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集中治療を要する重症患者の広域および病院間搬送ガイドライン2025(本編) 日本集中治療医学会・2025・60 ページ · 集中治療・救急・蘇生
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Vol.32 Supplement 4 NOVEMBER 2025

日集中医誌J  Jpn  Soc  Intensive  Care  Med

集中治療を要する重症患者の広域および病院間搬送ガイドライン

Japanese Practice Guidelines for Inter-hospital Transport of Critically Ill Patients
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日集中医誌 2025;32:S4

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集中治療を要する重症患者の広域および病院間搬送ガイドライン

*委員長**担当理事1 防衛省航空自衛隊2 大分大学医学部救急医学3 あいち小児保健医療総合センター小児救命救急センター4 日本大学医学部附属板橋病院麻酔科・集中治療室5 島根大学医学部附属病院救命救急センター6 広島大学大学院医系科学研究科救急集中治療医学7 済生会宇都宮病院救急・集中治療科,栃木県救命救急センター8 聖マリアンナ医科大学病院小児科集中治療センターPICU 9 埼玉県立小児医療センター小児救命救急センター10 東北大学病院救急科,川崎幸病院11 東京都立多摩総合医療センター救急救命センター

12 横浜市立大学附属市民総合医療センター高度救命救急センター13 藤田医科大学医学部麻酔・集中治療医学講座14 仁愛会浦添総合病院救急集中治療部15 手稲渓仁会病院救命救急センター16 聖路加国際病院集中治療部17 国立循環器病研究センター集中治療部18 自衛隊中央病院救急科19 日立総合病院救急集中治療科・感染症科20 恵寿総合病院循環器内科21 かわぐち心臓呼吸器病院22 横浜市立市民病院臨床工学部

山口 大介1*安部 隆三2池山 貴也3市場 晋吾4岩下 義明5大下慎一郎6小倉 崇以7川口  敦8岸本 健寛9久志本成樹10清水 敬樹11竹内 一郎12中村 智之13那須 道高14奈良  理15藤田 健亮7岡野  弘16菊谷 知也6島谷 竜俊17寺山 毅郎18橋本 英樹19真弓 卓也20竹田 晋浩21相嶋 一登22西田  修13**日本集中治療医学会「集中治療を要する重症患者の広域搬送ガイドライン」作成委員会

要約:近年,体外膜型肺(extracorporeal membrane oxygenation, ECMO)による管理を必要とする患者を中心として,集中治療を要する重症患者の病院間搬送が多く実施されている。しかし,ECMOセンターや集中治療施設が,各施設の経験に基づいた搬送システムを構築し,搬送に係る費用調整やスタッフの教育等を行っているのが現状である。本邦における標準的かつ体系的な搬送体制は存在しない。諸外国においては,複数の救急・集中治療もしくは航空医療関係の学会等から病院間搬送に係るガイドラインが発表されているものの,いずれもエキスパートコンセンサスの域を出ない。この度,日本集中治療医学会「集中治療を要する重症患者の広域搬送ガイドライン」作成委員会において,搬送におけるリスク軽減と安全な搬送体制の確立に焦点を当て,ICUから他施設のICUまで病院間搬送を実施するにあたり,搬送に必要な特殊環境医学や搬送体制の標準化を示し,さらには搬送に必要な法規・規則,教育・研究に至るまで,システマティックレビューを加えたガイドラインを作成した。Key words: 1guidelines, 2critical care transport, 3mobile ICU
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目  次

I. 本ガイドラインの概要

1 名称

2 目的

3 対象患者

4 利用者

5 利用時の注意

6 本ガイドライン作成における組織構成

7 質と透明性の担保

8 作成資金

9 ガイドライン普及の方策

10 改訂予定

II. 作成方法と推奨の解釈

1 クリニカルクエスチョン(CQ)

2 システマティックレビューに関する事項

3 推奨の策定

4 CQ一覧

III. 搬送概論

CQ1. 「集中治療を要する重症患者の広域搬送」とは

何か?

CQ2. 適応となる疾患・傷病は何か?

CQ3. 重症患者の搬送についてのエビデンスは存在

するか?

CQ4. 重症患者搬送認定施設をどのように定めるか?

CQ5. 集中治療医による搬送は,搬送関連アウトカ

ムを改善するか?

CQ6. 小児の重症患者搬送において,小児専門の搬

送チームによる搬送は搬送関連のアウトカムを改善するか?

IV. 搬送準備

CQ7. 重症患者の航空搬送に必要な航空医学的課題

は何か?

CQ8. 搬送コーディネーションとは何か?

CQ9. 搬送に係る調整をどのように行うか?1(調整

先・調整手順)

CQ10. 搬送に係る調整をどのように行うか?2(調整

内容・調整に必要な書類・共有すべき情報)

CQ11. 搬送手段として陸路・回転翼機・固定翼機の

どれを選択するか?

CQ12. 搬送経路はどのように決定するか?

CQ13. 搬送に必要な医療機器は何か?

CQ14. 搬送に必要な薬剤は何か? CQ15. 医療機器に必要な電力をどのように確保するか?

CQ16. 航空搬送における電磁適合性基準とは何か?

CQ17. 航空搬送において,酸素ボンベの機内への持

ち込み制限はあるか?

V. 搬送の実際

CQ18. 安全に搬送するためには,どのような患者の

状態が求められるか?

CQ19. 搬送に適切なパッケージングとは何か?

CQ20. 搬送中のモニタリングとして何を行うか?

CQ21. 体温管理はどのように行うか?

CQ22. 鎮静管理はどのように行うか?筋弛緩薬はど

のように使用するか?

CQ23. 搬送中の急変について,どのように対処すれ

ばよいか?

CQ24. 搬送中の記録はどのように行うか?

CQ25. 航空機の運航上の不測事態に,どのように対

処するか?

CQ26. 感染症患者の搬送において,どのような感染

制御策をとるか?

CQ27. テレビ電話等,通常の電話以外のコミュニケー

ションツールは搬送関連のアウトカムを改善するか?

CQ28. 航空搬送において,地上の医療機関とどのよ

うに通信を行えばよいか?

CQ29. 不搬送となった症例の診療支援,デブリーフィ

ングはどのように行うか?

CQ30. 考慮すべき有害事象は何か?

CQ31. 考慮すべき医療安全策は何か?

VI. 法規・規則

CQ32. 搬送に係る法規・規則はどのようなものがあ

るか?

CQ33. 患者が搬送中に死亡または後遺障害を負った

際の医療上の責任や補償および賠償責任は,どのように定められているか?

CQ34. 搬送に係る諸経費は,どのように定められて

いるか?

CQ35. 重症患者搬送チームの保険・補償・労働基準・

就業規則をどのように定めるか?

VII. 教育・研究

CQ36. 教育訓練は予後を改善するか?

CQ37. 重症患者の搬送に関する研究はどのように行

うか?付録(Evidence to Decisionフレームワーク)
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-3-るものである。このため,日本集中治療医学会専門医

研修施設等の集中治療専門施設に限定することなく,搬送を必要とする患者が入院している市中の一般病院も広く対象施設となり得る。そのため対象とする利用者(本ガイドラインの利用者)は,重症患者搬送チームやICU勤務者のみならず,集中治療を要する重症患者の病院間搬送に関与する一般臨床医・看護師・薬剤師・臨床工学技士等のすべての医療従事者となる。

5 利用時の注意

広域もしくは病院間搬送に係る質の高いエビデンスは限定的であり,本ガイドラインにおいても,37題の臨床疑問(clinical question, CQ)のうち,システマティックレビュー(systematic review, SR)を実施し終えたものは3題に留まる。現時点では,全CQを通じて,ステートメントの根拠となるエビデンスの質が極めて低い,もしくはエビデンスが存在しないものがほとんどである。

他方,本ガイドラインは公共性が高いものと考えられることから,搬送における標準手順書(いわゆるマニュアル)として機能することも求められていると判断し,学術的根拠の提示に留まらず,エビデンスの質が極めて低いもしくは存在しないものでも,エキスパートによる経験に基づき最良とする搬送に係る知見であれば広く採用し提示した。エビデンスの欠如がすなわち推奨の存在価値や有益性を否定するものではない。集中治療を要する重症患者の搬送という,国や行政組織を横断して実施される事業に対しては,エビデンスが醸成されるまでのエキスパートコンセンサスが非代替性を有するものと考えられる。

6 本ガイドライン作成における組織構成

日本医療機能評価機構内に設置されているEBM医療情報部による医療情報サービス事業(Medical Information Network Distribution Service, Minds)が推奨するガイドライン作成のための組織づくりに従い,ガイドライン作成委員会のもと,ガイドライン作成グループ,SRチームおよびそれを支援する作業部会であるところのSRワーキンググループを編成した。

1) ガイドライン作成委員会委員長および担当理事のもと,集中治療を要する重症患者の搬送に係る集中治療医等のうち,ARDS診療ガイドラインおよび日本版敗血症診療ガイドライン等の日本集中治療医学会が関与するガイドライン等の作成を経験する者および搬送に係るエキスパートを中心

I.本ガイドラインの概要

1 名称

「集中治療を要する重症患者の広域および病院間搬送ガイドライン」とした。英語名称は,Japanese Practice Guidelines for Inter-hospital Transport of Critically Ill Patientsとした。委員会名とガイドライン名に相違があるのは,作成段階において,1平時における「広域」の定義が曖昧であること,2海外の研究やガイドラインにおいて,「病院内(intra-hospital)」または「病院間(inter-hospital)」という括りで整理されていることの2点を踏まえ,日本語名における「病院間」の明記とともに,英語名において「広域」という用語を用いないことにより,ガイドラインの特性を示したためである。

2 目的

第1に,集中治療を要する重症患者の広域および病院間搬送において,搬送に従事もしくは関与するすべての医療従事者が適切かつ安全な搬送を実施し,患者の予後改善に寄与し得るように,適切な判断を下す支援を行うことを目的とする。

第2に,令和4年度診療報酬改定において新設された「救急搬送診療料に重症患者搬送加算」に対して,適切な指針を示すことを目的とする。概要として「救急搬送中に人工心肺補助装置,補助循環装置又は人工呼吸器を装着し医師による集中治療を要する病態の患者について,関係学会の指針等に基づき,重症患者搬送チームが搬送を行った場合に加算する」と定められた。この診療報酬に定めるところの「関係学会の指針等」については,令和4年3月17日に日本集中治療医学会より「集中治療を要する重症患者の搬送に係る指針」が公開され,この中で,この指針に基づき本ガイドラインが作成されると示されたことから,重症患者搬送加算を取得する施設もしくはチーム等に対して「指針」として明示するものである。

3 対象患者

小児から成人に至るまで,広域もしくは病院間搬送が必要な集中治療を要する重症患者を対象とする。

4 利用者

集中治療を要する重症患者の広域および病院間搬送は,救命のために必要な治療を実施可能な医療機関が患者の居住地近傍になく,搬送以外に治療継続の選択肢がない,重篤かつ集中治療が必要な場合に実施され
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-4-のCOVID-19のパンデミックにおいて,集中治療を要

する重症患者の搬送需要の増大と,それに伴いNPO法人日本ECMOnet(以下,ECMOnet)による集中治療医の派遣に係るスキームの体制整備がなされたことを考慮し,社会的情勢に応じた改訂を行っていくものとする。

II 作成方法と推奨の解釈本ガイドラインは,Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation(GRADE)システムに準拠し,1CQの立案,2SRによるエビデンスの検索・収集・統合とその確実性の評価,3推奨の策定,の3つの工程を経て作成された。

1 クリニカルクエスチョン(CQ)

本ガイドラインは,重症患者の広域および病院間搬送に係る基礎的知識を網羅し,標準的な搬送体制の構築を目指した。このため,広く普及している臨床課題や,不確実なエビデンスに基づく臨床課題も採用している。

臨床課題は,推奨を出したフォアグラウンドクエスチョン(foreground question, FQ)だけでなく,情報提示を目的としたバックグラウンドクエスチョン(background question, BQ)が含まれる。FQには, SRの対象となり推奨策定が行われるCQと,エビデンスの確実性は低いものの,介入による有益性がその有害性を上回る可能性が高く,強い推奨を出すべきであると委員会が判断したCQであるグッドプラクティスステートメント(good practice statement, GPS)がある(Table 1)。

1) GPSの策定GPSは,Minds診療ガイドライン作成マニュアル1)において,「診療上の重要度の高い医療行為について,新たにSRを行わなくとも,明確な理論的根拠や大きな正味の益があると診療ガイドライン作成グループが判断した医療行為を提示するもの」と定義される。GPSに関しては,1実臨床の場において真に必要なメッセージとなる,2関連するすべてのアウトカムと起こり得る結果を考慮したうえで,GPSを導入することが広範な有益性をもたらす,3エビデンスを収集して要約するのは診療ガイドライン作成パネルの限られた時間と労力の無駄遣いである(機会損失が大きい), 4間接的証拠を結び付ける十分に裏付けされた明白な理論的根拠がある,の4要件すべてを満たすものとし

として構成した。本ガイドラインにおけるCQを策定し,推奨文案の策定を行った。

2) SRチーム専門的にSRを行う担当としてチームを編成し,3名の委員を以て構成した。このSRチームは,以下に述べるSRワーキンググループを統制し,SRを実施した。SRチームは,SRのみに専従し,CQの立案等には従事せず,また推奨作成等の工程とは独立した組織である。

3) SRワーキンググループ専門的にSRチームを補佐する作業部会としてのSRワーキンググループを組織した。公募のあったワーキンググループメンバー計6名から構成された。

7 質と透明性の担保

ガイドライン作成における質と透明性の担保を図る工夫のために,以下の取り組みを行った。

1) 相互査読各種作業工程の節目において,他領域班委員による相互査読を行い,修正作業を繰り返し,修正案を委員会で議論する形式をとりながら作業を進めた.

2) パブリックコメント募集日本集中治療医学会ホームページおよび同学会のメーリングリストにおいて,原則記名式でパブリックコメントを求めた。またパブリックコメント提出者からも利益相反(conflicts of interest, COI)の開示をお願いした。

3) 利益相反とメンバーの役割の開示経済的COIと学術的(アカデミック)COIならびに各メンバーの役割を巻末に開示した。

8 作成資金

本ガイドラインは,日本集中治療医学会の資金で作成した。作成にあたり,すべてのメンバーは一切の報酬を受けていない。推奨の作成にあたり,日本集中治療医学会の利益は反映されていない。

9 ガイドライン普及の方策

日本集中治療医学会の活動の一環として,学術集会や各種セミナー等において本ガイドラインの普及活動に努める。具体的には,関連団体や学会との協力・ホームページ掲載等を通じて,多面的な展開を行うことを予定している。

10 改訂予定

5年に一度の改訂予定とする。しかしながら,先般
p.6
-5-

た。GPSに関してはCQに対する推奨を作成し,委員会での協議による合意形成を実施した。

2) BQの策定BQは,重症患者の搬送に必要な基本的知識に関する内容である。BQに対する回答は推奨ではなく情報提示である。前述の「I-5. 利用時の注意」で述べたように,本ガイドラインは搬送における標準手順書としての機能も要求される。このため,エビデンスの有無に依らず標準的診療に係る情報提示が求められる。基本的には,現行の集中治療を要する重症患者の搬送において標準治療として位置付けられ,必ず実施すべきとされているもの,または広く実施されているものとした。委員会内の協議にてBQとして確定し,各領域班で文案を作成し,委員会における相互査読およびweb会議による議論・修正・改訂を繰り返して合意形成に至った。

2 システマティックレビューに関する事項

本ガイドラインのSRでの推奨の策定には,GRADEを用いた。本ガイドラインの対象は搬送が必要な重症患者であるため,PICOにおける対象患者(P)は,搬送が必要な重症患者(あるいは小児)とした。

重症患者搬送に関する既存のエビデンスが希少であるため,1)全37題のCQからSRに適したCQの選定, 2)SRによるエビデンスの検索,収集,統合とその確実性の評価,3)推奨の策定,の3つの工程を経て作成した。

1) SRに適したCQの選定SRに適したCQの選定は,SRチームによる投票とその後のビデオ会議による合意形成で最終的に3題となった。選定には,キーとなる文献があるかを軸としてSRチーム内で議論した。2) SRエビデンスの検索,収集,統合

SR対象の各CQに対する文献検索を網羅的に行い,これらの検索された文献からRCTおよびSRを抽出した。その方法論は原則としてGRADEに基づき進めた。Step 1:文献検索

文献検索は,CENTRAL,PubMed,医学中央雑誌の検索エンジンを用いて行った。検索式は,the Medical Subject Headings(MeSH)termsと自由検索語を用いて,2名以上の独立したレビュアーによって作成した。対象とする論文は,RCTのみならず,観察研究も含め,出版時期は制限しなかった。言語は日本語と英語を対象とした。事前に特定したKey RCTsが含まれていることを確認したうえで,文献検索式を最終決定し,各検索エンジンでの文献検索実施日(2022年4月)とヒット論文数を記録した。Step 2:一次スクリーニング

Step 1で特定されたすべての文献のタイトルと抄録をダウンロードした。文献管理ソフトウエアEndNote (Clarivate Analytics, USA)の自動重複除去機能に引き続いた手作業,あるいはエクセルによる手動作業にて,重複した文献を除去した。論文スクリーニング作業は,web上のRayyan(https://rayyan.qcri.org/ welcome)で行った。独立した2名のレビュアーが,文献のタイトルと抄録をレビューし,研究方法とPICOが明らかに対象とならない論文を除外した。対象論文である可能性が少しでもあれば,除外しなかった。Step 3:二次スクリーニング

Step 2で残った論文のfull textを取り寄せ,2名のSRワーキンググループメンバーがレビュアーとなり,研究デザインおよびPICOがCQに一致する論文を選択し,対象論文として確定した。2名のレビュー間で意見が一致しない文献については,3人目のレビュアーによってレビューし,3者間で話し合いを行った。

Table 1 クリニカルクエスチョン(CQ)

バックグラウンドクエスチョン(background question, BQ)疾患,診断,治療等,一般的な知識として周知されていることを問うCQ 。・標準的な知識の提示を行う。・SRは必須ではない。・推奨は提示しない。フォアグラウンドクエスチョン(foreground question, FQ)臨床現場における様々な状況に特化した情報を問うCQ 。例えば,ある特定の疾患の患者にある特定の治療は有効かといった内容で,臨床現場での決定に影響を与え得る。・治療選択の提示を行う。・GPS以外のFQでは,SRは必須である。・治療選択に関する推奨を提示する。CQ, clinical question; SR, systematic review; GPS, good practice statement.
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この段階で除外した論文については,除外理由を記録した。文献検索から対象論文決定までのプロセスは, Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses(PRISMA)flow diagramにまとめた。SRを行ったFQ型のCQについて,各CQにエビデンスの確実性(A~D)をRisk of bias/非直接性/非一貫性/不精確性/出版バイアスの5項目をもとに評価した。本ガイドラインで採用しているGRADEシステムの定めるエビデンスの確実性の定義はTable 2の通りである。Step 4:データ抽出,バイアスリスクの評価データ抽出

データ抽出,バイアスリスクの評価データ抽出は,2人の独立したレビューにより行い,標準化したデータ抽出フォームを用いた。研究ごとに以下の項目について詳細情報を抽出した(研究デザイン,研究対象者参入基準,除外基準,症例数,介入とコントロール,アウトカム)。文献に十分な情報の記載がなく,必要な場合は著者への問い合わせを行った。本SRでは量的研究のみを扱った。2名の独立したレビューにより,研究・アウトカムごとに,以下のドメインにおけるバイアスリスクを評価した。

・ランダム割り付け・割り付けの隠蔽化・患者・医療者の盲検化・評価者の盲検化・不完全なアウトカム・選択アウトカム報告・その他のバイアス (観察研究)[Risk of bias in non-randomized

studies-of interventions(ROBINS-I)の手法に則って評価した]・交絡因子によるバイアス・患者選択に伴うバイアス・群分けに関するバイアス・想定する介入とのずれ・データ欠損に伴うバイアス・アウトカム評価段階のバイアス・選択アウトカム報告

バイアスの潜在性の程度は,high,low,またはunclearと判断し,データ抽出フォームと同様に標準化されたバイアスリスクの表に記載した。バイアスの潜在性がhighと判断された場合は,その判断理由も記載した。Step 5:文献の定性的評価,定量的評価

メタ解析とエビデンスの確実性の評価採用する文献の定性的評価,定量的評価を行った。定量的評価では,可能な場合,RevMan 5(Cochrane, UK)を用いて,メタ解析を行った。それらを総括してエビデンスの確実性の評価を各CQに作成した。

3 推奨の策定

推奨の策定推奨の決定に先立ち,SRチームとワーキンググループは協働してevidence to decision(EtD)テーブルを作成した。推奨グレーディング決定の工程としては,EtD作成後,エビデンスの確実性・効果のバランス・価値観,そして,コストや資源の利用の4要因を加味し,SRチームとワーキンググループでのパネル会議により推奨を合議で策定した。GRADEシステムで示される推奨の強さは,推奨・弱い推奨・弱い非推奨・非推奨の4つのカテゴリーに分類される。推奨の強さの記載方法はTable 3の通りとした。

4 CQ一覧

CQを一覧にしたものをTable 4に示す。

文 献

1) Minds診療ガイドライン作成マニュアル編集委員会.

Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver. 3.0. 東京:日本医療機能評価機構;2021.

Table 2 エビデンスの確実性の定義

エビデンスの確実性表記解説

高A効果の推定値に強く確信がある。中B効果の推定値に中程度の確信がある。低C効果の推定値に対する確信は限定的である。非常に低D効果の推定値がほとんど確信できない。
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Table 4 CQ一覧

CQ1 BQ「集中治療を要する重症患者の広域搬送」とは何か?

・「集中治療を要する重症患者が,生命予後改善のために更なる高度医療を提供するため,都道府県境

を越えて当該高度医療の実施可能な医療機関へアクセスする際に必要となる病院間の医療搬送」と定義する。なお,搬送手段や実施主体について問わないものとする。

CQ2 GPS適応となる疾患・傷病は何か?・集中治療を要する重症患者の搬送の適応となる疾患や傷病に関して,明確な基準や定義は存在しな

い。・本邦においては,搬送をしなければ救命のための診断や治療が行えない,搬送することで救命の可能性または入院管理上の医療安全度が高まると判断される疾患・傷病が適応として挙げられる。・具体的には,臓器移植,体外式もしくは植込み型補助人工心臓やECMOの導入・治療等である。

CQ3 BQ重症患者の搬送についてのエビデンスは存在するか?・エビデンスレベルの高いSRをもとにした重症患者の搬送についてのエビデンスは乏しい。・搬送がその国の医療体制に大きく依存し,搬送以外に救命の方法がない搬送の非代替性のもとに実

施されるため,多施設でのRCT等の質の高い研究は実施し難いが,近年は徐々に質の高い研究が行われつつある。

CQ4 GPS重症患者搬送認定施設をどのように定めるか?・重症患者搬送認定施設の審査および認定は,日本集中治療医学会主導で実施されることが望ましい。

CQ5 GPS GRADE集中治療医による搬送は,搬送関連アウトカムを改善するか?・集中治療医による搬送は,搬送に係る合併症が減る可能性がある(GPS)。・広域または長時間に及ぶ搬送においての搬送関連アウトカムを改善するためには,生命維持,急変

を含めた様々な状況に対応可能な集中治療医あるいはそれと同等の医師を中心とした医療チームが搬送を行うことを弱く推奨する(GRADE 2C)。

CQ6 GPS GRADE小児の重症患者搬送において,小児専門の搬送チームによる搬送は搬送関連のアウトカムを改善するか?・小児の重症患者搬送において,小児専門の搬送チームによる搬送は搬送関連のアウトカムを,おそ

らく改善する(GPS)。・利用可能であれば小児専門の搬送チームによる搬送を弱く推奨する(GRADE 2C)。

CQ7 BQ重症患者の航空搬送に必要な航空医学的課題は何か?・最も重要な航空医学的課題は,高高度における低圧環境で生じる低酸素血症とガス容積の膨張に対

処することである。・その他,乾燥,振動・乱気流,加速度変化,照度の低下等,航空機内特有の異常環境による侵襲的

な影響に対処することである。

CQ8 BQ搬送コーディネーションとは何か?・搬送コーディネーションとは,搬送を実現するための設計とその実施に際しての安全確保の双方を

担う調整業務のことを言う。

CQ9 GPS搬送に係る調整をどのように行うか?1(調整先・調整手順)・重症患者搬送において,搬送調整が搬送準備にかかる時間の大半を占めるため,搬送の可能性が生

起した時点で調整を開始する。・自治体消防や自衛隊の航空機が搬送する場合には,都道府県庁や防衛省・自衛隊と災害派遣要請等

に係る調整や,航空機等の運航に係る調整が求められる。

Table 3 GRADEシステムで示される推奨の強さ

推奨の強さ表記解説例

推奨1介入支持の強い推奨〜することを推奨する。弱い推奨2介入支持の弱い推奨〜することを弱く推奨する。弱い非推奨2介入反対の弱い推奨〜しないことを弱く推奨する。

非推奨1介入反対の強い推奨〜しないことを推奨する。
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CQ10 GPS搬送に係る調整をどのように行うか?2(調整内容・調整に必要な書類・共有すべき情報)・搬送元医療機関と搬送先医療機関の間で,病態を中心とした情報共有のもと搬送調整を行う。・搬送理由や診療情報等に加え,病態を考慮した運航条件,搬送に伴い生じ得る病態変化,重症患者

搬送チームの構成等について共有する。

CQ11 GPS搬送手段として陸路・回転翼機・固定翼機のどれを選択するか?・搬送手段の選択の妥当性を示したエビデンスは存在しない。・原則的に,病院間の搬送距離や地理的特徴(山間部や離島・北海道・沖縄等)に基づき判断する。・ただし,総搬送時間の短縮のみならず,疾病の性質,搬送の緊急性,搬出搬入の回数,積載の可否,

搬送時の天候,搬送費用等含め総合的に検討する必要がある。

CQ12 GPS搬送経路はどのように決定するか?・原則的に,病院間の搬送距離や地理的特徴(山間部や離島・北海道・沖縄等)に基づき判断する。・総搬送時間の短縮のみならず,疾病の性質,搬送の緊急性,搬出入の回数,積載の可否,搬送時の天候,

搬送費用等含め総合的に検討する。・機内与圧装置を持たない回転翼機等を用いた搬送においては,患者の病態や使用している医療機器を考慮し,必要に応じ飛行高度制限をリクエストする。また飛行高度を優先し地形的に迂回することも考慮する。・固定翼機による搬送においては,天候その他の理由で目的地に着陸できない場合の代替空港を選定することが求められる。・陸路搬送においては,渋滞における搬送時間の遅延の回避,搬送中の容態急変等に備えた搬送経路

上の立ち寄り病院の選定を考慮した搬送経路の選定が求められる。

CQ13 GRADE GPS搬送に必要な医療機器は何か?・現時点では十分な質と量の研究が存在しないため確実な推奨はできないものの,限られたエビデン

スに基づき,重症患者の搬送において,持続血圧モニタリング・骨盤固定具・(小児に限定し)カフ付き気管チューブの使用を条件付きで推奨する(GRADE 2D)。・重症患者の搬送において,ECMO搬送の使用に特定の推奨を下すことはできない(GPS)。

CQ14 GPS搬送に必要な薬剤は何か?・第1に患者急変時において救命に必要となる薬剤,第2に患者の集中治療の継続に必要となる薬剤で

ある。・航空搬送においては,出発空港への引き返しや代替空港への着陸,運航の遅滞等を鑑み,予定搬送時間に必要な量の2倍量を準備する。・麻薬・毒薬・劇薬等,厳正な薬剤管理が必要な薬剤が含まれる。

CQ15 GPS医療機器に必要な電力をどのように確保するか?・事前に搬送に用いる医療機器の使用電力総量を計算し,搬送手段から供給される電力量との需給の

差を評価する。・電源使用が困難,もしくは電源供給量が使用電力量より低いことが予想される場合には,十分な予

備バッテリーを準備する。ただし民間旅客機等では,バッテリーの持ち込みにおいて,事前に運航者の許可を得る必要がある。

CQ16 BQ航空搬送における電磁適合性基準とは何か?・航空機に医療機器を搭載するためには,個々の機器における電磁適合性基準について,把握してお

くことが必要である。・本邦では航空搬送における統一した電磁適合性基準が存在せず,搬送を実施する組織(機関)や運航会社ごとに定められている。・搬送計画の立案段階で,搬送を実施する組織(機関)や運航会社に対し,予め医療機器の電磁適合性について照会し,必要に応じ搭載試験等の事前検証を行う。・機内での医療機器の使用にあたり,除細動器等は必要に応じて使用に係る機長許可を取るとともに,

万一の電磁干渉に備え電源停止時の対応策を準備しておく必要がある。

CQ17 BQ航空搬送において,酸素ボンベの機内への持ち込み制限はあるか?・酸素ボンベは,国際航空運送協会で航空危険物と定められていることから,機内への持ち込み要領

が定められ,ボンベサイズおよび重量が制限されている。

Table 4 CQ一覧(つづき)
p.10
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CQ18 GPS安全に搬送するためには,どのような患者の状態が求められるか?・搬送元医療機関において,搬送前に患者の病態の安定化(安定化処置)が図られていることが求めら

れる。・チェックリストを用い,気道・呼吸・循環・神経を評価し,生理学的指標を最適化し,更に搬送中の侵襲を考慮した搬送前の医学的介入が行われていることが求められる。・具体的には,二次的気道確保,人工呼吸管理,カテコラミンや輸液・輸血の投与,ECMOやIABP等

の補助循環装置の導入,鎮静薬や筋弛緩薬の投与等である。

CQ19 GPS搬送に適切なパッケージングとは何か?・十分な活動スペースの確保を前提とし,トラブル発生を迅速に認識し,確実にそれに対応をするた

めのデバイスへのアクセスや視認性を担保した搬送形態を言う。・すべての搬送に対応可能な画一的なパッケージングは存在しない。・適切なパッケージングは,搬送手段や経路,搬送資機材によって異なる。

CQ20 GPS搬送中のモニタリングとして何を行うか?・搬送による侵襲が病態に与える影響を考慮し,一般的なバイタルサインに加え,より詳細なモニタ

リングの追加を検討する。・気道・呼吸管理において,経皮的酸素飽和度測定に加えカプノメータを使用する。・搬送中は,心電図モニターに対するノイズの混入や,マンシェットによる血圧測定が正確に測定し得ない状況が生起するため,観血的血圧測定を考慮する。・人工呼吸やECMO等を使用する患者においては,ACTや血液ガス等,POCTデバイスの活用によ

り,より多くの生体情報を得ることが望ましい。

CQ21 GPS体温管理はどのように行うか?・重症患者の搬送時には,中枢温でのモニタリングが望ましい。末梢温のモニタリングが困難な場合は,

鼓膜温または口腔温で代用する。・重症患者では鎮静鎮痛薬や筋弛緩薬の使用による熱産生抑制が起こるため,搬送中は低体温が生じやすく,搬送開始前から搬送終了までの持続的な体温評価と管理が重要である。・加温法として,受動的加温のみならず能動的加温も考慮する。ただし,能動的加温は電力消費量や

電磁適合性から実施し得ないことも考慮する必要がある。

CQ22 GPS鎮静管理はどのように行うか?筋弛緩薬はどのように使用するか?・搬送中の鎮静管理は,浅鎮静を回避するためBISモニターや鎮静のスケール等を用いて繰り返し評価

を行う。・搬送においては,人工呼吸器との同調性や安全性を確保するため不動化の目的で筋弛緩薬を使用す

ることは一般的である。ただしその適応について精査を要する。

CQ23 GPS搬送中の急変について,どのように対処すればよいか?・病態と搬送中の侵襲から,搬送中の急変を予測し,急変に適切に対処し得る搬送体制を構築する。・航空搬送中の急変については,必ず機長に報告のうえ,処置を開始する。除細動については,通電

する際には機長許可を得る。・ECMOや人工呼吸管理中の患者の急変に対しては,対処可能な人員の同乗,医療資器材の準備,代替手技等を確保する。・搬送に用いる航空機では,地上との交信が不可能であることが多く,急変時の診療方針の決定につ

いて事前に申し合わせておく必要がある。

CQ24 GPS搬送中の記録はどのように行うか?・重症患者搬送において有害事象の減少と記録作業の軽減を両立させた,簡便で質の高い診療記録の

テンプレートやチェックリストを導入することが望ましい。・記録媒体のIT化・IOT化を推進し,記録の自動化を図ることが期待される。・記録媒体としての動画の活用も検討される。

CQ25 GPS航空機の運航上の不測事態に,どのように対処するか?・不測事態対処に係るチェックリストの作成が求められる。・乱気流等により航空機に大きな揺れが生じた場合には,揺れによる身体損傷,医療機器の損傷,医

療デバイス(気管チューブ,点滴ライン,ECMOカニューレ,IABP等)の変位,抜去等を速やかに検索する。・着陸の遅延や代替空港への着陸または引き返しが生じた場合には,薬剤や医療ガス等の残量の評価と医療の継続の可否を評価し,診療計画を再構築する。・急減圧事象が生じた場合には,患者の病態の変容と医療機器の正常作動を評価する。特にECMOに

おける微小な気泡の発生に留意する。

Table 4 CQ一覧(つづき)
p.11
-10-

CQ26 GPS感染症患者の搬送において,どのような感染制御策をとるか?・搬送に用いる航空機の選択と,航空機内,特に客室の空気の流れ(気流)が重要である。・客室の微生物によって汚染気が操縦室に流れず,かつ汚染気が客室内を再循環しない空調システム

であることが求められる。・エアロゾルが発生する手技においては空気予防策が求められる。・航空耐性を有したアイソレーターの使用が望ましい。

CQ27 GPSテレビ電話等,通常の電話以外のコミュニケーションツールは搬送関連のアウトカムを改善するか?・現時点では明確に重症患者搬送でのテレビ電話等のコミュケーションツールの使用を推奨・否定す

る根拠は乏しい。

CQ28 GPS航空搬送において,地上の医療機関とどのように通信を行えばよいか?・患者搬送に固定された航空機では,カンパニー無線等の使用が考慮される。また衛星電話の使用も

考慮される。Wi-Fiの使用が可能な航空機では,Wi-Fiによる通信が考慮される。

CQ29 GPS不搬送となった症例の診療支援,デブリーフィングはどのように行うか?・不搬送の判断を下した場合,搬送先医療機関が搬送元医療機関と十分に協議したうえで,不搬送理

由を患者家族にインフォームド・コンセントを行う。・不搬送が決定した後は,事例検証のため双方の医療機関間で,デブリーフィングの機会を設け,不

搬送とした判断の妥当性,紹介のタイミングや診療支援の方法等の課題点を抽出し,医療機関間の診療体制の構築,診療の質の向上につなげる。

CQ30 GPS考慮すべき有害事象は何か?・有害事象は,患者由来,機器由来,コミュニケーションエラー等,様々な要因で発生し得る。・搬送中の特殊な環境因子により,医療行為に瑕疵がなくても結果的に患者の病態に有害事象が発生

する可能性がある。

CQ31 GPS考慮すべき医療安全策は何か?・有害事象を回避するためには,搬送前・搬送中・搬送後においてチェック項目を設け,それらを

チェックリスト化し,施設ごとに搬送に係る標準手順を策定することが求められる。

CQ32 BQ搬送に係る法規・規則はどのようなものがあるか?・陸路搬送においては,道路交通法および道路交通法施行令,航空搬送においては航空法および航空

法施行規則が該当する。・自衛隊に災害派遣要請を行う場合には,自衛隊法が該当する。・搬送においても医師法・医療法をはじめとする衛生関連法規に従う。

CQ33 BQ患者が搬送中に死亡または後遺障害を負った際の医療上の責任や補償および賠償責任は,どのように定められているか?・現時点では,搬送患者に対する補償を定めた公的な根拠は存在せず,搬送を担う組織や搬送に係る

医療機関によって独自に定められている。

CQ34 BQ搬送に係る諸経費は,どのように定められているか?・令和4年度の診療報酬改定で,ECMOや人工呼吸器等を装着した重症患者の搬送を重症患者搬送

チームが行った場合,病院間搬送においても救急搬送診療料が加算可能となり,加えて重症患者搬送加算が算定できるようになった。・搬送に係る費用(搬送チームの人員や資機材の移動・運搬費,人件費,医薬品費,材料費)のうち,

診療報酬として請求できるものは療養の給付に係るものに限定される。

CQ35 GPS重症患者搬送チームの保険・補償・労働基準・就業規則をどのように定めるか?・搬送チームへの有害事象等を補償する枠組みについて検討されることが望ましい。・患者の転帰に影響を与える搬送中の有害事象の発生リスクを最小化するために,病院勤務に比し一

層厳格な労働基準の遵守,就業制限が求められる。

CQ36 GPS教育訓練は予後を改善するか?・教育訓練は,搬送チームの搬送スキルを向上し,搬送関連のリスクを軽減することによって,搬送

後の生命予後を改善し得る可能性がある。

CQ37 GPS重症患者の搬送に関する研究はどのように行うか?・重症患者の搬送に係るレジストリの構築が望まれる。・対象となる症例数が少ないことが予測されるため,既存のレジストリや研究の枠組みに組み入れる

ことを検討する。

CQ, clinical question; BQ, background question; GPS, good practice statement; SR, systematic review; GRADE, Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation; ECMO, extracorporeal membrane oxygenation; IABP, intraaortic balloon pumping.

Table 4 CQ一覧(つづき)
p.12
-11-隊機等の航空機を用いて対象患者を被災地内の航空搬

送拠点から被災地外の航空搬送拠点まで航空搬送する医療搬送をいう。広域医療搬送は,被災地域および被災地域外の民間や自衛隊の空港等に航空搬送拠点を設置して行う。(1-2)地域医療搬送

地域医療搬送とは,被災地内外を問わず,都道府県,市区町村および病院が,各防災関係機関の協力を得て,ヘリコプター,救急車等により患者を搬送する医療搬送(県境を越えるものも含む)であって,広域医療搬送以外のものをいう。災害現場から被災地域内の医療機関への搬送,被災地域内の医療機関から近隣地域への搬送,被災地域内の医療機関から航空搬送拠点臨時医療施設(staging care unit, SCU)への搬送および被災地域外のSCUから医療機関への搬送を含む。

2) COVID-19対策に関わる医療搬送についてCOVID-19に係る患者の移送・搬送の実施について,厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部は「新型コロナウイルス感染症の患者数が大幅に増えたときに備えた入院医療提供体制等の整備について(改訂)」の中で,都道府県境を越えたCOVID-19患者の移送・搬送の必要性を予知し,同搬送を「広域移送・搬送」と呼称した。加えて厚生労働省は,同感染症における広域搬送について,同省から日本集中治療医学会・ECMOnetへの委託事業である「重症者治療搬送調整等支援事業」の活用を各都道府県に対して示し3),そのうえで同広域搬送を実施する際の注意事項として,「新型コロナウイルス感染症の重症患者を3時間以上かけて移送・搬送することはリスクが高いため,広域移送・搬送の対象となる患者の選択や搬送手段等について慎重に考慮すること」を挙げた4) 。

以上より,本邦の医療体制とCOVID-19対策の歴史的背景をふまえ,本ガイドラインでは「集中治療を要する重症患者の広域搬送」の定義を「生命予後改善のために更なる高度医療を提供するため,都道府県境を越えて当該高度医療の実施可能な医療機関へアクセスする際に必要となる病院間の医療搬送」と定義する。なお,欧米や豪州の学会が示す重症患者の搬送に関するガイドラインにおいても,搬送距離および時間に関する用語は定義されておらず5)〜7),物理的な距離や時間で定義することは困難である。また,搬送手段は,患者の全身状態や疾患の特性,地域的な背景等から個々の症例において最適な手段を選択することが望ましく,ここでは搬送手段および広域搬送の実施主体も限定しない。

III 搬送概論

CQ1:「集中治療を要する重症患者の広域搬送」とは

何か?

Answer:「集中治療を要する重症患者が,生命予後改善のために更なる高度医療を提供するため,都道府県境を越えて当該高度医療の実施可能な医療機関へアクセスする際に必要となる病院間の医療搬送」と定義する。なお,搬送手段や実施主体について問わないものとする(BQに対する情報提示)。

平時の本邦の医療は,地域の実情に応じた医療提供体制を確保するため,医療法第30条に基づき,厚生労働大臣の定める基本方針(良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図るための基本的な方針)に即し,都道府県が医療計画を策定している。医療計画は昭和60年の医療法改正により導入され,医療資源の地域的偏在の是正と医療施設の連携推進を目的に,二次医療圏ごとの基準病床数,病院の整備目標,医療従事者の確保等が計画としての記載事項とされた。よって本邦の医療提供体制は,都道府県単位で構築されることになった。

しかしながら,計画医療の枠外にある臓器移植や体外式もしくは植込み型補助人工心臓(ventricular assist device, VAD)等の高度医療は,すべての都道府県で提供できる体制となってはおらず,同医療を要する重症患者は,時に自らが都道府県単位で構築される医療圏域を越えて当該高度医療実施可能医療機関へアクセスすることが求められる。そのため,都道府県境を越えた重症患者の転院搬送が蓋然的に発生することになる。

医療計画は都道府県単位で記載されるため,計画医療の範囲内では,平時における都道府県境を越えた患者搬送についてシステム整備することは困難をともなう。実際,都道府県境を超えた公的患者搬送システムは,国の防災基本計画1)および災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team, DMAT)活動要領2)において記載があるのみである。

1) 災害時の医療搬送について本邦では,災害時においてのみ医療搬送区分が設けられており,1広域医療搬送と2地域医療搬送の2つに分類される2) 。(1-1)広域医療搬送

広域医療搬送とは,国が各機関の協力のもと,自衛
p.13
-12-的に患者に及び得る危険である。つまり,搬送による

「利益」と「リスク」を評価して搬送の適否を決定しなければならない3),6) 。「リスク」には,搬送に関連する有害事象や予後の増悪のみならず,搬送せずに搬送元医療機関で診療を継続することによる予後への影響等も含まれる。搬送に関連する有害事象は,バイタルサインの変化,機器のトラブル,予期せぬ重篤な合併症まで多岐にわたる7)〜9) 。病院間搬送の有害事象を分析したメタ解析では,有害事象の発生率は11%(1,059件)で,最も多い有害事象は血圧低下424件,その他,呼吸状態の不安定化115件,心肺停止53件等であった10) 。

搬送が考慮されるのは,搬送をしなければ救命のための診断や治療が行えない,搬送することで,救命の可能性または入院管理上の医療安全度が高まると判断されることが必要である。つまり,救命のために必要不可欠な治療を実施可能な医療機関が患者の居住地近傍になく,搬送以外に治療継続の選択肢がない重篤かつ集中治療が必要な疾患・傷病と定義される。具体例として,臓器移植,すべての都道府県において実施可能ではない体外式もしくは植込み型補助人工心臓(VAD)の導入を要する患者2),症例数の多い施設の方が良好な転帰が期待されるECMO患者11),全国にわずか4箇所のみの特定感染症指定医療機関での診療が必要な1類感染症等の感染症患者,NICUやPICUでの管理を要する周産期疾患や小児外科手術を要する重度の先天性疾患等の患者,その他重度の臓器不全があり高度医療が必要な患者等が該当する。その他, COVID-19のように,通常は感染症予防法に基づき発生地である都道府県で治療が行われるべき新興感染症の症例であっても,感染者の急増に伴いECMO管理等の特殊な治療が必要な重症症例が増えた際には,搬送が必要な症例が該当する。

文 献

1) Australian College of Emergency Medicine. PG52 Guideline for transport of critically ill patients 2024. [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.anzca.edu.au/getattachment/ bd5938d2-d3ab-4546-a6b0-014b11b99b2f/PS52-Guideline-fortransport-of-critically-ill-patients 24f2af3e5ebf/ Guidelines_for_the_Transport_of_Critically_Ill_Patients 2) 日本循環器学会,日本心臓血管外科学会,日本胸部外科学会,他.2021年改訂版 重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドライン.2021. [cited 2025 Feb 1]. Available from: https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/ uploads/2021/03/JCS2021_Ono_Yamaguchi.pdf 3) Warren J, Fromm RE Jr, Orr RA, et al; American College of Critical Care Medicine. Guidelines for the inter- and intrahospital transport of critically ill patients. Crit Care Med 2004;32:256-62. 4) Ligtenberg JJ, Arnold LG, Stienstra Y, et al. Quality of

interhospital transport of critically ill patients: a

文 献

1) 内閣府中央防災会議.防災基本計画.令和5年5月. 2) 厚生労働省医政局地域医療計画課.日本DMAT活動要領の一部改正について.医政地発0208第1号.令和4年2月8日. 3) 厚生労働省.「重症者治療搬送調整等支援事業」を活用した集中治療の専門家等派遣.[cited 2022 Aug 1] Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/000819683.pdf 4) 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部・厚生労働省健康局結核感染症課.新型コロナウイルス感染症に係る広域移送・搬送の実施方法について(事務連絡).令和3年8月17日. 5) Warren J, Fromm RE Jr, Orr RA, et al; American College of Critical Care Medicine. Guidelines for the inter- and intrahospital transport of critically ill patients. Crit Care Med 2004;32:256-62. 6) Australian College of Emergency Medicine. PG52 Guideline for transport of critically ill patients 2024. [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.anzca.edu.au/getattachment/ bd5938d2-d3ab-4546-a6b0-014b11b99b2f/PS52-Guideline-fortransport-of-critically-ill-patients 24f2af3e5ebf/ Guidelines_for_the_Transport_of_Critically_Ill_Patients 7) The Faculty of Intensive Care Medicine. Guidance on:

Transfer of the Critically Ill Adult. [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.ficm.ac.uk/sites/ficm/files/ documents/2021-10/Transfer_of_Critically_Ill_Adult.pdf

CQ2:適応となる疾患・傷病は何か?

Answer:・集中治療を要する重症患者の搬送の適応となる

疾患や傷病に関して,明確な基準や定義は存在しない(good practice statement)。・本邦においては,搬送をしなければ救命のため

の診断や治療が行えない,搬送することで救命の可能性または入院管理上の医療安全度が高まると判断される疾患・傷病が適応として挙げられる(good practice statement)。・具体的には,臓器移植,体外式もしくは植込み

型補助人工心臓やECMOの導入・治療等である(good practice statement)。

集中治療を要する重症患者の搬送の適応となる疾患や傷病に関しては,明確な基準や定義は存在しない。欧米および豪州の学会では,重症患者の搬送の安全性を向上させるために,搬送前の計画と調整,機器,モニタリング,搬送手順等のルールを定めたガイドラインを作成しているが,病院間搬送の適応となる疾患についての詳細な記述は認めない1)〜3) 。患者の病院間搬送,中でも搬送に係る有害事象が生起し得る重症患者の搬送を考慮するうえで重要なことは,「利益」と「リスク」の評価である4),5) 。「利益」とは患者の転帰の改善につながる診断や治療を指し,「リスク」とは潜在
p.14
-13-されるので,多施設でのRCT等の質の高い研究がし

難いこと,第2に搬送に係る研究のアウトカムが均一ではなく,多くの研究は搬送に限局した短期的な安全性もしくは有害事象を対象とするものの,搬送関連の有害事象が搬送後に発生する可能性を排除し得ないこと,第3に有害事象に関して異なる定義が使用され,また定量的な評価を為し得ないため,研究間でのばらつきが発生すること等,複数の要因が考えられる。

そのような限界のある中,近年は少しずつSRを行う試みが見られるようになってきている。最近発刊された英国集中治療医学会のガイドラインでは,2009年から2017年までのSRが実施されたが,ほとんどの文献が単施設または症例報告レベルのエビデンスレベルとしては弱いものしかなかったとされた2) 。搬送の非代替性という限界についても,臨床上の理由によらない患者移送は,プロペンシティスコアをマッチさせた非移送群に比較して転院により死亡率は変わらないものの集中治療期間が3日間延長したことを示した研究6)等,徐々に質の高い研究が増えてきている。

また,観察研究ではあるもののExtracorporeal Life Support Organization(ELSO)のregistry based studyは,全世界規模の大規模な症例集積のもとに実施されており,今後,本邦においても日本集中治療医学会等が主導のうえ,集中治療を要する重症患者の搬送に係るレジストリを構築することで,相応に質が担保された研究が可能になると考える。

文 献

1) Australian College of Emergency Medicine. PG52 Guideline for transport of critically ill patients 2024.  [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.anzca.edu.au/getattachment/ bd5938d2-d3ab-4546-a6b0-014b11b99b2f/PS52-Guideline-fortransport-of-critically-ill-patients 24f2af3e5ebf/ Guidelines_for_the_Transport_of_Critically_Ill_Patients 2) The Faculty of Intensive Care Medicine. Guidance on: Transfer of the Critically Ill Adult. [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.ficm.ac.uk/sites/ficm/files/ documents/2021-10/Transfer_of_Critically_Ill_Adult.pdf 3) Warren J, Fromm RE Jr, Orr RA, et al; American College of Critical Care Medicine. Guidelines for the inter- and intrahospital transport of critically ill patients. Crit Care Med 2004;32:256-62. 4) Beninati W, Meyer MT, Carter TE. The critical care air transport program. Crit Care Med 2008;36:S370-6. 5) Fanara B, Manzon C, Barbot O, et al. Recommendations for the intra-hospital transport of critically ill patients. Crit Care 2010;14:R87. 6) Barratt H, Harrison DA, Rowan KM, et al. Effect of

non-clinical inter-hospital critical care unit to unit transfer of critically ill patients: a propensity-matched cohort analysis. Crit Care 2012;16:R179.

prospective audit. Crit Care 2005;9:R446-51. 5) Droogh JM, Smit M, Absalom AR, et al. Transferring the critically ill patient: are we there yet? Crit Care 2015;19:62. 6) Eiding H, Kongsgaard UE, Olasveengen TM, et al. Interhospital transport of critically ill patients: A prospective observational study of patient and transport characteristics. Acta Anaesthesiol Scand 2022;66:248-55. 7) Fanara B, Manzon C, Barbot O, et al. Recommendations for the intra-hospital transport of critically ill patients. Crit Care 2010;14:R87. 8) Frost E, Kihlgren A, Jaensson M. Experience of physician and nurse specialists in Sweden undertaking long distance aeromedical transportation of critically ill patients: A qualitative study. Int Emerg Nurs 2019;43:79-83. 9) Eiding H, Røise O, Kongsgaard UE. Potentially Severe Incidents During Interhospital Transport of Critically Ill Patients, Frequently Occurring But Rarely Reported: A Prospective Study. J Patient Saf 2022;18:e315-9. 10) Jeyaraju M, Andhavarapu S, Palmer J, et al. Safety Matters: A Meta-analysis of Interhospital Transport Adverse Events in Critically Ill Patients. Air Med J 2021;40:350-8. 11) Barbaro RP, Odetola FO, Kidwell KM, et al. Association

of hospital-level volume of extracorporeal membrane oxygenation cases and mortality. Analysis of the extracorporeal life support organization registry. Am J Respir Crit Care Med 2015;191:894-901.

CQ3:重症患者の搬送についてのエビデンスは存在

するか?

Answer:・エビデンスレベルの高いSRをもとにした重症

患者の搬送についてのエビデンスは乏しい(BQに対する情報提示)。・搬送がその国の医療体制に大きく依存し,搬送

以外に救命の方法がない搬送の非代替性のもとに実施されるため,多施設でのRCT等の質の高い研究は実施し難いが,近年は徐々に質の高い研究が行われつつある(BQに対する情報提示)。

複数の国の救急・集中治療関係学会において,集中治療を要する重症患者の搬送に係るガイドラインやポリシー・ステートメントが挙げられている1),2) 。しかし,2000年代前半までは,ガイドラインと名の付く文献であっても,ほとんどがナラティブレビューに基づくgood practice statement(GPS)もしくはエキスパート・オピニオンであり,エビデンスレベルの高いSRをもとにしたGRADE systemによる推奨の格付けはされていない3)〜5) 。

これは,第1に搬送がその国や地域の政治や地形,医療システム等の地域性に大きく依存し,搬送以外に救命の方法がないという搬送の非代替性のもとに実施
p.15
-14-機関へと搬送する一連の過程は,病院外においても集

中治療管理が必要であることによる。搬送する医療機器においても,単に搬送用に特化したものではなく,搬送中も集中治療を提供し得る性能を具有したものでなければならない。搬送中に使用する薬剤もICUで使用している薬剤を継続して提供し得ることが求められる。集中治療を要する重症患者の搬送には人的・物的インフラ両面の構築が求められ,これらの質の担保を確保し得るために,日本集中治療医学会認定施設要件を満たすICUを有していることが求められる。2集中治療専門医もしくは同等の診療を行い得る医師

を含む多職種からなる重症患者搬送チームを有していること同チームは,日本集中治療医学会認定集中治療科専門医もしくは同等の診療を行い得る医師,日本看護協会認定集中ケア認定看護師,もしくは同等の看護を行い得る看護師,日本集中治療医学会の定める集中治療専門臨床工学技士もしくは同等の臨床工学業務を行い得る臨床工学技士等により構成される,多職種医療チームであることが望ましく,これらの者が綿密な連携のもとで相互補完的に機能を発揮し,搬送中における集中治療の提供を適切に実施することが求められる。なお,重症患者搬送チームの構成要素については各国・各機関間で大きな差異が認められているのが実情であり3),重症患者搬送チームを構成する総職種数や総人数においても,同様である3)〜5) 。本邦における実搬送においては,搬送対象となる患者の病態や重症度,搬送手段や搬送距離に応じ,同チームの構成を工夫する必要がある。

また小児集中治療やECMO搬送等,専門性が極めて高い症例においては,それぞれにおける研修・講習やワークショップ,トレーニングプログラム等を履修していることが望ましい。

なお,重症患者搬送チームの編成において,実働の際適任看護師や適任臨床工学技士の出動が実現できない場合は,日本集中治療医学会認定集中治療科専門医もしくは同等の診療を行い得る医師等を追加で参集し,チーム内の看護師および臨床工学技士の役割を代行することが求められる。3適正に搬送用医療機器を管理・保有していること

いかなる搬送環境にあっても安全かつ適切な集中治療の供給を可能にするために,搬送用医療機器の特性を知悉した臨床工学技士のもとで,適正に管理されていることが求められる。4定期的な教育・訓練を実施していること

ICU管理に優れた集中治療医が,必ずしも重症患者

CQ4:重症患者搬送認定施設をどのように定める

か?

Answer:・重症患者搬送認定施設の審査および認定は,日

本集中治療医学会主導で実施されることが望ましい(good practice statement)。

1) 救急搬送診療料における重症患者搬送について令和4年度の診療報酬改定より,救急搬送診療料に係る個別改訂項目として,「重症患者搬送加算」が算定された。これは,「救急搬送中に人工心肺補助装置,補助循環装置又は人工呼吸器を装着し医師による集中治療を要する状態の患者について,関係学会の指針等に基づき,患者の搬送を行う場合」において算定可能であり,算定要件として,重症患者搬送チームの要件および施設基準が示された。本ガイドラインにおいて,重症患者搬送チームが保有すべき搬送用資機材,教育・研修等について基準を示し,重症患者搬送チームが設置される施設を「重症患者搬送認定施設」と呼称し,これに係る施設基準について考察し,搬送の質の担保および質の均てん化に資することを企図する。

2) 重症患者搬送認定施設・重症患者搬送チームの

基本的要件重症患者搬送認定施設の基本的要件として,救急搬送診療料の重症患者搬送加算に係る診療報酬点数表において「厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方構成局長等に届け出た保険医療機関」とあり,その詳細は「当該保険医療機関内に,(中略)重症患者搬送チームが設置されていること」とし,その構成として「集中治療の経験を5年有する医師,看護師,臨床工学技士」と定められている。さらにそれぞれ職種において,医師は「集中治療の5年以上の経験(小児患者を搬送する場合には,小児の特定集中治療の経験)を5年以上有すること」,看護師は「集中治療看護の5年以上の経験に加え,集中治療認定看護師であること」が望ましい,と定められている。

これを踏まえ,本ガイドラインにおいては,重症患者搬送チームの母体となる医療機関,すなわち重症患者搬送認定施設が,以下の4要件を満たしていることを提案する。1日本集中治療医学会認定施設要件を満たす集中治療

室を有していること欧州諸国においては,重症患者搬送は集中治療医を中心に,集中治療に熟知した看護師等とともに行われている1),2) 。これは,搬送元医療機関から搬送先医療
p.16
-15- CQ5:集中治療医による搬送は,搬送関連アウトカ

ムを改善するか?

Answer:・集中治療医による搬送は,搬送に係る合併症が

減る可能性がある(good practice statement)。・広域または長時間に及ぶ搬送においての搬送関

連アウトカムを改善するためには,生命維持,急変を含めた様々な状況に対応可能な集中治療医あるいはそれと同等の医師を中心とした医療チームが搬送を行うことを弱く推奨する(GRADE 2C)。

集中治療医や重症患者搬送に長けた搬送チームによる病院間搬送が行われていないことがある。集中治療を要する重症患者の搬送において,集中治療医を含む集中治療チームによる搬送に対して,それ以外の搬送チームによる搬送を比較対照とし,搬送後ICU死亡,病院死亡,搬送中有害事象,病院あるいはICU滞在日数をアウトカムとして,SRを行った。

重篤な状況にある,あるいは重篤な状況に陥る可能性のある患者を搬送する際には,限られた医療資源,環境の中で気道,呼吸,循環等全身管理を行う必要がある。搬送する患者層や搬送時間,あるいは地域ごとの医療システム等,搬送やそのアウトカムに与える因子は多岐にわたるため,搬送後の遠隔期死亡率等に搬送そのものが与える影響は明確ではない。しかし,集中治療に習熟した医師を含む搬送チームが搬送を行うことによって,搬送そのものに関連する合併症(低血圧,低酸素血症,計画外抜管等)が減る可能性がある。特に広域長時間に及ぶ搬送については,生命維持,急変を含めた様々な状況に対応可能な集中治療医あるいはそれと同等の医師を中心とした医療チームが行うべきである。

ただし,集中治療医の人的資源が制約的であることを鑑みると,集中治療医による重症患者の搬送を行うには,搬送手段とともに,対応可能な医師,搬送チームを配置し,また待機させる必要がある。また特に広域搬送の場合は,準備から搬送終了,帰還まで医療者の長時間の拘束が発生する。また医療者の教育も必要となる。これらに対しての増分費用が必要であることに留意が必要である。

1) 背景集中治療医や重症患者搬送に長けた搬送チームによる患者病院間搬送が行われていないことがある。

搬送チームのスタッフとして適格であるとは限らない6) 。搬送という特殊な環境下では,あらゆる可能性を予測し,予防・解決する能力が必要であり7),重症患者搬送チームを養成するためには定期的な教育・訓練を行うことが重要である6),7) 。施設ごとに日本集中治療医学会の定める基準に準じた教育・訓練を実施するとともに,搬送の質の均質化を図るために,日本集中治療医学会および関連学会等の主導による重症患者搬送シミュレーショントレーニングの創出等も検討される。

3) 重症患者搬送認定施設への補償さらに,重症患者搬送は合併症を生じるリスクが極めて高いものであることから,重症患者搬送施設における重症患者搬送チームが搬送に従事した症例における有害事象の発生に対して,一定の条件下で公的に補償する制度の創設が望まれる。

文 献

1) Ligtenberg JJ, Arnold LG, Stienstra Y, et al. Quality of interhospital transport of critically ill patients: a prospective audit. Crit Care 2005;9:R446-51. 2) Kiss T, Bölke A, Spieth PM. Interhospital transfer of critically ill patients. Minerva Anestesiol 2017;83:1101-8. 3) Broman LM, Dirnberger DR, Malfertheiner MV, et al. International Survey on Extracorporeal Membrane Oxygenation Transport. ASAIO J 2020;66:214-25. 4) Ehrentraut SF, Schroll B, Lenkeit S, et al. Interprofessional two-man team approach for interhospital transport of ARDS-patients under extracorporeal membrane oxygenation: a 10 years retrospective observational cohort study. BMC Anesthesiol 2019;19:19. 5) Wilhelm MJ, Inderbitzin DT, Reser D, et al. Outcome of inter-hospital transfer of patients on extracorporeal membrane oxygenation in Switzerland. Swiss Med Wkly 2019;149:w20054. 6) Droogh JM, Smit M, Hut J, et al. Inter-hospital transport of critically ill patients; expect surprises. Crit Care 2012;16:R26. 7) Droogh JM, Kruger HL, Ligtenberg JJ, et al. Simulator-

based crew resource management training for interhospital transfer of critically ill patients by a mobile ICU. Jt Comm J Qual Patient Saf 2012;38:554-9.
p.17
-16-室から小児病院PICUへ搬送された症例について,

PICU搬送チームとEmergency Medical Service (EMS)により搬送された症例の比較を行い,搬送後24時間の調整後死亡のORは1.28(95% CI:0.49〜3.37)であった9) 。Bellinganらは米国で迎えのICU搬送チームによる搬送と,紹介元医療者による搬送を比較している。6時間以内の死亡については調整なしでORは0.13(95% CI:0.01〜1.35)であった15) 。Meyerの報告を除き専門チームによる搬送はそうでない場合に比して,短期死亡は減る傾向にあった。(3-2)遠隔期死亡

Koifmanらはイスラエルにおいて急性冠動脈疾患の患者の搬送をICU搬送チームが行った場合とそうでない場合を比較検討し,両者ともに30日死亡率は7%であったと報告している5) 。Ramnarayanらは英国において小児集中治療搬送データベースを用い,小児集中治療専門搬送チームによる搬送とそうでない場合を比較し,多変量解析の結果PICU死亡はOR 0.59 (95% CI:0.39〜0.88)であったと報告している11) 。Orrらは米国において前向きコホート研究として,小児専門重症搬送チームによる搬送とそうでない場合を比較している。多変量解析では非専門チームによる搬送では病院死亡がOR 2.45(95% CI:1.14〜5.26)と増加したと報告している12) 。Kingらの報告では,米国の施設において,新生児小児搬送チームに専門医の同乗があった場合となかった場合を比較している。患者のうち2割は新生児患者で,病院死亡は同等であった13) 。Bellinganらの重症成人患者搬送についての報告では,紹介元主治医(非専門医)が同乗する搬送と比

2) PICO P (患者):病院間搬送を必要とする重症患者I (介入):集中治療医,集中治療チームによる搬送C (対照):それ以外の搬送チームによる搬送O  (アウトカム):搬送後ICU死亡,病院死亡,搬送

後人工呼吸使用,搬送中有害事象3) エビデンスの要約(Table 5) 17の文献を本SRで組み込んだ1)〜17)。オランダからの1編を除きすべて比較観察研究であった10)。国別では英国から3編,米国5編,カナダ2編,アジア諸国4編,オランダ2編,その他1編であった。また12編が小児患者を対象としたものであった2),3),6)〜9),11)〜14),16),17)。研究デザインから派生するバイアス,また国地域ごとの医療環境の不均一性が大きく同一アウトカムを評価した研究も複数あったが,死亡アウトカムについてはメタ解析を行わないこととし,搬送関連有害事象についてはRCTを除く観察研究についてメタ解析を追加した。(3-1)短期死亡

搬送直後の短期アウトカムについては4編が評価を行っていた。Kimらは韓国の大学病院のICU搬送チームとそれ以外のチームによる搬送事例についてプロペンシティスコアを用いて調整比較している。救急初療室到着後24時間以内の死亡について,調整後のORは0.45(95% CI:0.26〜0.81)であった1) 。Kawaguchiらは,カナダのアルバータ州での15年間の搬送事例について,小児集中治療医の同乗した搬送とそうでない事例を比較している。調整後のORは0.47(95% CI: 0.25〜0.89)であった6) 。Meyerらは米国で一般救急

Table 5 判断の要約(CQ5)

判断

問題いいえおそらくいいえおそらくはいはい様々分からない望ましい効果わずか小さい中大きい様々分からない望ましくない効果大きい中小さいわずか様々分からないエビデンスの確実性非常に弱い弱中強採用研究なし

価値観重要な不確実性またはばらつきあり重要な不確実性またはばらつきの可能性あり重要な不確実性またはばらつきはおそらくなし更要な不確実性またはばらつきはなし効果のバランス比較対照が優れている比較対照がおそらく優れている介入も比較対象もいずれも支持しないおそらく介入が優れている介入が優れている様々分からない必要資源量大きな増加中等度の増加無視できるほどの

増加や減少中等度の減少大きな減少様々分からない

必要資源量に関するエビデンスの確実性非常に弱い弱中強採用研究なし費用対効果比較対照の費用対効果がよい比較対照の費用対効果がおそらくよい介入も比較対照もいずれも支持しない介入の費用対効果がおそらくよい介入の費用対効果がよい様々採用研究なし公平性減るおそらく減るおそらく影響なしおそらく増える増える様々分からない容認性いいえおそらくいいえおそらくはいはい様々分からない実行可能性いいえおそらくいいえおそらくはいはい様々分からない
p.18
-17- 6) 今後の研究の可能性

本邦の医療保険制度,地理的な特性等を鑑みた研究,評価が必要である。

文 献

1) Kim TH, Song KJ, Shin SD, et al. Effect of Specialized Critical Care Transport Unit on Short-Term Mortality of Critically ILL Patients Undergoing Interhospital Transport. Prehosp Emerg Care 2020;24:46-54. 2) Seaton SE, Draper ES, Pagel C, et al; DEPICT Study Team. The effect of care provided by paediatric critical care transport teams on mortality of children transported to paediatric intensive care units in England and Wales: a retrospective cohort study. BMC Pediatr 2021;21:217. 3) Chaichotjinda K, Chantra M, Pandee U. Assessment of interhospital transport care for pediatric patients. Clin Exp Pediatr 2020;63:184-8. 4) Srithong K, Sindhu S, Wanitkun N, et al. Incidence and Risk Factors of Clinical Deterioration during Inter- Facility Transfer of Critically Ill Patients; a Cohort Study. Arch Acad Emerg Med 2020;8:e65. 5) Koifman E, Beigel R, Iakobishvili Z, et al. Impact of mobile intensive care unit use on total ischemic time and clinical outcomes in ST-elevation myocardial infarction patients - real-world data from the Acute Coronary Syndrome Israeli Survey. Eur Heart J Acute Cardiovasc Care 2018;7:497-503. 6) Kawaguchi A, Nielsen CC, Saunders LD, et al. Impact of physician-less pediatric critical care transport: Making a decision on team composition. J Crit Care 2018;45:209-14. 7) Calhoun A, Keller M, Shi J, et al. Do Pediatric Teams Affect Outcomes of Injured Children Requiring Interhospital Transport? Prehosp Emerg Care 2017;21:192-200. 8) Prabhudesai S, Kasala M, Manwani N, et al. Transportrelated Adverse Events in Critically-ill Children: The Role of a Dedicated Transport Team. Indian Pediatr 2017;54:942-5. 9) Meyer MT, Mikhailov TA, Kuhn EM, et al. Pediatric Specialty Transport Teams Are Not Associated With Decreased 48-Hour Pediatric Intensive Care Unit Mortality: A Propensity Analysis of the VPS, LLC Database. Air Med J 2016;35:73-8. 10) van Lieshout EJ, Binnekade J, Reussien E, et al. Nurses versus physician-led interhospital critical care transport: a randomized non-inferiority trial. Intensive Care Med 2016;42:1146-54. 11) Ramnarayan P, Thiru K, Parslow RC, et al. Effect of specialist retrieval teams on outcomes in children admitted to paediatric intensive care units in England and Wales: a retrospective cohort study. Lancet 2010;376:698-704. 12) Orr RA, Felmet KA, Han Y, et al. Pediatric specialized transport teams are associated with improved outcomes. Pediatrics 2009;124:40-8. 13) King BR, King TM, Foster RL, et al. Pediatric and neonatal transport teams with and without a physician: a comparison of outcomes and interventions. Pediatr Emerg Care 2007;23:77-82. 14) Vos GD, Nissen AC, H M Nieman F, et al. Comparison of

interhospital pediatric intensive care transport accompanied by a referring specialist or a specialist retrieval team. Intensive Care Med 2004;30:302-8. 15) Bellingan G, Olivier T, Batson S, et al. Comparison of a

specialist retrieval team with current United Kingdom

較して,専門医による搬送では,入院後12時間以内の死亡が減少した(OR 0.72, 95% CI:0.40〜1.29)15) 。Macnabはカナダ,ブリティッシュコロンビア州での小児広域搬送事案について,小児集中治療専門チームによる搬送とそうでない場合を比較している。調整なしの単純比較で院内死亡はOR 2.13(95% CI:0.44〜13.5)であった17) 。Prabhudesaiらはインドにおいて同じく小児搬送チームによる搬送とそうでない場合を調整なしで比較し,ORは1.40(95% CI:0.63〜3.11)であった8) 。以上のように,既知の交絡因子での調整を行った場合と未調整の場合においても,遠隔期死亡との関係については一定の結果を示していないと考えられた。(3-3)搬送関連有害事象

搬送の有害事象は,報告により,バイタルサイン上の悪化や呼吸状態の悪化を示すもの,また計画外抜管や静脈路の予期せぬ抜去等の予期せぬ有害イベントと定義したものがあった。そのため発症率にはかなりのバラツキがあったものの,ほぼすべての報告において,有害事象が減少するという結果であった。メタ解析によるORは0.77(95% CI:0.68〜0.88)であった5),8),12),14)〜17) 。また唯一のRCTであるオランダからの報告では,搬送看護師とパラメディックによる搬送と,それに医師を含むチームとの比較では,16.3% vs. 15.2%と有意な差はみられなかった10) 。(3-4)病院あるいはICU滞在日数

4つの研究が評価を行っていたが,Kawaguchiらの報告を除きすべて調整なしの単純比較であり,専門チームにより搬送された群で入院期間が長くなっていた7),11),17) 。調整を行ったKawaguchiらの報告では差はないという結果であった6) 。

4) エビデンスから決断を導くための枠組み特に搬送そのものの影響が残る短期死亡率,また有害事象については,集中治療に習熟した医師を含む搬送チームが搬送を行うことによって,それらが減るあるいは改善する可能性がある。しかし,搬送する患者層や搬送時間,あるいは地域ごとの医療システム等,搬送やそのアウトカムに与える因子は多岐にわたるため,搬送後の遠隔期死亡率あるいは無事搬送した後の病院滞在における予後に搬送そのものが与える影響は明確ではない。

5) 実施に関わる検討事項実施に関しては,人材教育,物品整備,またシステム運用のためのマネジメント等にコストを要する。また特に三角搬送等を実施する場合の搬送費用についての検討が必要である。
p.19
-18-は,各医療圏でどれだけの小児重症患者が発生し得る

かを検討する必要がある。また,小児専門の搬送チームがあるだけでは,小児重症患者の生命予後や神経学的予後,医療関連の生活の質は改善する可能性は低く,併せて,集約拠点としての臓器別の各種専門家が機能できるPICUを整備する必要がある。また,搬送チームのトレーニング内容・トレーニング頻度・ライセンス制の必要性・重症度や使用デバイスにあわせた最適なチーム構成を今後も検討していく必要がある。最適なチーム構成は,本邦の職種毎の業務範囲や使用デバイスの種類を加味する必要がある。また,搬送チーム人員のみならず,搬送にかかわる資材や移動手段(鉄道等の公共交通機関,救急車・ドクターカー,ECMOカー,固定翼機,回転翼機)の整備や,それに関わるシステム作りも,小児の重症患者搬送を安全に実施するためには重要である。

1) 背景小児重症患者の病院間搬送が必ずしも小児専門の搬送チームで行われていない。

2) PICO P (患者):搬送が必要な重症小児I (介入):小児専門の搬送チームによる搬送C (対照):それ以外の搬送チームによる搬送O(アウトカム):搬送後48時間以内の死亡,搬送

後48時間以降の死亡,神経学的予後,搬送時の合併症3) エビデンスの要約(Table 6)搬送チームの構成に関して,採用された論文では,搬送チームへの医師の有無も様々であり,トレーニングレベルも一様ではなかった。対照群のチーム構成も様々であるが,小児専門でない集中治療医がリーダーの搬送チームと小児専門の搬送チームとの比較の研究はなかった。

搬送チームの定義が研究により様々であるため,このSRで検討するアウトカムに関して,データの結合をして解析することはしないこととした。また,本SRでは,小児専門の搬送チームをチームリーダーの職種を問わずに何らかの小児搬送に関するトレーニングを受けた搬送チーム(specialty pediatric team, SPT)とし,対照群をそれ以外として検討したため, Seatonらの研究1)と比較・対照群と異なる。また, Vos 2),Orr 3),板倉 4),Sample 5)らの研究での対照群に少ない割合ではあるが,我々のSPTの定義に当てはまるものがあった可能性は否定できないが,特定できないためにそのまま対照群として扱った。

practice for the transport of critically ill patients. Intensive Care Med 2000;26:740-4. 16) Edge WE, Kanter RK, Weigle CG, et al. Reduction of morbidity in interhospital transport by specialized pediatric staff. Crit Care Med 1994;22:1186-91. 17) Macnab AJ. Optimal escort for interhospital transport of

pediatric emergencies. J Trauma 1991;31:205-9.

CQ6:小児の重症患者搬送において,小児専門の搬

送チームによる搬送は搬送関連のアウトカムを改善するか?

Answer:・小児の重症患者搬送において,小児専門の搬送

チームによる搬送は搬送関連のアウトカムを,おそらく改善する(good practice statement)。・利用可能であれば小児専門の搬送チームによる

搬送を弱く推奨する(GRADE 2C)。

小児重症患者の病院間搬送が必ずしも小児専門の搬送チームで行われていない。集中治療を要する重症小児患者の搬送において,小児専門の搬送チームによる搬送に対して,それ以外の搬送チームによる搬送を比較対照とし,搬送後48時間以内の死亡,搬送後48時間以降の死亡,神経学的予後,搬送時の合併症を主要なアウトカムとして,SRを行った。

小児重症患者の病院間搬送において,利用可能であれば小児専門の搬送チームの利用を提案する。最適なチーム構成,小児専門でない搬送チームとの使い分けは不明である。また,小児専門の搬送チームを整備や,常時利用可能にするには資源の利用が大きくなると考えられる。費用対効果に関する研究は採択論文にはないが,小児専門の搬送チームが利用可能である地域は,見合った益があると考えられる。

本SRのスコープは新生児を除く小児である。乳幼児,就学前,学童,のサブグループがあるが,明確にどの患者群が小児搬送チームの利益を受けるかを示した研究はない。ただし,搬送チーム自体が各患者群にあった物品を準備していなければ,安全な搬送を行うことは難しい。また,小児専門のトレーニングを受けていない集中治療医(あるいは同等の医師)がリーダーの搬送チームと小児専門の搬送チームが存在するときに,小児専門の搬送チームがどのサブグループを搬送した方がより良いかを示す研究はないが,地域によっては2歳未満とする地域(例:カナダ・オンタリオ州)がある。

各医療圏で小児専門の搬送チームを整備する際に
p.20
-19-与える影響は,定めることができなかった。

(3-3)神経学的予後

Macnabの研究10)では後遺症(本文ではmajor residual defectのみで定義不明)のORは 1.0 (95% CI:0.43〜2.3)であった。(3-4)搬送時の重篤な合併症

Prabhudesai らの研究9)では 搬送時の重篤な合併症(低酸素血症,低血圧,頻脈,低血糖,気道トラブルのいずれか)のORは0.006(95% CI:0.0013〜0.026)であった。Orrらの研究3)では,専門チームであれば場合,搬送時の重篤な合併症(気道トラブル,心肺蘇生,気胸,薬剤エラー,機器不良,持続する低血圧,持続する低酸素血症,低体温)のORは 0.004(95% CI: 0.0013〜0.013)であった。Vosらの研究2)では,搬送時の重篤な合併症は,低血圧 6.3% vs. 19%,チアノーゼ 0% vs. 4.4%,徐脈 0% vs. 2.9%,心停止0% vs. 2.9%,気管チューブ閉塞 0% vs. 0.7%,気管チューブ位置異常 0% vs. 0.7%といずれも小児専門の搬送チームで発生率が低かった[OR 0.22(95% CI:0.09〜0.52)]。Edgeらの研究11)では,集中治療関連合併症のORは0.09(95% CI:0.012〜0.69),生理学的悪化のORは0.88(95% CI:0.29〜2.7)であった。Macnabの研究10)では内科的・外科的を含む重症小児の搬送時の有害事象(不十分な安定化,不要なストレス,バイタルサイン悪化の放置,誤嚥等,気道トラブル,異常な体液量の見逃し,体温コントロール不足,薬剤の不適切投与,換気関連等)が少なくとも1件発生するORは 0.15(95% CI:0.09〜0.25)であった。また,搬送時の有害事象が患者に与える影響として,Seatonら1)は

(3-1)搬送後48時間以内の死亡

Botanらの研究6)では,搬送後48時間以内の死亡のORは0.12(95% CI:0.00〜3.1)であった。Seatonらの研究1)における著者らの定義の対照群は我々の定義ではSPTとなるためにすべて介入群となった。48時間以内の死亡は3.1%であった。Meyerらの研究7)ではOR 2.96(95% CI:1.40〜6.24)[プロペンシティスコア,重症度,PICUの場所で調整したORは3.59 (95% CI:0.68〜18.88)]であった。以上より,小児専門の搬送チームが搬送後48時間以内の死亡に与える影響は,定めることができなかった。(3-2)搬送後48時間以降の死亡

Botanらの研究6)では,搬送後48時間以降の院内死亡はOR 0.26(95% CI:0.02〜3.0)であった。Seatonらの研究1)では,30日死亡がSPT群で7.1%であった。Ramnaraynらの研究8)では粗死亡のORは 1.09 (95% CI:0.94〜1.26)であった。Prabhudesaiらの研究9)では,病院あるいは院内での死亡のORは0.98 (95% CI:0.41〜2.3)であった。Meyerらの研究7)では粗死亡のORは0.32(95% CI:0.17〜0.60),修正ORが3.3(95% CI:1.18〜9.24)であった。Orrらの研究3)では,小児専用の搬送チームを用いない場合に,用いた場合に比較して,28日死亡のORは2.45(95% CI: 1.14〜5.26)であった。Macnabの研究10)では院内死亡のORは1.4(95% CI:0.45〜4.4)であった。板倉らの研究4)では,院内死亡のORは0.47(95% CI:0.09〜2.4)であった。Sample らの研究5)では,院内死亡のORは1.5(95% CI:0.45〜4.9)であった。以上より,小児専門の搬送チームが搬送後48時間以降の死亡に

Table 6 判断の要約(CQ6)

判断

問題いいえおそらくいいえおそらくはいはい様々分からない望ましい効果わずか小さい中大きい様々分からない望ましくない効果大きい中小さいわずか様々分からないエビデンスの確実性非常に弱い弱中強採用研究なし

価値観重要な不確実性またはばらつきあり重要な不確実性またはばらつきの可能性あり重要な不確実性またはばらつきはおそらくなし更要な不確実性またはばらつきはなし効果のバランス比較対照が優れている比較対照がおそらく優れている介入も比較対象もいずれも支持しないおそらく介入が優れている介入が優れている様々分からない必要資源量大きな増加中等度の増加無視できるほどの増加や減少中等度の減少大きな減少様々分からない必要資源量に関するエビデンスの確実性非常に弱い弱中強採用研究なし費用対効果比較対照の費用対効果がよい比較対照の費用対効果がおそらくよい介入も比較対照もいずれも支持しない介入の費用対効果がおそらくよい介入の費用対効果がよい様々採用研究なし公平性減るおそらく減るおそらく影響なしおそらく増える増える様々分からない容認性いいえおそらくいいえおそらくはいはい様々分からない実行可能性いいえおそらくいいえおそらくはいはい様々分からない
p.21
-20- Pediatrics 2009;124:40-8. 4) 板倉隆太,櫻井淑男,宮本 和,他.小児集中治療室が重

症患者の集約化および予後の改善に果たす意義.日小児会誌 2018;122:1303-9. 5) Sample M, Acharya A, O’Hearn K, et al. The Relationship Between Remoteness and Outcomes in Critically Ill Children. Pediatr Crit Care Med 2017;18:e514-20. 6) Botan E, Gün E, Beşli Çelik D, et al. The Evaluation of Transported Children to Pediatric Intensive Care Unit: Indications, Problems, and Outcomes. Air Med J 2021;40:237-41. 7) Meyer MT, Mikhailov TA, Kuhn EM, et al. Pediatric Specialty Transport Teams Are Not Associated With Decreased 48-Hour Pediatric Intensive Care Unit Mortality: A Propensity Analysis of the VPS, LLC Database. Air Med J 2016;35:73-8. 8) Ramnarayan P, Thiru K, Parslow RC, et al. Effect of specialist retrieval teams on outcomes in children admitted to paediatric intensive care units in England and Wales: a retrospective cohort study. Lancet 2010;376:698-704. 9) Prabhudesai S, Kasala M, Manwani N, et al. Transportrelated Adverse Events in Critically-ill Children: The Role of a Dedicated Transport Team. Indian Pediatr 2017;54:942-45. 10) Macnab AJ. Optimal escort for interhospital transport of pediatric emergencies. J Trauma 1991;31:205-9. 11) Edge WE, Kanter RK, Weigle CG, et al. Reduction of

morbidity in interhospital transport by specialized pediatric staff. Crit Care Med 1994;22:1186-91.

IV.搬送準備

CQ7:重症患者の航空搬送に必要な航空医学的課題

は何か?

Answer:・最も重要な航空医学的課題は,高高度における

低圧環境で生じる低酸素血症とガス容積の膨張に対処することである(BQに対する情報提示)。・その他,乾燥,振動・乱気流,加速度変化,照

度の低下等,航空機内特有の異常環境による侵襲的な影響に対処することである(BQに対する情報提示)。

航空機による患者搬送(以下,航空搬送)では,航空機内の環境と高高度環境が患者の病態と医療活動に大きく影響する。気圧・湿度,振動・乱気流,加速度,騒音,照度等が患者の状態や医療従事者やその活動に影響を及ぼし得る。患者が搬送に耐え得るか否かを評価し,搬送手段の選択および搬送前に行うべき安定化処置を入念に実施することが重要である。以下に航空搬送に保有しておくべき航空医学的知識,実搬送に向けた準備等について述べる。[注:1フィートは0.3 m,本項では飛行高度についてフィート(feet=ft)および

患児に関わる事象が起きた際には死亡の修正ORが3.06(95% CI:1.48〜6.35)であり,Orrら3)は計画外イベントが起こると死亡のリスク比がOR 4.5 (95% CI:2.5〜8.3)となることを報告している。このアウトカムに関しても総じてエビデンスの質はやや低いものの,すべての研究で搬送チームの方が搬送時の重篤な合併症は,そうでない場合よりも少ないと報告されていた。

4) エビデンスから決断を導くための枠組み小児専門の搬送チームにより搬送時の合併症(生理学的状態の悪化や計画外抜管)が減少する可能性があり,益が害を上回ると考えた。患者・市民の価値観,資源利用・費用対効果を加味して,小児重症患者の病院間搬送において,小児専門の搬送チームの利用を提案する。

5) 実施に関わる検討事項各医療圏で小児専門の搬送チームを整備する際には,各医療圏でどれだけの小児重症患者が発生し得るかを検討する必要がある。また,小児専門の搬送チームがあるだけでは,小児重症患者の生命予後や神経学的予後,健康関連の生活の質は改善する可能性は低く,併せて,集約拠点としての臓器別の各種専門家が機能できるPICUを整備する必要がある。また,搬送チームのトレーニング内容,トレーニング頻度,ライセンス制の必要性,重症度や使用デバイスに合わせた最適なチーム構成は今後も検討していく必要がある。最適なチーム構成は,本邦の職種毎の業務範囲や,患児の重症度,使用デバイスの種類を加味する必要がある。また,搬送チーム人員のみならず,搬送にかかわる資材や移動手段(鉄道等の公共交通機関,救急車・ドクターカー,ECMOカー,固定翼,回転翼)の整備や,それに関わるシステム作りも実施するためには重要である。

6) 今後の研究の可能性小児専門の搬送チームの構成を均質にしたうえで,搬送時の有害事象の検討が望ましい。

文 献

1) Seaton SE, Draper ES, Pagel C, et al; DEPICT Study Team. The effect of care provided by paediatric critical care transport teams on mortality of children transported to paediatric intensive care units in England and Wales: a retrospective cohort study. BMC Pediatr 2021;21:217. 2) Vos GD, Nissen AC, H M Nieman F, et al. Comparison of interhospital pediatric intensive care transport accompanied by a referring specialist or a specialist retrieval team. Intensive Care Med 2004;30:302-8. 3) Orr RA, Felmet KA, Han Y, et al. Pediatric specialized

transport teams are associated with improved outcomes.
p.22
-21-い。搬送計画時に航空機運用者側へ飛行高度制限の可

否を問い合わせることも一案である。

また酸素運搬の観点より,Hbが7.0 g/dL未満の貧血を呈している際は,搬送前に赤血球輸血を実施するのが望ましい7) 。(1-2)ガス容積の膨張

気圧低下に伴う人体への影響として,閉鎖腔内の気体膨張がある。温度が一定の場合,閉鎖腔内における気体の圧が低下すると気体の体積は増大する(ボイルの法則;P1×V1=P2×V2)。このことから,航空機が離陸し機内高度が上昇すると閉鎖腔内の気体は高度5,000 ft(1,500 m)では約1.25倍,高度10,000 ft(3,000 m)では約1.5倍に膨張する8) 。そのため,人体内に病的あるいは生理的に存在する気体が上空で膨張し,様々な病態を呈することがある。1頭蓋内・眼

外傷や手術後の残留ガス容積の膨張により,神経症状の発生や脳圧亢進症状,失明の危険性があり,搬送適応の検討が必要である8) 。2鼻腔・中耳・咽頭

副鼻腔炎では,副鼻腔内のガス容積の膨張により,顔面痛が生じ得る。また上気道感染や気道のアレルギーがある場合,耳管の閉塞が生じ,耳部疼痛,出血,嘔気,眩暈,聴力低下等の症状を呈する気圧性中耳炎を生じ得る。3呼吸器系

ガス容積膨張により,肺嚢胞の破裂,気胸さらには緊張性気胸が生じ得る。未治療の気胸には胸腔ドレーンによる脱気が必要である。気胸に対するドレナージは搬送前に行う必要がある。チェストチューブをクランプした状態で飛行してはならない。なお事前の胸腔ドレナージが困難な場合には飛行高度制限をかけることを考慮する。4消化器系

腸内ガス容積膨張により,腸管が拡張し腹痛を生じ得る。食道裂孔ヘルニアや腸閉塞では症状増悪の危険性を伴う。腸閉塞ではイレウスチューブによる減圧が必要である。腹部手術後の患者は消化管の機能低下による腸管ガス貯留があり,これが膨張し縫合部離開を生じ得るため,術後早期の搬送には注意が必要である。人工肛門がある患者は排便量の増加を認め,ストーマ袋交換の必要性が生じる。5皮膚組織

高度変化に伴い皮膚組織内も膨張を生じる。熱傷患者ではコンパートメント圧の上昇に注意し,必要に応じて減張切開を行う。

メートル(meter=m)で併記する]

1) ガスの法則に基づく低圧・低酸素環境臨床的に最も重要な航空医学的課題は高高度における低圧環境である。この環境下ではダルトンの法則に基づく酸素分圧低下に伴う低酸素血症と,ボイルの法則に基づくガス容積の膨張が生じる。これらに対する生理学的反応は生命を脅かす可能性があり,高度が10,000 ft(3,000 m)を超えると症状は顕著となる1)〜3) 。機内与圧装置を持たない回転翼機(=ヘリコプター)は飛行高度に応じて機内の気圧は低下する。低圧環境が顕性化しない低高度を飛行するドクターヘリに比し,都道府県等の有する消防防災ヘリコプター等は10,000 ft(3,000 m)以上の巡航を可能であるため,飛行高度により低圧環境の影響を考慮しなければならない。また,概ね機内与圧装置を有する固定翼機でもその機内圧は地上圧(=1気圧)よりは低く,傷病者の病状によっては低圧の影響を考慮しなければならない4) 。(1-1)酸素分圧の低下

気圧の低下による影響として,酸素分圧の低下による低圧性低酸素血症,閉鎖腔の気体膨脹,高度性肺水腫(いわゆる高山病)が挙げられる。

ある温度下において存在する混合気体の圧(Ptotal)は,その混合気体を構成する各気体の分圧の総和に等しい。すなわち,Ptotal=P1+P2+P3+...という関係(ダルトンの法則)が成立する。海抜0 ft(0 m)で大気圧は760 mmHgであり,そのうち酸素の占める割合は21%であるので,大気圧中の酸素分圧(PO2)は約160 mmHg,肺胞気式より肺胞内酸素分圧(PAO2)は約100 mmHgとなる。航空機が離陸し飛行高度が上昇すると大気圧,PO2,PAO2,は直線的に低下していき,高度10,000ft(3,000m)ではPO2は約110 mmHg,PAO2は約50 mmHgとなる5) 。

民間航空機の巡航高度は25,000~40,000 ft(約8,000 ~12,000 m)であるが,外気をエンジンから取り込み機内に与圧をかけることで,機内高度を8000 ft(2,400 m)程度に維持し,機内圧を0.8〜0.9気圧(酸素分圧も地上の80〜90%程度)に維持している。健常人においてはこの機内高度による身体的影響を認めないが,集中治療を要する重症患者においてはこの機内高度による身体的影響を十分に考慮する必要がある。地上において既に高いFIO2を要している患者では,搬送前に陽圧呼吸を開始することが重要である6) 。

災害派遣の枠組みにおいて実施されている自衛隊固定翼機での患者搬送においては,飛行高度制限をかけて機内圧が1気圧を維持するように搬送することも多
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-22-労や血管収縮につながり,それにより体温調節に異常

を来し得る。また,心拍数に近い振動数では血圧の変動を,より高い振動数の振動では血餅形成阻害から凝固異常も来し得る6) 。

搬送手段により振動の周波数は異なり,回転翼機(メインローター12〜15 Hz,テールローター23〜25 Hz),固定翼機(乱気流0〜4 Hz,エンジン20 kHz),陸路搬送車両(カーブ走行時等0〜2 Hz)となる12) 。低振動数であっても,乗り物酔い(0〜2 Hz),過換気(3〜4 Hz)等,生体に及ぼす影響があり注意が必要である。

前述のとおり自衛隊の固定翼輸送機による搬送において機内を地上と同じ1気圧に維持するために飛行高度を15,000~18,000 ft(4,500~5,400 m)に制限することが多いが,この高度帯は気流の不安定性により機体が大きく振動することがある。患者のみならず医療従事者に対しても揺れによる飛行機酔い等に留意し,酔い止め等の服用などに留意する必要がある。また観血的かつ侵襲的な手技等を行う必要がある場合には,機長や航空機運航側との調整のうえ,揺れが少ない航路・高度の選択等を行う。また,晴天で高高度の飛行においても,レーダー等で捕捉し得ない突然の乱気流に巻き込まれてしまうこともある(晴天乱気流という)ため,患者および医療器材の固縛を入念に行う。機体の振動が激しい場合,ノイズの混入により心電図モニターの波形が正確に描出し得ず,大動脈内バルーンパンピング(intra-aortic balloon pumping, IABP)を装着している患者では,事前にトリガーを心電図モニターではなく動脈圧に設定することも考慮する。

4) 加速度変化航空機での搬送時は,あらゆる方向へさまざまな大きさの加速度がかかる。特に,固定翼機では,離陸時には機首から機尾方向に,着陸時は機尾から機首方向に最大2 Gの加速度がかかる6) 。離着陸時においては体液の移動に伴う頭蓋内圧変化や,ECMO管理中の患者であれば流量の変化に注意する必要がある。もっとも影響が大きいのは,頭尾側方向への加速度であり,この影響は低酸素血症,循環血液量の減少,アシドーシス等で助長されるため13),搬送開始前にこれらの是正が必要となる。また,離陸から水平飛行に移るまでの間の機首の仰角が更に病態の増悪を招く可能性がある。

5) 騒音ほとんどすべての回転翼機および自衛隊の固定翼輸送機の機内では,エンジンによる騒音レベルは約90〜120 dBに達し6),これは電車が通過するガード下にい

6医療器材

ガス容積の膨張は,エアスプリント,気管チューブ等の空気を利用する医療器材にも影響を与え,重篤な合併症を引き起こし得るので,注意深い観察を要する。気管チューブのカフ,セングスターケン・ブレイクモア管のカフ,ストーマバッグ等は常にその圧に注意しておく必要がある。また気圧の上下によってカフ内の空気量の変更が必要になるため,カフ内に蒸留水や生理食塩水等の液体を充填する方法も報告されている9)が,カフ内に空気を混入させずに液体のみ注入することは容易ではなく,空気が混入された場合は結局カフの体積変化が起こってしまうことから,原則カフ内への液体の注入は推奨されない10) 。気管チューブにおいては気圧の低下によりカフの気体容積が増大し,カフの膨張に伴い気管の虚血を生じる恐れがあるため,カフ圧の管理を厳格に行う必要がある。前述の通り,かつては空気の代わりにカフに液体を注入する方法も推奨されたが,そもそもカフが気管に接触する面圧が極めて高くなる(≧40 mmHg)ため気管の虚血のリスクが高く推奨されない11) 。回転翼機等の機内与圧装置を有しない航空機での搬送においては,気圧変化の都度の頻回なカフ圧のチェックが求められる。

人工呼吸器についても,高度補正機能を有さないものでは高度上昇に伴って一回換気量増大を呈し,肺容量損傷を来すリスクがあるため,使用する人工呼吸器の特性を事前に把握しておく必要がある6) 。

重症患者を航空搬送する際は,これらの観点からも呼吸状態の変容を来さないか,機内高度と併せ注意を払う必要がある。疑われた場合は,機内高度低下,および高濃度酸素投与,陽圧換気の開始または設定変更が必要となる。

2) 湿度の低下固定翼機では機内を与圧するため,エンジンから機外の空気を取り込みエンジンの熱で加温して機内へ供給しており,機内の湿度は著しく低下し湿度が20〜30%以下にまで低下する。このため,気道分泌物が粘調となり気道閉塞を起こすリスクが増大する。人工呼吸管理中の患者では,加温加湿器または人工鼻の使用による加湿を行う12) 。また,広範囲熱傷患者や,小児・高齢者等,不感蒸泄による体液量減少の影響が大きい患者においては容易に脱水を呈する。また,鎮静管理下の患者や意識障害患者においては開眼に伴う乾燥性角結膜炎等にも配慮し,角膜保護テープや加湿のための点眼薬等の使用を考慮する。

3) 振動・乱気流振動は,姿勢保持や振動軽減のための筋収縮が筋疲
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-23- CQ8:搬送コーディネーションとは何か?

Answer:・搬送コーディネーションとは,搬送を実現する

ための設計とその実施に際しての安全確保の双方を担う調整業務のことを言う(BQに対する情報提示)。

質の高い安全な重症患者の医療搬送の実現には,多岐にわたる事項の確認・確保が必要である。具体的には,患者の病態確認,搬送の緊急性の確認[即時搬送(1時間以内),半即時搬送(1〜3時間以内),緊急搬送(3〜6時間以内),計画搬送(6時間以降)],搬送スケジュールの調整,搬送媒体の選定(緊急走行車両,固定翼機,回転翼機),搬送経路および搬送条件(気候・天候,総重量等)の確認,チーム構成(集中治療医,救急科医,小児科医,心臓血管外科医,循環器内科医,看護師,認定・特定看護師,臨床工学技士等),緊急時対応計画等が挙げられる1) 。時に,搬送先の変更や選定も,コーディネーションに含まれる事例も発生し得る。コーディネーションの一連の行程として,1搬送計画の立案に際し利用可能な全医療リソースの確認,2事例に適した個々の医療リソースの選定,3各リソースを管轄する関係機関への協力要請とその受諾の確保,4全リソースと全関係機関の統合・連携の構築,5搬送実施の最終決定となる。また,搬送媒体として航空機を使用する場合は,前述した航空医学等の搬送特異的観点からのリスク評価やその低減のための施策の提案等,搬送に際しての総合的な危険予知とリスク低減計画も,コーディネーション業務に含まれることとなる。そのため,総じてコーディネーションは,搬送を実現するための設計とその実施に際しての安全確保の双方を担う重要任務と言える。

コーディネーションでは,搬送における安全性の確立に重きを置く。英国のSafe Transfer and Retrievalコース2)では,搬送対象の初期評価,搬送チームの管理・統制とコミュニケーション,搬送可否の判断,搬送準備とパッケージング,輸送方法,等のトレーニングを提供しているが,中でも搬送チームの管理・統制とコミュニケーションは,質の高い安全な重症患者搬送を実現するにあたり,重要な要素とされる3) 。そのため,コミュニケーションのハブ(中心点)としての患者搬送コーディネーターの配置または搬送調整本部の設置が望ましい4) 。

本邦のCOVID-19対策では,政府の基本的対処方針において広域入院調整の必要性が明示されたことに付

る時に体感する騒音レベルに相当する。騒音は医療従事者間におけるコミュニケーションの障害・知的作業の妨害を招くほか,疲労の蓄積や集中力・作業効率の低下,動揺病発症のリスクを増大させ,また,めまいや嘔気,苦痛を生じ得るため,これらの航空機による搬送では医療従事者・患者ともにイヤーマフ・耳栓を利用することに加え,患者には適宜鎮静を行う等の配慮が必要である12) 。

6) 照度の低下飛行時間帯や天候により,航空機内は機外よりも照度が下がることがある。医薬品の誤投与や医療者の針刺しのリスクが増大する。また自衛隊機においては運用上の特性から客室内の照度は極めて低い。それぞれの機内環境・照度に応じた,ヘッドライト等の照明器具の使用が推奨される。

文 献

1) Teichman PG, Donchin Y, Kot RJ. International aeromedical evacuation. N Engl J Med 2007;356:262-70. 2) Kashani KB, Farmer JC. The support of severe respiratory failure beyond the hospital and during transportation. Curr Opin Crit Care 2006;12:43-9. 3) Parsons CJ, Bobechko WP. Aeromedical transport: its hidden problems. Can Med Assoc J 1982;126:237-43. 4) Gong H Jr. Air travel and oxygen therapy in cardiopulmonary patients. Chest 1992;101:1104-13. 5) Araiza A, Duran M, Surani S, et al. Aeromedical Transport of Critically Ill Patients: A Literature Review. Cureus 2021;13:e14889. 6) 日本集団災害医学会.DMAT標準テキスト改訂第2版.東京:へるす出版;2015. 138-43. 7) Mora AG, Ervin AT, Ganem VJ, et al. Aeromedical evacuation of combat patients by military critical care air transport teams with a lower hemoglobin threshold approach is safe. J Trauma Acute Care Surg 2014;77:724-8. 8) Brändström H, Sundelin A, Hoseason D, et al. Risk for intracranial pressure increase related to enclosed air in post-craniotomy patients during air ambulance transport: a retrospective cohort study with simulation. Scand J Trauma Resusc Emerg Med 2017;25:50. 9) Essebag V, Halabi AR, Churchill-Smith M, et al. Air medical transport of cardiac patients. Chest 2003;124:1937-45. 10) 蔵本浩一郎,吉村一克.低圧環境下における気管チューブのカフ圧の変動について.宇宙航空環境医 2011;48:35-40. 11) Britton T, Blakeman TC, Eggert J, et al. Managing endotracheal tube cuff pressure at altitude: a comparison of four methods. J Trauma Acute Care Surg 2014;77:S240-4. 12) Pael P, Helm M. Environmental exposure and noise. In: Low A, Hulme J, editors. ABC of Transfer and Retrieval Medicine. Hoboken:WILEY Blackwell;2014.p.9-12. 13) Oxer HF. Aeromedical evacuation of the seriously ill. Br

Med J 1975;3:692-4.
p.25
-24- [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.ecmonet. jp/wp-content/themes/Ecmonet/assets/files/1)%20 %E6%97%A5%E6%9C%ACECMOnet%20%20%E6%90%A C%E9%80%81%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%86%E3 %82%99%E3%82%A3%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%82% BF%E3%83%BC%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E 3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%88.pdf

CQ9:搬送に係る調整をどのように行うか?1(調整

先・調整手順)

Answer:・重症患者搬送において,搬送調整が搬送準備に

かかる時間の大半を占めるため,搬送の可能性が生起した時点で調整を開始する(good practice statement)。・自治体消防や自衛隊の航空機が搬送する場合に

は,都道府県庁や防衛省・自衛隊と災害派遣要請等に係る調整や,航空機等の運航に係る調整が求められる(good practice statement)。

重症患者搬送において,搬送調整が搬送準備にかかる時間の大半を占めるため,搬送の可能性が生起した時点で,調整を開始する。搬送に係る調整は,その搬送手段の選択や搬送の形態によって異なる。例えば,搬送チームを有する医療機関への搬送では,周辺事情を理解する搬送チームのスタッフが搬送元医療機関に赴き搬送調整を行うために,調整が搬送元医療機関と搬送先医療機関の二者間のことが多く,調整内容も相対的に少ない。一方,自治体消防や自衛隊等の航空機による搬送では,医療機関間の調整に加え,搬送を担う都道府県庁や自衛隊をはじめ各関係機関との調整も加わり,調整内容も多岐にわたるため,調整には多くの時間と労力を要する。

1) 自治体消防による搬送救急車による搬送を依頼する場合には,搬送元医療機関が所在する自治体の消防機関が調整先となる。

都道府県等が保有する消防防災ヘリコプターによる搬送要請については,都道府県によって若干の相違はあるものの,一義的に搬送元医療機関から医療機関所在管轄消防機関に消防防災ヘリコプターの出動を依頼することになる(都道府県によっては,都道府県庁にある防災もしくは危機管理担当部署に対し,電話もしくは文書で患者情報および搬送の必要性について報告を要する場合がある)。管轄消防機関は都道府県の消防防災ヘリコプター保有部隊に出動要請および搬送調整を行う1) 。

随し,COVID-19の患者数が大幅に増えたときに備えた入院医療提供体制等の整備において,重症患者の広域搬送の調整を担当する患者搬送コーディネーターの配置が義務付けられた5) 。その中で,患者搬送コーディネーターは「自然災害発生時における統括DMATの資格を有する者であることが望ましく」,かつ,「患者の状態を考慮した上で搬送の是非,搬送先の選定を行う必要性があるため,集中治療にも精通していることが望ましい」とされた6) 。

重症患者航空機搬送等に代表される広域搬送においては,地域内での搬送に比較して確認・確保・調整の事項が増大するため,搬送行程全体に占めるコーディネーション業務の割合が増加するため,患者搬送コーディネーターの配置が推奨される7) 。

コーディネーション需要の蓋然性は,重症患者搬送が医療と運行管理の双方の領域において多数のスタッフが関与する業務となるうえに,同搬送に関わる多くの調整事項が短い時間内に処理される点から発生する8) 。各作業における経験や知識の不足や欠落,およびコミュニケーションエラー等に加え,コーディネーションの不備は患者搬送における有害事象等の発生リスクを高め得る。したがって,搬送におけるコーディネーションの質を一定のレベルに担保するため,チェックリストを活用することも考慮される9) 。

文 献

1) Kyle E, Aitken P, Elcock M, et al. Use of telehealth for patients referred to a retrieval service: timing, destination, mode of transport, escort level and patient care. J Telemed Telecare 2012;18:147-50. 2) Advanced Life Support Group. Safe Transfer and Retrieval: The Practical Approach. London:BMJ Books 2002. 3) Shirley PJ, Hearns S. Retrieval medicine: a review and guide for UK practitioners. Part 1: clinical guidelines and evidence base. Emerg Med J 2006;23:937-42. 4) Gallegos A, Prasad V, Lowe CG. Pediatric emergency transport: communication and coordination are key to improving outcomes. Pediatr Emerg Med Pract 2018;15:1-20. 5) 内閣官房新型コロナウイルス感染症対策本部.新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針.令和3年11月19日(令和5年2月19日変更). 6) 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部.新型コロナウイルス感染症の患者数が大幅に増えたときに備えた入院医療提供体制等の整備について(改訂).令和2年3月26日. 7) Koh CH. Aeromedical Transportation of the Critically Ill Cardiac Patient: Pre-flight Planning and Preparation. Curr Probl Cardiol 2023;48:101246. 8) Hearns S, Shirley PJ. Retrieval medicine: a review and guide for UK practitioners. Part 2: safety in patient retrieval systems. Emerg Med J 2006;23:943-7. 9) 日本ECMOnet 搬送コーディネーターチェックシート.
p.26
-25-え搬送の可否を決定する3),4) 。

(3-2)ECMOnetによるECMO患者搬送

COVID-19の流行以降,ECMO患者の搬送には, ECMOnetが関わることが多くなっている。特にECMO患者の搬送においては,搬送先医療機関のECMO搬送に特化した搬送チームが搬送元医療機関でECMOを装着し,搬送先医療機関まで搬送する,いわゆるprimary transportを行うことが多く,搬送先医療機関および搬送チームの調整,搬送手段の運行および運航調整等をECMOnetの統括ECMOコーディネーターが行っている5) 。

文 献

1) 総務省消防庁.消防防災ヘリコプターの運航に関する基準.消防庁告示第4号 令和元年9月24日. 2) 第II部 わが国の安全保障・防衛政策,第5章 自衛隊の行動などに関する枠組み,4災害派遣など.令和4年度防衛白書;東京防衛省2021;p.200. 3) 北海道患者搬送固定翼機運航事業(Medical Wings メディカルウイング). [cited 2025 Feb 1] Available from: https:// www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/cis/Medical_Wing/top.html 4) 北海道患者搬送固定翼機運航事業(Medical Wings メディカルウイング)患者搬送固定翼機運航事業フロー. [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.pref.hokkaido. lg.jp/fs/5/1/7/0/0/4/7/_/flow.pdf 5) NPO法人日本ECMOnet. [cited 2025 Feb 1] Available

from: https://www.ecmonet.jp/

CQ10:搬送に係る調整をどのように行うか?2(調

整内容・調整に必要な書類・共有すべき情報)

Answer:・搬送元医療機関と搬送先医療機関の間で,病態

を中心とした情報共有のもと搬送調整を行う(good practice statement)。・搬送理由や診療情報等に加え,病態を考慮した

運航条件,搬送に伴い生じ得る病態変化,重症患者搬送チームの構成等について共有する(good practice statement)。

1) 共有すべき情報について(1-1)搬送前に搬送元医療機関と搬送先医療機関と

の間で共有すべき情報搬送後に遅滞なく治療が継続できるような診療情報の共有が中心となる。1搬送理由(患者が必要とする医療が搬送元医療機関

で提供できる医療リソースを超え,当該医療機関では提供が可能でかつ患者が受ける利益恩恵が搬送のリスク以上にあり,双方の医療機関が合意してい

2) 災害派遣要請に基づく自衛隊による搬送災害派遣に基づく搬送は,自衛隊法第83条2項に定めるように,原則として,都道府県知事等が防衛大臣またはその指定する者に対して災害派遣要請を行い,災害派遣命令権者が実施部隊に対し災害派遣命令を発出する。災害派遣による搬送は「災害派遣の3要件(公共性・緊急性・非代替性)」を満たすことが求められる2) 。

搬送元医療機関は所在都道府県庁にある防災もしくは危機管理担当部署に対し,電話等での報告の後,都道府県知事宛の災害派遣要請依頼書を送付し,それを受理した都道府県担当部署はその都道府県にある災害派遣要請受理部隊に対し災害派遣要請を行う。搬送元医療機関は,搬送を担当する部隊の上級司令部に対し,患者の病態,搬送先医療機関における医療の内容,搬送に用いる医療機器・医療資器材等の具体的な情報を提供し,搬送に係る医学的調整を行う。それを受けて,上級司令部司令官等の災害派遣命令権者は搬送を担う実施部隊に対し災害派遣命令を発出し,実施部隊は患者の搬送を行う。このように,災害派遣要請に基づく自衛隊による搬送は複数の組織間での調整が発生する。

3) その他の搬送組織による搬送(3-1)メディカルウイングによる搬送

北海道で運航しているメディカルウイングにおいては,道内の医療機関に入院中で,当該地域の医療機関では提供できない高度・専門的医療を必要としており,高度・専門医療機関へ転院して治療を受けることにより症状および生命・機能予後の改善が期待できること,搬送中に医師による継続的な医学的管理を必要とすること,搬送環境(使用可能な医療機器,機内与圧装置の有無等)や搬送時間等の制約により,当該事業による搬送が適当であること,等の基準を満たすものに関して,セスナサイテーション等の医療優先固定翼機を運航するものである。

搬送元医療機関は搬送先医療機関を確保した後に運航の統括医療機関である札幌医科大学に搬送要請を行う。札幌医科大学もしくは手稲渓仁会病院に所属するメディカルディレクター(医学的見地から搬送の可否を判断し,搬送元および搬送先医療機関並びに消防機関との医学的調整を行う航空医療に精通した医師,搬送コーディネーターに同じ)が搬送元医療機関に対し患者情報を収集したのち,搬送可否について運航管理者(航空法第77条に規定され,搬送要請情報に基づく飛行計画の策定および航空管制の下,運航調整を行うとともに,運航の可否を判断する者)等と協議のう
p.27
-26-した緊急搬送情報伝達票の提出を受けて対応してい

る3) 。(2-2)診療情報提示書(その他の医学的情報を含む)

搬送元医療機関と搬送先医療機関の間で情報共有されるものである。作成のために患者搬送に遅滞を生じることは避けなければならない。事前にFAX等を用いて患者情報を共有しておくことも有用である4) 。

患者引継ぎのための診療情報には,搬送元医療機関の搬送責任者,搬送先の医師の名前や連絡先,搬送の理由,日程,搬送前の患者の臨床状態や搬送中の経過,バイタルチャート,搬送中の臨床的イベントと治療等を記載した詳細な情報提示書や経過表が必要とされる5) 。

さらに,民間旅客機や自衛隊の災害派遣としての航空機を使用する際は,診療情報提示書に加え,搬送に用いる医療機器の具体的な情報を提供し,搬送に係る医学的調整を行う必要がある。一例として,メディカルウイングでは,患者情報に加え,気圧変化の影響の有無,機内で使用する医療機器,搭乗者リスト等の情報が集約された「搬送情報伝達表」を統括医療機関に送付することで,その情報がメディカルディレクター,運航管理病院,運航調整員(搬送要請情報等に基づき搬送元および搬送先医療機関,消防機関,メディカルディレクター,統括医療機関等の関係機関との連絡調整を行う者)に共有される。(2-3)搬送同意書

搬送同意書には,大きく搬送元および搬送先医療機関医師に対する同意書と患者本人(もしくは親権者や代理人)に対する同意書の2通りがある。また同意する内容も,搬送中の医療に関する同意内容と航空機の運航に関する同意内容の2通りがある。

搬送中の環境因子や搬送手段の特殊性(例,低圧環境,振動・揺れ,加速度)により,医療行為に瑕疵がなくても結果的に患者の病態に有害事象を与え得る可能性がある。また搬送中は地上と比して医療介入に制限が生じる6) 。病院間搬送では搬送のリスクを,搬送することにより得られる利益が上回る場合にのみ行われ,それは紹介元病院の責任において判断され,判断能力のある患者,保護者,法的代理人にインフォームド・コンセントを取得する必要がある。

実例として,メディカルウイング7)やNPO法人日本ECMOnet 8)では,患者搬送時の同意書の書式が定められている(それぞれホームページからダウンロードが可能である)。両者ともに,「搬送元医療機関の責任」が明記されたうえで,患者本人(もしくは親権者や代理人)に対する同意書となっている。また前者は搬送

る必要がある) 2搬送日時,スケジュール3患者の診療情報(搬送元医療機関での診断・病状,

および搬送前最新の病状,診療内容,搬送中予定される継続処置等) 4患者の病状を考慮した運航条件(飛行高度,機内与

圧装置の有無,温度等) 5航空機搬送に伴い生じ得る病態悪化,合併症(リス

ク)発生の危険性とその対症に要する処置,資器材の必要性1) 6重症患者搬送チームの構成(構成として搬送元医療

機関のみ,搬送先医療機関のみ,両医療機関に属さない第三者機関の3通りのうちのいずれか,患者の病態や搬送に応じて,適切な人員が投入されたチームクルー編成となっているか,等) 7同乗家族および関係者の情報8搬送先医療機関到着後の駐機・駐車場所,搬入経路9院内搬入後の搬入先[特にICU以外の場所(例,CT

室,血管造影室,手術室等)について] 10薬剤や医療機器の付替作業の有無や実施場所(1-2)患者引継時に搬送元医療機関-搬送先医療機

関間で共有すべき情報搬送中の患者の病態・経過が中心となる。適切な情報を適切なタイミングで共有を図るために,インフォメーションシートやアクションカードを使用することも推奨される。1搬送中の患者の診療情報(搬送中の病状変化の有無

や継続・実施処置等) 2同乗家族・関係者の情報3交換・貸出する資器材・薬剤等

2) 搬送に必要な書類について(2-1)緊急運航要請書・緊急搬送情報伝達票等

消防防災ヘリコプターによる搬送要請の際,搬送元医療機関から医療機関所在管轄消防機関を通じて提出が必要となるものである。記載内容には,

・災害等の種別(患者搬送であれば「救急」)・災害等の発生場所および被害の状況(「医療機

関」)・災害等発生現場の気象状態・飛行場外離着陸場の所在地および支援体制・応援に要する資器材の品目および数量・災害現場の指揮者の職・氏名および連絡方法・その他必要な事項(活動内容として「傷病者搬送」が挙げられる2) 。参考までに北海道消防防災ヘリコプターの運航を担う北海道防災航空室では,要請と共に患者搬送に特化
p.28
-27-重症患者搬送チームと同様に,搬送に係る諸調整に関

して専従的に従事し得る患者搬送コーディネーターの体制整備が望ましい13)〜15) 。(3-2)重症患者搬送調整本部(仮称)

平時から患者搬送コーディネーターが従事して各関係機関と連携し,コミュニケーションのハブとして機能し得る重症患者搬送調整本部の設立が望ましい。

文 献

1) Blakeman TC, Branson RD. Inter- and intra-hospital transport of the critically ill. Respir Care 2013;58:1008-23. 2) 防災ヘリコプターの運航体制,運航基準,要請方法等.香川県さぬき市ホームページ [cited 2025 Feb 1] Available from: http://www.city.sanuki.kagawa.jp/wp-content/ themes/sanukishi/img/info/pdf/shiryo14.pdf 3) 救急患者の緊急搬送情報伝達書.北海道庁 [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ fs/4/9/9/1/8/3/1/_/kinkyuunkoudentatsuhyou.kennnsyuuipdf.pdf 4) Certification and Compliance For The Emergency Medical Treatment and Labor Act (EMTALA). [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.cms.gov/ medicare/provider-enrollment-and-certification/certificationandcomplianc/downloads/emtala.pdf 5) Lehmann R, Oh J, Killius S, et al. Interhospital patient transport by rotary wing aircraft in a combat environment: risks, adverse events, and process improvement. J Trauma 2009;66:S31-4; discussion S34-6. 6) Branson RD, Rodriquez D Jr. Monitoring During Transport. Respir Care 2020;65:882-93. 7) 北海道航空医療ネットワーク研究会.搬送元医療機関・搬送先医療機関用同意書 [cited 2025 Feb 1] Available from: http://www.hokkaido.med.or.jp/hamn/pdf/syorui/2douisyo.pdf 8) NPO法人日本ECMOnet. 資料ダウンロード. 搬送同意書. [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.ecmonet. jp/download 9) Annich, GM. Ecmo Extracorporeal Cardiopulmonary Support in Critical Care, Red Book. 4th ed. 2012: Extracorporeal Life Support Organization. 10) Whiteley S, Gray A, McHugh P, et al. Guidelines for the transport of the critically ill adult 3rd Edition. Intensive Care society. London 2011. 11) Blakeman TC, Branson RD. Inter- and intra-hospital transport of the critically ill. Respir Care 2013;58:1008-23. 12) Wallace PG, Ridley SA. ABC of intensive care. Transport of critically ill patients. BMJ 1999;319:368-71. 13) Khan SM, Lance MD, Elobied MAK. Transport of critically iII patients. A review of early interventions, protocols, and recommendations. International Journal Health Sciences and Research 2021;11:133-43. (not currently indexed for MEDLINE) 14) American Academy of Pediatrics Committee on Hospital Care: Guidelines for Air and Ground Transportation of Pediatric Patients. Pediatrics 1986;78:943-50. 15) Gallegos A, Prasad V, Lowe CG. Pediatric emergency

transport: communication and coordination are key to improving outcomes. Pediatr Emerg Med Pract 2018;15:1-20.

中の医療のみならず航空機の運航についても記載されているが,後者は医療に関してのみである。自衛隊や海上保安庁等は,発生した患者の損失に対しては,搬送に従事する職員個人の医療行為に著しい過失がない限りは国家賠償法に基づき国家損害賠償となるために,同意書に免責事項および損害賠償について記載されることはない。

米国では,病院間患者移送に関するすべての連邦規制を確実に遵守するために,COBRA/EMTALAチェックリストの使用を強く推奨されている。このチェックリストの項目には,初期医療評価と可能な限りの安定化,転送の利益とリスクを開示したインフォームド・コンセント,転送の医学的適応,受け入れ医師と受け入れ病院の名前を記載した医師間のコミュニケーションに係る文書が含まれる4) 。

ミシガン大学医療センターでは,ECMO搬送の際に搬送チームの到着と共に患者の治療を搬送チームに委任する包括的指示書に紹介元の医師が署名することで診療行為における責任の所在を明らかにしている。また紹介元病院で搬送チームが追加での侵襲的処置(ECMO導入等)を行う際には患者家族への同意書を取得する必要がある9),10) 。

上記の同意書や診療情報提示書に加え,搬送中の経過表に関しては搬送ネットワーク内で標準化されたものを使用することが理想的であり,特に臨床記録や経過表に関してはすべての搬送患者でレビューが可能な体制を整え患者搬送の件数や適応,有害事象や転帰を把握していく必要がある11) 。(2-4)搬送後調査票

搬送に対する事後検証には,搬送元医療機関・搬送先医療機関・搬送医師(搬送チーム)に対し,搬送形態の適否,搬送中の合併症やその後の診療経過に対する搬送の影響等の意見を収集する搬送後調査票が必要である。今後,搬送調整の迅速化,事後検証等に係るデータ収集の効率化を図るうえで,全国規模でのフォーマットの統一が望まれる12) 。

3) 患者搬送コーディネーター・重症患者搬送調整

本部について(3-1)患者搬送コーディネーター

患者搬送コーディネーターとは,医学的見地から搬送の可否を判断し,搬送元および搬送先医療機関並びに消防機関との医学的調整を行う航空医療に精通した医師のことである(CQ8参照)。重症患者搬送に係る調整には,患者の病態管理の他,航空機搬送であれば航空医学に基づいた適応判断や医療資器材の選定および管理,航空機運航に係る調整等を行う必要がある。
p.29
-28-限で済む,7航空機では厳しく制限を受ける医療機器

の電磁適合性の制約も発生しない,等々,様々な利点を見出すことができる。また,大型車両を用いた場合は,搬送中においても侵襲的手技の介入が可能かつ容易である等の利点もある。

陸路搬送の短所は,ひとえに搬送元医療機関から搬送先医療機関が長距離に及ぶ場合の搬送時間の長さである。また島嶼部からの搬送は不可能である。都市部の道路渋滞等の影響を受けやすく,搬送時間の不確実性もある。

2) 航空搬送距離は,陸路搬送と航空搬送の選択に係る重要な判断材料の1つであるが,明確な基準はない。航空機は高速であるが,航空搬送においては航空機の運航時間以外の所要時間が多いために,搬送元医療機関と搬送先医療機関の距離によっては,door-to-doorの総搬送時間において陸路搬送と比べ有意な時間の短縮を認め得ない場合も多く,運行もしくは運航計画を立てるにあたり,両搬送手段間の長所短所の見極めが必要となる。また,重症患者の搬送においては,航空搬送による高度や振動/騒音/湿度等が及ぼす生理学的変化についても十分留意する必要がある。また,航空搬送に用いる航空機の選択において,回転翼機と固定翼機ではその機体特性および搬送に係る生理的ストレス・搬送方法等に大きな差異があることを認識し,どの航空機を選択するべきかを考慮する必要がある。(2-1)回転翼機(ヘリコプター)

回転翼機は,一定の広さの離着陸場があれば,搬送元医療機関と搬送先医療機関における病院間搬送においてdoor-to-doorに近い搬送が可能であり,陸路搬送に比べ,格段に速い速度での搬送が可能である。

回転翼機は,そのサイズや用途によって航続距離,巡航速度,飛行高度等が大きく異なる。消防防災ヘリコプターとして配備され,いわゆる中型機または大型機と分類される回転翼機は,ECMOをはじめとする複数の生命維持装置やその他の医療機器の搭載が可能であり,航続可能な飛行距離が1,000 km以上,航続可能時間は5時間に及び10,000 ft(3,300 m)の巡航高度を可能にする。このように高性能のため,集中治療を要する重症患者の広域搬送にも多用される。

しかしながら,回転翼機による搬送は,陸路搬送や固定翼機による搬送と比べて,患者の病態に対しより侵襲的な搬送環境を強いる。最も大きな要因として,航空機の構造上,機内与圧装置を持たないために,飛行高度が上がるにつれて患者のみならず搬送スタッフや医療機器も低圧環境に晒され,患者の病態,搬送ス

CQ11:搬送手段として陸路・回転翼機・固定翼機の

どれを選択するか?

Answer:・搬送手段の選択の妥当性を示したエビデンスは

存在しない(good practice statement)。・原則的に,病院間の搬送距離や地理的特徴(山

間部や離島・北海道・沖縄等)に基づき判断する(good practice statement)。・ただし,総搬送時間の短縮のみならず,疾病の性

質,搬送の緊急性,搬出搬入の回数,積載の可否,搬送時の天候,搬送費用等含め総合的に検討する必要がある(good practice statement)。

搬送手段の選択の妥当性を示した先行研究や,搬送手段の別による予後について示した研究は存在しない。多くのガイドラインにおいて,単に病院間の距離のみによる搬送手段の決定は推奨されてはおらず,複数の決定に係る要素を羅列したうえで総合的に搬送手段の選定を行うように助言している。具体的には,「搬送費用,患者の状態,搬送距離,天候により搬送手段を選択すべきである(米国集中治療医学会)」1),「使用されるべき搬送手段は,患者の臨床的要件,搬送手段の利便性,および搬送先医療機関の受入状況による(オーストラリアおよびニュージーランド集中治療医学会)」2)との記述を認める。またELSOのECMO患者の搬送ガイドライン3)では,「医療機関の距離が搬送手段決定の際の最も大きな要素」としてはいるものの,患者の臨床状態,天候等で判断することは重要としている等,複数のガイドライン等ではエキスパート・オピニオンとして,搬送手段の選定方針が示されている。

1) 陸路搬送最も一般的な搬送手段であり,国土の狭さや高度医療を提供する医療拠点が地域にも多く所在しているという本邦の医療の特性から,本邦でも第一選択となる搬送手段である。近年ではECMOの中核的施設においてはECMOカーの整備が進んでいる。

陸路搬送は航空搬送に比べ,1全体的なコストが低い,2要請から搬送に至るまでの即応性が高い,3運行時刻や天候による制限が少ない,4航空医学的な問題等の生理学的影響が生じにくい,5搬送中の患者の状態の急変に対し搬送経路上の病院支援を受けることも可能である,6搬送元医療機関から搬送先医療機関までdoor-to-doorでの搬送が可能であり搬送関連の有害事象が高頻度で生じる患者の搬出搬入の回数が最小
p.30
-29-性を考慮した搬送準備を行う必要がある。また,他の

搬送手段と比べ,運航調整に要する時間がかかり即応性がない,高額の費用がかかる等の短所を認める。

3) その他(鉄道等)仏国ではCOVID-19患者を南仏から仏中央部に搬送するに当たり,仏国国鉄の特急列車TGVにて搬送した実績もあり,搬送手段としては注目に値する5) 。本邦のほぼ全土に新幹線のネットワークは構築されており,新幹線の多目的室を利用した患者搬送も実施されている。移動速度は航空機に遜色なく,新幹線経路上の都市間の長距離移動においては,搬送時間の短縮に大きく寄与し得る。ただし,短所として,新幹線停車駅間に限定されること,患者搬送であってもダイヤ通りの運行となるために乗降車時間が極めて制限されること,車両の乗降口が比較的狭隘であること,プラットホームへの移動に制限があること,駅の移動経路に不特定多数の乗客が多く存在し移動の障害となること,車内の電力供給が不安定かつ限定的であること等が挙げられ,搬送計画時に厳密に考慮する必要がある。

文 献

1) Warren J, Fromm RE Jr, Orr RA, et al; American College of Critical Care Medicine. Guidelines for the inter- and intrahospital transport of critically ill patients. Crit Care Med 2004;32:256-62. 2) Australian College of Emergency Medicine. PG52 Guideline for transport of critically ill patients 2024. [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.anzca.edu.au/getattachment/ bd5938d2-d3ab-4546-a6b0-014b11b99b2f/PS52-Guidelinefor-transport-of-critically-ill-patients 24f2af3e5ebf/ Guidelines_for_the_Transport_of_Critically_Ill_Patients 3) Labib A, August E, Agerstrand C, et al. Extracorporeal Life Support Organization Guideline for Transport and Retrieval of Adult and Pediatric Patients with ECMO Support. ASAIO J 2022;68:447-55. 4) Fletcher-Sandersjöö A, Frenckner B, Broman M. A Single-Center Experience of 900 Interhospital Transports on Extracorporeal Membrane Oxygenation. Ann Thorac Surg 2019;107:119-27. 5) Painvin B, Messet H, Rodriguez M, et al. Inter-hospital

transport of critically ill patients to manage the intensive care unit surge during the COVID-19 pandemic in France. Ann Intensive Care 2021;11:54.

タッフの作業,医療機器に悪影響を及ぼす可能性がある。またその他にも,1回転翼機固有の振動や揺れ,姿勢の変化は,患者の血行動態とモニタリングに悪影響を及ぼす可能性がある,2大型回転翼機であっても機内スペースに制限があるため,急変時の処置や対応に制約が生じる,3回転翼機は計器飛行が可能である(ドクターヘリは有視界飛行のみ)ため夜間や視界不良時にも飛行が可能である一方,固定翼機同様に搬送時に使用する医療機器の電磁適合性を要求される, 4固定翼機に比べ低高度を飛行するために経路上の天候の影響を受けやすい,5悪天候による迂回等が生じた場合には,搬送経路上で再給油を行う必要等も考慮される(再給油を行う際には,航空機の全電源停止,すなわち航空機からの電源供給がなされなくなることに注意が必要である)等が挙げられる。(2-2)固定翼機

小型機から大型機まで使用する機材により機内スペース,速度,コスト等条件は異なるが,固定翼機による搬送の最大の利点は機内与圧装置を有し,かつ経路上の地形によらず長距離を高速で搬送可能なことにある。国内航路の通常の巡航高度[25,000〜30,000 ft (8,000~10,000 m)]であれば地上とほぼ近似した0.8〜0.9気圧[18,000 ft(6,000 m)以下の飛行高度制限を行う場合には1気圧]での運航が可能であり,病態に対する気圧の影響は地上とさほど相違がない。

他方,固定翼機の最大の欠点として,滑走路を有する飛行場での離着陸が不可欠である。それ故,固定翼機による搬送の際には,搬送元医療機関から救急車や回転翼機で同近傍飛行場まで搬送(「端末搬送」という)し,空港で救急車等から航空機へ患者を載せ替えたのちに空路で搬送し,搬送先医療機関近傍飛行場到着後に航空機から救急車等に載せ替え,同所まで搬送するという複数回に及ぶ患者載せ下ろしに加え,回転翼機と異なり陸路での搬送も伴う。このため,端末搬送の搬送時間および飛行場における載せ替え時間が生じることから,搬送元医療機関から搬送先医療機関までの総搬送時間は,病院間の搬送総距離や,病院と飛行場の間の距離によっては,陸路搬送や回転翼機による搬送と同等,もしくはそれ以上に長くなる可能性もある。また,搬送時間や搬送手段の乗り換え回数が予後に影響を与えるというエビデンスは存在しないが,一方で固定翼機搬送が重大な合併症発生に関連があるとしていると報告がある4) 。

また経路上の天候や搬送先近傍飛行場の不測事態等により着陸ができない場合には,回転翼機と異なり,代替飛行場への着陸もしくは引き返しが発生する可能
p.31
-30-約20,000~30,000 ft(約7,000~10,000 m)]まで上昇

すると機内の気圧は高度3,000 ft(900 m)に相当する0.8〜0.9気圧まで低下する。軽微な気圧の低下ではあるものの,閉鎖腔の膨張による身体への影響は有意となることが多く,固定翼機であっても病態によっては,機内の気圧が1気圧となるように機長に飛行高度制限をリクエストすることを考慮する1)〜3) 。(1-2)代替空港の選定

回転翼機と異なり,固定翼機は一定程度の滑走路長を有する飛行場での離着陸が必要である。天候の悪化,その他の理由で着陸予定飛行場に着陸できない事態が生起する可能性を踏まえ,必ず代替飛行場の選定が必要となる。なお,その際に,着陸可能な時間(夜間・早朝は不可,等),救急車等の端末搬送の乗り入れ許可等を調整しておく必要がある。また代替飛行場の場合には,搬送先医療機関から遠隔地にある場合もあり,場合によっては代替飛行場に着陸せず,出発空港に引き返すという選択も取り得ることを認識する必要がある。

2) 陸路搬送における搬送経路の選定について重症患者の搬送においては,自治体救急車やECMOカーを使用した陸路搬送が多用されるが,道路渋滞における搬送の遅延を予期した対応が求められる。特に高速道路においては一旦渋滞が生起すると,搬送時間が大幅に延長する可能性が高い。搬送中の容態急変や,医療ガス・医薬品等の不足・欠乏に備えた搬送経路上の立ち寄り病院の選定を考慮した搬送経路の選定が求められる。

文 献

1) Labib A, August E, Agerstrand C, et al. Extracorporeal Life Support Organization Guideline for Transport and Retrieval of Adult and Pediatric Patients with ECMO Support. ASAIO J 2022;68:447-55. 2) Warren J, Fromm RE Jr, Orr RA, et al; American College of Critical Care Medicine. Guidelines for the inter- and intrahospital transport of critically ill patients. Crit Care Med 2004;32:256-62. 3) Australian College of Emergency Medicine. PG52 Guideline

for transport of critically ill patients 2024. [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.anzca.edu.au/getattachment/ bd5938d2-d3ab-4546-a6b0-014b11b99b2f/PS52-Guidelinefor-transport-of-critically-ill-patients 24f2af3e5ebf/ Guidelines_for_the_Transport_of_Critically_Ill_Patients

CQ12:搬送経路はどのように決定するか?

Answer:・原則的に,病院間の搬送距離や地理的特徴(山

間部や離島・北海道・沖縄等)に基づき判断する(good practice statement)。・総搬送時間の短縮のみならず,疾病の性質,搬

送の緊急性,搬出入の回数,積載の可否,搬送時の天候,搬送費用等含め総合的に検討する(good practice statement)。・機内与圧装置を持たない回転翼機等を用いた搬

送においては,患者の病態や使用している医療機器を考慮し,必要に応じ飛行高度制限をリクエストする。また飛行高度を優先し地形的に迂回することも考慮する(good practice statement)。・固定翼機による搬送においては,天候その他の

理由で目的地に着陸できない場合の代替空港を選定することが求められる(good practice statement)。・陸路搬送においては,渋滞における搬送時間の遅

延の回避,搬送中の容態急変等に備えた搬送経路上の立ち寄り病院の選定を考慮した搬送経路の選定が求められる(good practice statement)。

1) 航空機における搬送経路の選定について原則として,航空機による搬送経路は,固定翼機の計器飛行においては国土交通省および航空法に定める経路にて,回転翼機で有視界飛行を行う場合には上記および各都道府県の定める安全運行確保計画等によって規定される。ただし,患者の病態を踏まえ,航空機の種類の選定とともに,以下に述べる搬送経路の選定等を考慮する。(1-1)飛行高度制限

機内与圧装置を持たない回転翼機等による搬送では,飛行高度の気圧と機内の気圧が同等となるため,経路によっては著しい低圧環境に曝される。集中治療を要する重症患者の搬送においては搬送時間を最短にする最短経路が必ずしも最善の搬送経路ではないことに留意する。特に日本海側と太平洋側の病院間の搬送においては山地山脈を経由しなければならないために,患者の病態によっては地溝帯等の地形を利用した低高度で飛行可能な経路を選択すべきである。なおその際には飛行時間を多く要することに加え,回転翼機によっては経路上の飛行場で再給油の必要性が生じる可能性も考慮しなければならない。

固定翼機においても,通常の飛行高度[巡航高度で
p.32
-31-患者・市民の価値観に相違が出る可能性がある。

持続血圧モニタリング・骨盤固定具・カフ付き気管チューブは,必要とする資源利用は小さく,費用対効果は高いと考えられる。

一方,ECMOは必要とする資源利用が大きい。しかし,得られる効果も大きい可能性がある。このため, ECMOの費用対効果は現時点では不明である。その他の医療器材における費用対効果は様々である。

1) 背景集中治療医や重症患者搬送に長けた搬送チームによる患者病院間搬送が行われていないことがある。

2) PICO P(患者):広域搬送・施設間搬送するICU患者(成人・小児) I(介入):何らかの医療器材(人工呼吸器,超音波診断装置,心電図モニター,シリンジポンプ,中心静脈カテーテル,胸腔ドレーン,NPPV,バッグバルブマスク,カプノメータ,聴診器,筋弛緩薬)を使用するC(対照):上記を使用しないO(アウトカム):死亡,ICU死亡,院内死亡,良好な神経学的転帰,ICU滞在日数,入院日数,生理学的悪化,検査値の悪化,機器不良,安全性,搬送中の緊急介入3) エビデンスの要約(Table 7)小児の全身性炎症反応症候群または中等度から重度の頭部外傷患者の搬送において,持続的血圧モニタリングデバイスの使用は,従来のオシロメトリックデバイスと比較して,入院日数・多臓器不全の持続日数を短縮させた。ICU滞在日数・重症度スコアは変化しなかった。総輸液量は対照群と比較して増加したが,これが有益か有害かの判断は困難だった1) 。

骨盤骨折患者の施設間搬送において,骨盤固定具の使用は,骨盤固定具の未使用と比較して,輸血量を減少させ,ICU滞在日数・入院日数を短縮させた。有意差はなかったものの,死亡を減少させる傾向を認めた2) 。

小児集中治療患者の施設間搬送において,カフなし気管チューブによる搬送の44%(24/55例)で,カフ付き気管チューブへの緊急入れ替えが必要であった。一方,カフ付き気管チューブによる搬送では,入れ替えが必要となる事象は発生しなかった(0/158例)。カフの有無による死亡率への影響はなかった3) 。

重症呼吸不全患者の搬送において,ECMOを使用した搬送は,従来の人工呼吸器と比較して,ICU死亡,院内死亡,搬送中の低酸素血症,人工呼吸使用日数, ICU滞在日数,入院日数のいずれにおいても変化させ

CQ13:搬送に必要な医療機器は何か?

Answer:・現時点では十分な質と量の研究が存在しないた

め確実な推奨はできないものの,限られたエビデンスに基づき,重症患者の搬送において,持続血圧モニタリング・骨盤固定具・(小児に限定し)カフ付き気管チューブの使用を条件付きで推奨する(GRADE 2D)。・重症患者の搬送において,ECMO搬送の使用に

特定の推奨を下すことはできない(good practice statement)。

病院間搬送の安全性を高めるために,どのような医療器材が必要かは明らかになっていない。集中治療を要する重症患者の搬送において,人工呼吸器(NPPV専用人工呼吸器を含む)・超音波診断装置・心電図モニター,シリンジポンプ・中心静脈カテーテル・胸腔ドレーン・バッグバルブマスク・カプノメータ・聴診器等の医療機器を使用する搬送に対して,使用しない搬送を比較対照とし,死亡・ICU死亡・院内死亡・良好な神経学的転帰・ICU滞在日数・入院日数・生理学的悪化・検査値の悪化・機器不良・安全性・搬送中の介入を主要なアウトカムとして,SRを行った。

重症患者の広域搬送において,持続血圧モニタリング,骨盤固定具,カフ付き気管チューブの使用を条件付きで推奨する。また重症患者の広域搬送において, ECMO搬送の使用に特定の推奨を下すことはできない。ただし,持続血圧モニタリング・骨盤固定具・カフ付き気管チューブの有用性を評価した研究はまだ極めて少ないため,今後,同様の研究が増えてくれば,推奨が変わる可能性がある。EMCO搬送については,一部の熟練した施設でのみ実施されているのが現状である。その他の医療器材については,比較検討された研究が存在しない。

持続血圧モニタリング・骨盤固定具・カフ付き気管チューブは,おもに広域搬送時の安全性向上を目的とした医療器材である。また,これらの使用に伴う有害性は小さいと考えらえる。このため,患者・市民の価値観に大きな相違はないと考えられる。一方,ECMOは単に安全性向上を目的としただけの医療器材ではなく,患者の呼吸・循環を維持する侵襲性の高い医療器材である。さらに,広域搬送時に使用することによる合併症の危険性も高い。このため,患者・市民の価値観には相違がある可能性がある。その他の医療器材についても,その使用目的と安全性のバランスによって,
p.33
-32-

なかった4) 。

4) エビデンスから決断を導くための枠組み持続血圧モニタリング,骨盤固定具,カフ付き気管チューブについては,介入による有益性が上回る可能性があるが,ECMOについてはまだ推奨を提案できないと判断した。

5) 実施に関わる検討事項持続血圧モニタリング,カフ付き気管チューブはICUを中心とした臨床現場で広く使用されているため,使用に際して特別な注意事項は不要である。しかし,気圧が変動する航空機搬送では,カフ付き気管チューブのカフや持続血圧モニタリングの加圧バッグが膨張し,異常を来す可能性に注意を要する。

骨盤固定具は,外傷診療・救急診療ではしばしば使用されるが,ICUでは必ずしも頻繁には使用されない。このため,使用の際には練習を要する。

ECMOは,侵襲性の高い医療機器であるため,広域搬送を行う際には様々な重篤合併症を起こす危険性がある。このため,ICU内で安全にECMOを使用することに習熟するだけでなく,広域搬送中のトラブル対応も十分に行えるだけの訓練が必須である。

6) 今後の研究の可能性比較研究が見つからなかった介入(人工呼吸器,超音波診断装置,心電図モニター,シリンジポンプ,中心静脈カテーテル,胸腔ドレーン,NPPV,バッグバルブマスク,カプノメータ,聴診器,筋弛緩薬等)について,その有益性と有害性のさらなる評価が必要である。

7) 付記本CQに係るSRについて,詳細は文献5を参照されたい5) 。文 献

1) Stroud MH, Prodhan P, Moss M, et al. Enhanced monitoring improves pediatric transport outcomes: a randomized controlled trial. Pediatrics 2011;127:42-8. 2) Fu CY, Wu YT, Liao CH, et al. Pelvic circumferential compression devices benefit patients with pelvic fractures who need transfers. Am J Emerg Med 2013;31:1432-6. 3) Pearson TE, Frizzola MA, Khine HH. Uncuffed Endotracheal Tubes: Not Appropriate for Pediatric Critical Care Transport. Air Med J 2019;38:51-4. 4) Ciapetti M, Cianchi G, Zagli G, et al. Feasibility of interhospital transportation using extra-corporeal membrane oxygenation (ECMO) support of patients affected by severe swine-flu(H1N1)-related ARDS. Scand J Trauma Resusc Emerg Med 2011;19:32. 5) Kikutani K, Shimatani T, Kawaguchi A, et al. Medical

equipment that improve safety and outcomes of interfacility transportation of critically ill patients: A systematic review. Medicine (Baltimore) 2023;102:e33865.

Table 7 判断の要約(CQ13)

判断

問題いいえおそらくいいえおそらくはいはい様々分からない望ましい効果わずか小さい中大きい様々分からない望ましくない効果大きい中小さいわずか様々分からないエビデンスの確実性非常に弱い弱中強採用研究なし

価値観重要な不確実性またはばらつきあり重要な不確実性またはばらつきの可能性あり重要な不確実性またはばらつきはおそらくなし更要な不確実性またはばらつきはなし効果のバランス比較対照が優れている比較対照がおそらく優れている介入も比較対象もいずれも支持しないおそらく介入が優れている介入が優れている様々分からない必要資源量大きな増加中等度の増加無視できるほどの増加や減少中等度の減少大きな減少様々分からない必要資源量に関するエビデンスの確実性非常に弱い弱中強採用研究なし費用対効果比較対照の費用対効果がよい比較対照の費用対効果がおそらくよい介入も比較対照もいずれも支持しない介入の費用対効果がおそらくよい介入の費用対効果がよい様々採用研究なし公平性減るおそらく減るおそらく影響なしおそらく増える増える様々分からない容認性いいえおそらくいいえおそらくはいはい様々分からない実行可能性いいえおそらくいいえおそらくはいはい様々分からない
p.34
-33-で患者を国外へ搬送する際には,麻薬や向精神薬の使

用および持ち出しに関して事前に航空会社や厚生労働省地方厚生局麻薬取締部への許可申請が必要となる5) 。また麻薬や向精神薬以外においても,渡航先の国によっては,医師の診断書等の書類の携帯,数量の制限,事前の許可申請を必要とする場合があるため,厚生労働省のホームページで渡航先の情報を事前に入手する必要がある6) 。

文 献

1) Warren J, Fromm RE Jr, Orr RA, et al; American College of Critical Care Medicine. Guidelines for the inter- and intrahospital transport of critically ill patients. Crit Care Med 2004;32:256-62. 2) Blakeman TC, Branson RD. Inter- and intra-hospital transport of the critically ill. Respir Care 2013;58:1008-23. 3) Andrew NP, Mike M, Jeffrey SR, et al. Critical Care Transport Second Edition. Burlington:Jones & Bartlett Learning; 2017;182-231. 4) 福家伸夫.重症患者の航空機搬送.帝京医誌 2009;32: 297-305. 5) 厚生労働省地方厚生局麻薬取締部ホームページ「麻薬等の携帯輸出入許可申請を行う方へ」.[cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.ncd.mhlw.go.jp/shinsei6. html 6) 厚生労働省ホームページ「海外渡航先への医薬品の携帯に

よる持ち込み・持ち出しの手続きについて」.[cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/ seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubuturanyou/index_00005.html

CQ 15:医療機器に必要な電力をどのように確保す

るか?

Answer:・事前に搬送に用いる医療機器の使用電力総量を

計算し,搬送手段から供給される電力量との需給の差を評価する(good practice statement)。・電源使用が困難,もしくは電源供給量が使用電

力量より低いことが予想される場合には,十分な予備バッテリーを準備する。ただし民間旅客機等では,バッテリーの持ち込みにおいて,事前に運航者の許可を得る必要がある(good practice statement)。

1) 電源供給の重要性搬送中の電源供給は,人工呼吸器やECMO等を含む医療機器を使用する搬送を安全に実施するための極めて重要な要素であるが,多くの搬送手段において電源供給には様々な制限がある。その為,各搬送手段における電源を安全に利用するには,電源供給の制限を

CQ14:搬送に必要な薬剤は何か?

Answer:・第1に患者急変時において救命に必要となる薬

剤,第2に患者の集中治療の継続に必要となる薬剤である(good practice statement)。・航空搬送においては,出発空港への引き返しや

代替空港への着陸,運航の遅滞等を鑑み,予定搬送時間に必要な量の2倍量を準備する(good practice statement)。・麻薬・毒薬・劇薬等,厳正な薬剤管理が必要な

薬剤が含まれる(good practice statement)。

1) 準備すべき薬剤の種類について重症患者の搬送において,準備すべき薬剤の種類としては大きく2点に大別される。第1に患者急変時・救命のために必要な薬剤,第2に患者の病態への治療のために必要な薬剤である。搬送において準備すべき薬剤は様々な文献等で述べられている1)〜3)が,一律の基準はない。患者の病態,搬送中予測され得る患者の変化に応じて適宜必要薬剤を追加する。

2) 準備すべき薬剤の量について血管作動薬等,搬送前から持続静注投与している薬剤を搬送中も投与する際は,搬送時間を予測し余裕を持った量を準備しておくことが望ましい。航空搬送においては,目的地空港の天候次第で代替空港に着陸する,あるいは出発空港へ引き返すことが,陸路搬送においては予期し得ない渋滞が想起される。こうした不測事態に備え,予定搬送時間の2倍の時間を充足し得る薬剤量を準備すべきである。

3) 薬剤の保管要領について薬剤の保管要領について,搬送間は麻薬・毒薬・劇薬の管理を含め,適切な薬剤保管に努める。特に長距離・長時間の搬送の場合は注意を払う必要がある。冷所保存が必要となる薬剤を持参する場合は保冷庫や保冷バッグを,ガラス製のアンプルやバイアルに入った薬剤を保管できる耐衝撃性のケースを準備しておくことも必要である。遮光が必要な薬剤の保管・使用時も取り扱いに注意する3) 。

4) 海外渡航時の麻薬および向精神薬の使用・持ち

出しについて航空搬送において,国内線では事前の確認は必要であるが薬剤の機内持ち込みに関する制限はない。他方,国際線では,国際法上,麻薬や向精神薬の機内持ち込みは国外輸出に該当するため検疫を含めた法的制約や手続きが生じる4) 。そのため,例えば渡航移植目的等
p.35
-34-発電構造上,安定的な電力供給が不可能であるために,

民間航空会社では免責の観点から「患者の生命に影響の出る可能性がある医療機器の機内シート電源は使用できない」と定め,バッテリーの使用を勧告していることが多い。(2-5)回転翼機

重症患者の航空搬送に用いられる,消防防災ヘリコプター等の中型~大型ヘリコプター(ベル412, BK117,AS365,AW139等)における電力供給は,機種ごと,もしくは組織の運用要求性能ごとに異なるものの,商業用電源としておよそ500~1,000 Wであることが多い。

3) 電源使用が困難な場合搬送中の電源使用が困難な場合には搬送に耐え得る十分なバッテリーがあるか検討する必要がある。現在市販されている搬送用医療機器のほとんどすべてにおいてリチウムイオンバッテリー等の高性能長時間型バッテリーを搭載し,バッテリーのみで数時間以上の駆動が可能である。搬送手段における電源供給の不備や,搬送経路の渋滞や迂回,航空搬送における出発空港への引き返し,代替空港への着陸等,想定外の事態も考慮し,十分な予備バッテリーを準備する必要がある。

4) バッテリーの準備と持ち込み近年ではリチウムイオン電池は医療機器へのバッテリーとして一般的となっている2)が,発火事例が多く報告されていることから,民間旅客機においては,「機器に組込まれたあるいは予備の電池は国際規格3)に合致していることが証明された型式であり,かつリチウム内容量が8 g以下であること,またはワット時定格量が160 Wh以下であること」を条件に,運航者の承認のうえ,医療用として乗客が機内持込み手荷物としてのみ機内に持込むことができる。

文 献

1) 伊藤一喜,長尾強志,坪井宏樹,他.救急車による重症患者搬送時における電源容量の問題点.月刊心臓 2009;41:10. 2) Haggerty A, Keogh S. Using lithium ion batteries in the aeromedical environment: a calculated risk? Emerg Med Australas 2015;27:160-4. 3) UN Manual of Test and Criteria, 7th revised edition

Amendment 1. [cited 2025 Feb 1] Available from: https:// unece.org/sites/default/files/2021-09/ST-SG-AC10-11- Rev7-Amend1e_WEB.pdf

理解し,各機器の内部電池を有効に活用することが重要である1) 。【参考】メーカーによって多少の差異はあるものの,主な医療機器の電力使用量を以下に記す。1搬送用人工呼吸(人工鼻を使用):100~200 VA 2呼吸循環モニター(ベッドサイドモニター):

100~150 VA 3シリンジポンプ: 20 VA 4輸液ポンプ:20 VA 5大動脈内バルーンパンピング(IABP):300~400

VA 6ECMO コンソール(ドライブユニットを含む):

250~400 VA 7ECMO 冷温水槽(恒温槽):1,500 VA(最大電力

使用時) 2) 搬送手段別の電源供給(2-1)救急車等

自治体消防が有する高規格救急車は,標準規格として電力供給量が300 Wに留まり,多くの医療機器が付随する重症患者の搬送においては,電力は大きく不足する。他方,ECMOカーはこうした点を考慮し,1,500 W以上もの電力供給を可能としている車両もある。(2-2)航空機一般

航空機の電源供給は,エンジンが発電機を駆動して得られる電力と,蓄電池から得られる電力が並列に接続され供給される。航空機内で必要とする電力は,主にエンジンで駆動される発電機より供給されるため,エンジンの回転数の変動により,電力変動を来しやすい。また航空機の特性により,航空機から供給される電力の周波数や電力量に機種ごとの差異や特徴があり,搬送計画の段階で,航空機運航側にその特性を聴取する必要がある。(2-3)自衛隊の固定翼輸送機

航空自衛隊のC-130H輸送機は,100 V,400 Hz の電気を供給するため,医療機器に使用する際は周波数変換装置が必要となる。他方,C-2輸送機は,商業用電源(単相50〜60 Hz,100 V)に変換しているため,商業用電源としてそのまま使用可能である(電源一口あたり300 Wまでの電源供給が可能である)。なお,医療機器の電磁適合性に疑義がある場合や,電磁干渉の可能性がある場合には機内電源を使用することができない。(2-4)民間旅客機

民間旅客機においては,商業用電源としてそのまま使用可能である。ただし,民間旅客機の機内シート電源は一口あたり50~75 Wに留まる。また,航空機の
p.36
-35-を保証する基準であり,航空機における医療機器と航

空計器・装置の相互間における電磁干渉がないことを保証するものではない。本邦で薬機法承認を受けている医療機器のうち,航空機における電磁適合性基準であるRTCA-DO-160を満たしているものは少なく,更にはMIL-STD-461を満たしているものは殆ど存在しない(輸入されている医療機器のうち,米国内においてMIL-STD-461を取得しているものの本邦の薬機法承認時に電磁適合性基準について申請していないものが複数存在する)。搬送計画の段階で,搬送を担う組織(機関)や運航会社に対し,機内で使用する医療機器について,どのような電磁適合性が求められるかをあらかじめ確認しておく必要がある。

2) 回転翼機における電磁適合性有視界飛行を原則とするドクターヘリにおいては,電磁干渉による飛行の影響はさほど考えなくてもよいが,計器飛行が可能な高度電子制御による中・大型ヘリコプターを有する海上保安庁・自治体消防・自衛隊においては,独自に電磁適合性に関する基準を定めている。(2-1)海上保安庁

原則的にJIS T 0601-1-2(IEC60601-2)に準拠していることを必要要件とし,それより厳しい基準に準拠せずとも発生する電磁波は微弱であり,航空機に大きな障害を及ぼすことはない,という観点から搭載を許可している。また原則的に医療機器の機種ごとに搭載試験を実施しているが,未確認の場合には,万一航空機に異常が発生した場合に該当する医療機器の使用停止と,その際の適切な処置および管理について責任を負うことが可能であるように医師の同乗を義務付けることで,医療機器の使用を可能にしている。(2-2)東京消防庁

消防庁ヘリコプター運行基準に従い,数回の実機搭載試験を実施した後に,搭載を可能としている。ただし,過去に除細動器の通電により,計器飛行における超短波全方向式無線標識(航空機に方位を知らせる無線標識)が誤表示した事例を認めたことがあるために,通電はすべて機長許可のもとに行うこととしている9) 。(2-3)防衛省

防衛省・自衛隊の回転翼機に対する統一した電磁適合性基準はなく,陸海空自衛隊ごとにそれぞれ個別の基準に従って医療機器の持ち込みおよび使用を許可している。

陸上自衛隊は,実機に医療機器を搭載し,電磁遮蔽シート等で医療機器を被覆した後に,医療機器を実際

CQ16:航空搬送における電磁適合性基準とは何か?

Answer:・航空機に医療機器を搭載するためには,個々の

機器における電磁適合性基準について,把握しておくことが必要である(BQに対する情報提示)。・本邦では航空搬送における統一した電磁適合性

基準が存在せず,搬送を実施する組織(機関)や運航会社ごとに定められている(BQに対する情報提示)。・搬送計画の立案段階で,搬送を実施する組織(機

関)や運航会社に対し,予め医療機器の電磁適合性について照会し,必要に応じ搭載試験等の事前検証を行う(BQに対する情報提示)。・機内での医療機器の使用にあたり,除細動器等

は必要に応じて使用に係る機長許可を取るとともに,万一の電磁干渉に備え電源停止時の対応策を準備しておく必要がある(BQに対する情報提示)。

航空搬送における電磁適合性(electromagnetic compatibility, EMC)とは,患者に付随する医療機器等が,航空機の運行に係る電磁的妨害源とならないように,かつ航空機から電磁的な干渉を受けないように,あるいは受けても正常に動作するように設計,製造されている要件である。

1) 電磁適合性基準について電磁適合性基準として主に,1米軍用規格であるMIL-STD-4611)(もしくは防衛省規格NDS C 0011C2)), 2民間機用の米国無線通信委員会規格であるRTCA/ DO-160(もしくは和訳されたJIS W 0812)(以下,「RTCA規格」)3),4),3医療機器認可に使用する国際電気標準会議医療機器基準であるIEC60601-1-2(もしくは和訳されたJIS T 0601-1-2)(以下,「IEC規格」)の3種類が存在する5),6) 。しかしながら,航空機に搭載する医療機器に対する電磁適合性基準について,本邦では統一した基準が存在せず,搬送を実施する組織(機関)や運航会社ごとに定められているのが実情である7) 。

平成18年9月の薬事法(現,医薬品医療機器等法,以下,「薬機法」)改正以降に発売されたすべての医療機器はIEC60601-1-2を満たしていることが求められるようになった8) 。つまり同時期以降に発売されたすべての医療機器は必要最低限の電磁適合性を満たしていることになる。しかし,IEC60601-1-2規格はあくまで地上における医療機器相互間の電磁干渉がないこと
p.37
-36- 4) 機長権限について

電磁適合性が証明されている医療機器であっても,除細動器を用いて電気的除細動を実施する等,航空計器に異常を来し安全な運航を阻害する可能性のある場合には,航空法第73条の4に基づき,必ず機長許可をとることが求められる。

航空機の安全な運行は搬送患者の生命予後よりも優先されるべき事項と解釈されることもあり,医療行為により安全な運行が著しく阻害される場合には,人工呼吸器やECMO等の生命維持装置であっても,機長より使用の停止を求められた場合には,速やかにそれに従わなければならない。

文 献

1) U.S Department of Defense: Interface standard: requirements for the control of electromagnetic interference characteristics of subsystems and equipment. MIL-STD- 461G, 11 December, 2015. [cited 2025 Feb 1]Available from: https://quicksearch.dla.mil/qsdocdetails. aspx?ident_number=35789 2) 防衛省規格,電磁干渉試験方法:NDS C0011C,平成23年6月15日. [cited 2025 Feb 1] Available from: http:// www.mod.go.jp/atla/nds/C/C0011C.pdf 3) Radio Technical Commission for Aeronautics, 160G: Environmental Conditions and Test Procedures for Airborne Equipment, Document 8 2010. 4) 日本工業規格.航空機搭載機器─環境条件及び試験手順. JIS W 0812, 2004. 5) International Electrotechnical Commission,60601-1-2 edition 4.0: Medical electronical equipment – Part-2: General requirements for basic safety and essential performance – Collateral Standard : electromagnetic disturbances – Requirements and tests. 2014-02. Available from: https:// webstore.iec.ch/en/publication/2590 6) 日本工業規格.医用電気機器─第一部:安全に関する一般的要求事項─第2節:副通則─電磁両立性―要求事項及び試験.JIS T 0601-1-2, 2012. 7) 藤田真敬.重症患者空輸に関わる医療機器の電磁適合性~規制と喫緊の課題~.島しょ医療研会誌 2018;10:3-15. 8) 厚生労働省医薬局審査管理課長.医療用具の電磁両立性に関する規格適合確認の取扱いについて(医薬審発第0830006号).平成14年8月30日. 9) 総務省消防庁.消防防災ヘリコプターの運航に関する基準

(令和元年消防庁告示第4号).令和元年9月24日.

に稼働させ,医療機器と航空機の計器・装置の相互に電磁干渉がないことを検証(カップリング試験)した後に使用可能としている。

海上自衛隊は,搭載する医療用電気機器を予め限定し,機種選定の後にカップリング試験を実施し使用可能としている。

航空自衛隊は,搬送前にカップリング試験を実施し使用可能としている。

3) 固定翼機における電磁適合性計器飛行を行う固定翼機においては,電磁適合性を厳格に要求されることが多い。(3-1)防衛省

防衛省において,航空自衛隊の保有するC-130H, C-1,C-2等の大型固定翼輸送機による搬送においては,機種ごとに厳格な電磁適合性試験を実施し相互に電磁干渉が生じないことが証明されている医療機器のみ搭載および機内での使用が許可されている。航空機動衛生隊の保有する機動衛生ユニットを用いて搬送する場合には,機動衛生ユニットそのものが完全な電磁遮蔽能力を有するため,いかなる医療機器も搭載が可能であり,離着陸時も含めた常時の使用を可能としている。U-125等の小型ジェット機を用いて搬送する場合には,回転翼機同様に搬送前にカップリング試験を実施し,異常がないと判断した医療機器のみ機内で使用を許可している。

海上自衛隊は電磁干渉試験に合格した医療機器を予め自隊内で保有し,その医療機器のみの使用に限定している(部外から医療機器を持ち込み機内で使用することはできない)。(3-2)海上保安庁

海上保安庁は,回転翼機と同様に,固定翼機においてもカップリング試験を実施し,異常がないと判断した医療機器のみ機内で使用を許可している。(3-3)民間航空会社

民間航空会社では「IEC60601-1-2基準を満たしていれば,離着陸時以外は電源を入れて使用しても良い」「RTCA-DO-160規格を満たしていれば,離着陸時も含め常時使用可能である」と規定していることが多い。そのため,人工呼吸器等の生命維持装置に関して, IEC60601-1-2規格の取得のみでは離着陸時の電源停止を余儀なくされる可能性があることを認識しなければならない(なお,人工呼吸器の動作停止時には手動換気に切り替えて対処すべきところ,離着陸時は着座が義務付けられているために席を離れて手動換気することはできないことにも留意が必要であり,医療機器の固縛位置にも配慮が必要である)。
p.38
-37-器および流量計はねじ式4)とヨーク式5)がある。搬送

過程においてこれらの規格がことなる酸素ボンベが用意される可能性を考え,圧力調整器および流量計はねじ式ならびにヨーク式の両方を携行することが求められる。

文 献

1) 花田隆造,巌康 秀.航空機患者搬送と医療ガス. Medical Gases 2005;7:18-22. 2) JAL酸素ボトルをご利用のお客様.[cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.jal.co.jp/jalpri/pre-application/oxygen.html 3) ANA お客様ご自身の酸素ボンベのご利用.[cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.ana.co.jp/ja/us/ travel-information/customers-with-disabilities/medicalrequirements/medical-oxygen-cylinders/ 4) 日本産業・医療ガス協会:「医療ガス配管設備」 JIS T7101- 2006 .日本規格協会 2006;89-94. 5) 日本高圧ガス容器バルブ工業会:「高圧ガス容器弁」 JIS

B8246-2004 .日本規格協会 2004;8-13.

V.搬送の実際

CQ18:安全に搬送するためには,どのような患者の

状態が求められるか?

Answer:・搬送元医療機関において,搬送前に患者の病態

の安定化(安定化処置)が図られていることが求められる(good practice statement)。・チェックリストを用い,気道・呼吸・循環・神経を

評価し,生理学的指標を最適化し,更に搬送中の侵襲を考慮した搬送前の医学的介入が行われていることが求められる(good practice statement)。・具体的には,二次的気道確保,人工呼吸管理,カ

テコラミンや輸液・輸血の投与,ECMOやIABP等の補助循環装置の導入,鎮静薬や筋弛緩薬の投与等である(good practice statement)。

重症患者の搬送を行う際,搬送元病院で患者の安定化処置を行うことは,搬送中の有害事象の発生を極限し,搬送後の予後を確保するうえで重要である1),2) 。過去の研究でも,患者の安定化に時間をかけることの重要性が示唆された3),4) 。患者の病態の安定化が得られない状況で搬送を行うことは避けるべきである。搬送前にチェックリストを用いて気道・呼吸・循環・神経を評価し,生理学的指標を最適化することが求められる5)〜7) 。具体的な介入として,二次的気道確保,人工呼吸管理,カテコラミンや輸液・輸血の投与,

CQ17:航空搬送において,酸素ボンベの機内への持

ち込み制限はあるか?

Answer:・酸素ボンベは,国際航空運送協会で航空危険物

と定められていることから,機内への持ち込み要領が定められ,ボンベサイズおよび重量が制限されている(BQに対する情報提示)。

1) IATA-DGRについて医療機器や酸素,医薬品に関する機内への持ち込みに関しては,原則的に国際航空運送協会, International Air Transport Association, IATA)が定める航空危険物規則(Dangerous Goods Regulations, DGR)に則り,輸送が制限されている。国内の航空法等の関連法規もこの規則(IATA-DGR)を参考に航空危険物を定め,機内への持ち込みおよび取り扱いを規制している1) 。なお,航空搬送において,IATA-DGRで危険物と定められているものとして,酸素ボンベ,医療機器のバッテリー(リチウムイオン電池)等が挙げられる。

2) 酸素ボンベ酸素療法は機内で酸素を扱う場合,機体備え付けのものを使う,あるいは酸素ボンベ等を持ち込むことが考えられる。酸素等の高圧ガスは,IATA-DGRで危険物と定められており,本邦においても原則として輸送および航空機への持ち込みが禁止されている(航空法86条,航空法施行規則194条第1項)が,条件を付与することにより禁止が解除されている(航空法施行規則194条第2項)。すなわち,搭乗員の非常用酸素,ドクターヘリの装備品としての酸素等は,航空機の運航,航空機内における人命の安全の保持の目的と考えることができる。これにより旅客機で航空搬送をする場合は酸素を携行品とし,機内持ち込みを許可している(航空法施行規則194条第2項第3号および4号)。実際には,航空会社毎に取り決めがあり,在宅酸素患者の酸素ボンベ持ち込みの例を参考にするのがよい。具体的には,・医療用ガス・酸素(空気)であること(液体は不可)・日本では高圧ガス保安法により容器証明がされてい

ること・ボンベのサイズは高さ70 cm・直径10 cm程度であ

ること・1本あたりの総重量は5 kg以下であることと定められている2),3) 。

なお,補足として,酸素ボンベに接続する圧力調整
p.39
-38- 7) Williams P, Karuppiah S, Greentree K, et al. A checklist

for intrahospital transport of critically ill patients improves compliance with transportation safety guidelines. Aust Crit Care 2020;33:20-4. 8) Singh JM, MacDonald RD, Ahghari M. Critical events

during land-based interfacility transport. Ann Emerg Med 2014;64:9-15.e2.

CQ19:搬送に適切なパッケージングとは何か?

Answer:・十分な活動スペースの確保を前提とし,トラブル

発生を迅速に認識し,確実にそれに対応をするためのデバイスへのアクセスや視認性を担保した搬送形態を言う(good practice statement)。・すべての搬送に対応可能な画一的なパッケージ

ングは存在しない(good practice statement)。・適切なパッケージングは,搬送手段や経路,

搬送資機材によって異なる(good practice statement)。

パッケージングとは,搬送に先立ち,現在使用中のモニタリング機器や治療デバイス,および点滴類等の中から必要なものを搬送中においても継続可能となるように配置し,必要に応じてデバイスの追加を検討するプロセスである。レイアウトに画一的なものは存在せず,搬送手段に応じて臨機応変に検討しなくてはならない。搬送中は,ICUでの管理と異なり,振動や加減速が発生するため,あらゆる方向からの外力に対して,強固で耐久性のある固定が必要となる1) 。医療デバイスの計画外抜去や位置異常等を防ぐため,ストレッチャー自体に患者とともに固縛する必要がある2) 。また,ECMOや体外式VAD等の体外循環を使用した患者の搬送であれば,事前に適切な回路長をとることや,バックアップ機器への迅速なアクセスが可能なこと,回路への空気混入を避けるために人工肺を患者より低い位置に固定すること,等の工夫も必要である。また,航空機での搬送時は特に振動や加速度の影響を受けやすくなるため,全体の重心が低い所に位置する状態でパッケージングすると安定性が高まる。やむを得ず重心が高くなる場合には,機内における患者や機器の固縛を強化する必要がある。

トロリーと呼ばれる重症患者の搬送に特化したストレッチャー等の搬送資機材は多種多様なものが存在する現状であるが,すべての搬送に適合する搬送資機材は存在しない。搬送する車両や機体により,患者搬入口や内部の広さ,床へ固定する機材の仕様も異なるた

ECMOやIABP等の補助循環装置の導入,鎮静薬・筋弛緩薬の投与等がこれに該当する。

さらに搬送中の侵襲を考慮した医学的介入を行うことが求められる。CQ 7に述べたように,航空搬送においては,高高度環境(低圧・低酸素),振動,重力加速度・環境温度および湿度等の航空機特有の環境による侵襲下においても,病態の安定が求められる。機内与圧装置を持たない回転翼機で搬送する場合には,飛行高度の上昇に伴う気圧および酸素分圧の低下により,地上では認めなかった呼吸機能の低下が顕在化し,低酸素血症および低酸素症(組織低酸素)を呈する可能性がある。病態に応じて,飛行高度(機内高度)に準じた吸入酸素濃度の増加,必要に応じて気管挿管と人工呼吸管理,人工呼吸管理のみで呼吸状態の安定化が困難であればECMOの導入,閉鎖腔の評価と気胸に対するドレナージ,組織低酸素回避のための適切な輸血(貧血の是正)等を行う必要がある。

搬送中の低血圧は,患者予後に最も影響する因子のため,注意を払う必要がある8) 。搬送中の重力加速度や体位による静脈還流の減少とそれに伴う低血圧を回避するための循環血液量の適正化,振動・揺れや搭載・積み下ろし時のルートの計画外抜去に備えての確実なルートの固定,輸液関連機器(シリンジポンプ,輸液ポンプ等)のバッテリー低下等のトラブルに対処するための予備機の持参,ECMO使用時の適切な抗凝固療法の評価と継続,等を行う必要がある。

また,こうした呼吸循環系の医学的介入以外に,次項に述べる適切なパッケージングも安定化処置として求められる。

文 献

1) Olson CM, Jastremski MS, Vilogi JP, et al. Stabilization of patients prior to interhospital transfer. Am J Emerg Med 1987;5:33-9. 2) Crippen D. Critical care transportation medicine: new concepts in pretransport stabilization of the critically ill patient. Am J Emerg Med 1990;8:551-4. 3) Sundbom MF, Sandberg J, Johansson G, et al. Total Mission Time and Mortality in a Regional Interhospital Critical Care Transport System: A Retrospective Observational Study. Air Med J 2021;40:404-9. 4) Borrows EL, Lutman DH, Montgomery MA, et al. Effect of patient- and team-related factors on stabilization time during pediatric intensive care transport. Pediatr Crit Care Med 2010;11:451-6. 5) Bérubé M, Bernard F, Marion H, et al. Impact of a preventive programme on the occurrence of incidents during the transport of critically ill patients. Intensive Crit Care Nurs 2013;29:9-19. 6) Broman LM, Holzgraefe B, Palmér K, et al. The

Stockholm experience: interhospital transports on extracorporeal membrane oxygenation. Crit Care 2015;19:278.
p.40
-39-

め,事例ごとに使用する搬送資機材を選択する必要がある。特に航空搬送においては,固定翼輸送機,回転翼機ともに搬入出経路および機内スペースが狭隘であることや,強い振動や重力加速度等への対応が求められるため,パッケージングには工夫を要する。具体的には,航空耐性を有する強固な資材であること,機体への固縛(パレッタイズ)が可能であること,機体の搬出入経路や機内スペースに適合した全長・全幅・全高であること等があげられる。また航空搬送(特に固定翼機を用いた搬送)では,搬送元医療機関を出発して搬送先医療機関に到着するまでに,少なくとも2回以上の載せ替え(航空機への搭載・積み下ろし)を必要とする。この載せ替え作業は,搬送中の有害事象発生と関連あることが指摘されている3) 。したがって,医療安全の観点から,載せ替えの際のパッケージングの解除や再パッケージングは,不要もしくは最小限にとどめる工夫が重要である。近年では,ECMOカーに代表される大型の重症患者搬送車両の配備が国内で進んでおり,同車両のトロリーは,患者を固定するストレッチャーのベッド面の下にデバイス類を固定できるものが採用されていることが多い。これは,搬送中のパッケージングの解除や再パッケージングを行うことなく搬送元医療機関の病室から搬送先医療機関の病室までの搬送を可能にする,陸路搬送におけるパッケージングの工夫の一例といえる。

文 献

1) Labib A, August E, Agerstrand C, et al. Extracorporeal Life Support Organization Guideline for Transport and Retrieval of Adult and Pediatric Patients with ECMO Support. ASAIO J 2022;68:447-55. 2) Low A, Hulme J, editors. ABC of Transfer and Retrieval Medicine. Hoboken:WILEY Blackwell; 2014. 3) Ericsson A, Frenckner B, Broman LM. Adverse Events

during Inter-Hospital Transports on Extracorporeal Membrane Oxygenation. Prehosp Emerg Care 2017;21: 448-55. CQ20:搬送中のモニタリングとして何を行うか?

Answer:・搬送による侵襲が病態に与える影響を考慮し,

一般的なバイタルサインに加え,より詳細なモニタリングの追加を検討する(good practice statement)。・気道・呼吸管理において,経皮的酸素飽和度測

定に加えカプノメータを使用する(good practice statement)。・搬送中は,心電図モニターに対するノイズの混

入や,マンシェットによる血圧測定が正確に測定し得ない状況が生起するため,観血的血圧測定を考慮する(good practice statement)。・人工呼吸やECMO等を使用する患者において

は,ACTや血液ガス等,POCTデバイスの活用により,より多くの生体情報を得ることが望ましい(good practice statement)。

重症患者搬送では,搬送環境により様々な侵襲を受ける。特に航空搬送においては,前述(CQ 7)のとおり,高高度環境における低圧・低酸素,振動,重力加速度,温度・湿度の影響を受けるため1)〜3),侵襲が病態に与える影響を適切に評価するために,患者病態・治療内容・重症度に応じ,一般的なバイタルサイン(呼吸数,心拍数,血圧,体温,意識レベル)のモニタリングに加えて,より詳細なモニタリングの追加を検討する。また,搬送元医療機関で実施されていたモニタリングの継続の可否・適否について検討する。

1) 気道・呼吸呼吸モニタリングとして,人工呼吸管理患者においては,経皮的酸素飽和度計に併せてカプノメータによるモニタリングが望ましい1) 。搬送中の気道トラブルや人工呼吸器等の気道関連機器に関するトラブルは時に致命的となる。小児の病院間搬送において,5%程度の症例で気道分泌物により気管チューブが閉塞した報告がある2) 。また,10%の症例で気管チューブが不適切な位置へ移動していた,もしくは計画外抜管に至ったという報告を認める3) 。酸素欠乏や人工呼吸器の故障等,気道関連機器に関するトラブルは,28%に及ぶとされており3),こうした事象を適切に認知するのに最も感度が高いカプノメータを使用する。

2) 循環血圧の変動は,病院間搬送において最も頻度の高い合併症である4) 。車両・航空機の振動・騒音による覚醒,重力加速度や加減速等から,交感神経過緊張によ
p.41
-40- with pretransport severity of illness. Pediatrics 1989;84:43-8. 3) Chaichotjinda K, Chantra M, Pandee U. Assessment of

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experience: interhospital transports on extracorporeal membrane oxygenation. Crit Care 2015;19:278.

CQ21:体温管理はどのように行うか?

Answer:・重症患者の搬送時には,中枢温でのモニタリン

グが望ましい。末梢温のモニタリングが困難な場合は,鼓膜温または口腔温で代用する(good practice statement)。・重症患者では鎮静鎮痛薬や筋弛緩薬の使用によ

る熱産生抑制が起こるため,搬送中は低体温が生じやすく,搬送開始前から搬送終了までの持続的な体温評価と管理が重要である(good practice statement)。・加温法として,受動的加温のみならず能動的加

温も考慮する。ただし,能動的加温は電力消費量や電磁適合性から実施し得ないことも考慮する必要がある(good practice statement)。

1) 搬送に最適な体温モニタリングとは?成人および小児患者を対象としたSRおよびRCT 1)において,重症患者や外傷,術後患者等,急性期患者の体温モニタリングでは中枢温が望ましく,中枢温モニタリングが困難な際は代替案として鼓膜温あるいは口腔温のモニタリングを推奨している。搬送中においても継続して体温管理を行うために,直腸温・食道温といった搬送時に測定可能な中枢温の測定を継続して行うことを推奨する。

2) 適切な体温管理策とは?重症患者の搬送では,環境温度(外気温)に曝されるため,継続的な体温モニタリングを実施し,厳格な体温管理を実施する必要がある。搬送中の体温異常として高体温・低体温いずれも生じ得るが,文献上報告さ

る頻脈・高血圧,心房細動等の頻脈性不整脈,心筋虚血等を生じる可能性がある5) 。また,薬剤投与経路の不具合(ルートの計画外抜去,輸液関連装置のバッテリー低下等)から血行動態の不安定を招く可能性がある。このため,心電図モニターの装着は必須であり,これに加えて血圧のモニタリングとして動脈ラインを挿入し,観血的動脈圧測定を実施することが望ましい。なお,マンシェットによる血圧測定は,振動があるような航空搬送では正確に測定し得ない場合があることに留意する。またほとんどすべての回転翼機や自衛隊の固定翼輸送機等において,聴診器によるコロトコフ音の聴取は困難である。

肺動脈カテーテルを留置している場合,位置の移動による不整脈や肺動脈損傷等を回避するため,搬送時には必ずデフレートを確認のうえ,右房まで引き抜いておくことが求められる。航空搬送時には,高高度による低圧環境にてバルーンが過膨張し肺動脈損傷を惹起する可能性を考慮し,肺動脈楔入圧の測定時のインフレートには注意を要する6) 。

3) 頭蓋内圧モニタリングICPモニターが挿入されている場合には,搬送中も引き続きモニタリングできる環境を整備することが望ましい。頭蓋内病変を有する患者においては,搬送によるストレスや搬送中の揺れや振動,低圧環境等により,頭蓋内出血の新規発症や増悪,気脳症を有する場合の頭蓋内圧の上昇等を予期した監視が求められる。

4) 血液凝固系検査ECMOやIABP等の体外循環装置を装着して搬送する際には,搬送中も活性化凝固時間(activated coagulation time, ACT)の測定による抗凝固能の継続的な評価を行うことが望ましい7) 。ECMO患者の搬送データでは,全搬送の1%弱に駆動ポンプ,膜型人工肺,カニューレや回路等に血栓を認めた報告がある7) 。

5) 血液ガス分析近年,ベッドサイド診断としての臨床現場即時検査(point of care test, POCT)に係るデバイスの開発が進み,血液ガス分析についてもPOCTデバイスによる搬送中の分析が可能である。人工呼吸管理中の酸素化・換気の評価のみならず,電解質,血糖,乳酸値等,情報量は多く,またECMO人工肺の酸素化能の評価にも有用である。

文 献

1) Branson RD, Rodriquez D Jr. Monitoring During Transport. Respir Care 2020;65:882-93. 2) Kanter RK, Tompkins JM. Adverse events during inter-

hospital transport: physiologic deterioration associated
p.42
-41- 3) Miller M, Richmond C, Ware S, et al. A prospective

observational study of the association between cabin and outside air temperature, and patient temperature gradient during helicopter transport in New South Wales. Anaesth Intensive Care 2016;44:398-405. 4) Nakajima M, Aso S, Yasunaga H, et al. Body temperature change and outcomes in patients undergoing longdistance air medical transport. Am J Emerg Med 2019;37:89-93. 5) Andrew NP, Mike M, Jeffrey SR, et al. (chapter title) In: American Academy of Orthopadic Surgeons, editors. Critical Care Transport Second Edition. Barlington: Jones & Bartlett Learning; 2017.698-9. 6) Svendsen T, Lund-Kordahl I, Fredriksen K. Cabin temperature during prehospital patient transport - a prospective observational study. Scand J Trauma Resusc Emerg Med 2020;28:64. 7) Lundgren P, Henriksson O, Naredi P, et al. The effect of

active warming in prehospital trauma care during road and air ambulance transportation - a clinical randomized trial. Scand J Trauma Resusc Emerg Med 2011;19:59.

CQ22:鎮静管理はどのように行うか?筋弛緩薬はど

のように使用するか?

Answer:・搬送中の鎮静管理は,浅鎮静を回避するため

BISモニターや鎮静のスケール等を用いて繰り返し評価を行う(good practice statement)。・搬送においては,人工呼吸器との同調性や安全

性を確保するため不動化の目的で筋弛緩薬を使用することは一般的である。ただしその適応について精査を要する(good practice statement)。

1) 患者の鎮静管理重症患者の搬送では,適切な鎮静深度で搬送することが患者および医療従事者の安全を保つうえで重要である。搬送に関わる医療従事者は使用する薬剤特性を理解している必要がある。鎮静深度はRichmond Agitation-Sedation Scale等の客観的指標を用いて管理することが推奨される1) 。鎮静薬使用下で搬送する場合には,BIS(bispectral index)モニターを装着することが望ましい。搬送中の鎮静・鎮痛薬の持続投与中止やボーラス投与への切り替えは,不適切な鎮静による覚醒,交感神経活性の亢進を惹起し,心血行動態に悪影響を及ぼす可能性がある。搬送中も可能な限りシリンジポンプ等による鎮静・鎮痛薬の持続投与を継続するか,頻回に患者の鎮静深度を評価することが求められる。固定翼機による航空搬送等で床に患者を横たえる状態で搬送する必要がある場合,疼痛が増悪することがあることを留意する必要がある。不穏等で暴力

れているのは低体温がほとんどであり2)〜4),本項では低体温に対する予防,対応について述べる。

集中治療管理を要する重症患者には,鎮静鎮痛薬や筋弛緩薬投与による熱産生抑制が背景にあることが多く,輸液や輸血投与,脱水や体表からの熱喪失等から低体温が惹起されることが多く,特に少児や高齢者においては一段の注意が必要である5) 。

体温管理,特に低体温症の予防および治療として,受動的加温(passive warming)と積極的加温(active warming)がある。前者は毛布や断熱シート等による被覆や人工鼻装着等,患者からの熱喪失を防ぐ方法であり,後者は電気毛布や懐炉等の使用,40°C前後に加温した輸液の投与,温生理食塩水での膀胱洗浄・胃洗浄等,患者に熱供給をする方法である。人工呼吸管理中の患者では加温加湿器,ECMO装着患者では冷温水槽の使用が望ましいが,大きな消費電力を要するため,搬送前に他の医療機器の消費電力量も含めて算出し,各搬送アセットの供給電力量が足りるか確認しておく必要がある。ECMO装着患者に冷温水槽が使用できない場合,体外循環回路からの熱喪失も無視できないため,特に冬期や雨天等,外気温が低い中での搬送には体外循環回路周囲を断熱シートや懐炉等で被覆し回路血を保温することも必要となる。

搬送間に低体温となるリスク因子を,陸路と空路という搬送経路の違いや搬送所要時間,搬送手段内の温度や搬送中の外気温等の観点で調べた観察研究は複数存在する2)〜4),6)が,SRやメタ解析は存在せず,いずれも搬送中の低体温と有意な関連性を証明したものはない。体温管理の方法としても上記の受動的加温のみで低体温なく搬送を完遂したとする報告がほとんどである。ただこれらの報告には搬送時間が比較的短時間のものや,患者の重症度も明確でないものが多く,受動的加温単独に比較し積極的加温を併用することで寒冷に伴う循環動態の変動や患者の不快感を有意に改善させたとする報告7)もある。搬送時の理想的な体温管理方法の確立にはさらなる研究が待たれるが,特に冬期等,外気温が低い中,低年齢や高齢で重症度の高い患者を長時間搬送する際には積極的加温の必要性も生じ得ると認識し準備をしておく方がよい。

文 献

1) Niven DJ, Gaudet JE, Laupland KB, et al. Accuracy of peripheral thermometers for estimating temperature: a systematic review and meta-analysis. Ann Intern Med 2015;163:768-77. 2) Sookram SM, Barker S, Kelly KD, et al. Can body

temperature be maintained during aeromedical transport? CJEM 2002;4:172-7.
p.43
-42- CQ23:搬送中の急変について,どのように対処すれ

ばよいか?

Answer:・病態と搬送中の侵襲から,搬送中の急変を予測

し,急変に適切に対処し得る搬送体制を構築する(good practice statement)。・航空搬送中の急変については,必ず機長に報告

のうえ,処置を開始する。除細動については,通電する際には機長許可を得る(good practice statement)。・ECMOや人工呼吸管理中の患者の急変に対して

は,対処可能な人員の同乗,医療資器材の準備,代替手技等を確保する(good practice statement)。・搬送に用いる航空機では,地上との交信が不可

能であることが多く,急変時の診療方針の決定について事前に申し合わせておく必要がある(good practice statement)。

1) 安定化処置と急変を予測した搬送体制の構築集中治療を要する重症患者の搬送では,搬送中の急変が起こり得る。本邦における重症患者の搬送の対象となる疾患を考えた場合,重症呼吸不全,重症循環不全,多発外傷等の疾患が想定される。搬送中の病態急変は医療機関での急変と異なり,処置や急変対応に制限が生じることから,まずは急変を起こさない事前の安定化処置が重要である。次いで,病態と搬送中の侵襲から,搬送中の急変を予測し,急変に適切に対処しうる搬送体制を構築する。

2) 急変時の機長報告について航空法第73条に「機長は当該航空機に乗り組んでその職務を行う者を指揮監督する」と定められている。患者搬送は機内での職務に該当するため,機長の指揮監督下にあると解釈される。また,同法第76条に機長の報告義務として,国土交通大臣に対して「航空機内にある者の死亡(国土交通省例で定める者を除く)」と定められている。この場合の但し書きとして,機内における自然死は除外されているが,医療行為に起因するものや医療上の瑕疵等は本条文の事項に該当する。こうした法的背景のもと,搬送中の急変については,必ず機長に報告することが求められる。さらに,電磁適合性が証明されている除細動器であっても,除細動を通電する際は,安全な運航を阻害する行為となる可能性を鑑み,航空法第73条の4に基づき,必ず機長許可をとることが求められる。

的な患者は搬送の禁忌となり得るので,適切な鎮静管理が求められ2),状況により抗精神病薬の併用が検討される。

2) 筋弛緩薬の使用ARDS等の人工呼吸管理において,筋弛緩薬を使用する場合には,中等症以上のARDS患者に,かつ発症早期に投与期間を48時間以内に限定するべきである3) 。しかしながら,人工呼吸患者の搬送においては,人工呼吸器との同調性や安全性を確保するため,呼吸不全の病態や重症度,発症時期を問わず,筋弛緩薬を使用することは一般的である。また新型コロナウイルスやSARS(Severe Acute Respiratory Syndrome)・MERS(Middle East Respiratory Syndrome)等,感染性の高い病原体を有する感染症患者の搬送においては,気管吸引等の処置や手技によりエアロゾルが発生し航空機内や搬送車両内を汚染する可能性があるため,搬送における安全を最大化するために筋弛緩薬が高率に使用される4),5) 。ただし,いわゆる筋弛緩麻酔にならぬよう,詳細な観察が必要であり,鎮静のモニタリングとしてBISを用いることも検討される6),7) 。しかし,振動が多い環境下のため,測定精度は病院内での使用時と異なる可能性があるため,その解釈には注意を要する。また筋弛緩薬の投与時には十分な鎮静深度であることが求められ,これによる血圧の低下や心拍出量の低下等,循環抑制に留意する必要がある。

筋弛緩薬を使用する場合には,振動や揺れ等により頸髄損傷を来す可能性があるため,確実な頭部固定および5点式ベルト等による体幹固定を実施する。

文 献

1) Johnston D, Franklin K, Rigby P, et al. Sedation and Analgesia in Transportation of Acutely and Critically Ill Patients. Crit Care Nurs Clin North Am 2016;28:137-54. 2) Araiza A, Duran M, Surani S, et al. Aeromedical Transport of Critically Ill Patients: A Literature Review. Cureus 2021;13:e14889. 3) 一般社団法人日本集中治療医学会,一般社団法人日本呼吸器学会,一般社団法人日本呼吸療法医学会;ARDS診療ガイドライン作成委員会.ARDS診療ガイドライン.日集中医誌 2022;29:295-332. 4) Painvin B, Messet H, Rodriguez M, et al. Inter-hospital transport of critically ill patients to manage the intensive care unit surge during the COVID-19 pandemic in France. Ann Intensive Care 2021;11:54. 5) Frakes MA, Richards JB, Cocchi MN, et al. Critical Care Transport of Patients With COVID-19. J Intensive Care Med 2021;36:704-10. 6) Donat N, Cirodde A, Hoffmann C, et al. Bispectral Index Measurements Are Not Degraded During Aeromedical Evacuations. Anesth Analg 2018;126:170-2. 7) Heegaard W, Fringer RC, Frascone RJ, et al. Bispectral

index monitoring in helicopter emergency medical services patients. Prehosp Emerg Care 2009;13:193-7.
p.44
-43-がある。文 献

1) Danielson KR, Condino A, Latimer AJ, et al. Cardiac Arrest in Flight: A Retrospective Chart Review of 92 Patients Transported by a Critical Care Air Medical Service. Air Med J 2021;40:159-63. 2) Wang PL, Brooks SC. Mechanical versus manual chest compressions for cardiac arrest. Cochrane Database Syst Rev 2018;8:CD007260. 3) Ortega R, Connor C, Kim S, et al. Monitoring ventilation

with capnography. N Engl J Med 2012;367:e27.

CQ24:搬送中の記録はどのように行うか?

Answer:・重症患者搬送において有害事象の減少と記録作

業の軽減を両立させた,簡便で質の高い診療記録のテンプレートやチェックリストを導入することが望ましい(good practice statement)。・記録媒体のIT化・IOT化を推進し,記録の自動

化を図ることが期待される(good practice statement)。・記録媒体としての動画の活用も検討される(good practice statement)。

1) 診療記録のテンプレート,チェックリスト重症患者搬送のメタ解析では,成人病院間搬送の11%で有害事象が発生したと報告されている1) 。チェックリストの導入はこれらの有害事象を減らすためのツールであり2),経験の浅いスタッフの習熟度を補完する役割や搬送スタッフの精神的な負担の軽減等の報告3)もある。インシデントを減らす目的でチェックリストの導入は様々な分野で推奨されており4),搬送においても患者の状態悪化を防ぐ一役を担うと考える。一方でチェックリストを導入することで作業が増えるとの意見5)もあり,簡便で質の高いチェックリストが望まれる。

チェックリストの作成に当たっては体系的かつ包括的なアプローチが求められる。既存のデータから問題点を抽出し,自施設のデータと照合し,必要な情報を取捨選択し,チェックリストを作成する。さらに現場からの意見をフィードバックし,より使いやすく,効果的なチェックリストへ改善させていく。

重症患者搬送にあたって,そのプロトコルや同意書,資機材は搬送ネットワーク内で標準化されていることが求められているが,搬送中を含めた診療記録も搬送ネットワーク内で定められたフォーマットのもと,記

3) 搬送中の心停止について航空搬送中の心停止を含む急変は多くないものの,一定の頻度で起こり得るため二次救命処置に対応できる体制を整えておくことが必要である1) 。

航空搬送時における心停止時の胸骨圧迫の方法に関する機械的胸骨圧迫と用手的胸骨圧迫を比較した研究はない。機械的胸骨圧迫が用手的胸骨圧迫よりも優れているというエビデンスは無いものの,質の高い用手的胸骨圧迫ができない状況では機械的胸骨圧迫が代替手段となり得ることが示されており2),可能であれば重症患者の搬送時に機械的胸骨圧迫デバイスを予め装備しておくことを考慮する。

4) 搬送中の心停止以外の急変対処について(4-1)ECMO患者の急変対処について

ECMO装着患者の搬送中であれば,ECMOの送脱血管(カニューレ)の計画外抜去やカニューレの位置異常等については,再カニュレーションができる人員(カニュレーション医師,心臓血管外科医,臨床工学技士,器械出し看護師等),資機材(予備のコンソール,回路,カニューレ,手術器械,ドレープ,プライミング用生理食塩水等),場所(清潔野の展開,手技を行う者の立ち位置),について検討のうえ,準備しておく必要がある。すなわち,ハンドクランクを用いた対応,カニューレの計画外抜去に備えた再カニュレーション,突然のECMO流量の低下等への対応のための輸液もしくは輸血製剤の準備等を行う必要がある。(4-2)人工呼吸患者の急変対処について

気管挿管患者の搬送における,人工呼吸管理中の計画外抜管に備えた,緊急気道確保や確実なマスク換気が可能な人員[麻酔科医・集中治療医(特に小児集中治療医等)],薬剤(筋弛緩薬,筋弛緩拮抗薬,追加の鎮静薬),気道管理セット,気道確保困難(difficult airway)症例に対するデバイス(ラリンジアルマスク,ビデオ喉頭鏡,輪状甲状靭帯穿刺・切開キット),手技を行う時の姿勢(頭もとに立てるか?立てない場合にどのデバイスを使ってどの方向から気管挿管するか?介助者の立ち位置はどこか?等)について準備しておくことも重要である。搬送中,特に航空搬送では騒音が大きく,聴診で正確な診断は期待できない。カプノメータは気管挿管の確認として高い感度と特異度を有するだけでなく,その波形変化から早期に気管チューブのトラブルを検出することが期待できる3) 。

5) 搬送中の急変に対する申し合わせについて搬送に用いる航空機では,地上との交信が不可能であることが多く,重症患者の搬送においては急変時の診療方針の決定について事前に申し合わせておく必要
p.45
-44- ver=2018-07-11-163754-600&ver=2018-07-11-163754-600 7) NPO法人日本ECMOnet. [cited 2025 Feb 1] Available

from: https://www.ecmonet.jp/download 8) Jelacic S, Bowdle A, Nair BG, et al. Aviation-Style Computerized Surgical Safety Checklist Displayed on a Large Screen and Operated by the Anesthesia Provider Improves Checklist Performance. Anesth Analg 2020;130:382-90. 9) Low A, Hulme J, editors. ABC of Transfer and Retrieval Medicine. Hoboken:WILEY Blackwell; 2014. 10) Umoren RA, Gray MM, Schooley N, et al. Effect of Video-

based Telemedicine on Transport Management of Simulated Newborns. Air Med J 2018;37:317-20.

CQ25:航空機の運航上の不測事態に,どのように対

処するか?

Answer:・不測事態対処に係るチェックリストの作成が求

められる(good practice statement)。・乱気流等により航空機に大きな揺れが生じた場

合には,揺れによる身体損傷,医療機器の損傷,医療デバイス(気管チューブ,点滴ライン, ECMOカニューレ,IABP等)の変位,抜去等を速やかに検索する(good practice statement)。・着陸の遅延や代替空港への着陸または引き返し

が生じた場合には,薬剤や医療ガス等の残量の評価と医療の継続の可否を評価し,診療計画を再構築する(good practice statement)。・急減圧事象が生じた場合には,患者の病態の変

容と医療機器の正常作動を評価する。特にECMOにおける微小な気泡の発生に留意する(good practice statement)。

航空機の運航上の不測事態が生じた場合には,航空法第73条「機長は,当該航空機に乗り込んでその職務を行う者を指揮監督する」に基づき,搬送スタッフはすべて機長の指揮監督下に行動しなければならない。そのうえで,搬送スタッフは,航空機による不測事態に対して,機長の指揮・統制下に患者の安全および病態の変容の有無を評価し,医療機器や生体モニター等の医療機器の適切な作動確認を行う。

1) 予期せぬ大きな揺れへの対処乱気流等により予期せぬ大きな揺れが生じた場合には,患者および医療機器の固縛状況の確認を行う。可及的速やか,かつ漏れなく確認するために不測事態対処に係るチェックリストを作成することが求められる。患者のバイタルサインに変化はないか,医療機器

録されている必要がある。これは患者の引継ぎのためだけでなく,記録のレビュー目的に使用される6) 。また,ECMOnetのホームページにもダウンロード可能なチェックリストが掲示されている7) 。

2) 記録媒体の活用今後の展望として期待されることとして,搬送中の診療記録のIT化,IOT(internet of things)化の発展8)があげられる。従来の搬送中の記録は,事前に定められた図や表に手書きで文書化していたが,それらは記録する担当者の技量に依存していたため,情報選択の観点でバイアスがかかる可能性があり,法律的観点からはエラーや患者の危害に関連する記録の欠落や省略があると医療提供者が不利になる可能性がある。昨今のテクノロジーの向上により医療機器のデータは外部出力が可能となっており記録化は自動化でき,記録者によるバイアスを減らすことができる。これは手術室やICUで利用されているが病院前での利用が今後期待される9) 。また,アラームやナースコール等も組み合わせることで,バイタルサインの変化や過去データとの比較も容易となる。同様にして機械と人間でダブルチェックすることで作業は簡便化され,より確実性の高い管理が可能になると考えている。

また,近年動画媒体を用いた遠隔診療について報告されており10),病院間搬送への実装も検討される。病院間搬送に動画を用いることは倫理やセキュリティーの問題はあるが,搬送チームと受け入れチームの連携や遠隔診療に役立ち,事後検証等にも活用が可能となる。

文 献

1) Jeyaraju M, Andhavarapu S, Palmer J, et al. Safety Matters: A Meta-analysis of Interhospital Transport Adverse Events in Critically Ill Patients. Air Med J 2021;40:350-8. 2) Haynes AB, Weiser TG, Berry WR, et al; Safe Surgery Saves Lives Study Group. A surgical safety checklist to reduce morbidity and mortality in a global population. N Engl J Med 2009;360:491-9. 3) Stansell C, Cherry B. A Systematic Approach to Ventilator Management for the Pediatric Patient During Air Medical Transport. Air Med J 2020;39:27-34. 4) Weiser TG, Haynes AB, Lashoher A, et al. Perspectives in quality: designing the WHO Surgical Safety Checklist. Int J Qual Health Care 2010;22:365-70. 5) Brunsveld-Reinders AH, Arbous MS, Kuiper SG, et al. A comprehensive method to develop a checklist to increase safety of intra-hospital transport of critically ill patients. Crit Care 2015;19:214. 6) The Association of Anaesthetists of Great Britain and

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p.46
-45- CQ26:感染症患者の搬送において,どのような感染

制御策をとるか?

Answer:・搬送に用いる航空機の選択と,航空機内,特に

客室の空気の流れ(気流)が重要である(good practice statement)。・客室の微生物によって汚染気が操縦室に流れ

ず,かつ汚染気が客室内を再循環しない空調システムであることが求められる(good practice statement)。・エアロゾルが発生する手技においては空気予防

策が求められる(good practice statement)。・航空耐性を有したアイソレーターの使用が望ま

しい(good practice statement)。

本項では特に航空機による感染症患者の搬送について言及する。

感染症患者の搬送については,SARS,MERS,エボラウイルス感染症において,注目されるようになり,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention, CDC)や欧州疾病予防管理センター(European Centers for Disease Control and Prevention, ECDC)等から,感染症に係る航空搬送ガイダンス等が発表されている1)〜3) 。ただし,全世界的に搬送経験も極めて限定的であることから,いずれも質の高いエビデンスに基づいたものではなく,エキスパート・オピニオンによるものがほとんどである。

1) 感染症患者の航空搬送の特性航空機内は極めて乾燥していることから,微生物の水蒸気飽和がほとんどないために,接触感染または飛沫感染を伝播経路とする微生物であっても,空中の感染性粒子の浮遊による暴露や機内汚染を考慮し,空気感染に準じた適切な予防策が必要である。そして予防策を考慮する上で,搬送に用いる航空機の選択と,航空機内(特に客室)の空気の流れ(気流)が重要である。

2) 機内の気流管理と航空機の選択(2-1)機内与圧装置を有する固定翼機

感染症患者を搬送するために使用する航空機は,感染別経路にかかわらず,1機内与圧装置および気流管理システムを有していること,2操縦室と客室がそれぞれ個別の空調システムを備えているか,もしくは客室内の気流が機首方向から機尾方向であること,が求められる。言い換えれば,客室の微生物によって汚染された可能性のある空気(汚染気)が操縦室に流れず,かつ汚染気が再循環しない空調システムであることが

の動作状況に変化はないか,患者や医療機器の固縛にズレやゆるみがないか,揺れによる患者の身体的損傷(骨折や脱臼,頸髄損傷等)を生じていないか,体内に留置された医療デバイス(気管チューブ,点滴ライン, ECMOカニューレ,IABP等)の位置の移動や変位,抜去等を生じていないかを目視および診察,理学的所見から評価・確認を行う。

2) 着陸の遅延・代替空港への着陸または引き返し着陸の遅延や代替空港への着陸または引き返しが生じた場合には,機長に着陸までの予定時間を確認する。航空搬送を実施する場合には,通常の搬送時間の2倍以上,つまり代替空港への着陸や出発空港への引き返しにも対応し得る十分な量の薬剤を準備することが求められるが,それでもなお到着までに不足する可能性がある場合には,安全な範囲内で投与量を調整する必要が生じる可能性もある。酸素等の医療ガスについても同様である。そして着陸時には速やかに補充ができるように,地上との交信が可能であれば,必要薬剤や物品の準備を指示する。

3) 急減圧事象固定翼機は機内与圧装置を有し,搬送中にも地上と同等の1気圧もしくは0.8〜0.9気圧を維持した運航が可能である。機内与圧装置は,通常作動用とバックアップ用の2台が装備されているが,2台とも故障することにより急減圧事象が生じる可能性がある。急減圧が生じた場合,機内は著しい低気圧,低酸素状態になる。搬送スタッフは直ちに酸素マスクを着用し,機長の指示に従わなければならない。急減圧が発生した場合,安全な高度まで緊急降下を行うことがある。急減圧時には,患者だけでなく,人工呼吸器やECMO等の医療機器にも異常が発生する可能性があるため,患者のバイタルサインの異常や機器の正常作動を確認する必要がある。特にECMOでは回路内に微小な気泡(マイクロバブル)が発生していないか,人工膜の酸素化能に異常が生じていないか確認する1) 。

文 献

1) Labib A, August E, Agerstrand C, et al. Extracorporeal

Life Support Organization Guideline for Transport and Retrieval of Adult and Pediatric Patients with ECMO Support. ASAIO J 2022;68:447-55.
p.47
-46-文 献

1) Preventing Spread of Disease on Commercial Aircraft: Guidance for Cabin Crew. [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.cdc.gov/port-health/php/airlineguidance/preventing-spread-of-disease-guidance-for-cabincrew.html#:~:text=Minimize%20the%20number%20of%20 people,)%2C%20or%20other%20contaminated%20items 2) COVID-19 Aviation Health Safety Protocol: Operational guidelines for the management of air passengers and aviation personnel in relation to the COVID-19 pandemic. [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.ecdc. europa.eu/sites/default/files/documents/EASA-ECDC_ COVID-19_Operational-guidelines-formanagement-ofpassengers.pdf 3) Martin DT. Fixed Wing Patient Air Transport during the Covid-19 Pandemic. Air Med J 2020;39:149-53. 4) 澤本尚哉.旅客機における客室内空調システム-機内感染との関連を含めて.宇宙航空環境医 2021;58:14-5. 5) Albrecht R, Knapp J, Theiler L, et al. Transport of COVID-19 and other highly contagious patients by helicopter and fixed-wing air ambulance: a narrative review and experience of the Swiss air rescue Rega. Scand J Trauma Resusc Emerg Med 2020;28:40. 6) 藤田真敬.重症患者空輸に関わる医療機器の電磁適合性~規制と喫緊の課題~.島しょ医療研会誌 2018;10:3-15. 7) Spoelder EJ, Tacken MCT, van Geffen GJ, et al. Helicopter transport of critical care COVID-19 patients in the Netherlands: protection against COVID-19 exposure-a challenge to critical care retrieval personnel in a novel operation. Scand J Trauma Resusc Emerg Med 2021;29:41. 8) Berry CL, Corsetti MC, Mencl F. Helicopter Emergency

Medical Services Transport of COVID-19 Patients in the "First Wave": A National Survey. Cureus 2021;13:e16961.

CQ27:テレビ電話等,通常の電話以外のコミュニケ

ーションツールは搬送関連のアウトカムを改善するか?

Answer:・現時点では明確に重症患者搬送でのテレビ電話

等のコミュケーションツールの使用を推奨・否定する根拠は乏しい(good practice statement)。

テレビ電話等通常の電話以外のコミュニケーションツールの使用の報告は,単なるテレビ電話から,遠隔診療システムまでに及ぶ。重症患者搬送でこうしたコミュニケーションツールが使用されるのは,1搬送前の医療機関間のコミュニケーションや搬送計画策定, 2搬送中の患者やチームのモニタリング,3申し送り,の3つの段階となる。

単一施設での小児頭部外傷患者の検討1)では,症例数が15と少ないためか統計学的有意差はないが,テレビ電話の使用を通常の電話の使用と比較して,到着から手術までの時間短縮(33 min vs. 47 min, P=0.22)

必要である1) 。

搬送に用いる固定翼機の場合,概して,機内の気流は機首から機尾(前から後ろ)へ流れるものと,天井から床下へ流れるものの2種類に大別される。軍用機等では前者が多く,商業用飛行機(旅客機)等では後者が多い4) 。また航空機によっては空調効率を確保するために一部の空気を再循環しているが,この際にHEPA (high efficiency particulate air)フィルターを介していることが求められる1) 。搬送チームは,航空機の運航者に指向性を有する気流管理が可能な空調装置の有無,排気口の位置,飛行中の操縦室と搬送患者のいる客室間の空気混合の有無等の気流の特性を確認する必要がある。特に,空気感染を伝播経路とする微生物による感染症患者においては,前方から後方へのキャビンの空気の流れと独立したコックピットを備えた航空機の使用が求められる。(2-2)回転翼および非加圧航空機

機内与圧装置を持たず,航空機内部の気流が制御されていない航空機では,空気感染を伝播経路とする微生物に罹患した患者で,搬送中にエアロゾルの発生する処置が予想される場合には,操縦者を含む機内全て乗員が個人防護具(N-95以上のレベルのマスク,ゴーグル,フェイスシールド,グローブ,ガウン)を着用する必要がある。もしくは,アイソレーターを用いる5) 。

3) エアロゾルが発生する処置エアロゾルが発生する可能性のある処置(例,気管挿管,気管吸引,等)を実施することが予想される感染症患者においては,空気感染予防策を確立するとともに,アイソレーターへの封入による搬送を行う。

4) アイソレーターの使用航空機にアイソレーターを搭載して搬送する際には,搬送手段に合致した,電磁適合性,耐空性,耐衝撃性,耐環境性を有する装置を使用する6)〜8) 。特に, HEPAフィルターを有する換気装置のファンコイルユニットの航空機に対する電磁適合性や,搭載バッテリー等の国際航空運送協会が定める危険物取扱規則(IATA-DGR)との適合性,アイソレーターの構造上の耐衝撃性(crash worthiness),低圧環境下での動作保証(低圧環境でも陰圧性能を維持し得るか,等)について,の評価を行う必要がある。

アイソレーター内の患者への処置は極めて限定的であるため,航空機搭載前に,例えば気圧の低下による呼吸状態の増悪等,予測に基づき気管挿管等の侵襲的な処置を地上で実施することが求められる。
p.48
-47- CQ28:航空搬送において,地上の医療機関とどのよ

うに通信を行えばよいか?

Answer:・患者搬送に用途が固定された航空機では,カン

パニー無線等の使用が考慮される。また衛星電話の使用も考慮される。Wi-Fiの使用が可能な航空機では,Wi-Fiによる通信が考慮される(good practice statement)。地上との通信方法として,航空無線,衛星電話, Wi-Fiが挙げられる。しかし,いずれも極めて限定的となる。航空無線においては航空無線通信士の資格が必要となり,多くの場合非医療従事者を経由した通信しかできないこと,衛星電話は通話が限定的であること,Wi-Fiによる通信は設備がなければ使用できないことが制限として挙げられる。固定翼機や消防防災ヘリコプターのような大型ヘリコプターにおいては,医療用小型ヘリコプター(ドクターヘリ)に搭載されている医療業務用無線は搭載されていないため,他の無線(消防救急無線,自衛隊無線,カンパニー無線)で代用するほか,衛星電話やWi-Fiによる通信が挙げられる。いずれの通信手段を用いても通信は限定的であり,集中治療室における重症部門システムのような双方向性かつリアルタイムのコミュニケーションが可能な通信手段は確立されておらず,搬送経過や医療行為を随時通信することは困難である。

1) 航空無線近距離の通信用として主にVHF帯が,洋上を航行する航空機との遠距離通信用としてHF帯および衛星系の周波数の電波が使われている1) 。消防防災ヘリコプターでは消防救急無線もしくはカンパニー無線を,自衛隊機では自衛隊無線もしくは航空無線を,民間の固定翼機・回転翼機ではカンパニー無線を使用する。これらの無線は医療用小型ヘリコプターに搭載されている医療業務用無線と異なり,あくまで航空交通管制に用いるものであり,また通信には航空無線通信士の資格が必要となる。そのためほとんどの場合,非医療従事者を介するため,詳細な病態や医療行為の伝達は困難であり,航空機運航の妨げや無線の占有の観点から避けるべきである。

メディカルウイングの運用する患者搬送固定翼機においては通信手段としてカンパニー無線を用いて地上との連絡をとっている2) 。

が報告されている。

他にもテレビ電話の使用により,患者の管理方法や生命予後2),ディスポジション(患者の処遇)3),4)が改善したとする報告が複数認められる。コミュニケーションにかかる時間をテレビ電話と通常の電話で比較した研究は複数あるが,時間が短縮した5)とも延長した6)とも報告されている。

5G回線でないテレビ電話での音声や接続性の報告では,まったく問題なかったとする報告5)もあるが,接続不良が障害となったとする報告2)もあった。

重症小児患者に関わる看護師間での申し送りの報告6)があり,テレビ電話を使用することで,準備がよりできていたとのアンケート結果であった。

現時点では明確に重症患者搬送でのテレビ電話等のコミュケーションツールの使用を推奨する根拠は乏しいが,その使用を否定する根拠にも乏しい。患者バイタルを直接共有する等の最適なツールの模索,様々な場面,人員での使用方法に関して,更なる研究・開発が必要である。

文 献

1) Jackson EM, Costabile PM, Tekes A, et al. Use of Telemedicine During Interhospital Transport of Children With Operative Intracranial Hemorrhage. Pediatr Crit Care Med 2018;19:1033-8. 2) Curfman A, Groenendyk J, Markham C, et al. Implementation of Telemedicine in Pediatric and Neonatal Transport. Air Med J 2020;39:271-5. 3) Fugok K, Slamon NB. The Effect of Telemedicine on Resource Utilization and Hospital Disposition in Critically Ill Pediatric Transport Patients. Telemed J E Health 2018;24:367-74. 4) den Hollander D, Mars M. Smart phones make smart referrals: The use of mobile phone technology in burn care - A retrospective case series. Burns 2017;43:190-4. 5) Patel S, Hertzog JH, Penfil S, et al. A Prospective Pilot Study of the Use of Telemedicine During Pediatric Transport: A High-Quality, Low-Cost Alternative to Conventional Telemedicine Systems. Pediatr Emerg Care 2015;31:611-5. 6) Lieng MK, Siefkes HM, Rosenthal JL, et al. Telemedicine

for Interfacility Nurse Handoffs. Pediatr Crit Care Med 2019;20:832-40.
p.49
-48-り得る。いずれの場合にも搬送元医療機関での治療が

継続されることになるが,重症管理に長けた高次医療機関の介入により,搬送元医療機関で検討されなかった,あるいは適応とならなかった治療戦略を提案できる可能性がある。

不搬送の判断は電話や遠隔診療のみで対応する場合と,搬送元医療機関における現地確認での評価を行う場合がある。診療方針に関与するため,必要時には搬送先医療機関が搬送元医療機関と十分に協議した上で,不搬送理由を患者家族にインフォームド・コンセントを行う。

不搬送の症例に対しては,搬送先医療機関が搬送元医療機関においてその後の診療支援を実施する必要があるかどうかは,双方の医療機関間で判断する。

不搬送が決定した後は,事例検証のため双方の医療機関間で,デブリーフィングの機会を設ける。また,医療圏を構築している場合には複数施設が参加した会議を設けることも推奨される。不搬送とした判断の妥当性,紹介のタイミングや診療支援の方法等の課題点を抽出し,医療機関間の診療体制の構築,診療の質の向上につなげることが可能となる。

CQ 30:考慮すべき有害事象は何か?

Answer:・有害事象は,患者由来,機器由来,コミュニケー

ションエラー等,様々な要因で発生し得る(good practice statement)。・搬送中の特殊な環境因子により,医療行為に瑕疵

がなくても結果的に患者の病態に有害事象が発生する可能性がある(good practice statement)。

病院間搬送における集中治療を要する重症患者搬送に係る自験例が蓄積されてきている。しかし,有害事象については研究間ごとに異なる定義が使用されているため,それぞれの発生率は研究間で大きく異なり,発生率の比較や評価を行うことが困難である。また,多くの研究は搬送中に限局した有害事象のみを評価対象とするが,搬送に起因した有害事象が搬送後に発生する可能性もあるため,搬送前の病態や重症度,および搬送後の転帰を含めたデザインでなければ,搬送に係る死亡率・有病率・リスク因子等を検討するにはデータとして不十分であると考える1) 。有害事象は,患者の病態に関する医学的なものと,患者に付随する医療機器等に関する技術的なものに大別される。1編

2) 衛星電話航空機内においても,機長の許可のもと,衛星電話を用いた通信は可能であり,洋上等の長距離搬送に適している。しかしながら通話は極めて限定的であり,通話料も高額となる3) 。また回転翼機のような騒音環境では使用が困難なことも多い。

3) Wi-Fi一部の商用機では機内にWi-Fiが設備されており, Wi-Fiによる通信が可能である。地上と同じデバイスを用いて通信を行えることが利点である。ただし機内にWi-Fi設備がない場合は通信することができない4) 。航空機によってデータ通信量には制限があり,動画等の大量の通信量が必要な通信方法は航空機によっては使用できない。なお電波法上は携帯電話の使用は許可されていない。

文 献

1) 北折 潤.航空業務用無線通信システム.通信ソサイエティマガジン 2017;42:106-11. 2) 北海道庁保健福祉部地域医療推進局地域医療課.北海道患者搬送固定翼機(メディカルウイング)運航事業について. [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.pref. hokkaido.lg.jp/hf/cis/Medical_Wing/top.html 3) Locke L. Communication and navigation. In: Low A, Hulme J, editors. ABC of Transfer and Retrieval Medicine. Hoboken:WILEY Blackwell;2014. p77-82. 4) 電子機器等を定める告示の見直しの概要.[cited 2025 Feb 1]

Available from: https://www.mlit.go.jp/common/001050250. pdf

CQ29:不搬送となった症例の診療支援,デブリーフ

ィングはどのように行うか?

Answer:・不搬送の判断を下した場合,搬送先医療機関が

搬送元医療機関と十分に協議したうえで,不搬送理由を患者家族にインフォームド・コンセントを行う(good practice statement)。・不搬送が決定した後は,事例検証のため双方の

医療機関間で,デブリーフィングの機会を設け,不搬送とした判断の妥当性,紹介のタイミングや診療支援の方法等の課題点を抽出し,医療機関間の診療体制の構築,診療の質の向上につなげる(good practice statement)。

重症患者の病院間搬送における不搬送は,1状態改善のため高次医療機関への搬送適応から外れる,2状態悪化のため高次医療の適応外となる,3搬送中の急変リスクが高く搬送自体が危険である,等の場合があ
p.50
-49- CQ 31:考慮すべき医療安全策は何か?

Answer:・有害事象を回避するためには,搬送前・搬送中・

搬送後においてチェック項目を設け,それらをチェックリスト化し,施設ごとに搬送に係る標準手順を策定することが求められる(good practice statement)。

搬送に対する正しい知識と経験を積み対策を講じることで安全に重症患者を搬送し得る。搬送を安全に行うためには,搬送前から搬送中,搬送後に至るまで多くのチェック項目があり,それらをチェックリスト化し,施設ごとに搬送に係る標準手順を策定することにより搬送時の有害事象の軽減に寄与することが示唆される1)〜4) 。

1) 搬送前(1-1)チェックリストに基づいた患者情報および搬

送計画の策定と共有1患者情報(病歴,検査結果,付随する医療デバイス,

投与薬剤の種類および量等) 2使用医療機器の電力消費量,酸素消費量の見積もり3搬送計画(搬送時の役割分担,搬送の予定時間経過,

急変時対処要領の策定,(航空搬送時の)悪天候時の代替飛行場の選定等)搬送チーム,搬送元医療機関,搬送先医療機関との

間で,上記を搬送前に計画・調整し,スタッフ間のコミュニケーションを密に取るべきである。策定すべき事項は多く,調整窓口となるカウンターパートも複雑化する。そのため,「調整すべき事項」と「調整相手先の連絡先」と「調整進捗状況」とを一纏めにしたチェックリストを作成し,それに基づき搬送計画を立てることが望ましい。(1-2)搬送前の患者診察,搬送前安定化処置の追加

搬送前には,搬送中生じ得る病態変化や有害事象を想定し必要な安定化処置を事前に行うべきである5) 。航空搬送の場合は,別項で述べた航空医学的観点からも追加処置の必要性を検討する。

2) 搬送時(2-1)搬送元出発前の確認事項

まず患者の状態が搬送に耐え得るか否か,追加の処置が不要か判断する。投薬ルートの開通確認,医療デバイスの固定がなされているかを確認すること。持参する薬剤,医療機器のバッテリー,医療資器材の持参忘れがないか,普段から搬送時持参物品リストを作成しておき最終確認する。搬送中の有害事象として,医

のメタ解析においては,全搬送症例の11%で有害事象が発生し,最も発生率が高い有害事象は低血圧(2.8%)であり,呼吸不全やCOVID-19,脳卒中,ECMOが必要な状態等が,高い有害事象発生率と相関があるとされている2) 。また,搬送する医療スタッフの職種によって有害事象の発生率に違いがあり(看護師31%,医師11%),搬送手段による違いはなかったとしている2) 。また,単施設で行った908件のECMO患者搬送の観察研究では,有害事象は搬送の28%で認められ,その62%は患者に関連したものであり,残りは機器(19%),輸送車両(13%),ヒューマンエラー(5%),環境(2%)に関連したものであった3) 。

病院内搬送については,例えば手術室からICUへ,あるいはICUから画像診断のための搬送等,恒常的に実施されるがゆえに,多くの症例集積が可能であり,かつ搬送中の合併症の可視化が可能であるため,対象となる研究の大半が小規模かつ後ろ向き研究であるものの,有害事象に関するSRが複数報告されている。本邦からのSRとして,有害事象の発生率は26.2%,そのうち致死的な有害事象発生率は1.47%と報告されており,リスクを上回るメリットがあると判断された場合に搬送を行うことを推奨している4) 。

病院間搬送と病院内搬送は,搬送距離や搬送時間,搬送手段への搬出入の回数や複雑さ,搬送手段や搬送環境因子への曝露等,相違点はあるものの,本質的に両者には相同性があるものと考えられ,病院内搬送における傾向や注意点は,病院間搬送の際にも考慮すべきと考える。

文 献

1) Droogh JM, Smit M, Absalom AR, et al. Transferring the critically ill patient: are we there yet? Crit Care 2015;19:62. 2) Jeyaraju M, Andhavarapu S, Palmer J, et al. Safety Matters: A Meta-analysis of Interhospital Transport Adverse Events in Critically Ill Patients. Air Med J 2021;40:350-8. 3) Fletcher-Sandersjöö A, Frenckner B, Broman M. A Single-Center Experience of 900 Interhospital Transports on Extracorporeal Membrane Oxygenation. Ann Thorac Surg 2019;107:119-27. 4) Murata M, Nakagawa N, Kawasaki T, et al. Adverse

events during intrahospital transport of critically ill patients: A systematic review and meta-analysis. Am J Emerg Med 2022;52:13-9.
p.51
-50-望ましい。スタッフそれぞれが搬送に向け行ったこと

や注意した事項,インシデントやアクシデント,その他の有害事象が生じた場合はそれらを共有し再発防止策を練ることで,搬送に関わる医療スタッフの質と,搬送の安全性を向上させる8) 。この際,搬送中の経過を動画で撮影しておくと,実搬送に携われなかったスタッフにも経験を共有することができ有用である。このようなデブリーフィングの内容は議事録として記録しておくことが望ましい。

重症患者管理では,病院内においてすら多くの医療安全上考慮すべき点があるが,安全な搬送遂行のためにはさらに本項で述べた点についても注意しなければならず,搬送に携わる医療スタッフの繁忙度は高い。ただ,チェックリストや標準手順の作成により計画漏れや物品の不備,予期せぬ患者急変等の有害事象を減らすことが可能であり,重症患者の搬送に携わる医療機関においては,本項を参考にチェックリストや標準手順を策定しておく。

文 献

1) Barry PW, Ralston C. Adverse events occurring during interhospital transfer of the critically ill. Arch Dis Child 1994;71:8-11. 2) Branson RD, Rodriquez D Jr. Monitoring During Transport. Respir Care 2020;65:882-93. 3) Whiteley S, Macartney I, Mark J, et al. Guidelines for the transport of the critically ill adult, 3rd edition. The Intensive Care Society;2011. 4) Williams P, Karuppiah S, Greentree K, et al. A checklist for intrahospital transport of critically ill patients improves compliance with transportation safety guidelines. Aust Crit Care 2020;33:20-4. 5) 清水敬樹,萩原祥弘.ECMO搬送と集約化.人工臓器2017;46:212-8. 6) Blakeman TC, Branson RD. Inter- and intra-hospital transport of the critically ill. Respir Care 2013;58:1008-23. 7) Chaichotjinda K, Chantra M, Pandee U. Assessment of interhospital transport care for pediatric patients. Clin Exp Pediatr 2020;63:184-8. 8) Andrew NP, Mike M, Jeffrey SR, et al. Critical Care

Transport Second Edition. Burlington:Jones & Bartlett Learning;2017.34-51.

療デバイスの計画外抜去,医療資器材の持参忘れ,医療機器の電源トラブル,酸素持参不足等の報告は多い1),6),7) 。(2-2)患者移動時に注意する事項

気管チューブや中心静脈カテーテル,ECMO回路など医療機器の位置の移動や抜去が起こり得る。特にストレッチャー移乗時や車両・航空機に搭乗する際は医療機器の固定が十分か確認すること。移動時は患者と医療機器を可能な限りワンパッケージとすることで,医療機器の位置の移動や抜去のリスクを低減させることができる。特に多くの医療機器が付随する患者の搬送においては,患者を乗せたバックボードに,ECMO回路や人工呼吸器を共に搭載・固定できる専用架台や,あるいは人工呼吸器やECMO一式を搭載・固定できるトロリーも開発されており,それらを用いた移動が望ましい5) 。また,移動中はシリンジポンプやECMOコンソール等の操作パネルはロックをかけ,移動中に予期せぬ設定変更が生じないようにする。(2-3)航空搬送中に注意すべき事項

航空機内における最上位権限者は機長であることが航空法上規定されている(CQ 32に詳述)。飛行中に機内の安全(飛行安全)が確保できない場合,患者容態が不安定でも医療スタッフは着座およびシートベルト着用を命ぜられ,急変時に即応できない可能性がある。そのため,航空機内での患者と搬送スタッフ,医療資器材の配置には十分注意する必要がある。薬剤投与ルートや用手換気および吸引の器具,薬剤や針・シリンジ類等,緊急で使用し得る物品は着座したままでも使用できるように配置し,モニターは視認性がよい向きに設置する。また,針刺し処置は突然の機体振動による誤穿刺のリスクがあり,また除細動器の使用も,同様に突然の振動によるトラブル等も考慮されるため,使用時は機長へ伝え,許可を得なければならない。

また,離着陸時の加速度および振動,突然の乱気流に伴う患者および医療デバイスの逸脱・落下・計画外抜去である。離着陸前,安定飛行中とも定期的に患者および医療機器の固定が万全か確認する。

3) 搬送終了時(3-1)搬送先医療機関への患者申し送り

搬送間の患者経過と介入した内容等を搬送先医療機関へ申し送る。それらの情報は搬送記録としてテンプレート化された書面に記入され,可能な限り書面を用いた申し送りを行うことが望ましい。(3-2)搬送に関するデブリーフィング,議事録の作成搬送終了後に,搬送計画段階から搬送終了時に至るまで,時系列に沿ってデブリーフィングを行うことが
p.52
-51- (1-3)航空法第76条(報告の義務)

同条文に「機長は,次に掲げる事故が発生した場合には,国土交通省例で定めるところにより国土交通大臣にその旨を報告しなければならない」とあり,76条の第2項に「航空機による人の死傷又は物件の損壊」,第3項に「航空機内にある者の死亡(国土交通省例で定める者を除く。)又は行方不明」と記されている。第2項の示すところは,航空機の損壊,乱気流による急激な航空機の挙動,機内与圧装置の故障による急減圧事象等の,航空機の不測の事態に基づく患者の身体生命に対する危害や損傷,付随する医療機器に対する障害等が該当し,第3項の示すところは,機内における患者の死亡が該当する。

なお,航空法施行規則165条の2第2項に「自己又は他人の加害行為に起因する死亡」とあり,病態の増悪による自然死はこれに該当しないと解釈しうる。ただし,搬送中の死亡そのものは完全に「自己又は他人の加害行為に起因する死亡」の要素を排除し得るものではなく,また明らかな瑕疵(医療過誤等)のみならず,気管チューブやECMOの送脱血管等の医療機器の位置の移動,抜去,薬剤投与の中止等についてもこれに該当すると考えられる。このため,搬送中の患者の急変においては,努めて蘇生処置を行い,不幸にも回復しえない心肺停止となった場合には,機外に搬出した後に死亡診断を行う。

2) 自衛隊法(2-1)自衛隊法第83条第2項(災害派遣)

同条文に「都道府県知事その他政令で定める者は,天変地異その他の災害に際して,人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には,部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる」とある。この条文に沿うものとして災害派遣の3要件が定められており,1公共性(公共の秩序を維持するため,人命または財産を社会的に保護する必要性があること),2緊急性(状況から見て差し迫った必要性があること),3非代替性(自衛隊の部隊が派遣される以外に他に適切な手段がないこと),を総合的に勘案して判断し,「やむを得ない事態」と認める場合に部隊等を派遣することを原則としている。

非代替性については,自衛隊による搬送以外の方法,例えば自治体消防の救急車や病院に所属するドクターカーやECMOカー,消防防災ヘリコプターや警察,海上保安庁のヘリコプターや固定翼機,メディカルウイングの患者搬送固定翼機等で搬送が可能な場合には,災害派遣要請に基づく搬送の適応とならない。公共性については,搬送が患者の生命維持や救命に不可欠で

VI.法規・規則

CQ32:搬送に係る法規・規則はどのようなものがあ

るか?

Answer:・陸路搬送においては,道路交通法および道路交

通法施行令,航空搬送においては航空法および航空法施行規則が該当する(BQに対する情報提示)。・自衛隊に災害派遣要請を行う場合には,自衛隊

法が該当する(BQに対する情報提示)。・搬送においても医師法・医療法をはじめとする

衛生関連法規に従う(BQに対する情報提示)。

搬送中に医療行為を実施するにあたり,医師法・医療法をはじめとする衛生関連法規に従うことが求められる。その他に,搬送に固有な法規・規則として,以下の搬送に係る法規・規則に準じる必要がある。

1) 航空法および航空法施行規則(1-1)航空法第73条(機長の権限)

同条文に「機長は,当該航空機に乗り込んでその職務を行う者を指揮監督する」と定められている。この意味するところは,航空搬送する場合において,搬送チームは全て機長の指揮監督下におかれ,直接的な指揮命令系統に属することとなる。また次項以下に述べるように,安全を阻害する可能性のある医療行為(例,電気的除細動)を実施する際には機⻑に実施許可を求める必要があり,死亡を含む急変事態については機長への報告が必要である。(1-2)航空法第73条の3および4(安全阻害行為等の

禁止等)第73条の3に「航空機内にある者は,当該航空機の安全を害し,当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産に危害を及ぼし,当該航空機内の秩序を乱し,又は当該航空機内の規律に違反する行為をしてはならない」と定められている。これに相当するものとして,電磁適合性の確認を受けていない医療機器の使用や,離着陸時を含めた着座指示中における離席しての医療行為等が該当する。航空機搬送の場合は機長の権限を最優先しつつ,逐一報告を行いながら搬送をしなくてはならない。万一,航空計器に異常を来した場合は,生命維持装置であっても手動に切り替えざるを得ず,また着座指示のある場合には心肺蘇生等,離席を要する処置でも機長の許可なしに行うことはできない。
p.53
-52-されるものではなく,合併症が一定頻度で予期される

高侵襲の手術等を例に取ると,注意義務の基準は「診療当時の臨床医学の実践における医療水準」と示されている1) 。しかしながら,医療搬送においては,搬送に従事する医療者に対して,単に求められる医療水準に応じた医療に留まらず,搬送手段の運行・運航に帰属する注意義務が課せられるものと考える。特に航空医療搬送においては,航空機の損壊,乱気流による急激な航空機の挙動,機内与圧装置の故障による急減圧事象等の,航空機の不測の事態に基づく患者の身体生命に対する危害や損傷,付随する医療機器に対する障害が生じる可能性が絶えず存在するが,こうした事象による損害発生の予見可能性や回避可能性についての結果回避義務違反の責任が,搬送に従事する医療者および運行・運航に従事する者の間で発生する。しかし,現状において,運行・運航に帰属する責任の按分や帰属を明示した根拠はなく,またその補償についても明確に定められたものはない。重症患者搬送チームを有する医療機関によって独自に定められているのが現状である。

搬送中には様々な制約により病院と同等の医療の質を維持し得ない状況が生起するが,これについての責任の減免を担保する,つまり結果回避義務の低減に係る根拠も存在しない。

2) 補償の現状について航空法,自衛隊法,道路交通法および日本DMAT活動要領には,搬送中の医療上の責任に対する補償や賠償責任について該当する記述はないが,ドクターヘリ運行会社は事故等に際し十分な補償が可能となるよう,第三者・乗客包括賠償責任保険,EMS(Emergency Medical Service)賠償責任保険,搭乗者傷害保険の加入が義務付けられている。現状,搬送中の医療全般を包括した保険・補償は存在せず,医療上の過誤・過失に対する賠償責任保険に依存せざるを得ない。ほとんどの医師賠償責任保険は他医療機関だけでなく,救急車内含め国内であれば場所に関わらず補償の対象となる2) 。

重症患者搬送において,搬送中の医療に係る責任の所在について明文化されたもの,もしくは法的根拠は存在せず,その判断や解釈は医療機関ごとに異なる。実例として,搬送中の医療に係る法的責任は,刑法によれば医行為を実施した医師等個人に帰属すると考えられるが,ECMOnetの同意書には「日本ECMOnet所属搬送チームが搬送元病院の責任において搬送を請け負う」と記載されている3) 。また,メディカルウイング(北海道航空医療ネットワーク研究会)の同意書に

あることが求められ,患者のQOLの改善目的のいわゆる「下り搬送」は災害派遣要請に基づく搬送の適応とならない。緊急性については,数日後に搬送等,いわゆる「計画搬送」は災害派遣要請に基づく搬送の適応とならない。

3) 道路交通法および道路交通法施行令(3-1)道路交通法第39条(緊急自動車)

緊急自動車は政令で定める自動車で,当該緊急用務のため,政令で定めるところにより,運転中のものをいう。ECMOカーを含むmobile ICUとしての陸路搬送手段はこれに該当する。(3-2)道路交通法施行令第13条(緊急自動車)

前項でいうところの「政令」とは道路交通法施行令であり,同13条(緊急自動車)の1第2項において「国,都道府県,市町村,医療機関が,傷病者の緊急搬送のために使用する救急用自動車のうち,傷病者の緊急搬送のために必要な特別の構造又は装置を有するもの」(一部省略),同13条(緊急自動車)の1第5項において「医療機関が,傷病者の緊急搬送をしようとする都道府県又は市町村の要請を受けて,当該傷病者が医療機関に緊急搬送されるまでの間における応急の治療を行う医師を当該傷病者の所在する場所まで運搬するために使用する自動車」と定められている。前者は救急車であり,後者はいわゆるドクターカーやラピッドカーを示し,ECMOカーもこれに該当する。なお,条文の解釈から,救急車は「特別の構造又は装置を有するもの」であることが求められるが,ドクターカーやラピッドカーはそれが必要条件とならない。この考え方はmobile ICUにも適応になると考えられる。

CQ33:患者が搬送中に死亡または後遺障害を負った

際の医療上の責任や補償および賠償責任は,どのように定められているか?

Answer:・現時点では,搬送患者に対する補償を定めた公

的な根拠は存在せず,搬送を担う組織や搬送に係る医療機関によって独自に定められている(BQに対する情報提示)。

1) 病院における医療との法的な相違について通常の医療に帰属する注意義務違反は,損害発生の予見可能性と回避可能性に裏づけられた結果回避義務違反と同質であるとされる。ただし損害発生の予見可能性・回避可能性がある場合に必ず損害回避義務が課
p.54
-53-ア.搬送元保険医療機関以外の保険医療機関の医師

が,救急用の自動車等に同乗して診療を行った場合

イ.救急搬送中に人工心肺補助装置,補助循環装置又は人工呼吸器を装着し医師による集中治療を要する状態の患者について,日本集中治療医学会の定める指針等に基づき,患者の搬送を行う場合は救急搬送診療料が算定可能となった1) 。

また,「救急搬送中に人工心肺補助装置,補助循環装置又は人工呼吸器を装着し医師による集中治療を要する状態の患者について,日本集中治療医学会の定める指針等に基づき,重症患者搬送チームが搬送を行った場合」に重症患者搬送加算が算定可能となった。さらに,新生児または6歳未満の乳幼児の搬送においては,それぞれ新生児加算,乳幼児加算が算定可能となった。

なお,救急搬送診療料とそれに係る諸加算(重症患者搬送加算等)は,同乗して診療を行った医師の所属する保険医療機関において算定するものとされ,同一の搬送において,複数の保険医療機関の医師が診療を行った場合,主に診療を行った医師の所属する保険医療機関が診療報酬請求を行い,それぞれの費用の分配は相互の合議に委ねられると定められている(各々の医療機関が算定可能ではない)。(1-2)移送費の現物給付について

患者が療養の給付を受けるため医療機関に移送された時は,保険者が必要と認める場合には,移送費が現金給付として被保険者に支給される。なお,この「移送費」とは最も経済的な通常の経路および方法によって移送された場合の費用であり,自動車・鉄道利用した場合の運賃に基づき計算されたものとされる。このため航空機の運航に要した費用を請求し得る枠組みは存在しない。

2) 搬送費用の支弁に係る将来検討について搬送に係る費用(搬送チームの人員や資機材の移動・運搬費,人件費,医薬品費,材料費)のうち,診療報酬として請求できるものは療養の給付に係るもののみであり,極めて限定的である。

将来的には,搬送元医療機関から搬送先医療機関まで,継続した集中治療を提供するという考え方のもと,搬送チーム,患者の病態,搬送の態様が一定の基準を満たす場合に限り,搬送の実情に即した搬送費用の支弁が行われる何らかの体制が構築されることが望ましい。

文 献

1) 厚生労働省.令和4年度診療報酬改定について.[cited

2025 Feb 1] Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/ seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html

は,「搬送中の医療行為に起因しない患者の容態悪化の責任等は,搬送元医療機関が負うもの」と記載されている4) 。

3) 同意書について搬送体や施設間で独自に同意書をという形で注意義務に関する情報を提示し,搬送患者およびその家族等に対し,同意を求めているのが現状である。なお,同意書は,法的に,結果回避義務の低減についての根拠たり得ないことに注意を要する。

文 献

1) 最判昭和57年3月30日.集民36巻3号563頁. 2) 清水敬樹,萩原祥弘,濱口 純,他.当ECMOセンターの病院間呼吸ECMO搬送の現状と課題.日臨救急医会誌2021;24:520-9. 3) NPO法人日本ECMOnet.日本ECMOnet ECMO装着下での施設間搬送に関する同意書.[cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.ecmonet.jp/wp-content/ themes/Ecmonet/assets/files/3%EF%BC%89%E6%97%A 5%E6%9C%ACECMOnet%20%E6%90%AC%E9%80%81% E7%94%A8%E5%90%8C%E6%84%8F%E6%9B%B8.docx 4) 北海道航空医療ネットワーク研究会. 搭乗にかかる同意書

(様式2).[cited 2025 Feb 1] Available from: http://www. hokkaido.med.or.jp/hamn/pdf/syorui/2-douisyo.pdf

CQ 34:搬送に係る諸経費は,どのように定められ

ているか?

Answer:・令和4年度の診療報酬改定で,ECMOや人工呼

吸器等を装着した重症患者の搬送を重症患者搬送チームが行った場合,病院間搬送においても救急搬送診療料が加算可能となり,加えて重症患者搬送加算が算定できるようになった(BQに対する情報提示)。・搬送に係る費用(搬送チームの人員や資機材の

移動・運搬費,人件費,医薬品費,材料費)のうち,診療報酬として請求できるものは療養の給付に係るものに限定される(BQに対する情報提示)。

1) 現状の医療保険制度における諸経費の支弁につ

いて(1-1)算定可能な診療報酬について

令和4年度の診療報酬改定で,救急搬送診療料の見直しが行われた。従来は入院患者を他の保険医療機関に搬送する場合(いわゆる「病院間搬送」)は,救急搬送診療料は算定できないとされた。しかしながら改定後は,
p.55
-54- 2) 重症患者搬送チームの労働基準・就業規則につ

いて重症患者の搬送は,院内とは異なる環境下で高いレベルの医療が求められ,長時間に及ぶことが多く,搬送スタッフへの身体的・精神的負担が大きい2) 。

身体的・精神的ストレスや疲労は安全を脅かす有意なリスクであり3),勤務時間が長時間に及ぶほどに有害事象の発生頻度は有意に上昇する4) 。患者の転帰に影響を与える搬送中の有害事象の発生リスクを最小化するために,病院勤務に比し一層厳格な労働基準,就業制限が求められる。

文 献

1) Foex B, Van Zwanenberg G, Handy J et al. Guidance on: The transfer of the critically ill adult. The Faculty of Intensive Care Medicine 2021. [cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.ficm.ac.uk/sites/ficm/files/ documents/2021-10/Transfer_of_Critically_Ill_Adult.pdf 2) Labib A, August E, Agerstrand C, et al. Extracorporeal Life Support Organization Guideline for Transport and Retrieval of Adult and Pediatric Patients with ECMO Support. ASAIO J 2022;68:447-55. 3) Akerstedt T. Consensus statement: fatigue and accidents in transport operations. J Sleep Res 2000;9:395. 4) Matre D, Skogstad M, Sterud T, et al. Safety incidents

associated with extended working hours. A systematic review and meta-analysis. Scand J Work Environ Health 2021;47:415-24.

VII.教育・研究

CQ 36:教育訓練は予後を改善するか?

Answer:・教育訓練は,搬送チームの搬送スキルを向上し,

搬送関連のリスクを軽減することによって,搬送後の生命予後を改善し得る可能性がある(good practice statement)。

搬送後の生命予後を改善するために,質の高い搬送が求められる。この場合の質の高さとは,第一に搬送手段のmobile ICUとしての医療機器・資機材であり,第二に搬送チームの搬送スキルである1) 。搬送に必要な医療機器・資機材を備え,教育訓練された搬送チームは,搬送中の医療行為等にかかるリスクのみならず,医療機器関連の技術的なリスクも減じることができると報告されている2) 。また,専門の重症患者搬送チームによる搬送により,重症患者の生理学的指標が大幅に改善され,ICUでの早期死亡率が低下する可能性がある3) 。重症患者搬送チームの母体となる医療機関は,

CQ35:重症患者搬送チームの保険・補償・労働基

準・就業規則をどのように定めるか?

Answer:・搬送チームへの有害事象等を補償する枠組みに

ついて検討されることが望ましい(good practice statement)。・患者の転帰に影響を与える搬送中の有害事象の

発生リスクを最小化するために,病院勤務に比し一層厳格な労働基準の遵守,就業制限が求められる(good practice statement)。

1) 重症患者搬送チームの保険・補償について本邦において,重症患者搬送チームに対する包括的な保険・補償は現時点で存在しない。(1-1)重症患者搬送チームの保険・補償について

重症患者搬送チームは,搬送患者の安全のみならず,自身の安全に配慮しなければならないが,搬送過程における不慮の事故に遭遇するリスクを考慮する必要がある。他方,現時点において重症患者搬送チームを対象とした保険・補償に係る制度や基準を定めたものはない。これに対し,労働者災害保険補償制度(事業主は労働者に対して労働保険の加入手続きを行い,労働保険料を納付しなければならないと定められているもの)に基づき,搬送元医療機関もしくは重症患者搬送チームが所属する医療機関が,重症患者搬送チームのスタッフを一時的に雇用する形で労働保険料を納付することで,保険・補償を負うことが望ましい(ただし,雇用保険に加入するには,1週間の所定労働時間が20時間以上,31日以上の雇用の見込みがあること等の条件を満たす必要がある)。(1-2)航空機の運航に起因する保険・補償について

本邦において,ドクターヘリによる病院間搬送では,ヘリコプター運航会社は事故等に際し十分な補償が可能となるよう,第三者・乗客包括賠償責任保険,EMS (Emergency Medical Service)賠償責任保険,搭乗者傷害保険への加入が義務付けられている。他方,消防防災ヘリコプターは自治体によって異なり,海上保安庁や自衛隊の航空機による重症患者搬送においては,保険や補償に係る枠組みは存在しない。諸外国においては学会等が搬送チームの保険を補償している事例もある1) 。今後本邦においても,重症患者搬送チームによる搬送に対し,航空機の運航に起因する患者のみならず搬送チームへの有害事象等を補償する枠組みについて検討されることが望ましい。
p.56
-55-の搬送についてはECMOnetによるレジストリ

(CRISISデータ2)等)に組み入れるといったように,搬送対象となる疾患のレジストリに組み入れることにより,搬送のあり方のみならず搬送予後と搬送の関連性や,搬送施設の集約化等の議論が可能となる。

文 献

1) 日本ICU患者データベース.[cited 2025 Feb 1] Available from: https://www.jipad.org 2) 日本ECMOnet 臨床研究.[cited 2025 Feb 1] Available

from: https://www.ecmonet. jp/research

搬送スタッフに対し搬送に必要な知識や技術を習得させるための教育体制を整備する必要がある。総じて重症患者搬送チームの教育・練度維持は,質の高い搬送の実現に不可欠である。

文 献

1) Labib A, August E, Agerstrand C, et al. Extracorporeal Life Support Organization Guideline for Transport and Retrieval of Adult and Pediatric Patients with ECMO Support. ASAIO J 2022;68:447-55. 2) Wiegersma JS, Droogh JM, Zijlstra JG, et al. Quality of interhospital transport of the critically ill: impact of a Mobile Intensive Care Unit with a specialized retrieval team. Crit Care 2011;15:R75. 3) Bellingan G, Olivier T, Batson S, et al. Comparison of a

specialist retrieval team with current United Kingdom practice for the transport of critically ill patients. Intensive Care Med 2000;26:740-4.

CQ37:重症患者の搬送に関する研究はどのように行

うか?

Answer:・重症患者の搬送に係るレジストリの構築が望ま

れる(good practice statement)。・対象となる症例数が少ないことが予測されるた

め,既存のレジストリや研究の枠組みに組み入れることを検討する(good practice statement)。

1) レジストリの整備重症患者の搬送に関する研究を実施するにあたり,レジストリの構築が望まれる。登録する情報としては,重症患者の疾病や重症度,搬送前のICUにおける治療内容,搬送手段,搬送に要した時間,搬送体制,搬送時の有害事象,搬送中の医療介入,搬送先医療機関到着時の状態,搬送後の転帰等が考慮される。

集中治療を要する重症患者の搬送症例数は決して多くないために,レジストリの整備により,効率的な症例の集積が可能となり,搬送方法や重症患者搬送チームの質の均てん化,標準化を図り得ると考える。その他にも,搬送リスクの定量化,搬送に係る予後不良因子の抽出,より良い搬送手段のあり方,重症患者搬送チームの要件等の評価を行い得ると考える。

2) 既存のレジストリや研究の枠組みに対する組み

入れ本邦で実施される集中治療を要する重症患者の搬送実施件数は少ないことが予測されるため,単独でレジストリを整備する他に,前述のJIPAD 1)等の既存のレジストリに組み入れる,もしくは例えばECMO患者
p.57
-56-

氏名所属経済的COIアカデミックCOI本委員会の役割A-1 A-2 A-3 A-4 A-5 A-6 A-7 A-8 A-9 B-1 B-2 B-3 C-1 C-2学術的COI他GLへの関与山口 大介防衛省航空自衛隊無無無無無無無無無無無無無無無無委員長安部 隆三大分大学医学部救急医学無無無無無無無無無無無無無無無無委員池山 貴也あいち小児保健医療総合センター小児

救命救急センター無無無無無無無無無無無無無無無International Liaison Committee on Resuscitation,

BLS task force/JRC蘇生ガイドライン2020, 委員委員

市場 晋吾日本大学医学部附属板橋病院麻酔科・

集中治療室無無無無無無無無無無無無無有(ニプロ,

2023)

日本医工学治療学会, 理事/Asia-Pacific Extracorporeal Life Support Organization

(APELSO), 副代表/日本ECMOnet, 理事無委員

岩下 義明島根大学医学部附属病院救命救急セ

ンター無無無無無無無

有(POSH WELLNESS LABORATORY, 2021-2023)

無無無無無無無ARDS診療ガイドライン2021, SRメンバー委員

大下慎一郎広島大学大学院医系科学研究科救急

集中治療医学無無無無無無無無無無無無無無無

ARDS診療ガイドライン2026, 委員長/膠原病に伴う間質性肺疾患の診断と治療の手引き作成委員会,委員/国際蘇生連絡委員会(ILCOR)心肺蘇生ガイドライン, タスクフォース/JRC蘇生ガイドライン2020, 委員

委員

小倉 崇以済生会宇都宮病院救急・集中治療科,

栃木県救命救急センター無無無無無無無無無無無無無無日本ECMOnet,理事無委員川口  敦聖マリアンナ医科大学病院小児科集中

治療センターPICU無無無無無無無無無無無無無無無日本版敗血症診療ガイドライン2020, WGメンバー

/日本版敗血症診療ガイドライン2024, 委員委員

岸本 健寛埼玉県立小児医療センター小児救命

救急センター無無無無無無無無無無無無無無無無委員久志本成樹東北大学病院救急科,川崎幸病院無無無無無無無無無無無無無無

日本集中治療医学会, 理事/日本救急医学会, 理事/日本Acute Care Surgery学会,理事/日本外科系連合学会, 理事/日本腹部救急医学会, 理事/日本スキンバンクネットワーク, 監事/日本外傷診療機構,理事

日本版敗血症診療ガイドライン2020, 委員/日本版敗血症診療ガイドライン2024, 委員/DIC診療ガイドライン, 委員/大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン, 委員/遠隔ICU 設置と運用に関するガイドライン, 委員/外傷初期診療ガイドライン, 編集委員/急性中毒標準診療ガイド,外部査読協力

委員

清水 敬樹東京都立多摩総合医療センター救命

救急センター無無無無無有(Terumo,

2023)無無無無無無無無日本臨床医学リスクマンエジメント学会,

理事/日本ECMOnet, 理事日本熱中症診療ガイドライン2015, 委員委員

竹内 一郎横浜市立大学附属市民総合医療セン

ター高度救命救急センター無無無無無無有(日本光電,

2021-2022)無無無無無無無日本ECMOnet, 理事JRC蘇生ガイドライン2020, 委員(ACS部門)委員

中村 智之藤田医科大学医学部麻酔・集中治療

医学講座無無無無無無無無無無無無無無無無委員那須 道高仁愛会浦添総合病院救急集中治療部無無無無無無無無無無無無無無無無委員奈良  理手稲渓仁会病院救命救急センター無無無無無無無無無無無無無無無無委員藤田 健亮済生会宇都宮病院救急・集中治療科,

栃木県救命救急センター無無無無無無無無無無無無無無無ARDS診療ガイドライン2021, SRメンバー/ドク

ターカー活動基準, 委員/超音波画像診断認定制度

設立WG, 委員委員

岡野  弘聖路加国際病院集中治療部無無無無無無無無無無無無無無無

日本版敗血症診療ガイドライン2020, SRメンバー/ ARDS診療ガイドライン2021, サポート班/日本版敗血症診療ガイドライン2020特別編 COVID-19薬物療法に関するRapid/Living recommendations, SRメンバー/日本版敗血症診療ガイドライン2024,アカデミック班

SRメンバー

菊谷 知也広島大学大学院医系科学研究科救急

集中治療医学無無無無無無無無無無無無無無無日本版敗血症診療ガイドライン2024, 委員長補佐/

アカデミック班SRメン

バー島谷 竜俊国立循環器病研究センター集中治療部無無無無無無無無無無無無無無無無SRメンバー

集中治療を要する重症患者の広域および病院間搬送ガイドライン(氏名・所属・利益相反・作成の役割一覧表)
p.58
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集中治療を要する重症患者の広域および病院間搬送ガイドライン(氏名・所属・利益相反・作成の役割一覧表)〈つづき〉氏名所属経済的COIアカデミックCOI本委員会の役割A-1 A-2 A-3 A-4 A-5 A-6 A-7 A-8 A-9 B-1 B-2 B-3 C-1 C-2学術的COI他GLへの関与寺山 毅郎自衛隊中央病院救急科無無無有(ギリアド,

2022)無有(JA共済,

2022)無無無無無無無無無

日本版敗血症診療ガイドライン 2020, WGメンバー/日本版敗血症診療ガイドライン 2024, アカデミック班/日本版敗血症診療ガイドライン2020特別編 COVID-19薬物療法に関するRapid/Living recommendations, 副リーダー/ARDS診療ガイドライン2021, SR班,サポート委員

SRメンバー

橋本 英樹日立総合病院救急集中治療科・感染

症科無無無無無無無無無無無無無無無

日本版敗血症診療ガイドライン2020, WGメンバー/日本版敗血症診療ガイドライン2024, 委員/日本版敗血症診療ガイドライン2020特別編 COVID-19薬物療法に関するRapid/Living recommendations,副リーダー

SRメンバー

真弓 卓也恵寿総合病院循環器内科無無無無無無無無無無無無無無無

日本版敗血症診療ガイドライン2020特別編COVID-19薬物療法に関するRapid/Living recom- mendations, タスクフォースメンバー/日本版敗血症診療ガイドライン2020, SRメンバー/ARDS診療ガイドライン2021, サポート委員

SRメンバー

竹田 晋浩かわぐち心臓呼吸器病院無無無無無無無無無無無無無無日本呼吸療法医学会, 理事/日本

ECMOnet, 理事長/集中治療コラボレー

ションネットワーク(ICON), 理事無アドバイ

ザー相嶋 一登横浜市立市民病院臨床工学部無無無無無無無無無無無無無無日本集中治療医学会, 理事無オブザーバー西田  修藤田医科大学医学部麻酔・集中治療

医学講座無無無無無

有(丸石製薬, 2020-2021/ラボコープ・ディベロップメント・ジャパン, 2021/ヘリオス, 2021)

有(塩野義製薬, 2020/旭化成メディカル, 2020/旭化成ファーマ, 2021-2022)

無無無無無無無

日本集中治療医学会, 理事長/日本急性血液浄化学会, 理事長/日本Shock学会, 理事/日本呼吸療法医学会, 理事/日本医工学治療学会, 理事/日本臨床モニター学会,理事/日本ECMOnet, 理事/集中治療コラボレーションネットワーク(ICON), 理事

日本版敗血症診療ガイドライン2020, 担当理事/ J-ReCIP2023ガイドライン, 担当理事/遠隔ICU 設置と運用に関するガイドライン改訂版 2023年5月,理事長/日本集中治療医学会 集中治療に係るタスク・シフト/シェアに関する安全管理指針, 理事長/臓器提供を見据えた患者評価・管理と術中管理のためのマニュアル(厚生労働科学特別研究事業),研究分担者/日本版敗血症診療ガイドライン2020特別編 COVID-19薬物療法に関するRapid/ Livingrecommendations, 担当理事/ARDS診療ガイドライン2021,理事長/集中治療部設置のための指針 2022年改訂版, 理事長/集中治療部設置のための指針:2021年改訂について - 空調設備に関する改訂方針と提言, 理事長/日本集中治療医学会 集中治療室における安全管理指針,理事長/新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019, COVID-19)流行に際しての医療資源配分の観点からの治療の差し控え・中止についての提言, 理事長/集中治療室における薬剤師の活動指針, 理事長

理事
p.59
-58-

【COI表示基準】

COI表示基準

経済的COI A .自己申告者自身の申告事項(策定するCPG内容に関係する企業や営利団体とのCOI状態) A-1企業や営利を目的とした団体の役員,顧問職の有無と報酬額(1つの企業・団体からの報酬額が年間100万円以上のものを記載)

A-2株の保有と,その株式から得られる利益(最近1年間の本株式による利益) (1つの企業の1年間の利益が100万円以上のもの,あるいは当該株式の

5%以上保有のものを記載) A-3企業や営利を目的とした団体から特許権使用料として支払われた報酬(1つの特許使用料が年間100万円以上のものを記載)

A-4企業や営利を目的とした団体より,会議の出席(発表,助言など)に対し,研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当,講演料などの報酬(1つの企業・団体からの講演料について年間総額をもとに記載) A-5企業や営利を目的とした団体が作成するパンフレット,座談会記事などの執筆に対して支払った原稿料

A-6企業や営利を目的とした団体が提供する研究費(1つの企業.団体から,医学系研究(共同研究,受託研究,治験など)に対して,申告者が実質的に使途を決定し得る研究契約金で実際に割り当てられた100万円以上のものを記載)

A-7企業や営利を目的とした団体が提供する奨学(奨励)寄附金(1つの企業・団体から,申告者個人または申告者が所属する講座・分野または研究室に対して,申告者が実質的に使途を決定し得る寄附金で実際に割り当てられた100万円以上のものを記載) A-8企業などが提供する寄附講座(実質的に使途を決定し得る寄附金で実際に割り当てられた100万円以上のものを記載) A-9その他の報酬(研究とは直接に関係しない旅行,贈答品など)(1つの企業・団体から受けた年間の報酬額をもとに記載)

B .申告者の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産的利益を共有する者の申告事項B-1企業や営利を目的とした団体の役員,顧問職の有無と報酬額(1つの企業・団体からの報酬について年間の総額をもとに記載)

B-2株の保有と,その株式から得られる利益(最近1年間の本株式による利益) (1つの企業の1年間の利益総額,あるいは当該株式の5%以上保有のもの

を記載) B-3企業や営利を目的とした団体から特許権使用料として支払われた報酬(1つの特許使用料について年間総額を基に記載)

C .申告者の所属する組織・部門(研究機関,病院,学部またはセンターなど)の長に関する申告事項C-1企業や営利を目的とした団体が提供する研究費(1つの企業・団体か契約に基づいて,医学系研究(共同研究,受託研究など)に対して,当該の長が実質的に使途を決定し得る研究契約金で実際に割り当てられたものを記載)

C-2企業や営利を目的とした団体が提供する奨学(奨励)寄附金(1つの企業・営利団体から,申告者の研究に関連して提供され,所属研究機関,病院,学部またはセンター,講座の長が実質的に使途を決定し得る寄附金で実際に割り当てられたものを記載)

アカデミック

COI学術的COI学術団体の理事・監事以上の役職

他GLへの関与他のガイドライン作成への関与

COI, Conflicts of Interest; CPG, Clinical Practice Guideline.

Japanese Practice Guidelines for Inter-hospital Transport of Critically Ill Patients

Committee to develop guidelines for wide-area transport of critically ill patients requiring intensive care (Ad Hoc)

Key words: 1guidelines, 2critical care transport, 3mobile ICU

J Jpn Soc Intensive Care Med 2025;32:S4
p.60
日本集中治療医学会雑誌

Vol. 32   Supplement 4

2025 年11 月5 日 発行製 作株式会社Gakken〔〒141-8416〕 東京都品川区西五反田2-11-8

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発行人理事長 黒田 泰弘

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編集人「集中治療を要する重症患者の広域搬送ガイドライン」作成委員会

日本集中治療医学会機関誌編集・用語委員会委員長 高橋 伸二