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日集中医誌 2025;32:R15
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委員会報告
要約:Rapid response system(RRS)は病状増悪を早期に察知し,迅速に対応することで,院内心停止などを減少させる医療安全管理システムである。「Rapid Response System運用指針」はRRSの効果的な運用により,病状増悪時の対応を標準化することを目指して作成された。本指針は組織体制とRRSの運用から構成されている。組織体制に関しては,病院管理者が責任者となって運営委員会を設置し,システムの計画・監督・質改善を行うことが推奨される。各施設に最適化された運営マニュアルの作成を推奨し,主治医チームと対応チームが連携することを提案する。一方,RRSの運用面では,システムの維持運営とスタッフ教育を推奨し,起動基準の周知とバイタルサインの適切な測定を推奨する。また,迅速な対応を提案し,起動事例のデータ収集と分析を推奨する。さらに,各事例を検討し,その結果を関連各所にフィードバックすることも提案する。Key words: 1院内迅速対応システム, 2RRS(rapid response system), 3MET(medical emergency team), 4RRT(rapid response team)
Rapid Response System運用指針
I.推奨文一覧
【組織体制】
A)管理責任体制
1 責任者の配置
病院管理者の責任で体制を構築することを推奨する。
2 委員会の設置
運営委員会を設置することを推奨する。3 医療安全上の位置づけ
病院管理者は主治医チームとRRSの連携による医療安全管理体制の充実を図れる環境を提供することを推奨する。
B)要綱などの整備
1 運営委員会要綱
運営委員会の要綱を整備することを推奨する。
2 運営マニュアル
施設ごとに最適化されたRRS運営に関するマニュアルを作成することを推奨する。
日本集中治療医学会RRS運用指針作成ワーキンググループ†
リーダー: 中村京太(横浜市立大学附属市民総合医療センター医療の質・安全管理部)メンバー: 飯尾純一郎(熊本赤十字病院集中治療科)鹿瀬陽一(東京慈恵会医科大学付属柏病院麻酔部)栗田健郎(千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学)仙頭佳起(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科心肺統御麻酔学分野[現 東京科学大学])武田 聡(東京慈恵会医科大学病院救急部)内藤貴基(聖マリアンナ医科大学救急医学)新津健裕(埼玉県立小児医療センター集中治療科)森 一直(愛知医科大学病院NP部)森安恵実(北里大学病院救命救急・災害医療センター集中治療室)アドバイザー: 川崎達也(静岡県立こども病院集中治療センター)坂本哲也(公立昭和病院)野々木宏(大阪青山大学健康科学部健康栄養学科)担当理事: 藤谷茂樹(聖マリアンナ医科大学救急医学)投稿責任者: 安宅一晃(奈良県総合医療センター救急・集中治療センター) †著者連絡先:日本集中治療医学会(〒113-0033 東京都文京区本郷2-15-13 お茶の水ウイングビル10F)
受付日2024年6 月18日採択日2024年8 月26日
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C)院内診療連携
1 診療科医師
主治医チームとmedical emergency team(MET)/ rapid response team(RRT)が相互に連携して対応することを提案する。
2 メディカルスタッフ
メディカルスタッフは,その職種に応じた必要な情報を提供し,RRSを円滑に運用することを提案する。
【RRSの運用】
A)指揮調整要素
1 システムの実装と継続
運営委員会が中心となり,RRSの維持運営を行うことを推奨する。委員会はシステムの妥当性について検討し改善を図ることを推奨する。
2 スタッフ教育・トレーニング
全職員に対して,RRSについての教育やトレーニングを受ける機会を設けることを推奨する。
B)起動要素
1 起動基準
RRSの起動基準を明確にし,院内で確実に周知することを推奨する。
2 観察
バイタルサインを適切なタイミングで測定することを推奨する。測定の間隔は患者に応じて事前に定めておき,何らかの懸念があれば追加,変更することを推奨する。
3 起動促進
起動基準を満たしたことが容易に認識できる仕組みを構築し,その際に起動しやすい文化を醸成することを推奨する。
C)対応要素
1 チーム構成(人)
対応するチームのスタッフには,重症患者管理の経験を有する医師もしくは看護師を含むことを提案する。出動を担当するスタッフを定めることを推奨する。2 チームのスタイル
病状増悪時に対応するチームのスタイルは,METもしくは RRTであることを推奨する。
3 起動要請に対するチームの対応
起動要請に応じて迅速に(15分以内を推奨する)現場に急行し,患者の評価と初期対応を行うことを推奨する。24時間体制で対応することを提案する。
4 資機材
MET/RRTの活動で必要となる資機材を準備し,救急カートや携行バッグなどで適切に管理することを推奨する。
5 専門チームとの連携
MET/RRTは,対応している緊急事態によっては,その対応に,より特化している専門チームとの連携を図ることを推奨する。
D)システム改善要素
1 データの収集と分析
RRSが起動された事例の臨床データを収集し,分析することを推奨する。病院全体における臨床的アウトカムを集計し,システム全般のデータとして分析することを推奨する。
2 事例の検討と振り返り(デブリーフィング)
RRSが起動された事例は,その全例を検討することを推奨する。さらに,その中から選んだ事例については,多職種で振り返り(デブリーフィング)を行うことを推奨する。
3 フィードバック
事例の検討と振り返りの結果は,起動・対応・指揮調整要素のそれぞれにフィードバックすることを推奨する。システム全般のデータを分析した結果は,病院全体にフィードバックすることを推奨する。
II.目的・基本的な考え方入院患者における院内心停止をはじめとする重大な有害事象を早期に発見し,早期介入につなげる医療安全管理システムとして,国内外でRRSが導入されている1) 。2015年のメタ解析では,RRS導入により,院内心停止が有意に減少することが報告されている2) 。
日本国内では,2008年に医療安全全国共同行動で
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院内急変(急変時の迅速対応)が行動目標6に取り上げられ,RRSが日本で普及するきっかけになった。2013年より日本集中治療医学会と日本臨床救急医学会によるRRS/IHCA(in-hospital cardiac arrest)のレジストリが開始され,2017年には,日本集中治療医学会のRRS検討委員会からRRSに関する用語集が公開された1) 。2022年度の診療報酬改定では,急性期充実体制加算の要件としてRRSの体制整備が入り,国内でRRSを導入する,もしくは導入を検討する施設が急増した。しかし,RRSの運用について,学会などからの指針が示されていなかった。
今回,日本集中治療医学会RRS検討委員会では, RRS運用指針作成ワーキンググループを立ち上げ, RRS運用について一定の見解を示すために本指針を提示することとした。
本指針は,RRS運用によって各医療機関における医療の質の向上と安全性を確保することを目的に作成したものであり,医療監視や診療報酬と関連付けるものではない。また,本指針を裁判における根拠として利用することを認めない。本指針は2024年3月時点において策定されたものであり,一定期間を経た後に見直しをする。
【指針の推奨度表現について】
本指針では,それぞれの項目に対して推奨度を示し,その推奨度に対しての解説文を付記した。推奨度
1. 推奨する:方策によって得られる効果が確実で,
かつ,方策によって生じうる負担などを上回ると考えられる。
2 提案する:方策によって得られる効果が期待さ
れるが,生じうる負担などが大きい,または効果発現までに時間がかかると考えられる。
指針の推奨度決定方法
RRSの運用に関しては推奨決定に利用可能なエビデンスがほとんどないことが予想されたため,The Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation(GRADEホームページhttps://www.gradeworkinggroup.org/)3)のような推奨文の決定方法は適当でないと判断した。今回は多職種のエキスパート10名の委員,3名のアドバイザー, RRS検討委員会委員長,担当理事の15名からなるワーキンググループを日本集中治療医学会理事会で承認後,目的・基本的な考え方・用語の定義担当班,組織体制担当班,運用担当班に分けて,各領域の推奨文の草案と解説文を作成した。本件の審議は2023年に計
8回のWeb会議を開催した(2月8日,5月1日,5月10日,6月19日,7月3日,8月30日,10月19日,12月18日)。また,必要に応じてメール審議を実施した。各項目の草案に対して出席者全員が一致して同意するまで文言の修正を繰り返し,推奨文を決定した。その後,各領域担当班で解説文を作成し,ワーキンググループ全員で文言を確認した。
III.用語の解説
2017年に日本集中治療医学会のRRS検討委員会から,RRSに関する用語集が公開された1) 。今後国内において,共通言語を使用してデータを解析し評価する(RRSの4要素の1つであるシステム改善要素)上で,用語を標準化する必要があるが,ガイドラインや報告によってその定義が異なる。そのため,RRSで使用される用語の定義ではなく,用語の理解を補助するための解説をまとめた(Table 1)。
IV.組織体制
A)管理責任体制
1 責任者の配置
病院管理者の責任で体制を構築することを推奨する。
解説:RRSは病院のシステムとして構築することが重要であり,そのシステムの最終責任者は,病院長などの病院管理者となる。システムが機能するには,組織的なリーダーシップの支援が不可欠であり,経営陣を含む病院幹部スタッフによる支援の欠如などガバナンスの不備はシステムの障壁となる7) 。
システムに関する実務レベルの責任者を配置することにより,RRSの実務を様々な角度から管理・運営することが期待できる。システム責任者は病院管理者からの任命を受けて,MET/RRTや病棟と連携し,システムの維持に努めることを推奨する。
2 委員会の設置
運営委員会を設置することを推奨する。解説:RRSの運営にあたっては,システムの計画と運用状況の監督を行う管理体制を構築することを推奨する。また,RRSを運営すると,様々な課題が発生するため,解決に向けた対策の立案を推奨する。課題解決に加え,システムの維持,機器の管理,データ収集
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Table 1 用語の解説
用語(英語)用語(日本語)説明
activation criteria, escalation criteria起動基準事前に設定された,主治医への連絡,RRSの起動などの治療のエスカレーションにつながる基準。シングルパラメータや早期警告スコアなどがある。必ずしもRRSの起動の基準だけが設定されるわけではなく,治療のエスカレーションの基準が設定されることもある。
afferent limb/ component起動要素(求心路)病棟スタッフ・医療従事者が患者の病状増悪を認識し,あらかじめ定められた起動基準に従ってMET/RRTを起動する要素。一般的には気づきと起動といわれる。
cardiac arrest心停止コンセンサスの得られた定義はない。以下のような定義が用いられている。1反応がなく,かつ正常な呼吸がなく,脈拍も触知できない状態(JRC蘇
生ガイドライン2020)4) 。2胸骨圧迫,または致死的不整脈に対して除細動が行われた状態 (iSRRSの定義)5) 。3イベント中に胸骨圧迫,または致死的不整脈に対して除細動が行われた
事例(American Heart AssociationのGet With The Guidelinesの定義,ウツタインの定義も同様)6) 。
clinical deterioration病状増悪患者の生命徴候の増悪や懸念のある臨床的変化。急変に至る前の増悪を示す意味で使用されることが多い。
code blueコードブルー心停止やそれに準ずる病態で起動される緊急対応システム。RRSにはコードブルーを防ぐ目的があるため,RRSとコードブルーは目的が異なるシステムである。code statusコードステータス生命を脅かす緊急事態や心停止の際の医療介入の程度を示した事前の取り決め。
critical care outreach team(CCOT) (日本語訳なし)集中ケアの訓練を受けた看護師らが主体となり,ICU退室患者と何らかの懸念のある入院患者を定期的に訪床し,起動基準に抵触する患者を早期発見することを目指した対応チーム。do-not-attempt-resuscitation(DNAR)蘇生不要指示心停止時に心肺蘇生処置を行わないこと。その他の治療内容に影響を与えてはならない。early warning score (EWS)早期警告スコア呼吸,SpO2,酸素投与,体温,収縮期血圧,心拍数,意識状態の項目からスコアリングされ,病状増悪の徴候を早期発見するためのツール。
efferent limb/ component対応要素(遠心路)病棟からの起動に応じて迅速に(15分以内を推奨する)現場に急行し,患者の評価と初期対応を行う要素。重篤な患者の状態の安定化と管理に必要なスキルを備えたスタッフと,必要な資機材から成る。チーム構成によりMET,RRT,CCOTに大別される。一般的にはRRS対応チームといわれる。
escalation of care (日本語訳なし)観察,治療体制の強化。より高度な治療ができる病床への移動を含む。RRSの起動だけでなく,病状変化に対応するモニタリング強化(バイタルサイン測定の頻度変更やドクターコールの指示)や観察しやすい病床への移動などケアの強化を示す。full codeフルコード治療に関して制限がないことgovernance/administrative structure limb/ component指揮調整要素RRSを計画,導入し,維持運営する母体組織。スタッフへの教育やMET/ RRT構成の選任,資機材の整備などを司る。
in-hospital cardiac arrest院内心停止コンセンサスの得られた定義はない。通常は病院内で起こる予期せぬ心停止を意味する。※「cardiac arrest,心停止」参照limitation of medical treatment(LOMT) (日本語訳なし)フルコードではないこと。
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と分析,診療の質改善,患者の安全性など,システムの様々な側面に対応するために,RRSの運営を所管する正式な委員会組織の必要性が強調されている7) 。病院長などに任命された委員長が委員会を管理し,組織としての運営ができる体制を構築する。また,院内の安全管理委員会や診療の質改善に関する委員会などとの連携を推奨する。定期的に本システムの質改善を目的とした会議を開催する。委員会での議事録は,病院管理者などが在籍する委員会などに提出・報告する。
3 医療安全上の位置づけ
病院管理者は主治医チームとRRSの連携による医療安全管理体制の充実を図れる環境を提供することを推奨する。
解説:RRSでは予期せぬ死亡,予期せぬ院内心停止,ICU予定外入室などのデータを収集・分析することが重要である。これらのデータをもとに臨床現場にフィードバックを行い,患者急変の予防と対応に活用することで病院における医療安全と質向上を図る8),9) 。
RRSは病院のシステムとして,MET/RRTのみならず,システムを起動する院内の各部署や診療科もシステムの一部と捉えることが重要である。心停止事例だけでなくRRS起動事例でも適時性が維持されていたかを客観的に捉え,障壁となりえた原因を追求し,医療安全の側面から病院の課題を抽出することが必要である。RRSは院内の安全管理委員会や診療の質改善に関する委員会などと積極的に連携し,病院管理層を含む院内への適切な情報提供とフィードバックを効率的に実施することが必要である。
B)要綱などの整備
1 運営委員会要綱
運営委員会の要綱を整備することを推奨する。解説:RRSに関わる運営委員会を適切に運用する目的で,委員会の要綱を定め,組織上の属性,委員の構成,役割,権限,開催頻度,報告内容などを整備する
用語(英語)用語(日本語)説明medical emergency team(MET) MET (日本語訳なし)医師を1名以上含み,気管挿管などの二次救命処置をベッドサイドで開始できる能力を備えた対応チーム。patient safety/process improvement limb/ componentシステム改善要素発生した事案をデータ集積し,将来に同様の事案を回避できるよう,管理・ケアの改善に役立つようフィードバックする要素。preventable death防ぎ得た死亡コンセンサスの得られた定義はない。各施設で基準を作成したり,各施設の委員会で検討され決定されることが多い。
rapid response system (RRS)院内迅速対応システム患者の有害事象を軽減することを目指し,迅速な対応を要するようなバイタルサインの重大な増悪を含む急激な病態変化を覚知し,対応するために策定された介入手段。rapid response team (RRT) RRT (日本語訳なし)医師を必ずしも含まず,起動対象となった患者の初期評価をし,基本的な初期対応を行った上で,必要に応じて医師の緊急招集を行うチーム。serious adverse event (SAE)重篤有害事象研究によって変わるが,多くの場合,予期せぬ心停止,予期せぬ死亡,およびICU予定外入室を指す。single parameterシングルパラメータバイタルサインやその他の生命徴候の各項目に対して閾値を設定する方法(例:収縮期血圧 80 mmHg以下 or 220 mmHg以上でRRS起動)。track and trigger (日本語訳なし)病棟患者を継続的に早期警告スコアによりモニタリングし,病状増悪を来した患者を拾い上げ,治療チームにつなぐ一連の流れ。unexpected cardiac arrest予期せぬ心停止入院中に,DNARが合意されていない,ないしは記載されていない患者で起こった心停止。RRS関連では,ICU外が含まれることが多い。unexpected death予期せぬ死亡入院中に,DNARが合意されていない,ないしは記載されていない患者で起こった死亡。unplanned ICU admission ICU予定外入室ICU外に入院中の患者の予定外でのICU入室。
Table 1 用語の解説(つづき)
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必要がある。委員は多職種メンバーで構成する。具体的にはICU運営に関わるスタッフ,(チームがある場合は)心停止対応チームのメンバー,医療安全管理業務に関わるスタッフ,診療の質改善に関わるスタッフが含まれていることを推奨する8) 。システムの維持,機器の管理,データ収集と分析などに関する委員会の役割と権限を明記し,医療安全と診療の質改善につなげることを推奨する。
2 運営マニュアル
施設ごとに最適化されたRRS運営に関するマニュアルを作成することを推奨する。
解説:病院ごとに施設規模や患者背景が大きく異なるため,単一の運営マニュアルを提示することはできない。そのため,各施設にあった運営マニュアルを作成することを推奨する。
運営マニュアルには,RRSの目的や役割,運用方法を明文化することを推奨する(Fig. 1)。またRRSフローチャートを掲載し,関係者が理解しやすくすることを推奨する。さらに,コードブルーとRRSの運用を分けることを推奨する。
RRSの起動基準は,各施設の状況(医療スタッフの経験や能力,ICUの有無など)により施設ごとに検討して作成し,本マニュアルに明示することを推奨する。
C)院内診療連携
1 診療科医師
主治医チームとMET/RRTが相互に連携して対応することを提案する。
解説:病院でRRSを円滑に,かつ効果的に運営するためには,主治医チームとMET/RRTが相互に連携して対応することを提案する。
MET/RRT単独で対応するよりも主治医チームとともに対応する方が,ICU入室などの決定が早く行われることが報告されている10) 。主治医チームは最も患者の情報を持っている医療者であり,MET/RRTは急性期病態の対応の経験が豊富な医療者である。双方が連携することが患者の病状安定に貢献できると考えられる。
RRSの運用の障壁の1つに主治医チームがMET/ RRTの介入を好意的に思わないことがあげられている。その理由として,「治療の主導権の侵害」と「RRSのサポートを得ることを主治医チームの能力的な低さと捉える」ことがあげられている。これらは「主治医チームは総合的に患者の治療を行い,責任を持つべきである」という歴史的な認識に基づいていると指摘されている11) 。しかし,主治医チームを最初に呼ぶ伝
統的なモデルはRRSの起動の遅れの原因となることが報告されている12) 。
患者の治療は主治医チームだけであたるという認識から,病院として部署横断的に院内救急体制を構築することが重要であり,患者の予後改善のためであるという認識の転換を病院全体ですることが必要である。このためには主治医チームにRRSの必要性を認識するように働きかけ,MET/RRTを起動しやすい環境を作ることを提案する。
2 メディカルスタッフ
メディカルスタッフは,その職種に応じた必要な情報を提供し,RRSを円滑に運用することを提案する。
解説:RRSは,医師や看護師だけで運営されるシステムではなく,患者に関わる全てのメディカルスタッフの協力が必要である。患者の病状増悪を迅速に捉え,早期介入を行うためには,多職種のメディカルスタッフによる多角的視点を生かした評価から得られる情報が有用であると考えられる。またMET/RRTを起動した医療者は,職種に応じた情報をMET/RRTに提供することで,迅速に患者の評価が行われ,RRSを円滑に運用できると考えられる。
V.RRSの運用
A)指揮調整要素
1 システムの実装と継続
運営委員会が中心となり,RRSの維持運営を行うことを推奨する。委員会はシステムの妥当性について検討し改善を図ることを推奨する。
解説:RRSというシステムを実装し効果的に継続させていくために,運営委員会がRRSの母体組織として,RRSを計画・導入し,RRSを維持運営していくことを推奨する。自施設の院内救急対応を改善させたいと考える一部の職員の声をきっかけとして,患者の病状増悪に対応するシステムが自然発生的に実装される例も多く,そのような場合には特に,MET/RRTの自主的な活動があたかもRRSそのもののように見なされることがあるが,これは誤った認識であり,RRSには確固たる母体組織が必要である8),13) 。起動要素と対応要素が効果的にその役割を遂行するためには,母体組織による支援や,病院全体での戦略が必要である7),14) 。したがって,病院職員の教育,MET/RRT構成員の選任,対応時に必要な資機材の整備なども運営
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1. RRSの目的患者の重篤有害事象を軽減することを目的とする。2. RRSの役割メディカルスタッフが患者の容態の変化に気づき,起動基準に沿ってMET/RRTに連絡することによって,患者の容態変化を早期発見し適切な介入を行う。そのためには,病院管理者の責任で体制を構築し,症例の臨床データを収集し分析する役割を担う。
3. 構成員RRSの構成員は,医師や看護師を含めたメディカルスタッフである。4. 活動時間活動時間を明記する。
5 起動基準
A:気道気道閉塞疑いストライダー気管チューブ・気管切開カニューレの異常
B:呼吸努力呼吸不規則な呼吸パターン呼吸数9 /min以下,30 /min以上SpO2:92%以下10 L/min以上の酸素投与量
C:循環心拍数40 /min未満,130 /min以上収縮期血圧90 mmHg以下,200 mmHg以上尿量4時間で50 mL以下
D:意識急激な意識レベルの低下覚醒しない患者持続,または繰り返す痙攣
その他何らかの懸念明らかな出血
6. 活動内容1) MET/RRTに連絡があった場合,MET/RRT担当者は患者のもとへ駆けつけ,観察・対応する。2)メディカルスタッフの相談窓口となり支援する。3)患者の容態急変(ショックや心停止など)の徴候に関する教育を行う。4)RRS構成員の選任や教育,資機材の整備などを行う。5)症例の臨床データを収集し分析することで,院内救急体制の改善・充実を図る。7. 資機材MET/RRTは,聴診器やペンライト,パルスオキシメーターを含めたモニタリング機器を持参する。また,気道管理物品・輸液関連資機材・必要に応じて薬剤などを携行する。
8 フローチャート
入院患者の病状増悪
主治医チームMET/RRT へ連絡
MET/RRT が病棟に到着
担当看護師から情報収集
患者の観察・評価
介入
主治医チームへ連絡
Fig. 1 運営マニュアルに含める内容の例MET, medical emergency team; RRS, rapid response system; RRT, rapid response team
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委員会が司る1) 。
運営委員会は定期的に会合を開催し,そこでは本指針のV-D-1に示す各種データなどを用いてシステムの妥当性について検討し,そして改善を図っていくことを推奨する。運営委員会は,安全管理部門と密な連携を取ることが望ましく,安全管理部門の関連組織とすることも検討する。また,RRSとともに院内救急対応を担うコードブルーの運営も,この運営委員会で一本化することが効率的かつ効果的であろう。
2 スタッフ教育・トレーニング
全職員に対して,RRSについての教育やトレーニングを受ける機会を設けることを推奨する。
解説:病院の全職員が,患者の病状増悪を早期発見し早期介入するというRRSの考え方を理解した上で,それぞれが関わる要素についての教育やトレーニングを継続的に受けることが重要である8) 。したがって, RRSの母体組織である運営委員会は,定期的な学習の機会を職員に提供することを推奨する。
RRSの起動に関わりうる臨床現場のメディカルスタッフ全員に対して,起動要素についての研修を受ける機会を設ける必要がある。病状増悪患者の評価と各施設の起動基準について学び,適切なタイミングでRRSを起動できるようになることを推奨する9) 。
MET/RRTの構成スタッフに対しては,対応要素についての研修を受ける機会を設ける必要がある。評価・治療・ケアおよび起動部署のスタッフとの連携について,テクニカルスキルとノンテクニカルスキルを習得し,MET/RRTの一員として適切に行動できるようになることを推奨する15) 。
また,起動要素と対応要素のみならず,システム改善要素と指揮調整要素においてもその教育は重要であるため,担当者が研修を受ける機会を設ける必要がある。
B)起動要素
1 起動基準
RRSの起動基準を明確にし,院内で確実に周知することを推奨する。
解説:RRSの起動基準には,シングルパラメータや,早期警告スコアearly warning score(EWS)のように複数の項目を用いてスコアを算出する方式がある。いずれもバイタルサインなどの生理学的な測定項目から患者の病状増悪の徴候を検知することを目的としている16) 。
シングルパラメータはFig. 1のように気道,呼吸,循環,意識,何らかの懸念の5つの項目のうち,1つ以
上が基準外になった場合にRRSを起動する方式である。各項目の具体的なバイタルサインは各施設で決めることを推奨する。シングルパラメータによるRRSの起動は,客観的な基準による起動を基本としているが,実際には「スタッフによる懸念」を理由とした起動が5割を超えることも報告されており,主観的な気づきに対しても迅速に対応するように起動基準を設定しておくことを推奨する17) 。
シングルパラメータで代表的なものとして,オーストラリアNew South Wales州のbetween the flagsがある(Fig. 2)18) 。これは電子カルテの経過表にバイタルサインの異常の範囲によって色がついており, RRSを起動しやすい工夫をしている19) 。
EWS によってRRSを起動する方式は,欧州などで幅広く使用されている。シングルパラメータと同様に各項目の基準値には様々なものがあるが,一般的なEWSは呼吸数,SpO2,酸素投与の有無,収縮期血圧,心拍数,意識状態,体温の7項目からスコアを算出してリスクレベルを決定するものが多い20) 。
英国で広く使用されているNational Early Warning Score 2(NEWS2)もEWSの1つであり(Table 2),合計点に応じた対応(escalation of care)が提案されている(Table 3)18) 。
予後予測精度はEWSのほうがシングルパラメータより高いとされているが21),導入のしやすさとしてはシングルパラメータのほうがEWSより優れている。シングルパラメータとEWSの間でRRS全体の運用における優劣は示されていないため,各施設で適切な起動基準を導入することを推奨する。
2 観察
バイタルサインを適切なタイミングで測定することを推奨する。測定の間隔は患者に応じて事前に定めておき,何らかの懸念があれば追加,変更することを推奨する。
解説:院内心停止とICU予定外入室となった患者は,平均して6.5時間前からバイタルサインに異変を呈している22) 。また,バイタルサインの変化を示した患者の70%が,呼吸症状の増悪の所見を呈しているといわれていることから,日々のバイタルサインの中で,特に呼吸数を重視していくことを推奨する23) 。
さらに,異常を示すバイタルサインの数が多いほど予後が悪くなることが知られている24 ) 。したがって複数のバイタルサインを収集し,経時的に評価していくことを推奨する。この評価方法として,EWSを用い
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Fig. 2 Between the flags モデル19)
Clinical Excellence Commission. Between the Flags. [cited 2024 Sep 12] Available from: https://www.cec.health.nsw. gov.au/_data/assets/pdf_file/0012/258699/Standard-AdultGeneral-Observation-Chart-SAGO-Watermark.pdfより引用
Table 2 NEWS2 (National Early Waring Score 2)18)
Score 3 2 1 0 1 2 3呼吸数(/min) ≦8 9〜11 12〜20 21〜24 ≧25 Scale 1(通常) SpO2(%) (酸素投与なし) ≦91 92〜93 94〜95 ≧96 Scale 2(目標範囲が88〜92%の場合 例えば慢性呼吸器疾患)(医師の指示がある場合のみ使用) SpO2(%) ≦83 84〜85 86〜87 88〜92 or ≧93 (室内気) 93〜94 (酸素投与) 95〜96 (酸素投与) ≧97 (酸素投与)酸素投与/室内気酸素投与室内気収縮期血圧(mmHg) ≦90 91〜100 101〜110 111〜219 ≧220心拍数(/min) ≦40 41〜50 51〜90 91〜110 111〜130 ≧131意識状態A C, V, P, U体温(°C) ≦35.0 35.1〜36.0 36.1〜38.0 38.1〜39.0 ≧39.1 A:alert(覚醒),C:new confusion(混乱),V:voice(声に反応),P:pain(疼痛に反応),U:unresponsive(無反応)
Table 3 NEWS2 (National Early Waring Score 2)のスコアに応じた対応18)
NEWS2スコアリスクモニタリング対応合計0点低い最低12時間ごと病棟で様子観察合計1〜4点低い最低4〜6時間ごと看護師がモニタリングの頻度やケアが適切か再評価単独で3点低い〜中等度1時間後に再評価主治医チーム,MET/RRTにコールして,ケアが適切か再評価合計5〜6点中等度1時間後に再評価主治医チーム,MET/RRTをコールすることを検討して,持続モニタリングできる環境に移動合計7点以上高度持続モニタリング主治医チーム,MET/RRTをコールMET, medical emergency team; RRT, rapid response team
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ることは有用である。起動基準の項目で紹介したEWSの1つであるNEWS2では,スコアに応じて観察の頻度を調整することが定められている(Table 2)25) 。いずれにしても,病状増悪が予測される患者では,バイタルサインを定期的に測定の上で,患者に対して何らかの懸念がある場合や,主観的に異常があると判断した場合には,観察の頻度や監視体制などを適宜調整していくことを推奨する。
3 起動促進
起動基準を満たしたことが容易に認識できる仕組みを構築し,その際に起動しやすい文化を醸成することを推奨する。
解説:RRSが起動されるためには,1起動基準を理解する,2バイタルサインが起動基準の閾値を満たしているかを判断する,3実際に起動する,という3つのプロセスが必要である26) 。1の起動基準の理解は,先述したように各々の施設に適した起動基準を選択することを推奨する。簡単な指標で,共通の認識が持てるようにすることが重要である27) 。起動基準を満たした場合に,確実に起動ができるように,RRSの起動基準などを周知するような工夫を推奨する。例えば,病棟内にポスターを貼る,スタッフの名札の裏側に起動基準を印刷するといったものになるだろう。各組織内で適切な周知方法を模索するのを推奨する。基本的には,看護師による起動が一番多くなるが,研修医,患者本人,家族,その他の医療スタッフが起動することも許容される27),28) 。
2の起動基準の閾値を満たしているかどうかについては,バイタルサインを余すことなくチェックし,院内で使用している起動基準に照らし合わせる作業が必要になる。しかし,全て手動で照らし合わせるとなると,多大な労力が必要となり,RRSを適切に運用する障壁になりうる。そこで,近年artificial intelligence(AI)の技術を用いて,電子カルテのデータを連動させた自動アラートシステムの有用性が報告されている29) 。
3は実際に起動基準を満たしていても,正常性バイアスが働くことで,RRSが起動されないことがある30) 。正常性バイアスとは,予期しない事態に遭遇したときに「そんなことはありえない」といった先入観や偏見を働かせて,「起こっている事態は正常の範囲である」と自動的に認識する心のメカニズムのことである。正常性バイアスを防ぐためには状況を想定しておくことと,行動の指針を作成しておくことが有用である。状況を想定しておくためにはスタッフに教育を図ることが必要である(V-A-2「スタッフ教育・トレーニング」の項目参照)。
また,緊急連絡網,組織間の伝達方法,RRS起動基準の見直し,RRSの起動を遅らせた要因をスタッフへフィードバックすることなども有用といわれている31),32) 。このように,対応チームは指揮調整要素との連携を常にとることを推奨する。(V-A-1「指揮調整要素」の項目参照)
C)対応要素
1 チーム構成(人)
対応するチームのスタッフには,重症患者管理の経験を有する医師もしくは看護師を含むことを提案する。出動を担当するスタッフを定めることを推奨する。
解説:出動を担当するスタッフについて,その時間帯の当番を,個人もしくはあらかじめ定められた部門の誰か,という形で指定し明確にする。
MET/RRTのスタッフには病状増悪患者に対する緊急度の判断や初期対応の技能が求められ,MET/ RRTのスタッフにadvanced cardiovascular life support(ACLS),immediate cardiac life support (ICLS),pediatric advanced life support(PALS)などの初期対応に関する研修を修了した医師もしくは看護師や,救急医療・集中治療の経験を有する医師もしくは看護師が含まれることを推奨する。また,MET/ RRTのスタッフは,日本集中治療医学会が主催する「Rapid Response Systemセミナー・総論」や「Rapid Response System出動スタッフ養成コース」,日本臨床救急医学会が主催する「RRS起動要素研修コース」や「RRS起動要素研修指導者養成コース」,医療安全全国共同行動が主催する「RRSセミナー〜急変時の迅速対応とRRS(Rapid Response System)〜」などのRRSに関する研修を受講することを推奨する。
2 チームのスタイル
病状増悪時に対応するチームのスタイルは,METもしくは RRTであることを推奨する。
解説:RRSの対応要素には,MET・RRT ・CCOT (critical care outreach team)がある。これらのうち,病状増悪時に対応するチームはMETもしくはRRTである。RRSの対応要素には,起動に対して迅速に出動できる対応チームをシステムに組み込む必要があり,MET/RRTの運用は不可欠である。
METは「医師を1名以上含み,気管挿管などの二次救命処置をベッドサイドで開始できる能力を備えた対応チーム」,RRTは「医師を必ずしも含まず,起動対象となった患者を評価し基本的な初期対応を行った上
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で,必要に応じて患者の院内トリアージや医師の緊急招集を行うチーム」1)であり,医師を含むか否かで対応チームのスタイルが異なる。CCOTは「集中ケアの訓練を受けた看護師らが主体となって,ICU退室患者と何らかの懸念のある入院患者を定期的に訪床して回り,起動基準に抵触する患者を早期発見することを目指した対応チーム」1)であり,病棟回診やリスクのある患者のフォローなどによる病状増悪の徴候の抽出と急変の予防が主体であり,METやRRTによる早期介入を促進する効果が期待される。すなわち,病状増悪時対応に関する時間軸がMET/RRTとCCOTでは異なる。CCOTを運用する場合は,METやRRTと連動する体制を構築する。
3 起動要請に対するチームの対応
起動要請に応じて迅速に(15分以内を推奨する)現場に急行し,患者の評価と初期対応を行うことを推奨する。24時間体制で対応することを提案する。
解説:MET/RRTは起動要請を受けた場合,迅速に(15分以内を推奨する)現場に急行する1) 。起動者および起動を受けたMET/RRTの対応フローをあらかじめ定め,病院全体に周知することを推奨する。起動要請があった場合,MET/RRTの当番のメンバーは,必要に応じてあらかじめ定められた資機材を携行し現場に向かう。患者接触後,RRTであれば患者評価と医師(主治医チームなど)への情報共有,METであれば患者評価および救命処置と主治医チームとの情報共有などの初期対応を行い,その際には起動者と適切に協力し対応にあたる。MET/RRTが初期対応する際には,主治医チームも積極的に関与する体制を構築することが望ましく,対応フローに「主治医チームへの連絡」を組み込むとよい10) 。MET/RRTと主治医チーム・担当病棟スタッフとの連携は,患者病態の把握,患者や患者家族への病状説明,治療方針の決定,治療の引き継ぎなどを円滑にする。
時間外の病状増悪は重症度が高いことが知られているため33),MET/RRTは,可能であれば24時間365日対応可能な体制とすることを提案する。各医療機関の規模や確保できる人的資源に応じて,対応する時間帯とMET/RRTのスタイルを決める。
4 資機材
MET/RRTの活動で必要となる資機材を準備し,携行バッグなどで適切に管理することを推奨する。
解説:MET/RRTが活動で必要とする機材は,携行バッグなどを活用し,事前に準備をする。携行資機材はセキュリティが確保された所定の場所に保管する。
管理者を定め定期的に点検を行い,MET/RRTが起動時に直ちに携行できるように事前に準備する。携行資機材はMET/RRTのスタイルに合わせて,初期対応を十分に実施できる装備とする。モニタリング機器や気道管理物品・輸液関連資機材など,必要に応じて薬剤などを携行する。
これらの資機材について,定期的に内容を確認し使用後の消毒や資機材の補充が適切に行えるような仕組みを構築することを推奨する。
5 専門チームとの連携
MET/RRTは,対応している緊急事態によっては,その対応に,より特化している専門チームとの連携を図ることを推奨する。
解説:施設によっては,施設内の緊急事態に対応する専門チーム(心停止対応チーム,ストロークチーム,緊急気道対応チームなど)が存在する。MET/RRTも専門チームの1つであるが,MET/RRTは病状増悪を捉えて院内心停止を含む急変を防ぐことを目的とした対応チームであり,院内心停止に対応するチームとMET/RRTは活動の目的が異なる。しかし,施設によっては,人員確保の問題から,心停止対応チームとMET/RRTの構成員が重複することもあり得る。
MET/RRTが対応している事例に特別な対応が必要な場合には,MET/RRTがその対応に特化した専門チームを起動することがある。そこで,各々の施設においてMET/RRTと専門チームとの連携に関する運用を決めておくことを推奨する34) 。
D)システム改善要素
1 データの収集と分析
RRSが起動された事例の臨床データを収集し,分析することを推奨する。病院全体における臨床的アウトカムを集計し,システム全般のデータとして分析することを推奨する。
解説:RRSが起動された事例個々の臨床データと,病院全体における臨床的アウトカムを収集・集計し分析する。RRSが起動された事例個々の臨床データとして,RRS起動情報,患者情報,MET/RRT情報,病状増悪前の患者の状態,病状増悪後の患者の状態,治療介入内容,患者の転帰などのデータを収集する(Table 4)。病状増悪時の診療記録をあらかじめ定められたテンプレートとして準備するなど,これらのデータをもれなく集める工夫をすることを推奨する。日本集中治療医学会ではRRS患者のオンラインレジ
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ストリを運用しており(日本院内救急検討委員会ホームページhttps://www.ihecj.jp参照)35),レジストリの内容に応じた項目のデータ収集やレジストリへの参加を検討することを提案する。病院全体における臨床的アウトカムとして,1,000入院あたりの予期せぬ死亡,予期せぬ心停止,ICU予定外入室を集計する。また,この予期せぬ死亡・予期せぬ心停止・ICU予定外入室を合算し,1,000入院あたりの重篤有害事象とする。RRS起動件数についても,実際の起動件数に加え, 1,000入院あたりの起動件数を集計する。これら病院全体における臨床的アウトカムは,RRSのシステム改善要素や指揮調整要素だけなく,事務部門や安全管理部門などと協力しデータを集計することを推奨する。
2 事例の検討と振り返り(デブリーフィング)
RRSが起動された事例は,その全例を検討することを推奨する。さらに,その中から選んだ事例については,多職種で振り返り(デブリーフィング)を行うことを推奨する。解説:RRSが起動された事例は,その全例を検討
し,管理・ケアの改善に役立てることを推奨する1) 。そのために,自施設で検討の仕組みを確立することを推奨する。全ての事例を対象にしたこの検討は,スクリーニングの役割を持つ。事例発生から検討までの期間が長くなるにつれて,修正すべき院内課題があった場合に同課題への介入が遅れることになるため,目安として1か月以上の期間があかないよう,できる限り速やかに検討する仕組みを推奨する。起動と対応がそれぞれ適切になされたかどうかを中心に検討し,振り返り(デブリーフィング)を行うべき事例を選ぶ。この選択において重要なことは,急変に至った事例のみではなく,急変を回避できた事例(成功例,good job例)も取り上げることである。
選んだ事例について,関係各部署において多職種での振り返り(デブリーフィング)を行う。急変事例ではなぜ急変に至ったのかについて,急変を回避できた事例ではなぜ成功できたのかについて検討し,将来に活かす。振り返り(デブリーフィング)には,直後に行
Table 4 収集するデータの例
RRS起動情報起動日時,病状増悪が発生した場所,起動者の職種,起動の理由患者情報ID,氏名,年齢,性別,身長,体重診断名(原疾患),診療科,入院/外来,併存疾患/既往歴,先天性心疾患の有無病状増悪前のCPC* MET/RRT情報チームの形態,メンバー,活動時刻(チーム到着時刻,介入終了時刻)患者の状態病状増悪前バイタルサイン(呼吸数,SpO2,血圧,脈拍数,意識レベル,体温) ICU入室歴,入院中の手術歴/手術実施診療科酸素投与の有無,鎮静/全身麻酔後 24時間以内かどうか,術後1週間以内かどうかコードステータス
病状増悪時バイタルサイン心停止の有無※心停止の場合:予期せぬ心停止か否か,初期波形,目撃の有無,bystander CPR
の有無,心停止確認時刻病状増悪の原因病態
治療介入内容MET/RRT介入時にすでに行われていた治療MET/RRTにより行われた治療患者の転帰MET/RRT介入後のコードステータスMET/RRT介入直後の転帰MET/RRT介入後の入院セクションMET/RRT介入後24時間転帰MET/RRT介入後28日転帰(28日時点で生存の場合:CPC*) ※退院した場合:退院日,退院先,退院時CPC*
予期せぬ心停止の有無予期せぬ死亡の有無ICU予定外入室の有無
*CPC, cerebral performance category
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うホットデブリーフィングと,時間を空けて行うコールドデブリーフィングがある36) 。ホットデブリーフィングは同日,コールドデブリーフィングは数日~数週以内を目安とする。心理的に安全な振り返り(デブリーフィング)のために,責めない文化が重要となる。
さらに,RRSが起動された事例以外にも,RRSが起動されないまま予期せぬ院内心停止に至った事例や, RRSが起動されないままICU予定外入室となった事例について検討することも重要である37) 。これらの事例のなかには,RRSを起動しうるタイミングがあった事例も含まれるため,病状増悪の徴候があったのかどうか,RRSの起動基準を満たしていたのかどうかを後方視的に検討し,将来同様の事例を回避できるように努める。
3 フィードバック
事例の検討と振り返りの結果は,起動・対応・指揮調整要素のそれぞれにフィードバックすることを推奨する。システム全般のデータを分析した結果は,病院全体にフィードバックすることを推奨する。
解説:事例検討の結果は,起動要素・対応要素・指揮調整要素のそれぞれにフィードバックすることを推奨する1) 。当該事例の起動と対応に関わった部署ならびに運営母体へのフィードバックを基本とするが,特に重要と考えられる事例については,病院の全職員にフィードバックすることを推奨する。「フィードバック」は,命令調のダイレクトな指導に分類される。しかし,本来はシステム改善要素が,起動要素・対応要素・指揮調整要素のそれぞれに,自ら考察し学びを促すことを推奨する。自ら起こった事例を振り返り,自らその改善点を探ることが重要であり,そのファシリテーションをシステム改善要素が担うという構図を推奨する。RRSを通じて,自ら考える,自ら気付く,自ら学ぶ,という文化を院内で醸成することを目指す。
RRSのデータを集積し分析した結果は,病院全体にフィードバックすることを推奨する。これらのデータは,指揮調整要素が把握するのはもちろんのこと,各施設におけるRRSの成果や課題として病院全体で共有すべきものだからである。このフィードバックをもとに,RRSの効果を検証し続け,改善策を追求し続けることを推奨する4) 。
利益相反の開示
本稿の著者のうち,中村京太は科学研究助成事業(基盤研究(C)21K10301)の研究助成を受けている。栗田健郎は科
学研究助成事業(基盤研究(C)21K09066)の研究助成を受けている。武田 聡はエーザイ株式会社より講演料を受けている。内藤貴基は科学研究助成事業(若手研究 18K16548)の研究助成を受けている。森 一直は科学研究助成事業(若手研究 23K16448)の研究助成を受けている。藤谷茂樹はエーザイ株式会社,コニカミノルタ株式会社,トランスコスモス株式会社から研究費を受けている。
その他の著者には開示すべきCOIはない。
文 献
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