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思春期・青年期の患者のための CKD診療ガイド 監修:日本腎臓学会 日本小児腎臓病学会 編集:厚生労働省難治性疾患克服研究事業難治性腎疾患に関する調査研究班 東京医学社
思春期・青年期の患者のための CKD診療ガイド 監修:日本腎臓学会 日本小児腎臓病学会 編集:厚生労働省難治性疾患克服研究事業難治性腎疾患に関する調査研究班 東京医学社
iii 厚生労働省難治性疾患克服研究事業難治性腎疾患に関する調査研究班 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド作成委員会 ◆ 研究代表者丸山彰一 (名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座腎臓内科) ◆ 診療ガイドライン作成分科会会長成田一衛(新潟大学医歯学総合研究科腎膠原病内科) ◆ ガイド執筆者◆ 研究分担者本田雅敬 (東京都立小児総合医療センター)岡田浩一 (埼玉医科大学腎臓内科)服部元史 (東京女子医科大学腎臓小児科)岩野正之 (福井大学医学部腎臓病態内科学) ◆ 研究協力者伊藤秀一 (横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学)上村 治 (日本赤十字豊田看護大学専門基礎(臨床医学))後藤芳充 (名古屋第二赤十字病院腎臓病総合医療センター小児腎臓科)小松康宏 (聖路加国際病院腎臓内科)西 慎一 (神戸大学腎臓内科)丸 光惠 (甲南女子大学 看護リハビリテーション学部 看護実践学分野 国際看護開発学領域)秋岡祐子 (埼玉医科大学小児科)芦田 明 (大阪医科大学小児科)川崎幸彦 (福島県立医科大学小児科)佐古まゆみ (国立成育医療研究センター研究所社会・臨床研究センター開発企画部臨床試験推進室)平野大志 (東京慈恵会医科大学小児科学講座)藤枝幹也 (高知大学医学部小児思春期医学講座)友利浩司 (埼玉医科大学腎臓内科)渡辺裕輔 (埼玉医科大学国際医療センター腎臓内科)
iv思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 小児科と内科の診療対象の年齢区分は16歳未満と16歳以上に設定されています。小児期に発症した慢性疾患については,必然的に思春期・青年期に小児科から成人診療科へ引き継がれることになります。患者はそれまでに構築されてきた医師-患者関係の再構築を余儀なくされるうえ,身体面や精神心理的面でも成熟過程の真っただ中にいます。さまざまな問題が生じるであろうことは想像に難くありませんが,これを正面から認識し,解決策を模索することはなされていませんでした。「移行医療」の必要性は正しくここにあります。本ガイドは,小児期に発症した慢性腎臓病(CKD)患者の移行医療に関して,本邦における初めての画期的な診療ガイドです。作成にあたっては,日本腎臓学会および日本小児腎臓病学会より本領域の実績と高い見識を有する専門医が委員として選出され,厚生労働省難治性疾患克服研究事業難治性腎疾患に関する調査研究班の事業の一環として行われました。近年作成されるガイドラインは,Mindsが示す科学的根拠,系統的文献検索,解析などの手法に基づいて作成されることが通例となっています。しかし,移行期医療に関してはエビデンスが十分ではありません。本書が「ガイドライン」ではなく「思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド」と表記されているのはそのためです。作成手順は極めて科学的・系統的であり,かつ実臨床へ容易に還元できるように工夫を凝らして記述しています。熟議のうえ,重要なクリニカルクエスチョンを選定し,エビデンスレベル・推奨度を付して,簡潔にステートメントを記しています。思春期・青年期CKD患者が,なぜ成人診療科への転科が推奨されるのかという根本的な定義から始まり,移行プログラムの実際,思春期・青年期CKD患者の診断・治療・管理の要点まで整理され,明瞭に記述しています。腎臓診療に関わる内科・小児科の腎臓専門医にはぜひ通読することを推奨します。また腎臓専門医のみならず,非専門医,メディカルスタッフさらには患者,家族にも活用いただき,移行医療が円滑に実施され,腎機能予後の改善,就学・就職などの重要なライフイベントの支援,患者の幸福実現に寄与することを切に願っています。 日本腎臓学会 理事長 柏原 直樹 思春期・青年期の患者のためのCKD 診療ガイド 巻頭言:日本腎臓学会
v思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 医学の進歩とともに,かつては長期生存が期待できなかった小児慢性疾患患者も,その多くが成人となりうる時代となりました。それに伴い,思春期・青年期の慢性疾患患者をいかにスムーズに内科などの成人診療科に移行(Transition)させるかが大きな問題となっています。小児慢性腎疾患患者が,腎臓内科などの成人診療科へスムーズに移行するのは容易ではありません。小児期発症の慢性腎疾患患者は,成長過程における心身の成長障害や薬剤の副作用などで,成人期に腎疾患を発症した患者とは臨床像や社会的な問題など多くの点で異なることがあり,腎臓内科などの成人診療科の医師はその対応に戸惑うことが多いようです。また,これは小児科医の責任でもありますが,思春期を迎えた時期に小児科医が患者の精神的自立を促していないこともしばしばあり,自立心の形成に問題があったり,病気を自分のものとして受け入れることが十分にできていない患者も少なくありません。一方,腎臓内科の医師は病気を患者個人の問題と捉えており,患者自身の責任のもとに治療法の選択などの判断を患者自身に委ねることが多いと思われます。しかし,このような腎臓内科医の正当な対応は,小児期発症の患者にとって“冷たい対応”と映る可能性があり,実際,紹介先の腎臓内科から小児科に戻るケースも少なくありません。さらに,小児科と内科で管理・治療方法が大きく異なることもしばしばあり,それが移行の難しさを助長しています。本ガイドは,そのような状況を改善すべく,思春期・青年期のCKD患者診療に関わるすべての医療者のために作成された診療ガイドですが,医療者のみにとどまらず,患者および家族の方々にも有用であると思われます。本ガイドにより,移行医療がよりスムーズに行われ,思春期・青年期のCKD患者の予後やQOLが改善されることを期待します。 日本小児腎臓病学会 理事長 飯島 一誠 思春期・青年期の患者のためのCKD 診療ガイド 巻頭言:日本小児腎臓病学会
vi思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 本ガイド作成の経緯 末期腎不全(ESKD)および心血管病のリスクファクターとしてのCKDは,その簡潔な定義も相まって一般医家にまでその概念が浸透するに至っている。またその診療指針として専門医向けにCKD診療ガイドライン2013が,一般医家向けにCKD診療ガイド2012が出版され,そのなかには成人(高齢者を含む)CKDと小児CKDに関する診療指針が示されており,広く普及している。小児科と内科の主な診療対象の年齢区分は16歳未満と16歳以上とされているが,CKDのような慢性疾患が16歳未満の小児に発症した場合,罹患した状態で成人することが多く,その間に小児科から内科への転科を要する。この思春期・青年期の慢性疾患患者の転科のプロセスをスムーズに進行させるために,移行医療という概念が生まれてきた。移行医療が制度として確立されつつある欧米に比較して,わが国ではこの移行医療の認知すら不十分であり,思春期・青年期の慢性疾患患者の診療は小児科と内科という縦割り制度の狭間で不確定な状況にある。小児CKDの場合,成人してからも腎臓小児科医が継続して診ていたり,腎臓内科に紹介されても患者が転科を拒否して通院を自己中断したりと問題が多く,結果としてCKDの予後悪化に転帰している場合もある。また,ほとんどの腎臓内科医は腎臓小児科医からの思春期・青年期の紹介患者を引き受けるにあたり,不慣れなこともあるため大きなストレスを感じるのが実情であろう。このような状況を少しでも改善すべく,思春期・青年期のCKD患者診療に関わる腎臓小児科や腎臓内科の医師およびメディカルスタッフのための診療ガイドとして本書は作成された。 本ガイドの対象について 本ガイドの対象となる患者は,腎臓小児科から腎臓内科に転科する,もしくはその準備に入るべき思春期から青年期(13~24歳)の保存期CKD患者である。特に,腎臓小児科と腎臓内科で管理・治療方法が大きく異なる点について,積極的に取り上げている。また,腎臓小児科医にとってはありふれていても,腎臓内科医にとっては日常診療で経験することの少ない原病にも言及した。本ガイドでは,従来のガイドラインにはなかった移行医療としてのCKD診療が取り扱われており,臨床現場での活用性は大きいものと想定される。本ガイドは,思春期・青年期のCKD診療に携わるすべての医療者向けに作成された。腎臓専門医だけではなく,非腎臓専門医,メディカルスタッフ,さらには患者および家族にも活用いただきたい。そして本ガイドに基づいた診療を実施することで,移行医療がスムーズに行われ,思春期・青年期のCKD患者の腎機能予後が改善し,また就学や就職に向けての自立が促されることを期待する。 思春期・青年期の患者のためのCKD 診療ガイド 前 文
vii思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 作成委員会の体制と到達目標 本作成委員会は,厚生労働省難治性疾患政策研究事業難治性腎疾患に関する調査研究(丸山班)の診療ガイドライン分科会のもとにおかれた,移行ガイドラインワーキンググループ(WG)として組織された。作成委員会の体制については,研究代表者,親委員会に相当する診療ガイドライン作成分科会会長,および本WGのリーダー,サブリーダーによる統括委員会を設置し,そのもとで日本腎臓学会と日本小児腎臓病学会より選出された研究分担者および研究協力者による作成委員会を組織した。その際,腎臓内科医1名と腎臓小児科医1名の2人1組の4チームを作成し,それぞれが独立して作成業務を分担することで内科と小児科の双方の見解が最初から反映されるよう配慮した。ガイド作成の進行管理,作成メンバー間の連絡,会議の日程調整や資金管理などを担当する作成委員会事務局を設置した。本来システマティックレビューは,ガイドライン作成グループと独立したチームにより行われるべきである。しかし,移行医療,特にCKD診療におけるそれはほとんどエビデンスがないことが当初より想定されており,システマティックレビューチームを編成することはせず,作成委員会内の4チームのメンバーが直接システマティックレビューを担当することとした。同様にこの領域に関してエビデンスに則った推奨を作成することは困難であることから,本作成委員会の成果物をガイドラインとはせず,「思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド」とした。よってその作成プロセスも,日本医療機能評価機構(Minds)が推奨する診療ガイドライン作成方法には必ずしも則っていない。 作成手順 平成26年4月より作成委員会を構築した。平成26年12月21日に第1回全体会議を行い,ガイドの全体構成と作成ロードマップを確認した。また事務局があらかじめ作成したクリニカルクエスチョン(CQ)案を検討し,修正,削除および追加を行った。この際,看護師および患者会代表者も参加し,意見を収集した。さらに委員を4チームに編成し,CQを分担して最終案に練り上げることとした。メール会議にて最終CQ案を承認したあと,各チームでエビデンス収集を行うこととした。平成27年8月28日に第2回全体会議を行い,ガイドのスタイル(CQ,ステートメント,解説,検索式,参考文献,引用文献,アブストラクトテーブル)および推奨レベル,エビデンスの強さについて確認した。各チームで平成27年11月初旬までにドラフトを作成することとした。平成27年11月22日に第3回全体会議を行い,各チームが持ち寄ったドラフトを全員で検討した。平成28年2月初旬までに検討内容を反映させたドラフトを完成させ,3月中に日本腎臓学会および日本小児腎臓病学会の学術委員会による査読を受け,また学会員からのパブリックコメントを求めることとした。3月末までに受領した査読およびパブリックコメントについて,各チームにて対応を検討した。平成28年4月24日に第4回全体会議を行い,査読およびパブリックコメントに対する対応を
viii思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 協議決定し,5月末までにドラフトを完成させることとした。また前文およびCOIについて協議し,前文は事務局が作成し,COIについては査読者を含めた本ガイド作成関係者の申請書を事務局へ提出のうえで一括管理することとした。平成28年6月に最終原稿を出版社に入稿し,ガイドが完成した。 本書の構成 本ガイドは,3部構成となっており,第1章は移行医療の概念・意義と題して,CKD診療における移行医療を理解するための2つの根本的なCQを立て,それぞれにステートメントとエビデンスレベル・推奨度,そして背景・目的,解説,検索式,参考資料と引用文献,アブストラクトテーブルを付けた。第2章は移行プログラムと題して,移行医療を実践するためのプログラムである移行プログラムについて,総論とその内容の理解を助けるための13個のQ&Aからなっている。さらに第3章は思春期・青年期の腎臓病:診断・治療・管理と題して,腎臓小児科から腎臓内科に転科してきたCKD患者を診療する際に,主として内科医が直面する13個のCQに対し,第1章と同様のスタイルで記述がなされている。 ステートメントにおけるエビデンスおよび推奨の強さ CQ に対する推奨の強さを決定するための評価項目として,CQ に対して収集した研究報告の結果をまとめた,アウトカム全般に関する全体的なエビデンスの強さを,各作成チームがデルファイ法にて決定し,全体会議における承認を経て最終決定した。 【アウトカム全般のエビデンスの強さ】A(強):効果の推定値に強く確信があるB(中):効果の推定値に中程度の確信があるC(弱):効果の推定値に対する確信は限定的であるD(非常に弱い):効果の推定値がほとんど確信できない推奨の強さは,各作成チームがデルファイ法にて決定し,全体会議における承認を経て決定された。推奨の強さは「1.強く推奨する」「2.弱く推奨する(提案する)」の2 通りで提示されるが,疫学的内容などの推奨に該当しないステートメントについては,「なし」とした。 【推奨の強さ】1:強く推奨する2:弱く推奨する・提案するなし:明確な推奨ができない
ix思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 資金源とCOI 本ガイドの作成資金は,平成26年度厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)「難治性腎疾患に関する調査研究」より拠出された。研究代表者およびすべての研究分担者は平成26年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業のCOIの管理に基づき,それぞれが所属する研究機関におけるCOI委員会で審査が済んでいることを証明する申告書を厚生労働省に提出しており,本ガイドの作成にあたりCOIの存在が影響を及ぼすことがないことが確認されている。 今後の課題 1)本ガイドの広報本ガイドはPDFとして,学会ホームページなどに公表する。2)本ガイドの普及・遵守状況の評価本ガイドが実際の臨床現場でどのように利用されているか,アンケート調査などを用いて評価を行う。3)ガイドからガイドラインへ本ガイドを作成する段階では各CQに関連するエビデンスも限られており,また移行医療の概念そのものがわが国では十分には普及していないという現状もあり,ガイドラインとはせずにガイドとして公開することとした。この分野の今後の発展に期待し,将来的には本ガイドをエビデンスに基づくガイドラインにしたいと考えている。その際には,予め設定したSCOPEに準拠して作成を進めるなど,Mindsの推奨する診療ガイドライン作成方法に則って改訂する。4)改訂の予定上述のアンケート調査結果や臨床現場からの本ガイドへのご意見をもとに,また新たに確立されたエビデンスを取り込み,5年後には改訂を行う予定である。
x厚生労働省難治性疾患克服研究事業難治性腎疾患に関する調査研究班... .................................... iii 巻頭言:日本腎臓学会... ........................................................................................................................ iv巻頭言:日本小児腎臓病学会... ............................................................................................................ v前 文...... ................................................................................................................................................... vi主要略語... ................................................................................................................................................ xiii 1章 移行医療の概念・意義CQ1 思春期・青年期のCKD 患者に対し,成人診療科への転科を推奨するのはなぜか?... ...... 2 CQ2 思春期・青年期のCKD患者において,小児科医が継続的に診療に関わる方が望ましい疾患はあるか?............................................................................................................... 7 2章 移行プログラム総論 移行プログラムとは ... ............................................................................................................... 14 Q1 移行プログラムの具体的活動は何か? ... .............................................................................. 23 1 移行プログラムが行う支援・教育内容は何か? ... ............................................................... 23 2 移行プログラムの対象者は誰か? ... ....................................................................................... 24 3 移行プログラムを進めるうえで利用できるツールや教育資料は何か? ........................... 25 4 移行プログラムを推進する人材に求められる資格,技能は何か,また教育研修はどのように行うか? ... ............................................................................................................... 27 Q2 腎臓内科医や腎臓小児科医は,移行プログラムに関する研修を受講すべきか?............ 28 Q3 移行プログラムに必要な資源(人材,設備,体制など)は何か?... .................................... 29 1 移行プログラムを構成するチームメンバーは誰か?............................................................ 29 2 移行プログラムを構成するのに必要な体制は何か? ... ...................................................... 30 3 移行プログラムを運営するために必要な経費と財源は? ................................................... 31 Q4 移行プログラムの成果は何か?................................................................................................ 33 Q5 移行プログラムは患者個々のプログラムを提供すべきか?................................................ 34 Q6 移行期間には,腎臓小児科医や腎臓内科医は患者の心理的問題にどのように対応すべきか?.................................................................................................................................... 35 目 次
xi Q7 腎臓小児科医は思春期・青年期のCKD 女性患者に妊娠時の危険性,内服薬による催奇形性に関して説明すべきか?... ............................................................... 36 Q8 腎臓小児科医,腎臓内科医は患者の就学,就職,結婚・出産にどのように対応すべきか?.................................................................................................................................... 38 Q9 小児透析患者に移行プログラムを適応すべきか?... ............................................................ 39 Q10 小児腎移植患者に移行プログラムを適応すべきか?............................................................ 41 Q11 移行期間には,腎臓小児科と腎臓内科の併診期間を設ける必要があるか?... ............... 43 Q12 腎臓小児科医は転科を拒む患者への対応をどうするべきか?... ....................................... 44 Q13 腎臓内科医や腎臓小児科医は転科後,患者が小児科に戻りたいと言ってきたときの対応はどうするか?... ............................................................................................................... 45 3章 思春期・青年期の腎臓病:診断・治療・管理CQ1 思春期・青年期のCKD患者では,たんぱく質制限や塩分制限などの食事療法は腎機能予後を改善させるか?... ................................................................................................ 48 CQ2 運動制限は思春期・青年期のCKD患者の腎機能予後を改善させるか?........................... 56 CQ3 思春期・青年期のCKD患者では,肥満やメタボリックシンドローム(MetS)は腎機能予後や生命予後を悪化させるため,体重の適正化などの加療が推奨されるか?............ 60 CQ4 思春期・青年期のCKD患者の成長障害に対して,どのような対応をすればよいか?... ... 67 CQ5 小児期に生ワクチンを接種できなかった,あるいはそれらの抗体が陰性の思春期・青年期のCKD患者に対し,感染予防のために生ワクチン(再)接種は推奨されるか?... ...... 75 CQ6 腎性貧血を伴う思春期・青年期のCKD 患者では,赤血球造血刺激因子製剤(ESA)を用いた治療目標Hb値はどれくらいか?.................................................................................... 78 CQ7 高血圧を伴う思春期・青年期のCKD 患者では,降圧療法は腎機能予後を改善させるか? ... ................................................................................................................................................... 83 CQ8 思春期・青年期のCKD患者において,使用に際して注意すべき薬剤にはどんなものがあるか?... .................................................................................................................................... 90 CQ9 腎生検が実施されていない思春期・青年期のCKD 患者では,腎機能予後を改善するために腎生検は推奨されるか?................................................................................................ 95
xii CQ10 思春期・青年期のIgA 腎症患者には,口蓋扁桃摘出+ステロイドパルス療法は, 腎機能予後を改善するために推奨されるか?..................................................................... 102 CQ11 思春期・青年期の頻回再発型ネフローゼ症候群(FRNS)・ステロイド依存性ネフロー ゼ症候群(SDNS)の患者には,再発予防や副腎皮質ステロイドの減量のために免疫抑制薬療法は推奨されるか?... ................................................................................................ 106 CQ12 思春期・青年期のループス腎炎患者では,腎機能予後を改善するために免疫抑制薬 療法が推奨されるか?... ......................................................................................................... 114 CQ13 思春期・青年期のCKD患者では,どのような腎代替療法が推奨されるか?... ............ 119
xiii思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 主 要 略 語 ACEI angiotensin converting enzyme inhibitorアンジオテンシン変換酵素阻害薬ARB angiotensin II receptor blockerアンジオテンシンII受容体拮抗薬 CAKUT congenital abnormality of kidney and urinary tract先天性腎尿路奇形 CKD chronic kidney disease慢性腎臓病ESA erythropoiesis stimulating agent赤血球造血刺激因子製剤ESKD end stage kidney disease末期腎不全FRNS frequently relapsing nephrotic syndrome頻回再発型ネフローゼ症候群FSGS focal segmental glomerulosclerosis巣状分節性糸球体硬化(症) GFR glomerular filtration rate糸球体濾過量Hb hemoglobinヘモグロビンHD hemodialysis血液透析Mets metabolic syndromeメタボリックシンドロームPD peritoneal dialysis腹膜透析QOL quality of life生活の質RCT randomized controlled trialランダム試験,ランダム化比較試験SDNS steroid dependent nephrotic syndromeステロイド依存性ネフローゼ症候群
1 章 移行医療の概念・意義
2 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 ◆ 転科の現状 ◆ 武井ら1)の報告では,2002年度または2003年度に小児慢性特定疾病治療研究事業対象疾患の医療意見書が10件以上提出された医療機関1,112施設を対象に調査票を郵送し,結果が得られた小児診療施設198施設において,小児科外来を受診する20歳以上の患者の比率は11.7%だった。2014年のわが国の日本小児腎臓病学会代議員などへの調査では,内科への転科は5年間で31%(735例が転科,1,631例が小児科のまま)であり,転科年齢は20~24 歳がピークであるが35%は25 歳以上だった。転科せず小児科でみている年齢も20~24歳がピークだったが43%は25歳を超えていた2)。転科しない理由は患者・家族の希望43%,小児科医の考えあるいは不決断33%,適切な腎臓内科医の不在14%,合併症の存在4%だった。保護者を含む家族の小児科医への依存や小児科医自身が転科の妨げに なっている可能性が伺えた。2010年にHondaら3)が日本小児腎臓病学会代議員50名に対してステロイド感受性ネフローゼ症候群の患者の転科についてアンケート調査を行ったところ, 52%の代議員は20歳以上で転科,36%はずっと小児科でみるとの回答だった。副腎皮質ステロイドの投与方法が成人と小児で異なることが転科を妨げているうえ,転科した場合にも事前に治療法の違いについて内科医と話し合わないが21名(62%),患者には使用法の違いを説明していないは13名(25%)だった。Reissらc)は,転科を妨げている要因の1つとして,小児科と内科の治療法の違いやサポートの違いに加えて,両者間での転科に関するネットワークの欠如を指摘している。なお,転科の時期について, Ishizakiら4)の報告では,年齢,精神心理的な成熟,イベント(就職・就学・転居など)がそれぞれ50%を超えていた。今回の疫学調査では,成人施設への転科は医師からの提案が52%,何らかのライフイベントが27%,患者・家族の希望が11%であった2)。 ◆ 転科の必要性 ◆ Watsonらd)は,成人施設と小児施設の違いについて,成人施設では多職種や心理のサポートが得にくい,患者数が多く待ち患者が多い,まれな小児疾患に対応が困難,若年者が少なく違和感があると述べている。また,成人と小児では治療法が異なる場合がある。ネフローゼ症候群の初発時の副腎皮質ステロイド投与について,成人では1~2年間かけて長期漸減投与するが,小児は8週間投与の国際法,また CQ 1思春期・青年期のCKD患者に対し,成人診療科への転科を推奨するのはなぜか?思春期・青年期のCKD患者が成人診療科に転科することで,成人発症の疾患や妊娠・出産の問題に対応でき,また就学や就職の面でも自立できるよう,成人診療科への転科を推奨する。なお,転科は十分な準備を行い,社会的・心理的に安定した適切な時期を選ぶ必要がある。推奨 酉1C 背景・目的 自立した生活が可能な思春期・青年期のCKD患者が,本来の能力を発揮し,最大限のQOLが得られるような生活を送ることが最大の課題であり,近年,欧米をはじめわが国でも単なる転科(transfer)ではなく,移行(transition)プログラムを持って転科をさせる移行医療が注目されているa,b) (詳細は第2章総論を参照)。本CQでは,思春期・青年期のCKD患者に対して,なぜ成人診療科への転科が推奨されるのかを検討した。
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド は3~7カ月間投与の長期漸減法がガイドラインで推奨されているe)。いずれの方法も成人の治療法に比べ短期間である。日本小児科学会から「小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言」が発表され,そのなかで継続して診療する場合には,1完全に成人診療科に転科する,2小児科と成人診療科の両方にかかる,3小児科に継続して受診する,の3パターンが適応するとしているf)。成人診療科に転科しないほうが患者のためによいのではないかという意見もある。しかし,小児期に慢性疾患を発症した20歳以上の患者の医療現場における状況と医師の意識調査を行った研究によると,小児科医がみていくべきとする意見は少数(5.6%)で,44.4%は適切な時期に内科を紹介すべきと回答した5)。Ishizakiら4)の報告では,小児医療施設の小児科医,看護師に聞いたところ61.7%の医師,91.7%の看護師は成人施設へ転科すべきと回答し,34.1%の小児科医は成人でも対処可能と回答した。石崎らg)は,成人した小児期発症慢性疾患患者を小児科でみる際の問題点を指摘している。成人発症の疾患や加齢に伴う変化に不慣れであること,女性患者が妊娠した場合,妊娠・出産への対応が困難であること,外来で自分の子どものような年齢と一緒になる違和感,入院を必要とした際には小児病棟に入院できない,などである。上記課題を内科医師と一緒にみることで克服しても,小児科医自身が患者自身の自己管理能力の育成の視点ができず,患者の自立を妨げる可能性があることを指摘している。武井ら1)の報告では,20歳以上の小児慢性疾患患者を診療する小児科医の77.7%は何らかの問題を経験していた。小児科医が不慣れな合併症や症状(52.7%),小児病棟への入院(34.6%),対応できる成人医療機関がないこと(32.5%)などが主なものであり,患者の精神的自立に関する問題も指摘された。このような点を考えると,思春期・青年期患者は成人診療科でフォローを受け,何らかの場合には成人診療科で対応するのが適切であると考えられる。Reissらc)は,小児科から内科へ転科することで,学校・仕事・社会の面において移行が促され,患者自身の自立につながるとして,転科を推奨している。 転科時期について,海外では一定年齢で転科している施設が多く,2014年にForbesら6)は,ヨーロッパの小児腎臓専門15施設のうち73.3%で転科時期が固定化されていると報告した。このため転科年齢について海外の報告は参考にできない。ただしWatsonらh)は,移行医療ステートメントのなかで転科は準備と評価を行ってからすべきであり,学校教育終了後で社会的・心理的に発達し,症状や心理的に安定している時期を選ぶべきであると述べている(心理的に問題がある場合の対応については,別頁(第2章Q6)を参照)。十分な準備を行い,自己管理ができるようになってから転科することが重要である。さらに転科は,泌尿器科など他科と連携すること,小児と成人側にtransition champion(移行プログラムを熟知した医師)を置き多職種と協力して移行を進めていくことが重要であると述べている。複数の診療科と併診が必要な場合であっても,transition championがまず対応し,複数科と調整することが望ましい。また,Watsonらd)は,知的障害を有する患者の転科について個々に対応が必要だが課題が多いと述べている。日本小児腎臓病学会代議員などへの調査で, 14.1%が周囲に適当な内科医がいないと述べ2),武井ら1)の報告でも対応可能な成人施設が少ない(32.5%)ことを問題としてあげている。病気の種類や程度によっては転科先をどこにするのか検討が必要である。思春期・青年期のCKD患者に対する成人診療科への転科の是非に関して,現在までのところ文献的なエビデンスは高くないが,成人診療科への転科は強く推奨されると考えられる。ただし,思春期・青年期の範囲は広く,適切な時期に転科すべきとして1Cとした。 データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年8月までキーワード: transition,transfer,kidney disease,移行医療,慢 性腎疾患,転科,転院 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
4 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド a) American Academy of Pediatrics, American Academy of Family Physicians, American College of Physicians‒American Society of Internal Medicine.:A consensus statement on health care transitions for young adults with special health care needs. Pediatrics 110:1304‒1306, 2002 b) Rosen DS, et al:Transition to adult health care for adoles- cents and young adults with chronic conditions:position paper of the Society for Adolescent Medicine. J Adolesc Health 33:309‒311, 2003 c) Reiss J, et al.:Health care transition:destinations unknown. Pediatrics 110:1307‒1314, 2002 d) Watson AR.:Problems and pitfalls of transition from paedi- atric to adult renal care. Pediatr Nephrol 20:113‒117, 2005 e)日本小児腎臓病学会.:小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイ ドライン.診断と治療社.2013 f)横谷 進,他.:小児期発症疾患を有する患者の移行期医療 に関する提言.日児誌118:98‒106,2014 g)石崎優子,他.:成人移行期小児慢性疾患患者の自立支援の ための移行支援について.平成26年度厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)慢性疾患に罹患している児の社会生活支援並びに療育生活支援に関する実態調査およびそれら施策の充実に関する研究.2014 h) Watson AR, et al. Transition from pediatric to adult renal services:a consensus statement by the International Society of Nephrology(ISN)and the International Pediatric Nephrology Association(IPNA). Pediatr Nephrol 26:1753‒ 1757, 2011 1)武井修司,他.:小児慢性疾患におけるキャリーオーバー患者 の現状と対策.小児保健研究 66:623‒631,2007 2) Hattori M, et al.:Transition of adolescent and young adult patients with childhood‒onset chronic kidney disease from pediatric to adult renal services:a nationwide survey in Japan. Clin Exp Nephrol. (in press) 3) Honda M, et al.:The problem of transition from pediatric to adult healthcare in patients with steroid‒sensitive nephrotic syndrome(SSNS):a survey of the experts. Clin Exp Nephrol 18:939‒943, 2014 4) Ishizaki Y, et al.:The transition of adult patients with child- hood‒onset chronic diseases from pediatric to adult healthcare systems:a survey of the perceptions of Japanese pediatricians and child health nurses. Biopsychosoc Med 6:8, 2012 5)武井修治,他.:小児慢性疾患のキャリーオーバー患者の実態 に関する研究―第2部 医療現場の状況と医師の意識―.平成17年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)小児慢性特定疾患治療研究事業の登録・管理・評価・情報提供に関する研究.2005 6) Forbes TA, et al.:Adherence to transition guidelines in European paediatric nephrology units. Pediatr Nephrol 29:1617‒1624, 2014 ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年武井2007研究デザインアンケート調査P 1 平成14年度または平成15年度に小慢事業対象疾患の医療意見書が10件以上提出された医療機関 1,112施設対象に調査票を郵送し,結果が得られた小児診療施設198施設220歳以上の小児慢性疾患患者を診療する小児科医310名 IなしCなしO 1小児科外来に受診する20歳以上の患者の比率は11.7%だった. 2 77.7%は何らかの問題を経験していた.小児科医に不慣れな合併症や症状(52.7%),小児病棟へ の入院(34.6%),対応できる成人医療機関がないこと(32.5%)などが主なものであり,患者の精神的自立に関する問題も指摘した.また,対応可能な成人施設が少ない(32.5%)ことも指摘した. コメントなし 文献番号2著者発表年Hattori 2016研究デザインアンケート調査P 20歳以上の小児期発症腎疾患患者3,138例(移行群1,260例,非移行群1,878例) IなしCなしO・内科への転科は5年間で31%(735例が転科,1,631例が小児科のまま).・ 転科年齢は20 ~24歳がピークで35%は25歳以上.小児科で転科せずみている年齢は20 ~24 歳がピークで43%は25歳以上.・ 転科しない理由は患者・家族の希望43%,小児科医の考えあるいは不決断33%,適切な腎臓内科医の欠如14%,合併症の存在4%.・成人施設への転科は医師からの提案52%,何らかのライフイベント27%,患者・家族の希望11%・14.1%がまわりに適当な内科医がいない コメントなし 文献番号3著者発表年Honda 2014研究デザインアンケート調査Pステロイド感受性ネフローゼ症候群の患者の転科についてアンケート調査を行った日本小児腎臓病学会代議員50名IなしCなしO 52%の代議員は20歳以上で転科し,36%はずっと小児科でみると回答.転院した場合に事前に治療法の違いについて内科医と話し合わないが21名(62%),患者には使用法の違いを説明していないは13名(25%)コメントなし
6 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号4著者発表年Ishizaki 2012研究デザインアンケート調査P小児科医41名と移行専門看護師24名IなしCなしO・ 転科の時期については,年齢,精神心理的な成熟,イベント(就職・就学・転居など)がいずれも 50%を超えていた.・ 61.7%の医師,91.7%の看護師は成人施設へ転科すべきと回答し,34.1%の小児科医は成人でも 対処可能と回答した. コメントなし 文献番号5著者発表年武井2005研究デザインアンケート調査P平成14年度または平成15年度に小慢事業対象疾患の医療意見書が10件以上提出された医療機関1,112施設対象に,主治医向け調査票を郵送し,回答が得られた314名IなしCなしO誰がみていくかについて,小児科医がみていくべきとする意見は少数(5.6%)で,44.4%は適切な時期に内科を紹介すべきと回答したコメントなし 文献番号6著者発表年Forbes 2014研究デザインアンケート調査P IPNA/ISNからの提言発表以降2年間での移行医療の実態を調査したヨーロッパの小児腎臓専門15施設IなしCなしO 73.3%で転科時期が固定化されているコメントなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 ◆ CAKUT ◆ わが国において,ステージG3以上の小児CKD患者の60%以上はCAKUTがその原因である4)。CAKUTのなかでも異・低形成腎が最も多いが,その病態は尿細管障害による水・塩類喪失を特徴とし,成人期腎不全の代表的な疾患である糖尿病腎症,慢性糸球体腎炎,腎硬化症などと大きく異なっている。さらに複雑尿路奇形などの問題もあるため,腎臓内科医が不慣れな領域でもある。水・塩類喪失型の病態に関しては不適切な水分・塩分制限が腎障害を助長しうる点などに注意して,腎臓内科医に引き継ぐことが必要である。複雑尿路奇形や閉塞性尿路奇形などの問題に関しては,小児期より腎臓小児科医が泌尿器科医と連携 CQ 2思春期・青年期のCKD患者において,小児科医が継続的に診療に関わる方が望ましい疾患はあるか?思春期・青年期のCKD患者において,小児科医が継続的に診療すべき疾患はいくつかある。CAKUTの患者で閉塞性あるいは複雑尿路奇形を合併し,泌尿器科医と連携しながら治療計画を立ててゆく必要がある症例や腎外合併症を有する先天性腎疾患の症例,自立して社会生活を送ることが困難なレベルの精神運動発達遅滞を有する症例は,必要に応じて知識と経験がある腎臓小 児科医との並行した診療が望ましい。 推奨 酉2D 若年性ネフロン癆,先天性ネフローゼ症候群,ミトコンドリア病,常染色体劣性多発性囊胞腎, Jeune症候群)は小児CKD患者のステージG3以上の70%以上を占めるが4),CAKUTの一部で自然に消失することもある水腎症や膀胱尿管逆流症の軽症例を除き,そのほとんどが成人期へ移行する。さらに,腎移植後の患者や透析患者も移行の対象であることは言うまでもない。思春期・青年期のこうした疾患のCKD患者に対しては,全身ケアを腎臓内科医が主体となりつつ他科と連携していくことが望ましいが,そうしたなかで特に腎臓小児科医が継続的に診療すべき疾患はどのようなものかを検討した。 背景・目的 近年の小児医療の確実な進歩により小児慢性疾患の患者の生命予後は改善し,その多くの患者が成人に達する時代になってきているが,その過程でQOL を中心とした新たな問題が浮かび上がっている。Hattoriらの報告によれば,わが国において成人期に達した小児腎疾患の患者における上位3疾患はIgA腎症,微小変化型ネフローゼ症候群,異・低形成腎の順であったa)。また,日本小児腎臓病学会による小児ESKDの調査結果(表)では,異・低形成腎やFSGSによる症例数が圧倒的に多いが,初回腎代替療法開始年齢に着目するとIgA腎症などの慢性腎炎では異・低形成腎に比べ年長での導入となる。すなわち慢性腎炎では腎代替療法の導入時期は思春期が主であり,小児期から成人期にかけてのCKDの原因疾患の変化を反映しているものと思われる1,2)。成人期へ移行するCKD患者は,まずステージG3以上のCKD患者であることはエビデンスとしては確立していないものの,広くコンセンサスが得られている3)。CKDステージG1~2の患者に関しては疾患ごとで対応が異なってくるが,長期寛解が得られていない特発性ネフローゼ症候群患者や血尿,蛋白尿などの尿所見の残存する慢性腎炎(IgA腎症や膜性増殖性糸球体腎炎など)は成人期へ移行する。異・低形成腎や閉塞性尿路奇形などのCAKUTや他の先天性腎疾患(Alport症候群,
8 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド しながら治療計画を立てる必要がある。これらの治療にめどがつき,導尿などの自己管理が可能となるまでは,必要に応じて知識と経験がある腎臓小児科医が腎臓内科医と並行して診療に関わる方が望ましい。さらにCAKUTの患者の一部は,多発奇形を伴う症候性CAKUTである。こうした患者においては,小児一般外科,心臓外科,眼科,耳鼻科,脳外科,歯科などの腎泌尿器領域以外の臓器合併症を呈し,複数の診療科との連携を必要とする疾患も少なくない。このような疾患による思春期・青年期のCKD患者の診察においても,必要に応じて知識と経験の豊富な腎臓小児科医が診療各科のまとめ役として継続的に 診療に関与すべき場合もある。 ◆ CAKUT以外の先天性腎疾患 ◆ CAKUT以外の先天性腎疾患においても,症候性CAKUTと同様に腎外合併症を伴う疾患の場合には,各領域の専門医が連携しながら診療を継続する必要がある(例:若年性ネフロン癆,常染色体劣性多発性囊胞腎,Lowe症候群,ミトコンドリア病など)。これらの疾患のなかには腎臓内科医による対応が難しいものもあり,その場合は腎臓内科医と並行して腎臓小児科医も継続的に診療に関わる方が望ましい。 表 原因疾患の割合と初回腎代替療法開始年齢 原疾患患者数(人)割合(%)初回腎代替療法 開始年齢中央値(歳) 低・異形成腎164 30.3 9.5 FSGS 66 12.2 12.6閉塞性腎症37 6.9 7.7遺伝性腎障害a 29 5.4 11.1ネフロン癆28 5.2 10.4先天性ネフローゼ症候群25 4.6 0.9多発性囊胞腎24 4.4 5.2慢性腎炎b 21 3.9 15.3アルポート症候群16 3.0 15.4急性腎不全16 3.0 8.1逆流性腎症14 2.6 15.4非遺伝性腎障害c 13 2.4 7.5急速進行性腎炎10 1.9 11.0皮質壊死(周産期) 9 1.7 1.7溶血性尿毒症症候群9 1.6 5.7ウイルムス腫瘍8 1.5 3.2薬剤性腎障害4 0.7 8.2神経因性膀胱3 0.6 14.5特発性間質性腎炎3 0.6 14.5膜性腎症1 0.2 15.3ループス腎炎0 0 ―不明18 3.3 13.8未記載22 4.1 11.6 a:このリストに記載されていない遺伝性のもの。b:IgA腎症,紫斑病性腎炎,膜性増殖性糸球体腎炎など。c:このリストに記載されていない非遺伝性のもの。日本小児腎臓病学会調査報告(引用文献1)をもとに作成
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド ◆ 知的障害を合併する症例 ◆ 先天性腎疾患の患者においては,精神運動発達遅滞を合併していることも少なくない。また,もともと精神運動発達遅滞の患者が特発性ネフローゼ症候群や慢性腎炎に罹患し,成人期へ移行する場合もある。特に精神運動発達遅滞の程度が強く自立した社会生活を送ることが困難な思春期・青年期のCKD患者の対応に関しては,腎臓内科医が慣れていないことも多く診療の継続にあたりさまざまな問題が生じうる。これらの患者においては,全身の合併症のケアを腎臓内科医が主体となって行いつつ,腎臓内科医をサポートする形で腎臓小児科医も並行して診療に関わった方が望ましい。さらに,実数は少ないものの精神運動発達遅滞を合併した児童に腎移植(主に生体腎移植)が選択される場合もある5)。このような腎移植後の精神運動発達遅滞を合併した思春期・青年期のCKD患者の診療においても,腎臓内科医あるいは泌尿器科医が主体となりつつも,必要に応じて知識と経験がある腎臓小児科医が並行して診療に関わる方が望ましい。また,重度の精神運動発達遅滞を合併している思春期・青年期のCKD症例に対し, CKD のステージが進行して腎代替療法が必要となった場合,生体腎移植を含めた腎移植の適応とはしがたく,かつ血液透析の実施も困難となる場合はPDが唯一の選択肢となる。このような症例において,PDの継続が困難となった際にはそれ以上の腎代替療法の継続が困難となり,その患者の生命予後に直結することになる。こうした長期予後が厳しいことが予想される,いわゆるPDラストの思春期・青年期のCKD患者に関しては腎臓内科には転科せず,腎臓小児科による診療を継続することも必要に応じて考慮する。データベース:PubMed 医中誌 期間:2000年~2015年7月までキーワード: renal biopsy, prognosis, outcome, nephritis, nephrotic, kidney disease, cohort, case control a) Hattori M, et al.:Transition of adolescent and young adult patients with childhood-onset chronic kidney disease from pediatric to adult renal services:a nationwide survey in Japan. Clin Exp Nephrol. (in press) b)上村 治.:腎不全の課題 小児慢性腎臓病患者のトランジ ション(移行).腎と透析 76(増刊):469‒473,2014 c)幡谷浩史.:腎疾患におけるキャリーオーバーの問題点.東京 小児科医会報 27:24‒27,2009 d)服部元史.:思春期へキャリーオーバーした疾患をもつ患者へ の対応 腎疾患.小児科 50:1881‒1886,2009 e)斎藤 陽,他.:腎炎・ネフローゼ 小児腎疾患のキャリー オーバー.Annu Rev腎臓2007,御手洗哲也,他編,pp.83‒ 88,中外医学社,東京,2007 1)服部元史,他.:2006年~2011年までの期間中に新規発生し た20歳未満の小児末期腎不全患者の実態調査報告.日小児腎臓病会誌 26:330‒340,2013 2) Hattori M, et al.:End‒stage renal disease in Japanese chil- dren:a nationwide survey during 2006‒2011. Clin Exp Nephrol 19:933‒938, 2015 3) Watson AR, et al.:Transition from pediatric to adult renal services:a consensus statement by the International Society of Nephrology(ISN)and the International Pediatric Nephrology Association(IPNA). Pediatr Nephrol 26:1753‒ 1757, 2011 4) Ishikura K, et al.:Pre‒dialysis chronic kidney disease in children:results of a nationwide survey in Japan. Nephrol Dial Transplant 28:2345‒2355, 2013 5) Ohta T, et al.:Kidney transplantation in pediatric recipients with mental retardation:clinical results of a multicenter experience in Japan. Am J Kidney Dis 47:518‒527, 2006 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
10 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年服部 2013研究デザインコホート研究P 2006 ~2011年の6年間に新規にESKDとなり腎代替療法が導入された20歳未満の日本人小児患者540例IなしCなしO日本人小児の新規ESKD発生率は各調査年毎で3.5~4.7症例/100万人であった.原因疾患は低・異形成腎30.3%,巣状分節性糸球体硬化症12.2%,閉塞性腎症6.9%などであった.コメントなし 文献番号2著者発表年Hattori 2015研究デザインコホート研究P 2006 ~2011年の6年間に新規にESKDとなり腎代替療法が導入された20歳未満の日本人小児患者540例IなしCなしO日本人小児の新規ESKD発生率は平均4.0症例/100万人であった.原因疾患は先天性尿路奇形(CAKUT)39.8%,巣状分節性糸球体硬化症12.2%などであった.コメントなし 文献番号3著者発表年Watson 2011研究デザインConsensus statement by ISN and IPNA PなしIなしCなしOなしコメントINSとIPNSによる小児患者の成人診療科への移行に関するconsensus statement 文献番号4著者発表年Ishikura 2013研究デザインコホート研究P 2010年4月1日時点でCKDステージG3 ~5と診断された3カ月以上15歳以下の日本人小児患者447人(腎不全状態が3カ月以上持続していない症例は除く,以前に透析治療もしくは腎移植を受けたことのある症例も除く). IなしCなしO日本人小児のCKD有病率は2.98症例/10万人であった.非糸球体疾患407症例のうち278例(68.3%)が先天性尿路奇形(CAKUT)であった.コメントなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号5著者発表年Ohta 2006研究デザインコホート研究P 1988 ~2004年の間に腎移植を施行された精神運動発達遅滞を伴う小児患者25例IなしCなしO 25例中23症例は生体腎移植を施行し,2例は献腎移植を施行されていた.全例で観察期間中(平均観察期間41.1カ月)移植腎は機能していた.コメントなし
2章 移行プログラム
14 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 米国では,18%の小児が成人になっても特別な診療が必要とされ,毎年50万人が成人期に移行すると報告されている1)。小児腎疾患の分野においても,小児期発症のネフローゼ症候群,IgA腎症を中心とした慢性糸球体腎炎,CAKUT,さまざまな疾患によるCKDなど成人期に移行するケースは多い。最近では,ステロイド感受性ネフローゼ症候群の頻回再発型の半数以上が成人期でも再発を繰り返し,免疫抑制薬を使用することや2),CAKUTが腎不全に到達する中央値は35歳で成人期に幅広く分布していると報告されている3)。武井ら4)の報告によると,わが国では20歳を超える小児慢性疾患患者が,毎年1,000人ずつ増加している。これらの患者の多くが定期的に医療機関を受診しているが,患者全体の医療費自己負担額は8,169円で,国民平均医療費の約5倍であり,経済的な負担が大きいことが指摘されている。しかもこれらの 患者は就労に問題を抱えていることも少なくない。就労時に病気が問題となったのは56.3%と過半数を超え,職種や地域を限定したり希望を変えたものが多く,諦めたり断られたりするケースもみられた。厚生労働科学研究による日本腎臓学会と日本小児腎臓病学会,日本小児泌尿器科学会への2014年の調査研究では,20歳以上の患者の約20%が無職だった5)。経済的な問題は医療の受診行動にも影響する。そのためには適切な教育や就職をできる環境を作ることは極めて重要である。思春期・青年期のCKD患者は,しばしば心理的・社会的に未成熟な大人になりがちで,成人後の社会適応に困難を生じやすい。Watsonらa)は,14~24歳は脳の発達・成長期にあり,危険を伴い,衝動的な行動やノンアドヒアランスが多い年齢であると述べている。また,Stamら6)は,小児慢性疾患患者のうちESKD患者は,慢性疾患を有さない人に比べて自主性や性に関する事項,社会性が劣っていると述べている。腎移植の成績でも,ノンアドヒアランスによる拒絶反応のため12歳以上の生着率が悪いことが報告されており7),思春期の44%はノンアドヒアランスにより移植腎喪失をするというシステマティックレビューもある8)。このように心理的に不安定な時期に転科させると,治療中断,受診中断につながり,なかには小児科に逆戻りしてしまう患者もいる。Watsonら9)は,成人施設に転院した20例中7例の腎移植患者が3年以内にノンアドヒアランスのために腎喪失し,2例は死亡したと報告している。また,武井ら4)は56%の患者が小児科に逆戻りしたと報告している。以上からも十分な準備をして転科することが重要とされている。今回の疫学調査では,772例中247例(31%)は小児科からの紹介なしに,症状の悪化,再発,検診などで内科を訪れており,小児科からの医療情報をど 総 論移行プログラムとは 背景・目的 子どもから成人になるために誰もが経験する人生の重要な一過程に対して,高度で良質な医療の継続が妨げられてはならない。しかしながら,現状は思春期・青年期の社会的,情緒的,行動的な問題への対処は不十分であるとして,その転科前後を含む移行プログラムの必要性が国内外のステートメントなどで取り上げられてきた。自立可能な思春期・青年期の患者が両親のケアから自分自身でのケアに移り,成人となって成人診療科に移るときにさまざまな問題に直面する。教育や就労に問題があったり,思春期・青年期の独特な問題に直面し,適切な医療を受けないで悪化したりすることは避けなければならない。そのため移行プログラムの作成が必要である。
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド う伝えるかも重要な課題である5)。吉矢ら10)は,内科を訪れた92例の腎不全の患者のうち32例(37%)は両親と同伴して訪れ,両親がいないと情報が十分に伝わらなかったと報告しており,患者本人のヘルスリテラシー(医療情報を活用する力)は極めて重要な課題である。腎移植患者360人を対象とした研究では,10%の患者はヘルスリテラシーが低く,ドナー腎機能が低下している患者は,残存している患者に比べて明らかにヘルスリテラシーの低い割合が高く,ヘルスリテラシーの重要性を述べている11)。心不全患者におけるヘルスリテラシーの予後に関するコホート研究では,262人/ 1,494人(17.5%)でヘルスリテラシーが低く,年齢が高く,教育的・経済的レベルが低く,合併症の割合が多い患者では特に低かった。これらの患者は死亡率が高いと報告されている(17.6%,HR1.97)12)。以上のようなことから,思春期・青年期のCKD患者が病気についてセルフケアの意欲,動機を高め,成人にふさわしい能力を身につけられるように「移行プログラム」を作成し,それに則ったプロセスを早期に開始する必要がある。患者が能力に見合った教育を受け,職業を持ち,経済的な自立ができることが重要である。 ◆ 移行プログラムとは ◆ 1993年,米国思春期学会の声明で,「移行(transition)とは,小児科から内科への転科を含む一連の過程を示すもので,思春期の患者が小児科から内科に移るときに必要な医学的・社会心理的・教育的・職業的支援の必要性について配慮した多面的な行動計画である」と定義されたb)。転科(transfer)はその一部のできごとである。2002 年には,AAP / AAFP / ACP-ASIMが合同で,特別なケアが必要な思春期・若年成人に対する移行医療についての提言を発表したc)。これをもとに2011年には,これらの患者に限らず,すべての若年成人について12~14歳の早期から移行プログラムを開始すべきであるとし,移行のためのコア要素を示して小児科医と内科医に具体的なアルゴリズムを提示したd)。これをもとに米国政府の母子保健局(MCHB)は6 core elementsとして6つの要素を提示したe, f)。 1 Transition policy移行のための方法を説明する文書(移行ポリシー)を作成し,患者と家族に伝え,12 ~14歳で開始する。また,すべてのスタッフに実践的なアプローチを教育する。2 Transition tracking and monitoring対象となる患者の基準を作成し,レジストリー登録を行う。3 Transition readinessチェックリストを14歳から使用する。患者と家族とともに,セルフケアに対するゴールを作成する。4 Transition planning定期的にチェクリストを評価し,目標を確認する。移行サマリーや緊急時のケアプランを作成する。転科時期を計画する。5 Transfer of care患者の状態が安定している時に転科する。転科の際に,移行に必要な書類(チェックリスト,移行サマリー,緊急時の対応,情報提供書など)を準備する。成人側では,チームメンバーで準備し,初回受診時には移行サマリーと緊急時の対応を更新する。6 Transfer completion転科後も6カ月間は,患者と家族両方に接触して移行の状況を確認する。成人側では,患者に必要なサポートサービスや専門診療科と連携を図る。6つのコア要素をもとにして,小児科・内科側ともシステマティックに移行ができるようになったと報告された13)。小児CKD患者においても,2011年に国際腎臓学会(ISN),国際小児腎臓学会(IPNA)から移行医療についての提言が発表されたa)。転科時期は14~24歳が適切で,内科への転科は準備と評価を行ってからすべきで,その情報を内科に伝えるとした。また,移行へのサポートとして,移行プログラムを熟知した医師(transition champion),専門看護師,心理士やソーシャルワーカーなど移行プログラムを支援するtransition coordinatorによる組織を作り,内科と連携しながら移行プログラムを実行することが推奨された。それにともない国内でも移行プログラムの
16 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 必要性が重視されるようになり,石崎らg)は,6つの点について各々行動計画を作成し,実行,評価することとした(表1)。慢性疾患を持つ子どもの移行医療の現状を把握するために,移行医療への取り組みへの評価として,特別な医療を必要とする子どもへの全米調査(National Survey of Children with Special Health Care Needs:NS‒CSHCN)がある。2001年の調査に比べて,2005 / 2006年の調査では,移行プログラムによる適切な移行の達成として,患者が主治医と内 科への転科,成人医療の必要性,健康保険について話し合い,患者自身が健康について責任を持つようになったとする割合は,5.8%から41.2%へ増加しており,移行プログラムの有用性が示された14)。しかし2009 / 2010年の結果では40.0%と改善がみられず,さらに移行を推進するためには費用的なインセンティブが必要であることや,それぞれの家族を尊重した,医療者と家族とが協力して子どものケアにあ 表2 移行スケジュール(患者の目標) 内容事例の年齢 1 .遅くとも10歳まで ・薬物治療および治療に対して理解し,かつ責任をとることに対して教育的支援が行われる・成人科チームへの移行を目標として,患者が移行するために必要な準備を理解する。 2 .13歳~ ・通常外来診療を単独でうける。両親は,後から診療に加わる。・患者は,自分自身の症状・治療等に関する質問に答えることができる。・親は,患者の言動を見守る姿勢をとることが望まれる 3 .15歳半~16歳 ・チェックリスト表3 を評価し,計画的に再教育プログラムが実施される。・疾患,治療法の理論的根拠,症状の原因を理解する。・病状悪化のサインを認識し,それについて対処できる。・医療者からの援助を求める方法を知っている。・保険医療システムの最良の手段を検討することができる(保険の変更・問題等)。・成人移行プログラムの詳しい説明が患者および家族に行われる。・成人科チームに面会する準備が完了する時期を患者・家族が認識する。 4 .16歳~18歳 ・小児科チームにおける患者の準備状況に関するカンファレンスの後,患者は小児科で成人科チーム との最初の正式な面会を行う。・その面会に続き,患者と家族は,成人科・小児科両チームに関する肯定的,否定的感情について意 見を言うことを促される。この時点で,チームの間の類似点が強調され,心配事について話し合う。 5 .「準備が整った」と考えられる年齢 ・次の面会は小児および成人科チームの両方と行う。・患者および家族は,成人科チームへの質問や心配事を相談するために成人科施設の見学へ行く。・成人医療に関する施設のパンフレットが提供される。それには,担当の成人科チーム員と緊急時に 関連する電話番号,アクセス地図が含まれる。成人科施設の重要な部門のデータ表も提供される。 (参考にした二次資料 g)より引用 表1 移行プログラム作成のための6つの領域・患者が自分の健康状況を自ら説明できる・患者が自ら受診して健康状態を説明し,服薬を自己管理する・妊娠への影響や避妊を含めた性的問題を話し合うことができる・さまざまな不安や危惧を周囲の人に伝えサポートを求めることができる・自らの能力と適性にあった就業形態の計画を立てられる・生活上の制限や注意事項,趣味などを含めたライフスタイルを話し合うことができる (参考にした二次資料 g)より引用
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド たる「Medical Home」の拡充が必要であると述べられている1)。移行プログラムの有用性については2つのシステマティックレビューがある15,16)。そのなかには数多くの論文が取り上げられているが,エビデンスのある論文(RCTなど)は5つで,多くは1型糖尿病のものである15)。 ◆ 移行プログラムを進めていくために ◆ 移行スケジュールを立て,移行チェックリストを用いることで,同じプログラムに参加する多職種の専門家が目標を確認しやすくなり,患者が移行のプロセスのどこにいるのかを知ることが可能となる。2014年3月に厚労科研「慢性疾患に罹患している児の社会生活支援ならびに療育生活支援に関する実態調査およびそれら施策の充実に関する研究(主任研究者水口雅)」から医師用の移行支援ガイドブックが出された。そのなかに掲載されている,移行スケジュール(表2,3),自己健康管理度チェックリスト (表4),移行サマリー(表5)を紹介するg)。チェックリストの活用は,患者自身の病気や治療内容理解にも役立つ。ISN / IPNAから発表された移行医療の提言では,移行準備のためにTransition medical passport,a self‒administered transition, readiness survey,the TRxANSITION Scaleなどのツールを使用することを推奨しているa)。2013年と2014年のシステマティックレビューによると,論文化されている移行準備のための包括的なツールとしては,Transition Readiness Assessment Questionnaire(TRAQ),TRxANSITION Scale(TRxANSI- TION)において,信頼性と再現性があることが知られている17,18)。TRxANSITION Scaleは腎疾患での有用性が報告されており19),別表(表6)に紹介する。移行サマリー(=移行手帳)とは,治療内容,検査結果,服薬内容,日常生活の注意点,緊急時の対応,医 表3 連携する必要がある職種とのコンタクトをとるためのチェックリスト例:1型糖尿病患者の場合 ____小児科医(主治医・担当医) ____内科医(主治医) ____成人移行期支援看護師____看護師(小児科・成人科) ____各分野____ソーシャルワーカー(経済問題,生活設計,地域医療への調整) ____栄養士____薬剤師____医療機器の業者____教師(院内学級・担任・養護教論) ____その他( ) ____患者・家族 患者氏名 ____小児科医(主治医・担当医) ____内科医(主治医) ____移行期支援看護師____看護師(小児科・成人科) ____各分野____ソーシャルワーカー(経済問題,生活設計,地域医療への調整) ____ ____ ____ ____ ____ ____その他( ) ____患者・家族 (参考にした二次資料 g)より引用
18 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 療機関の連絡先などをまとめたものである。移行サマリーは患者自身で記入し持参するようにする。自分の病状の把握や変化を理解するのに役立ち,他者への説明にも便利であるf,20)。しかし2007年の透析施設の報告では,欧米で移行プログラムを有する施設は約1 / 3であった21)。最近の欧州の小児腎臓センターへのアンケートでは47%は移行外来を有し,transition champion(移行プログラムを熟知した医師)も同様であった22)。日本小児腎臓病学会代議員などへの疫学調査では,小児科側が4.0%,成人側が0%であり,現在移行プログラムを有する施設が増加しつつあるとはいえ不十 分である。移行コーディネータの有無についても小児科側が3.0%,成人側が0.9%であり,移行コーディネータの養成,transition championの育成など課題がある5)。オーストラリアのロイヤル小児病院では,移行プログラムを有し,移行コーディネータ・移行サマリー・内科医も含んだ移行期外来を設けていたが,平均19.5歳,11例の転院後のアンケートでは,多くの患者に移行プログラムが理解されておらず,また移行サマリーが機能していないことから,移行プロ 表4 自己健康管理度チェックリスト(患者用)<慢性腎疾患> ✽一部改編病気・治療に関する知識1 .自分の病名を知っている2 .自分の現在の病状,腎臓病の病態や治療上必要な医療行為について説明できる3 .自分に処方されている薬の名前・効果・副作用,いつ内服するかを知っている4 .自分の食事について,治療上必要な留意点,外食時の注意点を理解している5 .自分自身の体調管理について理解している 例: 血圧・体重・尿の量と性状(尿試験紙による尿検査)・疲労時の対応・感染予防等体調不良時の対応6 .受診しなければならない症状を知っている7 .体調不良時,病院への連絡方法と受診方法を知っている医療者との対等なコミュニケーション8 .診察前に質問事項を考えて受診することができる9 .自宅での体調(体温・血圧・体重・尿量等)の結果を持参し受診することができる10.診察時,医師に検査の結果など質問できる11.医師・看護師,または他の医療者(栄養士・薬剤師・ソーシャルワーカー等)からの質問に答えることができる12.困った時には医師・看護師,または他の医療者(栄養士・薬剤師・ソーシャルワーカー等)に話すことができる診療情報の自己管理13.検査結果などデータ類を記録または保管できる14.引っ越し・転居などが生じた場合,医師に依頼し診療情報提供書依頼ができる自立した受療・セルフケア行動15.外来の予約の時期を把握し,忘れないための工夫ができる16.残っている薬を把握し,必要な分の薬の依頼ができる17.外来の予約方法(自分で診療の予約ができる)や,受診ができない状況が発生した場合,変更の連絡ができる18.血圧・体重・尿の量と性状確認・尿試験紙による尿検査方法を知っている19.体調管理方法を理解している20.医療保険について説明できる(自分の健康保険と自己負担額についての知識がある) 21.自分が病気の治療に使用している機器の注文と管理の仕方を知っている22.自分の病気に関して必要時に協力が得られるよう第3者へ説明できる(学校・友人・上司等)ここより先は 歳以上の方のみ答えてください思春期・青年期患者としての健康教育23.医師・看護師,または他の医療者(栄養士・薬剤師・ソーシャルワーカー等)へ,喫煙・飲酒・健康食品などについて相談したことがある24.医師・看護師,または他の医療者(栄養士・薬剤師・ソーシャルワーカー等)へ,就職や進学など,また日常生活での人間関係などについて相談したことがある25.医師・看護師,または他の医療者(助産師・ソーシャルワーカー等)へ,妊娠・出産の問題,性の問題や悩みについて相談したことがある主体的な移行準備26.移行準備として自分で必要な情報収集を行うことができる27.移行に向け内科の医師といつどのような形で診察を開始するのかを主治医と相談している (参考にした二次資料 g)より引用
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 名 前生年月日 住 所電 話 保護者名保 険 他 家 族氏名続柄年齢氏名続柄年齢 診 断 名診断日: 年 月 今までの治療歴<治療・検査> / / / / / /具体的内容 現在の治療合併症・晩期障害 なし・あり 禁忌・アレルギー<服薬療法>薬品名・量・ 回数/日・・・・・・・・・・ 検査値前回腎生検:年月日 詳細 身長cm( / / )体重kg( / / )血圧/ mmHg( / / )血液検査TP Alb BUN Cr UA TC BS HbA1c Na K Cl Cu P Hb WBC Plt 他 尿検査定性 沈渣 蛋白定量 他どのような状態の時に対応が必要かその場での対応の仕方 ・ ・ ・ ・ 連絡が必要な人場所連絡先 主治医 専門医 記入者 記入日 セルフケア日常生活の注意事項 1日の食事量食塩タンパク質kcal医療的ケア □全自立□一部介助 ( ) □全介助 □全自立□一部介助 ( ) □全介助 アレルギー:□食事・他( ) □薬物( ) 社会資源病院名・診療科主治医(担当者名)連絡先 薬局 医療品業者 学校・就職先担任・上司 表5 移行サマリー(非透析患者用) (参考にした二次資料 g)より引用
20 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 表6 TRxANSITIONScaleforAdolescentsandYoungAdults Type of chronic health condition 1 .What is the name of your health condition? 2 . What physical symptoms do you experience because you have[name of health condition]? 3 . How might[name of health condition]affect your health in the future? Rx:Medications 4 . What are the names of the medicines, vitamins, and /or supplements your doctor has asked you to take for your health condition? 5 . When are you supposed to take[name each medication, vitamin, and supplement patient should be taking]? 6 . What is the purpose of[name each medication, vitamin, and supplement patient should be taking]? 7 . What could happen if you do not take[name each medication, vitamin, and supplement patient should be taking]like your doctor has asked you to? Adherence 8 . In a typical week, do you usually miss a full day of medicine, either because you forgot to take it or didn’t want to take it? 9 . Do you usually have trouble remembering to take your medicines every day? 10. Do you usually come to your doctor appointments when they are scheduled? 18. Do you yourself usually call or email your doctor when you have a question or need to speak with him /her? 19. Do you usually make your own doctor appointments? 20. [if the patient has medical procedures to perform]Do you usually perform your medical procedures yourself(catheterization, insulin shots, etc?) Issues of reproduction 21. Would your health condition likely affect your ability to:[if female]become pregnant?[if male]get someone pregnant? 22. [Females only]What are risks you might face if /when you become pregnant because you have[name of health condition]? 23. [Females only]Do you take any medicines that would be harmful to an unborn baby if you became pregnant? 24. Can you tell me ways sexually active people help protect themselves from unwanted pregnancy or STD’s? Trade /School 25. What are your future plans in regards to school and /or a job? Insurance 26. What is health insurance and why is it important to have? 27. What is the name of your current health insurance provider? 28. [If he /she is currently insured]At what age will your current health insurance coverage end? 29. How can you get health insurance coverage for yourself when you are an adult? Ongoing support 30. When you are an adult, who will manage your health condition, for example help you remember to take your medicines, call in prescription refills, pick up meds from pharmacy, and make doctor appointments? New health care providers 31. When it comes time for you to switch to an adult doctor, how will you find one? 32. In order to get your medical records transferred to another doctor, what is required to make this happen? Nutrition 11. When choosing foods and drinks, do you read the nutrition labels on them to find out if they are healthy choices for you? 12. Are you supposed to follow any special diet because you have[name of health condition]? 13. [if the patient is on a special diet]What are examples of the foods and /or drinks that you should have more or less of? Self—management skills 14. Do you usually remember to take your medicines on your own? 15. Does someone usually have to remind you to take your medicines? 16. Do you usually call in your prescription refills yourself? 17. Do you usually pick—up refills from the pharmacy yourself? (文献19)より引用
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド グラムをもっと早期に開始すべきとしている23)。他の報告でも開始時期が遅いことを重視しており,適切な時期に開始すべきと考えられる。また,今回の疫学調査で,小児科から紹介なく内科へ受診した理由は,24.9%の患者で有症状(再発,腎機能の増悪など)だった5)。小児科と成人診療科が連携して移行を進めることが重要であり,お互いに意見を交換する必要がある。さらに患者自身が移行サマリーを持ち,ヘルスリテラシーを獲得することも,スムーズに移行を進めていくために非常に重要である。移行とは単なる転科ではなく,自立への能力を育てるプロセスを含んでいる。そのためにも移行プログラムを構築し,早期から開始することが求められる。社会性の発達を病気が始まったところから開始すべきであり,その点も重視する必要がある。移行プログラムの重要なイベントである転科の方法について,ISN / IPNAのステートメントでは,小児科医と内科医がどちらかの施設で一緒に外来を行うべきとしているa)。わが国でも,担当医師,看護師,ソーシャルワーカー,精神科医とともに移行期外来を行っている施設があるg)。移行期外来では開始時に主旨を説明するとともに,外来は両親と本人とを別々にする。外来で自己健康管理度チェックリストを用いて転科可能かの自立を評価する。移行に問題がないケースでは主治医や看護師で話し合い転科を決定するが,移行に問題がある場合は,心理士などを含めた多職種で相談する。また,成人診療科を受診させた後も一定期間は併診し移行期外来を受診させる必要がある。海外では移行後の医療に対する不満などにより,受診回数の減少・脱落,治療拒否によって合併症などの発症や,生命予後を左右する事例があることが報告されており24),丸ら25)も成人施設への転院・転科後に定期的なフォローアップが必要であると述べている。ISN/IPNAのステートメントでは,理想的な形として,移行のための専門医師,専門看護師,ソーシャルワーカーや移行コーディネータなどによる移行チームを成人施設に作り,転科後の診療を継続し,さらには成人診療科に若年成人外来を作り,その外来に小児科からの紹介患者や思春期・青年期のCKD患者が受診するとしている。若手医師に移行医療について教育する必要性も述べ ているa)。移行プログラムを作成し,実行,評価を重ね,十分な時間をかけて心理的・社会的な準備をすることにより,成人診療科移行後のQOL向上が期待される。 データベース:PubMed,医中誌期間:1990年~2015年8月までキーワード: transition,program,process,kidney disease,移 行医療,移行プログラム,移行サマリー a) Watson AR, et al.:Transition from pediatric to adult renal services:a consensus statement by the International Society of Nephrology(ISN)and the International Pediatric Nephrology Association(IPNA). Pediatr Nephrol 26:1753‒ 1757, 2011 b) Blum RW, et al.:Transition from child‒centered to adult healthcare systems for adolescents with chronic conditions. A position paper of the Society for Adolescent Medicine. J Adolesc Health 14:570‒576, 1993 c) American Academy of Pediatrics, American Academy of Family Physicians, American College of Physicians‒American Society of Internal Medicine.:A consensus statement on health care transitions for young adults with special health care needs. Pediatrics 110:1304‒1306, 2002 d) American Academy of Pediatrics;American Academy of Family Physicians; American College of Physicians; Transitions Clinical Report Authoring Group.:Supporting the health care transition from adolescence to adulthood in the medical home. Pediatrics 128:182‒200, 2011 e) McManus M, et al.:Incorporating the six core elements of health care transition into a medicaid managed care plan: Lessons Learned From a Pilot Project. J Pediatr Nurs 30: 700‒713, 2015 f) Six Core Elements of Health Care Transition 2.0 Transition- ing Youth to an Adult Health Care Provider. http://www.gottransition.org/providers/leaving. cfm 2016‒0114 g)石崎優子,他編.:成人移行期小児慢性疾患患者の自立支援 のための移行支援について.平成26年度厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)慢性疾患に罹患している児の社会生活支援並びに療育生活支援に関する実態調査およびそれら施策の充実に関する研究.2014 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
22 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 1) McManus MA, et al.:Current Status of Transition Prepara- tion Among Youth With Special Needs in the United States. Pediatrics 131:1090‒1097, 2013. 2) Ishikura K, et al.:Morbidity in children with frequently relapsing nephrosis:10‒year follow‒up of a randomized controlled trial. Pediatr Nephrol 30:459‒468, 2015 3) Wühl E, et al.:Timing and outcome of renal replacement therapy in patients with congenital malformations of the kidney and urinary tract. Clin J Am Soc Nephrol 8:67‒74, 2013 4) 武井修司,他.:小児慢性疾患におけるキャリーオーバー患 者の現状と対策.:小児保健研究 66:623‒631,2007 5) Hattori M, et al.:Transition of adolescent and young adult patients with childhhod‒onset chronic kidney disease from pediatric to adult renal services:a nationwide survey in Japan. Clin Exp Nephrol. (in press) 6) Stam H, et al.:Young adult patients with a history of pedi- atric disease:impact on course of life and transition into adulthood. J Adolesc Health 39:4‒13, 2006 7) Smith JM, et al.:Renal transplant outcomes in adoles- cents:a report of the North American Pediatric Renal Transplant Cooperative Study. Pediatr Transplant 6:493‒ 499, 2002 8) Dobbles F, et al.:Adherence to the immunosuppressive regimen in pediatric kidney transplant recipients:a systematic review. Pediatr Transplant 14:603‒613, 2010 9) Watson AR.:Non‒compliance and transfer from pediatric to adult transplant unit. Pediatr Nephrol 14:469‒472, 2000 10) 吉矢邦彦.:2015年日本透析医学会(personal communica- tion) 11) Dageforde LA, et al.:Health literacy of living kidney donors and kidney transplant recipients. Transplantation 98:88‒ 93, 2014 12) Peterson PN, et al.:Health Literacy and Outcomes Among Patients With Heart Failure. JAMA 305:1695‒1701, 2011 13) McManus M, et al.:Pediatric to Adult Transition:A Quality Improvement Model for Primary Care. J Adolesc Health 56:73‒78, 2015 14) Lotstein DS, et al.:Planning for health Care Transitions: Results From the 2005‒2006 National Survey of Children With Special Health Care Needs. Pediatrics 123:145‒152, 2009 15) Chu PY, et al.:Systematic Review of the Impact of Transi- tion Interventions for Adolescents With Chronic Illness on Transfer From Pediatric to Adult Healthcare. J Pediatr Nurs 30:19‒27, 2015 16) Betz CL, et al.:Voices not heard:a systematic review of adolescents’ and emerging adults’ perspectives of health care transition. Nurs Outlook 61:311‒336, 2013 17) Schwartz LA, et al.:Measures of Readiness to Transition to Adult Health Care for Youth With Chronic Physical Health Conditions:A Systematic Review and Recommendations for Measurement Testing and Development. J Pediatr Psychol 39:588‒601, 2014 18) Zhang LF, et al.:A systematic review of the psychometric properties of transition readiness assessment tools in adolescents with chronic disease. BMC Pediatr 14:doi:10, 2014 19) Ferris ME, et al. A clinical tool to measure the components of health‒care transition from pediatric care to adult care: the UNC TRxANSITION scale. Ren Fail 34:744‒753, 2012 20) 石崎優子.:診療現場に求められる成人への移行支援プログ ラム.日医雑誌 143:2106‒2110,2015 21) Bell L.:Adolescent dialysis patient transition to adult care:a cross‒sectional survey. Pediatr Nephrol 22:720‒ 726, 2007 22) Forbes TA, et al.:Adherence to transition guidelines in European paediatric nephrology units. Pediatr Nephrol 29:1617‒1624, 2014 23) Chaturvedi S, et al.:The transition of kidney transplant recipients:a work in progress. Pediatr Nephrol 24:1055‒ 1060, 2009 24) Kennedy A, et al.:Young people with chronic illness:the approach to transition. Intern Med J 37:555‒560, 2007 25) 丸 光惠,他.:小児慢性疾患患者の移行期支援.治療 93: 1994‒2002,2011 ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 Royal College of Nursingの提案する“Adolescent Transitional Care Guidance for Nursing Staff”1)では,移行プログラムで目標とし,プログラムの作成に必要な6つの領域を呈示している。一般的に思春期にクリアすべき自立をし,社会参加をするという目標を達成するために,支援・教育しなくてはならない6領域である。少し順序は異なるが,以下にその6領域を示す。そのうち,心理的支援と自己支持はそれ以下を達成するための基礎であると考えられ, 順位をあげた。1.心理的支援 さまざまな不安や危惧を周囲の人に伝えサポートを求めることを目標としているが,それは本人の自尊感情(自己肯定感)の確立に依存しており,また技術的にはコミュニケーション能力の向上によって可 能となる。2.自己支持 患者が自分の健康状態を説明できることが目標である。疾患・合併症と治療に関する知識の獲得が重 要である。3.自立した医療行為 自ら受診して健康状態について説明でき,服薬を中心としたセルフケアが可能であることが目標である。4.教育的,職業的計画 自分の適性がわかり,自らの身体能力にあった就 業形態をとれることが目標である。5.健康とライフスタイル 嗜好(飲酒,喫煙)を含めた生活上の制限を理解し, また趣味を持って人生を送れることが目標である。6.性的管理 妊娠の疾患への影響を理解し,性行為感染症の問題や避妊の方法も含めた性的問題の管理を可能とする。 データベース:Web期間:1990年~2015年8月までキーワード:Transition, Guidance なし 1) Royal College of Nursing Adolescent Transitional Care Guidance for Nursing Staff. h t t p s :/ / w w w 2 . r c n . o r g . u k /_ _ d a t a / a s s e t s / p d f _ file/0011/78617/004510.pdf Q 1移行プログラムの具体的活動は何か? Q1 ❶ 移行プログラムが行う支援・教育内容は何か? 移行プログラムの支援・教育内容は,6つの領域:1.心理的支援,2.自己支持,3.自立した医療行動,4.教育的,職業的計画,5.健康とライフスタイル,6.性的健康である。 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
24 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 移行支援はキャリーオーバーするすべての慢性疾患患者にとって必須のものである。しかし,将来的に自立が可能と考えられる知的レベルを有することが本人への移行支援を行ううえで重要である。移行プログラムの内容を理解し,効果的に利用するための個人的能力が小児にあるかを判断して,移行の支援にあたる必要がある。また,小児の慢性疾患の多くが先天性のものや奇形を伴うものであったり,小児特有の疾患であったりすることが移行の障壁となる。実際には,成人の専門診療科が対応できることが重要なポイントとなる。循環器領域では,成人先天性心疾患を扱う専門医が必要とされている。腎臓病領域では,ステージG3以上の小児CKDの60%以上がCAKUTであり2),腎臓内科医が苦手とするところかと思われるが,キャリーオーバーする多くの患者は尿路の問題は解決されており,慢性腎不全の管理(保存期,透析期,移植期)が必要となっていることが多く,一部の下部尿路管理が必要な患者を除けば十分腎臓内科医や移植医が管理できると考える。年齢について,AAP / AAFP / ACP‒ASIMが2002年に発表した提言では14歳までに移行計画の準備をするとし3),ISN / IPNAが2011年に発表した提言では12~14歳に準備をはじめ,発達段階や知的能力に応じて徐々に進めることとしている4)。しかし,慢性疾患を成人期に持ち越すと考えられる思春期・青年期の患者,または10歳以下であっても十分持ち越すことが想定される患者が対象ということになると思われる(総論表2参照)。知的レベルは移行支援を行っていくうえで重要である。IQ70~85は境界領域知能とされ,環境を選べば自立して社会生活ができると考えられる限界であ る。これ以下の場合,通常の目標に従って移行支援をしていくことには無理があり,移行支援の対象は親である場合もある。基本的な対応として,まず小児の知的能力を客観的に把握し,小児に合った移行プログラムを整えることが必要である。つまり将来的に自立が可能と考えられる知的レベル(ボーダーラインのIQ70~85以上)を有することが望ましい。ただし,CKD患者の多くは移行に十分な知的レベルを持っている。これら2点を考えると,ほかの領域と異なり現在の環境であっても移行プログラムを活用して,CKD患者の移行を成功させることができると考える。成人施設への転科の時期は,移行プログラムの完結後,つまり身体的成熟と教育的,社会的,心理的達成が行われてからであるべきで,学校教育が終了してからが望ましいだろう。 データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年8月までキーワード:トランジション,移行,小児 なし 2) Ishikura K, et al.:Pre‒dialysis chronic kidney disease in children:results of a nationwide survey in Japan. Nephrol Dial Transplant 28:2345‒2355, 2013 3) American Academy of Pediatrics, American Academy of Family Physicians, American College of Physicians‒American Society of Internal Medicine.:A consensus statement on health care transitions for young adults with special Q1 ❷ 移行プログラムの対象者は誰か? 慢性疾患を成人期に持ち越すと考えられる思春期・青年期のCKD患者,または10歳以下であっても十分持ち越すことが想定される患者が移行プログラムの対象となる。その際,将来的に自立が可能と考えられる知的レベル(ボーダーラインのIQ70~85以上)を有することが必要である。 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 移行プログラムは,個々の患者に合わせて作られるべきである。チェックリストを利用して患者の状況を評価しながら,支援・教育のためのツールを使用する。その際,6領域(1.心理的支援,2.自己支持,3.自立した医療行動,4.教育的,職業的計画, 5.健康とライフスタイル,6.性的健康)を意識することが重要である5)。チェックリストとしては,「成人移行期支援看護師・医療スタッフのための移行期支援ガイドブック(第2版)」5)に「成人移行チェックリスト」が掲載されている。多職種の連携には個々の患者の目標とその達成度を共有することが必要である。また患者と医療者の情報の共有も必要であり,「移行サマリー」には発症からの経過,治療内容,検査結果,服薬内容,生活指導,チェックリストなどをまとめたものが想定されている。支援・教育のためのツールとしては,どのようなものがあるだろうか? チェックリストでの評価をしつつ支援・教育を行うことはもちろんである。以下に,6領域に分けて記載する。「ヘルスリテラシーを高める援助例」については,「成人移行期支援看護師・医療スタッフのための移行期支援ガイドブック(第2版)」5)に発達段階ごとに記載されており,参考 にして支援を進めて行く。1.心理的支援 QOLや自尊感情を評価する必要がある。QOLを評価するには,PedsQL6),Kid‒KINDL(小学生版QOL尺度)7),KIDSCREEN8)などがある。自尊感情については,Harter らの作ったバッテリーがあり9), Nagaiら10)が日本人の基準値を作成している。また, Nagaiら11)は生活制限なく管理された小児ネフローゼ症候群患者の自尊感情は決して低くはないことも報告している。心療科医師や臨床心理士の協力により,移行支援の基盤である心理的状況を評価し,必 要があれば介入することが重要である。2.自己支持 疾患・合併症と治療に関する知識の獲得が重要である。発達段階に合わせてわかりやすい言葉で説明し,彼らの人生のイメージを彼らと共有することが重要である。時期については,遅くとも15歳時には 一度機会を持つべきであろう12)。3.自立した医療行動 自ら受診して(予約も含めて)健康状況について述べ,服薬を自己管理することができるように支援する。心理的支援で述べたように自分を大切に思える Q1 ❸ 移行プログラムを進めるうえで利用できるツールや教育資料は何か? 1 「自己健康管理度チェックリスト(患者用)<慢性腎疾患>」,「移行サマリー(非透析患者用)」(総論 表4,5)は移行支援に活用できる。2 「成人移行チェックリスト」(「成人移行期支援看護師・医療スタッフのための移行期支援ガイドブック(第2版)」)を利用して患者の状況を評価する。3 TRAQとTRxANSITION scaleが海外では信頼性・妥当性が確認されており,チェックリスト として評価されているが,日本語版はまだない。 health care needs. Pediatrics 110:1304-1306, 2002 4) Watson AR, et al.:Transition from pediatric to adult renal services:a consensus statement by the International Society of Nephrology(ISN)and the International Pediatric Nephrol- ogy Association(IPNA). Pediatr Nephrol 26:1753‒1757, 2011
26 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 心が育まれていて,自己支持で述べた“疾患・合併症と治療に関する知識の獲得”が発達段階に応じてな されていれば,ここでの介入は容易である。4.教育的,職業的計画 自らの価値観や人生観に合致し身体能力にあった就業形態をとることができるように,将来の進学・就職に向けての援助を行う。自立して社会貢献でき る社会人となることが目標である。5.健康とライフスタイル 疾患のために守らなければならない生活上の制限や趣味の持ち方についてアドバイスする。慢性疾患の小児もほかの元気な小児と同様に,生きがいを持って幸せな人生を送るために障害を乗り越えようと努力しているのであり,病気と闘うために生きているのではないことを周囲はしっかりと認識すべき である。6.性的健康 妊娠の疾患への影響,避妊の方法,性行為感染症についての知識も含めた性的問題の管理などの,一般的に思春期に必要な知識の獲得である。なかなかよい教材はないが,技術的なことだけでなく人間の本質としての性を素直に受け入れてもらえるような,また異性の介入者が抵抗なく使えるようなツールが欲しいところである。参考として使える資料としては,平岩ら13)の「思春期の性の問題をめぐって」がある。海外では数多くのチェックリストがあり,またチェックリストについての2つのシステマティックレビューがある。Zhangら14)の検討では,10個の評価ツールがあるが,信頼性や妥当性が確認されているものはTransition Readiness Assessment Questionaire(TRAQ)だけであり,これは疾患によらず使える。Schwartzら15)の検討では,56のツールのうち信頼性または妥当性が評価されたものが10あり,疾患特異的でないものは4つあった。特にTRAQとTRxANSITION scaleは疾患によらず使えるもので簡易であるという利点がある。TRxANSITIONは,薬について,アドヒアランス,栄養,自己管理,性的管理,仕事や学業,保険,社会的資源などの多くの内容を含み,TRAQが自己管理能力に焦点を当てているのと異なっている。TRxANSITIONは腎不全 領域でもよく使用されている。 データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年8月までキーワード: Quality of Life,Quesionanaire,chronic kidney disease,self‒esteem なし 5)丸 光惠.:成人移行期支援看護師・医療スタッフのための移 行期支援ガイドブック 第2版.2012 6) Kobayashi K, et al.:Measuring quality of life in Japanese children:development of the Japanese version of PedsQL. Pediatr Int 52:80‒88, 2010 7)柴田 玲,他.:日本におけるKid‒KINDL Questionnaire(小 学生版QOL尺度)の検討.日小児会誌 107:1514‒1520, 2003 8) Rajmil L, et al.:Effect on health‒related quality of life of changes in mental health in children and adolescents. Health Qual Life Outcomes 7:103, 2009 9) Harter S, et al.:The pictorial scale of perceived compe- tence and social acceptance for young children. Child Dev 55:1969‒1982, 1984 10) Nagai Y, et al.:Children’s Perceived Competence Scale: Reference values in Japan. J Child Health Care 19:532‒ 541, 2015 11) Nagai Y, et al.:Self-perception of children with Autism Spectrum Disorders in Japan. Minerva Pediatr. 2015 Sep 17 [Epub ahead of print] 12) 上村 治.:透析・腎移植のすべて.腎不全の課題 小児慢性 腎臓病患者のトランジション(移行).腎と透析 76:469‒473, 2014 13) 平岩幹男.:思春期の性の問題をめぐって 現状とその対応か ら教育まで.診断と治療社,東京,2011 14) Zhang LF, et al.:A systematic review of the psychometric properties of transition readiness assessment tools in adolescents with chronic disease. BMC Pediatr 14:2014 15) Schwartz LA, et al.:Measures of readiness to transition to adult health care for youth with chronic physical health conditions:a systematic review and recommendations for measurement testing and development. J Pediatr Psychol 39:588‒601, 2014 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 ここでは,移行プログラムを推進する人材(リーダー)について説明する。構成するメンバーについてはQ3で扱う。小児医療施設などでは,小児看護専門看護師が移行支援に必要な教育を受けており適切である。しかし小児看護専門看護師の数は少なく,それだけでは全国の慢性疾患を扱う医療施設で十分な移行支援の活動を行うことはできない。各地域の小児看護専門看護師は,その地域の中心になり,移行の知識や移行支援のスキルを各医療施設に啓発すべきであろう。また,思春期看護研究会は「成人移行期支援看護師養成講座」や「成人移行期支援フォローアップ講座」を定期的に開催しており,受講した看護師が各地域で移行支援の介入を現場で行うと同時に,広報啓発活動にも携わることが重要である。米国コロンビア州5施設共同で2011年と2012年に行われた教育プログラムの効果が,前述した“Six Core Elements of Health Care Transition”16)を使用して評価された。ここでのチームは“transition champions”,“transition coordinators”に家族が加 わる形で行われた。この教育プログラムでは,Institute for Healthcare Improvementの“Breakthrough Series”Model17)が使用され,この6領域において効果があったとしている。Q3にも述べるが,チーム全体,職員全体の研修,教育が必要と考えられ,看護師だけでなく医師に対する教育プログラムも今後は必要である。 なし 16) McManus M, et al.:Incorporating the Six Core Elements of Health Care Transition Into a Medicaid Managed Care Plan:Lessons Learned From a Pilot Project. J Pediatr Nurs 30:700‒713, 2015 17) McManus M, et al.:Pediatric to adult transition:a quality improvement model for primary care. J Adolesc Health 56:73‒78, 2015 Q1 ❹ 移行プログラムを推進する人材に求められる資格,技能は何か,また教育研修はどのように行うか? 1 小児看護専門看護師の有資格者は,移行支援に必要な教育を受けており適切である。2 教育研修としては思春期看護研究会の行う「成人移行期支援看護師養成講座」や「成人移行期 支援フォローアップ講座」が適切である。 ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
28 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 アメリカでは2002年にアメリカ小児科学会,アメリカ家庭医学会,アメリカ内科学会合同で,健康管理の必要な青年に対する支援と移行促進に関するコンセンサス・ステートメントが出されたa)。それをもとに2011年には,移行は慢性疾患によらず,12~ 14歳の青年早期の全員を対象に計画的な移行をすべく指針が出され,移行のための6 core elementsをもとに,小児科医,家庭医,内科医に具体的なアルゴリズムが提示されたb)。そして,これらの移行方法について,医師,看護師,サブスペシャリストなどのスタッフは継続的に研修することが推奨されているc)。その結果,2年で小児科医側も内科医側も容易に,そしてシステマティックに移行ができるようになったと報告された1)。ほかの国でも,病院単位での移行プログラムなどは存在するd)。また,ヨーロッパの看護学会は2015年に各国の移行に関する取り組み状況をまとめている。この報告によると,ヨーロッパの各国のなかでも,かなり移行の進行状況が違うことがわかるe)。わが国でも,移行に関する研修システムは最低限の知識を持つために必要である。なお,看護師を対象とした移行に関する研修は,思春期看護研究会が行っている「成人移行期支援看護師養成講座」や「成人移行期支援フォローアップ講座」などがあり定期的に講座を開催しているf)。データベース:PubMed 医中誌 期間:1990年~2015年8月までキーワード: 移行(transition),プログラム(program),慢性腎臓 病(chronic kidney disease),小児(pediatric),成人(adult),研修 a) American Academy of Pediatrics, et al.:A consensus state- ment on health care transition for young adults with special health care needs. Pediatrics 110:1304‒1306, 2002 b) http://www.gottransition.org/ c) American Academy of Pediatrics, et al.:Supporting the health care transition from adolescence to adulthood in the medical homed. Pediatrics 128:182-200, 2011 d) http://www.aci.health.nsw.gov.au/_data/assets/pdf_file/ 0011/251696/Key_Principles_for_Transition.pdf e) http://www2.rcn.org.uk/_data/assets/pdf_file/0012/648849/ Transition‒from‒childrens-services‒to‒adult‒services‒ across‒Europe‒2015‒collatedF.pd f) http://puberty.sakura.ne.jp 1) McMauns M, et al.:Pediatric to adult transition:a quality improvement model for primary care. J Adolesc Health 56:73‒78, 2015 Q 2腎臓内科医や腎臓小児科医は,移行プログラムに関する研修を受講すべきか?腎臓内科医や腎臓小児科医に限定された移行プログラムに関する学会や国の認定医制度は世界的に存在しない。しかしアメリカでは,疾患を限定することなく青年に対して移行を進めるべく,研修制度を立ち上げ成果をあげている。そのほかの国でも,移行に関しての取り組みはいろいろなされている。わが国でも,移行プログラムに関する最低限の知識を持つことは重要で,移行プログラムに関する研修などがあることが望ましい。 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 移行の成功には専門科医師(小児科,成人診療科),専門看護師,一般看護師,移植などの治療コーディネータ,医療社会福祉士,心療科医師,臨床心理士,栄養士,薬剤師,家族やほかの介護者,学校教師,および個々の青年期をともにする者(ボーイフレンド,ガールフレンド)などが協力して,多様性を持った関与が重要である1)。そのほか,理学療法士,作業療法士,保育士,チャイルドライフスペシャリスト,ボランティアなどが,日本小児科学会からの提言には記載されている2)。Watson3)の2005年の総説で「transferは行事でありtransitionは過程である」を強調しながら,患者,家族,腎臓内科医との連携が移行の成功の肝であると述べている。思春期の拒薬(ノンコンプライアンス,今はノンアドヒアランス)についても言及し,医療だけでなく心理的・社会的問題にも注意を払わなくてはならないとした。その根拠は,同じくWatsonらが2000年に腎移植患者の拒薬と移行についての論文のなかで,成人施設への転院・転科後に多くの患者が移植腎機能廃絶を起こし,シクロスポリンの血中濃度が低いものや,両親の問題を含めた心理社会的問題が存在することを示したことにある4)。また,Watsonら5)は,2011年に国際腎臓学会と国際小児腎臓学会の移行についての共同声明5)を出し,成人施設への転院・転科は移行プログラムの完結後,つまり身体的成熟と教育的,社会的,心理的達成が完了してから行われるべきで,学校教育が終了してからであるべきだと述べられている。移行プログラムは患者の発達段階や知的レベルに合わせて進めら れるべきで,ほとんどの計画は年齢によって獲得すべき能力を示しており,両親を含めた家族,ボーイフレンドやガールフレンドもプログラムに含めることや,peer-support(同じような立場の人によるサポート,患者会など),成人医療施設の事前訪問も助けになると述べている。ここでは,“transition champions”と“transition coordinators”という言葉を用いる。前者はリードする臨床医,後者は現場で支援する専門家(看護師,医療社会福祉士など)を指すが,小児医療施設と成人医療施設の両方に必要であり,また,両施設には移行プログラムを熟知した医師が必要で,特に成人医療施設においては先天性など小児に特化した疾患の知識や,精神社会的なことや保険のことについても教育されなくてはいけないと述べられている。レジデントについても同様の言及がある。わが国の現状を考えれば小児医療施設での移行の支援体制としては,医師以外に,小児看護専門看護師,レシピエント移植コーディネータ,小児精神科医,ソーシャルワーカーなどが主体となるべきであろう。整理すると, 1 .小児医療施設として小児科医,小児看護専門看護師を中心とした看 護師,レシピエント移植コーディネータ,医療ソーシャルワーカー,小児精神科医,臨床心理士2 .成人医療施設として内科医,泌尿器科医,移植外科医,看護師,レ Q 3移行プログラムに必要な資源(人材,設備,体制など)は何か? Q3 ❶ 移行プログラムを構成するチームメンバーは誰か? 専門科医師(小児科,成人診療科),専門看護師,ソーシャルワーカー,臨床心理士などでチームを構成することが望ましい。
30 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド シピエント移植コーディネータ,医療ソーシャルワーカー,精神科医,臨床心理士3 .その他両親を含めた家族,ボーイフレンドやガールフ レンド,peer-support(患者会)となる。 データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年8月までキーワード:transition, program, system, peer‒support なし1) Cooley WC, et al.:Supporting the health care transition from adolescence to adulthood in the medical home. Pediatrics 128:182‒200, 2011 2)横谷 進,他.:小児期発症患者を有する患者の移行期医療に 関する提言.日小児会誌 118:98‒106,2014 3) Watson AR.:Problems and pitfalls of transition from paedi- atric to adult renal care. Pediatr Nephrol 20:113‒117, 2005 4) Watson AR.:Non‒compliance and transfer from paediatric to adult transplant unit. Pediatr Nephrol 14:469‒472, 2013 5) Watson AR, et al.:Transition from pediatric to adult renal services:a consensus statement by the International Society of Nephrology(ISN)and the International Pediatric Nephrology Association(IPNA). Pediatr Nephrol 26:1753‒ 1757, 2011 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 解 説 土屋ら6)は,「部署を超えて病院全体でフォローすることが必要である」というアンケートの意見をもとに,診療科や職種を超えて長期的な継続支援の必要性を理解し,病院全体でシステムを構築していく必要があると記載している6)。2009年度から,成人移行期支援看護師の養成講座が開講されており,移行期患者のヘルスリテラシーを高める援助の方法や,成人移行を見据えた看護の生涯教育を行っている。Ishizakiら7)は,小児病院の部長や病棟医長,移行に責任のある立場の看護師にアンケートを取り,医師の3 / 4と看護師全員が移行プログラムの必要性を答えたが,成人施設へのネットワークが利用できると答えたのは,20%前後の医師や看護師であった。小児医療施設,成人医療施設がその責務として以下のような移行ネットワークの確立に注力しなくてはならない。これを整理すると, 1 .小児医療施設として病院全体のシステムとして移行支援部(成人移 行期支援看護師に加えて,上記のメンバーが兼任として参加)の確立2 .成人医療施設として小児医療施設とのネットワークが存在する移行 支援部(専従の看護師1人に加えて,上記のメンバーが兼任として参加)の確立3 .その他患者家族会,成人移行期支援看護師の養成講座, コミュニケーションスキルを指導できる人材育成などとなる。独立した移行支援部が必要であるが現状では難しく,そのためにも以下に述べる診療報酬体制の確立が必須である。 Q3 ❷ 移行プログラムを構成するのに必要な体制は何か? 小児医療施設においても成人医療施設においても,病院全体のシステムとして移行支援部の設置が望ましい。
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 成熟した移行支援の確立にはさらなるシステムの確立が必要であり,また移行支援についての診療報酬の獲得が目標達成には必須と思われる10)。2001年に始まった米国の4~5年ごとの移行の実態調査でも,2005~2006年の調査から2009~2010年の調査にかけて移行支援の必要な患者に対する移行プログラムの実施は決して増加しておらず,医療費や保険制度の改善が必要であることを述べている11)。そのことも含めて,今後学会レベルでの国への働きかけが重要だと考えられる12)。実際,CKD患者に対して 移行に関連した介入を看護師が行った場合,算定できる診療報酬は「在宅療養指導料」のみである。しかも,その患者はテンコフカテーテルを挿入されているPD患者だけであり,“患者のプライバシーが配慮されている専用の場所で,個別に30分以上療養上の指導を行った場合に算定できる”ものである。このような限られた状況で,移行に特化されたものではない介入の状況でのみ算定できる環境では,各医療施設が積極的に取り組むことは不可能である。 Q3 ❸ 移行プログラムを運営するために必要な経費と財源は? 現時点では財源はなく,ボランティア的に働くことになる。そのため,移行支援に診療報酬を付けるように働きかけることが重要である。 また施設の移行支援体制の評価法として,6 core elements がある8)。6つの要素,1. Transition Policy, 2 Transition tracking and monitoring,3. Transi- tion readiness,4. Transition planning,5. Transfer of Care,6. Transfer completion に,Youth and family feedbackとYouth and family leadershipを加えてそれぞれを4段階で評価し,総計32点とするものである。わが国でも施設体制の評価方法として利用可能である。国際小児腎臓学会(IPNA)のステートメントでは,小児医療施設および成人医療施設における移行外来が最低限必要だとして強調している。そして移行外来同士の密な連携が継続的に必須であり,伝える診療情報には,医療,看護と栄養に加え,社会的,教育的な情報が含まれなくてはいけないとしている5)。ヨーロッパの調査では,2011年にこのステートメントが出てから2年後の調査を15の小児腎臓病施設で行い,47%の施設で移行外来が開設されたと述べられている9)。データベース:PubMed 医中誌 期間:1990年~2015年8月までキーワード:transition, program, system, peer‒support なし 6)土屋 真,他.:小児病棟に入院している青年期キャリーオー バー患者への看護実践.日小児看護会誌 22:82‒88, 2013 7) Ishizaki Y, et al.:The transition of adult patients with child- hood‒onset chronic diseases from pediatric to adult healthcare systems:a survey of the perceptions of Japanese pediatricians and child health nurses. Biopsychosoc Med 6:8, 2012 8) McManus M, et al.:Incorporating the Six Core Elements of Health Care Transition Into a Medicaid Managed Care Plan: Lessons Learned From a Pilot Project. J Pediatr Nurs 30: 700‒713, 2015 9) Forbes TA, et al.:Adherence to transition guidelines in European paediatric nephrology units. Pediatr Nephrol 29:1617‒1624, 2014 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
32 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年8月までキーワード:腎臓,トランジション,移行,小児 なし10) 上村 治.:透析・腎移植のすべて. 腎不全の課題 小児慢性 腎臓病患者のトランジション(移行).腎と透析 76:469‒473, 2014 11) McManus MA, et al.:Current status of transition prepara- tion among youth with special needs in the United States. Pediatrics 131:1090‒1097, 2013 12) 本田雅敬.:小児CKD 患者の移行医療.日小児腎不全会誌 33:5‒9, 2013 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 臨床指標(クリニカルインディケーター)を決めて,小児医療施設と成人医療施設の協力のもとに,転科後の諸評価を行うことが必要である。「慢性疾患を持ち越した患者さんたちの幸せな人生,有意義な人生」がエンドポイントであり,その評価指標として以下があげられる。1転科後の成人医療施設定着率2 移行対象疾患の,成人施設への転科後の診療成績3移行プログラムの6領域の再評価4 転科した患者へのアンケート調査(QOLや自尊感情)例えば2については,転科後の移植腎機能の評価(腎移植患者の長期生着,移植腎機能の変化),ノンアドヒアランスの頻度,原疾患の再燃率,心療内科的疾患発症の頻度,安全な妊娠出産など,小児医療施設から連続した診療データの移行が必要である。各小児医療施設が各患者に特化したプログラムを作成し,そのプログラムに従って支援を行うが,プログラムの6領域が本当に確立され,終了しているのかを成人医療施設で再確認することが必要である。CKDに特化したものではないが,移行支援の有効 性についてのシステマティックレビュー1)がある。MedlineやCINAHLなどのデータベースで検索した6,077論文のうち,1個別の移行介入が行われ,2比較される群があり,3転科後の結果について評価されているという3つの条件を満たすものは,5つだけであった。後方視的研究が4つ,RCTが1つで,対象疾患は,1型糖尿病が4つ,鎌状赤血球症が1つであった。3つの後方視的研究では,移行支援群のドロップアウト率が低く,成人施設への受診が早いという結果がみられた。しかしRCTでは,転科率,成人施設受診までの期間,年間受診回数が3~4回以上の割合などがみられたが,有意差はなかった。 1) Chu PY, et al.:Systematic review of the impact of transition interventions for adolescents with chronic illness on transfer from pediatric to adult healthcare. J Pediatr Nurs 30: e19‒27, 2015 Q 4移行プログラムの成果は何か? 1転科後の成人医療施設定着率の向上2移行対象疾患の,成人施設への転科後の診療成績の改善3移行プログラムの6領域の確立4慢性疾患を持ち越した患者の幸せな人生,有意義な人生などの自己評価 ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
34 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 2014年に行われたわが国の移行に関する全国調査では,転科は20~24歳の間に一番多く行われているが,実際に転科して成人施設で診療が行われているのは約40%にすぎず,転科の障害となる一番の理由は患者や家族の拒否であった1)。小児期から発症した腎疾患による不快な身体症状や生活制限,あるいは治療による恐怖,苦痛そして副作用などにより,小児CKD患者は保護者や医療者に依存する傾向が顕著であり,身体的あるいは心理的発達も遅れがちである。そのため思春期から青年期にさしかかっても心理的に自立できていないケースも多い。よって適切な移行時期も,幅広い年齢層のなかにあるとされている2)。成人期にかけて継続して医療を受けるためには,まず患者自身と保護者が自立した意識を確立する必要がある。しかし,個々の症例と家族によりその精神的自立状態には差がある。さらに,家族,学校,職場,病院スタッフからの支援のあり方にも差があり,経済的状況においても個々に差がみられる。また,腎疾患病態として,CAKUT,腎炎,ネフローゼ症候群や腎不全と多彩であり,治療方法もさまざまである。このような状況のなかで,移行スケジュールがしっかりと終了してから腎臓内科医へ紹介されることが望ましいa)。大前提として,移行する時期は病態が安定しているときを選ぶことも大切であるb)。また,移行プログラムをうまく進めるには,腎臓小児科医と腎臓内科医の協力が必要であるc)。スムーズな個々の移行過程を実現するために,移行前の自立性を確認できる具体的方法として,成人移行質問票あるいはチェックリストを用いた移行教育プログラムを用いることも勧められるd,3)。 以上より,移行は患者個々の腎疾患の病態,治療,心理的発達度,家族支援,社会支援,経済支援などの背景状況に応じて基本的な移行プログラムをベースに個々のプログラムを提供することが望ましいと考える。 データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年8月までキーワード: 移行(transition),プログラム(program),慢性腎臓 病(chronic kidney disease),小児(pediatric),成人(adult) a) Watson AR, et al.:Transition from pediatric to adult renal services:a consensus statement by the International Society of Nephrology(ISN)and the International Pediatric Nephrolog Association(IPNA). Pediatr Nephrol 26:1753‒1757, 2011 b) Watson AR. :Problems and pitfalls of transition from paedi- atric to adult renal care. Pediatr Nephrol 20:113‒117, 2005 c) Forbes TA, et al.:Adherence to transition guidelines in European paediatric nephrology units. Pediatr Nephrol. 29:1617‒1624, 2014 d)丸 光惠.:成人移行期支援看護師・医療スタッフのための 移行期支援ガイドブック.医学書院 1) Hattori M, et al.:Transition of adolescent and young adult patients with childhood‒onset chronic kidney disease from pediatric to adult renal services:a nationwide survey in Japan. Clin Exp Nephrol.(in press) 2) Tong A, et al.:Adolescent views on transition in diabetes and nephrology. Eur J Pediatr 172:293‒304, 2013 3) Wood DL, et al.:The Transition Readiness Assessment Questionnaire(TRAQ):its factor structure, reliability, and validity. Acad Pediatr 14:415‒422, 2014 Q 5移行プログラムは患者個々のプログラムを提供すべきか? 小児CKDの病態,治療,心理的発達度,家族支援,社会支援,経済支援などは多彩である。よって,基本的な移行プログラムをベースにして患者背景に応じた柔軟なプログラムを提供すべきである。 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 小児CKD患者が移行期にさしかかったとき,腎臓小児科医から腎臓内科医に転科することへの不安のみならず,ほかの思春期・青年期の若者と同じように,就学,就労,生活問題,経済問題など多くの問題に悩みを持つ1)。このような問題から生じる精神的ストレスは,移行後の診療アドヒアランスの低下,腎疾患病態の悪化の原因となることも指摘されている2)。よって,移行期の心理的ストレスの軽減に努める必要がある。思春期・青年期の患者の心理状態は複雑である。この時期の患者は,転科に対する不安や恐怖などの心理状態が強い。このような移行期の心理的問題に対応するには,まず転科までに患者の自立的精神を育成することが必要と考えられる。自立的精神の育成には,腎臓小児科医,内科医のみならず,看護師,家族などを含めた多職種間で協力しa,b),時間をかけて患者自身の精神的自立を促し,患者自身が移行に対する不安,恐怖などを克服できるように,患者と両親に対しての教育的支援をすることが望ましいb,c,2)。また,就学,就労,生活問題,経済問題などに対する相談対応,支援対応も心理的ストレスの軽減につながる。データベース:PubMed 医中誌 期間:1990年~2015年8月までキーワード: 心理(psychology),移行(transition),慢性腎臓病 (chronic kidney disease),小児(pediatric),成人(adult),自立(independence,self‒support),多種職ケア(multidisciplinary care) a) Harden PN, et al.:Optimal management of young adult transplant recipients:the role of integrated multidisciplinary care and peer support. Ann Saudi Med 33:489‒491, 2013 b) 河村美由希, 他.:腎移植を受けた学童期の患児に対する家族 管理から自己管理への移行に向けた看護.日小児腎不全会誌31:244‒246,2011 c)内海加奈子.:慢性腎不全をもつ子どもとその家族に対する 成人期移行に向けた長期的支援の検討と課題 米国におけるフィールド調査報告.日小児腎不全会誌 33:266‒268,2013 1)武井修治,他.:小児慢性疾患におけるキャリーオーバー患者 の現状と対策.小児保健研究 66:623‒631,2007 2) Javalkar K, et al.:Socioecologic factors as predictors of readiness for self‒management and transition, medication adherence, and health care utilization among adolescents and young adults with chronic kidney disease. Prev Chronic Dis 11:E117, 2014 Q 6移行期間には,腎臓小児科医や腎臓内科医は患者の心理的問題にどのように対応すべきか?思春期・青年期の小児CKD患者は,転科への不安に加え,就学,就労,生活問題,経済問題などに悩みを持つ。腎臓小児科医と腎臓内科医は,多職種の医療者と家族を含めたサポートチームを結成し,移行期の問題に起因する心理的ストレスに対して患者と家族に対する移行教育を行い,集学的支援で心理的負担の軽減に努めることが望ましい。 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
36 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 CKD状態での妊娠は,CKDの病態によっては妊娠高血圧症候群を発症し,妊娠中あるいは妊娠後の不可逆的な腎機能低下や尿蛋白増加などの原因となることもある1)。また,重篤な高血圧が発症するリスクも高く,母体および胎児の生命に危険が及ぶ場合がある。さらに,満期まで妊娠を継続できず,早期に出産を決断せざるをえず,低出生体重児を出産する確率も高い2)。よって,CKDでの妊娠・出産には母子ともにリスクがあることを患者自身および家族が理解できるように,腎臓小児科医と腎臓内科医がともに繰り返し説明を行うことが必要である。このような妊娠に関する情報は,患者と親で認識の差異があり,患者が十分に理解していないこともある。よって家族も含めた説明が必要であるa)。また,内服している薬剤によっては,胎児の催奇形性を高率に招くものがある。なかでもRAS阻害薬は小児CKD患者が多く内服している薬剤であるが,催奇形性が高く妊娠前に中止することが必要といわれている。このような専門医的知識は,患者自身や家族が知ることは難しく,妊娠に関して問題となる薬剤について医療者が十分に説明することが必要で あるb)。2010年度の厚生労働科研による「第5回男女の生活と意識に関する調査」によると,男女ともに性交経験が50%を越える年齢は19歳と報告されておりc),この時期は腎臓小児科医が診療を行っている場合も少なからずある。思春期・青年期は性に関する関心も急速に高まり,知識の乏しさから十分な避妊方法をとらずに性行為に至り,予期せぬ妊娠をしてしまうこともある。予期せぬ妊娠を防ぐためには,患者と保護者への性教育も必要である。妊娠・出産に関しては,腎臓内科医に転科する前から腎臓小児科医が教育を行い,引き続き腎臓内科医も教育を継続し,繰り返し妊娠・出産に伴うリスクを説明するべきである。なお,妊娠時の薬剤投与については,国立成育医療センターが「妊娠と薬情報センター」を設置し,「妊婦・胎児に対する服薬の影響」に関する相談を行っているので,その利用を勧めてもよいd)。 データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年8月までキーワード: 移行(transition),慢性腎臓病(chronic kidney dis- ease),妊娠(pregnancy),出産(delivery),妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension), a) Fernandes SM, et al.:Transition and transfer of adolescents and young adults with pediatric onset chronic disease:the patient and parent perspective. J Pediatr Rehabil Med 7: 43‒51, 2014 b)藤井絵里子.:小児慢性疾患の移行期医療―患者の抱える問 題や現場で直面するトラブルなど,これからの移行期医療を Q 7腎臓小児科医は思春期・青年期のCKD女性患者に妊娠時の危険性,内服薬による催奇形性に関して説明すべきか?腎臓小児科医は腎臓内科医とともに,CKD状態での妊娠に伴う母体の危険性,また胎児の発育障害や内服薬による催奇形性に関して,患者自身および家族に繰り返し説明するべきである。 背景・目的 思春期・青年期の小児CKD患者では,移行期あるいは転科後に妊娠を経験する可能性がある。その際,妊娠によりCKDが悪化する恐れがある。また,安全に妊娠を成立させるためには,妊娠前から内服薬の調節が必要である。思春期・青年期のCKD患者に対して,妊娠に関する情報をどのように提供すべきであるか検討した。 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 探ります.小児慢性疾患移行期の女性生殖医療.治療 93: 2021‒2031,2011 c) http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001dh87- att/2r9852000001dhhx.pdf d) https://www.ncchd.go.jp/kusuri/ 1) Vellanki K.:Pregnancy in chronic kidney disease. Adv Chronic Kidney Dis 20:223‒288, 2013 2) Kendrick J, et al.:Kidney disease and maternal and fetal outcomes in pregnancy. Am J Kidney Dis 66:55‒59, 2015 ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
38 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 小児期から慢性疾患を有する思春期・青年期の就学傾向は,健康な思春期・青年期と比較して短大,大学,大学院への進学率が低く,就職でも職種や職場の限定,就職断念,雇用拒否など,何らかの問題があったとする症例が過半数を占めていたとする報告がある1)。実際,CKD患者のわが国の移行に関する全国調査によると,大学や大学院に通っているCKD患者は43~44%で日本人の平均と比べやや低く,未就職も21~24%で一般の日本人より多かった2)。思春期・青年期は,小児から成人に移行する過程で,身体的にも,精神的にもいまだ発達過程である。特に,小児期から腎疾患があり治療を受けてきた患者は,精神的な発達状態が同年齢の思春期・青年期より未熟である場合がある。したがって,就学,就職,結婚・出産に向き合った場合,自分自身で将来に対する意思決定ができず,心理的に不安定になることがある。このような時期に,CKDの悪化,治療の途絶などが発生することがあり,注意が必要である。これを回避するためには,腎臓小児科医と内科医が連携し,よりきめ細かいCKD管理を行い,就学,就職,結婚・出産に向けた準備段階の支援を行うことで,患者の精神的自立を支え全人的医療に努める必要がある。前述したように,CKDを有する思春期・青年期の就学・就職には社会的な壁もあり,移行プログラムを通しての多面的な支援が必要だと考えられる。そのためには,CKDの病態に基づき,就学,就職後の身体的負担,心理的負担を鑑みたうえでの日常生活に対する助言を,協力的な学校関係者や職場管理者 とも連携をとって行うことが推奨されるa,3)。また,結婚・出産に関しては,これが現実的となった場合,保護者や産婦人科医に助言や協力を求めることが重要であるb)。以上より,患者の就学,就職,結婚・出産に際しては多職種でチームを結成し,移行プログラムを通して多面的に支援することが望ましい。 データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年8月までキーワード: 移行(transition),慢性腎臓病(chronic kidney dis- ease),就学(school attendance),就職(employment),結婚・出産(marriage・delivery) a)坂野 堯,他.:社会復帰(就学,就職)への支援方法を教えて ください(Q & A / 特集).腎と透析 66:724‒726,2009 b)藤井絵里子.:小児慢性疾患の移行期医療―患者の抱える問 題や現場で直面するトラブルなど,これからの移行期医療を探ります.小児慢性疾患移行期の女性生殖医療.治療 93: 2021‒2031,2011 1)武井修治,他.:小児慢性疾患におけるキャリーオーバー患者 の現状と対策.小児保健研究 66:623‒631,2007 2) Hattori M, et al.:Transition of adolescent and young adult patients with childhood onset chronic kidney disease from pediatric to adult renal services:a nationwide survey in Japan. Clin Exp Nephrol. (in press) 3)布川寿恵.:小児末期腎不全患者の社会復帰 就学および就職. 臨床透析 21:1397‒1404,2005 Q 8腎臓小児科医,腎臓内科医は患者の就学,就職,結婚・出産にどのように対応すべきか?腎臓小児科医は腎臓内科医とともに,看護師,産婦人科医,学校,職場関係者などによる多職種でチームを結成し,就学,就職,結婚・出産に関し,移行プログラムを通して多面的に支援することが望ましい。 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 小児透析患者の移行に関する論文は少ない。海外のCKD患者は,早期に腎移植が行われていることが要因の1つと考えられる。2004年に行われた北米とヨーロッパを対象にした調査では,移行プログラムがある施設は1 / 3程度であったとしている1)。移行プログラムの内容は,社会保障で小児と成人施設との治療がリンクしていること,施設を選べること,転院・転科前に成人施設を見学すること,などが含まれていることが多かった。また,移行プログラムのない施設の74%がその必要性を感じていたと報告されていた1)。わが国の小児慢性腎不全患者の現状について, 2006~2011年の5年間に,15~19歳で初回の腎代替療法はHD 37例(31.3%),PD 44例(37.2%)が選択されており2),総数では2013年12月31日の時点で15~ 20歳未満94例,20~25歳未満277例が透析を受けていた3)。ただ,これらの人数が小児施設で透析をされているのか,成人施設なのかは不明である。また,慢性腎不全の予備軍であるCKDステージG3~4の思春期・青年期の症例も相当数存在している4)。このようなことから,献腎移植の少ないわが国では,生体腎移植のドナーになりうる人がいない場合,若い世代も長期的に透析をする必要があり,移行すべき患者は確実に存在する。小児と成人とでは疾患構成が違い,成人は糖尿病腎症と慢性糸球体腎炎が2大疾患であるが,15~25歳未満では慢性糸球体腎炎の次はCAKUTとなる。15歳未満となると圧倒的に腎低形成などのCAKUTが多くなる3,4)。CAKUTは膀胱を含めた尿路系および生殖器の異常を合併することが多く,間欠的自己 導尿など,特殊なケアが必要になるため,内科医はそれらの疾患の理解,ケア方法などの知識を持っておく必要がある5)。また小児透析患者を管理する際には,成長を考慮に入れる必要があり栄養や透析効率,各種管理基準を成人と変える必要があるa)。そのような身体的な問題以外に,小児の透析患者は精神・運動の発達に遅れがあることが多く,成熟も遅い。精神的にも自我が育っておらず,鬱状態,否定的な感情があり,これらはすべてノンアドヒアランスにつながることになる1)。また,透析方法によっても異なる。PDはHDよりも自分で行うべき処置が多く,管理すべき項目も多くなる。そこで,より時間をかけて移行の準備をする必要がある。Forbesら6)の報告によると,透析中もしくは透析に入る直前の患者のほうが,転科する年齢がより遅いという報告がある。このように原疾患による管理方法や,透析方法,精神発達の状態は患者個々により違うため,年齢を限定することなく,個々の移行プログラムを基準としながら柔軟性を持って適用していくことが必要となるb)。 データベース:PubMed 医中誌期間:1980年~2015年8月までキーワード: 小児(children),移行(transition),キャリーオー バー(carry over),慢性腎臓病(chroic kidney disease),透析(dialysis),思春期(puberty),青年期(adolescence) Q 9小児透析患者に移行プログラムを適応すべきか? 小児透析から成人透析に移行する場合,成長・発達に合わせた透析条件の変更,服薬や食事に関する自己管理の自立が要求される。また,思春期・青年期は精神・運動発達の遅延,思春期特有の不安定な情緒,社会的不安定性も有しており,ノンアドヒアランスや透析不足を回避するためにも移行プログラムを適応することが望ましい。 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
40 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド a) National Kidney Foundation. :KDOQI Clinical Practice Guidelines and Clinical Practice Recommendations for 2006 Updates:Hemodialysis Adequacy, Peritoneal Dialysis Adequacy and Vascular Access. Am J Kidney Dis 48:S1‒ S322, 2006(suppl 1) b) Watson AR, et al.:Transition from pediatric to adult renal services:a consensus statement by the International Society of Nephrology(ISN)and the International Pediatric Nephrology Association(IPNA). Kidney Int 80:704‒707, 2011 1) Bell L.:Adolescent dialysis patient transition to adult care:a cross‒sectional survey. Pediatr Nephrol 22:720‒ 726, 2007 2)服部元史,他.:2006年~2011年末までの期間中に新規発生 した20歳未満の小児末期腎不全患者の実態調査報告.日児腎誌 26:330‒340,2013 3)中井 滋,他.:わが国の慢性透析療法の現況(2013年12月31 日現在).透析会誌 48:1‒32,2015 4) Ishikura K, et al.:Pre‒dialysis chronic kidney disease in children:results of a nationwide survey in Japan. Nephrol Dial Transplant 28:2345‒2355, 2013 5) Chirstopher RJW, et al.:Adult Care of Children From Pedi- atric Urology. J Urol 187:1164‒1171, 2012 6) Forbes TA, et al. :Adherence to transition guidelines in European paediatric nephrology units. Pediatr Nephrol 29:1617‒1624, 2014 ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 小児腎移植患者の移行の問題は,免疫抑制薬の進歩や管理方法の進歩により,腎生着率が格段に良くなり長期の生命予後が望まれるようになったことから派生したものである1~3)。小児と成人のCKD患者は疾患構成が違い,腎臓内科医がそれらの知識を持っていることが必要である。加えてほかのCKD患者の場合と違い,小児腎移植患者が成人施設へと転院・転科するうえで一番問題となることは,ノンアドヒアランスである。免疫抑制薬を適切に内服しない場合,容易に急性拒絶や移植腎廃絶につながる。小児腎移植患者とノンアドヒアランスとの関係は,2000年のWatson4)の報告から注目されるようになった。Watson4)は青年期の移植患者を成人施設に転院・転科させたところ,40%がノンコンプライアンスで急性拒絶を起こし,10%が腎廃絶となったと報告した。論文の冒頭に「思春期・青年期はノンコンプライアンスや腎廃絶の特にハイリスクなグループと思われる」と記載している。その報告以降,思春期・青年期がノンアドヒアランスや腎廃絶のリスクファクターであるとの報告は多く出ており,薬に関するノンアドヒアランスは年齢に依存するという報告もあるa,4)。Wolffら5)は小児腎移植患者のノンアドヒアランスの頻度は各論文で8~ 70%とばらつきはあるが,平均すると約40%であるとしている。腎移植患者の思春期・青年期とノンアドヒアランスとの関係を考える場合,基本的に発達段階において普通の思春期・青年期の特徴がもともとノンアドヒアランスであるということを念頭に置いて対処する必要があるa)。そのうえ,小児のCKD患者は精神・運動の発達に遅れがあることが多く,成熟も遅 い。精神的にも自我が育っておらず,鬱状態,否定的な感情があり6),それらの要因はさらにノンアドヒアランスにつながりやすい。そのような危険な思春期・青年期であっても,最近では転科をしても腎廃絶や急性拒絶の頻度は変わらなかったとする報告が出てきている1,7)。手術直後からノンアドヒアランスである患者は,その後もノンアドヒアランスである8)という報告もあり,Heuvelら1)は透析中にノンアドヒアランスである患者は献腎移植待機リストには登録しないなどの工夫をしながら,移植後3年の急性拒絶は逆に減ったと報告している。以上のように,思春期・青年期はノンアドヒアランスのハイリスクであることを念頭に置きながら,各個人の成熟段階,周りの環境なども考慮に入れながら移行プログラムを適用することが重要であるb)。 データベース:PubMed 医中誌期間:1980年~2015年8月までキーワード: 小児(children),移行(transition),キャリーオー バー(carry over),腎臓移植(renal transplantation),思春期(puberty),青年期(adolescence) a) Rianthavorn P, et al.:Noncompliance with immunosup- pressive medications in pediatric and adolescent patientsreceiving solid‒organ transplants. Transplantation 77;778‒ 782, 2004 b) Watson AR, et al.:Transition from pediatric to adult renal services:a consensus statement by the International Society of Nephrology(ISN)and the International Pediatric Q 10小児腎移植患者に移行プログラムを適応すべきか? 小児腎移植患者が成人腎移植患者に移行するとき,服薬自己管理,検査自己管理,精神的あるいは社会的自立が必要される。これらが不十分であると移植腎の機能喪失に結び付く。このようなノンアドヒアランスを回避するために,移行プログラムを適応することが望ましい。 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
42 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド Nephrology Association(IPNA). Kidney Int 80:704‒707, 2011 1) van den Heuvel ME, et al.:Transition to the adult nephrolo- gist does not induce acute renal transplant rejection. Nephrol Dial Transplant 25:1662‒1667, 2010 2) Cransberg K, et al.:Improved outcome of pediatric kidney transplantations in the Netherlands‒Effect of the introduction of mycophenolate mofetil? Pediatr Transplantation 9:104‒111, 2005 3) Groothoff JW, et al.:Long‒term follow‒up of renal trans- plantation in children:a Dutch cohort study. Transplantation 78:453‒460, 2004 4) Watson AR.:Non‒compliance and transfer from paediatric to adult transplant unit. Pediatr Nephrol 14:469‒472, 2000 5) Wolff G, et al.:Non‒compliance following renal transplan- tation in children and adolescents. Pediatr Nephrol 12: 703‒708, 1998 6) Bell L.:Adolescent dialysis patient transition to adult care:a cross‒sectional survey. Pediatr Nephrol 22:720‒ 726, 2007 7) Koshy SM, et al.:Renal Allograft Loss During Transition to Adult Healthcare Services Among Pediatric Renal Transplant Patients. Transplantation 87:1733‒1736, 2009 8) Kalb LM, et al.:Child disobedience and noncompliance:a review. Pediatrics 111:641‒652, 2003 ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 腎臓小児科医は日常診療で小児の成長,発達に注意を払い,話をする中心は両親となることが多い。一方,腎臓内科医が診察する成人患者は一般的には自立している。そのため,腎臓内科医は妊娠・出産や就職についての認識は深いが,小児の発達段階についての知識は浅く,また家族への配慮の度合いが異なることからa),双方の診療方法は大きく違う。このようなことから,今まで腎臓小児科医に受診していた患者が,突然,腎臓内科医に受診した場合,かなりの違和感を感じたり,冷たいと感じたりすることは容易に想像でき,これは喪失感や疎外感を持つことにつながる。実際にエキスパートの意見では,移行に重要なキーポイントは,小児科医と成人診療科の良好な関係性であったとする報告がある1)。英国の小児腎臓病学会では,転科の際は事前に一度は転科先の施設や病院に行くことを勧めておりb),米国の小児科学会では,小児医療から成人医療への移行にあたっては,一定の期間小児科医と成人診療科医が一緒に患者をみるシステムを設けているc,d)。看護師向けの移行期支援ガイドブックe)にも,移行スケジュールのなかで準備が整った段階で,成人施設の見学に行くことが明記されている。このように,移行は段階的に行うほうがよく,可能な限り小児科と成人診療科の併診期間を設けることが望ましい2)。データベース:PubMed 医中誌 期間:1980年~2015年8月までキーワード: 小児(children),移行(transition),キャリーオー バー(carry over),腎臓移植(renal transplantation),思春期(puberty),青年期(adolescence) a) Viner R.:Transition from paediatric to adult care. Bridging the gaps or passing the buck? Arch Dis Child 81:271‒275, 1999 b) http://www.renal.org/docs/default-source/what-we-do/ RA_BAPN_-_Helping_Adolescents_and_Young_Adults_ with_ESRF_-_July_2009.pdf?sfvrsn=0(2015.12.5確認) c) Future of pediaric education II (FOPE II) project members. The future of pediatric education II:organizing pediatric education to meet the needs of infants, children, adolescents, and young adults in the 21st century. Pediatrics 105:157‒212, 2000 d) Transition of care provided for adolescents with special health care needs. American Academy of Pediatrics Committee on Children with Disabilities and Committee on Adolescence. Pediatrics 98:1203‒1206, 1996 e)丸 光惠.:成人移行期支援看護師・医療スタッフのための移 行期支援ガイドブック.医学書院 1) Suris JC, et al.:Key elements for, and indicators of, a suc- cessful transition:an international Delphi study. J Adolesc Health 56:612‒618, 2015 2) LaRosa C, et al.:Solid‒Organ Transplantation in Child- hood:Transitioning to Adult Health Care. Pediatrics 124: 743‒753, 2011 Q 11移行期間には,腎臓小児科と腎臓内科の併診期間を設ける必要があるか?腎臓小児科医と腎臓内科医とでは説明方法や患者に対する診療のアプローチが違うため,急に転科した場合,患者には大きな医療環境の変化として感じられる。そのような急激な変化を緩和するために徐々に移行することが望ましく,併設期間を設けることが望ましい。 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
44 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 思春期・青年期は,精神的にも身体的にも不安定な状態にありa),その時期に無理に転科すると,疎外感,孤独感を感じさせることになり,医療者との信頼関係が崩れることにもなりうるためb),慎重に進めてゆく必要がある。転科は移行の一部であり,準備は早期から始めるものである。移行プログラムを順に時間をかけて進めてゆけば,転科を拒む患者は少なくなると思われる。そのうえで,転科を拒む患者は,まだその準備ができていない状態と考えられる。患者が転科をするということは,一般の健常者と同じく成人となるための一連の自然な過程であると認識してもらう必要がある。時間をかけて働きかけ,精神的自立が得られるように支持し,腎臓小児科医や腎臓内科医だけでなく,看護師やソーシャルワーカーなど多職種のチームが,本人,家族と話し合いながら,自主的に移行できるようにすることが望ましい。データベース:PubMed 医中誌 期間:1980年~2015年8月までキーワード: 小児(children),移行(transition),キャリーオー バー(carry over),思春期(puberty),青年期(adolescence) a) Rianthavorn P, et al.:Noncompliance with immunosup- pressive medications in pediatric and adolescent patients receiving solid‒organ transplants. Transplantation 77:778‒ 782, 2004 b) Viner R.:Transition from paediatric to adult care. Bridging the gaps or passing the buck? Arch Dis Child 81:271‒ 275, 1999 なし Q 12腎臓小児科医は転科を拒む患者への対応をどうするべきか? 小児CKD患者にとって,成人期になって腎臓内科に転科することは成熟過程で必要なことである。しかし,精神的自立性が伴わず転科を拒む患者は,病状の悪化,精神的不安定などを招くことがある。よって,精神的自立が得られることを先行させ,早急な転科を避けるべきである。 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 成人施設に移ることは健常者であっても難しいことであり,しばしば成人施設に行かなかったり,ドロップアウトしたりする契機になることがあるa)。武井らは50.8%の小児科医が紹介先の内科医から患者が戻ってきてしまったことを体験したと報告しているb)。小児科医は診察時に,患者の成長,発達に注意を払うが,話をする中心は両親であることが多く,一般的に小児科医と患者,親との距離感は近い。一方,成人診療科医が話をする相手は自立した患者である。妊娠・出産や就職については認識しているが,小児の発達段階についての知識は十分でなく,家族への配慮の度合いも異なるa)。患者との関係には一定の距離があり,成人診療科を受診して違和感や冷たいという感じを覚え,小児科に戻りたいという患者が出る可能性もある。このようなことがないように,併診の時期を設けることをガイドでは推奨している。それでも小児科に戻りたいという患者は,しっか り受け入れて復帰させ,その理由に応じて,成人診療科と連携しながら転科できるように促す。また,移行プログラムがうまく機能していなかった可能性もあり,もう一度やり直すことも考慮する。 データベース:PubMed 医中誌期間:1980年~2015年8月までキーワード: 小児(children),移行(transition),キャリーオー バー(carry over),思春期(puberty),青年期(adolescence) a) Viner R.:Transition from paediatric to adult care. Bridging the gaps or passing the buck? Arch Dis Child 81:271‒275, 1999 b) 武井修治,他.:小児慢性疾患におけるキャリーオーバー患者 の現状と対策.小児保健研究 66:623‒631,2007 なし Q 13腎臓内科医や腎臓小児科医は転科後,患者が小児科に戻りたいと言ってきたときの対応はどうするか?小児科に戻りたいと言ったときは,その患者はまだ移行プログラムがうまく達成していなかったと考え,拒むことはせずに復帰させ,時間をかけて自主的に移行できるように働きかけることを推奨する。 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
3章 思春期・青年期の腎臓病:診断・治療・管理
48 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 ◆ たんぱく質の摂取推奨量 ◆ 表1に15~17歳および18~29歳の思春期・青年期の良質(動物性)たんぱく質の平均必要量および推奨量を示すa)。必要量は窒素出納維持量を検討した過去の複数の報告をもとに決定され,これにたんぱく質の消化率および個人間の変動係数を乗じて推奨量が決定された。また,15~17歳の推奨量は成長に伴い蓄積されるたんぱく質蓄積量から要因加算法を用 いて決定された。これらをもとに,15~17歳における推奨量は約1.0 g / kg・実体重/ 日,18~29歳における推奨量は0.90 g / kg・実体重/ 日となっている。 ◆ たんぱく質制限の効果 ◆ たんぱく質制限には腎代替療法導入遅延効果が認められるが,腎機能低下速度を抑制する効果には乏しい。小児CKDにおけるたんぱく質制限の有効性に関しては,わずかではあるがRCTが存在し,いずれもたんぱく質制限による腎機能障害進行抑制効果はなかったと報告されている1)。2007年のコクランレビューにおいても,明らかな効果は認められなかったと結論付けられている2)。一方で単施設の観察研究であるが,栄養管理の専門家による協力のもとでたんぱく質制限を行った結果,腎機能の低下速度が改善したとの報告もある3)。また,たんぱく質制限によって血清尿素窒素/ Cr比が改善することは事実であり4),高リン血症や高窒素血症に対するたんぱく質制限は有効と考えられる。成人CKDにおけるたんぱく質制限の有効性に関する報告は多数存在する。たんぱく質制限による尿蛋白および尿中アルブミン減少効果が糖尿病腎症において示されている一方で,非糖尿病腎症においては有効,無効いずれの報告5)も存在し,結果の一致は確認できていない。さらに,ESKDをアウトカムとした報告では,糖尿病腎症と非糖尿病腎症のいずれにおいてもたんぱく質制限の有効性が認められて CQ 1思春期・青年期のCKD患者では,たんぱく質制限や塩分制限などの食事療法は腎機能予後を改善させるか?思春期・青年期のCKD患者では,たんぱく質制限や塩分制限の腎保護効果は証明されていない。過度のたんぱく質制限は成長・発達面に悪影響を及ぼすと考え,QOLを阻害しない程度の年齢に応じた摂取を推奨する。ただし,総エネルギー摂取量が不足する場合は,たんぱく質以外の栄養 素摂取により不足分を補う必要がある。 推奨 酉2D 高血圧や浮腫を認める場合は食塩6 g / 日未満の制限とし,それ以外は塩分制限を実施しない ことを推奨する。 推奨 酉2D 背景・目的 成人のCKD患者ではたんぱく質制限や塩分制限がCKDの進行を抑制するために推奨されているが,近年否定的な報告も出され議論の余地がある。成長・発達がある思春期・青年期のCKD患者では厳しい食事制限は推奨されず,基本的には健常者と同等の食事摂取を行う。ただし,CKDに伴う各種代謝異常が内科的に管理不能となった場合には,一時的な食事制限を考慮してもよい。しかし,思春期・青年期のCKD患者ステージG5では先行的腎移植の可能性も含め,積極的に腎代替療法の導入を検討・準備すべきである。思春期・青年期のESKDの原因疾患には,塩類喪失を特徴とするCAK UTの占める割合が多い。CAKUTが原因であるCKD患者においては,常に慢性脱水の可能性を念頭に置き,通常よりも多めの水分摂取や塩分補充を指導する必要がある。
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド いる6,7)。一方,腎機能低下速度をアウトカムとした場合,たんぱく質制限の効果は明らかではない8,9)。 ◆ たんぱく質制限による有害事象 ◆ 主に成人における研究であるが,多くの研究でたんぱく質制限は安全に施行可能であるという結論が出されてきた。しかし,2009年に報告されたMDRD研究Study Bの長期追跡結果では,厳格なたんぱく質制限による生命予後悪化の可能性が示唆された10)。この研究は,GFR 13~24 mL / 分/ 1.73 m2のCKD患者255例を対象として,アミノ酸・ケト酸サプリメントを併用した厳格なたんぱく質制限食群(0.28 g / kg・基準体重/ 日)と通常のたんぱく質制限食群(0.58 g / kg・基準体重/ 日)へランダムに割り付け,中央値2.2年間にわたり観察したRCTである。この試験終了後7年が経過した時点で生存解析を行ったところ,ESKD単独のアウトカムでは両群間に差は認められなかったものの,死亡をアウトカムにすると厳格制限群に有意にリスクの上昇が認められた(ハザード比1.92,95%CI:1.15‒3.20)。厳格なたんぱく質制限を行ったためにエネルギー摂取量が不足し,異化亢進に伴う死亡リスク増加の可能性が示唆された。◆ たんぱく質制限の適応 ◆ これまで,小児CKD患者におけるたんぱく質制限のメリットは証明されていない。ESKDに対する有効性が認められた成人CKD患者のRCTのほとんどは,対象者の平均年齢が50~60歳台で,主に顕性蛋白尿を呈しているCKDステージG3b~5であること,つまりESKDのリスクが高い集団に対する検討である。したがって,成長・発達段階にある思春期・青年期のCKD患者に画一的にたんぱく質を制限することは推奨されない。国民健康・栄養調査によると日本人の食事のたんぱく熱量比は,男性14%,女性15%程度でどの年齢も変わりはない。一方で日本人の食事摂取基準は,活動レベルIだとしても,17~ 19歳の男子は2,500 kcalで,たんぱく質は65 gとなっている。これは総エネルギー摂取量の10.4%に過ぎず(表2),19~29歳も同様である。加えて20~ 29歳のデータをみると朝食欠食率は30%に上り,外食の割合もほかの年齢層に比して著しく高率であるb)。したがって,通常の日本人の食事では,たんぱく質の推奨量を遵守しようとすると600 kcal程度のエネルギー量摂取不足になる。そのため,エネルギー量をいかに補うかが極めて重要になる。また,社会生活を営むうえでQOLを阻害することにもなるので,これらに配慮した栄養指導を行う必要があ 表1 たんぱく質の食事摂取基準 性 別男 性女 性年齢等推定平均 必要量推奨量目安量目標量(中央値)推定平均 必要量推奨量目安量目標量(中央値) 15~17(歳) 50 65 ― 13~20 (16.5) 45 55 ― 13~20 (16.5) 18~29(歳) 50 60 ― 13~20 (16.5) 40 50 ― 13~20 (16.5)推定平均必要量,推奨量,目安量:g /日,目標量(中央値):%エネルギー 表2 エネルギーの食事摂取基準 性 別男 性女 性身体活動レベル1 I II III I II III 15~17(歳) 2,500 2,850 3,150 2,050 2,300 2,550 18~29(歳) 2,300 2,650 3,050 1,650 1.950 2,200推定エネルギー必要量:kcal /日。1身体活動レベルは:I 低い,II ふつう,III 高い。
50 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド る。また制限にあたっては,先行的腎移植前や腎代替療法直前であり,CKDに伴う各種代謝異常が保存的に管理不能となった場合など,個々の症例に応じた検討が必要である。 ◆ 成人CKDに推奨される塩分摂取量 ◆ CKDの重症度別に食塩摂取量を詳細に検討した報告はないが,CKDで合併の多い高血圧の予防と治療および心血管疾患とESKDの予防のために,Na摂取量100 mmol(食塩5.8 g)/ 日,すなわち食塩6 g /日未満が適切と考えられる。 ◆ 食塩制限の効果 ◆ 小児CKDにおいて,塩分制限が高血圧の有無によらず腎機能障害の進行を抑制するか,あるいは蛋白尿を抑制するかは現時点では不明であるが,高血圧のコントロールがCKDの進行を抑制するというエビデンスは存在する。2006年に行われたメタ解析では,積極的な塩分制限によって小児の収縮期血圧および拡張期血圧が低下したと報告された11)。2008年に報告されたイギリスの大規模な横断研究においても,塩分摂取量と収縮期血圧には正の相関が認められている12)。したがって,塩分制限は降圧には有効であり,腎機能障害進行を抑制する可能性が示唆されている。しかし,小児ESKD の原因疾患の第1 位であるCAKUTでは,多尿および塩類喪失傾向を示すことが多い。この場合は,積極的な塩分と水分の補給によって小児保存期CKDの進行が改善したと報告されており,塩分制限は行うべきではない。一方,成人CKDにおいては血圧,蛋白尿,微量アルブミン尿,腎機能低下およびESKDのいずれに対しても塩分制限の効果が認められている13~18)。以上のことから,ステージG4 ~5のCKDかつ溢水や高血圧を認める場合においては塩分制限は必須であるが,それらがない患者に関しては個々の症例に応じて検討するべきである。データベース:PubMed 期間:1990年~2015年7月までキーワード: たんぱく質:diet, protein‒restricted, low protein diet, kidney disease, children塩分:sodium, salt, salt intake, sodium intake, sodium restriction, sodium supplementation, dietary salt, dietary sodium, blood pressure, hypertension, GFR, ESRD, ESKD, proteinuria, chronic kidney disease, chronic renal failure, children a)厚生労働省.:日本人の食事摂取基準(2015年版).2014 b)厚生労働省.:平成25年国民健康・栄養調査報告.2015 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h25‒ houkoku.html 1) Wingen AM, et al.:Randomised multicentre study of a low‒ protein diet on the progression of chronic renal failure in children. European Study Group of Nutritional Treatment of Chronic Renal Failure in Childhood. Lancet 349:1117‒ 1123, 1997 2) Chaturvedi S, et al.:Protein restriction for children with chronic renal failure. Cochrane Database Syst Rev: CD006863, 2007 3) Jureidini KF, et al.:Evaluation of long‒term aggressive dietary management of chronic renal failure in children. Pediatr Nephrol 4:1‒10, 1990 4) Uauy RD, et al.:Dietary protein and growth in infants with chronic renal insufficiency:a report from the Southwest Pediatric Nephrology Study Group and the University of California, San Francisco. Pediatr Nephrol 8:45‒50, 1994 5) Pan Y, et al.:Low‒protein diet for diabetic nephropathy:a meta‒analysis of randomized controlled trials. Am J Clin Nutr 88:660‒666, 2008 6) Fouque D, et al.:Low protein diets for chronic kidney dis- ease in non diabetic adults. Cochrane Database Syst Rev: CD001892, 2009 7) Pedrini MT, et al.:The effect of dietary protein restriction on the progression of diabetic and nondiabetic renal diseases:a meta‒analysis. Ann Intern Med 124:627‒632, 1996 8) Robertson L, et al.:Protein restriction for diabetic renal disease. Cochrane Database Syst Rev:CD002181, 2007 9) Kasiske BL, et al.:A meta‒analysis of the effects of dietary protein restriction on the rate of decline in renal function. Am J Kidney Dis 31:954‒961, 1998 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 10) Menon V, et al.:Effect of a very low‒protein diet on out- comes:long‒term follow‒up of the Modification of Diet in Renal Disease(MDRD)Study. Am J Kidney Dis 53:208‒217, 2009 11) He FJ, et al.:Importance of salt in determining blood pres- sure in children:meta‒analysis of controlled trials. Hypertension 48:861‒869, 2006 12) He FJ, et al.:A comprehensive review on salt and health and current experience of worldwide salt reduction programmes. J Hum Hypertens 23:363‒384, 2009 13) Yu W, et al.:Importance and benefits of dietary sodium restriction in the management of chronic kidney disease patients:experience from a single Chinese center. Int Urol Nephrol 44:549‒556, 2012 14) Slagman MC, et al.:Moderate dietary sodium restriction added to angiotensin converting enzyme inhibition compared with dual blockade in lowering proteinuria and blood pressure:randomised controlled trial. BMJ 343: d4366, 2011 15) Vogt L, et al.:Effects of dietary sodium and hydrochloro- thiazide on the antiproteinuric efficacy of losartan. J Am Soc Nephrol 19:999‒1007, 2008 16) Verhave JC, et al.:Sodium intake affects urinary albumin excretion especially in overweight subjects. J Intern Med 256:324‒330, 2004 17) Lin J, et al.:Associations of diet with albuminuria and kid- ney function decline. Clin J Am Soc Nephrol 5:836‒843, 2010 18) Vegter S, et al.:Sodium intake, ACE inhibition, and progres- sion to ESRD. J Am Soc Nephrol 23:165‒173, 2012
52 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年Wingen 1997研究デザインRCT P N=191.小児CKDステージG3以上Iたんぱく質制限 0.8 ~1.1g/kg/日C制限なしO腎機能障害進行にたんぱく質制限は効果なしコメントなし 文献番号2著者発表年Chaturvedi 2007研究デザインシステマティックレビュー7 P小児N=250 Iたんぱく質制限N=124 C制限なし.N=126 O腎機能障害進行に効果なしコメントなし 文献番号3著者発表年Jureidini 1990研究デザイン観察研究P成人N=10.平均GFR 27mL/分/1.73m2.3年間Iたんぱく質制限1 ~1.2g/kg/日CなしO腎機能障害進行抑制にたんぱく質制限は有効コメントなし 文献番号4著者発表年Uauy 1994研究デザインRCT P小児N=24.血清クレアチニン0.5mg/dL以上Iたんぱく質制限.N=11.1.4±0.3g/kg/日C制限なし.N=13.2.4±0.4g/kg/日O腎機能障害進行に効果なしコメントなし 文献番号5著者発表年Pan 2008研究デザインメタ解析P 8研究.成人N=519.1型および2型糖尿病
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド Iたんぱく質制限C制限なしO腎機能障害進行に効果なしコメントなし 文献番号6著者発表年Fouque 2009研究デザインシステマティックレビューP 10研究.成人N=2,000 Iたんぱく質制限.N=1,002 C制限なし.N=998 O透析導入時期の延長に有効コメントなし 文献番号7著者発表年Pedrini 1996研究デザインメタ解析P 10研究.成人N=1,521.糖尿病および非糖尿病Iたんぱく質制限C制限なしO腎機能障害進行に抑制効果ありコメントなし 文献番号8著者発表年Robertson 2007研究デザインシステマティックレビューP 12研究.成人1型および2型糖尿病Iたんぱく質制限C制限なしO糖尿病腎症の進行抑制に効果ありコメントなし 文献番号9著者発表年Kasiske 1998研究デザインメタ解析P 13 研究.成人N=1,919.糖尿病および非糖尿病Iたんぱく質制限C制限なしO腎機能障害進行に抑制効果ありコメントなし
54 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号10著者発表年Menon 2009研究デザインRCT P成人N=255.年齢50.8±12.8 I超低たんぱく質食(0.28g/kg/日).N=126 C低たんぱく質食(0.58g/kg/日).N=129 O腎不全には効果なし,死亡リスクは増加コメントなし 文献番号11著者発表年He 2006研究デザインメタ解析P 10 研究.小児N=966 I塩分制限C制限なしO収縮期/拡張期血圧の低下に効果ありコメントなし 文献番号12著者発表年He 2009研究デザイン横断研究P小児N=1,658 I塩分摂取C制限なしO収縮期血圧と塩分摂取とには正の相関ありコメントなし 文献番号13著者発表年Yu 2012研究デザイン前向きコホート研究P成人N =176.非糖尿病患者I 20例のIgA腎症に対して7日間の塩分制限(100mmol/日) CなしO血圧降下と蛋白尿に効果ありコメントなし 文献番号14著者発表年Slagman 2011研究デザインRCT P成人N=52.非糖尿病患者
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド I 50mmolNa/日C 200mmolNa/日O蛋白尿 および血圧に効果ありコメントなし 文献番号15著者発表年Vogt 2008研究デザインRCT P成人N=34.非糖尿病患者.平均蛋白尿 3.8g/日.プラセボ,losartanおよびlosartan+HCTの投与I塩分1.2g/日C塩分4.8g/日O蛋白尿および血圧に効果ありコメントなし 文献番号16著者発表年Verhave 2004研究デザイン横断研究P成人N=7,850 IなしCなしO塩分摂取量と尿中アルブミン量に相関ありコメントなし 文献番号17著者発表年Lin 2010研究デザイン前向きコホート研究P成人.観察期間10年以上IなしCなしO eGFRが30%以上低下するリスクは高塩分摂取群で高い(5.8 ~13.9g/d)コメントなし 文献番号18著者発表年Vegter 2012研究デザイン前向きコホート研究P成人N=500.非糖尿病患者.観察期間4.25年以上IなしCなしO高塩食(>14g/d)によりESKDの危険性上昇コメントなし
56 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 ◆ 運動負荷による影響 ◆ 運動が腎機能予後および尿蛋白に与える影響を検討した報告は,いずれもサンプルサイズが小さく統計的パワーが欠如している。さらに,結果にも一貫性が認められず,各群でのポピュレーションの隔たりがある可能性がある2~5)。したがって,現時点では運動がCKD患者の腎機能予後にどのような影響を与えるかは不明である。さらに,小児CKDでは運動負荷によるCKD進行をアウトカムにした報告は存在しない。運動が若年成人CKDに与える短期的な影響を検討した報告が2編ある。Tavernerら6)はCKDステージG 2~3の若年成人6例(慢性糸球体腎炎5例,多発性囊胞腎1例)を対象として,自転車エルゴメーター負荷試験を行い,GFRの変化を検討した。その結果,負荷直後にGFRが有意に低下したものの,30~60分後にはもとのレベルに回復していた。 また,Fuianoら7)は若年成人のIgA腎症患者10例に対してトレッドミル負荷直後の尿蛋白量と1日尿蛋白量を検討した。その結果,トレッドミル負荷前, 60分後,120分後の尿蛋白量はそれぞれ0.76±0.21, 1.55±0.28,0.60±0.11 mg / 分/ 100 mL GFRであり,負荷後120分でベースラインの尿蛋白量に回復していた。また,負荷による1日尿蛋白量の増加は認められなかったと報告している。以上の結果から,小児CKD患者における運動による蛋白尿やGFRへの影響は一過性であると考えられる。一方,思春期・青年期においては過度の運動制限は精神的なストレスも含めて患者のHRQOLを低下させる可能性があり,これらを念頭に置く必要がある。ただし,高度の浮腫やコントロールされていない高血圧,溢水による心不全,抗凝固療法中などでは病状に応じた運動制限が必要であるため,個々の患者の状態を定期的に評価したうえで運動計画を立てるのが望ましい。 データベース:PubMed期間:1990年~2015年7月までキーワード: exercise, renal function, chronic kidney disease, chronic renal failure, children, ESRD, ESKD なし 1) Heiwe S, et al.:Exercise training for adults with chronic kid- ney disease. Cochrane Database Syst Rev:CD003236, 2011 CQ 2運動制限は思春期・青年期のCKD患者の腎機能予後を改善させるか?運動が思春期・青年期のCKD患者の腎機能にどのような影響を及ぼすかについては現状では 明らかではないため,運動制限を実施しないことを推奨する。 推奨 酉1C 背景・目的 運動が,思春期・青年期のCKD患者の腎機能予後に影響を与えるかは明らかではない。コクランレビューでは,成人CKD患者1,863例を対象とした45件のRCTをシステマティックレビューしている。運動介入群では,運動耐応能,循環器系指標(血圧,心拍数),栄養指標(血清アルブミン値,総コレステロール値など),健康関連のQOL (health related QOL:HRQOL)の改善が認められたと報告している。しかし,腎機能や尿蛋白などの変化については十分なエビデンスがないと結論付けている1)。 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 2) Clyne N, et al.:Effects of exercise training in predialytic uremic patients. Nephron 59:84‒89, 1991 3) Boyce ML, et al.:Exercise training by individuals with pre- dialysis renal failure:cardiorespiratory endurance, hypertension, and renal function. Am J Kidney Dis 30:180‒192, 1997 4) Leehey DJ, et al.:Aerobic exercise in obese diabetic patients with chronic kidney disease:a randomized and controlled pilot study. Cardiovasc Diabetol 8:62, 2009 5) Baria F, et al.:Randomized controlled trial to evaluate the impact of aerobic exercise on visceral fat in overweight chronic kidney disease patients. Nephrol Dial Transplant 29:857‒864, 2014 6) Taverner D, et al.:Effects of exercise on renal function in patients with moderate impairment of renal function compared to normal men. Nephron 57:288‒292, 1991 7) Fuiano G, et al.:Can young adult patients with proteinuric IgA nephropathy perform physical exercise? Am J Kidney Dis 44:257‒263, 2004
58 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年Heiwe 2011研究デザインシステマティックレビューP 45 研究.N=1,836.成人CKD I運動CなしO HRQOL,CKDに関する栄養指標に運動は効果ありコメントなし 文献番号2著者発表年Clyne 1991研究デザインNon-RCT P成人N=19 I N=10.年齢 47±8.GFR 15±7 12週間,週3回45分間maxの60 ~70%の運動を監督下で行うC N=9.年齢 46±10.GFR 13±6 O運動能力および大腿部の筋肉機能に変化なしコメントなし 文献番号3著者発表年Boyce 1997研究デザイン前向きコホート研究P成人N=8.年齢 50.4±6.8 I 4カ月間,週3回60分以内心拍数が1.5倍になるようにウォーキングおよびサイクリングを監督下で行うCなしO VO2peak,VT および 膝関節屈曲筋力および収縮期/拡張期血圧に効果ありコメントなし 文献番号4著者発表年Leehey 2009研究デザインRCT P成人N=7.平均年齢 66 I 24 週間プログラム6 週間,3回 / 週 監督下ウォーキングを施行した後に在宅で30分以上の運動を18週間行うC N=4.平均年齢 66 O運動耐容能には効果あり蛋白尿,eGFR,血圧およびCRPには効果なしコメントなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号5著者発表年Baria 2014研究デザインRCT P成人N=10.施設での運動群:年齢 52.1±11.4.GFR 25.8±8.8 N=8.在宅での運動群:年齢 50.8±7.7.GFR 29.4±11.5 I 12週間,3回/週 施設もしくは在宅での有酸素運動,30分 at VT,4週間ごとに10分延長C N=9.年齢 53.4±9.6.GFR 27.7±15.0 O施設での運動:内臓脂肪,腹囲,平均血圧,身体機能評価,脚の除脂肪量およびeGFRに効果あり在宅での運動:平均血圧に効果ありコメントなし 文献番号6著者発表年Taverner 1991研究デザイン前向きコホート研究P若年成人N=6.CGN=5,ADPKD=1.年齢 19 ~39 I自転車エルゴメーター不可CなしO負荷直後の一過性のGFR低下がみられたが,30 ~60分後に回復コメントなし 文献番号7著者発表年Fuiano 2004研究デザイン前向きコホート研究P IgA腎症と診断された若年成人 N=10.年齢 33.2±4.23 Iトレッドミル負荷CなしO尿蛋白量の変化は一過性のみ.120分後には回復コメントなし
60 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説◆ MetSと診断基準に関して ◆ MetSとは,内臓脂肪の過剰蓄積がアディポサイトカイン分泌変動をはじめとする種々の脂肪組織代謝異常を引き起こし,それが動脈硬化や2型糖尿病を惹起・促進させる病態のことであるe)。わが国の高校生の診断基準を表に示すf)。小児(6~15歳)と成人における診断基準と指標は同じだが,基準値が異なる(詳細は各診断基準を参照のことe))。 ◆ 肥満はCKD進行のリスクなのか ◆ 肥満とCKD進行を検討したメタ解析2)で,肥満はCKD進行のリスクであり,女性は男性よりもその関連が強いと報告されている。メタ解析には18歳から若年成人も含まれているため,その年齢におけるエビデンスは十分にあると考えられる。そのメタ解析のなかにも含まれる代表的なコホート研究としては,以下のものがある。わが国の研究3) (n=100,753)で,20歳以上のBMI高値の男性は, CQ 3思春期・青年期のCKD患者では,肥満やメタボリックシンドローム(MetS)は腎機 能予後や生命予後を悪化させるため,体重の適正化などの加療が推奨されるか? 思春期・青年期のCKD患者では,肥満およびMetSが腎機能予後を悪化させる可能性があるため,体重の適正化などの加療が推奨される。CKDステージG4~5では,MetSの腎機能予後に与える影響が小さくなる可能性があるが,その場合でも,体重の適正化などの加療が必要である。 推奨 酉2B 思春期・青年期のCKD患者では,MetSを有すると生命予後が悪化するため,体重の適正化な どの加療が推奨される。 推奨 酉2B 背景・目的 思春期・青年期から成人に移行する症例は,日本全体で行われたサーベイランスd)によると,IgA腎症(27.1%),微小変化型ネフローゼ症候群(16.7%),ループス腎炎(4.7%),紫斑病性腎炎(3.8%)などがその大部分を占めている。これらの疾患に共通していることは,副腎皮質ステロイドの量・使用頻度が高いことである。実際,シクロスポリンを導入された頻回再発型ネフローゼ症候群(FRNS)患児の78.3%が,10年後においても1度以上の再発が認められるか,免疫抑制薬の使用継続を与儀なくされていたという報告1)があり,小児FRNS患者は思春期・青年期以降も副腎皮質ステロイドの使用頻度が高いことが示されている。一方で,副腎皮質ステロイドは食欲増進や内臓脂肪蓄積型肥満の誘導などの副作用があることから,思春期・青年期から成人に移行するCKD患者は肥満となるリスクが高いと考えられる。上記報告1)では過体重の患者が15.2%(肥満は8.7%)を占めていた。また,わが国でも欧米と同様に肥満者が増加傾向にある。本CQでは,思春期・青年期のCKD患者が肥満やMetSを有することで腎機能悪化につながるのか,さらにそれらの是正が推奨されるかを検討した。表 MetSの診断基準(高校生用) 性別男女腹囲80cm以上 血清脂質(いずれか)トリグリセリド110mg/dL以上 HDLコレステロール45mg/dL未満50mg/dL未満血圧(いずれか)収縮期血圧130mmHg以上120mmHg以上 拡張期血圧75mmHg以上空腹時血糖95mmHg以上
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド ESKDのリスクであると報告されている。米国での研究4) (20歳以上,n=320,252)では,性別に関係なく,BMI高値がESKDのリスクになると報告されている。また,これはメタ解析には含まれず,思春期・青年期ではないが,米国の別のコホート研究では,CARDIA studyのコホートに参加している成人の15年後(平均年齢35.1歳)のBMIと腎機能低下を調べた結果,登録時のBMIが高値であった者ほど, 15年後のeGFRが低値であったと報告されている5)。また,イスラエルから思春期児童に関しての大規模なコホート研究6) (平均年齢17歳,n=194,704)が報告されている。約25年間の追跡で,BMI高値の児童はESKDの発症リスクが高かったと報告されている。以上から,わが国の栄養環境を考慮すると,肥満は思春期・青年期のCKD進行のリスクである可能性が高いと判断し,ステートメントに記載した。 ◆ MetSはCKD進行のリスクなのか ◆ まず,思春期・青年期においてMetSがCKD進行のリスクとなる十分なエビデンスは認めなかった。一方で壮年期以降においては下記の研究にあるようにMetSがCKDを進行させる可能性は極めて高い。2011 年に報告されているメタ解析7) (11 件のコホート研究を解析。平均年齢37~60歳)では,MetS罹患はCKDステージG3以降の進行と強く関連していると報告されている。2015 年のコホート研究8) (平均年齢66 歳,n= 21,840)のほかに,2013年の米国の大規模コホート研究9) (平均年齢72.3歳,n=25,868)では,CKDステージG3~4の患者の平均2.3年の観察期間で,MetSを有すると,ESKDのリスクが上昇することが報告されている。MetS項目のなかでも,特に糖代謝障害,高トリグリセリド血症,および高血圧がESKDへのリスク増加に関連していた。2011年の台湾のおけるCKD患者を対象にしたコホート研究(平均年齢67歳,n=746)10)では,CKDステージG1~3ではMetsがCKD進展のリスクであるが,ステージG4~5ではリスクとはならなかった。よって高度腎機能低下症例においては,MetSよりも進行した腎臓病自体の影響が強くなる可能性が示唆されている。 このことから,早期のCKDにおいて肥満はESKDのリスクであるが,進行したCKDにおいては肥満のESKDに対する関連は明らかではないと考えられる。上記のエビデンスをもとに壮年期以降においては, MetSはCKD進行のリスクということができる。思春期・青年期も同様と考えられそうだが,十分なエビデンスがないのが現状であり,今後の臨床試験による検討が望まれる。 ◆ 肥満,MetSの生命予後 ◆ 成人の報告では,MetSを有するCKD患者は,低HDLコレステロール血症や耐糖能障害を有すると,死亡率が高くなるという報告がある。9)また,小児~思春期の過体重や肥満者は,成人期における若年死亡や心血管代謝系の疾病率が高いことがシステマティックレビュー11)でも示されているため,肥満や肥満がベースにあるMetSを持つ思春期・青年期のCKD患者はなおさら,生命予後の観点からも体重の適正化が望ましいと考えられる。 ◆ 肥満に伴う腎障害に関して ◆ 肥満による腎障害(肥満関連腎症:Obesity related glomeropathy)の機序は諸説あるが,肥満により腎内の血行動態の変化,内臓脂肪分泌由来のアディポサイトカイン分泌異常,hyperfiltrationによる糸球体腫大,足突起の癒合・消失,さらには糸球体のFSGS様変化などが生じ,蛋白尿やGFRが増加することで,腎障害が惹起されると考えられている。肥満に伴う腎障害には,この肥満関連腎症と高頻度で合併しうる糖尿病,高血圧,脂質代謝異常症などが影響して発生する腎症がある。MetSに伴う腎障害はこの後者に当たる。小児や思春期・青年期の年齢でも肥満関連腎症g~i)の症例が報告されており,これらの患者では肥満の改善により蛋白尿やGFRの改善を認める。肥満関連腎症の病態は成人も小児も同様と考えられており,肥満関連腎症にほかの要因も複合したMetSによる腎障害も同様と考えられる。
62 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド ◆ 肥満,MetSに対する加療に関して ◆ 肥満やMetSによる腎障害の根本的な原因は,内臓脂肪型肥満にあるため,体重の適正化は,最も重要かつ第一になされるべき治療と考えられる。残念ながら現時点で思春期・青年期における十分なエビデンスはないが,壮年期以降では,肥満関連腎症に対する食事療法・運動療法で減量が成功した例では蛋白尿12),eGFR13~15)が改善したという報告が認められる。コホート研究からメタ解析まであり, CKDステージG1~4までカバーしている。また,肥満に高頻度で合併し,それ自体で腎障害の原因となる高血圧にも減量は効果的とされる14)。このように,壮年期以降に有効であり,病態はどの世代も同様であるということ,また食事・運動療法に関しては非侵襲的であることから,思春期・青年期においても体重の適正化は積極的に推奨してよいと考えられる。 データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年7月までキーワード: children, adolescent, young, body mass index, obe- sity, metabolic syndrome, kidney, renal, disease, angiotensin, obesity, inhibition, captopril, RAS, aldosterone a)腎と透析Vol. 78 No. 4. 特集「肥満と腎臓」,2015 b)日本腎臓病学会(編).:エビデンスに基づくCKD診療ガイド ライン2013.東京医学社c) Ding W, et al.:Impact of obesity on kidney function and blood pressure in children. World J Nephrol 4:223‒229, 2015 d) Hattori M, et al.:Transition of adolescent and young adult patients with childhood onset chronic kidney disease from pediatric to adult renal services:a nationwide survey in Japan. Clin Exp Nephrol(in press) e)清水俊明.:小児生活習慣病ハンドブック.中外医学社.49-54 f) 「幼児期・思春期における生活習慣病の概念,自然史,診断基 準の確立及び効果的介入方法に関するコホート研究」班.:思春期(高校生)の生活習慣病予防に関する提言 -ガイドライン策定に向けて-(医療関係者用) g)上田悟史,他.:肥満関連腎症と考えられた3例.日小児腎 臓会誌19:124‒127,2006 h)前川講平,他. :腎組織像の改善後も蛋白尿の持続する肥満関連腎症(ORN)の1例.日小児腎臓病会誌 20:189‒195,2007 i) Kawasaki Y.:Two children with obesity‒related glomeru- lopathy identified in a school urinary screening prdogram. Pediatr Int 56:115‒118, 2014 1) Ishikura K, et al.:Morbidity in children with frequently relapsing nephrosis:10‒year follow‒up of a randomized controlled trial. Pediatric Nephrology 30:459‒468, 2015 2) Wang Y, et al.:Association between obesity and kidney disease:a systematic review and meta‒analysis. Kidney Int 73:19‒33, 2008 3) Iseki K, et al.:Body mass index and the risk of development of end‒stage renal disease in a screened cohort. Kidney Int 65:1870‒1876, 2004 4) Hsu CY, et al.:Body mass index and risk for end‒stage renal disease. Ann Intern Med 144:21‒28, 2006 5) Grubbs V, et al:Body mass index and early kidney function decline in young adults.:a longitudinal analysis of the CARDIA(Coronary Artery Risk Development in Young Adults)study. Am J Kidney Dis 63:590‒597, 2014 6) Vivante A, et al.:Body mass index in 1.2 million adolescents and risk for end‒stage renal disease. Arch Intern Med 172: 1644‒1650, 2012 7) Thomas G, et al.:Metabolic syndrome and kidney disease: a systematic review and meta‒analysis. Clin J Am Soc Nephrol 6:2364‒2373, 2011 8) Panwar B, et al.:Obesity, metabolic health, and the risk of end‒stage renal disease. Kidney Int 87:1216‒1222, 2015 9) Navaneethan SD, et al.:Metabolic syndrome, ESRD, and death in CKD. Glin J Am Soc Nephrol 8:945‒952, 2013 10) Lee CC, et al.:Metabolic syndrome loses its predictive power in late‒stage chronic kidney disease progression‒a paradoxical phenomenon. Clin Nephrol 75:141‒149, 2011 11) Reilly JJ, et al.:Long‒term impact of overweight and obe- sity in childhood and adolescence on morbidity and premature mortality in adulthood:systematic review. Int J Obes (Lond) 35:891‒898, 2011 12) Praga M, et al:Effects of body‒weight loss and captopril treatment on proteinuria associated with obesity. Nephron 70:35‒41, 1995 13) Shen WW, et al.:Obesity‒related glomerulopathy:body mass index and proteinuria. Clin J Am Soc Nephrol 5: 1401‒1409, 2010 14) 大橋宏重,他.:肥満を合併する高血圧で減量は血圧と微量 アルブミン尿を改善する.日腎会誌 43:333‒339,2001 15) Navaneethan SD, et al.:Weight loss interventions in chronic kidney disease:a systematic review and meta‒ analysis. Clin J Am Soc Nephrol 4:1565‒1574, 2009 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年Ishikura 2015研究デザイン横断研究P 2年間のシクロスポリン投与が行われた頻回再発型ネフローゼ症候群の患者56例(RCTで登録されていた患者を本研究に登録). IなしCなしO前試験開始から10年後,2年以上の再発がない群は21.7%であり,残りは再発しているか,何らかの免疫抑制薬を使用していた.治療による副作用としては低身長13%,骨粗鬆症13%,肥満8.7%,白内障6.5%,高血圧6.5%が認められた.コメントなし 文献番号2著者発表年Wang 2008研究デザインメタ解析P Pubmedで検索可能な1980 ~2006年に出版された25件のコホート研究,3件の横断研究,19件の症例対照試験を解析. IなしCなしO BMI25以上のものは25未満の者と比較し,ESKDのリスクが高い.この傾向は女性ほど強い.コメントなし 文献番号3著者発表年Iseki 2004研究デザインコホート研究P 1983年に沖縄で実施された大規模健診に参加した20歳以上の成人,100,753名のうちBMI≧21の群. IなしC BMI<21の群. O 20年間の観察で,BMIが21以上の男性は,BMIの高値がESKD発症のリスクを高める.女性のBMIとESKDのリスクは明らかではなかった.コメントなし 文献番号4著者発表年Hsu 2006研究デザインコホート研究P 1964 ~1985年に米国で健診を受けた18歳以上の320,252名のうちBMIが低値ないし高値の群. IなしC 1964 ~1985年に米国で健診を受けた18歳以上の320,252名のうちBMIが18.5 ~24.9の群. O BMI高値は男女ともにESKDのリスクを高める.コメントなし
64 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号5著者発表年Grubbs 2014研究デザインコホート研究P CARDIA(Coronary Artery Risk Development in Young Adults)studyのコホートの開始後10年(2,839名黒人,白人のみ)においてBMIが25以上の群. IなしC CARDIA studyのコホートの開始後10年(2,839名黒人,白人のみ)BMIが18.5 ~24.9の群. O BMI高値群の方が登録時の平均eGFRは低く,15年後の最終eGFRも低い.コメントなし 文献番号6著者発表年Vivante 2012研究デザインコホート研究P軍への入隊前の健診で登録された1967 ~1997年のコホートの194,704名のうちBMI値が5パーセンタイルより高い者.(平均年齢17歳) IなしC軍への入隊前の健診で登録された1967 ~1997年のコホートの194,704名のうちBMI値が5パーセンタイル以下の者. O平均25年間の観察期間において,BMI高値群は5パーセンタイル以下のBMI低値群と比較し,明らかにESKDのリスクが高かった.コメントなし 文献番号7著者発表年Thomas 2011研究デザインメタ解析P 1966 ~2010年までにMEDLINEで検索された11件のコホート研究に関して解析. IなしCなしO MetS罹患とCKD進行は明らかに関連している.MetS構成要素の個数が増加するほど,そのリスクが高まる.血圧,高TG血症,低HDL血症,内臓肥満,糖代謝異常のいずれもリスク上昇に関連.コメントなし 文献番号8著者発表年Panwar 2015研究デザインコホート研究P REGARDS(Reasons for Geographic and Racial Differences in Stroke)studyに参加している21,840名のうちBMIが25以上の群(16,524名). IなしC REGARDSに参加している21,840名のうちBMIが18.5 ~24.9の群(5,316名). O MetSを有するBMI高値群はESKDのリスクが高かった.MetSを有さないBMI高値群はESKDとなるリスクがむしろ低い.コメントなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号9著者発表年Navaneethan 2013研究デザインコホート研究PステージG3,4のCKDの患者25,868例のうちMetSを有する群(15,605例). IなしCステージG3,4のCKDの患者25,868例のうちMetSを有さない群(10,263例). O平均観察期間2.3年.MetS(+)群はESKDのリスクを上昇させる.コメントなし 文献番号10著者発表年Lee 2011研究デザインコホート研究P CKDと診断した746例のうちMetS(+)の群. IなしC CKDと診断した746例のうちMetS(-)の群. O MetS(+)の群はMet(-)の群よりCKD進行のリスクが高かった.CKDステージG1 ~3においては有意だったが,ステージG4,5では有意ではなかった.コメントなし 文献番号11著者発表年Reilly 2011研究デザインシステマティックレビューP 2002 ~2010年のコクランやMedlineなどのデータベースで検索・抽出された論文28本に関して解析. IなしCなしO小児期および思春期に過体重や肥満だった患児は成人期における若年死亡や心血管代謝系疾病の罹患のリスクが高く,晩期障害年金の受給や気管支喘息,多囊胞性卵巣症候群のリスクが高い.コメントなし 文献番号12著者発表年Praga 1995研究デザインRCT P肥満に伴う蛋白尿(1g/日以上)のある患者17例のうち食事療法群に振り分けられた9例. I食事療法,ACEI C肥満に伴う蛋白尿(1g/日以上)のある患者17例のうちACEIを投与された7例. O食事療法群では,体重減少とともに明らかに蛋白尿の減少が認められ,ACEI投与群では,体重は変わらなかったものの,蛋白尿の減少を認めた.コメントなし
66 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号13著者発表年Shen 2010研究デザイン介入研究P腎生検を施行され,肥満関連腎症と診断された63例の患者. I食事・運動療法CなしO体重減少に成功した患者の2年後には平均51%の尿蛋白量が減少.コメントなし 文献番号14著者発表年大橋 2001研究デザイン介入研究P BMI25以上で軽症高血圧の25例の患者. I食事療法CなしO 5%以上の体重減少の認められた患者群では血圧,尿中アルブミンが有意に低下した.コメントなし 文献番号15著者発表年Navaneethan 2009研究デザインメタ解析P CKDに対する各種減量療法の効果の検討. 2004~2008年の間の11件のコホート研究,2件のRCTを解析. I非外科療法(食事・運動・薬物療法),外科療法CなしO非外科療法により,BMIが減り,有意な蛋白量の減少,尿蛋白の減少,収縮期血圧の低下を認め, eGFRが下がり止まった.外科療法もBMIを減少させ, eGFR,尿蛋白,収縮期血圧を改善した.コメントなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 ◆ CKDが思春期の成長に及ぼす影響 ◆ 思春期・青年期の前半に位置する思春期は,第二次性徴の出現から骨端線が閉鎖して成長が停止するまでを指す。思春期には急速な成長スパートがみられ,女子は10~12歳の2年間に身長が急伸,以後成長率(1年間の身長の伸び)は急速に低下し,17歳ごろに骨端線が消失し最終身長に達する(骨端線は,骨幹端と骨端骨の間にある成長軟骨に相当する。X線に透過して黒い隙間としてみえる。骨端線消失は,骨の成熟が完了したことを意味する)。男子は女子に遅れて11~14歳の約3年間に急伸,19歳で最終身長に達する。CKD患者の思春期は,健常者よりも2~2.5年遅れて発来し,健常者と比較してその期間が短いこと,成長率のピーク値が低いことを特徴とし,思春期の獲得身長は男女とも健常者の50%程度にとどまることが報告されている4)。そのため,思春期・青年期のCKD患者の成長障害に対しては,骨端線が消失する前の思春期早期に積極的に治療する必要があり,骨端線消失後はその治療効果が期待できない。 ◆ 成長障害の定義と診断 ◆ 成長障害(低身長)は,同性・同暦年齢の健常児の CQ 4思春期・青年期のCKD患者の成長障害に対して,どのような対応をすればよいか?思春期・青年期のうち成長期のCKD患者に対し,少なくとも1年に1回は身長を測定し,成長曲線と成長率曲線にプロットし,経時変化を評価することを推奨する。また,身長測定と合わせ て1年に1回は骨年齢を測定することが望ましい。 推奨 酉2B 栄養摂取,蛋白・アミノ酸代謝異常,骨・ミネラル代謝異常,酸塩基平衡異常,貧血,成長ホルモン(GH)を含む内分泌異常を適切に管理することは,成長障害の予防に有用であり推奨す る。 推奨 酉2B 成長障害を伴うeGFR 75 mL / 分/ 1.73 m2未満の思春期CKD患者に対し,骨端線が開いてい る場合には,遺伝子組み替えヒト成長ホルモン(rHuGH)治療を推奨する。 推奨 酉2B 背景・目的 最終身長が低身長であることは,思春期・青年期のCKDの重要な合併症である1)。小児CKD患者では,eGFRが60 mL /分/ 1.73 m2未満に至ると成長障害(低身長)のリスクが増し,腎機能低下が進行するほど成長障害が進行することが報告されている2)。わが国で行われた3カ月~15歳までの小児CKD患者(透析,移植患者は除く)の疫学調査によれば,身長の標準偏差(SD)は,CKDステージG3で-1.3±1.5 SD,ステージG4で- 2.2±2.0 SD,ステージG5で-3.5±3.0 SDで, CKDの進行とともに成長障害も進行していた3)。CKDに伴う成長障害を形成する病態には,原疾患,栄養摂取不良,蛋白・アミノ酸代謝異常,骨・ミネラル代謝異常,酸塩基平衡異常,貧血そしてGHを含む内分泌異常など,多彩な要因が関与している。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」では,小児CKDに対しこれらの要因を適切に管理することは成長障害の予防に有用であること,また,低身長を伴う小児CKDステージG3~5で,骨端線の消失がない患者に対しrHuGH治療を推奨しているa)。本CQでは,CKD患者が思春期・青年期に至って腎臓内科医のもとに転科した際,成長障害に対してどのような対応をすればよいか検討した。
68 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 身長に対して-2 SD以上の偏りがある場合と定義される。成長障害の診断には,成長曲線と成長率曲線が有用であり,男女別に作成された「横断的標準成長曲線2000年度版および縦断的成長曲線および成長率曲線」(http://jspe.umin.jp/medical/files/ zu1_a.pdf,http://jspe.umin.jp/medical/files/zu1_ b.pdf)を用い,標準値との比較は標準偏差を用いて行う。また,標準成長曲線のグラフ上に患者の身長を経時的にプロットすると成長障害の進行度がわかりやすく,その診断に有用である。一方,骨端線の消失を含む骨年齢の読影は成長障害の診断に欠かせないものであり,骨年齢の評価には「日本人標準TW2法に則った日本人小児骨年齢アトラス」b)を使用する。 ◆ 成長障害の管理目標 ◆ 思春期・青年期のCKD患者では,身長が同性・同暦年齢の健常児の身長に対して-2 SD以内であることを管理目標とする。「KDIGO clinical practice guideline for the diagnosis,evaluation,prevention, and treatment of chronic kidney disease‒mineral and bone disorder(CKD‒MBD)」c)は,思春期CKD患者は少なくとも1年に1回は身長を測定すべきであるとしており,身長測定と合わせて1年に1回は骨年齢を測定することが望ましい。 ◆ 成長障害に対する管理方針 ◆ 1 成長障害発症病態関連因子に対する管理 骨・ミネラル代謝異常,酸塩基平衡異常,貧血は成長障害をきたすため,これらの異常を適正に治療 する。2. 思春期・青年期のESKD患者の成長障害に対する腎移植の効果 腎移植によりESKDに伴うさまざまな合併症の回避が期待でき,小児腎移植は健常児とかわりない最終身長獲得をもたらす可能性がある。しかし,実際には,腎移植後の成長のキャッチアップ(catch‒up growth)は,6歳未満での腎移植例や5),思春期前の腎移植例6)にのみ見られ,思春期に移植してもキャッチアップは不十分であることが示されている5,6)。一方,思春期早期の移植でも最終身長までに 平均0.49±0.81 SDの成長のキャッチアップが得られるとの報告もあり7),さらに透析療法中にも成長障害が進行することを考慮し,思春期ESKD患者,とりわけ思春期早期の患者では,透析療法期間を短縮し腎移植を行うこと,あるいは先行的腎移植を選 択する意義は大きい。3. 成長障害を軽減するための腎移植後の管理 「腎移植後内科・小児科系合併症の診療ガイドライン2011」d)は,腎移植後に良好な最終身長を獲得するための移植後管理として,移植腎機能の保持に努めること,副腎皮質ステロイドは隔日投与にして可及的に減量,可能であれば中止するとしている。腎移植後の成長障害を最小限にとどめる副腎皮質ステロイド投与量としてプレドニゾロン隔日0.5 mg / kgを示し,思春期にはさらに減量,可能であれば中 止が望ましいとしている。4. 思春期・青年期が良好な最終身長を獲得するためのrHuGH治療 rHuGH治療をせずに成人に達した小児ESKD患者の最終身長は,約50%の患者が-2 SD以下であり8),良好な最終身長を獲得するためにはrHuGH治療を成長障害と診断後早期から開始することが望ましい。rHuGH治療の短期成績について,コクランレビューは,CKD患者を対象にrHuGHを1年間投与したRCTの集積から,思春期や腎代替療法の有無や種類によらず,rHuGH治療群は未治療群と比較して成長率が平均3.8 cm / 年増加すると結論している9)。思春期CKD患者に対するrHuGHの治療効果は,思春期発来前の患者のそれには劣るが10),思春期CKD患者にrHuGHを投与し最終身長まで観察した報告では,思春期発来前から思春期にかけてrHuGH治療による成長キャッチアップが持続して得られることが示されている10~13)。これらの結果から,成長障害を伴う思春期CKD患者に対しては,骨端線が消失するまでrHuGHを積極的に投与すべきである。CKD患者に対する長期rHuGH治療によって腎機能低下の進行は加速しないことが報告されているが14),腎移植後患者に対しては,免疫抑制薬服用下でのrHuGH治療による悪性腫瘍合併リスクが増大
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド する可能性について否定されていないことから,実施する場合には事前の十分な説明と同意を得ることが必要不可欠であるd)。Waradyらによる小児CKDの成長障害に関するConsensus Committeeは,rHuGH開始基準や治療経過中のモニタリング方法などに関する情報の周知不足が,rHuGHを積極的に投与することを妨げているとして,小児慢性腎不全における成長障害の評価とrHuGH 治療のためのアルゴリズムを提案した(図)15)。そのなかで,rHuGH治療の適応基準をGFR 75 mL/分/1.73 m2未満,身長1.88 SD未満あるいは成長率-2 SD未満の患者としている。わが国の小児 CKD 患者(透析,移植患者は除く)においても, rHuGH投与率はCKDステージG 3~5でそれぞれ19.5%,31.0%,25.0%にとどまっていた16)。現在,わが国では,骨端線閉鎖のない小児慢性腎不全における成長障害(骨年齢:男子17歳未満,女子15歳未満,身長-2 SD以下または成長率が2年連続で-1.5 SD以下,eGFR 75 mL / 分/ 1.73 m2未満)に対してrHuGH療法が保険適用となっている。 データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年7月までキーワード: chronic kidney disease, growth, short stature, adult hight, final hight, adolescent, puberty, growth hormone a)日本腎臓学会(編).:エビデンスに基づくCKD診療ガイドラ イン2013.東京医学社b)日本小児内分泌学会/日本成長学会「骨年齢委員会」(編).:日 本人小児骨年齢アトラス.メディカルレビュー社c) KDIGO clinical practice guideline for the diagnosis, evalua- tion, prevention, and treatment of chronic kidney disease‒ mineral and bone disorder(CKD‒MBD). Kidney Int 76: (Suppl 113)S22‒S49, 2009 d)日本臨床腎移植学会ガイドライン作成委員会(編).:腎移植後 内科・小児科系合併症の診療ガイドライン2011.日本医学館 1) Harambat J, et al.:Adult height in patients with advanced CKD requiring renal replacement therapy during childhood. Clin J Am Soc Nephrol 9:92‒99, 2014 2) North American Pediatric Renal Trials and Collaborative Studies 2008 Annual Report:renal transplantation, dialysis, and chronic renal insufficiency. https://web.emmes.com/study/ped/annlrept/Annual% 20Report%20‒2008.pdf 3) Ishikura K, et al.:Pre‒dialysis chronic kidney disease in children:results of a nationwide survey in Japan. Neohrol Dial Transplant 28:2345‒2355, 2013 4) Schaefer F, et al.:Pubertal growth in chronic renal failure. Pediatric Research 28:5‒10, 1990 5) Fine RN, et al.:What have 20 years of data from the North ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ rHuGH治療を考慮: a)GFR<75mL/分/1.73m2 かつb)身長-2SD≧または成長率が2年連続で-1.5SD≧ かつc)骨端線の閉鎖がない rHuGH治療前検査: a)身長SDS,成長率SDS b)思春期徴候,骨年齢,股関節・膝関節X線,眼底検査,PTH・甲状腺機能検査 rHuGH治療中のモニター: a)3~4カ月ごとに身長体重,思春期徴候,栄養評価,眼底検査,PTH b)骨年齢1x/年 中止に至った要因が解決していれば再開を考慮 成長障害に関与する病態の是正:アシドーシス,低栄養,塩類喪失,骨・ミネラル代謝異常,貧血,甲状腺機能低下 rHuGH治療開始0.175mg/kg/週 治療開始6カ月以降,rHuGH治療の見直し身長ー2SD≧ならば0.35mg/kg/週まで増量可 rHuGH治療の中止: a)骨年齢男子17歳以上,女子15歳以上b)活動性のある悪性新生物c)大腿骨頭すべり症d)頭蓋内圧亢進症e)ノンコンプライアンスf)重症二次性副甲状腺機能亢進症CKDステージG2~4:PTH>400pg/mL CKDステージG5:PTH>900pg/mL rHuGH治療継続: a)3~4カ月ごとに体重当たりの投与量を調整b)治療継続基準初年度≧4.0cm/年または治療前後の年間成長率の差が1.0cm以上, 2年目≧2.0cm/年,3年目以降≧1.0cm/年 図 小児慢性腎不全における治療アルゴリズム (文献15)より引用,改変
70 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド American Pediatric Renal Transplant Cooperative Study taught us about growth following renal transplantation in infants, children, adolescents with end‒stage renal disease? Pediatr Nephrol 25:739‒746, 2010 6) Nissel R, et al.:Effect of renal transplantation in childhood on longitudinal growth and adult height. Kidney Int 66: 792‒800, 2004 7)濱田 陸.:思春期腎移植でも成長速度は悪化しない-NAPR- TCSがすべてではない-.日小児腎不全会誌34:25‒29,2014 8) André JL, et al.:Final height in children with chronic renal failure who have not received growth hormone. Pediatr Nephrol 18:685‒691, 2003 9) Hodson EM, et al.:Growth hormone for children with chronic kidney disease. Chochrane Database syst Rev: CD003264, 2012 10) Seikaly MG, et al.:Use of rhGH in children with chronic kidney disease:lessons from NAPRTCS. Pediatr Nephrol 22:1195‒1204, 2007 11) Nissel R, et al.:Factors predicting the near‒final height in growth hormone‒treated children and adolescents with chronic kidney disease. J Clin Endcrinol Metab 93:1359‒ 1365, 2008 12) Hokken‒Koelega A, et al.:Long‒term effects of growth hormone treatment on growth and puberty in patients with chronic renal insufficiency. Pediatr Nephrol 14:701‒706, 2000 13) Haffner D, et al.:Effect of growth hormone treatment on the adult height of children with chronic renal failure. . German Study Group for Growth Hormone Treatment in Chronic Renal Failure.N Engl J Med 343:923‒930, 2000 14) Mehls O, et al.:Long‒term growth hormone treatment in short children with CKD does not accelerate decline of renal function:result from the KIGS registry and ESCAPE trial. Pediatr Nephrol 30, 2145-2151, 2015 15) Mahan JD, et al.:Assessment and treatment of short stature in pediatric patients with chronic kidney disease:a consensus statement. Pediatr Nephrol 21:917‒930, 2006 16) Hamasaki Y, et al.:Growth impairment in children with pre‒dialysis chronic kidney disease in Japan. Clin Exp Nephrol 19:1142‒1148, 2015
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年Harambat 2014研究デザインコホート研究P 1990年から2011年の間に,19歳未満で腎代替療法が開始された1,612例,欧州20カ国からの集積データ. IなしCなしO最終身長中央値は-1.65SD.55%の症例が最終身長で標準身長を獲得していた.最終身長が高いことに関する要因として,年長でのRRT開始,直近のRRT開始,移植腎生着総期間,RRT開始時の身長が高いことが独立した要因としてあげられた.CAKUT,代謝疾患の患者が原発性腎疾患よりも最終身長低身長を呈した.コメントなし 文献番号2著者発表年NAPRTCS 2012研究デザインなしP NAPRTCS登録データの年次報告IなしCなしO年次報告CKDステージG3,eGFR 60未満から成長障害のリスクを有する.コメントなし 文献番号3著者発表年Ishikura 2013研究デザイン横断研究P 3カ月~15歳のCKDステージG3 ~5患者(透析・移植患者は除く),447例IなしCなしO全国疫学調査.回収率77.7%.症例数分布はステージG3:70.5%,ステージG4:23.9%,ステージG5:5.6%.ステージの進行とともに身長SDSが低下した.コメントなし 文献番号4著者発表年Shaefer 1990研究デザインコホート研究P思春期発来前あるいは思春期の小児慢性腎不全患者29例IなしCなしO小児慢性腎不全患者では思春期発来が2.5年遅れ,成長率が低下する結果,思春期獲得身長が低下する.コメントなし
72 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号5著者発表年Fine 2010研究デザインコホート研究P 1987年から2008年までに腎移植を行った小児8,155例(データベースからの抽出) IなしCなしO 6歳未満の移植症例でのみ,移植後に成長のキャッチアップがみられる.副腎皮質ステロイド回避と移植後eGFRが移植後成長の改善に関与する要因である.コメントなし 文献番号6著者発表年Nissel 2004研究デザインコホート研究P小児腎移植患者,37例IなしCなしO移植時年齢11.3歳,経過観察期間8.5年.最終身長における移植の効果について,最終身長までに思春期発来前の症例で1.3 SD,思春期症例で0.7 SDのキャッチアップがみられたが,最終身長は1/3で-2 SD未満であった.重回帰分析で,思春期獲得身長は思春期開始年齢,GFR,移植時年齢と関連していた.コメントなし 文献番号7著者発表年濱田 2014研究デザインコホート研究P思春期早期(思春期開始兆候を移植時もしくは移植後2年以内に認めた児)に腎移植をした18例IなしCなしO最終身長までに0.49±0.81 SDのキャッチアップを認めた.コメントなし 文献番号8著者発表年André 2003研究デザインコホート研究P 16歳未満のGH未投与の慢性腎不全患者60例(データベースからの抽出) IなしCなしO最終身長について全患者の45%が-2 SD以下であった.登録時およびESKD時の身長が高いことが最終身長高値と関連していた.ESKD期間が長いことが最終身長低値と関連していた.コメントなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号9著者発表年Hodson 2012研究デザインシステマティックレビューP 0~18歳までのCKD患者に対するGH治療効果に関する16のRCT IなしCなしO GH 28IU/m2/wk,1年間投与は未投与群と比較して成長率に3.88cmの上乗せがみられた.ただし,最終身長への効果を検討するには,観察期間が短期であった.コメントなし 文献番号10著者発表年Seikaly 2007研究デザインコホート研究P NAPRTCS集積データから保存期6,505例,透析期5,122例,移植後4,478例(データベースからの抽出) IなしCなしO 2年間のGH投与率は保存期22%,透析期33%,移植後3%で,キャッチアップはそれぞれ27%, 11%,25%に認められた.Tanner stage1 ~2のキャッチアップ率が高率だった.コメントなし 文献番号11著者発表年Nissel 2008研究デザインコホート研究P GH治療中の小児CKD240例(データベースからの抽出) IなしCなしO思春期発来前患者39%,思春期61%.GH継続投与で,キャッチアップがみられたが,思春期発来の遅れた患者(多くは透析患者)では,治療効果が乏しかった.コメントなし 文献番号12著者発表年Hokken-Koelega 2000研究デザインコホート研究P思春期発来前からGH治療中の小児慢性腎不全45例(うち保存期18例) IなしCなしO最大8年までの長期投与で,身長SDSは投与3年で-2 SD,6年で標準身長内までキャッチアップした.骨成熟が加速することはなかった.保存期例でGFR低下が進行することはなかった.コメントなし
74 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号13著者発表年Haffner 2000研究デザインケースコントロール研究P思春期発来前から最終身長までGH治療中の小児慢性腎不全患者38例(データベースからの抽出) IなしC GHを投与していない小児慢性腎不全患者15例O最終身長は治療群-1.6 SD,コントロール群-2.1 SDであった.治療群の総身長獲得は治療開始時の成長障害,GH治療期間と正の相関,透析期間と負の相関を示した.コメントなし 文献番号14著者発表年Mehls 2015研究デザインケースコントロール研究P GHを少なくとも1年投与し10年まで観察した小児CKDステージG2~4患者367例(データベースからの抽出) IなしC GHを投与していない小児CKDステージG2~4患者274例O GHを継続投与した97例の5年時eGFR喪失は,コントロール113例のそれとかわらなかった.コメントなし 文献番号15著者発表年Mahan 2006研究デザインなしP小児CKD患者の成長障害に関する提言IなしCなしO小児慢性腎不全患者の成長障害について治療と評価のアルゴリズムを示した.コメントなし 文献番号16著者発表年Hamasaki 2015研究デザイン横断研究P 3カ月~15歳のCKDステージG3 ~5患者(透析・移植患者は除く)297例IなしCなしO明らかな成長障害を認め,そのリスクファクターとしてCKDステージG4,5,small for date児,新生児仮死をあげた.成長ホルモンの使用率が低率であることを示した.コメントなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説Advisory Committee on Immunization Practice (ACIP)は,19歳以上の腎不全,ESKD,HD中の患者に対し,2回の水痘接種,1回もしくは2回のMMR (麻疹,風疹,ムンプス混合ワクチン)接種を推奨している。また対象は小児であるものの,2014年にわが国で上梓された「小児の臓器移植および免疫不全状態における予防接種ガイドライン」b)でも小児CKD患者に対する麻疹,風疹,水痘,ムンプスなどの生ワクチンの接種を推奨している。しかし,わが国で使用される免疫抑制薬の添付文書には,生ワクチンが使用禁忌である旨が明記されており,ACIPでも長期の免疫抑制薬内服中の患者に対する水痘,MMRの接種は禁忌とし,Centers for Disease Control and Preventionも生ワクチンの接種は免疫抑制薬の治療前に行うことを推奨しているc)。しかしその一方で,免疫抑制薬内服中の患者に対する生ワクチン接種の安全性に対する報告は散見されている。2015年のKawanoら1)の報告では,生体肝移植後の特定の条件を満たした患児39例における麻疹,風疹,水痘,ムンプスなどの生ワクチン接種で深刻な有害事象を認めなかった。患児39例はすべてタクロリムス単剤で管理されており,T細胞(%),B細胞(%),CD4/CD8,免疫グロブリン(IgG, IgA,IgM),リンパ球刺激試験(phytohemagglutinin:PHA,concanavalin A:ConA,pokeweed CQ 5小児期に生ワクチンを接種できなかった,あるいはそれらの抗体が陰性の思春期・ 青年期のCKD患者に対し,感染予防のために生ワクチン(再)接種は推奨されるか? 症状が落ち着いており,免疫抑制薬や高用量の副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン換算で20 mg / 日以上)を使用していない思春期・青年期のCKD患者では,積極的に生ワクチンを接種する。とりわけ麻疹や水痘においては,重症化の可能性があるため免疫抑制薬や高用量の副腎皮質ステロイドを使用していない思春期・青年期のCKD患者に対する積極的な生ワクチン接種を推奨する。免疫抑制薬を使う可能性がある患者は,事前に抗体価(特に麻疹,水痘)を測定することが望まし い。 推奨 酉1C 腎移植後や原疾患に対して免疫抑制薬や高用量の副腎皮質ステロイドを使用している思春期・青年期のCKD患者では,生ワクチンの接種は添付文書上も禁忌とされ原則的には推奨されな いが,流行状況,必要性を個々の症例で検討する必要がある。 推奨 酉2C 背景・目的 小児CKDの原因として,低・異形成腎などのCAKUTが最も多く,次いでFSGSが多いが,2014年のHattoriらの全国調査では小児期から成人期に移行する疾患は,IgA腎症,微小変化型ネフローゼ症候群,CAKUTの患者が多いとされているa)。小児CKD患者は免疫機能が低下しているため,感染症罹患時に重症化する危険性が高い。また腎移植後の患者においては,水痘や麻疹の感染による死亡の報告もあり,腎移植が検討されている場合は積極的に予防接種を行うことが望ましい。一方で,すでに高用量の副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を投与されている患者においては,抗体価が陰性であっても生ワクチンの接種が控えられている場合が多い。特に思春期・青年期への移行が多い,IgA腎症や微小変化型ネフローゼ症候群の患児は,副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を必要とすることが多く,小児期から思春期・青年期にかけて生ワクチンが接種できないことがある。本項では,思春期・青年期の生ワクチン接種の是非について検討した。
76 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド mitogen:PWM)が正常であった。また,2015 年Shinjohら2)の報告でも同様に,患児48例に麻疹,風疹,水痘,ムンプスなどの生ワクチンを接種したが,麻疹接種2例で発熱,ムンプス接種2例で耳下腺腫脹を認めたのみで,重篤な有害事象は認めなかった。したがって,一定の条件を満たせば免疫抑制薬内服中でも生ワクチンを接種できる可能性はあるものの,現時点では広くコンセンサスが得られていないため,免疫抑制薬を内服中の患者に対して広く生ワクチンの接種は推奨できない。しかしながら,患者背景や利益・不利益を考慮し,個別に対応すべきである。今後,免疫抑制薬使用下の弱毒生ワクチン接種法の開発に関する大規模な多施設研究が行われることが望まれる。わが国では生ワクチンの添付文書において副腎皮質ステロイド投与中の接種を禁忌としている。しかし,低用量の副腎皮質ステロイド投与下においては,水痘の予防接種の効果と安全性が欧米で報告されているd,e)。積極的な推奨はできないが,感染症の流行時や移植・透析導入などの可能性がある患児に対しては接種を考慮する。ただし,高用量副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン換算で20 mg / 日以上)使用中の場合は接種を控えることが望ましいc,f)。また,副腎皮質ステロイド使用下での水痘ワクチン接種は, vaccine failureの可能性が高くなることも報告されているg)。 データベース:PubMed 医中誌期間:2000年~2015年7月までキーワード: PubMed:renal insufficiency, chronic kidney fail- ure, chronic kidney diseases, chronic disease, chronic renal insufficiency, chronic kidney insufficiency, chronic renal disease, renal dialysis, kidney transplantation, nephrotic syndrome, vaccines, vaccination, communicable diseases / prevention and control, adolescent, young, humans医中誌:慢性腎臓病,血液透析,腎臓移植,ネフローゼ症候群,青年期,思春期,若年,ワクチン,予防接種,免疫抑制療法,免疫抑制a) Hattori M, et al.:Transition of adolescent and young adult patients with childhood-onset chronic kidney disease from pediatric to adult renal services:a nationwide survey in Japan. Clin Exp Nephrol.(in press) b)小児の臓器移植および免疫不全状態における予防接種ガイド ライン2014作成委員会(編).:小児の臓器移植および免疫不全状態における予防接種ガイドライン2014.協和企画c) National Center for Immunization and Respiratory Dis- eases.:General Recommendations on Immunization:recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practice(ACIP). MMWR Recomm Rep 60:1‒64, 2011 d) Furth SL, et al.:Varicella vaccination in children with chronic renal failure. A report of the Southwest Pediatric Nephrology Study Group. Pediatric Nephrol 18:33‒38, 2003 e) Furth SL, et al.:Varicella vaccination in children with nephrotic syndrome. A report of the Southwest Pediatric Nephrology Study Group. J Pediatr 142:145‒148, 2003 f) KDIGO clinical practice guideline for glomerulonephritis. Chapter 3:Steroid sensitive nephrotic syndrome in children. Kidney Int Suppl(2011) 2:163‒171, 2012 g) Verstraeten T, et al.:A retrospective cohort study of the association of varicella vaccine failure with asthma, steroid use, age at vaccination, and measles‒mumps‒rubella vaccination. Pediatrics 112:e98, 2003 1) Kawano Y, et al.:Effectiveness and safety of immunization with live‒attenuated and inactivated vaccines for pediatric liver transplantation recipients. Vaccine 33:1440‒1445, 2015 2) Shinjoh M, et al.:Updated data on effective and safe immu- nizations with live‒attenuated vaccines for children after living donor liver transplantation. Vaccine 33:701‒707, 2015 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年Kawano 2015研究デザインコホート研究P 2005 ~2013年で生体肝移植が行われ,生ワクチンや不活化ワクチンを接種された39例IなしCなしO 1例が水痘接種後に水痘罹患を認めたが,深刻な有害事象を認めず.コメントなし 文献番号2著者発表年Shinjoh 2015研究デザインコホート研究P 2012 ~2014年で生体肝移植が行われ,生ワクチンが接種された48例IなしCなしO麻疹接種例で発熱,ムンプス接種例で耳下腺腫脹の副反応がみられたが,重篤な副作用例は認めず.コメントなし
78 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 ◆ 思春期・青年期CKD患者の目標Hb下 限値 ◆ 小児から青年期のCKD患者を対象とした報告では,Hb値が11 g ⊘dL未満の場合には11 g ⊘dL以上と比較して死亡のリスク3,4)や透析導入後の入院リスクが高くなることが示され4,5),左室肥大の合併が有意に高くなること2),患者のQOLが低下すること1)が報告されている。さらに,40.5%が12歳以上の患者が対象となっている国際小児腹膜透析ネットワーク(IPPN)による解析でも,Hb<11 g ⊘dLの場合にHb≧11 g ⊘dLと比較して有意に死亡リスクが高いことが示されている6)。これらのことを踏まえて,本ガイドでは思春期・青年期におけるESAを用いた腎性貧血の治療目標Hb値は11 g ⊘dL以上とすることが妥当であると考えた。◆ 思春期・青年期CKD患者の目標Hb上 限値 ◆ KDIGO Clinical Practice Guideline for Anemia in Chronic Kidney Diseaseでは,成人領域の大規模なRCTが示した重篤な心血管系イベントのリスクが増加するという結果7~9)を背景に,目標Hb値に上限値を設け,成人10~11.5 g ⊘dL,小児11~12 g ⊘ dLとすることが提唱されたb)。しかし,各RCTの対象患者の年齢はCHOIR試験7)が66.0±14.3歳と66.3 ±13.5歳,CREATE試験8)が59.3±14.6歳と58.8± 13.7歳,TREAT試験9)で中央値68歳(25~75パーセンタイル60~75歳)であり,いずれの試験もほとんど思春期・青年期を対象として含んでいないと思われる。さらに,もともと動脈硬化や心血管系合併症の頻度が非常に少ないと考えられる思春期・青年期に対して,これら心血管系のイベント発症リスクを直接的に当てはめることには問題があると考えられる。身体的,精神的に最終的な発達段階にあると考えられる思春期・青年期の患者に対しては,成長,精神運動発達,身体能力,社会適応能力など,成人とは異なる指標も考慮しながらの治療開始,目標Hb値の設定が必要であるc~e)。しかし現段階においても小児と同様,思春期・青年期における目標Hbの上限値に関するデータは非常に乏しい。今回のガイドでは目標Hb値の下限値のみを設定し,身体状況,運動能力,社会活動性など患者個々の状態や背景を把握したうえで,個別に上限値を設定することが妥当であると考える。 CQ 6腎性貧血を伴う思春期・青年期のCKD患者では,赤血球造血刺激因子製剤(ESA)を用いた治療目標Hb値はどれくらいか?腎性貧血を伴う思春期・青年期のCKD患者において,ESA投与による腎性貧血治療の維持す べき目標Hb値は11 g / dL以上とする。 推奨 酉2C 背景・目的 腎性貧血はQOLの低下1),左室肥大2),生命予後3,4)など,さまざまな病態との関連が示唆されているa)。腎性貧血の主因は腎障害に伴う内因性エリスロポエチンの産生低下であり,ESA治療は理にかなった治療法である。しかし思春期・青年期におけるESA療法の目標Hb値の設定については,ESAの効果を検討したRCTは存在せず,小児と同様に臨床研究観察データや成人におけるデータをもとに推定せざるをえないのが現状である。
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド データベース:PubMed 医中誌検索期間:1990年~2015年9月までキーワード:renal anemia, anemia in CKD, adolescent, children a) Warady BA, et al.:Optimal care of the infant, child, and adolescent on dialysis:2014 update. Am J Kidney Dis 64: 128⊖142, 2014 b) Kidney Disease:Improving Global Outcomes(KDIGO)Ane- mia Work Group:KDIGO clinical practice guideline for anemia in chronic kidney disease. Kidney Int Supple 2: 279⊖335, 2012 c) Warady BA, et al.:Management of anemia with erythropoi- etic⊖stimulating agents in children with chronic kidney disease. Pediatr Nephrol 29:1493⊖1505, 2014 d) Atkinson MA, et al.:Anemia in children with chronic kid- ney disease. Nat Rev Nephrol 7:635⊖641, 2011 e) Koshy SM, et al.:Anemia in children with chronic kidney disease. Pediatr Nephrol 23:209⊖219, 2008 1) Gerson A, et al.:Anemia and Health⊖related quality of life in adolescents with chronic kidney disease. Am J Kidney Dis 44:1017⊖1023, 2004 2) Mitsnefes MM, et al.:Severe left ventricular hypertrophy in pediatric dialysis:prevalence and predictors. Pediatr Nephrol 14:898⊖902, 2000 3) Amaral S, et al.:Association of mortality and hospitaliza- tion with achievement of adult hemoglobin targets in adolescents maintained on hemodialysis. J Am Soc Nephrol 17:2878⊖2885, 2006 4) Warady BA, et al.:Morbidity and mortality in children with anemia at initiation of dialysis. Pediatr Nephrol 18:1055⊖ 1062, 2003 5) Staples AO, et al.:Anemia and risk of hospitalization in pediatric chronic kidney disease. Clin J Am Soc Nephrol 4:48⊖56, 2009 6) Borzych⊖Duzalka D, et al.:Management of anemia in chil- dren receiving chronic peritoneal dialysis. J Am Soc Nephrol 24:665⊖676, 2013 7) Singh AK, et al.:Correction of anemia with epoetin alfa in chronic kidney disease. N Engl J Med 355:2085⊖2098, 2006 8) Drüeke TB, et al.:Normalization of hemoglobin level in patients with chronic kidney disease and anemia. N Engl J Med 355:2071⊖2084, 2006 9) Pfeffer MA, et al.:A trial of darbepoetin alfa in type 2 dia- betes and chronic kidney disease. N Engl J Med 361:2019⊖ 2032, 2009 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
80 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年Gerson 2004研究デザインコホートP 11 ~18歳の患者105例IなしC Ht36%以上以下で2群に分類してQOLを比較O貧血群で有意に身体機能,学校環境の制限,学校での友達との活動性,家出の家族との活動に制限あり.コメントなし 文献番号2著者発表年Mitsnefes 2000研究デザイン観察研究P 20カ月から22歳までの64例の維持透析患者IなしC高度左室肥大の有無で2群に分類して年齢透析期間,血圧,Hb,PTH,Ca,P,BUN,Cr,Albを比較O 2群間でHbにのみ有意な差があり.コメントなし 文献番号3著者発表年Amaral 2006研究デザイン後方視的コホートP 12 ~18歳の677例の血液透析患者IなしC平均Hb値<10,10 ~11,11 ~12,>12の4群に分けて入院率,死亡率を比較O 11 ~12,>12群で有意に低い死亡率となる.入院率に関しては有意差なしコメントなし 文献番号4著者発表年Warady 2003研究デザインNAPARTICSデータの解析P 1,942例の18歳未満で透析導入となった患者IなしC Ht≥33% ,<33% の2群で比較O <33%の患者群で死亡率が52%増加.透析導入後1年以内に30日以上の入院するリスクが<33%群で有意に高い.コメントなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号5著者発表年Staples 2009研究デザイン後方視的コホート研究P 2,779例のCKDステージG2 ~5の2歳以上の患者IなしC Ht≥33%,<33%の2群で比較Oオッズ比1.55でHt<33%の患者群で有意に入院リスクが高い.コメントなし 文献番号6著者発表年Borzych-Duzalka 2013研究デザインコホート研究P 1,394例の腹膜透析患者IなしC Hb>11g/dLとHb<11g/dLの2群で比較O Hb>11g/dLで有意に生存率が高い.コメントなし 文献番号7著者発表年Singh 2006研究デザインOpen-label trial P 1,432例のCKD患者I ESAにて目標Hb13.5g/dLとHb11.3g/dLで介入C死亡,うっ血性心不全,心筋梗塞,脳卒中で222例にadverse eventが発生.有意に高Hb群で多い. QOLに両群間で差なしO高Hb群で有意に副反応が多く,QOLの改善には差がない.コメントなし 文献番号8著者発表年Drüeke 2006研究デザインRCT P 603例のeGFR15 ~30の保存期腎不全の患者I Hb 13.0 ~15.0を目標とした高Hb群とHb<10.5の時にESAで治療する2群に分ける. C有害事象の発生率に有意な差なし.透析が高Hb群で有意に増加.身体機能と全身の健康では高Hb群が有意にQOLを改善O貧血の早期介入群では心血管イベントの減少にはつながらない.コメントなし
82 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号9著者発表年Pfeffer 2009研究デザインRCT P 4,038例の糖尿病腎症の患者I DAでHb 13g/dLに介入する群とHb<9g/dL未満になった際にDAでレスキューする群に分けて介入C心血管イベントに有意差なし.死亡率,透析導入率にも有意差なし.脳卒中の発生率がDA介入群で有意に高値O心血管イベントおよび死亡率に両群間で有意な差なし.コメントなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 ◆ 思春期・青年期のCKDと降圧療法 ◆ 高血圧はCKDの原因となり,CKDの病態を悪化させる。逆にCKDが高血圧の原因ともなり,高血圧の重症化の要因にもなる。小児から思春期における糸球体疾患を有するCKD患者98例と糸球体疾患を有さないCKD患者398例の腎機能障害進展に関する予測因子を検討した多施設前向きコホート研究であ るCKiD試験によると,高血圧は透析導入あるいは50%以下の腎機能低下を起こすまでの期間を67%短縮することが示され,腎機能障害進展のリスクファクターになりうることが報告された1)。さらに,成人CKDにおけるMRFIT研究などの前向きコホート研究によると,高血圧はESKDの発症リスクであることが示されているa,b,2~4)。また,3~18 歳のCKD385症例の多施設前向きコホート研究では,従来の血圧管理を行ったコントロール群と比較して積極的治療介入をした群において投与後6カ月後の腎機能保持率が高く,腎機能障害の進行が抑制されることが示された5)。これらのことから思春期・青年期のCKDに限定した降圧療法の有効性に関する研究は認められないものの,高血圧を伴う思春期・青年期CKD患者において,降圧療法は腎機能予後を改善させると考えられる。 ◆ 思春期・青年期のCKDに対する降圧薬 ◆ 蛋白尿を伴う小児および成人CKDにおいてRAS阻害薬であるACEIとARBは,蛋白尿減少効果と腎機能障害の進行抑制効果を有するため第一選択薬として推奨されているa~c,5~11)。これらのことから思春期・青年期CKDに限定したRAS阻害薬の有効性に関する研究はないものの,蛋白尿を伴う思春期・青年期のCKDにおいてRAS阻害薬を第一選択薬として推奨する。また,RAS阻害薬を併用する場 CQ 7高血圧を伴う思春期・青年期のCKD患者では,降圧療法は腎機能予後を改善させるか?高血圧を伴う思春期・青年期のCKD患者において,降圧療法は腎機能予後を改善させる。 推奨 酉1B 蛋白尿を伴う思春期・青年期のCKD患者に対する降圧薬としては,RAS阻害薬を第一選択薬として推奨する。ただし,妊娠を計画している思春期・青年期の女性患者には原則的に妊娠前に 中止し,他の降圧薬に変更する。 推奨 酉1B 血圧管理目標値は,蛋白尿を有しないCKDでは140 / 90 mmHg未満,蛋白尿を有するCKDで は130 / 80 mmHg未満とする。 推奨 酉2B 背景・目的 小児期や成人期のCKD患者における高血圧の合併頻度は高く,腎機能障害の進展や増悪に関与しCKDの最も重要なリスクファクターである。成人CKDでは,血圧に関する早期の介入やコントロールがCKDの進行を抑制し,心疾患イベントの発症リスクを抑制することが示されている。特に,RAS阻害薬は蛋白尿減少効果や腎障害進行抑制作用を有する降圧薬である。しかしながら,小児期から成人期への移行期間である思春期・青年期,特に腎臓小児科より腎臓内科へと転科する16~20歳台前半の妊娠時期を含めた成人早期における高血圧合併CKD患者において,降圧療法に関するエビデンスは明らかではない。そこで,EBMの手法に従って“高血圧を伴う思春期・青年期のCKD患者では,降圧療法は腎機能予後を改善させるか否か”について検討した。
84 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 合にはeGFRの減少,血清カリウムの上昇,過剰降圧や脱水に注意する必要がある。さらに,投与対象年齢が思春期・青年期であるため,妊娠出産に関する配慮が必要である。RAS阻害薬は胎児毒性があることが知られており,尿細管の形成異常や羊水過少による肺低形成,四肢拘縮,頭蓋や顔面の変形などが起こる場合があるd)。したがって,妊娠を計画している思春期・青年期の女性患者には原則的に妊娠前に中止し,妊娠中にも投与可能な他剤,すなわち中枢性交感神経抑制薬であるメチルドパ,αβ遮断薬であるラベタロールや血管拡張薬であるヒドララジンなどに変更するe)。蛋白尿を伴わない思春期・青年期のCKDに対する降圧薬としては,RAS阻害薬の優位性は証明されていない。成人のハイリスク高血圧患者を対象とした介入試験ALLHAT研究の長期解析でも,心血管死亡,脳卒中,ESKDなどの抑制効果はACEI,カルシウム拮抗薬,サイアザイド系利尿薬で同等であった12)。この結果を参考として,蛋白尿を伴わない思春期・青年期のCKDに対する降圧薬としても,第一選択薬としてRAS阻害薬,カルシウム拮抗薬,利尿薬を推奨することは妥当であろう。 ◆ 思春期・青年期のCKDの管理目標値 ◆ 成人のCKD合併高血圧患者の適切な降圧目標としてはKDIGO‒BPガイドラインc)では,蛋白尿を伴わないCKDでは140 / 90 mmHg以下,蛋白尿を伴うCKDでは130 / 80 mmHg以下の降圧目標が示されている。また,エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013b)でも,蛋白尿を有しないCKD では140 / 90 mmHg 未満,蛋白尿を有するCKD では130 / 80 mmHg未満の降圧目標が示されている(ただし厳密には,16~17歳の思春期・青年期の管理血圧目標値は,成人とわずかに異なる)。以上に加えて思春期から成人早期CKDに限定した降圧療法の有効性に関するエビデンスは認められないことから,高血圧を伴う思春期・青年期のCKDの血圧管理目標値は,蛋白尿を伴わないCKDでは140 / 90 mmHg未満,蛋白尿を伴うCKDでは130 / 80 mmHg未満を目標とすることが推奨される。データベース:PubMed 医中誌 期間:1990年~2016年4月までキーワード: aldolescent and young adult, chronic kidney dis- ease, hypertension, a) Chobanian AV, et al:The seventh report of the Joint National Committee on prevention, detection, evaluation, and treatment of high blood pressure:the JNC 7 report. JAMA 289:2560‒2572, 2003 b)日本腎臓学会(編).:エビデンスに基づくCKD診療ガイドラ イン2013.東京医学社c) KDIGO Blood Pressure Work Group.:KDIGO clinical prac- tice guideline for the management of blood pressure in chronic kidney disease. Kidney Int 2(Suppl):337‒414, 2012 d) Lennestal R, et al.:Maternal use of antihypertensive drugs in early pregnancy and delivery outcome, notably the presence of congenital heart defects in the infants. Eur J Clin Phamacol 65:615‒625, 2009 e)三戸麻子,他.:腎疾患:慢性疾患と妊娠・周産期・トラン ジション 小児科診療76:1887‒1894,2013 1) Warady BA, et al. Predictors of rapid progression of glo- merular and nonglomerular kidney disease in children and adolescents:the chronic kidney disease in children(CKiD) cohort. Am J Kidney Dis 65:878‒888, 2015 2) Yamagata K, et al.:Risk factors for chronic kidney disease in a community‒based population:a 10‒year follow‒up study. Kidney Int 71:159‒166, 2007 3) Reynolds K, et al.:A population‒based, prospective study of blood pressure and risk for end‒stage renal disease in China. J Am Soc Nephrol 18:1928‒1935, 2007 4) Crews DC, et al.:Prevalence of chronic kidney disease in persons with undiagnosed or prehypertension in the United States. Hypertension 55:1102‒1109, 2010 5) ESCAPE Trial Group:Strict blood‒pressure control and progression of renal failure in children. N Engl J Med 361: 1639‒1650, 2009 6) Hou FF, et al.:Efficacy and safety of benazepril for advanced chronic renal insufficiency. N Engl J Med 354: 131‒140, 2006 7) Appel LJ, et al.:Intensive blood‒pressure control in hyper- tensive chronic kidney disease. N Engl J Med 363:918‒ 929, 2010 8) Saruta T, et al.:Effects of candesartan and amlodipine on cardiovascular events in hypertensive patients with chronic ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド kidney disease:subanalysis of the CASE‒J Study. Hypertens Res 32:505‒512, 2009 9) Wühl E, et al.:Antihypertensive and antiproteinuric effi- cacy of ramipril in children with chronic renal failure. Kidney Int 66:768‒776, 2004 10) Soergel M, et al.:Effect of ramipril on ambulatory blood pressure and albuminuria in renal hypertension. Pediatr Nephrol 15:113‒118, 2000 11) Webb NJ, et al.:Randomized, double‒blind, controlled study of losartan in children with proteinuria. Clin J Am Soc Nephrol 5:417‒424, 2010 12) Rahman M, et al.:Long‒term renal and cardiovascular out- comes in Antihypertensive and Lipid‒Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial(ALLHAT)participants by baseline estimated GFR. Clin J Am Soc Nephrol 7:989‒ 1002, 2012
86 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年Warady 2015研究デザイン多施設観察コホート研究P小児から思春期における糸球体疾患を有するCKD患者98例と糸球体疾患を有さないCKD患者398例IなしCなしO高血圧因子は透析導入あるいは50%以下の腎機能低下を起こすまでの期間を67%短縮することが示され,腎機能進展へのリスクファクターになりうる.コメントなし 文献番号2著者発表年Yamagata 2007研究デザインコホート研究P日本において地域健康健診を受け10年以上経過を観察し得た40歳以上の男性4,012名と女性82,752名の計123,764名IなしCなしO 10年以上の経過観察において新たにCKDへの進展を19.2%に認め,そのリスクとしては高血圧,糖尿病,重度の代謝異常があげられた.コメントなし 文献番号3著者発表年Reynolds 2007研究デザイン前向きコホート研究P 40歳以上の中国人男性と女性計158,365名IなしCなしO高血圧予備群,CKDステージG1,2群患者は正常血圧患者群と比較してESKDへの進展度が高い. ESKDへの進展リスクファクターとして収縮期血圧値高値があげられた.コメントなし 文献番号4著者発表年Crews 2010研究デザインコホート研究P 1999 ~2006年までの米国全国健康・栄養調査サーベイに参加した成人17,794名IなしCなしO患者を正常血圧群,高血圧予備群,診断されていない高血圧群,高血圧群に分類すると,高血圧群患者においてCKDの発症率が有意に高かった.コメントなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号5著者発表年ESCAPE Trial Group 2009研究デザインコホート研究P ACEIラミプリルを投与された3 ~18歳までのCKD385症例を従来の血圧管理を行ったコントロール群とより積極的に降圧した群と比較. IなしCなしO積極的血圧管理を施行した群において投与後6カ月後の腎機能保持率が高く,すなわち小児CKDの腎機能障害の進行が抑制された.コメントなし 文献番号6著者発表年Hou 2006研究デザインRCT P非糖尿病進行性腎機能障害患者を血清C値が1.5 ~3.0mg/dLを呈した1群(104例)と血清C値が3.1 ~5.0 mg/dLを呈した2群(224例) Iベナゼプリル投与(2群のみ) Cプラセボ投与(2群のみ) O 36カ月間の経過観察期間において1群の22%,ベナゼプリル投与2群の41%,プラセボ投与2群の60%の対象患者がエンドポイントに到達した.ベナゼプリル投与群患者の方がプラセボ投与群と比較して有意にエンドポイントに到達した患者率が低値であった.コメントなし 文献番号7著者発表年Appel 2010研究デザインRCT P高血圧を有するCKD患者1,094例I積極的な血圧管理C標準的な血圧管理O標準血圧治療をした患者群とより積極的に血圧管理をした患者群においてエンドポイントに差はなかったが,蛋白/クレアチニン比0.22以上の患者においては予後が良好であった.コメントなし 文献番号8著者発表年Saruta 2009研究デザインコホート研究P高血圧を有する日本人CKD患者のカンデサルタン投与群(1,376例)とアムロジピン投与群(1,344例) IなしCなし
88 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド O心血管イベント発症率でCKDステージG1 ~3群患者の比較で両群に差はなかったが,CKDステージG4群患者の比較ではカレデサルタン投与群の方がアムロジピン投与群より心血管イベント発症率を有意に減少させた.コメントなし 文献番号9著者発表年Wühl 2004研究デザインコホート研究P 3 ~18歳までの慢性腎機能低下の患者を高血圧群,正常血圧群に分け,ラミプリルを投与. IなしCなしO治療6カ月後,高血圧群では平均血圧が11.5mmHg,正常血圧群では平均血圧が4.4mmHg低下した.コメントなし 文献番号10著者発表年Soergel 2000研究デザインコホート研究P 5 ~18歳までの各種腎炎・腎症を有し高血圧と腎機能低下(GFR:60mL/分/1.73m2以下)を有する14例に6カ月間ラミプリルを投与. IなしCなしO 6カ月後の最終観察時点において9例で収縮期血圧が95パーセンタイル以下に,13例で拡張期血圧が95パーセンタイル以下に低下し改善がみられた.アルブミン尿中排泄量の増加を有した11例中6例において平均78%のアルブミン尿中排泄量の減少がみられた.コメントなし 文献番号11著者発表年Webb 2010研究デザインRCT P蛋白尿を有する正常血圧患者234例(1 ~17歳)と蛋白尿を有する高血圧患者54例Iロサルタン投与(正常血圧群と高血圧群) Cプラセボ投与(正常血圧群),アムロジピン投与(高血圧群) O治療12週間後に両群においてロサルタン投与群ではプラセボ投与群あるいはアムロジン投与群と比較して有意な蛋白尿の減少効果を有した.コメントなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号12著者発表年Rahman 2012研究デザインコホート研究P 55歳以上の高血圧患者31,350例をクロルタリドン,アムロジピン,リシノプリル投与群に分類. IなしCなしOクロルタリドン,アムロジピン,リシノプリル投与群において心血管死亡,脳卒中,ESKDなどの抑制効果に有意差はなかった.コメントなし
90 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 CKDで主に使用される薬剤には,副腎皮質ステロイド,代謝拮抗薬,カルシニューリン阻害薬,生物学的製剤(リツキシマブ),抗凝固薬,抗血小板薬,抗菌薬,抗コリン薬,利尿薬,降圧薬(RAS阻害薬,カルシウム拮抗薬,β遮断薬,α遮断薬,中枢性交感神経抑制薬),リン吸着薬,シナカルセト,活性型ビタミンD,高脂血症治療薬,高尿酸血症治療薬,ビスホスホネート製剤,イオン交換樹脂,アシドーシス治療薬,赤血球造血刺激因子製剤,鉄剤,成長ホルモン製剤などがある。これらのインタビューフォーム(妊婦,産婦,授乳婦などへの投与)を見て,胎芽病や胎児病などの記載のあるものについて整理した。また,腎移植に使用される免疫抑制薬などについては,ヨーロッパの腎移植ガイドライン(EBPG)a)を参考にした。このガイドラインでは,腎移植患者の妊娠の50%に早期 産児がみられるとされるが,これは薬剤の問題だけではないのでこれ以上言及しない。循環作動薬については今回省くこととする。また,以下のように注意すべきグレードを3段階に分けて記載する。×:使用禁止薬,×:厳重注意薬,△:要注意薬 ◆ ステロイド薬 ◆ △副腎皮質ステロイド 動物試験で催奇形作用が報告されており,また新生児に副腎不全を起こすことがある。 ◆ 代謝拮抗薬 ◆ ×シクロホスファミド 催奇形性を疑う症例報告があり,また,動物試験で催奇形作用が報告されている。 × アザチオプリン リンパ球に染色体異常を有する児が出生したとの症例報告がある。早産および低出生体重児の出産が報告されている。動物実験で催奇形作用が報告されている。 × ミゾリビン 催奇形性を疑う症例報告があり,動物実験で催奇形作用が報告されている。 × ミコフェノール酸モフェチル 妊娠中に他の免疫抑制薬と併用して本剤を服用した患者において,耳奇形を含む先天性奇形を有する児を出産した例が報告されている1)。ラットで脳露出,腹壁破裂などが,ウサギで動脈管開存,胸部お CQ 8思春期・青年期のCKD患者において,使用に際して注意すべき薬剤にはどんなものがあるか?催奇形性のあると考えられる免疫抑制薬およびRAS阻害薬は,妊娠の可能性のある時期には避 けるべきである。 推奨 酉1B ビスホスホネート製剤は骨に残留し,妊娠中に胎児に移行して骨形成異常を発症させる危険性 があることから,思春期・青年期の女性CKD患者には慎重に投与する。 推奨 酉2D 背景・目的 移行プログラムにおいては,6領域の1つである「性的管理」に関連して指導教育する内容として,妊娠出産時に注意すべき薬剤について説明することが必要である。大きく分けると胎盤形成前に影響(胎芽病)し催奇形性のある薬剤と胎盤形成後に影響(胎児病)する薬剤がある。CKDにおいて使用される薬剤で,胎芽病や胎児病を引き起こす薬剤を整理してみる。また,本ガイドは移行医療に特化したものであり,CKD患者において投与方法を調節する必要のある薬剤については他の成書を参照していただきたい。
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド よび腹壁破裂などが報告されている。EBPGでも,妊娠中の禁忌薬としているa)。 ◆ mTOR阻害薬 ◆ ×エベロリムス シロリムス(別名ラパマイシン)の誘導体である。動物実験(ラットおよびウサギ)で胚・胎児毒性を含む生殖発生毒性が認められたとの報告がある。EBPGでは,類似薬のシロリムスについて禁忌薬としているa)。 ◆ カルシニューリン阻害薬 ◆ △シクロスポリン 動物実験で催奇形作用,また,難産および周産期死亡が報告されている。しかし,先天異常発生率は一般集団と比べて差はなく,実際には移植後の妊娠では服用を継続するのが一般的である。EBPGでは,催 奇形性や変異原性は報告されていないとしているa)。△タクロリムス 動物実験で催奇形作用,胎仔毒性が報告されている。しかし,先天異常発生率は一般集団と比べて差はなく,実際には移植後の妊娠では服用を継続するのが一般的である2)。EBPGでも,シクロスポリンほどの経験はないがさまざまな移植の妊娠例に安全に使用されているとしているa)。 ◆ 生物学的製剤 ◆ ×リツキシマブ 本剤を動物に用いた生殖・催奇形性試験は実施されていないが,ヒトIgGは胎盤関門を通過することが知られている。 ◆ 抗凝固薬 ◆ × ワルファリン 催奇形作用(胎芽病)として軟骨発育不全,胎児病として中枢神経系の異常(出血後のDandy‒Warker症候群)などが報告されている。 ◆ 利尿薬 ◆ × トルバプタン 動物実験で催奇形性および胚・胎児死亡が報告されている。 ◆ 降圧薬 ◆ × RAS阻害薬すべて 妊娠中期および末期にACEIを投与された高血圧症の患者で羊水過少症,胎児・新生児の死亡,新生児の低血圧,腎不全,高カリウム血症,頭蓋の形成不全および羊水過少症によると推測される四肢の拘縮,頭蓋顔面の変形などがあらわれたとの報告がある3)。また,海外で実施された後ろ向き疫学調査で,妊娠初期にACEIを投与された患者群において,胎児奇形の相対リスクは降圧薬が投与されていない患者群に比べ高かったとの報告がある4)。ARBの妊娠後半の妊婦への投与は,塩類喪失を伴 う腎性尿崩症(多尿)を引き起こすとの報告もある5)。△β遮断薬;アテノロール 高血圧症の妊婦への投与により,胎児の発育遅延が認められたとの報告がある。 ◆ Ca受容体作動薬 ◆ ×シナカルセト 動物実験で母体の低カルシウム血症,体重増加抑制および摂餌量減少,胎仔重量の減少が観察されている。 ◆ 活性型ビタミンD ◆ △カルシトリオール 動物実験で,胎仔の化骨遅延,新生仔の骨格異常,骨格変異が,また臍ヘルニア,四肢異常などの複合奇形が報告されている。 ◆ 高脂血症治療薬 ◆ × HMG CoA還元酵素阻害薬 動物実験では,ロスバスタチンなどのHMG‒CoA還元酵素阻害薬を大量投与した場合に,胎仔の骨格奇形が報告されている。さらにヒトでは,HMG‒ CoA還元酵素阻害薬を妊娠3カ月までの間に服用した場合に胎児に先天性奇形があらわれたとの報告がある。
92 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド ◆ 骨粗鬆症予防薬 ◆ △ビスホスホネート製剤 動物実験(ラット)でパシドロネートなどのビスホスホネート製剤を器官形成期または器官形成期以降の母体に静脈内投与した場合,妊娠末期に血中カルシウム低下に起因すると考えられる母体の死亡が報告されている。本剤投与後に妊娠した場合,母体を通して本剤が胎仔骨へ取り込まれ,胎仔骨における障害のリスクが考えられる。また,妊娠とは関係ないが,ビスホスホネート関連顎骨壊死(BRONJ)に注意が必要で,注射用ビスホスホネート製剤投与患者におけるBRONJ発生は,経口ビスホスホネート製剤投与患者に比べて頻度が高いことが欧米の調査報告により知られている。なお,妊娠時の薬剤投与については,国立成育医療センターが「妊娠と薬情報センター」を設置し,「妊婦・胎児に対する服薬の影響」に関する相談を行っているので,その利用を勧めてもよいb). データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年8月までキーワード: fetopathy, embryopathy, ACE I, ARB, MMF, calci- neurin inhibitor a) EBPG Expert Group on Renal Transplantation:European best practice guidelines for renal transplantation. Section IV:Long-term management of the transplant recipient. IV.10. Pregnancy in renal transplant recipients. Nephrol Dial Transplant 17(Suppl 4):50-55, 2002 b) http://www.ncchd.go.jp/kusuri/ 1) Perez-Aytes A, et al.:In utero exposure to mycophenolate mofetil:a characteristic phenotype? Am J Med Genet A 146A:1‒7, 2008 2)萩原 大二郎.:プログラフの妊娠時使用経験.今日の移植 17: 451-453,2004 3) Pryde PG, et al.:Angiotensin-converting enzyme inhibitor fetopathy. J Am Soc Nephrol 3:1575‒1582, 1993 4) Cooper WO, et al.:Major congenital malformations after first-trimester exposure to ACE inhibitors. N Engl J Med 354:2443‒2451, 2006 5) Miura K, et al.:Salt-losing nephrogenic diabetes insipidus caused by fetal exposure to angiotensin receptor blocker. Pediatr Nephrol 24:1235‒1238, 2009 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年Perez-Aytes 2008研究デザインCase report P MMF投与された腎移植妊婦IなしCなしO過去の報告同様,口唇口蓋裂あり.コメントその他,小耳症,外耳孔閉鎖,小顎症,眼間乖離,網脈絡膜欠損 文献番号2著者発表年萩原 2004研究デザインCross-sectional study Pタクロリムス投与の腎移植妊婦と,腎移植者の妊娠した配偶者IなしCなしO先天奇形発生率は,腎移植妊婦で3.9%,腎移植者の妊娠した配偶者で6.9%コメントシクロスポリンと比較して.また,一般の妊娠と比較してタクロリムス投与下の腎移植患者の妊娠出産の催奇形性率は高くない. 文献番号3著者発表年Pryde 1993研究デザインCase series P ACEI投与(1カプトプリル,2リシノプリル,3エナラプリル)された妊婦IなしCなしO 11,440g 無尿で出生日に死亡.28日齢に腹膜透析開始,22カ月で腎移植.35日齢に腹膜透析開始,9日齢に死亡コメント第2,3トリメスターに投与してはならない. 文献番号4著者発表年Cooper 2006研究デザインCohort study P 29,507出生中のACEI使用:209例,他の降圧薬使用:202例IなしCなしO第1トリメスターでのACEIの使用は,大きな先天奇形のリスクを2.71倍増加.心奇形は3.72倍,中枢神経奇形は4.39倍の増加であったが,他の降圧薬ではリスク増加はなかった.コメント第1トリメスターでのACEIは避けるべきである.
94 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号5著者発表年Miura 2009研究デザインCase series P腎移植後妊婦で1妊娠前から継続してARB投与(カンデサルタン)もしくは2妊娠33週からARB投与(カンデサルタン) IなしCなしO 11,384g 肺低形成,乏尿,腹膜透析開始(急性腎不全),その後腎機能回復,希釈尿,多尿22,438g,乏尿,腹膜透析開始(急性腎不全),その後腎機能回復,希釈尿,多尿コメント妊婦へのARB投与は塩類喪失を伴う腎性尿崩症(多尿)を引き起こす.
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 ◆ 腎生検の適応 ◆ 小児CKD患者における腎生検の適応について「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」a)では,尿蛋白クレアチニン比が0.5 g / gCr以上,および蛋白尿(0.2 g / gCr以上)と血尿が3カ月以上持続する症例に腎生検の適応があるとされており,原疾患として想定されているのは,IgA腎症・紫斑病性腎炎,ループス腎炎とFSGSである。表に示した成人CKD患者における腎生検の適応は,「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」で示された適応から,尿潜血のみの症例を削除したものである。これは「血尿診断ガイドライン2013」b)で示された,蛋白尿を伴わない無症候性顕微鏡的血尿の患者には腎生検を推奨せず,健診を利用して検尿所見をフォ ローするというステートメントに沿ったためである。腎生検の結果が患者管理に影響を与える割合は,ネフローゼ症候群で86%,慢性腎不全で45%,血尿および蛋白尿で32%,蛋白尿のみで12%であったが,血尿のみでは3%に過ぎず4),また無症候性顕微鏡的血尿のESKDへの進展リスクは蛋白尿に比較して低いことからb),腎生検という侵襲的な検査は推奨されないこととなった。その結果,小児CKD患者と成人CKD患者における腎生検の適応はほぼ同一であり,思春期・青年期のCKD患者においてもシームレスに判断ができることとなる。さらに,腎臓小児科において適応があっても腎生検そのものが禁忌と判断された症例,もしくは患児および親が腎生検を承諾しなかった症例においては,腎臓内科への転科時の再評価により適応と判断され,また禁忌とされた状況が改善されていれば,腎生検の必要性を説明し,承諾を得たうえで積極的に行うべきである。 CQ 9腎生検が実施されていない思春期・青年期のCKD患者では,腎機能予後を改善するために腎生検は推奨されるか?腎生検が実施されておらず,臨床的にも原疾患が確定されていない思春期・青年期のCKD患者では,診断と治療方針の決定のため,検尿所見(表)を参考にして適応を判断したうえで,腎生検の施行を推奨する。ただし,腎生検による診断と治療方針の決定が,腎機能予後を改善するとい う高いエビデンスは認められない。 推奨 酉2D 背景・目的 腎生検は侵襲を伴う検査手技であるが,腎組織像を正確に判断することでCKDの原疾患を確定し,治療方針の決定や長期予後の推定が可能となるために1~3),腎臓小児科および腎臓内科の双方のガイドラインで推奨されa),汎用されている。ただし現在までのところ,腎生検の結果をCKD診療に反映させることで有意に腎機能予後が改善するというエビデンスはない。本CQでは,腎臓小児科医のもとで何らかの理由から腎生検を行わなかった小児CKD患者が思春期・青年期に至って腎臓内科医のもとに転科した際,腎生検が推奨されるのはどのような場合かを検討した。表 CKDにおける腎生検の適応 尿蛋白のみ陽性の場合尿蛋白が0.5 g /日以上,もしくは0.5 g /gCr以上に施行尿蛋白,尿潜血ともに陽性の場合尿蛋白が0.5 g /日以下,もしくは0.5 g /gCr以下でも考慮ネフローゼ症候群の場合積極的に施行注:いずれの場合にも糖尿病患者においては慎重に考慮すべきである。
96 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド ◆ 慢性腎炎症候群について ◆ わが国で行われた疫学調査の結果,移行医療の対象となる代表的な慢性腎炎症候群としてIgA腎症があげられるがc),腎生検組織所見のOxford分類におけるメサンギウム細胞増殖(M),分節性糸球体硬化(S)および尿細管萎縮・間質線維化(T)の有無は,それぞれESKDのリスクとなることがメタ解析によって明らかとされた5)。小児症例においても重症度や腎機能予後の判定に有用であることが複数の観察研究から示されているが6~8),成人症例を対象とした研究結果と比べてS因子がESKDのリスクにならない点が特徴的である。したがって思春期・青年期の症例においてもOxford分類は有用と考えられるが, S因子の評価には注意が必要である。また成人を主な対象とした検討であるが,わが国の厚労省班研究IgA腎症ガイドラインに示されている組織学的重症度(H-GradeI~IV)も,ESKDへの進展リスク評価に有用であることが示されている9)。思春期・青年期のIgA腎症患者と成人症例とを比較したわが国からの報告では,思春期・青年期群は成人群より有意に診断時の血圧,血清クレアチニン値が低く,1日尿蛋白量が少なく,また組織病変の重症度も軽度な段階で腎生検が行われていた10)。多変量解析では,思春期・青年期群でも診断時の尿蛋白量と病理所見の重症度が有意な予後予測因子であったことから,積極的な腎生検の適応と考えられる。また,小児および成人のIgA腎症において有効な治療方法が確立されており(CQ10参照),その意味でも腎生検による早期の診断と治療介入が望ましい。さらにFSGSは腎機能予後の悪い組織所見であるが,腎生検でFSGSと診断された症例の約半数が持続する血尿と蛋白尿から慢性腎炎症候群と診断されていることから11),この臨床診断と組織診断の乖離を考慮すると,血尿と蛋白尿が共存する場合には蛋白尿が0.5 g / gCr以下でも腎生検の意義は高いと考えられる。 ◆ ネフローゼ症候群について ◆ 上述の疫学調査の結果より,わが国の移行医療において対象となる最多のネフローゼ症候群は微小変化型ネフローゼ症候群でありc),小児において通常 は診断的治療が行われ,副腎皮質ステロイドが有効ならば腎生検の適応とはならない。したがってステロイド抵抗性もしくは臨床的に微小変化型以外が疑われる症例では,腎生検の適応とされる。そこで腎生検が行われずに腎臓小児科から腎臓内科へと転科してくる思春期・青年期のネフローゼ患者は,そのほとんどが頻回再発型もしくはステロイド依存性の微小変化型ネフローゼ症候群の症例であり,このような症例が腎臓内科においても典型的な経過をたどる場合には,腎生検の適応は低いと考えられる。一方,ステロイド抵抗性のネフローゼ症候群が遷延している場合,もしくは再発したネフローゼ症候群がステロイド抵抗性もしくは微小変化型以外が疑われる場合には,腎臓内科において腎生検の適応となる。思春期・青年期に発症するネフローゼ症候群では,小児に比較してFSGSの占める割合が大きくなり,また膜性腎症の頻度も増加することが報告されている12)。特にFSGSでは糸球体硬化の割合や尿細管間質病変が予後予測因子として有用であり13,14),またvariantによって治療反応性や腎機能予後が異なることが報告されており15),腎生検による診断が重要と考えられる。 データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年7月までキーワード: renal biopsy, prognosis, outcome, nephritis, nephrotic, nephropathy, kidney disease, cohort, case control a)日本腎臓学会(編).:エビデンスに基づくCKD診療ガイドラ イン2013.東京医学社b)血尿診断ガイドライン編集委員会(編).:血尿診断ガイドライ ン2013.ライフサイエンス出版c) Hattori M, et al.:Transition of adolescent and young adult patients with childhood‒onset chronic kidney disease from pediatric to adult renal services:a nationwide survey in Japan. Clin Exp Nephrol(in press) ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 1) Chou YH, et al.:Clinical outcomes and predictors for ESRD and mortality in primary GN. Clin J Am Soc Nephrol 7: 1401‒1408, 2012 2) Lee H, et al.:Mortality and renal outcome of primary glo- merulonephritis in Korea:observation in 1,943 biopsied cases. Am J Nephrol 37:74‒83, 2013 3) Haider DG, et al.:Kidney biopsy results versus clinical parameters on mortality and ESRD progression in 2687 patients with glomerulonephritis. Eur J Clin Invest 44: 578‒586, 2014 4) Richards NT, et al.:Knowledge of renal histology alters patient management in over 40% of cases. Nephrol Dial Transplant 9:1255‒1259, 1994 5) Lv J, et al.:Evaluation of the Oxford Classification of IgA nephropathy:a systematic review and meta‒analysis. Am J Kidney Dis 62:891‒899, 2013 6) Edström Halling S, et al.:Predictors of outcome in paediat- ric IgA nephropathy with regards to clinical and histopathological variables(Oxford classification). Nephrol Dial Transplant 27:715‒722, 2012 7) Le W, et al.:Validation of the Oxford classification of IgA nephropathy for pediatric patients from China. BMC Nephrol 13:158, 2012 8) Shima Y, et al.:Validity of the Oxford classification of IgA nephropathy in children. Pediatr Nephrol 27:783‒792, 2012 9) Kawamura T, et al.:A histologic classification of IgA nephropathy for predicting long‒term prognosis:emphasis on end‒stage renal disease. J Nephrol 26:350-357, 2013 10) 小松弘幸,他.:若年(ティーンエイジ)で診断されたIgA腎症 患者の臨床病理学的特徴と予後因子の解析.宮崎医会誌 37: 111‒118,2013 11) Sugiyama H, et al.:Japan renal biopsy registry and Japan kidney disease registry:committee report for 2009 and 2010. Clin Exp Nephrol 17:155‒173, 2013 12) Mubarak M, et al.:Pathology of idiopathic nephrotic syn- drome in children:are the adolescents different from young children? Nephrol Dial Transplant 27:722‒726, 2012 13) Abrantes MM, et al.:Predictive factors of chronic kidney disease in primary focal segmental glomerulosclerosis. Pediatr Nephrol 21:1003‒1012, 2006 14) Paik KH, et al.:Primary focal segmental glomerular sclero- sis in children:clinical course and prognosis. Pediatr Nephrol 22:389‒395, 2007 15) D’Agati VD, et al.:Association of histologic variants in FSGS clinical trial with presenting features and outcomes. Clin J Am Soc Nephrol 8:399‒406, 2013 ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
98 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年Chou 2012研究デザインコホート研究P平均年齢44.4歳.1993年から2006年に腎生検を受け,膜性腎症,FSGS ,IgA腎症および微小変化群と診断された,中国人580名. IなしCなしO中央値5.9年間の観察期間において,FSGSは最も強力なESKDの予測因子であり,IgA腎症も膜性腎症に比較してESKDのリスクファクターであった.一方,高度の蛋白尿を伴う膜性腎症は全死亡の予測因子であり,FSGSがそれに続いた.コメントなし 文献番号2著者発表年Lee 2013研究デザインコホート研究P韓国において腎生検を受けて,一次性糸球体腎炎と診断された1,943例. IなしC年齢および性別を適合させた一般人O中央値90カ月の観察期間において,糸球体腎炎患者,特に女性は有意に死亡率が高かった.MPGNは腎機能予後および生命予後は最も悪かった.FSGSはそれに次いだ.IgA腎症の腎機能予後は不良であったが,生命予後は良好であった.コメントなし 文献番号3著者発表年Haider 2014研究デザインコホート研究Pオーストリアにおいて腎生検を受け,糸球体腎炎と診断された,2,687例. IなしCなしO中央値129.9カ月の観察期間において,年齢,性別,eGFR,糸球体腎炎の診断およびその組織型は独立して生存率に関与した.またESKDへの進展については,性別,eGFR,尿蛋白量,糸球体腎炎の診断およびその組織型(半月体形成性糸球体腎炎,二次性FSGS,IgA腎症)が独立して関与した.腎炎症候群およびネフローゼ症候群の臨床診断は生存率およびESKDへの進展に関与しなかった.コメントなし 文献番号4著者発表年Richards 1994研究デザインコホート研究P 1991年に腎生検診断が行われた263例IなしCなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド O腎生検診断が患者管理に影響を及ぼしたのは,臨床診断毎にネフローゼ症候群の86%,急性腎不全の71%,慢性腎不全の45%,血尿・蛋白尿の32%,蛋白尿の12%,血尿の3%であった.コメントなし 文献番号5著者発表年Lv 2013研究デザインメタ解析P 2009年1月~2012年12月に出版された,IgA腎症のOxford分類と腎機能予後との相関を検討した16件のコホート研究IなしCなしO M(メサンギウム増殖),S(分節性硬化),T(尿細管間質性病変)はクレアチニン倍加もしくはeGFRの半減に強く相関し,E(管内増殖)は相関を認めなかった.コメントなし 文献番号6著者発表年Edström Halling 2012研究デザインコホート研究P 5年以上経過観察が可能であったIgA腎症患児の99例IなしCなしO M,E,Tは腎機能低下と相関していたが,Sは相関を認めなかった.GFR低下,高血圧,大量アルブミン尿は腎機能低下と相関した.コメントEに相関が認められたが,Sには認められなかった. 文献番号7著者発表年Le 2012研究デザインコホート研究P Oxford分類によって評価されたIgA腎症患児,218例IなしCなしO中央値56カ月の観察期間において24例で腎機能低下し,T所見のみが独立した腎機能障害の予測因子であった.コメント単回帰分析では,SとTが予後予測因子であったが,MとEには相関を認めなかった. 文献番号8著者発表年Shima 2012研究デザインコホート研究P 1997~1989年にOxford分類にて評価されたIgA腎症患児の161例Iなし
100 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド CなしO MとTがCKDステージG3以上への進行に関する,独立した予測因子であった.コメント単回帰分析では,M,E,Tが予後予測因子であったが,Sには相関を認めなかった. 文献番号9著者発表年Kawamura 2013研究デザインケースコントロール研究P中央値9.3年間の観察期間中に腎不全に進行したIgA腎症患者の49例IなしC観察期間中に腎不全に進行しなかったIgA腎症患者の238例O 5年以内に腎不全に達した早期進行群では,全節性および分節性硬化と線維性半月体が,また5~ 10年で腎不全に達した後期進行群では,全節性硬化と(線維)細胞性半月体がESKDの予後予測因子であった.これらの糸球体病変の程度によって分類されるH-GradeI~IVでは,H-GradeIに比較し,H-GradeII~IVはESKDへの有意な進行リスクであった.コメントなし 文献番号10著者発表年小松 2013研究デザインコホート研究P 1981~2006年にIgA腎症と診断され,血清クレアチニンが2mg/dL以下で,12カ月以上の観察が可能であった304例のうち,13~19歳で診断された75例(若年群) IなしC 1981~2006年にIgA腎症と診断され,血清クレアチニンが2mg/dL以下で,12カ月以上の観察が可能であった304例のうち,20歳以上で診断された229例(成人群) O若年群は成人群より有意に診断時の血圧,血清クレアチニン値が低く,1日蛋白尿量が少なく,組織病変の重症度も軽度であった.多変量解析では,若年群でも診断時の尿蛋白量と病理所見の重症度が有意な予後因子であった.若年者は成人より軽症の段階で診断されている.しかし,若年であっても尿蛋白量が多い例や重度の組織障害を呈する例ではESKDへ進展する可能性があり,積極的な治療介入が必要と思われる.コメントなし 文献番号11著者発表年Sugiyama 2013研究デザイン横断研究P 2009~2010年にJRBRとJKDRに登録された4,016例(2009年)および4,106例(2010年). IなしCなしO 20歳未満の症例は全体の12.1%で,65歳以上の非移植症例は24.5%であった.最多の原疾患は腎炎症候群で,ネフローゼ症候群が続き,最多の病態による組織診断はIgA腎症であった.ネフローゼ症候群における最多の組織診断は,2009年は膜性腎症,2010年は微小変化群であった.コメントなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号12著者発表年Mubarak 2012研究デザインケースコントロール研究P 13~18歳で発症した特発性ネフローゼ症候群患者の173例(思春期群) IなしC 12歳以下で発症した特発性ネフローゼ症候群患者の365例(小児群) O思春期群の原疾患ではFSGSが最も多く(36.4%),微小変化群がそれに続き(28.9%),後者の頻度は小児群に比較して有意に低値であった.また小児群に比較し,思春期群では膜性腎症とMPGNの頻度が有意に高値であった.コメントなし 文献番号13著者発表年Abrantes 2006研究デザインコホート研究P 1972年3月~2004年2月に入院した小児FSGS患者,110例IなしCなしO平均観察期間10年で,年齢,血清クレアチニン,血尿と糸球体硬化の割合がCKDステージG3への進展の予測因子であった.コメントなし 文献番号14著者発表年Paik 2007研究デザインコホート研究P 1978~2004年に診断された小児FSGS患者,92例IなしCなしO蛋白尿,血清クレアチニン,高度の分節性糸球体硬化,高度の尿細管間質性病変,ステロイド抵抗性,寛解導入不全は予後不良因子であった.コメントなし 文献番号15著者発表年D’Agati 2013研究デザインコホート研究P 2004~2008年に腎生検を行い,コロンビア分類に沿ったFSGS variantの診断がなされた138例IなしCなしO NOSに比較し,tipとcollapsing variantでは大量蛋白尿と低アルブミン血症を伴いやすく,tip variantは最も腎機能予後は良好で,collapsing variantは予後不良であった.コメントなし
102 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 2001年にわが国のHottaら1)は,扁摘パルスを受けたIgA腎症患者329例を後ろ向きに検討し,扁摘パルスが尿所見の正常化に寄与すること,尿所見の正常化が腎機能予後を改善することを報告した。その後,Satoら2)は,血清クレアチニン2 mg / dL以下の症例において,扁摘パルス群が,経口副腎皮質ステロイド群および保存的治療群と比較し腎保護効果があることを報告し,Kawaguchiら3)は尿蛋白0.5 g / 日未満の症例においても扁摘パルスが臨床的寛解の予測因子であることを報告した。また,Komatsuら4)は,扁摘パルス群とステロイドパルス群を前向きに比較し,扁摘パルスが臨床的寛解に寄与することを報告した。小児科領域においては, Kawasakiら5)によって,治療開始時の年齢が15歳 未満の患者を対象とした扁摘パルス群と多剤併用療法群(副腎皮質ステロイド,ワルファリン,ジピリダモール,ミゾリビン)との前向き比較試験が行われ,両群とも同等に蛋白尿の減少と血尿の軽減を認めたが,扁摘パルス群では,上気道感染後の尿所見の増悪が少ないことが報告された。2009年,Miuraら6)は,扁摘パルスの実施状況に関するアンケート調査を行い,扁摘パルスは回答のあった施設の40.4%で実施されており,2005年以降は年間500~600例実施されていることを明らかにした6)。このようにわが国において扁摘パルスはすでに多くの施設でIgA腎症に対する標準的治療として広く実施されているが,これまでの本療法の有効性に関する報告の多くが後向き研究であることから,国際的なガイドラインでは,エビデンスが不十分とされ,推奨されていないc)。しかし,2014 年にKawamuraら7)は,思春期・青年期を含む10 ~69歳,尿蛋白1.0~3.5 g / 日,血清クレアチニン 1.5 mg / dL未満のIgA腎症患者72例を扁摘パルス群と副腎皮質ステロイド単独群に割り付けたRCTの結果を報告した。その結果,治療開始12カ月の時点で,尿所見の正常化率は両群間で有意差を認めなかったが,尿蛋白減少率は扁摘パルス群で有意に大きく,多変量解析の結果,扁摘パルスは尿蛋白消失に独立して有意に寄与する因子であった。このような現状を踏まえて「エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン2014」b)ではIgA腎症に対する扁摘パルスをC1推奨とし,尿蛋白≧1 g日かつCKDステージG1~ 3bの成人IgA腎症における第二選択療法と位置付けているb)。IgA腎症に対する扁摘パルスに関する,思春期・ CQ 10思春期・青年期のIgA腎症患者には,口蓋扁桃摘出+ステロイドパルス療法は,腎機能予後を改善するために推奨されるか?口蓋扁桃摘出+ステロイドパルス療法はIgA腎症の臨床的寛解(尿所見の正常化)をもたらし, 腎機能予後を改善する可能性があるため検討してもよい。 推奨 酉2C 背景・目的 小児期発症IgA腎症は,学校検尿で無症候性血尿や蛋白尿として発見され,比較的早期に治療が開始されることが多いが,小児期に臨床的寛解に至らず,活動性が持続したまま腎臓小児科より腎臓内科へ転科することも少なくない。小児科領域では,腎機能予後が不良と予想される重症例に対しては,副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬を含む多剤併用療法が推奨されているがa, b),内科領域で広く実施されている口蓋扁桃摘出+ステロイドパルス療法(扁摘パルス)は,現状では普及しているとはいえない。そこで本CQでは,腎臓小児科より腎臓内科に転科した思春期・青年期の本症患者に対して扁摘パルスが推奨されるかどうかを検証した。
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 青年期のみを対象とした質の高いエビデンスは存在しない。しかし,思春期・青年期を含む年齢層のIgA腎症患者を対象としたこれまでの知見をまとめると,本CQに対する回答としては,思春期・青年期のIgA腎症患者においても,口蓋扁桃摘出+ステロイドパルス療法は,臨床的寛解をもたらし,腎機能予後を改善する可能性があり,治療選択肢として検討してもよい,とした。 データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年8月までキーワード:iga nephropathy tonsillectomy steroid pulse a)小児IgA腎症治療ガイドライン作成員会(編).小児IgA腎症 治療ガイドライン1.0版.日本小児腎臓病学会,2007 b) 厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調 査研究班(編).:エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン2014.東京医学社c) Immunoglobulin A nephropathy. Kidney Disease:Improv- ing Global Outcomes (KDIGO) Glomerulonephritis Work Group. KDIGO Clinical Practice Guideline for Glomerulonephritis. Kidney Int Suppl 2:209‒217, 2012 1) Hotta O, et al.:Tonsillectomy and steroid pulse therapy significantly impact on clinical remission in patients with IgA nephropathy. Am J Kidney Dis 38:736‒743, 2001 2) Sato M, et al.:Cohort study of advanced IgA nephropathy: efficacy and limitations of corticosteroids with tonsillectomy. Nephron Clin Pract 93:137‒145, 2003 3) Kawaguchi T, et al.:Clinical effectiveness of steroid pulse therapy combined with tonsillectomy in patients with immunoglobulin A nephropathy presenting glomerular haematuria and minimal proteinuria. Nephrology(Carlton) 15:116‒123, 2010 4) Komatsu H, et al.:Effect of tonsillectomy plus steroid pulse therapy on clinical remission of IgA nephropathy:a controlled study. Clin J Am Soc Nephrol 3:1301-1307, 2008 5) Kawasaki Y, et al.:Efficacy of tonsillectomy pulse therapy versus multiple‒drug therapy for IgA nephropathy. Pediatr Nephrol 21:1701‒1706, 2006 6) Miura N, et al.:Tonsillectomy and steroid pulse(TSP)ther- apy for patients with IgA nephropathy:a nationwide survey of TSP therapy in Japan and an analysis of the predictive factors for resistance to TSP therapy. Clin Exp Nephrol 13:460‒466, 2009 7) Kawamura T, et al.:A multicenter randomized controlled trial of tonsillectomy combined with steroid pulse therapy in patients with immunoglobulin A nephropathy. Nephrol Dial Transplant 29:1546‒1553, 2014 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
104 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年Hotta 2001研究デザイン単施設後方視的コホート研究P 15 ~60歳.尿蛋白0.5g/日以上のIgA腎症329例.平均年齢36.1歳. I扁桃摘出,ステロイドパルスありC扁桃摘出なし,ステロイドパルスなしO尿所見寛解は157例(48%),非寛解は172例(52%)であった.寛解群のうち97例は扁摘パルス施行していた.腎機能低下は寛解群0例,非寛解群24例であった.扁摘,ステロイドパルス療法は寛解に寄与する因子であった.コメントなし 文献番号2著者発表年Sato 2003研究デザイン単施設後方視的コホート研究P血清クレアチニン1.5mg/dL以上のIgA腎症70例.平均年齢46.5歳. I扁桃摘出,ステロイドパルスありC経口副腎皮質ステロイドもしくは保存的療法O ESKD発生は41.4%,血清クレアチニンの2倍化は45.7%であった.血清クレアチニン1.5~2.0mg/ dLでは扁摘パルス群で有意にESKDの発生が少なかったが,血清クレアチニン>2mg/dLでは有意差はなかった.コメントなし 文献番号3著者発表年Kawaguchi 2010研究デザイン単施設後方視的コホート研究P年齢15~65歳のIgA腎症患者で尿蛋白0.5g/日未満の388例.平均年齢34.3歳. I扁桃摘出,ステロイドパルスありC扁摘なし,ステロイドパルスなしO臨床的寛解は扁摘パルス群で186/240(77.51%),副腎皮質ステロイド単独群9/23(39.1%),扁摘群33/67(49.3%),対象群17/58(29.3%)であった.尿蛋白0.5g/日未満のIgA腎症患者においても有効であった.コメントなし 文献番号4著者発表年Komatsu 2008研究デザイン非RCT P年齢15~60歳のIgA腎症患者のうち,sCr≦2mg/dl,腎病理組織学的グレード≧2の患者55例.平均年齢34.5歳. I扁桃摘出+ステロイドパルス+ジラセブありC扁摘なし.ステロイドパルス+ジラゼブあり
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド O尿蛋白消失は扁摘パルス群で26/34(76.5%),対象群では7/17(41.2%),尿潜血消失は,27/34 (79.4%),3/17(17.6%),臨床的寛解(尿蛋白消失,尿潜血消失)は21/34(61.8%),3/17(17.6%)で あった.扁摘パルスは蛋白尿消失に寄与する因子であった(ハザード比6.20). コメントなし 文献番号5著者発表年Kawasaki 2006研究デザイン単施設前方視的コホート研究P治療開始時年齢15歳未満のIgA腎症患者32例. I扁桃摘出,ステロイドパルスC経口副腎皮質ステロイド+ミゾリビン+ワルファリン+ジピリダモールO治療開始6カ月の時点で両群とも有意差なく,全例で蛋白尿の減少をみとめ,再生検では急性変化の改善と慢性変化の増悪抑制を認めた.扁摘パルス群では感染後の尿所見増悪を認めなかった.コメントなし 文献番号6著者発表年Miura 2009研究デザイン多施設後方視的コホート研究P扁摘パルスを受けたIgA腎症患者303例I 1年以内に完全寛解に至った患者C完全寛解に至らなかった患者O多変量解析の結果,発症年齢,尿蛋白量,血尿グレード,組織グレードが扁摘パルス抵抗性に関与していた.コメントなし 文献番号7著者発表年Kawamura 2014研究デザインRCT P年齢10~69歳のIgA腎症患者.ネフローゼ症候群,sCr>1.5を除外した72例.平均年齢38.2歳. I扁摘+ステロイドパルス療法. Cステロイドパルス単独療法. O治療開始12カ月の時点で尿蛋白減少率は扁摘群で有意に大きかったが,尿所見の正常化率は両群間で有意差を認めなかった.多変量解析の結果,扁摘パルスは尿蛋白消失に有意に独立して寄与する因子であったが(オッズ比2.98),血尿消失および臨床的寛解には寄与しなかった.コメントなし
106 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 ◆ シクロスポリン,シクロホスファミ ドおよびミゾリビン ◆ FRNS,SDNSを対象とした免疫抑制薬と副腎皮質ステロイドの併用療法による蛋白尿減少効果および腎機能低下抑制効果を検討したRCTの報告はない。FRNS,SDNSを含む小児および成人からなる66例のネフローゼ症候群患者を対象にし,副腎皮質ステロイドによる完全寛解導入後にシクロスポリンもしくはシクロホスファミドの併用療法を開始し,寛解維持率および再発率を検討したRCTが報告されている1)。2年間の観察期間中,寛解維持率はシクロスポリン群で25%,シクロホスファミド群では63%であった。また両群とも再発率は,副腎皮質ステロイド投与量および尿蛋白量が有意に減少した。シクロスポリンに関しては,再発微小変化型ネフローゼ症候群の成人患者を対象としたRCTにおいて,シクロスポリン併用群は副腎皮質ステロイド単独群に比較して,2週目の尿蛋白量および寛解導入までの期間が有意に減少した2)。またシクロホスファミドに関しては,微小変化型ネフローゼ症候群の成人患者89例を対象とした観察研究において,シクロホスファミドを投与した36例では寛解維持期間がより長期 CQ 11思春期・青年期の頻回再発型ネフローゼ症候群(FRNS)・ステロイド依存性ネフローゼ症候群(SDNS) の患者には,再発予防や副腎皮質ステロイドの減量のために免疫抑制薬療法は推奨されるか? 思春期・青年期のFRNS・SDNSの患者には,再発予防や副腎皮質ステロイドの減量のためにシクロスポリンもしくはシクロホスファミドの併用療法が推奨される。この際,一方の免疫抑制薬の併用療法が無効な場合には,他方の薬剤に変更して治療を試みることが考慮され る。 推奨 酉2C 副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬の併用療法によってもFRNS・SDNSで経過している思春期・青年期の患者には,再発予防や副腎皮質ステロイドの減量のためにリツキシマブの併用療法 が推奨される。 推奨 酉2B られない場合が想定される。そこで本CQでは,思春期・青年期のFRNS,SDNS患者に対する,免疫抑制薬の併用療法の有用性について,新しい免疫抑制薬であるリツキシマブを含めて検証する。 背景・目的 小児の特発性ネフローゼ症候群は90%以上が微小変化型で,残りがFSGSとその他であり, 80~90%がプレドニゾロン2 mg / kgもしくは60 mg / m2で4週間以内に寛解するステロイド感受性のため,初診時には腎生検による組織診断を行わずに副腎皮質ステロイドの経口投与が行われる。しかしステロイド感受性患者の40~50%はFRNSもしくはSDNSに移行する。副腎皮質ステロイドの副作用,特に小児期における成長障害への懸念から,寛解を維持しつつ副腎皮質ステロイドを減量する目的のためにシクロスポリン,ミゾリビン,シクロホスファミドなどの免疫抑制薬の併用が選択される。腎臓小児科より腎臓内科に転科するステロイド感受性の特発性ネフローゼ症候群の患者では,副腎皮質ステロイドによる寛解導入方法として,小児に推奨される国際法から成人の使用法に変更を検討してもよいとされておりa),多くの場合に比較的大量の経口副腎皮質ステロイド療法を開始して,緩やかに漸減する使用法b)が選択されていると考えられる。ただしFRNS もしくはSDNSの患者では,いずれかの免疫抑制薬との併用療法によってもFRNSもしくはSDNSから脱却できない場合,もしくは発癌性や性腺毒性の懸念からシクロホスファミドの併用療法を受け入れ
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド であったことが報告されている3)。さらに小児のFRNS,SDNSに関してわが国の観察研究で,シクロホスファミドの併用療法により再発率の低下もしくは副腎皮質ステロイドの減量が67%の症例に認められた4)。システマティックレビューとしては,近年更新されたコクランレビューでシクロスポリンおよびシクロホスファミドが寛解維持療法として有用と判定されている5)。なおシクロホスファミドには骨髄抑制,性腺毒性,出血性膀胱炎や発癌性などの重篤な副作用の問題があり,特に男性では累積投与量が300 mg/kgを超えると高率に乏精子症を発症するため,投与歴を確認して累積投与量に注意する必要がある。一方,小児のFRNSを対象としたRCTで副腎皮質ステロイドとミゾリビンの併用療法群はプラセボ併用群と比較して,10歳以下の小児において有意に再発率を低下させたが6),上記のコクランレビューでは有意な寛解維持効果とは判定されなかった5)。また成人患者に対する有効性は明らかではなく,思春期・青年期の患者に副腎皮質ステロイドとミゾリビンの併用療法を推奨することは困難である。以上より高いエビデンスはないものの,小児から成人のFRNS,SDNSにおいてシクロスポリンおよびシクロホスファミドには有効性が期待されることから,本CQに対する回答として思春期・青年期のFRNS,SDNSの患者には,再発予防や副腎皮質ステロイドの減量のためにシクロスポリンもしくはシクロホスファミドの併用療法が推奨される。この際,一方の免疫抑制薬の併用療法が無効な場合には,他方の薬剤に変更して治療を試みることが考慮される,とした。 ◆ リツキシマブ ◆ リツキシマブは小児のFRNS,SDNSに対する有効性がコホート研究や短期間のRCTによって示されており7~10),また国内でも適応拡大を目指し小児を対象としたRCTにより有効性が確認され11),公知申請により2014年から成人を含むFRNS,SDNSに対して保険適用となった。現在,成人を対象としたRCTはないが,Iijimaら11)のRCTには思春期・青年期の患者が含まれており,その結果は重要である。 ただし,小児のSDNSを対象としてリツキシマブ投与後2年以上の長期観察を行ったわが国の報告では,リツキシマブ投与前に比較して再発回数および副腎皮質ステロイド投与量は有意に減少したが,再発を完全に抑制できたのは9%,また免疫抑制薬を中止できたのは9%に過ぎなかった12)。一方,わが国の前向きコホート研究を含む14件の観察研究をまとめたシステマティックレビュー13)や,その後に報告されたヨーロッパおよび国内のコホート研究の結果は14~16),成人のFRNS,SDNSにおいてもリツキシマブが有効であることを示している。以上より本CQに対する回答として,副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬の併用療法によってもFRNS, SDNSで経過する思春期・青年期の患者には,小児および成人と同様に再発予防や副腎皮質ステロイドの減量のためにリツキシマブの併用療法が推奨されるとした。ただしリツキシマブはほかの免役抑制薬に比較して,性腺抑制や発癌のリスクが低いというメリットがあるものの,進行性多巣性白質脳症やB型肝炎キャリア再活性化による劇症肝炎,無顆粒球症などの重大な副作用があるため,十分な注意が必要である。またそのほかの問題点として,投与プロトコールに報告間でばらつきがあり(週1回375 mg / m2を2~4回投与,375 mg / m2単回投与し末梢血B細胞数をモニターして追加投与,6カ月ごとに375 mg / m2反復投与など),各プロトコール間の有効性と安全性の比較はなされていない。有効性の指標としての末梢血B細胞数の意義も不確定である。さらに,小児を中心に長期予後の改善も報告されているが,十分なエビデンスの集積はなく治療継続期間や後療法に関しても今後の検討課題である。 データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2014年10月までキーワード: chronic kidney disease, elderly, antihypertensive therapy ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
108 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド a)日本小児腎臓病学会(編):小児特発性ネフローゼ症候群診療 ガイドライン2013,診断と治療社b)厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調 査研究班(編):エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014.東京医学社 1) Ponticelli C, et al.:Cyclosporin versus cyclophosphamide for patients with steroid‒dependent and frequently relapsing idiopathic nephrotic syndrome:a multicenter randomized controlled trial. Nephrol Dial Transplant 8:1326‒1332, 1993 2) Eguchi A, et al.:Combined cyclosporine and prednisolone therapy in adult patients with the first relapse of minimal‒ change nephrotic syndrome. Nephrol Dial Transplant 25: 124‒129, 2010 3) Nolasco F, et al.:Adult‒onset minimal change nephrotic syndrome:a long‒term follw‒up. Kidney Int 29:1215‒ 1223, 1986 4)福島 文,他.:小児ネフローゼ症候群に対する免疫抑制剤シ クロフォスファミドの有効性について:43例の臨床的検討.日小児腎臓病会誌 22:111‒115,2009 5) Pravitsitthikul N, et al.:Non‒corticosteroid immunosup- pressive medications for steroid‒sensitve nephrotic syndrome in children. Cochrane Database of Syst Rev: CD002290, 2013 6) Yoshioka K, et al.:A multicenter trial of mizoribine com- pared with placebo in children with frequently relapsing nephrotic syndrome. Kidney Int 58:317‒324, 2000 7) Guigonis V, et al.:Rituximab treatment for severe steroid‒ or cyclosporine‒dependent nephrotic syndrome:a multicentric series of 22 cases. Pediatr Nephrol 23:1269‒1279, 2008 8) Ravani P, et al.:Rituximab is a safe and effective long‒term treatment for children with steroid and calcineurin inhibitor‒dependent idiopathic nephrotic syndrome. Kidney Int 84:1025‒1033, 2013 9) Ravani P, et al.:Short‒term effects of rituximab in children with steroid‒ and calcineurin‒dependent nephrotic syndrome:a randomized controlled trial. Clin J Am Soc Nephrol 6:1308‒1315, 2011 10) Ito S, et al.:Survey of rituximab treatment for childhood‒ onset refractory nephrotic syndrome. Pediatr Nephrol 28: 257‒264, 2013 11) Iijima K, et al.:Rituximab for childhood‒onset, compli- cated, FRNSequently relapsing nephrotic syndrome or steroid‒dependent nephrotic syndrome:a multicenter, double‒blind, randomized, placebo‒controlled trial. Lancet 384:1273‒1281, 2014 12) 亀井宏一,他.:リツキシマブ療法を施行した小児期発症ステ ロイド依存性ネフローゼ症候群の長期予後の検討.日腎会誌55:947‒955,2013 13) Kronbichler A, et al.:Rituximab treatment for relapsing minimal change disease and focal segmental glomerulosclerosis:a systematic review. Am J Nephrol 39:322‒330, 2014 14) Ruggenenti P, et al.:Rituximab in steroid‒dependent or frequently relapsing idiopathic nephrotic syndrome. J Am Soc Nephrol 25:850‒863, 2014 15) Guitard J, et al.:Rituximab for minimal‒change nephrotic syndrome in adulthood:predictive factors for response, long‒term outcomes and tolerance. Nephrol Dial Transplant 29:2084‒2091, 2014 16) Iwabuchi Y, et al.:Long‒term prognosis of adult patients with steroid‒dependent minimal change nephrotic syndrome following rituximab treatment. Medicine(Baltimore)98(29):e300, 2014 ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年Ponticelli 1993研究デザインRCT Pステロイド依存性もしくは頻回再発型ネフローゼ症候群の小児および成人患者66例Iシクロホスファミド(2.5mg/kg/日)8週間投与Cシクロスポリン(成人には5mg/kg/日,小児には6mg/kg/日)9カ月投与,漸減して12カ月目で終了O 9カ月目の寛解率には両群間で有意差はなかった.2年目の寛解率は,シクロスポリン群で25%,シクロホスファミド群で63%と後者が優れていた.両群とも副腎皮質ステロイド単独療法時よりも有意に再発率および副腎皮質ステロイド投与量が減少した.コメントなし 文献番号2著者発表年Eguchi 2010研究デザインRCT P微小変化型ネフローゼ症候群患者で,初回再発52例Iシクロスポリン(AUC 1,700 ~2,000ng/mL)と副腎皮質ステロイド(0.8mg/kg/日)併用療法C副腎皮質ステロイド(1mg/kg/日)単独療法O併用療法群では単独療法群に比較し,2週間で有意な尿蛋白の減少と血清アルブミン値の上昇が観察され,また寛解までの期間も有意に短縮された.コメントなし 文献番号3著者発表年Nolasco 1986研究デザインコホート研究P成人発症の微小変化型ネフローゼ症候群患者89例I副腎皮質ステロイドおよび免疫抑制薬の投与CなしO副腎皮質ステロイド単独療法(初期量60mg/日)による寛解導入例では,24%で再発を認めず,21%で頻回再発となった.シクロホスファミド併用療法による寛解導入例では,66%で5年間再発を認めなかった.コメントなし 文献番号4著者発表年福島 2009研究デザインコホート研究Pステロイド依存性および頻回再発型ネフローゼ症候群の小児患者43例. Iシクロホスファミド2mg/kg/日を8~12週間投与CなしO平均観察期間108.4カ月において,寛解維持率は6カ月65%,12カ月39%,36カ月32%,48カ月30%であった.副腎皮質ステロイドの減量もしくは再発率の減少が67%に認められた.コメントなし
110 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号5著者発表年Pravitsitthikul 2013研究デザインシステマティックレビュー(31件のRCT) Pステロイド依存性および頻回再発型ネフローゼ症候群の小児患者I免役抑制薬併用療法Cプラセボ,無治療もしくは副腎皮質ステロイド単独療法Oアルキル化薬(含シクロホスファミド)は6~12カ月および12~24カ月における再発を有意に抑制する.シクロスポリンは,投与継続中はシクロホスファミドと同等の寛解維持効果を示すが,投与中止後の再発率が高い.ミゾリビンの寛解維持効果は副腎皮質ステロイド単独療法より優れていることはなかった.コメントなし 文献番号6著者発表年Yoshioka 2000研究デザインRCT P頻回再発型ネフローゼ症候群の小児患者197例I再発時より副腎皮質ステロイドとミゾリビンの併用療法(副腎皮質ステロイドは12週間以内に漸減中止,ミゾリビンは48週間投与) C再発時より副腎皮質ステロイドとプラセボの併用療法Oミゾリビン群はプラセボ群に比較して再発率は減少したが,有意差はなかった.ただし10歳以下の患者においては,有意な再発率の低下が認められた.コメントなし 文献番号7著者発表年Guigonis 2008研究デザインコホート研究P副腎皮質ステロイドもしくはカルシニューリン阻害薬依存性ネフローゼ症候群の小児~思春期・青年期,22例Iリツキシマブ投与(375mg/m2を2~4回) CなしOネフローゼ症候群の再発状態であった7例の患者中3例で寛解導入,85%の患者で再発なく免疫抑制薬の減量が可能であった.コメントなし 文献番号8著者発表年Ravani 2013研究デザインコホート研究P副腎皮質ステロイドもしくはカルシニューリン阻害薬依存性ネフローゼ症候群の小児,46例Iリツキシマブ投与(375mg/m2単回もしくは2週間隔で2回投与)後,経口薬を漸減中止し,3年間(中央値)観察.再発時には再投与. Cなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド O 6カ月後の寛解率は初回投与で48%,それ以降の投与で37%,経口薬中止から再発までの期間は初回投与で5.6カ月,それ以降の投与で8.5カ月.1年後および2年後の寛解率はそれぞれ20および10%であった.コメントなし 文献番号9著者発表年Ravani 2011研究デザインRCT P 12カ月以上持続するステロイドおよびカルシニューリン阻害薬依存性ネフローゼ症候群の小児, 54例Iリツキシマブ投与(375mg/m2単回もしくは2週間隔で2回投与)し,副腎皮質ステロイドおよびカルシニューリン阻害薬を減量C副腎皮質ステロイドおよびカルシニューリン阻害薬の継続Oリツキシマブ群では3カ月後の蛋白尿が70%減少した.また再発率はコントロール群48.1%,リツキシマブ群18.5%で,有意に低下した,リツキシマブ群の62.9%の患者で3カ月後に治療薬の中止が可能で,50%の患者で9カ月後も寛解が維持された.コメントなし 文献番号10著者発表年Ito 2013研究デザインコホート研究P免疫抑制薬に抵抗性の受けたステロイド依存性(52例),頻回再発型(3例),ステロイド抵抗性(19例)の小児ネフローゼ患者Iリツキシマブ単回投与CなしOステロイド依存性・頻回再発型の77%で副腎皮質ステロイドが中止となり,31%でシクロスポリンが中止となった.寛解例のうち,51%に再発を認め,免疫抑制薬の非併用例で再発頻度が高かった.重篤な副作用はなかった.コメントリツキシマブ単回投与の場合,再発予防のためには免疫抑制薬の継続投与が望ましい. 文献番号11著者発表年Iijima 2014研究デザインRCT P 1~18歳時に発症した頻回再発型・ステロイド依存性ネフローゼ症候群患者48例Iリツキシマブ投与(週1回375mg/m2を4週間),24例Cプラセボ投与,24例O 1年間の観察期間で,寛解期間(中央値)はリツキシマブ群では267日,プラセボ群では101日と有意に延長した(HR0.27).有害事象はリツキシマブ群42%,プラセボ群25%で認め,有意差はなかった.コメントなし
112 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号12著者発表年亀井 2013研究デザインコホート研究Pステロイド依存性ネフローゼ症候群の小児患者で,リツキシマブ投与後2年以上の経過観察がなされた35例. Iリツキシマブ治療CなしOリツキシマブ初回治療後の観察期間24~63カ月において,再発回数およびPSL投与量は有意に減少し,また副腎皮質ステロイドからの離脱時間も有意に延長した.ただし最終観察時に免疫抑制薬が中止となっていたのは9%に過ぎず,また観察期間中に無再発であったのは9%であった.コメント難治性のステロイド依存性ネフローゼ症候群については,リツキシマブを用いても治癒は困難であり,他の免疫抑制薬との併用により長期の寛解維持が可能となる. 文献番号13著者発表年Kronbichler 2014研究デザインシステマティックレビューP頻回再発型・ステロイド依存性ネフローゼ症候群を呈する微小変化群・巣状分節性糸球体硬化症の成人患者を対象としたコホート研究14件の86例. Iリツキシマブ治療CなしO再発回数が1.3回/年から0回/年に有意に減少.蛋白尿と血清アルブミン値も有意に改善.併用免疫抑制薬も有意に削減コメントなし 文献番号14著者発表年Ruggenenti 2014研究デザインコホート研究Pステロイド依存性・頻回再発型ネフローゼ症候群を呈する.微小変化群・メサンギウム増殖性腎炎および巣状分節性糸球体硬化症患者(小児10例,成人20例) Iリツキシマブ375mg/m2単回投与,末梢血B細胞が残存した場合には追加投与CなしO 1年後の時点で全例が寛解状態で,18例が治療終了し,15例は再発がなかった.再発数(中央値)もリツキシマブ導入1年前と1年後では,2.5回/年から0.5回/年に減少した.副腎皮質ステロイド維持量も再発から寛解導入までの累積量も有意に減少した.コメントなし 文献番号15著者発表年Guitard 2014研究デザインコホート研究P微小変化型ネフローゼ症候群(ステロイド依存性,頻回再発型以外を含む)の成人患者,41例(小児からの移行例が68%)
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド Iさまざまな副腎皮質ステロイドおよび・もしくは免疫抑制薬治療にリツキシマブを投与(1gを1もしくは2回,週1回375mg/m2を2~4週間) CなしO 78%の患者が完全および部分寛解に達した.39カ月(中央値)の観察期間中,56%の患者が再発した.ミコフェノール酸モフェチルとの併用治療がリツキシマブ治療不成功と関連した.コメントなし 文献番号16著者発表年Iwabuchi 2014研究デザインコホート研究Pステロイド依存性微小変化型ネフローゼ症候群の成人患者25例Iリツキシマブ(1回375mg/m)を6カ月ごとに反復投与CなしO 24カ月の観察期間中,全例で副腎皮質ステロイドおよび免疫抑制薬が減量され,治療前と比較して有意に治療開始後の再発率が減少し,また12~24カ月の間は完全寛解状態であった.コメントなし
114 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 ◆ 免疫抑制療法 ◆ 2004年に発表された増殖性ループス腎炎に対する治療についてのコクランレビューでは,寛解導入療法において副腎皮質ステロイド単独療法と比較し,シクロホスファミドと副腎皮質ステロイドの併用療法が腎機能保持に有効であることが示され1),副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬の併用療法が広くコンセンサスを得るようになった。これ以降に報告された多くの研究では,副腎皮質ステロイドの併用薬として,どの免疫抑制薬が優れているのかが検証されている。2012年に更新された増殖性ループス腎炎(ISN / RPS class III,IV,V+III,V+IV)に対する治療についての最新のコクランレビューでは,MMFはシクロホスファミド静注療法(IVCY)と同等に寛解導入に有効であり,卵巣機能不全のリスクはより低いと判定されている。またMMFはAZAと比較し,寛解維持により有効であり,かつ副作用が少ないことが示されている2)。また,これらのシステマティックレビューに採用された研究の多くは,対象に思春期・青年期の患者が含まれている。米国リウマチ学会が2012年に発表した,成人を対 CQ 12思春期・青年期のループス腎炎患者では,腎機能予後を改善するために免疫抑制薬療法が推奨されるか?思春期・青年期のループス腎炎患者(ISN / RPS class III,IV)に対して,腎機能予後改善と副腎皮質ステロイド投与に伴う副作用の軽減を目的に免疫抑制薬の併用療法が推奨される。寛解導入療法の第一選択薬として,ミコフェノール酸モフェチル(MMF)もしくはシクロホスファミドを,また寛解維持療法の第一選択薬として,MMFもしくはアザチオプリン(AZA)を副腎皮質ステロイドに併用する。ただし免疫抑制薬療法の中・長期的な副作用として,性腺への影響や悪性 腫瘍の出現に注意が必要である。 推奨 酉1B 背景・目的 これまでの疫学研究から,全身性エリテマトーデス:systemic lupus erythematosus(SLE)患者の約20%が16歳以下に発症していると推測されており,発症者数の分布は10 ~20歳台にかけて急峻に増加するa)。SLEは小児期および思春期・青年期に発症し,成人へ移行する代表的な疾患である。小児および思春期発症のSLEは,成人発症例と比較し重篤で予後不良なことが多く,ループス腎炎の合併率が高いと報告されているb,c)。わが国での小児SLEについての疫学調査では,初診時に48%,経過中に70%がループス腎炎を合併したと報告されているd)。ループス腎炎の評価には腎生検が必要であり,ISN / RPS(International Society of Nephrology / Renal Pathology Society)による組織分類が用いられるe)。思春期発症のループス腎炎のうち,約40%が腎機能予後の悪いISN / RPS分類class IVと報告されているc)。かつてループス腎炎は生命予後不良の疾患であったが,高用量の副腎皮質ステロイド療法が行われるようになり,予後はかなり改善したf)。副腎皮質ステロイドは現在でもループス腎炎の標準的治療薬であるが,一方で若年発症のループス腎炎患者では,疾患活動性が高く治療経過が長いため副腎皮質ステロイド投与量が多くなり,成長障害など副腎皮質ステロイドの副作用が問題となる。本CQでは小児ループス腎炎患者が思春 期・青年期に至って腎臓内科に転科し,ループス腎炎が再燃・再発した際に免疫抑制薬の併用療法が推奨されるかについて検証した。
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 象とした治療ガイドラインでは,ループス腎炎(ISN / RPS class III,IV)の寛解導入療法として,副腎皮質ステロイドとMMFもしくはIVCYの併用療法を第一選択として推奨し,改善が得られない場合はリツキシマブもしくはカルシニューリン阻害薬(シクロスポリンおよびタクロリムス)を勧めている。また寛解維持療法としては,MMFもしくはAZAを第一選択薬として推奨している。さらにすべてのループス腎炎患者にヒドロキシクロロキンの投与を推奨しているg)。また2012年に小児期発症のループス腎炎(ISN / RPS class III,IV)に対する寛解導入療法のコンセンサス治療方針が発表されており,副腎皮質ステロイドとMMFもしくはIVCYの併用療法を第一選択として推奨しているh)。一方,欧州リウマチ学会/ 欧州腎臓学会/ 欧州透析移植学会合同(EULAR / ERA‒EDTA)が2012年に発表した成人および小児のループス腎炎治療ガイドラインでは,ループス腎炎(ISN / RPS class III‒IVAもしくはA / C)の寛解導入療法として,副腎皮質ステロイドとMMFもしくはIVCYの併用療法を第一選択として推奨し,軽症の場合はAZAを代替薬として推奨している。寛解維持療法ではMMFもしくはAZAを第一選択薬として推奨している。さらにすべてのループス腎炎患者にヒドロキシクロロキンの投与を推奨している。また,小児SLEの診断や治療,管理に関しては,成人でのエビデンスの外挿と小児での限られたランダム化されていないエビデンスに基づいているが,ループス腎炎の治療に関して小児と成人で治療方針を変更すべきであるという根拠はないとしているi)。わが国からも,思春期・青年期が含まれたループス腎炎患者に対する免疫抑制薬の有効性を報告した研究が複数報告されている3~5)。またわが国から発表された小児期発症のSLE患者に対して副腎皮質ステロイドにミゾリビンの上乗せ効果を検証したRCTでは,4~5 mg / kg / 日のミゾリビン上乗せの効果は確認されなかった6)。現在,わが国でループス腎炎の治療に保険適用が認められた免疫抑制薬としては,シクロホスファミド,MMF,AZA,ミゾリビン,タクロリムスおよび 免疫調整薬ヒドロキシクロロキンがある。これらをもとに,思春期・青年期のループス腎炎(ISN / RPS class III,IV)に対して,腎機能予後改善と副腎皮質ステロイドの減量を目的に,副腎皮質ステロイドの併用薬として寛解導入療法ではMMFもしくはIVCYを第一選択薬として推奨する。ただし小児期にIVCYを使用している患者では,シクロホスファミドの総投与量に注意して選択する。また寛解維持療法ではMMFもしくはAZAを第一選択薬として,副腎皮質ステロイドとの併用療法を推奨する。いずれも治療反応性が乏しい場合は,初めに選択しなかった薬剤を第二選択薬として用いる。 ◆ 思春期・青年期で特に問題となる免 疫抑制薬の副作用 ◆ すべての免疫抑制薬は妊娠に関する安全性が完全に確認されているわけではない。特にMMFは,催奇形性や胎児毒性の懸念から,妊婦または妊娠している可能性のある女性には禁忌とされており,妊娠する可能性がある女性に投与する場合には,避妊を指導する必要がある。妊娠を希望する患者には代替薬への切り替えを行う。わが国の添付文書上は禁忌とされているが,腎移植後の患者における経験などからカルシニューリン阻害薬とAZAは比較的安全と考えられているj)。また免疫抑制薬の中・長期的な副作用として,性腺への影響や悪性腫瘍の出現が問題になる。シクロホスファミド投与による卵巣機能不全については,高年齢の成人女性に比べ,31歳以下の若い女性ではリスクが低い可能性が示唆されている7)。 データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年7月までキーワード: PubMed:systemic lupus erythematosus, SLE, lupus nephritis, glucocorticoids, immunosuppressive, adult and young adolescent, childhood‒onset, juvenile‒onset pediatrics, child医中誌:ループス腎炎,免疫抑制 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
116 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド a) Schaller J.:Lupus in childhood. Clin Rheum Dis 8:219‒ 228, 1982 b) Cervera R, et al.:Systemic lupus erythematosus:clinical and immunologic patterns of disease expression in a cohort of 1,000 patients. The European Working Party on Systemic Lupus Erythematosus. Medicine 72:113‒124, 1993 c) Amaral B, et al.:A comparison of the outcome of adoles- cent and adult‒onset systemic lupus erythematosus. Rheumatology 53:1130‒1135, 2014 d) Takei S, et al.:Clinical features of Japanese children and adolescents with systemic lupus erythematosus:results of 1980‒1994 survey. Acta Paediatr Jpn 39:250‒256, 1997 e) Weening JJ, et al.:The classification of glomerulonephritis in systemic lupus erythematosus revisited. J Am Soc Nephrol 15:241‒250, 2004 f) Pollak VE, et al.:The natural history of the renal manifesta- tions of systemic lupus erythematosus. J Lab Clin Med. 63:537‒550, 1964 g) Hahn BH, et al.:American College of Rheumatology guide- lines for screening, treatment, and management of lupus nephritis. Arthritis Care Res 64:797‒808, 2012 h) Mina R, et al.:Consensus treatment plans for induction therapy of newly diagnosed proliferative lupus nephritis in juvenile systemic lupus erythematosus. Arthritis Care Res 64:375‒383, 2012 i) Bertsias GK, et al.:Joint European League Against Rheu- matism and European Renal Association‒European Dialysis and Transplant Association(EULAR / ERA‒EDTA)recommendations for the management of adult and paediatric lupus nephritis. Ann Rheum Dis 71:1771‒1782, 2012 j) Oliveira LG, et al.:Pregnancy after renal transplantation: a five‒yr single‒center experience. Clin Transplant 21:301- 304, 2007 1) Flanc RS, et al.:Treatment for lupus nephritis. Cochrane Database Syst Rev:CD002922, 2004 2) Henderson L, et al.:Treatment for lupus nephritis. Cochrane Database Syst Rev CD002922, 2012 3) Tanaka H, et al.:Long‒term tacrolimus‒based immunosup- pressive treatment for young patients with lupus nephritis:a prospective study in daily clinical practice. Nephron Clin Pract 121:c165‒173, 2012 4)喜瀬智郎,他.:小児期重症ループス腎炎の寛解導入療法およ び維持療法におけるミコフェノール酸モフェチルの有効性.日腎会誌 54:86‒93, 2012 5) Kizawa T, et al.:Mycophenolate mofetil as maintenance therapy for childhood‒onset systemic lupus erythematosus patients with severe lupus nephritis. Mod Rheumatol 25: 210‒214, 2015 6) Tanaka Y, et al.:Combination therapy with steroids and mizoribine in juvenile SLE:a randomized controlled trial. Pediatr Nephrol 25:877‒882, 2010 7) Ioannidis JP, et al.:Predictors of sustained amenorrhea from pulsed intravenous cyclophosphamide in premenopausal women with systemic lupus erythematosus. J Rheumatol 29:2129‒2135, 2002 ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年Flanc 2004研究デザインシステマティックレビューP成人と小児の腎生検で診断された増殖性ループス腎炎患者.25のRCTで合計915例. I免疫抑制薬と副腎皮質ステロイドの併用療法C副腎皮質ステロイド単独療法Oシクロホスファミドと副腎皮質ステロイドの併用療法は,副腎皮質ステロイド単独療法と比較し,血清クレアチニンの2倍化を有意に抑制したが,死亡率に有意差はなく,卵巣機能不全は有意に増加した.アザチオプリンと副腎皮質ステロイドの併用療法は,副腎皮質ステロイド単独療法と比較し,死亡率を減少させたが,腎予後は変わらなかった.コメントなし 文献番号2著者発表年Henderson 2012研究デザインシステマティックレビューP成人と小児の腎生検で診断された,増殖性ループス腎炎患者(class III,IV,V+III,V+IV) 50のRCTで合計2,846例I免疫抑制療法CなしO MMFは寛解導入および蛋白尿の完全寛解においてIVCYと同等に有効.死亡率や重大な感染症の発生に関して有意差なし.卵巣機能不全や脱毛に関してはMMFが有意に少ない.寛解維持において,MMFはアザチオプリンよりも有効.コメントなし 文献番号3著者発表年Tanaka 2012研究デザインコホート研究P腎生検でループス腎炎と診断された患者19例(治療開始時年齢の中央値18歳) I副腎皮質ステロイドとタクロリムス3mg/日投与CなしO治療開始後42カ月の時点で,12例が完全寛解(63%),5例が部分寛解(26%)であった.コメントなし 文献番号4著者発表年喜瀬 2012研究デザインコホート研究P腎生検にて活動性ループス腎炎と診断され,ステロイドパルス療法を受けた患者12例(平均年齢12.6歳). I MMF 1g/m2とプレドニゾロン投与Cなし
118 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド O 2年間の投与終了後に全例で寛解が維持されていた.再生検を行った5例中4例で組織所見の改善がみられた.コメントなし 文献番号5著者発表年Kizawa 2015研究デザインコホート研究P腎生検でループス腎炎と診断された小児患者9例(発症時年齢9 ~15歳). I寛解導入療法としてステロイドパルス療法とシクロホスファミド静脈内投与を行い,維持療法としてMMF(500 ~1,500mg/日)と副腎皮質ステロイド投与CなしO 12カ月の維持療法施行後に腎生検を行い,9例中8例で組織所見の改善がみられた.副腎皮質ステロイド投与量は維持療法中に漸減が可能で,病勢増悪はみられなかった.コメントなし 文献番号6著者発表年Tanaka 2010研究デザインRCT P新規にSLEと診断された2~18歳の患者57例I副腎得皮質ステロイドとミゾリビン(4 ~5 mg/kg/日)併用療法C副腎皮質ステロイド単独療法O治療開始から初回の再燃までの期間に両群で有意差はなく,1年後の蛋白尿や腎機能にも両群で有意差はなかった.コメントなし 文献番号7著者発表年Ioannidis 2002研究デザインコホート研究P若い閉経前の女性SLE患者67例(ループス腎炎59例). Iシクロホスファミド静脈内投与(0.75~1.0 g/m2/回)毎月投与. CなしO 67例中21例に12カ月を越える無月経がみられた.32歳以上では,23例中16例に無月経が発生し,治療が非常に短期間であっても持続的無月経を回避することは困難であった.31歳以下の場合,44例中5例に無月経発生し,持続的無月経にはSLEの罹病期間,抗U1RNP抗体陽性,抗Ro抗体陽性の因子が交絡しており,治療の直接的な関与は不明であった.コメントなし
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 解 説 思春期・青年期の透析療法としては,PDとHD,あるいはこれらの治療を併用している症例がある。PDの場合,透析期間が長期になると腹膜機能が劣化し,除水,溶質除去能力が低下してくる。したがって,別の腎代替療法に移行する必要があり,その際はHDか腎移植を選択することになる。HDに移行した場合は透析治療に費やさなければならない時間が,就学や就職など思春期・青年期として活動性の高い日常生活時間を制限することになる。したがって,就学・就職に関しても不利益となることが少なくない。欧米の状況であるが,フルタイムで学校生活を送ることができる小児透析例は,PDで78%,HDでは53%でしかないと報告されているa)。また,ベルギーからの報告であるが,57例の思春期・青年期の腎移植患者を含むESKD患者の調査では(非腎移植患者は13例),全体で雇用者は59.7%で,その67.6%がフルタイム雇用であった1)。そのうち腎移植患者のみでみると雇用者は60.0%であっても,フルタイム雇用は77.8%に上昇したとしている。透析治療による生活時間の制限が,雇用条件に影響しているも のと思われる2)。腎移植を受けると,透析医療よりQOLが高く維持できるといわれている。15歳未満で腎代替療法を開始した小児CKD患者が,成人した後にQOL調査を受けた結果は,健康人と比較して透析患者では身体的条件に関するスコア全体が低かったが,腎移植患者では全体的健康感のみが低下していた3)。HDあるいはPDによる治療下では,女性の妊孕率は高くない。これに引き換え,腎移植を受けることで妊孕率は透析患者より高くなる。Piccoliら4)の報告では,出産可能年齢の女性で,透析患者では1,000例中0.7~1.1 例,一方腎移植患者では1,000 例中5.5~8.3例の出産がみられたとしている。思春期・青年期でHDを継続していくことも可能ではある。しかし,長期間透析医療を持続していると,合併症として,心血管疾患,血管石灰化,二次性副甲状腺機能亢進症,透析アミロイドーシスなどの発症がみられ,これらの合併症がQOL,生命予後を悪化させることも懸念される。したがって,思春期・青年期のCKD患者の腎代替療法としては,腎移植が勧められる。近年では,透析を経ずして腎移植を受ける先行的腎移植も積極的に実施されている。腎代替療法のなかで,このような選択肢もあることを患者やその家族に説明する必要がある。ただし,腎移植にはドナーが必要である点に関して,慎重な対応が必要である。献腎移植では,16歳以上20歳未満の思春期・青年期には12点が加算され,優遇されている。しかし,思春期・青年期は精神的自立度が未熟であり, CQ 13思春期・青年期のCKD患者では,どのような腎代替療法が推奨されるか?思春期・青年期の腎代替療法としては,生活制限が少なく,就学率,就職率,QOL,妊孕率の高い腎移植医療を選択することを推奨する。ただし,疾患の種類やドナーの問題を含む家庭状況で腎移植ができない場合や,患者自身が腎 移植を希望しない場合はHDやPDを選択する。 推奨 酉2D 背景・目的 思春期・青年期のCKD患者は,活動的な学校生活や社会生活を送る必要性がある。また,結婚や出産を控えている重要な時期である。このような時期に,どのような腎代替療法が望ましいか検討した。
120 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 腎移植に関して十分な意思決定ができない場合もある。また,移植前の薬剤アドヒアランスが低いことも問題である5)。これは,移植後の薬剤アドヒアランス低下につながる懸念がある。親が無理に腎移植を勧めて,レシピエント本人に腎移植を受ける意志が明確でない場合,移植後の免疫抑制薬の怠薬,精神的不調などに結び付くことがある。思春期・青年期のCKD患者では,腎代替療法として腎移植が第一に推奨されるが,自立した精神状態であり,本人自身が腎移植に対して前向きであることが重要である。また,疾患により腎移植ができない場合や,家庭の状況や健康状態により適合するドナーがいない場合は,HDやPDを選択する。HDかPDかに関しては,患者自身の疾患や特性以外に,家庭環境や地域の状況も考慮して決定することになる。 データベース:PubMed 医中誌期間:1990年~2015年8月までキーワード: 移行(transition),慢性腎臓病(chronic kidney dis- ease),腎移植(kidney transplantatioin),先行的腎移植(PEKT),血液透析(hemodialysis),腹膜透析(peritoneal dialysis) a) Warady BA, et al.:Optimal care of the infant, child, and adolescent on dialysis:2014 update. Am J Kidney Dis 64: 128‒142, 2014 1) Murray PD, et al.:Impact of end‒stage kidney disease on academic achievement and employment in young adults:a mixed methods study. J Adlesc Health 55:505‒512, 2014 2) Helanterä I, et al.:Employment of patients receiving main- tenance dialysis and after kidney transplant:a cross‒sectional study from Finland. Am J Kidney Dis 59:700‒706, 2012 3) Tjaden LA, et al.:Long‒term quality of life and social out- come of childhood end‒stage renal disease. J Pediatr 165: 336‒342, 2014 4) Piccoli GB, et al.:The children of dialysis:live‒born babies from on‒dialysis mothers in Italy:an epidemiological perspective comparing dialysis, kidney transplantation and the overall population. Nephrol Dial Transplant 29:1578‒1586, 2014 5) 後藤芳充,他.:小児腎移植における現状と問題点 当院55例 の小児腎移植症例をもとに.日児腎誌 21:36‒41,2008 ■ ■ 文献検索 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 参考にした二次資料 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 引用文献 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号1著者発表年Murray 2014研究デザイン横断的研究P青年期のESKD患者57例にアンケートもしくはインタビューIなしCなしO透析患者は教育レベルも雇用率も低かった.活動性の低下,自尊感情の欠如,鬱傾向があった.コメントなし 文献番号2著者発表年Helanterä 2012研究デザイン横断的研究Pフィンランド.15 ~64歳の透析および腎移植後の患者2,637例の雇用状況について調査IなしCなしO HDの19%,PDの31%,腎移植の40%が就職していた.同年齢の一般の人の就職率は67%であった.在宅HD患者の就職率は高かった.コメントなし 文献番号3著者発表年Tjaden 2014研究デザイン後方視的コホート研究Pドイツの腎代替療法を行っている患者89例のQOLを調査IなしCなしO雇用率,子供を持っている率は少なく,収入も平均以下であった.精神状況は良かった.コメントなし 文献番号4著者発表年Piccoli 2014研究デザイン後方視的コホート研究Pイタリア.透析中に挙児を得た23例と,移植後の妊婦110例IなしCなしO透析中の妊娠出産は稀であるが,不可能ではなかった.しかし,早期死亡が多かった.生産児を得る確率は透析中は移植の1/10,移植は一般の1/10であった.コメント透析中の妊娠出産は不可能ではないが,難しい.
122 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 文献番号5著者発表年後藤 2008研究デザイン観察研究P小児腎移植患者55例IなしCなしO 55例中6例が腎廃絶しており,その中で3例がノンコンプライアンスコメント青年期の腎移植患者では,ノンコンプライアンスが問題である.
6 core elements ........................ 15 αβ遮断薬................................. 84 β遮断薬.................................... 91 A Alport 症候群 .............................. 7 C CAKUT ....................................... 7 catch‒up growth ........................ 68 Ca 受容体作動薬 ........................ 91 CKD 進行のリスク ..................... 60 E ESA ....................................... 78 ESKD ....................................... iv F FSGS ................................. 96,106 H HD .......................................... 119 HMG CoA 還元酵素阻害薬 ............ 91 I IgA 腎症........................ 75,96,102 J Jeune 症候群 ................................. 7 M Medical Home ........................... 17 MetS ....................................... 60 MetS の診断基準 ........................ 60 mTOR 阻害薬 ........................... 91 O Oxford 分類 .............................. 96 P PD .......................................... 119 peer-support .............................. 29 R RAS 阻害薬 ........................ 83,91 rHuGH .................................... 67 rHuGH 治療 .............................. 68 T Transfer completion .................. 15 Transfer of care ........................ 15 transition champion ............ 3,18,29 transition coordinators ............... 29 Transition planning ..................... 15 Transition policy ........................ 15 Transition readiness .................. 15 Transition tracking and monitoring ... 15 TRxANSITION Scale .................. 17 あアザチオプリン..................... 90,114アテノロール.............................. 91 い異・低形成腎................................. 7移行コーディネータ..................... 21移行支援ガイドブック.................. 17移行支援部................................. 30移行スケジュール........................ 16移行プログラム............... 14,15,23移行プログラムの成果.................. 33遺伝子組み替えヒト成長ホルモン... 67 う運動.......................................... 56運動制限.................................... 56運動負荷.................................... 56 えエベロリムス.............................. 91塩分制限.............................. 48,50塩分摂取量................................. 50塩分補充.................................... 48 か活性型ビタミンD........................ 91 123思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド 索 引
カルシウム拮抗薬........................ 84カルシトリオール........................ 91カルシニューリン阻害薬............... 91 きキャッチアップ........................... 68教育的,職業的計画..................... 23 け血圧管理目標値........................... 83血管拡張薬................................. 84結婚.......................................... 38健康とライフスタイル.................. 23厳重注意薬................................. 90 こ降圧薬....................................... 91口蓋扁桃摘出.............................. 102抗凝固薬.................................... 91高血圧....................................... 83高脂血症治療薬........................... 91骨幹端....................................... 67骨粗鬆症予防薬........................... 92 さ催奇形性.............................. 36,90 しシクロスポリン..................... 91,106シクロホスファミド............ 90,106,114自己健康管理度チェックリスト...... 18 自己支持.................................... 23自主的移行................................. 45シナカルセト.............................. 91若年性ネフロン癆........................... 7就学.......................................... 38就職.......................................... 38出産.......................................... 38使用禁止薬................................. 90症候性CAKUT ........................... 8常染色体劣性多発性囊胞腎............... 7小児看護専門看護師..................... 27小児腎移植................................. 41小児透析.................................... 39自立した医療行動........................ 23腎移植....................................... 119腎生検....................................... 95腎性貧血.................................... 78腎代替療法................................. 119心理的支援................................. 23 す水分摂取.................................... 48ステロイド依存性ネフローゼ症候群 ... 106ステロイドパルス療法.................. 102ステロイド薬.............................. 90 せ成人移行チェックリスト............... 25精神運動発達遅滞........................... 9精神的自立................................. 44成長曲線.................................... 68成長障害.................................... 67成長率曲線................................. 68性的健康.................................... 23 生物学的製剤.............................. 91赤血球造血刺激因子製剤............... 78先行的腎移植.............................. 119全身性エリテマトーデス............... 114先天性腎疾患................................. 7先天性ネフローゼ症候群.................. 7専門科医師................................. 29専門看護師................................. 29 そソーシャルワーカー............... 21,29 た代謝拮抗薬................................. 90タクロリムス.............................. 91たんぱく質制限........................... 48たんぱく質の食事摂取基準............ 49蛋白尿....................................... 83 ち知的レベル................................. 24中枢性交感神経抑制薬.................. 84 て転科の現状.................................... 2転科の必要性................................. 2 と特発性ネフローゼ症候群............... 106 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド
トルバプタン.............................. 91 な生ワクチン................................. 75 に妊娠.......................................... 36妊娠と薬情報センター.................. 36 のノンアドヒアランス............... 14,41 ひ微小変化型ネフローゼ症候群... 75,96ビスホスホネート製剤............ 90,92ヒドロキシクロロキン.................. 115肥満.......................................... 60 肥満関連腎症.............................. 61頻回再発型ネフローゼ症候群......... 106 ふ副腎皮質ステロイド..................... 90 へヘルスリテラシー........................ 15扁摘パルス................................. 102 ま末期腎不全................................. iv慢性疾患患者.............................. iv みミコフェノール酸モフェチル... 90,114ミゾリビン........................... 90,107 ミトコンドリア病........................... 7 よ要注意薬.................................... 90 りリツキシマブ........................ 91,107利尿薬................................. 84,91臨床心理士................................. 29 るループス腎炎.............................. 114 わワルファリン.............................. 91 思春期・青年期の患者のためのCKD診療ガイド