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「腎健診受診者に対する保健指導、医療機関紹介基準に関する提言」 日本腎臓学会・5 ページ · 腎臓・透析
p.1
わが国では小児期から学校検診,職域健診,特定健診に至るまで腎健診,とりわけ検尿健診が行われている。この結果,糸球体腎炎の早期発見,早期治療開始が着実に実施されるようになり,若年者の糸球体腎炎による透析導入患者数が減少したことは明確な成果であると考えられる。このようななかで,一般人口の高齢化に伴い,透析導入となる腎原疾患も糖尿病,高血圧,脂質異常症などの生活習慣病に起因する疾患が主流となってきた。そこで腎健診における保健指導,特に医療機関への紹介基準について,近年の治験を交え,日本腎臓学会として新たな提言をまとめた。本提言は腎健診の健診結果を評価する市長村,企業な

どの健診実施団体の保健師などの従事者や医師のみならず,健診を受診する国民にも参考になることを期待し作成されたものである。本提言により,慢性腎臓病の早期発見~重症化を抑制できることを願うものである。

これまで国内の特定健診の尿蛋白定性試験での評価では

(±)と(-)は,翌年までの経過観察とされ,同カテゴリー

として対処されてきた(図1)。表1 に尿蛋白定性と尿中ア

はじめに

提言1: 尿検査受診者で尿蛋白± の者は,保健指

導の対象とする。

腎健診受診者に対する保健指導,医療機関紹介基準に関する提言

日本腎臓学会腎臓病対策委員会 腎健診対策小委員会

図1 これまでの蛋白尿および血尿+蛋白尿の評価法

(日本腎臓学会(編). CKD 診療ガイド2012. p26, 図16 より引用)

健 診蛋白尿

翌年の健診へ

かかりつけ医問診・身体所見・早朝尿・随時尿による再検査・尿沈渣

内科的検索・腎生検

尿蛋白≧0.50 g/日への増加・GFRの低下

かかりつけ医の検査で異常なし

血液検査尿蛋白定量・蓄尿検査

0.50 g/gCr以上または(2+)以上の蛋白尿eGFR 50 mL/分/1.73 m2未満

蛋白尿と血尿がともに(1+)以上

(1+)以上

腎臓専門医

経過観察の注意点(-)または(±)
p.2
ルブミン定量を同一検体で同時測定した場合の結果を示す1 ~3)。アルブミン尿の定量法はTani らの方法は半定量法,他は定量によるアルブミン尿の評価が行われている。このわが国の検討において,尿蛋白(-)の約10%,尿蛋白

(±)の約60% が微量アルブミン尿(A2)相当以上の蛋白尿

を認めることが明らかであり,生活習慣病などのリスク保持者の早期発見,重症化予防を目的とする健診という観点から,定性尿蛋白(±)を,(-)と同等とするのではなく,微量アルブミン尿陽性(ステージA2)と同等と見なすべきと考えられる。具体的には生活習慣病に起因する腎障害の頻度が高く,微量アルブミン尿が腎障害やCVD 発症の早期発見に繋が

る可能性の高い特定健診においては,尿蛋白(±)の対象者

は生活習慣の改善をすすめ,状況に応じ保健指導の対象とし,翌年の特定健診で2 年連続尿蛋白(±)の場合には,医

療機関受診とするなど,一段強い監視下におくことにより,慢性腎臓病の発症予防,早期発見という視点からより適切となる(図2)。高血圧や糖尿病に罹患したもので,尿

蛋白(±)となった者については,医療機関受診の動機づけ

としても意義がある。一方,高血圧,糖尿病の併発のない学校健診や若年者(40 歳未満)など対象者においては,尿蛋

白(±)を従来通り(-)と同等に扱うことも可能と考えられ

る。

図2 蛋白尿および血尿+蛋白尿の評価法(案)

(日本腎臓学会(編). CKD 診療ガイド2012. p26, 図16 より引用, 改変)

表1

茨城(特定健診受診者)山形(高畠,一般住民健診)福島(かかりつけ医外来) A1 A2 A3 A1 A2 A3 A1 A2 A3ー1,217 300 9ー2,859 297 4ー4,133 1,518 255 ± ± 55 83 1 ± 439 645 95 >1+ 1 27 30 >1+ 18 88 45 >1+ 87 727 299

(文献1 ~3 より引用)

健 診蛋白尿

翌年の健診へ

かかりつけ医問診・身体所見・早朝尿・随時尿による再検査・尿沈渣

内科的検索・腎生検

尿蛋白≧0.50 g/日への増加・GFRの低下

かかりつけ医の検査で異常なし

血液検査尿蛋白定量・蓄尿検査

生活習慣の改善・指導翌年も±の場合は医療機関受診

0.50 g/gCr以上または(2+)以上の蛋白尿eGFR 45 mL/分/1.73 m2未満

蛋白尿と血尿がともに(1+)以上

(1+)以上

腎臓専門医

経過観察の注意点(-) (±)
p.3
わが国のCKD 対策においてかかりつけ医から腎臓専門医への紹介基準は,尿蛋白(-)の場合にはeGFR<50 mL/分/1.73 m2 からとされてきた。CKD 診療ガイド2012 においては,CKD ステージ3 の予後が国際的にも検討され,CKD重症度分類が作成された。その中ではeGFR=45 mL/分/1.73 m2 前後でステージ3 をG3a とG3b に分けられた。しかしながら,かかりつけ医から腎臓専門医への紹介基準においては前述のeGFR<50 mL/分/1.73 m2 の判断が踏襲され,更に年齢別の腎予後の違いから,腎臓専門医への紹介基準は図3 のように定められた。この基準は詳細な判断を可能にする反面,煩雑な印象も与えるために,紹介時の利用率としての低さが問題であった4)。近年,日本人の健診受診者の長期の継続的観察結果5) をもとにCVD による死亡リスクを検討したところ,ステージG1+G2 に対し,一般にCVD の発症,死亡の多い男性で,ステージG3b から多変量調整ハ

ザード比が1.47(p<0.05)と有意に上昇していた。女性ではeGFR45 ~49 mL/分/1.73 m2 からCVD リスクの有意な上昇がみられるが,そのハザード比はG3b での1.70 に比し1.38と低かった5)。指定難病における腎機能重症度判定も国際的に認知されているCKD 重症度分類に従っており,eGFRの紹介基準もステージG3 を日本の独自の区分ではなく, G3a とG3b の2 段階での区分とすることが合理的である。腎機能障害進展によるCVD による死亡リスクは男女とも70 歳未満ではリスク上昇を確認できるものの,70 歳から80 歳の男性ではGFR が低下しても,CVD による死亡リスクは上がらないことが明らかであった5)。しかしながら,尿所見のないCKD G3aA1 の患者の腎機能悪化スピードは緩慢であり(図4)6),将来のESKD リスクを勘案するとCKD ステージG3aA1 は生活習慣の改善を図り状況に応じ保健指導,若年者では医療機関受診,CKD ステージG3b 以降はすべて医療機関受診とすることが妥当であると考えられた(図5)。

提言2: 腎健診受診者のeGFRによる医療機関受診

勧奨は,eGFR45未満(CKDステージG3b)以降とする。

図3 これまでの腎臓専門医への紹介基準(日本腎臓学会(編). CKD 診療ガイド2012 より引用)

原疾患尿蛋白区分A1 A2 A3糖尿病

尿アルブミン定量(mg/日)尿アルブミン/Cr 比(mg/gCr)正常微量アルブミン尿顕性アルブミン尿

30 未満30 〜299 300 以上

高血圧腎炎多発性囊胞腎移植腎不明その他尿蛋白定量(g/日)尿蛋白/Cr 比(g/gCr)正常軽度蛋白尿高度蛋白尿

0.15 未満0.15 〜0.49 0.50 以上

GFR 区分(mL/分/1.73 m2) G1正常または

高値≧90 *1紹介

G2正常または

軽度低下60 〜89 *1紹介G3a軽度〜中等度低下45 〜59 50 〜59 40 歳未満は紹介紹介40 〜49 40 〜69 歳も紹介G3b中等度〜高度低下30 〜44紹介30 〜39 70 歳以上も紹介G4高度低下15 〜29紹介紹介紹介

G5末期腎不全<15紹介紹介紹介

3 カ月以内に30%以上の腎機能の悪化を認める場合は腎臓専門医へ速やかに紹介*1:血尿と蛋白尿の同時陽性の場合には紹介
p.4
図4 GFR50 mL/分/1.73 m2 未満の患者(グレーの線)は2 倍以上の速さで腎機能が低下する。

(文献6 より引用)

年齢(歳)

男性

GFR(mL/分/1.73m2) 60

40

20 40~49 50~59 60~69 70~79 80~89 年齢(歳)

女性

60

40

20 40~49 50~59 60~69 70~79 80~89

図5 腎健診からの医療機関紹介基準(案)

原疾患尿蛋白区分A1 A2 A3糖尿病

尿アルブミン定量(mg/日)尿アルブミン/Cr 比(mg/gCr)正常微量アルブミン尿顕性アルブミン尿

30 未満30 〜299 300 以上

高血圧腎炎多発性囊胞腎移植腎不明その他尿蛋白定量(g/日)尿蛋白/Cr 比(g/gCr)尿蛋白(−)

正常尿蛋白(±)軽度蛋白尿尿蛋白(+)以上

高度蛋白尿

0.15 未満0.15 〜0.49 0.50 以上

GFR 区分(mL/分/1.73 m2) G1正常または

高値≧90生活習慣の改善・指導

血尿を伴えば紹介紹介

G2正常または

軽度低下60 〜89生活習慣の改善・指導

血尿を伴えば紹介紹介

G3a軽度〜中等度低下45 〜59生活習慣の改善・指導紹介紹介G3b中等度〜高度低下30 〜44紹介紹介紹介G4高度低下15 〜29紹介紹介紹介

G5末期腎不全<15紹介紹介紹介

3 カ月以内に30%以上の腎機能の悪化を認める場合は腎臓専門医へ速やかに紹介
p.5
WHO のメタボリックシンドロームの定義 (1999 年)では糖尿病,インスリン抵抗性に加え,A2 レベルのアルブミン尿の存在が定義の中に含まれている。最新のメタボリックシンドロームの国際定義International Diabetes Federation (IDF)でもアルブミン尿の存在は高血圧以上のvascular dysregulation の指標であり,今後のメタボリックシンドロームの定義にはアルブミン尿を入れるべきとされている7)。また日本人の検討でも,メタボリックシンドロームにCKDを合併することで,CVD 発症が約14% 上昇(図6)8) する。メタボリックシンドロームの診断基準にアルブミン尿の有無が議論されたように,CKD の存在はメタボリックシンドロームの予後と直結することが明らかである。

文 献

1 Nagai K, Yamagata K. Quantitative evaluation of proteinuria for

health checkups is more efficient than the dipstick method. Clin Exp Nephrol 2015;19:152―153. 2. Sato H, Konta T, Ichikawa K, Suzuki N, Kabasawa A, Suzuki K,

et al. Comparison of the predictive ability of albuminuria and dipstick proteinuria for mortality in the Japanese population: the Yamagata (Takahata) study. Clin Exp Nephrol 2016;20:611―

617 3. Tani Y, Nakayama M, Terawaki H, Iseki K, Watanabe T. Com-

parison of albuminuria test and urine test strip in Japanese hypertensive patients: AVA-E study. Clin Nephrol 2015;84:270―

273 4. Yamagata K, Makino H, Iseki K, Ito S, Kimura K, Kusano E, et

al. Effect of Behavior Modification on Outcome in Early- to Moderate-Stage Chronic Kidney Disease: A Cluster-Randomized Trial. PLoS One 2016;11:e0151422. 5. Nagai K, Sairenchi T, Irie F, Watanabe H, Ota H, Yamagata K. Relationship between estimated glomerular filtration rate and

cardiovascular mortality in a Japanese cohort with long-term follow-up. PLoS One 2016;11:e0156792. 6. Imai E, Horio M, Yamagata K, Iseki K, Hara S, Ura N, et al.

Slower decline of glomerular filtration rate in the Japanese general population: a longitudinal 10-year follow-up study. Hypertens Res 2008;31:433―441.

7 van der Velde M, Bello AK, Brantsma AH, El Nahas M, Bakker

SJ, de Jong PE, et al. Do albuminuria and hs-CRP add to the International Diabetes Federation definition of the metabolic syndrome in predicting outcome? Nephrol Dial Transplant 2012;27:2275―2283. 8. Kunimura A, Amano T, Uetani T, Harada K, Yoshida T, Suzuki A,

et al. Prognostic impact of concurrence of metabolic syndrome and chronic kidney disease in patients undergoing coronary intervention: Involvement of coronary plaque composition. J Cardiol 2013:61:189―195.

提言3: CKDの発症は生活習慣病重症化の指標で

ある。MetS(-)CKD(-)

MetS(-)CKD(+) MetS(+)CKD(-) MetS(+)CKD(+)

p<0.01

Follow-up period(days)

Kaplan-Meier survival 80 90

70 60

50 40 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500

図6 Kaplan–Meier survival curve for the composite end point of MACE. The 4-year rates for primary end point were 24.7% in MetS(-) CKD(-), 27.1% in MetS(-) CKD(+), 37.1% in MetS(+) CKD(-), and 51.4% in MetS(+) CKD(+) (p &lt; 0.001) CKD, chronic kidney dise...    (文献8より引用)