか?)

・なお、些末なことではありますが、本文中に「本手引き」という表現が散見されますが、これは「本ガイドライン」とすべきではないかと思いました。(あるいは、「ガイドライン」という呼称を「手引き」にする?) ―

―

タイトルをガイドラインから手引きに変更した。

E ・苦痛緩和のための鎮静に関するガイドラインを拝読させていただきました。  非常に丁寧に解説されており、慎重の上

にも慎重にということが伝わってくる、素晴らしい手引きであると思いました。

・家族への説明も解りやすく、本書を精読することで、苦痛緩和のための鎮静の均てん化が進むように思いました。―

F ・副タイトルは「治療抵抗性の耐えがたい苦痛と鎮静・・・・・・手引き」と変更が望ましい。タイトルを変更した。

I ・詳細にわたり、大変分かりやすく編集してくださっていると拝見いたしました。がん患者のみを対象とするとのことであるため、表紙の副題に「がん患者の」と追記されることをご提案いたします。がん患者のを追加した。

J ・反論が出そうな部分にはすべて注釈が入り丁寧に説明され「理論武装」されているので反論の余地がない。

・大変読み応えのある勉強になる「大作」。(お疲れ様でした!) ―

K ・全体的な内容として、鎮静の概念と分類、プロセスガイドラインのような考え方の道すじを示したことは大変良いと思

いました。―

項目: 1全体的な内容2I章 はじめに(1目的、2 適応の注意)について3II章 用語の定義と概念(1治療抵抗性の苦痛;2鎮静・鎮静薬;3鎮静の分類)について4III章 治療抵抗性の耐えがたい苦痛への対応に関するフローチャートについて5IV章 実践(1)治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと(2苦痛に対する緩和ケア<1>痛みに対する緩和ケア)について6IV章 実践(1)治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと(2苦痛に対する緩和ケア<2>せん妄に対する緩和ケア)について7IV章 実践(1)治療抵抗性の苦痛に対して持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと(2苦痛に対する緩和ケア<3>呼吸困難に対する緩和ケア)について8IV章 実践(1)治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと(3苦痛に対する閾値をあげ人生に意味を見出すための精神的ケア)について9IV章 実践(1)治療抵抗性の苦痛として持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと(4 間欠的鎮静) について10V章 実践(2)治療抵抗性の苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与について11VI章  倫理的検討について12VII章 国際的なガイドラインの要約について13VIII章 背景知識について14IX章 法的検討(資料)について15X章 開発過程について

評価者:18名(A~R)

1
p.329
外部評価コメント

項目評価者コメント対応コメントL ・鎮静を考える際、「鎮静以外の苦痛緩和はないのか」という判断が難しかったので、今回のガイドラインでは苦痛緩和

そのものが記載されているので、とてもいいと思います。

・ガイドラインを作成する過程での議論、まだ議論を得られていないことなどについての記載は貴重です。

・前回までのガイドラインとの変更点を一括してまとめる、または脚注に明示すると、医療者にとって有用だと思います。たとえば、鎮静の定義、持続的深い鎮静の開始時期、家族の同意など

・鎮静に対する説明用紙例、診療録の記録にも触れているのはとてもいいと思います。

・薬剤の保険適用についても記載されていて、いいと思います。医療者として、適用外使用であることを理解した上で使用するのは大切なことと思います。

・[注]の緑の字が見にくいです。もう少し大きな字、または緑色を濃くしていただけると、見やすくなると思うのですが。読者は若者だけではないため・・・。―

―

変更点の一覧表は有用であると思われたが他のガイドラインの状況も踏まえて今回は見送った。―

―

適宜修正した。

N ・非常にわかりやすくまとまっていると思います。

議論の過程が入っているところは院内でも議論になりやすいところなので有難いです。これだけのものを作成する作業は大変だったと思います、ありがとうございます。―

O ・難しい内容であるにもかかわらずとても読みやすいと感じました。たいへん勉強になりました。ありがとうございまし

た。―

Q ・全体を通して、鎮静に関する諸問題を学ぶことができる非常に濃厚な内容で大変勉強になりました。しかしながら、あ

くまで 「総説・書籍」としては素晴らしいと思いますが 「ガイドライン」という点では大いに困惑しました。

・そもそも、前書きの時点で、  「通常のガイドラインの体裁を取らない」、と明言されている時点で、もはやガイドラインとしてのあり方を批評しようがないのではないかと思いますが、緩和ケアの非専門医として観点からは、実臨床で鎮静を検記する際の指針としては使いにくい 「ガイドライン」だと思いました。

・エビデンスに基づいたガイドラインとしてまとめることが難しいとは言え、臨床家の最大のクリニカルクエスチョンである、1)どういう状態の患者に2)どういうプロセスで鎮静を行えば良いのか、という問いに、満足のいく回答がなされていないのが問題だと思います。

・よく読めば、その問いに対する考え方が随所に記載されていますが、専門疾患の診療を行いながら自身の担当患者のターミナルケアまで診ているような多忙な第一線の医師にとって、 この「書籍」を十分に読み解くのはハードルが高いと感じました。

・「この『書籍』を十分に理解していないものは鎮静を行うべきではない」、というメッセージであるなら仕方がないですが、もう少し、上記のクリニカルクエスチョンに対して臨床家がアプローチしやすいような構成が欲しいと思いました。鎮静の適格基準をより客観的に記載することは次回の課題として明記した。

R ・最終目的を「患者が自分の価値観に沿った苦痛の緩和を受け入れられること」と明確に定義し、『患者(または家族)

の気持ちに沿っていくための考え方』が繰り返し記載されている点を高く評価させていだだきます。

・国内では、鎮静について患者・家族を含む国民への情報提供が十分ではなく、当事者であっても考える機会の少ない現状だからこそ、単に手順や投薬など技術的な手引きとしてでなく、医療者が『考え』、さらに患者(または家族)と共に『考えていく』ために活用されることを期待します。(医学的な内容については専門家のみなさまにお委ねし、患者・家族の立場から意思決定を中心に意見を述べます) ―

A ・P2-3 句点が多く文体が少し読みにくいので、修正案を校正刷りに直接書き込みましたのでご参考ください。適宜反映した。

F ・P2 4行目:せん妄、呼吸困難、痛み、など治療抵抗性の頻度順で記載してください。

・P3 1行目:成人だけが対象である根拠について記載してください。読者にとって関心の高いと考えられる痛みからの記載のままとした。

成人を対象とする理由を追記した。

G ・目的が鎮静だけでなく、耐え難い苦痛にどう対応するのかという点を強調されたのが明確でより現場に有用と思う。―

I ・鎮静の効果の指標としてQOLを第一におくのであれば、この後に続く章の該当箇所において、QOLの評価方法なども説明される必要があるのではないでしょうか? P.100でもP.109でもQOLについて言及がないにもかかわらず、本ガイドラインであえてQOLとするならば、相当の配慮を要すると感じました。注3)では不足するかと存じます。QOLの評価方法の一般的な記述は本書の範囲を超えると考えたため今後の課題とした。

K ・診療ガイドラインとしてではなく、考え方の手引きとして示すことを支持します。また鎮静の実施率を緩和ケアの質とし

ない、ということにも賛成です。―

L ・P2 1行目:「緩和治療」と「緩和ケア」を使い分けていますか?

・P3 1行目:成人に限定しているということについて、脚注に記載があるといいと思います。また小児に対してはどうするかということについて議論があったのでしたら、それも脚注にあれば読者にとって参考になると思います。小児に対する見解を追記した。

M ・P3 3.使用者の項 :「ただし単独ではなく、可能な限り、複数の医療従事者で検討する」等の注意書きを記載した方

がよいかと思います。本文で記載しているためこの部分は修正しなかった。

O ・P2 9行目:実践上→実臨床上? どちらでもとは思いますが。

項目との整合性を考えれば「実践」なのだと思いますが、13行目では「臨床現場においては」との記述もみられます。適宜反映した。

2
p.330
外部評価コメント

項目評価者コメント対応コメントQ ・P4 [注]1)は極めて重要なメッセージだと思います。表記法が注釈という形で読まれにくいのではないかと懸念しま

す。

・この項目に限らず、本ガイドライン全体に一貫して言えることですが、注)の部分に、その記載・推奨を決めるに際して委員間でどのような点が議論になったかという非常に重要な情報が書いてあると思います。最後に注)として見過ごされそうな形でサラッと記載するよりは、項目毎に、その都度、背景を変えて記載するなどの方が正確な理解が得られるように思います。

・P3 1.対象 3段落目:非がんに関しては苦痛も多いが実地臨床で困っているアンメットニーズなところなので 「~対応の参考にすることも可能だが~今回は非がんを対象に含めない」よりは 「今回は非がんを対象に含めないが、~対応の参考にすることも可能である」というポジテイブなメッセージにして欲しいです。注が読みやすくなるように編集で体裁等を変更した。

今後の検討課題として非がん患者への適応を検討することを明記した。

A ・分かりやすいです。― C ・P8 治療抵抗性の判断基準の1と2は、一般医(ここでは緩和ケア専門家以外の医師とさせてください)にとって悩ま

しい項目と考えます。「十分な治療を行ったうえで...」「すべての治療が無効であるとき...」といった表現を見たときに、不安に思う一般医は非常に多く、またその悩みは深い(彼らの不全感を助長する)という印象を受けています。なので、本ガイドラインのように、「治療抵抗性の耐えがたい苦痛に対する持続的な鎮静薬の投与を行う前に考えるべきこと(IV章)」の項目があるのは非常に有用と考えます。

・P9 2.鎮静・鎮静薬の最後の段落に関しての感想です。「『治療抵抗性の苦痛』があるときに、オピオイドを増量して鎮静をかける」というプラクティスは、一般在宅に関わる医師のなかでまだまだ行われているように思います。一般医に、「鎮静も『兼ねて』オピオイドを増量する」、すなわち「副次的鎮静を目的としてオピオイドを増量する」という選択は適切でないことを示すことに大きな意義があると考えます。

・P10 調節型鎮静→中止する時期は定めない?

・P13 注4)の最後:「薬剤の種類や投与量によって鎮静とみなすかみなさないかについては...」の一文に同意します。個人的には、薬剤投与時の「意図」は非常に重要と考えます。理由は、現状において鎮静薬投与の「意図」を意識していない一般医が多い可能性が高いからです。しかし、ガイドラインで「意図」を強調してもかえってわかりにくくなるのも事実であり、今回はこのようにするのが妥当だったのだろうと推察します。―

E ・P9  表2下段:「中枢神経系に作用し興奮を鎮静する薬物」とありますが、興奮していない状態でも鎮静されることか

ら、「興奮を」を削際してはいかがでしょうか?検討の結果そのままとした。

F ・P8 「1. 治療抵抗性の...」の6,7行目:順序として、原因治療→苦痛緩和医学的治療→要因改善ケア

・P10「3. 鎮静の分類」:1間欠的鎮静の項目の次に「2持続的鎮静」の見出しを追加、その後は「2-1 調節型鎮静、2- 2持続的深い鎮静、3まとめ」になるよう見出しのレベルを変更間欠的鎮静の扱いについては次回の検討課題とした。

H ・P12 表4下の説明4行目:「鎮静を浅くして...」

浅い鎮静と混同しやすいので、「鎮静薬を減らし始め、症状にあわせて量を調節した」等にしたほうがよいのでは。調節型鎮静は定義では少量ずつ増やしていくイメージでとらえられる。また浅い鎮静という言葉は今回使わないほうがよいと思います。指摘のように変更した。K ・治療抵抗性の苦痛を「患者が利用できる緩和ケアを十分に行っても...」(P8)としたことや、苦痛緩和のための鎮静の

定義に医療者の意図を含めないことは賛成です。鎮静の分類についても実臨床に即したものとなったと思います。

・「調節型鎮静」の用語(P10)については確かに「何を調節するのか」があいまいですし、「段階的~」としても鎮静深度の問題になってしまいそうなので引き続き検討するべきだと思います。―

用語については今後の検討課題とした。

L ・P8 下から4行目:P○○を101と追記されていますが、92だと思います。

・P10 図1:STASやRASSの解説はP84ではなくP15の脚注に移動したほうが読者にとって親切だと思います。・P14 表→表5適宜修正した。

M ・P10 間欠的鎮静の定義に「鎮静薬を数時間投与し、就眠を得た後に鎮静薬を中止すること」とありますが、このよう

な場合だけでなく「家族が面会する時間は中止する」というような場合もあるのでは?指摘の場合も含めて数時間の投与と考えて修正しなかった。

N ・非常にわかりやすいと思います。コメント特にありません。― A ・問題ないと思います。― F ・P18文章とP19の図で一致している部分が多い。

・チームで検討、患者の意思確認は繰り返し記述が必要。・フローチャートの間欠的鎮静の位置は、持続的鎮静の前では?間欠的鎮静の位置づけ(記載場所)については今後の課題とした。

G ・シンプルになってよいと思います。―

L ・P19 「患者の意思と相応性」のところ「で「生命予後」としか書かれていません。前回のガイドラインでは、予後2~3

週間以内という条件がありました。

・P4の注1にあるように、今回のガイドラインでは鎮静は終末期に限らず、治療抵抗性になったときという考え方に今回変更されています。ただ、P4を読まずに図1を見る人がいると思いますので、ここにも解説があったほうがいいと思いますがいかがでしょうか。(P68 注1を参照するように誘導するとか 例 ☞P68 注1)

・または前回のガイドラインと変更されたリストをまとめたページを作成するなどの工夫でもいいと思います。

・なお、持続的深い鎮静の開始についても予測される生命予後に関する考え方は読者に任されますか?

・以前のガイドラインでは、鎮静中のケア(P81)、水分・栄養の考え方、鎮静中の継続的な評価(P80)についても記載されていましたが、今回は削除されてしまったのでしょうか。フローチャートは鎮静前・中・後の大切なポイントを網羅するものだと思います。本文に、「一般的に・・である」との記載があるため、そのままとした。

本文には記載があるが、フローチャートは今回作成しなかったため次回の課題とした。

3

4
p.331
外部評価コメント

項目評価者コメント対応コメントM ・「原則的に」をもう少し左に寄せて、「状況に応じて(限定的)」をもう少し右に寄せておかないと分かりにくいと思いま

す。適宜変更した。

N ・1.苦痛に対する緩和ケア ・せん妄~・呼吸困難~・痛み~とありますが

耐え難い苦痛(せん妄・呼吸困難・痛みなど)とし、下線部を削除しても分かりやすいかと思います。検討の結果修正しなかった。

Q ・P19 フローチャート:

右側のBOXは階層として最上段に待ってきて、その次に 「耐え難い苦痛」とするか、 耐え難い苦痛」の下に右側のBOXを持ってくるなど、鎮静以外の苦痛緩和を十分行った上での鎮静の検討を意識させるチャート階層構造がメッセージとして重要かと思います。

・間欠的鎮静が右側のボックスの1項目として扱われていますが、独立したボックスとして、どのような時に検記する手法なのかの位置づけが欲しいです。

・それぞれの項目に関して対応する章のぺージ記載があると使いやすいと思います。

・また、このチャートが独立した章として 「途中で」出てくることに違和感があるし、ユーザーとしてはもっとも最初のぺージにないと使いにくいと思います。間欠的鎮静の記載部位を含めて今後の課題とした。

A ・問題ないと思います。―

C ・P33 注2:上記(P9についてのコメント)の副次的鎮静についての問題意識から、このように明確に記載されることを

期待していました。とても重要な記述と考えます。―

E ・P27 「難治性になりやすい痛み」と記載すると、これは難治性なので「鎮静しても仕方ない」とか「鎮静しかない」と誤

解されないかと危惧します。29ぺージからは様々な方策について記載されています。例えば「治療に工夫を要する痛み」などの表現をご検討いただければと存じます。

・P30 突出痛の対応経口のオピオイドをレスキュー薬として使用する場合もタイトレーションは必要であると思います。増量の記載のみで、レスキュー薬で傾眠等の副作用が出た場合の減量についての記載がありません。減量の記載についてもご検討いただければと存じます。

・P31 表4 上腹部のブロック方法欄に腹腔神経叢ブロックとありますが、正確には内臓神経ブロックだと思います。しかし、一般的には腹腔神経叢ブロックと表現されることが多いので、内臓神経ブロック (腹腔神経叢ブロック) としてはいかがでしょうか?検討の結果、このままとした。

検討の結果、そのままとした。

F ・P21 タイトル:治療抵抗性の耐えがたい苦痛

・P24~  1 痛み  2せん妄  3 呼吸器という順番になっているが、治療抵抗性の耐えがたい苦痛の頻度順で記載を。

・P24 表1:「心理社会的要因に対するケア」の対応例に「抑うつ」を追加し、「抑うつ、不安、恐怖、怒り、孤独感」などと統一してください。

・P28 「2環境的・心理社会的要因」の見出し→「環境的・」を削除。検討の結果修正しなかった。

検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

適宜修正した。

適宜修正した。

G ・この1~2年、モヤモヤしていた部分です。神経ブロック、くも膜下鎮痛という手段、ペインの専門医が存在することと、

それに対するアクセスの問題があることを併記していただいて、とても救われた思いがします。「クモ膜」ではなく「くも膜」が麻酔科学会とペインクリニック学会の用語集の表記です。

・くも膜下鎮痛は理論的には麻酔にすることもできますので、痛みがとれない訳ではありませんが、実際には痛みを訴えるケースもあります。(麻酔となっているにもかかわらず)そのような際に痛みを正しく評価できるかどうかも問題となります。心が痛いのか?スピリチュアルペインなのか?そこまで考える必要のある手技です。素人がコントロールするものではありません。その場は精神的ケアも必要(重要)となり、身体的痛みと区別されなければならないかもしれません。適宜修正した。

H ・P28 環境的、心理社会的要因 3行目:「看護師やソーシャルワーカー、心理士など多職種で検討する」には精神科

医、心療内科医も入れるべき。

・P29  [オピオイドの増量] 5-6行目:副作用として、中枢神経症状、せん妄...ここに「呼吸抑制」についても言及したらどうか。適宜修正した。

検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

J ・P24-51 1.痛みに対する緩和ケア、2.せん妄に対する緩和ケア、3.呼吸困難に対する緩和ケア

この3項、非常によく書かれていると思うが、各々の専門家により執筆されたことが明示され、保障された方がいいのではないか?(第一執筆者とそのグループ?)あげられた文献もすぐに改訂予定であり、常に最新のGL、情報を参考にすべきであることをP22の[注]などで明示したほうがいいのではないか?適宜修正した。

N ・P29 基本的には、がん疼痛に対する対応を記載していることを明記するのはどうでしょうか。適宜修正した。

O ・P 27 3)原因の治療:経皮的ドレナージを加えてはいかがでしょう。経皮的ドレナージはかなりの症例で有効です。検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

5
p.332
外部評価コメント

項目評価者コメント対応コメントQ ・P33 [注]2)はオピオイド増量に伴う副次的鎮静という臨床的に重要なCQに言及しています。実臨床でこのような手

法は (おそらく)少なからず行われており、かつそのことに対して、オーソリティ一である作成委員が 「慎重に検討すべき」とまで表現するのであれば、やはり注釈としてではなく、独立した項目として、しっかりと言及した方がよいかと思います。・どこまでを治療抵抗性の疼痛とすべきか定義は困難でしょうが、治療抵抗性の疼痛患者で、鎮静が必要と判断された場合には、オピオイドの増量による副次的鎮静ではなく、別個の持続的な鎮静を行うように勧めるような記載があっても良いかと思います。

・この章全体として、「どういうときに持続的鎮静を検討したら良いのか?」という、ユーザーサイドが最も知りたいCQに対する見解が弱いと思われます。それを明文化しない理由もいろいろと書いてはありますが、ある程度の指針として、具体的な例を少し挙げながら示してもらえると使いやすいと思います(e.g.XXXX等の治療を行っても治療抵抗性の疼痛が持続する場合、等) 。その際に、注)にあるような、議論のある点についてはしっかりと記載すれば良いのではないかと思います。逆に、こういう記載がないと、無秩序に鎮静が行われかねない危険や、本当に鎮静を検討した方が良さそうな患者さんに届けられないというデメリットもあるように思います。鎮静そのものの是非がコントラバーシーでしょうが、ガイドラインそのものが鎮静という手法を是認している立場であれば、ある程度は踏み込んで欲しいと思いました。

・「神経ブロックが行えないような施設もあるから~」的な記載もありますが医療リソースへのアクセスに関する施設間不均等はある意味仕方がないことなので、そこに多くの文面を割くのはどうかとも思いました。それを言うならスピリチュアルなケアを提供できる施設はもっと少ないのかとも思いますし。検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

A ・問題ないと思います。―

B ・P37、3行目  明か→明らか

・また、「輸液」と「補液」が混在しているのが少し気になりました。適宜修正した。

C ・P38 4.苦痛を悪化させている要因の改善とケア 1)身体的要因

3行目:特に注意するべき → 特に注意すべき の方が適切でしょうか。

・P41 3行目:「一般的には治療目標は~」→「一般的には一定の治療目標は~」「一定の」などを入れた方がいいように思いました。なぜなら、本当に治療目標が達成されているかどうかはまだわからないので。ただ、どちらでもいいくらいに微妙なところのように思います。適宜修正した。

検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

D ・P34 6行目:「見当識...であり」の部分は不要(削除)。

「見当識障害の出現頻度は3/4程度であり」は3/4は多い。(「3/4程度で少ない」からの意図で記述したのかもしれませんが)この部は不要と思います。検討の結果修正しなかった。

E ・P 39 ハロペリドールの授与量ですが、1回5mgや1日20mgは一般診療ではかなり難易度の高い薬物療法であると思

います。つまり、高用量を投与した場合に起こりうる錐体外路症状をはじめとする副作用について記載していただき、それらに注意しながら増量するといった記載にしなければ、安易に増量されることを危惧いたします。検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

F ・抗精神薬の保険適応に対する記載を。

・P40 21行目:トラゾドン、ミアンセリンの投与量(mg)を記載してください。・P40 「6未解決の課題」3~7行目 せん妄 苦痛→終末期では知見なし、回復するせん妄ではBrueraたちの知見あり。一般的な内容なので検討の結果修正しなかった。G ・せん妄の対応がわかりやすいです。―

L ・P36 表3 のテーマ:

「緩和ケアの対象となるがん患者のせん妄の主な直接原因、誘発因子、準備因子」という表現; * 「診断されたときからの緩和ケア」という時代ですから、「緩和ケアの対象」という言葉を他の表現にした方がいいと思います。代替案を出せないのですが。または 「緩和ケアの対象となる」を削除して 「がん患者」だけでいいのではないでしょうか。

・P37 クエチアピンの推奨はいいと思うのですが、糖尿病、高血糖は禁忌という表示はなくても大丈夫でしょうか。

・P41 表3はP36 にありますので、表4ですね。左記のことから、P40の本文も、表3→表4 に修正。

・P41 11行目 医療者が患者の苦痛はそれほどでもないとみえたとしても、家族が鎮静をもとめたときにどのように対応するのか、2O10年度版にあるような会話例があると読者にとって有用だと思います。

・P40 未解決の課題過活動型せん妄に対して鎮静をすることは、身体的抑制にあたるのではないかという議論について触れるといいと思います。せん妄患者の苦痛緩和を目的にする鎮静と、周囲の人 (医療者含む)が患者に対応するのが困難なために鎮静する(≒抑制)こととは異なることに言及するのはいかがでしょうか。適宜修正した。

一般的な内容なので検討の結果修正しなかった。

検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

N ・P 39 クエチアピン、オランザピンについてはDMに注意が必要な旨加えておいてもよいと思います。一般的な内容なので検討の結果修正しなかった。A ・問題ないと思います。―

6

7
p.333
外部評価コメント

項目評価者コメント対応コメントD ・P47 1行目 (誤)「完全に臥床するより」⇒(正)「完全に仰臥位にするより」

・P48 1行目 「フェンタニルは一般的には使用されない」⇒フェンタニル速放製剤と呼吸困難の報告はあるため、わざわざ記載しなくてもよいと思います。削除でもよいと思います。

・P49 2オピオイドの変更「モルヒネからオキシコドンへは通常変更しない」⇒「薬理作用からオキシコドンも一定の効果があると考えられている(P47)」ので、わざわざ記載しなくてもよいと思います。削除でもよいと思います。

・P50 2)薬物療法以外の治療 2行目「低酸素血症を伴わない場合には酸素は必ずしも有効でないが」⇒ Lancet2010 Sep4;376(9743):784-793 を引用してもよいかと思います。適宜修正した。

検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

引用文献は全体として最小限とする方針のため検討の結果修正しなかった。

F ・P47 「2 環境的・心理社会的要因」の見出し→「環境的・」を削除。適宜修正した。

G ・P47 「5医学的治療」の項に、ヒドロモルフォン注は入れますか?販売から間もなく臨床経験が少ないことから検討の結果修正しなかった。L ・P45 表3肝腫大による横隔膜の運動制限など、原因に応じた対応が空白になっています。

空白=対応不可?

具体的な内容がなけれないけないということではないので、検討の結果修正しなかった。N ・P46、表記は「ベタメタゾン」が一般的でしょうか?適宜修正した。

A ・問題ないと思います。― F ・P52 精神的ケアが苦痛に対する閥値をあげるという根拠は、痛み、せん妄、呼吸困難のそれぞれに対してあるでしょ

うか。タイトルの「苦痛に対する閾値をあげ」を削除。検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

G ・「閾値をあげる」という表現はすばらしい― H ・P60-61 表1

ミダゾラム、フハニトラゼパム注射薬の投与量については、「適宣生理食塩水で希釈し」などのコメントは不要でしょうか?原液での投与は静注の場合にはありえないと考えますが。(皮下注はあるかもしれません)適宜修正した。

K ・この章内で鎮静の実施に至るような治療抵抗性の苦痛は、先に述べたような単一の苦痛(せん妄、呼吸困難)という

わけではなく、個々の苦痛の総和(複合的)であることもよく経験する、というような内容も追記されるとより良いと思いました。検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

L ・P53  表1-4   情緒的サポートの3 つ目  非言語的メッセージ (目・・・)

「目」というより、まなざし、視線...という表現の方がいいでしょうか。←絶対ではありません。

・P54 「1生きる意味・心の穏やかさ・・・」の項目の5行目「愛している家族と~~」という表現:近頃、家族がいない患者、家族がいても疎遠な患者等々が増えていることから、「愛している人たちと~~」の方がすべての患者に当てはまる表現になると思います。(P55本文も)

・P56 下L7 表1-2の表示の順番と本文の順番を合わせた方が読みやすいです。表が引用文献なら、本文を「関係性」「自律性」「時間性」の順に変更しますか?適宜修正した。

適宜修正した。

適宜修正した。

A ・問題ないと思います。―

D ・P60 3段落2行目 (誤)プロチゾラム坐薬⇒(正)ブロマゼパム坐薬適宜修正した。

E ・P61 表1 ブロマゼパム坐薬の特徴欄で、「比較的効果が弱い」とありますが、臨床的にジアゼパム坐薬と比して、決

して弱いという印象はありませんが、いかがでしょうか?直接比較の臨床試験はありませんし、動物実験では抗不安作用はブロマゼパムの方が強いという結果もあります。よって「比較的効果が弱い」は削際した方がよいように思います。

・また、坐薬については効果持続時間の目安が有った方が利用しやすいように思います。検討の結果修正しなかった。

検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

F ・この章 V章の1ではないでしょうか。検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。G ・P79、表1

ミダゾラムの投与について、皮下注の場合なら、0.1mlが0.5mlになるので原液もありですが、静注の場合は生理食塩水に希釈してという記述があったほうがよいと思います。(非専門家が見るものなので)適宜修正した。

K ・P60 本文9行目:「ブロチゾラム坐薬」→「ブロマゼパム坐薬」です。

臨床現場では間欠的鎮静の実施はよく行われている実践だと思うので「注」を付して記載するのは良いと思います。適宜修正した。

Q ・間欠的鎮静の位置付け、使いどころが不明瞭だと思いました。やはり、ある程度具体的な例を言葉で示してもらえると

ありがたいです。

間欠的鎮静の位置づけは検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。A ・P77  注3) に書かれているコミュニケーションの例は非常に重要な内容だと思いますので、ここではなく、他の「コ

ミュニケーションの例」と同じ扱いにして載せたほうが良いと思います。

・P79 表1の注釈 には重要なことが多く書かれているので、注釈は必要最低限にして多くは本文に移したほうがよいと思います。内容的にこの部分に該当するので検討の結果修正しなかった。

B ・P71 [コミュニケーションの例]の最下行「ご一緒」の「ご」は不要。(行うのが医者側なので)

・P83 5行目:「困らない」の後に「使用例」と入れる?適宜修正した。

8

9

10
p.334
外部評価コメント

項目評価者コメント対応コメントC ・P82 注2) 2段落目:「にもかかわらず」以降

しつこいようですが、主であれ副次的であれ、鎮静を目的とするオピオイドの増量を避けることを重要視したい私の立場としては、この記述に賛成します。―

D ・P67 4.精神的苦痛の鎮静の対象としての相応値  最後の行:

(誤):場合にのみ考慮されうるが、原則として対象にならない。⇒(正):場合にのみ考慮されうるが、精神的な苦痛は原則として対象にならない。

・P70 2.意思決定能力がある患者の希望の確認の仕方1段落目最後の行:(誤)ないことの両方が重要である。⇒(正)ないことの両方が対処すべき課題となる。

・P72 最後の行:(誤)説明文書は丁寧で心をこめた説明の代わりにならないこと⇒(正)説明文書は丁寧で心をこめた説明にあたっての、あくまでもツールであること

・P77 コミュニケーション例は網かけで目立つようにしてもよいと思います。

・P82 表3 右下の枠:(誤)オピオイドの代謝産物が排泄されるため⇒(正)オピオイドの代謝産物の排泄遅延のため

・P82 注2) 7行目:「つまり...死亡したようにみえる。」文章が分かりにくい。⇒(正例として)つまり、鎮静の対象となっている苦痛の病態(例えば、致死的な出血が急に生じたなど)に対し、鎮静薬を投与した際に、たまたま鎮静薬の投与後に苦痛の病態によって死亡した場合であっても鎮静薬を投与したために患者が死亡したようにみえるため、家族の罪悪感につながる恐れがある。

・P82 注2) 2段落:(誤)「にもかかわらず」⇒(正)「一方」(誤)「可能性があるためである」⇒(正)「可能性がある」(誤)「その場合」⇒(正)「このため仮に」検討の結果、適宜修正した。

G ・意志決定過程はわかりやすい。診療録の書き方も有用。薬剤投与の具体性は良いか?

未経験者がこれを読んだだけで行えるかどうかが、日頃行っている私にはわかりません。―

I ・意思決定能力の評価方法について、GrissoらのMacCAT-Tなど参照されたことと拝察します。もし可能でしたら、英文または和文の参考文献を追記くださいますと、より正確な評価法を学びたい読者に役立つと存じます。また、「人生の最終段階における......ガイドライン」の記載を確認のうえ、推定意思が明らかでない場合の手続きについて追記されることをおすすめいたします。ベストインタレストの扱いについては検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。K ・P73 説明文書例を提示すると文書にサインすることが説明責任を果たすと誤解されるので、例示しなくてもよいと思

います。持続的鎮静を目的とした坐薬の使用はするべきではないと明記したうえで、注射薬を使用できない場合の例外的使用であるとしたほうが良いと思います。文書の例示を希望する意見もあるため検討の結果修正しなかった。

L ・P64 表1のC 以前のガイドラインは「患者の意思かつ家族の同意」でしたが、今回のガイドラインは患者の意思を尊

重し、家族の同意は「望ましい」に変更されたのですね。脚注に記載

・細かなことですが、P66 「2治療抵抗性の確実さの評価のしかた」の2行目に「精神腫瘍医」という表現があり、その他は「精神科医」のみです。

・鎮静の説明文書例、診療録への記録についても書かれていて、いいと思います。

・P79 表1    2つ目の項目「15~30分毎を目安に*」の「*」はどんな意味がありますか? ―

適宜修正した。

―

適宜修正した。

M ・P73 図1 「鎮静等の投与」6行目:患者さんの意識が保たれることもなくなることも

この       部分の文言↑はない方が分かりやすいと思います。検討の結果修正しなかった。

Q ・1.要件~4.意思決定過程(P64-77)の部分は、おそらく実臨床において最も重要であり、どの薬を使うのかというhow

to よりも、このプロセスを丁寧・慎重に行うことを強調したいのではないかと思います。しかしながら、この部分は緩和の非専門医が実臨床において意思決定の参考にするにはやや難解な印象があります。可能な限り、緩和専門の先生方の思考過程を簡略化したようなアルゴリズム・チャートで示していただけると分かりやすいと思いました。   (e.g.「患者の意思決定能力がある」→ Yes/No 的な)検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。
p.335
外部評価コメント

項目評価者コメント対応コメントR ・P72 表1に「いつまで決めなければならないのか」「後に変更できるのか」といった内容を含めるのはどうか。

→ 鎮静に限らず、医療者からの問いに対して回答を急ぐ傾向が患者・家族にはあります。心身ともにつらい状況の中で考えは揺らぐこともあり、時間的制限についての情報も伝えることが、多少でも落ち着いて考えることにつながると考えます。

・P72 表1に「他の専門家にコンサルトすることができることを伝える」を加えるのはどうか。→ オランダのGL(P 96)に記載がある点。国内では他の専門家に依頼できる状態は限られ、現実的ではないかもしれないが、患者・家族にとっては重要な点と考えます。

・P73 図1 【鎮静開始後のケアについて】の中の「日々のお世話」を「日々の治療、看護」としてはどうか。→「お世話」という単語だと、鎮静が始まってしまうと医師や看護婦の手が離れ見放されてしまうのかと誤解を生む可能性があると考えます。

・P75 7.チーム医療について、もう少し踏み込んだ表現が必要ではないか。例:P76 3行目 複数の視点から意見を求めるようにする→ 意見を求めることを強く推奨する。→ 患者の同意取得方法が明確に提示されていない(そもそも明確な同意を得ることも難しいと考えられる)状況で、特定の医療者の判断のみで決定されることは避けなければならないと考えます。海外のGL(P.95)程度の記載が必要と考えます。

・P75 7.チーム医療について、看護師や心理職、宗教家など具体的な役職を記載してはどうか。→ 意思の確認につながる患者の背景になどについてより深く理解している場合も多く、単に「多職種」とするのではなく具体的な役職を挙げることで、チームとして取り組むことが明確になると考えます。

・P81 「鎮静後の患者・家族へのケア」という項目が必要ではないか。→  鎮静後の減量または中止をもって終了した際のケアも重要であると考えます。特に、結果として死亡に至った場合の家族へのケア(静かな時間を過ごせるような配慮、鎮静を選択したことへの支持、今後のことなど)について記載が必要であると考えます。検討の結果適宜修正した。修正しなかった部分については今後の課題とした。

A ・問題ないと思います。―

B ・P89 12行目 「と少なくても...」の「と」は不要。適宜修正した。I ・プロセスにおいてチームまたは当事者と話し合われた内容が、その都度記録されて適切に保管されることは欠かせませんので、留意すべき事項として付記をご検討ください。適宜修正した。

L ・ 鎮静と安楽死との違い (P89)は補注ではなく、本文に入れてもいいと思います。

とても大切な概念だと思いますので。全体の構成から検討の結果修正しなかった。

A ・問題ないと思います。― B ・P112 1行目:「自宅では...」だけ浮いているのでP109の最後に入れられない?

・P114 「ついて」が多すぎ。・同P 本文下から2行目:「鎮静について意識が~」は「鎮静によって意識が~」が妥当・P115 表6-1内も同様・P117 4行目:「寿命が短くなるか」の後に「否か」(もしくは「どうか」など)を入れますか?・同P 「8.鎮静は生命予後を短くするのか?」 3段落 3行目:「生存期間の」→「が」適宜修正した。A ・問題ないと思います。―

D ・P109 4 鎮静の効果はどうか? 9行目:「ad-hoc」→日本語で表記したほうがよいと思います。

・P109 P113  proportional sedation,deep sedation→日本語併記で表記したほうがよいと思います。・P112 一番上「自宅では浅...がある36)。」は、つながりの意味が分からないです。分かりやすく記載いただけたら。検討の結果適宜修正した。修正しなかった部分については今後の課題とした。L ・膨大な文献検討やまとめ等の作業をありがとうございました。― A ・問題ないと思います。―

B ・P138 「1.検討する内容の明確化」 2段落目:「個人の生命が...」が分かりづらい。「生命予後の短縮」が利益?

検討の対象は「生命予後」で、侵害されると「短縮」するのでは?下に「不利益(生命の短縮)」とあり矛盾。

・P140 下から2行目:「生命予後の短縮(侵害されると想定する益)」もわかりにくい。適宜修正した。

D ・P142

4)必要性・緊急性 3行目(誤)予測される生命予後までに有効であり、かつ、合併症の⇒(正)予測される生命予後までに、有効であり、かつ、合併症の

5)患者への説明と患者の意思 2段落目(誤)厚生労働省「人生の...ガイドライン」(平成27年3月改訂) ⇒(正)厚生労働省「人生の...ガイドライン」(平成30年3月改訂)検討の結果適宜修正した。修正しなかった部分については今後の課題とした。

K ・臨床で実施される鎮静の違法性阻却について明確にすることは実地臨床家にとって大変ありがたいと思います。―

L ・踏み込んだ記述がされていて、画期的だと思います

・P141 下2行目 :「生命予後が時間から日の単位」と考えられる患者を前提としているという表現がありますが、今回のガイドラインには具体的な生命予後については触れられていません。ここだけ具体的な数字が記載されていて、ガイドラインとして一貫性がないように思います(P142の1行目も)。逆にフローチャートや本文に鎮静開始の目安(具体的な予後予測)を記載しなくていいですか。―

検討の結果修正しなかったが、今後の検討課題として記載した。

A ・問題ないと思います。―

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p.336
外部評価コメント

項目評価者コメント対応コメントJ ・作成方法「1名の委員が~作成し~」というやり方でよいか?

卓越・突出した1名のスペシャリストが完成度の高い「論文」を、他委員があまり議論にならず完成したと批判されないだろうか。やや危惧される。

・2回のデルファイですぐに中央値9.6以上の差が11項目しかなくなるのはやや違和感あり。

・初原稿に大きく関与した執筆者は(呼吸器・山口先生など)分担執筆者として明示したほうがいいのではないか?適宜修正した。

―

適宜修正した。