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日集中医誌 2026;33:R3
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委員会報告
要約:日本集中治療医学会は,高度な専門性に基づく集中治療医療を遠隔診療システムという手段で提供する「遠隔集中治療(telecritical care, TCC)」の普及が,今後の医療提供体制において極めて重要であると認識し,このたびTCCに関するガイドラインを策定することとした。本学会はこれまで,「遠隔ICUの設置と運用に関するガイドライン」およびその改訂版(2023年5月)を公表してきた。今回新たに採用したTCCという概念は,従来のICU単位での遠隔支援(Tele-ICU)に限定されるものではなく,遠隔診療システムを活用した集中治療支援全体の運用プロセスを包括的にとらえるものである。本ガイドラインは,1. 遠隔集中治療の概要と本ガイドラインの目的,2. TCCに関する定義,3. TCCの導入,4. TCCクリニカル・プラクティス,5. TCCシステムの技術的指針の5つのセクションで構成されている。集中治療科専門医をはじめとする高度専門職の人材が十分に確保されていない日本の現状において,本学会は,専門性に裏付けられた倫理的かつ公平な医療の提供を可能とするTCCの普及に努めるとともに,本ガイドラインがTCCの円滑な導入および適正な運用のための指針として広く活用されることを期待するものである。Key words: 1telecritical care, 2telemedicine, 3telecritical care model
遠隔集中治療に関するガイドライン
受付日2025年6 月30日採択日2025年10月24日
日本集中治療医学会遠隔集中治療タスクフォース†
日本集中治療医学会遠隔集中治療タスクフォースリーダー:土井 研人(東京大学大学院医系科学研究科救急・集中治療医学)メンバー:大下慎一郎(広島大学大学院医系科学研究科救急集中治療医学)西山 慶(新潟大学大学院医歯学総合研究科救急集中治療医学分野)松村 洋輔(千葉県総合救急災害医療センター集中治療科)飯塚 悠祐(自治医科大学附属さいたま医療センター麻酔科集中治療部)中島 強(和歌山県立医科大学救急集中治療医学講座)吉村 旬平(大阪急性期・総合医療センター救急診療科)牧 盾(九州大学病院集中治療部)川口 敦(聖マリアンナ医科大学病院小児科集中治療センターPICU)神尾 直(自治医科大学附属さいたま医療センター麻酔科集中治療部)大網 毅彦(千葉大学医学部附属病院救急・集中治療部)江木 盛時(京都大学大学院医学研究科侵襲反応制御医学講座・麻酔科学分野)久志本成樹(東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座救急医学分野,川崎幸病院)黒田 泰弘(香川大学医学部,戸田中央メディカルケアグループあさか医療センターER救急センター)担当理事:西田 修(藤田医科大学医学部麻酔・集中治療医学講座,東京曳舟病院)オブザーバー:高木 俊介(横浜市立大学附属病院集中治療部)小谷 透(昭和医科大学医学部集中治療医学講座)長谷川高志(NPO法人日本遠隔医療協会)橋本 悟(NPO法人集中治療コラボレーションネットワーク)島井健一郎(滋慶医療科学大学医療科学部) †著者連絡先:一般社団法人日本集中治療医学会(〒113-0033 東京都文京区本郷2-15-13 お茶の水ウイングビル10F)
1 遠隔集中治療の概要と本ガイドラインの目的
日本集中治療医学会は遠隔集中治療(telecritical care, TCC)を普及することを目的として,平成30年に遠隔ICU委員会を発足させ,平成30年度厚生労働科学研究費補助金「我が国における遠隔集中治療(Tele-ICU)の導入における技術的・社会的課題の解
決に向けた研究」により,日本における遠隔ICUの導入に対する技術的・社会的課題の解決に向けた調査を行った1) 。この調査結果をもとに,厚生労働省は遠隔ICU体制整備促進事業により遠隔ICUの普及促進を進め,令和6年度診療報酬改定において特定集中治療室
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遠隔支援加算が新設された。日本集中治療医学会は,高い専門性に基づいた倫理的かつ広く公平な医療を提供するTCCの普及に努めている。TCCは,ICUに対して遠隔診療を用いて支援するという遠隔ICU (Tele-ICU)という概念にとどまらず,遠隔診療システムを用いた集中治療支援のすべての運用プロセスの総称と位置付けられる。
集中治療科専門医などの高度専門性を有する人材が充足されていない日本において,TCCは情報技術(information technology, IT)と医療技術でICUにおける診療を補完する一つの方策である。米国では遠隔集中治療センターが数百床のICUを一元管理していることが多く,専門性を有する人材不足解消の一助となっている2) 。COVID-19流行のような状況における危機管理体制の強化にも,TCCの導入が有用であったことが報告されている3),4) 。また,災害支援におけるTCCの有用性も期待されている5) 。
日本集中治療医学会は,科学的で質の担保されたTCCによる診療を提供するために,遠隔集中治療に関するガイドラインを新たに作成することとした。本ガイドラインは,「米国遠隔医療学会が作成しているTele-ICU運用ガイドライン」6)を参考に作成された「遠隔ICU設置と運用に関するガイドライン」7)およびその改訂版(2023年5月)8)をもとに,米国集中治療医学会(Telecritical Care Collaborative Network)が発表したエキスパートコンセンサス9)にある提言も取り入れ,日本の医療事情を考慮して作成した。なお,これまでに発出した本学会の「遠隔ICU設置と運用に関するガイドライン」およびその改訂版(2023年5月)は,遠隔ICUというハコに重点を置いたものであったが,TCCではヒトおよびモノの運用も重要であることから,本ガイドラインでは既に発出したガイドラインとは異なる観点で作成されている。今後は本ガイドラインに準拠したTCCを実施していただきたい。
本ガイドラインは,遠隔医療を用いて医療介入,モニタリング,専門家によるコンサルテーションを行うTCCの手引書として作成した。本ガイドラインはTCCに関してのみ適用されるものである。また,エビデンスに基づいた診療ガイドラインと異なり,TCCに関するエキスパートコンセンサスとそれに基づく提言をまとめたものであることを留意していただきたい。
本ガイドラインの目的は,法的根拠として使用されることではなく,効果的で安全なTCCの体制を構築し,その提供を支援することである。TCC導入は,環境・地理的側面,医療資源,それらの相互作用により異なることが考えられ,状況に応じた適用を阻むものではない。一方,日本における遠隔集中治療を対象と
しているため,診療報酬などに関連する内容を含んでいるが,現行制度の概要を記述したものであり,本ガイドラインが法的拘束力を持つものではない。あくまでも学術的な観点に基づいた記載であることをご理解いただきたい。本ガイドラインは定期的な検証作業を繰り返し,改訂することを予定している。
2 TCCに関する定義
2-1. 遠隔医療とは
遠隔医療とは,対面診療が困難な患者に発生した不利益な状態を回避するために,IT技術を用いて,医療情報を別の場所に伝送して実施する医療である。遠隔医療は,双方向性ビデオ音声通話,電子メール,スマートフォン,ワイヤレスデバイスや他のコミュニケーション技術など様々なアプリケーションを含む。遠隔医療に関する通知や指針に関しては,厚生労働省の遠隔医療に関するホームページ10)および日本遠隔医療学会のウェブサイト11)にて参照可能である。2-2. TCCとは
TCCとは,ビデオ音声通話やコンピュータシステムなどによって構成される遠隔医療の技術・インフラストラクチャーを用いて,集中治療に精通した医療従事者が協力して重症患者に対する医療を提供する診療支援システムである。TCCは現場での集中治療に代わるものではなく,医療資源の活用とプロセスの標準化を通じて現場医療を強化するよう設計されている。米国では Tele-ICU,virtual ICU,remote ICU,telecritical careなどの名称が用いられている。これらは支援施設もしくは遠隔地にいるチームが,被支援医療施設のチームや患者とネットワークを通じてビデオ音声通話やコンピュータシステムでつながっている状態のことを指すが12),本ガイドラインで提示するTCCには,これらに加えて質の担保された集中治療を提供することを含むものであることを明示する。2-3. TCCにおけるケアの種類と運用モデル
TCCは様々な形態で実施され得るものであるが,それを分類する際には,ケアの種類と運用モデルに分けて考えると理解しやすい。近年,米国を中心に導入されている遠隔集中治療にはいくつかのケアの種類と運用モデルが存在するが,これらは支援医療施設および被支援施設における医療従事者数および構成と習熟度,支援を受ける病床数と患者の重症度,使用する医療機器やIT機器に大きく依存する。
TCCは複数のケアから成り立っているが,これまで様々なケアの組み合わせによる運用方法や運営体制が
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報告されている9),13)〜16) 。現時点で行われているTCCケアと運用方法および運営体制の種類をTable 1に示す。
3 TCCの導入
支援を行うTCCチームには,集中治療医や集中治療に習熟した看護師などのエキスパートを含む必要がある。TCCチームは,信頼性の担保されたコミュニケーション技術を用いて専門的医療を提案することにより,集中治療の質の向上を図ることができる。TCCを導入するうえでは,1支援医療施設と被支援医療施設の施設基準に基づく体制の整備(人的・技術的要件),2運用の取り決め(組織体制や運用マニュアル), 3導入前トレーニング(TCC専門スタッフの認定など)が必要となる。3-1. 施設基準
TCCによる診療を行うために必要な施設およびスタッフの要件を以下の通り定める。ただし,診療報酬制度および施設認定に関連する現行制度の概要を整理したものであり,本ガイドライン自体には法的拘束力はないことに留意すること。【医師】・支援医療施設の責任者は,日本集中治療医学会も
しくは日本専門医機構が認定した集中治療科専門医(以下,専門医)であること。・支援医療施設で診療支援する医師は,専門医研修修了要件と同等の集中治療の経験を有するととも
に,関連学会などが主催する遠隔診療における適切な研修を修了していること。また,支援医療施設で診療支援する医師に対しては,常時,専門医と連絡が取れる状態であり,適切な助言が直ちに得られることを担保すること。【看護師】・支援医療施設で診療支援する看護師の責任者は,
集中治療を必要とする患者の看護に従事した経験を5年以上有し,日本集中治療医学会により集中治療認証看護師の認証を得た看護師,あるいは集中治療を必要とする患者の看護に係る適切な研修*1を修了した専任の常勤看護師であること。上記の看護師に関する適切な研修とは,国または医療関係団体などが主催する研修(修了証が交付されるもの)であり,講義および演習により集中治療を必要とする患者の看護に必要な専門的な知識および技術を有する看護師の養成を目的とした研修である。・支援医療施設における看護師の配置は,ICUで看
護を行った経験を常勤で通算3年以上有する看護師を常時1名以上とし,支援センター機能を果たすために必要な情報の収集を行い,必要な場合には支援医療施設の医師に報告,指示を受ける体制を確保していること*2 。
Table 1 TCCにおけるケアの種類と運用方法
ケアの種類持続ケア(continuous TCC)患者の生理学的データを継続的に(リアルタイム)モニタリングし,定期的なレビューを行う。さらに,自動警報やアルゴリズムを使用しながら,継続的な臨床評価と介入とを行う。
計画ケア(scheduled TCC)カンファレンスやバーチャル回診などによる計画的な診療支援を行う。オンデマンドケア(on-demand TCC)被支援側からのコンサルテーションに応じ,臨床評価と介入を行う。
運用方法全支援型モデル,積極支援モデル(proactive TCC)持続ケアにより,継続的かつ定期的に患者の状態を評価し,診療支援を行う。計画ケアおよびオンデマンドケアも併せて行う。
選択支援型モデル,臨時支援モデル(reactive TCC)持続ケア・計画ケア・オンディマンドケアのいずれかを選択し,被支援側からの要請に応じて診療支援を行う。
運営体制中央管理モデル,ハブ・アンド・スポークモデル(hub-and-spoke TCC)中央の「ハブ」拠点が主要な監視ステーションおよび運営本部として機能し,TCCサービスを提供する体制。
個別管理モデル,分散型モデル(distributed TCC)物理的な中央運営本部を持たないTCCサービス体制。
TCC, telecritical care.
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*1適切な研修とは下記が該当する。
1 日本看護協会の認定看護師教育課程「クリティカルケ
ア」,「新生児集中ケア」,「小児プライマリケア」,「救急看護」,「集中ケア」,「小児救急看護」2 日本看護協会が認定している看護系大学院の「急性・
重症患者看護」の専門看護師教育課程3 特定行為に係る看護師の研修制度により厚生労働大臣
が指定する指定研修機関において行われる研修(以下の8区分の研修をすべて修了した場合に限る)・「呼吸器(気道確保に係るもの)関連」・「呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連」・「栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連」・「血糖コントロールに係る薬剤投与関連」・「循環動態に係る薬剤投与関連」・「術後疼痛管理関連」・「循環器関連」・「精神及び神経症状に係る薬剤投与関連」4 特定行為に係る看護師の研修制度により厚生労働大臣
が指定する指定研修機関において行われる以下の領域別パッケージ研修・集中治療領域・救急領域・術中麻酔管理領域・外科術後病棟管理領域*2日本集中治療医学会における集中治療認証看護師制度に
おいては「集中治療室で重症患者の看護を行った経験を常勤で通算3年以上有する」と規定している。この規定は第8次医療計画の集中治療に関する指標の中で,新興感染症の発生・まん延時における医療体制構築に係る現状把握のための指標例として盛り込まれている「重症者の確保病床を有する医療機関における3年以上集中治療の経験を有する医師/看護師/臨床工学技士数」に基づくものである17) 。
【設備とシステム】・支援医療施設および被支援医療施設の双方向のコ
ミュニケーションが可能,かつ支援医療施設から能動的な診療支援を行う機能を有すること。・被支援医療施設の患者の重症度スコアを自動算出
する機能を支援医療施設側のシステム上に有している,もしくは重症度スコアを遅滞なく算出するためのスタッフなどの配置を支援医療施設もしくは被支援医療施設が行っていること。・被支援医療施設の病床は,緊急な処置が必要に
なった際に気道確保・蘇生行為などを行える医師が院内に勤務しているなどの適切な急性期医療提供体制を備えていること。【その他】・日本集中治療医学会もしくは関連する団体によ
り,上記すべての要件を満たしていることの認定を受けること。3-2. 運用の取り決め
・支援医療施設を設置する医療機関における組織の
管理体制を明示すること。・支援医療施設責任者(集中治療科専門医および看
護責任者)の責任範囲を明確にすること。・運用マニュアルを定めるとともに,以下のような
内容を含めることが望ましい。1 支援医療施設と被支援医療施設のTCCによる
診療支援が目指す目的・目標2 支援医療施設と被支援医療施設の業務範囲3 支援医療施設スタッフの職域別役割4 TCC導入に伴い変更された被支援医療施設の
診療上の運用ルールと看護手順5 TCCによる診療支援で対象とする患者と対象
外とする患者の条件6 被支援医療施設スタッフが支援医療施設へ連
絡するタイミングおよび方法7 支援医療施設スタッフが被支援医療施設へ連
絡するタイミングおよび方法8 支援医療施設スタッフが音声画像システムを
用いて直接患者をモニタリングするタイミング,またはする必要がないタイミングおよび方法9 支援医療施設スタッフがモニタリングしてい
る状況の確認方法10 支援医療施設ならびに被支援医療施設のパ
フォーマンス評価のための記録方法11 支援実績に関するログによる記録12 障害発生時の問題の切り分け,対処法,連絡先13 支援医療施設に導入したソフトウェアアプリ
ケーションの使用方法など・必要に応じて,別途,支援医療施設運営マニュア
ルを定め,支援医療施設に従事する者(医師,看護師,臨床工学技士,IT機器管理者,医師事務作業補助者など)の要件,役割および業務手順を明確にすること。・支援医療施設の責任者と被支援医療施設の各責任
者が連携し,カンファレンスや引き継ぎを円滑に行えるための運用マニュアルを策定するとともに,両施設の関連スタッフ全員が導入前トレーニングを受講すること。・支援医療施設と被支援医療施設の運用体制図に医
療チーム責任者,職種別のリーダーを明示すること。・全スタッフの身体的・精神的な健康を守る職場環
境を提供すること。コンピュータとモニターによ
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る長時間の座位での作業,カメラによる監視など,遠隔診療特有の健康リスクに対処するための具体的なプランを作成すること。持続ケアでは,支援施設スタッフが1シフト当たりの労働時間を12時間以内とし,シフトとシフトの間には最低11時間の休息を取ること。3-3. 導入前トレーニング
TCCの適切な運用のためには,支援医療施設および被支援医療施設において関与するすべての医療者に十分なオリエンテーションとトレーニングを行う。継続的なトレーニングは,システムのアップグレード時,新人スタッフ教育などのためにも行う必要がある。また,トレーニングにより被支援医療施設のスタッフがTCCの利用の受け入れが促進されるように配慮する。これには,信頼関係の構築,支援医療施設と被支援医療施設のスタッフによる統合された運用フローを構築する努力が含まれる18)〜21) 。
日本集中治療医学会もしくは関連する団体の定めたTCCのトレーニングコースを受講することが望ましい。また,トレーニングコースは以下のような内容を満たすことが求められる。
・遠隔システムの設置と運用ガイドラインを熟知し
たスタッフが中心となって行う。・トレーニングは実際の機器を用いて行うことが望
ましいが,e-learningや模擬システムを用いたシミュレーションを利用し先行して実施することも考慮する。TCCに関するトレーニングは繰り返し行うことが重要であり,導入前のみならずTCC導入後も同様のトレーニングを継続する必要がある。
4 TCCクリニカル・プラクティス
4-1. 目標設定
TCCによる診療支援は通常の医療体制による診療に代わるものではなく,医療資源の活用とプロセスの標準化,ならびに標準的な集中治療の提供を支援することにより診療の質を向上させることにある。TCCによる診療支援は,定義された運用基準の範囲内で目標を達成できるようデザインする。患者アウトカム(死亡率低下,人工呼吸期間短縮,ICU滞在日数短縮など),働き方改革の効果(残業時間短縮,院外への相談件数の削減など),医療資源の活用(病床稼働率改善,病院滞在日数短縮など)などのアウトカムをもって目標設定することが望ましい。4-2. 運用体制
TCCの運用は24時間365日間の看護師常駐で運用する全支援型〔積極支援モデル(proactive TCC)〕,す
なわち持続ケアにより継続的かつ定期的に支援側が患者の状態を評価し診療支援を行うとともに,計画ケア,オンデマンドケアも併せて行うことが望ましい。中央管理モデルでの持続ケアがアウトカムを改善したというエビデンスは国内外から報告されており15),22),23),計画ケアとオンデマンドケアの組み合わせが有効であったという国外からの報告もある24) 。2024年にはブラジルで集中治療医が常駐していないICUを対象として,遠隔からの集中治療医の毎日の回診,標準プロトコルの教育および毎月のフィードバックを提供するICUと標準治療群のICUの2群に分け約20か月間観察した世界初の無作為割り付け研究が報告されたが,両群間で治療成績に差はなかった25) 。最適なTCCの提供は,ケアの内容や運用方法が地域の状況や特定の病態・実施方法に依存する可能性があり,さらなる知見の集積が求められる。
日本においては,令和6年度診療報酬改定において特定集中治療室遠隔支援加算が新設された。これは被支援医療施設の集中治療の質向上に加え,夜間帯の被支援医療施設の当直医師および看護師の診療補助の役割も期待されていることから,持続ケア,計画ケア,オンデマンドケアを包括した全支援型〔積極支援モデル(proactive TCC)〕モデルに対してのみ算定が可能である。日本国内から報告されている有効なTCCモデルは,24時間365日間の看護師常駐で運用する全支援型モデルであることから,以下ではこのモデルを実装するにあたり必要な運用法について述べるが,選択支援型モデルなど他のモデルを実装する場合についても,以下を参考にされたい。4-3. スタッフ配置
支援医療施設のリーダーは,TCCの目標を達成するために最も効果的なスタッフ配置モデルを決定する。スタッフのレベルは,モニタリングする患者のタイプと人数,被支援施設の医療資源,および運用モデルなどによって影響される。例えば,米国におけるTCCの医師は,1名当たり100〜250名の患者に対応している。
TCCの支援医療施設において,医師の配置については,専従,兼任の2つが検討される。専従モデルでは支援センター内でのみ勤務し,兼任モデルにおいてはTCC以外の診療にも関与する。一方,TCCでは看護師は専従である必要がある。支援医療施設の専従看護師が医師に報告・指示を受ける体制が常時確保されていることが必要であり,この場合においては,医師が兼任モデルとして,支援医療施設の集中治療のカバー
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をしても良いが,非支援医療施設の状況が安定している場合に限定される。被支援医療施設からの相談がある場合には,自施設を優先することなく,即時に対応する必要がある。
支援医療施設の看護師は,重症度や必要な医療デバイスの種類や数を考慮して患者を監視し,介入のためのスコアリングを行う。TCCにおける患者と支援センター看護師の比率については,利用する技術や要求される看護業務によって定めることが望ましい26) 。令和6年度診療報酬改定の特定集中治療室遠隔支援加算では30対1が算定要件とされているが,日本からのエビデンスにおいては,60対1程度での運用体制での有効性が報告されている23) 。4-4. TCCの対象患者の選定
被支援医療施設と支援医療施設の間で,TCCの対象となる患者を決定する。
TCCの対象には,ICU以外にいる重症患者も該当する。令和6年度診療報酬改定では,特定集中治療室遠隔支援加算の算定要件として,特定集中治療室管理料5および6の算定をしている治療室で治療を受ける患者のみが対象となっているが,ハイケアユニット(high care unit, HCU),脳卒中ケアユニット(stroke care unit, SCU),冠疾患治療室(CCU),術後リカバリー室(post anesthesia care unit, PACU),救急外来, ICU以外の患者に対するrapid response team対応,急性期病院の一般病棟などが,TCCの対象となり得る。患者のニーズや導入した目的に応じて,今までとは異なる様々な状況においても,急性期の医療資源や専門知識の提供が展開されることが予想される。持続ケアモデルのみならず計画ケアや急変対応が望ましい場合や,ユニット全体というよりも必要な患者をピックアップして支援することが有効な場合も考えられる。患者のニーズやTCCを適切に提供するために,柔軟に対応する必要がある。4-5. 重症度評価
同時に100例以上を支援するpopulation controlでは,適切なタイミングで介入するために重症度スコアを使用すると効率的である。そのため,客観的なデータを用いた重症度評価システムの導入により,集中治療に関する患者ケア・アプローチを標準化し,TCCを必要とする患者に適切なタイミングで診療支援を開始することに努める。4-6. TCCの運用フロー
運用フローは,定時のワークフロー(回診の共有,薬剤投与の確認)と予期せぬ緊急事態,新規入室患者対応(カルテ回診,治療方針確認)などについて段階的に構築する必要がある。支援医療施設では,回診のプ
ロトコル,音声ビデオ技術の使用,アラートへの対応,コミュニケーションプロセスや患者情報の保護などの運用フローについて定める必要がある。
支援医療施設のTCCチームメンバーと被支援医療施設のチームのスタッフ間で行われるコミュニケーションには,電話,ビデオ音声通話が用いられる。TCCの運用には,緊急事態における介入のエスカレーションのための指揮系統プロセスを含むことが必要である12),14),27),28) 。支援医療施設と被支援医療施設の間における指揮系統コミュニケーションフロー,システムのトラブルシューティング,災害対応などについて,両施設スタッフにより作成し,検証しなければならない。支援医療施設の医療者が被支援医療施設を定期的に訪問する,あるいは一時的に勤務するなど,支援側と被支援側とのコミュニケーションが向上するような運用フローを検討する。
運用フローはTCCの継続性と標準化の基礎となるが,非常時のマニュアルにもなるような弾力性のあるものでなければならない。4-7. TCCに関する研修
支援医療施設および非支援医療施設の医療者は,定期的にTCCに関する研修を受ける。内容は,「3-3.導入前トレーニング」に記載されたものと同様であるが,新たな知見や技術に対しても対応できる内容であることが望ましい。4-8. 患者と家族への説明
患者や家族へのTCCの運用に関する説明が必要である。TCCを実施するうえで,被支援医療施設のスタッフは,患者と家族の両者へ以下のような情報を提供し同意を得る。必要に応じて各施設の倫理委員会などに相談すること。
・TCCの治療提供における役割・システムの技術的説明・患者の個人情報や尊厳の保護・TCCを用いた他施設とのコミュニケーションTCCに関する研究によると,ICU看護師から患者や家族へ直接口頭で説明する方が望ましい。ICUスタッフには適切な教材を提供し,他のオリエンテーションと同様に,患者・家族にTCCの技術を説明できるようになることが望ましい。患者・家族には,追加の質問や不明点があった際に,連絡先を提供する29),30) 。4-9. TCCの評価とPDCAサイクル
TCCの質が患者のアウトカムに影響を与え,効果的な成果を示すことができるかどうかは,支援医療施設と被支援医療施設の間に築かれた協力関係に強く依存
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している31),32) 。したがって,支援医療施設と被支援医療施設との定期的な合同ミーティングを少なくとも年に2回は実施し,両施設のスタッフ間の関係構築を行うことが望ましい。
TCCを提供する組織は,支援実績,医療の質改善,経済的効果,働き方改革の指標を評価するプロセスを持つ必要がある。TCCの支援実績の評価には,診療支援回数,対応時間などが含まれる。医療の質改善の指標は,ICU死亡率,ICU滞在日数,人工呼吸日数などが挙げられる。さらに,病床稼働率やICU滞在日数などの経済的効果,被支援医療施設の医師に対する相談件数やICUスタッフの満足度などの働き方改革の指標なども用いられる。支援医療施設と被支援医療施設が定期的な相互評価を行い,その結果に基づいて運用フローの改訂を検討することが望ましい。また,評価に際しては,日本集中治療医学会または関連する団体が作成した標準化フォーマット用いることが望ましい。4-10. 文書化と診療録・診療諸記録
TCCにおいて診療録・診療諸記録とTCCシステムを統合し,支援医療施設と被支援医療施設で情報を共有することは,正確な患者データにタイムリーにアクセスするうえで重要な点であり,また支援医療施設から被支援医療施設への診療支援の記録として,文書化した形で残しておくことが望ましい。文書化の方針と手順は,患者のケアの引き継ぎや責任の所在を明確にするために必要であり,直接のコミュニケーションが伝達ミスを最小限にする一番の方法である。そのため,コミュニケーションの記録を文書として保管しておくべきである。
5 TCCシステムの技術的指針
本ガイドラインに記載している技術的要件は,現行制度や一般的な技術基準に基づいた説明であり,本ガイドラインが技術的規格や制度上の義務を定めるものではないことに留意すること。5-1. データ通信
TCCシステムでは,診療の継続性を確保する観点で24時間365日のシステム稼働を前提とした信頼できるビデオ音声通話を整備する必要がある。その技術の選択にあたっては,「オンライン診療の適切な実施に関する指針 通信環境(情報セキュリティ・利用端末)」33)および医療情報システムの安全管理に関するガイドライン34)への準拠が前提となる。経皮モニタリングや医療デバイスなどの技術は,備え付けのデバイスから自身のデバイス(bring your own device, BYOD)まで様々であるが,これについても臨床的な
必要性および情報セキュリティを含む安全性,診療における継続性の3点を確保したうえで,使用する機器を選択する。支援医療施設において医師が当該施設外から支援を行う場合には,情報セキュリティが担保された状態で直ちに送受信できるよう,当該施設内の体制に加え,スマートフォンやタブレット端末,自宅設置PCなどによる体制を整える必要がある。
TCCシステムでは,「オンライン診療の適切な実施に関する指針」33)に基づき,TCCの運用達成や患者ケアの質を担保するために必要なテレコミュニケーションの適切な帯域の確認,周波数や容量などを設定する必要がある。さらに,災害時など特殊な状況下を除き,品質が担保されるように構築する必要がある。品質を担保する観点から,標準仕様を定めそれに準拠する機器の選定,環境の構築,運用を図る。医療安全の観点から,診療における品質が担保できない環境下での運用を制限する必要が求められる。医療機器該当性のある機能をソフトウェアに含む場合は,薬事承認または認証を受けているものを使用する。
TCCシステムにおける遠隔からの管理は,far end camera control(FECC)の機能によって行われるが,メンテナンス,自動再起動,能動的モニタリング,警告などの機能を備え,臨床的判断に十分なビデオ解像度を有することが求められる35) 。すなわち,センター側の操作者は,ビデオカメラのパン(pan)・チルト(tilt)・ズーム(zoom)(PTZ)操作を行えるほか,マイクやスピーカーを介して音声および映像の双方向通信が可能であることが望ましい。5-2. 情報セキュリティ確保とデータ保護
支援医療施設および被支援医療施設の双方向のコミュニケーションにおいて,情報セキュリティ確保とデータ保護は重要である。具体的には以下のような条件と考えられる。
・患者情報はデータセンターや,セキュリティが担
保された専用区画に設置されたサーバなど(クラウドサーバを含み,この限りではない)で集中管理すること。・情報セキュリティ確保策〔ファイアウォール,暗
号化通信,virtual private network(VPN)の活用など〕を講じたネットワーク環境を介して患者情報などをやり取りすること。・支援医療施設から被支援医療施設の診療録・診療
諸記録などを参照する際は,双方で情報セキュリティポリシーを照合・策定し,仮想デスクトップなどの技術により,情報セキュリティを担保する
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こと。・支援医療施設側で患者情報にアクセスするスタッ
フの利用者認証,アカウント管理を行うこと。・支援医療施設と被支援医療施設において,個人情
報保護を含む情報セキュリティを確保したうえでデータを集約し管理すること。・サーバ環境は運用停止リスクを抑えるために冗⻑
化(予備環境)または運用体制の構築を施すこと。・定期的なシステムやデータのバックアップを実施
し,システム障害発生時にバックアップシステム/データから復旧・復元することが可能となるようinformation technology-business continuity plan(IT-BCP)を講じること。バックアップシステム/データは,オンライン,オフラインを問わず利用施設内もしくは利用施設外への遠隔バックアップを実施できること。
利益相反の開示
高木俊介は,株式会社 CROSS SYNCの役員であり株式を保有している。今回の改訂においてはオブザーバーとして参加しているのみであり,内容の変更について最終的な決定には関与していない。その他の著者には規定されたCOIはない。また,本稿の技術面に関する記載について,特定のシステム製品やサービス商品を言及するなど,利益を株主配当として分配する株式会社などの特定の営利団体に有利とならないように配慮した。
文 献
1) 平成30年度厚生労働科学研究費補助金政策科学総合研究
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