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CKDステージG3b~5診療ガイドライン2017(2015 追補版) 腎障害進展予防と腎代替療法へのスムーズな移行 研究代表者山縣邦弘 筑波大学医学医療系臨床医学域腎臓内科学 平成27 ~29 年度日本医療研究開発機構委託研究「慢性腎臓病(CKD)進行例の実態把握と透析導入回避のための有効な指針の作成に関する研究」
CKDステージG3b~5診療ガイドライン2017(2015 追補版) 腎障害進展予防と腎代替療法へのスムーズな移行 研究代表者山縣邦弘 筑波大学医学医療系臨床医学域腎臓内科学 平成27 ~29 年度日本医療研究開発機構委託研究「慢性腎臓病(CKD)進行例の実態把握と透析導入回避のための有効な指針の作成に関する研究」
研究代表者山縣 邦弘 筑波大学医学医療系臨床医学域腎臓内科学 ガイドライン作成・検証分科会責任者、研究分担者岡田 浩一 埼玉医科大学医学部腎臓内科柏原 直樹 川崎医科大学腎臓・高血圧内科学 ガイドライン執筆者 研究分担者(五十音順)旭 浩一 福島県立医科大学医学部生活習慣病・慢性腎臓病(CKD)病態治療学講座斎藤 知栄 筑波大学医学医療系臨床医学域腎臓内科学四方 賢一 岡山大学病院新医療研究開発センター柴垣 有吾 聖マリアンナ医科大学腎臓・高血圧内科杉山 斉 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科血液浄化療法人材育成システム開発学鶴岡 秀一 日本医科大学大学院医学研究科腎臓内科鶴屋 和彦 九州大学大学院医学研究院包括的腎不全治療学仲谷 達也 大阪市立大学大学院医学研究科泌尿器病態学教室長田 太助 自治医科大学内科学講座腎臓内科学部門西 慎一 神戸大学大学院医学研究科腎臓内科深川 雅史 東海大学医学部医学科内科学系腎代謝内科学横山 仁 金沢医科大学医学部腎臓内科学和田 隆志 金沢大学大学院医薬保健学総合研究科腎臓内科学 研究協力者(五十音順)荒谷 紗絵 日本医科大学大学院医学研究科腎臓内科今澤 俊之 独立行政法人国立病院機構千葉東病院内科大野 岩男 東京慈恵会医科大学総合診療内科甲斐 平康 筑波大学医学医療系臨床医学域腎臓内科学風間 順一郎 福島県立医科大学医学部腎臓高血圧内科学講座要 伸也 杏林大学第一内科学 腎臓・リウマチ膠原病内科 作成委員会
金子 朋広 日本医科大学多摩永山病院腎臓内科菅野 義彦 東京医科大学腎臓内科学佐藤 博 東北大学大学院薬学研究科臨床薬学分野佐藤 稔 川崎医科大学腎臓・高血圧内科学常喜 信彦 東邦大学医療センター大橋病院腎臓内科鈴木 祐介 順天堂大学大学院医学研究科腎臓内科学寺脇 博之 帝京大学ちば総合医療センター腎臓内科中井 健太郎 加古川中央市民病院腎臓内科長沼 俊秀 大阪市立大学大学院医学研究科泌尿器病態学教室中山 昌明 東北大学病院慢性腎臓病透析治療共同研究部門長谷部 直幸 旭川医科大学・内科学(循環器・呼吸器・脳神経内科・腎臓)花房 規男 東京女子医科大学血液浄化療法科馬場園 哲也 東京女子医科大学内科学(第三)講座原 章規 金沢大学医薬保健研究域医学系環境生態医学・公衆衛生学藤井 秀毅 神戸大学大学院医学研究科腎臓内科藤野 貴行 旭川医科大学・内科学(循環器・呼吸器・脳神経内科・腎臓)古市 賢吾 金沢大学附属病院血液浄化療法部宮本 聡 岡山大学病院新医療研究開発センター守山 敏樹 大阪大学キャンパスライフ健康支援センター谷澤 雅彦 聖マリアンナ医科大学病院腎臓・高血圧内科安田 宜成 名古屋大学大学院医学系研究科循環器・腎臓・糖尿病(CKD)先進診療システム学寄附講座渡辺 裕輔 埼玉医科大学国際医療センター血液浄化部 【 謝 辞 】以下の関連学会に査読をご依頼しました。この場をお借りして,厚く御礼申し上げます。日本腎臓学会日本糖尿病学会日本高血圧学会日本老年医学会日本透析医学会日本臨床腎移植学会
ガイドラインダイジェスト 第1章 CKD ステージG3b 〜5 の疫学 CQ1 わが国におけるCKD ステージG3b 〜5 患者の高齢者と若年・中年におけ る基礎疾患は何か?回答: CKD ステージG3b ~5 患者の腎生検を要する基礎疾患は,若年・中年では慢性腎炎症候群,高齢者では,ネフローゼ症候群,急速進行性腎炎症候群である.非腎生検例を含めると透析に至る疾患で最も重要なものは糖尿病性腎症である.加えて加齢とともに高齢者では虚血性腎症を含む腎硬化症が増加する. CQ2 わが国におけるCKD ステージG3b 〜5 患者における予後:CVD による死 亡は増加するのか?回答: CKD ステージG1+2 に対する「CVD による死亡」のリスクはCKD ステージG3b から有意に増加し,ステージの進行に伴い増大する. 第2章 アウトリーチ CQ1 アウトリーチすべきCKD ステージG4, 5 の医療機関未受診者は,どの程度 存在するか?回答:アウトリーチすべきCKD ステージG4,5 の医療機関未受診者は相当数存在することが予想されるが,現状では方法論的に正確数の把握は難しい.平成28 年度より糖尿病性腎症重症化予防事業が始まり,保険者が健診やレセプトデータより未受診の糖尿病性腎症患者に対する受診勧奨を開始しており,その成果が期待される. 第3章 高血圧診療 CQ1 CKD ステージG3b 〜5 の降圧目標値は? 回答:
糖尿病合併CKD の降圧目標は,すべてのA 区分において,130/80 mmHg 未満を推奨する. 回答: / 糖尿病非合併CKD の降圧目標は,すべてのA 区分において,140/90 mmHg 未満に維持するよう推奨する.ただし,A2,A3 区分では,より低値の130/80 mmHg 未満を目指すことを推奨する.回答:収縮期血圧110 mmHg 未満の降圧には,重症動脈疾患の合併の有無を評価し,注意深くフォローする. CQ2 CKD ステージG3b 以降においても蛋白尿の有無により予後は異なるか? またCKD ステージG3b 以降の降圧療法においても蛋白尿の減少を目指すべきか?回答: CKD ステージG3b ~5 の腎予後は蛋白尿の合併により悪化する.CKD ステージG3b ~5 例においても蛋白尿の減少を目指すことを推奨する.ただしRA 系阻害薬を用いる際には慎重に投与する必要がある. 第4章 糖尿病診療 CQ1 糖尿病合併CKD ステージG3b 〜5 の降圧療法では,RA 系阻害薬は有用か? 回答: ACE 阻害薬とARB は,糖尿病合併CKD ステージG3b ~5 の患者の腎機能低下を抑制するために有効である.しかしながら,ACE 阻害薬およびARB の投与により,血清カリウム値の上昇がみられるため,使用には注意が必要である. CQ2 糖尿病合併CKD ステージG3b 〜5 の脂質管理は腎予後,生命予後を改善 するか?回答:糖尿病合併CKD ステージG3b ~5 のCVD 発症を抑制し,生命予後の改善が期待されるため,スタチンによる脂質管理を推奨する.回答:糖尿病合併CKD ステージG3b ~5 において,スタチンによる脂質管理は蛋白尿を減少させるため推奨する.
第5章 高齢者診療 CQ1 高血圧を伴う75 歳以上の高齢CKD ステージG3b 〜5 患者への降圧治療は, ESKD への進展・CVD の合併を抑制し,生命予後を改善するか?回答:高血圧を伴う75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~5 患者では,糖尿病合併や蛋白尿の有無にかかわらず,ESKD への進展を抑制しCVD の合併を抑制するため,収縮期血圧を150 mmHg未満に緩徐に降圧することを推奨する.回答:高血圧を伴う75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~5 患者では,他の合併症やフレイルにより全身状態における個体差が大きいことから,降圧目標の上限値は目安として担当医の判断で柔軟に降圧治療を行うべきである.回答:高血圧を伴う75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~5 患者は起立性低血圧のハイリスク群であり,降圧治療による過剰な血圧低下は生命予後を悪化させるため,収縮期血圧が110 mmHg 未満に低下する場合や,めまい,ふらつきなどの症状が出現する場合には,降圧薬の減量もしくは中止を考慮する.回答: 75 歳以上の高齢者の脱水や虚血に対する脆弱性を考慮すると,降圧薬療法の第一選択として,また他の降圧薬の効果不十分な場合の併用薬としては,RA 系阻害薬や利尿薬に比較し腎血流を低下させるリスクが少ないことから,カルシウム拮抗薬が望ましい. CQ2 75 歳以上の高齢CKD ステージG3b 〜5 患者に対して食事たんぱく質制限 は,ESKD への進展・生命予後改善の観点から推奨されるか?回答: 75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~5 患者に対してESKD への進展抑制を目的として食事たんぱく質制限を実施するに際しては,患者個々の身体状況(体重変動,BMI,見た目の印象など),栄養状態(上腕二頭筋周囲径,GNRI:Geriatric Nutritional Risk Index など),身体機能(筋力,運動機能など),精神状態(うつ状態,認知機能など),生活状況(独居,施設入居など)を総合的に勘案し,その要否を判断する必要がある. eGFR を中心とした腎機能評価に基づいて一律にたんぱく質制限を行うことは勧められない.実施にあたっては0.6 ~0.8 g/kg 体重/ 日が目標となるが,患者個々の状態を定期的に評価しつつ,必要に応じて重曹,リン吸着薬,カリウム吸着薬などを適切に使用し,アシドーシス,高リン血症,高カリウム血症の是正を心がける.過剰なたんぱく質制限はサルコペニアなどを介してQOL 低下やさらには生命予後悪化にもつな
がる可能性があることに留意する必要がある. CQ3 糖尿病を合併する75 歳以上の高齢CKD ステージG3b 〜5 患者における血 糖コントロールは,ESKD への進展を抑制し,生命予後を改善するか?回答:糖尿病を合併する75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~5 患者における,血糖コントロールのESKD への進展あるいは生命予後に対する効果は不明であり,単一の血糖目標値を提案することは困難である.回答:そこで血糖目標値は,個々の患者の罹病期間,臓器障害,低血糖の危険性,サポート体制などを考慮して,個別に設定すべきである.回答:ただし,ヘモグロビンA1c(HbA1c)およびグリコアルブミン(GA)は,糖尿病を合併するCKDステージG3b ~5 患者の血糖コントロール状態を正しく反映しえないため,参考程度に用いる.回答:糖尿病を伴う高齢CKD 患者は低血糖のハイリスクであり,極力,低血糖の発症を避けるべきである.また典型的な低血糖症状に乏しいため,糖尿病治療薬の選択には十分注意する必要があり,また糖尿病専門医との連携が強く勧められる. 第6章 腎不全保存期診療 CQ1 CKD ステージG3b 以降の患者における,人工透析導入および死亡リスクの 抑制のための血清カリウム値のコントロール目標はどのくらいか?回答: CKD ステージG3b 以降の患者の腎機能の悪化抑制,死亡リスクの観点から,血清カリウム値は4.0 mEq/L 以上,5.5 mEq/L 未満を維持することを推奨する. CQ2 CKD ステージG3b 以降の患者における,人工透析導入および死亡リスク抑 制のための尿酸のコントロール目標はどれぐらいか?回答: CKD ステージG3b ~5 の患者の腎機能の悪化抑制,死亡リスク抑制の観点から,無症候性であっても血清尿酸値が7.0 mg/dL を超えたら生活指導,8.0 mg/dL 以上から薬物治療開始を推奨する.治療開始後は6.0 mg/dL 以下を維持することが望ましい.
CQ3 CKD ステージG3b 〜5 以上において代謝性アシドーシスの治療には腎保護 効果があるか?回答:血中重炭酸濃度を適正にすると,腎機能悪化を抑制することが期待されるため,代謝性アシドーシスの補正を推奨する. 第7章 CKD ステージG3b 〜5 腎外合併症対策 CQ1 CKD ステージG3b 〜5 の患者における抗血小板薬の使用は心血管イベント の発症予防に有用か?回答: CKD ステージG3b ~5 の患者の心血管イベントの抑制にアスピリンの投与は有用かどうかわからない.一方で,アスピリンの投与により出血性合併症のリスクが高くなる可能性が否定できない. CQ2 食事療法を行っても血清リン値が正常範囲を超えるCKD ステージG3b 〜5 の患者にリン吸着薬を投与すべきか?回答:生命予後改善の観点から,食事療法を行っても血清リン値が正常範囲を超えるCKD ステージG3b ~5 の患者にリン吸着薬の投与を推奨する. 第8章 CKD ステージG3b 〜5 医療連携 CQ1 腎臓専門医とコメディカルの連携による患者教育は,CKD ステージG3b 〜 5の患者のESKDへの進展予防とスムーズな腎代替療法開始のために有効か?回答: CKD ステージG3b ~5 の患者においても腎臓専門医からだけではなく,多職種によるチーム医療を活用した患者教育の実践を推奨する. CQ2 CKD ステージG3b 〜5 の患者において,腎臓専門医とかかりつけ医の医療 連携はどのような場面に考慮するか?回答: CKD ステージG3b ~5 患者においても,腎臓専門医とかかりつけ医が適切な医療連携を行うこ
とが望まれる. 第9章 透析・移植医療 CQ1 透析および腎移植に関する情報提供はどのようなCKDステージで行うべきか? 回答: CKD 症例に対して,CKD ステージG4(GFR 15 ~30 mL/ 分/1.73 m2)に至った時点で,公平かつ適切な透析療法および腎移植に関する準備のための情報提供を本人および家族に行うことは,腎代替療法開始後の生命予後を改善するのでこれを推奨する. CQ2 腎代替療法の準備はどのようなCKD ステージで行うべきか? 回答: CKD 症例に対して,CKD ステージG5(GFR 15 mL/ 分/1.73 m2 未満)に至る前に専門医に紹介し,CKD ステージG5 では希望する腎代替療法を担当する透析または腎移植の専門医を中心に腎代替療法の準備を開始することが望ましい.ただし,eGFR の低下速度は症例により異なり,進行性の腎機能低下を示す症例では,CKD ステージG5 より早期の段階から腎代替療法の準備が必要となることもある.
本ガイドライン作成の経緯 わが国は今後未曾有の超高齢社会への突入が予想されるが,CKD 患者は高齢になるほど増加し,今や透析導入患者数の最も多いのは男女とも75 ~ 80 歳の年代である.また2025 年には最も人口の多い団塊の世代が75 歳以上の高齢者となるため,透析導入患者数の再増加をきたす可能性を否定できず,高齢者を中心とした透析導入回避可能となるガイドラインの作成は喫緊の課題である.一般にCKD は放置するとESKD や心血管障害による死亡など重大な転帰をもたらすが,進行度に応じた適切な治療と療養を行えば進行を阻止または遅延し,生命予後やQOL を改善できるなどの理由から,CKD 対策をしっかりと構築することは国民の健康を守るうえで重要な課題であるとともに,その成果による医療経済や社会全般への効果が期待されている.一方で,ステージが進行したCKD の場合には,現時点で単一の治療法で完全に進行を阻止する方法は存在せず,有効とされるさまざまな薬物療法を組み合わせ,生活食事指導を含めた多因子治療(multidisciplinary treatment:MDT)1,2)を実施しているのが現実である.さらにCKD 前向き臨床研究である「慢性腎臓病重症化予防のための戦略研究」(以下FROM-J 研究)では,かかりつけ医のもとでのCKD ステージG3a 患者へのMDT は腎機能低下の抑制効果を示すことができた3).しかしながら,進行例であるCKD ステージG3b ~5 に対し,FROM-J の介入では有効性を見出すことができなかった.そこで,腎臓専門医が診療の中心になるCKD ステージG3b 以降の進行例に対し,有効な治療法の検討ならびにエビデンスの創設は極めて重要な課題である.そこで,まず平成26 年度厚生労働省科学委託費 腎疾患対策実用化研究事業「慢性腎不全診療最適化による新規透析導入減少実現のための診療システム構築に関する研究」(研究代表者 筑波大学 山縣邦弘)により,「CKDステージG3b ~5 診療ガイドライン2015」を作成した.この際,CKD に関係するこれまでの内外のガイドラインの比較検討を行い,MDT を含めた各科横断的な新しいガイドラインとなるように検討を行った.すでに日本腎臓学会からCKD 診療ガイド2012,CKD 診療ガイドライン2013,日本糖尿病学会より科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013,日本高血圧学会より高血圧治療ガイドライン2014 が刊行されている.これら既存のガイドラインに,2014 年10 月までの知見を加えさらに多角的な見地から「CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2015」を1 年の研究期間で作成した.「CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2015」の発表後,その普及状態を評価するために,日本腎臓学会会員を対象にWEB アンケート調査(平成28 年6 ~9 月)を行い,154 名からの回答を得た.その結果,「CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2015」をいつも~ときどき診療の参考にしているが87%を占めた.個々のCQ・ステー 「CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2017(2015 追補版)」 前 文 平成27 ~29 年度日本医療研究開発機構委託研究「慢性腎臓病(CKD)進行例の実態把握と透析導入回避のための有効な指針の作成に関する研究」 研究代表者 筑波大学医学医療系臨床医学域腎臓内科学 山縣邦弘 ガイドライン作成・検証分科会責任者 埼玉医科大学腎臓内科 岡田浩一
トメントに関しては,エビデンスレベルにかかわらず推奨グレードと遵守率が乖離するものが散見された.(尿酸やリン管理など)これはアンケート回答者のほとんどが腎臓専門医であることから,これまでのエビデンスや自らの経験から納得できないステートメントに関しては,たとえ推奨グレードが高くとも受容されないものと想定された.またテキスト形式で寄せられた意見として,75 歳以上の高齢者に特化した章を設けた試みが高く評価された一方,ガイドラインとして分量が多すぎることや想定される利用者が曖昧との指摘を受けた.今回はこのアンケート結果を踏まえ,さらに「CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2015」執筆時点での過不足などを考慮し,2016 年9 月までの知見を追補した「CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2017(2015 追補版)」を作成することとなった. 本ガイドラインの対象について 本ガイドラインの対象となる患者は,CKD のステージG3b 以降の,いわゆる進行例でCVD 発症や腎代替療法を要するESKD への進行の危険性の高い患者群である.腎機能が悪化していても,AKI やRPGN は除かれる.また免疫抑制療法などの疾患特異的な治療を要する疾患については,それぞれのガイドラインに沿った治療が優先される.本ガイドラインでは高齢化に伴う腎疾患の特徴とその対処について重点的に取り扱っており,これは既存のガイドラインにない新しい視点として,今後中長期的に臨床現場で活用できる意義は大きい.また腎不全進行例に対しての,正しい腎代替療法の選択法,腎代替療法導入見送りについての考え方についても検討されている.なお本ガイドラインは,CKD ステージG3b ~5 というハイリスク患者の診療に携わる腎臓専門医,腎臓専門医と併診している非腎臓専門医/ かかりつけ医を主たる利用者と想定しているが,コメディカルや保健師の方々にも参考にしていただければ幸いである.本ガイドラインに基づいた診療を実施することにより,CKD の重症化予防が可能となれば,国民の健康とQOL の保持,新規透析導入予防および入院の回避,入院期間の短縮による医療費抑制へつなげることが可能である.また本ガイドラインにより,一般市民への腎臓病に対する啓発のあり方を示すことで,より多くを対象にしたCKD の発症予防ならびに早期発見への発展を期待する. 作成委員会の体制 本ガイドライン作成・検証分科会は,平成27 ~29 年度日本医療研究開発機構委託研究「慢性腎臓病(CKD)進行例の実態把握と透析導入回避のための有効な指針の作成に関する研究」のもとに組織され,以下の9 つの分科会からなる.各分科会より2 名ずつ委員を選出して統括委員会を組織し,委員長をガイドライン作成・検証分科会責任者が勤めた. CKD 疫学分科会CKD アウトリーチ分科会高血圧診療連携分科会糖尿病診療連携分科会高齢者診療分科会腎不全保存期診療分科会CKD 腎外合併症対策分科会CKD 医療連携分科会透析・移植医療分科会
各分科会は分担研究者と研究協力者によるガイドライン作成グループからなり,研究代表者,統括委員会および各分科会メンバー全員による会議を全体会議とした.また適宜,統括委員会および各分科会内での電子メールを用いた小会議を行った.本来システマティックレビューチームはガイドライン作成グループとは独立したチームとして編成されるが,本ガイドラインでは2015 年版ガイドラインの追補版として,新たな知見の追加による部分改訂のみとすることから,システマティックレビューはガイドライン作成グループが担当することとした.ガイドライン作成の進行管理,メンバー間の連絡,会議の日程調整や資金管理などを担当するガイドライン作成事務局を設置した. 作成手順 本ガイドラインを作成するにあたり,2014 年4 月に発刊されたMinds 診療ガイドライン作成の手引き2014 を参考とした.平成27 年4 月19 日の責任者会議にて,ガイドライン作成・検証分科会の活動計画が策定され,診療ガイドライン改訂のための体制を構築した.平成27 年6 月6 日に第1 回全体会議を開催し,ガイドライン作成・検証分科会の活動計画に関して,CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2015 の評価を踏まえて,部分改訂することが確認された.平成27 年11 月15 日に第2 回全体会議を開催し,CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2015 の評価・改訂にむけて,アンケート調査を行うことが決定された.またCKD 進行例の血圧目標値等の設定のために関連学会(日本腎臓学会,日本糖尿病学会,日本高血圧学会,日本老年医学会,日本透析医学会)および国際的ガイドライン(KDIGO など)と連携していくことが確認された.平成28 年4 月17 日に第3 回全体会議を開催し,各分科会より重要なCQ とステートメントに関するアンケート案が提出され,文言の修正を行って確定した.日本腎臓学会会員を対象に,平成28 年6 ~9 月の期間でWEB アンケートを行うこととなった.平成28 年8 月18 日に第2 回責任者会議を開催し,CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2015 の普及率に関するWEB アンケートの途中経過が報告された.また各分科会よりCKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2015 に取り上げられたCQ に関する修正・削除・追加案が提案され,審議の結果,CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2017 のCQ が確定した.これらのCQ について,各関連学会で作成された最新のガイドラインを検証し,また平成28 年9 月までに公表された研究論文について,PubMed・ 医中誌による検索を実施し,各分科会でシステマティックレビューを実施し,CQ に対するステートメント,推奨グレード,解説文の部分修正(一部は新規作成)を行うこととなった.平成28 年10 月23 日に第4 回全体会議を開催し,各分科会より修正・新規CQ に関するシステマティックレビューの中間報告がなされた.またWEBアンケートの最終結果が報告され,その内容を部分修正に反映させることとなった.平成29 年1 月29 日に第1 回統括委員会を開催し,部分改訂されたガイドライン原稿ファイルの読み合わせを行い,部分修正点について全員で議論を行い,必要な再修正点を決定した.関連学会による査読およびパブリックコメント募集のための再修正ガイドライン原稿ファイルを,平成29 年2 月中旬までに完成させることとした.平成29 年2 月17 日より日本腎臓学会HP にてガイドラインPDF ファイルを公開し,パブリックコメント募集を開始した.また並行して関連学会(日本高血圧学会,日本糖尿病学会,日本透析医学会,日本老年医学会,日本循環器学会,日本脳神経外科学会,日本臨床腎移植学会)へ査読依頼を行った.平成29 年3 月末までに,各章の担当者で査読意見・パブコメを確認し,修正案を作成した.
平成29 年4 月29 日に第5 回全体会議を開催し,査読意見をもとにした修正案を検討し,最終校正の後に「CKDステージG3 ~5 診療ガイドライン2017(2015 追補版)」が完成した. 本書の構成 本ガイドラインは,主として各分科会が担当する9 つのテーマから構成され,それぞれの概要が示されたうえで, 1 ~ 3CQ とそのステートメント,推奨の強さ,解説文,文献検索結果,参考文献が記載されている. アウトカム全般のエビデンスの強さおよび推奨の強さ Minds ガイドライン作成の手引き2014 に準じて,アウトカム全般に関する全体的なエビデンスの強さおよび推奨の強さの提示を行った. 1.アウトカム全般に関する全体的なエビデンスの強さCQ に対する推奨の強さを決定するための評価項目として,CQ に対して収集しえた研究報告の結果をまとめた,アウトカム全般に関する全体的なエビデンスの強さを決定した.【アウトカム全般のエビデンスの強さ(エビデンスグレード)】 (強):効果の推定値に強く確信がある(中):効果の推定値に中程度の確信がある(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である(非常に弱い):効果の推定値がほとんど確信できない 2 推奨の強さ 推奨の強さの提示はガイドライン作成グループにより決定された.推奨の強さは「1.強く推奨する」「2.弱く推奨する(提案する)」の2 通りで提示されることが多いが,どうしても推奨の強さを決められないときには「なし」とした.【推奨の強さ(推奨レベル)】 :強く推奨する:弱く推奨する・提案する :明確な推奨ができない 資金源と利益相反 本ガイドラインの資金は,平成27 ~29 年度日本医療研究開発機構委託研究「慢性腎臓病(CKD)進行例の実態把握と透析導入回避のための有効な指針の作成に関する研究」より拠出された.この研究では医療情報学ならびに医療経済学の専門家の参画を受け,わが国のCKD ステージG3b 以降の患者数全体の正確な実態調査を行い,将来にわたりCKD 進行例の実態把握に重要かつ必須の定量的評価項目を検討し,各関連学会との連携のもとに,各学会作成のガイドラインとの整合性を十分に配慮した指針の更新を行う.本ガイドラインの作成がこれにあたる.
さらにエビデンス補充のために必要な研究課題を抽出し,5 年後,10 年後のCKD 重症化予防につながる調査および研究を行い,長期的なCKD 重症化予防対策を講じることで国民の健康やQOL 保持ならびに医療費抑制効果を生むことが最終の目標である.研究代表者ならびにすべての研究分担者は,平成27 ~29 年度日本医療研究開発機構委託費の調査研究における利益相反の管理に基づき,それぞれが所属する研究機関における利益相反委員会で審査が済んでいることを証明する申告書を,日本医療研究開発機構に提出しており,研究の実施ならびに本ガイドラインの作成にあたり利益相反の存在が影響を及ぼすことがないことが確認されている. 今後の予定 1.診療ガイドラインの広報本ガイドラインはPDF として,研究班ならびに学会などのホームページで公表を行う. 2.ダイジェスト版の作成現場での利用を促進するために,ダイジェスト版を作成する. 3.本ガイドラインの遵守状況の評価今回作成したガイドラインに対して,実際の診療現場でどのくらい実践され,診療に向上しているか,医療の質を評価するQuality Indicator(QI)指標をもとにその遵守率の評価を行う. 4 .改訂の予定今後は上記のガイドラインの遵守状況の評価や新たなエビデンスの確立をもとに反映させ,およそ3 年後を目安として改訂を行う予定である. 参考文献 1) Bayliss EA,Bhardwaja B,Ross C, et al. Multidisciplinary team care may slow the rate of decline in renal function. Clin J AmSoc Nephrol. 2011;6:704-10. 2) Chen YR,Yang Y,Wang SC, et al. Effectiveness of multidisciplinary care for chronic kidney disease in Taiwan: a 3-year prospective cohort study. Nephrol Dial Transplant. 2013;28:671-82. 3) Yamagata K, Makino H, Iseki K, et al. Effect of Behavior Modification on Outcome in Early- to Moderate-Stage Chronic Kidney Disease: A Cluster-Randomized Trial. PLoS One. 2016;11:e0151422.
目 次 1.わが国の慢性腎臓病の疫学............................................................... 1 CQ1:わが国におけるCKD ステージG3b 〜5 患者の高齢者と若年・中年における... 基礎疾患は何か?... .......................................................................................... 8 CQ2:わが国におけるCKD ステージG3b 〜5 患者における予後:... CVD による死亡は増加するのか?... ............................................................... 10 2.慢性腎不全CKD ステージG3b ~5 へのアウトリーチの必要性... ......... 12 CQ1:アウトリーチすべきCKD ステージG4,...5 の医療機関未受診者は,... どの程度存在するか?... ................................................................................. 18 3.CKD ステージG3b ~5 における降圧療法... .................................... 19 CQ1:CKD ステージG3b 〜5 の降圧目標値は?......................................................... 24 CQ2:CKD ステージG3b 以降においても蛋白尿の有無により予後は異なるか? また... CKD ステージG3b 以降の降圧療法においても蛋白尿の減少をめざすべきか?......... 29 4.糖尿病合併CKD の治療におけるRA 系阻害薬と脂質管理の有用性... ...... 32 CQ1:糖尿病合併CKD ステージG3b 〜5 の降圧療法では,RA 系阻害薬は有用か?............ 33 CQ2:糖尿病合併CKD ステージG3b 〜5 の脂質管理は腎予後,生命予後を改善するか?... 36 5.高齢者におけるCKD 診療のポイント... ............................................. 41 CQ1:高血圧を伴う75 歳以上の高齢CKD ステージG3b 〜5 患者への降圧治療は,... ESKD への進展・CVD の合併を抑制し,生命予後を改善するか?... ..................... 45 CQ2:75 歳以上の高齢CKD ステージG3b 〜5 患者に対して食事たんぱく質制限は,... ESKD への進展・生命予後改善の観点から推奨されるか?... ................................. 50 CQ3:糖尿病を合併する75 歳以上の高齢CKD ステージG3b 〜5 患者における... 血糖コントロールは,ESKD への進展を抑制し,生命予後を改善するか?... ............ 55 作成委員会... ............................................................................................................iiガイドラインダイジェスト... .......................................................................................iv「CKD ステージG3b 〜5 診療ガイドライン2017(2015 追補版)」前文... ........................xi略...語... ... ............................................................................................................... xviii
6.慢性腎不全common...pathway の治療... .......................................... 60 CQ1:CKD ステージG3b 以降の患者における,人工透析導入および死亡リスクの... 抑制のための血清カリウム値のコントロール目標はどのくらいか?... ..................... 67 CQ2:CKD ステージG3b 以降の患者における,人工透析導入および死亡リスク抑制... のための尿酸のコントロール目標はどれぐらいか?... .......................................... 71 CQ3:CKD ステージG3b 〜5 以上において代謝性アシドーシスの治療には... 腎保護効果があるか?... ................................................................................. 74 7.CKD 腎外合併症対策... .................................................................. 77 7-1 心血管疾患(CVD)............................................................................................. 78 CQ1:CKD ステージG3b 〜5 の患者における抗血小板薬の使用は... 心血管イベントの発症予防に有用か?... ............................................................ 80 7-2 CKD-MBD... ................................................................................................... 83 CQ2:食事療法を行っても血清リン値が正常範囲を超えるCKD ステージG3b 〜5 の... 患者にリン吸着薬を投与すべきか?..................................................................... 85 8.チーム医療と医療連携.....................................................................88 CQ1:腎臓専門医とコメディカルの連携による患者教育は,CKD ステージG3b 〜5 の... 患者のESKD への進展予防とスムーズな腎代替療法開始のために有効か?............... 89 CQ2:CKD ステージG3b 〜5 の患者において,腎臓専門医とかかりつけ医の... 医療連携はどのような場面に考慮するか?... ...................................................... 92 9.透析・移植医療.............................................................................. 94 CQ1:透析および腎移植に関する情報提供はどのようなCKD ステージで行うべきか?... ... 98 CQ2:腎代替療法の準備はどのようなCKD ステージで行うべきか?... ........................... 103
主要略語一覧表 略語欧文語句AKI acute kidney injury急性腎障害APD automated peritoneal dialysis自動腹膜透析AVF arteriovenous fistula自己血管使用皮下動静脈瘻AVG arteriovenous graft人工血管使用皮下動静脈瘻BMI body mass index体格指数CAPD continuous ambulatory peritoneal dialysis連続( 持続) 携行式腹膜透析CI confidence interval信頼区間CKD chronic kidney disease慢性腎臓病CKD-MBD chronic kidney disease related mineral and bone disorder慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常COX cyclooxygenaseシクロオキシゲナーゼCVC central venous catheter中心静脈カテーテルCVD cardiovascular disease心血管疾患EBPG European best practice guidelines欧州版最良診療ガイドラインeGFR estimated glomerular filtration rate推算糸球体濾過量(値) ESA erythropoiesis sitmulating agent赤血球造血刺激因子製剤ESKD end-stage kidney disease末期腎臓病,末期腎不全,末期腎疾患ESRD end-stage renal failure末期腎不全GFR glomerular filtration rate糸球体濾過量(値) ISPD international society for peritoneal dialysis国際腹膜透析学会ITT intention to treat治療企図解析KDIGO kidney disease:improving global outcomes LPD low-protein diet低たんぱく食MDCT multiple-detector computed tomography多列検出型CT MetS metabolic syndromeメタボリックシンドロームMSW medical social workerメディカルソーシャルワーカーNKF national kidney foundation (米国)腎臓財団NKF-DOQ Inational kidney foundation kidney disease outcomes quality initiative NSAIDs nonsteroidal anti-inflammatory drugs非ステロイド性抗炎症薬PKD polycystic kidney disease多発性嚢胞腎PEKT preemptive kidney transplantation先行的腎移植QOL quality of life生活の質RA renin-angiotensinレニン−アンジオテンシンRCT randomized controlled trialランダム化比較試験RPGN rapidly progressive glomerulonephritis急速進行性糸球体腎炎SVLPD supplemented very low protein dietサプリメント併用超低たんぱく質食USRDS United states renal data system WHO world health organization世界保健機構
1 1.わが国の慢性腎臓病の疫学 • 保存期CKD の概略透析や移植を必要とするESKD は,世界的に増加しており,1990 年から2000 年の10 年間で,その患者数は43 万人から106.5 万人へと増加した.さらに,2010 年には,200 万人程度に増加していると推測されてきた1).一方,日本の維持透析患者数は2015 年末には32.5 万人となり,人口100 万人当たりの患者数は2,592 例となっている.血液透析に導入される疾病は,2015 年では糖尿病性腎症43.7%,慢性糸球体腎炎16.9%,腎硬化症14.2%である(図1)2).この増加し続けているESKD の背景には,その予備軍であるCKD がある.わが国では2005 年の推定患者数として1,330 万人(成人人口13.3%)がCKD であり,国民病といえるほどに頻度が高いことが明らかとなった3).これまで,ESKD へ進行するリスクとしてCKD ステージG4, 5 があげられている4, 5)(図2).このCKDステージG4, 5は,特定健診受診者コホートの中で,表1に示すように,G4は0.20%,G5は0.07%であった6).一方,通院患者を基礎とするわが国の前向きコホート研究の代表である艮陵研究7)ならびに日本慢性腎臓病コホート研究8)と通院者コホートにおけるCKD 保存期G4, 5 は,G3 ~5 症例の約半数,CKD 保存期通院患者全体の約1/4 存在し,これがわが国の専門施設におけるCKD 保存期G4, 5 の実態と考えられる.また,CKD はCVD や死亡のリスクファクターでもあり,GFR および尿蛋白のステージの進行により増加する4, 7, 9 ~12). しかし,わが国におけるCKD 保存期G4, 5 の予後に関する実態に関してはいまだ不明な点が多い.本項では,進行したCKD(G3b ~5)の中でもESKD に至る可能性が高いCKD 保存期G4, 5 に注目し,その原疾患,患者数,予後について検討する. • 本項の調査研究対象本項の対象として,一般住民は,2008 年度特定健康診査受診者(40 ~74 歳,332,174 例:平成20 ~22 年度厚生労働省研究班「今後の特定健康診査・保健指導における慢性腎臓病(CKD)の位置付けに関する検討」)6)および石川県2005 年度定期検診(18 ~103 歳,44,087 例)を調査した.また,腎生検例を中心とした調査は,日本腎臓学会を中心に腎臓病の実態解明と臨床研究の促進のために立ち上げた腎臓病総合レジストリー登録22,000 例からCKD ステージG4, 5 を抽出し,その疾患背景を検討した.さらに,診療現場における実態調査として,金沢医科大学病院腎臓内科通院820 例および艮陵研究(登録2,692 例,宮城県の腎専門外来11 施設への通院症例)4, 7)ならびに日本慢性腎臓病コホート研究(CKD-JAC,登録3,087 例,年齢20 ~75 歳,CKD ステージG3 ~5 症例)8)に関して調査した.
1983 % 年 0 10 20 30 40 50 60 70糖尿病性腎症慢性糸球体腎炎腎硬化症多発性嚢胞腎慢性腎盂腎炎急速進行性糸球体腎炎SLE腎炎不明 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 図1 導入患者の主要疾患の割合推移(図説 わが国の慢性透析療法の現状(2015 年12 月31 日現在)より引用) analysis time(days) Log-rank test p<0.001 CKD1+2 CKD3 CKD4 CKD5 0 500 1000 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 1500 図2 艮陵研究におけるESKD の発生 (Nakayama M, et al. Hypertension Research 34:1106-10, 2011 より引用)
1 わが国におけるCKD ステージ G3b 〜5 保存期の実態 1)住民検診特定健診受診者コホートでは,CKD ステージG3b は1.29%,G4 は0.20%,G5 は0.07%であることが示されている6).同様に,石川県の2005 年検診においても,G4 は0.17%,G5 は0.05%と類似し,多くはすでに通院中の症例であった.この値から一般住民におけるCKD ステージG4, 5 保存期は,G4が約17 ~20 万人,G5 が約5 ~7 万人程度と推測される.ただし,広く実施されている住民検診において,新たなCKD ステージG4, 5 が発見されることは少なく,すでに診療を受けている医療施設の調査が重要と考えられる. 2)腎臓病総合レジストリー13 〜15)腎臓病総合レジストリーにおいて,腎移植後を含む解析19,133 例中3,735 例(19.5%)がCKD 保存期G4, 5 であった.その臨床診断の主なものは,急速進行性腎炎症候群885 例(23.7%),慢性腎炎症候群722 例(19.3%),ネフローゼ症候群576 例 (15.4%),糖尿病を含む代謝性疾患250 例(6.7%)であった.さらに65 歳以上の高齢者1,454 例と非高齢者成人1,309 例を比較すると高齢者の主な疾患は,急速進行性腎炎症候群518 例(35.6%)とネフローゼ症候群315 例(21.7%)で約60%を占めた(表2).一方,非高齢成人では,慢性腎炎症候群354例(27.0%),急速進行性腎炎症候群270 例(20.6%)とネフローゼ症候群221 例(16.9%)であった(表2).また,尿蛋白(一日定量もしくはg/g Cr)の評価が可能であった17,911 例中A3 ステージは,12,386 例と69.2%を占めている.さらに,両者を組み合わせたCGA 分類からみた16,098 例中5,970 例(37.1%)がESKD の高リスクと判断された(表3).このように腎生検実施例を主体とするレジストリーの約40%が将来のESKD 予備軍と考えられる.このレジストリーは年間腎生検実施例(約2 万件)の20 ~25%をカバーしており,これより類推すると糖尿病性腎症と腎硬化症を除く腎炎を主体とするCKD 保存期G4, 5 は約4,000 例,ESKD ハイリスク eGFR ( mL/分 /1.73m2 )蛋白尿(試験紙法) - ± 1 + 2 +以上計 G1正常または 高値90 ~ 15.70% 1.30% 0.55% 0.19% 17.74% G2正常または 軽度低下60 ~89 59.40% 5.27% 2.28% 0.81% 67.76% G3a軽度から中等度低下45 ~59 10.63% 1.18% 0.72% 0.40% 12.94% G3b中等度から 高度低下30 ~44 0.83% 0.14% 0.15% 0.18% 1.29% G4高度低下15 ~29 0.06% 0.02% 0.04% 0.09% 0.20% G5末期腎不全<15 0.03% 0.00% 0.01% 0.03% 0.07% 計86.64% 7.92% 3.75% 1.70% 100% 2008 年度特定健診受診者(n =332,174) (「CKD 診療ガイド2012」p.9 表5 より改変) 表1 特定健診受診者におけるCKD 重症度分類の頻度
は約7,500例が年間発症していることが推測される.これは,日本透析医学会の調査2)によるわが国における2015 年の慢性維持透析導入患者数である慢性糸球体腎炎6,232 例(全体の16.9%)と急速進行 性腎炎463 例(全体の1.3%)の合計6,695 例に一致した数値であり,わが国のCKD の実態を反映す 表3 腎臓病総合レジストリー登録18 歳以上(CGA 分類) Stage G1 G2 G3a G3b G4 G5 Subtotal A1 A2 A3 Subtotal 459 520 306 299 109 27 1,720 (2.9%) (3.2%) (1.9%) (1.9%) (0.7%) (0.2%) (10.7%) 659 963 449 373 260 138 2,842 (4.1%) (6.0%) (2.8%) (2.3%) (1.6%) (0.9%) (17.7%) (9.6%) (21.7%) (13.2%) (11.0%) (8.9%) (7.2%) (71.7%) 1,546 3,500 2,129 1,773 1,427 1,161 11,536 2,664 4,983 2,884 2,445 1,796 1,326 16,098 (16.5%) (31.0%) (17.9%) (15.2%) (11.2%) (8.2%) (100.0%) 65 歳未満(1,309例) (%) 65 歳以上(1,454例) (%) 性別女600 45.8 633 43.5 男709 54.2 821 56.5 G stage G4 769 58.7 852 58.6 G5 540 41.3 602 41.4 A stage A1 51 3.9 59 4.1 A2 157 12 165 11.3 A3 1,101 84.1 1,230 84.6 臨床診断ネフローゼ 症候群221 16.9 315 21.7遺伝性疾患5 0.4 3 0.2急性腎炎症候群31 2.4 22 1.5急速進行性 腎炎270 20.6 518 35.6血尿症候群3 0.2 2 0.1慢性腎炎症候群354 27 230 15.8膠原病58 4.4 58 4代謝性疾患56 4.3 57 3.9 薬剤性27 2.1 23 1.6その他284 21.7 226 15.5合計1,309 100.0 1,454 100.0 65 歳未満(1,309 例) 65 歳以上(1,454 例) P 値Mean SD Mean SD 年齢(年) 50.48 11.53 73.55 5.62 0.224身長(cm) 162.67 9.04 157.12 9.05 0.000体重(kg) 62.01 14.08 56.72 10.91 0.000 BMI 23.31 4.36 22.9 3.73 0.136尿蛋白定量(g/ 日) 2.89 3.23 2.73 3.06 0.198尿蛋白/ クレアチニン比 (g/gCr) 3.78 4.12 4.11 5.06 0.477血清クレアチニン (mg/dL) 4.13 3.41 3.53 2.57 0.000 eGFR(mL/分 /1.73m2) 17.11 7.98 17.05 7.61 0.752血清総蛋白(g/dL) 6.4 1.1 6.28 1.13 0.001 血清アルブミン (g/dL) 3.26 0.83 2.99 0.82 0.000血清コレステロール (mg/dL) 209.94 72.5 199.46 74.05 0.000収縮期血圧(mmHg)139.85 24.95 139.65 22.47 0.721拡張期血圧(mmHg)81.91 16.85 74.6 12.94 0.000平均血圧(mmHg) 101.1 18.26 96.24 14.56 0.000 表2:腎臓病総合(腎生検)レジストリー登録: ステージG4, 5
るものであった.一方,血液透析に導入される糖尿病性腎症および腎硬化症の多くは非腎生検例である2).また,腎生検レジストリーに登録された症例は,一般の糖尿病性腎症例より若年で尿蛋白が多く腎機能が低下している臨床病期がより重度の症例であることが示されており,その解釈に注意を要する16). 3) 通院コホートにおけるCKD ステージG3b 〜5 保存期CKD ステージG3 ~5 を登録したCKD-JAC 研究2,977 例中,G4 が1,160 例(39.0%),G5 が476 例(16.0%)であった.さらに,G1 からの通院患者全体を登録した艮陵研究2,699 例中,G4 が361 例(13.4%),G5 が233 例(8.7%)であり,金沢医科大学腎臓内科への通院820 例中665 例が保存期例であり,うちG4 が112 例(16.8%),G5 が66 例(9.9%)であった.通院者コホート(CKD-JAC,艮陵研究)と自験例において,CKD 保存期G4, 5 は,G3 ~5症例の約半数程度(37.0 ~55.0%),CKD 保存期通院患者全体の22.0 ~26.7%であり,これがわが国 の専門施設におけるCKD 保存期G4, 5 の実態と考えられる(図3).また,その基礎疾患は,CKD- JAC 研究では糸球体腎炎38.4%,糖尿病性腎症20.6%,腎硬化症18.4%,艮陵研究では,一次性腎疾患48.5%,高血圧性腎症17.5%,糖尿病性腎症10.5%であり,通院コホートにおいては,一次性腎疾患(糸球体腎炎)が主な疾患であった. 2 CKD 保存期G3b 〜5 の予後 腎臓病総合レジストリー,CKD-JAC 研究ならびに艮陵研究におけるCKD ステージG4, 5 の臨床的背景として,男性の比率が55 ~65%であり,その平均年齢は,61.8 ~65.7 歳と高齢化している.さらに,高血圧の合併あるいは降圧薬の使用が75%以上に認められる.加えて糖尿病の合併が27.6 ~ 33.5%とCKD 保存期で高率である.また,尿蛋白については,特定健診でもCKD 保存期G4, 5 例の stage5 stage4 stage3 stage1+2 A CKD ステージG3〜5 におけるステージG4, 5 の比率 CKD-JAC (n=2977) Gonryo (n=2699) KMU (n=665) CKD-JAC (n=2977) Gonryo (n=2699) KMU (n=665) B CKD ステージG1〜5 におけるステージG4, 5 の比率 16.0% 39.0% 14.5% 22.5% 15.9% 26.9% 9.6% 23.4% 8.6% 13.4% 9.9% 27.0%推定 37.4% 35.6% 40.3% 37.6% 16.8% 図3:CKD ステージG4, 5(保存期)の通院コホートにおける実態
半数以上に陽性である(表1).一方,CKD-JAC 研究における腎機能(G)と尿蛋白(A)の関係では, A2 ステージ以上の尿蛋白がG4 の92.2%,G5 の98.8%に認められた(図4).これは腎生検レジストリーにおけるG4(93.9%),G5(98.0%)に一致している(表3).わが国では,新規に尿蛋白陽性となる患者は健診受診者のなかで0.5%前後と低いが,そこで発見された蛋白尿陽性患者が透析に移行する可能性は5 ~ 10%前後と高く,蛋白尿,血尿ともに陽性例(1 +以上)では,10 年間で約3%が透析導入されている.さらに,試験紙法による蛋白尿の程度による透析導入をみると,17 年間の累積発症率は,蛋白尿3 +以上で16%,2 +で約7%であり,蛋白尿が多いほどESKD の発生が多いことが示されている9).また,艮陵研究では,透析療法を必要とするESKD が平均22.6 カ月の観察期間中にCKD ステージG5 の61.1%に,CKD ステージG4 の11.4%に発症し,基礎疾患(一次性腎疾患,高血圧性疾患,糖尿病性腎症,その他)による差はないことが示されている4).さらにCVD発症もしくは全死亡のハザード比はCKD ステージG1 +2 に対し単変量解析では,CKD ステージG3 で2.21(95%CI 1.37-3.55), CKD ステージG4 で4.39(95%CI 2.62-7.36),CKDステージG5 で7.47(95%CI 4.22-13.24),多変量解析では,CKDステージG4で1.76(95%CI 1.00-3.12), CKD ステージG5 で2.29(95%CI 1.17-4.49)とGFR 区分の進行とともに増大した.また,基礎疾患別には一次性腎疾患に対し,eGFR を含む交絡因子で調整後も高血圧性疾患で3.3(95%CI 1.82-6.09),糖尿病性腎症で5.93(95%CI 2.08-12.52)と高いことが示された4).腎機能と蛋白尿によるESKD とCVD あるいは死亡の発生については,筑波大学附属病院通院537 例の3 年間の追跡でも,CKD ステージG5 の63.4%, CKD ステージG4 の20.8%が透析に至るとともにCVD もしくは死亡がCKD ステージG5 の21.1%, CKD ステージG4 の8.3%に認められている.さらに,年間GFR の低下速度は,尿蛋白区分の進行に伴い増大傾向が明らかになり,CKD ステージG5A3で平均-6.00 mL / 分/ 1.73 m2/ 年と高いことが示されている10).住民コホートの約10 年間の観察では,CVD による死亡の多変量調整ハザード比は,eGFR ≧60 mL/分/1.73 m2 に対しeGFR <60 mL / 分/ 1.73 m2 のCKD 全体では1.20(95%CI 0.82-1.76)であったが, CKD ステージG1 に対しCKD ステージG4 で5.52 (95%CI 1.62-18.75),CKD ステージG5 で9.12(95% CI 2.12-39.29)とGFR 区分の進行により有意に増加した11).さらに最近の一般住民健診受診者の約17 図4 CKD ステージG4, 5(保存期)のeGFR とアルブミン尿(CKD-JAC 研究より) eGFR (mL/分/1.73m2) UAE (mg/gCr) N 15 30 45 60 0 100 200 300 400 500 600 700 800 30 300 0 90 G4-5 A2-3
年の観察では,CVDによる死亡の多変量調整ハザード比はeGFR ≧60 mL / 分/ 1.73 m2 に対し, 男性でeGFR30 ~44 mL / 分/ 1.73 m2 で1.47(95%CI 1.09- 1.98),女性ではeGFR45 ~49 mL / 分/ 1.73 m2 で1.38 (95%CI 1.15-1.66)と有意な増加がみられ,少なくともCKD ステージG3b からのCVD による死亡のリスク増加が観察された12).これらの知見より,日本人においてCKD 保存期G4, 5 は基礎疾患によらずESKD の高リスクとなり,特に高度蛋白尿(A3)併存例は腎機能低下速度が大となると考えられる.さらにCKD 保存期G4, 5はCVD 発症もしくは全死亡,CVD による死亡のリスクであり,糖尿病性腎症および高血圧性疾患ではこのリスクがより大きいと考えられる.CVD による死亡のリスクの増加はCKD ステージG3b から観察される. 総括日本人のCKD 保存期G4, 5 において,基礎疾患は,糖尿病性腎症,慢性腎炎,高血圧性疾患であり, ESKD の高リスクとなる.特に高度蛋白尿(A3)併存例は腎機能低下速度が大となると考えられる.さらに,CKD 保存期G4, 5 はCVD 発症もしくは全死亡,CVD による死亡のリスクであり,糖尿病性腎症および高血圧性疾患ではこのリスクがより大きいと考えられる.CVD による死亡のリスクの増加はCKD ステージG3b から観察される. 参考文献 1) Lysaght MJ.Maintenance dialysis population dynamics: current trends and long-term implications.J Am Soc Nephrol. 2002;13(Suppl 1):S37-S40. 2) 日本透析医学会編.図説 わが国の慢性透析療法の現状 (2015 年12 月31 日現在).日本透析医学会統計調査委員会,東京,2016. 3) Imai E,Horio M,Watanabe T,et al.Prevalence of chronic kidney disease in the Japanese general population. Clin Exp Nephrol. 2009;13:621-30. 4) Nakayama M,Sato T,Miyazaki M,et al.Increased risk of cardiovascular events and mortality among non-diabetic chronic kidney disease patients with hypertensive nephropathy:the Gonryo study.Hypertens Res. 2011;34:1106-10. 5) Inaguma D, Imai E, Takeuchi A et al.Risk factors for CKD progression in Japanese patients: findings from the Chronic Kidney Disease Japan Cohort(CKD-JAC)study.Clin Exp Nephrol. 2017 ;21:446-56 6) Iseki K,Asahi K,Moriyama T,et al.Risk factor profiles based on estimated glomerular filtration rate and dipstick proteinuria among participants of the Specific Health Check and Guidance System in Japan 2008.Clin Exp Nephrol. 2012;16:242-9. 7) Nakayama M,Sato T,Sato H,et al.Different clinical outcomes for cardiovascular events and mortality in chronic kidney disease according to underlying renal disease:the Gonryo study.Clin Exp Nephrol. 2010;14:333-9. 8) Imai E,Matsuo S,Makino H,et al.Chronic Kidney Disease Japan Cohort study:baseline characteristics and factors associated with causative diseases and renal function.Clin Exp Nephrol. 2010;14:558-70. 9) Iseki K,Ikemiya Y,Iseki C,et al.Proteinuria and the risk of developing end-stage renal disease.Kidney Int. 2003;63:1468-74. 10) Okubo R,Kai H,Kondo M,et al.Health-related quality of life and prognosis in patients with chronic kidney disease:a 3-year follow-up study.Clin Exp Nephrol. 2014; 18:697-703. 11) Nakamura K,Okamura T,Hayakawa T,et al.Chronic kidney disease is a risk factor for cardiovascular death in a community-based population in Japan:NIPPON DATA90. Circ J. 2006;70:954-9. 12) Nagai K, Sairenchi T, Irie F, et al. Relationship between Estimated Glomerular Filtration Rate and Cardiovascular Mortality in a Japanese Cohort with Long-Term Follow-Up. PLoS One. 2016;11:e0156792 13) Sugiyama H,Yokoyama H,Sato H,et al.Japan Renal Biopsy Registry:the first nationwide,web-based,and prospective registry system of renal biopsies in Japan.Clin Exp Nephrol. 2011;15:493-503. 14) Yokoyama H,Sugiyama H,Sato H,et al.Renal disease in the elderly and the very elderly Japanese:analysis of the Japan Renal Biopsy Registry(J-RBR).Clin Exp Nephrol. 2012;16:903-20. 15) Sugiyama H,Yokoyama H,Sato H,et al.Japan Renal Biopsy Registry and Japan Kidney Disease Registry:Committee Report for 2009 and 2010.Clin Exp Nephrol. 2013;17:155-73. 16) Furuichi K,Shimizu M,Toyama T,et al. Japan Diabetic Nephropathy Cohort Study:study design,methods,and implementation.Clin Exp Nephrol. 2013;17:819-26.
日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現状」からの報告により,透析導入を必要とする背景疾患は,糖尿病性腎症43.7%,慢性糸球体腎炎16.9%,腎硬化症14.2%の3 主要疾患である.このなかで慢性腎炎の頻度および絶対数は減少傾向を示すが,腎硬化症は,高齢層を中心に増加している1).この透析導入の背景としてCKD 保存期G4, 5 患者が推測される.一方,特定健診受診者による評価では,尿蛋白1 +以上の陽性は5.45%を占めるが,本章総説でも述べたようにeGFR ステージG4, 5 は全体の0.27%にとどまり,検尿異常の頻度がより高いことが示されている2).しかし,特定健診でもCKD 保存期G4, 5例の半数以上に尿蛋白が陽性である.また,CKD- JAC 研究では,A2 ステージ以上の尿蛋白がG4 の92.2%,G5 の98.8%,腎生検レジストリーにおいてもG4 の93.9%,G5 の98.0%に認められる.このG4, 5 に関して,腎生検を必要とする症例登録により,年齢層によってその背景疾病が異なることが明らかとなっている.成人の若年・中年では, 慢性腎炎症候群が主要病態である.一方,高齢者では,ネフローゼ症候群と急速進行性腎炎症候群が主要病態である3, 4).なお,透析導入される糖尿病性腎症および腎硬化症の多くは非腎生検例であることに留意する必要がある.また,わが国の通院患者における前向きコホート研究においては,eGFR ステージG3 ~5 の主要病態は,慢性腎炎,糖尿病,高血圧性腎硬化症であり,現在の透析導入を反映している5 ~7). 文献検索 データベース:PubMed 医中誌期間:1990 年~2016 年9 月までキーワード: chronic kidney disease, end stage kidney disease, epidemiology 参考文献 1) 日本透析医学会編.図説 わが国の慢性透析療法の現状 (2015 年12 月31 日現在).日本透析医学会統計調査委員会,東京,2016. 2) Iseki K, Asahi K,Moriyama T,et al.Risk factor profiles based on estimated glomerular filtration rate and dipstick proteinuria among participants of the Specific Health Check and Guidance System in Japan 2008.Clin Exp Nephrol. 2012;16:244-9. ● 推 奨 ● CKD ステージG3b ~5 患者の腎生検を要する基礎疾患は,若年・中年では慢性腎炎症候群,高齢者では,ネフローゼ症候群,急速進行性腎炎症候群である.非腎生検例を含めると透析に至る疾患で最も重要なものは糖尿病性腎症である.加えて加齢とともに高齢者では虚血性腎症を含む腎硬化症が増加する. わが国におけるCKD ステージG3b 〜5 患者の高齢者と若年・中 年における基礎疾患は何か? 1.わが国の慢性腎臓病の疫学
3) Yokoyama H,Sugiyama H,Sato H,et al.Renal disease in the elderly and the very elderly Japanese:analysis of the Japan Renal Biopsy Registry(J-RBR).Clin Exp Nephrol. 2012;16:903-20. 4) Sugiyama H,Yokoyama H,Sato H,et al.Japan Renal Biopsy Registry:the first nationwide,web-based,and prospective registry system of renal biopsies in Japan.Clin Exp Nephrol. 2011;15:493-503. 5) Imai E,Matsuo S,Makino H,et al.Chronic Kidney Disease Japan Cohort study:baseline characteristics and factors associated with causative diseases and renal function.Clin Exp Nephrol. 2010;14:558-70. 6) Nakayama M,Sato T,Miyazaki M,et al.Increased risk of cardiovascular events and mortality among non-diabetic chronic kidney disease patients with hypertensive nephropathy:the Gonryo study.Hypertens Res. 2011;34:1106-10. 7) Okubo R,Kai H,Kondo M,et al.Health-related quality of life and prognosis in patients with chronic kidney disease:a 3-year follow-up study.Clin Exp Nephrol. 2014; 18:697-703.
わが国の地域一般住民対象の多くのコホート研究の結果からも,CKD がESKD のみならず脳卒中を含むCVD に対するリスクファクターであることはすでに示されている.一方でわが国においては欧米と比較してCKD 患者の死亡やCVD のイベント発症が必ずしも多くないことも指摘されており,CKDステージG3 ~5 患者についてCKD ステージG1 + 2 をリファレンスとしてCVD による死亡のリスクを解析したわが国の既存エビデンスを検討した.腎臓専門医療機関に通院中のCKD 患者コホートの前向き観察研究では,リスク評価に複合エンドポイント(CVD の発症もしくは全死亡)が用いられている.厳密には本CQ の「CVD による死亡」のリスク評価とはいえないが,艮陵研究においてはCKD ステージG1 +2 に対し,リスクがGFR 区分の進行とともに増大し,多変量調整後はCKD ステージG5 で有意となることが示されるとともに, CKD の基礎疾患によるリスクの差異が強調されている1). 筑波大学附属病院からの報告では統計学的なリスク解析はなされていないものの,複合エンド ポイントのincidence のGFR 区分進行に伴う直線的な増加が示されている2).一方,日本人一般住民を対象としたNIPPON DATA90 における解析3)と茨城県における健診受診者の長期観察における解析4)は,「CVD による死」をエンドポイントとしてGFR 区分によるリスクを解析した稀有な報告となっている.現在わが国で標準的に用いられているGFR 推算式と異なる式を用いて解析している点に注意を要するが,前者ではCKD ステージG4,後者ではCKD ステージG3b からCVD による死亡のリスクが有意となり,GFR 区分の進行による直線的なCVD 死のリスク上昇が示されている.以上より,現時点では本CQ に対する解答を与えるわが国におけるエビデンスの集積は十分とはいえないものの,わが国ではCKD ステージG3b から「CVD による死亡」のリスクが有意に増加し,CKDステージG4, 5 で「CVD による死亡」および「CVDの発症または死亡」のリスクは増大するとみなすことができると考えられる. ● 推 奨 ● CKD ステージG1+2 に対する「CVD による死亡」のリスクはCKD ステージG3b から有意に増加し,ステージの進行に伴い増大する. わが国におけるCKD ステージG3b 〜5 患者における予後:CVD による死亡は増加するのか? 1.わが国の慢性腎臓病の疫学
文献検索 データベース:PubMed 医中誌期間:1990 年~2016 年9 月までキーワード: chronic kidney disease, end stage kidney disease, epidemiology, cardiovascular disease 参考文献 1) Nakayama M,Sato T,Miyazaki M,et al.Increased risk of cardiovascular events and mortality among non-diabetic chronic kidney disease patients with hypertensive nephropathy:the Gonryo study.Hypertens Res. 2011;34:1106-10. 2) Okubo R,Kai H,Kondo M,et al.Health-related quality of life and prognosis in patients with chronic kidney disease:a 3-year follow-up study.Clin Exp Nephrol. 2014; 18:697-703. 3) Nakamura K,Okamura T,Hayakawa T,et al.Chronic kidney disease is a risk factor for cardiovascular death in a community-based population in Japan:NIPPON DATA90. Circ J. 2006;70:954-9. 4) Nagai K, Sairenchi T, Irie F, et al. Relationship between Estimated Glomerular Filtration Rate and Cardiovascular Mortality in a Japanese Cohort with Long-Term Follow-Up. PLoS One. 2016;11:e0156792
1 積極的にアウトリーチし受診勧奨 すべきCKD 患者とは CKD がESKD,CVD 発症および死亡のリスクになることが国内外の多くの疫学研究などにより明らかにされている.CKD は血液・尿検査より診断が可能であるが,CKD のほとんどは一般に無症状であるため,CKD を早期に検出する健診システムが重要である. CKD 診療ガイド2012 A)では,健診でCKD が疑われれば,まず第一にかかりつけ医を受診することが推奨されている.CKD の多くは加齢に伴う腎機能低下と高血圧,糖尿病などの生活習慣病に関連しているため,まずは生活・食事習慣の改善に取り組 み,高血圧,糖尿病などの治療に取り組むことが重要である.茨城県の地域住民健診より新たに蛋白尿が出現するリスクファクターは,加齢,血尿2 +以上,治療中を含む高血圧,治療中の糖尿病,高コレステロール血症,高トリグリセリド血症,肥満,喫煙であり,また腎機能eGFR が60 mL / 分/ 1.73 m2未満に低下するリスクファクターは,加齢,蛋白尿2 +以上,血尿と蛋白尿がともに1 +以上,血尿2 +以上,治療中を含む高血圧,治療中の糖尿病,低HDL 血症,喫煙であった1).またFramingham 研究において18.5 年間でGFR が5 パーセンタイル未満に低下するベースライン時のリスクファクターは, 2.慢性腎不全CKDステージG3b ~5へのアウトリーチの必要性 CKD,特にCKD ステージG3b 以降の要ケア患者を適切かつ早期に腎臓専門医への紹介につなげることは,深刻な合併症の進展予防に有用と考えられ,多くのガイドラインで推奨されている.とりわけ,高齢者におけるCKD ステージG3b 以降の腎不全患者の急性増悪などによる緊急入院・緊急透析導入は,予定入院に比し医療費は高騰し,医療経済上深刻な問題となっている.また,緊急透析は医療費ばかりでなく,導入1 年以内の死亡原因と密接に関連し,CKD ステージG3b ~5,特に進行したCKD ステージG4,5 の患者群の専門医非管理下・医療機関未受診者へのアウトリーチ活動による積極的介入による進行・重症化予防と計画透析導入が必要であり,医療費高騰の抑制と生命予後の改善につながると考えられる.しかし,CKD は一般に自覚症状がなく病気に気づきにくいこと,緩徐進行性であり重症化を見逃しやすいことから,特定健診などで血清クレアチニン値を積極的に測定するなどし,健診機会を通じて,適切にCKD を診断し,受診勧奨を行うことが重要である.一方で,受診勧奨すべきCKD ステージG3b ~ 5 の患者群の専門医非管理下・医療機関未受診者の規模は,現状では方法論的に難しいため正確に把握されていない.しかし,特定健診のデータを用いた解析では特定健診受診者のうちCKD ステージG4,5 だけでも1 万人近くいることが推定される.特定健診を受診する40 ~75 歳の保険者のなかにも相当数の医療機関未受診の保険者がいることを考えると,退職者や特定健診未受診のなかにも同様な中~高年者が多数いることが示唆される.今後推進される「データヘルス計画」などにより,CKD ステージG3b 以上の医療機関未受診者の実態・規模を把握したうえで,アウトリーチ活動による受診勧奨を図ることが重要である.
年齢,低GFR,BMI,糖尿病,喫煙であり,12 年間に行われた4 回の検査結果を平均した場合のリスクファクターとしては,年齢,低GFR,低HDL,糖尿病,高血圧であった2).これらの結果より一般住民におけるCKD 進展のリスクの多くには生活習慣病や喫煙,肥満が関連しており,CKD を早期発見し,生活習慣の改善や高血圧,糖尿病,脂質異常症などの治療に取り組むことで,予後を改善できることが期待される. CKD 診療ガイド2012 A)では,かかりつけ医を受診したCKD のうち,蛋白尿と血尿が陽性の場合には腎炎が疑われるため,腎臓専門医に紹介することを推奨している.また蛋白尿が2+以上であったり, eGFR が40 歳未満では60 mL / 分/ 1.73 m2 未満,40歳以上70 歳未満ではeGFR 50 mL / 分/ 1.73 m2 未満, 70 歳以上で安定したCKD ではeGFR 40 mL / 分/
1.73 m2 未満の場合にCKD が重症化する可能性が高
いために,腎臓専門医に紹介することが推奨されている.エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2013 B)では専門医への早期の紹介が勧められている3, 4).またKDIGO のガイドラインC)ではGFR 区分がG4, 5,アルブミン尿区分がA3 では専門医への紹介を推奨している.これらのガイドラインでは,従来のCKD ステージG3 がGFR 45 mL / 分/ 1.73 m2 を境に3a と3b に分割された.これは, GFR 45 mL / 分/ 1.73 m2 未満では全死亡,心血管死亡,ESKD への進行およびAKI の罹患率といったCKD に関連するさまざまなリスク5)や,尿毒症に伴う合併症6)が急増するためである.したがって,このCKD ステージG3 の分割は,特にCKD ステージG3b 以降の要ケア患者を適切かつ早期に腎臓専門医への紹介につなげることが,深刻な合併症の進展予防に有用と考えられる.厚生労働省「平成23 年度患者調査の概況」D)によれば,全透析患者に占める入院透析患者数は60歳を超えると急速に増加する.また,厚生労働省「平成25 年度医療費の動向」E)によれば2007 年以降65 歳以上の医療費に占める腎不全などのシェアは5%を超えている状況にある.日本透析医学会統計
調査委員会による「図説 わが国の慢性透析療法の現況(2015 年)」F)によれば,2015 年新規透析導入患者の1 年以内の全死因における心不全+感染症の割合は,全年齢層で高値である(~44 歳:50.0%, 45 ~64 歳:42.7%,65 ~74 歳:44.6%,75 ~84 歳: 51.9%,85 歳~:57.2%).一方,予定・緊急別入院医療費の差額は,高齢化するほど上昇することが知られている{(緊急入院―予定入院)費用差額;65歳未満:35 万円,65 ~74 歳:42 万円,75 歳以上: 66 万円}G).CKD 診療ガイド2012 A)にも示されているように,日本腎臓学会が全国10 の都道府県で行われた574,024 例の健診データと,2005 年の国勢調査に基づいた年齢別のCKD 患者頻度の推定によれば,60 歳以降のCKD ステージG3b 以降の患者頻度は急増することが知られている.これらの点を考慮すると,特に高齢者におけるCKD ステージG3b以降の腎不全患者の急性増悪などによる緊急入院・緊急透析導入は医療経済上深刻な問題であることを示唆している.逆に,医療機関に通院していない非管理下患者群へのアウトリーチ活動による受診勧奨は,緊急透析導入に関連する医療費上昇を抑制する可能性が考えられるため,CKD ステージG3b 以降の,特に高齢者慢性腎不全患者がアウトリーチすべき最重要対象患者と考えられる.これに関連して,平成25 年にまとめられた厚生労働科学研究費補助金―難治性疾患克服研究事業(腎疾患対策研究事業) CKD 進展予防のための特定健診と特定保健指導のあり方に関する研究(研究代表者:木村健二郎)「CKD 進展予防のための保険指導教材」H)では,
CKD 進展予防のための保険指導対象者の明確化をはかり,eGFR 50 mL / 分/ 1.73 m2 未満,腎機能の安定した70 歳以上では40 mL / 分/ 1.73 m2 未満者に対して,医療と連携した受診勧奨の保健指導が提唱されている.平成20 年度より特定健診が導入され,40 ~74歳の公的医療保険加入者全員が健診対象となり,生活習慣病やMetS の検査を受け,リスクに応じた保
健指導(積極的支援/ 動機付け支援)を受けることができるようになった.CKD は血液検査,尿検査より診断できるため,特定健診の検査に加えて血清クレアチニン検査を行えばCKD の診断や重症度評価が可能である.なお厳密なCKD 診断には3 カ月以上の観察が必要である.CKD 対策の重要性に鑑みて,特定健診に血清クレアチニン検査を加えて, CKD を含めた保健指導を行う保険者は着実に増加しており,特に市町村の特定健診では多くの自治体でCKD の検査が行われるようになった.実際に新潟県上越市I)や兵庫県尼崎市J)などで,CKD に対する保健指導の成果により新規透析導入患者数が減少したとの報告がなされている.CKD は一般に自覚症状がなく患者が病気に気づきにくいこと,緩徐進行性であり重症化を見逃しやすいことからも特定健診などの健診機会を通じて,適切にCKD を診断し,受診勧奨を行うなどの保健指導を進めることが重要である.しかし血清クレアチニン検査を行わなければ,特定健診を受診してもCKD を診断することは困難である.Uchida らは2008 年に特定健診を受診した538,846 例のうちeGFR 60 mL / 分/ 1.73m2 未満となる77,643 例中において尿試験紙で1 +以上の陽性となるのは8,137 例に過ぎず,GFR 区分でCKD ステージG3a では91.8%,G3b では77.0%,G4 では40.6%,G5 では44.2%が尿試験紙で尿蛋白陰性か±であった7).以上の結果より,特定健診受診者において血清クレアチニン値を測定しなければ大多数のCKD を見逃すこと,高度腎障害であるCKD ステージG4 ~5 においても40%以上は尿試験紙で尿蛋白陽性とならないことが明らかになった.以上より,血清クレアチニン検査はCKD 早期診断のみならず,尿試験紙による尿蛋白では診断できない高度腎障害群患者を見逃さないためにも重要である.特定健診で血清クレアチニン値を測定する場合としない場合における医療費を比較したシミュレーション研究が報告されている.Kondo ら8)はMarkov モデルを用いて,特定健診において尿試験紙検査のみ,血清クレアチニン検査のみ,また尿試験紙 と血清クレアチニン検査を両方行った場合の医療費を検討した.尿検査に加えて血清クレアチニン検査を必須とした場合の医療費の費用対効果増分率は¥9,325,663 /quality adjusted life year(生活の質を調整した生存年:QALY)となり,WHO が推奨する国民一人あたりの総生産の3 倍を下回ることから,公衆衛生学的な政策として特定健診で血清クレアチニン検査を必須とする優位性が明らかとなった9).国民の健康増進に加え,医療経済学的なメリットがあることから,特定健診には血清クレアチニン検査を追加すべきである. 2 CKD ステージG4, 5 への専門 医・スタッフ介入による予後改善の可能性 腎予後,生命予後の改善に関して,CKD 患者の早期の腎臓専門医への受診が勧められるA, 3, 4)一方で,透析治療への導入タイミングに関しては,まだ明確な結論は出されていない.これまで,早期透析導入が導入後の生命予後を改善する可能性が指摘されてきた.事実,海外においてもeGFR が比較的高い段階で導入する傾向となっていた.わが国および海外のガイドラインK ~M)で,進行性の腎障害があり,eGFR が15 mL/ 分/ 1.73 m2 以下となり,尿毒症に基づく諸症状が出現した際には,透析導入の必要が示されている.しかし,ERA‒EDTA レジストリーの前向きコホート研究9)や,米国のUSRDS レジストリーを用いた大規模後ろ向きコホート研究など10),高い導入時eGFR が高い死亡リスクと関連している可能性を示唆する報告などが相次ぎ,腎機能からみた透析導入時期については慎重に検討が進められている.2010 年にオーストラリアおよびニュージーランドにおいて,Cockcroft‒Gault 式でのeGFR 10 ~14 mL / 分/ 1.73 m2 での『早期導入群』と5 ~7 mL / 分/ 1.73 m2 での『晩期導入群』との間で生命予後をRCT により比較したIDEAL 研究が
行われた11).その結果,早期群は晩期群に比べて,総死亡のアウトカム改善効果は認められず,十分に管理され尿毒症症状の出現がない状態であれば, eGFR 7 mL / 分/ 1.73 m2 程度までは導入を遅らせても導入後予後は変わらないと結論づけている.わが国では2007 年山縣らが日本透析医学会のレジストリーを用い解析し,導入時eGFR 4 ~6 mL / 分/ 1.73 m2 に対して,各種因子で調整した後も,8 以上で12 カ月死亡率は有意に高く,2 未満でも統計学的に有意ではなかったが死亡リスクが増大する傾向にあったことを報告している12).これらを踏まえ,エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2013 B)では推奨グレードは示していないものの,eGFR 8 mL / 分/ 1.73 m2 を上限値として設定し,「尿毒症症状の出現のないeGFR 8 ~14 mL / 分/ 1.73 m2 程度での早期導入は,透析導入後の予後改善に寄与しない」とするステートメントが示された.しかしながら,これらは専門医による十分な管理下のデータであり,非管理下の患者群の生命予後予測に簡単に適応できるものではない.透析導入後の生命予後改善のために,腎不全保存期診療においてもう一つ重要な点として,透析導入時の腎不全に伴う併存合併症・導入時残存腎機能も指摘されている.透析導入後の生命予後に寄与する導入時併存合併症を検討した複数の研究があるが,フランスREIN レジストリーでは,高齢者(75 歳以上)においての非計画的透析導入が生命予後リスクとして報告されている13).スペイン14)および米国15)の観察研究では,CVC をアクセスとした場合,それ以外のアクセスに比較して,全入院,感染症関連入院,心血管死亡などの不良な予後と関連することが示されている.DOPPS の米国内のみのデータを使用した報告16)では,透析導入患者を6 カ月間観察した検討で,CVC を介して導入された患者では,感染症入院が約2.3 倍に,全入院が約72%増加することが報告されている.つまり,非計画導入には,心不全などを伴う急性増悪時の緊急透析導入13)や,動静脈瘻などのバスキュラーアクセスの事前準備が間に合わずに血管留置型カテーテルを用いた緊急透析 導入を多く包含し,導入後生命予後不良に関与している可能性が高い.これは,上述のように高齢者の緊急透析による医療費の高騰と,導入1 年以内の死亡原因と密接に関連し,CKD ステージG3b ~5,特に進行したCKD ステージG4, 5 の患者群の専門医非管理下・医療機関未受診者へのアウトリーチ活動による積極的介入による進行・重症化予防と計画透析導入の必要性を改めて強調するものである. 3 アウトリーチ活動による受診勧奨 をすべきCKD ステージG3b ~ 5 の医療機関未受診者の規模 CKD ステージG3b 以降あるいはCKD ステージG4, 5 の医療機関未受診者数を正確に算定することは,方法論的に難しく,事実これを示す過去の報告は存在しない.また,この規模は各国の医療経済環境や保険事情などにより大幅に異なるため,特にCKD ステージG4, 5 の医療機関未受診者数算定には,わが国に限った研究に依ることになる.したがって,ここでは入手が可能であった特定健康診査・特定保健指導の限られた資料に基づく推定をする.厚生労働省平成24 年度特定健康診査・特定保健指導の実施状況N)によると,対象者は約5,281 万人,受診者数は約2,400 万人であり,特定健診の実施率は46.2%であった.平成22 年度からの3 年間の平均対象者数は約5,251 万人,平均受診者数は約2,347万人で,平均特定健診実施率は44.7%であったが,平成20 年度の開始から受診者数は増加し,実施率も平成23 年度と比較して,1.5 ポイント向上していた.対象者の実施率は,40 ~74 歳全体で男性51.4%,女性41.4%で男性に多い傾向にあったが, 65 歳以上では女性の受診率が男性を上回っていた.保険者の種類による実施率は,市町村国保33.7%,国保組合42.6%,全国健康保険協会39.9%,船員保険38.9%,健康保険組合70.1%,共済組合72.7%で
あった.平成24 年度の東京都の特定健診受診者は約327 万人(全国比率約13.5%,男性55.3%)で, MetS 該当者は約45 万人(男性受診者の約20%,女性受診者の約5.5%)で,そのうち高血圧,糖尿病,脂質異常にかかわる薬剤を内服していない者の数は,約18 万人(MetS 該当者に占める男性比率約43%,女性26%)であった.全国ではMetS 該当者は約348 万人(男性受診者の約21%,女性受診者の約6.3%)で,そのうち高血圧,糖尿病,脂質異常にかかわる薬剤を内服していない者の数は,約135 万人(MetS 該当者に占める男性比率約42%,女性26%)であった.こういった背景を踏まえて,厚生労働科学研究費補助金・循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業(研究協力者,研究事務局)(研究代表者 渡辺毅)「今後の特定健康診査・保健指導における慢性腎臓 病(CKD)の位置付けに関する検討」では,平成20 年度の全国27 都道府県の特定健診受診者のうち,血清クレアチニン値を測定しeGFR が算出可能な554,155 例に対して解析を行った.このうち,eGFRが30 未満となるGFR 区分G4, 5 は1,445 例(0.26%)であった.このうち問診票で高血圧,糖尿病,脂質異常症の服薬情報が明らかな1,389 例のうち,いずれの内服もない患者(「未受診」と定義する)は, 239 例(17.2%)であり,G4 では151 例,G5 では88 例が未治療であった.さらに未受診のCKD ステージG4, 5 の239 例中で血圧とHbA1c がわかる209 例において,特定健診時の血圧が収縮期血圧140 mmHg 以上,かつ/ または拡張期血圧90 mmHg以上となる高血圧患者は67 例(32.1%)であり,そのうち収縮期血圧160 ~179 mmHg かつ/ または拡張期血圧100 ~109 mmHg となるII度高血圧が14 例(20.9%),収縮期血圧180 mmHg 以上,かつ/または拡張期血圧110 mmHg 以上となるIII度高血圧が12 例(17.9%)であった.同様にHbA1c が6.5%以上の糖尿病は1 0 例(4 . 8%),このうちHbA1c8.0%以上が3 例(30%)であった.これらの結果は,平成20 年度単年のデータであり,CKD ステージG4, 5 の再現性(継続性)や,透析患者がど れほど含まれているかについては不明であるが,特定健診受診者全体に対する未受診者は0.043%,つまり特定健診受診者のうち約1 万人が未受診のCKD ステージG4, 5 と予想されたことから,特定健診においてCKD を診断し,適切に受診勧奨することが喫緊の課題である.毎年特定健診を受診する40 ~75 歳の保険者のなかにも相当数の「医療機関未受診のCKD ステージG4, 5(ステージG3b ~5)」の保険者がいることを考えると,退職者のなかにも同様な中~高年者が多数いることが示唆される.今後推進される「データヘルス計画」O)などにより,各都道府県のCKD ステージG3b 以上の医療機関未受診者の実態・規模を把握したうえで,アウトリーチ活動による受診勧奨を図ることが重要と考えられる. 参考にした二次資料 A) 日本腎臓学会編.CKD 診療ガイド2012.東京医学社,東京,2012. B) 日本腎臓学会編.エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2013.東京医学社,東京,2013. C) KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease. D) 厚生労働省.平成23 年(2011)患者調査の概況. 2011. E) 厚生労働省保健局医局課.平成24 年度医療費の動向. 2012 F) 日本透析学会編.図説 わが国の慢性透析療法の現況 (2015 年12 月31 日現在).日本透析学会統計調査委員会,東京,2016 G) 川渕孝一,井上裕智,梶谷恵子ほか.高齢者透析に関する医療経済分析.21 世紀政策研究所研究プロジェクト 持続可能な医療・介護システムの再構築 報告書. 143-149,2013. H) 厚生労働科学研究費補助金―難治性疾患克服研究事業 (腎疾患対策研究事業)CKD 進展予防のための特定健診と特定保健書道のあり方に関する研究(研究代表者:木村健二郎)「CKD 進展予防のための保険指導教材」, 2013. I) 上越市健康福祉部 生活習慣病予防対策室.上越市の保健事業体制 ~生活習慣病対策に重点を置いた保健事業の展開~ http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001w361att/2r9852000001w3ap.pdf J) NHK ためしてガッテン.2011 年09 月14 日放送「腎 臓が突然ダメになる 急増!沈黙の新現代病」で紹介
された尼崎市のチャート表(NHK により一部改編) http://www9.nhk.or.jp/gatten/archives/P20110914.html K) Hemodialysis Adequacy 2006 Work Group.Clinical practice guidelines for hemodialysis adequacy,update 2006. Am J Kidney Dis 2006;48(Suppl 1):S2-90. L) Kelly J, Stanley M,Harris D;Caring for Australians with Renal Impairment(CARI).The CARI guidelines.Acceptance into dialysis guidelines.Nephrology(Carlton) 2005;10(Suppl 4):S46-60. M) European Best Practice Guidelines Expert Group on Hemodialysis.European Renal Association. Section I.Measuremet of renal function,when to refer and when to start dialysis. Nephrol Dial Transplant 2002;17(Suppl 7):7-15. N) 厚生労働省.平成24 年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況.2012. O) 厚生労働省 保健局ほか.データヘルス計画作成の手 引き.2015. 参考文献 1) Yamagata K,Ishida K,Sairenchi T,et al.Risk factors for chronic kidney disease in a community-based population:a 10-year follow-up study.Kidney Int. 2007;71: 159-66. 2) Fox CS,Larson MG,Leip EP,et al.Predictors of newonset kidney disease in a community-based population. JAMA. 2004;291:844-50. 3) Nakamura S,Nakata H,Yoshihara F,et al.Effect of early nephrology referral on the initiation of hemodialysis and survival in patients with chronic kidney disease and cardiovascular diseases.Circ J. 2007;71:511-6. 4) Black C, Sharma P, Scotland G,et al.Early referral strategies for management of people with markers of renal disease:a systematic review of the evidence of clinical effectiveness,cost-effectiveness and economic analysis.Health Technol Assess. 2010;14:1-184 5) Levey AS,de Jong PE,Coresh J,et al.The definition, classification,and prognosis of chronic kidney disease: a KDIGO Controversies Conference report.Kidney Int. 2011;80:17-28. 6) Moranne O,Froissart M,Rossert J,et al.Timing of on- set of CKD-related metabolic complications.J Am Soc Nephrol. 2009;20:164-71. 7) Uchida D,Kawarazaki H,Shibagaki Y,et al.Underestimating chronic kidney disease by urine dipstick without serum creatinine as a screening tool in the general Japanese population.Clin Exp Nephrol. 2015 ;19:474-80 8) Kondo M,Yamagata K,Hoshi SL,et al.Budget impact analysis of chronic kidney disease mass screening test in Japan.Clin Exp Nephrol. 2014;18:885-91. 9) Stel VS,Dekker FW,Ansell D,et al.Residual renal function at the start of dialysis and clinical outcomes. Nephrol Dial Transplant. 2009;24:3175-82. 10) Wright S,Klausner D,Baird B,et al.Timing of dialysis initiation and survival in ESRD.Clin J Am Soc Nephrol. 2010;5:1828-35. 11) Cooper BA,Branley P,Bulfone L,et al.A randomized, controlled trial of early versus late initiation of dialysis.N Engl J Med. 2010;363:609-19. 12) Yamagata K,Nakai S,Masakane I,et al.Ideal timing and predialysis nephrology care duration for dialysis initiation:from analysis of Japanese dialysis initiation survey. Ther Apher Dial. 2012;16:54-62. 13) Couchoud C,Labeeuw M,Moranne O,et al.A clinical score to predict 6-month prognosis in elderly patients starting dialysis for end-stage renal disease.Nephrol Dial Transplant. 2009;24:1553-61. 14) Lorenzo V,Martn M,Rufino M,et al.Predialysis nephrologic care and a functioning arteriovenous fistula at entry are associated with better survival in incident hemodialysis patients:an observational cohort study.Am J Kidney Dis. 2004;43:999-1007. 15) Wasse H,Speckman RA,McClellan WM.Arteriovenous fistula use is associated with lower cardiovascular mortality compared with catheter use among ESRD patients.Semin Dial. 2008;21:483-9. 16) Ng LJ, Chen F, Pisoni RL, et al.Hospitalization risks relat- ed to vascular access type among incident US hemodialysis patients.Nephrol Dial Transplant. 2011;26:3659-66.
CKD ステージG4, 5 患者への腎臓専門医・保健師の介入により生命予後の改善や医療費削減につながることが示唆される.一方,わが国において“ アウトリーチ活動により受診勧奨を必要とするCKDステージG4, 5 の医療機関未受診者” の規模を正確に把握する手段は存在しないが,特定健康診断のデータに基づく分析上,相当数の未受診者が存在することが予想される.平成28 年度より糖尿病性腎症重症化予防事業が始まり,保険者が健診やレセプトデータより未受診の糖尿病性腎症患者に対する受診勧奨を開始している.糖尿病性腎症は,新規透析導入原疾患の40%以上を占めるが,血圧・血糖管理や生活改善により,予防ないしは透析導入時期を遅延させることが可能な疾患・病態である.日本健康会議の「健康なまち・職場づくり宣言2020」において全国の800 市町村,広域連合24 団体以上で重症化予防事業を実施することを目標としており,厚労科研「糖尿病性腎症重症化予防プログラム開発のための研究」では39 市町村,4 広域が参加し,未受診者への受診勧奨を含む糖尿病性腎症予防プログラムに基づく介入が開始されている.同研究では以下の2 つを満たす場合を対象者としており,尿蛋白陽性のCKD ステージG3a, b を含むが,尿蛋白の有無にかかわらずCKDステージG4, 5 は研究対象となっており,その成果が待たれる. 1.2 型糖尿病であること 空腹時血糖126 mg / mL(随時血糖200 mg / dL)以上,またはHbA1c6.5%以上,または糖尿病治療中,過去に糖尿病薬使用歴あり2.腎機能が低下していること健診では尿蛋白+以上で第3 期,±は微量アルブミン測定が望ましい,eGFR30 mL / 分/ 1.73m2 未満で第4 期しかしいまだに糖尿病を合併しないCKD ステージG4, 5 の医療機関未受診者への対策は行われておらず,行政や保険者と協力した受診勧奨が喫緊の課題である. ● 推 奨 ● アウトリーチすべきCKD ステージG4,5 の医療機関未受診者は相当数存在することが予想されるが,現状では方法論的に正確数の把握は難しい.平成28 年度より糖尿病性腎症重症化予防事業が始まり,保険者が健診やレセプトデータより未受診の糖尿病性腎症患者に対する受診勧奨を開始しており,その成果が期待される.アウトリーチすべきCKD ステージG4, 5 の医療機関未受診者は, どの程度存在するか? 2.慢性腎不全CKD ステージG3b ~5 へのアウトリーチの必要性
1 降圧療法と蛋白尿 しかるべき降圧によってCKD の進展が抑制されることはさまざまな臨床研究から明らかにされており1),実際2000 年以前の糖尿病非合併CKD の11件のRCT をメタ解析した結果でも,ACE 阻害薬は降圧度と蛋白尿の程度を補正しても腎機能低下を抑制すること,さらに尿蛋白が1.0 g / 日以上の症例では収縮期血圧130 mmHg 以上で有意な腎機能低下の進行がみられることが示されている2).また糖尿病性腎症では収縮期血圧が低いほどCVD 合併や死亡が少ないことが明らかにされてきたが3, 4),一方で糖尿病非合併CKD においては,より厳格な降圧目標の意義に関しては必ずしも明らかではないのが現状である. 2 糖尿病合併CKD におけるRA 系 阻害薬の効果 糖尿病合併CKD において,蛋白尿,アルブミン尿の改善効果が良好なほど腎イベント,CVD イベント抑制効果も良好である5, 6).ACE 阻害薬(カプトプリル)の腎保護作用の検討7)では1 型糖尿病患者で,血清クレアチニン値の2 倍化は,ACE 阻害薬群で有意に少なく,48%の低下効果を示したが,その効果はベースラインの血清クレアチニン値が高いほど大きかった.ACE 阻害薬は死亡・透析・腎移植の複合エンドポイントも50%抑制した.これらの効果は降圧とは独立したものであった7). RENNAL 試験8)では,一次複合エンドポイントはARB(ロサルタン)群で327 例,プラセボ群で359例であり,16%のリスク減少効果を認めた.血清クレアチニン値は28%の低下,総死亡に差は認めず, 3.CKDステージG3b 〜5における降圧療法 腎機能が低下しCKD ステージG3b 〜5 であっても,ステージG3a 以前のCKD 患者と推奨される降圧療法について基本的に大きく変わることはない.糖尿病合併CKD においては,蛋白尿・アルブミン尿の量によらず,すべてのA 区分において,降圧目標は130/80 mmHg 未満が推奨される.一方,糖尿病非合併CKD においてはすべてのA 区分で降圧目標は140/90 mmHg 未満を維持するように推奨されるが,A2,A3 区分では糖尿病合併CKD と同様より厳格に130/80 mmHg 未満を目指すことが推奨される.高齢者の場合,特にCKD ステージG4, 5 の場合には過降圧により急速に腎機能低下に陥ることがあるので臨床経過を慎重に追わなければならない.また今までの報告からステージG3a 以前のCKD において蛋白尿・アルブミン尿の多寡は患者の予後を規定し,降圧治療の際の重要な指標であることが明らかにされてきたが,ステージG3b 〜5 でもこれは同様であると考えてよい.CKD ステージG3b 〜5 であっても蛋白尿の合併により腎予後は悪化するので,できるだけ蛋白尿の減少を目指すべきである.降圧療法の際,RA 系阻害薬が繁用されるが,糸球体内圧の低下などにより急激に腎機能が低下する例も散見されるので,高齢者や動脈硬化の進行例などには注意して使う必要がある.
降圧に依存しない心不全による入院の減少,尿蛋白減少(35%)を認めた.IDNT 試験9)の高血圧合併2型糖尿病患者1,715例では,ARB(イルベサルタン)群は一次エンドポイントを,プラセボ群に比較して20%,カルシウム拮抗薬(アムロジピン)群に比較して23%減少させた.血清クレアチニン値の2 倍化は33%,37%それぞれ減少させた.ESKD の進行は23%減少させ,これらの効果は血圧の変化には関係しなかった.全死亡,心血管イベントには3群間に差を認めなかった.RENAAL 研究とIDNT研究を合わせてpost hoc 解析した結果10)でも,血圧低下やアルブミン尿の減少は心血管イベントリスク低下と関連し,5 mmHg の血圧の低下のハザード比は0.97(95%CI 0.94-0.99)であった.収縮期血圧で分類すると,心血管リスク低下とアルブミン尿低下の関連が認められ,130 mmHg 以下へ低下した群でより明らかであった.ARB にて治療を行った群においては,34.5%では血圧が低下したもののアルブミン尿は減少しなかったが,収縮期血圧が低下してもアルブミン尿が低下しない場合,収縮期血圧130 mmHg 以下の群においても心血管イベントの更なる低下は認めなかった.ORIENT 試験11)ではベースラインのeGFR は33 mL / 分/1.73 m2 であったが, ESKD への進行が27%に認められた.ARB(オルメサルタン)群で41.1%,プラセボ群で45.4%の一次エンドポイント(血清クレアチニン値2 倍化, ESKD,死亡の腎複合イベント)を認めたが,有意差を認めなかった.ARB 群で血圧,蛋白尿,血清クレアチニンの変化を有意に減少させた.心血管死亡はARB 群でプラセボ群に比較して高頻度であったが,心血管イベント,全死亡はプラセボ群と同様であった.ARB群で高カリウム血症の頻度は高かった. 3 糖尿病非合併CKD における蛋白 尿と腎・心血管予後 糖尿病非合併CKD の高血圧において,A1 区分ではRA 系阻害薬の優位性は証明されていないが, A2,A3 区分ではRA 系阻害薬による腎保護効果が期待できる.米国黒人対象の腎硬化症を対象としたAASK 研究では,ベースラインのGFR 平均は通常降圧群 46 mL / 分/1.73 m2,厳格降圧群 45.3 mL / 分/1.73 m2 であったが(CKD ガイド2012 の推算式で算出したベースラインeGFR 25.2 mL / 分/1.73 m2),到達血圧は正常降圧群で141 / 85 mmHg,積極降圧群で128 / 78 mmHg,蛋白尿合併の有無にかかわらず厳格降圧群(目標血圧125 / 75 mmHg 未満(平均動脈圧92 mmHg 未満))の通常降圧群(目標血圧140 / 90 mmHg 未満(平均動脈圧107 mmHg 未満))に対する腎機能低下速度の抑制効果は認められなかった12).また蛋白尿(>300 mg/ 日)を有する群では,ACE 阻害薬はカルシウム拮抗薬やβ遮断薬よりも腎機能障害進行を抑制できることが示されている13). AASK Extension コホート解析14)では,追跡期間8.8 ~12.2 年間で,尿蛋白/ クレアチニン比>0.22以上の群では,eGFR は厳格降圧群で41.4 mL / 分/1.73 m2,通常降圧群で38.5 mL / 分/1.73 m2(CKDガイド2012 の推算式から算出したベースラインeGFR 25.0 mL / 分/1.73 m2),平均血圧は,コホート期間では積極降圧群で131 / 78 mmHg,通常降圧群で134 / 78 mmHg であった.両群では一次エンドポイント(血清クレアチニン値2倍化,ESKDへの進展,死亡の複合イベント)には差を認めなかった.しかしベースラインの蛋白尿のレベルによって結果は異なり,0.22 g / gCr 以上の群で,積極降圧の腎不全進行抑制効果を認めた.このことから蛋白尿合併症例(尿蛋白/ クレアチニン比>0.22,尿蛋白>0.3 g / 日に相当)では厳格降圧群のほうが通常降圧群よりも腎機能低下速度の減少効果が認められたが,蛋白尿非合併例では厳格降圧群の通常降圧群に対する優位性は認められなかった.またカルシウム拮抗薬(アムロジピン)に比較して,ACE 阻害薬(Ramipril)は有意にGFR 低下を抑制していることが示されている13).
MDRD 研究のサブ解析15)で,尿蛋白0.25 g / 日以上で厳格降圧群において蛋白尿の増加が抑制され,尿蛋白1 g / 日以上では腎機能低下速度の減少が観察された.MDRD Extension コホート解析16)では,尿蛋白1 g/ 日以上においてESKD と死亡について厳格降圧群の優位性が認められた.REIN-2 試験では17),蛋白尿を有する非糖尿病性腎症 338 例に対してACE 阻害薬(Ramipril)2.5 ~5 mg をベースに投与し,通常降圧(拡張期血圧90 mmHg 以下)または積極降圧(130 / 80 mmHg 以下)を達成するために,カルシウム拮抗薬(フェロジピン)5 ~10 mg を追加した.ベースラインのeGFR 34.1 mL/ 分/1.73 m2(CKD ガイド2012 の推算式から算出したベースラインeGFR 19.5 mL / 分/1.73 m2)であるが,積極降圧群の23%,通常降圧群の20%がESKD へ進行し,尿蛋白3 g / 日以上の群,1 ~3 g / 日の群ともに厳格降圧の有効性を認めなかった.ESRD への進展には,収縮期血圧高値はリスク増加と関連したが,拡張期血圧とは関連を認めなかった.またAASK,MDRD,REIN-2 を対象にして解析したシステマティックレビュー18)では,厳格降圧群(目標血圧値125 ~130 / 75 ~80 mmHg 未満)と通常降圧群(同140 / 90 mmHg 未満)を比べても腎イベントの発生に有意差を認めなかったものの,蛋白尿を認める例に限れば厳格降圧群のほうで腎イベントの抑制傾向を認めた.退役軍人のコホート研究では19),43.3%が糖尿病症例で,平均フォローアップ期間5.8 年間での死亡率(73.5 例/1,000 例・年)は,収縮期血圧140 ~ 160 mmHg,拡張期血圧80 ~90 mmHg で最も生命予後が良好であり,この範囲外の血圧帯では生命予後の悪化を認めた. GISEN 試験20)では尿蛋白3 g/ 日以上の患者において,GFR の低下(ESKD)はACE 阻害薬(Ramipril)群で有意に低下していた.ACE 阻害薬群において蛋白尿の減少した患者は,GFR の低下が軽度であり,これは降圧には依存しない作用で,一方,心血管イベントには有意差は認められなかった. 4 診療ガイドラインにおける蛋白 尿,アルブミン尿の取り扱いと推奨薬物治療の現状 以上のような背景のもとに最近の診療ガイドラインが作成されてきたが,KDIGO-BP ガイドラインA)では,蛋白尿,アルブミン尿レベルがA1 区分の糖尿病非合併,および合併CKD の降圧目標はともに140/90 mmHg 以下,A2,A3 区分の糖尿病非合併および合併CKD ではともに130 / 80 mmHg 以下の降圧目標が提示されている.日本腎臓学会のCKD 診療ガイドライン2013 B)では,糖尿病合併CKD では,すべてのA 区分で130 / 80 mmHg 未満を推奨し,糖尿病非合併CKD の降圧目標はすべてのA 区分で140 / 90 mmHg 未満を推奨するが,特にA2,A3 区分では,より低値の130 / 80 mmHG 未満を目指すとしている.これらの後に発表された日本高血圧学会のJSH2014 C)でも,糖尿病合併CKD では,すべてのA 区分で130 / 80 mmHg 未満を推奨し,糖尿病非合併CKD の降圧目標は,A1 区分で140 / 90 mmHg未満,A2,A3 区分ではより低値の130 / 80 mmHg未満を目指すことが推奨されており,これはCKD診療ガイドライン2013 と同一である.またCKD 合併高血圧の薬物療法に関しては,腎保護効果は糸球体高血圧の程度が強い(=尿蛋白・アルブミン排泄量が多い)ほど治療効果は高いと考えられていることから,その点で優れるRA 系阻害薬が治療薬の主流であるのは間違いない.日本腎臓学会・日本高血圧学会とも糖尿病合併高血圧にはARB・ACE 阻害薬を推奨し,糖尿病非合併CKD の降圧療法に関しても蛋白尿陽性例でARB・ACE 阻害薬を積極的適応として推奨している.しかし糖尿病非合併CKD 蛋白尿陰性例ではカルシウム拮抗薬やサイアザイド系利尿薬も適応ありとされており, RA 系阻害薬単独の推奨となっていない.さらにARB,ACE 阻害薬の併用に関しては,腎機能低下が副作用として高頻度に起きることが報告されており21, 22),原則として推奨されない.
5 CKD 患者の降圧療法に関する今 後の方向性 最近,糖尿病合併例や脳卒中既往例を除く50 歳以上の高血圧患者9,361 例について,降圧目標120 mmHg 未満(厳格群)と140 mmHg 未満(通常群)の群との間で複合心血管病(心筋梗塞,その他の急性冠症候群,脳卒中,心不全,心血管死)の発症を比較したSystolic Blood Pressure Intervention Trial (SPRINT 研究)23)の結果が発表された.またその 翌年,75 歳以上の高齢者についてのサブ解析24)も発表されている.サイアザイド系利尿薬など主な降圧薬はすべて試験薬に含まれていたが,進行CKDにはループ利尿薬,冠動脈疾患にはβ遮断薬も推奨されていた.一次エンドポイントは,心筋梗塞,その他の急性冠症候群,脳卒中,急性非代償性心不全,心血管死の複合エンドポイントであったが,厳格降圧群は通常降圧群に比べ有意にそのリスクが低く,高齢者やCKD の既往がある群でも結果は同じであったとされている.しかしこれをそのまま臨床現場に適応するのは時期尚早と考えられる.糖尿病合併患者や脳卒中既往患者を除いた高血圧患者についての結論であり,実際の臨床現場の状況とは乖離していることに注意すべきであろう.多様な合併症をもつ高血圧患者を,より厳格に降圧する際には,心・腎・脳への有害事象(AKI,低血圧,失神など)についても更なる検討が必要と思われるが,これに関連してわが国から興味深い研究結果が報告された. 腎臓専門医が診ている2,655 例のCKD 患者(25%程度糖尿病を合併)を前向きに観察したGonryo 研究25)において,収縮期圧110 mmHg と拡張期圧70 mmHg は心血管イベントと全死亡の独立したリスクファクターであるが,ESKD への進行のリスクファクターではないことが示された.さらに,血圧と心血管イベントと全死亡との関連は,高齢者や糖尿病,蛋白尿陽性,脳心血管疾患既往などの背景を持つ患者で顕著であった. つまり保護したい臓器によって目標とする降圧レベルは異なり,厳格な降圧で腎保護作用は期待できるものの,心血管イベントがか えって増える可能性も排除できず,今後この領域の臨床研究の更なる集積と継続的検討が必要であろう. 参考にした二次資料 A) KDIGO Blood Pressure Work Group.KDIGO Clinical Practice Guideline for the Management of Blood Pressure in Chronic Kidney Disease.Kidney Int 2012;2(Suppl): 337-414. B) 日本腎臓学会編.エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン2013.東京, 東京医学社,2013. C) 日本高血圧学会編.高血圧治療ガイドライン2014.東 京, ライフサイエンス出版,2014. 参考文献 1) Bakris GL,Williams M,Dworkin L,et al.Preserving renal function in adults with hypertension and diabetes:a consensus approach.National Kidney Foundation Hypertension and Diabetes Executive Committees Working Group.Am J Kidney Dis. 2000;36:646-61. 2) Jafar TH,Stark PC,Schmid CH,et al.Progression of chronic kidney disease:the role of blood pressure control, proteinuria,and angiotensin-converting enzyme inhibition:a patient-level meta-analysis.Ann intern Med. 2003;139:244-52. 3) Adler AI, Stratton IM,Neil HA,et al.Association of systolic blood pressure with macrovascular and microvascular complications of type 2 diabetes(UKPDS 36):prospective observational study.BMJ. 2000;321:412 -9. 4) de Galan BE,Perkovic V,Ninomiya T,et al.Lowering blood pressure reduces renal events in type 2 diabetes.J Am Soc Nephrol. 2009;20:883-92. 5) de Zeeuw D,Remuzzi G,Parving HH,et al.Albuminuria,a therapeutic target for cardiovascular protection in type 2 diabetic patients with nephropathy.Circulation. 2004;110:921-7. 6) Araki S, Haneda M,Koya D,et al.Reduction in microalbuminuria as an integrated indicator for renal and cardiovascular risk reduction in patients with type 2 diabetes.Diabetes. 2007;56:1727-30. 7) Lewis EJ, Hunsicker LG,Bain RP,et al.The effect of angiotensin-converting-enzyme inhibition on diabetic nephropathy.The Collaborative Study Group.N Engl J Med. 1993;329:1456-62. 8) Brenner BM,Cooper ME,de Zeeuw D,et al.Effects of losartan on renal and cardiovascular outcomes in patients with type 2 diabetes and nephropathy.N Engl J Med. 2001;345:861-9. 9) Lewis EJ,Hunsicker LG,Clarke WR,et al.Renoprotec- tive effect of the angiotensin-receptor antagonist irbesartan in patients with nephropathy due to type 2 diabetes.N Engl J Med. 2001;345:851-60.
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本CQ では,降圧療法がCKD ステージG3b ~5の進行自体の抑制,また合併するCVD を抑制するための降圧目標のエビデンスについて検索を行った. 糖尿病合併CKD におけるCKD 進行抑制とCVD 発症抑制のための降圧療法 IDNT 試験のpost hoc 解析1)では,1,715 例の2 型糖尿病患者で,CKD ガイド2012 の推算式から算出したベースラインのeGFR 31.3 mL / 分/1.73 m2.収縮期血圧120 mmHg までの降圧は腎イベントの低下を認め,この120 mmHg を超えた場合には逆に全死亡の増加を認めた.拡張期血圧と腎予後には相関を 認めなかったが,拡張期血圧85 mmHg 以下から,拡張期血圧値と全死亡には負の相関を認めている.拡張期血圧10 mmHg の低下は,心筋梗塞の61%の相対リスクの増加を認めた.収縮期血圧,拡張期血圧の低下は,心筋梗塞と心不全のリスクを増加させ,脳卒中のリスクを低下させるという相反する結果となった.しかし,post hoc 解析としての限界があり,特に拡張期血圧の低値は,動脈硬化の進展自体を反映するため,因果の逆転の要素も考慮される2). 糖尿病非合併CKD における降圧療法 MDRD 試験3)では,GFR 25 ~55 mL / 分/1.73 m2のグループ1(1,585 例)およびGFR 13 ~24 mL / CKD ステージG3b ~5 の降圧目標値は? 3.CKD ステージG3b ~5 における降圧療法 ● 推 奨 ● ●糖尿病合併CKD の降圧目標は,すべてのA 区分において,130 / 80 mmHg 未満を推奨する. ●糖尿病非合併CKD の降圧目標は,すべてのA 区分において,140 / 90 mmHg 未満に維持するよう推奨する.ただし,A2,A3 区分では,より低値の130 / 80 mmHg 未満を目指すことを推奨する.収縮期血圧110 mmHg 未満の降圧には,重症動脈疾患の合併の有無を評価し,注意深くフォローする.
分/1.73 m2 のグループ2(2,255 例)に振り分けられ, 25%は慢性糸球体腎炎,25%はPKD,5%以下に2型糖尿病性腎症であった.グループ1 では,厳格降圧群(目標血圧125 / 75 mmHg 未満(平均動脈圧92 mmHg 未満))は,通常降圧群(目標血圧140 / 90 mmHg 未満(平均動脈圧107 mmHg 未満))と比較してGFR の低下には有意な効果を認めなかったが,尿蛋白1 g/ 日以上の群では厳格降圧の効果を認める傾向であった.グループ2 では,尿蛋白1 g / 日以上の群でも同様にGFR の低下に対して厳格降圧の効果を認める傾向であったが,この効果はグループ1 よりも減弱していた.ESKD の進展や死亡には有意差を認めなかった.このように積極降圧は,蛋白尿を有する患者で,統計学的な有意差を認めなかったが,GFR 低下を遅らせる傾向を認めた.一方, MDRD 本研究後のサブ解析4)では,尿蛋白0.25 g /日以上では厳格降圧群において蛋白尿の増加が抑制され,さらに尿蛋白1 g / 日以上では腎機能低下速度の抑制が観察された. MDRD Extension コホート解析5)では,The MDRD 研究(1989 ~1993)の本研究終了後にコホート期間として平均6.2 年間フォローアップした.グループ1 では積極降圧によるハザード比は,腎不全の進行に対しては0.68,複合的アウトカムに対しては0.77 の低下を示したが,グループ2 ではこの傾向は減弱していた.このように糖尿病非合併CKDでは,中~高度腎機能低下している患者においても,積極降圧により腎不全進行を遅らせる可能性が示唆され,全体および尿蛋白1 g / 日以上においてESKD について厳格降圧群の優位性が認められた.また,CKD の進行を検討した11 件のRCT(非糖尿病性CKD 患者 1,860 例)の患者データを用いた回帰分析6)では,ベースラインの平均eGFR 21.9 mL / 分/1.73 m2,311 例がESKD に進行した.収縮期血圧110 ~129 mmHg および尿蛋白2 g / 日未満に管理できた症例で最も腎機能障害進行が緩徐であった.この解析では,収縮期血圧 130 mmHg 未満に達しなかった症例で尿蛋白1 g / 日以上の場合腎機能障害が進行したが,尿蛋白1 g / 日未満の場合 には進行を認めなかった.ACE 阻害薬の投与は,血圧および尿蛋白で補正しても,ESKD リスクを低下させた.血圧高値および尿蛋白1 g / 日以上が腎障害進行には高いリスクであった.尿蛋白1 g/ 日以上の患者では収縮期血圧110 ~129 mmHg にコントロールすることが有効であり,110 mmHg 以下の場合には逆にリスクを増加させる可能性が示されている. CKD ステージG3 ~5 区分を対象としたKEEP 観察研究7)では,16,129 例のeGFR 60 mL / 分/1.73 m2未満の症例を対象とした.ベースラインeGFR 46 mL / 分/1.73 m2.43%は糖尿病症例であり,2.87 年の間に320 例がESKD に進行した.血圧が高いほどESKD への進展が多く,収縮期血圧140 mmHg より進展がみられた.130 ~139 mmHg の収縮期血圧帯がESKD への進行率が最も低く,130 mmHg 未満でのESKD への進行率の減少は認められなかった. CKD を対象としたメタ解析8)では,主要心血管イベントに対する5 mmHg の収縮期血圧の低下によるリスク低下は,eGFR <45 mL / 分/1.73 m2 の群においても,45 ~60 mL/ 分/1.73 m2 と比較して差を認めなかった.別なCKDを対象としたメタ解析9)では,厳格な降圧によって腎機能低下の抑制が得られたが,ベースラインで蛋白尿を認める集団でそれがより顕著であるものの,蛋白尿がない患者ではその傾向を認めなかったと報告された.糖尿病合併患者を含まない3 つのCKD 対象のRCT,合計2,272例を対象にしたシステマティックレビュー10)では, 130 / 80 mmHg未満の厳格な降圧目標を目指しても, 140 / 90 mmHg 未満の降圧目標と比べて臨床的なアウトカムの改善作用を認めなかったが,300 ~1,000 mg / 日程度以上の蛋白尿を合併する場合に腎機能低下抑制効果等が期待できることを示した.一方,米退役軍人データベースのCKD コホート研究11)では,死亡リスクは120 mmHg 以下の群では,120 ~139 mmHg 群に比較して高値であった.収縮期血圧が120 mmHg 以下の群での生命予後の悪
化は,eGFR <30 mL / 分/ 1.73 m2 と≧30 mL / 分/ 1.73 m2 の間では差を認めなかった.台湾の2 つの医療施設の対象で行われたコホート研究12)では,2,131 例のCKD ステージG3, 4 のうち939 例が糖尿病例であったが,収縮期血圧と心血管イベント,腎イベントおよび全死亡の間にJ カーブ現象は認められなかった.米国で行われたコホート研究13)は,ベースラインeGFR 32 mL / 分/1.73 m2,全860 例中約50%が糖尿病症例,血圧高値群では透析導入リスクが高く,低い血圧群では,全死亡のリスクが高かった.全死亡リスクは,収縮期血圧<133 mmHg で最も高く,133 ~154 mmHg の群で最も低く,収縮期血圧と全死亡の間にはU型現象を認めた.拡張期血圧では<65 mmHg の群で死亡リスクが最も高かった.拡張期血圧と生命予後の負の相関は,動脈硬化疾患の既往のある群でのみ認められ,同じような傾向は収縮期血圧でも認められた.eGFR <20 mL/ 分/ 1.73 m2 の群では,収縮期および拡張期血圧が低い 群において死亡リスクの上昇を認め,eGFR 30 ~40 mL / 分/ 1.73 m2 の群ではこの傾向は認めなかった. 降圧目標のまとめ これらのエビデンスを基に,糖尿病合併CKD における降圧目標として,CKD 進行抑制効果および脳卒中を中心としたCVD 抑制効果のバランスを重視し,A 区分にかかわらず130 / 80 mmHg 未満を推奨グレードB とした.糖尿病非合併CKD の降圧目標は,エビデンスレベルと推奨グレードに基づき階層化して提示することとした.すなわち,CKD の進行抑制およびCVDの発症抑制の両面から,すべてのA 区分において,少なくとも140 / 90 mmHg 未満を降圧目標とすることを強く推奨する(推奨グレードA).一方,糖尿病非合併CKD でも蛋白尿を合併する場合(A2,A3 区分)では,推奨グレードC1 ではあるが,より低値の130 / 80 mmHg 未満の降圧を目指すことを推奨した. J カーブないしU カーブ現象について 上記のエビデンスからもCVD のうち脳卒中抑制のためには収縮期血圧130 mmHg 未満への降圧は有効とされるが,一方,過度の降圧により逆に心筋梗塞や死亡率が増加する懸念がJ カーブ現象として報告されている.さらに動脈硬化病変が高度のCKDでは過剰降圧によるAKIのリスクも懸念されている.本CQ の対象ではないが,透析患者では,血圧値と生命予後の間にはU カーブ現象を認め,低い血圧群と高い血圧群で生命予後悪化を認め,透析患者では高血圧と心血管イベント発症の間に有意な相関を認めないことは,低栄養や低心機能による血圧低下が関連することが指摘されている.また収縮期血圧180 mmHg までは血圧値と脳卒中発症との関連は明らかではない.これらのエビデンスからCKD ステージG3b ~5においては,収縮期血圧110 mmHg 未満の降圧には重症動脈疾患の合併の有無を評価し,注意深くフォローすることを喚起する. CKD ステージG3b ~5 に対するRA系阻害薬の使用上の注意点 本章総説にも解説した通りCKD ステージG3b ~ 5 においてもRA 系阻害薬は有用である14, 15).「エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2013」では,高血圧治療の第一選択薬として糖尿病合併CKD においてはA1 区分では推奨グレードC1 として,A2,A3 区分では推奨グレードA としてRA 系阻害薬を推奨している.糖尿病非合併CKD のA1区分における第一選択薬として,RA 系阻害薬,カルシウム拮抗薬,利尿薬を推奨グレードB として, A2,A3 区分では推奨グレードB としてRA 系阻害薬を推奨している. CKD ステージG3b ~5 では,RA 系阻害薬をすでに使用している場合が多いが,RA 系阻害薬を継続する場合には,eGFR の低下進展に伴う血清カリ
ウム値の上昇,および過剰降圧に十分注意する必要がある. CKD ステージG3b ~5 においては,副作用を考慮してRA 系阻害薬を高用量より使用せず,減量開始することも場合によって推奨される.RA 系阻害薬を第一選択とした治療において降圧目標が達成できないときには,RA 系阻害薬を増量せずに,第二選択薬としての長時間作用型カルシウム拮抗薬,ループ利尿薬による併用療法を行うことを推奨する. 今後の課題 糖尿病非合併CKD の腎・心血管イベントおよび生命予後に関する降圧目標のエビデンスは十分ではないが,本章総説で言及したSPRINT16)の結果も考慮して,今後さらに低い降圧レベルを目指すべきなのか慎重に検討すべきである.また原疾患別のRCT や降圧目標の検討も必要であろう.最近発表されたHalt Progression of Polycystic Kidney Disease (HALT-PKD)Study17)では,558 例の高血圧を合併した常染色体優性遺伝多発囊胞腎(ADPKD)(eGFR >60 mL / 分/1.73 m2)を対象として,通常降圧(120 /70 ~130 / 80 mmHg)と厳格降圧(95 / 60 ~110 / 75 mmHg)の効果を検討し,厳格降圧は,腎容積増加率を減少させ,アルブミン尿や左室肥大を減少させたと報告されている.全体のGFR 低下には影響を認めなかったが,短期的(4 カ月)には厳格降圧群でeGFR 低下率は高く,長期的(96 カ月)にみると統計的に有意ではないものの逆にeGFR 低下率は低かった.この結果からも患者の原疾患,年齢,血圧日内変動,季節性血圧変動に応じたテーラーメード降圧治療の重要性が示唆される.また降圧治療に対する効果の不均一性やRA 系阻害薬の有害事象を予測するマーカーの検討などが今後の課題としてあげられる.文献検索 データベース:PubMed期間:~2016 年9 月までキーワード: chronic kidney disease,antihypertensive treat- ment,angiotensin converting enzyme inhibitor (ACEI),angiotensin II receptor antagonist (ARB),Ca antagonist,thiazide diuretics 参考文献 1) Pohl MA,Blumenthal S,Cordonnier DJ,et al.Independent and additive impact of blood pressure control and angiotensin II receptor blockade on renal outcomes in the irbesartan diabetic nephropathy trial:clinical implications and limitations.J Am Soc Nephrol. 2005;16:3027-37. 2) Holtkamp FA,de Zeeuw D,de Graeff PA,et al.Albuminuria and blood pressure,independent targets for cardioprotective therapy in patients with diabetes and nephropathy:a post hoc analysis of the combined RENAAL and IDNT trials.Eur Heart J. 2011;32:1493-9. 3) Klahr S,Levey AS,Beck GJ,et al.The effects of dietary protein restriction and blood-pressure control on the progression of chronic renal disease.Modification of Diet in Renal Disease Study Group.N Engl J Med. 1994; 330:877-84. 4) Peterson JC,Adler S,Burkart JM,et al.Blood pressure control,proteinuria,and the progression of renal disease. The modification of diet in renal disease study.Ann Intern Med. 1995;123:754-62. 5) Sarnak MJ,Greene T,Wang X,et al.The effect of a lower target blood pressure on the progression of kidney disease:long-term follow-up of the modification of diet in renal disease study.Ann Intern Med. 2005;142:342-51. 6) Jafar TH,Stark PC,Schmid CH,et al.Progression of chronic kidney disease:the role of blood pressure control, proteinuria,and angiotensin-converting enzyme inhibition:a patient-level meta-analysis.Ann Intern Med. 2003;139:244-52. 7) Peralta CA,Norris KC,Li S,et al.Blood pressure components and end-stage renal disease in persons with chronic kidney disease:the Kidney Early Evaluation Program (KEEP).Arch Intern Med. 2012;172:41-7. 8) Ninomiya T,Perkovic V,Turnbull F,et al.Blood pressure lowering and major cardiovascular events in people with and without chronic kidney disease:meta-analysis of randomised controlled trials.BMJ. 2013;347:f5680. 9) Lv J, Ehteshami P, Sarnak MJ, et al. Effects of intensive blood pressure lowering on the progression of chronic kidney disease: a systematic review and meta-analysis. CMAJ. 2013;185:949-57. 10) Upadhyay A, Earley A, Haynes SM, et al. Systematic re- view:blood pressure target in chronic kidney disease and proteinuria as an effect modifier. Ann Intern Med. 2011; 154:541-8.
11) Kovesdy CP,Lu JL,Molnar MZ,et al.Observational modeling of strict vs conventional blood pressure control in patients with chronic kidney disease.JAMA Intern Med. 2014;174:1442-9. 12) Chiang HP,Lee JJ,Chiu YW,et al.Systolic blood pressure and outcomes in stage 3-4 chronic kidney disease patients:evidence from a taiwanese cohort.Am J Hypertens. 2014;27:1396-407. 13) Kovesdy CP,Trivedi BK,Kalantar-Zadeh K,et al.Association of low blood pressure with increased mortality in patients with moderate to severe chronic kidney disease. Nephrol Dial Transplant. 2006;21:1257-62. 14) Hou FF,Zhang X,Zhang GH,et al.Efficacy and safety of benazepril for advanced chronic renal insufficiency.N Engl J Med. 2006;354:131-40. 15) Remuzzi G,Ruggenenti P,Perna A,et al.Continuum of renoprotection with losartan at all stages of type 2 diabetic nephropathy:a post hoc analysis of the RENAAL trial results.J Am Soc Nephrol. 2004;15:3117-25. 16) Wright JT, Jr., Williamson JD, Whelton PK, et al. A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med. 2015;373: 2103-16. 17) Schrier RW,Abebe KZ,Perrone RD,et al. Blood pres- sure in early autosomal dominant polycystic kidney disease.N Engl J Med. 2014;371:2256-66.
本CQ では,降圧療法がCKD ステージG3b ~5においてもアルブミン尿,蛋白尿の有無により腎・心血管予後を予想できるのか,また降圧療法によりアルブミン尿,蛋白尿を抑制することで腎・心血管予後を改善できるのかについてのエビデンスの検索を行った. CKD ステージG3b ~5 におけるアルブミン尿,蛋白尿の重要性 現行のガイドラインのもとになった大規模臨床研究では,CKD 合併高血圧例については,明らかにCKD ステージG3 以上の腎機能の例が主流であり, CKD ステージG4 以降の症例でガイドライン通りアルブミン尿,蛋白尿を扱ってもよいのかについてコンセンサスはない.エビデンスが少ないこともあり,ここではCKD ステージG3b も含めて検索した結果を示す. 1)海外からのエビデンス ほぼ全例糖尿病非合併CKD において実施されたMDRD 試験1)では,GFR 13 ~24 mL / 分/1.73 m2(ほぼG4 区分)の症例において,ベースラインの尿蛋白が1.0 g / 日以上の群では,未満の群と比べて,同じ血圧であってもGFR の低下が大きいことが示された.その後のMDRD Extension コホート解析2)では,尿蛋白1.0 g / 日以上においてESKD と死亡について厳格降圧群の優位性が認められたが,この解析ではG3 区分の例が多く入ってきている(平均GFR 32 mL / 分/1.73 m2 程度)ので慎重な解釈が必要である.ノルウェーの一般住民診療データベース(糖尿病+高血圧症7,415 例,対照群2,294 例)8.3 年間の検討では,eGFR 75 mL / 分/1.73 m2 以上で正常アルブミン尿群の心血管死亡を1 とすると,eGFR 15 ~ 45 mL/ 分/1.73 m2 の集団において正常アルブミン尿群では相対危険度が2.3 であるが,微量アルブミン尿群では12 に達することが示された3).イタリアのCasale Monferrato 研究4)では1,538 例の2 型糖尿病患者コホートを観察したところ顕性アルブミン尿が最も死亡率を予測する因子であることが示されたが,G4 区分だけに限っても顕性アルブ CKD ステージG3b 以降においても蛋白尿の有無により予後は異なるか? またCKD ステージG3b 以降の降圧療法においても蛋白尿の減少を目指すべきか? 3.CKD ステージG3b 〜5 における降圧療法 ● 推 奨 ● CKD ステージG3b 〜5 の腎予後は蛋白尿の合併により悪化する.CKD ステージG3b 〜5 例においても蛋白尿の減少を目指すことを推奨する.ただしRA系阻害薬を用いる際には慎重に投与する必要がある.
ミン尿群は微量アルブミン尿群と比べて全死亡,心血管死亡とも発生の相対危険度が高い傾向にあった. 2)わが国からのエビデンス高リスク高血圧患者を対象にしたCASE-J 研究のサブ解析5)では,G4 区分かつ尿蛋白定性1 +以上の患者群においてARB 投与群のほうがCCB 投与群よりもCVD 発症が少ないことが示され,蛋白尿を呈する症例でのARB の優位性が示された.またKanagawa Valsartan Trial 6)では約40%の糖尿病患者を含むG4, 5 区分303 例を対象にして従来療法とそれにARB であるバルサルタンを加えた群を前向きに比較したところ,血圧や蛋白尿の程度に差はなかったものの,ARB 投与群で有意に腎イベント(血清クレアチニン値の2 倍化とESKD)が抑制された.また尿蛋白が1.0 g/gCr 未満と比べて1.0 ~3.5 g / g Cr,3.5 g / gCr 以上の群では,腎イベントの相対危険率がそれぞれ1.66,4.5 と有意に上昇していることが示された.また大阪府南部の市中病院腎臓内科に紹介のあった461 例のCKD ステージG3 ~5 の患者(G3:41%,G4:31.2%,G5:27.8%, 糖尿病合併は約40%)を後ろ向きに調べたところ,顕性蛋白尿(1.0 g / gCr 以上)の存在はESKD のハザード比を有意に上昇させることが示された7).2 型糖尿病患者の研究としては,Wada ら8)が10 つの基幹病院における4,328 例のヒストリカルコホートを検討したものがあり,ここではG4, 5 区分において正常アルブミン尿群に比べて顕性アルブミン尿群で腎イベント(腎代替療法導入またはeGFR 低下)の危険率が有意に高かった. 総括糖尿病合併の有無を問わずCKD ステージG3b ~ 5 の進展した患者の場合でも,蛋白尿が少ないほうが腎・心血管予後が良好なことは明らかであるが,蛋白尿を減少させると予後が改善するかどうかについて今のところ明確なエビデンスはない.またCKD ステージG3b ~5,特にCKD ステージG4, 5では動脈硬化が進行した例や高齢者が多くなり, RA 系阻害薬によって急激にGFR が低下する危険性があり,蛋白尿の抑制を目的に治療する場合でも症例を選んで慎重に治療する必要がある.これについては本章のCQ1 および第4章のCQ1 に詳解されているので参照していただきたい. 今後の課題 CKD ステージG3b ~5 患者において,RA 系阻害薬を中心にした薬物療法で蛋白尿を減少させた際の予後改善効果は明らかでないため,今後,介入試験が必要と考えられる. 文献検索 データベース:PubMed期間:~2016 年9 月までキーワード: advanced chronic kidney disease, antihypertensive treatment, proteinuria, albuminuria, angiotensin converting enzyme inhibitor(ACEI), angiotensin II receptor antagonist(ARB) 参考文献 1) Peterson JC,Adler S,Burkart JM,et al.Blood pressure control,proteinuria,and the progression of renal disease. The Modification of Diet in Renal Disease Study.Ann Intern Med. 1995;123:754-62. 2) Sarnak MJ,Greene T,Wang X,et al.The effect of a lower target blood pressure on the progression of kidney disease: long-term follow-up of the modification of diet in renal disease study.Ann Intern Med. 2005;142:342-51. 3) Hallan S,Astor B,Romundstad S,et al.Association of kidney function and albuminuria with cardiovascular mortality in older vs younger individuals: The HUNT II Study. Arch Intern Med. 2007;167:2490-6. 4) Bruno G,Merletti F,Bargero G,et al.Estimated glomerular filtration rate,albuminuria and mortality in type 2 diabetes: the Casale Monferrato study.Diabetologia. 2007;50:941-8. 5) Saruta T,Hayashi K,Ogihara T,et al.Effects of candesartan and amlodipine on cardiovascular events in hypertensive patients with chronic kidney disease: subanalysis of the CASE-J Study.Hypertens Res. 2009;32:505-12. 6) Yasuda T,Endoh M, Suzuki D,et al.Effects of valsartan on progression of kidney disease in japanese hypertensive patients with advanced,predialysis,chronic kidney disease: Kanagawa Valsartan Trial(KVT).Hypertens Res. 2013;36:240-6.
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全体の課題 糖尿病合併CKD の治療には血圧コントロールと同様に血糖コントロールが重要である.CKDステージG5 では,「血液透析患者の糖尿病治療ガイド2012」において,血糖コントロールの指標として,透析開始前の随時血糖値(透析前血糖値)およびグリコアルブミン値を血糖コントロール指標としている.しかし,CKD ステージG4, 5 における血糖値 の指標は,随時血糖値,グリコアルブミンが有力な候補とされているが,患者の状態,治療状況によって不十分な場合があり,確立されていない.そのため,今後,血糖コントロールの適切な指標の確立とともに,真のエンドポイントを主要評価項目にした血糖目標値の設定を行っていく必要がある. 現在までの多くの臨床試験の結果から,糖尿病合併CKD の治療には血糖と血圧のコントロールの重要性が示されている.RA 系阻害薬であるACE 阻害薬とARB は,蛋白尿減少効果と腎機能低下を抑制する効果が認められるため,糖尿病性腎症患者に対する降圧薬の第一選択とされている.また,糖尿病合併CKD では脂質異常症を合併しやすい.スタチンなどの使用による脂質低下療法により,動脈硬化性CVD 発症および死亡リスクの低下とともに,蛋白尿が減少することが示されている.このため,国内外における診療ガイドラインでは,糖尿病合併CKD に対するスタチンの使用が推奨されている.しかしながら,糖尿病合併CKD に対するRA 系阻害薬やスタチンなどによる脂質管理の有効性に関する多くの報告は,CKD ステージG3 までの症例を対象とした試験であり,CKD ステージG3b 以降,特にCKD ステージG4, 5 の重度な腎障害を持つ症例を対象とした試験は少ない.そこで本項では,慢性透析患者を除く糖尿病合併CKD ステージG3b ~5,特にCKD ステージG4, 5の患者に対するRA 系阻害薬および脂質管理の有効性・安全性について検討した.なお,血糖コントロール目標については,「糖尿病治療ガイド2016‒2017」にあるように,腎症を含む合併症予防の観点からHbA1c の目標値は7%未満とされている一方,年齢,罹病期間,臓器障害,低血糖の危険性,サポート体制などを考慮して個別に設定する.この際,進行したCKD 例,高齢の患者などで薬物療法を受けている例では,低血糖を起こさないように,特に薬剤の量および種類に注意する. 4 糖尿病合併CKD の治療における RA 系阻害薬と脂質管理の有用性
CKD の重症度分類が策定される以前の論文では, CKD ステージG4, 5 に該当する対象を血清クレアチニン値2.0 mg / dL 以上またはGFR <30m L / 分/ 1.73m2 と定義して研究デザインを検索し,これらの症例が含まれる論文を抽出した.CKD ステージG4, 5の症例のみを対象とした研究は,Kuriyamaら1)が報告した1 件のみであった.この研究では,血清クレアチニン値が2.0 ~4.0 mg / dL の高血圧糖尿病合併CKD17 症例に対して,食事療法のみを12 週間行った後に,カルシウム拮抗薬(アムロジピン5 mg / 日:8 例)とACE 阻害薬(テモカプリル2 mg /日:9 例)に無作為に割り付け,12 週間の治療を行った.その後,両群にARB(カンデサルタン4 mg / 日)を12 週間投与した.降圧効果は,カルシウム拮抗薬単剤とACE 阻害薬単剤との間で同等であり, ARB 追加投与後も2 群間に有意差はなかった.尿蛋白は,食事療法のみと比較してカルシウム拮抗薬単剤では有意な減少を認めなかったが,ACE 阻害薬単剤では有意な減少を認めた.両群にARB の追加投与を行うと,食事療法のみと比べて両群で有意 な蛋白尿の減少を認めた.ACE 阻害薬またはARBは,CKD ステージG4, 5 の症例においても,カルシウム拮抗薬よりも強い尿蛋白の改善効果を示したが,血清カリウム値の有意な上昇を認めた.ACE阻害薬とARB の併用は,単剤による治療に比べて尿蛋白抑制効果が有意に強いが,腎機能低下を抑制する効果は認められず,血清カリウム値の上昇と貧血の増悪を認めた.この他の血清クレアチニン値>2.0 mg / dL の症例が含まれている試験では,プラセボとの比較において,ACE 阻害薬またはARB は尿蛋白の有意な減少と腎イベントの抑制効果を示している2 ~11).一方,RENAAL とIDNT のサブ解析において,ARBによる腎イベントと腎機能低下の抑制効果は,塩分摂取が少ない症例(Na/Cr <121 mmol / g)において認められることが報告12)されている. CKD ステージG3b,4 において尿蛋白の増加と腎イベントの発症リスクとの関係を検討した報告がある.Ivory ら13)はIDNT とOVERT の登録症例の中で3 カ月以上ARB 治療が行われた患者における治療後の尿蛋白,尿中アルブミン,GFR と2 年後 糖尿病合併CKD ステージG3b 〜5 の降圧療法では,RA 系阻害薬 は有用か? 4.糖尿病合併CKDの治療におけるRA系阻害薬と脂質管理の有用性 ● 推 奨 ● ACE 阻害薬とARB は,糖尿病合併CKD ステージG3b ~5 の患者の腎機能低下を抑制するために有効である.しかしながら,ACE 阻害薬およびARB の投与により,血清カリウム値の上昇がみられるため,使用には注意が必要である.
の腎イベント発症数の関係を検討した.尿蛋白,尿中アルブミンをそれぞれ〔尿中蛋白/ クレアチニン比:PCR(mg / gCr);<1,000 mg / gCr,1000 -< 2000,2000 <〕〔尿中アルブミン/ クレアチニン比: ACR(mg / gCr);<666.7 mg / gCr,666.7 -< 1333.3,1333.3 <〕の3 群に分類して比較したところ,CKDステージG3bおよびG4いずれにおいても,尿蛋白,尿中アルブミンの増加に伴って腎イベント発生数が増加し,その増加はCKD ステージG4 でより顕著であった.この他,CKD ステージG3b, 4 の症例を含んだ試験として,日本人を含むアジア人2 型糖尿病を対象としたORIENT がある4).そのサブ解析において,試験開始後24 週時点で尿蛋白<1 g/gCr あるいは試験開始時と比較して尿蛋白が30%以上減少した症例において腎イベントの発症リスクが少ないことが報告された14).一方,尿蛋白1 g/gCr 以上の症例においても,収縮期血圧130 mmHg 以下を維持することにより腎イベントの発症リスクが有意に低下することが報告され,収縮期血圧130 mmHg 未満にコントロールされた症例ではARB 治療によるeGFR低下の抑制効果が示されている15).前述したように,ACE 阻害薬とARB は尿蛋白低下作用と腎イベント抑制効果を示すが,副作用も報告されている.1 型糖尿病患者へのARB 追加投与16)ではGFR <35 mL / 分/ 1.73 m2 の患者において高カリウム血症の治療が必要であった.また, ACE 阻害薬とARB の併用では単剤に比べて,血清カリウム値の上昇と貧血の進行が認められた.また,血清クレアチニン値>2.0 mg/dL の症例で,投与によって腎機能が悪化し,中止後に改善した症例が報告されている17).蛋白尿のない腎硬化症が主病態に存在することが疑われる場合には,カルシウム拮抗薬の投与も考慮する.今後の課題 CKD ステージG3b 以降,特にCKD ステージG4, 5 の患者を対象としたエビデンスは十分とはいえず,今後,該当する患者層を対象にしたエビデンスの構築・集積が必要である. 文献検索 データベース:PubMed 医中誌期間:1990 年~2014 年10 月までキーワード: diabetic nephropathy,ACEI,ARB,RA 系追加検索(2017 年1 月)データベース:PubMed 医中誌期間:2014 年10 月1 日~2016 年9 月30 日までPubmed 検索式#1. Kidney Diseases[MeSH Terms] #2. Diabetes Mellitus[MeSH Terms] #3. (((Meta-Analysis[Publication Type])OR Clinical Study[Publication Type])OR Randomized Controlled Trial[Publication Type])OR Review[Publication Type] #4. ((((angiotensin receptor antagonists[MeSH Terms])OR Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors[MeSH Terms]) OR “Renin Inhibitor”)OR Mineralocorticoid Receptor Antagonists[MeSH Terms])OR Renin-Angiotensin System/ drug effects[MeSH Terms] #5. (((#1)AND #2)AND #3)AND #4 Filters: Publication date from 2014/10/01 to 2016/09/30 (上記#5 によりヒットした59 文献について検討) 参考文献 1) Kuriyama S,Tomonari H,Tokudome G,et al.Antiproteinuric effects of combined antihypertensive therapies in patients with overt type 2 diabetic nephropathy.Hypertens Res. 2002;25:849-55. 2) Brenner BM,Cooper ME,de Zeeuw D,et al.Effects of losartan on renal and cardiovascular outcomes in patients with type 2 diabetes and nephropathy.N Engl J Med. 2001;345:861-9. 3) Lewis EJ,Hunsicker LG,Clarke WR,et al.Renoprotective effect of the angiotensin-receptor antagonist irbesartan in patients with nephropathy due to type 2 diabetes.N Engl J Med. 2001;345:851-60. 4) Imai E,Chan JC,Ito S,et al.Effects of olmesartan on renal and cardiovascular outcomes in type 2 diabetes with overt nephropathy:a multicentre, randomised,placebocontrolled study.Diabetologia. 2011;54:2978-86. 5) Liou HH,Huang TP,Campese VM.Effect of long-term therapy with captopril on proteinuria and renal function in patients with non-insulin-dependent diabetes and with nondiabetic renal diseases.Nephron. 1995;69:41-8.
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背景・目的 糖尿病およびCKD を有する患者では,脂質異常症を合併しやすい.脂質異常症は冠動脈疾患をはじめとするCVD 発症のリスクファクターであるとともに,CKD の発症および進行に関与するA ~C).これまでに,生活習慣の改善やスタチンなどの使用による適切な脂質低下療法により,1CKD 患者におけるCVD 発症および死亡リスクが低下すること,2蛋白尿が減少することが示されているA, B).腎機能障害の進行が抑制されるかどうかについては,蛋白尿減少効果ほど結果は一致していないが,脂質低下療法による効果が支持されているA, B).これまでのエビデンスを踏まえた考え方に基づき,CKD における脂質管理の診療ガイドラインも整備されてきた.国際的には,2003 年にKDOQI (Kidney Disease Outcomes Quality Initiative)による診療ガイドラインが初めに出されたD).2007 年には,それまでの大規模臨床試験成績の統合を経て,糖尿病やCKD に対する具体的な脂質管理目標値な どを示すガイドラインおよび推奨が設定されたD).ここでの脂質管理目標値については,その後,わが国における診療ガイドラインなどにおいても採用されているA, B).CKD 診療ガイド2012 やCKD 診療ガイドライン2013 を例としてみると,糖尿病合併の有無に限らずCKDにおける脂質管理目標として, LDL-C 120 mg/dL 未満,可能であればLDL-C 100 mg/dL 未満が推奨されているA, B). 2013 年に発表されたKDIGO による診療ガイドラインでは,脂質低下療法による管理目標値としてLDL コレステロール値を設定しない形式となったD).個々の患者におけるCVD リスクおよび治療によるベネフィットに応じて治療意思決定を行うことに,推奨のポイントが置かれているD).一方,糖尿病を有する進行したCKD,すなわち本章のテーマである糖尿病合併CKD ステージG3b ~5 に限った場合における,脂質管理の腎予後および生命予後に及ぼす影響に関するエビデンスはごく限られている. 4.糖尿病合併CKDの治療におけるRA系阻害薬と脂質管理の有用性 糖尿病合併CKD ステージG3b 〜5 の脂質管理は腎予後,生命予 後を改善するか? ● 推 奨 ● ●糖尿病合併CKD ステージG3b ~5 のCVD 発症を抑制し,生命予後の改善が期待されるため,スタチンによる脂質管理を推奨する. ●糖尿病合併CKD ステージG3b ~5 において,スタチンによる脂質管理は蛋白尿を減少させるため推奨する.
こうした現状を踏まえ,ここでは,慢性透析患者を除く糖尿病合併CKD ステージG3b ~5 の腎予後および生命予後に及ぼす脂質管理のエビデンスについて解説する. 脂質管理の腎予後に及ぼす効果 1)海外におけるエビデンスCKD ステージG5D を除くCKD 患者全体でみた場合,スタチンなどによる脂質管理により,腎機能低下の進行が抑制されることを示唆する報告があるA).一方,シンバスタチンとエゼチミブの併用療法について検討した最近の大規模臨床試験(SHARP)では,6,247 例の非透析患者において,併用群におけるESKD への進展や血清クレアチニン値の2 倍化が抑制されなかった1, E). 2014 年に報告された50 の研究(45,285 症例)を対象とするシステマティックレビューでは,スタチンによる蛋白尿の減少効果が認められるものの,CKD進行に及ぼす効果は不明確とする結果であったE). eGFR 30 ~60 mL / 分/ 1.73 m2 の患者割合が34%を占める2 型糖尿病患者を対象としたCARDS 試験(n =2,838)では,アトルバスタチン(10 mg / 日)により,eGFR が年間0.18 mL / 分/ 1.73 m2 の改善がみられている2).この改善はアルブミン尿を認める患者において最もよく確認された.同様に,TNT試験のpost hoc 解析では,アトルバスタチン使用群において糖尿病患者のeGFR が平均0.5 mL / 分/ 1.73 m2(10 mg / 日使用時)増加することが示されている3).一方,2012 年に報告されたシステマティックレビューでは,eGFR の低下を伴う糖尿病におけるスタチンの腎予後に対する有効性について,判断するためのエビデンスは不十分とされている4). 2)日本におけるエビデンスわが国においても,海外における成績と同様に,スタチンを用いた脂質管理によるアルブミン尿・蛋白尿の減少やeGFR の増加について報告されているA, 1, 5).糖尿病合併CKD 患者(血清クレアチニン値:0.9 ~1.5 mg / dL,かつ尿中アルブミン陽性ま たは尿蛋白±以上)において,18 カ月間の観察期間中に,食事療法を行った群に比較して,アトルバスタチン群におけるアルブミン尿の低下傾向とeGFR の増加傾向がみられた1).また,ARB とスタチンの併用療法の有効性についても報告されている.テルミサルタン40 mg / 日にアトルバスタチン10 mg / 日を併用する治療により,LDL コレステロール値の低下とともに,尿中アルブミン排泄量が10.4%減少した1). プロブコールの腎症に及ぼす効果を検討したRCT の結果も報告されている.血清クレアチニン値が2 mg / dL 以上の2 型糖尿病患者40 例において,平均18.6 カ月間の追跡期間中,プロブコール群では血清クレアチニン値および蛋白尿の増加が抑制され,非血液透析導入率が高かったF, 6).こうした効果は,プロブコールの持つ抗酸化作用や抗動脈硬化作用を介するものと推測されているF, 6). 脂質管理の生命予後に及ぼす影響 1)海外におけるエビデンスCKD において脂質低下療法によりCVD の発症リスクが抑制できるとの報告は多いが,CKD ステージにより結果に違いがみられているA).2011 年に報告されたSHARP 試験では,CKD 患者9,270 例(糖尿病2,094 例(33%),平均eGFR 27 mL / 分/1.73 m2)を対象に,シンバスタチン(20 mg / 日)とエゼチミブ(10 mg / 日)の併用とプラセボを比較検討した.その結果,動脈硬化性CVD イベント(冠動脈疾患による死亡を含む.)が17%抑制された(ハザード比0.83,95%CI 0.74-0.94,p =0.0021)1).このリスク低下の程度は,透析群よりも非透析群で大きかった1).しかしながら,総死亡率については併用療法群とプラセボ群との間に差はみられなかった.一方,透析症例を除くCKD におけるスタチンについてのシステマティックレビューでは,スタチンは総死亡およびCVD による死亡を減少させること
が示されているE).ただし,致死的または非致死的脳卒中に対する効果は不明確とされたE).これらのエビデンスにより,脂質低下療法による動脈硬化性CVD や死亡リスクの低下は認められるが,リスク低下は一律ではなく,CKD ステージ早期のほか,高齢層においてより効果的と考えられているA, D).糖尿病合併CKD 患者を対象としたエビデンスでは,アトルバスタチン10 mg 群と80 mg 群における心血管イベントを検討したTNT 試験がある3). TNT のpost-hoc 解析において,アトルバスタチン80 mg / 日使用群では,主要心血管イベント(冠動脈疾患や脳卒中による死亡を含む.)の相対リスクが10 mg / 日と比較して35%減少した(ハザード比0.65,95%CI 0.43-0.98,p =0.04)3).また,糖尿病患者におけるアトルバスタチンによるCVD の一次予防を検討したCARDS 試験のサブ解析では,アトルバスタチン10 mg / 日を用いる治療により,eGFR 30 ~60 mL / 分/ 1.73 m2 の患者970 例における主要CVD イベントの相対リスクが42%低下した(ハザード比0.58,95%CI 0.36-0.96,p =0.03)2).ただし,総死亡率については,両群間の差はみられていない(5.60% vs 6.15%,95%CI0.51-1.45)2).一方,2 型 糖尿病合併CKD 患者において,スタチンはプラセボと比較して総死亡や脳卒中を減少させなかったとするシステマティックレビューが1 報ある4).以上をはじめとする大規模臨床試験の結果などに基づいて作成されたKDIGO の脂質管理に関する診療ガイドラインでは,50 歳以上で,eGFR <60 mL / 分/ 1.73 m2(G3a ~5)の患者に対するスタチン(またはスタチン・エゼチミブ併用)が推奨されているD).また,18 ~49 歳のCKD 患者において,糖尿病や血管疾患の既往などのリスクを有する場合には,スタチンによる治療が提言されているD).なお,現時点では,エゼチミブ単独療法についてのエビデンスはないため推奨されていないD). 2)日本におけるエビデンスわが国では,高コレステロール血症を有する日本人を対象とした,プラバスタチンのうっ血性心不全 または脳卒中の一次予防効果について検討したMEGA 研究がある1).2,210 例の糖尿病または耐糖能障害を有する者を対象としたMEGA 研究のサブ解析では,プラバスタチンにより32%のCVD の相対リスク低下がみられている(ハザード比0.68, 95%CI 0.48-0.96)1).同様に,7,196 症例について, CKD ステージにより層別化して検討したpost-hoc解析では,プラバスタチンにより,うっ血性心不全の相対リスクが48%減少した(ハザード比0.52, 95%CI 0.31-0.89,p =0.02)1).またCVD の相対リスクは55%減少した(ハザード比0.45,95%CI 0.30-0.69,p <0.01)1).一方,日本人における糖尿病合併CKD を対象としたエビデンスは乏しく,今後の研究成果が待たれる. 脂質管理に使用される薬剤の安全性 CKD や糖尿病において合併する脂質異常症には,スタチンをはじめ薬剤が使用されることが多い. CKD 診療ガイド2012 には,薬剤の種類ごとに,使用する際の注意点が示されているB).また,CKD診療ガイドライン2013 では,CKD において安全に使用できる脂質低下薬として,スタチン単独あるいは,スタチン・エゼチミブ併用が推奨されているA).一方,腎排泄性のフィブラート系薬については, CKD ステージG4 区分以降での使用は推奨しない.特に禁忌の薬剤があり,個別に確認するA).以上の推奨を踏まえ,以下では,スタチンとエゼチミブの安全性に関するエビデンスについて示す. 1)スタチンスタチンは,一般的に腎機能低下時にも用量調整の必要がなく,耐容性のある薬剤として知られている.しかしながら,肝機能障害や筋毒性には注意を要する.肝機能については,CKD の重症度にかかわらず,使用開始時からアミノトランスフェラーゼ値の上昇に注意する1, D).筋毒性については,筋肉痛,脱力といった筋症状の確認やクレアチンキナー
ゼ値を測定するなどにより注意を払うB).特に,1肝機能障害や腎機能障害,2フィブラート系薬剤やシクロスポリンとの併用,3高齢といった因子により,スタチンの血中濃度上昇を介して筋毒性リスクが増加することが知られている1).このため,わが国におけるロスバスタチン使用については,クレアチニンクリアランス<30 mL / 分の腎機能障害のある場合には,2.5 mg / 日より開始し,5 mg / 日を超えないことが推奨されている1).なお,妊娠中や授乳中の女性には禁忌である. CKD 患者におけるスタチンの安全性と耐容性に関するデータは限られている.TNT 試験のサブ解析やSHARP 試験の結果では,スタチン使用群のCKD 患者の安全性プロファイルは,非CKD 患者やプラセボ群と同程度であった1, D).CKD 患者全体(透析患者を除く)に対するスタチンについてのシステマティックレビューでは,対象に関する系統的な報告が限られていることなどから,スタチンによる有害事象は不確定とされているE).ただし,サブグループ解析において,GFR <60 mL / 分/1.73 m2の群や糖尿病患者の割合が多い群では,スタチン治療中止のリスクが高いことが示されているE).こうした状況を踏まえ,KDIGO のガイドラインでは,eGFR <60 mL / 分/ 1.73 m2 の場合には,同様の腎機能を対象とした過去のRCT において有用であることが示された用量に基づくべきとされているD).一方,わが国を含むアジア地域では,欧米に比較して低用量のスタチンによるLDL コレステロール低下作用やアウトカムの改善が示されている.国際的には,各国での使用状況に応じた用量の調整が勧められる. 2)エゼチミブエゼチミブについては,SHARP 試験においてスタチンとの併用療法が行われたが,プラセボ群と比較し,有害事象の増加はみられていない.なお, CKD におけるエゼチミブ単独療法についてのエビデンスは確認できなかった.今後の課題 慢性透析患者を除くCKD におけるスタチンの死亡およびCVD 予防のエビデンスは確立されつつある.一方,糖尿病合併CKD,特にCKD ステージG3b ~5 における脂質管理の腎および生命予後に及ぼす影響についてはエビデンスが乏しい.今回提示したエビデンスについても,糖尿病合併CKD 患者に限定しない患者を対象とした大規模臨床試験のサブグループまたはpost hoc 解析に基づくものである.CKD におけるスタチンの長期的安全性についても同様である. 文献検索 データベース:PubMed 医中誌・検索式: #1. diabetes AND(kidney disease OR nephropathy)AND(stage 4 OR stage 5 OR advanced OR severe) #2. (lipid OR cholesterol OR triglyceride)AND(treatment OR therapy OR control OR management) #3. Meta-Analysis[pt] OR Clinical trial[pt] OR Randomized Controlled Trial[pt] OR Review[pt] #4. (#1 AND #2 AND #3)NOT animals #5. (#1 AND #2 AND #3 AND #4)AND (2014[dp] OR 2015[dp] OR 2016[dp])・対象期間:2014 年10 月以降2016 年9 月・検索日:2016 年12 月23 日(ヒットした25 文献のうち,本項の趣旨に合致する論文および当該論文で引用されている論文を選択した.) 参考にした二次資料 A) 日本腎臓学会編.エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2013,東京医学社,2013. B) 日本腎臓学会編.CKD 診療ガイド2012,東京医学社, 2012 C) Toyama T,Shimizu M, Furuichi K , et al.Treatment and impact of dyslipidemia in diabetic nephropathy.Clin Exp Nephrol 2014;18:201-5 D) KDIGO Clinical Practice Guideline for Lipid Management in Chronic Kidney Disease.Kidney Int Suppl 2013;3. E) Palmer SC, Navaneethan SD, Craig JC,et al.HMG CoA reductase inhibitors(statins)for people with chronic kidney disease not requiring dialysis.Cochrane Database Syst Rev 2014;5:CD007784 F) Ahmad J. Management of diabetic nephropathy::Recent progress and future perspective. Diabetes Metab Syndr 2015 ;9:343-58.
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1 加齢による腎臓の形態変化 個体が老化に伴い機能的にも形態的にも変化を示すように,腎臓も加齢変化を免れ得ない1).腎重量と腎体積は40 歳代前半にピークを示し,加齢に伴い減少(腎萎縮)する.皮質部の萎縮には小動脈の加齢変化が関与している.葉間動脈~小葉間動脈には内膜・中膜肥厚と内腔狭小化が加齢に伴い進行する.糖尿病や高血圧を合併するとこれらの変化は加速される.小~細小動 脈の内腔狭小化によって腎血流量が低下し下流の組織に広く組織虚血がもたらされる.一連の変化は高血圧に起因する腎硬化症と類似した変化である.糸球体では分節状硬化から全節性硬化へと進展する.血管変化は皮質部と比較して髄質部では軽度であり,傍髄質部の糸球体のなかには代償性に肥大したものも認められる.尿細管上皮の萎縮,尿細管内腔の拡大,尿細管基 わが国は超高齢化社会の到来を迎え,診療対象の多くが高齢者となりつつある.老年人口の増加は今後も継続し,2025 年には高齢化率は30%を超えることが予想されている.平均寿命と日常生活に制限のない健康寿命との差(不健康期間)は男性で9 年以上,女性12 年以上あり,その差はむしろ拡大方向にある.健康寿命の延伸によって,平均寿命との差を短縮することができれば,個人のQOL の低下防止とともに,社会保障負担の軽減も期待できる. CKD は国民の健康寿命延伸の障害因子ともなりうる.わが国では透析導入年齢の高齢化が進み,2015年度の導入時平均年齢は男性が68.37 歳,女性は70.95 歳であった.全体の平均は69.20 歳であり,透析患者数増加の一因は高齢化である.安全な医療を実施するためには高齢者の身体特性を熟知する必要がある.主要臓器に加齢変化が及ぶため,心不全,弁膜疾患,骨・骨格筋変化,視力障害,歯・口腔疾患も増大し,必然的に高齢者は多臓器障害を有している.全人的医療が求められる所以である.腎臓も加齢による構造的,機能的変化を免れない.腎を代謝・排泄経路とする薬剤も多く,安全な医療を実施するうえでも,加齢腎の特徴を知る必要がある.特に,75 歳以上の高齢者の医療においては,非高齢者とは異なる視点が必要となる.QOL の維持・向上,苦痛緩和に最大限の配慮を払い,高齢者と家族の意志決定を支援し,多職種による「最善の医療,ケア」の実現が求められる.本章は主に75 歳以上の高齢者を対象として,ESKD への進展,重症合併症阻止,QOL の維持・向上のための指針提示を目標としている.しかしながら,75 歳以上の高齢者を対象とした臨床研究(特にQOLを指標としたもの)が限定的であるだけでなく,そもそも高齢者は個々人の多様性が非高齢者より大きいことから,過度の医療の標準化・均霑化は医療の質を損ないかねない.実臨床においては,ガイドラインに準拠しつつも,個別化医療(personalized medicine)実践を重視した柔軟かつ細やかな対応が求められる. 5.高齢者におけるCKD 診療のポイント
底膜の肥厚も加齢腎で広範に出現する.尿細管の萎縮に伴い,間質領域の拡大,線維化が進行する.尿細管上皮は萎縮するだけでなく,細胞数も減少し,さらに尿細管長も短縮する.このように加齢腎の組織学的特徴は,糸球体硬化,尿細管萎縮,間質線維化,小動脈硬化であるが,これらの変化は腎機能正常の高齢者においても潜在的に存在することが示されている.したがって健常高齢者においても,潜在的な腎の加齢変化の存在を念頭に置く必要がある. 2 加齢による腎臓の機能的変化 1)糸球体機能の加齢変化腎の主要な機能であるGFR は加齢に伴い低下する.日本腎臓学会慢性腎臓病対策委員会が行った疫学調査によると日本人では欧米人に比較して加齢に伴うGFR の低下速度は緩徐であると推測された2).しかしながら,最近の腎移植ドナー候補を対象とした研究3)から腎移植ドナーを対象とすると,欧米人と日本人との間に加齢に伴う腎機能低下速度に大きな差がないことが示された.わが国では70 歳代では男性の27.7%,女性の31.8%がeGFR 60 mL /分/ 1.73 m2 未満であると推測されている4).加齢に伴うGFR の低下には腎実質内の血行動態変化が関係している.加齢に伴い,有効腎血漿流量(ERPF)が低下する.欧米人では30 歳以降,10 年ごとに約10%ずつERPF が低下することが示されている5).COX阻害薬であるNSAIDsの使用により,高齢者では容易にRPF の減少と急激な腎機能低下をきたすことがあり注意が必要である. GFR はRPF 以外にも,糸球体血管壁の限外濾過係数(Kf 値)によっても規定される.高齢者では,糸球体構築変化と機能糸球体数の減少を反映してKf 値が低下する.RPF 減少はGFR 低下よりも著しいために,濾過率(filtration fraction:FF)は増大する.高齢者には高血圧合併例が多い.高齢者では圧・利尿曲線の傾きの鈍化が認められ,血圧は食塩感受性を呈する. 2)尿細管機能の加齢変化尿細管機能も加齢とともに変化する.尿細管におけるNa 再吸収能は加齢に伴い低下する.塩分摂取量の低下に対する尿細管のNa 再吸収亢進は,高齢者では若年者よりも2 倍近く遅延することが示されている.若年者と比較すると高齢者では血漿レニン活性,アルドステロン濃度ともに30 ~50%低値を示し,さらに脱水などのレニン産生刺激に対する応答が高齢者では低下する. Na 排泄能力も高齢者では低下する.同等量のNa排泄を行うために,高齢者では若年者と比較してより長時間を要するために,夜間の尿量増加をきたしやすい6).Na 利尿ホルモンである心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の血清濃度は加齢に伴い増加するが,ANP に対する反応性は加齢に従って低下する.さらに高齢者では,尿の最大濃縮力が低下する.濃縮力のみならず尿の希釈力も高齢者では低下する.飲水後の自由水クリアランスが高齢者では低下する.以上のように高齢者では若年者と比較して体液量やNa 濃度の恒常性維持能力が低下していることを念頭におくことが重要である.サイアザイド系利尿薬の使用により,低ナトリウム血症をきたすことや,逆に飲水制限により高ナトリウム血症を惹起しやすい.口渇感も低下していることが多く,容易に体液量の異常をきたしやすい. 3 高齢CKD患者診療における注意点 高齢CKD 患者診療において留意すべき腎に関する生理的・病理的変化をまとめる.同一年齢であっても生理機能には個人差が大きいことにも注意を要する. 1) 体液量,電解質異常のホメオスタシスの易 破綻性特に脱水,低ナトリウム血症,低カリウム血症をきたしやすい.口渇中枢の感受性も低下しており易
脱水性である. 2)GFR,腎血流量(血漿流量)が加齢ととも に低下する75 歳以上では男女ともに50%以上がCKD ステージG3 以降に該当する.腎血流量低下の潜在リスクを有する薬剤(NSAIDs,利尿薬など)の使用に際しては注意を要する.腎排泄型薬剤の使用時には正確に用量調整を行う.イヌリンクリアランス法がGFR 測定のゴールドスタンダードであるが,煩雑なため各種の換算式が用いられる.日本人を対象としたGFR 推算式(estimated GFR:eGFR)が開発されている.本式では筋肉量の特に少ない高齢者の場合,腎機能を過大評価する可能性がある.より正確な腎機能評価が必要な場合は,蓄尿による内因性クレアチニンクリアランス法あるいは,シスタチンC を用いた腎機能評価法を用いることが望ましい. 3)AKI 合併リスクが高い高齢CKD 患者がAKI を合併すると腎予後は不良となる.またAKI 重症度が生命予後不良とも関連する.薬剤によるAKI は高齢者に発症しやすく,ビタミンD 製剤,抗腫瘍薬,抗菌薬によるAKI 発症に注意する必要がある. 4)高血圧を高率に合併する75 歳以上では80%以上が高血圧を呈する.食塩感受性高血圧が通例である.RA 系,キニン・カリクレイン系など,昇圧系,降圧系ともに低下する. 75 歳以上では,血圧と心血管イベント発症,生命予後との関係には,J カーブ現象が認められる.また非高齢者と比較して,血圧変動性(日内・日間)が増大しており,血圧測定法にも注意を要する. 5)心・血管機能の変化動脈硬化合併,血管弾性低下,左室肥大,拡張能低下例が多い. 6)認知症,転倒,フレイル(frailty,虚弱) を主要要因として要介護リスクを有する高齢者では,老化に伴う諸臓器の機能低下を基盤とし,さまざまな健康障害に対する脆弱性が増大している(フレイル).CKD もその一因となる7 ~9). 高齢者ではGFR 低下とともに脳卒中発症・認知症発症リスクが増大する10).筋肉量減少(サルコペニア)・栄養障害が原因となり転倒リスクが高くなる.CKD とサルコペニアとの関連も示されている11).独居,介護力不足,認知機能障害,うつ,食欲低下,義歯,咀嚼・嚥下障害が原因となり栄養障害をきたしやすい. 75 歳以上のCKD 診療においては,透析予防のみならず,QOL維持・向上,要介護状態への移行阻止,健康寿命延伸を念頭においた診療を心がけたい.高齢者では臓器合併症,フレイルにもとづく個体差が大きく,診療の標準化・均霑化が本来的に困難である.それゆえ,本ガイドラインはその遵守を過度に厳重に求めるものではなく,高齢者・家族の意志決定も支援しつつ,個別化医療の実施による「最善の医療・ケア」の実現を重要視するものであることを強調したい. 参考文献 1) Glassock RJ,Rule AD.The implications of anatomical and functional changes of the aging kidney:with an emphasis on the glomeruli.Kidney Int. 2012;82:270-7. 2) Imai E,Horio M,Yamagata K,et al.Slower decline of glomerular filtration rate in the Japanese general population:a longitudinal 10-year follow-up study.Hypertens Res. 2008;31:433-41. 3) Horio M,Yasuda Y,Kaimori J,et al.Performance of the Japanese GFR equation in potential kidney donors.Clin Exp Nephrol. 2012;16:415-20. 4) Imai E,Horio M,Watanabe T,et al.Prevalence of chronic kidney disease in the Japanese general population. Clin Exp Nephrol. 2009;13:621-30. 5) Berg UB.Differences in decline in GFR with age between males and females. Reference data on clearances of inulin and PAH in potential kidney donors.Nephrol Dial Transplant. 2006;21:2577-82. 6) Luft FC, Grim CE, Fineberg N, et al.Effects of volume expansion and contraction in normotensive whites, blacks, and subjects of different ages.Circulation. 1979;59:643-50. 7) Roshanravan B, Khatri M, Robinson-Cohen C, et al.A prospective study of frailty in nephrology-referred patients with CKD.Am J Kidney Dis. 2012;60:912-21. 8) Yamada M, Arai H, Nishiguchi S, et al.Chronic kidney dis- ease(CKD)is an independent risk factor for long-term care insurance(LTCI)need certification among older Japa-
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背景・目的 高血圧を伴う75 歳以上の高齢者でCKD ステージG3b ~5 の患者のみを対象として,降圧治療がESKD への進展・CVD の合併を抑制し,生命予後を改善するか否かを前向きに検証した報告はない.高齢高血圧患者を対象とした大規模臨床試験や高齢CKD 患者が含まれる大規模臨床試験のサブ解析などの結果から検討を加えた. 高齢者高血圧への降圧治療 対象の平均年齢が75 歳以上で,プラセボを対照としたRCT の結果から,75 歳以上の高齢者高血圧において降圧治療は心血管イベント発症を抑制することが示されている.70 ~84 歳の高齢高血圧患者(平均年齢76 歳,平均血圧195 / 102 mmHg)を対象としたSTOP-Hypertension 試験では,β遮断薬お 高血圧を伴う75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~5 患者への降圧治療は,ESKD への進展・CVD の合併を抑制し,生命予後を改善するか? 5.高齢者におけるCKD 診療のポイント ● 推 奨 ● ●高血圧を伴う75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~5 患者では,糖尿病合併や蛋白尿の有無にかかわらず,ESKD への進展を抑制しCVD の合併を抑制するため,収縮期血圧を150 mmHg 未満に緩徐に降圧することを推奨する. ●高血圧を伴う75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~5 患者では,他の合併症やフレイルにより全身状態における個体差が大きいことから,降圧目標の上限値は目安として担当医の判断で柔軟に降圧治療を行うべきである. ●高血圧を伴う75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~5 患者は起立性低血圧のハイリスク群であり,降圧治療による過剰な血圧低下は生命予後を悪化させるため,収縮期血圧が110 mmHg 未満に低下する場合や,めまい,ふらつきなどの症状が出現する場合には,降圧薬の減量もしくは中止を考慮する. ●75 歳以上の高齢者の脱水や虚血に対する脆弱性を考慮すると,降圧薬療法の第一選択として,また他の降圧薬の効果不十分な場合の併用薬としては,RA 系阻害薬や利尿薬に比較し腎血流を低下させるリスクが少ないことから,カルシウム拮抗薬が望ましい.
よび利尿薬を用いて160 / 95 mmHg 未満を目標とした降圧治療の結果,脳卒中,心筋梗塞およびその他の心血管死は有意に抑制された1).80 歳以上の高齢高血圧患者(平均年齢83.6 歳,平均血圧173 / 91 mmHg)を対象としたHYVET 試験では,利尿薬(降圧不十分な場合はACE 阻害薬を追加)を用いて150 / 80 mmHg 未満を目標とした降圧治療の結果,脳卒中30%,総死亡21%,心不全64%,心血管イベント34%の有意な減少を認めた2).平均年齢が70 歳以上の高齢高血圧患者を対象とした他の臨床試験およびメタ解析においても,同様の結果が示されている3, 4).一方,高齢者高血圧を対象に行われた15 個のRCT を解析したCochrane 調査では,80 歳以上の高齢患者において,降圧治療により無治療群と比較し総死亡率は低下しないが,CVD の罹患率とそれによる死亡率は有意に減少した(RR 0.75 95%CI 0.65- 0.87)5).また降圧治療に関するRCT から80 歳以上の高血圧患者1,670 例を抽出したサブ解析の結果でも,降圧治療は脳卒中を34%,主要な心血管イベントを22%,心不全を39%減らしているが,心血管死亡率および総死亡率の有意な低下は示さなかった6).さらに80 歳以上の高血圧患者を対象としたRCT のメタ解析でも,降圧治療は脳卒中,心血管イベント,心不全を有意に抑制するが,総死亡率には影響しなかった.ただし治療強度が最も弱く,血圧低下度が最も小さな降圧治療が,総死亡率を低下させる可能性が示唆された7).これらの解析結果は,80 歳以上の高齢者高血圧に対する降圧治療は心血管イベントを減少させるが,同時に有害事象を惹起し,降圧により得られる利益を相殺して総死亡率の有意な低下が得られない可能性を示唆している.また降圧治療と腎機能予後に関する検討では, SHEP 試験でプラセボ群に割り付けられた平均年齢72 歳,平均血清クレアチニン値1.04 mg / dL の対象における血圧と腎機能低下との関連をみた報告では,収縮期血圧158 ~163 mmHg の群と比較し, 176 ~213 mmHg の群では有意に腎機能の低下が認 められた8).さらに日本人の高齢CKD 患者(平均年齢76 歳,CKD ステージG3 ~5)を対象としたコホート研究においても,家庭での収縮期血圧とeGFR の低下率に有意な相関が認められ9),降圧治療が腎機能予後を改善させる可能性が示唆される. 降圧目標 日本人を対象とした高齢者高血圧治療に関する大規模臨床試験の結果などでは,降圧レベルと心血管イベント発症の関連は単純な正相関ではなく,到達血圧が一定値を下回った場合にイベント発症がむしろ上昇するJ カーブ現象が認められる.高齢者高血圧で,収縮期血圧について厳格降圧群(140 mmHg未満)と緩徐降圧群(降圧目標140 ~159 mmHg)を比較したJATOS 試験(平均73.6 歳)の結果では, 2 群間に心血管イベント発症の差を認めず,75 歳以上の高齢者のみを対象とした解析でも同様であった10).また収縮期血圧について厳格降圧群(140 mmHg 未満)と緩徐降圧群(降圧目標140 ~149 mmHg)を比較したVALISH 試験(平均76.1 歳)の結果では,2 群間に心血管イベント発症の差を認めなかった.75 歳以上の高齢者および血清クレアチニン値2 mg / dL 未満のCKD 患者においても同様の結果であった11).また厳格降圧療法の有用性を示したSPRINT 試験のサブ解析では12),糖尿病を伴わない75 歳以上の高齢高血圧患者においても,収縮期血圧120 mmHg 未満への厳格降圧療法は,140 mmHg 未満への緩徐降圧療法に比較して,うっ血性心不全を含む複合心血管イベントおよび全死亡を有意に減少させることが示された.ただしCKD 患者のステージ進展抑制に関して有意差はなく,またCKD の新規発症に関しては厳格降圧療法群で多かった.本試験への組み入れ基準では,高齢(75歳以上)がCVD リスクとして採択されている一方,糖尿病の合併,介護施設への入所や脳卒中の既往は除外項目とされている.現実の75 歳以上の高齢者
のCKD ステージ3b ~5 とはかなり乖離した対象を検討している可能性があり,この結果をそのまま受け入れることには問題がある.またSPRINT 試験の組み入れ患者を対象とした別の検討では,75 歳以上の高齢者およびCKD ステージ3b ~5 は起立性低血圧のハイリスク群であることが示された13).米国退役軍人のCKD 患者651,749 例を対象とした大規模なコホート研究(平均年齢73.8 歳,平均eGFR 50.4 mL / 分/1.73 m2,ステージG4, 5 の患者が6.2%を占める)では,収縮期血圧130 ~159 mmHg,拡張期血圧70 ~89 mmHg の患者群で最も総死亡率が低かった.CKD ステージG4, 5 の患者においても同様の結果であった14).また平均年齢 68.4 歳,平均eGFR 38 mL / 分/1.73 m2 のCKD 患者 を対象としたコホート研究では,ESKD への到達については収縮期血圧の低下に応じて減少したが,全死亡についてはJ カーブ現象が認められ,110 / 70 mmHg 未満では死亡リスクが有意に上昇した15).平均年齢70.2 歳のCKD ステージG3, 4 患者1,549例を対象としたコホート研究ではJ カーブ現象が認められ,収縮期血圧120 ~129 mmHg で脳卒中のリスクが最も低かった16).一方,降圧治療による脳卒中の2 次予防効果を,日本を含む多施設国際共同試験で検討したPROGRESS 試験のサブ解析では,平均年齢70 歳のCKD 患者(平均クレアチニンクリアランス50 mL / 分)において,降圧レベルと脳卒中の再発に関して明らかなJ カーブ現象は認められなかったが,収縮期血圧160 mmHg 未満で降圧治療による2 次予防効果は頭打ちであった17).冠動脈病変を有する高齢高血圧患者における降圧レベルと全死亡,心筋梗塞および脳卒中発症を評価したINVEST 研究のサブ解析では,70 歳以上の高齢者において収縮期血圧とこれらのエンドポイントに関してJ カーブ現象が認められ,70 ~80 歳では収縮期135 mmHg,80 歳以上では収縮期140 mmHg でリスクが最小であった18).日本人を対象としたものでは,腎臓専門医の管理下にあるCKD 患者2,655例を前向きに観察したGonryo 研究において,収縮期圧110 mmHg と拡張期圧70 mmHg は心血管イベ ント・全死亡の独立したリスクファクターであることが示され,低い拡張期血圧と心血管イベント・全死亡との関連は非高齢者では明らかでなく,高齢者でのみ顕著であることが報告されている19).以上より,降圧治療は高血圧を伴う75 歳以上の高齢CKDステージG3b~5患者のESKDへの進展・CVD の合併を抑制し,生命予後を改善すると考えられる.しかし現時点でのエビデンスから,明確な降圧目標値を設定することは困難である.ただし,少なくとも降圧目標の上限に関しては,150 mmHg以上の管理が推奨される根拠は乏しい.また降圧治療による過度な血圧低下が起立性低血圧による転倒や総死亡率の増加などの有害事象を引き起こす可能性は否定できず,収縮期血圧を110 mmHg 未満とする根拠は乏しい.以上より,本ガイドラインでは高血圧を伴う75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~ 5 患者のESKD への進展抑制,CVD の合併予防および生命予後の改善の観点から,収縮期血圧を150 mmHg 未満に緩徐に降圧することを推奨することとした.また,収縮期血圧が110 mmHg 未満に低下する場合には降圧薬の減量もしくは中止を考慮するとした.これは降圧下限域の設定ではなく,このレベルまで降圧することの有用性が認められていないことから慎重に観察して対応すべきであることに注意を促すものである.さらに75 歳以上の高齢者において,糖尿病合併と蛋白尿の有無で降圧目標を区分することはエビデンスが不足しており難しいことから,糖尿病合併や蛋白尿の有無にかからず同一の回答とした.降圧薬は少量から開始し,めまいや起立性低血圧などの脳虚血,狭心症状や心電図変化など心筋虚血,腎機能の悪化などの臓器虚血症状に注意しつつ増量を図るべきである.特に本章総説で述べられているように,高血圧を伴う75 歳以上の高齢者のCKD ステージG3b ~5 患者では,他の合併症やフレイルにより全身状態における個体差が大きいことから,降圧目標の上限値は目安として担当医の判断で柔軟に対応すべきである.
降圧薬の選択 降圧薬の選択に関して,CKD ステージG3b ~5を合併した75 歳以上の高齢者でのエビデンスは限られており,一般的なエビデンスを原則として患者ごとに適応を判断せざるを得ない.高齢者高血圧に対する心血管イベント抑制効果に関しては,サイアザイド利尿薬,β遮断薬,カルシウム拮抗薬がプラセボとの比較試験で有用性が示されている1 ~7). ARB に関しては,左室肥大を有する高血圧患者において,β遮断薬と比較し有意に複合心血管イベントおよび脳卒中を抑制した20).日本人の高齢者を対象とした検討では,カルシウム拮抗薬と利尿薬で心血管イベント発症に有意差はなかったが21),日本人の高齢CKD 患者を対象とした2 つの検討では,カルシウム拮抗薬による腎機能予後の改善効果が示されている22, 23).さらに高齢者は腎動脈狭窄や腎細動脈硬化による虚血性腎症を合併している頻度が高く,RA 系阻害薬や利尿薬の新たな投与により,病態生理学的に腎血流量の減少から腎機能の低下が懸念される.この懸念を裏付けるように,65 歳以上の高齢者におけるARB の有効性と安全性に関する16 個のRCT を検討したメタ解析では,ARB 投与は脳卒中を有意に減少させるが,急性腎不全を有意に増加させることが示されている24).日本人を対象とした併用療法の検討では,カルシウム拮抗薬と併用薬(利尿薬,ARB,β遮断薬)の群間比較で,複合心血管イベントに有意差はなかったが,脳卒中発症率に関しては,β遮断薬群が利尿薬群と比較し有意に高かった25).またARB(オルメサルタン)最高用量への増量と,ARB 通常用量とカルシウム拮抗薬の併用療法を比較したOSCAR試験では,平均年齢75.5 歳,平均eGFR 47.8 mL /分/ 1.73 m2,CKD ステージG4, 5 を5.4%含むCKD患者を対象としたサブ解析において,到達した降圧レベルは併用群でより低く(平均-3.7 mmHg), ARB 増量群では複合心血管イベントおよび非心血管死亡が有意に多かったことから,ARB とカルシウム拮抗薬併用療法の有用性が示されている26). また同試験の別のサブ解析において,ARB とカルシウム拮抗薬併用療法は,CVD の既往を有するCKD 患者において最も有用性が高いことが示されている27).以上のように高血圧を伴う75 歳以上の高齢者のCKD に関する論文をまとめたが,CKD ステージG3b ~5 を対象とした降圧治療の有効性や安全性に関するエビデンスは少ない.そこで本ガイドラインでは,75 歳以上の高齢者の脱水や虚血に対する脆弱性を考慮し,降圧薬療法の第一選択として,またすでに他の降圧薬を用いており,その降圧効果が不十分な場合の併用薬として,RA 系阻害薬や利尿薬に比較し腎血流を低下させるリスクが少ないことから,カルシウム拮抗薬が望ましいとした. 文献検索 データベース:PubMed 医中誌期間:1990 年~2016 年9 月までキーワード: chronic kidney disease, Elderly, Antihypertensive therapy 参考文献 1) Dahlöf B,Lindholm LH,Hansson L,et al.Morbidity and mortality in the Swedish Trial in Old Patients with Hypertension(STOP-Hypertension).Lancet. 1991;338: 1281-5. 2) Beckett NS,Peters R,Fletcher AE,et al.Treatment of hypertension in patients 80 years of age or older. N Engl J Med. 2008;358:1887-98. 3) Prevention of stroke by antihypertensive drug treatment in older persons with isolated systolic hypertension. Final results of the Systolic Hypertension in the Elderly Program (SHEP).SHEP Cooperative Research Group. JAMA. 1991;265:3255-64. 4) Staessen JA,Gasowski J,Wang JG,et al.Risks of untreated and treated isolated systolic hypertension in the elderly:meta-analysis of outcome trials. Lancet. 2000; 355:865-72. 5) Musini VM,Tejani AM,Bassett K,et al.Pharmacotherapy for hypertension in the elderly.Cochrane Database Syst Rev. 2009;CD000028. 6) Gueyffier F,Bulpitt C,Boissel JP,et al.Antihypertensive drugs in very old people:a subgroup meta-analysis of randomised controlled trials.INDANA Group. Lancet. 1999;353:793-6. 7) Bejan-Angoulvant T,Saadatian-Elahi M,Wright JM,et
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背景・目的 75 歳以上の高齢者でCKD ステージG3b ~5 の患者を対象として,たんぱく質制限食がESKD への進展を抑制し,生命予後を改善するか否かを前向きに検証した報告は限られている.高齢CKD 患者が含まれる臨床研究の結果から考察した.なお,海外からの報告ではケト酸アナログを用いた研究が散見されるが,わが国においてその使用は一般的ではないため,今回は高齢者限定で透析とたんぱく質制限食+必須アミノ酸+ケト酸アナログを比較した論文以外は取り上げていない. これまで慢性腎不全に対する腎保護効果を期待してたんぱく質制限が広く行われてきた.各国のガイドライン(0.6 ~1.0 g / kg / 日)でも推奨されているように,その重要性は変わっていない.一方近年は,特に高齢者においてサルコペニア(sarcopenia), protein-energy wasting(PEW),フレイル(frailty)などへの懸念から,原疾患にかかわらず一定のたんぱく質摂取を確保するべきであるという見解もあるA).年齢を考慮しない標準的治療としてのたんぱく質制限は,ステージG3a では 0.8 ~1.0 g / kg 標準体重/ 日,ステージG3b 以降では 0.6 ~0.8 g / kg 標準体重/ 日で指導することが推奨されている.ステージG1, 2 では,過剰なたんぱく質摂取を避けること 75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~5 患者に対して食事たんぱ く質制限は,ESKDへの進展・生命予後改善の観点から推奨されるか? 5.高齢者におけるCKD 診療のポイント ● 推 奨 ● 75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~5 患者に対してESKD への進展抑制を目的として食事たんぱく質制限を実施するに際しては, ●患者個々の身体状況(体重変動,BMI,見た目の印象など),栄養状態(上腕二頭筋周囲径,GNRI: Geriatric Nutritional Risk Index など),身体機能(筋力,運動機能など),精神状態(うつ状態,認知機能など),生活状況(独居,施設入居など)を総合的に勘案し,その要否を判断する必要がある. ●eGFR を中心とした腎機能評価に基づいて一律にたんぱく質制限を行うことは勧められない. ●実施にあたっては0.6 ~0.8 g/kg 体重/ 日が目標となるが,患者個々の状態を定期的に評価しつつ,必要に応じて重曹,リン吸着薬,カリウム吸着薬などを適切に使用し,アシドーシス,高リン血症,高カリウム血症の是正を心がける. ●過剰なたんぱく質制限はサルコペニアなどを介してQOL 低下やさらには生命予後悪化にもつながる可能性があることに留意する必要がある.
を推奨するB).その過剰を示す具体的な指示量としては,KDIGO(Kidney Disease:Improving Global Outcomes)のガイドラインでは,CKD 患者では 1.3 g/kg 体重 / 日を超えるたんぱく質を摂取しないことが推奨されているC).日本人の軽症 CKD 患者におけるたんぱく質摂取量の上限量については,日本人の食事摂取基準2015 においても今後の検討課題とされているD). 高齢者の腎機能低下速度 CKD を有さない高齢者では-0.75 ~-1.4 mL /分/ 年のクレアチニンクリアランス低下が報告されている.特に80 歳台では-1.51 mL / 分/ 年であるという1).一方CKD を有する高齢者では腎機能低下速度はさらに増し,CKD ステージG3, 4(平均67 歳)で-3.5 mL / 分/ 年2),ステージG4, 5(平均73 歳)では-5.4 mL / 分/ 年と報告されている3). 高齢CKD ステージG3b ~5 患者へのたんぱく質制限 総論的には,高齢CKD 患者では,腎機能が廃絶して透析に移行する可能性とその他の原因で死亡する可能性のバランスを考慮して治療方針を決めることが必要となる.CKD ステージG4 以降の高齢患者では腎代替療法が必要となる確率が高いが,高齢CKD ステージG3a の患者では,後者の可能性が高いことがわが国のコホート研究で示されている4).これは上述した腎機能低下速度の報告とも一致する結果と考えられる.一方,たんぱく質摂取量が低下している高齢CKD 患者では,フレイルが高頻度にみられることも報告されている5, 6).またわが国のCKD ステージG2 ~5,平均66.5 歳を対象とした横断研究においては,CKD のステージ進行に伴って握力,膝伸展筋力,片足立ち時間,最大歩行速度が段階的に低下し,多変量解析では身体機能低下と年齢,女性,BMI,eGFR,尿蛋白量が有意の関連を示すことが明らかとなった7).これらを踏まえ て,軽症の高齢CKD 患者に対し,健康な高齢者への推奨量未満のたんぱく質制限を行うことは適切でないと考えられる.それではCKD ステージG3b ~5 の高齢者ではどのように保存期腎不全治療を実施するとよいであろうか.イタリアで実施された多施設研究で,平均年齢79 歳,CKD ステージG5 を対象として超低たんぱく質食(0.3g / kg 体重)+必須アミノ酸+ケト酸アナログ実施群(56 例)と透析導入群(56 例)で予後比較がされた.26.5 カ月後両群の死亡率は同程度であったが,入院率は透析群で有意に高いとの結果が得られている8).このことより,CKD ステージG3b ~5 の超高齢者では,低たんぱく質食などによる保存期腎不全治療を継続することは透析導入と比較しても安全であり,また予後も悪くない可能性が示されている.しかし,本研究ではわが国では使用が一般的でない必須アミノ酸+ ケト酸アナログの補充療法が行われており,その結果をそのままわが国の臨床に適用できない.食事指導に対する遵守率を高めたRCT としては, 2009 年のCianciaruso らの報告がある9).彼らはCKD ステージG4 ~5 の患者485 例(平均61 歳, 2 型糖尿病:12%)をランダムに厳格なたんぱく質制限群〔LPD,0.55 g / kg・理想体重(BMI 23)/ 日〕と通常のたんぱく質制限群〔MPD,0.8 g / kg・理想体重/ 日〕に分け,4 年間にわたって観察した.全観察期間を通して推定される実際の平均たんぱく質摂取量は,前者で0.73 g / kg・理想体重/ 日,後者で0.9 g / kg・理想体重/ 日と有意な差を認めた.結果,GFR 低下速度には全く差がなく(LPD 群 0.19 ± 0.48 mL / 分/1.73 m2 / 年 vs MPD 群 0.18 ± 0.46 mL 分/1.73 m2 / 年),ESKD や死亡,ないしそれらの複合アウトカムのいずれに対しても有効性は認められなかった(ハザード比 0.95 ~1.12).なお, MPD 群では高血圧や代謝異常などの合併症の管理により多くの投薬が必要であった10).本研究はたんぱく質制限の程度が腎アウトカムに与える影響を
検討したRCT としては過去最大規模であり,かつRA 系阻害薬やリン吸着薬,重曹などによる現在の標準的治療のもとで行われている.標準治療を実施することによってたんぱく質制限の効果が検出されにくくなるということは食事療法以外の治療でたんぱく質制限が代替可能であることを示唆する成績といえる.一方,進行しつつある腎不全患者では,GFR < 15 mL / 分/ 1.73 m2 に至ると“ 自発的” に摂取たんぱく質量を制限し,しばしば0.6 g / kg 体重以下となっていることが報告されている11).その背景には,患者自身の低たんぱく質食による腎不全進行抑制への期待と,また尿毒症,代謝性アシドーシスによる食思不振が存在すると推察される.このたんぱく質摂取低下は上述した高齢CKD 患者にみられるサルコペニア,PEW,フレイルの背景因子の一つと考えられる.進行したCKD 患者に生じる代謝性アシドーシスはそれ自体が筋肉異化促進や骨量低下,PEW と関連している.最近,134 例のCKD ステージG4 患者を対象としたRCT で,2 年間の観察終了時点で経口重曹補充によるアシドーシス補正(重炭酸イオン24 mmol / L)群ではコントロール群(重炭酸イオン20 mmol / L)と比較してたんぱく質摂取量,カロリー摂取量,上腕二頭筋周囲径,血清アルブミン値が良好であり,また腎機能低下速度も緩やかであった12).腎不全におけるたんぱく質制限の目的の一つにはたんぱく質由来の不揮発性酸の摂取を抑制することによるアシドーシス抑制があるが,重曹補充によって栄養指標改善や,腎機能低下抑制が得られることは厳密なたんぱく質制限の必要性を再考する契機となる.たんぱく質制限のその他の効果に,リン制限,カリウム制限もあるが,これらは,今日では内服薬によるコントロールが十分に行える領域であることにも留意したい.たんぱく質制限食とQOL たんぱく質制限食の問題点の一つに食事制限に伴うストレスによるうつ状態の惹起とそれによるQOL の低下が知られている13).ストレス以外の要因として食事制限によってトリプトファン,葉酸,鉄,サイアミンの不足が気分障害の一因となる可能性も考えられる14).興味深い報告として,高齢者2 型糖尿病CKD 患者(ステージG3, 4:平均63 歳)38 例を対象に,0.7 g / kg 体重の低たんぱく質食を週7 日と週6 日実施する2 群にランダム化し30 カ月フォローした研究において,最終観察時のクレアチニンクリアランス低下は7 日群で2.77 ± 0.3 / mL / 年,6 日群で2.84 ± 0.3 / mL / 年と差を認めなかったが,うつ状態スコアや健康関連QOL スコアが6 日群でより良好であったという15).このことは食事制限を常時実施することより,週1 日であっても制限を解くことで腎機能への悪影響なく精神状態,健康関連QOL が保たれることを示しており,QOL を維持するという観点から一考に値する試みである. (厳格な)たんぱく質制限食と生命予後 2009 年に報告された MDRD 研究 Study B の長期追跡結果では,厳格なたんぱく質制限による生命予後悪化の可能性も示されている16).この元々のMDRD 研究 Study B はGFR 13 ~24 mL / 分/1.73 m2のCKD 患者255 例:2 型糖尿病3%)を対象として,アミノ酸・ケト酸アナログを併用した厳格なたんぱく質制限食(0.28 g / kg・基準体重/ 日:SVLPD 群)と通常のたんぱく質制限食(0.58 kg 基準体重/ 日: LPD)群)へランダム化し,中央値2.2 年間にわたり観察したRCT である.本試験終了後7 年経過時点で生存解析を行ったところ,SVLPD 群はESKDを単独のアウトカムにした場合は有意にリスクが低下せず(ハザード比 0.83,95%CI 0.62‒1.12),一方驚くことに死亡をアウトカムにした場合は有意なリ
スクの上昇がみられた(ハザード比1.92,95%CI 1.15‒3.20).なお,本研究で複合エンドポイント(ESKD または死亡)をアウトカムとした場合のハザード比は0.89(95%CI 0.67‒1.18)となり統計学的有意性が消失し,一見問題ないようにみえる.しかし,これは透析導入でアウトカム達成となり,その後の転帰が追跡されず透析導入後の死亡リスクが見過ごされていることを示しており,透析導入後の予後まで考慮した治療介入が重要であることが示唆される.なお,本研究ではSVLPD 群,LPD 群ともエネルギー摂取が22 kcal / kg・基準体重/ 日と不十分であったことも報告されている.0.6 g / kg・実体重/ 日以下のたんぱく質制限を行う場合にたんぱく質異化亢進を抑制するには35 ~40 kcal / kg・実体重/ 日以上のエネルギーが必要とされる.食事たんぱく質制限は既述のサルコペニアなどを介してQOL 低下や,さらにはここでみるような生命予後悪化にもつながる可能性があり,十分なカロリー摂取を担保し,体重減少をきたさないよう注意深い観察のもと慎重に行う必要がある. たんぱく質摂取量推定 これまで述べてきた食事たんぱく質制限を実施するに際しては,個々の患者のたんぱく質摂取量の把握にもとづいた指導がなされる必要があることは言うまでもない.スタンダードな方法は24 時間畜尿によるが,その実施は煩雑であり,ことに高齢者での実施は困難である.代替案としてスポット尿を用いることが考えられる.菅野らは,スポット尿からたんぱく質摂取量を推測する式を作成した17). 予測たんぱく質摂取量=13.9 +0.907×BMI(kg / m2)+0.0305× 尿UN 濃度(mg / dL)本推算式は,99 例,平均年齢57.0 ± 17.4 歳(男性53.5%),平均GFR =52.7 mL / 分/1.73m2 のCKD 患者を対象として24 時間蓄尿でのMaroni の式から得られたたんぱく質摂取量とスポット尿UN濃度の関係を検討したものである.対象者における高齢者の比率は明記されていないが,平均年齢から みて,この結果をそのまま高齢者に適用できるかは今後の検証が必要であろう.このような制限はあるが,スポット尿による摂取たんぱく質の推算式はこの報告が初めてであり,また日本人も対象とした研究によるものであるから,高齢者の食事指導を実施するに際して有用であると考えられる. 文献検索 データベース:PubMed 医中誌期間:1990 年~2016 年9 月までキーワード: chronic kidney disease,Elderly,protein restric- tion 参考にした二次資料 A) 日本腎臓学会編.慢性腎臓病に対する食事療法基準2014 年版,東京医学社,2014 B) 日本腎臓学会編.エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2013.東京医学社,2013 C) KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease. Kidney Int Suppl 2013;3:1 -150. D) 厚生労働省.日本人の食事摂取基準2015,432,厚生 労働省,2015 参考文献 1) Hemmelgarn BR,Zhang J,Manns BJ,et al.Progression of kidney dysfunction in the community-dwelling elderly. Kidney Int. 2006;69:2155-61. 2) Lorenzo V,Saracho R,Zamora J,et al.Similar renal decline in diabetic and non-diabetic patients with comparable levels of albuminuria.Nephrol Dial Transplant. 2010; 25:835-41. 3) Jones C,Roderick P,Harris S,et al.Decline in kidney function before and after nephrology referral and the effect on survival in moderate to advanced chronic kidney disease.Nephrol Dial. Transplant 2006;21:2133 -43. 4) Obi Y,Kimura T,Nagasawa Y,et al.Impact of age and overt proteinuria on outcomes of stage 3 to 5 chronic kidney disease in a referred cohort.Clin J Am Soc Nephrol. 2010;5:1558-65. 5) Shlipak MG,Stehman-Breen C,Fried LF,et al.The presence of frailty in elderly persons with chronic renal insufficiency.Am J Kidney Dis. 2004;43:861-7. 6) Fried LF,Boudreau R,Lee JS,et al.Kidney function as a predictor of loss of lean mass in older adults:health,aging and body composition study.J Am Geriatr Soc. 2007; 55:1578-84. 7) Hiraki K,Yasuda T,Hotta C,et al.Decreased physical function in pre-dialysis patients with chronic kidney disease.Clin Exp Nephrol. 2013;17:225-31.
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背景・目的 糖尿病を伴う75 歳以上の高齢者で,CKD ステージG3b ~5 のみの患者を対象として,厳格な血糖コントロールが腎および生命予後を改善するか否かを前向きに検証した介入試験は,最大限の検索を行った限り皆無である.また両者の関連を検討した観察研究も行われていない.そこで本CQ に対しては,まずCKD 患者における血糖コントロール指標の問題について考察したうえで,これまでの限られ たエビデンスから,糖尿病を合併する75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~5 患者における血糖コントロールの意義を検討し,最後に糖尿病治療薬を選択するうえでの提言を行った. 血糖コントロール指標の限界 CKD の合併がない糖尿病患者における血糖コントロール指標として,若・壮年者,高齢者を問わず,外来受診時の空腹時あるいは食後血糖値に加え,過去1 ~2 カ月間の平均血糖値を反映するHbA1c が 糖尿病を合併する75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~5 患者における血糖コントロールは,ESKD への進展を抑制し,生命予後を改善するか? 5.高齢者におけるCKD 診療のポイント ● 推 奨 ● ●糖尿病を合併する75 歳以上の高齢CKD ステージG3b ~5 患者における血糖コントロールのESKDへの進展あるいは生命予後に対する効果は不明であり,単一の血糖目標値を提案することは困難である. ●そこで血糖目標値は,個々の患者の罹病期間,臓器障害,低血糖の危険性,サポート体制などを考慮して,個別に設定すべきである. ●ただし,ヘモグロビンA1c(HbA1c)およびグリコアルブミン(GA)は,糖尿病を合併するCKD ステージG3b ~5 患者の血糖コントロール状態を正しく反映しえないため,参考程度に用いる. ●糖尿病を伴う高齢CKD 患者は低血糖のハイリスクであり,極力,低血糖の発症を避けるべきである.また典型的な低血糖症状に乏しいため,糖尿病治療薬の選択には十分注意する必要があり,また糖尿病専門医との連携が強く勧められる.
用いられている.ただしCKD 患者では,主として赤血球寿命の短縮による腎性貧血や,その治療に用いられるESA の投与により,HbA1c が低下する1).そのためCKD 患者におけるHbA1c 値は,血糖コントロールを過小評価することになる.一方,GA は赤血球寿命やESA 投与の影響を受けないことから,日本透析医学会「血液透析患者の糖尿病治療ガイド2012」2)においても,血液透析患者(CKD ステージG5D)における,HbA1c に代わる血糖コントロール指標として推奨されている.しかしCKD ステージG3b ~5 の糖尿病腎症患者では,多くがネフローゼ領域の高度蛋白尿を伴っており,その場合,血中アルブミンの半減期が短縮するためGA は低値となる3).そのため,おそらく年齢を問わず,CKD ステージG3b ~5 における血糖コントロール指標として,GA を用いることにも問題があると思われる.ただし,高齢のCKD ステージG3b ~5 の糖尿病患者では,その原疾患として腎硬化症の割合が比較的高いことが予想される.その場合,蛋白尿が比較的軽度であり,GA 値への影響が少ない可能性が考えられるが,詳細は不明であることから今後の検討が必要である.その他の血糖コントロール指標として,フルクトサミンと1,5-アンヒドロ-D-グルシトール(1,5-AG)がある.フルクトサミンは,糖化血漿蛋白を測定しているが,血漿蛋白の約60%がアルブミンであることから,GA とほぼ同じ動態を示すと考えられ, CKD 患者において同様の限界がある.1,5-AG は食物から摂取される糖アルコールで,尿糖排泄量と相関して低下する,短期間の血糖コントロール指標である.CKD 患者ではGFR の減少に伴い尿糖排泄量が減少することから1,5-AG の測定値にも影響し,コントロールの指標として使用できない. 血糖目標値の設定に関する問題 以上より,CKD ステージG3b ~5 における糖尿病のコントロール指標としては,年齢を問わず,血糖値そのもので評価せざるを得ない.ただし,高い エビデンスレベルで目標値を設定するためには,厳密には,それ未満に血糖値を下げることを意図としたintention-to-treat(ITT)によるRCT が必要であり,介入あるいは観察研究中に達成された血糖値と転帰との関連には,血糖値以外の交絡因子の影響を除外できない可能性がある.ただし,糖尿病を合併したCKD 患者におけるこのようなRCT は,最大限の検索を行った限り皆無であった.そのため,現時点で一律に血糖の目標値を提案することは困難といわざるを得ない. 2012 年にアメリカ糖尿病学会(American Diabetes Association:ADA)とヨーロッパ糖尿病学会(European Association for the Study of Diabetes:EASD)が共同で発表した声明4)では,糖尿病患者に対して画一的に厳格なコントロールを求めるのではなく,個々の患者における1治療に対する態度や意欲,2低血糖など糖尿病治療に伴う有害事象に対するリスク,3糖尿病罹病期間,4余命,5重大な併発症や6血管合併症の有無,さらには7患者に対するサポート体制などによって,より厳格な,あるいはより穏やかなコントロールを行うかを考慮することが提唱された.加えて2016 年には,高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会から,「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c)」5)が発表され,高齢糖尿病患者の心身機能カテゴリーや重症低血糖が危惧される薬剤使用の有無別に,目標とされるHbA1c 値が提唱された.最近のこれらの指針から,高齢者では糖尿病治療の個別化がより求められるが,特にCKD 患者では低血糖のリスクが高いことから,血糖目標値を緩くせざるを得ないことが多い.なお,上述したCKD 患者のHbA1c 測定値に対する影響から,上記の高齢者糖尿病の血糖目標値をCKD ステージG3b ~5 の75 歳以上の高齢者に適応することはできない. CKD 患者におけるHbA1c には上記の問題が存在するが,それでも糖尿病腎症患者におけるHbA1c
と腎症進展との関連を検討した観察研究が散見される6 ~10).比較的少数例の単一施設あるいは多施設の臨床研究では,いずれも両者の間に有意な関連が認められなかった6 ~9).しかし,カナダから報告された,アルバータ州在住の18 歳以上の糖尿病CKD 患者23,296 例,平均年齢71.7 ± 11.4(標準偏差)歳を対象とした大規模コホート研究では, CKD ステージG4 においてもHbA1c が9%を超える患者では,7%未満の患者に比べ,死亡,入院,心筋梗塞,脳卒中に加え,血清クレアチニン値の2倍化リスクが有意に増加することが明らかにされた10).なお,この研究結果から治療によって血糖コントロールを改善することがこれらのリスクを低減するかは不明である.一方,HbA1c が6.5%未満で死亡リスクが増加していたことから10),HbA1cの下限値の設定は可能かもしれない.今後日本人多数例での検討が必要である. 糖尿病治療薬の選択,特に低血糖予防の重要性 糖尿病の薬物療法には経口薬と注射薬があり,経口薬は現在7 クラスが,注射薬ではインスリンとGLP-1 受容体作動薬が使用可能である(表).CKDステージG3b ~5 の糖尿病患者に対してわが国で使用可能な経口糖尿病薬は,α-グルコシダーゼ阻害薬,速効型インスリン分泌促進薬,およびDPP-4阻害薬の3 クラスである.α-グルコシダーゼ阻害薬はアカルボース,ボグリボース,ミグリトールのいずれも使用可能,速効型インスリン分泌促進薬はミチグリニドとレパグリニドが使用可能であるが,ナテグリニドは透析を必要とするような重篤な腎機能障害のある患者では,低血糖を起こす恐れがあるため禁忌とされている. DPP-4 阻害薬は現在,連日投与型7 剤8 製剤(シタグリプチン,ビルダグリプチン,アログリプチン,リナグリプチン,テネリグリプチン,アナグリプチン,サキサグリプチン)と週1 回投与型2 剤(オマリグリプチン,トレラグリプチン)が上市されている. これらのうち,トレラグリプチンが高度の腎機能障害患者または透析中のESKD 患者で禁忌であり,シタグリプチン,アログリプチン,アナグリプチン,サキサグリプチン,およびオマリグリプチンは,腎機能低下患者に対する用量調節が必要とされている.最近上市されたSGLT-2 阻害薬は,腎糸球体で濾過されたブドウ糖の近位尿細管での再吸収を抑制し,尿への排泄を増加することで血糖を降下させるため,その作用機序からCKD ステージG3b ~5 という高度腎機能低下時には,その効果が期待できない.注射薬のうち,インスリンは全製剤とも慎重投与にて使用可能である.GLP-1 受容体作動薬のうちエキセナチドは,消化器系副作用により忍容性が認められていないため,透析患者を含む重度腎機能障害のある患者で禁忌である.リラグルチド,リキシセナチド,さらには週1 回投与型のデュラグルチドは使用可能である. CKD 患者では,腎血流低下に伴うインスリンの排泄遅延や糖新生の減少,さらにはグルカゴンなど糖拮抗調節ホルモンの反応低下などにより,低血糖の頻度が高く,また遷延しやすい.低血糖昏睡のため救急搬送された糖尿病患者では,高齢で腎機能が低下しており,インスリンあるいはスルホニル尿素薬の使用者が多かったことが報告されている11).高齢者では,低血糖時に典型的な症状を欠き,急激な意識低下や認知症様の症状を認める場合もある.重症低血糖が心血管病リスクを増加させることが最近注目されており12),その発症を極力避ける努力が必要である.以上の点から,CKD ステージG3b ~5 の75 歳以上の高齢者に対する糖尿病治療薬の選択の際,低血糖を起こしにくい薬剤を優先すべきである.インスリン分泌が廃絶した1 型糖尿病ではインスリンの使用が必須であるが,2 型糖尿病では,単独使用で低血糖を起こす可能性が極めて少なく,その他の副作用も少ないDPP-4 阻害薬が使用しやすい.DPP-4阻害薬のみでコントロール不十分な場合には,α-
グルコシダーゼ阻害薬あるいは速効型インスリン分泌促進薬の併用,持効型インスリンの併用(bolussupported oral therapy,BOT 療法),さらにはインスリンへの変更を試みることを提案する.ただしこれ ら糖尿病治療薬選択のうえでは,糖尿病専門医へのコンサルテーションを強く推奨したい. 種 類一般的名称商品名(主なもの)添付文書の記載 経口血糖降下薬スルホニル尿素薬グリベンクラミドオイグルコン/ ダオニール禁忌 グリクラジドグリミクロン禁忌グリメピリドアマリール禁忌 ビグアナイド薬メトホルミングリコラン/ メデット禁忌 メトグルコ禁忌 ブホルミンジベトス禁忌 α - グルコシダーゼ阻害薬アカルボースグルコバイ慎重投与 ボグリボースベイスン慎重投与ミグリトールセイブル慎重投与 チアゾリジン薬ピオグリタゾンアクトス禁忌速効型インスリン分泌促進薬ナテグリニドスターシス/ ファスティック禁忌 ミチグリニドグルファスト慎重投与レパグリニドシュアポスト慎重投与 DPP-4 阻害薬連日投与型 シタグリプチンジャヌビア/ グラクティブ慎重投与ビルダグリプチンエクア慎重投与アログリプチンネシーナ慎重投与リナグリプチントラゼンタ記載なしテネリグリプチンテネリア記載なしアナグリプチンスイニー慎重投与サキサグリプチンオングリザ慎重投与週1 回投与型オマリグリプチンマリゼブ慎重投与トレラグリプチンザファテック禁忌 SGLT-2 阻害薬イプラグリフロジンスーグラ投与しない ダパグリフロジンフォシーガ投与しないルセオグリフロジンルセフィ投与しないトホグリグロジンアプルウェイ/ デベルザ投与しないカナグリフロジンカナグル投与しないエンパグリフロジンジャディアンス投与しない GLP-1 受容体作動薬連日投与型 リラグルチドビクトーザ記載なしエキセナチドバイエッタ禁忌リキセナチドリキスミア記載なし週1 回投与型持続性エキセナチドビデュリオン禁 忌デュラグルチドトルリシティ記載なし 表1 各経口血糖降下薬およびGLP-1 受容体作動薬の重篤な腎機能障害のある患者または透析患者における 添付文書の記載
文献検索 データベース:PubMed 医中誌期間:1990 年~2016 年9 月までキーワード: chronic kidney disease,elderly,diabetes melli- tus,慢性腎臓病,高齢者,糖尿病 参考文献 1) Shima K, Chujo K, Yamada M, et al. Lower value of glycated haemoglobin relative to glycaemic control in diabetic patients with end-stage renal disease not on haemodialysis. Ann Clin Biochem. 2012;49(Pt 1):68-74. 2) 中尾俊之,阿部雅紀,稲葉雅章,他.血液透析患者の糖尿病治療ガイド2012.透析会誌2013;46: 311-357. 3) Okada T, Nakao T, Matsumoto H, et al. Influence of proteinuria on glycated albumin values in diabetic patients with chronic kidney disease. Intern Med. 2011;50:23-29. 4) Inzucchi SE, Bergenstal RM, Buse JB, et al. Management of hyperglycaemia in type 2 diabetes: a patient-centered approach. Position statement of the American Diabetes Association(ADA)and the European Association for the Study of Diabetes(EASD). Diabetologia. 2012;55:1577-96. 5) 高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日 本老年医学会の合同委員会.高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について.http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=66 6) Yokoyama H, Tomonaga O, Hirayama M, et al. Predictors of the progression of diabetic nephropathy and the beneficial effect of angiotensin-converting enzyme inhibitors in NIDDM patients. Diabetologia. 1997;40:405-11. 7) Ueda H, Ishimura E, Shoji T, et al. Factors affecting progression of renal failure in patients with type 2 diabetes. Diabetes Care. 2003:26;1530-534. 8) Rossing K, Christensen PK, Hovind P, et al. Progression of nephropathy in type 2 diabetic patients. Kidney Int. 2004; 66:1596-605. 9) Keane WF, Brenner BM, de Zeeuw D, et al. The risk of developing end-stage renal disease in patients with type 2 diabetes and nephropathy: the RENAAL study. Kidney Int. 2003;63:1499-507. 10) Shurraw S, Hemmelgarn B, Lin M, et al. Association between glycemic control and adverse outcomes in people with diabetes mellitus and chronic kidney disease: a populationbased cohort study. Arch Intern Med. 2011;171:1920-7. 11) Haneda M, Morikawa A. Which hypoglycaemic agents to use in type 2 diabetic subjects with CKD and how? Nephrol Dial Transplant. 2009;24:338-41. 12) Goto A, Arah OA, Goto M, et al. Severe hypoglycaemia and cardiovascular disease: systematic review and meta-analysis with bias analysis. BMJ. 2013;347:f4533.
慢性腎不全のcommon pathway 慢性腎不全の原因は多彩であり,その進展の機序や速度は原因疾患によってさまざまであるが,進展の機序にいくつかの共通点もみられる.こうした進展機序へ総合的に対策を行うことが慢性腎不全の治療のポイントとなる. 1 免疫学的機序 糸球体腎炎の発症機序には,補体や免疫複合体,マクロファージ,サイトカインなどによるメサンギウム細胞の活性化が関与している.体内で生じた抗原抗体反応からなる免疫複合体が糸球体に沈着し,主として補体活性化による直接的な組織障害と,各種の炎症細胞の賦活化により放出されたサイトカインによる間接的な組織障害により糸球体腎炎が発生すると考えられている.このほかにも細胞性免疫の関与,好中球やマクロファージ,単球の組織浸潤と活性化の関与が生じる. 2 血液凝固系因子 糸球体腎炎では内因性凝固系のほか,凝固活性因子が放出され外因性凝固系も賦活化され,血管内凝固,血栓形成が出現する.さらに血小板も活性化されることにより,炎症惹起物質が放出され血管収縮や血管透過性亢進,メサンギウム細胞の増殖促進を呈する. 3 血行力学的因子 さまざまな原因により糸球体障害が進行しネフロン数が減少すると,腎糸球体内微小循環系における血流量の増加と糸球体毛細血管内圧の上昇による残存ネフロンのGFR が増加する糸球体過剰濾過(hyperfiltration)が生じる.これにより蛋白尿の増加をもたらし,メサンギウム細胞障害,糸球体硬化へ進展する.糸球体毛細血管高血圧の是正により,腎障害の進展抑制に重要な役割を果たしていると考えられる.また,全身性の高血圧により,容量負荷,交感神経系の亢進,RA 系が関与して腎障害の悪化要因となることも古くから知られており,糸球体高血圧と 保存期慢性腎不全患者は,ESKD の予備軍であり,かつCVD の発生リスクも高い集団である.保存期慢性腎不全患者の厳格な管理は,新規透析導入の抑制のみならず,患者の生命予後やQOL の改善にも寄与できる. CKD ステージG3 以降になると,腎予備能の低下に対する残存ネフロンの代償機能が保てなくなり,血圧の上昇,体液過剰,電解質異常がみられるようになる.さらに腎性貧血,CKD-MBD,代謝性アシドーシスが出現してくる.こうした症候を一つ一つ対処することで,症候の改善だけでなく腎機能低下の抑制効果,CVD の発症予防も期待される. 6.慢性腎不全common pathway の治療
併せて,高血圧の治療は慢性腎不全の進展抑制に不可欠である. 4 二次的要因 前述のような慢性腎不全の進行機序に,二次的要因が加わることにより,腎障害がさらに悪化することがしばしば認められる.慢性腎不全患者では,感染症や過労,手術侵襲などのストレスにより,健常人に比べて腎機能が一段と低下することがある.これには体液分布異常による血管内脱水と腎血流低下,尿濃縮力障害による脱水などが関与していると考えられる.また,脱水や過降圧による腎血流の低下,造影剤や抗菌薬,抗悪性腫瘍薬,消炎鎮痛薬投与による薬剤性腎障害も腎機能低下の原因となる. 5 Final common pathway 糸球体腎炎,糖尿病性腎症,腎硬化症など原因は異なるが,腎機能がある程度低下すると,一定の速度で不可逆的な進行を呈することがわかっており, final common pathway の存在が考えられている.このfinal common pathway には従来,糸球体過剰濾過による糸球体硬化が提唱されていたが,近年は,蛋白尿による尿細管障害や尿細管周囲毛細血管の減少や線維化による低酸素状態も注目されている.さらに,低酸素から酸化ストレスが生じたり,酸化ストレスが細胞の酸素利用効率を低下させるなど,相互に悪循環をきたしている. 慢性腎不全の具体的治療法 1 生活習慣 1)体重管理BMI 25 以上の肥満はCKD の新規発症およびCKD ステージG1 ~3 におけるESKD のリスクファクターである1 ~3).過剰な脂肪蓄積は交感神経系 やRA 系を刺激し,糸球体のhyperfiltration や腎でのNa 再吸収を増加させ,蛋白尿や腎障害を引き起こすことが推測されている.一方,台湾の報告からは,MetS がCKD ステージG1 ~3 ではCKD 進行の有意なリスクとなるも,CKD ステージG4, 5 では有意なリスクとはならなかったとの報告がある4),CKD ステージG3 ~5 を対象としたBMI と予後の関連のメタ解析では,過少体重では総死亡リスクが上昇するもBMI 25 以上35 未満で総死亡リスクは最小であり,BMI と腎機能悪化の相関は一定の傾向はなかったと報告している5).保存期腎不全の栄養管理を行ううえで,食事制限のほかに,BMIも考慮に入れる必要があると考えられる. 2)禁煙指導喫煙が腎障害を引き起こす要因には,ニコチンによる脈拍や血圧の上昇のほか,喫煙による腎血管の収縮,腎血流の低下など血行動態への影響に加えて,ニコチンによるメサンギウム細胞の増殖やフィブロネクチンの増加,TGF-β1 産生増加による腎線維化の促進,カドミウムや鉛の曝露による腎毒性などがあげられる.また喫煙により動脈硬化が進展するとCVD の発症および進行に大きく寄与する.喫煙はCKD ステージG1, 2 の発症およびCKD ステージG3 ~5 の発症のリスクファクターであり1), IgA 腎症においても喫煙は用量依存性に腎機能低下を有意に悪化するリスクファクターであることが報告されている6).一方,CKD ステージG3b 以降の集団における喫煙単独と腎機能低下の関係について明らかにした報告はなく,今後更なる研究が期待される. 3)節 酒 エタノール20 g / 日以上を超える飲酒は,CKD ステージG1, 2 の発症およびCKD ステージG3 ~5 の発症のリスクファクターとなる可能性が示唆されている1).連日多量の飲酒がGFR 60 mL / 分/1.73 m2未満の発症と相関関係にあるとの報告もある7). CKD ステージG4, 5 の集団におけるアルコール
摂取量と腎機能増悪の関係について明らかにした報告はない.腎機能が低下した症例では飲酒を自粛するか,自然と飲酒量が減少する可能性もあるため,腎機能低下と飲酒量の因果関係を慎重に検討する必要がある. 4)水分摂取量の管理脱水は透析導入前のCKD 患者において腎血流減少による腎機能低下のリスクファクターとなるため,その予防と対処が必要である.高熱による多量の不感蒸泄や,下痢,嘔吐による消化管からの体液の喪失,食欲不振による経口摂取の低下などが脱水の原因となる.特に高齢者では動脈硬化により腎血流の低下をきたしやすく,CVD を合併している場合はその増悪にも注意する必要がある.また降圧薬や利尿薬を服用しているCKD 患者に脱水が重なると腎機能低下が助長されることもあるため,その際は投薬量の調整が必要となる.一方,GFR 25 ~55 mL / 分/ 1.73 m2 の集団において,多い尿量と低い尿浸透圧は腎機能悪化のリスクとなることが示されており,CKD ステージG3以降の集団において水分負荷がCKD を悪化させる危険性も示された8). 2016 年に発表された水分負荷とCKD のレビューでは,CKD ステージG1 ~4 では尿浸透圧が高いと透析導入のリスクが高まり,水分補給による是正が期待される論文を紹介しているが,多くの観察研究では水分摂取量は自己申告であることや,水分の中に含まれる清涼飲料水の糖質が与える悪影響を考慮すると,腎機能と水分摂取の関連を厳密に評価するためにはランダム化比較研究が必要だとしている9).以上から,CKD ステージG3 以降においては,個々の状態に合わせた,脱水および水分過剰にならないよう,適切な水分量の管理が推奨される. 5)運 動CKD の各病期を通して,過労を避け,十分な睡眠や休養を取ることは必要であるが,倦怠感が著明な場合や全身浮腫,心不全を呈する場合を除き,運動量は個々の腎機能などに併せて調節する. CKD ステージG3, 4 に対して運動療法を安全に 施行でき,運動耐用能やQOL を改善できた報告がある10, 11).英国からは,CKD ステージG3 の患者に運動療法を行った群は行わない群に比べて有意に腎機能の悪化速度が改善した報告がある12)が,対象が20 例であり今後さらに大きな集団での検証が望まれる.また中国からは,2003 ~2013 年のCKD ステージG3 ~5 の6,363 例を調査し,歩行習慣のある群がない群に比べて,年齢や腎機能,合併症に独立して有意にESKD や死亡のリスクが軽減することが報告された13).今後,CKD ステージG3b 以降の集団において,運動が腎機能に与える影響についてさらに研究が進むことが期待される. 2 食事管理 1)減 塩CKD 患者では食塩の過剰摂取により高血圧をきたしやすい.またGFR が低下した状態では食塩の過剰摂取により細胞外液量の増加を招き,浮腫,心不全,肺水腫の原因ともなる.CKD ステージG3の集団において,尿中Na / クレアチニン比が100 mEq / g 上昇するとESKD のリスクが1.61 倍になることが報告されている14).CKD ステージG3, 4 において,低塩分群(Na 60 ~80 mmol / 日)と高塩分群(Na 60 ~80 mmol +120 mmol / 日)を比較したRCT では,低塩分群で血圧低下,体液過剰の改善,アルブミン尿および蛋白尿の減少を認め,その改善効果は非CKD に比べて大きかった15). CKD 全般において,ESKD および死亡のリスク抑制のために,食塩摂取量は6 g / 日未満が推奨されるA, B).一方,食塩摂取量が極端に少ない場合に,腎機能低下や死亡のリスクが高まることが報告されている.低栄養状態を反映している可能性があるが, 3 g / 日未満の摂取制限は推奨しないとされるA)が,エビデンスは十分ではなく今後の検証が待たれる. CKD ステージG3b 以降においては前述の報告からも,食塩摂取量を6 g / 日未満に抑えることは
ESKD のリスクを抑えることから推奨される. 2)たんぱく質制限過度のたんぱく質摂取は糸球体のhyperfiltrationを促進し,腎機能低下時にはたんぱく質の代謝産物が尿毒素物質として蓄積することもある.このためたんぱく質もCKD の病期に合わせた摂取量の指導が必要である. CKD ステージG4, 5 への標準的治療としてのたんぱく質制限は,0.6 ~0.8 g / kg・標準体重/ 日で指導することを推奨し,CKD ステージG3a,b では 0.8 ~1.0 g /kg・標準体重/ 日からの指導もよいと されるA, C).ただし画一的な指導は不適切であり,個々の患者の病態やリスク,アドヒアランスを総合的に判断し,また腎臓専門医と管理栄養士による継続的な患者指導のもとに,たんぱく質制限を指導することが推奨されるA). 75 歳以上の高齢者へのたんぱく質制限については別項を参照されたい. 3)カリウム摂取量腎機能低下による尿中へのカリウム排泄低下や代謝性アシドーシスの進行に伴い,血清カリウム値は上昇する.高カリウム血症はCVD や生命予後とも相関し,また低カリウム血症は腎機能悪化のリスクとなり,適切な血清カリウム値の調整が必要である.カリウムの管理については本章CQ1 を参照されたい. 3 血圧管理 CKD と高血圧は密接な関係があり,血圧の上昇により腎機能の悪化をもたらし,また腎機能が悪化すると血圧がさらに上昇するという悪循環が生じる.高血圧の診断基準は診察室血圧と家庭血圧の双方で確立されており,血圧管理のためにはいずれも参考にする.高血圧の管理目標値については別項を参照されたい. 4 血糖管理 新規透析導入の原疾患の第1 位は糖尿病性腎症であり,糖尿病性腎症の進行抑制はCKD 対策の重要課題である.糖尿病性腎症の発症・進展抑制には血糖コントロールと血圧管理の双方が重要である.糖尿病合併CKD の血糖コントロールについては別項を参照されたい. 5 脂質管理 脂質異常症はCKD の発症,進行およびCVD 発症のリスクファクターである.CKD 患者にスタチンを投与すると蛋白尿の軽減効果や腎機能の低下抑制が期待されている.腎機能低下例ではスタチンとフィブラート系薬などの併用で横紋筋融解症を発現する頻度が高まり禁忌とされることが多く併用を控える.糖尿病合併CKD の脂質管理については別項を参照されたい. 6 尿酸管理 高尿酸血症はESKD のリスクファクターであり,腎機能低下により尿酸排泄が低下するため,さらに高尿酸血症の頻度が高まる.尿酸の管理目標値については本章CQ2 を参照されたい. 7 貧血 貧血はCKD 進行のリスクファクターであるとともに,CVD のリスクファクターでもあり,貧血の治療はESKD やCVD の発症を抑制するために重要である.腎性貧血以外の貧血の原因検索をすすめるとともに,腎性貧血の治療としてESA の投与を考慮する.国内では,血清クレアチニン値2 ~4 mg / dL およびヘマトクリット値30%未満の患者をESA投与群と非投与群に分けて比較したRCT において,
投与群で有意にヘマトクリット値が上昇し,腎機能増悪およびRRT 導入のリスクが有意に減少したとする報告がある16).国内外のシステマティックレビューでは,2 つの文献を除く23 の文献がCKD ステージG3 以降を対象としており,Hb 値 13.0 g / dLの群はHb 値 10.0 g / dL の群に比べて高血圧や脳卒中,入院が有意に増加するが,非致死的心筋梗塞やRRT 導入は有意差がなかった17).一方,国内の腎臓専門外来通院中のCKD 患者を前向きに観察したGonryo 研究において,Hb 値 10.0 g / dL 未満はHb値10 ~12g / dL に比べて,CKD ステージG3 では心血管イベントと全死亡の,CKD ステージG4, 5 ではRRT 導入の独立したリスクファクターであることが報告された18).わが国で行われたA21 研究は,保存期CKD 患者(Hb 値<10.0 g / dL,血清クレアチニン値:2.0 ~6.0 mg / dL)を対象とした多施設共同無作為化オープンラベル並行群間試験で,高Hb 値群(目標Hb 値 11.0 ~13.0 g / dL)と低Hb 群(目標Hb 値9.0 ~ 11.0 g / dL)を比較し,Cox 比例ハザードモデルに よる年齢,性,クレアチニンの基礎値などを勘案した相対リスクを計算すると,低Hb 値群に対して高Hb 値群では腎イベントの発生リスクが29%有意に低下することが認められた19).このことから,成人の保存期CKD 患者の場合,維持すべき目標Hb値は11 g / dL 以上13 g / dL 未満とし,複数回の検査でHb 値11 g / dL 未満となった時点で腎性貧血治療を開始することが提案されたD).ただし,重篤なCVD の既往や合併のある患者,あるいは医学的に必要のある患者では,Hb 値12 g / dL を超える場合に減量・休薬を考慮する.実際の診療においては個々の症例の病態に応じ,上記数値を参考として目標Hb 値を定め治療することを推奨する.また,貧血を合併するCKD 患者は鉄欠乏・鉄過剰となることがあるため,血清フェリチン値, TSAT による定期的な鉄評価を行い,必要に応じて鉄補充療法を行う. 8 CKD-MBD 管理 CKD の進行に伴い,骨ミネラルの代謝にも影響を及ぼしてくる.その影響は,生化学検査や骨の異常だけでなく,血管石灰化など全身の広範な異常を生じ,生命予後にも影響を及ぼす.高リン血症は,血清カルシウム濃度や活性型ビタミンD3 濃度と関連して,あるいは独立して副甲状腺ホルモンの分泌を促す. CKD-MBD 管理については別項を参照されたい. 9 代謝性アシドーシス 腎機能低下に伴い血中重炭酸濃度の低下,代謝性アシドーシスの進行が生じ,ひいては血清カリウム値の上昇をももたらす.代謝性アシドーシスについては本章CQ3 を参照されたい. 10 尿毒症毒素管理 尿毒症毒素とは,健常な腎臓から排泄される体内の不要な物質で,腎機能の障害により蓄積し,生体の機能に悪影響を及ぼすもの,と定義される.腎不全の進行に伴い,尿毒症毒素の体内への蓄積も進行し,CVD や貧血,骨ミネラル異常などさまざまな症状の悪化に関与する.球形吸着炭は消化管内で尿毒症毒素を吸着する作用を有する.国内では血清クレアチニン値5.0 mg / dL 未満を対象にしたRCT で,球形吸着炭投与群と非投与群で血清クレアチニン値の2 倍化,血清クレアチニン値の6.0 mg/dL 以上への到達,RRT 導入には有意差はなかったが,eGFRの変化率は投与群で有意に改善がみられた20).一方,海外では男性で血清クレアチニン値2.0 ~5.0 mg/ dL,女性で血清クレアチニン値1.5 ~5.0 mg/dL を対象としたRCT で,血清クレアチニン値の2 倍化, RRT 導入までの到達期間に有意差は認められなかった21).韓国ではCKD ステージG3,4 に対して球形吸着炭投与群と非投与群で比較し,尿毒素の変化,
腎機能悪化速度,生命予後,健康関連QOL に有意差がなかったと報告している22).腎機能の悪化速度により効果が異なる可能性については,今後の検討が必要である. 11 薬剤 CKD 患者においては,腎障害をきたす薬物の投与は極力避ける.代表的な薬剤は,造影剤,白金製剤などの抗悪性腫瘍薬,抗菌薬,NSAIDs などである.やむを得ず投与する場合は,腎機能の細やかなモニタリングが必要である.腎血流が低下しやすい高齢者,脱水状態,糖尿病の患者や利尿薬投与中の患者に腎障害をきたす薬剤を投与すると,腎障害の危険がさらに増大するため,特にCKD ステージG3b 以降の患者には細心の注意が必要である.複数の医療機関や診療科を受診している場合は,投薬内容の確認を行い,また市販薬やサプリメントの服用歴も十分に聴取する. 12 包括的治療 上述の各要素の治療や生活指導を総合的に行うことで,腎機能低下の抑制,生命予後の向上が得られる可能性はどうであろうか.Steno-2 研究23)では微量アルブミン尿を有する2 型糖尿病患者でCKD ステージG1 ~3 に相当する対象に平均7.8 年間介入研究を行い,複数の薬物療法および行動療法を行った強化療法群で,標準治療群より心血管イベント発生,心血管死亡,総死亡のいずれのリスクも有意に低下したが,CKD ステージG4 以降の進行したCKD 患者に関するデータはない. eGFR60 mL / 分/ 1.73 m2 未満を対象とした平均4年間の観察研究では,7 つの健康因子および行動(血圧,コレステロール,血糖,喫煙,身体活動性,食事,BMI)が適正範囲にある数が,1 つ未満の対象に比べ,2 ~4 つの対象でESKD への進行が抑えられ,総死亡についても同様の結果が得られた24).ただしeGFR とアルブミン尿で補正した場合この関 連は弱まり,腎障害が進行した症例にはこのほかにも介入が必要と考えられた. eGFR 20 ~70 mL / 分/1.73 m2 を対象とした平均 5.7 年間の介入研究で,看護師が外来で生活指導や 服薬管理,腎臓専門医への処方の進言,セルフケア指導を行った介入群と非介入群の比較では,CVDの発生には有意差は出なかったが,介入群でESKDや血清クレアチニン値2 倍化の発生を有意に抑制し,eGFR 悪化速度も有意に減少した25).国内からは,2007 年より開始された腎臓病戦略研究において,かかりつけ医で診療しているCKD患者に生活・食事指導や受診勧奨を継続的に行う積極介入群と行わない通常介入群をクラスターランダム化比較研究として3.5 年間実施し,CKD ステージG3 患者では積極介入群における腎機能の悪化速度が抑制されることが報告された26).かかりつけ医によるCKD ステージG3 患者に対する包括的指導は腎機能悪化抑制に効果があることが証明された.一方CKD ステージG4, 5 患者に対しては,かかりつけ医による包括的指導のみでは腎機能悪化速度に有意差はなく,腎臓専門医の診療介入の必要性が考えられた. 今後の課題 保存期慢性腎不全の治療においては,生活習慣や食事など,さまざまな項目に対する介入が必要であるが,そのなかで標準的な治療における優先度の順位づけが可能か否かを検討することが課題である.特にCKD ステージG3 ではMetS などの治療が優先されることが多いが,CKD ステージG4 へ進行してくると貧血・尿酸・尿毒症毒素など,治療の優先順位が異なってくる可能性がある. 参考にした二次資料 A) 日本腎臓学会編.エビデンスに基づくCKD 診療ガイ ドライン2013.東京医学社,東京,2013
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CKD ステージG3b 以降の患者では,尿中からのカリウム排泄量が低下し,高カリウム血症が出現しやすい.高カリウム血症が高度になると不整脈や心停止のような致死的な合併症をきたす危険があり,その回避のために緊急で透析療法を必要とする場合もある.CKD ステージG3b 以降の患者で高カリウム血症をきたす要因として,脱水,食事およびサプリメントに含まれるカリウムの摂取過多,代謝性アシドーシス,RA 系阻害薬やβ遮断薬,NSAIDs など薬剤投与によるものがある.一方,CKD 患者における低カリウム血症も,生命予後や腎機能への影響が指摘されており,人工透析導入および死亡リスクの抑制のための血清カリウム濃度管理目標を設定することは重要である. カリウム異常と腎予後の関連 RA 系阻害薬投与による高カリウム血症と腎機能に関して,RENAAL 研究に参加した2 型糖尿病および腎症を有し,平均eGFR が30 台である1,513例を平均3.4 年観察し,ロサルタン投与群で高カリ ウム血症(5.0 mEq / L 以上)のリスクが高かった(オッズ比 2.80,95% CI 2.02-3.88)1).また6 カ月後の血清カリウム値が5.0 mEq / L 以上の群が,血清クレアチニン値の2 倍化あるいはESKD のリスクが有意に高かった(ハザード比 1.22,95%CI 1.00-1.50).2 型糖尿病患者へのロサルタンの投与は血清カリウム値を上昇させ,さらに腎機能低下のリスクにつながっていた.RA 系阻害薬内服中かつ高カリウム血症(5.5 mEq / L 以上)を有するCKDステージG3 ~4 の258 例を平均45.7 カ月観察し,血清カリウム値の変化はRA 系阻害薬継続群で5.79 (± 0.38)mEq / L から5.39(± 0.52)mEq / L,RA系阻害薬中止群で5.77(± 0.48)mEq / L から5.23(± 0.61)mEq / L であり,いずれも高カリウム血症は5.5 mEq / L 未満に是正された2).RA 系阻害薬を3 カ月以上中止した群では血清クレアチニン値の2 倍化あるいは透析導入のリスクが有意に高かった(ハザード比 1.35,95%CI,1.08-1.92).蛋白尿(gCr補正)が1g / g・Cre 以上のサブグループ解析でもRA 系阻害薬中止群は同リスクが有意に高かった.なお,高カリウム血症の悪化や高カリウム血症による入院・死亡については差がなかった.RA 系阻害 CKD ステージG3b 以降の患者における,人工透析導入および死亡リスクの抑制のための血清カリウム値のコントロール目標はどのくらいか? 6.慢性腎不全common pathway の治療 ● 推 奨 ● CKD ステージG3b 以降の患者の腎機能の悪化抑制,死亡リスクの観点から,血清カリウム値は4.0 mEq / L 以上,5.5 mEq / L 未満を維持することを推奨する.
薬使用中に高カリウム血症(5.5 mEq / L 以上)が生じても,注意深いモニタリングや食事指導を行いながらカリウムを是正したうえ,RA 系阻害薬内服を継続することで腎予後が保たれると考えられた. ONTARGET 研究に参加した25,620 例とTRAN- SCEND 研究に参加した5,926 例(55 歳以上,CKDステージG1 ~5)において,尿中カリウム排泄量が最も高い群でeGFR の30%低下あるいは維持透析(オッズ比 0.74,95%CI 0.67-0.82),蛋白尿の増加(オッズ比 0.76,95%CI 0.69-0.84)が有意に低かった3).尿中カリウム排泄量が多い群は腎機能が保持されており,カリウムを十分摂取できていない患者や腎機能低下のためカリウム制限を行っている患者は含まれていない点を考慮する必要がある.米国のCKD ステージG3 ~4 の患者36,359 例において,透析導入のリスクは4.0 ~4.9 mEq / L に比べ<3.5 mEq / L でハザード比 0.97(95%CI 0.67- 1.40),3.5 ~3.9 mEq / L でハザード比1.39(95%CI 1.13-1.70),5 ~5.4 mEq / L でハザード比 1.17(95% CI 0.96-1.42),≧5.5 mEq / L で1.20(95%CI 0.91- 1.58)であり,GFR 60 mL / 分/1.73 m2 未満において,血清カリウム値が3.5 ~3.9 mEq / L は透析導入のリスクであった.なお本研究では血清クレアチニン値の2 倍化など,腎機能悪化については検討されていない 4).RRI-CKD 研究に参加した,18 歳以上,クレアチニンクリアランス50 未満の834 例を平均2.6年間観察し,ESKD は血清カリウム値4.0 mEq / L以下で有意に高かった(オッズ比 1.69,95% CI 1.25-2.29)5).対象者には高用量のループ利尿薬を使用している症例や経口摂取不良の症例,カリウム制限食を実施している症例を含むことを考慮する必要がある.台湾のCKD ステージG1 ~4 の患者2,500例において,ESKD のリスクは,4.5 ~5 mEq / L に比べ,<3.5 mEq / L でハザード比 1.82(95% CI 1.03-3.22),3.5 ~4 mEq / L でハザード比 1.67(95% CI 1.19-2.35),>5 mEq / L でハザード比 1.60(95% CI 1.09-2.34)と有意に高かった6).以上より,血清カリウム値が4.0 mEq / L 未満,あるいは5.0 mEq / L 以上でESKD のリスクが高かっ た.ただし腎機能低下例は高カリウム血症を併発しやすい点に留意する必要がある. カリウム異常と心血管イベント・死亡との関連 米国退役軍人のコホートで入院経験のある245,808 例では,高カリウム血症発症1 日以内の死亡リスクは,血清カリウム値が高くなるほど有意に高く,GFR 60 mL / 分/ 1.73 m2 未満では血清カリウム値5.5 mEq / L 以上6.0 mEq / L 未満群(オッズ比5.40(95%CI 4.72-6.18)および6.0 mEq / L以上群(オッズ比 15.82(95%CI 13.97-17.93)の死亡リスクが有意に高かった7).またCKD ステージが低いほど高カリウム血症における死亡リスクが高く,血清カリウム値5.5 mEq/L 以上での死亡リスクは悪性腫瘍の合併あり(オッズ比 1.16,95%CI 11.13-1.19),糖尿病の合併あり(オッズ比 1.51,95%CI 11.47-1.55), CVD あり(オッズ比 1.14,95%CI 11.12-1.17)で有意に高かった.以上より高カリウム血症を呈する背景疾患の重篤性により死亡リスクが影響されると考えられた.前述のRRI-CKD 研究(18 歳以上,クレアチニンクリアランス50 未満の834 例の平均2.6 年間観察)では,死亡は低カリウム血症群で有意に高く(オッズ比 1.73,95%CI 1.02-2.95),心血管イベントは高カリウム血症群で有意に高かった(オッズ比 1.75,95%CI 1.18-2.62)5). The Digitalis Investigation Group 研究に参加した症例でeGFR 45 mL / 分/ 1.73 m2 未満のうち,propensity score でマッチングし た各群169 例では,血清カリウム値4.0 mEq / L 未満群において,総死亡(ハザード比 1.53,95%CI 1.07- 2.19),CVD による死亡(ハザード比 1.49,95%CI 1.00-2.21),心不全悪化による死亡(ハザード比 2.47, 95%CI 1.41-4.34),入院(ハザード比 1.54,95%CI 1.11-2.14)のいずれも有意に高かった.CKD ステージG3b 以降において,血清カリウム値4.0 mEq / L未満は総死亡,CVD による死亡,心不全悪化による
死亡,入院のリスクであった8).また,米国の18 歳以上,eGFR <60 mL / 分/ 1.73m2 の55,266 例において,総死亡のリスクは血清カリウム値4.5 ~ 4.9 mEq / L に比べ,<3.5 mEq / L でハザード比3.05 (95%CI,2.53-3.68),≧6.0 mEq / L でハザード比 3.31 (95%CI,2.52-43.4)と有意に高かった.eGFR < 60 mL / 分/ 1.73 m2 では低カリウム血症,高カリウム血症ともに総死亡,不可逆性心血管イベント,入院,RA 系阻害薬中断のリスクであった9).米国のeGFR 60 mL / 分/ 1.73 m2 未満の患者36,359 例において,総死亡のハザード比は4.0 ~4.9 mEq / L に比べ<3.5 mEq / L で1.95(95%CI,1.74-2.18),3.5 ~ 3.9 mEq / L で1.16(95%CI 1.09-1.25)~5.4 mEq / L で1.12(95%CI 1.03-1.21),≧5.5 mEq / L で1.65(95% CI 1.48-1.84)と有意に高かった4).以上より,心血管イベントや死亡リスクは,血清カリウム値4.0 mEq / L 未満,ならびに5.5 mEq / L以上で共通して有意に高かった. 腎予後の改善のために推奨される血清カリウム値 上記の報告はいずれも観察研究であり,血清カリウム値が薬剤や併発症の影響を受けている可能性もあることから,血清カリウム値の管理による予後への影響を直接示すものではない.また,CKD ステージG3b 以降における,総死亡,CVD による死亡,入院のリスクの報告は1 件である.このため,エビデンスの強さはC とした.一方,高カリウム血症,低カリウム血症のそれぞれにおいて,腎予後,生命予後,心血管イベントや入院イベントは有意に関連しており,推奨の強さは1 とした.高カリウム血症については,2 型糖尿病へのRA系阻害薬の投与下では5.0 mEq / L 以上で腎機能低下のリスクとなり,RA 系阻害薬の投与によらず糖尿病,CVD,悪性疾患の合併下では5.5 mEq / L 以上で死亡のリスクであった.一方,RA 系阻害薬内服中に5.5 mEq / L 以上の高カリウム血症が存在し ても内服継続により腎予後が保たれていた報告もあったことから,RA 系阻害薬の調整や代謝性アシドーシスの補正,食事指導やカリウム吸着薬の処方を含む管理を行ったうえで,5.5 mEq / L 未満に管理することを推奨する.低カリウム血症については,対象をCKD ステージG3 以降とすると,総じて4.0 mEq / L 未満は死亡やESKD のリスクとなっており,利尿薬の投与や摂食不良の状態の有無について評価を行ったうえで,4.0 mEq / L 以上を保つことを推奨する. 文献検索 データベース:PubMed 医中誌期間:1990 年~2016 年9 月までキーワード: chronic kidney disease, end stage kidney disease, end stage renal disease, kidney failure, potassium, hyperkalemia hypokalemia 参考文献 1) Miao Y,Dobre D,Heerspink HJ,et al.Increased serum potassium affects renal outcomes:a post hoc analysis of the Reduction of Endpoints in NIDDM with the Angiotensin II Antagonist Losartan(RENAAL)trial.Diabetologia. 2011;54:44-50. 2) Lee JH, Kwon YE, Park JT, et al. The effect of renin-angiotensin system blockade on renal protection in chronic kidney disease patents with hyperkalemia. J Reni Angiotensin Aldosterone Syst. 2014;15(4):491-7. 3) Smyth A,Dunkler D,Gao P,et al. The relationship between estimated sodium and potassium excretion and subsequent renal outcomes.Kidney Int. 2014;86:1205-12. 4) Nakhoul GN, Huang H, Arrigain S, et al. Serum Potassium, End Stage Renal Disease and Mortality in Chronic Kidney Disease. Am J Nephrol. 2015;41:456-63. 5) Korgaonkar S,Tilea A,Gillespie BW,et al.Serum potassium and outcomes in CKD:insights from the RRI-CKD cohort study.Clin J Am Soc Nephrol. 2010;5:762-9. 6) Wang HH,Hung CC,Hwang DY,et al.Hypokalemia, its contributing factors and renal outcomes in patients with chronic kidney disease.PLoS One. 2013;8:e67140. 7) Einhorn LM,Zhan M,Hsu VD,et al.The frequency of hyperkalemia and its significance in chronic kidney disease.Arch Intern Med. 2009;169:1156-62. 8) Bowling CB,Pitt B,Ahmed MI,et al.Hypokalemia and outcomes in patients with chronic heart failure and chronic kidney disease:findings from propensity-matched studies. Circ Heart Fail. 2010;3:253-60.
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CKD ステージG3b 以降の患者において,高尿酸血症が腎機能低下をさらに増悪させる要因となるか? 死亡リスクに影響を与えるか? Iseki らは日本人16,630 例のコホート研究において,45 mL / 分/ 1.73 m2 未満の腎機能障害を認める群においても,高尿酸血症がeGFR のさらなる低下の独立したリスクファクターであること,さらに, 7.0 mg / dL 以上の尿酸値(女性においては6.0 mg / dL でも)はESKD の独立したリスクファクターであることを報告している1).Madero らは,MDRD研究の対象者838 例におけるコホート研究を行っている.CKD ステージG3, 4 において,血清尿酸値の上昇は全死亡や心血管死亡には関連するが, ESKD には関連せず,2 群間の比較では,非高尿酸血症群 (血清尿酸値 男性≦9.0 mg / dL,女性≦8.0 mg / dL,かつアロプリノールを使用していない)は高尿酸血症群と比較してESKD のリスクは減少していなかった2).また303 例のCKD ステージG3 ~5 の患者において,高尿酸血症(男性>7.0 mg / dL,女性 >6.0 mg / dL)が心血管イベントの独立したリスクファクターであることをKanbay らは報告している3).以上のようにCKD ステージG3b 以降の患者において,高尿酸血症が心血管イベントや全死亡リスクに影響を与えることが示唆されている.腎機能障害の増悪に関しては,Madero らの報告では否定的であったが,彼らの報告では高尿酸血症の基準値がほかと比べて高いことがこの結果になったとも考えられる.最近Uchida らは803 例のCKD ステージG3, 4 の患者において,propensity score を用いた統計手法で解析したところ,尿酸高値群はESKD のリスク増加と関連していたと報告している4).尿酸≧6.0 mg / dL でハザード比 4.53,6.5 mg / dL でハザード比 3.39,7.0 mg / dL でハザード比 2.19 であり,血清尿酸値は6.5 mg / dL 未満を目標とすべきであると考察している. CKD ステージG3b 以降の患者における,人工透析導入および死亡 リスク抑制のための尿酸のコントロール目標はどれぐらいか? 6.慢性腎不全common pathway の治療 ● 推 奨 ● CKD ステージG3b ~5 の患者の腎機能の悪化抑制,死亡リスク抑制の観点から,無症候性であっても血清尿酸値が7.0 mg/dL を超えたら生活指導,8.0 mg/dL 以上から薬物治療開始を推奨する.治療開始後は6.0 mg/dL 以下を維持することが望ましい.
高尿酸血症の治療がCKD ステージG3b 以降の患者における腎障害の進展や死亡リスクに与える影響について Siu らはCKD ステージG4 を含むCKD 患者54 例において,アロプリノール投与群とコントロール群との1 年後の血清クレアチニン値を比較した.コントロール群においてのみ血清クレアチニン値の有意な上昇を認め,アロプリノールの投与により,投与期間中の腎機能が保持されたと結論づけている5).またGoicoechea らは113 例のCKD ステージG4 を含むCKD の患者を対象に,アロプリノール投与群(eGFR 40.6 ± 11.3 mL / 分/ 1.73 m2),コントロール群(eGFR 39.5 ± 12.4 mL / 分/ 1.73 m2)に分け24カ月間観察した.アロプリノール投与群は,年齢,性別,糖尿病,CRP,アルブミン尿,RA 系阻害薬使用の有無に関係なく,腎障害の進行を遅延させた.またアロプリノール投与群は心血管イベント発症リスクを71%低下させた6).さらにTerawaki らは高血圧性腎症を原疾患とするeGFR <45 mL / 分/ 1.73 m2 の患者に対して,アロプリノールの使用が心血管病変の発症や全死亡のリスクを減少させたと報告した7).ただし,この効果は血清尿酸値とは独立しており,内因性のキサンチンオキシダーゼ活性が,腎機能障害を有する高血圧性腎症における大血管障害の進行に寄与している可能性を論じている. 2011 年から使用されているフェブキソスタットに関してもいくつかの報告がなされてきている. Shibagaki らはCKD ステージG3b ~5 の患者70 例に対してフェブキソスタットを24 週間投与したところ,CKD ステージG4, 5 の患者においてはeGFRの低下を認めたが,血清尿酸値のより大幅な減少がeGFR の維持と相関したと報告している8).ここでは尿酸値の達成目標を男女ともに6.0 mg / dL 以下と設定している.また最近,血清尿酸値が7.0 mg / dL 以上のCKD ステージG3, 4 の患者93 例に対するRCT が報告された9).フェブキソスタット服用群はプラセボ群と比較して6 カ月後のeGFR 低下が有意に抑制され(フェブキソスタット服用群では eGFR は有意ではないがむしろ増加),eGFR の10%以上の低下はフェブキソスタット服用群で有意に少なかった.現在わが国において,CKD ステージG3の痛風既往のない高尿酸血症患者を対象に,フェブキソスタットを用い,プラセボを対象とした無作為化二重盲検比較試験が進行中である(FEATHER 研究).さらに新規のXO 阻害薬であるトピロキソスタットも発売されており,今後の臨床研究の結果が待たれるところである. 血清尿酸値の目標値 以上のように論文数は少ないながらも,CKD ステージG3b ~5 の患者においても,高尿酸血症がCKD の進展と密接に関連すること,心・脳血管イベントや全死亡の独立したリスクファクターであり,尿酸値の低下がこれらのリスクを減少させることが示唆されている.ただし現時点では,CKD ステージG3b 以降の腎機能低下が進行した患者において,人工透析導入および死亡リスク抑制のために,尿酸値をどの程度まで積極的に低下させるべきかどうかについては明確にされていない.また,腎機能障害そのものにより出現する無症候性の高尿酸血症に対して,いつから薬物治療を開始すべきかにおいても議論の分かれるところである.高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインでは,高血圧やCKD を伴う高尿酸血症の治療において,生活指導ならびに尿酸代謝に好ましい降圧薬を用いても,血清尿酸値が8.0 mg / dL 以上の場合は尿酸降下薬の投与開始を考慮するとされている.近年腎機能が低下した患者に対しても尿酸を十分に低下させることができる薬剤が登場してきたことから,上述の臨床研究の結果を踏まえ,CKD ステージG3b ~ 5 の患者に対しても,血清尿酸値が7.0 mg / dL を超えたら生活指導,8.0 mg / dL 以上が薬物治療開始の目安と考えられる.しかし,前述したFEATHER 研究では,血清尿酸値が7.0 mg / dL を超えた患者を
対象としており,この結果によっては薬物治療開始の基準が早まる可能性もある.次に薬物治療開始後の血清尿酸値の管理目標についてであるが,Tsuruta らはCKD ステージG4 以降の患者を含むeGFR 45 mL / 分/ 1.73 m2 未満の高尿酸血症患者73 例に対し,51 例はアロプリノールからフェブキソスタットに切り替え,22 例はアロプリノールを継続した.フェブキソスタットに切り替えることにより腎機能障害の進行は有意に抑制されたが,フェブキソスタットに切り替えた群はアロプリノール継続群より有意に血清尿酸値が低下し,平均6.0 mg / dL 以下を達成していた10).これらの報告をもとに,CKD ステージG3b 以降の患者においても,現時点では血清尿酸値は6.0 mg / dL 以下を維持することを提案する.血清尿酸値の下限については,高度の低下による心血管イベントの増加や腎機能悪化の危険性も指摘されてきており,こちらも含めて今後のさらなる研究が期待される. 文献検索 データベース:PubMed 医中誌期間:1990 年~2016 年9 月までキーワード: chronic kidney disease, end stage kidney disease, end stage renal disease, kidney failure, hyperuricemia, cardiovascular risk参考文献 1) Iseki K,Iseki C,Kinjo K.Changes in serum uric acid have a reciprocal effect on eGFR change:a 10-year followup study of community-based screening in Okinawa,Japan.Hypertens Res. 2013;36:650-4. 2) Madero M,Sarnak MJ,Wang X,et al.Uric acid and long-term outcomes in CKD.Am J Kidney Dis. 2009; 53:796-803. 3) Kanbay M,Yilmaz MI,Sonmez A, et al.Serum uric acid independently predicts cardiovascular events in advanced nephropathy.Am J Nephrol.2012;36:324-31. 4) Uchida S, Chang WX, Ota T, et al. Targeting Uric Acid and the Inhibition of Progression to End-Stage Renal Disease--A Propensity Score Analysis. PLoS One. 2015; 23:10; e0145506. 5) Siu YP,Leung KT,Tong MK, et al.Use of allopurinol in slowing the progression of renal disease through its ability to lower serum uric acid level.Am J Kidney Dis. 2006; 47:51-9. 6) Goicoechea M,de Vinuesa SG,Verdalles U,et al.Effect of allopurinol in chronic kidney disease progression and cardiovascular risk.Clin J Am Soc Nephrol. 2010;5:1388- 93. 7) Terawaki H,Nakayama M,Miyazawa E, et al.Effect of allopurinol on cardiovascular incidence among hypertensive nephropathy patients:the Gonryo study.Clin Exp Nephrol. 2013;17:549-53. 8) Shibagaki Y,Ohno I,Hosoya T, et al.Safety,efficacy and renal effect of febuxostat in patients with moderate-tosevere kidney dysfunction.Hypertens Res. 2014;37:919 -25. 9) Sircar D, Chatterjee S, Waikhom R, et al. Efficacy of Febuxostat for Slowing the GFR Decline in Patients With CKD and Asymptomatic Hyperuricemia: A 6-Month, Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Trial. Am J Kidney Dis. 2015;66:945-50. 10) Tsuruta Y,Mochizuki T,Moriyama T, et al.Switching from allopurinol to febuxostat for the treatment of hyperuricemia and renal function in patients with chronic kidney disease.Clin Rheumatol. 2014;33:1643-8.
CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2017(2015 追補版) 74 CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2017(2015 追補版) 74 血中重炭酸濃度と腎機能,ESKD および全死亡リスク 重炭酸濃度と腎機能,ESKD リスクとの関係 については,いくつかのコホート研究が行われてきた. MDRD 研究ではCKD ステージG2 ~4 を対象としている(平均GFR39 ± 21 mL / 分/ 1.73 m2)が,重炭酸濃度が低い群は高い群に比べて,ESKD に至るリスクが高かった1).アフリカ系アメリカ人を対象としたAASK 研究では(ベースラインのGFR は46 mL / 分/ 1.73 m2),重炭酸濃度が正常範囲においても1 mEq / L 上昇するごとに透析導入,腎機能悪化速度(GFR の半減もしくはベースラインから25 mL / 分/ 1.73 m2 の低下)が低下した.また重炭酸濃度が28 ~30 mEq / L 付近で透析導入リスク,腎機能悪化速度が一番低かった2).重炭酸濃度と死亡リスクの関係も同様に研究されているが,この関係はU 字形に近いことが示されている.MDRD 研究では重炭酸濃度が24 ~25 mEq / L 群で最も死亡率が低かった.重炭酸濃度が低い場合は一貫して腎機能悪化や死亡のリスクが示されて いる一方で,高い場合の死亡リスク上昇も示されている. 代謝性アシドーシスの補正効果 CKD ステージが進行すると,一般的に代謝性アシドーシスの合併頻度が増加し,骨代謝異常や異化亢進,アルブミン合成低下などに影響するがA),重炭酸濃度を是正した場合の効果が注目される.これまで重炭酸濃度是正による腎機能低下抑制効果,栄養状態や内分泌ホルモンへの影響について,いくつかのRCT がある.de Brito-Ashurst らはCKDステージG4, 5 重炭酸濃度16 ~20 mEq / L の134 例を対象とした2 年間のRCT を行い,血中重炭酸濃度23 mEq / L 以上を目標とした重曹投与群と標準治療群を比較した.重曹投与群では,標準治療群に比べて腎機能低下速度が緩やかで,急速に腎機能が低下する症例頻度も低く,ESKD も少なかった3).また同試験では,重曹投与群で血清アルブミン値の上昇など栄養学的指標の改善が認められた.Jeong らは, CKD ステージG4, 5 重炭酸濃度22 mEq / L 以下の80例を対象とした1 年間のRCT を行い,重曹投与群と CKD ステージG3b ~5 以上において代謝性アシドーシスの治療に は腎保護効果があるか? 6.慢性腎不全common pathway の治療 ● 推 奨 ● 血中重炭酸濃度を適正にすると,腎機能悪化を抑制することが期待されるため,代謝性アシドーシスの補正を推奨する.
非投与群を比較した.CKD ステージG4 では,投与群は腎機能低下が抑制され,CKD ステージG5 では,腎機能悪化速度に差は認められないものの,栄養状態の改善が認められた4).Disthabanchong らは, CKD ステージG3 以下,重炭酸濃度22 mEq/L 以下の44 例を対象とした3 カ月間のRCT を行い,重炭酸濃度24 mEq/L 以上を目標とした重曹内服群と対照群を比較した.eGFR の低下は内服群で認めなかったが,対象群では低下が認められた(平均18.7 ± 7.8 vs 17.4 ± 7.5 mL / 分/1.73 m2;p =0.02)5).また同試験ではベースラインで半数以上に甲状腺ホルモン値の低下を認めていたが,内服群では甲状腺ホルモン値の上昇が認められた.システマティックレビューにおいてもCKD 患者に対する重炭酸濃度是正が,腎機能低下抑制に有効であることも示されている6).以上からCKD ステージG3 以降で,重炭酸濃度の是正は腎機能低下抑制や栄養学的指標の改善に有効あることが示唆されている.重炭酸濃度の是正の方法は,多くが重曹内服を用いているが3 ~5),CKD ステージG4 の患者で,果物野菜摂取により食事由来の酸を半減する方法も報告されている7).同試験では,重曹投与群と果物野菜摂取群で尿中アルブミン排泄低下が認められ,血清カリウム値について有意差はなかった.果物野菜を多く摂取することで重曹投与と同様に酸負荷が軽減され,腎機能が保護される可能性が示唆されたが,高カリウム血症のリスクが少ない人が選択されている可能性があり,患者選択には慎重を要する. 重炭酸濃度の測定法と補正の目標 重炭酸濃度の測定は,米国など海外の多くでは酵素法などを用いて血清あるいは血漿の総CO2 濃度を測定している.一方,わが国では測定したpH とpCO2 から重炭酸濃度を算出する血液ガス分析が使用されることが多く,測定法に相違がある.総CO2濃度と重炭酸濃度との関係については,総CO2 (mmol/L)≒HCO3(mmol/L)+0.03 × pCO2(mmHg)の近似式が用いられる.血液ガス分析を用いた静脈 の重炭酸濃度は,動脈のそれと1.4 mEq / L 差があるという報告B)もある.これまでの研究では,総じて正常範囲の重炭酸濃度においてCKD の進展や死亡のリスクが低下している.前述の重曹投与による研究で,最終的な重炭酸濃度は24.1 ± 2.97 mEq / L5)であったことから,静脈血の重炭酸濃度は,少なくとも22 mEq / L 以上を目標として管理することが望ましいと考えられる.ただし,CRIC 試験の結果では,重炭酸濃度が24 mEq / L を超えると心不全のリスクが増していることから8),過剰補正とならないように注意する必要がある.これまでの報告ではCKD ステージG3b ~5 において,低重炭酸濃度は,腎機能障害,生命予後いずれにおいてもリスクファクターであることが示唆されるが,大規模介入研究は少なく現在進行中の大規模臨床研究の結果が待たれる. 文献検索 データベース:PubMed期間:1990 年~2016 年9 月までキーワード: chronic kidney disease, kidney failure, metabolic acidosis, oral bicarbonate 参考にした二次資料 A) Kraut JA, Madias NE, et al. Metabolic acidosis:pathophysiology, diagnosis and management. Nat Rev Nephrol 2010; 6:274-85. B) Kelly AM. Review article:Can venous blood gas analysis replace arterial in emergency medical care. Emerg Med Australas. 2010;22:493-8. 参考文献 1) Menon V, Tighiouart H, Vaughn NS, et al. Serum bicarbonate and long-term outcomes in CKD. Am J Kidney Dis. 2010; 56:907-14. 2) Raphael KL, Wei G, Baird BC et al. Higher serum bicarbonate levels within the normal range are associated with better survival and renal outcomes in African Americans. Kidney Int. 2011;79:356-62. 3) de Brito-Ashurst I, Varagunam M, Raftery MJ, et al. Bicarbonate supplementation slows progression of CKD and improves nutritional status. J Am Soc Nephrol. 2009;20: 2075-84.
4) Jeong J, Kwon SK, Kim HY. Effect of bicarbonate supplementation on renal function and nutritional indices in predialysis advanced chronic kidney disease. Electrolyte Blood Press 2014;12:80-7. 5) Disthabanchong S, Treeruttanawanich A. Oral sodium bicarbonate improves thyroid function in predialysis chronic kidney disease. Am J Nephrol. 2010;32:549-56. 6) Susantitaphong P, Sewaralthahab K, Balk EM, et al. Short- and long-term effects of alkali therapy in chronic kidney disease: a systematic review. Am J Nephrol. 2012;35:540-7. 7) Goraya N, Simoni J, Jo CH, et al. A comparison of treating metabolic acidosis in CKD stage 4 hypertensive kidney disease with fruits and vegetables or sodium bicarbonate. Clin J Am Soc Nephrol. 2013;8:371-81. 8) Dobre M, Yang W, Chen J, et al. Association of serum bicar- bonate with risk of renal and cardiovascular outcomes in CKD: a report from the Chronic Renal Insufficiency Cohort (CRIC)study. Am J Kidney Dis. 2013;62:670-8.
近年,CKD がCVD の独立したリスクファクターであることが明らかとなり,CKD 患者におけるCVD対策の重要性が増している.一般にCVD は,動脈の粥状硬化の進展により惹起されると考えられているが,CKD ステージが進展すると粥腫内の性状変化により粥腫の破裂が起こりにくくなっていることや,病理学的atheroma が減少すること,粥状動脈硬化の進展が鈍化することなどが報告されており,発症様式が異なる可能性が考えられる.また,CKD 患者のCVD においては血管石灰化の関与も重要で,高リン血症の関与が指摘されている.一方,CKD ステージG3b 以降で顕著となる腎性貧血に対するESA の投与において,Hb 値>13 g /dL を目標にすると脳血管障害の発症リスクが上昇することが大規模研究で明らかにされている.このように,CKD 患者におけるCVD の発症にはさまざまな要因の関与が考えられている.一般にCVD の予防には,禁煙,減塩食,運動習慣などの生活習慣の改善,血圧・血糖・脂質の管理,抗血小板薬,心房細動合併例に対する抗凝固療法の有用性などが報告されているが,これらに加え,CKDステージG4 以降の患者では高リン血症管理の必要性が指摘されている.一方で,これらの患者に対する抗血小板薬・抗凝固薬投与に関しては,腎機能正常例と比較して出血性合併症のリスクが上昇することから,慎重な投与も求められている.本章では,CKD ステージG3b ~5 の患者におけるCKD 腎外合併症対策で重要と考えられるCVD とCKD-MBD について,比較的多くの検討が行われているCVD に対する抗血小板薬とCKD-MBD に対するリン吸着薬の有用性について検討した. 7.CKD 腎外合併症対策
7-1.心血管疾患(CVD) 1 抗血小板薬の有用性 抗血小板薬は血管内血栓症を抑制することにより心血管イベントを予防できることから,広く用いられている.心血管イベント発症リスクの高い集団を対象としたメタ解析,すなわち二次予防を意識した解析では,抗血小板薬の使用により複合心血管イベントの発症を約25%減少させたことが報告されている1).またわが国で行われた糖尿病患者における低用量アスピリンの動脈硬化性イベントの一次予防効果を検討したRCT であるJapanese Prevention of Atherosclerosis with Diabetes(JPAD)試験2)でも,有意差には至らなかったものの20%の動脈硬化性イベント発症抑制効果を認めている.リスクの高い患者に対する抗血小板薬の有用性は確立されているといってよい.一方で,CVD のハイリスク集団であるCKD を対象とした報告は限られている. 2 CKD における血小板機能 CKD では血小板機能異常および凝固・異常を認めることが知られている.糸球体腎炎では,さまざまな免疫学的機序,単球やリンパ球などの炎症細胞から産生されるメディエーターの関与により,血小板・凝固機能が亢進することが知られている.特にネフローゼ症候群ではこれが著しい.尿蛋白の増加に伴い,血清アルブミン値の低下が進行し,これを代償すべく肝臓での蛋白合成が亢進し,肝臓由来の凝固因子,特に内因系凝固因子の産生が増加するためと考えられている.また,糸球体濾過によりアンチトロンビンIIIやプラスミノゲンなどの線溶系因子が尿中に漏出し,プラスミン産生低下をきたし,フィブリン溶解能が低下することによって線溶系機能の低下をきたす.一方,特にステージの進行したCKD や維持透析患者では,腎機能低下に伴い,体内に尿毒症物質が蓄積すると,これが血小板機能を 低下させる.血小板機能低下は内因性要因,外因性要因が障害されるためと考えられており,以下のようにさまざまな機序が報告されている.血小板糖蛋白(GPIIb/ IIIa など)の異常,ADP やセロトニンなど血小板濃染顆粒減少や放出障害,血小板内Ca2 +動員の異常,TXA2 産生障害などのアラキドン酸代謝障害や血小板細胞骨格の再構成障害などである.また血管内皮機能異常も認めるため出血をきたしやすくなる.このことから,CKD ではその原疾患や残腎機能により止血凝固系や血小板機能は複雑に変化していることが推察される.CKD,特に進行したステージでは,健常人の抗血小板薬の証拠をそのまま臨床現場で安易に適応することに抵抗を感じざるを得ない. 3 CKD ステージG3b ~5 期の特 殊性CKD ステージG3b ~5 の心臓疾患の死因の内訳を示した報告は限られている.わが国の透析療法の現況の透析開始1 年以内死亡の原因がCKD ステージG3b ~5 の死亡を反映しているかもしれない. 2015 年末の報告によれば全体の約30%の心臓死のうち大半は心不全死(24.7%)であり,抗血小板薬による予防が期待できる心筋梗塞による死亡は2.8%にすぎない(わが国の慢性透析療法の現況2015 年末の慢性透析患者に関する基礎集計より).突然死は虚血性心疾患由来であることが主であることを加味しても,わずか4.2%と低率である.CKDの進行とともに頚動脈の粥状動脈硬化の成熟スピードが落ちることを示唆する報告3)や久山町研究の冠動脈病理学的検討で,いわゆる病理学的atheromaの比率はCKD ステージG4, 5 で減少していく4)ことを考慮すると,いわゆる心筋梗塞の発症様式も異
なっている可能性が高い5).実際にCKD の末期では,粥腫内の性状の変化から粥腫の破裂が起こりにくくなっていくことを示唆する報告6)もある.これらの事実から,健常人では常識的に心筋梗塞の予防薬として使用される抗血小板薬の効果はCKD ステージG3b ~5 の患者には期待できない,とする仮説を導きたくなる. 参考文献 1) Antithrombotic Trialists Collaboration.:Collaborative meta- analysis of randomised trials of antiplatelet therapy for prevention of death, myocardial infarction, and stroke in high risk patients. BMJ. 2002;324:71-86. 2) Ogawa H,Nakayama M,Morimoto T,et al.Low-dose aspirin for primary prevention of atherosclerotic events in patients with type 2 diabetes:a randomized controlled trial.JAMA. 2008;300:2134-41. 3) Rigatto C,Levin A,House AA,et al.Atheroma progression in chronic kidney disease.Clin J Am Soc Nephrol. 2009;4:291-8. 4) Nakano T,Ninomiya T,Sumiyoshi S,et al.Association of kidney function with coronary atherosclerosis and calcification in autopsy samples from Japanese elders:the Hisayama study.Am J Kidney Dis. 2010;55:21-30. 5) Bae EH,Lim SY,Cho KH,et al.GFR and cardiovascular outcomes after acute myocardial infarction: results from the Korea Acute Myocardial Infarction Registry.Am J Kidney Dis. 2012;59:795-802. 6) Kono K,Fujii H,Nakai K,et al.Composition and plaque patterns of coronary culprit lesions and clinical characteristics of patients with chronic kidney disease.Kidney Int. 2012;82:344-51.
詳細な検索を行い,非透析CKD における抗血小板薬の使用に関する研究を行った文献を調べたが, CKD ステージG3b ~5 に特化したものは存在しなかった.このなかで最も参考となると考えられた1つの文献を抽出した1).36 のRCT から20,942 例の患者が解析対象となったシステマティックレビューで,そのうち29 のRCT がCKD 患者を対象とされ, 10,973 例が含まれていた.その結果は,CKD 患者における抗血小板療法の有益性は明らかではなく,出血の危険性が上回る可能性があるという結果であった.しかしながら,そのほとんどの研究の対象患者がCKD ステージG3 を中心とした中等度腎機能低下症例であり,目的とするCKD ステージG4, 5 はほとんど含まれていないと考えられた.したがって,比較的参考になるのではないかと考えられる論文をさらにいくつか抽出した. 1 つ目の文献は,CKD におけるCVD 一次予防に関するアスピリンの有益性を検証するために行われた,高血圧患者を対象としたHOT 研究のサブ解析である2).HOT 研究は26 カ国の高血圧患者を含んだ研究で,この研究により,アスピリン投与により 15%のCVD 発症低下が認められたが,一方では出血イベントの80%増加が認められたという結果が得られた.そこで易出血性を有するCKD 患者において,アスピリン投与によるリスクをベネフィットが上回るかどうかを調べるために腎機能を加味したサブ解析が行われた.この解析では,18,597 例の高血圧患者が含まれており,eGFR ≧60 mL / 分/ 1.73 m2(正常もしくはCKD ステージG1 または2), eGFR:45 ~59 mL/ 分/ 1.73 m2(CKD ステージG3a),eGFR <45 mL / 分/ 1.73 m2(CKD ステージG3b 以上)の3 群に分類されている.eGFR の中央値は73 mL / 分/ 1.73 m2 であり,CKD ステージG3b 以降が536 例(2.9%)で,CKD ステージG5の患者は9 例(0.05%)のみであった.アスピリンによるリスク減少率は,各々の群で9%,15%, 66%と腎機能が低下する程その効果が認められたという結果であった.一方,出血のリスクに関しては全体で61%増加し,各々の群では有意差はつかなかったが,52%,70%,181%と増加していた.以上の結果であったが,CKD 患者はCVD 発症のハイリスク患者であり,腎機能低下症例では出血のリスクをベネフィットが上回るのではないかと結論付け CKD ステージG3b ~5 の患者における抗血小板薬の使用は心血管 イベントの発症予防に有用か? 7−1.心血管疾患 ● 推 奨 ● CKD ステージG3b ~5 の患者の心血管イベントの抑制にアスピリンの投与は有用かどうかわからない.一方で,アスピリンの投与により出血性合併症のリスクが高くなる可能性が否定できない.
られている. 2 つ目の文献は,韓国で行われたCKD 患者における低用量アスピリンの動脈硬化性イベントの一次予防効果を検討した後ろ向き研究である3).この研究は,アスピリン内服群と非内服群を傾向スコアでマッチングさせ,各群1,884 例で評価を行っており,各々の群の腎機能の平均は,eGFR;43.2 ± 28.7 mL /分/ 1.73 m2 vs 43.7±26.4 mL /分/ 1.73 m2であった.このことからCKD ステージG3b ~5 の患者も含まれていると考えられた.この結果では,総死亡,出血性合併症に関しては2 群で差がなく,心血管イベント,血清クレアチニン値の2 倍化および透析導入はアスピリン内服群で有意に多いという有益性が認められない結果であった. 3 つ目の文献は,わが国で行われた糖尿病患者における低用量アスピリンの動脈硬化性イベントの一次予防効果を検討したRCT のサブ解析である4).このJPAD 試験のサブ解析では,eGFR により≧ 90 mL / 分/ 1.73 m2(正常もしくはCKD ステージG1),60 ~89 mL/ 分/ 1.73 m2(CKD ステージG2),<60 mL / 分/ 1.73 m2(CKD ステージG3 以降)の3群に分類して解析を行っている.この結果では, GFR ≧90 mL / 分/ 1.73 m2 群をリファレンスとすると,動脈硬化性イベント発生率はGFR:60 ~ 89 mL / 分/1.73 m2 群で1.6 倍,GFR <60 mL / 分/ 1.73 m2 群で2.0 倍と腎機能の悪化に伴い有意に増加 していた.低用量アスピリンの投与は,GFR:60 ~ 89 mL / 分/ 1.73 m2 の患者群(CKD ステージG2)では動脈硬化性イベント発生率を43%ほど有意に低下させたが,正常もしくはCKDステージG1の群, CKD ステージG3 以降の群では効果は認められなかった.しかしながら,CKD ステージG3 以降の群における血清クレアチニン値は,アスピリン投与群:1.1 mg / dL,アスピリン非投与群:1.0 mg / dLと低値で,ほとんどがCKD ステージG3 の患者であることが推測され,CKD ステージG4, 5 の患者はほとんど含まれていないと考えられた. 4 つ目の文献は,前述のHOT 試験,JPAD 試験のサブグループ解析に,UK-HARP-I 試験の保存期 CKD 患者218 例を加えた3 つのRCT をメタ解析した報告である5).主要アウトカムを心血管イベントおよび全死亡とし,二次アウトカムを出血イベントとしている.4,469 例(アスピリン群2,241 例,プラセボ群2,228 例)が対象とされ,心血管イベントは225 例(アスピリン群100 例,プラセボ群125 例),大出血イベントは51 例(アスピリン群34 例,プラセボ群17 例)にみられた.アスピリンによる心血管イベント抑制効果はみられず(リスク比 0.92, 95%CI 0.49-1.73),大出血イベントリスクの有意な増加(リスク比 1.98,95%CI 1.11-3.52)が認められ,アスピリンの有益性は示されなかった. 以上は一次予防に関する文献であったため,二次予防に関する文献に関してさらに検索してみたがCKD ステージG3b ~5 の患者を対象とした研究はみつけることができなかった.ただし,参考となると考えられる透析患者におけるアスピリン内服のCVD 二次予防に関する文献がみつかったA).ハイリスク患者における抗血小板療法のCVD に対する効果に関して検討した195 の試験を解析したメタ解析であり,そのなかに透析患者を含んだ14 の試験があり,2,632 例の透析患者が含まれていた.その結果では,透析患者では,アスピリンによって41%のCVD 発症のリスクが低下することが示されている.これらの結果からは,CKD ステージG3b ~5 における抗血小板療法の有益性は判断しがたい. CKD 患者を対象としたRCT がほとんどなく,またCKD のなかでもステージによって結果が変わってくることが予測される.CKD ステージG5D では,透析ごとにヘパリンなどの抗凝固薬の投与が行われており,保存期と異なり血行動態の変動も大きい.したがって,CKD ステージG5D の結果を保存期の患者に当てはめるのは難しいと思われる.しかしながら,CKD ステージG3b ~5 ではCVD リスクを有する患者が多いこと,CKD ステージが進行するに従ってCVD 発症率が増加していくことB)もわ
かっている.出血のリスクが上昇することが示されていることもあり,リスク・ベネフィットを天秤にかけ慎重に投与の是非を検討する必要があると考えられるが,現時点では,CKD ステージG3b ~5 の患者に対する抗血小板療法の是非は不明としか言わざるを得ない. 文献検索 データベース:PubMed期間:1990 年~2016 年9 月までキーワード 1: chronic kidney disease,antiplatelet therapy, cardiovascular disease(170 件)キーワード 2: chronic kidney disease, aspirin, cardiovascular disease(265 件) 参考にした二次資料 A) Antithrombotic Trialists’ Collaboration. Collaborative metaanalysis of randomised trials of antiplatelet therapy for prevention of death, myocardial infarction, and stroke in high risk patients. BMJ. 2002;324:71-86. B) Go AS, Chertow GM, Fan D, et al. Chronic kidney disease and the risks of death, cardiovascular events, and hospitalization. N Engl J Med. 2004;351:1296-305.参考文献 1) Palmer SC,Di Micco L,Razavian M,et al.Effects of antiplatelet therapy on mortality and cardiovascular and bleeding outcomes in persons with chronic kidney disease: a systematic review and meta-analysis.Ann Intern Med. 2012;156:445-59. 2) Jardine MJ,Ninomiya T,Perkovic V,et al.Aspirin is beneficial in hypertensive patients with chronic kidney disease:a post-hoc subgroup analysis of a randomized controlled trial.J Am Coll Cardiol. 2010;56:956-65. 3) Kim AJ,Lim HJ,Ro H,et al.Low-dose aspirin for prevention of cardiovascular disease in patients with chronic kidney disease.PLoS One. 2014;9:e104179. 4) Saito Y,Morimoto T,Ogawa H,et al. Low-dose aspirin therapy in patients with type 2 diabetes and reduced glomerular filtration rate:subanalysis from the JPAD trial.Diabetes Care. 2011;34:280-5. 5) Major RW, Oozeerally I, Dawson S, et al. Aspirin and car- diovascular primary prevention in non-endstage chronic kidney disease:A meta-analysis. Atherosclerosis. 2016; 251:177-82.
7-2.CKD-MBD CKD が進行すると,糸球体濾過の低下によって蓄積する物質に引き起こされる狭義の尿毒症病態だけでなく,健常状態では腎臓を含む多臓器の連携によって営まれている生理活動が破綻してしまうことに起因する病態も発症する.全身のミネラル代謝異常はそのような病態の典型であり,骨や心血管などの臓器障害を誘発して患者の健康を著しく阻害することが認識されるようになった.この状況を踏まえ,2006 年にKDIGO は「骨や心血管の異常を呈すに至るCKD に伴う全身性のミネラル代謝異常」を新たな疾患概念として提唱し,これをCKD-MBDと命名した1). CKD-MBD へと連なる病態の兆しはCKD ステージG2, 3 の段階ですでに覗い知ることができる.しかし種々のトレードオフ機構が働くため,副甲状腺機能亢進/ 活性型ビタミンD 低下/ 高リン血症/ 低カルシウム血症などの典型的症候がすべて出揃うのは病態がかなり進行してからになる.なお,最も早期から変動が確認できるとされる線維芽細胞増殖因子23(FGF23)の血中濃度はCKD 患者の心病変の進行や生命予後と関連するが,これが単なるマーカーであるのか積極的に心毒性を示す生理活性物質なのかはなお未解決な問題である2). CKD ステージG3 ~4 になると腎尿細管間質における25 水酸化ビタミンD1α位水酸化能が低下し,強力なビタミンD 受容体結合能を持つ最終代謝物である1,25 水酸化ビタミンD の血中濃度が下がってくる.しかし,CKD 患者においてはこの1 α位水酸化工程の障害以前に,その基質である25水酸化ビタミンD の血中濃度が低い「低ビタミンD 状態」の頻度が高いことも知られている3).したがってCKD患者のビタミンD代謝に介入するには, 25 水酸化ビタミンD の前駆物質であるコレカルシフェロールないしはエルゴカルシフェロールを補充することと,1α位を水酸化したアナログであるアルファカルシドールやカルシトリオールなどを補充 することの2 つの戦略が想定しうる.前者を天然型ビタミンD,後者を活性型ビタミンD と呼称する.天然型ビタミンD はその代謝産物である25 水酸化ビタミンD 自体にも弱い生理活性があるが,腎外性25 水酸化ビタミンD1α位水酸化によって局所で活性型ビタミンD に変換されると多彩な局所的生理作用を発揮すると考えられている.保存期CKD ステージG3 ~5 の患者への天然型ビタミンD 補充は副甲状腺・ミネラル代謝の改善のみならず,蛋白尿減少,糖代謝改善などの効果を発揮するとされる3 ~6).また,保存期CKD ステージG3 ~ 5 における活性型ビタミンD の補充も副甲状腺代謝の維持に寄与している7).ただし,いずれも大規模な研究ではなく,またこれが本当に天然型ビタミンD/ 活性型ビタミンD の直接効果だったのかそれともビタミンD 代謝状態の改善に伴って変化した何らかの仲介因子を介した効果だったのかは不詳である.なお,わが国では天然型ビタミンD が医薬品として認可されておらず,また血清25 水酸化ビタミンD 濃度の測定も保険適用されていない.このため臨床現場で天然型ビタミンD の補充を行うことは困難な状況になっている.また,活性型ビタミンD の補充は保存期CKD ステージG3 ~5 の患者の良好な生命予後と関連するという報告8)から,これがいわゆる長寿ホルモンとして機能するのではないかとする議論が今日まで続いている.トレードオフ機構による制御が破綻して血清リン濃度が上昇し始めるのは概ねCKD ステージG4 以降である9).その詳細な病態生理学的メカニズムは不詳であるが,高リン血症はCKD 患者においてCVD の進行や死亡リスクの上昇との間に有意な相関が繰り返し示されている10 ~12).このCKD ステージG4, 5 では心血管イベントの発症頻度が高く,死亡リスクも上昇する13).この事実に時期を同じく
して顕性化する高リン血症が関与している可能性は否めない.なお,高リン血症は経口リン吸着薬の使用によって直接治療介入できる病態である.わが国のCKD ステージG3b ~5 の患者におけるCKD-MBD の病態を解明しその対策を確立するためには,今後以下のような臨床研究の遂行が望まれる. 1天然型ビタミンDの補充に臨床的意義はあるか? 2活性型ビタミンDの補充に臨床的意義はあるか? 3 FGF23 の上昇を抑制することに臨床的意義はあ るか? 4低カルシウム血症の是正に臨床的意義はあるか? 5副甲状腺機能亢進症にはどの段階から治療介入す べきか? 6高リン血症にはどの段階から治療介入すべきか?以上を踏まえ,以下のCQ2 を提案した. 参考文献 1) Moe S,Drüeke T,Cunningham J,et al.Definition, evaluation,and classification of renal osteodystrophy:a position statement from Kidney Disease:Improving Global Outcomes(KDIGO).Kidney Int. 2006;69:1945-53. 2) Gutiérrez OM,Januzzi JL,Isakova T,et al.Fibroblast growth factor 23 and left ventricular hypertrophy in chronic kidney disease.Circulation. 2009;119:2545-52. 3) Blair D,Byham-Gray L,Lewis E,et al.Prevalence of vitamin D[25(OH)D]deficiency and effects of supplementation with ergocalciferol(vitamin D2)in stage 5 chronic kidney disease patients.J Ren Nutr. 2008;18: 375-82. 4) Marckmann P,Agerskov H,Thineshkumar S,et al. Randomized controlled trial of cholecalciferol supplementation in chronic kidney disease patients with hypovitaminosis D.Nephrol Dial Transplant. 2012;27:3523-31. 5) Molina P,Górriz JL,Molina MD,et al.The effect of cholecalciferol for lowering albuminuria in chronic kidney disease:a prospective controlled study. Nephrol Dial Transplant. 2014;29:97-109. 6) Al-Aly Z,Qazi RA,González EA,et al.Changes in serum 25-hydroxyvitamin D and plasma intact PTH levels following treatment with ergocalciferol in patients with CKD. Am J Kidney Dis. 2007;50:59-68. 7) Reichel H.Low-dose alfacalcidol controls secondary hyperparathyroidism in predialysis chronic kidney disease.Nephron Clin Pract. 2010;114:c268-76. 8) Kovesdy CP, Ahmadzadeh S, Anderson JE, et al.Association of activated vitamin D treatment and mortality in chronic kidney disease. Arch Intern Med. 2008;168:397-403. 9) Nakano C,Hamano T,Fujii N,et al.Combined use of vitamin D status and FGF23 for risk stratification of renal outcome. Clin J Am Soc Nephrol. 2012;7:810-9. 10) Chang AR,Grams ME.Serum phosphorus and mortality in the Third National Health and Nutrition Examination Survey(NHANES III):effect modification by fasting.Am J Kidney Dis. 2014;64:567-73. 11) Palmer SC,Hayen A,Macaskill P,et al.Serum levels of phosphorus,parathyroid hormone,and calcium and risks of death and cardiovascular disease in individuals with chronic kidney disease:a systematic review and meta-analysis.JAMA. 2011;305:1119-27. 12) Kestenbaum B, Sampson JN, Rudser KD, et al.Serum phosphate levels and mortality risk among people with chronic kidney disease. J Am Soc Nephrol. 2005;16:520-8. 13) Go AS,Chertow GM,Fan D,et al.Chronic kidney dis- ease and the risks of death, cardiovascular events, and hospitalization.N Engl J Med. 2004;351:1296-305.
詳細な検索を行い,非透析CKD におけるリン吸着薬の使用に関する文献を調べた.CKD ステージG3b ~5 に特化したものは存在しなかったが,CKDステージG3 を含めた高リン血症に対するリン吸着薬の研究は複数あり,このなかで最も参考となると考えられた1 つの文献を抽出した1).この研究は, 1,188 例の在郷軍人(男性)のコホートにおいてリン吸着薬(セベラマーまたはカルシウム含有リン吸着薬)内服と死亡率,eGFR slope との関連を調べた研究である.平均eGFR は38 ± 17 mL / 分/ 1.73 m2で,ほとんどの患者がCKD ステージG3(57%)または4(30%)であった.解析の結果,リン吸着薬内服は有意に低い死亡率と関連した(補正ハザード比0.61,95%CI 0.45-0.81).この結果は,intention to treat(ITT)解析でも,内服群と非内服群を傾向スコアでマッチングさせた解析でも同様であった.しかしリン吸着薬の内服はeGFR slope とは関連しなかった.リン吸着薬の選択に関するRCT は計3 報みつかった.生命予後をアウトカムにしたのはイタリアからのIndependent 研究であり,CKD ステージG3, 4 の 患者212 例をセベラマーまたは炭酸カルシウムに無作為に割付けている2).ここでベースラインの血清リン値は,4.84 ± 1.3 mg / dL であった.血清リン値の目標値はCKD ステージG3, 4 では2.7 ~4.6 mg / dL,CKD ステージG5 に入った場合には3.5 ~ 5.5 mg / dL としている.ITT 解析ではなく,per pro- tocol 解析であった点,二重盲検でなかった点などの問題もあるが,セベラマー群で全死亡は有意に低かった(ハザード比0.45,95%CI 0.23-0.91).また透析導入に関しても,ベースラインで補正していないモデルにおいてセベラマーでリスクが下がっていた(ハザード比0.55,95%CI 0.35-0.88).また,冠状動脈石灰化指数をアウトカムにしたRCT も存在する.Russoらは,保存期CKD患者90例を無作為に,低リン食,低リン食+炭酸カルシウム,低リン食+セベラマーに割付けた3).低リン食群,炭酸カルシウム群,セベラマー群のベースライン血清リン濃度は,それぞれ3.9,4.6,4.5 mg / dL であった.平均観察期間の2 年後,低リン食群では石灰化指数が有意に上昇したが,炭酸カルシウム群では若干その傾向が緩和し,セベラマー群では有意な上昇を認めなかった.この研究の問題点は,群内比較は有意なも 食事療法を行っても血清リン値が正常範囲を超えるCKD ステージ G3b ~5 の患者にリン吸着薬を投与すべきか? 7−2.CKD-MBD ● 推 奨 ● 生命予後改善の観点から,食事療法を行っても血清リン値が正常範囲を超えるCKD ステージG3b ~ 5 の患者にリン吸着薬の投与を推奨する.
ののN 数が少ないために群間比較が統計学的に有意でなかった点であるが,セベラマーの使用がカルシウム製剤よりも好ましいことを示唆する.これらのデータは透析患者同様4),保存期CKDにおいてもカルシウム非含有リン吸着薬のほうがカルシウム含有リン吸着薬よりも好ましいことを示唆する.ただし,これらの研究におけるカルシウム非含有リン吸着薬とはセベラマーのみであった点には注意が必要である.わが国において現時点で保存期CKD の高リン血症に対して保険適用されているリン吸着薬は炭酸カルシウム,炭酸ランタン,クエン酸第二鉄,ピキサロマーの4 剤しかなく,透析患者に使用できる塩酸セベラマーは保存期CKD 患者には保険適用されていない.炭酸セベラマーは発売されていない.また,わが国では食餌からのカルシウム摂取量が欧米に比較して明らかに少ない.以上を鑑みると,わが国の保存期CKD 患者に対してカルシウム非含有リン吸着薬を推奨するエビデンスは十分だと言い切れないのが現状である.最後の1 報の重要なRCT は,eGFR が20 ~45 mL / 分/ 1.73 m2 で血清リン値が3.5 ~6.0 mg / dLのCKD 患者を対象に行われたものである5).プラセボ群58 例以外の90 例は無作為に炭酸ランタン,炭酸セベラマー,酢酸カルシウム(群30 例)に割付された.リン吸着薬投与群で血清リン値は平均 3.9 ~4.2 mg / dL に有意に低下し,尿中リン排泄も 有意に低下した.さらにプラセボ群に比して有意に二次性副甲状腺機能亢進症の悪化は抑制されたものの,FGF23 は変化せず,予想に反してリン吸着薬投与群でむしろ有意に冠状動脈と大動脈の石灰化指数は上昇した.ここで注意すべきことは,介入前の血清リン値が4.2 ± 0.4 mg / dL で正常範囲であった点である.したがって,血清リン値が正常範囲の患者においてまでリン吸着薬を投与する合理性はないと考えられる.最近,保存期CKD 患者を対象にクエン酸第二鉄の有用性を検討した2 つRCT が報告された6, 7).1つ目はわが国からの報告で,血清リン値が5.0 ~ 8.0 mg / dL を呈するCKD ステージG3 ~5 の90 例 がクエン酸第二鉄群とプラセボ群に無作為(2:1)に割付され,クエン酸第二鉄の有効性,安全性について検討されている6).プラセボ群と比べ,クエン酸第二鉄群では血清リン値の有意な低下に加え,血清FGF23の有意な低下,血清鉄,血清フェリチン値, TSAT の上昇が認められたことが報告されている.もう1 報は海外からの報告で,鉄欠乏性貧血(ヘモグロビン値9.0~12.0 g / dL,TSAT≦30%,血清フェリチン値≦300 ng / mL)を有し,血清リン値4.0 ~ 6.0 mg / dL のCKD ステージG3 ~5 の149 例が対 象とされている7).クエン酸第二鉄群とプラセボ群に無作為に割付され,血清リン値とともに血清フェリチン値,ヘモグロビン値,TSAT,FGF23 の変化が検討された.クエン酸第二鉄群で,血清リン値の低下(4.5 ± 0.6 → 3.9 ± 0.6 mg / dL),TSAT の上昇(22 ± 7%→32 ± 14%)に伴って血清FGF23 は低下, ヘモグロビン値は上昇(10.5 ± 0.8 →11.0 ± 1.0 g / dL)したことが示されている.ともに12 週間という短い観察期間の研究で,予後の検討は行われていない. 文献検索 データベース:PubMed期間:1990 年~2016 年9 月までキーワード 1: chronic kidney disease, phosphate binder, mortality(156 件)キーワード 2: chronic kidney disease, phosphate binder, cardiovascular disease(178 件)キーワード 3: chronic kidney disease, phosphate binder, vascu- lar calcification(108 件) 参考文献 1) Kovesdy CP,Kuchmak O,Lu JL,et al.Outcomes associated with phosphorus binders in men with non-dialysis-dependent CKD.Am J Kidney Dis. 2010;56:842-51. 2) Di Iorio B,Bellasi A,Russo D et al.Mortality in kidney disease patients treated with phosphate binders:a randomized study.Clin J Am Soc Nephrol. 2012;7:487-93. 3) Russo D, Miranda I, Ruocco C, et al.The progression of coronary artery calcification in predialysis patients on calcium carbonate or sevelamer.Kidney Int. 2007;72:1255-61. 4) Jamal SA,Vandermeer B,Raggi P,et al.Effect of calci- um-based versus non-calcium-based phosphate binders on
mortality in patients with chronic kidney disease:an updated systematic review and meta-analysis.Lancet. 2013; 382:1268-77. 5) Block GA,Wheeler DC,Persky MS,et al.Effects of phosphate binders in moderate CKD.J Am Soc Nephrol. 2012;23:1407-15. 6) Yokoyama K, Hirakata H, Akiba T, et al. Ferric citrate hy- drate for the treatment of hyperphosphatemia in nondialysisdependent CKD. Clin J Am Soc Nephrol. 2014;9:543-52. 7) Block GA, Fishbane S, Rodriguez M, et al. A 12-week, dou- ble-blind, placebo-controlled trial of ferric citrate for the treatment of iron deficiency anemia and reduction of serum phosphate in patients with CKD Stages 3-5. Am J Kidney Dis. 2015;65:728-36.
今後の課題 各職種においてCKD の専門知識を持った専門家を育成するとともに,幅広くCKD およびCKD 診療の知識を持ち,患者の療養指導を行うことのできる医療従事者の育成が求められる.糖尿病を有するCKD 患者においては,多職種によるチーム医療に対して「糖尿病透析予防指導管理料」が算定されているが,透析導入の半数以上は糖 尿病を有さないCKD であるため,将来的には,非糖尿病性のCKD においても類似の診療報酬上の措置が望まれる.また,実際にこのような算定措置がCKD 進行ならびに透析導入の予防に有効かどうかの検証も必要と考えられる.戦略研究FROM-J におけるCKD ステージG3b 以後,あるいは原疾患別のより詳細な解析が期待される. CKD は経過の長い疾患であるとともに絶対的な治療法が確立されていないために,生活習慣改善を基盤としたさまざまな治療を総合的に行って管理される.従来は医師が全人的な管理を行ってきたが,近年は医療にかかわる各職種がそれぞれの専門性を活かしてチーム医療を行うことで成果を上げている分野が多い.CKD 領域においては看護師,管理栄養士,薬剤師,MSW などが診療チームに参画することでそれぞれの治療効果を向上させることが期待されている.またそれぞれの職種のなかでも腎疾患に対する知識と経験に優れた者に対して資格認定をすることで,その診療レベルが向上すると考えられる.さらに,糖尿病性腎症においては,チーム医療による患者指導の重要性は診療報酬上の「糖尿病透析予防指導管理料」にも反映されている.医療連携は,腎臓専門医とかかりつけ医の間でも重要となる.CKD ステージG3 までの患者はかかりつけ医が診療の中心となり,心腎保護のための総合的対策とともに,腎機能が悪化するなどの適切な時期に腎臓専門医へ紹介し,必要に応じて腎臓専門医から助言を得ることが大事である.一方,CKD ステージG3b 以後,特にCKD ステージG4, 5 では腎臓専門医が診療の中心となってくる.ただし,この時期でもかかりつけ医が診療を継続することもあり,その場合は腎臓専門医とのより密接な連携が求められる.以上のような観点より,CKD 診療における医療連携の2 つの側面,すなわち,医師とコメディカルの連携(チーム医療),腎臓専門医とかかりつけ医との連携(病診連携)が,特にCKD ステージG3b ~5の患者の予後やQOL 向上に寄与するかどうかについて,検討することとした. 8.チーム医療と医療連携
わが国においては戦略研究(FROM-J)により多職種によるチーム医療がCKD ステージG3 の腎機能保持と受診率の向上に有効であるとの結果が示されている.一方,海外では,CKD ステージG3 以後の患者に対する集学的チームによる患者教育が透析導入遅延,ブラッドアクセス準備率の向上,導入時の入院日数短縮,コスト削減などさまざまなアウトカムに対して有効との報告がみられる.以上より,CKD ステージG3b ~5 においてもチーム医療は透析導入遅延に対して有用であると考えられる.ただし,エビデンスレベルは低く,それぞれの国での診療システムの違いもあるため,医療連携の場面ではわが国の施設ごとの事情を勘案して,これを実施する.わが国におけるチーム医療は多職種連携という言葉で表されることが多いが,これに対応する語句は“multidisciplinary”(集学的)である.ほとんどの研究で診療チームは腎臓専門医,看護師,管理栄養士,MSW で構成されているが,その他職業訓練士やボランティアの透析患者が参加しているものもあるため,多職種連携における必須の職種は決まっていない.特定の職種から特定の情報を得ると いうよりも,多少重複しながらでも複数の医療従事者から繰り返し時間をかけて腎不全,腎代替療法に対する知識を得ることが重要であると考えられる.しかし,わが国において多職種が連携したチーム医療の有用性を腎疾患に対して検討した臨床研究はなく,現時点では個々の症例に対する経験が非学術誌を中心に報告されているに過ぎない.このため,本分科会のCQ は海外の知見をもとに考察された.わが国の診療スタイルでは比較研究を実施しづらい領域ではあるが,FROM-J 研究が一定の成果をあげたことで,今後さらに目的を明確化した臨床研究が行われると期待される.わが国においてこの多職種連携による患者教育を実践するにあたっては,腎臓専門医に加え,腎不全・透析を専門領域とする看護師,薬剤師,管理栄養士,臨床工学技士,保健師, MSW などによるチーム編成が可能であるが,すべての職種で十分に人数の揃っている施設はかなり限られる.もちろん毎回の受診に際し,すべての職種が一定時間を担当する必要はないが,職種によっては腎不全に対する知識の普及が不十分なものもある.このため一定の講習などを受けて最新の知識を有する医療従事者が「腎不全に関する専門知識を有 腎臓専門医とコメディカルの連携による患者教育は,CKD ステージG3b ~5 の患者のESKD への進展予防とスムーズな腎代替療法開始のために有効か? 8.チーム医療と医療連携 ● 推 奨 ● CKD ステージG3b 〜5 の患者においても腎臓専門医からだけではなく,多職種によるチーム医療を活用した患者教育の実践を推奨する.
する医療従事者」として職種の枠を超えて基本的な指導を行うことが現実的であると考えられる.本CQ に対するメタ解析は1 件が該当したA).しかし,著者らが調査した限りではメタ解析の対象となる4 文献でデータの共有ができなかった.このため,多職種連携は透析開始を遅延させるため有効であるとの結論は参考にとどめた.個々の文献としては,比較検討のデザインとしてRCT を行ったものはなく,多くがコホート観察研究である.またCKD ステージG4, 5 ではなくCKDステージG3 を対象とした研究が多いB).おそらくこの時期からの教育が有効であることを示したものと考えられる.わが国からもYamagata らがFROM- J 研究においてCKD ステージG3 の患者において,かかりつけ医と管理栄養士の連携が腎機能低下を抑制することを示している1).以下にCKD ステー ジG4, 5 を解析対象とした報告を具体的に紹介する. Zhang らは,カナダのCKD ステージG4, 5 患者940 例に対して多職種チーム医療で管理を行い,2年間の観察期間にeGFR の進行を観察した.その結果,CKD ステージG4 患者462 例では62.3%,またCKD ステージG5 患者478 例では41.2%でeGFRが不変もしくは改善したと報告したが,本研究は比較研究ではない2). Lei らは,台湾のCKD ステージG5 患者171 例において,多職種から腎臓病に関する教育を受けた期間を1 年以上と1 年未満の2 群に分けて検討したところ,教育期間が1 年未満であった88 例はeGFRが8.05 ± 0.30 mL / 分/ 1.73 m2 から4.94 ± 0.21 mL /分/ 1.73 m2 に減少したのに対し,1 年以上の教育を受けた群では10.39 ± 0.31 mL / 分/1.73 m2 から9.01 ± 0.50 mL / 分/ 1.73 m2 と有意に維持されていた(p <0.001).またこの期間中の医療コストに関するオッズ比は2.835 であった3). Wu らは,台湾のCKD 患者573 例に対して多職種チームによる教育を行った.このチームにはボランティアの血液透析患者や腹膜透析患者が参加している.登録時のeGFR は23.8 ± 20.1 mL / 分/ 1.73 m2 であった.1 年後のeGFR 変化(ハザード比 0.117),透析導入率,全死亡率(ハザード比 0.103)のいずれも,教育なしの患者に比べて教育を受けた患者のほうが優れていた4). Fenton らは,英国においてCKD ステージG5 患者365 例に対して腎不全教育を行い,予後を調査した.1 群はESKD に詳しい看護師のみによる教育,もう1 群はESKD に詳しい看護師のみではなく,貧血,ブラッドアクセスを専門とする看護師,腎疾患を専門とする管理栄養士,MSW,職業訓練士によるチーム教育を行った.登録時のeGFR はそれぞれの群で 9.51 ± 4.41 mL / 分 / 1.73 m2,9.39 ± 4.09 mL / 分/ 1.73 m2 であった.透析導入時の比較ではチーム教育群では対照に比べて高いヘモグロビン値(10.28 ± 1.86 g / dL vs 9.81 ± 1.76 g / dL,p =0.02),高い恒久ブラッドアクセス準備率(68.4% vs 58.8%,p =0.04)を示した.また透析導入後も含めた観察では入院回数が短く(1.42 回/ 人/ 年 vs 2.52回/ 人/ 年,p =0.005),生存率も良好であった5). Cho らは,韓国のCKD ステージG4 の患者149例に対して多職種による指導の有無による予後への影響を後ろ向きの比較研究で検討した.透析導入の患者数に有意差はなかったが,指導を受けた群では,緊急透析の比率(8.7% vs 24.3%,p <0.001),入院期間の短縮(2.16 vs 5.05 日/ 人・年)を認めた.また心血管病変および感染の合併も少なかった6). 文献検索 データベース:PubMed期間:1990 年~2016 年9 月までキーワード: chronic kidney disease, end stage kidney disease, end stage renal disease, kidney failure, multidisciplinary, team care, 多職種, 連携 参考にした二次資料 A) Strand H, Parker D. Effects of multidisciplinary models of care for adult pre-dialysis patients with chronic kidney disease: a systematic review. Int j Evid - Based Healthc 2012; 10:53-9. B) Bayliss EA, Bhardwaja B, Ross C, et al. Multidisciplinary team care may slow the rate of decline in renal function. Clin J Am Soc Nephrol 2011;6:704-10.
参考文献 1) Yamagata K, Makino H, Iseki K,et al. Effect of Behavior Modification on Outcome in Early-to Moderate-Stage Chronic Kidney Disease:A Cluster-Randomized Trial. PLoS One. 2016;11:e0151422. 2) Zhang AH,Tam P,LeBlanc D,et al.Natural history of CKD stage 4 and 5 patients following referral to renal management clinic.Int urol nephrol. 2009;41:977-82. 3) Lei CC,Lee PH,Hsu YC,et al.Educational interven- tion in CKD retards disease progression and reduces medical costs for patients with stage 5 CKD.Ren Fail. 2013;35: 9-16. 4) Wu IW,Wang SY,Hsu KH,et al.Multidisciplinary predialysis education decreases the incidence of dialysis and reduces mortality--a controlled cohort study based on the NKF/DOQI guidelines. Nephrol Dial Transplant. 2009; 24:3426-33. 5) Fenton A,Sayar Z,Dodds A,et al.Multidisciplinary care improves outcome of patients with stage 5 chronic kidney disease.Nephron Clin Pract. 2010;115:c283-8. 6) Cho EJ,Park HC,Yoon HB,et al.Effect of multidisci- plinary pre-dialysis education in advanced chronic kidney disease:Propensity score matched cohort analysis.Nephrology(Carlton). 2012;17:472-9.
CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2017(2015 追補版) 92 CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2017(2015 追補版) 92 CKD ステージG3 までの患者の診療はかかりつけ医が中心となるのに対し,CKD ステージG4, 5の患者は腎臓専門医による定期的な外来診療が基本であるA, B).したがって,かかりつけ医が診療しているCKD ステージG3b 以後の患者については,原則的に腎臓専門医に紹介するような啓発活動がさまざまなレベルで行われるべきである.実際,CKDステージG3 以後(遅くてもステージG4)においては,腎臓専門医が診療することで腎機能低下速度が緩やかになり,透析導入を遅延できる可能性があるだけでなくC),生命予後の改善も期待できるとの報告もあるD, E).しかし現状では CKD ステージG4以降の患者でもかかりつけ医が診療していることも多い.2,287 例を対象に行われたわが国のアンケート調査では,腎臓専門医に紹介するタイミングはCKD ステージG4 37.9%,G5 22.5%とCKD ステージG4 以後の患者が60%以上であったF).また,海外でも, CKD ステージG4, 5 の患者でかかりつけ医が診療している割合が64.7%と報告されているG).かかりつけ医がCKD 患者を診療する場合は,かかりつけ医に対して,CKD ステージG3 の時期から 腎機能と尿蛋白,その他の重要項目(血圧,血糖,脂質,電解質,貧血など)についての定期的なチェックを行い,必要に応じて随時腎臓専門医へ紹介できるようにすべきである.なお,2012 年に発行されたCKD 診療ガイドや病診連携マニュアルでは,腎臓専門医に紹介する基準を「蛋白尿のない40 歳未満ではeGFR 60 mL / 分/ 1.73 m2 未満,40 歳以上70歳未満で50 mL / 分/ 1.73 m2 未満,70 歳以上では40 mL / 分/1.73 m2 未満」としており,年齢の違いも考慮する必要があるA, B).ただし,この紹介基準はやや煩雑であることから,今後は「40 歳未満でeGFR 60 mL / 分/ 1.73 m2 未満(すなわちCKD ステージG3 以後),40 歳以上でeGFR 45 mL / 分/ 1.73 m2未満(すなわちCKD ステージG3b 以後)」に改められる予定である. CKD 患者において,腎臓専門医とかかりつけ医の連携の有効性や腎予後に与える影響について検討した報告としては,わが国で行われたFROM-J 研究があげられる1).この研究では,管理栄養士の指導やかかりつけ医の介入強化が腎臓専門医への紹介率を高め,CKD ステージG3 において有意に腎機能の悪化を抑制したと報告した.その他の海外の報告 CKD ステージG3b ~5 の患者において,腎臓専門医とかかりつけ 医の医療連携はどのような場面に考慮するか? 8.チーム医療と医療連携 ● 推 奨 ● CKD ステージG3b ~5 患者においても,腎臓専門医とかかりつけ医が適切な医療連携を行うことが望まれる.
は,eGFR の自動通知システムの導入によって腎臓専門医への紹介率やかかりつけ医の血圧コントロールなどが向上する,などの代替アウトカムに対する有効性の検討に限られるH, I).しかしながら,腎臓専門医施設に通院しているCKD ステージG3b 以後の患者においても,かかりつけ医との併診が行われることがある.特に,腎不全の進行が緩徐で安定している患者では,かかりつけ医を中心とした診療を考慮してよいと思われる.このような医療連携がCKD ステージG3b 以後の患者の透析導入遅延に有効かどうかは明確ではないが,処方や定期的な治療(ESA 投与など)の役割分担によりコンプライアンスや診療の質向上を期待できるかもしれない.さらに,通院の利便性や一般診療の機会増加などにより患者のQOL 改善が図れる可能性もある.ただし,いずれの場合も患者の同意を得たうえで,専門医施設とかかりつけ医の緊密な連携のもとに行われるよう配慮すべきである. 文献検索 データベース:PubMed,医中誌期間:1990 年~2016 年9 月までキーワード: (chronic kidney disease,end stage kidney disease, end stage renal disease,kidney failure)AND nephrologist AND / OR(primary care OR non-nephrologist)参考にした二次資料 A) 日本腎臓学会編.CKD 診療ガイド2012.東京医学社,東京,2012. B) 厚生労働省科学研究「慢性腎臓病(CKD)に関する普及啓発のあり方に関する研究」(主任研究者:秋澤忠男) CKD 病診連携マニュアル 2012,2012. C) 日本腎臓学会編.エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2013,東京医学社,東京,208-9. D) Kim DH,Kim M, Kim H,et al.Early referral to a nephrologist improved patient survival:prospective cohort study for end-stage renal disease in Korea.PLoS One. 2013;8:e55323 E) Winkelmayer WC, Owen WF Jr, Levin R,et al.A propensity analysis of late versus early nephrologist referral and mortality on dialysis.J Am Soc Nephrol. 2003;14:486- 92. F) 内藤毅郎,大谷 晴久,小林 一雄,他:わが国における慢性腎臓病診療と地域連携の現状と地域差.日腎会誌2013;55:1391-400. G) Jurkovitz CT, Elliott D, Li S, et al. Physician utilization, risk-factor control,and CKD progression among participants in the Kidney Early Evaluation Program(KEEP). Am J Kidney Dis. 2012;59:S24-33. H) Abdel-Kader K, Fischer GS, Li J,et al.Automated clinical reminders for primary care providers in the care of CKD:a small cluster-randomized controlled trial. Am J Kidney Dis. 2011;58: 894-902. I) Abdel-Kader K,et al.Characterizing pre-dialysis care in the era of eGFR reporting:a cohort study.BMC Nephrol. 2011;12:12. 参考文献 1) Yamagata K, Makino H, Iseki K,et al.Effect of Behavior Modification on Outcome in Early-to Moderate-Stage Chronic Kidney Disease:A Cluster-Randomized Trial. PLoS One. 2016;11:e0151422
1 腎代替療法選択の特徴と問題点 腎代替療法の一つである透析療法においては,従来からわが国では血液透析を選択する症例が多く,腹膜透析を選択する症例は少ない.新規腹膜透析導入患者は微増する傾向にあるが1),腹膜透析を中止する症例も多く,2015 年度末では,全透析患者に占める腹膜透析患者の割合は2.9%となっている2).しかし,地域によって腹膜透析患者導入率は大きく異なり,積極的に腹膜透析が選択されている地域もある.一方,腎移植に関しては,ここ数年は年間1,500 ~1,600 例前後の新規移植症例がみられる1).わが国では生体腎移植の比率が高く約85%を占め,残りの15%が献腎移植である.特に生体腎移植においては,透析療法を経ずして移植を受ける先行的腎移植(pre-emptive kidney transplantation:PEKT)が増加しており,その比率は現在では生体腎移植の30%を超えている(移植直前のみ透析を受けた症例も含む).腎移植に関しても,地域により新規移植症例の数は大きく異なる.一般的に大都市中心に腎移植実施件数が多いのが現状である3). 腎代替療法の選択においては地域の実情も考慮する必要があるが,患者自身が望む方法が選択できるように,積極的に支援する必要がある4).近年の特徴ある傾向として,多数のPEKT がわが国でも実施されている.最近の報告ではPEKT と短期間の透析を経た腎移植との成績は有意な差がないか,あっても限定的であるとする報告5 ~7)が多い.これは,昨今の透析医療の進歩や,免疫抑制薬の進歩による移植成績の向上による影響,移植時の腎移植レシピエントの選択バイアスによる影響と類推されているが,はっきりした理由はわかっていない. 2 腎代替療法選択症例の特徴 透析医療あるいは移植医療を選択するCKD 症例の近年の特徴としては,高齢化と糖尿病性腎症例の増加があげられる.血液透析または腹膜透析を選択する症例の透析導入年齢は,2015 年末では男性が 68.37 歳,女性は70.95 歳であった.男女とも透析 導入者数が最も多い年齢幅は70 ~75 歳である2). 透析医療あるいは移植医療はともに腎代替療法である.保存期CKD 症例がCKD ステージG5 のESKD状態となり,尿毒症症状が顕著となり保存的治療では管理不可能と判断されると,腎代替療法を開始することが必要になる.透析医療においては,高齢者の導入患者が増加していることから,導入前の詳細な情報提供,そして詳細な説明と準備が重要である.腎移植医療に関しては,透析療法を経ずして移植手術を受ける先行的腎移植が普及してきたため,腎代替療法の一つとして,CKD 保存期からこの治療法に関する情報提供も確実に行うことが必要となっている.これら腎代替療法に関しては,その方法選択に対する情報提供,説明,準備,専門医への紹介などにおいてさまざま問題点がみられる.この問題点を理解し,適切に対応することが腎代替療法への安全かつ円滑な移行につながる. 9.透析・移植医療
腎移植術を受ける症例の平均年齢は現在43 歳前後である3).先行的腎移植を夫婦間移植の形式で受ける症例がおり,このような症例は手術を退職時に受けることも多く,移植時の年齢はさらに高くなる.高齢者であっても透析医療を受けることは可能である.しかし,高度の認知症がある場合は,透析医療を開始するか否か家族を含めた慎重な判断が必要である.場合によっては,非導入という選択もありうる4).腎移植においては原則60 歳代までの症例が適応とされているが,70 歳代でも生物学的年齢が若い場合は移植手術が可能な場合もある.この場合,内科的合併症,認知症などの有無を十分に評価したうえで,移植が可能であるか否かを判断することが必要である.糖尿病性腎症例であっても,血液透析のみならず腹膜透析あるいは腎移植を受けることは可能である.ただし,いずれの腎代替療法を開始するにあたっても,糖尿病合併症の管理が良好であることが重要である.わが国におけるPEKT のまとまった報告は少ないが5 ~7),八木澤5)の報告によれば1983 ~1999 年に施行されたPEKT ではnon-PEKT 群と比較して,有意に腎予後,生命予後が良好であったが,2000年以降の成績をみると,PEKT 群のほうが成績は良い傾向にあるものの,統計学的な有意差は認められない.現状で世界トップレベルの治療成績を誇るわが国の透析療法と腎移植療法のもとでは,PEKT の優位性は出にくいのかもしれない.また,Kohei ら6)の単施設での報告では,透析期間別で腎予後,生命予後に有意差はなく,合併症が少ない症例では透析期間によらず予後成績は良好であると結論づけている.同じく単施設の報告であるが,わが国のGotoらの解析では8),透析時間が全くないPEKT 症例は,透析歴がある移植症例より複合的臨床イベントの発症リスクが有意に低いことをCox 比例ハザード解析で証明している.論文により結論が異なるのは,レシピエントの選択バイアスによる影響を受けていると考えられが,「合併症(主として心血管合併症)の少ない低リスク患者への移植成績は良い」という 事象は背景にあると推測される.つまり,PEKT は低リスクの患者集団であり,透析導入を行わずに移植を施行できれば理想的であるが,透析が必要な状況になれば,PEKT にこだわらず,まず透析導入し,合併症の評価と治療・管理をしっかり行ったうえで移植を受けるスタンスが重要と考えられる. 3 保存期CKD ステージと診療担当 医療者 保存期CKD 症例の診療を担当する医師は,腎臓内科医とは限らず,一般にさまざまな分野の内科系あるいは外科系医師が担当している.CKD ステージG3 までは,腎臓専門医以外の医療者によって診療を受けているCKD 症例が多い.CKD ステージG4 に入ると腎臓専門医,透析専門医,あるいは移植医への紹介が増加し,徐々にこれらの腎代替療法を専門的に担当する医師の診療が主体となってくる.したがって,ここには医療者間の円滑な患者紹介,情報交換が必要である.日本腎臓学会のCKD 診療ガイド2012 9)では,下記のように,腎臓専門医への紹介に関して, eGFR を用いた一定の紹介基準を明記している.これによれば,一般的にはCKD ステージG3a,70 歳以上の高齢者ではCKD ステージG3b の段階で腎臓専門医に紹介することが推奨されている. 表1 CKD 診療ガイド2012 における病診連携の タイミング9)一般的にはeGFR 50 mL / 分/ 1.73 m2 以上の場合,70 歳以上ではeGFR 40 mL / 分/ 1.73 m2以上の安定した症例は,かかりつけ医が管理する.尿蛋白の急激な増加,eGFR の急速な低下(3 カ月以内に血清クレアチニン値が30% 上昇)が認められた場合には,直ちに腎臓専門医に紹介する.
4 腎代替療法に関する詳細な情報提 供,詳細な説明と準備を行う時期 腎代替療法に関する詳細な情報提供と詳細な説明,準備をCKD ステージのどの段階から行うことが理想的であるかについては,さまざまな意見がある.個々の症例の年齢,腎疾患,合併症,生活環境,そして社会環境によっても理想的な情報提供あるいは説明のタイミングは若干異なると考えられる.日本腎臓学会のCKD 診療ガイド2012 10)では, CKD ステージG4 で進行性に腎機能が低下する場合には,腎代替療法に関する詳細な情報提供が必要であると記載されている.CKD ステージG4,つまり,eGFR が30 mL / 分/ 1.73 m2 未満になった段階から必要であると記載している.腎代替療法に関する詳細な情報提供をしてから,さらに腎機能が低下した段階で詳細な説明と準備が必要な段階に至る.2009 年に発表された日本透析医学会の「腹膜透析ガイドライン」では11),「透析導入を考慮するのはGFR 15.0 mL / 分/ 1.73 m2 未満であり,その前に腹膜透析の有用性を生かすために,患者教育を行い,計画的に導入すること」と記載されている.また,日本透析医学会より2013 年に発表された血液透析導入に関する「維持血液透析ガイドライン:血液透析導入」12)においては,「血液透析導入前の診療期間において,保存的治療を含めたESKD治療について詳細な説明と腎代替療法に関する情報を提供することをすすめる時期は,GFR 15 ~30 mL / 分/ 1.73 m2」と記載されている.移植医療に関しても,透析療法と同様に考え,透析療法と同様のタイミングで詳細な情報提供と詳細な説明,準備を行うことが必要である.ただし,透析療法と移植医療では一つ大きな差異がある.それは特にPEKT に関して当てはまることであるが,少なくともCKD ステージG4 の間にドナーに対しても詳細な情報提供と説明を開始し,そして次のステージでドナーも移植前準備が必要な点である. 5 腎代替療法に関する詳細な情報提 供と詳細な説明,準備の内容 腎代替療法を受けなければならない可能性の説明は,患者にとって不安感,恐怖感,絶望感などを与えることがしばしばである.したがって,受容しやすい情報提供の内容にすることが,まずは必要である.腎代替療法に関する詳細な情報提供とはどのような内容を指すのか.具体的にその内容を明記している資料は少ない.日本腎臓学会,日本透析医学会,日本移植学会,日本臨床腎移植学会が合同で作成している小冊子「腎不全 治療選択とその実際」13)においては,次のように記載されている. ESKD に対する治療手段について,血液透析,腹膜透析,生体腎移植,献腎移植があることをまず説明し,次に,体質,体調,ライフスタイル,年齢,腎疾患,合併症,生活環境,そして社会環境などの状態にふさわしい最適な治療を受けることを勧める.どのような治療法があり,それぞれにどのような特徴があるのか,わかりやすい説明をすることが情報提供の第一歩と思われる.また,どの治療法を選択してもほかの治療法に移行できることも記載されており,この点も重要な情報提供のポンイトである.腎代替療法に関する詳細な説明と準備に関しても,その内容に関して明記した資料は少ない.「腎不全 治療選択とその実際」13)においては,各腎代替療法の特徴を,腎機能,必要な薬剤,生命予後, 表2 腹膜透析ガイドライン11) 腹膜透析導入に際しては,血液透析,腹膜透析,さらに腎移植に関する十分な情報の提供を行い,同意のもと決定する.腹膜透析の有用性を生かすために,患者教育を行い,計画的に導入する. CKD ステージG5(GFR 15.0 mL /分/1.73 m2 未満)の患者で,治療に抵抗性の腎不全症候が出現した場合,透析導入を考慮する.
心血管系合併症,QOL,生活の制約,社会復帰率,食事・飲水の制限,手術内容,通院回数,旅行・出張,スポーツ,妊娠・出産,感染の注意,入浴,メリットとデメリットに分けて比較表を作成し説明している.また,医療費と社会福祉サービスに関する情報も詳細な説明と準備にかかわる内容であると思われる.この辺りの内容が詳細な説明と準備に相当するのではないかと考える. 文献検索 キーワード: 腎,透析,移植専門医間の連携システムの構築, CKD ステージG4,5患者の治療法の選択,説明~開始時期,指導時期の提言 参考文献 1) 山縣 邦弘,八木澤 隆,中井 滋,他.わが国のend stage kidney disease(ESKD)の現況.透析会誌.2012;45: 1067-76,2012 2) 日本透析医学会編.図説 わが国の慢性透析療法の現況(2015 年12 月31 日現在).日本透析医学会統計調査委員会,東京,2016.http://docs.jsdt.or.jp/overview/index.html. 3) 日本移植学会・日本臨床腎移植学会.腎移植臨床集計報告(2016)2015 年実施症例の集積と追跡調査結果.移植.2016;51:122-44. 4) 日本透析医学会血液透析療法ガイドライン作成ワーキン ググループ透析非導入と継続中止を検討するサブグループ.維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言.透析会誌.2014;47:269-85. 5) 八木澤隆:わが国における先行的腎移植の現況と展望. 変貌する腎移植,高橋公太編,pp19-27,日本医学館,東京,2012. 6) Kohei N, Sawada Y, Hirai T, et al. Influence of dialysis duration on the outcome of living kidney transplantation. Ther Apher Dial. 2014;18:481-8. 7) Tasaki M, Saito K, Nakagawa Y, et al. 20-year analysis of kidney transplantation: a single center in Japan. Transplant Proc. 2014; 46:437-41. 8) Goto N, Okada M, Yamamoto T, et al. Association of Dialysis Duration with Outcomes after Transplantation in a Japanese Cohort. Clin J Am Soc Nephrol. 2016;11:497-504. 9) 日本腎臓学会編.CKD 患者を専門医に紹介するタイミング我が国の慢性透析療.CKD 診療ガイド2012.40- 3,東京医学社,東京,2012 10) 日本腎臓学会編.CKD のフォローアップ:成人.CKD診療ガイド2012.44-6,東京医学社,東京,2012 11) 第一章 導入.2009 年版 日本透析医学会.腹膜透析ガイドライン.透析会誌.42(4):289-91,2009 12) 日本透析医学会編.維持血液透析ガイドライン 血液透析導入. 透析会誌.2013(4);1107-55,2013 13) 腎移植推進委員会編.腎不全 治療選択とその実際. P1-45,2012 参考 先行的献腎移植申請・登録制度2012 年,日本腎臓学会,日本移植学会,日本透析医学会,日本臨床腎移植学会,日本小児科学会の5 学会は協議を重ね,先行的献腎移植の形式で献腎登録が申請できる基準を作成した.申請時から1 年以前後で腎代替療法が必要になると予測される進行性腎機能障害例で, 1.成人例ではeGFR 15mL / 分/ 1.73m2 未満, 2. 小児例と現在腎移植後で腎機能低下が進行してきた例ではeGFR 20mL / 分/ 1.73 m2 未満
CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2017(2015 追補版) 98 CKD ステージG3b ~5 診療ガイドライン2017(2015 追補版) 98 情報提供を行うタイミングは,患者自身と家族が透析療法ならびに腎移植を含むすべての腎代替療法について適切な説明を聞き,患者自身と家族が選択した腎代替療法について,十分な心と身体の準備をするための期間が確保できる時期に行うことが適切である.このことは,透析療法導入期および腎移植周術期の合併症を減らし,腎代替療法開始後の良好な社会生活を維持するために必要と考える. 背景・目的 腎代替療法に対する情報提供は,腎代替療法の安全な実施に向けての第一段階と考えられる.腎代替療法である透析療法や腎移植に関する情報提供は,どのようなCKD ステージで,どのように実施するのが適切であるのか明らかではない.透析療法開始あるいは腎移植実施前後の患者合併症,生命予後に影響する情報提供のあり方があるか検証した.情報提供を行うタイミング CKD のどのステージに具体的な情報提供を行うことが適切であるか検討した研究は少ない.しかし,患者および家族への心理教育的介入は,透析療法導入への遅延効果や透析療法導入後の生命予後をも改善すると報告されている1, 2).維持血液透析導入ガイドラインで引用されている多くの論文が,専門医がCKD 保存期に介入し,腎代替療法の開始が必要となる6 ~12 カ月前に情報提供を行うことで,腎代替療法の導入後の生命予後が改善することを指摘している3, 4).Chen らは5)透析療法導入6 カ月以上前の腎臓専門医への受診,それ未満での受診を比較し,eGFR が15 mL / 分/1.73 m2 に到達した時点からの生存期間を比較検討しているが,6 カ月以上前の腎臓専門医への受診はeGFR 15 mL / 分/1.73 m2未満からの生命予後が良好であると報告している.また,オーストラリアの多施設大規模コホート研究(PINOT)6)では,腎代替療法開始の3 カ月前までに腎臓内科医を受診していないと,腎代替療法開始前に情報提供を受けることができず,CKDステージG5 に至った時点で情報提供を受けると先行的腎 透析および腎移植に関する情報提供はどのようなCKD ステージで 行うべきか? 9.透析・移植医療 ● 推 奨 ● CKD 症例に対して,CKD ステージG4(GFR 15 ~30 mL/ 分/1.73 m2)に至った時点で,公平かつ適切な透析療法および腎移植に関する準備のための情報提供を本人および家族に行うことは,腎代替療法開始後の生命予後を改善するのでこれを推奨する.
移植に比べ施設透析の選択が多いという偏りが生じることが報告されている.PINOT は,CKD ステージG5 に至った721 例を対象にしており,初めて情報提供を受けたeGFR の平均値は13.3 mL / 分/ 1.73 m2 で,65%はCKD ステージG5,32%がCKD ステージG4 で情報提供を受けていた.腎代替療法の開始前に治療選択に関する情報を受けることができなかった118 例(16%)のうち,施設血液透析を開始したのは102 例と高率となっていた.腎移植に関する情報提供も,少なくともCKD ステージG4 の時期に行われることが望ましいと考えられる.これには2 つの理由がある.1 つの理由は,近年わが国では移植腎生着率,生存率が良好で,拒絶反応発生が低く,アクセス関連手術が不要などさまざまな利点を有している先行的腎移植(PEKT)が増加しているという点があげられる.欧米の少数例の過去起点コホート研究では,腎移植を受けた患者のなかで,eGFR <30 mL / 分/1.73 m2 になってからpre-dialysis education program(1腎臓の機能,腎不全とは何か,原疾患について,2食事療法の重要性,3腎代替療法の情報提供の導入編,4腹膜透析について,5血液透析について,6腎移植について:特にeGFR <30 mL/ 分/1.73 m2 では4~6を重点的に行う)を生体ドナー候補と一緒に行った群のほうが,行わなかった群と比べ,PEKT で腎移植を施行した割合と生体ドナーが配偶者や両親・兄弟以外の親族であった割合が有意に高かったと報告されている7).もう一つの理由は,PEKT レシピエントの腎移植術前評価には一般的に6 ~12 カ月近い期間が必要であることがあげられる.ドナーの選択やドナー評価も含めると,腎代替療法選択と腎移植術前評価により時間がかかる傾向がある.GFR の低下スピードは進行型の2 型糖尿病では年間10 mL / 分/1.73 m2 近い8)ことを考えると,GFR が5 mL / 分/1.73 m2 前後で移植手術を受けると仮定してもGFR 15 mL / 分/1.73 m2 の段階での評価開始が必要となることが予測される.eGFR が15 mL / 分/ 1.73 m2 以上で移植リストにのった患者群が,有意に移植後の生命予後が良好であるという報告もある 9).また,患者の視点からも早期からの腎代替療法に関する情報提供を希望している事実がある.実際に腎移植を受けた患者へのアンケート調査では,『腎臓内科医や透析医が腎移植について説明するのはいつが適切ですか?』という質問に約75%の患者がアクセス作製前と答えており,CKD ステージG4, 5の早い段階での腎移植のオプションの説明を望んでいる10).以上より,腎移植に関する情報提供も,少なくともCKD ステージG4 の段階で行うことが望ましいと考えられる.しかしながら,CKD ステージG4のどの時点において情報提供を行うかは,患者の医学的・肉体的・精神的あるいは社会的状況や腎機能低下の進行速度などを総合的に判断されるべきであり,患者をよく知る担当医療者の判断により異なってしかるべきである.決して全例に対してCKD ステージG4 に到達したら直ぐに行う必要があるものではない.逆にCKD の進行が速い症例では,ステージG4 より早期から情報提供が必要な場合もあると考えられる.CKD の進行が速いとは,1 年以内に透析導入となることが予想されるなどが考えられるが,その判断は担当医に委ねられる. 情報提供の対象者 近年は,CKD 症例が高齢化しており,心血管系合併症,認知症など多くの合併症を抱えていることが多い.また,一人暮らしや,要介護状態のCKD患者も多い.また,CKD ステージが進行している場合は,患者は治療同意能力が低下していることを配慮する必要がある11).よって,透析療法および腎移植に関する準備の情報提供は,各治療手段に関する長所と短所について,患者個人のみならず家族も同席のうえ,十分な説明のもとで治療選択が行えるように倫理的・心理的・社会的ケアを行いつつ必要な情報提供をすることが望ましい.そのうえで,
患者自身が最も自分に適していると考える療法を選択できるように手助けをすることが望ましいと考えられる.すべてのCKD 症例が自由に腎代替療法を選択できるわけではない.透析療法としては,腹膜透析と血液透析があることを説明するが,それぞれ不向きな病態がある12 ~14).腹膜透析については,癒着を伴う腹部手術の既往,横隔膜交通症,重症の呼吸不全,回腸導管や人工肛門,腹部肥満,筋肉量が多いことなどが不向きとされているが,PKD,門脈圧亢進症,大腸憩室症や腹部のヘルニアは直ちに禁忌となるわけではない.一方,血液透析に関しては, AVF を作製できる血管が乏しいこと,循環動態が不安定であること,尖端(針)恐怖症が不向きとされる.また,特に腎移植の選択には禁忌事項があり,レシピエントが悪性腫瘍,全身性感染症,活動性肝炎を有する場合は選択できない.レシピエントの年齢に制限はないが15),実際にわが国でも70 歳以上の腎移植は2.2%しか行われておらず16),欧米のガイドラインでも適切な評価と教育を受けた70 歳以上の腎移植対象者は余命に対する利点がある可能性を示しているに留まる17).しかし現在のわが国における透析導入時平均年齢は69.20 歳,最も多い年齢層は男女ともに75 歳であることから18),実際にはCKD ステージG4 の約半数は腎移植を受けることが稀な対象者となる可能性がある.つまりCKD ステージG4 からの腎機能障害の進行度を鑑み,70 歳以上のCKD ステージG4 の患者へは腎移植のオプション提示を行うか否か慎重に判断すべきであろう.献腎移植の情報提供の際には長い待機期間を考慮して,高齢のCKD ステージG4 の患者への情報提供は,その旨を説明して割愛してもよいと考える. 情報の提供者と腎代替療法の意思決定 Stack ら19)の報告は,USRDS に登録された症例のうち1996 ~1997 年に新たに透析導入された4,025例が対象となり,質問に回答があり除外項目に該当 しなかった2,418 例について2001 年までフォローアップを行った.対象症例は,透析開始時の透析療法の選択について,患者が行ったか,医師や看護師, MSW などの医療チームが行ったか,医療チームと患者が同等にかかわったかによって3 群に分けて検討されたが,関連する因子で補正しても,患者主導群は,医療チーム主導群に比較して有意に生命予後が良好であった.患者主導群では,フォローアップ期間中に腎移植を行った症例が有意に多かったが,腎移植の有無で補正してもこの結果は同様であった.この例からわかるように,複数の立場の異なる医療者は患者主体で腎代替療法の選択ができるように支援することが望ましいと考えられる.Karkarら20)も,可能なら医師・看護師・MSW・薬剤師など多職種で情報提供を行うことが望ましいと報告している. 適切な情報提供の方法とその内容 腎移植を含め腎代替療法は生命予後を改善するために必要であることのみならず,療法を選択した後,社会生活が維持できることについても説明する必要がある.例えば,腎代替療法のオプション提示における腎移植の情報提供は,具体的には以下のようなものが求められる21). 1 腎移植の透析療法(血液・腹膜)との相違およ び利点・欠点2.わが国の腎移植の現状,成績(生着率・生存率) 3.腎移植のドナー・レシピエント関係(献腎/ 生体, 血液型適合/ 不適合,血縁間/ 非血縁間) 4.腎移植の施行時期(先行的/ 透析導入後)とそ の利点・欠点5.生体ドナーの適応,リスク6.腎移植の手術方法,免疫抑制療法7.腎移植後の合併症8.腎移植後の生活の実際9.腎移植に関する医療費助成と社会福祉サービス
について情報提供に際しては,日本腎臓学会,日本透析医学会,日本移植学会が合同で作製した説明書20)などを用いて,腎移植(献腎移植,生体腎移植),血液透析,腹膜透析のすべての治療法について情報提供を行うよう配慮が必要である.2006 年に日本透析医学会の施設会員に対して行われたアンケート調査においては21),回答のあった480 施設のうち,腎移植,血液透析,腹膜透析のすべてについて治療実績のある56 施設と比較して,腎移植のみ治療実績のない162 施設では44.4%で腎移植に関するインフォームド・コンセントが十分に行えていないと回答し,血液透析のみの治療実績がある176 施設では腹膜透析については58.6%,腎移植については40.9%でインフォームド・コンセントが十分に行えていないと回答している.治療実績のない施設では,紙媒体やDVD などの資材を用い,治療実績のある施設への紹介も考慮にいれる柔軟な対応が求められる.あまり強調されることはないが,生活スタイルの変容のほか,以下のような場合に透析療法の変更(Transition)が勧められるため,透析療法は変更が可能なことも説明する.血液透析から腹膜透析への変更が勧められるのは次のような場合である:1適切なドライウェイト管理にもかかわらず血液透析中の血行動態が不安定であったり,こむら返りが生じたりする,2ブラッドアクセス作製困難,3難治性腹水.また逆に,腹膜透析から血液透析への変更が勧められるのは次のような場合である:1体液量や尿毒症症状を管理できない,2難治性腹膜炎,3残存腎機能が低下,4腹腔内手術が必要となった,5被囊性腹膜硬化症の発症. 文献検索 データベース:PubMed期間:1990 年~2016 年9 月までキーワード: dialysis, dialysis modality, education医中誌キーワード:腎代替療法, 情報提供, アンケート期間:2000 年~2016 年PubMed期間2004 年~2016 年キーワード: pre dialysis education pre transplant education, kid- ney transplantation 参考にした二次資料 ・ 日本腎臓学会編.慢性腎臓病に対する食事療法基準, 2014 年版,東京医学社,東京,2014・ 日本腎臓学会編.エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2013.東京医学社,東京,2013.・ KDIGO 2012 Clinical practice guideline for the evaluation and management of chronic kidney disease. Kidney Int Suppl 2013;3:1-150. 参考文献 1) Devins GM,Mendelssohn DC,Barré PE,et al.Predialysis psychoeducational intervention and coping styles influence time to dialysis in chronic kidney disease.Am J Kidney Dis. 2003;42:693-703. 2) Devins GM,Mendelssohn DC,Barré PE,et al.Predialysis psychoeducational intervention extends survival in CKD:a 20-year follow-up.Am J Kidney Dis. 2005;46: 1088-98. 3) Roderick P,Jones C,Drey N,et al.Late referral for end-stage renal disease:a region-wide survey in the south west of England.Nephrol Dial Transplant. 2002;17: 1252-9. 4) Lin CL,Wu MS,Hsu PY,et al.Improvement of clinical outcome by early nephrology referral in type IIdiabetics on hemodialysis.Ren Fail. 2003;25:455-64. 5) Chen SC,Hwang SJ,Tsai JC,et al.Early nephrology referral is associated with prolonged survival in hemodialysis patients even after exclusion of lead-time bias.Am J Med Sci. 2010;339:123-6. 6) Morton RL,Howard K,Webster AC,et al.Patient INformation about Options for Treatment(PINOT):a prospective national study of information given to incident CKD Stage 5 patients.Nephrol Dial Transplant. 2011;26:1266-74. 7) Cankaya E,Cetinkaya R,Keles M,et al.Does a predialysis education program increase the number of pre-emptive renal transplantations? Transplant Proc. 2013;45:887-9. 8) Zoppini G,Targher G,Chonchol M,et al.Predictors of estimated GFR decline in patients with type 2 diabetes and preserved kidney function. Clin J Am Soc Nephrol. 2012; 7:401-8. 9) Fissell RB,Srinivas T,Fatica R,et al.Preemptive renal transplant candidate survival, access to care, and renal function at listing.Nephrol Dial Transplant. 2012;27:3321-9. 10) 柴垣有吾,東間 紘,寺岡 慧.腎移植における腎臓内科医・透析医の関与-腎移植患者のアンケート調査から-.日腎会誌.2004;46:20-25. 11) 寺脇博之,佐藤寿伸,三浦伸義,他.慢性腎臓病(CKD) ステージ5 患者の治療同意能力に関する予備的検討.日腎会誌.2008;50:915-26.
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CKD ステージG5 における準備の段階では,安全に腎代替療法を開始するためにより慎重な心血管系合併症を中心とした全身合併症の評価が必要であり,問題があればこれを治療しておく必要がある.透析療法に関しては,バスキュラーアクセス,ペリトネアルアクセスを造設する時期でもある.また,PEKTに関しては,ドナーを含めた全身検査を行う準備期間でもあり,特に献腎移植を考慮する場合は登録可能期間でもある.これらの準備は,透析や移植の専門医を中心に行うことが望ましいと考えられる. 背景・目的 CKD ステージG5 の段階では,腎代替療法へのスムーズな移行のための準備が必要である.この時期は,CKD 合併症の有病率や重症度も高くなる時期でもある.それらを鑑み,患者が希望する腎代替療法に対して,どのように腎代替療法の準備を進め ることが適切であるのか検証した. 合併症の評価 CKD 症例は,心血管系合併症を有する頻度がCKD のステージ進行とともに増加するといわれる.血液透析においてはバスキュラーアクセスの造設や透析時の除水により心負荷が増加する懸念から,また腹膜透析においては麻酔下でのペリトネアルアクセス留置を安全に行うという観点から,腎代替療法の準備期に心機能,冠動脈疾患,頸動脈,その他の慎重な心血管系評価が必要である.血液透析においては,抗凝固薬を使用するため,消化管などを中心に出血性病変がないか検査する必要もある.問題が発見された場合は,透析開始前に治療を要する.わが国での透析導入症例は,糖尿病性腎症が最も多く,高齢化も進んでいるが,特に高齢や糖尿病の合併,冠動脈リスクを複数持つなど高リスクの症例において,透析導入後の心イベントのリスクが高い 腎代替療法の準備はどのようなCKD ステージで行うべきか? 9.透析・移植医療 ● 推 奨 ● CKD 症例に対して,CKD ステージG5(GFR 15 mL / 分/1.73 m2 未満)に至る前に専門医に紹介し, CKD ステージG5 では希望する腎代替療法を担当する透析または腎移植の専門医を中心に腎代替療法の準備を開始することが望ましい.ただし,eGFR の低下速度は症例により異なり,進行性の腎機能低下を示す症例では,CKD ステージG5 より早期の段階から腎代替療法の準備が必要となることもある.
ことが示されている1).特徴的なこととして,腎代替療法開始時期においては,無症状であってもMDCT による評価において冠動脈に狭窄病変や石灰化が存在し,心イベントのリスクファクターであることが報告されている2).したがって,心血管系疾患の評価は非常に重要である. PEKT を希望する症例においても全身麻酔下での手術であることから,心血管合併症の評価は必須であるが,さらに感染症,悪性腫瘍,歯科,耳鼻科,眼科受診などを行い全身的な合併症評価が必要であり,問題があれば移植前に治療を要する.また腎移植実施前の特殊な検査として,既存抗体陽性症例(ドナーHLA あるいはその他のドナー抗原に対する抗体)や血液型不適合移植で抗A 抗体価,抗B抗体価の測定が必要であり,これらの値が高い場合においては移植後の拒絶反応からグラフトロスになる確率が高く,PEKT を断念せざるを得ない場合もある3).また,同時にドナーに関しても全身合併症の評価が必要であり,特にドナーが高齢で合併症が多い場合は,この準備評価に時間がかかることが想定されるので注意が必要である. バスキュラーアクセスの準備 血液透析療法に関しては,バスキュラーアクセスが不可欠であるが,CVC による透析導入は生命予後を悪化させることが示されており,AVF あるいはAVG による透析導入ができる限り望ましい4 ~8).スペインの3 施設における血液透析導入患者538 例の検討では,透析導入3 カ月以上前に専門施設に紹介となり,血圧や貧血,電解質,脂質の管理,食事・運動・禁煙の指導やRA 系阻害薬の使用などの治療介入を行い,恒久的なバスキュラーアクセスの準備を進める計画導入群と非計画導入群を比較すると,計画導入群で予後が良好であり,さらに透析導入時のアクセスがAVF であるかCVC であるかを加えた4 群で比較すると,計画導入でAVF が最も予後が良好で,非計画導入でCVC が最も生命予後が不良であった5). 透析開始時にCVC でなくAVF もしくはAVG を用いることは透析導入後の生命予後にもかかわるが,イタリアの3 施設からなるコホート研究では,535例の血液透析導入患者のうち,47.2%が透析開始時にCVC を用いており,CVC を用いた患者や,透析導入3 カ月以内での紹介は,AVF の1 次開存率が低いことと関連し,AVF 作製後30 日以内に穿刺を開始することは独立した開存率低下のリスクであった9).また,DOPPS の前向き研究においても,894例のAVF で血液透析導入した症例について,年齢,性別,糖尿病,末梢血管疾患,透析導入前の腎臓専門医のケアなどで補正しても,AVF 作製後14 日以内の穿刺は,14 日を超えての穿刺と比較して2.1 倍アクセス不全のリスクが高いと報告されている10).透析導入時にAVF,AVG を用い,作製から穿刺までの期間を確保することが求められるが,一方で,早すぎるブラッドアクセスの作製については, AVF 作製前のCKD ステージG4,AVF 作製後のCKD ステージG4,CVC での透析,AVF での透析といった状態への移行と,透析導入,心不全などのイベントの発生を,論文データに基づいて仮定し構築したマルコフモデルによる検討が報告されている.この研究では,70 歳のCKD ステージG4 の男性を想定し,CKD ステージG4 においてAVF を作製することは,透析導入時にはCVC を用いて,その後にAVF を作製することと比較して,平均余命は65.9 vs 66.6 月,質調整余命38.5 vs 38.9 月と, CKD ステージG4 における早期作製でむしろ不良であった11).このようなデータからも,CKD ステージG5 で透析準備としてのバスキュラーアクセスを作製することは妥当と考えられる. ペリトネアルアクセスの準備 ISPD の推奨12, 13)にもあるように,腹壁の状態を確認し,腹部外科手術やヘルニアの既往を確認し,必要があればカテーテル挿入時に外科的処置による
治療を考慮する.Del Peso らの腹膜透析患者142 例における検討では,ヘルニアや液漏れといった腹壁合併症を53 例に発症し,PKD がヘルニアの,また高齢とBMI 高値が液漏れの独立したリスクであった14).液漏れについては,CAPD とAPD の比較において,0.08 対0 leaks / patient / year と有意差はないものの,CAPD に多く発症しており,CAPD とAPDのいずれを選択するかにおいて考慮する必要がある.カテーテル挿入から腹膜透析を開始するまでの期間は,少なくとも2 週間はあけることが推奨される.血液透析への移行や併用を考慮していないのであれば,AVF の作製は推奨されず,CVC を用いて血液透析を行うことを避けるため,腹膜透析を開始する必要が生じる少なくとも2 週間前にはカテーテル挿入術を行っておく.カテーテル挿入後すぐに透析が必要となった場合には,仰臥位で透析液量を少なくすることで液漏れを防ぐことが推奨される.Tzamaloukas らの報告では,カテーテル周囲からの液漏れについて,術後早期(30 日以内)のearly leaks は19 件(90%)がカテーテル挿入から10 日以内に起こり,この中で11 件は24 時間以内に起こった15).さらに,カテーテル挿入後4 週間は腹腔洗浄のみで血液透析を施行した36 例(グループA)と,カテーテル挿入後4 週間は週に1 回Cycler で間欠的な腹膜透析を施行した53 例(グループB)を比較したCheng らの報告では,カテーテル周囲からの透析液の漏出はグループB で有意に高率であった16).両者において,カテーテル抜去や生命予後に差を認めなかったが,液漏れは糖尿病に高率であり,リスクの高い症例については液漏れを減らすためにカテーテル挿入から透析開始までの期間をより長く設ける必要がある.導入が必要となった時期に遅滞なく導入が行えるように,腹膜透析カテーテルの挿入と埋め込みを予め行い,導入が必要となった時期に植え込まれたカテーテルを取り出し出口部を形成する段階的な腹膜透析導入法を行っている施設もあるため,特に他施設に導入を依頼する必要な場合には考慮する.ペリトネアルアクセスを作製する時期に関して は,明確なエビデンスに基づいて推奨されている訳ではないが,NKF-DOQI(NKF-K/DOQI 2006), EBPG(EBPG 2005)など米国や欧州の腹膜透析に関するガイドラインでも,血液透析,腹膜透析にかかわらずeGFR 15 mL / 分/1.73 m2 以下となった時点でアクセスを作製し透析導入に備えることを推奨している.したがって,ペリトネアルアクセス作製の作製時期はCKD ステージG5 が望ましいのではないかと考える.ただし,バスキュラーアクセスもペリトネアルアクセスも,eGFR 低下速度が速い症例では,CKD ステージG5 より早期の段階からアクセスの準備が必要となることもある. PEKT 手術の準備 PEKT 手術施行の時期についてであるが,早すぎるPEKT 実施の利点はないということが報告されている17).Grams ら18)は,PEKT 施行時のeGFR を, 0 ~10,10 ~15,15 ~20,20 mL / 分/ 1.73 m2 以上の4群に分割し,移植腎予後と生命予後を比較検討したが,各群間で有意差がなかったと報告している.つまり早すぎる段階でのPEKT 手術には利点はなく,CKD ステージG5 の段階でのPEKT 手術準備でよいのではないかと考える.ただし,腎移植においてはドナーも含めた多数の術前検査があり, eGFR の低下速度が速い症例では,CKD ステージG5 より早期の段階からPEKT 手術の準備が必要となることもある.齋藤ら19)の調査では,わが国では手術直前のeGFR の平均値が8.4 mL / 分/ 1.73 m2 であり, 43.4%の症例が直前透析を行ってPEKT 形式の移植が実施されている.全身状態が良く透析によるコンディショニングなども必要ない状態で移植するためには,eGFR 10mL / 分/1.73 m2 を切るぐらいまでに十分な準備評価を行ったうえで,eGFR 10 mL / 分/ 1.73 m2 を切ったら臨床症状がある場合には速やか に,そうでない場合では遅くてもeGFR 8 mL / 分/
1.73 m2 ぐらいまでには手術を施行する必要がある と考えられる.このような点からも,PEKT の準備は,CKD ステージG5 の段階で開始することが望ましいと考えられる.わが国においては,2012 年7 月より,透析導入前の献腎登録が可能となり,先行的献腎移植の登録基準は成人例でeGFR 15 mL / 分/1.73 m2 未満である.わが国の現行の献腎移植の待機システムでは,待機年数の加算が大きいため,実際に先行的献腎移植の恩恵を受ける患者はかなり限定されるのが現状ではあるが,すでに小児例においてはわが国でもPEKT の形式で献腎移植を受けた症例が存在する. 文献検索 データベース:PubMed 医中誌期間:1990 年~2016 年9 月までキーワード: vascular access,peritoneal access,pre-emptive kidney transplantation,バスキュラーアクセス,ペリトネアルアクセス,先行的腎移植 参考にした二次資料 ・ 日本腎臓学会編.エビデンスに基づくCKD 診療ガイドライン2013.東京医学社,東京,2013・ 維持血液透析ガイドライン:血液透析導入.透析会誌. 2013;46:587-632.・ 2009 年版 日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン」.透析会誌.2009;42:285-315.・ 日本透析医学会.「慢性血液透析用バスキュラーアクセ スの作製および修復に関するガイドライン」.透析会誌.2011;44:855-937. 参考文献 1) Kim JK,Kim SG,Kim HJ,et al.Cardiac risk assessment by gated single-photon emission computed tomography in asymptomatic end-stage renal disease patients at the start of dialysis.J Nucl Cardiol. 2012;19:438-47. 2) Lee JE,Lee YK,Choi EJ,et al.Usefulness of multidetector row computed tomography for predicting cardiac events in asymptomatic chronic kidney disease patients at the initiation of renal replacement therapy.ScientificWorld- Journal. 2013;2013:916354.doi:10.1155/2013/ 916354. eCollection 2013. 3) Fidler SJ,Irish AB,Lim W,et al.Pre-transplant donor specific anti-HLA antibody is associated with antibody-mediated rejection,progressive graft dysfunction and patient death.Transpl Immunol. 2013;28:148-53. 4) Ortega T,Ortega F,Diaz-Corte C,et al.The timely con- struction of arteriovenous fistulae:a key to reducing mor- bidity and mortality and to improving cost management. Nephrol Dial Transplant. 2005;20:598-603. 5) Lorenzo V,Martn M,Rufino M,et al.Predialysis ne- phrologic care and a functioning arteriovenous fistula at entry are associated with better survival in incident hemodialysis patients:an observational cohort study.Am J Kidney Dis. 2004;43:999-1007. 6) Astor BC,Eustace JA,Powe NR,et al.Type of vascular access and survival among incident hemodialysis patients: the Choices for Healthy Outcomes in Caring for ESRD (CHOICE)Study.J Am Soc Nephrol. 2005;16:1449-55. 7) Wasse H,Speckman RA,McClellan WM.Arteriovenous fistula use is associated with lower cardiovascular mortality compared with catheter use among ESRD patients.Semin Dial. 2008;21:483-9. 8) Ng LJ,Chen F,Pisoni RL,et al.Hospitalization risks related to vascular access type among incident US hemodialysis patients.Nephrol Dial Transplant. 2011;26:3659-66. 9) Ravani P,Brunori G,Mandolfo S,et al.Cardiovascular comorbidity and late referral impact arteriovenous fistula survival:a prospective multicenter study.J Am Soc Nephrol. 2004;15:204-9. 10) Rayner HC,Pisoni RL,Gillespie BW,et al.Creation, cannulation and survival of arteriovenous fistulae:data from the Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study.Kidney Int. 2003;63:323-30. 11) Hiremath S,Knoll G,Weinstein MC.Should the arteriovenous fistula be created before starting dialysis?:a decision analytic approach.PLoS One. 2011;6:e28453 12) Figueiredo A,Goh BL,Jenkins S,et al.Clinical practice guidelines for peritoneal access. Perit Dial Int. 2010;30: 424-9. 13) Gokal R,Alexander S,Ash S,et al.Peritoneal catheters and exit-site practices toward optimum peritoneal access: 1998 update.(Official report from the International Society for Peritoneal Dialysis).Perit Dial Int. 1998;18:11-33. 14) Del Peso G,Bajo MA,Costero O,et al.Risk factors for abdominal wall complications in peritoneal dialysis patients.Perit Dial Int. 2003 ;23:249-54. 15) Tzamaloukas AH,Gibel LJ,Eisenberg B,et al.Early and late peritoneal dialysate leaks in patients on CAPD. Adv Perit Dial. 1990;6:64-71. 16) Cheng YL,Chau KF,Choi KS,et al.Peritoneal catheter-related complications: a comparison between hemodialysis and intermittent peritoneal dialysis in the break-in period.Adv Perit Dial. 1996;12:231-4. 17) Akkina SK,Connaire JJ,Snyder JJ,et al.Earlier is not necessarily better in preemptive kidney transplantation.Am J Transplant. 2008;8:2071-6. 18) Grams ME,Massie AB,Coresh J,et al.Trends in the timing of pre-emptive kidney transplantation.J Am Soc Nephrol. 2011;22:1615-20. 19) 齋藤和英:先行的腎移植ガイドラインワーキンググ ループによる実態調査.変貌する腎移植, 高橋公太編, 28-37, 日本医学館, 東京,2012