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Clinical Guidelines for Palliative Sedation Therapy edited by Japanese Society for Palliative Medicine ©2010 All right reserved. KANEHARA & Co., Ltd., Tokyo Japan Printed in Japan
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iii 緩和医療ガイドライン作成委員会委 員 長 志真 泰夫 筑波メディカルセンター病院緩和医療科担当委員 池永 昌之 淀川キリスト教病院ホスピス 鎮静ガイドライン改訂作業部会部 会 長 池永 昌之 淀川キリスト教病院ホスピス委 員 明智 龍男 名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野 安達 勇 静岡県立静岡がんセンター緩和医療科※安保 博文 国家公務員共済組合連合会六甲病院緩和ケア科 大西 秀樹 埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科大谷木靖子 昭和大学横浜市北部病院看護部河 正子 NPO 法人緩和ケアサポートグループ(PCSG)木澤 義之 筑波大学大学院人間総合科学研究科栗原 幸江 静岡県立静岡がんセンター緩和医療科※清水 哲郎 東京大学大学院人文社会系研究科 下山 直人 国立がん研究センター東病院緩和医療科・精神腫瘍科※新城 拓也 社会保険神戸中央病院緩和ケア病棟 高橋(岡田)美賀子聖路加国際病院オンコロジーセンター中島 信久 札幌南青洲病院緩和治療科※中保 利通 東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野※林 章敏 聖路加国際病院緩和ケア科 二見 典子 財団法人ライフプランニングセンターピースハウス病院看護部向山 雄人 癌研有明病院緩和ケア科森田 達也 聖隷三方原病院緩和支持治療科※小山富美子 近畿大学医学部附属病院がんセンター看護部※須賀 昭彦 静岡済生会総合病院緩和医療科※所 昭宏 国立病院機構近畿中央胸部疾患センター心療内科※鎗野 りか 財団法人田附興風会医学研究所北野病院看護管理室※余宮きのみ 埼玉県立がんセンター緩和ケア科 稲葉 一人 中京大学法科大学院尾藤 誠司 NHO 東京医療センター教育研究部/臨床疫学研究室 ※評価(デルファイ)委員
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v 日本緩和医療学会は今年創立15 周年を迎え,会員数も8,500 名余となりました。この間,本学会は本邦における緩和医療学Palliative Medicine の専門性の確立と普及に微力ながら力を尽くしてきました。学会の果たすべき重要な役割の一つに,全国各地における質の高い緩和医療体制の整備があります。それを実現するために,学会として緩和医療に関する診療ガイドラインの作成および体系的なカリキュラムに基づく教育・研修を実施しています。すでに本学会緩和医療ガイドライン作成委員会の活動の成果として,「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」(2004 年9 月)が厚生科学研究班の協力を得て作成され,次いで,「終末期癌患者に対する輸液治療のガイドライン」(2006 年10 月),「がん補完代替医療ガイドライン」(2008年10 月)がそれぞれ学会会員向けの出版物として公表されました。がん緩和医療の最大の課題であるがん疼痛についての新たなガイドラインの作成作業は,この10 年間にオピオイド鎮痛薬等の種類・剤型や投与方式が増えたこと,オピオイド以外の薬物療法や鎮痛対策が増えたことなどもあり,作成委員会の委員にとって大変な努力が必要となりました。今般,「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」(以下,がん疼痛ガイドライン)「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」(以下,鎮静ガイドライン)はこれらの経過をふまえて,緩和医療における標準的治療の普及と基本的な知識・技術の理解を深めることを目的に出版することとなりました。「がん疼痛ガイドライン」「鎮静ガイドライン」の作成にあたっては,医師,看護師,薬剤師をはじめ多職種が関わり,さらに臨床倫理や法律の専門家,ソーシャルワーク,臨床心理などの専門職,他学会の専門家も加わり,標準的なガイドライン作成方法を遵守し,学際的な共同作業を通じて作り上げることができました。ガイドライン作成に携わっていただいた多数の学会員の皆さん,そして,協力をいただいた専門家の方々にこころから感謝申し上げます。皆さんの協力なしには,この2 つのガイドラインを出版までこぎ着けることはできなかったと思います。2007 年4 月から施行された「がん対策基本法」とそれに基づいて策定された国の「がん対策推進基本計画」は,患者中心の視点をその理念にすえたことで,本邦のがん医療に大きな変化をもたらそうとしています。全国各地でがん患者・家族の方々が安心して質の高い緩和医療を等しく享受できるようになるために,本ガイドラインを参考として活用していただければ幸いに思います。今後,本学会緩和医療ガイドライン作成委員会は,さらに各種の緩和医療に関するガイドライン作成を目指し,また,定期的な改訂作業にも努力する所存です。末筆ながら,短期間での出版にご努力いただいた金原出版の編集スタッフの方々にもこころから感謝いたします。 2010 年5 月 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 理事長 江口研二 発刊にあたって
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vii 目 次 I章 はじめに 1 ガイドライン作成の経緯と目的2 2 適応の注意3 1.対 象3 2.効果の指標3 3.使用者3 4.個別性と人間性の尊重3 5.定期的な再検討の必要性4 6.責 任4 7.利害関係4 II章 開発過程 1 開発過程6 1.見直しのポイント6 ❶ ガイドラインの適応と利用者の拡大6 ❷ 「生命倫理学的基盤」の見直し6 ❸ 鎮静において使用される薬剤6 ❹ 鎮静の定義と方法について7 ❺ 治療抵抗性判断のためのチェックリスト について7 ❻ 鎮静の説明文書(例)について7 ❼ フローチャートについて7 2.系統的文献検索7 3.文献の根拠の水準と推奨レベル8 4 ガイドライン作成における事前質問紙調査 8 ❶ 調査目的と方法8 ❷ 調査結果9 ❸ 調査結果の考察10 ❹ 妥当性の検証10 5.ガイドライン開発者11 ❶ 2005 年版ガイドライン開発者11 ❷ 2010 年版ガイドライン開発者12 2 今後の検討点14 1.対象・方法14 2.定 義14 3.臨床的・医学的項目14 4.生命倫理学的・法学的項目14 III章 定 義 1 鎮静の定義と分類16 1.鎮静の定義16 2.鎮静の分類16 3.その他の定義16 IV章 鎮静実施のフローチャート 苦痛緩和のための鎮静における評価・意思確認・治療・ケアのフローチャート 20 V章 推奨と委員会合意 1 倫理的妥当性24 1.鎮静の益と害24 2.鎮静の倫理的妥当性24 3 鎮静が予後を短縮する効果を伴う場合を どう考えるか24 4.家族の役割25 2 要 件26 3 治療とケアの実際27 1.医学的適応の検討27 ❶ 耐え難い苦痛の評価・内容27 ❷ 治療抵抗性の定義・評価27 ❸ 全身状態・生命予後の評価28 2.患者・家族の希望の確認32 ❶ 意思決定能力の定義・評価32 ❷ 患者に意思決定能力がない場合の意思 決定過程32 ❸ 説明内容33 ❹ 意思表示の自発性・継続性36
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viii ❺ あらかじめ患者・家族の意思を確認す ることについて36 ❻ 患者と家族の意思が異なるとき37 ❼ 家族内の意思が異なるとき37 3.鎮静の開始38 ❶ 鎮静方法の選択38 ❷ 人工的な水分・栄養の補給についての 決定38 ❸ 苦痛緩和が目的ではない治療について の決定38 ❹ 鎮静開始前に用いられていた薬剤の調節 38 ❺ 患者・家族の気がかりへの配慮39 ❻ 鎮静の開始39 4.鎮静の開始後のケア40 ❶ 鎮静の開始後の評価40 ❷ 看護ケア41 ❸ 家族に対するケア41 ❹ 医療スタッフに対するケア41 VI章 文献的検討の要約 1 医学的検討44 1.頻 度44 2.対象症状45 3.鎮静期間46 4.使用薬剤46 5.意思決定過程47 6.効果・有害事象47 7.家族へのケア50 8.スタッフのストレス50 9 鎮静や安楽死施行における臨床医の態 度に関する臨床的研究51 2 生命倫理学的検討53 1.鎮静と積極的安楽死53 2 鎮静における好ましい効果と好ましくな い効果53 3.鎮静の倫理学的基盤53 ❶ 自律性原則(principle of autonomy) 53 ❷ 相応性原則(principle of proportionality) 54 ❸ 2 重効果の原則(principle of double effects)と行為の意図54 4 2005 年版ガイドライン作成後の緩和 ケア病棟に対する調査55 ❶ 2005 年版ガイドラインに基づく深い 持続的鎮静の効果と安全性55 ❷ ガイドラインに基づく鎮静施行に関する 倫理的考察56 5.他のガイドラインの要約57 ❶ EAPC(the European Association for Palliative Care)のガイドライン57 VII章 文 献 1.系統的文献検索で得たもの60 索 引67
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I章はじめに 1 ガイドライン作成の経緯と目的2 適応の注意
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1 ガイドライン作成の経緯と目的 一部のがん患者は,意識を保つことを前提とした緩和ケアでは緩和することができない苦痛を体験する。鎮静は,こういった緩和困難な苦痛に対する手段の一つであるが,医師,あるいは,施設による施行率に大きな差があり,緩和ケアの経験や考え方が施行に影響している。鎮静が過剰に行われた場合,意識を低下させずに緩和され得る苦痛をもった患者に不必要な意識低下をもたらすという好ましくない現象が生じる。一方,鎮静によってしか緩和されない苦痛をもった患者に鎮静が適用されなかった場合,患者は不必要な苦痛を強いられることになる。特に,深い持続的鎮静は患者・家族に与える影響が大きい。苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010 年版(以下,本ガイドライン)作成の目的は,医師や看護師が鎮静,特に深い持続的鎮静を適切に行い得るよう支援することを通じて,患者がより質の高いケアを受けられるようにすることである。 本ガイドラインは,2005 年に公開された「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」(以下,2005 年版ガイドライン)をもとにして作成された。2005 年版ガイドラインは,厚生労働省厚生科学研究「がん医療における緩和医療及び精神腫瘍学のあり方と普及に関する研究」班(以下,当該班)の「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン作成委員会」(以下,鎮静ガイドライン作成委員会)が作成し,日本緩和医療学会理事会が承認したものである。なお,2005 年版ガイドラインは,日本緩和医療学会の会員向けに公開されたものであり,現在は資料として日本緩和医療学会ホームページにて公開されている。
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I章はじめに 2 適応の注意 1 対 象 以下の要件のいずれかを満たす,治癒を見込むことができない成人のがん患者とその家族を対象として想定する。1 緩和ケア病棟に入院している2 緩和ケアチームの診療を受けている3 緩和ケアチーム,もしくは緩和ケアに習熟した医師の診療・助言のもとで診療を受けている 2 効果の指標 生・生の最後・死の質(quality of life, dying and death)を効果の指標とする。何が生・生の最後・死の質を決定するかは,患者・家族の価値観によって異なるため,画一的には決定できないが,多くの患者・家族にとって,生・生の最後・死の質の重要な要素となるのは,身体的苦痛の緩和,精神的穏やかさ,人生の意味や価値を感じられること,家族との関係を強めること,死に対する心構えができること,心残りがないことなどである。 3 使用者 緩和ケア病棟や緩和ケアチーム,あるいは,緩和ケアチームもしくは緩和ケアに習熟した医師の診療・助言のもとで診療を行っている医療チームを本ガイドラインの使用者とする。 4 個別性と人間性の尊重 本ガイドラインは,ガイドラインに従った画一的なケアを勧めるものではない。ガイドラインは臨床的,学問的に満たすべき一般的な水準を定めているが,個々の患者への適用は,対象となる患者の個別性に十分配慮し,医療チームが責任をもって決定するべきものである。また,本ガイドラインの適用にあたっては,ガイドラインの各項目を満たすかどうかを判断することだけが医療チームの役割ではないことを十分に認識する必要がある。ガイドラインの項目を十分に検討することを通じて,患者・家族と理解を深め合い,ともに困難な過程を分かち合うことが重要である。本ガイドラインでは鎮静に限定した内容のみを表記している。しかし実際の適用にあたっては,鎮静だけを議論することは適切ではなく,患者・家族の人生や生活全体に及ぶ配慮が必要である。
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5 定期的な再検討の必要性 2012 年度末までに再検討をする(改訂責任者:日本緩和医療学会理事長)。 6 責 任 本ガイドラインの内容については日本緩和医療学会理事会が責任をもつが,個々の患者への適用に関しては患者を直接担当する医師が責任をもつ。 7 利害関係 本ガイドラインの作成にかかる費用は,日本緩和医療学会のガイドライン作成委員会より拠出された。本ガイドライン作成のどの段階においても,ガイドラインで扱われている薬剤の販売会社など利害関係を生じ得る団体からの資金提供は受けていない。また,ガイドラインに参加した委員は,扱われている薬剤の販売会社など利害関係を生じ得る団体との関係をもたない。
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II章開発過程 1 開発過程2 今後の検討点
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1 開発過程 ここではまず,2005 年版ガイドラインの開発過程を示す。2005 年版ガイドラインでは,系統的文献検索,および,国内外の既存のガイドラインをもとに,当該班の「鎮静ガイドライン草案作成小委員会」が草案を作成し,「鎮静ガイドライン作成委員会」がデルファイ法によって妥当性を審議し,暫定稿を作成した。さらに,外部委員,エンドユーザー,および,患者遺族の評価を得たあとに,再びデルファイ法による審議を行い,緩和医学専門誌のpeer -review を得て,最終の2005 年版を作成した。最後に,委員の所属する診療機関における患者を対象として実施の可能性を確認した。次に,本ガイドラインの開発過程を示す。まず,2005 年版ガイドラインをもとに,全国の緩和ケアチームを対象にガイドラインに対する質問紙調査を行い,それをもとに「鎮静ガイドライン改訂作業部会」が草案を作成した。そのうえで,「鎮静ガイドライン改訂作業部会評価(デルファイ)委員」が2 回のデルファイ法によって妥当性を審議し,これを暫定稿として日本緩和医療学会理事会が承認したものが本ガイドラインである。 1 見直しのポイント ガイドライン2010 年版とガイドライン2005 年版の主な違いを以下にまとめる。 1 ガイドラインの適応と利用者の拡大 2005 年版を利用した緩和ケアチームに対する質問紙調査の結果に従い,鎮静ガイドライン改訂作業部会での議論に基づいて,本ガイドラインの適応に「緩和ケアチームもしくは緩和ケアに習熟した医師の診療・助言のもとで診療を行っている医療チームを本ガイドラインの使用者とする」という項目を付け加えた。この変更に伴い,多くの臨床医・医療従事者が利用できるよう意図して,ガイドライン本文内容を変更した。 2 「生命倫理学的基盤」の見直し「生命倫理学的基盤」の項を見直し,「倫理学的妥当性」として改め,その内容について可能な限り明確に述べる表現とした。a.鎮静がもたらす益(benefits)と害(harms)について定義した。b.相応性(proportionality)について見直しを行った。苦痛緩和を目指す諸選択肢の なかで,鎮静が相対的に最善と評価される倫理的要件を明記した。また,より好ましい手法を示した。c.鎮静が予後を短縮する効果を伴う場合について,委員会の見解を示した。 3 鎮静において使用される薬剤 鎮静に用いられる薬剤についての記載を変更した。これまでの報告により,第一選択薬としてはミダゾラムのみを推奨した。第一選択薬であるミダゾラムが有効でない場合のほかの薬剤として,クロルプロマジンとレボメプロマジンを削除し,プロポフォールを加えた。また,在宅での対応として,坐剤により使用できる薬剤を加えた。
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II章開発過程 4 鎮静の定義と方法について 鎮静の種類(持続的鎮静,間欠的鎮静,深い鎮静,浅い鎮静)ごとに,具体的な鎮静の方法を新たに記載した。また,薬剤選択についての表を新たに作成した。 5 治療抵抗性判断のためのチェックリストについて 2005 年版を利用した緩和ケアチームに対する質問紙調査の結果に従い,治療抵抗性の苦痛を判断するためのツールとして,「治療抵抗性判断のためのチェックリスト」を作成した。 6 鎮静の説明文書(例)について 2005 年版を利用した緩和ケアチームに対する質問紙調査の結果に従い,鎮静について説明するための文書例「患者・家族に行う鎮静についての説明文書(例)」を追加した。 7 フローチャートについて 鎮静施行に関するアルゴリズムについて,フローチャートとして間欠的・浅い鎮静から持続的・深い鎮静への移行過程を詳細に示した。対応する本文のページをフローチャートに記載した。 2 系統的文献検索 (1)~(3)に該当する論文114 編を対象とした。(1)1990 年から2008 年1 月までに出版された医学論文をPUBMED によって検索し た。検索語は,「palliativesedationORterminalsedation」を用いた。該当した論文300 編のうち,以下の基準に当てはまる論文138 編を得た。適格基準・英語論文・実証研究,系統的レビュー,または,著者の見解が記載されたもの除外基準・症状としてのsedation(傾眠,眠気)を扱っているもの・集中治療における鎮静を扱っているもの・健康人,小児,動物を対象としたもの・薬理学的研究,生理学的研究・内視鏡検査など処置に伴う鎮静を扱ったもの (2)日本語文献として,1990 年から2008 年1 月までに出版された医学論文を日本医学 中央雑誌を用いて検索した。また,「ターミナルケア」,「緩和医療学」,「死の臨床」誌を創刊号からhandsearch にて検索した。検索語は,「鎮静 または セデーション」を用いた。その結果,以下の基準に当てはまる原著論文11 編を得た。適格基準・実証研究,系統的レビュー,または,著者の見解が記載されたもの
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除外基準・症状としてのsedation(傾眠,眠気)を扱っているもの・集中治療における鎮静を扱っているもの・健康人,小児,動物を対象としたもの・薬理学的研究,生理学的研究・内視鏡検査など処置に伴う鎮静を扱ったもの (3)(1),(2)の引用文献から41 編の論文を得た。 3 文献の根拠の水準と推奨レベル 各論文の根拠の水準を評価するために,OxfordCentreforEvidence-basedMedicine LevelsofEvidence(2001)を使用し,レベル4 をさらに6 つに分類した(表1)。得られた論文の根拠のレベルはほとんどが4 以下であった(文献の各文末に記載)ため,根拠の水準に基づく推奨レベルは用いなかった。 表1 本ガイドラインで使用した根拠の水準 1a 1b 1c Randomized controlled trial の系統的レビューRandomized controlled trial全か無かの case series 2a 2b 2c Cohort study の系統的レビュー質の高い cohort study Outcome research, ecological studies 3a 3b Case-control study の系統的レビュー質の高い case-control study 4a 4b 4c 4d 4e 4f Randomized controlled trial 以外の介入研究質の低い cohort study Cross-sectional study質の低い case-control study,あるいは,case series Case reports質的研究 5 専門家の意見 4 ガイドライン作成における事前質問紙調査 本ガイドライン作成にあたり,事前に以下のような調査を2007 年度に行い,ガイドライン草案作成の参考にした。 本ガイドライン作成にあたり,使用者の立場からの意見を集積するため,全国の緩和ケアチーム担当者に対して,郵送法による質問紙調査を行った。また,今後のガイドラインのあり方についても意見を収集した。日本緩和医療学会に登録している緩和ケアチーム245 施設の担当者(医師・看護師など問わず)に対して,郵送法による質問紙調 1 調査目的と方法
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II章開発過程 査を行った。 2 調査結果 245 施設に質問紙を送付したところ,127 施設より回答を得た。回答率は51.8%であった。 1)ガイドラインの利用度と有用性ガイドラインの利用度は,「よく利用している」:8.0%,「利用している」:27.2%,「時に利用している」:31.2%,「あまり利用していない」:21.0%,「利用していない」: 12.8%であった。一方,有用性については,「とても有用」:20.0%,「有用」:60.0%,「やや有用」:16.8%,「あまり有用ではない」:2.1%,「有用ではない」:0.8%であった。 2)使用者の限定についてガイドラインの使用者の拡大としては,「現在のままでよい」:14.5%,「使用者を広げたほうがよい」:85.5%で,後者の内訳としては,「緩和ケアチームのサポートのもとで」:43.5%,「多職種からなる医療チームで」:24.2%,「複数の医師の判断のもとで」: 15.3%,「一定の基準(学会のセミナーなどへの出席など)を満たした者」:2.4%であった。 3)各項目への評価各項目への評価は以下のとおりであった。1生命倫理学的基盤の事項「とても有用」:21.1%,「有用」:62.6%,「やや有用」:12.2%,「あまり有用ではない」: 3.3%,「有用ではない」:0.8%であった。2鎮静を施行する前に検討するべき緩和ケアについて「とても有用」:22.4%,「有用」:56.8%,「やや有用」:18.4%,「あまり有用ではない」: 1.6%,「有用ではない」:0.8%であった。3鎮静の適応判断について「とても有用」:20.5%,「有用」:60.7%,「やや有用」:15.6%,「あまり有用ではない」: 2.5%,「有用ではない」:0.8%であった。4鎮静施行に関するフローチャートについて「とても有用」:21.6%,「有用」:57.6%,「やや有用」:13.6%,「あまり有用ではない」: 6.4%,「有用ではない」:0.8%であった。5鎮静についての患者への説明について「とても有用」:29.5%,「有用」:44.3%,「やや有用」:22.1%,「あまり有用ではない」: 3.3%,「有用ではない」:0.8%であった。6鎮静施行における家族へのケアについて「とても有用」:23.8%,「有用」:50.0%,「やや有用」:17.5%,「あまり有用ではない」: 3.2%,「有用ではない」:0.8%であった。7鎮静に用いられる薬剤について「とても有用」:20.0%,「有用」:67.2%,「やや有用」:8.0%,「あまり有用ではない」: 3.2%,「有用ではない」:1.6%であった。
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4)ガイドラインの改訂・追加ガイドラインの改訂・追加記載に対する要望については,以下のとおりであった。1間欠的鎮静に関する記載の追加「盛り込むべき」:89.1%,「盛り込まなくてもよい」:8.8%であった。2浅い鎮静に関する記載の追加「盛り込むべき」:94.3%%,「盛り込まなくてもよい」:5.7%であった。3同意書「盛り込むべき」:75.0%,「盛り込まなくてもよい」:25.0%であった。同意書掲載についての反対意見には,「同意書は家族に負担を与える」:6 施設,「カルテに記載すれば十分である」:3 施設が認められた。4患者・家族向けパンフレット「盛り込むべき」:90.0%,「盛り込まなくてもよい」:10.0%であった。5鎮静開始後のチェックリスト「盛り込むべき」:93.3%,「盛り込まなくてもよい」:6.7%であった。6心理実存的な苦痛に対する鎮静「記載すべき」:86.0%,「記載すべきではない」:14.0%であった。 5)追加すべき鎮静薬について追加すべき鎮静薬については,プロポフォール:7 施設,デクスメデトミジン:3 施設,ハロペリドール:3 施設,ケタミン:2 施設,セコバルビタール:2 施設,ジアゼパム2施設などであった。 3 調査結果の考察 ガイドライン全般に対する評価としては,8 割近くの施設において有用性を高く評価しているものの,利用度に関しては6 割程度の施設にとどまっている。その理由として,院内における緩和ケアに関する知識の普及と緩和ケアチーム体制の不十分さにより,鎮静に関して十分な共通理解が得られていないためと考えられた。一般診療科のスタッフに対して,今後,ガイドラインに関する知識を普及していくことが課題と考えられた。2005 年版ガイドラインでは使用者を「緩和ケア病棟,あるいは,緩和ケアチームの医療チーム」としているが,使用者の拡大を望む声が8 割以上あり,また,緩和ケアチームのサポートのもと,一般診療科においても使用可能とすることを望む意見が多かった。また,一定の基準(研修会の受講など)を設定するのがよいのではないかという意見もみられた。各項目への評価は,すべての項目において「有用」以上が7 割以上と,おおむね良好であった。 1)1 回目のデルファイ法 (2009 年10 月)本ガイドライン草稿を68 セクション(本文62 セクション,図・表6 セクション)に区切り,それぞれについて妥当性を1(適切でない)から9(適切である)の9 件法で評価を求めた。 4 妥当性の検証
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II章開発過程 その結果,妥当性の中央値7 のセクションが1 セクション,中央値7.5 のセクションが3 セクションで,その他の64 セクションは中央値8 以上であった。また,最大値・最小値の差が8 のセクションが2 セクション,差が6 であるセクションが6 セクションで,その他の60 セクションは差が5 以下であった。各セクションの意見を集約し,内容の再検討を行った。 2)2 回目のデルファイ法(2010 年1 月) 1 回目のデルファイ法後に合意が得られていないと判断された14 セクションに関して,妥当性の再評価を求めた。その結果,12 セクションで中央値が8 以上,かつ,10セクションにおいて,最小と最大の差が5 以下であった。各セクションの意見を集約し,小修正を加え,全セクションで合意が得られたものを委員会の暫定稿とした。 5 ガイドライン開発者 1 2005年版ガイドライン開発者 責任者森田 達也 緩和医学聖隷三方原病院緩和支持治療科 鎮静ガイドライン草案作成小委員会森田 達也 緩和医学聖隷三方原病院緩和支持治療科木澤 義之 緩和医学筑波大学大学院人間総合科学研究科高橋(岡田)美賀子 看護学 聖路加国際病院オンコロジーセンター向山 雄人 腫瘍学 癌研有明病院緩和ケア科明智 龍男 精神医学 名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知 ・行動医学分野 尾藤 誠司 方法論 NHO 東京医療センター教育研修部/ 臨床疫学 研究室 鎮静ガイドライン作成委員会池永 昌之 緩和医学淀川キリスト教病院ホスピス志真 泰夫 緩和医学筑波メディカルセンター病院緩和医療科林 章敏 緩和医学聖路加国際病院緩和ケア科河 正子 看護学 NPO 法人緩和ケアサポートグループ(PCSG)二見 典子 看護学 財団法人ライフプランニングセンターピース ハウス病院看護部 大谷木靖子 看護学 昭和大学横浜市北部病院看護部下山 直人 麻酔・疼痛学 国立がん研究センター東病院緩和医療科・精神 腫瘍科 中保 利通 麻酔・疼痛学東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野安達 勇 緩和医学静岡県立静岡がんセンター緩和医療科清水 哲郎 倫理学 東京大学大学院人文社会系研究科
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白浜 雅司† 倫理学 三瀬村国民健康保険診療所大西 秀樹 精神医学埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科栗原 幸江 ソーシャルワーク 静岡県立静岡がんセンター緩和医療科稲葉 一人 法学 中京大学法科大学院評価委員会田中 桂子 緩和医学 がん・感染症センター都立駒込病院緩和ケア科兵頭一之介 腫瘍学 筑波大学大学院人間総合科学研究科臨床医学 系消化器内科 平賀 一陽 麻酔・疼痛学 国立がん研究センター東病院麻酔科・集中治 療科 内富 庸介 精神医学 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科精神神経 病態学教室 田村 恵子 看護学 淀川キリスト教病院ホスピス安保 博文 緩和医学 国家公務員共済組合連合会六甲病院緩和ケア 科 茅根 義和 緩和医学株式会社東芝東芝病院緩和ケア科小原 弘之 緩和医学県立広島病院緩和ケア科梅田 恵 看護学 株式会社緩和ケアパートナーズ細矢(戸谷)美紀看護学 国立がん研究センター中央病院看護部 ( †故人) 2 2010 年版ガイドライン開発者 緩和医療ガイドライン作成委員会【委員長】志真 泰夫 緩和医学筑波メディカルセンター病院緩和医療科【担当委員】池永 昌之 緩和医学淀川キリスト教病院ホスピス 鎮静ガイドライン改訂作業部会【部会長】池永 昌之 緩和医学淀川キリスト教病院ホスピス【委 員】明智 龍男 精神医学 名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認 知・行動医学分野 安達 勇 緩和医学静岡県立静岡がんセンター緩和医療科※安保 博文 緩和医学 国家公務員共済組合連合会六甲病院緩和ケア 科 大西 秀樹 精神医学埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科大谷木靖子 看護学 昭和大学横浜市北部病院看護部河 正子 看護学 NPO 法人緩和ケアサポートグループ(PCSG)木澤 義之 緩和医学筑波大学大学院人間総合科学研究科
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II章開発過程 栗原 幸江 ソーシャルワーク 静岡県立静岡がんセンター緩和医療科※清水 哲郎 倫理学 東京大学大学院人文社会系研究科 下山 直人 麻酔・疼痛学 国立がん研究センター東病院緩和医療科・精 神腫瘍科 ※新城 拓也 緩和医学社会保険神戸中央病院緩和ケア病棟 高橋(岡田)美賀子看護学 聖路加国際病院オンコロジーセンター中島 信久 緩和医学札幌南青洲病院緩和治療科※中保 利通 麻酔・疼痛学 東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野※林 章敏 緩和医学聖路加国際病院緩和ケア科 二見 典子 看護学 財団法人ライフプランニングセンターピース ハウス病院看護部 向山 雄人 腫瘍学 癌研有明病院緩和ケア科森田 達也 緩和医学聖隷三方原病院緩和支持治療科※小山富美子 看護学 近畿大学医学部附属病院がんセンター看護部※須賀 昭彦 緩和医学静岡済生会総合病院緩和医療科※所 昭宏 心身医学国立病院機構近畿中央胸部疾患センター心療 ・精神腫瘍学 内科※鎗野 りか 看護学 財団法人田附興風会医学研究所北野病院看護 管理室 ※余宮きのみ 緩和医学埼玉県立がんセンター緩和ケア科 稲葉 一人 法学 中京大学法科大学院尾藤 誠司 方法論 NHO 東京医療センター教育研修部/ 臨床疫学研 究室 ※評価(デルファイ)委員
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以下の点については,本ガイドラインにおいて十分な検討ができなかったため,次回改訂の際に検討する。 1 対象・方法 ◦ガイドラインに示した「緩和ケアに習熟した医師」の要件(研修,教育,専門性など) ◦日本語,英語以外の言語圏での文献の検討◦費用対効用比の検討◦推奨の程度の明記◦ミダゾラム以外の鎮静薬の詳しい検討◦鎮静薬の投与方法(皮下注射,静脈注射,坐剤)の具体的な検討(投与量の漸増方法 など) 2 定 義 ◦生・生の最後・死の質(qualityoflife,dyinganddeath)の定義◦家族の定義の妥当性 3 臨床的・医学的項目 ◦鎮静により苦痛が緩和されている根拠の明示 ◦耐え難い苦痛の妥当性(患者評価に加えて,社会一般に納得できるものであることが 必要か) ◦鎮静の決定をするのに必要十分な意思決定能力の評価方法,基準◦文書同意の必要性◦家族の同意の必要性◦鎮静開始時における情報提供と意思確認についての具体的方法の検討◦鎮静の適応となる身体条件としての「原疾患の増悪」の妥当性◦鎮静による生命予後への影響の検討◦各鎮静薬が鎮静を経ずに苦痛緩和作用を有しているかの検討 4 生命倫理学的・法学的項目 ◦2 重効果の原則の役割◦複数の専門家による法学的見解の妥当性◦倫理的問題に関する臨床倫理委員会等の組織的検討 2 今後の検討点
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III章定 義 1 鎮静の定義と分類
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1 鎮静の定義と分類 苦痛緩和のための鎮静について国際的に統一された定義はない。本ガイドラインでは,系統的文献検索に基づいて合意の得られた定義と分類を採用する。 1 鎮静の定義 1患者の苦痛緩和を目的として患者の意識を低下させる薬剤を投与すること,あるいは,2患者の苦痛緩和のために投与した薬剤によって生じた意識の低下を意図的に維持すること。 a.本定義では,睡眠障害に対する睡眠薬の投与は鎮静に含めない。b.意図せずに意識の低下が生じた場合,意識低下を軽減させる処置を行う場合は,鎮 静に含めない(意図せず生じた意識の低下を意図的に維持する場合は,鎮静に含める)。 2 鎮静の分類 鎮静様式,および,鎮静水準を下位分類として定義する。鎮静は下位分類の組合せによって表現される(「深い持続的鎮静」,「浅い間欠的鎮静」など)。 鎮静様式・持続的鎮静:中止する時期をあらかじめ定めずに,意識の低下を継続して維持す る鎮静 ・間欠的鎮静:一定期間意識の低下をもたらしたあとに薬剤を中止・減量して,意 識の低下しない時間を確保する鎮静 鎮静水準・深い鎮静:言語的・非言語的コミュニケーションができないような,深い意識の 低下をもたらす鎮静 ・浅い鎮静:言語的・非言語的コミュニケーションができる程度の,軽度の意識の 低下をもたらす鎮静 3 その他の定義 1家 族夫婦,親子,兄弟など患者と姻戚もしくは血縁関係にある人々,あるいは,情緒的, 機能的,経済的に支援し合い,患者が家族であると認識している人々 2医療チーム医師,看護師,心理専門家,医療ソーシャルワーカー,薬剤師など複数の専門職種か
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III章定義 らなる患者ケアを行うチーム 3積極的安楽死医師が患者の死をもたらすことを意図して,薬剤を投与することによって生じる死亡
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IV章鎮静実施のフローチャート
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苦痛緩和のための鎮静における評価・ 適応外 適応外 適応外 な し 有 効 有 効 有 効 あ りな し 無 効 無 効 無 効 あ り 緩和治療の再検討と実施 ☞P27,28,資料1参照 他の専門家へのコンサルテーション 患者・家族に間欠的または浅い鎮静を説明患者・家族の疑問や懸念の聞きとりとそれへの対応患者の意思決定能力の評価 ☞P32~37, 資料2参照 患者の耐え難い苦痛 ☞P27参照 適応外 間欠的鎮静・浅い鎮静の実施 ☞P39,40参照 希望あり希望なし 該当する 該当しない 間欠的鎮静・浅い鎮静の希望 成人,治癒の見込めないがん患者とその家族,緩和ケア病棟/緩和ケアチームの診療/緩和ケアに習熟した医師の診療・助言 ☞P3参照 「深い持続的鎮静を考えるべき状況」というチーム内の合意 患者・家族に深い持続的鎮静を説明患者の意思決定能力の評価 ☞P32~37, 資料2参照 2~3週未満2~3週以上 病態の見直しとケア ☞P40, 41参照・鎮静の原因となった症状の治療方法の再検討・他の身体状況と心理的問題の検討・睡眠,便通,排尿,口腔ケア,保清などの見直し・環境の整備・患者,家族の気がかりと希望の再確認 予測される生命予後 ☞P28参照 苦痛緩和のための鎮静の実施における評価・意思確認・治療・ケアにおけるフローチャートを以下に示す。ガイドライン本文に対応する参照ページをフローチャート内に示している。
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保 留 あ り な し不 明 な し 決 定 変化あり変化なし あ り 鎮静薬の投与の開始 ☞P39,40参照 適応外 鎮静の中止 苦痛の程度,意識水準,有害事象の定期的評価・鎮静に用いる薬剤の投与量および種類の見直し 病態の見直しとケア・鎮静の原因となった症状の治療方法の再検討・他の身体状況と心理的問題の検討・睡眠,便通,排尿,口腔ケア,保清などの見直し・環境の整備・家族の心配や不安に対するケア・医療スタッフの精神的負担に対するケア 「患者に意思決定能力がない場合の意思決定過程」 ☞P32参照 患者の深い持続的鎮静の希望/推定意思 ☞P32~37,資料2参照 患者─家族間,または家族内の意思の不一致 ☞P37参照 患者・家族の支援と意見調整医療チームで深い持続的鎮静を検討する 医学的判断をもとに,患者・家族と相談して決定する ☞P38, 39参照・水分・栄養補給の方法・生命維持治療や心肺蘇生処置・鎮静開始前に用いていた薬剤の調節・患者,家族の気がかりと希望の再確認 再検討 ☞P40, 41参照 鎮静以外の緩和手段・病態・家族の希望の定期的評価 ☞P40,41参照 鎮静の適応の再検討鎮静の継続 意思確認・治療・ケアのフローチャート 評価治療ケア・・・意思確認
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V章推奨と委員会合意 1 倫理的妥当性2 要 件3 治療とケアの実際
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1 倫理的妥当性 倫理的視点からの鎮静の評価について,当委員会は以下の点について合意した。 1 鎮静の益と害 鎮静がもたらす益(好ましい効果:benefits)は,苦痛緩和である。害(好ましくない効果:harms)は,意識の低下により,コミュニケーションを始めとする通常の人間的な生活ができなくなることなどである。このように,鎮静には益とともに害が伴うため,医療者が担う「相手の益になるようにする(与益:beneficence)」と「相手に害を与えない(無加害:non maleficence)」という倫理的要件との連関で,鎮静の倫理的妥当性を明確にする必要がある。 2 鎮静の倫理的妥当性 鎮静は,以下の3 条件を満たす場合に妥当と考えられる。 1)意 図苦痛緩和を目的としていること。 2)自律性[(1または2)かつ3] 1 患者に意思決定能力がある場合,益と害について必要な情報を知らされたうえでの, 苦痛緩和に必要な鎮静を希望する明確な意思表示がある。2 患者に意思決定能力がない場合,患者の価値観や以前に患者が表明していた意思に照 らし合わせて,当該の状況で苦痛緩和に必要な鎮静を希望するであろうことが合理性をもって推定できる。3家族の同意がある。 3)相応性(proportionality)患者の苦痛緩和を目指す諸選択肢のなかで,鎮静が相対的に最善と評価される。鎮静は,患者の意識を下げ,人間的な生活を難しくするという害を伴って,苦痛緩和という益を得るものであるため,そのような害を伴わずに苦痛緩和を達成できるほかの方法がなく,かつ,そのような害に甘んじてでも緩和を必要とするほどに苦痛が耐え難い状況で,初めて相対的に最善となる。また,鎮静が相対的に最善である場合でも,耐え難い苦痛の緩和が達成できる限りで,鎮静を実施する時間は持続的よりは間欠的のほうが,また,鎮静の目標とする意識の低下は深いよりはできるだけ浅いほうが,人間的な生活(コミュニケーション能力)を確保するという観点から好ましい。 3 鎮静が予後を短縮する効果を伴う場合をどう考えるか 稀ではあるが,鎮静が予後を短縮する効果を伴う場合がある*。このような場合にも
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要件推奨と V章委員会合意 前項の諸条件を満たしていれば,鎮静は倫理的に妥当である。なお,持続的鎮静については,予後を短縮する効果を伴うかどうかにかかわらず,これと積極的安楽死の異同についての懸念が提示されることがあるという事情に鑑み,この点についての本ガイドライン作成委員会の見解を示しておく。鎮静と積極的安楽死は,意図(意識を下げることによる苦痛緩和vs 死による苦痛緩和),方法(苦痛が緩和されるだけの鎮静薬の投与vs 致死性薬物の投与),および,成功した場合の結果(苦痛が緩和された生vs 死による苦痛の終わり)の3 点において異なる医療行為である。 *参考資料わが国の緩和ケア専門病棟21 施設における深い持続的鎮静が行われた終末期がん患者102 名に対しての多施設前向き観察的研究によると,鎮静は症例の83%において症状緩和に役立っており,呼吸数は鎮静前後で有意な減少は認められなかったものの(18 ± 9.0 回/分と16 ± 9.4 回/分,p=0.62),呼吸抑制(呼吸数8 回/分以下)や循環抑制(収縮期血圧60 mmHg 以下または50%以上の低下)は20%の患者で認められ,致死的な状態に陥ったのは3.9%であったとしている。また,呼吸抑制や循環抑制は,せん妄に対して鎮静が行われ,the Agitation Distress Scaleで高い点数にあった患者ほど,有意に高頻度に認められたとしている。(Morita T, et al. J Pain Symptom Manage 2005a;30:320 -8) 4 家族の役割 家族は患者同様,ケアの重要な対象であり,鎮静に関する意思決定に際して,患者に対するのと同じように,家族への十分な配慮が必要である。
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深い持続的鎮静を行う要件を以下のように定める。A,B,C はそれぞれ,医療者の意図,自律性原則,相応性原則(principle of proportionality)に基づく倫理的基盤を与える。D は鎮静の安全性を高める。 A.医療者の意図1)医療チームが鎮静を行う意図が苦痛緩和であることを理解している。2) 鎮静を行う意図(苦痛緩和)からみて相応の薬剤,投与量,投与方法が選択 されている。B.患者・家族の意思〔1)かつ2)〕1)患者1意思決定能力がある場合益と害について必要な情報を提供されたうえでの,苦痛緩和に必要な鎮静 を希望する明確な意思表示がある。2意思決定能力がないとみなされた場合患者の価値観や以前の意思表示に照らして,患者が苦痛緩和に必要な鎮静 を希望することが十分に推測できる。2)(家族がいる場合には)家族の同意がある。C.相応性苦痛緩和を目指す諸選択肢のなかで,鎮静が相対的に最善と判断される。すなわち,より具体的には, 1)耐え難い苦痛があると判断される。2) 苦痛は,医療チームにより治療抵抗性と判断される(ほかに苦痛緩和の方法 がない)。3) 1)2)の条件を満たす状況になり得るのは,通常,原疾患の増悪のために, 数日から2 ~3 週間以内に死亡が生じると予測される場合である。D.安全性1) 医療チームの合意がある。多職種が同席するカンファレンスを行うことが望 ましい。2 ) 意思決定能力,苦痛の治療抵抗性,および,予測される患者の予後について 判断が困難な場合には,適切な専門家(緩和医療専門医,精神腫瘍医,精神科医,心療内科医,麻酔科医〔ペインクリニック医〕,腫瘍専門医,専門看護師など)にコンサルテーションすることが望ましい。3) 鎮静を行った医学的根拠,意思決定過程,鎮静薬の投与量・投与方法などを 診療記録に記載する。 2 要 件
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要件推奨と V章委員会合意 苦痛緩和のための鎮静における評価・意思確認・治療・ケアについてフローチャートで示す(P20,IV章参照)。「適応外」とは,本ガイドラインの定める一般的な要件を満たさないことを意味するが,患者の個別性に十分配慮したうえで熟慮して行われる臨床上の決定を妨げるものではない。すべての項目について医療チームとして判断し,診療記録に記載を行うことが必要である。次に,以下の順に解説する。1 医学的適応の検討2 患者・家族の希望の確認3 鎮静の開始4 鎮静開始後のケア 1 医学的適応の検討 1)評 価1患者自身が耐えられないと表現する,あるいは,2患者が表現できない場合,患者の価値観に照らして,患者にとって耐え難いことが家族や医療チームにより十分推測される場合,苦痛を耐え難いと評価する。 2)内 容鎮静の対象になり得る苦痛は,せん妄,呼吸困難,過剰な気道分泌,疼痛,嘔気・嘔吐,倦怠感,痙攣・ミオクローヌス,不安,抑うつ,心理・実存的苦痛(希望のなさ,意味のなさなど)などである。ただし,不安,抑うつ,心理・実存的苦痛が単独で深い持続的鎮静の対象となる苦痛になることは例外的であり,適応の判断は慎重に行うべきである。 [コミュニケーションの例](鎮静の対象となる苦痛を明確にさせる)「もう一度確認させてください。今つらいのは××ですよね。それは耐えられないくらいつらいのですね。」 2 治療抵抗性の定義・評価 1)定 義1すべての治療が無効である,あるいは,2患者の希望と全身状態から考えて,予 測される生命予後までに有効で,かつ,合併症の危険性と侵襲を許容できる治療手段がないと考えられる場合,苦痛を治療抵抗性と評価する。 2)評 価◦ 治療可能な要因について,原因治療,対症療法,および,寄与因子(苦痛を耐えやす くする,あるいは,耐えにくくする心理・社会的・環境要因),それぞれについて検 1 耐え難い苦痛の評価・内容 3 治療とケアの実際
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討する。◦ 十分な評価,治療を行わずに治療抵抗性であるとしてはならない。苦痛の治療抵抗性 が不明瞭な場合,期間を限定して苦痛緩和に有効な可能性のある治療を行うこと(time -limited trial)を検討する。◦資料1 に鎮静の対象となり得る症状に対する代表的な治療のチェックリストを示す。 このチェックリストにすべての治療が網羅されているわけではない。また,鎮静を行う前に以下のすべての治療が行われていなければならないことを示すものではない。 3 全身状態・生命予後の評価 ◦ 対象患者の全身状態について,評価尺度(Palliative Prognostic Score, Palliative Prognostic Index など;表2),予後因子(Karnofsky Performance Scale,呼吸困難,食思不振,経口摂取量,せん妄,浮腫など),臓器不全の有無(呼吸不全,肝不全,腎不全,心不全など),および,臨床的に予測される予後を評価し,記載する。◦患者の全身状態を表現するために「終末期」,「死亡が切迫している」など曖昧な表現 は推奨しない。系統的な評価を十分行わずに患者の生命予後が限られていると判断してはならない。◦通常,深い持続的鎮静の対象となる患者の生命予後は数日以下である。
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要件推奨と V章委員会合意 資料1 治療抵抗性判断のためのチェックリスト 鎮静を考慮している苦痛を同定し,以下の項目について確認してください。1 せん妄 □ 環境調整を行ったか。□ 治療可能な原因を探索し,治療を検討したか。(高カルシウム血症,低ナトリウム血症,高アンモニア血症,感染症,低酸素血症,血糖異常,脱水, 脳腫瘍など) □ 薬剤の調整を検討したか。(必須ではない薬剤・神経毒性を有する薬剤の減量・中止・変更) □ 疼痛・呼吸困難など緩和されていない苦痛の治療を検討したか。□ 残尿,便秘による不快がないか。□ 向精神薬投与を検討したか。2 呼吸困難 □ 治療可能な原因を探索し,治療を検討したか。(胸水,心嚢水,上大静脈症候群,気道狭窄,気管支喘息,肺炎,気胸,がん性リンパ管症,放 射線性肺臓炎,心不全,貧血,腹水,不安など) □ 酸素投与を検討したか。□ モルヒネ投与を検討したか。□ 不安に対する治療・ケアを検討したか。(抗不安薬,精神的援助,リラクセーション,アロマセラピーなど) 3 過剰な気道分泌 □ 治療可能な原因を探索し,治療を検討したか。(肺炎,心不全,食道気管支ろう,過剰な輸液など) □ 喀痰ドレナージの施行を検討したか。□ 気道分泌抑制薬(抗コリン薬)の投与を検討したか。□ 輸液の減量・中止を検討したか。4 疼痛 □ 治療可能な原因を探索し,治療を検討したか。(骨折,膿瘍,胃十二指腸潰瘍,消化管穿孔,急性膵炎など) □ オピオイド,非オピオイド,鎮痛補助薬の投与を検討したか。□ 鎮痛薬による有害事象に対する治療を検討したか。□ 神経ブロック,放射線治療,外科的治療の施行を検討したか。5 嘔気・嘔吐 □ 治療可能な原因を探索し,治療を検討したか。(NSAIDs,オピオイドなどの薬剤,高カルシウム血症,脳腫瘍,消化管閉塞,便秘,胃十二指腸 潰瘍など) □ 制吐薬(ドパミン遮断性,ヒスタミン遮断性,セロトニン遮断性,コリン遮断性)の投与を検討 したか。□ コルチコステロイドの投与を検討したか。 (次頁へつづく)
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□ 消化管分泌抑制薬(オクトレオチド,抗コリン薬)の投与を検討したか。□ 経鼻胃管挿入の適応を検討したか。6 倦怠感*1 □ 治療可能な原因を探索し,治療を検討したか。(高カルシウム血症,低ナトリウム血症,感染症,貧血,脱水,抑うつなど) □ 倦怠感の悪化と誤認されやすいアカシジア*2,せん妄などの鑑別を検討したか。□ コルチコステロイドの投与を検討したか。7 痙攣・ミオクローヌス □ 治療可能な原因を探索し,治療を検討したか。(薬剤〔特にオピオイド〕,脳転移など) □ 抗痙攣薬の投与を検討したか。□ 脱水の評価と補液の実施を検討したか。8 不安,抑うつ,心理・実存的苦痛 □ 治療可能な身体的原因を探索し,治療を検討したか。(薬剤,緩和されていない身体的苦痛,低酸素血症,脳腫瘍,アカシジア*2 など) □ 身体的機能喪失の最小化(リハビリテーションや代替手段の検討など)を検討したか。□ 精神的支援(傾聴,感情表出の促し,ライフレビュー*3 など)の提供を検討したか。□ 気分転換,環境整備,リラクセーションの提供を検討したか。□ ソーシャルサポートの強化を検討したか。□ 薬物療法(抗不安薬,抗うつ薬などの投与)を検討したか。□ 心理専門家へのコンサルテーションを検討したか。□ 必要に応じて宗教家への相談を検討したか。 *1 倦怠感倦怠感はさまざまな用語で表現され,地域によっても異なる。したがって,患者の訴えと症状を注意深く観察・評価する必要がある。倦怠感の表現:「だるい」,「しんどい(関西)」,「こわい(北海道)」,「へずねー(新潟)」,「だやい(富山)」,「ちきない(金沢)」,「ごしたい(長野)」,「たいぎ(和歌山)」,「しろしい(福岡)」,「きつい(大分)」,「よだきい(宮崎)」など。*2 アカシジア静坐不能症ともいう。一種の運動不穏状態であり,患者はしばしば落ち着かないかのごとく姿勢を変えようとする。1そわそわと落ち着きがない,2下肢を休みなく動かす,3起立時に左右の足に交互に重心を移す運動を繰り返す,4静止できないので歩き回る,5数分間,座位で静止していられない,または起立していられない,などの症状が認められる。向精神薬を服用している患者の20%ほどに発生するといわれている。緩和医療領域では,向精神薬(ハロペリドール,プロクロルペラジン,リスペリドン),抗うつ薬(アモキサピン,スルピリド),制吐薬(メトクロプラミド)に代表される抗ドパミン薬が原因となる。アカシジアやせん妄を発症した患者は,倦怠感を意味する言葉で自分の症状を表現することがある。その患者の行動,認知機能に注目し,倦怠感との鑑別を検討する。*3 ライフレビュースピリチュアルケアの可能性を秘めているアプローチの一つとして注目されている。患者の過去についての話などに,患者の思いを支持しつつ,援助者が耳を傾けることである。ライフレビューでは,スピリチュアルな苦痛のなかにいる患者に対して,患者の関心を現在から,人生に十分な意味と価値を与えてくれるような過去の出来事に向けさせる。これにより,人生の意味や価値を再発見したり,重要な体験を見出したりすることになる。今まで生きてきた人生や「今ここにある自己」の存在を意味づけることになる。 (資料1 つづき)
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要件推奨と V章委員会合意 表2 全身状態の評価尺度 Palliative Performance Scale 起 居活動と症状ADL経口摂取意識レベル 100 100%起居している正常の活動・仕事が可能 症状なし 自 立正 常 清 明90正常の活動が可能いくらかの症状がある80何らかの症状はあるが 正常の活動が可能 正 常もしくは減 少 70ほとんど起居している明らかな症状があり通常の仕事や業務が困難60明らかな症状があり趣味や家事を行うことが困難ときに介助清 明もしくは混 乱50ほとんど座位もしくは臥床著明な症状がありどんな仕事もすることが困難しばしば介助40ほとんど臥床著明な症状がありほとんどの行動が制限されるほとんど介助 清 明もしくは傾眠±混乱 30 常に臥床著明な症状がありいかなる活動も行うことができない全介助20数口以下10マウスケアのみ(Anderson F, et al. J Palliat Care 1996;12:5 -11) Palliative Prognostic Index Palliative Performance Scale 10 -20 4.0 30 -50 2.5 ≧60 0 経口摂取*著明に減少(数口以下) 2.5 中程度減少(減少しているが数口よりは多い) 1.0正 常0 浮 腫あ り1.0安静時の呼吸困難あ り3.5 せん妄あ り** 4.0 * :消化管閉塞のために高カロリー輸液を受けている場合は「正常」とする。**:薬剤が単独の原因となっているもの,臓器障害に伴わないものは除外する。得点が6 より大きい場合,3 週間以内に死亡する確率は,感度80%,特異度85%,陽性反応適中度71%,陰性反応適中度90%。(Morita T, et al. Supprt Care Cancer 1999;7:128 -33) Palliative Prognostic Score 臨床的な予後の予測1 ~2 週8.5 3 ~4 週6.0 5 ~6 週4.5 7 ~10 週2.5 11 ~12 週2.0 >12 週0 Karnofsky Performance Scale 10 -20 2.5 ≧30 0 得点が0 -5.5,5.6 -11,11.1 -17.5 の場合,30 日生存確率(生存期間の95%信頼区間)は,それぞれ,>70%(67 ~87 日),30 ~70% (28 ~39 日),<30%(11 ~18 日)。(Maltoni M, et al. J Pain Symptom Manage 1999;17:240 -7) 食思不振あ り1.5呼吸困難あ り1.0 白血球数>11,000 1.5 8,501 ~11,000 0.5 リンパ球% 0 ~11.9% 2.5 12 ~19.9% 1.0
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2 患者・家族の希望の確認 1 意思決定能力の定義・評価 1)定 義意思決定能力は,1自分の意思を伝えることができること,2関連する情報を理解していること,3鎮静によって生じる影響の意味を認識していること,および,4選択した理由に合理性があること,をもとに判断する。 2)評 価意思決定能力は,経験を十分に有する医療チームによって,そのプロセスを明記したうえで評価されることが望ましい。特に,抑うつや軽度の意識混濁は見落されやすいが,頻度が高く,患者の意思決定能力に影響を与え得るので,適切な評価が必要である。 [コミュニケーションの例](意思決定能力を評価する) ●関連する情報を理解していること●鎮静によって生じる影響の意味を認識していること「今,苦しさを和らげるために,うとうとして過ごす(ぐっすりと眠る)方法があるというお話をしましたが,どのようにご理解されましたか?」あるいは「もし,眠って苦しさを和らげる方法を取った場合,どのようになるとご理解されましたか?」という問いかけに対して,適切な返答ができる。●選択した理由に合理性があること「○○さんは,苦しさを和らげるために,うとうとして過ごす(ぐっすりと眠る)方法をご希望される,と伺いましたが,その理由を教えていただけますか?」に対して,了解可能な理由を挙げられる。 2 患者に意思決定能力がない場合の意思決定過程患者に意思決定能力がないと判断された場合,患者の価値観や以前に患者が表明していた意思に照らし合わせて,現在の状態で患者が何を希望するかについて,家族とともに慎重に検討する。この際,1家族に期待される役割は患者の意思を推測することであり,家族がすべての意思決定の責任を負うわけではないこと,および,2鎮静の意思決定については医療チームが責任を共有することを明確にする。 [コミュニケーションの例](患者に意思決定能力がないとき) ●患者が意思表示できれば何を希望するかを家族と相談する「本来であれば○○さんに伺うことができれば一番いいのですが,今は難しいので,今後のことについてご家族と少し相談させていただきたいと思います。私たちは,今までの〇〇さんの生き方や価値観を大切にしたケアをしたいと考えています。もし,ご本人が十分にお話できる状態でしたら,今の状態でどのような治療を一番に希望されるでしょう?以前に何かおっしゃっていたことはありますか?」
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要件推奨と V章委員会合意 ● 家族からの情報をもとに,鎮静が最善の方法であると考えたことを伝え,責任を 共有する「今伺ったことから考えると,眠るようなかたちであっても,苦しみを感じなくてすむようにして差しあげることが一番よいと思いますが,いかがですか?」「この決断はとてもつらい決断だと思います。決して,『ご家族の方だけで決めてください』,ということではありません。私たちは,ご家族のお考えを伺ったうえで,一番よい方法をご一緒に考え,責任をもって行いたいと考えています。」 3 説明内容 説明内容は,患者・家族の希望と,情報提供により生じる益(benefits)と害(harms)とを十分に検討したうえで個別に判断する。すなわち,知りたいという患者・家族に対して十分な情報提供ができるよう配慮するとともに,患者・家族が知りたくない場合,あるいは,情報提供による害が益を上回ると予測される場合には,提供する情報の内容や伝え方に十分に配慮する。資料2 には患者に行う鎮静についての説明文書を示す。 患者・家族に提供する情報として,検討するべき内容は以下のとおりである。1 全身状態:身体状況についての一般的説明,根治的な治療法がないこと,予測され る状態と予後2 苦痛:緩和困難な苦痛の存在,苦痛の原因,これまで行われた治療,鎮静以外の方 法で苦痛緩和が得られないと判断した根拠3 鎮静の目的:苦痛の緩和4 鎮静の方法:意識を低下させる薬剤を投与すること,状況に応じて中止することが できることなど5 鎮静が与える影響:予測される意識低下の程度,精神活動・コミュニケーション・ 経口摂取・生命予後に与える影響,合併症の可能性6 鎮静後の治療やケア:苦痛緩和のための治療やケアは継続されること,患者・家族 の希望が反映されることなど7 鎮静を行わなかった場合に予測される状態:ほかの選択肢,苦痛の程度,予測され る予後 [コミュニケーションの例](鎮静の選択肢を提示する)「今,苦痛を和らげるために十分に手を尽くしていますが,意識を保った方法でつらい症状を楽にすることは難しいように感じています。苦しさをさらに和らげるためには,少しうとうととして過ごす(ぐっすりと眠る)方法もあります。どのくらいの苦しさなら良しとするか,どのくらいの眠気なら許せるかは,お一人おひとりで違いますので少し相談させていただけますか?」●患者が鎮静を希望するか確認する「苦しい感じを和らげられるのなら,今よりも眠気が強くなってもいいとお感じでしょうか?それとも,今より眠くなってしまうのは困るとお感じでしょうか?」
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[コミュニケーションの例] (鎮静がコミュニケーションへ与える影響を説明する) ●浅い鎮静を意図する場合「うとうとして苦しさが和らぐようにすると,苦しさはあまり感じませんが,ぼんやりするので複雑なことを話したり考えたりすることは難しくなるかもしれません。」●深い鎮静を意図する場合「ぐっすり眠って苦しい感じを和らげる方法を取ると,苦しさは感じなくなりますが,ご家族とお話をすることは難しくなると思います。」 [コミュニケーションの例] (鎮静が生命予後や身体機能に与える影響を説明する) ●一般的に,鎮静によって生命予後が短縮しないことを保証する「お薬を使うと寿命が短くなるのではないか,とご心配されるかもしれません。苦しさが取れるだけの少しの量のお薬をゆっくりと使いますから,使ったからといってそのせいで必ず寿命が短くなるということではありません。」● コミュニケーションが取れる最後の機会になり得ること,急な容態の変化の可能 性を説明する「苦しさを和らげることが目的ですので,使うお薬の量は健康な人であれば心臓や呼吸に影響しないぐらいの量です。ただ,今,○○さんのからだはとても不安定になっているので,お薬を使って楽になったあと,ひょっとすると(おそらくは)またお話ができるようにはならずに,ずっとうとうとしたままになるかもしれません(息をひきとられるまで,ずっとうとうとしたままになるかもしれません)。苦しさだけが取れることを目標として慎重にお薬を使っていきますが,もしものときに備えて,お伝えしておいたほうがいい方や,そばにいていただいたほうがよい方はいらっしゃいますか?」 [コミュニケーションの例](行われるケアを説明する) ● 鎮静開始後も患者は今までどおり尊厳を大切にしたケアを受けられることを伝え る「お薬で眠る状態になったからといって看護師や医師が診に来なくなるということではありません。今までどおり,○○さんがなるべく快適に過ごせるように,お口やからだをきれいにしたり,部屋の環境を整えたりいたします。」
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要件推奨と V章委員会合意 以下に患者や家族に対して,苦痛緩和のための鎮静について説明する場合の文書を例として掲げる。使用にあたっては,患者と家族の病状理解や悲嘆反応に十分に配慮し,おのおのに応じた説明が必要と考えられる。 資料2 患者・家族に行う鎮静についての説明文書(例) 【患者さんにとって耐え難い苦痛が出現していること】現在,患者さんに現れている最もおつらい症状は( )であり,患者さんの訴えやご 家族のとらえているご様子,医療従事者の判断から,それは非常に耐え難いものであり,患者さんの日々の生活を著しく妨げているものであると考えられます。 【その苦痛が治療抵抗性のものであること】私たち医療従事者はさまざまな治療やケアを通して,その苦痛を和らげることを目指してきました。し かし,現在,意識を保ったままではよい手立てを見出すことは難しく,一般的な医療・看護行為では和らげることのできない苦痛であると判断しています。 【鎮静とは】そのような苦痛を和らげる治療方法として,意識を下げるような(うとうとするような)薬剤を使用することにより,苦痛を感じにくくすることを鎮静といい,その方法以外には患者さんの現在の苦痛を和らげることは非常に難しいと考えています。現在,患者さんに投与を考えている薬剤は( )というものであり,その投与方法は, (点滴・静脈注射・持続皮下注射)を考えています。 【鎮静を患者さんに行うとどうなるのか】鎮静を患者さんに行うと,うとうとした状況になり,程度の差はありますが,呼びかけても返事ができ にくくなったり,おしゃべりをすることが難しくなります。また,食事をしたり水分を取ったりすると,せき込みやすくなります。しかし,うとうとすることで患者さんは苦痛があってもそれを感じることが少なくなり,現在よりも穏やかに過ごすことができると考えています。 【緩和ケアにおける鎮静】このような鎮静という治療方法は,緩和ケアでは苦痛を和らげる方法として一般的に行われている医療 行為です。また,安楽死とはまったく異なるものとして考えられています。全国の緩和ケア病棟の調査では,がん患者さんの20 ~35%にそのような治療方法が必要であると報告されています。 【鎮静に伴う不都合なこと】鎮静を行うことによって患者さんは,これまでのようにお話をしたり,食事や水分を取ることは難しく なります。また,患者さんの全身状態は極めて不安定であり,頻度は少ないものの急な状態の変化が起こる可能性も考えられます。しかし,一般的には極端にいのちの長さを短くするような治療方法ではないと考えられています。 【鎮静開始後の薬剤の調整やケアについて】たとえ鎮静を開始したとしても,患者さんの状況によってはご相談しながら,それを中止したり,薬剤 の量を調整することによって,できるだけ苦痛の少ない状況で過ごしていただけるようにしていきます。また,日々のお世話についても患者さんに負担のない範囲で引き続き行っていきます。 【最後に】何か鎮静についてわかりにくい内容がありましたら,いつでも医師や看護師にお尋ねください。私たち は常に,患者さんとご家族が穏やかに安心して生活を送っていただくことを願っています。
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4 意思表示の自発性・継続性 心理的・社会的圧力により患者・家族の意思決定が影響されていないことを確認する。また,鎮静を希望する反復した意思表示がある,あるいは,苦痛緩和を希望する一貫した意思表示がある(「苦しまずに最期を迎えたい」と以前から言っていたなど)など,意思が一時的なものではないことを確認することが望ましい。 5 あらかじめ患者・家族の意思を確認することについて 鎮静が必要となる状況では患者に意思決定能力がないことがしばしばある。したがって,患者・家族が情報提供を希望する場合,あるいは,患者・家族にとって情報提供により生じる益(benefits)が害(harms)を上回ると判断された場合,緩和困難な苦痛が生じたときに取り得る手段について,前もって情報を提供しておくことが望ましい。 [コミュニケーションの例](あらかじめ鎮静について説明する)患者が「今後起こり得る苦痛」に対する不安を口にしたとき,例えば,「先生,この先もっと苦しくなるのでしょうか。」,「母が亡くなった時とてもつらそうでした。私もそうなるのでしょうか。」といった機会が,鎮静の選択肢についてあらかじめ相談するきっかけになることが多い。しかし,こうした不安は言語的に表現されるとは限らず,患者・家族の不安そうな態度や表情が話し合いの糸口になることがある。● 苦痛緩和に努めることを保証し,その方法についてより詳細を話し合う準備があ るか確認する「先々つらいことが増えて苦しむのではないか,と心配されているのですね。以前と違ってつらさを和らげるいろいろな方法があります。私たちは○○さんのつらさがなるべく少なくなるように十分対応していきますので安心してください。今,もう少し具体的な方法についてご相談したほうがよろしいですか?」●標準的な苦痛緩和の手段とその効果について説明する「痛みはこの先少し強くなってくるかもしれません。大抵の痛みは鎮痛薬を調節して和らげることができます。ただ,状況によっては,痛みを取ろうとすると眠気が増えたり,うとうとするかたちで痛みを和らげるという方法になるときもあります。もちろん,その折々の○○さんの希望を伺いながら治療していこうと思いますが,今もっと詳しく相談しましょうか?」●緩和困難な苦痛を生じる可能性と鎮静の選択肢について提示する「もし,鎮痛薬で痛みが十分に和らげられないときに,例えば,睡眠薬などを使って何時間か眠って苦痛を和らげたり,つらさを感じないようにすることもできます。」●代理意思決定者の指名を提案する「うとうとされることが多くなったり,急な変化があると,ご自分の考えをしっかりとまとめたり伝えることが難しくなることがあります。そういうときに備えて,
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要件推奨と V章委員会合意 あらかじめ,○○さんの代わりに相談する方として,○○さんが信頼している身近な方を決めておかれて,お気持ちを伝えておくという方法もあります。」 6 患者と家族の意思が異なるとき 家族が患者に付添いのできる環境を整える,家族に十分な説明を行うなど,患者の苦痛や状態を家族が十分に理解できるように配慮したうえで,患者と家族が話し合い,ともに納得できる方法を見出すことができるよう支援する。また,意思の相違に影響していると考えられる家族の心理的要因(悲嘆や自責感など)に配慮した精神的支援を行う。患者と家族の意思が異なるために話し合いを続けている間,患者の意思が最大限尊重され,患者の益が最大になる手段を検討する。例えば,患者が深い持続的鎮静を希望しているが,家族の同意が得られない場合,浅い鎮静や間欠的鎮静により患者の苦痛を最小にすることを検討する。患者と家族の意思が一致しないまま患者に意思決定能力がなくなった場合,患者の価値観や以前の意思表示から患者の意思を推測できるよう家族を支援する。 [コミュニケーションの例](患者と家族の意思が異なるとき) ●なぜ家族が鎮静を希望しないのかを聞き,不安に対処する「お話を伺っていると,○○さんとご家族の希望に少し違いがあるように感じました。私たちはできる限り,○○さんもご家族も納得のいく治療を行っていきたいと考えています。最初に,ご家族が......をご希望される理由や心配事を教えていただけますか?なるほど......を心配されているのですね。ご心配はとてもよくわかります。とてもおつらいと思います。(家族の悲嘆の表出を促進し,個別の心配事に対処する)」●患者の体験や意思を共有することを勧める「例えば,当面,次のことを提案したいのですが,いかがでしょうか。まず,○ ○さんがどう思われているか,一緒にお部屋で過ごしていただいて,○○さんに聞かれてはどうでしょうか。もし,直接お話しされるのがおつらいようでしたら,私たちがそれとなく話してみますので,そばで聞いていただいてもいいかと思います。そのあとで,またご家族みなさんで相談されてはいかがでしょうか。」●当面の妥協できる手段を提示する「これは大切なことなので,しっかりと時間をとって話し合っていきたいのですが,もしこの間,○○さんがとても苦しい場合には,その時間だけ休めるようにお薬を使ったり,あまり深くは眠らないように,効き目は弱いけれどもうとうとするくらいのお薬を使って様子を見ることもできます。」 7 家族内の意思が異なるとき 患者の苦痛や状態を家族おのおのが十分理解できるように配慮したうえで,家族内で直接話し合う機会をつくり,おのおのが納得できる方法を見出せるよう支援する。
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3 鎮静の開始 1 鎮静方法の選択 苦痛を緩和できる範囲で,意識水準や身体機能に与える影響が最も少ない方法を優先する。すなわち,一般的には,間欠的鎮静や浅い鎮静を優先して行い,深い持続的鎮静は間欠的鎮静や浅い鎮静によって十分な効果が得られない場合に行う。ただし,患者の苦痛が強く,治療抵抗性が確実であり,死亡が数時間から数日以内に生じることが予測され,かつ,患者の希望が明らかであり,間欠的鎮静や浅い鎮静によって苦痛が緩和されない可能性が高いと判断される場合,深い持続的鎮静を最初に選択してもよい。 2 人工的な水分・栄養の補給についての決定 人工的な水分・栄養の補給を行うか否かについては,患者の意思,および,治療目的(苦痛緩和)からみて,患者にとっての益(benefits)と害(harms)を総合的に評価する。水分・栄養の補給は,鎮静とは別に判断するべきものである。鎮静開始前に患者が経口摂取できている場合,あるいは,水分・栄養の補給を受けている場合,鎮静開始後の水分・栄養の補給についてあらかじめ患者・家族と相談しておくことが望ましい。水分・栄養補給による体液過剰兆候が苦痛を増悪させる場合,患者・家族の意思を尊重したうえで減量・中止を検討する。水分・栄養補給が患者の苦痛を和らげている可能性がある場合,患者・家族の意思を尊重したうえで継続する。 [コミュニケーションの例](輸液の減量・中止を提示する)「最近,むくみ(腹水・胸水)がふえてきました。今まで,お食事が召しあがれないので点滴をしてきたのですが,かえって負担になっているようです。今は,からだに水分はあるのですが,有効に使うことができず,たまってきている状態です。この状況ですと,点滴の量は少なくしたほうが,からだは楽になると思います。」●輸液を減量したために衰弱が進行するわけではないことを保証する「点滴を減らすと,そのせいで余計に衰弱するという心配をされるかもしれませんが,今の状態では点滴を無理に入れても栄養や水分が吸収されていない状態ですので,点滴を減らしたせいで衰弱するということはないと考えています。」 3 苦痛緩和が目的ではない治療についての決定 昇圧薬の投与,バイタルサインの精密な監視,定期的な採血など,治療目的(苦痛緩和)と一致しない治療や検査の実施について,あらかじめ患者・家族と相談しておくことが望ましい。DNR(心肺蘇生処置をしないこと)の同意を得る。 4 鎮静開始前に用いられていた薬剤の調節 苦痛緩和のために鎮静前から投与されていた薬剤は,効果がないと判断される場合を除いて継続する。治療目的と一致しないと判断される薬剤(降圧薬など)は中止を検討する。
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要件推奨と V章委員会合意 オピオイドは,苦痛の緩和を重視する観点から,過量投与の徴候(呼吸数の減少,ミオクローヌスなど)がみられなければ継続投与する。苦痛が緩和されており,過量投与の徴候がみられる場合は減量する。 5 患者・家族の気がかりへの配慮 鎮静を開始する前にしておきたいこと(大切な人と会っておくこと,話をすることなど)について,患者と家族の気持ちを確認する。 [コミュニケーションの例](鎮静を受ける前にしておきたいことを説明する)「しばらくして先ほどお話したお薬を始めます。少しずつ眠くなってくると思います。眠くなる前にお話しておきたい方や伝えておきたいことはありますか?」 6 鎮静の開始 1)鎮静薬の選択深い持続的鎮静に用いる第1 選択薬はミダゾラムである(表3 -1)。ミダゾラムが有効でない場合には,ほかの薬剤(フルニトラゼパム,バルビツール系薬剤,プロポフォールなど)を使用する(表3 -2,3 -3)。オピオイドは意識の低下をもたらす作用が弱く,かつ,蓄積により神経過敏性を生じ得るため,深い持続的鎮静に用いる主たる薬剤としては推奨しない。ただし,疼痛および呼吸困難を緩和するためには有効であるため併用してよい。ハロペリドールは意識の低下をもたらす作用が弱いため,深い持続的鎮静に用いる主たる薬剤としては推奨しない。ただし,せん妄を緩和するためには有効であるため併用してよい。鎮静の適応となる患者は,経口薬の内服は不可能であるという前提から,注射剤の投与を推奨する。しかし,患者の状態(内服可能)や薬剤の選択(利用可能な薬剤)に応じて,内服薬・坐薬の使用を妨げるものではない。 2)鎮静の開始鎮静のための薬剤は,原則として,少量で緩徐に開始し,苦痛緩和が得られるまで投与量を漸増する。苦痛緩和が得られるまで,必要に応じて追加投与を行ってもよい。ただし,苦痛が強い場合には,十分な観察と調節のもとに,苦痛緩和に十分な鎮静薬を投与し,苦痛が緩和されたあとに減量してもよい。 3)具体的な鎮静の方法持続的鎮静: 中止する時期をあらかじめ定めずに,意識の低下した状態を維持する。 主にミダゾラムの持続皮下注射・持続静脈注射,フェノバルビタールの持続皮下注射などが行われる。 間欠的鎮静: 一定期間意識の低下をもたらしたあとに薬剤を中止・減量して,意識が 低下しない時間を確保する。主に,ミダゾラムの静脈注射により行われることが多い。
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4 鎮静の開始後のケア 1 鎮静の開始後の評価 1 苦痛の程度,意識水準,鎮静による有害事象,および,鎮静以外の方法で苦痛が緩和 される可能性,病態,家族の希望の変化について,定期的に評価する。2 苦痛が緩和され,かつ,意識の低下,有害事象が最も少なくなるように投与量を漸増, 漸減する。 表3 -2 間欠的鎮静に用いられる薬剤 投与薬剤投与量投与経路利 点欠 点 ミダゾラム10 ~30mg(開始量は10mg)を生理食塩液100mL に溶解し,患者の状態を観察しながら,投与量を調整する。静 脈水溶性で多剤と混注できる。抗痙攣作用,短作用時間,拮抗薬が存在する。用量依存性の鎮静効果。耐性,離脱症状,奇異性反応,舌根沈下,呼吸抑制。保険適応は全身麻酔時の導入及び維持,集中治療における人工呼吸中の鎮静であり,注意すること。フルニトラゼパム0.5 ~2mg を0.5 ~1 時間で緩徐に点滴静注。静 脈舌根沈下,呼吸抑制 表3 -3 鎮静の種類と投与薬剤 浅い持続的鎮静深い持続的鎮静間欠的鎮静坐薬による鎮静 ミダゾラム+++ +++ +++フルニトラゼパム+ ++ +++フェノバルビタール+ ++ ++プロポフォール++ヒドロキシジン+ ++ジアゼパム++ブロマゼパム++ +++:強く推奨する。++:推奨する。+:推奨し得る。 表3 -1 持続的鎮静に用いられる薬剤 投与薬剤開始量投与量投与経路利 点欠 点 ミダゾラム投与開始量は,0.2 ~1mg /時間持続皮下・静注。1.25 ~2.5mg の追加投与を行ってもよい。投与量は,5 ~ 120mg/日(通常20 ~40mg /日)静脈,皮下*水溶性で他剤と混注できる,抗痙攣作用,短作用時間,拮抗薬が存在する,用量依存性の鎮静効果。耐性,離脱症状,奇異性反応,舌根沈下,呼吸抑制。保険適応は全身麻酔時の導入および維持,集中治療における人工呼吸中の鎮静であり,注意すること。*保険適応外の投与経路深い鎮静: 言語的・非言語的コミュニケーションができないような,深い意識の低下 を目標として薬剤投与量の調整を行う。 浅い鎮静: 言語的・非言語的コミュニケーションができる程度の,軽度の意識の低下 を目標として薬剤投与量の調整を行う。
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要件推奨と V章委員会合意 3評価項目は以下の通りである。◦苦痛の程度:苦痛の言語的訴え,表情,体動をもとに評価する。◦ 意識水準: 日常的な看護ケアの範囲内での言語的刺激に対する反応,身体的刺激に 対する反応をもとに評価する。意識水準の評価のために痛覚刺激を加える必要はない。 ◦ 有害事象: 精神症状(せん妄など),呼吸抑制(呼吸数,呼吸パターンの急激な変 化など),舌根沈下,誤嚥,循環抑制について評価する。 ◦鎮静以外の苦痛緩和の手段,病態,家族の希望。4 評価回数は,目標とする鎮静が達成されていない状態では20 分間に1 回以上,目標 とする鎮静が達成されている状態では1 日に3 回以上とする。 2 看護ケア 鎮静開始前と同じように,誠実に,患者の尊厳に配慮して,声掛けや環境整備などのケアを行う。不快な症状の出現を注意深く観察し,鎮静効果の評価を患者・家族とともに話し合う。口腔・眼のケア,清拭,排泄,褥瘡ケアに関しては,患者・家族の意思,および,治療目的(苦痛緩和)からみた患者の益と害を判断の規準として行う。 3 家族に対するケア 家族の心配や不安を傾聴し,悲嘆や身体的・精神的負担(鎮静決定後の心の揺れなど)に対する支援を行う。特に,家族が患者のためにできること(そばにいる,声をかける,手足にやさしくふれる,好きだった音楽を流すなど)をともに考える。経過に従って必要とされる情報(患者の状態,苦痛の程度,予測される変化など)を十分に提供する。特に,ほかの手段について十分に検討し施行したが有効ではないこと,鎮静によって生命が短縮する可能性は一般的に少ないこと,鎮静を浅くする(中止する)ことも可能であることを保証する。 [コミュニケーションの例](鎮静を受けている患者の家族へのケア) ●家族がどんな気持ちでいるのかを聞く「すやすやと休まれているようです。付き添われていて,何かご心配なことやこうしてあげられたらと思われていることはありますか?」 4 医療スタッフに対するケア 患者のケアに関わっているすべての医療スタッフの精神的負担に配慮し,必要に応じて情報の共有やカンファレンスを行う。
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VI章文献的検討の要約 1 医学的検討2 生命倫理学的検討
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1 医学的検討 1 頻 度 鎮静の施行頻度を調べた多施設の前向き研究は存在しない。表4 に報告されている鎮静の施行率を示す(Cameron 2004;Chiu 2001;Fainsinger 1991, 1998a, 2000a, 2000b;池永1995;Kohara 2005;近藤 2002;Morita 1996d;Stone 1997b;Ventafridda 1990)。深い持続的鎮静の頻度は,6.7%から68%まで大きな差がある。これらの研究における累積患者数から計算した深い持続的鎮静の施行率は28%(520 /1,841 例),および,各報告の鎮静率の中央値は21%であった。イタリアの13 の在宅ホスピスにおける研究では,深い持続的鎮静の施行率は0 ~ 60%(中央値=36%)であった(Peruselli 1999)。わが国の緩和ケア病棟81 施設を対象とした調査では,身体的苦痛に対する深い持続的鎮静の施行率は,33 施設(41%)で10%未満,43 施設(53%)で10 ~50%,5 施設(6.2%)で50%以上であった(Morita 2004a)。わが国のがん治療病棟と緩和ケア病棟の看護師を対象とした調査では,深い持続的鎮静を必要とした患者の累積割合は31%(3 万5,214/11 万1,990 例)であった(Morita 2004b)。以上から判断して,深い持続的鎮静の施行頻度は,全患者の20 ~35%と見積もられる。なお,わが国の緩和ケア病棟の医師105 名における深い持続的鎮静の頻度と影響要因についての質問紙調査がある(Morita 2004a)。その結果によると,身体的苦痛に対する深い持続的鎮静の施行頻度は,10%以下が41%,10 ~50%が53%,50%以上が6.2%であった。また,心理実存的苦痛に対する深い持続的鎮静の頻度は,0%が64%,0.5 ~5%が32%,10%以上が3.6%であった。深い持続的鎮静は,1はっきりとした意識が良い死には必要であるとは考えていない,2鎮静はしばしば生命予後を短縮させるとは考えていない,3がん・緩和ケアの専門看護師とともに働いている,4治療を実際に試さず 表4 頻度・対象症状 文 献場 所対象数累 計Ventafridda 1990 イタリア 120 Fainsinger 1991 カナダ 100 池永1995日本202 Morita 1996d日本143 Stone 1997bイギリス 115 Fainsinger 1998a南アフリカ 79 深い持続的鎮静(%) 鎮 静27 (520/1,841) 53 16 68 (20) 48 26 (18) 30 対象症状†(%) (n =1,157) せん妄・混乱13.1 7.4 10 11 16 呼吸困難11.5 22 17 5.2全身倦怠感8.9 39 疼痛5.1 21 6.1 0.95 5.2嘔気・嘔吐1.8 3.2 出血0.2精神的苦痛1.2家族の苦痛0.3 6.8 *:「通常死亡前に中止」, † : 深い持続的鎮静の対象症状が明記されている研究において全患者を母数とした割合(%)
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文献的検討VI章の要約 とも緩和困難として判断する,5間欠的鎮静よりも持続的鎮静を第一に行う,6フェノバルビタールをよく使用する,と回答した医師ほど施行頻度が高かった。鎮静の頻度に関しては,良い死に対する臨床医の考え方,生存期間に対する鎮静の影響に関する考え方,臨床医の医学的実践が影響していたと報告されている。 2 対象症状 表5 に示した研究からは,全患者を母数とした深い持続的鎮静の対象症状は,せん妄(13.1%),呼吸困難(11.5%),倦怠感(8.9%),疼痛(5.1%),嘔気・嘔吐(1.8%),精神的苦痛(1.2%)などであった。27 論文を対象とした系統的レビューでは,鎮静の対象症状は不穏(26%),疼痛(21%),混乱(14%),呼吸困難(12%),ミオクローヌス(11%),精神的苦痛(9%),嘔気・嘔吐(3%)であった(Cowan 2001)。また,2 つの観察的研究におけるせん妄症状に対する深い持続的鎮静の施行率は,全患者の5.9%,10%であった(Morita 2001a;Stiefel 1992)。以上から判断して,鎮静の主要な対象症状は,せん妄,呼吸困難,疼痛であり,ときに,倦怠感,嘔気・嘔吐,ミオクローヌス,精神的苦痛などが対象となると考えられる。実存的苦痛に対する鎮静に関しては,仮想4 症例(生命予後の長短と身体的苦痛・実存的苦痛の組み合わせ)に対する意見調査(Blondeau 2005)において,苦痛が身体的なものであれば鎮静が必要と考えるが,実存的な苦痛である場合には鎮静を行うことに躊躇が認められたとの報告がある。また,心理社会的苦痛に対する深い持続的鎮静の施行頻度について,わが国の105 名の緩和ケア病棟医に対する質問紙調査が報告されている(Morita 2004c)。その調査では, 36%の回答者において心理社会的な苦痛に対して深い持続的鎮静を行ったことがあると (表4 つづき) Fainsinger 2000aカナダ 150 Fainsinger 2000b Chiu 2001台湾251近藤2002日本 70 Cameron 2004 南アフリカ 100 Kohara 2005 日本 124 イスラエル 100 南アフリカ 94 南アフリカ 93 スペイン 100 6.7 15 29 36 22 (13) * 28 (11) 33 20 50.3 6.0 14 8.7 23 16 9.0 10.6 0.67 1.0 13 12 2.0 2.0 31.7 1.0 20.1 1.0 4.4 1.1 0.99 12.6 6.4 3.3 5.0 3.0 1.0 2.0 1.1 1.1 5.1 4.0
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答えていた。全症例数から検討すると,8,661 例中90 例であった(1.0%)。そのうち, 46 例の内容について検討するとPS が3 -4 であったのが96%,予測される生命予後が3 週間未満であったのが94%であった。鎮静を希望した苦痛の内容は,意味のなさ/価値のなさ61%,他者への迷惑/依存/セルフケアの低下が48%,強い不安/恐怖/パニックが33%,死亡時期を自分で決めたいが24%,孤独/ソーシャルサポート不足が22%であった。鎮静施行の前には,間欠的鎮静(94%)や特別な精神科的,心理的,宗教的ケア(59%)が行われていた。26名の抑うつ患者の89%では抗うつ薬が投与されていた。意思決定能力のある患者はすべて,明確な鎮静の希望をもっており,家族の鎮静に対する同意も得ていた。また, 98%では治療に対する看護師の同意が得られており,95%の患者は繰り返し鎮静を求めていた。一方で,複数の臨床医で相談がなされていたが44%で,多職種カンファレンスが行われていたのは54%であった。また,精神科医への対診依頼がされていたのは17%であった。心理実存的な苦痛に対する鎮静はわが国においては稀なことであるが,全身状態が極めて悪く,間欠的鎮静や特別なケアによっても緩和されない状況にあり(proportionality),患者・家族からの同意(autonomy)も得られているならば倫理的にも許容されると考えられたと報告している。 3 鎮静期間 間欠的鎮静を含む鎮静の施行期間の中央値は5 日以下であり,最長期間は5 ~47 日であった(Cameron 2004;Chiu 2001;Fainsinger 1998a, 2000b;池永 1995;Kohara 2005;近藤 2002;Stone 1997b)。また,114 例を対象とした観察的研究では,56%が48 時間以下, 13%が1 週間以上であった(Sykes 2003)。27 論文を対象とした系統的レビューでは,ケースシリーズ10 編での鎮静期間が中央値1.3 日(0.1 ~11 日),症例報告12 編での中央値が4 日(0.5 ~29 日)であった。以上より,鎮静期間は多くが数日以下であるが,1 週間以上の鎮静が行われる場合もあると考えられる。 4 使用薬剤 複数の薬剤の有用性を比較した無作為化比較試験はない。表5 に鎮静に使用された薬剤をまとめた(Cameron 2004;Chiu 2001;Fainsinger 1998a, 2000a, 2000b;池永 1995;Kohara 2005;近藤 2002;Morita 1996d;Stone 1997b;Sykes 2003)。15 報告のうち13 報告でミダゾラムが最も高頻度に使用されていた。ミダゾラムの投与量の中央値は10 ~53 mg/日,投与量の範囲は5 ~180 mg/日であった。症例報告やケースシリーズも含めた系統的レビューにおいて,投与量の中央値は35 mg /日,範囲は10 ~480 mg /日であった(Cowan 2001)。ミダゾラムのほかに,ジアゼパム,ロラゼパムなどのベンゾジアゼピン系抗不安薬(Chiu 2001;池永 1995;Fainsinger 1998a, 2000a, 2000b;Morita 1996d;Smales 1989),ハロペリドール,クロルプロマジン,レボメプロマジンなどの向精神薬(Cameron 2004; Chiu 2001;Fainsinger 1998a, 2000a, 2000b;池永 1995;Kohara 2005;近藤, 2002;McIver
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文献的検討VI章の要約 1994;Morita 1996d;Stone 1997b;Sykes 2003),フェノバルビタールなどのバルビツール系薬(Cheng 2002;茅根1999;Fainsinger 2000b;Greene 1991;池永 1995;Morita 1996d; Stirling 1999;Stone 1997b;Sykes 2003;Truog 1992),および,プロポフォール(Lundström 2005;Mercadante 1995;Moyle 1995;Sykes 2003)がときに用いられていた(表5)。以上より,鎮静に用いられる標準的薬剤はミダゾラムであると考えられる。状況によっては,その他のベンゾジアゼピン系抗不安薬,向精神薬,バルビツール系薬,あるいは,プロポフォールが用いられる。 5 意思決定過程 鎮静における意思決定過程に関する研究では,患者の50 ~55%,家族の89 ~96%が意思決定過程に参加した(Chiu 2001;Morita 1996d, 2004d)。患者が参加できない主要な理由は認知障害であった。一般人口,あるいは,患者・家族が鎮静においてどのような意思決定過程を希望するか,代表性のある大規模集団での調査は行われていない。日本の一般人口を対象とした質問紙調査の結果を表6 に示す(Morita 2002b)。耐え難い身体的・精神的苦痛に対しては,半数が深い間欠的鎮静を希望した。意識が低下することやコミュニケーションができなくなることについて,85%が明確に知りたいと述べたが,6%は知りたくないと述べた。あらかじめ鎮静について知っておくことについては,「どんな状況でも知りたい」と回答したものが約半数であったが,「受け止められる状況なら知りたい」という回答が40%であった。自分と家族の意思が異なるときは,34%が「家族の意思にかかわらず自分の意思に従ってほしい」と述べたが,60%は家族への何らかの働きかけを希望した。鎮静の希望には,「しっかりものを考えられること」,「死に対する準備をしておくこと」,「苦痛がないこと」など,何が望ましい死にとって重要であると考えるかが関係していた(Fainsinger 2003;Morita 2002b)。以上から,鎮静の意思決定においては,約半数の患者では主に認知障害のために意思決定に参加できないが,半数の患者,90%以上の家族は意思決定に加わることができると考えられる。また,苦痛が耐え難いときにどのような治療を希望するかには,何が望ましい死にとって重要であると考えるかが関与しているため,患者個々によって希望は異なると考えられる。一般的には,苦痛緩和とともにコミュニケーションができる手段を望み,鎮静についての明確な説明を希望する場合が多い。一方,あらかじめ説明を受けることについては,受け止められる状況になってから聞きたいと考えるものも多い。患者の意思が家族と異なるときには,家族の意見を調整したうえで自分の意思が優先される方法を求めていると考えられる。 6 効果・有害事象 鎮静の苦痛緩和効果や有害事象を患者・家族の評価に基づく信頼性・妥当性の確認された方法で明らかにした研究はない。遺族調査では,鎮静後に,ほとんど・まったく苦痛が緩和された患者は60%,とき
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表6 鎮静に関する希望 「最も希望する」 耐え難い身体的苦痛鎮静なし2.6% 軽い鎮静27%深い間欠的鎮静53%深い持続的鎮静4.6%安楽死11% 耐え難い精神的苦痛鎮静なし12% 軽い鎮静22%深い間欠的鎮静43%深い持続的鎮静7.2%安楽死14% 意思決定への参加意識が低下することコミュニケーションができなくなること 明確に知りたい85% 86%遠まわしに知りたい7.9% 7.9%知りたくない6.6% 6.3% あらかじめの説明についてどんな状況でも知りたい52% 受け止められる状況なら知りたい40%知りたくない7.2% 家族が反対しているとき家族を説得してほしい37% 家族にかかわらず患者の意思に従ってほしい34%妥協点を見つけるよう調整してほしい25%家族の言うとおりにしてほしい3.9% 表5 使用薬剤 池永1995 Morita 1996d Stone 1997b Fainsinger 1998a Fainsinger 2000a Fainsinger 2000b ベンゾジアゼピン系抗不安薬 ミダゾラム (%) 46 55 80 61 50 80投与量 範 囲(mg/日) 15 -60 24 -144 5 -60中央値(mg/日) 30 24 15ジアゼパム (%) 15 10 0ロラゼパム (%) 4.3 10 0その他 (%) 0.7 6 0 30向精神薬 ハロペリドール (%) 18 33 37 20ドロペリドール (%) 2.2クロルプロマジン (%) 4 0 4.3 0レボメプロマジン (%) 33 20 0バルビツール系薬 フェノバルビタール(%) 59 3 0その他 (%) 3.6 4プロポフォール (%)
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文献的検討VI章の要約 表7 死亡までの日数の比較 Ventafridda 1990 Stone 1997b Fainsinger 1998a Chiu 2001 Sykes 2003 Kohara 2005 対象数 120 115 79 251 237 124 鎮静を受けた患者25 19 9 ± 5 28 ± 36 11 -17 28.9 ± 25.8鎮静を受けなかった患者23 19 6 ± 7 25 ± 31 13 -16 39.5 ± 43.7 p 値0.57 >0.2 0.09 0.43 0.23 0.1 に苦痛がある程度にまで緩和された患者が28%であった(Morita 2004d)。医療者による評価では,ミダゾラムで98%,その他の薬剤においても75%以上の苦痛緩和の効果が認められた(Cowan 2001)。6 つの観察的研究で,鎮静を受けた患者と受けなかった患者との初診から死亡までの期間に差がないことが示されている(表7;Chiu 2001;Fainsinger 1998a;Kohara 2005; Stone 1997b;Sykes 2003;Ventafridda 1990)。複数の生命予後因子を加えたモデルを用いて鎮静薬による影響を比較した研究においても,鎮静薬の使用による死亡までの期間への有意な影響は認められなかった(Morita 2001d)。詳細な観察的研究では,鎮静薬による生命の短縮効果が臨床的に明確に認められたのは114 例中2 例(1.8%)であった(Sykes 2003)。わが国の緩和ケア専門病棟21 施設における深い持続的鎮静が行われた終末期がん患者102 名に対しての多施設前向き観察的研究によると,鎮静は症例の83%において症状緩和に役立っており,呼吸数は鎮静前後で有意な減少は認められなかったものの(18 ± 9.0 回/分と16 ± 9.4 回/分,p=0.62),呼吸抑制(呼吸数8 回/分以下)や循環抑制(収縮期血圧60 mmHg 以下または50%以上の低下)は20%の患者で認められ,致 (表5 つづき) Fainsinger 2000b Chiu 2001近藤2002 Sykes 2003 Cameron 2004 Kohara 2005 88 51 82 17 35 82 60 98 10 -45 5 -135 15 -180 7.5 -40 51.7 -66.7 23 15 53 10 4 6 5 11 15 0 3 10 0 18 0 50 33 35 65 84 4.3 0 3 0 2.8 5 0 0 5 22 0 0 3 4.4 0.9
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死的な状態に陥ったのは3.9%であったとしている。また,呼吸抑制や循環抑制は,せん妄に対して鎮静が行われ,the Agitation Distress Scale で高い点数にあった患者ほど,有意に高頻度に認められたとしている。鎮静による副作用については,せん妄,呼吸抑制,循環抑制などが報告されているが,頻度は10%以下である(近藤 2002;Morita 1996d, 2003b, 2005a)。一方,ミダゾラムによって鎮静を行った場合,耐性を生じる可能性が示されている(Bottomley 1990;Burke 1991;Morita 2003b)。以上から判断して,鎮静は75%以上の患者で有効であり,重篤な合併症や直接作用による生命短縮は少ないと考えられる。 7 家族へのケア わが国の鎮静を受けた患者の遺族を対象とした多施設研究では,78%の遺族は鎮静に満足していたが,25%は強い精神的苦痛を体験していた(Morita 2004d)。家族の低い満足感に関係していた要因は,1鎮静後に苦痛が十分緩和されなかったこと,2情報提供が不十分であったこと,3鎮静が生命予後を短縮すると感じたこと,4鎮静以外に苦痛を緩和する手段があると感じたことであった。家族の精神的つらさに関係していた要因は,1鎮静後に苦痛が十分緩和されなかったこと,2意思決定の責任を負うことが負担に感じられたこと,3患者の状態の変化に心構えができていなかったこと,4医師や看護師に気持ちを十分にくみ取ってもらえないと感じたことであった。以上より,鎮静を受ける患者の家族のケアとして,1鎮静開始後に治療効果を定期的に評価し,治療目的が達成されるよう迅速に修正を行うこと,2十分な情報提供,特に,ほかの手段について十分に検討し施行したが有効ではないこと,さらに,鎮静によって生命が短縮する可能性は一般的に少ないことを説明すること,3意思決定過程を共有し家族に決定を一方的にゆだねることはしないこと,および,4家族の心配や不安を傾聴し,悲嘆や身体的・精神的負担に対する十分な支援を行うことが推奨される。 8 スタッフのストレス 鎮静施行における看護師の負担については,わが国の3,187 名の看護師を対象とした,質問紙調査が行われている(Morita 2004b)。82%の看護師では深い持続的鎮静を臨床上経験していた。30%の看護師は,鎮静に関する負担により,現在の仕事を辞めたいと思っていると答えていた。また,12%の看護師で鎮静に関与することは負担だと述べており,12%では患者が鎮静を受けるとき無力感を感じており,11%では可能ならその施行しなければならない場に立ち会いたくないと考えており,4%では無力感を感じると述べていた。負担になると感じていた看護師は,1臨床経験が短い,2患者に関わる時間が少ないと感じている,3医師と看護師との間での鎮静に関する共通理解がない,4有効なチームカンファレンスが行われていない,5患者と家族との間の鎮静に関する希望についての葛藤をよく経験している,6自己の能力の不十分さを感じている,7緩和困難な苦痛の評価は難しいと考えている,8鎮静は死を早めると考えている,9鎮静は安楽死と区別することが倫理的に難しいと考えている,10自分の抱く悲嘆に対処できないと感じている,11鎮静に関する矛盾した個
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文献的検討VI章の要約 人間の価値観,と有意に関連していた。今後必要となる方策としては,1労働過剰を緩和するマネジメントを進める,2対立する意見,特に医師と看護師の意見の対立を解決するチームアプローチを行う,3患者と家族の希望を明確にするための話し合いの時間をできるだけ早くにもつ,4個人間の技術や緩和困難な症状を診断するための方法を見つける,鎮静による生命に対する影響をできるだけ最小にする,鎮静と安楽死についての相違に関する倫理原則を教育する,5患者中心の原則に沿った看護師の個人的な価値観を探る,などのことを進めていく必要があると考えられた,としている。 9 鎮静や安楽死施行における臨床医の態度に関する臨床的研究 苦痛緩和のための鎮静は安楽死との異同について懸念されることが多いため,臨床医の態度に関する研究がいくつか報告されている。オランダの臨床医410 名における終末期鎮静と安楽死の実際に関する臨床的状況の相違についての面接調査が報告されている(Rietjens 2006)。それによると,終末期鎮静を行った患者は安楽死を受けた患者より,不安(37% vs 15%)と混乱(24% vs 2%)が多かった。安楽死の要求は尊厳の喪失(63%)と改善しない苦悩の感覚(82%)に関連しており,一方,終末期鎮静の要求は強い疼痛(57%)と関連していた。安楽死には筋弛緩薬とバルビツール系薬が使用され(94%),終末期鎮静にはベンゾジアゼピンやモルヒネが使用(96%)されていた。安楽死では94%で1 時間以内に死が訪れていたが,終末期鎮静では61%が24 時間以上生存していた。また,臨床医は終末期鎮静により1週間以上生命を短縮すると予想していたのは27%であったが,安楽死においては73%が予想していたと報告されている。また,米国の臨床医に対する質問紙調査(Pomerantz 2004)では,臨床医の73%が終末期鎮静を経験しており,93%は終末期鎮静は必要なものと回答していた。そのうえで,「終末期鎮静を行う場合,臨床医として第一に意図することは何か」という問いに対しては,69%が「生命が短縮する可能性があるが,緩和困難な症状に対する治療」と答え, 27%が「緩和困難な症状に対する治療」,4%が「生命を短縮させる治療」と答えていた。「終末期鎮静を行う場合,結果として予想されること」についての質問には,75%が「生命が短縮する可能性があるが,緩和困難な症状に対する治療」と回答しており,17%が「緩和困難な症状に対する治療」,8%が「生命を短縮させる治療」と回答していた。「終末期鎮静は安楽死とはまったく異なる方法がとられる」という意見に対しては,鎮静経験のある医師では64%が賛成,鎮静経験のない医師では71%が賛成していた。また,「終末期鎮静は苦難・苦悩から解放するためには,臨床医として行わなければならないものである」という意見に対しては,鎮静経験ありの群では95%が賛成し,鎮静経験なしの群では69%であったと報告されている。コネチカット州の内科医677 名に対する終末期鎮静と臨床医による自殺幇助に関する意識についての無記名郵送法調査が行われている(Kaldjian 2004a)。回答者の78%は,積極的な疼痛治療にもかかわらず緩和できない疼痛があるならば,終末期鎮静は倫理的に許容されると考えていた。一方,終末期鎮静に賛成していた群のうち38%は,症例よっては臨床医による自殺幇助は倫理的に容認されると考えていた。回答者の47%は,終末期鎮静には賛成するが,臨床医による自殺幇助は認められないとしていた。臨床医
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による自殺幇助に反対する要因としては宗教をもっているかどうか,宗教に対する熱心さ,終末期患者のケアを行っている症例数が影響していたとしている。ドイツ臨床医における倫理的問題に関する意識調査において,臨床医を対象として,安楽死,自殺幇助,終末期鎮静に対する態度を評価した報告がある(Müller-Busch 2004)。411 名の臨床医を対象に,終末期ケアにおいて耐え難い苦痛をもった14 の仮想症例における多項選択式質問紙調査を行った。回答率は61%。安楽死に対しては90%,自殺幇助については75%,精神科疾患患者に対する自殺幇助は94%の臨床医が反対の立場をとった。終末期鎮静に対しては94%で受け入れられていた。個人的な判断のもとになる要因としては,個人的な倫理的価値観82.9%,専門的な緩和医療に関する経験72.5%,代替的なアプローチの知識55.4%,医学的ガイドラインの知識38.2%,信仰的信念27.9%であり,ナチスに関する知識はほとんど安楽死否定には影響していなかったとしている。オランダ市民1,388 名と臨床医391 名の意見調査(積極的安楽死,終末期鎮静,死亡直前期におけるモルヒネの増量に関する仮想症例に対する意見)においては(Rietjens 2005),積極的安楽死の受容は市民(85%)のほうが臨床医(64%)よりも高かった。また,臨床医においては積極的安楽死の受容は,意思決定能力のない成人では36%,重篤でない患者においては11%,認知症の患者では6%と低下した。一般市民ではそれぞれ63%,37%,62%であった。また,両群において,終末期鎮静とモルヒネの増量においてはその受容に有意な差は認めなかった。一般市民における安楽死支持の決定因子として,無宗教,低教育,独身が認められた。
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文献的検討VI章の要約 1 鎮静と積極的安楽死 鎮静を積極的安楽死と連続する行為とみなす見解(Billings 1996;Craig 1994a, 1994b; Orentlicher 1997)と,鎮静は積極的安楽死から明確に区別できるとする見解 (Materstvedt 2003;Mount 1996;Portenoy 1996)がある。後者では,鎮静と安楽死は,1意図(苦痛緩和 vs 患者の死亡),2方法(苦痛が緩和されるだけの鎮静薬の投与 vs 致死性薬物の投与),および,3成功した場合の結果(苦痛緩和 vs 患者の死亡)において異なる。 2 鎮静における好ましい効果と好ましくない効果 相応性原則と2 重効果の原則は,鎮静に好ましい効果と好ましくない効果があるとして,生じる倫理的ジレンマを解決するために用いられる。鎮静における好ましい効果とは苦痛緩和である。好ましくない効果とは,意識の低下,コミュニケーションができなくなること,および,生命予後を短縮する可能性をさすことが多い(Jansen 2002ab;Morita 2003a; Quill 1997;Rousseau 2000)。しかし,それらを好ましくないとは考えない価値観をもつ患者もいる (Hunt 2002)。 3 鎮静の倫理学的基盤 医療における一般的な倫理原則として,自律性原則,与益原則,無加害原則,正義・公平の原則が挙げられる。自律性(autonomy)原則とは,「患者の自律的な意思を尊重するべきである」という原則をさす。与益(beneficence)原則とは「患者の利益になるようにするべきである」,無加害原則(non maleficence)とは「患者に害を加えないようにするべきである」,正義・公平(justice /equality)原則とは「社会的公平を保つべきである」という原則をさす。さらに,医療行為に患者に益をもたらす(好ましい)効果と害をもたらす(好ましくない)効果があるために,与益原則と無加害原則の双方を同時に満たすことができない場合,倫理的妥当性を検討する手段として,2 重効果の原則(principle of double effects)を立てる立場,あるいは,相応性原則(principle of proportionality)を立てる立場がある。鎮静について倫理的妥当性を考慮する際には,自律性原則に加えて,与益原則と無加害原則を基盤とした2 重効果の原則,および,相応性原則が参照される。 1 自律性原則(principle of autonomy) 自律性原則に照らす限りでは,意思決定能力のある患者が十分に知らされたうえで自発的に決定することが,鎮静が妥当となるために必要である(Cowan 2002;Hallenbeck 2000;Hunt 2002;Morita 2003a;Quill 1997;Rousseau 2000)。 2 生命倫理学的検討
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相応性原則は,「好ましくない効果を許容できる相応の理由がある場合,倫理的に妥当である」とする。鎮静に相応性原則を適用すれば,苦痛緩和という好ましい効果に,意識低下や生命予後を短縮する可能性が伴ったとしても,相応の理由がある場合には倫理的に妥当であるとみなされる(Hallenbeck 2000;Morita 2003a;Quill 1997;Wein 2000)。鎮静に相応性原則を適用するときの「相応の理由」として,1好ましい効果(苦痛緩和)が好ましくない効果(意識の低下,生命予後を短縮する可能性)を上回ること,および,2患者の状態(著しい苦痛があり,ほかの手段では緩和される見込みがないこと,患者の死期が迫っていること)から判断して鎮静が相応の行為となることが挙げられる。相応性原則では,患者の状態,予測される益(benefits),および,予測される害(harms)からみて,すべての取り得る選択肢のなかで鎮静が最も相応な行為である場合,倫理的に妥当となり得るとする。ただし,相応性原則に則るからといって,必ずしも行為の意図を度外視することにはならない。相応性原則により,鎮静がその状況において最善と判断される場合,鎮静がもたらす益の故に(つまり,苦痛の緩和を意図して),これを実施するのは倫理的に適切であるが,害の故に(つまり,人間的生活ができなくなることを意図して),これを実施するのは不適切であるからである。 3 2 重効果の原則(principle of double effects)と行為の意図 1)一般的な2 重効果の原則2 重効果の原則では,好ましい効果を意図した行為が,好ましくない結果を生じることが予測されるときに,良い意図の存在によって,好ましくない結果を許容しようとする。すなわち,好ましくない結果が生じることが予測されても,1行為自体が道徳的である,2好ましい効果のみが意図されている,3好ましい効果は好ましくない効果によってもたらされるものではない,および,4好ましくない結果を許容できる相応の理由がある,場合に妥当であると考える。要件のうち,4は単独で相応性原則として扱われる。 2)鎮静における2 重効果の原則の適用:3 つの見解2 重効果の原則によって鎮静の倫理的妥当性を判断しようとするときに,鎮静の好ましくない効果として,意識の低下について検討する見解(A)と,生命予後を短縮する可能性について検討する見解がある。後者には,「好ましくない効果を生じることが予測される」ことに,「確実に生じる」場合を含んではならないとする見解(B)と含んでよいとする見解(C)とがある。したがって,2 重効果の原則の鎮静への適用においては,以下の3 つの見解がある。A:鎮静の好ましくない効果は意識の低下であり,苦痛緩和に伴う二次的な意識低下を許容することは妥当とするが,意図的に意識を低下させる薬剤の投与は妥当としない(Jansen 2002ab;Sulmasy 1999)。この見解では,例えば,疼痛に対してモルヒネを増量して二次的に傾眠となることは許容するが,せん妄に対して患者の意識を低下させるこ 2 相応性原則(principle of proportionality)
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文献的検討VI章の要約 とを意図して睡眠薬を投与することは許容しない。B:鎮静の好ましくない効果は生命予後を短縮する可能性と考え,生命予後の短縮が予測されたとしても意図されていないのであれば鎮静は許容する。ただし,生命予後の短縮が単に予測されるのみならず,確実に生じる状況の鎮静は妥当としない(Baumrucker 2002;Quill 1997)。この立場では,例えば,死亡が数時間以内に生じると考えられる全身状態が非常に悪化した患者が呼吸困難を訴え鎮静を行う場合,鎮静薬の直接作用による呼吸抑制と死亡をもたらす可能性があるが,苦痛緩和を意図していることが了解できるように鎮静薬を少量ずつ緩徐に投与するならば,仮に死亡が生じたとしても意図されていないと判断して許容する。一方,鎮静を行わなかったならば,数カ月の生存が見込める患者に水分・栄養の補給を行わずに深い持続的鎮静を行う場合,患者の生命予後を鎮静により短縮させることが確実であるため,確実に生じる生命予後の短縮を意図していないと主張することはできないと考え,妥当としない。C:鎮静の好ましくない効果は生命予後を短縮する可能性であり,生命予後の短縮が意図されていなければ鎮静を妥当とする。すなわち,「鎮静は苦痛緩和を意図しており,生命予後の短縮を意図していない」との主張に基づき鎮静を妥当化する(Bernat 2001; Rousseau 2000;Walton 2002;Wein 2000)。 3)鎮静における2 重効果の原則の適用:反論2 重効果の原則による鎮静の倫理学的妥当性について専門家の見解は一致していない。2 重効果の原則により鎮静の倫理的妥当性を検討しようとする立場に対する反論には以下のようなものがある。◦鎮静によって死期が早められるという2 重効果の前提そのものが医学的知見では支持 されていない(Lynn 1998;Morita 2001d;Sykes 2003;Walton 2002)。◦意図的な意識低下を許容しない立場(A)では,鎮静では意識の低下が意図されてい るとする臨床家の見解と矛盾する(Morita 2002d;Rousseau 2002b)。◦生命予後を確実に短縮すると考えられる場合に鎮静を行うことを許容しない立場(B) では,著しい苦痛を放置する場合が生じ得る。例えば,この立場では,生命維持には直接影響しないが,耐え難い疼痛や精神的苦痛が緩和されない場合の鎮静は許容されない。したがって,患者が耐え難い苦痛から解放される手段はないことになる。しかし,著しい苦痛のまま死に至らしめるよりは,生命が短縮したとしても苦痛を緩和することが倫理的であるとみなされる場合があると考えられる(Rousseau 2002b)。◦鎮静で苦痛緩和のみが意図されていると主張する立場(C)では,1医師の意図は両 価的である,すなわち,苦痛緩和という意図をもちながら,同時に,生命を短縮させる意図をもつことがあるかもしれない,2意図と予見を明確に区別することはできない,および,3医療者は意図のみならず結果に責任をもつ必要がある,という点を十分に考慮していない(Hunt 2002;Lowey 2001;Quill 1997, 2002)。 4 2005年版ガイドライン作成後の緩和ケア病棟に対する調査 1 2005年版ガイドラインに基づく深い持続的鎮静の効果と安全性 わが国の緩和ケア専門病棟21 施設において,ガイドラインに沿って深い持続的鎮静
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が行われた連続終末期がん患者102 名に対しての多施設前向き観察的研究が行われ,報告されている(Morita 2005a)。臨床医が前向きに患者の症状の強さ,コミュニケーション能力,呼吸数,鎮静に関連する合併症を評価した。その結果によると,鎮静は症例の83%において症状緩和に役立っていた。深い鎮静が1 時間にわたり得られるまでの時間は,中央値で60 分であったが,49%の患者では,一度,深い鎮静状態に入ったあとで覚醒していた。明瞭なコミュニケーションが得られる患者の割合は,鎮静前では40%であったが,鎮静4 時間後は7.1%まで低下し,the Communication Capacity Score は15 ポイントまで有意に低下した(p <0.001)。呼吸数は鎮静前後で有意な減少は認められなかったが(18 ± 9.0 回/分と16 ± 9.4 回/分,p=0.62),呼吸抑制(呼吸数8 回/分以下)や循環抑制(収縮期血圧60 mmHg 以下または50%以上の低下)は20%の患者で認められ,致死的な状態に陥ったのは3.9%であった。適切な症状緩和が得られるかどうかは,患者の年齢や性別,PS,対象症状,鎮静薬の種類や初期投与量での有意な差は認めなかった。呼吸抑制や循環抑制は,せん妄に対して鎮静が行われ,the Agitation Distress Scale で高い点数にあった患者ほど,有意に高頻度に認められた。ミダゾラムが高投与量になった症例は,年齢が若い,黄疸がない,以前ミダゾラムの投与を受けていた,鎮静の期間が長い,ことと有意に相関していた。鎮静は緩和困難な症状をもつ終末期がん患者の大多数において有効かつ安全な治療であり,鎮静に関連した致死的な合併症はわずかにしか認められなかった。今後,異なる鎮静方法による比較試験がより効果的で安全性の高い鎮静のプロトコール決定のためには必要となるであろう,としている。 2 ガイドラインに基づく鎮静施行に関する倫理的考察 わが国の緩和ケア専門病棟21 施設において,ガイドラインに沿って深い持続的鎮静が行われた連続終末期がん患者102 名に対しての多施設前向き観察的研究が行われている(Morita 2005b)。研究の前に鎮静の倫理的妥当性として,臨床医の意図,相応性,患者の意思の観点から概念化している。その結果によると,鎮静は主にミダゾラムとフェノバルビタールによって行われていた。開始量はそれぞれミダゾラムが1.5 mg /時間,フェノバルビタールが200 mg /日であった。主な投与経路は持続皮下注射か持続静脈注射であり,急速静脈注射は認めなかった。人工的水分投与あるいは経口より水分が摂取できていた59 名の患者のうち63%は鎮静後も人工的水分投与が行われていたが,それ以外の患者では水分過剰症状があるため,あるいは患者が希望しなかったために,人工的水分補給は中止となったか開始されなかった。また,言語的コミュニケーションが取れる患者66 名のうち,95%では苦痛は耐えられないと明確に述べられていた。鎮静が必要となった症状の原因は,がん悪液質や臓器不全などのような潜在する悪性疾患の進行によるものであり,標準的な緩和医療(倦怠感をもつ患者の68%にコルチコステロイド,呼吸困難感をもつ患者の95%にオピオイドの投与)でも改善が得られないものであった。気道分泌過多をもつ患者の75%に分泌抑制薬が,せん妄をもつ患者の74%に向精神薬が,疼痛をもつ患者のすべてにオピオイドが投与されていた。the Palliative Prognostic Index に基づくと,94%の患者が3 週間以内の生命予後と判断された。鎮静の前に67%の患者は鎮静に対する明確な希望を述べていた。残る34 名の患者では,鎮静に関する以前からの希望が記録されていたのが4 名であり,ほかの30 名
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文献的検討VI章の要約 では治療方針の決定は家族とともに行われていた。患者が治療方針の決定に参加できなかった主な理由は認知障害であった。これらのデータは,一般的にわが国の専門的緩和ケア病棟において,鎮静は2 重効果の原則と相応性の原則,自律性の原則に沿って行われていることが示された,としている。 5 他のガイドラインの要約 1 EAPC(the European Association for Palliative Care)のガイドライン EAPC のガイドラインでは,苦痛緩和のための鎮静をPalliative Sedation Therapy と位置づけ,鎮静薬を用いて患者の意識を低下させることにより,緩和困難な症状による耐え難い苦痛を緩和することをさすと定義している。また,そのためには適切な薬剤を症状が改善するように注意深く投与量を調整する必要があるとしている。鎮静薬の開始量は,患者がコミュニケーションを保てるように少ない量から開始するのが良いとし,患者をケアしているチームは,症状が緩和困難であることの判断が,適切に行われるだけの経験をもった専門家であることが良いとしている。また,緩和ケアの専門家からのアドバイスが鎮静を開始する前にあることが望ましいとし,深い持続的鎮静の場合には,病状は回復不能で進行性であり,数時間か数日で命の問題になると考えられる場合に検討するのが良いとしている。第一選択薬としてはミダゾラムを推奨している。輸液を控えるか,中止するかの判断は,鎮静とは別に検討するのが良いとし,輸液は益が害を上回るときのみに支持されるであろうと示している。そして,鎮静は安楽死と以下の点において区別されるとしている。1鎮静は苦痛緩和を意図として行われる,2鎮静はその状況において最も釣り合った介入方法である,3患者の死は鎮静がうまく行われた結果で起こるものではない。そのうえで,鎮静とその効果は注意深く調節され,評価されるのが良いとしている(de Graeff 2007)。
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VII章文 献
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索 引 ◆和文◆ あアカシジア 30浅い鎮静 16,40安全性 26 い医学的適応 27医療チーム 16意思決定過程 32,47意思決定能力 32意思表示 36 え栄養補給(人工的な) 38 お嘔気 29嘔吐 29 か家族 16 ―― の希望 32患者の希望 32間欠的鎮静 16,39 ―― に用いられる薬剤 40 き気道分泌 29 けケア 27,50痙攣 30倦怠感 30こ 呼吸困難 29効果 47 しジアゼパム 40使用薬剤 46,48自律性 24自律性原則 53持続的鎮静 16,39 ―― に用いられる薬剤 40実存的苦痛 30心理的苦痛 30 すストレス 50水分補給(人工的な) 38 せせん妄 29生命予後 28積極的安楽死 17,25,53全身状態 28 ―― の評価尺度 31 そ相応性 24,26 ―― 原則 54 た耐え難い苦痛 27,35対象症状 45太字は主要ページ
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ち治療抵抗性 27,35鎮静 35,53 ―― ,浅い 16,40 ―― ,間欠的 16,39 ―― ,持続的 16,39 ―― ,深い 16,40 ―― ,深い持続的 26 ―― の開始 38,39 ―― の開始後のケア 40 ―― の希望 48 ―― の実施 20 ―― の種類 40 ―― の施行頻度 44 ―― の説明文書 35 ―― の定義 16 ―― の分類 16 ―― の倫理的妥当性 24 ―― 期間 46 ―― 水準 16 ―― 方法の選択 38 ―― 薬の選択 39,40 ―― 様式 16 て適応外 27 と疼痛 29 はバルビツール系薬 39ハロペリドール 39ひ ヒドロキシジン 40 ふフェノバルビタール 39,40フルニトラゼパム 39,40プロポフォール 39,40ブロマゼパム 40不安 30深い持続的鎮静―― の施行要件 26深い鎮静 16,40 みミオクローヌス 30ミダゾラム 39,40 ゆ有害事象 47 よ抑うつ 30 らライフレビュー 30 ◆数字・欧文◆ 2 重効果の原則 54 Palliative Performance Scale 31 Palliative Prognostic Index 31 Palliative Prognostic Score 31 principle of autonomy 53 principle of double effects 54 principle of proportionality 54 proportionality 24
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苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010 年版定価(本体1,800 円+税) 2010 年6 月20 日 第1 版第1 刷発行2011 年3 月10 日 第2 刷発行2011 年9 月15 日 第3 刷発行2013 年6 月5 日 第4 刷発行2015 年7 月5 日 第5 刷発行2017 年3 月25 日 第6 刷発行 編 集 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会 発行者 福村 直樹発行所 金原出版株式会社 〒113-0034 東京都文京区湯島 2-31-14電話 編集 (03)3811-7162営業 (03)3811-7184 FAX (03)3813-0288振替口座 00120-4-151494 http://www.kanehara-shuppan.co.jp/ ©2010 検印省略Printed in Japan ISBN 978-4-307-10150-9印刷・製本/三報社印刷(株) <(社)出版者著作権管理機構 委託出版物>本書の無断複製は著作権法上での例外を除き禁じられています。複製される場合は,そのつど事前に,(社)出版者著作権管理機構(電話 03-3513-6969,FAX 03-3513- 6979,e-mail : info@jcopy.or.jp)の許諾を得てください。小社は捺印または貼付紙をもって定価を変更致しません。乱丁,落丁のものはお買上げ書店または小社にてお取り替え致します。
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