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うつ病診療ガイドライン2025 日本うつ病学会・2025・335 ページ · 老年・精神・薬物療法
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日本うつ病学会

Japanese Society of Mood Disorders

うつ病診療ガイドライン2025

うつ病診療ガイドライン作成ワーキンググループ
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■序文

日本うつ病学会は、2012 年に初版の「日本うつ病学会治療ガイドラインII. 大うつ病性障害」を公表し、その後2013 年、2016 年と計2 度の改訂を行ってきた。これらの改訂では、初版の構成を維持したまま、新たな知見や臨床現場のニーズを反映しながら必要な内容を加筆・修正し新たな治療手段や科学的根拠(エビデンス)をアップデートしてきた。しかしながら、その結果として全体の構成が複雑化し、読者にとってガイドラインの全体像や主旨が把握しにくくなっていたことは否めない。

一方で、近年では診療ガイドラインに対する国際的な要請として、作成過程の科学的妥当性、透明性、体系性の確保が一層重視されるようになってきた。特に日本医療機能評価機構による「Minds 診療ガイドライン作成マニュアル」は、国内においても診療指針の質を担保する共通基盤として機能しており、精神科領域でもその重要性が増している。当学会が2023 年に公表した『日本うつ病学会診療ガイドライン双極性障害(双極症)2023』では、Minds の作成基準に準拠した全面的な再構築が行われ、これが本ガイドライン大改訂の直接的な先例ともなった。

本うつ病診療ガイドライン(2025 年版)は、こうした要請を踏まえ、従来の加筆修正型の手法から脱却し、ゼロベースから全面的に構築された初の改訂版である。第一の特徴は、Minds マニュアルに則り、エビデンスに基づく推奨を、システマティックレビュー(SR)を通じて体系的に導出した点にある。これは「健康に関する重要な課題について、医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する」という診療ガイドラインの定義に則った取り組みである。

加えて、本改訂では実臨床に即した課題設定を重視し、臨床的必要性と乖離しない構成を追求した。第1 章では「治療計画の策定」に焦点を当て、うつ病診療の出発点となる重要なプロセスをナラティブに整理している。各章の構成においては、冒頭で提示するCQX-1 において「その治療に際してなにを考慮すべきか?」という臨床的視点からの問いかけを提示し、続くCQX-2 ではSR の概要に加え、SR 実施が困難だったが臨床上重要と考えられる文献情報を取り上げている。

また、児童・思春期、周産期、老年期といったライフステージや重症度、そして睡眠障害やDSM-5 以降用いられている特定用語といったこれまで以上に詳細に分類した“サブタイプ”に対応した横軸と、後続治療(初回の抗うつ薬で効果が不十分な場合)、さらなる段階の治療(後続治療で効果不十分な場合)、維持期治療といった、“治療過程のフェーズ”に対応した縦軸といった観点から独立した章設定を行い、より個別性の高い診療支援を実現している。さらに、SR の形式に適さないが臨床上重要、あるいは今後さらなる臨床活用が期待されると判断された7 つのテーマについては「トピックス」として構成した。加えて、図表やフローチャートを多用することで、読者が臨床実践のなかで自らの診療課題と照らし合わせながら、複雑なうつ病診療で迷わない地図として読み進められるよう工夫を施している。

本改訂版は、患者、家族、支援者、医療従事者、法曹関係者といった多様なステークホルダーとの協働により作成された。 精神科医の専門的視点に加え、薬剤師、心理職、看護師、作業療法士などのメディカルスタッフ、そして患者や家族の立場から寄せられた臨床上の疑問や推奨内容に関するご意見を積極的に取り入れ、慎重に検討を重ねた。

この場を借りて、貴重なご協力を賜ったメディカルスタッフおよび患者・家族の皆様に対し、心より深く感謝申し上げる。
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また、本改訂にあたっては、日本精神神経学会に協力団体としてキックオフ会議より参画いただき、各種検討会議および推奨決定会議を通じて、同学会からの建設的かつ実践的なご意見が随時フィードバックされ、本ガイドラインの内容にも反映された。

本ガイドラインは、うつ病の診療に携わる医療従事者を支援することを目的として作成されたものであり、診療現場における医師の裁量権を制限するものではない。また、いかなる意味においても法的拘束力を有するものではなく、個々の患者の背景や症状、価値観に応じた柔軟な臨床判断が常に尊重されるべきである。標準的な推奨を提供することはあくまで出発点であり、すべてのケースにおいてそれが唯一の「正解」となるわけではない。医療提供者は本ガイドラインを参考としつつ、各患者の状況に応じた最善の対応を選択していく必要がある。

本ガイドラインはまた、医療提供者と患者がともに治療方針を考える共同意思決定(shared decision making:SDM)を推進するための実用的資料としても活用されることを期待している。推奨の背景には、治療効果・副作用・費用・実現可能性など、多面的な視点が組み込まれており、患者と医療者の相互理解と納得のもとで治療選択を進める支援となるだろう。

今後も、うつ病治療をめぐる新たな科学的知見や社会的要請に対応するべく、本ガイドラインは適宜見直し・更新を行っていく予定である。本ガイドラインが、患者、家族、医師、医療従事者にとって、より良い診療の実現と回復支援の一助となることを、心より願っている。

うつ病診療ガイドライン作成ワーキンググループ
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■うつ病診療ガイドライン作成ワーキンググループ

作成ワーキンググループ代表・責任者

加藤 正樹医師関西医科大学医学部精神神経科学講座

統括

渡邊 衡一郎医師杏林大学医学部精神神経科学教室馬場 元医師順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院メンタルクリニック

統括補佐

堀 輝医師福岡大学医学部精神医学教室田近 亜蘭医師京都大学大学院医学研究科 健康増進・行動学分野

ナラティブパートリーダー

堀 輝医師福岡大学医学部精神医学教室伊賀 淳一医師愛媛大学大学院精神神経科学講座

システマティックレビューパートリーダー

岸 太郎医師藤田医科大学 医学部 精神神経科学講座田近 亜蘭医師京都大学大学院医学研究科 健康増進・行動学分野

*執筆パートリーダー

第1 章 治療計画の策定

小笠原 一能*医師名古屋大学 医学部附属病院

卒後臨床研修・キャリア形成支援センター

尾崎 紀夫医師名古屋大学 大学院医学系研究科 精神疾患病態解明学近藤 怜苑医師名古屋大学 大学院医学系研究科 精神医学分野高原 正明医師桑名駅前こころのクリニック和田 周平医師豊和会 南豊田病院溝渕 耕輔医師居仁会 総合心療センターひなが

第2章 軽度うつ病

坪井 貴嗣*医師杏林大学医学部精神神経科学教室櫻井 準医師杏林大学医学部精神神経科学教室内田 貴仁医師内田クリニック
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上野 文彦医師オタワ大学精神科松本 泰幸医師杏林大学医学部精神神経科学教室村尾 昌美医師杏林大学医学部精神神経科学教室多田 照生医師杏林大学医学部精神神経科学教室浦田 実医師杏林大学医学部付属杉並病院メンタルヘルス科冨田 真幸医師厚生協会 大泉病院渡邊 衡一郎医師杏林大学医学部精神神経科学教室

第3章 中等度/重度うつ病

堀 輝*医師福岡大学医学部精神医学教室飯田 仁志医師福岡大学医学部精神医学教室斉藤 善貴医師北里大学医学部精神科学菊地 俊暁医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室小高 文聰医師東京慈恵会医科大学精神医学講座田久保 陽司医師東邦大学医学部精神神経医学講座福本 健太郎医師岩手医科大学神経精神科学講座岸 太郎医師藤田医科大学 医学部 精神神経科学講座佐久間 健二医師藤田医科大学 医学部 精神神経科学講座松田 勇紀医師藤田医科大学 医学部 臨床研究・開発教育学江角 悟薬剤師神戸学院大学 薬学部 薬学科波多野 正和薬剤師藤田医科大学 医学部 薬物治療情報学三宅 誕実医師聖マリアンナ医科大学 神経精神科学教室三浦 至医師福島県立医科大学 医学部 神経精神医学講座

第4 章 児童・思春期うつ病

宇佐美 政英*医師国立健康危機管理研究機構国立国府台医療センター

児童精神科

岡田 俊*医師奈良県立医科大学精神医学講座辻井 農亜医師富山大学附属病院こどものこころと発達診療学講座岡﨑 康輔医師一般財団法人信貴山病院ハートランドしぎさん太田 豊作医師奈良県立医科大学看護学科人間発達学藤田 純一医師横浜市立大学附属病院児童精神科堀内 史枝医師愛媛大学大学院医学系研究科児童精神医学講座木原 弘晶医師金沢医科大学精神神経科学

第5 章 周産期うつ病

根本 清貴*医師筑波大学医学医療系医療情報マネジメント学・精神医学菊地 紗耶医師東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野
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伊藤 賢伸医師順天堂大学医学部精神医学講座南 房香医師医療法人和楽会渡邉 央美医師渡辺医院

第6 章 老年期うつ病

馬場 元*医師順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院メンタルクリニック伊賀 淳一医師愛媛大学大学院精神神経科学講座押淵 英弘医師東京女子医科大学精神医学講座河野 仁彦医師都城新生病院鬼頭 伸輔医師国立精神・神経医療研究センター病院/東京慈恵会医科大学精

神医学講座

武島 稔医師明心会柴田病院/東京医科大学精神医学分野忽滑谷 和孝医師東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科藤瀬 昇医師熊本大学病院心理支援センター

第7 章 特定用語

伊賀 淳一*医師愛媛大学大学院精神神経科学講座越智 紳一郎医師愛媛大学大学院精神神経科学講座吉野 祐太医師愛媛大学大学院精神神経科学講座馬場 元医師順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院メンタルクリニック高江洲 義和医師琉球大学大学院医学研究科精神病態医学講座新里 輔鷹医師琉球大学大学院医学研究科精神病態医学講座座間味 優医師琉球大学大学院医学研究科精神病態医学講座竹島 正浩医師秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座

第8 章 不眠症状を伴ううつ病

高江洲 義和*医師琉球大学大学院医学研究科精神病態医学講座鈴木 正泰医師日本大学医学部 精神医学系 精神医学分野吉池 卓也医師国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚

醒障害研究部

竹島 正浩医師秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座小鳥 居望医師小鳥居諫早病院松井 健太郎医師国立精神・神経医療研究センター病院 臨床検査部内海 智博医師国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒

障害研究部

丸木 拓医師杏林大学医学部精神神経科学教室前田 優那医師杏林大学医学部精神神経科学教室岡島 義心理士東京家政大学人文学部心理カウンセリング学科
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青木 裕見看護師、

保健師、精神保健福祉士聖路加国際大学大学院 看護学研究科

大塚 直亮医師琉球大学大学院医学研究科精神病態医学講座高野 裕太心理士東京医科大学睡眠学寄附講座町田 奈穂心理士大阪カウンセリングセンターBellflower吉沢 和久医師秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座

第9 章 後続治療

菊地 俊暁*医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室澤田 恭助医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室煙山 剛史医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室太田 真右医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室田村 法子心理士慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室原  祐子心理士慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室清水 恒三朗心理士慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室小林 由季心理士慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室田島 美幸心理士慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室中川 敦夫医師聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室

第10 章 さらなる段階の治療

中川 敦夫*医師聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室片山 奈理子医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室野上 和香医師聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室天野 瑞紀医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室伊原 栄医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室満田 大心理士慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室樋口 遼太郎医師聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室吉田 和生医師慶應義塾大学病院臨床研究推進センター野田 祥子医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室菊地 俊暁医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室

第11 章 維持期治療

稲田 健*医師北里大学医学部精神科学田近 亜蘭医師京都大学大学院医学研究科 健康増進・行動学分野小川 雄右医師京都大学大学院医学研究科 医療疫学分野篠原 清美医師京都大学大学院医学研究科 健康増進・行動学分野
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越川 陽介心理士関西医科大学医学部精神神経科学講座村岡 寛之医師北里大学医学部精神科学村瀬 雄士医師関西医科大学医学部精神神経科学講座

ニューロモデュレーション

鬼頭 伸輔*医師東京慈恵会医科大学 精神医学講座松田 勇紀医師藤田医科大学 医学部 臨床研究・開発教育学山﨑 龍一医師東京慈恵会医科大学 精神医学講座林 大祐医師国立精神・神経医療研究センター病院岸 太郎医師藤田医科大学 医学部 精神神経科学講座佐久間 健二医師藤田医科大学 医学部 精神神経科学講座

トピックス目次トピックス1 診断基準を満たさない閾値下の抑うつエピソード

坪井 貴嗣医師杏林大学医学部精神神経科学教室櫻井 準医師杏林大学医学部精神神経科学教室内田 貴仁医師内田クリニック上野 文彦医師オタワ大学精神科松本 泰幸医師杏林大学医学部精神神経科学教室村尾 昌美医師杏林大学医学部精神神経科学教室多田 照生医師杏林大学医学部精神神経科学教室浦田 実医師杏林大学医学部精神神経科学教室冨田 真幸医師厚生協会 大泉病院渡邊 衡一郎医師杏林大学医学部精神神経科学教室

トピックス2 うつ病に対する精神療法について

菊地 俊暁医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室澤田 恭介医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室煙山 剛史医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室太田 真右医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室田村 法子心理士慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室原  祐子心理士慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室清水 恒三朗心理士慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室小林 由季心理士慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室田島 美幸心理士慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室中川 敦夫医師聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室
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トピックス3 うつ病治療における漢方薬

山田 和男医師東北医科薬科大学精神科学教室

トピックス4 時間生物学的治療

高江洲 義和医師琉球大学大学院医学研究科精神病態医学講座鈴木 正泰医師日本大学医学部 精神医学系 精神医学分野吉池 卓也医師国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚

醒障害研究部

トピックス5 労働者のうつ病

堀 輝医師福岡大学医学部精神医学教室有馬 秀晃医師品川駅前メンタルクリニック江口 尚医師産業医科大学産業生態科学研究所産業精神保健学研究室大木 洋子研究員慶應義塾大学SFC研究所丸山 崇医師産業医科大学医学部第一生理学横山 太範医師医療法人社団心劇会さっぽろ駅前クリニック

トピックス6 抗うつ薬の薬物相互作用

古郡 規雄医師獨協医科大学精神神経医学講座

トピックス7 今後期待される治療

櫻井 準医師杏林大学医学部精神神経科学教室谷 英明医師慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室鬼頭 伸輔医師東京慈恵会医科大学 精神医学講座林 大祐医師国立精神・神経医療研究センター病院

アドバイザー

松尾 幸治医師埼玉医科大学医学部精神医学渡辺 範雄医師蘇生会総合病院

ECT アドバイザー

諏訪 太朗医師京都大学大学院医学研究科 脳病態生理学講座(精神医学)嶽北 佳輝医師関西医科大学医学部精神神経科学講座

他職種メンバー

香月 富士日看護師名古屋市立大学大学院看護学研究科玉木 敦子看護師神戸女子大学看護学部中田 裕介薬剤師中田薬店 ゆう薬局
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北川 航平薬剤師岡山県精神科医療センター臨床研究部日髙 崇博心理士筑紫女学園大学人間科学部人間科学科 心理・社会福祉専攻越川 陽介心理士関西医科大学医学部精神神経科学講座田中 佐千恵作業療法士 信州大学医学部保健学科作業療法学専攻星野 藍子作業療法士 名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻

当事者・家族メンバー

ゆまReopa小林 鮎奈精神疾患の親をもつ子どもの会こどもぴあ患者家族(親)林  晋吾佐藤 綾子(患者家族)

日本精神科診療所協会

窪田 幸久医師中央公園クリニック

作成事務局

村瀬 雄士医師関西医科大学医学部精神神経科学講座清水 敏幸医師関西医科大学医学部精神神経科学講座舩槻 紀也医師関西医科大学医学部精神神経科学講座南   翔太医師関西医科大学医学部精神神経科学講座香月 あすか医師社会福祉法人二丈福祉会

■うつ病診療ガイドライン統括委員会日本うつ病学会ガイドライン検討委員会日本精神神経学会ガイドライン検討委員会
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■ うつ病診療ガイドライン作成過程

2021 年12 月17 日統括キックオフ会議Web Minds に従って作成、ナラティブ記載を入れ

ることを確認

2022 年1 月7 日作成グループキックオフ会議Web組織構成、タイムライン

6 月17 日第1 回CQ 設定会議ハイブリッ

ド(福岡)軽度、中等度・重度、特定用語

7 月4 日第2 回CQ 設定会議Web睡眠、老年期、周産期、労働者

7 月15 日第3 回CQ 設定会議ハイブリッ

ド(大分)児童・思春期

7 月ーMinds 診療ガイドライン作成

セミナーVOD 受講(対象者) Web厚生労働省委託事業EBM 普及推進事業

10 月19 日第4 回CQ 設定会議Web各パートのCQ 決定

12 月4 日CQ 作成のための当事者・多職

種意見交換会Web各パートのCQ に関する意見交換

2023 年1 月22 日CQ 作成のための当事者・多職

種意見交換会Web各パートのCQ に関する意見交換

2 月11 日Minds 診療ガイドライン作成に

関する意見交換会web厚生労働省委託事業EBM 普及推進事業

7 月22 日第1 回ナラティブレビュー

(NR)/システマティックレビュー(SR)骨子推敲会議ハイブリッ

ド(仙台)維持期、周産期、老年期、児童・思春期

8 月16 日第2 回NR/SR 骨子推敲会議web中等度・重度、ニューロモデュレーション、治

療計画の策定

9 月13 日第3 回NR/SR 骨子推敲会議Web特定用語、治療計画の策定、不眠

9 月22 日第4 回NR/SR 骨子推敲会議Web軽度、後続治療、さらなる段階の治療、

10 月18 日第5 回NR/SR 骨子推敲会議Web後続治療、さらなる段階の治療

12 月6 日第1 回SR 推奨決定のためのパ

ネル会議Web SR 結果に基づく推奨文案の議論・投票・決定

中等度・重度
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2024 年1 月28 日第2 回SR 推奨決定のためのパ

ネル会議ハイブリッ

ド(品川) SR 結果に基づく推奨文案の議論・投票・決定

維持治療、不眠、児童思春期

2 月4 日第3 回SR 推奨決定のためのパ

ネル会議ハイブリッ

ド(品川) SR 結果に基づく推奨文案の議論・投票・決定

ニューロモデュレーション、軽度、老年期、精神症性うつ病、後続治療

3 月6 日第4 回SR 推奨決定のためのパ

ネル会議Web SR 結果に基づく推奨文案の議論・投票・決定

後続治療、さらなる段階の治療

7 月12 日第21 回日本うつ病学会総会ガ

イドライン検討委員会企画シンポジウム大阪国際交

流センター進捗報告

7 月12 日ガイドライン検討委員会大阪国際交

流センター進捗報告

8 月6 日第1 回ナラティブパート推敲会

議Web全パート

10 月14 日第2 回ナラティブパート推敲会

議Web児童・思春期

10 月22 日第3 回ナラティブパート推敲会

議Web維持期

2025 年2 月2 日第4 回ナラティブパート推敲会

議Web児童・思春期

3 月2 日第5 回ナラティブパート推敲会

議Web児童・思春期

5 月7 日第5 回SR 推奨決定のためのパ

ネル会議Web SR 結果に基づく推奨文案の議論・投票・決定

児童・思春期

5 月ー日本精神神経学会ガイドライン

検討委員会ガイドライン作成協力組織の校閲

6 月17 日第1 回統括校正会議神戸全パートの校正

6 月18 日第2 回統括校正会議神戸全パートの校正

6 月19 日第3 回統括校正会議神戸全パートの校正

6 月20 日日本精神神経学会ガイドライン

検討委員会神戸ガイドライン作成協力組織の校閲に基づく会

議

6 月21 日第4 回統括校正会議神戸全パートの校正
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7 月11 日第22 回日本うつ病学会総会ガ

イドライン検討委員会企画シンポジウム浜松町シンポジウム(ベータ版の公開)

7 月12 日ガイドライン検討委員会浜松町進捗報告

7 月ー全体校正会議web全パートの校正10月11 日ー日本精神神経学会ガイドライン

検討委員会ガイドライン作成協力組織の校閲

10 月25日ー日本うつ病学会ガイドライン検

討委員会ガイドライン作成協力組織の校閲

10 月27日ー11 月9 日パブリックコメント日本うつ病学会会員12 月23日承認日本うつ病学会理事会

日本うつ病学会ガイドライン検討委員会

12 月25日PDF 版一般公開web

■ 免責事項

本ガイドラインは治療を決定づけるものではございません。このため、本ガイドラインの内容を遵守したというだけでは過失責任を免れることはできず、一方で本ガイドラインから逸脱したことを過失とみなすこともできません。つまり本ガイドラインの内容は医療訴訟の根拠となるものではございません。
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■ うつ病診療ガイドライン作成の手順

本ガイドラインは、Minds2020年版をもとに作成した。診療ガイドライン作成プロセスと「診療ガイドライン統括委員会」「診療ガイドライン作成グループ」「システマティックレビューチーム」の三層構造の担当組織に従い、組織編成を行った。

1.臨床疑問(clinical question:CQ)決定手順ワーキンググループ(WG)メンバーのうち、統括、執筆パートリーダー、当事者会、システマティックレビュー(SR)パートリーダー、 NRパートリーダー、他職種メンバーが意見交換を行い4回のCQ設定会議と2回の当事者・多職種意見交換会により決定した。また、CQの決定にはわが国の医療事情(健康保険など)を加味した。

2.システマティックレビュー推奨決定手順

a. 推奨決定会議における投票者資格

投票者資格:ワーキンググループ(WG)メンバーのうち執筆グループリーダー、当事者会、シ

ステマティックレビュー(SR)パートリーダー、SRサブリーダー、NRパートリーダー当日、リーダーの会議への参加が難しい場合には、リーダーにより指名された同じセクションの

代理が参加でき、リーダーと同等の資格を有する。
p.15
b. 各項目の投票者・棄権者の基準 SRグループリーダーは自身がかかわったクリニカルクエスチョン(CQ)については投票参加で

きない。統括は投票参加できない。各CQに関して、COI基準に抵触するものは、そのCQに関して投票参加できない。本ガイドライ

ンのCOI管理者(加藤正樹、渡邊衡一郎、馬場元)がCOIに関しての投票者を事前決定する。

c. 推奨決定する具体的方法各CQについての推奨度の決定は、システマティックレビューの結果を踏まえ、1エビデンス総体のエビデンスの確実性(表1)、2推奨の強さに影響する要因(益と害のバランス、患者・市民の価値観・希望の多様性、日本における利用環境、 経済的視点など)も考慮しながらGRADE grid法に基づいた推奨度(表2)を、会議参加者の投票にて決定した。

表1 エビデンス総体のエビデンスの確実性(強さ) A(強): 効果の推定値が推奨を支持する適切さに強く確信があるB(中): 効果の推定値が推奨を支持する適切さに中程度の確信があるC(弱): 効果の推定値が推奨を支持する適切さに対する確信は限定的であるD(とても弱い): 効果の推定値が推奨を支持する適切さにほとんど確信できないMinds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0 より

表2 GRADE grid法に基づいた推奨1 行うことを強く推奨する2 行うことを弱く推奨する3 行わないことを弱く推奨する4 行わないことを強く推奨するMinds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0 より

投票決定基準 70%以上の同意の集約をもって全体の意見とする。 70%未満の場合には、結果を公表した上で、議論し、再投票する。 3回繰り返しても70%以上にならない場合には、「推奨なし」とする。 SRを行い、十分なエビデンスが得られない場合や、十分なエビデンスがありながらも、日本での

環境が整っていない場合など、外的、内的妥当性を十分に検討し、推奨決定に至らないCQに関しては、「提案する」「提案しない」という表現を用いた。3.ナラティブレビュー背景疑問に関するCQ を取り上げた。ナラティブレビューのCQに対する回答として、十分なエビデンスはないが、有用とする一定のエ
p.16
ビデンスがある場合「選択肢のひとつとする」という表現を用いた。推奨や提案という形をとりにくい臨床的重要な情報に関してはトピックスという形で記載した。

4.各章フローにおける図

GRADE grid 法に基づいて推奨が得られたものは、強く推奨するか弱く推奨するかの2 段階で、 さらに「行う」ことを推奨するか、「行わないこと」を推奨するかの2 方向で分けた4 分類で示した。上述した理由でエビデンスがありながらも推奨決定に至らなかったものは、「提案する」「提案しない」で示した。十分なエビデンスはないが、有用とする一定のエビデンスがある場合「選択肢のひとつとする」とした。5.各章の構成

第1 章「治療計画の策定」を除くすべての章のCQ 番号は以下のルールで構成される。 CQX-1:各章のテーマにおける「治療開始に際して考慮すべきこと」

要約とそれぞれの解説を項目ごとに番号を付けて記載。

 CQX-2:各章の治療総論

治療各論にあたるCQX-3 以降をまとめて番号を付けてサマライズするとともに、各論では記載できなかった補足的な内容やCQ に設定されなかった内容なども記載

   CQX-3 以降:それぞれの治療の各論をシステマティックレビューまたはナラティブレビューに

よって推奨または要約を箇条書きで記載。

■ 用語の定義・解説

本ガイドラインにおいては、以下のごとく用語を定義する。

操作的診断基準症状および経過に基づき、診断の一致率を高める目的で明確な判定基準を設けた診断体系を指す。世界保健機関(WHO)の「国際疾病分類」(ICD)および米国精神医学会(APA)の「精神疾患の診断・統計マニュアル」(DSM)が代表的であり、本ガイドラインではDSM-5-TR に規定された診断基準に基づきうつ病を定義する。

DSM-5-TR米国精神医学会が2022 年に刊行した『精神疾患の診断・統計マニュアル 第5 版、本文改訂』(Diagnostic
p.17
and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision)を指す。うつ病を含む精神疾患の診断・分類の国際的標準であり,症状・経過・機能障害をもとに診断が行われる。本ガイドラインではDSM-5-TR に準拠して各疾患を取り扱う。

特定用語(specifier) DSM-5-TR において、各症例の臨床像をより詳細に記述するために付与される補助的分類。うつ病においては、「不安性の苦痛を伴う」「混合性の特徴を伴う」「メランコリアの特徴を伴う」「非定型の特徴を伴う」「精神症性の特徴を伴う」「カタトニアを伴う」「周産期発症」「季節性のパターンを伴う」などが含まれる。

重症度うつ病の症状の強さおよび社会的・職業的機能障害の程度を指標とした臨床的判断を示す。DSM-5-TRの定義に準じ、以下の3 段階に区分する。

•軽度:診断に必要な数以上の症状はほとんどなく、なんとか対応できる範囲の症状の強さで、社

会的・職業的機能障害は軽度にとどまる。•中等度:症状の数・強さ、機能低下が「軽度」と「重度」の間である。•重度:症状が診断に必要な項目数より十分多く、非常に強く手に負えない症状が、機能を著しく

損なう。

閾値下の抑うつエピソードDSM-5-TR のうつ病診断基準9 項目のうち5 項目を満たさないものの、2〜4 項目の症状が2 週間以上持続し、そのうち1 項目が「抑うつ気分」または「興味・喜びの喪失」である状態。

共同意思決定(shared decision making:SDM)患者と治療者が治療選択肢に関する情報を共有し、患者の価値観・希望・生活背景を踏まえて最適な治療方針をともに決定するプロセス。うつ病治療においては、薬物療法・精神療法・非薬物療法など複数の有用な選択肢が存在するため、治療の受容性と継続性を高めるうえでSDM の実践が重要である。

測定に基づく診療(measurement-based care:MBC)治療者の主観的判断のみに依存せず、標準化された自己記入式・客観的評価尺度を用いて治療反応を定量的に測定し、治療計画を動的に調整する診療手法を指す。また、MBC はSDM をデータに基づいて実践可能にする基盤であり、両者は相互に補完的である。近年の精神医療においては、MBC はエビデンスに基づく診療の中核をなす概念と位置づけられている。

心理教育患者およびその家族に対し、疾患の病態、治療の目的と方法、予後、再発予防、生活上の工夫などに関する情報を提供し、理解と主体的対応を促す支援的介入。単なる知識の伝達ではなく、患者と治療者が相互に理解を深めることを目的とし、SDM を支える基盤となる。
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基礎的介入うつ病治療の初期段階において実施される支持的傾聴、支持的精神療法、共感的態度による関係構築、生活習慣の調整・休養、心理教育などの基本的治療行為。薬物療法や構造化された精神療法の前提として行われ、軽度うつ病においては単独で改善をもたらすこともある。

新規抗うつ薬従来の三環系抗うつ薬および四環系抗うつ薬と比較し、神経伝達物質の再取り込みや受容体調節に対してより選択的に作用し、有用性の向上を目的として開発された薬剤。薬理学的には以下のカテゴリーに分類される。

•選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI) •セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI) •ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬•セロトニン再取り込み阻害・受容体調節薬

構造化された精神療法明確な理論的枠組みと手順に基づいて実施される心理的治療。うつ病治療においては、認知療法・認知行動療法(CBT)および標準型精神分析療法が代表的である。本ガイドラインでは精神療法と記載された場合は構造化された精神療法を指す。

補助療法・付加的治療先行してある薬剤が投与され、その後に別の薬剤が追加投与された場合を「補助療法」と定義する。一方、先行薬剤に加え、精神療法やニューロモデュレーションなどの非薬物療法が追加された場合、これを「付加的治療」と定義する。

併用療法同時に二種類の薬剤を投与する場合を「併用療法」と定義する。

中断症候群いわゆる「離脱症状」「中断後症状」とも称され、定期的に投与されていた抗うつ薬などの薬剤を中止した際に一過性に出現しうる有害事象を指し、「中断症候群」と定義する。

後続治療(next-step treatment)初期治療(最小有効量以上の抗うつ薬を十分期間投与)で十分な効果が得られなかった場合に行われる次段階の治療。部分反応または治療無反応の症例が対象となる。

さらなる段階の治療 (Further-step treatment)後続治療で十分な効果が得られなかった場合に行われる次段階の治療
p.19
治療抵抗性うつ病(treatment-resistant depression:TRD)一般に、作用機序の異なる少なくとも2 種類以上の抗うつ薬を、十分な用量と期間で投与しても臨床的改善が得られないうつ病と定義される。本ガイドラインでは、TRD は後続治療を経ても奏効が得られない症例を指し、「Further-step Treatment(さらなる段階の治療)」の対象として位置付けられる。

difficult-to-treat depression: DTD (難治性抑うつ)標準的なうつ病治療を実施してもなお、患者の苦痛・機能障害・負担が持続している状態と定義される。DTD は、TRD や後続治療、さらなる段階の治療を包含しつつ抗うつ薬への治療反応性のみにとらわれない包括的な概念であり、治療により一時的に改善するも再燃・再発を繰り返す不安定な経過をたどるものや、抗うつ薬への忍容性の問題により治療継続が困難なものなども含まれる。

寛解(remission)うつ病の症状がほとんど消失し、診断基準を満たさない状態。部分寛解と完全寛解に区分され、完全寛解はハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)で7 点以下が2〜3 週間持続する状態などで定義される。

再燃・再発部分寛解期(この場合、寛解後2 か月、あるいは半年程度以内を指す)に再び診断基準を満たす状態を「再燃」と称し、完全寛解後に再び診断基準を満たす状態への移行を「再発」と称する。しかしながら、診断基準を厳密に適用することは臨床現場および臨床研究において困難であり、両者を実際に区別することは困難である。このため本ガイドラインでは両者を包括して広義に「再発」と定義する。

維持期治療急性期治療で症状が改善した後に、再発を防ぎ、寛解維持と社会機能の回復を目的として継続される治療段階。薬物療法・精神療法・生活支援を組み合わせて行う。

リカバリー(recovery)うつ病の治療目標を、単なる症状の消失にとどまらず、個人が望む生活の再構築と社会的機能の回復までを含めて捉える概念。本ガイドラインでは、症候学的リカバリーを基盤としつつ、機能的・パーソナル・社会的リカバリーを統合した包括的リカバリーを目標とする。

標準化平均差 (standardized mean difference:SMD) 2 つのグループ間の平均値の差を「標準偏差」で割って比較する指標で、治療効果の大きさ(効果量)を「単位の異なる測定尺度でも比較可能にする」ための方法。SMD の値 解釈

0.2 小さい効果

0.5 中程度の効果

0.8 以上大きな効果
p.20
オッズ比(odds ratio:OR)ある曝露または介入が特定の事象の発生と関連している程度を示す指標。曝露群における事象発生の「オッズ」を、非曝露群における事象発生の「オッズ」で割った値として定義される。オッズ比が1 より大きい場合は曝露群で事象が多く発生していることを、1 より小さい場合は少ないことを示す。観察研究や症例対照研究などにおいて頻繁に用いられる。

リスク比(risk ratio:RR)曝露群における事象発生の「確率」(リスク)を、非曝露群における事象発生の「確率」で割った値として定義される。リスク比が1 より大きい場合は曝露群で事象が発生しやすく、1 より小さい場合は発生しにくいことを意味する。

信頼区間(confidence interval:CI)母集団の真の値が含まれる範囲を、一定の確率で推定した区間。通常は95%信頼区間が用いられ、同様の研究を多数回繰り返した場合、そのうち約95%で真の値がこの区間内に含まれることを意味する。推定値(例:オッズ比、リスク比、平均値の差など)の不確実性を示す指標であり、区間が狭いほど推定の精度が高いことを示す。オッズ比やリスク比の95%信頼区間に1 が含まれない場合、統計学的に有意な差があると判断される。
p.21
■ 略語

略語英語表記(正式名称)日本語訳AD antidepressant抗うつ薬APA American Psychiatric Association米国精神医学会BDI Beck Depression Inventoryベック抑うつ質問票BAP British Association for Psychopharmacology 英国精神薬理学会

CANMAT Canadian Network for Mood and Anxiety

Treatmentsカナダ気分・不安障害治療ネットワーク

CBT Cognitive Behavioral Therapy認知行動療法CI confidence interval信頼区間CQ clinical question臨床疑問/クリニカルクエスチョンDSM-5 / DSM-5-TR Diagnostic and Statistical Manual of Mental

Disorders, Fifth Edition,  Text Revision精神疾患の診断・統計マニュアル 第5 版,

本文改訂

DTD difficult-to-treat depression難治性抑うつEBM evidence-based medicineエビデンスに基づく医療EBP evidence-based practiceエビデンスに基づく診療ECT electroconvulsive therapy電気けいれん療法FDA Food and Drug Administration米国食品医薬品局GAD-7 Generalized Anxiety Disorder-7全般性不安障害評価尺度(7 項目版) HAM-D / HAM-D17 Hamilton Depression Rating Scale (17-item

version)ハミルトンうつ病評価尺度(17 項目版)

HAM-A Hamilton Anxiety Rating Scaleハミルトン不安評価尺度HAP Healthy Activity Programヘルシーアクティビティプログラム

ICD International Statistical Classification of

Diseases and Related Health Problems国際疾病分類/疾病および関連保健問題の

国際統計分類

MADRS Montgomery–Åsberg Depression Rating

Scaleモンゴメリー-アスベルグうつ病評価尺度

MAOI monoamine oxidase inhibitorモノアミン酸化酵素阻害薬MBC measurement-based care測定に基づく診療mECT modified electroconvulsive therapy修正型電気けいれん療法MDD major depressive disorderうつ病(大うつ病性障害)

NaSSA noradrenergic and specific serotonergic

antidepressantノルアドレナリン作動性・特異的セロトニ

ン作動性抗うつ薬
p.22
略語英語表記(正式名称)日本語訳

NICE National Institute for Health and Care

Excellence英国国立医療技術評価機構

NNT number needed to treat治療必要数OR odds ratioオッズ比

QIDS Quick Inventory of Depressive

Symptomatology抑うつ症状簡易評価尺度

RCT randomized controlled trialランダム化比較対照試験RR risk ratioリスク比rTMS repetitive Transcranial Magnetic Stimulation 反復経頭蓋磁気刺激SD Standard Deviation標準偏差SDM shared decision making共同意思決定SDS Sheehan Disability Scaleシーハン障害評価尺度SMD standardized mean difference標準化平均差

SNRI serotonin and noradrenaline reuptake

inhibitorセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み

阻害薬

SRI–SRAセロトニン再取り込み阻害・受容体調節薬SSRI selective serotonin reuptake inhibitor選択的セロトニン再取り込み阻害薬TCA tricyclic antidepressant三環系抗うつ薬TRD treatment-resistant depression治療抵抗性うつ病WHO World Health Organization世界保健機関
p.23
■ 効能効果が成人のうつ病の保険適用となっている薬剤一覧

2025 年10 月現在の添付文書をもとに作成 (薬剤は一般名)

新規抗うつ薬フルボキサミン(商品名:デプロメール、ルボックス)パロキセチン(商品名:パキシル)セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)エスシタロプラム(商品名:レクサプロ)ミルナシプラン(商品名:トレドミン)デュロキセチン(商品名:サインバルタ)ベンラファキシン(商品名:イフェクサー)ミルタザピン(商品名:リフレックス、レメロン)ボルチオキセチン(商品名:トリンテリックス)

その他抗うつ薬アミトリプチリン(商品名:トリプタノール)イミプラミン(商品名:トフラニール、イドミール)クロミプラミン(商品名:アナフラニール)セチプチリン(商品名:テシプール)ノルトリプチリン(商品名:ノリトレン)トリミプラミン(商品名:スルモンチール)トラゾドン(商品名:デジレル、レスリン)マプロチリン(商品名:ルジオミール)ミアンセリン(商品名:テトラミド)

抗精神病薬(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)アリピプラゾール(商品名:エビリファイ)ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)

保険適用はあるが販売中止となった薬剤アモキサピン(商品名:アモキサン):2023 年2 月にニトロソアミン類の検出により自主回収および出荷停止となり、2025 年2 月に販売中止が発表されました。ドスレピン(商品名:プロチアデン):2024 年2 月より限定出荷となり、2025 年1 月に販売中止が発表されました。ロフェプラミン(商品名:アンプリット):2023 年1 月より限定出荷となり、2024 年4 月に販売中止が発表されました。
p.24
保険適用の治療機器

1 修正型電気けいれん療法(mECT)装置

適応:日本精神神経学会 精神科医療機器委員会 ECT「患者本人の希望」適応再検討ワーキンググループの適応基準に基づく

2 反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)装置 (既存の抗うつ薬治療で十分な効果が認められない成人のうつ病

患者)使用可能な機器: NeuroStar ®TMS 治療装置Brainsway TMS システム

※適応外使用について本ガイドラインでは、臨床的に十分なエビデンスがあれば、「適応外使用」であることを明記した上で取り上げています。具体的には、薬剤名の後に(適応外)と記載しています。それは、適応外使用を推奨するということを意味していません。最新の添付文書を参照して、主治医の裁量で判断されることをお願いいたします。また(適応外)の有無によって適応外使用か否かを保証するものではありません。適応外使用の薬剤の使用にあたっては主治医自身で細心の注意を払ってください。なお、適応外薬とは、厚生労働省によると、医薬品としては薬事承認(保険適用)されているものの、特定の効能・効果等については、薬事承認されていないものと定義されています。〔参考:研第4 号、医薬審第104 号平成11 年2 月1 日付「適応外使用に係る医療用医薬品の取扱いについて」(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/01/dl/s0124-9h1.pdf)および「公知申請に係る事前評価が終了した適応外薬の保険適用について」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/topics/110202- 01.html)参照〕
p.25
■ Clinical Question (CQ)リスト

第1 章 治療計画の策定

CQ1-1 うつ病はどのような疾患か

CQ1-2 うつ病の診断の進め方はどのようなものか

CQ1-3 うつ病の症状・経過の多様性はどのように診断に反映されるのか

CQ1-4 うつ病治療の基本的な進め方はどのようなものか

CQ1-5 ライフステージごとにどの様な配慮が必要か(児童・思春期、成人、周産期、老年期)

CQ1-6 うつ病に併存する身体疾患にはどの様な配慮が必要か

CQ1-7 うつ病の治療において、どのような場合に入院を検討すべきか

CQ1-8 治療中の自殺関連行動に、どのように対処することが望ましいか

CQ1-9 うつ病の治療において、どのような生活習慣が望ましいか

第2章 軽度うつ病

CQ2-1 軽度うつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

CQ2-2 軽度うつ病に対する治療法はなにか

CQ2-3 軽度うつ病に抗うつ薬は有用か

CQ2-4 軽度うつ病に精神療法は有用か

第3章 中等度/重度うつ病

CQ3-1 中等度/重度うつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

CQ3-2 中等度/重度うつ病に対する治療法はなにか

CQ3-3 中等度/重度うつ病に対して新規抗うつ薬は有用か

CQ3-4 中等度/重度のうつ病患者に対して精神療法は有用か

CQ3-5 うつ病の急性期療法として電気けいれん療法(ECT)は有用か

CQ3-6 中等度/重度うつ病に対して治療初期からの2剤の抗うつ薬併用療法は有用か

CQ3-7 中等度/重度うつ病に対して、抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬および睡眠薬の

併用療法は有用か

第4 章児童・思春期

CQ4-1 児童・思春期うつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

CQ4-2 児童・思春期うつ病の治療法はなにか

CQ4-3 児童・思春期うつ病に精神療法は有用か

CQ4-4 児童・思春期うつ病に抗うつ薬は有用か

CQ4-5 児童・思春期うつ病に対してその他の有用な治療は何か

第5 章 周産期

CQ5-1 周産期うつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか
p.26
CQ5-2 周産期うつ病に対する治療法はなにか

CQ5-3 妊娠中のうつ病に抗うつ薬は有用か

CQ5-4 周産期の抑うつ状態に精神療法は有用か

CQ5-5 産後うつ病に抗うつ薬は有用か

第6 章 老年期

CQ6-1 老年期うつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

CQ6-2 老年期うつ病に対する治療はなにか

CQ6-3 老年期うつ病に精神療法は有用か

CQ6-4 老年期うつ病に抗うつ薬は有用か

CQ6-5 老年期DTD(難治性抑うつ)に対する薬物療法はなにか

CQ6-6 老年期うつ病にニューロモデュレーション(ECT、rTMS)は有用か、、

CQ6-7 老年期うつ病に対してその他の有用な治療はなにか

第7 章 特定用語

CQ7-1-1 不安性の苦痛を伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

CQ7-1-2 不安性の苦痛を伴ううつ病に有用な治療法はなにか

CQ7-2-1 混合性の特徴を伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

CQ7-2-2 混合性の特徴を伴ううつ病の治療法はなにか

CQ7-3-1 メランコリアの特徴を伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

CQ7-3-2 メランコリアの特徴を伴ううつ病の治療法はなにか

CQ7-4-1 非定型の特徴を伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

CQ7-4-2 非定型の特徴を伴ううつ病の治療法はなにか

CQ7-5-1 精神症性の特徴を伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

CQ7-5-2 精神症性の特徴を伴ううつ病の治療法はなにか

CQ7-5-3 精神症性の特徴を伴ううつ病において、抗うつ薬と抗精神病薬の併用はそれぞれの単剤より

有用か

CQ7-5-4 精神症性の特徴を伴ううつ病において、抗うつ薬と抗精神病薬の併用で改善した患者の維持

期治療として、併用はそれぞれの単剤より有用か、

CQ7-6-1 カタトニアを伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

CQ7-6-2 カタトニアを伴ううつ病の治療法はなにか

CQ7-7-1 季節性のパターンを伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

CQ7-7-2 季節性のパターンを伴ううつ病に有用な治療はなにか

第8 章 不眠症状を伴ううつ病

CQ8-1 不眠症状を伴ううつ病患者の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

CQ8-2 不眠症状を伴ううつ病に対する治療法はなにか

CQ8-3 不眠症状を伴ううつ病に対して抗うつ薬と睡眠薬の併用は抗うつ薬の単剤と比べて有用か
p.27
CQ8-4 不眠症状を伴ううつ病に鎮静作用を有する向精神薬(抗うつ薬、抗精神病薬など)は有用か

CQ8-5 不眠症状を伴ううつ病に不眠に対する認知行動療法(CBT for insomnia:CBT-I)は有用か

第9 章 後続治療

CQ9-1 初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病に後続治療(Next-step Treatment)を開始する

際、考慮すべきことはなにか

CQ9-2 初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者の後続治療の方法はなにか

CQ9-3 初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として、現在使用している抗うつ薬

を増量することは有用か

CQ9-4 初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として、別の抗うつ薬へ切り替える

ことは有用か

CQ9-5 初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として別の抗うつ薬による補助療法

は有用か

CQ9-6 初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として、抗精神病薬による補助療法

は有用か

CQ9-7 初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として、別の抗うつ薬や抗精神病薬

以外の薬剤による補助療法は有用か

CQ9-8 初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として、精神療法による付加的治療

を行うことは有用か

第10 章 さらなる段階の治療

CQ10-1 後続治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者の治療開始に際して考慮すべきことは

なにか

CQ10-2 後続治療で十分な効果が得られず、さらなる段階の治療を要する際の治療法はなにか

CQ10-3 2 剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対し、抗精神病薬による補助療法は有用か

CQ10-4 2 剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対し、気分安定薬による補助療法は有用か

CQ10-5 2 剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対し、精神療法による付加的治療は有用か

CQ10-6 2 剤以上の抗うつ薬治療で効果が不十分なうつ病にECT による付加的治療は有用か

CQ10-7 DTD(難治性抑うつ)にrTMS 療法による付加的治療は有用か

第11 章 維持期治療

CQ11-1 うつ病の維持期治療において考慮すべきことはなにか

CQ11-2 寛解後の維持期の治療法はなにか

CQ11-3 抗うつ薬で寛解したうつ病患者に抗うつ薬の継続は有用か

CQ11-4 補助療法で寛解したうつ病患者において追加薬の継続は有用か

CQ11-5 薬物療法で寛解したうつ病患者に精神療法を行うことは有効か

CQ11-6 電気けいれん療法(ECT)によって反応または寛解したうつ病の維持期治療においてECT は

有用か
p.28
CQ11-7 急性期反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)で反応または寛解したうつ病の維持期治療において、

rTMS は有用か

■トピックスリスト

トピックス1診断基準を満たさない閾値下の抑うつエピソードトピックス2うつ病に対する精神療法トピックス3うつ病治療における漢方薬トピックス4時間生物学的治療トピックス5労働者のうつ病トピックス6抗うつ薬の薬物相互作用トピックス7今後期待される治療
p.29
うつ病診療のアルゴリズム 対応CQ 一覧
p.30
第1 章 治療計画の策定

CQ1-1うつ病はどのような疾患か

【要約】1 うつ病は、継続的に気分が落ち込み、思考・行動が停滞することにより、日常生活や社

会生活における機能に障害を引き起こす疾患である。2 うつ病の生涯有病率は、世界的には11~15%、日本では5~6%である。有病率は、女

性が男性の約2 倍である。発症においては、環境的要因と遺伝的要因が関与している。

【解説】

1 疾患概念うつ病の疾患概念は、以下のような変遷を経てきた。19 世紀、ドイツの精神医学者であるクレペリンは、現在のうつ病と双極症を包括する概念である「躁うつ病」を、独立した疾患として提唱した。その後の1960 年代以降、経過、発症率の性差、遺伝歴、病前性格などの研究結果を考慮して、「躁うつ病(現在の双極症に含まれる)」と「単極性うつ病」の2 つに分ける考え方、すなわち二元論が提唱された。また、うつ病のなかで心因性のものを「神経症性うつ病」とし、遺伝的・体質的要因によるものを「内因性うつ病」と対比する考え方が一般的となった。その後、発症には環境的要因や遺伝的要因が複合的に関与していることが明らかになり、また、診断基準が明示されていなかったため、医師の間での診断の一致が得られない事態も生じたことから、上述のような伝統的診断分類の妥当性が疑問視されるようになった。

そこで、1980 年以降、診断の一致率を高めることを目的に、症状と経過に基づいた「操作的診断基準」として、WHO はICD を、 APA はDSM をそれぞれ作成した。現状ではDSM が研究・臨床において国際的に広く用いられており、本ガイドラインではDSM の最新版であるDSM-

5-TR1)で規定されたものをうつ病として取り扱う。

DSM-5-TR におけるうつ病は、気分が落ち込み、思考・行動が停滞した状態が持続し、それにより日常生活や社会生活における機能の障害が引き起こされる疾患である。

2 疫学世界的にうつ病の生涯有病率(一生のうちに1度以上罹患する人の、全人口に対する割合)と12 か月有病率(12 か月のうちに罹患する人の、全人口に対する割合)は、高所得国では14.6%と5.5%、低所得国から中所得国では11.1%と5.9%とそれぞれ推定されている2)。わが国においては、2002 年から2006 年にかけて実施された世界精神保健調査日本調査ファースト(WMHJ1)では、生涯有病率と12 か月有病率はそれぞれ6.1%と2.2%3)、また2013 年から2015 年にかけて実施された同調査セカンド(WMHJ2)ではそれぞれ5.7%と2.7%であった4)。性差については、世界的に見て女性の有病率は男性の約2倍である2)。
p.31
うつ病の発症は37%が遺伝的要因で説明できると推定されており5)、双極症の場合(70~ 90%)6)ほど高くはない。第一度近親者にうつ病患者がいた場合、いなかった場合と比べての発症オッズ比は2.8 になる7)。環境的要因としては、

さまざまな心理社会的要因が関与しているが、幼少期の逆境体験なども関与することが報告されている8)。

【文献】

1 )Association AP, Diagnostic and Statistical

Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision (DSM-5-TR ). American Psychiatric Association Publishing, Washington DC, 2022 2)Bromet E, Andrade LH, Hwang I, et al: Cross-

national epidemiology of DSM-IV major depressive episode. BMC Med 9:90, 2011 3 )Ishikawa H, Kawakami N, Kessler RC :

Lifetime and 12-month prevalence, severity and unmet need for treatment of common mental disorders in Japan: Results from the final dataset of World Mental Health Japan Survey. Epidemiol Psychiatr Sci 25:217-229, 2016 4)Ishikawa H, Tachimori H, Takeshima T, et al:

Prevalence, treatment, and the correlates of common mental disorders in the mid 2010′s in Japan:The results of the world mental health Japan 2nd survey. J Affect Disord 241:

554-562, 2018 5)Kendler KS, Gatz M, Gardner CO, et al: A

Swedish national twin study of lifetime major depression. Am J Psychiatry 163:109-114,

2006 6)Gordovez FJA, McMahon FJ:The genetics of

bipolar disorder. Mol Psychiatry 25:544-559,

2020 7)Sullivan PF, Neale MC, Kendler KS: Genetic

epidemiology of major depression :Review and meta-analysis. Am J Psychiatry 157 : 1552-1562, 2000 8) Mandelli L, Petrelli C, Serretti A:The role of

specific early trauma in adult depression:A meta-analysis of published literature. Childhood trauma and adult depression. Eur Psychiatry 30: 665-680, 2015
p.32
CQ1-2うつ病の診断の進め方はどのようなものか

【要約】1 診断に際しては、他の医学的状態による抑うつ症および、物質・医薬品誘発性抑うつ症

を除外する。2 他の精神疾患(双極症・精神症・神経発達症・パーソナリティ症・認知症など)を鑑別する。3 操作的診断基準に基づき、診断を行う。4 他の精神疾患の併存の有無を検討する。

【解説】

1 他の医学的状態による抑うつ症および物質・

医薬品誘発性抑うつ症の除外全身状態把握と身体疾患のスクリーニングとして、生活歴、現病歴、既往歴、服薬内容や睡眠状況などについての詳細な問診に加え(CQ1-4 参照)、一般的な身体診察(神経学的所見を含む)や、必要に応じて下記の検査を行う。

実施すべき検査● 血液・尿検査:血算、白血球分画、AST、

ALT、γ-GTP、CPK、AMY、総蛋白、ALB、TG、LDL-C、HDL-C、BUN、CRE、Na、K、Cl、血糖、TSH、FT4、CRP、尿定性検査● 心電図● 脳波● 頭部CT またはMRI ● 脳血流シンチグラフィ(Single Photon

Emission Computed Tomography:SPECT) ●心理検査:ウェクスラー成人知能指数第4 版

(Wechsler Adult Intelligence Scale-Fourth Edition:WAIS-IV)、言い間違い・迂遠さ・もの忘れなど認知機能低下が示唆される場合に、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa Dementia Scale-Revised:HDS- R)、ミニメンタルステート検査(Mini

Mental State Examination:MMSE)など。

抑うつ症状に強く関連する疾患としてパーキンソン病1)、レビー小体型認知症2)などの神経変性疾患、脳卒中3)、頭部外傷4, 5)、および甲状腺機能低下症6)などの神経内分泌疾患などがよく知られている。これらの疾患が存在する場合には、抑うつ症状に対する介入に加えて、原疾患への治療介入を検討する必要がある。アルコールや各種薬物・治療薬を含めた物質関連症はしばしば抑うつ症状に伴ってみられるため7)、物質・医薬品の使用について確認することは治療計画の策定に必須である。

2 他の精神疾患との鑑別

他の精神疾患、例えば双極症・精神症・神経発達症・パーソナリティ症・認知症・月経前症候群/月経前不快気分障害などを鑑別するために、発達特性を加味した生活歴と病歴の聴取、月経周期との関連を含めた問診、診察時の観察、周囲の関係者からの情報収集を行い、現在の状態像のみならず、縦断的経過の評価を踏まえて検討する。そのために、幼少期の発達歴、これまでの社会生活歴について詳細に聴取する。また、月経周期に付
p.33
随して、気分の不安定性、易怒性、不快気分、および不安といった症状が起こる場合には、月経前不快気分障害と診断される。

躁/軽躁病エピソードの有無は、双極症との鑑別においてきわめて重要である。特に混合性の特徴を伴う抑うつエピソードを呈する患者においては、双極症の可能性が高まるため8)、詳細な病歴聴取に基づく十分な検討が必要である。抑うつエピソードを伴わない期間において、精神症症状が存在した場合には、統合失調スペクトラム症の可能性について検討が必要となる。また、注意欠如多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)や自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)といった神経発達症、パーソナリティ症に伴う不適応、認知症に伴う意欲低下などは、しばしば抑うつ症状として観察されるため、幼少期を含めた発達歴・生活歴の詳細な聴取で社会適応性の変化の有無を把握する。

3 操作的診断基準に基づき、診断を行う。

DSM-5-TR9)のうつ病は、診断基準に基づく抑うつエピソードが存在し、その症状が臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしており、エピソードが物質の生理学的作用または他

の医学的状態によるものではないときに診断される。

また、うつ病はDSM-5-TR の抑うつ症群の一部である。抑うつ症群には、重篤気分調節症、うつ病、持続性抑うつ症、月経前不快気分障害、物質・医薬品誘発性抑うつ症、他の医学的状態による抑うつ症などが含まれる。

持続性抑うつ症は、うつ病の診断基準を満たすほどには重篤でない抑うつ気分が少なくとも2 年間認められる場合に診断される。また、2 年間以上続くうつ病の場合も、持続性抑うつ症の診断となる。

4 他の精神疾患との併存

うつ病と、例えば不安症(全般不安症、パニック症など)、強迫症、神経性やせ症・過食症、心的外傷後ストレス症、パーソナリティ症、神経発達症、月経前症候群/月経前気分不快障害、アルコールや各種薬物・治療薬による物質関連症、認知症などの併存の有無を確認し、併存している場合には目下の病像や社会生活上の問題に、どちらがどの程度影響しているのかについて検討し、併存疾患も加味した治療方針を立てる。

【文献】

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p.35
CQ1-3うつ病の症状・経過の多様性はどのように診断に反映されるのか

【要約】1 重症度を評価する. 2 各患者の特徴をより詳細に示すため、「特定用語」(specifier)を用いる。

うつ病で用いられる特定用語として、具体的には以下のものがある。

◆不安性の苦痛を伴う ◆混合性の特徴を伴う◆メランコリアの特徴を伴う ◆非定型の特徴を伴う ◆精神症性の特徴を伴う◆カタトニアを伴う ◆周産期発症 ◆季節性のパターンを伴う◆(寛解状態での)部分寛解、完全寛解

【解説】

1重症度を評価する

うつ病の重症度は,以下のように判断する。--------------------------------------軽度:診断に必要な数以上の症状はほとんどなく,なんとか対応できる範囲の症状の強さで,社会的・職業的機能障害は軽度にとどまる。中等度:症状の数・強さ,機能低下が「軽度」と「重度」の間である。重度:症状が診断に必要な項目数より十分多く,非常に強く手に負えない症状が,機能を著しく損なう。

2特定用語を用いる

DSM-5-TR1)では,各患者の特徴をより詳細に示すため「特定用語」(specifier)を用いる。具体的には以下のものがある。(使用に際してはDSM-5-TR 本文や本ガイドラインのCQ7 特定用語の章を参照されたい)。-------------------------------------- ◆不安性の苦痛を伴う

抑うつエピソードの期間の大半で,緊張感・落ち着かなさ・心配・恐怖感・コントロール喪失感のうち,2つ以上があるもの。◆混合性の特徴を伴う

抑うつエピソードに躁的要素が混合するもの。◆メランコリアの特徴を伴う

著明な抑うつエピソードにおいて,活動における喜びを喪失する,あるいは周囲からの刺激への反応が困難になり,また早朝覚醒や朝の明確な不調など身体的な症状が強く表れているもの。◆非定型の特徴を伴う

(抑うつエピソードを満たした上で,なおかつ)出来事に反応し気分が明るくなり,また体重・食欲の増加,過眠,手足の重さ,対人過敏性などが目立つもの。◆精神症性の特徴を伴う

妄想や幻覚が存在するもの。◆カタトニアを伴う

カタトニアの病像がエピソードのほとんどの期間存在するもの。◆周産期発症

エピソードが妊娠中または出産後4 週間以内に始まったもの。◆季節性のパターンを伴う

エピソードが規則的に季節と関連して現れるもの。◆(寛解状態について)
p.36
●部分寛解:エピソード終了後2 か月未満,あるいは一部症状が残存しているもの。●完全寛解:過去2 か月間に格別の症状を認め

ないもの。

【文献】

1)Association AP, Diagnostic and Statistical

Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Ttext Revision(DSM-5-TR). American Psychiatric Association Publishing, Washington DC, 2022
p.37
CQ1-4うつ病治療の基本的な進め方はどのようなものか

【要約】1 初期の面接では患者の困りごとに焦点を当てて支持的、共感的な態度で診察し、良好な

患者治療者関係を構築する。2 診断の際に得られた詳細な情報に加え、治療方針の決定に必要な情報(検査を含む)を収集する。3 診断の告知および基礎的介入を行う。4 うつ病の病状、各種治療選択肢、予想される経過などについて治療者が十分に説明し、患者と知識を共有することで、患者自身が積極的に治療に関わることができるようにする(SDM)。5 患者の症状や治療反応を、評価尺度を用いて定期的に評価し、その結果を共有しなが

ら治療を調整する(MBC)。6 抗うつ薬の効果判定に関して、まずは治療開始後2~4 週の時点で評価することが望ま

しい。

【解説】

1 患者治療者関係の構築

治療初期の面接では患者自身の困りごとに関して体験や感情を含めて聞き取り、この状況であればこのような感情を抱くことは無理もないという「妥当性の承認」を含めた支持的・共感的な態度で接し、関係構築をすることが重要である。

2 把握すべき情報(表I-1) (1)既往・治療歴・家族歴

CQ1-2 で得られた詳細な情報に加え,向精神薬

の禁忌や注意に該当しやすい疾患(糖尿病,閉塞隅角緑内障,肝・腎障害など)の有無や、相互作用のある薬剤の服用(トピックス6「抗うつ薬の薬物相互作用」の項参照)に注意する。また、治療歴を聴取し、過去の治療反応や副作用を把握する。

精神疾患(特に双極症)の家族歴の確認は、鑑別診断や経過の予測に有用である1)。自殺の家族歴は、自殺のリスクを高めるとの報告もある2)。(2)生活歴

抑うつ症状の背景に自閉スペクトラム症3)や注意欠如多動症4)、知的発達症5)が影響している可能性があるため、発達歴や学歴などに関しても確認する。また、環境の変化(職歴や婚姻歴など)と現在の症状との関連や、過去の不適応や不調になった時期の有無を確認すること、そして、妊娠可能年齢にある女性では月経の規則性、最終月経日,妊娠および妊娠予定の有無を確認する(詳細はCQ1-2参照)。(3)病前のパーソナリティ傾向と適応状態の確認

治療開始時に、病前のパーソナリティ傾向や適応状態について確認する。患者自身の評価と周囲からの評価に差がある場合があるため、家族や関係者(職場、学校など)からも情報を得ることが望ましい。
p.38
(4)ストレス因子の評価

うつ病の発症には、ストレスが関与していることが多く、心理的ストレス因子(例:人間関係のトラブル、いじめ、死別、トラウマ体験など)、社会的・環境的ストレス因子(過重労働,経済的困難、転居、社会的孤立など)、身体的ストレス因子(慢性的な病気やけが、ホルモンバランスの変化など)を確認する。

3 診断告知および心理教育

(1)診断告知として、今の状態は、有病率の高い

病気である「うつ病」によって引き起こされたものであり、「自分はなまけている、駄目だ」と自分自身を責める必要はないことを伝える。なお、CQ1-3 で触れた、重症度についても言い添える。(2)心理教育としては、患者自身が納得しやすい

うつ病の疾病モデルを呈示して、次に述べる治療への共通理解につなげる。その一例として、「環境」と「脳」との関係を示しながら、うつ病患者の「否定的なものの見方」をキーポイントに置き、「悪循環」が生じていることを説明する。A.複数のストレスになる出来事が生じている6)

ときに、まわりのサポートを十分受けられない環境7)が重なる。B.さらに、十分な睡眠が取れず、脳の機能回復が不十分になる8)。

C.脳は出来事を処理しきれず、機能不全が起

こる。D.脳の機能不全は、否定的な見方(物事の否

定的側面ばかりを見てしまう)を引き起こす9)。E.否定的な見方によって、「周囲のサポートを

過小評価」して、一人で問題を抱え込んでしまう。同時に、「負荷を過大評価」して、普段なら気にならなかったことまで「とても大変だ」と感じて、実際以上にストレスと感じる出来事が増えてしまう。さらに、不安が生じて、睡眠が取れなくなる。以上の結果、「悪循環が形成されてしまうのがうつ病である」と伝える。(3)その上で、「うつ病の治療はどのように行う

か」を伝える。まず、「悪循環を形成している要素を1 つずつ消していくことで、悪循環を断ち切ることが治療である」と伝える。すなわち「脳の機能変化」を改善することを第1 目標にして、「脳(心)の休息と薬物療法」と「睡眠の確保」が重要だという点を説明する。「脳(心)の休息」を得るために、「周囲に相談してサポートを得て、いったん、ストレスになる出来事から離れる」ことを伝える。さらに、「自分の捉え方を考え直す」という、否定的認知の修正・緩和(例:CBT などへの導入)を図る10)。
p.39
(4)「極端な捉え方」に基づく「療養中の大決

断」を避け、重要な事柄(婚姻関係、転退職、財産の処分など)に関する判断は延期するように伝える。また、「自殺行為」をしないことを約束してもらう。無論この「約束」が意味をもつためには、治療者・患者関係の構築がとりわけ重要である。例えば「少なくとも目の前の治療者はあなたの力になりたいと考えており、次回も診察に来てくれるのを待っている」などと伝えることが関係の構築に役立つと考えられる。(5)患者の周囲の家族・関係者に、うつ病の急性

期は「励まし」と「気晴らしの誘い」が逆効果になることを理解してもらう。急性期は、優先順位がつけられず、周囲から励まされても、なにから頑張ればよいのかわからない。さらに、ものの見方が否定的になっているので、「周囲の応援に応えられない自分は駄目だ」と自分を責める可能性もある。また、興味や楽しいと思う気持ちがなくなっているので、気晴らしをしても楽しいと思えない。それでも周囲から、気晴らしに誘われると、「断ってはいけない」と考えて出かけ、気晴らしのはずが疲れるばかりという結果になりがちである。(6)生活習慣の改善など、患者側での治療的対処

行動を適宜要請する。特に、睡眠・覚醒リズムの改善は重要であり、例えば飲酒による睡眠は質の悪いものになることを踏まえて飲酒は避けること、朝は一定の時間に起床して外光に当たることなどを含め睡眠衛生指導を行う。「睡眠障害対処12 の指針」11)も参考になる(表I-2参照)。また、適度な運動も抗うつ効果があるといわれており、身体活動性が改善してきた時期には無理のないレベルで運動を取り入れることが望ましい。有酸素運動を行うと、抗うつ効果を示すという報告もある12)(CQ1-9 も参照)。なお、患者からの睡眠障害に関する訴えに

ついては、「睡眠状態誤認」(sleep state misperception:SSM)が生じうることを念頭に置く必要がある。例えば、うつ病エピソード中の患者が訴える途中覚醒については、閉塞性睡眠時無呼吸や低呼吸が存在する場合、実際よりも覚醒が少ないと誤認される(=過小評価)可能性がある。一方で、強い抑うつ状態では、実際よりも覚醒が多いと感じられる(=過大評価)傾向がみられる13)。そのため、必要に応じて睡眠活動記録表の記載や終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnography: PSG)の実施を検討することが望ましい。(7) 支持的精神療法を行う。支持的精神療法とは、患者の苦悩に共感し、妥当性を承認した上で(すなわち、心身がつらい現状においてはそのようにネガティブに考えてしまうのも無理はないと認めた上で)客観的視点から患者が直面している現実的問題の解決を支援する働きかけである。

4 治療開始時および開始後に実施すること(1)共同意思決定(SDM)

基礎的介入に続き、うつ病の病状、治療選択肢、予想される経過などについて治療者が十分に説明し、患者(必要であれば家族も)と知識を共有し、患者の価値観も考慮することで、患者自身が積極的に治療に関わることができるようにする。うつ病は長期間に渡って継続的に治療が必要になりうることを、できれば治療初期から共有し、治療経過に一喜一憂させないことが重要である。

なお実施にあたっては、患者の意思決定の参考になる資材(デシジョンエイド)を用いるとよい。一例として、日本うつ病学会で作成した「うつ病の治療法を一緒に選ぶための手引き」も参照されたい。(2)各種治療選択肢についてA. 薬物療法:薬物療法の基本は、抗うつ薬によ

る治療である。SSRI、 SNRI、ミルタザピンな
p.40
どの新規抗うつ薬が比較的副作用の少ないことから、使用されることが多い。抗うつ薬の導入時・増量時には不安、焦燥、興奮、パニック発作、不眠、易刺激性、敵意、攻撃性、衝動性、アカシジア/精神運動不穏、軽躁、躁病などがあらわれることが報告されているので注意する14,15)。抗うつ薬の効果が不十分である場合は、抗うつ薬の変更、抗うつ薬の併用、抗精神病薬による補助療法などを検討する(詳しくは

CQ9-2、CQ10-2 参照)。

B. 体系化された精神療法:代表的なものにCBT

がある。CBT とは、ある状況を経験して生じる感情と行動は、その状況をどう捉えるか(認知の仕方)によって影響を受けることに着目し、その上で、感情や行動に影響を及ぼしている極端な考え(ゆがんだ認知)がなにかを特定し、それが現実的かどうかを検討し、より現実的で幅広い捉え方(認知)ができるように修正していくことで、不快な感情を軽減することを図る。これは再発予防効果に優れていることが立証されている16)。また、2 剤以上の抗うつ薬治療で効果が不十分な場合、抗うつ薬治療に加えて、体系化された精神療法の併用が有用かもしれない。詳しくはCQ9-8、CQ10-6、トピックス6「うつ病に対する精神療法」の項を参照されたい。C. ニューロモデュレーション:代表的なもの

に、 ECT とrTMS がある。ECT とは、電気的刺激によって脳に全般性の発作活動を誘発し、これによる神経生物学的効果を通して、臨床症状の改善を得ようとする治療法である。静脈麻酔薬と筋弛緩剤を用いて行う修正型電気けいれん療法が一般的である。rTMS とは、パルス磁場によって渦電流を誘導し皮質ニューロンを刺激することで、非侵襲的に皮質や皮質下の活動を変化させる治療法である。詳しくは

CQ3-2、CQ3-5、CQ10-7、CQ10-8 を参照さ

れたい。5 Measurement-based care (MBC)

MBC とは、患者の症状や治療反応を、評価尺度を用いて定期的に評価し、その結果を共有しながら、治療を調整する医療アプローチである17)。症状の重症度のみならず、副作用、生活の質(quality of life:QOL)、リカバリーに関して、わが国で評価に使用可能な評価尺度を表1-3 に列挙した18-20)。治療目標に即した症状の定量化により、治療効果の可視化が可能となる。特にうつ病では、自己記入式評価尺度が簡便で持続的に使用でき、自己洞察とSDM を促進する。MBC は寛解率やアドヒアランスなど、うつ病治療転帰の改善に寄与することが報告されている21,22)。MBCを実践するためには、客観的評価尺度と自己記入式評価尺度を組み合わせて用いることが有用とされている23-25)。これらの評価および結果の共有を繰り返し実施することで、早期改善の有無や悪化の徴候を捉えやすくなり、治療の方向性を見直すタイミングを明確化できる。こうした体系的な評価を通じて漫然と同一の治療を継続するリスクを低減し、臨床判断の精度を高めることが期待される。

6 治療効果の判定

ある治療的介入を行った際の治療効果については、主に以下のような改善度に基づいて判定されることが一般的である。

⚫無反応(no response):ベースラインと比

較して、症状の重症度が25%未満しか減少しない場合。⚫部分反応(partial response):症状の重症

度が26~49%減少した場合。⚫反応(response):症状の重症度が50%以

上減少した場合。⚫寛解:症状が消失、あるいは軽度の症状

がわずかに残存する状態であり、対尺度
p.41
スコアで定義される(例:HAM-D 17 項目≦7)。抗うつ薬の効果判定に関する評価期間については、研究間で一定のばらつきがみられ、現時点では明確なコンセンサスは得られていない。諸外国の主要ガイドラインでは、治療開始後2~4 週間または4~6 週間を効果判定の目安として提示している23-31)。近年の研究では、治療開始後2~3週時点で改善がほとんど認められない場合、その後の反応や寛解が得られにくい可能性が示唆されている32,33)。さらに、治療開始後1~2 週における改善がその後の予後に影響すること示すメタ解析も報告されており34,35)、早期の症状観察の重要性が強調されている。したがって、まずは抗うつ薬投与開始後4 週前後を目安に、改善の有無を評価する必要がある。その一方で、4~6 週の段階においても全く改善がみられない(無反応)あるいは非寛解の状態が継続している場合は、それ以降も十分な改善や寛解に至る可能性が低いとの本邦のものを含めた報告もある36-38)。また、4~12週の間に反応を示すような「後期反応者」であったとしても、3~4 週目にかけてわずかながら症状変化(例えば無反応から部分反応への移行)が認められることがあり39)、これは単なる無反応とは異なる経過である可能性が指摘されている。

以上の知見から、早期反応が長期的な転帰を予測しうる一方で、4 週目以降に反応する症例においても、3 週目前後に多少の改善徴候が認められることがあると考えられる。したがって、4 週を

目安に改善を見極めつつ、症例によって4~6 週まで経過を継続的に観察する意義がある。仮に早期反応が乏しい場合には、診断の再検討や治療方針の見直しが求められ、明らかな副作用やリスク要因が認められる場合には迅速な対応が必要である。一方、わずかでも症状変化がみられる場合には、後期にかけて反応や寛解に至る可能性を考慮しつつ、治療を漫然と継続するのではなく、適切なモニタリングを行い、必要に応じて治療内容の修正を図ることが望ましい。

なお、ガイドライン間で効果判定期間に一定のばらつきはあるものの、共通して指摘されているのは、明らかな改善が得られないまま同一の抗うつ薬を漫然と継続することが、患者の苦痛を増大させ、エピソードの長期化や機能低下、さらには再燃リスクの上昇につながる可能性がある点である40)。したがって、4~6 週程度を目安に有効な改善が認められない場合には、後続治療や治療抵抗性への治療計画の修正も検討する必要がある(CQ9、10 参照)。

加えて、不安焦燥や自殺念慮が強い場合、高齢者で至適な抗うつ薬治療が難しい場合、あるいは低栄養状態にある場合など、緊急性が高い状況においては、より早期の段階での治療戦略の見直しが必要である。

なお、急性期治療により寛解が得られた場合は維持期治療に進む(CQ11 参照)。
p.42
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p.46
CQ1-5ライフステージごとにどのような配慮が必要か(児童・思春期、成人、周産期、老年期)

【要約】1 うつ病の治療・支援にあたっては、ライフステージへの配慮も必要である。2 児童・思春期では心理社会的要因、さらに栄養不良を含む身体的要因を考慮する。3 就労者では、休職には一定の合理性があるが、メリットとデメリットの両面があるこ

とを考慮する必要がある。4 妊娠中や産後においては、うつ病そのものが、母体の健康、胎児・新生児の発育、育児の質に影響しうることを認識する。5 老年期では、認知機能や身体機能の低下を考慮する。

【解説】

1 ライフステージとうつ病

うつ病は広い年代の人に影響しうる疾患であり、ライフステージごとに配慮すべき事項がある。

2 児童・思春期(CQ4-1 参照)

過去に、児童・思春期の患者には成人と同様の基準で診断できるようなうつ病は存在しないと考えられていたが、1970 年代後半から、児童・思春期においても成人の診断基準を満たすうつ病が存在することが明らかになった1)。米国の研究では、うつ病の初発エピソードの頻度は12 歳から急速に上昇し、12 歳以降は成人の発症率と大きな違いがないことが報告されている2)。いじめ3)、虐待4)などの心理社会的ストレス因子にも注意する。また、栄養状態にも注意が必要である。

児童・思春期のうつ病は、成人同様にエピソードを繰り返すことが報告されている5)ため、成人のうつ病への移行に注意して観察していくことが必要である。また、先行研究では前思春期うつ病症例の約50%6)、思春期症例の約20%が後に双極症と診断されるなど高い移行率が示されており、また双極症の家族歴7)や注意欠如多動症の併存8)が双極症移行のリスク因子となっているため、抗

うつ薬の投与を含めた治療に際してはこれらの点に注意すべきである。

3 成人(就労者)

就労者では、治療と回復に要する「脳(心)の休息」を確保する目的で、休職を検討することになるが、休職がメリットとデメリットの双方をもたらしうることに留意する。休職、職場復帰やリワークプログラムについてはトピックス5「労働者のうつ病」の項に譲る。

4 周産期(CQ5-1 参照)

「性と生殖に関する健康と権利」9)に基づき、患者らが子どもをもつことを希望する場合には、医療者はそれに向けて積極的かつ適切な支援を行うべきである。

周産期に抑うつエピソードを経験する女性の有病率は10%程度と考えられる10,11)。初産婦における産後うつ病の有病率は、経産婦よりも高いといわれている。わが国でも同様の傾向があり、初産婦は経産婦よりもマタニティーブルーや産後うつ
p.47
病を経験する率が高く、産前産後を通じて不安が強い12,13)。同時に、母親のうつ病は胎児・新生児の発育や認知的・言語的・情緒的発達、愛着形成およびその後のメンタルヘルスに影響しうる14)。そのため、産後の女性、特に初産婦のメンタルヘルスの推移には注意が必要である。また、産後うつ病が生じると「自分が受けることのできる周囲からの支援は少ない」と感じてしまう傾向がある13)。これによって産婦が自身に必要な援助(ソーシャルサポート)を求めなくなることが懸念されるため、医療者や支援者のほうから必要な援助を提供していくよう心掛けることが望ましい。治療者として留意すべき重要点は、妊娠・授乳中のうつ病とその治療に関して、なにがどこまで明らかになっているかを明確にしておくことである15)。うつ病患者の妊娠・出産にあたっては、患者(母体)の精神状態の悪化や早産などの身体的な急変、あるいは新生児不適応症候群など新生児に生じる不測の事態に備え、産婦人科主治医、看護師、助産師などの周産期スタッフとの協働がきわめて重

要であり、普段から精神科スタッフと周産期スタッフとの連携体制を構築しておくことが望ましい。詳しくは周産期のセクションに譲る。

5 老年期 (CQ6-1 参照)

うつ病は高齢者の生活の質を著しく低下させる16)。抑うつ症状が認知症の前駆状態である可能性も指摘されている17)。うつ病や認知症に伴う認知機能障害がみられる場合、薬の飲み忘れ・飲みすぎが起こりやすくなるので、薬剤師・訪問看護師・家族などとも適宜連携しながら服薬管理に注意することが望まれる。

高齢者のうつ病は再発率が高い18-20)ので注意する。一方で、加齢に伴う体力低下を、易疲労感や意欲の減退などの抑うつ症状と誤認する場合があるため、加齢による変化と病的な症状の違いを適切に伝えることが重要である。

【文献】

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p.49
CQ1-6うつ病に併存する身体疾患にはどのような配慮が必要か

【要約】1 身体疾患をもつ患者は、うつ病を発症しやすい。また、うつ病が身体疾患のリスクを

高めるため、抑うつ症状の改善とともに、既存の身体疾患の治療、および新たな身体疾患発症の予防に配慮する必要がある。

【解説】

1うつ病に併存する身体疾患と薬剤の影響

身体疾患をもつ人々は、健常者よりもうつ病の発症率が高い1)(表1-4 参照)ため、身体疾患の併存や既往は必ず把握する。抑うつ状態を引き起こしやすい一般身体疾患と薬剤・物質を表1-5 にまとめた2)。さらに、うつ病の治療にあたっては、他科からの処方薬(ステロイド、インターフェロン、降圧剤など)による影響にも注意が必要である。あわせて、身体疾患に対する生活指導を治療に組み込むことが有益である。

一方、うつ病などの精神疾患に罹患すると、死亡率や冠動脈性心疾患、糖尿病といった身体疾患

の発症リスクが高くなり1)(表1-6 参照)、また、精神疾患の併存が身体疾患の予後(例:死亡率や再発率)に悪影響を与えることが実証されている。その結果、 WHO が提唱した“No health without mental health”の標語のもと、身体疾患の治療においても精神医学的な介入が重要視されている3)。

うつ病患者の診療にあたっては、抑うつ症状そのものの改善を目指すと同時に、新たな身体疾患発症のリスクが高いことを踏まえ、その予防や治療に配慮する必要がある。

【表1-4】身体疾患をもつ人々のうつ病発症率身体疾患リスク比95%信頼区間虚血性心疾患1.79※ 1.43~2.23脳卒中2.62※ 2.09~3.29メタボリックシンドローム 1.49 1.20~1.87肥満1.18 1.04~1.35 2 型糖尿病1.15 1.02~1.30 ※ハザード比(Michael Berk et al, 2023)
p.50
【表1-5】抑うつ状態を生じやすい一般身体疾患と薬剤・物質

神経解剖学的関連疾患脳血管障害、パーキンソン病、ハンチントン病、頭部外傷神経内分泌学的疾患クッシング症候群、甲状腺機能低下症その他多発性硬化症、自己免疫疾患、ビタミン類の欠乏、膵臓癌抑うつ状態を引き起こしやすい物質中毒・離脱アルコール カフェイン 幻覚剤(フェンシクリジン、他)

吸入剤 オピオイド 鎮静薬、睡眠薬または抗不安薬刺激剤(アンフェタミン類物質、コカイン) 他

治療に用いられる薬剤ステロイド クロニジンなどの降圧薬、インターフェロンアルファ

L-ドーパ(American Psychiatric Association. 2022:PP 194, 195,199,537,553 )

【表1-6】うつ病罹患による全死亡および身体疾患のリスク

疾患リスク比またはオ

ッズ比95%信頼区間

全死亡1.48 1.39~1.58癌1.15 1.09~1.22冠動脈性心疾患1.3 1.22~1.40高血圧1.42 1.09~1.86肥満1.37 1.17~1.48 2 型糖尿病1.18 1.12~1.24脳卒中1.4 1.27~1.53アルツハイマー病 1.9 1.52-2.38

(Michael Berk et al, 2023)
p.51
【文献】

1) Berk M, Köhler- Forsberg O, Turner M, et al:

Comorbidity between major depressive disorder and physical diseases: a comprehensive review of epidemiology, mechanisms and management: World Psychiatry 22:366-387, 2023 2)American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,

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p.52
CQ1-7うつ病の治療において,どのような場合に入院を検討すべきか

【要約】1 自傷のおそれや積極的な身体ケアの必要があるなど重症度が高い場合や、外来治療で

は改善が乏しい場合、自宅で休養が取れない場合などに入院が検討される。2 自傷のおそれなど積極的に保護する必要性がある場合や、病状により意思表示や決断

が困難な場合に非自発的入院の適用が検討される。

【解説】

1入院の適応

うつ病では、外来治療で対応可能なことが多いものの、下記の場合は、入院環境下での治療が望ましい1)。

⚫自殺企図や自傷・他害のおそれがあると

き⚫食事摂取や休養を取るなど、自身のケア

がままならないとき⚫診断をつける目的のとき⚫過去の病歴で急激に悪化した経過があっ

たとき⚫患者を支える体制が破綻したとき⚫患者の症状や行動が悪化したとき。ま

た、患者を支える体制は過干渉でも放任でもなく信頼がおけるものであるべきだが、こうした体制に変化が起こったときただ、実際に入院治療とするかどうかには個別的な検討が求められる。患者本人の治療と保護が自宅で可能かどうかを家族なども含めて話し合

い、それが難しいと考えられる場合に入院の可能性を協議していくことになる。

2非自発的入院

非自発的入院の根拠はあくまでも精神保健福祉法であり、臨床症状などを踏まえて法律の規定する要件に合致するか判断することが必要である。非自発的入院の要否判断に関しては、5つの基本要件が一定程度参考になるとされる2,3)(表1-7 参照)。また、自発的入院が行われるように努めるのが前提だが、強い自殺念慮があり自殺の危険が切迫している場合などは、患者の保護のために非自発的入院の適用が必要だと考えられる。入院の必要性があっても、病識欠如や、精神運動制止、昏迷状態のために、患者自身が同意ができない場合などにも適用となる。
p.53
【文献】

1) Boland R, Verdiun ML :Kaplan &

Sadock’s Synopsis of Psychiatry. Wolters Kluwer, 2021 2)一般社団法人日本精神科救急学会(監

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総合研究事業), 精神科救急医療における質向上と医療提供体制の最適化に資する研究(19GC1011)令和2年度総括・研究分担報告書.2021
p.54
CQ1-8治療中の自殺関連行動に,どのように対処することが望ましいか

【要約】

1 うつ病と自殺には密接な関わりがあるため、治療を行う上で自殺のリスクとその程度を検討し、病状の変化に応じて再評価を行うことが重要である。2 自殺念慮を受けとめて理解しようとする姿勢を示しつつ、入院治療の必要性を検討

する。自殺企図後の対応としては、ソーシャルサポートの提供が有用である。

【解説】

1うつ病患者の自殺リスク

うつ病と自殺には密接な関わりがあるため1)、治療を行う上で自殺の危険性を検討し、病状の変化に応じて再評価を行うことが重要である。

うつ病は統合失調症や双極症よりも自殺率が高いとの報告1)や、自殺者に併存していた精神疾患としてうつ病が最多であるとの報告2)があり、うつ病と自殺には密接な関わりがある。治療を行う上で自殺の危険性を検討し、病状の変化に応じて再評価を行うことが重要である。

自殺リスクには、本人の自傷や自殺企図歴、他の精神疾患(物質使用症や不安症)の併存、自殺および自殺企図の家族歴、孤立や失業、逆境体験、そして男性であることが挙げられる3-7)。これらのリスク要因を聴取することが重要である。

また、自殺の対人関係理論に基づいて8)、以下のような観点で、リスクの程度を評価することが参考になる9)。複数の項目を満たすほど、自殺リスクが高い可能性が示唆されるが、特に自殺の準備や具体的な計画を立てている場合には注意を要する。

•他者とのつながりの欠如、頼れる友人や

親戚がいないこと、喪失体験(例:死別や離婚)などの「所属感の減弱」があるかどうか•自身の存在が他人の重荷になっていると

いう考えや、自己有能感の喪失を引き起こすストレス因(例:失業)など、「負

担感の知覚」があるかどうか•自殺企図歴、自己注射での薬物使用歴、

自傷行為の存在、暴力にさらされる経験など「身についた自殺潜在能力」があるかどうか•現在の状態評価として、自殺念慮の有無、

自殺への恐怖心の有無、自殺の準備や計画が存在するかどうかうつ病患者の多くに自殺につながる症候・徴候が存在し、経時的に自殺念慮が自殺企図へと進展しうるため、リスク評価は繰り返し行うことが重要である。

2うつ病患者の自殺を防ぐ対応

自殺念慮を有している患者でも生きたい気持ちとの葛藤を抱えているが、思考の範囲が狭窄すると自殺しか解決策がないと考えてしまうことがある。そのため、治療者は自殺念慮の裏にある、生きたいという気持ちを想定し、関わる必要がある。自殺念慮を受け止めて理解しようとする姿勢を示しつつ、患者が抱える困難や苦痛を緩和するために、自殺以外の選択肢を患者とともに考えることが望ましい。これは、患者と治療者との協働によって、「所属感の減弱」と「負担感の知覚」に対する効果も期待できる8)。
p.55
外来治療か入院治療かの判断においては、自殺のリスクが軽減するまでは安全を確保することが優先され、判断に迷う場合はリスクを過小評価せずに入院加療も検討する。しかしながら、適切な治療を行なったとしても、自殺を完全に防ぎきれる保証はないため、そのことについて本人・家族らに説明しておくことが望ましい。

自殺企図があった場合、その後の対応としてソーシャルサポートの提供が重要である。自殺念慮、不安・衝動性が高まった際に注意を逸らすための方法を検討することや、服薬管理を家族に依頼することや、コーピングカード(支援者のリストや連絡先、医療や行政の相談窓口などを記載)を治療者とともに検討し携帯することが自殺再企図の予防に有効とされる10)。わが国で行われた介入研究であるACTION-J研究では、心理的危機介入や精神医学的および心理社会的評価を行い、継続的に心理教育を含むケースマネジメント介入(assertive case management:ACM)を行うことで6 か月時点までの再企図発生割合のリスクが対照群と比べて有意に低下した(RR0.50、 95%CI0.32

~0.80)11)。

すでに述べたように過量服薬を包含した自傷行為は自殺のリスク因子であり、その対応は自殺予防につながる。英国の研究では12)、自傷行為による救急受診患者のその後の自殺率は一般人口より50 倍程度高く、年齢とともにそのリスクも上昇することが示されている。特に危険性の高い方法や複数の方法を併用する場合には、自殺リスクがさらに高まることも報告されている。

したがって、自傷に至った背景や心理状態を十分に把握し、自傷行為を軽視することなく、薬物的・非薬物的な両面からの介入を検討することが重要である。特に、自殺念慮が強い場合には、入院を含めた慎重な対応が求められる。また、過量服薬への対応としては、処方日数の制限や受診間隔の短縮などの措置を講じ、自身での管理が困難な場合には一時的に家族に薬剤管理を依頼することも検討される13)。

【文献】

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p.57
CQ1-9うつ病の治療において,どのような生活習慣が望ましいか

【要約】

1 抑うつ症状の経過に関与しているため、生活習慣(ライフスタイル)の要因に配慮す

ることが望ましい。

【解説】

1生活習慣

うつ病治療には薬物療法や心理的介入が選択されるが、その発症には、さまざまな生活習慣が重要な役割を果たしている1)。喫煙はうつ病発症のリスクを高め2)、うつ病の改善を阻害することがわかっている3)。アルコール使用症とうつ病の併存率は高く、前者が後者の発症を促進させると示唆されており、両者の併存は双方の重症度の高さや予後の悪さと関連している4-6)。またアルコール、喫煙、カフェインなどの使用は、睡眠・覚醒リズムに影響するため、うつ病の症状を悪化させるリスクとなりうる7-9)。そのため、うつ病治療にあたっては飲酒・喫煙の回避が最も望ましいが、それが困難な場合は、まず使用症に該当しないレベルを目指すなどの段階的介入を検討する。カフ

ェイン摂取については、不眠や不安といった症状を助長しない範囲にとどめるよう促す。朝は一定の時間に起床して外光に当たることなど、睡眠衛生的なアドバイスを行うことが望ましい。喫煙や睡眠に加え、肥満もうつ病発症の危険因子であり10)、症状の経過にも影響を及ぼす可能性がある。また体重適正化を含む生活習慣改善プログラムは、うつ病の症状を軽減する11)。適切な身体活動は抑うつ症状の減少と関連しており1)、有酸素運動の有効性についても指摘されている12)。 肥満患者では、適正な体重まで減量を目指すことが望ましい。

【文献】

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p.59
第2 章 軽度うつ病

CQ2-1軽度うつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

【要約】1 軽度うつ病であることを確認する。2 患者自身の困りごとを明確にし、体験や感情を含めて傾聴し、支持的・共感的な態度で

寄り添うことにより、患者との治療同盟を構築する。3 必要な情報収集や検査を行う。4 軽度であっても、自傷や自殺のリスクを評価する。5 心理教育を導入する。

【解説】

1 重症度の判定

軽度はDSM-5-TR における診断基準9 項目のうち、診断に必要な数以上の症状はほとんどなく、なんとか対応できる範囲の症状の強さで、社会的・職業的機能障害は軽度に留まっている状態である。そして軽度うつ病と鑑別を要する状態の1 つが、診断基準を満たさない閾値下の抑うつエピソードであるが、DSM-5-TR におけるうつ病の診断基準9 項目の症状のうち、5 項目は満たさないものの、2~4 つの項目が2 週間以上持続し、そのうちの1つは抑うつ気分または興味・喜びの喪失を呈している状態を指す。診断基準を満たさない閾値下の抑うつエピソードはうつ病ではないものの、患者自身や家族などの支援者が医学的介入を希望する場合があり、軽視してはならない(詳細はトピックス1「診断基準を満たさない閾値下の抑うつエピソード」の項を参照)。

2 患者治療者関係の構築

軽度うつ病において、支持的な傾聴、生活における負担の軽減、心理教育などの基礎的な介入を行うことが治療の根幹になるが、それは患者との治療関係が構築されていることが大前提となる。患者自身の困りごとを明確にし、体験や感情を含

めて傾聴し、支持的・共感的な態度で患者に寄り添うことで、治療同盟を構築することが治療開始時には重要である。

3 治療開始前に把握すべき情報

軽度うつ病において抗うつ薬は治療選択肢のひとつであるが、抗うつ薬を開始するかどうかにかかわらず、各種検査、理学所見、既往歴、合併症、常用薬、家族歴、生活歴、病前のパーソナリティ傾向、病前の適応状態、ストレス因子の評価、睡眠の状態、これまでの精神科治療歴、アルコールおよびカフェインの摂取状況、妊娠可能年齢にある女性では妊娠および妊娠予定の有無などの情報を把握する必要がある。一方、軽度うつ病に対し認知行動療法(cognitive behavior therapy:CBT)も治療選択肢のひとつであるが、CBT の場合「うつ病の認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアル」によると1 回の面接時間が30 分以上で、原則として16~20 回のセッションを行うため1)、その通院頻度が可能であるかの確認も臨床上不可欠である。さらに、軽度うつ病に対し運動療法も治療選択肢のひとつとなるが、安全性の観点から心疾患や脳
p.60
血管障害、整形外科的疾患などの既往歴や合併症を確認し、必要に応じて身体疾患の主治医に診療情報提供を求める。その際に身体的に可能な運動の種類や頻度、強度などを確認する。

4 自傷や自殺のリスク評価

うつ病の重症度が高いほど自殺のリスクが高まることが報告されているものの2)、うつ病自体が自傷や自殺のリスクのある疾患であり、軽度うつ病であっても中等度・重度うつ病と同様に注意が必要である(詳細はCQ1-8、CQ3-1 参照)。

5 心理教育と治療選択にあたって

良好な患者、治療者関係の構築後に、心理教育を導入することが肝要である。心理教育とは、単なる情報提供ではなく、うつ病という疾患や患者の病状、予想される改善までの経過、さらには推奨される治療選択肢とそれぞれの特徴などについ

ても治療者が十分に説明することで、患者自身(必要であれば家族も)がこれらについて理解し、適切に対処し、自ら積極的に治療と回復作業にかかわれるように導くための介入である。一般に心理教育は、治療者が患者に一方的に知識を伝授するものではなく、双方が参加して相互理解を深めるべきものであり、昨今では共同意思決定(shared decision making:SDM)の一環として行われることが多い。SDM とは、患者と治療者が治療選択肢について情報を双方に共有し話し合い、患者の好みや価値観などに沿った最適な選択をともに行うプロセスと定義されている3)。そして軽度うつ病は頑健な科学的根拠のある治療選択肢が確立されていないため、治療選択においてもSDM の考え方が重要であろう。

【文献】

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CQ2-2軽度うつ病に対する治療法はなにか

【要約】1 支持的な傾聴、生活における負担の軽減、心理教育などの基礎的介入を行う。2 新規抗うつ薬は治療選択肢のひとつとなる。3 認知行動療法やそれを基盤とした集団プログラムやガイド付きのプログラム、集団あるいは指導下での運動療法はそれぞれ治療選択肢のひとつとなる。4 サプリメントや保健機能食品などは、積極的には使用しない。

【解説】(図1)

1 基礎的介入

精神科診療で治療者は初診時から基礎的な介入を行うが、軽度うつ病患者に対しても同様に対応する。すなわち、患者が訴える内容を支持的に傾聴し、苦悩に共感を示し、問題点をともに整理する。必要に応じて治療者は、生活習慣の改善(規則的な食事や睡眠衛生、断酒、禁煙、カフェインコントロール、体重適正化)、適切な休養、日常生活における負担軽減などを提案する。このアプローチは、笠原嘉による「小精神療法」として知られている基本的な診療姿勢であり、軽度うつ病はこれだけで十分に改善することもある。また、病態や予想される経過、治療選択肢について十分に説明し、患者やその家族がうつ病についての理解を深められるよう心理教育を行うことも望ましい(詳細は

CQ1-4、CQ1-9、CQ2-1 参照)。

基礎的介入のみで改善しない場合は、今一度、診断や重症度、特定用語や他の精神疾患併存などを検討する(詳細はCQ1-2、CQ1-3 参照)。軽度うつ病であることが再度確認された際には、抗うつ薬や非薬物療法などの治療選択肢についてSDM の手段で行うことを検討する。

2 薬物療法

軽度うつ病に対する抗うつ薬の有用性に関する議論は長年続いている。2000 年代から2010 年にかけてのメタ解析で、うつ病の重症度が低いほど

抗うつ薬の効果が小さいことが報告された1,2)。従来の国際的な診療ガイドラインでは、軽度うつ病に対してまず精神療法を行うことが強調され、抗うつ薬の使用に関してはさまざまな立場がみられた3)。

今回の診療ガイドライン改訂に伴い、改めて軽度うつ病のみを対象として抗うつ薬の有効性や安全性を検証したRCT を系統的に検索したが、該当する研究は報告されていなかった。また、軽度うつ病を含む比較的重症度が低い患者のみを対象とし、日本で上市されている抗うつ薬の有効性や安全性をプラセボと比較したRCT も見つからなかった。そこで、先行研究における個別のデータを直接統合し、患者ごとの特徴を考慮して解析する個人データメタ解析に着目した。うつ病の重症度と抗うつ薬およびプラセボの有効性との関係性を検証した個人データメタ解析をナラティブに検索したところ、2018 年以降の該当論文は4本あった。そのうち2 本は軽度から重度までのうつ病患者において新規抗うつ薬はプラセボより一貫して優れていたという結果であったが4,5)、残る2 本は軽度であるほど抗うつ薬のプラセボに対する優位性が小さかったという結果であり6,7)、統一された見解は得られなかった。しかし、どの報告においても抗うつ薬はうつ病評価尺度のスコアを改善させて
p.62
おり、広義のプラセボ反応も考慮すると、安全性の高い新規抗うつ薬は治療選択肢のひとつとなる(詳細はCQ2-3 参照)。

3 精神療法・運動療法

軽度うつ病のみに対して有効性や安全性を検証したRCT を系統的に検索したが、該当する研究は見つからなかった。そこで、軽度または中等度のうつ病患者を対象にし、かつ、ベースラインにおけるうつ病評価尺度の平均値が軽度域に入っていたか、軽度サブグループのみの解析がされていた臨床研究に検索範囲を広げた。また検索の過程で運動療法を含む非薬物療法も介入として多く含まれていたため、非薬物療法に関する検索語を加えた。その上で、あらためてシステマティックレビューを行ったところ、6 本の論文が該当した。介入内容は、CBT が1 本8)、目標管理トレーニング(マニュアルに基づいたCBT の要素を含むトレーニング)が1 本9)、集団心理教育プログラムが1 本10)、運動療法が3 本11-13)であった。これら6 試験の結果をまとめると、本CQ の直接的な根拠となる、軽度うつ病のみを対象とした精神療法や運動療法を含む非薬物療法の有効性や安全性を検証したRCT は報告されていなかった。

このように、先行研究は本CQ に対する明確な根拠を提供しているとはいえないため、近年の諸外国の診療ガイドラインを参照し、提案の候補となる治療選択肢について検討した。その結果を踏まえ、軽度うつ病に対し提案する非薬物療法として、CBT およびそれを基盤とした集団プログラムやガイド付きのプログラム、集団あるいは指導下での運動療法はそれぞれ治療選択肢のひとつとなる14-17)。ただし、上記の選択肢を実際に行うか否かは、治療体制、症状によって生じている影響、過去の治療反応性、保険適用などを考慮するとともに、なによりも患者の希望を最優先にしてSDM の手段を用いて行うことが望ましい(詳細はCQ2-4参照)。4 その他の治療

今回CQ には設定しなかったが、サプリメントなど抗うつ薬以外の薬理学的介入についても検討したものの、軽度うつ病患者のみを対象に有用性を検証したRCT は報告されていなかった。そこで検索範囲を広げ、操作的診断基準に基づきうつ病と診断され、評価尺度で軽度から中等度と評価された症例のみを対象に、サプリメントなどの薬理学的介入の効果を検証したRCT を検索した671本の論文を抽出し、抄録と本文を検討した結果、7本のRCT が抗うつ薬以外の薬理学的介入とプラセボもしくはわが国に上市されていない抗うつ薬とを対照として検証していた。本件に関し該当するCQ を設定していないため、以下に列挙し紹介する。

オメガ-3 脂肪酸のなかのエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid:EPA)、ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA)、そしてプラセボをうつ病外来患者81 人で比較した12 週間のRCT で、EPA はDHA やプラセボと比較して有意にハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton depression rating scale:HAMD)17 スコアを改善させた17)。ロシアで医薬品として承認されているrhodiola rosea の抽出物とプラセボとを、セルトラリンへの追加治療としてうつ病患者100 人において比較したRCT では、rhodiola rosea の抽出物はプラセボに比して12 週後のHAMD-17 スコアを有意に改善させた17)。うつ病外来患者126 人に対する、塩化マグネシウムと無治療とを比較した非盲検のRCT では、塩化マグネシウムは無治療より有意に6 週後の患者健康質問票-9(patient health questionnaire-9:PHQ-9)スコアを改善させた17)。うつ病外来患者45 人で、レモンバーム、ラベンダー抽出物、国内未承認の抗うつ薬であるfluoxetineを比較した8 週間のRCT において、HAMD-17 スコアの変化は3 つの介入で有意差がなかった17)。うつ病患者149 人でセイヨウオトギリソウ乾燥エ
p.63
キスとfluoxetine を比較したRCT において、8 週後のHAMD-17 スコアの変化量は両者に有意差がなかった17)。別のうつ病外来患者72 人において、セイヨウオトギリソウ乾燥エキス、fluoxetine、プラセボの3 つを比較したRCT では、セイヨウオトギリソウ乾燥エキスがfluoxetine やプラセボと比較して、8 週時点のHAMD-21 による反応率や寛解率が有意に低かった(14)。うつ病患者49 人でS-アデノシルメチオニンとプラセボを比較したRCT において、8 週後のモンゴメリー-アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)の変化量に有意差はなかった17)。以上のように、比較的重症度が低いうつ病患者を対象にサプリメントなどの有用性を検証したRCT は7 本報告されていたものの、実臨床で使用を推奨するほどの明確な知見は得られな

かった。サプリメントや保健機能食品などによる介入は、医療用医薬品のように疾患の治療として用いることはできず、厚生労働省や内閣府食品安全委員会が健康被害事例を公表する健康食品があるように安全性に注意すべきであり、積極的には使用しない18, 19)。

なお、抗うつ薬や精神療法を含めた治療を選択する際は、これらの情報を踏まえて、患者と治療者が共同して意思決定することが望ましい。また、漫然とした治療にならないよう、治療効果を適切な時期に判定して、効果が不十分なときは診断の再考や他の治療法を検討する。
p.64

        
p.65
【文献】

1)Kirsch I, Deacon BJ, Huedo-Medina TB, et al:

Initial severity and antidepressant benefits:a meta-analysis of data submitted to the Food and Drug Administration. PLoS Med 5:e45, 2008 2)Fournier JC, DeRubeis RJ, Hollon SD, et al:

Antidepressant drug effects and depression severity:a patient-level meta-analysis. JAMA 303:47-53, 2010 3)Bayes AJ, Parker GB. Comparison of guidelines

for the treatment of unipolar depression:a focus on pharmacotherapy and neurostimulation. Acta Psychiatr Scand 137:459-471, 2018 4)Furukawa TA, Maruo K, Noma H, et al:Initial

severity of major depression and efficacy of new generation antidepressants : individual participant data meta-analysis. Acta Psychiatr Scand 137:450-458, 2018 5)Lisinski A, Hieronymus F, Näslund J, et al:

Item-based analysis of the effects of duloxetine in depression:a patient-level post hoc study. Neuropsychopharmacology 45:553-560, 2020 6)Hieronymus F, Lisinski A, Nilsson S, et al:

Influence of baseline severity on the effects of SSRIs in depression:an item-based, patient-level post-hoc analysis. Lancet Psychiatry 6:745-752,

2019 7)Stone MB, Yaseen ZS, Miller BJ, et al:Response

to acute monotherapy for major depressive disorder in randomized, placebo controlled trials submitted to the US Food and Drug Administration :individual participant data analysis. BMJ 378:e067606, 2022 8)Laidlaw K, Davidson K, Toner H, et al:A

randomised controlled trial of cognitive behaviour therapy vs treatment as usual in the treatment of mild to moderate late life depression. Int J Geriatr Psychiatry 23:843-850,

2008 9)Hagen BI, Lau B, Joormann J, et al:Goal

management training as a cognitive remediation intervention in depression :A randomized controlled trial. J Affect Disord 275:268–277, 2020 10)Casañas R, Catalán R, del Val JL, et al:

Effectiveness of a psycho-educational group program for major depression in primary care:a randomized controlled trial. BMC Psychiatry 12: 230, 2012 11)Verrusio W, Andreozzi P, Marigliano B, et al:

Exercise training and music therapy in elderly with depressive syndrome :a pilot study. Complement Ther Med 22:614-620, 2014 12)Hidalgo JL, Sotos JR:DEP-EXERCISE Group.

Effectiveness of Physical Exercise in Older Adults With Mild to Moderate Depression. Ann Fam Med 19:302-309, 2021 13)Heinzel S, Schwefel M, Sanchez A, et al:

Physical exercise training as preceding treatment to cognitive behavioral therapy in mild to moderate major depressive disorder :A randomized controlled trial. J Affect Disord 319: 90-98, 2022 14) National Institute for Health and Care

Excellence. Depression in adults:treatment and management. Nice Guideline. 2022 https://www.nice.org.uk/guidance/ng222 15) Lam RW, Kennedy SH, Adams C, et al :

Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT) 2023 Update on Clinical Guidelines for Management of Major Depressive Disorder in Adults. Can J Psychiatry. 69:641-687, 2024
p.66
16) Urata M, Sakurai H, Ueno F, et al:Efficacy of

pharmacological interventions in milder depression :a systematic review and metaanalysis. Neuropsychopharmacol Rep 45 : e70008, 2025 17) McQuaid JR, Lin EH, Barber JP, et al:APA

CLINICAL PRACTICE GUIDELINE for the Treatment of Depression Across Three Age Cohorts. American Psychiatric Association, 2019 https://www.apa.org/depression-

guideline/guideline.pdf 18)厚生労働省:健康被害情報. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/buny a/kenkou_iryou/shokuhin/daietto/index.html 19) 内閣府 食品安全委員会:健康食品に関する

危害情報について. https://www.fsc.go.jp/kigai_jyoho/
p.67
CQ2-3軽度うつ病に抗うつ薬は有用か

【要約】1 軽度うつ病において、新規抗うつ薬は選択肢のひとつとなる。2 抗うつ薬を開始するか否かは、患者の希望、症状によって生じている影響、過去の治療

反応性、頻度の高い副作用などを考慮する。

【解説】

2000 年代から2010 年にかけて実施された複数のメタ解析で、うつ病の重症度が低いほど抗うつ薬の効果が小さいことが報告された1,2)。従来の国際的な診療ガイドラインでは、軽度うつ病に対してまず精神療法を行うことが強調され、抗うつ薬の使用については、精神療法と並行して推奨するものから、積極的ではないものの使用を許容するもの、使用しないことを勧めるものまで主張がさまざまである3)。

本CQ に答えるため、まず、操作的診断基準に基づいてうつ病と診断され、評価尺度で軽度と分類された症例のみを対象に抗うつ薬の効果を検証したRCT を、PubMed およびEmbase のデータベースを用いて系統的に検索した。身体疾患の合併に伴ううつ病や、持続性抑うつ症や閾値下抑うつ状態を含む研究は除外した。検索は、重症度に関連する検索語、うつ病に関連する検索語、薬理学的介入に関連する検索語を組み合わせた。しかし、該当する論文が見つからなかったため、軽度から中等度のうつ病症例のみを組み入れた研究に対象を広げて、最終的に、対象者(P)を軽度から中等度のうつ病患者、介入(I)をサプリメントを含む薬理学的介入、コントロール(C)をプラセボないし他の薬理学的介入とした。益のアウトカム(O)は寛解率(重要性 9)、反応率(重要性 8)、抑うつ症状の改善(重要性 7)、害のアウトカム(O)はすべての理由による治療脱落率(重要性 7)、有害事象の出現率(重要性 7)とし、研究デザインをRCT とそのシステマティックレビューとして

設定した。671 本の論文を抽出し、抄録と本文を検討した結果、本CQ に合致したRCT とそのシステマティックレビューは認めなかった。

そのため、うつ病の重症度と抗うつ薬およびプラセボの有効性との関係性を検証した、個別の患者データのメタ解析(個人データメタ解析)をナラティブに検索した。その結果、2018 年以降に出版されたものは4 本あった4-7)。どの報告においても、抗うつ薬とプラセボはいずれもうつ病評価尺度のスコアを改善させており、その改善の程度は抗うつ薬の方が大きかった。統計学的には、4 本のうち2 本で対象のうつ病重症度が低いほど抗うつ薬とプラセボとの有効性の差は小さくなった一方6,7)、残る2 本では対象の重症度とプラセボに比べた抗うつ薬の有効性は関連がなかった4,5)。以下、詳しく説明する。

わが国にて行われたRCT6 本の結果をまとめた個人データメタ解析では、うつ病患者2,464 人を対象として、デュロキセチン、パロキセチン、エスシタロプラム、ミルタザピン、bupropion とプラセボによる、8 週後のHAMD-17 スコアの変化が検証された4)。結果、ベースラインのHAMD-17 スコアと治療効果との間に相互作用は認められず、ベースラインの重症度はプラセボと比較した抗うつ薬の有効性に影響しなかった。つまり抗うつ薬は治療開始時の重症度にかかわらず、有効であることが示された。デュロキセチンのプラセボ対照
p.68
試験13 本の個人データメタ解析では、うつ病患者3,575 人のデータが解析された5)。この報告でもベースラインのHAMD-17 スコアとHAMD-17 スコアで測定した治療効果に関連は認められない結果となった(HAMD-17 スコアが18 点以下の対象において、中核的な6 症状に限定したHAMD-6 スコアの効果量は0.36、それ以外の11 症状のスコアの効果量は0.03。一方、HAMD-17 スコアが27点以上の対象において、HAMD-6 スコアの効果量は0.47、それ以外の11 症状のスコアの効果量は0.27)。一方で、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)(パロキセチン、セルトラリン、citalopram、fluoxetine)のプラセボ対照試験28 本からうつ病患者8,262 人のデータを解析した個人データメタ解析では、ベースラインのHAMD-17スコアが低いほど、プラセボに対するSSRI のHAMD-17 変化量が小さくなった6)。1979 年から2016 年までに米国食品医薬品局に登録された抗うつ薬単剤治療のプラセボ対照試験232 本から、うつ病の成人および小児計73,388 人のデータを解析した個人データメタ解析でも、ベースラインの重症度が低いほど、抗うつ薬とプラセボとの改善の差は小さくなった7)。以上をまとめると、軽度うつ病のみを対象に抗

うつ薬の有効性や安全性を直接的に検証したプラセボ対照RCT は報告されていなかった。軽度うつ病を含む比較的重症度が低い患者のみを対象として、日本で上市されている抗うつ薬の有効性や安全性を検証したプラセボ対照RCT も報告されていなかった。個人データメタ解析では、軽度から重度まで抗うつ薬はプラセボに対し一貫して優れていたという報告と、軽度であるほど抗うつ薬のプラセボに対する優位性が小さかったとする報告があり、統一された見解は得られなかった。しかしいずれの報告でも抗うつ薬はうつ病評価尺度のスコアを改善させており、広義のプラセボ反応も考慮すると、軽度うつ病であっても抗うつ薬を内服することで経時的に症状が軽快する可能性がある。以上より、軽度うつ病において、特に安全性の高い新規抗うつ薬は選択肢のひとつとなる。これは、近年の諸外国の診療ガイドラインにおいて、軽度うつ病に対する薬物療法の考え方と同様のものである8, 9)。実臨床では、患者の希望、症状によって生じている影響、過去の薬剤反応性、頻度の高い副作用などを考慮して、薬物療法を開始するか否かを決定するのが望ましい。

【文献】

1) Kirsch I, Deacon BJ, Huedo-Medina TB,

et al:Initial severity and antidepressant benefits:a meta-analysis of data submitted to the Food and Drug Administration. PLoS Med 5:e45, 2008 2) Fournier JC, DeRubeis RJ, Hollon SD, et

al : Antidepressant drug effects and depression severity:a patient-level metaanalysis. JAMA 303:47-53, 2010 3) Bayes AJ, Parker GB. Comparison of guidelines for the treatment of unipolar

depression:a focus on pharmacotherapy and neurostimulation. Acta Psychiatr Scand 137:459-471, 2018 4) Furukawa TA, Maruo K, Noma H, et al:

Initial severity of major depression and efficacy of new generation antidepressants :individual participant data meta-analysis. Acta Psychiatr Scand 137:450-458, 2018
p.69
5) Lisinski A, Hieronymus F, Näslund J, et al:

Item-based analysis of the effects of duloxetine in depression:a patient-level post hoc study. Neuropsychopharmacology 45:553-560, 2020 6) Hieronymus F, Lisinski A, Nilsson S, et al:

Influence of baseline severity on the effects of SSRIs in depression:an itembased, patient-level post-hoc analysis. Lancet Psychiatry 6:745-752, 2019 7) Stone MB, Yaseen ZS, Miller BJ, et al:

Response to acute monotherapy for major depressive disorder in randomized, placebo controlled trials submitted to the US Food and Drug Administration :

individual participant data analysis. BMJ 378:e067606, 2022 8) Lam RW, Kennedy SH, Adams C, et al:

Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT) 2023 Update on Clinical Guidelines for Management of Major Depressive Disorder in Adults. Can J Psychiatry 69:641-687,  2024 9 )National Institute for Health and Care

Excellence. Depression in adults : treatment and management. Nice Guideline. 2022

https://www.nice.org.uk/guidance/ng222
p.70
CQ2-4軽度うつ病に精神療法は有用か

【要約】1 軽度うつ病において、認知行動療法やそれを基盤とした集団・ガイド付きのプログラム、

集団・指導下での運動療法はそれぞれ治療選択肢のひとつとなる。2 これらの選択肢を行うか否かは、治療体制、症状によって生じている影響、過去の治療

反応性、保険適用などを考慮し、患者の希望を最優先にして行う。

【解説】

従来の国際的な診療ガイドラインでは、軽度うつ病に対してまず精神療法を行うことが強調されてきた1)。しかし、CBT などさまざまな精神療法があるなかで、そのうちのどれが軽度うつ病において有用であるかは十分に検証されていない。そこで、本CQ では軽度うつ病に対する精神療法について、有効性および安全性について先行研究を精査した。

まず、軽度うつ病患者のみを対象に、認知行動療法などさまざまな精神療法と通常治療もしくは薬物療法とを比較し、寛解率、反応率、抑うつ症状の改善の程度、有害事象の出現頻度、すべての理由による治療中断率を検証したRCT を系統的に検索した。しかし、軽度うつ病患者のみを対象とした研究は該当するものがなく、やむなく、軽度から中等度のうつ病患者を対象とし、かつ、ベースラインにおける抑うつ症状評価尺度の平均値が軽度域に入っていたか、軽度の患者のサブグループのみの解析がされていた臨床研究に範囲を広げた。なお、ここでの軽度域とは、HAMD-17 で8~ 13 点、MADRS で7~19 点、ベック抑うつ質問票(BDI)で14~19 点、PHQ-9 で5~9 点、老年期うつ病評価尺度(geriatric depression scale:GDS)で5~8 点とした。また検索の過程で運動療法を含む非薬物療法も介入として多く含まれていたため、非薬物療法に関する検索語を加えた。最終的に、対象者(P)を軽度うつ病患者、介入(I)を精神療法や運動療法を含む非薬物療法、コントロール(C)

を抗うつ薬治療などを含めた通常治療、他の非薬物療法、待機リストとした。益のアウトカム(O)は寛解率の増加(重要性 9)、反応率の増加(重要性 8)、抑うつ症状の改善(重要性 7)、害のアウトカム(O)はすべての理由による治療脱落率(重要性 7)、有害事象の出現率(重要性 7)とし、研究デザインをRCT とそのシステマティックレビューと設定した。検索は重症度に関連する検索語、うつ病に関連する検索語、非薬物療法に関連する検索語を組み合わせ、PubMed およびEmbase のデータベースを用いた。なお、身体疾患の合併に伴ううつ病や持続性抑うつ症、閾値下抑うつ症状を含む研究は除外した。また、自記式質問紙のみを用いてうつ病の診断が行われた研究も除外した。

1,182 本の論文を抽出し、抄録と本文を検討した結果、21 本の論文が軽度から中等度にかけてのうつ病患者を対象としており、そのうち6 本の論文で基準時の抑うつ症状評価尺度の平均値が軽度域であったか、軽度サブグループのみで解析されていた。これら6 試験で使用された介入方法と主なエッセンス、結果の概略を表1 にまとめた。介入内容は、CBT が1 本2)、目標管理トレーニング(マニュアルに基づいたCBT の要素を含むトレーニング)が1 本3)、集団心理教育プログラムが1 本4)、運動療法が3 本5-7)であった。これら6 試験の結果をまとめると、本CQ の直接的な根拠となる、
p.71
軽度うつ病のみを対象とした精神療法や運動療法を含む非薬物療法の有効性や安全性を検証したRCT は報告されていなかった。具体的には、軽度から中等度のうつ病患者を組み込み、基準時におけるうつ病評価尺度の平均値が軽度域であった、もしくは軽度サブグループのみの解析がされていたRCT で、CBT は8 割が薬物療法である通常治療と比べて主要転帰である抑うつ症状の改善に有意差を認めなかった。目標管理トレーニングとコンピュータ認知トレーニングを評価した研究では、抑うつ症状の改善に群間差がなかった。集団心理教育プログラムでは通常治療と比べて寛解率を有意に上げ、また抑うつ症状も有意に改善させたが、両群で約半数に抗うつ薬が使用されていた。運動療法は音楽の有無や強度など介入内容に種類があり、転帰においても薬物療法と比較して抑うつ症状を改善させた報告、抗うつ薬の方が有効であった報告、待機群と比較して差がなかった報告があり、結果は一貫しなかった。

近年の諸外国の診療ガイドラインを参照すると、英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Care Excellence:NICE)ガイドラインにおいては、閾値下抑うつ状態と軽度うつ病をまとめて重症でないうつ病と定義しているが、それに対する非薬物療法の治療選択肢としてガイド付きのセルフヘルプ、集団や個人でのCBT、集団や個人での行動活性化技法、集団での運動、集団でのマインドフルネスや瞑想、対人関係療法、カウンセリング、短期での力動的精神療法を挙げており8)、特にガイド付きのセルフヘルプのような最も侵襲性が低くリソースを必要としない治療法をまず検討すると記載されている。気分と不安の治療のためのカナダネットワーク(Canadian

Network for Mood and Anxiety Treatments : CANMAT)ガイドラインでは、軽度うつ病に対する生活スタイルへの介入として、指導下での運動を第1 選択として推奨し9)、初期治療として精神療法が好ましいとしているが、具体的にはCBT の1 つであるacceptance and commitment therapy (ACT)以外に言及されていない。また、特に患者が希望する場合は、運動やガイド付きのデジタルヘルスケアを単独療法として検討すべきとし、特に後者はガイド付きのインターネット支援型のCBT が推奨されている。米国心理学会のガイドライン10)では軽度うつ病と中等度うつ病を同様に扱っていることに留意する必要があるが、初期治療に推奨する心理療法として行動療法や認知療法、CBT、マインドフルネス、対人関係療法、力動的精神療法、支持的精神療法を挙げている。

以上より、軽度うつ病においてCBT および認知行動療法を基盤とした集団プログラムやガイド付きのプログラム、集団あるいは指導下での運動療法はそれぞれ治療選択肢のひとつとなる。

ただし、上記の選択肢を実際に行うか否かは、治療体制、症状によって生じている影響、過去の治療反応性、保険適用などを考慮するとともに、なによりも患者の希望を最優先にしてSDM の手段を用いて行うことが望ましい。特に解説にあるさまざまな専門的な治療法はわが国で実施できる体制・状況が限られており、アクセスやコストなども考慮し日常臨床で無理なく実施・持続可能な治療をともに選択する過程こそが同時に重要である。
p.72
試験内容と各介入のエッセンス対象人数益のアウトカム害のアウトカム備考CBT 単独 vs. 通常治療(2) <CBT のエッセンス>・否定的認知の自己モニタリング・活動計画の立案・行動と気分の関連に関する理解・60 歳以上・HAM-D17 スコア7~24 点(平均11.6 点)・BDI スコア13~28 点(平均19.6 点) 44両群で治療終了6 か月後までの抑うつ症状の変化に有意差はなかった。脱落率:CBT 単独群10% vs. 通常治療群20%対照群である通常治療の8 割が薬物療法であった。目標管理トレーニング vs. コンピュータ認知トレーニング(3) <目標管理トレーニングのエッセンス>・メタ認知による問題解決能力の向上・認知再構成法・マインドフルネス技法・軽度から中等度のうつ病患者・平均BDI スコア16.3 点63両群間でBDI スコアの変化に、有意な差はなかった。脱落率:目標管理トレーニング群14.3% vs. コンピュータ認知トレーニング群13.6%対照群のコンピュータ認知トレーニングとはweb ベースの認知機能トレーニングであった。集団心理教育プログラム vs. 通常治療(4) <集団心理教育プログラムのエッセンス>・行動活性化・回復に向けたケア・問題解決法・認知行動療法的視点<軽度うつ病患者の解析>・平均BDI スコア14.0 点85集団心理教育プログラム群では通常治療群と比較して、3か月後と6 か月後の寛解率が有意に高かった。集団心理教育プログラム群では通常治療群と比して、3、6、9 か月後のBDI スコアが有意に低下した。記載なし両群とも約半数に薬物療法が使用されていた。音楽を聴きながらの運動療法vs. 薬物療法(5)・高齢患者・GDS スコア5~12 点(平均8.5 点) 24運動療法群は薬物療法群と比較して、12 週後のGDS スコアでは有意差を認めなかったものの、24 週後では有意に低かった。両群で脱落はなかった。運動療法 vs. 抗うつ薬(6)・65 歳以上・MADRS スコア10 点以上の軽度から中等度のうつ病患者(平均15.5 点) 347運動療法群と抗うつ薬群は、1か月後の寛解率で有意差がなかった。3 か月後と6 か月後の寛解率は、運動療法群で抗うつ薬群よりも有意に低かった。脱落率:運動療法群58.2% vs. 抗うつ薬群40.0%有害事象の出現率:運動療法群8.9% vs. 抗うつ薬群22.5%高負荷運動療法 vs. 低負荷運動療法  vs. 待機リスト(7) <3 研究の運動療法の共通要素>・週に2 回、1 回1 時間・有酸素運動・軽度から中等度のうつ病患者・平均HAMD-17 スコア13.0 点120 3 群間でHAMD-17 スコアの変化に有意差はなかった。脱落率:高負荷運動療法群22.2% vs. 低負荷運動療法8.1% vs. 待機リスト3.3%すべての群で抗うつ薬の使用が許容された。
p.73
【文献】

1) Bayes AJ, Parker GB. Comparison of guidelines

for the treatment of unipolar depression:a focus on pharmacotherapy and neurostimulation. Acta Psychiatr Scand 137: 459-471, 2018 2) Laidlaw K, Davidson K, Toner H, et al:A

randomised controlled trial of cognitive behaviour therapy vs treatment as usual in the treatment of mild to moderate late life depression. Int J Geriatr Psychiatry 23:843- 850, 2008 3) Hagen BI, Lau B, Joormann J, et al :Goal

management training as a cognitive remediation intervention in depression :A randomized controlled trial. J Affect Disord 275:268–277, 2020 4) Casañas R, Catalán R, del Val JL, et al :

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Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT) 2023 Update on Clinical Guidelines for Management of Major Depressive Disorder in Adults. Can J Psychiatry 69:641-687,  2024 10) McQuaid JR, Lin EH, Barber JP, et al:APA

CLINICAL PRACTICE GUIDELINE for the Treatment of Depression Across Three Age Cohorts. American Psychiatric Association,

2019 https://www.apa.org/depression-

guideline/guideline.pdf
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第3 章 中等度/重度うつ病

CQ3-1中等度/重度うつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

【要約】1 中等度/重度うつ病であることを確認する。2 治療関係の構築に配慮した問診を行う。3 必要な情報収集や検査を行う。4 自傷や自殺のリスク評価を行う。5 現在の精神症状、医学的状態、利用可能な社会支援システムの有無などを総合的に評価

し、外来診療では治療に限界がある場合には入院治療を検討する。

【解説】

1 重症度の判定

本ガイドラインでは、DSM-5-TR における重症度の定義を採用している。中等度は軽度と重度の中間に相当するものであり、対人関係上・職業上の支障が生じている状態である。重度はDSM-5- TR における診断基準9 項目のうち、5 項目をはるかに超えて満たし、症状はきわめて苦痛で、機能が著明に損なわれている状態である(詳細は第1章CQ1-3 を参照)。

2 治療関係の構築

患者本人から情報を聴取する場合には、治療関係の構築に配慮した問診を行うことが望ましい。良好な患者・治療者関係の構築は、治療の基本となる心理教育の導入、および患者の希望や価値観を反映させたSDM の実践において、きわめて重要である(詳細は第1 章CQ1-4 を参照)。

3 治療開始前に把握すべき情報

治療開始前に現病歴、既往歴、家族歴、発達歴、生活歴、病前のパーソナリティ傾向、病前の適応状態、月経周期・妊娠および妊娠予定の有無、これまでの治療歴、市販薬や他科の治療薬を含んだ薬剤歴、喫煙の状況、アルコールおよびカフェイン

の摂取状況、などの情報を把握する必要がある。その後、身長・体重測定、バイタルサインなどの理学所見、血液・尿検査、生理学的検査、画像検査、心理検査といった情報を収集する(詳細は第1 章

CQ1-4 を参照)。

4 自傷や自殺のリスク評価

第1 章CQ1-8 に、自傷や自殺リスクの評価・対処に関する詳細が記載されているので、参照されたい。海外のシステマティックレビューによると、うつ病患者の自殺リスクは一般人口の約20 倍といわれており、うつ病自体が自殺の重大なリスク因子ともいえる1)。特に重症度が高いほど自殺リスクも高まる2)。したがって、個々の自殺リスクは初診時および治療期間中も継続的に評価されるべきである3, 4)。

自殺リスクを評価するにあたり、現在の自殺念慮、計画性やその手段、およびこれまでの企図行動に関する具体的な質問を行う。過去の自殺行動の有無、自殺または精神疾患の家族歴、自殺念慮に基づく行動を高める可能性のある身体疾患の有無、重度の不安、物質使用は自殺リスクを高める
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因子であるため、確認する必要がある5, 6)。特にアルコールを代表とする物質使用症の併存は、自殺のリスクが高まることもあるため注意する7)。また、うつ病の回復期では、精神運動制止が改善した結果、かえって自殺リスクが高まることもあるため注意する。

5 治療環境の選択

うつ病の治療を行う際は、患者の安全に配慮するだけでなく、患者の状態改善を促進する可能性が最も高い治療環境を選択すべきである。

入院の判断にあたり、現在の精神症状の重篤さ、自殺や他害のリスク評価に加え、栄養状態などの一般的な医学的状態、患者のセルフケアや家族のサポート、利用可能な社会支援システムの有無を総合的に評価し、外来治療では治療に限界がある場合には入院治療を検討する。なお入院にあたっては、その必要性や、おおよそ見込まれる入院期間に加え、入院が自傷・自殺の完全な予防策ではないことなど、医療の限界を含めてあらかじめ十分に、本人・家族に説明する必要がある。入院の適応と考えられる場面(第1 章CQ1-7 を参

照)・自殺企図や自傷他害のおそれがある・低栄養や併存身体疾患に対する身体管理が必要である・不穏や焦燥が強く、安静を保つことが困難である・過去の病歴で急激に悪化した経過がある・家庭で休養がとれない、うつ病の症状により家

族や周囲との関係性が悪化する可能性がある、など療養するのに十分な環境が整っていない・電気けいれん療法(ECT)など、入院環境下での実施が適切な治療が必要である

なお、外来通院にて治療を行う際、自殺念慮が強い患者の場合は、家族等の見守りが必要である点を本人や家族に伝える必要がある。医療者側は、療養先および見守りの状況を把握しておく。

【文献】

1) Chesney E, Goodwin GM, Fazel S:Risks of all-

cause and suicide mortality in mental disorders:a meta-review. World Psychiatry13: 153–160, 2014 2) Mattisson C, Bogren M, Horstmann V, et al:

The long-term course of depressive disorders in the Lundby Study. Psychol Med37:883-91,

2007 3) Bauer M, Pfennig A, Severus E, et al:World

Federation of Societies of Biological Psychiatry (WFSBP) guidelines for biological treatment of unipolar depressive disorders, part 1:update

2013 on the acute and continuation treatment of unipolar depressive disorders. World J Biol Psychiatry;24:334-385, 2013 4) Ferrari AJ, Norman RE, Freedman G, et al:The

burden attributable to mental and substance use disorders as risk factors for suicide : findings from the Global Burden of Disease Study 2010. PLoS One9:e91936, 2014 5) Hawton K, Casañas I Comabella C, Haw C, et

al:Risk factors for suicide in individuals with
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depression :a systematic review. J Affect Disord147:17-28, 2013 6) Whooley MA, Simon GE. Managing depression

in medical outpatients. N Engl J Med343, 1942-1950, 2000 7 )Conner KR, Beautrais AL, Conwell Y. Moderators of the relationship between alcohol

dependence and suicide and medically serious suicide attempts:Analyses of Canterbury Suicide Project data. Alcohol Clin Exp Res27:1156– 1161, 2003
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CQ3-2中等度/重度うつ病に対する治療法はなにか

【要約】1 患者には支持的態度で接するとともに、十分な心理教育を含む基礎的介入を行った上で

急性期治療を選択する。2 新規抗うつ薬による単剤治療を推奨する。治療初期からの2剤の抗うつ薬併用療法は提案しない。抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬の併用療法を行わないことを弱く推奨する。3 構造化された精神療法を提案する。4 ECT の適応基準に合致する場合にECT を提案する。5 運動療法、高照度光療法、自然食品などの単体による治療は提案しない。

【解説】

本項では、DSM-5-TR で定義される中等度/重度うつ病のうち、特定用語の特徴を伴わないものを対象としている。

1 基礎的介入

中等度/重度うつ病の患者に対し、支持的態度で接するとともに、十分な心理教育を行う基礎的介入が必要である。また、病態や予想される経過、治療選択肢について十分に説明し、患者やその家族がうつ病についての理解を深められるような心理教育を行うことが望ましい。基礎的介入に加えて行う中等度/重度うつ病に対する急性期治療法の選択肢として、薬物療法、精神療法、ECT がある。治療法を選択する上でのフローチャートを図1に示す。これらの選択肢についてSDM を用い、治療法を決定する。その際に、切迫した自殺念慮や身体状況なども考慮する。

2 薬物療法

うつ病に対する抗うつ薬の有効性については重症度によって異なり、重症度が高くなるにつれて抗うつ薬で治療された群とプラセボ群の間の有効性に差が生じることが報告されている1-3)。中等度以上のうつ病における抗うつ薬の有効性について

は、精神症性の特徴を伴わない中等度から重度うつ病に対して新規抗うつ薬群は、抑うつ症状の改善度、反応率、寛解率において優れていた。その一方で、有害事象による治療中断率、少なくとも1 つの有害事象の出現頻度が高かった。以上のことから、精神症性の特徴を伴わない中等度から重度うつ病に対しては、有害事象に注意しつつ、新規抗うつ薬を用いた治療を行うことが強く推奨されている(CQ3-3 を参照)。

三環系抗うつ薬(TCA)は、新規抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と比べて全体的な有効性の差異はないが、SSRI のほうが忍容性が高いことが報告されている4)。一方で、入院患者・メランコリーの特徴を伴うなどの重症例では、三環系抗うつ薬がSSRI よりも有効性が上回ることが報告されている3,5)。従って、新規抗うつ薬による治療に反応が乏しい場合、重症例や過去に三環系抗うつ薬が奏功した経過がある場合などでは三環系抗うつ薬は治療選択肢となりうる。

メタ解析などで対象が標準化されたデータにおいては抗うつ薬の薬剤間の有効性の差異は大きく
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ないが6)、抗うつ薬に関連した副作用の頻度に関しては個々の抗うつ薬の間で違いがあるため7)、安全性に配慮した薬剤選択が望まれる。日本で使用可能な抗うつ薬それぞれの副作用の頻度に関して、日本人を対象とした無作為化比較試験(RCT)のネットワークメタ解析を行った結果7)を図2 に示す。特に傾眠、倦怠感、めまい、口渇、吐き気、嘔吐、便秘、排尿障害、性機能障害の発現リスクは異なる可能性があり、臨床における薬剤選択の参考となる。

ほかにも、抗うつ薬の重篤な副作用として出血傾向や心電図上の補正QT 時間(QTc)延長、低ナトリウム血症などが挙げられる。出血傾向により、消化管出血や頭蓋内出血のリスクが高くなる。また、QTc 延長は致死的な不整脈となるTorsade de Pointes を生じることがある。さらに、低ナトリウム血症は意識障害やけいれんなどを引き起こす可能性がある。このため、これらの副作用に関する問診や血液検査、心電図検査による定期的なモニタリングを行う8)。特に、高齢者や消化管出血の既往がある患者、抗凝固薬、非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs: NSAIDs)、QTc 延長や低ナトリウム血症を起こす可能性のある薬剤を服用中の患者においては注意を要する。

薬物相互作用に関しても留意したい。抗うつ薬の多くはシトクロムP450酵素(cytochrome P450: CYP)を介した代謝を受け、かつ一部の新規抗うつ薬を含む向精神薬はCYP 阻害作用およびCYP誘導作用を有している9-12)。そのため抗うつ薬の併用や抗うつ薬とほかの向精神薬の併用を行うと薬物血中濃度の変動が生じうる。抗うつ薬によるCYP 阻害作用の程度については、トピックス6「抗うつ薬の薬物相互作用」の項を参照されたい。

以上から、薬剤の選択にあたっては、副作用および薬物相互作用、患者の合併症および併用薬に基づくリスク評価、過去のエピソードにおける抗うつ薬への治療反応性を総合的に勘案して選択する。

抗うつ薬による治療を行っても十分な治療効果が得られなかった場合や、部分反応に留まる場合には、第9 章、第10 章を参照されたい。

なお、抗うつ薬の治療において2 剤の抗うつ薬併用が抗うつ薬単剤より有用かについては、現時点では抗うつ薬併用療法について十分なエビデンスが存在しないことや、潜在的な有害事象のリスクや薬剤相互作用のリスクという観点も踏まえると、治療開始時からの抗うつ薬併用は提案しない(CQ3-6 を参照)。

また、実臨床ではしばしば抗うつ薬にベンゾジアゼピン(benzodiazepine:BZD)系抗不安薬および睡眠薬を併用している13)。しかし、有用性の観点から、中等度から重度うつ病に対しては、治療初期からの抗うつ薬とBZD 系抗不安薬および睡眠薬(従来型GABAA受容体作動薬)の併用療法を行わないことが弱く推奨されている(CQ3-7 を参照)。不眠症状を伴ううつ病については、睡眠障害パート(CQ8-3)も参照されたい。

3 精神療法認知行動療法(CBT)などの構造化された精神療法による治療についても、多くのエビデンスが蓄積されている。特に、患者の嗜好としても精神療法は好まれていることが報告されている14)。わが国において保険収載されている構造化された精神療法には、認知療法・CBT と標準型精神分析療法がある。精神療法を実施すると、反応率や寛解率が増加し、症状の改善が得られ、またすべての理由による治療脱落は増加しないという結果が得られた(CQ3-4 を参照)。ネットワークメタ解析でも精神療法の有効性が示され、薬物療法の効果と同等であった。また、精神療法と薬物療法の併用は、それぞれの単独療法よりも有効であった15,16)。ただし、構造化された技法であっても治療者によって差が生じることや、治療技術に習熟したスタッフを多く配置できる医療機関が限られることな
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ど、実臨床における課題もある。

4 電気けいれん療法(ECT) ECTのうつ病に対する治療の有効性と安全性がメタ解析で示されており17)、即効性と高い反応率・寛解率が得られることが報告されている18)。一方で、ECTはうつ病の急性期治療としては有用であるが、治療後の再発率の高さ19,20)を念頭に置き、再発予防のための薬物療法を含む計画を事前に立てる必要がある。急性期ECTが適応となる状況としては、迅速で確実な臨床症状の改善が必要とされる場合(自殺の危険、拒食・低栄養・脱水などによる身体衰弱、昏迷、錯乱、興奮、焦燥を伴う重度精神症など)、ほかの治療法の危険性がECTの危険性よりも高いと判断される場合(高齢者、妊娠、身体合併症など)、また、以前の1回以上のエピソードで、薬物療法の反応が不良であった、または、ECTの反応が良好であった場合などがある。ECTの反応が良好であった場合などがある21)。薬物療法の反応が不良な場合のECTの適応についてはCQ10-5「2剤以上の抗うつ薬治療で効果が不十分なうつ病にECTによる付加的治療は有用か」も参考にしていただきたい。本CQに関する、システマティックレビューを行ったところ、完全に本CQに合致した質の高いRCTが存在しないことから治療推奨の決定は行わなかった。わが国の標準的治療プロトコルに即して、一次適応と二次適応を厳密に分けて解析した研究がなかったため、ここでは二次適応と区別せず扱った。

ECT に関して絶対的な医学的禁忌はないが、身体的に高度の危険性を伴う状態である場合には注意を要する。具体的には1最近起こった心筋梗塞、不安定狭心症、非代償性うっ血性心不全、重度の心臓弁膜症などの重度の心血管疾患、2血圧上昇により破裂する可能性のある動脈瘤または血管奇形、3脳腫瘍やその他の脳占拠性病変により生じる頭蓋内圧亢進、4最近起こった脳梗塞、5重度の慢性閉塞性肺疾患、喘息、肺炎のような呼吸器疾患、6米国麻酔学会の術前状態分類で4 または

5 と評価される状態が挙げられる21)。ECT の主要な副作用としては心血管系合併症、遷延性発作、遷延性無呼吸、頭痛、筋肉痛、嘔気、躁転、発作後せん妄、認知機能障害などがある21)。ECT 関連の死亡率については、10 万治療あたり2.1 例と報告されている22)。一般的な全身麻酔による死亡リスクが100 万例あたり34 例であるという報告23)を考慮すると、全身麻酔による死亡リスク以上の危険性はないと考えられる。ECT を行うにあたっては、治療によって得られるベネフィットとこれらのリスクを検討した上で判断する必要がある。以上のことから、ECT の適応基準に該当する場合は、うつ病の急性期治療としてECT を用いることを提案する(CQ3-5 参照)。

5 その他の治療中等度/重度うつ病へのその他の治療として、休養、運動療法、高照度光療法、自然食品などを検討することがある。しかし現時点では、これらの治療を単独で実施した場合や、組み合わせた場合に中等度/重度うつ病に対して有効性が実証されたエビデンスはない。したがって、中等度/重度うつ病に対しては、第1 選択となりうる薬物療法、精神療法、およびECT といった主要な治療法を補完する目的で、患者の状態や嗜好に応じて運動療法や高照度光療法の実施を検討することは妥当と考えられる。

中等度/重度うつ病のみを対象にした研究は少ないが、軽度から重度うつ病を対象にした標準治療に運動療法を付加した研究については、標準治療単独と比べ有効であったというメタ解析がある24)。ただし、試験間の不均一性が大きく、解釈には注意が必要である。また、高照度光療法については抗うつ薬への付加療法としての有効性がメタ解析で報告されているが25)、うつ病の重症度別のエビデンスはない。さらにわが国では、運動療法と高照度光療法のいずれも実施プロトコルが整備さ
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れていないことにも留意すべきである。自然食品に関しては、補完療法としてもエビデンスレベルが高いものは少ない。セントジョーンズワートなどの一部のハーブは、軽度/中等度うつ病への有効性を認める報告26)もあるが、医薬品としての一定の規格が用意されていない。また、抗うつ薬や内科薬との薬物相互作用的観点からも、標準治療として組み込むことは難しい。そのほか

にオメガ3 脂肪酸、ビタミンB 群、ビタミンD 等の自然食品についても、中等度/重度うつ病に対する効果を示す質の高いエビデンスはない。鍼灸、カンナビジオールといった治療法も、薬物療法や精神療法の代替となるようなエビデンスレベルの高い治療法ではない。
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【文献】

1)Khan A, Leventhal RM, Khan SR, et al: Severity

of depression and response to antidepressants and placebo:an analysis of the Food and Drug Administration database. J Clin Psychopharmacol 22:40-45, 2002 2)Kirsch I, Deacon BJ, Huedo-Medina TB, et al :

Initial severity and antidepressant benefits:a meta-analysis of data submitted to the Food and Drug Administration. PLoS Med 5:e45, 2008 3)Fournier JC, DeRubeis RJ, Hollon SD, et al: Antidepressant drug effects and depression

severity:a patient-level meta-analysis. JAMA 6;303:47-53, 2010 4)Anderson IM:Selective serotonin reuptake

inhibitors versus tricyclic antidepressants :a meta-analysis of efficacy and tolerability. J Affect Disord  58(1):19-36, 2000 5)Valerio MP, Szmulewicz AG, Martino DJ. A

quantitive review on outcome to antidepressants in melancholic unipolar depression. Psychiatry

頭痛不眠眠気倦怠感ふらつきor めまい口喝吐気 or 嘔気

アミトリプチリン0.316 (0.112, 0.892) 0.273 (0.036, 2.094) 2.461 (1.106, 5.476) 1.085 (0.223, 5.286) 2.897 (1.088, 7.714) 3.262 (1.577, 6.745) 0.772 (0.353, 1.686)デュロキセチン1.117 (0.694, 1.798) 1.925 (0.794, 4.666) 1.848 (0.918, 3.719) 1.237 (0.472, 3.239) 2.460 (1.097, 5.514) 1.722 (0.854, 3.469) 2.477 (1.485, 4.131)エスシタロプラム0.952 (0.548, 1.654) no data 2.055 (1.140, 3.707) 1.960 (0.893, 4.300) 3.879 (1.187, 12.677) 1.849 (0.957, 3.574) 2.527 (1.577, 4.049)フルボキサミン0.348 (0.134, 0.902) 0.377 (0.037, 3.812) 1.529 (0.679, 3.439) 1.212 (0.268, 5.481) 0.959 (0.298, 3.086) 1.385 (0.677, 2.834) 2.285 (0.941, 5.550)イミプラミン0.739 (0.252, 2.169) 0.708 (0.095, 5.295) 1.794 (0.755, 4.261) 2.670 (0.405, 17.600) 2.582 (0.884, 7.539) 3.570 (1.780, 7.161) 1.407 (0.606, 3.269)ミアンセリン1.438 (0.403, 5.131) 10.323 (0.441, 241.411) 3.003 (1.065, 8.466) 2.464 (0.668, 9.088) 5.936 (1.458, 24.172) 3.694 (1.345, 10.142) 1.139 (0.379, 3.421)ミルナシプラン0.991 (0.500, 1.962) no data 1.825 (0.661, 5.040) no data 1.875 (0.653, 5.383) 1.265 (0.523, 3.061) 2.523 (1.423, 4.474)ミルタザピン0.344 (0.167, 0.705) 1.124 (0.115, 10.980) 2.198 (1.109, 4.354) 5.506 (1.561, 19.418) 2.210 (0.597, 8.174) 1.676 (0.876, 3.206) 0.696 (0.302, 1.604)パロキセチン0.897 (0.600, 1.342) 1.135 (0.451, 2.853) 2.489 (1.489, 4.158) 2.459 (1.267, 4.772) 1.894 (0.935, 3.834) 1.437 (0.818, 2.527) 2.129 (1.453, 3.118)セルトラリン0.437 (0.106, 1.796) 0.720 (0.072, 7.157) 1.852 (0.654, 5.249) 3.287 (0.361, 29.901) 1.851 (0.268, 12.757) 1.664 (0.704, 3.935) 0.996 (0.343, 2.894)トラゾドン0.461 (0.081, 2.623) 1.166 (0.064, 21.389) 3.221 (1.242, 8.351) 2.527 (0.456, 13.999) 1.238 (0.392, 3.916) 2.216 (0.829, 5.925) 2.188 (0.934, 5.127)ベンラファキシン1.344 (0.640, 2.822) 1.034 (0.394, 2.710) 1.988 (0.813, 4.862) 2.068 (0.789, 5.420) 2.068 (0.702, 6.095) 6.203 (0.777, 49.521) 2.676 (1.495, 4.789)ボルチオキセチン1.017 (0.645, 1.604) 2.536 (0.690, 9.319) 1.651 (0.819, 3.327) 2.894 (0.749, 11.175) 1.991 (0.866, 4.580) 2.155 (0.664, 6.989) 3.774 (2.304, 6.181)

嘔吐便秘下痢排尿障害性機能障害体重増加体重減少

アミトリプチリン1.872 (0.350, 9.998) 4.074 (1.837, 9.037) 0.589 (0.089, 3.893) 7.207 (0.869, 59.758) 2.053 (0.058, 73.047) 0.242 (0.001, 40.618) no dataデュロキセチン2.434 (0.630, 9.404) 2.098 (1.097, 4.013) 1.163 (0.439, 3.081) 2.590 (0.366, 18.316) 11.909 (1.030, 137.648) 1.410 (0.121, 16.363) 3.169 (0.727, 13.827)エスシタロプラム6.032 (1.169, 31.115) 1.865 (0.747, 4.656) 1.179 (0.551, 2.522) no data 4.376 (0.830, 23.072) 2.348 (0.800, 6.890) 0.262 (0.012, 5.906)フルボキサミン2.147 (0.330, 13.989) 4.426 (1.932, 10.144) 0.701 (0.111, 4.441) 5.247 (0.621, 44.318) 0.328 (0.001, 82.723) 0.782 (0.014, 43.004) 2.953 (0.032, 268.379)イミプラミン1.274 (0.262, 6.189) 4.312 (2.089, 8.900) 0.774 (0.118, 5.073) 12.675 (1.637, 98.150) no data no data no dataミアンセリン2.176 (0.367, 12.900) 5.251 (1.968, 14.010) 0.749 (0.116, 4.839) 0.695 (0.037, 12.955) no data 1.512 (0.038, 60.637) 0.680 (0.023, 19.664)ミルナシプラン4.435 (1.195, 16.459) 2.397 (1.235, 4.654) 1.260 (0.282, 5.642) 7.484 (1.283, 43.667) no data no data no dataミルタザピン1.646 (0.190, 14.242) 3.438 (1.463, 8.082) 0.246 (0.076, 0.802) 2.133 (0.148, 30.695) 0.335 (0.007, 16.723) 10.382 (0.629, 171.280) 1.005 (0.041, 24.386)パロキセチン3.244 (0.981, 10.723) 2.804 (1.656, 4.746) 1.273 (0.656, 2.470) 3.920 (0.753, 20.393) 6.788 (1.361, 33.862) 2.379 (0.823, 6.883) 6.384 (1.701, 23.956)セルトラリン2.138 (0.215, 21.300) 1.468 (0.541, 3.984) 5.188 (0.388, 69.345) 7.463 (0.778, 71.600) no data no data no dataトラゾドン3.334 (0.608, 18.282) 3.842 (1.447, 10.203) 3.924 (0.139, 110.908) no data no data no data 19.682 (0.623, 621.788)ベンラファキシン0.665 (0.252, 1.756) 2.929 (1.253, 6.849) 1.034 (0.324, 3.295) 2.588 (0.125, 53.630) 2.588 (0.125, 53.630) 0.517 (0.073, 3.640) 2.585 (0.304, 21.960)ボルチオキセチン1.481 (0.567, 3.869) 1.634 (0.750, 3.562) 0.838 (0.402, 1.749) no data 2.657 (0.420, 16.799) 3.049 (0.125, 74.121) 0.339 (0.014, 8.236)

図2.抗うつ薬の副作用ヒートマップ各抗うつ薬における有害事象の発現リスク比(risk ratio:RR)を示す。太字の数値は統計学的に有意(p < 0.05)であることを示す。RRが 1.0より大きい場合はプラセボに比べて当該有害事象の発現頻度が高いことを、1.0より小さい場合は低いことを意味する。色の説明:色の濃さは差の大きさを反映しており、プラセボに比べ、白は有意差なし、赤が濃いほどリスク上昇、青が濃いほどリスク低下を意味する。
p.83
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p.85
CQ3-3中等度/重度うつ病に対して新規抗うつ薬は有用か

【推奨】

精神症性の特徴を伴わない中等度から重度うつ病に対しては、有害事象に注意しつつ、新規抗うつ薬を用いた治療を行うことを強く推奨する(1A)。

【推奨文】

精神症性の特徴を伴わない中等度から重度うつ病に対し、新規抗うつ薬群は、プラセボ群に比べて、抑うつ症状の軽減(A)、反応率(A)、寛解率(A)が優れていた。すべての理由による治療中断率は、両治療群間で差を認めなかったが(A)、有害事象による治療中断率(A)と、少なくとも1 つの有害事象の出現頻度(A)に関しては、新規抗うつ薬群がプラセボ群より高かった。そのため、中等度から重度うつ病に対しては、有害事象に注意しつつ、新規抗うつ薬を用いた治療を行うことを強く推奨する(1A)。

【解説】

1はじめに

わが国と海外では使用できる抗うつ薬の違いや、各国で承認されている用法・用量が異なる抗うつ薬がある1)。このため、日本人の精神症性の特徴を伴わない中等度から重度うつ病に対して、日本で使用できる新規抗うつ薬を日本で承認されている用法・用量で使用した場合の有用性を評価する、システマティックレビューとメタ解析を行った。

2方法

対象者(P)を日本人の精神病性の特徴を伴わない中等度から重度うつ病とし、介入(I)を日本で使用できる新規抗うつ薬(日本で承認されている用法・用量で使用)、コントロール(C)をプラセボとした。益のアウトカム(O)は抑うつ症状の改善(重要性9)、反応率(重要性8)、寛解率(重要性8)とし、害のアウトカム(O)はすべての理由による治療中断率(重要性7)、有害事象による治療中断率(重要性7)、少なくとも1 つの有害事象の出現頻度(重要性6)とし、システマティックレビューを行った。3結果

本研究には、9 本の無作為化比較試験(RCT) (n=3,984)が包含された2-10)。使用された抗うつ薬は、デュロキセチン、エスシタロプラム、ミルタザピン、パロキセチン、ベンラファキシン、ボルチオキセチンであった。日本で行われたフルボキサミン、ミルナシプランおよびセルトラリンのプラセボ比較試験はなかった。

日本人の精神症性の特徴を伴わない中等度から重度うつ病に対し、新規抗うつ薬群はプラセボ群に比べて、抑うつ症状の軽減〔N=9、n=3,454、標準化平均差-0.20 、95% 信頼区間-0.27 ~ -0.12)、反応率〔N=9、n=3,454、リスク比1.23、95% 信頼区間 1.13 ~1.32 、新規抗うつ薬群54.5%:プラセボ群43.8%〕、寛解率(N=9、n= 3,459、リスク比 1.30、95%信頼区間 1.16~1.45、新規抗うつ薬群34.4%:プラセボ群26.0%)が優れていた。すべての理由による治療中断率は、両治療群間で有意差を認めなかった(N=9、n= 3,627、リスク比 0.98、95%信頼区間 0.82~1.18)。
p.86
一方、有害事象による治療中断率(N=9、n=3,627、リスク比 1.60、95%信頼区間 1.13~2.26、新規抗うつ薬群5.7%:プラセボ群3.9%)と、少なくとも1 つの有害事象の出現頻度(N=9、n=3,612、リスク比 1.13、95%信頼区間 1.08~1.18、新規抗うつ薬群76.4%:プラセボ群66.5%)に関しては、新規抗うつ薬群がプラセボ群より高かった。

4推奨文の作成

メタ解析の結果、日本人の精神症性の特徴を伴わない中等度から重度うつ病に対し、新規抗うつ薬はプラセボに比べ、寛解率および抑うつ症状の軽減に有意な有効性を示した。害のエビデンスとして受容性は良好であったが、忍容性と安全性には懸念があった。エビデンスレベルは「A」と評価

され、中等度から重度うつ病に対しては有害事象に注意しつつ、新規抗うつ薬を用いた治療を行うことを強く推奨する(1A)となった。

5推奨決定会議の結果

提出された資料をもとに議論し、投票結果は最終的に「行うことを強く推奨する」となった。1 回目行うことを強く推奨する:81.8%行うことを弱く推奨する:18.2%行わないことを弱く推奨する:0%行わないことを強く推奨する:0%

【文献】

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p.88
CQ3-4中等度/重度のうつ病患者に対して精神療法は有用か

【要約】●中等度から重度のうつ病患者に対しては、構造化された精神療法を提案する。●認知行動療法(CBT)、行動活性化技法、力動的精神療法をはじめとした精神療法について、実施可能性に基づいて検討する。

【解説】

1 はじめに

うつ病治療において、薬物療法以外の治療選択肢の1つとして精神療法が挙げられる。本CQ では、中等度から重度のうつ病患者に対して精神療法を実施することが有効であるかを確認するために、既存の文献をシステマティックレビューすることとした。そして、中等度から重度のうつ病患者に対して、精神療法を実施することと、無治療あるいはプラセボを用いることとの有用性を比較した。

2 方法

対象者(P)を、中等度から重度のうつ病患者、介入(I)を、精神療法を実施する、コントロール(C)を、無治療あるいはプラセボを実施する、とした。益のアウトカム(O)は、治療反応率(重要性9)、寛解率(重要性7)、抑うつ症状の軽減(重要性7)とし、害のアウトカム(O)は、全ての理由による治療中断率(重要性7)とし、研究デザインをRCT と設定し、システマティックレビューを行った。

3 結果

システマティックレビューを行なった結果、中等度/重度のうつ病患者を対象として、精神療法を実施する群と、無治療・プラセボ群を比較する21本のRCT を同定した1-21)。RCT により評価し構造化された精神療法は、CBT が13 本〔対面型が4本(個人3 本、集団1 本)、コンピューター支援

型が4 本、マインドフルネスが3 本(個人2 本、集団1 本)、認知読書療法が2本〕、行動活性化技法が2本(個人、コンピューター支援型が1本ずつ)、問題解決技法が2本(個人、集団が1本ずつ)、その他4本(注意バイアス修正訓練、うつ病対処指導、非指示的支持的精神療法、心理教育プログラムが1 本ずつ)であった。また、対照群としているのが無治療9 本、待機群9 本であり、プラセボ(ピルならびに心理学的)を対照として用いている研究は3 本のみ(注意プラセボ、オンライン心理教育、リラクセーション)であった。

これらの21 本についてメタ解析を行ったところ、無治療あるいはプラセボを実施することに比べて、精神療法を実施することは、反応率(N=3, n=391, リスク比4.37, 95% 信頼区間1.84~10.42)、寛解率(N=9, n=1,337, リスク比2.37, 95%信頼区間 1.69~3.31)、抑うつ症状の軽減 (N=19, n=1,716, 標準化平均差 -1.24, 95%信頼区間 -1.56~-0.91)、のいずれにおいても有意な差を認めた。一方、すべての理由による治療中断率 (N=17, n=2,092, リスク比1.32, 95%信頼区間 0.89~1.95)、有害事象による治療中断率(N=2, n=223, リスク比0.39, 95%信頼区間0.11~1.46)のいずれにおいても有意差を認めなかった。

中等度から重度のうつ病患者に対して、何らかの精神療法を実施することは、無治療あるいはプラセボ(待機群を含む)よりも、反応率や寛解率が
p.89
増加し、抑うつ症状の軽減が得られる可能性があり、またすべての理由による治療脱落は増加しない可能性がある。そのためシステマティックレビュー、またそれに基づくメタ解析からは有益性が有害性を上回っているといえる結果であった。ただし、治療強度は対人でのかかわりが1 から20回と研究によって大きく異なり、また個人もしくは集団、あるいはデジタルによる介入のいずれがよいのか、またどの技法が優れているかはレビューから結論づけることはできなかった。

本システマティックレビューの結果を補完する目的で、既報のシステマティックレビューおよびそれに基づくネットワーク・メタ解析や従来型の(ペアワイズ)メタ解析の結果を参照した。中等度から重度のうつ病患者に焦点を当てた報告では、HAM-D にて16 点、MADRS にて22 点、PHQ-9にて16 点、などの基準以上の重症度を有する群を対象とした534 本の研究をレビューし、 治療方法を63 のクラスに分類してネットワーク・メタ解析にて検証している22)。抑うつ症状の軽減を指標にした場合には、抗うつ薬単独(SSRI やSNRI、ミルタザピン、三環系)や、抗うつ薬+CBT(個人)、抗うつ薬+光療法、抗うつ薬+鍼灸と並んで、行動療法(個人)、CBT(個人)がピル・プラセボよりも有効であると結論づけている。また寛解を指標とした場合には、それらの精神療法に加えて力動的精神療法(短期)もピル・プラセボより有効であると報告している。治療の種類に関しては、広義から狭義までさまざまな区分があり、それぞれの研究によってもやや異なる。うつ病に対する精神療法に関するシステマティックレビュー23)では、CBT、行動活性化技法、問題解決療法、第3 世代CBT〔ACT (acceptance and commitment therapy)、マインドフルネス認知行動療法)、対人関係療法、力動的精神療法、非指示的支持的精神療法、ライフレビュー療法、その他、に分類し、10 本以上のRCT の存在する精神療法を検証するという手法を用いている。結果として、385 本のRCT によるメタ解析

を実施し、標準化平均差は各技法において幅があるものの(力動的精神療法0.39 からライフレビュー療法1.10)、有意な差は生じていないと報告している。中等度から重度のうつ病患者に限定されていないが、多くは重度の患者が含まれていることから、治療の選択肢として挙げる精神療法の種類を考える際に参考にすべき情報として掲載した。

4 要約の作成

上記の結果を踏まえて、精神療法を実施することは、反応率や寛解率を増加し、抑うつ症状の軽減が得られ、一方ですべての理由による治療脱落は増加せず、有益性が有害性を上回っていると結論づけることができた。その一方で、推奨とするにはいくつかの懸念事項が挙げられた。

まず、国内における実行可能性について、構造化された精神療法は実施している施設数や治療者数の問題があり、本ガイドラインを用いる可能性のある多くの医療機関で実施できるわけではないことが指摘される(トピックス2「うつ病に対する精神療法」の項を参照)。また、国内における精神療法の質を評価することは現時点では困難であり、今回のレビューで有益性があると考えられた精神療法と、国内で提供できる精神療法が同等の効果があるという確証が得られない。

一方で、仮に精神療法を推奨しないとなると、精神療法を実施していれば改善した可能性を失うこととなり、患者の不利益となることも想定される。そのためこれらのシステマティックレビューや議論を踏まえて、中等度から重度のうつ病患者に対して構造化された精神療法を実施することを治療選択肢の1つとして提案する。その際、いずれの技法が望ましいかは明確ではないが、中等度から重度のうつ病に対して有効性が示されているCBT や行動活性化技法、短期力動的精神療法を念頭に置き、当該の医療機関で実施可能な方法を検討すべきである。そして心理的な背景、治療に対
p.90
する患者の希望24)などを踏まえ、薬物療法を含めたその他の治療も選択肢として、個々の対象に応じた適切な介入を構築する必要がある。頻度やセッション回数、介入内容などについても事前に共同的に決定し、十分な説明を行なって導入することが求められる。

なお、精神療法を導入する際には、別掲のトピックス2「うつ病に対する精神療法」の項を参照し、実施していくべきである。

【文献】

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p.92
CQ3-5うつ病の急性期療法として電気けいれん療法(ECT)は有用か

【要約】

 ECT の適応基準に合致する場合は、急性期うつ病に対してECT を用いることを提案する。

【解説】

1はじめに

急性期うつ病に対する電気けいれん療法(ECT)の施行は、迅速で確実な臨床症状の改善が必要とされる場合の「一次適応」と、薬物療法に抵抗性が認められる場合などの「二次適応」に大別される1)。「一次適応」には、迅速で確実な臨床症状の改善が必要とされる場合(自殺の危険、拒食・低栄養・脱水などによる身体衰弱、昏迷、錯乱、興奮、焦燥を伴う場合など)、ほかの治療法の危険性がECT の危険性よりも高いと判断される場合(高齢者、妊娠、身体合併症など)、また、以前の1 回以上のエピソードで薬物療法への反応が不良であったか、ECT の反応が良好であった場合などが該当する。「二次適応」には、薬物療法に対する抵抗性が認められる場合や忍容性に問題がある場合、薬物療法中に精神または身体状態の悪化が認められ、迅速で確実な治療反応が必要とされる場合などが該当する。

本CQ は本来、一次適応について扱うべきであるが、わが国の標準的治療プロトコルに即して、一次適応と二次適応を厳密に分けて解析した研究がなかったため、ここでは二次適応と区別せず扱う。二次適応に関してはCQ10-6 を参考にしていただきたい。

2方法

対象者(P)は、操作的診断基準を満たすうつ病の、急性期治療におけるECT の一次適応または二次適応に合致する患者とし、介入(I)を、現在わが国で標準的に用いられているECT の治療プロト

コル〔治療機器:パルス波治療機器、刺激条件:両側側頭部への刺激、両側前頭部への刺激、右片側いずれかへの短パルスあるいは超短パルス波刺激〕1,2)とし、コントロール(C)は偽刺激とした。益のアウトカム(O)は抑うつ症状の改善(重要性9)、反応率(重要性8)、寛解率(重要性7)、害のアウトカム(O)はすべての理由による治療中断率(重要性7)、死亡率(重要性7)、重大な有害事象の発生率(重要性6)とした。研究デザインをRCTと設定した。

3結果

システマティックレビューの結果、PICO に合致したRCT はなかった。これは、ECT の有用性がすでに広く認知されていること、適応患者群に対する偽刺激設定が困難であること、ECT を受ける患者の大半が急性期の重症度が高い、または治療抵抗性であることも理由として考えられる。

操作的診断基準を満たす急性期うつ病または双極症抑うつエピソード患者に対して、ニューロモデュレーション(ECT、rTMS、tDCS、経頭蓋直流電気刺激、磁気けいれん療法を含む)を実施したRCT を対象としたネットワーク・メタ解析(N =113、n=6,750)の結果は、両側側頭部への刺激(反応率: オッズ比8.91、95%信頼区間2.57~ 30.91、寛解率:オッズ比 5.14、 95%信頼区間1.75~15.07)と、右片側への高用量刺激(発作閾値の4~8倍の刺激用量)(反応率:オッズ比 7.27、
p.93
95%信頼区間 1.90~27.78、寛解率:オッズ比5.05、95%信頼区間 1.59~16.05)は、反応率および寛解率どちらにおいても偽刺激と比較して有意に高かった3)。一方、両側前頭部への刺激は、反応率においては有意差を認めなかったが、寛解率は有意に高かった(反応率:オッズ比 3.40、95%信頼区間 0.80~14.41、 寛解率:オッズ比 3.38、95%信頼区間 1.03~11.10)。右片側への低~中用量刺激(発作閾値の1~2.5 倍の刺激用量)は反応率、寛解率どちらにおいても有意差を認めなかった(反応率:オッズ比 2.74、 95%信頼区間 0.81 ~9.31、寛解率:オッズ比 2.32、95%信頼区間0.74~7.25)。

すべての理由による治療中断率は、ECT のすべての刺激条件で偽刺激との有意差を認めなかった(両側側頭部への刺激:オッズ比 0.75、95%信頼区間 0.40~1.41、両側前頭部への刺激:オッズ比比0.78、 95%信頼区間 0.35~1.74、右片側への低~中用量刺激:オッズ比 0.79、95%信頼区間0.33~1.90、右片側への高用量刺激:オッズ比0.80、95%信頼区間 0.37~1.72)。本ネットワーク・メタ解析の結果には、対象患者の中には、本CQ に合致する一次適応を有する患者に加えて、2種類以上の抗うつ薬治療に失敗したTRD が多く含まれていること、双極性抑うつエピソード患者が含まれていること、パルス波およびサイン波の治療機器による試験が混在していることにも注意が必要である。二次適応に関しては、CQ10-6 も併せて参考にしていただきたい。73,440 セッションのECT を調査した観察研究によると、全セッション中、ECT に関連した死亡は1例もなく、重大な有害事象は6件であったが、すべて麻酔手技に関した事象であったと報告され

ている4)。うつ病には限定しないが、ECT による一般的な有害事象として、頭痛や認知機能障害、治療後のせん妄などがある1)。これらの有害事象への対処方法や、ECT のプロトコルに関する留意事項については、日本精神神経学会による成書も併せて参照されたい2)。

5 要約の作成

推奨決定会議では、提出された資料をもとに検討され、エビデンス総体ならびに各アウトカムに関するエビデンスの強さについて議論が行われた。議論の結果、広義のECT を対象としたエビデンスは存在するものの、現在わが国で標準的に実施されるECT と同等の治療プロトコルで、日本精神神経学会が定義する一次適応もしくは二次適応に合致するうつ病患者のみを対象とした質の高いRCTが存在しない(盲検化していない、もしくは偽刺激を対照としたRCT がない)ことから、本CQ では治療推奨の決定は行わないこととなった。

ECT は有用な治療であると考えられる一方で、全身麻酔を要し、通常は入院下で行われるため、薬物療法など、ほかのうつ病治療と比較して患者への侵襲性が高い。また、ECT を実施できる医療機関は限られている。そのため、適応は日本精神神経学会による推奨事項1)や、医療機器の添付文書5)に記載されている内容に準じて判断されるべきである。

以上より、ECT の適応基準に該当する場合は、ECT の有効性や安全性、想定される負担を適切に説明し、患者や家族の意向を十分に尊重した上でECT を行うことを提案するとした。
p.94
【文献】

1) 本橋 伸高, 粟田 主一, 一瀬 邦弘,他:電気

けいれん療法(ECT)推奨事項 改訂版.精神誌. 115:586–600,2013 2)日本精神神経学会ECT・rTMS 等検討委員会

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CQ3-6中等度/重度うつ病に対して、治療初期からの2 剤の抗うつ薬併用療法は有用か

【要約】中等度/重度うつ病に対して、治療初期からの2 剤の抗うつ薬併用療法は、潜在的な有害事象のリスクや薬剤相互作用のリスクという観点も踏まえ、提案しない。

【解説】

1はじめに

中等度/重度うつ病患者に対して、初期治療として2 剤の抗うつ薬を併用することが有用かどうかを検討するために、抗うつ薬による薬物療法を開始していない中等度/重度うつ病患者に対する、治療開始時から抗うつ薬2 剤の併用療法の有用性と抗うつ薬単剤療法の有用性を比較した。

2方法

対象者(P)は中等度から重度うつ病の患者、介入(I)は初期治療としての抗うつ薬併用療法、コントロール(C)を抗うつ薬単剤療法とした。益のアウトカム(O)は、抑うつ症状の改善(重要性9)、反応率(重要性8)、寛解率(重要性8)とし、害のアウトカム(O)は、すべての理由による治療中断率(重要性7)、有害事象による治療中断率(重要性7)とし、システマティックレビューを検索した。

3結果

2022 年に公表されたシステマティックレビュー1)が該当した。このシステマティックレビューには、うつ病患者を対象に、初期治療としての抗うつ薬併用療法と単剤療法を比較した無作為化比較試験(RCT)と、抗うつ薬に治療反応不良だった患者を対象に抗うつ薬補助療法と単剤療法を比較したRCT の両方が包含されている。それに加え、前者と後者に分けたサブグループ解析も報告されている。本CQ に該当するのは、前者のみを

包含したサブグループの結果である。

まず、このサブグループに包含されたRCT について検討した。わが国で使用できないbupropion併用療法の試験は除外した。また、本ガイドラインでは、中等度から重度うつ病に対して新規抗うつ薬の使用を推奨しているため、新規抗うつ薬とシナプス前α2自己受容体遮断薬(ミルタザピン、ミアンセリン、トラゾドン)の併用療法が評価されているRCT を検証した。しかし、このサブグループに包含された5 本のRCT のうち3 本2-4)が治療開始時からの併用のみではなく、抗うつ薬治療抵抗性うつ病が包含されていた。また、3 本2,3,5)すべてに本邦未承認薬fluoxetine が用いられていた。残り1 本6)では、ミルタザピンとパロキセチンをそれぞれ開始用量30mg/日、20mg/日とし、4 週目でモンゴメリー-アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)合計得点が30%以上改善しない場合、それぞれ45mg/日、30mg/日に増量する単剤療法群、および両剤の併用療法群の有用性を比較検討している(n=61)。両剤の併用療法群は各抗うつ薬単剤療法群に比し、MADRS 合計得点が4 週、6 週時点で、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D17)合計得点が6 週時点で有意に改善した。6 週目までの治療中断はパロキセチン群で2 名、併用療法群で4 名であった。体重増加や眠気、吐き気など一般的な副作用に関しては両薬剤で、単剤療法群と併用療法群の差は明らかでなかったが、口渇は
p.96
併用療法群で高頻度であった。なお、この試験では、ミルタザピンはわが国で承認されている開始用量と異なる30mg/日より開始しており、被験者数も少なかった。

以上から、本CQ のPICO に合致するエビデンスが質的にも量的にも不十分であるため、「中等度/重度うつ病に対して、2 剤の抗うつ薬併用療法は抗うつ薬単剤療法より有効か」の推奨決定は行わないこととした。

4要約の作成

以上の結果から、本CQ に対して推奨文を作成するためのエビデンスが不足しているため、今回

のガイドラインでは推奨文を作成することができなかった。現時点では抗うつ薬併用療法について十分なエビデンスが存在しないことから、潜在的な有害事象のリスクや薬剤相互作用のリスクという観点も踏まえると、治療開始時から抗うつ薬併用療法は提案しない。

5推奨決定会議の結果

提出された資料をもとに議論を行った。エビデンスが十分でないことから推奨は作成せず、投票も行わず、今後の検討課題となった。

【文献】

1)  Henssler J, Alexander D, Schwarzer G, et al:

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Mirtazapine and paroxetine in major depression:a comparison of monotherapy versus their combination from treatment initiation. Eur Neuropsychopharmacol. 19: 457-465, 2009
p.97
CQ3-7中等度/重度うつ病に対して、抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬および睡眠薬の併用療法は有用か

【推奨】

中等度/重度うつ病に対しては、抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬および睡眠薬の併用療法を行わないことを弱く推奨する(2C)。

【推奨文】

中等度/重度うつ病に対して、8 週目における抑うつ症状の改善(C)、反応率(C)、寛解率(C)、すべての理由による治療中断率(C)に関して、抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬および睡眠薬の併用療法(併用群)と抗うつ薬単剤療法(単剤群)との間に違いを認めなかったが、2 週目における抑うつ症状の改善(C)、反応率(C)、寛解率(C)は併用群が単剤群より優れていた。有害事象による治療中断率(C)は、単剤群より併用群のほうが少なかったが、少なくとも1 つの有害事象の出現頻度(C)に関しては、単剤群より併用群のほうが多かった。以上より、中等度/重度うつ病に対しては、抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬および睡眠薬の併用療法を行わないことを弱く推奨する(2C)。

【解説】

1はじめに

中等度/重度うつ病患者に対して、ベンゾジアゼピン系抗不安薬および睡眠薬が併用されることがあるが、有用性のエビデンスは十分ではない。このため、抗うつ薬服用中の中等度/重度うつ病患者に対する抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬および睡眠薬の併用療法と抗うつ薬単剤療法の有用性を比較した。

2方法

対象者(P)は、抗うつ薬服用中の中等度から重度うつ病患者とし、介入(I)は抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬および睡眠薬の併用療法、コントロール(C)を抗うつ薬単剤療法とした。益のアウトカム(O)は、治療開始8 週目の抑うつ症状の改善(重要度10)、治療開始8 週目の反応率(重要度9)、治療開始8 週目の寛解率(重要度9)とし、害のアウトカム(O)は、すべての理由

による治療中断率(重要度8)、有害事象による治療中断率(重要度7)、少なくとも1 つの有害事象の出現頻度(重要度6)とし、検索する論文の研究デザインをRCT のシステマティックレビューと設定した。

3結果

検索の結果、PICO に合致したシステマティックレビュー1)を採用し、この結果をもとに本CQ の推奨文を作成した。本システマティックレビューにはイベント率が報告されておらず、今回新たに計算した。

本研究には10 本のRCT が包含されている。使用された抗うつ薬は、TCA が6 本、SSRI が2 本、その他の抗うつ薬が2 本であった。このうち、抗不安薬は8 本で使用されており、その内訳は、ク
p.98
ロナゼパムとchlordiazepoxide が2 本、アルプラゾラム、ジアゼパム, mexazolam, bentazepam が各1 本であった。睡眠薬は2 本で使用され、トリアゾラムが1 本、フルニトラゼパムもしくはロルメタゼパムが1 本であった。

中等度から重度うつ病に対して、8 週目における抑うつ症状の改善(N=7、n=347、標準化平均差-0.18、95%信頼区間 -0.40~0.03)、反応率(N =7、n=383、リスク比 1.12、95%信頼区間 0.93 ~1.35)、寛解率(N=7、n=383、リスク比 1.27、95%信頼区間 0.99~1.63)は、併用群と単剤群との間に統計学的有意差を認めなかった。一方、2 週目における抑うつ症状の改善(N=10、n=598、標準化平均差-0.25、95%信頼区間 -0.46~ -0.03)、反応率(N=10、n=731、リスク比 1.34、95%信頼区間 1.13~1.58、併用群39.6%:単剤群25.6%)、寛解率(N=10、n=731、リスク比 1.39、95%信頼区間 1.03~1.90、併用群20.2%:単剤群14.0%)は、併用群が単剤群より優れていた。

すべての理由による治療中断率に関して、併用群と単剤群との間に統計学的有意差を認めなかったが(N=10、n=731、リスク比 0.76、95%信頼区間 0.54~1.07)、有害事象による治療中断率は、単剤群より併用群のほうが少なかった(N=10、n =731、リスク比 0.54、95%信頼区間 0.32~0.90、併用群7.9%:単剤群13.6%)。少なくとも1 つの有害事象の出現頻度に関しては、単剤群より併用群のほうが多かった(N=7、n=510、リスク比1.12、95%信頼区間 1.01~1.23、併用群68.7%:単剤群59.6%)。4推奨文の作成

2 週目の有効性アウトカムに関して、併用群が単剤群より優れていたが、8 週目の有効性アウトカムでは両群間で有意差を認めず、併用療法の有効性は継続しないと考えられた。また、有害事象による治療中断率は、単剤群より併用群のほうが少なかったものの、少なくとも1 つの有害事象の出現頻度に関しては、単剤群より併用群のほうが多かった。なお、すべてのアウトカムに関するメタ解析の結果のエビデンスレベルは「C」と評価された。

長期的な併用療法の有効性に関しては評価されておらず、また短期的使用であっても、ベンゾジアゼピン依存を引き起こす可能性を否定できなかった2, 3)。

以上より、中等度/重度うつ病に対しては、抗うつ薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬および睡眠薬の併用療法を行わないことを弱く推奨する(2C)という推奨文となった。

5推奨決定会議の結果

提出された資料をもとに議論し、投票結果は最終的に「行わないことを弱く推奨する」となった。1 回目行うことを強く推奨する:0%行うことを弱く推奨する:10%行わないことを弱く推奨する:90%行わないことを強く推奨する:0%
p.99
【文献】

1) Ogawa Y, Takeshima N, Hayasaka Y, et al:

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p.100
第4 章 児童・思春期うつ病

CQ4-1児童・思春期うつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

【要約】1 児童・思春期うつ病の評価・診断においては、子どもの精神発達の水準、虐待歴などの

家庭環境、学校生活の変化、年代特有の心性を考慮する。2 臨床的特徴として、抑うつ気分よりも易怒的な気分がみられやすく、期待される体重増

加がみられないこともある。3 児童期から思春期に、思春期から若年成人に成長していくことを常に念頭におき、成長

に伴う病態や治療反応性の変化に応じた治療戦略を立てる。

【解説】

児童・思春期の定義(年齢)はさまざまである。世界保健機関(WHO)ではadolescent を10~19歳と定義、「児童の権利に関する条約」(1990 年)では子どもを18 歳未満と定義しているほか、わが国では児童に関する法律の多くが18 歳未満と定義している。また、米国国立医学図書館(National Library of Medicine:NLM)が作成するシソーラスでは、preschool を2~5 歳、child を6~12 歳、そしてadolescent を13~18 歳と定義している。本ガイドラインでは、「児童・思春期」を6~18 歳と定義した。しかし、検索では広くエビデンスを集積することを目的に、6~18 歳と限定せず、「child」「adolescent」に関する用語を用いて論文をスクリーニングした。さらに、CQ4-3~4-5 においては、病態の曖昧な児童・思春期うつ病に対して、複数の不明瞭な診断概念を包含する「うつ状態」を対象とした研究ではなく、DSM またはICDの診断基準に基づき「うつ病」または「持続性抑うつ症」と診断された児童・思春期の患者を対象とした研究に限って検討した。

1  評価・診断において考慮すべき点

診察場面では、はじめに外観、見当識、行動、感情と気分、思考内容、家族との関係性を評価する

1)。子どもはきちんと質問をしなければ症状を伝えてくれない。抑うつ症状の評価には、構造化面接を自然な形で面接に取り入れ、抑うつ症状を網羅的に聴取する必要がある2)。児童期の後半から思春期にかけての反抗期で、特に親に無理に連れてこられた場合、機嫌が悪くて会話が成立しないことがある。そのような場合でも、治療者は常に興味をもって接し、好きな食べ物やアニメ・漫画、ゲームなどの答えやすい話題から会話を始めるのも1 つであろう3)。「なんでも話しなさい」などの過度に言語的な交流の要求や期待は、不安や緊張を高め、治療に対して拒否的になる可能性がある。子どもの話を親がじっと聞いていられるのか、途中で割り込んでこないのかなどにも注目することも親子関係を評価する1 つの方法である。

診断に際して、目の前の子どもにうつ病の存在を疑った場合には、まずはいじめや虐待などの有無を評価し、一般身体疾患(貧血や甲状腺機能低下症など)の存在を除外することが必要である。また、抑うつの有無にかかわらず、自殺の危険性について評価することも必要である4)。

児童・思春期うつ病では自閉スペクトラム症
p.101
(Autistic Spectrum Disorder:ASD)や注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: ADHD)といった神経発達症の併存がみられやすく、その鑑別も必要となる2,3)。そのため、発達歴と生育歴の詳細な情報が必要となる(表1)。発達特性が存在する場合、うつ病の発病前からそれらの特性が存在したかを確認する。抑うつ症状がいつ頃から顕在化し、日常生活に困難をもたらしていたのかを丁寧に評価する1)。

また、児童・思春期では、双極症の鑑別も必要となる。児童・思春期にうつ病と診断した場合でも、その後の経過において躁病エピソードを発症するリスクも念頭におく必要がある6)。特に双極症の家族歴を有する場合はその経過を注意深く観察する必要がある3)。

このように、児童・思春期の未熟な言語表現、家庭環境、学校生活などに注意をはらい、それぞれの年代特有の心性も勘案した上で診断を確定する。児童・思春期の子どもの治療を考えるときに、年代特有の両価性に満ちた集団論を含めた思春期心性への理解が必要となる(表2)3)。

2  臨床的特徴

児童・思春期うつ病も、DSM-5-TR の成人の診断基準7)に基づく。規定された症状の存在は「ほとんど一日中」「ほとんど毎日」であることが求められるため、学校以外では元気にしている場合は、その基準を満たさない1)。また、児童期のうつ病では、成人の診断基準にある「抑うつ気分」の代わりに、易怒的な気分がみられることがある。また、「体重減少」の評価は実際に体重が減っていなくても、成長期に期待される体重増加が認められな

い場合があることには注意が必要である。「思考力・集中力の減退」についても、児童期では急激な成績の低下に集中力の低さが反映されることもありうる7)。児童・思春期うつ病の臨床的特徴を表3に示す。

3 成長を考慮した治療戦略

うつ病の発症年齢をみると、14 歳、18 歳、25 歳以前の発症割合はそれぞれ、3.1%、13.2%、36.9%であり、ピーク年齢が19.5 歳であった9)。すなわち、うつ病は思春期から若年成人期に向けて急激に増加する。うつ病の発症にはさまざまな因子が関与していると考えられており、子どもの成長のなかで、上述の精神発達の水準、虐待歴などの家庭環境、学校生活の変化などを、注意深く観察する必要がある10)。児童・思春期うつ病の治療は、薬物療法だけでなく、心理社会的治療や家族療法など、他の治療法も併用することが、より効果的な治療を提供することにつながる2,3)。そのため、学校や福祉機関を含めた多機関による多職種連携を基本とした総合的な治療アプローチが重要である。児童精神科医、心理職、看護師、ソーシャルワーカー、教師など、多職種が連携して患者をサポートする体制を整える準備を、日頃からしておくべきである。虐待体験を有している場合には、児童相談所や市町村との連携が必須となる。そのため、医療機関としては可能な範囲で精神療法を継続しながら、安全と安心が担保される環境調整を心掛ける姿勢が重要である。
p.102
【文献】

1)宇佐美政英:III.疾患別 K.社会心理学的疾患 う

つ病・うつ状態.小児内科 55:857-861, 2023 2)傳田健三:「子どものうつ病」再考.児童青年精医

と近接領域 57:415-424, 2016 3)宇佐美政英:児童精神科医の臨床覚え書.じほう,

2025 4)Hilt RJ & Nussbaum AM:DSM-5-TR® Pocket

Guide for Child and Adolescent Mental Health. American Psychiatric AssoCIation Publishing, Washington DC, 2022〔髙橋三郎 (監訳),染矢俊幸,江川純(訳):DSM-5 児童・青年期診断面接ポケットマニュアル.医学書院,2018〕5)三上克中:子どもの心の評価.中村和彦(編集).

子どものこころの診療のコツ研究のコツ.金剛出版,2023 6)Malhi GS, Jadidi M, Bell E:The diagnosis of bipolar

disorder in children and adolescents:Past, present and future. Bipolar Disord 25:469-477, 2023 7)American Psychiatric AssoCIation:Diagnostic and

Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed, text revision(DSM-5-TR). American Psychiatric Association Publishing, Washington DC, 2022〔日

本精神神経学会(日本語版用語監修),髙橋三郎,大野裕(監訳),染矢俊幸,神庭重信,尾崎紀夫,他(訳):DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,2023〕8)Rey JM, Bella-Awusah TT, Liu J:Chapter E. 1

Mood Disorders :Depression in children and adolescents. In Rey JM, Martin A (eds):JM REY’s IACAPAP e-Textbook of Child and Adolescent Mental Health. International AssoCIation for Child and Adolescent Psychiatry and Allied Professions, Geneva, 2015 https://iacapap.org/_Resources/Persistent/98025 9fe362d0601a2f540fa2e929d26c002d567/E.1- Depression-Japanese-2016.2.pdf (2025.7.15 参照) 9)Solmi M, Radua J, Olivola M, et al:Age at onset

of mental disorders worldwide:large-scale metaanalysis of 192 epidemiological studies. Mol Psychiatry, 27:281-295, 2022 10)Thapar A, Eyre O, Patel V et al:Depression in

young people. Lancet, 400:617-631, 2022
p.103
表1 生育歴・発達歴の評価の一部(三上. 2023 より作成)

妊娠中の問題ウイルス感染、妊娠中毒症、飲酒、喫煙、在胎週数など出産時の問題出産方法、体重(低出生体重児など)、産科合併症〔特に脳の虚血

(仮死分娩など)〕

身体発達定頸、はいはい、歩き始め、離乳、排泄訓練言語発達単語の話し始め、2 語文、3 語文社会性の発達新生児微笑、社会的微笑、後追い、人見知り、興味の共有(共同注

意、社会的参照)、模倣、ごっこ遊び、反抗期(第1)、要求と交渉、近接と分離、ギャングエイジ、反抗期(第2)、自我同一性

生育歴・発達歴を評価する場合、通常は妊娠や出産時の様子、身体発達、言語発達、社会性の発達を時系列に沿って確認する。

表2 子どもの発達期と思春期心性(宇佐美. 2025 より作成)

前思春期Preadolescence 10~12 歳児童期(潜伏期)と思春期の移行期であり、身体の急速な

成長が始まる。

思春期前期Early Adolescence 12~15 歳第二次性徴が始まり、身体的な変化が顕著になる。思春期中期Middle Adolescence 15~18 歳身体的成熟が進み、異性への関心が高まる。思春期後期Late Adolescence 18~20 歳自己認識が深まり、職業選択や将来の目標設定が重要にな

る。

後期思春期Postadolescence 20~30 歳青年期から成人期への移行期であり、精神的な自立が進

む。

思春期心性:前思春期に入った子どもは、身体の急激な変化、親からの分離・自立、仲間集団との交流、異性との交流、社会参加の方向性の模索などのさまざまな発達上の課題に直面し、自己の同一性の確立への道筋を進む.このとき、前思春期の子どもに生じる不安に対する防衛に寄与し、発達の強力な推進力になるのは仲間集団がある。
p.104
表3 児童・思春期うつ病の臨床的特徴(Rey・Martin. 2015 より作成)

児童期思春期・易怒性(かんしゃく発作、不従順)・気分に反応性がある・不安、行動の問題、ADHD が併存する場

合が多い・身体的愁訴・易怒性(不機嫌、敵意、イライラしやす

い、怒りの爆発)・気分に反応性がある・過眠・食欲増加と体重増加・身体的愁訴・拒絶に対する極端な敏感さ(例:けなさ

れている、または批判されていると誤って受け取る)によって、例えば、対人関係の維持が困難になる
p.105
CQ4-2児童・思春期うつ病の治療法はなにか

【要約】1 うつ病の治療は、家族への心理教育、環境調整、そして支持的精神療法が基礎的介入と

なる。2 精神療法を行う場合には、認知行動療法(CBT)またはコンピュータ支援認知行動療法(CCBT)、対人関係療法(IPT)を行うことを提案する。3 薬物療法は有害事象に注意しつつ、新規抗うつ薬を使用することを選択肢のひとつつと

する。4 その他の治療として、運動療法(有酸素運動と複合運動(例:エアロビクスとレジスタ

ンス運動の併用))を選択肢のひとつつとする。【解説】(図1)

1 基礎的介入

児童・思春期におけるうつ病の発症には、学校でのストレス、家庭内の問題、生活リズムの乱れ、逆境体験、親子関係の問題などが影響する1)。児童・思春期うつ病の治療においては、家族への心理教育を行い、環境要因がある場合には環境調整を行う2,3)。治療を行う際には、子どもとの関係性が極めて重要であり、治療者は患者が子どもであっても一個人として尊重した態度で接することを忘れてはならない。さらに、保護者との関係性を良好に保つことが重要であることは言うまでもない2)。このように、子どもや家族との治療者関係の構築が、支持的精神療法を行う上でも重要となる。基礎的介入は、個々の患者の状況やニーズに応じて適切に組み合わせ、子どもの発達経過、進級・進学などの環境の変化も含めた定期的な評価が必要である。

2 精神療法

成人と同様に児童・思春期においても精神療法〔個人またはコンピュータ支援認知行動療法(computerized cognitive behavioral therapy : CCBT )、対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy:IPT)〕の一定の有効性が示された

ため、行うことを提案する。しかしながら、わが国ではCBT やIPT を実施できる人材や実施体制の整備は不十分である。精神療法を行う場合には、患者の症状や背景に応じて適切な技法を選択し、治療関係や治療動機の形成を含めた導入過程にも十分な配慮が求められる。

精神療法についてはCQ4-3 を参照されたい。

3 薬物療法

基礎的介入や精神療法を試みた後に、必要な場合には有害事象に注意しつつ、新規抗うつ薬を使用することを選択肢のひとつとする。児童・思春期うつ病に対する新規抗うつ薬の使用は、DSM-5- TR やICD を用いた正確なうつ病診断が前提であり、患者ごとに各新規抗うつ薬の有効性と安全性のバランスを十分に考察・評価した上で、使用すべきか否かを慎重に検討する必要がある。また、わが国では児童・思春期を対象とした臨床試験において有効性と安全性が確認され、適応を取得した新規抗うつ薬がない。加えて、多くの臨床研究で自殺の危険性がある患者は臨床試験から除外されることについても留意する必要がある。
p.106
自殺の危険性が高いなど緊急の対応が必要な場合や、症状が重度の場合には、入院による適切なモニタリングが可能な環境下で薬物療法を実施することが望ましい。

難治性の児童・思春期うつ病に対しては、治療への反応不良に関連する因子(例:服薬アドヒアランスの低さ、誤診、持続する否定的なライフイベント、併存症の存在など)を再検討する必要がある。抗うつ薬による初回治療が奏効しない患者には、別の抗うつ薬に切り替えるか、CBT の追加を検討することになろう4)。児童・思春期の治療抵抗性うつ病(TRD)に対する有効性を示す治療法として、反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)、電気けいれん療法(ECT)、およびケタミン(適用外)の有効性が10 件の観察研究を用いたメタ解析論文によって示唆されるも5)、DTD(難治性抑うつ)への介入の有効性を支持するエビデンスは未だ不十分である4-6)。

児童・思春期うつ病では再発および治療中断を予防するために、寛解後少なくとも6 か月間の維持期治療および慎重な経過観察を行うことが有用とされている7)。重症度が高い、持続期間が長い、または再発回数が多い場合には、1 年~数年以上

の長期間の維持期治療が有用であることが示唆されている4-6)。

思春期に発症したうつ病の再発率は非常に高く、長期的なフォローアップが必須である6)。そのため、成人期への移行も念頭においた支援が必須であり、児童精神科医のみならず、成人を対象とした精神科医師、心理職、看護師、精神保健福祉士、作業療法士などの専門職が、地域の専門機関と協力して包括的な治療を提供する体制が重要である。

薬物療法についてはCQ4-4 を参照されたい。

4 その他の治療

児童・思春期うつ病に対するその他の治療としてさまざまなものが報告されているが、いずれも対照と比較して有効性に欠けるか、または、情報が不十分である。運動療法として有酸素運動と複合運動(例:エアロビクスとレジスタンス運動の併用)は児童・思春期うつ病の治療としてのひとつの選択肢となりうる。

その他の治療についてはCQ4-5 を参照されたい。
p.107

        
p.108
【文献】

1)Thapar A, Eyre O, Patel V, et al:Depression in

young people. Lancet 400:617-631, 2022 2)宇佐美政英:III.疾患別 K.社会心理学的疾患 う

つ病・うつ状態.小児内科 55:857-861, 2023 3)傳田健三:「子どものうつ病」再考.児童青年精医

と近接領域 57:415-424, 2016 4 )Birmaher B, Brent DA :Depressive and

Disruptive Mood Dysregulation Disorders. In: Dulcan MK(ed):Dulcan's Textbook of Child and Adolescent Psychiatry. pp245-276, American Psychiatric Association Publishing, Washington, DC, 2021 5 )Faries E, Mabe LA, Franzen RL, et al :

Interventional approaches to treatment resistant depression (DTR) in children and

adolescents:A systematic review and metaanalysis. J Affect Disord 367:519-529, 2024 6)Walter HJ, Abright AR, Bukstein OG, et al:

Clinical Practice Guideline for the Assessment and Treatment of Children and Adolescents With Major and Persistent Depressive Disorders. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 62:479-502, 2023 7)Kato M, Hori H, Inoue T et al:Discontinuation

of antidepressants after remission with antidepressant medication in major depressive disorder :a systematic review and metaanalysis. Mol Psychiatry 26:118-133, 2021
p.109
CQ4-3児童・思春期うつ病に精神療法は有用か

【要約】

●児童・思春期うつ病に対して、認知行動療法(CBT)またはコンピュータ支援認知行動療法(CCBT)、対人関係療法(IPT)を提案する。●国内で実施可能な精神療法は限定的である。●精神療法を行う場合には、患者の症状や背景に応じて適切な技法を選択し、治療関係や治療動機の形成を含めた導入過程にも十分な配慮が求められる。

【解説】

1はじめに

児童・思春期のうつ病に対する治療では、家族への心理教育や環境調整といった、心理社会的治療に加えて精神療法を行うことになる1)。本CQでは、児童・思春期うつ病に対して、精神療法を行うことの益と害について検討した。

2方法対象(P)は児童・思春期うつ病、介入(I)は精神療法、対照(C)は、それぞれの臨床試験で対照とされた群、通常治療群、待機リスト群とした。転帰(O)は、益として抑うつ症状の改善度(重要度9)、寛解率(重要度8)、機能障害の改善度(重要度7)、QOL の改善度(重要度7)、害としては自殺関連行動(重要度9)、あらゆる有害事象の出現(重要度9)、または、採用された論文の定義する転帰を用いることとし、研究デザインを無作為化比較試験(RCT)のシステマティックレビューと設定した。

3結果システマティックレビューを行った結果、2 本のネットワークメタ解析が同定され2,3)、網羅的に精神療法の有効性を評価したネットワークメタ解析3)を採用した。このネットワークメタ解析には精神療法あるいは心理社会的治療をあわせて10種類の介入(芸術療法、CBT、CCBT)、心理教育、

家族療法、対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy:IPT)、マインドフルネス認知行動療法(Mindfulness-Based Cognitive Therapy : MBCT)、身体運動、問題解決療法(Problem- Solving Therapy:PST)、支持療法〕が包含されているが、本CQ では構造化された精神療法について検討した。なお、精神療法以外の心理社会的治療についてはCQ4-5 で取り上げることとした。

基準を満たした研究(N=32、n=2,677)の解析に組み入れた精神療法のうち、対照群と比較した研究は、CBT(N=5、n=439)、CCBT(N=3、n=182)、IPT(N=6、n=268)、PST(N=2、n =143)、MBCT(N=2、n=72)、その他(N=9)であり、また、精神療法同士の直接比較をした研究は5 本であった。対象者の年齢は7~18 歳、65%が女性で、半数以上の222,462 人が欧米諸国からの参加者であり、治療期間は6~54 週であった。ネットワークメタ解析の結果、IPT (標準化平均差-1.38、95%信頼区間 -2.56~-0.20)、CCBT (標準化平均差 -1.36、95%信頼区間 -2.59~- 0.14)、 CBT(標準化平均差 -1.16、95%信頼区間 -2.15~-0.18)は対照と命名された群および待機リスト群と比較して、有意に抑うつ症状の軽減が確認された。MBCT の有効性は確認されなかった(標準化平均差 -0.74、95%信頼区間 -2.42
p.110
~0.90)。また、IPT はさらに、通常治療群に対しても有意に抑うつ症状を軽減した(標準化平均差-0.94、95%信頼区間 -1.72~-0.17)。その他に設定したアウトカムについては、本解析では評価されていなかった。また、本研究に含有された個々のRCT においても、抑うつ症状の変化以外のアウトカムについてほとんど評価されていなかった。害に関するアウトカムについては、本解析および既報の複数のメタ解析においても、十分な根拠をもって報告されておらず2,4,5)、信頼できる結論を導くには至らなかった。

4要約の作成

児童・思春期のうつ病に対して、CBT またはCCBT およびIPT の3 つの構造化された精神療法は、いずれも対照群と比較して、自己評価または他者評価による全般的な抑うつ症状の改善において有効であることが示された。これらの知見に対するエビデンスの強さは中(B)と評価された。しかし、害についてのアウトカムを扱う研究はほとんどなく、慎重な解釈が必要と考えられた。

以上を踏まえ、児童・思春期うつ病に対してCBT、CCBT、IPT は一定の効果が期待できることから、推奨決定会議においてはこれらを行うこ

とを「弱く推奨する」との結論に至った。ただし、児童・思春期うつ病治療としての構造化された精神療法は、現時点で実施可能な医療機関が限られている。加えて、わが国において保険適用されている精神療法がCBT などの一部の療法に限定されている点は、制度上の課題である。これらの制約は、CCBT やオンライン形式のCBT にも同様に当てはまる。(後続治療CQ9、トピックス2「うつ病に対する精神療法」の項参照)

なお、今回のメタ解析ではCBT、CCBT、そしてIPT の有効性が示されたものの、わが国で一般的に行われている支持的精神療法の有効性や、異なる精神療法間の効果の違いについては不明である。精神療法を行える体制の整備が不十分であるといった国内の医療環境も考慮し、本CQ に対しては「推奨」とせず、「提案する」となった。推奨決定会議での結果1 回目1 行うことを強く推奨する:5% 2 行うことを弱く推奨する:90% 3 行わないことを弱く推奨する:5% 4 行わないことを強く推奨する:0%

【文献】

1)傳田健三:「子どものうつ病」再考.児童青年精医

と近接領域 57:415-424, 2016 2 )Bjornstad G, Sonthalia S, Rouse B, et al :A

comparison of the effectiveness of cognitive behavioural interventions based on delivery features for elevated symptoms of depression in adolescents:A systematic review. Campbell Syst Rev, 20(1):e1376, 2024 3 )Liang JH, Li J, Wu RK, et al :Effectiveness comparisons of various psychosoCIal therapies

for children and adolescents with depression:a Bayesian network meta-analysis. Eur Child Adolesc Psychiatry, 30:685-697, 2021 4)Viswanathan M, Kennedy SM, McKeeman J, et al:

AHRQ Comparative Effectiveness Reviews. Treatment of Depression in Children and Adolescents:A Systematic Review. Agency for Healthcare Research and Quality (US), Rockville,
p.111
2020 5)Zhou X, Teng T, Zhang Y, et al:Comparative

efficacy and acceptability of antidepressants, psychotherapies, and their combination for acute treatment of children and adolescents with

depressive disorder :a systematic review and network meta-analysis. Lancet Psychiatry 7 : 581–601, 2020
p.112
CQ4-4児童・思春期うつ病に抗うつ薬は有用か

【要約】

●児童・思春期うつ病に対しては、有害事象に注意しつつ、新規抗うつ薬を使用することをひとつの選択肢とする。●新規抗うつ薬は、正確にうつ病と診断された患者に対して、それぞれの有効性と安全性の特徴を十分に理解した上で、使用するか否かについて慎重に検討する。●児童・思春期を対象としたわが国の臨床試験では、いずれの新規抗うつ薬の有効性も認められず、適応を取得していないことに留意する必要がある。

【解説】

1はじめに

児童・思春期うつ病に対しては、心理社会的治療や精神療法を試みた後に、必要な場合には有害事象に注意しつつ、抗うつ薬による薬物療法が行われる。児童・思春期うつ病に対する抗うつ薬の使用は、DSM やICD を用いた正確なうつ病診断が前提であり、患者ごとに各抗うつ薬の有効性と安全性のバランスを十分に考察・評価した上で、使用すべきか否かを慎重に検討する必要がある。本CQ では、児童・思春期うつ病に対して、抗うつ薬を用いることの益と害について検討した。

2方法

対象(P)は児童・思春期うつ病、介入(I)は抗うつ薬、比較(C)はプラセボ、転帰(O)は、益として抑うつ症状の変化(重要度9)、寛解率(重要度8)、機能障害の改善度(重要度7)、QOL の改善度(重要度7)、害としては自殺関連行動(重要度9)、すべての有害事象(重要度9)、または採用された論文の定義する転帰を用いることとした。なお、文献の検索では広くエビデンスを集積することを目的に、対象の年齢を18 歳未満と限定せず、「child」「adolescent」に関する用語を用いて論文をスクリーニングし、「うつ病」はDSM またはICD の診断基準に基づくものとした。また、国内で行われた臨床試験については、わ

が国で登録された臨床試験を「臨床研究等提出・公開システム」(https://jrct.mhlw.go.jp)にて本CQに合致する臨床試験を検索した。

3結果

システマティックレビューの結果、2 本のネットワークメタ解析が同定された。1 本1)は、新規抗うつ薬のみが包含されていた。他方2)は、三環系抗うつ薬(TCA)およびモノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬も評価されていたが、エビデンスの質が低いとの評価であった。そのため、本CQに関しては前者の結果をもとに検討した。

このネットワークメタ解析1)では、標準化された診断基準を用いてうつ病と診断された児童・思春期の患者(6~18 歳)を対象に、新規抗うつ薬の有用性を検討したRCT が包含されていた。益のアウトカムは症状の変化〔抑うつ症状(医師評価)〕および反応または寛解〔抑うつ症状、抑うつ症状の重症度(自己評価)、または機能〕、害のアウトカムは自殺関連事象またはすべての有害事象の出現頻度で評価された。主要評価項目は、構造化または半構造化診断面接を実施した臨床医によって確立された、DSM またはICD の基準によるうつ病性障害を満たす児童・思春期における症状の変化
p.113
〔抑うつ症状(医師評価)〕および自殺関連行動(自殺念慮、自殺企図)であった。

このネットワークメタ解析には26 本のRCT(n =5,750)が包含された。Children's Depression Rating Scale-Revised(CDRS-R)によって評価される「抑うつ症状の変化」に関しては、プラセボと比較して、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)(標準化平均差-2.30、95%信頼区間 - 3.20~-1.39)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)(標準化平均差-1.59、95%信頼区間 -3.02~-0.17)は有意に改善した。ミルタザピン(標準化平均差-2.79、95%信頼区間-6.64~1.07)の有効性は明らかではなかった。寛解もしくは反応に関しては、プラセボと比較して、SSRI(オッズ比1.28、95%信頼区間 1.10~1.49)、SNRI(オッズ比 1.63、95%信頼区間 1.24~2.14)ともわずかに寛解/反応を増加させた。

「自殺関連行動」については、SSRI(オッズ比1.30、95%信頼区間 1.04~1.63)はプラセボと比較して有意に増加させたが、SNRI(オッズ比 1.22、95%信頼区間 0.90~1.67)およびミルタザピン(オッズ比 0.50、95%信頼区間=0.03~8.04)はプラセボとの間に有意差を認めなかった。

また、「すべての有害事象」については、SSRI(オッズ比 1.47、95%信頼区間 1.16~1.87)はプラセボと比較して有意に増加させたが、SNRI はプラセボとの間に有意差を認めなかった(オッズ比 1.16、95%信頼区間 0.77~1.73)。また、ミルタザピンの結果は報告されていなかった。

その他に設定したアウトカムについては、本解析ではアウトカムと設定されていない、メタ解析に含まれたRCT で報告されていない、または報告されていても定義したアウトカムと異なる内容であったため採用しなかった。

4要約の作成

本検討では、児童・思春期うつ病に対する新規抗うつ薬の有効性と安全性について評価を行った。SSRI とSNRI は児童・思春期うつ病に対して抑う

つ症状の改善に一定の効果が期待されるものの、プラセボとの差はわずかであり、引用したネットワークメタ解析においては、受容性や忍容性に関する評価は実施されていなかった。また、児童・思春期という多因子の影響を受けやすい発達段階にあることを踏まえると、診断の不確実性や個別の反応性の違いにも十分な配慮が必要であり、抗うつ薬の使用に際しては、DSM やICD などの診断基準に基づいて、うつ病と正確に診断された患者に対して適用すべきであると考えられた。

さらに、自殺関連事象のリスクも重要な懸念事項であり、本解析においてもSSRI 使用群で自殺関連行動がやや多く認められた。多くの試験においては、試験参加時に自殺リスクの高い患者が除外されていたため、当該アウトカムの低頻度はその影響を受けている可能性がある。

一方、わが国の「臨床研究等提出・公開システム」に登録された児童・思春期うつ病を対象とする臨床試験は5 件あり、そのうち4 件がすでに終了している。そのうち、デュロキセチン(jRCT2080223678 )とエスシタロプラム(jRCT2080224520)の第III相臨床試験においては、以下のような結果が得られている。デュロキセチンに関しては、投与開始6 週後のCDRS-R 合計得点のベースラインからの変化量の調整平均値(標準誤差)は、デュロキセチン群で-21.03 (2.04)、プラセボ群で-22.42(2.05)であり、両群の差は1.39(95%信頼区間 -3.30~6.08)と、プラセボに対する優越性は示されなかった3)。また、デュロキセチンの継続長期投与試験(jRCT2080223797)は中止されている。エスシタロプラムの第3 相試験では、主要評価項目である再燃までの期間は、エスシタロプラム群はプラセボ群よりも数値的には長い期間であったが、統計学的な有意差が認められなかった(p=0.051)。プラセボ群のエスシタロプラムに対する再燃に関するハザード比の推定値は、2.96(95%信頼区間
p.114
0.94~9.30)であった4)。

これらの結果を踏まえ、新規抗うつ薬の使用を検討する際には、患者ごとに薬剤の「益」と「害」のバランスを個別に評価し、十分なインフォームド・コンセントおよびアセントを取得することが不可欠である。また、使用に際しては有害事象の出現に対して十分な注意が必要である。なお、抗うつ薬の具体的な使用法や留意点については、CQ4-2 に詳細を記載している。

以上より、児童・思春期うつ病に対しては、有害事象に注意しつつ、新規抗うつ薬を使用することをひとつの選択肢とし、使用に際しては、正確にうつ病と診断された患者に対して、各々の有効性と安全性の特徴を十分に理解した上で、慎重に検討するとした。

【文献】

1)Hetrick SE, McKenzie JE, Bailey AP, et al:New

generation antidepressants for depression in children and adolescents:a network metaanalysis. Cochrane Database Syst Rev 5 : CD013674, 2021 2)Viswanathan M, Kennedy SM, McKeeman J, et

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in Japan :A Randomized Double-Blind Placebo-Controlled Clinical Trial Followed by an Open-Label Long-Term Extension Trial. J Child Adolesc Psychopharmacol, 32, 132-142,

2022 4)Saito T, Takahashi H, Tsujii N, et al:Efficacy

of Preventing Relapse Evaluated by a Multicenter Randomized Double-Blind Placebo-Controlled Withdrawal Study of EsCItalopram in Japanese Adolescents with Major Depressive Disorder. J Child Adolesc Psychopharmacol 33, 418-427, 2023
p.115
CQ 4-5児童・思春期うつ病に対してその他の有用な治療は何か

【要約】

●基礎的介入後のその他の治療として、運動療法〔有酸素運動および複合運動(例:エアロビクスとレジスタンス運動の併用)〕をひとつの選択肢とする。●その他の治療としてさまざまなものが報告されているが、いずれの治療法も対照と比較して有効性に欠けるか、または、その情報が不十分である。

【解説】

1はじめに

児童・思春期うつ病に対する治療では、基礎的介入後の治療として、薬物療法や精神療法を検討することが多い。しかし、これらの治療効果のエビデンスは必ずしも十分とはいえず、その他の治療介入を検討する場合も少なくない。本CQ では、児童・思春期うつ病に対して、既存の治療以外に有用と考えられる、その他の治療の益と害について検討した。

2方法

対象(P)は児童・思春期うつ病、介入(I)はその他の有用な治療、対照(C)はそれぞれの臨床試験で対照と命名された群、通常治療群、待機リスト群とした。アウトカム(O)は、益として、抑うつ症状の改善度(重要度9)、寛解率(重要度8)、機能障害の改善度(重要度7)、QOL の改善度(重要度7)、害としては自殺関連行動(重要度9)、あらゆる有害事象の出現(重要度9)、または、採用された論文の定義する害の転帰を用いることとした。研究デザインを RCT のシステマティックレビューと設定した。

3結果

システマティックレビューの結果、児童・思春期うつ病に対する運動療法の有効性を検討したネットワークメタ解析が同定された1)。この解析には35 本の研究(n=5,393)が包含された。運動療

法は、以下の4 種類に分類されていた。1有酸素運動(ランニングなどの持続的または低強度の間欠的運動)、2レジスタンス・トレーニング(自重または外部抵抗を用いた筋力運動)、3グループ運動(サッカーやバスケットボールといったチームスポーツ)、4低~中強度の複合運動(武道、ヨガ、エアロビクス、またはエアロビクスとレジスタンス運動の併用)。

解析の結果、抑うつ症状の改善効果は、有酸素運動が最も高く、次いでグループ運動、レジスタンス運動、複合運動(例:エアロビクスとレジスタンス運動の併用)の順にランクされた。ペアワイズ・メタ解析においても、有酸素運動(標準化平均差 -0.36、95%信頼区間 -0.59~-0.12)およびマルチモーション運動(標準化平均差 -0.24、95%信頼区間 -0.45~-0.03)は対照群と比較して抑うつ症状の有意な改善を示した。運動療法としては、週3 回×12 週間(1 回に40~50 分間)の実施が最も効果的であると報告されていた。一方、本解析には高リスクのバイアスを含む研究が複数存在し、全体として異質性も高いと評価された。加えて、日本人を対象とした研究は含まれていなかった。また、児童・思春期うつ病への非薬物療法および薬物療法の有効性を評価したメタ解析2)では、運動療法のほか、オメガ3 脂肪酸やスピリチュア
p.116
リティに基づくオンラインセッションなどが検討されていた。その結果、これらの介入は抑うつ症状の改善に有効である可能性が示唆されたが、対象となったRCT 数が限られており、エビデンスの質はいずれも低い、あるいは不十分と判断された。

4要約の作成

児童・思春期うつ病に対するその他の治療としてさまざまなものが報告されているが、いずれの治療法も対照と比較して有効性に欠けるか、また

は、その情報が不十分であった。運動療法に関しては、ネットワークメタ解析があり、エビデンスに限界はあるものの、運動療法〔有酸素運動と複合運動(例:エアロビクスとレジスタンス運動の併用)〕は児童・思春期うつ病に一定の有効性が示されているため、ひとつの選択肢となりうるとした。

【文献】

1)Li J, Zhou X, Huang Z, et al:Effect of exerCIse

intervention on depression in children and adolescents:a systematic review and network meta-analysis. BMC Public Health 23:1918, 2023 2)Viswanathan M, Kennedy SM, McKeeman J, et al: AHRQ Comparative Effectiveness Reviews.

Treatment of Depression in Children and Adolescents :A Systematic Review. Agency for Healthcare Research and Quality (US), Rockville, 2020
p.117
第 5 章 周産期うつ病CQ5-1周産期うつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか【要約】1妊娠中・産後に抑うつ状態を経験する女性の有病率はおおよそ10%程度である。2強い不安、精神症性の特徴、イライラ、強迫などの特有な精神症状が前景に立つことに留意する。3鉄欠乏や甲状腺機能低下の有無など、身体疾患の評価を行う。4双極症との鑑別を考慮する。5周産期うつ病のリスク因子を評価する。【解説】

1 定義と疫学

気分エピソードは妊娠中または産後に発症しうる。DSM-5-TRでは、現在または直近の抑うつエピソードが妊娠中または出産後4週間以内に起こっている場合に「周産期発症」の特定用語が追記される1)。ただし、産後うつ病(postpart um depression:PPD)に関しては、「産後1年までに発症したもの」と定義される場合もある2)。周産期発症に限定したうつ病の有病率は明らかとはなっていないが、妊娠中・産後に抑うつ状態を経験する女性の有病率はおおよそ10%程度と考えられる3,4)。

2 臨床的特徴

周産期のうつ病はうつ病の診断基準を満たすことは前提であるが、いくつかの特有な症状が前景に立ち、一般的なうつ病とは病状が異なることがある。強い不安とパニック発作、精神症性の特徴を伴うこと1)、涙もろさや児の健康を過剰に心配し、強迫的な行動をとること、常にイライラし否定的な気分となるなどが特徴とされる2)。これらの症状を周産期うつ病によるものとして捉えることが、治療導入のきっかけと

なりうる。

3 身体疾患の評価

妊婦のうち約3~5%は妊娠に伴って甲状腺機能が低下することが知られている5)。甲状腺機能低下は妊娠中や産後の抑うつ気分を引き起こしうる。妊娠中または産後数週間に抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体陽性の女性は、有意に産後の抑うつ状態のリスクが増加するとしたメタ解析6)も報告されており、これらを鑑みると、周産期に始まった抑うつ状態には甲状腺機能の評価は重要である。

レストレスレッグス症候群(restless legs syndr ome:RLS)は、妊婦の15~25%に認められ、非妊娠時の2~3倍起こりやすいことが報告されている7)。RLSは抑うつ状態に関連し、非妊婦での研究であるものの、RLSの治療により抑うつ気分が改善したという報告もある8)。妊娠時のRLSの原因の1つに鉄欠乏があり、国際RLS研究グループによるコンセンサスガイドラインでは、妊娠中のRLSに対しては血清フェリチンが75ng/m L未満ならば、鉄剤で鉄を補充することを推奨し
p.118
ている7)。なお、産後の貧血と産後うつ状態との関連も指摘されている9)。以上より、周産期の抑うつ状態に対しては、治療開始に際して、甲状腺機能と貧血関連値〔ヘモグロビン、フェリチン、血清鉄、総鉄結合能(TIBC)など〕を評価する。

4 双極症との鑑別

双極症は20代で発症することが多く、双極症の好発時期と妊娠可能な時期は重なる。また、出産が双極症の発症の起点となることもある。P PDを呈した患者の21.4~54%が双極症であったと同時に、うつ病と診断されていた女性の6.5%が産後6か月以内に軽躁・躁状態を呈していたとの報告がある10)。周産期のみならずうつ病全般にいえることであるが、周産期うつ病でも常に双極症は念頭において治療にあたる必要がある。5 リスク因子の評価

周産期うつ病は、さまざまなリスク因子が明らかとなっている。リスク因子として知られているものとしては、教育歴の低さ、家族の経済困難、精神疾患の既往、家庭内暴力、妊娠中の喫煙や飲酒などがある11)。また、PPDのリスク因子として、月経前症候群(premenstrual syndr ome:PMS)や意図しない妊娠が挙げられている12)。これらのリスク因子を把握しておくことで、ソーシャルワーカーや保健師などと連携して心理社会的な支援が行える。

なお、自治体への妊娠届出時に保健師等がこれらのリスク因子を把握していることも多い。妊娠期から行政と連携した心理社会的支援を進めることが重要である。

【文献】

1)American Psychiatric Association(原著),髙

橋三郎,大野 裕(監訳),染矢敏幸,他(訳):DSM-5-TR 精神疾患の分類と診断の手引.医学書院,2023. 2)Van Niel MS, Payne JL : Perinatal depression:

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p.119
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factors of postpartum depression and depressive symptoms: umbrella review of current evidence from systematic reviews and meta-analyses of ob servational studies. Br J Psychiatry 221 : 591-60 2, 2022
p.120
CQ5-2周産期うつ病に対する治療法はなにか

【要約】1周産期の抑うつ状態に対しては認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)を行う。2中等度以上のうつ病に対しては抗うつ薬で治療する。3妊娠前のみならず、妊娠してからでもプレコンセプションケアに準じた対応を行う。4産後うつ病(PPD)は、エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)などを参考に自殺

リスクを含めた評価を行う。

【解説】

周産期うつ病に対する治療の概要

周産期うつ病の治療に対してはさまざまなガイドラインが発表されているが、治療に関してはガイドライン間で十分なコンセンサスが得られていない1)。しかしながら、非妊娠時のうつ病と同様に、重症度によって治療が変わることについては一致した見解が得られている。

1 精神療法

周産期を対象とした研究においては、操作的診断基準に基づいてうつ病と診断されている報告は少なく、また、周産期の実臨床においても、診断基準の充足にかかわらず介入が行われることが一般的である。より包括的な「抑うつ状態」に対してはCBTや対人関係療法(interpersonal psychoth erapy:IPT)の有用性が示されている(CQ5-4を参照)。

2 薬物療法

反復性や重症のうつ病患者が、その治療中に妊娠した場合、抗うつ薬を継続することで、再発率は下がることが示されており、一方で抗うつ薬使用による児への悪影響(形態異常や神経発達症のリスクなど)は限定的である。さらに、ほとんどの抗うつ薬は、授乳による乳児への曝露量は低い。このため中等度以上のうつ病については、薬物療法も考慮する(CQ5-3、CQ5-5を参照)。薬

物療法を行う場合は単剤による治療が望ましい。治療の導入にあたっては、それぞれの治療についてのベネフィットやリスクを説明し、医療者の提案を伝え、患者・家族の意見を聞いた上で共同して治療方針を決定する、共同意思決定(SDM)を行うことが重要である。SDMを行う際に有用なのがプレコンセプションケアの概念である。

3 プレコンセプションケア

プレコンセプションケアの「コンセプション(conception)」は「妊娠・受胎」を意味する。プレコンセプションケアの定義はさまざまなものがあるが、厚生労働省は「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」のなかで、プレコンセプションケアを「女性やカップルを対象として、将来の妊娠のための健康管理を促す取り組み」として定義している2)。プレコンセプションケアは字義通り捉えると妊娠「前」のケアとなるが、世界保健機関(WHO)は、プレコンセプションケアを広義にとって、妊娠が成立する前後3か月に介入する「ペリコンセプションケア(periconception care)」と、産後から次回妊娠の間に介入する「イントラコンセプションケア (intraconception care)」も含むとしている。また、英語で妊娠を示す“pregnancy” を
p.121
用いず “conception”を使用する意義としては、“p re-pregnancy”は妊娠直前という意味合いが強くなるため、より期間を広く捉えられる“pre-conce ption”が採用されている3)。したがって、妊娠してからうつ病となった症例に対しても、プレコンセプションケアに準じた対応を行うことに意義がある。表1に周産期うつ病の女性に対するプレコンセプションケアの実践例を示す。これらを説明することで治療の導入が行いやすくなる。

妊娠期のうつ病に対する治療は、原則、非妊娠期と同様に中等度以上であれば抗うつ薬を使用する。その際は「うつ病の既往がない初回エピソード」なのか「うつ病の再発、もしくは現在うつ病の治療中」であるのかによって導入の仕方を工夫する。

うつ病の既往がない初回エピソードの場合、リスク因子の評価およびプレコンセプションケアを行い、薬物療法が必要と考えられる場合には薬物療法に対する患者の考えをよく聞く。患者にためらいがある場合には、無理に薬物療法を開始するのではなく、十分に時間をとって考えてきてもらうような対応をすることで、治療開始後のアドヒアランスを維持できる可能性が高くなる。

うつ病の再発、もしくは現在うつ病の治療中の場合、リスク因子の評価・プレコンセプションケアと同時にこれまでの治療歴を聴取する。周産期に特化して有効とされる抗うつ薬はないため、過去に効果のあった抗うつ薬を検討する。

妊娠中の抗うつ薬についてはCQ5-3、精神療法についてはCQ5-4を参照されたい。

4 産後のケア

産後については、エジンバラ産後うつ病自己評価票(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EP DS)が参考になる。現在、国内では、産後2週間および4週間健診で助産師・保健師によってEPD Sが実施されている。EPDSは30点満点で、わが国では産後4週間で9点以上の場合、産後うつ病(Postpartum Depression:PPD)の可能性が高いとされている4)。自治体では生後4か月までに全数を訪問し、その多くで母親のEPDSが実施されている。臨床の現場では総合得点ではなく、個々の項目にどう答えているかに着目することができる。例えば、6番目の質問「することがたくさんあって大変だった」が高得点の場合、本人に対するサポートが希薄である可能性があり、このような場合ソーシャルワーカーを介して支援体制を整えることで抑うつ症状が軽減する場合がある。また、10番の「自分自身を傷つけるという考えが浮かんできた」は自殺念慮を評価する項目である。ここが高得点な場合は、自傷・自殺のリスクが高いと考えて対応することが必要である。

産後にうつ病の初回エピソードで精神科に紹介されてくる場合、中等度以上である場合が多く、薬物療法が必要になる可能性が高い。産後の抗うつ薬治療についてはCQ5-5を参照されたい。軽度の場合は、精神療法が主体の介入となる。CQ5-4を参照されたい。
p.122

        
p.123
表1 精神科医から患者・家族へのプレコンセプションケアの実践例

【文献】

1)Falek I, Acri M, Dominguez J, et al : Managem

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 妊娠中・産後にうつ病となった場合、適切な治療を行い、うつ病を早く治療することがお母

さんにもお子さんにもプラスとなることが知られています。 軽度のうつ病の場合、抗うつ薬は必ずしも必要ないと考えられています。中等度以上のうつ

病の場合、抗うつ薬による治療が有効です。 抗うつ薬を飲んでいると、お子さんの身体の形態異常(奇形)や発達に影響が出るのではな

いかと心配されるかもしれません。しかし、抗うつ薬を飲んでいない方と比べて違いがないことがわかっています。 抗うつ薬を飲んで出産した場合、出産後、数日間お子さんが眠くなったり、ぴくつきが出た

りすることがありますが、様子を見ることでよくなることが知られています。 一方、うつ病の治療をせずに抑うつ状態が強いままだと、早産やお子さんが低出生体重で生

まれる可能性が高くなることが示されています。また、抑うつ状態が強い状態では、思うように育児できなくなります。一緒に相談しながら治療方針を決めていきましょう。 授乳と薬は両立できる場合が多いです。調子がよい状態で育児ができるように相談しながら

やっていきましょう。 妊娠・育児に関してひとりで悩まないようにしましょう。家族や病院・クリニックの助産

師、地域の保健師など、さまざまな人のサポートを上手に受けられるようにお手伝いしていきます。
p.124
CQ5-3妊娠中のうつ病に抗うつ薬は有用か

【推奨】妊娠中のうつ病に、抗うつ薬を使用することを弱く推奨する(2C)。【推奨文】うつ病の治療中に妊娠した場合、抗うつ薬を継続することで、再発率は下がる(C)。未治療のうつ病が、児の早産や発育不全を生じさせるリスクがある(C)。妊娠中の抗うつ薬の使用により、胎児の形態異常、児の神経発達症(自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症)は増加しない(C)。新生児不適応症候群(PNAS)は起こる可能性があるが、予後は良好で経過観察で回復するものが多い(C)。以上より、妊娠中のうつ病に、抗うつ薬を使用することを弱く推奨する(2C)。

【解説】

1.はじめに

妊娠中の抗うつ薬内服による児への影響について、最初に各種抗うつ薬と形態異常についての知見を紹介した後に、抗うつ薬が妊娠経過(流産・早産・胎児発育不全など)、新生児不適応症候群(Poor Neonatal Adaptation Syndrome:PNA S)、新生児遷延性肺高血圧症(persistent pulmo nary hypertension of the newborn:PPHN)、児の神経発達に及ぼす影響について述べる。

2.方法

対象者(P)を、妊娠中のうつ病患者、介入(I)を抗うつ薬の使用、コントロール(C)を抗うつ薬の未使用とした。益のアウトカム(O)は、再発の減少(重要性9)、害のアウトカム(O)は、胎児のすべての有害事象の増加(重要性9)、児の発達の遅れの増加(重要性9)、新生児の入院の増加(重要性8)とした。妊娠中の女性に対する抗うつ薬の研究において、無作為化比較試験(RCT)は倫理上の観点から行われていないため、n=1,000以上の大規模コホート研究、システマティックレビュー、メタ解析の検索を行っ

た。

3 結果

1 抗うつ薬の中止による母親のうつ病の再発

抗うつ薬による治療で寛解しているうつ病の女性が、妊娠判明後に服薬を中断すると再発リスクが高まることが知られている。メタ解析では、妊娠中の抗うつ薬中断によりうつ病全体の再発リスクが有意に高まるとはいえないが、重症または反復性のうつ病の場合には、抗うつ薬中断による再発のリスク比が2.3(N=2、n=147、95%信頼区間 1.58~3.35、継続群25.6%:中断群67.7%)と有意に高いことが報告されている1)。

2 うつ病を治療しないことによる児への影響

うつ病を治療しないことで早産・胎児発育不全のリスクが増加するというシステマティックレビュー2)があり、抑うつ状態が早産・胎児発育不全に影響する可能性を示唆している。
p.125
3 抗うつ薬と児の形態異常 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)

大規模コホート研究(n=949,504)によると、健常な母親と比較すると、妊娠第1三半期のSSRI内服により、児の先天性心疾患のリスクが上昇するが、比較対照群をうつ病患者でSSRIを内服していない妊婦とし、さらに交絡因子を調整すると、SSRIを内服している妊婦でも、児の先天性心疾患の有意なリスク増加は認められなかった3)。他のメタ解析でも、妊娠第1三半期のSSRI使用により、児の形態異常や先天性心疾患のリスクは増加するものの、比較対照群をSSRIを内服していない精神疾患を抱える妊婦に限定すると、SS RIを内服している妊婦から出生した児に有意なリスク増加は認められなかった4)。このように近年の報告では、共変量を考慮すると、SSRIの内服は児の形態異常や先天性心疾患のリスクを大きく増加させることはないという結果が示されている。なお、パロキセチンに関しては、用量について妊娠第1三半期のパロキセチン服用者すべてを対象とした解析において、児の先天性心疾患と有意な関連は認めなかったが、パロキセチン25mgを超えた用量で解析すると、統計的に有意に関連したとする報告がある5)。このため、妊娠中の女性にパロキセチンを処方する際は、可能な限り低い用量を検討する必要がある。

 セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害

薬 (SNRI)/ミルタザピン/ボルチオキセチン妊娠中のベンラファキシンおよびデュロキセチン使用は、児の形態異常のリスクを有意に増加させなかったというシステマティックレビュー6)がある。ミルナシプランについては、妊娠中の使用に関する研究報告はない。ミルタザピンについても、妊娠中の使用による児の形態異常のリスクは有意に増加しないというシステマティックレビューがある7)。ボルチオキセチンは少数例(n=1 7)の報告に限られるが8)、出産に至った11例中、双子1組を含む12例で児の形態異常は認めら

れなかった。

 三環系抗うつ薬(TCA)/四環系抗うつ薬/その

他の抗うつ薬2000~2007年に登録された米国の調査報告では、妊娠第1三半期にTCAに曝露された5,954例において、共変量を調整の有無にかかわらず、先天性心疾患の有意なリスク増加はみられなかった3)。マプロチリン曝露後の児77例、ミアンセリン曝露後の児36例の形態異常発生率の増加はみられていない9)。多施設共同観察前向きコホート研究で、妊娠第1三半期にトラゾドンに曝露された女性221例の妊娠転帰を、SSRIに曝露された女性86 9例の転帰と比較したところ、児の大きな形態異常の有意なリスク増加は認められなかった10)。

4 抗うつ薬が妊娠経過(流産・死産・早産・胎

児発育不全)に及ぼす影響抗うつ薬と妊娠経過については一致した見解は得られていない。その理由の1つにうつ病そのものが妊娠経過に影響を及ぼす可能性が挙げられる。抗うつ薬の使用にかかわらず、妊娠中のうつ病は早産のリスクと有意に関連しているという報告がある11)。抗うつ薬が流産・死産・早産・胎児発育不全に及ぼす影響を調べたレビューでは、複数の報告で結果が一致しておらず、コンセンサスは得られていない12)。

5 新生児不適応症候群 (PNAS)

PNASとは、胎内で薬に曝露された新生児に、哺乳不良、下痢、嘔吐、呼吸困難、筋トーヌス異常、その他の神経学的徴候や体温不安定が起こる症候群である13)。「新生児薬物離脱症候群」ともよばれるが、離脱だけでなく、薬物の直接作用などさまざまな因子が影響している可能性があるため、総称してPNASとよぶ。何らかの抗うつ薬に胎内で曝露した児のPNAS発生率は、曝露して
p.126
いない児と比べてオッズ比 5.07(N=8、n=95 9、95%信頼区間 3.25~7.90、第1三半期抗うつ薬群45.1%:対照群15.6%)で有意にPNASの発生率が高いというシステマティックレビューがある14)。しかし、一方でPNASは一過性で治療を要しなかったとも報告されている15)。

なお、PNASの予防としては、妊娠第1三半期に抗うつ薬の用量を標準範囲内に留め、高用量(添付文書における最高用量)を使用しないこと、多剤にしないことが提案されている13)。高用量や多剤を使用しなければならないような状況においては、出産後に児を速やかに診察できる小児科医がいる施設での出産が望ましい。

6 新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)

PPHNとは、出生後に胎児循環から新生児循環への移行が適切に行えず、結果として肺血管の抵抗が異常に高まり、低酸素性の呼吸不全が生じる症候群である16)。メタ解析によれば、PPHN発生率は、SSRI群と未使用群との比較において、妊娠初期の使用では統計的な関連がなかったが、妊娠後期の使用では、オッズ比 2.50(N=5、n= 2,843,319、95%信頼区間 1.32~4.73、SSRI曝露群 0.35%:対照群0.10%)と有意に増加していた17)。しかし、リスク差としては、1,000出生児あたり2.9~3.5と低値であった。その後、複数のメタ解析でも、オッズ比は有意に高いが、リスク差は小さいと報告されている18,19)。

5 抗うつ薬と児の神経発達症の関連妊娠中の抗うつ薬使用と自閉スペクトラム症

(Autistic spectrum disorder:ASD)および注意欠如・多動症(Attention-deficit/hyperactivit y disorder:ADHD)のリスクとの関連について、複数のメタ解析が行われている。妊娠中の

SSRIまたはSNRIの使用は児のASDと関連するが、妊娠前のみ使用した場合でも同様に、児のASDの有意なリスク増加が認められ、抗うつ薬以外の未測定な交絡因子による影響を指摘しているメタ解析がある20)。ADHDについても同様の分析があり、一部の研究では妊娠中の抗うつ薬曝露との有意な関連が認められるものの、妊娠前の曝露や他の交絡因子の影響も指摘されている20,21)。最近の大規模な研究では、妊娠中の抗うつ薬使用と神経発達症全般、さらに、A SD、ADHDのリスク増加との有意な関連は認められなかった22)。

4.推奨文の作成

妊娠中の抗うつ薬使用は胎児の形態異常や神経発達症のリスクは増やさないこと、出生直後にPNASが起きるリスクはあるが一過性であること、妊娠中のうつ病未治療が児の早産や発育不全につながるリスクがあることなどを勘案すると、妊娠中であっても抗うつ薬によるうつ病の治療を行うことは母子ともに有用であることが期待される。一方で、RCTがなく、観察研究がほとんどであった。以上より妊娠中のうつ病に、抗うつ薬を使用することを弱く推奨する(2 C)とした。

5.推奨決定会議の結果1回目行うことを強く推奨する:9%行うことを弱く推奨する:91%行わないことを弱く推奨する:0%行わないことを強く推奨する:0%
p.127
【文献】

1)Bayrampour H, Kapoor A, Bunka M, et al : Th

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p.129
CQ5-4周産期の抑うつ状態に精神療法は有用か

【要約】

1 周産期の抑うつ状態に対して認知行動療法(CBT)を提案する。2 抑うつ傾向にある産婦に対して簡易型認知行動療法(簡易型CBT)を選択肢のひとつと

する。3 軽度~中等度の周産期の抑うつ状態に対して対人関係療法(IPT)および、周産期うつ

病のための対人関係療法(集団療法、短期療法含む)は有用であるが、日本では提供の機会が限られる。

【解説】

周産期を対象とした研究においては、操作的診断基準に基づいてうつ病と診断されている報告は少なく、また、周産期の実臨床においても、診断基準の充足にかかわらず介入が行われることが一般的である。そのため、本CQでは対象を「うつ病」ではなく、より包括的な概念である「抑うつ状態」とした。

周産期の抑うつ状態に対する非薬物療法のシステマティックレビューおよびメタ解析では、CBTおよび対人関係療法(Interpersonal Psycho therapy:IPT)の有用性が示されている1)。日本ではCBTおよびIPTの提供機会は限られているものの、エビデンスを共有する目的で紹介する。

認知行動療法(CBT)

周産期の抑うつ状態に対するシステマティックレビューとメタ解析では、CBTは周産期うつ病の抑うつ症状に対して中程度の改善効果(N =26、n=4,658、標準化平均差 -0.53)があることが示されている2)。また、メンタルヘルス専門職(心理職など)が標準的CBTを行うほうが、看護師やピアサポーターなどが介入するよりも高い効果が得られることも報告されている。ただし、このメタ解析は研究間の異質性が高いことから、結果の解釈には注意が必要であ

る。

メンタルヘルス専門職によるCBTは有効である一方、メンタルヘルス専門職以外の医療職(助産師・看護師・保健師など)が実施する、簡易型(低強度:low intensity)CBTの有用性もまた報告されている。簡易型CBTでは、CBTの治療原理に基づく短時間の面接や、セルフヘルプ資材の利用支援などを指す。看護師による簡易型CBTの有効性を検証したRCT3)では、エジンバラ産後うつ病自己評価票(Edinburgh Postn atal Depression Scale:EPDS)で9点以上13点未満を示す産後抑うつ傾向にある初産婦(n=11 3)を対象として、看護師による6週間の簡易型CBTを実施したところ、通常ケア群(n=115)と比較して介入後の抑うつ症状、不安症状が有意に減少し、睡眠への自覚的評価が有意に高くなった。また、産後うつ病(Postpartum Depres sion:PPD)発症率も有意に低かった。今後、助産師や保健師が通常業務として行う保健指導や訪問ケアに、簡易型CBTを組み合わせ導入していくことが可能となれば、出産や育児によって外出が制限され、治療を求めにくい環境にある妊産婦に、必要とされるメンタルヘルスケアを提供しやすい点で有益である。ただし、わが
p.130
国での非専門家による簡易型CBTについては、トレーニングや実施環境の整備などが十分でないため、今後の発展が期待される。

周産期の女性は、出産や育児で外出が制限されることから、セルフヘルプのためのインターネットを用いたCBT(Internet-based CBT:iCB T)やガイドブックが有用である。周産期の抑うつ・不安に悩む女性は、その精神症状および治療を求めることに抵抗感を示し、自ら求めず、適切な支援へつながることが難しい傾向がある4,5)。セルフヘルプのガイドブックは物理的にも心理的にもアクセスしやすく、コストの点においても有用性が高い。

対人関係療法(IPT)

Interpersonal Psychotherapy for perinatal Depr ession: IPT-Pは、IPTを周産期うつ病用に修正された治療法である(IPTに関してはトピックス2「うつ病に対する精神療法」の項を参照)6)。周産期は大きな役割の変化の時期であり、その際には重要他者との不和を抱える場合もあるため、IP Tが役立つ可能性がある。IPT-Pは、一般的なIP Tの治療原理に基づいて実施されるが、対人関係に関する情報収集の際に重点を置く点や選択され

る問題領域が特徴的である。

個人療法のみならず、周産期の抑うつに対するグループ療法(IPT-G)は、予防的治療としても用いられている7)。IPT-Gには、対象者同士の精神的支え合い、治療の継続率向上が期待できる。また、グループ療法での治療後2年間、抑うつ状態が持続する人が対照群に比べて有意に少なかったというデータもある8)。海外では産科などの医療機関また健康保健を取り扱う行政機関などで、IPT-Gが多く実施されている。

IPTの有効性は十分に示されているものの、わが国では提供できる施設が限られていることが課題となる。わが国においては、トレーニング機関として、2007年からわが国で活動をしている対人関係療法研究会(IPT-JAPAN)が、近年、国際対人関係療法学会(International Societ y of Interpersonal Psychotherapy:isIPT)と正式に連携し、研修や実施に有益な情報の提供、各レベルに応じたワークショップなどを開催している。なお、海外においては、isIPTが公式のトレーニング機関である。

【文献】

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p.132
CQ5-5産後うつ病に抗うつ薬は有用か

【要約】

1 産後うつ病(PPD)に対して必要に応じて抗うつ薬を使用することを提案する。2 ほとんどの抗うつ薬は、授乳による乳児への曝露量は低い。

【解説】

抗うつ薬による産婦への影響

産後うつ病(Postpartum Depression:PPD)は、産婦の約105%に認められる。未治療のPPDは、母と児の双方に影響を及ぼす。母は児に対する関心を失ったり母乳育児ができなかったりする1)。また、PPDでは自殺のリスクが上昇する。スウェーデンでの大規模コホート研究では、PPDの女性の自殺関連行動は有意に高かった2)〔ハザード比 3.15(95%信頼区間 2.97~3.35):PPD群1, 000人年あたり5.62:対照群1,000人年あたり1.0 1〕。母のPPDは児の発達に影響することも報告されている3)。そのため、PPDは治療することが望ましい。

PPDに対する抗うつ薬の有効性を検討したシステマティックレビュー4)によると、多くの研究はSSRIで、4週~12週の治療期間であった。メタ解析を行うと、SSRI(セルトラリンとパロキセチン)はプラセボに比べて、反応率(N=4、n=20 5、リスク比1.27、95%信頼区間 0.97~1.66、SS RI群55%:プラセボ群 43%)、および寛解率(N=4、n=205、リスク比 1.54、95%信頼区間0.99~2.41、SSRI群 42%:プラセボ群 27%)と、それぞれ数値的には一定の差が認められたものの、統計学的には有意ではなかった。一方、抑うつ症状は有意に改善していた(N=4、n=251、標準化平均差 -0.30、95%信頼区間 -0.55~-0.0 5)。有害事象については、研究ごとにばらつきがあり、メタ解析は行われなかったが、SSRIとプラセボで忍容性(すべての理由による中断率)は同等であった(N=4、n=233、リスク比 1.10、

95%信頼区間 0.74~1.64、SSRI群 27%:プラセボ群 27%)。SSRI以外の抗うつ薬との比較や心理社会的介入と抗うつ薬との比較については、十分なエビデンスがなかった。なお、本システマティックレビューの限界として、研究数が少ないこと、方法論的に弱いこと、より重度のPPDの女性に対するエビデンスが少ないことが述べられている。なお、2025年にカナダ気分・不安障害治療ネットワーク(CANMAT)による周産期の気分症、不安症および関連疾患に対するガイドラインが発表されている。そのなかでは、授乳婦に用いる抗うつ薬の第一選択としてcitalopram、エスシタロプラム、セルトラリンが、そして第二選択薬としてbupropion、desvenlafaxine、デュロキセチン、fluoxetine、フルボキサミン、ミルタザピン、ベンラファキシンが、第三選択薬としてパロキセチン、クエチアピン、トラゾドン、doxepin以外の三環系抗うつ薬(TCA)が挙げられている5)。以上より、PPDに対して必要に応じて抗うつ薬を使用することを提案する。

なお、海外ではPPDに対してzuranoloneが利用できる。こちらに関してはトピックス7「今後期待される治療」の項を参照されたい。

抗うつ薬による乳児への影響

一般的に抗うつ薬の授乳中の使用は安全と考えられており、ほとんどの研究では児の血中濃度は低いあるいは検出できなかった6)。薬の内服が母
p.133
乳にどの程度移行するかについては、相対的乳児投与量(Relative infant dose:RID)が1つの指標となる。RIDは、(児が母乳を通じて摂取する薬の量)/(当該薬剤の児の治療用量、もしくは母親の体重あたりの内服量)×100で定義される。つまり、RIDは、母乳経由で摂取する薬剤量が児の治療用量の何割程度かという指標である。RIDが10%以上だと、児に影響する可能性があると考えられている6)。わが国で処方される抗うつ薬のRIDはいずれも10%未満である(表)7)。表に主

な抗うつ薬のRIDを示す。以上より、ほとんどの抗うつ薬は、授乳による乳児への曝露量は低いと考えられる。しかしながら、母のアミトリプチリン10mg/日の内服により、児が哺乳困難および過鎮静となった症例報告8)もあることから、抗うつ薬を服薬しながら授乳する場合は、乳児の傾眠や哺乳困難などを観察するように指導することが望ましい9)。

表 主な抗うつ薬の相対的乳児投与量(RID) (文献7をもとに作成)

薬剤名RID (%)

エスシタロプラム5.2~7.9セルトラリン0.4~2.2パロキセチン1.2~2.8フルボキサミン0.3~1.4デュロキセチン0.12~1.12ベンラファキシン6.8~8.1ミルタザピン1.6~6.3ボルチオキセチン1.22~1.85アミトリプチリン1.08~2.8イミプラミン0.1~4.4クロミプラミン2.8ノルトリプチリン1.7~3.36マプロチリン1.4トラゾドン1.06~2.8
p.134
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p.135
第6 章 老年期うつ病

CQ 6-1老年期うつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか【要約】1 身体疾患や脳器質性疾患による抑うつ状態、低活動型せん妄、アパシーとの鑑別を行い、認知症への移行や合併に注意する。2 老年期うつ病の臨床的特徴(自殺念慮、精神運動焦燥、心気症、身体症状が特徴的で、

再発率が高く、低栄養やフレイルに注意が必要)を理解しておく。3 さまざまな喪失体験を背景とした老年期心性に配慮する。4 加齢による薬物動態および薬物感受性の変化により有害事象が出現しやすいため、注意

する。

【解説】(図1)

引用した文献によって「老年期」の定義(年齢)が異なるが、本章の「老年期」とは概ね65 歳以上を指す。

1 鑑別診断および認知症との関連

老年期うつ病では、特に身体疾患や脳器質性疾患による抑うつ状態との鑑別が重要である。また、低活動型せん妄との鑑別を要する場合もある1)。抑うつ状態と低活動型せん妄との臨床的鑑別のポイントを表1 に示す2)。

さらに、老年期の抑うつ状態と混同されやすいのがアパシーである。アパシーは脳器質性疾患にしばしばみられ、抑うつ状態と併存する場合も多いが、両者は病態メカニズムや治療・対応が異なるので、両者の鑑別は重要である1)。抑うつ状態とアパシーの臨床的鑑別のポイントを表2 に示す3,4)。

また、うつ病と認知症の併存や、認知症への移行に注意が必要である4)。55 本の観察研究を組み入れたメタ解析によると、認知症全体の15.9%、アルツハイマー型認知症の14.8%、脳血管性認知

症の24.7%、レビー小体型認知症の21.5%にうつ病が合併していたことが報告されている6)。長期のコホート研究から、抑うつエピソードが認知症の前駆状態や危険因子である可能性も指摘されている7-9) 。35 万人以上の50〜70 歳を対象とした前向きコホート研究から、うつ病患者は健常者に比して認知症の発症リスクが50%増加し、うつ病に対する治療が認知症発症を予防する可能性が示された 10) 。近年提唱されたレビー小体型認知症の前駆状態(prodromal)の研究用診断基準では、軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)、せん妄発症(delirium onset:DO)、精神症状発症(psychiatric onset:PO)の3 つの発症タイプが示されており11)、老年期発症のうつ病はPO のレビー小体型認知症との鑑別も要する。

2 臨床的特徴

老年期うつ病でも中核症状は抑うつ気分、興味・喜びの喪失、自殺念慮、悲観である12)が、成人早
p.136
期のうつ病と比較した調査では、老年期うつ病では、精神運動焦燥、心気症、一般的なものと消化器系の身体症状の有症率および重症度が高いという違いがあった13)。60 歳以上を対象とした、67 本の無作為化比較試験(RCT)を組み入れたシステマティックレビューとメタ解析では、さまざまな治療介入における治療反応に関して、高齢であること、治療開始時に重度であること、不安症状の合併、現在のエピソードが長いこと、身体疾患の合併、遂行機能障害の存在などは、治療反応性不良の予測因子であり、治療早期の反応は治療反応性良好の予測因子であることが示されている 14)。また、老年期うつ病は成人早期のうつ病と比べて再発率が高いことが報告されている15,16)。2016 年の世界における自殺死亡率(人口10 万人当たりの自殺者数)は、全年齢層では11.1 人であるのに対して、75 歳以上では21.0 人であった17)。他の年齢層に比べ老年期の自殺率が高いことは繰り返し指摘されており18,19)、自殺への注意が必要である(CQ1-8 参照)。老年期うつ病では、食事量の低下に伴う低栄養や、筋力と心身の活力が相互に低下するようなフレイルが日常生活に及ぼす影響に注意が必要である20)。

3 心理的配慮

老年期うつ病の治療では、さまざまな喪失体験を背景とした老年期心性に対して、十分な受容的・共感的態度を示すことが重要である。すなわち、身体的機能の低下、社会的役割の縮小、近親者との死別などを比較的短期間に複数体験し得るとい

うことである。また、独居あるいは同居の家族がいてもその家族自体が患者への対応ですでに疲弊していることも多く、環境調整はとても重要である。家族に対しても共感的態度を示しつつ、老年期心性への理解を促すことが必要である21,22)。

4 加齢による薬物動態および薬物感受性の変化

老年期では、薬物有害事象の発生率が成人早期に比べ非常に高く、65 歳以上では他の年齢層の2倍と想定される23)。加齢性変化について表3 に示す。向精神薬を投与する際は、現在の全身状態(肝・腎・心機能障害の有無)や併用薬との相互作用を確認する。そして漫然と処方せず随時有効性と有害事象を評価しながら各向精神薬の特性を踏まえ用量を調節することが重要である。老年期の患者に抗うつ薬を使用する際には、抗うつ薬の一般的な副作用(CQ3-2 参照)に加え、心血管リスク24)、低ナトリウム血症25)、転倒26,27)、そして選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)による出血リスク〔特に非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)や抗血小板薬の併用時)〕28)などに注意を要する。多くの抗うつ薬はシトクロムP450(cytochrome P-450:CYP)を介して肝臓で代謝されるため(詳細はトピックス6「抗うつ薬の薬物相互作用」の項を参照)、身体治療目的の薬剤との相互作用にも注意が必要であ

る29)。
p.137
表1 抑うつ状態と低活動型せん妄の臨床的鑑別のポイント(岡島美朗,2013 より作成)

抑うつ状態低活動型せん妄

発症様式亜急性(週単位)急性(時間〜日単位)

臨床経過持続性

日内変動(午前中の不調)動揺性

日内変動(特に夜間の悪化)

持続期間長期間(週〜月単位)短期間(時間〜週単位)

意識正常低下、動揺性、見当識の障害

知覚目立たない錯覚、幻覚(特に幻視)

思考抑制錯乱、夢幻様

脳波所見正常全般性徐波化
p.138
表3 加齢による薬物動態および薬物感受性の変化

(押淵英弘,2017 より作成)

薬物動態吸収消化管機能が低下するが、吸収への影響は少ない

分布細胞内水分が減少するため水溶性薬剤の血中濃度が上昇しやすい

脂肪量は増加するため脂溶性薬剤が蓄積しやすい

代謝肝血流量の低下、肝細胞数の減少、酵素活性の低下、肝細胞に薬を運搬する薬物トランスポータ

ーの減少により代謝が低下するため、肝代謝率の高い薬剤で血中濃度が上昇しやすい

排泄腎血流量の低下、腎機能低下、腎機能障害によって腎排泄型薬剤の血中濃度が上昇しやすい

脳血液関門のP 糖タンパク質発現低下によって脳から静脈への薬剤排泄が遅延しやすい消化管のP 糖タンパク質発現低下によって体内各組織からの薬剤排出が遅延しやすい胆汁分泌遅延によって排出が遅延しやすい

薬物感受性加齢により上昇する
p.139
【文献】

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p.141
CQ 6-2老年期うつ病に対する治療はなにか

【要約】1 軽度から中等度の患者に対しては、精神療法を行うことを提案する。2 中等度から重度の患者に対しては、有害事象に注意しつつ、抗うつ薬による治療を行う

ことを強く推奨する。3 初期治療に成功しない患者に対しては、前治療薬に反応がない場合や、忍容性が不良な

場合などには抗うつ薬の変更を考慮し、前治療薬に部分的な反応がある場合は、補助療法(特にアリピプラゾール)を考慮する。抗うつ薬の併用は、睡眠や食欲の改善などを目的に、少量投与にとどめることが望ましい。4 薬物療法の治療効果が得られない患者に対してはECT やrTMS を考慮する。5 運動療法や高照度光療法、オメガ3 不飽和脂肪酸による食事療法もそれぞれ選択肢のひとつとなる。6 寛解後少なくとも1 年は維持期治療を行い、その後の維持期治療期間は再発リスクや患

者家族の希望を考慮して決定することを提案する。

【解説】

1 精神療法

軽度から中等度の老年期うつ病に対して、精神療法を行うことを提案する。ただし、重度の老年期うつ病に対する有効性のエビデンスはない。

個別の精神療法に関しては多くのメタ解析の報告がなされており、認知行動療法(CBT)1-7),マインドフルネス8)、問題解決療法9)、回想療法/ライフレビュー療法9-13)、行動活性化技法14)の有効性が示されている。一方、メタ解析では対人関係療法の有効性は示されていない。

ネットワークメタ解析15)によると、症状の改善度に関して各精神療法群間での統計的有意差はなかったが、有効性のランキングは、最も高かったのがライフレビュー療法、それ以降は、CBT、複合心理療法、マインドフルネス、行動活性化技法、認知療法の順で高かった。受容性は、ライフレビュー療法が行動活性化技法より高かった。この結果から、老年期うつ病にはライフレビュー療法が

最も有用性の高い最良の精神療法だと考えられるが、実際の臨床場面では、実施の可能性や患者の好みなどさまざまな要素を考慮して精神療法を選択することとなる。

うつ病の重症度について、精神療法は軽度〜中等度のうつ病に対しては抗うつ薬と同等の効果量を示しており、中等度より軽度のほうがその効果は大きいと報告されている16)。むしろ重度の患者では精神療法が心理的負担にならないような配慮も必要である。精神療法の介入期間、回数、集団/個人については、一貫した結果は得られていない。

老年期うつ病の精神療法については、CQ6-3 を参照されたい。

2 薬物療法

メタ解析では中等度から重度の老年期(65 歳以
p.142
上、精神病症状を伴わない)のうつ病に対して、抗うつ薬の有効性が示されているが、忍容性と安全性には懸念があった17)。しかし、特に重度の老年期うつ病では自殺や身体的問題〔脱水、栄養、日常生活動作(activities of daily living:ADL)低下など〕のリスクが高く、さらに悪化した場合の転帰に重大な懸念があることから、中等度から重度の患者には有害事象に注意しつつ、抗うつ薬を使用することを強く推奨する。老年期うつ病の抗うつ薬治療については、CQ6-4 を参照されたい。

65 歳以上のうつ病患者を対象にした44 本のRCTs を包括して行われた、抗うつ薬の有用性を検討したネットワークメタ解析において18)、有効性アウトカム(反応率:うつ症状の50%以上の改善、寛解率、うつ症状の改善度)に関してプラセボに勝ったのは、デュロキセチン(反応率、寛解率)、ボルチオキセチン、ミルタザピン(寛解率)、エスシタロプラム(抑うつ症状の改善度)、イミプラミン(反応率、抑うつ症状の改善度)、クエチアピン(反応率、寛解率)であった (ペアワイズメタ解析の結果を含む)。これらの抗うつ薬のなかで、すべての理由による治療中断率に関してプラセボと有意差を認めた薬はなかったが、有害事象による治療中断率はエスシタロプラム、デュロキセチン、クエチアピンがプラセボより高かった。また日本人老年期うつ病に対してミルタザピンとSSRI の有効性と安全性を比較したRCT のポストホック解析では、ミルタザピンがSSRI より効果発現が早く、有害事象としての吐き気や排尿障害の頻度が低いことが示された19)。これらの結果による有効性と安全性を考慮すると、老年期うつ病に対する抗うつ薬としては、新規抗うつ薬(特にミルタザピンとボルチオキセチン)が提案される。

いずれの抗うつ薬も、高齢患者に対して使用する際には有害事象に注意を要する(CQ6-1 参照)。なお上述したネットワークメタ解析では、クエチアピン徐放錠(適用外)の単剤使用(50〜300mg/

日、中央値158.7mg/日)が反応(リスク比 :2.09)、寛解(リスク比 :2.38)ともにプラセボに対して有意な有効性を示し、反応については10 の抗うつ薬と、寛解についても11 の抗うつ薬との比較で有意な優位性を示していた18)。有害事象による脱落はプラセボより有意に多いが(リスク比 :2.76)、国内で承認されている各抗うつ薬と比較して有意な差はなかった。この結果から老年期うつ病に対する急性期治療において、クエチアピン単剤治療 (適用外)は選択肢のひとつとなり得る。

3 DTD(難治性抑うつ)

初期治療を行っても十分に反応しない場合は、抗うつ薬の変更(変薬)、抗うつ薬を追加する補助療法、抗うつ薬以外の薬物を追加する補助療法のいずれかを行うことが一般的である。

変薬については、老年期うつ病を対象とした抗うつ薬変更の有効性と安全性に関するエビデンスレベルが高い研究はないが、多剤併用を回避できるというメリットがある。まず前治療薬に対して忍容性や安全性が不良の場合には、変薬すべきである。また前治療薬に反応がない場合には、 「効果を実感していない薬を飲み続ける」という心理的ストレスも考慮すれば、変薬を提案できる。

補助療法については、老年期うつ病に対してアリピプラゾール20,21)と炭酸リチウム22,23)の有効性を示すエビデンスがあるが、有効性のエビデンスと安全性の観点からは、アリピプラゾールによる補助療法が提案される。

抗うつ薬の補助療法については、老年期うつ病を対象とした有効性のエビデンスはほぼ存在せず、多剤併用による有害事象の増加の懸念がある。ゆえに睡眠や食欲の改善などを目的に抗うつ薬を併用する際にも、可能な限り少量の投与にとどめることを提案する。
p.143
老年期DTD に対する薬物治療については、

CQ6-5 を参照されたい。

4 ニューロモデュレーション

老年期うつ病に対する電気けいれん療法(ECT)の有効性と安全性も指示されている26-28)。このため、日本精神神経学会等が提唱するECT の適応基準を満たす場合は、ECT の実施も提案される。ECT により寛解した患者においては、薬物治療や精神療法で寛解の維持ができないなど、ほかに代替えとなる有効な治療がない場合には、ECT と薬物治療の併用による維持治療も提案される29,30)。また、老年期うつ病に対して反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)は、シャムと比較して高い有効性が示され24)、かつ全体的な安全性も高いことが示されている25)。このため、薬物療法による治療効果が得られない老年期うつ病に対する急性期治療の1 つとしてrTMS が提案される。

老年期うつ病のニューロモデュレーションについては、CQ6-6 を参照されたい。

5 その他の治療

老年期うつ病や抑うつ状態に対するその他の治療として、運動を行うことが可能で、運動する意志のある軽度の患者には運動療法も提案される31,32)。ただし運動の種類や強度については一定の見解が得られていないので、患者の状態や好みに合わせて、無理のない範囲で行うべきである。そ

のほかに高照度光療法の高い有効性と高い安全性が示されており33)、有用と考えられる。エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid :EPA)やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA)などのオメガ3 不飽和脂肪酸による食事療法もエビデンスは限定的であるが、有効性を示す報告もあり34)、有害事象はきわめて少ないことから、一定の有用性があると考えられる。

老年期うつ病のその他の治療についてはCQ6-7を参照されたい。

6 維持期治療

老年期うつ病は再燃・再発しやすいことが知られているが35,36)、抗うつ薬による維持療法により再燃・再発は予防できる可能性がある37)。薬物療法の継続とうつ病の再発に関するメタ解析では、老年期の患者においても抗うつ薬の継続が再発を予防することが示されている38)。持続療法によって1 年間寛解が続けば、初発エピソードであれば漸減中止を、2 回目のエピソードであればさらに1年間は維持療法の継続を、そして3 回目以上のエピソードであればさらに2 年以上、または無期限で維持療法を継続すべきというエキスパートコンセンサスがある39)。
p.144

        
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p.148
CQ 6-3

老年期うつ病に精神療法は有用か

【要約】●軽度から中等度の老年期うつ病に対して、精神療法を行うことを提案する。●精神療法には、認知行動療法やライフレビュー療法など多くの種類があるが、国内で実施可能な治療方法は限定的である。●重度の老年期うつ病に対する精神療法の有効性のエビデンスは十分ではない。

【解説】

1はじめに

「高齢者のうつ病治療ガイドライン2022」1)では、老年期うつ病に対する精神療法の有用性に関するシステマティックレビューがなされ、各種の精神療法の有効性と安全性が示されている。今回は、同ガイドラインのシステマティックレビュー(2019 年)後に報告された老年期うつ病に対する精神療法の有用性に対するシステマティックレビューを行った。

2方法

本CQ では対象(P)を60 歳以上の老年期うつ病患者、介入(I)を精神療法、対照(C)をプラセボ、待機リスト、または通常ケアとした。益のアウトカム(O)は抑うつ症状の改善(重要性9)、害のアウトカム(O)はすべての理由による中断(受容性:重要性8)とし、研究デザインをRCTのシステマティックレビューと設定した。

3結果

検索の結果、1982 年から2022 年の期間で抑うつ症状あるいはうつ病を有する老年期(60 歳以上)の患者に対して精神療法を実施したネットワークメタ解析 〔N (研究数)=68、n (患者数)=4,550〕を採用した2)。組み入れられた精神療法は行動活性化技法(5

本)、CBT (32 本)、認知療法 (6 本)、ライフレビュー療法(13 本)、マインドフルネス(5 本)、複合精神療法(複数の精神療法を組み合わせた治療介入) (7 本)であった。多くの患者が軽度から中等度であった。

組み入れられた6 つすべての精神療法において、「非アクティブな対照(通常ケア、標準ケア、待機リスト、または他の比較対照介入)」に対して統計的に有意な抑うつ症状の改善を認めた〔行動活性化技法 (N=3、標準化平均差 −0.92、95%信頼区間 −1.54〜−0.29)、CBT (N=9、標準化平均差 −1.02、95%信頼区間 −1.28〜−0.75)、認知療法 (N=2、標準化平均差 −0.73、95%信頼区間 −1.29〜−0.17)、ライフレビュー療法 (N=4、標準化平均差 −1.08、95%信頼区間 −1.50〜− 0.66)、マインドフルネス (N=3、標準化平均差 − 0.98、95%信頼区間 −1.63〜−0.33)、複合精神療法 (N=1、標準化平均差 −1.02、95%信頼区間 − 1.51〜−0.52)〕。すべての理由による治療の中断は6 つのすべての精神療法において、非アクティブな対照群と比較しても有意な差はなかった〔行動活性化技法 (N=3、オッズ比0.48、95%信頼区間0.20〜1.14)、CBT (N=9、オッズ比0.99、95%信頼区間 0.70〜1.39)、認知療法(N=1、オッズ比
p.149
1.10、95%信頼区間 0.36〜3.39)、ライフレビュー療法 (N=4、オッズ比1.36、95%信頼区間 0.76〜2.44)、マインドフルネス (N=3、オッズ比1.04、95%信頼区間 0.24〜4.45)、複合精神療法 (N=2、オッズ比1.08、95%信頼区間 0.48〜2.46)〕。

エビデンスの質を評価するGRADE評価では28本の比較のうち23 本 (82.1%)がエビデンスの確信度が低く、5 本 (17.9%)が非常に低いと評価された。受容性については、1 本 (3.6%)が中程度、21 本 (75.0%)が低い、6 本 (21.4%)が非常に低いと評価された。この結果に加えて、この解析にはうつ病患者だけでなく、抑うつ症状を有する高齢者が含まれていることから、エビデンスの強さは弱(C)と判断した。

4要約の作成

ネットワークメタ解析の結果、老年期(60 歳以上)のうつ病(主に軽度から中等度)に対して、個々の精神療法(行動活性化技法、CBT、認知療法、ライフレビュー療法、マインドフルネス、複合精神療法)が非アクティブな対照群に対して有意な有効性(抑うつスコアの改善)が示された。またすべての理由による治療の中断は、非アクティブな対照群と比較して差はなく、受容性は良好であった。しかし、エビデンスの強さは弱(C)であった。

重度の老年期うつ病を組み入れたRCT が少ないため、重度の患者に対する有効性のエビデンスは十分ではない(D)。

以上より、軽度から中等度の老年期うつ病に対する精神療法は一定の効果が期待でき、受容性も示されていることから、推奨決定会議では「行うことを弱く推奨する」となった。

しかし、うつ病に対する構造化された精神療法は、実施している施設数が限られていることや、保険収載されている精神療法がCBT などの一部の精神療法に限定されているなどの問題がある(トピックス2「うつ病に対する精神療法」の項を参照)。このような精神療法を行える体制整備が不十分であるなどの国内の医療事情を鑑み、本CQ に対しては推奨とせず、行うことを「提案する」となった。

5推奨決定会議の結果1 回目1 行うことを強く推奨する:0% 2 行うことを弱く推奨する:100% 3 行わないことを弱く推奨する:0% 4 行わないことを強く推奨する:0%

【文献】

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p.150
CQ 6-4老年期うつ病に抗うつ薬は有用か

【推奨】

中等度から重度の老年期うつ病に対して、有害事象に注意しつつ、抗うつ薬を使用することを強く推奨する(1C)。

【推奨文】

中等度から重度の老年期(65 歳以上、精神症症状を伴わない)のうつ病に対して、抗うつ薬治療による反応率(C)および抑うつ症状の軽減(C)における有意な有効性が示されている。軽度の老年期うつ病に対する有効性のエビデンスは十分ではない(D)。受容性 〔すべての理由による中断率(C)〕は良好であるが、忍容性 〔有害事象による治療中断率(C)〕と安全性〔少なくとも1 つの有害事象の出現(C)〕に対する懸念がある。以上より、中等度から重度の老年期うつ病に対して、抗うつ薬を使用することを強く推奨するが(1C)、有害事象に注意する。

【解説】

1 はじめに

「高齢者のうつ病治療ガイドライン2022」1)では、老年期うつ病に対する抗うつ薬の有用性に関するシステマティックレビューがなされ、新規抗うつ薬および非三環系抗うつ薬(四環系抗うつ薬およびトラゾドン)の有効性と安全性が示された。今回の改訂にあたり、システマティックレビューを行ったところ、前回のシステマティックレビュー (2019 年)後、本CQ に該当する3 つのメタ解析が報告された2-4)。しかしいずれのメタ解析にも国内で使用できない抗うつ薬が多く含まれており、これらの解析結果から国内のガイドラインの推奨を判定するのは適切ではないと判断した。このため老年期うつ病を対象に、国内で使用可能な抗うつ薬による有用性を評価するシステマティックレビューとメタ解析を行った5)。2方法

老年期うつ病を対象とした抗うつ薬治療による有用性について、RCT のメタ解析を行った。対象者(P)は中等度から重度の老年期うつ病患者で、精神症性の特徴を有するものは除外した。介入(I)はわが国で使用可能な抗うつ薬による治療、対照(C)はプラセボによる治療とした。益のアウトカム(O)は有効性とし、急性期治療における反応率(主要評価項目:重要性9)と抑うつ症状の軽減(重要性8)、寛解率(重要性8)を評価した。害のアウトカム(O)はすべての理由による治療中断(受容性:重要性7)、有害事象による治療中断(忍容性:重要性7)、少なくとも1 つの有害事象の出現(安全性:重要性6)とした。

3結果

本メタ解析には9 本のRCT (n=2,145)が含まれた。1 本のみ55 歳以上の患者が対象であったが
p.151
(平均68.7 歳)、ほかの8 本は65 歳以上の患者が対象であった。解析に含まれた抗うつ薬はエスシタロプラム、セルトラリン、デュロキセチン、ベンラファキシン、ボルチオキセチン、イミプラミンであった。

ペアワイズメタ解析の結果、益(有効性)のエビデンスとして、反応率(N=8、n=2,067、リスク比1.38、95%信頼区間 1.04〜1.83、抗うつ薬群50.9% :プラセボ群36.1%)、抑うつ症状の軽減(N =9、n=2,145、標準化平均差、−0.62、95%信頼区間 −0.92〜−0.33)は有意に抗うつ薬群でプラセボ群に対する優位性が示された。寛解率は抗うつ薬群で高い傾向があったが(N=5、n=1,686、リスク比1.27、95%信頼区間 0.98〜1.65)、統計学的な有意差には至らなかった。すべての理由による治療中断は抗うつ薬群とプラセボ群に有意な差はなかったが(N=9、n=2,145、リスク比1.06、95%信頼区間 0.88〜1.27)、有害事象による治療中断(N=9、n=2,145、リスク比1.94、95%信頼区間 1.30〜2.88、抗うつ薬群10.8% :プラセボ群5.7%)、少なくとも1 つの有害事象の出現(N=9、n=2,145、リスク比1.11、95%信頼区間 1.02〜1.21、抗うつ薬群70.4% :プラセボ群63.5%)はプラセボ群に比べて抗うつ薬群で有意に多かった。新規抗うつ薬に限定した感度分析においても、プラセボ群に対して新規抗うつ薬群では有害事象による治療中断は有意に多かったものの(N=8、n= 2,025、リスク比2.04、95%信頼区間 1.37〜3.02、抗うつ薬群11.7%:プラセボ群5.7%)、少なくとも1 つの有害事象の出現はプラセボ群と差が認められなかった(N=8、n=2,025、リスク比1.09、95%信頼区間 0.99〜1.20、抗うつ薬群66.9% :プラセボ群61.8%)。バイアスリスクが高い試験が含まれていること、異質性が認められたこと、日本人を対象とした試験が含まれていないこと(非直接性)から、エビデンスの強さは弱(C)とした。4推奨文の作成

メタ解析の結果、老年期(主に65 歳以上)の中等度から重度のうつ病患者に対し、抗うつ薬はプラセボに対して反応率および抑うつ症状の軽減に有意な有効性を示し、寛解率においては統計的に有意差が示されなかったものの、高い傾向が示された。これらより老年期うつ病に対して、抗うつ薬は有効であると判断した。ただし、いずれの解析結果も異質性があった。害のエビデンスとして受容性は良好であったが、忍容性と安全性には懸念があった。

エビデンスの強さは弱(C)であるが、推奨決定会議では特に重度の老年期うつ病では自殺や身体的問題 (脱水、栄養、ADL 低下など)のリスクが高いことから、抗うつ薬による治療を行わず、さらに悪化した場合の転帰に重大な懸念があるという臨床上の重要な点が考慮された。

以上より、中等度から重度の老年期うつ病に対しては、有害事象に注意しつつ、抗うつ薬を使用することを強く推奨する(1C)という推奨文となった。

5推奨決定会議の結果1 回目1 行うことを強く推奨する:57% 2 行うことを弱く推奨する:43% 3 行わないことを弱く推奨する:0% 4 行わないことを強く推奨する:0%

以上のため、次回に持ち越し。

2 回目1 行うことを強く推奨する:89% 2 行うことを弱く推奨する:11% 3 行わないことを弱く推奨する:0% 4 行わないことを強く推奨する:0%

以上のため、行うことを強く推奨する。
p.152
【文献】

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p.153
CQ 6-5老年期DTD(難治性抑うつ)に対する薬物療法はなにか

【要約】●抗うつ薬の変更は、前治療薬に反応がない場合や、忍容性が不良な場合などに行うことを提案する。●補助療法(特とくにアリピプラゾール)は、前治療薬に部分的な反応がある場合や、抗うつ薬の変更が成功しない場合などに行うことを提案する。●抗うつ薬の併用は、睡眠や食欲の改善などを目的とした少量投与にとどめることが望ましい。

【解説】

1はじめに

本CQ に関する臨床研究は希少である。そこで、基本的に高齢者を対象とした研究に限定してエビデンスを収集し、成人対象の知見で一部を補完してナラティブレビューを行った。CQ の対象は本ガイドラインのDTD (難治性抑うつ)の定義に従い、 「後続治療(next-step treatment)」と「さらなる段階の治療(further-step treatment)」を包含する「少なくとも1 種類の抗うつ薬治療を行っても十分に反応しないうつ病」とした。老年期DTD に対する薬物療法は、抗うつ薬の変更、併用、抗うつ薬以外の薬物の追加(補助療法)に分類され、約半数の患者に反応が得られることが示されている1)。しかし、有効性のエビデンスレベルの高さや、有害事象の内容、忍容性はそれぞれの戦略や薬物によって大きく異なる。どの薬物療法戦略を、どのタイミングで行うかは、前治療薬の反応性や回数、身体疾患の併存を勘案して、SDM のもとに行うべきである。しかし、その判断材料となるエビデンスレベルが高い研究はなく、エキスパートオピニオンに頼る部分も大きい。2抗うつ薬の変更

前治療の抗うつ薬を継続した群と抗うつ薬を変更した群を比較した試験は老年期では存在せず、小規模な実薬同士の単盲検RCT1 本と、4 本の単群オープン試験があるのみで、これらの試験からは33〜60%の寛解率、42〜80%の反応率、そして0〜12.5%の有害事象による脱落率が示されている2-6)。有用性に関するエビデンスレベルの高い研究はないが、抗うつ薬の変更は、多剤併用を回避することで有害事象の発現を減らし、アドヒアランス改善も期待できるというベネフィットが考えられる7)。また、 「効果の実感がない薬を飲み続ける」ことへの当事者の心理も考慮する必要がある。ゆえに、前治療の抗うつ薬に反応がない場合や、忍容性が不良な場合などに試みることは合理的であり、提案できる8)。しかし、前治療薬に部分的な反応がある場合には、変薬により前治療薬の効果が失われるリスクがある8)。また、SSRI を含む抗うつ薬治療に十分反応しない成人うつ病を対象としたシステマティックレビューでは、抗うつ薬治療の回数が増えると抗うつ薬変更への反応性が低下する傾向が示唆されている9)。老年期うつ病でも、複数回の抗うつ薬治療に十分反応しない群は、1
p.154
回のみの群と比べてベンラファキシンへの変更による寛解率が有意に低かったという報告があり6)、抗うつ薬の変更を繰り返すベネフィットは少ないと思われる。

2 補助療法

アリピプラゾールによる補助療法は、ベンラファキシンを含む1 剤以上の抗うつ薬治療で寛解しない老年期うつ病を対象としたプラセボ対照二重盲検RCT (n=181)で有効性が示されている(寛解率:実薬44% vs. プラセボ29%、p=0.03)10)。アカシジア(26%)が主な有害事象だったが、有害事象による脱落率は実薬、プラセボそれぞれ3%、全脱落率は実薬で5%、プラセボ9%であり、短期的(24 週)な忍容性は良好であった。寛解例を対象とした12 週の継続治療期間中にジスキネジアが実薬の5%、プラセボの4%に発現した。本補助療法は、抗うつ薬治療に十分反応しない成人うつ病患者を対象としたプラセボ対照二重盲検RCTの年齢群別の事後解析(n=409)においても、老年期(61〜67 歳)での有効性が示されている 〔うつ症状改善度:効果量0.75 (95%信頼区間;0.27– 1.23) ;寛解率:実薬42.1% vs. プラセボ14.7%, p < 0.05)11)。アカシジアが13.2%に発現した。他の第二世代抗精神病薬による補助療法のエビデンスは、リスペリドン(適用外)、クエチアピン(適用外)、ブレクスピプラゾールの単群オープン試験が各1 本あるに留まる12-14)。補助療法は抗うつ薬の前治療の効果を維持できるというベネフィットが考えられる7)。また、一般成人のメタ解析では、第二世代抗精神病薬(アリピプラゾール、リスペリドン、クエチアピン)による補助療法の反応率の効果量は、抗うつ薬の前治療回数が1 回の群より、2〜4 回の群のほうが有意に大きいことが示唆されている15)。老年期でも、アリピプラゾールによる補助療法において抗うつ薬の前治療が2 回以上の群も、1 回の群と同等の効果が期待できること

が示唆されている6)。これらのことから、補助療法(特にアリピプラゾール)は、抗うつ薬の変更が成功しない場合に提案できる。なお、2 回以上の抗うつ薬治療に抵抗性の老年期うつ病を対象にして、アリピプラゾールによる補助療法、bupropion への変更、bupropion の併用の3 群の有効性と安全性を比較したオープンRCT があり、アリピプラゾールによる補助療法は、有効性(心理的健康改善度)でbupropion 変更に勝り、安全性(転倒頻度)でbupropion 併用に勝っていた16)。第二世代抗精神病薬は、アカシジアやジスキネジアなどの錐体外路症状、体重増加や血糖値上昇などの代謝性の有害事象の発現に留意する必要がある17〕。認知症併存例では死亡や心血管系イベントを増加させるリスクがあることにも留意する18)。

炭酸リチウム補助療法は、小規模なオープンRCT でモノアミン酸化酵素阻害薬 (MOAI)への変更に比較して有意に高い寛解率が報告されており19)、また、小規模な単群オープン試験5 本のメタ解析で42%(95%信頼区間21〜65 :n=57)の反応率が示されている1)。しかし、プラセボ対照試験は存在せず、有効性のエビデンスレベルはアリピプラゾールに劣る。老年期の患者はリチウムの血中濃度上昇を起こしやすい身体疾患(心・腎機能障害、脱水状態など)の合併や薬剤(非ステロイド性消炎鎮痛薬、利尿剤、アンギオテンシンII受容体拮抗薬など)の内服機会が多いので、本剤による補助療法は、血中濃度を測定し、有害事象の発現をモニターしつつ慎重に行う必要がある20)。

5 抗うつ薬による補助療法

抗うつ薬による補助療法は、抗うつ薬の前治療に部分的な反応がある場合や、抗うつ薬の変更が成功しない場合などに他の補助療法と並んで実臨床で広く行われており、成人における有用性が示
p.155
唆されている21)。しかし、老年期の患者では有用性のエビデンスはほぼ存在せず、一方、一般論として多剤併用に伴って有害事象が増加する懸念がある。よって、睡眠や食欲の改善などを目的として22)、少量投与にとどめることが望ましい。

【文献】

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p.157
CQ 6-6老年期うつ病にニューロモデュレーション(ECT、rTMS)は有用か

【要約】●老年期うつ病に対して、ECT の適応基準を満たす場合、ECT を実施することを提案する。●ECT によって寛解した老年期うつ病に対して、ほかに有効な治療がない場合に、ECT と薬物療法の併用療法による維持期治療を行うことを提案する。●薬物療法の治療効果が得られない老年期うつ病(精神症症状を伴うものを除く)に対して、rTMS を実施することを提案する。

【解説】

1はじめに

本CQ では、老年期うつ病を対象としたrTMSとECT の研究に限定してRCT とシステマティックレビューを検索した。その結果、老年期のみを対象とした研究は少なく、刺激方法もさまざまであるため、推奨決定は行わなかった。

2 ECT による急性期治療

240 人の老年期うつ病を対象とした単群のオープンラベル試験では、右片側への超短パルス刺激によるECT とベンラファキシンを併用した場合の寛解率は61.7%(148/240)であった3)。同試験において重篤な有害事象を5.4%の患者に認め、そのうちECT との関連が疑われたものは発作後錯乱、見当識障害、遅発性のけいれん発作、心房細動、尿閉(それぞれn=1)であった。また、老年期うつ病へのECT の認知機能を調べたシステマティックレビューでは、ECT は、発作間・発作後の認知機能を一時的に悪化させるが、6 か月以上に及ぶことを示唆する知見はなかった4)。老年期に限定した報告ではないが、高用量の右片側刺激が認知機能低下のリスクを低減することが示されている5,6)老年期に限定せずうつ病患者全体を対象としたECT の治療効果を調査したメタ解析では、精神症症状を伴うこと、高齢であることが、寛解と反応

に関する良好な予測因子であった7)。

以上より、老年期うつ病に対して、日本精神神経学会等が提唱するECT の適応基準を満たす場合(CQ3-5 参照)、ECT を実施することを提案する。

3 ECT による維持期治療

ECT と薬物療法の併用により寛解した老年期うつ病を対象とし、ECT と薬物療法の併用群と薬物療法単独群による再発予防を比較したRCT では、24 週時点のハミルトンうつ病評価尺度 (HAM- D)スコアがECT と薬物療法の併用群において有意に低かった(n=120、平均差 4.2、95%信頼区間1.6〜6.9)8)。統計学的に有意ではないが、ECT 併用群に比べて薬物療法単独群では再発率が高い傾向にあり(n=120, オッズ比1.7、95%信頼区間0.6〜4.5、薬物療法単独群20.3%:ECT 併用群13.1%)、また再発までの期間も短い傾向にあった(n=120, 薬物療法単独群 平均7.6 週、標準偏差

6.1 :ECT 併用群 平均8.3 週、 標準偏差5.0)。一

方、24 週時点のすべての神経認知機能のアウトカム (n=120)には有意な差は認められなかった9)。ECT と薬物療法の併用群と薬物療法単独群によ
p.158
る再発予防を比較し、治療期間を2 年間とした試験では、ECT と薬物療法の併用群において再発までの期間が有意に長かった 〔n=33、併用群 :23 か月(95%信頼区間 21〜25)、薬物療法群:16 か月(95%信頼区間 12〜20)〕10)。

以上より、ECT はECT と薬物療法の併用で寛解した老年期うつ病の維持期治療に有用である。一方で、ECT は全身麻酔を要する治療であることから、継続して実施する負担が大きい。これらのことより、ほかに代替となる有効な治療がない場合に、維持期治療にECT と薬物療法の併用療法を行うことを提案する。

4 rTMS

老年期の急性期うつ病(うつ病、双極症抑うつエピソード)を対象としたRCT のペアワイズメタ解析では、実刺激群(左背外側前頭前野に対する高頻度刺激のみ)は偽刺激群と比較して、反応率、寛解率は有意に高かった(反応率:N=8、オッズ比2.59、95%信頼区間1.12〜5.96、寛解率:N=6、オッズ比3.65、95%信頼区間1.21〜10.96)。また、すべての理由による治療中断率、有害事象による治療中断率に関して、両治療群間で有意差を認めなか

った(実刺激群は左背外側前頭前野に対する高頻度刺激以外も含む)。また、反応率、寛解率、すべての理由、有害事象による治療中断率に異質性は低く、出版バイアスは示唆されなかった1)。個々の有害事象に関して、老年期の急性期うつ病(うつ病、双極症抑うつエピソード)を対象としたrTMS(左背外側前頭前野に対する高頻度刺激以外も含む)のpooled 解析(RCT、観察研究、ケースシリーズ・ケースレポート研究)では、12.4%に有害事象を認めた(N=11、n=331)。頻度の高い有害事象は頭痛が6.9%(n=23)、頭皮痛は3.0%(n= 10)だった。重篤な有害事象は1.5%〔n=5(後部硝子体剥離・網膜裂孔:1、自殺念慮の悪化:1、精神科への入院:3)〕であり、けいれん発作や躁転の報告はなかった2)。

以上より、薬物療法の治療効果が得られない老年期の急性期うつ病(ただし、精神症症状を伴うものを除く)に対して、rTMS は偽刺激と比べて有効性に優れ、安全性及び忍容性は良好であり、有用であるため、実施することを提案する。

【文献】

1)Zhang M, Mo J, Zhang H, et al:Efficacy and

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p.160
CQ 6-7老年期うつ病に対してその他の有用な治療はなにか

【要約】●老年期の軽度うつ病ないし抑うつ状態に対しては、運動療法を行うことを提案する。●老年期のうつ病ないし抑うつ状態に対して、高照度光療法を提案する。●老年期のうつ病ないし抑うつ状態に対して、オメガ3 不飽和脂肪酸は選択肢のひとつとなる。

【解説】

1はじめに

老年期うつ病に対するその他の治療としてさまざまなものが報告されているが、老年期うつ病評価尺度(geriatric depression scale:GDS)などの質問紙で評価された抑うつ状態を対象とした報告が多く、うつ病と診断された患者を対象とした報告は一部である。これは重度のうつ病や全身状態の悪い患者は運動療法などの対象になり得ないためと考えられる。このため本CQ ではうつ病だけではなく、抑うつ状態も対象とした。

2運動療法

軽度うつ病ないし抑うつ状態の患者を対象として多くの運動療法研究が報告されている。2022 年に発表された60 歳以上を対象としたシステマティックレビューとメタ解析のアンブレラレビューでは、12 本のメタ解析が組み入れられ、運動療法群の標準化平均差は、−0.90(95%信頼区間 − 1.51〜−0.28)から−0.14 (95%信頼区間 −0.36〜−0.07)であり、有意な効果が示されている(オッズ比 2.24、95%信頼区間 1.77〜2.84)1)。また、60 歳以上を対象としたRCT のメタ解析では、全対象者の場合、運動療法の抑うつ症状の軽減に対する有意な有効性が示されたものの(N=9、n= 866、標準化平均差 0.64、95%信頼区間 0.27〜1.02)、異質性も認められた。対象者を80 歳以下

に限定した場合(N=8、標準化平均差 0.74、95%信頼区間 0.48〜1.01)、および認知機能障害 〔ミニメンタルステート検査(mini mental state examination :MMSE)≦23〕のある対象者を除外した場合 (N=5、標準化平均差 0.71、95%信頼区間 0.31〜1.11)には、それぞれ抑うつ症状に対する有意な有効性を示し、異質性は統計的に有意ではなくなった2)。65 歳以上のモンゴメリー-アスベルグうつ病評価尺度 (MADRS)スコアが10 点以上の軽度〜中等度のうつ病患者に対して、薬物療法(抗うつ薬)群と運動療法群とを比較したRCT(n=347)では、薬物療法のほうが有効性(MADRS スコアが10 点未満の患者の割合)は優れていたものの有害事象も多かったことが報告されている3)。2021 年に改訂されたカナダの老年期うつ病ガイドラインでも、併存疾患や身体能力、本人のモチベーションを考慮し、運動療法を単独もしくは他の治療法と併用して行うことが推奨されている4)。

運動の種類については、65 歳以上を対象とし、運動の種類を、ウォーキングやジョギングのようなリズミカルな運動のエアロビック型、ウェイトトレーニングのような静的筋肉の負荷を伴うレジスタンス型、瞑想やリラクゼーションのようなゆ
p.161
っくりとした運動を伴うマインド・ボディ型の3つに分類し、運動の種類による抗うつ効果を比較したシステマティックレビューとネットワークメタ解析(N=15、n=596)では、mind-body 型で最も大きな抑うつ症状の改善が認められたものの、運動の種類によって抗うつ効果に有意な差は認められなかったことが示されている5)。また、老年期うつ病を対象として運動負荷を比較したRCTでは、運動療法の有効性は示されたが、適切な運動の種類や強度について一定の見解は得られていない6,7)。

以上から、運動を行うことが可能で、かつ積極的に運動に参加する意思がある老年期のうつ病患者に対して、運動療法は有用と考えられる。ただし運動の種類や強度は患者個人の状態や好みに合わせ、無理のない範囲で行うことを提案する。

3高照度光療法

2018 年に発表された老年期のうつ病および抑うつ状態を対象としたシステマティックレビューとメタ解析において、高照度光療法の抑うつ症状に対する有効性および安全性が示されている(N =8、n=395、標準化平均差 0.44、95%信頼区間

0.17〜0.71)8)。以上より、老年期のうつ病ないし抑うつ状態に対して、高照度光療法を提案する。

4食事療法

青魚やナッツ類に多く含まれるエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid :EPA)やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid :DHA)に代表されるオメガ3 不飽和脂肪酸を用いた抑うつ状態を対象とした研究が報告されている。2018 年に発表された60 歳以上の抑うつ状態を対象としたシステマティックレビューとメタ解析では、調査全体(N=9)では高齢者の抑うつ症状に対する オメガ3 不飽和脂肪酸の効果は統計的に有意ではなかったが、1 日1.5g 以上のオメガ3 不飽和脂肪酸を摂取した場合には、抑うつ症状に対する有意な有効性が示された(N=5、標準化平均差 −0.43、95%信頼区間 −0.82〜−0.04)9)。

以上より、食事療法については有効性が限定的であるものの、一定の有用性があると考えられるため、選択肢のひとつとなる。

【文献】

1)Bigarella LG, Ballotin VR, Mazurkiewicz LF, et

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p.163
第7章 特定用語

CQ7-1-1不安性の苦痛を伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

【要約】1 不安性の苦痛を伴ううつ病の頻度は高く、慢性化しやすい。また、自殺念慮や自殺企図

のリスクが高いため注意が必要である。

【解説】

1 定義と臨床的特徴

うつ病では不安症状の併存をしばしば認め、強い不安症状を有するうつ病では、自殺念慮や自殺企図行動1,2)、機能低下3,4)、生活の質(quality of life:QOL)の低下4)、慢性化が起こりやすい5,6)ことが知られている。このように不安症状を伴ったうつ病が臨床的に重要であるという認識から、「不安性の苦痛を伴う」が特定用語としてDSM-5から導入された。

「不安性の苦痛を伴う」は抑うつエピソードまたは持続性抑うつ症の大半の日に以下の症状のうち、少なくとも2 つ以上が存在する状態と定義される。

1張りつめた、または緊張した感覚2異常に落ち着かないという感覚3心配のための集中困難4何か恐ろしいことが起こるかもしれないという恐怖5自分をコントロールできなくなるかもしれないという感覚不安性の苦痛を伴ううつ病の頻度は、うつ病の

54.2~78.0%とされる7)。わが国においても、不安症群の併存がない不安性の苦痛を伴ううつ病を66.4%に認めたと報告されている8)。

不安性の苦痛を伴ううつ病は、不安性の苦痛を伴わないうつ病と比較して、慢性に経過し、寛解までの期間が長く、機能低下が高度であるが、不安症群の併存の有無は、これらの治療結果と関連がなかった9)。また抗うつ薬治療を受けたうつ病患者において、不安性の苦痛を伴ううつ病は、より重度の症状、寛解率の低下、および副作用の頻度の高さと有意に相関したが、不安症群の併存の有無は、これらの治療結果を予測しなかった10)。

以上から、不安性の苦痛を伴うことと、不安症群を併存しているかどうかは分けて考える必要がある。不安性の苦痛を伴ううつ病は頻度が高く、不安性の苦痛を伴わないうつ病や不安症群の併存するうつ病よりも、重症で治療に難渋することが多いことが予想される。
p.164
【文献】

1) McIntyre RS, Woldeyohannes HO, Soczynska JK,

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p.165
CQ7-1-2不安性の苦痛を伴ううつ病に有用な治療法はなにか

【要約】1 不安性の苦痛を伴ううつ病に対して、新規抗うつ薬の使用を提案する。2 治療抵抗性の場合、抗うつ薬治療の補助療法としてブレクスピプラゾールの追加を提案

する。

【解説】(図1)

1 初期治療

不安性の苦痛を伴ううつ病に限定して、単剤療法で抗うつ薬や抗精神病薬とプラセボを比較したプラセボ対照無作為化比較試験(RCT)はない。

治療に関するエビデンスが乏しいことから、諸外国のうつ病ガイドラインにおいて、不安性の苦痛を伴ううつ病に言及したものは少ない。カナダのCANMAT ガイドライン2023 では、新規抗うつ薬を使用すると述べるに留まっている1)。また、韓国のKMP-DD(Korean Medication Algorithm Project for Depressive Disorder)20212)では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの抗うつ薬補助療法群もしくは、抗うつ薬と抗精神病薬の併用療法の提案をしている。また、他の諸外国の主要ガイドラインでは、不安性の苦痛に関するうつ病の治療に関して言及はなされていない3-5)。

なお、DSM-5-TR における不安性の苦痛を伴ううつ病の定義とは異なるものの、それぞれの研究で独自に定義された不安性うつ病〔anxious depression:ハミルトン不安評価尺度(HAM-A)合計点20 点以上、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)anxiety/somatic factor score 7 点以上など〕を含むうつ病患者を対象としたプラセボ対照RCT における、不安性うつ病患者に限定した後方視的解析やメタ解析では,SSRI6)、SNRI6)、ボルチオキセチン7)、ミルタザピン8)の有効性が報告されている。

以上の結果より、不安性の苦痛を伴ううつ病に対して、新規抗うつ薬の使用を提案する。

2 補助療法

また、不安性の苦痛を伴ううつ病に対する補助療法としては、ブレクスピプラゾールの3 つのRCT のプール解析から、不安性の苦痛を伴ううつ病に対するブレクスピプラゾールの有用性についての報告がある9)。この後方視的解析では、DSM- IV-TR のうつ病の診断基準を満たし、現在の抑うつエピソードに対し1-3剤の抗うつ薬に十分な治療反応を示さなかった患者を対象とし、8 週間の抗うつ薬単剤療法を行い、治療反応性が乏しかった治療抵抗性うつ病 (HAM-D の得点で50%未満の改善)患者を抽出した。この抽出された患者をブレクスピプラゾール (補助療法群)またはプラセボ(プラセボ群)を追加する2 群に割り付け6週間の比較が行われた。試験エントリー時に、DSM-5 の特定用語の診断基準に基づき、不安性の苦痛を伴うかどうかが評価され、基準を満たす群におけるサブグループ解析が行われた。補助療法群 (n=348、2~3mg/日)はプラセボ群 (n=330)と比較し、モンゴメリー-アスベルグうつ病評価尺度 (MADRS)の変化量で最小二乗平均変化量(the least squares mean difference)-3.00 点(95%信頼区間-4.29~-1.71)と有意な改善を認め、治療必要数(NNT)は10 (95%信頼区間 7~28)であ
p.166
った。有害事象の発生率は補助療法群 (63.8%)のほうがプラセボ群 (51.1%)よりも多く、5%以上に発生した有害事象には、アカシジア、落ち着かなさ、眠気、体重増加があった。これらは、うつ病全般におけるブレクスピプラゾール補助療法でも同様に生じる有害事象であり、不安性の苦痛を伴ううつ病に限って出現するものではない。また、このプール解析に含まれる研究のうち、わが国での適応用量内であるブレクスピプラゾール2mg の固定用量の試験単体 (n=393)の解析結果も報告されており、有効性、安全性とも同様の結果であった。したがって、一般的なブレクスピプラゾールの忍容性の高さを考慮すると、治療抵抗性の不安性の

苦痛を伴ううつ病に対してブレクスピプラゾールの補助療法は効果的であることが示唆される10)。

不安性うつ病に対しては、アリピプラゾール11)、クエチアピン (適用外)12)、ziprasidone (国内未承認)13)、pimavanserin (国内未承認)14)の補助療法の有用性が報告されている。これらの研究は不安を伴ううつ病の定義に統一性が乏しく、異質性が高かったため、メタ解析を行うには適さなかった。

以上の結果より不安性の苦痛を伴ううつ病では、抗うつ薬の治療反応性が乏しい場合に、補助療法としてブレクスピプラゾールの追加を提案する。

【文献】

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p.168
CQ7-2-1混合性の特徴を伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

【要約】1 混合性の特徴を伴う抑うつエピソードは双極症との関連が指摘されており、経過中の躁

/軽躁病エピソードの出現や自殺リスクに留意する必要がある。

【解説】

1 定義の変遷と臨床的特徴DSM-IV-TR 以前は、双極症の診断基準を満たした上で、混合性エピソードの定義があり、抑うつエピソードと躁病エピソードの診断基準を少なくとも1 週間同時に満たす必要があったが、DSM-5以降、3 項目以上の典型的な躁・軽躁症状 (非特定な症状である易怒性・注意散漫・精神運動性焦燥は除外されている)を抑うつエピソードの大半の日に満たすことで、うつ病の抑うつエピソードにおいても「混合性の特徴を伴う」の特定用語の付記が可能となった。

抑うつエピソードにおける閾値下の軽躁症状の混入(抑うつ性混合状態)に関する捉え方には議論があり、複数の代替診断基準1-3)が提唱されている。これら診断基準では、うつ病と双極症を従来のDSM-5 などの操作的診断基準に基づく2 分法ではなくスペクトラムの概念で捉えていることが多く、うつ病に限定したエビデンスは少ない。双極スペクトラムの特徴をもつうつ病を対象とした無作為化比較試験(RCT)4)や双極症の抑うつエピソードも含めた混合性うつ病についての研究が主に行われてきた。各種ガイドラインでもさまざまな定義に基づく混合性の特徴を伴う抑うつエピソード(うつ病と双極症を含む)について記述し

ていることに注意しなければならない。DSM-IV- TR 以前の定義に基づく抑うつ性混合状態を伴ううつ病および双極症では、若年発症、頻回の再発、ラピッドサイクリング、不安症や物質使用症の併存、抗うつ薬治療への抵抗性、長期の病相期間、高い自殺率などの特徴が知られている5,6)。DSM-5の診断基準に基づく抑うつエピソードにおける混合性の特徴の頻度は11.6%(95%信頼区間 7.9~ 16.7%)と報告されているが、東アジア諸国においては低く、0~2.2%と報告されており7)、発症年齢の低さ、不良な経過および機能障害、自殺傾向との関連が知られている。

一方で、うつ病における閾値下の軽躁症状の項目数が多いことや8)、軽躁症状が3 つ以上揃うこと、特に、睡眠欲求の減少、異常にかつ持続的に亢進した目標指向性の活動または活力の存在が、双極症との関連性の強さにおいて重要である可能性が報告されている9)。閾値下の軽躁症状を伴ううつ病は、将来約13~20%で双極症の診断基準を満たすこと5)が報告されており、閾値下の軽躁症状の存在は双極症の可能性を留意して治療にあたる必要がある。
p.169
【文献】

1)Benazzi F : Defining mixed depression. Prog

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p.170
CQ7-2-2混合性の特徴を伴ううつ病の治療法はなにか

【要約】

1 混合性の特徴を伴ううつ病の治療としてルラシドン(適用外)を選択肢のひとつとす

る。

【解説】(図1)

1 薬物療法混合性の特徴を伴うという特定用語は定義の歴史が浅いため、抗うつ薬と気分安定薬の有用性についてはエビデンスが乏しい。また、厳密な診断基準に基づいた混合性の特徴を伴ううつ病に対して第2 世代抗精神病薬の有用性を検証したプラセボ対照RCT はない。

DSM-5-TR の診断基準に比較的近い定義を用いたRCT が2 本存在するのみである。1 本は、DSM- IV-TR のうつ病の診断基準を満たし、DSM-5-TRの混合性の特徴が2 項目または3 項目有する患者を対象(混合性の特徴では3 項目要求される)としている。209 人の患者をルラシドン群 (n=109)およびプラセボ群(n=100)に6 週間割り付けた二重盲検RCT において、MADRS の最小二乗平均変化量(-20.5 vs. -13.0、95%信頼区間 -10.2 ~-4.8、p<0.001)、臨床全般改善度-重症度(Clinical Global Impressions-severity subscale score)最小二乗平均変化量 (-1.8 vs. -1.2、95%信頼区間 -0.96~-0.34、p<0.001)がプラセボ群に比してルラシドン群で減少していた。反応率(MADRS の得点のベースラインからの50%以上の改善)においても、ルラシドン群64.8% vs. プラセボ群30.0% (p<0.001)とプラセボに比して改善を認めた1)。有害事象による中止率は低く、最も一般的な有害事象は悪心(6.4% vs. 2.0%)と傾眠(5.5% vs. 1.0%)であった。DSM-IVの抑うつエピソードの基準を満たす双極症II型およびうつ病と診断され、躁病基準(すなわち注意散漫などの混合性の特徴で除外された項目も含まれている)

を2 または3 項目有する患者を対象とした6 週間の二重盲検RCT では、ベースラインの抗精神病薬は変更せずに、73 人の患者をziprasidone 群(n= 35)もしくは、プラセボ群 (n=38)に割り付けたところ、ziprasidone 群ではMADRS のベースラインからの変化量 (平均差 5.4、95%信頼区間 0.6~ 10.2、p<0.05)と反応率(50.0% vs. 28.9%、p= 0.04)がプラセボに比して良好であった。これは、うつ病よりも双極症II型でより良好であった2)。

各種ガイドラインでは、エビデンスの乏しさからエキスパートオピニオンとして下記言及がある。カナダのCANMAT ガイドライン2023 では、第1 選択薬として抗うつ薬治療を推奨し、賦活化や軽躁および躁病への移行に留意することとしている。プラセボと比較して有効性を示したRCT があることから、ルラシドンを第2 選択として推奨している3)。韓国のガイドラインKMAP-DD2021 は混合性の特徴を伴ううつ病に対して、抗うつ薬と第2 世代抗精神病薬または気分安定薬の併用を推奨している4)。以上の結果から、混合性の特徴を伴ううつ病の治療に関するエビデンスは乏しく、各種ガイドラインで推奨される治療にも一貫性は乏しい。本ガイドラインでは、DSM-5-TR の診断基準を厳密に満たす混合性の特徴を伴ううつ病に有用性を示すRCT は存在しないものの、定義に近い病態を対象としたRCT において有用性が示されたルラシドン(適用外)の使用を選択肢のひとつとする。
p.171
【文献】

1)Suppes T, Silva R, Cucchiaro J, et al : Lurasidone

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Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT) 2023 Update on Clinical Guidelines for Management of Major

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Medication Algorithm Project for Depressive Disorder 2021: Comparisons with Other Treatment Guidelines. Clin Psychopharmacol Neurosci 20 : 37-50, 2022
p.172
CQ7-3-1メランコリアの特徴を伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

【要約】1メランコリアの特徴を伴ううつ病は、抑うつ症状が重症で、自殺リスクが高い場合が多いため注意を要する。

【解説】

1 定義と臨床的特徴

DSM-5-TR におけるメランコリアの特徴は、現在のエピソードの最も重度の期間に、1すべての、またはほとんどすべての活動における喜びの喪失、2普段快適である刺激に対する反応の消失のいずれかが存在し、さらに1はっきり他と区別できる性質の抑うつ気分があり、深い落胆、絶望、および/または陰鬱さ、またはいわゆる空虚感によって特徴付けられる、2抑うつは決まって朝に悪化する、3早朝覚醒(通常の起床より少なくとも2 時間早い)、4著しい精神運動興奮または制止、5有意の食欲不振または体重減少、6過度または不適切な罪責感のうち3 つ以上が存在するものと定義されている。DSM での特定用語はうつ病の臨床的特徴として位置付けられているため、メランコリアの特徴は双極症の抑うつエピソードにも用いられる。

一方で、メランコリアの特徴を伴ううつ病は独立したうつ病のサブタイプとするべきであるという立場もある1)。メランコリアの特徴はDSM の基準以外にもCORE 尺度やニューキャッスル・インデックス、シドニーメランコリアプロトタイプインデックスなどによって評価されることもある。本ガイドラインではメランコリアの特徴を有するうつ病をDSM 基準に限定せず、広義にmelancholic depression(MD)とよぶ。MD は、評価基準や入院患者と外来患者など母

集団によって有病率が大きく異なる2)。1,410 人の入院患者および外来患者を対象とした欧州の多施設共同研究では、うつ病患者のうちMD (DSM-IV基準)は60.7%と報告された2)。この調査では、MD ではメランコリアの特徴を伴わないうつ病(non-melancholic depression :NMD)と比較して、精神症性の特徴を有する割合が多い、自殺リスクが高い、入院治療を受けている割合が高い、抑うつ症状が重度といった臨床的特徴がみられた。治療反応性、非反応性 〔モンゴメリー-アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)総スコア≧22 かつ1 つの抗うつ薬治療による同スコアの減少<50%〕、抵抗性(2 つ以上の抗うつ薬治療に対して非反応)については有意な差はみられなかった。1,455 人の外来患者を対象とした調査では3)、DSM-IV に基づく自記式評価尺度であるself rated Inventory of Depressive Symptomatology (IDS-SR30)を用いてメランコリアの特徴を評価し、MD ではNMD と比較して、年齢、性別を統制してもうつ病が重症でエピソード回数が多く、一方で現在のエピソード期間は短いことが報告された。

こうした報告から、MD は抑うつ症状が重症で、自殺リスクが高い場合が多いため注意を要する。
p.173
【文献】

1)Parker G, Fink M, Shorter E, et al : Issues for

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p.174
CQ7-3-2メランコリアの特徴を伴ううつ病の治療法はなにか

【要約】(図1) 1 三環系抗うつ薬(TCA)を含めた抗うつ薬治療と修正型電気けいれん療法(ECT)のい

ずれも選択肢のひとつとなる。

【解説】

1 治療選択肢

従来、メランコリアの特徴を伴ううつ病(melancholic depression :MD)は、プラセボや精神療法に対する反応性が低く、抗うつ薬による治療では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)よりTCA に反応しやすいこと、またECT に対する反応性が良好であることが示唆されていた1,2)。

MD に対する抗うつ薬治療の有効性を、この特徴を伴わないうつ病(non-melancholic depression :NMD)と比較したメタ解析がある3)。この調査には、DSM およびICD によって大うつ病性障害と診断され、Research Diagnostic Criteria (RDC)、DSM-III、 DSM-IV、ニューキャッスル・インデックスなどによってメランコリアの特徴の有無を評価した26 本の研究が解析に組み込まれた。MD とNMD で抗うつ薬とプラセボに対するアウトカムに違いがあるか、MD では抗うつ薬のクラスによってアウトカムに違いがあるかを比較した結果、抗うつ薬に対する反応率においてはMD とNMD に違いはないが (N=10、n=5,570、オッズ比0.95、95%信頼区間 0.77~1.18)、寛解率においてはMD がNMD に対して有意に低いことが示された(N=17、n=6,030、オッズ比 0.71、95%信頼区間 0.56~0.88)。またプラセボに対する反応率は、MD がNMD に対して有意に低いことも示された(N=4、n=407、オッズ比 0.17、95%信頼区間 0.04~0.68)。抗うつ薬のクラスによるMD への効果の違いについては、SSRI (エスシタロプラム、fluoxetine)における寛解率はセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬

(SNRI:ベンラファキシン)と同等であるが(N =3、n=387、オッズ比 0.92、95%信頼区間 0.47 ~1.80)、SSRI(パロキセチン、セルトラリン、citalopram、fluoxetine)はTCA(イミプラミン、クロミプラミン、ノルトリプチリン、desipramine、アミトリプチリン)と比べて低いことが示された(N=9、n=450、オッズ比 0.44、95%信頼区間0.24~0.82)。この解析では、MD はプラセボに対する反応率が低く、SSRI よりTCA における有効性が高いという従来の知見に一致した結果が示された。しかし、この調査では安全性の解析が行われていないため、MD においての有用な薬剤の特定はできない。デュロキセチン、エスシタロプラム、パロキセチンによるうつ病を対象とした無作為化比較試験(RCT)3 本を解析し、メランコリアの特徴と治療反応性との関連を調査した報告(n=1,219)4)では、抗うつ薬群、プラセボ群のいずれにおいても、メランコリアの特徴を伴うと抑うつ症状(ハミルトンうつ病評価尺度)をより軽減させることが示された。また、交互作用の評価では、メランコリアの特徴を伴ったとしても、抗うつ薬とプラセボの効果の差には影響していなかった。この結果は、MD がNMD よりプラセボに対する反応性が低く、抗うつ薬に対する治療反応性がよいという従来の知見1,2)とは一致しなかった。

ECT の有効性については、MD とNMD で直接比較したシステマティックレビューはなく、ECT
p.175
におけるメランコリアの特徴の影響を同定したメタ解析では、メランコリアの特徴はECT の有効性に影響していなかった5,6)(反応率:N=5、オッズ比 1.71、95%信頼区間 0.43~6.84、寛解率:N =7、オッズ比 1.24、95%信頼区間 0.69~2.22) 6)。

精神療法については、これまでMD は精神療法に対する反応が乏しいことが指摘されている7,8)。しかし、メランコリアの特徴が認知行動療法(CBT)と抗うつ薬の治療に影響するかどうかを検討したメタ解析(N=4、n=805)9)では、メランコリア

の特徴は抗うつ薬だけでなく、CBT の治療反応性に対しても影響しないことが示された。

以上より、メランコリアの特徴における抗うつ薬やECT、CBT といった治療に対する明らかな影響は示されていない。しかしMD は一般に重症度が高く、自殺のリスクが高いため (CQ7-3-1 参照)、それらに準じた治療である、TCA を含めた抗うつ薬治療やECT のいずれも選択肢のひとつとなる。

【文献】

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p.176
CQ7-4-1非定型の特徴を伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

【要約】1 非定型の特徴を伴ううつ病は、若年発症が多く、不健康な生活様式やメタボリック症候

群の併存、双極症との鑑別に留意する。

【解説】

1 定義と臨床的特徴

非定型の特徴には、A 項目として気分の反応性(すなわち、現実のまたは可能性のある楽しい出来事に対して気分が明るくなる)があり、B 項目として1有意な体重増加または食欲増加、2過眠、3鉛様の麻痺(すなわち、手や足の重い、鉛のような感覚)、4長期間にわたり対人関係上の拒絶に敏感(気分の混乱のエピソードの間だけに限定されるものではない)で、意味のある社会的または職業的障害を引き起こしている、がある.これらの特徴のうち、大半の日にA 項目とB 項目のうち2つ(またはそれ以上)が優勢であり、C 項目として、同一エピソードの間に「メランコリアの特徴を伴う」または「カタトニアを伴う」の基準を満たさない場合に、非定型の特徴を伴ううつ病として適用される。

DSM-IVを用いた疫学研究ではうつ病患者の15 ~29%が非定型の特徴を伴っており1)、既報に共通する特徴として、若年発症、女性に多い、不安を

伴う、うつ病や双極症の家族歴が多いことが挙げられた2)。わが国の調査において、非定型の特徴はメタボリック症候群と関連していた3)。UK Biobank のデータによると、非定型の特徴を伴ううつ病は、発症年齢が若く、エピソード期間が長く、より重症で、再発を繰り返す傾向にあり、女性、不健康な生活様式(喫煙、孤独、不活発)、心血管疾患、メタボリック症候群と関連があった4)。中国における非定型の特徴を伴ううつ病の有病率は15.3%で、自殺念慮や自殺企図、精神症症状の頻度が高く、発症年齢が若く、生涯のエピソード期間も長かった5)。非定型の特徴はうつ病よりも双極症の抑うつエピソードでより顕著であることが指摘されており6,7)、鑑別を要するとともに、経過中の軽躁/躁病エピソードの出現に留意する。

【文献】

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p.178
CQ7-4-2非定型の特徴を伴ううつ病の治療法はなにか

【要約】1 非定型の特徴を伴ううつ病に対して、新規抗うつ薬を使用することを提案する。2 薬物療法以外でも一般的なうつ病の治療に準ずる。

【解説】(図1)

1 治療選択肢

2006 年に発表されたメタ解析では、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI) (すべてMAO-A 阻害作用をもつ:国内未承認)はTCA よりも有効であったが 〔N=4、n=236、治療反応率差(u 係数)0.27、95%信頼区間 0.16~0.42〕、SSRI とは有意差を認めなかった 〔N=3、n=265、治療反応率差(u 係数)0.02、95%信頼区間 -0.10~0.14〕1)。また、その後の大規模臨床試験でうつ病のサブタイプごとに抗うつ薬の有効性を比較しているが、非定型の特徴を伴ううつ病はTCA と新規抗うつ薬の有効性に有意差を認めなかった(N=1、n=811、標準化係数0.01、95%信頼区間 -0.06~0.09)2)。また新規抗うつ薬間の有効性にも差がないことが報告されている3)。薬物療法以外では、非定型の特徴を伴ううつ病

に対して、ECT は有効性に乏しいという報告4)や、典型的なうつ病よりもECT が有効であったという報告があり5)、結果が一致しない。また、非定型の特徴を有したとしても、CBT6)や運動療法7)の有効性に影響しないことが報告されている。

非定型の特徴を伴ううつ病に対して、わが国では抗うつ薬としてMAO-A 阻害作用をもつMAOIが使用できず、他の抗うつ薬の種類による効果の違いは認められていない。

以上より、一般的なうつ病の治療に準じ、新規抗うつ薬を使用することを提案する。また、薬物療法以外でも同様に、ECT、CBT、運動療法のいずれも選択肢となる。

【文献】

1)Henkel V, Mergl R, Allgaier AK, et al : Treatment

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CQ7-5-1精神症性の特徴を伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

【要約】1 精神症性の特徴を伴ううつ病は、病識に乏しく、症状が重篤であることが多く、自殺の

リスクも高い。自殺念慮が切迫している場合や、身体状態が懸念される場合は入院治療が望ましい。

【解説】

1 定義と臨床的特徴

精神症性の特徴を伴ううつ病 (精神症性うつ病)は以下の2 種類に分類される。「気分に一致する(mood-congruent)精神症性の特徴」は、妄想や幻覚の内容が個人の不全感、罪責感、病気、死、虚無感、または報いとしての処罰など、典型的な抑うつ性の主題と合致しているものであり、これには罪業妄想、虚無妄想、心気妄想、貧困妄想などが含まれる。 「気分に一致しない(mood-incongruent)精神症性の特徴」は、妄想や幻覚の内容が抑うつ性の主題から離れるもので、これには被害妄想、思考吹入、思考伝播および被支配妄想などの症状が含まれる。気分に一致しない精神症性の特徴を有する場合は予後が悪いとする報告1,2)がある一方、双方の予後に違いはないとする報告もある3)。これは、気分に一致する精神症性の特徴と一致しない精神症性の特徴の境界が曖昧であることが結果に影響を与えていると考えられる4)。

精神症性うつ病は、うつ病のなかで妄想と時に幻覚を伴う一群であり、自殺念慮を有する割合が高く、抗精神病薬の併用が必要となることが多いため、DSM-5-TR の診断基準のなかでも精神症性の特徴を伴うものとして特定用語で定義されている。一般集団において精神症性うつ病の有病率は4/1,000 人だが、60 歳以上の集団では14~ 30/1,000 人と上昇する5)。うつ病患者においては、おおよそ6~25%の患者が精神症性の特徴を有し5-8)、入院患者に限定すると成人で25~45%、高齢者で24~53%に上る5,9,10)。非精神症性うつ病と比

較すると、抑うつ症状がより重篤であり、再発率が高く、エピソード期間も長い11)。

治療導入に際し、対象となる患者背景を十分に聴取した上で行う必要がある。把握すべき情報については、「第1 章 治療計画の策定」を参照されたい。精神症性うつ病は以前から治療抵抗性といわれており12)、プラセボ反応率がほぼないという報告13)や30%程度とする報告がある14)。精神症性うつ病は、双極症、統合失調感情症、統合失調症の精神症後抑うつ、妄想症などとの鑑別が重要である。また、高齢者においては、認知症の行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia :BPSD)としても抑うつや精神症症状を呈することがあり、神経心理学的検査や画像検査などを用いて精神症性うつ病と鑑別する必要がある15)。

精神症性うつ病は非精神症性うつ病と比較すると症状がより重篤であることが多い9)。また精神症性うつ病では患者が病識に乏しく、しばしばもう治らないと確信しており、安全かつ円滑に治療を行うために入院が望ましいことが多い。精神症性うつ病が精神症症状を伴わないうつ病と比較して自殺企図が多いことを念頭におき16)、外来通院を選択するときには、治療初期には通院間隔は1週間以内を原則とし、処方薬の過量服薬のリスクも考慮する。家族にも疾患の性質と治療の見通し
p.181
をよく説明し、服薬管理や注意深い見守りなどの協力を得る。

【文献】

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p.182
CQ7-5-2精神症性の特徴を伴ううつ病の治療法はなにか

【要約】

1 精神症性の特徴を伴ううつ病の急性期には、抗うつ薬と抗精神病薬の併用を行うことを

弱く推奨する。また、特に高齢者や重症例では修正型電気けいれん療法 (ECT)も考慮する。2 精神症性の特徴を伴ううつ病の維持期治療においては、抗うつ薬と抗精神病薬の併用療

法は行わないことを提案する。ただし、再発率が高いという特性を考慮し、再発予防効果と有害事象のバランスを踏まえて治療方針を決定する。

【解説】(図1)

1 急性期治療

薬物療法については、抗うつ薬と抗精神病薬の併用がそれぞれの単剤よりも有用である (CQ7-5- 3 を参照)。修正型電気けいれん療法 (ECT)については、精神症性の特徴を伴ううつ病患者に対してECT を行った結果、95%の症例で寛解に至ったとする報告があり、非精神症性うつ病患者の83%の寛解率と比較して有意に高かった(p<0.01)1)。メタ解析の結果では、高齢であること、うつ病がより重症であることに加え、精神症性の特徴を伴ううつ病に対するECT はより効果的であると結論付けられている2)。自殺念慮が強く自殺企図が切迫している場合、食事・水分摂取が困難となり身体状態が悪化することが予想される場合は、積極的にECT を検討することが提案される。

2 維持期治療

精神症性うつ病は非精神症性うつ病と比較して再発率が高い3,4)。そのため、患者の予後を考える上でも維持期治療の選択が重要となる。しかし、

維持期において抗うつ薬と抗精神病薬の併用はそれぞれの単剤よりも再発予防に有用であるというエビデンスに乏しい。このため、抗精神病薬の併用の有無や維持期治療の期間は、副作用や費用的負担の観点から、抗うつ薬と抗精神病薬の併用療法を行わないことを提案する。ただし、再発率の高さや有害事象のリスク、経済的な側面、保険適用を鑑みて患者と情報を共有して決定することが望ましい (CQ7-5-4 参照)。維持期治療におけるECTの付加については、急性期治療をECT とノルトリプチリンで行い、その後ECT+ノルトリプチリン(ECT 付加群)とノルトリプチリン単独で維持した群 (単独群)を2 年間追跡し比較した結果、ECT付加群で1/12 人の再発に対して、単独群では8/13人の再発であり、さらに単独群ではより早期に再発していた(ログランク検定:X2=6.76;df=1、p=0.009)5)という報告があり、維持期にECT を付加することの有効性が示されている。
p.183
【文献】

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p.184
CQ7-5-3精神症性の特徴を伴ううつ病において、抗うつ薬と抗精神病薬の併用はそれぞれの単剤より有用か

【推奨】

精神症性の特徴を伴ううつ病において、抗うつ薬と抗精神病薬の併用を行うことを弱く推奨する(2B)。

【推奨文】

精神症性の特徴を伴ううつ病に対して、抗うつ薬と抗精神病薬の併用療法(併用群)は抗精神病薬単剤療法より反応率が高く (B)、すべての理由による中断率は同等であった (B)。また、抗うつ薬と抗精神病薬の併用療法は抗うつ薬単剤療法よりも反応率が高く (B)、すべての理由による中断率に差を認めなかった (B)。しかし、組み入れられた試験数が少ないこと、わが国で使用できない薬剤が多く含まれていることに注意が必要である。以上より、精神症性の特徴を伴ううつ病に対して、抗うつ薬と抗精神病薬の併用を行うことを弱く推奨する(2B)。

【解説】

1 はじめに

精神症性の特徴を伴ううつ病に対して、抗うつ薬と抗精神病薬の併用は広く行われている。本CQでは抗うつ薬と抗精神病薬の併用が、それぞれの薬剤の単剤使用と比較して、有効性や忍容性にどの程度の違いがあるかを検討するために、既存のシステマティックレビューを検索し、精神症性の特徴を伴ううつ病における抗うつ薬と抗精神病薬の併用の益と害について検討した。

2 方法

対象者 (P)を、初発か再発かにかかわらず精神症性の特徴を伴ううつ病患者、介入 (I)を抗うつ薬と抗精神病薬の併用による治療、コントロール(C)を抗うつ薬または抗精神病薬の単剤による治療とした。益のアウトカム (O)は有効性とし、急性期治療における反応率(主要評価項目:重要性8)を評価した。害のアウトカム (O)はすべての理由による治療中断(受容性 :重要性4)とし、研究デザインを無作為化比較試験(RCT)のシス

テマティックレビューと設定した。

3  結果システマティックレビューを行った結果、精神症性の特徴を伴ううつ病に対して、抗うつ薬と抗精神病薬の併用療法とそれぞれの単剤療法とを比較したRCT のメタ解析を採用した1)。抗うつ薬と抗精神病薬の併用(併用群)とプラセボと抗精神病薬の併用(抗精神病薬群)に関しては、併用群において抗精神病薬群と比較して高い反応率を認めた 〔N=4、n=447、リスク比1.83、95%信頼区間1.40~2.38〕。すべての理由による治療中断率に関しては、有意な差は認めなかった(N=4、n=447、リスク比 0.79、95%信頼区間 0.63~1.01)。抗うつ薬と抗精神病薬の併用(併用群)とプラセボと抗うつ薬の併用(抗うつ薬群)に関しては、併用群において抗うつ薬群と比較して高い反応率を認めた(N=4、n=245、リスク比 1.42、95%信
p.185
頼区間 1.11~1.80)。中断率に関して有意差は認めなかった(N=4、n=245、リスク比 0.91、95%信頼区間 0.55~1.50)。

しかしこれらのメタ解析は、組み入れられた試験数が少ないこと、わが国で使用できない薬剤が多く含まれていることなど、限界を考慮して慎重に解釈する必要がある。

4 推奨文の作成メタ解析の結果、精神症性の特徴を伴ううつ病に対し、抗うつ薬と抗精神病薬の併用はそれぞれの単剤療法に対して高い反応率を示し、すべての理由による中断率に差はなかった。これらより、精神症性の特徴を伴ううつ病に対して、抗うつ薬と抗精神病薬の併用は、それぞれの単剤療法より有用であると判断した。ただし、いずれの解析結

果も組み入れられた試験数が少ないこと、わが国で使用できない薬剤が多く含まれていることなど、限界を考慮して慎重に解釈する必要があり、推奨の強さは弱い(2)とした。

以上より、精神症性の特徴を伴ううつ病において、抗うつ薬と抗精神病薬の併用を行うことを弱く推奨する(2B)という推奨文となった。

5 推奨決定会議の結果1 回目1 行うことを強く推奨する:21% 2 行うことを弱く推奨する:79%行わないことを弱く推奨する:0%行わないことを強く推奨する:0%

【文献】

1)Kruizinga J, Liemburg E, Burger H, et al :

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p.186
CQ7-5-4精神症性の特徴を伴ううつ病において、抗うつ薬と抗精神病薬の併用で改善した患者の維持期治療として、併用はそれぞれの単剤より有用か

【要約】精神症性の特徴を伴ううつ病の維持期治療において、抗うつ薬と抗精神病薬の併用療法を行わないことを提案する。ただし、再発率の高さや有害事象のリスクという観点も踏まえ、患者と情報を共有して決定することが望ましい。

【解説】

1 はじめに

精神症性の特徴を伴ううつ病に対して、抗うつ薬と抗精神病薬の併用はよく行われている。本CQでは、併用療法で改善した患者において、維持期にも併用療法を継続することの有用性を検討するために、既存のシステマティックレビューを検索した。

2 方法

対象者 (P)を、精神症性の特徴を伴ううつ病に対する急性期治療で改善した患者、介入 (I)を抗うつ薬と抗精神病薬の併用による維持期治療、コントロール (C)を抗うつ薬または抗精神病薬の単剤による維持期治療とした。益のアウトカム (O)は非再発率(重要性8)、害のアウトカム(O)はすべての理由による治療中断率(重要性4)とし、研究デザインをRCT のシステマティックレビューと設定した。

3 結果

システマティックレビューの結果、併用療法と抗うつ薬単剤療法の比較においては、抗うつ薬と抗精神病薬の併用(併用群)と抗うつ薬とプラセボの併用(抗うつ薬群)で再発率を比較したメタ解析(N=3)を採用した1)。再発率に関して有意差はなく (N=3、n=195、リスク比 0.82、95%信頼区間 0.23~2.94)、また有害事象に関する記載はなかった。各RCT のサンプル数が少なく、使用

されている薬剤が異なること、研究間で再発の定義が異なることから、メタ解析として質が高いとはいえない。また、併用療法と抗精神病薬単剤療法との比較においては、システマティックレビューは見つからなかったためRCT を検索した。抗うつ薬と抗精神病薬の併用と抗精神病薬とプラセボの併用をみたSTOP-PD 試験2)の結果では、オランザピンとセルトラリンの併用(併用群)とオランザピンとプラセボの併用(オランザピン群)による寛解後の12 週間の再発率において、併用群では6/46人 (13.0%)、オランザピン群では2/25 人 (8.0%)であったが、統計的な有意差はなく、副作用発現率にも差はなかった3)。なお、CQ11-4 の補助療法で寛解したDTD (難治性抑うつ)患者の維持期治療において「補助療法に使用した第2 世代抗精神病薬を継続することを提案する」となっており、本

CQ7-5-4とは方針が異なる。これは、両CQ で対

象者(P)が精神症性の特徴の有無のみならず、治療開始時からの併用の有無、DTD 包含の有無など条件が異なることによると考えられる。また、薬剤中止に関するRCT が少ないことも影響しており、今後のエビデンスの集積が待たれる。

4 要約の作成

以上のことから、精神症性の特徴を伴ううつ病
p.187
の維持期治療においては、抗うつ薬と抗精神病薬の併用療法がそれぞれの単剤療法と差がなかった。一方、抗うつ薬と抗精神病薬を併用することによって、副作用などの有害事象のリスクや経済的な負担の増加が懸念される。よって、抗うつ薬と抗精神病薬の併用療法を行わないことを提案する。た

だし、再発率の高さや有害事象のリスク、経済的な側面、保険適用を鑑みて、患者と情報を共有して決定することが望ましい。

【文献】

1)Al-Wandi A, Holmberg C, Landén M, et al : A

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p.188
CQ7-6-1カタトニアを伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

【要約】1 カタトニアはさまざまな疾患から発症する可能性があるため、背景に何らかの器質性・

症状性疾患がないかの検索を行うことが重要である。

【解説】

1 定義と臨床的特徴

DSM-5-TR におけるカタトニアの本質的な特徴は、顕著な精神運動性の障害であり、意識は清明であるにもかかわらず、精神運動活動が停止したいわゆる昏迷のような運動活動性の低下から、常同症や外的刺激の影響によらない興奮などの運動活動性の亢進まで幅広い複雑な臨床像を呈し、その原因として精神疾患に関連するもの、他の医学的疾患に関連するもの、特定不能のものに分類される1)。カタトニアを伴ううつ病は、無動(カタレプシーや昏迷)、意味のない過活動、拒絶症、無言症、奇異な行動、反響言語、反響動作などさまざまな精神運動性の障害を伴う疾患群であり、治療法や予後の違いから、DSM-5-TR では「カタトニアを伴う」として特定用語が与えられている。ICD- 10 では、精神症症状を伴う重症うつ病エピソードのなかにうつ病性昏迷が含まれる。

カタトニアは精神疾患のみならず、感染症や自己免疫性脳炎が原因となることもあり、病態として、炎症などの免疫系の関与2)や大脳の運動系の

回路の変化との関連などが想定されている3)。カタトニアの背景疾患として、主に入院患者を対象としたメタ解析4)によると、すべての背景疾患を含むカタトニアの有病率は約9%であった。背景疾患で分類すると、精神疾患を伴わない身体または神経疾患における有病率が20.6%と高く、双極症も20.1%と高いが、うつ病では少ないことが示唆されている。さまざまな原因からカタトニアを発症する可能性があり、うつ病の既往にかかわらず、カタトニアと思われる病態をみる際は、背景に感染症、神経疾患、内分泌・代謝疾患、自己免疫性疾患などのさまざまな器質性・症状性疾患がないか検索を行うことが重要である。また、脱水、栄養障害、静脈塞栓、褥瘡などの合併症をきたしやすいため、全身状態をモニターし、必要に応じて輸液や経口的栄養補給を行い、経口投与が困難であれば非経口的薬物投与も行う必要がある。
p.189
【文献】

1)American Psychiatric Association, DSM-5-TR

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p.190
CQ7-6-2カタトニアを伴ううつ病の治療法はなにか

【要約】1 カタトニアを伴ううつ病の急性期の薬物療法としてベンゾジアゼピン系薬剤による補

助療法を提案する。2 非薬物療法として修正型電気けいれん療法(ECT)を提案する。

【解説】(図1)

1 薬物療法

カタトニアを伴ううつ病のみを対象とした薬物療法の研究はきわめて少ないため、うつ病以外の精神疾患によるカタトニアを含めた研究も参考にした。研究参加の同意が得られにくいことや治療に緊急を要することが多いため、プラセボを対照とした無作為化比較試験(RCT)は実施が難しく、薬物療法の有効性や有害事象についてのエビデンスは乏しい1)。カタトニアの改善が得られたのちに、原因となった精神疾患の治療を行うのが一般的である。

カタトニアの薬物療法として、ベンゾジアゼピン系薬剤の経口投与または非経口投与は古くから経験的に使用されている2,3)。うつ病以外の精神疾患も含むカタトニアに対するベンゾジアゼピン系薬剤の有効性を検討した22 本の文献からなるコクランレビューでは、最終的にロラゼパムとoxazepam の舌下投与を直接比較した1 本のRCTが解析対象となり、有効性に関しては両群に有意差は認めなかったが、両群とも投与前後で有意に症状の改善を認めた4)。また、ロラゼパムで効果が不十分であったカタトニアに対してクロナゼパムが有効であった症例報告5)や、ゾルピデムが有効であった症例報告6,7)があり、ベンゾジアゼピン系薬剤の切り替えの有効性が示唆されている。しかし、ベンゾジアゼピン系薬剤の慢性投与は依存形成などの問題を生じることから、急性期のカタトニア症状が改善するまでの短期間の使用に留めることが望ましい。

海外では、カタトニアの診断的治療として、ロラゼパムチャレンジテストが行われている3,8,9)。0.5 ~2mg のロラゼパムを、経口または静脈注射(適用外)で投与する(海外では筋肉内注射や舌下も選択されうる)。わが国では、2019 年からてんかん重積状態の治療薬としてロラゼパムの注射製剤が上市されているが、カタトニアやうつ病には保険適用外である。ジアゼパムの静脈注射や筋肉内注射で代用できる可能性があるが、筋肉内注射する場合は筋肉や神経の損傷に注意する必要がある。また、筋肉内注射は吸収が不安定になるので過鎮静に注意する。

抗精神病薬に関しては一定の見解は得られていない。第2 世代抗精神病薬(second generation antipsychotics :SGAs)は、クロザピン、アリピプラゾール、オランザピン、リスペリドン、クエチアピンなどにおいて主に統合失調症に起因するカタトニアへの有効性が報告されているが、カタトニア症状の悪化や悪性症候群を引き起こす可能性も報告されているため、注意が必要である8,10,11)。また第1世代抗精神病薬(first generation antipsychotics :FGAs)はしばしば無効で、カタトニア症状の悪化を引き起こす可能性がある12)。

抗てんかん薬やN-methyl-D-aspartate (NMDA)受容体アンタゴニストのアマンタジンやメマンチンは、カタトニアに対する症例報告はあるものの、十分なエビデンスはない8,10)。
p.191
2 非薬物療法

電気けいれん療法(ECT)に関しては、2 本のRCT、1 本の準RCT、7 本のケースシリーズを含む計10 本の試験に基づくメタ解析において、カタトニアに対して有意な改善が示されている〔N= 10、n=211、治療前後標準化平均差-3.14、95%信頼区間 -3.95~-2.34〕13)。同解析では、ECT中の不整脈やECT 後の記憶障害などの有害事象

も報告されている。一方、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)については、症例報告をまとめたレビューのみが存在し、カタトニアに対する有効性が示唆されているものの、エビデンスの質には限界があり、安全性に関する評価も不十分である14)。

【文献】

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p.192
CQ7-7-1季節性のパターンを伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

【要約】1 季節性のパターンを伴う抑うつエピソードは、双極症でも認められるため、経過中の躁

/軽躁病エピソードの出現に留意する必要がある。

【解説】

1 定義と臨床的特徴

季節性のパターンを伴ううつ病は、特定の季節において抑うつエピソードを繰り返すうつ病の一型である。抑うつエピソードは1 年のうち特定の時期に出現し、完全寛解後も1 年のうち特定の時期に再発する。最近2 年間に時間的な規則性の関係を示す抑うつエピソードが2 回起こっており、同じ期間内に非季節性抑うつエピソードが起きていないことが診断には必要である。さらに季節性抑うつエピソードは、生涯にわたって、非季節性抑うつエピソードの発現を大幅に上回らなければならない。最も典型的なのは冬季うつ病で、秋から冬にかけて抑うつエピソードを発症し、春に完全

寛解する。

季節性のパターンを伴う気分障害(季節性感情障害)が、反復性うつ病と双極症のどちらでより多いのかは不明である1)。1980 年代の研究では、季節性感情障害の9 割以上が双極症であったが、操作的診断基準を用いた1990 年代以降の研究では、双極症の割合は11~50%であった2,3)。季節性感情障害のリスク因子に関するエビデンスは限られているものの、家族歴や女性、高緯度地域に住んでいること、若年成人などはリスク因子と考えられている4)。

【文献】

1)American Psychiatric Association (原著), 高橋

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p.193
CQ7-7-2季節性のパターンを伴ううつ病に有用な治療はなにか

【要約】(図1) 1 季節性のパターンを伴ううつ病の治療として新規抗うつ薬を提案する。2 非薬物療法としては高照度光療法を提案する。

【解説】

1 抗うつ薬治療

海外のうつ病ガイドラインにおいて、季節性のパターンを伴ううつ病に対する抗うつ薬の推奨に関する記載は一貫しない。BAP のガイドラインでは「季節性のパターンを伴ううつ病に対する抗うつ薬の効果に関するエビデンスは非常に限られており、最も強いのはSSRIである」とされている1)。また、他の主要ガイドライン2-5)においては、季節性のパターンを伴ううつ病に対する抗うつ薬の推奨に関する記載はない。これまでに、季節性のパターンを伴ううつ病に対して新規抗うつ薬の有効性を調べた無作為化比較試験(RCT)はなく、双極症を含む季節性感情障害に対して新規抗うつ薬の有用性を検証した小規模のRCT が2 本のみと、エビデンスは限られている6,7)。季節性感情障害の患者187 人 (うつ病 n=158、双極症 n=8、その他 n=21、ベースラインにおける29 項目版HAM- D 合計スコア:平均約36 点)をセルトラリン50 ~200mg/日 (セルトラリン群)もしくはプラセボ(プラセボ群)に8 週間割り付けた試験7)おいて、セルトラリン群はプラセボ群と比べて、8 週目の抑うつ症状の改善度が有意に大きかったが(セルトラリン群:-17.90、プラセボ群:-13.39、p= 0.019)、反応率(HAM-D スコアのベースラインから50%以上の改善)は同等であった(セルトラリン群:55.9%、プラセボ群:50.0%)。また、セルトラリン群(81.7%)において、プラセボ群(50.0%)と比較し有害事象の発現率が有意に(p =0.001)高かったが、ほとんどの有害事象は軽度から中等度で、一過性であった。季節性感情障害

の患者68 人 (うつ病 n=63、双極症 n=5、ベースラインにおける29 項目版HAM-D スコア:平均約33 点)をfluoxetine 20mg/日 (fluoxetine 群)、もしくはプラセボ (プラセボ群)に割り付けた試験6)では、fluoxetine 群はプラセボ群と比べて、5 週目における抑うつ症状の重症度に有意な差はなかったものの、反応率は有意に高く(セルトラリン群:59%、プラセボ群:34%、p<0.05)、安全性に有意差はなかったと報告されている。以上より、季節性感情障害に対して新規抗うつ薬の有効性が示唆されていることや6,7)、中等度以上のうつ病に対して新規抗うつ薬の有用性は確立していることから、季節性のパターンを伴ううつ病に対しては新規抗うつ薬を提案する。ただし、季節性のパターンを伴ううつ病に限定した新規抗うつ薬の有用性を検討したRCT がないこと、季節性感情障害に対する有用性を調査された新規抗うつ薬はセルトラリンとfluoxetine しかなく、試験数がそれぞれ1 本しかないこと、他の新規抗うつ薬は調査されていないこと6,7)、fluoxetine はわが国において未承認薬であることなどに留意しなければならない。

2 高照度光療法

海外の主要なガイドラインにおいて、高照度光療法は季節性のパターンを伴ううつ病に対して推奨されている1,5,8)。高照度光療法に対する反応性が季節性のパターンを伴ううつ病と双極症の間で
p.194
違いがあるかは十分なエビデンスがないものの、今のところ両者に大きな差はないと考えられている9)。季節性のパターンを伴ううつ病に対する光療法の有用性を検討したシステマティックレビュー・メタ解析は存在しないものの、季節性感情障害(うつ病と効果に差がないことから双極症も含む)に対する高照度光療法の有用性を調べたシステマティックレビュー・メタ解析では、高照度光療法群は対照群と比べて有意に抑うつ症状が改善し (N=18、n=610、標準化平均差 -0.37、95%

信頼区間 -0.63~-0.12)、反応率が高い結果であった (N=16、n=559、リスク比 1.42、95%信頼区間 1.08~1.85)9)。季節性のパターンを伴ううつ病に対する高照度光療法は、CANMAT ガイドライン20232)においても生活習慣への介入として第1 選択治療に推奨されている。しかし、高照度光療法はわが国で保険適用を有さないことに留意する必要がある。

【文献】

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p.195

        
p.196
第8 章 不眠症状を伴ううつ病

CQ8-1不眠症状を伴ううつ病の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

【要約】1 不眠症状を伴ううつ病患者の評価は急性期のみならず、維持期でも行うことが重要であ

る。維持期において不眠症状が残遺している場合は、併存不眠障害として積極的に治療介入を行う。2 不眠症状を伴ううつ病患者に対して、それぞれの睡眠習慣を確認した上で適切な睡眠衛生指導を行う。3 うつ病に併存する不眠症状を評価する際に、不眠症状が睡眠時無呼吸症候群、レストレ

スレッグス症候群、概日リズム睡眠・覚醒障害などの他の原発性睡眠障害により生じていないか鑑別診断を行う。

【解説】

1 うつ病に伴う不眠症状

不眠症状は、DSM やICD のうつ病の診断基準に含まれている基本症状の1 つである。不眠症状はうつ病の8~9 割にみられ、その種類としては入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒が複合して生じることが多い。わが国における疫学調査において、うつ病における最も頻度の高い不眠症状は入眠障害であることが報告されている1)。うつ病に伴う不眠症状は、うつ病の部分症状、すなわち二次性のもの(二次性不眠障害)と考えられていたが、抑うつエピソード寛解後に残遺症状として持続することが多いことや、残遺症状としての不眠が再発のリスクを高めることが報告されていることから、うつ病とは独立した併存症(併存不眠障害)であることも念頭におく必要があるだろう2)。また、不眠症状は抑うつエピソード発現に先行して生じることが多くうつ病の発症や再燃の重要なリスク因子であることが、メタ解析で明らかになっている3)。このように不眠症状とうつ病との関係は密接で多様である。うつ病の改善に伴い二次性不眠障害も軽減、消失するとの考えから、抑うつエピソードに伴う不眠症状に対しては、積極的な治療

は不要であるとの意見があったが、現在では、うつ病患者でみられる不眠症状を抑うつ症状悪化因子である不眠障害の併存として捉え、積極的に治療介入すべきとの考えが主流になってきている。

うつ病寛解後に何らかの症状が残遺するケースは多く、残遺症状は社会機能低下の一因となる。残遺症状のなかでは不眠症状が最も頻度が高く、寛解期のうつ病患者の20~60%に認められる2)。60 歳以上の寛解期うつ病患者の2 年間の再発率を調査した研究では、寛解期に不眠症状が残遺すると、その後の再発率が高くなっていた。(調整ハザード比4.84、95%信頼区間1.40~16.73、p=0.01) 4)。残遺不眠症状では入眠障害よりも中途覚醒などの睡眠維持障害の割合が多いとの報告があり5)、睡眠維持障害は入眠障害と比較して睡眠薬による治療に対して抵抗性であるため、残遺不眠症状が治療抵抗性や遷延化の要因の1 つになっている可能性がある。また、うつ病患者を対象に実施した4年間の縦断的調査において、不眠症状が残遺していた群では、基準時点や4 年の経過中に服用して
p.197
いた抗うつ薬が多剤であったことが示されている6)。よって、残遺不眠症状はうつ病の治療抵抗性を示す可能性ともに、抗うつ薬の副作用による可能性を念頭におく必要がある。

2 睡眠衛生指導

うつ病における不眠症状の評価においては、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などの不眠症状のタイプや重症度を評価することは重要であるが、同時に睡眠衛生の確認が必要となる。すなわち、患者の就寝時刻、起床時刻、入眠にかかるまでの時間などの睡眠習慣に加え、食事や入浴時間などの生活習慣の確認を行う。また、就寝前のパソコンやスマートフォンの使用などの不適切な睡眠衛生の有無を確認することも重要である。患者は、「寝付けない」「夜中に何度も目が覚める」などを主訴としている場合が多いものの、睡眠衛生や生活習慣の乱れが背景にあることも少なくない。必要な睡眠衛生指導は患者ごとに異なるが、一般に若年者では夜間のブルーライトなどの光により睡眠・覚醒リズムの乱れが生じやすいため、夜間の光環境に留意する必要がある。就労世代では、平日は仕事が忙しく十分な確保ができずに週末に寝だめになってしまうようなパターンは多くみられるが、1 週間を通じた規則的な睡眠・覚醒リズムの維持が重要になるため、その点を患者に説明する必要がある。高齢者においては、日中の活動性の低下が夜間の睡眠の質を低下させることが多いため、日中の活動性を維持することを中心に睡眠衛生指導を行うことが効果的である。

3 鑑別すべき睡眠・覚醒障害

うつ病における不眠症状の背景にある鑑別すべき睡眠・覚醒障害として、睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス症候群、概日リズム睡眠・覚醒障害が挙げられる。

睡眠時無呼吸症候群は、日中の倦怠感や眠気などがうつ病の症状と混同されることも多く、うつ病における睡眠時無呼吸症候群の併存率は36.3%

(95%信頼区間 19.4~57.4)であり、双極症や統合失調症と比べても高頻度であることが報告されている7)。うつ病に睡眠時無呼吸症が併存することで、不眠症状が遷延するだけではなく、抗うつ薬の効果が乏しくなる可能性もあり、抗うつ薬の効果が不十分な場合には睡眠時無呼吸症候群の鑑別も必要である。睡眠時無呼吸症候群は、いびき・無呼吸の有無、体重の変化などの問診や簡易検査(手指にパルスオキシメーターを装着して、酸素飽和度や脈拍を測定)の実施も有用である。正確に睡眠の状態や無呼吸症候群の重症度を評価するためには終夜睡眠ポリソムノグラフ検査が最も有用であるため、必要に応じて検討することが望ましい。

レストレスレッグス症候群は、下肢を中心に「むずむず感」や「痒み」といった異常感覚が生じて、主に夕方から夜間の安静時に症状が出現ないし悪化することにより、主に入眠障害が引き起こされる睡眠・覚醒障害である。レストレスレッグス症候群が抗精神病薬で誘発されることは知られているが、ミルタザピン、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの抗うつ薬でも同様に発現リスクが増加することが報告されている8)。このため、抗うつ薬を投与中に、下肢の異常知覚を訴える場合や入眠困難が遷延する場合には、レストレスレッグス症候群の併存にも留意して症状の把握をする必要がある。なお、フェリチンの低下が発症ならびに増悪因子であることが知られているため、レストレスレッグス症候群を疑った際にはフェリチンの測定も有用である。

概日リズム睡眠・覚醒障害も同様にうつ病での併存が多く、不眠症状のみならず、起床困難や日中の過眠症状の原因になることが知られている9)。概日リズム睡眠・覚醒障害の診断は1 週間以上の連続した睡眠・覚醒リズム表などの記録により、睡眠・覚醒リズムの乱れを把握する必要があり、
p.198
診察時の横断面の症状だけでは見過ごされることが少なくないため、疑った際には睡眠・覚醒リズム表による症状把握が必要となる。不眠症状の評価においては、睡眠状態の誤認などにより主観的な評価と客観的な評価が乖離することがあるため、必要に応じて2 週間程度のアクチグラフによる客観的な睡眠・覚醒リズム評価を行うことも有用である。近年はウェアラブルデバイス技術の発展により、比較的安価で汎用性の高いスマートウオッチでも、ある程度の信頼性のあるデータが得られるため、それらのデータを活用することも日常臨床での睡眠・覚醒リズムの評価の一助になる。また、高齢者のうつ病でみられやすい睡眠・覚

醒障害として、レム睡眠行動障害が挙げられる。これは、レビー小体型認知症などの神経変性疾患の前駆症状として、高齢者のうつ病が生じることがあるためだと考えられている。夜間後半のレム睡眠を中心に夢内容と一致した寝言や行動化がみられる場合には、レム睡眠行動障害を疑う必要がある。レム睡眠行動障害の確定診断には終夜睡眠ポリソムノグラフ検査が必要となる場合があるが、診断が確定した場合は、レビー小体型認知症などの神経変性疾患の可能性も考慮する必要がある。

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al : Residual symptoms in depressed outpatients who respond by 50% but do not remit to antidepressant medication. J Clin Psychopharmacol

31 : 180-186, 2011 6)Li SX, Lam SP, Chan JW, et al : Residual sleep

disturbances in patients remitted from major depressive disorder: a 4-year naturalistic follow-up study. Sleep 35 : 1153-1161, 2012 7)Stubbs B, Vancampfort D, Veronese N, et al : The

prevalence and predictors of obstructive sleep apnea in major depressive disorder, bipolar disorder and schizophrenia: A systematic review and meta-analysis. J Affect Disord 197 : 259-267,

2016 8)Rottach KG, Schaner BM, Kirch MH, et al : Restless

legs syndrome as side effect of second generation antidepressants. J Psychiatr Res 43 : 70-75, 2008 9)Takaesu Y, Inoue Y, Ono K, et al : Circadian

rhythm sleep-wake disorders as predictors for bipolar disorder in patients with remitted mood disorders. J Affect Disord 220 : 57-61, 2017
p.199
CQ8-2不眠症状を伴ううつ病に対する治療法はなにか

【要約】1 不眠症状を伴ううつ病に対して、抗うつ薬と睡眠薬の併用を行う。GABAA 受容体作動

薬は、長期使用による依存形成のおそれがあるため、短期に限っての使用が望ましい。2 不眠症状を伴ううつ病に対して睡眠薬の代替治療として、クエチアピン徐放錠(適用外)の単剤治療は選択肢のひとつとなる。鎮静作用のある抗精神病薬(クエチアピンなど)や抗うつ薬(トラゾドンなど)の補助療法もそれぞれ選択肢のひとつとなる。3 不眠症状を伴ううつ病に対して、非薬物療法では不眠に対する認知行動療法(cognitive

behavioral therapy for insomnia:CBT-I)がある。

【解説】(図1)

1 睡眠薬の併用療法不眠症状を伴ううつ病患者に対する睡眠薬治療の有用性については、いまだ十分なコンセンサスが得られているとは言いがたい。545 人の不眠症状を伴ううつ病患者にfluoxetine を主剤としてプラセボもしくはエスゾピクロンを二重盲検で割り付け、8 週間の症状推移を両群間で比較した研究1)では、エスゾピクロン群で投与終了時点において不眠症状の改善だけではなく、抑うつ症状の改善においてもプラセボ群より優れていた。このことは、うつ病急性期における不眠症状への適切な治療が抑うつ症状改善に有用であることを裏付けるものであり、睡眠薬が不眠症状を伴ううつ病患者の治療薬としての重要な候補になることを印象付けていた。上記研究を含む、不眠症状を伴ううつ病患者に対する抗うつ薬に追加した新規GABAA受容体作動薬(エスゾピクロン、ゾピクロン、ゾルピデムなど)の有用性を検討したシステマティックレビューとメタ解析では、6 本の無作為化比較試験(RCT)をメタ解析した結果、睡眠薬併用群では抑うつ症状の寛解率とハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)総スコアの有意な改善を認めたが、副作用の発現頻度も睡眠薬併用群のほうが有意に高かった。しかし、これらの研究追跡期間は平均10.5 週間であるため、この結果はあくまで急性期

の抑うつ症状の軽減効果を示すに留まる。睡眠薬使用の長期的な益と害については明らかではないため、今後は、これらの点についての検討が必要となる。

オレキシン受容体拮抗薬については、不眠症状を伴ううつ病患者に対する有用性を示す質の高いエビデンスは存在しない。しかし,薬理作用を考えると、GABAA 受容体作動薬と比較して、オレキシン受容体拮抗薬は依存性や筋弛緩作用、認知機能に与える影響などは少ないと考えられている。これらを考慮すると、不眠症状を伴ううつ病患者に対して、抗うつ薬にオレキシン受容体拮抗薬を併用することは合理的な治療選択であると考えられる。オレキシン受容体拮抗薬で生じやすい副作用である翌日の眠気の持ち越しや夢の異常などに留意しながら、慎重にその使用については検討することが望ましい。メラトニン受容体作動薬についても同様に、有用性を示す十分なエビデンスは乏しいため、慎重にその使用を検討することが望ましい。
p.200
2 鎮静作用のある抗うつ薬や抗精神病薬の単

剤治療と補助療法不眠症状を伴ううつ病患者に対してクエチアピン徐放錠(適用外)を単剤で使用した二重盲検RCTの複数の研究のプール解析をした研究では、クエチアピン徐放錠群はプラセボ群に比較して有意な抑うつ症状の改善が認められた2)。一方で、害のアウトカムについては統計学的なプラセボとの比較解析はなかったが、クエチアピン徐放錠群では鎮静、過眠症状、脱力感、倦怠感などの副作用の出現率が高かった。以上から、うつ病に併存する不眠症状に睡眠薬の代替治療として、クエチアピン徐放錠(適用外)の単剤治療は選択肢のひとつとなる。なお、クエチアピン徐放錠に伴う副作用発現のリスクがあるため、使用する場合は慎重に検討する必要がある。

クエチアピン徐放錠の抗うつ薬への補助療法を検討した研究では、益のアウトカムとして、抑うつ症状の改善度(短期)が報告され、害のアウトカムは報告されていなかった3)。クエチアピン徐放錠群ではプラセボ群に対して有意に抑うつ症状の改善度が高かった。害のアウトカムは報告されていなかったが、副作用による脱落はクエチアピン徐放錠群において高かったことが報告されていた。以上から、うつ病に併存する不眠症状に対して、クエチアピン徐放錠の補助療法は選択肢のひとつとなる。なお、クエチアピン徐放錠に伴う副作用発現のリスクがあるため、使用する場合は慎重に検討する必要がある。

鎮静作用を有する抗うつ薬であるトラゾドンを、睡眠薬の代替治療薬として不眠症状を伴ううつ病患者に対して使用することは、臨床的に少なくないと考えられる。しかしながら、その有用性を示したエビデンスは乏しいのが現状である。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)で治療中の12 人の不眠症状を伴ううつ病患者に対するトラゾドン100mg の有用性を検討した二重盲検無作為化クロスオーバー試験においては、トラゾドン

群ではプラセボ群と比較して、有意な不眠症状の改善を認めたが、抑うつ症状ついては両群で有意な差を認めなかった。一方で有害事象については、プラセボと比較してトラゾドンで発現が多いという結果であった4)。この報告は少数例を対象とした試験であるため、不眠症状を伴ううつ病患者へのトラゾドンの有用性は明確ではなく、わが国においては保険適用外の使用となるため、その使用については慎重に検討することが望ましい。

3 不眠に対する認知行動療法(CBT-I)

不眠障害の非薬物療法で代表的なものに、不眠に対する認知行動療法(CBT for insomnia:CBT- I)がある。CBT-I は、心理教育・睡眠衛生指導、睡眠スケジュール法、漸進的筋弛緩法、認知的介入を組み合わせた治療方法であり(表1)、不眠症状を伴ううつ病患者に対しても有効性が示されている5)。わが国においても、治療抵抗性の残遺不眠症状を伴ううつ病患者に対して、短期CBT-I の有用性を検討したRCT が実施されており、短期CBT-I 治療群では通常治療群と比較して、不眠症状の寛解率のみならず、抑うつ症状の寛解率も有意に高かったことが示されている6)。同様に、抗うつ薬に加え、CBT-I を行うことで、不眠症状だけでなく、抑うつ症状も改善がみられたという報告があり7)、複数のメタ解析によりCBT-I の抑うつ症状改善効果が示唆されている8,9)。しかしながら、これらのメタ解析ではうつ病以外の対象者も含まれているため、不眠症状を伴ううつ病患者へのCBT-I の効果についてはさらなる検討が必要である。CBT-I に関しては、わが国では保険収載されておらず、実施可能な施設が限られているなど制限も多いが、今後CBT-I の普及によりうつ病に併存する不眠症の治療選択肢が増えることが期待される。
p.201
【文献】

1 )Fava M, McCall WV, Krystal A, et al :

Eszopiclone co-administered with fluoxetine in patients with insomnia coexisting with major depressive disorder. Biol Psychiatry 59 : 1052- 1060, 2006 2)Trivedi MH, Bandelow B, Demyttenaere K, et

al : Evaluation of the effects of extended release quetiapine fumarate monotherapy on sleep disturbance in patients with major depressive disorder: a pooled analysis of four randomized acute studies. Int J Neuropsychopharmacol 16 : 1733-1744, 2013 3 )Bauer M, McIntyre RS, Szamosi J, et al :

Evaluation of adjunct extended-release quetiapine fumarate on sleep disturbance and quality in patients with major depressive disorder and an inadequate response to on-going antidepressant therapy. Int J Neuropsychopharmacol 16 : 1755-1765, 2013 4)Kaynak H, Kaynak D, Gözükirmizi E, et al : The

effects of trazodone on sleep in patients treated with stimulant antidepressants. Sleep Med 5 : 15-20, 2004 5)Manber R, Buysse DJ, Edinger J, et al : Efficacy

of Cognitive-Behavioral Therapy for Insomnia Combined With Antidepressant Pharmacotherapy in Patients With Comorbid

Depression and Insomnia: A Randomized Controlled Trial. J Clin Psychiatry 77 : e1316e1323, 2016 6)Watanabe N, Furukawa TA, Shimodera S, et al :

Brief behavioral therapy for refractory insomnia in residual depression: an assessor-blind, randomized controlled trial. J Clin Psychiatry 72 : 1651-1658, 2011 7)Manber R, Edinger JD, Gress JL, et al : Cognitive

behavioral therapy for insomnia enhances depression outcome in patients with comorbid major depressive disorder and insomnia. Sleep 31 : 489-495, 2008 8)Feng G, Han M, Li X, et al : The Clinical

Effectiveness of Cognitive Behavioral Therapy for Patients with Insomnia and Depression: A Systematic Review and Meta-Analysis. Evid Based Complement Alternat Med 2020 : 8071821, 2020 9)Ho FY, Chan CS, Lo WY, et al : The effect of

self-help cognitive behavioral therapy for insomnia on depressive symptoms: An updated meta-analysis of randomized controlled trials. J Affect Disord 265 : 287-304, 2020
p.202

        
p.203

        
p.204
CQ 8-3不眠症状を伴ううつ病に対して、抗うつ薬と睡眠薬の併用は抗うつ薬の単剤と比べて有用か

【推奨】

不眠症状を伴ううつ病に対して、抗うつ薬と睡眠薬の併用を行うことを弱く推奨する(2B)。

【推奨文】

不眠症状を伴ううつ病患者に対して、抗うつ薬と睡眠薬の併用は抗うつ薬の単剤と比較して、短期の抑うつ症状の寛解(A)、短期の抑うつ症状の軽減(A)、短期の不眠症状の軽減(A)において優れていた。研究期間中の重篤な有害事象の発現(B)、有害事象による治療脱落(B)、眠気の発現(B)については両群間で差を認めなかった。ただし、12 週を超える長期の効果や有害事象の評価ができておらず、ほとんどの睡眠薬がGABAA受容体作動薬(ベンゾジアゼピン受容体作動薬)であり、長期使用による依存形成のおそれがあるため、短期に限っての使用が望ましい。

【解説】

1はじめに

うつ病患者における新規γ-アミノ酪酸A (gamma-aminobutyric acid A: GABAA )受容体作動薬(エスゾピクロン、ゾピクロン、ゾルピデムなど)の有効性と安全性を評価したシステマティックレビューおよびメタ解析では、併用した場合は、抗うつ薬単剤と比較して有意に反応率、寛解率、および抑うつ症状の改善において、有意な有効性が示された1)が、このシステマティックレビューの後にも新規GABAA 受容体作動薬と抗うつ薬の併用のRCT がいくつか存在した。また近年は、新規GABAA 受容体作動薬に加えてさらに別のメカニズムの睡眠薬が開発されており、これらの新規睡眠薬と抗うつ薬の併用の有用性についても研究されている2)。このため、不眠症状を伴ううつ病に対する抗うつ薬に睡眠薬を併用した場合と抗うつ薬の単剤の有用性を比較した。2方法

対象者(P)を、不眠症状を伴ううつ病患者、介入(I)を抗うつ薬と睡眠薬(GABAA 受容体作動薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬)の併用、コントロール(C)を抗うつ薬単剤とした。益のアウトカム(O)は、長期の抑うつ症状の寛解率(重要性9)、短期の抑うつ症状の寛解率(重要性8)、短期の抑うつ症状の改善度(重要性7)、短期の不眠症状の改善度(重要性7)、害のアウトカム(O)は、重篤な有害事象の発現率(重要性9)、有害事象による脱落率(重要性7)、眠気の発現率(重要性6)とし、研究デザインをRCT と設定した。

3結果

本メタ解析には9 本のRCT(n=2,165)が含まれた3-11)。研究の観察期間は4~12 週間で、長期のアウトカムを測定できた研究はなかった。本研究対象者のベースラインでの抑うつ症状の重症度
p.205
が示されている6 本でのハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)平均値は24.1 点で、それ以外の研究では包含基準としてHAM-D>17 点(N=1)、HAM-D≧16 点(N=1)、詳細不明(N=1)であった。抗うつ薬に併用された睡眠薬は、エスゾピクロン(N=4)、ゾルピデム(N=3)、トリアゾラム(N=1)、ラメルテオン(N=1)であった。メタ解析の結果、短期の抑うつ症状の寛解率(N =5、n=1,121、リスク比1.24、95%信頼区間 1.07 ~1.43、併用群42.2% vs. 単剤群34.0%]、短期の抑うつ症状の改善度(N=6、n=1,900、標準化平均差0.20、95%信頼区間 0.05~0.36)、短期の不眠症状の改善度(N=4、n=881、標準化平均差0.60、95%信頼区間 0.22~0.97)において、併用群では単剤群と比較して有意に高かった。害のアウトカムでは、重篤な有害事象の発現率(N=7、n=1,815、リスク比 0.87、95%信頼区間 0.33~ 2.27、併用群0.9% vs. 単剤群1.0%)、有害事象による脱落率(N=4、n=1,731、リスク比 0.93、95%信頼区間 0.59~1.48、併用群7.04% vs. 単剤群7.51%)、眠気の発現率(N=6、n=1,710、リスク比 1.28、95%信頼区間 0.88~1.84、併用群7.21% vs. 単剤群5.53%) において両群間で有意差は認めなかった。長期(>12 週)の抑うつ症状の寛解率については測定した研究がなかった。4推奨文の作成

メタ解析の結果、不眠症状を伴ううつ病患者に対して、抗うつ薬と睡眠薬の併用で、短期の抑うつ症状の寛解率、改善度、短期の不眠症状の改善度において有意な有効性が示された。重篤な有害事象の発現率、有害事象による治療脱落率、眠気の発現率については両群間で差を認めなかった。

長期の効果や有害事象の評価ができなかったことからエビデンスレベルはB と評価された。

ほとんどの睡眠薬がGABAA 受容体作動薬であり、長期使用による依存形成のおそれがあることに留意が必要であることから、4~12 週間の短期に限って、不眠症状を伴ううつ病患者に対して、抗うつ薬と睡眠薬の併用を行うことを弱く推奨する(2B)となった。

なお、本CQ では不眠症状を有する患者に限定されていることと、ほとんどが新規GABAA 受容体作動薬(エスゾピクロン、ゾルピデム)を用いた研究であったことで、中等度/重度うつ病のCQ3- 7 とは対象と介入薬が異なる。

5推奨決定会議の結果1 回目1 行うことを強く推奨する:4% 2 行うことを弱く推奨する:96% 3 行わないことを弱く推奨する:0% 4 行わないことを強く推奨する:0%

【文献】

1)Kishi T, Matsunaga S, Iwata N : Efficacy and

tolerability of Z-drug adjunction to antidepressant treatment for major depressive disorder: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci 267 : 149-161, 2017 2)Savitz A, Wajs E, Zhang Y, Xu H, Etropolski M,

Thase ME, et al. Efficacy and Safety of Seltorexant as Adjunctive Therapy in Major Depressive Disorder: A Phase 2b, Randomized, Placebo-Controlled, Adaptive Dose-Finding Study. International Journal of
p.206
Neuropsychopharmacology. 2021;24(12):965- 76. 3 )Fava M, McCall WV, Krystal A, Wessel T,

Rubens R, Caron J, et al. Eszopiclone coadministered with fluoxetine in patients with insomnia coexisting with major depressive disorder. Biol Psychiatry. 2006;59(11):1052-60. 4)Fava M, Asnis GM, Shrivastava RK, et al :

Improved insomnia symptoms and sleep-related next-day functioning in patients with comorbid major depressive disorder and insomnia following concomitant zolpidem extendedrelease 12.5 mg and escitalopram treatment: a randomized controlled trial. J Clin Psychiatry 72 : 914-928, 2011 5 )Ji JL, Liu WJ, Zhang N, et al : [Effects of

paroxetine with or without zolpidem on depression with insomnia: a multi-center randomized comparative study]. Zhonghua Yi Xue Za Zhi 87 : 1585-1589, 2007 6)McCall WV, Blocker JN, D'Agostino R Jr, et al :

Treatment of insomnia in depressed insomniacs: effects on health-related quality of life, objective and self-reported sleep, and depression. J Clin Sleep Med 6 : 322-329, 2010 7)McCall WV, Benca RM, Rosenquist PB, et al :

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administered With Venlafaxine in Subjects With Major Depressive Disorder and Insomnia. https://classic.clinicaltrials.gov/show/NCT004

35279 9)NCT00642694 Time to Remission of Depressive

Symptoms With Combined SSRI and Ramelteon (TAKEDA) https://classic.clinicaltrials.gov/show/NCT00642

694 10)NCT00826111 The Effects of Eszopiclone and

Lexapro on Prefrontal Glutamate and GABA in Depression With Anxiety and Insomnia. https://classic.clinicaltrials.gov/show/NCT008

26111 11)Dominguez RA, Jabobson A, Goldstein BJ, et

al:Comparison of triazolam and placebo in the treatment of insomnia in depressed patients. Curr Ther Res Clin Exp 36:856-65, 1984
p.207
CQ8-4不眠症状を伴ううつ病に鎮静作用を有する向精神薬(抗うつ薬、抗精神病薬など)は有用か

【要約】●不眠症状を伴ううつ病に、クエチアピン徐放錠(適用外)の単剤治療は選択肢のひとつとなる。●不眠症状を伴ううつ病に、トラゾドンあるいはクエチアピン徐放錠(適用外)の抗うつ薬への追加はそれぞれ選択肢のひとつとなる。●クエチアピン徐放錠やトラゾドンによる副作用発現のリスクがあるため、使用する場合は慎重に検討する。

【解説】

1はじめに

不眠症状を伴ううつ病患者に対して鎮静作用を有する抗うつ薬や抗精神病薬などが追加されることは少なくない。しかし、どの薬剤が不眠や抑うつ症状の改善に有用かのコンセンサスは得られていない。

このためシステマティックレビューを実施し、不眠症状を伴ううつ病患者に対する鎮静作用を有する抗うつ薬、抗精神病薬の補助療法の有効性と安全性について検討したが、本CQ に対して推奨を行うためのエビデンスが不足しており、また研究によっては鎮静作用を有する抗うつ薬や抗精神病薬などを単剤使用するか、補助療法として追加するかばらつきがあった。そのため、本CQ ではナラティブレビューを行った。

2鎮静作用を有する抗うつ薬や抗精神病薬の単剤使用本CQ に一致した無作為化比較試験(RCT)の報告は、クエチアピン徐放錠を使用した二重盲検RCT の複数の研究のプール解析をしたもの1 本であった1)。このうち、ベースラインにおけるハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)の睡眠障害因子得点が4 点以上の高睡眠障害のサブグループ(N= 4、n=1,379)において、クエチアピン徐放錠群(50

~300mg/日)はプラセボ群と比較して、モンゴメリー-アスベルグうつ病評価尺度(MARDS)総スコアのベースラインからの最小二乗平均差が- 3.30(p<0.001)と有意な抑うつ症状の改善(短期)を認めた。一方、害のアウトカムについてはクエチアピン徐放錠群(50~300mg/日)とプラセボ群とを比較したところ(N=4、n=1,752)、鎮静29.2% vs. 4.5%、過眠症状24.9% vs. 6.9%、脱力感1.4% vs. 0.5%、倦怠感1.6% vs. 0.9%であり、統計学的検定は行っていないものの、クエチアピン徐放錠に副作用が多いことが報告されている。

以上から、不眠症状を伴ううつ病に、クエチアピン徐放錠(適用外)の単剤治療は選択肢のひとつとなるが、副作用発現のリスクがあるため、使用する場合は慎重に検討する必要がある。

3鎮静作用を有する抗うつ薬や抗精神病薬の追加

本CQ に一致したRCT の報告は、トラゾドンを使用した二重盲検クロスオーバーRCT が2 本2,3)、クエチアピン徐放錠を使用した2 本の二重盲検RCT の研究のプール解析をしたものが1 本4)であった。
p.208
トラゾドンを追加した研究では、益のアウトカムとしては不眠症状の寛解率や改善度(短期)、抑うつ症状の改善度(短期)、害のアウトカムでは全有害事象の発現率、治療脱落率が報告されていた。Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)総スコアもしくはYale-New Haven Hospital Depressive Symptom Inventory 睡眠スコアで評価された不眠症状の寛解率(n=15、p=0.004、トラゾドン群66.7% vs. プラセボ群7.5%)と改善度(n=15、p=0.01)はいずれも、トラゾドン群でプラセボ群に比べ有意に高かった 2)。一方で、HAM-D で評価された抑うつ症状に有意差は認められなかった(n=12、標準化平均差 -0.70、トラゾドン群11.5±4.5 点 vs. プラセボ群12.2±3 点)3)。有害事象については、トラゾドン群で、日中の鎮静(n =1)2)と胸やけ(n=1)3)、日中の眠気(n=2)3)が認められた。また、治療からの脱落については、両群とも1 人ずつ認められた2)。なお、2 試験ともクロスオーバー試験であり、抗うつ薬はSSRI あるいはbupropion、補助療法のトラゾドンの用量は50~100mg であった2, 3)。1 試験ではうつ病以外に双極症患者も含まれていた(3/17 人)3)。

クエチアピン徐放錠の研究では、さまざまな抗うつ薬(SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬、bupropion)にクエチアピン徐放錠を追加した効果をみている。益のアウトカムとして、抑うつ症状の改善度(短期)が報告され、害のアウトカムは報告されていなかった4)。ベースラインにおけるHAM-D の睡眠障害因子得点が4 点以上の高睡眠障害のサブグ

ループにおいて、クエチアピン徐放錠300mg/日プラセボ群(n=215、標準化平均差 0.33、p<0.001)、150mg/日群(n=226、標準化平均差 0.32、p< 0.001)は、それぞれプラセボ群に対して抑うつ症状の改善度が有意に高かった4)。副作用による脱落は、クエチアピン徐放錠300mg/日、150mg/日、プラセボ群でそれぞれ45 人、25 人、5 人と報告されていた。

このように、トラゾドンについてのエビデンスは、益のアウトカムである不眠症の寛解率および改善度でプラセボ群より有意な改善を認めた報告が各1 本、抑うつ症状の改善に有意差がなかった報告1 本、クエチアピン徐放錠では益のアウトカムである抑うつ症状の改善度でプラセボ群より有意な改善を認めた1 本であった。また害のアウトカムについては、プラセボとトラゾドンでは大きな差は認めず、クエチアピン徐放錠に関しては検討されていなかった。

4 要約の作成

以上から、不眠症状を伴ううつ病に、トラゾドンあるいはクエチアピン徐放錠(適用外)の抗うつ薬への補助療法はそれぞれ選択肢のひとつとなると考える。ただし、わが国では、クエチアピン徐放錠はうつ病・不眠症のいずれも適用外使用となることから、使用に関しては慎重に検討することが望ましい。

【文献】

1)Trivedi MH, Bandelow B, Demyttenaere K, et

al : Evaluation of the effects of extended release quetiapine fumarate monotherapy on sleep disturbance in patients with major depressive disorder: a pooled analysis of four randomized

acute studies. Int J Neuropsychopharmacol 16 : 1733-1744, 2013
p.209
2)Nierenberg AA, Adler LA, Peselow E, et al :

Trazodone for antidepressant-associated insomnia. Am J Psychiatry 151 : 1069-1072,

1994 3)Kaynak H, Kaynak D, Gözükirmizi E, et al : The

effects of trazodone on sleep in patients treated with stimulant antidepressants. Sleep Med 5 : 15-20, 2004 4)Bauer M, McIntyre RS, Szamosi J, et al :

Evaluation of adjunct extended-release quetiapine fumarate on sleep disturbance and quality in patients with major depressive disorder and an inadequate response to on-going antidepressant therapy. Int J Neuropsychopharmacol 16 : 1755-1765, 2013
p.210
CQ 8-5不眠症状を伴ううつ病に不眠に対する認知行動療法(CBT for insomnia:CBT- I)は有用か

【要約】●不眠症状を伴ううつ病の治療として、CBT-I を行うことを提案する。●わが国ではCBT-I が受けられる施設が限られていること、および保険適用外であることに留意する必要がある。

【解説】

1はじめに

不眠に対する認知行動療法(CBT for insomnia: CBT-I)は、4~6 回セッション(1 回1 時間)で構成される不眠症状に対する心理療法である。欧米では、不眠障害に対してはCBT-I が第1 選択として推奨されており1)、治療ガイドラインも作成されている2)。一方で、1CBT-I の実施施設や専門家が少ないこと、2医療従事者や患者のCBT-Iについての知識不足などから普及が進んでいない3)。わが国でもCBT-I 実施マニュアル4)が作成されているものの、普及の問題は海外と同様であることから、エキスパートコンセンサスガイドラインでは、第1 選択が睡眠衛生指導、第2 選択がCBT-I と位置付けられている5)。

うつ病を含めた精神疾患に伴う不眠症状に対してもCBT-I は有効であることが明らかにされており、さらには主疾患に伴う症状(例えば、うつ病の抑うつ症状)の軽減効果も報告されている6,7)。

併存する不眠症状に対するCBT-I については、数多くのRCT が行われており、システマティックレビューも複数報告されている。一方で、システマティックレビューに含まれている研究の対象者選定基準をみると、うつ病診断を行っていないものも含まれている。

そのため、本CQ では、不眠症状を伴ううつ病患者に対するCBT-I についてのシステマティックレビューを収集し、不眠症状を伴ううつ病患者に対するCBT-I の有効性について、不眠症状および

抑うつ症状の短期的(治療終了直後)、長期的(治療終了後1 か月以上経過後)改善効果(益)、およびCBT-I の治療脱落率と有害事象(害)について検討することとした。

2方法

対象者(P)を、18 歳以上の不眠症状を伴ううつ病患者、介入(I)をCBT-I、コントロール(C)を睡眠衛生指導、待機リスト、通常治療もしくは抗うつ薬の単独治療とした。益のアウトカム(O)は、不眠症状の長期改善度(重要性9)および短期改善度(重要性8)、抑うつ症状の長期改善度(重要性8)および短期改善度(重要性7)とした。害のアウトカム(O)は、治療脱落率(重要性6)および有害事象の発現(重要性6)とし、研究デザインをRCT のシステマティックレビューと設定した。

3結果

システマティックレビューの結果、3 本のメタ解析が抽出8-10)され、そのうち最も新しいメタ解析10)を採用した。

不眠症状

うつ病に併存する不眠症状に対するCBT-I のメタ解析では、短期的改善効果(治療直後)は、CBT-
p.211
I では対照群に対して統計的に有意な不眠症状の改善が認められ(N=8、標準化平均差 0.5、95%信頼区間 0.3~0.8)、長期的改善効果(治療終了後2~6 か月)についても、統計的に有意な不眠症状の改善(N=5、標準化平均差 0.9、95%信頼区間0.2~1.6)が認められていた。

抑うつ症状

うつ病の抑うつ症状に対するCBT-I のメタ解析では、短期的改善効果は、CBT-I は対照群に対して有意な抑うつ症状の改善が認められ(N=8、標準化平均差 0.5、95%信頼区間 0.1~0.8)、一方、長期的改善効果では、CBT-I が短期と同等の標準化平均差であったが、両群に有意な差は認められなかった(N=5、標準化平均差 0.5、95%信頼区間 -0.1~1.1)。

治療脱落率

治療脱落率は報告されていなかったため、メタ解析10)からうつ病を対象としたRCT を個別に確認したところ、CBT-I は0%~38.5%、対象群は4.4%~42.9%までの範囲で報告されていた。

CBT-I の内容としては、睡眠衛生指導、刺激制御療法、睡眠制限療法が必ず含まれたプログラムとなっており、その他、認知再構成法、リラクセーションも含まれていた。対照群としては、通常治療、睡眠教育、睡眠衛生指導などが設定されていた。設定した6 つのアウトカムのうち、1 つのアウ

トカム(不眠症状の短期的改善効果)はエビデンスレベルA、2 つ(不眠症状の長期的改善効果、抑うつ症状の短期効果)がエビデンスレベルB、2 つ(抑うつ症状の長期効果、治療脱落率)がエビデンスレベルC、1 つ(有害事象)が判定不可であった。

以上より、エビデンスレベルはB とした。

5 要約の作成

不眠症状を伴ううつ病患者においてCBT-I の対照群に対する有効性(不眠症状、抑うつ症状の改善)を示した。エビデンスレベルは、不眠症状がB、抑うつ症状がC であった。有害事象については判定ができなかったものの、CBT-I の治療脱落率は統制群と比べて十分に高いとは判断できなかったため、CBT-I の実施は益が大きいといえる。

以上より推奨決定会議では、「行うことを弱く推奨する」となった。

しかし、わが国ではCBT-I が受けられる施設が限られていること、および保険適用外であることに留意する必要がある。これらの国内での医療事情も鑑み、「行うことを提案する」となった。

6 推奨決定会議の結果

1 回目1 行うことを強く推奨する:0% 2 行うことを弱く推奨する:100% 3 行わないことを弱く推奨する:0% 4 行わないことを強く推奨する:0%
p.212
【文献】

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p.213
第9 章 後続治療

CQ9-1初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病に後続治療(next-step treatment)を開始する際、考慮すべきことはなにか

【要約】1 初期治療が奏効しない場合に次の段階として行っていく治療を、後続治療(next-step

treatment)とする。2 後続治療に進む前に、治療反応を適切に評価する。3 治療計画が遵守されているかを確認する。4 治療用量や期間などの治療内容が適切かを検討する。5 新たな治療の選択肢について患者の心理的な影響に配慮し、共同意思決定(SDM)を行う。6 後続治療に関する研究は限定的であり、評価の限界があることに留意する。

【解説】

1 定義

抗うつ薬による「初期治療」とは、「最小有効用量以上の抗うつ薬を十分期間投与する治療」と定義する。その上で、本ガイドラインにおける「後続治療」とは、うつ病治療において「初期治療が奏効しない場合に次の段階として行っていく治療」と定義する。この治療の対象となる患者は、後述されるdifficult-to-treat depression:DTD(難治性抑うつ)の一部である、いわゆる部分反応(partial response)患者、および治療無反応(non-response)患者が中心であり、米国食品医薬品局(FDA)の定める、不十分な治療反応(inadequate response)を示した患者となる。2 剤以上の抗うつ薬に治療反応が得られていない、いわゆる治療抵抗性うつ病(treatment-resistant depression:TRD)の患者は、本章に記載される後続治療の対象とは想定していない。なお、本ガイドラインにおける後続治療では、抗うつ薬による初期治療を実施した場合を主に想定して記載されており、精神療法を初期に導入した場合の検証は行われていない。理由としては、

精神療法により改善しなかった患者群に対する治療の検証を行っている研究が著しく少ないからである。

2 治療反応の評価

まず、これまで行われてきたうつ病治療によって十分な改善が得られていないと判断する必要がある。この「十分な改善が得られていない」ために後続治療へと展開する基準は、初期治療が奏効しなかった二次選択以降の治療を検証している多くの研究報告において多岐にわたっており、国際的な、あるいは国内におけるコンセンサスは得られていないのが現状である。レビューされた臨床試験においても、症状評価尺度を用いる場合には、治療開始前からの点数変化などで定義される症状改善や治療反応、さらには評価時に一定の点数を下回っている、といった基準によって判断されるが(表1)、どの尺度を用いるか、どの程度の点数変化で改善していると定めるかは議論の余地があ
p.214
る。評価尺度による50%以上の改善と一般に定義される「治療反応」には達していなくても改善がある場合には、その後治療を変更せずとも奏効する可能性があることも指摘されており1)、どの基準を採用すべきか明確に定めることはできない。

ただし、いずれの基準を用いたとしても、評価をしなければ改善の有無を判断はできない。measurement-based care(MBC)とよばれる、標準化された評価尺度やアセスメントを定期的に行うことで患者の状態を定量的に評価し、治療を調整していくことが必要となる。臨床的な判断として概括的に捉えて改善とすることもあり、実際の臨床現場ではそのようになる可能性があるが、可能な範囲でMBC を用いることを検討する(治療計画の策定も参照)。また、評価尺度全体ではなく、「抑うつ気分」のみを指標とした場合でも抗うつ薬の効果や用量反応性がより明確に描出されたという報告もある2)。

3 治療計画の遵守に関する検証

まず現在の治療計画を、治療者、患者ともに遵守しているかどうかの確認が必要となる。薬剤の効果や副作用について十分な説明が行われているか、通院の頻度や診察時間が薬剤調整を行うために十分な程度に確保されているか、服薬アドヒアランスが適正に保てているかなど、薬剤管理に関する計画が適切に運用されているかを確認する。特に薬物療法のアドヒアランスは、処方された日数ならびに投与量に対して、概ね85%以上を良好と判断するが、抗うつ薬治療のアドヒアランスは決して高くなく、継続率は6 か月で44~65%3,4)、12 か月で51%4)、24 か月で25%5)と、報告されている。また、服用していないことを医師に伝えにくいという傾向もあり6)、見かけ上、「初期治療が奏効していない」と判断されてしまうことがあるため、アドヒアランスの確認は重要である。4 治療内容の検討

抗うつ薬治療において、適切な用量が、適切な期間、服用されているかを確かめなければならない。用量については、各薬剤において有効と定められている用量を超えているか確認する。過去には、第1 選択の抗うつ薬は十分な用量が用いられていないと報告されており、わが国でも2.6%の患者が推奨用量未満の服用であった7)。高用量によって必ずしも効果が高くなると断じることはできないが(CQ9-3 参照)、少なくとも十分な用量が用いられていない状況で、薬剤の効果が得られていないと臨床的に判断することは避けなければならない。

期間については、4~6 週間を目安として継続した服用がなされていたかを確認する。ただし、治療経過において、症状の著しい増悪が認められる、自殺念慮が強く出現するようになる、精神症性の症状が顕著となる、身体的に衰弱するなど、病態の急速な悪化が認められる場合には、すぐに次善策を講じるべきである。4~6 週間という期間の目安については議論がある。近年の研究では、開始後4 週までの早期改善や部分改善が予後を予測する重要な因子であり、改善が乏しい場合はその後の反応や寛解が得られにくいことが示されている1,8-11)。また、4~12 週に反応する「後期反応者」でも、3~4 週目に部分的な改善がみられることがある12,13)。したがって、まず4 週を基準に評価し、必要に応じて6 週を目安に一定の改善が認められない場合には後続治療を検討する(詳しくはCQ1- 4 を参照)。それ以外にも、治療計画が妥当であったか、また治療効果を得る上で阻害する要因がないかを検討することも念頭におかなければならない。心理社会的な要因による明らかな心理的負荷や、身体疾患や併存疾患の有無、それらがうつ病の症状持続に影響していないかを検討することも求められる。これらの事項については当初から患者の見立てにおいて必要なことであり、一方で初期治療や
p.215
後続治療に反応しない場合には、その重要度が増していく。「第10 章 さらなる段階の治療」に詳説されているため、参照することが望ましい。

5 患者の心理的な影響に配慮した共同意思決定

(SDM)上記を踏まえて後続治療へと変更をする際には、新たな治療の選択肢について話し合い、患者の希望を考慮しながら共同的に決定していくこと(SDM)が必要である。その際に注意すべきこととして、治療が奏効していないという事実は患者を落胆させ、また期待が裏切られていると感じられる可能性がある。そのため、現行の治療において改善した点や明確になったことなどをフィードバックし、他の治療法を試みることで改善が得られる可能性があることを伝え、新たな治療に取り組んでいけるように支持していくことが必要となる。

また、これはうつ病治療全体に共通することとして、奏効しない場合には上記の考慮すべき事項

について評価を繰り返していく必要がある。すなわち、安易に治療を重ねていくのではなく、検討を重ねていくことが求められる。

6 後続治療に関する評価における限界

なお、後続治療を扱う研究として、初期治療が奏効しなかった症例に限定した調査は限られており、「今回のエピソードで1~3 剤の抗うつ薬を使用したが十分な反応がない」のようにTRD が混在している研究もある。本検討では、対象者の75%以上が2~3 剤を使用していると明記、あるいは推定される場合には、後続治療の研究とはみなさず、システマティックレビューからは除外した。

また、治療反応が得られていないとして後続治療に進むための観察期間には不均一性(2~24 週)があり、さらに、抑うつ症状の改善を判断する基準にも研究間で相違がみられるなど、研究デザイン上の制約がある点に留意が必要である。

【文献】

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CQ9-2初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者の後続治療の方法はなにか

【要約】1 抗うつ薬による初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に対する治療の選択

肢として、抗うつ薬の用量を増量する、抗うつ薬を変更する、別の抗うつ薬を追加する、抗精神病薬を追加する、抗うつ薬や抗精神病薬以外の薬剤を追加する、精神療法を付加する、が挙げられる。2 後続治療として、現在使用している抗うつ薬を国内の承認用量内で増量することを提案する。3 後続治療として、別の抗うつ薬に変更することを弱く推奨する。4 後続治療として、別の抗うつ薬を追加することを弱く推奨する。5 後続治療として、抗精神病薬を追加することを弱く推奨する。6 後続治療として、オメガ3不飽和脂肪酸(適用外)、リチウム甲状腺ホルモン(T3)、トピラマート(適用外)、を追加することは、それぞれ選択肢のひとつとなる。7 後続治療として、精神療法を付加することを提案する。8 いずれの治療選択肢を優先するかは結論付けられないため、弱く推奨される治療を念頭

におきながら選択肢を考慮し、患者と情報を共有した上で共同的に決定していく。その際に、各治療で推奨度以外にも患者の負担など、伝えるべき情報がある。9 自殺のリスクが急激に増加している場合や、低栄養や脱水など身体衰弱が著しい場合に

は電気けいれん療法(ECT)も考慮する。

【解説】(図1)

1 選択肢となりうる治療

治療反応が十分でない場合には、初期に用いられた治療を見直し、新たな治療を展開していく必要がある。すなわち、後続治療(next-step treatment)を行っていくこととなる。後続治療としては、まず抗うつ薬の用量を増量する(dose escalation)という選択肢が挙げられる。これは、初期治療を「最小有効用量以上の抗うつ薬を十分期間投与する治療」と定義しているため、本来は初期治療の範疇に含まれるものである。しかし、実臨床では推奨用量未満の処方が42.6%にみられるとの報告があり1)、この点を踏まえ、用量の最適化がなされているかを、本CQ の初段階で確認する。その他の選択肢として、抗うつ薬を変更する(切

り替え)、別の抗うつ薬を追加する(補助療法)、抗精神病薬あるいはその他の種類の薬剤を追加する(補助療法)、認知行動療法をはじめとする精神療法を追加する(付加的治療)、ECT やTMS などのニューロモデュレーションを追加する(付加的治療)などがある。ただしニューロモデュレーションについては、国内の適応とは異なり、初期治療が奏効しない場合に後続治療として行われている文献は限定的であったため、「第10 章 さらなる段階の治療」の章で扱う。

なお、後続治療における各選択肢の利点と懸念点について、表2 にまとめた。
p.219
2 抗うつ薬の増量

厳密には後続治療というより、現行治療の最適化に位置付けられる。用量を最小有効用量に据え置くのではなく、国内承認用量内で、副作用に留意しながら最大用量まで増加することを検討する。システマティックレビューでは有益性と有害性のいずれも優越を示さず、かつ国内での承認用量よりも高用量の試験が多いことから、国内の承認用量内での増量を提案する、とした。

抗うつ薬の増量とその他の選択肢(抗うつ薬の変更や補助療法)を比較検証した研究も複数あるが2-4)、固定用量デザインや国内承認以上の用量設定が多い点を踏まえると、まず増量の余地があるかどうかを検討することが優先される。

3 別の抗うつ薬への切り替え

システマティックレビューを行い、現行の抗うつ薬をそのまま継続することと比べ、抗うつ薬を変更することは有益性が有害性を上回っており、推奨決定会議を経て「弱く推奨する」こととした。ただし、対照研究は別のクラスの抗うつ薬へ切り替える研究のみであり、同じクラスへ切り替える場合と比べてどちらのほうがよいかは結論が得られていない。臨床的には、症状や有害事象の発現の程度などから、同一クラス内での切り替えも妥当となり得る。

切り替える際には、「第3 章 中等度/重度うつ病」の項で示されている、有害事象の薬剤プロファイルなどもあわせて共有しながら、共同意思決定(SDM)で決定する。

4 抗うつ薬による補助療法

システマティックレビューを行い、現行の抗うつ薬をそのまま継続することと比べ、抗うつ薬を追加することは有益性が有害性を上回っており、推奨決定会議を経て「弱く推奨する」こととした。

追加する薬剤の組み合わせについては結論付けることはできなかったが、報告の中心は、ミルタザピンやミアンセリンの補助療法であることから、

シナプス前α2 自己受容体拮抗薬の有用性が示唆される5)。また、追加する抗うつ薬の用量については、結論を得られる比較対照試験は行われていない。

加えて、別の抗うつ薬を追加する前から継続している抗うつ薬については、減量すべきか、あるいは用量を維持すべきか、十分に検証されていない。漫然と補助療法を継続することはせず、無反応あるいは部分反応であった薬剤については、長期的には減量を検討するべきである。

5 抗精神病薬による補助療法

システマティックレビューを行い、現行の抗うつ薬をそのまま継続することと比べ、抗精神病薬を追加することは有益性が有害性を上回っており、推奨決定会議を経て「弱く推奨する」こととした。

追加する薬剤の組み合わせについては結論付けることはできないが、アリピプラゾールやクエチアピン(徐放錠含む)(適用外)、リスペリドン(適用外)が追加する抗精神病薬として報告されている。類似したシステマティックレビューでは、初期段階のTRD に対する抗精神病薬が検証されており、アリピプラゾール、オランザピン(適用外)、クエチアピン(適用外)、リスペリドン(適用外)が有効性を示している6)。一方、アカシジアや傾眠、パーキンソニズム、体重増加といった代謝異常などの副作用に注意して用いることが必要となる7)。

6 抗うつ薬や抗精神病薬以外の薬剤による補助

療法オメガ3 不飽和脂肪酸(適用外)、リチウム(適用外)、甲状腺ホルモン(T3)(適用外)、トピラマート(適用外)、については、エビデンスが不十分であるため、推奨決定は行わないが、各薬剤の有用性については一定の評価が得られているため、適用外使用の問題は残るものの、それぞれ選択肢
p.220
の1 つとする、とした。一方、メチルフェニデートとbuspironにおいては臨床上の優位性が確認できず、治療として提案しない、とした。

7 精神療法による付加的治療

システマティックレビューを行い、現行の抗うつ薬をそのまま継続することと比べ、精神療法を追加することは有益性が有害性を上回っており、臨床的に有用であることが示されたため、精神療法の付加的治療を提案するとした。実装上の課題(治療者・体制の確保など)はあるが、精神療法の付加的治療を行わない場合の改善機会の逸失が患者の不利益になることを考慮すべきである。

なお、実施する技法としては国内でエビデンスのあるCBT8)を基本とし、アドヒアランス、心理社会的背景、治療に対する患者の希望9)などを踏まえ、頻度や合計回数などをSDM で決定する。費用や通院頻度などの患者負担が増すことも事前に共有する。8 各治療の選択

本章では、いずれの治療選択肢においても、現在の抗うつ薬を継続することとの比較を原則としており、選択肢間の直接比較(head-to-head)での検証は行っていない。そのため、いずれの選択肢を優先するかは結論付けられないことから、まず用量の適正化を行った上で、比較的推奨レベルの高い治療を中心とし、効果・有害事象・患者負担を表2 も参照してSDM で決定する。

9 ECT を用いることの検討

ニューロモデュレーションについては、初期治療が奏効しない場合に次の段階として行っていく「後続治療」として検証されている文献に乏しく、ほとんどはTRD を対象とした文献であった。そのため、「第10 章 さらなる段階の治療」の項に含めて検討され、本章では扱わない。ただし、自殺念慮の急速な悪化や、低栄養や脱水などで身体衰弱が進行している場合には、速やかにECT の適応を検討する。詳細は、CQ3-5、CQ10-6 を参照。

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p.222

        
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CQ9-3初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として、現在使用している抗うつ薬を増量することは有用か

【要約】⚫ 初期治療で抑うつ症状の反応もしくは寛解が得られない場合には、現在使用している抗

うつ薬を国内の承認用量内で増量することを提案する。⚫ 増量した場合には症状変化や副作用などをモニタリングする。

【解説】

1 はじめに

初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に対して、後続治療として現在使用している抗うつ薬を増量することが有用かどうかは十分に検討されていない。そのため、本CQ では後続治療としての抗うつ薬増量の有用性を検討するために、既存の文献をシステマティックレビューすることとした。そして、抗うつ薬による初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に対して、現在使用している抗うつ薬を増量することと、現在の抗うつ薬を用量変更せずに継続することの有用性を比較した。

2 方法

対象者(P)を、初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者、介入(I)を、現在使用している抗うつ薬を増量、コントロール(C)を、現在使用している抗うつ薬を用量変更せずに継続とした。益のアウトカム(O)は反応率(重要性9)、寛解率(重要性7)、抑うつ症状の軽減(重要性7)とし、害のアウトカム(O)はすべての理由による治療中断率(重要性7)、有害事象による治療中断率(重要性7)とし、研究デザインを無作為化比較試験(RCT)と設定し、システマティックレビューを行った。3 結果

システマティックレビューを行った結果、現在の抗うつ薬を増量する群と、現在の抗うつ薬を用量変更せずに継続する群とを比較検討している7本のRCT1-7)(セルトラリン、パロキセチン、デュロキセチン、エスシタロプラム、fluoxetine)が同定され、この7 本についてメタ解析を行った。その結果、現在使用している抗うつ薬を用量変更せずに継続することに比べて、現在使用している抗うつ薬を増量することは、反応率(N=7、n=1,085、リスク比1.05、95%信頼区間0.86~1.28)、寛解率(N=6、n=1,008、リスク比 1.05、95%信頼区間0.86~1.29)、抑うつ症状の軽減(N=3、n=664、標準化平均差−0.18、95%信頼区間 −0.44~ 0.08)、すべての理由による治療中断率(N=6、n =1,008、リスク比 0.95、95%信頼区間 0.62~ 1.47)、有害事象による治療中断率(N=5、n=813、リスク比 1.64、95%信頼区間 0.85~3.14)のいずれにおいても、有意な差を認めなかった。

抗うつ薬の増量では、有害事象による中止や治療脱落は増加しないが、一方で反応率や寛解率の増加、抑うつ症状の軽減は明らかではなかった。そのため、レビューのみからは有益性が有害性を上回っているとは言いがたく、一方で有害性が有益性を上回っているとも言いがたい結果であった。また、いずれの研究においても、増量した際の用量は国内での承認用量よりも高用量であった。そ
p.225
のため、承認用量内で増量した場合の有用性に関しては結論付けることはできなかった。

4 要約の作成

以上の結果を踏まえて、本CQ に対して国内の状況に合致するエビデンスが不十分であるため、推奨決定は行わないこととした。一方、仮に用量を増やさない場合には、増量していれば改善した可能性を失うこととなり、結果として、「見かけ上の治療抵抗性」を増加させる可能性がある。また、国内で承認されているにもかかわらずその承認された量を用いないという点も問題視された。

また参考となる研究報告として、用量反応について評価したシステマティックレビューとメタ解析がある。新規抗うつ薬では用量依存的に有効な薬剤もあるが、副作用による脱落者が増加することが報告されている8,9)。ただし、用量が国内の承認用量よりも明らかに高い文献が包含されている

こと、後続治療に限定された議論ではないこと、固定用量デザインの試験を含んでいることから、本CQ の結論を得るのには十分ではない。

以上からエビデンスが十分でないため、推奨に関する投票は行わないこととし、一方で増量が治療の選択肢となりえないとなれば、「見かけ上の治療抵抗性」や承認された用量を使用しないという点も問題視されるため、国内の承認用量内であれば増量することを「提案する」とした。なお、用量に関連しては、代謝や薬力学的な反応性という個人差があるが、レビューにおいてはこの点については検証ができないこと、また仮に増量する場合には、増量後の症状や副作用について頻繁に確認するなど、治療のモニタリングを適切に行う必要があることを付記する。

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What constitutes an adequate antidepressant trial for fluoxetine? J Clin Psychiatry 51 : 8-11, 1990 8)Furukawa TA, Cipriani A, Cowen PJ, et al :

Optimal dose of selective serotonin reuptake inhibitors, venlafaxine, and mirtazapine in major depression: a systematic review and dose-

response meta-analysis. Lancet Psychiatry 6 : 601-609, 2019 9 )Chris F Johnson, Margaret Maxwell, Brian

Williams, Nadine Dougall and Johnson CF, Maxwell M, Williams B, et al : Dose-response effects of selective serotonin reuptake inhibitor monotherapy for the treatment of depression: systematic review of reviews and meta-narrative synthesis. BMJ Med 1 : e000017, 2022
p.227
CQ9-4初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として、別の抗うつ薬へ切り替えることは有用か

【推奨】

初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として、別の抗うつ薬へ切り替えることを弱く推奨する(2C)。

【推奨文】

初期治療で抑うつ症状の反応や寛解が得られない場合には、他の抗うつ薬へ切り替えることで、同じ抗うつ薬を継続するよりも治療反応や寛解を得られる割合が高くなるため(C)、切り替えることを弱く推奨する(2C)。なお、切り替える際には同じクラスの抗うつ薬がよいか別のクラスの抗うつ薬がよいかは結論が得られていない。

【解説】

1 はじめに

初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に対して、後続治療として現在使用している抗うつ薬から別の抗うつ薬へ切り替えることが有用かどうかは十分に検討されていない。そのため、本CQ では後続治療としての抗うつ薬切り替えの有用性を検討するために、既存の文献をシステマティックレビューすることとした。そして、抗うつ薬による初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に対して、現在使用している抗うつ薬から別の抗うつ薬へ切り替えることと、現在の抗うつ薬を継続することの有用性を比較した。

2 方法

対象者(P)を、初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者、介入(I)を現在の抗うつ薬から別の抗うつ薬への切り替え、コントロール(C)を現在使用している抗うつ薬を用量変更せずに継続とした。益のアウトカム(O)は、反応率(重要性9)、寛解率(重要性7)、抑うつ症状の軽減(重要性7)とし、害のアウトカム(O)は、すべての理由による治療中断率(重要性7)、有害事象による治療中断率(重要性7)とし、研究デザインを

RCT と設定し、システマティックレビューを行った。

3 結果

システマティックレビューを行った結果、現在の抗うつ薬から別の抗うつ薬へ切り替える群と、現在の抗うつ薬の用量を変更せずに継続する群とを比較検討している4 本のRCT1-4)が同定され、この4 本についてメタ解析を行った。その結果、現在使用している抗うつ薬を用量変更せずに継続する群と比較して、現在使用している抗うつ薬から別の抗うつ薬へ切り替える群は、反応率(N=4、n=1,358、リスク比 1.26、95%信頼区間 1.00~ 1.59)、寛解率(N=3、n=1,222、リスク比 1.76、95%信頼区間 1.01~3.05)において有意な有効性が認められた。一方、抑うつ症状の軽減(N=2、n=207、標準化平均差−0.21、95%信頼区間 − 0.48~0.07)では有意差は認められず、すべての理由による治療中断率(N=4、n=1,358、リスク比0.93、95%信頼区間 0.53~1.66)、有害事象による治療中断率(N=3、n=249、リスク比 3.64、95%
p.228
信頼区間 0.85~15.53)のいずれにおいても、有意な差は認められなかった。

ただし、包含されたいずれの研究も選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)からミルタザピン、四環系、その他のSSRI への変更であり、それ以外への薬剤への変更や、SSRI 以外の抗うつ薬からの変更についてこの結果が当てはまるかはわからない。また、切り替える際には同じクラスの抗うつ薬がよいか別のクラスの抗うつ薬がよいかは結論が得られていない。

他のメタ解析では、同一クラス内よりも別のクラスへの変更のほうが有効性が高くなったという報告もある5)が、この報告では対象者が後続治療に限定されているわけではなかった。また、軽度から中等度うつ病の場合にはクラス内で切り替えることが有効である可能性や、より重度のうつ病やメランコリーの特徴を有する患者の場合には、別のクラスへ切り替えることが有効である可能性が指摘されている6)。

なお、切り替えの方法には、新しい薬剤を上乗せしてから徐々に元の薬剤を減量していく方法、新しい薬剤を上乗せすると同時に元の薬剤を減量し、徐々に増量と減量を行っていく方法、元の薬剤を中止してから新しい薬剤を開始する方法があるが、原則としては緩徐な切り替えが望ましい7)。

その際には、薬剤間の相互作用や中断症候群(離脱症状含む)、減量に伴う症状の悪化に注意する必要がある。

4 推奨文の作成

システマティックレビューの結果、抗うつ薬による初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に対して、現在使用している抗うつ薬から別の抗うつ薬へ切り替えることは、治療反応や寛解を得られる可能性があり、一方ですべての理由あるいは有害事象による中断は増加しないことが示唆された。そのため、初期治療で十分な効果が得られない場合には、他の抗うつ薬へ切り替えることを弱く推奨する(2C)。なお、切り替える際には同じクラスの抗うつ薬がよいか別のクラスの抗うつ薬がよいかは結論が得られていない。

5.推奨決定会議の結果1 回目1 行うことを強く推奨する:0% 2 行うことを弱く推奨する:100% 3 行わないことを弱く推奨する:0% 4 行わないことを強く推奨する:0%

【文献】

1)Xiao L, Zhu X, Gillespie A, et al : Effectiveness

of mirtazapine as add-on to paroxetine v. paroxetine or mirtazapine monotherapy in patients with major depressive disorder with early non-response to paroxetine: a two-phase, multicentre, randomized, double-blind clinical trial. Psychol Med 51 : 1166-1174, 2021 2 )Kato T, Furukawa TA, Mantani A, et al :

Optimising first- and second-line treatment strategies for untreated major depressive disorder - the SUN☺D study: a pragmatic, multi-centre, assessor-blinded randomised controlled trial. BMC Med 16 : 103, 2018 3)Ferreri M, Lavergne F, Berlin I, et al : Benefits

from mianserin augmentation of fluoxetine in
p.229
patients with major depression non-responders to fluoxetine alone. Acta Psychiatr Scand 103 : 66-72, 2001 4)Nakajima S, Uchida H, Suzuki T, et al : Is

switching antidepressants following early nonresponse more beneficial in acute-phase treatment of depression?: a randomized openlabel trial. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry 35 : 1983-1989, 2011 5)Papakostas GI, Fava M, Thase ME : Treatment

of SSRI-resistant depression: a meta-analysis comparing within- versus across-class switches.

Biol Psychiatry 63 : 699-704, 2008 6)Boyce P, Hopwood M, Morris G, et al : Switching

antidepressants in the treatment of major depression: When, how and what to switch to? J Affect Disord 261 : 160-163, 2020 7 )Keks N, Hope J, Keogh S : Switching and

stopping antidepressants. Aust Prescr 39 : 76-83, 2016
p.230
CQ9-5初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として、別の抗うつ薬による補助療法は有用か

【推奨】

初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者の後続治療として、別の抗うつ薬による補助療法を行うことを弱く推奨する(2C)。

【推奨文】

初期治療で抑うつ症状の反応や寛解が得られない場合には、現在の抗うつ薬に別の抗うつ薬を追加することで、現在の抗うつ薬を継続するよりも治療反応や寛解を得られる割合が高くなる(C)。一方で、有害事象による中断は増加しない(C)。そのため、現在の抗うつ薬で改善が得られない場合には、別の抗うつ薬を追加する補助療法を行うことを弱く推奨する(2C)。ただし、どの抗うつ薬同士の組み合わせが最適かは結論が得られていない。

【解説】

1 はじめに

現在使用している抗うつ薬に別の抗うつ薬を追加する補助療法については、治療抵抗性などにおいてはこれまでも検討されているが、初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に限定した後続治療としては、その有用性は十分に検討されていない。そのため本CQ では、後続治療として別の抗うつ薬を追加する補助療法の有用性を検討するために、既存の文献をシステマティックレビューすることとした。そして、抗うつ薬による初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に対して、現在使用している抗うつ薬に別の抗うつ薬を追加する補助療法を行うことと、現在の抗うつ薬を継続することの有用性を比較した。

2 方法

対象者(P)を、初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者、介入(I)を現在使用している抗うつ薬に別の抗うつ薬を追加、コントロール(C)を現在使用している抗うつ薬を用量変更せずに継続とした。益のアウトカム(O)は、反応率(重要性9)、寛解率(重要性7)、抑うつ症状の軽

減(重要性7)とし、害のアウトカム(O)は、すべての理由による治療中断率(重要性7)、有害事象による治療中断率(重要性7)とし、研究デザインを(RCT と設定し、システマティックレビューを行った。

3 結果

システマティックレビューの結果、現在の抗うつ薬に別の抗うつ薬を追加する群と、現在の抗うつ薬を用量変更せずに継続する群とを比較検討している6 本のRCT1-6)〔SSRI もしくはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)にミルタザピン追加4 本、ミアンセリン追加2 本〕を同定し、メタ解析を行った。

結果、現在使用している抗うつ薬を用量変更せずに継続することに比べて、現在使用している抗うつ薬に別の抗うつ薬を追加することは、反応率(N=6、n=1,997、リスク比 1.17、95%信頼区間1.02~1.34)、寛解率(N=6、n=1,997、リスク比1.31、95%信頼区間 1.10~1.56)において有意な
p.231
有効性を認めた。一方、抑うつ症状の軽減(N=2、n=162、標準化平均差 −0.52、95%信頼区間 − 1.53~0.48)、すべての理由による治療中断率(N =6、n=1,997、リスク比 1.07、95%信頼区間 0.79 ~1.47)、有害事象による治療中断率(N=3、n= 232、リスク比 1.95、95%信頼区間 0.53~7.25)については、いずれも両群で有意な差を認めなかった。

追加する薬剤については、SSRI やSNRI などに、ミルタザピンもしくはミアンセリンを追加する研究のみであった。そのため、SSRI やSNRI、三環系抗うつ薬やトラゾドンなどの薬剤の追加については検証ができなかった。なお、bupropion7)についてはわが国で承認されておらず、今回のシステマティックレビューの対象とはしなかった。また、補助療法で使用する薬剤の用量については、結論を得られるような比較対照試験は行われていない。

ただし、継続している抗うつ薬について、補助療法の開始後に減量すべきか、あるいは用量を維持すべきかは、今回同定された研究では検証されておらず、十分に評価することはできない。なお、

CQ9-4 に示すように、別の抗うつ薬への切り替え

が後続治療の1 つの選択肢であることを考慮すると、改善した場合に補助療法としての効果ではなく、追加した抗うつ薬の治療効果が得られている

にすぎない可能性がある。そのため、2 剤を漫然と継続するのではなく、長期的には無反応あるいは部分反応であった薬剤については減量することを検討すべきである。

4 推奨文の作成

システマティックレビューの結果から、現在の抗うつ薬に別の抗うつ薬を補助療法として追加することは、治療反応や寛解を得られる割合が高く、一方で、有害事象やすべての理由による中断が明らかに増えるわけではないということが示唆された。そのため、抗うつ薬による初期治療で十分な効果が得られない場合には、別の抗うつ薬を追加する補助療法を行うことを弱く推奨する。ただし、どの抗うつ薬同士の組み合わせが最適かは結論が得られていない。

5 推奨決定会議の結果

1 回目1 行うことを強く推奨する:0% 2 行うことを弱く推奨する:100% 3 行わないことを弱く推奨する:0% 4 行わないことを強く推奨する:0%

【文献】

1)Carpenter LL, Yasmin S, Price LH : A double-

blind, placebo-controlled study of antidepressant augmentation with mirtazapine. Biol Psychiatry 51 : 183-188, 2002 2)Xiao L, Zhu X, Gillespie A, et al : Effectiveness

of mirtazapine as add-on to paroxetine v. paroxetine or mirtazapine monotherapy in patients with major depressive disorder with early non-response to paroxetine: a two-phase,

multicentre, randomized, double-blind clinical trial. Psychol Med 51 : 1166-1174, 2021 3 )Kessler DS, MacNeill SJ, Tallon D, et al :

Mirtazapine added to SSRIs or SNRIs for treatment resistant depression in primary care: phase III randomised placebo controlled trial (MIR). BMJ 363 : k4218, 2018
p.232
4)Licht RW, Qvitzau S : Treatment strategies in

patients with major depression not responding to first-line sertraline treatment. A randomised study of extended duration of treatment, dose increase or mianserin augmentation. Psychopharmacology (Berl ) 161 : 143-151,

2002 5)Ferreri M, Lavergne F, Berlin I, et al : Benefits

from mianserin augmentation of fluoxetine in patients with major depression non-responders to fluoxetine alone. Acta Psychiatr Scand 103 : 66-72, 2001 6 )Kato T, Furukawa TA, Mantani A, et al :

Optimising first- and second-line treatment strategies for untreated major depressive disorder - the SUN☺D study :a pragmatic, multi-centre, assessor-blinded randomised controlled trial. BMC Med 16 : 103, 2018 7 )Gulrez G, Badyal DK, Deswal RS, et al :

Bupropion as an augmenting agent in patients of depression with partial response. Basic Clin Pharmacol Toxicol 110 : 227-230, 2012
p.233
CQ9-6初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として、抗精神病薬による補助療法は有用か

【推奨】

初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として、抗精神病薬による補助療法を弱く推奨する(2C)。

【推奨文】

初期治療で抗うつ薬を用いた際、抑うつ症状の反応や寛解が得られない場合には、現在の抗うつ薬に抗精神病薬を補助療法として用いることで、現在の抗うつ薬を継続するよりも治療反応や寛解を得られる割合が高くなる(C)。一方で、有害事象による治療中断は増加するため(C)、現在の抗うつ薬で改善が得られない場合には、抗精神病薬を追加する補助療法を弱く推奨する(2C)。ただし、どの抗うつ薬と抗精神病薬の組み合わせが望ましいかは結論が得られていない。

【解説】

1 はじめに

治療抵抗性うつ病に対する抗精神病薬の補助療法に関する報告は散見されるが、初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に限定した後続治療としての有用性については十分に検討されていない。そのため本CQ では、後続治療として抗精神病薬を追加する補助療法の有用性を検討するために、既存の文献をシステマティックレビューすることとした。そして、抗うつ薬による初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に対して、現在使用している抗うつ薬に抗精神病薬を追加する補助療法を行うことと、現在の抗うつ薬を継続することの有用性を比較した。

2 方法

対象者(P)を、初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者、介入(I)を現在の抗うつ薬に抗精神病薬を追加、コントロール(C)を現在使用している抗うつ薬を用量変更せずに継続とした。益のアウトカム(O)は、反応率(重要性9)、寛解率(重要性7)、抑うつ症状の軽減(重要性7)

とし、害のアウトカム(O)は、すべての理由による治療中断率(重要性7)、有害事象による治療中断率(重要性7)とし、研究デザインを(RCT と設定し、システマティックレビューを行った。

3 結果

システマティックレビューの結果、現在の抗うつ薬に抗精神病薬を追加する補助療法の群と、現在の抗うつ薬を用量変更せずに継続する群とを比較検討している11 本のRCT1-11)を同定し、それらについてメタ解析を行った。

その結果、現在使用している抗うつ薬を用量変更せずに継続する群と比較して、抗精神病薬を追加した群では、反応率(N=9、n=2,574、リスク比 1.28、95%信頼区間 1.16~1.41)、寛解率(N =9、n=2,732、リスク比 1.32、95%信頼区間 1.16 ~1.51)、抑うつ症状の軽減(N=5、n=1,263、標準化平均差 −0.57、95%信頼区間 −1.13~0.00)において、いずれも有意な有効性が認められた。
p.234
一方、すべての理由による治療中断率(N=10、n =2,755、リスク比 1.15、95%信頼区間 0.90~ 1.47)では有意差を認めず、有害事象による治療中断率(N=9、n=2,732、リスク比 3.13、95%信頼区間 2.06~4.75)は有意に高かった。抗精神病薬による補助療法は、治療反応や寛解、あるいは症状改善を得られる割合が高く、一方で、有害事象による中断が増えるという結果であった。

薬剤の組み合わせについては、いずれが望ましいかは結論付けられなかった。今回のシステマティックレビューに含まれたRCT では、追加する前の抗うつ薬を限定していない研究が多かった。追加する抗精神病薬としては、アリピプラゾール、クエチアピン(徐放錠含む)、リスペリドン、cariprazine、ziprasidone が報告されている。なお、後続治療には限定されない、抗精神病薬による補助療法の有効性を支持するシステマティックレビューとネットワークメタ解析が報告されている。56 本の研究が包含され、プラセボと比較してアリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、オランザピン、クエチアピンの4つの抗精神病薬はいずれも有意な有効性が認められている12)。一方、忍容性はプラセボと比較して低いことが示されており、有害事象による脱落は増加するため、使用する際には、アカシジアや傾眠、パーキンソ

ニズム、体重増加などの代謝異常などに注意することが必要と報告されている12)。

4 推奨文の作成

システマティックレビューの結果から、現在の抗うつ薬に抗精神病薬を補助療法として追加することは、治療反応や寛解を得られる割合が高く、一方で、有害事象による中断が増えるということが示唆された。治療反応や寛解のリスク差が有害事象による中断よりも大きく、有益性が有害性を上回ると判断される。そのため、抗うつ薬による初期治療で十分な効果が得られない場合には、抗精神病薬を追加する補助療法を行うことを弱く推奨する。ただし、薬剤の組み合わせについては結論が得られていない。

5 推奨決定会議の結果

1 回目1 行うことを強く推奨する:7% 2 行うことを弱く推奨する:93% 3 行わないことを弱く推奨する:0% 4 行わないことを強く推奨する:0%

【文献】

1)Bauer M, Pretorius HW, Constant EL, et al :

Extended-release quetiapine as adjunct to an antidepressant in patients with major depressive disorder: results of a randomized, placebocontrolled, double-blind study. J Clin Psychiatry 70 : 540-549, 2009 2) El-Khalili N, Joyce M, Atkinson S, Buynak RJ,

Datto C, Lindgren P, Eriksson H. Extended- release quetiapine fumarate (quetiapine XR) as

adjunctive therapy in major depressive disorder (MDD) in patients with an inadequate response to ongoing antidepressant treatment: a multicentre, randomized, double-blind, placebocontrolled study. Int J Neuropsychopharmacol 13:917-32, 2010
p.235
3)Fava M, Mischoulon D, Iosifescu D, Witte J,

Pencina M, Flynn M, Harper L, Levy M, Rickels K, Pollack M. A double-blind, placebo-controlled study of aripiprazole adjunctive to antidepressant therapy among depressed outpatients with inadequate response to prior antidepressant therapy (ADAPT-A Study ). Psychother Psychosom 81:87-97, 2012 4 )Keitner GI, Garlow SJ, Ryan CE, et al : A

randomized, placebo-controlled trial of risperidone augmentation for patients with difficult-to-treat unipolar, non-psychotic major depression. J Psychiatr Res 43 : 205-214, 2009 5)Mahmoud RA, Pandina GJ, Turkoz I, et al :

Risperidone for treatment-refractory major depressive disorder: a randomized trial. Ann Intern Med 147 : 593-602, 2007 6 )McIntyre A, Gendron A, McIntyre A :

Quetiapine adjunct to selective serotonin reuptake inhibitors or venlafaxine in patients with major depression, comorbid anxiety, and residual depressive symptoms: a randomized, placebo-controlled pilot study. Depress Anxiety 24 : 487-494, 2007 7)Lenze EJ, Mulsant BH, Blumberger DM, et al :

Efficacy, safety, and tolerability of augmentation pharmacotherapy with aripiprazole for treatment-resistant depression in late life: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 386 : 2404-2412, 2015 8)Reeves H, Batra S, May RS, et al : Efficacy of

risperidone augmentation to antidepressants in the management of suicidality in major depressive disorder: a randomized, double-blind, placebo-controlled pilot study. J Clin Psychiatry 69 : 1228-1236, 2008 9 )Papakostas GI, Fava M, Baer L, et al :

Ziprasidone Augmentation of Escitalopram for Major Depressive Disorder: Efficacy Results From a Randomized, Double-Blind, Placebo- Controlled Study. Am J Psychiatry 172 : 1251- 1258, 2015 10)Durgam S, Earley W, Guo H, et al : Efficacy

and safety of adjunctive cariprazine in inadequate responders to antidepressants: a randomized, double-blind, placebo-controlled study in adult patients with major depressive disorder. J Clin Psychiatry 77 : 371-378, 2016 11) Moica T, Grecu IG, Sabău D, et al:The

efficacy of quetiapine XR as an adjunctive therapy to duloxetine in depressed patients with inadequate response to monotherapy.Farmacia 66, 354-357, 2018 12)Wang J, Li W, Li M, et al : Comparative efficacy

and safety of 4 atypical antipsychotics augmentation treatment for major depressive disorder in adults: A systematic review and network meta-analysis. Medicine (Baltimore) 102 : e34670, 2023
p.236
CQ9-7初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として、別の抗うつ薬や抗精神病薬以外の薬剤による補助療法は有用か

【要約】⚫初期治療で抗うつ薬を用いた際、抑うつ症状の反応や改善が得られない場合には、リチウム(適用外)、オメガ3 不飽和脂肪酸、甲状腺ホルモン(T3)、トピラマート(適用外)、を追加する補助療法は、それぞれ選択肢のひとつとなる。⚫補助療法としてメチルフェニデートは提案しない。⚫本CQ における補助療法を行った場合には、症状変化や副作用などを適切にモニタリン

グするべきである。

【解説】

1 はじめに

初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に対して、後続治療として現在使用している抗うつ薬に、別の抗うつ薬や抗精神病薬以外の薬剤を追加する補助療法が有用かどうかは十分に検討されていない。そのため本CQ では、後続治療として抗うつ薬や抗精神病薬以外の薬剤を補助療法として追加することの有用性を検討するために、既存の文献をシステマティックレビューすることとした。そして、抗うつ薬による初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に対して、現在使用している抗うつ薬に別の抗うつ薬や抗精神病薬以外の補助療法を行うことと、現在の抗うつ薬を継続することの有用性を比較した。

2 方法

対象者(P)を、初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者、介入(I)を現在の抗うつ薬に別の抗うつ薬や抗精神病薬以外の薬剤を追加、コントロール(C)を現在使用している抗うつ薬を用量変更せずに継続とした。益のアウトカム(O)は、反応率(重要性9)、寛解率(重要性7)、抑うつ症状の軽減(重要性7)とし、害のアウトカム(O)は、すべての理由による治療中断率(重要性7)、有害事象による治療中断率(重要性7)とし、

研究デザインをRCT と設定し、システマティックレビューを行った。

3 結果

システマティックレビューの結果、現在の抗うつ薬に、別の抗うつ薬や抗精神病薬以外の薬剤にて補助療法を行う群と、現在の抗うつ薬を継続する群とを比較検討している11 本のRCT1-11)〔オメガ3 不飽和脂肪酸(エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸)4 本リチウム3 本、メチルフェニデート2 本、甲状腺ホルモン(T3)1 本、トピラマート1 本、buspirone1 本〕を同定し、この11本についてメタ解析を行った。

その結果、現在使用している抗うつ薬を用量変更せずに継続することに比べて、現在使用している抗うつ薬に別の抗うつ薬や抗精神病薬以外の薬剤を追加することは、寛解率(N=4、n=208、リスク比 2.81、95%信頼区間 1.29~6.12)、抑うつ症状の軽減(N=8、n=418、標準化平均差 −0.89、95%信頼区間 −1.52~−0.27)のいずれにおいても有意な効果を認めた。一方、反応率(N=7、n= 501、リスク比 1.39、95%信頼区間 1.00~1.94)は有意な差を認めなかった。また、すべての理由
p.237
による治療中断率(N=9、n=520、リスク比 1.13、95%信頼区間 0.71~1.79)、有害事象による治療中断率(N=9、n=527、リスク比 0.92、95%信頼区間 0.44~1.94)においては、有意な差を認めなかった。

抗うつ薬や抗精神病薬以外の薬剤の追加は、寛解率の増加や症状の改善が得られる可能性があり、一方で反応率は有意には増加せず、また治療脱落は増加しない。なお、評価された薬剤にうつ病を適応疾患に含む薬剤はなく、その種類についても、オメガ3 不飽和脂肪酸、リチウム、メチルフェニデート、T3、トピラマート、buspirone、と多岐にわたった。寛解率に関する薬剤別サブ解析では、いずれの群も統計学的な有意差は示されなかった。各研究のサンプルサイズが小さく、推定精度が低かったため、95%信頼区間が広く検出力が不十分であったと考えられる。ただし異質性は認められず(I2=0%)、効果の方向性は介入群有利で一貫していた。一方、寛解率以外において、リチウム1,7)は反応率や抑うつ症状の軽減に、オメガ3不飽和脂肪酸6,9,11)や甲状腺ホルモン(T3)7)、トピラマート10)は抑うつ症状の軽減に、補助療法としてプラセボを追加した群と比較して統計学的な有意差が示された研究が同定された。いずれもすべての理由による治療中断率や有害事象による治療中断率においては統計学的な差は認めなかった。補助とする薬剤の用量をどのように設定するか、

使用している抗うつ薬の用量を変更すべきかなどについても十分な検証はされておらず、例えばリチウムの場合、固定用量で250mg の試験がある一方、可変用量で900~1,200mgとして平均935.3mgと比較的高用量で使用されている試験もあった。Buspirone は国内で承認されておらず、国内で使用可能なセロトニン5-HT1A 受容体アゴニストとしてはタンドスピロンが同様の作用機序を有するが、抗うつ薬との併用に関する有効性や有害事象についての検証は行われていない。

4 要約の作成

以上の結果を踏まえて、本CQ に対して合致するエビデンスが不十分であると判断し、推奨決定は行わないこととした。一方、適用外使用の問題は残るものの、各薬剤の有用性については一定の評価が得られるため、治療の選択肢として上記の薬剤はいずれも残すことが望ましく、それぞれ選択肢のひとつとする、ということで合意を得た。ただし、利用できる状況は限定されていると考えられる。補助療法を行った場合には、症状変化のみでなく個々の薬剤の有する副作用などをより注意深くモニタリングするべきである。また、抗うつ薬や抗精神病薬の補助療法と同様に、どのような薬剤の組み合わせが最適であるかを結論付けるだけの報告は得られていない。

【文献】

1)Baumann P, Nil R, Souche A, et al : A double-

blind, placebo-controlled study of citalopram with and without lithium in the treatment of therapy-resistant depressive patients: a clinical, pharmacokinetic, and pharmacogenetic investigation. J Clin Psychopharmacol 16 : 307-

314, 1996 2)Appelberg BG, Syvälahti EK, Koskinen TE, et

al : Patients with severe depression may benefit from buspirone augmentation of selective
p.238
serotonin reuptake inhibitors: results from a placebo-controlled, randomized, double-blind, placebo wash-in study. J Clin Psychiatry 62 : 448- 452, 2001 3)Peet M, Horrobin DF : A dose-ranging study of

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p.239
CQ9-8初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として、精神療法による付加的治療を行うことは有用か

【要約】⚫初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病の後続治療として、精神療法を追加する付加的治療を行うことを提案する。⚫追加される精神療法は、認知行動療法(CBT)(個人や集団、第3 世代を含む)、対人関係療法など多くの種類があるが、国内で実施可能な治療方法は限定的である。

【解説】

1 はじめに

精神療法を薬物療法に追加で実施する有用性については、治療抵抗性や慢性化した症例などでは広く検討されているが、初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に限定した後続治療としての有用性については十分に検討されていない。そのため本CQ では、後続治療としての精神療法の付加的治療について、その有用性を検討するため、既存の文献をシステマティックレビューすることとした。そして、抗うつ薬による初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者に対して、現在使用している抗うつ薬による薬物療法に精神療法を追加することと、現在の抗うつ薬治療を継続することの有用性を比較した。

2 方法

対象者(P)を、初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者、介入(I)を現在使用している抗うつ薬による薬物療法に精神療法を追加、コントロール(C)を現在使用している抗うつ薬を用量変更せずに継続とした。益のアウトカム(O)は、反応率(重要性9)、寛解率(重要性7)、抑うつ症状の軽減(重要性7)とし、害のアウトカム(O)は、すべての理由による治療中断率(重要性7)、有害事象による治療中断率(重要性7)とし、研究デザインをRCT と設定し、システマティックレビ

ューを行った。

3 結果

システマティックレビューを行った結果、現在の抗うつ薬による薬物療法に精神療法を追加する群と、現在の抗うつ薬を継続する群とを比較検討している22 本のRCT1-22)を同定した。付加的治療としてRCT で評価された構造化された精神療法のなかで最も多かったのが、多様な形式のCBT であり、15 本であった。そのうち、個人認知行動療法が6 本、集団認知行動療法が3 本、その他、コンピューター支援型認知行動療法、認知行動分析システム療法、反芻焦点型認知行動療法、弁証法的精神療法、マインドフルネス認知療法、認知的読書療法が各1 本であった。さらに認知行動療法以外では、対人関係療法と注意バイアス修正訓練が2 本報告され、その他、短期力動的精神療法、短期支持的精神療法、芸術療法が1 本ずつであった。

これらの22 本のRCT についてメタ解析を行ったところ、現在使用している抗うつ薬を継続することに比べて、現在使用している抗うつ薬に精神療法を追加することは、反応率(N=7、n=826、リスク比 2.02、95%信頼区間 1.56~2.61)、寛解率(N=12、n=1,765、リスク比 1.58、95%信頼
p.240
区間 1.23~2.03)において、有意な有効性を認めた。一方、抑うつ症状の軽減 (N=17, n=999, 標準化平均差 −0.52、95%信頼区間 −1.53~0.48)、すべての理由による治療中断率(N=19、n=2,078、リスク比 0.98、95%信頼区間 0.80~1.21)、有害事象による治療中断率(N=2、n=587、リスク比1.01、95%信頼区間 0.96~1.07)のいずれにおいても有意な差を認めなかった。

初期治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者の後続治療として、現在使用している抗うつ薬に精神療法を追加する付加的治療は、現在の治療を継続するよりも、反応率や寛解率が増加する可能性があり、またすべての理由による治療脱落や有害事象による脱落は増加しない可能性がある。そのため、システマティックレビュー、またそれに基づくメタ解析からは有益性が有害性を上回っているといえる結果であった。

ただし、治療強度は、対人でのかかわりが1~48回と研究によって大きく異なり、また抗うつ薬の継続あるいは変更を十分に統制しているのかが不明な研究も含まれている。そして、個人もしくは集団、あるいはデジタルによる介入のいずれがよいのか、またどの技法が優れているかはレビューから結論付けることはできなかった。

4 要約の作成

上記の結果を踏まえて、精神療法を追加する付加的治療により、反応率や寛解率は増加し、一方で有害事象やすべての理由による治療脱落は増加せず、有益性が有害性を上回っていると結論付け

ることができた。しかし、推奨とするにはいくつかの懸念事項が挙げられた。

まず、うつ病に対する構造化された精神療法は、トピックス2「うつ病に対する精神療法」の項においても記載しているように、国内においては実施している施設数の問題があり、多くの医療機関で実施できるわけではないことが指摘される。この点においてはECT やTMS と同様ではあるものの、さらにいくつかの問題点が挙げられる。その1つが精神療法の内容についてである。保険収載されている精神療法は、上記のなかではCBT と力動的精神療法のみである。さらにマインドフルネス認知療法や反芻焦点型といった第3 世代のCBTに分類される治療も、厚生労働省が推奨する治療マニュアルには技法が記載されていない23)。そのため、今回のレビューで有益性があると考えられた精神療法が、国内で提供できる精神療法と同一であるという確証が得られないという点も課題となった。

一方で、仮に精神療法による付加的治療を行わない場合には、精神療法を実施していれば改善した可能性を失うこととなり、患者の不利益となることも想定される。そのため、これらのシステマティックレビューや議論を踏まえて、後続治療として精神療法の付加的治療を提案する。

なお、精神療法を導入する際には、トピックス2「うつ病に対する精神療法」の項を参照し、実施していくべきである。
p.241
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p.243
第10 章 DTD(難治性抑うつ)

CQ10-1後続治療で十分な効果が得られなかったうつ病患者の治療開始に際して考慮すべきことはなにか

【要約】1 「治療抵抗性うつ病(Treatment-resistant depression:TRD )」は、抗うつ薬への治療

反応性を基盤とした概念であり、2 剤以上の抗うつ薬治療を十分な用量・期間で実施しても、十分な反応が得られないものと定義される。2 「Difficult-to-treat Depression:DTD(難治性抑うつ)」は、初期治療後の追加治療(後続治療・さらなる段階の治療)を要する症例にとどまらず、再燃・再発を反復する不安定な経過例や、抗うつ薬の忍容性に問題があり治療継続が困難となる症例をも包含する抗うつ薬への治療反応性のみにとらわれない包括的概念である。うつ病に対する初期治療を実施しても、患者に苦痛・機能障害・負担が持続しているものと定義される。3 後続治療においても十分な効果が得られない場合に、診断や治療計画そのものが病態

に適していない可能性(パラダイムのエラー)を考慮し、多角的評価に基づく診断および治療計画の見直しを行うことが重要である。

【解説】

1 治療抵抗性うつ病(Treatment-resistant

depression:TRD)の定義とその変遷かつてうつ病は、比較的予後良好な疾患とされていたが、近年の実証的研究によりその見方は変化している。例えば、オランダうつ病不安研究(Netherlands study of depression and anxiety: NESDA)では、初発例を含むプライマリ・ケア患者において45%が寛解に至らず1)、反復性うつ病を多く含む米国のSTAR*D 研究では、その割合が67%に及ぶ2)。さらに、2 年以上の治療にもかかわらず一度も寛解しない患者が10~20%存在するとされる3, 4)。こうした転帰調査の知見から、うつ病治療における治療抵抗性の問題が臨床上の重要課題として注目されるようになってきた。

抗うつ薬治療反応性を基盤とする概念として、TRD が形成されてきた。TRD は一般に、1~2 剤

以上の抗うつ薬を、それぞれ十分な用量・期間で投与しても十分な効果が得られないものと定義され、特に再現性(信頼性)が重視される臨床研究の分野では重要な評価基準として活用されている5)。なお,本ガイドラインでは,TRD は2剤以上の抗うつ薬治療を十分な用量・期間で実施しても,十分な反応が得られないものと定義される。

TRD 評価のモデルとしては、Thase&Rush staging model(TRSM)が代表的であるが6)、近年では、これに加えて複数のステージングモデルが提案されている(表1)。また、米国食品医薬品局(food and drug administration:FDA)をはじめとする医薬品規制当局においては、新薬開発における評価に際し、TRD の概念が基準として採用
p.244
されている。

一方でTRD は、抗うつ薬への反応性に基づいた一元的な概念のため、患者の心理社会的背景や、症状の遷延化に伴う社会的機能障害、副作用の影響などが十分に考慮されていない点が課題とされている。さらに、TRD への治療アプローチは、治療ステージごとに効果判定を行い、治療内容を段階的に変更していく直線的段階的アプローチ(linear sequential approach)が基本とされる。このアプローチは明確な治療計画の提示が可能であるという利点を有する一方で、精神療法やニューロモデュレーションなどの非薬物療法が十分に包含されておらず、柔軟性を欠くという批判もある7)。また、「十分な用量・十分な期間」というTRD 判定の基準そのものが曖昧であることから、実臨床への適用において限界があると指摘されている8)。

2 難治性抑うつ(DTD)の概念とその発展

近年、患者中心の医療(patient centered medicine)の重要性が高まるなかで、うつ病における治療目標も変化しつつある。これまでTRDで重視されてきた症候学的回復(臨床的リカバリー)に加え、患者自身の価値観や人生目標に即した回復(パーソナル・リカバリー)が、治療成功の新たな指標として注目されている。実際に多くのうつ病患者が「症状の消失(寛解)」以上に、「以前の自分に戻ること」「精神的な充足感」「自分が健康であると感じられること」などを、回復の指標として重視していることが報告されている9)。

このように、患者が重視する回復の指標への注目から、抗うつ薬への治療反応性を基盤とするTRD に代わる、より包括的な概念としてDTD が提唱されてきた(表2)10, 11)。DTD は、うつ病に対する初期治療を実施しても、患者に著しい苦痛・機能障害・負担が持続しているものと定義さ

れる。この「負担」には症状の持続だけでなく、社会機能の低下、QOL の低下、副作用による苦痛など、患者が主観的に感じる多様な苦悩が含まれる。DTD は、初期治療後の追加治療(後続治療・さらなる段階の治療)を要する症例にとどまらず、再燃・再発を反復する不安定な経過例や、抗うつ薬の忍容性に問題があり治療継続が困難となる症例をも包含する包括的概念である。またDTD は、TRD を包含しつつ、抗うつ薬への治療反応性のみにとらわれない包括的な概念である。

3 多角的評価による診断・治療計画の見直し

後続治療で効果が不十分な場合、それを直ちに治療抵抗性と判断するのではなく、後続治療の章で述べた留意点(投与量や服薬アドヒアランスの確認)に加え、病態と治療選択の適合性を再評価する必要がある。すなわち、病態に合わない治療選択がなされていないか、いわゆる「パラダイムのエラー」を検討することが重要である。この際、生物学的・心理的・社会的要素を含む多角的視点から患者を再評価し、治療計画を見直すことが不可欠である。例えば、薬物療法への反応が期待される症例では、抗うつ薬への反応性に基づいたTRD の直線的段階的アプローチが有効である12)。一方で、児童期の虐待歴や完璧主義傾向など、難治化に関与する心理社会的要因が背景にある場合、抗うつ薬単独では効果が不十分なことも多い。こうした「パラダイムのエラー」が生じやすいとされる病態として、以下のようなサブグループが挙げられる13)。精神症性の特徴を伴ううつ病、非定型の特徴を伴ううつ病、器質性・症候性うつ病、不安症、パーソナリティ症や自閉スペクトラム症の併存および双極スペクトラムの抑うつエピソード。
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【文献】

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CQ10-2後続治療で十分な効果が得られず,さらなる段階の治療を要する際の治療法はなにか

【要約】1 2剤以上の抗うつ薬治療に効果不十分なうつ病に対し、第2世代抗精神病薬による補助療

法を弱く推奨する。2 2剤以上の抗うつ薬治療に効果不十分なうつ病に対し、気分安定薬による補助療法を行わないことを弱く推奨する。3 2剤以上の抗うつ薬治療に効果不十分なうつ病に対し、構造化された精神療法による付加的治療を提案する。4 2剤以上の抗うつ薬治療に効果不十分なうつ病に電気けいれん療法(ECT)による付加的治療を提案する。5 2剤以上の抗うつ薬治療に効果不十分なうつ病に対し、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法による付加的治療を弱く推奨する。6 抗精神病薬と気分安定薬以外の薬剤の追加については、国内における有効性および安全性に関するエビデンスは乏しく、現時点では推奨は決定しない。7 DTDに対する治療アプローチは、難治化要因の多角的評価と、共同意思決定(SDM)

を特徴とする。

【解説】(図1)

難治性抑うつ(本ガイドラインでは、Difficultto-Treat Depression: DTD)は 初期治療後の追加治療(後続治療・さらなる段階の治療)を要する症例を包含する概念である。しかし、本ガイドラインでは、初期治療で効果が不十分な場合に実施される「後続治療」と、後続治療でも効果が不十分な場合に行われる「さらなる治療」とに区分し、解説している。

なお、さらなる治療を要するうつ病については、初期治療としての抗うつ薬に抗精神病薬などの補助療法を行っても改善が得られない場合や、初期治療の抗うつ薬に認知行動療法による付加的治療を行っても効果が不十分な場合に関するエビデンスは限定的である。このため,本CQでは、さらなる治療を要するうつ病のうち、2剤以上の抗うつ薬治療で十分な反応が得られなかった治療抵抗性うつ病(Treatment-Resistant Depression :

TRD)を主な対象とした。また、DTDに対するアプロ―チについても概説した。

1 第2世代抗精神病薬による補助療法

第2世代抗精神病薬〔アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、オランザピン(適用外)、クエチアピン(適用外)〕による補助療法は、抑うつ症状の軽減が認められる一方、有害事象による治療中断のリスクを増加させる。このことから、2剤以上の抗うつ薬治療に効果不十分な場合、第2世代抗精神病薬による補助療法を弱く推奨している(CQ10-3参照)。また、これらのエビデンスは主に3か月以内の無作為化比較試験(RCT)に基づくものであり、長期的な有効性・安全性に関するデータは限定的である。したがって、第2
p.249
世代抗精神病薬を3か月を超えて継続する場合には、効果の継続的評価と副作用のモニタリングを含む慎重な対応が求められる。

2 気分安定薬による補助療法

気分安定薬〔リチウム(適用外)、ラモトリギン(適用外)〕による補助療法は、抑うつ症状の軽減において対照群との差は認められず、有害事象による治療中断のリスクが増加することから、2剤以上の抗うつ薬治療に効果不十分な場合には、気分安定薬による補助療法を行わないことを弱く推奨している(CQ10-4参照)。ただし、これらは3か月以内の少数のRCTに基づいており、エビデンスの不精確性が高いことに留意する必要がある。

3 構造化された精神療法による付加的治療

構造化された精神療法による付加的治療は、抑うつ症状の軽減、反応率ならびに寛解率において対照群に比べて有意に優れていた。一方で、すべての理由による治療中断率には差が認められなかった。以上より、2剤以上の抗うつ薬治療に効果不十分な場合、構造化された精神療法による付加的治療を提案している(CQ10-6参照)。認知行動療法(CBT)、マインドフルネス認知療法( mindfulness–based cognitive therapy : MBCT )、弁証法的行動療法(dialectical behavior therapy:DBT)、および長期/短期精神分析的精神療法(long-term psychodynamic psychotherapy : LTPP、short-term psychodynamic psychotherapy:STPP)をはじめとした精神療法による付加的治療を、その実施可能性に基づいて検討する。

構造化された精神療法は“psychotherapy” “talk therapy”と同義の用語。治療者が患者との治療的関係を通じて、心理的・行動的問題に対し治療理論に沿って働きかけ、症状の軽減・対処能力の強化・社会的機能の改善を目指す一連の治療法(トピックス2「うつ病に対する精神療法」の項を参

照)。

4 電気けいれん療法(ECT)による付加的治療ECTによる付加的治療に関してシステマティックレビューを行ったところ、完全に本CQに合致した質の高いRCTが存在しないことから治療推奨の決定は行わなかった。一方で、検索されたRCTにおいてTRDに対するECTの効果量が大きいことや有用性を示したコホート研究が示されている。また日本精神神経学会によるECT推奨事項で、2次治療として急性期ECTの適応になる状況として薬物療法に対する抵抗性があげられている。以上より、2剤以上の抗うつ薬治療で効果が不十分な場合、ECTによる付加的治療を提案する(CQ10- 6参照)。その場合も、ECTの有効性や安全性、想定される負担をきちんと説明し、患者や家族の意向を十分に尊重する。また、ECTに関する急性期治療についてはCQ3-5を併せて参照していただきたい。

5 反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法による付

加的治療rTMS療法は、対照群と比べて反応率、寛解率、抑うつ症状の軽減に優れていた。一方で、すべての理由による治療中断率には差がなかった。以上より、2剤以上の抗うつ薬治療に効果不十分な場合、rTMS療法による付加的治療を弱く推奨している(CQ10-7参照)。ただし、わが国におけるrTMS療法の適応は、「既存の抗うつ薬による十分な薬物療法によっても、期待される治療効果が認められない中等症以上の成人(18歳以上)のうつ病」に対して認められている点に留意する必要がある。

6 抗精神病薬と気分安定薬以外の薬剤による補

助療法DTDに対する補助療法として、ケタミン(全
p.250
身麻酔薬:麻薬指定)、メチルフェニデート(中枢神経刺激薬)、D-サイクロセリン(抗結核性抗生物質)、ミノサイクリン(テトラサイクリン系抗生物質)、およびメチラポン(副腎皮質ホルモン合成阻害薬)などが検討されている。2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病を対象としたRCTでは、ケタミン1, 2)、D-サイクロセリン3)、ミノサイクリン4)はいずれも、プラセボと比較して抑うつ症状の改善に優れていた。一方、メチルフェニデート5)およびメチラポン6)では、プラセボとの差が認められなかった。

これらの薬剤による副作用は概して軽度であり、安全性は概ね良好と報告されているが、国内における有効性および安全性に関するエビデンスは乏しく、現時点ではいずれの薬剤も、うつ病に対して適用外である点に留意する必要がある。したがって、現時点では推奨は決定されない。なお、メチルフェニデートのRCT5)は、1剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病を対象としており、ほかの臨床試験とは対象条件が異なる点にも注意を要する。

7 DTDに対する治療的アプローチ

DTDに対する治療的アプローチは、抗うつ薬治療への反応性に応じて治療内容を段階的に変更していくTRDの直線的段階的アプローチとは異なり、難治化要因の多角的評価(図2参照)および医療者と患者とのSDMを基盤とするアプローチを特徴とする(図1)。具体的には、生物学的、心理的、社会・環境的、ライフスタイル的側面から多角的評価を行い、その結果に基づいて医療者と患者のSDMで治療方針を決定し実施する。治療目標も「症状の消失」だけでなく、「病状の持続的なマネジメント」にも広がり、社会機能やQOLの向上など、患者が重視するアウトカムの最大化を目指す。この治療アプローチは個別性や患者の価値観が重視され、TRDモデルでは対応が困難であった患者にも、患者のニーズに即した治療の最適化が可能となる点に臨床的意義がある。

DTDの評価と治療のステップDTDに対する評価および治療のステップは、以下の通りである(図3)。

1 診断と治療経過の確認

第9章で示した留意点(投与量や服薬アドヒアランス)を踏まえ、診断および治療経過を詳細に見直す。双極症やレビー小体型認知症、パーキンソン病、ステロイド薬投与など、ほかの精神・身体疾患や物質に起因する抑うつ症状を鑑別する。

2 難治化要因の多角的評価

うつ病と確定診断された後は、現行治療が奏功しない背景にある難治化要因を、生物学的、心理的、社会・環境的、ライフスタイル的観点から総合的に評価する。そして、得られた情報を総合し、患者における病理形成に関する仮説的理解を深めることに努める。この過程は、精神科医・土居健郎(1920~2009)が提唱した「患者のストーリーを読む」という視点と重なり、「見立て」または「症例の定式化(case formulation)」と呼ばれる。これにより、個々の患者の問題を立体的に把握し、メリハリの利いた治療計画の策定が可能となる7)。

3 介入の力点を決定

見立てに基づき、介入における力点を明確にする。例えば、閉じこもりがちな生活様式が抑うつ症状の維持要因である場合には、薬物療法に加えて、行動変容を促す心理教育やCBTによる行動活性化を組み合わせる。

4 個別性に即した治療目標の設定

症状の改善(症候学的回復)にとどまらず、持続的な症状マネジメント、社会機能の回復、QOLの向上など、患者固有のニーズと価値観に即した治療目標を設定する。

5 治療選択の提示と治療方針の決定

複数の治療選択肢を提示し、患者と医療者とが
p.251
SDMにより治療方針を決定・実施する。

6 治療経過の継続的評価と見直し

治療経過は継続的に評価し、測定に基づく診療(Measurement Based Care:MBC)( CQ1-4参照)を導入することが望ましい。十分な効果が得られない場合には、その要因を分析し、plan-do-

check-action(PDCA)サイクルに基づいて、最適な治療を継続的に模索・実践していくことが重要である8)。

【文献】

1)Su TP, Chen MH, Li CT, et al:Dose-Related

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p.252

        
p.253

        
p.254

        
p.255
CQ10-3 2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対し、抗精神病薬による補助療法は有用か

【推奨】

2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対して、第2世代抗精神病薬による補助療法を弱く推奨する(2B)。

【推奨文】

2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対し、第2世代抗精神病薬〔アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、オランザピン(適用外)、クエチアピン(適用外)〕を補助療法として追加することは、対照群に比べて、抑うつ症状の軽減(B)、反応率(B)、寛解率(B)が優れていた。一方で、少なくとも1つの有害事象の発現頻度(B)、有害事象による治療中断率(B)、すべての理由による治療中断率(B)は、いずれも補助療法群のほうが高かった。以上より、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対して、第2世代抗精神病薬による補助療法を弱く推奨する(2B)。なお、これらのエビデンスは、主に3か月以内のRCTに基づくものであり、長期的な有効性・安全性に関するデータは限定的である。したがって、第2世代抗精神病薬を3か月を超えて継続する場合には、効果の継続的評価と副作用のモニタリングを含む慎重な対応が求められる。

【解説】

1 はじめに

海外のうつ病治療ガイドライン〔英国のNational Institute for Health and Care Excellence (NICE)20221)、カナダのCanadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT ) 20232)〕では、DTDに対する補助療法として、第2世代抗精神病薬の追加が推奨されている。しかし、これらのガイドラインでは、初期治療に効果が不十分なうつ病(後続治療の対象)と、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病(TRD)が明確に区別されず、検討されている点に留意が必要である。

本CQでは、後続治療が奏効しなかった場合の次の治療選択肢として、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病を対象に、第2世代抗精神病薬による補助療法の有効性と安全性を検討す

るため、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。

2.方法

対象者(P)を、2剤以上の抗うつ薬治療に反応しなかったうつ病患者とし、全対象者の75%以上がこの条件を満たす論文のみを採用した。介入(I)は、国内で使用可能な抗精神病薬を抗うつ薬に追加する補助療法とし、コントロール(C)はプラセボの追加とした。益のアウトカム(O)は、抑うつ症状の軽減(重要性8)、反応率(重要性9)、寛解率(重要性9)、社会機能の改善度(重要性9)とし、害のアウトカム(O)は、すべての理由による治療中断率(重要性7)、有害
p.256
事象による治療中断率(重要性7)、少なくとも1つの有害事象の発現頻度(重要性8)とした。研究デザインをRCTのシステマティックレビューと設定し、抽出されたRCTのメタ解析を行った。

3.結果

6本の既存のシステマティックレビュー3-8)から、抽出基準を満たす15本のRCT(n=5,306)を同定し、メタ解析に包含した。使用薬剤は、ブレクスピプラゾール6本9-14)、アリピプラゾール4本15-18)、オランザピン(適用外)4本19-22)、クエチアピン(適用外)1本23)と、いずれも第2世代抗精神病薬であった。

メタ解析の結果、2剤以上の抗うつ薬治療で効果が不十分なうつ病に対して、抗うつ薬に第2世代抗精神病薬を補助療法として追加すると、対照群と比べて、抑うつ症状の軽減(N=15、n= 5,306、標準化平均差-0.25、95%信頼区間- 0.36~-0.14)、反応率(N=13、n=4,570、リスク比 1.36、95%信頼区間 1.24~1.51、補助療法群31.2%:対照群21.9%)、寛解率(N=13、n =5,435、リスク比 1.35、95%信頼区間 1.15~ 1.59、補助療法群22.9%:対照群17.3%)において有意に優れていた。その一方、少なくとも1つの有害事象の発現頻度(N=13、n=5,544、リスク比 1.23、95%信頼区間 1.11~1.35、補助療法群59.4%:対照群50.7%)、有害事象による治療中断率(N=13、n=5,541,、リスク比 2.06、95%信頼区間 1.41~3.01、補助療法群4.6%:対照群1.9%)、すべての理由による治療中断率(N=13、n=4,754、リスク比 1.23、95%信頼区間 1.03~ 1.46、補助療法群15.1%:対照群11.5%)に関しては、補助療法群のほうが対照群より有意に高かった。

4.推奨文の作成

メタ解析の結果、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対して、第2世代抗精神病薬による補助療法は、抑うつ症状の軽減、反応率

および寛解率において優れていた。一方で、少なくとも1つの有害事象の発現頻度、有害事象による治療中断率、すべての理由による治療中断率のいずれも対照群に比べて有意に高く、有効性と安全性のバランスを慎重に評価する必要がある。本メタ解析に包含されたRCTの多くは、試験期間が3か月以内のものであり、長期的な有効性・安全性に関するエビデンスは限定的である。ブレクスピプラゾールの24週間試験において忍容性は一定程度確認されたものの、持続的な有効性については不確実性が残された13)。このように、第2世代抗精神病薬の長期継続投与に関するエビデンスは不十分で、第2世代抗精神病薬の長期使用では代謝異常や遅発性錐体外路症状といった潜在的リスクが懸念される。そのため、第2世代抗精神病薬を3か月超えて継続する場合には、効果の継続的評価と副作用のモニタリングを含む慎重な対応が求められる。

本CQの対象は、外来のうつ病患者であり、切迫した自殺念慮や顕著な精神運動興奮、身体合併症による入院適応症例には、エビデンスの非直接性に留意する必要がある。なお、第2世代抗精神病薬間の個別の効果比較に関しては、本システマティックレビューでは検討されていないが、国内のRCTはアリピプラゾールとブレクスピプラゾールに限られており、両者の有用性に有意差は認められていない24)。

以上より、本CQにおける全体的なエビデンスの確実性は中程度(B)と評価された〔ただし、社会機能に関するアウトカムのみ低い確実性(C)と評価された〕。益と害のバランス、およびわが国の臨床場面での実施可能性を考慮し、2剤以上の抗うつ薬治療で効果が不十分なうつ病に対して、第2世代抗精神病薬による補助療法を弱く推奨する(2B)。
p.257
5 推奨決定会議の結果

提出された資料をもとに議論し、投票結果は最終的に「行うことを弱く推奨する」となった。行うことを強く推奨する:0%

行うことを弱く推奨する:100%行わないことを弱く推奨する:0%行わないことを強く推奨する:0%

【文献】

1)Kendrick T, Pilling S, Mavranezouli I, et al :

Management of depression in adults: summary of updated NICE guidance. BMJ 378 : o1557, 2022 https://www.nice.org.uk/guidance/ng222 2 )Lam RW, Kennedy SH, Adams C, et al :

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acceptability of second-generation antipsychotics with antidepressants in unipolar depression augmentation: a systematic review and network meta-analysis. Psychol Med 52 : 2224-2231, 2022 8)Kishi T, Sakuma K, Saito T, et al : Comparison

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p.259
CQ10-4 2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対し、気分安定薬による補助療法は有用か

【推奨】

2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対して、気分安定薬による補助療法を行わないことを弱く推奨する(2C)。

【推奨文】

2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対し、気分安定薬〔リチウム(適用外)、ラモトリギン(適用外)〕を補助療法として追加しても、対照群に比べて、抑うつ症状の軽減(C)、反応率(C)、寛解率(D)に差は認められなかった。一方、有害事象による治療中断率(C)は、補助療法群で高く、忍容性に関する懸念が示された。以上より、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対して、気分安定薬による補助療法は行わないことを弱く推奨する(2C)。なお、これらのエビデンスは、3か月以内の少数のRCTに基づいており、エビデンスの不精確性が高いことに留意する必要がある。

【解説】

1 はじめに

海外のうつ病治療ガイドライン〔英国のNational Institute for Health and Care Excellence (NICE)20221)、カナダのCanadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT ) 20232)〕では、DTDに対する補助療法として、気分安定薬の追加が推奨されている。例えば、NICE20221)では、4週間以上の抗うつ薬治療に反応しない場合、リチウムまたはラモトリギンの追加を検討すべきとしている。また、CANMAT20232)においても、DTDに対して、リチウムをセカンドライン、ラモトリギンをサードラインの補助療法として位置付けている。しかし、これらのガイドラインでは、初期治療に効果が不十分なうつ病(後続治療の対象)と、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病(DTD)が明確に区別されず、検討されている点に留意が必要である。本CQでは、後続治療に奏功しなかった場合の

次の治療選択肢として、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病を対象に、気分安定薬による補助療法の有効性と安全性を検討するため、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。

2.方法

対象者(P)を、2剤以上の抗うつ薬治療に治療反応しなかったうつ病患者とし、全対象者の75%以上がこの条件を満たす論文のみを採用した。介入(I)は、国内で使用可能な気分安定薬を抗うつ薬に追加する補助療法とし、コントロール(C)はプラセボまたは気分安定薬以外の追加とした。益のアウトカム(O)は、抑うつ症状の軽減(重要性8)、反応率(重要性9)、寛解率(重要性9)、社会機能の改善度(重要性9)とし、害のアウトカム(O)は、すべての理由による治療
p.260
中断率(重要性7)、有害事象による治療中断率(重要性7)、少なくとも1つの有害事象の発現頻度(重要性8)とした。研究デザインはRCTのシステマティックレビューと設定し、抽出されたRCTのメタ解析を行った。

3.結果

6本の既存のシステマティックレビュー論文3-8)から、抽出基準を満たす5本のRCT(n=351)が同定され、メタ解析に包含された。使用された気分安定薬はリチウム(適用外)3本9-11)、ラモトリギン(適用外)2本12,13)であったが、バルプロ酸およびカルバマゼピンに関するRCTは確認されなかった。

メタ解析の結果、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対して、抗うつ薬に気分安定薬を追加しても、抑うつ症状の軽減(N=5、n =351、標準化平均差 0.02、95%信頼区間 -0.19 ~0.23)、反応率(N=4、n=302、リスク比0.83、95%信頼区間 0.56~1.23、補助療法群22.0%:対照群27.0%)、寛解率(N=1、n=142、リスク比 0.65、95%信頼区間 0.33~1.27、補助療法群15.9%:対照群:24.7%)において、対照群との有意差を確認できなかった。その一方、有害事象による治療中断率(N=2、n=176、リスク比 2.55、95%信頼区間 1.15~5.64、補助療法群20.9%:対象群7.8%)は、補助療法群のほうが対照群より有意に高かった。なお、すべての理由による治療中断率(N=4、n=214、リスク比 0.73、95%信頼区間 0.43~1.25、補助療法群15.5%:対照群23.1%)と、少なくとも1つの有害事象の発現頻度(N=2、n=176、リスク比 5.19、95%信頼区間 0.09~307.74、補助療法群65.1%:対照群40.0%)において、有意な群間差は確認できなかった。また、本メタ解析に包含されたRCTのうち、リチウムを対象としたRCTのみでサブグループ解析した場合も、結果は同様であった。4.推奨文の作成

メタ解析の結果、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対する、気分安定薬による補助療法は、抑うつ症状の改善、反応率、寛解率のいずれにおいても有意な改善を示さなかった。一方、有害事象による治療中断率は、対照群に比べて有意に高く、忍容性に関する懸念が示された。

本メタ解析に包含されたRCTの多くは、試験期間が3か月以内の臨床試験であり、自殺予防効果など中長期的かつ臨床的に重要なアウトカムは評価されていない。したがって、気分安定薬の補助療法の中長期的な有効性および安全性に関しては、エビデンスが限定的である点に留意が必要である。

なお、本CQのメタ解析が対象である「2剤以上の抗うつ薬治療に効果不十分なうつ病」に限定されない、より広範な気分障害全般を対象としたメタ解析では、リチウム補助療法による自殺リスクの有意な低下が報告されている14)。また、1剤以上の抗うつ薬治療に効果不十分なうつ病も対象に含む既存のメタ解析15)では、リチウム補助療法による反応率の向上〔治療必要数(NNT)5、95%信頼区間 4~10、N=14、n=643〕が示されている。これらの結果との相違には、対象集団の定義の違いが影響している可能性がある。さらに、本CQの対象は2剤以上の抗うつ薬治療に十分な治療反応が得られない外来のうつ病患者であり、切迫した自殺念慮や顕著な精神運動興奮、身体合併症による入院適応症例には、本CQのエビデンスは直接的に適応できない可能性があり、慎重な判断が求められる。

以上より、本CQで採用したエビデンスは、対象者症例数・RCT数ともに限られていたことから、エビデンスの全体的な確実性は低い(C)と評価された。また、寛解率に関するアウトカムはRCT1本に基づくため、非常に不確かなエビデンス(D)と評価された。抑うつ症状の軽減といった有効性が明確でない一方、有害事象による治療中断率の上昇といった忍容性に関する懸念が示さ
p.261
れたことを踏まえ、安全性への配慮を重視し、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対して、気分安定薬による補助療法は行わないことを弱く推奨する(2C)。

5.推奨決定会議の結果

提出された資料をもとに議論され、投票結果は最終的に「行わないことを弱く推奨する」となっ

た。行うことを強く推奨する:0%行うことを弱く推奨する:6%行わないことを弱く推奨する:94%行わないことを強く推奨する:0%

【文献】

1) Kendrick T, Pilling S, Mavranezouli I, et al :

Management of depression in adults: summary of updated NICE guidance. BMJ 378 : o1557, 2022 https://www.nice.org.uk/guidance/ng222 2 )Lam RW, Kennedy SH, Adams C, et al :

Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT) 2023 Update on Clinical Guidelines for Management of Major Depressive Disorder in Adults: Réseau canadien pour les traitements de l'humeur et de l'anxiété (CANMAT) 2023 : Mise à jour des lignes directrices cliniques pour la prise en charge du trouble dépressif majeur chez les adultes. Can J Psychiatry 69 : 641-687, 2024 3)Strawbridge R, Carter B, Marwood L, et al :

Augmentation therapies for treatment-resistant depression: systematic review and meta-analysis. Br J Psychiatry 214 : 42-51, 2019 4)Carter B, Strawbridge R, Husain MI, et al :

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Combining Antidepressants vs Antidepressant Monotherapy for Treatment of Patients With Acute Depression: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Psychiatry 79 : 300-312,

2022 7)Yan Y, Yang X, Wang M, et al : Efficacy and

acceptability of second-generation antipsychotics with antidepressants in unipolar depression augmentation: a systematic review and network meta-analysis. Psychol Med 52 : 2224-2231, 2022 8)Kishi T, Sakuma K, Saito T, et al : Comparison

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p.263
CQ10-5 2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対し、精神療法による付加的治療は有用か【要約】 2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対して、構造化された精神療法による付加的治療を提案する。 CBT、MBCT、DBT、およびLTPP・STPPをはじめとした精神療法による付加的治療を、その実施可能性に基づいて検討する。

【解説】

1 はじめに

海外のうつ病治療ガイドライン〔英国のNational Institute for Health and Care Excellence (NICE)20221)、カナダのCanadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT ) 20232)〕 では、DTDに対する治療選択として、構造化された精神療法の付加的治療が推奨されている。これらのガイドラインでは有効な治療選択肢として、CBT、対人関係療法(interpersonal therapy:IPT)、行動活性化技法などが挙げられている。CANMAT20232)では、DTDに対し、ほかの治療選択肢よりも早期に精神療法による付加的治療を検討することが推奨されている。しかし、これらのガイドラインでは、初期治療に効果が不十分なうつ病(後続治療の対象)と、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病(TRD)とが明確に区別されず、検討されている点には留意が必要である。

本CQでは、後続治療に奏功しなかった場合の次の治療選択肢として、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病を対象に、構造化された精神療法による付加的治療の有効性と安全性を検討するため、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。2 方法

対象者(P)を、2剤以上の抗うつ薬治療に反応しなかったうつ病患者とし、全対象者の75%以上がこの条件を満たす論文のみを採用した。介入(I)は、抗うつ薬への付加的治療として行う構造化された精神療法とし、コントロール(C)は通常治療とした。益のアウトカム(O)は、抑うつ症状の軽減(重要性8)、反応率(重要性9)、寛解率(重要性9)、社会機能の改善度(重要性9)とし、害のアウトカム(O)は、すべての理由による治療中断率(重要性7)、有害事象による治療中断率(重要性7)、少なくとも1つの有害事象の発現頻度(重要性8)とした。研究デザインはRCTとし、抽出されたRCTを統合してメタ解析を行った。

3 結果

6本の既存のシステマティックレビュー論文3-8)から、抽出基準を満たす2本のRCT(n=302)が同定され、メタ解析に包含された。対象となった精神療法は、MBCT 1 本9) 、Long-Term Psychodynamic Psychotherapy(LTPP) 1本10)であった。

メタ解析の結果、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対して、抗うつ薬に精神療法を付加的治療として追加すると、対照群に比べ
p.264
て、抑うつ症状の軽減(N=2、n=272標準化平均差-0.35、95%信頼区間 -0.59~-0.11)および反応率(N=2、n=272、リスク比 1.69、95%信頼区間 1.09~2.62、増強療法群31.2%:対照群21.9%)が有意に優れていた。一方、寛解率およびすべての理由による治療中断率に関しては、両群間で有意差は認められなかった。

なお、本CQにおけるメタ解析の対象論文の抽出基準「研究参加者の75%以上が2剤以上の抗うつ薬治療に反応しなかった症例」を満たすRCTは、限定的であった。そこで、より包括的な検討を目的として、抽出基準を「2剤以上の抗うつ薬治療に反応しなかった症例が50%以上を占めるRCT」と緩和した上で、ハンドサーチにより特定されたTRDに関するCochraneレビュー11)を参照し、補完的レビューを実施した。

補完的レビューでは、新たに3本のRCTを同定し、対象となった精神療法はCBT 1本12)、DBT 1本13)、STPP14)1本を同定した。いずれも、寛解率において対照群よりも有意な改善が認められた。一方、すべての理由による治療中断率に関しては、いずれのRCTにおいても両群間に有意差は認められなかった。

4 要約の作成

メタ解析と補完的レビューの結果、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対して、構造化された精神療法による付加的治療は、抑うつ症状の軽減、反応率ならびに寛解率において対照群に比べて有意に優れていた。一方で、すべて

の理由による治療中断率に関しては、両群間で有意差はみられなかった。

しかし、本CQでの対象RCTの数が限られていること、さらに介入期間が8週間9)~18か月10)と大きなバラツキが存在することから、エビデンスの不確実性および非直接性の懸念が高かった。また、本CQの対象は主として外来のうつ病患者であり、切迫した自殺念慮や身体合併症による入院適応症例では、本CQのエビデンスと直接性が低く、適用に際しては慎重な判断が求められる。

また、わが国では、構造化された精神療法を継続的に提供できる人的・制度的基盤が十分とは言いがたい。有効性を示すエビデンスと臨床実践との間にはいわゆるevidence–practice gapが存在し、医療従事者に対する教育・研修体制の整備、診療報酬制度の見直し、タスクシフティング、デジタル技術との連携強化など制度的・構造的支援が求められる15)( トピックス2「うつ病に対する精神療法」内の「わが国における課題」の項を参照)。

以上より、エビデンスの不精確性や非直接性の懸念、そしてわが国における治療者や医療機関の確保など臨床における実装の課題もあることから、本CQの推奨決定は行わず、提案という形でまとめることで推奨決定会議にて合意を得た。このようなことから、2剤以上の抗うつ薬治療に効果が不十分なうつ病に対して、構造化された精神療法による付加的治療を提案する。

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p.266
CQ10-6 2剤以上の抗うつ薬治療で効果が不十分なうつ病に電気けいれん療法(ECT)による付加的治療は有用か

【要約】2剤以上の抗うつ薬治療で効果が不十分なうつ病にECTによる付加的治療を行うことを提案する。

【解説】

1.はじめに本CQでは、2剤以上の抗うつ薬治療で効果が不十分なうつ病(TRD)における電気けいれん療法(ECT) による付加的治療の有用性を検討する。薬物療法抵抗性はECTの「二次適応」に位置づけられるが、わが国の標準的治療プロトコルにあたる「ECT推奨事項」13)に即して、ECTの一次適応と二次適応を厳密に区別して解析した研究はこれまでに存在しない。このため、本CQでもCQ3- 5と同様の評価の枠組みを踏襲することとした。

2.方法

CQ3-5と同様に、対象者(P)を操作的診断基準

を満たすうつ病の、急性期治療におけるECTの一次適応または二次適応に合致する患者とし、介入(I)を現在わが国で標準的に用いられているECTの治療プロトコル(治療機器:パルス波治療機器、刺激条件:両側側頭部、両側前頭部、右片側いずれかへの短パルスあるいは超短パルス波刺激)、コントロール(C)を偽刺激とした。益のアウトカム(O)は、抑うつ症状の改善(重要性9)、反応率(重要性8)、寛解率(重要性7)、害のアウトカム(O)はすべての理由による治療中断率(重要性7)、死亡率(重要性7)、重大な有害事象の発生率(重要性6)とした。研究デザインをランダム化比較試験(RCT)と設定した。3.結果

システマティックレビューの結果、PICOに合致したRCTはなかった。これは、ECTの有用性が既に広く認知されていること、適応患者群に対する偽刺激群設定が困難であること、さらに、ECTを受ける患者の大半が難治例であるため、改めて治療抵抗性の定義を確認していない研究が多いことも理由として考えられる。一方、ネットワークメタ解析では、偽刺激との直接比較のRCTがなくとも、他の治療を介した間接比較から、プラセボあるいは偽刺激と比較したECTの効果を知ることが可能である。そこで、TRDに対するさまざまな治療の相対的有効性を示したRCTのネットワークメタ解析(N=69、n= 10,285)を取り上げ、プラセボあるいは偽刺激との比較について検討した2)。本研究は、 18歳以上のTRDを対象としており、ECTのRCTは3本〔2本が反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)、1本が経頭蓋直流刺激(tDCS)との直接比較〕であった。益のアウトカムとして、プラセボあるいは偽刺激と比較して反応率はオッズ比が12.86 (95%信頼区間 4.07~40.63)であり、寛解率はオッズ比が12.43(95%信頼区間1.41~109.39)と、いずれもECTが有意に改善していた。一方で、害のアウトカムとしての忍容性、つまり有害事象による治療中断率はオッズ比が0.97(95%信頼区間0.05~18.65)であり、偽刺激との差を認めなかった。ただし、欠測値補完研究、非盲検研究、高バイアスリスク研究、プラセボ条件を欠く研究
p.267
を除外した感度解析では、ECTは偽刺激と有意差がなくなったとされており、結果の解釈には注意が必要である。

その他、パロキセチンを対照群としたRCT3)では、ECT群は反応率および抑うつ症状の軽減について有意に優れていたものの、双極性うつ病が組み入れ基準に含まれており本CQに完全には合致しない。 ECTとケタミンを比較したRCTでは4)、反応率においてECTはケタミンと非劣性であったが、ケタミンは国内未承認であるため結果の解釈に限界がある。本研究では、死亡は両群とも試験期間中に認められず、1つ以上の中等度または重度の有害事象の発生率がECT群で32.4%、ケタミン群で25.1%であったが、両群間で有意差はみられなかった。さらにCQ3-5で取り上げた急性期うつ病または双極症抑うつエピソード患者に対する各種ニューロモデュレーション(ECT、rTMS、tDCS、磁気けいれん療法)についてのRCTを対象としたネットワークメタ解析では5)、組み入られた試験のうち81%は2種類以上の薬物治療に失敗したTRDであり本CQに対する益および害のアウトカムへの応用が検討されるが、この研究の対象者には双極性抑うつエピソードが含まれるため注意が必要である。

近年の国内外のガイドラインなどを参照すると、NICEガイドラインでは重度のうつ病で他の治療法が奏効しなかった場合にECT を考慮6 )、CAMMATガイドラインではECTはTRDに対する最も効果的な治療法のひとつとしている7)。また、APAのECTタスクフォースが作成した実践ガイドでは8)、ECTは他の治療法に反応しないうつ病患者に用いられることが最も多く、TRD患者においてECTに対する反応は他の治療法よりも良好で

ある可能性が高いとしている。日本精神神経学会ECT・rTMS等検討委員会(現精神科医療機器委員会)が作成したECTグッドプラクティスでは薬物療法に対する抵抗性が認められる場合という2次治療としてのECTの適応を提示している9)。

4.要約の作成

推奨決定会議では、提出された資料をもとに検討し、CQ3-5とあわせてエビデンス総体ならびに各アウトカムに関するエビデンスの強さについて議論が行われた。議論の結果、現在わが国で標準的に実施されるECTと同等の治療プロトコルで、日本精神神経学会が定義する二次適応に合致するうつ病患者のうちTRDを対象とした質の高いRCT〔コントロール(C)を偽刺激あるいはプラセボとしたRCT〕が存在しないことから、本CQでは治療推奨の決定は行わないこととなった。

一方で、検索されたRCTにおいてTRDに対するECTの効果量が大きいことや有用性を示唆したコホート研究が多数存在すること10-13)、日本精神神経学会によるECT推奨事項で1)、2次治療として急性期 ECTの適応になる状況として薬物療法に対する抵抗性が認められる場合が挙げられていること、はTRDに対するECTの有用性を示唆していると考えられる。

以上より、2剤以上の抗うつ薬治療で効果が不十分な場合、ECTの有効性や安全性、想定される負担をきちんと説明し、患者や家族の意向を十分に尊重した上で、ECTによる付加的治療を行うことを提案するとした。
p.268
【文献】

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p.269
CQ10-7 DTD(難治性抑うつ)にrTMS療法による付加的治療は有用か

【推奨】

精神症性の特徴を伴わないDTDに対して、rTMS療法による付加的治療を行うことを弱く推奨する(2C)。

【推奨文】

精神症性の特徴を伴わないDTDに対して、rTMS療法は偽刺激と比較し、反応率、寛解率が高く(B)、抑うつ症状が改善され(C)、すべての理由による治療中断率については両治療群間で差がなかった(B)。また、rTMS療法に関連した、けいれん発作の頻度はまれであった(D)。以上より、精神症性の特徴を伴わないDTDに対して、rTMS療法による付加的治療を行うことを弱く推奨する(2C)。

【解説】

1.はじめに

rTMS療法は、海外の主要なガイドラインにおいて、薬物療法で治療効果が得られないうつ病に対する治療法として推奨されている1,2)。わが国におけるrTMS療法の適応は、既存の抗うつ薬による十分な薬物療法によっても、期待される治療効果が認められない中等度以上の成人(18歳以上)のうつ病である(日本精神神経学会、rTMS適正使用指針)。また、わが国では左背外側前頭前野に対する高頻度刺激のみが承認されている。本CQでは、左背外側前頭前野に対する高頻度刺激による付加的治療の有用性を検討した。

2.方法

対象者(P)はDTD(精神症症状を伴うものは除く)、介入(I)は左背外側前頭前野に対する高頻度rTMS療法、コントロール(C)は偽刺激とした。益のアウトカム(O)は、反応率(重要性9)、寛解率(重要性8)、抑うつ症状の改善度(重要性6)とし、害のアウトカム(O)は、すべての理由による治療中断率(重要性8)、有害事象による治療中断率(重要性7)、けいれん発作の出現率(重要性7)、自殺念慮の出現率(重

要性7)とした。研究デザインは、RCTのシステマティックレビューと設定した。ただし、対象者(P)における「難治性」の定義は研究間で異なるため(CQ10-1参照)、本CQでは少なくとも1剤の抗うつ薬治療を行っても十分に反応しないうつ病を「DTD(難治性抑うつ)」と定義した。したがって本CQの対象は、初期治療に奏効しなかったうつ病(後続治療)を含む広義の難治例である。

3.結果

TRD(少なくとも2剤の抗うつ薬治療に反応しないうつ病)を対象に、薬物療法と併用して行われたrTMS療法と偽刺激を比較したメタ解析3)によると、rTMS療法は偽刺激と比較して、反応率、寛解率は有意に高かった(反応率:N=19、n= 854、リスク比 2.25、95%信頼区間 1.71~2.97、寛解率:N=9、n=551、リスク比 2.78、95%信頼区間 1.40~5.53)。

さまざまな精神疾患を対象としたニューロモデュレーションと偽刺激を比較したメタ解析4)に
p.270
よると、DTD(1剤~4剤の抗うつ薬治療に反応しないうつ病)に対する抑うつ症状の改善に関して、rTMS療法は偽刺激と比較して有意に改善させた(N=26、n=1,908、標準化平均差 -0.66、95%信頼区間 -0.91~-0.40)。異質性は高く、出版バイアスの可能性が示唆された。さらに、本メタ解析にも包含されたDTDを対象としたRCTのpost-hoc解析5 )では、対象をAntidepressant Treatment History Form6)を用いた治療歴評価に基づき、抗うつ薬の治療失敗が1回のみの症例に限定して再解析が行われた。その結果、rTMS療法は偽刺激と比較して有意に抑うつ症状を改善させた(n=164, 標準化平均差 0.83, 95%信頼区間0.20~1.48)。この効果量は、抗うつ薬の治療失敗が2回以上の症例を対象とした場合よりも大きかった。

抑うつエピソード(うつ病、双極症)を対象とした7)rTMS療法と偽刺激を比較したメタ解析によると、すべての理由による治療中断率は両群間で有意差を認めなかった(N=43、オッズ比 0.90、95%信頼区間 0.64~1.26)。有害事象による治療中断率についての報告はなかった。rTMS療法に関連したけいれん発作の頻度に関しては、臨床TMS学会(Clinical TMS Society)の会員を対象に行ったアンケート調査では、586,646セッション(左背外側前頭前野に対する高頻度刺激以外の治療プロトコルも含む)、25,526名の患者(DTD以外の疾患も含む)で18件の発作が報告された8)。けいれん発作の頻度は、10,000セッション当たり0.31回(95%信頼区間0.18~0.48)、患者1,000名当たり0.71名(95%信頼区間 0.42~1.11)であった。自殺念慮の出現率についての報告はなかった。4.推奨文の作成

システマティックレビューの結果、DTD(少なくとも1剤の抗うつ薬治療を行っても十分に反応しないうつ病)に対するrTMS療法は、反応率、寛解率、抑うつ症状の軽減に優れていた。また、すべての理由による治療中断率については、対照群と差がなかった。

国内のrTMS療法の適応は、1剤以上の抗うつ薬治療に対して反応が得られなかったうつ病とされている。抑うつ症状の軽減に関しては、この適応範囲に相当する結果が示されている。一方、反応率、寛解率に関する結果は、2剤以上の抗うつ薬治療に対して反応が得られなかったうつ病を対象とした研究に基づくものである。すべての理由による治療中断率は、双極症を含むメタ解析で評価したため、非直接性を理由とし、エビデンスレベルは中(B)とした。また、すべての理由による治療中断率を評価したネットワークメタ解析では異質性が高く、出版バイアスの可能性が示唆されたため、非直接性および出版バイアスの観点からエビデンスの強さは弱(C)とした。けいれん発作の頻度は、アンケート調査に基づくデータであり、対象にDTD以外の疾患や多様な治療プロトコルが含まれていることから、エビデンスの強さは非常に弱(D)とした。なお、有害事象による治療中断率や自殺念慮の出現率は重要な害のアウトカムであるが、それらは報告されていなかった。

以上より、精神症性の特徴を伴わないDTDに対して、rTMS療法による付加的治療を行うことを弱く推奨する(2C)。

5.推奨決定会議の結果行うことを強く推奨する:6%行うことを弱く推奨する:94%行わないことを弱く推奨する:0%行わないことを強く推奨する:0%
p.271
【文献】

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p.272
第11 章 維持期治療

CQ11-1うつ病の維持期治療において考慮すべきことはなにか

【要約】1 うつ病の維持期は、急性期治療により症状がほとんど消失した後の時期である。2 うつ病の維持期治療では、再発を防ぎ、寛解を維持し、社会機能を回復させることを目

指す。3 うつ病の維持期においては、再発の危険因子を考慮する。

【解説】

1 定義

うつ病の治療期は、急性期、持続治療期、維持期に分けることができる。急性期は症候学的な改善を目指す時期であり、持続治療期は症候学的に一定の改善が得られた後に、再燃を防ぎながら症状の完全な改善を目指す時期、維持治療期は症状の完全な改善がほぼ達成された後に、個々人がさらに前進する時期である。実臨床において、持続治療期と維持治療期は連続しており区別することは難しく、研究においても、両者を厳密に分けている研究は少ない。本ガイドラインにおいては、寛解以降の持続治療期と維持治療期を合わせた時期、つまり再発を防ぎながら前進する時期を「維持期」とする(図)。

寛解とは、治療によってうつ病の症状がほとんど消失した状態をいう。「精神疾患の診断・統計マニュアル第5 版 本文改訂」(DSM-5-TR)において「部分寛解」は、直近の抑うつエピソードの症状は存在しているが、基準を完全に満たさない状態、または抑うつエピソード終了後、抑うつエピソードの重大な症状がどれも存在しない期間が2 か月未満である状態と定義している1)。また「完全寛解」は、過去2 か月間に、この障害の重大な徴候や症状がみられない状態と定義している1)。定量的な評価基準としては、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)が7 点以下を2~3 週間にわたって

維持すること2)といった定義や、症状が十分消退し、診断基準を満たさないレベルに達する寛解が一定期間以上継続すること3)といった定義が用いられる。

「再燃」は、うつ病の部分寛解中に再びうつ病の診断基準を満たすこと、「再発」は、完全寛解から再び診断基準を満たす状態に移行することをいう3)。診断基準を厳密に用いることが困難な臨床および臨床研究の実情を踏まえると、再発と再燃を分けることは困難であり、本章では「再燃」と上記の狭義の定義の「再発」を合わせて広く「再発」と定義する。

2 治療目標

うつ病の維持期は、再発を防ぎながら前進する時期であることから、治療においては、再発を防ぎ、社会機能を回復することを目指す。治療目標の1 つである症候学的な寛解に加えて、社会機能も回復した状態を「リカバリー」と呼ぶが、その定義はまだ統一されていない4)。うつ病の病像が多様であるのと同様に、治療目標も多様で患者ごとに異なる。このため、症状の寛解を維持し、再発を防ぐなかで、患者が望む「リカバリー」について協議し、治療目標を共有することが重要である。
p.273
3 再発の危険因子

うつ病の維持期においては、再発の危険因子を考慮する。うつ病の治療において、症状の再発は患者に苦痛を与え、回復を阻害し、以後の再発のリスクを高める5)ため、再発を防ぐことは重要である。

うつ病の自然経過は多様である。再発を経験しない場合も再発を繰り返す場合もあり、再発率の報告も研究の調査対象や期間によって異なる6)。医療機関における追跡調査では、再発率が6 か月で14.4%7)、1 年で218)~37%9)、5 年で5110)~71% 11)、10 年で77%12)、15 年で85%9)と報告されている。一方、地域社会における調査では、20 年の追跡でも、うつ病の再発率が2713)~45%14)と報告されている。すなわち、追跡期間が長くなると累積

再発率は上昇するが、年間の再発率は寛解後最初の1 年間が最も高く、その後、寛解期間が延びるにつれて徐々に低下する。こうしたことから、寛解からの期間が短いことは、再発の危険因子と考えられる。

その他のうつ病の再発の危険因子として、表のようなものが挙げられている1, 15, 16)。危険因子には除去が難しいものが多いが、改善が可能なものには対応する。また、これらの因子は治療の終結/継続を検討する際に考慮するべきであり、再発リスクが高い場合は、維持期治療をより長く行うことを検討する。
p.274

        
p.275
【文献】

1)American Psychiatric Association(原著),髙橋三

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p.276
CQ11-2寛解後の維持期の治療法はなにか

【要約】1 うつ病の維持期治療においては、再発を防ぎ、社会機能を回復させることを目指す。2 抗うつ薬によって寛解したうつ病において、再発予防の観点から、抗うつ薬の継続を強

く推奨する。第2 世代抗精神病薬を追加する補助療法で寛解した場合は、その第2 世代抗精神病薬の継続を提案する。また、認知行動療法(CBT)を基盤とした精神療法の追加を提案する。3 ニューロモデュレーション治療によって反応あるいは寛解したうつ病において、再発を予防する方法として、寛解に至るまでに行ったニューロモデュレーション治療の継続を提案する。4 社会機能を回復するために、リハビリテーションプログラムなどの活用が望まれる。5 治療法の選択や、治療の継続・中止の判断は、共同意思決定(SDM)によってなされる

べきである。

【解説】(図1)

1 治療の概要

うつ病の維持期においては、再発を防ぎ、社会機能を回復することを目指す。まず、寛解状態であるかを確認し、寛解に到達していない場合には急性期治療を見直す。基本事項として、生活習慣の是正は重要である(CQ1-9 参照)。CQ11-1 の表に示した再発の危険因子は、対応困難なものもあるが、改善可能なものについては対応する(例:社会的支援を増やす)。

2 薬物療法および精神療法

薬物療法によって寛解したうつ病の再発を予防するためには、寛解に到達するまでに行われた治療を継続する。

うつ病の治療(主に薬物療法)は重症度によって異なるが、うつ病の再発予防研究において、重症度別に検討した研究は乏しい。多くの研究は、急性期の重症度を問わず「寛解状態」や「安定した状態」に到達したうつ病を対象としている。限定されたエビデンスからは、急性期治療において奏効した薬物療法を継続することが有用と考えられ

る。すなわち、重症度に応じて行われた治療を継続することが基本となる。

薬物療法の継続は、再発を予防する1)。再発リスクの低減に関しては、少なくとも6 か月は抗うつ薬を継続することが望ましいが、さらにそれよりも長ければ長いほうがよい可能性がある2,3)。どこまで継続するかは、再発予防という有益性と、副作用による治療中断のような不利益、患者の希望を勘案して決定する(CQ11-3 参照)。児童・思春期や老年期においても、抗うつ薬の継続は再発を予防する1)が、一般成人よりも副作用などの不利益について、より慎重に判断する(第4章、6章を参照)。なお、抗うつ薬を減量・中止する際は、中断症候群(離脱症状含む)に注意する4)。中断症候群は、長期間、高用量で抗うつ薬を服用している場合や、半減期の短い薬剤、抗コリン作動性、ノルアドレナリン作動性のある薬剤を服用している場合に生じやすい5,6)。対策としては、中断症候群について事前に説明しておくこと、抗うつ薬の減量・
p.277
中止に時間をかけることが挙げられる。寛解に到達するまでに行われる薬物療法として、抗うつ薬に第2 世代抗精神病薬などを付加する補助療法がある。補助療法として付加された第2 世代抗精神病薬を継続することは再発を予防するが、副作用も勘案し継続するかを判断する(CQ11-4参照)。

心理的介入や精神療法の追加は、再発を予防する7)。心理的介入の内容は多様で、CBT、マインドフルネス、心理教育などがあるが、主にCBT を基盤にした精神療法について研究が行われている(CQ11-5 参照)。

3 ニューロモデュレーション

ニューロモデュレーション治療によって反応または寛解したうつ病において、再発を予防するためには、反応または寛解に到達するまでに行われた治療を継続する。

電気けいれん療法(ECT)によって反応または寛解が達成された場合、ECT の継続は再発を予防する8)。ただし、再発予防のエビデンスは、反応または寛解から1 年までに限られている。いつまで継続するかは、再発予防という有益性と、副作用による治療中断のような不利益、患者の希望を勘案して決定する。全身麻酔を要するという、ほかの治療法にはない侵襲性を考慮すると、ほかに代替手段がない場合にのみ、継続治療として行う(CQ11-6 参照)。

反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)によって反応または寛解が達成された場合、rTMS の継続は再発を予防する9)。ただし、再発予防のエビデンスは、反応または寛解から6か月までに限られている。いつまで継続するかは、再発予防という有益性と、副作用による治療中断のような不利益、患者の希望を勘案して決定する(CQ11-7 参照)。

4 リハビリテーション

リハビリテーションプログラムには、作業療法10)、デイケア11)、リワークデイケア12)、就労支援

プログラム13)、ピアサポートグループ14)、心理教育15)、広義の精神療法16)などが含まれる。広義の精神療法としては、体系化された技法を用いず、積極的傾聴と支持を主体とした支持的精神療法がある16)。リハビリテーションプログラムは精神科医だけでなく、心理職や作業療法士、精神保健福祉士のような幅広い専門職によって行われており、多職種による連携が必要である。どのようなプログラムを用いるかは、患者の病状や社会的背景に応じて、適切に目標を定めて組み合わせることが望ましい。例えば、再発を予防しながら社会生活を営むことを目標として、支持的精神療法を行いながら、発症前の行動・思考パターンに過度な負荷がなかったかを患者と話し合い、「持続可能な活動水準」を見出すことがある。さらには、うつ病の経験を通じた、心理的成熟や自己受容の支援を目指すこともあるだろう。

プログラムの利用においては、プログラムのエビデンスが異なる場合もあることに注意する。例えば、リワークデイケアについては、医療リワークは、後方視的検討で非リワーク群よりも復職継続の割合が有意に高かった12)ものの、医療リワーク以外は十分なエビデンスが得られていないものもある。

利用可能なリハビリテーションプログラムを充実させ、エビデンスを集積することは、今後の研究課題であり、これらの充実には、医療の枠組みを超えて、社会全体での支援が必要である。

5 継続と中止の判断

治療の継続と中止の判断は、当事者が治療者とともに治療方針決定にかかわるSDM において行われるべきであり、話し合いは定期的にもたれることが望まれる。加えて、ニューロモデュレーション治療の継続には、患者本人の時間的、経済的、身体的負担があり、さらに、継続治療を行える施設が限られるという医療資源の制約があることも
p.278
勘案する。

【文献】

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p.280

        
p.281
CQ11-3抗うつ薬で寛解したうつ病患者に抗うつ薬の継続は有用か

【推奨】

抗うつ薬で寛解したうつ病患者において、寛解後6 か月間は抗うつ薬を継続することを強く推奨する(1A)。

【推奨文】

抗うつ薬治療で寛解したうつ病患者の再発率は、抗うつ薬を継続すると約20%、抗うつ薬を中止すると約40%であり、抗うつ薬の継続により再発率を半減できる(A)。また、有害事象による脱落に差はない(A)。寛解後の継続期間に関して、6 か月間は再発を減らせることが明らかである(A)。よって、少なくとも6 か月間は抗うつ薬を継続することを強く推奨し(1A)、6 か月以降については再発リスクや副作用、患者の希望を勘案しながら、継続するか中止するかをSDM により判断する。

【解説】

1 はじめに

抗うつ薬治療で寛解に至った後、抗うつ薬の中止を希望する患者は多い。一方で、抗うつ薬の中止は、維持期治療において防ぐべき再発を増加させると考えられる。

本CQ では、既存のメタ解析を検索し、抗うつ薬で寛解したうつ病患者に対して、抗うつ薬を継続することと中止することの益と害について検討した。

2 方法

対象者(P)は、初発か再発かにかかわらず、抗うつ薬の服用により抑うつエピソードが寛解したうつ病患者とし、介入(I)は抗うつ薬の継続、コントロール(C)は 抗うつ薬の中止とした。益のアウトカム(O)は、再発の減少(重要性9)、自殺関連行動の減少(重要性8)、QOL の維持(重要性7)とし、害のアウトカム(O)は、有害事象による脱落の増加(重要性8)、あらゆる有害事象の増加(重要性8)、すべての理由による脱落の増加(重要性7)、死亡率の増加(重要性6)、経済的負担の継続(重要性5)とした。研究デザインを RCT

のメタ解析と設定した。

3 結果

システマティックレビューを行った結果、急性期の抗うつ薬治療で寛解に至ったケースに対して、抗うつ薬の継続と中止を比較したRCT のメタ解析(N=40、n=8,899)を採用した1)。このメタ解析に含まれる一次研究論文の検索期間は、2018 年10 月までである。いずれも、急性期に効果のあった抗うつ薬を継続する群と、プラセボに置き換えた群の再発率を比較している。追跡期間は、平均値42.8±17.8 週、中央値44 週、最小値22 週、最大値100 週であった。なお、この40 研究のうち、一般成人を対象としたものは34 研究、児童・思春期が3 研究、老年期が3 研究であった。

そのメタ解析結果によると、抗うつ薬を継続することは中止することと比べて、再発が有意に少なかった〔N=40、n=8,899、オッズ比0.38、95%信頼区間0.33~0.43、継続群21.0%:中止群39.9%〕。有害事象による脱落は、抗うつ薬の継続
p.282
と中止で有意差はなかった(N=29、n=6,897、オッズ比1.15、95%信頼区間0.79~1.67、継続4.1%:中止群3.9%)。すべての脱落について、抗うつ薬を継続することは中止することと比べて有意に少なかった(N=32、n=7,146、オッズ比 0.47、95%信頼区間0.40~0.55、継続群43.3%:中止群58.2%)。あらゆる有害事象については報告がなかった。自殺関連行動については、本論文中には報告がないが、このメタ解析に含まれる40 研究を確認すると、継続群と中止群ともに6例ずつ報告があった。

このメタ解析に含まれる40 研究のうち、15 研究は再発うつ病に限定したものであり、残りの25本は初発と再発を含むものであった。再発うつ病のRCT15 本に限定して感度分析を行ったが、再発(N=15、n=3,561、オッズ比 0.38、95%信頼区間 0.30~0.49、継続群21.7%:中止群40.8%)、有害事象による脱落(N=12、n=3,025、 オッズ比 1.51、95%信頼区間 0.79~2.89、継続群3.4%:中止群2.5%)、すべての脱落(N=11、n=2,514、オッズ比 0.50、95%信頼区間 0.40~0.62、継続群38.2%:中止群53.9%)のいずれにおいても、40 研究全体の結果と大きな違いはなかった。

児童・思春期を対象とした3 研究、老年期を対象とした3 研究についてのサブグループ解析によると、児童・思春期においても、老年期においても、抗うつ薬を継続することは中止することと比べて、再発が有意に少なかった(児童・思春期:N =3、n=164、オッズ比 0.34、95%信頼区間 0.18 ~0.64、継続群41.0%:中止群66.7%、老年期: N=3、n=539、 オッズ比 0.32、95%信頼区間 0.16 ~0.62、継続群19.0%:中止群42.1%)。

抗うつ薬を継続すべき期間について、ランダム割り付け後、6か月時点での継続群と中止群の再発率の差は18.0%、1 年時点での両群の再発率の差は19.9%であり、6か月時点と1 年時点でほとんど差はなかった。この結果により本論文の著者らは、少なくとも 6 か月は継続すべきだと結論付けた。また、別のメタ解析論文では、一般成人を対象とした研

究に限定して3、6、9、12、15、18 か月時点での再発率を細かく比較したところ、抗うつ薬の再発予防効果は12 か月以下よりも、15 および18 か月のほうが大きかったことから、18 か月は継続すべきだと報告している2)。この2 つの研究の結果が異なる理由として、包含されるRCT が必ずしも一致していないことに加え、RCT の本質的な限界として、12 か月を超える長期のRCT の数が少ないということがある。そのため、長期のデータを解析する際、包含されるRCT の数が少ないため、結果は頑健ではなく、解析方法によって結果が異なる可能性がある3)。

この結果を合わせると、再発のリスクを低減することに関しては、少なくとも6 か月は抗うつ薬を継続するのが望ましいが、さらにそれよりも長ければ長いほうがよい可能性がある3)。どこまで継続するかは、副作用や患者の希望を勘案して決定すべきであろう。その判断材料として、経済的負担や生活の質(QOL)は重要であるが、それらは報告されていなかった。

なお、本稿で取り上げたメタ解析1)の結果に基づいたSDM のための冊子、ディシジョンツールをAoki らが作成し、その有用性について検討している4)。以下のURL から、ディシジョンツールがダウンロード可能である(英語版に引き続いて日本語版が掲載されている)。https://onlinelibrary.wiley.com/action/downloadS upplement?doi=10.1002%2Fnpr2.12269&file=np r212269-sup-0002-AppendixS2.pdf

4 推奨文の作成

急性期に抗うつ薬による薬物療法を受けて寛解したうつ病患者に、寛解後6 か月間は抗うつ薬を継続することで再発を予防し、脱落を減らすことができる。また、抗うつ薬を継続しても、有害事象による脱落は増加しない。18 か月間継続したほうが再発のリスクが低くなるという報告もある。こ
p.283
のため、寛解後の少なくとも6 か月間は抗うつ薬を継続し、副作用や患者の希望を勘案しながら、継続するか中止するか話し合うことを強く推奨する。

抗うつ薬の継続がQOL や経済的負担についてどのように影響するか調べたものはなく、今後の研究の発展が望まれる。5 推奨決定会議の結果

1 回目行うことを強く推奨する:90%行うことを弱く推奨する:10%行わないことを弱く推奨する:0%行わないことを強く推奨する:0%

【文献】

1)Kato M, Hori H, Inoue T, et al : Discontinuation

of antidepressants after remission with antidepressant medication in major depressive disorder: a systematic review and meta-analysis. Mol Psychiatry 26 : 118-133, 2021 2)Kishi T, Sakuma K, Hatano M, et al : Relapse and

its modifiers in major depressive disorder after antidepressant discontinuation: meta-analysis and meta-regression. Mol Psychiatry 28 : 974-976, 2023 3)Kato M, Hori H, Tajika A : Appropriate duration

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p.284
CQ11-4補助療法で寛解したうつ病患者において追加薬の継続は有用か

【要約】⚫急性期に抗うつ薬に第2 世代抗精神病薬を追加する補助療法で寛解したDTD(難治性抑うつ)患者において、補助療法に使用した第2 世代抗精神病薬を継続することを提案する。ただし、継続期間については不明確であり、長期使用による副作用には注意が必要である。

【解説】

1 はじめに

抗うつ薬に第2 世代抗精神病薬を追加した補助療法で寛解に至った後、追加薬の中止を希望する患者は多い。一方で補助療法の中止は、維持期治療において再発リスクを増加させる可能性がある。

本CQ では、既存のメタ解析やRCT を検索し、抗うつ薬と第2 世代抗精神病薬による補助療法で寛解したうつ病患者に対して、補助療法を継続することと中止することの益と害について検討した。なお、補助療法を行った時点で、本CQ の対象者はDTD(難治性抑うつ)(CQ10 参照)に該当する。

2 方法

急性期に抗うつ薬に第2 世代抗精神病薬を追加する補助療法で寛解したうつ病患者において、追加薬の継続が有用か否かを検証するため、対象者(P)をうつ病エピソードで抗うつ薬と追加薬で寛解したうつ病患者、介入(I)を追加薬の継続、コントロール(C)を追加薬の中止とした。益のアウトカム(O)は再発率の低下、害のアウトカム(O)は有害事象の発生率とし、研究デザインは二重盲検RCT のメタ解析と設定した。

3 結果

システマティックレビューの結果、RCT のメタ解析を1本認めた(N=7、n=1,672)1)。包含された研究では、すべて国内において適用外の薬剤が

使用されていた。また、一部の研究では、国内で承認されていない薬剤が使用されていた。そのため、国内で使用可能な抗精神病薬を追加したRCT のみを抽出した。DTD に対する補助療法の維持期治療としてオランザピンを継続したRCT が1本、リスペリドンを継続したRCT が2 本であった2-4)。これらは精神症性の特徴を伴ううつ病を除外した、またはほとんど含まれない試験であった。

オランザピンによる補助療法の報告(n=444)では、オランザピン継続群(n=221)とプラセボに置換した群(以下、非継続群)(n=223)に無作為割り付け後、27 週間において、オランザピン継続群のほうが非継続群に比して有意差をもって再発率の低下を認めた(オッズ比 0.38、95%信頼区間 0.25~0.59)2)。有害事象の発生率に関しては、継続群と非継続群で有意差を認めなかった(オッズ比 1.92、95%信頼区間 0.91~4.03)。

リスペリドンの報告は2 本あるが、リスペリドン継続群と非継続群で無作為割り付け後に、24 週間の追跡調査を行っている。どちらの報告でも再発率は、継続群と非継続群で有意差を認めなかった(n=241、オッズ比 0.98、95%信頼区間 0.77~ 1.23)3)(n=63、オッズ比 0.87、95%信頼区間 0.58 ~1.30)4)。有害事象の発生率に関しては、継続群と非継続群で有意差を認めなかった(n=241、オッズ比 1.63、95%信頼区間 0.40~6.65)3)(n=63、
p.285
オッズ比 0.97、95%信頼区間 0.15~6.46)4)。

今回の3 本では、概ね半年しか追跡調査を行っておらず、抗精神病薬の長期的な使用に際した有害事象に関する検討は十分ではない。抗精神病薬の有害事象としては、主に急性期に生じるパーキンソニズムや鎮静、遅発性に生じる遅発性ジスキネジアなどがある。しかし、うつ病患者に抗精神病薬を長期間使用したことによる遅発性ジスキネジアに関するシステマティックレビューはないものの、遅発性ジスキネジアを新規発症した患者の半数が気分症の患者という報告もあり、長期間の使用に関しては注意が必要である5)。

既存の報告からは、補助療法で寛解したうつ病患者において、既存の報告からは追加薬の中止を強く支持する知見は得られていない。また、3 本の研究では、研究デザインに違いがある。追加薬としてオランザピンを用いた研究2)では、患者は抗うつ薬にオランザピンを追加する補助療法で12週間の寛解期間後に、継続群または非継続群に割り付けられている。一方で、リスペリドンを用いた研究3,4)では、抗うつ薬にリスペリドンを追加する補助療法開始後4~6週間以内に寛解に達した症例に関して、その後リスペリドン継続群と非継続群に振り分けられている。つまり、割り付け前に寛解期間が設けられていない。したがって、補助療法後の寛解期間の有無が、追加薬中止後の再発率に影響した可能性は否定できない。オランザピンを用いた研究2)の結果から、少なくとも12 週間は継続するほうがよい可能性はあるが、現在の報告のみでは結論が出ない。なお、CQ7-5-4「精神症性の特徴を伴ううつ病の維持期治療」において「抗うつ薬と抗精神病薬の併用を行わないことを提案する」となっているが、本CQ11-4 とは対象者(P)が精神症性の特徴の有無のみならず、治療開始時からの併用の有無、DTD 包含の有無など条件が異なる。また、薬剤中止に関するRCT が少ないことも影響しており、今後のエビデンスの集積が待たれる。わが国で抗うつ薬の補助療法として保険適用を

有しているアリピプラゾールとブレクスピプラゾールについて、維持期治療において継続が有用か否かを検討した報告は限られている。抗うつ薬とアリピプラゾールの補助療法で20 週~2 年間寛解を維持した40 名を対象とし、24 週間追跡調査をしたRCT では、アリピプラゾール継続群と非継続群の再発率に差は認められなかったと報告されている6)。安全性に関しては、追跡期間中に、パーキンソン症候群、アカシジア、遅発性ジスキネジア、ジストニアの発症は認められなかった。ただし、本研究ではアリピプラゾール継続群が11 名、プラセボ群が12 名と解析対象者が少なく、検出力に限界がある点には留意が必要である。アリピプラゾールの長期投与の安全性に関して、メタ解析が1本認められた(N=4、n=2,632)7)。アリピプラゾールが6 か月以上投与された研究が包含された。それぞれの研究デザインは、2 本がオープンラベル試験、1 本が前向き観察研究、1 本がRCT であった。長期投与の有効性に関しては、アリピプラゾールの補助療法群で寛解達成に有意差が認められた(オッズ比 0.33、95%信頼区間 0.16~0.51)。副作用については、アリピプラゾールの用量依存的な関係を認め、3.5mg/日では24.8%、10.1mg/日では93.7%で、少なくとも1 つの副作用の発現を認めた。

ブレクスピプラゾールの長期投与による影響に関しては、52 週間にわたる多施設共同非盲検単群研究が1 本確認された(n=247)8)。この研究では、抗うつ薬にブレクスピプラゾール2mg/日を追加投与している。モンゴメリー-アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)スコアは、ベースラインから52 週時点で有意に低下し、寛解率34.8%、反応率41.3%が示された。安全性については、93.5%に何らかの有害事象がみられた。報告された有害事象は、体重増加(33.2%)やアカシジア(23.5%)、錐体外路症状(6.5%)であったが、重篤な有害事象は4.9%と低かった。これら有害事象のほとんど
p.286
は、投与後56 日目までに認められた。なお、遅発性ジスキネジアは認められなかった。

アリピプラゾールおよびブレクスピプラゾールの報告は概ね半年~1 年程度の追跡期間であり、抗精神病薬の長期使用に伴う有害事象に関する十分な検討については、引き続き注意が必要である。4 要約の作成

以上から、補助療法で寛解したうつ病患者において、追加薬を継続することを提案する。しかし、長期間の抗精神病薬の使用による有害性に関しては言及しきれていない。そのため、中止のタイミングに関しては、再発リスクと抗精神病薬の長期使用に際する有害性について、患者と情報共有を行い、SDM で決定することが望ましい。

【文献】

1)Kato H, Koizumi T, Takeuchi H, et al : Effects

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p.287
CQ11-5薬物療法で寛解したうつ病患者に精神療法を行うことは有効か

【要約】

⚫うつ病の維持期において、急性期に抗うつ薬による薬物療法で症状が寛解した患者に、抗うつ薬に

よる通常治療にCBT を基盤とした精神療法を付加することを提案する。

【解説】

1 はじめに

精神療法は、うつ病に対して有効性が確立した治療法の1 つである。急性期からCBT などの精神療法を付加したほうが、抗うつ薬による薬物療法を単独で行うよりも、寛解に至り維持する患者の割合が高いことが示されている1)。本CQ では、急性期に抗うつ薬で抑うつエピソードが寛解したうつ病患者に対して、抗うつ薬による薬物療法に加えて精神療法を行うことの益と害について検討した。

2 方法

急性期に抗うつ薬治療で抑うつエピソードが寛解したうつ病患者を対象に、その後の維持期治療として精神療法を行う群と行わない群を比較したRCT のメタ解析の検索を行った。益のアウトカム(O)は1再発の減少(重要性9)、2すべての理由による脱落の減少(重要性7)、3QOL の改善(重要性7)、4寛解の増加(部分寛解から完全寛解への移行)(重要性7)、5自殺関連行動の減少(重要性5)とし、害のアウトカム(O)は1あらゆる有害事象の増加(重要性8)、2死亡率の増加(重要性6)、3経済的負担の増加(重要性5)とした。

3 結果

システマティックレビューを行った結果、急性期に抗うつ薬治療により症状が寛解したうつ病患者に対し、精神療法を行う群と行わない群(抗うつ薬の維持または通常治療のみ)を比較したRCT

のメタ解析(N=17、n=2,283)2)があったため、アウトカムが報告されているものについてはその結果を採用した。ランダム化後の治療介入期間は8~32 週であり、追跡期間は28 週~10 年であった。包含研究で用いられていた精神療法は、すべてCBT を基盤とした精神療法であった。このなかでメタ解析が行われていないアウトカムについては、包含されているRCT を確認し、結果が報告されていれば新たにメタ解析を行った。

再発については、17 本のRCT が解析に含まれた。抗うつ薬に反応した患者では、抗うつ薬に精神療法を付加する群が付加しない群に比べて有意に再発が少なかった〔N=17、n=2,283、リスク比0.84、95%信頼区間 0.74~0.94〕2)。QOL の改善については、WHOQOL を指標として用いた2 つのRCT3, 4)が報告されており、メタ解析を行ったが有意差を認めなかった〔N=2、n=386、標準化平均差−0.13、95%信頼区間−0.33~0.07〕。寛解の増加については、それらの人数をアウトカムとして報告している研究がなかったため、代わりにベック抑うつ質問票(BDI)のスコアを用いて追跡終了時のうつ症状を評価した。3 つのRCT4-6)で追跡終了時のBDI が報告されており、メタ解析を行ったが有意差は認められなかった(N=3、n=526、標準化平均差−0.38、95%信頼区間−0.85~0.09)。自殺関連行動、有害事象、死亡率については、それぞれ4 本(n=706)7-10)、3 本(n=720)4, 8, 11)、1本のRCT(n=204)10)でしか報告がなく、イベン
p.288
トの頻度も低いため精確性に欠けた。経済的負担については、2 本のRCT4, 6)で報告があったが、日本と治療環境が異なることや異質性が高いことが問題と考えられた。その他に設定したアウトカムについても、RCT で報告されているアウトカムが意図したものと異なるため採用できなかったものや、データが得られなかったものがあった。上記の理由により、再発、QOL の改善、寛解の増加以外のアウトカムについてはエビデンスが不確実なため、ここでは報告しない。

4 要約の作成

急性期に抗うつ薬で症状が寛解したうつ病患者にCBT を基盤とした精神療法を行うことは、再発を減らす効果があり、有害事象は明らかではない。このため、推奨決定会議では、CBT を基盤とした精神療法を付加することを弱く推奨するとなった。

日本では、CBT など一般の診察以外の精神療法に対する診療報酬は十分ではなく、特定の精神療法を付加することは困難で、通常の診察のなかで簡易的な精神療法が行われることが多い。また、公認心理師・臨床心理士の不在など、医療資源としても限られているのが現状であり、精神療法を提供できる環境整備をしていくことは喫緊の課題である。なお、今回のメタ解析に含まれた精神療法はいずれもCBT を基盤としており、CBT 以外の特定の精神療法の効果や精神療法間の効果の違いは不明である。QOL の改善、寛解の増加については、メタ解析の結果では有意な差を認めなかったが、追跡終了時の寛解を直接報告した研究がないため、BDI で代用したこと(非直接性)や、サンプルサイズが小さいこと(不精確性)を考慮すると、エビデンスの確実性は低い。維持期に精神療法を付加することによるその他の益と害につい

ては、意図したデータが十分に得られなかった。寛解したうつ病患者に精神療法を行うことについて、再発以外のアウトカムについてはエビデンスが不確実であるため、QOL に対する影響、寛解が増加するのかも含めて今後の研究が必要である。

以上より、急性期に抗うつ薬による薬物療法を受けて症状が寛解したうつ病患者にCBT を基盤とした精神療法を行うことは、再発を減らす効果があるものの、有害事象は明らかではない。しかし、うつ病に対する構造化された精神療法は、実施している施設数が限られていることや、保険収載されている精神療法がCBT などの一部の精神療法に限定されていることなどの問題がある(CQ9-6、トピックス2「うつ病に対する精神療法」の項を参照)。こうした精神療法を行える体制整備が不十分である状況など、国内の医療事情を鑑み、本CQ に対しては推奨とせず、「行うことを提案する」となった。

5 推奨決定会議の結果

1 回目行うことを強く推奨する:39%行うことを弱く推奨する:61%行わないことを弱く推奨する:0%行わないことを強く推奨する:0%

2 回目行うことを強く推奨する:27%行うことを弱く推奨する:73%行わないことを弱く推奨する:0%行わないことを強く推奨する:0%
p.289
【文献】

1)Furukawa TA, Shinohara K, Sahker E, et al :

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p.290
CQ11-6電気けいれん療法(ECT)によって反応または寛解したうつ病の維持期治療においてECT は有用か

【要約】⚫ ECT によって反応または寛解したうつ病に対して、ほかに代替となる治療手段がない場合に、薬物療法とECT の付加的治療を6か月~1年行うことを提案する。⚫わが国でうつ病の維持期治療としてECT が実施可能な医療機関は、限定されている。

【解説】

1 はじめに

ECT によって反応または寛解が得られたうつ病において、エピソードの再発予防を目的に6か月以内の期間で実施されるECT を継続ECT、6か月以上にわたって実施されるECT を維持ECTと呼ぶ1)。しかし、維持期治療として薬物療法にECT を付加するか、薬物療法のみを継続するかについては、日本精神神経学会から疾患横断の推奨事項が示されているものの1)、うつ病における明確なコンセンサスはない。本CQ では、ECT によって反応または寛解が得られたうつ病患者に対して、ECT と薬物療法の併用療法が薬物療法のみと比べて有用かを検討した。

2 方法

対象者(P)は、ECT により抑うつエピソードが反応または寛解したうつ病患者とし、介入(I)は薬物療法とECT の付加的治療の継続、コントロール(C)は薬物療法の継続とした。益のアウトカム(O)は、6 か月後の再発率の減少(重要性9)、1 年後の再発率の減少(重要性8)とし、害のアウトカム(O)は、6 か月後の認知機能障害(重要性8)、すべての理由による脱落率の増加(重要性7)とした。PICO に合致するメタ解析およびRCT を探索した。3 結果

システマティックレビューの結果、1本のメタ解析2)、4 本のRCT3-6)を得た。既存のメタ解析には、これら4本のRCT すべてが含まれていたため、アウトカムは既存のメタ解析の結果をもとに記載し、記載がなかった数値については著者に問い合わせを行い、不明であった数値のみ新たに解析を行った(全アウトカムにおける出版バイアス、およびすべての理由による脱落率における異質性が不足していたため、新たな解析を行った)。

包含されたRCT におけるECT の実施頻度は、すべての試験において急性期治療の終了後は週1回実施していたが、最終的に月1 回まで頻度を落として継続する試験3-5)や、症状の変化に応じたアルゴリズムで週0~2 回実施する試験など6)、ばらつきがあった。ECT によって抑うつエピソードが反応または寛解したうつ病(一部試験で双極症を含む)に対し、ECT と薬物療法(抗うつ薬、抗精神病薬、気分安定薬、およびそれらの組み合わせを含む)の付加的治療を継続した群は、薬物療法のみ(抗うつ薬、抗精神病薬、気分安定薬、およびそれらの組み合わせを含む)を継続した群と比較して、6 か月後の再発率と1年後の再発率が有意に低かった(6か月後:N=4、n=252、リスク比 0.64、95%信頼区間 0.41~0.98、1 年後:N=2、n=89、リスク比 0.46、95%信頼区間 0.21~0.98)。すべての理
p.291
由による治療中断率は、両群間で有意な差はなかった(N=4、n=252、リスク比 1.28、95%信頼区間 0.17~6.67)。認知機能に関しては、6 か月後におけるミニメンタルステート検査(mini-mental state examination:MMSE)スコアについて、両群間で有意な差はなかった(N=4、n=393、平均差0.31、95%信頼区間−0.17~0.78)。すべてのアウトカムにおいて、出版バイアスは示唆されなかった。なお、メタ解析に含まれたRCT が少なかったこと、1年後以降の有用性については明らかでないことに留意が必要である。ECT を中止した後の薬物療法としては、リチウムが再発予防に有効というメタ解析がある7)。ただし、このメタ解析に含まれる14 本の研究のうち、RCT は3 本、観察研究が11 本であり、今後RCT デザインによる有効性の検証が進むことが望まれる。

4 要約の作成

急性期にECT を受けて反応または寛解したうつ病患者に、その後1 年間は薬物療法にECT を付加することで再発率が低下する。また、付加的治療を継続することで、治療中断は増加せず、認知機能は悪化しない。

すべてのアウトカムに対して、バイアスリスクの高い試験が含まれていたこと、双極症が対象に含まれていたことから、バイアスリスクと非直接性についてダウングレードした。以上より、すべてのアウトカムにおいて、エビデンスの強さは中(B)とし、エビデンス総体としてエビデンスの強さは中等度と評価された。

提出された資料をもとに議論され、推奨決定会議の投票の結果、最終的に「行うことを弱く推奨」

と決定された。しかし、4 本のRCT のうち2 本が高齢者のみを対象としており、その2 本のみが急性期ECT で「寛解した患者」を対象としていたこと、ほかの2本は「反応した患者」を対象としており、うち1 本にはうつ病だけでなく双極症も含まれていたこと、各研究において維持ECT のプロトコルや治療スケジュールが異なっていたこと、国内では維持期うつ病に対してECT は一部の医療機関のみで実施可能であることなどについて改めて検討がなされ、最終的に本CQ に対しては推奨とせず、「行うことを提案する」となった。また、ECT は全身麻酔を要するという観点で、薬物療法などほかの治療と比較すると患者への侵襲性が高く、さらにECT を実施できる医療機関は限られている。よって、ECT による維持期治療の適応は、日本精神神経学会が推奨事項を示している通り1)、ほかに代替となる治療手段がない場合に限り、適切な評価を行った上で慎重に判断されるべきである。これらの理由により、「ほかに代替となる治療手段がない場合に」という文言が追加された。

5 推奨決定会議の結果

推奨決定1 行うことを強く推奨する:6% 2 行うことを弱く推奨する:89% 3 行わないことを弱く推奨する:6% 4 行わないことを強く推奨する:0%

【文献】

1)本橋伸高,粟田主一,一瀬邦弘,他:電気けい

れん療法(ECT)推奨事項 改訂版.精神誌.115: 586–600,2013

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Continuation electroconvulsive therapy with pharmacotherapy versus pharmacotherapy alone for prevention of relapse of depression: a randomized controlled trial. J ECT 29 : 86-92, 2013 5)Brakemeier EL, Merkl A, Wilbertz G, et al :

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p.293
CQ11-7急性期反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)で反応または寛解したうつ病の維持期治療において、rTMS は有用か

【要約】⚫急性期のrTMS で反応または寛解を認めたうつ病患者に対して、rTMS を用いた維持期治療を行うことを提案する。⚫わが国では、うつ病の維持期治療に対するrTMS について、保険診療の適用がない。

【解説】

1 はじめに

急性期のrTMS で反応が得られたうつ病患者のうち、12 か月後に治療反応を維持できたのは46.3%と報告されている1)。rTMS は薬物治療に抵抗性の患者が対象となることが多く、すべての患者が寛解に到達しないことも少なくない。そのため、寛解患者のみを対象とした研究は少ないのが現状である。本CQ では、rTMS で反応または寛解したうつ病患者に対して、rTMS を継続することの益と害について検討した。

2 方法

対象者(P)はrTMS により抑うつエピソードが反応または寛解したうつ病患者とし、介入(I)はrTMS の継続、コントロール(C)は偽刺激または通常治療とした。益のアウトカム(O)は、6 か月後の反応の定義からの悪化(重要性9)、6 か月後の寛解の定義からの悪化(重要性8)、12 か月後の反応の定義からの悪化(重要性7)、12 か月後の寛解の定義からの悪化(重要性7)、6 か月後のベースラインからの抑うつ症状の改善度(重要性6)とし、害のアウトカム(O)は、すべての理由による治療中断率(重要性8)、有害事象による治療中断率(重要性7)、けいれん発作の出現(重要性7)、自殺念慮の出現(重要性7)とした。研究デザインはRCT のメタ解析と設定した。3 結果

システマティックレビューを行った結果、急性期のrTMS で症状が反応または寛解した薬物治療抵抗性うつ病(TRD)に対して、rTMS の継続と中止を比較したメタ解析(N=3、n=90)を採用した2)。

包含された研究の対象患者は、薬物TRD 患者(n=72)および双極性うつ病患者(n=18)で、対照群の治療は偽刺激(N=1)と通常治療(N= 2)であった。試験で用いられた刺激方法は、左外側前頭前野に対する高頻度刺激で、治療スケジュールは試験によって異なった。rTMS 群は対照群と比較して、6 か月後の反応の定義からの悪化で定める再発率が有意に低かった(リスク比 0.66、95%信頼区間 0.45~0.96、rTMS 群46.1%:対照群78.6%)。一方、6 か月後における寛解の定義からの悪化で定める再発率(リスク比 0.8、95%信頼区間 0.59~1.11、rTMS群64.7%:対照群84.8%)と、HAM-D の改善度は、有意差が認められなかった(標準化平均差− 0.48、95%信頼区間−0.99~0.02)。有害事象については、すべての理由による治療中断率は、両治療群間で有意差を認めなかった(リスク比 0.8、95%信頼区間 0.57~1.14、rTMS 群60.4%:対照群75.7%)。なお、12 か月後の反応・寛解の定義からの悪化、すべての期間における有害事象による治療中断率、けいれん発作の出現、自殺念慮の出
p.294
現は重要なアウトカムであるが、それらについては報告されていなかった。

4 要約の作成

本メタ解析では、各試験のバイアスは高く、包含した試験・患者数は少なく、出版バイアスについても包括した論文数が少なかったため、正確な評価ができなかった。また、対象となった3 本のRCT のうち2 本は、うつ病だけではなく、双極症を含む集団を対象としており、各研究において維持期rTMS のプロトコルや治療スケジュールは異なっていた。そして、急性期rTMS で寛解に至った患者のみを対象とした研究はなかった。これらより、すべてのアウトカムは、バイアスリスク、精確性、非直接性、その他(出版バイアス)をダウングレードし。エビデンスの強さは弱(C)とした。rTMS により反応または寛解したうつ病患者の再発予防のため、rTMS を用いた維持期治療を行う意義はあると考察されたが、どのような維持rTMSのプロトコル、治療スケジュールがうつ病患者にとって有益であるかは未だ不明であり、エビデン

ス総体として各アウトカムのエビデンスの強さは弱(C)と評価された。薬物療法で有効性を得られないうつ病に対する維持治療の選択肢は限られていることを踏まえ、推奨決定会議の投票の結果、「行うことを弱く推奨」となった。

しかし、わが国では、維持期うつ病に対してrTMS は保険診療の適用がなく、先進医療B として一部の医療機関で実施されている。こうした国内の医療事情とエビデンスに用いた研究の外的妥当性を鑑み、本CQ に対しては推奨とせず、「行うことを提案する」となった。

5 推奨決定会議の結果

1 回目1 行うことを強く推奨する:0% 2 行うことを弱く推奨する:94% 3 行わないことを弱く推奨する:6% 4 行わないことを強く推奨する:0%

【文献】

1)Senova S, Cotovio G, Pascual-Leone A, et al :

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relapse in antidepressant treatment-resistant depression: A systematic review and metaanalysis of randomized controlled trials. Brain Stimul 16 : 458-461, 2023
p.295
トピックストピックス1診断基準を満たさない閾値下の抑うつエピソード

診断基準と定義

診断基準を満たさない閾値下の抑うつエピソードとは、DSM-IV-TR における研究用診断基準に記載のある小うつ病(minor depressive disorder)に相当する状態1)と本ガイドラインでは定義した。具体的には、DSM-5-TR におけるうつ病の診断基準9 項目の症状のうち、5 項目は満たさないものの、2〜4 つの項目が2 週間以上持続し、そのうちの1 つは抑うつ気分または興味・喜びの喪失を呈している状態である。本状態は、DSM-5-TR では他の特定される抑うつ症(Other Specified Depressive Disorder)というカテゴリーに該当し、短期間の抑うつエピソードや、症状不足の抑うつエピソードのような、うつ病診断基準を完全には満たさない場合などに適用されるが、以下に記した報告の多くが小うつ病の定義に基づいているため、あえてDSM-IV-TR の小うつ病に準ずることとした。なお、持続性抑うつ症や適応反応症の診断基準に該当する状態や、他の精神疾患(統合失調症、認知症など)の二次的な抑うつ状態は、小うつ病の基準を満たさないため本トピックの対象外である。この診断基準を満たさない抑うつ状態を本トピックでは閾値下の抑うつエピソードとよぶことにする。

疫学

閾値下の抑うつエピソードの成人の有訴率は、プライマリ・ケア領域では2.9〜9.9%、地域社会では1.4〜17.2%と推定され2)、全世界での推定罹患率は25%と報告されている3)。閾値下の抑うつエピソードの患者は、抑うつ症状のないものよりも認知機能障害や社会機能障害が大きく、生活の質(Quality of Life:QOL)が低く、さらには医療

サービスを多く利用し、経済的負担が大きいことが示唆されている2, 4-6)。また、閾値下の抑うつエピソードは、将来のうつ病エピソード発症や家族歴、心身の合併症、機能障害などがみられる割合においてうつ病と相違がみられず7)、児童・思春期の患者では閾値下の抑うつエピソードが自殺のリスクの増加に関連しているとの報告もある8)。うつ病の操作的診断基準にある5 項目閾値にとらわれ過ぎず、本人の苦痛や支障の度合い、年齢や客観的な機能障害などに応じて医学的介入を検討すべきであろう。そして、閾値下の抑うつエピソードは、その後にうつ病やその他の精神障害を発症するリスク因子の1 つと報告されており7, 9-11)、近年の研究や海外の診療ガイドラインでは、地域やプライマリ・ケアにおける閾値下の抑うつエピソードの、よりよい識別と管理が求められている12, 13)。2019 年には、閾値下の抑うつエピソードが将来のうつ病発症の頑健なリスク因子になるかどうか明らかにすべく、縦断的コホート研究に関するシステマティックレビューとメタ解析が行われ、報告されている14)。具体的には、16 本の研究(n =67,318)のデータから、閾値下の抑うつエピソードの人はうつ病を発症するリスクが高いことが明らかになり(リスク比=1.95、95%信頼区間1.28〜2.97)、サブグループ解析では、異なる年齢群(若者、成人、高齢者)、サンプルタイプ(地域ベース、プライマリ・ケア)でも同様の罹患率比が推定された。この結果より、閾値下の抑うつエピソードの患者に対し、何らかの効果的な予防・介入の必要性が支持されると結論付けられている。この結果は、うつ病による社会経済的損失の大きさが報
p.296
告されている状況下で15)、うつ病の一次予防としての閾値下の抑うつエピソードの段階から、医学的介入の施行を検討する証左になるかもしれない。しかし、閾値下の抑うつエピソードをうつ病と同様に治療対象とした場合、正常な落ち込みや悲しみを医療対象とするおそれや、不適切で不必要な治療を助長する可能性がある。そのため、他方では、うつ病の人々が、自分の状態を逆境に対する正常な反応と誤認し、適切な援助や治療を求めることを躊躇うケースが危惧されている7)。

薬物療法

2014 年の閾値下の抑うつエピソードおよび軽症うつ病における、抗うつ薬治療のメタ解析16)では、閾値下の抑うつエピソードの試験は5 本(n= 453)あった。そのうち2 本は高齢者を対象としており、いずれの試験もパロキセチン投与群がプラセボ投与群と比較して寛解率に差はなかったと報告しているが、ともにデータの信頼性が乏しいとされている。一方、成人を対象とした3 本のうち1 本では、有効性を評価するためのデータが入手できず、残り2 本の試験で抗うつ薬の有効性に関するメタ解析が行われた。それぞれ国内未承認のfluoxetine とcitalopram に関するプラセボ対照の無作為化比較試験(RCT)であり、12 週時のハミルトンうつ病評価尺度(17 項目版)(HAM-D17)の改善が検討されていたが、統計学的にプラセボに比して抗うつ薬が有意に改善していたものの、その差は小さく(平均差 -1.39、95%信頼区間 - 2.41〜-0.36)、臨床的に意味があるとは考えにくいと結論付けられている。一方、忍容性に関しては4 本の試験が組み入られていたが、副作用による試験からの脱落に関していずれも抗うつ薬とプラセボで有意差はないという結果であった。

精神療法

2023 年に発表された非薬物療法に関する、メタ解析では17)、閾値下の抑うつエピソードの成人を対象にした15 本のRCT(n=4,467)が包含され、

介入として認知行動療法(CBT)や行動活性化技法、問題解決技法が主に行われ、対照群は主に通常ケアが行われた。有効性について、抑うつ症状の軽減効果とうつ病の発症予防効果を調べており、組み入れられた試験のなかで、介入終了時よりもフォローアップ終了時の効果をみた試験数が多かった。抑うつ症状の軽減についてフォローアップ終了時の効果をみた試験(N=8)では、介入群の標準化平均差(SMD)が-0.17(95%信頼区間 - 0.33〜-0.01)であり、この効果が統計的に有意であることが示された(P=0.042)。うつ病の発症予防についてフォローアップ終了時の効果をみた試験(N=12)では、非薬物療法介入群におけるうつ病発症の相対危険度は、対照群と比較して0.78 (95%信頼区間 0. 63〜0.96)であり、この効果も有意であると報告されている(P=0.018)。また、ネットワークメタ解析18)でも閾値下の抑うつエピソードに対して、非薬物療法による介入が同様に有効であることが示唆されており、特に個人に対するCBT が最も効果的な可能性があると報告している。また近年では、インターネット支援型のCBT のうつ病に対する有効性についてのシステマティックレビューも報告されており、閾値下の抑うつエピソードの患者に対してはガイドとよばれる援助者の有無によらず有効であったとしている19)。

海外の診療ガイドラインにおける記載

さらに諸外国の診療ガイドラインを概観すると、2016 年に発表されたカナダ気分・不安障害治療ネットワーク(CANMAT)では、精神療法が閾値下の抑うつエピソードに望ましいと記載されていが20)、2023 年に改訂され2024 年に公表された同ガイドラインでは、閾値下の抑うつエピソードに対する治療法・介入法への言及はみられない21)。2022年に発表されたイギリスのNICE ガイドラインでは、閾値下の抑うつエピソードを含む重症度の低
p.297
いうつ病に対して、以下のような選択肢が提案されている22)。ガイド付きのセルフヘルプ、集団や個人でのCBT、集団や個人での行動活性化技法、集団での運動、集団でのマインドフルネスや瞑想、対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy:IPT)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬、カウンセリング、短期での力動的精神療法が挙げられている。そこでは抗うつ薬をルーチンの第一選択とはせず、患者の要求や好みに配慮し、話し合いを行った上で決定することが望ましいとしているが、閾値下の抑うつエピソードだけでなく軽症うつ病も対象としている点には注意が必要である。まとめ

閾値下の抑うつエピソードは、その症状自体の辛さだけでなく機能障害やQOL の低下をきたし、将来のうつ病発症のリスクになりうるものであり、患者自身や家族などの支援者が、医学的介入を希望する場合に実施することを検討する。閾値下の抑うつエピソードに対して薬物療法の実施を積極的には検討せず、むしろ非薬物療法を実施することを検討する。これまでの報告では個人に対するCBT が最も効果的な可能性があるが、アクセスが難しい場合はインターネット支援型のCBT がその代用になるかもしれない。患者自身や家族などの支援者と治療・介入の有無や代替可能な選択肢についてよく話し合い、共同意思決定(SDM)を行うことが望ましい。

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p.299
トピックス2うつ病に対する精神療法

精神療法の分類

精神療法は、薬物療法と並んでうつ病の重要な治療技法の1 つである。これまでに約900 件の無作為化比較試験(RCT)が行われており、多くのエビデンスによって有効性が裏付けられている治療法である。

「精神療法」が何を指すか、ということは非常にさまざまな観点から議論されなければならないが、本ガイドラインでは便宜上、構造化された精神療法について、複数の文献で採用されている分類を用いて検証することとした。認知行動療法(CBT)、行動活性化技法、第三世代認知行動療法〔アクセプタンス&コミットメントセラピー(Acceptance and Commitment Therapy:ACT)、マインドフルネス認知行動療法(Mindfulness- Based Cognitive Therapy:MBCT)など〕、問題解決技法、対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy:IPT)、力動的精神療法などを、治療内容や形式が一定の理念のもとで整備され、研究などで検証されている治療技法として扱う。ただし、それぞれの分類において実施内容が必ずしも一致しているわけではなく、例えばCBT というカテゴリーのなかにも、Aaron Beck の考え方を基軸にしたものから、より1 つの領域や技法に焦点を当てた治療法も存在する(場合によっては第三世代も含めてCBT としている場合もある)。

全体的な有効性について

うつ病に対する、10 以上のRCT の存在する精神療法について、385 本の比較をまとめたメタ解析1)においては、CBT、行動活性化技法、問題解決技法、第三世代認知行動療法(ACT、MBCT)、対人関係療法(IPT)、力動的精神療法、非指示的支持的精神療法、ライフレビュー療法、その他、に分類されている。精神療法全体の効果サイズ(標

準化平均差〕は0.72(95%信頼区間 0.67〜0.78)であり、治療必要数(number needed to treat:NNT)は4.04 であった。ただし研究の70%以上に何らかのリスクオブバイアスが存在しており、リスクオブバイアスが低い研究のみを分析した場合には、全体の標準化平均差は0.48 まで低下し、NNT は6.44 となる。

また効果サイズは各治療によって多少の幅があるが(力動的精神療法 標準化平均差 0.39 からライフレビュー療法 標準化平均差 1.10 まで)、各技法の効果において有意な差は生じていない。また、個人か集団か、あるいはセルフヘルプか、についても効果の差は小さいが、人によるサポートのないセルフヘルプでは効果が低い。

各治療の特徴*認知行動療法(CBT)

うつ病に対する最もエビデンスが確立した治療の1 つである2,3)。CBT は、患者の非適応的な、あるいは非機能的な思考が、行動や気分に影響を与えているという認知モデルを基盤として、思考などを含む認知や行動を変化させていくことで気分の改善を図る治療法である。第三世代認知行動療法は、従来のCBT では思考の内容について扱うのに対して、思考の形式について検討していくことが特徴である。ACT やMBCT が含まれる。

ACT は不快な思考や感情を排除せずに受け入れ、自らの価値に基づいた行動を選択できるよう支援する精神療法であり、マインドフルネスや価値の明確化、行動へのコミットメントを組み合わせ、心理的柔軟性を高めていくことが目的となる。

MBCT は、CBT の枠組みにマインドフルネス
p.300
瞑想を統合した精神療法であり、呼吸や身体感覚への注意を通じて「今この瞬間」に気づきを向け、自動的に生じる否定的思考や感情と距離をとる練習を行う。

*行動活性化技法

患者の行動を活性化させることに焦点を当てた、同じく複数の研究やシステマティックレビューによって有効と報告される治療法である4-6)。行動を改善することで、喜びや達成感などポジティブな感情でいられる時間を増やし、症状の改善を図る。

*問題解決技法

問題を明確に定義した後、複数の解決策を検討して吟味し、その実行のための計画を策定して、実行から結果までを検証する。それによって抑うつ症状の改善を図れることが、複数のシステマティックレビューから報告されている7,8)。

*対人関係療法(IPT)

人間関係に焦点を当て、「重要な他者」との間に生じる感情や行動、関係性を変化させ、問題の解決や気分の改善を図れることが、複数のシステマティックレビューにて報告されている9,10)。

*力動的精神療法

患者の無意識や過去の体験に焦点を当て、深いレベルでの感情や思考の変化を促す治療法である。短期的な力動的精神療法がうつ病に有効であることが確認されている11)。

*ライフレビュー療法

主に高齢者を対象とし、回想などを通じて過去の人生経験を振り返りながら、再評価し、肯定的な意味付けや自己統合を促す治療法である12,13)。

長期的な効果

精神療法の特徴として、短期的な有効性だけではなく、治療が終了した後も効果が持続すること

が示されている。この点が薬物療法などとは異なる。これは精神療法を行うことで、思考や行動習慣、対人関係、環境へのかかわり方の変化が生じ、また方略の習得により、うつ病の再発を予防すると考えられている。ネットワークメタ解析の結果によると、精神療法は単独あるいは薬剤との併用療法において、維持期まで別の治療に移行していたとしても、薬物療法単独や標準的な治療と比較して、12 か月にわたって有意に治療反応を維持していることが示されている14)。

薬剤との併用療法

精神療法は、単独で用いた場合には薬物療法と効果が同等であり、薬物療法と併用すると単独の精神療法または薬物療法よりも有効性が高くなる15)。精神療法のなかでは、集団認知行動療法が他の治療と比較して、通常治療と併用すると効果が高いことも明らかとなっている16)。併用にて効果が増強される理由は明らかでないが、薬物療法と精神療法で異なる作用機序があること、精神療法の併用によってアドヒアランスが改善すること、それぞれの治療によって反応する対象が異なること、などが示唆されている。

付加的治療としての精神療法

薬物療法の効果が乏しい場合に精神療法を導入する場合がある。本ガイドラインでは付加的治療と定義し、各章で有用性について検証している。精神療法を追加する場合には、まず薬物療法の効果について検討する必要があり、用量や治療期間、アドヒアランスを確認し、その上で心理的な背景や治療に対する患者の希望17)などを踏まえ、頻度やセッション回数、介入内容などを共同的に決定することが求められる。

薬物療法に精神療法という新たな治療を導入することとなるため、患者の視点に立てば、薬物療法が十分に効果を示さず、治療が失敗したという
p.301
認識となり、これまでの時間や労力は無駄であったという、ある種の無力感や挫折、怒りを覚えることになる。患者の「自己愛の傷つき」や「失敗」が体験される可能性には注意しなければならない18)。治療者が適切な動機付けを行うことが必要であり、これまでの治療でどこまで改善したのか、現時点ではどの点が十分でないために付加的治療を行うのか、という治療の振り返りを行い、治療経過への意味付けを行う必要がある。

治療の頻度や強度

Meta-analytic research domain という特殊なシステマティックレビューとその解析にて、治療回数(4〜24 セッション)と1 週間で実施する回数をグループに分けて検討した結果、標準化平均差においては回数や実施頻度による有意な差は認めなかったとしている(4〜6 セッションで0.47、12〜16 セッションで0.68:週1 回未満で0.44、週1回より多いと0.71)19)。

精神療法を評価する際に留意すべき点

精神療法における臨床研究の結果は、対照群の設定によって効果が高く評価されている可能性がある。特にうつ病では、待機リストを対照群に置いた場合にはその傾向が強くなる可能性があり、その点について適切に考慮した上で評価をしなければならない3)。

わが国における課題

CBT をはじめとした構造化された精神療法を提供できる医療機関や治療者の数が不足しており、すべての医療機関で実施できないのが現状である。それにはいくつか理由があり、実施した場合の診療報酬が労力や時間に比して十分に得られないこと、研修できる体制が不十分であること、医師以外の多職種が実施できる制度でないこと、などが挙げられる。精神療法の質を担保する仕組みがないこともまた課題となっており、研究で報告された治療法と臨床現場で実施される治療が同じよう

に行われているのかという問題も生じてしまう。これは薬物療法でいえば投与する薬剤の有効成分が錠剤ごとに異なるようなものであり、一定の幅が生じることはやむを得ないとしても、質の管理体制については今後の検討課題でもある。

また、診療報酬として保険収載されている精神療法のなかで、技法を明記されているものがCBT と力動的精神療法のみであり、その他の精神療法を実施する上では課題となる。さらに、厚生労働省が推奨するCBT の治療マニュアルには、MBCT や反芻焦点型など第三世代などのCBT に分類される治療技法は掲載されていない点も留意しなければならない。(https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/ kokoro/dl/01.pdf)

一方で、わが国においては、CBT の増分費用効果比(ICERs)は、対象患者全体で15,278,322 円、中等度以上のうつ病に限ると2,026,865 円となり、一般的基準に照らして、医療経済効果に優れると考えられている20)。患者にとっては費用対効果の面で有益である可能性も高い。

いずれにしても、今後は診療報酬の適切な設定や、オンラインなどで研修や診療が可能となること、専門医などの資格化による質の担保、医師から他の職種にタスクシフティングをしていくこと、またデジタルツールの活用や短時間でより効果的に実施できる方法の開発など、さまざまな方法で課題を乗り越える必要がある。

本ガイドラインにおける精神療法の位置付けについて

本ガイドラインにおいては、各章において構造化された精神療法に関するさまざまなCQ が立てられている(後続治療CQ9-8、中等度・重度CQ3- 4 など)。しかし、いずれも精神療法を実施することを「推奨」ではなく、「提案」に留まっている。これは上述したように、国内で実施可能な医療機
p.302
関が限定されていることや、診療報酬として保険収載されている精神療法がCBT と力動的精神療法のみであること、精神療法の質を担保する仕組みがないこと、などが影響した。すなわち、仮に推奨となった場合、実施できない医療機関が多く存在し、また国内で普及していない、あるいは均質でない治療法を行うことが求められてしまい、およそ臨床に則した実践的なガイドラインとはなり得ない、という点が懸念されたためである。

一方で、仮に精神療法を治療の選択肢として挙げない場合、精神療法を実施していれば改善した可能性を失うこととなり、患者の不利益となるこ

とも想定される。そのため、システマティックレビューなどから導かれる臨床における有用性と、上記の普及・実装における課題に関する議論を踏まえて検討した結果、本ガイドラインでは精神療法については全般的に「推奨」ではなく「提案」とすることとした。今後、普及や実装における課題が解消され、それによって推奨もしくは非推奨の位置付けが明確になり、薬物療法以外の治療がより積極的に検証されることが期待される。

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トピックス3うつ病治療における漢方薬

背景

うつ病の患者や家族から、「(向精神薬ではなく)漢方薬で治療してほしい」、「漢方薬の治療に切り替えたい」という要望を受けることがしばしばある。しかし、うつ病の初期治療や補助療法としての漢方薬に関するエビデンスは、症例集積報告や症例報告によるものがほとんどであり、質の高いエビデンスを有する漢方薬は少ない。さらに、向精神薬の有害作用(副作用)に対して漢方薬を用いることも多いが、こちらもエビデンスという面からみれば、質の高いエビデンスを有する漢方薬は知られていない。よって、中等度以上のうつ病と明らかに診断できる場合は、治療ガイドラインの推奨にあるように、抗うつ薬による薬物療法を中心とした治療を行うべきである。

うつ病に対するエビデンス

無作為化比較試験(RCT)によりうつ病に対する有効性が認められている漢方薬(中医薬)としてfree and easy wanderer plus(FEWP)があり、プラセボを対照薬としたメタ解析において単剤(N=2)、補助療法(N=5)、いずれにおいても有効性が示されている1)。FEWP は、わが国の医療用エキス製剤として用いられている、加味逍遙散と同じ構成生薬からできている。しかし、これらの報告で用いられているFEWP は、構成生薬の1日用量や割合などにおいてわが国の加味逍遙散の医療用エキス製剤とは異なる部分もあり、上記のメタ解析の結果を、わが国の加味逍遙散の医療用エキス製剤に当てはめるには、注意を要する。加味逍遙散は、特に月経周期に伴う不安や身体愁訴、更年期の女性における身体愁訴に対して古くから用いられてきた漢方薬であり、月経前不快気分障害(PMDD)に対して有効であったという症例集積報告2)が知られている。そのほか、柴胡加竜骨牡

蛎湯(大黄を含有するもの)が、脳卒中後の抑うつ(post-stroke depression)に対して有効であるというメタ解析がある3)。うつ病を対象とした漢方治療の症例集積報告としては、加味帰脾湯によるものがある4)。

漢方医学における診断

漢方医学(伝統医学)と現代医学は、本来、異なる概念の上に成り立ったものであり、診断や治療の方法も異なっている。漢方医学は、“証(證)”に随って治療すること(随証治療)を原則とする5)。現代医学的には同じうつ病と診断される症例であっても、用いる漢方薬が異なる可能性がある。

証に基づく漢方治療

“気の異常”という漢方医学的概念を用いることにより、どのような漢方薬を用いるべきなのかを選択できる。

漢方医学的視点からみた証と、代表的な漢方薬について概説する。

1 気鬱(きうつ)

•主症状:抑うつ気分、不安、咽喉頭部異物

感、胸内苦悶感、頭重感、腹部膨満感など•使用薬:

o半夏厚朴湯(咽喉頭のつかえ感が強い場

合) o茯苓飲合半夏厚朴湯(胃部不快感を伴う

場合) o香蘇散(体力低下や食思不振を伴う場合) o抑肝散(イライラ感や焦燥感が強い)

2 気逆(きぎゃく)

•主症状:不安感、動悸、頭痛、冷えのぼせ、
p.305
顔面紅潮、発汗、咳嗽、四肢冷感など•使用薬:

o苓桂朮甘湯(動悸・めまいを伴う場

合) o加味逍遙散(月経周期との関連が

ある場合) o女神散(のぼせを伴う更年期症状) 3 気虚(ききょ)

•主症状:意欲低下、倦怠感、消化機能低下、

易疲労、日中の眠気、貧血傾向•使用薬:

o六君子湯(消化器症状が中心) o補中益気湯(全身倦怠感が中心) o加味帰脾湯(不安や不眠を伴う場合) o人参養栄湯(不安が乏しく、体力が低下

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p.306
トピックス4時間生物学的治療

時間生物学的治療とは時間生物学的治療(chronotherapeutics)は、生体リズムをターゲットとした治療法であり、主として気分症の治療技法として発展してきた。抑うつ状態に対しては、高照度光療法(bright light therapy:BLT)や断眠療法(sleep deprivation therapy:SDT)、睡眠相前進療法(sleep phase advance therapy:SPA)の有効性が、躁状態に対しては、暗闇療法の有効性が報告されている1)。時間生物学的治療の歴史は古く、断眠の臨床応用の開始は1960 年代にまで遡る2)。これらの治療法の多くは一般的な治療法として普及するまでには至っていないが、近年、気分症の病態に睡眠や体内時計の異常が関連することを示唆する知見が集積され、再注目されている3)。ここでは、抑うつ状態に対する代表的な時間生物学的治療であるBLTとSDT について紹介する。なお、これらの治療は保険適用外であるが、今後、薬物療法を補完し、病態生理に基づく治療としての発展が期待されることから、トピックスとして取り上げる。

高照度光療法(BLT)高照度光療法(BLT)は、秋から冬にかけて抑うつ状態をきたし、春になると自然寛解する季節性感情障害(seasonal affective disorder:SAD)の治療法として1980 年代より有効性に関する検討が開始された。SAD では日照時間の短縮が抑うつ症状の出現に関連することから、夏季と同様の光環境を作る目的で本治療が行われた。SAD に対してBLT を行う場合、光照射器を用いて、通常早朝に2,500〜10,000 ルクスの高照度光を30 分〜2 時間照射する(夕方照射が有効な一群もいる)。効果は数日から1 週間程度で現れるが、中止すると再発する可能性があるため、冬季の間は連日行われることが多い。光照射器については卓上型のもの

が一般的であるが、最近では、光源からの距離を一定に保つことができるウェアラブル型のものも発売されている。SAD におけるBLT の有効性については複数の無作為化比較試験(RCT)で検討されており、18 本のRCT のメタ解析ではBLT は対照(多くは低照度の光照射)に対して有意に抑うつ症状を改善すると結論付けられている4)。

BLT はSAD の治療法として開発されたが、その後、季節性を伴わない気分症患者における有用性も検討されるようになった。非季節性のうつ病や双極症のうつ病相における効果を検証した23本のRCT のメタ解析では、BLT が有意に抑うつ症状を改善し、その効果は軽度〜中等度であったと報告されている5)。BLT の効果は、気分症における抑うつ症状以外にも、妊娠期の抑うつ症状6)、神経性過食症における抑うつ症状と過食症状7,8)、認知症における気分と認知機能9,10)についても報告されている。現時点でBLT の作用機序は不明であるが、概日リズム位相の異常を修正することにより、症状の改善をもたらす可能性11)やセロトニンの生成を促す可能性12,13)が想定されている。また、最近になり、周囲の明るさのセンサーとして働く網膜の細胞(Intrinsically photosensitive retinal ganglion cells:ipRGCs)が捉えた光情報は、体内時計の中枢である視交叉上核だけでなく辺縁系にも伝達され、感情や認知に影響を与えることが動物実験で明らかにされている14)。このような辺縁系への直接的な作用も抗うつ効果に関連している可能性が考えられている。

BLT は安全性が高いことから、忍容性の問題などにより十分な薬物療法を行うことができない症例などにおいて利用価値は高いと思われる。一方
p.307
で、付加的治療として有効に利用していくためには、照射するタイミングや照射時間、照度を最適化するための知見の集積、効果が期待できる症例の臨床的特徴の同定が望まれる。また、非季節性の気分症における有効性については、うつ病のみを対象に検討した研究は少なく、今後さらなるエビデンスの蓄積が望まれる。

断眠療法(SDT)

SDT は、通常睡眠をとる夜の時間帯に眠らず過ごすことで、うつ病や双極症のうつ病相を改善させる時間生物学的治療である。「睡眠を断たれる」よりも「自ら覚醒を保つ」という特徴を踏まえ、近年ではSDT を覚醒療法(wake therapy)とよぶことが増えている。夜眠らずに過ごした翌朝のほうが普段よりうつ症状が軽く済むという複数の患者の体験をヒントに、1960 年代よりSDT の臨床適応および治療効果が検討された。その結果、うつ病・双極症を問わず、いわゆる内因性うつ病のほうが反応性・神経症性うつ病よりも高い効果がみられると報告された15)。SDT は効果発現の速さを特徴とし、2〜8 週間を要する抗うつ薬と対照的に、24〜48 時間以内に半数前後がSDT に反応を示すとされた。1,700 例のシステマティックレビューではSDT の反応率は59%と見積もられた一方で、再燃率83%、躁転率約30%といずれも高く、実臨床での使用に課題を残した16)。以降、SDT の再燃予防戦略が国際的に検討され、薬物療法(主にリチウム、抗うつ薬)、BLT、もしくはSPA の併用によりSDT の効果は維持可能であることが示された。これらを受け、近年国際双極症学会(International Society for Bipolar Disorders)タスクフォースは双極症の急性うつ病相への治療法としてBLT と並びSDT を推奨するに至った17)。なお、SPA は、極端な早寝早起き(例:18 時就床、2 時起床)によって、睡眠時間帯と深部体温やホルモン分泌などの生理機能リズムとの位相のずれを修正し、症状の改善を図る治療である18)。他方で、SDT の急性期の治療効果に関するエビデ

ンスはまだ十分でない。対象にうつ病患者を含む近年のメタ解析によると、7 本のRCT におけるSDT の反応率は45%に達するとされた一方で19)、SDT の併用について否定的なメタ解析の報告が2本ある20,21)。直近のメタ解析では、他の治療法(SPA、BLT、もしくは反復性経頭蓋磁気刺激療法)に比べSDT の併用が臨床家による抑うつ症状評価を有意に改善すると報告されている22)。

SDT の作用機序として、モノアミン系(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミン)神経伝達の増強のほか、即効性のある抗うつ薬とされるケタミンと同様、グルタミン酸神経伝達の関与が推測されている23)。さらに、SDT 前後にみられる時計遺伝子発現パターンの変化がSDT 反応群と非反応群、患者と健常者のいずれでも異なることから、SDT が概日リズムの制御不全に作用することで治療効果をもたらすこと、SDT の影響は免疫機能や炎症反応に関わる経路にまで及ぶことが示唆されている24)。

SDT は概して安全であるが、てんかんに対しては禁忌とされる。一般的な副作用には眠気、倦怠感、頭痛がある。双極症では躁転が問題となるが、リチウムを併用する近年のプロトコルでは躁転率を1.4%に抑えられたと報告されている25)。精神症性の特徴を伴ううつ病患者では、症状が悪化する場合がある。

SDT には一晩を通して覚醒を維持する全断眠と、夜間睡眠の後半のみ覚醒を維持する部分断眠がある。全断眠では朝起床後から翌日夜まで36 時間覚醒を維持し、続いて12 時間の回復睡眠の機会を得る、48 時間のサイクルを週に3 回繰り返し、BLT、薬物療法を併用するプロトコルが比較的広く普及している26)(図)。わが国でもSDTにBLT、SPA を併用するプロトコルの難治性うつ病・双極症患者における有効性が報告されている27)。他方で、国際的に統一されたプロトコルは存在せず、統一プロトコルに沿った多施設における効果検証
p.308
が望まれる。

【文献】

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p.311
トピックス5労働者のうつ病

背景

労働者10 万人を超えるわが国のコホート調査研究結果では、休職する労働者の発生率は1,000人の労働者を1 年間観察した場合、男性が8.7 人、女性が9.4 人だった。そのなかで、メンタルヘルスに関連する休職者は男性が4.5 人、女性が3.3人、さらにそのうちICD-10 における気分障害(F30-F39)による休職者は、男性が3.1 人、女性が1.8 人だった1)。抑うつ状態による休職からの職場復帰後に、再休職する労働者の割合は49.3%であり、再休職する労働者のうち85.2%は3 年以内に再発していた2)。労働者うつ病であっても、うつ病治療の大枠が変わるわけではない。その一方で、労働者のうつ病では、就労能力が低下することなどから機能低下を感じやすい領域である。また治療ゴールも抑うつ症状の改善に加えて、社会機能の改善および職場適応を促す必要性や、職場との連携も重要となる。本トピックスでは、より質の高い労働者うつ病の治療を行うために、知っておきたいポイントについてまとめた。

就労継続か休職かの判断

まずは、労働者うつ病の場合では治療の場を考える必要がある。重症度が高い場合や機能低下の程度が大きい場合には、休職を検討する必要がある。傷病休職は、業務外の傷病による長期欠勤が一定期間(3〜6 か月が普通)に及んだときに行われるもので、休職期間の長さは通常勤続年数や傷病の性質に応じて各職場で異なる。この期間に傷病から回復し、就労可能となれば、休職は終了し復職となる。休職の必要性の有無については、個々の症例についてメリットとデメリットを勘案して総合的に判断する必要がある。メリット:

■職業上のストレスや葛藤から離れ、保護的環境で回復を図ることができる。■回復に向け、治療やリハビリテーション、周囲の関係者との関係修復などにあてる時間を、より多く確保できる。■うつ病発症(あるいは治療薬剤)によって、普段より生じる可能性が増す、職場で起こる事故のリスクを減らすことができる。デメリット:

■日中の活動性が低下することや、職場で得られていた日常的対人接触の機会を失い、孤立した生活を送る結果、症状悪化につながりうる。■職場を離れている期間が長くなると、結果的に復職への不安が高まり、ある種の「職場恐怖」ともいうべき状態が生じる可能性がある。

うつ病労働者の休職の可否判断は、これらのメリット・デメリットに加え、職場や労働者の個別的状況を勘案し、慎重に判断する必要がある。

また、外来治療を継続する場合には、通院が適切に行えるよう、時間確保に関しても配慮することが望ましい。

復職準備のポイント

休職した患者の抑うつ状態が改善すると、復職準備が必要である。復職準備期間には、生活面や仕事面で職場復帰を想定した準備が必要になる。以下の表1 の項目が参考になる。

職場復帰のステップ

何らかの疾患により休業していた労働者が、再び仕事に就くことを職場復帰(復職)とよぶ。職場復帰をスムーズに行い、職場に再適応し、安定的
p.312
な就業ができる状態になるためには、主治医、職場の上司や同僚、産業保健スタッフなどの支援と本人も含めた連携協力が不可欠である。特にうつ病などの心の健康問題による職場復帰の際には、丁寧なサポートが必要であり、職場の体制やルール作りも盛り込んだ「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が厚生労働省から示されている4)。復職支援のステップとしては、<第1 ステップ>疾病休業開始及び休業中のケア、<第2 ステップ>主治医による職場復帰可能の判断、<第3 ステップ>職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成、<第4 ステップ>最終的な職場復帰の決定、<第5 ステップ>職場復帰後のフォローアップの流れが示されている。この復職プロセスのなかで、本人、主治医、企業(人事担当者、上司、産業保健スタッフ)が連携を取ることは重要である。ここでは、一連の職場復帰プロセスのなかで、必要な支援や要点をトピックスとして紹介する。復職準備段階における支援では、休業中のケアも重要であり、休業中の状態を定期的に把握しながら、疾病の回復状況と職場再適応の準備状況を評価する必要がある。復職準備状況の評価に関しては、生活面の確認や仕事面での確認が必要であり、チェックリストを準備している企業や生活リズムを把握するため、生活記録表の記録を参考にする企業もある。いくつかの職場復帰に関する評価については総説を参考にしてもらいたい5)。

職場復帰時の診断書

職場復帰時には主治医からの診断書が求められることが通常である。診断書内に記載すべき内容としては、病名、治療経過、症状の改善状況、生活リズムの回復状況、治療薬やその副作用、推定される業務遂行能力、再発の可能性、今後の治療見通し、その他の医学的問題などが挙げられる6,7)。これらにより、職場での適切な就業配慮や安全管理を行うことが可能となり、スムーズな職場復帰と再発予防につなげられる。

リワークプログラム

うつ病労働者の復職後の復職継続率は決して高くなく、再休職予防が必要である。そのため復職支援の取り組みが数多くなされている。そのなかの代表的なものがリワークプログラムである。医療リワーク、就労移行支援事業、障害者職業センターによるプログラム、従業員支援プログラム(employee assistant program:EAP)、会社が行うリハビリ出社などを幅広くリワークとよばれることもあるが、ここでは、医療機関における復職支援の取り組みである医療リワークのことを指す。その目的は「単に復職を果たす」ことではなく、「復職後、再発なく就労を継続できること」にある。再発予防や就労継続を支援するためには、作業能力の回復だけではなく、職場における対人関係能力の向上やストレス対処能力の改善、疾病受容と適応的自己の確立への支援が重要である。実際にリワークプログラムの再休職予防効果に関しての研究においては、リワーク利用群と対照群を比較した厳密な研究はなく、後方視的コホート研究データによる報告があるが、復職後の予後をKaplan-Meier 法で比較したところリワーク群が非リワーク群よりも有意に復職継続割合が高かった(log rank 検定:p=0.001)。また、傾向スコアマッチングを用いた検討においても、リワーク利用群のほうが有意に高かった(p=0.008)8).リワークプログラムの抑うつ症状に対する効果に関する研究も散見されるが、十分なエビデンスはない。リワークプログラムに関して、現時点でまとめられた総説9)も参考にされたい。

リワークプログラムの課題としては、プログラムの導入により、休職期間の延長につながる可能性がある。短期的には費用負担が増す一方で、長期的には再休職予防に伴う社会的コストの削減につながる可能性があるが、費用対効果に関してはより詳細な解析が必要であると考えられる。また、
p.313
リワークプログラムの適切な期間設定において、十分なコンセンサスが得られていないことや、実施可能な地域や施設の制約も課題である。

【文献】

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者の職場復帰支援の手引き. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/buny a/0000055195_00005.html 5)堀 輝. 休職中うつ病患者の職場復帰評価. 臨床

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断と治療社,2020 7)EGUIDE プロジェクト(編):ケースでわかる!

精神科治療ガイドラインのトリセツ. 医学書院,

生活面の準備仕事に関する準備

生活リズムの安定気持ちと思考の整理

・復職時に合わせて起床できる・復職に対しての意欲がある

・日中の外出や軽い運動ができる・休職に至った経緯について整理して話ができる

・夜の睡眠が安定している・自身の考えや気持ちを上司や同僚に相談できる

日常の自己管理・復職後の自己管理について話ができる

・家事や部屋の片づけができる基本的な業務遂行能力

・身だしなみを整えられる・安全に通勤ができる

気分の安定・仕事に必要な基本的な作業(電話、メールなど)ができる

・自宅でゆっくりくつろぐことができる・上司や同僚と適切にコミュニケーションが取れる

表1 復職準備のポイント(文献3を参考に作成)
p.314
2020 8 )Ohki Y, Igarashi Y, Yamauchi K : Re-work

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Theoretical introduction and the achievements of the Re-Work program in Japan. Asian J Psychiatr 58 : 102580, 2021
p.315
トピックス6抗うつ薬の薬物相互作用

1 薬物相互作用の全体像

抗うつ薬の薬物互作用は、薬物動態学的相互作用と薬力学的相互作用の2 つに大別される。

•薬物動態学的相互作用は、主として肝臓の代

謝酵素cytochrome P450(CYP)や薬物トランスポーターを介して吸収、分布、代謝、排泄の過程で生じ、薬物の血中濃度変化をもたらす。•薬力学的相互作用は、薬効作用が重複するこ

とで副作用リスクが増大するものであり、臨床的に重篤な転帰に至る可能性もある。抗うつ薬は幅広く使用されるため、両者の理解と対応は日常臨床に必須である。

2 薬物動態学的相互作用

抗うつ薬に関連する薬物相互作用のうち、薬物動態学的相互作用は主にシトクロムP450(CYP)酵素群を介して生じる1)。以下の2 つのパターンがある:

1 併用薬がCYP を阻害または誘導→抗うつ薬

の血中濃度が変化

2 抗うつ薬がCYP を阻害→併用薬の血中濃度

が変化

前者では、有効血中濃度範囲が比較的広く、複数のCYP 酵素が代謝に関与するため、重大な薬物有害反応は比較的まれと考えられている1)。

ただし、ベンラファキシンは例外的に注意が必要である。CYP2D6 阻害薬(ジフェンヒドラミン、テルビナフィン)やCYP3A4 阻害薬(ケトコナゾール)との併用で血中濃度が大幅に上昇することが報告されている2-4)。

一方で後者の「抗うつ薬がCYP を阻害する場合」については、より多くの注意すべき相互作用が存在する。

•フルボキサミン:CYP1A2、CYP2C9、

CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4 を阻害し、多数の併用薬の血中濃度を上昇させる。oチザニジン、メラトニン、ラメルテオ

ン:血中濃度が10 倍以上に上昇するため、わが国では併用禁忌である7-9) oオランザピン:薬物血中濃度時間曲線

下面積(Area under the curve)が約70%上昇する10-14) oクロザピン:AUC が約40%上昇する

14-16) oアリピプラゾール:AUC が約60%上

昇する17) oハロペリドール:血中濃度上昇する

18,19) oエチゾラム:血中濃度が約2 倍になる

20) oゾルピデム:AUC が2 倍以上上昇する

21) •パロキセチン・デュロキセチン:CYP2D6

を阻害する。oメトプロロールとの併用で徐脈や房室

ブロックが報告されている22,23) oリスペリドン:パロキセチンで総活性

濃度が約50%上昇、デュロキセチンで約25%上昇する24,25) oアリピプラゾール:パロキセチン併用

で最高血中濃度(Cmax)が約50%、AUC が約120%上昇する17) oコデインリン酸塩:モルヒネへの変換

が阻害され、効果が減弱する26)さらに、フルボキサミンやパロキセチンはP 糖
p.316
タンパク質(P-gp)阻害作用をもち、基質薬物であるジゴキシンとの併用で血中濃度が約2.6 倍上昇し、ジギタリス中毒症例が報告されている27,28)。

3 薬力学的相互作用

抗うつ薬と他の薬剤との薬力学的相互作用には、以下のような臨床的に重要なリスクがある。3-1. セロトニン症候群

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)に、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬、三環系抗うつ薬、トラマドール、ペチジン、フェンタニル、オキシコドン、リネゾリドなどのセロトニン作動性薬物を併用すると、中枢および末梢のセロトニン受容体が過剰に活性化し、セロトニン症候群のリスクが高まる1,6,30,31)。

3-2. QT 延長・torsade de pointes

•特にエスシタロプラムはQT 延長症候群のあ

る患者では投与禁忌である32,33)。•抗うつ薬の過量投与や他薬との併用によっ

てリスクが高まり、とくに抗精神病薬との併用でtorsade de pointes の危険性が増すことが示されている6,34,35)。

3-3. 出血リスク

• SSRI+NSAIDs:消化管出血リスクが3〜15

倍高まる36-40)。• SSRI+低用量アスピリン:NSAIDs ほどでは

ないが、リスク上昇が報告されている36-40)。• SSRI+ワルファリン:頭蓋内出血など臨床的

に問題となる非消化管出血のリスクが増大する可能性がある41)。

このため、出血リスクが高い患者では、以下のような対応が求められる。• SSRI 以外の代替薬使用• NSAIDs の処方回避または低用量化•胃腸保護薬(プロトンポンプ阻害薬)の併用

•ワルファリンの用量調整や凝固検査による

モニタリング

3-4. 中枢神経系の過剰抑制

抗うつ薬と、抗精神病薬・抗てんかん薬・ベンゾジアゼピン系薬・オピオイドを併用すると、中枢抑制が過剰となり、意識障害、転倒、呼吸抑制などのリスクが高まる34)。

4 特殊集団における相互作用リスク

4-1. 高齢者

•加齢に伴う変化:肝血流・腎機能低下、体組

成変化、受容体感受性の変化などにより、同じ用量でも曝露量や薬効の出方が変動しやすい42,43)。•相互作用リスク:若年者より多剤併用(ポリ

ファーマシー)になりやすく、薬物動態学的・薬力学的相互作用の顕在化が起こりやすい44)。•実務ポイント:

o併用薬のCYP 経路とP-gp 基質性を確

認する(例:CYP1A2/2D6/3A4 など)。o起立性低血圧、意識変容、転倒歴など高

齢者特有のアウトカムをモニターする。o可能なら開始低用量・緩徐漸増、治療薬

物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring:TDM)が可能な薬剤では血中濃度の把握を検討する。

4-2. 肝・腎機能障害者

•現状エビデンス:臨床で大きな問題となる、

抗うつ薬の決定的な相互作用報告は限られるが、薬物/代謝物の蓄積により副作用閾値が下がりやすい点には注意が必要である(原文の記載に準拠)。•実務ポイント:

o代謝主経路(例:CYP2D6、CYP3A4)

と主要排泄経路(腎排泄の有無)を確認
p.317
する。o肝・腎機能検査値(eGFR、Child-Pugh

など)に応じた用量調整と投与間隔の最適化する。o併用薬でCYP 阻害/誘導やP-gp 阻害

が加わると、曝露が跳ね上がる可能性があるため、段階的導入と臨床モニタリングを強化する。

4-3. 妊婦(周産期)

•本ガイドラインでは妊娠中のうつ病への抗

うつ薬使用を弱く推奨している(母体の再発リスクとのバランス)。•併用時リスク:

o SSRI+ベンゾジアゼピン系薬剤:先天

性心疾患(心室/心房中隔欠損)のリスクが上昇する〔リスク差 1.18(95%信頼区間 0.18〜2.18)〕45)。o抗うつ薬+オピオイド(出産前45 日以

内):新生児不適応症候群(poor neonatal adaptation syndrome:PNAS)のリスク上昇(リスク比1.34、 95%信

頼区間 1.22〜1.47)46-49)。離脱症状の持続延長や、治療に要するモルヒネ量増の可能性も指摘されている47-49)。o SSRI+抗精神病薬(妊娠中期/後期):

早産リスクは増えないが、アプガースコア低値や新生児の呼吸器疾患・低血糖・脳室内出血・けいれんなどの合併リスクが上昇する〔オッズ比2.64、 95%信頼区間 1.32〜4.73〕50)。

•実務ポイント:

o母体の再発・増悪リスクと胎児・新生児

リスクのバランスを評価する。o可能であれば単剤最小有効量、併用は

厳選。o分娩前後は新生児のNAS/呼吸状態/血

糖など周産期モニタリングを事前に計画しておく。o詳細は本ガイドライン第5 章「周産期

うつ病」を参照(原文の誘導に準拠)。
p.318
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フルボキサミンパロキセチンエスシタロプラムセルトラリンベンラファキシンデュロキセチンミルナシプランミルタザピンボルチオキセチントラゾドンアミトリプチンクロミプラミンノルトリプチリンイミプラミン

強中等弱なし

阻害の程度

表1. 抗うつ薬によるCYP阻害作用の程度
p.319
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トピックス7今後期待される治療

背景うつ病の治療においては、セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンといったモノアミンに作用する薬剤が、数十年にわたり中心的な役割を担ってきた。一方で、近年国際的には、従来の抗うつ薬とは異なる機序や系統から効果をもたらす抗うつ薬が注目されている。また、薬物療法に加えて、新規の脳刺激療法も研究が進みつつある。本トピックスでは、そのような治療薬のうち、米国などで抗うつ薬として最近発売された薬剤や、開発が進み2025 年2 月時点で第III相臨床試験にて有効な結果が出ている薬剤、その他特に注目されている治療を紹介する。近い将来、これらの治療の検証がさらに進み、わが国でも新たな治療選択肢となることが期待される。

Brexanolone γ-アミノ酪酸(GABA)受容体にポジティブアロステリックモジュレーターとして作用する薬剤である。投与量を調整しながら60 時間かけて投与する持続静脈注射薬で、2019 年米国で産後うつ病に対して認可された。産後うつ病を対象とした海外での2 本の第III相臨床試験では1)、brexanolone はプラセボと比較して、投与開始24〜48 時間後から7〜30 日後までの期間、一貫してハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)総スコアを有意に低下させた。有害事象としては、傾眠、潮紅・ほてり、口渇が比較的高頻度に認められたが、忍容性は高かった。

Zuranolone Brexanolone と同様にGABA 受容体のポジティブアロステリックモジュレーターとして作用するが、点滴ではなく経口薬として使用される。米国ではうつ病患者、産後うつ病患者に対し、それぞ

れ2 つの第III相臨床試験2-5)で有用性が示され、2023 年に産後うつ病に対して認可された。わが国でもうつ病患者250 名を対象として第II相臨床試験が行われ、zuranolone の14 日間の内服はプラセボに比べて、3 日後〜15 日後までのHAM-D 総点を有意に低下させた6)。治療期終了後に設けられた6 週間のフォローアップ期では、有意差は認められなかったものの、zuranolone はプラセボに比べて数値上HAM-D 総点で良好な結果を示した。有害事象の発現率はzuranolone 群で54.1〜54.9%、プラセボ群で52.3%であったが、いずれにおいても忍容性は高かった。zuranolone群で比較的頻度の高い有害事象は神経系の障害(眠気やめまい)や胃腸障害であった。同様に、国内のうつ病患者412 名を対象とした第III相臨床試験でも、zuranolone の14 日間の内服はプラセボに比べて、3 日後から15 日後までのHAM-D 総点を有意に低下させた7)。治療期間終了後に設けられた6 週間のフォローアップ期でも同様に、有意差は認められなかったものの、zuranolone はプラセボに比べて数値上HAM-D 総点で良好な結果を示した。有害事象はいずれも軽度であった。この試験の非盲検長期観察パートでは、2 週間の治療期と6 週間の休薬期を1 サイクルとして交互に設定し、合計6 サイクル実施された。いずれのサイクルにおいても治療期にはHAM-D 総点が基準時から有意に改善した8)。これらの結果から、わが国でも製造販売承認の申請が行われている。

ケタミンわが国では緩徐に静脈注射して全身麻酔薬として使用される医薬品である。粉末で使うと不思議
p.323
な感覚や幻覚を感じることから、アジアや欧米にて娯楽目的に乱用された歴史があり、今では麻薬および向精神薬取締法における麻薬に指定され、生産や流通が規制されている。ケタミンは2000 年に初めて抗うつ作用を有することが発見され9)、適応外でありながら、抗うつ薬として米国で急速に使用されるようになった10)。従来の抗うつ薬と異なり、神経細胞のN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)型グルタミン酸受容体やシナプス後α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メソオキサゾール-4-プロピオン酸(AMPA)型グルタミン酸受容体に作用するのがその特徴である11)。ケタミン治療の特長は、1即効性、2治療抵抗性うつ病(TRD)への有効性、3自殺念慮への有効性である。TRD に対してケタミンを含む各種薬物治療、電気けいれん療法(ECT)、経頭蓋磁気刺激法の効果を比較検証した無作為化比較試験(RCT)31 本の結果をまとめたネットワークメタ解析では、治療開始2 週後の結果の解析で、ケタミンはモンゴメリー-アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)総点の変化量が他のどの治療よりも大きかった12)。また、自殺念慮を有する精神疾患患者に対しても、投与から7 日後まで一貫して中等度以上の効果が示されている13)。有害事象としては、頭痛、めまい、解離症状、血圧上昇、視界のぼやけなどは、比較的頻度が高いが、いずれも投与中に認められる一過性のもので、投与終了から2 時間以内に落ち着くと報告されている。

Esketamine/Arketamine esketamine は、ケタミンからS 体のみを単離したもので、点鼻薬で使用される。米国では2019 年からTRD に対して、2020 年から自殺念慮・行動のあるうつ病に対して、認可された。週に2 回の導入療法から始めて、投与間隔を徐々に延ばし、維持療法では1〜2 週に1 回投与する。TRD 患者を対象とした2 つの海外での第III相臨床試験で、esketamine はプラセボに比べて投与

4〜24 時間後からMADRS 総点を低下させ、4 週後においても同様の効果が示された14,15)。切迫した自殺念慮で入院したうつ病患者を対象とした2つの第III相臨床試験でも、esketamine はプラセボに比べ、MADRS 総点を初回投与4 時間後から4週後まで一貫して低下させた16,17)。一方、TRD 患者を対象とした国内第II相臨床試験では、esketamine はプラセボに対する優越性が示されなかった18)。ケタミンのR 体であるarketamine にも抗うつ様効果を示す動物試験があるが19)、人を対象とした臨床研究は限られている20)。

AXS-05 NMDA 型グルタミン酸受容体拮抗薬デキストロメトルファンと、抗うつ薬bupropion を配合した薬剤である。デキストロメトルファンはわが国で鎮咳薬として使用されているが、動物実験などから抗うつ効果が期待されてきた21)。Bupropionは、直接的な抗うつ作用が期待される点と、デキストロメトルファンが急速に代謝されるのを防ぎ、その効果を維持させる点から配合されている。うつ病患者を対象とした海外での第III相臨床試験で、AXS-05 は1 週後から6 週後まで一貫して、MADRS 総点をプラセボより有意に低下させた22)。また、TRD 患者を対象とした海外の第III相臨床試験で、AXS-05 はbupropion に比べて、1〜2 週後のMADRS 総点を有意に低下させ,6 週後においては同等の効果を有した23)。これらの研究でAXS- 05 ではめまい、吐き気、頭痛などの有害事象が比較的多く報告されたが、解離症状、精神症症状、依存性については報告されなかった。

Psilocybinマジックマッシュルームともよばれるシロシベ属のキノコに含まれる成分で、セロトニン系に作用する精神展開剤に分類される。心理的支援のも
p.324
と1〜2 回の服用で、迅速かつ強力で持続的な抗うつ作用が発揮される24)。2023 年にオーストラリアが国家として初めてTRD に対する治療薬として認可した。わが国でpsilocybin は麻薬および向精神薬取締法における麻薬に指定されている。うつ病患者を対象とした海外の第II相試験では、psilocybin は待機リストに比べて、1〜4 週後のHAM-D を有意に低下させた25)。また、エスシタロプラムを対照薬とした第II相二重盲検無作為化比較試験において、psilocybin は、6 週後の抑うつ症状簡易評価尺度(QIDS)評点の変化で非劣性を示し、寛解率は有意に高かった26)。Psilocybin の主な有害事象は、投与中の情動的および身体的経験、頭痛だが、いずれも重篤でなかった。現在国内外でうつ病を対象とした臨床試験が進行中である。

磁気けいれん療法磁気けいれん療法(MST)は、変動磁場を介して治療的なけいれん発作を誘発する新規のけいれん療法である。電気けいれん療法(ECT)よりも限局的な脳領域に作用するため、認知機能障害などの副作用が軽減される可能性が指摘されている。海外では、うつ病や双極症抑うつエピソードの患者を対象として、MST とECT を比較した無作為化比較試験が2020 年までに10 本報告されている27)。これら285 名のデータを統合したメタ解析では、HAM-D 総点の変化においてMST とECTの間に有意差は認められず、認知機能障害についてはMST の方がより軽度であった。経頭蓋直流電気刺激法

経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)は、頭皮上に配置した電極から微弱な直流電流を流す低侵襲脳刺激である。装置が簡便で、副作用は皮膚刺激感や軽度の頭痛が主であり、刺激に伴う不快感や認知機能への影響は比較的少ない。2025 年までに、うつ病を対象とした38 本、精神疾患に併存する抑うつ状態を対象とした21 本、身体疾患に併存する抑うつ状態を対象とした20本の無作為化比較試験が報告されている28)。これらのデータを統合したメタ解析で、tDCS はうつ病において抑うつ症状の改善と有意な関連を示さなかった。

迷走神経刺激療法迷走神経刺激療法(VNS)は、頸部の迷走神経に電極を植え込み、埋め込み型デバイスから間欠的に電気刺激を行う治療である。手術を要する侵襲性、効果発現までに時間を要する点、デバイスコストなどの課題から普及は限定的である。うつ病や双極症抑うつエピソードを対象とした無作為化比較試験はこれまでに数本報告されており29-31)、235〜493 名を対象として通常治療との併用が検証されている。いずれの試験でも、10〜22週の抑うつ症状の変化や反応率、3〜12 か月後の反応持続期間といった主要評価項目において、VNS は優越性を示さなかった。

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Efficacy and safety of psilocybin-assisted treatment for major depressive disorder: Prospective 12-month follow-up. J Psychopharmacol 36 : 151-158, 2022 26)Carhart-Harris R, Giribaldi B, Watts R, et al :

Trial of Psilocybin versus Escitalopram for Depression. N Engl J Med 384 : 1402-1411, 2021 27)Chen M, Yang X, Liu C, et al : Comparative

efficacy and cognitive function of magnetic seizure therapy vs. electroconvulsive therapy for major depressive disorder: a systematic review and meta-analysis. Transl Psychiatry 11 : 437,

2021 28)Ren C, Pagali SR, Wang Z, et al : Transcranial

Electrical Stimulation in Treatment of Depression: A Systematic Review and Meta- Analysis. JAMA Netw Open 8 : e2516459, 2025 29)Aaronson ST, Carpenter LL, Conway CR, et al :

Vagus nerve stimulation therapy randomized to different amounts of electrical charge for treatment-resistant depression: acute and chronic effects. Brain Stimul 6 : 631-640, 2013 30)Rush AJ, Marangell LB, Sackeim HA, et al :

Vagus nerve stimulation for treatment-resistant depression: a randomized, controlled acute phase trial. Biol Psychiatry 58 : 347-354, 2005 31)Conway CR, Aaronson ST, Sackeim HA, et al :

Vagus nerve stimulation in treatment-resistant depression: A one-year, randomized, shamcontrolled trial. Brain Stimul 18 : 676-689, 2025
p.327
利益相反情報についてCPG策定にかかる参加者のCOI自己申告書(  2022,  2023,  2024年)に基づき作成。A:自己申告者自身の申告事項(策定するCPG内容に関係する企業や営利団体とのCOI状態) B:申告者の配偶者,一親等親族,または収入・財産的利益を共有する者の申告事項C:申告者の所属する組織・部門(研究機関,病院,学部またはセンターなど)の長に関する申告事項(申告者が組織・部門の長と共同研究者,分担研究者の立場にある場合に該当する)

A-1顧問A-2

株保有・利益A-3

特許使用料A-4

講演料A-5

原稿料A-6

研究費A-7

寄附金A-8

寄附講座A-9

その他B-1

顧問B-2

株保有・利益B-3

特許使用料C-1

研究費C-2

寄附金

青木 裕見天野 瑞紀大塚製薬有馬秀晃

飯田 仁志Meiji Seika ファルマ

大塚製薬ヤンセンファーマエーザイ住友ファーマ田辺三菱製薬MSD興和ヴィアトリス製薬吉富薬品EAファーマ

伊賀 淳一大塚製薬

武田薬品工業興和

伊藤 賢伸IBM

Consulting, Heathcare& Life Science Services

稲田 健エーザイ大塚製薬

住友ファーマ塩野義製薬日本ケミファMSD Meiji Seika

ファルマ住友ファーマ大塚製薬住友ファーマ

伊原 栄大塚製薬住友ファーマ
p.328
上野 文彦宇佐美 政英内田 貴仁内海 智博浦田 実

江口 尚中外製薬

武田薬品工業中外製薬長谷工エアネシス

江角 悟

大木 洋子東京リワーク

研究所東京リワーク

研究所

太田 真右太田 豊作武田薬品工業大塚 直亮岡﨑 康輔

小笠原 一能住友ファー

マ

岡島 義NECソリューションイノベーター

岡田 俊武田薬品工業

大塚製薬

小川 雄右

尾崎 紀夫武田製薬工業

住友ファーマ大塚製薬田辺三菱製薬大塚製薬

住友ファーマヴィアトリス製薬エーザイエーザイ

住友ファーマ地球快適化インスティテュートリコー大塚製薬デ・ウエスタン・セタピテクス研究所地球快適化イ

ンスティテュート大塚製薬住友ファーマエーザイ田辺三菱製薬

押淵 英弘小高 文聰越智 紳一郎
p.329
片山 奈理子武田薬品工業

大塚製薬荏原製作所ルンドベックTakeda Japan

Medical Office武田科学振興財団

香月 あすか香月 富士日

加藤 正樹大塚製薬

ヴィアトリス製薬武田薬品工業ルンドベックMeiji Seikaファルマ住友ファーマヴィアトリス

製薬大塚製薬

エーザイ住友ファーマ

河野 仁彦大塚製薬

住友ファーマ

患者家族(親)菊地 紗耶住友ファーマ

菊地 俊暁武田薬品工業

ルンドベック住友ファーマヴィアトリス製薬大塚製薬あすか製薬

岸 太郎住友ファーマ

大塚製薬エーザイMeijiSeikaファルマ武田薬品工業共和ヴィアトリス製薬ヤンセンファーマ

北川 航平

鬼頭 伸輔インターリハ

帝人ファーマジョリーグッド

帝人ファーマ日本メジフィジックス
p.330
木原 弘晶武田薬品工業

塩野義製薬

窪田 幸久ヤンセンファーマ

住友ファーマ田辺三菱製薬大塚製薬エーザイMeijiSeikaファルマ武田薬品工業ルンドベックMSD

煙山 剛史

越川 陽介武田薬品工業

ルンドベック住友ファーマ

小鳥居 望エーザイ住友ファーマ小林 鮎奈小林 由季近藤 怜苑斉藤 善貴佐久間 健二住友ファーマ櫻井 準佐藤 綾子座間味 優澤田 恭助篠原 清美清水 恒三朗清水敏幸

新里 輔鷹住友ファーマ

ルンドベック興和エーザイ
p.331
鈴木 正泰エーザイ

MSD花王エーザイ

Meiji Seikaファルマ

諏訪 太朗

高江洲 義和エーザイ

住友ファーマMSD武田薬品工業大塚製薬第一三共塩野義製薬ヴィアトリス製薬

高野 裕太フィリップ

ス・ジャパン小池メディカル

高原 正明田久保 陽司

嶽北 佳輝大塚製薬

住友ファーマヤンセンファーマMeiji Seikaファルマ

竹島 正浩エーザイ第一三共

MSD

武島 稔住友ファーマ田近 亜蘭塩野義製薬塩野義製薬田島 美幸多田 照生田中 佐千恵田村 法子
p.332
辻󠄀井 農亜武田薬品工業

大塚製薬ノーベルファーマ塩野義製薬ヤンセンファーマMSDヴィアトリス製薬吉富製薬ツムラ富山県

坪井 貴嗣大塚製薬

住友ファーマ武田薬品工業ヴィアトリス製薬

冨田 真幸

中川 敦夫住友ファーマ

エイツーヘルスケアJCRファーマMICIN武田薬品工業住友ファーマヴィアトリス製薬ルンドベック・ジャパンBiPSEE大塚製薬吉富薬品

中田 裕介忽滑谷 和孝

根本 清貴大塚製薬

PDRファーマ

野上 和香大塚製薬野田 祥子波多野 正和

馬場 元大塚製薬

ヴィアトリス製薬武田薬品工業住友ファーマ
p.333
林 晋吾

林 大祐ジョリーグッド

帝人ファーマ

原 祐子樋口 遼太郎日髙 崇博福本 健太郎住友ファーマ

藤瀬 昇ヴィアトリス製薬

武田薬品工業

藤田 純一舩槻 紀也古郡 規雄星野 藍子

堀内 史枝武田薬品工業武田薬品工

業

堀 輝武田薬品工業大塚製薬

エーザイ日本ベーリンガーンゲルハイム住友ファーマヴィアトリス製薬

前田 優那玉木 敦子町田 奈穂

松井 健太郎エーザイ

MSD日本血液製剤機構mERASMUSノーベルファーマ中外製薬第一三共ネミエル持田薬品住友ファーマ吉富薬品
p.334
松尾 幸治ヴィアトリス製薬

ヤンセンファーマ武田薬品工業大塚製薬エーザイ住友ファーマ

松田 勇紀帝人ファーマ

住友ファーマ武田製薬工業ヴィアトリス製薬大塚製薬帝人ファーマ

松本 泰幸丸木 拓

丸山 崇ミツフジ

エアウィーヴ

満田 大

三浦 至住友ファーマ

ヤンセンファーマ大塚製薬ヤンセン

ファーマ

溝渕 耕輔南 翔太南 房香三宅 誕実村尾 昌美村岡 寛之村瀬 雄士

山﨑 龍一Ubie

インターリハ

山田 和男ゆま横山 太範Meiji Seika ファルマ

吉池 卓也エーザイ

MSD田辺三菱製薬ヴィアトリス製薬MSDダイキン工業
p.335
吉沢 和久

吉田 和生第一三共

グラクソ・スミスクライン

吉野 祐太和田 周平住友ファーマ渡邉 央美

渡邊 衡一郎住友ファーマ

武田薬品工業大塚製薬ルンドベックエーザイ田辺三菱製薬日本ケミファ日本ベーリンガーインゲルハイム住友ファーマ エーザイ住友ファーマ

エーザイ

渡辺 範雄アドバンテッジリスクマネジメント