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ネフローゼ症候群は糸球体性の大量の蛋白尿による低アルブミン血症の結果,浮腫が出現する腎疾患群である。1905 年,Müller によって“nephrosis”が病理学的に腎炎と対比して炎症性変化のない腎疾患に対して初めて使用され1),1914 年に Volhard と Fahr2)により,光顕にて糸球体の
はじめに明らかな病的変化を持たない浮腫性腎疾患をネフローゼと
して疾患概念が提唱された。しかし,その後の研究により, nephrosis は単一の疾患ではないことが明らかになり,むしろ著しい蛋白尿のため低蛋白血症をきたし,浮腫を合併するような病態をネフローゼ症候群として包括し,適切な治療を必要とする疾患群として現在に至っている。ネフローゼ症候群に対する副腎皮質ステロイド薬(以下,
厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班難治性ネフローゼ症候群分科会
ネフローゼ症候群診療指針Guidelines for the treatment of nephrotic syndrome
進行性腎障害調査研究班班長 松尾 清一 名古屋大学
診療指針執筆者難治性ネフローゼ症候群分科会長 今井 圓裕 名古屋大学
今田 恒夫 山形大学鶴屋 和彦 九州大学佐藤 博 東北大学清元 秀泰 香川大学丸山 彰一 名古屋大学
斉藤 喬雄 福岡大学田口 尚 長崎大学横山 仁 金沢医科大学成田 一衛 新潟大学湯沢由紀夫 藤田保健衛生大学
診療指針査読者研究協力者
草野 英二 自治医科大学木村健二郎 聖マリアンナ医科大学藤元 昭一 宮崎大学佐々木 成 東京医科歯科大学柏原 直樹 川崎医科大学土井 俊夫 徳島大学冨田 公夫 熊本大学石村 栄治 大阪市立大学古巣 朗 長崎大学両角 國男 名古屋第二赤十字病院重松 隆 和歌山県立医科大学八木 哲也 名古屋大学馬場 尚志 名古屋大学岡田 浩一 埼玉医科大学古家 大祐 金沢医科大学南学 正臣 東京大学
御手洗哲也 埼玉医科大学総合医療センター今井 裕一 愛知医科大学岩野 正之 奈良県立医科大学西 愼一 神戸大学頼岡 5在 広島大学吉村吾志夫 昭和大学藤が丘病院松本 紘一 日本大学椿原 美治 大阪府立急性期・総合医療センター佐藤 壽伸 仙台社会保険病院杉山 斉 岡山大学新田 孝作 東京女子医科大学藤垣 嘉秀 浜松医科大学鎌田 貢壽 北里大学武曾 恵理 北野病院奥田 誠也 久留米大学和田 隆志 金沢大学猪阪 善隆 大阪大学
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ステロイド)による治療は 1950 年頃より行われ,免疫抑制薬を加えた治療が 1960 年代から試されている。ランダム化臨床試験によりエビデンスの形で治療の有効性が提唱されるのは 1980 年代からであるが,その嚆矢は 1969 年に報告された Sharpstone らによるステロイドとアザチオプリン+少量のステロイドを比較したコントロール試験である3)。わが国においても 1970 年頃より,日本腎臓学会の先達が厚生省特定疾患調査研究事業における一つの研究班としてネフローゼ症候群に対する診断,治療法の開発に取り組んでこられた。1973 年に報告された厚生省特定疾患ネフローゼ症候群調査研究班(上田 泰班長)による診断基準4)と 1974 年に報告された治療効果判定基準5)は現在でも臨床に使用されている。この班研究は脈々と続き,1999 年には難治性ネフローゼ症候群が,「種々の治療(副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬の使用は必須)を施行しても,6 カ月の治療期間に完全寛解ないし不完全寛解I型に至らないもの」と定義された6)。また,クレアチニンクリアランスに基づく重症度分類(試案)も提案されている。2002 年に厚生労働省進行性腎障害に関する調査研究班(堺 秀人班長)の難治性ネフローゼ症候群分科会(斉藤喬雄分科会長)によって難治性ネフローゼ症候群(成人例)の診療指針が作成された7)。この診療指針は原発(一次)性ネフローゼ症候群の疫学,診断,治療,合併症に関する診療指針であり,1993 年より進められたネフローゼ症候群のレジストリーの解析から,膜性腎症と巣状分節性糸球体硬化症に関する治療に関してまとめたものである。ステロイドや免疫抑制薬による治療の有効性が臨床試験により確立されてきたが,難治性ネフローゼ症候群の予後は必ずしも良くはない。平成 14 年度の進行性腎障害調査研究班では膜性腎症約 1,000 例での予後調査で,腎生存率は 20 年で約 60 %であり巣状分節性糸球体硬化症はさらに悪いことが報告されている8)。最初の診断基準・治療効果判定基準が作成されて以来35 年間の腎臓病学の進歩は目覚ましく,この間に開発された治療薬や治療法を取り入れた新しいネフローゼ症候群の診療指針の必要性を痛感し,ここに,諸外国の診断基準との齟齬がなく,今後のネフローゼ症候群の臨床研究を推進するために,わが国から新しい診断基準・治療効果判定基準を提案する。ネフローゼ症候群の診療に関しては,エビデンスに基づき記載できる部分は必ずしも多くなく,専門医のコンセンサスに基づき記載したところも多いが,本診療指針を読むことにより,成人の原発性ネフローゼ症候群に関する標準
的な治療を行うことができるように記載した。各章のまとめを最初に記載し,各病理分類別に診療のアルゴリズムを示した。各章の最後に現在のネフローゼ症候群の診療に関する未解決の問題点をあげて,今後の研究課題として示した。今回改訂された予後判定基準に基づき,エビデンスに基づく治療法が開発されることを期待する。
1 .これまでのネフローゼ症候群の定義について欧米においては 3.5 g/日以上の尿蛋白があることを診断の基準とし,低アルブミン血症,浮腫,脂質異常症が合併する病態と記載されることが多い。わが国のネフローゼ症候群の診断基準は昭和 48 年(1973 年)5)に厚生労働省特定疾患ネフローゼ症候群調査研究班(上田 泰班長)によって,必須条件として, 1尿蛋白3.5 g/日以上, 2血清総蛋白 6.0 g/日以下(血清アルブミン値 3.0 g/dL 以下)を満たし,参考条件として, 3高脂血症:コレステロール 250 mg/dL 以上, 4浮腫がみられる,と厳格に規定され,以来広く使用されてきた。わが国のように厚生労働省による国の基準によってネフローゼ症候群の診断基準が決められていることは,他の国ではなく,また 35 年以上前の腎臓病治療の創成期にすでに決められたことには大変意義深いものがある。昭和 49年(1974 年)の厚生省特定疾患ネフローゼ症候群調査研究班において,治療効果判定基準は完全寛解,不完全寛解I型,不完全寛解II型,無効に分類された4)。すなわち,完全寛解:蛋白尿の消失,血清蛋白の正常化,および他の諸症状の消失がみられるもの不完全寛解I型:血清蛋白の正常化と臨床症状の消失が認められるが尿蛋白が存続するもの不完全寛解II型:臨床症状は好転するが,不完全寛解 I型に該当しないもの無効:治療に全く反応しないものと定義されている。上記のごとく,これまでの治療効果判定基準の主文には尿蛋白に関する数値が記載されていない。諸外国においては,観察研究あるいは臨床試験を行うための治療効果判定基準はそれぞれの研究に応じて決められている。完全寛解は尿蛋白 0.2 g/日以下とする場合9~11)と,
0.3 g/日(アルブミン 200 mg/日)未満とする場合12~15)があ
I.ネフローゼ症候群の定義と治療効果判定基準
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る。KDIGO による完全寛解の基準は尿蛋白 0.3 g/日(g/ gCr)未満に決定される予定である。また,部分寛解(partial remission)という基準を定め,2 g/日未満(または 3.5 g/日未満)かつ初期値から 50 %減少とされることが多い10~15)。
2 .ネフローゼ症候群の定義・治療効果判定基準の改訂
についてネフローゼ症候群の本体は糸球体からの大量のアルブミンの漏出であること,総蛋白による判定では,γグロブリンが上昇する膠原病や骨髄腫に伴うアミロイドーシスなどを原因とするネフローゼ症候群においては低蛋白血症を示さない場合もあること,および,現在の日常臨床において血清アルブミン値測定がルーチンで行われるようになったため,診断基準を改定することにした。今回の改定では,大量の尿蛋白が本症候群の本質であることから,大量の尿蛋白(尿蛋白排泄量 3.5 g/日以上)を必須条件の第一にした。その結果起こる低アルブミン血症(血清アルブミン値
3.0 g/dL 以下)を第二の必須条件とした。血清総蛋白しか測
定されていない場合には“血清総蛋白 6.0 g/日以下”でもよいとした。また参考条件として,第三に本症候群の病態生理の本質である浮腫を位置づけ,第四に,高コレステロール血症は現在の表現である脂質異常症(高 LDL コレステロール血症)とし,従来の総コレステロール 250 mg/dL 以上とする定義は削除した(表 1)。ネフローゼ症候群の治療効果判定基準の改定は以下のような点を反映させ,表 2 に示すような改定案を作成した。臨床研究にて使用可能な判定基準を作成するには具体的な数値基準が重要である。尿蛋白は 1 日蓄尿して定量するこ
とが望ましいが,外来患者で蓄尿ができない場合や,高齢者などで正確な蓄尿ができない場合もあり,さらには入院患者においては感染症や個人情報保護の観点から,可能であれば蓄尿を行わないほうがよいとの判断もあり,代用する指標として,随時尿の尿蛋白/尿クレアチニン(g/gCr)比が 1 日尿蛋白量の目安になると記載した16)。しかし,尿蛋白 g/gCr 比を使用する場合には尿中 Cr 排泄量が筋肉量に比例するため,高齢者や女性,筋肉量が低下した患者に関しては注意を要する。ネフローゼ症候群の寛解後の経過観察を尿試験紙を使用しても簡易判定ができるように,試験紙法における簡易判定基準も併記した。わが国の検尿試験紙においては尿蛋白(1+)が 30 mg/dL になるように日本臨床検査標準協議会で標準化されており,また,(2+)は任意ではあるが 100 mg/dL になるように統一されている。ただし,尿の濃縮の程度により試験法では不正確になることに留意する。治療効果の判定の時期は,治療開始後 1 カ月,6 カ月とした。ネフローゼ症候群に対する初期治療で十分量のステロイド治療により効果がみられる時期である 4 週目(1 カ月目)で効果がない場合にはステロイド抵抗性とし,ステロイドパルス治療や免疫抑制薬の追加投与など治療方針の変更が起こることから,1 カ月目の判定を重要視した。ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に,ステロイドによる治療
表 1 成人ネフローゼ症候群の診断基準(平成 22 年度厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害に関する調査研究班) 1 .蛋白尿:3.5 g/日以上が持続する。(随時尿において尿蛋白/尿クレアチニン比が 3.5 g/gCr以上の場合もこれに準ずる)。2 .低アルブミン血症:血清アルブミン値 3.0 g/dL 以下。血清総蛋白量 6.0 g/dL 以下も参考になる。3 .浮腫4 .脂質異常症(高 LDL コレステロール血症)注:1)上記の尿蛋白量,低アルブミン血症(低蛋白血症)
の両所見を認めることが本症候群の診断の必須条件である。2)浮腫は本症候群の必須条件ではないが,重要な所見である。3)脂質異常症は本症候群の必須条件ではない。4)卵円形脂肪体は本症候群の診断の参考となる。表 2 ネフローゼ症候群の治療効果判定基準(平成 22 年度厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害に
関する調査研究班)治療効果の判定は治療開始後 1 カ月,6 カ月の尿蛋白量定量で行う。・完全寛解:尿蛋白<0.3 g/日・不完全寛解I型:0.3 g/日≦尿蛋白<1.0 g/日・不完全寛解II型:1.0 g/日≦尿蛋白<3.5 g/日・無効:尿蛋白≧3.5 g/日注:1)ネフローゼ症候群の診断・治療効果判定は 24 時
間蓄尿により判断すべきであるが,蓄尿ができない場合には,随時尿の尿蛋白/尿クレアチニン比(g/ gCr)を使用してもよい。2)6 カ月の時点で完全寛解,不完全寛解I型の判定には,原則として臨床症状および血清蛋白の改善を含める。3)再発は完全寛解から,尿蛋白 1 g/日(1 g/gCr)以上,または(2+)以上の尿蛋白が 2~3 回持続する場合とする。4)欧米においては,部分寛解(partial remission)として尿蛋白の 50 %以上の減少と定義することもあるが,日本の判定基準には含めない。
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に加えて免疫抑制薬による治療を行った場合において,治療反応性を確認し,治療の継続または治療方針の変更,中止などを決断する時期として,従来から使用された 6 カ月を使用した。この時点で,十分量のステロイドと免疫抑制薬を使用しても尿蛋白が減少しない場合に難治性ネフローゼ症候群と定義した。完全寛解は尿蛋白 0.3 g/日未満とし,尿蛋白/尿クレアチニン比 0.3 g/gCr 未満に相当するとした。不完全寛解 I 型以下に尿蛋白を減少させることは予後改善につながることが平成 14 年度の厚生労働省進行性腎障害に関する調査研究班により報告されている。これは随時尿の 1 g/gCr 未満に相当すると考えられ,試験紙法では(1+)以下の尿蛋白に相当する。また今回,治療に対する反応性に基づくネフローゼ症候群の分類を整理した。上述の通り,ネフローゼ症候群の初期治療はステロイドが中心となり,十分量のステロイド治療に反応しないステロイド抵抗性と,ステロイド治療に反応するステロイド感受性に大別される。ステロイド感受性のネフローゼ症候群ではステロイド治療により治療効果を得て,ステロイドの減量・中止後も再発をみず,寛解を維持する例がある一方で,ステロイドの減量過程あるいは離脱後,比較的早期に再発をする例がある。これらのうち,減量・中止過程で 2 回以上再発を繰り返すものをステロイド依存性ネフローゼ症候群とした。また,その再発が頻回に起こるものを頻回再発型として,欧米と同様に 6 カ月以内に 2 回以上再発するものと定義した9)。しかし,ステロイド依存性も減量・中止を短期間に行えば頻回に再発する可能性が高く,逆に頻回再発型も患者個々が必要とするステロイド量を持続するか,早期から免疫抑制薬の併用をすることで再発を起こす間隔は長くなり,定義上の頻回再発型には該当しなくなる。また,高用量のステロイドを維持することは易感染性や耐糖能異常,骨粗鬆症,白内障などの副作用があり,近年,成人ではステロイド治療を行い早期に再発する場合には,免疫抑制薬を追加・増量して治療を強化するため,6 カ月に 2 回以上再発することは稀となった。一方,成人においてネフローゼ症候群の治療を継続して長期にわたって行う必要がある場合があり,このような長期にわたりステロイドと免疫抑制薬による治療が必要なネフローゼ症候群の予後,ならびに副作用については実態調査が必要である。治療が 2 年以上にわたり継続して行われるようなネフローゼ症候群を長期治療依存性ネフローゼ症候群と新たに定義した(表 3)。今後の研究課題
1 )新しいネフローゼ症候群の治療効果判定基準の有効性
を,日本ネフローゼ症候群コホート研究にて検証する。2 )長期治療依存型ネフローゼ症候群の実態調査を行う。
1 .難治性ネフローゼ症候群の発症数新規発症のネフローゼ症候群は年間 3,756~4,578 例と推定され,平成 20 年の新規発症の難治性ネフローゼ症候群は 1,000~1,200 例と推定されている18)。
2 .日本腎生検レジストリー(J-RBR)へのネフローゼ症
候群の登録1 )腎生検例における臨床診断の頻度日本腎臓病総合レジストリー(J-KDR)に 2007~2009 年に登録された腎生検実施例は 5,703 例(男性 3,060 例,女性2,643 例;年齢 1~99 歳,平均 45.7 歳)であリ,移植腎生検を含む臨床診断の内訳(図 1)においてネフローゼ症候群は 1,089 例(19.1 %)であった19)。
2 )ネフローゼ症候群の病因臨床分類登録上のネフローゼ症候群およびその他の臨床診断において,ネフローゼ症候群の定義に従い,尿蛋白排泄量が 3.5 g/日以上かつ血清アルブミン値 3.0 g/dL 以下,もしくは血清総蛋白 6.0 g/dL 以下を示した 1,313 例(J- RBR 登録 1,213 例,J-KDR 登録 100 例;男 754 例,女 559例;年齢 1~94 歳,平均 51.7 歳)を抽出した。糖尿病性腎症や微小変化型ネフローゼ症候群は必ずしも生検が行われ
II.難治性ネフローゼ症候群の疫学
表 3 ネフローゼ症候群の治療反応による分類(平成 22 年度厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害に関する調査研究班)・ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群:十分量のステロイドのみで治療して 1 カ月後の判定で完全寛解または不完全寛解I型に至らない場合とする。・難治性ネフローゼ症候群:ステロイドと免疫抑制薬を含む種々の治療を 6 カ月行っても,完全寛解または不完全寛解I型に至らない場合とする。・ステロイド依存性ネフローゼ症候群:ステロイドを減量または中止後再発を 2 回以上繰り返すため,ステロイドを中止できない場合とする。・頻回再発型ネフローゼ症候群:6 カ月間に 2 回以上再発する場合とする。・長期治療依存型ネフローゼ症候群:2 年間以上継続して
ステロイド,免疫抑制薬等で治療されている場合とする。
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るわけではないため,登録が少なかったと推定する。年齢分布では,小児ステロイド感受性ネフローゼ症候群例の登録が少なかったことより,男女ともに 50~80 歳にピークを示し,成人のネフローゼ症候群の分布をより強く反映している。また,男性では 10~20 歳にも増加しており二峰性を示した(図 2)。病理学的検討では,解析した J- RBR1,197 例における病因分類(図 3)は,原発性(一次性)糸球体疾患が 61.0 %と最も多く,次いで糖尿病性腎症10.7 %,IgA 腎症 5.2 %,ループス腎炎が 4.5 %を占めた。
3 )ネフローゼ症候群の病型ネフローゼ症候群全例の病型分類(図 4a)では,膜性腎症が 27.1 %,微小糸球体変化(微小変化型ネフローゼ症候群) 24.8 %,メサンギウム増殖性糸球体腎炎 9.3 %,巣状分節性
糸球体硬化症 7.6 %,膜性増殖性糸球体腎炎(I型,III型) 6.1 %,半月体形成性壊死性糸球体腎炎 2.3 %であった。さらに二次性を除いた一次性糸球体疾患 732 例の病型分類(図 4b)では,微小糸球体変化(微小変化型ネフローゼ症候群)が 38.7 %,膜性腎症 37.8 %,巣状分節性糸球体硬化症 11.1 %,膜性増殖性糸球体腎炎(I型,III型)6.6 %,メサンギウム増殖性糸球体腎炎 2.9 %,半月体形成性壊死性糸球体腎炎 1.4 %であった。
4 )ネフローゼ症候群における年齢層別の病型頻度年齢層別として 10 歳未満,10~15 歳未満,15~20 歳未満,20~40 歳未満,40~65 歳未満,65~75 歳未満,75 歳
慢性腎炎症候群ネフローゼ症候群急速進行性腎炎症候群膠原病・血管炎に伴う腎障害反復性または持続性血尿代謝性疾患に伴う腎障害急性腎炎症候群高血圧に伴う腎障害急性腎不全薬剤性腎障害遺伝性腎疾患腎移植その他
図 1 J-RBR 登録例の臨床診断(5,703 例)
ネフローゼ症候群は腎生検例の 19.1 %
180 160
140 120 100
80 60
40 20 0 J-RBR Female
J-KDR Female J-KDR Male
J-RBR Male
10歳未満
10~20歳未満
20~30歳未満
30~40歳未満
40~50歳未満
50~60歳未満
60~70歳未満
70~80歳未満
80~90歳未満90歳以後
図 2 J-RBR/J-KDR 登録ネフローゼ症候群 1,313 例の性別年齢分布(JRBR:日本腎生検レジストリー,JKDR:日本腎臓病総合レジストリー)
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以上に区別して登録された病因分類(図 5)をみると,いずれの年齢層別でも一次性糸球体疾患が主体であったが,20歳より 65 歳未満で二次性糸球体疾患の比率が増加した。特に 15~65 歳未満でループス腎炎(12.1~5.4 %),40 歳以上に糖尿病性腎症(15.6~9.6 %)とアミロイド腎症(7.2~
4.3 %)の占める割合が増加していた。さらに,一次性ネフ
ローゼ症候群の病型分類(図 6)では,40 歳未満では微小糸球体変化が 77.1~67.5 %を占めており,40 歳以下でも
16.0 %以上の頻度で登録されていた。次いで 40 歳未満では
巣状分節性糸球体硬化症が 17.5~7.1 %を占めていた。一方,膜性腎症は 20 歳以後に登録され,40 歳以後では 54.6~
58.2 %の頻度であった。膜性増殖性糸球体腎炎(I型,III型)
はどの年代でも 10.8~2.1 %であった。また,メサンギウム増殖性糸球体腎炎も各年齢層で 6.0~0.9 %で登録されていた。さらに,65 歳以上の高齢者(446 例)をみると二次性糸球体疾患が約 40 %であり,特に糖尿病性腎症とアミロイド腎症の占める割合が高い。一方,一次性糸球体疾患 258 例で
も膜性腎症(57.0 %),微小糸球体変化(16.7 %),膜性増殖性糸球体腎炎(I型,III型) (9.7 %),巣状分節性糸球体硬化症(8.5 %)と難治性疾患の比率が高かった。
3 .ネフローゼ症候群の予後ネフローゼ症候群の予後に関しては全国の 85 医療施設へのアンケート調査で,昭和 50 年から平成 5 年に発症した成人の膜性腎症と巣状分節性糸球体硬化症の腎生存率(末期腎不全に至らない割合)が報告されている7)。膜性腎症 1,008 例の腎生存率(透析非導入率)は 10 年で89 %,15 年で 80 %,20 年で 59 %である。膜性腎症の長期予後は不良である(図 7)。巣状分節性糸球体硬化症 278 例の腎生存率(透析非導入率)は 10 年で 85.3 %,15 年で 60.1 %,20 年で 33.5 %と長期予後は膜性腎症よりも不良である(図 8)。
一次性腎疾患IgA腎症糖尿病性腎症ループス腎炎アミロイド腎症紫斑病性腎症感染症関連腎症高血圧性腎硬化症MPO-ANCA陽性腎炎PR3-ANCA陽性腎炎アルポート症候群血栓性微小血管症移植腎
図 3 J-RBR におけるネフローゼ症候群(1,197 例)の病因分類
一次性糸球体疾患が 61.0 %(IgA 腎症を含むと 66.2 %)
図 4 ネフローゼ症候群全例(1,197 例) (a)および一次性糸球体疾患例(732 例) (b)の病型分類
微小糸球体変化膜性腎症膜性増殖性糸球体腎炎(I型,III型)半月体形成性壊死性糸球体腎炎メサンギウム増殖性糸球体腎炎管内増殖性糸球体腎炎巣状分節性糸球体硬化症硬化性糸球体腎炎その他
a
微小糸球体変化膜性腎症膜性増殖性糸球体腎炎(I型,III型)半月体形成性壊死性糸球体腎炎メサンギウム増殖性糸球体腎炎管内増殖性糸球体腎炎巣状分節性糸球体硬化症硬化性糸球体腎炎その他
b
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1 .浮腫に対する治療
III.浮腫の治療および腎保護を目的とした治療1 )ネフローゼ症候群の浮腫の病態生理
浮腫はネフローゼ症候群の主たる症候である。浮腫の治療の第一は原疾患の治療であり,浮腫そのものを取ることがネフローゼ症候群治療の本質ではない。しかし,高度な浮腫は患者の ADL(日常生活動作能力)を制限し,QOL(生活の質)を著しく低下させること,胸水や腹水が大量に貯留することで呼吸が障害されること,さらに高度な浮腫は皮膚の組織障害や蜂巣炎の原因となることなどから,浮腫のコントロールはネフローゼ症候群治療において重要な位置を占める。ネフローゼ症候群における浮腫の成立機序には,2 つの説が提唱されている。1 つは Underfilling 仮説であり,有効循環血漿量の低下を伴う場合である。尿中へのアルブミン喪失により低アルブミン血症となり,血漿膠質浸透圧が低下すると Starling の法則に従い水分が血管内から間質へ移
ステートメント1 .浮腫に対する治療を行う際には有効循環血漿量を
評価することが大切である。2 .浮腫の治療の本質は Na バランスを是正すること,
つまり Na 摂取を制限することと Na 排泄を促進することである。3 .浮腫の軽減には利尿薬が有効である。ループ利尿
薬が中心となるが,効果不十分な場合はチアジド系利尿薬を併用する。高カリウム血症のない症例では,アルドステロン拮抗薬の併用も検討される。4 .アルブミン製剤の投与は慎重であるべきで,単に
浮腫軽減の目的で使用すべきではない。アルブミ
その他移植腎血栓性微小血管症アルポート症候群抗GBM抗体型腎炎PR3-ANCA陽性腎炎MPO-ANCA陽性腎炎高血圧性腎硬化症感染症関連腎症紫斑病性腎症アミロイド腎症ループス腎炎糖尿病性腎症IgA腎症一次性腎疾患
10歳未満(n=55) 10~15歳未満(n=46) 15~20歳未満(n=56) 20~40歳未満(n=198) 40~65歳未満(n=418) 65~75歳未満(n=273) 75歳以上(n=173)
100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0
図 5 ネフローゼ症候群(1,197 例)年齢層別の病因分類
その他硬化性糸球体腎炎管内増殖性糸球体腎炎メサンギウム増殖性糸球体腎炎半月体形成性壊死性糸球体腎炎膜性増殖性糸球体腎炎(I型,III型)膜性腎症巣状分節性糸球体硬化症微小糸球体変化
10歳未満(n=48) 10~15歳未満(n=42) 15~20歳未満(n=48) 20~40歳未満(n=120) 40~65歳未満(n=216) 65~75歳未満(n=158) 75歳以上(n=100)
100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0
図 6 一次性ネフローゼ症候群(732 例)の年齢層別にみた
病型分類100 80
60 40
20
0
腎生存率( % ) 15 1,008例20 25
観察期間(年)
5 10 0
図 7 膜性腎症の腎生存率
100 80
60 40
20
0
腎生存率( % ) 15 278例20 25
観察期間(年)
5 10 0
図 8 巣状分節性糸球体硬化症の腎生存率
ン濃度が 2.5 g/dL 以下で,膠質浸透圧の低下に起
因する病態があり,他の方法では管理不能となった場合には,アルブミン製剤の投与が検討される。
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動することにより循環血漿量が低下する。その結果,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAS)や交感神経系の活性化が惹起され,二次的に Na 再吸収を促進し,さらに浮腫を増悪するとされる。2 つめは Overfilling 仮説であり,遠位尿細管や集合管における Na 排泄低下・再吸収の亢進が一次的に生じて,Na 貯留により血管内容量が増加した結果,静水圧が高まり浮腫を生じるというものである20)。低アルブミン血症が徐々に進行する場合には膠質浸透圧勾配はほとんど変化しないこと21),ネフローゼ症候群患者では必ずしも RAS 活性化がみられないことなど22), Underfilling 仮説に反する報告もある。特に微小変化型ネフローゼ症候群の患者が寛解する際,血清アルブミン値が上昇する前に浮腫が改善し始めるという臨床的事実は,この仮説を支持するものである。心不全のときにみられるような明らかな有効循環血漿量の増加を示す兆候に乏しいという反論もあるが,近年は後者の仮説を支持する報告が多い。実際には,高度の低アルブミン血症を示す症例のなかに,有効循環血漿量の低下を示し,アルブミン投与により Na排泄が増加するもの,つまり Underfilling 仮説を支持する症例も存在する。浮腫成立の機序は必ずしも 1 つではなく,症例ごと,また同じ症例でも病期により 2 つの機序が異なる比率で存在するものと思われる23)。それぞれの場面で浮腫の病態を理解する努力が必要であろう。
2 )塩分制限・水分制限いずれの説にせよ,体重増加を伴う浮腫の存在は細胞外液(血管内+間質)中の総 Na 量が過剰となっていることを示している。よって,治療の本質は Na バランスを是正すること,つまり Na の摂取を減らすことと Na の排泄を促進することである。ネフローゼ症候群患者の Na 摂取量の制限は国際的には塩分 3 g/日未満とすることが推奨されている24)。本来であれば同様の制限が望ましいが,わが国では食生活の違いから実施困難なことが多い。わが国における高血圧治療のガイドラインでは,塩分摂取を 6 g/日未満とすることが推奨されている25)。日本腎臓学会でも,CKD 患者における食塩の目標摂取量は 6 g/日未満を推奨している26,27)。現在こうした基準が広く用いられていることも考慮し,わが国のネフローゼ症候群の患者に対しては,病態に応じて塩分 6 g/日までの制限とするのが現実的である。ここで示す塩分量は,付加食塩ではなく全食品中に含まれる総食塩量を示す。一般に塩分の大部分は食塩(NaCl)であり,他のミネラルの含有量はわずかであるので,ここでは食塩量を総塩分量として扱う。なお現在,包装食品の栄養表示は食塩(NaCl)量ではなく,ナトリウム(Na)量とするよう義務づけられてい
る。実際の塩分量を知るためには,Na 量(g)を 2.5 倍して食塩量に換算するよう指導する必要がある。水分制限の有用性に関しては明確ではない。十分な塩分制限下では,本来,厳密な水分制限は不要であるが,利尿薬使用下で低ナトリウム血症となる場合は制限が必要であると考える。浮腫を増悪させないための水分制限は,食事中の水分を含む総水分量として前日尿量+500 mL(不感蒸泄量-代謝水)がひとつの目安となる。実際には,毎日体重を測定したうえで,制限を調整することが大切である。
3 )利尿薬有効循環血漿量が増加している Overfilling 状態であれば,それを是正するのに利尿薬が良い適応である。一方, Underfilling 状態であっても,浮腫の軽減に利尿薬は有効である。しかし,急激な体重減少を起こすような過度の利尿は急激な有効循環血漿量低下を引き起こし,血液濃縮から過凝固状態を助長する可能性があるだけでなく,腎血流低下により腎前性急性腎不全を惹起する危険性があり注意が必要である。ひとつの目安としては,体重減少を 1 日 1 kg程度以下となるよう調整することが推奨される。利尿薬のなかでは,ループ利尿薬が最も有効である。フロセミドは半減期が短いため,内服では 1 日 2~3 回の投与が必要となる。また,ネフローゼ症候群を呈する患者では利尿薬が効きにくく,高用量の使用を要することが多い28)。ループ利尿薬の内服では吸収に個人差が大きく,天井量(それ以上では効果が増大しない量)は明確ではないが,腎機能正常例では 1 回 120 mg,中等度腎障害例(GFR 20~50 mL/min)では 1 回 160~320 mg,高度腎障害例(GFR 20 mL/min 以下)では 1 回 320~400 mg とされる28,29)。ループ利尿薬は血中でアルブミンと結合し,腎臓へ運ばれる。ネフローゼ症候群で増加するアルブミン非結合の利尿薬は間質に移動し,腎臓へ到達しにくいと考えられている。アルブミンに結合したループ利尿薬は近位尿細管の有機アニオントランスポータを介して尿細管管腔内に分泌されて効果を発揮する。ネフローゼ症候群患者においては,効果発現部位へのデリバリーを増強する目的で,フロセミドとアルブミンを混合して静脈内投与する治療法が試みられている。しかし,前向きコントロール研究では,フロセミドにアルブミンを併用する増強効果はほとんどみられなかった30,31)。また,そのわずかな差もアルブミンによる循環動態への影響と考えられた。ネフローゼ症候群患者でループ利尿薬が効きにくいもう一つの理由としては,尿細管管腔内に多量のアルブミンが存在することがあげら
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れる。ループ利尿薬は,アルブミン非結合の状態で Henle係蹄上行脚の尿細管腔側の Na+-K+-2Cl-共輸送体を阻害する。尿細管管腔内でアルブミンと結合すると,その作用が減弱することが動物実験では示されている32)。しかし,実際の症例においてはその影響はほとんどないとも報告されている33)。さらに腎機能低下例では,腎血流が低下するため作用部位に到達しにくくなる。よって,より多くの用量を要する。内服で効果不十分な場合は,ネフローゼ症候群に伴う腸管浮腫の影響も考え,静脈内投与が検討される。この際に,フロセミドを 20~40 mg ずつ複数回投与する方法と,20~40 mg の単回投与に続いて 10 mg/時間程度を持続注入する方法がある。ネフローゼ症候群の患者において, 2 つの方法を直接比較した研究はないが,心不全患者やICU 患者での検討は多数ある。結果は,ほとんどで持続注入のほうがより有効であったとされている34)。静脈内 1 回投与の天井量は,腎機能正常例では 120 mg,中等度腎障害例においては 160 mg,高度腎障害例では 200 mg とされる28,29)。また持続投与の場合,腎機能正常例では 10 mg/時間,中等度腎障害例で 20 mg/時間,高度腎障害例で 40 mg/時間程度まで増量可能とされている28)。急速大量静脈投与は一過性の聴覚障害を引き起こすことがある35)。アミノグリコシド系抗菌薬との併用では聴覚障害が不可逆性となりうるので注意を要する。チアジド系利尿薬は,単独使用では通常十分な効果が得られない。しかし,ループ利尿薬と併用すると遠位ネフロンでの Na 再吸収抑制作用により,更なる利尿が期待される29)。ループ利尿薬単独で浮腫のコントロールが不十分な場合は,積極的な使用を検討する。通常,ヒドロクロロチアジドを 1 日 25~50 mg 使用するが,腎機能低下例では 1日 100~200 mg まで増量する28)。トリクロルメチアジド(2~8 mg)やインダパミド(1~2 mg)を使用することもある。K 保持性利尿薬は,アルドステロン拮抗薬であり,腎保護作用,蛋白尿低下作用がある。利尿薬の使用で低カリウム血症になることを予防するためにも使用を検討すべきである。スピロノラクトンを 1 日 25~50 mg 使用する。高カリウム血症がある場合には注意を要する。その他,利尿が期待できる薬剤としてヒト型心房性 Na利尿ペプチド(hANP)がある。適応は急性心不全であるが,ネフローゼ症候群に伴う乏尿に対して試みられることがある。しかし,ネフローゼ症候群では ANP に対する反応性が低下していることがわかっており36),現時点ではその有効性は明らかではない。今後の研究が期待される。4 )アルブミン製剤
アルブミン製剤の投与は,血漿膠質浸透圧を上昇させ,組織間質から血管内への Na 移動を引き起こすことにより治療抵抗性浮腫を軽減することがある。しかし,多くの場合その効果はごくわずかである30,31,37)。また,投与されたアルブミンは直ちに尿中に排泄されるため,浮腫の改善が得られたとしても,効果は一時的である。一方,投与されたアルブミンが尿中に排泄される際に,近位尿細管で再吸収を受け,尿細管障害を増悪させることも考えられる。さらに微小変化型ネフローゼ症候群患者における後ろ向き検討では,アルブミン投与症例で寛解までの期間が延長し再発も多かったと報告されている38)。外因性に投与したアルブミンが糸球体上皮細胞を傷害する可能性が示唆される。こうしたことから,ネフローゼ症候群患者におけるアルブミン製剤の投与は慎重であるべきで,少なくとも単に浮腫軽減の目的では使用すべきでない。ただし,アルブミン濃度が 2.5 g/dL 以下のネフローゼ症候群患者で,膠質浸透圧の低下に起因する病態があり,他の方法では管理不能となった場合には,アルブミン製剤の投与が検討される。具体的には,有効循環血漿量低下に伴う乏尿や血圧低下がみられる場合,あるいはそのリクスが高いと判断される場合,血栓症の発生リスクが高い症例,呼吸困難をきたすような大量の胸腹水がある場合などである。こうした場合には,有効循環血漿量の急激な増加に伴ううっ血性心不全や肺水腫に十分注意して,利尿薬とともに使用する。効果は一時的であるため,あくまでも緊急避難的な使用にとどめるべきである。
5 )その他の治療各種治療でコントロールが困難な難治性の浮腫に対しては,体外限外濾過(extracorporeal ultrafiltration method: ECUM)による除水が有効である。
2 .腎保護を目的としたその他の薬物療法ステートメント1 .尿蛋白が持続するネフローゼ症候群患者に対して
は,アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の使用が推奨される。高カリウム血症に注意したうえで,アルドステロン拮抗薬の併用も検討される。2 .長期にわたり高 LDL コレステロール血症が持続
する場合には,HMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)の使用が推奨される。
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1 )RAS 阻害薬ネフローゼ症候群に対して,ARB や ACEI の使用が有効であるという直接的なエビデンスは存在しない。しかし,糖尿病性腎症に対しては ACEI や ARB は蛋白尿を減少させ腎機能低下を抑制する効果があることが知られている39,40)。慢性腎炎や腎硬化症を含む糸球体疾患においても特に蛋白尿を呈する場合には,抗蛋白尿効果および腎保護効果があることが示されている41,42)。ネフローゼ症候群においても RAS 阻害薬の有効性が十分期待され,実際,慢性期のネフローゼ症候群患者に対しては他の CKD 患者に対してと同様に広く使用されている。速やかに寛解が得られることが期待される微小変化型ネフローゼ症候群患者を除き,ACEI や ARB の使用が推奨される。ただし,RAS 阻害薬の使用時には,高カリウム血症に十分な注意が必要である。また,尿量低下や腎機能低下がみられる場合には,更なる GFR 低下をきたすリスクがあることから,使用に際しては留意が必要である。アルドステロン拮抗薬もARB,ACEI とは独立した尿蛋白減少作用,腎保護作用があり43),ネフローゼ症候群患者に使用される。また,レニン阻害薬,アリスキレンの腎保護作用を示唆する研究が報告されている44)。ネフローゼ症候群患者に対する効果は明らかではないが,今後期待される薬剤である。
2 )抗血小板薬抗血小板薬には慢性糸球体腎炎や糖尿病性腎症の蛋白尿を減少させる効果があることが示唆されている45)。特にわが国の IgA 腎症の報告症例を解析した結果では,抗血小板薬が蛋白尿を減少させ腎保護作用を呈する可能性が示されている46)。実際,ネフローゼ症候群を含む慢性糸球体腎炎に使用されることも多い。しかし,末期腎不全への進展を防ぐ効果に関する有効性を示すランダム化臨床試験は存在せず,現時点では抗血小板薬の積極的な使用を推奨するだけのエビデンスはない。長時間作用型ジピリダモールはネフローゼ症候群に保険適用があることから,頭痛といった副作用に注意しながら使用することもある。
3 )脂質異常症改善薬脂質異常症はネフローゼ症候群の主たる徴候である47)。膠質浸透圧の低下は肝細胞に直接作用しアポリポプロテイン B の産生を促し,高 LDL コレステロール血症の原因となりうる。産生増加だけでなく,異化低下も高 LDL コレステロール血症の原因と考えられている。また,ネフローゼ症候群では中性脂肪の上昇もみられる。高 LDL コレステロール血症や高中性脂肪血症は心血管病のリスクを上昇させるだけでなく,腎臓内の動脈硬化性変化を助長することで腎機能低下のリスクになるといわれている。HMG-
CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)は LDL コレステロールレベルを有意に低下させ,中性脂肪も少なからず低下させる。また,スタチンには脂質異常を改善させる以外にも,抗酸化作用,抗血小板凝集抑制作用,細胞増殖抑制作用,抗炎症作用など多彩な作用が知られている48)。スタチンが非ネフローゼ症候群患者の蛋白尿を減少させることを示唆する報告はあるが,前向きコントロール研究では証明されていない。心血管病変のある腎臓病患者のメタ解析では,スタチンが蛋白尿を減少させ,わずかに腎機能の低下を抑制すると報告されている49)。さらにステロイドやシクロスポリンによっても脂質異常症が助長されうる。米国腎臓財団(National Kidney Foundation)の K/DOQI ガイドラインでは,心血管病変を予防する目的で,CKD 患者の LDL コレステロールの目標値は 100 mg/dL 未満とされている。こうしたことから,ネフローゼ症候群において,特に長期にわたり高コレステロール血症が持続する場合には,LDL コレステロール値 100 mg/dL 以下を目標にスタチンの積極的な使用が推奨される。シクロスポリンはスタチンの血中濃度を上昇させ,横紋筋融解症などの副作用を起こすため,一部のスタチンはシクロスポリンとの併用が禁忌となっていることに注意が必要である。筋肉痛などの症状に注意し,クレアチニンホスホキナーゼ(CPK)の測定を行う。高中性脂肪血症に対してはフィブラート系薬剤が有効であるが,横紋筋融解症の危険性があるため注意が必要である。特に,ベザフィブラートは血清クレアチニン値が 1.5 mg/dL を超える患者には慎重に投与する必要があり,2.0 mg/dL 以上の患者には使用禁忌となっている。フェノフィブラートは,血清クレアチニン値が 2.5 mg/dL 以上の場合には投与を中止し,血清クレアチニン値が 1.5 mg/dL 以上
2.5 mg/dL 未満の場合は 67 mg から投与を開始するか,投
与間隔を延長して使用することが必要である。一方,クリノフィブラートは腎機能が低下した患者にも注意したうえで使用することが可能な薬剤である。スタチン投与以外の治療として LDL アフェレシスがある。ネフローゼ症候群のなかでは,特に巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)症例で高 LDL コレステロール血症が病態に関与していることが示されていて,実際 LDL 吸着療法が一部の FSGS 患者のネフローゼ症候群を改善させている。わが国における研究でも,FSGS 症例の難治性ネフローゼ症候群における LDL アフェレシスの有効性が示されている51,52)。小腸でのコレステロール吸収阻害であるエゼチミブはス
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タチンで十分 LDL コレステロールを低下させることができない症例において,相加効果として LDL コレステロールを低下させることができる。SHARP 研究において CKD患者においても LDL を低下させることにより心血管イベントの薬剤が示されている49a)。また,LDL コレステロール低下以外の腎保護作用を示す可能性も報告されている50) (SHARP study:ASN 2010)。
3 .腎保護を目的とした生活指導
1 )食事療法ネフローゼ症候群に対する食事療法に関しては,明確なエビデンスは存在しない。一般に,塩分制限は必須と考えられている。次に,尿蛋白減少効果があることから微小変化型ネフローゼ症候群を除いて蛋白制限も重要である。どちらも,RAS 阻害薬の効果を増強する意味でも有用性が期待される。さらに,低栄養を避けるために摂取エネルギー量に関しても留意すべきである。塩分制限は浮腫を軽減するだけでなく,腎尿細管の負荷を軽減すること,RAS 阻害薬の効果を増強することなどから,腎保護作用が期待される。厳格な制限が望ましいが,わが国の場合 6 g/日以下程度とするのが現実的である26)。蛋白摂取に関しては,かつては補充という意味で高蛋白食が推奨されたこともあったが,尿蛋白を増加させることと血清アルブミン値の上昇には結びつかず,反対に低蛋白食で蛋白尿減少と血清アルブミン値の上昇がみられたことから53),現在では低蛋白食が有用であると考えられている。ネフローゼ症候群患者においては,0.8 g/kg 体重の蛋白制限と 35 kcal/kg 体重のエネルギー摂取により窒素バランスが保たれる54)。長期予後をみた臨床研究はなく不明な点も多く,蛋白制限は推奨しないという意見もある55)。しかし,ここで制限の目安を示すことは有用と考える。従来の日本腎臓学会の「腎疾患患者の生活指導・食事療法ガイドライン」56)も考慮し,糖尿病や肥満がなければ微小変化型ネフ
ローゼ症候群以外のネフローゼ症候群患者に関しては,
0.8 g/kg 体重の蛋白制限と 35 kcal/kg 体重のエネルギー摂
取を推奨する。微小変化型ネフローゼ症候群患者については,厳格な制限は不要であるが,1.0~1.1 g/kg 体重の蛋白制限と 35 kcal/kg 体重のエネルギー摂取を推奨する。十分なエネルギー摂取は蛋白異化を抑制する意味で大変重要である。特に高齢者はもともと蛋白摂取が少ない人が多い。蛋白摂取制限によりエネルギー摂取が不足することは避ける必要がある。一方,ステロイド使用に伴う合併症で糖尿病が発症することもあり,食欲が促進される患者においては体重増加をきたさないよう適切なエネルギー制限が必要である。
2 )運動・身体活動度運動負荷が腎機能や尿蛋白に及ぼす短期的な影響に関しては,古くから多くの報告がある。運動行為は腎血漿流量(RPF)と糸球体濾過量(GFR)を低下させる。運動負荷は,濾過比(FF)を 2 倍程度まで上昇させ,蛋白尿を増加させる57)。実際,ベッド上安静により,尿蛋白は減少する。日本腎臓学会の「腎疾患患者の生活指導・食事療法ガイドライン」では,病期ごとに推奨される運動制限が提示されている56)。ネフローゼ症候群の治療導入期には安静,治療後でもネフローゼ症候群状態が持続する場合には高度制限が必要とされている。運動が蛋白尿の増悪や腎機能低下をきたす可能性を懸念しての方策である。実際に,強度の運動負荷後に微小変化型ネフローゼ症候群が発症(再発)するケースも報告されている58)。一方で,運動時の一時的な変化がどの程度長期予後に関与するかは不明であり,運動制限の有効性を支持する臨床的なエビデンスはない。安静や高度運動制限により,筋力および運動能力が低下し結果的にQOL が悪化すること,特に高度ネフローゼ症候群においては深部静脈血栓症のリスクが増大することなど,腎臓以外への悪影響を十分検討する必要がある。特に高度ネフローゼ症候群においては深部静脈血栓症のリスクが増大することは大きな問題である。よって,入院中の治療導入期であっても,ベッド上での絶対安静は避けるべきである。長期的には,ステロイド使用に伴い骨塩減少,肥満,さらには心血管病のリスクが高まる。また,患者の ADL や QOL を改善するためにも運動耐容能を維持・増加させることは有用である。よって,安定した維持期の患者に対しては,運動制限を強調するよりも適度の運動を推奨する。具体的には,日本腎臓学会の「エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2009」において示される CKD 患者における指標に準
ステートメント1 .塩分制限が推奨される。2 .低蛋白食の有効性に関しては十分なエビデンスは
ないが,少なくとも高蛋白食は推奨されない。3 .蛋白異化を抑えるために十分なエネルギー摂取が
推奨される。4 .運動制限の有効性を支持する臨床的なエビデンス
はない。5 .血栓予防や長期的予後を考えた場合には,安静を
強調するよりも適度な運動が推奨される。
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じ,安定したネフローゼ患者に対しては軽度の運動(5.0~ 6.0 METs 程度)を定期的に行うことを勧める26)。ただし,適当な運動の程度は患者ごと,病態ごとに異なっていると思われるので,蛋白尿や腎機能の推移をみながら,それらが悪化しない範囲での運動を指導する。
今後の研究課題1 )ネフローゼ症候群の患者に対するアルブミン製剤投与
の有効性を検討する。2 )ネフローゼ症候群の患者に対する運動の有効性を検討
する。
ネフローゼ症候群の治療薬は主にステロイドと免疫抑制薬であるが,その使用法は各施設,各治療者の経験に基づいていることが多い。ここでは,わが国でネフローゼ症候群に使用されている薬剤に関して記載し,海外でのエビデンスについても紹介した。このなかには保険適用外の薬剤も含まれるが,難治性ネフローゼ症候群の治療にあたっては,保険診療のために病状詳記などを記載することが重要である。
1 .副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイド)【作用機序】健常人の 1 日のステロイド産生量はコルチゾール約 20 mg(プレドニゾロン換算 5 mg)で,生体にストレスがかかるとコルチゾール 240 mg(プレドニゾロン換算 60 mg)まで増加する。ステロイドは,その受容体(glucocorticoid receptor:GR)と結合して AP-1 や NF-kB などの転写因子
IV.ネフローゼ症候群における基本的な副腎皮
質ステロイド薬と免疫抑制薬の使用法の活性を調節し,さまざまなサイトカイン産生に影響を与
える。その結果,単球・マクロファージ,T リンパ球,Bリンパ球などの増殖や活性を抑え,免疫抑制作用を発揮する。また,免疫担当細胞からの炎症性メディエータ,サイトカイン,ケモカイン,接着分子の産生を修飾することで,炎症をコントロールしている59)。ステロイドの受容体は,正常のヒト糸球体の上皮細胞,内皮細胞,メサンギウム細胞の核と細胞質に存在している60)。【有効性の報告】一次性ネフローゼ症候群である微小変化型(MCNS),巣状分節性糸球体硬化症(FSGS),膜性腎症(MN),膜性増殖性糸球体腎炎,活動性の高い IgA 腎症に用いられる。また,膠原病など全身疾患に関連した二次性ネフローゼ症候群も適応となる。【使用法】ネフローゼ症候群の病状,患者の全身状態などを総合的に判断して,ステロイドの投与量が決められる。生理的なステロイド(コルチゾール)の分泌のピークは朝にあるため,ステロイドも朝を中心に投与される。ステロイドの種類により生物学的活性は異なる(表 4)。短時間型ステロイドは速効性があるが,電解質コルチコイド作用も強く,副作用のため長期使用に適さない。腎臓病に対しては,主に中間型のプレドニゾロン(prednisolone: PSL)が使用される。短期間に大量のステロイドを投与するパルス療法では,プレドニゾロンより Na 貯留作用が少ないメチルプレドニゾロンが用いられる。ネフローゼ症候群の合併症で腸管浮腫による吸収不良が考えられる場合はステロイドの静注薬を考慮する。
1 )経口投与 1 連日投与一般的に,初期投与はプレドニゾロン 30~60 mg/日
表 4 主な副腎皮質ステロイド薬の生物学的活性
血中半減期
(分)電解質コルチコイド力価糖質代謝抗炎症
力価主なステロイド薬分類
90 1 1 1 コルチゾール 短時間型 90 0.8 0.8 0.8 コルチゾン
200 0.8 4 4 プレドニゾロン
中間型200 0.8 4 4プレドニゾン
200 0.5 5 5 メチルプレドニゾロン
200 0 5 5 トリアムシノロン
300 0 25~30 25~30 デキサメタゾン 長時間型 300 0 25~30 25~30 ベタメタゾン
(文献 61 より引用)
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(0.5~1.0 mg/kg/日)程度で開始し(最大 60 mg/日),尿蛋白の反応をみながら 4~8 週間継続後,漸減する。漸減速度は症例によって調節するが,高用量投与時は速やかに(5~ 10 mg/2~4 週),低用量になれば緩徐に(1~5 mg/3 カ月)行う。ステロイドの中止は寛解導入後 1 年以内にされることが多いが,1~2 年少量継続した後に行う施設もある。ステロイドを長期使用すると下垂体-副腎皮質系の機能抑制が起こるため,急激なステロイド減量は自己の副腎皮質機能の回復が追いつかず,離脱症候群を呈することがある。
2 隔日投与ステロイドを隔日に投与する方法で,連日投与より下垂体-副腎皮質系の機能抑制が少ないが,寛解到達時期や再発率に有意差はないとされる。
減量または中止後に再発再燃をみた場合は,通常は 20~ 30 mg/日もしくは初期量に増量し,寛解再導入を目指す。ステロイド使用中(プレドニゾロン 15 mg/日以下)に,手術や出産などのストレスが加わる場合は,相対的副腎不全防止のために,当日から数日間 10~15 mg/日の増量(ストレスドース)が行われることもある。
2 )ステロイドパルス療法通常量のステロイドで寛解導入が困難な症例では,大量のステロイドを短期間で点滴静注する方法(ステロイドパルス療法;以下パルス療法)が行われる。具体的には,電解質コルチコイド作用の弱いメチルプレドニゾロン 500~1,000 mg/日を 2 時間程度かけて点滴する。これを 3 日間使用するのを 1 クールとし,1~2 週間ごとに 1~3 クール行う。大量点滴の間は,プレドニゾロン20~40 mg/日を経口投与する。点滴後の血中ステロイド濃度は経口投与法の約 100 倍に上昇し,各細胞の GR との結合はほぼ飽和状態となり,ステロイドの効果が強く発揮されると想定されている。しかし,パルス療法と経口投与法の比較で,パルス療法は成人の微小変化型ネフローゼ症候群において副作用が少ないという報告はあるが,寛解導入に対して,有意差は報告されていない62,63)。わが国で行われた微小変化型ネフローゼ症候群と膜性腎症に対する第III相臨床治験において,パルス療法はプレドニゾロン 30 mg/日の連日経口投与と同等の安全性を有したが,微小変化型ネフローゼ症候群では差を認めなかった63)。膜性腎症においては経口プレドニゾロンに比較して早期の治療効果を示した64)。しかし,用量反応性試験では 1 日投与量 200 mg,400 mg,800 mg の 3 群間では有意な差を認めなかった65)。現在,膜性腎症の治療
では,ステロイドパルス療法のような大量のステロイド投与への疑問は,多くの専門家の意見の一致をみるところであり,実際には行われていない。他のネフローゼ症候群においても有効性を明確に示した報告はなく,今後,臨床試験によるエビデンスを得る必要がある。パルス療法施行時には感染症,大腿骨頭壊死,血栓形成促進,体液過剰に注意を要する。乏尿傾向の症例ではパルス療法により急激に尿量が減少することがある。【薬物動態】経口ステロイド薬は消化管で 70~100 %が吸収され,肝臓で代謝された後,腎臓から排泄される。よって,肝不全,腎不全ではステロイドの代謝排泄が阻害され,作用や毒性が増強される可能性がある。また,腸管浮腫が高度の場合,経口ステロイド薬の吸収が阻害され,ステロイドの反応性が低下することがある。ステロイドは血中から,関節腔内,脳脊髄液に速やかに移行するが,乳汁中への移行はほとんどない66)。プレドニゾロン,ヒドロコルチゾンは胎盤で約 90 %が代謝されるため妊婦に比較的安全に使用できるが,メチルプレドニゾロンは約半分が胎盤を通過するとされる。【他の薬物との相互作用】ステロイドは多くの他の薬剤と相互作用をもつため注意が必要である(表 5)。【副作用】ステロイドの副作用は多方面にわたり,増量時のみならず,減量時にも注意が必要である。主な副作用を表 6 に示す。ステロイド投与前には,消化管潰瘍病変,感染症,糖尿病,副腎皮質機能,眼科的検索などを行っておくことが
表 5 ステロイドと他の薬剤の相互作用1 .ステロイドの薬効を減弱させる薬物バルビツール系薬剤,フェニトイン,カルバマゼピン,リファンピシン,エフェドリン,イミダゾール系抗真菌薬2 .ステロイドの薬効を増強させる薬物経口避妊薬(エストロゲンを含む薬剤) 3 .ステロイドにより効果が減弱する薬剤経口糖尿病薬,経口カルシウム薬4 .同時投与により起こりやすい合併症と薬剤重篤な感染症:免疫抑制薬低カリウム血症:サイアザイド系利尿薬,エタクリン酸,フロセミド,甘草消化性潰瘍:NSAIDs弱毒ワクチンの全身感染症:生ワクチン
(文献 66 より引用,改変)
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望ましい。投与中,常に注意が必要な副作用は感染症,消化性潰瘍であり,投与早期でみられるのは,不眠,緑内障,精神症状,糖尿病,高血圧, :瘡様発疹,満月様顔貎などで,後期にみられるのは白内障,骨壊死,骨粗鬆症などである。【副作用への対策67)】
1 易感染性一般細菌感染のみならず,結核,ウイルス,真菌,原虫などの日和見感染のリスクが上昇する。特にプレドニゾロン 40 mg/日以上では厳重な注意が必要である。感染症が発症した場合は,状態によってステロイドの減量を行う。γグロブリンが低下した患者ではγグロブリン製剤の投与を行うことがある。
2 骨粗鬆症ステロイドによる腸管からの Ca 吸収低下,腎からの Ca排泄低下による二次性副甲状腺機能亢進症,骨芽細胞の増殖・機能抑制,破骨細胞の機能亢進などにより,骨粗鬆症が発生しやすくなる。閉経後の女性では特に問題となる。「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」は,経口ステロイド(プレドニゾロン換算 5 mg/日以上)を 3 カ月以上使用する症例では,薬物療法(第一選択はビスホスホネート製剤,第二選択は活性型ビタミン D3製剤やビタミン K2製剤)を推奨している68)。
3 消化性潰瘍ステロイドによる胃粘液・プロスタグランジン産生低下,肉芽形成不良により潰瘍が難治性となりやすい。ステロイド使用前に消化管スクリーニングを行い,予防にはプロトンポンプ阻害薬,H2受容体拮抗薬を用いる。投与中も便潜血などによる定期検査を行う。
4 血栓形成ステロイドの使用はネフローゼ症候群の血栓形成のリスクを上昇させるため,抗凝固療法を併用することがある。必要があれば出血がないことを確認のうえ,ヘパリン静注,
またはワルファリン内服(目標 PT-INR 2.0)を行う。
5 脂質異常症ネフローゼ症候群による脂質異常症をステロイドは悪化させることがある。
6 ステロイド精神病症状は不眠,不安,多弁,抑うつなどの軽症から,幻聴,幻視,錯乱,自殺企図などの重症まで幅広い。ステロイドの大量使用(特にプレドニゾロン換算 0.5 mg/kg/日以上)で発症しやすく,減量とともに症状は軽快消失する。ステロイド減量が困難な場合は,向精神薬を用いる。
7 ステロイド糖尿病ステロイド投与中はインスリンの血糖低下作用が阻害されるため糖尿病となりやすく,隔日投与より連日投与での発症が多い。ステロイド糖尿病では空腹時血糖は正常で食後に高血糖になるため,食後の血糖測定が勧められる。
8 大腿骨頭壊死症ステロイドによる血管内皮機能障害が発症機序の一つと考えられ,ステロイドパルス療法により起こりやすい。ステロイド大量投与から発症まで数カ月かかることが多く,パルス療法を受けたことのある症例で,急に股関節痛が生じた場合は本症を疑う。MRI による精査を行う。
9 B 型肝炎の再燃「de novo B 型肝炎」ステロイドと免疫抑制薬の併用で B 型肝炎が再燃することが報告されている。B 型肝炎が明らかに持続感染している場合には,ステロイドに免疫抑制薬を加えるような強力な免疫抑制療法で致死的な劇症肝炎化する可能性があるので,行うべきではない。また,抗 HBs 抗体,抗 HBc 抗体が陽性である既感染者に対して,強力な免疫抑制が必要となった場合には,HBV-DNA の測定を行い,ウイルスが消失していることを確認してから行うべきである。その後も定期的に HBV-DNA の測定を繰り返すことが推奨される。ウイルスの持続感染が認められた場合には,核酸アナログによる B 型肝炎ウイルス治療を行ってから治療をするほうが好ましく,肝臓専門医に相談することを推奨する69)。
2 .免疫抑制薬免疫抑制薬がネフローゼ症候群の治療に用いられるのは, 1ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群, 2ステロイド依存性ネフローゼ症候群, 3 頻回再発型ネフローゼ症候群, 4 ステロイドの高用量使用による副作用のためステロイドが十分量使用できない,などの場合である。ネフローゼ症候群に使用される免疫抑制薬は下記に分類
表 6 ステロイドの副作用
1 .副作用
軽症: :瘡様発疹,多毛症,満月様顔貎,食欲亢進・体重増加,月経異常,皮下出血・紫斑,多尿,多汗,不眠,白血球増多,脱毛,浮腫,低カリウム血症重症:感染症,消化性潰瘍,高血糖,精神症状,骨粗鬆症,血圧上昇,動脈硬化,血栓症,副腎不全,白内障,緑内障,無菌性骨壊死,筋力低下・筋萎縮2 .離脱症候群
食思不振,発熱,頭痛,筋肉痛,関節痛,全身倦怠感,情動不安,下痢など
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される。わが国で原発性糸球体疾患に保険適用があるのは,シクロスポリンとミゾリビンとシクロホスファミドのみである。海外では,シクロホスファミドが小児の微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS) (米国)に,シクロスポリンがステロイド抵抗性またはステロイド依存性ネフローゼ症候群(英国)に保険適用をもつが,タクロリムス,アザチオプリン,ミコフェノール酸モフェチル,リツキシマブ,クロラムブシル(日本未発売)など,他の免疫抑制薬の多くは原発性糸球体疾患に保険適用をもたない。1 )カルシニューリン阻害薬:シクロスポリン,タクロリ
ムス2 )代謝拮抗薬:アザチオプリン,ミゾリビン,ミコフェ
ノール酸モフェチル3 )アルキル化薬:シクロホスファミド,クロラムブチル4 )生物学的製剤:リツキシマブ
1 )シクロスポリン(ciclosporin:CyA)【作用機序】カルシニューリンは T リンパ球が刺激されて活性化される際に作用する Ca2+-カルモジュリン依存性の脱リン酸化酵素で,活性化により IL-2 などのサイトカイン産生を誘導するが,CyA はカルシニューリンを阻害する薬剤である。ネフローゼ症候群では,これまで蛋白尿にかかわる糸球体上皮(足細胞)障害を誘発する T 細胞の活性化を CyAが抑制すると考えられてきた。これに加えて,最近の研究では足細胞においてカルシニューリンが引き起こす脱リン酸化を CyA が直接阻止して,尿蛋白減少に導く可能性も示されている70,71)。【有効性の報告】頻回再発型ネフローゼ症候群72,73),ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群を呈する分節性巣状糸球体硬化症12,73),膜性腎症74,75)で有効性が示されている。【禁忌】妊婦・授乳婦(腎移植においては妊婦でも使用されている)。【使用法】わが国では,ネフローゼ症候群の頻回再発型には 1.5 mg/kg/日,ステロイド抵抗性には 3 mg/kg/日を 1 日 2 回に分けて経口投与する76)。必要有効最小量を 6 カ月投与し,有効な場合は 1 年は継続する。MCNS の頻回再発型では中止できない場合もあり,長期投与を余儀なくされることもある。また,止むを得ない場合にはステロイド抵抗性と同様 3 mg/kg/日までの増量は可能と思われる。一般的にはステロイドに併用するが,糖尿病などでステロイドが使用できないときは単独投与されることもあり,単独投与で
は再発が多いとされている77)。最近,均一化されたマイクロエマルジョン製剤の実用化により血中濃度が安定したため,1 日 1 回食前投与を推奨する報告も少なくない78~81)。その場合には,初期量を 2 mg/kg/日からとし,後述のように血中濃度を測定して,増量が必要であれば 3 mg/kg/日までの範囲で投与量を調節する。6 カ月以上使用して効果がみられない場合は中止する。また,寛解導入後に副作用に備え減量を考慮するが,再発にも注意しなければならない。【薬物動態】CyA の薬理効果と副作用である腎毒性は血中濃度に依存する。CyA は内服後胆汁に排泄され,脂溶性で胆汁酸の影響を受けやすい。このため,当初の剤型では血中濃度は不安定であり,有効血中濃度の目安として,服用前のいわゆるトラフ値(C0)が使用されてきた。これに対してその後に実用化されたマイクロエマルジョン製剤では,食前に服用した場合には吸収は安定し,ほぼ均一な AUC0-4(area under the blood concentration curve)が得られるとともに,ピーク値(Cmax)となる服用後 1~2 時間の血中濃度(C1- C2)と AUC0-4が相関することも明らかになった77~80)。しかし,マイクロエマルジョン製剤でも消化管吸収に個人差があるため,症例ごとに血中濃度を測定し(therapeutic drug monitoring:TDM,治療薬物モニタリング),至適投与量を決める必要がある。一般に,AUC0-4を繰り返し測定することは困難なため,C2値の測定で十分であり,600~900 ng/ mL が好ましい値と考えられる80)。これまで一般的に測定されてきた C0に関しては,最近の結果では AUC0-4との相関は認められない81)。なお,AUC0-4は簡易計算式 AUC0-4=1/2(C0-C4)+ C1+C2+C3(ng/hr/mL)で算出できる。【血中濃度測定方法】CyA の血中濃度は測定法により誤差が生じるので,留意する必要がある。CyA の薬理作用および毒性は未変化体にあり,代謝物にはほとんど認められない。しかし,これまで国内で頻用されてきた測定法である FPIA 法は代謝物にまで交差反応性があり,実際の未変化体濃度より 21~27 %高い数値を示していた。最近,新しい測定法(RIA 法,EMIT法,CEDIA 法,ACMIA 法)が普及し始めており,それぞれの交差反応性は+10 %,+7 %,+17 %,-1 %である。FPIA法から新しい測定法に変更すると,血中濃度が 10~30 %低くなるため注意が必要である82)。【他の薬物との相互作用】CyA は多くの薬剤と相互作用がある(表 7)。
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【副作用】腎障害,高血圧,耐糖能障害,多毛,歯肉腫脹,神経障害,振戦などがある。長期間(12~18 カ月)使用する場合は必要に応じて再腎生検で腎毒性を評価することが勧められている76)。
2 )タクロリムス(tacrolimus:TAC) TAC はネフローゼ症候群に対する保険適用はないが,ステロイド抵抗性のループス腎炎への適用がある。ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群を呈するループス腎炎では使用可能である。【作用機序】TAC はカルシニューリン阻害薬の一つで,CyA とほぼ同様の作用機序であるが,その作用は CyA の 30~100 倍強いとされる。【有効性の報告】治療抵抗性 MCNS や巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)に対して有効性が報告されている83)。【禁忌】妊婦・授乳婦。CyA,ボセンタン投与中の患者。妊娠中の TAC 投与が先天異常または流産の原因となっている可能性は低いとの報告もある84)。【使用法】ループス腎炎には 1.5~3 mg を 1 日 1 回夕食後に内服する。
【薬物動態】血中半減期は 35 時間。TAC の血中濃度は内服 12~15 時間後に評価する。翌朝の血中濃度 10 ng/mL 以上で有害反応が増加する。通常 5μg/mL 以下に保つようにする。【他の薬物との相互作用】CyA とほぼ同様である。併用禁忌薬は生ワクチン,CyA,ボセンタン,カリウム保持性利尿薬である。【副作用】腎障害,高カリウム血症,耐糖能障害,心不全,不整脈などがある。
3 )アザチオプリン(azathioprine:AZP)【作用機序】AZP は生体内で 6-メルカプトプリンに代謝され,プリンヌクレオチド合成を阻害し細胞内グアニジン 3 リン酸(GTP)を枯渇させる。これによりリンパ球の活性化や増殖を抑制し,サイトカインや抗体の産生を抑制する。【有効性の報告】免疫抑制作用は弱いが副作用も軽度であるため,シクロホスファミドの後療法などで,寛解維持薬として使用される85)。【禁忌】妊婦・授乳婦,白血球数 3,000/mm3以下の患者【使用法】わが国ではステロイドとともに 50~150 mg/日(分 1~ 2)で使用される。長期間(1~2 年)投与も可能である。【薬物動態】血中濃度のピークは内服後 2 時間で,半減期は約 5 時間。主に腎排泄である。【他の薬物との相互作用】併用禁忌は生ワクチン。アロプリノール,カプトプリル,ペニシラミン,メサラジン,サラゾスルファピリジンとの併用で骨髄抑制が増強する。ワルファリンや不活化ワクチンの作用が減弱することがある。【副作用】骨髄抑制,肝障害,間質性肺炎,悪性リンパ腫,膵炎,消化器症状,感染症,催奇形性などがあるが,重篤な状態になることは少ない。
4 )ミゾリビン(mizoribine:MZR)【作用機序】わが国で開発されたプリン代謝拮抗薬。生体内でミゾリビン-5’リン酸に代謝され,de novo 系の律速酵素 inosine monophosphate dehydrogenase(IMPDH)を阻害し,活性化 T
表 7 シクロスポリンと他の薬剤の相互作用【併用禁忌薬剤】生ワクチン(乾燥弱毒生麻疹ワクチン,乾燥弱毒生風疹ワクチン,経口生ポリオワクチン,乾燥 BCG など),タクロリムス(外用薬を除く),HMG-CoA 還元酵素阻害薬(ピタバスタチン,ロスバスタチン),エンドセリン受容体拮抗薬(ボセンタン),レニン阻害薬(アリスキレン)【注意を要する併用薬剤】・シクロスポリン濃度を上昇させる薬剤アミオダロン,Ca 拮抗薬,高用量副腎皮質ステロイド薬,エリスロマイシン,ノルフロキサシン,アゾール系抗真菌薬,卵胞・黄体ホルモン薬,ダナゾール,アロプリノール,メトクロプラミド,グレープフルーツジュース・シクロスポリン濃度を低下させる薬剤リファンピシン,チクロピジン,フェノバルビタール,フェニトイン,カルバマゼピン,プロブコール,テルビナフィン,セイヨウオトギリソウ・腎障害の副作用を有する薬剤
ガンシクロビル,アムホテリシン B,ゲンタマイシン,シプロフロキサシン,バンコマイシン,スルファメトキサゾール,ジクロフェナク,インドメタシン,ベザフィブラート,メルファラン(注射)
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リンパ球,B リンパ球の増殖・機能を抑制する。【有効性の報告】FSGS86),MCNS,MN などへの効果が症例報告されている。わが国での原発性ネフローゼ症候群に関する市販後調査でも MZR 併用有効例がみられたが87),厚生労働省進行性腎障害に関する調査研究班難治性ネフローゼ症候群分科会の成績でも,膜性腎症においてそれを裏付ける結果が得られた88)。【禁忌】催奇形性があり,授乳の安全性は確立されていないため,妊婦,授乳中の女性には禁忌である。【使用法】MZR 1 回 50 mg を 1 日 3 回,数カ月経口投与するが,副作用がない場合 2 年程度の長期投与も可能である81)。MZR が効果を発現するには 1.1μg/mL 以上の血中濃度が必要と考えられる。しかし,1 回 50 mg を 1 日 3 回投与では有効濃度に達しない可能性があり88),100~150 mg 1 日1 回投与,100 mg 1 日 2 回投与,パルス療法(250~500 mgを週 2 回)86)なども試みられている。腎排泄性のため,腎機能の程度により減量する。【薬物動態】血中濃度のピークは内服 2 時間後,半減期は約 2.2 時間,腎排泄は約 80 %【他の薬物との相互作用】併用禁忌は生ワクチン【副作用】高尿酸血症,胃腸障害,肝機能障害,血小板減少,脱毛などがあるが,腎障害や骨髄抑制の頻度は低い。性腺への影響は不明で,催腫瘍性は報告されていない。
5 )ミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate mof-
etil:MMF)【作用機序】本薬剤はプロドラッグであり,体内でミコフェノール酸に代謝された後,MZR とは異なる機序で de novo 系の律速酵素 IMPDH を阻害し,活性化 T リンパ球,B リンパ球の増殖・機能を抑制する。【有効性の報告】欧米では,ループス腎炎や抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の寛解導入,維持に有効とされている。また, MN89),MCNS,FSGS90)での有効性も単発的に報告されているが,基本的に CyA やシクロホスファミドが継続できない例に使用されることが多い。【禁忌】
催奇形性や母乳中への移行があるため,妊婦や授乳中の女性への投与は禁忌である。妊娠する可能性のある婦人に投与する場合には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する。【使用法】欧米では 0.5~2 g/日を数カ月間使用されるが,わが国での腎疾患に対する投与法は確立されていない。MMF の薬物動態は個体間変動が大きいため,血中濃度を測定しAUC による投与量の調節が望ましい。【薬物動態】血中濃度のピークは内服後 1~2 時間。90 %が腎排泄性であるため,腎機能低下時は減量が必要である。【他の薬物との相互作用】 1 併用禁忌薬(生ワクチン), 2 MMF の血中濃度を上昇させる薬剤(アシクロビル,ガンシクロビルなど), 3 MMFの血中濃度を低下させる薬剤(CyA,コレスチラミン,Mgおよび Al 含有制酸剤,セベラマー,シプロフロキサシン,リファンピシンなど), 4併用薬の効果を減弱させる(不活化ワクチン)ため注意が必要である。【副作用】消化器症状(下痢,嘔気,腹痛),汎血球減少,感染症,不妊,悪性腫瘍などがある。
6 )シクロホスファミド(cyclophosphamide:CPA)【作用機序】CPA はアルキル化作用により DNA を架橋し,その合成を阻害することで細胞増殖を抑制する。悪性腫瘍治療薬として使用が始まったが,リンパ球,特に B リンパ球のDNA 合成も阻害し,細胞性・液性免疫ともに強力に抑制することから,腎疾患の治療にも使用されている。【有効性の報告】活動性の高いループス腎炎,ANCA 関連血管炎,膜性増殖性腎炎などの難治性ネフローゼ症候群の治療に使用されている。欧米では,CPA は MN に有効とされているが91),難治性ネフローゼ症候群に関するわが国での多施設共同後ろ向き研究では,ステロイド単独治療を上回る成績は得られていない8)。厚生労働省進行性腎障害研究班では ANCA 関連腎炎で一定の条件下で使用が推奨されている。【禁忌】催奇形性,乳汁中への移行があるため,妊婦,授乳中の女性には禁忌である。男性での催奇形性は報告されていない。
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【使用法】経口:欧米では 2.5~3.0 mg/kg/日を 8 週間使用するが,わが国では 50~100 mg/日で 8~12 週間投与することが多い7)。点滴静注(IVCY):経口法とほぼ同等の効果で,副作用は IVCY のほうが少ないとされる92)。わが国では CPA 500 mg または 500 mg/m2を月 1~2 回,1 時間以上かけて点滴静注する。【薬物動態】血中濃度のピークは内服後 1~3 時間で,半減期は約 6時間。腎排泄性であるため,腎機能低下例では減量する必要がある。【他の薬物との相互作用】CPA は肝臓のチトクローム P-450(CYP)で代謝され活性型となるため,CYP の酵素誘導を起こす薬剤(バルビツール,アルコール,フェニトイン,リファンピシン)では薬理作用や毒性が高まる可能性がある。また,アロプリノールとの併用で骨髄抑制が増強する。【副作用】骨髄抑制による白血球減少,性腺機能障害,悪性腫瘍の発現率が用量依存性に上昇するため,投与総量を 10 g 以内にするのが望ましい。投与後 2~3 週で出現しやすい白血球減少(白血球数3,500/mm3,好中球 1,500/mm3以下)では日和見感染の危険性が増加するため減量を検討する。血清コリンエステラーゼ値の低下は無顆粒球症などのCPA の重篤な副作用と関連しており,200 U/L 以下にならないように注意する93)。CPA の代謝産物であるアクロレインは出血性膀胱炎,膀胱癌の原因となり94,95),経口投与では連日曝露のため危険性がさらに高くなる。予防法として,経口法では朝に服用し日中水分を十分とる,就寝前は排尿して膀胱を空にする, IVCY 法では補液を十分し尿量を確保することが行われる。アクロレインと結合し無毒化するメスナ96,97)やビタミン C の併用も有効とされる。
7 )リツキシマブ(rituximab)【作用機序】ほぼすべての B リンパ球にヒト CD20 抗原は発現しており,抗 CD20 モノクローナル抗体であるリツキシマブは特異的に B リンパ球に結合し,その増殖と機能を阻害する。【有効性の報告】原発性ネフローゼ症候群に関してはまだ十分な知見が得られていない。主に小児の難治性ネフローゼ症候群への有
効性が報告されている98)。【使用法】小児には 375 mg/m2/回(最大 500 mg/回)4 回投与(週 1回)で使用されるが,成人には,わが国では 500 mg/回を1 回99),海外では 1,000 mg/回を 2 週間間隔で 2 回投与が有効との症例報告がある100)。1 回投与法では効果が弱いとされるが,投与量や投与法についてはまだ確立されていない。【薬物動態】半減期は約 400 時間。本薬剤はマウスとヒトのキメラ抗体のため,治療経過中に自己抗体が産生される可能性がある。【副作用】アナフィラキシー症状,汎血球減少,多発性白質脳症, B 型肝炎キャリアからの再燃などが報告されている。
今後の研究課題ステロイド,免疫抑制薬はネフローゼ症候群の基本的な薬剤として使用されているが,以下の点についてさらに検討が必要と思われる。1 )ステロイド投与法の違い(経口連日,経口隔日,静注,パ
ルス療法)による効果,副作用の比較2 )各種免疫抑制薬間での効果,副作用の比較3 )薬剤抵抗性の機序4 )薬剤有効性の投与前予測指標の確立
1 .ネフローゼ症候群における心血管疾患対策
近年,CKD の概念が提唱され,CKD は心血管疾患と密接な関係にあることが知られるようになってきた101)。心血管死亡イベントの発症は尿蛋白排泄量に比例する。ネフ
V.ネフローゼ症候群の合併症と対策
ステートメント1 .ネフローゼ症候群は,心血管イベント発症の高リ
スク群として,特に高齢者には予防対策(血圧管理,循環器スクリーニング,適正な薬物治療)が推奨される。2 .脂質代謝異常が持続すれば,HMG-CoA 還元酵素
阻害薬(スタチン)やエゼチミブを投与することが推奨されるが,横紋筋融解症の発症やシクロスポリンとの併用療法には細心の注意を払う。
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ローゼ症候群における心血管障害に関しては,高コレステロール血症と低アルブミン血症に伴う有効循環血漿量の低下による血液の濃縮に加えて,線溶に関係する蛋白の尿中への喪失から血栓形成リスクが高まることが知られている。特に大量の尿蛋白が長期間(3 カ月以上)持続する難治性ネフローゼ症候群においては,より強い心血管イベントのリスクとなることが懸念される。142 例のネフローゼ症候群患者における後ろ向き研究では,心筋梗塞の発症が対照患者群に比して 5.5 倍に増加し,また死亡リスクも 2.8 倍に増加した102)。しかし,心血管イベントの増加をエンドポイントに設定した前向き研究はいまだ報告されていない。ネフローゼ症候群に起因する脂質異常症に対する前向き介入研究では,HMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)による薬物介入の結果は,生存率には有意差を認めないものの,腎機能の進行を抑制することが報告されている103~106)。膜性腎症では小規模ながらシンバスタチンによる脂質異常の改善とともに尿蛋白排泄量の減少を認めたという報告もある107)。さらに,ネフローゼ症候群にスタチンを投与するとコレステロール値とは無関係に内皮障害の改善効果が報告されていることより,スタチンには潜在的な有効性が推察されている108)。しかしながら,シクロスポリンを使用する場合には,ロスバスタチン,ピタバスタチンが併用禁忌となっているので注意を要する。2010 年のアメリカ腎臓学会で SHARP study の結果が報告され,シンバスタチンとエゼチミブを投与された CKD患者が有意に心血管イベントが抑制されたことが示されている。LDL コレステロールがスタチンで十分低下しない場合,エゼチミブの追加投与が心血管保護作用を示す可能性がある。
2 .ネフローゼ症候群における感染症対策一般にネフローゼ症候群では,疾患による糸球体基底膜
の障害の程度に依存する蛋白分画の喪失があり,免疫グロブリンや補体成分の低下がみられるため,液性免疫低下が潜在的に存在する。日本人の原発性ネフローゼ症候群患者86 例を対象に血中の免疫グロブリン濃度との関連を調べた Ogi らの報告によると,血中の IgG レベルが 600 mg/dL以上と以下の患者群で感染リスクを比較したところ,IgGが低下すれば感染症を起こすリスクが 6.74 倍高く,IgG の低下が感染症のリスクにつながることが示されている109)。これら液性免疫低下に加え,T 細胞系の免疫抑制などによる細胞性免疫低下もみられ110),さらに易感染性が助長され,ネフローゼ症候群自体が感染症発症のリスク因子となることが知られている。また,基本的治療薬として副腎ステロイド薬と免疫抑制薬が投与されている患者では,顕著な細胞性免疫低下がみられるため,感染症の発症リスクはきわめて高くなる。一方で,ランダム化した対象を設定した臨床研究がないために,感染症の発生頻度については明らかにされていない。わが国におけるアンケート調査をまとめた前回の難治性ネフローゼ症候群の治療指針では,明らかな感染死は意外に少なく,膜性腎症 1,008 例中 9 例(0.9 %),巣状分節性糸球体硬化症 278 例中 3 例(0.7 %)が感染症死と報告されており,そのほとんどは肺炎である7)。しかしながら,この調査では死亡に至らない感染症の合併頻度に関しては明らかにされていない。液性免疫低下による感染症対策として,Ogi らは IgG 600 mg/dL 未満の患者に 10~15 g のγグロブリンを 4 週ごとに静注することにより,感染症のリスクを低下せしめたと報告している109)。しかし,このγグロブリン投与による感染症予防効果については,費用対効果の問題もありランダム化比較試験による詳細な検討が必要であると考えられる。また,液性免疫低下例において感染リスクが高まる重要な病原体として肺炎球菌があげられる111)。そのため,ネフローゼ症候群患者に対しては肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されている111,112)。ネフローゼ症候群のみならず膠原病,移植などさまざまな基礎疾患の治療において,中等量以上のステロイドやシ
ステートメント1 .ネフローゼ症候群では,IgG や補体成分の低下が
みられ,潜在的に液性免疫低下が存在することに加え,T 細胞系の免疫抑制もみられるなど,感染症の発症リスクが高い。2 .ネフローゼ症候群の患者では肺炎球菌ワクチンの
接種が推奨される。3 .1 日 20 mg 以上のプレドニゾロンや免疫抑制薬を
長期間にわたり使用する場合には,顕著な細胞性免疫低下が生じるため,ニューモシスチス肺炎に対する予防的投薬を考慮する。4 .適宜,日和見感染症のモニタリングを行いながら,
臨床症候に留意して早期診断に基づく迅速な治療が必要である。5 .診療にかかわる医療従事者は,「手洗い」など感染
対策を遵守し感染予防に努めるとともに,感染予防についての患者教育を行うことが重要である。
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クロスポリン,アザチオプリンを使用すると,高率にニューモシスチス肺炎が合併することが報告されている113~117)。非 HIV 感染症でのメタ解析の結果では,ニューモシスチス肺炎の致死率は 34~49 %と非常に高い113)。そのため,1 日20 mg 以上のプレドニゾロンや免疫抑制薬を長期間にわたり投与する症例では,ニューモシスチス肺炎に対して ST合剤などによる予防的投薬が推奨されている118~120)。しかしながら,多くの調査では直接ネフローゼ症候群を対象に調査していないため,ネフローゼ症候群の患者においてニューモシスチス肺炎に対する予防的投与を行うべきか否かは検討の余地が残る。細胞性免疫低下症例は結核症の高リスク患者でもある。日本結核病学会は「結核診療ガイドライン」のなかで,1 日10 mg 以上のプレドニゾロンや免疫抑制薬を使用する者のうち,結核の化学療法歴のない者でツベルクリン反応陽性者や,胸部 X 線上結核感染の証拠となる所見(単なる胸膜癒着像や石灰化のみの者も含む)がある者については,イソニアジド 300 mg により潜在性結核症として 6 カ月間の治療を行うことを提唱している121)。また,潜在性結核症治療を行う場合には,その治療終了後にステロイドや免疫抑制薬の投与を開始することが望ましいが,状況によっては潜在性結核症治療と並行して行うことも止むを得ないと考えられる。したがって,現在ツベルクリン反応検査に代わり用いられるクオンティフェロン検査が陽性となった場合や,胸部 X 線上異常を認める場合には,呼吸器専門医に意見を求めるなど治療の要否やタイミングについて注意深く検討する必要がある。免疫抑制状態でしばしば肝障害や重症肺炎を起こすサイトメガロウイルス(CMV)感染症に関しては,近年 CMV アンチゲネミア法が汎用され,迅速な診断ができるようになってきた。免疫抑制状態の症例においては,臨床症状を慎重に観察し,CMV 感染症の疑いがある場合には,アンチゲネミアなどの検査所見や画像所見,必要に応じて生検による病理所見などを参考にして,ガンシクロビルなどにより速やかに治療を行うことが必要である。移植領域では,アンチゲネミア法によってモニタリングして,確定診断前に早期治療を行う preemptive therapy も行われるが,他の細胞性免疫低下症例においては,治療開始および中止基準,さらにはモニタリング間隔などについて定まった基準がない。今後,費用対効果の点などを含め,更なる検討が必要であろう。なお,CMV に対するガンシクロビルの予防的投与は,移植領域においては推奨されている疾患もあるが,ネフローゼ症候群患者での推奨はない120)。以上のことを鑑みて,難治性ネフローゼ症候群,特にス
テロイドや免疫抑制薬を投与している症例は,顕著な免疫低下があるので,臨床症状(発熱,全身倦怠感,咳嗽など)のきめ細かな観察と,日和見病原体に対する適切な検査を行い,病状に応じ速やかな感染症治療を行うことが必要である。また,診療にかかわる医療従事者が,「手洗い」などのスタンダード・プリコーションを遵守し,感染対策チームなどとも連携して感染対策に努めることはもちろんのこと,患者に対する感染予防についての教育も重要となる。
今後の研究課題1 )ネフローゼ症候群患者の感染症死亡の発症率を検討す
る。
3 .ネフローゼ症候群における血栓症対策
ネフローゼ症候群では,動脈系および静脈系のいずれにも血栓症が合併しやすいことが知られている。深部静脈血栓症(deep venous thrombosis:DVT)である腎静脈血栓症(renal vein thrombosis:RVT)や肺動脈塞栓症(pulmonary embolism:PE)は重篤であり,致死性のことも多い。ネフローゼ症候群に伴う RVT の発症頻度に関しては,報告によって 5~62 %と大きく開きがあるが,全体として約 35 %と報告されている122)。加えて,RVT のみならず静脈系血栓症は全体として 8.5~44 %に認められ,RVT のある患者は慢性,急性にかかわらず PE の頻度が高いことも報告されている123)。また,重症ネフローゼ症候群で換気能力が低下
ステートメント1 .ネフローゼ症候群では発症から 6 カ月以内に静
脈血栓形成のリスクが高く,血清アルブミン値が
2.0 g/dL 未満になればさらに血栓形成のリスクが
高まる。2 .ネフローゼ症候群に伴う血栓形成のリスクと抗凝
固療法に伴う出血の危険性について,各患者について十分な評価を行う。3 .過去に静脈血栓症の既往があれば,ワルファリン
による予防的抗凝固療法を考慮する。4 .静脈血栓症由来の肺塞栓症が発症すれば,直ちに
ヘパリンを投与し APTT を 2.0~2.5 倍に延長させ,血栓の状況を確認しながらワルファリン内服に移行し,PT-INR を 2.0(1.5~2.5)とするように抗凝固療法を行う。
p.21
した 89 症例の調査では,PE の発症頻度は 32 %と高率であることが報告されている124)。ネフローゼ症候群の起因となる疾患によって RVT 発症頻度は異なり,高頻度に認められるのは膜性腎症(37 %),膜性増殖性糸球体腎炎(26 %),微小変化型ネフローゼ症候群(25 %)である125)。1979~2001 年のすべてのランダム化された治療研究調査によって,膜性腎症では静脈系血栓症を起因とする PE が 500 例に 1 例発症することが報告された125)。また,米国における 1979~2005 年の調査で,ネフローゼ症候群全体の 1.5 %に DVT が存在し,0.5 %の患者に PE が生じると報告されている126)。さらに観察期間を延長して 10 年間フォローした 1995~2004 年のデータによると,一般対象と比較して臨床的静脈血栓性 PE の発症危険度は,年当たり非ネフローゼ症候群に比して 8 倍のリスクがあり,特にネフローゼ症候群の発症から最初の 6 カ月では相対危険度として 140 倍(年間 9.85 %)になる。一方,ネフローゼ症候群に合併する動脈血栓症に関しては,その相対リスクは 1~5.5 %と静脈血栓に比較して低い102,127,128)。発症時期は静脈系血栓症と同様に,ネフローゼ症候群発症から 6 カ月以内に発症しやすい127)。性別,年齢,糖尿病,高血圧,喫煙,過去の動脈疾患の既往,糸球体濾過量の低下など動脈硬化に対する古典的な危険因子は動脈系血栓症の危険因子でもあり,ネフローゼ症候群においてもそのまま適応される。すべてのネフローゼ症候群の患者に対して抗凝固療法をする必要はないが,血清アルブミン値が常に 2.5 g/dL 以下の難治性ネフローゼ症候群では予防的治療を考慮することが必要である。特に,RVT や DVT の既往があるケースではワルファリンによる抗凝固療法が出血のリスクを超えて有用である123)。4 年間の観察研究のメタ解析でも,予防的抗凝固療法により回避された致死的 PE 発症数は,致死性出血性合併症の発生数の約 2 倍と推定されており,相対的にワルファリンによる予防的抗凝固療法は有用であると結論されている129)。さらに,血清アルブミン値が 2.0 g/dL 未満の重症になれば,過凝固による血栓形成のリスクが急激に高まるため,ヘパリンにて活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を 2 倍以上,もしくはワルファリンにて PT- INR(プロトロンビン時間の国際標準比)が 2.0(1.5~2.5)になるような予防的抗凝固療法を考慮する130)。しかしながら,抗凝固療法の開始に関しては低アルブミン血症や尿蛋白排泄量で明確に規定できるものではなく,血栓症の家族歴や既往歴などを参考に検査データを総合的に判断して行うべきものであり,無症候性静脈血栓症の積極的な画像スクリーニング検査(CT や MRA)に対しても否定的な意見
もある125)。さらに,低用量ワルファリンを用いて PT-INRを 1.3~1.5 程度にコントロールした場合でも,血栓形成に対する予防効果が期待できるとする考えもある131)。DVT の予防・治療に対して肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症予防ガイドラインが公示されている132)。内科疾患であるネフローゼ症候群の基本リスクは中程度リスクに分類され,さらに感染症や心筋梗塞などの急性リスクが加わり高リスクとなった場合に,抗凝固療法が強く推奨されている。しかしながら,出血のリスクが高い場合には弾性ストッキングなどの理学的予防法のみの予防も考慮される。本来,このガイドラインは手術や外傷などの離床が不可能な患者に対する一次予防ガイドラインであり,必ずしも難治性ネフローゼ症候群に直接的にあてはまるものではない。さらに,安定した状態のネフローゼ症候群は低リスクであり,極端な安静療法よりも早期離床と適度な運動を行うことが DVT の予防になる。DVT の一次予防法に関して,いずれの治療を施行する場合でも,ネフローゼ症候群に伴う血栓形成のリスクと予防法自体による合併症リスクを十分に説明し,特に強力に抗凝固療法を行う場合は,出血の危険性を含めた十分なインフォームド・コンセントを得る必要がある132)。腎生検終了後,どの段階で抗凝固療法を開始すべきかについては,いまだ一定の見解はない。静脈血栓形成のリスクが高い症例に対しては,腎生検の約 1 週間後から抗凝固療法の開始が可能と考えられる。なお,ワルファリン投与はネフローゼ症候群による低アルブミン血症やビタミンK 依存性凝固因子の喪失状態では,その薬物投与量と治療効果が必ずしも一致しないことが知られており133),さらに,ワルファリン単独使用では内服開始から効果の発現までに少なくとも 3~5 日間を要するため,早急な効果を期待する状況では初期にヘパリンの併用が望ましい133)。また,多剤併用による薬剤相互作用によってワルファリンの効果は変動しやすいので適宜 PT-INR をモニタリングし,出血に対する注意深い観察が重要である134)。仮にネフローゼ症候群治療中に DVT 由来の PE が急性発症すれば,致死的な状況であると判断し,直ちに非分画ヘパリンを経静脈的に投与し,速やかに APTT を 2.0~2.5倍に延長させ,画像診断で血栓の状況を確認しながら徐々にワルファリンへ移行すべきである130,132)。なお,腎機能が低下しているネフローゼ症候群(eGFR<30 mL/min/1.73 m2)の患者では,低分子ヘパリンの使用が推奨されている135)。
p.22
今後の研究課題1 )難治性ネフローゼ症候群に対する抗凝固療法の有効性
を検証する。
4 .ネフローゼ症候群における悪性腫瘍
1 )ネフローゼ症候群の原因としての悪性腫瘍古くからネフローゼ症候群において悪性腫瘍の合併が指摘されており,成人ネフローゼ症候群の 101 例中 11 例(11 %)が悪性腫瘍を合併し,同年齢層の健常人の悪性腫瘍発症率に比して約 10 倍であると報告されている136)。特に,続発性膜性腎症の原因として感染症や膠原病と並んで悪性腫瘍はよく知られているが,その合併頻度は調査時期や研究対象によって異なり 5~11 %と報告されている137,138)。悪性腫瘍とネフローゼ症候群の合併において,その発症時期は重要である。ネフローゼ症候群が腫瘍発見に先行するケースが約 40 %,ほぼ同時に発見されるケースが約 40 %,そして腫瘍発見が先行するケースは約 20 %と報告されており,いずれにせよその時間差(タイムラグ)は 1 年未満とされている139)。逆に,1 年以上のブランクで各々が出現した場合は,個別の疾患として扱われることが多い。従来から,膜性腎症と悪性腫瘍の関連は強く示唆されてきたが140),本邦の主要医療機関にアンケート形式で調査した前回の難治性ネフローゼ症候群の診療指針では,最終観察までに悪性腫瘍で死亡した症例は,膜性腎症で 1.2 %,巣状分節性糸球体硬化症で 1.4 %であった7)。さらに,膜性腎症の経過観察中における悪性腫瘍の併発は 3.4 %であり,一次性ネフローゼ症候群に関して言えば,悪性腫瘍と膜性腎症が関連する可能性は意外に低いと推定される。近年,中国における 20 年間の膜性腎症の調査が報告されたが,腎生検で確認した膜性腎症 390 例中 124 例(31.8 %)が一次性であり,残りの 266 例(68.2 %)は二次性膜性腎症であった141)。そして,二次性膜性腎症の原因は,自己免疫疾
患(73 %)と B 型肝炎ウイルスを中心とする感染症(18 %)で 90 %以上を占めており,腫瘍に起因する二次性膜性腎症は 4.5 %であったと報告されている142)。この中国での調査より,腎生検で診断された膜性腎症の約 3 %が悪性腫瘍と関連していると推定される。これらの報告より,わが国を含めて,アジア人では腫瘍に起因する二次性(続発性)膜性腎症の発症率は従来の欧米からの報告136~138,140)よりも低いと考えられる。合併する悪性腫瘍に関しては,固形癌としては諸外国では肺癌が最も多く報告され,次いで消化器癌,腎癌と続くが,わが国では肺癌が比較的少なく,消化器系悪性腫瘍が最も多かった7)。これらの腫瘍と関連する免疫異常がネフローゼ症候群の発症原因になっていることが推測されるが,膜性腎症に合併する消化器系悪性腫瘍を外科的治療によって摘出しても,尿蛋白の完全寛解率は 50 %未満である142)。一方非固形癌に関しては,リンパ腫に伴う微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)が古くから知られているが,ホジキンリンパ腫の大規模調査では,MCNS の合併頻度は0.4 %と報告されており,ホジキンリンパ腫からみた場合,ネフローゼ症候群の発症頻度はそれほど高いものではない143)。同様に非ホジキンリンパ腫や慢性リンパ性白血病の糸球体障害を合併する頻度も非常に低く,むしろ腎臓への腫瘍細胞の直接浸潤や尿路閉塞,抗癌剤の薬剤性腎障害の発症頻度のほうがはるかに高いと報告されている144)。ネフローゼ症候群に合併する悪性腫瘍の治療は,低アルブミン血症の存在や腎機能低下の懸念のため手術適応の判断や化学療法の選択に苦慮するが,一般的には生命予後に直結する悪性腫瘍の治療を優先すべきである。
2 )ネフローゼ症候群の治療の副作用としての悪性腫瘍ネフローゼ症候群の治療上重要な問題点は,ステロイド治療や免疫抑制療法が悪性腫瘍の悪化因子としてリスクを増大させることである。免疫抑制による腫瘍免疫の低下に加え,難治性ネフローゼ症候群で治療に用いられるシクロホスファミドは,尿中代謝物アクロレイン(acrolein)が尿路系への毒性を有しており,膀胱障害(出血性膀胱炎)や発癌作用(特に膀胱癌)を有していることが知られている94,95)。Wegener 肉芽腫症における調査報告ではあるが,特にシクロホスファミドの累積投与量が多い群で,膀胱癌の発症リスクは 8 倍に上昇しており,さらにシクロホスファミド投与が 10 g ずつ増加するごとに発癌リスクが 2 倍になる145)。わが国におけるネフローゼ症候群に対する治療とし
ステートメント1 .成人のネフローゼ症候群では悪性腫瘍の合併率が
高いことが知られ,特にわが国では消化器系悪性腫瘍の頻度が高い。2 .ネフローゼ症候群(特に膜性腎症)を診断した場合
には,悪性腫瘍合併の可能性も考慮すべきである。3 .生命予後から考えて悪性腫瘍の治療を優先すべき
であるが,外科的切除を含む抗癌治療によってもネフローゼ症候群は寛解しない症例も多い。4 .免疫抑制療法に伴う発癌リスクについて,十分な
注意を払う。
p.23
てはステロイド治療が優先されており,免疫抑制薬の使用頻度・量は欧米に比べて比較的少ないと推測されるが,免疫抑制療法に伴う発癌リスクについては十分な注意を払っていく必要がある146)。近年,シクロホスファミドによる副作用による出血性膀胱炎や続発する膀胱癌に対する予防薬としてメスナ(2mercaptoethane sodium sulfonate)が,厚生労働省から認可・承認され,現在,保険適用下でも使えるようになった。シクロホスファミドの尿中代謝物アクロレインは膀胱粘膜と接触して膀胱障害(出血性膀胱炎)を誘発させるが,メスナはアクロレインの二重結合に無障害性付加体を形成し,膀胱障害を抑制することが知られている96)。この反応は血行を介する全身性の毒性ではなく,あくまで尿中代謝物による局所障害である95)。そこで,シクロホスファミド投与時には大量の水分摂取を推奨し,さらに大量のシクロホスファミドを投与する間欠静注療法に際しては,予防薬として等量のメスナを経静脈的に投与する96,97)。
3 )膜性腎症の原因抗体の IgG サブクラス膜性腎症では基底膜の上皮下に免疫複合体を形成するが,原発性では糸球体へ沈着する免疫グロブリンは IgG4が主体である147~150)。一方,腫瘍に起因する膜性腎症で免疫複合体を形成する IgG 抗体が IgG1と IgG2が主体であることが報告されている151)。このような原発性と続発性膜性腎症を鑑別する方法について今後検討が必要である。
今後の研究課題1 )膜性腎症の原因として悪性腫瘍を鑑別する方法を開発
する。
5 .ネフローゼ症候群における急性腎不全対策一般にネフローゼ症候群そのものに急性腎不全の合併頻
度は非常に低く,稀な合併症と言える。これまでに,ネフローゼ症候群の原因疾患別に急性腎不全の発症頻度を厳格に調査した報告はなく,微小変化型ネフローゼ症候群に急性腎不全が発症したという症例報告が多数を占めている152)。急性腎不全はいくつかの因子が複合的に関連して引き起こされていることが多い153)。そのなかでも低アルブミン血症に伴う有効循環血漿量(血管内血漿容量)の低下は,急性腎前性腎不全の誘因であり,蛋白尿が多い症例ほど急性腎不全の合併が多く,さらに高齢者は潜在的な急性腎不全のハイリスク群である154)。低蛋白血症に伴う腎前性腎不全が病態の中心である場合には,患者を速やかに安静加療(入院)させ,適切なアルブミン製剤の投与に基づく血管内液量の維持によって腎機能は速やかに改善することが多い。この場合,Na や尿素窒素(UN)の分画排泄率(FENa,FEUN)を適宜モニタリングし,常に FENa を 1 %以上に保つように輸液・循環管理することが重要である155)。ただし,低アルブミン血症に対するアルブミン補充療法は,あくまで短期的な血管内液量の是正と腎血漿流量維持の目的で使用することはあっても,根本的な治療になりえるものではないので,慢性的に投与すべきものではない。一方,急性に発症する腎性腎不全は,感染症(特に敗血症)や腎静脈血栓症に付随する腎不全が多い。また,慢性進行性の経過をとる二次性ネフローゼ症候群(特に糖尿病性腎症やアミロイド腎症)では,疾患そのものに全身の血管病変を伴っており,ネフローゼ症候群の進行とともに高率に腎不全になりやすい。ネフローゼ症候群における急性腎不全の合併頻度は高齢者ほど高い傾向にあり,動脈硬化や高血圧などに起因する血管病変に伴う腎への虚血が大きな発症リスクであると言える156)。また,基礎疾患として高血圧や糖尿病が存在している症例では,蛋白尿軽減や腎機能保護の目的にアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が使用されるが,ネフローゼ症候群に伴う急激な血管内液量の減少にレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAS)阻害薬による腎内濾過圧の低下は急性腎不全を助長する可能性があるので,急性腎不全が発症すれば ACEI や ARB などの RAS 阻害薬は一時的に中止すべきである。ネフローゼ症候群に合併する重症の急性腎不全では緊急血液透析の適応となるが,ほとんどのケースは数週間の透析療法で回復する。それゆえに,腎前性腎不全が否定された場合は,血液透析の導入を躊躇せず速やかに施行し,腎
ステートメント1 .ネフローゼ症候群に伴う低アルブミン血症による
有効循環血漿量の低下が急性腎前性腎不全を引き起こすことがあるので,適切な輸液・循環管理は重要である。2 .感染症(特に敗血症)や腎静脈血栓症に付随する急
性腎不全では,速やかに原因を除去する治療が推奨される。3 .RAS 系阻害薬は,急性腎不全が発症した際には一
旦中止することが望ましい。4 .ネフローゼ症候群に合併する重症の急性腎不全で
は,積極的に血液透析も考慮する。
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機能の回復を待つほうが有用である152)。
今後の研究課題1 )急性腎障害の発症頻度と危険因子を明らかにする。
1 .概 要微小変化型ネフローゼ症候群は,小児に好発する疾患であるが,難治性ネフローゼ症候群の疫学の項で述べたように,成人においても多く,わが国の一次性ネフローゼ症候群の 38.7 %を占める重要な疾患である。これは,以前の調査でも同様である157)。副腎皮質ステロイド薬(以下ステロイド)に対する反応性は良好であり,90 %以上の症例で寛解に至る158,159)が,再発が約 30~70 %程度にみられ158,160),頻回再発やステロイド依存性を示す症例も存在する。これらの症例においては長期的なステロイドの使用や免疫抑制薬の併用が必要となることがあるため,副作用を最小限にし,再発を抑制する治療が重要である。病因は明らかでは
VI.微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)の治療指針ないが,T 細胞の機能異常により糸球体の蛋白透過性亢進
状態が生じることが一因と考えられている161)。
2 .診断のポイント臨床的には急激な発症が特徴であり,突然の浮腫をきたすことが多い。高度の蛋白尿や低アルブミン血症,脂質異常症が認められ,胸腹水の貯留をきたすこともある。尿蛋白の選択性は高選択性のことが多く,治療に対する反応が良好である162)。成人において顕微鏡的血尿が観察されることは稀ではなく,約 20~30 %に報告されている159,162,163)。急性腎不全をきたす症例もあり,高齢,高血圧,高度蛋白尿をきたす症例に多い162)。年齢,病歴によりある程度の予測は可能であるが,成人のネフローゼ症候群はその原因が多岐にわたるため,通常,腎生検による組織学的検査を行い診断する。腎生検では光学顕微鏡所見上,糸球体に明らかな異常は認められず,蛍光抗体法では免疫グロブリンや補体の特異的な沈着はない。電子顕微鏡ではびまん性の足突起の消失のみが見られる。多くは一次性であるが,ウイルス感染や非ステロイド系消炎鎮痛薬などの薬剤,ホジキンリンパ腫などの悪性腫瘍やアレルギーなどに合併することがある161)。
3 .治 療微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS の治療)のアルゴリズムを図 9 に示す。
1 )初期治療と再発時の治療初期治療では,ステロイドを第一選択薬としてプレドニゾロン 0.8~1 mg/kg 標準体重/日使用する。そのエビデンスとしては 1970 年と 1986 年に報告された無作為化比較対照試験(RCT)があり,ステロイド投与群と対照群の比較が行われ,ステロイド投与群で早期に尿蛋白の減少が得られたことが報告された164,165)。一方,観察研究では,ステロイド投与による高い寛解率が報告されている158,159,163,166)。多くの観察研究やわが国の治療の現状から,初期治療における第一選択薬をステロイドとすることに異論はないと考えられる。維持および再発時の治療についてはエビデンスとなりうる比較対照研究がなく,エビデンスに基づいて治療法を確定することは困難である。小児の RCT167,168)や成人の観察研究169)で投与期間が短いと再発率が高いことが示されており,急速な減量には注意が必要と考えられるが,長期投与による副作用も考慮して投与期間を調節する必要があ
ステートメント■初期治療プレドニゾロン 0.8~1 mg/kg/日(最大 60 mg)相当で開始し,寛解後 1~2 週間持続する。完全寛解後は2~4 週毎に 5~10 mg/日ずつ漸減する。5~10 mg に達したら再発をきたさない最小量で 1~2 年程度維持し,漸減中止する。4 週後に完全寛解に至らない場合は初回腎生検組織の再評価を行い,必要ならば再生検も考慮する。■再発時の治療プレドニゾロン 20~30 mg/日もしくは初期投与量を投与する。■頻回再発型,ステロイド依存性,ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群免疫抑制薬(シクロスポリン 1.5~3.0 mg/kg/日,またはミゾリビン 150 mg/日,または,シクロホスファミド 50~100 mg/日など)を追加投与する。■補助療法として1 )必要に応じて,HMG-CoA 還元酵素阻害薬や抗
凝固薬を使用する。2 )高血圧を呈する症例ではアンジオテンシン変換
酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の使用を考慮する。
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る。減量方法を決定するためのエビデンスもなく,患者の病態に応じて調整する。5~10 mg まで減量後は 1~2 年間維持することが一般的である。完全寛解後の再発率は高く,わが国の報告でも 30~70 %に再発が認められたことが報告されている158~160)。寛解後も家庭での自己検尿を推奨し,尿蛋白陽性(2+)以上が 2, 3 回持続した場合に再発と判断して早期の対応を行う。再発時の治療としては,一般にステロイドで治療を行う。初期治療と同様の治療を行った報告62)と初期量よりも少ない量で治療を行った報告159)があるが,比較したデータはなく,本指針では 20~30 mg もしくは初期投与量を目安とし,実際の投与量は患者の病態に応じて決定することとする。ステロイドパルス療法については,Imbasciati ら62)がステロイドパルス療法と低用量ステロイドを組み合わせた治療法と通常の経口ステロイドを比較した RCT を行い,ステロイドパルス療法群において,成人では副作用が少なく小児では早期寛解が得られたことを報告している。わが国の実地臨床でも,早期寛解導入目的あるいは内服ステロイド薬への反応不良例に対してステロイドパルス療法が行われる場合もある。通常,メチルプレドニゾロン 500~1,000
mg/日が 3 日間,静脈内に投与される。副作用を減じる目的で隔日投与を行った報告も認められるが,Waldman ら162)の研究では,寛解,再発,副作用の点で連日投与との違いは示されていない。わが国においても MCNS に対してメチルプレドニゾロンより強力なスレブタン酸メチルプレドニゾロン 400 mg のパルス療法(後療法として PSL 30 mg/日)とプレドニゾロン 30 mg/日との二重盲検無作為化試験が行われたが,MCNS については有効性,安全性に有意差がなかった64)。また,ステロイドパルス療法を行う場合のステロイド投与量については,スレブタン酸メチルプレドニゾロン 200,400,800 mg の無作為化試験で 3 群間に有効性,安全性に有意差がなかったことも報告されている65)。
2 )頻回再発型・ステロイド依存性 MCNS の治療微小変化型ネフローゼ症候群はステロイド投与により多くが寛解するが,その後の再発がきわめて多く 30~70 %に認められ158~160),その一部は頻回再発をきたす。頻回再発型・ステロイド依存性ネフローゼ症候群の治療については,再発時にステロイドを増量し,再発予防とステロイドを減量する目的で免疫抑制薬の併用を考慮する。わが国で
微小変化型ネフローゼ症候群
寛解後も初期投与量を1 ~2 週間継続
効果あり効果なし
再発なし再発
寛解
再発
緩徐に漸減中止PSL 増量微小変化型ネフローゼ症候群他疾患
頻回再発型ステロイド依存性ステロイド抵抗性
1) シクロスポリン1.5 ~3.0 mg/kg/ 日2) ミゾリビン150 mg/ 日3) シクロホスファミド50 ~100 mg/ 日( 8 ~12 週)
PSL 減量5 ~10 mg を2 ~4 週毎に減量5 ~10 mg まで減量後は最小量で1 ~2 年間維持
プレドニゾロン(PSL 0.8 ~1 mg/kg/ 日)
(最大60mg/ 日)
組織の再評価
図 9 微小変化型ネフローゼ症候群の治療のアルゴリズムミゾリビンは頻回再発型ネフローゼ症候群の保険適用はない。
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頻回再発型・ステロイド依存性ネフローゼ症候群に対して保険適用とされている免疫抑制薬はシクロスポリンとシクロホスファミドである。シクロスポリンを副腎皮質ステロイドに追加することにより寛解が得られる症例が報告されている170,171)。RCT は,シクロスポリンとシクロホスファミドの効果を比較した Ponticelli らの報告172)のみで,2 年後の寛解維持率は,シクロスポリン投与群で 25 %(成人で50 %),シクロホスファミド投与群で 63 %(成人で 40 %)であり,両群ともに免疫抑制薬投与により,再発とステロイド投与量の有意な減少が認められたと報告されている。シクロスポリンは投与中止による再発の可能性が高く170,171),実際には低用量で継続して使用される場合が多いが,減量法や投与期間,中止時期などに関するエビデンスはほとんどなく,今後の検討課題である。2005 年の国際ワークショップの recommendation では,シクロホスファミドにより寛解が維持できない場合に使用すべきと提唱されている10)が,シクロホスファミドが後述のような副作用により長期間使用できないことを考慮すれば,保険適用のあるシクロスポリンをまず試みるべきと思われる。なお,保険適用上は 1.5 mg/日が投与量とされているが,C2などの血中濃度を検討のうえ,ステロイド抵抗性の場合と同様 3 mg/kg/日まで使用可能と思われる。シクロスポリンの投与により寛解に至れば投与量を漸減し,寛解が得られる最小量にて 1~2 年間は治療を継続する10)。高血圧や腎障害を惹起する可能性があり,血中濃度や臨床症状の評価,ならびに必要に応じて腎生検を考慮する必要がある。シクロホスファミドの有効性も多数報告され162,163),重要な治療選択肢の一つと考えられる。ただし,性腺機能抑制や発癌の恐れなどの副作用が指摘されており,短期間の使用にとどめて副作用に十分な注意を払うことが必要である。
3 )ステロイド抵抗性 MCNS の治療ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群は,再生検で巣状分節性糸球体硬化症と診断されることがあり162),副腎皮質ステロイド薬に反応しない症例では初回腎生検組織の再評価を行い,必要ならば再生検も考慮する10)。成人のステロイド抵抗性ネフローゼ症候群を対象とした RCT は存在せず,確立した治療法はない。薬剤の選択は患者の全身状態や病態に応じて行う。ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に対してシクロスポリンの有効性が報告されており162,173),治療薬として推奨されている10)。シクロホスファミド162,163),アザチオプリン174),ミコフェノール酸モフェチル(MMF)162)などの有効性も報告されているが,シクロスポリンを含むいずれの薬剤も頻回再発型・ス
テロイド依存性ネフローゼ症候群と比較すると寛解率は低い162)。現在わが国で,ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に対して保険が適用されている免疫抑制薬は,シクロスポリンとミゾリビンとシクロホスファミドの 3 剤のみである。成人の MCNS で,ステロイドやシクロスポリンの治療を行っても 6 カ月以上寛解が得られない場合は MMF の投与を考慮すべきと推奨されている10)。MMF 類似の代謝拮抗薬であるミゾリビンは保険が適用されており,検討すべきである。初期のステロイド治療を 16 週間継続することで寛解率が上がるという報告もあるが,ステロイドによる副作用の危険性を考えると現実的ではない。また,保険では巣状分節性糸球体硬化症にしか適用されていないが,ステロイド抵抗性 MCNS に対して LDL 吸着療法を行い寛解が得られた症例が報告されている51,175)。ネフローゼ症候群が持続する症例では HMG-CoA 還元酵素阻害薬176,177)や抗凝固薬を考慮し,高血圧症例ではACEI や ARB の投与を考慮する178)。
今後の研究課題1 )再発時のステロイド投与量2 )免疫抑制薬の減量,中止の方法3 )ステロイド抵抗性や頻回再発症例に対するリツキシマ
ブの有効性の検討
VII.巣状分節性糸球体硬化症の診療指針
ステートメント■初期治療プレドニゾロン(PSL)1 mg/kg/日(最大 60 mg/日)相当を初期投与量としてステロイド治療を行う。重症例ではステロイドパルス療法も考慮される。寛解導入後は微小変化型ネフローゼ症候群に準じて減量する。■ステロイド抵抗性4 週以上の治療にもかかわらず,完全寛解あるいは不完全寛解I型(尿蛋白 1 g/日未満)に至らない場合はステロイド抵抗性として以下の治療を考慮する。1 )必要に応じてステロイドパルス療法 3 日間 1
クールを 3 クールまで行う。2 )免疫抑制療法として,シクロスポリン 2.0~3.0
mg/kg/日,またはミゾリビン 150 mg/日,または,シクロホスファミド 50~100 mg/日の併用
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1 .概 要巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)は,微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)と同じような発症様式・臨床像をとりながら,MCNS と違ってしばしばステロイド抵抗性の経過をとり,最終的に末期腎不全にも至りうる難治性ネフローゼ症候群の代表的疾患である。初期には大部分の糸球体には変化を認めない一方で,主として傍髄部領域の糸球体(focal=巣状)の一部分(segmental=分節状)に硬化を認めるという病理形態学的特徴を有し,病期進行とともに硬化病変が拡がっていく。典型的なネフローゼ症候群を発症す
る原発性(一次性)FSGS のほかに,肥満関連腎症あるいは逆流性腎症など,形態学的に全く同じような組織像を示す続発性(二次性)FSGS の存在もよく知られている。また近年,糸球体上皮細胞の構造膜蛋白であるポドシン(NPHS2)やα-アクチニン 4(ACTN4)などの遺伝子変異により発症する家族性・遺伝性 FSGS の存在が次々に報告されている(表 8)179,180)。家族性 FSGS で主に成人に発症するものとして,Ca チャネルである TRPC6 の遺伝子異常が報告されている181)。成人領域の孤発性 FSGS でも A 型ミオシン重鎖(MYH9)遺伝子多型と発症リスクとの相関がアフリカ系アメリカ人を対象とした臨床研究で示されており182),さらに,この MYH9 遺伝子異常が Epstein-Fechtner 症候群に合併する FSGS 症例に認められることも最近明らかとなった183)。診断にあたっては家族歴の詳細な聴取が必要であるとともに,身体所見や全身性疾患にかかわる検査所見を十分にチェックすることが重要である。以上のような最近の知見の蓄積を踏まえたうえでも,原発性 FSGS の病因については現在もなお不明な部分が多いが,MCNS と同様に,主として T 細胞の機能異常に伴う糸球体上皮細胞障害が主要な機序の一つとして想定されている。また,皮質部糸球体と傍髄部糸球体の循環動態の違いなど血行力学的要因も関与するとされる。さらに腎不全に
を考慮する。■補助療法1 .高血圧を呈する症例では積極的に降圧薬を使用
する。特に第一選択薬としてアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の使用を考慮する。2 .脂質異常症に対して HMG-CoA 還元酵素阻害
薬やエゼチミブの投与を考慮する。3 .高 LDL コレステロール血症を伴う難治性ネフ
ローゼ症候群に対しては LDL アフェレシス(3カ月間に 12 回以内)を考慮する。4 .必要に応じ,血栓症予防を期待して抗凝固薬を
併用する。表 8 ヒト巣状分節性糸球体硬化症および先天性ネフローゼ症候群における
足細胞関連遺伝子変異
遺伝形質遺伝子遺伝子産物
AR AR AR? AD
AD AR AD
AR AR AR
AD AR?
maternal
NPHS1 NPHS2 CD2AP TRPC6
ACTN4 PLCE1 MYH9
LAMB2 ITGB4 CD151
WT1 SMARCAL1
mtDNA-A3243G
Slit diaphragm proteins Nephrin Podocin CD2-associated protein Transient receptor potential cation 6 Cytosolic proteins α-actinin-4 Phospholipase Cε1 Nonmuscle myosin heavy chain IIA Basal membrane proteins Laminin-β2 β-4-integrin Tetraspanin CD151 Nuclear proteins Wilms’ tumor 1 Chromatin-bundling protein Mitochondrial products Mitochondrial tRNAleu AD:常染色体優性遺伝,AR:常染色体劣性遺伝
(文献 180 より引用,改変)
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陥った症例の腎移植において,移植直後より蛋白尿の再発がみられることがあり,しかもこの蛋白尿が血漿交換療法(PE)にて軽減することから,一部の原発性 FSGS では糸球体濾過障壁の蛋白透過性を亢進させる何らかの液性因子(circulating factors:CFs),あるいはそれを制御する因子が発症に関与する可能性が指摘されている184)。ウロキナーゼ受容体が FSGS の原因となる可能性が示されている184a)。
2 .診断のポイント診断は腎生検により病理組織学的に行われるが,病変の分布が巣状であるため,診断の決め手になる分節状硬化が,限られた腎生検標本のなかでは見つからないことがある。本来は FSGS の症例でも,腎生検によってすべて FSGS と確定診断されるとは限らない。臨床的にステロイド抵抗性の経過をとるネフローゼ症候群の場合,病理組織診断が「微小変化」であっても,実際には FSGS の可能性があることを常に念頭に置いて診療にあたらなければならない。3 .治療の方針
FSGS の治療法はまだ十分に確立された状況にはないが,ネフローゼ症候群から脱しきれない症例の予後がきわめて不良であるのに対して,不完全寛解I型以上まで改善した症例の予後は比較的良好であることから7),不完全寛解I型の要件である 1 日尿蛋白量 1 g 未満を目指して積極的に治療を行っていく必要がある。FSGS の治療のアルゴリズムを図 10 に示す。
1 )副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイド)まず,プレドニゾロン換算 1 mg/kg 標準体重/日相当のステロイド療法を少なくとも 4 週間行うことを基本とする。FSGS は MCNS と比較してステロイドの効果が現われるのに時間がかかることが一般的であり,数カ月未満の短期使用では十分な効果があがらないとするいくつかの報告に基づいて,欧米では 16~24 週間,あるいはそれ以上の期間に及ぶ高用量(プレドニゾロンとして 0.5~2 mg/kg/日)のステロイド治療が推奨されてきた185~193)。わが国においても,これまでは長期の入院のもと同じような内容で治療が行われてきたが,最近はステロイドのさまざまな副作
補助療法
高血圧合併例ACEI またはARB を併用
脂質異常症がある場合1.スタチンを併用(血清CK 値の上昇に注意) 2.エゼチミブを併用LDL コレステロール高値の場合3.LDL アフェレシス療法12 回まで
抗凝固療法ワルファリン経口PT-INR1.3 ~1.5 に調整(深部静脈血栓症の恐れがある場合)
腎生検にて巣状分節性糸球体硬化症
ステロイドパルス療法ステロイド療法PSL 1mg/kg/ 日4 週経口投与
不完全寛解II型または無効完全寛解または不完全寛解I型
ステロイド減量・中止免疫抑制療法ステロイドに以下の免疫抑制薬を併用ステロイドは少なくとも6 カ月をかけて漸減
シクロスポリン併用2 ~3mg/kg/ 日分1 または分2 食前経口副作用がない限り6 カ月間使用し効果判定C2:600 ~900ng/mL完全寛解~不完全寛解I型少なくとも1 年は使用
ミゾリビン併用150mg/ 日分1 ~分3 食後経口
副作用がない限り2 年間使用し効果を判定副作用が出現したり無効な場合他の免疫抑制薬を併用または補助療法を検討シクロホスファミド併用50 ~100mg/ 日分1 または分2 食後経口
副作用がない限り3 カ月間使用可能ステロイド療法または免疫抑制療法に併用
図 10 巣状分節性糸球体硬化症の治療のアルゴリズム
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用を避ける意味から,月単位に及ぶ長期大量投与はなるべく避け,シクロスポリン(CyA)などの免疫抑制薬との併用療法を早期に開始するとともに,可能な限り早期にステロイドの減量を図るのが一般的になりつつある。経口ステロイド治療で効果が不十分な場合はステロイドパルス療法を考慮する192~195)。重症例では当初からパルス療法を行うことも考慮される。わが国ではメチルプレドニゾロン 500~1,000 mg/日,点滴静注 3 日間連続投与を 1クールとし,2 週間隔ほどで 3 クールまで繰り返すのが一般的である。
2 )免疫抑制薬ステロイド療法に抵抗性の場合には免疫抑制薬を併用する。そのような免疫抑制薬にはアルキル化薬,プリン代謝拮抗薬,カルシニューリン阻害薬などがあり,近年,B 細胞モノクローナル抗体の使用も国外で報告されている。しかし,わが国では保険適用上の制約があり,使用可能なのは,カルシニューリン阻害薬のシクロスポリン(CyA)とプリン代謝拮抗薬であるミゾリビン(MZR),アルキル化薬シクロホスファミド(CPA)に限定される。特に寛解率の高さや血中濃度がモニタリングしやすい点などから CyA が広く使われている状況である。 1 シクロスポリン(CyA) CyA の臨床効果に関して,海外の無作為対照試験やメタ解析の結果ではシクロホスファミドやクロラムブチルを上回る優位性は必ずしも得られておらず196),エビデンスの十分な集積に至っていないが,欧米でも実際には免疫抑制薬のなかで第一選択薬としての役割を果たしている10,70,197,198)。わが国からも,最近,多施設合同研究により小児の FSGS を含むステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に対する CyA の有効性が報告されている199)。CyA の投与方法として,これまでは 3 mg/kg 標準体重を 1 日 2 分割で服用し,翌朝服用前のトラフ値により用量を調節するのが一般的であったが,最近用いられるようになったマイクロエマルジョン製剤では,食前 1 日 1 回一括投与がより効率的に血中濃度を上昇させるといわれている76,77)。FSGS を含む難治性ネフローゼ症候群に対して行われた研究班の前向き無作為対照試験の結果でも,この方法により CyA 服用 2 時間後の血中濃度値(C2)が 600 ng/mL以上に上昇するとともに,膜性腎症については寛解率も有意に高まることが示された76)。FSGS については症例数不足のため寛解率に関して有意の結果が得られていないが,膜性腎症での治療経験を踏まえると,CyA 投与にあたっては,2~3 mg/kg 標準体重を朝食前に一括投与し,C2の血中濃度値が 600~900 ng/mL になるように調整することが有
用と考えられる。副作用がない限り 6 カ月間投与にて効果を判定し,不完全寛解I型以上の効果が得られたら原則として 1 年は使用する。 2 ミゾリビン(MZR) MZR はわが国で開発されたプリン代謝拮抗薬で,細胞毒性が弱く,長期にわたる使用にも耐えられる薬剤として広く使用されている。現在,1 日量 150 mg を 3 分割して投与する方法が一般的であるが,血中濃度が十分に上昇しないとの指摘があることから,CyA と同様に朝一括投与200,201),あるいは 1 週間に 2 日間だけ投与するパルス療法86,201)が各種疾患に対して試みられている。FSGS に対する治療効果のエビデンスは必ずしも十分とは言えず85,88),投与方法についての結論も出ていないが,これまでの使用経験では当初危惧されたような骨髄抑制や間質性肺炎の副作用の報告がほとんどないことから,他の薬剤が使用しにくい,あるいは使用量を減じなければならないような場合に,比較的安全に使用できる免疫抑制薬として選択しやすい薬剤である。長期投与で効果が発現することもあるので,副作用がない限りは 2 年程度の使用を考える。なお,この薬剤は腎排泄性であり,糸球体濾過量の低下とともに血中濃度の上昇や半減期の延長がみられるので,腎機能低下時には服薬量を減ずる必要がある。 3 アルキル化薬(シクロホスファミド,CPA)欧米では,FSGS を含む難治性ネフローゼ症候群において,いくつかの無作為対照試験やメタ解析によりステロイドとアルキル化薬の併用療法の有効性が報告されてきた。特にクロラムブチルの評価が高いが,この薬剤はわが国では使用が承認されていない。一方,CPA はクロラムブチルとほぼ同等の有効性を示すアルキル化薬であり,わが国でも少なからず使用されてきた。後ろ向きながら多数の症例を対象とした研究班によるコホート研究7)では,ステロイド単独投与と比較して CPA 併用の有意な効果は認められなかった。アルキル化薬には骨髄抑制,出血性膀胱炎,間質性肺炎などの重大な副作用が知られており,悪性腫瘍を発症する恐れもあるので,その使用は CyA や MZR の効果がみられない場合に限定すべきと思われる。具体的な使用法としては,1 日 50~100 mg を 1 回ないし 2 分割での服用を原則とし,3 カ月以上の長期使用はなるべく避けるようにする。
4 .補助療法ステロイド療法・免疫抑制療法のほかに,以下の補助的
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療法を追加して行う。
1 )降圧薬高血圧を有する場合には,減塩などの食事療法とともに降圧薬を積極的に使用する。他の腎疾患の場合と同様に,アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI),アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は,単なる降圧効果にとどまらない尿蛋白減少効果が期待できるだけでなく,抗酸化作用や抗炎症作用などもあるといわれているので,第一に選択すべき薬剤である。なお,使用開始にあたっては高カリウム血症の出現に注意が必要である。
2 )脂質異常症治療薬ネフローゼ症候群の治療においては,脂質異常症の治療によって免疫療法の効果が促進され,かつ糸球体硬化病変の進行抑制や腎機能保持にも寄与することが期待される。特に FSGS は通常のステロイド療法・免疫抑制療法のみでは寛解が得られにくいことから,難治例では次項に記載する LDL アフェレシス療法を積極的に行うことが推奨されるが,アフェレシス療法を行わない場合でも,脂質異常症に対して HMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)の投与が勧められる。ARB と同様に抗酸化作用や抗炎症作用などの効果を有することも報告されている。なお,スタチンには横紋筋融解症や血清 CK 値上昇などの副作用が知られており,特に CyA 併用時に注意が必要である(一部のスタチンは CyA との併用が禁忌となっている)。スタチンとは作用機序が異なるエゼチミブの投与も脂質異常症対策として考慮される。
3 )抗血小板薬・抗凝固薬難治性ネフローゼ症候群では,血液凝固能が亢進して動静脈血栓症などの合併症が併発しやすくなる。従来よりステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に対して抗血小板薬のジピリダモールが保険適用になっているが,これはむしろ蛋白尿減少などの治療効果を狙ったものである。血栓症予防のためには,抗血小板薬のみならず,ワルファリンなどの抗凝固療法の併用を行う。ワルファリンの投与量は,プロトロンビン時間の国際標準比(PT-INR)が 2.0(1.5~2.5) (トロンボテスト換算 5~15 %)になるように調節するのが一般的であるが,血栓形成に対する予防効果では,低用量ワルファリンで PT-INR を 1.3~1.5(トロンボテスト換算30~50 %)にコントロールした場合でも同等の結果が得られるとされている131)。
4 )LDL アフェレシス療法前述のごとく,難治性ネフローゼ症候群においては,持続する脂質異常症を改善させることによって免疫療法の効果が促進され,かつ糸球体硬化病変の進行抑制や腎機能保
持効果をもたらすことが期待される。これに関連して, FSGS における LDL アフェレシス療法の有効性を示す結果が各種臨床研究で報告されている51,52,202,203)。すでに保険認可された治療法であり,各種治療に抵抗性だった症例がLDL アフェレシスを契機に治療反応性が良くなる場合があるので,高 LDL コレステロール血症を伴う難治症例に対しては試みるべき治療法である。
今後の研究課題1 )ステロイドパルス療法の有用性の検証,適応範囲2 )経口ステロイド治療の初期用量,初期用量の継続期間,
減量の方法3 )免疫抑制薬の選択,実際の投与方法
1 .概 要膜性腎症は,中高年者においてネフローゼ症候群を呈する疾患のなかで最も頻度が高く,その多くがステロイド抵抗性を示すことから,重要な疾患と考えられてきた。わが国における本症の予後は,欧米のそれに比較して良好と報告され,ステロイド単独投与により寛解に至る例も少なく
VIII.膜性腎症の診療指針
ステートメント■初期治療プレドニゾロン(PSL)0.6~0.8 mg/kg/日相当を投与する。■ステロイド抵抗性ステロイドで 4 週以上治療しても,完全寛解あるいは不完全寛解I型(尿蛋白 1 g/日未満)に至らない場合はステロイド抵抗性として免疫抑制薬,シクロスポリン 2.0~3.0 mg/kg/日,またはミゾリビン 150 mg/日,またはシクロホスファミド 50~100 mg/日の併用を考慮する。■補助療法1 )高血圧を呈する症例ではアンジオテンシン変換
酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の使用を考慮する。2 )脂質異常症に対して HMG-CoA 還元酵素阻害
薬やエゼチミブの投与を考慮する。3 )動静脈血栓形成の恐れに対しては抗凝固薬を考
慮する。
p.31
ないが7,8,204),免疫抑制薬の併用により尿蛋白が減少し予後の改善が期待できる205)。一方,病態や予後に影響を与えるさまざまな合併症を呈する恐れもあるので,それらの予防や治療を兼ねていわゆる補助療法を併用することも考慮しなければならない。
2 .診断のポイント膜性腎症は病理診断で確定するため,腎生検の実施は必須である。しかし,その病態を総合的に判断すると,ある程度予測が可能な場合も少なくない。すなわち,中高年者に多く,ネフローゼ症候群を呈しても,尿蛋白の増加が必ずしも急速ではない。したがって,浮腫なども目立たないため,むしろ脂質異常症などが本症発見のきっかけとなることもある。血尿は約 20 %にみられ軽度なことが多いとされてきたが,厚生労働省進行性腎障害に関する調査研究班(以下,研究班)の全国調査では約 40 %に達していた7,8)。尿蛋白選択性は高いものから低いものまでさまざまであり,高いものほど予後良好であるといわれている205,206)。高血圧は 10~35 %に併発するが,研究班の報告では約 20 %であった7,8)。膜性腎症では,膠原病や悪性腫瘍などに続発する例や抗リウマチ薬などによる薬剤性の例も知られており,まずこれらの可能性を検索する必要がある。一方,特発性膜性腎症は糸球体上皮の抗原を標的とする抗体の集積によって, in situ で発症するとの説が以前から有力であり,その抗体として IgG4が報告されているが148150),最近,M 型ホスホリパーゼ A2 受容体が抗原であるとの研究が注目を集めている207)。今後,このような研究が治療の糸口となることも期待される。
3 .治療の方針これまでの多くの研究が,尿蛋白の減少すなわち寛解を目指すことが予後の改善に有用であることを示している8,13)。このことを目的とする治療の主体はステロイドを含む免疫抑制薬であるが,長期予後を観察した結果,30 %程度は自然寛解するといわれている206,208,209)。患者が高齢者であることを考慮すれば,副作用の多い免疫抑制薬の使用よりは,対症的に利尿薬などにより浮腫の軽減を図るか,尿蛋白の減少を期待していわゆる補助療法にて経過を観察することも一つの選択肢である。このような観点から,特発性ネフローゼ症候群の治療に関して最近行われたワークショップ10)では,尿蛋白が 4 g/日以下の場合は,アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が第一選択薬として勧告された。しか
し,いずれ寛解に達するとはいえ,ネフローゼ症候群のように長期間多量の尿蛋白を排出する状態では,浮腫によるQOL の低下やさまざまな合併症を引き起こす恐れがある。したがって,年齢や尿蛋白量を勘案しながら,早期の寛解を目指すためにはステロイドや免疫抑制薬を主体とした治療法を検討する必要がある。このため,図 11 のような治療のアルゴリズムを示し,以下に主な治療について述べる。
1 )副腎皮質ステロイド薬(以下,ステロイド)わが国では,ステロイド単独による寛解例が少なくないことから7,8,204),今後もステロイドを第一選択薬として考えるべきである。ただし,欧米ではステロイド単独治療の有効性は臨床試験において十分なエビデンスが得られていない。初期投与量は他のネフローゼ症候群と比較してやや少なく,プレドニゾロン(PSL)換算で 0.6~0.8 mg/kg 標準体重/日の服用が妥当と考えられるが,年齢や合併症を考慮して増減が必要である。一般に,ステロイド抵抗性か否かを見極めるために,1 カ月以上は単独で投与するが,高齢者などで長期投与による副作用の恐れがある場合には,単独投与は 2 週間程度として他の免疫抑制薬を併用し,ステロイドは早期の減量が望ましい。
2 )免疫抑制薬免疫抑制薬の単独使用による有効性を示した報告はほとんどなく,ステロイドとの併用が原則である。そのような免疫抑制薬には,アルキル化薬,プリン代謝拮抗薬,カルシニューリン阻害薬があるが,最近,B 細胞モノクローナル抗体(リツキシマブ)の使用も国外で報告されている。しかし,わが国では保険適用上の制約があり,使用可能なのはカルシニューリン阻害薬であるシクロスポリン(CyA)とプリン代謝拮抗薬であるミゾリビン(MZR),アルキル化薬シクロホスファミド(CPA)に限定される。これまで研究班でも,これらの薬剤の効果を検証する臨床研究を行ってきたが80,88),そのことを踏まえてステロイドに併用する免疫抑制薬について述べる。 1 シクロスポリン(CyA)単独使用の報告もあるが,ステロイドとの併用において,無作為対照試験での有効性が示されている72,73)。アルキル化薬などに比べ再発率が高いとされるが,骨髄抑制作用がないことから,免疫抑制薬としては第一選択薬と考えられる。これまでステロイド抵抗性ネフローゼ症候群では 3 mg/kg 標準体重を 1 日 2 分割で服用し,投与量はいわゆるトラフ値を測定して調整することが基本となってきた。しかし,最近一般的に用いられるようになったマイクロエマ
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ルジョン製剤では,食前 1 日 1 回一括投与がより効率的に血中濃度を上昇させるといわれている78,79)。研究班の前向き無作為対照試験では,この方法により CyA 服用 2 時間後の血中濃度(C2)が 600 ng/mL 以上に上昇するとともに,寛解率も有意に高めることが示された80,88)。このような知見から,2~3 mg/kg 標準体重を朝食前一括投与し,C2の血中濃度が 600~900 ng/mL になるように調整することが, CyA 治療では有用と思われる。副作用がない限り 6 カ月投与にて効果を判定し,不完全寛解I型以上の効果が得られたら原則として 1 年は使用する。なお,CyA の投与にあたっては,以下のような副作用や血中濃度測定に関する諸問題があることにも留意したい。CyA は高血圧を誘発する恐れがあり,腎臓については,尿細管障害,細動脈病変,間質線維化など器質的障害が副作用として問題視されてきた。また,さまざまな神経障害を引き起こすことも指摘されている。このため,膜性腎症のような高齢者に発症しやすい疾患では,特にこれらの障害に注意を払うが必要がある74)。年余にわたる使用に際しては,腎機能の推移を観察するとともに,場合によっては経時的腎生検も考慮する。なお,他の薬剤との相互作用や,
CyA の血中濃度測定法にも注意が必要であるが,これらについては他項で述べる。 2 ミゾリビン(MZR) MZR はわが国で開発されたプリン代謝拮抗薬で,細胞毒性が弱く長期にわたる使用にも耐えられる薬剤として普及している。現在,1 日 150 mg を 3 回に分けて服用することが基本とされている210)。しかし,血中濃度が十分上昇しないとの指摘もあったので,研究班では,朝の一括投与と従来の 3 分割投与の比較を行った80)。測定した範囲において,一括投与と 3 分割投与間の血中濃度に大きな差がみられず,治療効果にも有意差が認められなかったが,両群ともに 2 年の経過で過半数の症例は不完全寛解I型(尿蛋白1 g/日以下)以上の寛解に達した80)。この結果は,市販後調査として行われた前向きオープンラベル比較対照試験85)の膜性腎症に関するサブ解析結果とほぼ同等であり,ステロイド単独投与の効果を凌ぐものであった。また,MZR では骨髄抑制や間質性肺炎の発症に注意しなければならないが,対象症例ではこれらを含め副作用はほとんどなかった。
補助療法
高血圧症がある場合ACEI またはARB を併用高カリウム血症に注意
脂質異常症がある場合1.スタチンを併用血清CK 値の上昇に注意シクロスポリンの併用はときに禁忌2.エゼチミブを併用
抗凝固療法ワルファリン1 ~5mg 経口PT-INR 1.3 ~1.5 に調整(深部静脈血栓症の恐れがある場合)
腎生検にて膜性腎症
ステロイド療法PSL 0.6 ~0.8mg/kg/ 日4 週経口投与
不完全寛解II型または無効完全寛解または不完全寛解I型
ステロイド減量・中止免疫抑制療法ステロイドに以下の免疫抑制薬を併用ステロイドは少なくとも6 カ月をかけて漸減
シクロスポリン併用2 ~3mg/kg/ 日分1 または分2 食前経口副作用がない限り6 カ月間使用し効果判定C2:600 ~900ng/mL完全寛解~不完全寛解I型原則として1 年は使用
ミゾリビン併用150mg/ 日分 1 ~分 3 食後経口
副作用がない限り2 年間使用し効果を判定副作用が出現したり無効な場合他の免疫抑制薬併用または補助療法を検討シクロホスファミド併用50 ~100mg/ 日分1 または分2 食後経口
副作用がない限り3 カ月間使用可能ステロイドや免疫抑制薬の使用の有無にかかわらず,適応がある場合は用途に応じ使用
図 11 膜性腎症の治療のアルゴリズム
p.33
このような観点から,MZR は長期間安全に使用できる免疫抑制薬と考えられる。以上の点から,MZR は 1 日 150 mgを一括あるいは 2~3 回分割投与とする。長期投与で効果が発現することもあるので,副作用がない限り 2 年程度の使用を考える。しかし,この薬剤は腎排泄性であり,糸球体濾過量の低下とともに,血中濃度の上昇や半減期の延長がみられる。腎機能低下時には,過剰とならないように服薬量を減量する必要がある。 3 アルキル化薬(シクロホスファミド,CPA)欧米ではステロイドとアルキル化薬の併用が,メタ解析やいくつかの無作為対照試験により膜性腎症に有効とされてきた。特にクロラムブチルの評価が高いが,この薬剤はわが国では未承認である。一方,CPA はクロラムブチルと同等の有効性を示すアルキル化薬11,211)と考えられ,しばしば第一選択薬として扱われており,わが国でも使われる場合が少なくなかった。しかし,後ろ向きながら多数の症例を対象とした研究班によるコホート研究7,8)では,ステロイド単独投与と比較して CPA 併用の有意な効果はみられなかった。一方,これらのアルキル化薬には汎血球減少を引き起こす骨髄抑制,出血性膀胱炎,間質性肺炎などの重大な副作用が知られており,悪性腫瘍を発症する恐れも報告されているので212),3 カ月以上の長期投与は好ましくない。CPA は,一般に 50~100 mg を 1 日 1 回ないし 2 分割での服用が原則であるが,CyA や MZR の効果がみられない場合に限り使用し,短期間にとどめるべきであろう。
4 .補助療法膜性腎症の治療の中心は免疫抑制療法であるが,高血圧症,脂質異常症,動静脈血栓症などの合併症が併発しやすく,これらが全身状態の悪化や腎障害の進行にかかわる恐れがあるので,その対策として補助療法が必要である。
1 )降圧薬高血圧は膜性腎症の併発症として頻度が高く,進行因子としても報告されている7,206)。このため,高血圧を有する場合は,減塩などの食事療法などとともに降圧薬を積極的に使用することが勧められる。他の腎疾患におけるのと同様,ACEI や ARB は抗酸化作用や抗炎症作用などもあるといわれ,第一に考えるべき薬剤であるが208,213),高カリウム血症の出現には十分な注意が必要である。一方,CyA 投与時にみられる輸入細動脈を主体とした狭窄による高血圧に対しては,カルシウム拮抗薬が適応になる214)。
2 )脂質異常症治療薬ネフローゼ症候群の症状として,多くの場合高コレステロール血症が認められる。高コレステロール血症は,糸球
体硬化の進行因子であるとともに,膜性腎症にみられるように高齢者で長期間持続すると,心血管障害の危険因子となるので,早期からの対策が必要である。HMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)は,小規模ながら膜性腎症における無作為対照試験で効果が示されており107),ARB と同様,抗酸化作用や抗炎症作用も指摘されているので,併用を試みるべき薬剤である。ただし,前述のように CyA の併用などでは CPK 上昇や横紋筋融解症の発症に注意しなければならない。また,エゼチミブも高コレステロール血症が改善しない場合は考慮する。
3 )抗血小板薬・抗凝固薬従来より,ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に対してジピリダモールが保険適用とされているが,膜性腎症に対する効果は明らかではない。膜性腎症では動静脈血栓症の併発が多いとされているので,それらの予防のためにも併用が考えられるが,実際にその危険性が高い場合にはワルファリンのような抗凝固薬を使用すべきである。
今後の研究課題1 )ステロイドおよびその併用免疫抑制薬は,再発や増悪
防止のためにどのくらいの期間使用可能か。2 )シクロスポリンやミゾリビンの予後改善効果は,欧米
で使用が可能であるアルキル化薬などのそれを上回るのか。3 )膜性腎症における補助療法(降圧薬や脂質異常症改善
薬など)は,長期予後の改善に有用か。4 )PLA2 受容体関連膜性腎症の発症率
1 .概 要膜性増殖性糸球体腎炎(membranoproliferative glomerulonephritis:MPGN)は,mesangiocapillary(あるいは lobular) glomerulonephritis とも呼ばれる比較的稀で特徴的な組織病
IX.膜性増殖性糸球体腎炎
ステートメント1 .膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は稀な疾患である
が,腎生検の約 6 %を占める。2 .MPGN 病変はさまざまな疾患の続発性病変とし
てみられる。3 .成人例では治療に関するエビデンスは確立してい
ない。
p.34
理像を呈する糸球体腎炎を指す。光学顕微鏡所見上,糸球体係蹄壁の肥厚と分葉状(lobular appearance)の細胞増殖病変を呈する。係蹄の肥厚(基底膜二重化)は,mesangial interposition といわれる糸球体基底膜(GBM)と内皮細胞間へのメサンギウム細胞(あるいは浸潤細胞)の間入の結果である。また増殖病変は,メサンギウム細胞の増殖とともに局所に浸潤した単球マクロファージによる管内増殖の両者により形成される。後述するように,MPGN 病変は種々の免疫複合体疾患や感染症に続発する。特発性 MPGN は 8~30 歳代の若年層にほぼ限られ,それ以降に発症するものはほとんどが続発性であるとされている215~217)。一方,最近の日本腎臓学会のレジストリー(J-RBR/J- KDR)のデータでは,どの年代層においても一次性ネフローゼ症候群の糸球体腎炎病理組織像のうち,少なくとも6 %以上が MPGNI型,III型と登録されており,これらの症例が真に特発性なのかどうか,今後明らかにする必要がある。主に電子顕微鏡所見上の特徴から,下記の 3 つの病型に分類される。MPGNI型:MPGN のなかでは最も多い。メサンギウム領域および内皮細胞下腔に高電子密度沈着物を認める。C型肝炎ウイルス感染によるもの(クリオグロブリン血症を伴うものと伴わないものを含む),混合型クリオグロブリン血症(C 型肝炎ウイルス感染以外の原因による),全身性エリテマトーデス,単クローン性免疫グロブリン血症,B 型肝炎ウイルス感染,亜急性感染性心内膜炎などが原因とな
る。MPGNII型:dense deposit disease(DDD)ともいわれる。糸球体基底膜内にリボン状の高電子密度沈着物を認める。またこの沈着は尿細管,ボウマン*の基底膜にも見られる。病理組織学的な類似点から MPGN に含まれるが,病因論的には他のタイプとは異なっており,WHO 分類(1995 年)では独立した疾患として記載されている。C3 nephritic factor は DDD の 60 %以上に陽性となる。MPGNIII型:上皮下に高電子密度沈着物が見られ,糸球体基底膜の断裂と large lucent area を伴う。染色体 1q32 の補体受容体遺伝子ファミリーの変異による先天性のMPGN III型が報告されている218)。
2 .診断のポイント腎生検により確定診断される。MPGN 病変は続発性のものが多いため,治療方針を決定する際に,必ず下記にあげる原因疾患の有無を検討すべきである(図 12)。低補体と C3 nephritic factor:すべてのタイプのMPGN でみられる215~217)。C3 nephritic factor は C3bBb (alternate pathway C3 convertase)に対する自己抗体であり, C3 を活性化する。MPGNII型では約 60 %で検出される219)。続発性 MPGN として以下のものがある。 1 自己免疫疾患全身性エリテマトーデス(SLE),稀に関節リウマチ,
なしあり
腎生検で膜性増殖性糸球体腎炎
特発性膜性増殖性糸球体腎炎原疾患の治療
メチルプレドニゾロンパルスあるいはプレドニゾロン経口 1mg/kg/日漸減しながら2年間投与+ アスピリン+ ジピリダモール
他にミコフェノール酸モフェチル,シクロホスファミドなどが試みられることがある。
膜性増殖性糸球体腎炎病変を呈する基礎疾患の検索補体異常症自己免疫疾患(SLE, Sj gren症候群など)感染症(B型,C型肝炎ウイルスなど) TMA(TTP/HUSなど)異常蛋白血症悪性腫瘍(白血病, リンパ腫など)など
図 12 膜性増殖性糸球体腎炎の診療指針
p.35
Sjögren 症候群に続発することがある。強皮症に合併する。 2 感染症特に C 型肝炎ウイルス220,221),B 型肝炎ウイルスの慢性感染状態に続発する。その他,感染性心内膜炎,マラリア,住血吸虫222),ハンセン病など。C 型肝炎ウイルスに伴う MPGN は,地域により分布は異なるが,わが国では稀ではないと報告されている223)。この報告によれば,C 型肝炎ウイルス感染に伴う MPGN は,特発性のものに比べて肝機能異常,クリオグロブリン陽性,低補体血症の頻度が高い。 3 血栓性微小血管障害(thrombotic microangiopathies)著しい血管内皮細胞障害により腎糸球体では MPGN の組織像を呈することがある。慢性移植腎症,抗リン脂質抗体症候群,血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)/溶血性尿毒症症候群(HUS),Factor H 欠損症などで,MPGN 合併の報告がある。 4 異常蛋白血症単クローン性の IgG または IgA の沈着による糸球体病変の多くは MPGN の組織像を呈する224,226)。クリオグロブリン血症や多発性骨髄腫,アミロイドーシスがない症例も多い。 5 その他上記のほか,リポジストロフィー,慢性リンパ性白血病,非ホジキンリンパ腫,腎細胞癌などで報告がある227,228)。
3 .治 療上記の基礎疾患の鑑別診断とその治療を優先する。感染症のコントロールにより軽快することも期待できる。肝炎ウイルス感染が原因であると考えられる場合,特に腎病変が中等度までのとき,インターフェロンを中心とした抗ウイルス療法によって尿所見が改善することがある。B 型肝炎ウイルスによる MPGN では,ステロイドは不要であるし,むしろウイルスの活性化による肝炎の増悪をきたす場合もある。一方,C 型肝炎ウイルスによる MPGN でII型クリオグロブリン血症を伴い,多量の蛋白尿あるいは進行性の腎機能低下を認める場合,抗ウイルス療法(インターフェロンにリバビリンを併用)に加えて,クリオグロブリンの産生抑制を目的として,リツキシマブやシクロホスファミドの服用,あるいはステロイドパルス療法を行うことが推奨されているが,その効果と安全性については今後の検討が必要である229)。4 .特発性 MPGN の予後と治療
特発性 MPGN は緩徐に進行し予後不良である。無治療の場合 50~60 %は 10~15 年で末期腎不全に至る。25~40 %は腎機能が維持され,10 %未満では自然寛解する230)。ネフローゼ症候群,腎機能低下,高血圧,病理組織所見で半月体の存在,びまん性糸球体病変の分布(diffuse glomerular involvement),尿細管間質病変などが不良な腎機能と関連する231)。治療について,十分な RCT はない。1970~1980 年代の報告には,かなりの C 型肝炎ウイルスによる症例が含まれているものと推測されるので参考にできない。ほとんどが小児を対象とした比較的小規模の非無作為試験であるが,特発性 MPGNI型に長期経口ステロイド(プレドニン 2 mg/kg/隔日から開始して 20 mg/隔日を維持量とする)で腎機能は安定していたと報告されている232,233)。欧米ではステロイドパルス療法と経口ステロイド 2 年間の治療により約半数が尿所見が正常化し腎機能も維持できたと報告されているが,わが国での報告はほとんどない。その他,アスピリン,ジピリダモールなどの抗血小板薬234),ミコフェノール酸モフェチル235)などの免疫抑制薬の使用報告が散見される。
今後の研究課題1 )特発性 MPGN の有病率の検討2 )続発性 MPGN の全体的な臨床像を明らかにする。原
因,予後などを全国調査で明らかにする。
X.高齢者ネフローゼ症候群の診療指針
ステートメント1 .約 40 %を占める二次性疾患,特に糖尿病性腎症と
アミロイド腎症の鑑別が重要である。2 .一次性では,膜性腎症,微小変化型ネフローゼ症
候群,膜性増殖性糸球体腎炎(I型,III型),巣状分節性糸球体硬化症の 4 疾患で 90 %以上を占め,難治性ネフローゼ症候群として膜性腎症が重要である。3 .若年者のネフローゼ症候群の主体である微小変化
型ネフローゼ症候群が,高齢者でも一次性疾患の
16.7 %(この年代のネフローゼ症候群全体の約
10 %)と第 2 位を占める。4 .加齢およびネフローゼ状態に伴う免疫能の低下状
態にある。
p.36
1 .概 要65 歳以上の高齢化率は上昇しつつある。2009 年には
22.8 %を記録し,2025 年には 30 %になると予測されてい
る。わが国では高齢者の難治性ネフローゼ症候群が増加している。高齢者のネフローゼ症候群診断において,糖尿病性腎症などの二次性が疑われた場合でも,微小変化型ネフローゼ症候群などの一次性疾患の合併例もあり,可能な限り腎生検による組織診断が求められる。以上の疫学的・臨床的観点から,高齢者における微小変化型ネフローゼ症候群,巣状分節性糸球体硬化症,ならびに膜性腎症を取り上げる。
2 .微小変化型ネフローゼ症候群これまで高齢者の微小変化型ネフローゼ症候群をまとめた報告は少ない。40 歳以降では若年者に比して寛解率に差はないが,寛解までの期間が遷延する傾向がある。50 歳以上の中国人(香港)15 例(平均年齢 70 歳)に対するプレドニゾロン(0.8 mg/kg/日)治療では,4,8,16 週における寛解率がそれぞれ 45,91,100 %と寛解までの期間が延長していたが,ステロイド治療への反応性は良好である166)。高齢者においても微小変化型ではステロイド治療が第一選択であるが,副作用(易感染性,耐糖能異常,骨粗鬆症など)に十分注意を要する。小児では,ステロイド治療導入以前では感染症(腹膜炎など)による死亡率が高かったが,ステロイド治療導入後にネフローゼ状態を早期に改善することにより,重症感染症が激減していることが報告されている236)。
3 .巣状分節性糸球体硬化症今回の調査で高齢者の占める比率は,J-RBR に一次性巣状分節性糸球体硬化症として登録された 81 例の 27.6 % (22 例:男 16 例,女 6 例)であり,本症のなかで高齢者の占める割合が比較的高いことが示された。一方,病理診断の過程における注意点として,加齢に伴う分節性硬化病変に微小変化型ネフローゼ症候群が加わった場合の識別が重要であるとの指摘がある。これは治療を考えるうえでも重要な課題である。高齢者の一次性巣状分節性糸球体硬化症に関する詳細な報告はないが,前回の班研究調査 278 例(12~94 歳)の解析では,年齢(60 歳以上)は腎不全危険因子(相対危険度 1.23,95 %信頼区間 0.50~3.01,p=0.662)としては有意でないことが報告されている。本症では不完全寛解I型への臨床的改善が腎死を避ける最も重要な治療目標であり,ステロイドおよび免疫抑制薬が使用されている7)。特にステロイド抵抗性の場合,シクロスポリンと少
量ステロイド併用が勧められている10,12)。この免疫抑制薬の使用に関して,前回の班研究調査では本症全体の感染症合併が 1.8 %(感染による死亡 0.7 %)と比較的少ないことを報告している7)。しかし,高齢者では加齢とネフローゼ症候群に伴う易感染性に注意を要し,高齢者腎移植と同様に使用量の調整が必要と考えられる237)。なお,わが国では LDL アフェレシスがステロイド抵抗例への保険適用が認められており,より早期の治療において完全寛解あるいは不完全寛解I型への到達率および長期予後の改善が示されている51)。しかし,高齢者における治療効果に関しては症例報告にとどまっており,今後の検討を要する。
4 .膜性腎症今回の調査で膜性腎症は,65 歳以上の一次性ネフローゼ症候群 258 例の 57.0 %を占めるとともに,一次性膜性腎症 277 例の 53.1 %(147 例:男 75 例,女 72 例)が 65 歳以後の高齢発症であった。さらに,60 歳以後では年齢が進むに従ってネフローゼ症候群合併頻度(60 歳代 147 例,
66.7 %;70 歳代 104 例,70.2 %;80 歳以後 25 例,80 %)
が高くなった。前回の班研究調査では,60 歳以上(相対危険度 1.98,95 %信頼区間 1.20~3.28,p=0.008)が有意な腎不全危険因子であると指摘されており,本症の治療において高齢者の取り扱いは重要である7)。同じく,欧米でも予後危険因子(50 歳以上,男性,ネフローゼ症候群・特に尿蛋白 8~10 g/日以上,血清クレアチニン値上昇)として年齢の要素が確認されている238)。以上より,本症の疫学的・臨床的背景から,膜性腎症の治療で述べられた治療指針が高齢者においても適用される。尿蛋白減少を目的にアンジオテンシン変換酵素阻害薬あるいはアンジオテンシンII受容体(AT1)拮抗薬の使用とスタチンなどの脂質異常症治療薬,抗血小板薬などによる保存的治療が基本となる。さらに,ステロイド治療を基本とする免疫抑制療法を行う。この治療選択に関して,わが国と欧米との間に異なる部分がある(108 頁参照)。米国・カナダ(Cattran ら)ではハイリスク(3 カ月以上持続する尿蛋白 8 g/日以上の重度のネフローゼ症状もしくは正常以下の腎機能あるいは持続する腎機能低下)もしくは中等度リスク(腎機能の変化を問わず 6 カ月以上持続する尿蛋白 4 g/日以上のネフローゼ症状)に対して,保存的治療に加えて免疫抑制治療の選択が勧められている234)。いずれの治療指針でも高齢者における治療の変更につい
p.37
て具体的提言はなく,今後の課題となっている。
今後の研究課題1 )わが国における高齢者ネフローゼ症候群の実態につい
て調査し,適切な治療法を検討する。
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