GL検索 v0.1.0
腎障害患者におけるガドリニウム造影剤使用に関するガイドライン(第3版) 日本腎臓学会・2024・4 ページ · 腎臓・透析
p.1
2024 年5 月20 日

腎障害患者におけるガドリニウム造影剤使用に関するガイドライン

(第3 版: 2024 年5 月20 日改訂)

NSF とガドリニウム造影剤使用に関する合同委員会

(日本医学放射線学会 日本腎臓学会)

日本医学放射線学会と日本腎臓学会との合同委員会である「NSF とガドリニウム造影剤使用に関する合同委員会」において、腎性全身性線維症(Nephrogenic Systemic Fibrosis; NSF)を予防する目的で、2008 年7 月25 日に当ガイドラインを発表し、2009 年9 月2 日にこれを改訂している。

NSF とは、MRI 検査に用いられるガドリニウム造影剤の投与数日から数か月後、時に数年後に、皮膚の腫脹や硬化、疼痛などにて発症する疾患であり、進行すると四肢関節の拘縮を生じて活動は著しく制限される。現時点での確立された治療法はなく、死亡例も報告されている。

前回の改訂から新たに多くの知見が得られたことを踏まえ、当委員会としてはガイドラインを以下のように改訂する。

[本文] 1.ガドリニウム造影剤は、腎障害の有無にかかわらず、診断のために不可欠と考えられる場合にのみ使用されるべきであり、投与にあたっては各々の医薬品添付文章に則り、用法、用量を厳守すること。また、CT や血管造影などのX 線検査のための造影剤として、ガドリニウム造影剤を使用してはならない。

2.ガドリニウム造影剤の使用前には、緊急検査などでやむを得ない場合を除き、腎機能(推算糸球体濾過量: eGFR)を評価するのが良い。

3.可能な限りガドリニウム造影剤の投与を避け、他の検査法で代替することが望ましい病態として以下のものがある。

1)長期透析が行われている終末期腎障害2)非透析例でeGFR が30ml/min/1.73m2未満の慢性腎不全3)急性腎不全

他の検査法で代替困難な場合は、NSF のリスクを考慮し、ガドリニウム造影剤の適正使用量を守る、繰り返し使用する必要がある場合は可能な限り間隔を空ける*など、十分に注意して投与する。
p.2
*ESUR のガイドラインでは7 日以上の間隔を空けることが理想的であるとしている(1, 2)。

[改訂理由]ガドリニウム造影剤は重金属であるガドリニウム(Gd)をキレート化することによって安全に投与できるように工夫されたものである。腎障害が存在すると排泄が遅延し、体内でキレートが外れ(分解され)、ガドリニウムの重金属としての毒性が顕在化するものと考えられている。キレートの安定性にはガドリニウム造影剤によって大きな差があることが知られており、NSF が多く発生した造影剤はキレート安定性が低いとされている (1, 3)。わが国ではこれらの造影剤は販売中止となっている(表参照)。

NSF の発症メカニズムについては解明されていない部分もあるが、ガドリニウム造影剤投与後の発症リスクに関する最新のエビデンス(以下a)〜f))から、腎機能障害患者あるいは透析患者であっても、現在国内で販売されているガドリニウム造影剤を使用する限りにおいて、NSF の発生は極めて稀と考えられる。また、造影MRI 検査を実施できないことによる患者の不利益も十分に考慮し、その制限は最低限にするのが良い。したがって、従来の本ガイドラインでは、「長期透析が行われている終末期腎障害、eGFR が30ml/min/1.73m2 未満の慢性腎不全、急性腎不全」を「原則としてガドリニウム造影剤を使用せず、他の検査法で代替すべき病態」としていたが、今回の改訂においては、「可能な限りガドリニウム造影剤の使用を避け、他の検査法で代替することが望ましい病態」と文言を改め、その上で「他の検査法で代替困難な場合はNSF のリスクを考慮し、ガドリニウム造影剤の適正使用量を守る、繰り返し使用する必要がある場合は可能な限り間隔を空けるなど、十分に注意して投与する。」の文言を追加した。

a)Woolen らは16 の文献的報告についてメタアナリシスを行い、Group II のガドリニウム造影剤(キレートの安定性が高くNSF のリスクが低いとされている)であれば、CKD stage 4 あるいは5 であっても(透析患者を含む)、NSF の発生はなかったとし、95% CI を0.07%と見積もっている (4)。このメタアナリシスには国内のGadobutrol による報告(3,337 患者)を含んでおり、CKD 4 または5 の患者は5 人のみだが、NSF の発生はない (5)。b)Amet らは287 人の透析患者に主として安定性の高いガドリニウム造影剤を使用した結果について報告しており、NSF の発生はなかったとしている (6)。c)Alfano らは344 人の透析患者に安定性の高いガドリニウム造影剤(Gadoterate)を使用した551 回の検査について報告しており、NSF の発生はなかったとしている (7)。d)Michaely らは、Gadobutrol を投与された透析患者83 人、透析を実施していないCKD stage 4 または5 の患者201 人、CKD stage 3 の患者586 人を含む計908 人について前向きに観察し、NSF の発生はなかったとしている (8)。e)肝特異性造影剤であるGadoxetic sodium についてはStarekova らの報告がある (9)。
p.3
5,351 人の患者に対する7,820 回の検査について検討しており、NSF の発生はなかったとしている。この中にはCKD stage 4 または5 の患者が133 人、透析患者が27 人含まれている。f)Attari らは639 人の生検で確認されたNSF 症例に関するシステマティックレビューを行い、安定性の高いガドリニウム造影剤のみの投与で発生した症例は1 人のみであった (10)。

表:わが国で販売されているガドリニウム造影剤(すでに販売中止となったものを含む)

[参考]海外において広く利用されているガイドラインでは以下のような記載がある。詳細は原典を確認されたい。

1.ESUR Guidelines on Contrast Agents ver. 10.0. (European Society of Urogenital Radiology) (1)

eGFR が15ml/min/1.73m2未満の患者と透析患者においてリスクがあるとしている。また、eGFR が30ml/min/1.73m2未満の患者はNSF のリスクが低いガドリニウム造影剤(Gadoteridol、Gadoterate、Gadobutrol)を注意して使用し、連続して使用する場合は、投与間隔は7 日以上空けるとしている。

2 ACR Manual on Contrast Media ver. 2023. (ACR Committee on Drugs and Contrast

Media) (3)

透析患者には造影MRI よりも造影CT を選択するのが理にかなっており、eGFR が30ml/min/1.73m2未満の患者はGroup II のガドリニウム造影剤(Gadoteridol、Gadoterate、Gadobutrol はこれに分類される)を使用すべきとしている。Group III のガドリニウム造影剤(Gadoxetate sodium)についてはNSF の報告はないが、データが不足しているとしている。

参考文献

造影剤名略号製品名備考Gadoteridol Gd-HP-DO3AプロハンスGadoterate Gd-DOTAマグネスコープGadobutrol Gd-BT-DO3AガドビストGadoxetate sodium Gd-EOB-DTPA EOB・プリモビスト肝細胞特異性造影剤Gadodiamide Gd-DTPA-DMAオムニスキャン販売中止Gadopentetate Gd-DTPAマグネビスト販売中止
p.4
1) European Society of Urogenital Radiology. ESUR Guidelines on Contrast Agents ver. 10.0. https://www.esur.org/wp-content/uploads/2022/03/ESUR-Guidelines-10_0-Final- Version.pdf 2) van der Molen AJ, Dekkers IA, Geenen RWF, et al. Waiting times between examinations with intravascularly administered contrast media: a review of contrast media pharmacokinetics and updated ESUR Contrast Media Safety Committee guidelines. Eur Radiol 2024; 34:2512-2523. 3) ACR Committee on Drugs and Contrast Media. ACR Manual on Contrast Media ver. 2023. https://www.acr.org/-/media/ACR/files/clinical-resources/contrast_media.pdf 4) Woolen SA, Shankar PR, Gagnier JJ, et al. Risk of nephrogenic systemic fibrosis in patients with stage 4 or 5 chronic kidney disease receiving a group II gadolinium-based contrast agent: a systematic review and meta-analysis. JAMA Intern Med 2020; 180:223-

230 5) Tsushima Y, Awai K, Shinoda G, et al. Post-marketing surveillance of gadobutrol for

contrast-enhanced magnetic resonance imaging in Japan. Jpn J Radiol 2018; 36:676-685. 6) Amet S, Launay-Vacher V, Clément O, et al. Incidence of nephrogenic systemic fibrosis in patients undergoing dialysis after contrast-enhanced magnetic resonance imaging with gadolinium-based contrast agents: the Prospective Fibrose Nephrogénique Systémique study. Invest Radiol 2014; 49:109-115. 7) Alfano G, Fontana F, Ferrari A, et al. Incidence of nephrogenic systemic fibrosis after administration of gadoteric acid in patients on renal replacement treatment. Magn Reson Imaging 2020; 70:1-4. 8) Michaely HJ, Aschauer M, Deutschmann H, et al. Gadobutrol in renally impaired patients: results of the GRIP Study. Invest Radiol 2017; 52:55-60. 9) Starekova J, Bruce RJ, Sadowski EA, Reeder SB. No cases of nephrogenic systemic fibrosis after administration of gadoxetic acid. Radiology 2020; 297:556-562. 10) Attari H, Cao Y, Elmholdt TR , Zhao Y, Prince MR. A systematic review of 639 patients with biopsy-confirmed nephrogenic systemic fibrosis. Radiology 2019; 292:376-386.