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Vol.28 Supplement FEBRUARY 2021 日本版敗血症診療ガイドライン2020 日集中医誌J Jpn Soc Intensive Care Med The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2020 (J-SSCG2020)
Vol.28 Supplement FEBRUARY 2021 日本版敗血症診療ガイドライン2020 日集中医誌J Jpn Soc Intensive Care Med The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2020 (J-SSCG2020)
-S 1- 日本版敗血症診療ガイドライン2020 The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2020(J-SSCG 2020) 江木 盛時 1, ※小倉 裕司 2, ※矢田部 智昭 3安宅 一晃 4井上 茂亮 5射場 敏明 6垣花 泰之 7川崎 達也 8久志本 成樹 9黒田 泰弘 10小谷 穣治 11志馬 伸朗 12谷口 巧 13鶴田 良介 14土井 研人 15土井 松幸 16中田 孝明 17中根 正樹 18藤島 清太郎 19細川 直登 20升田 好樹 21松嶋 麻子 22松田 直之 23山川 一馬 24原 嘉孝 3大下 慎一郎 12青木 善孝 16稲田 麻衣 25梅村 穣 26河合 佑亮 27近藤 豊 28斎藤 浩輝 29櫻谷 正明 30對東 俊介 31武田 親宗 32寺山 毅郎 33東平 日出夫 34橋本 英樹 35林田 敬 36一二三 亨 37廣瀬 智也 38福田 龍将 39藤井 智子 40三浦 慎也 41安田 英人 42阿部 智一 43安藤 幸吉 44飯田 有輝 45石原 唯史 28井手 健太郎 46伊藤 健太 47伊藤 雄介 48稲田 雄 49宇都宮 明美 50卯野木 健 51遠藤 功二 52大内 玲 53尾崎 将之 54小野 聡 55桂 守弘 56川口 敦 57川村 雄介 58工藤 大介 9久保 健児 59倉橋 清泰 60櫻本 秀明 53下山 哲 42鈴木 武志 61関根 秀介 62関野 元裕 63高橋 希 17高橋 世 64高橋 弘 65田上 隆 66田島 吾郎 67巽 博臣 21谷 昌憲 68土谷 飛鳥 69堤 悠介 69内藤 貴基 70長江 正晴 71長澤 俊郎 72中村 謙介 73西村 哲郎 74布宮 伸 75則末 泰博 76橋本 悟 77長谷川 大祐 3畠山 淳司 78原 直己 79東別府 直紀 80古島 夏奈 81古薗 弘隆 82松石 雄二朗 83松山 匡 84峰松 佑輔 85宮下 亮一 86宮武 祐士 87森安 恵実 88山田 亨 89山田 博之 90山元 良 91吉田 健史 92吉田 悠平 93吉村 旬平 26四本 竜一 94米倉 寛 95和田 剛志 96渡邉 栄三 97青木 誠 98浅井 英樹 99安部 隆国 100五十嵐 豊 101井口 直也 102石川 雅巳 103石丸 剛 104磯川 修太郎 37板倉 隆太 105今長谷 尚史 106 井村 春樹 107入野田 崇 108上原 健司 109生塩 典敬 110梅垣 岳志 111江川 裕子 112榎本 有希 113太田 浩平 12大地 嘉史 100大野 孝則 114大邉 寛幸 115岡 和幸 116岡田 信長 117岡田 遥平 118岡野 弘 119岡本 潤 120奥田 拓史 121小倉 崇以 122小野寺 悠 123小山 雄太 124貝沼 関志 125加古 英介 126柏浦 正広 42加藤 弘美 16金谷 明浩 127金子 唯 128金畑 圭太 110狩野 謙一 129河野 浩幸 130菊谷 知也 12菊地 斉 131城戸 崇裕 132木村 翔 68小網 博之 133小橋 大輔 110齊木 巌 134堺 正仁 135坂本 彩香 136佐藤 哲哉 108志賀 康浩 137下戸 学 138下山 伸哉 139庄古 知久 140菅原 陽 141杉田 篤紀 142鈴木 聡 143鈴木 祐二 144壽原 朋宏 145其田 健司 146高氏 修平 147高島 光平 46高橋 生 148高橋 洋子 149竹下 淳 150田中 裕記 151丹保 亜希仁 147 角山 泰一朗 152 鉄原 健一 153徳永 健太郎 154 富岡 義裕 155冨田 健太朗 156富永 直樹 101豊﨑 光信 91豊田 幸樹年 157 内藤 宏道 158永田 功 159長門 直 160中村 嘉 161中森 裕毅 95名原 功 162奈良場 啓 73成田 知大 163西岡 典宏 164西村 朋也 110西山 慶 165野村 智久 166芳賀 大樹 167萩原 祥弘 168橋本 克彦 169旗智 武志 49浜崎 俊明 170林 拓也 68林 実 129速水 宏樹 171原口 剛 172平野 洋平 28藤井 遼 173藤田 基 14藤村 直幸 174舩越 拓 175堀口 真仁 176牧 盾 177增永 直久 178松村 洋輔 179真弓 卓也 180南 啓介 181宮崎 裕也 182宮本 和幸 183村田 哲平 184柳井 真知 185矢野 隆郎 186山田 浩平 187山田 直樹 188山本 朋納 4吉廣 尚大 189田中 裕 28, ※※西田 修 3, ※※日本版敗血症診療ガイドライン2020 特別委員会 25, 190
-S 2- 要約:日本集中治療医学会と日本救急医学会は,合同の特別委員会を組織し,2016 年に発表した日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG) 2016 の改訂を行った。本ガイドライン(J-SSCG 2020)の目的は,J-SSCG 2016 と同様に,敗血症・敗血症性ショックの診療において,医療従事者が患者の予後改善のために適切な判断を下す支援を行うことである。改訂に際し,一般臨床家だけでなく多職種医療者にも理解しやすく,かつ質の高いガイドラインとすることによって,広い普及を目指した。J-SSCG 2016 ではSSCG 2016 にない新しい領域[ICU-acquired weakness (ICU-AW)とpost-intensive care syndrome(PICS),体温管理など]を取り上げたが, J-SSCG 2020 では新たに注目すべき4 領域(Patient-and Family-Centered Care,sepsis treatment system,神経集中治療,ストレス潰瘍)を追加し,計22 領域とした。重要な118 の臨床課題(clinical question:CQ)をエビデンスの有無にかかわらず抽出した。これらのCQ には,本邦で特に注目されているCQ も含まれる。多領域にわたる大規模ガイドラインであることから,委員25 名を中心に,多職種(看護師,理学療法士,臨床工学技士,薬剤師)および患者経験者も含めたワーキンググループメンバー,両学会の公募によるシステマティックレビューメンバーによる総勢226 名の参加・協力を得た。また,中立的な立場で横断的に活躍するアカデミックガイドライン推進班をJ-SSCG 2016 に引き続き組織した。将来への橋渡しとなることを企図して,多くの若手医師をシステマティックレビューチーム・ワーキンググループに登用し,学会や施設の垣根を越えたネットワーク構築も進めた。作成工程においては,質の担保と作業過程の透明化を図るために様々な工夫を行い,パブリックコメント募集は計2 回行った。推奨作成にはGRADE方式を取り入れ,修正Delphi 法を用いて全委員の投票により推奨を決定した。結果,118CQ に対する回答として,79 個のGRADE による推奨,5 個のGPS(good practice statement),18 個のエキスパートコンセンサス,27 個のBQ(background question)の解説,および敗血症の定義と診断を示した。新たな試みとして,CQ ごとに診療フローなど時間軸に沿った視覚的情報を取り入れた。J-SSCG 2020 は,多職種が関わる国内外の敗血症診療の現場において,ベッドサイドで役立つガイドラインとして広く活用されることが期待される。なお,本ガイドラインは,日本集中治療医学会と日本救急医学会の両機関誌のガイドライン増刊号として同時掲載するものである。Keywords: sepsis, septic shock, guidelines,evidence-based medicine, systematic review, Medical Information Network Distribution Service (Minds), GRADE ガイドライン発行日2020 年9 月28 日 ※委員長※※ 担当理事 1 神戸大学大学院医学研究科外科系講座麻酔科学分野 2 大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター 3 藤田医科大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座 4 奈良県総合医療センター集中治療部 5 神戸大学医学部災害救急医学分野 6 順天堂大学救急災害医学 7 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科救急・集中治療医学 分野 8 静岡県立こども病院小児集中治療センター 9 東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座救急医学分野 10 香川大学医学部救急災害医学講座 11 神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野 12 広島大学大学院医系科学研究科救急集中治療医学 13 金沢大学医薬保健研究域麻酔・集中治療医学 14 山口大学大学院医学系研究科救急・総合診療医学 15 東京大学大学院医学系研究科救急科学 16 浜松医科大学附属病院集中治療部 17 千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学 18 山形大学医学部附属病院救急部・高度集中治療センター19 慶應義塾大学医学部総合診療教育センター 20 亀田総合病院感染症科 21 札幌医科大学医学部集中治療医学 22 名古屋市立大学大学院医学研究科先進急性期医療学 23 名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野 24 大阪医科大学救急医学教室 25 一般社団法人日本救急医学会 26 大阪急性期・総合医療センター救急診療科 27 藤田医科大学病院看護部 28 順天堂大学医学部附属浦安病院救急診療科 29 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院救命救急センター 30 JA 広島総合病院救急・集中治療科 31 広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門 32 京都大学医学部附属病院手術部 33 防衛医科大学校精神科学講座 34 Curtin University 35 日立総合病院救急集中治療科・感染症科 36 The Feinstein Institutes for Medical Research 37 聖路加国際病院救急部・救命救急センター 38 大阪警察病院ER・救命救急科 39 琉球大学大学院医学研究科救急医学講座
-S 3- 40 東京慈恵会医科大学附属病院集中治療部 41 The Royal Children’s Hospital Melbourne 42 自治医科大学附属さいたま医療センター救急科 43 筑波記念病院救急科 44 仙台市立病院麻酔科・集中治療科・救命救急センター 45 豊橋創造大学保健医療学部 46 国立成育医療研究センター集中治療科 47 あいち小児保健医療総合センター総合診療科 48 尼崎総合医療センター感染症内科 49 大阪母子医療センター集中治療科 50 京都大学大学院医学系研究科人間健康科学系専攻 51 札幌市立大学看護学部 52 京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野 53 茨城キリスト教大学看護学部 54 小牧市民病院救急集中治療科 55 新久喜総合病院消化器センター 56 沖縄県立中部病院外科 57 CHU Sainte Justine, University of Montreal 58 公立昭和病院リハビリテーション科 59 日本赤十字社和歌山医療センター感染症内科部・救急科部 60 国際医療福祉大学医学部麻酔・集中治療医学 61 東海大学医学部付属病院麻酔科 62 東京医科大学麻酔科学分野集中治療部 63 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科麻酔集中治療医学分野 64 福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 65 製鉄記念室蘭病院循環器内科 66 日本医科大学武蔵小杉病院救命救急科 67 長崎大学病院高度救命救急センター 68 埼玉県立小児医療センター集中治療科 69 独立行政法人国立病院機構水戸医療センター救急医療部 救命救急センター 70 聖マリアンナ医科大学救急医学 71 神戸大学医学部附属病院集中治療部 72 東海大学大学院医学研究科 73 日立総合病院救急集中治療科 74 大阪市立大学医学研究科救急医学 75 自治医科大学医学部麻酔科学・集中治療医学講座集中治 療医学部門 76 東京ベイ・浦安市川医療センター集中治療部門 77 京都府立医科大学付属病院集中治療部 78 国立病院機構東京医療センター救命救急センター 79 横浜労災病院薬剤部 80 神戸市立医療センター中央市民病院麻酔科 81 神戸大学医学部附属病院麻酔科 82 筑波大学附属病院リハビリテーション部/ 株式会社Exult 83 筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻 84 京都府立医科大学救急医療学教室 85 大阪大学医学部附属病院臨床工学部 86 昭和大学医学部集中治療医学講座87 加古川中央市民病院臨床工学室 88 北里大学病院集中治療センターRST・RRT 室 89 東邦大学医療センター大森病院看護部 90 京都大学大学院医学研究科初期診療・救急医学 91 慶應義塾大学医学部救急医学 92 大阪大学大学院医学系研究科麻酔集中治療医学講座 93 大阪急性期・総合医療センター看護部 94 東邦大学医療センター大森病院 95 三重大学医学部附属病院臨床麻酔部 96 北海道大学大学院医学研究院救急医学教室 97 東千葉メディカルセンター救急科・集中治療部 98 群馬大学大学院医学系研究科救急医学 99 奈良県立医科大学救急医学講座 100 大分大学医学部附属病院麻酔科101 日本医科大学付属病院高度救命救急センター102 大阪大学大学院医学系研究科生体統御医学講座麻酔・集 中治療医学教室103 呉共済病院麻酔・救急集中治療部104 草加市立病院総合内科105 東京都立小児総合医療センター救命・集中治療部集中治 療科106 東京大学大学院医学系研究科107 洛和会音羽病院感染症科/ 京都大学大学院医学研究科社会 健康医学系専攻健康情報学分野108 東北大学病院高度救命救急センター109 岩国医療センター麻酔科110 前橋赤十字病院高度救命救急センター集中治療科・救急科111 関西医科大学麻酔科学講座112 さいたま赤十字病院高度救命救急センター113 筑波大学医学医療系救急・集中治療114 昭和大学藤が丘病院救急診療科115 東京大学大学院医学系研究科臨床疫学経済学教室大学院116 島根大学医学部附属病院高度外傷センター117 京都府立医科大学救急医療学講座118 京都大学医学研究科初期診療救急医学分野119 杏林大学麻酔科120 橋本市民病院救急科121 東北大学東北メディカル・メガバンク機構地域医療支援 部門122 済生会宇都宮病院栃木県救命救急センター123 山形大学医学部麻酔科学講座124 吉祥寺あさひ病院内科・透析センター125 稲沢市民病院麻酔・救急集中治療部門126 名古屋市立大学大学院医学研究科/ 麻酔科学・集中治療医 学分野127 仙台医療センター麻酔科128 三重大学医学部附属病院救命救急・総合集中治療センター129 福井県立病院救命救急センター130 おんが病院外科
-S 4- 131 聖隷三方原病院救急科132 筑波大学附属病院小児科133 University of Texas Health Science Center at Houston 134 東京医科大学麻酔科学分野135 巨樹の会新武雄病院総合診療科136 筑波大学附属病院救急・集中治療科137 千葉大学大学院医学研究院整形外科学先端脊椎関節機能 再建医学講座138 京都大学医学部附属病院初期診療・救急科139 群馬県立小児医療センター小児集中治療部140 東京女子医科大学東医療センター救急医療科141 横浜市立大学附属病院集中治療部142 日本大学救急医学系救急集中治療医学分野143 岡山大学病院集中治療部144 浜松医科大学附属病院麻酔科蘇生科145 慶應義塾大学医学部麻酔学教室146 宮城県立こども病院集中治療科147 旭川医科大学救急医学講座148 福山市民病院循環器内科149 古河総合病院内科150 大阪母子医療センター麻酔科151 福岡県立精神医療センター太宰府病院152 帝京大学病院高度救命救急センター153 九州大学病院救命救急センター小児科154 熊本大学病院集中治療部155 医療法人社団東光会戸田中央総合病院(麻酔科/ICU) 156 慶應義塾大学病院小児科157 済生会横浜市東部病院救命救急センター158 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科救命救急・災害医療 学講座159 横浜市立みなと赤十字病院集中治療部160 JCHO 東京山手メディカルセンター感染症内科(呼吸器内科) 161 日本赤十字社京都第二赤十字病院救急科162 名古屋第二赤十字病院麻酔集中治療部163 静岡県立総合病院救命救急科・集中治療科164 京都大学大学院医学研究科予防医療学165 新潟大学大学院医歯学総合研究科救命救急医学分野166 順天堂大学医学部附属練馬病院救急・集中治療科167 大阪市立総合医療センター小児集中治療部168 済生会宇都宮病院救急集中治療科169 福島県立医科大学低侵襲腫瘍制御学講座170 日本赤十字社和歌山医療センター第一救急科部171 埼玉県済生会栗橋病院救急医学科172 日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院集中治療部173 栃木県済生会宇都宮病院救急・集中治療科174 雪の聖母会聖マリア病院麻酔科・中央手術センター175 東京ベイ・浦安市川医療センター救急集中治療科176 京都第一赤十字病院救急科177 九州大学病院集中治療部178 京都大学大学院社会健康医学系専攻医療疫学分野 179 千葉県救急医療センター集中治療科180 金沢市立病院内科181 石川県立中央病院救命救急センター182 済生会川口総合病院救急・総合内科183 昭和大学医学部救急災害医学講座184 東京都健康長寿医療センター循環器内科185 神戸市立医療センター中央市民病院救命救急センター186 宮崎県立延岡病院救急センター187 防衛医科大学校病院救急部188 福井大学医学部附属病院救急部189 JA 広島総合病院薬剤部190 一般社団法人日本集中治療医学会 付記:・ 日本版敗血症診療ガイドライン2020 特別委員会 全メンバー の利益相反・作成の役割一覧表は巻末に示した。・ 本編に掲載しなかった,作成過程における詳細な経緯,文 献検索式と選択過程,各文献の評価などは,デジタル付録として日本集中治療医学会および日本救急医学会のホームページに掲載した。・ 本ガイドラインは,日本集中治療医学会雑誌と日本救急医 学会雑誌のガイドライン増刊号に同時掲載される。・ 代表著者連絡先:委員長 江木 盛時(moriori@tg8.so-net.ne.jp)委員長 小倉 裕司(ogura@hp-emerg.med.osaka-u.ac.jp)・ 両委員長は本ガイドライン作成において均等に貢献した。 謝辞:アカデミックガイドライン推進班の大下慎一郎先生には日本語版本編作成リーダーとして,本稿の作成作業において多大な貢献をいただきました。また,日本集中治療医学会事務局の吉田有美佳さん,日本救急医学会事務局の福田修太さんには温かいご支援を賜りました。心より感謝申し上げます。
-S 5- 目次 はじめに ...... S 10 本ガイドラインの基本理念・概要 ...... S 11 1. 名称 ...... S 11 2. ガイドライン全体の目的 ...... S 11 3. 対象とする患者集団 ...... S 11 4. 対象とする利用者(本ガイドラインの使用者) ...... S 11 5. 利用にあたっての注意 ...... S 11 6. 本ガイドライン作成における組織編成 ...... S 11 7. 関係する専門家グループの代表者の参加と専 門家による外部評価 ...... S 13 8. 対象集団(患者,一般市民など)の価値観を 反映するための工夫 ...... S 13 9. 質と透明性の担保 ...... S 13 10. 作成資金 ...... S 14 11. ガイドライン普及の方策 ...... S 14 12. 改訂予定 ...... S 14 13. 今回のガイドライン作成を通して目指したも う1 つの意義 ...... S 14 本ガイドライン作成方法の概略と推奨の解釈...... S 15 1. CQ の立案 ...... S 15 2. システマティックレビューによるエビデンス の検索,収集,統合 ...... S 16 3. 推奨の策定 ...... S 18 4. ガイドラインにおける推奨の強さの解釈の注 意点 ...... S 19 CQ1: 敗血症の定義と診断 ...... S 21 CQ1-1:敗血症の定義 ...... S 21 CQ1-2:敗血症の診断と重症度分類 ...... S 23 CQ2: 感染の診断 ...... S 27 CQ2-1:血液培養はいつ採取するか? ...... S 28 CQ2-2:血液培養以外の培養検体は,いつ採取 するか? ...... S 30 CQ2-3:抗菌薬投与前のグラム染色は有用 か? ...... S 31 CQ2-4-1: 一般病棟あるいは救急外来において, 敗血症診断のバイオマーカー検査としてC 反応性蛋白(CRP),プロカルシトニン(PCT),プレセプシン(P-SEP),インターロイキン6(IL-6)の位置づけは? ...... S 33 CQ2-4-2: 集中治療室において,敗血症診断のバ イオマーカー検査としてC 反応性蛋白(CRP),プロカルシトニン(PCT),プレセプシン(P-SEP),インターロイキン6(IL-6)の位置づけは? ...... S 36 CQ3: 画像診断と感染源のコントロール ...... S 39 CQ3-1:敗血症を疑う患者に対して,感染源検 索のために画像検査を行うか? ...... S 40 CQ3-2:感染源が不明な敗血症患者に対して, 全身造影CT 検査を早期に行うか? ...... S 41 CQ3-3:腹腔内感染症による敗血症患者に対し て,外科手術/ 侵襲的ドレナージ術による感染源のコントロールを行うか? ...... S 43 CQ3-4-1: 感染性膵壊死に対して,早期に侵襲的 なインターベンション治療による感染源のコントロールを行うか? ...... S 45 CQ3-4-2: 感染性膵壊死に対して,より低侵襲な インターベンション治療で感染源のコントロールを行うか? ...... S 47 CQ3-5:尿管閉塞を原因とする急性腎盂腎炎に よる敗血症患者に対して,侵襲的ドレナージ術による感染源コントロールを行うか? ...... S 50 CQ3-6:壊死性軟部組織感染症による敗血症患 者に対して,外科的デブリードマン術による感染源のコントロールを行うか? ...... S 52 CQ3-7:カテーテル関連血流感染が疑われる敗 血症患者に対して,カテーテル抜去による感染源のコントロールを行うか? ...... S 54 CQ3-8:膿胸による敗血症患者に対して,侵襲 的ドレナージ術による感染源コントロールを行うか? ...... S 56 CQ4: 抗菌薬治療 ...... S 58 CQ4-1:経験的抗菌薬はどのようにして選択す るか? ...... S 62 CQ4-2:経験的抗菌薬にカルバペネム系抗菌薬 を含めるのはどのような場合か? ...... S 74
-S 6- CQ4-3:どのような場合に,MRSA や一般細 菌以外(カンジダ,ウイルス,レジオネラ,リケッチア,クロストリジオイデス ディフィシルなど)に対する経験的抗微生物薬を選択するか? ...... S 76 CQ 4-4:敗血症が疑われて経験的抗菌薬を使用 する患者において,投与前の各種培養陰性の確認をしたら抗菌薬を中止するか? ...... S 80 CQ4-5:感染症専門家あるいは抗菌薬適正使用 支援チームに相談するのはどのような場合か? ...... S 82 CQ4-6:敗血症に対する経験的抗菌薬は,敗血 症認知後1時間以内を目標に投与開始するか? ...... S 84 CQ4-7:敗血症に対してβラクタム系薬の持続 投与または投与時間の延長を行うか? ...... S 86 CQ4-8:敗血症に対する抗菌薬治療において, デエスカレーションを行うか? ...... S 89 CQ4-9:敗血症に対する抗菌薬治療において, プロカルシトニンを指標とした治療終了を行うか? ...... S 92 CQ4-10:敗血症に対して,比較的短期間(7 日 間以内)の抗菌薬治療を行うか? ...... S 95 CQ4-11:腎排泄型の抗微生物薬の用量調整に際 して,何が参考になるか? ...... S 98 CQ5: 免疫グロブリン(IVIG)療法 ...... S 101 CQ5-1:敗血症に対して免疫グロブリン (IVIG)投与を行うか? ...... S 102 CQ5-2-1: 劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS) に対して免疫グロブリン(IVIG)投与を行うか? ...... S 104 CQ5-2-2: 毒素性ショック症候群(TSS)に対し て免疫グロブリン(IVIG)投与を行うか? ...... S 107 CQ6: 初期蘇生・循環作動薬 ...... S 109 CQ6-1:敗血症患者に対して心エコーを行う か? ...... S 112 CQ6-2:成人敗血症患者の初期蘇生に対して EGDT を用いるか? ...... S 115 CQ6-3:成人敗血症患者に対して初期蘇生輸液 と同時または早期(3 時間以内)に血管収縮薬を使用するか? ...... S 117 CQ6-4:成人敗血症患者の初期蘇生の指標とし て乳酸値を用いるか? ...... S 120 CQ6-5:成人敗血症患者に対する初期輸液の輸 液速度や輸液量は? ...... S 122 CQ 6-6:成人敗血症患者の輸液反応性をどのよ うに評価するか? ...... S 124 CQ6-7:成人敗血症患者の初期輸液にアルブミ ン製剤を投与するか? ...... S 127 CQ6-8:成人敗血症患者の初期輸液に人工膠質 液を投与するか? ...... S 129 CQ6-9-1: 成人敗血症患者に対する血管収縮薬の 第一選択としてノルアドレナリン,ドパミン,フェニレフリンのどれを使用するか?(ノルアドレナリンvs ドパミン) ...... S 132 CQ6-9-2: 成人敗血症患者に対する血管収縮薬の 第一選択としてノルアドレナリン,ドパミン,フェニレフリンのどれを使用するか?(ノルアドレナリンvs フェニレフリン) ...... S 135 CQ6-10-1: 成人敗血症患者に対する血管収縮薬の 第二選択としてアドレナリンを使用するか? ...... S 137 CQ6-10-2: 成人敗血症患者に対する血管収縮薬の 第二選択としてバソプレシンを使用するか?(保険適用外使用) ...... S 140 CQ6-11:心原性ショックを伴う成人敗血症患者 に対して強心薬を使用するか? ...... S 143 CQ6-12:成人敗血症患者に対してβ遮断薬を使 用するか? ...... S 145 CQ6-13:成人敗血症性ショック患者に対する補 助循環の適応は? ...... S 148 CQ7: ステロイド療法 ...... S 150 CQ7-1:初期輸液と循環作動薬に反応しない敗 血症性ショック患者に対して,ステロイド(ヒドロコルチゾン)を投与するか? ...... S 151 CQ7-2:初期輸液と循環作動薬に反応しない敗 血症性ショック患者に対して,ヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンを投与すべきか? (フルドロコルチゾン:保険適用外使用) ...... S 154 CQ7-3:ショックに至っていない敗血症患者に 対して,ステロイド(ヒドロコルチゾン)を投与するか? ...... S 157 CQ8: 輸血療法 ...... S 160 CQ8-1:敗血症性ショックの初期蘇生におい て,赤血球輸血はどのように行うか? ...... S 161
-S 7- CQ8-2:敗血症で循環動態が安定している場合 に赤血球輸血はどのように行うか? ...... S 164 CQ8-3:敗血症に対して新鮮凍結血漿の投与は どのように行うか? ...... S 166 CQ8-4:敗血症に対して血小板輸血はどのよう に行うか? ...... S 168 CQ9:呼吸管理 ...... S 171 CQ9-1:成人敗血症患者の呼吸管理において, 目標SpO2 をどの範囲にするか? ...... S 174 CQ9-2:成人敗血症患者の初期の呼吸不全に対 して,非侵襲的人工呼吸(NIV)または経鼻高流量療法(NHFT)を行うか? ...... S 177 CQ9-3:成人敗血症患者の人工呼吸管理におい て,肺保護換気戦略を行うか? ...... S 184 CQ9-4:成人敗血症患者の人工呼吸管理におい て,高PEEP 設定を行うか? ...... S 187 CQ9-5:人工呼吸管理となった成人敗血症患者 に対して,抜管前に自発呼吸トライアル(SBT)を行うか? ...... S 190 CQ9-6:人工呼吸管理となった成人敗血症患者 に対して,抜管後に予防的な非侵襲的人工呼吸(NIV)または経鼻高流量療法(NHFT)を行うか? ...... S 192 CQ10: 痛み・不穏・せん妄の管理 ...... S 199 CQ10-1:人工呼吸中の成人敗血症患者に対し て,鎮痛優先のプロトコルに基づく管理を行うか? ...... S 201 CQ10-2:人工呼吸中の成人敗血症患者の鎮静薬 として,ベンゾジアゼピンよりもプロポフォールやデクスメデトミジンを優先的に投与するか? ...... S 204 CQ10-3:人工呼吸中の敗血症患者の鎮静薬調整 において,1 日1 回の鎮静薬中止やプロトコルを用いた鎮静薬の調整によるlight sedation を行うか? ...... S 207 CQ10-4:成人敗血症患者のせん妄予防に,薬物 療法を行うか? ...... S 210 CQ10-5:成人敗血症患者のせん妄治療に,薬物 療法を行うか? ...... S 216 CQ10-6:成人敗血症患者のせん妄予防に,非薬 物療法を行うか? ...... S 220 CQ11: 急性腎障害・血液浄化療法 ...... S 224 CQ11-1:敗血症性AKI の予防・治療目的にフ ロセミドの投与は行うか? ...... S 226 CQ11-2:敗血症性AKI の予防・治療目的に心 房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の投与は行うか?(保険適用外使用) ...... S 229 CQ11-3:敗血症性AKI の予防・治療目的にド パミンの投与は行うか? ...... S 231 CQ11-4:敗血症性AKI に対する腎代替療法で は持続的治療を行うか? ...... S 234 CQ11-5-1: 敗血症性AKI に対して,早期の腎代 替療法を行うか?(Stage 2 vs Stage 3または古典的絶対適応) ...... S 236 CQ11-5-2: 敗血症性AKI に対して,早期の腎代 替療法を行うか? (Stage 3 vs 古典的絶対適応) ...... S 239 CQ11-6:敗血症性AKI に対する腎代替療法に おいて,血液浄化量の増加を行うか? ...... S 241 CQ11-7:敗血症性ショックに対して,PMX-DHP を行うか? ...... S 244 CQ12: 栄養療法 ...... S 247 CQ12-1:敗血症患者への栄養投与は経腸栄養と 経静脈栄養のどちらを行うか? ...... S 249 CQ12-2:循環動態不安定な敗血症性ショックの 患者において,経腸栄養を行うか? ...... S 252 CQ12-3:敗血症患者では経腸栄養をいつ始める か? ...... S 254 CQ12-4:敗血症患者の治療開始初期では経腸栄 養を消費エネルギーよりも少なく投与するか? ...... S 257 CQ12-5:経腸栄養を行っている敗血症患者に経 静脈栄養を併用するか? ...... S 260 CQ12-6:敗血症患者に対する急性期の至適タン パク質投与量はいくらか? ...... S 262 CQ12-7-1: 敗血症患者に対して,急性期にビタミ ンC 投与を行うか?(保険適用外使用) ...... S 265 CQ12-7-2: 敗血症患者に対して,急性期にビタミ ンD投与を行うか?(保険適用外使用) ...... S 268 CQ12-8:敗血症患者における経腸栄養の開始や 耐性の判断方法は? ...... S 271 CQ12-9:敗血症患者における急性期以降の栄養 投与法は? ...... S 272 CQ13: 血糖管理 ...... S 273 CQ13-1:敗血症患者において毛細管血を用いた 簡易血糖測定装置による血糖測定を行うか? ...... S 275
-S 8- CQ13-2:敗血症患者の目標血糖値はいくつにす るか? ...... S 278 CQ14: 体温管理 ...... S 284 CQ14-1:発熱を伴う敗血症患者に解熱療法を行 うか? ...... S 286 CQ14-2:低体温を伴う敗血症患者に復温療法を 行うか? ...... S 289 CQ15: DIC 診断と治療 ...... S 291 CQ15-1:敗血症性DIC の診断方法は? ...... S 292 CQ15-2:敗血症性DIC が疑われる症例での鑑 別疾患は? ...... S 294 CQ15-3:敗血症性DIC にアンチトロンビンの 補充を行うか? ...... S 295 CQ15-4:敗血症性DIC にヘパリン・ヘパリン 類の投与を行うか? ...... S 298 CQ15-5:敗血症性DIC にリコンビナント・ト ロンボモジュリン投与を行うか? ...... S 300 CQ15-6:敗血症性DIC にタンパク分解酵素阻 害薬の投与を行うか? ...... S 303 CQ16: 静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)対策 ...... S 306 CQ16-1:敗血症における深部静脈血栓症の予防 として機械的予防法(弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法)を行うか? ...... S 307 CQ16-2:敗血症における深部静脈血栓症の予防 として抗凝固療法(未分画ヘパリン,低分子ヘパリン,ワルファリン,NOAC/ DOAC)を行うか? ...... S 309 CQ16-3:敗血症患者のVTE 予防はいつまで行 うか? ...... S 311 CQ17: Post-intensive care syndrome(PICS)と ICU-acquired weakness(ICU-AW) ...... S 314 CQ17-1: PICS の予防に早期リハビリテーショ ンを行うか? ...... S 316 CQ17-2:敗血症に対してICU-AW の予防に他 動関節運動療法を行うか? ...... S 319 CQ17-3: ICU-AW 予防に神経筋電気刺激を行う か? ...... S 322 CQ18: 小児 ...... S 325 CQ18-1:小児敗血症の初期蘇生に診療アルゴリ ズムを用いるか? ...... S 328 CQ18-2:感染巣が推定しにくい小児敗血症に対 する経験的抗菌薬はどのように選択するか? ...... S 331 CQ18-3:小児敗血症診療において,どのような 場合に経験的治療に抗ヘルペスウイルス薬を含めるか? ...... S 333 CQ18-4:小児敗血症に対する循環管理の目標血 圧は? ...... S 334 CQ18-5:小児敗血症における輸液に対する反応 の評価方法は? ...... S 335 CQ18-6:小児敗血症に対する初期輸液の速度や 量は? ...... S 337 CQ18-7:小児敗血症性ショックに対して,第一 選択の循環作動薬としてドパミンを使用するか? ...... S 338 CQ18-8:小児敗血症性ショックに対して,循環 作動薬としてバゾプレシンを使用するか?(保険適用外使用) ...... S 342 CQ18-9:初期輸液と循環作動薬に反応しない小 児敗血症性ショックに対して,ステロイド投与を行うか? ...... S 345 CQ18-10: 小児敗血症で循環動態が安定している 場合に赤血球輸血はいつ開始するか? ...... S 348 CQ18-11: 小児敗血症に対して,敗血症の治療と して血液浄化療法を行うか?(血漿交換を含む) ...... S 351 CQ18-12: 小児敗血症に対して,免疫グロブリン (IVIG)投与を行うか? ...... S 354 CQ18-13: 小児敗血症に対して,厳密な血糖管理 を行うか? ...... S 357 CQ19: 神経集中治療 ...... S 360 CQ19-1:意識障害,痙攣,麻痺などの症状から 脳障害を疑う敗血症患者における鑑別疾患とその検査方法は? ...... S 361 CQ20: Patient- and Family-Centered Care ...... S 363 CQ20-1:患者と家族に対する,PICS および PICS-F に関する情報提供の方法は? ...... S 365 CQ20-2:敗血症患者あるいは集中治療患者に対 して,ICU 日記をつけるか? ...... S 366 CQ20-3:集中治療中の身体拘束(抑制)を避け るべきか? ...... S 369 CQ20-4-1: 睡眠ケアとして換気補助を行うか? ...... S 374 CQ20-4-2: 睡眠ケアとして非薬物的睡眠管理(耳 栓・アイマスク・音楽療法)を行うか? ...... S 376
-S 9- CQ20-5:集中治療室における家族の面会制限を 緩和するべきか? ...... S 379 CQ20-6:患者の価値観・考え方等を尊重した意 思決定支援の方法は? ...... S 382 CQ21:Sepsis treatment system ...... S 384 CQ21-1:一般病棟,ER で敗血症を早期発見す る方法は? ...... S 386 CQ21-2:一般病棟で敗血症を疑う患者の病状変 化に対応するrapid response system (RRS)の役割とはどのようなものか? ...... S 388 CQ21-3:初期輸液蘇生に不応の敗血症はどこで 管理するか? ...... S 389 CQ21-4:敗血症初期診療の質評価指標(quality indicator)は何か? ...... S 391 CQ 21-5:敗血症の啓発活動にはどのようなもの があるか? ...... S 392 CQ22: ストレス潰瘍 ...... S 394 CQ22-1:敗血症患者に消化管出血の予防を目的 とした抗潰瘍薬の投与を行うか? ...... S 395 CQ22-2:敗血症患者に対する抗潰瘍薬の中止の 判断はどのようにするか? ...... S 398 日本版敗血症診療ガイドライン2020 特別委員会 氏名・所属・利益相反・作成の役割一覧表 ...... S 400
はじめに 世界で数秒に1 人が敗血症で命を落としている。敗血症は,あらゆる年齢層が罹患する重篤な疾患であり,その診療支援を行うことを目的とした質の高いガイドラインを作成することの社会的意義は非常に高い。国際的な敗血症診療ガイドラインとして,2004 年から4年ごとに改訂を重ねているSSCG 1)があるが,2012年,本邦の臨床の実情を考慮した日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)が日本集中治療医学会によって初めて発表された 2)。2016 年の改訂(J-SSCG 2016) 3, 4)に際し,日本集中治療医学会と日本救急医学会による両学会合同の特別委員会が組織され,単なる改訂版の位置づけではなく,一般臨床家にも理解しやすく,かつ質の高いガイドラインを作成し,広い普及を目指した。J-SSCG 2016 では,19 名の委員を含む総勢73 名の医師が作成に携わり,19 領域89 に及ぶ重要臨床課題(clinical question: CQ)を網羅した。日本医療機能評価機構によるAGREE II を用いたJ-SSCG 2016 の評価は高く,特に作成の厳密さ,推奨提示の明確さ,編集の独立性などが評価された。J-SSCG 2016 では,SSCG 2016 では取り扱いのない画像診断,体温管理,ICU-acquired weakness(ICU-AW)とPost-Intensive Care Syndrome(PICS)など斬新な領域も積極的に取り上げ,診療指針を示した。また, SSCG 2016 と同様のCQ であっても,エビデンスだけでなく医療水準,医療環境,医療経済,保険制度,日本人の価値観や希望,文化など種々の要因が考慮され,両ガイドラインで推奨が異なるケースもみられた。このことは,世界標準をターゲットとしたガイドラインが,諸事情が異なる各国において必ずしも使いやすいとは限らないことを意味している。 今回の改訂(J-SSCG 2020)において,多職種の医療従事者が敗血症患者の予後改善のために適切な判断を下す支援を行うことを目的とし,両学会合同の委員会が結成された。ガイドラインは非常に幅広い領域をカバーする必要があり,内容も規模もJ-SSCG 2016 を上回る本邦最大級のガイドラインとなった。委員と担当理事の26 名に加えて,多職種(看護師9 名,理学療法士4 名,臨床工学技士2 名,薬剤師2 名)および患者経験者(2 名,うち1 名は看護師)も含めたワーキンググループメンバー85 名と両学会の公募によるシステマティックレビューメンバー115 名による総勢226 名の参加協力を得た。特に,多職種および患者経験者がワーキンググループメンバーとして参加することで視点が広くなり,より柔軟な評価ができたことは,J-SSCG 2016 からの大きな進化である。また,シ ステマティックレビューは,ワーキンググループメンバー,システマティックレビューメンバーで行い,推奨を策定する委員とは一定の独立性を保つ点でも理想の形に近づいた。 J-SSCG 2020 では,前述のJ-SSCG 2016 で取り上げた領域に加え,新たな項目として,神経集中治療, Patient-and Family-Centered Care,Sepsis Treatment System,ストレス潰瘍の4 領域を注目すべきテーマとして収載した。さらに,本邦では,小児集中治療室が少なく,主に成人敗血症患者の治療にあたる医療従事者が小児敗血症患者を診療せざるを得ない状況があることを鑑み,J-SSCG 2020 においても小児の項目を含めた。これにより,合計22 領域,CQ118 題のガイドラインとなった。推奨作成にはGRADE 方式を取り入れ,修正Delphi 法を用いて全委員の投票により推奨を決定した。CQ に対する回答として,79 個のGRADE による推奨,5 個のGPS(good practice statement),18 個のエキスパートコンセンサス,27 個のBQ(background question)の解説,および敗血症の定義と診断を示した。新たな試みとして,CQ ごとに時間軸に沿った視覚的情報を診療フローとして取り入れ,各CQ の臨床的位置づけを行い,アプリケーションとしても配信することにした。J-SSCG 2020 は,多職種が関わる国内外の敗血症診療の現場において,ベッドサイドで役立つガイドラインとして広く活用されることが期待される。 J-SSCG 2020 の作成工程において,中立的な立場で横断的に活躍するアカデミックガイドライン推進班をJ-SSCG 2016 に引き続き組織した。また,質の担保と作業過程の透明化を図るため,相互査読制度,各班内の討議のオープン化などの工夫を行い,パブリックコメント募集は計2 回行った。本ガイドライン作成の意義の1 つに,作成過程を通じ,学会や施設の垣根を越えて若手を含むメンバー間の有機的なネットワーク構築が進んだことが挙げられる。これを基盤に,ガイドラインとは独立して多施設研究や独自のシステマティックレビューを行い論文化するなどの動きが活発に行われている。本ガイドラインが基盤となり,本邦の急性期領域からのエビデンス発信のプラットフォームが今後も形成されることを願う。 なお,本ガイドラインは,日本集中治療医学会と日本救急医学会の両機関誌のガイドライン増刊号として同時掲載するものである。また,同内容は英訳され,「Journal of Intensive Care」と「Acute Medicine and Surgery」の両学会英文誌に同時掲載される。 -S 10-
本ガイドラインの基本理念・概要 1 名称 日本版敗血症診療ガイドライン2020 とした。英語名称は,The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2020 とし,略称は国際版との対比を重んじ,J-SSCG 2020 とした。 2 ガイドライン全体の目的 世界で数秒に1 人が敗血症で命を落としている。あらゆる年齢層が罹患する重篤な疾患であり,その診療支援を目的とした質の高いガイドラインを作成することの社会的意義は非常に高い。本ガイドラインは,敗血症・敗血症性ショックの診療において,医療従事者が,患者の予後改善のために適切な判断を下す支援を行うことを目的とする。 3 対象とする患者集団 小児から成人に至るまでの敗血症・敗血症性ショック患者およびその疑いのある患者を対象とする。集中治療室に限らず,一般病棟や救急外来で,診断・治療を受ける患者を包括するが,敗血症患者は高度な全身管理を必要とすることから,敗血症およびその疑いの強い患者では,状況が許す限り,速やかに集中治療室へ移送しての管理が望ましいことを強調する。 4 対象とする利用者(本ガイドラインの使用者) 敗血症診療に従事または関与する専門医,一般臨床医,看護師,薬剤師,理学療法士,臨床工学技士,管理栄養士などのすべての医療従事者である。 5 利用にあたっての注意 ガイドライン作成とその使用が目指すのは,患者全体における治療成績の向上である。したがって,個別の患者の状況や特殊性に応じて,ガイドラインを必ずしも遵守しない治療方法が医師の裁量によって選択されることも必要である。また,ガイドラインは,その作成時点でのエビデンスブックとしての側面もあり,刻々と積みあがるエビデンスや社会情勢の変化に応じて,改訂を重ねていくべきものである。ガイドラインは決して法律ではなく,その領域の専門家が標準より優れた治療成績を達成しているのであれば,ガイドラインをすべて遵守する必要はない。「ガイドラインは三流を二流にするが,一流を二流にする」ともいわれる。ただし,一流であってもガイドラインを参照し,日々の診療の見直しを図りながら,治療成績の向上を目指すべきであることは当然である。 このような観点から,一般臨床家,多職種を含む医療従事者にも理解しやすい内容とし,CQ に取り上げる重要臨床課題も,高度に専門的な内容は避けた。全22 領域の中には,「PADIS ガイドライン(日本語訳)」,「集中治療における早期リハビリテーション~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~」,「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン」,「ARDS 診療ガイドライン」,「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン」など,敗血症に特化はしていないが,より専門的な臨床課題を扱っているガイドラインが本邦に既に存在するので,必要に応じてそれらも参照されたい。 ガイドラインは,医療従事者の治療方針決定を支援するために何らかの推奨を提供することが原則とされているが,明確な推奨を示し得なかったものもある。また,「ガイドラインにおける推奨の強さの解釈の注意点」に詳しく述べているが,推奨の強さは連続体であり,弱い推奨・弱い非推奨の間にはほとんど差がない場合もある。敗血症は,その病原微生物や感染巣,さらには病態,病期も多様である。1 つのアルゴリズムや推奨を単純に当てはめることで功を奏する疾患ではない。さらには,患者の病状のみならず医療者のマンパワーやリソース,患者・家族の意向などを勘案して,臨床家の判断が下されるべきものである。ガイドラインの内容を理解し遵守していただくことは重要であるが,ガイドラインにとらわれ過ぎず,状況に応じて賢明に利用していただければ幸いである。 上記の本ガイドラインの使用にあたっての注意点を鑑み,本委員会は,本ガイドラインを裁判における根拠として利用することを認めない。また,本邦で保険適用となり日常的に使用されている治療法が本ガイドラインにおいて“弱い非推奨”であることは,その存在価値やすべての患者に対する有益性を否定するものではない。弱い非推奨の治療法は,洗練された集中治療管理において,益となる患者を賢明に選択して施行することで患者予後改善に寄与しうる治療法であるため,本委員会は,本ガイドラインを保険適用の是非の根拠として利用することを認めない。 また,前述のように,エビデンスは常に蓄積し,更新されていくものであるため,本邦において保険適用外であっても,日常的に敗血症診療で行われている治療法に関しては,CQ として取り上げて評価した。 6 本ガイドライン作成における組織編成 日本医療機能評価機構内に設置されているEBM 医療情報部による医療情報サービス事業(Medical -S 11-
Information Network Distribution Service: Minds)が推奨するガイドライン作成のための組織づくりでは,ガイドライン統括委員会,ガイドライン作成グループ,システマティックレビューチームを編成することを推奨している 5)。以下にJ-SSCG 2020 における組織編成を示す。 =ガイドライン統括委員会(J-SSCG 2020 作成準備委員会)= 本ガイドラインは,本邦の急性期診療に大きな影響を及ぼす可能性が高く,その作成は公共性の高い事業である。J-SSCG 2020 作成を中立的な立場で作成することが可能な組織編成を行うために,J-SSCG 2016 作成において中立的な立場で尽力した旧委員を中心に,ガイドライン統括委員会としてJ-SSCG 2020 作成準備委員会を編成した。J-SSCG 2020 作成準備委員会では, J-SSCG 2020 作成の目的を明確化し,組織体制の構築を行った。後述の通り,本ガイドラインは4 年ごとの改訂を計画しており,次回はJ-SSCG 2024 として改訂予定である。J-SSCG 2020 の公開,普及,導入までは, J-SSCG 2020 のガイドライン統括委員会が行い,その評価および改訂はJ-SSCG 2024 のガイドライン統括委員会が引き継ぐこととなっている。 =各領域におけるガイドライン作成グループ,システマティックレビューチーム,ワーキンググループのチーム編成= ガイドラインを作成する組織は,ガイドライン作成工程およびシステマティックレビューの作業過程を網羅的に理解しているものでなければならない。J-SSCG 2016 の作成工程でシステマティックレビューを経験し,ガイドライン作成工程を理解した人員は増加したが,本ガイドラインにおけるすべての領域,すべてのCQ を網羅するという点では,いまだガイドライン作成およびシステマティックレビュー実施が可能な人材に限りがある。これらの状況を考慮し,全メンバーに対して,システマティックレビューを開始する前に,ガイドライン作成のためのWeb 講習会を継続的に行った。 また,敗血症の定義と診断,感染症の診断,感染源のコントロール,抗菌薬治療,免疫グロブリン(IVIG)療法,初期蘇生・循環作動薬,ステロイド療法,輸血療法,人工呼吸管理,痛み・不穏・せん妄の管理,急性腎障害・急性血液浄化,栄養療法,血糖管理,体温管理,DIC 診断と治療,静脈血栓塞栓症対策, ICU-AW・PICS・早期リハビリテーション,小児,神経集中治療,Patient-and Family-Centered Care, Sepsis Treatment System,ストレス潰瘍の22 領域ごとの班編成を行った。ガイドライン作成グループとシステマティックレビューチームを独立して配置すると同時に,システマティックレビューチームを牽引し,ガイドライン作成グループを補助する目的にワーキンググループを配置した。 =ガイドライン作成グループ(日本版敗血症診療ガイドライン2020 特別委員会)= ガイドライン作成グループである日本版敗血症診療ガイドライン2020 特別委員会(以下,委員会)は,日本集中治療医学会および日本救急医学会理事会の承認を受けて設立された。本委員会の委員長および委員は,ガイドライン統括委員会であるJ-SSCG 2020 作成準備委員会が作成した人選基準(30~40% のメンバー入れ替え,特定の施設に偏らない,実質的な貢献がある)をもとに,個人の専門性も鑑み,両学会メンバーから最終的に25 名(1 名は担当理事兼任)が選出され,両学会理事会により承認された。 委員会は,システマティックレビューには関与せず,システマティックレビューチームと独立した組織である。委員会は,J-SSCG 2020 におけるスコープとして,疾患の基本的特徴,網羅する内容,システマティックレビューの方法,推奨作成から最終確認および公開に関する事項を協議して決定し,明確化した。詳細は後述のガイドライン作成方法に記述するが,委員会は各領域における診療アルゴリズムを作成し,重要臨床課題を決定したうえで,関連するCQ をPICO 形式で作成した。システマティックレビューチームによって統合されたエビデンスの評価をもとに,推奨文と診療ガイドライン草案を作成し,パブリックコメントによる外部評価を反映させた診療ガイドライン最終版を作成した。委員全員の氏名,所属,利益相反のリストは,本ガイドラインの巻末資料に掲載している。 =システマティックレビューチーム= ガイドラインの推奨事項の作成のため,専門的にシステマティックレビューを行う担当としてシステマティックレビューチームが編成された。前述の2 学会会員から公募のあったメンバー計115 名から構成された。本システマティックレビューチームは,システマティックレビューにのみ専従し,推奨作成などの工程とは独立した組織である。システマティックレビューチーム全員の氏名,所属,利益相反のリストは,本ガイドラインの巻末資料に掲載している。 -S 12-
=ワーキンググループ= システマティックレビューチームを牽引し,ガイドライン作成グループを補助する目的にワーキンググループが編成された。領域ごとに計85 名の専門家がワーキンググループメンバーとして選出され,委員会により承認された。ワーキンググループは,システマティックレビューの事前調査,システマティックレビュー実施のリード,推奨文案・草案の作成の補助を職務とした。メンバー全員の氏名,所属,利益相反のリストは,本ガイドラインの巻末資料に掲載している。 =領域を横断した大規模ガイドラインを統一して作成するための水先案内役としてのアカデミックガイドライン推進班= 各領域を統合して一貫性のあるガイドラインとするためには,各領域班における各作業過程を調整する必要がある。これらのことを総合的に考えて,横断的にガイドライン作成を俯瞰し,中立的な立場で活動するアカデミックガイドライン推進班をJ-SSCG 2016 と同様に組織した。アカデミックガイドライン推進班は,前述の2 学会会員から選出された28 名のガイドライン作成の有識者によって構成された。アカデミックガイドライン推進班は,ガイドライン取り扱い範囲決定,PICO 決定,システマティックレビューの方法論,推奨文作成の原則,コンセンサス決定法の策定に対して,専門家集団として助言を行った。また,各班の活動を監査するとともに,システマティックレビューの質の向上を図るための支援や学術資料の作成など,様々な局面でガイドライン全体での統一性をもたせるための活動を行い,水先案内人としての活動を行った。アカデミックガイドライン推進班全員の氏名,所属,利益相反のリストは,本ガイドラインの巻末資料に掲載している。 7 関係する専門家グループの代表者の参加と専 門家による外部評価敗血症診療は多職種で行われるため,医師だけではなく多くの専門家が参加する。J-SSCG 2020 では,敗血症診療に関係する様々な職種の専門グループの代表者として,看護師9 名,理学療法士4 名,臨床工学技士2 名,薬剤師1 名がワーキンググループとして参加し,委員会の作成した診療アルゴリズムやCQ へのフィードバック,および,推奨文や推奨草案の作成に関与した。さらに薬剤師1 名がシステマティックレビューチームに参加した。 J-SSCG 2020 作成委員会は,日本医療機能評価機構内に設置されているEBM 医療情報部におけるMinds の指導のもと,GRADE システムの原則に則り,ガイドライン作成工程の各段階において,作業工程の査読・確認を行った。また,Minds 専門官に委員会会議に参加いただき,ガイドライン作成担当者からの質疑応答に応じていただくことで直接的に問題解決を図った。 8 対象集団(患者,一般市民など)の価値観を 反映するための工夫患者および患者家族の価値観や希望を反映させるために,敗血症に罹患した医療者・研究者2 名を患者代表者として,委員あるいはワーキンググループに加えた。この点は,幅広くかつ高度な医学的知識が必要とされる敗血症の複雑性,重篤性および病態の理解を得たうえで,患者や家族の立場の価値観や希望をガイドラインに反映させるうえで有用であると考える。 9 質と透明性の担保 アカデミックガイドライン推進班編成以外にも,質と透明性の担保を図る工夫としての以下の取り組みを行った。 1 日本医療機能評価機構内EBM 医療情報部におけ るMinds の協力と各種講習会よりエビデンスに基づいたガイドラインとするために,医療情報サービス事業Minds の指導のもと, GRADE システムに則って,各作成過程において,随時指導を仰ぎながら作成し,委員会会議にも適宜出席をいただいた。Minds が開催する診療ガイドライン作成の基本コースやシステマティックレビューの講習会に,積極的にガイドライン作成メンバーの参加を呼び掛けた。 2 ガイドライン作成,システマティックレビュー実 施のためのWeb 講習J-SSCG 2020 作成に関わるすべての参加者を対象に,ガイドライン作成,システマティックレビュー実施のためのWeb 講習をシステマティックレビュー実施の前に行い,参加者全員で方法論の確認と統一を行った。 3 相互査読 各種作業工程の節目において,他領域班委員による相互査読を行い,修正作業を繰り返し,修正案を委員会で議論する形式をとりながら作業を進めた。 -S 13-
4 複数回のパブリックコメント募集 CQ 立案時に両学会のホームページおよびMindsのホームページにおいて,さらに最終案策定時に両学会のホームページにおいて,計2 回原則記名式でパブリックコメントを求めた。最終案策定時では,パブリックコメント提出者からも利益相反の開示をお願いした。なお,広く意見を求めるために, m3.com,日経メディカルOnline,メディカルトリビューン,日本医事新報社の協力を得て,両学会のパブリックコメント募集のURL を紹介いただいた。 5 作業の透明化 各領域のメンバーは,公式のメーリングリスト(ML)を作成し,メンバー間の議論はできるだけML 上で行うこととした。コアメンバーとアカデミックガイドライン推進班は,すべての班のML にROM (read only member)として加わっている。これにより,各班でなされている議論を把握することが可能であり,議論の透明化を図るとともに,節目ごとに各班でなされた議論のサマリーを提出し,それぞれの作業過程,議論内容を収録する付録を作成した。 6 利益相反(COI)とメンバーの役割の開示 経済的COI と学術的(アカデミック)COI ならびに各メンバーの役割を巻末に開示した。経済的COIは,2017 年に日本医学会がまとめた診療ガイドライン策定参加資格基準ガイダンス 6)に従い,2017年から3 年分に適用して開示した。委員相互の学術的COI の干渉を避けるために,推奨草案に対しての委員の投票は匿名化して行った。 10.作成資金 本ガイドラインは,日本集中治療医学会と日本救急医学会の資金で作成した。作成にあたり,すべてのメンバーは一切の報酬を受けていない。推奨の作成にあたり,両学会ならびに協力を得たMinds の意向や利益は反映されていない。 11.ガイドライン普及の方策 利用者が利用しやすいように,ダイジェスト版の小冊子を作成する。また,スマートフォンやタブレットで閲覧できるアプリを作成する。また,世界に向けて両学会それぞれの英文機関誌に同時掲載する。両学会での活動の一環として,学術集会や各種セミナーなどにおいて本ガイドラインの普及活動に努めるとともに,普及状況並びに敗血症診療に関するモニタリング活動を行う。 12.改訂予定 本ガイドラインは4 年ごとの改訂を計画している。次回は2024 年に改訂予定である。それまでに内容を改訂すべき重要な知見が得られた場合は,部分改訂を行うことを検討する。 13 今回のガイドライン作成を通して目指した もう1 つの意義国際ガイドラインであるSSCG があり,4 年ごとに改訂がなされているなかで,本邦独自のガイドラインを作成する意義を問われることも多い。本邦独自の治療や文化に合わせたガイドラインの必要性は確かに重要であるが,本邦から発信されているエビデンスが少ない現状にあって,エビデンスに基づいて作れば作るほど,国際的なガイドラインと同様な内容になることは否めない。しかしながら,もう1 つの重要な意義は作成工程にあると考えている。臨床上の疑問の抽出やシステマティックレビューの作業などを通しての人材育成は,その大きな柱である。当初の狙い以上に,学会や施設の垣根を越えてメンバー間の有機的なネットワーク構築が進んだ。このネットワークを基盤として,ガイドラインを離れたところでも多施設研究や独自のシステマティックレビューを行い論文化するなどの動きが生まれ,今なお活発となってきている。また,臨床上の重要課題でありながらエビデンスの乏しい領域など,今後の多施設ランダム化比較試験の標的などが浮き彫りになってきた。また,集中治療医と救急医では扱う敗血症の背景が異なることも多いが,その点でも,両学会が協力して作成する意義は大きいと考える。本ガイドラインがマイルストーンとなり,救急・集中治療領域における本邦からのエビデンス発信のプラットフォームが形成されることを願ってやまない。 文 献 1) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Crit Care Med. 2017; 45: 486-552. 2) 日本集中治療医学会Sepsis Registry 委員会: 日本版敗血症診療ガイドライン The Japanese Guidelines for Management of Sepsis. 日集中医誌. 2013; 20: 124-73. 3) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 4) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 5) 森實敏夫, 吉田雅博, 小島原典子編: 第1 章 診療ガイドライン総論. Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014. 医学 -S 14-
書院, 東京, 2014, p1-5. 6) 日本医学会利益相反委員会: 診療ガイドライン策定参加資格基準ガイダンス. 日本医学会, 東京, 2017.本ガイドライン作成方法の概略と推奨の解釈 日本版敗血症診療ガイドライン2020 は,1. クリニカルクエスチョン(clinical question: CQ)の立案, 2 システマティックレビューによるエビデンスの検 索,収集,統合とその確実性の評価,3. 推奨の策定,の3 つの工程を経て作成した。 1.CQ の立案 診療ガイドラインは,診療の基礎的知識を網羅するとともに,標準的な診療体系の構築に寄与する必要がある。そのため,過去のガイドラインで取り上げられた重要なCQ は,最新の知見はなくとも,本ガイドラインでも採用した。CQ 立案のルールに基づき,委員とワーキンググループメンバーが協働して担当領域におけるCQ の原案を作成し,委員による相互査読で出された意見を反映し,ガイドライン作成委員会でCQのリストを作成した。これらのCQ に対し,2018 年12 月3 日から16 日の期間において,web 上でパブリックコメントを募集した。寄せられたパブリックコメントを参考にCQ の改訂を行い,委員会にて全118題のCQ を最終決定した。 CQ には,background questions(BQ)とforeground questions(FQ)が含まれる。BQ とは,疾患,診断,治療など,一般的な知識として周知されていることを問うCQ を指す。例えば,ある疾患の診断方法はどのようなものかといった内容で,情報提供の役割を担うCQ である。一方,FQ とは,臨床現場における様々な状況に特化した情報を問うCQ である。例えば,ある特定の疾患の患者にある特定の治療は有効かといった内容で,臨床現場での決定に影響を与えうる。 FQ には,研究のテーマになりえないほど極めて常識的ではあるものの,すべての医療者に周知したいCQ であるgood practice statement(GPS)と,システマティックレビューの対象となり推奨策定が行われるCQ がある。後者のCQ において,対象論文が存在した場合にはThe Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation(GRADE)による推奨を提示し,対象論文がなかった場合には,エキスパートコンセンサスとして推奨を提示した。 本ガイドラインにおけるCQ 立案のルール1) 質の高いエビデンスがないことは,CQ としない 理由とはならない。したがって,臨床上必要なCQが存在すると考えれば,質の高いエビデンスの有無 -S 15-
にかかわらず提示する。2) 過去の敗血症ガイドラインやSSCG で扱われた CQ のうち,臨床上重要なCQ は採用し,必要に応じて改訂する。3) CQ は基本的に質問形式とし,PICO[Patients(対 象患者);Intervention(評価する介入);Control(対照);Outcome(評価項目)]を決定する。本ガイドラインの対象は敗血症患者であるため,PICO における対象患者(P)は,敗血症患者あるいは敗血症性ショック患者とした。しかし,敗血症患者を対象とした臨床試験の報告が乏しいが,集中治療患者や人工呼吸患者などを対象とした臨床試験の結果が敗血症患者に適応可能である診療領域に関連するCQでは,対象患者(P)を集中治療患者や人工呼吸患者などに設定した。 BQ(background questions)の策定 前述のように,BQ は,疾患,診断,治療など,一般的な知識をまとめた情報提示を目的としたCQ である。対象とする患者集団と本ガイドラインの使用者を鑑み,必要と思われる情報に関するCQ 案を立案し,パブリックコメントを経て確定した。確定したCQ に対する推奨文案を各領域班で作成し,委員会における賛同率が95% を超えるまで修正・改訂を繰り返して,合意形成に至った。 GPS(good practice statement)の策定 GPS は,“飛行機から飛び降りる際にパラシュートを付けるか否か?” 1)といった極めて常識的で,かつ, ランダム化比較試験(RCT)が倫理的に不可能なテーマを取り扱ったCQ に対して提示した。対象とする患者集団と本ガイドラインの使用者を鑑み,提示が必要と思われるFQ において,CQ を立案し,パブリックコメントを経て確定した。確定したCQ に対する推奨文案を各領域班で作成し,委員会における賛同率が95%を超えるまで修正・改訂を繰り返して,合意形成に至った。 敗血症の定義と診断の提示 敗血症の定義と診断は,世界的に広く使用されている定義と診断(sepsis-3)を採用することとし,CQ1はその概説の形態とした。そのため,担当班で作成のうえ,全委員の合議によって決定した。 2 システマティックレビューによるエビデンス の検索,収集,統合GPS を除くFQ における各CQ に対する文献検索を網羅的に行い,これらの検索された文献からRCT およびシステマティックレビューを抽出した。その方法論は原則としてGRADE に基づき進めた。 Step 1:文献検索 文献検索は,CENTRAL,Pubmed,医学中央雑誌の検索エンジンを用いて行った。 検索式は,the Medical Subject Headings (MeSH) termsと自由検索語を用いて,2 名以上の独立したレビュアー CQの分類 バックグラウンドクエスチョンbackground questions (BQ)疾患,診断,治療など,一般的な知識として周知されていることを問うCQ • 標準的な知識の提示を行う。• システマティックレビューは必須でない。• 推奨は提示しない。 フォアグラウンドクエスチョンforeground questions (FQ)臨床現場における様々な状況に特化した情報を問うCQ である。例えば,ある特定の疾患の患者にある特定の治療は有効かといった内容で,臨床現場での決定に影響を与えうる。 • 治療選択の提示を行う。• GPS 以外のFQ では,システマティックレビューは必須である。• 治療選択に関する推奨を提示する。 FQに対する推奨の分類 good practice statement (GPS)研究のテーマになりえないほど極めて常識的ではあるものの,すべての医療者に周知したい推奨 GRADE による推奨 (GRADE) GRADE システムの原則に則って提示された推奨。システマティックレビューを行い,得られたエビデンスをもとに,エビデンスの確実性,利益と不利益のバランス,価値観や好み,コストや資源の利用の4 要因を加味し,委員会での合議により推奨を策定した。エキスパートコンセンサスによる推奨(UnGrade)システマティックレビューを行うが対象論文がなかったCQ において提示されたエキスパートによるコンセンサス。想定される利益と不利益のバランス,価値観や好み,コストや資源の利用の3 要因を加味し,委員会での合議により推奨を策定した。 -S 16-
によって作成した。Pubmed における検索では,RCTを特定する研究デザインのフィルターには,原則, Cochrane によって作成したSensitive-maximizing versionのSearch Strategies を用いた。対象とする論文の出版時期は制限しなかった。言語は日本語と英語を対象とした。事前に特定したKey RCTs が含まれていることを確認したうえで,文献検索式を最終決定し,各検索エンジンでの文献検索実施日とヒット論文数を記録した。 Step 2:一次スクリーニング Step 1 で特定されたすべての文献のタイトルと抄録をダウンロードした。文献管理ソフトウエアEndNote (Clarivate Analytics, USA)またはMendeley(Mendeley Ltd., UK)の自動重複除去機能を用いて,重複した文献を除去したのち,さらに手作業で重複した論文を除去した。論文スクリーニング作業は,Web 上のRayyan(https: / /rayyan.qcri.org / welcome)で行った。独立した2 名のレビュアーが,文献のタイトルと抄録をレビューし,研究方法とPICO が明らかに対象とならない論文を除外した。対象論文である可能性が少しでもあれば,除外しなかった。 Step 3:二次スクリーニング Step 2 で残った論文のfull text を取り寄せ,2 名のレビュアーによって,研究デザインおよびPICO がCQ に一致する論文を選択し,対象論文として確定した。2 名のレビュー間で意見の一致をみない文献については,3 人目のレビュアーによってレビューし,3者間で話し合いを行った。この段階で除外した論文については,除外理由を記録した。文献検索から対象論文決定までのプロセスは,PRISMA フローダイアグラムにまとめた。 ネットワークメタ解析に関するCQ の扱い ネットワークメタ解析に関するCQ は,頻度論的解析方法を用いて間接推定値およびネットワーク推定値を算出した[R パッケージnetmeta を用いたConfidence in Network Meta-Analysis(CINeMA)を利用]。また,ランキングに関してはsurface under the cumulative ranking curve(SUCRA)を用いた(Stata のmvmeta コマンドを用いて算出)。エビデンスの質の評価はGRADE working group の手法をもとに行った。本ガイドラインにおいては,CQ9-2, CQ9-6 でネットワークメタ解析を行った。質的研究をエビデンスとして用いるCQ の扱い 質的研究が適切な研究手法と考えられるCQ に関しては,GRADE-CERQual approach (Confidence in the Evidence from Reviews of Quality research: CERQual)をエビデンス抽出の手法として適用した。本ガイドラインにおいては,CQ20-3「集中治療中の身体拘束(抑制)を避けるべきか?」に用いた。 エビデンスが存在したCQ におけるエビデンスの確実性の評価 システマティックレビューを行ったFQ 型のCQ について,各班が担当CQ におけるエビデンスの確実性(A~D)をRisk of bias / 非直接性 / 非一貫性 / 不精確性 / 出版バイアスの5 項目をもとに評価した。本ガイドラインで採用しているGRADE システムの定めるエビデンスの確実性の定義は以下の通りである。 エビデンスの確実性の定義高:効果の推定値に強く確信がある中:効果の推定値に中程度の確信がある低:効果の推定値に対する確信は限定的である非常に低:効果の推定値がほとんど確信できない Step 4:データ抽出,バイアスリスクの評価 データ抽出は,2 人の独立したレビューにより行い,標準化したデータ抽出フォームを用いた。研究ごとに以下の項目について詳細情報を抽出した(研究デザイン,研究対象者参入基準,除外基準,症例数,介入とコントロール,アウトカム)。文献に十分な情報の記載がない場合は,その旨を記載し,著者への問い合わせは行わなかった。 Step 4-1:量的研究 2 名の独立したレビューにより,研究・アウトカムごとに,以下のドメインにおけるバイアスリスクを評価した。(RCT) • ランダム割り付け• 割り付けの隠蔽化• 患者・医療者の盲検化• 評価者の盲検化• 不完全なアウトカム• 選択アウトカム報告• その他のバイアス -S 17-
(観察研究)(ROBINS-I の手法に則って評価した) • 交絡因子によるバイアス• 患者選択に伴うバイアス• 群分けに関するバイアス• 想定する介入とのずれ• データ欠損に伴うバイアス• アウトカム評価段階のバイアス• 選択アウトカム報告 バイアスの潜在性の程度は,high,low,またはunclear と判断し,データ抽出フォームと同様に標準化されたバイアスリスクの表に記載した。バイアスの潜在性がhigh と判断された場合は,その判断理由も記載した。バイアスリスクがhigh であることを理由に,文献を除外することはしなかった。バイアスリスクの評価は,CQ ごとに「risk of bias グラフ」および「risk of bias サマリー」に視覚的にまとめた。 Step 4-2:CERQual 2 名の独立したレビューにより,研究・アウトカムごとに,以下のドメインにおけるバイアスリスクを評価した。 • 研究目的は明確か• 質的評価が適切な研究方法か• 研究デザインは適切か• 研究対象は適切か• データ収集方法は適切か• 研究実施者と研究対象者の関係性の考慮は十分か• 倫理的問題の考慮は十分か• データ分析は厳密か• 結果提示は明確か• 研究意義は十分か バイアスの潜在性の程度は,yes, no またはcannot tell と判断し,データ抽出フォームと同様に標準化されたバイアスリスクの表に記載した。バイアスの潜在性がyes と判断された場合は,その判断理由も記載した。バイアスリスクがyes であることを理由に,文献を除外することはしなかった。 Step 5:メタ解析とエビデンスの確実性の評価 採用する文献の定性的評価,定量的評価を行った。定量的評価では,可能な場合,Revman 5 を用いて,メタ解析を行った。それらを総括してエビデンスの確実性の評価を各領域班で作成した。3.推奨の策定 推奨の決定に先立ち,委員とワーキンググループは協働してEvidence to Decision テーブル(EtD テーブル)を作成した。その後,エビデンスの確実性・効果のバランス・価値観,そして,コストや資源の利用の4 要因を加味し,委員会での合議により推奨を策定した。GRADE システムで示される推奨の強さは,推奨・弱い推奨・弱い非推奨・非推奨の4 つのカテゴリーに分類される(下表)。 推奨の強さ推奨弱い推奨弱い非推奨非推奨推奨の内容介入支持の 強い推奨介入支持の条件付き(弱 い)推奨介入反対の条件付き(弱 い)推奨介入反対の 強い推奨 推奨の表現~することを推奨する。~することを弱く推奨する。~しないことを弱く推奨する。~しないことを推奨する。 推奨の強さの記載方法推奨の強さ「1」:推奨する。推奨の強さ「2」:弱く推奨する。 PICO に沿った文献の網羅的検索によって,十分なエビデンスが得られなかったFQ 型のCQ では,委員とワーキンググループは協働してEtD テーブルを作成し,そのEtD を根拠にエキスパートコンセンサスを提示した。このEtD では,エキスパートが考える各介入の望ましい効果,望ましくない効果と両者のバランス,価値観そして,コストや資源の利用の要因を加味し,委員会での合議により推奨を策定した。本エキスパートコンセンサスでの推奨は,“弱く推奨する”とし,上記のGRADE に則った推奨と見分けができるよう文末に「エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分」と付記した。 GRADE に則ったCQ と,エキスパートコンセンサスを提示するCQ における委員会の合意形成 委員の合意形成は修正Delphi 法を用いた。 Step 1:投票 各委員は作成された推奨草案に対し1 から9 点までの得点付け(1:同意できない,9 点:同意できる)をそれぞれ独立して行った。7 点未満の得点を付けた委員は,判断をした理由も併せて提示した。投票はオンラインかつ匿名で実施した。投票に関わっていない独立したメンバーが集計を行い,得点の中央値(Median),パーセンタイル範囲(Interpercentile Range: IPR),対称 -S 18-
を補正したパーセンタイル範囲(Interpercentile Range Adjusted for Symmetry: IPRAS),見解不一致指数(Disagreement Index: DI)を算出した。 Step 2:パネル会議 集計結果にもとづき以下のようにパネル会議を行い,合意形成を行った。1 Median <7.5 かつDI ≧0.2 の場合 委員会で議論を行ったのち,EtD と推奨文の改訂を行い,再投票とした。 2 Median ≧7.5 あるいはDI < 0.2 の場合 A ) 投票の際に委員より提示されたコメントに, 推奨に対する重大な意見があった場合委員会で議論を行い,合意形成を図った。委 員会で合意形成ができなかったCQ では,EtDと推奨文の改訂を行い,再投票とした。 B ) 投票の際に委員より提示されたコメントに, 推奨に対する重大な意見がなかった場合委員間で投票結果の確認を行い合意形成とし た。 4 ガイドラインにおける推奨の強さの解釈の注 意点前述のように,本ガイドラインで決定される推奨の強さは,推奨・弱い推奨・弱い非推奨・非推奨の4 つのカテゴリーに分類される。この際に,弱い推奨と弱い非推奨は異なる方向の推奨のように捉える考え方があるが,これは誤りである(下図)。 推奨の強さは,エビデンスの質・効果のバランス・価値観,そして,コストや資源の利用の4 要因によって規定されるため,その推奨度は実質的には連続的であり,弱い推奨と弱い非推奨との間に大きな差がない こともありうる(下図)。 各推奨をより理解しやすく記載すると以下のように考えられる。 推奨(賛成)真白に近い灰色。ほとんどの場合で行うことが奨められる介入。多くの患者で益が害を上回る。しかし,少数の患者では害が益を上回ることもある。 弱い推奨(賛成)白め淡い灰色。行わない場合もあるが,行うことを奨められることが多い介入。全体でみれば,益が害を上回る可能性が高い。しかし,患者によっては害のほうが強く生じることもありうる。 弱い非推奨(反対)黒め濃い灰色。行う場合もあるが,行なわないことを奨められることが多い介入。全体でみれば,害が益を上回る可能性が高い。しかし,患者によっては益のほうが強く生じることもありうる。 非推奨(反対)黒に近い灰色,ほとんどの場合で行わないことが奨められる介入。多くの患者で,害が益を上回る。しかし,少数の患者では害が利益を上回ることもある。 前述のように,推奨の強さは連続的であり,例えば,“弱い推奨(賛成)”であっても,“推奨(賛成)”に限りなく近いものもあれば,“弱い非推奨(反対)” -S 19-
に限りなく近いものも存在する。 敗血症は,原因,重症度,病期,併存症や合併症などによって大きな多様性を生じる病態である。臨床においては,患者の病状はもちろんのこと,医療者のマンパワーやリソース,患者・家族の意向など,個々の患者において,臨床家による適切な判断が必要である。その際に,推奨策定の論拠を知ったうえでガイドラインの推奨を参考としていただくことが,ガイドラインの賢明な利用法である。 これらのことを考えれば,本ガイドラインで弱く推奨されている医療介入を行わなかったことで医療裁判において不利な状況に陥ったり,ガイドライン上の弱い非推奨の医療介入を熟慮のうえで施行したことを批判されたりすることは,ガイドラインやエビデンスの本質が理解されていないことによって生じる悲劇と考えられる。 ガイドラインの推奨は,本来的には4 つのカテゴリーに当てはめることが困難なものを,一定のルールに基づいて半ば強制的にカテゴリー化している事実を理解して使用いただきたい。 文 献 1) Gordon S, Jill P: Parachute use to prevent death and major trauma related to gravitational challenge: systematic review of randomised controlled trials. BMJ. 2003; 327: 1459-61. -S 20-
CQ1:敗血症の定義と診断 CQ1-1:敗血症の定義 要約:敗血症は,「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と定義される。敗血症は,感染症に伴う生体反応が生体内で調節不能な状態となった病態であり,生命を脅かす臓器障害を引き起こす。また,敗血症性ショックは,敗血症の中に含まれる1 区分であり,「急性循環不全により細胞障害および代謝異常が重度となり,ショックを伴わない敗血症と比べて死亡の危険性が高まる状態」と定義する。これらは,2016 年2 月に発表された敗血症の定義「The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock(Sepsis-3) 1)」に準じる。解説:日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2020では,J-SSCG 2016 2-5)と同様に,2016 年2 月に公表されたSepsis-3 1)に準じて敗血症を定義する。 まず,本邦では2012 年に公表されたJ-SSCG 5-7)の策定において,敗血症と菌血症の区分を明確にした経緯がある。1914 年にSchottmüller ら 8)は,「敗血症は微生物が局所から血流に侵入した病気」として「菌血症」の概念を広め,本邦においても,血液での微生物の検出が敗血症の確定診断と考えられていた。しかし,敗血症に類似する病態は血液中に微生物が存在しない場合でも生じることが明らかにされ,1989 年にはBone ら 9)によりsepsis syndrome(セプシス症候群)という概念が提唱された。結果として,1992 年に, Sepsis-1 10)の定義が米国集中治療医学会と米国胸部疾患学会により報告され,全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome: SIRS)(Table 1-1-1)の概念が紹介された。Sepsis-1 により,「敗血症は感染症によるSIRS」と定義され,菌血症と敗血症は異なる定義として区分されるようになった。 一方,Sepsis-1 10)による敗血症の定義が広く用いられるようになった後,Sepsis-1 の定義と診断では,臓器障害の進展や生命予後における診断特異性が低いことが問題とされた。2001 年に,米国集中治療医学会,欧州集中治療医学会などの5 学会によりInternational Sepsis Definition Conference が開催され,SIRS を有用な概念としたものの,SIRS に基づく敗血症診断を高める方策が検討された。そして,2003 年にSepsis-2 11)として,敗血症における診断特異度を高めるための24項目の補助診断が提案された(Table 1-1-2)。しかし, Sepsis-2 の補助診断はSepsis-1 と比較して敗血症の診断特異度を高めるものではなかった 12-14)。 このようななかで敗血症は,集中治療のターゲットとなる臓器障害の進展として討議されるようになった。Kaukonen ら 15)の豪州・ニュージーランドの報告では,感染症による新たな臓器障害として管理した集中治療症例において,8 例に1 例はSIRS の診断基準を満たしていないという結果が示された。これらの結果をもとに,臓器障害に基づいて敗血症を診断する基準としてSepsis-3 1)が誕生した。そして,Sepsis-1 10)におけるSIRS 診断および重症敗血症の重症度区分が敗血症の定義と診断から削除された。 Sepsis-3 1)の定義は,感染症における臓器障害の進行に注目したものである。一方で,Sepsis-1 の定義に Table 1-1-1 SIRSとSepsis-1の定義 10)体 温>38°Cあるいは<36°C心 拍 数>90 回 / 分呼 吸 数>20 回 / 分あるいはPaCO2 <32mmHg白血球数>12,000 / mm3 あるいは<4,000/mm3 あるいは幼若球>10% 【解説】上記4 項目のうち,2 項目以上を満たす場合に,全身性炎症反応症候群(systematic inflammatory response syndrome: SIRS)と定義する。感染症が疑われる状態において,SIRS を満たす場合に,敗血症と診断する。 Table 1-1-2 Sepsis-2の定義 11) 感染症の確定もしくは疑いがあり,かつ以下のいくつかを満たす(項目数規定なし) (1)全身所見・ 発熱:核温>38.3°C・ 低体温:核温<36°C・ 頻脈:心拍数>90 回 / 分,もしくは>年齢平均の2SD・ 頻呼吸・ 精神状態の変容・ 著明な浮腫または体液過剰:24 時間で輸液バランス20mL / kg 以上・ 高血糖:糖尿病の既往のない状態で血糖値>120mg / dL (2)炎症所見・ 白血球上昇>12,000 / μL・ 白血球低下<4,000 / μL・ 白血球正常で10% を超える幼若白血球・ CRP >基準値の2SD・プロカルシトニン>基準値の2SD (3)循環変動・ 血圧低下:収縮期血圧<90mmHg,平均血圧<70mmHg,もしくは成人では正常値より40mmHg を超える低下,もしくは年齢に対する正常値の2SD 未満・ 混合静脈血酸素飽和度(SvO2)>70%・ 心係数(CI)>3.5L / 分/m 2 (4)臓器障害所見・ 低酸素血症:PaO2 / FIO2 <300mmHg・ 急性乏尿:尿量<0.5mL / kg / 時が少なくとも2 時間持続・ 血中クレアチニン値の増加:>0.5mg / dL・ 凝固異常:PT-INR >1.5,もしくはAPTT >60 秒・ イレウス:腸蠕動音の消失・ 血小板減少:<10 万 / μL・ 高ビリルビン血症:>4mg / dL (5)組織灌流所見・ 高乳酸血症>1mmol/L・ 毛細血管の再灌流減少,もしくは斑状皮膚所見 -S 21-
おける重症敗血症はSIRS 基準を満たしたうえで臓器障害を進展させた敗血症であり,Sepsis-3 の敗血症とは厳密には一致しないことに注意が必要である(Fig.1-1)。 本ガイドラインでは,敗血症は感染症により重篤な臓器障害が引き起こされた状態とし,また敗血症性ショックは敗血症に急性循環不全を伴い,細胞障害および代謝異常が重度となる状態として定義される。本定義は,感染症に合併する臓器障害に着眼するものであり,SIRS 基準を満たさない感染症においても臓器障害の進展を診断するものである。 Fig. 1-1 感染症とSIRSと臓器障害の関連性【解説】Sepsis-3 1)の敗血症は,感染症あるいは感染症を疑う状態において,臓器障害が進展する状態として定義される。Sepsis-1 10)では,感染症あるいは感染症を疑う状態においてSIRS を合併した場合に敗血症と診断し,さらに臓器障害を進展させた場合に重症敗血症と診断した。Sepsis-3 における敗血症とSepsis-1 における重症敗血症では,以上のように臓器障害にSIRS を伴うかどうかの違いがあることに注意する。 文 献 1) Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al: The third international consensus definitions for sepsis and septic shock (Sepsis-3). JAMA. 2016; 315: 801-10. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 3) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 4) Nishida O, Ogura H, Egi M, et al: The Japanese clinical practice guidelines for management of sepsis and septic shock (J-SSCG 2016). J Intensive Care. 2018; 6: 7. 5) Nishida O, Ogura H, Egi M, et al: The Japanese clinical practice guidelines for management of sepsis and septic shock 2016 (J-SSCG 2016). Acute Med Surg. 2018; 5: 3-89. 6) 織田成人, 相引眞幸, 池田寿昭, 他: 日本集中治療医学会Sepsis Registry 委員会. 日本版敗血症治療ガイドライン2013.日集中医誌. 2013; 20 124-73. 7) Oda S, Aibiki M, Ikeda T, et al: The Japanese guidelines for the management of sepsis. J Intensive Care. 2014; 2: 55. 8) Budelmann G: Hugo Schottmüller, 1867-1936. The problem of sepsis. Internist (Berl). 1969; 10: 92-101. 9) Bone RC, Fisher CJ Jr, Clemmer TP, et al: Sepsis syndrome: a valid clinical entity. Methylprednisolone severe sepsis study group. Crit Care Med. 1989; 17: 389-93. 10) American College of Chest Physicians / Society of Critical Care Medicine Consensus Conference: definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med. 1992; 20: 864-74. 11) Levy MM, Fink MP, Marshall JC, et al: 2001 SCCM / ESICM / AC CP / ATS / SIS international sepsis definitions conference. Crit Care Med. 2003; 31: 1250-6. 12) Weiss M, Huber-Lang M, Taenzer M, et al: Different patient case mix by applying the 2003 SCCM / ESICM / ACCP / ATS / SIS sepsis definitions instead of the 1992 ACCP / SCCM sepsis definitions in surgical patients: a retrospective observational study. BMC Med Inform Decis Mak. 2009; 9: 25. 13) Zhao H, Heard SO, Mullen MT, et al: An evaluation of the diagnostic accuracy of the 1991 American College of Chest Physicians / Society of Critical Care Medicine and the 2001 Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine / American College of Chest Physicians / American Thoracic Society / Surgical Infection Society sepsis definition. Crit Care Med. 2012; 40: 1700-6. 14) Vincent JL, Opal SM, Marshall JC, et al: Sepsis definitions: time for change. Lancet. 2013; 381: 774-5. 15) Kaukonen KM, Bailey M, Pilcher D, et al: Systemic inflammatory response syndrome criteria in defining severe sepsis. N Engl J Med. 2015; 372: 1629-38. -S 22-
CQ1-2:敗血症の診断と重症度分類 要約:敗血症の診断は,1感染症もしくは感染症の疑いがあり,かつ2SOFA(sequential【sepsis-related】organ failure assessment)スコア(Table 1-2-1)の合計2 点以上の急上昇として行う。 敗血症診断に至るプロセスは,病院前救護,救急外来,一般病棟における場合と,集中治療室あるいはそれに準じる場合に分けて行う。病院前救護,救急外来,一般病棟では,感染症あるいは感染症が疑われる場合には,敗血症のスクリーニングとしてquick SOFA(qSOFA)(Table 1-2-2)を評価する。qSOFA は, 1意識変容,2呼吸数≧22 回 / 分,3収縮期血圧≦ 100mmHg の3 項目で構成される。感染症あるいは感染症が疑われる状態において,qSOFA の2 項目以上が満たされる場合に敗血症を疑い,早期治療開始や集中治療医への紹介のきっかけとする。 一方,集中治療室あるいはそれに準じる環境では, SOFA スコアを用いる。既に感染症と診断されている場合や感染症が疑われる状態では,SOFA スコアの推移を評価し,SOFA スコアの2 点以上の急上昇により敗血症と診断する。 敗血症性ショックは,敗血症の中に含まれる重症度の高い1 区分であり,「敗血症の中でも急性循環不全により死亡率が高い重症な状態」として区別する。敗血症性ショックの診断は,平均動脈血圧≧65mmHg以上を保つために輸液療法に加えて血管収縮薬を必要とし,かつ血中乳酸値2mmol / L(18mg / dL)を超える場合とする。以上のように,敗血症の診断においては,感染症の 評価に加えて,集中治療室内外での診断プロセスが異なる。病院前救護,救急外来,一般病棟などの集中治療室外では,qSOFA を用いて敗血症を疑う。しかし,敗血症の確定診断は,SOFA スコアの推移の確認が必要であり,集中治療室あるいはそれに準じる診療環境におけるSOFA スコアを用いた最終診断が必要である。解説:日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2020では,敗血症の重症度分類は,敗血症と敗血症性ショックの2 つの区分とする。CQ1-1 で示した敗血症の定義に従い,敗血症の治療ターゲットを臓器障害とし,感染症による臓器障害の進展として敗血症の診断と治療にあたる。Sepsis-1 1)およびSepsis-2 2)の定義における全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome: SIRS)の診断にとらわれずに,感染症の増悪として臓器障害の進行と結びつけ 3)て敗血症を診断し,qSOFA 4)とSOFA スコア 5)を敗血症診断に用いる。この敗血症診断における方策は,J-SSCG 2016 6-9),さらにSurviving Sepsis Campaign 10, 11)や国際的動向に準じている。 qSOFA に関するSeymour らの原著論文 4)では,ペンシルバニア州南西部にある12 の病院における2010~ 2012 年の間に記録された約130 万件の電子カルテより,感染を疑う148,907 例を解析している。qSOFA は,派生コホート(derivation cohort)より院内死亡に関連した要因をロジスティック回帰分析で抽出して作成された。次に,検証コホート(validation cohort)を利用して,SIRS 診断基準,SOFA スコア,ロジスティック器 Table 1-2-1 SOFAスコア スコア0 1 2 3 4意識Glasgow coma scale 15 13-14 10-12 6-9 <6呼吸PaO2 / FIO2(mmHg) ≧400 <400 <300 <200 および呼吸補助<100 および呼吸補助循環平均血圧≧70mmHg平均血圧<70mmHgドパミン<5μg / kg / 分あるいはドブタミンの 併用ドパミン5-15μg / kg / 分あるいはノルアドレナリン ≦0.1μg / kg / 分ある いはアドレナリン≦ 0.1μg / kg / 分ドパミン>15μg / kg / 分 あるいはノルアドレナリン >0.1μg / kg / 分あるいはアドレナリン> 0.1μg / kg / 分 肝血漿ビリルビン値(mg / dL) <1.2 1.2-1.9 2.0-5.9 6.0-11.9 ≧12.0腎血漿クレアチニン値<1.2 1.2-1.9 2.0-3.4 3.5-4.9 ≧5.0尿量(mL / 日) <500 <200凝固血小板数(× 10 3 / μL) ≧150 <150 <100 <50 <20 -S 23-
官機能障害スコア(logistic organ dysfunction system score: LODS),qSOFA の院内死亡に対する予測精度が比較された。その結果,集中治療室内外にかかわらずqSOFA はSIRS より優れているが,集中治療室で用いられるSOFA には劣り,集中治療室外ではLODS と同等,かつSOFA やSOFA 変化に勝るという結果となった。以上より,集中治療室外では敗血症を強く疑う初期スクリーニングとしてqSOFA の評価が推奨され,集中治療室ではqSOFA によるスクリーニングは推奨されないこととなった。本研究では,検証コホートの約89% の症例は集中治療室外であり,qSOFA 2 項目以上では,1 項目以下に比べて院内死亡率が3~14 倍に増加するという結果であった。 一方,本研究 4)の集中治療室症例の解析では, SOFA スコア 5)とLODS が院内死亡の予測に優れているという結果であった。集中治療室症例における後の前向き臨床研究でも同様の結果が得られている 12)。SOFA スコアは,本邦の集中治療室における特定集中治療管理の必須評価項目であるため,集中治療室においては感染症あるいは感染症が疑われる状態でSOFAスコアを評価し,合計2 点以上の急上昇を敗血症と診断することは可能であると考えられた。以上より本ガイドラインでも,集中治療室における敗血症の確定診断にSOFA スコアを用いる。 一方,敗血症性ショックは,敗血症が重症化した1区分として敗血症とは別に定義される。敗血症性ショックは,輸液蘇生だけでは血圧を維持できず,ノルアドレナリンなどの血管収縮薬を必要とし,さらに血中乳酸値が2mmoL / L(18mg / dL)を超える状態として敗血症と区分する。 Shankar-Hari ら 13)は,敗血症性ショックに関する臨床研究などをシステマティックレビューし,Delphi法などを用いて「持続する低血圧」,「血管収縮薬を用いた治療」,「血中乳酸値」の3 つの組み合わせにより新しい敗血症性ショックの診断項目とすることを決定した。そして,Surviving Sepsis Campaign データベース28,150 例を用いたコホート研究より血中乳酸値を評価できる18,840 例を抽出し,乳酸値>2mmoL / L (18mg / dL)を敗血症性ショックの診断の閾値と定めた。Sepsis-3 3)では,敗血症性ショックにおける細胞・ 代謝異常の評価として,「持続する低血圧」,「血管収縮薬を用いた治療」,「血中乳酸値」を採用し,本ガイドラインもこの敗血症性ショックの診断基準に準じる方針とした。 J-SSCG 2016 6-9)では,Sepsis-1 1)およびSepsis-2 2)を踏襲するか,Sepsis-3 3)に移行するか,また独自にSepsis の定義と診断基準を策定するかについて討議された。現在も,Sepsis-3 の問題点として,1Seymourら 4)の原著論文における評価項目は敗血症発症の予測ではなく院内死亡の評価基準であること,2 qSOFA の敗血症診断の感度が低いこと(敗血症診断におけるSepsis-2 の鋭敏性),3SOFA スコア項目の見直しが必要であること[ショックやDIC(disseminated intravascular coagulation)やAKI(acute kidney injury)などにおける本邦の急性臓器障害の診断基準と合致しないこと],4qSOFA とSOFA との評価基準に違いがあること(収縮期血圧≦100mmHg もしくは≦90mmHg,平均血圧≦65mmHg もしくは≦ 70mmHg など),5感染症を疑う基準が不明瞭であること,6本邦における乳酸値測定のルーチン化の問題があること,7全身性炎症の新定義の必要性などが残存する。 以上において,J-SSCG 2016 6-9)およびSSCG2016 10, 11)の公表後,本邦を含めてqSOFA を検証する論文が発表されている 13-17)。qSOFA は,ベッドサイドで簡便かつ迅速に患者の重症度を評価できる利点があるが, 2020 年においても敗血症診断と死亡転帰に対する感度の低さが課題として指摘されており,敗血症のearly alert system としての評価は十分に定まっていない。また,Sepsis-3 3)による診断は,従来のSepsis-1 1)による診断より,敗血症と確定する診断数が減少すると予想されている 18-20)。集中治療室入室日にSepsis-1 もしくはSepsis-3 のクライテリアを満たした21,491 例のデータベース検討 18)では,Sepsis-1 の診断基準を満たす症例のうち13.4% はSepsis-3 の基準を満たさず,この21日死亡率は7.0% と報告されている。既往の臓器障害をもたない症例に限定すると,Sepsis-1 診断例の18.4%がSepsis-3 のクライテリアを満たさず,一方,Sepsis-3診断例の6.0% がSepsis-1 のクライテリアを満たしていなかった 17)。このように,Sepsis-3 による敗血症診断は,重症度の高い敗血症をより厳密に診断することに重きを置いていることに注意する。 また,Australasian Resuscitation in Sepsis Evaluation (ARISE)試験のpost hoc 解析 19)における敗血症性ショックの解析では,Sepsis-1 1)の定義により敗血症 Table 1-2-2 quick SOFAスコア意識変容呼吸数≧22 回 / 分収縮期血圧≦100mmHg感染症あるいは感染症を疑う病態で,quick SOFA(qSOFA)スコアの3項目中2 項目以上が存在する場合に敗血症を疑う。 -S 24-
性ショックと診断された1,591 例において,qSOFA を満たしたのは1,139 例(約71.6%),qSOFA およびSOFA によるSepsis-3 3)の敗血症診断を満たしたものは1,010 例(約63.4%),さらにSepsis-3 の敗血症性ショックの診断基準を満たしたものは203 例(約12.8%)と解析されている。フロリダの救急部門を対象とした2 つの研究からなる敗血症データベース470例の解析 20)においては,Sepsis-3 の診断で敗血症性ショックが評価されたのは200 例(42.5%),Sepsis-1およびSepsis-2 による診断で敗血症性ショックが評価されたのは270 例(57.4%)であり,Sepsis-3 の敗血症性ショックはSOFA スコアと死亡率が統計学的に有意に高かった。このように,Sepsis-3 による敗血症性ショックの診断は,重症度の高い敗血症性ショックを診断していることに注意して対応することになる。 以上より,J-SSCG 2020 では,J-SSCG 2016 6-9)と同様に,敗血症および敗血症性ショックの診断をFig. 1-2 として記載した。本定義と診断に準拠し,敗血症の早期診断と早期治療の一助として頂きたい。文 献 1) American College of Chest Physicians / Society of Critical Care Medicine Consensus Conference: definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med. 1992; 20: 864-74. 2) Levy MM, Fink MP, Marshall JC, et al: 2001 SCCM / ESICM / ACCP / ATS / SIS International sepsis definitions conference. Crit Care Med. 2003; 31: 1250-6. 3) Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al: The Third International consensus definitions for sepsis and septic shock (Sepsis-3). JAMA. 2016; 315: 801-10. 4) Seymour CW, Liu VX, Iwashyna TJ, et al: Assessment of clinical criteria for sepsis: For the third international consensus definitions for sepsis and septic shock (Sepsis-3). JAMA. 2016; 315: 762-74. 5) Vincent JL, Moreno R, Takala J, et al: The SOFA (Sepsis-related Organ Failure Assessment) score to describe organ dysfunction / failure. On behalf of the Working Group on Sepsis-Related Problems of the European Society of Intensive Care Medicine. Intensive Care Med. 1996; 22: 707-10. 6) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 7) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 8) Nishida O, Ogura H, Egi M, et al: The Japanese clinical practice guidelines for management of sepsis and septic shock 2016 (J-SSCG 2016). J Intensive Care. 2018; 6: 7. 9) Nishida O, Ogura H, Egi M, et al: The Japanese clinical practice guidelines for management of sepsis and septic shock 2016 (J-SSCG 2016). Acute Med Surg. 2018; 5: 3-89. 10) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of sepsis and septic shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 11) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of sepsis and septic shock: 2016. Crit Care Med. 2017; 45: 486-552. 12) Raith EP, Udy AA, Bailey M, et al: Prognostic accuracy of the SOFA score, SIRS sriteria, and qSOFA score for in-hospital mortality among adults with suspected infection admitted to the intensive care unit. JAMA. 2017; 317: 290-300. 13) Shankar-Hari M, Phillips GS, Levy ML, et al: Developing a new definition and assessing new clinical criteria for septic shock: For the third international consensus definitions for sepsis and septic shock (Sepsis-3). JAMA. 2016; 315: 775-87. 14) Freund Y, Lemachatti N, Krastinova E, et al: Prognostic accuracy of Sepsis-3 criteria for in-hospital mortality among patients with suspected infection presenting to the emergency department. JAMA. 2017; 317: 301-8. 15) Umemura Y, Ogura H, Gando S, et al: Assessment of mortality by qSOFA in patients with sepsis outside ICU: A post hoc subgroup analysis by the Japanese Association for Acute Medicine Sepsis Registry Study Group. J Infect Chemother. 2017; 23: 757-62. 16) Umemura Y, Ogura H, Gando S, et al: Prognostic Accuracy of Quick SOFA is different according to the severity of illness in infectious patients. J Infect Chemother. 2019; 25: 943-9. 17) Kushimoto S, Gando S, Ogura H, et al: Complementary role of hypothermia identification to the quick sequential organ failure assessment score in predicting patients with sepsis at high risk of mortality: A retrospective analysis from a multicenter, observational study. J Intensive Care Med. 2020; 35: 502-10. 18) Fang X, Wang Z, Yang J, et al: Clinical evaluation of Sepsis-1 and Sepsis-3 in the ICU. Chest. 2018; 153: 1169-76. 19) Peake SL, Delaney A, Bailey M, et al: Potential impact of the Fig. 1-2 敗血症と敗血症性ショックの診断の流れ【解説】集中治療室以外の管理では,感染症あるいは感染症の疑いのある場合,qSOFA(quick sequential sepsis-related organ failure assessment)を評価する。qSOFA の3 項目である,1意識変容,2呼吸数≧22 回 / 分,3収縮期血圧≦100mmHg を評価し,2 項目以上満たす場合には積極的に敗血症を疑う。qSOFA ≧2 点では,集中治療室またはそれに準じた環境におけるSOFA スコアの評価に移行させる。集中治療室では,血液・生化学検査,動脈血ガス分析などよりSOFA スコアを時系列で評価し,SOFA スコアの合計点数が2 点以上の急上昇となる場合に敗血症の確定診断とする。敗血症において,輸液蘇生だけでは平均血圧≧65mmHg を維持できず,ノルアドレナリンなどの血管収縮薬を併用し,さらに血中乳酸値>2mmol / L (18mg / dL)の場合に,敗血症性ショックと確定診断する。敗血症と評価できない状況においては,感染症の徴候や全身状態に注意し,集中治療室外ではqSOFA,集中治療室内ではSOFA スコアを適宜再評価する。 -S 25-
2016 consensus definitions of sepsis and septic shock on future sepsis research. Ann Emerg Med. 2017; 70: 553-61.e1. 20) Sterling SA, Puskarich MA, Glass AF, et al: The impact of the sepsis-3 septic shock definition on previously defined septic shock patients. Crit Care Med. 2017; 45: 1436-42. -S 26-
CQ2:感染の診断 敗血症・敗血症性ショックの診療において,その原因となる感染症の診断は重要である。感染症の診断を行ううえで,まず検体の採取による病原微生物の同定が極めて重要であり,適切な治療にもつながる。病歴,身体所見,画像検査などから可及的速やかに感染巣を絞り込み,血液培養とともに推定感染部位から適切に培養検体を採取する必要がある。培養の中でも,血液培養は最も重要な検査であり,菌血症を引き起こしている病原微生物を同定する臨床的意義は大きい。血液培養の結果から,感染巣が判明する場合があり,不明であった感染巣を推測するうえで重要な情報が得られることもある。また,培養および抗菌薬の感受性検査の結果によりデエスカレーションを含む治療の最適化が可能である。しかしながら,血液を採取する方法やタイミングをまちがえると,菌のコンタミネーションや感受性に対して不正確な情報が得られる場合もあり,不必要な治療やコストの増加につながりかねない。血液培養に関しては,これまでも良質なエビデンスの有無にかかわらず重要であると記載されているが,血液を採取する方法やタイミングに関して依然として周知徹底されていないため,本ガイドラインでも取り上げることとした。そこで,CQ2-1 として「血液培養はいつ採取するか?」を掲げる。 また,敗血症性ショック患者では血液培養検査の陽性率は69% との報告があるが,発熱があるからといって血液培養検査を行っても陽性率は高くないため,血液培養には限界がある 1)。特に,尿路感染,肺炎,髄膜炎といった感染症によって生じた敗血症の場合,血 液培養だけで感染臓器および原因微生物を同定することは極めてむずかしい。多くのガイドラインでは,臨床像より感染源となっている可能性が否定できない部位から,検体をできる限り抗菌薬開始前に採取することは,予後を改善するというエビデンスはないが,エキスパートコンセンサスの立場で推奨されている。本ガイドラインでも血液培養以外の各種培養検査に関して述べることは極めて重要であると考え,CQ2-2 として「血液培養以外の培養検体は,いつ採取するか?」を掲げる。 臨床の現場では,血液培養の結果を待たずして抗菌薬を選択するが,抗菌薬を選択する際にグラム染色所見を参考にするというプラクティスは広く普及しており,病態生理の側面からも一定の妥当性があるといわれている 1)。また,グラム染色は簡便で迅速に施行することができ,しかも安価である。しかしながら,グラム染色所見のみで抗菌薬を選択すると,重症病態にもかかわらず不適切な抗微生物薬が選択されるリスクがある 2)。本ガイドラインでもグラム染色が有用であるか否かを述べることは極めて重要であると考え, CQ2-3 として「抗菌薬投与前のグラム染色は有用か?」 を掲げる。 さらに,感染症の診断に関して,バイオマーカー検査の有用性を確認する必要がある。敗血症の診断は, Sepsis-3 の臓器障害を伴う感染症となっている。従来の全身性炎症性反応を伴う感染症であった際には,臨床上急性膵炎のように発熱や炎症反応の増加を認めるが非感染症である場合や,感染症は存在するものの重 感染の診断〔診療フロー〕 -S 27-
症度を含め治療方法の選択に苦慮する場合が少なからず存在している。その際,敗血症の診断とともにバイオマーカー検査の結果を参考に治療を行う場合が多々ある。バイオマーカーとしては,C 反応性蛋白(CRP),プロカルシトニン(PCT),プレセプシン(P-SEP),インターロイキン6(IL-6)の4 種類のバイオマーカーが現在敗血症診断目的で用いられている。これら4 種類のバイオマーカーに関して,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では,救急外来や一般病棟などの非重症患者と集中治療室に入室する重症患者とに分けて,感染症診断の補助検査として非重症患者ではPCT,P-SEP またはIL-6 を日常的には評価しないことを弱く推奨し,重症患者ではPCT またはP-SEP を評価することを弱く推奨した 3, 4)。その後,バイオマーカーに関する数多くの報告がなされ,本ガイドラインにおいても敗血症診断目的で4 種類のバイオマーカーの評価を述べることは極めて重要であると考えた。また,救急外来や一般病棟などの非重症患者と集中治療室に入室するような重症患者とでは評価は異なるため,CQ2-4-1 として「一般病棟あるいは救急外来において,敗血症診断のバイオマーカー検査としてC 反応性蛋白(CRP),プロカルシトニン(PCT),プレセプシン(P-SEP),インターロイキン6(IL-6)の位置づけは?」,CQ2-4-2 として「集中治療室において,敗血症診断のバイオマーカー検査としてC 反応性蛋白(CRP),プロカルシトニン(PCT),プレセプシン(P-SEP),インターロイキン6(IL-6)の位置づけは?」を掲げる。 文 献 1) CoburnB, Morris AM, Tomlinson G, et al: Does this adult patient with suspected bacteremia require blood cultures?. JAMA. 2012; 308: 502-11. 2) Metlay JP, Waterer GW, Long AC, et al: Diagnosis and treatment of adults with community-acquired pneumonia. An official clinical practice guideline of the American thoracic society and infectious diseases society of America. Am J Respir Crit Care Med. 2019; 200: e45-67. 3) 西田修,小倉裕司,井上茂亮,他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会.日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 4) 西田修,小倉裕司,井上茂亮,他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会.日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. CQ2-1:血液培養はいつ採取す るか? Answer:抗菌薬投与前に2 セット以上採取する(Good Practice Statement)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症・敗血症性ショックの診療において,原因となる病原微生物の同定が極めて重要であり,適切な治療にもつながる。血液培養に関する一般的な推奨を記述することは,良質なエビデンスの有無にかかわらず重要であると記載されているが,依然として周知徹底されていないため,本ガイドラインでも踏襲する 1, 2)。 救急外来などで,未治療の敗血症疑い患者に対し,アルゴリズム的に抗菌薬投与前に血液培養2 セット以上を可及的速やかに採取することが重要である。また,術後感染や入院患者の敗血症の場合は,事前に抗菌薬が投与されている場合が少なくない。しかしこのような患者においても,できるだけ早急に血液培養2セット以上を採取することが重要である。 (2)解説 一般的に菌血症は,心内膜炎,中心静脈カテーテル感染,肺炎,膿瘍,骨髄炎,腹腔内感染症,尿路感染症などの感染症で生じ,高い死亡率を来している 3)。各種の迅速診断法が開発されているものの 4),現在でも血液培養は菌血症を診断するうえでの標準的検査法である。血液培養を採取するタイミングに関する良質なエビデンスがなく,本CQ に対し明確な推奨の提示はできない。 これまで,菌血症を疑う症状(発熱,悪寒・戦慄,低血圧,頻呼吸など)の出現,原因不明の低体温,低血圧,意識障害(特に高齢者),白血球数増加や減少,代謝性アシドーシス,免疫不全患者における呼吸不全・急性腎障害・急性肝機能障害などが見られた場合は敗血症を疑い,できるだけ早急に血液培養を2 セット以上採取することが推奨されている 5)。そのなかでも特に,38.5°C以上の発熱や戦慄が生じた場合は,早急に血液培養を2 セット以上採取することが勧められている。しかしながら,菌血症の可能性が低い場合の発熱や白血球の上昇のみでは,無理に血液培養を採取しなくてもよいとする報告もある 6)。 原則として,抗菌薬治療の開始が遅滞することのないよう留意しつつ,抗菌薬投与前に採取することが重要である。なぜなら,抗菌薬投与後では検出感度が低下し,菌を同定できない場合が多いためである 7)。抗 -S 28-
菌薬治療中の場合は,抗菌薬濃度がトラフ付近,すなわち次回の抗菌薬投与直前に採取する。また,治療に対する反応が乏しく,抗菌薬を変更する際も改めて採取することが望ましい。 採血量に関しては,多く採取すればするほど菌を同定する割合が高くなることが知られている 8)。しかしながら,採血量が多くなると医原性貧血を引き起こす可能性があり,一般的には1 セットあたり20~30mLの採血量が推奨されている。本邦では,汎用されている血液ボトルが10mL のものが多いため,1 セットあたり20mL が一般的である。Cheruvanky らは,医療経済学的にも30mL に比べて20mL のほうがよいと報告している 9)。 何セット採取するかという問題に関しては,1 セットだけでは感度の低下とコンタミネーションを排除できないことより否定的であり,少なくとも2 セット,可能なら3 セット採取するのが望ましいとの報告がある 8, 10)。実際,血液培養の陽性率は5~13% に過ぎず,20~56% にコンタミネーションがあるといわれている 11)。セットの数を増やせば感度は上昇する(1セットなら約80%,2 セットなら約89%,3 セットなら約98% との報告がある 7))。なお,4 セット以上採取しても感度の上昇は見込めず,患者負担が多くなるため避けるべきである。 コンタミネーションの疑いを減らすために,適切な皮膚消毒,複数セットの採血が必要である。適切な皮膚消毒として,1% グルコン酸クロルヘキシジン,ポビドンヨード,70% アルコールのうち,どれが最適な消毒薬かは依然として不明であるが,これらの薬剤を用いて正確な無菌操作を遵守することが重要であることは間違いない 12)。 なお,本CQ に関して,担当班から「抗菌薬投与前に2 セット以上採取する」という意見文が提案され,委員の全会一致により,「good practice statement (GPS)」として可決された。 文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) Long B, Koyfman A: Best clinical practice: Blood culture utility in the emergency department. J Emerg Med. 2016; 51: 529-39. 4) Huang TD, Melnik E, Bogaerts P, et al: Evaluation of the ePlex blood culture identification panels for detection of pathogens in bloodstream infections. J Clin Microbiol. 2019; 57: e01597-18. 5) Chandrasekar PH, Brown WJ: Clinical issues of blood cultures. Arch Intern Med. 1994; 154: 841-9. 6) Coburn B, Morris AM, Tomlinson G, et al: Does this adult patient with suspected bacteremia require blood culture? JAMA. 2012; 308: 502-11. 7) Phua J, Ngerng W, See K, et al: Characteristics and outcomes of culture–negative versus culture–positive severe sepsis. Crit Care. 2013; 17: R202. 8) Cockerill FR, Wilson JW, Vetter EA, et al: Optimal testing parameters for blood cultures. Clin Infect Dis. 2004; 38: 1724-30. Available online at: http: / /dx.doi.org / 10.1086 / 421087. Accessed June 1, 2020. 9) Cheruvanky A, Kirn TJ, Weinstein MP: Cost-effectiveness of 30compared to 20-milliliter blood cultures: a retrospective study. J Clin Microbiol. 2016; 54: 64-7. 10) Lee A, Mirrett S, Reller LB, et al: Detection of bloodstream infections in adults: how many blood cultures are needed? J Clin Microbiol. 2007; 45: 3546-8. 11) Lamy B, Dargère S, Arendrup MC, et al: How to optimize the use of blood cultures for the diagnosis of bloodstream infections? A state-of-the art. Front Microbiol. 2016; 7: 697. 12) Kiyoyama T, Tokuda Y, Shiiki S, et al: Isopropyl alcohol compared with isopropyl alcohol plus povidone-iodine as skin preparation for prevention of blood culture contamination. J Clin Microbiol. 2009; 47: 54-8. -S 29-
CQ2-2:血液培養 以外の培養検体は,いつ採取 するか? Answer:抗菌薬投与前に必要に応じて血液培養以外の各種培養検体を採取する(Good Practice Statement)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症・敗血症性ショックの診療において,感染臓器および原因微生物の同定は極めて重要である。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 においても,臨床像より感染源となっている可能性が否定できない部位からの検体を抗菌薬開始前に採取しておくことは,感染臓器および原因微生物の同定に極めて重要であることが述べられており 1, 2),本CQ の重要度は高い。 (2)解説 血液培養は血流感染や菌血症を診断する標準的検査法とみなされている。敗血症性ショック患者では血液培養検査の陽性率は69% との報告があるが,発熱があるからといって血液培養検査を行っても陽性率は高くないため,血液培養には限界がある 3)。特に,尿路感染,肺炎,髄膜炎といった感染症によって生じた敗血症の場合,血液培養だけで感染臓器および原因微生物を同定することは極めてむずかしい。多くのガイドラインでは,臨床像より感染源となっている可能性が否定できない部位から,検体をできる限り抗菌薬開始前に採取することについて,予後を改善するというエビデンスはないものの推奨されている 4-6)。 肺炎に関しては,肺炎の病態によって診断や治療は異なるが,喀痰培養が診断の手助けになる。しかしながら,喀痰は上気道のコンタミネーションのリスクを伴っているため,胸水や血液培養の結果と一致していない場合には解釈に注意が必要である。患者が重症で,人工呼吸管理のために気管挿管されている場合,気管吸引痰を採取して定量培養を行い,菌数が10 4 CFU / mL 以上であれば原因菌の可能性が高いと報告されている(抗菌薬投与前の吸引痰で,感度90%,特異度77%) 7)。また,人工呼吸器関連肺炎の診断においては,気管吸引痰で菌が分離されない場合には原因菌ではない確率が94% であるとの報告がある 8)。さらに,肺炎が原因または合併しているARDS の場合にも,気管支肺胞洗浄液の微生物検索は治療方針決定のためにも重要であり,患者の免疫力が低下している場合は,ニューモシスチス肺炎や肺真菌症の除外のためにも有用である 9)。尿路感染症の多くは,大腸常在菌による上行性尿路 感染であり,原因菌の証明と薬剤感受性を調べるために抗菌薬投与前に尿培養検査を施行する。再発性または難治性の場合には抗菌薬投与が行われているため, 2~3 日間の休薬を挟んで尿培養検査を施行する 5, 10)。 細菌性髄膜炎に関しては,血液培養・髄液培養の有用性を確認したランダム化比較試験(RCT)はないが,頭部CT や臨床所見より脳ヘルニアが疑われず,腰椎穿刺が禁忌でない限り,頭痛,意識障害などにより髄膜炎を疑うすべての患者に抗菌薬投与前に髄液を採取することが望ましい 6)。しかしながら,髄液採取に時間がかかる場合には抗菌薬投与を優先すべきである。髄液培養の陽性率は未治療では70~80%,抗菌薬治療後では50% 以下といわれている 11)。細菌性髄膜炎において,髄液培養の陽性率は採取量が多いほど,また遠心(1,500~2,500×g,15 分)を行うほど検出率は高くなる 12)。 なお,本CQ に関して,担当班から「抗菌薬投与前に必要に応じて血液培養以外の各種培養検体を採取する」という意見文が提案され,委員の全会一致により,「good practice statement (GPS)」として可決された。 文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) Coburn B, Morris AM, Tomlinson G, et al: Does this adult patient with suspected bacteremia require blood cultures? JAMA. 2012; 308: 502-11. 4) 日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017 作成委員会: 成人肺炎診療ガイドライン2017. 日本呼吸器学会, 東京, 2017. 5) 山本新吾, 石川清仁, 速見浩士, 他: JAID / JSC 感染症治療ガイドライン2015―尿路感染症・男性性器感染症―. 日化療会誌. 2015; 64: 1-30. 6) 細菌性髄膜炎診療ガイドライン作成委員会: 細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014. 南江堂, 東京, 2014. 7) El Solh AA, Akinnusi ME, Pineda LA, et al: Diagnostic yield of quantitative endotracheal aspirates in patients with severe nursing home-acquired pneumonia. Crit Care. 2007; 11: R57. 8) Blot F, Raynard B, Chachaty E, et al: Value of gram stain examination of lower respiratory tract secretions for early diagnosis of nosocomial pneumonia. Am J Respir Crit Care Med. 2000; 162: 1731-7. 9) 日本集中治療医学会/日本呼吸療法医学会ARDS 診療ガイドライン作成委員会: ARDS 診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: 57-63. 10) Ishikawa K, Matsumoto T, Yasuda M, et al: The nationwide study of bacterial pathogens associated with urinary tract infections conducted by the Japanese Society of Chemotherapy. J Infect Chemother. 2011; 17: 126-38. -S 30-
11) McGill F, Heyderman RS, Panagiotou S, et al: Acute bacterial meningitis in adults. Lancet. 2016; 388: 3036-47. 12) Gray LD, Fedorko DP: Laboratory diagnosis of bacterial meningitis. Clin Microbiol Rev. 1992; 5: 130-45. CQ2-3:抗菌薬投与前のグラム染色は有用か? Answer:経験的治療に採用する抗菌薬を選択する際に,培養検体のグラム染色所見を参考にすることを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 1, 2)で指摘されたように,経験的治療に採用する抗菌薬を選択する際に,グラム染色所見を参考にするというプラクティスは広く普及しており,病態生理の側面からも一定の妥当性があると考える。また,実際にグラム染色は簡便で迅速に施行することができ,しかも安価である。本ガイドラインにおいても,グラム染色が有用であるか否かは重要な課題であり,意見を記述しておくべきであると考える。 (2)PICO P (患者): 感染症,敗血症,敗血症性ショックを 疑う患者I (介入): 血液培養検査判明前にグラム染色を行うC (対照): 非介入O (アウトカム): 院内死亡,ICU 滞在日数,あらゆ る重篤な副作用,感染性合併症,血圧低下 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するランダム化比較試験(RCT)は存在しなかった。 (4)益と害のバランス望ましい効果: ● 経験的治療に採用する抗菌薬を選択する際に,参考 になる場合がある。● 市中肺炎,尿路感染,細菌性髄膜炎などで比較的良 好な特異度が報告されている。✓ ATS/IDSA の市中肺炎のガイドライン2019 3)で は,治療前の喀痰のグラム染色と培養は行うべきとなっている(重症肺炎で挿管した場合, MRSA や緑膿菌のためにエンピリックに治療を開始する場合,MRSA や緑膿菌の既感染がある場合,入院中や90 日以内に経口抗菌薬を投与されている場合には行うべきである)。✓ JAID / JSC 感染症治療ガイドライン2015 4)の尿 路感染症・男性性器感染症では,カテーテル関 -S 31-
連尿路感染症の場合,尿のグラム染色が原因菌の推定に役立つことが示されている。成人肺炎患者において,入院患者の下気道から分離される菌は定着菌であることも多いため,好中球貪食像の有無による起炎菌の判定にグラム染色が有用である。グラム染色所見に基づく抗菌薬選択は適切なempiric therapy につながり,definitive therapy につながる場合も多い。✓ 細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014 5)では,グ ラム染色が簡易で,速やかに結果が得られる検査であり,感度50~90%,特異度60~90%,最小検出感度10 5cfu / mL であることが報告されている。また,菌株により検出感度が高いものもある(肺炎球菌90%,インフルエンザ菌86%,髄膜炎菌75% など)。望ましくない効果: 本検査結果のみで抗菌薬を選択すると,重症病態にもかかわらず不適切な狭域抗微生物薬が選択されるリスクがある。また,検査施行者により感度・特異度が影響され,不適切な抗菌薬選択のリスクがある(検者の不適切な検査手技,不十分な検鏡経験などによる偽陽性・偽陰性の可能性がある)。また,ATS/IDSA の市中肺炎のガイドライン2019 3)では,抗菌薬投与により菌株が変化する可能性があるため,治療後に得られた喀痰におけるグラム染色は推奨しないことになっている。益と害のバランス: PICO に合致するRCT は存在せず不明であるが,患者の状態によってそのバランスは異なると考えられる。グラム染色は簡便で迅速に施行することができ, しかも安価であることから,その有用性と限界を理解したうえで行うことは,おそらく益が害を上回るものと考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するRCT は存在しなかった。 (6)価値観 死亡率が低下することについて患者・家族は一般的に重視すると考えられ,不確実性やばらつきはないと考える。 (7)容認性 グラム染色は簡便で迅速に施行することができ,しかも安価であることから,容認性はおそらく妥当なものといえる。 (8)実行可能性 多くの集中治療室では,グラム染色が行えると考える。 (9)判断の要約(Table 2-3-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.015 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 Table 2-3-1 判断の要約 -S 32-
(11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 市中肺炎,尿路感染,細菌性髄膜炎などのガイドラインにおいて,グラム染色の有用性,欠点に関して指摘されている。詳細は,(4)益と害のバランスに記載したとおりである。 (12)実施に関わる検討事項 検査前に抗菌薬を投与してしまった場合や,抗菌薬の投与を急ぐ場合,益と害のバランスが異なる可能性がある。 (13)今後の研究の可能性 グラム染色の有用性に関するRCT がないことは明らかであり,グラム染色を行うことによる生存率の改善や,選択した抗菌薬の有効性などに関する検証を行うRCT が必要である。 文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) Metlay JP, Waterer GW, Long AC, et al: Diagnosis and treatment of adults with community-acquired pneumonia. An official clinical practice guideline of the American thoracic society and infectious diseases society of America. Am J Respir Crit Care Med. 2019; 200: e45-67. 4) 山本新吾, 石川清仁, 速見浩士, 他: JAID / JSC 感染症治療ガイドライン2015―尿路感染症・男性性器感染症―. 日化療会誌. 2015; 64: 1-30. 5) 細菌性髄膜炎診療ガイドライン作成委員会: 細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014. 南江堂, 東京, 2014. CQ2-4-1:一般病棟あるいは救急外来において, 敗血症診断のバイオマーカー検査としてC 反応性蛋白(CRP),プロカルシトニン(PCT),プレセプシン(P-SEP),インターロイキン6(IL-6)の位置づけは? Answer:一般病棟あるいは救急外来において,敗血症を疑ったときのバイオマーカー検査の感度,特異度は,C R P では59%,79%,P C T では74%,81%, P-SEP では75%,74%,IL-6 では78%,78% であった。したがって,バイオマーカー単独による敗血症診断は一般的に困難と考えられ,その使用はいずれも全身状態観察などに加えた補助的な位置づけといえる(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症(Sepsis-3)の診断は,現在,“重篤な臓器障害を認める感染症”となっている。しかし,臨床上,感染症を疑うが確定診断に直ちには至らない場合,治療方法の選択に苦慮することも少なくない。このような場合に,バイオマーカーの利用可能性を確認する価値がある。バイオマーカーとしては,CRP,PCT, P-SEP,IL-6 の4 種類が用いられている。これらのバイオマーカーに関して,前回の日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では,救急外来や一般病棟などの非重症患者において敗血症が疑われる場合,感染症診断の補助検査としてP-SEP またはPCT またはIL-6 を日常的には評価しないことを弱く推奨すると提言した 1, 2)。その後,バイオマーカーに関する数多くの報告がなされ,一般病棟あるいは救急外来における敗血症診断目的で4 種類のバイオマーカーを評価することが必要であると考え,本ガイドラインにおいても取り上げた。 (2) 本CQ がbackground question(BQ)となった経 緯本CQ は当初,『感染症診断にバイオマーカーとしてCRP,PCT,P-SEP,IL-6 のいずれを用いるか?』というGRADE に則ったCQ であった。しかし,感染症診断となると,対象疾患が非常に広範囲となるため,本ガイドラインの特性を鑑みて,全身状態に悪影響を及ぼすような重篤な病態である敗血症に焦点を置くこととなった。システマティックレビューはCQ2-4-2 と合わせて網羅的文献検索を行い,その抽出論文から「一般病棟あるいは救急外来部門」と「集中治療部門」に分けて診断精度研究のシステマティックレビューを -S 33-
行った。「一般病棟あるいは救急外来部門」で対象となった論文は計11 編で,各バイオマーカーのメタ解析で統合された論文は,CRP 8 編 3-10),PCT 11編 3-13),P-SEP 4 編 8, 9, 12, 13),IL-6 4 編 3, 5, 6, 11)である。 その結果をもとにエビデンスプロファイル(EP), evidence to decision(EtD)をまとめ,『PCT,P-SEP, IL-6 の診断精度は比較的正確であると考えられるが,患者や家族における重要なアウトカムに対する効果のバランスは拮抗していることから,CRP も含め,いずれのバイオマーカーも弱い非推奨』としてAnswerを提示し,委員会での投票が行われた。 2 回の投票の結果,合意形成に至らなかった(同意中央値7 点,不一致指数0.1826)。委員からは,これまで広く日常的に測定しているCRP,PCT,P-SEP などの検査を行わなくて良いと解釈され,バイオマーカー測定が行われなくなることが懸念されるとの意見が出された。委員会で議論を重ねた結果,最終的に本CQ はBQ として扱う方針となった。(3)解説 以下の解説は,システマティックレビューの結果およびGRADE の推奨工程として作成したEP(Table 2-4-1-1~2-4-1-4)を参考に作成した。 本CQ におけるシステマティックレビューの結果では,一般病棟あるいは救急外来において,敗血症を疑った場合のバイオマーカー検査の感度,特異度は, CRP では59%,79%,PCT では74%,81%,P-SEP では75%,74%,IL-6 では78%,78% であった。実際の臨床では,CRP のみしか測定できない施設もあれば,複数のバイオマーカーが測定可能な施設もある。そのため,敗血症を疑った場合の補助としてCRP を用いるのであれば,PCT,P-SEP,IL-6 よりも感度が劣ることを考慮する必要がある。もしもCRP に加えPCT,P-SEP,IL-6 いずれかのバイオマーカーを測定可能な施設であれば,上記システマティックレビューの結果から敗血症を疑う補助として,より参考になる可能性がある。このように,これらのバイオマーカーは一部の症例に対して有意義な結果をもたらす可能性 Table 2-4-1-1 エビデンスプロファイル(一般病棟あるいは救急外来におけるCRP) Table 2-4-1-2 エビデンスプロファイル(一般病棟あるいは救急外来におけるPCT) -S 34-
もあるが,測定結果の解釈は,患者の状況,採血した時間,場所など様々な要因により変化することにも注意が必要である。そのため,メタ解析から得られた感度,特異度を具体的に提示したうえで,様々な状況下に置かれた読者に個々に判断していただくこととした。 当委員会では,本CQ に対して,『バイオマーカー単独による敗血症診断は一般的に困難と考えられ,その使用はいずれも全身状態観察などに加えた補助的な位置づけといえる』というAnswer を提示する。 文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) Gaini S, Koldkjaer OG, Pedersen C, et al: Procalcitonin, lipopolysaccharide-binding protein, interleukin-6 and C-reactive protein in community-acquired infections and sepsis: a prospective study. Crit Care. 2006; 10: R53. 4) Jaimes FA, De La Rosa GD, Valencia ML, et al: A latent class approach for sepsis diagnosis supports use of procalcitonin in the emergency room for diagnosis of severe sepsis. BMC Anesthesiol. 2013; 13: 23. 5) Jekarl DW, Lee SY, Lee J, et al: Procalcitonin as a diagnostic marker and IL-6 as a prognostic marker for sepsis. Diagn Microbiol Infect Dis. 2013; 75: 342-7. 6) Jekarl DW, Kim JY, Lee S, et al: Diagnosis and evaluation of severity of sepsis via the use of biomarkers and profiles of 13 cytokines: A multiplex analysis. Clin Chem Lab Med. 2015; 53: 575-81. 7) Oshita H, Sakurai J, Kamitsuna M: Semi-quantitative procalcitonin test for the diagnosis of bacterial infection: Clinical use and experience in Japan. J Microbiol Immunol Infect. 2010; 43: 222-7. 8) de Guadiana Romualdo LG, Torrella PE, González MV, et al: Diagnostic accuracy of presepsin (soluble CD14 subtype) for prediction of bacteremia in patients with systemic inflammatory response syndrome in the emergency department. Clin Biochem. 2014; 47: 505-8. 9) de Guadiana Romualdo LG, Torrella PE, Acebes SR, et al: Diagnostic accuracy of presepsin (sCD14-ST) as a biomarker of infection and sepsis in the emergency department. Clin Chim Acta. 2017; 464: 6-11. 10) de Guadiana Romualdo LG, Albaladejo Otón MD, Acebes SR, et al: Diagnostic accuracy of lipopolysaccharide-binding protein for sepsis in patients with suspected infection in the emergency department. Ann Clin Biochem. 2018; 55: 143-8. Table 2-4-1-3 エビデンスプロファイル(一般病棟あるいは救急外来におけるP-SEP) Table 2-4-1-4 エビデンスプロファイル(一般病棟あるいは救急外来におけるIL-6) -S 35-
11) Angeletti S, Dicuonzo G, Fioravanti M, et al: Procalcitonin, MR-Proadrenomedullin, and Cytokines Measurement in Sepsis Diagnosis: Advantages from Test Combination. Dis Markers. 2015; 2015: 951532. 12) Liu B, Chen YX, Yin Q, et al: Diagnostic value and prognostic evaluation of Presepsin for sepsis in an emergency department. Crit Care. 2013; 17: R244. 13) Ulla M, Pizzolato E, Lucchiari M, et al: Diagnostic and prognostic value of presepsin in the management of sepsis in the emergency department: A multicenter prospective study. Crit Care. 2013; 17: R168. CQ2-4-2:集中治療室において,敗血症診断のバ イオマーカー検査としてC 反応性蛋白(CRP),プロカルシトニン(PCT),プレセプシン(P-SEP),インターロイキン6(IL-6)の位置づけは? Answer:集中治療室において,敗血症を疑ったときのバイオマーカー検査の感度,特異度は,CRP では71%,61%,PCT では74%,70%,P-SEP では82%, 73%,IL-6 では72%,76% であった。したがって,バイオマーカー単独による敗血症診断は一般的に困難と考えられ,その使用はいずれも全身状態観察などに加えた補助的な位置づけといえる(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症(Sepsis-3)の診断は,現在,“重篤な臓器障害を認める感染症”となっている。しかし,臨床上,感染症を疑うが確定診断に直ちには至らない場合,治療方法の選択に苦慮することも少なくない。このような場合に,バイオマーカーの利用可能性を確認する価値がある。バイオマーカーとしては,CRP,PCT, P-SEP,IL-6 の4 種類が集中治療室において診断目的で用いられている。これらのバイオマーカーに関して,前回の日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG) 2016 では,ICU などの重症患者において敗血症が疑われる場合,感染症診断の補助検査としてP-SEP またはPCT を評価することを弱く推奨し,IL-6 を日常的には評価しないことを弱く推奨すると提言した 1, 2)。その後,バイオマーカーに関する数多くの報告がなされ,集中治療室における敗血症診断目的で4種類のバイオマーカーを評価することが必要であると考え,本ガイドラインにおいても取り上げた。 (2) 本CQ がbackground question (BQ)となった経 緯本CQ は当初,『感染症診断にバイオマーカーとしてCRP,PCT,P-SEP,IL-6 のいずれを用いるか?』というGRADE に則ったCQ であった。しかし,本ガイドラインの特性を鑑みて,全身状態に悪影響を及ぼすような重篤な病態である敗血症に焦点を置くこととなった。システマティックレビューはCQ2-4-1 と合わせて網羅的文献検索を行い,その抽出論文から「一般病棟あるいは救急外来部門」と「集中治療部門」に分けて診断精度研究のシステマティックレビューを行った。「集中治療部門」で対象となった論文は計9 編で,各バイオマーカーのメタ解析で統合された論文は,CRP -S 36-
7 編 3-9),PCT 9 編 3-11),P-SEP 4 編 3, 7, 8, 10),IL-6 6編 4-7, 9, 11)である。 その結果をもとにエビデンスプロファイル(EP), evidence to decision(EtD)をまとめ,GRADE で評価を行い,『集中治療室において敗血症診断のバイオマーカーとして,CRP,PCT,P-SEP を測定することを弱く推奨する。IL-6 を測定しないことを弱く推奨する』という推奨文を提示し,委員会での投票が行われた。2 回の投票の結果,合意形成に至らなかった(同意中央値7 点,不一致指数0.0184)。委員からは,「感染症ではなく敗血症の診断において,バイオマーカー単独の役割はあくまで補助的である」「CRP がPCT,P-SEP と同じ弱い推奨,IL-6 だけが弱い非推奨とする評価は,適切とはいえない」などの意見が出された。委員会で議論を重ねた結果,最終的に本CQ はBQ として扱うほうが適切と判断した。(3)解説 以下の解説は,システマティックレビューの結果およびGRADE の推奨工程として作成したEP(Table 2-4-2-1~2-4-2-4)を参考に作成した。 本CQ におけるシステマティックレビューの結果では,集中治療室において,敗血症を疑った場合のバイオマーカー検査の感度,特異度は,CRP では71%, 61%,PCT では74%,70%,P-SEP では82%,73%, IL-6 では72%,76% であり,この結果は,感度,特異度ともに十分に高いとも低いともいえないものである。 システマティックレビューに用いた個々の論文 3-5)からは,バイオマーカーが敗血症の診断に対して有意義な結果をもたらす可能性も示唆される。一方で,バイオマーカー測定結果が,患者の状況,採血した時期など様々な要因により変化したり,細菌の種類,感染部位によっても影響を受けることにも注意が必要である。そのため,メタ解析から得られた感度,特異度を Table 2-4-2-1 エビデンスプロファイル(ICUにおけるCRP) Table 2-4-2-2 エビデンスプロファイル(ICUにおけるPCT) -S 37-
具体的に提示したうえで,様々な状況下に置かれた読者に個々に判断していただくこととした。 当委員会では,本CQ に対して,『バイオマーカー単独による敗血症診断は一般的に困難と考えられ,その使用はいずれも全身状態観察などに加えた補助的な位置づけといえる』というAnswer を提示する。 文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) Ali FT, Ali MAM, Elnakeeb MM, et al: Presepsin is an early monitoring biomarker for predicting clinical outcome in patients with sepsis. Clin Chim Acta. 2016; 460: 93-101. 4) Bacli C, Sungurtekin H, Gürses E, et al: Usefulness of procalcitonin for diagnosis of sepsis in the intensive care unit. Critical Care. 2003; 7: 85-90. 5) Du B, Pan J, Cheng D, et al: Serum procalcitonin and interleukin-6 levels may help to differentiate systemic inflammatory response of infectious and non-infectious origin. Chin Med J (Engl). 2003; 116: 538-42. 6) Meynaar IA, Droog W, Batstra M, et al: In critically ill patients, serum procalcitonin is more useful in differentiating between sepsis and SIRS than CRP, Il-6, or LBP. Crit Care Res Pract. 2011; 2011: 594645. 7) Takahashi W, Nakada TA, Yazaki M, et al: Interleukin-6 Levels Act as a Diagnostic Marker for Infection and a Prognostic Marker in Patients with Organ Dysfunction in Intensive Care Units. Shock. 2016; 46: 254-60. 8) Yamamoto T, Nishimura T, Kaga S, et al: Diagnostic accuracy of presepsin for sepsis by the new Sepsis-3 definitions. Am J Emerg Med. 2019; 37: 1936-41. 9) Yang Y, Xie J, Guo F, et al: Combination of C-reactive protein, procalcitonin and sepsis-related organ failure score for the diagnosis of sepsis in critical patients. Ann Intensive Care. 2016; 6: 51. 10) Klouche K, Cristol JP, Devin J, et al: Diagnostic and prognostic value of soluble CD14 subtype (Presepsin) for sepsis and community-acquired pneumonia in ICU patients. Ann Intensive Care. 2016; 6: 59. 11) Mat-Nor MB, Md Ralib A, Abdulah NZ, et al: The diagnostic ability of procalcitonin and interleukin-6 to differentiate infectious from noninfectious systemic inflammatory response syndrome and to predict mortality. J Crit Care. 2016; 33: 245-51. Table 2-4-2-3 エビデンスプロファイル(ICUにおけるP-SEP) Table 2-4-2-4 エビデンスプロファイル(ICUにおけるIL-6) -S 38-
CQ3:画像診断と感染源のコントロール 敗血症に対して,早期に治療を開始することの重要性は広く受け入れられている。早期治療の中でも,感染源のコントロールは,敗血症の根源である「感染巣」を絶ち「コントロールする」ことにより有効性を発揮する治療法であり,初期治療の礎をなす。迅速に適切な感染源のコントロールを行うためには画像診断は必要不可欠である。したがって画像診断に関するCQ を2 つまず取り上げ,続いて感染源のコントロールに関するCQ を7 つ取り上げた。 まず画像診断に関する1 つ目のCQ として,「CQ 3-1:敗血症を疑う患者に対して,感染源検索のために画像検査を行うか?」を取り上げた。感染源検索のための画像検査には,単純X 線,超音波検査,CT 検査,MRI 検査があり,部位により有用性の高い検査方法は異なる。本CQ の解説では,実際の診療現場で参考にしていただけるように,各臓器・疾患に特有と考えられる画像診断法について表も含め解説している。 次に画像診断に関する2 つ目のCQ として,全身造影CT 検査に関するCQ「CQ3-2:感染源が不明な敗血症患者に対して,全身造影CT 検査を早期に行うか?」を取り上げた。感染源が不明である場合,早期に感染源の検索を行うことは治療方針を策定するためにも必要不可欠である。本邦で普及している画像診断 であるCT 検査を行うことは局所診断および感染源の重症度を判断するためにも重要であるため,CQ として取り上げた。 続いて感染源のコントロールに関するCQ の選定について議論を重ね,特に感染源のコントロールが重要と考えられる,下記の6 つの感染源,1)腹腔内感染症,2)感染性膵壊死,3)尿管閉塞を原因とする急性腎盂腎炎,4)壊死性軟部組織感染症,5)カテーテル関連血流感染,6)膿胸を選び,CQ として設定した。 感染源のコントロールの基本方針は「迅速に」「適切に」であることは誰もが知るところである。手法に関しては,低侵襲で,合併症発生率が低く,十分な効果が期待できる手法が最善である。また,基本的に感染源のコントロールは迅速に行うべきであるが,例外として,待機的な介入を考慮するものとして感染性膵壊死が挙げられることを提示した。 画像診断と感染源のコントロール〔診療フロー〕 -S 39-
CQ3-1:敗血症を疑う患者に対して,感染源検 索のために画像検査を行うか? Answer:感染源が明らかでない場合は,感染源検索のために画像検査を行う(Good Practice Statement)。 (1)背景および本CQ の重要度 早期の感染源のコントロールは,敗血症患者の転帰改善につながる重要な治療法である。そのため,敗血症を疑う患者に対して,コントロールが必要な感染源が存在するかどうかを早期に評価することは重要であり,その手段として画像検査を考慮する必要があると考え,本CQ の立案に至った。 (2)解説 感染源検索のための画像検査には,単純X 線検査,超音波検査,CT 検査,MRI 検査があり,部位により有用性の高い検査方法は異なる。以下に各臓器・疾患に特有と考えられる画像診断法について解説する(Table 3-1-1)。1頭頸部 脳膿瘍・髄膜脳炎:CT 検査はMRI 検査に比して緊急検査として施行しやすいため,先行して施行される場合が多い。造影MRI 検査は,膿瘍の被膜や周囲組織への炎症の波及を検出できるため最も推奨される画像検査である 1)。 頸部膿瘍(降下性縦隔炎):体表に近い頸部膿瘍は超音波検査にて検出可能であるが,深頸部の膿瘍の検出には限界があり,CT 検査が有用である。造影剤を用いたCT 検査は感染による液体貯留と血管などの構造物を明瞭に鑑別できるため推奨される検査である 2)。2胸部 膿胸:単純X 線検査,超音波検査は第1 選択の検査である。膿胸を疑う際,造影CT 検査は感染源のコ ントロールの実施や治療経過の評価を行うための指標として有用な検査である。 感染性心内膜炎:感染性心内膜炎の診断基準(Dukeの診断基準) 3)の2 大項目の1 つは心臓超音波検査所見であり,感染性心内膜炎を疑う場合は,全症例に対して経胸壁心臓超音波検査をfirst-line として実施する。経食道心臓超音波検査の感染性心内膜炎に対する診断精度は,経胸壁に比べ優れているため,必要例に経食道心臓超音波検査を追加することが推奨されている 4)。3腹部 腸管穿孔・腹膜炎:単純X 線検査,超音波検査は最初に施行される検査である。さらに評価が必要な場合は,引き続きCT 検査を行う。臓器や腸管の虚血の有無など詳細な評価が必要な場合は,造影CT 検査が推奨される(急性腹症診療ガイドライン2015 5))。 胆嚢炎・胆管炎:超音波検査,CT 検査は最も推奨される検査である。造影CT 検査では有用な所見を描出できる。またMRI / MRCP も画像検査の選択肢として推奨されている 6)。 閉塞性尿路感染症:超音波検査がfirst-line として実施すべき検査である。もし閉塞性尿路感染症を疑う所見を認めれば,閉塞の原因を精査するためにCT 検査を実施することが推奨されている 7)。4その他 壊死性軟部組織感染症:造影CT 検査は軟部組織の腫脹や軟部組織内の液体貯留を検出可能であり,施行すべき検査である。しかしながら,壊死性筋膜炎の確定診断を造影CT 検査のみでは行えない。壊死性筋膜炎の確定診断は,外科的に皮下組織・筋膜を試験開創し,筋膜・筋を直接観察することが必要である 8)。 画像検査は,最適な治療法の選択を可能にするとい Table 3-1-1 感染源のコントロールが必要な疾患と画像検査 主に想定される検査 単純X 線検査超音波検査CT 検査MRI 検査 頭頸部脳膿瘍・髄膜脳炎○造影○造影,FLAIR 像(脳炎) 頸部膿瘍(降下性縦隔炎) ○ ○造影胸 部膿胸○ ○ ○造影 感染性心内膜炎○*腹 部腸管穿孔・腹膜炎○ ○ ○造影 胆嚢炎・胆管炎○ ○造影○(MRI/MRCP)閉塞性尿路感染症○ ○ ○その他壊死性軟部組織感染症○造影*感染性心内膜炎の診断精度は経胸壁に比べ,経食道心臓超音波検査の方が優れている。 -S 40-
う観点で有益である。一方,X 線被曝・造影剤使用のリスク,特に重症患者の場合は検査室への移動中に急変のリスクなどの害があることも十分に認識する必要がある。 文 献 1) Brouwer MC, Tunkel AR, McKhann GM 2nd, et al: Brain abscess. N Engl J Med. 2014; 371: 447-56. 2) Maroldi R, Farina D, Ravanelli M, et al: Emergency Imaging Assessment of Deep Neck Space Infections. Semin. Ultrasound, CT MR. 2012; 33: 432-42. 3) Li JS, Sexton DJ, Mick N, et al: Proposed modifications to the duke criteria for the diagnosis of infective endocarditis. Clin Infect Dis. 2000; 30: 633-8. 4) Habib G, Lancellotti P, Antunes MJ, et al: 2015 ESC Guidelines for the management of infective endocarditis: The Task Force for the Management of Infective Endocarditis of the European Society of Cardiology (ESC). Eur Heart J. 2015; 36: 3075-128. 5) 小豆畑丈夫, 前田重信, 吉田雅博, 他: 急性腹症診療ガイドライン2015. 日腹部救急医会誌. 2017; 37: 551-7. 6) Kiriyama S, Kozaka K, Takada T, et al: Tokyo Guidelines 2018: diagnostic criteria and severity grading of acute cholangitis (with videos). J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2018; 25: 17-3. 7) Wagenlehner FM, Lichtenstern C, Rolfes C, et al: Diagnosis and management for urosepsis. Int J Urol. 2013; 20: 963-70. 8) Stevens DL, Bisno AL, Chambers HF, et al: Practice guidelines for the diagnosis and management of skin and soft tissue infections: 2014 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2014; 59: e10-52. CQ3-2:感染源が不明な敗血症患者に対して, 全身造影CT 検査を早期に行うか? Answer:感染源が不明な敗血症患者に対して,可及的速やかに全身造影CT 検査を行うことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症では,感染源に対する早期の適切な治療介入が推奨されている 1)。感染源が不明である場合,早期に感染源の検索を行うことは,治療方針を策定するためにも必要不可欠であり,本邦で普及している画像診断としてのCT 検査を行うことは,局所診断および感染源の重症度を判断するためにも重要である。そのため,本ガイドラインのCQ として取り上げた。 (2)PICO P (患者):感染源が不明な敗血症,敗血症性ショッ ク患者I (介入):全身造影CT 検査を行うC (対照):全身造影CT 検査を行わないO (アウトカム):28 日死亡,病院死亡,ICU 滞在 日数,造影剤腎症,検査移動のリスク (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致した敗血症診断基準を満たした患者および集中治療患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)は,過去に施行されていないことが確認された。 (4)益と害のバランス望ましい効果: 感染源が不明な敗血症では,標準治療を行っても全身状態の改善に至らない可能性がある。したがって,生命予後改善のためには早期に全身造影CT 検査を施行し,感染源を明らかにする努力が必要であり,その結果により患者にとって望ましい治療介入が可能となると考えられる。望ましくない効果: 全身造影CT 検査に際しては,集中治療室や病棟からの移動が必要である。ショックを合併している場合など,移動に伴うさらなる循環動態の不安定化が懸念される。また,造影剤を使用することから,ヨードアレルギーや造影剤腎症の発症も懸念される。益と害のバランス: PICO に合致するRCT は存在せず,不明であるが, -S 41-
患者の状態によってそのバランスは異なると考えられる。少なくとも感染源が不明である場合には,全身造影CT 検査を施行することにより感染源が判明する可能性がある。移動に伴う循環動態の不安定化や造影剤腎症,ヨードアレルギーなどの害との比較では,益が上回るものと考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するRCT は存在しなかった。 (6)価値観 死亡率が低下することについて患者・家族は一般的に重視すると考えられ,不確実性やばらつきはないと考えられる。 (7)容認性 検査室への移動を伴うため,医師,看護師などの医療従事者の仕事量が増大するが,集中治療室での仕事の範疇であり,特にその影響は少ないと考えられる。全身造影CT 検査に伴うコストの増大があるが,全体の診療に占める割合は非常に少なく,容認性は妥当なものといえる。 (8)実行可能性 本邦は世界の中で人口あたりのCT 撮像装置の普及が最も進んだ地域であり,敗血症診療を行う多くの施設に装備されているため,実行可能であると考えられる。 (9)判断の要約(Table 3-2-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:95.8%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 では画像診断を行うことを強く推奨している 2)。 (12)実施に関わる検討事項 感染源の検索として,すべての臓器に対し造影CTが有用とは限らない。臓器に特異的な検査方法が優先される場合もあり,感染源不明の敗血症における臓器別の造影CT の有用性について検討が必要である。 (13)今後の研究の可能性 感染源を明確にし,重症度評価あるいは的確な介入計画を立案するためにも造影CT は重要である。しかし,感染源が不明な場合に造影CT 施行の有無によるRCT は存在せず,今後もRCT の実施は困難である。また,造影剤使用による造影剤腎症やアレルギー発症のリスクと検査室移動に関する循環動態への影響など,今後,さらに検討が必要である。 文 献 1) De Waele JJ: Early source control in sepsis. Langenbecks Arch Surg. 2010; 395: 489-94. 2) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. Table 3-2-1 判断の要約 -S 42-
CQ3-3:腹腔内感染症による敗血症患者に対し て,外科手術 / 侵襲的ドレナージ術による感染源のコントロールを行うか? Answer:腹腔内感染症による敗血症患者に対して,可及的速やかに外科手術 / 侵襲的ドレナージ術(膿瘍ドレナージ,胆道 / 胆嚢ドレナージを含む)による感染源のコントロールを行うことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 腹腔内感染症は,適切な感染源のコントロール(外科手術または膿瘍ドレナージ,胆道 / 胆嚢ドレナージを含むドレナージ術)の必要な病態であり,重要臨床課題である。そのため,本ガイドラインのCQ として取り上げた。 (2)PICO P (患者):腹腔内感染症による敗血症患者I (介入):感染源のコントロール[外科手術または 侵襲的ドレナージ術(膿瘍ドレナージ,胆道 / 胆嚢ドレナージを含む)]を行うC (対照):感染源のコントロール[外科手術または ドレナージ術(膿瘍ドレナージ,胆道 / 胆嚢ドレナージを含む)]を行わないO (アウトカム):28 日死亡,院内死亡,ICU 滞在 日数,病院滞在日数,感染源のコントロールに伴う合併症 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致した敗血症診断基準を満たした患者および集中治療患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)は,過去に施行されていないことが確認された。 (4)益と害のバランス望 ましい効果: 下部消化管穿孔による汎発性腹膜炎など,感染源のコントロールを行わない通常の抗菌薬治療のみでは改善する可能性が非常に乏しい腹腔内感染症による敗血症では,迅速な感染源のコントロールを行うことにより患者に益する可能性が高いと考える。望 ましくない効果: 実際の臨床で生じることが予想される害としては,外科手術または侵襲的ドレナージ術施行に関連し,出血・臓器損傷・生体侵襲による全身状態悪化・感染などが考えられる。 益 と害のバランス: PICO に合致するRCT は存在せず,効果のバランスは不明である。腹腔内感染症による敗血症は,外科手術または侵襲的ドレナージ術(膿瘍ドレナージ,胆道 / 胆嚢ドレナージを含む)を行って得られる利益と,外科手術または侵襲的ドレナージ術に関連する出血・臓器損傷・生体侵襲による全身状態悪化・感染などの害を比較しても,おそらく益が害を上回ると考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するRCT は存在しなかった。 (6)価値観 死亡率が低下することについて,患者・家族は一般的に重視すると考えられ,不確実性やばらつきはないと考える。 (7)容認性 外科手術または侵襲的ドレナージ術(膿瘍ドレナージ,胆道 / 胆嚢ドレナージを含む)は保険診療で認められた標準的治療法であり,原因の解消を行わなければ回復する可能性は低く,迅速な感染源のコントロールを行うことは患者にとって益が害を上回る可能性が高いことから,容認性はおそらく妥当なものと考える。 (8)実行可能性 外科手術または侵襲的ドレナージ術(膿瘍ドレナージ,胆道 / 胆嚢ドレナージを含む)は,敗血症診療を行う多くの施設で実行可能であると考えられる。しかしながら,状況により実行不可能な場合は,迅速に施行可能な施設への移送などの負担が生じる。 (9)判断の要約(Table 3-3-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.292 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 においては,腹腔内感染症に限定したCQ は取り上げられていない 1)。米国外科感染症学会 -S 43-
のガイドライン 2, 3)では迅速な感染源のコントロールの重要性が強調されている。 (12)実施に関わる検討事項 感染巣の部位・大きさ,患者の全身状態により,侵襲的処置(外科手術とドレナージ術)による益と害のバランスが異なる可能性がある。 (13)今後の研究の可能性 腹腔内感染症による敗血症患者に対しての感染源のコントロールに関するRCT が存在しないことが明らかとなった。感染源のコントロール方法は,外科手術(開腹・腹腔鏡下)や侵襲的ドレナージ術(経皮的・内視鏡的)など複数存在するが,患者のエントリー基準設定や侵襲度の異なる処置を比較するRCT の実施は困難と思われる。感染源のコントロールの施行のタイミングに関しても,早期に行うことが有効であることは理論上明らかであり,検証するRCT の実施は困難と思われる 4)。早期に感染源のコントロールを行うことにつながる因子の研究や,より低侵襲で効果的な感染源のコントロール方法の開発の研究が必要と考えられる。 文 献 1) Rhodes A, Evans LE , Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Crit Care Med. 2017; 45: 486-552. 2) Solomkin JS, Mazuski JE, Bradley JS, et al: Diagnosis and management of complicated intra-abdominal infection in adults and children: guidelines by the Surgical Infection Society and the Infectious Diseases Society of America. Surg Infect (Larchmt). 2010; 11: 79-109. 3) Mazuski JE, Tessier JM, May AK, et al: The surgical infection society revised guidelines on the management of intra-abdominal infection. Surg Infect (Larchmt). 2017; 18: 1-76. 4) Azuhata T, Kinoshita K, Kawano D, et al: Time from admission to initiation of surgery for source control is a critical determinant of survival in patients with gastrointestinal perforation with associated septic shock. Crit Care. 2014; 18: R87. Table 3-3-1 判断の要約 -S 44-
CQ3-4-1:感染性膵壊死に対して,早期に侵襲的 なインターベンション治療による感染源のコントロールを行うか? Answer:感染性膵壊死に対して,早期に侵襲的なインターベンション治療による感染源のコントロールを行わないことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性 = 「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 壊死組織は感染の原因であり,早期介入が一般原則である。しかし,膵壊死はこの早期介入の一般原則が該当しない。また,低侵襲で効果的な感染源のコントロール方法に取り組んだランダム化比較試験(RCT)も行われていることから,本疾患の介入タイミングは重要臨床課題であると考える。 (2)PICO P (患者):重症感染性膵壊死患者I (介入):早期に侵襲的なインターベンション治療 による感染源のコントロールを行う(48~72 時間以内) C (対照):晩期に侵襲的なインターベンション治療 による感染源のコントロールを行う(発症から12 日後) O (アウトカム):死亡 (3)エビデンスの要約(Table 3-4-1-1) システマティックレビューの結果,PICO に合致した1 つのサンプル数の小さなRCT(早期介入25 例,晩期介入11 例)があることが確認された。死亡は早期介入56.0%,晩期介入27.3%,効果推定値はリスク差(RD)1,000 人あたり286 人多い(95% CI: 71 人少ない ~1,000 人多い)であり,介入群である早期介入は晩期介入に比べて生命転帰に関する望ましい効果を認めなかった。(4)益と害のバランス 望ましい効果: 1 つの小さなサンプル数の研究において,早期介入は晩期介入に比べて生命転帰に関する望ましい効果を認めなかった。なお,副作用や医療コストなどは検討されておらず,介入群の望ましい効果はわからない。望ましくない効果: 前述のように,死亡率は早期介入56.0%,晩期介入27.3%,効果推定値はRD 1,000 人あたり286 人多い(95% CI: 71 人少ない~1,000 人多い)であり,介入群である早期介入は,晩期介入に比べて望ましくない効果は大きい。益と害のバランス: 早期介入に比べて晩期介入の死亡率の低下が示されていることから,おそらく晩期介入の益が害を上回ると考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 1 つのサンプル数の小さなRCT があるが,治療法の比較のため隠蔽化はできておらず,95% CI が1.25をまたいでいるため「低」とした。 (6)価値観 各アウトカムにおける患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムが低下することを患者・家族は重視すると考えられ,不確実性やばらつきはないと考える。 (7)容認性 晩期介入は入院期間の延長が予想されるが,早期介入に比べて死亡率の低下が示されていることから,患者・家族の個人の視点からおそらく益が害を上回ると考えられる。 (8)実行可能性 感染源のコントロール介入までの集中治療管理も重要であり,適切な施設での施行が求められる。 Table 3-4-1-1 エビデンスプロファイル -S 45-
(9)判断の要約(Table 3-4-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 感染性膵壊死は早期感染源コントロール介入の一般原則が該当しない。急性膵炎診療ガイドライン2015第4 版 1)においても,介入タイミングの原則についての明確な見解が述べられていない。 (12)実施に関わる検討事項 感染性膵壊死全例に対する標準的治療として,早期介入は行わないことが望まれる。ただし,1 つの小さなRCT の結果に基づいた推奨であるため,感染源のコントロールを行わず全身状態が悪化する場合などでは,早期に侵襲的なインターベンション治療を行うことが必要な場合もあるため,症例や状況に応じた適応判断を否定するものではない。 (13)今後の研究の可能性 全身状態の悪化についての評価とインターベンションのタイミングの検証が必要と考えられる。また,感染性膵壊死に対する感染源のドレナージ方法に関しては,侵襲度の異なるいくつかのアプローチ方法があり,近年では治療効果に従って段階的に侵襲の強度を強めていくアプローチ(step-up approach)など,いくつかの新しい治療戦略も報告されてきており 2, 3),現 状では治療侵襲度と治療効果の関連についての評価は定まっていない。臨床現場でもドレナージのアプローチ方法については多様性があり,head-to-head の直接比較だけでは評価が困難になっている。 文 献 1) 急性膵炎診療ガイドライン2015 改訂出版委員会: 急性膵炎診療ガイドライン2015(第4 版). 金原出版, 東京, 2015. 2) Hollemans RA, Bakker OJ, Boermeester MA, et al: Superiority of Step-up Approach vs Open Necrosectomy in Long-term Follow-up of Patients With Necrotizing Pancreatitis. Gastroenterology. 2019; 156: 1016-26. 3) van Brunschot S, van Grinsven J, van Santvoort HC, et al: Endoscopic or surgical step-up approach for infected necrotising pancreatitis: a multicentre randomised trial. Lancet. 2018; 391: 51-8. Table 3-4-1-2 判断の要約 -S 46-
CQ3-4-2:感染性膵壊死に対して,より低侵襲な インターベンション治療で感染源のコントロールを行うか? Answer:感染性膵壊死による敗血症患者に対して,より低侵襲なインターベンション治療による感染源のコントロールを行うことを推奨する(GRADE 2B:エビデンスの確実性 = 「中」)。 (1)背景および本CQ の重要度 感染性膵壊死は,何らかのインターベンション治療で感染源を除去することが必要な疾患である。近年,ドレナージ手技としては,1手術的ドレナージ,2内視鏡的ドレナージ,3経皮的ドレナージ(主に後腹膜経路),4治療効果に従って段階的に侵襲の強度を強めていくアプローチ(step-up approach)など,いくつかの治療戦略が報告されてきており,治療侵襲度と治療効果の関連については重要臨床課題である。 (2)PICO P (患者):感染性膵壊死による敗血症患者I (介入):より低侵襲的な方法で感染源のコント ロールを行うC (対照):侵襲的な方法で感染源のコントロールを 行うO (アウトカム):死亡(6 か月,3 年,10 年),ICU 滞在日数,病院滞在日数,感染源のコントロールに伴う合併症 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致した2 つのランダム化比較試験(RCT)があることが確認された(より低侵襲的な方法94 例,侵襲的な方法92 例)。 死亡アウトカムに関しては,6 か月死亡アウトカムの効果推定値は,リスク差(RD)1,000 人あたり40人 多い(48 人少ない~211 人多い )であり,ICU 滞在日数および病院滞在日数については,効果推定値はそれぞれ,平均(MD)19.74 日多い(20.84 日少ない~60.31 日多い)・MD 7.76 日少ない(27.86 日少ない~12.34 日多い)であった。効果推定値の幅が広く,侵襲的なインターベンション治療に比べてより低侵襲的なインターベンション治療が感染源のコントロールに及ぼす効果はわからない。 一方,より低侵襲的な方法(ドレナージ手技)で感染源のコントロールを行うと,侵襲的な方法に比べて合併症の発生は低い[RD 1,000 人あたり187 人少な い(95% CI: 305 人少ない~55 人多い)]という結果となり,より低侵襲的なインターベンション治療の効果が認められた。 (4)益と害のバランス(Table 3-4-2-1)望ましい効果: 2 つのRCT のデータでは,より低侵襲的な方法(ドレナージ手技)で感染源のコントロールを行うと,侵襲的な方法に比べて合併症の発生は低い[RD 1,000人あたり187 人少ない(95% CI: 305 人少ない~55 人多い)]。以上の結果から,より低侵襲的なインターベンション治療の望ましい効果は「中」と考えられる。望ましくない効果: 死亡アウトカムに関しては,短期(6 か月)・中期(3 年)・長期(10 年)の3 つの時間軸で検討した。ICU 滞在日数および病院滞在日数も合わせて検討した。 6 か月死亡のみで2 つのRCT のデータ(より低侵襲的な方法94 例,侵襲的な方法92 例)をpool でき,死亡アウトカムの効果推定値は,RD 1,000 人あたり40 人 多い(48 人少ない~211 人多い )であった。また,ICU 滞在日数・病院滞在日数の効果推定値はそれぞれ,MD 19.74 日多い(20.84 日少ない~60.31 日多い)・MD 7.76 日少ない(27.86 日少ない~12.34 日多い)であった。 効果推定値の幅が広く,侵襲的なインターベンション治療に比べてより低侵襲的なインターベンション治療で感染源のコントロールを行うことによる望ましくない効果はわからない。益と害のバランス: 本CQ の介入における望ましい効果は「中」であり,望ましくない効果は効果量の幅が広く,わからないと判断した。その効果のバランスは介入あるいは比較対照のいずれも支持しない。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したすべてのアウトカムの効果推定値の方向性は一致している(効果なし)ため,全体としては一番高いアウトカムの確実性を採用した。アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「中」である。 (6)価値観 各アウトカムにおける患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムが低下することについて患者・家族は重視すると考えられ,不確 -S 47-
実性やばらつきはないと考える。 (7)容認性 より低侵襲的なインターベンション治療で感染源のコントロールを行う場合,ドレナージ手技の回数が増す可能性があり,医師,看護師など,医療従事者の仕事量が増大することも考えられるが,集中治療に伴う一連の仕事の範疇であり,特にその影響は少ないと考えられる。有害事象に関しては,有意差は認めなかった。 介入に伴うコストは,手技回数や入院期間が延長するとコストが増大する可能性もあるが,その個人負担額を考えると,患者・家族の個人の視点からおそらく許容できると考えられる。 (8)実行可能性 より低侵襲的なインターベンション治療で感染源のコントロールを行うことは,敗血症診療を行う多くの施設で実行可能であると考えられるが,施設のハード面およびソフト面の技量を要する。 (9)判断の要約(Table 3-4-2-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 急性膵炎診療ガイドライン2015 1)では,低侵襲ドレナージである,経皮的(後腹膜経路),あるいは内視鏡的経消化管的ドレナージを最初に行うことを推奨している。 (12)実施に関わる検討事項 感染源のコントロールとして,手技の侵襲度,手技のタイミング,デブリードマン術を行う範囲,繰り返すデブリードマン術の必要性などについて,患者の全 Table 3-4-2-1 エビデンスプロファイル -S 48-
身状態と合わせての検討が必要であり,全例に対する標準的治療としての推奨ではない。 (13)今後の研究の可能性 感染性膵壊死に対するドレナージ手技は,1手術的ドレナージ,2内視鏡的ドレナージ,3経皮的ドレナージ(主に後腹膜経路),4治療効果に従って段階的に侵襲の強度を強めていくアプローチ(step-up approach)など,近年,異なるいくつかの治療戦略が報告されてきている。 また,step-up approach の中でも,内視鏡的step-up approach(内視鏡的経消化管的ドレナージと,それに引き続く内視鏡的ネクロセクトミー)と,低侵襲外科的step-up approach(経皮的ドレナージと,それに引き続くvideo-assisted retroperitoneal debridement)の2種類の報告がある。2018 年に報告されたTENSION trial 2)では,内視鏡的step-up approach と低侵襲外科的step-up approach での生命予後に差はなかったものの,ICU 滞在日数や膵液瘻などの合併症は前者で有意に少なかった。このように,より低侵襲なインターベンションによる治療介入が推奨される可能性があるが,それぞれの手技を行う際の麻酔方法や鎮静方法にも違いがあり,患者の全身状態やそれぞれの手技に伴う循環動態への影響が考えられるため,デブリードマン手技の選択やタイミング,アプローチ方法の組み合わせなどについては,今後さらに検討が必要である。 文 献 1) 急性膵炎診療ガイドライン2015 改訂出版委員会: 急性膵炎診療ガイドライン2015(第4 版). 金原出版, 東京, 2015. 2) van Brunschot S, van Grinsven J, van Santvoort HC, et al: Endoscopic or surgical step-up approach for infected necrotising pancreatitis: a multicentre randomised trial. Lancet. 2018; 391: 51-8. Table 3-4-2-2 判断の要約 -S 49-
CQ3-5:尿管閉塞を原因とする急性腎盂腎炎に よる敗血症患者に対して,侵襲的ドレナージ術による感染源コントロールを行うか? Answer:尿管閉塞を原因とする急性腎盂腎炎による敗血症患者に対して,可及的速やかに経尿道的尿管ステント留置術あるいは経皮的腎ろう造設術による感染源のコントロールを行うことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 尿管閉塞に起因する急性腎盂腎炎は感染源のコントロールが必要な疾患である。尿路感染の兆候を伴う尿管閉塞は泌尿器科領域における緊急対応を要する病態であり,尿管ステント留置術・腎ろう造設術などを用いた緊急の減圧術は,感染を伴う水腎症に起因するさらなる合併症を予防する目的でしばしば必要な処置である。したがって,尿管閉塞を原因とする急性腎盂腎炎に対し,感染源コントロールを行うか否かは重要な問題と考えられる。 (2)PICO P (患者):尿管閉塞に起因する急性腎盂腎炎による 敗血症患者I (介入):感染源のコントロール(尿管ステント留 置術・腎ろう造設術)を行うC (対照):感染源のコントロール(尿管ステント留 置術・腎ろう造設術)を行わないO (アウトカム):28 日死亡,病院死亡,ICU 滞在 日数,病院滞在日数,感染源のコントロールに伴う合併症 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致するランダム化比較試験(RCT)は存在しないことが確認された。 (4)益と害のバランス望ましい効果: 尿管閉塞に起因する急性腎盂腎炎は,経尿道的尿管ステント留置術あるいは経皮的腎ろう造設術を行い,原因の解消を行わなければ,敗血症から回復する可能性は低く,迅速な感染源のコントロールを行うことは患者に益する可能性が高いと考える。望ましくない効果: 侵襲的な処置に伴う害として,出血,臓器損傷や後腹膜(腔)への感染の波及などが考えられる。 益と害のバランス: PICO に合致するRCT は存在せず,効果のバランスは不明であるが,尿管閉塞に起因する急性腎盂腎炎は経尿道的尿管ステント留置術あるいは経皮的腎ろう造設術を行って得られる利益と,出血などの合併症や専門施設への移送費用などの害を考慮しても益が害を上回ると考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するRCT は存在しなかった。 (6)価値観 一般的に,死亡が低下することについて患者・家族は重視すると考えられ,不確実性やばらつきはないと考える。 (7)容認性 本介入(経尿道的尿管ステント留置術あるいは経皮的腎ろう造設術)は保険診療で認められた標準的治療法であり,原因の解消を行わなければ,敗血症から回復する可能性は低く,迅速な感染源のコントロールを行うことは患者にとって益が害を上回る可能性が高いと考えることから,容認性はおそらく妥当なものと考える。 (8)実行可能性 本介入(経尿道的尿管ステント留置術あるいは経皮的腎ろう造設術)は保険診療で認められた標準的治療法であるため,実効性は高いといえる。しかしながら,迅速に専門性のある処置(経尿道的尿管ステント留置術あるいは経皮的腎ろう造設術)を行うためには,施行可能な施設への移送などの負担が生じる可能性がある。 (9)判断の要約(Table 3-5-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:95.8%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 米国泌尿器科学会ガイドライン 1)では,尿管閉塞に起因する腎盂腎炎や膿腎症において迅速な閉塞の解 -S 50-
除が推奨されている(強い推奨エビデンスレベルGRADE C)。後方視的研究であるが,Borofsky ら 2)は,2007~2009 年の尿路結石による敗血症を対象とした1,712 名について多変量解析を行った結果,外科的閉塞解除を行わなかった群は,閉塞解除を行った群と比較し,死亡率が有意に高かった(19.2% vs. 8.82%, P <0.001)と報告し,米国泌尿器科学会ガイドラインでもこの報告が支持されている。EAU ガイドライン 3)においても,速やかな閉塞の解除が強く推奨されている(GRADE A)。また,尿管閉塞の緊急解除の方法である経皮的腎瘻造設術と経尿道的尿管ステント留置術には有意な差は認められない。敗血症患者ではなく結石性尿管閉塞による感染患者での研究であるが,Pearle らの小規模RCT 4)(1998 年,対象者数計42 名)ではいずれの方法も同等に効果的であると報告し,前述のガイドライン 1, 3)でもこの結果が支持されている。 (12)実施に関わる検討事項 感染源のコントロールが行われたタイミングにより結果が異なる可能性がある。本ガイドラインでは,可及的速やかに感染源のコントロールを行うことを弱く推奨する。 (13)今後の研究の可能性 尿管閉塞を原因とする急性腎盂腎炎による敗血症の感染源のコントロールに関するRCT がないことが明らかとなった。感染源のコントロールが死亡率に与える影響や,感染源に伴う出血や炎症の波及などを検証するRCT の実施が望まれる。しかしながら,感染源 のコントロールを施行することの益が害を上回ることが予想されることから,今後もRCT の実施は困難であると思われる。今後は,感染源のコントロールの方法やタイミングに関する検討が新たなエビデンスの構築に不可欠と思われる。 文 献 1) Assimos D, Krambeck A, Miller NL, et al: Surgical Management of Stones: American Urological Association / Endourological Society Guideline, PART I. J Urol. 2016; 196: 1153-60. 2) Borofsky MS, Walter D, Shah O, et al: Surgical decompression is associated with decreased mortality in patients with sepsis and ureteral calculi. J Urol. 2013; 189: 946-51. 3) Tü r k C, Pe t ř í k A, S a r i c a K, e t al: E AU G u i d e l i n e s o n Interventional Treatment for Urolithiasis. Eur Urol. 2016; 69: 475-82. 4) Pearle MS, Pierce HL, Miller GL, et al: Optimal method of urgent decompression of the collecting system for obstruction and infection due to ureteral calculi. J Urol. 1998; 160: 1260-4. Table 3-5-1 判断の要約 -S 51-
CQ3-6:壊死性軟部組織感染症による敗血症患 者に対して,外科的デブリードマン術による感染源のコントロールを行うか? Answer:壊死性軟部組織感染症による敗血症患者に対して,可及的速やかに外科的デブリードマン術による感染源のコントロールを行うことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 壊死性軟部組織感染症は,早期の感染源の外科的コントロールが必要な疾患である。デブリードマン術の必要性の有無が画像検査では困難であることなども知られており,重要臨床課題であるため,本ガイドラインのCQ として取り上げた。 (2)PICO P (患者):壊死性軟部組織感染症による敗血症患者I (介入):外科的デブリードマン術を行うC (対照):外科的デブリードマン術を行わないO (アウトカム):28 日死亡,病院死亡,ICU 滞在 日数,病院滞在日数,感染源のコントロールに伴う合併症 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)は存在しなかった。 (4)益と害のバランス望ましい効果: 敗血症の原因となっている壊死組織(軟部組織)に対し,外科的デブリードマン術を行うことで,感染源の確実なコントロールが可能となり,生命予後や治療日数の短縮などの望ましい効果が得られる可能性が高いと考えられる。望ましくない効果: 多くは全身麻酔下での手術が必要である。循環動態の不安定例では麻酔導入によるさらなる不安定化も懸念される。また,出血などによる循環動態への影響も懸念される。外科的デブリードマン術により,新たな臓器虚血を来し,追加の外科的デブリードマン術が必要となることもある。益と害のバランス: PICO に合致するRCT は存在せず不明であるが,感染源を外科的に除去することは,外科的治療を行わない場合よりも益が害を上回るものと考えられる。(5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するRCT は存在しなかった。 (6)価値観 一般的に,死亡が低下することについて患者・家族は重視すると考えられ,不確実性やばらつきはないと考える。 (7)容認性 手術室への移動を伴うため,医師,看護師など医療従事者の仕事量が増大するが,集中治療室での仕事の範疇であり,特にその影響は少ないと考えられる。外科的治療に伴うコストの増大はあるが,全体の診療に占める割合は小さく容認性は妥当なものといえる。 (8)実行可能性 外科的デブリードマン術は,敗血症診療を行う多くの施設で実行可能であると考えられる。しかしながら,状況により実行不可能な場合は,迅速に施行可能な施設への移送などの負担が生じる。 (9)判断の要約(Table 3-6-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.178 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 では,敗血症や敗血症性ショックの患者においては,緊急で感染源のコントロールを要する特定の解剖学的部位がないかどうかの診断を速やかに行うことが推奨されており,診断後は可能な限り速やかに感染源のコントロールのためのインターベンションを行うことを推奨する「best practice statement」となっている 1)。 筋膜や筋区画などの深部感染を来しているかどうかの判断が重要となるが,IDSA(Infectious Diseases Society of America)のガイドラインにおいては,CTやMRI などの画像診断が有用ではあるが,画像診断のために治療介入が遅れる可能性がある場合には,早期に外科的デブリードマン術を行って筋膜組織まで感染が及んでいるかどうかを直接目視にて確認することが推奨されている 2)。 -S 52-
(12)実施に関わる検討事項 一度に広範囲に外科的デブリードマン術を行う場合と,段階的に外科的デブリードマン術を行う場合とで,益と害のバランスが異なる可能性がある。 (13)今後の研究の可能性 壊死性軟部組織感染症による敗血症患者に対して,外科的デブリードマン術による感染源のコントロールに関するRCT が存在しないことが明らかとなった。壊死性軟部組織感染症は,時に急速に進行するため(溶連菌感染症などでは急速に進行することがある),外科的デブリードマン術が遅れると致死的となる可能性がある 3)。そのため,外科的デブリードマン術を行わないという選択を強要することは難しく,今後もRCT の実施は困難ではないかと考える。また,全身麻酔に伴う循環動態への影響が考えられるため,外科的デブリードマン術を行うタイミングや,1 回の外科的デブリードマン術を行う処置の範囲などについては,今後さらに検討が必要である。 文 献 1) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Crit Care Med. 2017; 45: 486-552. 2) Stevens DL, Bisno AL, Chambers HF, et al: Practice guidelines for the diagnosis and management of skin and soft tissue infections: 2014 update by the infectious diseases society of America. Clin Infect Dis. 2014; 59: 147-59. 3) Nawijn F, Smeeing DPJ, Houwert RM, et al: Time is of the essence when treating necrotizing soft tissue infections: A systematic review and meta-analysis. World J Emerg Surg. 2020; 15: 4. Table 3-6-1 判断の要約 -S 53-
CQ3-7:カテーテル関連血流感染が疑われる敗 血症患者に対して,カテーテル抜去による感染源のコントロールを行うか? Answer:カテーテル関連血流感染が疑われる敗血症患者に対して,可及的速やかにカテーテル抜去による感染源のコントロールを行うことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 カテーテル関連血流感染(CRBSI)では,覚知と対処の遅れは転帰悪化につながりうる。CRBSI 予防が重要であることは周知の事実であるが,カテーテルの留置期間や抜去のタイミングについては,最終的なコンセンサスを得られていない。そのため,本ガイドラインのCQ として取り上げた。 (2)PICO P (患者):血管カテーテル感染による敗血症を疑う 患者I (介入):感染源のコントロール(カテーテル抜 去)を行うC (対照):感染源のコントロール(カテーテル抜 去)を行わないO (アウトカム):28 日死亡,病院死亡,ICU 滞在 日数,病院滞在日数,感染源のコントロールに伴う合併症 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)は存在しなかった。 (4)益と害のバランス望 ましい効果: 血管カテーテル感染は,感染源のコントロールを行わない通常の抗菌薬治療のみでは改善しない可能性がある。原因の解消を行わなければ,予後や死亡率の悪化につながる症例があるため,迅速な感染源のコントロールを行うことは患者に益する可能性が高いと考える。この望ましい効果はカテーテル感染診断の正確性の影響を受ける。望 ましくない効果: 血管カテーテルが必要な患者は,感染源のコントロールとして血管カテーテルを抜去するのみではなく,血管カテーテルの再挿入が必要であり,血管カテーテル挿入に関連する合併症が考えられ,再挿入に関する状況に影響を受ける。頻回なルート交換は,コ スト・作業負担を増加させる。益 と害のバランス: PICO に合致するRCT は存在せず,効果のバランスは不明である。血管カテーテル感染の場合,感染源のコントロール(カテーテル抜去)を行って得られる利益と,血管カテーテル挿入に関連する合併症による害を比較しても,おそらく益が害を上回ると考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するRCT は存在しなかった。 (6)価値観 一般的に,死亡が低下することについて患者・家族は重視すると考えられ,不確実性やばらつきはないと考える。 (7)容認性 感染源のコントロール(カテーテル抜去)は標準的治療法であり,原因の解消を行わなければ,敗血症から回復する可能性は低く,迅速な感染源のコントロールを行うことは患者にとって益が害を上回る可能性が高いと考えることから,容認性はおそらく妥当なものと考える。カテーテルの再挿入に関連する負担が存在する。 (8)実行可能性 感染源のコントロール(カテーテル抜去)は,敗血症診療を行う多くの施設で実行可能であると考えられる。 (9)判断の要約(Table 3-7-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.178 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 においては,敗血症や敗血症性ショックの感染源の可能性がある血管カテーテルは,他の血管カテーテルを挿入後直ちに抜去することを推奨する「best practice statement」となっている 1)。 -S 54-
(12)実施に関わる検討事項 血管カテーテル留置の必要度や,再留置の難易度により,益と害のバランスが異なる可能性がある。 (13)今後の研究の可能性 血管カテーテル感染を迅速に高精度に診断する方法のさらなる研究が必要と考えられる。 文 献 1) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Crit Care Med. 2017; 45: 486-552. Table 3-7-1 判断の要約 -S 55-
CQ3-8:膿胸による敗血症患者に対して,侵襲 的ドレナージ術による感染源コントロールを行うか? Answer:膿胸による敗血症患者に対して,可及的速やかに開胸ドレナージまたは経皮的胸腔ドレナージによる感染源のコントロールを行うことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 膿胸は感染源のコントロールが必要な病態であり,開胸ドレナージ,または経皮的胸腔ドレナージによる感染源のコントロールが行われる。臨床現場においては,タイミングや処置法について最終的なコンセンサスを得ていない。また,感染源のコントロール処置をいつ行うべきか,適切な方法は何かについて科学的根拠を明示しているガイドラインはない。侵襲的処置(開胸・経皮的ドレナージ術)の有効性,有害性の評価は定まっておらず,侵襲的処置に関する本CQ の優先度は高いと考える。 (2)PICO P (患者):膿胸,気管支断端瘻,胸膜炎,肺炎随伴 性胸水を伴う敗血症患者I (介入):感染源のコントロール(開胸・経皮的ド レナージ術)を行うC (対照):感染源のコントロール(開胸・経皮的ド レナージ術)を行わないO (アウトカム):28 日死亡,病院死亡,ICU 滞在 日数,病院滞在日数,感染源のコントロールに伴う合併症 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致するランダム化比較試験(RCT)は存在しないことが確認された。 (4)益と害のバランス望ましい効果: 被包化を伴った膿胸は通常の抗菌薬治療では改善しないため,原因の解消を行わなければ,敗血症から回復する可能性は低いと考えられる。したがって,迅速な感染源のコントロールを行うことは患者に益する可能性が高いと考える。望ましくない効果: 侵襲的な処置に伴う害として,出血や肺損傷,創部やドレーンの痛みなどが考えられる。開胸術は経皮的 ドレナージ術に比して侵襲が大きく,望ましくない効果の程度は大きいと考えられる。益と害のバランス: PICO に合致するRCT は存在せず,効果のバランスは不明であるが,膿胸による敗血症では,開胸・経皮的ドレナージ術を行って得られる利益と,出血や肺損傷などの合併症を考慮しても,おそらく益が害を上回ると考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するRCT は存在しなかった。 (6)価値観 一般的に,死亡が低下することについて患者および患者家族は重視すると考えられ,不確実性やばらつきはないと思われる。 (7)容認性 本介入(開胸・経皮的ドレナージ術)は保険診療で認められた標準的治療法であり,原因の解消を行わなければ,敗血症から回復する可能性は低く,迅速な感染源のコントロールを行うことは患者にとって益が害を上回る可能性が高いと考えることから,容認性はおそらく妥当なものと考える。組織の癒着などによりドレナージの経路に実質臓器が存在し,経皮的ドレナージが困難な場合には,開胸ドレナージも考慮して迅速に施行可能な施設への移送などの負担が生じる。 (8)実行可能性 開胸・経皮的ドレナージ術の実行可能性は高い。施設により実行できない場合は,実行可能な施設への移送により実行可能と考えられる。 (9)判断の要約(Table 3-8-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.014 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:95.8%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 英国胸部疾患学会ガイドライン 1)や米国胸部疾患学会ガイドライン 2)では,膿胸の患者には経皮的胸腔ドレナージを施行し,胸部X 線や全身状態を観察 -S 56-
することが推奨されている。英国胸部疾患学会ガイドライン 1)では,厚さ10 mm を超える胸水または胸水の増量を認める場合や症状が軽快しない場合は,診断のためのサンプリングを推奨している。膿胸の診断には画像所見のみならず検体をサンプリングし,細菌培養,グラム染色,生化学的検査(pH や血糖値)からの総合的診断が有用である。胸膜感染患者では血液培養以外に細菌を認めない場合もあることから,血液培養の施行も重要である。抗菌薬の投与とドレナージにて5~7 日以内に改善がみられない(胸水の増量や症状が軽快しない)場合には,外科的手術も考慮する 1)。 膿胸に対する侵襲的処置である経皮的ドレナージと開胸ドレナージについて,Redden らはシステマティックレビュー(2017 年,対象者数計391 名)を行い,いずれの方法も合併症に有意差を認めなかったことを報告している 3)。 (12)実施に関わる検討事項 膿胸の形状(単房性,多房性),大きさや肺実質の胸膜への癒着,ならびに患者の重篤度による,侵襲的処置(開胸・経皮的ドレナージ)により,益と害のバランスが異なる可能性がある。 (13)今後の研究の可能性 膿胸による敗血症患者の侵襲的処置(開胸・経皮的胸腔ドレナージ)に関するRCT がないことが明らかになり,侵襲的処置が死亡率に与える影響について検証するRCT の実施が望まれるが,患者の病態[膿胸の形状(単房性,多房性),大きさや肺実質の胸膜へ の癒着,ならびに患者の重篤度など]は均一ではなく,RCT の実施は困難と思われる。今後は,実施のタイミングや方法がアウトカムに及ぼす影響について検証するRCT の早期実施が望まれる。 文 献 1) Davies HE, Davies RJO, Davies CWH, et al: Management of pleural infection in adults: British Thoracic Society Pleural Disease Guideline 2010. Thorax. 2010; 65: ii41-53. 2) Colice GL, Curtis A, Deslauriers J, et al: Medical and surgical treatment of parapneumonic effusions : an evidence-based guideline. Chest. 2000; 118: 1158-71. 3) Redden MD, Chin TY, van Dr iel ML: Surgical versus non-surgical management for pleural empyema. Cochrane Database Syst Rev. 2017; 3: CD010651. Table 3-8-1 判断の要約 -S 57-
CQ4:抗菌薬治療 はじめに 本項では,抗菌薬投与の開始から中止に関する臨床課題の中で,特に敗血症診療において重要と思われる11CQ を取り上げた。内容はエビデンスの有無により, GRADE 評価を導入したもの,GRADE 評価を試みるも叶わずエキスパートコンセンサスとしたもの,BQ として情報提供にとどめたものがあり,留意のうえうまく活用していただきたい。研究の乏しい領域では,今後の知見集積に伴い考え方が変化する可能性がある。 抗菌薬治療は,敗血症診療における原疾患に対する必須の根本治療である。抗菌薬治療のむずかしさは,その介入が直接転帰に関わることだけでなく,世界的に深刻化する抗菌薬耐性(antimicrobial resistance: AMR)の問題とも関係しており,過剰な治療が将来の有効な治療薬を失うリスクと関係している点にある。敗血症に対する不十分な治療は避ける必要があるが,同時に過剰な治療も慎む必要がある。いわゆるantimicrobial stewardship (AS)の考え 1)を十分に取り入れた分別のある抗菌薬治療が求められる。 本ガイドラインは,敗血症診療に特化したガイドラインであるため,抗菌薬選択の各論には言及しない。敗血症における抗菌薬選択の原則は,一般的な感染症診療と同様である。すなわち,患者背景,疑わしい感染臓器,地域や施設の疫学情報,最近の抗菌薬使用歴などから,可能な限り具体的な微生物や薬剤耐性を想定したうえで投与すべき抗菌薬を選択する。ただし,敗血症患者では,非重症患者の場合に比べて,原因微生物に対して有効な抗菌薬を速やかに投与することが重要である。また,可能な施設においては,感染症専門医へのコンサルテーションも重要である。以下,各CQ ごとに概説する。 CQ4-1:経験的抗菌薬はどのようにして選択するか? 適切な経験的抗菌薬治療の選択は,適切な外科的感染巣コントロールと並ぶ敗血症の根本治療であり,患者予後に関連する重要な治療介入である 2)。抗菌薬選択に関する原則は敗血症においても一般的な感染症診療と同様であるが,一刻を争う敗血症診療では抗菌薬選択に必要な情報収集に割ける時間に制約があり,しばしば困難を伴う。個別の状況を考慮せずに画一的な第一選択薬を決めておくと迅速な投与はしやすくなるが,個々の患者にとっては不十分なもしくは過剰な治療になるリスクを伴う。 敗血症患者に対する経験的抗菌薬の選択の方法について,CQ として設定し,各感染症別の選択肢一覧と 共に示すことは,臨床現場の意思決定にとって重要と考えた。経験的抗菌薬は原因微生物の想定のもとに選択し,原因微生物が確定した後には標的抗菌薬へ最適化されることが前提の治療であり,最初の段階でいかに原因微生物を想定するかが重要である 3-5)。疑わしい感染巣ごとに,患者背景,疫学や迅速微生物診断法に基づいて原因微生物を推定し,臓器移行性と耐性菌の可能性も考慮して選択する方法がある(詳細は本文参照)。選択薬リスト作成にあたっては,2012 年日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)(初版)に示された表と,各感染症のガイドラインおよび抗菌薬感受性試験のための標準検査法を参照して作成した(Table 4-1-1,4-1-2 参照) 6-8)。 CQ4-2:経験的抗菌薬にカルバペネム系抗菌薬を含め るのはどのような場合か? 広域抗菌薬の中で,カルバペネム系薬剤(以下,カルバペネム)は最も広域のスペクトラムを有する薬剤であり,治療の適切性を高める目的で,敗血症の経験的抗菌薬として比較的よく選択されうる。しかし,カルバペネムの過剰使用は,カルバペネム耐性菌の増加のほか,抗菌薬関連の副作用やコストを高める危険性を伴っている 9)。カルバペネムを遍く使用するのではなく,適切な症例に対して選択的に使用することは,抗菌薬スチュワードシップの観点から望ましいと考えられる。よって,臨床現場においてカルバペネムを使用したほうがよい適応病態をまとめておくことには意義があると考え,具体的な情報提供を行うこととした。 CQ4-3:どのような場合に, MRSA や一般細菌以外 (カンジダ,ウイルス,レジオネラ,リケッチア,クロストリジオイデス ディフィシルなど)に対する経験的抗微生物薬を選択するか? 敗血症に対する経験的抗微生物薬を適切に選択することは,患者予後に関連し,非常に重要である 2)。通常用いられる広域βラクタム系抗菌薬以外の抗微生物薬が必要な病原体について,どのような場合に想起すべきかを知っておくことは,迅速な対応が求められる敗血症診療における臨床現場の意思決定に有用であると考え,CQ として設定した。 経験的抗微生物薬は原因微生物の想定のもとに選択し,原因微生物が確定した後には標的抗微生物薬へ最適化されることが前提の治療であり,最初の段階でいかに原因微生物を想定するかが重要である 3)。患者背 -S 58-
景や検査結果などから,それぞれの微生物が原因として想定される場合を作成し,Table 4-3-1 にまとめた。 CQ4-4:敗血症が疑われて経験的抗菌薬を使用する患 者において,投与前の各種培養陰性の確認をしたら抗菌薬を中止するか? 臨床的に敗血症と診断し,しかるべき培養検査を行っても,その約30~60% は培養陰性となり“culture negative sepsis”と称される 10)。敗血症の診断にもとづき経験的抗菌薬を開始した後,培養が陰性であった場合,安全に抗菌薬を終了可能かどうかは明らかではなく,culture negative sepsis の疫学や予後をまとめた知見は少ない。敗血症と診断した最大半数の患者が遭遇しうる状況であり,本ガイドラインに取り上げるべき重要臨床課題であると考えCQ として設定した。システマティックレビューの結果,本CQ にこたえるランダム化比較試験(RCT)は存在せず,エビデンス不十分として,エキスパートコンセンサスとした。 CQ4-5:感染症専門家あるいは抗菌薬適正使用支援 チームに相談するのはどのような場合か? 抗菌薬適正使用支援チーム(antimicrobial stewardship team: AST)は,感染症専門の薬剤師や医師を中心として臨床検査技師や看護師,事務職員で構成され,医療機関において抗菌薬適正使用を実践するチームである。 敗血症の診療において,抗菌薬の選択や投与経路,投与間隔,投与期間の決定は患者の予後に影響を与える重要な介入である 2)。そのため,敗血症診療においては,想定される原因微生物を十分カバーする抗菌薬の選択が求められる。しかしながら,敗血症の初期抗菌薬として何を選択するべきかに関しては,画一的な回答はなく,実際には個々の症例に応じて抗菌薬を選択する必要があるため,対応する医師の大きな負担となりうる。AST に相談することで,適切な感染巣の評価や抗菌薬選択,抗菌薬の投与期間設定の援助がなされ,医師の負担を軽減すると共に,適切な感染症治療遂行が期待できる 11)。具体的にどのような場合に相談すべきかについて,情報提供した。 CQ4-6:敗血症に対する経験的抗菌薬は,敗血症認知 後1 時間以内を目標に投与を開始するか? 敗血症における抗菌薬投与のタイミングに関しては,RCT の施行がむずかしいが,可及的速やかに抗菌薬投与を開始する有益性は,理論的に受け入れやすく,それを支持する観察研究が複数報告されている 12-14)。Kumar らの観察研究では敗血症性ショック 患者において,抗菌薬投与が1 時間遅れるごとに死亡率が7.6% 増加すると報告されている 15)。しかし,1時間以内の抗菌薬投与に固執した場合,原因微生物診断の推定が不十分となり,不必要かつ過剰に広域・多剤の抗菌薬投与が増える可能性がある。そのため,現時点のエビデンスを再精査し,RCT と観察研究を含めたシステマティックレビューを行い,推奨文を作成した。 CQ4-7:敗血症に対してβラクタム系薬の持続投与ま たは投与時間の延長を行うか? 本CQ は抗菌薬のPK-PD(pharmachokinetics/ pharmachodynamics)理論にもとづき,既存の抗菌薬の治療効果を高められないかを検討した臨床課題である。βラクタム系薬は敗血症治療に最も広く選択される抗菌薬であり 16),その殺菌作用と治療効果は,血中濃度が治療対象となる細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を超えている時間に相関する。この特性を考慮すると,点滴時間を延長するかもしくは持続投与することは,time above MIC(24 時間の中で抗菌薬の血中濃度がMIC を超えている時間の割合)を延長し,より優れた臨床効果が期待できる可能性がある 17)。しかし,これまで本邦において抗菌薬は間欠的投与されることが多かった。近年,この疑問に答えるRCTが報告されており,これらのRCT を対象としたシステマティックレビューを行い,推奨文を作成した。 CQ 4-8:敗血症に対する抗菌薬治療において,デエ スカレーションを行うか? デエスカレーションとは,経験的治療として投与開始された広域ないし多剤の抗菌薬が適切で,かつ必要なソースコントロールができている場合において,原因菌の同定 / 抗菌薬感受性が判明したのちに,可及的速やかに狭域・単剤の抗菌薬へと変更する戦略のことである 18)。デエスカレーションは,AMR 対策,感染管理,そして医療経済的な視点から理にかなった戦略である。J-SSCG 2016 では 4, 5),敗血症,敗血症性ショックの患者に対する抗菌薬治療において,デエスカレーションを実施することが弱く推奨(2D)されており,SSCG 2016 3)でもbest practice statement として推奨されていた。 しかし,デエスカレーションという介入を直接的に評価するRCT を企図することは容易ではなく,過去の報告は観察研究が多い。今回はRCT および観察研究の双方においてエビデンスを評価し,推奨を作成し -S 59-
た。とりわけ,デエスカレーションは現在広く普及している診療手法であること,かつ,抗菌薬スチュワードシップの観点が世界的にも国内でも強調されているという背景も踏まえ,推奨文を作成した。 CQ4-9:敗血症に対する抗菌薬治療において,プロカ ルシトニンを指標とした治療終了を行うか? 感染症における抗菌薬の中止基準に関する質の高い科学的根拠は少ない。敗血症の経過におけるプロカルシトニンの低下は死亡リスクの減少と関連していることが報告されている 19, 20)。そこで,プロカルシトニンをガイドに用いて抗菌薬中止を行うことにより患者の転帰を悪化させることなく抗菌薬日数を短縮できるのではないかという研究が近年活発に行われてきた。今回,敗血症および敗血症性ショックを対象にプロカ ルシトニンを指標とした抗菌薬の中止を検討したRCT を対象にシステマティックレビューを行い,推奨文を作成した。 CQ4-10:敗血症に対して,比較的短期間(7 日間以 内)の抗菌薬治療を行うか? 敗血症に対する抗菌薬治療に伴う害として,投与期間が長いほど常在菌叢の中で耐性菌やClostridioides difficile,真菌が定着・増殖するリスクが高まり,次の新たな敗血症のリスクになる 21, 22)。近年,抗菌薬耐性の問題は世界的な脅威となっており 23),肺炎などの各種感染症における抗菌薬の治療期間について,短期間治療は長期間治療と比較して死亡率や臨床的治 抗菌薬治療〔診療フロー〕 -S 60-
癒率に差がない報告が増えてきた 24, 25)。しかし,敗血症における抗菌薬の治療期間に関する知見は確立していない。そこで,敗血症または集中治療を要する感染症のうち4 週間以上の長期治療を要するもの(心内膜炎,化膿性脊椎炎)を除いて,1 週間(8 日)以内の抗菌薬治療を1 週間(8 日)以上の抗菌薬治療と比較したRCT を対象にシステマティックレビューを行い,推奨文を作成した。 CQ4-11:腎排泄型の抗微生物薬の用量調整に際し て,何が参考になるか? 敗血症患者では臓器障害として腎障害を生じることが多く,腎障害時には腎排泄型の抗微生物薬は用量調整を行う必要がある 15, 26-28)。この観点から,腎排泄型の抗微生物薬の用量調整に際して参考とすべき指標についてBQ として記述した。特に,1)腎機能の指標,2)分布容積の増加と血漿や細胞外液における抗微生物薬の希釈,3)腎クリアランスや体液量の変動, 4)体外膜型肺(extracorporeal membrane oxygenation: ECMO)や腎代替療法による影響に関する情報提供を行った。 文 献 1) Pollack LA, van Santen KL, Weiner LM: Antibiotic stewardship programs in U.S. acute care hospitals: Findings from the 2014 national healthcare safety network annual hospital survey. Clin Infect Dis. 2016; 63: 443-9. 2) Paul M, Shani V, Muchtar E, et al: Systematic review and metaanalysis of the efficacy of appropriate empiric antibiotic therapy for sepsis. Antimicrob Agents Chemother. 2010; 54: 4851-63. 3) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 4) 西田修,小倉裕司,井上茂亮,他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会.日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 5) 西田修,小倉裕司,井上茂亮,他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会.日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 6) Oda S, Aibiki M, Ikeda T, et al: The Japanese guidelines for the management of sepsis. J Intensive Care. 2014; 2:55 7) 織田成人,相引眞幸,池田寿昭,他: 日本集中治療医学会Sepsis Registry 委員会.日本版敗血症治療ガイドライン2013. 日集中医誌. 2013; 20 124-73. 8) CLSI M100-S27: Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing, 27th Edition. Available online at: https: / / webstore.ansi.org / standards / clsi / clsim100s27. Accessed November 29, 2020. 9) Patrier J, Timsit JF: Carbapenem use in critically ill patients. Curr Opin Infect Dis. 2020; 33: 86-91. 10) Sigakis MJG, Jewell E, Maile MD, et al: Culture-Negative and Culture-Positive Sepsis: A Comparison of Characteristics and Outcomes. Anesth Analg. 2019; 129: 1300-9. 11) Raineri E, Pan A, Mondello P, et al: Role of the infectious diseases specialist consultant on the appropriateness of antimicrobial therapy prescription in an intensive care unit. Am J Infect Control. 2008; 36: 283-90. 12) Gaieski DF, Mikkelsen ME, Band RA, et al: Impact of time to antibiotics on survival in patients with severe sepsis or septic shock in whom early goal-directed therapy was initiated in the emergency department. Crit Care Med. 2010; 38: 1045-53. 13) Yokota PK, Marra AR, Martino MD, et al: Impact of appropriate antimicrobial therapy for patients with severe sepsis and septic shock - A quality improvement study. PLoS One. 2014; 9: e104475. 14) Ferrer R, Artigas A, Suarez D, et al: Effectiveness of treatments for severe sepsis: A prospective, multicenter, observational study. Am J Respir Crit Care Med. 2009; 180: 861-6. 15) Kumar A, Roberts D, Wood KE, et al: Duration of hypotension before initiation of effective antimicrobial therapy is the critical determinant of survival in human septic shock. Crit Care Med. 2006; 34: 1589-96. 16) Roberts JA, Abdul-Aziz MH, Lipman J, et al: Individualised antibiotic dosing for patients who are critically ill: Challenges and potential solutions. Lancet Infect Dis. 2014; 14: 498-509. 17) Abdul-Aziz MH, Sulaiman H, Mat-Nor MB, et al: Beta-Lactam Infusion in Severe Sepsis (BLISS):a prospective, two-centre, open-labelled randomised controlled trial of continuous versus intermittent beta-lactam infusion in critically ill patients with severe sepsis. Intensive Care Med. 2016; 42: 1535-45. 18) De Waele JJ, Schouten J, Beovic B, et al: Antimicrobial de-escalation as part of antimicrobial stewardship in intensive care: no simple answers to simple questions—a viewpoint of experts. Intensive Care Med. 2020; 46: 236-44. 19) Charles PE, Tinel C, Barbar S, et al: Procalcitonin kinetics within the first days of sepsis: Relationship with the appropriateness of antibiotic therapy and the outcome. Crit Care. 2009; 13: R38. 20) Karlsson S, Heikkinen M, PettiläV, et al: Predictive value of procalcitonin decrease in patients with severe sepsis: A prospective observational study. Crit Care. 2010; 14: R205. 21) Micek S, Johnson MT, Reichley R, et al: An institutional perspective on the impact of recent antibiotic exposure on length of stay and hospital costs for patients with gram-negative sepsis. BMC Infect Dis. 2012; 12: 56. 22) Baggs J, Jernigan JA, Halpin AL, et al: Risk of Subsequent Sepsis Within 90 Days After a Hospital Stay by Type of Antibiotic Exposure. Clin Infect Dis. 2018; 66: 1004-12. 23) The Government of Japan: National Action Plan on Antimicrobial Resistance (AMR) 2016-2020. 2016. Available online at: https:// www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/ 0000138942.pdf. Accessed November 29, 2020. 24) Royer S, Demerle KM, Dickson RP, et al: Shorter versus longer courses of antibiotics for infection in hospitalized patients: A systematic review and meta-analysis. J Hosp Med. 2018; 13: 336-42. 25) Onakpoya IJ, Walker AS, Tan PS, et al: Overview of systematic reviews assessing the evidence for shorter versus longer duration antibiotic treatment for bacterial infections in secondary care. PLoS One. 2018; 13: e0194858. 26) Godin M, Murray P, Mehta RL: Clinical approach to the patient with AKI and sepsis. Semin Nephrol. 2015; 35: 12-22. 27) Sime FB, Roberts MS, Roberts JA: Optimization of dosing regimens and dosing in special populations. Clin Microbiol Infect. 2015; 21: 886-93. 28) Lewis SJ, Mueller BA: Antibiotic dosing in patients with acute kidney injury: ‘Enough But Not Too Much’. J Intensive Care Med. 2016; 31: 164-76. -S 61-
CQ4-1:経験的抗菌薬はどのようにして選択す るか? Answer:疑わしい感染巣ごとに,患者背景,疫学や迅速微生物診断法に基づいて原因微生物を推定し,臓器移行性と耐性菌の可能性も考慮して選択する方法がある(Table 4-1-1 参照)(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 適切な経験的抗菌薬治療の選択は,適切な外科的感染巣コントロールと並んで敗血症の根本治療であり,患者予後に関連する重要な治療介入である 1)。経験的抗菌薬は原因微生物の想定のもとに選択し,原因微生物が確定した後には標的抗菌薬へ最適化されることが前提の治療であり,最初の段階でいかに原因微生物を想定するかが重要となる 2, 3) 抗菌薬選択に関する原則は,敗血症においても一般的な感染症診療と同様であるが,一刻を争う敗血症診療では抗菌薬選択に必要な情報収集に割ける時間に制約があり困難を伴う。個別の状況を考慮せずに画一的な第1 選択薬を決めておくと迅速な投与はしやすくなるが,個々の患者にとっては不十分な,もしくは過剰な治療になるリスクを伴う。 これまでの国際版および日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)では,適切な経験的抗菌薬の選択は重要であるという記載はあるものの,具体的な選択については各感染症別のガイドラインに委ねる形で記載していないものが多かった 2-5)。しかし,各感染症別ガイドラインの主な対象は一般病棟であり,敗血症に関する記載がないものが多い 6-14)。 そこで,敗血症患者に対する経験的抗菌薬の選択の方法について,CQ として設定し,各感染症別の選択肢一覧とともに示すことは,臨床現場の意思決定にとって重要と考えた。選択薬リスト作成にあたっては,2012 年のJ-SSCG に示された類似の表と,各感染症に関するガイドラインおよび抗菌薬感受性試験のための標準検査法を参照して作成した 4, 5, 15)。 (2)解説 経験的抗菌薬の選択は,疑われる感染巣ごとに,患者背景,疫学に基づいて原因微生物を想定し,利用可能な範囲で迅速微生物診断法を用いてその確認をしたうえで,臓器移行性やスペクトラム(耐性菌の可能性を含む),および臨床的なエビデンスを踏まえて行う。 Table 4-1-1(各感染症別の経験的治療薬)は,頻度の高い感染巣と患者背景の組み合わせごとに,敗血症を前提とした経験的抗菌薬の選択肢リストを専門家の 意見として示した。本表は,個別の状況や地域の疫学などの情報を加味し,各地域・施設における抗菌薬ガイドラインと共に利用することで,意思決定の参考になることを想定している。また,各地域・施設における抗菌薬ガイドラインが存在しなければ,本表をベースとして作成することも可能である。 原因微生物は,感染巣ごとの疫学により想定される。したがって,感染巣の同定は,感染巣からの検体採取や外科的ドレナージのためだけではなく,抗菌薬の選択のために重要である。敗血症の原因になりうる感染巣は,本邦の2 つの疫学研究(2010~11 年:15施設,2016~17 年:59 施設)によると,呼吸器感染症,腹腔内感染症,尿路感染症,軟部組織感染症が多く,これらで約90% を占めていた 16, 17)。この傾向は海外の複数の研究でも同様の結果であった 18-22)。一方,敗血症患者の約1 / 6 は感染巣が同定されないとも報告されている 18-22)。感染巣の特異的な所見を認めない場合に考慮すべき感染症として,感染巣はあるが特異的な所見を捉えにくい感染症(感染性心内膜炎,カテーテル関連血流感染症など),感染巣を形成しない/ 不明の全身感染症(劇症型脾摘後感染症,電撃性紫斑病,リケッチア感染症,感染巣のない発熱性好中球減少症など)がある。人工物関連感染症(カテーテル関連血流感染症,人工弁心内膜炎,脳室腹腔シャント関連髄膜炎,人工関節感染症など)は特異的所見が得られにくいため注意する 6-9)。 原因微生物は,患者背景によっても想定される。1外的因子としての患者周囲環境からの曝露歴(医療関連,渡航歴を含む)と,2内的因子としての患者自身の状態(年齢,性別,基礎疾患を含む)の2 つがある。抗菌薬選択の際にどの患者背景因子で分類するかは,感染巣ごとに異なっている。一般的に,市中感染症は医療関連感染症と異なる微生物が原因になることが多く,緑膿菌は例外を除いて市中感染症でルーチンにカバーする必要はない。医療関連感染症の危険因子となる曝露には,侵襲的手技またはデバイス(手術,移植,血管内カテーテル,尿道留置カテーテル,気管チューブ,経管栄養チューブ,その他の人工物)や,抗菌薬治療歴がある。海外渡航歴のある敗血症患者では,マラリアや髄膜炎菌感染症,ウイルス性出血熱,レプトスピラ症,リケッチア症などの全身性感染症や,薬剤耐性菌による感染症を考慮する必要がある 23, 24)。国内でもダニ媒介感染症流行地への旅行歴があれば,リケッチア感染症(日本紅斑熱,ツツガムシ病)や重症熱性血小板減少症候群(SFTS)による -S 62-
敗血症を鑑別に含める 25)。また,宿主である患者の要因として年齢は重要であり,髄膜炎の原因菌は50歳以上か否かで異なる 10)。肺炎の原因としてのレジオネラ症の約90% は50 歳以上で発生している 26)。糖尿病患者では,尿路感染症,軟部組織感染症が多い 27)。好中球減少患者の敗血症では,緑膿菌や,状況によってMRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)などを想定する 11)。細胞性免疫不全患者[HIV(human immunodeficiency virus)を含む]の肺炎ではニューモシスチスを鑑別に含める 12)。 感染巣と患者背景に関連する疫学情報から原因微生物を想定した後,可能であれば迅速微生物診断法を実施する。迅速微生物診断法としてグラム染色は,採取検体の白血球の有無により局所炎症があるかどうか,有意な微生物が存在するかを確認できる。グラム染色を実施した場合,検体の質を踏まえたうえで経験的抗菌薬によるカバーの過不足がないかを検討することが重要である 13)。 原因微生物の想定・確認ができれば,臓器移行性やスペクトラム(耐性菌の可能性を含む),および臨床的なエビデンスを踏まえて抗菌薬を選択する。抗菌薬の臓器移行性と到達部位での活性に関して注意すべきものを以下に示す。髄膜炎に対するβラクタム系薬としてセフトリアキソン,セフェピム,メロペネムは使用できるが,髄液移行性の観点からセファゾリンは避けるべきである。心内膜炎に頭蓋内への播種として脳膿瘍を合併した場合は,同様に髄液移行性に注意を要する。肺炎に対してのダプトマイシンは,肺胞のサーファクタントで不活化されるため避ける 14)。 世界的に薬剤耐性の問題が大きくなってきており,敗血症診療においても耐性菌の増加は脅威である 28-32)。抗菌薬の感受性率は,時と場所(国,地域,施設,病棟)によって変化するため,各地域・施設のローカル・データ(アンチバイオグラムを含む)の把握が重要である 4, 5)。なお,アンチバイオグラムは様々な目的で提出された検体の集計のため,抗菌薬開始前の検体のみを集めた実際の感受性率よりも耐性度が高く示されることが報告されており,注意して使用する 33)。また,患者自身の細菌検査歴も重要である。過去の保菌(定着菌)や感染症の検出菌は,必ずしも敗血症の原因微生物になるとは限らないが,耐性菌の検出歴がある場合には危険因子であり,カバーすることを考慮する。 経験的抗菌薬は,想定される原因微生物のカバー漏れを少なくするように選択するが,原因微生物が確定すれば標的抗菌薬に移行することが前提の治療である。もしカバーができていないことが判明した場合 は,速やかな変更を要する。標的抗菌薬は,治療効果を最大限引き出し,副作用および菌交代に伴うコラテラルダメージ(常在微生物叢に対する悪影響)を最小限にするものがよい 34)。例えば,頭蓋内播種のないメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)菌血症に対する第1 選択薬は本邦ではセファゾリンであり,メチシリン耐性が判明していない段階で頻用されるバンコマイシンよりもMSSA 菌血症に対する治療成績が優れている 35, 36)。これを踏まえると,MRSA カバー目的で経験的抗菌薬としてバンコマイシンを使用する際に,MSSA の可能性が高いと判断した場合は,バンコマイシンとセファゾリンの併用も考慮される。このように,経験的抗菌薬の選択に際しては,後に移行する予定の標的抗菌薬の選択肢を事前に把握しておくことが有用である。Table 4-1-2(原因微生物別の標的治療薬)には,敗血症診療で遭遇する可能性が高い標的抗菌薬リストを感受性パターン別に示した。なお,経験的抗菌薬から標的抗菌薬に移行する際にスペクトラムのみに焦点をあてた考え方として,広域抗菌薬を狭域抗菌薬に変更する場合はデエスカレーションと表現し,その反対はエスカレーションと表現する 23, 37)。敗血症においてデエスカレーションが有効な戦略かについてはCQ4-8 を参照する。 敗血症に対する抗菌薬選択を最適化することで予後を改善しようとする種々の検討がなされてきた。2016年のJ-SSCG では,経験的抗菌薬治療におけるルーチンの併用療法は,予後を改善せず腎障害を含む治療の害が問題になるため,行わないことが推奨された(1B) 3)。また,敗血症診療ではカルバペネムが比較的よく選択されるが,薬剤耐性の脅威が世界的な課題となるなかで,カルバペネムの過剰使用を控えるレジメン(carbapenem-sparing regimen)を戦略的に採用する取り組みがなされてきた。本邦では,2018 年からは抗菌薬適正使用支援加算が新設され,感染症専門家や抗菌薬適正使用支援チームへの相談体制の整備が推進されている。これらを踏まえて,経験的抗菌薬を選択する際には,CQ4-2(経験的抗菌薬にカルバペネム系抗菌薬を含めるのはどのような場合か?),CQ4-3 [どのような場合に,MRSA や一般細菌以外(カンジダ,ウイルス,レジオネラ,リケッチア,クロストリジオイデス ディフィシルなど)に対する経験的抗微生物薬を選択するか],CQ4-5(感染症専門家あるいは抗菌薬適正使用支援チームに相談するのはどのような場合か?)も参考になる。 最後に,敗血症の原因となる感染症の種類が多岐に -S 63-
わたることに加えて,薬剤耐性の世界的な脅威,抗菌薬の開発・供給制限に関する課題,感受性試験の検査基準の近年の度重なる改訂など,抗菌薬治療を取り巻く専門的知見は複雑さを増す一方である。また,しかるべき培養検査を行っても3~5 割は培養陰性となり“culture-negative sepsis”と称されるように(CQ4-4),限界もある。限られた抗菌薬を有効に利用して敗血症 に対応していくためには,「疑われる感染巣ごとに,患者背景,疫学や迅速微生物診断法に基づいて原因微生物を推定し,臓器移行性と耐性菌の可能性も考慮して選択する」という感染症診療の原則を,忠実に実践していくことが重要である。 Table 4-1-1 各感染症別の経験的治療薬 【利用にあたって】 本表は,各種感染症に関するガイドラインおよび日本感染症学会 / 日本化学療法学会感染症治療ガイドを参照し,下記の考え方を加味して,敗血症に関係するものを一覧にまとめたものである。実践的にするために,代表的な選択肢を提示した。経験的治療薬は,その性格上,唯一絶対的な選択肢として提示することはむずかしく,各種ガイドラインにおいてもエビデンスと専門家の意見による提案として提示されるが,作成された年代および地域のアンチバイオグラムや,各施設で利用可能な採用抗菌薬の種類によっても左右される。本表は,各施設の敗血症および抗菌薬適性使用支援チームの専門家が,施設ごとの抗菌薬ガイドラインを作成する際の参考にできる。 感染巣患者背景・病態主に想定される原因菌薬剤の例 (VCM の用量は注釈k)を参照)備考肺炎 a) 市中下記以外肺炎球菌,インフルエンザ桿菌,クレブシエラ,マイコプラズマ,レジオネラCTRX 2g 24 時間毎 38) ± AZM 500mg 24 時間毎 38)レジオネラリスクはCQ4-3 を参照。 インフルエンザ後,壊死性肺炎上記+黄色ブドウ球菌(市中型MRSA を含む) CTRX 2g 24 時間毎 38, 39) ± VCM 38, 39)k) MRSA リスクはCQ4-3 を参照。 医療関連・人工呼吸器関連肺炎球菌,大腸菌,緑膿菌,黄色ブドウ球菌「CFPM 2g 8 時間毎or TAZ / PIPC 4.5g 8 時間毎」± VCM 38)k)早期あるいは耐性菌リスクがない場合には市中肺炎の選択肢が適用可能。MRSA リスクはCQ4-3 を参照。 細胞性免疫低下+ニューモシスチス予防なし+両側陰影ニューモシスチスST:トリメトプリムとして240~320mg 8 時間毎or ペンタミジン4mg / kg 24 時間毎 38) ST:トリメトプリムとして15mg / kg / 日≒本邦のST 合剤(1錠または1g 中のトリメトプリムは80mg)で1 回3~4 錠または3~4g 8 時間毎。 尿路感染症 b)市中(ESBL 産生菌リスク低い)大腸菌CTRX 1~2g 24 時間毎 38) ESBL 産生菌リスクはCQ4-2 参照。 市中(ESBL 産生菌リスク高い) CMZ 1~2g 8 時間毎 40, 41) or TAZ / PIPC 4.5g 8 時間毎 42)or MEPM 1g 8 時間毎 38)医療関連大腸菌,クレブシエラ,エンテロバクター,緑膿菌,腸球菌「TAZ / PIPC 4.5g 8 時間毎 or MEPM 1g 8 時間毎」± VCM 38)k) VCM はグラム染色で連鎖状グラム陽性球菌を認める場合などに追加。 胆道・腹腔内感染症 c)市中(ESBL 産生菌リスク低い)大腸菌,バクテロイデス等の嫌気性菌SBT / ABPC 3g 6 時間毎 43) or「CTRX 2g 24時間毎+MNZ 500mg 8時間毎」 43) ESBL 産生菌リスクはCQ4-2 参照。SBT / ABPC を選択肢にしてよいか,施設・地域のアンチバイオグラムを確認する。 市中(ESBL 産生菌リスク高い) CMZ 1~2g 8 時間毎 43) or TAZ / PIPC 4.5g 8 時間毎 38) 医療関連大腸菌,バクテロイデス等の嫌気性菌,エンテロバクター,緑膿菌,腸球菌±カンジダ「TAZ / PIPC 4.5g 8 時間毎 or (CFPM 2g 8 時間毎+MNZ 500mg 8 時間毎) or MEPM 1g 8 時間毎」 38, 43) ± MCFG 100mg 24 時間毎 38)カンジダリスクはCQ4-3 を参照。 壊死性軟部組織感染症 d)単一菌疑い(グラム陽性球菌ある いはグラム陽性桿菌) β溶血性レンサ球菌,クロストリジウム,稀に黄色ブドウ球菌(市中型MRSA を含む)「CTRX 2g 24 時間毎or SBT / ABPC 3g 6 時間毎」± VCM 38)k) ± CLDM 600mg 8 時間毎 38) MRSA リスクはCQ4-3 を参照。CLDM は,トキシックショック症候群におけるトキシン産生の抑制目的。 複数菌疑い(糖尿病性,フルニエ壊疽)黄色ブドウ球菌,大腸菌,嫌気性菌TAZ / PIPC 4.5g 8 時間毎 38) ± VCM 38)k) 海水・淡水への曝露エロモナス,ビブリオCTRX 2g 24 時間毎+MINO 100mg 12 時間毎 38) -S 64-
感染巣患者背景・病態主に想定される原因菌薬剤の例 (VCM の用量は注釈k)を参照)備考脊椎炎 e)市中MSSA,レンサ球菌,稀に肺炎球菌,グラム陰性桿菌CEZ 2g 8 時間毎 38) or CTRX 2g 24 時間毎 38) MRSA リスクはCQ4-3 を参照。 医療関連黄色ブドウ球菌,グラム陰性桿菌CFPM 2g 12 時間毎+VCM 38)k) 心内膜炎 f)自己弁: MRSA リスクなしMSSA,レンサ球菌,腸球菌SBT / ABPC 3g 6 時間毎 38) or「CTRX 2g 24 時間毎 +ABPC 2g 4 時間毎」 38, 44)腸球菌の可能性が高い場合は「CTRX +ABPC」を選択。 頭蓋内播種病変がある場合はCTRX は2g 12 時間毎。 自己弁: MRSA リスクあり上記+MRSA CTRX 2g 24 時間毎+VCM 38, 44)k)頭蓋内播種病変がある場合はCTRX は2g 12 時間毎。MRSA リスクはCQ4-3 を参照。人工弁orペースメーカー上記+表皮ブドウ球菌,グラム陰性桿菌「CTRX 2g 24 時間毎or CFPM 2g 12 時間毎」+VCM 38, 44)k) 感染性動脈瘤 g)市中黄色ブドウ球菌,サルモネラ,グラム陰性桿菌「CFPM 2g 12 時間毎or TAZ / PIPC 4.5g 8 時間毎」± VCM k) MRSA リスクはCQ4-3 を参照。 人工血管黄色ブドウ球菌,表皮ブドウ球菌,緑膿菌「CFPM 1g 8 時間毎or TAZ / PIPC 4.5g 8 時間毎or MEPM 1g 8 時間毎」+VCM k) カテーテル関連血流感染症 h)血管内カテーテル表皮ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌(MRSA 含む),大腸菌,緑膿菌, ±カンジダVCM k) +CFPM 2g 8~12 時間毎± MCFG 100mg 24 時間毎 38)カンジダリスクはCQ4-3 を参照。 髄膜炎 i)市中(50 歳未満)肺炎球菌,髄膜炎菌CTRX 2g 12 時間毎+VCM 38, 45)k) 市中(50 歳以上,細胞性免疫不全)肺炎球菌,髄膜炎菌,リステリアABPC 2g 4 時間毎+CTRX 2g 12 時間毎+VCM 38, 45)k)脳外科術後or シャント関連髄膜炎MRSA,緑膿菌「CAZ or CFPM or MEPM (2g 8 時間毎)」 +VCM 38, 45)k) 感染巣不明または全身性 j)市中(下記のいずれでもない)肺炎球菌,髄膜炎菌,β溶血性レンサ球菌,大腸菌CTRX 2g 24 時間毎 38)髄膜炎の可能性がある場合は,髄膜炎の項目を参照。 医療関連(下記のいずれでもない)緑膿菌,MRSA「CFPM 2g 8 時間毎or TAZ / PIPC 4.5g 8 時間毎or MEPM 2g 8 時間毎」+VCM k) トキシックショック症候群黄色ブドウ球菌,β溶血性レンサ球菌,クロストリジウム「CTRX 2g 24 時間毎or SBT / ABPC 3g 6 時間毎」 +CLDM 600mg 8 時間毎± VCM k) MRSA リスクはCQ4-3 を参照。 リケッチア流行地日本紅斑熱,ツツガムシ病MINO 100mg 12 時間毎 46)発熱性好中球減少症緑膿菌,MRSA CFPM 2g 12 時間毎+VCM 38)k)抗緑膿菌薬の併用はCQ4-2 を参照。脾摘後肺炎球菌,髄膜炎菌,インフルエンザ桿菌,カプノサイトファーガ髄膜炎の可能性がない場合: CTRX 2g 24 時間毎 38)髄膜炎の可能性がある場合は,髄膜炎の項目を参照。ショック+発疹電撃性紫斑病(髄膜炎菌,肺炎球菌),リケッチアCTRX 2g 12 時間毎+VCM 38)k) +MINO 100mg 12 時間毎 46, 47)心内膜炎の可能性がある場合は,心内膜炎の項目を参照。 【略語】ABPC:アンピシリン,AZM:アジスロマイシン,CAZ:セフタジジム,CFPM:セフェピム,CLDM:クリンダマイシン,CMZ:セフメタゾール,CTRX:セフトリアキソン,GM:ゲンタマイシン,MCFG:ミカファンギン,MEPM:メロペネム,MINO:ミノサイクリン,MNZ:メトロニダゾール,SBT / ABPC:スルバクタム/ アンピシリン,ST:スルファメトキサゾール/ トリメトプリム,TAZ / PIPC:タゾバクタム/ ピペラシリン, VCM:バンコマイシン。(抗菌薬の略語はJAID / JSC 感染症治療ガイドに準じた) a) 肺炎:インフルエンザウイルス感染後や壊死性肺炎は,通常の市中肺炎の原因に加えて黄色ブドウ球菌(MRSA を含む)が問題になるため,別項 を作成して記載した。Table 4-1-1 各感染症別の経験的治療薬(つづき) -S 65-
b) 尿路感染症:本邦のESBL 産生菌の疫学および治療の報告を加味して提示した。c) 胆道・腹腔内感染症:本邦のESBL 産生菌の疫学および治療の報告を加味して提示した。d) 壊死性軟部組織感染症:患者背景(曝露歴,基礎疾患)や経過などから(場合によっては試験切開検体の迅速検査結果も加味する)原因菌を推定できる場合の選択肢として3 種類を提示した。e) 脊椎炎:血行動態的および神経学的に安定している脊椎炎では経験的治療薬は控えることが推奨されているが,敗血症を合併した場合は経験的治療の適応である 48)。経験的治療のレジメンは確立してはいないが,JAID / JSC 感染症治療ガイドを参考に選択肢を提示した 38)。f) 心内膜炎:自然弁の心内膜炎におけるGM の併用は,黄色ブドウ球菌の場合以前は推奨されていた 38)が,近年推奨されなくなっている44)。腸球菌の場合には,GM の代わりにCTRX をABPC と併用するレジメンが示された。これらのことを加味して,経験的治療としてGM を併用しないレジメン提示した 44)。また,心内膜炎で高率に合併する頭蓋内播種を有する場合について,JAID / JSC 感染症治療ガイドに記載がなかったが,本表では髄液移行性を加味して提示した。人工弁の心内膜炎では,GM の腎毒性を考慮して,原因菌が未確定な段階での経験的治療としてはGM を含まない選択肢を提示した。g) 感染性動脈瘤:JAID / JSC 感染症治療ガイド等に記載がなく確立した推奨はない 38, 49)が,選択肢として提示した。h) カテーテル関連血流感染症:JAID / JSC 感染症治療ガイドを参考に選択肢を提示した 38)。i) 髄膜炎:JAID / JSC 感染症治療ガイド等を参考に選択肢を提示した 38, 45)。j) 感染巣不明または全身性:JAID / JSC 感染症治療ガイド等に記載がないが,敗血症では感染巣不明の場合が少なくないため,想定される病態ごとの選択肢を提示した。k) VCM の用量は,抗菌薬TDM ガイドライン2016 等の記載(初回ローディング:25~30mg / kg 静注,その後,維持量(腎機能正常):15~20mg / kg 静注12 時間ごと)が参考になる 50)。 Table 4-1-2 原因微生物別の標的治療薬 【利用にあたって】 本表は,各種感染症に関するガイドラインおよび日本感染症学会 / 日本化学療法学会感染症治療ガイドを参照し,感受性検査の基準 51)および抗菌薬適性使用の考え方 52)を加味して,敗血症に関係するものを一覧にまとめたものである。実践的にするために,代表的な選択肢を提示した。各施設の敗血症および抗菌薬適性使用支援チームの専門家は,デエスカレーションを推進する際に,各施設の状況(利用可能な採用抗菌薬など)を加味して本表を利用できる。 原因微生物感染巣感受性結果選択肢代替薬備考グラム陽性球菌(ブドウ状) 〈GPC in clusters〉Staphylococcus aureus黄色ブドウ球菌カテーテル関連血流感染症,脊椎炎・関節炎・腸腰筋膿瘍,自己弁心内膜炎(頭蓋内播種の 合併なし),肺炎MSSA(PCG: S & CEZ: S) ※ PCG:S とは,ペニシリナーゼ非産生が確認できた場合PCG 400 万単位4~6 時間毎 53-55) or ABPC 2g 4~6 時間毎 38) (心内膜炎:4 時間毎,他:4~6 毎) CEZ MSSA(PCG: R & CEZ: S)CEZ 2g 8 時間毎 38, 44, 56) GM 併用は推奨されない 44)。 MRSA(CEZ: R & VCM: S)VCM 初回25~30mg / kg,その後15~ 20mg / kg 12 時間毎 6, 38, 44, 50, 56, 57) DAP(肺炎は除く) or TEIC or LZD 38, 44, 50, 57) VCM 目標トラフ値15~ 20μg / mL 44, 50, 57)。 自己弁心内膜炎(頭蓋内播種の合併あり),術後髄膜炎(髄液シャント感染症を含む) MSSA(PCG: S & CEZ: S) ※ PCG:S とは,ペニシリナーゼ非産生が確認できた場合PCG 400 万単位4~6 時間毎 53-55) or ABPC 2g 4~6 時間毎 38) (心内膜炎:4 時間毎,他:4~6 時 間毎) CEZ は避ける MSSA(CEZ: S) CTRX 2g 12 時間毎or CFPM 2g 8時間毎or MEPM 2g 8 時間毎 8, 44) CEZ は避けるESC2015 ではCTX の記載あり 56)。MRSA(CEZ: R & VCM: S)VCM 初回25~30mg / kg,その後15~ 20mg / kg 12 時間毎 6, 38, 44, 50, 56, 57) DAP or TEIC or LZD 44, 50, 57) VCM 目標トラフ値は15~ 20μg / mL 44, 50, 57)。BSAC2012 ではVCM+RFP など 58)。 人工弁心内膜炎GM: S & RFP: S自己弁心内膜炎の各レジメン(上記)+GM 2~3mg / kg 24 時間毎± RFP 600mg 経口1 日1 回(3 剤併用) 6, 44, 56, 57)。GM は2 週間併用。GM 目標濃度は,ピークは3 ~5μg / mL,トラフは1μg / mL未満 44, 50)。RFP の追加について「C o a g u l a s e N e g a t i v e Staphylococcus (CNS)」の項目(次項)を参照。 GM: R, AMK or LVFX: S前項のGM の代わり:AMK or LVFX トキシックショック症候群CLDM: S上記各レジメン+CLDM 600mg 8 時間毎 59) CLDM: R & LZD: S上記各レジメン+CLDM 600mg 8 時間毎or 上記各レジメン+LZD 600mg 12 時間毎 59) CLDM はトキシン産生抑制目的(R でも抑制できる) 60)。 -S 66-
原因微生物感染巣感受性結果選択肢代替薬備考Coagulase Negative Staphylococcus (CNS)コアグラーゼ陰性ブドウ球菌カテーテル関連血流感染症,人工弁心内膜炎,人工関節感染症・ 感受性別の選択はStaphylococcus aureus と同様。→「Staphylococcus aureus」の項目(上記)を参照。・ 人工弁心内膜炎や,人工関節感染症で温存療法を行う場合は,RFP の追加を考慮する。→RFP は耐性化しや すいため単剤で使用しない。菌量が多い時は避けたほうがよいとする専門家の意見がある。感受性検査結果が参考になる 6, 38, 44, 56)。 グラム陽性球菌(レンサ状) 〈GPC in chains〉Streptococcus pneumoniae肺炎球菌※ PCG の感受性基準は,髄膜炎と非髄膜炎で異なるので注意髄膜炎以外(肺炎など) PCG: S(MIC ≦2μg / mL) PCG 200 万単位4 時間毎or ABPC 2g 6~8 時間毎 38) (心内膜炎・侵襲性感染症は,PCG 400 万単位4 時間毎or ABPC 2g 4時間毎) CTRX P C G : I o r R(M I C ≧ 4μg / mL) CTRX 2g 24 時間毎 38) VCM or LVFX(S なら) 髄膜炎PCG: S(MIC ≦0.06μg / mL)PCG 400 万単位4 時間毎 38, 45) or ABPC 2g 4 時間毎 38, 61) CTRX P C G : R(M I C ≧ 0.12μg / mL)&CTRX: S (MIC ≦0.5μg / mL) CTRX 2g 12 時間毎 38, 45) CFPM 8) P C G : R(M I C ≧ 0.12μg / mL)&CTRX: I or R(MIC ≧1.0μg / mL) VCM 初回25~30mg / kg,その後15~20mg / kg 12 時間毎+CTRX 2g 12 時間毎 38, 45, 50) (CTRX MIC >2μg / mL &RFP: Sで,RFP の追加を考慮) 38, 61) VCM 目標トラフ値15~ 20μg / mL 45, 50)。 Group A,B,C,F, G Streptococcus β溶血性レンサ球菌菌血症,軟部組織感染症PCG: S PCG 200~400 万単位4 時間毎 38)or ABPC 2g 4~6 時間毎CEZ or CTRX CLDM はトキシン産生抑制目的(R でもよく使用される)。 トキシックショック症候群PCG: S上記各レジメン+CLDM 600mg 8 時間毎 38, 62) Viridans Streptococcus, S. gallolyticus (S. bovis)心内膜炎PCG のMIC ≦0.12μg / mL PCG 400 万単位4 時間毎 38) or ABPC 2g 4~6 時間毎 44) CTRX 38) PCG は,24 時間持続静注や 38),6 時間毎に分割する方法もあり 6, 56)。PCG 200~300 万単位4 時間毎も選択肢(自然弁 6, 56),人工弁 56)) PCG のMIC =0.25μg / mL「PCG 400 万単位4 時間毎or ABPC 2g 4 時間毎」+GM 3mg / kg 24 時間毎(or 1mg / kg 1 日2~3 回) 6, 38, 44, 50, 56) CTRX(MIC ≦0.5μg / mL なら)+GM PCG は,24 時間持続静注する方法もあり 38)。GM 目標濃度は,ピークは3 ~5μg / mL,トラフは1μg / mL未満 44, 50)。GM は自然弁2 週間,人工弁6 週間併用。 PCG のMIC ≧0.5感染症専門家に相談 6, 44, 56)。 心内膜炎以外(肺炎,菌血症,発熱性好中球減少症など) PCG: S PCG 200~300 万単位4~6 時間毎or ABPC 2g 6~8 時間毎 38, 63) CTRX PCG は,1 日量を24 時間持続静注する方法もあり 38)。 PCG: I / R & CTRX: S CTRX 2g 24 時間毎 63) PCG: I / R & CTRX: R & VCM: S VCM 初回25~30mg / kg,その後15~20mg / kg 12 時間毎 63) Enterococcus sp.心内膜炎PCG: S (1)GM 高度耐性試験でMIC ≦ 500μg / mL の場合:「PCG 400 万単位4 時間毎or ABPC 2g 4 時間毎」 + GM 3mg / kg 24 時間毎(or 1mg / kg 1 日2~3 回) 6, 38, 44, 56) (2)GM MIC >500μg / mL,またはGM を併用しない場合: ABPC 2g 4 時間毎+CTRX 2g 12 時間毎 6, 38, 44, 56)心内膜炎ではGM の高度耐性試験を実施。GM 目標濃度は,ピークは3 ~5μg / mL,トラフは1μg / mL未満 44, 50)。 PCG: R (MIC ≧16μg / mL) & VCM: S GM 高度耐性試験でMIC ≦ 500μg / mL の場合: VCM 初回25~30mg / kg,その後15~20mg / kg 12 時間毎 50)+GM 3mg / kg 24 時間毎(or 1mg / kg 1 日2~3 回) 38, 44) SBT / ABPC: SならSBT / ABPC+ GM 6, 56) GM 目標濃度は,ピークは3 ~5μg / mL,トラフは1μg / mL未満 44, 50)。VCM 目標トラフ値15~ 20μg / mL 44, 50)。 Table 4-1-2 原因微生物別の標的治療薬(つづき) -S 67-
原因微生物感染巣感受性結果選択肢代替薬備考Enterococcus sp. (続き)心内膜炎(続き) VCM: R(VRE) DAP +ABPC 6, 56, 64)感染症専門家に相談も必要。 心内膜炎以外PCG: S PCG 300 万単位4 時間毎or ABPC 2g 4~6 時間毎 38) PCG: R & VCM: S VCM 初回25~30mg / kg,その後15~20mg / kg 12 時間毎 50) グラム陽性桿菌 〈GPR〉Bacillus sp. (Bacillus anthracis以外)カテーテル関連血流感染症などVCM: S VCM 初回25~30mg / kg,その後15~20mg / kg 12 時間毎 38, 50) CLDM 38) Corynebacterium sp.カテーテル関連血流感染症,人工物感染症などVCM: S VCM 初回25~30mg / kg,その後15~20mg / kg 12 時間毎 38, 50) PCG(S なら) or TEIC or LZD(S なら) 38) Listeria monocytogenes髄膜炎ABPC: S ABPC 2g 4 時間毎 38)± GM 1.7mg / kg 8 時間毎ST or 「ABPC + ST」併用などは感染症専門家に相談も必要。Nocardia sp.重症肺炎・脳膿瘍・播種性感染症(ルーチンの感受性検査実 施は困難なので,nocardia疑いでの重症例における抗菌薬選択肢を示す)「ST トリメトプリムとして240~ 320mg 8 時間毎+IPM / CS 0.5g 6 時間毎」or「IPM / CS 0.5g 6 時間毎+ AMK 15mg / kg 24 時間毎」 38, 65) LZD, MEPM, CTRX, MINO感染症専門家に相談も必要。LZD は基本的にS。ST は稀にR だが,感受性結果と臨床効果の相関は議論あり。ST:トリメトプリムとして15mg / kg / 日≒本邦のST 合剤(1錠または1g 中のトリメトプリムは80mg)で1 回3~4 錠または3~4g 8 時間毎。 グラム陰性球菌 〈GNC〉Neisseria meningitidis髄膜炎,菌血症PCG: S (MIC <0.1mg / mL) PCG 400 万単位4 時間毎or ABPC 2g 4 時間毎 38, 61) CTRX PCG: R CTRX 2g 12 時間毎 38, 61) グラム陰性桿菌(腸内細菌科) 〈GNR 1〉Escherichia coli, Proteus mirabilis注:Proteus vulgaris はEnterobacter の項目を参照尿路感染症,菌血症など(髄膜炎は除く) ABPC: S ABPC 1~2g 6 時間毎 66) CPFX(S なら) or ST(S なら) ABPC: R & CEZ: S CEZ 2g 8 時間毎 38, 51, 67) ABPC: R & CEZ: R & CTRX(CTX): S CTRX 1~2g 24 時間毎 38, 51, 68) ESBL 産生菌「C T R X(C T X): R o r CAZ: R」&「MEPM:S & TAZ / PIPC: S & CMZ: S」CMZ 1~2g 8 時間毎 40, 41, 69) TAZ / PIPC 4.5g 6~8 時間毎 42, 70) MEPM 1g 8 時間毎 38, 51, 68) CMZ,TAZ / PIPC は臨床的安定,腎盂腎炎などで選択肢になるという報告あり。 MEPM or IPM / CS のいずれかがS でない。感染症専門家に相談。 髄膜炎CTRX: S CTRX 2g 12 時間毎 8, 38)髄膜炎ではCEZ は避ける。 CTRX: R & MEPM: S MEPM 2g 8 時間毎 8) MEPM or IPM / CS のいずれかがS でない。感染症専門家に相談。 Klebsiella sp.尿路感染症,肺炎,肝膿瘍など・ ABPC: S でも自然耐性なのでABPC は選択しない。・ ABPC 以外は,Escherichia coli と同様なので,上記「Escherichia coli, Proteus mirabilis」の項目を参照。・ 侵襲性肝膿瘍症候群では,CEZ: S であっても,CEZ よりCTRX のほうが成績がよいとする観察研究あり 71)。Enterobacter sp., Citrobacter sp., Serratia marcescens, Proteus vulgaris, Morganella sp.菌血症,肺炎など(髄膜炎は除く)「C T R X(C T X): S & CAZ: S」&CFPM: S CFPM (1g 8 時間毎or 2g 8~12 時間毎) 38, 51, 68, 72) TAZ / PIPC 4.5g 6~8 時間毎 68)or CTRX 1~2g 24 時間毎 38, 51, 68) MEPM or CPFX(S なら) or ST(S なら) ABPC は自然耐性。CTRX,CAZ,TAZ / PIPC は治療中にAmpC 型セファロスポリナーゼ産生により耐性化する可能性がある。胆道系悪性腫瘍に伴う胆管炎などでは注意 73)。 「CTRX (CTX): R or CAZ: R」CFPM: S & MEPM: S CFPM (1g 8 時間毎or 2g 8~12 時間毎) 38, 51, 68) CPFX(S なら) or ST(S なら) CFPM: R & MEPM: S MEPM 1g 8 時間毎 38, 51, 68) MEPM or IPM / CS のいずれかがS でない。感染症専門家に相談。Serratia はコリスチンに自然耐性。 Table 4-1-2 原因微生物別の標的治療薬(つづき) -S 68-
原因微生物感染巣感受性結果選択肢代替薬備考Enterobacter sp., Citrobacter sp., Serratia marcescens, Proteus vulgaris, Morganella sp. (続き)髄膜炎CFPM: S CFPM 2g 8 時間毎 8)感染症専門家に相談も必要。C. koseri はCTRX も選択肢。MEPM: S MEPM 2g 8 時間毎 8, 74) MEPM or IPM / CS のいずれかがS でない。感染症専門家に相談。Serratia はコリスチンに自然耐性。 Salmonella sp. (腸チフス以外)菌血症,腸管外感染症(感染性大動脈 瘤など) ABPC: S ABPC 2g 6 時間毎 74) CPFX(S なら) ABPC: R & CTRX: S CTRX 2g 24 時間毎 74)髄膜炎では2g 12 時間毎ABPC: R & CTRX: R & MEPM: S MEPM 1g 8 時間毎 74)髄膜炎では2g 8 時間毎 グラム陰性桿菌(ブドウ糖非発酵菌) 〈GNR 2〉Pseudomonas aeruginosa (緑膿菌)肺炎,尿路感染症,菌血症,発熱性好中球減少症など(髄膜炎は除く) CAZ: S CAZ 2g 8 時間毎(or 1g 6 時間毎) 38, 51) MEPM(S なら) or CPFX(S なら) CFPM: S CFPM 2g 8~12 時間毎(or 1g 8 時間毎) 38, 51) PIPC: S PIPC 4g 6 時間毎 38) PIPC の感受性基準は最低3g 6 時間毎以上用いた場合で設定されている 51)。上記いずれもR & MEPM: S MEPM 1g 8 時間毎 38, 51) CPFX(S なら) MEPM or IPM / CS のいずれかがS でない。感染症専門家に相談。 髄膜炎CAZ: S or CFPM: S CAZ 2g 8 時間毎or CFPM 2g 8 時間毎 8) MEPM: S MEPM 2g 8 時間毎 8) Acinetobacter baumannii院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎,創傷感染CFPM: S CFPM 2g 8 時間毎 38) CPFX(S なら) or MINO(S なら) SBT / ABPC: S SBT / ABPC 3g 6 時間毎以上(重症例は用量を感染症専門家に相談) 38, 75) SBT の部分が抗菌作用を発揮。 MEPM: S MEPM 1g 8 時間毎 51) MEPM or IPM / CS のいずれかがS でない。感染症専門家に相談。 Stenotrophomonas maltophilia菌血症,肺炎ST: S ST:トリメトプリムとして240~ 320mg 8 時間毎 38) MINO 38) or CPFX(S なら)カルバペネム系に自然耐性。ST:トリメトプリムとして15mg / kg / 日≒本邦のST合剤(1錠または1g 中のトリメトプリムは80mg)で1 回3~4 錠または3~4g 8 時間毎。グラム陰性桿菌(その他) 〈GNR 3〉Haemophilus influenzae髄膜炎ABPC: S ABPC 2g 4 時間毎 45, 61) CTRX 8) ABPC: R & CTRX(CTX): S CTRX 2g 12 時間毎 38, 61) CFPM 8) 肺炎,喉頭蓋炎ABPC: S ABPC 2g 6 時間毎 38) ABPC: R & SBT / ABPC: S SBT / ABPC 3g 6 時間毎 38) ABPC: R & CTRX(CTX): S CTRX 1~2g 24 時間毎 38) Pasteurella multocida, Capnocytophaga canimorsus動物咬傷PCG: S SBT / ABPC 3g 6 時間毎 62) CTRX単一菌による感染症ではPCG 400 万単位4 時間毎。 PCG: R & SBT / ABPC: S SBT / ABPC 3g 6 時間毎 62) CTRX Aeromonas sp.軟部組織感染症,菌血症CTRX: S or MINO: S CTRX 2g 24 時間毎+MINO 100mg 12 時間毎 62) CPFX+MINO, LVFX Vibrio vulnificus軟部組織感染症,菌血症CTRX: S & MINO: S CTRX 2g 24 時間毎+MINO 100mg 12 時間毎 62) C T X + C P F X , LVFX βラクタム単剤は併用療法より死亡率が高かったとする観察研究あり 76)。 Table 4-1-2 原因微生物別の標的治療薬(つづき) -S 69-
原因微生物感染巣感受性結果選択肢代替薬備考偏性嫌気性菌(C. difficile 以外)偏性嫌気性菌複数菌感染症・ 検出できていない偏性嫌気性菌も含めてどこまでカバーするかは,ドレナージが十分かどうかに左右される。・ 偏性嫌気性菌が原因になる複数菌感染症の抗菌薬選択では,検出された嫌気性菌の感受性結果のみにより判 断するのではなく,複数の嫌気性菌・好気性菌の混合感染を想定する。・ 偏性嫌気性菌は,感受性率により次の3 つの特徴がある。1 横隔膜より上の偏性嫌気性菌(Peptostreptococcus sp.,Prevotella sp. など)の大部分は,PCG(に代表されるβラクタム系薬)やCLDM が感性である。ただし一部には,βラクタマーゼ産生菌やCLDM 耐性菌(Prevotellaの一部など)がある。2 横隔膜より下の偏性嫌気性菌(Bacteroides sp. など)は,βラクタマーゼ産生菌である。特にnon-fragilis Bacteroides(B. fragilis 以外)のCLDM,CMZ の耐性率が増加している。3 1と2をあわせた偏性嫌気性菌のほとんどは,SBT / ABPC,TAZ / PIPC,MEPM,MNZ に対して感性である。・ したがって,偏性嫌気性菌が関与する複数菌感染症の標的治療薬を選択する際には, (1)横隔膜より上か下か,ドレナージが十分かという情報から,偏性嫌気性菌カバーをどこまでするか, (2)偏性嫌気性菌以外の原因菌をカバーするか,の2 点を考慮する。 Peptostreptococcus sp., Prevotella sp. (横隔膜より上の偏性嫌気性菌)肺化膿症,深頸部感染症など右記では代表的な選択肢を示す。偏性嫌気性菌以外に検出されている細菌の感受性結果も,選択の参考になる。SBT / ABPC 3g 6 時間毎 or CLDM 600mg 8 時間毎 or「MNZ 500mg 8 時間毎+(PCG 200~300 万単位4 時間毎or CTRX 2g 24 時間毎)」 77) TAZ / PIPC 脳膿瘍「(PCG 400 万単位4 時間毎or CTRX 2g 12 時間毎or CFPM 2g 8時間毎)+MNZ 500mg 8 時間毎」 78) Bacteroides sp. (横隔膜より下の偏性嫌気性菌)腹腔内の複数菌感染症(二次性腹膜炎, 腹腔内膿瘍,胆管炎)ドレナージ不十分右記では代表的な選択肢を示す。偏性嫌気性菌以外に検出されている細菌の感受性結果も,選択の参考になる。SBT / ABPC 3g 8 時間毎 or TAZ / PIPC 4.5g 8 時間毎 or「MNZ 500mg 8 時間毎 + (CEZ 2g 8 時間毎or CTRX 2g 24 時間毎or CFPM 2g 12 時間毎or CPFX 400mg 12 時間毎)」 38) MEPM CMZ: R,CLDM: R が増えている 38)。 ドレナージ十分CMZ 1g 8 時間毎or「CLDM 600mg 8 時間毎 + (CEZ 2g 8 時間毎or CTRX 2g 24 時間毎or CFPM 2g 12 時間毎or CPFX 400mg 12 時間毎)」or前項の「ドレナージ不十分」の選択肢 38) Clostridium sp.(C. perfringens など)ガス壊疽PCG: S PCG 400 万単位4 時間毎+CLDM 600mg 8 時間毎 38, 62) CLDM はトキシン産生抑制目的(R でもよく使用される) 38)。Clostridioides (Clostridium) difficile Clostridioides (Clostridium) difficile Clostridioides difficile 感染症(CDI)初発VCM 125mg 1 日4 回(経口または経鼻胃管) 38, 79)非重症:MNZ経口VCM 静注は無効。 再発VCM 漸減レジメン(125mg 1 日4回から開始) or FDX 200mg 1 日2回 79)初発治療がMNZ の時: VCMショック,低血圧,巨大結腸症,イレウス,VCM 125mg レジメン不応の時「VCM 500mg 6 時間毎(経口or 経 鼻胃管) or イレウスでは500mg / 生食100mL 停留浣腸として経肛門注入」± MNZ 500mg 静注8 時間毎 79) その他の細菌Legionella sp.肺炎LVFX 500~750mg 24 時間毎 38) or AZM 500mg 24 時間毎 38) MINO 38) Mycoplasma pneumoniae肺炎MINO 100mg 12 時間毎 38) AZM or LVFX Rickettsia japonica日本紅斑熱MINO 100mg 12 時間毎 46) CPFX Orientia tsutsugamushiツツガムシ病MINO 100mg 12 時間毎 46) AZM CPFX は無効。 Table 4-1-2 原因微生物別の標的治療薬(つづき) -S 70-
原因微生物感染巣感受性結果選択肢代替薬備考Leptospira interrogansレプトスピラ症PCG 150 万単位6 時間毎 80) CTRX or MINO真菌Candidaカンジダ血症,播種性カンジダ症(発熱性好中球 減少症を含む)・ 経験的治療(通常はMCFG)は,血液培養の陰性化と臨床的安定が確認されれば,下記のFLCZ またはVRCZ 経口へのステップダウン。・ 眼内炎の合併があれば,MCFG は眼内移行性が悪いため,FLCZ またはVRCZ への変更(両方とも耐性の場合は,L-AMB ± 5-FC)。・ C. albicans, parapsilosis, tropicalis の大部分はFLCZ に感性,C. glabrata は感性または耐性,C. krusei は自然耐性である。同定が難しいC. auris(FLCZ に耐性,多剤耐性のことあり)が近年報告されている。・ カンジダ尿の大部分は治療対象ではないが,カンジダ尿を契機としてカンジダ血症・播種性カンジダ症と診断される場合がある。また,稀だがカンジダ性尿路感染症として治療を要する場合は,感染症専門家に相談(MCFG やL-AMB は尿路移行性が悪い)。 Candida albicans, C. parapsilosis, C. tropicalisカンジダ血症の安定後FLCZ: S FLCZ 初回800mg (その後400mg)24 時間毎 81) C. glabrata FLCZ: S FLCZ 初回800mg (その後400mg)24 時間毎 81) MCFG のまま治療を完遂するのも選択肢。感染症専門家に相談。FLCZ: R & VRCZ: S VRCZ 初日6mg / kg 12 時間毎(その後4mg / kg 12 時間毎) 81) C. krusei FLCZ: R & VRCZ: S VRCZ 初日6mg / kg 12 時間毎(その後4mg / kg 12 時間毎) 81) Aspergillus sp.侵襲性肺アスペルギルス症VRCZ 初日6mg / kg 12 時間毎(その後4mg / kg 12 時間毎) 38, 81) L-AMB 38) Pneumocystis jiroveciiニューモシスチス肺炎ST:トリメトプリムとして240~ 320mg 8 時間毎 38)ペンタミジン点滴静注 38) ST:トリメトプリムとして15mg / kg / 日≒本邦のST合剤(1錠または1g 中のトリメトプリムは80mg)で1 回3~4 錠または3~4g 8 時間毎。Cryptococcus sp.髄膜炎(非HIV) L-AMB 3~4mg / kg 24 時間毎+ 5-FC 25mg / kg 経口6 時間毎 81) FLCZ(高用量) Mucor sp. などムコール症L-AMB 5~10mg / kg 24 時間毎 81)ウイルスインフルエンザ肺炎などオセルタミビル75mg 経口1 日2回 82)ペラミビルSFTS重症熱性血小板減少症候群研究中 83) CMV肺炎などガンシクロビル5mg / kg 12 時間毎 38)ホスカルネットHSV脳炎などアシクロビル10mg / kg 8 時間毎 84)【略語】ABPC:アンピシリン,AMK:アミカシン,AZM:アジスロマイシン,CAZ:セフタジジム,CEZ:セファゾリン,CFPM:セフェピム, CLDM:クリンダマイシン,CMV:サイトメガロウイルス,CMZ:セフメタゾール,CPFX:シプロフロキサシン,CTRX:セフトリアキソン, CTX:セフォタキシム,DAP:ダプトマイシン,5-FC:フルシトシン,FDX:フィダキソマイシン,FLCZ:フルコナゾール,GM:ゲンタマイシン, HSV:単純ヘルペスウイルス,IPM / CS:イミペネム/ シラスタチン,L-AMB:リポソーマル・アムホテリシンB,LVFX:レボフロキサシン,LZD:リネゾリド,MCFG:ミカファンギン,MEPM:メロペネム,MINO:ミノサイクリン,MNZ:メトロニダゾール,PCG:ペニシリンG,PIPC:ピペラシリン,RFP:リファピシン,SBT /ABPC:スルバクタム/ アンピシリン,SFTS:重症熱性血小板減少症候群,ST:スルファメトキサゾール/ トリメトプリム,TAZ / PIPC:タゾバクタム/ ピペラシリン,TEIC:テイコプラニン,VCM:バンコマイシン,VRCZ:ボリコナゾール。(抗菌薬の略語はJAID / JSC 感染症治療ガイドに準じた) S:感性,I:中間,R:耐性 文 献 1) Paul M, Shani V, Muchtar E, et al: Systematic review and metaanalysis of the efficacy of appropriate empiric antibiotic therapy for sepsis. Antimicrob Agents Chemother. 2010; 54: 4851-63. 2) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Crit Care Med. 2017; 45: 486-552. 3) Nishida O, Ogura H, Egi M, et al: The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2016 (J-SSCG 2016). Acute Med Surg. 2018; 5: 3-89. 4) Oda S, Aibiki M, Ikeda T, et al: The Japanese guidelines for the management of sepsis. J Intensive Care. 2014; 2: 55. 5) 日本集中治療医学会Sepsis Registry 委員会: 日本版敗血症治療ガイドライン. 日集中医誌. 2013; 20: 124-73. 6) Baddour LM, Wilson WR, Bayer AS, et al: Infective endocarditis in adults: Diagnosis, antimicrobial therapy, and management of complications: A scientific statement for healthcare professionals from the American Heart Association. Circulation. 2015; 132: 1435-86. 7) Zou H, Li G: Clinical practice guidelines for the diagnosis and Table 4-1-2 原因微生物別の標的治療薬(つづき) -S 71-
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CQ4-2:経験的抗菌薬にカルバペネム系抗菌薬 を含めるのはどのような場合か? Answer:ESBL 産生菌,あるいはカルバペネムのみに感受性を持つ耐性緑膿菌,耐性アシネトバクターなど,カルバペネム系薬剤が特に有効と考えられる微生物が原因として想定される場合である(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症の抗菌療法において,経験的治療の適切性が死亡率低下に関連するとの観察研究が多数存在する 1)。このため,SSCG2016 においては,“敗血症あるいは敗血症性ショック患者には,想定されるすべての病原体(細菌,真菌やウイルス感染まで考慮する)をカバーするため,経験的選択に基づく広域スペクトラム抗菌薬の単剤あるいは併用をすることを推奨する(強い推奨,中等度のエビデンスレベル)”と記述されていた 2)。 広域抗菌薬の中で,カルバペネム系薬剤(以下,カルバペネム)は最も広域のスペクトラムを有する薬剤であり,治療の適切性を高める目的で,敗血症の経験的抗菌薬として比較的よく選択されうる。しかし,カルバペネムの過剰使用は,カルバペネム耐性菌の増加のほか,抗菌薬関連の副作用やコストを高める危険性を伴っている。カルバペネムを日常的に使用するのではなく,適切な症例に対して選択的に使用することは,抗菌薬スチュワードシップの観点から望ましいと考えられるため,本ガイドラインのCQ として取り上げた。 (2)解説 現時点で,本邦において使用可能な経静脈カルバペネムには,メロペネム,ドリペネム,イミペネム / シラスタチン,パニペネム / ベタミプロン,ビアペネムがある。いずれの薬剤も抗菌スペクトラムはほぼ同様であり,グラム陽性菌から陰性菌まで幅広い。ただし,メチシリン耐性ブドウ球菌あるいは腸球菌群や,ステノトロホモナス・マルトフィリア,真菌などには感受性を有さない。 2001 年頃までの研究を集めたレビューで,敗血症に対して経験的 / 標的治療を区別せず行われた,カルバペネムと他の広域βラクタム系薬剤の効果を比較したランダム化比較試験(RCT)では,カルバペネムの治療効果はβラクタム系薬剤単剤あるいはβラクタム系薬剤+アミノグリコシドまたはメトロニダゾールの併用と同等であった 3)。重症感染症患者を対象とし たRCT においても,カルバペネムは肺炎においてタゾバクタム / ピペラシリン 4-6),腹腔内感染症においてタゾバクタム / ピペラシリン 7)やキノロン 8),あるいは髄膜炎において第3 世代セフェム 9, 10)といずれも同等の効果であった。つまり現時点では,敗血症患者に対してカルバペネムを日常的に使用することの優位性は示されていない。 ある特定の微生物が原因と考えられる際に,カルバペネムを選択的に使用するという考えがある。近年,腸内細菌科グラム陰性桿菌群の中で,基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)を産生する株の増加が問題となっている 11)。ESBL 産生菌に対する治療選択肢には,カルバペネム系薬剤の他に,βラクタマーゼ阻害薬配合広域ペニシリン,セファマイシン,アミノグリコシドなどがある。観察研究ではカルバペネムとの非劣性を示唆する結果もあるが 12),RCT ではカルバペネムの優位性が指摘されており 13, 14),特に敗血症 / 敗血症性ショックなどの重症病態では,少なくとも経験的治療の段階ではカルバペネムが第1 選択となりうる。また,緑膿菌やアシネトバクターは耐性化しやすく,βラクタム系薬剤の中でカルバペネムのみに感受性を有する耐性パターンの菌株が存在する。これら微生物が想定される時に,カルバペネム系薬剤を選択することは理にかなっている。ただし,現時点の本邦の臨床現場においてこのような耐性株に出会うことは稀である。 一方,他の薬剤と同様に,カルバペネムには耐性菌が存在する。カルバペネム耐性のグラム陰性桿菌群の存在は,現在,全世界的に問題となっている。特に,抗菌薬治療に伴う緑膿菌の耐性獲得率はカルバペネムが最も高い 15, 16)。カルバペネムの使用は多剤耐性緑膿菌,あるいは多剤耐性アシネトバクターの最も大きな危険因子である 17)。メタ解析では,カルバペネム使用によるカルバペネム耐性緑膿菌感染症発生のオッズ比は7.09(95% CI: 5.43~9.25)である 18)。そして,本邦のJANIS サーベイランスにおいてカルバペネム耐性緑膿菌の割合はメロペネム11%,イミペネム17% と高い 19)。また,カルバペネムはカルバペネマーゼ産生菌を含めたカルバペネム耐性腸内細菌科グラム陰性桿菌の危険因子でもある 20)。この耐性菌は,全世界的には,特に発展途上国においてその増加が問題となっており,本邦における分離頻度は0.5% 未満とまだ低いが 19),グローバリゼーションのなかで今後分離頻度が増加することが予測される。耐性菌は経験的抗菌薬の不適切性を高め,不良な転帰に影響するこ -S 74-
とが問題となる 21-23)。つまり,カルバペネムの使用に際しては耐性菌選択の危険性を意識した適正使用の観点が欠かせない。 カルバペネムの適正使用に重きを置けば,カルバペネムは他の薬剤では代替しがたい上記の微生物が病原菌であると想定されるような稀な状況においてのみ使用する,という戦略が成り立つ。これは,カルバペネム使用にかかる最も保守的な選択肢だが,抗菌薬スチュワードシップを重視する観点や,本邦においてカルバペネムが頻用されているという現状を踏まえて,本ガイドラインはこの保守的選択を支持する。具体的には,“ESBL 産生菌,あるいはカルバペネムのみに感受性を持つ耐性緑膿菌,耐性アシネトバクターなどが想定される場合”に,カルバペネムを選択する。 問題は,上記の微生物の可能性をどのような方法で評価するのかである。体系的レビューを含む複数の研究が,ESBL 産生菌 11, 24, 25),第3 世代セフェム耐性腸内細菌科 26),あるいは耐性緑膿菌感染症 20)の危険因子について報告している。微生物ごとに差違はあるものの,多くの研究に共通する最も主要な危険因子は,1抗菌薬の投与歴,2耐性菌の保菌 / 定着,である。 Rottier ら 26)は,腸内細菌科グラム陰性桿菌群による菌血症患者を対象に,第3 世代セフェム耐性腸内細菌科グラム陰性桿菌群の危険因子を評価し,耐性菌の保菌 / 定着が存在する場合のみにカルバペネムを使用するとの想定の場合に,適切率を下げることなくカルバペネムやアミノグリコシドの過剰使用を回避できるとした。 Lambregts ら 27)は,グラム陰性桿菌菌血症において第2 世代セフェム+アミノグリコシド耐性菌の危険因子を耐性菌保菌+抗菌薬使用歴で抽出し,選択的にカルバペネムを投与した場合にカルバペネム使用を削減でき,経験的治療の適切性が高まるとした。 これらの研究結果を参考にすれば,1各耐性菌の保菌 / 定着あるいは感染 / 分離既往,に加えて,2抗菌薬の投与歴を,“ESBL 産生菌,あるいはカルバペネムのみに感受性を持つ耐性緑膿菌,耐性アシネトバクターなどが想定される場合”の危険因子として設定し,カルバペネムを経験的治療に用いることを考慮する。 ただし,カルバペネムの代替として使用できる薬剤や,想定する耐性菌の頻度や耐性度は,国や地域,あるいは施設や部署ごとに異なり,本邦においても臨床現場における解析が必要である。文 献 1) Paul M, Shani V, Muchtar E, et al: Systematic review and metaanalysis of the efficacy of appropriate empiric antibiotic therapy for sepsis. Antimicrob Agents Chemother. 2010; 54: 4851-63. 2) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign : International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock : 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 3) Bochud P, Bonten M, Marchetti O, et al: Antimicrobial therapy for patients with severe sepsis and septic shock: An evidencebased review. Crit Care Med. 2004; 32: S495-512. 4) Trouillet JL, Vuagnat A, Combes A, et al: Pseudomonas aeruginosa Ventilator-Associated Pneumonia : Comparison of Episodes Due to Piperacillin-Resistant versus Piperacillin- Susceptible Organisms. Clin Infect Dis. 2002; 34: 1047-54. 5) Schmitt DV, Leitner E, Welte T, et al: Piperacillin / Tazobactam vs Imipenem / Cilastatin in the Treatment of Nosocomial Pneumonia–a Double Blind Prospective Multicentre Study. Infection. 2006; 34:127-34. 6) Joshi M, Metzler M, Mccarthy M, et al: Comparison of piperacillin / tazobactam and imipenem / cilastatin , both in combination with tobramycin, administered every 6h for treatment of nosocomial pneumonia. Respir Med. 2006; 100: 1554-65. 7) Erasmo AA, Crisostomo AC, Yan L, et al: Randomized Comparison of Piperacillin / Tazobactam Versus Imipenem / Cilastatin in the Treatment of Patients with Intra-abdominal Infection. Asian J Surg. 2004; 27: 227-35. 8) Solomkin JS, Wilson SE, Christou NV, et al: Results of a Clinical Trial of Clinafloxacin Versus Imipenem / Cilastatin for Intraabdominal Infections. Ann Surg. 2001; 233: 79-87. 9) Klugman KP, Dagan R: Randomized Comparison of Meropenem with Cefotaxime for Treatment of Bacterial Meningitis. Meropenem Meningitis Study Group. Antimicrob Agents Chemother. 1995; 39: 1140-6. 10) Schmutzhard E, Williams KJ, Vukmirovitsf G, et al: A randomised comparison of meropenem with cefotaxime or ceftriaxone for the treatment of bacterial meningitis in adults. Meropenem Meningitis Study Group. J Antimicrob Chemother. 1995; 36: 85-97. 11) Goodman KE, Lessler J, Cosgrove SE, et al: A Clinical Decision Tree to Predict Whether a Bacteremic Patient is Infected with an Extended-Spectrumβ-Lactamase-Producing Organism. Clin Infect Dis. 2016; 63: 896-903. 12) Palacios-Baena ZR, Gutiérrez-Gutiérrez B, Calbo E, et al: Empiric Therapy with Carbapenem-Sparing Regimens for Bloodstream Infections due to Extended-Spectrumβ-Lactamase- Producing Enterobacteriaceae: Results from the INCREMENT Cohort. Clin Infect Dis. 2017; 65: 1615-23. 13) Tamma PD, Rodriguez-Bano J: The use of noncarbapenem β-lactams for the treatment of extended-spectrumβ-lactamase infections. Clin Infect Dis. 2017; 64: 972-80. 14) Tamma PD, Han JH, Rock C, et al: Carbapenem therapy is associated with improved survival compared with piperacillintazobactam for patients with extended-spectrumβ-lactamase bacteremia. Clin Infect Dis. 2015; 60: 1319-25. 15) Harris AD, Smith D, Johnson JA, et al: Risk Factors for Imipenem-Resistant Pseudomonas aeruginosa among Hospitalized Patients. Clin Infect Dis. 2002; 34: 340-5. 16) Owens Jr RC: An overview of harms associated withβ-lactam antimicrobials: Where do the carbapenems fit in? Crit Care. 2008; 12 Suppl 4: S3. 17) Falagas ME, Kopterides P: Risk factors for the isolation of multidrug-resistant Acinetobacter baumannii and Pseudomonas aeruginosa : a systematic review of the literature. 2006; 64: 7-15. 18) Voor AF, Severin JA, Lesaffre EMEH, et al: A Systematic -S 75-
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が高い 6)。多剤耐性菌であるMRSA の保菌リスクも糖尿病,COPD(chronic obstructive pulmonary disease),心不全などの医療曝露である 7)。 S. aureus による感染症としては,皮膚軟部組織感染症,骨髄炎,関節炎,手術部位感染症,インフルエンザウイルス感染症後の市中肺炎,院内肺炎 / 人工呼吸器関連肺炎,菌血症,カテーテル関連血流感染症,感染性心内膜炎,トキシックショック症候群など幅広い 8)。そして,S. aureus によるこれらの感染症を起こすリスクは,血液透析[リスク比(RR): 257~291],腹膜透析(RR 150~204),糖尿病(RR 7),心疾患(RR 20.6),脳卒中(RR 6.4),担癌患者(RR 7.1~ 12.9),SLE(systemic lupus erythematosus)(RR 2.4),関節リウマチ(RR 2.2),HIV 感染症(RR 23.7),固形臓器移植後(RR 20.7),アルコール依存症(RR 8.2)が知られている 8)。皮膚軟部組織感染症において,皮下膿瘍やリンパ節膿瘍などを穿刺して集簇するグラム陽性球菌を認めた場合も,S. aureus が原因菌である可能性を考慮する 9)。2)Legionella pneumophila について レジオネラ症は,臨床的に細菌性肺炎との区別は難しい 10)。L. pneumophila は水系の環境に存在するグラム陰性桿菌であり,25~40°Cの暖水でよく発育する。汚染した水がエアロゾル化した場合,レジオネラ症の最も重要な供給源となる 11, 12)。発症リスクが高いのは,男性,喫煙,慢性心疾患,肺疾患,糖尿病,末期腎不全,固形臓器移植,免疫不全,担癌,50 歳以上である 12)。 水系曝露がある肺炎患者で上述したような危険因子がある場合にL. pneumophilaによる感染症を考慮する。3)リケッチア属について 本邦で報告されているリケッチア症は,Orientia tsutsugamushi によるツツガムシ病とRickettsia japonicaによる日本紅斑熱である。共にダニ媒介性疾患であり,前者はツツガムシの幼虫,後者はマダニ(Haemaphysalis 属,Ixodes 属の一部)に咬まれることにより感染する。 ツツガムシ病では発熱(95%),発疹(86%),黒色 Table 4-3-1 成人における各病原体の感染巣とリスクとなる患者背景 病原体感染巣と症状・所見リスク患者背景 Staphylococcus aureus (MRSA)皮膚軟部組織感染症,骨髄炎,関節炎,手術部位感染症,インフルエンザウイルス感染症後の市中肺炎,院内肺炎/ 人工呼吸器関連肺炎,菌血症,カテーテル関連血流感染症,感染性心内膜炎,トキシックショック症候群血液透析,腹膜透析,糖尿病,心疾患,脳卒中,担癌患者, SLE,関節リウマチ,HIV 感染症,固形臓器移植後,アルコール依存症 90 日以内の抗菌薬治療歴,MRSA の保菌 クロストリジオイデス ディ フィシル偽膜性腸炎,中毒性巨大結腸症抗菌薬曝露※,制酸薬,ヒスタミンH2 受容体拮抗薬,高齢,入院の既往,基礎疾患の重症度が高い,腹部手術後,経鼻カテーテル留置,長期入院 Legionella pneumophila水系曝露のある患者の肺炎水系曝露,男性,50 歳以上,喫煙,慢性肺疾患,慢性心疾患,肺疾患,糖尿病,末期腎不全,固形臓器移植後,免疫不全,担癌患者Rickettsia japonica Orientia tsutsugamushi発熱,皮疹,肝脾腫,リンパ節腫脹,筋肉痛,意識障害などの症状,血小板減少を来す敗血症流行地においてダニ咬傷,自然曝露や黒色痂皮/ 刺し口(eschar)がある Candida spp.菌血症,カテーテル関連血流感染症,感染性心内膜炎,固形臓器膿瘍,髄膜炎,眼内炎広域抗菌薬使用,血管内カテーテル留置,人工物留置,絶食/ 経静脈栄養,抗がん剤使用,固形臓器移植後,カンジダ定着 インフルエンザ ウイルス肺炎,脳炎,脳症,臓器障害を伴う意識障害,心筋炎, Reye 症候群65 歳以上,流行期の妊婦,喘息を含む慢性呼吸器疾患,心・腎・肝・血液障害や糖尿病,免疫不全,呼吸機能低下,誤嚥のリスクが高い患者,または気道分泌物を扱う職業, BMI 40 以上の肥満,長期ケア病棟入院,鳥インフルエンザや新型インフルエンザ流行地渡航歴単純ヘルペスウイルス(HSV)脳炎,脳症,多臓器不全30 歳未満,50 歳以上,免疫不全,固形臓器移植後,骨髄移植後,HIV 感染症サイトメガロ ウイルス脳炎,網脈絡膜炎,腸炎,肺炎固形臓器移植後,骨髄移植後,HIV 感染症 重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)ウイルス発熱,消化器症状,意識障害,痙攣,昏睡,リンパ節腫脹,皮下出血や下血などの出血症状,呼吸不全,白血球減少,血小板減少流行地においてダニ咬傷,自然曝露,野生動物との接触 ※ Clostridioides difficile 感染症発症リスク別抗菌薬表 高リスク中リスク低リスククリンダマイシン,キノロン, 2 世代以上のセファロスポリンペニシリン,マクロライド,βラクタマーゼ配合剤,カルバペネム,バンコマイシン,メトロニダゾールアミノグリコシド,テトラサイクリン,トリメトプリム,スルフォナミド,リファンピシン基本的に種類が多いほど,期間が多いほどリスクが高まる。 -S 77-
の痂皮/ 刺し口(eschar)(85%)が3 主徴である 13)。痂皮は四肢よりも体幹にできることが多く,疑わなければ見つけることは困難である。治療介入が遅くなると肝逸脱酵素の上昇や血小板減少などの症状が出現し,死亡率は0.5% である。 日本紅斑熱は,発熱(99%),皮疹(94%)を高率に認めるが,ツツガムシ病に比べ,痂皮を伴う頻度は少なく66% に過ぎない。肝逸脱酵素の上昇(73%),頭痛(31%),播種性血管内凝固(DIC)(20%)を多く認め,死亡率は0.9% である 13)。 ダニの生息地での野外活動歴やダニ咬傷歴,痂皮は重要な所見だが,必ずしも認められないことがあり,治療が遅れた場合は臓器不全から致死的になりうる。敗血症の原因として疑った場合は保健所と相談して検体採取を行い,結果を待たずに経験的治療を開始するべきとの意見もある。また,海外渡航後などでは,Q熱,アナプラズマ,エーリキア,ロッキー山紅斑熱,発疹チフスなどのリケッチアにも注意する。敗血症の原因として疑った場合,保健所と相談し検体採取のうえで結果を待たずに経験的治療を開始する。4)クロストリジオイデス ディフィシルについて C. difficile は,土壌や水,食物など,環境に遍在する微生物である。毒素産生型のC. difficile による感染症(C. difficile infection: CDI)では,下痢のみで自然軽快する軽症から重症まで幅広い重症度の症例が報告されている。生命予後に関わる重症例では,高熱,腹痛,高白血球血症(≧25,000 / μL),低アルブミン血症,腎不全,ショック,中毒性巨大結腸症などの所見がみられる 14)。 抗菌薬曝露は,最も重要なCDI 発症のリスク因子であり,抗菌薬治療中および終了後1 か月以内に発症するリスクが高い。抗菌薬の種類によってもリスクは異なり 15)(Table 4-3-1),プロトンポンプ阻害薬や,ヒスタミンH2 受容体拮抗薬などの制酸薬もCDI 発症のリスクとして知られている 16)。その他,高齢,入院の既往,基礎疾患の重症度,腹部手術後,経鼻カテーテル留置,長期入院などもCDI の発症リスクである 17)。 抗菌薬曝露歴があり,腹部症状やショックの患者に上記リスクがある場合にCDI を考慮する。5)Candida 属について Candida 属は酵母様真菌の一種であり,人体に遍在する微生物である。通常は感染症を起こすことはないが,免疫抑制状態では鵞口瘡や食道カンジダなどの表層感染症だけでなく,菌血症やカテーテル関連血流感染症,感染性心内膜炎,固形臓器膿瘍,髄膜炎,眼内炎などの侵襲性感染症を起こすことがある 18)。侵襲 性Candida 感染症の発症リスクは,広域抗菌薬の使用,血管内カテーテル留置,人工物留置,絶食/経静脈栄養的高カロリー輸液,細胞毒性のある抗がん剤使用,固形臓器移植後,カンジダ定着などである。早期の適切な抗真菌薬投与は死亡率を最大50% 減らすという報告があり,これらのリスク因子がある患者において敗血症の診療を行う際には,抗真菌薬の併用を検討するという意見もある 19)。しかし,カンジダの定着のみで抗真菌薬を投与する方法は不適切との意見もあり,その他の臨床情報と併せて検討する必要があると考えられている 20)。6)ウイルス感染症について1インフルエンザウイルス 季節性インフルエンザは,急激な高熱,悪寒,筋肉痛,悪心などで発症し,多くは合併症なく自然軽快するが,一部で肺炎,心筋炎や脳炎・脳症を合併し重篤化する症例もある 21)。輸入感染症として鳥インフルエンザ(H7N9 など)は急性呼吸窮迫症候群を発症し,死亡率は約30% と非常に高い 22)。インフルエンザ感染症の重症化リスクとして,65 歳以上,流行期の妊婦,喘息を含む慢性呼吸器疾患,心・腎・肝・血液障害や糖尿病,免疫不全,呼吸機能低下,誤嚥のリスクが高い患者または気道分泌物を扱う職業,BMI 40 以上の肥満,長期ケア病棟入院,鳥インフルエンザや新型インフルエンザ流行地への渡航歴などが報告されている 23)。診断に際して,インフルエンザ抗原迅速検査の感度は低いため(62%) 24),季節性インフルエンザの流行期や,鳥インフルエンザの流行地への渡航歴がある患者の呼吸不全や心筋炎,脳炎・脳症を疑った場合には,抗インフルエンザ薬の投与を考慮するという意見もある 23)。2単純ヘルペスウイルス 単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus: HSV)はDNA ウイルスであり,HSV 1 型は成人のおよそ90% 以上が既感染と報告されている 25)。通常は繰り返す口唇ヘルペスなどを起こすが,免疫不全状態の患者では脳炎や播種性感染症などの致死的な感染症を起こすことがある。 脳炎は,30 歳未満と50 歳以上の二峰性の年齢分布を示し,免疫能が低下していない状態での発症も報告されている 26)。他のウイルス性脳炎と比較して側頭葉の神経巣症状を伴うことが特徴であるが,区別はむずかしい 27)。 固形臓器移植後,骨髄移植後,HIV 感染症などの免疫抑制状態では再活性化により重症HSV 感染症を -S 78-
起こし,広範な粘膜疹や,肝不全などの内臓の障害を伴う致死性播種性感染症となりうる。重症HSV 感染症の発症リスクが高いのは,臓器移植患者ではT 細胞への免疫抑制が最も強い移植後30 日以内 28),骨髄移植では,HSV 1 陽性レシピエントがHSV 1 陰性ドナーから移植を受けた場合である 29)。また,妊婦ではHSV 2 の初感染が播種性感染症となる危険性がある 25)。 診断については,血清抗体価検査は時間がかかるうえに,免疫不全患者では結果の解釈がむずかしいため,血清や髄液,水疱内容液などの検体でPCR 検査を行う。しかし,これらの検査も迅速に結果を得ることが困難であるため,重症HSV 感染症の発症リスクが高い患者では,HSV 感染症を疑ったら治療の開始を考慮するという意見がある。3サイトメガロウイルス サイトメガロウイルスはDNA ウイルスであり,先進国に在住の成人では50% 以上が既感染であると報告されている 30)。通常は致死的な感染症を起こさないが,固形臓器移植後,骨髄移植後,HIV 感染症などの免疫抑制状態の患者では,脳炎,網脈絡膜炎,腸炎,肺炎などcytomegalovirus(CMV) disease を起こし致死的となる。そのため,免疫抑制状態の患者ではウイルス迅速同定(シェルバイアル法),CMV 抗原血症検査(CMV アンチゲネミア法),定量PCR 法などで,定期的に血液中のサイトメガロウイルス量をモニタリングして,症状が出現した時に速やかに治療を開始できるようにしておくことが望ましいとの意見がある 31)。4重症発熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス SFTS ウイルスは2010 年に中国で見つかったウイルスで,中国および本邦や韓国から感染症の報告がある 32)。ダニ媒介性疾患であり,中間宿主であるフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)に咬まれることで感染する。本邦では西日本を中心に報告があり,2019 年6 月時点で402 例が報告されている 33)。症状は発熱,消化器症状,頭痛,筋肉痛など非特異的であるが,SFTS では意識障害などの中枢神経症状,出血症状,肝逸脱酵素の上昇を認める場合がある。1~2 週間程度で自然軽快するが,27% が死亡しており,死亡例では悪性腫瘍の合併が多かったと報告されている 33)。また,感染者の約半数が農作業に従事し,発症前に屋外活動を行っていたとの報告もある 33)。SFTS に対する有効な薬剤は開発途中であり,現在,抗ウイルス薬(ファビピラビル)の医師主導治験が行われている 34)。文 献 1) Paul M, Shani V, Muchtar E, et al: Systematic review and metaanalysis of the efficacy of appropriate empiric antibiotic therapy for sepsis. Antimicrob Agents Chemother. 2010; 50: 4851-63. 2) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Crit Care Med. 2017; 45: 486-552. 3) Kluytmans J, Van Belkum A, Verbrugh H: Nasal carriage of Staphylococcus aureus: Epidemiology, underlying mechanisms, and associated risks. Clin Microbiol Rev. 1997; 10: 505-20. 4) Uemura E, Kakinohana S, Higa N, et al: Comparative characterization of Staphylococcus aureus isolates from throats and noses of healthy volunteers. Jpn J Infect Dis. 2004; 57: 21-4. 5) Wertheim HFL, Melles DC, Vos MC, et al: The role of nasal carriage in Staphylococcus aureus infections. Lancet Infect Dis. 2005; 5: 751-62. 6) Sollid JUE, Furberg AS, Hanssen AM, et al: Staphylococcus aureus: Determinants of human carriage. Infect Genet Evol. 2014; 21: 531-41. 7) McKinnell JA, Miller LG, Eells SJ, et al: A Systematic Literature Review and Meta-Analysis of Factors Associated with Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Colonization at Time of Hospital or Intensive Care Unit Admission. Infect Control Hosp Epidemiol. 2013; 34: 1077-86. 8) Que YA, Moreillon P: Staphylococcus aureus (Including Staphylococcal Toxic Shock Syndrome). 9th Edit. Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles Practice of Infectious Diseases. Elsevier Inc., Amsterdam, 2019, p2393-431.e9. 9) Stevens DL, Bisno AL, Chambers HF, et al: Practice guidelines for the diagnosis and management of skin and soft tissue infections: 2014 update by the infectious diseases society of America. Clin Infect Dis. 2014; 59: 147-59. 10) Roig J, Aguilar X, Ruiz J, et al: Comparative study of Legionella pneumophila and other nosocomial- acquired pneumonias. Chest. 1991; 99: 344-50. 11) Fields BS, Benson RF, Besser RE: Legionella and Legionnaires’ Disease: 25 Years of Investigation. Clin Microbiol Rev. 2002; 15: 506-26. 12) Paul HE, Craig RR: Legionnaires’ disease and pontiac fever. 9th Edit. US Pharm. Douglas, and Bennett’s Principles Practice of Infectious Diseases. Elsevier Inc., Amsterdam, 2019, p2807-17. e5. 13) National Institute of Infectious Diseases: Scrub typhus and Japanese spotted fever in Japan 2007-2016. IASR. 2017; 38: 109-12. 14) Formerly C, Infection C, Gerding DN, et al: Clostridioides difficile (Formerly Clostridium difficile) Infection. 9th Edit. Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles Practice of Infectious Diseases. Elsevier Inc., Amsterdam, 2019, p2933-47.e4. 15) Stevens V, Dumyati G, Fine LS, et al: Cumulative antibiotic exposures over time and the risk of clostridium difficile infection. Clin Infect Dis. 2011; 53: 42-8. 16) Janarthanan S, Ditah I, Adler DG, et al: Clostridium difficileassociated diarrhea and proton pump inhibitor therapy: A metaanalysis. Am J Gastroenterol. 2012; 107: 1001-10. 17) Loo VG, Bourgault A-M, Poirier L, et al: Host and Pathogen Factors for Clostridium difficile Infection and Colonization. N Engl J Med. 2011; 365: 1693-703. 18) Lionakis MS, Jr JEE: Candida Species. 9th Edit. Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles Practice of Infectious Diseases. Elsevier Inc., Amsterdam, 2019, p3087-102.e3. 19) Pappas PG, Kauffman CA, Andes DR, et al: Clinical Practice Guideline for the Management of Candidiasis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2015; -S 79-
62: e1-50. 20) Troughton JA, Browne G, McAuley DF, et al: Prior colonisation with Candida species fails to guide empirical therapy for candidaemia in critically ill adults. J Infect. 2010; 61: 403-9. 21) Treanor JJ: Influenza Viruses, Including Avian Influenza and Swine Influenza. 9th Edit. Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles Practice of Infectious Diseases. Elsevier Inc., Amsterdam, 2019, p2143-68.e7. 22) Gao HN, Lu HZ, Cao B, et al: Clinical findings in 111 cases of influenza A (H7N9) virus infection. N Engl J Med. 2013; 368: 2277-85. 23) Uyeki TM, Bernstein HH, Bradley JS, et al: Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America: 2018 Update on Diagnosis, Treatment, Chemoprophylaxis, and Institutional Outbreak Management of Seasonal Influenza. Clin Infect Dis. 2019; 68: e1-47. 24) Chartrand C, Leeflang MMG, Minion J, et al: Accuracy of rapid influenza diagnostic tests: A meta-analysis. Ann Intern Med. 2012; 156: 500-11. 25) Schiffer JT, Corey L: Herpes Simplex Virus. 9th Edit. Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles Practice of Infectious Diseases. Elsevier Inc., Amsterdam, 2019, p1828-48.e7. 26) Whitley RJ, Lakeman F: Herpes Simplex Virus Infections of the Central Nervous System. : Therapeutic and Diagnostic Considerations. Clin Infect Dis. 1995; 20: 414-20. 27) Whitley RJ, Cobbs CG, Alford Jr CA, et al: Diseases that mimic herpes simplex encephalitis. Diagnosis, presentation, and outcome. NIAD Collaborative Antiviral Study Group. JAMA. 1989; 262: 234-9. 28) Kusne S, Schwartz M, Breinig MK, et al: Herpes simplex virus hepatitis after solid organ transplantation in adults. J Infect Dis. 1991; 163: 1001-7. 29) Nichols WG, Boeckh M, Carter RA, et al: Transferred Herpes Simplex Virus Immunity after Stem - Cell Transplantation: Clinical Implications. J Infect Dis. 2003; 187: 801-8. 30) William JB: Cytomegalovirus. Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles Practice of Infectious Diseases. Elsevier Inc., Amsterdam, 2019, p1857-71. 31) Ljungman P, de la Camara R, Robin C, et al: Guidelines for the management of cytomegalovirus infection in patients with haematological malignancies and after stem cell transplantation from the 2017 European Conference on Infections in Leukaemia (ECIL 7). Lancet Infect Dis. 2019; 19: e260-72. 32) Liu Q, He B, Huang SY, et al: Severe fever with thrombocytopenia syndrome, an emerging tick-borne zoonosis. Lancet Infect Dis. 2014; 14: 763-72. 33) National Institute of Infectious Diseases: 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)2019 年6 月現在. IASR. 2019; 40: 111-2. 34) 安川正貴, 西條政幸: SFTS に対するファビピラビル治療効果を調べるための医師主導型臨床研究. IASR. 2019; 40: 121. CQ 4-4:敗血症が疑われて経験的抗菌薬を使用 する患者において,投与前の各種培養陰性の確認をしたら抗菌薬を中止するか? Answer:敗血症が疑われて経験的抗菌薬を使用する患者において,投与前の各種培養陰性の確認をしたら,臨床経過を慎重に考慮したうえで抗菌薬を中止することを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 臨床的に敗血症と診断し,しかるべき培養を行っても,3~6 割は培養陰性となり“culture-negative sepsis”と称される 1)。敗血症の診断にもとづき経験的抗菌薬を開始した後,培養が陰性であった場合,安全に抗菌薬を終了可能かどうか評価したランダム化比較試験(RCT)はなく,culture-negative sepsis の疫学や予後を評価した観察研究は少ない。敗血症と診断した多くの患者が遭遇しうる状況であり,本ガイドラインに取り上げるべき重要臨床課題であると考える。 (2)PICO P (患者):成人敗血症あるいは敗血症性ショック, またはそれに準じる重症感染症疑い患者I (介入):培養陰性判明時に抗菌薬治療を中止するC (対照):培養陰性判明時に抗菌薬治療を中止しな いO (アウトカム):死亡,入院日数,新たな感染症発生 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,1 件のRCT が検索された 2)。本研究は,集中治療室で全身性炎症反応症候群の基準に合致し,明らかな感染巣は不明だが抗菌薬を使用すべきと判断された患者を対象に,抗菌薬を48 時間で終了する群を介入群とし,7 日間投与する群をコントロール群として行われたオープンラベル,単施設の小規模(対象患者計46 名)パイロット研究である 2)。この研究では48 時間以内の短時間投与が生命予後を悪化させることなく,広域抗菌薬の投与削減に寄与する可能性を示唆している。しかし,本研究は培養陰性かどうかで抗菌薬治療の中止を決定しているわけではなく,正確にはPICO に合致せず,本CQ に直接的に答える内容のRCT ではなかった。したがって,本CQ におけるシステマティックレビューにおいて該当する研究はないとした。 Sepsis-3 以前の全身性炎症反応症候群を用いた敗血 -S 80-
症診断基準(Sepsis-1, 2)では,当初敗血症と診断し抗菌薬を開始しても,結果として敗血症や感染症ですらない症例が多く含まれていた 3)。一方,culturenegative sepsis とculture-positive sepsis を比較した観察研究では,生命予後に関して,両群に差はないか,ややculture-positive sepsis のほうが悪いと報告されている 4, 5)。また,敗血症と臨床的に診断した当初は培養結果に関しては予想がつかないため,血液培養など各種培養を採取した後で抗菌薬を開始するプラクティスは普遍的に行われている。培養結果が陰性と確認できた時点で,臨床的に敗血症ではないと総合的に判断された場合,可及的速やかに抗菌薬投与の終了を考慮することは,抗微生物薬耐性(antimicrobial resistance: AMR)対策としても重要であると考えた。 (4)益と害のバランス望ましい効果: 抗菌薬の中止により,耐性菌の発生リスクおよび続発性感染症やClostridioides difficile の発生リスクを減少できる可能性があり,入院期間短縮あるいは死亡率減少に関与するかもしれない。望ましくない効果: 経験的抗菌薬が有効な感染症が存在した場合には,死亡率や入院期間増加などの予後悪化が生じる可能性がある。しかし,適切に採取された培養の陰性結果と共に,臨床経過を考慮して感染症が存在しないことを慎重に判断すれば,抗菌薬中止に伴う望ましくない効果はわずかと考えられる。益と害のバランス: 望ましい効果は小さく,望ましくない効果はわずかであり,おそらく介入が優位と評価した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューでは,最終的にPICO に合致するRCT は認めなかった。 (6)価値観 培養陰性時の抗菌薬中止における,各アウトカムにおける患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 培養陰性時に抗菌薬を中止するという介入は,患者の状態をモニタリングした状況においては可能であり,医療者にとっての容認性は高い。介入に伴う広域抗菌薬投与量の変化,およびこれに伴うコストへの影響は評価できていないが,個人負担額を考えると,患者・家族の個人の視点からも問題なく許容できる。 (8)実行可能性 介入は抗菌薬の中止のみであり,多くの医療施設において問題なく実行可能である。 (9)判断の要約(Table 4-4-1) Table 4-4-1 判断の要約 -S 81-
(10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.018 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:79.2%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 においては,本CQ は取り上げられていない。 (12)実施に関わる検討事項 評価対象となる微生物検体は,経験的抗菌薬投与開始前に適切に採取された検体であることが前提である。培養困難微生物や嫌気性菌の関与,あるいは抗菌薬の先行投与などにより培養陽性とならない可能性について注意し,臨床的な感染症の蓋然性を合わせて評価する必要がある。培養陰性にもとづき抗菌薬を中止した場合に,患者の状態が悪化しないかを適切に把握できる環境も必要である。感染性心内膜炎や骨髄炎など,培養陰性のみをもって抗菌薬を即時中止することが危険な感染症が存在することにも留意する。 (13)今後の研究の可能性 介入の害と益が正確に評価できる洗練された方法論による質の高いRCT の遂行が望まれる。 文 献 1) Sigakis MJG, Jewell E, Maile MD, et al: Culture-Negative and Culture-Positive Sepsis: A Comparison of Characteristics and Outcomes. Anesth Analg. 2019; 129: 1300-9. 2) Scawn N, Saul D, Pathak D, et al: A pilot randomised controlled trial in intensive care patients comparing 7 days’ treatment with empirical antibiotics with 2 days’ treatment for hospital-acquired infection of unknown origin. Health Technol Assess. 2012; 16: i-xiii, 1-70. 3) Churpek MM, Zadravecz FJ, Winslow C, et al: Incidence and prognostic value of the systemic inflammatory response syndrome and organ dysfunctions in ward patients. Am J Respir Crit Care Med. 2015; 192: 958-64. 4) Phua J, Ngerng W, See K, et al: Characteristics and outcomes of culture-negative versus culture-positive severe sepsis. Crit Care. 2013; 17: R202. 5) Gupta S, Sakhuja A, Kumar G, et al: Culture-Negative Severe Sepsis: Nationwide Trends and Outcomes. Chest. 2016; 150: 1251-9. CQ4-5:感染症専門家あるいは抗菌薬適正使用 支援チームに相談するのはどのような場合か? Answer:敗血症の原因が不明の場合,高度薬剤耐性菌の関与が疑われる場合,新興・再興あるいは輸入感染症を疑う場合,黄色ブドウ球菌菌血症およびカンジダ血症と判明した場合などである(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 抗菌薬適正使用支援チーム(Antimicrobial Stewardship Team: AST)は,感染症専門の薬剤師や医師を中心として臨床検査技師や看護師,事務職員で構成され,医療機関において抗菌薬適正使用を実践するチームである。 敗血症の診療において,抗菌薬の選択や投与経路,投与間隔,投与期間の決定は患者の予後に影響を与える重要な介入である。そのため,敗血症診療においては,想定される原因微生物を十分カバーする抗菌薬の選択が求められる。一方で,一律にすべての病原体を考慮した経験的抗菌薬の選択や治療期間の決定を行った場合,薬剤耐性菌の出現(または蔓延)を助長し,副作用やコストを高める危険性が伴う。また,一部の菌血症においては,その他の菌血症とは区別した治療期間や感染巣の精査が必要となることが知られているが,敗血症を診療するすべての診療部門において十分な知識や経験が備わっているとはいえないのが現状である。感染症専門家あるいはAST への相談は,敗血症診療における抗菌薬の適正使用において重要であるため,本ガイドラインのCQ として取り上げた。 (2)解説 敗血症診療において,適切な初期抗菌薬の選択と患者の死亡率低下の関連が報告されており,想定される微生物を十分にカバーする抗菌薬の選択が重要となる 1)。しかしながら,敗血症の初期抗菌薬として何を選択するべきかに関しては,画一的な回答はなく,実際には個々の症例に応じて抗菌薬を選択する必要があるため,対応する医師の大きな負担となりうる。Raineri らは,感染症専門医への抗菌薬選択の相談を開始する前後での集中治療患者の感染症治療を比較し,相談によって適切な抗菌薬の選択率とガイドライン遵守率が上昇し,死亡率が低下すると報告した 2)。特に敗血症の原因が特定できない場合,高度薬剤耐性菌の関与が疑われる場合,診療機会が少ない新興・再興あるいは輸入感染症を疑う場合は,抗菌薬選択がよ -S 82-
りむずかしくなるため,感染症専門家あるいはASTへ相談することで,抗菌薬選択を行う医師の負担を軽減すると共に,適切な抗菌薬を選択できる頻度の向上が期待できる。 敗血症患者では菌血症を呈することが多いが,一部の菌血症では,菌種に応じた感染巣の精査が必要となることが知られている。黄色ブドウ球菌菌血症であれば,心エコー検査による感染性心内膜炎合併の評価 3)が,カンジダ血症では,眼内炎合併の評価が必要となる 4)。さらに,血液培養の陰性化の確認や前述の感染巣の有無に応じて抗菌薬投与期間を設定する必要がある。しかしながら,敗血症を診療するすべての診療部門において,これらの診療に関する十分な知識や経験が備わっているとはいえないのが現状である。これまで黄色ブドウ球菌菌血症を対象としたいくつかの観察研究において,感染症専門家あるいはAST に相談することで,ガイドラインに基づく診療(血液培養の再検,心エコー検査)の遵守率の向上と,患者の予後の改善が報告された 5, 6)。また,カンジダ血症を対象とした観察研究においても,同様にガイドライン遵守率の向上と患者予後の改善が報告されている 7-9)。これらの研究結果から,黄色ブドウ球菌菌血症やカンジダ血症と診断された敗血症患者に対しては,感染症専門家あるいはAST に相談し,適切な感染巣の評価と抗菌薬の投与期間を設定することが妥当であろう。 文 献 1) Paul M, Shani V, Muchtar E, et al: Systematic review and metaanalysis of the efficacy of appropriate empiric antibiotic therapy for sepsis. Antimicrob Agents Chemother. 2010; 54: 4851-63. 2) Raineri E, Pan A, Mondello P, et al: Role of the infectious diseases specialist consultant on the appropriateness of antimicrobial therapy prescription in an intensive care unit. Am J Infect Control. 2008; 36: 283-90. 3) Zou H, Li G: Clinical practice guidelines for the diagnosis and management of intravascular catheter-related infection: 2009 update by the Infectious Diseases Society of America. Chinese J Infect chemother. 2010; 10: 81-4. 4) Pappas PG, Kauffman CA, Andes DR, et al: Clinical Practice Guideline for the Management of Candidiasis: 2016 Update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2016; 62: e1-e50. 5) Vogel M, Schmitz RPH, Hagel S, et al: Infectious disease consultation for Staphylococcus aureus bacteremia – A systematic review and meta-analysis. J Infect. 2016; 72: 19-28. 6) Bai AD, Showler A, Burry L, et al: Impact of infectious disease consultation on quality of care, mortality, and length of stay in staphylococcus aureus bacteremia: Results from a large multicenter cohort study. Clin Infect Dis. 2015; 60: 1451-61. 7) Ishikane M, Hayakawa K, Kutsuna S, et al: The impact of infectious disease consultation in candidemia in a tertiary care hospital in Japan over 12 years. PLoS One. 2019; 14: e0215996. Available online at: https: / /doi.org / 10.1371 / journal.pone.0215996. Accessed November 29, 2020. 8) Mejia-Chew C, O’Halloran JA, Olsen MA, et al: Effect of infectious disease consultation on mortality and treatment of patients with candida bloodstream infections: a retrospective, cohort study. Lancet Infect Dis. 2019; 19: 1336-44. 9) Lee RA, Zurko JC, Camins BC, et al: Impact of infectious disease consultation on clinical management and mortality in patients with candidemia. Clin Infect Dis. 2019; 68: 1585-7. -S 83-
CQ4-6:敗血症に対する経験的抗菌薬は,敗血 症認知後1 時間以内を目標に投与開始するか? Answer:敗血症あるいは敗血症性ショックと認知した後,抗菌薬は可及的早期に開始するが,必ずしも1時間以内という目標は用いないことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性 = 「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症に対する抗菌薬投与のタイミングについては,多くの観察研究の結果から,SSCG 2016,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG) 2016 共に1 時間以内の投与が推奨されており,世界的にも受け入れられた投与開始目標となっている。米国で行われた州レベルの大規模コホート研究では,発症から経験的抗菌薬投与開始までの時間に応じて,死亡リスクは線形に増加すると報告されている 1)。そのため,敗血症認知から1 時間以内の抗菌薬投与がどの程度推奨できるか評価する必要があり,本ガイドラインのCQ として取り上げた。 (2)PICO P (患者):成人敗血症あるいは敗血症性ショック患 者I (介入):敗血症あるいは敗血症性ショック認知 後,抗菌薬開始が1 時間以内C (対照):敗血症あるいは敗血症性ショック認知 後,抗菌薬開始が1 時間より遅いO (アウトカム):死亡 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)は認めなかった。観察研究については7 件 2-8)試行されており,観察研究を用いたメタ解析を行った。(4)益と害のバランス(Table 4-6-1) 望ましい効果: 7 つの観察研究から得られる全死亡に関する効果推定値は,リスク差(RD)10 少ない / 1,000(95% CI: 23 少ない~7 多い)であり,望ましい効果は限定的であった。望ましくない効果: 抗菌薬の早期投与による望ましくないアウトカムについては,評価し得た範囲で発生しなかった。抗菌薬の早期投与によって,薬剤が不要な患者に十分な評価がなされる前に抗菌薬投与が行われる可能性があるが,それによる望ましくない効果は評価できていない。益と害のバランス: 本CQ においては,死亡率に関するRD の推定効果値が小さく,95% CI は0 をまたいでいる。介入による重大または重要な害や,想定される望ましくない効果は評価できていないため,介入も比較対象もいずれも優位でないと判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したアウトカムのうち,効果推定値を評価できたものは死亡率のみであった。同アウトカムの確実性は「低」であったため,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「低」である。 (6)価値観 敗血症患者に対する抗菌薬を,1 時間以内を目標に投与を開始するかに関して,各アウトカムにおける患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に死亡アウトカムに対する相対価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 介入による有害事象のリスクは低い可能性が高い。介入に伴う抗菌薬の総投与量の変化,およびこれに伴うコストへの影響は評価できていないが,個人負担額 Table 4-6-1 エビデンスプロファイル -S 84-
が大きく変化する可能性は低く,患者・家族の個人の視点から容認できると考える。一方で,1 時間に拘泥した抗菌薬の早期投与企図によって原因微生物診断の推定が不十分となり,不必要かつ過剰に広域・多剤の抗菌薬投与が増えるという潜在的な害が否定できず,これは抗菌薬適正使用の観点からの容認性が低い。 (8)実行可能性 国内外における観察研究結果からは,多くの施設においてその実行可能性は高くない。 (9)判断の要約(Table 4-6-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 J-SSCG 2016 9, 10)においては,1 時間以内の抗菌薬開始をエキスパートコンセンサス / エビデンスなしとして推奨している(同意率100%)。SSCG 2016 11)でも,敗血症または敗血症性ショックを認識してから1時間以内の抗生剤投与を推奨している。これらは,メタ解析では抗菌薬の速やかな投与による死亡率の低下を証明することができなかったが,大規模で質の高い研究において速やかな抗菌薬投与の有効性が示唆されたためであった 4, 5, 12-14)。(12)実施に関わる検討事項 予想される標的微生物をカバーする適切な抗菌薬を選択し,これを可及的速やかに投与する方向性そのものを否定するものではないことに注意が必要である。 (13)今後の研究の可能性 敗血症あるいは敗血症性ショックと認知した後,1時間以内に抗微生物薬を投与することを目標とした診療について,より質の高い研究データに基づくさらなる情報の集積が必要である。 文 献 1) Seymour CW, Gesten F, Prescott HC, et al: Time to treatment and mortality during mandated emergency care for sepsis. N Engl J Med. 2017; 376: 2235-44. 2) Andersson M, Östholm-BalkhedÅ, Fredrikson M, et al: Delay of appropriate antibiotic treatment is associated with high mortality in patients with community-onset sepsis in a Swedish setting. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2019; 38: 1223-34. 3) Ferrer R, Artigas A, Suarez D, et al: Effectiveness of treatments for severe sepsis: A prospective, multicenter, observational study. Am J Respir Crit Care Med. 2009; 180: 861-6. 4) Ferrer R, Martin-Loeches I, Phillips G, et al: Empiric antibiotic treatment reduces mortality in severe sepsis and septic shock from the first hour: Results from a guideline-based performance improvement program. Crit Care Med. 2014; 42: 1749-55. 5) Gaieski DF, Mikkelsen ME, Band RA, et al: Impact of time to antibiotics on survival in patients with severe sepsis or septic shock in whom early goal-directed therapy was initiated in the emergency department. Crit Care Med. 2010; 38: 1045-53. 6) Puskarich MA, Trzeciak S, Shapiro NI, et al: Association between timing of antibiotic administration and mortality from septic shock in patients treated with a quantitative resuscitation protocol. Crit Care Med. 2011; 39: 2066-71. 7) Ryoo SM, Kim WY, Sohn CH, et al: Prognostic value of timing of antibiotic administration in patients with septic shock treated with early quantitative resuscitation. Am J Med Sci. 2015; 349: Table 4-6-2 判断の要約 -S 85-
328-33. 8) Yokota PK, Marra AR, Martino MD, et al: Impact of appropriate antimicrobial therapy for patients with severe sepsis and septic shock – A quality improvement study. PLoS One. 2014; 9: e104475. 9) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 10) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 11) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 12) Barie PS, Hydo LJ, Shou J, et al: Influence of antibiotic therapy on mortality of critical surgical illness caused or complicated by infection. Surg Infect (Larchmt). 2005; 6: 41-54. 13) Barochia AV, Cui X, Vitberg D, et al: Bundled care for septic shock: An analysis of clinical trials. Crit Care Med. 2010; 38: 668-78. 14) Kumar A, Roberts D, Wood KE, et al: Duration of hypotension before initiation of effective antimicrobial therapy is the critical determinant of survival in human septic shock. Crit Care Med. 2006; 34: 1589-96. CQ4-7:敗血症に対してβラクタム系薬の持続 投与または投与時間の延長を行うか? Answer:敗血症に対するβラクタム系抗菌薬治療において,抗菌薬の持続投与もしくは投与時間の延長を行うことを弱く推奨する(GRADE 2B:エビデンスの確実性 = 「中」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症患者の致死率は依然として高く,治療成績を向上させる介入法の確立は急務である。抗菌薬の投与は,これまで間欠投与で行われることが多かったが, PK / PD の観点からは時間依存性のβラクタム薬は持続投与もしくは投与時間の延長において有効性が高いかもしれない。βラクタム薬の持続投与の有効性を検証することは,敗血症のアウトカムの改善につながる可能性があり,重要な臨床課題の1 つと考える。 (2)PICO P (患者):敗血症あるいは敗血症性ショック患者I (介入):βラクタム系薬の持続投与または投与時 間の延長C (対照):βラクタム系薬の間欠投与O (アウトカム):死亡,臨床的治癒,副作用,薬剤 耐性菌の検出(CDI,MRSA,耐性グラム陰性桿菌など),ターゲット血中濃度達成 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が13 件施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した 1-13)。 (4)益と害のバランス(Table 4-7-1) 死亡(9 RCT, n =844)に対する効果推定値はリスク差(RD)1,000 人あたり69 人少ない(95% CI: 135人少ない~32 人多い)であり,臨床的治癒(9 RCT, n =886)に対する効果推定値は,RD 1,000 人あたり113 人多い(95% CI: 9 人多い~241 人多い)である。副作用(3 RCT, n =691)に対する効果推定値は,RD 1,000 人あたり0 人 (95% CI: 41 人少ない~59 人多い)であり,副作用の上昇は認められなかった。また薬剤耐性菌の検出(1 RCT, n =198)に対する効果推定値は,RD 1,000 人あたり18 人少ない(35 人少ない~72人多い)である。 -S 86-
(5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 望ましい帰結に関与するターゲット血中濃度達成率は「中」のエビデンス,望ましくない帰結に関与する副作用は「中」のエビデンスとなった。今回採用したすべてのアウトカムの効果推定値の方向性は概ね一致しており,最高のエビデンスを採用すると,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「中」である。 (6)価値観 敗血症患者に対する抗菌薬の持続投与もしくは投与時間延長に関して,各アウトカムにおける患者・家族の価値観に関するデータはない。しかしながら,ターゲット血中濃度達成は高く,医師,薬剤師などの医療者からの価値観は高いと考えられる。また医療者と患者の両方において,一般的に死亡,臨床的治癒に対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 抗菌薬の持続投与や投与時間の延長に際しては,特別な手技は求められない。シリンジポンプが必要となるものの,集中治療室においてその施行は比較的容易であり,医療者にとっての容認性は高いと考えられる。コストの面では個人負担額は変わらず,患者・家族の個人の視点からもおそらく許容できる。しかしながら,一般病棟においては,介入群は長期間のシリンジポンプを必要とするため,歩行リハビリテーション の妨げとなる可能性もある。 (8)実行可能性 介入は多くの医療施設において実行可能であると考えられる。 (9)判断の要約(Table 4-7-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 J-SSCG 2016 ではターゲット血中濃度達成に差がなく(オッズ比1.88; CI: 0.89~3.98, P =0.10),副作用の評価ができなかったことから,βラクタム薬の持続投与もしくは投与時間の延長を行わないことを弱く推奨している。 その後,新たに複数のRCT がシステマティックレビューに組み込まれ,ターゲット血中濃度の改善が認められたこと,副作用は増えないことが確認されたため,現在の推奨に至った。 Table 4-7-1 エビデンスプロファイル -S 87-
(12)実施に関わる検討事項 抗菌薬の持続投与または投与時間の延長を実践している施設は少なく,実施前に各医療機関において看護師への教育,薬剤部の協力や監視,院内のコンセンサスが必要となる可能性がある。また,持続投与に必要な医療資源(輸液ポンプ,シリンジポンプなど)の使用時間が増加すると考えられる。 (13)今後の研究の可能性 以下の内容に関する検討が求められる。・ βラクタム系抗菌薬だけでなく,他の種類の抗菌薬 に対する検討・ 一般病棟において,抗菌薬の間欠的投与を持続投与 または投与時間の延長に変更した場合,患者の離床やQOL への影響 文 献 1) Abdul-Aziz MH, Sulaiman H, Mat-Nor MB, et al: Beta-Lactam Infusion in Severe Sepsis (BLISS): a prospective, two-centre, open-labelled randomised controlled trial of continuous versus intermittent beta-lactam infusion in critically ill patients with severe sepsis. Intensive Care Med. 2016; 42: 1535-45. 2) Angus BJ, Smith MD, Suputtamongkol Y, et al: Pharmacokineticpharmacodynamic evaluation of ceftazidime continuous infusion vs intermittent bolus injection in septicaemic melioidosis. Br J Clin Pharmacol. 2000; 49: 445-52. 3) Chytra I, Stepan M, Benes J, et al: Clinical and microbiological efficacy of continuous versus intermittent application of meropenem in critically ill patients: a randomized open-label controlled trial. Crit Care. 2012; 16: R113. 4) Dulhunty JM, Roberts JA, Davis JS, et al: Continuous infusion of beta-lactam antibiotics in severe sepsis: a multicenter doubleblind, randomized controlled trial. Clin Infect Dis. 2013; 56: 236-44. 5) Georges B, Conil JM, Cougot P, et al: Cefepime in critically ill patients: continuous infusion vs. an intermittent dosing regimen. Int J Clin Pharmacol Ther. 2005; 43: 360-9. 6) Laterre PF, Wittebole X, Van de Velde S, et al: Temocillin (6 g daily) in critically ill patients: continuous infusion versus three times daily administration. J Antimicrob Chemother. 2015; 70: 891-8. 7) Lau WK, Mercer D, Itani KM, et al: Randomized, open-label, comparative study of piperacillin-tazobactam administered by continuous infusion versus intermittent infusion for treatment of hospitalized patients with complicated intra-abdominal infection. Antimicrob Agents Chemother. 2006; 50: 3556-61. 8) Fahimi F, Ghafari S, Jamaati H, et al: Continuous versus intermittent administration of piperacillin-tazobactam in intensive care unit patients with ventilator-associated pneumonia. Indian J Crit Care Med. 2012; 16: 141-7. 9) Dulhunty JM, Roberts JA, Davis JS, et al: A Multicenter Randomized Trial of Continuous versus Intermittentβ-Lactam Infusion in Severe Sepsis. Am J Respir Crit Care Med. 2015; 192: 1298-305. 10) Rafati MR, Rouini MR, Mojtahedzadeh M, et al: Clinical efficacy of continuous infusion of piperacillin compared with intermittent dosing in septic critically ill patients. Int J Antimicrob Agents. 2006; 28: 122-7. 11) Roberts JA, Boots R, Rickard CM, et al: Is continuous infusion ceftriaxone better than once-a-day dosing in intensive care? A randomized controlled pilot study. J Antimicrob Chemother. 2007; 59: 285-91. 12) Roberts JA, Kirkpatrick CM, Roberts MS, et al: Meropenem dosing in critically ill patients with sepsis and without renal dysfunction: intermittent bolus versus continuous administration? Monte Carlo dosing simulations and subcutaneous tissue distribution. J Antimicrob Chemother. 2009; 64: 142-50. 13) Zhao HY, Gu J, Lyu J, et al: Pharmacokinetic and Pharmacodynamic Efficacies of Continuous versus Intermittent Administration of Meropenem in Patients with Severe Sepsis and Septic Shock: A Prospective Randomized Pilot Study. Chin Med J. 2017; 130: 1139-45. Table 4-7-2 判断の要約 -S 88-
CQ4-8:敗血症に対する抗菌薬治療において, デエスカレーションを行うか? Answer:敗血症に対する抗菌薬治療において,デエスカレーションを行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症診療では初期に広域抗菌薬が使用されることが多いが,広域抗菌薬の使用は世界的に問題になっている抗菌薬耐性(antimicrobial resistance: AMR)を助長し,医療コストの上昇に関与する。この広域抗菌薬を狭域抗菌薬に変更すること(デエスカレーション)は,広域抗菌薬の適正使用を通じ,AMR 対策や医療経済に貢献する重要な診療戦略である。患者の安全性を損なうことなくデエスカレーションが可能であるかどうかについて検討する価値がある。安全にデエスカレーションが可能であれば,AMR 対策,感染管理,そして医療経済的な視点からすべきプラクティスに位置づけることが可能である。そのため,本ガイドラインのCQ として取り上げた。(2)PICO P (患者):成人敗血症あるいは敗血症性ショック患 者I (介入):培養結果に基づいた抗菌薬デエスカレー ションC (対照):抗菌薬デエスカレーションを行わないO (アウトカム):死亡(90 日死亡,28 日死亡,最 長観察期間の死亡),重複感染 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,敗血症患者のみを対象としたランダム化比較試験(RCT)は過去に1件施行されており 1),この1 論文と,別途13 件の観察研究 2-14)を用いたメタ解析を行った。 (4)益と害のバランス(Table 4-8-1)望ましい効果: 広域抗菌薬の使用量減少,AMR 減少,コスト減少などの望ましい効果については検討できていない。以上より,望ましい効果はわからない。望ましくない効果: 1 つのRCT (n =116)では,90 日死亡は1,000 人あ Table 4-8-1 エビデンスプロファイル -S 89-
たり78 人多い(64 人少ない~335 人多い)である。13 の観察研究(n =3,635)において長期フォローアップによる死亡は1,000 人あたり80 人少ない(114人少ない~40 人少ない)である。エビデンスの質はいずれも非常に低い。重複感染の発生は,RCT では1,000 人あたり166 人多い(8 人多い~539 人多い)が,観察研究において同アウトカムを評価した論文はなく,解析はなされていない。以上より,望ましくない効果はわずかである。益と害のバランス: 本CQ において,デエスカレーション介入による望ましい効果は評価できておらず,望ましくない効果は死亡率に関しては評価が困難で,重感染率を高める可能性があり,効果のバランスはどちらかといえばわずかに望ましくない方向性を示す。アウトカム全般にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」である。重感染率を評価した1 つの小規模RCT では,重複感染の発生率は介入群16 / 59(27%),対照群6 / 57(11%)であるが,これは介入群において抗菌薬の総投与期間が延長したためと考察されている。つまり,重感染率の上昇がデエスカレーションによるものか投与期間延長によるものかが正確に評価できていない。加えて,重複感染は死亡など重要転帰に影響しなかったと記載されている。抗菌薬デエスカレーションにより投与日数が延長することは,標準的な臨床実践とは乖離している。また,デエスカレーションは抗菌薬スチュワードシップの観点より推奨され,広く普及している実践である。以上を踏まえると,このエビデンス総体のみでデエスカレーションを推奨しないとする方向づけを行うことは困難と評価する。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 望ましくない効果について,RCT と観察研究の方向性は相反している。アウトカムの確実性はいずれも非常に低い。アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」である。 (6)価値観 抗菌薬デエスカレーションに関して,各アウトカムにおける患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対する相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 デエスカレーションは一般的に普及した常識的な診療手法で,その施行は容易であり,医療者にとっての容認性は高い。介入に伴う広域抗菌薬投与量の変化, およびこれに伴うコストへの影響は評価できていないが,個人負担額を考えると,患者・家族の個人の視点からは問題なく許容できる。耐性菌感染症の問題について,患者・家族の個人の視点で利害を判断することは不可能と考える。 (8)実行可能性 介入は抗菌薬の変更のみであり,多くの医療施設において問題なく実行可能である。 (9)判断の要約(Table 4-8-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 J-SSCG 2016 15, 16)においては,デエスカレーションの実施は本ガイドラインと同様「弱い推奨」となっている。SSCG 2016 17)では,best practice statement として行うことを推奨されている。 (12)実施に関わる検討事項 デエスカレーションを行った場合に,抗菌薬の総投与期間が延長しないように留意する必要がある。 (13)今後の研究の可能性 デエスカレーションの益が評価可能な,洗練された方法論による質の高いRCT の遂行が望まれる。 文 献 1) Leone M, Bechis C, Baumstarck K, et al: De-escalation versus continuation of empirical antimicrobial treatment in severe sepsis: a multicenter non-blinded randomized noninferiority trial. Intensive Care Med. 2014; 40: 1399-408. 2) Carugati M, Franzetti F, Wiemken T, et al: De-escalation therapy among bacteraemic patients with community-acquired pneumonia. Clin Microbiol Infect. 2015; 21: 936. e11-8. 3) Garnacho-Montero J, Gutiérrez-Pizarraya A, Escoresca-Ortega A, et al: De-escalation of empirical therapy is associated with lower mortality in patients with severe sepsis and septic shock. Intensive Care Med. 2014; 40: 32-40. 4) Gonzalez L, Cravoisy A, Barraud D, et al: Factors influencing the implementation of antibiotic de-escalation and impact of this strategy in critically ill patients. Crit Care. 2013; 17: R140. 5) Heenen S, Jacobs F, Vincent JL: Antibiotic strategies in severe nosocomial sepsis: Why do we not de-escalate more often? Crit Care Med. 2012; 40: 1404-9. 6) Lee CC, Lee NY, Chen PL, et al: Impact of antimicrobial -S 90-
strategies on clinical outcomes of adults with septic shock and community-onset Enterobacteriaceae bacteremia: De-escalation is beneficial. Diagn Microbiol Infect Dis. 2015; 82: 158-64. 7) Lee CC, Wang JL, Lee CH, et al: Clinical benefits of antimicrobial de-escalation in adults with community-onset monomicrobial Escherichia coli, Klebsiella species and Proteus mirabilis bacteremia. Int J Antimicrob Agents. 2017; 50: 371-6. 8) Mokart D, Slehofer G, Lambert J, et al: De-escalation of antimicrobial treatment in neutropenic patients with severe sepsis: Results from an observational study. Intensive Care Med. 2014; 40: 41-9. 9) Moraes RB, Guillén JAV, Zabaleta WJC, et al: De-escalation, adequacy of antibiotic therapy and culture positivity in septic patients: An observational study. Rev Bras Ter Intensiva. 2016; 28: 315-22. 10) Morel J, Casoetto J, Jospé R, et al: De-escalation as part of a global strategy of empiric antibiotherapy management. A retrospective study in a medico-surgical intensive care unit. Crit Care. 2010; 14: R225. 11) Niimura T, Zamami Y, Imai T, et al: Evaluation of the benefits of de-escalation for patients with sepsis in the emergency intensive care unit. J Pharm Pharm Sci. 2018; 21: 54-9. 12) Oshima T, Kodama Y, Takahashi W, et al: Empiric antibiotic therapy for severe sepsis and septic shock. Surg Infect (Larchmt). 2016; 17: 210-6. 13) Salahuddin N, Amer L, Joseph M, et al: Determinants of Deescalation Failure in Critically Ill Patients with Sepsis: A Prospective Cohort Study. Crit Care Res Pract. 2016; 2016: 6794861. 14) Viasus D, Simonetti AF, Garcia-Vidal C, et al: Impact of antibiotic de-escalation on clinical outcomes in communityacquired pneumococcal pneumonia. J Antimicrob Chemother. 2017; 72: 547-53. 15) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 16) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 17) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock : 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. Table 4-8-2 判断の要約 -S 91-
CQ4-9:敗血症に対する抗菌薬治療において, プロカルシトニンを指標とした治療終了を行うか? Answer:敗血症に対する抗菌薬治療において,プロカルシトニンを指標とした治療終了を行うことを弱く推奨する(GRADE 2B:エビデンスの確実性=「中」)。 (1)背景および本CQ の重要度 抗菌薬総使用量は,薬剤耐性菌の出現と関連しており,抗菌薬曝露歴は次の新たな敗血症のリスクになりうることが報告されている 1, 2)。一方で,多くの感染症において抗菌薬の中止基準に関する質の高い科学的根拠は少なく,抗菌薬の投与期間を短縮できる可能性が指摘されてきた。また,敗血症の経過におけるプロカルシトニンの低下は,死亡リスクの減少と関連していることが報告されている 3, 4)。したがって,“プロカルシトニンを指標とした抗菌薬中止の意思決定を行うことにより,患者の転帰を悪化させることなく抗菌薬日数を短縮できるか”という臨床的疑問は,重要な臨床課題である。現在,敗血症における抗菌薬の中止基準として明確なものはなく,抗菌薬の適切な中止基準は感染対策,薬剤耐性菌発生の防止などにつながるため,本CQ の貢献度は高いと考えられる。 (2)PICO P (患者):成人の敗血症あるいは敗血症性ショック患者 I (介入):プロカルシトニンをガイドとした抗菌薬 終了C (対照):担当医の判断,あるいはプロカルシトニ ンを含まないプロトコルに準じた抗菌薬終了O (アウトカム):28 日死亡,院内死亡,敗血症の 再燃,抗菌薬投与日数 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が12 件施行されており 5-16),これらを用いたメタ解析を実施した。その結果,28 日死亡および院内死亡は介入群で対照群と比較して低く,抗菌薬投与日数が短かった。 (4)益と害のバランス(Table 4-9-1)望ましい効果: 介入における28 日死亡のアウトカム(5 RCT: n = 2,867)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり42 人少ない(69 人少ない~11 人少ない)であり,院内死亡のアウトカム(9 RCT: n =2,422)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり50 人少ない(79 人少ない~18 人少ない)であった。抗菌薬投与日数のアウトカム(3 RCT: n =231)の効果推定値とその信頼区間は,介入により平均(MD)1.16 日短い(2.33 日短い~0 日短い)。なお,それぞれに不完全なアウトカム報告の懸念のある研究がみられた。 Table 4-9-1 エビデンスプロファイル -S 92-
望ましくない効果: 介入における敗血症再燃アウトカム(4 RCT: n = 261)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり8 人の再燃の増加(27 人減少~113 人増加)であった。信頼区間が臨床的決断の閾値をまたいでいたため,望ましくない効果はわずかとした。益と害のバランス: 望ましくない効果はわずかであり,また死亡率に関しては28 日死亡および院内死亡ともに中程度の確実性を持ちながら望ましい効果を示したことから,価値観によらず介入を支持できると考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 28 日死亡および院内死亡ともに望ましい効果を示す方向性は同一であり,割付の隠蔽化の懸念および不完全なアウトカム報告の懸念がある研究はあったものの,全体としてのバイアスリスクは低く,結果として確実性は「中」と判断した。 (6)価値観 一般的に,死亡アウトカムに対する相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 プロカルシトニンの測定頻度が増加することは検査技師の負担増加に寄与しうると考えられる。また,診断群分類包括評価(DPC)を採用しない医療機関では,測定費用が影響する可能性がある。ただし,連日測定と非連日測定による違いもあることや,DPC 採用病院では包括医療費に含まれることから,利害関係 者にとっての容認性は一概には決定できない。 (8)実行可能性 プロカルシトニンの測定が院内で施行され,速やかに結果が得られるかどうかについては施設間差がある。本邦においてプロカルシトニンを院内測定している機関の割合は不明であるが,十分ではないと想定される。 一方で,院内測定を導入している場合には測定頻度を増やすことの敷居は高くないため,実行可能性は様々と考えられる。 (9)判断の要約(Table 4-9-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:100%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 17)では“We suggest that measurement of procalcitonin levels can be used to support shortening the duration of antimicrobial therapy in sepsis patients (weak recommendation, low quality of evidence).”としている。これは抗菌薬の投与中止よりもデエスカレーションに主眼を置いたものであった。さらに日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 18)では,「抗菌薬はプロカルシトニンを指標に中止してよいか?」という Table 4-9-2 判断の要約 -S 93-
CQ に対して,当初は「敗血症,敗血症性ショックにおける抗菌薬治療で,プロカルシトニン値を指標に抗菌薬の中止を行わないことを弱く推奨する」としていた。これはメタ解析の結果,死亡率に有意差がみられなかったためであった。しかし,その後に新たにRCT 1 件 7)を追加してメタ解析を再度行ったところ,介入群では対照群と比較して28 日死亡が有意に低下し,抗菌薬投与日数も有意に短縮する結果となった。このことから「敗血症において,プロカルシトニンを利用した抗菌薬の中止を行うことを弱く推奨する」に変更となった。 (12)実施に関わる検討事項 プロカルシトニンの測定結果を迅速に得られる施設が限られることに留意する必要がある。 (13)今後の研究の可能性 以下の内容に関する検討が求められる。・測定費用を考慮した医療経済的効果・抗菌薬投与日数に関する質の高いRCT 文 献 1) Micek S, Johnson MT, Reichley R, et al: An institutional perspective on the impact of recent antibiotic exposure on length of stay and hospital costs for patients with gram-negative sepsis. BMC Infect Dis. 2012; 12: 56. 2) Baggs J, Jernigan JA, Halpin AL, et al: Risk of Subsequent Sepsis Within 90 Days after a Hospital Stay by Type of Antibiotic Exposure. Clin Infect Dis. 2018; 66: 1004-12. 3) Charles PE, Tinel C, Barbar S, et al: Procalcitonin kinetics within the first days of sepsis: Relationship with the appropriateness of antibiotic therapy and the outcome. Crit Care. 2009; 13: R38. 4) Karlsson S, Heikkinen M, PettiläV, et al: Predictive value of procalcitonin decrease in patients with severe sepsis: A prospective observational study. Crit Care. 2010; 14: R205. 5) Annane D, Maxime V, Faller JP, et al: Procalcitonin levels to guide antibiotic therapy in adults with non-microbiologically proven apparent severe sepsis: A randomised controlled trial. BMJ Open. 2013; 3: e002186. 6) Bloos F, Trips E, Nierhaus A, et al: Effect of sodium selenite administration and procalcitonin-guided therapy on mortality in patients with severe sepsis or septic shock: A randomized clinical trial. JAMA Intern Med. 2016; 176: 1266-76. 7) de Jong E, van Oers JA, Beishuizen A, et al: Efficacy and safety of procalcitonin guidance in reducing the duration of antibiotic treatment in critically ill patients: A randomised, controlled, open-label trial. Lancet Infect Dis. 2016; 16: 819-27. 8) Deliberato RO, Marra AR, Sanches PR, et al: Clinical and economic impact of procalcitonin to shorten antimicrobial therapy in septic patients with proven bacterial infection in an intensive care setting. Diagn Microbiol Infect Dis. 2013; 76: 266-71. 9) Hochreiter M, Köhler T, Schweiger AM, et al: Procalcitonin to guide duration of antibiotic therapy in intensive care patients: A randomized prospective controlled trial. Crit Care. 2009; 13: R83. 10) Kip MMA, van Oers JA, Shajiei A, et al: Cost-effectiveness of procalcitonin testing to guide antibiotic treatment duration in critically ill patients: Results from a randomised controlled multicentre trial in the Netherlands 11 Medical and Health Sciences 1117 Public Health and Health Services. Crit Care. 2018; 22: 293. 11) Najafi A, Khodadadian A, Sanatkar M, et al: The comparison of procalcitonin guidance administer antibiotics with empiric antibiotic therapy in critically ill patients admitted in intensive care unit. Acta Med Iran. 2015; 53: 562-7. 12) Nobre V, Harbarth S, Graf JD, et al: Use of procalcitonin to shorten antibiotic treatment duration in septic patients: A randomized trial. Am J Respir Crit Care Med. 2008; 177: 498-505. 13) Oliveira CF, Botoni FA, Oliveira CRA, et al: Procalcitonin versus C-reactive protein for guiding antibiotic therapy in sepsis: A randomized trial. Crit Care Med. 2013; 41: 2336-43. 14) Schroeder S, Hochreiter M, Koehler T, et al: Procalcitonin (PCT)guided algorithm reduces length of antibiotic treatment in surgical intensive care patients with severe sepsis: Results of a prospective randomized study. Langenbecks Arch Surg. 2009; 394: 221-6. 15) Shehabi Y, Sterba M, Garrett PM, et al: Procalcitonin algorithm in critically ill adults with undifferentiated infection or suspected sepsis. A randomized controlled trial. Am J Respir Crit Care Med. 2014; 190: 1102-10. 16) Svoboda P, Kantorová I, Scheer P, et al: Can procalcitonin help us in timing of re-intervention in septic patients after multiple trauma or major surgery? Hepatogastroenterology. 2007; 54: 359-63. 17) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 18) Nishida O, Ogura H, Egi M, et al: The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2016 (J-SSCG 2016). J Intensive Care. 2018; 6: 7. -S 94-
CQ4-10:敗血症に対して,比較的短期間(7 日 間以内)の抗菌薬治療を行うか? Answer:敗血症に対して,比較的短期間(7 日間以内)の抗菌薬治療を行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。コメント:短期投与が必要な感染症のうち,エビデンスがあるのは肺炎および腹腔内感染症に限られていることから,本推奨は条件付き推奨である。なお,長期投与が必要な感染症(心内膜炎,化膿性脊椎炎)は本CQ の対象ではない。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症に対する抗菌薬治療に伴う害として,投与期間が長いほど常在菌叢の中で耐性菌やClostridioides difficile,真菌が定着・増殖するリスクが高まり,次の新たな敗血症のリスクになることが考えられる 1, 2)。世界的には新規抗菌薬の開発が減少する一方で,不適切な使用を背景とした薬剤耐性(antimicrobial resistance: AMR)の問題が脅威となっている 3)。近年,肺炎などの各種感染症における抗菌薬の治療期間について,短期間治療は長期間治療と比較して死亡率や臨床的治癒率に差がない報告が増えてきた 4, 5)。そこで敗血症診療においても,患者の転帰を悪化させることなく抗菌薬レジメン期間を短縮できるかという臨床的疑問は重要と判断し,CQ として取り上げた。 (2)PICO P (患者):成人敗血症あるいは敗血症性ショック, または集中治療を要する感染症患者(※ 1, 2) ※ 1 敗血症あるいは敗血症性ショックに限定し たランダム化比較試験(RCT)はほとんどないため,本CQ では集中治療を要する感染症を対象に含めた。※ 2 4 週間以上の投与が必要な感染症(心内膜 炎,化膿性脊椎炎)を対象外とするために, 1市中肺炎,2院内肺炎 / 人工呼吸器関連肺炎, 3急性腎盂腎炎 / 敗血症性尿路感染症,4腹腔内感染症 / 腹膜炎,5胆管炎,6菌血症を本CQ の対象感染症に指定した。I (介入):1 週間(8 日)以内の短期間抗菌薬治療C (対照):1 週間を超える長期間抗菌薬治療O (アウトカム):死亡(28 日,最長観察期間),臨 床的治癒,敗血症の再燃,薬剤耐性菌の検出(3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,RCT は,PICOに示す各感染症のうち,2院内肺炎/ 人工呼吸器関連肺炎に関して3 件,4腹腔内感染症に関して1 件施行されていた 6-9)。それ以外の1市中肺炎,3急性腎盂腎炎 / 敗血症性尿路感染症,5胆管炎,6菌血症に関しては,該当研究を認めなかった。 この4 論文を用いたメタ解析の結果,28 日死亡は3つのRCT で評価され,死亡に対する効果推定値は1,000 人あたり12 人多い(95% CI: 34 人少ない~78人多い)であり,最長観察期間における死亡は4 つのRCT で評価され,リスク差(RD)は1,000 人あたり11 人多い(95% CI: 27 人少ない~62 人多い)であった。臨床的治癒は2 つのRCT で評価され,効果推定値は1,000 人あたり50 人少ない(95% CI: 202 人少ない~144 人多い)であり,敗血症の再燃は3 つのRCTで評価され,RD は1,000 人あたり77 人多い(95% CI: 0 人少ない~185 人多い)であった。薬剤耐性菌の検出については2 つのRCT で評価され,効果推定値は1,000 人あたり132 人少ない(95% CI: 292 人少ない~166 人多い)であった。 (4)益と害のバランス(Table 4-10-1)望ましい効果: 死亡,臨床的治癒,薬剤耐性菌の検出はわずかで,短期間治療と長期間治療の成績に差は認められなかった。望ましくない効果: 敗血症の再燃はわずかで,短期間治療のほうが敗血症の再燃が有意に増加することはなかった。益と害のバランス: 本CQ において,短期間治療による死亡減少,臨床的治癒増加,薬剤耐性菌の検出低下という望ましい効果はわずかである。敗血症の再燃増加という望ましくない効果も同様にわずかである。 全体的なエビデンスの確実性は「非常に低」。以上より,効果のバランスは介入も比較もいずれも優位でない。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 アウトカムごとに効果の方向性は同一ではなく,確実性は「非常に低」から「中」であった。全体的なエビデンスの確実性は,最も低いものを採用し「非常に低」とした。 -S 95-
(6)価値観 抗菌薬治療期間において,各アウトカムにおける患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムや臨床的治癒,新たなイベント,薬剤耐性菌の検出に対する相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 抗菌薬治療期間について1 週間を超えるものから1週間以内に短縮するという介入は,患者の状態をモニタリングした状況において施行は可能であり,医療者の仕事量および患者侵襲を減らすことから,医療者および患者にとっての容認性は高い。介入に伴う広域抗菌薬投与量の変化,およびこれに伴うコストへの影響は評価できていないが,個人負担額を考えると,患者・家族の個人の視点からは問題なく許容できる。また,抗菌薬の短期間治療により医療施設におけるAMR 対策につながり,結果的に敗血症患者自身の薬剤耐性菌感染リスクを低下させるのであれば,患者・家族の個人の視点からも許容できる。ただし,敗血症の死亡率や治癒率,再発率を悪化させることがないことが前提となる。 (8)実行可能性 介入は抗菌薬の治療期間短縮であり,多くの医療施設において問題なく実行可能である。(9)判断の要約(Table 4-10-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.018 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:75%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 においては,抗菌薬の治療期間に関するCQ はない 10)。SSCG 2016 においては,敗血症と敗血症性ショックを伴うほとんどの重症感染症で抗菌薬治療期間は7~10日間で適切であることが「弱い推奨」となっていた 11)。 (12)実施に関わる検討事項 敗血症または集中治療を要する状況に特化したエビデンスがあるのは,肺炎と腹腔内感染症に限られている。CQ 設定時に対象としていた尿路感染症,胆管炎,菌血症に関するエビデンスは不足している。また,長期投与が必要な感染症(心内膜炎,化膿性脊椎炎)は本CQ の対象ではない。実際,敗血症または集中治療を要する状況に特化したエビデンスがない領域では,各種一般感染症に対する抗菌化学療法の治療期間を参考にする必要がある。 敗血症に対して短期間治療とする場合はこれらの条件を考慮して実施したうえで,再発 / 再燃リスクに注 Table 4-10-1 エビデンスプロファイル -S 96-
意する必要がある。 (13)今後の研究の可能性 以下の内容に関する検討が求められる。・ 敗血症または集中治療を要する感染症を対象とし た,抗菌薬投与日数に関する質の高いRCT・ 抗菌薬治療期間と,薬剤耐性菌の検出や敗血症の再 燃(短期間治療による再発率の増加,長期間治療による薬剤耐性菌検出の増加による新たな二次感染の増加)の関係性の検証 文 献 1) Micek S, Johnson MT, Reichley R, et al: An institutional perspective on the impact of recent antibiotic exposure on length of stay and hospital costs for patients with gram-negative sepsis. BMC Infect Dis. 2012; 12: 56. 2) Baggs J, Jernigan JA, Halpin AL, et al: Risk of Subsequent Sepsis Within 90 Days After a Hospital Stay by Type of Antibiotic Exposure. Clin Infect Dis. 2018; 66: 1004-12. 3) The Government of Japan: National Action Plan on Antimicrobial Resistance (AMR). 2016. 4) Royer S, DeMerle KM, Dickson RP, et al: Shorter versus longer courses of antibiotics for infection in hospitalized patients: A systematic review and meta-analysis. J Hosp Med. 2018; 13: 336-42. 5) Onakpoya IJ, Walker AS, Tan PS, et al: Overview of systematic reviews assessing the evidence for shorter versus longer duration antibiotic treatment for bacterial infections in secondary care. PLoS One. 2018; 13: e0194858. 6) Capellier G, Mockly H, Charpentier C, et al: Early-Onset Ventilator-Associated Pneumonia in Adults Randomized Clinical Trial: Comparison of 8 versus 15 Days of Antibiotic Treatment. PLoS One. 2012; 7: e41290. 7) Chastre J, Wolff M, Fagon JY, et al: Comparison of 8 vs 15 Days of Antibiotic Therapy for Ventilator-Associated Pneumonia in Adults: A Randomized Trial. JAMA. 2003; 290: 2588-98. 8) Kollef MH, Chastre J, Clavel M, et al: A randomized trial of 7-day doripenem versus 10-day imipenem-cilastatin for ventilatorassociated pneumonia. Crit Care. 2012; 16: R218. 9) Montravers P, Tubach F, Lescot T, et al: Short-course antibiotic therapy for critically ill patients treated for postoperative intraabdominal infection: the DURAPOP randomised clinical trial. Intensive Care Med. 2018; 44: 300-10. 10) Nishida O, Ogura H, Egi M, et al: The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2016 (J-SSCG 2016). J Intensive Care. 2018; 6: 7. 11) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. Table 4-10-2 判断の要約 -S 97-
CQ4-11:腎排泄型の抗微生物薬の用量調整に際 して,何が参考になるか? Answer:複数の時点で測定された腎機能検査値(血清Cr 値,eGFR 値など)に加えて,体液量の変動,腎代替療法や他の体外循環治療の有無などが参考になる(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症あるいは敗血症性ショックの治療において,適切な抗微生物薬の投与設計を行うことは極めて重要である。敗血症患者では臓器障害として腎障害を生じることが多く,集中治療室においてKDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcome)基準で急性腎障害とされる症例の約半数は敗血症が原因とされる 1-5)。腎障害時に腎排泄型の抗微生物薬は用量調整を行う必要があると考えられるが,一方で敗血症の初期には体液量の変動や分布容積(volume of distribution: Vd)の変化が起こるほか,腎代替療法などの体外循環治療が導入されることも多く,用量調整に影響する因子は多岐にわたる。不適切な抗微生物薬投与は患者の不良な転帰に関連するため 2, 6-9),本CQ の重要度は高い。 (2)解説 腎排泄型の抗微生物薬では腎障害時にクリアランスが低下し血中濃度が上昇するため,敗血症による腎障害においても抗微生物薬投与量の調整が必要と考えられる 10-13)。この場合,一般的な腎障害のために作成された腎機能別の推奨用量では,特に敗血症の初期において抗微生物薬濃度が不十分となりうるため,注意が必要である 14, 15)。 腎機能の指標として血清Cr 値や,Cr 値に加えて年齢・性別などを考慮して算出されるeGFR 値が一般的に使用されている。一方,急激な糸球体濾過量の変化から24~48 時間遅れてCr 値が変化することが知られており,急性期の病態では真の腎機能を正確に反映しない可能性が高いため,複数回の測定によるCr 値の変動を参考にGFR 値を予想する必要がある。すなわち,Cr 値が上昇傾向であれば真のGFR 値はeGFR 値よりも小さく,Cr 値が低下傾向であれば真のGFR 値はeGFR 値よりも大きいことを想定する必要がある 16)。 また,敗血症患者では抗微生物薬の投与に関連して以下1と2に示すような変化から,Cr 値やeGFR 値による腎機能評価に基づく薬剤投与量では不十分となる可能性があるため,特に水溶性抗微生物薬(抗菌薬;β-ラクタム系,アミノグリコシド系,グリコペ プチド系,リネゾリド,コリスチン,抗真菌薬;トリアゾール系,エキノキャンディン系,ポリエンマクロライド系)の投与に際しては,体液量の変動の把握が重要である 17-27)。 1毛細血管漏出およびそれによる浮腫,輸液療法,胸腹水,体液ドレナージ,低アルブミン血症,蛋白結合率低下などに伴うVd の増加と,血漿や細胞外液における抗微生物薬の希釈 2心拍出量増加,腎血流増加,血管拡張・毛細血管漏出・低アルブミン血症による腎クリアランスの増加(augmented renal clearance) 体外循環によっても抗微生物薬の濃度は影響を受ける 24)。体外膜型肺(extracorporeal membrane oxygenation: ECMO)では回路における抗微生物薬の捕捉や, ECMO による炎症の惹起が原因となり,Vd や抗微生物薬クリアランスが変化する可能性が指摘されている 28-30)。 また,腎代替療法が導入された場合も抗微生物薬の濃度が変動する 31-37)。腎代替療法の設定によりその変化は異なるが 38-41),多くの場合は推奨されている腎代替療法中の抗菌薬投与方法では不十分となる可能性が指摘されている 39, 42-48)。なお,これらの海外の論文で用いられている腎代替療法の濾過量は,本邦の保険診療における上限量(16L / 日)よりも多いことに注意が必要である。 文 献 1) Uchino S, Kellum JA, Bellomo R, et al: Acute renal failure in critically ill patients: a multinational, multicenter study. JAMA. 2005; 294: 813-8. 2) Bagshaw SM, George C, Bellomo R, et al: Early acute kidney injury and sepsis: a multicentre evaluation. Crit Care. 2008; 12: R47. 3) Bagshaw SM, Lapinsky S, Dial S, et al: Acute kidney injury in septic shock: clinical outcomes and impact of duration of hypotension prior to initiation of antimicrobial therapy. Intensive Care Med. 2009; 35: 871-81. 4) Lagu T, Rothberg MB, Shief MS, et al: Hospitalizations, costs, and outcomes of severe sepsis in the United States 2003 to 2007. Crit Care Med. 2012; 40: 754-61. 5) Schortgen F, Asfar P: Update in sepsis and acute kidney injury 2014. Am J Respir Crit Care Med. 2015; 191: 1226-31. 6) Kollef MH, Sherman G, Ward S, et al: Inadequate antimicrobial treatment of infections: a risk factor for hospital mortality among critically ill patients. Chest. 1999; 115: 462-74. 7) Ibrahim EH, Sherman G, Ward S, et al: The influence of inadequate antimicrobial treatment of bloodstream infections on patient outcomes in the ICU setting. Chest. 2000; 118: 146-55. 8) Shorr AF, Micek ST, Welch EC, et al: Inappropriate antibiotic therapy in Gram-negative sepsis increases hospital length of stay. Crit Care Med. 2011; 39: 46-51. 9) Roberts JA, Paul SK, Akova M, et al: DALI: defining antibiotic levels in intensive care unit patients: Are currentβ-lactam -S 98-
antibiotic doses sufficient for critically ill patients? Clin Infect Dis. 2014; 58: 1072-83. 10) Roberts JA, Abdul-Aziz MH, Lipman J, et al: Individualised antibiotic dosing for patients who are critically ill: challenges and potential solutions. Lancet Infect Dis. 2014; 14: 498-509. 11) Godin M, Murray P, Mehta RL: Clinical approach to the patient with AKI and sepsis. Semin Nephrol. 2015; 35: 12-22. 12) Sime FB, Roberts MS, Roberts JA: Optimization of dosing regimens and dosing in special populations. Clin Microbiol Infect. 2015; 21: 886-93. 13) Lewis SJ, Mueller BA: Antibiotic dosing in patients with acute kidney injury:ʻEnough But Not Too Much’. J Intensive Care Med. 2016; 31: 164-76. 14) Blot S, Lipman J, Roberts DM, et al: The influence of acute kidney injury on antimicrobial dosing in critically ill patients: Are dose reductions always necessary? Diagn Microbiol Infect Dis. 2014; 79: 77-84. 15) De Waele JJ, Lipman J, Akova M, et al: Risk factors for target non-attainment during empirical treatment withβ-lactam antibiotics in critically ill patients. Intensive Care Med. 2014; 40: 1340-51. 16) Bernier-Jean A, Beaubien-Souligny W, Goupil R, et al: Diagnosis and outcomes of acute kidney injury using surrogate and imputation methods for missing preadmission creatinine values. BMC Nephrol. 2017; 18: 141. 17) Hoste EAJ, Daman J, Vanholder RC, et al: Assessment of renal function in recently admitted critically ill patients with normal serum creatinine. Nephrol Dial Transplant. 2005; 20: 747-53. 18) Herrera-Gutiérrez ME, Seller-Pérez G, Banderas-Bravo E, et al: Replacement of 24-h creatinine clearance by 2-h creatinine clearance in intensive care unit patients: a single-center study. Intensive Care Med. 2007; 33: 1900-6. 19) Baptista JP, Udy AA, Sousa E, et al: A comparison of estimates of glomerular filtration in critically ill patients with augmented renal clearance. Crit Care. 2011; 15: R139. 20) Martin JH, Fay MF, Udy A, et al: Pitfalls of using estimations of glomerular filtration rate in an intensive care population. Intern Med J. 2011; 41: 537-43. 21) Gonçalves-Pereira J, Póvoa P: Antibiotics in critically ill patients: a systematic review of the pharmacokinetics ofβ-lactams. Crit Care. 2011; 15: R206. 22) Udy AA, Varghese JM, Altulroni M, et al: Subtherapeutic initial β-lactam concentrations in select critically ill patients: association between augmented renal clearance and low trough drug concentrations. Chest. 2012; 142: 30-9. 23) Grootaert V, Willems L, Debaveye Y, et al: Augmented Renal Clearance in the Critically Ill: How to Assess Kidney Function. Ann Pharmacother. 2012; 46: 952-9. 24) Udy AA, Roberts JA, Lipman J: Clinical implications of antibiotic pharmacokinetic principles in the critically ill. Intensive Care Med. 2013; 39: 2070-82. 25) Udy AA, Roberts JA, Shorr AF, et al: Augmented renal clearance in septic and traumatized patients with normal plasma creatinine concentrations: identifying at-risk patients. Crit Care. 2013; 17: R35. 26) Udy AA, Baptista JP, Lim NL, et al: Augmented renal clearance in the ICU: results of a multicenter observational study of renal function in critically ill patients with normal plasma creatinine concentrations*. Crit Care Med. 2014; 42: 520-7. 27) Carlier M, Carrette S, Roberts JA, et al: Meropenem and piperacillin / tazobactam prescribing in critically ill patients: does augmented renal clearance affect pharmacokinetic / pharmacodynamic target attainment when extended infusions are used? Crit Care. 2013; 17: R84. 28) Shekar K, Fraser JF, Smith MT, et al: Pharmacokinetic changes in patients receiving extracorporeal membrane oxygenation. J Crit Care. 2012; 27: 741.e9-18. 29) Shekar K, Roberts JA, Mcdonald CI, et al: Sequestration of drugs in the circuit may lead to therapeutic failure during extracorporeal membrane oxygenation. Crit Care. 2012; 16: R194. 30) Dzierba AL, Abrams D, Brodie D: Medicating patients during extracorporeal membrane oxygenation: the evidence is building. Crit Care. 2017; 21: 66. 31) Heintz BH, Matzke GR, Dager WE: Antimicrobial dosing concepts and recommendations for critically ill adult patients receiving continuous renal replacement therapy or intermittent hemodialysis. Pharmacotherapy. 2009; 29: 562-77. 32) Choi G, Gomersall CD, Tian Qi, et al: Principles of antibacterial dosing in continuous renal replacement therapy. Crit Care Med. 2009; 37: 2268-82. 33) Bogard KN, Peterson NT, Plumb TJ, et al: Antibiotic dosing during sustained low-efficiency dialysis: special considerations in adult critically ill patients. Crit Care Med. 2011; 39: 560-70. 34) Eyler RF, Mueller BA, Medscape: Antibiotic dosing in critically ill patients with acute kidney injury. Nat Rev Nephrol. 2011; 7: 226-35. 35) Scoville BA, Mueller BA: Medication dosing in critically ill patients with acute kidney injury treated with renal replacement therapy. Am J Kidney Dis. 2013; 61: 490-500. 36) Ulldemolins M, Vaquer S, Llauradó-Serra M, et al: Beta-lactam dosing in critically ill patients with septic shock and continuous renal replacement therapy. Crit Care. 2014; 18: 227. 37) Veiga RP, Paiva JA: Pharmacokinetics-pharmacodynamics issues relevant for the clinical use of beta-lactam antibiotics in critically ill patients. Crit Care. 2018; 22: 233. 38) Churchwell MD, Mueller BA: Drug dosing during continuous renal replacement therapy. Semin Dial. 2009; 22: 185-8. 39) Roberts DM, Roberts JA, RobertsMS, et al: Variability of antibiotic concentrations in critically ill patients receiving continuous renal replacement therapy: a multicentre pharmacokinetic study. Crit Care Med. 2012; 40: 1523-8. 40) Jamal JA, Udy AA, Lipman J, et al: The impact of variation in renal replacement therapy settings on piperacillin, meropenem, and vancomycin drug clearance in the critically ill: an analysis of published literature and dosing regimens*. Crit Care Med. 2014; 42: 1640-50. 41) Roberts DM, Liu X, Roberts JA, et al: A multicenter study on the effect of continuous hemodiafiltration intensity on antibiotic pharmacokinetics. Crit Care. 2015; 19: 84. 42) Fiaccadori E, Maggiore U, Rotelli C, et al: Removal of linezolid by conventional intermittent hemodialysis, sustained low-efficiency dialysis, or continuous venovenous hemofiltration in patients with acute renal failure. Crit Care Med. 2004; 32: 2437-42. 43) Kielstein JT, Czock D, Schöpke T, et al: Pharmacokinetics and total elimination of meropenem and vancomycin in intensive care unit patients undergoing extended daily dialysis. Crit Care Med. 2006; 34: 51-6. 44) Burkhardt O, Joukhadar C, Traunmüller F, et al: Elimination of daptomycin in a patient with acute renal failure undergoing extended daily dialysis. J Antimicrob Chemother. 2008; 61: 224-5. 45) Seyler L, Cotton F, Taccone FS, et al: Recommendedβ-lactam regimens are inadequate in septic patients treated with continuous renal replacement therapy. Crit Care. 2011; 15: R137. 46) Wilson FP, Berns JS: Vancomycin levels are frequently subtherapeutic during continuous venovenous hemodialysis (CVVHD). Clin Nephrol. 2012; 77: 329-31. 47) Zoller M, Maier B, Hornuss C, et al: Variability of linezolid concentrations after standard dosing in critically ill patients: a prospective observational study. Crit Care. 2014; 18: R148. -S 99-
48) Euteneuer JC, Kamatkar S, Fukuda T, et al: Suggestions for Model-Informed Precision Dosing to Optimize Neonatal Drug Therapy. J Clin Pharmacol. 2019; 59: 168-76. -S 100-
CQ5:免疫グロブリン(IVIG)療法 敗血症には様々な補助療法(adjunctive therapies)が試みられている。多クローン性免疫グロブリンには,病原微生物・毒素の中和作用,補体活性化による貪食・溶菌促進作用,オプソニン効果,抗体依存性細胞傷害作用,非特異的抗炎症作用,炎症性サイトカイン産生抑制作用などがあり 1, 2),臨床では特発性血小板減少性紫斑病,重症筋無力症,慢性炎症性脱髄性多発神経炎,Guillain-Barre 症候群,川崎病などへの免疫グロブリン(IVIG)がガイドラインで推奨されている。また,上記作用および低免疫グロブリン血症の合併頻度が高いことから感染症への効果も期待され 3),特に重症例に対し投与されてきた。本邦では正岡らの臨床研究結果に基づき重症感染症が保険適用となっており 4),2010 年~2011 年にかけて日本救急医学会が実施した前向き観察研究では,重症敗血症624 人の34.6%,うちショック合併282 人の44.0% に投与されていた 5)。 しかし,各種敗血症診療ガイドラインにおける推奨は必ずしも一貫しておらず,SSCG 2016 においては弱い非推奨であったが,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では弱い推奨とする担当班からの案に対して委員会の同意率が低く,推奨に関する提示は見送られた。一方で,特に死亡率の高い劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS),毒素性ショック症候群(TSS),壊死性軟部組織感染症などの特殊感染症に対する投与を推奨する文献が複数あり,検討の必要性が出ている。そこで今回のガイドライン改訂に当たり,我々は従来の「CQ5-2-1:劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)に対して免疫グロブリン(IVIG)投与を行うか?」に加えて,「CQ5-2-2:毒素性ショック症候群(TSS)に対して免疫グロブリン(IVIG)投与 を行うか?」のCQ を立案し,両者に対しそれぞれGRADE に基づくシステマティックレビューを行い,推奨を決定した。 CQ5-1 においては,low quality of evidence も含むシ ステマティックレビュー,high quality of evidence のみのシステマティックレビューの両者を実施し,事前設定により後者を採用し推奨に用いた。結果的に,前述の正岡論文が採用システマティックレビューに含まれず,推奨の方向性がJ-SSCG 2016 担当班の草案とは異なり,弱い非推奨となった。今回は委員会の同意が得られ,推奨に関する提示に至った。また,CQ5-2 においては,臨床研究が少ないことが予想されたため,システマティックレビューの対象を観察研究に拡げて検討を行った。 文 献 1) Nimmerjahn F, Ravetch JV: Anti-inflammatory actions of intravenous immunoglobulin. Annu Rev Immunol. 2008; 26: 513-33. 2) Shankar-Hari M, Spencer J, Sewell WA, et al: Bench-to-bedside review: Immunoglobulin therapy for sepsis - biological plausibility from a critical care perspective. Crit Care. 2012; 16: 206. 3) Shankar-Hari M, Culshaw N, Post B, et al: Endogenous IgG hypogammaglobulinaemia in critically ill adults with sepsis: systematic review and meta-analysis. Intensive Care Med. 2015; 41: 1393-401. 4) 正岡徹, 長谷川廣文, 高久史麿, 他: 重症感染症に対する抗菌薬との併用療法における静注用ヒト免疫グロブリンの効果.日化療会誌. 2000; 48: 199-217. 5) 小谷穣治, 齋藤大蔵, 丸藤哲, 他: 日本救急医学会Sepsis Registry 特別委員会報告 Severe Sepsis 治療データ解析結果.日救急医会誌. 2013; 24: 291-6. 免疫グロブリン(IVIG)〔診療フロー〕 -S 101-
CQ5-1:敗血症に対して免疫グロブリン(IVIG) 投与を行うか? Answer:敗血症に対して,免疫グロブリン(IVIG)投与を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2B:エビデンスの確実性=「中」)。 (1)背景および本CQ の重要度 IVIG には種々の病原微生物や毒素に対する特異抗体が含まれ,抗原と結合するとオプソニン効果や補体の活性化の他,毒素・ウイルスの中和作用,炎症性サイトカインの産生抑制作用を有する 1)。敗血症患者では,産生抑制や漏出・消耗により発症早期から血清IgG は低値となるため,適切な循環管理と抗菌薬の早期投与と共に,IVIG 投与が予後を改善する可能性がある。 敗血症患者の致死率は依然として高く,治療成績を向上させる介入法の確立は急務である。現状では, IVIG 投与の有効性・有害性の評価は定まっておらず,臨床現場でもその投与判断については多様性がある。以上より,本CQ は重要度の高いものと考えられる。(2)PICO P (患者):感染症,敗血症あるいは敗血症性ショッ ク患者I (介入):IVIG 投与C (対照):プラセボ投与あるいはIVIG 非投与O (アウトカム):全原因死亡(バイアスリスクの低 い研究限定),全原因死亡[全ランダム化比較試験(RCT)対象],ICU 滞在日数,あらゆる重篤な副作用 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したRCT が9 件施行 2-10)されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 5-1-1)望ましい効果: 今回,死亡アウトカムに関しては事前設定に基づいて検索した全RCT を対象としたものならびに,バイアスリスクが低いRCT に限定したもの,の2 通りを行った。エビデンスの確実性が高いほうの解析を用いることを事前に設定していたため,低いバイアスのリ Table 5-1-1 エビデンスプロファイル -S 102-
スクの死亡アウトカムを採用した。 バイアスリスクの低い3 つのRCT から得られる全死亡に関する効果推定値は,リスク差(RD)1,000 人あたり7 人多い(95% CI: 58 人少ない~83 人多い)であり,IVIG 投与による望ましい効果は限定的である。ICU 滞在日数に関する効果推定値は,平均(MD) 1.1 日短い(95% CI: 5.44 日短い~3.25 日長い)と,同様に望ましい効果は限定的である。望ましくない効果: あらゆる重篤な副作用に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり1 人少ない(95% CI: 23 人少ない~46人多い)であり,望ましくない効果も増えない可能性が高い。益と害のバランス: 本CQ においては,すべてのアウトカムがIVIG の効果なしを示す結果であったため,患者・家族が置く相対的価値の設定によらず,その効果のバランスは介入あるいは比較対象のいずれも支持しない。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したすべてのアウトカムの効果推定値の方向性は一致している(効果なし)ため,一番高いアウトカムの確実性を全体としては採用した。アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「中」である。 (6)価値観 敗血症患者に対するIVIG 投与における,各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 有害事象はリスクが低い可能性が高い。介入に伴うコストは約126,000 円(IVIG 5g =平均的な薬価約42,000 円を3 日間投与の場合)である。その個人負担額を考えると,患者・家族の個人の視点からおそらく許容できるであろう。また,IVIG 投与に伴う医療者の仕事量増加はわずかであると考えられる。 (8)実行可能性 介入は多くの医療施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 5-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.178 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 では弱い非推奨である。一方,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG) 2016 ではIVIG 担当班の推奨文草案「成人の敗血症患者に対してIVIG を投与することを弱く推奨する(推奨2C)」が2 度の投票でいずれも3 分の2 以上の合意が得られず,明確な推奨を提示していない。 Table 5-1-2 判断の要約 -S 103-
(12)実施に関わる検討事項 標準的治療としてIVIG 投与を行うことは好ましくないが,症例に応じた適応判断を否定するものではない。 (13)今後の研究の可能性 以下の内容に関する検討が求められるであろう。・ 本邦で認可された投与量(IVIG 5g / 日×3 日間) による有効性の検証・ 大量長期投与による有効性の検証・ 低ガンマグロブリン血症合併敗血症に対する有効 性の検証・ 壊死性軟部組織感染症,毒素性ショック症候群(toxic shock syndrome: TSS)などの特殊な感染症に対する有効性の検証 文 献 1) Aubron C, Berteau F, Sparrow RL: Intravenous immunoglobulin for adjunctive treatment of severe infections in ICUs. Curr Opin Crit Care. 2019; 25: 417-22. 2) Masaoka T, Hasegawa H, Takaku F, et al: The efficacy of intravenous immunogloblin in combination thrapy with antibiotics for severe infections. Japanese J Chemother. 2000; 48: 199-217. 3) Madsen MB, Hjortrup PB, Hansen MB, et al: Immunoglobulin G for patients with necrotising soft tissue infection (INSTINCT): a randomised, blinded, placebo-controlled trial. Intensive Care Med. 2017; 43: 1585-93. 4) Werdan K, Pilz G, Bujdoso O, et al: Score-based immunoglobulin G therapy of patients with sepsis: the SBITS study. Crit Care Med. 2007; 35: 2693-701. 5) Grundmann R, Hornung M: Immunoglobulin therapy in patients with endotoxemia and postoperative sepsis - a prospective randomized study. Prog Clin Biol Res. 1988; 272: 339-49. 6) Darenberg J, Ihendyane N, Sjolin J, et al: Intravenous immunoglobulin G therapy in streptococcal toxic shock syndrome: a European randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Clin Infect Dis. 2003; 37: 333-40. 7) De Simone C, Delogu G, Corbetta G: Intravenous immunoglobulins in association with antibiotics: a therapeutic trial in septic intensive care unit patients. Crit Care Med. 1988; 16: 23-6. 8) Burns ER, Lee V, Rubinstein A: Treatment of septic thrombocytopenia with immune globulin. J Clin Immunol. 1991; 11: 363-8. 9) Marenovic T, Filipovic D, Lukic Z, et al: High doses of immunoglobulins decrease mortality rate of surgical patients with severe intraabdominal infections and sepsis. Vojnosanit Pregl. 1998; 55: 71-4. 10) Lorenzo D, Valentina B, Andrea I, et al: High-Dose Intravenous IgG for Treatment of Severe Surgical Infections. Dig Surg. 1996; 13: 430-4. CQ5-2-1:劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS) に対して免疫グロブリン(IVIG)投与を行うか? Answer:劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)に対して,免疫グロブリン(IVIG)投与を行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症は,病原微生物の種類に依存しない重症感染症であるが,特定の感染症では病原菌が産生する毒素により特有の重症病態を呈する。A 群・G 群レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症(severe invasive streptococcal infection,またはstreptococcal toxic shock syndrome: STSS)の病態には,菌が産生する外毒素が関与するとされ,毒素中和やサイトカイン産生抑制の作用を持つIVIG が,両病態を改善する可能性が指摘されている。 STSS は急激に多臓器不全を呈し,死亡率は40~ 50% を超えるとされる。そのため,治療成績を向上させる介入法の確立は急務である。欧米の診療指針などでは,観察研究などの結果を基にIVIG 投与を推奨しているものもある 1-5)。しかし,現状では,IVIG 投与の有効性・有害性の評価は定まっておらず,臨床現場でもその投与判断については多様性がある。以上より,本CQ は重要度の高いものと考えられる。 (2)PICO P (患者):レンサ球菌性敗血症(STSS を含む)の 患者I (介入):IVIG 投与C (対照):プラセボ投与あるいはIVIG 非投与O (アウトカム):全原因死亡(全RCT・観察研究 対象),全原因死亡[クリンダマイシン(CLDM)投与限定症例],ICU 滞在日数,あらゆる重篤な副作用 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したRCT が1 件,観察研究が4 件施行 6-9)されており,これらを別々に用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 5-2-1-1)望ましい効果: 死亡アウトカムに関しては,事前設定に基づき全症例を対象としたもの,ならびにCLDM 投与症例に限 -S 104-
定したもの,の2 通りを行い,よりバイアスリスクの低いCLDM 投与症例に限定したものを採用した。RCT から得られる全死亡に関する効果推定値は,リスク差(RD)1,000 人あたり174 人少ない(95% CI: 285 人少ない~684 人多い)であり,IVIG 投与による望ましい効果は限定的である。一方,観察研究から得られる全死亡に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり 143 人少ない (95% CI: 214 人少ない~18 人少ない)であり,IVIG 投与による望ましい効果が認められた。 STSS を対象にしたRCT は,観察対象が18 例の1研究のみであり,疾患頻度や重篤性を考えると,今後も大規模RCT が実施される可能性は低いと思われる。したがって,例外的ではあるが観察研究のシステマティックレビューを実施し,その結果を踏まえて小さいながらも望ましい効果を期待できると判断した。望ましくない効果: RCT,観察研究共に評価は不可能であったが,敗血症の結果(CQ5-1)を踏まえ望ましくない効果はあったとしてもわずかと判断した。益と害のバランス: CLDM 投与症例限定の観察研究において,死亡アウトカムはIVIG 投与により改善している。また, IVIG 投与に関連する重篤な副作用に関してはわずかであると考えられる。以上より,介入がおそらく優位であると考えられる。(5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は,「非常に低い」である。 (6)価値観 STSS に対するIVIG 投与における,各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 有害事象のリスクが低い可能性が高い。本邦の保険適用量を遵守した場合,介入に伴うコストは約126,000 円(IVIG 5g =平均的な薬価約42,000 円を3日間投与の場合)であり,疾患の重篤性に鑑みると,医療経済学的および患者・家族の視点からおそらく許容できるであろう。また,IVIG 投与に伴う医療者の仕事量増加はわずかであると考えられる。 (8)実行可能性 介入は多くの医療施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 5-2-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7.5, Table 5-2-1-1 エビデンスプロファイル -S 105-
見解不一致指数0.164 の結果となり, 委員会で採択された(7 点以上:75%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 のいずれにも推奨の記載はない。 (12)実施に関わる検討事項 レンサ球菌性敗血症への標準的治療としては, IVIG 投与を推奨するものではない。 本邦の保険適用量での有効性に関しては不明である。加えて,多くの研究で使用されているIVIG 量(計2g / kg 前後)を使用した場合,コストを誰がどのように負担するかについては検討する必要がある。 (13)今後の研究の可能性 STSS に対するRCT の実施が強く望まれる。また,以下の内容に関する検討が求められるであろう。 ・ 本邦で認可された投与量(IVIG 5g / 日×3 日間) による有効性の検証・ 大量長期投与による有効性の検証 文 献 1) Prairie Collaborative Immune Globulin Utilization Management Framework Project: Criteria for the clinical use of immune globulin. Alberta Ministry of Health, Shared Health Manitoba, and Saskatchewan Ministry of Health; 2018. 2) National Blood Authority Australia: Criteria for the clinical use of intravenous immunoglobul in Australia Version 3; 2018. 3) Gilbert DN, Chambers HF, Eliopoulos GM, et al: The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy 2019. Antimicrobial Therapy, Inc. 2019. 4) Parks T, Wilson C, Curtis N, et al: Polyspecific intravenous immunoglobulin in clindamycin-treated patients with streptococcal toxic shock syndrome: A systematic review and metaanalysis. Clin Infect Dis. 2018; 67:1434-6. 5) Darenberg J, Ihendyane N, Sjölin J, et al: Intravenous Immunoglobulin G Therapy in Streptococcal Toxic Shock Syndrome: A European Randomized, Double-Blind, Placebo- Controlled Trial. Clin Infect Dis. 2003; 37: 333-40. 6) Linner A, Darenberg J, Sjölin J, et al: Clinical efficacy of polyspecific intravenous immunoglobulin therapy in patients with streptococcal toxic shock syndrome: a comparative observational study. Clin Infect Dis. 2014; 59: 851-7. 7) Carapetis JR, Jacoby P, Carville K, et al: Effectiveness of clindamycin and intravenous immunoglobulin, and risk of disease in contacts, in invasive group a streptococcal infections. Clin Infect Dis. 2014; 59: 358-65. 8) Kaul R, McGeer A, Norrby-Teglund A, et al: Intravenous immunoglobulin therapy for streptococcal toxic shock syndrome- -a comparative observational study. The Canadian Streptococcal Study Group. Clin Infect Dis. 1999; 28: 800-7. 9) Kadri SS, Swihart BJ, Bonne SL, et al: Impact of Intravenous Immunoglobulin on Survival in Necrotizing Fasciitis With Vasopressor-Dependent Shock: A Propensity Score-Matched Analysis From 130 US Hospitals. Clin Infect Dis. 2017; 64: 877-85. Table 5-2-1-2 判断の要約 -S 106-
CQ5-2-2:毒素性ショック症候群(TSS)に対し て免疫グロブリン(IVIG)投与を行うか? Answer:毒素性ショック症候群(TSS)に対して,免疫グロブリン(IVIG)投与を行わないことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症は,病原微生物の種類に依存しない重症感染症であるが,特定の感染症では病原菌が産生する毒素により特有の重症病態を呈する。黄色ブドウ球菌による毒素性ショック症候群(toxic shock syndrome: TSS)の病態には,同菌が産生する外毒素が関与するとされ,毒素中和やサイトカイン産生抑制の作用を持つIVIG が,両病態を改善する可能性が指摘されている。 TSS は急激に多臓器不全を呈し,時に致死的となる。そのため,治療成績を向上させる介入法の確立は急務である。欧米の診療指針などでは,STSS に対する観察研究などの結果を基にTSS においてもIVIG 投与を推奨しているものもある 1-3)。しかし,現状では, IVIG 投与の有効性・有害性の評価は定まっておらず,臨床現場でもその投与判断については多様性がある。以上より,本CQ は重要度の高いものと考えられる。 (2)PICO P (患者):黄色ブドウ球菌性敗血症(TSS を含む) の患者I (介入):IVIG 投与C (対照):プラセボ投与あるいはIVIG 非投与O (アウトカム):全原因死亡(全RCT・観察研究 対象),全原因死亡[クリンダマイシン(CLDM)投与症例限定],ICU 滞在日数,あらゆる重篤な副作用 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したRCT,観察研究共に認めなかった。 (4)益と害のバランス望ましい効果: TSS については,RCT,観察研究共に認めなかった。しかし,STSS と同様に細菌が産生する毒素が重症病態の主要な原因であるため,IVIG が有効であると考える専門家も多く,効果はわずかにあると判断した。望ましくない効果: TSS における評価は不可能であったが,STSS の結果を踏まえ,望ましくない効果はあったとしてもわずかと判断した。益と害のバランス: TSS については,RCT,観察研究共に認めず,望ましい効果を評価できなかった。望ましくない効果に関しても同様に評価は不可能であったが,敗血症の結果(CQ5-1)を踏まえ,望ましくない効果はあったとしてもわずかと考えられる。以上の結果より,効果のバランスは介入も比較対象もいずれも優位でないと判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったがPICO に合致するRCT,観察研究は存在せず,確実性の評価はできなかった。 (6)価値観 TSS に対するIVIG 投与における,各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 有害事象のリスクが低い可能性が高い。本邦の保険適用量を遵守した場合,介入に伴うコストは約126,000 円(IVIG 5g =平均的な薬価約42,000 円を3日間投与の場合)であり,疾患の重篤性に鑑みると,医療経済学的および患者・家族の視点からおそらく許容できるであろう。また,IVIG 投与に伴う医療者の仕事量増加はわずかであると考えられる。 (8)実行可能性 介入は多くの医療施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 5-2-2-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:75%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 のいずれにも推奨の記載はない。 -S 107-
(12)実施に関わる検討事項 TSS に対して標準的治療としてIVIG 投与を行うことは好ましくないが,担当医の判断による重症患者への投与を否定するものではない。欧米の診療指針などで推奨されているIVIG 量(計2g / kg 前後)を使用した場合,コストを誰がどのように負担するかについては検討する必要がある。 (13)今後の研究の可能性 本病態に対するRCT の実施が望まれる。また,以下の内容に関する検討が求められるであろう。 ・ TSS に対する有効性の検証・ 本邦で認可された投与量(IVIG 5g / 日×3 日間) による有効性の検証・ 大量長期投与による有効性の検証 文 献 1) Prairie Collaborative Immune Globulin Utilization Management Framework Project. Criteria for the clinical use of immune globulin. Alberta Ministry of Health, Shared Health Manitoba, and Saskatchewan Ministry of Health; 2018. 2) National Blood Authority Australia: Criteria for the clinical use of intravenous immunoglobul in Australia Version 3. 2018. 3) Gilbert DN, Chambers HF, Eliopoulos GM, et al: The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy 2019. Antimicrobial Therapy Inc., 2019. Table 5-2-2-1 判断の要約 -S 108-
CQ6:初期蘇生・循環作動薬 感染症に罹患すると,生体防御反応として種々のメディエータが放出され,そのメディエータの働きにより初期には末梢血管拡張に伴う相対的循環血液量の減少が起こる。しかし,敗血症性ショック症例の約半数にびまん性左室壁運動低下(敗血症性心筋障害)が認められるとの報告もあり 1),敗血症性ショックは,単に末梢血管拡張に伴う血液分布異常性ショックだけではなく,循環血液量減少や心機能低下によるショック(循環血液量減少性ショック,心原性ショック)も合併する複雑な病態を形成する。従来の敗血症性ショックに対する初期の治療戦略は,相対的な循環血液量減少に対する急速大量輸液が推奨されてきた 2-4)が,心機能低下症例に対する急速輸液負荷は病態を悪化させる可能性がある。したがって,敗血症性ショックに対する,迅速かつ適切な治療戦略を遂行するには初期蘇生時において,治療開始と同時に心機能・血行動態評価を行う必要があると考え,「CQ6-1:敗血症患者に対して心エコーを行うか?」を提示し検討を行った。 Rivers ら 5)が提唱した早期目標達成指向型管理法(early goal-directed therapy: EGDT)とは,敗血症性ショックに対して早期に組織酸素代謝バランスを改善させる画期的なプロトコルである。EGDT の有用性に関しては,3 つの大規模ランダム化比較試験(RCT) 6-8)において否定されたが,その後も多くの検証が引き続き行われている。したがって,敗血症性ショック治療の根幹である初期蘇生法としてのEGDT の有用性を再検証する意義は大きいと考え,「CQ6-2:成人敗血症患者の初期蘇生に対してEGDT を用いるか?」を提示した。システマティックレビューを行う際のPICO のI(intervention)に関しては,Rivers ら 5)が提唱したオリジナルのEGDT[中心静脈血圧(central venous pressure: CVP)8~12mmHg,平均血圧≧ 65mmHg を目標に,大量輸液と血管収縮薬投与を行い,尿量≧0.5mL / kg / hr,中心静脈酸素飽和度(ScvO2) ≧70% を6 時間以内に達成する]に限定して検証を行った。例えば,輸液負荷の指標としてCVP の代わりに1 回拍出量変動や,組織酸素代謝の指標であるScvO2 の代わりに乳酸値を用いるようなmodified EGDT は含まれていない。一方,3 つの大規模RCT 6-8)の結果は,EGDT による死亡率の低下を示さなかったが,EGDT の介入による有害事象は報告されていない。つまり,高い死亡率を示す敗血症性ショック症例にどのようにアプローチすれば良いのかの指針を必要とする臨床医に対しては,施設の治療レベル,敗血症性ショック例に対する経験度,主治医やスタッ フの知識やスキルに合わせてEGDT やmodified EGDTの使用を考慮してもさしつかえないと考える。 敗血症性ショックにおいて,急性期の臓器灌流を保つために初期蘇生輸液は重要な位置を占めている。しかし,敗血症性ショックに対しCVP を指標に輸液負荷を行った臨床研究において,輸液量が多い症例で予後不良となることが報告され 9),敗血症性ショックに対する大量輸液療法は,肺水腫などの合併症を増やし,死亡率と関連していることも報告されている。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 2, 3)では,敗血症性ショックの初期蘇生輸液で目標とする臓器灌流圧を維持できない場合には,血管収縮薬の投与を推奨しているが,どのタイミングで血管収縮薬を開始すべきかについては,一定の見解が得られていない。そこで,「CQ6-3:成人敗血症患者に対して初期蘇生輸液と同時または早期(3 時間以内)に血管収縮薬を使用するか?」を提示した。しかし,敗血症性ショック症例に対しては,低下した臓器血流や酸素供給量を改善することが主要な治療戦略であるため,循環血液量が減少している状況での血管収縮薬の安易な使用は厳に慎むべきである。 敗血症性ショックは,「敗血症により循環不全と細胞機能や代謝の異常を呈する状態」であると定義され,細胞機能や代謝異常の評価は,血清乳酸値で行うことが示されている 10)。一方,ScvO2 は組織酸素需給バランスを示す指標であり,血清乳酸値は,嫌気的代謝の指標として一般的に用いられてきた。敗血症による低灌流は,血圧低下,血清乳酸値の上昇からある程度把握できる場合もあるが,臓器灌流を維持できていることを確認する指標として何が優れているかは,一定の見解がない。そこで,「CQ6-4:成人敗血症患者の初期蘇生の指標として乳酸値を用いるか?」を提示した。 J-SSCG 2016 2, 3)では,「敗血症による組織低灌流と血管内容量減少のある患者に対し,初期輸液は晶質液を30mL / kg 以上投与する」と記載されている。しかし,3 つの大規模RCT の結果において,初期蘇生輸液を積極的に推奨するEGDT 群では予後改善効果が認められなかった。また,輸液過剰の有害性 9)も報告されている。一方,初期輸液の輸液速度や輸液量を提示しておくことで,臨床医は敗血症患者の診察を行っている間や,循環動態の評価をしている間でも,遅れることなく初期治療を進めることができる。敗血症性ショックの治療戦略において時間の概念は極めて重要であるため,初期輸液の輸液速度や輸液量を支持 -S 109-
する正確なデータを示す文献はほとんどないが,成人敗血症患者に対する初期輸液の輸液速度や輸液量を提示することは重要と考え,「CQ6-5:成人敗血症患者に対する初期輸液の輸液速度や輸液量は?」をBQ として提示した。 初期の急速大量輸液療法の問題点は,心機能低下症例に対する急速輸液負荷が病態悪化を惹起させることである。そのため,治療開始と同時に心エコーによる心機能・血行動態評価を行い,さらなる輸液負荷を継続する際には輸液反応性を評価することが重要である。輸液反応性とは250~500mL の輸液を投与した際に心拍出量が有意(10~15% 以上)に増加することである 11)。輸液反応性の予測モニタリングは静的指標と動的指標に分けられ,静的指標とはある1 点における生体情報で,CVP,肺動脈楔入圧,経肺熱希釈法による心臓拡張末期容量や胸腔内血液容量などがある。動的指標とは,何らかの介入による変動を評価する方法であり,受動的下肢挙上法(PLR)や輸液チャレンジによる心拍出量の変化,人工呼吸によって引き起こされる前負荷の呼吸性変動を用いた脈圧変動や1回拍出量変動,エコーを用いた下大静脈径や上大静脈径の変動,EEO(end - expiratory occlusion) test による1 回拍出量の変化などがある。動的指標は,静的指標よりも輸液反応性の予測に優れている 12)が,自発呼吸,不整脈,腹腔内圧上昇や右心不全がある場合や,頻脈や肺コンプライアンスが低い場合は,変動が小さくなることも報告されている 13)。つまり,それぞれのモニタリングの特徴を理解し,適切なモニタリングを選択したうえで,必要に応じて複数のモニタリングを使用することが望ましい。このような観点から,「CQ 6-6:成人敗血症患者の輸液反応性をどのように評価するか?」をBQ として設定した。 SSCG 2016 4)では,敗血症または敗血症性ショック患者の初期蘇生において相当量の晶質液輸液を必要とする場合には,晶質液に加えアルブミンを使用することが弱く提案されている。J-SSCG 2016 2, 3)では,敗血症患者の初期蘇生において,アルブミンをルーチンに使用しないことを推奨しているが,初期蘇生において多量の晶質液を必要とする場合や,低アルブミン血症が認められる場合には,アルブミン使用を考慮するとしている。しかし,敗血症の初期蘇生輸液としてのアルブミン使用については,一定の見解がないため,敗血症 / 敗血症性ショックにおいて,初期蘇生輸液の標準的な輸液製剤としてアルブミンを用いるべきかを明らかにするため,「CQ6-7:成人敗血症患者の初期輸液にアルブミン製剤を投与するか?」を提示した。また,標準的な輸液として人工膠質液を用いるかに関 しては,「CQ6-8:成人敗血症患者の初期輸液に人工膠質液を投与するか?」を提示した。 J-SSCG 2016 2, 3)およびSSCG 2016 4)では,敗血症の初期蘇生における血管収縮薬の第一選択薬はノルアドレナリンが推奨されているが,それはノルアドレナリンがドパミンより血管収縮作用が強く,敗血症性ショック患者における低血圧からの回復に効果的であることや,ドパミンと比較して頻脈や不整脈を起こしにくいことが理由に挙げられる 14)。また,ドパミンは視床下部―下垂体系を介して内分泌の応答に影響を与え,免疫抑制作用を示すことなども報告されている 15)。一方,SSCG 2016 4)では頻脈を呈していない患者に限ってはドパミンの使用も弱く推奨している。また,J-SSCG 2016 2, 3)は十分なエビデンスがなく推奨を見送られた純粋なα1 アドレナリン受容体アゴニストであるフェニレフリンに関しては,そこで,「CQ6-9:成人敗血症患者に対する血管収縮薬の第一選択としてノルアドレナリン,ドパミン,フェニレフリンのどれを使用するか?」を提示した。J-SSCG 2016 2, 3)およびSSCG 2016 4)では,敗血症の初期蘇生においてノルアドレナリンの昇圧効果が十分でない場合の第二選択としてアドレナリンおよびバソプレシンが推奨されている。しかし,アドレナリン,バソプレシンとも十分なエビデンスはなく,第二選択薬についてのコンセンサスは得られていないため,「CQ6-10-1:成人敗血症患者に対する血管収縮薬の第二選択としてアドレナリンを使用するか?」を提示した。また,「CQ6-10-2:成人敗血症患者に対する血管収縮薬の第二選択としてバソプレシンを使用するか?」を提示した。 敗血症性ショックではsepsis induced myocardial dysfunction(SIMD)と呼ばれる心機能障害が約40%の患者に合併し,重症化との関連が示唆されている 16)。SIMD を合併している敗血症性ショックでは,血管収縮薬のノルアドレナリンに加え,強心薬であるドブタミンやアドレナリンの投与が行われてきたが,その効果に対してはまだ議論も多い。J-SSCG 2016 2, 3)では敗血症性ショックの心機能不全に対してドブタミンを推奨し,SSCG 2016 4)でも十分な輸液と昇圧薬の投与によっても循環動態が改善しない敗血症に対してドブタミンを推奨するとしているが,いずれも十分なエビデンスに基づいた推奨ではなく,敗血症性ショックの心機能不全に対する強心薬の使用の可否は敗血症の初期蘇生において重要であるため,「CQ6-11:心原性ショックを伴う成人敗血症患者に対して強心薬を使用するか?」を提示した。 -S 110-
敗血症性ショックにおける従来の治療戦略は,主に初期輸液とカテコラミンを含む血管収縮薬,強心薬の投与であった。近年,敗血症性ショックの頻脈(頻拍)に対して心拍数のコントロールを目的にβ1 アドレナリン受容体遮断薬投与の効果を検討した複数の研究があり,初期蘇生における循環動態の改善や必要輸液量の減少,短期死亡の減少などの報告がある 17, 18)。これは従来の治療戦略を見直すきっかけともなり,将来の標準治療ともなりうるため,「CQ6-12:成人敗血症患者に対してβ遮断薬を使用するか?」を提示した。最近,本邦からβ遮断薬に関する多施設RCT が報告された 19)が,今回のシステマティックレビューおよびメタ解析には含まれていない。 敗血症性ショックでは,SIMD と呼ばれる心機能障害を発症し,心拍出量が低下する病態を呈することが知られている 1)。最近,重篤な心機能低下を呈する成人敗血症患者に対して補助循環装置[veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation (V-A ECMO), intra-aortic balloon pumping (IABP)など]の使用が効果的であったとする報告 20, 21)が散見されるが,有効性に関するエビデンスは明確ではないため,「CQ6-13:成人敗血症性ショック患者に対する補助循環の適応は?」をBQ として提示した。 本ガイドラインで示した敗血症性ショックに対する初期蘇生・循環作動薬に関する推奨度やエキスパートコンセンサスは,これまで報告されたRCT からシステマティックレビューし,そのメタ解析の結果をもと に示した一般的な指針である。しかし,それは施設の治療経験,主治医やスタッフの知識やスキルの程度で大いに変わることもある。そのことも理解したうえで,本ガイドラインで示した初期蘇生・循環作動薬のClinical question & Answer を診療フローとともにうまく活用していただきたい。治療において時間の概念は重要であり,“Sepsis is an emergency”を理解し,常にスピード感をもって初期蘇生・循環作動薬を使いこなすことが重要である。 文 献 1) Vieillard-Baron A: Septic cardiomyopathy. Ann Intensive Care. 2011; 1: 6. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 3) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 4) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 5) Rivers E, Nguyen B, Havstad S, et al: Early goal-directed therapy in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med. 2001; 345: 1368-77. 6) Yealy DM, Kellum JA, Huang DT, et al: A randomized trial of protocol-based care for early septic shock. N Engl J Med. 2014; 370: 1683-93. 7) Peake SL, Delaney A, Bailey M, et al: Goal-directed resuscitation for patients with early septic shock. N Engl J Med. 2014; 371: 1496-506. 8) Mouncey PR, Osborn TM, Power GS, et al: Trial of early, 初期蘇生・循環作動薬〔診療フロー〕 -S 111-
goal-directed resuscitation for septic shock. N Engl J Med. 2015; 372: 1301-11. 9) Boyd JH, Forbes J, Nakada TA, et al: Fluid resuscitation in septic shock: a positive fluid balance and elevated central venous pressure are associated with increased mortality. Crit Care Med. 2011; 39: 259-65. 10) Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al: The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016; 315: 801-10. 11) Cecconi M, De Backer D, Antonelli M, et al: Consensus on circulatory shock and hemodynamic monitoring. Task force of the European Society of Intensive Care Medicine. Intensive Care Med. 2014; 40: 1795-815. 12) Vincent JL, Weil MH: Fluid challenge revisited. Crit Care Med. 2006; 34: 1333-7. 13) Eskesen TG, Wetterslev M, Perner A: Systematic review including re-analyses of 1148 individual data sets of central venous pressure as a predictor of fluid responsiveness. Intensive Care Med. 2016; 42: 324-32. 14) De Backer D, Biston P, Devriendt J, et al: Comparison of dopamine and norepinephrine in the treatment of shock. N Engl J Med. 2010; 362: 779-89. 15) Beck GCh, Brinkkoetter P, Hanusch C, et al: Clinical review: immunomodulatory effects of dopamine in general inflammation. Crit Care. 2004; 8: 485-91.. 16) Kakihana Y, Ito T, Nakahara M, et al: Sepsis-induced myocardial dysfunction: pathophysiology and management. J Intensive Care. 2016; 4: 22. 17) Morelli A, Ertmer C, Westphal M, et al: Effect of heart rate control with esmolol on hemodynamic and clinical outcomes in patients with septic shock: a randomized clinical trial. JAMA. 2013; 310: 1683-91. 18) Wang Z, Wu Q, Nie X, et al: Combination therapy with milrinone and esmolol for heart protection in patients with severe sepsis: a prospective, randomized trial. Clin Drug Investig. 2015; 35: 707-16. 19) Kakihana Y, Nishida O, Taniguchi T, et al: Efficacy and safety of landiolol, an ultra-short-acting β 1-selective antagonist, for treatment of sepsis-related tachyarrhythmia (J-Land 3S): a multicentre, open-label, randomised controlled trial. Lancet Respir Med. 2020; 8: 863-72. 20) Bréchot N, Luyt CE, Schmidt M, et al: Venoarterial extracorporeal membrane oxygenation support for refractory cardiovascular dysfunction during severe bacterial septic shock. Crit Care Med. 2013; 41: 1616-26. 21) Falk L, Hultman J, Broman LM: Extracorporeal membrane oxygenation for septic shock. Crit Care Med. 2019; 47: 1097-105. CQ6-1:敗血症患者に対して心エコーを行う か? Answer:敗血症 / 敗血症性ショック患者に対して,初期蘇生中に心エコーを用いた心機能・血行動態評価を行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症 / 敗血症性ショックは,末梢血管拡張に伴う血液分布異常性ショックが本態をなす疾患である。その一方で,循環血液量減少,心機能低下によるショック(循環血液量減少性ショック,心原性ショック)も合併し,複雑な病態を形成しうる。したがって,初期蘇生時において心エコーを用いた心機能・血行動態評価を行うことは臨床的に重要なことであるため,重要臨床課題として取り上げた。 (2)PICO P (患者):成人,敗血症 / 敗血症性ショック患者I (介入):初期蘇生時に心エコーを用いた心機能・ 血行動態評価を行うC (対照):初期蘇生時に心エコーを用いた心機能・ 血行動態評価を行わないO (アウトカム):短期死亡(28 日死亡),ICU 滞在 日数 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致した研究は1 本のfeasibility study であるランダム化比較試験(RCT)が1 件 1)あり,これを用いたメタ解析を実施した。本研究の内容は心エコーを用いた特定のプロトコルによる介入の有効性を検討している。サンプル数も小さく,結論を裏づけるエビデンスには乏しい。 (4)益と害のバランス(Table 6-1-1)望ましい効果: 短期死亡のアウトカム(1 RCT: n =30)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり134 人多い(104 人少ない~952 人多い)であり,ICU 滞在日数のアウトカム(1 RCT: n =30)の効果推定値とその信頼区間は,平均(MD)0.3 日短い(4.46 日短い~3.86日長い)であった。ただし,対象となった研究の数もサンプル数も不十分であるため,効果判定はできないと判断した。 -S 112-
望ましくない効果: 今回,検索で得られた1 本のRCT では望ましくない効果に対する検討は行われていないため,効果判定はできないと判断した。益と害のバランス: 本CQ において,短期死亡に関しては比較対照が優位な傾向を示し,ICU 滞在日数に関しては介入が優位な傾向を示した。しかし,今回,検索で得られた研究はサンプル数が少ない1 本のRCT のみであり,効果のバランスは判定できない。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回,検索で得られた研究はサンプル数が少ない1本のRCT のみである。今回報告されたアウトカムの確実性がいずれも非常に低いため,エビデンスの確実性は「非常に低」と判断した。 (6)価値観 心エコーを用いた初期蘇生に関して患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 心エコーは非侵襲的・簡便な検査であり,患者への負担は小さい。心エコーの機器が必要であり,機器を有さない施設での施行は,高額な機器の購入を要する。心エコーに不慣れな施設や医療従事者には,教育やトレーニングが必要であり,初期蘇生の段階で心エコーを行うことは医療従事者に若干の負担となる。 (8)実行可能性 本邦の多くの医療施設では心エコーが可能な機器を有している。心エコーを用いた心機能や循環の評価 は,集中治療を行う本邦の医療施設では広く行われており,介入の実施は可能である。 (9)判断の要約(Table 6-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 2)では,初期および治療への継続的な評価を推奨しており,その方法の1 つとしてベッドサイドでのエコー検査施行をbest practice statement として提示している。 (12)実施に関わる検討事項 心エコーを実施する医療従事者の技量によって,結果にばらつきが出る恐れがあるため,実施に際しては一定のトレーニングや教育を要する。 (13)今後の研究の可能性 以下の内容に関する検討が求められると考えられる。・RCT によるエビデンスの蓄積・心エコーを用いた特定のプロトコルの有効性 文 献 1) Lanspa MJ, Burk RE, Wilson EL, et al: Echocardiogram-guided resuscitation versus early goal-directed therapy in the treatment of septic shock: A randomized, controlled, feasibility trial. J Intensive Care. 2018; 6: 50. 2) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. Table 6-1-1 エビデンスプロファイル -S 113-
Table 6-1-2 判断の要約 -S 114-
CQ6-2:成人敗血症患者の初期蘇生に対して EGDT を用いるか? Answer:敗血症 / 敗血症性ショック患者に対して,初期蘇生としてEGDT を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症 / 敗血症性ショックにおいて,急性期の臓器灌流を保つために初期蘇生は重要な役割を担っている。初期蘇生においてEGDT に従った管理方法は,通常の管理方法と比較して必ずしも優れていない可能性が3 つの大規模ランダム化比較試験(RCT)で示されたが,その後もEGDT の有用性に関しては多くの検証が引き続き行われている。したがって,敗血症治療の根幹を示す初期蘇生の具体的方法を設定するEGDT の有用性を検証する意義は大きいと考える。 (2)PICO P (患者):成人,敗血症 / 敗血症性ショック患者I (介入):EGDT による初期蘇生(Rivers らが提唱 したオリジナルEGDT のみを対象とする。Modified EGDT は含まない) C (対照):標準治療による初期蘇生O (アウトカム):短期死亡(28 日もしくは30 日死 亡),長期死亡(90 日死亡;90 日死亡がない場合は最長を用いることを考慮する),ICU 滞在日数,あらゆる重篤な副作用(3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したRCT が4 件施行 1-4)されており,これらを用いたメタ解析を実施した。Rivers らのRCT は,オリジナルのEGDT 1)の臨床効果を検証したRCT である。ProMISe 試験 2)およびARISE 試験 4)は,EGDT 施行群と通常治療群の比較であるのに対し,ProCESS 試験 3)はEGDT 施行群,EGDT ほどの厳格ではないプロトコルを遵守した標準治療群,および通常治療群の3 群比較試験である。短期死亡はすべてのRCT で,長期死亡,ICU 滞在日数,重篤な副作用はProMISe試験 2),ARISE 試験 4),ProCESS 試験 3)で評価されていた。その結果,EGDT における望ましい効果と望ましくない効果は対照と比べて,共に限定的であった。 (4)益と害のバランス(Table 6-2-1)望ましい効果: 短期死亡のアウトカム(4 RCT: n =3,993)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり8 人少ない(32 人少ない~17 人多い),長期死亡のアウトカム(3 RCT: n =3,648)の効果推定値とその信頼区間は, 1,000 人あたり5 人少ない(31 人少ない~26 人多い), ICU 滞在日数のアウトカム(3 RCT: n =3,737)の効果推定値とその信頼区間は,平均(MD)0.22 日長い(0.13 日短い~0.58 日長い)であり,EGDT による初期蘇生の望ましい効果は限定的であると判断した。 Table 6-2-1 エビデンスプロファイル -S 115-
望ましくない効果: あらゆる重篤な副作用(3 RCT: n =3,734)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり1 人の増加(19 人少ない~32 人多い)であり,EGDT による初期蘇生の望ましくない効果は限定的であると判断した。益と害のバランス: 望ましい効果と望ましくない効果の正味のバランスは1,000 人あたり12 人,介入が優位であり,短期死亡および長期死亡のアウトカムに対する相対的価値を考慮すると,効果のバランスはEGDT による介入がわずかに比較を上回る可能性がある。しかし,死亡アウトカムの不確実性を考慮し,信頼区間の最も悪い値を採用すると1,000 人あたり44 人,害のほうが大きくなる。以上より,効果のバランスとしては介入も比較対照もいずれも優位でないとした。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したすべてのアウトカムの効果推定値の方向性は一致していないため,一番低い確実性を全体の確実性として採用した。以上より,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「低」とした。 (6)価値観 EGDT による初期蘇生に対する価値観や意向に対するエビデンスはない。一般的に患者や家族の死亡に対する相対的価値は高いと考えられ,そのばらつきは少ないことが予想される。(7)容認性 オリジナルのEGDT を行うためには,中心静脈カテーテルを挿入して中心静脈圧と中心静脈血酸素飽和度をモニタリングすることや,赤血球輸血が必要となってくる。より侵襲や負担が少ないmodified EGDTが提唱される現在,中心静脈カテーテルを挿入し,中心静脈圧と中心静脈血酸素飽和度をモニタリングすることは医療従事者への負担,患者への負担となるため,容認され難いと考える。赤血球輸血についても患者・家族の考え方は様々であり,容認されないこともありうる。 (8)実行可能性 EGDT は本邦の多くの集中治療室で実行可能と考えられるが,中心静脈血酸素飽和度のモニタリング機器がない施設では実行は困難であることが予想される。 (9)判断の要約(Table 6-2-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7.5,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:95.8%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 5)においては上記のProMISe 試験 2), ARISE 試験 4),ProCESS 試験 3)の結果を受けて,解説中にEGDT に従ってはならないわけではないと記載しつつも,推奨から削除されている。日本版敗血症 Table 6-2-2 判断の要約 -S 116-
診療ガイドライン(J-SSCG)2016 6, 7)においても「敗血症,敗血症性ショックの初期蘇生にEGDT を実施しないことを弱く推奨する(2A)」とされている。 (12)実施に関わる検討事項 オリジナルのEGDT に代わる初期蘇生プロトコルの導入,または慎重なモニタリングと評価による初期蘇生を行うことが必要である。 (13)今後の研究の可能性 今後,modified EGDT の有効性の検証,初期輸液製剤の最適な使用方法の検証,輸血製剤の初期輸液における最適な使用方法の検証,輸液反応性の最適な方法の検証が行われることが望まれる。 文 献 1) Rivers E, Nguyen B, Havstad S, et al: Early goal-directed therapy in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med. 2001; 345: 1368-77. 2) Mouncey PR, Osborn TM, Power GS, et al: Trial of early, goaldirected resuscitation for septic shock. N Engl J Med. 2015; 372: 1301-11. 3) ProCESS Investigators, Yealy DM, Kellum JA, et al: A randomized trial of protocol-based care for early septic shock. N Engl J Med. 2014; 370: 1683-93. 4) ARISE Investigators, ANZICS Clinical Trials Group, Peake SL, et al: Goal-directed resuscitation for patients with early septic shock. N Engl J Med. 2014; 371: 1496-506. 5) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 6) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 7) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. CQ6-3:成人敗血症患者に対して初期蘇生輸液 と同時または早期(3 時間以内)に血管収縮薬を使用するか? Answer:循環動態の維持が困難な敗血症 / 敗血症性ショック患者に対して,初期蘇生輸液と同時または早期(3 時間以内)に血管収縮薬を投与することを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症 / 敗血症性ショックにおいて,急性期の臓器灌流を保つために初期蘇生輸液は重要な位置を占めている。初期蘇生輸液のみで目標とする臓器灌流圧を維持できない場合は,血管収縮薬の投与が必要である。しかし,どのタイミングから血管収縮薬を開始すべきかについては,一定の見解が得られていない。過剰輸液は肺水腫などの合併症を増やし,死亡とも関連している。早期に血管収縮薬を投与することで,過剰輸液を減らし予後を改善する可能性があるため,この疑問を明らかにすることは重要である。 (2)PICO P (患者):成人,敗血症 / 敗血症性ショック患者I (介入):初期蘇生輸液と同時または早期(3 時間 以内)に血管収縮薬を使用C (対照):初期蘇生輸液のみO (アウトカム):短期死亡(28 日死亡),長期死亡(90 日もしくは最長期間死亡),重篤な有害事象(肺水腫,心筋虚血に関連する合併症) (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が2 件施行 1, 2)されていた。Macdonald ら 1)のRCT は血管収縮薬を用いて輸液量を制限するレジメンを検討した非盲検の多施設RCT であり,Permpikul ら 2)のRCT は発症1 時間以内の敗血症性ショック患者を対象に,ノルアドレナリン 0.05 μg / kg / min 持続投与とプラゼボを比較検討した単施 設盲検化RCT である。これら2 つのRCT を用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 6-3-1)望ましい効果: 短期死亡のアウトカム(2 RCT: n =408)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり39 人少ない(88 人少ない~38 人多い),長期死亡のアウトカム(2 -S 117-
RCT: n =405)の効果推定値とその信頼区間は,1,000人あたり10 人少ない(73 人少ない~81 人多い)だった。有害事象として,肺水腫のアウトカム(2 RCT: n =409)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり104 人少ない(145 人少ない~39 人少ない)であった。以上より,介入による望ましい効果は「中」と判断した。望ましくない効果: 有害事象として,心筋虚血のアウトカム(2 RCT: n =409)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり15 人多い(9 人少ない~95 人多い)であり,望ましくない効果はわずかと判断した。益と害のバランス: 正味の効果は1,000 人あたり138 人,介入の望ましい効果が上回る。死亡アウトカムの相対的価値を3 倍とし,短期死亡に関する不確実性を考慮して信頼区間の最悪値(1,000 人あたり38 人多い)で検討した場合,1,000 人あたり15 人,害が上回る。以上より,効果のバランスは「おそらく介入が優位」と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 各アウトカムで効果は異なる方向性を示していたため,最も低いエビデンスである「低」を採用した。(6)価値観 各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,ばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 敗血症患者の初期蘇生において,血管収縮薬を投与することは,既に広く行われている治療であり,投与のタイミングを初期蘇生輸液と同時または早期(3 時間以内)にすることは容認されると考えるが,同時に行う処置や薬剤の準備を増やすため,医療従事者にとっては負担が増す可能性がある。 (8)実行可能性 本邦の集中治療室であれば,介入は問題なく実行可能であると考えるが,初期蘇生輸液を開始するのが集中治療室以外の場合には困難が予想される。 (9)判断の要約(Table 6-3-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.014 の結果となり委員会で採択と Table 6-3-1 エビデンスプロファイル -S 118-
なった(7 点以上:95.8%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 3, 4)では,敗血症性ショックにおいて血管内容量減少のある患者の初期輸液は,細胞外液補充液を30mL / kg 以上投与することを推奨しており,SSCG 2016 5)では,低灌流を認める敗血症患者に対して3 時間以内に30mL / kg 以上の晶質液の投与を推奨しているが,輸液量と昇圧薬開始の時期に関する記載はない。また,昇圧薬の投与を必要とする敗血症患者では,初期の目標平均血圧として65mmHg を推奨するとしているが,どのタイミングから血管収縮薬を開始すべきかについての記載はない。 (12)実施に関わる検討事項 早期に血管収縮薬を投与した場合の薬剤投与量および輸液速度と量は,検討を要する。また,血管内用量が不足している場合は,十分な初期蘇生輸液を投与する必要があり,輸液開始を優先する。 (13)今後の研究の可能性 血管収縮薬の選択,投与量,タイミングなどは不明であり,これらを明らかにするための研究が必要である。また,有害事象として,心筋以外の臓器虚血は評価できていない。 文 献 1) Macdonald SPJ, Keijzers G, Taylor DM, et al: Restricted fluid resuscitation in suspected sepsis associated hypotension (REFRESH): a pilot randomised controlled trial. Intensive Care Med. 2018; 44: 2070-8. 2) Permpikul C, Tongyoo S, Viarasilpa T, et al: Early use of norepinephrine in septic shock resuscitation (CENSER) a randomized trial. Am J Respir Crit Care Med. 2019; 199: 1097-105. 3) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 4) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 5) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Crit Care Med. 2017; 45: 486-552. Table 6-3-2 判断の要約 -S 119-
CQ6-4:成人敗血症患者の初期蘇生の指標とし て乳酸値を用いるか? Answer:敗血症 / 敗血症性ショックの患者に対して,初期蘇生の指標として乳酸値を用いることを弱く推奨する(GRADE 2C: エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症 / 敗血症性ショックにおいて,急性期の臓器灌流を保つために初期蘇生は重要な役割を担っている。しかし,臓器灌流を維持できていることを確認する指標として何が優れているかは,一定の見解がない。このため,最適な評価指標を探索することは臨床現場において重要な課題である。 (2)PICO P (患者):成人,敗血症 / 敗血症性ショック患者I (介入):乳酸値,乳酸クリアランスを指標とするC (対照):乳酸値以外(平均血圧,尿量,ScvO2 / SvO2 のいずれか1 つ以上)を指標とするO (アウトカム):短期死亡(28 日もしくは30 日死 亡),長期死亡(90 日死亡),ICU 滞在日数,重篤な副作用(72 時間後のSOFA スコア) (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が5 件施行 1-5)されていた。Hernández ら 1)のRCT は,成人の早期敗血症性ショック患者の初期蘇生において,乳酸値と末梢循環のいずれを指標とするのが死亡率を改善するかを評 価したRCT である。Jansen ら 2)のRCT は,集中治療室入室時に高乳酸血症(3.0mEq / L 以上)を呈する患者において,乳酸値を指標とした初期蘇生と,中心静脈血酸素飽和度(ScvO2)や末梢循環など乳酸値以外を指標とした初期蘇生のいずれが死亡率を改善するかを評価したRCT である。Jones ら 3)のRCT は,末梢循環障害を呈する重症敗血症 / 敗血症性ショック患者において,乳酸クリアランスとScvO2 のいずれを指標とした初期蘇生が院内死亡率を改善するかを評価したRCT である。Puskarich ら4)のRCT は,敗血症患者の初期蘇生において,乳酸クリアランスとScvO2のいずれを指標とするのが死亡率を改善するかを評価したRCT である。Zhou ら 5)のRCT は,敗血症による高乳酸血症を呈する患者において,乳酸クリアランスとScvO2 のいずれを指標とした初期蘇生が死亡率を改善するかを評価したRCT である。これら5 つのRCT を用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 6-4-1)望ましい効果: 短期死亡のアウトカム(5 RCT: n =1,479)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり62 人少ない(133 人少ない~43 人多い),長期死亡のアウトカム(2 RCT: n =772)の効果推定値とその信頼区間は, 1,000 人あたり21 人少ない(147 人少ない~159 人多い),ICU 滞在日数のアウトカム(3 RCT: n =1,084)の効果推定値とその信頼区間は,平均(MD)0.03 日長い(0.66 日短い~0.72 日長い)であった。このた Table 6-4-1 エビデンスプロファイル -S 120-
め,乳酸値を指標とした初期蘇生の望ましい効果は小さいと判断した。望ましくない効果: 重篤な副作用(72 時間後のSOFA スコア)のアウトカム(3 RCT: n =979)の効果推定値とその信頼区間は,MD 0.04 高い(0.88 低い~0.96 高い)であった。このため,乳酸値を指標とした初期蘇生の望ましくない効果はわずかと判断した。益と害のバランス: 死亡アウトカムに対する相対的価値が高いことを考慮すると,効果のバランスは「おそらく介入が優位」と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したすべてのアウトカムの効果推定値の方向性は一致していないため,一番低い確実性を全体の確実性として採用した。アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「低」である。 (6)価値観 初期蘇生に対する患者・家族の価値観に関するエビデンスはない。一般的に死亡に対する相対的価値は高いと考えられ,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 乳酸値の測定ができない施設では,実施に際して検査機器と試薬の準備が必要になる。医療者の仕事量も増加するが,わずかであり,容認されると考えた。(8)実行可能性 乳酸値の測定は,本邦の多くの医療施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 6-4-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.146 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:100%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 6)では,組織灌流障害の指標である乳酸値が上昇している患者には,乳酸値の正常化を図る蘇生治療をすることを弱く推奨している。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG) 2016 7, 8)では,敗血症患者における初期蘇生において,経時的に乳酸値を測定することを弱く推奨している。 (12)実施に関わる検討事項 乳酸値の測定に必要な血液はわずかであるが,頻繁な採血による貧血には配慮が必要である。 (13)今後の研究の可能性 今後,乳酸値を指標にする際の適切なカットオフ値の設定,乳酸値と他の検査法を組み合わせた場合の有効性,乳酸値を低下させるための介入方法の探索などを行うことが望まれる。 Table 6-4-2 判断の要約 -S 121-
文 献 1) Hernández G, Ospina-Tascón GA, Damiani LP, et al: Effect of a Resuscitation Strategy Targeting Peripheral Perfusion Status vs Serum Lactate Levels on 28-Day Mortality among Patients with Septic Shock: The ANDROMEDA-SHOCK Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019; 321: 654-64. 2) Jansen TC, van Bommel J, Schoonderbeek FJ, et al: Early lactateguided therapy in intensive care unit patients: A multicenter, open-label, randomized controlled trial. Am J Respir Crit Care Med. 2010; 182: 752-61. 3) Jones AE, Shapiro NI, Trzeciak S, et al: Lactate clearance vs central venous oxygen saturation as goals of early sepsis therapy: A randomized clinical trial. JAMA. 2010; 303: 739-46. 4) Puskarich MA, Trzeciak S, Shapiro NI, et al: Prognostic value and agreement of achieving lactate clearance or central venous oxygen saturation goals during early sepsis resuscitation. Acad Emerg Med. 2012; 19: 252-8. 5) Zhou X, Liu D, Su L, et al: Use of stepwise lactate kineticsoriented hemodynamic therapy could improve the clinical outcomes of patients with sepsis-associated hyperlactatemia. Crit Care. 2017; 21: 33. 6) Rhodes A, Evans L, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 7) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 8) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. CQ6-5:成人敗血症患者に対する初期輸液の輸 液速度や輸液量は? Answer:血管内容量減少のある敗血症患者の初期輸液は,循環血液量を適正化することを目標とし,晶質液30mL / kg 以上を3 時間以内に投与することが必要との意見がある。初期輸液の最中はバイタルサインを注意深く観察し,乳酸クリアランスや心エコーなどを用いて組織酸素代謝や血行動態評価を行いながら過剰な輸液負荷を避けることが重要である(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 1, 2)では,「敗血症による組織低灌流と血管内容量減少のある患者に対し,初期輸液は晶質液を30mL / kg 以上投与する」と記載されている。しかし,2014 年,2015 年に相次いで報告された3 つの大規模ランダム化比較試験(RCT)(ProCESS 3),ARISE 4),ProMISe 5))の結果において,初期蘇生輸液を積極的に推奨するEGDT 群では予後改善効果が認められず,さらに,輸液過剰の有害性 6)が報告されている。このように,初期蘇生輸液や過剰輸液の問題が注目される状況において,成人敗血症患者に対する初期輸液の輸液速度や輸液量を提示することは重要と考え,本ガイドラインのCQ として取り上げた。 (2)解説 J-SSCG 2016 1, 2)において,「敗血症による組織低灌流と血管内容量減少のある患者に対し,初期輸液は晶質液を30mL / kg 以上投与する」と記載され,SSCG 2016 7)では,「敗血症に惹起された低灌流状態からの蘇生には,最初の3 時間以内に晶質液を最低30mL / kg投与することを推奨する」と記載されている。近年行われた3 つの大規模RCT(ProCESS 3),ARISE 4), ProMISe 5))の結果において,初期蘇生輸液を積極的に推奨するEGDT 群の予後改善効果は認められなかったが,実はプロトコル開始前(無作為化前)にProCESS trial では2.1~2.3L,ARISE trial では2.5~ 2.6L,ProMISe trial では1.9~2.0L の初期蘇生輸液(約30mL / kg)が既に施行されていた。このように,ガイドラインの普及などに伴い,敗血症性ショックに対する初期大量輸液療法(30mL / kg)の概念は既に常識化しており,大規模RCT においても初期蘇生輸液に追加する形で行われたEGDT は,その有用性を示すことができなかったものと思われる。一方,Boyd ら 6) -S 122-
は,輸液過剰の有害性を指摘し,Murphy ら 8)は,輸液制限が予後改善につながることを報告している。敗血症性ショックを対象とした15 研究(n =31,443)のシステマティックレビュー 9)は,過剰な輸液バランスは死亡リスクを70% 増加(pooled RR 1.70,95% CI: 1.20,2.41,P =0.003)させるが,敗血症発症から3 時間以内に限定すると大量輸液を行ったほう(2,085mL vs. 1,600mL,P =0.007)が院内死亡の改善(OR 0.34,95% CI: 0.15~0.75,P =0.008)につながることを示唆している。Kuttab ら 10)は,1,032 人の敗血症性ショック患者の観察研究から,敗血症発症から3 時間以内に30mL / kg の初期蘇生輸液を達成できない場合には,院内死亡が有意に増加(OR 1.52, 95% CI: 1.03~2.24)することを報告している。一方, Wardi ら 11)は,駆出率40% 以下の心不全を合併した敗血症性ショック症例の初期輸液に関しては, 30mL / kg よりも少ない輸液量が推奨されるとしている。敗血症 / 敗血症性ショックに対する初期蘇生輸液の輸液速度や輸液量に関する質の高いエビデンスはないが,相対的に減少した循環血液量を補い,組織の低灌流を改善し,酸素需給バランスをできるだけ早い段階で適正化しようとする概念を否定するエビデンスも現時点では存在しない。 以上より,敗血症性ショックにおいて輸液反応性を評価した後,血管内容量減少のある患者の初期輸液として,晶質液30mL / kg 以上を3 時間以内に投与することが敗血症の予後を改善する可能性はある。しかし,重要な原則は治療の効果を継続的に評価することであり,初期輸液の最中はバイタルサインを注意深く観察し,乳酸クリアランスや心エコーなどを用いて組織酸素代謝や血行動態の評価を行いながら過剰な輸液負荷を避けることが重要である。 文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) ProCESS Investigators, Yealy DM, Kellum JA, et al: A randomized trial of protocol-based care for early septic shock. N Engl J Med. 2014; 370: 1683-93. 4) ARISE Investigators, ANZICS Clinical Trials Group, Peake SL, et al: Goal-directed resuscitation for patients with early septic shock. N Engl J Med. 2014; 371: 1496-506. 5) Mouncey PR, Osborn TM, Power GS, et al: Trial of early, goaldirected resuscitation for septic shock. N Engl J Med. 2015; 372: 1301-11. 6) Boyd JH, Forbes J, Nakada T, et al: Fluid resuscitation in septic shock: a positive fluid balance and elevated central venous pressure are associated with increased mortality. Crit Care Med. 2011; 39: 259-65. 7) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Crit Care Med. 2017; 45: 486-552. 8) Murphy CV, Schramm GE, Doherty JA, et al: The importance of fluid management in acute lung injury secondary to septic shock. Chest. 2009; 136: 102-9. 9) Tigabu BM, Davari M, Kebriaeezadeh A, et al: Fluid volume, fluid balance and patient outcome in severe sepsis and septic shock: A systematic review. J Crit Care. 2018; 48: 153-9. 10) Kuttab HI, Lykins JD, Hughes MD, et al: Evaluation and Predictors of Fluid Resuscitation in Patients With Severe Sepsis and Septic Shock. Crit Care Med. 2019; 47: 1582-90. 11) Wardi G, Joel I, Villar J, et al: Equipoise in Appropriate Initial Volume Resuscitation for Patients in Septic Shock With Heart Failure: Results of a Multicenter Clinician Survey. J Intensive Care Med. 2019; 885066619871247. -S 123-
CQ6-6:成人敗血症患者の輸液反応性をどのよ うに評価するか? Answer:輸液反応性とは,輸液を行うことで1 回拍出量(SV)の有意な増加が見込まれることであり,静的指標や動的指標など複数の指標を必要に応じて組み合わせて評価するという意見がある。静的指標とは,ある1 点における生体情報で中心静脈圧(central venous pressure: CVP),肺動脈楔入圧(pulmonary capillary wedge pressure: PCWP)などがあり,動的指標には受動的下肢挙上(passive leg raising: PLR)や輸液チャレンジによる心拍出量の変化,人工呼吸によって引き起こされる前負荷の呼吸性変動を用いた脈圧変動(pulse pressure variation: PPV),1 回拍出量変動(stroke volume variation: SVV)などがある(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症患者のショックには,脱水による絶対的な血管内容量減少と血管拡張による相対的な血管内容量減少に加えて,敗血症性心筋障害(sepsis-induced myocardial dysfunction: SIMD)による心機能低下も影響している。血管内容量減少に対する輸液投与は心拍出量を増加させる介入としては理にかなっているが,一方で,肺水腫や腹部コンパートメント症候群など過剰輸液による害も指摘されている 1, 2)。そのため,輸液投与を行う前に,もしくは輸液を行いながら,輸液負荷によって得られる益(輸液反応性)を評価することが望ましい。 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では,「初期蘇生における輸液反応性のモニタリング方法として何を用いるか?」という臨床上の疑問に対して,「敗血症,敗血症性ショックの初期蘇生においては,用いる指標の限界を考慮して,必要に応じて複数のモニタリングを組み合わせて輸液反応性を評価することを推奨する」と記載されている 3, 4)。本推奨は,輸液反応性を評価するモニタリングが予後を改善するかシステマティックレビューを行い,特定のモニタリングが死亡などの予後を改善しなかったことに基づいており,輸液反応性の診断精度について検討したものではない。輸液反応性を評価することは輸液投与を行う意思決定に重要であるためBQ として設定し,複数のモニタリングを組み合わせて使用するためにも,それぞれの特徴や限界について解説することとした。(2)解説 低灌流の所見を認める敗血症や敗血症性ショック患者の初期蘇生において,早期に十分な輸液投与を行い,その後は輸液を制限した管理を行うことが死亡率を減少させると報告されている 5-8)。しかしながら,輸液投与により低灌流の改善が期待されるものの,過剰輸液は肺水腫や腹部コンパートメント症候群を来し敗血症患者の死亡率を上昇させる 1, 2)ため,至適な輸液投与量は未だ不明である。過剰輸液を総体重の10% 以上の増加と定義した場合,いかなる時期においても過剰輸液は集中治療患者の予後不良因子となりうる 9, 10)。そのため,輸液反応性を予測することで不必要な輸液を回避し,過剰輸液を防ぐことができれば,患者予後を改善できる可能性がある。 輸液反応性とは,250~500mL の輸液を投与した際に心拍出量やSV が有意に増加することであり,少なくとも10~15% 以上の上昇と定義される 11, 12)。輸液反応性の予測のために使用されるモニタリングは,静的指標と動的指標に分けられる。静的指標とはある1点における生体情報で,中心静脈圧(CVP),肺動脈楔入圧(PCWP),経肺熱希釈法による心臓拡張末期容量(global end-diastolic volume: GEDV)や胸腔内血液容量(intra-thoracic blood volume: ITBV)などがある。動的指標とは,何らかの介入による変動を評価する方法であり,受動的下肢挙上(PLR)や輸液チャレンジによる心拍出量の変化,EEO(end-expiratory occlusion) test による1 回拍出量の変化,人工呼吸によって引き起こされる前負荷の呼吸性変動を用いた脈圧変動(PPV),1 回拍出量変動(SVV),下大静脈径(inferior vena cava diameter: IVCD)や上大静脈径(superior vena cava diameter: SVCD)の変動などがある(Table 6-6-1)。 静的指標であるCVP やPCWP は,CVP 8mmHg 以下やPCWP 12mmHg 以下の場合に輸液反応性ありと評価されてきたが,その信頼性は低い。特に,CVPが8~12mmHg 以上の場合には,輸液反応性を評価することは困難である 13)。肺動脈カテーテルは侵襲が大きく,輸液管理の目的でルーチンに使用することは推奨されていない 11)。経肺熱希釈法は,冷水の急速注入によりGEDV やITBV などを測定でき,前負荷の指標として使用できる 14)。さらに,肺血管外水分量,肺血管透過性係数などの,輸液管理に有益な情報を得ることができる。しかし,輸液反応性の評価についての信頼性は低い 15)。 動的指標は,静的指標よりも輸液反応性の予測に優れている 16)。しかし,臨床で適応できる状況はそれほど多くはない。PPV やSVV は,自発呼吸がなく, -S 124-
1 回換気量が8mL / kg 以上である場合,陽圧換気によって12% 以上の変動を認めれば輸液反応性があると評価する。しかし,自発呼吸,不整脈,腹腔内圧上昇や右心不全がある場合,変動は大きくなる可能性があり,一方で,頻脈や肺保護換気で管理されている患者では変動は小さくなりうる 17)。また,肺コンプライアンスが低い場合は,変動が小さくなることも報告されている 18)。エコーを用いた輸液反応性の評価には,IVC やSVC の径の呼吸性変動があり,CVP よりは輸液反応性の予測に優れている 19)。SVC のほうがIVC よりも良い指標であるという報告もある 20)が, SVC の径の呼吸性変動の評価には経食道心エコーが必要であるため侵襲が大きく,また,エコーによる評価は施行者によって結果のばらつきがあることも他のモニタリングとの相違点である。さらには,SVCD の径の呼吸性変動には,PEEP,1 回換気量,自発呼吸,右心不全,腹腔内圧,血栓などの様々な要因が影響を与え 21),低左心機能患者においても信頼性が乏しいといわれている 22)。IVCD の径の呼吸性変動は,PPVやSVV と比較すると信頼性が低く 23),PPV やSVVが使用可能な場合は優先すべき指標ではないと考えられる。PLR は下肢挙上による心拍出量の増加を評価するものであり,下肢挙上による前負荷は,250~ 350mL の輸液に相当する 24)。下肢挙上により心拍出量が10% 以上増加すれば,輸液反応性があると評価する。また,PLR は自発呼吸や不整脈を認める患者においても有用である 25)。しかし,その手技はやや煩雑であり,具体的な手順は,1頭位挙上45°をベースラインとし,2仰臥位で下肢を45°挙上し,3血圧だけではなく心拍出量を直接測定(効果は1 分程度で 消失),4心拍出量をリアルタイムに測定,5ベースラインに戻した時に心拍出量が戻るかを評価,の5 段階から成る 26)。下肢挙上による前負荷の増加は,静脈系の血管抵抗に依存するため,循環作動薬や腹腔内圧上昇などにより影響を受ける 27)。EEO は機械換気の呼気終末に気道を一時的に閉塞する試験であり,吸気時の胸腔内圧が上昇しなくなるため,その間は静脈灌流量が増加する。EEO の時間が十分に長ければ,増加した右心系の前負荷が左心系にも移行し,心拍出量が増加する。15 秒間のEEO を行い,5% 以上の心拍出量の増加が確認できれば輸液反応性があると評価する 28)。PLR と同様に,心拍出量を直接評価することが望ましい。体位変換を必要としないが,気管挿管および人工呼吸管理中で,さらに呼気中に15 秒間以上のEEO ができる患者でないと測定できない 29)。肺コンプライアンスが低下している患者では,PPV よりも信頼できるという報告もある 30)。ただし,腹臥位療法中の信頼性は確認されていない 31)。上記のいずれも使用できない場合は,輸液負荷を行い,その前後で心拍出量を評価する。輸液量が少なければ測定誤差による影響を受けやすく,多ければ過剰輸液の恐れがある。また,輸液投与により輸液反応性を認めた患者の約半数が循環動態の改善は一過性と報告されており 32),低灌流の所見を確認しつつ,さらなる輸液投与が必要か継続して評価を行う必要がある。 それぞれのモニタリングの特徴を理解し,適切なモニタリングを選択したうえで,必要に応じて複数のモニタリングを使用することが望ましい。低灌流を認め Table 6-6-1 動的指標の閾値と限界(文献27より引用,一部改変)方法閾値主な限界 PPV(pulse pressure variation)・SVV(stroke volume variation) 12%下記の症例では使用困難自発呼吸がある症例,不整脈のある症例,1 回換気量制限のある 症例,低肺コンプライアンスの症例 IVCD (inferior vena cava diameter) 径の変動12%下記の症例では使用困難自発呼吸がある症例,1 回換気量制限のある症例,低肺コンプラ イアンスの症例 SVCD (superior vena cava diameter) 径の変動12~40%経食道心エコーを必要とする。下記の症例では使用困難自発呼吸がある症例,1 回換気量制限のある症例,低肺コンプラ イアンスの症例 PLR(passive leg raising) 10%心拍出量を直接測定すること。下記の症例では使用困難下肢欠損症例,妊婦,循環作動薬を使用している症例,腹腔内圧 が上昇している症例 EEO(end-expiratory occlusion) test 5%下記の症例では使用困難非挿管症例,15 秒以上息留めができない症例少量輸液チャレンジ(100mL) 6~10%心拍出量を直接,正確に測定する必要がある。輸液チャレンジ(500mL) 15%繰り返すと過剰輸液の恐れがある。心拍出量を直接測定する必要がある。 -S 125-
る場合に輸液投与の必要性を検討し,動的指標が利用可能な状況であれば,輸液反応性の予測に動的指標を用いる。動的指標が信頼できない状況であれば,少なくとも輸液負荷を行った前後で血圧以外に心拍出量を評価するのが良い。心拍出量が増加せず,CVP などの静的指標が上昇する場合は,さらなる輸液負荷は有害となる可能性がある。 文 献 1) Vincent JL, Sakr Y, Sprung CL, et al: Sepsis in European intensive care units: results of the SOAP study. Crit Care Med. 2006; 34: 344-53. 2) Sakr Y, Rubatto Birri PN, Kotfis K, et al: Higher fluid balance increases the risk of death from sepsis: results from a large international audit. Crit Care Med. 2017; 45: 386-94. 3) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 4) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 5) Murphy CV, Schramm GE, Doherty JA, et al: The importance of fluid management in acute lung injury secondary to septic shock. Chest. 2009; 136: 102-9. 6) Hjortrup PB, Haase N, Bundgaard H, et al: Restricting volumes of resuscitation fluid in adults with septic shock after initial management: the CLASSIC randomised, parallel-group, multicentre feasibility trial. Intensive Care Med. 2016; 42: 1695-705. 7) Cordemans C, De Laet I, Van Regenmortel N, et al: Fluid management in critically ill patients: the role of extravascular lung water, abdominal hypertension, capillary leak and fluid balance. Ann Intensive Care. 2012; 2(Suppl 1) : S1. 8) Cordemans C, De Laet I, Van Regenmortel N, et al: Aiming for a negative fluid balance in patients with acute lung injury and increased intra-abdominal pressure: a pilot study looking at the effects of PAL-treatment. Ann Intensive Care. 2012; 2(Suppl 1) : S15. 9) O’Connor ME, Prowle JR: Fluid overload. Crit Care Clin. 2015; 31: 803-21. 10) Vaara ST, Korhonen AM, Kaukonen KM, et al: Fluid overload is associated with an increased risk for 90-day mortality in critically ill patients with renal replacement therapy: data from the prospective FINNAKI study. Crit Care. 2012; 16: R197. 11) Cecconi M, De Backer D, Antonelli M, et al: Consensus on circulatory shock and hemodynamic monitoring. Task force of the European Society of Intensive Care Medicine. Intensive Care Med. 2014; 40: 1795-815. 12) Vincent JL, Weil MH: Fluid challenge revisited. Crit Care Med. 2006; 34: 1333-7. 13) Eskesen TG, Wetterslev M, Perner A: Systematic review including re-analyses of 1148 individual data sets of central venous pressure as a predictor of fluid responsiveness. Intensive Care Med. 2016; 42: 324-32. 14) Sakka SG, Bredle DL, Reinhart K, et al: Comparison between intrathoracic blood volume and cardiac filling pressures in the early phase of hemodynamic instability of patients with sepsis or septic shock. J Crit Care. 1999; 14: 78-83. 15) Muller L, Louart G, Bengler C, et al: The intrathoracic blood volume index as an indicator of fluid responsiveness in critically ill patients with acute circulatory failure: a comparison with central venous pressure. Anesth Analg. 2008; 107: 607-13. 16) Marik PE, Cavallazzi R, Vasu T, et al: Dynamic changes in arterial waveform derived variables and fluid responsiveness in mechanically ventilated patients: a systematic review of the literature. Crit Care Med. 2009; 37: 2642-7. 17) Biais M, Ehrmann S, Mari A, et al: Clinical relevance of pulse pressure variations for predicting fluid responsiveness in mechanically ventilated intensive care unit patients: the grey zone approach. Crit Care. 2014; 18: 587. 18) Monnet X, Bleibtreu A, FerréA, et al: Passive leg-raising and end-expiratory occlusion tests perform better than pulse pressure variation in patients with low respiratory system compliance. Crit Care Med. 2012; 40: 152-7. 19) Barbier C, Loubières Y, Schmit C, et al: Respiratory changes in inferior vena cava diameter are helpful in predicting fluid responsiveness in ventilated septic patients. Intensive Care Med. 2004; 30: 1740-6. 20) Vignon P, Repessé X, Bégot E, et al: Comparison of echocardiographic indices used to predict fluid responsiveness in ventilated patients. Am J Respir Crit Care Med. 2017; 195: 1022-32. 21) Via G, Tavazzi G, Price S: Ten situations where inferior vena cava ultrasound may fail to accurately predict fluid responsiveness: a physiologically based point of view. Intensive Care Med. 2016; 42: 1164-7. 22) Zhang H, Zhang Q, Chen X, et al: Respiratory variations of inferior vena cava fail to predict fluid responsiveness in mechanically ventilated patients with isolated left ventricular dysfunction. Ann Intensive Care. 2019; 9: 113. 23) de Oliveira OH, Freitas FG, Ladeira RT, et al: Comparison between respiratory changes in the inferior vena cava diameter and pulse pressure variation to predict fluid responsiveness in postoperative patients. J Crit Care. 2016; 34: 46-9. 24) Lafanechère A, Pène F, Goulenok C, et al: Changes in aortic blood flow induced by passive leg raising predict fluid responsiveness in critically ill patients. Crit Care. 2006; 10: R132. 25) Cavallaro F, Sandroni C, Marano C, et al: Diagnostic accuracy of passive leg raising for prediction of fluid responsiveness in adults: systematic review and meta-analysis of clinical studies. Intensive Care Med. 2010; 36: 1475-83. 26) Monnet X, Teboul JL: Passive leg raising: five rules, not a drop of fluid! Crit Care. 2015; 19: 18. 27) Monnet X, Marik PE, Teboul JL. Prediction of fluid responsiveness: an update. Ann Intensive Care. 2016; 6: 111. 28) Monnet X, Osman D, Ridel C, et al: Predicting volume responsiveness by using the end-expiratory occlusion in mechanically ventilated intensive care unit patients. Crit Care Med. 2009; 37: 951-6. 29) Gavelli F, Teboul JL, Monnet X: The end-expiratory occlusion test: please, let me hold your breath! Crit Care. 2019; 23: 274. 30) Monnet X, Bleibtreu A, FerréA, et al: Passive leg-raising and end-expiratory occlusion tests perform better than pulse pressure variation in patients with low respiratory system compliance. Crit Care Med. 2012; 40: 152-7. 31) Yonis H, Bitker L, Aublanc M, et al: Change in cardiac output during Trendelenburg maneuver is a reliable predictor of fluid responsiveness in patients with acute respiratory distress syndrome in the prone position under protective ventilation. Crit Care. 2017; 21: 295. 32) Roger C, Zieleskiewicz L, Demattei C, et al: Time course of fluid responsiveness in sepsis: the fluid challenge revisiting (FCREV) study. Crit Care. 2019; 23: 179. -S 126-
CQ6-7:成人敗血症患者の初期輸液にアルブミ ン製剤を投与するか? Answer:敗血症患者に対して,初期蘇生輸液の開始時に標準治療としてアルブミン製剤の投与を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。晶質液を用いた標準治療に反応せず,大量の晶質液を必要とする場合には,アルブミン製剤の投与を考慮してもよい(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症 / 敗血症性ショックにおいて,初期蘇生輸液は重要な介入である。しかし,標準的な輸液製剤としてアルブミンを用いるかどうかについては,一定の見解がない。このため,初期蘇生輸液の標準的な輸液製剤としてアルブミンを用いるべきかを明らかにするのは,重要な臨床課題である。 (2)PICO P (患者):成人,敗血症 / 敗血症性ショック患者I (介入):初期輸液に晶質液とアルブミンを用いるC (対照):初期輸液にアルブミンを用いず晶質液の みを用いるO (アウトカム):短期死亡(28 日もしくは30 日死 亡),ICU 滞在日数,重篤な副作用(肺傷害スコア) (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が3 件施行 1-3)されていた。Rackow ら 1)は,循環血液量減少性ショック・敗血症性ショック患者の初期蘇生において,5% アル ブミン,6% ヘタスターチ,生理食塩水の有効性を, Finfer ら 2)は,重症敗血症患者の初期蘇生において, 4% アルブミンと生理食塩水の有効性を,van der Heijden ら 3)は,循環血液量減少を伴う敗血症性 / 非敗血症性重症患者において,5% アルブミン,6% ヒドロキシエチルスターチ,4% ゼラチン,生理食塩水の有効性をRCT で比較した。これら3 つのRCT を用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 6-7-1)望ましい効果: 短期死亡のアウトカム(3 RCT: n =1,253)に関する効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり45 人少ない(91 人少ない~7 人多い),ICU 滞在日数のアウトカム(1 RCT: n =1,218)の効果推定値とその信頼区間は,平均(MD)0.7 日長い(0.1 日短い~1.5日長い)であった。このため,初期蘇生輸液にアルブミン製剤を使用することの望ましい効果はわずかである。望ましくない効果: 重篤な副作用のアウトカム(肺傷害スコア)(1 RCT: n =24)の効果推定値とその信頼区間は,MD 0.75 高い(0.22 高い~1.28 高い)であった。なお,肺 傷害スコアは0~4 点で示されるスコアで,2.5 点以上で高度の肺傷害があると判定される。以上から,初期蘇生輸液にアルブミン製剤を使用することの望ましくない効果はわずかと判断した。益と害のバランス: 初期蘇生輸液にアルブミン製剤を使用することの望ましい効果も,望ましくない効果もわずかであることより,効果のバランスは介入も比較対照もいずれも優 Table 6-7-1 エビデンスプロファイル -S 127-
位でないと判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したすべてのアウトカムの効果推定値の方向性は一致していない(益も害も示さないアウトカム2 つ,害を示すアウトカム1 つ)ため,1 番低い確実性を全体の確実性として採用した。アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「低」である。 (6)価値観 初期蘇生輸液に対する患者・家族の価値観に関するエビデンスはない。一般的に死亡に対する相対的価値は高いと考えられ,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 アルブミン製剤のコストは約4,000~5,000 円 / 50mL / 瓶であり,医療経済に与える影響は小さくはない。また,アルブミン製剤は血漿分画製剤であるため,感染症などの危険性を完全には除外できない。患者・家族の視点からは,効果のバランスが不確かな当該介入をおそらく許容できないと考えられる。医療者の仕事量増加はごくわずかである。 (8)実行可能性 アルブミン製剤は多くの医療施設において使用可能である。(9)判断の要約(Table 6-7-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 4)では,敗血症または敗血症性ショック患者の初期蘇生において相当量の晶質液輸液を必要とする場合には,晶質液に加えアルブミンを使用することが弱く提案されている。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 5, 6)では,敗血症患者の初期蘇生において,アルブミンをルーチン使用しないことを推奨している。ただし,初期蘇生で多量の晶質液を必要とする場合や,低アルブミン血症が認められる場合には,アルブミン使用を考慮してもよいかもしれないとしている。しかし,敗血症の初期蘇生における標準的な輸液としてアルブミンを用いるかについては,一定の見解がない。 (12)実施に関わる検討事項 アルブミン製剤は,血圧上昇,血管内水分量増加を期待して使用されることが多い。その一方で,コストや感染症リスクを懸念されることも多い。本CQ では,これらをアウトカムとした検討は行われていないため,実際の初期蘇生輸液の際には,アルブミン製剤が有益あるいは有害となる患者群が存在することも否定できない。 Table 6-7-2 判断の要約 -S 128-
(13)今後の研究の可能性 今後,アルブミン製剤が血圧・血管内水分量に与える影響の評価,アルブミン製剤とコスト・感染症リスクの評価,アルブミン製剤を使用する時期に関する研究が行われることが望まれる。 文 献 1) Rackow EC, Falk JL, Fein IA, et al: Fluid resuscitation in circulatory shock: a comparison of the cardiorespiratory effects of albumin, hetastarch, and saline solutions in patients with hypovolemic and septic shock. Crit Care Med. 1983; 11: 839-50. 2) Finfer S, McEvoy S, Bellomo R, et al: Impact of albumin compared to saline on organ function and mortality of patients with severe sepsis. Intensive Care Med. 2011; 37: 86-96. 3) van der Heijden M, Verheij J, van Nieuw Amerongen GP, et al: Crystalloid or colloid fluid loading and pulmonary permeability, edema, and injury in septic and nonseptic critically ill patients with hypovolemia. Crit Care Med. 2009; 37: 1275-81. 4) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 5) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 6) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. CQ6-8:成人敗血症患者の初期輸液に人工膠質 液を投与するか? Answer:敗血症 / 敗血症性ショック患者に対して,人工膠質液の投与を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症性ショックにおいて,初期蘇生輸液に何を用いるかは非常に重要な問題である。標準的な輸液として人工膠質液を用いるかどうかについては一定の見解がない。したがって,初期輸液の標準的な輸液として人工膠質液を用いるかを明らかにするのは重要であり,重要臨床課題として取り上げた。 (2)PICO P (患者):成人,初期輸液の必要な敗血症性ショッ ク患者I (介入):初期輸液に晶質液と人工膠質液を用いるC (対照):初期輸液に人工膠質液を用いず晶質液の みを用いるO (アウトカム):短期死亡(28 日もしくは30 日死 亡),長期死亡(90 日死亡,90 日がない場合は最長を用いることを考慮する),ICU 滞在日数,重篤な副作用(透析使用),重篤な副作用(重篤な出血) (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が4 件施行 1-4)されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 6-8-1)望ましい効果: 短期死亡のアウトカム(4 RCT: n =2,586)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり9 人多い(25 人少ない~46 人多い)であり,長期死亡のアウトカム(3 RCT: n =2,545)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり19 人多い(62 人少ない~123 人多い)である。ICU 滞在日数のアウトカム(2 RCT: n =214)の効果推定値とその信頼区間は,平均(MD) 1,000 人あたり1.13 日短い(8.28 日短い~6.03 日長い)である。以上より,人工膠質液投与による望ましい効果はわずかであると判断した。望ましくない効果: 急性腎障害に伴う透析使用のアウトカム(4 RCT: n -S 129-
=3,891)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり16 人多い(24 人少ない~71 人多い)であり,重篤な出血のアウトカム(2 RCT: n =994)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり42 人多い(3人多い~97 人多い)である。以上より,人工膠質液投与による望ましくない効果は「中」と判断した。益と害のバランス: 益と害の正味のバランスは1,000 人あたり86 人,害が上回る。短期死亡に関する不確実性を考慮し,信頼区間の最小値(1,000 人あたり25 人少ない)を用いて,死亡に関連するアウトカムの相対価値を他のアウトカムの3 倍としても,1,000 人あたり2 人,害が上回る。以上より,効果のバランスは「比較がおそらく優位」と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したアウトカムの効果推定値の方向性は一致していないため,エビデンスの確実性は最も低いアウトカムの結果を採用し,「非常に低」とした。 (6)価値観 一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。(7)容認性 介入による害が大きく,患者には容認されないと考えられる。人工膠質液(約700 円 / 500mL)のほうが,晶質液(約150 円 / 500mL)よりも高価であるが,いずれも医療経済に与える負担は大きくはない。医療従事者への負担はどちらの輸液を投与しても変わりはなく,介入は容認されると考える。 (8)実行可能性 人工膠質液の投与は,本邦の多くの医療施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 6-8-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.029 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 5)では,敗血症 / 敗血症性ショックの患者で,血管内容量の補充目的で,人工膠質液(ヒドロキシエチルスターチ製剤)の投与を行わないことを推奨している。 Table 6-8-1 エビデンスプロファイル -S 130-
(12)実施に関わる検討事項 ヒドロキシエチルスターチ製剤(hydroxyethyl starch: HES)は,濃度,分子量,置換度などにより異なり,今回の検討では,6% HES(130 / 0.4)(商品名:ボルベン)のような第3 世代HES に関するRCT がほとんどであり,実施の際には注意が必要である。本邦で他に使用可能なHES には,生食溶媒の6% HES (70 / 0.5)(商品名:サリンヘス),リンゲル液が溶媒の6% HES(70 / 0.5)(商品名:ヘスパンダー)がある。 (13)今後の研究の可能性 今後,人工膠質液の種類,投与量に関する検証,人工膠質液の持続投与の有効性に関する検証などが行われることが望まれる。 文 献 1) Perner A, Haase N, Guttormsen AB, et al: Hydroxyethyl starch 130 / 0.42 versus Ringer’s acetate in severe sepsis. N Engl J Med. 2012; 367: 124-34. 2) Annane D, Siami S, Jaber S, et al: Effects of fluid resuscitation with colloids vs crystalloids on mortality in critically ill patients presenting with hypovolemic shock: The CRISTAL randomized trial. JAMA. 2013; 310: 1809-17. 3) Guidet B, Martinet O, Boulain T, et al: Assessment of hemodynamic efficacy and safety of 6% hydroxyethylstarch 130 / 0.4 vs. 0.9% NaCl fluid replacement in patients with severe sepsis: The CRYSTMAS study. Crit Care. 2012; 16: R94. 4) McIntyre LA, Fergusson D, Cook DJ, et al: Fluid resuscitation in the management of early septic shock (FINESS): a randomized controlled feasibility trial. Can J Anaesth. 2008; 55: 819-26. 5) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. Table 6-8-2 判断の要約 -S 131-
CQ6-9-1:成人敗血症患者に対する血管収縮薬 の第一選択としてノルアドレナリン,ドパミン,フェニレフリンのどれを使用するか?(ノルアドレナリンvs ドパミン) Answer:成人敗血症患者に対する血管収縮薬の第一選択として,ノルアドレナリンとドパミンのうち,ノルアドレナリンを投与することを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 1, 2)およびSSCG 2016 3)では,敗血症の初期蘇生における血管収縮薬の第一選択薬はノルアドレナリンが推奨された。しかし,SSCG 2016 では頻脈を呈さない患者においてはドパミンの使用も弱く推奨されている。また,J-SSCG 2016 1, 2)は十分なエビデンスがなく推奨を見送られているフェニレフリンも選択肢の1 つとして検討されている。血管収縮薬の選択は敗血症の初期蘇生に重要であり,第一選択として何を使用するかについて,J-SSCG 2020 でも改めて課題として取り上げることは重要であり,重要臨床課題として取り上げた。 (2)PICO P (患者):成人,初期輸液によっても目標平均血圧 まで血圧を上げることができない敗血症性ショック,かつ血管収縮薬を投与していない状態の患者。既に何らかの血管収縮薬を投与されている場合や心機能低下の患者は対象としないI (介入):血管収縮薬の第一選択薬としてノルアド レナリンを使用するC (対照):血管収縮薬の第一選択薬としてドパミン を使用するO (アウトカム):短期死亡(28 日または30 日死 亡),長期死亡(90 日死亡,90 日の評価がない場合は最長の評価日を用いることを考慮する),ショック離脱期間,臓器虚血,不整脈 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が5 件施行 4-8)されていた。De Backer ら 8)が行ったRCT のみ敗血症以外のショック患者も含まれていたが,その他は敗血症性ショック患者を対象にノルアドレナリンとドパミンを比較したRCT であった。これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 6-9-1-1)望ましい効果: 短期死亡のアウトカム(5 RCT: n =1,397)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり54 人少ない(102 人少ない~0 人多い)であった。長期死亡およびショック離脱期間に関する報告はなかった。不整脈(2 RCT: n =1,931)の効果推定値とその信頼区間は, 1,000 人あたり110 人少ない(138 人少ない~80 人少ない),心筋虚血(1 RCT: n =1,679)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり20 人少ない(21 人少ない~12 人少ない)であった。以上より,ノルアドレナリンによる望ましい効果は「中」と判断した。望ましくない効果: 四肢虚血(1 RCT: n =1,679)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり3 人多い(6 人少ない~ 23 人多い),腸間膜虚血(1 RCT: n =1,679)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり6 人少ない(10 人少ない~7 人多い)であった。以上より,ノルアドレナリンによる望ましくない効果はわずかと判断した。益と害のバランス: ノルアドレナリンによる正味の利益は,1,000 人あたり187 人望ましい効果が上回り,死亡アウトカムに関する不精確性を考慮して,信頼区間で最も悪い値で検討を行っても,正味の利益は1,000 人あたり133 人望ましい効果が大きかった。以上より,効果のバランスは「介入が優位」と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したアウトカムの効果推定値の方向性は一致していないため,エビデンスの確実性は最も低いアウトカムの結果を採用し,「非常に低」とした。 (6)価値観 一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 ノルアドレナリンのコストは約100 円 / 1mg,ドパミンは約100 円 / 100mg であるため,医療経済への影響は少ないと考える。患者・家族の視点からは本介入を許容できる。医療従事者にとっては,いずれの薬剤であってもシリンジポンプによる投与と循環動態のモニタリングが必要であるが,その負担は敗血症を診療する集 -S 132-
中治療室やそれに準じた施設であれば容認される。 (8)実行可能性 本邦では多くの病院で採用,使用されている薬剤である。投与に際して,シリンジポンプを用いること,循環動態をモニタリングすることが必要であるが,本邦において敗血症性ショックを診療する集中治療室またはそれに準じた施設であれば,実行可能性に関して問題ないと考える。 (9)判断の要約(Table 6-9-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.015 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:95.8%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 J-SSCG 2016 1, 2)では,初期輸液に反応しない敗血症性ショックに対して,第一選択薬としてドパミンよりもノルアドレナリンの投与が推奨されている(1B)。SSCG 2016 3)でも同様に,第一選択薬としてノルアド レナリンが推奨されている(強い推奨,中等度のエビデンスレベル)。 (12)実施に関わる検討事項 患者の基礎疾患などによりノルアドレナリンによる臓器虚血の合併症が増すことが予想される場合には,注意を要する。 (13)今後の研究の可能性 今後,ノルアドレナリンの投与を開始するタイミング,ノルアドレナリンの最大投与量を含む投与量,ノルアドレナリンを減量・中止するタイミングなどに関する研究が望まれる。 文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Table 6-9-1-1 エビデンスプロファイル -S 133-
Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 4) Ruokonen E, Takala J, Kari A, et al: Regional blood flow and oxygen transport in septic shock. Crit Care Med. 1993; 21: 1296-303. 5) Martin C, Papazian L, Perrin G, et al: Norepinephrine or dopamine for the treatment of hyperdynamic septic shock? Chest. 1993; 103: 1826-31. 6) Marik PE, Mohedin M: The Contrasting Effects of Dopamine and Norepinephrine on Systemic and Splanchnic Oxygen Utilization in Hyperdynamic Sepsis. JAMA. 1994; 272: 1354-7. 7) Mathur SK, Dhunna R, Chakraborty A: Comparison of norepinephrine and dopamine in the management of septic shock using impedance cardiography. Indian J Crit Care Med. 2007; 11: 186-91. 8) De Backer D, Biston P, Devriendt J, et al: Comparison of dopamine and norepinephrine in the treatment of shock. N Engl J Med. 2010; 362: 779-89. Table 6-9-1-2 判断の要約 -S 134-
CQ6-9-2:成人敗血症患者に対する血管収縮薬 の第一選択としてノルアドレナリン,ドパミン,フェニレフリンのどれを使用するか?(ノルアドレナリンvs フェニレフリン) Answer:成人敗血症患者に対する血管収縮薬の第一選択として,ノルアドレナリン,フェニレフリンのうち,ノルアドレナリンを投与することを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 1, 2)およびSSCG 2016 3)では,敗血症の初期蘇生における血管収縮薬の第一選択薬はノルアドレナリンが推奨された。しかし,SSCG 2016 ではフェニレフリンも第一選択薬として検討されている。血管収縮薬の選択は敗血症の初期蘇生に重要であり,重要臨床課題として取り上げた。 (2)PICO P (患者):成人,初期輸液によっても目標平均血圧 まで血圧を上げることができない敗血症性ショック,かつ血管収縮薬を投与していない状態の患者。既に何らかの血管収縮薬を投与されている場合や心機能低下の患者は対象としないI (介入):血管収縮薬の第一選択薬としてノルアド レナリンを使用するC (対照):血管収縮薬の第一選択薬としてフェニレ フリンを使用するO (アウトカム):短期死亡(28 日または30 日死 亡),長期死亡(90 日死亡,90 日の評価がない場合は最長の評価日を用いることを考慮する),ショック離脱期間,臓器虚血,不整脈(3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が3 件施行 4-6)されていたが,このうちKeriwala らのRCT 6)の結果はClinicalTrials.gov で公表(NCT02203630)されており,出版はされていない。いずれのRCT でも,敗血症性ショック患者に対して,ノルアドレナリンとフェニレフリンが比較されていた。これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 6-9-2-1)望ましい効果: 短期死亡のアウトカム(3 RCT: n =103)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり27 人少ない(181 人少ない~198 人多い)であった。長期死亡およびショック離脱期間のアウトカムに関する報告はなかった。以上より,ノルアドレナリンによる望ましい効果はわずかと判断した。望ましくない効果: 不整脈のアウトカム(1 RCT: n =17)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり98 人多い(100人少ない~1,000 人多い)であった。評価対象のn 数が非常に少なく,ノルアドレナリンによる望ましくない効果は分からないと判断した。益と害のバランス: ノルアドレナリンによる望ましい効果は限定的であり,望ましくない効果もn 数が少ない1 本のRCT からの結果である。以上より,効果のバランスは介入も比較もいずれも優位でないと判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したアウトカムの効果推定値の方向性は一致していないため,エビデンスの確実性は最も低いア Table 6-9-2-1 エビデンスプロファイル -S 135-
ウトカムの結果を採用し,「非常に低」とした。 (6)価値観 死亡に対する相対的価値は高いと考えられ,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 ノルアドレナリンのコストは約100 円 / 1mg,フェニレフリンは約60 円 / 1mg であるため,医療経済への影響は少ないと考える。患者・家族の視点からは本介入を許容できる。医療従事者にとっては,いずれの薬剤であってもシリンジポンプによる投与と循環動態のモニタリングが必要であるが,その負担は敗血症を診療する集中治療室やそれに準じた施設であれば容認される。フェニレフリンを集中治療室で使用する経験が少ない施設においては,第一選択薬として容認できない可能性がある。 (8)実行可能性 両剤共に,本邦では多くの病院で採用,使用されている薬剤である。また,両剤いずれにおいても,投与に際して,シリンジポンプを用いること,循環動態をモニタリングすることが必要であるが,本邦において敗血症性ショックを診療する集中治療室またはそれに準じた施設であれば,実行可能性に関して問題ないと考える。J-SSCG 2016 およびSSCG 2016 ではノルアドレナリンが第一選択薬として推奨されており,医療従事者によってはフェニレフリンを用いた初期蘇生の経験が少ないことが予想される。したがって,フェニレフリンを集中治療室で使用する経験が少ない施設にお いては,第一選択薬としての実行可能性が低いかもしれない。 (9)判断の要約(Table 6-9-2-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 J-SSCG 2016 1, 2)では,ノルアドレナリンとドパミンの比較はあるものの,フェニレフリンとの比較はされていない。SSCG 2016 3)においてもフェニレフリンに関する推奨はなく,より多くの臨床試験の結果が得られるまでは使用を制限すべきであると記載されている。 (12)実施に関わる検討事項 ノルアドレナリンの使用により,不整脈がわずかに増加する可能性があり,注意を要する。 (13)今後の研究の可能性 今後,フェニレフリンとドパミンとの比較,ノルアドレナリンの投与を開始するタイミング,ノルアドレナリンの最大投与量を含む投与量,ノルアドレナリンを減量・中止するタイミングなどに関する研究が行われることが望まれる。 Table 6-9-2-2 判断の要約 -S 136-
文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 4) Morelli A, Ertmer C, Rehberg S, et al: Phenylephrine versus norepinephrine for initial hemodynamic support of patients with septic shock: A randomized, controlled trial. Crit Care. 2008; 12: R143. 5) Jain G, Singh DK: Comparison of phenylephrine and norepinephrine in the management of dopamine-resistant septic shock. Indian J Crit Care Med. 2010; 14: 29-34. 6) Vanderbilt University Medical, NCRR, NCATS: Phenylephrine Versus Norepinephrine for Septic Shock in Critically Ill Patients. ClinicalTrials.gov. (2014). CQ6-10-1:成人敗血症患者に対する血管収縮薬 の第二選択としてアドレナリンを使用するか? Answer:敗血症 / 敗血症性ショック患者に対する,血管収縮薬の第二選択としてアドレナリンを使用しないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 1, 2)およびSSCG 2016 3)では,敗血症の初期蘇生においてノルアドレナリンの昇圧効果が十分でない場合の第二選択としてバソプレシンおよびアドレナリンが推奨されている。しかし,バソプレシン,アドレナリンのいずれにも十分なエビデンスはなく,血管収縮薬の第二選択薬についてのコンセンサスは得られていない。血管収縮薬の選択は敗血症の初期蘇生に重要であり,第二選択として何を使用するかについては,重要臨床課題であるといえる。 (2)PICO P (患者):成人,初期輸液と血管収縮薬によっても 循環動態が改善しない敗血症性ショック患者I (介入):第二選択薬として,アドレナリンを使用 するC (対照):第二選択薬として,アドレナリンを使用 しないO (アウトカム):短期死亡(28 日死亡),長期死亡(90 日死亡),ショック離脱期間,不整脈,臓器虚血 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が2 件施行 4, 5)されており,いずれのRCT も血管収縮薬を使用している敗血症性ショック患者を対象とし,対照群ではドブタミンが使用されていた。これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 6-10-1-1)望ましい効果: ショック離脱期間の代理アウトカムとして,ICU 滞在日数を用いた。ICU 滞在日数アウトカム(2 RCT: n =390)の効果推定値とその信頼区間は,平均(MD) 1 日短い(2.98 日短い~0.98 日長い)だった。以上より,望ましい効果はわずかと判断した。 -S 137-
望ましくない効果: 28 日死亡のアウトカム(2 RCT: n =390)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり48 人多い(40人少ない~165 人多い),90 日死亡のアウトカム(1 RCT: n =330)の効果推定値とその信頼区間は,1,000人あたり20 人多い(80 人少ない~141 人多い)だった。不整脈のアウトカム(2 RCT: n =390)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり22 人多い(44人少ない~125 人多い),四肢虚血のアウトカム(2 RCT: n =390)の効果推定値とその信頼区間は,1,000人あたり12 人少ない(33 人少ない~77 人多い)だった。以上より,介入による望ましくない効果は小さいと判断した。益と害のバランス: 正味の害は1,000 人あたり78 人,害のほうが大きい。したがって,「比較がおそらく優位」と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 採用されたすべてのアウトカムについて,益と害が異なる方向性を示していたため,最も低いエビデンスである「非常に低」を採用した。 (6)価値観 各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に死亡アウトカムに対する相対 的価値は高く,ばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 アドレナリンによる介入は効果が明らかではなく,不整脈が増える可能性があり,患者・家族にとって容認できない可能性がある。アドレナリン(商品名:アドレナリン)は153 円(1 管)であり,医療経済に与える影響は小さい。医療従事者への負担は介入も対照も変わらない。 (8)実行可能性 本邦の集中治療施設であれば,介入は問題なく実行可能である。集中治療施設以外では介入も対照も実施は困難が予想される。 (9)判断の要約(Table 6-10-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 Table 6-10-1-1 エビデンスプロファイル -S 138-
(11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 J-SSCG 2016 1, 2)では,十分な輸液とノルアドレナリン投与を行っても循環動態の維持が困難な敗血症性ショックには,アドレナリンの使用が弱く推奨されている(エキスパートコンセンサス)。また,SSCG 2016 3)では,目標平均血圧まで上げるために,ノルアドレナリンに加えてアドレナリンを併用することが提案されている(弱い推奨,低いエビデンスレベル)。これらは,心機能低下症例における強心薬としての効果を期待した推奨と考えられる。 (12)実施に関わる検討事項 今回の検討は,アドレナリンの血管収縮薬としての効果を検証したものであり,強心薬としての効果は検討していないことを留意して推奨を利用する(心機能が低下した患者に対する強心薬としての検討は CQ6-11 を参照)。 (13)今後の研究の可能性 今後,アドレナリンの投与のタイミングや投与量,アドレナリンとバソプレシンの直接比較の検討に関する研究が行われることが望まれる。 文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 4) Annane D, Vignon P, Renault A, et al: Norepinephrine plus dobutamine versus epinephrine alone for management of septic shock: a randomised trial. Lancet. 2007; 370: 676-84. 5) Mahmoud KM, Ammar AS: Norepinephrine supplemented with dobutamine or epinephrine for the cardiovascular support of patients with septic shock. Indian J Crit Care Med. 2012; 16: 75-80. Table 6-10-1-2 判断の要約 -S 139-
CQ6-10-2:成人敗血症患者に対する血管収縮薬 の第二選択としてバソプレシンを使用するか? (保険適用外使用) Answer:敗血症 / 敗血症性ショック患者に対する,血管収縮薬の第二選択としてバソプレシンを使用することを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 1, 2)およびSSCG 2016 3)では,敗血症の初期蘇生においてノルアドレナリンの昇圧効果が十分でない場合の第二選択としてバソプレシンおよびアドレナリンが推奨されている。しかし,バソプレシン,アドレナリンとも十分なエビデンスはなく,血管収縮薬の第二選択薬についてのコンセンサスは得られていない。血管収縮薬の選択は敗血症の初期蘇生に重要であり,第二選択薬として何を使用するかについて,本ガイドラインでも改めて課題として取り上げることは重要であり,重要臨床課題であるといえる。 (2)PICO P (患者):成人,初期輸液と血管収縮薬によっても 循環動態が改善しない敗血症性ショック患者I (介入):第二選択薬として,バソプレシンを使用 するC (対照):第二選択薬として,バソプレシンを使用 しないO (アウトカム):短期死亡(28 日死亡),長期死亡(90 日死亡),ショック離脱期間,不整脈,臓器虚血 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が4 件施行 4-7)されていた。いずれのRCT も血管収縮薬が必要な敗血症性ショック患者に対して,ノルアドレナリンとバソプレシンを比較しており,目標血圧が保てない場合にはopen label の血管収縮薬を使用することができた。Gordon らが行ったVANISH trial 7)は,バソプレシンとノルアドレナリンの比較および,低用量コルチコステロイドとプラセボの比較も加え,4 群に分けたRCTであった。これらを用いたメタ解析を実施した。(4)益と害のバランス(Table 6-10-2-1) 望ましい効果: 28 日死亡のアウトカム(4 RCT: n =1,260)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり10 人少ない(56 人少ない~45 人多い),90 日死亡のアウトカム(1 RCT: n =792)の効果推定値とその信頼区間は,1,000人あたり54 人少ない(114 人少ない~20 人多い)であった。 ICU 滞在日数(3 RCT: n =1,217)の効果推定値とその信頼区間は平均(MD)0.16 日長い(1.84 日短い~2.17 日長い)だった。以上より,望ましい効果は小さいと判断した。望ましくない効果: 不整脈(3 RCT: n =1,217)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり5 人少ない(16 人少ない~ 19 人多い),心筋虚血(2 RCT: n =1,187)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり10 人多い(7人少ない~61 人多い),四肢虚血(3 RCT: n =1,217)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり22 人多い(4 人多い~69 人多い)だった。以上より,望ましくない効果はわずかと判断した。益と害のバランス: 正味の効果は1,000 人あたり37 人,介入が優位である。以上より,効果のバランスは「おそらく介入が優位」と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 益と害の各アウトカムは異なる方向性を示していたため,最も低いエビデンスである「非常に低」を採用した。 (6)価値観 各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,ばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 有害事象として,四肢虚血が増える可能性がある。バソプレシン(商品名:ピトレシン)は,668 円(1管)と医療経済に与える影響は小さい。バソプレシンは,循環動態の補助に対して保険適用が得られていないため,使用に際しては注意を要する。既に臨床現場で広く使用されており,容認性は「おそらく,はい」とした。 -S 140-
(8)実行可能性 本邦の集中治療施設であれば,介入は問題なく実行可能である。集中治療施設以外では介入も対照も実施は困難が予想される。 (9)判断の要約(Table 6-10-2-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:75%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 J-SSCG 2016 1, 2)では,十分な輸液とノルアドレナリン投与を行っても昇圧効果が不十分な敗血症性ショック患者に対して,バソプレシンを追加で使用することが弱く推奨されている(エキスパートコンセンサス)。また,SSCG 2016 3)では,目標平均血圧まで 上げるために,ノルアドレナリンに加えてバソプレシンを併用すること(弱い推奨,中等度のエビデンスレベル)や,ノルアドレナリンを減量する目的でバソプレシンを併用することが提案されている(弱い推奨,中等度のエビデンスレベル)。 (12)実施に関わる検討事項 バソプレシンは循環動態の補助に対して保険適用が得られていないため,使用に際しては注意を要する。2 単位 / 時間を超える高用量投与では虚血性合併症が増える可能性があることが報告されていることに留意して推奨を利用する。 (13)今後の研究の可能性 今後,バソプレシンの投与のタイミングや投与量については,さらなる検討が必要である。 Table 6-10-2-1 エビデンスプロファイル -S 141-
文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 4) Lauzier F, Lévy B, Lamarre P, et al: Vasopressin or norepinephrine in early hyperdynamic septic shock: A randomized clinical trial. Intensive Care Med. 2006; 32: 1782-9. 5) Russell JA, Walley KR, Singer J, et al: Vasopressin versus norepinephrine infusion in patients with septic shock. N Engl J Med. 2008; 358: 877-87. 6) Barzegar E, Ahmadi A, Mousavi S, et al: The therapeutic role of vasopressin on improving lactate clearance during and after vasogenic shock: Microcirculation, Is it the black box? Acta Med Iran. 2016; 54: 15-23. 7) Gordon AC, Mason AJ, Thirunavukkarasu N, et al: Effect of early vasopressin vs norepinephrine on kidney failure in patients with septic shock: The VANISH randomized clinical trial. JAMA. 2016; 316: 509-18. Table 6-10-2-2 判断の要約 -S 142-
CQ6-11:心原性ショックを伴う成人敗血症患者 に対して強心薬を使用するか? Answer:心機能低下を呈する成人敗血症性ショック患者に対して,強心薬(アドレナリン,ドブタミン)の投与を弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症性ショックでは,sepsis-induced myocardial dysfunction(SIMD)と呼ばれる心機能障害が約40%の患者に合併し,重症化との関連が示唆されている 1, 2)。SIMD を合併している敗血症性ショックでは,血管収縮薬のノルアドレナリンに加え,強心薬であるドブタミンやアドレナリンの投与が行われてきたが,その効果に対してはまだ議論も多い。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では,敗血症性ショックの心機能不全に対してドブタミンを推奨した 3, 4)。SSCG 2016 でも,十分な輸液と昇圧薬の投与によっても循環動態が改善しない敗血症に対してドブタミンを推奨するとしている 5)。いずれも十分なエビデンスに基づいた推奨ではなく,敗血症性ショックの心機能不全に対する強心薬の使用の可否は敗血症の初期蘇生において重要であり,重要臨床課題として取り上げた。 (2)PICO P (患者):成人,心機能低下を呈する敗血症性 ショック患者I (介入):強心薬(ドブタミン,アドレナリン, PDE III 阻害薬,Ca 感受性増強薬)を使用するC (対照):強心薬(ドブタミン,アドレナリン, PDE III 阻害薬,Ca 感受性増強薬)を使用しないO (アウトカム):短期死亡(28 日死亡),長期死亡(90 日死亡),ショック離脱期間,合併症(臓器障害,不整脈) (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致するランダム化比較試験(RCT)は認めなかった。心機能が正常または低下している敗血症性ショックを対象としたRCT は,アドレナリン投与を対照群,ドブタミン+ノルアドレナリン投与を介入群として比較検討した報告と,アドレナリン+ノルアドレナリン投与を対照群,ドブタミン+ノルアドレナリン投与を介入群として比較検討した報告がある 6, 7)。いずれの報告においても死亡や合併症の発生に差は認められていない。(4)益と害のバランス 望ましい効果: PICO に合致するRCT は認めなかった。心機能が低下している敗血症性ショックにおいては,その死亡率が極めて高いことを鑑みると,強心薬としてドブタミンまたはアドレナリンなどの強心薬を投与することは,投与しない場合に比べて益があると考える。望ましくない効果: PICO に合致するエビデンスはなかった。アドレナリン,ドブタミンでは不整脈などの合併症が発生するため,心機能によっては致死的な合併症となりうる。益と害のバランス: PICO に合致するRCT は存在せず不明であるが,心機能が低下している敗血症性ショックにおいては,その死亡率が極めて高いことを鑑みると,強心薬を投与することの望ましい効果は望ましくない効果を上回ると考える。ただし,心機能によっては強心薬の投与により,重篤な不整脈の出現が懸念され,望ましくない効果が上回る場合もある。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューでは,PICO に合致するRCT は認めなかった。 (6)価値観 死亡率が低下することは,患者・家族は一般的に重視すると考えられる。 (7)容認性 強心薬のドブタミンにかかる薬価は約230 円 / 100 mg であり,アドレナリンは約100 円 / 1mg,ミルリノンは約1,700 円 / 10mg であるため,医療経済への影響は少ないと考える。これらの薬剤は循環動態をモニタリングしながらシリンジポンプで投与するため,医療従事者への負担がやや増加する。Ca 感受性増強薬については,注射用レボシメンダンは本邦での保険適用はなく,経口薬(ピモベンダン)のみ保険適用となっており,敗血症性ショック患者への投与は現段階ではむずかしい。 (8)実行可能性 ドブタミン,アドレナリンは本邦では多くの病院で採用,使用されている薬剤である。投与に際して,シリンジポンプを用いること,循環動態をモニタリングすることが必要であるが,本邦において敗血症性ショックを診療する集中治療室またはそれに準じた施 -S 143-
設であれば,実行可能性に関して問題ないと考える。 (9)判断の要約(Table 6-11-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:79.2%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 5)では,“We suggest using dobutamine in patients who show evidence of persistent hypoperfusion despite adequate fluid loading and the use of vasopressor agents (weak recommendation, low quality of evidence).”とドブタミンの推奨が示されている。J-SSCG 2016 3, 4)では,「十分な輸液とノルアドレナリン投与を行っても循環動態の維持が困難であり,心機能が低下している敗血症性ショックにおいては,ドブタミンを使用することを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス / エビデンスの質「C」)」とドブタミンの推奨が示されている。 (12)実施に関わる検討事項 心機能が低下した敗血症性ショック患者の一部には,強心薬の投与により,重篤な不整脈を発症する可能性があり,慎重な投与または直ちに投与を中止することが必要となる場合がある。(13)今後の研究の可能性 今後,本推奨の根拠となるような心機能が低下した敗血症性ショックに対する強心薬の有効性を検討するRCT や,最適な強心薬の種類,投与量,投与のタイミングなどの検討に関する研究が行われることが望まれる。 文 献 1) Bouhemad B, Nicolas-Robin A, Arbelot C, et al: Acute left ventricular dilatation and shock-induced myocardial dysfunction. Crit Care Med. 2009; 37: 441-7. 2) Romero-Bermejo FJ, Ruiz-Bailen M, Gil-Cebrian J, et al: Sepsisinduced cardiomyopathy. Curr Cardiol Rev. 2011; 7: 163-83. 3) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 4) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 5) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 6) Annane D, Vignon P, Renault A, et al: Norepinephrine plus dobutamine versus epinephrine alone for management of septic shock: a randomised trial. Lancet. 2007; 370: 676-84. 7) Mahmoud KM, Ammar AS: Norepinephrine supplemented with dobutamine or epinephrine for the cardiovascular support of patients with septic shock. Indian J Crit Care Med. 2012; 16: 75-80. Table 6-11-1 判断の要約 -S 144-
CQ6-12:成人敗血症患者に対してβ遮断薬を使 用するか? Answer:敗血症 / 敗血症性ショック患者に対して,初期蘇生輸液などの標準治療でコントロールできない頻拍(頻脈)の管理目的に,短時間作用型β1 アドレナリン受容体遮断薬をモニター監視下で投与することを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。コメント:短時間作用型β1 アドレナリン受容体遮断薬の投与は循環動態の変動を来す恐れがあるため,集中治療室で循環管理に熟練した医師のもとで投与することが望ましい。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症性ショックにおける従来の治療戦略は,主に初期輸液とカテコラミンを含む血管収縮薬,強心薬の投与であった。近年,敗血症性ショックの頻拍に対して心拍数のコントロールを目的にβ1 アドレナリン受容体遮断薬投与の効果を検討した複数の研究があり,初期蘇生における循環動態の改善や必要輸液量の減少,短期死亡率の減少などの報告がある。これは,従来の治療戦略を見直すきっかけとなり,将来の標準治療になりうるため,重要臨床課題であるといえる。 (2)PICO P (患者):成人,敗血症 / 敗血症性ショック患者I (介入):心拍数の管理目的のβ1 アドレナリン受 容体遮断薬を投与するC (対照):従来治療(標準治療) O (アウトカム):短期死亡(28 日もしくは30 日死 亡),長期死亡(90 日死亡,90 日がない場合は最長を用いることを考慮する),入院日数(もしくは,非入院日数),ICU 滞在日数(もしくは, ICU 管理を要した日数),あらゆる重篤な有害事象(徐拍,低血圧,不整脈,臓器障害の進行) (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が2 件施行 1, 2)されていた。Morelli らの研究 1)は,十分な補液とノルアドレナリンにより平均動脈圧65mmHg 以上に維持され,心拍数が95 / 分以上の患者を対象に,エスモロールの持続静注を25mg / 時間で開始し,心拍数80~94 / 分を目標に2,000mg / 時間を上限として96 時間以上使用した非盲検の単施設RCT である。一方,Wang らの研究 2)は,SIRS 診断基準の2 項目を満たし,十分な補 液後にもかかわらず心拍数95 / 分以上の患者を対象に,従来通りの治療を継続したコントロール群,ミルリノンを追加使用した群,ミルリノンとエスモロールを併用した群の3 群で比較した単施設盲検化RCT である。これら2 つのRCT を用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 6-12-1)望ましい効果: 短期死亡のアウトカム(2 RCT: n =244)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり304 人少ない(395 人少ない~190 人少ない)であった。生存患者のICU 滞在日数(1 RCT: n =42)の効果推定値とその信頼区間は,平均(MD)4 日短い(18.06 日短い~ 10.06 日長い),ICU 管理を要した日数(1 RCT: n = 60)はMD 4.1 日長い(1.8 長い~6.4 長い)であった。以上より,望ましい効果は大きいと判断した。望ましくない効果: 重篤な有害事象として徐拍,臓器障害の進展として腎代替療法の施行が報告されていた。徐拍(1 RCT: n =60)は,介入群で30 人中2 人に認め,対照群では発生がなかった。介入群で増加するが,対照群のイベント発生が0 であったため,効果推定値を求めることができなかった。腎代替療法(1 RCT: n =154)の効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり12 人少ない(141 人少ない~175 人多い)であった。以上より,望ましくない効果はわずかと判断した。益と害のバランス: 望ましい効果は大きく,望ましくない効果についてはわずかである。以上より,介入が優位とした。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 益と害の各アウトカムは異なる方向性を示していたため,最も低いエビデンスである「非常に低」を採用した。 (6)価値観 敗血症における頻拍の管理に対する価値観のエビデンスはない。一般的に死亡に対する相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 エビデンスとして採用したRCT は2 本とも海外でエスモロールを使用した研究である。本邦において使用可能なβ遮断薬であるランジオロールの薬価は4,730円 / 50mg,プロプラノロールの薬価は83 円 / 2mg,エス -S 145-
モロールの薬価は3,208 円 / 100mg であり,医療経済への影響はあまり大きくないと考える。ただし,エスモロールの適応は本邦では手術時の上室性頻脈性不整脈に対する使用に限定されており,使用に際しては注意を要する。 (8)実行可能性 本邦の集中治療施設であれば,実行可能である。集中治療施設以外では,実行は困難が予想される。 (9)判断の要約(Table 6-12-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7.5,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 敗血症または敗血症性ショック患者における初期蘇生輸液などの標準治療でコントロールできない頻拍(頻脈)への短時間作用型β1 アドレナリン受容体遮断薬の使用について,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 3, 4)とSSCG 2016 5)ではCQ として取り上げていない。 (12)実施に関わる検討事項 β1 アドレナリン受容体遮断薬の投与は循環動態の変動を来す恐れがある。モニター監視下で従来の治療(標準治療)が十分に行われたうえで,β1 アドレナリン受容体遮断薬を投与することが望ましい。本CQでは,“短時間作用型β1 アドレナリン受容体遮断薬の投与は循環動態の変動を来す恐れがあるため,集中治療室で循環管理に熟練した医師のもとで投与することが望ましい”というエキスパートコンセンサスを加えて提示することとした。 ランジオロールやプロプラノロールについては,採用したRCT で検討されておらず,使用に際しては注意を要する。 (13)今後の研究の可能性 今後,確実な二重盲検下での多施設参加型RCT による評価,β1 アドレナリン受容体遮断薬を使用する時期,投与量の検証,ミルリノン併用の有無に関する検証,本邦で使用可能なβ1 アドレナリン受容体遮断薬の検証に関する研究が行われることが望まれる。 Table 6-12-1 エビデンスプロファイル -S 146-
文 献 1) Morelli A, Ertmer C, Westphal M, et al: Effect of heart rate control with esmolol on hemodynamic and clinical outcomes in patients with septic shock: A randomized clinical trial. JAMA. 2013; 310: 1683-91. 2) Wang Z, Wu Q, Nie X, et al: Combination Therapy with Milrinone and Esmolol for Heart Protection in Patients with Severe Sepsis: A Prospective, Randomized Trial. Clin Drug Investig. 2015; 35: 707-16. 3) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 4) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 5) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. Table 6-12-2 判断の要約 -S 147-
CQ6-13:成人敗血症性ショック患者に対する補 助循環の適応は? Answer:敗血症性ショック患者における心機能不全に対して,静脈-動脈膜型人工肺(veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation: V-A ECMO)や大動脈内バルーンパンピング(intra-aortic balloon pumping: IABP)などの補助循環の効果に関するエビデンスは十分ではなく,適応は検討段階である(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症性ショックでは,血管拡張に伴う相対的血管内容量減少によるショックだけでなく,sepsis-induced myocardial dysfunction(SIMD)と呼ばれる心機能障害を発症し,心拍出量が低下する病態を呈することも知られている。最近,重篤な心機能低下を呈する成人敗血症患者に対して補助循環装置(V-A ECMO,IABPなど)の使用が効果的であったとする報告が散見されるが,有効性に関するエビデンスは明確ではない。敗血症性ショックにおける心機能不全に対する補助循環の適用を提示することは重要と考え,本ガイドラインのCQ として取り上げた。 (2)解説 敗血症性ショックは,血管拡張に伴う相対的血管内容量減少によるショックだけでなく,SIMD あるいは敗血症性心筋症(septic cardiomyopathy)と呼ばれる心機能障害による心原性ショックを呈することもある 1, 2)。心原性ショック症例を対象としたIABP のランダム化比較試験(RCT)(IABP-SHOCK II trial) 3, 4)では,IABP の使用は心原性ショックの予後を改善しておらず,心原性ショックにおける(V-A ECMO)とIABP を比較したメタ解析 5)では,V-A ECMO は安全に使用可能で血行動態を改善したものの,30 日生存率に有意差はなく,出血に関する合併症が多かったと報告されている。一方,本邦の急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017 年改訂版) 6)では,「IABP のルーチンでの使用は推奨されないものの,一般に内科治療に反応しない重症心不全の場合,使用が考慮される」と記載されている。SIMD を呈した敗血症性ショック症例に関して,IABP の使用を検討した報告は極めて少なく,Hiromi ら 7)は,敗血症患者2 症例にIABPを導入し救命できたと報告しているが,Takahashiら 8)の10 症例の検討では,IABP 導入により循環動態は改善するものの28 日生存率は30% であった。SIMD を呈した敗血症性ショック症例に対するV-A ECMO 使用の症例報告や観察研究は散見されるが,生存率に関しては15~70% と大きく異なっている。Huang ら 9)は,V-A ECMO を導入した52 症例を検討し,生存率は15%(8 症例)であったと報告しているが,うち40%(21 症例)の症例でV-A ECMO 導入前に心停止に陥っており,導入時期の問題が予後に大きく影響している可能性がある。Cheng ら 10)はV-A ECMO を導入した151 症例の成人敗血症患者の検討から,生存退院率は29.8% であるが,75 歳以上,進行性悪性腫瘍患者,末期の心不全・腎不全患者,免疫抑制患者(計67 名)を除いて解析すると,生存退院率は42% であったと報告しており,年齢や免疫不全などの病態が予後に大きく影響する可能性を示唆している。一方,Bréchot ら 11)は,14 症例の敗血症性ショック患者(平均駆出率16%,平均心係数1.3L / min / m2)にV-A ECMO を導入し,生存退院率は71.4% で1 年以上の経過観察でも良好なQOL であったと報告している。彼らの報告には比較的若年症例が多く含まれていること(平均年齢45 歳)に留意する必要はあるが,V-A ECMO の有効性を示す結果となっている。Falk ら 12)は,V-A ECMO が導入された37症例(平均年齢54.7 歳)のうち,左室機能低下(平均駆出率25%)の20 症例に限定して検討すると,病院生存率90%,長期生存率は75% であったと報告し, Vogel ら 13)も,敗血症性心筋症(12 例)に対してveno-arterio-venous (VAV) ECMO を導入し,6 か月後の生存率は75% であったと報告している。特にVogelらの報告では,ECMO 導入前に心停止に陥った5 症例(41.7%)も加えた検討であり,ECMO 使用の有効性を十分に示す結果だと思われる。高氏ら 14)は,本邦で2011~2013 年の間に行われたThe Japan Septic Disseminated Intravascular Coagulation(JSEPTIC DIC)研究のサブ解析から,V-A ECMO を導入した30 症例の予後検討を行ったところ,生存退院率が20% であったと報告している。この結果は,世界の報告と比較すると若干低値である。しかし,本邦のARDS に対するV-V ECMO 使用例の生存率は,36%(2009 年)から79%(2016 年)と2 倍以上に改善しており 15),重篤な心機能低下を呈する成人敗血症患者に対するV-A ECMO 使用に関しても,今後,成績の向上が期待できると思われる。これまでの先行研究から,V-A ECMO を導入した成人敗血症性ショック症例の予後因子として,年齢 9),重症心筋障害 16),ECMO 導入前の心停止 16),ショックからECMO 導入までの時間 17)などがあげられているが,それ以外にECMO 装 -S 148-
置の改良や医療スタッフのECMO 装置に対する習熟度なども重要であり,それらを考慮した治療戦略が必要になると思われる。しかし,成人敗血症患者に対するV-A ECMO の報告は未だ十分とはいえず,多くが単一施設での後ろ向き観察研究である。治療の有効性を検討したRCT は未だ行われておらず,現時点で重篤な心機能低下を呈する成人敗血症に対するV-A ECMO やIABP の有効性については,依然検討段階である。 文 献 1) Parker MM, Shelhamer JH, Bacharach SL, et al: Profound but reversible myocardial depression in patients with septic shock. Ann Intern Med. 1984; 100: 483-90. 2) Landesberg G, Gilon D, Meroz Y, et al: Diastolic dysfunction and mortality in severe sepsis and septic shock. Eur Heart J. 2012; 33: 895-903. 3) Thiele H, Zeymer U, Neumann FJ, et al: IABP-SHOCK II Trial In- vestigators: Intraaortic balloon support for myocardial infarction with cardiogenic shock. N Engl J Med. 2012; 367: 1287-96. 4) Thiele H, Zeymer U, Neumann FJ, et al: Intra-aortic balloon pump in cardiogenic shock II (IABP-SHOCK II) trial investigators. Intraaortic balloon counterpulsation in acute myocardial infarction complicated by cardiogenic shock (IABP-SHOCK II) : final 12 month results of a randomised, open-label trial. Lancet. 2013; 382: 1638-45. 5) Cheng JM, den Uil CA, Hoeks SE, et al: Percutaneous left ventricular assist devices vs. intra-aortic balloon pump counterpulsation for treatment of cardiogenic shock: a meta-analysis of controlled trials. Eur Heart J. 2009; 30: 2102-8. 6) 日本循環器学会, 日本心不全学会, 日本胸部外科学会, 他: 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017 年改訂版). Ava i l a b l e o n l i n e at: h t tp:/ / w ww.a s as.or.j p / j h fs / p d f / topics20180323.pdf. 7) Hiromi T, Toida C, Muguruma T, et al: Two cases with intraaortic balloon pumping use for severe septic cardiomyopathy. Acute Med Surg. 2017; 4: 446-50. 8) Takahashi Y, Sonoo T, Naraba H, et al: Effect of Intra-arterial balloon pumping for refractory septic cardiomyopathy: A Case Series. Indian J Crit Care Med. 2019; 23: 182-5. 9) Huang CT, Tsai YJ, Tsai PR, et al: Extracorporeal membrane oxygenation resuscitation in adult patients with refractory septic shock. J Thorac Cardiovasc Surg. 2013; 146: 1041-6. 10) Cheng A, Sun HY, Tsai MS, et al: Predictors of survival in adults undergoing extracorporeal membrane oxygenation with severe infections. J Thorac Cardiovasc Surg. 2016; 152: 1526-36. e1. 11) Bréchot N, Luyt CE, Schmidt M, et al: Venoarterial extracorporeal membrane oxygenation support for refractory cardiovascular dysfunction during severe bacterial septic shock. Crit Care Med. 2013; 41: 1616-26. 12) Falk L, Hultman J, Broman LM: Extracorporeal membrane oxygenation for septic shock. Crit Care Med. 2019; 47: 1097-105. 13) Vogel DJ, Murray J, Czapran AZ, et al: Veno-arterio-venous ECMO for septic cardiomyopathy: a single-centre experience. Perfusion. 2018; 33(1_suppl) : 57-64. 14) 高氏修平, 早川峰司, 大野浩太, 他: 成人重症敗血症・敗血症ショックに対するV-A ECMO についての後ろ向き研究. 日救急医会誌. 2017; 28: 904-9. 15) Ohshimo S, Shime N, Nakagawa S, et al: Comparison of extracorporeal membrane oxygenation outcome for influenza-associated acute respiratory failure in Japan between 2009 and 2016. J Intensive Care. 2018; 6: 38. 16) Park TK, Yang JH, Jeon K, et al: Extracorporeal membrane oxygenation for refractory septic shock in adults. Eur J Cardiothorac Surg. 2015; 47: e68-74. 17) Choi MJ, Ha SO, Kim HS, et al: The simplified acute physiology score II as a predictor of mortality in patients who underwent extracorporeal membrane oxygenation for septic shock. Ann Thorac Surg. 2017; 103: 1246-53. -S 149-
CQ7:ステロイド療法 敗血症は未だ予後不良の病態であり,敗血症バンドルの基本的診療に加えて様々な補助療法(adjunctive therapies)が試みられている。副腎皮質ステロイドは生理的量で抗ストレス作用,高用量では様々な抗炎症作用を発揮することから,特に重症病態の改善を期待して投与されてきた 1, 2)。 2008 年には敗血症などの重症病態下で認められるコルチゾール分泌不全(相対的副腎不全),糖質コルチコイド受容体の減少や組織反応性の低下による糖質コルチコイド活性の低下に対し,「重症関連コルチコステロイド障害(critical illness-related corticosteroid insufficiency: CIRCI)」という概念が提唱され,以後定期的にガイドラインが作成されている 3)。 敗血症に対するステロイド療法は高用量と低用量に二分される。前者に関しては,1980 年代にメチルプレドニゾロン大量投与のランダム化比較試験(RCT)が実施されたが,有効性を示せなかった 4, 5)。一方後者(低用量ヒドロコルチゾン投与)は,2002 年にAnnane らが相対的副腎不全患者に対する有効性をRCT で報告 6)して以降注目され,2004 年のSSCG 初版では,初期輸液負荷に不応性で循環作動薬の投与を要する患者への7 日間投与が推奨された。しかし, 2008 年の大規模RCT(CORTICUS study)では,ショックからの離脱日数が短縮されたものの,死亡率に差がなく 7),SSCG 第2 版以降は推奨を初期輸液負荷および循環作動薬に不応性の敗血症性ショックに限定していた。その後新規RCT がない状況が続いたが, 2018 年に死亡率改善効果なし(ADRENAL trial),およびより重症例に対し改善効果あり(APROCCHSS trial)とする2 つの大規模RCT が同時に公表され 8, 9),本療法が再び脚光を浴びている。今回のガイドライン改定に当たり,我々は「CQ7-1:初期輸液と循環作動薬に反応しない敗血症性ショック患者に対してステロイド(ヒドロコルチゾン)を投与するか?」「CQ7-2:初期輸液と循環作動薬に反応しない敗血症性ショック患者に対して,ヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンを投与するか?」「CQ7-3:ショックに至っていない敗血症患者に対して,ステロイド(ヒドロコルチゾン)を投与するか?」の3CQ を立案し,各々GRADE にもとづくシステマティックレビューを行い,推奨を決定した。 文 献 1) Ronchetti S, Migliorati G, Bruscoli S, et al: Defining the role of glucocorticoids in inflammation. Clin Sci (Lond). 2018; 132: 1529-43. 2) Cain DW, Cidlowski JA: Immune regulation by glucocorticoids. Nat Rev Immunol. 2017; 17: 233-47. 3) Pastores SM, Annane D, Rochwerg B, et al: Guidelines for the Diagnosis and Management of Critical Illness-Related Corticosteroid Insufficiency (CIRCI) in Critically Ill Patients (Part II): Society of Critical Care Medicine (SCCM) and European Society of Intensive Care Medicine (ESICM) 2017. Crit Care Med. 2018; 46: 146-8. 4) Veterans Administration Systemic Sepsis Cooperative Study Group: Effect of high-dose glucocorticoid therapy on mortality in patients with clinical signs of systemic sepsis. N Engl J Med. 1987; 317: 659-65. 5) Bone RC, Fisher CJ Jr, Clemmer TP, et al: A controlled clinical trial of high-dose methylprednisolone in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med. 1987; 317: 653-8. 6) Annane D, Sébille V, Charpentier C, et al: Effect of treatment with low doses of hydrocortisone and fludrocortisone on mortality in patients with septic shock. JAMA. 2002; 288: 862-71. ステロイド療法〔診療フロー〕 -S 150-
7) Sprung CL, Annane D, Keh D, et al: Hydrocortisone therapy for patients with septic shock. N Engl J Med. 2008; 358: 111-24. 8) Venkatesh B, Finfer S, Cohen J, et al: Adjunctive Glucocorticoid Therapy in Patients with Septic Shock. N Engl J Med. 2018; 378: 797-808. 9) Annane D, Renault A, Brun-Buisson C, et al: Hydrocortisone plus Fludrocortisone for Adults with Septic Shock. N Engl J Med. 2018; 378: 809-18. CQ7-1:初期輸液と循環作動薬に反応しない敗 血症性ショック患者に対して,ステロイド(ヒドロコルチゾン)を投与するか? Answer:初期輸液と循環作動薬に反応しない成人の敗血症性ショック患者に対して,ショックからの離脱を目的として,低用量ステロイド(ヒドロコルチゾン)を投与することを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性= 「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 循環作動薬に反応しない敗血症性ショック患者では,相対的副腎不全がショックの遷延に関与している可能性がある。副腎皮質ステロイドであるヒドロコルチゾンの投与は,相対的副腎不全の改善,抗炎症作用,血管収縮作用,昇圧薬への反応性改善などの作用により,ショックからの離脱を補助することが期待される。 敗血症性ショックに対するステロイド投与の有用性については,これまで多数のランダム化比較試験(RCT),システマティックレビューが発表されているが,対象患者・セッティング,使用するステロイドの種類・投与量・投与方法,アウトカム・有害事象設定,解析手法などの差異もあり,研究結果は必ずしも一致していない。ショックからの離脱が期待される一方で合併症の増加の可能性があり,その益と害のバランスについても定まっておらず,個々の患者における使用の適否は,主治医の判断にゆだねられている現状がある。 敗血症性ショックの死亡は高く,生命予後を改善しうる治療法の確立が急務であることから,本CQ は重要度の高いものと考えられる。 (2)PICO P (患者):初期輸液と循環作動薬に反応しない敗血 症性ショック患者I (介入):ステロイド(ヒドロコルチゾン)を投与 するC (対照):ステロイド(ヒドロコルチゾン)を投与 しないO (アウトカム):全原因死亡,ショック離脱,あら ゆる重篤な副作用,あらゆる軽微な副作用 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したRCT が11 件施行 1-11)されており,これらを用い -S 151-
たメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 7-1-1)望ましい効果: 今回,死亡アウトカムはmiddle term mortality(28日死亡),long term mortality(90 日以降の死亡)について解析を行った。Middle term mortality(9 RCT: n = 6,424)に関する効果推定値は1,000 人あたり21 人少ない(95% CI: 40 人少ない~3 人多い),long term mortality(5 RCT: n =5,716)に関する効果推定値は 1,000 人あたり23 人少ない(95% CI: 45 人少ない~4人多い),と望ましい効果は限定的であった。一方,ショックを離脱するまでに要する時間(5 RCT: n = 4,661)に関する効果推定値は平均(MD)31.53 時間短い(95% CI: 36.6 時間短い~26.46 時間短い)と望ましい効果を認めた。この2 つのアウトカムを考慮し,望ましい効果は小さいながらあると判断された。 Table 7-1-1 エビデンスプロファイル -S 152-
望ましくない効果: 重篤な副作用に関する効果推定値は,severe adverse events(3 RCT: n =5,313)において1,000 人あたり10人少ない(95% CI: 23 人少ない~4 人多い),感染症(7 RCT: n =5,825)において1,000 人あたり8 人多い(95% CI: 12 人少ない~31 人多い),消化管出血(6 RCT: n =2,161)において1,000 人あたり6 人多い(95% CI: 13 人少ない~32 人多い)であり,望ましくない効果が増える可能性はわずかである。益と害のバランス: 本CQ においては「ショック離脱」以外のアウトカムに関して望ましい効果は限定的である。一方,望ましくない効果についても,重篤な副作用のアウトカムに差は認めなかった。ショックから離脱するのに要する時間が,低く見積もっても24 時間短縮することが期待できるという結果であり,患者・家族の個人の視点から,その効果のバランスは,おそらく介入が優位とした。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用した重大なアウトカムについて,望ましい効果(効果あり)と,望ましくない効果(効果なし)の両方向のアウトカムが見られるため,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性については,アウトカムの中で最も低い確実性を全体として採用し「非常に低」とした。 (6)価値観 敗血症性ショック患者に対するステロイド(ヒドロコルチゾン)投与において,各アウトカムにおける患 者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 望ましくない効果のエビデンスは少なく,ステロイド(ヒドロコルチゾン)投与に伴う費用は投与量・投与期間により異なるものの,高額ではなく保険適用である。その個人負担額を考えると,患者・家族の個人の視点からおそらく許容できるであろう。道義的・倫理的な観点からも許容されるものと考える。 (8)実行可能性 介入は多くの医療施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 7-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.132 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 においては,適切な輸液蘇生と血管作動薬投与により血行動態の安定が得られなかった場合のみ,1 日200mg のヒドロコルチゾン経静脈投与を「弱く推奨」している。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 でも同様の病態に対し「ショックの離 Table 7-1-2 判断の要約 -S 153-
脱を目的として」投与することが「弱く推奨」されている。今回,新たなRCT を加えてシステマティックレビューを行った結果,前版とほぼ同じ推奨となった。 (12)実施に関わる検討事項 すべての敗血症あるいは敗血症性ショック患者に対する標準的治療としては行わないことが望まれる。また,今回解析に選択されたRCT はすべて低用量ステロイドを用いており,本推奨は低用量ステロイドの使用を前提としている。 (13)今後の研究の可能性 今後,確実に効果が得られる患者亜群の特定と有効かつ安全な投与方法,投与量の確立が必要であろう。 文 献 1) Gordon AC, Mason AJ, Thirunavukkarasu N, et al: Effect of Early Vasopressin vs Norepinephrine on Kidney Failure in Patients With Septic Shock: The VANISH Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016; 316: 509-18. 2) Annane D, Renault A, Brun-Buisson C, et al: Hydrocortisone plus Fludrocortisone for Adults with Septic Shock. N Engl J Med. 2018; 378: 809-18. 3) Annane D, Sébille V, Charpentier C, et al: Effect of treatment with low doses of hydrocortisone and fludrocortisone on mortality in patients with septic shock. JAMA. 2002; 288: 862-71. 4) Arabi YM, Aljumah A, Dabbagh O, et al: Low-dose hydrocortisone in patients with cirrhosis and septic shock: a randomized controlled trial. CMAJ. 2010; 182: 1971-7. 5) Bollaert PE, Charpentier C, Levy B, et al: Reversal of late septic shock with supraphysiologic doses of hydrocortisone. Crit Care Med. 1998; 26: 645-50. 6) Briegel J, Forst H, Haller M, et al: Stress doses of hydrocortisone reverse hyperdynamic septic shock: a prospective, randomized, double-blind, single-center study. Crit Care Med. 1999; 27: 723-32. 7) Gordon AC, Mason AJ, Perkins GD, et al: The interaction of vasopressin and corticosteroids in septic shock: a pilot randomized controlled trial. Crit Care Med. 2014; 42: 1325-33. 8) Lv QQ, Gu XH, Chen QH, et al: Early initiation of low-dose hydrocortisone treatment for septic shock in adults: A randomized clinical trial. Am J Emerg Med. 2017; 35: 1810-4. 9) Oppert M, Schindler R, Husung C, et al: Low-dose hydrocortisone improves shock reversal and reduces cytokine levels in early hyperdynamic septic shock. Crit Care Med. 2005; 33: 2457-64. 10) Sprung CL, Annane D, Keh D, et al: Hydrocortisone therapy for patients with septic shock. N Engl J Med. 2008; 358: 111-24. 11) Venkatesh B, Finfer S, Cohen J, et al: Adjunctive Glucocorticoid Therapy in Patients with Septic Shock. N Engl J Med. 2018; 378: 797-808. CQ7-2:初期輸液と循環作動薬に反応しない敗 血症性ショック患者に対して,ヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンを投与するか?(フルドロコルチゾン:保険適用外使用) Answer:初期輸液と循環作動薬に反応しない成人の敗血症性ショック患者に対して,ヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンの併用投与を弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 循環作動薬に反応しない敗血症性ショック患者では,相対的副腎不全がショックの遷延に関与している可能性がある。CQ7-1 に記載したように,副腎皮質ステロイドであるヒドロコルチゾン投与により,ショックからの離脱が期待される。一方,鉱質コルチコイド受容体は各種の重要臓器に発現し,動物研究においては鉱質コルチコイド投与によるインターロイキン6 (IL-6)値の低下,ショックからの離脱促進,生存率の改善が報告されている 1)。 初期輸液と循環作動薬に反応しない敗血症に対しヒドロコルチゾンを投与する際には,ヒドロコルチゾン単独投与が一般的であり,強い鉱質コルチコイド作用を有する合成コルチコステロイド経口薬のフルドロコルチゾンの併用は一部の施設で行われているにすぎない。現状では,ヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンの併用投与の有効性・有害性の評価は定まっておらず,臨床現場でもその併用投与の判断については多様性がある。 敗血症性ショックの死亡率は高く,生命予後を改善しうる治療法の確立が急務であることから,本CQ は重要度の高いものと考えられる。 (2)PICO P (患者):初期輸液と循環作動薬に反応しない敗血 症性ショック患者I (介入):ヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾン の併用投与C (対照):ヒドロコルチゾンの単独投与あるいはプ ラセボの投与O (アウトカム):全原因死亡,ショック離脱,あら ゆる重篤な合併症,あらゆる軽微な副作用 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が3 件施行 2-4)されて -S 154-
おり,これらを用いたメタ解析を実施した 5)。 (4)益と害のバランス(Table 7-2-1)望ましい効果: 28 日死亡(2 RCT: n =1,540)に関する効果推定値は,1,000 人あたり52 人少ない(95% CI: 4 人少ない~95 人少ない)であり,低いバイアスのリスクの3つのRCT から得られる長期死亡(3 RCT: n =2,049)に関する効果推定値は,1,000 人あたり53 人少ない(95% CI: 11 人少ない~90 人少ない)であった。また,ショックからの離脱(1 RCT: n =299)に関する効果推定値は1,000 人あたり124 人多い(95% CI: 9 人多い~271 人多い)であり,これらの結果から,ヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンの併用投与による望ましい効果は大きいと判断される。望ましくない効果: あらゆる重篤な副作用に関する効果推定値は,新規感染症(3 RCT: n =2,048)において1,000 人あたり33 人多い(95% CI: 35 人少ない~119 人多い),消化管出血(2 RCT: n =1,539)において1,000 人あたり3人少ない(95% CI: 23 人少ない~27 人多い)であり,ヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンの併用投与による望ましくない効果はわずかである。益と害のバランス: ヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンの併用投与による望ましい効果は大きく,一方,望ましくない効果はわずかである。したがって,おそらく介入が優位と考えた。これは,最悪の場合(望ましい効果でCI下限,望ましくない効果でCI 上限)を想定しても同様の判断となる。 Table 7-2-1 エビデンスプロファイル -S 155-
(5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 望ましい効果の効果推定値の方向性は“利益あり”であるが,望ましくない効果の効果推定値の95% CIの上限は“害あり”であるため,利益と害のバランスは不確実である。よって一番低いアウトカムの確実性を全体としては採用した。エビデンスの確実性が一番低い重篤な副作用の「低」を採用し,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「低」とした。 (6)価値観 敗血症性ショック患者に対するヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンの併用投与において,各アウトカムにおける患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 望ましくない効果のエビデンスは少なく,ステロイド(ヒドロコルチゾン)投与に伴う費用は,投与量・投与期間により異なるものの,高額ではなく保険適用である。その個人負担額を考えると,患者・家族の個人の視点からおそらく許容できるであろう。道義的・倫理的な観点からも許容されるものと考える。 (8)実行可能性 介入は多くの医療施設において実行可能である。(9)判断の要約(Table 7-2-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 には推奨の記載がない。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では推奨の記載はないが,フルドロコルチゾン併用投与について検討したRCT において,ヒドロコルチゾン単独投与と比較し予後を改善せず,尿路感染症などの感染症罹患率を有意に増加させたため投与すべきではないとしている。 (12)実施に関わる検討事項 本介入は初期輸液と循環作動薬に反応しない敗血症性ショックに対してのみ行うことが望まれる。また,フルドロコルチゾンの保険適用が塩喪失型先天性副腎皮質過形成症,アジソン病に限定されていることに考慮を要する。 (13)今後の研究の可能性 ヒドロコルチゾン単独投与と本介入の比較(ヒドロコルチゾンに対するフルドロコルチゾンの上乗せ効果)に関して,検討が求められるであろう。 文 献 1) Hicks CW, Sweeney DA, Danner RL, et al: Efficacy of selective mineralocorticoid and glucocorticoid agonists in canine septic Table 7-2-2 判断の要約 -S 156-
shock. Crit Care Med. 2012; 40: 199-207. 2) Annane D, Renault A, Brun-Buisson C, et al: Hydrocortisone plus Fludrocortisone for Adults with Septic Shock. N Engl J Med. 2018; 378: 809-18. 3) Annane D, Sébille V, Charpentier C, et al: Effect of treatment with low doses of hydrocortisone and fludrocortisone on mortality in patients with septic shock. JAMA. 2002; 288: 862-71. 4) Annane D, Cariou A, Maxime V, et al: Corticosteroid treatment and intensive insulin therapy for septic shock in adults: a randomized controlled trial. JAMA. 2010; 303: 341-8. 5) Yamamoto R, Nahara I, Toyosaki M, et al: Hydrocortisone with fludrocortisone for septic shock: a systematic review and metaanalysis. Acute Med Surg. 2020; 7: e563. CQ7-3:ショックに至っていない敗血症患者に 対して,ステロイド(ヒドロコルチゾン)を投与するか? Answer:ショックに至っていない敗血症患者に対して,ヒドロコルチゾンの投与を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 ショックに至っていない敗血症患者においても,ステロイド投与はショックへの進展を予防できる可能性がある。一方で,ステロイドは免疫機能を抑制し,感染症,消化管出血,高血糖などの合併症を起こすリスクも有する。ショックを伴わない敗血症患者に対するステロイド投与の益と害のバランス評価は定まっておらず,同薬の使用は主治医の判断にゆだねられている現状がある。 敗血症は重症化した場合は予後が不良であり,重症化を防ぐ治療法は有益であることから,本CQ は重要と考えられる。 (2)PICO P (患者):ショックに至っていない敗血症患者I (介入):ステロイド(ヒドロコルチゾン)投与C (対照):ステロイド(ヒドロコルチゾン)の非投 与あるいはプラセボの投与O (アウトカム):全原因死亡,ショックへの進展, あらゆる重篤な合併症,あらゆる軽微な副作用 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が3 件施行 1-3)されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 7-3-1)望ましい効果: 28 日死亡(3 RCT: n =437)に関する効果推定値は, 1,000 人あたり2 人少ない(95% CI: 48 人少ない~74人多い)であった。また,ショックへの進展(1 RCT: n =349)に関する効果推定値は1,000 人あたり27 人少ない(95% CI: 94 人少ない~71 人多い)であり,これらの結果からヒドロコルチゾンの投与による望ましい効果はわずかと判断される。望ましくない効果: 長期死亡(2 RCT: n =382)に関する効果推定値は, -S 157-
1,000 人あたり26 人多い(95% CI: 42 人少ない~131人多い)であった。また,あらゆる重篤な副作用に関する効果推定値は,新規感染症(1 RCT: n =375)において1,000 人あたり46 人多い(95% CI: 27 人少ない~157 人多い),消化管出血(1 RCT: n =375)において1,000 人あたり6 人多い(95% CI: 8 人少ない~ 85 人多い)であり,ヒドロコルチゾンの投与による望ましくない効果は小さい。益と害のバランス: 本CQ においては,すべてのアウトカムがヒドロコルチゾン投与の効果なしを示す結果であったため,患者・家族が置く相対的価値の設定によらず,その効果のバランスは介入も比較もいずれも優位でない。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用した重大なアウトカムについて,望ましい効果と,望ましくない効果で効果推定値の方向が異 なっているため,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性については,アウトカムの中で最も低い確実性を全体として採用し「非常に低」とした。 (6)価値観 敗血性患者に対するヒドロコルチゾンの投与において,各アウトカムにおける患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対する相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 有害事象はリスクが低い可能性が高い。介入に伴うコストを考慮し,患者・家族の個人の視点を考慮しても,許容できる介入であると考えられる。 Table 7-3-1 エビデンスプロファイル -S 158-
(8)実行可能性 介入は多くの医療施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 7-3-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.014 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 のいずれにおいても,適切な輸液蘇生と血管作動薬投与により血行動態の安定が得られた患者への投与は非推奨となっている。 (12)実施に関わる検討事項 重症化前からステロイド投与が行われていた患者に対するステロイド継続(慢性疾患に対するステロイドの継続投与)に関しては,本推奨は適応されない。 (13)今後の研究の可能性 なし。 文 献 1) Keh D, Trips E, Marx G, et al: Effect of Hydrocortisone on Development of Shock Among Patients With Severe Sepsis: The HYPRESS Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016; 316: 1775-85. 2) Rinaldi S, Adembri C, Grechi S, et al: Low-dose hydrocortisone during severe sepsis: effects on microalbuminuria. Crit Care Med. 2006; 34: 2334-9. 3) Tongyoo S, Permpikul C, Mongkolpun W, et al: Hydrocortisone treatment in early sepsis-associated acute respiratory distress syndrome: results of a randomized controlled trial. Crit Care. 2016; 20: 329. Table 7-3-2 判断の要約 -S 159-
CQ8:輸血療法 輸血療法は,出血や慢性貧血に対する赤血球の補充,出血傾向に対する止血の促進および出血の予防のための凝固因子や血小板の補充として行われる。人体の一部かつ有限で貴重な資源である血液を原料とする血液製剤による輸血療法は,その効果と感染症やアレルギーなどの有害事象,医療資源の視点から適応を慎重に判断することが重要である。本邦の保険診療においては,厚生労働省の「血液製剤の使用指針 平成31 年改訂版」(以下,厚労省指針)に沿うことが求められている 1)。厚労省指針の中で,赤血球輸血については日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016が引用されており「敗血症患者の貧血に対して,トリガー値をHb 値7g / dL とすることを強く推奨する」と記載されている 2)が,新鮮凍結血漿,血小板濃厚液に関しては敗血症患者を対象とした項目はない 1)。 敗血症では,貧血や凝固障害など輸血療法が必要となる病態を伴うことは稀ではないが,敗血症患者を対象とした輸血療法のエビデンスは限られており,その適応については未だ議論が多い。 赤血球輸血について,J-SSCG 2016 では循環動態が安定した状態における赤血球輸血はCQ の対象とせず,敗血症性ショックを対象として「敗血症性ショックの初期蘇生において,赤血球輸血はヘモグロビン値7g / dL 未満で開始することを推奨する(1B)」としている 2, 3)。SSCG 2016 では,対象を敗血症性ショックに限定せず,敗血症で集中治療を要する患者を対象として,赤血球輸血はヘモグロビン値7g / dL 未満で開始することを推奨している 4, 5)。この推奨はthe transfusion requirements in septic shock(TRISS)trial を始めとするランダム化比較試験(RCT)からの推奨であり,心血管系の基礎疾患をもたない比較的若年の集中治療患者においては,ヘモグロビン値7g / dL 未満で赤血球輸血を開始することは一定のコンセンサスを得ている。一方,実際の臨床においては,高齢者や心血管 系の基礎疾患を有する患者も多く,これらの患者背景やショックの有無を考慮した赤血球輸血を行う必要があるとの考えもある 6)。そこで今回,赤血球輸血に関しては,「CQ8-1:敗血症性ショックの初期蘇生において,赤血球輸血はどのように行うか?」および「CQ8-2:敗血症で循環動態が安定している場合に赤血球輸血はどのように行うか?」を立案し,敗血症の病態ごとに適切な赤血球輸血の開始基準を検討した。 新鮮凍結血漿と血小板濃厚液輸血については, J-SSCG 2016 では「出血傾向がなく外科的処置も要しない場合,凝固異常値を補正する目的では新鮮凍結血漿の投与は行わないことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス / エビデンスなし)」「敗血症において,出血傾向が出現した場合または外科的処置が必要な場合は,本邦の血液製剤の使用指針に沿って血小板輸血を行うことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス / エビデンスなし)」としている 2, 3)。SSCG 2016 の記載も同様であり,敗血症において出血傾向がなく外科的処置を要しない場合には,新鮮凍結血漿や血小板濃厚液輸血を行わないことは一定のコンセンサスを得たと考えられる 3)。しかし,敗血症患者を対象とした新鮮凍結血漿や血小板濃厚液輸血に関しては, J-SSCG 2016,SSCG 2016 とも十分な根拠に基づく推奨の提示ではない。敗血症患者では全身の炎症反応により凝固障害が発生しやすく,DIC(disseminated intravascular coagulation)を合併した場合の予後は不良であり,凝固障害の病態に応じた適切な凝固因子や血小板を補充するべきという考えもある 7)。そこで今回は,「CQ8-3:敗血症に対して新鮮凍結血漿の投与はどのように行うか?」「CQ8-4:敗血症に対して血小板輸血はどのように行うか?」を立案し,敗血症患者における新鮮凍結血漿および血小板輸血の投与基準と投与の考え方について検討した。 輸血療法〔診療フロー〕 -S 160-
文 献 1) 厚生労働省医薬・生活衛生局: 血液製剤の使用指針平成31年3月. 2019. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 3) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 4) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 5) Holst LB, Haase N, Wetterslev J, et al: Lower versus higher hemoglobin threshold for transfusion in septic shock. N Engl J Med. 2014; 371: 1381-91. 6) Docherty A, Walsh TS: Should blood transfusion be individualised? We are not sure. Intensive Care Med. 2015; 41: 1980-2. 7) Lyons PG, Micek ST, Hampton N, et al: Sepsis-associated coagulopathy severity predicts hospital mortality. Crit Care Med. 2018; 46: 736-42. CQ8-1:敗血症性ショックの初期蘇生において, 赤血球輸血はどのように行うか? Answer:敗血症性ショック患者の初期蘇生において,赤血球輸血はヘモグロビン値7g / dL 未満で開始することを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症性ショック期には,組織の低酸素血症や心筋障害を考慮し,より高いヘモグロビン値で組織に十分な酸素を供給したほうが良いという考えもある。一方,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)初版 1)およびJ-SSCG 2016 2, 3)では,敗血症性ショックの初期蘇生において,ヘモグロビン値7g / dL 未満で赤血球輸血を開始することを推奨している。また,厚生労働省の「血液製剤の使用指針」平成31 年改訂版 4)およびSSCG 2016 5)でも,ショック期あるいはショック離脱後などの病態への言及はないが,引用文献よりショック期に関するものと推測される状態において,ヘモグロビン値7g / dL 未満での輸血開始を推奨している。一方で,ヘモグロビン値が不十分な場合に生じると考えられる組織の低酸素血症による虚血性臓器障害のリスクも考慮する必要がある。以上より,敗血症性ショック患者の初期蘇生における赤血球輸血の開始時期は重要な臨床上の課題であり,本ガイドラインにおいて,再度CQ として取り上げた。本CQ の優先度は高いと考える。 (2)PICO P (患者):敗血症性ショック患者I (介入):ヘモグロビン値7g / dL 未満で赤血球輸血 を行うC (対照):ヘモグロビン値10g / dL 未満で赤血球輸 血を行うO (アウトカム):90 日死亡,虚血性臓器障害 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)は1 件 6)のみであった。 (4)益と害のバランス(Table 8-1-1)望ましい効果: システマティックレビューにより対象となったRCT は1 件だけであった。このRCT(n =998)にお -S 161-
ける90 日死亡に関する効果推定値とその信頼区間は, 1,000 人あたり18 人少ない(76 人少ない~45 人多い)であり,ヘモグロビン値7g / dL 未満で赤血球輸血を開始することによる望ましい効果はわずかである。望ましくない効果: システマティックレビューにより対象となったRCT は1 件だけであった。このRCT(n =977)における虚血性イベントに関する効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり8 人少ない(33 人少ない~31 人多い)であり,ヘモグロビン値7g / dL 未満で赤血球輸血を開始することによる望ましくない効果は増えない可能性があり,望ましくない効果はわずかである。益と害のバランス: 1 つのRCT では,赤血球輸血の開始をヘモグロビン値7.0g / dL に制限することが,アウトカム(90 日死亡および虚血性イベント)に対して効果なしを示す結果であったため,その効果のバランスは介入あるいは比較対象のいずれも支持しない。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューにより対象となったRCT は1 件だけであった。2 つのアウトカム(90 日死亡および虚血性イベント)のエビデンスの確実性は「低」である。2 つのアウトカムの方向性(効果なし)は同一方向であるため,アウトカムの中で最も高い確実性を全体として採用し「低」とした。 (6)価値観 輸血に対する考え方は個人により様々であり,宗教上などの理由により輸血を拒む患者・家族もいるが,必要最小限の輸血を行い,輸血の合併症を避けることについては,患者・家族は一般的に重視すると考えられる。(7)容認性 赤血球輸血のためには,施設と地域の体制整備が必要である。また,血液型判定や投与までの管理など,輸血を行うことによる医療従事者の仕事量は増加することが予想される。また,赤血球輸血は,約8,400円 / 血液200mL 相当に由来する赤血球(140mL)であり,赤血球輸血を行うことにより医療コストが増加する。このため,赤血球輸血の開始をヘモグロビン値7.0g / dL に制限することは,これらの負荷を軽減することになる。 (8)実行可能性 赤血球輸血は供給体制の整備が必要であるが,ほぼすべての集中治療室において利用可能であると考えられる。赤血球輸血の開始をヘモグロビン値7.0g / dL に制限することは可能であるが,急な出血や貧血が進行した場合に,夜間・休日の緊急輸血が困難な医療機関や地域では,ヘモグロビン値7.0g / dL 以上でも赤血球輸血を開始することが必要かもしれない。 (9)判断の要約(Table 8-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.178 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 5)では,成人敗血症患者(初期蘇生時や敗血症性ショックなどの記載はない)に対して,心筋虚血,重度の低酸素血症あるいは急性出血などの考慮するべき病態がない場合は,ヘモグロビン値が7.0g / dL未満となったときのみ赤血球輸血を行うことを推奨している(強い推奨 / 質の高いエビデンス)。J-SSCG Table 8-1-1 エビデンスプロファイル -S 162-
2016 2, 3)では,敗血症性ショックの初期蘇生において,赤血球輸血はヘモグロビン値7.0g / dL 未満で開始することを推奨している(強い推奨 / 中程度のエビデンスレベル)。 (12)実施に関わる検討事項 推奨の実施においては,虚血性合併症の有無を評価することが望まれる。右左シャントの存在など慢性的な低酸素血症の存在に伴い,代償的に高ヘモグロビン血症を呈している患者などでは本推奨は適応とならず,個別対応が望まれる。 (13)今後の研究の可能性 敗血症性ショック患者に対する,赤血球輸血に関する有効性を評価したRCT が1 件のみであることが明らかとなった。敗血症性ショック患者に対する赤血球輸血の有効性や有害事象などを検証するさらなるRCT の実施が望まれる。 文 献 1) 日本集中治療医学会Sepsis Registry 委員会: 日本版敗血症診療ガイドライン. 日集中医誌. 2013; 20: 124-73. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 3) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 4) 厚生労働省医薬・生活衛生局: 血液製剤の使用指針. 2017. 5) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 6) Holst LB, Haase N, Wetterslev J, et al: Lower versus higher hemoglobin threshold for transfusion in septic shock. N Engl J Med. 2014; 371: 1381-91. Table 8-1-2 判断の要約 -S 163-
CQ8-2:敗血症で循環動態が安定している場合 に赤血球輸血はどのように行うか? Answer:循環動態が安定している敗血症患者において,赤血球輸血はヘモグロビン値7g / dL 未満で開始することを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 貧血に伴う組織の低酸素障害は,臨床的に重要な問題となることがある。赤血球輸血は,これらへの対応と予防のために行うが,必要以上の輸血は血液製剤投与に伴うアレルギーや感染症のリスクを高める。さらに血液製剤投与に伴う循環への負荷,輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury: TRALI)の発症(赤血球輸血による致死的TRALI の頻度 1: 25,002,000 products) 1)などの危険性もある。このため,貧血に伴う障害を防ぐ最小限の輸血を行うことが重要と考えられる。 循環動態が安定した敗血症患者に対する赤血球輸血開始基準について,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)初版 2)およびSSCG 2012 3)では,ヘモグロビン値7g / dL 未満での輸血開始を推奨した。しかし,この当時は敗血症に対象を限定した臨床研究がなかったため,集中治療を要する患者全体を対象とした研究結果を参考に推奨度を決定した。その後のJ-SSCG 2016 4, 5)では,循環動態が安定した状態における赤血球輸血は一定のコンセンサスが得られていると判断し,CQ として取り上げなかったが,敗血症性ショックの患者に対する赤血球輸血の開始基準を示し,循環動態が安定した敗血症患者に対する赤血球輸血の開始基準を示していないことに対する疑問も出されていた。赤血球輸血の開始基準について,循環動態が安定した状態における開始基準も明確にすることは重要な臨床課題と考え,本ガイドラインで取り上げた。 循環動態が安定した敗血症患者に対する赤血球輸血の開始基準やヘモグロビンの目標値については明確な基準がなく,有効性や有害性の評価も定まっていないため,本CQ の優先度は高いと考える。 (2)PICO P (患者):敗血症患者(敗血症性ショック患者は除 外) I (介入):ヘモグロビン値7g / dL 未満で赤血球輸血 を行うC (対照):ヘモグロビン値10g / dL 未満で赤血球輸血を行う O (アウトカム):病院死亡,ICU 滞在日数,感染性 合併症,輸血関連急性肺障害やアナフィラキシーなどを含むあらゆる重篤な副作用 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するランダム化比較試験(RCT)は存在しなかった。 (4)益と害のバランス望ましい効果: 貧血に伴う組織の低酸素障害は,臨床的に重要な問題となることがあり,赤血球輸血は,これらへの対応と予防のために行うが,必要以上の輸血は,輸血に伴う合併症のリスクを高める。貧血に伴う障害を防ぐ最小限の輸血を行うことは,輸血の効果を得ながら合併症を最小限に抑えることになり,患者に益する可能性が高いと考える。望ましくない効果: 赤血球輸血の開始をヘモグロビン値7.0g / dL に制限することは,虚血性心疾患や心不全を有する一部の患者には,より心臓への負荷を増し有害となる可能性がある。益と害のバランス: PICO に合致するRCT は存在せず不明であるが,患者の状態によってそのバランスは異なると考えられる。高度の心不全や虚血性心疾患がなければ,赤血球輸血の開始をヘモグロビン7.0g / dLに制限することは,益が害を上回るものと考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するRCT は存在しなかった。 (6)価値観 輸血に対する考え方は個人により様々であり,宗教上などの理由により輸血を拒む患者・家族もいるが,必要最小限の輸血を行い,輸血の合併症を避けることについては,患者・家族は一般的に重視すると考えられる。 (7)容認性 赤血球輸血のためには,施設と地域の体制整備が必要である。また,血液型判定や投与までの管理など,輸血を行うことによる医療従事者の仕事量は増加することが予想される。また,赤血球輸血は,約8,400 -S 164-
円 / 血液200mL 相当に由来する赤血球(140mL)であり,赤血球輸血を行うことにより医療コストが増加する。このため,赤血球輸血の開始をヘモグロビン7.0g / dL に制限することは,これらの負荷を軽減することになる。 (8)実行可能性 赤血球輸血は供給体制の整備が必要であるが,ほぼすべての集中治療室において利用可能であると考えられる。赤血球輸血の開始をヘモグロビン7.0g / dL に制限することは可能であるが,急な出血や貧血が進行した場合に,夜間・休日の緊急輸血が困難な医療機関や地域では,ヘモグロビン7.0g / dL 以上でも赤血球輸血を開始することが必要かもしれない。 (9)判断の要約(Table 8-2-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 6)では,成人敗血症患者(循環動態が安定,不安定などの記載はない)に対して,心筋虚血,重度の低酸素血症あるいは急性出血などの考慮するべき病態がない場合は,ヘモグロビン値が7.0g / dL 未満となったときのみ赤血球輸血を行うことを推奨している(強い推奨 / 質の高いエビデンス)。J-SSCG 2016 4, 5)では,循環動態が安定した後の輸血に関する推奨の記載はない。 (12)実施に関わる検討事項 推奨の実施においては,虚血性合併症の有無を評価することが望まれる。右左シャントの存在など慢性的な低酸素血症の存在に伴い,代償的に高ヘモグロビン血症を呈している患者などでは本推奨は適応とならず,個別対応が望まれる。 (13)今後の研究の可能性 循環動態が安定した敗血症患者に対する,赤血球輸血に関する有効性を評価したRCT がないことが明らかとなり,循環動態が安定した状態における赤血球輸血の有効性や有害事象などを検証するRCT の実施が望まれる。 文 献 1) Shaz BH, Stowell SR, Hillyer CD: Transfusion-related acute lung injury: From bedside to bench and back. Blood. 2011; 117: 1463-71. 2) 日本集中治療医学会Sepsis Registry 委員会: 日本版敗血症診療ガイドライン. 日集中医誌. 2013; 20: 124-73. 3) Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al: Surviving sepsis campaign: International guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Crit Care Med. 2013; 41: 580-637. 4) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 5) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 6) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. Table 8-2-1 判断の要約 -S 165-
CQ8-3:敗血症に対して新鮮凍結血漿の投与は どのように行うか? Answer:敗血症患者において,出血傾向を認める,あるいは外科的・侵襲的処置を要するときには,PT・APTT の延長(PT はINR 2.0 以上または活性値30%以下,APTT は各医療機関における基準の上限の2 倍以上または活性値25% 以下)やフィブリノゲン値150mg / dL 未満の場合に,新鮮凍結血漿を投与することを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症患者において凝固障害は高率に合併し,凝固障害を合併した敗血症患者の予後は不良であるとの報告がある 1)。敗血症患者において,出血傾向がある,または外科的処置が必要な場合,凝固異常の改善を目的として新鮮凍結血漿の投与が行われることがある。しかし,観血的処置時を含めて,新鮮凍結血漿の有用性は明らかではない 2, 3)。敗血症患者に対する凝固異常の改善を目的とした新鮮凍結血漿の有効性,有害性の評価は定まっておらず,臨床現場でもその投与判断には多様性がある。以上により,本ガイドラインに取り上げるべき重要臨床課題であると考える。 (2)PICO P (患者):敗血症患者I (介入):あらゆる新鮮凍結血漿の投与(投与開始 値,目標値,投与量,タイミングなどの制限はない) C (対照):非介入O (アウトカム):病院死亡,ICU 滞在日数,感染性 合併症,輸血関連肺障害やアナフィラキシーなどを含むあらゆる重篤な副作用 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するランダム化比較試験(RCT)は存在しなかった。 (4)益と害のバランス望ましい効果: 凝固障害に伴う出血症状や,凝固障害が存在する状態で行う侵襲的介入に伴う出血は,臨床的に重要な問題となることがある。これらへの対応と予防をするために新鮮凍結血漿の投与を行うことは,患者に益する可能性が高いと考える。 望ましくない効果: 出血傾向がなく外科的処置も要しない場合に,新鮮凍結血漿を投与することの害は証明されていないが,血液製剤投与に伴うアレルギーや感染症のリスクは高まる。血液製剤投与に伴い循環への負荷,TRALI の発症(新鮮凍結血漿による致死的TRALI の頻度 1: 2~300,000 products) 4)などの危険性がある。益と害のバランス: PICO に合致するRCT は存在せず益と害のバランスは不明であるが,患者の状態によってそのバランスは異なると考えられる。少なくとも高度の凝固障害による出血症状を伴う場合や侵襲的介入による出血が予想される場合は,新鮮凍結血漿の投与に伴う益が害を上回るものと考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するRCT は存在しなかった。 (6)価値観 死亡率が低下することは,患者・家族は一般的に重視すると考えられる。しかし,輸血に対する考え方は個人により様々であり,宗教上などの理由により輸血を拒む患者・家族もいる。 (7)容認性 新鮮凍結血漿の投与のためには,施設と地域の体制整備が必要である。また,血液型判定や投与までの管理など,医療従事者の仕事量が増加することが予想されるが,その影響は小さいと考えられる。また,新鮮凍結血漿製剤は,約9,000 円 / 血液200mL 相当に由来する血漿(120mL)である。出血傾向がなく外科的処置も要しない場合に,新鮮凍結血漿を投与することにより医療コストが増加する。 (8)実行可能性 新鮮凍結血漿は供給体制の整備が必要であるが,ほぼすべての集中治療室において利用可能であると考えられる。しかし,夜間・休日の緊急輸血が困難な医療機関や地域もある。また,実施に際しては献血由来であることを考慮する必要がある。 (9)判断の要約(Table 8-3-1) -S 166-
(10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:75%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では,CQ9-2 において「出血傾向がなく外科的処置も要しない場合,凝固異常値を補正する目的では新鮮凍結血漿の投与は行わないことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス / エビデンスなし)」を示し,不随するコメントとして,「出血傾向が出現した場合または外科的処置が必要な場合は,本邦の血液製剤の使用指針に沿って新鮮凍結血漿の投与を考慮する」と記載されている 5-7)。 SSCG 2016 では,「We suggest against the use of fresh frozen plasma to correct clotting abnormalities in the absence of bleeding or planned invasive procedures (weak recommendation, very low quality of evidence).」の記載がある 8)。 (12)実施に関わる検討事項 凝固障害の重症度とこれに伴う症状の重篤度により,新鮮凍結血漿の投与による益と害のバランスが異なる可能性がある。 (13)今後の研究の可能性 敗血症患者に対する,新鮮凍結血漿の投与に関する有効性を評価したRCT がないことが明らかとなり,新鮮凍結血漿が死亡率に与える影響や,出血症状への 影響,有害事象などを検証するRCT の早期実施が望まれる。 文 献 1) Lyons PG, Micek ST, Hampton N, et al: Sepsis-associated coagulopathy severity predicts hospital mortality. Crit Care Med. 2018; 46: 736-42. 2) Yang L, Stanworth S, Hopewell S, et al: Is fresh-frozen plasma clinically effective? An update of a systematic review of randomized controlled trials (CME). Transfusion. 2012; 52: 1673-86. 3) Murad MH, Stubbs JR, Gandhi MJ, et al: The effect of plasma transfusion on morbidity and mortality: A systematic review and meta-analysis. Transfusion. 2010; 50: 1370-83. 4) Shaz BH, Stowell SR, Hillyer CD: Transfusion-related acute lung injury: From bedside to bench and back. Blood. 2011; 117: 1463-71. 5) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 6) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 7) 厚生労働省医薬・生活衛生局: 血液製剤の使用指針. 2017. 8) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. Table 8-3-1 判断の要約 -S 167-
CQ8-4:敗血症に対して血小板輸血はどのよう に行うか? Answer:血小板数1 万 / μL 未満,あるいは出血症状を伴う血小板数5 万 / μL 未満の敗血症患者に対して,血小板輸血を行うことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。活動性出血を認める,あるいは外科的・侵襲的処置を要するときには,血小板数5 万 / μL 以上を維持するように血小板輸血を行うことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 血小板減少は敗血症患者に高率に合併し,SOFA スコアにも含まれる臓器障害の1 つである。血小板低下を呈した敗血症患者は,ショック,急性腎障害,出血性有害イベントの合併が高率であり,予後は不良であるとの報告がある 1, 2)。本邦における敗血症患者を対象とした前向き研究においても,血小板減少(< 100,000 / μL)を345 / 1,184 例(29.1%)に認めている 3)。一方,血小板を投与することによる害としては, TRALI などの危険性がある(血小板による致死的TRALI の頻度1:3~400,000 products) 4)。 本邦では,出血傾向がある,または血小板減少を伴い外科的処置が必要な敗血症患者に対して血小板の投与が行われていることが多いが,その有用性は明らかではない。以上より,敗血症患者に対する血小板輸血は本ガイドラインに取り上げるべき重要な臨床課題であると思われる。 血小板輸血の開始基準,目標値と共に,その有効性,有害性の評価は定まっておらず,血小板輸血に関する本CQ の優先度は高いと考える。 (2)PICO P (患者):敗血症患者I (介入):あらゆる血小板輸血(投与開始値,目標 値,投与量,タイミングなどの制限はない) C (対照):非介入O (アウトカム):病院死亡,ICU 滞在日数,感染性 合併症,輸血関連肺障害やアナフィラキシーなどを含むあらゆる重篤な副作用 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューを行ったがPICO に合致するランダム化比較試験(RCT)は存在しなかった。(4)益と害のバランス 望ましい効果: 血小板減少に伴う出血症状や血小板減少時における侵襲的介入に伴う出血は,臨床的に重大な問題となることがある。これらへの対応と予防をするために血小板輸血を行うことは,患者に益する可能性が高いと考える。望ましくない効果: 出血傾向がなく外科的処置も要しない場合に,血小板輸血をすることの害は証明されていないが,血液製剤投与に伴うアレルギーや感染症のリスクは高まる。他の血液製剤と異なり,室温(20~24°C)で保存されており,細菌混入による感染症などに留意する必要がある。また,血液製剤投与に伴う循環への負荷, TRALI(血小板による致死的TRALI の頻度; 1:3~ 400,000 products) 4)などの危険性がある。益と害のバランス: PICO に合致するRCT は存在せず不明であるが,患者の状態によってそのバランスは異なると考えられる。少なくとも高度血小板数低下による出血症状を伴う場合や侵襲的介入による出血が予想される場合は,血小板輸血に伴う益が害を上回るものと考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するRCT は存在しなかった。 (6)価値観 死亡率が低下することは,患者・家族は一般的に重視すると考えられる。しかし,輸血に対する考え方は個人により様々であり,宗教上などの理由により輸血を拒む患者・家族もいる。 (7)容認性 血小板輸血のためには,施設と地域の体制整備が必要である。また,血液型判定や交差適合試験,投与までの管理など,医療従事者の仕事量が増加することが予想されるが,その影響は小さいと考えられる。また,血小板製剤は約80,000 円 / 10 単位(200mL)である。出血傾向がなく外科的処置も要しない場合に,血小板を投与することにより医療コストが増加する。 (8)実行可能性 血小板輸血には供給体制の整備が必要であるが,ほぼすべての集中治療室において利用可能であると考えられる。しかし,夜間・休日の緊急輸血が困難な医療 -S 168-
機関や地域もある。また,実施に際しては献血由来であるとともに,使用期限が短期間の限られた製剤であることを考慮する必要がある。 (9)判断の要約(Table 8-4-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 5)では,敗血症患者において,血小板投与は明らかな出血がない場合は1 万 / μL 未満,深刻な出血のリスクがある場合は2 万 / μL 未満であれば予防的投与を行うことが提案されている。また,活動性の出血がある手術や侵襲的な処置をする場合は5万 / μL 以上にすることが提案されている(弱い推奨 / 非常に低いエビデンスレベル)。 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 6, 7)では,本邦の血液製剤の使用指針(平成28 年一部改正版) 8)に記されている“出血傾向の強く現れる可能性のあるDIC(基礎疾患が白血病,癌,産科的疾患,重症感染症など)で,血小板数が急速に5 万 / μL 未満へと低下し,出血症状を認める場合には,血小板輸血の適応(血栓による臓器症状が強く現れるDIC では,血小板輸血には慎重であるべきである)”を引用し, “出血傾向が出現した場合または外科的処置が必要な場合は,本邦の血液製剤の使用指針に沿って血小板輸血を行うことを弱く推奨する(エキスパートコンセン サス / エビデンスなし)”としている。 (12)実施に関わる検討事項 血小板減少の重症度とこれに伴う症状の重篤度により,血小板輸血による益と害のバランスが異なる可能性がある。 (13)今後の研究の可能性 血小板輸血の有効性を評価する敗血症患者に関するRCT がないことが明らかとなり,血小板輸血が死亡率に与える影響,出血症状への影響,有害事象などを検証するRCT の早期実施が望まれる。 文 献 1) Anderson R, Feldman C: Review manuscript: Mechanisms of platelet activation by the pneumococcus and the role of platelets in community-acquired pneumonia. J Infect. 2017; 75: 473-85. 2) Chen M, Zuo X, Tan Y, et al: Six amino acids of VP1 switch along with pandemic of CV-A6-associated HFMD in Guangxi, southern China, 2010-2017. J Infect. 2019; 78: 323-37. 3) Abe T, Ogura H, Shiraishi A, et al: Characteristics, management, and in-hospital mortality among patients with severe sepsis in intensive care units in Japan: The FORECAST study. Crit Care. 2018; 22: 322. 4) Shaz BH, Stowell SR, Hillyer CD: Transfusion-related acute lung injury: From bedside to bench and back. Blood. 2011; 117: 1463-71. 5) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 6) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 7) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン Table 8-4-1 判断の要約 -S 169-
2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 8) 厚生労働省医薬・生活衛生局: 血液製剤の使用指針. 2017. -S 170-
CQ9:呼吸管理 敗血症は急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)を発症する主因の1 つであり,敗血症による呼吸不全の多くはARDS の発症メカニズムによって引き起こされると考えられる 1)。新たな定義であるSepsis-3 での敗血症患者を母集団とした呼吸不全やARDS の発症率など疫学的データを正確に把握するには至っていないが,本邦においてはSepsis-2 で診断された1,184 例の重症敗血症患者のうち集中治療室入室初日にARDS と診断されたのは193例(18%)であり 2),米国の施設で2015~2017 年に集中治療室に入室しICD-10 で敗血症と診断された1,641 例のうち人工呼吸療法を受けたのは657 例(40%)であった 3)。今後は,Sepsis-3 の定義に基づいた臓器不全の程度に従った死亡率のデータが示され,敗血症患者の呼吸不全においても重症度ごとの予後が示されることが期待される。 敗血症においては代謝が亢進し高熱を生じて酸素需要が高まっている状況にあるため,単純無気肺などによる低酸素性の呼吸不全と異なり,呼吸だけでなく循環にも大きな負担が生じる。したがって,敗血症患者の呼吸管理においても循環不全の状態に常に配慮しながら個々の治療選択をしていかなければならない。これは,人工呼吸療法における陽圧換気や高すぎるPEEP の設定が循環抑制の原因となりうることと大いに関係しており,循環が不安定になりやすい敗血症患者の全身管理においては常に注意を要する点である。 CQ9 呼吸管理においては,敗血症診療における酸 素療法から人工呼吸療法まで幅広く,呼吸管理に関する科学的知見の検討を行った。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では,本邦の3 学会が合同で作成した「ARDS 診療ガイドライン2016」から,人工呼吸管理を対象とした肺保護換気戦略に関する CQ4 つをそのまま抜粋したが,今回のJ-SSCG 2020 ではCQ9 の診療フローに示したように,一般臨床医が治療を進めるうえで重要と考えられる呼吸管理のCQ を敗血症診療の見地から新たに設定し推奨を提示した。 生体の恒常性を維持するためには,全身の細胞への酸素供給が必要十分になされなければならないが,急性期の重症患者におけるいくつかの病態では,過剰な酸素投与が弊害となる危険性が指摘されている 4)。敗血症診療においても,酸素療法や人工呼吸療法での最適な目標SpO2 やPaO2 などの指標が示されれば理想的な呼吸管理が可能となるが,未だ確固たるエビデンスは示されていない。敗血症患者においても,低酸素 血症が持続することは好ましくなく,早急に改善させ,避けるべき病態と考えられるが,日常臨床において過剰な酸素投与の弊害に注意すべきかどうか,未だ不明である。そこで,「成人敗血症患者の呼吸管理において,目標SpO2 をどの範囲にするか?」という CQ9-1 を提示した。 呼吸不全の初期においては低酸素血症を回避するため酸素投与が開始されるが,病状の悪化に伴って酸素の必要量は低流量から高流量へと移行し,酸素投与で不十分となれば,陽圧を用いる非侵襲的人工呼吸(noninvasive ventilation: NIV)が選択されうる。NIVは,呼吸障害による負担を軽減するだけでなく,心原性肺水腫への適用のように,同時に心臓への負担も軽減しうる有効な呼吸循環の治療法として,昨今まで多くの臨床研究がなされ,有効な病態,適応から注意点まで,その方法論が確立されてきた 5)。加えて最近では,死腔洗い出し効果や二次的なPEEP 効果が期待される高流量鼻カニューレを用いた経鼻高流量療法(nasal high-flow therapy: NHFT)も呼吸管理の選択肢の1 つとして注目されている 6, 7)。そのため,CQ9-2として「成人敗血症患者の初期の呼吸不全に対して,非侵襲的人工呼吸(NIV)または経鼻高流量療法(NHFT)を行うか?」という疑問を重要課題として提示し,ネットワークメタ解析(network metaanalysis: NMA)の手法を用いて推奨提示を行った。 敗血症に伴う急性呼吸不全に対して酸素療法やNIVで限界となれば,気管挿管を用いた侵襲的人工呼吸が選択される。この際には,陽圧換気によって生じうる人工呼吸器関連肺傷害 8)や患者の自発呼吸による強い吸気陰圧で惹起される肺傷害であるP-SILI(patient self-inflicted lung injury) 9, 10)を最小限にするような呼吸管理が重要と考えられている。肺保護換気とPEEPの選択に関しては,多くの臨床医が関心をもっているテーマであるため,CQ9-3 として「成人敗血症患者の人工呼吸管理において,肺保護換気戦略を行うか?」, CQ9-4 として「成人敗血症患者の人工呼吸管理におい て,高PEEP 設定を行うか?」といった2 つのCQ を重要課題として挙げた。 敗血症治療が奏効すれば,生体における酸素需要は低下し,同時に肺傷害も軽減してくるため,呼吸状態が改善に転じる。人工呼吸からの離脱を試みる際に,どのように設定変更を行い,どのような基準で離脱可能と判断すべきか,という臨床疑問に対する明確な答えはない。人工呼吸を離脱可能かどうか判断する手法の1 つとして自発呼吸トライアル(spontaneous -S 171-
breathing trial: SBT)があり 11),SBT を含めて離脱のプロセスをプロトコル化するのか,それともプロトコル化しないのかを比較検討することには,臨床判断としては大いに意義がある 12)。そこで,CQ9-5 として「人工呼吸管理となった成人敗血症患者に対して,抜管前に自発呼吸トライアル(SBT)を行うか?」を重要課題として挙げた。一方,抜管を安全に成功させ,再挿管を回避するためには,抜管後の気道クリアランス能力を予測したり 13),人工気道が取り除かれた後の気道開通性を予測するカフリークテストによる評価をしたり 14)といったプロセスも無視できず,陽圧換気による呼吸サポートの必要性の評価と合わせて,気道開通性の評価も同時に行っていくことが重要であ る。 抜管後の再挿管は患者の臨床転帰を悪化させることが報告されているため,抜管後の呼吸不全の発生や再挿管を減らせることができる呼吸管理にはどのようなものがあるのかが考慮されるが,その代表が抜管後の呼吸管理としての予防的NIV 15)と予防的NHFT 16)となる。そこで,CQ9-6 として「人工呼吸管理となった成人敗血症患者に対して,抜管後に予防的な非侵襲的人工呼吸(NIV)または経鼻高流量療法(NHFT)を行うか?」という疑問を重要課題として提示し, NMA の手法を用いて推奨提示を行った。 呼吸管理〔診療フロー〕 -S 172-
人工呼吸器の設定以外での治療オプションについても,呼吸管理班による議論の末にいくつかの臨床疑問が提案され,その中には,肺胞リクルートメント手技を行うか,筋弛緩薬を用いるか,腹臥位療法を行うか,低用量ステロイド投与を行うか,輸液制限を行うか,の5 つが挙げられていた。しかしながら,これらの治療オプションは敗血症患者の呼吸管理に特異的なものばかりではなく,ARDS 患者を対象とした研究がほとんどであるため,委員会での議論の結果,本ガイドラインで検討するCQ からは割愛することとした。本邦において改訂が予定されているARDS 診療ガイドラインの中で検討される項目と想定されており,今後の進捗に期待がもたれる。その他にも,早期リハビリテーションの効果,気管切開のタイミング,ECMO (extracorporeal membrane oxygenation)の効果なども,臨床医が興味を抱く重要な臨床疑問であると考えられる。 文 献 1) Fan E, Brodie D, Slutsky AS: Acute Respiratory Distress Syndrome: Advances in Diagnosis and Treatment. JAMA. 2018; 319: 698-710. 2) Abe T, Ogura H, Shiraishi A, et al: Characteristics, management, and in-hospital mortality among patients with severe sepsis in intensive care units in Japan: the FORECAST study. Crit Care. 2018; 22: 322. 3) Brown RM, Wang L, Coston TD, et al: Balanced Crystalloids versus Saline in Sepsis. A Secondary Analysis of the SMART Clinical Trial. Am J Respir Crit Care Med. 2019; 200: 1487-95. 4) Chu DK, Kim LHY, Young PJ, et al: Mortality and Morbidity in Acutely Ill Adults Treated with Liberal Versus Conservative O x yge n T h e r a py ( I O TA): A S yst e m a t i c Rev i ew a n d Meta-Analysis. Lancet. 2018; 391: 1693-705. 5) MacIntyre NR: Physiologic Effects of Noninvasive Ventilation. Respir Care. 2019; 64: 617-28. 6) Drake MG: High-Flow Nasal Cannula Oxygen in Adults: An Evidence-based Assessment. Ann Am Thorac Soc. 2018; 15: 145-55. 7) Ischaki E, Pantazopoulos I, Zakynthinos S: Nasal High Flow Therapy: A Novel Treatment Rather Than a More Expensive Oxygen Device. Eur Respir Rev. 2017; 26: 170028. 8) Curley GF, Laffey JG, Zhang H, et al: Biotrauma and Ventilator- Induced Lung Injury: Clinical Implications. Chest. 2016; 150: 1109-17. 9) Yoshida T, Amato MBP, Kavanagh BP, et al: Impact of spontaneous breathing during mechanical ventilation in acute respiratory distress syndrome. Curr Opin Crit Care. 2019; 25: 192-8. 10) Spinelli E, Mauri T, Beitler JR, et al: Respiratory drive in the acute respiratory distress syndrome: pathophysiology, monitoring, and therapeutic interventions. Intensive Care Med. 2020; 46: 606-18. 11) Pellegrini JA, Moraes RB, Maccari JG, et al: Spontaneous Breathing Trials With T-Piece or Pressure Support Ventilation. Respir Care. 2016; 61: 1693-703. 12) Wielenga JM, van den Hoogen A, van Zanten HA, et al: Protocolized versus non-protocolized weaning for reducing the duration of invasive mechanical ventilation in newborn infants. Cochrane Database Syst Rev. 2016; 3: CD011106. 13) Jiang C, Esquinas A, Mina B: Evaluation of cough peak expiratory flow as a predictor of successful mechanical ventilation discontinuation: a narrative review of the literature. J Intensive Care. 2017; 5: 33. 14) Ochoa ME, Marín Mdel C, Frutos-Vivar F, et al: Cuff-leak test for the diagnosis of upper airway obstruction in adults: a systematic review and meta-analysis. Intensive Care Med. 2009; 35: 1171-9. 15) Hess DR: The role of noninvasive ventilation in the ventilator discontinuation process. Respir Care. 2012; 57: 1619-25. 16) Ni YN, Luo J, Yu H, et al: Can high-flow nasal cannula reduce the rate of reintubation in adult patients after extubation? A metaanalysis. BMC Pulm Med. 2017; 17: 142. -S 173-
CQ9-1:成人敗血症患者の呼吸管理において, 目標SpO2 をどの範囲にするか? Answer:成人敗血症患者の呼吸管理において,目標SpO2 を高め(98~100%)に設定しないことを弱く推奨する(GRADE 2B:エビデンスの確実性=「中」)。コメント:循環動態が安定していない場合,重度の貧血,あるいは感染症による代謝亢進などで酸素需給バランスが崩れている可能性が存在する状況ではこの限りではない。 (1)背景および本CQ の重要度 成人敗血症患者では高率に呼吸不全を発症しており,時にARDS へと進展し,酸素療法はもちろんのこと人工呼吸管理をも必要とすることが少なくない。心筋梗塞や脳卒中では高濃度の酸素投与に否定的な研究成果が集積されてきているが,敗血症における至適な動脈血酸素飽和度については明確にされていない。敗血症患者の転帰が最善となる酸素療法の指標を探求することは重要な臨床課題となりうる。 (2)PICO P (患者):成人敗血症患者I (介入):目標SpO2 を高めに設定するC (対照):目標SpO2 を低めに設定するO (アウトカム):死亡,臓器障害,感染 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューにおいては,「酸素投与を必要とする重症患者」を対象として論文検索が行われた。その結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が過去に3 件 1-3)施行されており,これら 3 編を用いたメタ解析を実施した。これらの研究における治療方針は敗血症と大きな違いがないことから,エビデンスプロファイルにおける非直接性の評価ではすべてのアウトカムにおいて「深刻ではない」と判断した。 (4)益と害のバランス(Table 9-1-1)望ましい効果: 目標SpO2 を高めに設定することで,呼吸状態の悪化時や気管吸引の際などにおける低酸素の程度や頻度を少なくできるかもしれないが,そのようなアウトカムを検討した報告はないため「分からない」とした。望ましくない効果: 短期死亡(3 RCT,n =673)に関する効果推定値は,目標SpO2 を高めに設定することによりリスク差(RD)1,000 人あたり42 人多い (95% CI: 38 人少ない~156 人多い)と示されている。また,高いSpO2 を目標とすることは,低いSpO2 を目標とすることに比べて,臓器障害(1 RCT,n =434)に関する効果推定値はRD 1,000 人あたり66 人多い (95% CI: 11 人少ない~175 人多い),感染症発生(1 RCT,n =434)に関する効果推定値はRD 1,000 人あたり49 人多い (95% CI: 22 人少ない~153 人多い)と示されている。望ましくない効果は「中」と考えられた。エビデンスの確実性はいずれのアウトカムでも「中」であった。益と害のバランス: 検討したすべてのアウトカムについて,介入(目標SpO2 を高めに設定する)を支持しない方向であったので,「比較(目標SpO2 を低めに設定する)がおそ Table 9-1-1 エビデンスプロファイル(メタ解析) -S 174-
らく優位」と判断した。〈システマティックレビュー期間後に発表された論文について〉 本CQ のテーマは最近のホットトピックスであるため,システマティックレビュー期間後にもいくつかの研究結果が報告されていた。今回のシステマティックレビュー期間後から2020 年2 月までに発表された論文を,本システマティックレビューで使用された検索式を用いてPubMed で簡易スクリーニングを施行したところ,3 編の論文が確認された。そのうちの1 つはもう1 つの大規模研究のpost hoc study であったため,これを除いた2 編 4, 5)の研究内容が今回のシステマティックレビューにどの程度の影響を与えるか追加で検討した。計5 編のメタ解析を施行したところ,高いSpO2 を目標とすることにより,短期死亡(5 RCT, n =1,833)に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり12 人少ない (95% CI: 81 人少ない~81 人多い),臓器障害(3 RCT,n =1,600)に関してはRD 1,000 人あたり12 人多い(95% CI: 51 人少ない~102 人多い),感染症発生(2 RCT,n =635)に関してはRD 1,000人あたり48 人多い(95% CI: 12 人少ない~129 人多い)という結果であった。高いSpO2 を目標とすることで短期死亡は若干少なくなる傾向であったが,臓器障害と感染症発生に関してはもとのシステマティックレビューの結果と同様に増加する傾向が見受けられた。以上より,最近の研究結果を含めて益と害を検討したとしても,本CQ に対する推奨が大きく変わることにはならないと判断した。(5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 エビデンスの確実性はすべてのアウトカムについて「中」であった。 (6)価値観 敗血症患者の目標SpO2 においては,各アウトカムに置く患者や家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対する相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される (7)容認性 SpO2 を低めに管理することは多くの医療者に受け入れ可能と考えられるが,突然の気道トラブルや循環変動を理由にSpO2 を低く管理することに対して拒否的な意見が出るかもしれない。また,酸素流量やFIO2 の調節のためにスタッフの仕事量が若干増えるかもしれない。酸素使用量が節約されるため酸素にかかるコストは減るであろう。アラームを適切に設定しながらSpO2 低下に対処することで,患者や家族の受け入れへの影響は最小限であると考えられる。 (8)実行可能性 SpO2 を低めに管理することは,吸入気酸素濃度や投与酸素流量を微調整することにより施行可能である。 (9)判断の要約(Table 9-1-2) Table 9-1-2 判断の要約 -S 175-
(10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7.0,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:75.0%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 本CQ と類似した成人敗血症患者を対象とした酸素療法に関する推奨を示したガイドラインは見当たらないが,国内では日本呼吸器学会と日本呼吸ケア・リハビリテーション学会で作成された酸素療法マニュアル(旧酸素療法ガイドライン,メディカルレビュー社, 2017 年)において,海外ではBTS guideline for oxygen use in adults(British Thoracic Society) 6)において,いずれも急性期患者における酸素投与の目標を,酸素飽和度モニタリング下にSpO2 94~98%,CO2 ナルコーシスに陥るリスクのあるCOPD(chronic obstructive pulmonary disease)患者では88~92% とすることが推奨されている[best practice statement(エキスパートオピニオン)]。最近報告された集中治療室入室患者の大規模データベースを用いた後方視的観察研究 7)では,死亡率はSpO2 94~98% で最も低くなるU 字型のカーブを示し,94% 以下で明らかに高くなるだけでなく,98% 以上に長くとどまった場合でも死亡リスクは1.2~1.3 倍に増加することが示されており,これらの推奨を支持するデータとなっている。 (12)実施に関わる検討事項 避けるべき高いSpO2 が具体的にどの程度高い値と解釈するかは個人によって様々であるため,推奨には高めのSpO2 をあえて具体的な数値として98~100%と記した。しかし,どの程度高いSpO2 がアウトカムに悪影響を及ぼしているのかを検討した報告はなく,適切な目標SpO2 の範囲に関しては今後のさらなる検討が必要である。また,低酸素血症に至る頻度やそれによる弊害に関しては,報告されている研究がなかったため検討できておらず,こちらに関しても今後のさらなる検討が必要である。 現代の集中治療室ではほぼルーチンにSpO2 が測定されているため,SpO2 の値を指標に投与酸素流量やFIO2 を漫然と高い状態にしないよう調整することは比較的容易である。ただし,敗血症管理においては敗血症性ショックのように循環動態が安定していない場合には,重度の貧血,あるいは感染症による代謝亢進などで酸素需給バランスが崩れている可能性が存在する状況に遭遇することも少なくない。そのような,過度に酸素需要が高まっている状態や酸素供給が低下している状態が予想される場合においては,循環動態が 安定化し酸素需給バランスが立ち直るまでの間,酸素投与を多くまたは酸素濃度を高くするといったことは緊急時において一般的に行われている対処法であり,本推奨はこれを否定するものではない。なお,非侵襲的モニタリングの特性としてSpO2 値に影響を与える病態や干渉物質がいくつか存在するため,連続モニタされているSpO2 が正しくSaO2 を反映しているかどうかを確認する必要がある。 (13)今後の研究の可能性 今後は,重症度・気管挿管のリスク・呼吸不全の原因別に関する検討を行うことが望まれる。今回のメタ解析では十分な数のRCT がなく,合計のサンプル数も足りなかった。一方,本CQ は最近のトピックスであるためシステマティックレビュー期間後にもいくつかの報告がなされており,システマティックレビュー結果への影響が懸念される。そのため,2020 年2 月までの簡易追加検索を行い,新たなRCT 2 編(NEJM 2020)を加えたメタ解析を施行した。結果は,高いSpO2 を目標とすることで短期死亡は若干少なくなる傾向であったが,臓器障害と感染症発生に関してはもとのシステマティックレビューの結果と同様に増加する傾向が見受けられた(詳細は益と害のバランスの項を参照)。同様のリサーチクエスチョンの研究がさらに必要である。 文 献 1) Girardis M, Busani S, Damiani E, et al: Effect of Conservative vs Conventional Oxygen Therapy on Mortality Among Patients in an Intensive Care Unit: The Oxygen-ICU Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016; 316: 1583-9. 2) Panwar R, Hardie M, Bellomo R, et al: Conservative versus Liberal Oxygenation Targets for Mechanically Ventilated Patients. A Pilot Multicenter Randomized Controlled Trial. Am J Respir Crit Care Med. 2016; 193: 43-51. 3) Ranchord AM, Argyle R, Beynon R, et al: High-concentration versus titrated oxygen therapy in ST-elevation myocardial infarction: a pilot randomized controlled trial. Am Heart J. 2012; 163: 168-75. 4) ICU-ROX Investigators the Australian and New Zealand Intensive Care Society Clinical Trials Group, Mackle D, Bellomo R, et al: Conservative Oxygen Therapy during Mechanical Ventilation in the ICU. N Engl J Med. 2020; 382: 989-98. 5) Barrot L, Asfar P, Mauny F, et al: Liberal or Conservative Oxygen Therapy for Acute Respiratory Distress Syndrome. N Engl J Med. 2020; 382: 999-1008. 6) O’Driscoll BR, Howard LS, Earis J, et al: BTS guideline for oxygen use in adults in healthcare and emergency settings. Thorax. 2017; 72(Suppl 1): ii1-90. 7) van den Boom W, Hoy M, Sankaran J, et al: The Search for Optimal Oxygen Saturation Targets in Critically Ill Patients: Observational Data From Large ICU Databases. Chest. 2020; 157: 566-73. -S 176-
CQ9-2:成人敗血症患者の初期の呼吸不全に対 して,非侵襲的人工呼吸(NIV)または経鼻高流量療法(NHFT)を行うか? Answer:成人敗血症患者の初期の呼吸不全に対して,非侵襲的人工呼吸(NIV)もしくは経鼻高流量療法(NHFT)を行うことを弱く推奨する(GRADE 2A:エビデンスの確実性= 「高」)。 (1)背景および本CQ の重要度 種々の原因疾患に伴う急性呼吸不全に対する非侵襲的人工呼吸(non-invasive ventilation: NIV)や経鼻高流量療法(nasal high flow therapy: NHFT)の施行は,世界中で行われているが,敗血症患者における有効性は十分に解明されていない。敗血症患者の初期の呼吸管理では,酸素需給バランスの崩れを補うための酸素化の改善,分時換気量増加に伴う呼吸仕事量の負担軽減などが,人工呼吸を行う目的となりうる。NIV やNHFT の使用により,挿管に伴う不利益を回避することで患者の予後改善につながる可能性がある点で,成人敗血症患者の初期の呼吸不全に対してNIV やNHFT を行うかどうかは重要な臨床課題と考える。 (2)PICO P (患者):成人敗血症患者I (介入) / C(対照):急性低酸素性呼吸不全患者に 以下の呼吸管理デバイスのいずれかを使用 1 NIV:マスク,モード,NIV 時間,ウィーニ ング方法は問わない 2 NHFT:流量,FIO2 は問わない 3. 通常の酸素療法(conventional oxygen therapy: COT):鼻カニュラ,フェイスマスク,ベンチュリーマスク:流量は問わないO (アウトカム):短期死亡(ICU 死亡or 院内死亡 or 研究終了or 90 日以内死亡。最大のものを採択),気管挿管,気管挿管までの時間(hour),感染,インターフェイスによる皮膚障害,不快感 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が24 件 1-24)施行されており,これらを用いたメタ解析およびネットワークメタ解析(network meta-analysis: NMA)を実施した。(4)益と害のバランス(Table 9-2-1, 9-2-2) 望ましい効果: 本CQ はNMA を用いて検討した。短期死亡に関するネットワーク効果推定値(Table 9-2-2)は,COT と比べて,NHFT でリスク差(RD) 1,000 人あたり65 人少ない(95% CI: 95 人少ない~28人多い)[エビデンスの確実性は「中」](5 RCT,n = 1,463),NIV でRD 1,000 人あたり30 人少ない(95% CI: 60 人少ない~3 人多い)[エビデンスの確実性は「低」](14 RCT,n =2,359),そしてNHFT と比べて, NIV でRD 1,000 人あたり8 人少ない(95% CI: 35 人少ない~25 人多い)[エビデンスの確実性は「低」](3 RCT,n =338)であった。 気管挿管の施行に関するネットワーク効果推定値は,COT と比べて,NHFT でRD 1,000 人あたり65 人少ない(95% CI: 95 人少ない~28 人少ない)[エビデンスの確実性は 「中」](6 RCT,n =1,563),NIV でRD 1,000 人あたり60 人少ない (95%CI: 92 人少ない~ 29 人少ない)[エビデンスの確実性は「低」](17 RCT,n =2,506),そしてNHFT と比べて,NIV でRD 1,000 人あたり5 人多い(95% CI: 32 人少ない~46人多い)[エビデンスの確実性は「低」](5 RCT,n =584)であった。 気管挿管までの時間に関するネットワーク効果推定値は,COT と比べて,NHFT で平均(MD)1.15 時間長い(95% CI: 0.21 時間短い~2.09 時間長い)[エビデンスの確実性は「高」](1 RCT,n =200),NIV でMD 0.53 時間長い(95% CI: 0.27 時間短い~0.80 時間長い)[エビデンスの確実性は「高」](2 RCT,n = 284),そしてNHFT と比べて,NIV でMD 0.62 時間長い(95% CI: 1.52 時間短い~0.28 時間長い)[エビデンスの確実性は「中」](2 RCT,n =432)であった。 また,短期死亡におけるsurface under the cumulative ranking(SUCRA)はNIV 77.3,NHFT 64.4,COT 8.3であり,気管挿管におけるSUCRA はNIV 74.5,NHFT 74.7,COT 0.8 であり,気管挿管までの時間におけるSUCRA はNIV 40.3,NHFT 85.2,COT 24.5 であった。望ましくない効果: 今回の検討では,望ましくない効果として検討したアウトカムはすべて「重大」ではなく「重要」との評価であったため,本EtD には含まれなかった。益と害のバランス: NIV やNHFT を適用することにより,挿管に伴う不利益は回避できる可能性がある。しかし,望ましくない効果に関しては検討できていない。インターフェ -S 177-
Table 9-2-1 エビデンスプロファイル(メタ解析) (a) NIV vs. COT (b) NHFT vs. COT -S 178-
イスによる皮膚障害や不快感などの望ましくない効果が可能性として挙げられるが,重要度は低いため,効果のバランスは比較(COT を行う)よりも「おそらく介入(NIV またはNHFT を行う)が優位」と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 エビデンスの方向性としては,短期死亡率と気管挿管までの時間ではすべての比較群において優劣を判断することはできず,気管挿管のアウトカムのみCOTに対してNIV とNHFT で気管挿管を減少させる望ましい効果があった。望ましくない効果に関しては評価できていない。よって,NIV とNHFT の両者を合わせて推奨する方針とした。SUCRA の数値を参考にエビデンスの方向性を判断すると,COT と“NIV またはNHFT”の2 群においてエビデンスの方向性は一致していると考え,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「高」と判断した。 (6)価値観 敗血症患者に対するNIV やNHFT による呼吸管理では,各アウトカムに置く患者や家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 呼吸管理を行うために必要となる要素は,デバイスの有無,デバイスや酸素のコスト,デバイスに対する容認性が挙げられる。NIV,NHFT,COT では一般的な呼吸管理デバイスが用いられており,国内のどの病院においても既に導入されていることが多く,新たな コストは発生しないことが予想される。しかし,デバイスに関わる消耗品に関しては,NIV とNHFT に使用される回路費用として約5,000 円 / 個が必要となるため,医療経済の観点からはCOT のほうがコストを抑えられると考えられる。また,医療従事者の仕事量に関しては,COT に比してNHFT,NHFT に比してNIV において,それぞれの呼吸管理を維持するための仕事量は増大すると考えられる。さらに,デバイスの容認性に関しては,皮膚障害や患者不快感が関与すると考えられるが,どちらも今回の検討では「重大」アウトカムとしては評価できておらず,結論には至っていない。 (8)実行可能性 人工呼吸管理が可能な病院であれば,これらの治療は一般的な呼吸管理方法であり,どの病院においても実行可能性は高いと考えられる。しかし,デバイスがない施設では実施できない。 (9)判断の要約(Table 9-2-3) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 本CQ と類似したテーマを扱っている他のガイドラインは検索する限り見当たらなかった。 Table 9-2-1 エビデンスプロファイル(メタ解析)(つづき) (c)NIV vs. NHFT -S 179-
Table 9-2-2 エビデンスプロファイル(ネットワークメタ解析) (a) 死亡 NIV NHFT -S 180-
Table 9-2-2 エビデンスプロファイル(ネットワークメタ解析)(つづき) (b) 気管挿管 NIV NHFT -S 181-
Table 9-2-2 エビデンスプロファイル(ネットワークメタ解析)(つづき) (c) 気管挿管までの時間 NIV NHFT -S 182-
(12)実施に関わる検討事項 急性呼吸不全患者の初期呼吸管理として,呼吸不全に至った原因ごとに最適な酸素療法デバイスは異なる可能性があるが,本検討では原因別や重症度別での評価はできていない。実臨床では,それらを加味しながら症例に応じた方法を選択するのが良いと考えられる。 (13)今後の研究の可能性 今後は,重症度,気管挿管のリスク,呼吸不全の原因などで分けた検討を行うことが望まれる。 文 献 1) Antonelli M, Conti G, Bufi M, et al: Noninvasive ventilation for treatment of acute respiratory failure in patients undergoing solid organ transplantation: a randomized trial. JAMA. 2000; 283: 235-41. 2) Azoulay E, Lemiale V, Mokart D, et al: Effect of High-Flow Nasal Oxygen vs Standard Oxygen on 28-Day Mortality in Immunocompromised Patients With Acute Respiratory Failure: The HIGH Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018; 320: 2099-107. 3) Bersten AD, Holt AW, Vedig AE, et al: Treatment of severe cardiogenic pulmonary edema with continuous positive airway pressure delivered by face mask. N Engl J Med. 1991; 325: 1825-30. 4) Brambilla AM, Aliberti S, Prina E, et al: Helmet CPAP vs. oxygen therapy in severe hypoxemic respiratory failure due to pneumonia. Intensive Care Med. 2014; 40: 942-9. 5) Cosentini R, Brambilla AM, Aliberti S, et al: Helmet continuous positive airway pressure vs oxygen therapy to improve oxygenation in community-acquired pneumonia: a randomized, controlled trial. Chest. 2010; 138: 114-20. 6) Delclaux C, L’Her E, Alberti C, et al: Treatment of acute hypoxemic nonhypercapnic respiratory insufficiency with continuous positive airway pressure delivered by a face mask: A randomized controlled trial. JAMA. 2000; 284: 2352-60. 7) Doshi P, Whittle JS, Bublewicz M, et al: High-Velocity Nasal Insufflation in the Treatment of Respiratory Failure: A Randomized Clinical Trial. Ann Emerg Med. 2018; 72: 73-83.e5. 8) Shebl E, Embarak S: High-flow nasal oxygen therapy versus noninvasive ventilation in chronic interstitial lung disease patients with acute respiratory failure. Egypt J Chest Dis Tuberc. 2018; 67: 270-5. 9) Ferrer M, Esquinas A, Leon M, et al: Noninvasive ventilation in severe hypoxemic respiratory failure: a randomized clinical trial. Am J Respir Crit Care Med. 2003; 168: 1438-44. 10) Frat JP, Ragot S, Girault C, et al: Effect of non-invasive oxygenation strategies in immunocompromised patients with severe acute respiratory failure: a post-hoc analysis of a randomised trial. Lancet Respir Med. 2016; 4: 646-52. 11) Frat JP, Thille AW, Mercat A, et al: High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure. N Engl J Med. 2015; 372: 2185-96. 12) Gray A, Goodacre S, Newby DE, et al: Noninvasive ventilation in acute cardiogenic pulmonary edema. N Engl J Med. 2008; 359: 142-51. 13) Hilbert G, Gruson D, Vargas F, et al: Noninvasive ventilation in immunosuppressed patients with pulmonary infiltrates, fever, and acute respiratory failure. N Engl J Med. 2001; 344: 481-7. 14) Jones PG, Kamona S, Doran O, et al: Randomized Controlled Trial of Humidified High-Flow Nasal Oxygen for Acute Respiratory Distress in the Emergency Department: The HOT-ER Study. Respir Care. 2016; 61: 291-9. 15) L’Her E, Duquesne F, Girou E, et al: Noninvasive continuous positive airway pressure in elderly cardiogenic pulmonary edema patients. Intensive Care Med. 2004; 30: 882-8. 16) Lemiale V, Mokart D, Mayaux J, et al: The effects of a 2-h trial of high-flow oxygen by nasal cannula versus Venturi mask in immunocompromised patients with hypoxemic acute respiratory failure: a multicenter randomized trial. Crit Care. 2015; 19: 380. 17) Lemiale V, Mokart D, Resche-Rigon M, et al: Effect of Noninvasive Ventilation vs Oxygen Therapy on Mortality Among Immunocompromised Patients With Acute Respiratory Failure: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2015; 314: 1711-9. 18) Levitt MA: A prospective, randomized trial of BiPAP in severe acute congestive heart failure. J Emerg Med. 2001; 21: 363-9. Table 9-2-3 判断の要約 -S 183-
19) Makdee O, Monsomboon A, Surabenjawong U, et al: High-Flow Nasal Cannula Versus Conventional Oxygen Therapy in Emergency Department Patients With Cardiogenic Pulmonary Edema: A Randomized Controlled Trial. Ann Emerg Med. 2017; 70: 465-72.e2. 20) Masip J, Betbesé AJ, Páez J, et al: Non-invasive pressure support ventilation versus conventional oxygen therapy in acute cardiogenic pulmonary oedema: a randomised trial. Lancet. 2000; 356: 2126-32. 21) Park M, Sangean MC, Volpe Mde S, et al: Randomized, prospective trial of oxygen, continuous positive airway pressure, and bilevel positive airway pressure by face mask in acute cardiogenic pulmonary edema. Crit Care Med. 2004; 32: 2407-15. 22) Rittayamai N, Tscheikuna J, Praphruetkit N, et al: Use of High-Flow Nasal Cannula for Acute Dyspnea and Hypoxemia in the Emergency Department. Respir Care. 2015; 60: 1377-82. 23) Wysocki M, Tric L, Wolff MA, et al: Noninvasive pressure support ventilation in patients with acute respiratory failure. A randomized comparison with conventional therapy. Chest. 1995; 107: 761-8. 24) Zhan Q, Sun B, Liang L, et al: Early use of noninvasive positive pressure ventilation for acute lung injury: a multicenter randomized controlled trial. Crit Care Med. 2012; 40: 455-60. CQ9-3:成人敗血症患者の人工呼吸管理におい て,肺保護換気戦略を行うか? Answer:成人敗血症患者の人工呼吸管理において,肺保護換気戦略を行うことを弱く推奨する(GRADE 2B:エビデンスの確実性=「中」)。 (1)背景および本CQ の重要度 重症患者における人工呼吸管理において,人工呼吸器関連肺傷害を来さない管理が患者予後改善のために必須である。人工呼吸器関連肺傷害を引き起こす可能性のある因子として1 回換気量とプラトー圧が示唆されており,それらをある一定基準以内に抑えて呼吸管理を行う肺保護換気の重要性が示唆されているが,成人敗血症患者における有効性は十分に解明されていない。それらの目標値を具体的に検討することは,敗血症診療の専門家だけでなく,非専門家にとっても重要な臨床課題と考えられる。 (2)PICO P (患者):成人敗血症患者I (介入):肺保護換気[低1 回換気量もしくは低プ ラトー圧,もしくはその両者によりプラトー圧がある基準未満となった場合で,PEEP は問わない。Day 1 のみ:1 回換気量はおおよそ4~8mL / kg 理想体重(ideal body weight: IBW)] C (対照):Conventional(上記以外,プラトー圧が ある基準以上となっている場合で,PEEP は問わない:1 回換気量はおおよそ8mL / kg IBW より多い) O (アウトカム):短期死亡(ICU 死亡or 院内死亡 or 研究終了or 90 日以内死亡。最大のものを採択),人工呼吸離脱日数(ventilator-free days: VFD,28 日以内),圧損傷(各論文の定義に従う,気胸も含む。両者がある場合は発生数が多いほうを採択),人工呼吸器関連肺炎(各論文の定義に従う) (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が9 件 1-9)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 9-3-1)望ましい効果: 短期死亡(9 RCT,n =2,422)に関する効果推定値 -S 184-
は,conventional と比較し,肺保護換気でリスク差(RD)1,000 人あたり36 人少ない(95%CI: 88 人少ない~24 人多い)であった。VFD(3 RCT,n =1,911)に関しては平均(MD)1.79 日長い(95%CI: 0.62 日短い~4.2 日長い)であった。望ましい効果は小さいと判断した。短期死亡のエビデンスの確実性は「中」, VFD のエビデンスの確実性は「非常に低」であった。望ましくない効果: 圧損傷(7 RCT,n =2,182)に関する効果推定値は,conventional と比較し,肺保護換気でRD 1,000 人あたり8 人少ない(95%CI: 31 人少ない~28 人多い)であった。望ましくない効果はわずかと判断した。結果の確実性は「非常に低」であった。益と害のバランス: 肺保護換気はVFD に関しては同等,死亡および圧損傷に関しては減少する傾向を示し,検討したアウトカムについては介入を支持する方向であったため,効果のバランスは対照よりも「おそらく介入(肺保護換気)が優位」と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 すべての望ましい効果と望ましくない効果の方向性は一致しており,確実性は「中」あるいは「非常に低」であった。そのため,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「中」と判断した。(6)価値観 敗血症患者に対する肺保護換気においては,各アウトカムに置く患者や家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 一般的な人工呼吸の設定の違いであり,すべての人工呼吸器で実践できるため,新たな資源は必要としない。コストは増加しないため,患者や家族の個人の視点からもおそらく許容できると判断した。また,医療従事者にとっても肺保護換気は人工呼吸設定の重要な要素であり,大きく仕事量が増加することもないため,おそらく許容できると判断した。 (8)実行可能性 肺保護換気のためのパラメータは人工呼吸で一般的に設定できる項目であり,多くの医療施設において実行可能である。新たに人工呼吸器を購入しなければならない医療施設においては,実行可能性のハードルが上がる可能性がある。 (9)判断の要約(Table 9-3-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択さ Table 9-3-1 エビデンスプロファイル -S 185-
れた(7 点以上:100%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 10)では,敗血症に起因するARDS(acute respiratory distress syndrome)の患者では,1 回換気量の目標を12mL / kg IBW ではなく,6mL / kg IBW に設定することが強く推奨されている。また,敗血症に起因する重症ARDS 患者では,プラトー圧の上限は30cmH2O を超えない設定を使用することが強く推奨されている。いずれも具体的数値を示したうえでの強い推奨である。 (12)実施に関わる検討事項 今回は,プラトー圧と1 回換気量に関して検討を行ったが,近年では駆動圧(driving pressure)や経肺圧(transpulmonary pressure)もアウトカムに影響を来すことが示されている。しかし,本メタ解析ではそれらの圧に関しては検討できていないため,自発呼吸を伴う患者や胸郭コンプライアンスが高い患者においては十分に検討できていないことにも注意を要する。 (13)今後の研究の可能性 今後は,プラトー圧と1 回換気量のみならず,駆動圧や経肺圧も加味した検討を行うことが望まれる。 文 献 1) Amato MB , Barbas CS, Medeiros DM, et al: Effect of a protective ventilation strategy on mortality in the acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med. 1998; 338: 347-54. 2) The Acute Respiratory Distress Syndrome Network: Ventilation With Lower Tidal Volumes As Compared With Traditional Tidal Volumes for Acute Lung Injury and the Acute Respiratory Distress Syndrome. N Engl J Med. 2000; 342: 1301-8. 3) Brochard L, Roudot-Thoraval F, Roupiev E, et al: Tidal volume reduction for prevention of ventilator-induced lung injury in acute respiratory distress syndrome. Am J Respir Crit Care Med. 1998; 158: 1831-8. 4) National Heart, Lung, and Blood Institute PETAL Clinical Trials Network, Moss M, Huang DT, et al: Early Neuromuscular Blockade in the Acute Respiratory Distress Syndrome. N Engl J Med. 2019; 380: 1997-2008. 5) Determann RM, Royakkers A, Wolthuis EK, et al: Ventilation with lower tidal volumes as compared with conventional tidal volumes for patients without acute lung injury: a preventive randomized controlled trial. Crit Care. 2010; 14: R1. 6) de Oliveira PR, Hetzel MP, dos Anjos Silva M, et al: Mechanical ventilation with high tidal volume induces inflammation in patients without lung disease. Crit Care. 2010; 14: R39. 7) Simonis FD, Serpa Neto A, Binnekade JM, et al: Effect of a Low vs Intermediate Tidal Volume Strategy on Ventilator-Free Days in Intensive Care Unit Patients Without ARDS: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018; 320: 1872-80. 8) Stewart TE, Meade MO, DJ Cook, et al: Evaluation of a ventilation strategy to prevent barotrauma in patients at high risk for acute respiratory distress syndrome. N Engl J Med. 1998; 338: 355-61. 9) Villar J, Kacmarek RM, Pérez-Méndez L, et al: A high positive end-expiratory pressure, low tidal volume ventilatory strategy improves outcome in persistent acute respiratory distress syndrome: a randomized, controlled trial. Crit Care Med. 2006; 34: 1311-8. 10) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. Table 9-3-2 判断の要約 -S 186-
CQ9-4:成人敗血症患者の人工呼吸管理におい て,高PEEP 設定を行うか? Answer:成人敗血症患者の人工呼吸管理の初期においては高PEEP 設定(PEEP 12cmH2O 以上)を用いないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 重症患者における人工呼吸管理において,人工呼吸器関連肺傷害を来さない管理は患者予後改善のために必須である。人工呼吸器関連肺傷害を引き起こす可能性のある因子として,1 回換気量とプラトー圧のほかに無気肺も示唆されており,無気肺を改善,つまり機能的残気量を増加させるために付与するPEEP が患者予後改善に寄与することが示唆されている。しかし,高いPEEP は気胸の発生や循環抑制などの有害事象発生の一因ともなるため,PEEP 設定が本当に予後改善に寄与するのか,特に人工呼吸管理の初期においてはどれくらいのPEEP が適切なのかを知ることは重要な臨床課題と考えられる。 (2)PICO P (患者):敗血症で人工呼吸管理を必要とする重症患者 I (介入):高PEEP 設定C (対照):低PEEP 設定O (アウトカム):短期死亡(ICU 死亡or 院内死亡 or 研究終了or 90 日以内死亡。最大のものを採択),人工呼吸離脱日数(VFD,28 日以内),圧損傷,PaO2 / FIO2(Day 1~3 の最大値),PEEP による循環不全 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が7 件 1-7)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 9-4-1)望ましい効果: 短期死亡(7 RCT,n =3,657)に関する効果推定値とその信頼区間は,低いPEEP と比べて高PEEP では,リスク差(RD)1,000 人あたり8 人少ない (95% CI: 54 人少ない~47 人多い)であった。一方,VFD(3 RCT,n =1,654)に関する効果推定値は平均(MD) 0.45 日長い(95% CI: 2.02 日短い~2.92 日長い)で あった。望ましい効果はわずかであると判断した。短期死亡のエビデンスの確実性は「中」,VFD のエビデ Table 9-4-1 エビデンスプロファイル -S 187-
ンスの確実性は「非常に低」であった。望ましくない効果: 圧損傷発生率(6 RCT,n =3,457)に関する効果推定値は低PEEP と比べて高PEEP ではRD 1,000 人あたり5 人多い(95% CI: 23 人少ない~53 人多い)であった。また,循環不全発生(1 RCT,n =1,010)に対する効果推定値は高PEEP でRD 1,000 人あたり65人多い (95% CI: 6 人多い~133 人多い)であった。したがって,望ましくない効果は小さいと判断した。圧損傷発生のエビデンスの確実性は「非常に低」,循環不全発生のエビデンスの確実性は「低」であった。益と害のバランス: 望ましい効果としての短期死亡とVFD では,いずれも優劣がつけられなかった。望ましくない効果としての圧損傷には優劣は認めなかったが,循環不全発生に関しては増加する方向性を認めた。1 論文しか対象となっていない循環不全発生のアウトカムの結果だけをもって比較(低PEEP)が介入(高PEEP)と比較して優位とは断定できないが,望ましくない効果と望ましい効果の全体のバランスに鑑みて,望ましくない効果が若干大きいと判断した。なお,エビデンスにおける不正確さは圧損傷においては非常に深刻であったが,そのほかの重大なアウトカムでは深刻ではなかった。以上より,効果のバランスは介入(高PEEP 設定)よりも「比較(低PEEP 設定)がおそらく優位」と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 望ましい効果は「わずか」,望ましくない効果は「小さい」であり,各アウトカムが異なる方向を示すため,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」とした。 (6)価値観 敗血症患者の人工呼吸においては,各アウトカムに置く患者や家族の価値観に関するデータはない。一般的に,望ましい効果として死亡アウトカムやVFD に対して置く相対的価値や,望ましくない効果として,圧外傷に対して置く相対的価値は高くそのばらつきは少ないことが予想される。特に循環不全に関しては敗血症性ショックを助長させる可能性があり,相対的価値は高いと考えられる。 (7)容認性 人工呼吸設定においてPEEP を調整することによるコストの増加はなく,患者や家族の個人および病院経営者や医療政策に関わる人々の視点から,おそらく許容できると判断した。また,PEEP の設定によって,医療従事者の仕事量が大きく増加することがないため,おそらく許容できると判断した。 (8)実行可能性 PEEP は人工呼吸で一般的に設定できる項目であり,多くの医療施設において実行可能である。新たに人工呼吸器を購入しなければならない医療施設においては,実行可能性のハードルが上がる可能性がある。 (9)判断の要約(Table 9-4-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択さ Table 9-4-2 判断の要約 -S 188-
れた(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 8)では,敗血症に起因する中等度から重症のARDS 患者では,低いPEEP よりも高いPEEP の使用が弱く推奨されている。これは,中等度から重症のARDS 患者では,より高いPEEP により死亡率が低下するとのメタ解析の結果に基づく。PEEP を上げることで酸素化が改善する,または,駆動圧が低下する症例では,PEEP の恩恵を受ける可能性がある。ただし,今回の解析とは対象が若干異なることに留意されたい。 (12)実施に関わる検討事項 PEEP の効果は敗血症の重症度により異なる可能性があるが,重症度の低い患者における高PEEP の有効性と害に関しては検討できていない。よって,ARDSに陥った場合には,ARDS の重症度に応じてPEEP を上げることを検討する必要がある。ただし,敗血症性ショックの状態では,高PEEP による循環抑制が強調されると思われるため,特に循環不全を伴う患者では注意を要する。 なお,呼吸不全に至ってから介入までの時間もPEEP による効果と害に影響を与えることが考えられ,実際に本推奨を患者に適用する際には注意する必要がある。また,本推奨は,循環動態が比較的安定しており,酸素化が悪化している患者において,医療者の判断により高めのPEEP を使用することを妨げるものではない。 (13)今後の研究の可能性 今後は,単なるPEEP 値の高低のみならず,APRV (airway pressure release ventilation)などのPEEP 付加の様式による違いやリクルートメント手技併用の有無が,アウトカムに影響を与える可能性を検討することが望まれる。 文 献 1) Amato MBP, Barbas CSV, Medeiros DM, et al: Effect of a protective ventilation strategy on mortality in the acute respiratory distress syndrome. Pneumologie. 1998; 52: 285. 2) The National Heart, Lung, and Blood Institute PETAL Clinical Trials Network: Early Neuromuscular Blockade in the Acute Respiratory Distress Syndrome. N Engl J Med. 2019; 380: 1997-2008. 3) Writing Group for the Alveolar Recruitment for Acute Respiratory Distress Syndrome Trial (ART) Investigators, Cavalcanti AB, SuzumuraÉA, et al: Effect of lung recruitment and titrated Positive End-Expiratory Pressure (PEEP) vs low PEEP on mortality in patients with acute respiratory distress syndrome: A randomized clinical trial. JAMA. 2017; 318: 1335-45. 4) Kacmarek RM, Villar J, Sulemanji D, et al: Open lung approach for the acute respiratory distress syndrome: A pilot, randomized controlled trial. Crit Care Med. 2016; 44: 32-42. 5) Meade MO, Cook DJ, Guyatt GH, et al: Ventilation strategy using low tidal volumes, recruitment maneuvers, and high positive end-expiratory pressure for acute lung injury and acute respiratory distress syndrome: A randomized controlled trial. JAMA. 2008; 299: 637-45. 6) Mercat A, Richard JC, Vielle B, et al: Positive end-expiratory pressure setting in adults with acute lung injury and acute respiratory distress syndrome: A randomized controlled trial. JAMA. 2008; 299: 646-55. 7) Villar J, Kacmarek RM, Pérez-Méndez L, et al: A high positive end-expiratory pressure, low tidal volume ventilatory strategy improves outcome in persistent acute respiratory distress syndrome: A randomized, controlled trial. Crit Care Med. 2006; 34: 1311-8. 8) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. -S 189-
CQ9-5:人工呼吸管理となった成人敗血症患者 に対して,抜管前に自発呼吸トライアル(SBT)を行うか? Answer:人工呼吸管理となった成人敗血症患者に対して,抜管前に自発呼吸トライアル(SBT)を含めた人工呼吸器からのウィーニングのプロトコルを用いることを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症患者の致死率は依然として高く,治療成績を向上させる介入法の確立は急務である。人工呼吸管理においては,人工呼吸器関連肺炎や人工呼吸器関連肺傷害を来さないように早期離脱を試みることが患者の転帰改善のために重要である。日常臨床において,臨床医は抜管後の呼吸状態を過小評価しがちであり,主観的な方法に頼ると離脱が遅れ,人工呼吸が長期化する危険性がある。日々の自発呼吸トライアル(spontaneous breathing trial: SBT)の実施が,人工呼吸器の設定を徐々に変更する方法よりも抜管までの期間を短縮することが報告されているが,現状ではSBT を含めた人工呼吸器からのウィーニングのプロトコルの有効性・有害性の評価は定まっておらず,臨床現場でもその判断については多様性がある。そのため,SBT を含めた人工呼吸器からのウィーニングのためのプロトコルの有用性や具体的な方法を検討することは,敗血症診療の専門家だけでなく,非専門家にとっても重要な臨床課題であると考えられる。(2)PICO P (患者):人工呼吸管理を必要とする患者I (介入):プロトコル化されたウィーニング(SBT を含んだウィーニング) C (対照):プロトコル化されていないウィーニング(SBT 実施なし) O (アウトカム):短期死亡(ICU 死亡or 院内死亡 or 研究終了or 90 日以内死亡。最大のものを採択),再挿管(抜管後48~72 時間以内,NIV 装着を含む),人工呼吸器離脱期間(VFD,28 日以内),ICU 滞在日数 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が10 件 1-10)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 9-5-1)望ましい効果: 短期死亡(8 RCT,n =1,282)に関する効果推定値は,プロトコルなしと比べて,プロトコルありでリスク差(RD)1,000 人あたり10 人少ない(95% CI: 52人少ない~45 人多い)であった。VFD については該当文献がなかった。再挿管(7 RCT,n =1,081)に関する効果推定値は,プロトコルなしと比べて,プロトコルありでRD 1,000 人あたり24 人少ない(95% CI: 61 人少ない~41 人多い)であった。短期死亡も再挿管も減少させる方向性を示したが,その効果はそれほど大きいとはいえないため,「小さい」と判断した。短期死亡,再挿管のエビデンスの確実性はいずれも Table 9-5-1 エビデンスプロファイル(メタ解析) -S 190-
「非常に低」であった。ICU 滞在日数の評価も行ったがアウトカムの重要度は「重要」であったため,今回のEtD の検討には加えていない。望ましくない効果: 今回の検討では,望ましくない効果を示すアウトカムは採用されなかったため評価はできず,「分からない」と判断した。益と害のバランス: SBT を含めた人工呼吸器からのウィーニングのプロトコルは,短期死亡と再挿管いずれに関しても減少させる方向性を示した。望ましくない効果については該当アウトカムがなく評価できていないが,効果バランスは対照(プロトコル化されていないウィーニング)よりも「おそらく介入(プロトコル化されたウィーニング)が優位」であると判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 すべての望ましい効果の方向性は一致しており,確実性はいずれも「非常に低」であった。以上より,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」と判断した。 (6)価値観 敗血症患者に対するSBT を含めた人工呼吸器からのウィーニングのプロトコルにおける,各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。(7)容認性 抜管前の非侵襲的な試験を行うかどうかであり,すべての挿管患者で抜管前に実践できる試験であるため,新たな資源は必要としない。呼吸器設定の変更という単純かつ簡単な介入のため,看護師や医師の労力はそれほど増加しない。コストも増加しないので患者・家族の個人の視点からもおそらく許容できる。 (8)実行可能性 人工呼吸管理における一般的な操作ならびに評価方法であるため,どの病院においても実行可能性は高いといえる。 (9)判断の要約(Table 9-5-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7.5,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 本CQ と類似したテーマを扱っている他のガイドラインは検索する限り見当たらなかった。 (12)実施に関わる検討事項 今回は,初回のSBT を含めた人工呼吸器からのウィーニングに関して検討を行った。よって,複数回にわたりSBT を失敗している患者に対しては,本メタ解析では検討できていないことに注意を要する。また,抜管後呼吸不全を来すリスクなどでの層別解析も Table 9-5-2 判断の要約 -S 191-
できていないことから,すべての患者において本推奨を適用できるかは慎重に判断する必要がある。 (13)今後の研究の可能性 今後は,患者の重症度別,抜管後呼吸不全を来すリスク別,病態別のSBT を含めた人工呼吸器からのウィーニングプロトコルの効果を検討することが望まれる。 文 献 1) Kollef MH, Shapiro SD, Silver P, et al: A randomized, controlled trial of protocol-directed versus physician-directed weaning from mechanical ventilation. Crit Care Med. 1997; 25: 567-74. 2) Marelich GP, Murin S, Battistella F, et al: Protocol weaning of mechanical ventilation in medical and surgical patients by respiratory care practitioners and nurses: effect on weaning time and incidence of ventilator-associated pneumonia. Chest. 2000; 118: 459-67. 3) Namen AM, Ely EW, Tatter SB, et al: Predictors of successful extubation in neurosurgical patients. Am J Respir Crit Care Med. 2001; 163: 658-64. 4) Ma YM, Liu YN, Pan L: The effect of spontaneous breathing trial on weaning from ventilators. Zhonghua Jie He He Hu Xi Za Zhi. 2010; 33: 179-82. 5) Piotto RF, Maia LN, Machado MN, et al: Effects of the use of mechanical ventilation weaning protocol in the Coronary Care Unit: randomized study. Rev Bras Cir Cardiovasc. 2011; 26: 213-21. 6) Roh JH, Synn A, Lim CM, et al: A weaning protocol administered by critical care nurses for the weaning of patients from mechanical ventilation. J Crit Care. 2012; 27: 549-55. 7) Wang J, Ma Y, Fang Q: Extubation with or without spontaneous breathing trial. Crit Care Nurse. 2013; 33: 50-5. 8) Fan L, Su Y, Elmadhoun OA, et al: Protocol-directed weaning from mechanical ventilation in neurological patients: a randomised controlled trial and subgroup analyses based on consciousness. Neurol Res. 2015; 37: 1006-14. 9) Chaiwat O, Sarima N, Niyompanitpattana K, et al: Protocoldirected vs. physician-directed weaning from ventilator in intraabdominal surgical patients. J Med Assoc Thai. 2010; 93: 930-6. 10) Ely EW, Baker AM, Dunagan DP, et al: Effect on the duration of mechanical ventilation of identifying patients capable of breathing spontaneously. N Engl J Med. 1996; 335: 1864-9. CQ9-6:人工呼吸管理となった成人敗血症患者 に対して,抜管後に予防的な非侵襲的人工呼吸(NIV)または経鼻高流量療法(NHFT)を行う か? Answer:人工呼吸管理となった成人敗血症患者に対して,抜管後に通常の酸素療法よりは予防的な非侵襲的人工呼吸(NIV)もしくは経鼻高流量療法(NHFT)を行うことを弱く推奨する(GRADE 2B:エビデンスの確実性=「中」)。 (1)背景および本CQ の重要度 抜管後の呼吸不全の原因には,上気道閉塞や不十分な気道浄化,過剰な気道分泌物,肺水腫,心不全などがある。このような抜管後の呼吸不全が生じると,再挿管を要する可能性がある。抜管後呼吸不全による再挿管では,緊急気管挿管による誤嚥性肺炎の発症や再鎮静による影響などの合併症が生じる可能性があり,人工呼吸期間やICU 滞在日数の延長と関連するため,抜管後の呼吸不全を予防する必要がある。抜管後の呼吸不全の予防のためには,NIV やNHFT などの使用が知られている。抜管後の呼吸不全予防のための呼吸管理を明らかにすることは,敗血症診療の専門家のみならず,非専門家にとっても重要な臨床課題であると考えられる。 (2)PICO P (患者):急性呼吸不全で人工呼吸管理を12 時間 以上必要とし,SBT をクリアした患者I (介入) / C(対照):抜管直後に予防的に以下の呼 吸管理デバイスのいずれかを使用 1 NIV(マスク,モード,NIV 時間,ウィーニ ング方法は問わない) 2 NHFT(流量,FIO2 は問わない) 3 COT(conventional oxygen therapy):鼻カニュ ラ,フェイスマスク,ベンチュリーマスク,流量は問わないO (アウトカム):再挿管(24~72 時間以内の再挿 管),短期死亡(ICU 死亡or 院内死亡or 研究終了or 90 日以内死亡。最大のものを採択),抜管後呼吸不全(各文献ごとの定義),皮膚障害,機器による不快感,乾燥による不快感 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が13 件 1-13)施行され -S 192-
ており,これらを用いたメタ解析およびネットワークメタ解析(NMA)を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 9-6-1,9-6-2)望ましい効果: 本CQ はNMA を用いて検討した。短期死亡に関するネットワーク効果推定値(Table 9-6-2)は,COT と比べて,NHFT でリスク差(RD) 1,000 人あたり12 人少ない(95% CI: 32 人少ない~16人多い)[エビデンスの確実性は「中」](4 RCT,n =802),NIV でRD 1,000 人あたり31 人少ない (95% CI: 53 人少ない~1 人多い)[エビデンスの確実性は「中」](5 RCT,n =784),そしてNHFT と比べて, NIV でRD 1,000 人あたり43 人少ない(95% CI: 102人少ない~32 人多い)[エビデンスの確実性は 「中」] (1 RCT,n =604)であった。 再挿管に関するネットワーク効果推定値は,COTと比べて,NHFT でRD 1,000 人あたり69 人少ない(95% CI: 99 人少ない~12 人少ない)[エビデンスの確実性は「低」](5 RCT,n =862),NIV でRD 1,000人あたり66 人少ない(95% CI: 99 人少ない~1 人少ない)[エビデンスの確実性は「中」](4 RCT,n = 664),そしてNHFT と比べて,NIV でRD 1,000 人あたり16 人多い(95% CI: 109 人少ない~271 人多い) [エビデンスの確実性は非常に「低」](1 RCT,n = 604)であった。 また,短期死亡におけるsurface under the cumulative ranking(SUCRA)はNIV 91.8,NHFT 46.3,COT 11.8であり,再挿管におけるSUCRA はNIV 69.8,NHFT 77.8,COT 2.8 であった。望ましくない効果: 今回の検討では,望ましくない効果として検討したアウトカム(皮膚障害,機器による不快感,乾燥による不快感)の重要度は「重要」との評価であったため,本EtD には含まれなかった。益と害のバランス: NIV やNHFT を適用すれば,挿管に伴う不利益は回避できる可能性がある。しかし,望ましくない効果に関しては検討できていない。インターフェイスによる皮膚障害や不快感などの望ましくない効果が可能性として挙げられるが,重要度は低いために,効果のバランスは比較対照(COT を行う)よりも「おそらく介入(NIV またはNHFT を行う)が優位」と判断した。(5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 エビデンスの方向性としては,気管挿管のアウトカムにおいてのみCOT に対してNIV とNHFT において再挿管を減少させる方向であった。望ましくない効果に関しては評価できていない。よって,NIV とNHFTに優劣はつけられず,両者を合わせて推奨する方針とした。そのような状況において,SUCRA の数値を参考にエビデンスの方向性を判断すると,COT とNIVまたはNHFT の2 群においてエビデンスの方向性は一致していると判断でき,エビデンスの確実性は「重大なアウトカムに関するエビデンスの確実性の中で最も高いグレード」を全体的なエビデンスの確実性とした。したがって,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「中」と判断した。 (6)価値観 抜管後の呼吸管理デバイスの選択では,各アウトカムに置く患者や家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡や再挿管アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 呼吸管理に必要な要素は,デバイスの有無,デバイスや酸素のコスト,デバイスに対する容認性が挙げられる。NIV,NHFT,COT では一般的な呼吸管理デバイスが用いられており,国内のどの病院においても既に導入されていることが多く,新たなコストは発生しないことが予想される。しかし,デバイスに関わる消耗品に関しては,NIV とNHFT に使用される回路費用として約5,000 円 / 個が必要となるため,医療経済の観点からCOT のほうがコストを抑えられると考えられる。また,医療従事者の仕事量に関しては,COTに比してNHFT,NHFT に比してNIV において,その呼吸管理を維持するための仕事量は増大すると考えられる。さらに,デバイスの容認性に関しては,皮膚障害や患者不快感が関与すると考えられるが,どちらも今回の検討では「重大」アウトカムとしては評価できておらず,結論には至っていない。 (8)実行可能性 人工呼吸管理が可能な病院であれば,これらの治療は一般的な呼吸管理方法であり,どの病院においても実行可能性は高いと考えられる。しかし,デバイスがない施設では実施できない。 -S 193-
Table 9-6-1 エビデンスプロファイル(メタ解析) (a)NHFT vs. COT (b)NIV vs. COT (c)NIV vs. NHFT -S 194-
Table 9-6-2 エビデンスプロファイル(ネットワークメタ解析) (a)短期死亡 NIV NHFT -S 195-
Table 9-6-2 エビデンスプロファイル(ネットワークメタ解析)(つづき) (b)再挿管 NIV NHFT -S 196-
Table 9-6-2 エビデンスプロファイル(ネットワークメタ解析)(つづき) (c)抜管後呼吸不全 NIV NHFT -S 197-
(9)判断の要約(Table 9-6-3) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7.5,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 本CQ と類似したテーマを扱っている他のガイドラインは検索する限り見当たらなかった。 (12)実施に関わる検討事項 抜管後にルーチンにどのような酸素療法デバイスを使用するかに関しては,患者の年齢,重症度,挿管リスクの有無も影響する可能性があるが,本検討では抜管後呼吸不全や再挿管のリスク別での評価はなされていない。実臨床では,それらを加味しながら慎重に判断することが望まれる。 (13)今後の研究の可能性 今後は,抜管後呼吸不全,再挿管のリスク,呼吸不全の原因などで分けた検討を行うことが望まれる。 文 献 1) Antonicelli F, Cataldo A, Festa R, et al: High-flow oxygen therapy through nasal cannulae versus low-flow oxygen therapy via Venturi mask after extubation in adult, critically ill patients. Crit Care. 2011; 15: 165. 2) Idone FA, Festa R, Antonicelli F, et al: Nasal high-flow oxygen therapy vs. standard oxygen therapy via Venturi mask after extubation: preliminary results of randomized, controlled trial. Intensive Care Med. 2010; 36: S112. 3) Fernandez R, Subira C, Frutos-Vivar F, et al: High-flow nasal cannula to prevent postextubation respiratory failure in high-risk non-hypercapnic patients: a randomized multicenter trial. Ann Intensive Care. 2017; 7: 47. 4) Ferrer M, Valencia M, Nicolas JM, et al: Early noninvasive ventilation averts extubation failure in patients at risk: a randomized trial. Am J Respir Crit Care Med. 2006; 173: 164-70. 5) H e r n á n d e z G, Va q u e r o C, C o l i n a s L, e t al: E f fe c t o f Postextubation High-Flow Nasal Cannula vs Noninvasive Ventilation on Reintubation and Postextubation Respiratory Failure in High-Risk Patients: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016; 316: 1565-74. 6) Her nández G, Vaquero C, González P, et al: Effect of Postextubation High-Flow Nasal Cannula vs Conventional Oxygen Therapy on Reintubation in Low-Risk Patients: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016; 315: 1354-61. 7) Mohamed KAE, Abdalla MH: Role of non invasive ventilation in limiting re-intubation after planned extubation. Egypt J Chest Dis Tuberc. 2013; 62, 669-74. 8) Maggiore SM, Idone FA, Vaschetto R, et al: Nasal high-flow versus Venturi mask oxygen therapy after extubation. Effects on oxygenation, comfort, and clinical outcome. Am J Respir Crit Care Med. 2014; 190: 282-8. 9) Ornico SR, Lobo SM, Sanches HS, et al: Noninvasive ventilation immediately after extubation improves weaning outcome after acute respiratory failure: a randomized controlled trial. Crit Care. 2013; 17: R39. 10) Arman PD, Varn MN, Povian S, et al: Effects Of Direct Extubation To High-Flow Nasal Cannula Compared To Standard Nasal Cannula In Patients In The Intensive Care Unit. Am J Respir Crit Care Med. 2017; 195: A1887. 11) Song HZ, Gu JX, Xiu HQ, et al: The value of high-flow nasal cannula oxygen therapy after extubation in patients with acute respiratory failure. Clinics (Sao Paulo). 2017; 72: 562-7. 12) Su CL, Chiang LL, Yang SH, et al: Preventive use of noninvasive ventilation after extubation: a prospective, multicenter randomized controlled trial. Respir Care. 2012; 57: 204-10. 13) Thanthitaweewat V, Muntham D, Chirakalwasan N: Targeted- Volume Noninvasive Ventilation Reduces Extubation Failure in Postextubated Medical Intensive Care Unit Patients: A Randomized Controlled Trial. Indian J Crit Care Med. 2018; 22: 639-45. Table 9-6-3 判断の要約 -S 198-
CQ10:痛み ・不穏・せん妄の管理 成人重症患者に対する鎮痛・鎮静に関して2013 年に米国集中治療医学会から公表された「Clinical practice guidelines for the management of pain, agitation, and delirium in adult patients in the intensive care unit」 1)は,痛み・不穏・せん妄の病態管理を目的とした内容で作成されており,それぞれの頭文字(Pain, Agitation, Delirium)から2013 PAD guidelines と略称される。日本集中治療医学会は,2013 PAD guidelines の流れを受けつつも,本邦の状況に合わせた「日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン(J-PAD ガイドライン)」 2)を2014 年に公表した。2013PAD guidelines は,2018 年に「Clinical practice guidelines for the management of pain, agitation / sedation, delirium, immobility, and sleep disruption in adult patients in the ICU(PADIS guidelines)」 3)として改訂された。PADIS guidelines は,不動と睡眠障害の管理の領域が追加されたものの,痛み・不穏・せん妄管理に関しては2013 PAD guidelines を踏襲している。 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 4, 5)の「鎮痛・鎮静・せん妄管理」の内容は,J-PAD ガイドラインの抜粋として作成された。J-SSCG 2020 では,敗血症患者の痛み(pain),不穏(agitation),せん妄(delirium)の管理について6 つのCQ を設定して,新たにGRADE システムに従ってシステマティックレビュー,メタ解析を実施した。本CQ でも敗血症以外の重症患者も含めた研究に拡げて文献を検索した。 痛みの管理に関して本ガイドラインでは「人工呼吸中の成人敗血症患者に対して鎮痛優先のプロトコルに基づく管理を行うことを弱く推奨する」とした。痛みの管理の出発点はルーチンの痛み評価であり, numerical rating scale(NRS),behavioral pain scale (BPS) 6)やcritical-care pain observation tool(CPOT) 7)などの鎮痛スケールを用いて痛みを数値化できる。鎮痛スケールの詳細については,J-PAD ガイドライン 2)を参照されたい。最近の本邦の調査では,鎮痛薬の第一選択薬として89% の施設でフェンタニルが使用されていた 8)。オピオイドには消化管抑制(腸蠕動運動低下や便秘など)や免疫細胞抑制の副作用があるので,過量投与を避けて適正な鎮痛効果に調節することが重要である。鎮痛優先の鎮静法の実践には,短時間作用性の鎮痛薬が適しているので,海外諸国ではレミフェンタニルが選択される報告が多い 9)。本邦ではレミフェンタニルの適応は全身麻酔の鎮痛のみであるが,集中治療での人工呼吸中の鎮痛に適応を拡大する 治験が現在進行中である。 不穏の管理に関して,本ガイドラインでは「敗血症患者の人工呼吸管理中の鎮静薬調整において,1 日1回の鎮静薬中止やプロトコルを用いた鎮静薬の調整によってlight sedation を行うことを弱く推奨する」とした。過剰な鎮静は早期リハビリテーションの妨げともなる。鎮静・不穏の評価スケールとしては,本邦ではRichmond agitation sedation scale(RASS) 10)が97% の施設で広く使用されている 8)。RASS の詳細についてはJ-PAD ガイドライン 2)を参照されたい。1 日1 回の鎮静薬中断とプロトコルによる鎮静薬の調整との間の優劣については明らかではないが,過剰な鎮静を防ぐことができれば両者に大きな差はないとされる。浅い鎮静の至適レベルについてのエビデンスは多くないが,最近の報告ではRASS −2 または−3 の浅い鎮静管理は無鎮静と比べて血栓症が多かったものの,90 日死亡率,人工呼吸期間,ICU 滞在日数,せん妄発生率に差を認めなかった 11)。患者の状態が許す限り深い鎮静レベルを避けることが肝要である。 不穏に対処するための鎮静薬に関して,本ガイドラインでは「敗血症患者における人工呼吸管理中の鎮静薬として,ベンゾジアゼピンよりもプロポフォールやデクスメデトミジンを使用することを弱く推奨する」とした。これまでの研究では,ベンゾジアゼピンとして作用時間が長いロラゼパムやミダゾラムが使用されているので,鎮静作用の遷延が原因の可能性もある。現在は全身麻酔のみが保険適用であるが超短時間作用性のレミマゾラムを用いて検討すれば,集中治療領域での鎮静薬としてベンゾジアゼピンの適否を考察する資料となる。プロポフォールは強い血管拡張作用やpropofol infusion syndrome による小児への投与禁忌,デクスメデトミジンは強い心刺激伝導系抑制など敗血症診療での問題点もあるので,敗血症患者へのベンゾジアゼピンの選択について引き続き検討する必要がある。 せん妄は,敗血症患者の中枢神経系臓器障害の表現型の1 つである。せん妄は,何らかの身体疾患や全身状態の変化に伴って種々の精神症状(意識,注意,知覚の障害)を呈し,原因となった身体疾患が改善すれば精神症状も回復する 4)。時間単位もしくは日単位で比較的急速に発症し症状が変動することが特徴とされ,精神医学的には軽度の意識混濁に種々の程度の意識変容を伴う意識障害の一型で多様な症状を呈する症候群である。人工呼吸管理下の重症患者に発生するせん妄は,患者予後を悪化させる独立危険因子であ -S 199-
る 12)。せん妄に対する診療の第一歩は,せん妄診断ツールを用いた定期的な評価である。本邦でのせん妄診断ツールの利用頻度は,confusion assessment method for the ICU(CAM-ICU) 12)60%,intensive care delirium screening checklist(ICDSC) 13)31% であり,この2 者が広く利用されている。CAM-ICU,ICDSC の詳細についてはJ-PAD ガイドライン 2)を参照されたい。 薬物療法によるせん妄の予防に関して,本ガイドラインでは「成人敗血症患者のせん妄予防にデクスメデトミジンを投与することを弱く推奨するが,ハロペリドール,非定型抗精神病薬,スタチンを投与しないことを弱く推奨する」とした。PADIS guidelines 3)やJ-PAD ガイドライン 2)では,薬物療法によるせん妄予防はすべて否定的であったが,デクスメデトミジンのみはせん妄予防効果を支持する報告もある 14, 15)。せん妄予防効果についてデクスメデトミジンは有望であるが,予防効果が高い患者の状況や病態,発症予防に伴う予後改善の有無,適切な投与速度や投与期間などについてさらに検討を進める必要がある。 薬物療法によるせん妄の治療に関して,本ガイドラインでは「成人敗血症患者のせん妄治療にデクスメデトミジン,ハロペリドール,非定型抗精神病薬を投与しないことを弱く推奨する」とした。本ガイドラインではせん妄に対する薬物療法について予防と治療に分けてCQ を設定したが,予防に比べて治療に関する質の高い臨床研究の数が少なく,せん妄の治療効果を明確に推奨できる薬物は今のところ存在しない。過活動型せん妄患者で不穏により安全が確保できない場合など,十分なエビデンスはないが,症状を緩和する目的でデクスメデトミジンや非定型抗精神病薬が有効なこともある。非薬物療法によるせん妄の予防に関して,本ガイド ラインでは「成人敗血症患者のせん妄予防に非薬物療法を行うことを弱く推奨する」とした。アイマスクや耳栓による睡眠の改善,眼鏡や補聴器による覚醒の促進,音楽や映像によるリラクゼーションなどを単独または組み合わせて施行することにより,せん妄を予防する効果が報告されている。非薬物療法のせん妄予防効果には十分なエビデンスはないが,重大な副作用も想定されないので医療者の仕事量として許容される範囲で実施することを推奨する。 敗血症患者を含む重症患者管理の原則は,「十分な痛み対策を基盤とした必要最低限の鎮静管理と頻回のせん妄評価,可及的速やかなリハビリテーションの実施」 4, 5)と総括されている。本稿では6 つのCQ を設定して最新の論文まで網羅したシステマティックレビューを実施したが,内容が不足する場合はこの領域の診療ガイドラインであるPADIS guidelines 3)やJ-PAD ガイドライン 2)をご参照いただきたい。 文 献 1) Barr J, Fraser GL, Puntillo K, et al: Clinical practice guidelines for the management of pain, agitation, and delirium in adult patients in the intensive care unit. Crit Care Med. 2013; 41: 263-306. 2) Committee for the development of Japanese guidelines for the management of Pain, Agitation, and Delirium in intensive care unit, Japanese Society of Intensive Care Medicine: Japanese guidelines for the management of Pain, Agitation, and Delirium in intensive care unit (J-PAD). J Jpn Soc Intensive Care Med. 2014; 21: 539-79. 3) Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al: Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation / Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018; 46: e825-73. 4) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン PAD管理〔診療フロー〕 -S 200-
2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 5) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 6) Payen JF, Bru O, Bosson JL, et al: Assessing pain in critically ill sedated patients by using a behavioral pain scale. Crit Care Med. 2001; 29: 2258-63. 7) Gélinas C, Fillion L, Puntillo KA, et al: Validation of the criticalcare pain observation tool in adult patients. Am J Crit Care. 2006; 15: 420-7. 8) 日本集中治療医学会J-PAD ガイドライン検討委員会: 集中治療領域における痛み・不穏・せん妄管理の現状調査(2019年). 日集中医誌. 2020; 27: 150-8. 9) Zhu Y, Wang Y, Du B, et al: Could remifentanil reduce duration of mechanical ventilation in comparison with other opioids for mechanically ventilated patients? A systematic review and metaanalysis. Crit Care. 2017; 21: 206. 10) Sessler CN, Gosnell MS, Grap MJ, et al: The Richmond Agitation-Sedation Scale: Validity and reliability in adult intensive care unit patients. Am J Respir Crit Care Med. 2002; 166: 1338-44. 11) Olsen HT, Nedergaard HK, Strøm T, et al: Nonsedation or light sedation in critically ill, mechanically ventilated patients. N Engl J Med. 2020; 382: 1103-11. 12) Ely EW, Inouye SK, Bernard GR, et al: Delirium in mechanically ventilated patients: Validity and reliability of the Confusion Assessment Method for the intensive care unit (CAM-ICU). JAMA. 2001; 286: 2703-10. 13) Bergeron N, Dubois MJ, Dumont M, et al: Intensive care delirium screening checklist: Evaluation of a new screening tool. Intensive Care Med. 2001; 27: 859-64. 14) Flükiger J, Hollinger A, Speich B, et al: Dexmedetomidine in prevention and treatment of postoperative and intensive care unit delirium: a systematic review and meta-analysis. Ann Intensive Care. 2018; 8: 92. 15) Duan X, Coburn M, Rossaint R, et al: Efficacy of perioperative dexmedetomidine on postoperative delirium: systematic review and meta-analysis with trial sequential analysis of randomised controlled trials. Br J Anaesth. 2018; 121: 384-97. CQ10-1:人工呼吸中の成人敗血症患者に対し て,鎮痛優先のプロトコルに基づく管理を行うか? Answer:人工呼吸中の成人敗血症患者に対して,鎮痛優先のプロトコルに基づく管理を行うことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 重症患者において不適切な鎮痛管理は患者に負の影響を与えることが示されている。評価ツールを利用した鎮痛優先のプロトコルによる鎮痛管理によって, ICU アウトカムおよび臨床アウトカムを改善する可能性が示唆されている。鎮痛による利益とリスクのバランスをとることを目的にプロトコル管理を行うか否かは,敗血症診療でも重要臨床課題であるといえる。そのため,本ガイドラインのCQ として取り上げた。 (2)PICO P (患者):敗血症,呼吸不全,心不全,熱傷,大侵 襲手術後などで人工呼吸中の成人重症患者I (介入):鎮痛優先のプロトコル管理C (対照):プロトコル化されていない従来の管理 or 催眠優先のプロトコル管理O (アウトカム):全原因死亡,人工呼吸期間,28 日間の人工呼吸器非使用日数,ICU 滞在日数,重症合併症,せん妄,不穏 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が7 件 1-7)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 10-1-1)望ましい効果: 鎮痛優先のプロトコル管理により全原因死亡(5 RCT: n =1,012)は1,000 人あたり18 人少ない(63人少ない~35 人多い),人工呼吸期間(6 RCT: n = 1,090)は平均(MD)8.99 時間短い(20.66 時間短い~2.68 時間長い),28 日間の人工呼吸器非使用日数(1 RCT: n =113)はMD 4.2 日長い(0.32 日長い~8.08日長い),ICU 滞在日数(6 RCT: n =1,090)はMD 15.15 時間短い(26.08 時間短い~4.22 時間短い)。望 ましい効果は「中」であると考えた。望ましくない効果: 鎮痛優先のプロトコル管理により重症合併症(7 -S 201-
RCT: n =1,296)は1,000 人あたり13 人少ない(36人少ない~19 人多い),せん妄(1 RCT: n =79)は1,000 人あたり55 人少ない(159 人少ない~194 人多い)。望ましくない効果はわずかであると考えた。益と害のバランス: 望ましい効果としてICU 滞在日数,人工呼吸期間, 28 日間の人工呼吸器非使用日数のいずれも介入が優位であった。一方,望ましくない効果の発現頻度に関しても,せん妄は介入によって減少する可能性があった。益と害のバランスとしてはおそらく介入が優位と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したすべてのアウトカムの効果推定値の方向性は介入群優位で一致しているため,一番高いエビデンスの確実性「低」を採用した。 (6)価値観 敗血症患者に対する鎮痛優先のプロトコルに基づく管理における,各アウトカムに係る患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡,ICU 滞在日数,人工呼吸期間に対する相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。(7)容認性 鎮痛薬の増量と催眠薬の削減とによりコストは相殺され,個人負担額への影響は容認できる程度である。プロトコル管理により医療者の負担は増加する可能性があるが,こちらも敗血症の鎮痛鎮静管理として望まれる水準の医療であり,ある程度は容認可能である。 (8)実行可能性 介入は多くの医療施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 10-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:100%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 8)では,人工呼吸中の成人患者では,鎮痛を優先に行う鎮静法(analgesia-first sedation)を行うことを弱く推奨している(2B)。PADIS ガイドライン 9)では,「成人ICU 患者の痛み管理はルーチンの痛み評価のもと Table 10-1-1 エビデンスプロファイル -S 202-
に行われるべきで,鎮静薬が考慮される以前に痛みの治療が行われるべきである(Good Practice Statement)」と記述している。また,「成人重症患者における鎮痛鎮静管理は,評価をもとにしたプロトコルに基づく,段階的な手法で行うことを提案する(条件付き推奨,中等度の質のエビデンス)」と記述している。 (12)実施に関わる検討事項 プロトコルの内容に関して明確な提示はできず,各施設の実情に合わせたプロトコルを作成する必要がある。 (13)今後の研究の可能性 鎮痛優先のプロトコルによりアウトカムが改善する病態や重症度を検証する必要がある。特に敗血症患者を対象とした研究が期待される。 鎮痛優先のプロトコルに適した鎮痛薬として, J-PAD ガイドライン 10),PADIS ガイドライン 9)ではオピオイドを第一選択としているが,オピオイドの特定薬剤を推奨するには至っていない。本邦では,人工呼吸中のオピオイドとしてフェンタニルが大多数の症例で使用されている。そこでJ-SSCG 2020 の作成にあたり,「人工呼吸中の成人敗血症患者の痛みに対して,オピオイドの中でもフェンタニルを優先的に投与するか?」をCQ に選定し,介入を「オピオイドとしてフェンタニルを用いた鎮痛管理」,比較対象を「フェンタニル以外(レミフェンタニル,モルヒネ)のオピオイドによる鎮痛管理」としてシステマティックレビューを実施した。5 つのRCT 4, 11-14)が抽出されメタ解析を行った結果,死亡,人工呼吸期間,ICU 滞在 日数,重症合併症のアウトカムにおいてフェンタニルの優位性は認められず,せん妄の発生が増える可能性が示唆された。しかし,標準薬であるフェンタニルの使用を推奨しない根拠も得られなかったため,ガイドラインとして明確な指針を示すことが困難と判断し,このCQ を取り下げることとなった。 レミフェンタニルを介入とし,フェンタニル,モルヒネ,アルフェンタニル,スフェンタニルを比較対照としたシステマティックレビュー・メタ解析の報告 15)では,人工呼吸時間の短縮と鎮静薬投与終了から抜管までの時間短縮によりレミフェンタニル優位とされているが,広く合意されるまでには至っていない。本邦では,レミフェンタニルは人工呼吸中の鎮痛薬として認可されていないが,現在,適応拡大の治験が実施されている。本邦の診療環境において,フェンタニルとレミフェンタニルの効果を比較する介入研究の実施が期待される。 文 献 1) Breen D, Karabinis A, Malbrain M, et al: Decreased duration of mechanical ventilation when comparing analgesia-based sedation using remifentanil with standard hypnotic-based sedation for up to 10 days in intensive care unit patients: a randomised trial [ISRCTN47583497]. Crit Care. 2005; 9: R200-10. 2) Brook AD, Ahrens TS, Schaiff R, et al: Effect of a nursing-implemented sedation protocol on the duration of mechanical ventilation. Crit Care Med. 1999; 27: 2609-15. 3) Bucknall TK, Manias E, Presneill JJ: A randomized trial of protocol-directed sedation management for mechanical ventilation in an Australian intensive care unit. Crit Care Med. 2008; 36: 1444-50. 4) Karabinis A, Mandragos K, Stergiopoulos S, et al: Safety and Table 10-1-2 判断の要約 -S 203-
efficacy of analgesia-based sedation with remifentanil versus standard hypnotic-based regimens in intensive care unit patients with brain injuries: a randomised, controlled trial [ISRCTN 50308308]. Crit Care. 2004; 8: R268-80. 5) Muellejans B, Matthey T, Scholpp J, et al: Sedation in the intensive care unit with remifentanil / propofol versus midazolam / fentanyl: a randomised, open-label, pharmacoeconomic trial. Crit Care. 2006; 10: R91. 6) Rozendaal FW, Spronk PE, Snellen FF, et al: Remifentanilpropofol analgo-sedation shortens duration of ventilation and length of ICU stay compared to a conventional regimen: a centre randomised, cross-over, open-label study in the Netherlands. Intensive Care Med. 2009; 35: 291-8. 7) Strøm T, Martinussen T, Toft P: A protocol of no sedation for critically ill patients receiving mechanical ventilation: a randomised trial. Lancet. 2010; 375: 475-80. 8) Nishida O, Ogura H, Egi M, et al: The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2016 (J-SSCG 2016). J Intensive Care. 2018; 6: 7. 9) Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al: Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation / Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018; 46: e825-73. 10) 日本集中治療医学会J-PAD ガイドライン作成委員会: 日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン. 日集中医誌. 2014; 21: 539-79. 11) Liu D, Lyu J, Zhao H, et al: The influence of analgesic-based sedation protocols on delirium and outcomes in critically ill patients: A randomized controlled trial. PLoS ONE. 2017; 12: e0184310. 12) Muellejans B, López A, Cross MH, et al: Remifentanil versus fentanyl for analgesia based sedation to provide patient comfort in the intensive care unit: a randomized, double-blind controlled trial [ISRCTN43755713]. Crit Care. 2004; 8: R1-11. 13) Oliver WC Jr, Nuttall GA, Murari T, et al: A prospective, randomized, double-blind trial of 3 regimens for sedation and analgesia after cardiac surgery. J Cardiothorac Vasc Anesth. 2011; 25: 110-9. 14) Spies C, Macguill M, Heymann A, et al: A prospective, randomized, double-blind, multicenter study comparing remifentanil with fentanyl in mechanically ventilated patients. Intensive Care Med. 2011; 37: 469-76. 15) Zhu Y, Wang Y, Du B, et al: Could remifentanil reduce duration of mechanical ventilation in comparison with other opioids for mechanically ventilated patients? A systematic review and metaanalysis. Crit Care. 2017; 21: 206. CQ10-2:人工呼吸中の成人敗血症患者の鎮静薬 として,ベンゾジアゼピンよりもプロポフォールやデクスメデトミジンを優先的に投与するか? Answer:敗血症患者における人工呼吸管理中の鎮静薬として,ベンゾジアゼピンよりもプロポフォールやデクスメデトミジンを使用することを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 人工呼吸管理中の鎮静薬の選択によって不穏が低下する可能性が示唆されている。不穏の予防は,人工呼吸期間やICU 滞在日数の短縮につながり,患者予後に直結する可能性があるため,重要である。したがって,人工呼吸管理中の鎮静薬として何を優先的に使用するかは,敗血症診療においても重要な臨床課題と考えられ,本ガイドラインのCQ として取り上げた。 (2)PICO P (患者):人工呼吸管理中の18 歳以上の成人I (介入):プロポフォールまたはデクスメデトミジ ンによる鎮静C (対照):ベンゾジアゼピン系鎮静薬による鎮静O (アウトカム):不穏,人工呼吸期間,ICU 滞在日 数,死亡,計画外抜管 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が14 件 1-14)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 10-2-1)望ましい効果: プロポフォールやデクスメデトミジンによる鎮静の実践により,死亡(10 RCT: n =1,573)は1,000 人あたり4 人多い(32 人少ない~50 人多い),不穏(2 RCT: n =632)は1,000 人あたり66 人少ない(119 人少ない~3 人多い),人工呼吸期間(7 RCT: n =1,214)は平均(MD)1.56 日短い(2.46 日短い~0.67 日短い),ICU 滞在日数(11 RCT: n =1,514)はMD 2.06日短い(2.72 日短い~1.39 日短い)。介入による望ましい効果は「中」であると判断した。望ましくない効果: 重大な合併症に関する検討は行われていないが,計画外抜管(3 RCT: n =359)は1,000 人あたり31 人多 -S 204-
い(22 人少ない~128 人多い)。介入による望ましくない効果はわずかであると判断した。益と害のバランス: 望ましい効果と望ましくない効果のバランスから,おそらく介入が優位と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 不穏,人工呼吸期間,ICU 滞在日数については介入を支持する方向で一致している。死亡はわずかに増加,計画外抜管は増加する傾向であり,各アウトカムが異なる方向を示しているため,各アウトカムのエビデンスの確実性の中で最も低い「非常に低」とした。 (6)価値観 人工呼吸管理中の鎮静薬の選択に対する,患者・家族の価値観に関するデータはないが,不穏,死亡,人工呼吸期間やICU 滞在日数は,患者予後に直結するアウトカムであることから,その価値観は高く,ばらつきは少ないものと推察できる。 (7)容認性 介入における鎮静薬は,比較対象となる鎮静薬よりもコストは高いものの(1,821~4,890 円 / 1V),不穏の 軽減,人工呼吸期間やICU 滞在日数の短縮などの効果による患者への有益性とそれにより予測できる医療費の削減効果を考慮すれば,医療従事者の観点からだけではなく,患者・家族の視点からもおそらく許容されるものと推察できる。 (8)実行可能性 既に多くの患者に対して頻繁に使用されている鎮静薬であり,安全性も確立されていることから,どの医療施設においても実行可能と判断される。 (9)判断の要約(Table 10-2-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 15),日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 16, 17)では,どの鎮静薬を用いるべき Table 10-2-1 エビデンスプロファイル -S 205-
かに関する記載はない。PADIS ガイドライン 18)においては,ベンゾジアゼピン系鎮静薬と比較して,プロポフォールによる鎮静は人工呼吸期間短縮につながり,デクスメデトミジンによる鎮静は人工呼吸期間短縮のみならずせん妄発症を抑える可能性があるとして,プロポフォールやデクスメデトミジンによる鎮静を提案している(条件付き推奨,低い質)。 (12)実施に関わる検討事項 鎮静薬を選択する際にプロポフォールとデクスメデトミジンのどちらを優先して使用するのか,併用するほうが良いのかについて,常に考慮する必要がある。デクスメデトミジンには血圧低下,徐脈などの循環器系副作用が存在し,その使用の際には注意を要する。また,プロポフォールについても血圧低下,PRIS (propofol infusion syndrome)などの副作用が存在し,その使用の際には注意を要する。 (13)今後の研究の可能性 今後は敗血症患者のみを対象として,どの鎮静薬を優先的に使用すべきかに関する検討を行う必要がある。また,プロポフォール単独,デクスメデトミジン単独,両薬剤の併用のなかではどの鎮静方法が最も良いのか,併用する場合にはどちらの薬剤を主として使用するのが良いのかに関する検討が必要である。 文 献 1) Chamorro C, de Latorre FJ, Montero A, et al: Comparative study of propofol versus midazolam in the sedation of critically ill patients: results of a prospective, randomized, multicenter trial. Crit Care Med. 1996; 24: 932-9. 2) Weinbroum AA, Halpern P, Rudick V, et al: Midazolam versus propofol for long-term sedation in the ICU: a randomized prospective comparison. Intensive Care Med. 1997; 23: 1258-63. 3) Sanchez-Izquierdo-Riera JA, Caballero-Cubedo RE, Perez-Vela JL, et al: Propofol versus midazolam: safety and efficacy for sedating the severe trauma patient. Anesth Analg. 1998; 86: 1219-24. 4) Camps AS, Riera JASI, Vazquez DT, et al: Midazolam and 2% propofol in long-term sedation of traumatized, critically ill patients: Efficacy and safety comparison. Crit Care Med. 2000; 28: 3612-9. 5) Hall RI, Sandham D, Cardinal P, et al: Propofol vs midazolam for ICU sedation: a Canadian multicenter randomized trial. Chest. 2001; 119: 1151-9. 6) Carson SS, Kress JP, Rodgers JE, et al: A randomized trial of intermittent lorazepam versus propofol with daily interruption in mechanically ventilated patients. Crit Care Med. 2006; 34: 1326-32. 7) Pandharipande PP, Pun BT, Herr DL, et al: Effect of sedation with dexmedetomidine vs lorazepam on acute brain dysfunction in mechanically ventilated patients: the MENDS randomized controlled trial. JAMA. 2007; 298: 2644-53. 8) Riker RR, Shehabi Y, Bokesch PM, et al: Dexmedetomidine vs midazolam for sedation of critically ill patients: a randomized trial. JAMA. 2009; 301: 489-99. 9) Mesnil M, Capdevila X, Bringuier S, et al: Long-term sedation in intensive care unit: a randomized comparison between inhaled sevoflurane and intravenous propofol or midazolam. Intensive Care Med. 2011; 37: 933-41. 10) Jakob SM, Ruokonen E, Grounds RM, et al: Dexmedetomidine vs midazolam or propofol for sedation during prolonged mechanical ventilation: two randomized controlled trials. JAMA. 2012; 307: 1151-60. 11) Zhou Y, Jin X, Kang Y, et al: Midazolam and propofol used alone or sequentially for long-term sedation in critically ill, mechanically ventilated patients: a prospective, randomized study. Crit Care. 2014; 18: R122. 12) MacLaren R, Preslaski CR, Mueller SW, et al: A randomized, double-blind pilot study of dexmedetomidine versus midazolam for intensive care unit sedation: patient recall of their experiences Table 10-2-2 判断の要約 -S 206-
and short-term psychological outcomes. J Intensive Care Med. 2015; 30: 167-75. 13) Yu T, Peng X, Liu L, et al: Propofol increases preload dependency in septic shock patients. J Surg Res. 2015; 193: 849-55. 14) Lu X, Li J, Li T, et al: Clinical study of midazolam sequential with dexmedetomidine for agitated patients undergoing weaning to implement light sedation in intensive care unit. Chin J Traumatol. 2016; 19: 94-6. 15) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 16) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 17) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 18) Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al: Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation / Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018; 46: e825-73. CQ10-3:人工呼吸中の敗血症患者の鎮静薬調整 において,1 日1 回の鎮静薬中止やプロトコルを用いた鎮静薬の調整によるlight sedation を行うか? Answer:敗血症患者の人工呼吸管理中の鎮静薬調整において,1 日1 回の鎮静薬中止やプロトコルを用いた鎮静薬の調整によってlight sedation を行うことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 Light sedation の実践は,意識レベルの確認や不穏の早期発見という観点から重要であるだけでなく,人工呼吸期間やICU 滞在日数の短縮につながるとされている。よって,敗血症患者におけるその効果を検討することは,患者予後改善の観点からも不可欠であると判断し,CQ として取り上げた。 (2)PICO P (患者):人工呼吸管理中の18 歳以上の成人I (介入):Light sedation[1 日1 回の鎮静薬の中断 またはプロトコルによる鎮静薬の調整,RASS −2以上(もしくはそれに相当する)の鎮静深度を目標とした管理] C (対照):Deep sedation O (アウトカム):人工呼吸期間,ICU 滞在日数,死 亡,計画外抜管 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が2 件 1, 2)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 10-3-1)望ましい効果: Light sedation の実践により,死亡(2 RCT: n = 257)は1,000 人あたり57 人少ない(135 人少ない~ 60 人多い)と臨床的な差はない。しかし人工呼吸期間(2 RCT: n =257)は平均(MD)2.49 日短い(4.43日短い~0.54 日短い),ICU 滞在日数(2 RCT: n = 257)はMD 3.34 日短い(6.09 日短い~0.60 日短い)については,いずれも介入群が優位である。Light sedation の実践を支持するものであると考え,望ましい効果は「中」とした。 -S 207-
望ましくない効果: 懸念される望ましくない効果である,計画外抜管(1 RCT: n =128)は1,000 人あたり37 人少ない(61人少ない~88 人多い)と両群で差はない。望ましくない効果はわずかと判断した。益と害のバランス: 死亡に関しては差がないものの,人工呼吸期間, ICU 滞在日数においては,介入によって有益な効果が示されており,好ましくない効果である計画外抜管も減少傾向であることから,おそらく介入が優位である。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 死亡と計画外抜管は減少する方向で,人工呼吸期間とICU 滞在日数は有意差を持って介入を支持する方向で一致している。各アウトカムに対する確実性は「低」から「非常に低」であり,全体的なエビデンスの確実性は,その中で高いほうの「低」とした。 (6)価値観 Light sedation の実践に対する患者・家族の価値観に関するデータはない。しかしながら,死亡や人工呼吸期間,ICU 滞在日数は,患者予後に直結するアウトカムであり,light sedation により患者意識が確認できれば,家族にとっては大きなメリットになることを考慮すると,その価値は高く,ばらつきは少ないものと推察した。(7)容認性 Light sedation の実践は,担当看護師の負担が増える可能性は否定できないものの,計画外抜管といった望ましくない効果を増やすことなく患者意識を確認することが可能であり,かつ人工呼吸期間やICU 滞在日数を短縮することから,おそらく患者・家族から許容されるものと判断した。 (8)実行可能性 Light sedation 下で人工呼吸管理中からリハビリテーションを実践することが,標準的治療になりつつあることを考えれば,鎮静薬の調節や意識のある患者に対する対応が負担になるとは考えにくく,計画外抜管などの望ましくない効果にも影響がないことから,実行は可能であると判断した。 (9)判断の要約(Table 10-3-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 3)では,鎮静レベルの目標を決めて鎮静薬の量を最小限に抑えることが推奨されており,投与方法については,間欠的,持続的のいずれでも良いとしている(best practice statement: BPS)。PADIS ガイド Table 10-3-1 エビデンスプロファイル -S 208-
ライン 4)においては,light sedation の実践は死亡に影響はないものの,人工呼吸期間の短縮や気管切開施行率の低下につながるとして推奨されている(条件付き推奨,低い質のエビデンス)。 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 5, 6)ではJ-PAD ガイドライン 7)より引用する形で,人工呼吸管理中の成人患者では,「毎日鎮静を中断する」あるいは「浅い鎮静深度を目標とする」プロトコルのいずれかをルーチンに用いることを推奨している(1B)。 (12)実施に関わる検討事項 1 日1 回の鎮静薬の中断とプロトコルによる鎮静薬の調整では,どちらが有効でかつ安全に施行できるのか,鎮静のレベルについては鎮静スコアリングを用いてどのレベルを目標とすべきなのか,について日々および個々の患者で検討していく必要がある。 (13)今後の研究の可能性 今後は,敗血症患者のみを対象としたlight sedationに対する有効性・安全性に関する検討や1 日1 回の鎮静薬の中断とプロトコルによる鎮静薬の調整では,どちらが有効かつ安全に実践できるかに関する検討, RASS −2 以上の中でどの鎮静レベルが最も有効かつ安全であるのかに対する検討が必要である。 文 献 1) Kress JP, Pohlman AS, O’Connor MF, et al: Daily interruption of sedative infusions in critically ill patients undergoing mechanical ventilation. N Engl J Med. 2000; 342: 1471-7. 2) Treggiari MM, Romand JA, Yanez ND, et al: Randomized trial of light versus deep sedation on mental health after critical illness. Crit Care Med. 2009; 37: 2527-34. 3) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 4) Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al: Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation / Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018; 46: e825-73. 5) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 6) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 7) 日本集中治療医学会J-PAD ガイドライン作成委員会: 日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン. 日集中医誌. 2014; 21: 539-79. Table 10-3-2 判断の要約 -S 209-
CQ10-4:成人敗血症患者のせん妄予防に,薬物 療法を行うか? Answer:成人敗血症患者のせん妄予防にデクスメデトミジンを投与することを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。ハロペリドールを投与しないことを弱く推奨する(GRADE 2B:エビデンスの確実性=「中」)。非定型抗精神病薬を投与しないことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。スタチンを投与しないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。コメント:鎮静が不必要な患者にデクスメデトミジンのルーチン投与を推奨するものではない。 また,デクスメデトミジンの投与は循環動態の変動を来す恐れがあるため,集中治療室で全身管理に熟練した医師のもとで投与することが望ましい。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症患者の中枢神経系臓器障害の1 つとしてせん妄がある。集中治療室でのせん妄の持続日数は,集中治療室退室後3 か月と12 か月の認知機能障害と関連することが知られている。敗血症患者においてせん妄を薬物により予防することができれば,患者の集中治療後症候群(PICS)を軽減できる可能性があるため,本CQ を敗血症診療における重要な臨床課題として取り上げた。 (2)PICO P (患者):敗血症,呼吸不全,心不全,熱傷,大侵 襲手術後などで人工呼吸中の成人重症患者I (介入):デクスメデトミジン,ハロペリドール, 非定型抗精神病薬,スタチンの投与C (対照):プラセボ投与O (アウトカム):死亡,集中治療室退室後の認知機 能障害,せん妄,せん妄日数(報告がない場合は,非せん妄日数),ICU 滞在日数,重症有害事象 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)がデクスメデトミジン8 件 1-8),ハロペリドール7 件 1, 9-14),非定型抗精神病薬3 件 10, 15, 16),スタチン2 件 17, 18)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。(4)益と害のバランス(Table 10-4-1) 望ましい効果: デクスメデトミジンの予防投与は,せん妄(7 RCT: n =1,658)について1,000 人あたり155 人少ない(203人少ない~83 人少ない)であり,望ましい効果は「中」であると判断した。他のハロペリドール,非定型抗精神病薬,スタチンの予防投与については,それぞれせん妄(5 RCT: n =2,159)が1,000 人あたり34 人少ない(92 人少ない~40 人多い),術後患者のみを対象とした2 RCT(n =227)の1,000 人あたり203 人少ない(225 人少ない~111 人少ない),1 RCT(n =142)の1,000 人あたり9 人少ない(94 人少ない~66 人多い)と,いずれも望ましい効果はわずかであった。望ましくない効果: デクスメデトミジンの重症な有害事象は1,000 人あたり53 人少ない(69 人少ない~8 人多い),ハロペリドールの重篤な有害事象は1,000 人あたり2 人少ない(6 人少ない~13 人多い)であり,望ましくない効果はわずかと考えた。非定型抗精神病薬,スタチンの予防投与については,重症な有害事象を調べた研究はない,あるいは,介入群・対照群ともに有害事象の発生はなく,望ましくない効果の推定値はわからなかった。益と害のバランス: デクスメデトミジンについては,望ましくない効果発生に差はなく,集中治療室退室後の認知機能障害とせん妄について中程度の効果を認めるため,おそらく介入が優位と判断した。 ハロペリドールについては,望ましい効果は限定的であり,望ましくない効果も増えない可能性が高いことより,介入も比較対照のいずれも優位でないと判断した。 非定型抗精神病薬については,せん妄を低下させたがその対象は術後患者のみであり,望ましい効果はわずかであると考えた。また,望ましくない効果は不明である。以上より,敗血症患者に推奨するにはエビデンスが不足しており,介入も比較対照もいずれも優位でないと判断した。 スタチンについては,望ましい効果は限定的で,望ましくない効果もわずかであり,介入も比較もいずれも優位でないと判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 デクスメデトミジンについては,益と害の各アウトカムが同じ方向性を示しているため,最も高いエビデンスである「低」を採用した。ハロペリドールについ -S 210-
Table 10-4-1 エビデンスプロファイルデクスメデトミジン ハロペリドール -S 211-
Table 10-4-1 エビデンスプロファイル(つづき)非定型抗精神病薬 スタチン -S 212-
ては,益と害の各アウトカムが同じ方向性を示しているため,最も高いエビデンスである「中」を採用した。非定型抗精神病薬については,益と害の各アウトカムが同じ方向性を示しているため,最も高いエビデンスである「低」を採用した。スタチンについては,死亡率が高くなる方向であり,益と害のアウトカムが逆方向を示すと考えて最も低いエビデンスである「非常に低」を採用した。 (6)価値観 成人敗血症患者のせん妄予防の薬物療法に対する,各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡,せん妄,せん妄日数などの臨床アウトカムに対して置く相対的価値は高く,ばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 デクスメデトミジン(200μg / 50mL シリンジ価格4,886 円)は集中治療における人工呼吸中および離脱後の鎮静薬として広く使用されており,患者・家族の個人的な負担を大きく増加するものではない。医療者の仕事量に関しても,集中治療管理として薬剤の持続投与は一般的な内容であり,容認可能である。ハロペリドールは価格5.7~91 円とばらつきがあるが,患者負担から考えて薬剤コストは容認できる。また,薬剤内服は医療者への負担も限定的である。非定型抗精神病薬は薬剤価格が比較的安価(リスペリドン10.1~ 215.3 円,クエチアピン10.6~68.6 円)であり,おそ らく容認できる。また薬剤投与による医療関係者への負担も十分容認できる。スタチンは先発品とジェネ リックを合わせると多数の種類があり,価格も10.1円~328.4 円と様々である。しかし高額な薬剤ではないため,患者にとっては容認可能である,また,薬剤内服は医療者への負担も限定的である。 (8)実行可能性 敗血症を管理可能な医療施設であれば,介入は問題なく実行可能である。ただし,ハロペリドール,非定型抗精神病薬,スタチンをせん妄予防に使用する際は,保険適用外の診療となる。 (9)判断の要約(Table 10-4-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 デクスメデトミジン:修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.015 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 ハロペリドール:修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.146 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 非定型抗精神病薬:修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 スタチン:修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 Table 10-4-2 判断の要約デクスメデトミジン -S 213-
Table 10-4-2 判断の要約(つづき)ハロペリドール 非定型抗精神病薬 スタチン -S 214-
(11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 19, 20)においては,J-PAD ガイドライン 21)より引用する形で「薬理学的せん妄予防プロトコルを使用すべきとはいえない(データ不足)」となっている。またPADISガイドライン 22)において,非定型抗精神病薬,ハロペリドール,デクスメデトミジン,スタチンをすべての成人重症患者におけるせん妄の予防に使用しないことを提案している(条件付き推奨,非常に低い~低い質のエビデンス)。各診療ガイドラインによって,デクスメデトミジンの推奨の方向性が若干異なることを念頭に入れる必要がある。 (12)実施に関わる検討事項 薬剤をルーチンに使用するかについては,患者の年齢・重症度・合併症も考慮する必要がある。デクスメデトミジンは,国内で認可された投与量が海外の投与量と異なり(デクスメデトミジンの維持量0.2~ 0.7μg/ kg / hr は海外より少ない),本邦での有効性および副作用の発生も考慮に入れた使用が望まれる。 本推奨は,鎮静が不必要な患者にデクスメデトミジンのルーチン投与を推奨するものではない。また,本CQ では,“デクスメデトミジンの投与は循環動態の変動を来す恐れがあるため,集中治療室で全身管理に熟練した医師のもとで投与することが望ましい”というエキスパートコンセンサスを加えて提示することとした。 (13)今後の研究の可能性 今回含まれる研究は集中治療室の重症患者(場合により術後患者)が対象となっているため,今後は敗血症患者に限定したせん妄予防の研究が望まれる。 文 献 1) Abdelgalel EF: Dexmedetomidine versus haloperidol for prevention of delirium during non-invasive mechanical ventilation. Egypt J Anaesth. 2016; 32: 473-81. 2) Kawazoe Y, Miyamoto K, Mor imoto T, et al: Effect of Dexmedetomidine on Mortality and Ventilator-Free Days in Patients Requiring Mechanical Ventilation With Sepsis: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2017; 317: 1321-8. 3) Lu X, Li J, Li T, et al: Clinical study of midazolam sequential with dexmedetomidine for agitated patients undergoing weaning to implement light sedation in intensive care unit. Chin J Traumatol. 2016; 19: 94-6. 4) Priye S, Jagannath S, Singh D, et al: Dexmedetomidine as an adjunct in postoperative analgesia following cardiac surgery: A randomized, double-blind study. Saudi J Anaesth. 2015; 9: 353-8. 5) Skrobik Y, Duprey MS, Hill NS, et al: Low-Dose Nocturnal Dexmedetomidine Prevents ICU Delirium. A Randomized, Placebo-controlled Trial. Am J Respir Crit Care Med. 2018; 197: 1147-56. 6) Su X, Meng ZT, Wu XH, et al: Dexmedetomidine for prevention of delirium in elderly patients after non-cardiac surgery: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet. 2016; 388: 1893-902. 7) Xuan Y, Fan R, Chen J, et al: Effects of dexmedetomidine for postoperative delirium after joint replacement in elderly patients: a randomized, double-blind, and placebo-controlled trial. Int J Clin Exp Med. 2018; 11: 13147-57. 8) Zhang DF, Su X, Meng ZT, et al: Impact of Dexmedetomidine on Long-term Outcomes After Noncardiac Surgery in Elderly: 3-Year Follow-up of a Randomized Controlled Trial. Ann Surg. 2019; 270: 356-63. 9) Al-Qadheeb NS, Skrobik Y, Schumaker G, et al: Preventing ICU Subsyndromal Delirium Conversion to Delirium With Low-Dose IV Haloperidol: A Double-Blind, Placebo-Controlled Pilot Study. Crit Care Med. 2016; 44: 583-91. 10) Girard TD, Pandharipande PP, Carson SS, et al: Feasibility, efficacy, and safety of antipsychotics for intensive care unit delirium: the MIND randomized, placebo-controlled trial. Crit Care Med. 2010; 38: 428-37. 11) Khan BA, Perkins AJ, Campbell NL, et al: Preventing Postoperative Delirium After Major Noncardiac Thoracic Surgery-A Randomized Clinical Trial. J Am Geriatr Soc. 2018; 66: 2289-97. 12) Page V, Ely E, Gates S, et al: A randomised, double-blind, placebo-controlled trial to compare the early administration of intravenous haloperidol versus placebo in the prevention and treatment of delirium in critically ill ventilated patients (hope-Icu). Am J Respir Crit Care Med. 2013; 187: A6065. 13) van den Boogaard M, Slooter AJC, Brüggemann RJM, et al: Effect of Haloperidol on Survival Among Critically Ill Adults With a High Risk of Delirium: The REDUCE Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018; 319: 680-90. 14) Wang W, Li HL, Wang DX, et al: Haloperidol prophylaxis decreases delirium incidence in elderly patients after noncardiac surgery: a randomized controlled trial*. Crit Care Med. 2012; 40: 731-9. 15) Hakim SM, Othman AI, Naoum DO: Early treatment with risperidone for subsyndromal delirium after on-pump cardiac surgery in the elderly: a randomized trial. Anesthesiology. 2012; 116: 987-97. 16) Prakanrattana U, Prapaitrakool S: Efficacy of risperidone for prevention of postoperative delirium in cardiac surgery. Anaesth Intensive Care. 2007; 35: 714-9. 17) Needham DM, Colantuoni E, Dinglas VD, et al: Rosuvastatin versus placebo for delirium in intensive care and subsequent cognitive impairment in patients with sepsis-associated acute respiratory distress syndrome: an ancillary study to a randomised controlled trial. Lancet Respir Med. 2016; 4: 203-12. 18) Page VJ, Casarin A, Ely EW, et al: Evaluation of early administration of simvastatin in the prevention and treatment of delirium in critically ill patients undergoing mechanical ventilation (MoDUS): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet Respir Med. 2017; 5: 727-37. 19) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 20) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 21) 日本集中治療医学会J-PAD ガイドライン作成委員会: 日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン. 日集中医誌. 2014; 21: 539-79. -S 215-
22) Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al: Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation / Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018; 46: e825-73. CQ10-5:成人敗血症患者のせん妄治療に,薬物 療法を行うか? Answer:成人敗血症患者のせん妄治療にデクスメデトミジンを投与しないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。ハロペリドールを投与しないことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。非定型抗精神病薬を投与しないことを弱く推奨する(GRADE 2B:エビデンスの確実性=「中」)。コメント:過活動型せん妄のため患者の生命または身体が危険にさらされる可能性が高いと判断した場合に,デクスメデトミジン,ハロペリドール,または非定型抗精神病薬の使用を妨げるものではない。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症患者の中枢神経系臓器障害の1 つにせん妄がある。集中治療室でのせん妄持続日数が集中治療室退室後3 か月と12 か月の認知機能障害と関連することが知られている。敗血症患者においてせん妄を薬物により治療することができれば,患者の集中治療後症候群(PICS)を軽減できる可能性があるため,本CQ を敗血症診療における重要な臨床課題として取り上げた。 (2)PICO P (患者):敗血症,呼吸不全,心不全,熱傷,大侵 襲手術後などで人工呼吸中の成人重症患者I (介入):デクスメデトミジン,ハロペリドール, 非定型抗精神病薬の投与C (対照):プラセボ投与O (アウトカム):死亡,集中治療室退室後の認知機 能障害,せん妄,せん妄日数(報告がない場合は,非せん妄日数),ICU 滞在日数,重症有害事象 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)がデクスメデトミジン1 件 1),ハロペリドール1 件 2),非定型抗精神病薬3件 2-4)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 10-5-1)望ましい効果: 術後患者を含むシステマティックレビューの結果, -S 216-
Table 10-5-1 エビデンスプロファイルデクスメデトミジン ハロペリドール 非定型抗精神病薬 -S 217-
デクスメデトミジン投与は死亡(1 RCT: n =71)について1,000 人あたり0 人少ない(0 人少ない~0 人多い),ICU 滞在日数(1 RCT: n =71)は1.37 日短い(95% CI: 3.82 日短い~1.08 日長い)であり,ハロペリドールについては,死亡(1 RCT: n =376)1,000人あたり38 人多い(51 人少ない~154 人多い),せん妄日数(1 RCT: n =376)は0.34 日短い(1.18 日短い~0.5 日長い),ICU 滞在日数(1 RCT: n =376)は 0.33 日短い(1.92 日短い~1.26 日長い)であり,非定 型抗精神病薬については,死亡(2 RCT: n =410) 1,000 人あたり3 人少ない(82 人少ない~98 人多い),せん妄日数(2 RCT: n =410)は1.75 日短い(4.31 日短い~0.81 日長い),ICU 滞在日数(2 RCT: n =410)は1.1 日短い(2.48 日短い~0.28 日長い)であり,いずれの薬剤においても望ましい効果はわずかであると判断した望ましくない効果: 3 つの薬物共に,重症な有害事象をアウトカムとして報告した研究がなかった。益と害のバランス: 3 つの薬物共に,望ましい効果はわずかであり,望ましくない効果は不明である。効果のバランスは,介入も比較対照もいずれも優位でないと考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 デクスメデトミジンについては,死亡率が高くなる方向性,ICU 滞在日数が短くなる方向性であり,益と害のアウトカムが逆方向を示すと考えて最も低いエビデンスである「非常に低」を採用した。ハロペリドールについては,死亡の効果推定値が高くなる方向性,せん妄日数と非せん妄日数,ICU 滞在日数は益となる方向性を持つため「低」を採用した。非定型抗精神病薬については,すべてのアウトカムが患者の益となる方向性を示しているため,最も高いエビデンスである「中」を採用した。 (6)価値観 成人敗血症患者のせん妄治療の薬物療法に対する,各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡,せん妄,せん妄日数などの臨床アウトカムに対して置く相対的価値は高く,ばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 デクスメデトミジン(200μg / 50mL シリンジ価格4,886 円)は集中治療における人工呼吸中および離脱後の鎮静薬として広く使用されており,患者・家族の 個人的な負担を大きく増加するものではない。医療者の仕事量に関しても,集中治療管理として薬剤の持続投与は一般的な内容であり,容認可能である。ハロペリドールは価格5.7~91 円とばらつきがあるが,患者負担から考えて薬剤コストは容認できる。また,薬剤内服は医療者への負担も限定的である。非定型抗精神病薬は薬剤価格が比較的安価(リスペリドン10.1~ 215.3 円,クエチアピン10.6~68.6 円)であり,おそ らく容認できる。また薬剤投与による医療関係者への負担も十分容認できる。 (8)実行可能性 敗血症を管理可能な医療施設であれば,介入は問題なく実行可能である。ただし,ハロペリドール,非定型抗精神病薬をせん妄予防に使用する際は,保険適用外の診療となる。 (9)判断の要約(Table 10-5-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 デクスメデトミジン:修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 ハロペリドール:修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.018 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 非定型抗精神病薬:修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 PADIS ガイドライン 5)において,人工呼吸管理中の成人患者で不穏のためにウィーニング / 抜管ができない場合,せん妄に対してデクスメデトミジンを使用することを提案している(条件付き推奨,低い質のエビデンス)。しかし,J-PAD ガイドライン 6)では,本邦で承認された投与量でのデクスメデトミジンが,ベンゾジアゼピン系鎮静薬より望ましいかは不明である(0,C)と記載されており,注意が必要である。 また,PADIS ガイドライン 5)では,せん妄治療にハロペリドール,非定型抗精神病薬を日常的に用いないことを提案している(条件付き推奨,低い質のエビデンス)。一方で,J-PAD ガイドライン 6)では,成人集中治療患者のせん妄期間を短縮する有効な薬物治療に関するデータは少ない(0,C)と記載されている。 -S 218-
Table 10-5-2 判断の要約デクスメデトミジン ハロペリドール 非定型抗精神病薬 -S 219-
(12)実施に関わる検討事項 薬剤をルーチンに使用するかについては,患者の年齢・重症度・合併症も考慮する必要がある。デクスメデトミジンは,国内で認可された投与量が海外の投与量と異なり(デクスメデトミジンの維持量0.2~ 0.7μg / kg / hr は海外より少ない),本邦での有効性および副作用の発生も考慮に入れた使用が望まれる。 また,過活動型せん妄のため患者の生命または身体が危険にさらされる可能性が高いと判断した場合に,デクスメデトミジン,ハロペリドール,または非定型抗精神病薬の使用を妨げるものではない。 (13)今後の研究の可能性 今回含まれる研究は集中治療室の重症患者(場合により術後患者)が対象となっているため,今後は敗血症患者に限定したせん妄治療の研究が望まれる。 文 献 1) Reade MC, Eastwood GM, Bellomo R, et al: Effect of dexmedetomidine added to standard care on ventilator-free time in patients with agitated delirium a randomized clinical trial. JAMA. 2016; 315: 1460-8. 2) Girard TD, Exline MC, Carson SS, et al: Haloperidol and ziprasidone for treatment of delirium in critical illness. N Engl J Med. 2018; 379: 2506-16. 3) Devlin JW, Roberts RJ, Fong JJ, et al: Efficacy and safety of quetiapine in critically ill patients with delirium: A prospective, multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled pilot study. Crit Care Med. 2010; 38: 419-27. 4) Devlin JW, Skrobik Y, Riker RR, et al: Impact of quetiapine on resolution of individual delirium symptoms in critically ill patients with delirium: A post-hoc analysis of a double-blind, randomized, placebo-controlled study. Crit Care. 2011; 15: R215. 5) Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al: Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation / Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018; 46: e825-73. 6) 日本集中治療医学会J-PAD ガイドライン作成委員会: 日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン. 日集中医誌. 2014; 21: 539-79. CQ10-6:成人敗血症患者のせん妄予防に,非薬 物療法を行うか? Answer:成人敗血症患者のせん妄予防に非薬物療法を行うことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症患者の中枢神経系臓器障害の1 つにせん妄がある。集中治療室でのせん妄持続日数が集中治療室退室後3 か月と12 か月の認知機能障害と関連することが知られている。敗血症患者において非薬物療法によりせん妄を予防できれば,患者の集中治療後症候群(PICS)も軽減できる可能性があり,本CQ を重要な臨床課題として取り上げた。 (2)PICO P (患者):敗血症,呼吸不全,心不全,熱傷,大侵 襲手術後などで人工呼吸中の成人重症患者I (介入):睡眠の改善(アイマスク,耳栓,概日リ ズムの改善など),覚醒の促進(眼鏡,補聴器,見当識改善など),リラクゼーション(リハビリテーション医療を除く)のいずれかC (対照):非介入O (アウトカム):死亡,集中治療室退室後の認知機 能障害,せん妄,せん妄日数(報告がない場合は,非せん妄日数),ICU 滞在日数,重症有害事象 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が10 件 1-10)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 10-6-1)望ましい効果: 術後患者を含むシステマティックレビューの結果,死亡(4 RCT: n =884)の効果推定値とその95% CI は, 1,000 人あたり15 人少ない(57 人少ない~42 人多い),集中治療室退室後の認知機能(MMSE)(1 RCT: n = 32)は,平均(MD)0.2 高い(1.27 低い~1.67 高い),非せん妄日数(2 RCT: n =799)はMD 0.01 日長い(1.22 日短い~1.24 長い)であった。また,せん妄(6 RCT: n =1,028)は1,000 人あたり44 人少ない(149人少ない~131 人多い),ICU 滞在日数(5 RCT: n = 904)はMD 0.14 日短い(1.06 日短い~0.79 日長い) -S 220-
であった。以上より,介入による望ましい効果を小さいと判断した。望ましくない効果: 重症な有害事象を報告した研究がなかった。益と害のバランス: 望ましい効果は小さく,望ましくない効果は不明である。しかし,介入内容から推測される望ましくない効果はほとんどないと考えられる。以上より,おそらく介入が優位と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 介入に関する効果推定値は死亡を減少,集中治療室退室後の認知機能スコアを増加など,益と害の方向性は一致している。全体的なエビデンスの確実性は,最も高い「低」と判定した。 (6)価値観 成人敗血症患者のせん妄予防の非薬物療法に対する,各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に死亡,せん妄に対して置く相対的価値は高く,ばらつきは少ないことが予想される。(7)容認性 非薬物療法として実施される睡眠の改善(アイマスク,耳栓,概日リズムの改善など),覚醒の促進(眼鏡,補聴器,見当識改善など),リラクゼーション(リハビリテーション医療を除く)は患者・家族の個人的な負担を増強するものではないが,医療者の仕事量は増加させる可能性がある。 (8)実行可能性 睡眠の改善(アイマスク,耳栓,概日リズムの改善など),覚醒の促進(眼鏡,補聴器,見当識改善など),リラクゼーション(リハビリテーション医療を除く)は介入としてむずかしいことはなく,問題なく実行可能である。 (9)判断の要約(Table 10-6-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:95.8%)。 Table 10-6-1 エビデンスプロファイル -S 221-
(11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 11, 12)においては,J-PAD ガイドライン 13)より引用する形で「可能な場合はいつでも音楽を使った介入を行うことを弱く推奨する(2C)」となっている。またPADISガイドライン 14)では,成人重症患者において,修正可能なせん妄の危険因子の減少,認知機能の改善,睡眠や運動,聴力,視力の最適化に焦点を当てた(ただしそれらに限定されない)多角的な非薬理学的介入法を用いることを提案している(条件付き推奨,低い質のエビデンス)。 (12)実施に関わる検討事項 非薬物療法として,睡眠の改善・覚醒の促進・認知療法は,重症患者においても安全に実施できる可能性が示唆されている。 (13)今後の研究の可能性 個別の介入に関してそれぞれに有効性を検討することが望まれる。同時に,ABCDEF バンドルケアに代表される複合的非薬物療法に関しても,今後考慮していく必要がある。今回含まれる研究は集中治療室の重症患者(場合により術後患者)が対象となっているため,今後は患者を敗血症に限定したせん妄予防の研究が望まれる。 文 献 1) Brummel NE, Girard TD, Ely EW, et al: Feasibility and safety of early combined cognitive and physical therapy for critically ill medical and surgical patients: the Activity and Cognitive Therapy in ICU (ACT-ICU) trial. Intensive Care Med. 2014; 40: 370-9. 2) Demoule A, Carreira S, Lavault S, et al: Impact of earplugs and eye mask on sleep in critically ill patients: a prospective randomized study. Crit Care. 2017; 21: 284. 3) Johnson K, Fleury J, McClain D: Music intervention to prevent delirium among older patients admitted to a trauma intensive care unit and a trauma orthopaedic unit. Intensive Crit Care Nurs. 2018; 47: 7-14. 4) Lee CH, Lee CY, Hsu MY, et al: Effects of Music Intervention on State Anxiety and Physiological Indices in Patients Undergoing Mechanical Ventilation in the Intensive Care Unit. Biol Res Nurs. 2017; 19: 137-44. 5) Litton E, Elliott R, Ferrier J, et al: Quality sleep using earplugs in the intensive care unit: The QUIET pilot randomised controlled trial. Crit Care Resusc. 2017; 19: 128-33. 6) Munro CL, Cairns P, Ji M, et al: Delirium prevention in critically ill adults through an automated reorientation intervention–A pilot randomized controlled trial. Hear Lung. 2017; 46: 234-8. 7) Potharajaroen S, Tangwongchai S, Tayjasanant T, et al: Bright light and oxygen therapies decrease delirium risk in critically ill surgical patients by targeting sleep and acid-base disturbances. Psychiatry Res. 2018; 261: 21-7. 8) Simons KS, Laheij RJF, van den Boogaard M, et al: Dynamic light application therapy to reduce the incidence and duration of delirium in intensive-care patients: a randomised controlled trial. Lancet Respir Med. 2016; 4: 194-202. 9) Taguchi T, Yano M, Kido Y: Influence of bright light therapy on postoperative patients: A pilot study. Intensive Crit Care Nurs. 2007; 23: 289-97. 10) Van Rompaey B, Elseviers MM, Van Drom W, et al: The effect of earplugs during the night on the onset of delirium and sleep perception: a randomized controlled trial in intensive care patients. Crit Care. 2012; 16: R73. 11) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 12) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 13) 日本集中治療医学会J-PAD ガイドライン作成委員会: 日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・ Table 10-6-2 判断の要約 -S 222-
せん妄管理のための臨床ガイドライン. 日集中医誌. 2014; 21: 539-79. 14) Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al: Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation / Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018; 46: e825-73. -S 223-
CQ11:急性腎障害・血液浄化療法 急性腎障害(acute kidney injury: AKI)は,急激に進行する腎機能低下により生体の恒常性が破綻している病態であり,幅広い疾患スペクトラムを有する症候群である。2012 年に発表されたKidney Disease Improving Global Outcomes(KDIGO)によるAKI 診療ガイドラインにおいては,48 時間あるいは1 週間の期間における血清クレアチニン濃度の上昇,あるいは6~24 時間での尿量減少に基づくAKI 診断基準と重症度分類が下表のとおり提示された 1)。広く臨床現場において測定されている2 つの臨床指標により簡便かつ迅速なAKI 診断が可能となり,このAKI 診断基準を用いた臨床研究が数多く行われ,AKI の発症がどのような臨床場面においても有意に予後と関連することが明らかとなった。 敗血症はAKI の原因疾患のなかでも高頻度に認められるものの1 つであり,敗血症性AKI の予後は不良であることが広く認識されている 2)。特に血液浄化療法が必要となる重症AKI が敗血症に合併した場合の死亡率は高く,本邦の近年のDPC データを用いた解析においては,院内死亡率が50% 程度であったと報告されている 3)。敗血症性AKI の病態生理は複雑であり,血行動態の異常に加えて,炎症反応の関与やミトコンドリア機能異常などの細胞障害が想定されている 4)。多くの基礎研究が行われているものの,AKIにおいて腎組織保護作用が臨床的に証明された薬剤はいまだ存在しないとされている。一方,臨床の場においては体液管理の観点から利尿薬投与が敗血症性AKIに対して行われている現実があり,本ガイドラインに おいてもフロセミド(CQ 11-1)および心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)(CQ 11-2)の投与に関するCQ を採用した。血行動態の異常が敗血症性AKI 発症に大きく関与していることはまちがいがないと考えられており,昇圧作用のある薬剤のうち腎血流増加作用とナトリウム排泄作用を有するドパミン(CQ 11-3)が特に低用量(いわゆるrenal dose)で用いられてきた。この十数年のエビデンスの蓄積により,敗血症全般に対してのドパミンの有用性が否定されてきているなかで,敗血症性AKI におけるドパミンの状況を改めて確認すべく,本ガイドラインにおいてはドパミンに関するCQ も採用している。 血液浄化療法は,血液体外循環により血液中の病因物質を除去,不足している物質を補給する治療法である。なかでも腎臓の機能を代替する治療である腎代替療法(renal replacement therapy: RRT)が最も多く行われている血液浄化療法である。実際の臨床においては,AKI に対するRRT のモダリティや開始時期,治療量などは個々の症例の病態と医療体制により決められているが,確固たるエビデンスに支持された最適な治療条件は未だ確立されていない状況である。一方,高い死亡率を呈する敗血症性AKI における生命維持にRRT は必要不可欠な治療法であり,種々の治療条件の決定を求められる場面は多いと思われる。持続的あるいは間欠的なRRT のどちらを選択すべきか(CQ 11-4),予後改善が最も期待できるRRT 開始のタイミングはいつか(CQ 11-5),RRT における治療量を増やすことで予後の改善が期待できるのか(CQ 11-6), KDIGOによるAKI診断基準と重症度分類 AKI の診断基準48 時間以内にsCr 値が0.3mg/dL 以上増加した場合またはsCr 値がそれ以前7 日以内に判っていたか予想される基礎値より1.5 倍の増加があった場合 または尿量が6 時間にわたって<0.5 mL/kg/ 時間に減少した場合 sCr 基準尿量基準 ステージ1基礎値の1.5-1.9 倍への上昇 または0.3mg/dL 以上の増加0.5 mL/kg/hr 未満(6 時間以上) ステージ2基礎値の2.0-2.9 倍への上昇0.5 mL/kg/hr 未満(12 時間以上) ステージ3基礎値の3 倍以上への上昇 または4.0mg/dL 以上への増加または腎代替療法の開始または18 歳未満患者の eGFR < 35mL/min/1.73m2 0.3 mL/kg/hr 未満(24 時間以上)または12 時間以上の無尿 AKI: 急性腎障害,eGFR: 推算糸球体濾過量,sCr: 血清クレアチニン値 -S 224-
といったCQ を本ガイドラインにおいて採用している。特にRRT 開始時期に関しては,最大規模となるmulti-national pragmatic open-label ランダム化比較試験(RCT)であるSTARRT AKI 研究が本ガイドラインにおけるエビデンス評価作業後に発表された 5)。Stage 2あるいはStage 3 のAKI に対して12 時間以内にRRTを開始する群と古典的絶対適応にて開始する群の比較が行われ,90 日生存率に差はなく血圧低下と低リン血症の頻度は早期開始群に多いと報告された。この結果は早期開始を支持しないものであり,本ガイドラインにおける推奨とは相反しないと判断した。 RRT 以外にも敗血症診療において血液浄化療法が施行されている。1 つはエンドトキシン吸着療法である。グラム陰性桿菌感染症においては,血中エンドトキシン濃度およびエンドトキシン活性が上昇していることが観察されており,病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns: PAMPs)の1 つであるエンドトキシンを血液中から除去する治療は理にかなっており,本邦で開発されて20 年以上にわたり保険収載された治療として用いられている。近年, 欧米を中心として複数のRCT が施行されており,それらの結果をエビデンスとして評価すべく,本ガイドラインにおいてCQ として採用した(CQ 11-7)。もう1 つはいわゆる“non-renal indication”などの表現で炎症性メディエータの除去・制御を目的とした血液浄化療法である。実際にはPMMA 膜など血液吸着特性を有する血液浄化膜を用いたRRT として,腎障害が高度に進展するよりも前に開始するという治療が,本邦においては積極的に行われてきている。2014 年に保険適用を得たAN69ST 膜は,その適応疾患が重症敗血症,敗血症性ショックであり,AKI は必須ではないことから注目された。その後,これらの血液浄化膜について,いくつかの観察研究が報告されているが, RCT はいまだ施行されていない。2016 年のガイドラインにおいては,血液浄化膜に関するCQ はなく,本ガイドラインにおいても採用していない。今後のエビデンスの蓄積を期待するとともに,血液浄化膜に関するCQ についても検討していきたい。 急性腎障害・血液浄化療法〔診療フロー〕 文 献 1) KDIGO AKI Working Group: KDIGO clinical practice guideline for acute kidney injury. Kidney Int Suppl. 2012; 2: 1-138. 2) Peerapornratana S, Manrique-Caballero CL, Gómez H, et al: Acute kidney injury from sepsis: current concepts, epidemiology, pathophysiology, prevention and treatment. Kidney Int. 2019; 96: 1083-99. 3) Miyamoto Y, Iwagami M, Aso S, et al: Temporal change in characteristics and outcomes of acute kidney injury on renal replacement therapy in intensive care units: analysis of a nationwide administrative database in Japan, 2007-2016. Crit Care. 2019; 23: 172. 4) Doi K: Role of kidney injury in sepsis. J Intensive Care. 2016; 4: 17. 5) Bagshaw SM, Wald R, Adhikari NKJ, et al: Timing of Initiation of Renal-Replacement Therapy in Acute Kidney Injury. N Engl J Med. 2020; 383: 240-51. -S 225-
CQ11-1:敗血症性AKI の予防・治療目的にフロ セミドの投与は行うか? Answer:敗血症性AKI に対して予防あるいは治療を目的としてフロセミドを投与しないことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 フロセミドは,尿量の維持によって脱落した尿細管上皮細胞による尿細管の閉塞を予防し,また尿細管の酸素消費能を低下させることで腎障害に対して有益に働きうるとの考えがある 1-3)。1980 年代からフロセミドによる腎保護効果あるいは腎障害治療効果を検討した臨床研究が行われたが,結果の多くは有効性を示さなかった 4)。しかしながら,フロセミドは,敗血症診療の体液管理において広く汎用されていることから,引き続きガイドラインで取り上げられるべきと考えられる。 なお,本CQ は,敗血症性AKI の予防・治療目的に投与されるフロセミドに関するものであり,体液過剰を補正する目的に関するものではない。体液過剰の際には,フロセミドを含めた利尿薬などによる適切な体液管理が望まれる。 (2)PICO 1 敗血症性AKI の予防P (患者):成人の感染症,敗血症あるいは敗血症性 ショック患者および重症疾患患者I (介入):フロセミドの投与C (対照):プラセボまたは標準的治療,治療なしO (アウトカム):院内死亡,腎代替療法(renal replacement therapy: RRT)施行,AKI の発症,合併症発生 2 敗血症性AKI の治療P (患者):成人の敗血症性AKI 患者および重症疾 患によるAKI 患者I (介入):フロセミドの投与C (対照):プラセボまたは標準的治療,治療なしO (アウトカム):死亡,RRT 施行,AKI からの回 復,AKI 罹患期間 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,敗血症性AKIの予防目的のPICO に合致したランダム化比較試験(RCT)は抽出されなかった。治療目的のPICO に合致したRCT が6 件施行されており 5-10),これらを用 いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 11-1-1)望ましい効果: AKI 罹病期間においては,有用性が示唆されるものの,重大なアウトカムでは望ましい効果はみられず,明らかな望ましい効果があるかは不明である。望ましくない効果: 院内死亡(6 RCT: n =649)に対する効果推定値は, 1,000 人あたり39 人多い(95% CI: 26 人少ない~122人多い),RRT の導入(3 RCT: n =206)の効果推定値は,1,000 人あたり40 人多い(95% CI: 103 人少ない~299 人多い)であった。望ましくない効果はわずかであると判断した。益と害のバランス: 重大なアウトカムにおいて望ましい効果は明らかではない一方で,院内死亡,RRT の導入などのアウトカムで望ましくない効果がわずかにみられた。以上からフロセミド投与による明らかな有益性を示さなかった。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 重大なアウトカムにおいて,効果推定値の方向性は一致している。そのため,全体としては一番高いアウトカムの確実性を採用した。アウトカム全体におけるエビデンスの確実性は「低」である。 (6)価値観 患者および家族の価値観に関するデータはなく,死亡という重大なアウトカムにおいては個々人の価値観のばらつきは小さいと考えられる。 (7)容認性 フロセミドの投与は,1 日あたり最大1,000mg まで保険診療として認められている。フロセミド(20mg) 1 アンプルの薬価は約60 円であり,フロセミドによる1 日あたりの最大コストは約3,000 円である。個人負担額を考えると,患者・家族の個人の視点からは許容範囲内と考えられる。また,医療従事者に対する業務負荷量はわずかと考えられる。 (8)実行可能性 フロセミド投与において実行は容易である。 (9)判断の要約(Table 11-1-2) -S 226-
Table 11-1-1 エビデンスプロファイル Table 11-1-2 判断の要約 -S 227-
(10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7.5,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 では,本CQ については特に言及されていない 11)。本邦から出版されたAKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016 では,体液過剰を補正する目的での使用を除き,AKI の予防および治療目的にループ利尿薬を投与することは推奨されていない(予防:推奨の強さ1,エビデンスの強さ B。治療:推奨の強さ 2,エビデンスの強さ C) 12)。また諸外国から出版されたAKI のガイドラインでも同様に,体液量を補正する目的での使用を除き,ルーチンでの利尿薬の使用は推奨されていない(KDIGO – 予防:推奨の強さ 1,エビデンスの強さ B。KDIGO – 治療:推奨の強さ 2,エビデンスの強さ C) 13, 14)。 (12)実施に関わる検討事項 フロセミドの投与にあたっては,体液量,血管内容量の評価を行う必要がある。 (13)今後の研究の可能性 フロセミドに対する反応性がAKI 重症化の指標となりうる報告があり 15),フロセミド反応性に基づいた介入研究が行われることが望まれる。 文 献 1) Karajala V, Mansour W, Kellum JA: Diuretics in acute kidney injury. Minerva Anestesiol. 2009; 75: 251-7. 2) Ludens JH, Hook JB, Brody MJ, et al: Enhancement of renal blood flow by furosemide. J Pharmacol Exp Ther. 1968; 163: 456-60. 3) Ludens JH, Williamson HE: Effect of furosemide on renal blood flow in the conscious dog. Proc Soc Exp Biol Med. 1970; 133: 513-5. 4) Ho KM, Power BM: Benefits and risks of furosemide in acute kidney injury. Anaesthesia. 2010; 65: 283-93. 5) Cantarovich F, Fernandez JC, Locatelli A, et al: Frusemide in high doses in the treatment of acute renal failure. Postgrad Med J. 1971; 47: 13-7. 6) Kleinknecht D, Ganeval D, Gonzalez Duque LA, et al: Furosemide in acute oliguric renal failure; a controlled trial. Nephron. 1976; 17: 51-8. 7) Shilliday IR, Quinn KJ, Allison ME: Loop diuretics in the management of acute renal failure: A prospective, double-blind, placebo-controlled, randomized study. Nephrol Dial Transplant. 1997; 12: 2592-6. 8) Cantarovich F, Rangoonwala B, Lorenz H, et al: High-dose furosemide for established ARF: A prospective, randomized, double-blind, placebo-controlled, multicenter trial. Am J Kidney Dis. 2004; 44: 402-9. 9) van der Voort PH, Boerma EC, Koopmans M, et al: Furosemide does not improve renal recovery after hemofiltration for acute renal failure in critically ill patients: a double blind randomized controlled trial. Crit Care Med. 2009; 37: 533-8. 10) Bagshaw SM, Gibney RTN, Kruger P, et al: The effect of low-dose furosemide in critically ill patients with early acute kidney injury: a pilot randomized blinded controlled trial (the SPARK study). J Crit Care. 2017; 42: 138-46. 11) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 12) 寺田典生, 井関邦敏, 湯澤由紀夫, 他: AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016. 日腎会誌. 2017; 59: 419-533. 13) KDIGO AKI Working Group: KDIGO clinical practice guideline for acute kidney injury. Kidney Int Suppl. 2012; 2: 1-138. 14) National Institute for Health and Care Excellence (UK): National Institute for Health and Care Excellence: Clinical Guidelines. Acute Kidney Injury: Prevention, Detection and Management. 2019. 15) Chen JJ, Chang CH, Huang YT, et al: Furosemode stress test as a predictive marker of acute kidney injury progression or renal replacement therapy: a systemic review and meta-analysis. Crit Care. 2020; 24: 202. -S 228-
CQ11-2:敗血症性AKI の予防・治療目的に心房 性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の投与は行うか?(保険適用外使用) Answer:敗血症性AKI に対して予防あるいは治療を目的として,心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)を投与しないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 ANP は,尿細管でのナトリウム再吸収を抑制し,輸入細動脈の拡張および輸出細動脈の収縮を促すことで,糸球体濾過量を増加させることから,AKI に対して保護的に作用する可能性がこれまでの基礎実験から示唆されている 1-3)。加えて,本邦では同薬は急性心不全に対する治療薬として承認されているという背景があり,主に心臓血管外科術後AKI の予防や治療において検討されてきた 4)。しかしながら,敗血症性AKI に対する効果については明らかにはされていない。敗血症性AKI の高い死亡率を考慮すれば,本薬剤による敗血症性AKI の治療効果が認められれば,患者予後を改善する可能性があり,重要な臨床課題と考えられる 5)。 (2)PICO 1 敗血症性AKI の予防P (患者):成人の感染症,敗血症あるいは敗血症性 ショック患者および重症疾患患者I (介入):ANP の投与C (対照):プラセボまたは標準的治療,治療なしO (アウトカム):死亡,腎代替療法(renal replacement therapy: RRT)施行,AKI の発症,合併症(低血圧)発生 2 敗血症性AKI の治療P (患者):成人の敗血症性AKI 患者および重症疾 患によるAKI 患者I (介入):ANP の投与C (対照):プラセボまたは標準的治療,治療なしO (アウトカム):死亡,RRT 施行,ICU 滞在日数, 腎機能の回復,合併症(低血圧)発生 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,敗血症性AKIの予防目的のPICO に合致したランダム化比較試験(RCT)は抽出されなかった。治療目的のPICO に合致したRCT が3 件 6-8)施行されており,これらを用 いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 11-2-1)望ましい効果: RRT の導入(3 RCT: n =779)の効果推定値は, 1,000 人あたり58 人少ない(95% CI: 157 人少ない~ 73 人多い)であった。望ましい効果はわずかと考えられる。望ましくない効果: 死亡アウトカム(3 RCT: n =779)の効果推定値は, 1,000 人あたり18 人多い(95% CI: 57 人少ない~110人多い)であった。望ましくない効果はわずかと考えられる。益と害のバランス: 望ましい効果が「わずか」である一方で,望ましくない効果も「わずか」であり,標準的治療として同薬を投与することは,明らかに有益であるとはいえない。重大なアウトカムに設定した低血圧の有害事象が起こらない症例では,同薬の投与が有益性をもたらす可能性はあるが,重症敗血症では血圧が低下することが多く,その有益性は限定的と考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回検討されたアウトカムでは,本薬剤投与による望ましい効果,望ましくない効果の方向性は一致しておらず,一番低いアウトカムの確実性を全体として採用した。アウトカム全体におけるエビデンスの確実性は「非常に低」である。 (6)価値観 各アウトカムに対する患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡や腎代替療法の導入に対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 体重50kg の患者に対して0.1μg / kg / min で投与された場合,介入に伴う1 日あたりのコストは,14,544 円(1,888 円 / バイアル×8 バイアル)である。個人負担額を考えると,患者・家族の個人の視点からは許容範囲内と考えられる。投与に際しては精密投与が必要かつ,配合禁忌の多い薬剤であり,医療従事者の負荷にはなりうる。 -S 229-
(8)実行可能性 本薬剤は,急性心不全に対する治療薬としては保険収載されているが,腎障害に対する薬剤としては承認されていない。腎障害の予防もしくは治療を目的として同薬を投与することは,適応外使用である。 (9)判断の要約(Table 11-2-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.178 の結果となり,委員会で採択さ れた(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 では,本CQ については特に言及されていない 9)。本邦から出版されたAKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016 では,AKI の予防および治療目的に低用量ANP を投与することは,エビデンスレベルの低さから推奨されていない(推奨の強さ なし,エビデンスの強さ D) 10)。また諸外国のAKI ガイドラ Table 11-2-1 エビデンスプロファイル Table 11-2-2 判断の要約 -S 230-
インでも,AKI の予防および治療目的に同薬を投与しないことが推奨されている(推奨の強さ 2,エビデンスの強さ B) 11)。 (12)実施に関わる検討事項 本薬剤の投与にあたっては,血圧低下のリスクを十分に評価したうえで投与を検討することが望まれる。 (13)今後の研究の可能性 敗血症性AKI のみに限定した検討,また低用量(≦ 0.05μg / kg / min)に限定した検討が期待される。 文 献 1) Potter LR, Abbey-Hosch S, Dickey DM: Natriuretic peptides, their receptors, and cyclic guanosine monophosphate-dependent signaling functions. Endocr Rev. 2006; 27: 47-72. 2) Kuwahara K, Nakao K: Regulation and significance of atrial and brain natriuretic peptides as cardiac hormones. Endocr J. 2010; 57: 555-65. 3) Marin-Grez M, Fleming JT, Steinhausen M: Atrial natriuretic peptide causes pre-glomerular vasodilatation and post-glomerular vasoconstriction in rat kidney. Nature. 1986; 324: 473-6. 4) Yamada H, Doi K, Tsukamoto T, et al: Low-dose atrial natriuretic peptide for prevention or treatment of acute kidney injury: a systematic review and meta-analysis. Crit Care. 2019; 23: 41. 5) Alobaidi R, Basu RK, Goldstein SL, et al: Sepsis-associated acute kidney injury. Semin Nephrol. 2015; 35: 2-11. 6) Rahman SN, Kim GE, Mathew AS, et al: Effects of atrial natriuretic peptide in clinical acute renal failure. Kidney Int. 1994; 45: 1731-8. 7) Allgren RL, Marbury TC, Rahman SN, et al: Anaritide in acute tubular necrosis. Auriculin Anaritide Acute Renal Failure Study Group. N Engl J Med. 1997; 336: 828-34. 8) Lewis J, Salem MM, Chertow GM, et al: Atrial natriuretic factor in oliguric acute renal failure. Anaritide Acute Renal Failure Study Group. Am J Kidney Dis. 2000; 36: 767-74. 9) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 10) 寺田典生, 井関邦敏, 湯澤由紀夫, 他: AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016. 日腎会誌. 2017; 59: 419-533. 11) KDIGO AKI Working Group: KDIGO clinical practice guideline for acute kidney injury. Kidney Int Suppl. 2012; 2: 1-138. CQ11-3:敗血症性AKI の予防・治療目的にドパ ミンの投与は行うか? Answer:敗血症性AKI に対して予防あるいは治療を目的として,ドパミンを投与しないことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 ドパミンは健常人に対して1~3μg / kg / min の低用量で投与すると,腎血管拡張,糸球体濾過量増加,ナトリウム利尿作用が得られることにより,腎保護性の昇圧薬として使用されてきたが,2000 年代に報告されたランダム化比較試験(RCT)を中心にその有益性はすでに否定されている 1-3)。しかしながら,“renal dose”という呼称のもと長く使用されてきた歴史的経緯から,引き続き本CQ を重要臨床課題として取り上げた。 (2)PICO 1 敗血症性AKI の予防P (患者):成人の感染症,敗血症あるいは敗血症性 ショック患者および重症疾患患者I (介入):ドパミンの投与C (対照):プラセボ投与または標準的治療,治療な しO (アウトカム):死亡,腎代替療法(renal replacement therapy: RRT)施行,AKI の発症,合併症(不整脈)発生 2 敗血症性AKI の治療P (患者):成人の敗血症性AKI 患者および重症疾 患によるAKI 患者I (介入):ドパミンの投与C (対照):プラセボ投与または標準的治療,治療な しO (アウトカム):死亡,RRT 施行,AKI からの回 復,合併症(不整脈)発生 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,敗血症性AKIの予防目的のPICO に合致したRCT は抽出されなかった。治療目的のPICO に合致したRCT が1 件 4)施行されていた。 -S 231-
(4)益と害のバランス(Table 11-3-1)望ましい効果: 集中治療室退室時の死亡に対する効果推定値は, 1,000 人あたり25 人少ない(95% CI: 114 人少ない~ 89 人多い)であった。また,RRT への移行では, 1,000 人あたり27 人少ない(95% CI: 98 人少ない~79人多い)であり,ドパミンの望ましい効果はわずかと考えられる。望ましくない効果: 院内死亡に対する効果推定値は,1,000 人あたり24人少ない(95% CI: 73 人少ない~150 人多い)であった。望ましくない効果はわずかと考えられる。益と害のバランス: 望ましい効果が「わずか」である一方,望ましくない効果も「わずか」と評価された。重大なアウトカムとして院内死亡とICU 死亡の2 つを採用したが,方向性が異なる結果であった。以上から,標準的治療として同薬を投与することは,明らかに有益であるとはいえないと考えられた。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 望ましい効果と望ましくない効果の方向性が一致しておらず,全体的なエビデンスの確実性は「低」とした。ただし,1 つのRCT に基づく推奨であることを強調する必要がある。 (6)価値観 患者および家族の価値観に関するデータはなく,死亡という重大なアウトカムにおいては個々人の価値観のばらつきは小さいと考えられる。 (7)容認性 ドパミンのコストは安価であり,患者・家族の視点からは容認できる範囲であると思われる。 (8)実行可能性 ドパミン投与において,実行は容易である。 (9)判断の要約(Table 11-3-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 では,腎保護目的に低用量ドパミンを投与しないことを強く推奨されている(推奨の強さ 強, Table 11-3-1 エビデンスプロファイル -S 232-
エビデンスの強さ 高) 5)。本邦から出版されたAKI (急性腎障害)診療ガイドライン2016 および諸外国のAKI ガイドラインでも,AKI の予防および治療目的に同薬を投与しないことが推奨されている[AKI(急性腎障害)診療ガイドライン:推奨の強さ 1,エビデンスの強さ A](KDIGO:推奨の強さ 1,エビデンスの強さ A) 6-8)。 (12)実施に関わる検討事項 なし。 (13)今後の研究の可能性 敗血症性AKI のみに限定したRCT の実施が期待される。 文 献 1) Denton MD, Chertow GM, Brady HR: “Renal-dose” dopamine for the treatment of acute renal failure: scientific rationale, experimental studies and clinical trials. Kidney Int. 1996; 50: 4-14. 2) Keir I, Kellum JA: Acute kidney injury in severe sepsis: pathophysiology, diagnosis, and treatment recommendations. J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2015; 25: 200-9. 3) Friedrich JO, Adhikari N, Herridge MS, et al: Meta-analysis: low-dose dopamine increases urine output but does not prevent renal dysfunction or death. Ann Intern Med. 2005; 142: 510. 4) Bellomo R, Chapman M, Finfer S, et al: Low-dose dopamine in patients with early renal dysfunction: a placebo-controlled randomised trial. Australian and New Zealand Intensive Care Society (ANZICS) Clinical Trials Group. Lancet. 2000; 356: 2139-43. 5) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 6) 寺田典生, 井関邦敏, 湯澤由紀夫, 他: AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016. 日腎会誌. 2017; 59: 419-533. 7) KDIGO AKI Working Group: KDIGO clinical practice guideline for acute kidney injury. Kidney Int Suppl. 2012; 2: 1-138. 8) National Institute for Health and Care Excellence (UK): National Institute for Health and Care Excellence: Clinical Guidelines. Acute Kidney Injury: Prevention, Detection and Management. 2019. Table 11-3-2 判断の要約 -S 233-
CQ11-4:敗血症性AKI に対する腎代替療法では 持続的治療を行うか? Answer:敗血症性AKI に対する腎代替療法は,持続的治療・間欠的治療のどちらを選択しても構わない(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。ただし,循環動態が不安定な症例については持続的治療を選択する(Good Practice Statement)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症性AKI が高度に進展した場合,院内死亡率は50% にまで及ぶとされ,生命維持のためには腎代替療法(renal replacement therapy: RRT)は必要不可欠な治療方法である。治療時間に関する分類として持続的あるいは間欠的なRRT があるが,どちらを敗血症性AKI に対して用いるのかは,病態のみならず治療施設における経験や診療体制にも依存するため,施設や症例において個別的な判断がなされており,その臨床判断の振れ幅は大きいと思われる。一方,循環が不安定な状態においては持続的なRRT が選択される傾向にあることが観察研究で報告されている 1)。したがって,この問題の優先度は高く,臨床的に重要な選択でもあるため,CQ として取り上げた。 (2)PICO P (患者):成人の敗血症性AKI 患者および重症疾 患によるAKI 患者I (介入):持続的腎代替療法(continuous renal replacement therapy: CRRT) C (対照):間欠的腎代替療法(intermittent renal replacement therapy: IRRT) O (アウトカム):死亡,透析依存,両者の複合アウ トカム,合併症発生 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が5 件 2-6)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。なお, RCT 割り付け後の重症度(APACHE II およびIII スコア,肝不全有無,不全臓器数)に有意差を認めたRCT が1 つあった 2)。このRCT を含めた5 RCT におけるエビデンスの確実性は「非常に低」であり,このRCT を除いた4 RCT におけるエビデンスの確実性は「低」であったため,今回は4 RCT による解析結果を用いた。 (4)益と害のバランス(Table 11-4-1)望ましい効果: 死亡アウトカムの効果推定値(4 RCT,n =838)は1,000 人あたり6 人少ない(95% CI: 69 人少ない~ 63 人多い),透析依存アウトカム(2 RCT,n =201)は1,000 人あたり28 人少ない(95% CI: 61 人少ない~ 68 人多い),透析依存と死亡の複合アウトカム(1 RCT,n =125)は1,000 人あたり42 人少ない(95% Table 11-4-1 エビデンスプロファイル -S 234-
CI: 185 人少ない~158 人多い)であった。また,出血合併症(2 RCT,n =609)は1,000 人あたり3 人少ない(95% CI: 29 人少ない~46 人多い)であった。したがって,CRRT による望ましい効果はわずかであると判断した。望ましくない効果: 今回検討したアウトカムでは,望ましくない効果は認められず,明らかな望ましくない効果があるかは不明である。益と害のバランス: 望ましい効果が「わずか」であり,望ましくない効果が「分からない」であった。したがって,効果のバランスは介入対象がおそらく優位と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 すべてのアウトカムにおいてCRRT の効果はわずかであると判断でき,相反するものはなかったため,全体的なエビデンスの確実性は「低」と判断した。 (6)価値観 患者および家族の価値観に関するデータはなく,死亡という重大なアウトカムにおいては個々人の価値観のばらつきは小さいと考えられる。 (7)容認性 本邦の保険診療において,CRRT とIRRT はともに承認された治療であり,患者・家族の視点からは容認できる範囲であると思われる。一方で,CRRT という介入の費用負担はIRRT と比較すると高いと考えられ,回路凝固などの管理面で医療従事者の負担増大となりうる。抗凝固薬の調整などで対応可能ではあるが, CRRT 施行に際しては医療スタッフの業務負荷がIRRTよりも増加することは明らかであり,望ましい効果が乏しい場合には,施行は容認しがたいものとなりうる。 (8)実行可能性 本邦における急性期病院での観察研究の結果からは,集中治療室においてCRRT を行うことはほぼ可能であると考えられる。非集中治療室環境においては,CRRT の施行は困難であると考えられる。 (9)判断の要約(Table 11-4-2) 効果のバランスは介入対象がおそらく優位と判断したが,アウトカム全般における確実性は「低」,容認性については「おそらく,いいえ」であると判断した。以上から,CRRT とIRRT のどちらも他方よりも勝るという結論には至らなかった。 (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。また,循環動態が不安定な患者を対象として,CRRT とIRRT を比較したRCT は存在しなかったが,実際の臨床においては循環動態が不安定な患者にはCRRT が選択されることが多いため,委員会の判断で,このような状況においてはCRRT を選択するというGPS を示すこととした。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 では,CRRT,IRRT のどちらを選択し Table 11-4-2 判断の要約 -S 235-
てもよいが,血行動態が不安定な患者については, CRRT を使用することを提案している(推奨の強さ弱,エビデンスの強さ 低) 7)。本邦から出版されたAKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016 および海外のAKI ガイドラインでも,同様に提案されている[AKI(急性腎障害)診療ガイドライン – 血行動態安定:推奨の強さ 2,エビデンスの強さ B。AKI(急性腎障害)診療ガイドライン – 血行動態不安定:推奨の強さ なし,エビデンスの強さ D。](KDIGO:推奨の強さ 2,エビデンスの強さ B) 8, 9)。 (12)実施に関わる検討事項 循環動態が不安定な症例においてはCRRT を選択することが望ましいと考えられる。観察研究においても循環動態が不安定な症例では,CRRT が選択されていることが報告されており,すでに標準治療となっていると思われる。 (13)今後の研究の可能性 費用対効果について検討した研究が期待される。 文 献 1) Iwagami M, Yasunaga H, Noiri E, et al: Choice of renal replacement therapy modality in intensive care units: data from a Japanese Nationwide Administrative Claim Database. J Crit Care. 2015; 30: 381-5. 2) Mehta RL, Mcdonald B, Gabbai FB, et al: A randomized clinical trial of continuous versus intermittent dialysis for acute renal failure. Kidney Int. 2001; 60: 1154-63. 3) Gasparović V, Filipović-Grcić I, Merkler M, et al: Continuous renal replacement therapy (CRRT) or intermittent hemodialysis (IHD)--what is the procedure of choice in critically ill patients?. Ren Fail. 2003; 25: 855-62. 4) Uehlinger DE, Jakob SM, Ferrari P, et al: Comparison of continuous and intermittent renal replacement therapy for acute renal failure. Nephrology Dialysis Transplantation. 2005; 20: 1630-7. 5) Vinsonneau C, Camus C, Combes A, et al: Continuous venovenous haemodiafiltration versus intermittent haemodialysis for acute renal failure in patients with multiple-organ dysfunction syndrome: a multicentre randomised trial. Lancet. 2006; 368: 379-85. 6) Schefold JC, von Haehling S, Pschowski R, et al: The effect of continuous versus intermittent renal replacement therapy on the outcome of critically ill patients with acute renal failure (CONVINT): a prospective randomized controlled trial. Crit Care. 2014; 18: R11. 7) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 8) 寺田典生, 井関邦敏, 湯澤由紀夫, 他: AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016. 日腎会誌. 2017; 59: 419-533. 9) KDIGO AKI Working Group: KDIGO clinical practice guideline for acute kidney injury. Kidney Int Suppl. 2012; 2: 1-138. CQ11-5-1:敗血症性AKI に対して,早期の腎代 替療法を行うか?(Stage 2 vs Stage 3 または古典的絶対適応) Answer:敗血症性AKI に対してStage 2 での早期の腎代替療法を行うか否かについて,本ガイドラインでは推奨を提示しない。 (1)背景および本CQ の重要度 AKI を合併した敗血症患者に対して,いつ腎代替療法(renal replacement therapy: RRT)を開始すべきか,臨床現場では判断に悩むことが多い。いわゆる絶対適応ではない段階での早期のRRT によって予後が改善する可能性も示唆されている一方で,不要なRRT を行うことは患者を合併症のリスクに余計にさらす可能性ももつ。いつRRT を行うかについては依然議論が分かれており,重要な臨床課題として取り上げるべきと考えられる。なお,早期の定義が統一されていない状況を鑑み,AKI の重症度でCQ を分けることとした。 (2)PICO P (患者):成人の敗血症性AKI 患者および重症疾 患によるAKI 患者I (介入):RIFLE / AKIN / KDIGO Stage 2 でRRT 施 行C (対照):RIFLE / AKIN / KDIGO Stage 3 または古典 的な絶対適応でRRT 施行O (アウトカム):死亡,透析依存,両者の複合アウ トカム (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が1 件 1)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 11-5-1-1)望ましい効果: Stage 2 での開始の効果は,死亡については1,000 人あたり195 人少ない(95% CI: 293 人少ない~70 人少ない)であった。死亡または透析依存の複合アウトカムについては,1,000 人あたり190 人少ない(95% CI: 292 人少ない~66 人少ない)であった。したがって, Stage 2 におけるRRT の開始における望ましい効果は「中」と判断した。 -S 236-
望ましくない効果: 採用された1 つのRCT では出血合併症について報告されていない。早期にRRT を開始すればブラッドアクセス挿入によるカテーテル感染が増加する可能性が懸念されるが,本システマティックレビューにおいて対象となったRCT ではアウトカムには含まれていない。したがって,望ましくない効果は様々であると判断した。益と害のバランス: Stage 2 におけるRRT の開始の望ましい効果は「中」であり,おそらく介入が優位と判断される。しかしながら,この望ましい効果は,1 施設で実施された1 つのRCT から得られた結果であり一般化の可能性は低い。また,本研究結果に関連する大規模多施設研究が2020 年2 月の時点で完了しており,その結果により推奨が変わる可能性がある。したがって,本ガイドラインにおいては,敗血症性AKI に対してStage 2 での早期のRRT を行うか否かについて推奨を提示しないこととした。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 Stage 2 vs Stage 3 または古典的絶対適応の比較において,1 つのRCT で評価された2 つの重大なアウトカムである,死亡率と死亡または透析依存の複合エンドポイントはともにStage 2 でのRRT 導入の有用性が高いことを示したが,エビデンスの確実性は「低」と判断されている。(6)価値観 患者および家族の価値観に関するデータはなく,死亡という重大なアウトカムにおいては個々人の価値観のばらつきは小さいと考えられる。 (7)容認性 早期にRRT を開始すれば,カテーテル感染や出血合併症の増加が懸念される。明確な利益が確定していなければ,患者にとって不要な侵襲的処置の施行に関する容認性は低いと思われる。また,早期のRRT の実施に際しては医療スタッフの業務負荷は増加するため,望ましい効果が確定的でなければその施行は容認しがたいものとなりうる。一方で,その実施における治療費用は施行しない場合と比較すると高くなるが,本邦においてRRT は保険診療として用いられている治療であり,患者・家族の視点からは費用負担は容認できる範囲であると思われる。 (8)実行可能性 RRT を早期に開始すると,RRT を受ける患者数が増える可能性があるため,早期開始の妨げとなる要因は設備および人的資源である。設備や人的資源が潤沢な施設や敗血症診療の頻度が低い施設では,その実行可能性は「おそらく,はい」である。しかし,設備や人的資源が限られている施設や敗血症診療の頻度が高い施設では,その実行可能性は「おそらく,いいえ」である。本ガイドラインは一般診療を対象としたガイドラインであるため,設備や人的資源が潤沢ではない施設での状況を鑑み,実行可能性は「おそらく,いい Table 11-5-1-1 エビデンスプロファイル -S 237-
え」とした。 (9)判断の要約(Table 11-5-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 ワーキンググループからは,本CQ である「Stage 2 vs Stage 3 または古典的絶対適応」と別CQ である「Stage 3 vs 古典的絶対適応」を統合した形でのエビデンスが提出されたが,委員会の判断において異なるAKI 重症度での開始を分けて推奨を提示するように変更した。本CQ については,修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上: 87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 では,透析療法の絶対的な適応がない乏尿または血清クレアチニン高値の段階では,RRT を行わないことを提案している(推奨の強さ 弱,エビデンスの強さ 低) 2)。本邦から出版されたAKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016 では,「早期の血液浄化療法開始が予後を改善するエビデンスは乏しく,臨床症状や病態を広く考慮して開始の時期を決定すべきである(推奨の強さ なし,エビデンスの強さC)」と述べられている 3)。一方,海外のAKI ガイドラインでは,「体液量,電解質,酸塩基平衡の致死的になりうる変化がある場合に速やかにRRT を開始する(グレードなし)」と記載されている 4)。(12)実施に関わる検討事項 なし。 (13)今後の研究の可能性 敗血症性AKI に限定した解析,費用対効果に関する検討が期待される。また,非早期開始群における緊急的なRRT を害として評価する必要がある。 文 献 1) Zarbock A, Kellum JA, Schmidt C, et al: Effect of Early vs Delayed Initiation of Renal Replacement Therapy on Mortality in Critically Ill Patients With Acute Kidney Injury: The ELAIN Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016; 315: 2190-9. 2) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 3) 寺田典生, 井関邦敏, 湯澤由紀夫, 他: AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016. 日腎会誌. 2017; 59: 419-533. 4) KDIGO AKI Working Group: KDIGO clinical practice guideline for acute kidney injury. Kidney Int Suppl. 2012; 2: 1-138. Table 11-5-1-2 判断の要約 -S 238-
CQ11-5-2:敗血症性AKI に対して,早期の腎代 替療法を行うか?(Stage 3 vs 古典的絶対適応) Answer:敗血症性AKI に対してStage 3 での早期の腎代替療法を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 CQ11-2-1 と同様である。 (2)PICO P (患者):成人の敗血症性AKI 患者および重症疾 患によるAKI 患者I (介入):RIFLE / AKIN / KDIGO Stage 3 でRRT 施 行C (対照):古典的な絶対適応でRRT 施行O (アウトカム):死亡,透析依存,両者の複合アウ トカム,合併症(出血) (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が2 件 1, 2)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。(4)益と害のバランス(Table 11-5-2-1) 望ましい効果: Stage 3 と古典的絶対適応での開始を比較した2 つのRCT で抗凝固薬投与による出血が害として報告されている。出血のリスクは1,000 人あたり22 人少ない(95% CI: 45 人少ない~12 人多い)であり,観察された点推定値が1 を下回っているということのみに基づいて,出血リスクが下がることを「望ましい効果」と評価した場合に,その効果はわずかであると判断した。望ましくない効果: Stage 3 での開始と古典的絶対適応での開始を比較し,死亡をアウトカムとした2 つのRCT においては, Stage 3 での開始の効果は1,000 人あたり11 人多い(95% CI: 48 人少ない~74 人多い)であった。死亡または透析依存の複合アウトカムについては,1,000 人あたり0 人の増減(95% CI: 59 人少ない~70 人多い)であった。したがって,Stage 3 におけるRRT の開始における望ましくない効果はわずかであると判断した。益と害のバランス: Stage 3 におけるRRT の開始の望ましい効果も望ましくない効果も,いずれかを支持するほどには示されていない。 Table 11-5-2-1 エビデンスプロファイル -S 239-
(5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 重大なアウトカムである死亡と出血合併症のアウトカムが異なる方向性を示しており,出血合併症に関する確実性は「非常に低」と評価されていることから,全体的な確実性を「非常に低」とする。 (6)価値観 患者および家族の価値観に関するデータはなく,死亡という重大なアウトカムにおいては個々人の価値観のばらつきは小さいと考えられる。 (7)容認性 RRT という介入の費用負担は施行しない場合と比較すると当然高い。しかし,本邦においてRRT は保険診療として用いられている治療であり,患者・家族の視点からは費用負担は容認できる範囲であると思われる。一方,RRT 施行に際しては医療スタッフの業務負荷は増加するため,不必要な施行は容認しがたいものとなりうるが,望ましい効果が明らかではないため,重要な利害関係者にとって妥当なものであるかどうか評価するに至っていない。 (8)実行可能性 RRT を早期に開始するに伴い,RRT を受ける患者数が増える可能性があるため,早期開始の妨げとなる要因は設備および人的資源である。臓器障害を伴う敗血症患者の診療にあたる施設における,患者数の増加に対応するRRT 実施体制についてのリサーチエビデンスはないため,本CQ での介入について実行可能性の評価は困難である。 (9)判断の要約(Table 11-5-2-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 ワーキンググループからは,本CQ である「Stage 2 vs Stage 3 または古典的絶対適応」と別CQ である「Stage 3 vs 古典的絶対適応」をまとめた形でのエビデンスが提出されたが,委員会の判断において異なるAKI 重症度での開始を分けて推奨を提示するように変更した。本CQ については,修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上: 91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 では,透析療法の絶対的な適応がない乏尿または血清クレアチニン高値の段階では,RRT を行わないことを提案している(推奨の強さ 弱,エビデンスの強さ 低) 3)。本邦から出版されたAKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016 では,「早期の血液浄化療法開始が予後を改善するエビデンスは乏しく,臨床症状や病態を広く考慮して開始の時期を決定すべきである(推奨の強さ なし,エビデンスの強さ C)」と述べられている 4)。一方,海外のAKI ガイドラインでは,体液量,電解質,酸塩基平衡の致死的になりうる変化がある場合に速やかにRRT を開始する(グレードなし)と記載されている 5)。 Table 11-5-2-2 判断の要約 -S 240-
(12)実施に関わる検討事項 なし。 (13)今後の研究の可能性 費用対効果について検討した研究が期待される。 文 献 1) Gaudry S, Hajage D, Schortgen F, et al: Initiation Strategies for Renal-Replacement Therapy in the Intensive Care Unit. N Engl J Med. 2016; 375: 122-33. 2) Barbar SD, Clere-Jehl R, Bourredjem A, et al: Timing of Renal- Replacement Therapy in Patients with Acute Kidney Injury and Sepsis. N Engl J Med. 2018; 379: 1431-42. 3) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 4) 寺田典生, 井関邦敏, 湯澤由紀夫, 他: AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016. 日腎会誌. 2017; 59: 419-533. 5) KDIGO AKI Working Group: KDIGO clinical practice guideline for acute kidney injury. Kidney Int Suppl. 2012; 2: 1-138. CQ11-6:敗血症性AKI に対する腎代替療法にお いて,血液浄化量の増加を行うか? Answer:敗血症性AKI に対して,血液浄化量を標準量よりも増やさないことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症性AKI 患者に腎代替療法(renal replacement therapy: RRT)を施行する際に,炎症性サイトカインや種々のメディエータなどのクリアランスを上げることで予後を改善させることを期待し,透析量・濾過量を増やすことが検討されている。本邦の保険診療では15mL / kg / hr 程度の処方量が標準とされているが,国外では25mL / kg / hr 程度が標準的な処方量とされている。敗血症性AKI に対して最も治療効果の高い処方量を設定することは予後改善において重要であり,検討すべきCQ として取り上げた。 (2)PICO P (患者):成人の敗血症性AKI 患者および重症疾 患によるAKI 患者I (介入):高用量でのRRT C (対照):標準量でのRRT O (アウトカム):死亡,透析依存,両者の複合アウ トカム,副作用(低リン血症)発生 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が6 件抽出された 1-6)。なお,3 つのRCT において超高用量(50mL / kg / hr~)と高用量(30~35mL / kg / hr)でのRRT の比較検討が行われており 2, 5, 6),これらは,「(10)推奨グレーディング決定の工程」において述べる理由で推奨の作成において除外した。 (4)益と害のバランス(Table 11-6-1)望ましい効果: 今回検討したアウトカムでは,望ましい効果は認められず,明らかな望ましい効果があるかは不明である。望ましくない効果: 死亡アウトカム(3 RCT,n =2,789)の効果推定値は1,000 人あたり22 人多い(95% CI: 13 人少ない~ 58 人多い)であった。透析依存アウトカム(3 RCT, n =2,096),透析依存と死亡複合アウトカム(3 RCT, -S 241-
n =2,786)はそれぞれ1,000 人あたり22 人多い(95% CI: 9 人少ない~57 人多い),1,000 人あたり12 人多い(95% CI: 12 人少ない~43 人多い)であった。望ましくない効果は「わずか」であると判断した。益と害のバランス: 望ましい効果は「分からない」であり,望ましくない効果は「わずか」と判断された。したがって,効果のバランスは「比較がおそらく優位」とした。なお,超高用量(50mL / kg / hr~)と高用量(30~35mL / kg / hr)でのRRT の比較検討が行われた3 つのRCT 2, 5, 6)では,エビデンスの確実性は「非常に低」であり,望ましい効果も望ましくない効果も「わずか」と判断され,介入も比較もいずれも優位でない結果が得られている。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 すべての重大なアウトカムにおいて「低」と評価されており,方向性が同じであるため,全体的なエビデンスの確実性も「低」とした。 (6)価値観 患者および家族の価値観に関するデータはなく,死亡という重大なアウトカムにおいては個々人の価値観のばらつきは小さいと考えられる。 (7)容認性 高用量のRRT という介入の費用負担は標準量よりも当然高いが,透析液および置換液の費用負担は比較的安価であり,患者・家族の視点からは容認できる範囲であると思われる。しかし,頻回の透析液・置換液 の交換や,血液濾過量を増加させた場合における頻回のフィルターおよび回路凝固は,医療従事者の労力増加につながる。 (8)実行可能性 技術的には抗凝固薬の調整やフィルターの選択を工夫することで高用量の腎代替療法は実行可能である。 (9)判断の要約(Table 11-6-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。なお,超高用量は本邦における診療においては現実的にほぼ用いられていない治療量であることに加え,超高用量が高用量よりも優れている結果が前記の通り得られていないことから,標準量からの増量が効果を示すとは考えにくいと委員会が判断し,これら3 つのRCT は対象に含めていない。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 では,解説文で血液浄化量について言及されているが,明確な推奨はされていない 7)。本邦から出版されたAKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016 では,至適な血液浄化量を推奨できる根拠となるエビデンスがなく,病態に応じた血液浄化量の設定が必要であると述べられている(推奨の強さ 2,エビデンスの強さ B) 8)。一方,海外のAKI ガイドライン Table 11-6-1 エビデンスプロファイル -S 242-
では,血液浄化量として20~25mL / kg / hr で行うことが推奨されている(推奨の強さ 1,エビデンスの強さA) 9)。 (12)実施に関わる検討事項 海外における血液浄化量の標準量は20~25mL / kg / hrであるが,本邦における保険適用量は10~15mL / kg / hrであり乖離がある。 (13)今後の研究の可能性 本邦と海外で行われている血液浄化量の乖離に関して検討した研究や,費用対効果について検討した研究が期待される。 文 献 1) Tolwani AJ, Campbell RC, Stofan BS, et al: Standard versus high-dose CVVHDF for ICU-related acute renal failure. J Am Soc Nephrol. 2008; 19: 1233-8. 2) Boussekey N, Chiche A, Faure K, et al: A pilot randomized study comparing high and low volume hemofiltration on vasopressor use in septic shock. Intensive Care Med. 2008; 34: 1646-53. 3) Palevsky PM, Zhang JH, O’Connor TZ, et al: Intensity of renal support in critically ill patients with acute kidney injury. N Engl J Med. 2008; 359: 7-20. 4) RENAL Replacement Therapy Study Investigators; Bellomo R, Cass A, Cole L, et al: Intensity of continuous renal-replacement therapy in critically ill patients. N Engl J Med. 2009; 361: 1627-38. 5) Joannes-Boyau O, HonoréPM, Perez P, et al: High-volume versus standard-volume haemofiltration for septic shock patients with acute kidney injury (IVOIRE study): a multicentre randomized controlled trial. Intensive Care Med. 2013; 39: 1535-46. 6) Ye J, Pu X, Chen X: Impacts of different hemofiltration methods on the prognosis of patients with sepsis. Biomed Res. 2017; 28: 5473-8. 7) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 8) 寺田典生, 井関邦敏, 湯澤由紀夫, 他: AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016. 日腎会誌. 2017; 59: 419-533. 9) KDIGO AKI Working Group: KDIGO clinical practice guideline for acute kidney injury. Kidney Int Suppl. 2012; 2: 1-138. Table 11-6-2 判断の要約 -S 243-
CQ11-7:敗血症性ショックに対して,PMX-DHP を行うか? Answer:敗血症性ショックの患者に対して, PMX-DHP を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2B:エビデンスの確実性=「中」)。 (1)背景および本CQ の重要度 エンドトキシンは,グラム陰性桿菌の細胞壁の構成成分であるリポ多糖類であり,体内に侵入すると,様々な炎症性サイトカインやメディエータ産生を誘導することが知られている 1, 2)。エンドトキシンの吸着を目的としてポリミキシンB 固定化カラムを用いた直接血液灌流法(direct hemoperfusion with polymyxin B immobilized fiber column: PMX-DHP)が開発され,本邦において臨床応用された 3)。本治療には,敗血症の病態を大きく改善させうる理論的背景がある一方で,治療を行うにはカテーテル挿入,抗凝固薬の投与などが必要であることから,合併症のリスクも同時にはらんでおり,その有効性については議論が続いていた 4, 5)。加えて,本治療で使用されるポリミキシンB固定化カラムは,本邦で開発されたため国内での認知度は非常に高く,また諸外国でも様々なランダム化比較試験(RCT)が行われていることから,本CQ を重要な臨床課題として取り上げた 6, 7)。(2)PICO P (患者):成人の敗血症患者I (介入):PMX-DHP ありC (対照):PMX-DHP なし,または標準的治療O (アウトカム):死亡(最長観察期間),副作用(患者単位),臓器障害スコア(72 時間),昇圧薬不使用日数 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したRCT が3 件 8-10)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 11-7-1)望ましい効果: 昇圧薬の不使用日数は減少することが示唆されたが,その他の重大なアウトカムでは,望ましい効果はみられず,明らかな望ましい効果があるかは不明である。望ましくない効果: 最長観察期間での全死亡は,3 つのRCT で1,000 人あたり12 人多い(95% CI: 123 人少ない~223 人多い)である。臨床試験で定められた何らかの副作用は,2つのRCT で1,000 人あたり17 人多い(95% CI: 19 人少ない~58 人多い)である。望ましくない効果はわずかであると判断した。 Table 11-7-1 エビデンスプロファイル -S 244-
益と害のバランス: 効果のバランスは望ましくない効果が「わずか」であり,望ましい効果は分からないため,「比較対照がおそらく優位」と結論した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 2 つの重大なアウトカムの方向性は同じであり,最も高い確実性を採用して「中」とした。 (6)価値観 患者および家族の価値観に関するデータはなく,死亡という重大なアウトカムにおいては個々人の価値観のばらつきは小さいと考えられる。 (7)容認性 吸着カラムの価格約30 万円 / 回,診療報酬2,000 点と高額であり,容認性が高い治療とはいいにくいため,「おそらく,いいえ」と判断した。 (8)実行可能性 PMX-DHP 実行可能性を評価した臨床研究は存在しないが,敗血症性ショックの患者診療にあたる施設では,血液浄化装置を配備していることが想定され,本治療の施行は可能であると思われるため,実行可能性は「おそらく,はい」と判断した。 (9)判断の要約(Table 11-7-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 では,本治療法については推奨が示されていない 11)。 (12)実施に関わる検討事項 なし。 (13)今後の研究の可能性 サブ解析において臓器障害スコアの高い患者(MODS >9)に対する有効性,エンドトキシン活性が高い患者での有効性が示唆されており,このような患者群に特化した介入研究が期待される。 文 献 1) Rittirsch D, Flierl MA, Ward PA: Harmful molecular mechanisms in sepsis. Nat Rev Immunol. 2008; 8: 776-87. 2) Cavaillon JM: Exotoxins and endotoxins: Inducers of inflammatory cytokines. Toxicon. 2018; 149: 45-53. 3) Hanasawa K, Tani T, Oka T, et al: Selective removal of endotoxin from the blood by extracorporeal hemoperfusion with polymyxin B immobilized fiber. Prog Clin Biol Res. 1988; 264: 337-41. 4) Ronco C, Klein DJ: Polymyxin B hemoperfusion: a mechanistic perspective. Crit Care. 2014; 18: 309. 5) Yamashita C, Moriyama K, Hasegawa D, et al: Evidence and Perspectives on the Use of Polymyxin B-Immobilized Fiber Column Hemoperfusion among Critically Ill Patients. Contrib Nephrol. 2018; 196: 215-22. 6) Fujii T, Ganeko R, Kataoka Y, et al: Polymyxin B-immobilized Table 11-7-2 判断の要約 -S 245-
hemoperfusion and mortality in critically ill adult patients with sepsis / septic shock: a systematic review with meta-analysis and trial sequential analysis. Intensive Care Med. 2018; 44: 167-78. 7) Terayama T, Yamakawa K, Umemura Y, et al: Polymyxin B Hemoperfusion for Sepsis and Septic Shock: A Systematic Review and Meta-Analysis. Surgical Infections. 2017; 18: 225-33. 8) Nakamura T, Ebihara I, Shoji H, et al: Treatment with polymyxin B-immobilized fiber reduces platelet activation in septic shock patients: Decrease in plasma levels of soluble P-selectin, platelet factor 4 and β-thromboglobulin. Inflamm Res. 1999; 48: 171-5. 9) Payen DM, Guilhot J, Launey Y, et al: Early use of polymyxin B hemoperfusion in patients with septic shock due to peritonitis: a multicenter randomized control trial. Intensive Care Med. 2015; 41: 975-84. 10) Dellinger RP, Bagshaw SM, Antonelli M, et al: Effect of Targeted Polymyxin B Hemoperfusion on 28-Day Mortality in Patients With Septic Shock and Elevated Endotoxin Level: The EUPHRATES Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018; 320: 1455-63. 11) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. -S 246-
CQ12:栄養療法 敗血症などの重症病態では,神経内分泌の賦活化,サイトカインなどの炎症性メディエータによる免疫応答により,異化亢進をはじめとする代謝変動を来す 1-3)。栄養障害が進行すると易感染性および生体機能の低下を来し,感染率,人工呼吸期間,死亡率,病院滞在日数などが増加する 4)。適切な栄養介入は,これらの生体反応を制御し,予後を改善する可能性が示唆されている 5)。 本ガイドラインでは,敗血症患者に栄養投与を行う場合の基本的な8 つのCQ と,近年注目されているビタミンC とビタミンD に関するCQ の計9 個のCQを取り上げることとした。7 つのCQ についてシステマティックレビューを実施したが,敗血症患者に限定 したエビデンスは少ないため,敗血症に見合う程度の重症患者を対象にしたランダム化比較試験(RCT)に基づいて推奨を行っている。 CQ12-1 は,経腸栄養と経静脈栄養のどちらを優先 するべきかに関するものである。栄養の経腸投与が,腸内細菌叢と腸管粘膜の構造を維持し,腸管関連リンパ組織(gut-associated lymphoid tissue: GALT)の機能を維持することにより,bacterial translocation(生菌のみならず菌体成分を含む)を抑制すると考えられている。ヒトで生きた腸内細菌が腸管外へtranslocation する病態は多くないが,死菌でもその菌体成分は自然免疫に関するレセプター(toll-like receptor など)を介して生体に免疫応答を引き起こすことがわかっている 敗血症患者の栄養療法〔診療フロー〕 -S 247-
[病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns: PAMPs)]。そこで,経腸栄養が静脈栄養に比較して実際に益があるかについて検討を行った。CQ12-2 では,循環動態が不安定な患者において経腸栄養を開始することの益と害について,システマティックレビューを実施した。特に,循環動態不安定な患者における経腸栄養で問題となる腸管虚血・虚血性腸炎など重篤な消化管系合併症を重大なアウトカムとして設定した。CQ12-3 は,早期,すなわち重症病態への治療開始後24~48 時間以内に経腸栄養を開始することが,それ以降に開始する場合と比較して益と害のバランスがどうかについて検討を行った。 CQ12-4 では,経腸栄養の栄養投与量に関して検討 した。システマティックレビューでは,消費エネルギーよりも少ないエネルギー投与量と消費エネルギー程度の投与量を行う群での比較を行った。前者には,腸管粘膜や免疫能維持などを目的とした消費エネルギー量の1 / 4 や500kcal / 日(20kcal / hr)程度の低容量投与(trophic feeding)や,酸化ストレスやオートファジー障害などを避ける目的で,消費エネルギー量の60~70% 程度が投与される軽度エネルギー制限投与(permissive underfeeding / hypofeeding)が含まれる。後者には,少量の投与から開始し,最終的に消費エネルギー量に見合う量を投与する場合や,投与開始時から消費エネルギー量に見合う量の投与をめざし,胃残量の増加や下痢などの不耐性が出現したら減量する方法が含まれている。CQ12-5 では,経腸栄養のみでは目標とするエネルギー量を投与できない場合に,補足的な経静脈栄養を追加するかどうかについての検討を行った。CQ12-6 では,急性期の至適タンパク質投与量について検討を行った。本邦でのタンパク質投与量の現状が1g / kg / 日未満であること 6)や,これまでのガイドライン 7-9)での推奨の下限値が1.2~1.3g / kg / 日であることを踏まえて,システマティックレビューでは1g / kg / 日未満の投与量と1g / kg / 日以上の投与量での比較を行った。 CQ12-7 では,ビタミンC とビタミンD の投与に関 する検討を行った。ビタミンC については,重症敗血症,敗血症性ショック患者に対してビタミンC を投与することで院内死亡率が顕著に改善したとする報告 10)がなされて以降,注目されるようになった。しかしながら,2020 年に発表されたRCT では,28 日死亡,90 日死亡とも改善しないことが示された 11)。ビタミンD についても,ビタミンD が欠乏した集中治療患者では予後が悪いという報告 12)があり,補充することで死亡率を改善する傾向があったとするRCT 13)もある。2019 年に発表されたRCT では,ビ タミンD の有益性は否定される結果となった 14)。そこで,ビタミンC とビタミンD 投与の効果に関し,システマティックレビューを行い検証した。 CQ12-8 は経腸栄養の開始や耐性の判断方法につい て,CQ12-9 は急性期以降の栄養療法に関するそれぞれ情報提供を行うBQ である。それぞれ栄養療法を実施するうえで重要な臨床課題であり,敗血症の臨床現場で知識として役立てていただければ幸いである。 文 献 1) Hasselgren PO: Catabolic response to stress and injury: Implications for regulation. World J Surg. 2000; 24: 1452-9. 2) Demling RH, Seigne P: Metabolic management of patients with severe burns. World J Surg. 2000; 24: 673-80. 3) Hill AG, Hill GL: Metabolic response to severe injury. Br J Surg. 1998; 85: 884-90. 4) Ali NA, O’Brien JM Jr, Hoffmann SP, et al: Acquired weakness, handgrip strength, and mortality in critically III patients. Am J Respir Crit Care Med. 2008; 178: 261-8. 5) Elamin EM, Camporesi E: Evidence-based nutritional support in the intensive care unit. Int Anesthesiol Clin. 2009; 47: 121-38. 6) Yatabe T, Egi M, Sakaguchi M, et al: Influence of nutritional management and rehabilitation on physical outcome in Japanese intensive care unit patients: A multicenter observational study. Ann Nutr Metab. 2019; 74: 35-43. 7) Singer P, Blaser AR, Berger MM, et al: ESPEN guideline on clinical nutrition in the intensive care unit. Clin Nutr. 2019; 38: 48-79. 8) McClave SA, Taylor BE, Martindale RG, et al: Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2016; 40: 159-211. 9) 日本集中治療医学会重症患者の栄養管理ガイドライン作成委員会: 日本版重症患者の栄養療法ガイドライン. 日集中医誌. 2016; 23: 185-281. 10) Marik PE, Khangoora V, Rivera R, et al: Hydrocortisone, Vitamin C, and Thiamine for the Treatment of Severe Sepsis and Septic Shock: A Retrospective Before-After Study. Chest. 2017; 151: 1229-38. 11) Fujii T, Luethi N, Young PJ, et al: Effect of Vitamin C, Hydrocortisone, and Thiamine vs Hydrocortisone Alone on Time Alive and Free of Vasopressor Support among Patients with Septic Shock: The VITAMINS Randomized Clinical Trial. JAMA. 2020; 323: 423-31. 12) Braun AB, Gibbons FK, Litonjua AA, et al: Low serum 25-hydroxyvitamin D at critical care initiation is associated with increased mortality. Crit Care Med. 2012; 40: 63-72. 13) Amrein K, Schnedl C, Holl A, et al: Effect of High-Dose Vitamin D 3 on Hospital Length of Stay in Critically Ill Patients With Vitamin D Deficiency. JAMA. 2014; 312: 1520-30. 14) Ginde AA, Brower RG, Caterino JM, et al: Early high-dose Vitamin D3 for critically ill, Vitamin D–deficient patients. N Engl J Med. 2019; 381: 2529-40. -S 248-
CQ12-1:敗血症患者への栄養投与は経腸栄養と 経静脈栄養のどちらを行うか? Answer:敗血症患者への栄養投与は経腸栄養で行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 食事摂取不可能な敗血症患者には栄養療法を計画する必要があるが,経腸栄養は腸管機能と腸内細菌叢の保全により免疫防御機構の維持に貢献し,患者の予後や感染症発生率を改善させるといわれている。一方,経静脈栄養は確実な栄養投与を行うことができ,循環不安定な場合や腸閉塞などの状況でも栄養投与が可能である。経腸栄養と経静脈栄養のいずれがより有益であるかを明確にすることは,栄養計画の初期戦略を考えるうえで重要であり,本ガイドラインに取り上げるべき重要臨床課題であると考える。 (2)PICO P (患者):成人集中治療患者I (介入):経腸栄養を行うC (対照):経静脈栄養を行うO (アウトカム):死亡,病院滞在日数,人工呼吸期 間,すべての感染症発生 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が24 件 1-24)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 12-1-1)望ましい効果: 敗血症(血流感染)発生に関する効果推定値は,リスク差(RD)1,000 人あたり19 人少ない(95% CI: 32 人少ない~4 人多い)であり(9 RCT,2,976 人),肺炎に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり18 人少ない (95% CI: 41 人少ない~12 人多い)であり(8 RCT,3,066 人),腹部感染症に関する効果推定値は, RD 1,000 人あたり39 人少ない(95% CI: 46 人少ない~30 人少ない)であり(7 RCT,3,159 人),人工呼吸期間に関する効果推定値は,平均(MD)0.36 日短い(95% CI: 0.93 日短い~0.2 日長い)であり(4 RCT, 563 人),病院滞在日数に関する効果推定値は,MD 2.51 日短い(95% CI: 4.78 日短い~0.24 日短い)であ る(10 RCT,5,515 人)。望ましい効果は「中」であ Table 12-1-1 エビデンスプロファイル -S 249-
ると判断した。望ましくない効果: 90 日死亡に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり20 人多い(95% CI: 20 人少ない~68 人多い)であった(4 RCT,4,844 人)。望ましくない効果はわずかであると判断した。益と害のバランス: アウトカムの相対的価値を考慮しない場合でも,また,死亡に関する相対的価値を3 倍と考慮した場合においても対照群において害が多いため,おそらく介入が優位であると判断する。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 各アウトカムが益と害の異なる方向性を示しており,重大なアウトカムに関するエビデンスの確実性の中でも最も低いGRADE を採用することになり,最も低い「非常に低」とした。 (6)価値観 栄養療法におけるアウトカムに関する価値観についてのデータはない。一般的に死亡に対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 経腸栄養剤は多くの場合,食事として提供されるため食事療養標準負担額となる。経静脈栄養は1 日の薬価が約1,000~2,000 円である。いずれの場合でも容認されると考えられる。経鼻胃管の留置はリスクが少なく許容されるだろう。中心静脈カテーテルは循環作動 薬の投与などのために挿入されている場合は問題にならないが,栄養療法のためだけに留置する場合は,リスクを考慮する必要がある。 (8)実行可能性 一般的な処置であり,どの病院においても実行可能性は高いといえる。 (9)判断の要約(Table 12-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:95.8%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 他のガイドラインとして,American Society for Parenteral and Enteral Nutrition/Society of Critical Care Medicie(ASPEN/SCCM)ガイドライン, European Society for Clinical Nutrition and Metabolism(ESPEN)ガイドラインが挙げられる 25, 26)。 ASPEN / SCCM ガイドラインでは,栄養サポートが必要な重症患者に対して,経静脈栄養よりも経腸栄養を推奨している。ESPEN ガイドラインでは,経口摂取ができない場合,経静脈栄養よりも経腸栄養を48時間以内に投与することを推奨している。 Table 12-1-2 判断の要約 -S 250-
(12)実施に関わる検討事項 経腸栄養の実施にあたっては循環動態の安定ができているかの検討が必要である。 (13)今後の研究の可能性 今後,投与経路の違いが身体機能などのアウトカムに影響を与えるかに関する研究が行われることが望まれる。 文 献 1) Rapp RP, Young B, Twyman D, et al: The favorable effect of early parenteral feeding on survival in head-injured patients. J Neurosurg. 1983; 58: 906-12. 2) Moore EE, Jones TN: Benefits of immediate jejunostomy feeding after major abdominal trauma -- a prospective, randomized study. J Traumac. 1986; 26: 874-81. 3) Young B, Ott L, Twyman D, et al: The effect of nutritional support on outcome from severe head injury Patient Population and Clinical Therapy. J Neurosurg. 1987; 67: 668-76. 4) Cerra FB, McPherson JP, Konstantinides FN, et al: Enteral nutrition does not prevent multiple organ failure syndrome (MOFS) after sepsis. Surgery. 1988; 104: 727-33. 5) Kudsk KA: Gut mucosal nutritional support - Enteral nutrition as primary therapy after multiple system trauma. 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CQ12-2:循環動態不安定な敗血症性ショックの 患者において,経腸栄養を行うか? Answer:循環動態不安定な敗血症性ショックの患者において,経腸栄養を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症患者では,早期経腸栄養が腸管免疫や予後にも重要と考えられ 1, 2),経腸栄養の遅れはエネルギー負債にも結びつく 3)。しかし,不安定な循環動態のもとで経腸栄養を投与すると,腸管栄養不耐や虚血性腸炎などの腸管トラブルを生じるリスクが考えられ 4),敗血症性ショック下の早期経腸栄養の是非に関しては議論が必要である。 経腸栄養を開始できる循環動態の目安に関するコンセンサスはなく,臨床現場では主治医判断や施設ごとの方針で経腸栄養を開始しており,何らかの基準が求められている。したがって,循環動態不安定な患者で経腸栄養と経静脈栄養の益と害のバランスを明確にすることは,重要臨床課題であると考える。(2)PICO P (患者):血管作動薬を投与されている集中治療患 者,もしくは血圧が低い集中治療患者I (介入):経腸栄養を行うC (対照):経静脈栄養を行うO (アウトカム):死亡,病院滞在日数,あらゆる重 篤な副作用,感染症発生,腸管虚血など重篤な消化管系合併症 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が1 件 5)施行されており,これを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 12-2-1)望ましい効果: 集中治療室獲得感染症に関する効果推定値は,リスク差(RD)1,000 人あたり16 人少ない(95% CI: 42人少ない~13 人多い)であり,病院滞在日数は平均(MD)1 日短い(95% CI: 2.42 日短い~0.42 日長い)である(いずれもRCT 1,2,410 人)。望ましい効果はわずかであると判断した。望ましくない効果: Table 12-2-1 エビデンスプロファイル -S 252-
90 日死亡に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり21 人多い (95% CI: 17 人少ない~63 人多い)であり,消化管偽性腸閉塞に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり7 人多い(95% CI: 0 人少ない~30 人多い)であり,腸管虚血に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり12 人多い(95% CI: 2 人多い~38 人多い)である(いずれもRCT 1,2,410 人)。望ましくない効果は小さいと判断した。益と害のバランス: アウトカムの相対的価値を考慮しない場合でも,また,死亡に関する相対的価値を3 倍と考慮した場合においても害が益を上回るため,おそらく比較が優位であると判断する。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 各アウトカムが益と害の異なる方向性を示しており,重大なアウトカムに関するエビデンスの確実性の中でも最も低いGRADE を採用することになり,最も低い「非常に低」とした。 (6)価値観 栄養療法におけるアウトカムに関する価値観についてのデータはない。一般的に死亡に対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 経腸栄養剤は多くの場合,食事として提供されるため食事療養標準負担額となる。経静脈栄養は1 日の薬価が約1,000~2,000 円である。いずれの場合でも容認 されると考えられる。経鼻胃管の留置はリスクが少なく許容されるだろう。中心静脈カテーテルは,循環作動薬の投与などのために挿入されている場合は問題にならないが,栄養療法のためだけに留置する場合は,リスクを考慮する必要があるものの,一般的な処置であり,容認性は高い。 (8)実行可能性 一般的な処置であり,どの病院においても実行可能性は高いといえる。 (9)判断の要約(Table 12-2-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:95.8%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 ESPEN 6)やASPEN / SCCM 7)によるガイドラインにおいても,循環不安定な場合は経腸栄養の実施を避けるべきとしている。 (12)実施に関わる検討事項 採用したRCT は1 つしかなく,エビデンスの確実性も「非常に低」である。個々の症例ごとにショックが改善しているのか悪化しているのかなど,様々な状況を考慮して,いずれの栄養療法を行うか検討する必 Table 12-2-2 判断の要約 -S 253-
要がある。 (13)今後の研究の可能性 今後,昇圧薬の使用量の閾値,平均血圧の閾値や投与量,投与組成などに注目したさらなる研究が行われることが望まれる。 文 献 1) Lipman TO: Grains or veins: Is enteral nutrition really better than parenteral nutrition? A look at the evidence. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 1998; 22: 167-82. 2) Marik PE, Zaloga GP: Early enteral nutrition in acutely ill patients: A systematic review. Crit Care Med. 2001; 29: 2264-70. 3) Villet S, Chiolero RL, Bollmann MD, et al: Negative impact of hypocaloric feeding and energy balance on clinical outcome in ICU patients. Clin Nutr. 2005; 24: 502-9. 4) Montejo JC: Enteral nutrition-related gastrointestinal complications in critically ill patients: a multicenter study. The Nutritional and Metabolic Working Group of the Spanish Society of Intensive Care Medicine and Coronary Units. Crit Care Med. 1999; 27: 1447-53. 5) Reignier J, Boisramé-Helms J, Brisard L, et al: Enteral versus parenteral early nutrition in ventilated adults with shock: a randomised, controlled, multicentre, open-label, parallel-group study (NUTRIREA-2). Lancet. 2018; 391: 133-43. 6) Singer P, Blaser AR, Berger MM, et al: ESPEN guideline on clinical nutrition in the intensive care unit. Clin Nutr. 2019; 38: 48-79. 7) McClave SA, Taylor BE, Martindale RG, et al: Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2016; 40: 159-211. CQ12-3:敗血症患者では経腸栄養をいつ始める か? Answer:敗血症患者において,早期(重症病態への治療開始後24~48 時間以内)から経腸栄養を行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症患者では,十分な栄養の自力摂取が多くの場合不可能であり,経腸栄養,経静脈栄養などで補助を行わないと栄養障害が生じる。また,経腸栄養の投与が遅れると,腸管からの栄養素の吸収率が低下することが知られている。さらに,経腸栄養を行わない状態では,腸管粘膜が菲薄化し腸管免疫が障害されるため,経腸栄養の施行の有無は全身の免疫能にも影響し,予後に影響する可能性がある。したがって,経腸栄養施行開始を早期とするか晩期とするかは,重要臨床課題といえる。 (2)PICO P (患者):集中治療室で治療を受ける重症患者I (介入):早期経腸栄養(重症病態への治療開始後 24~48 時間以内) C (対照):晩期経腸栄養(それ以降) O (アウトカム):死亡,病院滞在日数,あらゆる重 篤な副作用,感染症発生 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が13 件 1-13)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 12-3-1)望ましい効果: 死亡に関する効果推定値は,リスク差(RD)1,000人あたり27 人少ない (95% CI: 63 人少ない~25 人多い) (13 RCT, 709 人)であり,肺炎に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり85 人少ない(95% CI: 173 人少ない~41 人多い) (6 RCT,441 人)であった。望ましい効果は「中」であると判断した。望ましくない効果: 菌血症に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり48 人多い (95% CI: 69 人少ない~240 人多い) (6 RCT, 354 人)であり,病院滞在日数は平均(MD)0.41 日長い(95% CI: 2.71 日短い~3.53 日長い) (5 RCT,217 -S 254-
人)であった。望ましくない効果は「小さい」と判断した。益と害のバランス: アウトカムの相対的価値を考慮しない場合でも,また,死亡に関する相対的価値を3 倍と考慮した場合においても益が害を上回るため,おそらく介入が優位であると判断する。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 重大なアウトカムに関するエビデンスの確実性は,いずれも「非常に低」であった。 (6)価値観 栄養療法におけるアウトカムに関する価値観についてのデータはない。一般的に死亡に対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。(7)容認性 経腸栄養剤は多くの場合,食事として提供され食事療養標準負担額となるため,コストについては,容認されると考えられる。また,経鼻胃管の留置はリスクが少なく手技自体も許容されるだろう。 (8)実行可能性 一般的な処置であり,どの病院においても実行可能性は高いといえる。 (9)判断の要約(Table 12-3-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 Table 12-3-1 エビデンスプロファイル -S 255-
(11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 他のガイドラインとして,ASPEN / SCCM ガイドライン 14),ESPEN ガイドライン 15)が挙げられる。 ASPEN / SCCM ガイドラインならびにESPEN ガイドラインでは,経口摂取ができない重症患者症例においては,経腸栄養を集中治療室入室後24~48 時間以内に開始することを推奨している。 (12)実施に関わる検討事項 経腸栄養の開始にあたっては循環動態にも考慮が必要である。循環動態の不安定な患者における経腸栄養についてはCQ12-2 で検討した。 (13)今後の研究の可能性 今後,最適な投与組成,投与量の検討,身体機能などに注目したさらなる研究が行われることが望まれる。 文 献 1) Chiarelli A, Enzi G, Casadei A, et al: Very early nutrition supplementation in burned patients. Am J Clin Nutr. 1990; 51: 1035-9. 2) Eyer SD, Micon LT, Konstantinides FN, et al: Early enteral feeding does not attenuate metabolic response after blunt trauma. J Trauma. 1993; 34: 639-43; discussion 643-4. 3) Singh G, Ram RP, Khanna SK: Early postoperative enteral feeding in patients with nontraumatic intestinal perforation and peritonitis. J Am Coll Surg. 1998; 187: 142-6. 4) Kompan L, Kremzar B, Gadzijev E, et al: Effects of early enteral nutrition on intestinal permeability and the development of multiple organ failure after multiple injury. Intensive Care Med. 1999; 25: 157-61. 5) Pupelis G, Selga G, Austrums E, et al: Jejunal feeding, even when instituted late, improves outcomes in patients with severe pancre- atitis and peritonitis. Nutrition. 2001; 17: 91-4. 6) Kompan L, Vidmar G, Spindler-Vesel A, et al: Is early enteral nutrition a risk factor for gastric intolerance and pneumonia?. Clin Nutr. 2004; 23: 527-32. 7) Malhotra A, Mathur AK, Gupta S: Early enteral nutrition after surgical treatment of gut perforations: A prospective randomised study. J Postgrad Med. 2004; 50: 102-6. 8) Peck MD, Kessler M, Cairns BA, et al: Early enteral nutrition does not decrease hypermetabolism associated with burn injury. J Trauma. 2004; 57: 1143-8; discussion 1148-9. 9) Moses V, Mahendri NV, John G, et al: Early hypocaloric enteral nutritional supplementation in acute organophosphate poisoning - A prospective randomized trial. Clin Toxicol (Phila). 2009; 47: 419-24. 10) Chourdakis M, Kraus MM, Tzellos T, et al: Effect of early compared with delayed enteral nutrition on endocrine function in patients with traumatic brain injury: An open-labeled randomized trial. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2012; 36: 108-16. 11) Nguyen NQ, Besanko LK, Burgstad C, et al: Delayed enteral feeding impairs intestinal carbohydrate absorption in critically ill Patients. Cri Care Med. 2012; 40: 50-4. 12) Petrov MS, McIlroy K, Grayson L, et al: Early nasogastric tube feeding versus nil per os in mild to moderate acute pancreatitis: A randomized controlled trial. Clin Nutr. 2013; 32: 697-703. 13) Sun JK, Mu XW, Li WQ, et al: Effects of early enteral nutrition on immune function of severe acute pancreatitis patients. World J Gastroenterol. 2013; 19: 917-22. 14) McClave SA, Taylor BE, Martindale RG, et al: Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2016; 40: 159-211. 15) Singer P, Blaser AR, Berger MM, et al: ESPEN guideline on clinical nutrition in the intensive care unit. Clin Nutr. 2019; 38: 48-79. Table 12-3-2 判断の要約 -S 256-
CQ12-4:敗血症患者の治療開始初期では経腸栄 養を消費エネルギーよりも少なく投与するか? Answer:敗血症患者に対する治療開始初期は経腸栄養を消費エネルギーよりも少なく投与することを弱く推奨する(GRADE 2B:エビデンスの確実性=「中」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症患者では,十分な栄養の自力摂取は不可能であることが多く,経腸栄養,経静脈栄養などによる補助を行わないと栄養障害が生じる。経腸栄養の投与が遅れると腸管粘膜の菲薄化や腸管免疫の障害が生じ,予後に影響する可能性がある。しかし,少量の経腸栄養でも腸管粘膜の保護には十分な可能性もあり,エネルギー投与量が過剰になった場合はoverfeeding の害も考えられる。 早期に経腸栄養を開始することがCQ12-3 のように弱く推奨されているが,敗血症患者に対するエネルギー投与量の多寡による有効性・有害性については議論があり,経腸栄養の初期投与量をどのように設定するかは,重要臨床課題であると考える。 (2)PICO P (患者):集中治療室で治療を受ける重症患者I (介入):消費エネルギーよりも少ないエネルギー 投与量C (対照):消費エネルギー程度の投与量O (アウトカム):死亡,病院滞在日数,あらゆる重 篤な副作用,感染症発生 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が18 件 1-18)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 12-4-1)望ましい効果: 死亡に関する効果推定値は,リスク差(RD)1,000人あたり2 人少ない (95% CI: 23 人少ない~21 人多い) (18 RCT,12,679 人)であり,病院滞在日数は平均(MD)0.35 日短い(95% CI: 2.68 日短い~1.99 日長い) (10 RCT,6,728 人)であり,全ての感染症に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり3 人少ない (95% CI: 44 人少ない~47 人多い)(11 RCT,6,245 人)であり,肺炎に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり25 人少ない (95% CI: 50 人少ない~4 人多い)(10 RCT,7,778 人)であり,菌血症に関する効果推定値 は,RD 1,000 人あたり6 人少ない (95 % CI: 18 人少ない~11 人多い)(9 RCT,10,768 人)であり,カテーテル関連血流感染に関する効果推定値は,RD 1,000人あたり19 人少ない (95% CI: 34 人少ない~15 人多い)(5 RCT,1,608 人)であった。望ましい効果は「小さい」と判断した。望ましくない効果: 重篤な副作用についての報告がなく,望ましくない効果については判断できない。効果のバランス: 本CQ においては,重要な害に関してはエビデンスがなく明らかではないが,小さいながら介入により望ましい効果を認めるため,バランスは介入が優位であると判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したすべてのアウトカムの効果推定値の方向性は一致しているため,一番高いアウトカムの確実性を全体としては採用した。アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「中」である。 (6)価値観 栄養療法におけるアウトカムに関する価値観についてのデータはない。一般的に死亡に対する価値は高く,そのばらつきは少ないと考えられる。 (7)容認性 介入群では,エネルギーの消費量の70% 程度まで経腸栄養投与量が制限されており,対照群では消費エネルギーに見合った経腸栄養投与量が投与されている。嘔吐などの潜在的なリスクにおいても介入群のほうが容認しやすい。 経腸栄養剤は多くの場合,食事として提供されて食事療養標準負担額となるため,いずれもコストについては容認されると考えられる。 (8)実行可能性 経腸栄養は一般的な処置であり,その投与量の調整はどの病院においても実行可能性は高いといえる。 (9)判断の要約(Table 12-4-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択さ -S 257-
Table12-4-1 エビデンスプロファイル Table 12-4-2 判断の要約 -S 258-
れた(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 他のガイドラインとして,ASPEN / SCCM ガイドライン 19),ESPEN ガイドライン 20)が挙げられる。 ASPEN / SCCM ガイドラインならびにESPEN ガイドラインにおいて,栄養リスクがない症例では,集中治療室入室後早期の消費エネルギーに相当するエネルギーの投与は推奨しないとされている。 ASPEN / SCCM ガイドラインでは,経口摂取ができない場合でも,重症度が低く栄養リスクが低い症例には,初期の1 週間において積極的に経腸栄養を増量していくような特別な栄養療法は必要ないとされている。ただし,解説において,初期は軽症でも重症度や代謝状態の悪化,ICU 滞在日数が長期化するなどの場合は積極的な経腸栄養による利益が危険を上回るため,症例の状態を評価していくべきと述べられている。また,栄養リスクが高いか,もともと栄養障害がある症例では,リフィーディング症候群に注意しながら,初期の48~72 時間の間に目標投与エネルギーの80% を超える投与を行うように推奨している。 ESPEN ガイドラインでは,初期の目標エネルギーは消費エネルギーの70~100% とし,初期の2 日間は目標に達さないようにすること,3~7 日間で目標に達することを推奨している。 (12)実施に関わる検討事項 経腸栄養の開始にあたっては循環動態にも考慮が必要である。循環動態の不安定な患者における経腸栄養についてはCQ12-2 で検討した。 (13)今後の研究の可能性 今後,最適な投与組成,栄養リスクが高い(るいそうが強い,重症度が高いなど),身体機能などに注目したさらなる研究が行われることが望まれる。 文 献 1) Allingstrup MJ, Kondrup J, Wiis J, et al: Early goal-directed nutrition versus standard of care in adult intensive care patients: the single-centre, randomised, outcome assessor-blinded EAT-ICU trial. Intensive Care Med. 2017; 43: 1637-47. 2) Arabi YM, Tamim HM, Dhar GS, et al: Permissive underfeeding and intensive insulin therapy in critically ill patients: A randomized controlled trial. Am J Clin Nutr. 2011; 93: 569-77. 3) Braunschweig CA, Sheean PM, Peterson SJ, et al: Intensive nutrition in acute lung injury: A clinical trial (INTACT). JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2015; 39: 13-20. 4) Casaer MP, Mesotten D, Hermans G, et al: Early versus late parenteral nutrition in critically ill adults. N Engl J Med. 2011; 365: 506-17. 5) Chapman M, Peake SL, Bellomo R, et al: Energy-dense versus routine enteral nutrition in the critically ill. N Engl J Med. 2018; 379: 1823-34. 6) Charles EJ, Petroze RT, Metzger R, et al: Hypocaloric compared with eucaloric nutritional support and its effect on infection rates in a surgical intensive care unit: A randomized controlled trial. Am J Clin Nutr. 2014; 100: 1337-43. 7) Desachy A, Clavel M, Vuagnat A, et al: Initial efficacy and tolerability of early enteral nutrition with immediate or gradual introduction in intubated patients. Intensive Care Med. 2008; 34: 1054-9. 8) Doig GS, Simpson F, Heighes PT, et al: Restricted versus continued standard caloric intake during the management of refeeding syndrome in critically ill adults: A randomised, parallelgroup, multicentre, single-blind controlled trial. Lancet Respir Med. 2015; 3: 943-52. 9) Heidegger CP, Berger MM, Graf S, et al: Optimisation of energy provision with supplemental parenteral nutrition in critically ill patients: A randomised controlled clinical trial. Lancet. 2013; 381: 385-93. 10) Moses V, Mahendri NV, John G, et al: Early hypocaloric enteral nutritional supplementation in acute organophosphate poisoning - A prospective randomized trial. Clin Toxicol (Phila). 2009; 47: 419-24. 11) Peake SL, Davies AR, Deane AM, et al: Use of a concentrated enteral nutrition solution to increase calorie delivery to critically ill patients: A randomized, double-blind, clinical trial. Am J Clin Nutr. 2014; 100: 616-25. 12) Petros S, Horbach M, Seidel F, et al: Hypocaloric vs Normocaloric Nutrition in Critically Ill Patients: A Prospective Randomized Pilot Trial. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2016; 40: 242-9. 13) Rice TW, Mogan S, Hays MA, et al: Randomized trial of initial trophic versus full-energy enteral nutrition in mechanically ventilated patients with acute respiratory failure. Crit Care Med. 2011; 39: 967-74. 14) National Heart, Lung, and Blood Institute Acute Respiratory Distress Syndrome (ARDS) Clinical Trials Network, Rice TW, Wheeler AP, et al: Initial trophic vs full enteral feeding in patients with acute lung injury: The EDEN randomized trial. JAMA. 2012; 307: 795-803. 15) Rugeles S, Villarraga-Angulo LG, Ariza-Gutiérrez A, et al: High-protein hypocaloric vs normocaloric enteral nutrition in critically ill patients: A randomized clinical trial. J Crit Care. 2016; 35: 110-4. 16) Singer P, Anbar R, Cohen J, et al: The tight calorie control study (TICACOS): A prospective, randomized, controlled pilot study of nutritional support in critically ill patients. Intensive Care Med. 2011; 37: 601-9. 17) Wischmeyer PE, Hasselmann M, Kummerlen C, et al: A randomized trial of supplemental parenteral nutrition in underweight and overweight critically ill patients: The TOP-UP pilot trial. Crit Care. 2017; 21: 142. 18) Arabi YM, Aldawood AS, Haddad SH, et al: Permissive underfeeding or standard enteral feeding in critically ill adults. N Engl J Med. 2015; 372: 2398-408. 19) McClave SA, Taylor BE, Martindale RG, et al: Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2016; 40: 159-211. 20) Singer P, Blaser AR, Berger MM, et al: ESPEN guideline on clinical nutrition in the intensive care unit. Clin Nutr. 2019; 38: 48-79. -S 259-
CQ12-5:経腸栄養を行っている敗血症患者に経 静脈栄養を併用するか? Answer:経腸栄養を行っているが投与エネルギー量が不足している敗血症患者に補足的経静脈栄養を併用することを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 経腸栄養が可能な集中治療患者に対しては早期経腸栄養が推奨されている。経腸栄養を行っているが,その投与量が目標カロリーに対して不足している場合,静脈栄養を併用することは,目標エネルギー量を充足できる一方で,感染リスク,血糖コントロールの問題を生じる可能性がある。そのため,経腸栄養を行っている患者に対して静脈栄養を併用する益と害を明らかにすることは重要であり,本ガイドラインに取り上げるべき重要臨床課題であると考える。 (2)PICO P (患者):集中治療室で治療を受ける重症患者I (介入):経静脈栄養を併用するC (対照):経静脈栄養を併用しないO (アウトカム):死亡,感染症発生(3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が5 件 1-5)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 12-5-1)望ましい効果: 90 日死亡に関する効果推定値は,リスク差(RD) 1,000 人あたり18 人少ない(95% CI: 138 人少ない~ 195 人多い)(1 RCT,120 人)であり,呼吸器感染に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり64 人少ない(95% CI: 143 人少ない~49 人多い)(4 RCT,624 人)である。望ましい効果は「中」であると判断した。望ましくない効果: 血流感染に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり6 人多い(95% CI: 62 人少ない~293 人多い)(3 RCT, 504 人)であり,尿路感染に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり25 人多い (95% CI: 40 人少ない~199 人多い)(3 RCT, 550 人)であり,腹部感染に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり52 人多い(95% CI: 28 人少ない~1,000 人多い)(2 RCT, 430 人)である。望ましくない効果は「中」であると判断した。益と害のバランス: 本CQ においては,その効果のバランスは介入も比較対照もいずれも優位ではない。しかし,死亡につい Table 12-5-1 エビデンスプロファイル -S 260-
ての相対的価値を設定した場合(3 倍と設定),介入が優位になる可能性がある。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 各アウトカムが益と害の異なる方向性を示しており,重大なアウトカムに関するエビデンスの確実性の中でも最も低い「非常に低」とした。 (6)価値観 栄養療法におけるアウトカムに関する価値観についてのデータはない。一般的に死亡に対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 経静脈栄養は1 日の薬価が約1,000~2,000 円である。いずれの場合でも容認されると考えられる。中心静脈カテーテルは循環作動薬の投与などのために挿入されている場合は問題にならないが,栄養療法のためだけに留置する場合は,リスクを考慮する必要がある。 (8)実行可能性 一般的な処置であり,どの病院においても実行可能性は高いといえる。 (9)判断の要約(Table 12-5-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:79.2%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 他のガイドラインとして,ASPEN / SCCM ガイドライン,ESPEN ガイドラインが挙げられる 6, 7)。 ASPEN / SCCM ガイドラインでは,栄養リスクが高い患者も低い患者も,経腸栄養が必要量の60% に満たない場合,集中治療室入室7~10 日後には補足的経静脈栄養を考慮することを推奨している。それより前の補足的経静脈栄養開始は,アウトカムの改善につながらず,患者にとって害となる可能性がある。 ESPEN ガイドラインでは,最初の週に適正量の経腸栄養に満たない場合,安全性や利点を考慮して症例に応じて経静脈栄養を行う,としており,さらに経静脈栄養は,経腸栄養を投与できるような方策を最大限行うまでは始めるべきではないとしている。 (12)実施に関わる検討事項 本推奨に関するエビデンスの確実性が非常に低いことなども鑑み,その実施においては,個々の患者の栄養状態などから適応を考慮する必要がある。 (13)今後の研究の可能性 今後,もともと栄養不良のある患者における効果のバランス,経静脈栄養の最適な併用量,身体機能などに注目したアウトカムの設定といった課題について, Table 12-5-2 判断の要約 -S 261-
さらなる研究が行われることが望まれる。 文 献 1) Bauer P, Charpentier C, Bouchet C, et al: Parenteral with enteral nutrition in the critically ill. Intensive Care Med. 2000; 26: 893-900. 2) Heidegger CP, Berger MM, Graf S, et al: Optimisation of energy provision with supplemental parenteral nutrition in critically ill patients: A randomised controlled clinical trial. Lancet. 2013; 381: 385-93. 3) Wischmeyer PE, Hasselmann M, Kummerlen C, et al: A randomized trial of supplemental parenteral nutrition in underweight and overweight critically ill patients: The TOP-UP pilot trial. Crit Care. 2017; 21: 142. 4) Berger MM, Pantet O, Jacquelin-Ravel N, et al: Supplemental parenteral nutrition improves immunity with unchanged carbohydrate and protein metabolism in critically ill patients: The SPN2 randomized tracer study. Clin Nutr. 2019; 38: 2408-16. 5) Qin HL, Zheng JJ, Tong DN, et al: Effect of Lactobacillus plantarum enteral feeding on the gut permeability and septic complications in the patients with acute pancreatitis. Eur J Clin Nutr. 2008; 62: 923-30. 6) McClave SA, Taylor BE, Martindale RG, et al: Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2016; 40: 159-211. 7) Singer P, Blaser AR, Berger MM, et al: ESPEN guideline on clinical nutrition in the intensive care unit. Clin Nutr. 2019; 38: 48-79. CQ12-6:敗血症患者に対する急性期の至適タン パク質投与量はいくらか? Answer:敗血症患者に対して急性期に1g / kg / day 未満のタンパク質(ペプチド,アミノ酸)を投与することを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 タンパク質は重要な栄養素の1 つであり,代謝に必要な各種アミノ酸の供給源でもある 1)。筋肉をはじめとする体タンパクの維持のために,十分量の投与が必要であると考えられる 2)。一方で,急性期のアミノ酸投与がautophagy を障害するなどの有害事象が懸念される 3)。以上のような背景から,急性期のタンパク質の投与推奨量は定まっていない。筋合成や窒素バランスを考えると2g / kg / 日程度まで増やすことがよいとされる 2)が,実際の集中治療での投与は制限的栄養投与の施行に伴い,投与量が少なくなることが多い 4)。したがって,敗血症患者に対する急性期の至適タンパク質投与量は重要臨床課題であるといえる。 (2)PICO P (患者):集中治療室で治療を受ける重症患者I (介入):ペプチド(タンパク質,アミノ酸)の急 性期の投与量が1g / kg / 日以上C (対照):ペプチド(タンパク質,アミノ酸)の急 性期の投与量が1g / kg / 日未満O (アウトカム):死亡,病院滞在日数,人工呼吸期 間,抗菌薬治療期間,ADL スコア・身体機能評価,筋肉量 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が6 件 5-10)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 12-6-1)望ましい効果: 死亡に関する効果推定値は,リスク差(RD)1,000人あたり4 人少ない (95% CI: 51 人少ない~62 人多い) (5 RCT, 730 人)であり,身体機能評価に関する効果推定値は,平均(MD)0.45 高い(95% CI: 4.57 低い~ 5.46 高い)(3 RCT,489 人)であり,筋肉量に関する 効果推定値は,MD 0.2 高い(95% CI: 0.56 低い~0.96高い)(2 RCT,157 人)である。望ましい効果はわず -S 262-
かであると判断した。望ましくない効果: 病院滞在日数に関する効果推定値は,MD 2.36 日長い(95% CI: 1.42 日短い~6.15 日長い)(5 RCT,733人)であり,人工呼吸期間に関する効果推定値は, MD 0.07 日長い(95% CI: 0.02 日短い~0.16 日長い) (5 RCT,777 人)であり,抗菌薬治療期間に関する効果推定値は,MD 0.15 日長い(95% CI: 0.07 日長い~ 0.23 日長い)(1 RCT,474 人)である。望ましくない 効果は「小さい」と判断した。益と害のバランス: 本CQ においては,望ましい効果はわずかであり,望ましくない効果は小さいため,比較がおそらく優位と考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 各アウトカムが益と害の異なる方向性を示しており,重大なアウトカムに関するエビデンスの確実性の中でも最も低い「非常に低」とした。 (6)価値観 栄養療法におけるアウトカムに関する価値観についてのデータはない。一般的に死亡に対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。(7)容認性 経腸栄養剤は多くの場合,食事として提供されるため食事療養標準負担額となる。経静脈栄養からアミノ酸を投与する場合,最も高い高カロリー輸液を使用したとしても1 日の薬価が約1,000~2,000 円である。いずれの場合でも容認されると考えられる。 (8)実行可能性 一般的な処置であり,どの病院においても実行可能性は高いといえる。 (9)判断の要約(Table 12-6-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.018 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:79.2%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 ESPEN ガイドラインでは集中治療患者において漸増して1.3g / kg / 日のタンパク質量を目標とすることを推奨 11),ASPEN / SCCM ガイドラインでは1.2~2.0g / kgのタンパク質量が必要であることを見込むとしている 12)。ただし,これらのガイドラインにおける推奨は,急性期と急性期以降に分けたものではないので,本CQ(急性期)には直接当てはまらない。 Table 12-6-1 エビデンスプロファイル -S 263-
(12)実施に関わる検討事項 エビデンスの確実性が「非常に低」であり,個々の患者において,益を優先するか害を優先するかでその判断は変わると考えられる。 (13)今後の研究の可能性 今後,エネルギー量は同じでタンパク質の量の多寡を比較したデザイン,タンパク質の投与タイミング,経静脈的なアミノ酸投与併用の至適量といった課題について,さらなる研究が行われることが望まれる。 文 献 1) Di Girolamo FG, Situlin R, Biolo G: What factors influence protein synthesis and degradation in critical illness?. Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2017; 20: 124-30. 2) Allingstrup MJ, Esmailzadeh N, Wilkens Knudsen A, et al: Provision of protein and energy in relation to measured requirements in intensive care patients. Clin Nutr. 2012; 31: 462-8. 3) Casaer MP, Langouche L, Coudyzer W, et al: Impact of early parenteral nutrition on muscle and adipose tissue compartments during critical Illness. Crit Care Med. 2013; 41: 2298-309. 4) Lambell KJ, King SJ, Forsyth AK, et al: Association of Energy and Protein Delivery on Skeletal Muscle Mass Changes in Critically Ill Adults: A Systematic Review. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2018; 42: 1112-22. 5) Fetterplace K, Deane AM, Tierney A, et al: Targeted Full Energy and Protein Delivery in Critically Ill Patients: A Pilot Randomized Controlled Trial (FEED Trial). JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2018; 42: 1252-62. 6) Doig GS, Simpson F, Bellomo R, et al: Intravenous amino acid therapy for kidney function in critically ill patients: a randomized controlled trial. Intensive Care Med. 2015; 41: 1197-208. 7) Ferrie S, Allman-Farinelli M, Daley M, et al: Protein Requirements in the Critically Ill: A Randomized Controlled Trial Using Parenteral Nutrition. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2016; 40: 795-805. 8) van Zanten ARH, Petit L, De Waele J, et al: Very high intactprotein formula successfully provides protein intake according to nutritional recommendations in overweight critically ill patients: A double-blind randomized trial. Crit Care. 2018; 22: 156. 9) Yeh DD, Ortiz LA, Lee JM, et al: PEP uP (Enhanced Protein- Energy Provision via the Enteral Route Feeding Protocol) in Surgical Patients −A Multicenter Pilot Randomized Controlled Trial. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2020; 44: 197-204. 10) Rugeles SJ, Rueda JD, Díaz CE, et al: Hyperproteic hypocaloric enteral nutrition in the critically ill patient: A randomized controlled clinical trial. Indian J Crit Care Med. 2013; 17: 343-9. 11) Singer P, Blaser AR, Berger MM, et al: ESPEN guideline on clinical nutrition in the intensive care unit. Clin Nutr. 2019; 38: 48-79. 12) McClave SA, Taylor BE, Martindale RG, et al: Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2016; 40: 159-211. Table 12-6-2 判断の要約 -S 264-
CQ12-7-1:敗血症患者に対して,急性期にビタ ミンC 投与を行うか?(保険適用外使用) Answer:敗血症患者に対して,ビタミンC の投与を行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 ビタミンC は,水溶性ビタミンに分類され,生体内で合成できない。近年,敗血症患者においてビタミンC を投与することで生存率を改善できる可能性が報告され,注目されている。一方で,ビタミンC の投与による腎障害の発生も懸念される。以上により,ビタミンC の投与の敗血症患者における益と害のバランスを明らかにすることは,本ガイドラインに取り上げるべき重要臨床課題であると考える。 (2)PICO P (患者):集中治療室で治療を受ける重症患者I (介入):ビタミンC 投与C (対照):プラセボまたはビタミンC 非投与O (アウトカム):死亡,病院滞在日数,急性腎障害(AKI)発生 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が11 件 1-11)施行され ており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 12-7-1-1)望ましい効果: 死亡に関する効果推定値は28 日死亡リスク差(RD) 1,000 人あたり55 人少ない (95% CI: 131 人少ない~52人多い)(5 RCT,1,646 人),院内死亡RD 1,000 人あたり25 人少ない(95% CI: 105 人少ない~83 人多い) (7 RCT,1,798 人)である。ICU 滞在日数に関する効果推定値は,平均(MD)0.58 日短い(95% CI: 1.45日短い~0.28 日長い)(6 RCT,1,394 人)である。AKI に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり18 人少ない(95% CI: 111 人少ない~92 人多い)(2 RCT, 248 人)である。このAKI をアウトカムとした2 編のRCT(Tanaka 2000 2),Fujii 2020 11))のうち, Tanaka 2000 2)は小規模(37 人)かつAKI 発生率が介入,対照とも0% であった。AKI に関する効果推定値はFujii 2020 11)の報告によるところが大きい。28 日死亡および90 日死亡のいずれもわずかに減少させる傾向かつ患者にとって非常に重大なアウトカムの改善と考えられるため,望ましい効果は「小さい」と判断した。望ましくない効果: 病院滞在日数に関する効果推定値は,MD 0.64 日長い(95% CI: 1.24 日短い~2.52 日長い)(5 RCT,1,556 Table 12-7-1-1 エビデンスプロファイル -S 265-
人)である。介入により病院滞在日数が延長する傾向ではあるものの,非常に短期間であると考えられる。上記から,望ましくない効果は,「わずか」と考えられる。益と害のバランス: 本CQ においては,望ましい効果は小さいながらも介入が優位であり,介入に対する望ましくない効果もわずかである。さらに死亡についての相対的価値を考慮すると,介入が優位と考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 各アウトカムは異なる方向性を示しており,重大なアウトカムに関するエビデンスの確実性の中でも最も低い「非常に低」とした。 (6)価値観 栄養療法におけるアウトカムに関する,価値観についてのデータはない。一般的に死亡に対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 ビタミンC を経静脈的に投与した場合,本邦の承認量の上限である2,000mg を投与したとしても,1 日の薬価が約80~1,600 円であり,容認されると考えられる。 (8)実行可能性 一般的な薬剤であり,どの病院においても実行可能性は高いといえるが,適用外使用と判断される場合, 倫理委員会の承認などの院内手続きが必要な施設もあると考えられる。 (9)判断の要約(Table 12-7-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.018 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 12), SSCG 2016 13),ASPEN / SCCM 栄養ガイドライン 14),日本版重症患者の栄養療法ガイドライン 15)のいずれにおいても,ビタミン全般に対する記載はあるものの個別にビタミンC について詳細に言及されたものはない。 (12)実施に関わる検討事項 メタ解析に採用したRCT のうち,ビタミンC 投与量が本邦の保険適用内の研究が5 つ,保険適用以上の研究が6 つであった(Table 12-7-1-3)。近年報告されている研究は,いずれも介入群として保険適用外の投与量が用いられている傾向がある。しかしながら,最適なビタミンC 投与量は現時点では不明であり,本邦の保険適用上限である2,000mg / 日を超えて投与することについては注意が必要である。また保険診療上の適応疾患は,消耗性疾患などでビタミンC の需要 Table 12-7-1-2 判断の要約 -S 266-
が増大し,食事からの摂取が不十分な際の補給であることにも十分に留意する必要がある。各施設で適用外使用と判断される場合や保険承認用量を超えて投与する場合には,倫理委員会の承認など各施設が定める院内手続きを適正に踏んだうえで実施する。 (13)今後の研究の可能性 今後,適切な投与のタイミングや投与経路などを解明するさらなる大規模研究が行われることが望まれる。 文 献 1) Porter JM, Ivatury RR, Azimuddin K, et al: Antioxidant therapy in the prevention of organ dysfunction syndrome and infectious complications after trauma: Early results of a prospective randomized study. Am Surg. 1999; 65: 478-83. 2) Tanaka H, Matsuda T, Miyagantani Y, et al: Reduction of resuscitation fluid volumes in severely burned patients using ascorbic acid administration: A randomized, prospective study. Arch Surg. 2000; 135: 326-31. 3) Crimi E, Liguori A, Condorelli M, et al: The beneficial effects of antioxidant supplementation in enteral feeding in critically III patients: A prospective, randomized, double-blind, placebocontrolled trial. Anesth Analg. 2004; 99: 857-63. 4) Ferrón-Celma I, Mansilla A, Hassan L, et al: Effect of Vitamin C Administration on Neutrophil Apoptosis in Septic Patients After Abdominal Surgery. J Surg Res. 2009; 153: 224-30. 5) Nogueira CR, Borges F, Lameu E, et al: Efectos de la suplementación con vitaminas antioxidantes y la peroxidación lipídica en pacientes críticos. Nutr Hosp. 2013; 28: 1666-72. 6) Heyland D, Muscedere J, Wischmeyer PE, et al: A randomized trial of glutamine and antioxidants in critically Ill patients. N Engl J Med. 2013; 368: 1489-97. 7) Fowler AA 3rd, Syed AA, Knowlson S, et al: Phase I safety trial of intravenous ascorbic acid in patients with severe sepsis. J Transl Med. 2014; 12: 32. 8) Howe KP, Clochesy JM, Goldstein LS, et al: Mechanical ventilation antioxidant trial. Am J Crit Care. 2015; 24: 440-5. 9) Zabet MH, Mohammadi M, Ramezani M, et al: Effect of high-dose Ascorbic acid on vasopressor’s requirement in septic shock. J Res Pharm Pract. 2016; 5: 94-100. 10) Fowler AA 3rd, Truwit JD, Hite RD, et al: Effect of Vitamin C Infusion on Organ Failure and Biomarkers of Inflammation and Vascular Injury in Patients with Sepsis and Severe Acute Respiratory Failure: The CITRIS-ALI Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019; 322: 1261-70. 11) Fujii T, Luethi N, Young PJ, et al: Effect of Vitamin C, Hydrocortisone, and Thiamine vs Hydrocortisone Alone on Time Alive and Free of Vasopressor Support among Patients with Septic Shock: The VITAMINS Randomized Clinical Trial. JAMA. 2020; 323: 423-31. 12) Nishida O, Ogura H, Egi M, et al: The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2016 (J-SSCG 2016). J Intensive Care. 2018; 6: 7. 13) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 14) Taylor BE, McClave SA, Martindale RG, et al: Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). Crit Care Med. 2016; 44: 390-438. 15) 日本集中治療医学会重症患者の栄養管理ガイドライン作成委員会: 日本版重症患者の栄養療法ガイドライン. 日集中医誌. 2016; 23: 185-281. Table 12-7-1-3 メタ解析に用いたRCTでの投与量 Author, Year Year対象患者1 日投与量*(mg) Porter, 1999 1) 1999外傷患者300 Tanaka, 2000 2) 2000熱傷患者79,200 Crimi, 2004 3) 2004重症患者500 Ferrón-Celma, 2009 4) 2009敗血症患者450 Nogueira, 2013 5) 2013重症患者600 Heyland, 2013 6) 2013多臓器不全患者1,500 Fowler, 2014 7) 2014敗血症・敗血症性ショック患者2,500,10,000 Howe, 2015 8) 2015人工呼吸患者3,000 Zabet, 2016 9) 2016敗血症性ショック患者5,000 Fowler, 2019 10) 2019敗血症患者とARDS 患者10,000 Fujii, 2020 11) 2020敗血症性ショック患者6,000 *50kg 換算 -S 267-
CQ12-7-2:敗血症患者に対して,急性期にビタ ミンD 投与を行うか?(保険適用外使用) Answer:敗血症患者に対して,ビタミンD 投与を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 ビタミンD は,脂溶性ビタミンに分類され,生体内で合成できない。ビタミンD は,カルシウム・リン代謝の調節,心筋収縮力の増大および細胞増殖の制御などの重要な役割を担う。近年,ビタミンD 欠乏が敗血症の発症や死亡率に関与することが報告され,注目されている。以上により,敗血症患者に対して急性期にビタミンD 投与を行うか否かは,本ガイドラインに取り上げるべき重要臨床課題であると考える。 (2)PICO P (患者):集中治療室で治療を受ける重症患者I (介入):ビタミンD 投与C (対照):プラセボまたはビタミンD 非投与O (アウトカム):死亡,病院滞在日数,高カルシウム血症発生 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が11 件 1-11)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 12-7-2-1)望ましい効果: 死亡に関する効果推定値は,28 日または30 日死亡のリスク差(RD)1,000 人あたり8 人少ない (95% CI: 50 人少ない~46 人多い)(6 RCT 3-5, 7, 10, 11),1,966 人), 90 日死亡のRD 1,000 人あたり28 人多い (95% CI: 18人少ない~85 人多い)(3 RCT 6, 7, 10),1,157 人),院内死亡のRD 1,000 人あたり95 人少ない(95% CI: 180 人少ない~41 人多い)(4 RCT 1, 2, 4, 9),632 人)である。病院滞在日数に関する効果推定値は,平均(MD)0.32日短い(95% C I : 2.15 日短い~1.5 日長い)(9 RCT 1, 3-8, 10, 11),1,886 人)である。90 日死亡について介入により増加,28 日または30 日死亡は効果なし,院内死亡は低下という結果であった。死亡に関するエビデンスの確実性は28 日または30 日死亡が「低」,他 Table 12-7-2-1 エビデンスプロファイル -S 268-
は「非常に低」であった。エビデンスの確実性の最も高い28 日または30 日死亡の結果から介入の効果は「ない」あるいはあっても「わずか」と判断する。望ましくない効果: 高カルシウム血症に関する効果推定値は,RD 1,000人あたり7 人少ない(95% CI: 20 人少ない~65 人多い) (5 RCT 1, 3, 4, 7, 10),1,276 人)である。望ましくない効果はわずかであると判断した。益と害のバランス: 本CQ においては,望ましい効果は介入において「ない」かあっても「わずか」である。したがって,介入も比較もいずれも優位ではないと判断する。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 各アウトカムは異なる方向性を示しており,重大なアウトカムに関するエビデンスの確実性の中でも最も低い「非常に低」とした。 (6)価値観 栄養療法におけるアウトカムに関する,価値観についてのデータはない。一般的に死亡に対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 本邦で使用可能なビタミンD 製剤は数種類存在し,内服あるいは経静脈の投与が可能である。しかしながら,敗血症への使用は適用外使用となる。保険適用内の使用では,1 日あたり約100 円~2,000 円 / 日のコストがかかりばらつきがある。上記から,説明によって は容認できない患者・家族がいることが想定されるため,容認性は様々とした。 (8)実行可能性 適応外使用となるため,倫理委員会など病院規定の承認を得る必要があるなど,実行可能性には疑念がある。 (9)判断の要約(Table 12-7-2-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:95.8%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 12), SSCG 2016 13),ASPEN/SCCM 栄養ガイドライン 14),日本版重症患者の栄養療法ガイドライン 15)のいずれにおいても,ビタミン全般に対する記載はあるものの個別にビタミンD について詳細に言及されたものはない。 (12)実施に関わる検討事項 ビタミンD 欠乏状態の患者を対象にしたRCT のみでサブグループ解析を実施した。28 日または30 日死亡については3 RCT 4, 10, 11)が該当し,RD 1,000 人あたり3 人少ない(95% CI: 60 人少ない~82 人多い), Table 12-7-2-2 判断の要約 -S 269-
90 日死亡については1 RCT 10)が該当し,RD 1,000 人あたり29 人多い (95% CI: 19 人少ない~89 人多い)と方向性に変わりはなかった。 また,採用したRCT のビタミンD の投与方法は一定でない。また,使用量は本邦の保険適用量よりも著しく多い量であることを考慮する必要がある。ビタミンD 投与は適用外使用となるため,施設において適切な手続きの後に実施することが求められる。 なお,本推奨は,通常の経腸栄養剤や高カロリー輸液製剤によるビタミンD 投与を妨げるものではない。 (13)今後の研究の可能性 今後,適切な投与のタイミングや投与経路などを解明するさらなる大規模研究が行われることが望まれる。 文 献 1) Amrein K, Sourij H, Wagner G, et al: Short-term effects of high-dose oral vitamin D3 in critically ill vitamin D deficient patients: A randomized, double-blind, placebo-controlled pilot study. Crit Care. 2011; 15: R104. 2) Aminmansour B, Nikbakht H, Ghorbani A, et al: Comparison of the administration of progesterone versus progesterone and vitamin D in improvement of outcomes in patients with traumatic brain injury: A randomized clinical trial with placebo group. Adv Biomed Res. 2012; 1: 58. 3) Leaf DE, Raed A, Donnino MW, et al: Randomized controlled trial of calcitriol in severe sepsis. Am J Respir Crit Care Med. 2014; 190: 533-41. 4) Amrein K, Schnedl C, Holl A, et al: Effect of High-Dose Vitamin D 3 on Hospital Length of Stay in Critically Ill Patients With Vitamin D Deficiency: the VITdAL-ICU randomized clinical trial. JAMA .2014; 312: 1520-30. 5) Quraishi SA, De Pascale G, Needleman JS, et al: Effect of Cholecalciferol Supplementation on Vitamin D Status and Cathelicidin Levels in Sepsis: A Randomized, Placebo-Controlled Trial. Crit Care Med. 2015; 43: 1928-37. 6) Han JE, Jones JL, Tangpricha V, et al: High dose Vitamin D administration in ventilated intensive care unit patients: A pilot double blind randomized controlled trial. J Clin Transl Endocrinol. 2016; 4: 59-65. 7) Parekh D, Dancer RCA, Scott A, et al: Vitamin D to Prevent Lung Injury Following Esophagectomy-A Randomized, Placebo- Controlled Trial. Crit Care Med. 2018; 46: e1128-35. 8) Jokar A, Ahmadi K, Taherinia A, et al: The effects of injected Vitamin D on prognosis of patients with urosepsis. Horm Metab Res. 2018; 50: 383-8. 9) Hasanloei MAV, Rahimlou M, Eivazloo A, et al: Effect of Oral Versus Intramuscular Vitamin D Replacement on Oxidative Stress and Outcomes in Traumatic Mechanical Ventilated Patients Admitted to Intensive Care Unit. Nutr Clin Pract. 2019; 35: 548-58. 10) National Heart, Lung, and Blood Institute PETAL Clinical Trials Network, Ginde AA, Brower RG, Caterino JM, et al: Early high-dose Vitamin D3 for critically ill, Vitamin D–deficient patients. N Engl J Med. 2019; 381: 2529-40. 11) Karsy M, Guan J , Eli I, et al: The effect of supplementation of vitamin D in neurocritical care patients: RandomizEd Clinical TrIal oF hYpovitaminosis D (RECTIFY). J Neurosurg. 2019; 13: 1-10. 12) Nishida O, Ogura H, Egi M, et al: The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2016 (J-SSCG 2016). J Intensive Care. 2018; 6: 7. 13) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 14) Taylor BE, McClave SA, Martindale RG, et al: Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). Crit Care Med. 2016; 44: 390-438. 15) 日本集中治療医学会重症患者の栄養管理ガイドライン作成委員会: 日本版重症患者の栄養療法ガイドライン. 日集中医誌. 2016; 23: 185-281. -S 270-
CQ12-8:敗血症患者における経腸栄養の開始や 耐性の判断方法は? Answer:経腸栄養開始に腸蠕動音など腸管が働いている所見は必要でないとされる。一方,経腸栄養開始後の不耐性を示す所見は,腸音欠如または異常腸音,嘔吐,腸拡張,下痢,消化管出血,胃内残留物過多など,様々である。胃内残留物過多は不耐性を示唆するが,耐性の有無を判断するための胃内残留量の基準は不明である(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 経腸栄養は集中治療患者の栄養療法において標準的な治療となっている。しかし,どのような状態になれば経腸栄養を開始することができるか,また,経腸栄養の継続をどのように判断するかの具体的な基準は不明である。したがって,その背景にある知識について解説する本CQ の重要度は高い。 (2)解説 敗血症患者を対象とした研究は少ないため,重症患者からの知見をもとに経腸栄養の開始,耐性の判断について概説する。循環動態が安定している症例において,消化管が使用可能である際には経腸栄養を開始する。循環動態の安定の基準に関してはCQ12-2 に,経腸栄養の開始時期に関してはCQ12-3 に詳述する。 経腸栄養開始を検討する際,腸蠕動音や放屁の有無が慣習的にモニタリングされてきた。しかし,腸蠕動音の有無は,腸が動いていることを示してはいるが,腸管の健常性(腸管透過性,バリア機能,吸収能など)の評価にはならない。胃静止の改善を待って経腸栄養を開始した群と,待たずに開始した群を比較し,予後に差がなかったとの報告 1)もある。一方,経腸栄養開始が遅れると吸収能が低下する 2)と指摘されており,少なくとも腸蠕動音などを経腸栄養開始の必須条件とする必要はないと考えられる。 経腸栄養の投与に伴い消化器症状が出現し,栄養剤が十分に投与できない状況を腸管不耐性という 3)。腸管不耐性は胃静止や腸閉塞,腸管虚血などに起因する嘔吐,腹痛,胃内残留物過多,腹部膨満,鼓腸,消化管出血,蠕動亢進や吸収能低下から来る下痢など様々な症状で示される。しかし,腸管不耐性の明確な基準はなく,その症状の原因となる疾患を鑑別し,原疾患の治療や腸管蠕動薬の使用,経腸栄養の減量,中止などを個々で判断する必要がある。 胃内容残留量についても腸管不耐性の所見として使用されてきた。しかし,胃内容残留量は肺炎の発症 率 4),胃排出能 5),逆流や誤嚥の発症率 6)と相関しないことが示されている。また,胃内容残留量の測定により嘔吐は減る 7)が,栄養チューブの閉塞[測定時に逆流した胃内容物中のタンパク質がカード化(固形化)することも一因と考えられる]や不必要な経腸栄養の中断(臨床的に問題ない量の胃内容残留でも中断するなど)を増やし,結果として経腸栄養投与量が減り,予後には影響しないとの報告 8)もある。1 回の吸引で500mL 以上引けた場合は経腸栄養を中止し,原因検索を行うことを推奨する意見 9)もあるが,経腸栄養を減量ないし中止するべき胃内容残留量の基準は不明であり,胃内容残留量の測定を行うことをルーチンの業務として支持するデータは乏しいといえる。 文 献 1) Minard G, Kudsk KA, Melton S, et al: Early versus delayed feeding witn an immune-enhancing diet in patients with severe head injuries. J Parenter Enter Nutr. 2000; 24: 145-9. 2) Nguyen N, Besanko LK, Burgstad C, et al: Delayed enteral feeding impairs intestinal carbohydrate absorption in critically ill Patients. Crit Care Med. 2011; 40: 50-4. 3) Elke G, Felbinger TW, Heyland DK: Gastric residual volume in critically ill patients: A dead marker or still alive?. Nutr Clin Pract. 2015; 30: 59-71. 4) Montejo JC, Miñambres E, BordejéL, et al: Gastric residual volume during enteral nutrition in ICU patients: The REGANE study. Intensive Care Med. 2010; 36: 1386-93. 5) Landzinski J, Kiser TH, Fish DN, et al: Gastric motility function in critically ill patients tolerant vs intolerant to gastric nutrition. J Parenter Enter Nutr. 2008; 32: 45-50. 6) McClave SA, Lukan JK, Stefater JA, et al: Poor validity of residual volumes as a marker for risk of aspiration in critically ill patients. Crit Care Med. 2005; 33: 324-30. 7) Reignier J, Mercier E, Gouge AL, et al: Effect of not monitoring residual gastric volume on risk of ventilator-associated pneumonia in adults receiving mechanical ventilation and early enteral feeding: A randomized controlled trial. JAMA. 2013; 309: 249-56. 8) Poulard F, Dimet J, Martin-Lefevre L, et al: Impact of not measuring residual gastric volume in mechanically ventilated patients receiving early enteral feeding: A prospective before-after study. J Parenter Enter Nutr. 2010; 34: 125-30. 9) McClave SA, Taylor BE, Martindale RG, et al: Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). J Parenter Enter Nutr. 2016; 40: 159-211. -S 271-
CQ12-9:敗血症患者における急性期以降の栄養 投与法は? Answer:病態が急性期を乗り越えた場合,あるいは1 週間程度を超えた時期からは,必要エネルギー(タンパク質を含めて25~30kcal / kg / 日程度)を満たす投与量が必要と考えられている。同時期のタンパク質も1g / kg / 日以上の投与量が望ましいとの考えがある。ただし,重症化前から栄養障害のある患者ではより早期に投与量を増やすほうがよいとの意見もある(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 急性期の栄養療法に関してはランダム化比較試験(RCT)を含む多くの臨床研究が施行されており,本ガイドラインでもCQ として取り上げられている。しかし,急性期以降の栄養投与の方法や内容,投与量などに関しては言及されていない。実際の治療にあたっては,急性期以降の栄養療法も重要であり,本CQ は有用であると考える。 (2)解説 CQ12-4 において弱く推奨されているように,急性 期に意図して消費エネルギーよりも少なく栄養投与する場合や,不可抗力により栄養投与量が少なくなる場合があるが,その際に生じるエネルギー負債に配慮する必要がある。エネルギー負債は消費エネルギー量と投与エネルギー量の差の累積であるが,エネルギー負債が大きくなるほど予後が悪化するといわれている 1, 2)。エネルギー負債と予後との関係を示した研究は観察研究に限られており,その結果には考慮すべき交絡因子が介在すると考えられる。しかし,大きなエネルギー負債が患者の免疫や体組成に悪影響を与えるのは自明であり,急性期から回復期に移行した際には十分なエネルギー投与を行う必要があると考えられている。 急性期から回復期への移行は患者の病態ごとに大きく異なり,臨床的に急性期を脱したと判断されれば回復期の栄養療法に切り替える。多くの急性期栄養療法の臨床試験が7 日前後を目安に介入期限としており 3-6),先のエネルギー負債も鑑みて7 日を目途に必要エネルギー(タンパク質を含めて25~30kcal / kg / 日程度)を満たす栄養投与を行う戦略とするのが一般的である 7, 8)。参考として,急性肺傷害を対象としたRCT 9)において,7 日目以前まではエネルギー投与量の多い患者群で死亡率が高いのに対し,8 日目以降はエネルギー投与量が多いと逆に死亡率が低くなる傾向 がみられた。これらの研究結果は,急性期から回復期への移行にあたって栄養療法の見直しが必要となることを示唆している。 タンパク質投与に関しても同様に急性期を越えた時点で,十分なタンパク質の投与量を確保することが必要かもしれない。急性期のタンパク質投与量を具体的に何g / kg / 日とすべきかはCQ12-6 で議論されているようにエビデンスが不足しているが,健常時の推奨タンパク質摂取量を考えて最低でも1g / kg / 日以上必要と考えるのが一般的である。 なお,低体重や筋肉量減少など栄養不良のある患者は急性期から十分なエネルギー投与を考慮したほうがよいとの意見もある。ただし,極度の栄養不良の患者に対する急速なエネルギー投与はリフィーディング症候群を来す可能性があり,栄養の際にはリン,カリウム,マグネシウムおよび他の電解質の厳重なモニタリングが必要である。 文 献 1) Bartlett RH, Dechert RE, Mault JR, et al: Measurement of metabolism in multiple organ failure. Surgery. 1982: 92: 771-9. 2) Berger MM, Pichard C: Best timing for energy provision during critical illness. Crit Care. 2012; 16: 215. 3) Casaer MP, Mesotten D, Hermans G, et al: Early versus late parenteral nutrition in critically ill adults. N Engl J Med. 2011; 365: 506-17. 4) Wischmeyer PE, Hasselmann M, Kummerlen C, et al: A randomized trial of supplemental parenteral nutrition in underweight and overweight critically ill patients: the TOP-UP pilot trial. Crit Care. 2017; 21: 142. 5) Allingstrup MJ, Kondrup J, Wiis J, et al: Early goal-directed nutrition versus standard of care in adult intensive care patients: the single-centre, randomised, outcome assessor-blinded EAT-ICU trial. Intensive Care Med. 2017; 43: 1637-47. 6) Rice TW, Wheeler AP, Thompson BT, et al: Initial trophic vs full enteral feeding in patients with acute lung injury: the EDEN randomized trial: JAMA. 2012; 307: 795-803. 7) Singer P, Blaser AR, Berger MM, et al: ESPEN Guideline on Clinical Nutrition in the Intensive Care Unit. Clin Nutr. 2019; 38: 48-79. 8) McClave SA, Taylor BE, Martindale RG, et al: Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2016; 40: 159-211. 9) Braunschweig CL, Freels S, Sheean PM, et al; Role of timing and dose of energy received in patients with acute lung injury on mortality in the Intensive Nutrition in Acute Lung Injury Trial (INTACT): a post hoc analysis. Am J Clin Nutr. 2017; 105: 411-6. -S 272-
CQ13:血糖管理 高血糖の発生は免疫能に影響を与え,感染症を増悪させるなど,予後を悪化させる可能性があり,敗血症患者における血糖管理は重要である。インスリンを使用した血糖管理の重要な害として低血糖があり,低血糖の発生は重症患者の予後悪化と関連する 1)。したがって,目標血糖値の設定には益と害のバランスを考慮する必要がある。また,誤った血糖測定はインスリンの不適切な使用の要因となる。以上から,目標血糖値と血糖測定方法の2 つを重要臨床課題(CQ)とした。 目標血糖値 心臓外科集中治療室での単独施設ランダム化比較試験(RCT)では,目標血糖値を80~110mg / dL とする強化インスリン療法を行うことで,集中治療室での死亡率が低下することが報告された 2)。続いて内科系集中治療室でICU 滞在日数が3 日以上と見積もられた患者を対象としたRCT が行われたが,強化インスリン療法の使用によって全患者群の死亡率は減少しなかった 3)。集中治療患者における血糖管理の目標値を検証したRCT のうち,最大規模の研究であるNICE-SUGAR trial では,強化インスリン療法は90 日死亡率と低血糖の発生を増加させた 4)。敗血症患者を対象にしたSong らのメタ解析では,強化インスリン療法と通常の血糖管理を比較して死亡率に両群で差はなく,強化インスリン療法は低血糖の危険性が高いと報告している 5)。これらの知見により,SSCG 2016 6)では,2 回の連続する血糖測定値が180mg / dL を超えた場合にインスリンを開始し,目標血糖値の上限は110mg / dL 以下ではなく,180mg / dL 以下とするべきと している。 目標血糖値110~180m g / d L は幅広く,110~ 144mg / dL,144~180mg / dL の2 つの目標血糖値を考えた場合,死亡率や低血糖の発生率に差がないのかといった疑問がある。しかし,この110~144mg / dL と144~180mg / dL を直接比較した研究は極めて少なく,この2 つの目標血糖値のいずれがより至適であるかは不明であった。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 の血糖班において,ネットワークメタ解析(NMA)により目標血糖値110mg / dL 以下, 110~144mg / dL,144~180mg / dL,180mg / dL 以上のいずれが最も益と害のバランスにおいて優れているかについて検討した結果,病院死亡率,感染症発生率は,直接比較可能な4 群間において差を認めなかったが,低血糖の危険性は110mg / dL 以下と110~144mg / dL では,144~180mg / dL と180mg / dL 以上と比較して有意に高かった 7)。この結果より,J-SSCG 2016 では144~180mg / dL を目標とすることを弱く推奨した 8, 9)。J-SSCG 2020 においてもJ-SSCG 2016 に引き続き,NMA の手法を用いて目標血糖値をCQ13-2 で検討した。 血糖測定方法 集中治療室における血糖測定は簡易血糖測定器や血液ガス分析器を使用して行われることが多いが,使用機器や採血法によって結果が異なることがある。多くの集中治療室で簡易血糖測定が行われるが,その測定値は不正確でしばしば高く見積もられるため,低血糖の発生を見逃す可能性がある 10)。過去のメタ解析においても毛細管血を使用した簡易血糖測定は,静脈血 敗血症における血糖管理〔診療フロー〕 -S 273-
を使用した簡易血糖測定,あるいは血液ガス分析器による血糖測定と比較して有意に不正確であることが報告されている 10)。特に低血糖帯(血糖値72mg / dL 以下)では,この毛細管血を使用した簡易血糖測定の測定誤差は臨床上大きな問題となり,血液ガス分析器による血糖測定のほうがより正確である 10)。血糖値の測定誤差は,採血部位と測定器の種類以外にも,サンプルのヘマトクリットや酸素分圧,薬剤など様々な要因により影響を受ける。特に血糖測定範囲を逸脱した患者 10),貧血を呈した患者 11),低血圧患者 12),カテコラミン使用中の患者 13),中心静脈カテーテルからの採血 14)では,血糖値の測定誤差が大きくなりやすい。本委員会では採血部位と測定機器に注目して CQ13-1 で血糖測定方法について検討した。 血糖測定の頻度について,SSCG 2016 ではインスリン治療を行う患者では血糖値やインスリン投与速度が安定するまでは1~2 時間後ごと,その後は4 時間ごとの血糖測定をbest practice statement として推奨している 6)。過去の急性期血糖管理の研究でも,血糖値は少なくとも4 時間ごとに測定されている。このことより,病態が変化している場合や栄養投与の予期せぬ中断時などはさらなる注意が必要となるが,少なくとも4 時間ごとの血糖測定が望ましいといえる。また,人工膵臓など持続血糖管理装置に関するCQ についても,本委員会ではCQ としての立案を見送ったが,敗血症領域における研究が待たれる。 文 献 1) Finfer S, Liu B, Chittock DR, et al: Hypoglycemia and risk of death in critically ill patients. N Engl J Med. 2012; 367: 1108-18. 2) van den Berghe G, Wouters P, Weekers F, et al: Intensive insulin therapy in critically ill patients. N Engl J Med. 2001; 345: 1359-67. 3) van den Berghe G, Wilmer A, Hermans G, et al: Intensive insulin therapy in the medical ICU. N Engl J Med. 2006; 354: 449-61. 4) NICE-SUGAR Study Investigators, Finfer S, Chittock DR, et al: Intensive versus conventional glucose control in critically Ill patients. N Engl J Med. 2009; 360: 1283-97. 5) Song F, Zhong LJ, Han L, et al: Intensive insulin therapy for septic patients: A meta-analysis of randomized controlled trials. Biomed Res Int. 2014; 2014: 698265. 6) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 7) Yatabe T, Inoue S, Sakaguchi M, et al: The optimal target for acute glycemic control in critically ill patients: a network metaanalysis. Intensive Care Med. 2017; 43: 16-28. 8) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 9) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 10) Kanji S, Buffie J, Hutton B, et al: Reliability of point-of-care testing for glucose measurement in critically ill adults. Crit Care Med. 2005; 33: 2778-85. 11) Inoue S, Egi M, Kotani J, et al: Accuracy of blood-glucose measurements using glucose meters and arterial blood gas analyzers in critically ill adult patients: Systematic review. Crit Care. 2013; 17: R48. 12) Ghys T, Goedhuys W, Spincemaille K, et al: Plasma-equivalent glucose at the point-of-care: evaluation of Roche Accu-Chek Inform ® and Abbott Precision PCx ® glucose meters. Clin Chim Acta. 2007; 386: 63-8. 13) Fekih Hassen M, Ayed S, Gharbi R, et al: Bedside capillary blood glucose measurements in critically ill patients: Influence of catecholamine therapy. Diabetes Res Clin Pract. 2010; 87: 87-91. 14) Pereira AJ, Corrêa TD, de Almeida FP, et al: Inaccuracy of venous point-of-care glucose measurements in critically ill patients: A cross-sectional study. PLoS One. 2015; 10: e0129568. -S 274-
CQ13-1:敗血症患者において毛細管血を用いた 簡易血糖測定装置による血糖測定を行うか? Answer:敗血症患者において毛細管血を用いた簡易血糖測定装置による血糖測定を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2A:エビデンスの確実性= 「高」)。 (1)背景および本CQ の重要度 集中治療室における血糖測定は,簡易血糖測定器や動脈血血液ガス分析器を使用して行われることが多いが,使用機器や採血法によって結果が異なることがある。また,毛細管血を使用した簡易血糖測定は,動脈血・静脈血を使用した簡易血糖測定,あるいは血液ガス分析器による血糖測定と比較して有意に不正確である可能性が高い。このように,血糖測定方法の選択は,その後の治療にも関わる重要な臨床課題である。(2)PECO P (患者):成人集中治療患者E (曝露):簡易血糖測定装置(毛細管血) C (対照):血液ガス分析装置(動脈血・静脈血), 簡易血糖測定装置(動脈血・静脈血) O (アウトカム):(患者や集団にとっての重要なア ウトカム)死亡,感染症,低血糖(代理アウトカム)許容範囲外の測定誤差 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PECO に合致した研究が43 件施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。許容範囲外の測定誤差は,一致度において検査室の血糖値± 20% を誤差の許容範囲と定義して評価した。 Table 13-1-1 エビデンスプロファイル -S 275-
(4) 益と害のバランス(Table 13-1-1)望ましい効果: 毛細管血を用いた簡易血糖測定装置による測定は,動脈血・静脈血を用いた血液ガス分析装置あるいは簡易血糖測定装置による血糖測定と比較して,後述のように95% CI を考慮しても許容範囲外の測定誤差が多くなるため,望ましい効果はあったとしても「わずか」であると判断する。望ましくない効果: ゴールドスタンダードである血清を用いた生化学検査器による血糖測定と比較して,許容範囲外(誤差20% 以上)の測定誤差発生に関する効果推定値(1,000測定あたり)は,簡易血糖測定装置(毛細管血)は血液ガス分析装置(動脈血・静脈血)と比較して,リスク差(RD)1,000 測定あたり45 多い (95% CI: 11 多い~164 多い)(3 観察研究,2,800 測定) 1-3),簡易血糖測定装置(毛細管血)は簡易血糖測定装置(動脈血・静脈血)と比較して,RD 1,000 測定あたり58 多い (95% CI: 12 多い~134 多い)(8 観察研究,5,924測定) 1-8),簡易血糖測定装置(毛細管血)は,血液ガス分析装置・簡易血糖測定装置(動脈血・静脈血)と比較して,RD 1,000 測定あたり39 多い(95% CI: 14多い~90 多い)(3 観察研究,5,075 測定) 1-3),血液ガス分析装置(動脈血・静脈血)は簡易血糖測定装置(動脈血・静脈血)と比較して,RD 1,000 測定あたり10 少ない(95% CI: 12 少ない~0 少ない)(5 観察研究,4,321 測定) 1-3, 9, 10)である。 高血糖の発生は重要なアウトカムである死亡や感染症発生増加に関与し,低血糖の発生は神経障害や死亡に関与する。測定が大きく誤っていた場合には,迅速に治療を受ける機会が失われたり,著しい血糖異常を見過ごされたりする可能性がある。毛細管血を用いて簡易血糖測定装置で測定する方法は,動脈血・静脈血を用いて血液ガス分析装置または簡易血糖測定装置で測定する方法と比較して1,000 測定あたり39~58 回,許容範囲外の測定誤差が多くなるため,望ましくない効果は「中」であると判断した。益と害のバランス: 毛細管血を用いて簡易血糖測定装置で測定する方法と比較して,動脈血・静脈血を用いて血液ガス分析装置または簡易血糖測定装置で測定する方法がおそらく優位であると判断する。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 各アウトカムが全て同じ方向性を示しているため,アウトカムに関するエビデンスの確実性の中でも最も高いGRADE を採用するため「高」とした。 (6)価値観 血糖異常が見過ごされたり,発見が遅れたりすることを防ぐことの価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。それに影響を与える可能性のある許容範囲外の測定誤差に関する価値も高く,また,ばらつきが少ないことが予想される。 (7)容認性 毛細管血を採取することと動脈血・静脈血を採取することの違いが医療従事者の大きな負担になることはないだろう。特に,急性期で観血的動脈圧ラインが留置されている場合,容認性は高いと考えられる。 (8)実行可能性 敗血症診療を行う医療機関においては,血液ガス分析器を院内に有していることがほとんどであると考えられる。また,ない場合でも動脈血・静脈血を用いた簡易血糖測定の実施を代替手段として提示しており,実行可能性は高いといえる。 (9)判断の要約(Table 13-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 11)では,毛細管血を利用した簡易血糖測定は動脈血や血漿グルコース値を正確に推定できない可能性があるため,解釈に注意するようにとbest practice statement として提示している。また,動脈カテーテルが挿入されている患者では,簡易血糖測定器での測定に毛細管血より動脈血を使用することを提案している。 (12)実施に関わる検討事項 ベッドサイドから離れた場所に血液ガス分析装置がある場合,頻回の血液ガス分析装置での測定に伴う,検体の輸送の負担を考慮する必要がある。動脈血・静脈血を用いた血液ガス分析装置および簡易血糖測定装置による血糖測定の測定誤差の発生率の相違はわずかであり,動脈血・静脈血を用いた簡易血糖測定装置による血糖測定を選択してもよい。しかし,これらの方 -S 276-
法であっても測定誤差が生じうるため,適宜,中央検査室での血糖測定を行い,その正確性を確認する必要がある。なお,本推奨は集中治療患者を対象とした研究に基づく推奨であり,一般病床における血糖測定方法については検討できていない。 (13)今後の研究の可能性 今後,敗血症患者などの重症病態における持続血糖モニタリング装置の測定誤差に関する研究が望まれる。 文 献 1) Kanji S, Buffie J, Hutton B, et al: Reliability of point-of-care testing for glucose measurement in critically ill adults. Crit Care Med. 2005; 33: 2778-85. 2) Petersen JR, Graves DF, Tacker DH, et al: Comparison of POCT and central laboratory blood glucose results using arterial, capillary, and venous samples from MICU patients on a tight glycemic protocol. Clin Chim Acta. 2008; 396: 10-3. 3) Slater-MacLean L, Cembrowski G, Chin D, et al: Accuracy of glycemic measurements in the critically ill. Diabetes Technol Ther. 2008; 10: 169-77. 4) Desachy A, Vuagnat AC, Ghazali AD, et al: Accuracy of bedside glucometry in critically ill patients: Influence of clinical characteristics and perfusion index. Mayo Clin Proc. 2008; 83: 400-5. 5) Ellis MF, Benjamin K, Cornell M, et al: Suitability of capillary blood glucose analysis in patients receiving vasopressors. Am J Crit Care. 2013; 22: 423-9. 6) Karon BS, Gandhi GY, Nuttall GA, et al: Accuracy of Roche Accu-Chek Inform whole blood capillary, arterial, and venous glucose values in patients receiving intensive intravenous insulin therapy after cardiac surgery. Am J Clin Pathol. 2007; 127: 919-26. 7) Lonjaret L, Claverie V, Berard E, et al: Relative accuracy of arterial and capillary glucose meter measurements in critically ill patients. Diabetes Metab. 2012; 38: 230-5. 8) Pulzi Júnior SA, de Assunção MSC, Mazza BF, et al: Accuracy of different methods for blood glucose measurement in critically ill patients. Sao Paulo Med J. 2009; 127: 259-65. 9) Claerhout H, De Prins M, Mesotten D, et al: Performance of stripbased glucose meters and cassette-based blood gas analyzer for monitoring glucose levels in a surgical intensive care setting. Clin Chem Lab Med. 2016; 54:169-80. 10) Watkinson PJ, Barber VS, Amira E, et al: The effects of precision, haematocrit, pH and oxygen tension on point-of-care glucose measurement in critically ill patients: A prospective study. Ann Clin Biochem. 2012; 49: 144-51. 11) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. Table 13-1-2 判断の要約 -S 277-
CQ13-2:敗血症患者の目標血糖値はいくつにす るか? Answer:敗血症患者の目標血糖値を144~180mg / dLとすることを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性= 「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 高血糖は,感染症の増加などから予後の悪化につながる可能性がある。一方で,高血糖を是正するためにインスリンを使用した場合,鎮静下の患者では低血糖の発見がむずかしく,不可逆的な神経障害を招く危険がある。そのため,低血糖の危険を回避して,感染症の低下などの益を得るための適切な血糖目標値はいくらかということは重要な臨床課題である。 (2)PICO P (患者):成人集中治療患者I (介入):目標血糖値帯110mg / dL 未満,110~ 144mg / dL,144~180mg / dL,180mg / dL 以上C (対照):上記各4 群間の比較O (アウトカム):死亡,感染症,低血糖 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が35 件 1-35)施行されており,これらを用いたネットワークメタ解析を実施した。 (4) 益と害のバランス(Table 13-2-1,13-2-2, 13-2-3)望ましい効果: 死亡に関する効果推定値は,110mg / dL 未満に対して,110~144mg / dL では,リスク差(RD)1,000 人あたり40 人少ない(95% CI: 100 人少ない~30 人多い) (1 RCT,90 人)であり,144~180mg / dL では,RD 1,000 人あたり27 人少ない(95% CI: 45 人少ない~8人少ない)(5 RCT,7,323 人)であり,180mg / dL 以上では,RD 1,000 人あたり4 人多い(95% CI: 22 人少ない~35 人多い)(12 RCT,8,027 人)であった。110~144mg / dL に対しては,144~180mg / dL では, RD 1,000 人あたり6 人多い(95% CI: 104 人少ない~ 147 人多い)(1 RCT,20 人)であり,180mg / dL 以上では,RD 1,000 人あたり28 人多い(95% CI: 14 人少ない~81 人多い)(8 RCT,884 人)であった。144~ 180mg / dL に対しては,180mg / dL 以上は,RD 1,000人あたり1 人多い(95% CI: 0 人多い~3 人多い)(1 RCT,212 人)であった。 感染症に関する効果推定値は,110mg/dL 未満に対して,144~180mg/dL では,RD 1,000 人あたり5 人少ない (95% CI: 19 人少ない~10 人多い) (3 RCT, 6,185 人),180mg/dL 以上では,RD 1,000 人あたり25人多い (95% CI: 8 人多い~ 43 人多い) (8 RCT,6,104人)であった。 110~144mg/dL に対して,180mg/dL 以上では,RD 1,000 人あたり62 人多い (95% CI: 3 人多い~ 135 人多い)(5 RCT,485 人)であった。110mg/dL 未満と110~144mg/dL,110~144mg/dL と144~180mg/dL, 144~180mg/dL と180mg/dL 以上,では直接比較がなかった。望ましくない効果: 低血糖に関する効果推定値は,110mg / dL 未満に対して,110~144mg / dL では,RD 1,000 人あたり13 人多い(95% CI: 42 人少ない~103 人多い)(1 RCT,90人)であり,144~180mg / dL では,RD 1,000 人あたり63 人少ない(95% CI: 67 人少ない~58 人少ない)(5 RCT,7,331 人)であり,180mg / dL 以上では,RD 1,000人あたり85 人少ない(95% CI: 94 人少ない~75 人少ない)(12 RCT,8,342 人)であった。110~144mg / dLに対して,144~180mg / dL では,RD 1,000 人あたり66人少ない(95% CI: 72 人少ない~58 人少ない)(1 RCT,302 人)であり,180mg / dL 以上では,RD 1,000人あたり88 人少ない(95% CI: 121 人少ない~37 人少ない)(7 RCT,730 人)であった。144~180mg / dL に対して,180mg / dL 以上では,RD 1,000 人あたり0 人多い(95% CI: 0 人多い~0 人多い,※対照群の発生率が0 であるため)(1 RCT,212 人)であった。益と害のバランス: 各群間の効果のバランスは以下の通りである。110mg / dL 未満に対して110~144mg / dL,144~ 180mg / dL,180mg / dL 以上のいずれも優位である。 110~144mg / dL に対して144~180mg / dL は優位, 180mg / dL 以上は優位ではない。 144~180mg / dL に対して180mg / dL 以上は優位ではない。 以上をまとめると144~180mg / dL が最も優位であるといえる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 各アウトカムが益と害の異なる方向性を示している群間もあり,重大なアウトカムに関するエビデンスの確実性の中でも最も低いGRADE を採用するため「非 -S 278-
Table 13-2-1 エビデンスプロファイル死亡 -S 279-
Table 13-2-2 エビデンスプロファイル感染症 -S 280-
Table 13-2-3 エビデンスプロファイル低血糖 -S 281-
常に低」とした。 (6)価値観 血糖管理のアウトカムに関する価値観についてのデータはない。一般的に死亡に対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 インスリンの薬価は約300 円 / 100 単位とコストに関する容認性は高いと思われる。血糖測定が頻回になった場合,看護師の労力は増加する。 (8)実行可能性 一般的な薬剤を用いた治療であり,どの病院においても実行可能性は高いといえる。 (9)判断の要約(Table 13-2-4) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:100%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 36)では,2 回の連続する血糖測定値が180mg / dL を超えた場合にインスリンを開始し,目標血糖値の上限は110mg / dL 以下よりは180mg / dL 以下とすべきであるとしている。(12)実施に関わる検討事項 使用する血糖測定装置に関してはCQ13-1 に記載した。 (13)今後の研究の可能性 今後,糖尿病患者における最適な血糖値帯や持続血糖モニタリング装置あるいはClosed-loop 方式の血糖管理装置を使用した場合の最適な血糖値帯に関する研究が望まれる。 文 献 1) Annane D, Cariou A, Maxime V, et al: Corticosteroid treatment and intensive insulin therapy for septic shock in adults: A randomized controlled trial. JAMA. 2010; 303: 341-8. 2) Arabi YM, Dabbagh OC, Tamim HM, et al: Intensive versus conventional insulin therapy: A randomized controlled trial in medical and surgical critically ill patients. Crit Care Med. 2008; 36: 3190-7. 3) Arabi YM, Tamim HM, Dhar GS, et al: Permissive underfeeding and intensive insulin therapy in critically ill patients: A randomized controlled trial. Am J Clin Nutr. 2011; 93: 569-77. 4) Bilotta F, Spinelli A, Giovannini F, et al: The effect of intensive insulin therapy on infection rate, vasospasm, neurologic outcome, and mortality in neurointensive care unit after intracranial aneurysm clipping in patients with acute subarachnoid hemorrhage: A randomized prospective pilot trial. J Neurosurg Anesthesiol. 2007; 19: 156-60. 5) Bilotta F, Caramia R, Cernak I, et al: Intensive insulin therapy after severe traumatic brain injury: A randomized clinical trial. Neurocrit Care. 2008; 9: 159-66. 6) Bilotta F, Caramia R, Paoloni FP, et al: Safety and efficacy of intensive insulin therapy in critical neurosurgical patients. Anesthesiology. 2009; 110: 611-9. 7) Bland DK, Fankhanel Y, Langford E, et al: Intensive versus modified conventional control of blood glucose level in medical intensive care patients: A pilot study. Am J Crit Care. 2005; 14: 370-6. 8) Brunkhorst FM, Engel C, Bloos F, et al: Intensive insulin therapy Table 13-2-4 判断の要約 -S 282-
and pentastarch resuscitation in severe sepsis. N Engl J Med. 2008; 358: 125-39. 9) Bruno A, Kent TA, Coull BM, et al: Treatment of hyperglycemia in ischemic stroke (THIS): A randomized pilot trial. Stroke. 2008; 39: 384-9. 10) Cappi SB, Noritomi DT, Velasco IT, et al: Dyslipidemia: A prospective controlled randomized trial of intensive glycemic control in sepsis. Intensive Care Med. 2012; 38: 634-41. 11) Chan RP, Galas FR, Hajjar LA, et al: Intensive perioperative glucose control does not improve outcomes of patients submitted to open-heart surgery: A randomized controlled trial. Clinics (Sao Paulo). 2009; 64: 51-60. 12) Coester A, Neumann CR, Schmidt MI: Intensive insulin therapy in severe traumatic brain injury: A randomized trial. J Trauma. 2010; 68: 904-11. 13) Davies RR, Newton RW, McNeill GP, et al: Metabolic control in diabetic subjects following myocardial infarction: Difficulties in improving blood glucose levels by intravenous insulin infusion. Scott Med J. 1991; 36: 74-6. 14) de Azevedo JR, de Araujo LO, da Silva WS, et al: A carbohydraterestrictive strategy is safer and as efficient as intensive insulin therapy in critically ill patients. J Crit Care. 2010; 25: 84-9. 15) De La Rosa Gdel C, Donado JH, Restrepo AH, et al: Strict glycaemic control in patients hospitalised in a mixed medical and surgical intensive care unit: A randomised clinical trial. Crit Care. 2008; 12: R120. 16) Farah R, Samokhvalov A, Zviebel F, et al: Insulin therapy of hyperglycemia in intensive care. Isr Med Assoc J. 2007; 9: 140-2. 17) Finfer S, Chittock DR, Su SYS, et al: Intensive versus conventional glucose control in critically Ill patients. N Engl J Med. 2009; 360: 1283-97. 18) Giakoumidakis K, Eltheni R, Patelarou E, et al: Effects of intensive glycemic control on outcomes of cardiac surgery. Heart & Lung. 2013; 42: 146-51. 19) Green DM, O’Phelan KH, Bassin SL, et al: Intensive versus conventional insulin therapy in critically ill neurologic patients. Neurocrit Care. 2010; 13: 299-306. 20) Grey NJ, Perdrizet GA: Reduction of nosocomial infections in the surgical intensive-care unit by strict glycemic control. Endocr Pract. 2004; 10 Suppl 2: 46-52. 21) Hsu CW, Sun SF, Lin SL, et al: Moderate glucose control results in less negative nitrogen balances in medical intensive care unit patients: A randomized, controlled study. Crit Care. 2012; 16: R56. 22) Iapichino G, Albicini M, Umbrello M, et al: Tight glycemic control does not affect asymmetric-dimethylarginine in septic patients. Intensive Care Med. 2008; 34: 1843-50. 23) Kalfon P, Giraudeau B, Ichai C, et al: Tight computerized versus conventional glucose control in the ICU: A randomized controlled trial. Intensive Care Med. 2014; 40: 171-81. 24) McMullin J, Brozek J, McDonald E, et al: Lowering of Glucose in Critical care: a randomized pilot trial. J Crit Care. 2007; 22: 112-8; discussion 118-9. 25) Mitchell I, Knight E, Gissane J, et al: A phase II randomised controlled trial of intensive insulin therapy in general intensive care patients. Crit Care Resusc. 2006; 8: 289-93. 26) Oksanen T, Skrifvars MB, Varpula T, et al: Strict versus moderate glucose control after resuscitation from ventricular fibrillation. Intensive Care Med. 2007; 33: 2093-100. 27) Plummer MP, Notkina N, Timofeev I, et al: Cerebral metabolic effects of strict versus conventional glycaemic targets following severe traumatic brain injury. Crit Care. 2018; 22: 16. 28) Preiser JC, Devos P, Ruiz-Santana S, et al: A prospective randomised multi-centre controlled trial on tight glucose control by intensive insulin therapy in adult intensive care units: The Glucontrol study. Intensive Care Med. 2009; 35: 1738-48. 29) Savioli M, Cugno M, Polli F, et al: Tight glycemic control may favor fibrinolysis in patients with sepsis. Crit Care Med. 2009; 37: 424-31. 30) Stefanidis A, Melidonis A, Tournis S, et al: Intensive insulin treatment reduces transient ischaemic episodes during acute coronary events in diabetic patients. Acta Cardiol. 2002; 57: 357-64. 31) Umpierrez G, Cardona S, Pasquel F, et al: Randomized controlled trial of intensive versus conservative glucose control in patients undergoing coronary artery bypass graft surgery: GLUCOCABG trial. Diabetes Care. 2015; 38: 1665-72. 32) van den Berghe G, Wouters P, Weekers F, et al: Intensive insulin therapy in critically ill patients. N Engl J Med. 2001; 345: 1359-67. 33) Van den Berghe G, Wilmer A, Hermans G, et al: Intensive insulin therapy in the medical ICU. N Engl J Med. 2006; 354: 449-61. 34) Walters MR, Weir CJ, Lees KR: A randomised, controlled pilot study to investigate the potential benefit of intervention with insulin in hyperglycaemic acute ischaemic stroke patients. Cerebrovasc Dis. 2006; 22: 116-22. 35) Wang Y, Li JP, Song YL, et al: Intensive insulin therapy for preventing postoperative infection in patients with traumatic brain injury: A randomized controlled trial. Medicine (Baltimore). 2017; 96: e6458. 36) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. -S 283-
CQ14:体温管理 体温は日常的に測定するバイタルサインである。その異常は集中治療患者において最も高率に認める徴候の1 つであり,発熱あるいは低体温を契機に新たな診療がしばしば開始される 1, 2)。本邦における敗血症患者を対象としたレジストリー研究でも,集中治療室入室時における体温は36 °C未満11.1%,36~38 °C 49.4%,>38°C39.4% であることが報告されている 3)。体温は測定部位により異なるため,可能な限り信頼性の高い部位で測定する必要がある。脳・肺・心臓・肝臓・腎臓など主要臓器の温度が生体活動には重要であり,深部体温測定が推奨される。深部体温のゴールドスタンダードは血液温度であるとされているが,血液温度測定のためには肺動脈カテーテルなどの挿入が必要であり,日常的には用いることはできない。American College of Critical Care Medicine とInfectious Diseases Society of America のガイドラインでは,血液・膀胱・食道・直腸温度は深部体温を正確に反映するとして,これらの測定を推奨している 1)。一方,鼓膜・腋窩・末梢血管温度(末梢動脈カテーテルで測定される血液温度)測定による評価の信頼性は低く,集中治療室での使用は推奨されていない。膀胱温は,尿道カテーテルを挿入する患者のほぼ全例で測定可能であると共に正確性が高いため,重症患者での体温測定に適している 1)。 本邦と韓国の25 施設で行われた多施設前向き観察研究であるFACE study では,38.5°C以上の発熱は集中治療室患者の40.5%,39.5°C以上は11.5% の患者で認められていた 4)。一般に体温は視床下部の制御によって37 ± 0.5°C程度の狭い範囲にコントロールされ,発熱は感染や生体侵襲に対する適応反応の1 つとして捉えることができる 5)。発熱は,抗体産生の増加,T細胞の活性化,サイトカインの合成,好中球およびマクロファージの活性化を惹起する生体防御反応であり,重症感染症患者における発熱は死亡率低下との関連が示唆されている 6, 7)。一方,発熱は,患者不快感,呼吸需要および心筋酸素需要の増大,中枢神経障害などを生じ,負の側面もある 2)。 発熱と解熱療法 発熱患者に対して解熱療法を行うことにより,脈拍や酸素消費量低下が期待できる。また,分時換気量の減少や不快感軽減も期待されるため,発熱を伴う重症患者に対する解熱療法は一般的に施行されていると考えられる。解熱療法は,発熱に関連する有害事象を軽減あるいは予防する目的に行われることもあるが,日 常的には解熱そのものを目的として施行されているとの報告もみられる 4)。一方,解熱療法により,生体に有益な適応・防御反応が抑制される可能性もある。また,解熱薬には胃腸障害,肝障害,腎障害や血圧低下などの副作用もある 8, 9)。 発熱患者に解熱処置を考慮する際,その方法は大きく“薬物による解熱”と体表などの“冷却による解熱”に分けられる。薬物による解熱では,非ステロイド性抗炎症薬あるいはアセトアミノフェンが使用される。両者は,PGE2 合成阻害を介して視床下部体温調節中枢のセットポイントを低下させることによって解熱効果を得るとされている。 冷却による解熱には,体表クーリングや氷嚢を体幹部にあてる表面冷却が使用される。鎮静は寒冷反応(シバリング・立毛筋収縮)を抑制し,冷却による解熱に併用することで効果的な体温低下をもたらすとされている 10, 11)。しかし,患者が鎮静下でない場合,冷却による解熱は寒冷反応を惹起する。寒冷反応を生じた場合,特に表面冷却での解熱は困難となり,むしろ,酸素消費量や分時換気量は増加する 12)。解熱療法の目的が患者の酸素消費量・脈拍・分時換気量の低下あるいは寒冷反応に伴う不快感の軽減である場合,非鎮静下における表面冷却は逆効果であり,避けるべきである。 このように,発熱はその原因検索のための診断や治療法変更へとつながる徴候であると共に,患者不快感,呼吸および心筋を含む全身の酸素需要増大,中枢神経障害などを生じる。一方,病原微生物の除去促進も関連する防御反応でもある。解熱療法は頻繁に施行されているものの,前記防御反応が抑制される可能性もあり,その有効性・有害性の評価は定まっていない。以上より,体温管理の項における第1 のCQ は,「発熱を伴う敗血症患者に解熱療法を行うか?」とした。 体温低下と復温療法 敗血症患者の体温低下は,生体の体温維持機能の喪失や鎮静・筋弛緩,体外循環の施行などによって生じると考えられ,発熱と比較して,より重篤な患者で生じやすい。APACHE II スコア,敗血症,あるいは感染関連性人工呼吸器関連合併症の定義においては, 36°C未満が低体温とされている 13-15)。本邦における敗血症レジストリーによる解析でも,集中治療室入室時における36°C未満の低体温は10% を超える患者で生じており,敗血症患者のうち入室24 時間以内に低体温を呈した患者は死亡率が高いことが明らかにされ -S 284-
ている 3, 16)。 低体温は感染防御能の低下に関連し,徐脈,心収縮力低下,不整脈,換気応答の低下,高血糖,高カリウム血症などの副作用がある。また,深部体温35°C未満の低体温症においては,心収縮力低下・心拡張能低下・凝固異常が生じ,33°C以下では血小板数の低下が生じる 17-21)。 このように,低体温に伴うデメリットと共に,低体温を呈する敗血症患者の予後は不良である。低体温を伴う敗血症患者に対する復温療法は,転帰改善が期待される治療法である可能性がある。したがって,敗血症治療開始時に低体温を呈している患者の体温を復温するかは重要な問題と考えられるが,その有効性・有害性の評価は定まっていない。以上より,本項における2 番目のCQ は,「低体温を伴う敗血症患者に復温療法を行うか?」とした。 文 献 1) O’Grady NP, Barie PS, Bartlett JG, et al: Guidelines for evaluation of new fever in critically ill adult patients: 2008 update from the American College of Critical Care Medicine and the Infectious Diseases Society of America. Crit Care Med. 2008; 36: 1330-49. 2) Laupland KB: Fever in the critically ill medical patient. Crit Care Med. 2009; 37(7 Suppl):S273-8. 3) Kushimoto S, Abe T, Ogura H, et al: Impact of Body Temperature Abnormalities on the Implementation of Sepsis Bundles and Outcomes in Patients with Severe Sepsis: A Retrospective Sub-Analysis of the Focused Outcome Research on Emergency Care for Acute Respiratory Distress Syndrome, Sepsis and Trauma Study. Crit Care Med. 2019; 47: 691-9. 4) Lee BH, Inui D, Suh GY, et al: Association of body temperature and antipyretic treatments with mortality of critically ill patients with and without sepsis: multi-centered prospective observational study. Crit Care. 2012; 16: R33. 5) Dantzer R, Wollman E: Molecular mechanisms of fever: the missing links. Eur Cytokine Netw. 1998; 9: 27-31. 6) Swenson BR, Hedrick TL, Popovsky K, et al: Is fever protective in surgical patients with bloodstream infection? J Am Coll Surg. 2007; 204: 815-21. 7) Rumbus Z, Matics R, Hegyi P, et al: Fever is associated with reduced, hypothermia with increased mortality in septic patients: a meta-analysis of clinical trials. PLoS One. 2017; 12: e0170152. 8) Plaisance KI, Mackowiak PA: Antipyretic therapy: physiologic rationale, diagnostic implications, and clinical consequences. Arch Intern Med. 2000; 160: 449-56. 9) Schell-Chaple HM, Liu KD, Matthay MA, et al: Effects of IV Acetaminophen on Core Body Temperature and Hemodynamic Responses in Febrile Critically Ill Adults: A Randomized Controlled Trial. Crit Care Med. 2017; 45: 1199-207. 10) Axelrod P: External cooling in the management of fever. Clin Infect Dis. 2000; 31(Suppl 5):S224-9. 11) Sessler DI: Perioperative heat balance. Anesthesiology. 2000; 92: 578-96. 12) Gozzoli V, Treggiari MM, Kleger GR, et al: Randomized trial of the effect of antipyresis by metamizol, propacetamol or external cooling on metabolism, hemodynamics and inflammatory response. Intensive Care Med. 2004; 30: 401-7. 13) Knaus WA, Draper EA, Wagner DP, et al: APACHE II: a severity of disease classification system. Crit Care Med. 1985; 13: 818-29. 14) American College of Chest Physicians / Society of Critical Care Medicine Consensus Conference: definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med. 1992; 20: 864-74. 15) Levy MM, Fink MP, Marshall JC, et al: 2001 SCCM / ESICM / ACCP / ATS / SIS International Sepsis Definitions Conference. Crit Care Med. 2003; 31: 1250-6. 16) Kushimoto S, Gando S, Saitoh D, et al: The impact of body temperature abnormalities on the disease severity and outcome in patients with severe sepsis: an analysis from a multicenter, prospective survey of severe sepsis. Crit Care. 2013; 17: R271. 17) Valeri CR, MacGregor H, Cassidy G, et al: Effects of temperature on bleeding time and clotting time in normal male and female volunteers. Crit Care Med. 1995; 23: 698-704. 18) Watts DD, Trask A, Soeken K, et al: Hypothermic coagulopathy in trauma: effect of varying levels of hypothermia on enzyme speed, platelet function, and fibrinolytic activity. J Trauma. 1998; 44: 846-54. 19) Brown DJA, Brugger H, Boyd J, et al: Accidental hypothermia. N Engl J Med. 2012; 367: 1930-8. 20) Epstein E, Anna K: Accidental hypothermia. BMJ. 2006; 332: 体温管理〔診療フロー〕 -S 285-
706-9. 21) Wolberg AS, Meng ZH, Monroe DM 3rd, et al: A systematic evaluation of the effect of temperature on coagulation enzyme activity and platelet function. J Trauma. 2004; 56: 1221-8. CQ14-1:発熱を伴う敗血症患者に解熱療法を行 うか? Answer:発熱を伴う敗血症患者に対して,解熱療法を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2A:エビデンスの確実性= 「高」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症患者では発熱は頻繁に生じる。発熱は,その原因検索のための診断や治療法変更へとつながる徴候であると共に,患者不快感,呼吸および心筋を含む全身の酸素需要増大,中枢神経障害などを生じる。一方,抗体産生増加,T 細胞活性化,サイトカイン産生促進,好中球およびマクロファージの活性化を惹起させ,病原微生物の除去促進に関連する防御反応でもある。解熱療法は,患者不快感の軽減,酸素需要増大の低減,中枢神経障害予防を目的に頻繁に施行されている。しかし,解熱療法により前記防御反応が抑制される可能性もある。その有効性・有害性の評価は定まっておらず,本CQ の優先度は高いと考える。 (2)PICO P (患者):感染症,敗血症あるいは敗血症性ショッ ク患者I (介入):あらゆる種類および投与量の解熱薬投 与,体表あるいは体内クーリングデバイスの使用C (対照):プラセボ投与あるいは非介入O (アウトカム):病院死亡,ICU 滞在日数,あらゆ る重篤な副作用,感染性合併症 (3)エビデンスの要約 敗血症診断基準を満たした患者のみを対象としたランダム化比較試験(RCT)7 論文を用いたメタ解析を行った 1-7)。死亡アウトカムに関しては,事前設定に基づいて検索し得た全RCT を対象としたもの,ならびに,バイアスリスクが低いRCT に限定したもの(Low RoB)の2 通りを行った。エビデンスの確実性が高い解析を用いることと事前に設定していたため, Low RoB RCT に限定した解析の死亡アウトカムを採用した 1-5, 7)。 (4)益と害のバランス(Table 14-1-1)望ましい効果: 低いバイアスのリスクの6 つのRCT から得られる病院死亡に関する効果推定値は,リスク差(RD)1,000人あたり14 人少ない (95% CI: 52 人少ない~30 人多い) -S 286-
(6 RCT,1,439 人)であり,ICU 滞在日数に関する効果推定値は,平均(MD)0.26 日短い(95% CI: 0.99 日短い~0.46 日長い)(2 RCT,889 人)であった。望ましい効果はわずかであると判断した。望ましくない効果: あらゆる重篤な副作用に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり13 人少ない(95% CI: 22 人少ない~7人多い)(2 RCT,1,144 人)であった。望ましくない効果はわずかであると判断した。益と害のバランス: 本CQ においては,病院死亡についての相対的価値の設定によらず,その効果のバランスは介入も比較対照もいずれも優位ではなかった。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したすべてのアウトカムの効果推定値の方向性は一致していた(効果なし)ため,一番高いアウトカムの確実性を全体としては採用した。アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「高」である。 (6)価値観 発熱を伴う敗血症患者に対する解熱療法において,各アウトカムに対する患者・家族の価値観に関するデータはない。死亡アウトカムに対する相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。(7)容認性 解熱薬の中で最も高価であり,かつ静脈注射薬として標準的に使用されるアセトアミノフェン静注薬(1,000mg)の薬価は323 円であり,薬物的介入を行ったとしてもその費用は容認されるものであると考えられる。仕事量も軽微な増加であり,通常の臨床業務範囲内で行うことができる。ウォーターパッド体温管理装置を含む体表・体内デバイスの使用により作業量は増加するものの,集中治療室における通常の診療業務範囲内であると思われる。ウォーターパッド体温管理用ジェルパッドは,全身装着の際には約10 万円と高額であるが(再使用禁止),敗血症患者に対する適用は限定的であると考えられる。 (8)実行可能性 多くの医療施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 14-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 8)を含む国際ガイドラインなどにおい Table 14-1-1 エビデンスプロファイル -S 287-
て,本CQ は取り上げられていない。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 9, 10)においてはじめて採用したものであり,ルーチンの解熱療法を実施しないことを弱く推奨する(2C)とされ,本ガイドラインと同様の「弱い非推奨」となっている。 (12)実施に関わる検討事項 発熱を伴う敗血症患者全例に対して解熱療法を行わないことを弱く推奨するが,容認性,実行可能性ともに問題ないことから,著しい高体温への対応や発熱に伴う症状改善のためにはその限りではない。 (13)今後の研究の可能性 解熱療法の適応,開始時期と期間,維持体温の設定,解熱方法のさらなる研究が期待される。 文 献 1) Bernard GR, Wheeler AP, Russell JA, et al: The effects of ibuprofen on the physiology and survival of patients with sepsis. N Engl J Med. 1997; 336: 912-8. 2) Janz DR, Bastarache JA, Rice TW, et al: Randomized, placebocontrolled trial of acetaminophen for the reduction of oxidative injury in severe sepsis: The acetaminophen for the reduction of oxidative injury in severe sepsis trial. Crit Care Med. 2015; 43: 534-41. 3) Haupt MT, Jastremski MS, Clemmer TP, et al: Effect of ibuprofen in patients with severe sepsis: A randomized, double-blind, multicenter study. The Ibuprofen Study Group. Crit Care Med. 1991; 19: 1339-47. 4) Niven DJ, Stelfox HT, Léger C, et al: Assessment of the safety and feasibility of administering antipyretic therapy in critically ill adults: A pilot randomized clinical trial. J Crit Care. 2013; 28: 296-302. 5) Schortgen F, Charles-Nelson A, Bouadma L, et al: Respective impact of lowering body temperature and heart rate on mortality in septic shock: mediation analysis of a randomized trial. Intensive Care Med. 2015; 41: 1800-8. 6) Yang YL, Liu DW, Wang XT, et al: Body temperature control in patients with refractory septic shock: Too much may be harmful. Chin Med J (Engl). 2013; 126: 1809-13. 7) Young P, Saxena M, Bellomo R, et al: Acetaminophen for fever in critically III patients with suspected infection. N Engl J Med. 2015 ; 373: 2215-24. 8) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 9) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 10) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 24: S1-232. Table 14-1-2 判断の要約 -S 288-
CQ14-2:低体温を伴う敗血症患者に復温療法を 行うか? Answer:低体温(深部体温<35°C)を呈する敗血症患者において,低体温に伴う循環障害や凝固異常などを認めるときには,循環動態の安定化に配慮して復温療法を行うことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症の定義に使用されてきたsystemic inflammatory response syndrome(SIRS)基準にも体温36°C未満が含まれているように,低体温は敗血症患者に生じる体温異常の1 つである。本邦の敗血症患者を対象とした多施設観察研究 1)では,集中治療室入室時における36°C未満の低体温は11.1% の患者で生じていた。低体温は感染防御能の低下に関連し,心機能低下・不整脈・電解質異常などの合併症を生じうる。前述の多施設観察研究では,集中治療室入室時体温38°Cを超える患者群に対する36°C未満患者群の病院死亡非調整オッズ比は1.760 (95% CI: 1.134~2.732)であり,低体温を呈した敗血症患者の予後は不良である。また,低体温(深部体温<35°C)においては,心収縮力低下・心拡張能低下・凝固異常が生じうる 2-4)。低体温を伴う敗血症患者に対する復温療法は,転帰改善が期待される治療法である可能性がある 5)が,その有効性・有害性の評価は定まっておらず,本CQ の優先度は高いと考える。 (2) PICO P (患者):体温低下を伴う成人敗血症あるいは敗血 症性ショック患者I (介入):あらゆる薬物,体表あるいは体内デバイ スの使用による復温療法(目標値および時間などの制限はない) C (対照):非介入O (アウトカム):病院死亡,ICU 滞在日数,あらゆ る重篤な副作用,感染性合併症,血圧低下 (3)エビデンスの要約 “rewarming”,“sepsis”,“septic shock”を基本として検索式を立案した。検索エンジンは,PubMed, CENTRAL,医中誌Web を用い,254 文献が抽出された。重複を除いた203 文献をスクリーニングし,体温低下を伴う成人敗血症あるいは敗血症性ショック患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)が存在しないことを確認した。 (4)益と害のバランス望ましい効果: 低体温時には心収縮力低下・心拡張能低下・凝固異常が生じることがあり,これらの低体温によると考えられる合併症を認めた際には,緩徐な復温を試みたほうが患者に益する可能性が高いと考える。望ましい効果は「小さい」と判断した。望ましくない効果: 低体温からの復温の際には,血圧低下・循環血液量の相対的減少など,循環動態が不安定化する可能性があることに十分留意する必要がある。望ましくない効果は「小さい」と判断した。益と害のバランス: PICO に合致するRCT は存在せず不明であるが,患者の状態によってそのバランスは異なると考えられる。少なくとも高度低体温により循環不全を伴う場合は,復温に伴う益が害を上回るものと考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったがPICO に合致するRCT は存在しなかった。 (6)価値観 死亡率が低下することは,患者・家族は一般的に重視すると考えられ,不確実性やばらつきはないと思われる。 (7)容認性 ウォーターパッド体温管理用ジェルパッドは,全身装着の際には約10 万円と高額であるが(再使用禁止),敗血症患者に対する適用は限定的であると考えられる。エアーブランケットや毛布を使用することによるコストは低いと考えられる。 ウォーターパッド体温管理装置,エアーブランケットや毛布を使用することにより,医療従事者の仕事量が若干増加することが予想される。しかし,集中治療室における通常の診療業務範囲内であり,その影響は小さいと考えられる。また,これらの装置などは多くの集中治療室で利用可能である。復温のためにこれらの介入を行うことに関して,患者・家族・コメディカル・医師における評価と容認性に違いがないものと思われる。 -S 289-
(8)実行可能性 ウォーターパッド体温管理装置,エアーブランケットや毛布などは,多くの集中治療室で利用可能であると考えられる。 (9)判断の要約(Table 14-2-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 6)を含む国際ガイドラインなどにおいて,本CQ は取り上げられていない。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 においてはじめて採用したものであり,「低体温に伴う心収縮力低下・心拡張能低下・凝固異常などの合併症を認める敗血症患者では,循環動態の安定化に配慮して緩徐に復温療法を行うことを弱く推奨する」とされている。 (12)実施に関わる検討事項 低体温の重症度とこれに伴う症状の重篤度により,復温による益と害のバランスが異なる可能性がある。 (13)今後の研究の可能性 低体温を伴う敗血症患者の復温に関するRCT がないことが明らかとなり,復温が死亡率に与える影響,復温に伴う循環動態への影響などを検証するRCT の早期実施が望まれる。文 献 1) Kushimoto S, Abe T, Ogura H, et al: Impact of Body Temperature Abnormalities on the Implementation of Sepsis Bundles and Outcomes in Patients with Severe Sepsis: A Retrospective Sub-Analysis of the Focused Outcome Research on Emergency Care for Acute Respiratory Distress Syndrome, Sepsis and Trauma Study. Crit Care Med. 2019; 47: 691-99. 2) Brown DJA, Brugger H, Boyd J, et al: Accidental hypothermia. N Engl J Med. 2012 ; 367: 1930-8. 3) Epstein E, Anna K: Accidental hypothermia. BMJ. 2006; 332: 706-9. 4) Wolberg AS, Meng ZH, Monroe DM, et al: A systematic evaluation of the effect of temperature on coagulation enzyme activity and platelet function. J Trauma. 2004; 56: 1221-8. 5) Young PJ, Bellomo R: Fever in sepsis: Is it cool to be hot? Crit Care. 2014; 18: 109. 6) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. Table 14-2-1 判断の要約 -S 290-
CQ15:DIC 診断と治療 敗血症における凝固・線溶状態の変化とDIC の合併 凝固・線溶状態の変化は,敗血症が重症化していく過程において早期から認められ,全身性の凝固異常である播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)を合併すると多臓器障害による死亡リスクは著しく増加することが知られている 1)。これは敗血症性DIC の本態は全身性の著しい凝固活性化状態であり,血管内凝固による微小循環障害が臓器障害の発現に関与しているからである 2)。DIC では凝固の活性化に応じて線溶機能も活性化されるが,線溶機能の程度は基礎疾患によって異なるため,DIC は線溶抑制型と線溶亢進型に大別されている。敗血症性DICにおいては,凝固亢進に対して線溶機能の活性化が十分に行われず,線溶抑制パターンを示すため,臓器障害の合併が多く,予後不良であることが知られている 3)。 敗血症性DIC の診断,鑑別診断,治療のフローチャート 敗血症におけるDIC 診断は,重症度評価と治療介入の必要性を判断するうえで必須である。診断基準としては本邦では日本救急医学会が提唱する「急性期DIC 診断基準」が広く用いられており 1),海外では国際血栓止血学会が提唱する「overt-DIC 診断基準」が標準とされている 4)。前者は急性DIC の診断に特化した診断基準で,簡便性や早期診断に優れる。一方,後者はより厳密にDIC を捉えようとしているため, 多少煩雑であり,診断のタイミングが遅くなることが指摘されている 5)。このため国際血栓止血学会は,新たにsepsis-induced coagulopathy の診断基準を策定してこの批判に応えている 5)。一方,DIC ではない症例に対する抗凝固療法は効果が期待できないばかりでなく,有害事象のリスクを高めることにもなるので, DIC の鑑別診断は重要である 6)。 実際の診療にあたっては,凝固・線溶状態をリアルタイムに把握し,DIC 診断に基づいて適切に治療介入を行う必要がある。敗血症において臨床症状や検査所見で凝固異常が認められる際には,診療フロー(下図)を参考にすることがスムーズな診療につながるであろう。まず診断では,CQ15-1 を参考にして診断基準を選択し,それぞれの基準に基づいて診断を進める。そしてDIC,もしくはその疑い症例においては CQ15-2 に基づいて鑑別を実施する。その結果,他疾 患が除外され,DIC であると判断された場合は治療実施の是非を判断することになる。一方,DIC 診断基準を満たさない場合でも,凝固異常は転帰と関連することを意識して適宜再検討を行い,治療が遅れないよう留意する必要がある。DIC 治療としては,原因となっている病態への対処が必須であるが,同時に抗凝固療法を実施することにより病態の改善が期待できる場合もある。ガイドラインでは代表的な治療薬のエビデンスに基づく評価をCQ15-3~6 に提示してあるので選択の参考にされたい。なお,抗凝固療法の実施に際しては,いずれの治療薬に関してもエビデンスの確実性 DIC診断と治療〔診療フロー〕 -S 291-
は低く,海外においては積極的に抗凝固療法を実施している例はむしろ少数であることも念頭に置いておく必要がある。 文 献 1) Gando S, Iba T, Eguchi Y, et al: A multicenter, prospective validation of disseminated intravascular coagulation diagnostic criteria for critically ill patients: comparing current criteria. Crit Care Med. 2006; 34: 625-31. 2) Levi M, van der Poll T: A short contemporary history of disseminated intravascular coagulation. Semin Thromb Hemost. 2014; 40: 874-80. 3) Asakura H: Classifying types of disseminated intravascular coagulation: clinical and animal models. J Intensive Care. 2014; 2: 20. 4) Taylor FB Jr, Toh CH, Hoots WK, et al: Towards definition, clinical and laboratory criteria, and a scoring system for disseminated intravascular coagulation. Thromb Haemost. 2001; 86: 1327-30. 5) Iba T, Umemura Y, Watanabe E, et al: Diagnosis of sepsisinduced disseminated intravascular coagulation and coagulopathy. Acute Med Surg. 2019; 6: 223-32. 6) Iba T, Levy JH, Warkentin TE, et al: Diagnosis and management of sepsis-induced coagulopathy and disseminated intravascular coagulation. J Thromb Haemost. 2019; 17: 1989-94. CQ15-1:敗血症性DIC の診断方法は? Answer:DIC の診断を行うために複数の診断基準が存在する。国内では急性期DIC 診断基準が広く用いられており,海外ではISTH overt-DIC 診断基準が標準として使用されている。診断基準間の優劣を判断することは困難であり,目的に応じて使い分ける(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 すべての生体侵襲はDIC を引き起こしうるが,特に敗血症に起因するDIC は,その頻度と重症度の高さから最重要臨床課題と考えられる。また,近年の研究から抗凝固療法の有効性が十分に発揮されるのは,敗血症の中でもDIC などの一部の患者群に限られることが報告され,DIC 診断は抗凝固療法の適応を判断し,患者の転帰に影響しうる重要な要素として改めて注目されている。一方,複数のDIC 診断基準が存在する現状において,臨床上,それらをどのように使い分け,どのようにDIC を診断するかに関しては統一した見解はない。したがって,国内外のエビデンスを集約し,各診断基準の意義を評価する必要があり,本ガイドラインの臨床疑問の1 つとして取り上げた。 (2)解説 敗血症では,活性化した自然免疫系と血小板,血管内皮の相互作用によって,早期から凝固線溶障害が引き起こされ,それが生理的な制御範囲を逸脱し,全身性に著しい凝固障害が引き起こされた状態がDIC である。敗血症性DIC は,その頻度と重症度の高さから敗血症診療における最重要な臨床的課題の1 つと考えられてきた。実際,本邦で行われた敗血症患者に関する2 つの大規模観察研究では,敗血症患者全体の死亡率と比較して敗血症性DIC 患者の死亡率は有意に高いことが報告された 1, 2)。このような背景から, DIC 診断は本邦の敗血症診療において特に重要視されてきた。 さらに近年,複数の研究から,敗血症の中でも抗凝固療法によって生存転帰の改善が期待できるのは, DIC を発症した症例に限られることが示された 3, 4)。また,本邦の大規模観察研究では,敗血症症例に対してDIC 診断を行うこと自体が患者転帰の改善に関連し,DIC 診断を繰り返し行うことで生存転帰の改善がより顕著になる可能性が報告された 5)。こうした一連の研究結果から,敗血症診療におけるDIC 診断は,早期にDIC 症例を見極め,適切な治療介入の可能性 -S 292-
を検討することにより,患者転帰の改善に寄与しうるプロセスであることが示唆される。 一方,複数のDIC 診断基準をどのように使い分けるかに関しては,未だ統一した見解は示されていない。DIC 診断基準は,1979 年に発表された本邦の旧厚生省DIC 診断基準に始まり,国際血栓止血学会(ISTH)のovert-DIC 診断基準,日本救急医学会より発表された急性期DIC 診断基準,産科的DIC 診断基準,日本血栓止血学会DIC 診断基準など,様々な基準が公表されてきた。 この中で,現在,敗血症性DIC の診断を目的として最も広く用いられている基準は,急性期DIC 診断基準とISTH overt-DIC 診断基準である 6, 7)。急性期DIC 診断基準は,炎症に伴う凝固線溶異常を鋭敏に感知するために,診断項目に全身性炎症反応症候群(SIRS)スコアや血小板の経日的な減少率を含めており,本邦の敗血症性DIC 診断では最も普及していると考えられる。一方,国際的な標準的診断基準であるISTH overt-DIC 診断基準は,急性期DIC 診断基準と比較してより厳密な診断基準であり,過剰診断を回避できる一方で早期診断には適していない。 DIC 診断は正診のgold standard となる指標が存在しないため,いずれの基準が優れているか判断することは困難である。利益と害の観点で両者の明確な優劣を示すためには,敗血症症例を対象として,いずれかのDIC 診断基準を使用して診療を行った群間で,患者転帰の差が示される必要があるが,こうしたエビデンスは現時点では示されていない。 両基準の診断特性の差は,その目的に起因している。これらの基準を適切に使用するためには,本邦と諸外国の間で敗血症性DIC 治療に対する考え方の相違があることを理解する必要がある。すなわち,本邦の臨床家の多くは敗血症性DIC を治療対象と考え,早期治療介入の指標を必要としているのに対し,諸外国では敗血症性DIC を特異的な治療の対象としていないため,病態の正確な評価を目的とした厳密な診断基準が適切と考えられている。したがって,現時点では診断基準間の優劣を判断するのではなく,それらの特性を十分に理解したうえで目的に応じて使い分けることが重要である。例えば,多くの症例の中から真に敗血症性DIC である可能性の高い症例のみをリストアップしたい場合は,ISTH overt-DIC 診断基準を用いることで過剰診断を避けることができ,逆に過剰診断を許容してでも敗血症性DIC 診断症例を見落としなく抽出したい場合には,急性期DIC 診断基準の使用が適切である。以上のDIC 診断に関する見解は,本ガイドライン 作成委員会のDIC 診療に関するワーキンググループによって考察され,その詳細は総説として公表されている 8)。 文 献 1) Gando S, Saitoh D, Ogura H, et al: A multicenter, prospective validation study of the Japanese Association for Acute Medicine disseminated intravascular coagulation scoring system in patients with severe sepsis. Crit Care. 2013; 17: R111. 2) Gando S, Shiraishi A, Yamakawa K, et al: Role of disseminated intravascular coagulation in severe sepsis. Thromb Res. 2019; 178: 182-8. 3) Umemura Y, Yamakawa K, Ogura H, et al: Efficacy and safety of anticoagulant therapy in three specific populations with sepsis: a meta-analysis of randomized controlled trials. J Thromb Haemost. 2016; 14: 518-30. 4) Yamakawa K, Umemura Y, Hayakawa M, et al: Benefit profile of anticoagulant therapy in sepsis: a nationwide multicentre registry in Japan. Crit Care. 2016; 20: 229. 5) Umemura Y, Yamakawa K, Hayakawa M, et al: Screening itself for disseminated intravascular coagulation may reduce mortality in sepsis: A nationwide multicenter registry in Japan. Thromb Res. 2018; 161: 60-6. 6) Taylor FB Jr, Toh CH, Hoots WK, et al: Towards definition, clinical and laboratory criteria, and a scoring system for disseminated intravascular coagulation. Thromb Haemost. 2001; 86: 1327-30. 7) Gando S, Iba T, Eguchi Y, et al: A multicenter, prospective validation of disseminated intravascular coagulation diagnostic criteria for critically ill patients: comparing current criteria. Crit Care Med. 2006; 34: 625-31. 8) Iba T, Umemura Y, Watanabe E, et al: Diagnosis of sepsisinduced disseminated intravascular coagulation and coagulopathy. Acute Med Surg. 2019; 6: 223-32. -S 293-
CQ15-2:敗血症性DIC が疑われる症例での鑑別 疾患は? Answer:DIC 類似病態として,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)や溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS),ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia: HIT)などが存在し,鑑別を要するこれらの疾患においてはDIC とは異なる対応が必要になる(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症を含む重症生体侵襲の多くがDIC を引き起こしうる一方で,慢性肝障害に伴う凝固因子の低下や,薬剤誘発性の血小板減少症,血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy: TMA)など,類似の血液検査異常を来しながらもDIC とは一線を画す病態が存在する。この中には,敗血症性DIC とは異なる,特異的な治療アルゴリズムが必要な病態も含まれている。こうした背景から,敗血症性DIC と診断した場合でも類似病態を鑑別する必要があるため,本ガイドラインのCQ として取り上げた。 (2)解説 DIC の本態は,基礎疾患の存在下における全身的な凝固活性化状態である。日本救急医学会による本邦における調査では,DIC 発生率は敗血症の50% を超えるという報告もあり 1),発症頻度は極めて高い。DICから鑑別するべき疾患の中で,迅速に特異的な対応を行うことによって,救命あるいは重篤な後遺症発症の防止につながりうるものとして,TMA が挙げられる。TMA は,微小血管障害性溶血性貧血(microangiopathic hemolytic anemia: MAHA),消費性血小板減少,微小血管内血小板血栓による臓器機能障害を3 主徴とする病態であり,志賀毒素を産生する病原性大腸菌(Shiga toxin-producing Escherichia coli: STEC)によるHUS, von Willebrand 因子(vWF)の切断酵素であるADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motif, member 13)の活性が先天的に(Upshaw-Schulman 症候群),あるいは自己抗体により後天的に低下するTTP,補体の異常な活性化による非典型溶血性尿毒症症候群(atypical HUS: aHUS),その他の原因(自己免疫性疾患,移植関連,感染症,薬剤など)による二次性TMA に分類される 2)。TMA の発生頻度は,DIC と比べて約1 / 150 との報告もある 3)。しかし,DIC と診断されても,実際にはTMA であったり,TMA が並存している可能性 は否定できない。 TMA に関しては,最近様々な診断フローが提唱されている 4-6)が,多くはDIC との鑑別が大きな分岐点となる。これらの急性期鑑別診断においては,第1 段階で,凝固障害 6)あるいは溶血 4, 5)の有無のうち,どちらを先にスクリーニングするかという方針上の違いが注目される。これはまずDIC を治療対象として想定するかTMA を想定するかにより,第1 段階のスクリーニングが異なることを反映しているといえる。治療を要するような敗血症性DIC に対する診断は,迅速に行う必要があるが,当初は敗血症性DIC と診断したものの,その治療に反応性が乏しい場合,あるいは臨床徴候が非典型的な場合には,その背景に潜むTMA を念頭に置き,迅速な鑑別に基づき血漿治療,あるいは分子標的治療などの特異的治療へ速やかに切り替える必要がある 7)。また,TMA 以外の重要な類似疾患の1 つであるHIT は,4Ts スコアリング 8)によるスクリーニングや抗体検査などによる診断精度向上も相まって,早期にDIC と鑑別できるようになってきた。一方, HELLP(hemolysis,elevated liver enzymes and low platelets)症候群 9)は,妊娠高血圧症候群の重症型であり,分娩により速やかに改善するため,臨床診断によって比較的容易に鑑別できる。しかしながら,先天性TTP やaHUS が,妊娠中のvWF の増加により顕在化する場合があり,その場合はHELLP 症候群との鑑別が困難となる場合があるので注意を要する 10)。 以上は,最近の鑑別診断フローにはいずれも取り上げられている主要なDIC 類似病態である。それらを勘案して,本ガイドライン作成委員会のDIC 診療に関するワーキンググループから公表した総説でも, DIC 早期鑑別診断のための鑑別診断フローの1 案を提唱した 7)。 文 献 1) Gando S, Shiraishi A, Yamakawa K, et al: Role of disseminated intravascular coagulation in severe sepsis. Thromb Res. 2019; 178: 182-8. 2) Kato H, Nangaku M, Hataya H, et al: Clinical guides for atypical hemolytic uremic syndrome in Japan. Pediatr Int. 2016; 58: 549-55. 3) Wada H, Matsumoto T, Suzuki K, et al: Differences and similarities between disseminated intravascular coagulation and thrombotic microangiopathy. Thromb J. 2018; 16: 14. 4) Azoulay E, Knoebl P, Garnacho-Montero J, et al: Expert statements on the standard of care in critically ill adult patients with atypical hemolytic uremic syndrome. Chest. 2017; 152: 424-34. 5) Vincent JL, Castro P, Hunt BJ, et al: Thrombocytopenia in the ICU: disseminated intravascular coagulation and thrombotic microangiopathies-what intensivists need to know. Crit Care. 2018; 22: 158. -S 294-
6) Iba T, Levy JH, Wada H, et al: Differential diagnoses for sepsisinduced disseminated intravascular coagulation: communication from the SSC of the ISTH. J Thromb Haemost. 2019; 17: 415-9. 7) Iba T, Watanabe E, Umemura Y, et al: Sepsis-associated disseminated intravascular coagulation and its differential diagnoses. J Intensive Care. 2019; 7: 32. 8) Warkentin TE: Clinical picture of heparin-induced thrombocytopenia (HIT) and its differentiation from non-HIT thrombocytopenia. Thromb Haemost. 2016; 116: 813-22. 9) Weinstein L: Syndrome of hemolysis, elevated liver enzymes, and low platelet count: a severe consequence of hypertension in pregnancy. Am J Obstet Gynecol. 1982; 142: 159-67. 10) Hulstein JJJ, van Runnard Heimel PJ, Franx A, et al: Acute activation of the endothelium results in increased levels of active von Willebrand factor in hemolysis, elevated liver enzymes and low platelets (HELLP) syndrome. J Thromb Haemost. 2006; 4: 2569-75. CQ15-3:敗血症性DIC にアンチトロンビンの補 充を行うか? Answer:敗血症性DIC 患者に対して,アンチトロンビンの補充療法を行うことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 すべての生体侵襲はDIC を引き起こしうるが,特に敗血症に起因するDIC は,その頻度と重症度の高さから最重要臨床課題と考えられる。アンチトロンビンは,主にトロンビンと活性化第X 因子を阻害することで抗凝固作用を有するだけでなく,血管内皮細胞のプロスタサイクリン産生を介した抗炎症作用を有することから 1),敗血症性DIC の病態を制御できる可能性が期待され,本邦の臨床現場でも幅広く使われている。しかし,過去の研究では,アンチトロンビンが敗血症性DIC の予後に与える影響に関して相反する結果が公表されており,明確なエビデンスが確立されていない。このような背景から,敗血症性DIC に対してアンチトロンビン投与を行うかは,本邦の敗血症診療における重要な課題であり,本ガイドラインの臨床疑問の1 つとして取り上げた。 (2)PICO P (患者):成人の敗血症性DIC 患者I (介入):アンチトロンビン製剤投与C (対照):プラセボ投与あるいはアンチトロンビン 非投与O (アウトカム):死亡,出血性合併症,DIC 離脱 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が5 件 2-6)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 15-3-1) 本CQ で推奨作成のために最終的に採用した重大なアウトカムは「死亡」と「出血性合併症」の2 件であった。望ましい効果: アンチトロンビン製剤投与によって予期される有益な効果は,死亡アウトカムの減少である。5 つのRCTから得られた死亡アウトカムの効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり134 人少ない(192 人少ない~58 人少ない)であり,アンチトロンビン製剤投与 -S 295-
による望ましい効果は大きいと判断した。望ましくない効果: 採用した重大アウトカムの中で,アンチトロンビン製剤投与によって予期される有害な効果は,出血性合併症アウトカムの増加である。3 つのRCT から得られた出血性合併症アウトカムの効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり9 人多い(24 人少ない~94 人多い)であり,アンチトロンビン製剤投与による望ましくない効果はわずかであると判断した。益と害のバランス: 死亡と出血性合併症の効果推定値は,1,000 人あたり死亡134 人減少に対して出血性合併症9 人増加であり,相対的価値を無視しても125 名の正味の利益が得られる。また望ましい効果(死亡の減少)の相対的価値は,望ましくない効果(出血の増加)に比べて一般的に高く,これを考慮しても利益が害を上回っている可能性が高い。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 本CQ で採用した2 つの重大なアウトカムの効果推定値の方向性は相反しているため,その中で一番低いアウトカムの確実性を全体としては採用した。したがって,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「低」である。 (6)価値観 敗血症患者に対するアンチトロンビン製剤投与において,採用された2 つの重大なアウトカム(死亡と出血性合併症)の,患者・家族から見た価値観(相対的重要性)に関しては質の高いエビデンスはない。一般的に,出血アウトカムに対して死亡アウトカムの相対的重要性は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 アンチトロンビン製剤投与に伴う医療者の仕事量の増加はわずかである。アンチトロンビン製剤投与に伴うコストは約181,200 円(製剤1,500 単位の平均的な薬価約60,400 円を3 日間投与の場合)である。その薬価は高価ではあるが,利益と害のバランスを患者・家族の個人の視点から考えると,おそらく許容できるだろう。 (8)実行可能性 アンチトロンビン製剤の投与は本邦の多くの医療機関において実行可能であり,その実行可能性はおそらく高い。 (9)判断の要約(Table 15-3-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 では「弱い非推奨」である。本邦の「科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC 治療のエキスパートコンセンサス」 7)では推奨度B1 で投与を推奨されている。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG) 2016 では投与することを弱く推奨していた。 (12)実施に関わる検討事項 敗血症患者における出血性合併症の頻度とそれによ Table 15-3-1 エビデンスプロファイル -S 296-
るリスクは,病態や手術治療の有無によって大きく異なる。特に出血リスクの高いと判断される症例に対する使用方法は注意を要する。 (13)今後の研究の可能性 以下の内容に関する検討が求められるだろう。・ 本邦で認可された投与量(30 単位 / kg / 日×3 日間) による有効性の検証・ より有効性が期待できる患者群を明らかにするこ と・ 出血性合併症のベースラインリスクに応じた利益 と害のバランスの検証 文 献 1) Levi M, Schouten M, van der Poll T: Sepsis, coagulation, and antithrombin: old lessons and new insights. Semin Thromb Hemost. 2008; 34: 742-6. 2) Fourrier F, Chopin C, Huart JJ, et al: Double-blind, placebocontrolled trial of antithrombin III concentrates in septic shock with disseminated intravascular coagulation. Chest. 1993; 104: 882-8. 3) Inthorn D, Hoffmann JN, Hartl WH, et al: Antithrombin III supplementation in severe sepsis: beneficial effects on organ dysfunction. Shock. 1997; 8: 328-34. 4) Baudo F, Caimi TM, de Cataldo F, et al: Antithrombin III (AT III) replacement therapy in patients with sepsis and / or postsurgical complications: a controlled double-blind, randomized, multicenter study. Intensive Care Med. 1998; 24: 336-42. 5) Kienast J, Juers M, Wiedermann CJ, et al: Treatment effects of high-dose antithrombin without concomitant heparin in patients with severe sepsis with or without disseminated intravascular coagulation. J Thromb Haemost. 2006; 4: 90-7. 6) Gando S, Saitoh D, Ishikura H, et al: A randomized, controlled, multicenter trial of the effects of antithrombin on disseminated intravascular coagulation in patients with sepsis. Crit Care. 2013; 17: R297. 7) 日本血栓止血学会学術標準化委員会DIC 部会: 科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC 治療のエキスパートコンセンサス. 日血栓止血会誌. 2009; 20: 77-113. Table 15-3-2 判断の要約 -S 297-
CQ15-4:敗血症性DIC にヘパリン・ヘパリン類 の投与を行うか? Answer:敗血症性DIC 患者に対して,ヘパリン・ヘパリン類投与を標準治療として行わないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症性DIC 患者は,過度の凝固活性化が微小循環障害をもたらし,これが臓器不全を招くという理解から,敗血症性DIC 患者に対して抗凝固療法の投与が評価されてきた。近年のメタ解析では,敗血症全般では抗凝固療法の効果は期待できず,その有効性は敗血症性DIC に限られることが報告されている 1)。ヘパリンは本邦で最も古くから敗血症性DIC の治療目的に使用されてきた薬剤の1 つであるが,現在のところ臨床転帰の改善効果に関しては評価が定まっていない。 本邦における実臨床に即し,敗血症性DIC に対するヘパリン・ヘパリン類投与の評価を改めて行うことを目的に設定した本CQ は,重要度の高いものと考えられる。 (2)PICO P (患者):成人の敗血症性DIC 患者I (介入):ヘパリン・ヘパリン類投与C (対照):プラセボ投与あるいはヘパリン・ヘパリ ン類非投与O (アウトカム):全原因死亡,出血性合併症, DIC 離脱 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が2 件 2, 3)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 15-4-1) 本CQ で推奨作成のために最終的に採用した重大なアウトカムは「全原因死亡」と「出血性合併症」の2件であった。望ましい効果: ヘパリン・ヘパリン類投与によって予期される望ましい効果は,死亡アウトカムの減少である。2 つのRCT から得られた死亡アウトカムの効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり58 人少ない(99 人少ない~27 人多い)であり,信頼区間の上限と下限で大きく効果の方向性が異なる。したがって,ヘパリン・ヘパリン類投与による望ましい効果はわずかと判断した。望ましくない効果: ヘパリン・ヘパリン類投与によって予期される望ましくない効果は,出血性合併症アウトカムの増加である。1 つのRCT から得られた出血性合併症アウトカ Table 15-4-1 エビデンスプロファイル -S 298-
ムの効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり52人の出血性合併症減少(85 人少ない~27 人多い)であり,信頼区間の上限と下限で大きく効果の方向性が異なる。したがって,ヘパリン・ヘパリン類投与による望ましくない効果もまたわずかと判断した。益と害のバランス: 死亡と出血性合併症の効果推定値は,1,000 人あたり死亡58 人の減少に対して出血性合併症は52 人の減少で,相対的価値を無視しても110 名の正味の利益が得られる。しかし,いずれのアウトカムに関しても不確実性が非常に強く,信頼区間の上限と下限で大きく効果の方向性が異なる。したがって,望ましい効果と望ましくない効果のバランスに関して,介入と比較対照のいずれも優位とはいえない。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 本CQ で採用した2 つの重大なアウトカムの効果推定値の方向性は一致していたため,その中で一番高いアウトカムの確実性を全体としては採用した。したがって,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」である。 (6)価値観 敗血症患者に対するヘパリン・ヘパリン類投与において,採用された2 つの重大なアウトカム(死亡と出血性合併症)に関する患者・家族から見た価値観(相対的重要性)を評価した質の高いエビデンスはない。一般的に,出血アウトカムに対して死亡アウトカムの相対的重要性は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 ヘパリン・ヘパリン類投与に伴う医療者の仕事量の増加はわずかである。ヘパリン・ヘパリン類投与に伴うコストは約1,600 円(製剤10,000 単位の平均的な薬価約320 円を5 日間投与の場合)である。その個人負担額は安価であり,おそらく許容できるだろう。 (8)実行可能性 介入は多くの医療施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 15-4-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 では,敗血症性DIC に対するヘパリン・ヘパリン類の使用についての記載はない。一方,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では, DIC担当班から「敗血症性DIC に対するヘパリン投与については,効果や有害性を裏づけるエビデンスに乏しく,現時点での評価は不能である(unknown)」という意見文が提案され,委員19 名中の16 名の同意により可決された。ガイドライン作成委員会で行動につながる意見文の変更が促され,「敗血症性DIC に対して, Table 15-4-2 判断の要約 -S 299-
ヘパリン・ヘパリン類を標準治療としては投与しないことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス)」が選択された。 (12)実施に関わる検討事項 標準的治療としてヘパリン・ヘパリン類投与を行うことは好ましくないが,症例に応じた適応判断を否定するものではない。 (13)今後の研究の可能性 敗血症性DIC 患者に対するヘパリン・ヘパリン類投与の有用性を評価したRCT が2 つのみであることが明らかとなった。敗血症性DIC 患者に対するヘパリン・ヘパリン類投与の有効性や有害事象を検証するさらなるRCT の実施が望まれる。また,アンチトロンビンやリコンビナント・トロンボモジュリンとの併用による有効性,有害事象の検証も望まれる。 文 献 1) Umemura Y, Yamakawa K, Ogura H, et al: Efficacy and safety of anticoagulant therapy in three specific populations with sepsis: a meta-analysis of randomized controlled trials. J Thromb Haemost. 2016; 14: 518-30. 2) Liu XL, Wang XZ, Liu XX, et al: Low-dose heparin as treatment for early disseminated intravascular coagulation during sepsis: A prospective clinical study. Exp Ther Med. 2014; 7: 604-8. 3) Yang C, Chen X, Zheng D, et al: Impacts of early anticoagulant therapy on tissue perfusion in patients with sepsis. Int J Clin Exp Med. 2016; 9: 20074-9. CQ15-5:敗血症性DIC にリコンビナント・トロ ンボモジュリン投与を行うか? Answer:敗血症性DIC 患者に対して,リコンビナント・トロンボモジュリン製剤を投与することを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 すべての生体侵襲はDIC を引き起こしうるが,特に敗血症に起因するDIC は,その頻度と重症度の高さから最重要臨床課題と考えられる。リコンビナント・トロンボモジュリンは,主にトロンビンに結合して,プロテインC の活性化を促進することで抗凝固作用を有するだけでなく,そのレクチン様ドメインを介した抗炎症作用を有すること 1)から,敗血症性DIC の病態を制御できる可能性が期待され,2008 年の上市以降,本邦の臨床現場でも幅広く使われている。 しかし,これまでの研究ではリコンビナント・トロンボモジュリンが敗血症性DIC の予後に与える影響に関して相反する結果が公表されており,明確なエビデンスが確立されていない。2019 年に最新の多国籍間第3 相試験(SCARLET 試験)が終了し結果が公表されたことを踏まえ 2),敗血症性DIC に対してリコンビナント・トロンボモジュリン製剤投与を行うかは本邦の敗血症診療における重要な課題であり,本ガイドラインの臨床疑問の1 つとして取り上げた。 (2)PICO P (患者):成人の敗血症性DIC 患者I (介入):リコンビナント・トロンボモジュリン製 剤投与C (対照):プラセボ投与あるいはリコンビナント・ トロンボモジュリン非投与O (アウトカム):死亡,出血性合併症,DIC 離脱 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が3 件 2-4)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 15-5-1) 本CQ で推奨作成のために最終的に採用した重大なアウトカムは「死亡」と「出血性合併症」の2 件であった。 -S 300-
望ましい効果: リコンビナント・トロンボモジュリン製剤投与によって予期される有益な効果は,死亡アウトカムの減少である。採用試験の1 つ(SCARLET 試験:2019 年)では,薬剤投与時にDIC 基準を満たしたサブグループの結果を採用した。3 つのRCT から得られた死亡アウトカムの効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり41 人少ない(78 人少ない~3 人多い)であり,リコンビナント・トロンボモジュリン製剤投与による望ましい効果は小さいと判断した。望ましくない効果: 採用した重大アウトカムの中で,リコンビナント・トロンボモジュリン製剤投与によって予期される有害な効果は,出血性合併症アウトカムの増加である。3つのRCT から得られた出血性合併症アウトカムの効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり12 人多い(7 人少ない~42 人多い)であり,リコンビナント・トロンボモジュリン製剤投与による望ましくない効果はわずかであると判断した。益と害のバランス: 死亡と出血性合併症の効果推定値は,1,000 人あたり死亡41 人減少に対して出血性合併症12 人増加であり,相対的価値を無視しても29 名の正味の利益が得られる。また望ましい効果(死亡の減少)の相対的価値は,望ましくない効果(出血の増加)に比べて一般的に高く,これを考慮しても利益が害を上回っている可能性が高い。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 本CQ で採用した2 つの重大なアウトカムの効果推定値の方向性は相反しているため,その中で一番低いアウトカムの確実性を全体としては採用した。した がって,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「低」である。 (6)価値観 敗血症患者に対するリコンビナント・トロンボモジュリン製剤投与において,採用された2 つの重大なアウトカム(死亡と出血性合併症)に対する患者・家族から見た価値観(相対的重要性)に関して質の高いエビデンスはない。一般的に,出血アウトカムに対して死亡アウトカムの相対的重要性は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 リコンビナント・トロンボモジュリン製剤投与に伴う医療者の仕事量の増加はわずかである。リコンビナント・トロンボモジュリン製剤投与に伴うコストは約236,400 円(製剤12,800 単位の薬価約39,400 円を6 日間投与の場合)である。その薬価は高価ではあるが費用対効果に関しては現時点で質の高い研究は報告されていない。しかし,死亡を回避するという患者・家族が最も重視する利益と,費用,害のバランスを考えると,おそらく許容できるだろう。 (8)実行可能性 リコンビナント・トロンボモジュリン製剤の投与は,本邦の多くの医療機関において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 15-5-2) Table 15-5-1 エビデンスプロファイル -S 301-
(10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:75%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 本邦の「科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス」 5)では推奨度B1で投与を推奨されている。またSSCG 2016,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 においては, 2016 年の時点でSCARLET 試験が進行中であったことから,共に推奨を保留していた。 (12)実施に関わる検討事項 敗血症患者における出血性合併症の頻度とそれによるリスクは病態や手術など侵襲的治療の有無によって大きく異なる。特に出血リスクの高いと判断される症例に対する使用方法は注意を要する。 (13)今後の研究の可能性 以下の内容に関する検討が求められるだろう。・ 出血性合併症のベースラインリスクに応じた利益 と害のバランスの検証・ より有効性が期待される患者群を明らかにするこ と・ リコンビナント・トロンボモジュリンの費用対効 果の検証文 献 1) Van de Wouwer M, Collen D, Conway EM: Thrombomodulinprotein C-EPCR system: integrated to regulate coagulation and inflammation. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2004; 24: 1374-83. 2) Vincent JL, Francois B, Zabolotskikh I, et al: Effect of a Recombinant Human Soluble Thrombomodulin on Mortality in Patients With Sepsis-Associated Coagulopathy: The SCARLET Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019; 321: 1993-2002. 3) Vincent JL, Ramesh MK, Ernest D, et al: A randomized, doubleblind, placebo-controlled, Phase 2b study to evaluate the safety and efficacy of recombinant human soluble thrombomodulin, ART-123, in patients with sepsis and suspected disseminated intravascular coagulation. Crit Care Med. 2013; 41: 2069-79. 4) Hagiwara A, Tanaka N, Uemura T, et al: Can recombinant human thrombomodulin increase survival among patients with severe septic-induced disseminated intravascular coagulation: a singlecentre, open-label, randomised controlled trial. BMJ Open. 2016; 6: e012850. 5) 日本血栓止血学会学術標準化委員会DIC 部会: 科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC 治療のエキスパートコンセンサス. 日血栓止血会誌. 2009; 20: 77-113. Table 15-5-2 判断の要約 -S 302-
CQ15-6:敗血症性DIC にタンパク分解酵素阻害 薬の投与を行うか? Answer:敗血症性DIC 患者に対して,タンパク分解酵素阻害薬投与を標準治療としては行わないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 すべての生体侵襲はDIC を引き起こしうるが,特に敗血症に起因するDIC は,その頻度と重症度の高さから最重要臨床課題と考えられる。タンパク分解酵素阻害薬は,DIC における過剰な凝固活性のみならず線溶活性化を抑制するため,他の抗凝固薬と比較して出血性合併症のリスクが少ないとされる。本邦の臨床現場では,敗血症を含む様々な基礎疾患に起因するDIC に対して長きにわたって使用されており,現在でも抗凝固療法の選択肢の重要な一角を担っているが,現在のところ臨床転帰の改善効果に関しては評価が定まっていない。このような背景から,敗血症性DICに対してタンパク分解酵素阻害薬の投与を行うかは本邦の敗血症診療において重要であり,本ガイドラインの臨床疑問の1 つとして取り上げた。 (2)PICO P (患者):成人の敗血症性DIC 患者I (介入):タンパク分解酵素阻害薬投与C (対照):プラセボ投与あるいはタンパク分解酵素 阻害薬非投与O (アウトカム):死亡,出血性合併症,DIC 離脱 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が2 件 1, 2)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 15-6-1) 本CQ で推奨作成のために最終的に採用した重大なアウトカムは「死亡」と「出血性合併症」の2 件であった。望ましい効果: タンパク分解酵素阻害薬投与によって予期される有益な効果は,死亡アウトカムの減少である。2 つのRCT から得られた死亡アウトカムの効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり39 人少ない(181 人少ない~217 人多い)であり,信頼区間の上限と下限で大きく効果の方向性が異なる。したがって,タンパク分解酵素阻害薬による望ましい効果はわずかであると判断した。望ましくない効果: 採用した重大アウトカムの中で,タンパク分解酵素阻害薬投与によって予期される有害な効果は,出血性合併症アウトカムの増加である。1 つのRCT から得られた出血性合併症アウトカムの効果推定値とその信頼区間は,1,000 人あたり161 人少ない(223 人少ない~120 人多い)であり,信頼区間の上限と下限で大きく効果の方向性が異なる。したがって,タンパク分解酵素阻害薬投与による望ましくない効果もまたわずかであると判断した。益と害のバランス: 死亡と出血性合併症の効果推定値は,1,000 人あたり死亡39 人の減少に対して出血性合併症は161 人の減少で,相対的価値を無視しても200 名の正味の利益が得られる。しかし,いずれのアウトカムに関しても研究数や症例数が少ないため不確実性が非常に強く,信頼区間の上限と下限で大きく効果の方向性が異なる。したがって,望ましい効果と望ましくない効果のバランスに関して,介入と比較対照のいずれも優位と Table 15-6-1 エビデンスプロファイル -S 303-
はいえない。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 本CQ で採用した2 つの重大なアウトカムの効果推定値の方向性は一致していたため,その中で一番高いアウトカムの確実性を全体としては採用した。したがって,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」である。 (6)価値観 敗血症患者に対するタンパク分解酵素阻害薬投与において,採用された2 つの重大なアウトカム(死亡と出血性合併症)の,患者・家族から見た価値観(相対的重要性)に関しては質の高いエビデンスはない。一般的に,出血アウトカムに対して死亡アウトカムの相対的重要性は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 タンパク分解酵素阻害薬投与に伴う医療者の仕事量の増加はわずかである。タンパク分解酵素阻害薬投与に伴うコストは約16,500 円(各製剤の保険使用量における平均的な薬価約3,300 円を5 日間投与の場合)である。その薬価を考慮すると,おそらく許容できるだろう。 (8)実行可能性 タンパク分解酵素阻害薬の投与は,本邦の多くの医療機関において実行可能である。(9)判断の要約(Table 15-6-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 本邦の「科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス」 3)では推奨度B2で投与を推奨されている。SSCG 2016 では敗血症に対する推奨に関して記載はない。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG )2016 においては,標準治療としては投与しないことを弱く推奨していた。 (12)実施に関わる検討事項 敗血症患者における出血性合併症の頻度とそれによるリスクは,病態や手術治療の有無によって大きく異なる。特に出血リスクの高いと判断される症例に対する使用方法は注意を要する。 (13)今後の研究の可能性 以下の内容に関する検討が求められるだろう。・死亡アウトカムに関する効果のさらなる検証・出血アウトカムに関する効果のさらなる検証 文 献 1) Nishiyama T, Matsukawa T, Hanaoka K: Is protease inhibitor a choice for the treatment of pre- or mild disseminated intravascular coagulation? Crit Care Med. 2000; 28: 1419-22. Table 15-6-2 判断の要約 -S 304-
2) Hsu JT, Chen HM, Chiu DF, et al: Efficacy of gabexate mesilate on disseminated intravascular coagulation as a complication of infection developing after abdominal surgery. J Formos Med Assoc. 2004; 103: 678-84. 3) 日本血栓止血学会学術標準化委員会DIC 部会: 科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC 治療のエキスパートコンセンサス. 日血栓止血会誌. 2009; 20: 77-113. -S 305-
CQ16:静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)対策 静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)は深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)と肺血栓塞栓症(pulmonary embolism: PE)の両方を含み,入院中の生命に関わる合併症として注意が必要な病態である。2017 年,本邦では医療事故調査・支援センター,日本医療安全調査機構が「医療事故の再発防止に向けた提言」としてVTE のリスク評価と予防,診断,治療,院内体制の整備に関する提言を発表しており,VTE の予防は医療安全の観点からも不可欠な対策となっている 1)。 本邦におけるVTE の発症率は,1996 年の調査では人口100 万人あたり28 人だったが,2011 年の調査では人口100 万人あたり126 人と15 年間で4.6 倍に増加している 2, 3)。VTE の発症率が増加している原因として,生活習慣の欧米化や高齢者の増加といった要因の他に,本疾患に対する認識やVTE 診断法の向上が影響していると考えられている。 入院中のPE については,日本麻酔科学会で行われた周術期のアンケート調査(JSA-PTE study)があり,この中で,手術1 万件あたりのPE 発症率は2002 年の4.4 人から2011 年には3.0 人と減少したと報告されている 4)。PE 発症率が減少した要因として,2004 年に出された「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン」やそれに伴うVTE 予防管理料の診療報酬加算認定が影響しており,これ以降,周術期患者に対するVTE のリスク評価や予防対策が行われ,PE の発症が減少したと考えられている 5)。 本邦におけるVTE の報告としては,成人患者1,087人[女性58.8%,平均年齢65.3 歳,平均BMI(body mass index)23.3]を対象とした観察研究がある 6)。この中で,DVT 単独の発症は68.6%,PE 単独は17%,DVT とPE の両者の合併は14.4% だったと報告されている。VTE 発症のリスクとしては,担癌状態 が27.0% と最も多く,次いで3 か月以内の外科手術17.8%,心疾患6.7%,VTE の既往6.1% となり,重症感染症は2.8% と低かった。 これらの結果をもとに,本邦では「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017 年改訂版)」が出されており,VTE の発症リスクに応じた予防法が示されている 7)。このガイドラインにおいて,重症感染症はVTE 発症の付加的な危険因子として,高齢,長期臥床,心・肺疾患,担癌状態と並ぶ中等度リスクに挙げられている。 重症感染症や敗血症患者を対象としたVTE の研究は少なく,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG) 2016 で採用したKaplan らによる報告以来,まとまった報告はない 8-10)。彼らの報告によると,敗血症や敗血症性ショックで集中治療室に入院している患者113人の前向き調査において,全例にVTE 予防を行っていたにもかかわらず,VTE の発生率は37.2%,PE も3.5% と極めて高率であった。特に中心静脈カテーテルの留置(OR 4.37)と人工呼吸器管理(OR 2.35)を必要とした患者では発症率が高かった。また,米国で300 万人以上の担癌患者を対象とした調査研究では,合併症が増えるに従いVTE の発症率は増加するが,最も影響の大きい合併症は敗血症を含む感染症(敗血症14%,侵襲性カンジダ症16%,肺炎11%,静脈留置針感染14%)であったと報告されている 11)。 このように感染症では炎症による凝固亢進状態においてVTE の発症リスクが増加するため,抗凝固療法や理学療法によるVTE 予防を行うことが共通のコンセンサスとなっているが,より重篤な凝固障害や播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: DIC)を伴う敗血症におけるVTE の発症率についてはまだ研究が少なく,効果的な予防法についても議論が続いている。VTE の予防は医療安全の観点からも不可欠ではあるが,敗血症の患者においては凝固障害の程度を鑑みた慎重な対応が必要であるため,本 静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)対策〔診療フロー〕 -S 306-
項では敗血症患者を対象としたVTE 対策のCQ を立案した。 文 献 1) 医療事故調査・支援センター, 日本医療安全調査機構: 急性肺血栓塞栓症に係る死亡事例の分析. 日本医療安全調査機構, 東京, 2017. 2) Kumasaka N, Sakuma M, Shirato K: Incidence of pulmonary thromboembolism in Japan. Jpn Circ J. 1999; 63: 439-41. 3) Nakamura M, Yamada N, Ito M: Current management of venous thromboembolism in Japan: Current epidemiology and advances in anticoagulant therapy. J Cardiol. 2015; 66: 451-9. 4) Kuroiwa M, Morimatsu H, Tsuzaki K, et al: Changes in the incidence, case fatality rate, and characteristics of symptomatic perioperative pulmonary thromboembolism in Japan: Results of the 2002–2011 Japanese Society of Anesthesiologists Perioperative Pulmonary Thromboembolism (JSA-PTE) Study. J Anesth. 2015; 29: 433-41. 5) 日本循環器学会, 日本心臓病学会, 日本胸部外科学会, 他: 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断・治療・予防に関するガイドライン. Circ J. 2004; 68 (Suppl IV): 1079-134. 6) Nakamura M, Miyata T, Ozeki Y, et al: Current Venous Thromboembolism Management and Outcomes in Japan. Circ J. 2014; 78: 708-17. 7) 日本循環器学会, 日本医学放射線学会, 日本胸部外科学会,他: 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断, 治療, 予防に関するガイドライン(2017 年改訂版). Available online at: https: / /j-circ.or.jp / old / guideline / pdf / JCS2017_ito_h.pdf. Accessed November 3, 2020. 8) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 9) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 10) Kaplan D, Casper TC, Elliott CG, et al: VTE incidence and risk factors in patients with severe sepsis and septic shock. Chest. 2015; 148: 1224-30. 11) Lyman GH, Culakova E, Poniewierski MS, et al: Morbidity, mortality and costs associated with venous thromboembolism in hospitalized patients with cancer. Thromb Res. 2018; 164 Suppl 1: S112-8. CQ16-1:敗血症における深部静脈血栓症の予防 として機械的予防法(弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法)を行うか? Answer:敗血症患者において,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)の予防として機械的予防法(弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法)を行うことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)は集中治療室患者において肺血栓塞栓症(pulmonary embolism: PE)のように致死的な合併症となることがある。また,敗血症患者におけるVTE のリスクは,その他の集中治療室患者より高いという報告があり, VTE に関連した死亡も急性感染症で高いとも報告されている 1)。米国集中治療医学会のSSCG 2016 では「VENOUS THROMBOEMBOLISM PROPHYLAXIS」の項目で抗凝固療法,機械的予防法が推奨されており 2),日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG) 2016 でも,リスクレベルに応じて抗凝固療法,機械的予防法を行うことを“エキスパートコンセンサス/エビデンスなし”として弱く推奨していた 3, 4)。しかし,これらのガイドラインは,術後患者や集中治療室に入院した多種多様な重症患者を対象とした文献から導かれており,敗血症患者を対象とした各予防法の有効性,有害性についてエビデンスに基づいた見解は得られていない。 以上より,VTE 予防に機械的予防法(弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法)を行うかどうか,敗血症患者に限定して解析することが,本ガイドラインにおいて重要であると考える。 (2)PICO P (患者):敗血症および敗血症性ショック患者I (介入):機械的予防法(弾性ストッキング,間欠 的空気圧迫法)を行うC (対照):非介入O (アウトカム):DVT の発症,PE の発症 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するランダム化比較試験(RCT)は存在しなかった。対象患者を集中治療室の重症患者としたシステマティックレビューや,外傷患者を対象としたRCT に -S 307-
おいては,機械的予防法の低分子ヘパリン(LMWH)に対する非劣性を示した報告がある 5, 6)。一方で,出血リスクのある重症患者を対象としたRCT や,重症患者を対象とした抗凝固療法との併用療法でのRCTにおいては,間欠的空気圧迫法の有効性を認めなかったという報告もある 7, 8)。 (4)益と害のバランス望ましい効果: 敗血症患者ではVTE の発症リスクが高いことが報告されており,PE のような致死的合併症を,機械的予防により防ぐことができる可能性がある。したがって,望ましい効果は「中」であると判断した。望ましくない効果: 機械的圧迫による皮膚損傷や,糖尿病,閉塞性動脈硬化症を持つ患者では血流障害が発生しうることを考慮して,望ましくない効果は「小さい」と判断した。益と害のバランス: 機械的圧迫法によるVTE 予防の益が害を上回ると考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するRCT は存在しなかった。 (6)価値観 VTE を予防することについて,患者・家族共に重要視すると考えられるが,期待される効果以上に合併症を恐れる患者・家族もいる可能性がある。(7)容認性 間欠的空気圧迫法や弾性ストッキング着用にかかる医療従事者の仕事量は,若干増加する。コストについては,弾性ストッキングは医療用として安価に入手可能だが,間欠的空気圧迫のための機器を対象患者すべてに導入することは高額となり,病院によっては困難であることが予想される。以上から容認性は「おそらく,はい」であると判断した。 (8)実行可能性 弾性ストッキングは医療用としてどこでも安価に入手可能であり,利用もできる。間欠的空気圧迫のための機器は多くの病院が所有しており,いずれも使用は簡便であるため実行可能性は高いと考えられるが,病院によってはすべての対象患者に導入することは困難である可能性がある。 (9)判断の要約(Table 16-1-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7.5,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 の「VENOUS THROMBOEMBOLISM PROPHYLAXIS」の項目では,可能であれば下腿の機械的予防法を抗凝固療法に併用することを“weak recommendation, low quality of evidence”として推奨し Table 16-1-1 判断の要約 -S 308-
ている。また,抗凝固療法が禁忌の場合には機械的予防法を施行することを“weak recommendation, low quality of evidence”として推奨している 2)。 本邦においては「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)」 9)および「肺血栓塞栓症/ 深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン」 10)の中で, DVT を発症するリスク分類とそれに応じた予防法が述べられている。いずれも敗血症患者を対象としたエビデンスはなく,解釈には注意が必要である。 (12)実施に関わる検討事項 実施に際して,機械的圧迫による皮膚損傷や,糖尿病,閉塞性動脈硬化症を持つ患者では血流障害に注意する必要がある。 (13)今後の研究の可能性 敗血症患者に対する機械的予防法によるVTE 予防のRCT は存在しない。今後,機械的予防法によるVTE 予防効果,生命予後に関するRCT の早期実施が望まれる。 文 献 1) Kaplan D, Casper C, Elliott G, et al: VTE incidence and risk factors in patients with severe sepsis and septic shock. Chest. 2015; 148: 1224-30. 2) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Crit Care Med. 2017; 45: 486-552. 3) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 4) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 5) Limpus A, Chaboyer W, McDonald E, et al: Mechanical thromboprophylaxis in critically ill patients: A systematic review and meta-analysis. Am J Crit Care. 2006; 15: 402-10. 6) Ginzburg E, Cohn SM, Lopez J, et al: Randomized clinical trial of intermittent pneumatic compression and low molecular weight heparin in trauma. Br J Surg. 2003; 90: 1338-44. 7) Vignon P, Dequin PF, Renault A, et al: Intermittent pneumatic compression to prevent venous thromboembolism in patients with high risk of bleeding hospitalized in intensive care units: The CIREA1 randomized trial. Intensive Care Med. 2013; 39: 872-80. 8) Arabi YM, Al-Hameed F, KEA Burns, et al: Adjunctive intermittent pneumatic compression for venous thromboprophylaxis. N Engl J Med. 2019; 380: 1305-15. 9) 日本循環器学会, 日本医学放射線学会, 日本胸部外科学会,他: 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断, 治療, 予防に関するガイドライン(2017 年改訂版). 2018. 10) 肺血栓塞栓症/ 深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン作成委員会: 肺血栓塞栓症/ 深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン. メディカルフロントインターナショナルリミテッド, 東京, 2004. CQ16-2:敗血症における深部静脈血栓症の予防 として抗凝固療法(未分画ヘパリン,低分子ヘパリン,ワルファリン,NOAC/DOAC)を行うか? Answer:敗血症患者において,深部静脈血栓症の予防として抗凝固療法を行うことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 CQ16-1 の背景と同様に,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)予防に抗凝固療法を行うかどうか,敗血症患者に限定して解析することが,本ガイドラインにおいて重要であると考える。 (2)PICO P (患者):敗血症および敗血症性ショック患者I (介入):抗凝固療法[未分画ヘパリン(UFH), 低分子ヘパリン(LMWH),ワルファリン,nobel oral anticoagulants(NOAC) /direct oral anticoagulants(DOAC)]を行うC (対照):非介入O (アウトカム):DVT の発症,pulmonary embolism (PE)の発症 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するランダム化比較試験(RCT)は存在しなかった。対象患者を集中治療室の重症患者としたRCT やメタ解析では,LMWH,UFH,またはfondaparinux によるVTE 予防で,VTE の発生率が約40~60% 減少したことが報告されている 1, 2)。しかし,対象疾患や病態によってVTE の発生率が約22~80% と大きく異なっており 3),結果を敗血症まで一般化するかどうかは慎重な解釈が必要である。 (4)益と害のバランス望ましい効果: 敗血症患者ではVTE の発症リスクが高く,PE のような致死的合併症を,抗凝固療法により防ぐことができる可能性があり,望ましい効果は「中」であると判断した。望ましくない効果: 抗凝固療法による出血リスクやヘパリンの使用においては,heparin-induced thrombocytopenia(HIT)発症のリスクがある。しかし,多くの報告例では有意な出 -S 309-
血増加はなく,あっても重篤なものはわずかである。したがって,望ましくない効果は「小さい」と判断した。益と害のバランス: PICO に合致するRCT が存在しないため不明であるが,抗凝固療法によるVTE 予防の益は害を上回ると判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するRCT は存在しなかった。 (6)価値観 VTE を予防することについて,患者・家族共に重要視すると考えられ,不確実性やばらつきはないと考えるが,一部,期待される効果以上に合併症を恐れる患者・家族がいる可能性もある。 (7)容認性 抗凝固療法に用いる薬剤は,一般臨床で用いる抗凝固薬で,多くの病院で採用されており,コストも比較的安価であるため,容認性は妥当なものと考える。しかし,一部には合併症への懸念から抗凝固薬の使用に否定的な意見を持つ医療従事者や患者・家族がいる可能性がある。 (8)実行可能性 抗凝固療法に用いる薬剤は,一般臨床で用いる抗凝固薬で,多くの病院で採用され,投与方法や投与量もよく認知されており,実行可能性は高いと考える。 (9)判断の要約(Table 16-2-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 の「VENOUS THROMBOEMBOLISM PROPHYLAXIS」の項目では,禁忌事項がなければLMWH またはUFH の予防投与を“strong recommendation, moderate quality of evidence”として強く推奨している。なかでもLMWH を“strong recommendation, moderate quality of evidence”としてUFH よりも強く推奨している 4)。 本邦においては「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)」 5)および「肺血栓塞栓症/ 深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン」 6)の中で, DVT を発症するリスク分類とそれに応じた予防法が述べられている。いずれも敗血症患者を対象としたエビデンスはなく,解釈には注意が必要である。 (12)実施に関わる検討事項 抗凝固療法による出血や,ヘパリンの使用においてはHIT 発症のリスクがあり,実施に際して注意を要する。 Table 16-2-1 判断の要約 -S 310-
(13)今後の研究の可能性 敗血症患者に対する抗凝固療法によるVTE 予防のRCT がないことが明らかとなり,今後,抗凝固療法によるVTE 予防効果,生命予後に関するRCT の早期実施が望まれる。 文 献 1) Nisio MD, Porreca E: Prevention of venous thromboembolism in hospitalized acutely ill medical patients: Focus on the clinical utility of (low-dose) fondaparinux. Drug Des Devel Ther. 2013; 7: 973-80. 2) Alhazzani W, Lim W, Jaeschke RZ, et al: Heparin thromboprophylaxis in medical-surgical critically ill patients: A systematic review and meta-analysis of randomized trials. Crit Care Med. 2013; 41: 2088-98. 3) Attia J, Ray JG, Cook DJ, et al: Deep vein thrombosis and its prevention in critically ill adults. Arch Intern Med. 2001; 161: 1268-79. 4) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Crit Care Med. 2017; 45: 486-552. 5) 日本循環器学会, 日本医学放射線学会, 日本胸部外科学会,他: 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断, 治療, 予防に関するガイドライン(2017 年改訂版). 2018. 6) 肺血栓塞栓症/ 深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン作成委員会: 肺血栓塞栓症/ 深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン. メディカルフロントインターナショナルリミテッド, 東京, 2004. CQ16-3:敗血症患者のVTE 予防はいつまで行 うか? Answer:敗血症患者において,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)の予防(機械的予防法または抗凝固療法)は,歩行が可能になるまで,あるいは退院するまで行うことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 米国集中治療医学会のSSCG 2016 1),日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 2, 3)でも,機械的圧迫や抗凝固薬によるVTE の予防が推奨されているが,敗血症患者に対する各予防法の実施期間についてエビデンスに基づいた見解は得られていない。VTE予防として用いられる機械的予防法は圧迫部の血行障害を起こすリスクがあり,抗凝固療法は出血性合併症を起こすリスクがある。このことから,漫然とVTE予防を行うべきではないが,敗血症患者に対するVTE 予防の至適期間は定まっておらず,臨床現場でも中止時期の判断は施設や担当医によって様々である。 以上より,敗血症患者に対してVTE 予防をいつまで行うかという本CQ の重要度は高いと考える。 (2)PICO P (患者):敗血症および敗血症性ショック患者I (介入):機械的予防法(弾性ストッキング,間欠 的空気圧迫法)または抗凝固療法を離床まで,または入院期間中のみ行うC (対照):機械的予防法(弾性ストッキング,間欠 的空気圧迫法)または抗凝固療法を離床後または退院後も行うO (アウトカム):deep vein thrombosis(DVT)の発 症,pulmonary embolism(PE)の発症 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するランダム化比較試験(RCT)は存在しなかった。 (4)益と害のバランス望ましい効果: 離床が困難な時期には機械的予防法や抗凝固療法によりVTE を予防し,離床が可能になった段階で中止することで,機械的予防法による圧迫部の血行障害や -S 311-
抗凝固療法による出血性合併症のリスクを最小限に留めることができると考えられる。したがって,望ましい効果は「中」であると判断した。望ましくない効果: 離床後や退院後にVTE を発症し,肺塞栓症のような致死的合併症を発症する可能性があるため,望ましくない効果は「小さい」と判断した。益と害のバランス: PICO に合致するRCT が存在しないため不明であるが,VTE の予防効果と合併症を発症するリスクのバランスから,機械的予防法および抗凝固療法を離床まで,または入院期間中のみ行うことは,離床後または退院後も行う場合と比較して,益が害を上回ると判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 システマティックレビューを行ったが,PICO に合致するRCT は存在しなかった。 (6)価値観 VTE を予防することは,患者・家族共に重要視すると考えられ,離床後や退院後にも弾性ストッキングによる機械的予防法や抗凝固療法によるVTE 予防の継続を望む場合もあると考えられ,価値観はばらつく可能性がある。 (7)容認性 機械的予防法や抗凝固療法にかかる医療従事者の仕事量とそれらにかかるコストを考慮すると,機械的予防法および抗凝固療法を離床まで,または入院期間中 のみ行うことの容認性は妥当なものである。 (8)実行可能性 機械的予防法および抗凝固療法を離床まで,または入院期間中のみ行うことは実行可能である。 (9)判断の要約(Table 16-3-1) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 米国集中治療医学会のSSCG 2016 1),およびJ-SSCG 2016 2, 3)では,VTE 予防をいつまで行うかについての記載はない。「肺血栓塞栓症/ 深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン 4)」や「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017 年改訂版) 5)」は敗血症患者を対象にしたものではないが,いずれのガイドラインでも,弾性ストッキングは手術予定患者の術前,術中,術後を通してリスクが続く限り終日着用する,間欠的空気圧迫法は十分な歩行が可能となるまで装着する,低用量未分画ヘパリンは少なくとも十分な歩行が可能となるまで継続する,と記載されている。 また,米国胸部医学会のガイドライン 6)では,急性期の内科疾患で入院し,VTE 予防が実施された患 Table 16-3-1 判断の要約 -S 312-
者に対して,安静臥床や急性期入院の時期を過ぎた後まで予防期間を延長しないことが提案されている(GRADE 2B)。 (12)実施に関わる検討事項 一部の患者(自力歩行が不可能,人工呼吸患者のリハビリテーション目的の転院など)では,VTE 予防の延長が必要な可能性がある。 (13)今後の研究の可能性 敗血症患者に対するVTE 予防期間のRCT がないため,今後,VTE 予防期間の違いによるVTE 発症率やPE など致死的合併症の発症率に関するRCT の実施が望まれる。 文 献 1) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Crit Care Med. 2017; 45: 486-552. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 3) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 4) 肺血栓塞栓症/ 深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン作成委員会: 肺血栓塞栓症/ 深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン. メディカルフロントインターナショナルリミテッド, 東京, 2004. 5) 日本循環器学会, 日本医学放射線学会, 日本胸部外科学会,他: 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断, 治療, 予防に関するガイドライン(2017 年改訂版). 2018. 6) Kahn SR, Lim W, Dunn AS, et al: Prevention of VTE in nonsurgical patients. Antithrombotic therapy and prevention of thrombosis, 9th ed: American College of Chest Physicians evidencebased clinical practice guidelines. Chest. 2012; 141: e195S-e226S. -S 313-
CQ17:Post-intensive care syndrome(PICS) とICU-acquired weakness(ICU-AW) 集中治療室退室後の亜急性期・慢性期の身体的・心理的な諸問題が注目されるなか,2010 年にSociety of Critical Care Medicine がpost-intensive care syndrome (PICS)およびICU-acquired weakness(ICU-AW)という概念を提唱した 1, 2)。PICS とは,集中治療室在室中あるいは退室後,さらには退院後に生じる身体機能,認知機能,精神の障害である。PICS の要因としては大きく以下の4 つに分類可能である。1患者の疾患および重症度,2医療・ケア介入,3集中治療室環境要因(アラーム音,光),4患者の精神的要因(種々のストレス,自分の疾患や経済面,家族の不安)。これらの要因が複雑に絡み合い,PICS 発症にかかわっているとされる。2000 年にNelson らは,急性肺障害の患者において鎮静薬や筋弛緩薬の使用がうつ病やPTSD(post-traumatic stress disorder)の発症と関係していることを報告しており 3),薬剤,輸血,輸液,人工呼吸器,血液浄化療法などの治療因子もPICS の発症に寄与する可能性がある。また,治療以外に喀痰の吸引や体位変換などのケア因子でも,同様にPICS の発症との関連があるといわれている。精神因子としては,せん妄,不眠,不穏,精神的ストレス,環境因子として,モニター音やアラーム音,集中治療室の閉鎖的な環境などがある。さらに,早期リハビリテーションやactive mobilization がPICS 予防策として期待されている 4, 5)。PICS は敗血症とも関連しうる病態で,重症敗血症生存患者は非重症敗血症患者と比較して1年間の福祉利用が増加することも報告されている 6)。 ICU-AW は,PICS の身体機能障害の1 つであり,集中治療室入室後に発症する急性の左右対称性の四肢筋力低下を呈する症候群であり,近年注目されている 7)。この概念は,critical illness polyneuropathy(CIP)やcritical illness myopathy(CIM)を原因とするびまん性筋力低下症候群の総体である。敗血症,多臓器不全,長期人工呼吸などの重症患者のうち,実に46% にICU-AW が発症していると報告されている 8)。ICU-AWのうちCIP とCIM 両者の合併したカテゴリーが最も多く,次にCIM 単独,最も少ないのはCIP 単独であった 9)。ICU-AW による四肢麻痺を呈しても,CIM は数週から月の単位で回復するが,CIP はときに年の単位で身体機能に後遺症を残すとされる 10)。従来,重症患者に発症する筋力低下の原因はポリニューロパチーと考えられていたが,実は多臓器不全を呈する敗血症はミオパチーとも密接に関連している 11, 12)。Stevens ら 8)のシステマティックレビューにおいても,敗血症,多臓器不全はICU-AW 発症のリスク因子であった。しかし,これまでの敗血症と筋力低下に関する研究の多くは,呼吸筋,とりわけ横隔膜に関する検討であり,四肢の筋力に関する検討は少ない 11)。2014 年にAmerican Thoracic Society からICU-AW の診断に関するガイドラインが発表された 13)。このガイドラインでは,絞り込まれた31 編の文献のシステマティックレビューが行われており,ICU-AW の診断には,身体所見(84%:26 / 31),筋電図(electromyography: EMG) (90%:28 / 31),神経伝導検査(nerve conduction study: NCS)(84%:26 / 31)が採用されていた。身体所見で PICS・ICU-AW〔診療フロー〕 -S 314-
は,ベッドサイドでの徒手筋力テスト(manual muscle test: MMT)が用いられ,さらに複数箇所をまとめて数値化したMRC(medical research council)合計スコア 14)も頻用されていた。MMT とMRC 合計スコアは, EMG やNCS との相関が確認されており,MRC 合計スコア60 点満点中,48 点以下が重度の筋力低下と定義されることが多かった。これらの身体所見による診断は,覚醒状態が重要であり,鎮静中止によって適切な意識状態を維持していなければ正確な判定を行うことはできない。特にせん妄や敗血症性脳症の状態では不適切となるため,注意が必要と考えられる。ICU-AWの関連因子として,敗血症,不動化,高血糖,ステロイド薬の使用,筋弛緩薬の使用などが挙げられる 15)。特に前記ガイドラインによると,重症敗血症患者を対象とした研究(合計262 人)で重度の筋力低下を合併した患者の割合は,他の患者群を対象とした研究(合計504 人)よりも有意に高かった(64% vs. 30%,P < 0.001) 13)。また,人工呼吸器装着期間が長期に及ぶほうが,ICU-AW を発症する割合が高いことも指摘されている。敗血症患者は循環動態が不安定なため,初期にはベッド外での早期リハビリテーションの実施が困難な場合が多く,ベッド上でのリハビリテーション介入として他動関節運動療法や神経筋電気刺激療法が選択されることがある 5)。 PICS とICU-AW のどちらもが集中治療患者の長期予後のみならず,患者・家族の精神にも影響を及ぼすものとして広く認識され始めている。近年,このPICS やICU-AW などの亜急性期から慢性期の病態が,集中治療室における敗血症患者にも密接に関与しているという報告がなされるようになり,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 より独立した章として取り上げられた。J-SSCG 2020 でも,PICS とICU-AW の予防は臨床的重要事項と考え,早期リハビリテーション,他動関節運動療法,神経筋電気刺激療法の3 つを介入としてCQ を提示した。PICS やICU-AW の理解とそれに対する介入は,集中治療を受ける患者の救命の先にある社会復帰を目標とすべきものであり,集中治療に関わらない医療従事者との連携も必要である。そのどちらも,集中治療領域の新たな課題として注目されており,その発症予防と治療に関する最新知見を共有することが重要である。 文 献 1) Needham DM, Davidson J, Cohen H, et al: Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit: Report from a stakeholders’ conference. Crit Care Med. 2012; 40: 502-9. 2) Elliott D, Davidson JE, Harvey MA, et al: Exploring the scope of post-intensive care syndrome therapy and care: engagement of non-critical care providers and survivors in a second stakeholders meeting. Crit Care Med. 2014; 42: 2518-26. 3) Nelson BJ, Weinert CR, Bury CL, et al: Intensive care unit drug use and subsequent quality of life in acute lung injury patients. Crit Care Med. 2000; 28: 3626-30. 4) Fuke R, Hifumi T, Kondo Y, et al: Early rehabilitation to prevent postintensive care syndrome in patients with critical illness: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open. 2018; 8: e019998. 5) Tipping CJ, Harrold M, Holland A, et al: The effects of active mobilisation and rehabilitation in ICU on mortality and function: a systematic review. Intensive Care Med. 2017; 43: 171-83. 6) Prescott HC, Langa KM, Liu V, et al: Increased 1-year healthcare use in survivors of severe sepsis. Am J Respir Crit Care Med. 2014; 190: 62-9. 7) Kress JP, Hall JB: ICU-acquired weakness and recovery from critical illness. N Engl J Med. 2014; 370: 1626-35. 8) Stevens RD, Dowdy DW, Michaels RK, et al: Neuromuscular dysfunction acquired in critical illness: a systematic review. Intensive Care Med. 2007; 33: 1876-91. 9) Koch S, Spuler S, Deja M, et al: Critical illness myopathy is frequent: accompanying neuropathy protracts ICU discharge. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2011; 82: 287-93. 10) Koch S, Wollersheim T, Bierbrauer J, et al: Long-term recovery In critical illness myopathy is complete, contrary to polyneuropathy. Muscle Nerve. 2014; 50: 431-6. 11) Callahan C, Fox K, Fox A: The small acid soluble proteins (SASP alpha and SASP beta) of Bacillus weihenstephanensis and Bacillus mycoides group 2 are the most distinct among the Bacillus cereus group. Mol Cell Probes. 2009; 23: 291-7. 12) Deconinck N, Van Parijs V, Beckers-Bleukx G, et al: Critical illness myopathy unrelated to corticosteroids or neuromuscular blocking agents. Neuromuscul Disord. 1998; 8: 186-92. 13) Fan E, Cheek F, Chlan L, et al: An official American Thoracic Society Clinical Practice guideline: the diagnosis of intensive care unit-acquired weakness in adults. Am J Respir Crit Care Med. 2014; 190: 1437-46. 14) Kleyweg RP, van der Meché FG, Meulstee J: Treatment of Guillain-Barre syndrome with high-dose gammaglobulin. Neurology. 1988; 38: 1639-41. 15) Schefold JC: Measurement of monocytic HLA-DR (mHLA-DR) expression in patients with severe sepsis and septic shock: assessment of immune organ failure. Intensive Care Med. 2010; 36: 1810-2. -S 315-
CQ17-1:PICS の予防に早期リハビリテーショ ンを行うか? Answer:敗血症患者において,PICS の予防に早期リハビリテーションを行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 集中治療患者における早期リハビリテーションは,患者の筋肉量増加,運動機能改善,早期離床の促進, ADL 改善などが数多く報告されており,PICS を予防しうると考えられる。しかしながら,敗血症患者に対する早期リハビリテーションの有効性・有害性の評価は定まっておらず,臨床現場でも早期リハビリテーションの定義・種類・開始時期・実施期間などについては多様性がある。本CQ では,早期リハビリテーションを下記1~4と定義し,PICS への予防効果について検証する。 1 理学療法かつ/ または作業療法(認知療法などは 除く)。2ベッド外でのリハビリテーションを含む。3対照群よりも早期に開始されている。4 集中治療室入室から1 週間以内に開始されてい る。 (2)PICO P (患者):成人集中治療患者I (介入):早期リハビリテーションを実施するC (対照):早期リハビリテーションを実施しないO (アウトカム):院内死亡,病院滞在日数,6 か月時 点のthe Medical Outcomes Study 36-Item Short Form Health Survey Physical Function scale(SF-36 PF),病院滞在時のMedical Research Council(MRC), 6 か月時点のHospital Anxiety and Depression scale(HADS),6 か月時点のMini-Mental State Examination(MMSE),あらゆる有害事象 (3)エビデンスの要約 文献検索の結果,1,403 論文を抽出し,重複を削除した1,085 論文のタイトルと抄録を確認した。このうち,対象論文の可能性がある34 論文の全文原稿を確認し,対象論文として11 編のランダム化比較試験(RCT) 1-11)にメタ解析を実施した。(4)益と害のバランス(Table 17-1-1) 望ましい効果: 病院滞在日数(10 RCT: n =1,224)に対する効果推定値は2.86 日短い(5.51 日短い~0.21 日短い),6 か月時点のSF-36PF(3 RCT: n =241)に対する効果推定値は平均(MD)4.65 高い(16.13 低い~25.43 高い),病院滞在時のMRC(3 RCT: n =196)に対する効果推定値はMD 4.84 高い(0.36 高い~9.31 高い), 6 か月時点のHADS(1 RCT: n =37)に対する効果推定値は0.3 高い(4.92 低い~5.52 高い),6 か月時点のMMSE(1 RCT: n =165)に対する効果推定値はMD 0.6 多い(0.25 少ない~1.45 多い),院内死亡(7 RCT: n =924)に対する効果推定値とその信頼区間(CI)は1,000 人あたり15 人多い(24 人少ない~71 人多い)であった。死亡は増加傾向であるが,臨床的な差はないと考えられる,望ましい効果は「小さい」と判断した。望ましくない効果: 有害事象発生(5 RCT: n =706)に対する効果推定値は,1,000 人あたり14 人少ない(38 人少ない~55人多い)である。望ましくない効果はわずかであると判断した。益と害のバランス: 早期リハビリテーションは,病院滞在日数の短縮と,病院滞在時のMRC の増加を認めた。一方で,早期リハビリテーションは院内死亡を増加させる傾向を示した。以上により,介入優位であるが,院内死亡の重要度を考慮し,効果バランスはおそらく介入が優位と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 「非常に低」から「低」に分類されている。異なる方向性を示すアウトカムがあるため,重大なアウトカムに関するエビデンスの確実性の中で最も低いGRADE である「非常に低」を全体的なエビデンスの確実性とした。 (6)価値観 PICS 予防に対する早期リハビリテーションにおける各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に死亡や病院滞在日数に対して置く相対的価値は高い。さらに近年,本邦の医療政策として推進されている地域包括ケアシステム構築や健康寿命延伸の文脈において,身体機能・認知機能・精神状態などの機能回復やQOL 向上に対して置く相対的価値が高まっている。以上により,そのばらつきは -S 316-
少ないことが予想される。 (7)容認性 患者が負担する費用は,特定集中治療室管理料における早期離床・リハビリテーション加算で算定した場合は1 日あたり「500 点」,疾患別リハビリテーション料で算定した場合は1 単位(20 分)あたり「疾患別リハビリテーション料200 点前後+早期リハビリテーション加算30 点+初期加算45 点」である。どちらの場合も,患者の個人の視点からおそらく許容できると考える。また,本CQ における早期リハビリテーションにおいて新たに購入が必要な医療器具などは少なく,医療機関の経営者側の視点からもおそらく許容できると考える。一方で,早期リハビリテーションの実施によって医療者の仕事量が増えることが予測されるが,現行の診療報酬における人員配置などの施設基準上では許容可能と考える。 (8)実行可能性 医師または医師の指示のもとで看護師や理学療法士・作業療法士によって実行可能であるが,安全性や実践内容を担保するための基準やプロトコルなどを各施設で整備する必要がある。集中治療領域での経験がある医療従事者と,早期リハビリテーションの基準やプロトコルなどの整備が確保できれば,すべての集中治療室において実行可能と考える。 (9)判断の要約(Table 17-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.178 の結果となり,委員会で採択さ Table 17-1-1 エビデンスプロファイル -S 317-
れた(7 点以上:95.8%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 12, 13)では,敗血症,あるいは集中治療患者において,PICSの予防に早期リハビリテーションを行うことを弱く推奨(2C)している。 PADIS ガイドライン 14)では,成人重症患者に早期リハビリテーションを行うことが提案されている(条件付き推奨,低い質のエビデンス)。また,BQ として,深刻な有害事象は一般的には早期リハビリテーション中には発生しないこと,安全に早期リハビリテーションを開始するための主な指標には,心血管系・呼吸器系・神経系の状態の安定性などがあり,血管作動薬の持続投与や人工呼吸器の装着は,患者がそれらの使用によって安定している場合には,早期リハビリテーションの開始の妨げにはならないこと,早期リハビリテーションを中止するための主要な指標には,心血管系・呼吸器系または神経系などの不安定性の新規出現があることが解説されている。 (12)実施に関わる検討事項 敗血症患者への標準的治療として早期リハビリテーションを行うことが望まれるが,学会などで示されている開始基準や中止基準などに照らし,各施設の人員配置や構造,利用可能な機器などに適した基準やプロトコルを作成して行うことを考慮する必要がある。(13)今後の研究の可能性 敗血症患者を限定とした研究が望まれる。また,早期リハビリテーションの開始時期や継続期間による有用性,早期リハビリテーションの強度や時間,頻度による有用性,対象者の特徴(重症度,疾患,年齢,栄養状態,従前のADL など)に対する早期リハビリテーションの有用性について検証した研究が求められる。 文 献 1) Dong Z, Yu B, Zhang Q, et al: Early rehabilitation therapy is beneficial for patients with prolonged mechanical ventilation after coronary artery bypass surgery a prospective random study. Int Heart J. 2016; 57: 241-6. 2) Hodgson CL, Bailey M, Bellomo R, et al: A binational multicenter pilot feasibility randomized controlled trial of early goaldirected mobilization in the ICU. Crit Care Med. 2016; 44: 1145-52. 3) Kayambu G, Boots R, Paratz J: Early physical rehabilitation in intensive care patients with sepsis syndromes: a pilot randomised controlled trial. Intensive Care Med. 2015; 41: 865-74. 4) Maffei P, Wiramus S, Bensoussan L, et al: Intensive Early Rehabilitation in the Intensive Care Unit for Liver Transplant Recipients: A Randomized Controlled Trial. Arch Phys Med Rehabil. 2017; 98: 1518-25. 5) Moradian ST, Najafloo M, Mahmoudi H, et al: Early mobilization reduces the atelectasis and pleural effusion in patients undergoing coronary artery bypass graft surgery: A randomized clinical trial. J Vasc Nurs. 2017; 35: 141-5. 6) Morris PE, Berry MJ, Files DC, et al: Standardized rehabilitation and hospital length of stay among patients with acute respiratory failure a randomized clinical trial. JAMA. 2016; 315: 2694-702. 7) Moss M, Nordon-Craft A, Malone D, et al: A Randomized Trial of an Intensive Physical Therapy Program for Patients with Acute Respiratory Failure. Am J Respir Crit Care Med. 2016; 193: 1101-10. 8) Patman S, Sanderson D, Blackmore M: Physiotherapy following cardiac surgery: Is it necessary during the intubation period?. Table 17-1-2 判断の要約 -S 318-
Aust J Physiother. 2001; 47: 7-16. 9) Schaller SJ, Anstey M, Blobner M, et al: Early, goal-directed mobilisation in the surgical intensive care unit: a randomised controlled trial. Lancet. 2016; 388: 1377-88. 10) Tariq MI, Khan AA, Khalid Z, et al: Effect of early ≤3 Mets (Metabolic Equivalent of Tasks) of physical activity on patient’s outcome after cardiac surgery. J Coll Physicians Surg. Pak. 2017; 27: 490-4. 11) Schweickert WD, Pohlman MC, Pohlman AS, et al: Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated, critically ill patients: a randomised controlled trial. Lancet. 2009; 373: 1874-82. 12) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 13) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 14) Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al: Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation / Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018; 46: e825-73. CQ17-2:敗血症に対してICU-AW の予防に他動 関節運動療法を行うか? Answer:敗血症患者に対して,標準治療として他動関節運動療法を行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 ICU-AW 発症は患者の予後不良と関連があり 1-4), ICU-AW 発症予防のために早期よりリハビリテーション介入が開始される 5)。重症な敗血症患者では早期には積極的運動療法が困難な場合が多く,他動関節運動療法が主体となることが多い。そのため,敗血症患者における他動関節運動療法のICU-AW の発症予防に対する有効性を明らかにすることは,リハビリテーション介入計画を考えるうえで重要である。 (2)PICO P (患者):成人集中治療患者I (介入):他動関節運動療法(または通常のリハビ リテーション介入に加えた集中的な他動関節運動療法の実施) C (対照):他動関節運動療法の非実施(または通常 のリハビリテーション介入) O (アウトカム):筋力[握力,medical research council(MRC)],運動耐容能[6 min walk test(6 MWD)],日常生活動作[functional independence measure(FIM)],ICU 滞在日数または病院滞在日数,人工呼吸期間,あらゆる有害事象 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が6 件 6-11)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 17-2-1)望ましい効果: MRC スコアに関する効果推定値は,平均(MD) 0.96 少ない(95% CI: 4.13 少ない~2.21 多い)(3 RCT: 366 人)であり,6 MWD に関する効果推定値はMD 10.5m 長い(63.45m 短い~84.46m 長い)(2 RCT: 173人)である。FIM にする効果推定値は,MD 3 多い(5.42 少ない~11.42 多い)(1 RCT: 115 人)であり, ICU 滞在日数に関する効果推定値は,MD 0.36 日長い(1.79 日短い~2.51 日長い)(4 RCT: 277 人)である。病院滞在日数に関する効果推定値は,MD 0.74 日長い -S 319-
(3.68 日短い~5.15 日長い)(4 RCT: 277 人)であり,人工呼吸期間に関する効果推定値は,MD 0.14 日長い(1.03 日短い~1.31 日長い)(4 RCT: 531 人)である。望ましい効果は「小さい」と判断した。望ましくない効果: あらゆる有害事象の効果推定値は,リスク差(RD) 1,000 人あたり18 人少ない(42 人少ない~38 人多い) (3 RCT:n =416)である。望ましくない効果はわずかであると判断した。益と害のバランス: 望ましい効果は小さく,望ましくない効果はわずかであった。患者が置く相対的価値の設定によらず,おそらく介入が優位であると考える。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 異なる方向性を示すアウトカムがあるため,重大なアウトカムに関するエビデンスの確実性の中で最も低いGRADE である「非常に低」を,全体的なエビデンスの確実性とした。(6)価値観 敗血症患者に対する他動関節運動療法におけるアウトカムに関する,患者の価値観についてのデータはない。一般的に,ICU-AW の診断基準の1 つである筋力やICU 滞在日数に対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 他動関節運動療法は集中治療室での早期リハビリテーションの一部であり,通常の日常診療範囲のものである。患者が負担する費用は,早期離床・リハビリテーション加算算定施設においては1 日あたり500 点である。集中治療室で疾患別リハビリテーション料を算定している場合,施設基準Iの施設において20 分あたり175 点から245 点の疾患別リハビリテーション料と初期加算75 点の費用となる。どちらの場合も,患者の個人の視点からおそらく許容できるだろう。他動関節運動療法によって医療者の仕事量が増加することが予測されるが,その労働負担は多くないと考えられる。 Table 17-2-1 エビデンスプロファイル -S 320-
(8)実行可能性 多くの施設において,医師,看護師,リハビリテーション関連職種による徒手的な他動関節運動療法であれば実行可能である。 (9)判断の要約(Table 17-2-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7.5,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 なし。 (12)実施に関わる検討事項 本介入における医師,看護師,リハビリテーション関連職種の労働負担は多くないと考えられる。ただし,研究で示されているようなベッド上でのリハビリテーション器具の新たな購入費も考慮する必要がある。 (13)今後の研究の可能性 今後,敗血症や循環動態不安定のためベッド外での早期離床・リハビリテーションが困難な患者のICU-AW 発生に対して,他動関節運動療法の有効性に関する研究が望まれる。 文 献 1) Ali NA, O’Brien JM Jr, Hoffmann SP, et al: Acquired weakness, handgrip strength, and mortality in critically ill patients. Am J Respir Crit Care Med. 2008; 178: 261-8. 2) Sharshar T, Bastuji-Garin S, Stevens RD, et al: Presence and severity of intensive care unit-acquired paresis at time of awakening are associated with increased intensive care unit and hospital mortality. Crit Care Med. 2009; 37: 3047-53. 3) Hermans G, Van Mechelen H, Clerckx B, et al: Acute outcomes and 1-year mortality of intensive care unit-acquired weakness. A cohort study and propensity-matched analysis. Am J Respir Crit Care Med. 2014; 190: 410-20. 4) Dinglas VD, Aronson Friedman L, Colantuoni E, et al: Muscle weakness and 5-year survival in acute respiratory distress syndrome survivors. Crit Care Med. 2017; 45: 446-53. 5) Fuke R, Hifumi T, Kondo Y, et al: Early rehabilitation to prevent postintensive care syndrome in patients with critical illness: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open. 2018; 8: e019998. 6) Burtin C, Clerckx B, Robbeets C, et al: Early exercise in critically ill patients enhances short-term functional recovery. Crit Care Med. 2009; 37: 2499-505. 7) Karadas C, Ozdemir L: The effect of range of motion exercises on delirium prevention among patients aged 65 and over in intensive care units. Geriatr Nurs. 2016; 37: 180-5. 8) Machado ADS, Pires-Neto RC, Carvalho MTX, et al: Effects that passive cycling exercise have on muscle strength, duration of mechanical ventilation, and length of hospital stay in critically ill patients: a randomized clinical trial. J Bras Pneumol. 2017; 43: 134-9. 9) Fossat G, Baudin F, Courtes L, et al: Effect of In-Bed Leg Cycling and Electrical Stimulation of the Quadriceps on Global Muscle Strength in Critically Ill Adults: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018; 320: 368-78. 10) Eggmann S, Verra ML, Luder G, et al: Effects of early, combined endurance and resistance training in mechanically ventilated, critically ill patients: A randomised controlled trial. PLoS One. 2018; 13: e0207428. 11) Kho ME, Molloy AJ, Clarke FJ, et al: Multicentre pilot randomised clinical trial of early in-bed cycle ergometry with ventilated patients. BMJ Open Respir Res. 2019; 6: e000383. Table 17-2-2 判断の要約 -S 321-
CQ17-3:ICU-AW 予防に神経筋電気刺激を行う か? Answer:敗血症患者に対して,標準的治療としてICU-AW 予防に神経筋電気刺激を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 ICU-AW は,生命予後,身体機能低下や健康関連QOL 低下と関連している。敗血症や昇圧薬の使用はICU-AW 発症のリスク因子とされている 1)。神経筋電気刺激は重症患者の筋力低下予防の効果が期待されているが,敗血症患者や昇圧薬の使用患者,浮腫のある患者では有効な筋収縮が得られにくいという報告もあり 1),敗血症患者に対する神経筋電気刺激の有効性は明らかではない。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では,敗血症患者あるいは集中治療患者に対して,ICU-AW 予防として神経筋電気刺激を実施しないことが弱く推奨した 2, 3)。その後の知見を踏まえて本CQ では神経筋電気刺激のICU-AW の発症予防効果について検証する。(2)PICO P (患者):成人集中治療患者I (介入):神経筋電気刺激C (対照):神経筋電気刺激の非実施O (アウトカム):ICU 退室時のICU-AW,ICU 退室 時の筋力(MRC スコア),人工呼吸期間,院内死亡,ICU 滞在日数 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が10 件施行されており 4-13),これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 17-3-1)望ましい効果: ICU 退室時のICU-AW(1 RCT: n =28)に対する効果推定値は1,000 人あたり0 人の増減(183 人少ない~665 人多い),ICU 退室時の筋力(MRC スコア) (1 RCT: n =28)は,平均(MD)1.00 高い(4.19 低い~6.19 高い),人工呼吸期間(7 RCT: n =262)についてはMD 1.56 日短い(3.12 日短い~0.01 日長い),院内死亡(5 RCT: n =251)については1,000 人あた Table 17-3-1 エビデンスプロファイル -S 322-
り39 人少ない(174 人少ない~219 人多い,ICU 滞在日数(5 RCT: n =212)はMD 3.23 日長い(3.35 日短い~9.81 日長い)であった。望ましい効果はわずかであると判断した。望ましくない効果: アウトカムの1 つとしてあらゆる有害事象(疼痛,不快感,パッドのアレルギー)を設定したが,論文の結果に記載がないため,評価できなかった。望ましくない効果については不明である。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したすべてのアウトカムの効果推定値の方向性は一致しているため,一番高いアウトカムの確実性を全体としては採用した。アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」である。 (6)価値観 ICU-AW 予防に神経筋電気刺激における,各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,ICU-AW の診断基準の1 つである筋力に対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 神経筋電気刺激実施によって医療者の仕事量が増加することが予測されるが,その労働負担は多くないと考えられる。(8)実行可能性 介入には“神経筋電気刺激装置”といった機器を要するため,機器を有さない施設での施行は機器の購入などを要する。したがって,その実行可能性は「おそらく,いいえ」であると判断した。 (9)判断の要約(Table 17-3-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7.5,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:100%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 なし。 (12)実施に関わる検討事項 重症患者全例に対する標準的治療としては行わないことが望まれる。 (13)今後の研究の可能性 以下の内容に関するさらなる検討が求められるであろう。・ 敗血症に限定した研究・ 電気筋刺激導入による理学療法士の負担の軽減の検 討・ 電気筋刺激導入による早期リハビリテーション開始 の検討・ 電気筋刺激導入によるリハビリテーション施行患者 Table 17-3-2 判断の要約 -S 323-
数の検討 文 献 1) Van Aerde N, Meersseman P, Debaveye Y, et al: Five-year impact of ICU-acquired neuromuscular complications: a prospective, observational study. Intensive Care Med. 2020; 46: 1184-93. 2) Nishida O, Ogura H, Egi M, et al: The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2016 (J-SSCG 2016). Acute Med Surg. 2018; 5: 3-89. 3) Nishida O, Ogura H, Egi M, et al: The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2016 (J-SSCG 2016). J Intensive Care. 2018; 6: 7. 4) Akar O, Gunay E, Sarinc Ulasli S, et al: Efficacy of neuromuscular electrical stimulation in patients with COPD followed in intensive care unit. Clin Respir J. 2017; 11: 743-50. 5) Dos Santos FV, Cipriano G, Jr, Vieira L, et al: Neuromuscular electrical stimulation combined with exercise decreases duration of mechanical ventilation in ICU patients: A randomized controlled trial. Physiother Theory Pract. 2020; 36: 580-8. 6) Gerovasili V, Stefanidis K, Vitzilaios K, et al: Electrical muscle stimulation preserves the muscle mass of critically ill patients: a randomized study. Crit Care. 2009; 13: R161. 7) Gruther W, Kainberger F, Fialka-Moser V, et al: Effects of neuromuscular electrical stimulation on muscle layer thickness of knee extensor muscles in intensive care unit patients: a pilot study. J Rehabil Med. 2010; 42: 593-7. 8) Kho ME, Truong AD, Zanni JM, et al: Neuromuscular electrical stimulation in mechanically ventilated patients: a randomized, sham-controlled pilot trial with blinded outcome assessment. J Crit Care. 2015; 30: 32-9. 9) Koutsioumpa E, Makris D, Theochari A, et al: Effect of Transcutaneous Electrical Neuromuscular Stimulation on Myopathy in Intensive Care Patients. Am J Crit Care. 2018; 27: 495-503. 10) Ojima M, Takegawa R, Hirose T, et al: Hemodynamic effects of electrical muscle stimulation in the prophylaxis of deep vein thrombosis for intensive care unit patients: a randomized trial. J Intensive Care. 2017; 5: 9. 11) Routsi C, Gerovasili V, Vasileiadis I, et al: Electrical muscle stimulation prevents critical illness polyneuromyopathy: a randomized parallel intervention trial. Crit Care. 2010; 14: R74. 12) Abu-Khaber HA, Abouelela AMZ, Abdelkarim EM: Effect of electrical muscle stimulation on prevention of ICU acquired muscle weakness and facilitating weaning from mechanical ventilation. Alexandria J Med. 2013; 49: 309-15. 13) Shen SY, Lee CH, Lin RL, et al: Electric Muscle Stimulation for Weaning from Mechanical Ventilation in Elder Patients with Severe Sepsis and Acute Respiratory Failure - A Pilot Study. Int J Gerontol. 2017; 11: 41-5. -S 324-
CQ18:小児 背景 小児敗血症は現在も罹患者10~20% が死亡する重篤な病態であり,敗血症性ショックではさらに死亡率は高い 1, 2)。2005 年にGoldstein らによりsystemic inflammatory response syndrome (SIRS)とともに小児敗血症が国際的に初めて定義され 3),SSCG 4)やGlobal Sepsis Alliance (GSA) 5, 6)といった活動を通じて,臨床的な重要性の認識が広まった。SSCG は2008 年版 7)と2012 年版 8)において“Pediatric considerations”というセクションを設けて小児敗血症診療に関する推奨を掲載している。しかし,Goldstein らによる小児のSIRS基準や敗血症の診断基準 3)は多くの批判を受け,日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では小児敗血症に関して15 件のCQ が立案されたが,そのうち4 件を定義に関する疑問が占めた 9, 10)。 その後,2016 年に成人領域において,敗血症の定義は,SOFA スコア 11)による臓器障害の評価をベースとするSepsis-3 に移行した 12)。しかし,SOFA スコアは小児に適用する妥当性が証明されていないことや,成人とは致死率が異なることを理由に小児の定義変更は見送られ,SSCG 2016 でも小児敗血症には言及されなかった 13)。過去4 年間に複数の小児SOFA スコアが提唱されており 14-16),現在それらを統一しようとする国際的な動きが活発になっている。 CQ 設定と推奨作成 J-SSCG 2016 発刊後の使用実態調査では,小児に関する項目の遵守状況は5% 未満にとどまることが報告された 17)。そのため,今回の改訂においては小児ワーキンググループ(WG)として“使ってもらえるガイドライン”を目標に掲げ,小児敗血症診療の流れを精査し,臨床家が決断を迷いやすいと思われる場面を再検討することから作業を開始した。なお,本ガイドラインでは,近い将来,小児領域でもSepsis-3 12)に準じた定義変更が行われることを見越して,J-SSCG 2016 9, 10)で積極的に取り上げた定義に関する疑問はCQ 立案を見送った。 当初は14 件のCQ が立案されたが,このうち初期輸液蘇生に不応の敗血症の管理方針に関するCQ は委員会において成人・小児を問わない共通性が指摘され,GPS(Good Practice Statement)として推奨が決定された(CQ21-3 を参照)。その結果,小児WG では残りの13 件に関してさらなる検討が進められた。これらのうち,5 件についてはBQ として情報提供を行った(経験的抗菌薬,抗ヘルペスウイルス薬,血圧 の管理目標値,輸液に対する反応の評価方法,初期輸液の速度と量)。また,1 件についてはシステマティックレビューにより適切なランダム化比較試験(RCT)が得られず,エキスパートコンセンサスとして推奨を作成した(免疫グロブリン療法)。さらに,残りの7件についてはGRADE の方法論に則ってシステマティックレビュー結果を受ける形で推奨を作成した(診療アルゴリズムの適用,循環作動薬の第一選択,バソプレシン,ステロイド,赤血球輸血,急性血液浄化療法,厳密な血糖管理)。 また,2020 年5 月現在,小児敗血症の定義は厳密にはGoldstein らによるSIRS 基準を踏まえた診断基準のままである 3)が,成人領域のCQ との一貫性も考慮し,小児領域のCQ でも臓器機能障害を伴う感染症を“敗血症”,その中で循環不全を伴う敗血症を“敗血症性ショック”と表記した。ただし,システマティックレビューにあたっては,Goldstein らの定義した“重症敗血症(severe sepsis)”という用語 3)も含めて検討した。 システマティックレビューの結果,依然として小児に特化したエビデンスは非常に乏しいことが明らかになったものの,一部の疑問に対して新たにRCT が行われていることも判明した 18-22)。その一方で,新たな研究がまったく行われていない疑問も少なくなく,成人領域でのエビデンスの動向も加味しながら慎重に推奨を検討する必要があった。 注意点 まず重要なポイントとして,J-SSCG 2016 9, 10)と同じく,本ガイドラインにおける小児敗血症に関連したCQ は,その診療に関わるすべての問題を網羅的に取り上げることを目的とはせず,小児敗血症の診療現場において決断を迷いやすいと思われる項目に的を絞って立案されていることに留意されたい。 次に,小児集中治療室(PICU)で診療する対象は,主として乳児および小児患者であるが,なかには生後28 日未満の新生児も含まれる。新生児でも早産児・未熟児,あるいは出生直後の胎児期からの移行期における問題は新生児集中治療室(NICU)の担当領域であるため,本ガイドラインのスコープには含まず,新生児のみに関連したCQ は作成しなかった。ただし,データ解析あるいは解説文に(正期産・成熟)新生児が含まれたものが存在することはありうる。一方で, “小児”の年齢定義は,論文ごと,あるいは国や地域ごとに思春期層を含めるかどうかなどで異なることも -S 325-
あり,厳密に定義しなかった。より厳密には,年齢層による感染症や基礎疾患の差違が存在するため,年齢層別の検討が行われる余地はあるものの,前述の通り知見に乏しいうえ,非直接性を増すリスクに鑑み,行わなかった。さらに,成人領域との整合性についても言及する。 小児領域のみを対象とした良質な科学的根拠があればこれを優先し,一方で明確な根拠がない場合は,推奨度合いなども含め,成人領域との整合性を図った。これは,他の多くの診療ガイドラインでもみられる通 小児敗血症性ショック〔診療フロー〕 -S 326-
り,成人の根拠や推奨の整理を踏まえたうえで小児での知見を補足することが,科学的にも現実的にも妥当な手段であると考慮したためである。実臨床において,解剖学的にも生理学的にも,思春期層の病態は成人と同様に考えて診療して良いであろうが,幼児から乳児へと若年になるほどその年齢層特有の相違が大きくなることに留意する。 J-SSCG 2016 で掲載した小児敗血症の初期診療アルゴリズム 9, 10)に関しても,今回のガイドラインにおける推奨を反映させる形で,担当グループ専門家による提案として若干の改定を行った。このアルゴリズムのすべての内容が今回のCQ に取り挙げられているわけではなく,科学的根拠に乏しいものも含まれており,かつ本アルゴリズム自体の妥当性も確認されてはいないが,診療の参考になれば幸甚である。 最後に,敗血症や敗血症性ショックはあくまでも症候群である。臨床現場において当初は敗血症の可能性を含めて診療を開始する場合でも,原因が本当に感染症によるものか,そうでないのか(川崎病や血球貪食性リンパ組織球症などの,いわゆる“sepsis-mimicker, sepsis-mimicking diseases”)を見極めることがむずかしい状況も少なくない。そのような場合には,本ガイドラインの推奨だけにとらわれず,柔軟に方針を決定されるようお願いしたい。 展望 今回のシステマティックレビューの過程で新たに収集されたRCT も含めて 18-22),特に大規模な小児敗血症のRCT は少なからず途上国や新興国から出版されているという現状がある 23)。途上国では依然として市中における感染症や敗血症がヘルスケアの中心課題であることや,患者リクルートが容易であることなどがその要因と考えられるが,途上国で行われた研究結果を本邦の医療環境に外挿する際には,非直接性の点から慎重な吟味を要すると思われる。 また,転帰指標として短中期的な生命予後のみならず,小児患者だからこその長期的な生命予後や機能予後の検討は非常に重要であろう。現在,生存患者の集中治療後症候群(post-intensive care syndrome: PICS)が話題になっている 24-27)が,小児のPICS(PICS-p)の各領域の問題は相互に関連し合いながら最終的にすべて発達予後に影響を与えることが指摘されている 28-30)。小児生存患者の機能予後や発達予後の評価方法は至難を極めるが,今後の知見の集積を切望したい。文 献 1) Weiss SL, Fitzgerald JC, Pappachan J, et al: Global Epidemiology of Pediatric Severe Sepsis: The Sepsis Prevalence, Outcomes, and Therapies Study. Am J Respir Crit Care Med. 2015; 191: 1147-57. 2) Shime N, Kawasaki T, Saito O, et al: Incidence and risk factors for mortality in paediatric severe sepsis: results from the national paediatric intensive care registry in Japan. Intensive Care Med. 2012; 38: 1191-7. 3) Goldstein B, Giroir B, Randolph A, et al: International pediatric sepsis consensus conference: definitions for sepsis and organ dysfunction in pediatrics. Pediatr Crit Care Med. 2005; 6: 2-8. 4) Society of Critical Care Medicine: Surviving Sepsis Campaign (SSC). Available online at: https: / /www.sccm.org / SurvivingSepsi sCampaign / Home. Accessed May16, 2020. 5) Global Sepsis Alliance. Available online at: https: / /www.globalsepsis-alliance.org / . Accessed May16, 2020. 6) 日本集中治療医学会, 日本救急医学会: 敗血症. com. Available online at: http: / / 敗血症. com /. Accessed May16, 2020. 7) Dellinger RP, Levy MM, Carlet JM, et al: Surviving Sepsis Campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2008. Intensive Care Med. 2008; 34: 17-60. 8) Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al: Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Crit Care Med. 2013; 41: 580-637. 9) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 10) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 11) Vincent JL, Moreno R, Takala J, et al: The SOFA (Sepsis-related Organ Failure Assessment) score to describe organ dysfunction / failure. On behalf of the Working Group on Sepsis-Related Problems of the European Society of Intensive Care Medicine. Intensive Care Med. 1996; 22: 707-10. 12) Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al: The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016; 315: 801-10. 13) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Crit Care Med. 2017; 45: 486-552. 14) Matics TJ, Sanchez-Pinto LN: Adaptation and Validation of a Pediatric Sequential Organ Failure Assessment Score and Evaluation of the Sepsis-3 Definitions in Critically Ill Children. JAMA Pediatr. 2017; 171: e172352. 15) Shime N, Kawasaki T, Nakagawa S: Proposal of a New Pediatric Sequential Organ Failure Assessment Score for Possible Validation. Pediatr Crit Care Med. 2017; 18: 98-9. 16) Schlapbach LJ, Straney L, Bellomo R, et al: Prognostic accuracy of age-adapted SOFA, SIRS, PELOD-2, and qSOFA for in-hospital mortality among children with suspected infection admitted to the intensive care unit. Intensive Care Med. 2018; 44: 179-88. 17) 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 の使用に関する実態調査報告. 日集中医誌. 2018; 25: 271–7. 18) Ramaswamy KN, Singhi S, Jayashree M, et al: Double-Blind Randomized Clinical Trial Comparing Dopamine and Epinephrine in Pediatric Fluid-Refractory Hypotensive Septic Shock. Pediatr Crit Care Med. 2016; 17: e502-12. 19) Menon K, McNally D, O’Hearn K, et al: A Randomized Controlled Trial of Corticosteroids in Pediatric Septic Shock: A -S 327-
Pilot Feasibility Study. Pediatr Crit Care Med. 2017; 18: 505-12. 20) El-Nawawy A, Khater D, Omar H, et al: Evaluation of Early Corticosteroid Therapy in Management of Pediatric Septic Shock in Pediatric Intensive Care Patients: A Randomized Clinical Study. Pediatr Infect Dis J. 2017; 36: 155-9. 21) Akyildiz B, Ulgen Tekerek N, Pamukcu O, et al: Comprehensive Analysis of Liberal and Restrictive Transfusion Strategies in Pediatric Intensive Care Unit. J Trop Pediatr. 2018; 64: 118-25. 22) Agus MS, Wypij D, Hirshberg EL, et al: Tight glycemic control in critically Ill children. N Engl J Med. 2017; 376: 729-41. 23) Maitland K, Kiguli S, Opoka RO, et al: Mortality after Fluid Bolus in African Children with Severe Infection. N Engl J Med. 2011; 364: 2483-95. 24) Needham DM, Davidson J, Cohen H, et al: Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit: report from a stakeholders’conference. Crit Care Med. 2012; 40: 502-9. 25) Elliott D, Davidson JE, Harvey MA, et al: Exploring the Scope of Post-Intensive Care Syndrome Therapy and Care: Engagement of Non-Critical Care Providers and Survivors in a Second Stakeholders Meeting. Crit Care Med. 2014; 42: 2518-26. 26) Inoue S, Hatakeyama J, Kondo Y, et al: Post-intensive care syndrome: its pathophysiology, prevention, and future directions. Acute Med Surg. 2019; 6: 233-46. 27) 日本集中治療医学会: PICS 集中治療後症候群. Available online at: https: / /www.jsicm.org / provider / pics.html. Accessed May19, 2020. 28) Watson RS, Choong K, Colville G, et al: Life after Critical Illness in Children–Toward an Understanding of Pediatric Post-intensive Care Syndrome. J Pediatr. 2018; 198: 16-24. 29) Manning JC, Pinto NP, Rennick JE, et al: Conceptualizing Post Intensive Care Syndrome in Children–The PICS-p Framework. Pediatr Crit Care Med. 2018; 19: 298-300. 30) Fink EL, Watson RS: PICS-p: It Is About Time (and Family)! But How Did Adult Medicine Beat Pediatrics to a Holistic View of the Patient? Pediatr Crit Care Med. 2018; 19: 375-7. CQ18-1:小児敗血症の初期蘇生に診療アルゴリ ズムを用いるか? Answer:小児敗血症の初期蘇生に診療アルゴリズムを使用することを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 小児敗血症患者の致死率は高く,治療成績を向上させる介入方法の確立は急務である。小児敗血症性ショックの治療に際して,系統的なアプローチで評価と介入を行い,可能な限り早急にショックから回復させることが重要である。小児敗血症に対するAmerican College of Critical Care Medicine - Pediatric Advanced Life Support(ACCM-PALS)アルゴリズム 1-3)は世界的に普及している 4-6)が,その妥当性と信頼性の検証が必要であると考えられる。 (2)PICO P (患者):Goldstein 定義での敗血症性ショック, 重症敗血症,または感染症による臓器障害を来した小児患者(新生児領域を除く) I (介入):診療アルゴリズム(ACCM-PALS アルゴ リズム,early goal-directed therapy(EGDT)を含む)を利用した管理C (対照):診療アルゴリズムに依らない管理O (アウトカム):死亡,ショック離脱期間 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したものは,1 件の観察研究のみであった 7)。 (4)益と害のバランス(Table 18-1-1)望ましい効果: 本CQ に対するランダム化比較試験(RCT)は存在せず,1 件の観察研究を採用し 7),ROBINS-I に則って効果とバイアスの評価を行った。採用された1 件の観察研究では,ACCM-PALS アルゴリズム 1)が介入としてコホート比較で検討されていた。死亡アウトカム(1 観察研究: n =91)に対する効果推定値はリスク差(RD)1,000 人あたり303 人少ない(95% CI: 357人少ない~107 人少ない)であり,望ましい効果が期待された。なお,ショック離脱期間のアウトカムについてはそれを検討した文献が得られず,介入の効果は推定できなかった。 -S 328-
望ましくない効果: 望ましくない効果となる重大なアウトカムの評価は事前に計画されなかった。診療アルゴリズムを用いて初期蘇生を実施することにより輸液過剰を来すことが懸念されるが,その影響は死亡率の上昇に反映されると予測できるため,それ以外の望ましくない効果をもたらすアウトカムを重大なものとしては検討しなかった。益と害のバランス: 本CQ においては望ましくない効果をもたらすアウトカムが検討されていないが,望ましい効果は大きく,介入が優位と推定するのが妥当であろう。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 採用されたのは1 件の観察研究のみである 7)。診療アルゴリズム群が比較よりも軽症となりうるが,重症度などの交絡因子の調整は行われていなかった。唯一検討されたアウトカムに対するエビデンスの確実性は「低」であるが,1 件の観察研究のみに基づく非常に深刻なバイアスのリスクと,イベント数が小さいことに起因する深刻な不精確さを加味し,エビデンス総体としては「非常に低」と判断した。 (6)価値観 小児敗血症患者に対して,診療ガイドラインを利用した管理における各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 本介入に伴うコストは通常の敗血症診療に伴う介入と同等である。早期の昇圧薬使用などが実施されたとしても,そのコストは患者・家族の個人の視点からおそらく許容できる。一方,診療アルゴリズムを利用した介入は来院後短時間で多くのバンドル化された介入を実施する必要がある。小児敗血症性ショックの発生 頻度が成人より低いにしても,特に人手が乏しい施設での医療者にとっては労力の増加は免れ得ないが,介入を否定するほどではないと考える。 (8)実行可能性 診療アルゴリズムにバンドル化された個々の介入は短時間のうちに実施する必要があり,広く世界に普及しているアルゴリズムとはいえ,人手やスキルの問題などにより本介入を実行できない施設が存在する可能性がある。 (9)判断の要約(Table 18-1-2) 採用された研究は1 件の観察研究のみであり 7), ACCM-PALS アルゴリズム 1)に基づいた介入が検討されていた。介入に関して望ましい効果が期待できるにせよ,非常に深刻なバイアスも含むことからエビデンスの確実性は「非常に低」である。したがって,介入に対する強い推奨はできない。 なお,小児敗血症の診療アルゴリズムの主体となる介入は初期輸液蘇生である。初期輸液蘇生に限定した介入効果を検討した多施設非盲検RCT(FEAST trial) 8)では,急速輸液なし群と比較して急速輸液群で死亡率が高い結果となった。これは輸液過剰に対する警鐘ともいえるが,本邦と診療環境が異なることに留意する必要がある。また,成人のEGDT を検討した3 つの大規模RCT 9-11)では,いずれも生命予後は改善しなかったが,EGDT に依らない通常管理群でも割り付け開始前に比較的充分量の初期輸液蘇生がなされていたことを考慮する必要がある。それらを総合的に判断し,条件付きの推奨とした。 (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 Table 18-1-1 エビデンスプロファイル -S 329-
(11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では,「小児敗血症診療においては,ACCM-PALS 初期治療アルゴリズムを,患者の状態や現場の必要性に応じて用いうる(エキスパートコンセンサス / エビデンスなし)」と記載されている 12, 13)。 SSCG in children 2020 では,ACCM-PALS やEGDTなど特定の診療アルゴリズムを推奨していない。ただし,best practice statement として,敗血症の小児に対してバンドル的なプロトコルやガイドラインを用いて診療することを推奨している 14)。 (12)実施に関わる検討事項 小児敗血症の初期蘇生においては,末梢循環不全や臓器灌流の改善所見をこまめに評価すると同時に,湿性ラ音や新たな努力呼吸,肝腫大といった輸液過剰の所見の出現を見逃さないように注意する 13, 14)。 (13)今後の研究の可能性 既に広く世界に普及している診療アルゴリズムであり,本邦と同等の診療環境下でのRCT 実施は困難であることが予想される。しかしながら,輸液過剰に対して警鐘的な示唆が報告される 8, 15, 16)など,小児敗血症の初期蘇生アルゴリズムを構成する個々の介入要素については今後も慎重な検討が必要である。 文 献 1) Carcillo JA, Fields AI: American College of Critical Care Medicine Task Force Committee Members: Clinical practice parameters for hemodynamic support of pediatric and neonatal patients in septic shock. Crit Care Med. 2002; 30: 1365-78. 2) Brierley J, Carcillo JA, Choong K, et al: Clinical practice parameters for hemodynamic support of pediatric and neonatal septic shock: 2007 update from the American College of Critical Care Medicine. Crit Care Med. 2009; 37: 666-88. 3) Davis AL, Carcillo JA, Aneja RK, et al: American College of Critical Care Medicine Clinical Practice Parameters for Hemodynamic Support of Pediatric and Neonatal Septic Shock. Crit Care Med. 2017; 45: 1061-93. 4) Oliveira CF, Nogueira de SáFR, Oliveira DS, et al: Time- and Fluid-Sensitive Resuscitation for Hemodynamic Support of Children in Septic Shock. Barriers to the Implementation of the American College of Critical Care Medicine / Pediatric Advanced Life Support Guidelines in a Pediatric Intensive Care Unit in a developing world. Pediatr Emerg Care. 2008; 24: 810-5. 5) Carcillo JA, Kuch BA, Han YY, et al: Mortality and Functional Morbidity After Use of PALS / APLS by Community Physicians. Pediatrics. 2009; 124: 500-8. 6) Cruz AT, Perry AM, Williams EA, et al: Implementation of Goal-Directed Therapy for Children With Suspected Sepsis in the Emergency Department abstract. Pediatrics. 2011; 127: e758-66. 7) Han YY, Carcillo JA, Dragotta MA, et al: Early Reversal of Pediatric-Neonatal Septic Shock by Community Physicians Is Associated With Improved Outcome. Pediatrics. 2003; 112: 793-9. 8) Maitland K, Kiguli S, Opoka RO, et al: Mortality after Fluid Bolus in African Children with Severe Infection. N Engl J Med. 2011; 364: 2483-95. 9) Yealy DM, Kellum JA, Huang DT, et al: A randomized trial of protocol-based care for early septic shock. N Engl J Med. 2014; 370: 1683-93. 10) The ARISE Investigators and The ANZICS Clinical Trials Group, Peake SL, Delaney A, et al: Goal-Directed Resuscitation for Patients with Early Septic Shock. N Engl J Med. 2014; 371: 1496-506. 11) Mouncey PR, Osborn TM, Power GS, et al: Trial of early, goaldirected resuscitation for septic shock. N Engl J Med. 2015; 372: 1301-11. 12) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. Table 18-1-2 判断の要約 -S 330-
13) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 14) Weiss SL, Peters MJ, Alhazzani W, et al: Surviving sepsis campaign international guidelines for the management of septic shock and sepsis-associated organ dysfunction in children. Intensive Care Med. 2020; 46: 10-67. 15) Sankar J, Ismail J, Sankar MJ, et al: Fluid bolus over 15-20 versus 5-10 minutes each in the first hour of resuscitation in children with septic shock: A randomized controlled trial. Pediatr Crit Care Med. 2017; 18: e435-45. 16) Alobaidi R, Morgan C, Basu RK, et al: Association between fluid balance and outcomes in critically ill children: A systematic review and meta-analysis. JAMA Pediatr. 2018; 172: 257-68. CQ18-2:感染巣が推定しにくい小児敗血症に対 する経験的抗菌薬はどのように選択するか? Answer:発生場所(市中,院内,集中治療室など),患者背景(免疫状態,治療歴など)を考慮して,想定されうる微生物をカバーできる抗菌薬を選択する(BQに対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症には原因となる感染巣が存在する。原因微生物が同定されていない段階での経験的治療では,感染巣を推定した後に頻度の高い微生物をカバーする抗菌薬を選択することが基本である。しかし,実際の臨床の場面では迅速に感染巣を推定することが困難なことも多いことから,本CQ はそのような場合の抗菌薬選択を重要な課題として位置づけた。 (2)解説(Table 18-2-1) 抗菌薬の選択は,患者の年齢や発生場所,患者背景と想定される臓器への移行性を加味して決定される 1)。感染症の発生場所は,原因微生物を考える際の重要な要素である。市中発症の場合,小児の細菌感染症としては肺炎球菌やインフルエンザ桿菌,黄色ブドウ球菌,大腸菌などの腸内細菌科細菌の頻度が高い。通常,これらの細菌は第3 世代セファロスポリンであるセフォタキシムが感性であることが多い。しかし,生後1 か月未満の敗血症の場合にはリステリアが関与している頻度が比較的高い 2)ため,アンピシリンの追加を考慮する。さらに生後1 か月以降で髄膜炎の可能性が高い場合,セファロスポリンおよびカルバペネムの耐性株の肺炎球菌を考慮して 3, 4),バンコマイシンの追加を検討する 5)。最終的には,患者背景として基礎疾患,原発性免疫不全や無脾症などの免疫状態,周囲流行歴などを参考に抗菌薬を選択する。 特に近年,腸内細菌科細菌におけるESBL(extended spectrum β-lactamases)産生菌の頻度が上昇してきている 6)。尿路や腹腔内,新生児髄膜炎など,腸内細菌科細菌が原因微生物と考えられる感染巣の敗血症において,抗菌薬の先行投与や医療曝露歴があるなど,リスクが高い場合 7)には,ESBL 産生菌を念頭においたカルバペネムの選択も検討する 8)。 一般病棟や集中治療室内で発症した小児敗血症も,同様の考え方により抗菌薬を決定する。グラム陰性桿菌に関しては,腸内細菌科細菌に加えて,緑膿菌やアシネトバクターなどのブドウ糖非発酵菌も原因微生物となることがあり 9),MRSA(methicillin - resistant -S 331-
Staphylococcus aureus)や真菌もリスクと重症度に合わせてカバーすることを検討する(CQ4-3 を参照)。患者本人の過去の耐性菌検出歴や抗菌薬の曝露歴は,原因微生物が耐性菌や真菌である可能性を高める 10)。各薬剤の微生物に対する感受性は施設ごとに異なるため,院内のアンチバイオグラムも参考に抗菌薬を選択する。 文 献 1) Guzman-Cottrill JA, Vaz LE: The Systemic Inflammatory Response Syndrome (SIRS), Sepsis, and Septic Shock. In: Long SS, Prober CG, Fischer M, eds. Princ Pract Pediatr Infect Dis. 5th ed. Elsevier, Amsterdam, 2017, p98-102. 2) Thigpen MC, Whitney CG, Messonnier NE, et al: Bacterial meningitis in the United States, 1998–2007. N Engl J Med. 2011; 364: 2016-25. 3) Okada T, Sato Y, Toyonaga Y, et al: Nationwide survey of Streptococcus pneumoniae drug resistance in the pediatric field in Japan. Pediatr Int. 2016; 58: 192-201. 4) Nakano S, Fujisawa T, Ito Y, et al: Spread of Meropenem– Resistant Streptococcus pneumonia Serotype 15A-ST63 Clone in Japan, 2012-2014. Emerg Infect Dis. 2018; 24: 275-83. 5) Olarte L: Vancomycin should be part of empiric therapy for suspected bacterial meningitis. J Pediatric Infect Dis Soc. 2019; 8: 187-8. 6) Lukac PJ, Bonomo RA, Logan LK: Extended-spectrum βlactamase-producing enterobacteriaceae in children: Old foe, emerging threat. Clin Infect Dis. 2015; 60: 1389-97. 7) Kizilca O, Siraneci R, Yilmaz A, et al: Risk factors for community-acquired urinary tract infection caused by ESBL-producing bacteria in children. Pediatr Int. 2012; 54: 858-62. 8) Leber WJA: Klebsiella and Raultella species. In: Long SS, Prober CG, Fischer M, eds. Princ Pract Pediatr Infect Dis. 5th ed. Elsevier, Amsterdam, 2017, p819-22. 9) Niedner MF, Huskins WC, Colantuoni E, et al: Epidemiology of Central Line-Associated Bloodstream Infections in the Pediatric Intensive Care Unit. Infect Control Hosp Epidemiol. 2011; 32: 1200-8. 10) Zaoutis TE, Prasad PA, Localio AR, et al: Risk Factors and Predictors for Candidemia in Pediatric Intensive Care Unit Patients: Implications for Prevention. Clin Infect Dis. 2010; 51: e38-45. Table 18-2-1 抗菌薬の選択 抗菌薬想定する微生物注記 市中発症セフォタキシム(セフトリアキソン)《髄膜炎の可能性が高い生後1 か月未満》リステリアを考慮してアンピシリンを追加《髄膜炎の可能性が高い生後1 か月以上》バンコマイシンを追加《ESBL 産生菌のリスクが高い場合》メロペネムに変更肺炎球菌,インフルエンザ桿菌,黄色ブドウ球菌,大腸菌など基礎疾患,免疫不全の有無,周囲流行歴などを考慮する。院内発症セフォタキシム(セフトリアキソン) or セフェピムor ピペラシリンタゾバクタムor メロペネム(+バンコマイシン) (+抗真菌薬)腸内細菌科細菌,緑膿菌などのブドウ糖非発酵菌, MRSA を含む黄色ブドウ球菌,真菌など・ 基礎疾患,治療歴,免疫不全の有無,耐性菌検出歴, 院内アンチバイオグラムなどを考慮する。・ バンコマイシンや抗真菌薬はリスクに応じて追加 する。 投与量 セフォタキシム200mg / kg / 日6 時間毎(髄膜炎:300mg / kg / 日 6 時間毎) 最大12g / 日アンピシリン200mg / kg / 日6 時間毎(髄膜炎:400mg / kg / 日 6 時間毎) 最大12g / 日セフェピム150mg / kg / 日8 時間毎 最大6g / 日ピペラシリンタゾバクタム337.5mg / kg / 日 8 時間毎 最大18g / 日メロペネム120mg / kg / 日8 時間毎 最大6g / 日バンコマイシン60mg / kg / 日6 時間毎 -S 332-
CQ18-3:小児敗血症診療において,どのような 場合に経験的治療に抗ヘルペスウイルス薬を含めるか? Answer:単純ヘルペスウイルスの罹患率が高く罹患すると重症化しやすい生後1 か月未満で,中枢神経感染症が疑われる場合,もしくは細菌感染巣が特定できない場合がある(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 成人と比較して小児の敗血症では起因微生物がウイルスである割合が高く,その中で治療可能なウイルスとしては,単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus: HSV)が挙げられる。治療の遅れは,死亡や重篤な後遺症の増加を招くことも報告されている 1, 2)。しかし,HSV による敗血症は臨床症状が非特異的であり,臨床像や迅速検査から病原微生物がHSV かどうかを見分けることは困難なため,確定診断を待たずに抗ヘルペスウイルス薬の投与を開始することを検討しなくてはならない。 一方,抗ヘルペスウイルス薬の過剰な使用が,特に日齢30 以上の児で増えていることも海外では報告されており 3),抗ヘルペスウイルス薬は,その副作用やコストといった面でも懸念が残るため,小児敗血症患者に対する経験的治療に抗ヘルペスウイルス薬を含めることが合理的であるのかを検討することは重要であると考えた。 (2)解説 患者がHSV による敗血症に罹患している場合には,経験的治療として早期から抗ヘルペスウイルス薬を投与することにより,予後の改善が期待される。しかしながら,HSV による敗血症は決して頻度の高いものではない。北米で行われた大規模な観察研究では,救急外来を受診した26,533 人(敗血症患者数の記載なし)の日齢60 未満児のうち,HSV 感染症患者は112人(0.42%)にとどまり,このうち敗血症を併発すると考えられる中枢神経型は36 人(0.14%, 95% CI: 0.10%~0.19%),全身型は32 人(0.12%, 95% CI: 0.08%~0.17%)と報告されている 4)。 すなわち,その発生頻度は極めて低く,経験的治療としての抗ヘルペスウイルス薬投与が望ましい効果をもたらす患者の割合は,非常に限定的といえる。実際,上記の研究においては,日齢60 未満の中枢神経型と全身型のHSV 感染症患者1 人を治療するために588 人(95% CI: 435 人~769 人)に経験的治療としての抗ヘルペスウイルス薬が投与開始された。HSV 感 染症患者の日齢中央値は14 日(IQR 9 日~24 日),日齢0~28 児は日齢29~60 児より罹患頻度は高かった(オッズ比3.9,95% CI: 2.4~6.2)。そのため,1 人の日齢0~28,および日齢29~60 のHSV 感染症患者を治療するために,それぞれ152 人(95% CI: 123 人~ 185 人)と583 人(95% CI: 384 人~909 人)に経験的治療としての抗ヘルペスウイルス薬が投与開始されたことになる 4)。したがって,抗ヘルペスウイルス薬の経験的投与による望ましい効果は,日齢0~28 の年齢層の児においてより期待できる。 抗ヘルペスウイルス薬の使用時には,腎機能障害 5)や血球減少,精神神経症状などの重篤な副作用が出現することがある。また,血管の細い乳幼児においては血管外漏出による組織障害の危険も無視できない。さらに,抗ヘルペスウイルス薬の希釈に要する多量の水分が輸液負荷にもなりうる。加えて,PCR 法などによりHSV 感染の診断を確定するには多くの施設で数日間を要するため,HSV 感染でない患者においては,経験的治療として開始された抗ヘルペスウイルス薬を終了できるまで病院滞在日数の延長をもたらす可能性がある 6)。 現時点で,小児敗血症の経験的治療として抗ヘルペスウイルス薬を含めるか否かを検討したランダム化比較試験(RCT)は存在しないが,上述のように日齢29 以降では害を受ける患者の割合がより増加すると考える。また,明らかに肺炎や尿路感染症といった感染巣が明確に推定できる小児敗血症患者に対して,抗ヘルペスウイルス薬を経験的に開始することも不適切である。したがって,概ね生後1 か月未満で,感染巣として中枢神経感染症が疑われるか,感染巣が確定できない患者において,抗ヘルペスウイルス薬を経験的治療に含めることが妥当であると考える。 なお,年齢層にかかわらず,経験的治療とは異なり,少なくともHSV 感染が確定した患者においては,可及的速やかに抗ヘルペスウイルス薬を投与することの必要性は論をまたない 1, 2)。 文 献 1) Raschilas F, Wolff M, Delatour F, et al: Outcome of and prognostic factors for herpes simplex encephalitis in adult patients: results of a multicenter study. Clin Infect Dis. 2002; 35: 254-60. 2) Shah SS, Aronson PL, Mohamad Z, et al: Delayed acyclovir therapy and death among neonates with herpes simplex virus infection. Pediatrics. 2011; 128: 1153-60. 3) Gaensbauer JT, Birkholz M, Pfannenstein K, et al: Herpes PCR testing and empiric acyclovir use beyond the neonatal period. Pediatrics. 2014; 134: e651-6. -S 333-
4) Cruz AT, Freedman SB, Kulik DM, et al: Herpes simplex virus infection in infants undergoing meningitis evaluation. Pediatrics. 2018; 141: e20171688. 5) Rao S, Abzug MJ, Carosone-Link P, et al: Intravenous acyclovir and renal dysfunction in children: a matched case control study. J Pediatr. 2015; 166: 1462-1468.e1-4. 6) Shah SS, Volk J, Mohamad Z, et al: Herpes simplex virus testing and hospital length of stay in neonates and young infants. J Pediatr. 2010; 156: 738-43. CQ18-4:小児敗血症に対する循環管理の目標血 圧は? Answer:適切な目標血圧は不明であり,年齢や臓器循環などを考慮して設定する。健康小児の平均血圧の中央値「55+年齢×1.5mmHg」と5 パーセンタイル値「40+年齢×1.5mmHg」が参考になる(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症診療において,その治療効果,あるいは治療方針変更などの意思決定を行う際に血圧(低血圧)を評価指標の1 つとすることは一般的である。小児の敗血症診療においても「低血圧」が組織灌流低下の1 つのサインとして明示されている 1-3)。しかし,至適血圧は年齢,体重などに大きく依存し,さらに全身状態や臓器障害,それに対して必要な組織灌流圧などを加味する必要があり,一様に論じることはむずかしい。その一方で,基準となる値についてその背景を理解し,その元となるエビデンスを整理しておくことは有意義であり,CQ として取り上げた。 (2)解説 必要な臓器循環を維持することを念頭に,平均血圧に基づいて個別的に目標設定することが望ましいが,現時点において収縮期血圧に基づく管理との優劣は明らかでない。数値目標に関しては参照できる文献が存在せず,本ガイドラインの作成にあたった専門家の間でも,意見の一致をみなかった。参考として海外の健康小児の血圧の正常範囲に関する大規模な調査報告がある 4)。収縮期血圧,拡張期血圧のみならず平均血圧についても年齢を考慮した指標が記載されており,管理目標値や許容下限値を設定する際に参考にできる。ただし,個々の病態やそれに応じた必要な臓器循環などを評価しながら,管理目標となる血圧を個別に設定する必要があることをつけ加える。 文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) Davis AL, Carcillo JA, Aneja RK, et al: American College of Critical Care Medicine Clinical Practice Parameters for Hemodynamic Support of Pediatric and Neonatal Septic Shock. Crit Care Med. 2017; 45: 1061-93. 4) Haque IU, Zaritsky AL: Analysis of the evidence for the lower limit of systolic and mean arterial pressure in children. Pediatr Crit care Med. 2007; 8: 138-44. -S 334-
CQ18-5:小児敗血症における輸液に対する反応 の評価方法は? Answer:輸液に対する反応の評価には,臨床所見[脈拍数,血圧,末梢・中枢の温度較差や脈の触知,毛細血管再充満時間(capillary refill time: CRT)]や検査値(乳酸クリアランスや心エコー所見など)が参考になる(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 成人と同じく小児においても適切な全身管理と感染症治療は敗血症治療の両輪であり,特に初期診療での前負荷の適正化は,心拍出量を増加させ循環動態を安定化する過程の基礎である 1-3)。しかしながら,前負荷が適正であるかどうかを評価することは容易ではなく,その一方で過剰な輸液は臓器機能の回復を妨げる可能性も指摘されている 4)。したがって,輸液を行うことで循環動態が改善するかを事前に予測したり,投与した輸液により循環動態が改善したかを事後に評価したりするのに臨床上有用な指標を整理することは,小児敗血症診療の質を高めるために重要な課題であると考えられる。 (2)解説 輸液蘇生に対する反応性の評価法には,1輸液蘇生を実施したら心拍出量が増加するかどうかを事前に予測するための指標,2蘇生輸液を投与した後に心拍出量が増加したかどうかを事後に評価するための指標の2 つがある。 本ガイドラインでは,1に対して「輸液反応性予測」という用語を充てているが,小児領域において十分な信頼に足る輸液反応性の予測指標は現在までのところ存在しない 5)。Gan らは,様々な背景の小児重症患者を対象としたシステマティックレビューにおいて,信頼できる静的指標はなく,動的指標の中でもドップラー心エコーにより計測されるrespiratory variation in aortic blood flow peak velocity(⊿Vpeak: 大動脈弁から駆出された血流の最高流速の呼吸性変動)を唯一信頼できるとした 5)。しかし,Desgranges らは,集中治療室と手術室の小児患者を対象としたより最近のシステマティックレビュー・メタ解析においてその知見を確認しながらも,研究間で導かれたカットオフ値が7~20% と幅広いことを指摘し,臨床判断への利用は時期尚早との見解を示した6)。なお,成人領域で輸液反応性の予測指標として有用性が確立しているstroke volume variation (SVV)やpulse pressure variation (PPV),下大静脈径のエコー評価は小児を対象とした 複数の研究において信頼性が確認されておらず 5), passive leg raising (PLR)は有用性を示唆されながらも報告は未だ1 件に留まっている 7)。また,これらのシステマティックレビューに組み入れられた研究は,いずれも敗血症に特化したものではないことに留意されたい。 一方,2に関しては,初期輸液蘇生の過程では, 10~20mL / kg の細胞外液組成の輸液をボーラス投与するたびに,その効果を複数の指標を組み合わせて再評価することが望まれる。輸液により心拍出量が増加したか否かを経時的に再評価せず,漫然と輸液投与を継続すると,思わぬ輸液過剰につながる。評価に際して,頻脈や低血圧の是正,脈の触知の改善,末梢・中枢の温度較差の縮小といった臨床所見は,1 回拍出量や心拍出量の増加を示唆する。また,臓器低灌流に起因した意識障害や乏尿といった所見が改善するかを観察することも重要である 3)。 毛細血管再充満時間(capillary refill time: CRT)は,指趾または体幹の皮膚を圧迫阻血した後にすばやく圧迫を解除し,何秒間で皮膚の血色が改善するかを計測し,末梢循環を評価する臨床所見である。通常2 秒を超えると皮膚灌流の低下が示唆され,末梢循環不全の可能性が疑われる 8, 9)。CRT は非侵襲的であり,反復して経時的に評価が可能な循環管理指標として汎用されており 3),PICU 入室中の小児において2 秒以内のCRT がSCVO2 ≧70% と相関すること 10)や,3 秒以上のCRT と死亡との関連を示唆する報告もある 11)。その一方で,CRT は患者年齢や測定部位,圧迫時間,気温,皮膚温といった種々の因子の影響を受けることが知られており 8),ストップウォッチを利用するなどして評価方法を一定にする必要があることに留意する 9)。また,評価者間一致性が低いこと 8)や,心係数などの侵襲的な循環動態指標との相関が低いとする指摘もあり 12, 13),CRT 単独で循環動態を評価することは避けるべきである。 乳酸値の上昇は主として組織低酸素を反映し, Sepsis-3 では成人領域の敗血症性ショックの定義にも採用されている 14)。小児領域でも複数の観察研究において,診断時の高乳酸血症が死亡率の上昇と関連すること 15-17)や,輸液や循環作動薬による介入で乳酸値が低下しないことが死亡と関連すること 18, 19),乳酸値の正常化が臓器機能の回復と関連すること 20)が報告されている。一方,臨床所見から診断された小児敗血症性ショック症例では,代償性であれ非代償性(低血圧性)であれ,必ずしも高乳酸血症を伴ってい -S 335-
るとは限らないことも指摘されている 3)。したがって,初診時から乳酸値が上昇している症例に限り,輸液によりその値が低下するかどうかを効果判定の評価指標として参照できると考えられるが,有効と判断できる乳酸クリアランスのカットオフ値は明らかでなく, CRT と同様に他の循環動態指標と組み合わせて判断する必要がある。なお,敗血症性ショックの循環管理目標としてCRT 正常化と乳酸クリアランスとを比較した近年の成人領域のランダム化比較試験(RCT)では,28 日死亡に対する両者の優劣は認められなかった 21)。 心エコーはベッドサイドで非侵襲的に繰り返し評価が可能であり,前負荷や収縮性を判断する客観的な情報を与えてくれるうえ,先天性心疾患や肺高血圧症・右心不全の合併の有無も確認できる 3)。輸液により適切な左室拡張末期容量が確保されたかどうかを評価するとともに,房室弁逆流を来すほどの輸液は過負荷と判断する根拠となる。Ranjit らは,標準的な小児敗血症性ショックの管理に加えて,診断後6 時間以内に心エコーによる評価を実施することにより,多くの患者で輸液や循環作動薬の調整が可能であったと報告している 22)。しかしながら,本研究も含めて,心エコーによる循環動態評価を管理に加えることで予後が改善するかどうかは依然として不明であることにも留意されたい。 最後に,成人領域と同様に小児領域でも,輸液過剰のもたらす害が多数報告されている。Alobaidi らは,小児集中治療患者を対象としたシステマティックレビューにおいて,輸液過剰が死亡率上昇や人工呼吸期間の長期化,急性腎障害の増加などと関連することを示しており 4),輸液過剰を回避する努力は不可欠である。初期輸液蘇生の施行中に,努力呼吸の増悪や湿性ラ音,肝腫大,ギャロップ音が出現した際には速やかに輸液投与を中断し 3),輸液過剰を疑って心エコーなどを利用し前負荷の状態を再評価することが重要である。 文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) Davis AL, Carcillo JA, Aneja RK, et al: American College of Critical Care Medicine Clinical Practice Parameters for Hemodynamic Support of Pediatric and Neonatal Septic Shock. Crit Care Med. 2017; 45: 1061-93. 4) Alobaidi R, Morgan C, Basu RK, et al: Association between fluid balance and outcomes in critically ill children: A systematic review and meta-analysis. JAMA Pediatr. 2018; 172: 257-68. 5) Gan H, Cannesson M, Chandler JR, et al: Predicting fluid responsiveness in children: a systematic review. Anesth Analg. 2013; 117: 1380-92. 6) Desgranges FP, Desebbe O, Pereira de Souza Neto E, et al: Respiratory variation in aortic blood flow peak velocity to predict fluid responsiveness in mechanically ventilated children: a systematic review and meta-analysis. Paediatr Anaesth. 2016; 26: 37-47. 7) Lukito V, Djer MM, Pudjiadi AH, et al: The role of passive leg raising to predict fluid responsiveness in pediatric intensive care unit patients. Pediatr Crit Care Med. 2012; 13: e155-60. 8) Pickard A, Karlen W, Ansermino JM: Capillary Refill Time: Is It Still a Useful Clinical Sign? Anesth Analg. 2011; 113: 120-3. 9) Fleming S, Gill P, Jones C, et al: Validity and reliability of measurement of capillary refill time in children: a systematic review. Arch Dis Child. 2015; 100: 239-49. 10) Raimer PL, Han YY, Weber MS, et al: A Normal Capillary Refill Time of ≤2 Seconds is Associated with Superior Vena Cava Oxygen Saturations of ≥70%. J Pediatr. 2011; 158: 968-72. 11) Fleming S, Gill P, Jones C, et al: The Diagnostic Value of Capillary Refill Time for Detecting Serious Illness in Children: A Systematic Review and Meta-Analysis. PLoS One. 2015; 10: e0138155. 12) Tibby SM, Hatherill M, Murdoch IA: Capillary refill and coreperipheral temperature gap as indicators of haemodynamic status in paediatric intensive care patients. Arch Dis Child. 1999; 80: 163-6. 13) Lobos AT, Lee S, Menon K: Capillary refill time and cardiac output in children undergoing cardiac catheterization. Pediatr Crit Care Med. 2012; 13: 136-40. 14) Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al: The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016; 315: 801-10. 15) Hatherill M, Waggie Z, Purves L, et al: Mortality and the nature of metabolic acidosis in children with shock. Intensive Care Med. 2003; 29: 286-91. 16) Scott HF, Brou L, Deakyne SJ, et al: Association Between Early Lactate Levels and 30-Day Mortality in Clinically Suspected Sepsis in Children. JAMA Pediatr. 2017; 171: 249-55. 17) Scott HF, Donoghue AJ, Gaieski DF, et al: The utility of early lactate testing in undifferentiated pediatric systemic inflammatory response syndrome. Acad Emerg Med. 2012; 19: 1276-80. 18) Kim YA, Ha EJ, Jhang WK, et al: Early blood lactate area as a prognostic marker in pediatric septic shock. Intensive Care Med. 2013; 39: 1818-23. 19) Munde A, Kumar N, Beri RS, et al: Lactate clearance as a marker of mortality in pediatric intensive care unit. Indian Pediatr. 2014; 51: 565-7. 20) Scott HF, Brou L, Deakyne SJ, et al: Lactate Clearance and Normalization and Prolonged Organ Dysfunction in Pediatric Sepsis. J Pediatr. 2016; 170: 149-155. e1-4. 21) Hernández G, Ospina-Tascón GA, Damiani LP, et al: Effect of a Resuscitation Strategy Targeting Peripheral Perfusion Status vs Serum Lactate Levels on 28-Day Mortality Among Patients With Septic Shock: The ANDROMEDA-SHOCK Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019; 321: 654-64. 22) Ranjit S, Aram G, Kissoon N, et al: Multimodal Monitoring for Hemodynamic Categorization and Management of Pediatric Septic Shock. Pediatr Crit Care Med. 2014; 15: e17-26. -S 336-
CQ18-6:小児敗血症に対する初期輸液の速度や 量は? Answer:心不全を合併していない小児敗血症の初期輸液として,輸液に対する反応を評価しながら10~ 20mL / kg ずつボーラス投与を反復する方法がある。一方,輸液過剰を示唆する臨床所見の出現や輸液に対する反応の鈍化があれば,輸液蘇生中断の参考になる。輸液速度や輸液量の上限についての質の高いエビデンスはない(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症診療における適切な初期輸液は重要である。小児敗血症性ショックに対する初期治療アルゴリズムにおいては,敗血症性ショックの早期認識と急速輸液の開始が強調されている 1-3)。しかし,輸液過剰への警鐘もあり,適切な初期輸液に関する本CQ は小児敗血症診療の質を高めるために重要な課題であると考えられる。 (2)解説 小児敗血症性ショック初期治療アルゴリズム 1, 2)およびAmerican College of Critical Care Medicine-Pediatric Advanced Life Support(ACCM-PALS)アルゴリズム 3)では,敗血症性ショックを疑った際には20mL / kg の等張晶質液を5~10 分かけてボーラス投与し,ショックの徴候が持続すれば必要に応じて最初の1 時間に計40~60mL / kg まで反復してもよいと示されている。また,ACCM-PALS アルゴリズム 4-6)やその他の急速輸液を含む初期治療アルゴリズム 7-12)に従った治療により,生命予後が改善したとする報告や,病院滞在日数が短縮したとする報告がある。 しかし,敗血症性ショック患者が含まれる循環不全を合併した重症小児熱性疾患に対する初期輸液蘇生の効果を検討した多施設非盲検ランダム化比較試験(RCT)(FEAST trial)では,急速輸液なし群と比較して急速輸液群で死亡率が高かった 13)。本邦とは異なる人工呼吸を含む集中治療管理が不可能な診療環境での検討であるが,敗血症診療における輸液過剰の危険を認識する必要性を示唆している。また,小児敗血症性ショック患者に対して,20mL / kg の輸液負荷を15~20 分ごとに行う群と5~10 分ごとに行う群のRCT では,5~10 分ごとに行う群で気管挿管,人工呼吸管理となる割合が増加したとの報告があり 14),輸液負荷の1 回投与量としての20mL / kg が輸液過剰を招く可能性も検討されている 15)。これらの知見を考慮に入れると,本邦の集中治療管 理が可能な医療環境においては,急速輸液による初期蘇生は依然として小児敗血症診療の基本であるものの,従来の20mL / kg 単位よりもやや控えめな等張晶質液10~20mL / kg 単位でのボーラス投与が妥当であろう。そして,ボーラス投与中や投与後にもその都度,輸液過剰や輸液に対する反応の鈍化を評価することが重要である。 輸液過剰の可能性を示唆する湿性ラ音・呼吸窮迫・肝腫大などを認めれば,輸液蘇生中断の参考になる。また,輸液に対する反応は,末梢 ・中枢の温度較差の縮小などの末梢循環の改善,血圧上昇,心拍数低下,尿量増加,意識状態改善などで評価できるが(CQ18-5参照),ボーラス輸液を断続的に繰り返すなかでその反応が乏しくなれば,輸液蘇生の中断や輸液投与の減速を考慮する 1-3)。なお,輸液速度や輸液量の上限についての質の高いエビデンスはない。 文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) Davis AL, Carcillo JA, Aneja RK, et al: American College of Critical Care Medicine Clinical Practice Parameters for Hemodynamic Support of Pediatric and Neonatal Septic Shock. Crit Care Med. 2017; 45: 1061-93. 4) Han YY, Carcillo JA, Dragotta MA, et al: Early Reversal of Pediatric-Neonatal Septic Shock by Community Physicians is Associated with Improved Outcome. Pediatrics. 2003; 112: 793-9. 5) Oliveira CF, Nogueira de Sá FR, Oliveira DSF, et al: Time- and Fluid-Sensitive Resuscitation for Hemodynamic Support of Children in Septic Shock: Barriers to the Implementation of the American College of Critical Care Medicine / Pediatric Advanced Life Support Guidelines in a Pediatric Intensive Care Unit in a Developing World. Pediatr Emerg Care. 2008; 24: 810-5. 6) Carcillo JA, Kuch BA, Han YY, et al: Mortality and Functional Morbidity After Use of PALS / APLS by Community Physicians. Pediatrics. 2009; 124: 500-8. 7) Booy R, Habibi P, Nadel S, et al: Reduction in case fatality rate from meningococcal disease associated with improved healthcare delivery. Arch Dis Child. 2001; 85: 386-90. 8) Cruz AT, Perry AM, Williams EA, et al: Implementation of Goal-Directed Therapy for Children with Suspected Sepsis in the Emergency Department. Pediatrics. 2011; 127: e758-66. 9) Paul R, Neuman MI, Monuteaux MC, et al: Adherence to PALS Sepsis Guidelines and Hospital Length of Stay. Pediatrics. 2012; 130: e273-80. 10) van Paridon BM, Sheppard C, G GG, et al: Timing of antibiotics, volume, and vasoactive infusions in children with sepsis admitted to intensive care. Crit Care. 2015; 19: 293. 11) Lane RD, Funai T, Reeder R, et al: High Reliability Pediatric Septic Shock Quality Improvement Initiative and Decreasing Mortality. Pediatrics. 2016; 138: e1-9. 12) Evans IVR, Phillips GS, Alpern ER, et al: Association between -S 337-
the New York sepsis care mandate and in-hospital mortality for pediatric sepsis. JAMA. 2018; 320: 358-67. 13) Maitland K, Kiguli S, Opoka RO, et al: Mortality after Fluid Bolus in African Children with Severe Infection. N Engl J Med. 2011; 364: 2483-95. 14) Sankar J, Ismail J, Sankar MJ, et al: Fluid bolus over 15-20 versus 5-10 minutes each in the first hour of resuscitation in children with septic shock: A randomized controlled trial. Pediatr Crit Care Med. 2017; 18: e435-45. 15) Inwald DP, Canter R, Woolfall K, et al: Restricted fluid bolus volume in early septic shock: results of the Fluids in Shock pilot trial. Arch Dis Child. 2019; 104: 426-31. CQ18-7:小児敗血症性ショックに対して,第一 選択の循環作動薬としてドパミンを使用するか? Answer:小児敗血症性ショックに対して,第一選択の循環作動薬としてドパミンを使用せず,循環動態に応じてアドレナリンかノルアドレナリンを選択することを弱く推奨する(アドレナリンに対してはGRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」,ノルアドレナリンに対してはエキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 1, 2)では,「小児敗血症性ショックに対する循環作動薬は,どのようにするか?」というCQ に対して,「小児の敗血症性ショック患者に対する昇圧薬は,アドレナリンを第一選択とする(エキスパートコンセンサス / エビデンスの質「C」)」という意見が提示されている。また,成人の敗血症性ショックでドパミンではなくノルアドレナリンを第一選択としているように,血管拡張性ショックの病態でα受容体刺激作用を求める場合であっても,ノルアドレナリンに優先してドパミンを用いる根拠は乏しいと考えられる。しかし,J-SSCG 2016 では,ドパミンの使用に関する意見が明示されていないため,本邦の臨床現場では小児敗血症性ショックに対して,依然ドパミンが多く使用されていることが推測される 3)。以上より,本CQ は本ガイドラインで取り上げるべき重要臨床課題であると考える。 (2)PICO P (患者):Goldstein 定義での敗血症性ショック小 児患者I (介入):初期循環管理におけるあらゆる投与量, 投与期間のドパミン投与C (対照):初期循環管理におけるあらゆる投与量, 投与期間のアドレナリン投与またはノルアドレナリン投与O (アウトカム):全原因死亡,ショック離脱期間, ICU 滞在日数,あらゆる重篤な副作用(院内感染症など) (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が2 件施行されてお -S 338-
り 4, 5),これらを用いたメタ解析を実施した。詳細な検索過程は付録を参照されたい。 (4)益と害のバランス(Table 18-7-1)【対アドレナリン】望ましい効果: 今回採用された2 つのRCT では,いずれもアドレナリンが比較に設定されていた 4, 5)。ICU 滞在日数のアウトカム(1 RCT: n =60)に対する効果推定値は,平均(MD)1.00 日短かかった(95% CI: 3.95 日短い~ 1.95 日長い) 5)。以上から,望ましい効果はわずかで あると考えられた望ましくない効果: 全原因死亡の代わりに28 日死亡をアウトカム(2 RCT: n =180)として検討したところ,介入に対する効果推定値はリスク差(RD)1,000 人あたり136 人多かった(95% CI: 61 人少ない~590 人多い) 4, 5)。また,ショック離脱のアウトカムについては,1 時間以内のショック離脱(1 RCT: n =60)と循環作動薬離脱日数(1 RCT: n =120)を検討したが,前者の効果推定値はRD 1,000 人あたり286 人少なく(95% CI: 368 人少ない~58 人少ない) 5),後者の効果推定値はMD 4.8日短かかった(95% CI: 8.44 日短い~1.16 日短い) 4)。さらに,重篤な副作用(医療関連感染+虚血)のアウトカム(2 RCT: n =180)に関する効果推定値は RD 1,000 人あたり126 人多かった(95% CI: 50 人少ない~764 人多い) 4, 5)。以上から,望ましくない効果は「中」であると判断した。益と害のバランス: 第一選択薬としてドパミンを使用する介入に対する望ましい効果はわずかで,望ましくない効果は中等度であるため,望ましい効果と望ましくない効果のバランスは比較のアドレナリンが優位であると判断した。【対ノルアドレナリン】望ましい効果: 第一選択薬としてドパミンとノルアドレナリンを比較したRCT は存在しなかったことから,死亡率低減やショック離脱のアウトカムに関してドパミンに望ましい効果があるかどうかは不明である。しかしながら,末梢血管拡張性ショックの循環動態を呈する患者においては,α受容体刺激作用が主体となるノルアドレナリンを第一選択として使用することは,薬理学的に合理的な選択といえる。介入の望ましい効果はわずかであると考えられた。望ましくない効果: 第一選択薬としてドパミンとノルアドレナリンを比較したRCT は存在しなかったため,重篤な副作用(医療関連感染+虚血)のアウトカムに関してドパミ Table 18-7-1 エビデンスプロファイル -S 339-
ンに望ましくない効果があるかどうかは不明である。しかしながら,両薬剤ともα受容体刺激作用とβ受容体刺激作用を併せ持つ一方で,ドパミン受容体に対する作用はドパミンに限られていることから,プロラクチン分泌抑制を介した免疫抑制による医療関連感染症のリスクはドパミンにだけ存在する可能性は否定できない。以上から,望ましくない効果は小さいと考えられた益と害のバランス: 末梢血管拡張性ショックの循環動態を呈する患者においては,第一選択薬としてノルアドレナリンに対してドパミンは,望ましい効果はわずかで,望ましくない効果は小さく,比較のノルアドレナリンがおそらく優位と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性【対アドレナリン】 各アウトカムの効果推定値の方向性は一定ではなく,最も低いアウトカムの確実性を採用し,全体的なエビデンスの確実性は「低」である。また,いずれのアウトカムに関しても深刻か非常に深刻な不精確さを内包しており,かつ採用された研究におけるドパミンとアドレナリンの力価が相当していないことが懸念される。したがって,最終的にアウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」とした。【対ノルアドレナリン】 設定したPICO に合致するような,第一選択薬としてドパミンとノルアドレナリンを比較したRCT は存在しなかった。なお,アドレナリンとノルアドレナリンを比較したRCT も存在しなかった。 (6)価値観【対アドレナリン】 小児敗血症性ショックに対する循環作動薬における,各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。【対ノルアドレナリン】 小児敗血症性ショックに対する循環作動薬における,各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。(7)容認性 【対アドレナリン】 ドパミンの薬価は非常に低く,患者・個人の視点からは許容できると考えられる。また,アドレナリンよりもドパミンのほうが使い慣れている医療従事者もいると考えられるが,薬剤の準備や使用の労力に差はないと考えられる。【対ノルアドレナリン】 ドパミンの薬価は非常に低く,患者・個人の視点からは許容できると考えられる。また,ノルアドレナリンよりもドパミンのほうが使い慣れている医療従事者もいると考えられるが,薬剤の準備や使用の労力に差はないと考えられる。 (8)実行可能性【対アドレナリン】 介入は多くの医療施設において実行可能である。【対ノルアドレナリン】 介入は多くの医療施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 18-7-2, Table 18-7-3) 第一選択の循環作動薬としてドパミンを使用する介入の望ましい効果は,比較のアドレナリンに対してわずかであり,望ましくない効果は中等度である。また,第一選択の循環作動薬としてドパミンとノルアドレナリンを比較したRCT は存在しない。しかし,ドパミンはノルアドレナリンよりもα受容体刺激作用の割合が小さく,ドパミン受容体を介したプロラクチン分泌抑制による免疫抑制作用も懸念されるため,末梢血管拡張性ショックの循環動態を呈する患者においてはノルアドレナリンを選択することがおそらく優位と考えられる。 これらを総合的に考慮し,小児敗血症性ショックに対する第一選択の循環作動薬としてのドパミンの使用を条件付きの非推奨とした。 (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 J-SSCG 2016 では,「小児敗血症性ショックに対する循環作動薬は,どのようにするか?」というCQ に対して,「小児の敗血症性ショック患者に対する昇圧薬は,アドレナリンを第一選択とする(エキスパート -S 340-
コンセンサス / エビデンスの質「C」)」と記されている 1, 2)。 SSCG in children 2020 では,ドパミンよりもアドレナリン(弱い推奨,低いエビデンスの質),またはノルアドレナリン(弱い推奨,非常に低いエビデンスの質)を使用することが提案されている 6)。 (12)実施に関わる検討事項 アドレナリンもノルアドレナリンもα受容体刺激作用とβ受容体刺激作用の両方を併せ持つが,アドレナリンに比べてノルアドレナリンは相対的にα受容体刺激作用が強い。したがって,十分な輸液後の臨床的な 評価において,末梢血管拡張性ショックと考えられる場合にはノルアドレナリンの選択も考慮される。なお,本CQ で採用された2 つのRCT において,ドパミンとアドレナリンの用量調整プロトコルは同一ではないことに留意する 4, 5)。また,本推奨は,アドレナリンやノルアドレナリンが使用できない状況などにおいて,ドパミンの使用を否定するものではない。 (13)今後の研究の可能性 今回採用された2 つのRCT はいずれもサンプル数, Table 18-7-2 判断の要約(対アドレナリン) Table 18-7-3 判断の要約(対ノルアドレナリン) -S 341-
イベント数が小さく,各アウトカムの検討結果は不精確である 4, 5)。小児敗血症性ショックに対する循環作動薬の第一選択を検討するより大規模なRCT の実施が必要である。また,その研究実施の際には,より臨床現場の実態に即した薬剤用量の調整プロトコルの検討が望まれる。 文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) 横川真里, 笠井正志, 志馬伸朗: 本邦小児集中治療領域における敗血症性ショック管理の現状. 日集中医誌. 2018; 25: 115-20. 4) Ventura AMC, Shieh HH, Bousso A, et al: Double-Blind Prospective Randomized Controlled Trial of Dopamine Versus Epinephrine as First-Line Vasoactive Drugs in Pediatric Septic Shock. Crit Care Med. 2015; 43: 2292-302. 5) Ramaswamy KN, Singhi S, Jayashree M, et al: Double-Blind Randomized Clinical Trial Comparing Dopamine and Epinephrine in Pediatric Fluid-Refractory Hypotensive Septic Shock. Pediatr Crit Care Med. 2016; 17: e502-12. 6) Weiss SL, Peters MJ, Alhazzani W, et al: Surviving sepsis campaign international guidelines for the management of septic shock and sepsis-associated organ dysfunction in children. Intensive Care Med. 2020; 46: 10-67. CQ18-8:小児敗血症性ショックに対して,循環 作動薬としてバソプレシンを使用するか?(保険適用外使用) Answer:小児敗血症性ショックに対して,循環作動薬としてバソプレシンを使用しないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では,「小児敗血症性ショックに対する循環作動薬は,どのようにするか?」というCQ に対して,「小児の敗血症性血管拡張性ショックに対して,バソプレシンを使用しない(エキスパートコンセンサス / エビデンスの質「C」)」という意見が提示されており,カテコラミン不応性ショックでは,バソプレシン以外の追加治療を行ったうえでVA-ECMO も考慮可とされている 1, 2)。バソプレシンは,他のカテコラミンと異なるメカニズムによる昇圧作用によって,小児敗血症性ショック患者の循環動態を改善しECMO を回避できる可能性があり,特にVA-ECMO の導入が容易でない臨床現場では,現場の判断でバソプレシンが用いられている可能性がある。一方で,虚血や生命予後の悪化などの害がある可能性もあり,その利益と害のバランスは明らかではない。よって本ガイドラインに取り上げるべき重要臨床課題であると考える。 (2)PICO P (患者):Goldstein 定義での敗血症性ショックま たは血管拡張性ショック小児患者I (介入):あらゆる投与量,投与期間のバソプレシ ン投与C (対照):あらゆる投与量,投与期間のノルアドレ ナリン投与またはプラセボ投与O (アウトカム):全原因死亡,ショック離脱期間, ICU 滞在日数,あらゆる重篤な副作用(虚血・壊死など) (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が2 件施行されており 3, 4),これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 18-8-1)望ましい効果: 本CQ では2 つのRCT が採用されたが,介入とし -S 342-
て1 つはバソプレシン 3),もう1 つはその誘導体であるテルリプレシンが使用され 4),比較はそれぞれプラセボと通常治療であった。ICU 滞在日数(2 RCT: n = 123)のアウトカムに対する効果推定値は平均(MD) 3.64 日短かかった(95% CI: 9.82 日短い~2.53 日長 い)。上記より,望ましい効果は小さいと考えられた。望ましくない効果: 死亡アウトカム(2 RCT: n =123)に関する効果推定値はリスク差(RD)1,000 人あたり60 人多い(95% CI: 130 人少ない~250 人多い)であった 3, 4)。また,循環作動薬離脱までの時間(1 RCT: n =65)に関する効果推定値はMD 2.60 時間長かった(95% CI: 49.95時間短い~55.15 時間長い) 3)。さらに,重篤な副作用(指趾虚血,血栓,心停止,消化管出血)のアウトカム(2 RCT: n =123)に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり40 人多い(95% CI: 60 人少ない~140人多い)であり 3, 4),バソプレシンによる望ましくない効果は「中」であると判断した。益と害のバランス: 介入による望ましい効果は小さく,望ましくない効果は中等度である。患者・家族が置くアウトカムの相対的価値の設定によらず,その効果のバランスはおそらく比較が優位である。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 検討したすべてのアウトカムにおいて,バイアスのリスクと非直接性は深刻で,かつ不精確さは非常に深刻であり,各々のエビデンスの確実性は非常に低い。効果推定値の方向性も一致していない。よってアウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」である。 (6)価値観 小児敗血症性ショックに対する循環作動薬における,各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 ピトレシン注射液20 の薬価は658 円 / アンプルと高くなく,患者・家族の個人の視点から許容できる。バソプレシン投与に関わる医療関係者の労力も限定的である。この選択肢は重要な利害関係者にとっておそらく妥当なものである。 (8)実行可能性 介入は多くの医療施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 18-8-2) 介入による望ましい効果は小さく,望ましくない効果は中等度であり,アウトカム全般にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」である。標準的治療としてバソプレシン投与を行うことは好ましくないが,症例に応じた適応判断を否定するものではない。それらを総合的に判断し,条件付きの非推奨とした。 (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8, Table 18-8-1 エビデンスプロファイル -S 343-
見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:95.8%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 J-SSCG 2016 では,「小児敗血症性ショックに対する循環作動薬は,どのようにするか?」というCQ に対して,「小児の敗血症性血管拡張性ショックに対して,バソプレシンを使用しない(エキスパートコンセンサス / エビデンスの質「C」)」という意見が提示されている 1, 2)。 SSCG in children 2020 では,高用量のカテコラミンを必要とする敗血症性ショックの小児患者において,バソプレシンの追加またはカテコラミンのさらなる調節が提案されている(弱い推奨,低いエビデンスの質) 5)。ただしこの提案は,血液分布異常性ショックの成人を対象にしたメタ解析 6)において,バソプレシンが追加された患者で腎代替療法の必要性が少ない傾向があったことを加味している点に注意が必要である。 (12)実施に関わる検討事項 バソプレシン投与を考慮する際には,指趾虚血などの重篤な副作用に注意し,望ましい効果が期待できるか否かを個々の患者で評価し,漫然と投与しないようにする。 (13)今後の研究の可能性 本CQ で検討した2 件のRCT のうち,1 件は敗血症性ショック以外の血管拡張性ショックの患者も含まれ 3),もう1 件は敗血症性ショックの患者が対象だが, 介入薬は国内未発売のバソプレシンアナログであるテルリプレシンを介入薬としていた 4)。よって,小児敗血症性ショック患者のみを対象として,バソプレシンの効果を評価するRCT が望まれる。 文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) Choong K, Bohn D, Fraser DD, et al: Vasopressin in pediatric vasodilatory shock: a multicenter randomized controlled trial. Am J Respir Crit Care Med. 2009; 180: 632-9. 4) Yildizdas D, Yapicioglu H, Celik U, et al: Terlipressin as a rescue therapy for catecholamine-resistant septic shock in children. Intensive Care Med. 2008; 34: 511-7. 5) Weiss SL, Peters MJ, Alhazzani W, et al: Surviving sepsis campaign international guidelines for the management of septic shock and sepsis-associated organ dysfunction in children. Intensive Care Med. 2020; 46 (Suppl 1): 10-67. 6) McIntyre WF, Um KJ, Alhazzani W, et al: Association of vasopressin plus catecholamine vasopressors vs catecholamines alone with atrial fibrillation in patients with distributive shock: a systematic review and meta-Analysis. JAMA. 2018; 319: 1889-900. Table 18-8-2 判断の要約 -S 344-
CQ18-9:初期輸液と循環作動薬に反応しない小 児敗血症性ショックに対して,ステロイド投与を行うか? Answer:初期輸液と循環作動薬に反応しない小児敗血症性ショックに対して,ルーチンのステロイド投与を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 小児敗血症患者の致死率は依然として高く,治療成績を向上させる介入法の確立は急務である。現在まで小児患者に対するルーチンのステロイド使用については様々な議論がなされ,関連する質の高い研究も少なからず存在している 1-3)。しかし,現状では,ルーチンのステロイド投与の有効性・有害性の評価は定まっておらず,臨床現場でもその投与判断については多様性がある。日本版敗血症診療ガイドラン(J-SSCG) 2016 策定における本課題に対するシステマティックレビューにおいても,ランダム化比較試験(RCT)が十分に存在せず,本邦で対象となるような小児患者にルーチンでステロイドを使用しないことが弱く推奨されている 4, 5)。ステロイドのルーチン使用の是非は,その薬効特性上,生命予後改善などの予想される益と関連合併症(二次感染など)などの害を他薬剤にもまして注意深く評価する必要があり,最新のエビデンスを集約し理解しておくことは大変重要であると考える。ここでは「敗血症性ショック」に対するルーチンのステロイド使用をCQ として扱うこととした。 (2)PICO P (患者):Goldstein 定義での敗血症性ショックで, 初期輸液と循環作動薬に不応である小児(新生児を除くすべて,18 歳未満)患者I (介入):定期的(ルーチン)なステロイドの全身 投与(投与方法,体重あたりの量は限定しない) C (対照):定期的(ルーチン)なステロイドを行わ ない(ルーチン以外,例えばステロイド全身投与の適応が広く認められている疾患などへの敗血症ショック離脱を目的としない使用はC に含む。) O (アウトカム):ICU 死亡,病院滞在日数,ショッ ク離脱日数,人工呼吸期間,二次感染など[ventilator-associated pneumonia(VAP)やカテーテル関連を含む]の合併症(3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したRCT が3 件 6-8)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 18-9-1)望ましい効果: 死亡アウトカムに関しては事前設定に基づいて検索した結果,3 件のRCT(n =155)が解析対象となり 6-8),効果推定値はリスク差(RD)1,000 人あたり40 人少ない(95% CI: 167 人少ない~130 人多い)であった。また,ショック離脱期間は2 件のRCT が解析対象となった 6, 7)。1 件のRCT(n =68) 5)では平均60.0 時間(ルーチンステロイド投与群)と139.2 時間(比較対照群),他方の1 件のRCT(n =38) 7)では中央値49.5 時間(ルーチンステロイド投与群)と70 時間(比較対照群)と一定の効果が推定された。したがって,望ましい効果は小さいと考えられた。望ましくない効果: 二次感染合併症(2 RCT: n =87)のアウトカムに対しては,介入による効果推定値は,RD 1,000 人あたり41 人多い(95% CI: 73 人少ない~284 人多い)と推定された 6-8)。また,病院滞在日数は2 件のRCTが解析対象となり 5, 7)1 件のRCT(n =68) 6)では平均11.4 日(ルーチンステロイド投与群)と8.2 日(比較対照群),他のもう1 件のRCT(n =49) 8)では中央値10.7 日(ルーチンステロイド投与群)と9.6 日(比較対照群)と,わずかながら介入群での延長が推定された。したがって,望ましくない効果は小さいと考えられた。益と害のバランス: 介入による望ましい効果は小さく,望ましくない効果も小さいと考えられ,患者・家族が置くアウトカムの相対的価値の設定によらず,介入も比較もいずれも優位でない。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 各アウトカムの効果の方向性は一定しておらず,全体的なエビデンスの確実性は「非常に低」とした。また,評価可能であったすべてのアウトカムにおいてサンプル数,イベント数ともに極端に少なく不精確であることを勘案し,最終的にアウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」とした。 (6)価値観 小児敗血症患者に対するルーチンのステロイド投与 -S 345-
における,各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。一般的に,死亡アウトカムに対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 本介入に伴うコストは,ヒドロコルチゾン1mg / kgを4 回 / 日投与した場合,100mg(瓶)が200~400 円であることから1 日あたり約800~1,600 円となる。患者・家族の個人の視点からはおそらく許容できるであろう。また,ヒドロコルチゾン投与に際しての医療者の労力もわずかである。 (8)実行可能性 本介入は多くの施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 18-9-2) 初期輸液と循環作動薬に反応しない小児敗血症性ショックに対するステロイド投与に関しては,ショック離脱を早めるかもしれないという望ましい効果と,二次感染症の合併を増やして病院滞在日数を延長させるかもしれないという望ましくない効果とが,いずれも小さい程度で拮抗している。また,アウトカム全般にわたるエビデンスの確実性は非常に低い。初期輸液と循環作動薬に反応しない小児敗血症性ショック患者に対してルーチンのステロイド投与を行うことは好ま しくないが,症例に応じた適応判断を否定するものではない。それらを総合的に判断し,条件付きの非推奨とした。 (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 J-SSCG 2016 では,「小児敗血症性ショックにおいて,標準治療としてはステロイドを投与しないことを弱く推奨する(2D)」という推奨がなされている。このときは1 件のRCT のみが検討対象とされた 7)が,さらに2 件のRCT が追加された 6, 8)今回も最終的な推奨は同等なものとなった。 SSCG in children 2020 9)でも初期輸液と循環作動薬で回復可能な小児敗血症性ショックと,不応な場合の小児敗血症性ショックに分けてステロイド使用の評価を行っている。回復可能な場合には,使用をしないことが弱く推奨されている(低いエビデンスの質)。一方,不応性の場合については,使用することが弱く推奨されている(低いエビデンスの質)。 Table 18-9-1 エビデンスプロファイル -S 346-
(12)実施に関わる検討事項 先天性副腎皮質過形成症を基礎に持つ患者や,長期間にわたってステロイド投与を受けている患者が敗血症に罹患した際には,ショックの有無に関係なくステロイドカバーが不可欠である。 (13)今後の研究の可能性 以下の内容に関する検討が求められるであろう。・二次感染,高血糖を含む合併症に関して・ 患者因子あるいは感染源などによる効果の不均質 性に関して・長期予後また機能予後に関して・ 持続的腎代替療法や血管作動薬の使用(必要性) に関して・コストに関してなお,2020 年現在28 日死亡をプライマリーアウトカムとしたRCT が行われている 10)。 文 献 1) Zimmerman JJ: A history of adjunctive glucocorticoid treatment for pediatric sepsis: moving beyond steroid pulp fiction toward evidence-based medicine. Pediatr Crit Care Med. 2007; 8: 530-9. 2) Zimmerman JJ, Williams MD: Adjunctive corticosteroid therapy in pediatric severe sepsis: Observations from the RESOLVE study. Pediatr Crit Care Med. 2011; 12: 2-8. 3) Atkinson SJ, Cvijanovich NZ, Thomas NJ, et al: Corticosteroids and pediatric septic shock outcomes: a risk stratified analysis. PLoS One. 2014; 9: e112702. 4) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 5) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 6) El-Nawawy A, Khater D, Omar H, et al: Evaluation of Early Corticosteroid Therapy in Management of Pediatric Septic Shock in Pediatric Intensive Care Patients: A Randomized Clinical Study. Pediatr Infect Dis J. 2017; 36: 155-9. 7) Valoor HT, Singhi S, Jayashree M: Low-dose hydrocortisone in pediatric septic shock: an exploratory study in a third world setting. Pediatr Crit Care Med. 2009; 10: 121-5. 8) Menon K, McNally D, O’Hearn K, et al: A Randomized Controlled Trial of Corticosteroids in Pediatric Septic Shock: A Pilot Feasibility Study. Pediatr Crit Care Med. 2017; 18: 505-12. 9) Weiss SL, Peters MJ, Alhazzani W, et al: Surviving sepsis campaign international guidelines for the management of septic shock and sepsis-associated organ dysfunction in children. Intensive Care Med. 2020; 46: 10-67. 10) Zimmerman J: Stress Hydrocortisone In Pediatric Septic Shock (SHIPSS). Available online at: https: / /clinicaltrials.gov / ct2 / show / study / NCT03401398. Accessed April 21, 2020. Table 18-9-2 判断の要約 -S 347-
CQ18-10:小児敗血症で循環動態が安定してい る場合に赤血球輸血はいつ開始するか? Answer:循環動態の安定している重篤な小児敗血症患者において,ヘモグロビン(Hb)値7.0g / dL を閾値として赤血球輸血を開始することを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 重篤な疾患の入室患者は,凝固能異常や造血能抑制などから貧血を来すことは少なくない。疾患背景の多様性あるいは幅広い年齢・体重の患者を扱うことなどから,小児集中治療においては成人患者にもまして慎重に輸血閾値を勘案する必要がある。近年では,特に必要以上の輸血曝露を避けるという観点から,より低い目標赤血球輸血閾値を中心にその是非についての検討がなされており 1-3),その診療における最新のエビデンスを整理しておくことは非常に有益であると考えられる。そのため本ガイドラインにおいて重要臨床課題として取り上げることとした。 なお,循環動態が安定している状況では,敗血症患者と非敗血症患者とで赤血球輸血の意義に大きな違いがあるとは考えにくく,本CQ では広く循環動態が安定している小児重症患者を対象とした。 (2)PICO P (患者):敗血症に限らず重篤な疾患(循環動態が 安定している場合)の小児患者(新生児領域を除く) I (介入):低めのHb 閾値での輸血開始C (対照):高めのHb 閾値での輸血開始O (アウトカム):全原因死亡,ICU 滞在日数,病院 滞在日数,人工呼吸期間,赤血球輸血合併症 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が2 件施行されており 4, 5),これらを用いたメタ解析を実施した。詳細な検索過程は付録を参照されたい。組み入れられた2件 4, 5)のRCT ではいずれも,介入群では赤血球輸血を開始するHb 閾値が低めに(両研究とも7g / dL),対照群では高めに(Lacroix 2007 では9.5g / dL 4), Akyildiz 2018 では10g / dL 5))設定されていた。このうち1 件のRCT では目標Hb 値も介入群では低め(8.5~9.5g / dL),対照群では高め(11~12g / dL)に設定されていた 4)が,もう1 件のRCT では両群とも目標Hb 値が設定されていなかった 5)。 (4)益と害のバランス(Table 18-10-1)望ましい効果: 全原因死亡(2 RCT: n =797)のアウトカムに関しては,介入の効果推定値はリスク差(RD)1,000 人あたり6 人少ない(95% CI: 28 人少ない~38 人多い)であった 4, 5)。また,ICU 滞在日数(2 RCT: n =797)と人工呼吸期間(2 RCT: n =797)のアウトカムに関しては,それぞれに対する介入の効果推定値は平均(MD)0.62 日短い(95% CI: 1.76 日短い~0.51 日長い),ならびにMD 0.00 日長い(95% CI: 0.84 日短い~ 0.84 日長い)であった 4, 5)。したがって,介入による 望ましい効果はわずかであると考えられた。望ましくない効果: 赤血球輸血合併症として,ヒト由来であるため,感染症やアナフィラキシーなどの副作用が挙げられる。また,赤血球輸血が水分負荷や肺障害を引き起こすこともありうる。 赤血球輸血合併症のアウトカム(1 RCT: n =637)に関しては,介入の効果推定値はRD 1,000 人あたり28 人多い(95% CI: 62 人少ない~153 人多い)と,望ましくない効果は増えない可能性が高い 4)。したがって,望ましくない効果はわずかであると考えられた。益と害のバランス: 本CQ では,赤血球輸血を開始するHb 閾値を低めに設定してもすべてのアウトカムにおいて効果なしという結果であったため,患者・家族が置くアウトカムの相対的価値の設定によらず,その効果のバランスは介入も比較もいずれも優位でない。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したすべてのアウトカムの効果推定値の方向性は一致している(効果なし)ため,一番高いアウトカムの確実性を全体としては採用した。アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「低」である。 (6)価値観 赤血球輸血における各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。救命可否や合併症のアウトカムに関する価値観の相違は考えづらいが,それでも輸血忌避の宗教的信条を優先する患者や家族もあり,価値観と意向は不確実である。 (7)容認性 有害事象のリスクは低く,介入に伴うコストは約 -S 348-
17,000 円(赤血球液2 単位)である。また,介入を実施するにあたっての医療者の労力は減少する。したがって,本介入は許容できる。 (8)実行可能性 輸血を制限する介入のほうが多くの医療施設では実行が容易である。 (9)判断の要約(Table 18-10-2) 望ましい効果と望ましくない効果にはいずれも差がなく,アウトカム全般にわたるエビデンスの確実性は「低」である。循環動態の安定している重篤な小児患者において,介入に関わるコストや拾い切れていない長期合併症などを考慮すると,高めのHb 閾値での赤血球輸血は推奨されないが,症例に応じた適応判断を否定するものではない。それらを総合的に判断し,条件付きの推奨とした。 (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.018 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:87.5%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では,CQ19-9 で目標Hb 値に関するCQ が挙げられており,「患者の状態によって対処は異なるが,ショック,低酸素血症より離脱した循環が安定した状態ではHgb >7g / dL を目標にできる」ことがエキスパートコンセンサスで記載されている 6, 7)。 SSCG in children 2020 では循環動態の安定している重篤な小児敗血症患者において,Hb >7.0 g / dL を閾値として赤血球輸血を開始することが弱く推奨されている(低いエビデンスの質) 8)。 また,循環動態が不安定な小児敗血症患者での赤血球輸血の閾値は定められていない。 2018 年に発表されたPediatr ic Cr itical Care Transfusion and Anemia Expertise Initiative (TAXI)においては,重症小児患者に対する赤血球輸血に関して複数の推奨が行われている 9)。すなわち,「重症または重症化リスクのある小児患者において,Hb <5.0 g / dL の場合には,赤血球輸血を行うことを推奨する Table 18-10-1 エビデンスプロファイル -S 349-
[強い推奨,低い質の小児エビデンス(1C)]」,「重症または重症化リスクのある小児患者において,循環動態が安定しておりかつHb ≧7.0g / dL の場合には,赤血球輸血を行わないことを推奨する[強い推奨,中等度の質の小児エビデンス(1B)]」,「Hb 5.0~7.0g / dLの重症小児患者に対しては,輸血閾値に関する推奨を作成するためのエビデンスが不十分である。しかしながら,患者の状態を臨床的に判断し輸血を検討することが妥当である(専門家パネルによるコンセンサス)」,「循環動態が安定している重症または重症化リスクのある小児患者において,輸血後のHb 目標値は輸血適応を解消するものであるべきだが,必ずしも年齢の正常値を達成する必要はないと推奨する。輸血後の妥当なHb 目標値は7.0 から9.5g / dL の間であろう[弱い推奨,低い質の小児エビデンス(2C)]」との記載がある 9)。さらに,同じTAXI による非出血性ショックの重症小児患者に限定した赤血球輸血に関する検討では,「循環動態が安定した重症敗血症または敗血症性ショックの重症小児患者において,Hb ≧7g / dL の場合には,赤血球輸血を行わないことを推奨する[弱い推奨,低い質の小児エビデンス(2C)]」と記載されている 10)。 (12)実施に関わる検討事項 本CQ で採用された2 つのRCT 4, 5)からは,循環動態の安定している重篤な小児敗血症患者において, Hb 値7g / dL 以下に至ったら赤血球輸血を開始することが妥当と考えられる。また,チアノーゼ性心疾患などの基礎疾患を持つ患者では,より高めの閾値での赤血球輸血の開始を考慮する必要があるかもしれない。 (13)今後の研究の可能性 今後の研究として,小児敗血症患者に限定した赤血球輸血を開始するHb閾値設定の検証が強く望まれる。 文 献 1) Hébert PC, Wells G, Blajchman MA, et al: A multicenter, randomized, controlled clinical trial of transfusion requirements in critical care. Transfusion Requirements in Critical Care Investigators, Canadian Critical Care Trials Group. N Engl J Med. 1999; 340: 409-17. 2) Carson JL, Stanworth SJ, Roubinian N, et al: Transfusion thresholds and other strategies for guiding allogeneic red blood cell transfusion. Cochrane Database Syst Rev. 2016; 10: CD002042. 3) Rygård SL, Holst LB, Wetterslev J, et al: Long-term outcomes in patients with septic shock transfused at a lower versus a higher haemoglobin threshold: the TRISS randomised, multicentre clinical trial. Intensive Care Med. 2016; 42: 1685-94. 4) Lacroix J, Hébert PC, Hutchison JS, et al: Transfusion strategies for patients in pediatric intensive care units. N Engl J Med. 2007; 356: 1609-19. 5) Akyildiz B, Tekerek NU, Pamukcu O, et al: Comprehensive Analysis of Liberal and Restrictive Transfusion Strategies in Pediatric Intensive Care Unit. J Trop Pediatr. 2018; 64: 118-25. 6) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 7) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 8) Weiss SL, Peters MJ, Alhazzani W, et al: Surviving sepsis campaign international guidelines for the management of septic shock and sepsis-associated organ dysfunction in children. Intensive Care Med. 2020; 46: 10-67. 9) Doctor A, Cholette JM, Remy KE, et al: Recommendations on RBC Transfusion in General Critically Ill Children Based on Table 18-10-2 判断の要約 -S 350-
Hemoglobin and / or Physiologic Thresholds From the Pediatric Critical Care Transfusion and Anemia Expertise Initiative. Pediatr Crit Care Med. 2018; 19: S98-113. 10) Muszynski JA, Guzzetta NA, Hall MW, et al: Recommendations on RBC Transfusions for Critically Ill Children With Nonhemorrhagic Shock From the Pediatric Critical Care Transfusion and Anemia Expertise Initiative. Pediatr Crit Care Med. 2018; 19: S121-6. CQ18-11:小児敗血症に対して,敗血症の治療 として血液浄化療法を行うか?(血漿交換を含む) Answer:小児敗血症に対して,敗血症の治療として血液浄化療法を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。コメント:血漿交換などによる治療適応がある原疾患(血栓性血小板減少性紫斑病など)の治療や,高カリウム血症などを伴う重篤な急性腎障害や,利尿薬に不応の溢水の管理に対する腎代替療法の施行を否定するものではない。 (1)背景および本CQ の重要度 小児敗血症患者の死亡率は依然として高く,救命率を向上させる治療・介入方法の確立は重要な命題である。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016では小児敗血症に対する治療目的の血液浄化療法の施行について推奨の提示はできない,と結論づけた 1, 2)が,実臨床の現場においては小児敗血症患者に対する治療目的での血液浄化療法施行の可否に関する判断に多様性がある。小児における血液浄化療法の導入は,体格などの問題からブラッドアクセス確保の困難性などの小児特有の問題点を有する。以上により,本ガイドラインに取り上げるべき重要臨床課題であると考える。 (2)PICO P (患者):Goldstein 定義での重症敗血症,または 感染症による臓器障害として定義される敗血症小児患者I (介入):血液透析,血液濾過,血液吸着,血漿交 換などの血液浄化療法施行(ただし腹膜透析は含まない) C (対照):血液浄化療法非施行O (アウトカム):全原因死亡,ICU 滞在日数,人工 呼吸期間,ショック離脱期間,あらゆる重篤な副作用 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が1 件施行されており 3),これらを用いたメタ解析を実施した。 -S 351-
(4)益と害のバランス(Table 18-11-1)望ましい効果: 今回の事前設定に基づいた検索により対象となった研究は1 件のみであった 3)。ICU 滞在日数,人工呼吸期間,ショック離脱期間という各アウトカムに関してはデータがなく評価できなかったが,全原因死亡は増加すると推定されるため,望ましい効果はわずかであると考えられた。望ましくない効果: 全原因死亡というアウトカム(1 RCT: n =48)に関して,効果推定値はRD 1,000 人あたり377 人多い(95% CI: 30 人少ない~1,000 人多い)であるが,小規模な1 件のRCT のみのデータであることから,介入による望ましくない効果は中等度と判断した 3)。なお,あらゆる重篤な副作用というアウトカムに関してはデータがなかったため評価できなかった。益と害のバランス: エビデンスの示せる主要アウトカムにおいて,血液浄化療法を施行することに関する望ましい効果はわずかである。その一方で,望ましくない効果は中等度と考えられた。効果のバランスは比較がおそらく優位である。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用されたすべてのアウトカムのうち,効果推定値を得られたアウトカムは1 件のみであり,そのバイアスのリスクは深刻と判断した。また,検討されたアウトカムにおける不精確さも非常に深刻であったことから,そのアウトカムのエビデンスの確実性は「非常に低」である。したがって,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」である。 (6)価値観 小児敗血症患者に対する血液浄化療法に関して,主要アウトカムに対する患者・家族の価値観についてのデータはない。しかしながら,一般的に,救命の可否 に対して置かれる相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 2019 年10 月現在,本邦では,敗血症に対して持続緩徐式血液濾過(1 日につき1,990 点)の診療報酬算定は認められているが,血漿交換療法(1 日につき42,000 点)は保険適用外である。血液浄化療法を施行するためには血液透析カテーテルの挿入が必要となる。血液透析カテーテル14,800~21,600 円,血液透析用モジュール24,100~26,500 円,血漿交換用モジュール24,900 円,血液浄化用回路7,000 円であり,そのうえ抗凝固薬や多量の置換液(5% アルブミンや新鮮凍結血漿),各種検査も必要となる。また,小児の血液浄化症例が乏しい施設で,各年齢層に応じたサイズのデバイス一式を常備することは現実的とはいえない。 一方,体格の小さな小児患者,特に乳幼児へのカテーテル挿入の際には少なからず鎮痛・鎮静・不動化・気管挿管・人工呼吸管理が必要であり,かつ安定した血液浄化療法を継続的に実施するために要する看護師や臨床工学技士の労力は多大である。 以上から,相当の効果が期待できない限り,本介入は容認しがたい。 (8)実行可能性 血液浄化療法を施行するには血液透析用カテーテルの挿入が必要であり,体格の小さな小児患者へのカテーテル挿入は習熟した技術を要する。また,体格の小さな小児患者,特に乳幼児で安定して体外補助循環を稼働させることは,かなりの経験を要する。小児集中治療に習熟した医師を含む医療者がいれば実行可能であるが,すべての医療施設に同様の集中治療医が従事しているわけではないため,実行可能性について多様性が生じると考えられる。 Table 18-11-1 エビデンスプロファイル -S 352-
(9)判断の要約(Table 18-11-2) 敗血症の治療として血液浄化療法を実施することによる望ましくない効果は中等度で,介入による望ましい効果はわずかであり,血液浄化療法をしないことの効果が優位であると考えられる。アウトカム全般にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」であり,介入の容認性や実行可能性も乏しい。小児敗血症に対する標準的治療として血液浄化療法を施行することは好ましくないが,症例に応じた適応判断を否定するまでの効果のバランスの優位は示されないため,条件付きの非推奨とした。なお,本CQ の推奨は,適応のある原疾患に対して血漿交換などを施行したり,重篤な急性腎障害や利尿薬に不応の溢水に対して腎代替療法を実施したりすることを否定するものではない。 (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 J-SSCG 2016 では「小児敗血症性ショック治療の目的で血液浄化療法を行うか?」というCQ に対して,小児敗血症性ショック治療目的の血液浄化療法に対して,現時点では十分なエビデンスがなく推奨の提示はできない(エキスパートコンセンサス / エビデンスなし)としている 1, 2)。なお,同ガイドラインと本ガイドラインの推奨の相違に関しては,今回はGRADE による評価を行ったことに注意されたい。また,SSCG in children 2020 では,血液浄化療法に 関して以下の4 つの記載がある 4)。「血小板減少を伴わない敗血症性ショックやその他の敗血症関連臓器機能障害の小児患者において,血漿交換を行わないことを提案する(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)」「血小板減少を伴う敗血症性ショックやその他の敗血症関連臓器機能障害の小児患者において,血漿交換を行うことに関して賛成も反対も表明できない」「輸液制限や利尿療法に反応しない敗血症性ショックやその他の敗血症関連臓器機能障害の小児患者において,体液過剰を予防したり治療したりするために腎代替療法を行うことを提案する(弱い推奨,非常に低い質のエビデンス)」「腎代替療法による治療を受けている敗血症性ショックやその他の敗血症関連臓器機能障害の小児患者において,標準的な血液濾過を上回る高容量血液濾過を行わないことを提案する(弱い推奨,低い質のエビデンス)」 (12)実施に関わる検討事項 敗血症の治療として血液浄化療法を行わないことが望まれる。その一方で,本CQ の推奨は,血漿交換などによる治療適応がある原疾患(血栓性血小板減少性紫斑病など)に対する治療を目的とした施行や,重篤な急性腎障害(無尿や高カリウム血症などを伴うもの)や保存的治療で管理できない溢水状態に対する腎代替療法としての施行を否定するものではない。 Table 18-11-2 判断の要約 -S 353-
(13)今後の研究の可能性 近年,成人領域において,敗血症の治療目的での血液浄化療法の効果に関して否定的な方向に傾きつつある現状を鑑みると 5-8),小児敗血症を対象とした治療目的での血液浄化療法の研究は実施しづらいと考えられる。 文 献 1) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 2) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 3) Long EJ, Taylor A, Delzoppo C, et al: A randomised controlled trial of plasma filtration in severe paediatric sepsis. Crit care Resusc. 2013; 15: 198-204. 4) Weiss SL, Peters MJ, Alhazzani W, et al: Surviving sepsis campaign international guidelines for the management of septic shock and sepsis-associated organ dysfunction in children. Intensive Care Med. 2020; 46: 10-67. 5) Joannes-Boyau O, Honoré PM, Perez P, et al: High-volume versus standard-volume haemofiltration for septic shock patients with acute kidney injury (IVOIRE study): a multicentre randomized controlled trial. Intensive Care Med. 2013; 39: 1535-46. 6) Clark E, Molnar AO, Joannes-Boyau O, et al: High-volume hemofiltration for septic acute kidney injury: a systematic review and meta-analysis. Crit Care. 2014; 18: R7. 7) Borthwick EM, Hill CJ, Rabindranath KS, et al: High-volume haemofiltration for sepsis in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2017; 1: CD008075. 8) Dellinger RP, Bagshaw SM, Antonelli M, et al: Effect of Targeted Polymyxin B Hemoperfusion on 28-Day Mortality in Patients With Septic Shock and Elevated Endotoxin Level: The EUPHRATES Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018; 320: 1455-63. CQ18-12:小児敗血症に対して,免疫グロブリ ン(IVIG)投与を行うか? Answer:小児敗血症に対して,免疫グロブリン(IVIG)投与を行わないことを弱く推奨する(エキスパートコンセンサス:エビデンス不十分)。 (1)背景および本CQ の重要度 本邦では重症感染症に対する免疫グロブリン(IVIG)の投与が健康保険適用となっており,臨床予後の改善効果が不明なまま,広く投与されている。一方,海外では免疫修飾(immunomodulation)を目的とした,より大量の投与が試みられているが,その効果は研究によって一貫性がなく,新生児を除く小児領域での質の高いランダム化比較試験(RCT)も不足している 1-4)。成人領域ではIVIG を投与しないことが弱く推奨されているが 5, 6),小児領域ではIVIG 投与の有効性・有害性の評価は定まっていない。また,血漿分画製剤であるIVIG は高額であり,その臨床効果を明確にする意義は大きい。小児敗血症患者の致死率は高く,治療成績を向上させる介入方法の確立は重要であり,小児敗血症診療におけるIVIG 投与に臨床現場での判断にも多様性があるため,本CQ の優先度は高いといえる。 (2)PICO P (患者):Goldstein 定義での敗血症性ショック, 重症敗血症,または感染症による臓器障害を来した小児患者(新生児領域,先天性免疫不全・低ガンマグロブリン血症を除く) I (介入):すべてのIVIG 投与C (対照):IVIG 非投与,プラセボ群O (アウトカム):死亡,ショック離脱期間,人工呼 吸期間,ICU 滞在日数,副作用 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したRCT が1 件抽出された 7)が,非常に小規模でバイアスの強い論文であるため,そのエビデンスだけを利用した推奨作成を回避することが,委員会議論にて全会一致で同意された。 (4)益と害のバランス望ましい効果: IVIG により病原微生物や毒素に対する中和抗体が供給され,大量投与すると免疫調整作用を通じて炎症 -S 354-
を軽減する薬理作用が期待されている。しかし,成人領域ではその効果は否定的であり(CQ5-1 参照),かつ本ガイドラインの対象外とはいえ,NICU 領域で早産児を主体に実施された質の高い大規模多施設RCT (INIS trial) 4)やそれを含むメタ解析において 1, 8),重症感染症に対するIVIG の治療効果が明確に否定されたことを考慮すると,その間の年齢層である小児領域においてもIVIG に望ましい効果はわずかであると推定される。望ましくない効果: IVIG の重篤な副作用としてアナフィラキシーや急性腎障害,肝機能障害,無菌性髄膜炎,血管外漏出などが挙げられるが,重大なものは少なく頻度も低いため,望ましくない効果はわずかと考えられる。益と害のバランス: 望ましい効果も望ましくない効果もわずかであり,効果のバランスとしては介入も比較もいずれも優位でないと考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 本CQ においては1 件のRCT が検索された 7)が,小規模でバイアスの非常に強い論文であるため,そのエビデンスだけを利用した推奨作成を回避することが,委員会議論にて全会一致で同意された。したがって,本CQ のEtD の作成にあたって採用されたRCTは存在しない。 (6)価値観 一般的に死亡アウトカムに対する相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想されるが,血漿 分画製剤であるため,宗教的信条などを優先させて投与を望まない患者や家族もいる可能性がある。 (7)容認性 免疫グロブリン製剤5g で約40,000 円と高価である。一方,薬剤投与に特別な手技を必要とせず,1 日1 回3 日間の投与であり,医療者の仕事量の増加は著しくない。効果のバランスを勘案すると,医療経済の観点より,本介入はおそらく容認されない。 (8)実行可能性 IVIG は入手困難な薬剤ではなく,ほとんどの施設で投与可能である。 (9)判断の要約(Table 18-12-1) 推奨内容を検討するうえで判断の根拠となりうるエビデンスは存在しない。しかしながら,NICU 領域で早産児を主体に実施された質の高い大規模多施設RCT 4)やそれを含むメタ解析 1, 8)において重症感染症に対するIVIG の治療効果が明確に否定されたこと,また成人領域でもIVIG の効果が否定されていること(CQ5-1 参照)を考えると,その間の年齢層の小児領域においてのみ敗血症に対するIVIG 投与に害を上回る益は期待しづらいと推定された。さらに,高額なコストに関わる容認性を考慮すると,本介入を推奨することは妥当ではないと判断した。 ただし,症例に応じたIVIG 投与の適応を否定するものではない。それらを総合的に判断し,介入への反 Table 18-12-1 判断の要約 -S 355-
対を条件付きで推奨することとした。 (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:100%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SCCG)2016 においては,「小児敗血症に対して免疫グロブリン療法を行うか?」というCQ に対して,「小児敗血症に対して,標準治療としては免疫グロブリン療法を行わないことを推奨する(エキスパートコンセンサス / エビデンスなし)」と記載している 9, 10)。 SSCG in children 2020 においても,「敗血症性ショックまたは敗血症関連臓器機能障害の小児患者に対してルーチンでIVIG を投与しないことを提案する(弱い推奨,低いエビデンスの質)」としている 11)。 (12)実施に関わる検討事項 感染症全例に対してIVIG を標準的治療として行うことは推奨されない。 (13)今後の研究の可能性 小児敗血症におけるIVIG 投与に対する質の高いRCT が実施されることが望まれる。その際には,投与前の低ガンマグロブリン血症の有無に応じた層別化が行われることが理想的であろう。 なお,今回推奨内容を検討するうえで1 件のRCTが検索された 7)が,小規模でバイアスが非常に強いものであったことからエビデンスとしての採択を見送った。しかし,小児敗血症に対するIVIG の要否を検討する新たなRCT が将来出版された後には,今回採択しなかったRCT 7)をそれらの研究と統合しメタ解析を行うことを排除するものではない。 文 献 1) Alejandria MM, Lansang MA, Dans LF, et al: Intravenous immunoglobulin for treating sepsis, severe sepsis and septic shock. Cochrane Database Syst Rev. 2013; 2013: CD001090. 2) Busani S, Damiani E, Cavazzuti I, et al: Intravenous immunoglobulin in septic shock: review of the mechanisms of action and meta-analysis of the clinical effectiveness. Minerva Anestesiol. 2016; 82: 559-72. 3) Aubron C, Berteau F, Sparrow RL: Intravenous immunoglobulin for adjunctive treatment of severe infections in ICUs. Curr Opin Crit Care. 2019; 25: 417-22. 4) INIS Collaboration Group: Treatment of neonatal sepsis with intravenous immune globulin. N Engl J Med. 2011; 365: 1201-11. 5) Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al: Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Crit Care Med. 2013; 41: 580-637. 6) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Crit Care Med. 2017; 45: 486-552. 7) El-Nawawy A, El-Kinany H, Hamdy El-Sayed M, et al: Intravenous polyclonal immunoglobulin administration to sepsis syndrome patients: a prospective study in a pediatric intensive care unit. J Trop Pediatr. 2005; 51: 271-8. 8) Ohlsson A, Lacy JB: Intravenous immunoglobulin for suspected or proven infection in neonates. Cochrane Database Syst Rev. 2020; 1: CD001239. 9) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 10) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 11) Weiss SL, Peters MJ, Alhazzani W, et al: Surviving sepsis campaign international guidelines for the management of septic shock and sepsis-associated organ dysfunction in children. Intensive Care Med. 2020; 46: 10-67. -S 356-
CQ18-13:小児敗血症に対して,厳密な血糖管 理を行うか? Answer:小児敗血症に対して,厳密な血糖管理を行わないことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 高血糖の発生は,成人と同様に小児においても免疫能に影響を与え感染症を増悪させ,高い死亡率や病院滞在日数の長さとの関連など予後を悪化させる可能性があり 1-4),敗血症患者における血糖管理は重要な治療法の1 つと考えられている。インスリンを使用した血糖管理の重要な害として低血糖があり,低血糖の発生は重症患者の予後悪化と関連する 2, 5)。このため,小児敗血症患者に対する厳密な血糖管理の是非に関して,本ガイドラインに取り上げるべき重要臨床課題であると考える。なお,厳密な血糖管理の意義は,小児敗血症患者とその他の集中治療管理を要する小児患者とで違いがあるとは考えにくいため,本CQ の対象は敗血症に限定しなかった。 (2)PICO P (患者):集中治療管理中の小児患者I (介入):厳密な血糖管理C (対照):通常の血糖管理 O (アウトカム):全原因死亡,ICU 滞在日数,人工 呼吸期間,低血糖 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が5 件施行されており 6-10),これらを用いたメタ解析を実施した。 (4)益と害のバランス(Table 18-13-1)望ましい効果: 全原因死亡(5 RCT: n =3,923)というアウトカムに関して,効果推定値はリスク差(RD)1,000 人あたり1 人少ない(95% CI: 14 人少ない~17 人多い)であり 6-10),ICU 滞在日数(3 RCT: n =3,049)は平均(MD)0.50 日短い(95% CI: 0.52 日短い~0.48 日短い) 6, 8, 9)であり,人工呼吸期間(3 RCT: n =3,049)はMD 0.30 日短い(95% CI: 0.32 日短い~0.27 日短い)であった。介入による望ましい効果はわずかであると考えられた。望ましくない効果: インスリンによる有害事象である低血糖は,特に発達中でエネルギー要求の高い小児の中枢神経系に不可逆的悪影響を起こしうる重大な合併症である。低血糖(5 RCT: n =3,933)は,効果推定値はRD 1,000 人あ Table 18-13-1 エビデンスプロファイル -S 357-
たり105 人多い(95% CI: 66 人多い~166 人多い)であった 6-10)。したがって,介入による望ましくない効果は大きいと考えられた。益と害のバランス: 厳密な血糖管理の望ましい効果はわずかであり,一方,望ましくない効果は大きいと考えられた。したがって,効果のバランスとしては比較がおそらく優位であると考える。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 介入によりICU 滞在日数と人工呼吸期間はわずかながら短縮する効果が予期される一方で,低血糖は増加する効果が予期されるため,各アウトカムの効果の方向性は異なっている。したがって,アウトカム全般にわたる全体的なエビデンスの確実性は「低」である。 (6)価値観 小児敗血症患者に対する厳密な血糖管理に関して,主要アウトカムに対する患者・家族の価値観についてのデータはない。一般的に,救命の可否に対して置かれる相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 高血糖に対する降下療法として頻用されるインスリンのコストは,約300 円/100 単位であり,患者・家族の個人の視点から許容できると考えられる。一方,インスリン持続投与を導入すると,低血糖の合併症を回避するために,医療者は頻繁な血糖値の確認を余儀 なくされ,労力は確実に増加する。これらを総合的に勘案すると,明らかな利益が認められない限り,本介入はおそらく容認できない。 (8)実行可能性 介入は多くの医療施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 18-13-2) 望ましい効果はわずかで,望ましくない効果は大きく,アウトカム全般にわたるエビデンスの確実性は「低」である。小児敗血症に対する厳密な血糖管理は好ましくないが,症例に応じた適応判断を否定するまでの効果のバランスの優位は示されないため,条件付きの非推奨とした。 (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:100%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 では同CQ を取り上げ,小児敗血症において厳密な血糖管理を行わないことを推奨する(1B:効果の推定値に中程度の確信がある推奨)としている 11, 12)。また, SSCG in children 2020 では,血糖値を140mg / dL 以下を目標値とするインスリン療法を行わないことを推奨している(強い推奨,中程度のエビデンスの質)が, Table 18-13-2 判断の要約 -S 358-
具体的な目標血糖値の範囲を設定することに関する推奨は論じられない,と結論づけている 13)。 一方,重症小児の栄養ガイドラインでのこの問題の扱いは,欧州小児新生児集中治療学会(European Society of Pediatric and Neonatal Intensive Care: ESPNIC)による2020 年版のガイドラインにおいて,「低血糖を回避するのに十分,かつ高血糖を予防できるだけの過剰でない量のブドウ糖を経静脈的に投与すべきである。(推奨度D,強いコンセンサス)」とだけ記載されており,具体的な血糖値の管理目標や厳密な管理に関しては言及されていない 14)。なお,米国集中治療医学会(Society of Critical Care Medicine: SCCM)と米国静脈経腸栄養学会(American Society for Parenteral and Enteral Nutrition: ASPEN)による2017 年版の重症小児患者の栄養ガイドラインにおいては,血糖管理に関して全く言及されていない 15)。 (12)実施に関わる検討事項 厳密な血糖管理については行わないことを推奨したが,浸透圧利尿を来すとされる180mg / dL を超える高血糖が持続する場合におけるインスリン使用を制限するものではない。 なお,採用されたRCT における血糖値の管理目標値が参考になる(Table 18-13-3)。 (13)今後の研究の可能性 小児敗血症患者に限定した厳密な血糖管理の研究が行われることが理想的ではあるが,本CQ の検討結果や,成人領域において厳密な血糖管理の有効性を疑問視する見方を踏まえると,研究実施は現実的ではないかもしれない。 文 献 1) Branco RG, Garcia PC, Piva JP, et al: Glucose level and risk of mortality in pediatric septic shock. Pediatr Crit Care Med. 2005; 6: 470-2. 2) Wintergerst KA, Buckingham B, Gandrud L, et al: Association of hypoglycemia, hyperglycemia, and glucose variability with morbidity and death in the pediatric intensive care unit. Pediatrics. 2006; 118: 173-9. 3) Hirshberg E, Larsen G, Van Duker H: Alterations in glucose homeostasis in the pediatric intensive care unit: Hyperglycemia and glucose variability are associated with increased mortality and morbidity. Pediatr Crit Care Med. 2008; 9: 361-6. 4) Yung M, Wilkins B, Norton L, et al: Glucose control, organ failure, and mortality in pediatric intensive care. Pediatr Crit Care Med. 2008; 9: 147-52. 5) Faustino EV, Bogue CW: Relationship between hypoglycemia and mortality in critically ill children. Pediatr Crit Care Med. 2010; 11: 690-8. 6) Vlasselaers D, Milants I, Desmet L, et al: Intensive insulin therapy for patients in paediatric intensive care: a prospective, randomised controlled study. Lancet. 2009; 373: 547-56. 7) Jeschke MG, Kulp GA, Kraft R, et al: Intensive insulin therapy in severely burned pediatric patients: a prospective randomized trial. Am J Respir Crit Care Med. 2010; 182: 351-9. 8) Agus MSD, Steil GM, Wypij D, et al: Tight glycemic control versus standard care after pediatric cardiac surgery. N Engl J Med. 2012; 367: 1208-19. 9) Macrae D, Grieve R, Allen E, et al: A randomized trial of hyperglycemic control in pediatric intensive care. N Engl J Med. 2014; 370: 107-18. 10) Agus MSD, Wypij D, Hirshberg EL, et al: Tight glycemic control in critically Ill children. N Engl J Med. 2017; 376: 729-41. 11) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 12) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他: 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 13) Weiss SL, Peters MJ, Alhazzani W, et al: Surviving sepsis campaign international guidelines for the management of septic shock and sepsis-associated organ dysfunction in children. Intensive Care Med. 2020; 46: 10-67. 14) Tume LN, Valla FV, Joosten K, et al: Nutritional support for children during critical illness: European Society of Pediatric and Neonatal Intensive Care (ESPNIC) metabolism, endocrine and nutrition section position statement and clinical recommendations. Intensive Care Med. 2020; 46: 411-25. 15) Mehta NM, Skillman HE, Irving SY, et al: Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Pediatric Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition. Pediatr Crit Care Med. 2017; 18: 675-715. Table 18-13-3 採用された各研究における血糖値の管理目標値 Trial Intervention Control Vlasselaers 2009 6) Infant: 50-80mg / dL Children: 70-100mg / dL ≦214mg / dL Jeschke 2010 7) 80-110mg / dL 140-180mg / dL Agus 2012 8) 80-110mg / dL “standard care”(担当医の判断) Macrae 2014 9) 72-126mg / dL < 216mg / dL Agus 2017 10) 80-110mg / dL 150-180mg / dL -S 359-
CQ19:神経集中治療 敗血症は様々な臓器障害を引き起こすが,脳も障害される臓器の一つであり,様々な症状を呈することが知られている 1)。また,脳障害を合併した敗血症患者は,脳障害を合併しない敗血症患者と比較して,有意に死亡率が高くなることが報告されている 2)。敗血症における脳障害の原因は様々で,病態生理学的な発生機序は複合的であり 3),敗血症関連脳障害と脳神経疾患の合併の鑑別が必要である。治療可能な原因への早期介入を行い,神経学的な予後を改善することができる可能性がある 1)ため,敗血症における脳障害の鑑別と診断は重要である。 敗血症における脳障害の鑑別診断〔診療フロー〕Crit Care Med. 2009; 37 (10 Suppl): S331-6. を参照して作成 -S 360-
CQ19-1:意識障害,痙攣,麻痺などの症状から 脳障害を疑う敗血症患者における鑑別疾患とその検査方法は? Answer:脳障害の原因が複合していることも想定し,まず頭蓋内病変(脳卒中など)および潜在的原因(代謝異常など)を鑑別する。検査には,頭部画像検査,持続脳波モニタリング,生化学検査,原因となる薬剤の確認,そして,必要に応じて髄液検査がある。なかでも巣症状が認められれば,頭部画像検査が優先される(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症患者では,神経学的異常所見を伴うことは珍しくない。神経学的異常への対応として,敗血症の治療が中心となる狭義の敗血症関連脳障害以外に,脳梗塞,非痙攣性てんかん重積状態,薬剤性脳症,続発性髄膜炎など,治療の追加や治療内容の変更が必要となる脳障害を見逃さないことが重要であり,本ガイドラインのCQ として取り上げる必要があると考えた。 (2)解説 敗血症における脳障害の原因は,A)狭義の敗血症関連脳障害,B)広義の敗血症関連脳障害,そしてC)敗血症に合併した脳神経疾患に分けることができる 1, 4)が,実際はこれらの病態生理が複合していることが多い 5)。特にB)およびC)は特異的な治療が必要な場合があるため,鑑別を考えることが重要である。敗血症による脳障害は,せん妄,軽度の意識障害から昏睡まで多様な症状を呈する 4)。1)敗血症における脳障害の分類 A) 狭義の敗血症関連脳障害炎症性メディエータによる脳への直接的影響で あり,いわゆる敗血症関連脳症(sepsis-associated encephalopathy)と呼ばれる病態である 4)。敗血症に伴い増加した炎症性メディエータにより,血管内皮細胞の活性化,血液脳関門の破綻,血管自己調節機能の破綻,脳組織への好中球の遊走,ミクログリアの活性化,神経伝達物質の調節障害,ミトコンドリア不全などが生じ,びまん性の脳障害が引き起こされる。重症の場合,MRI 上では白質脳症の像を呈することがある 6, 7)。B) 広義の敗血症関連脳障害低血圧,低酸素,腎機能障害による尿毒症や電 解質異常,肝機能障害による高アンモニア血症などの敗血症による脳以外の臓器障害,または薬剤などによって間接的に引き起こされる脳障害であ る 1, 4, 6)。C) 敗血症に合併した脳神経疾患感染性心内膜炎に合併した髄膜炎,感染性脳動 脈瘤の破裂によるくも膜下出血,脳膿瘍,脳灌流低下による脳梗塞や,てんかん重積など,敗血症に合併した新たな中枢神経系における病態のことである。2)敗血症における脳障害の鑑別疾患とその検査方法 敗血症における脳障害のうち,狭義の敗血症関連脳障害以外は,敗血症の治療に加えて何らかの介入が必要となる場合があるため,敗血症における脳障害の分類と診断を考えることは重要である。可能であれば鎮静薬を中止または減量し,薬剤による影響を最小限にしたうえで身体所見をとることから鑑別診断を開始する。身体所見に基づいた鑑別の進め方の1 例として, 1巣症状または瞳孔の異常があるか? 2ミオクローヌスがあるか? 3昏睡か? 4興奮状態または過活動型せん妄か? の4 つの状態に分類して鑑別を進める方法がある 4, 8)。 1巣症状または瞳孔の異常があれば,低血圧や低灌流による脳梗塞,凝固障害による脳出血など,器質的な異常が鑑別の上位に挙がるため,CT やMRI などの頭部画像検査を優先することを考慮する。 2ミオクローヌスがあり,意識障害が軽度の場合,電解質異常,尿毒症,肝性脳症などの代謝異常,または抗菌薬による薬剤性脳症などが原因である可能性を考慮し,生化学検査および使用している薬剤の確認が優先される。腎不全や肝障害による代謝異常がある患者で,ミオクローヌスと重度の意識障害を認めた場合は,非痙攣性てんかん重積状態を合併している可能性を考慮し,持続脳波モニタリングを行うことをヨーロッパ神経集中治療医学会は推奨している 9)。 3患者が昏睡である場合,非痙攣性てんかん重積状態,代謝異常,薬剤などが鑑別の上位に挙がる。しかし,緊急の介入が必要となる可能性がある頭蓋内出血などの器質的疾患の合併を最初に否定することが重要である。頭部の画像検査を行った後,血液検査,薬剤を確認する。それでも原因が不明な場合は,可能であれば持続脳波モニタリングを施行する。鎮痛・鎮静薬の過剰投与や効果の遷延が疑われる場合はフルマゼニルやナロキソンなどの拮抗薬を投与し,意識が改善するかを確認する。脳波上,発作波と解釈されるような所見が認められず,徐波,シータ波またはサプレッションパターンが優位に認められた場合は,意識障害の原因として狭義の敗血症関連脳障害,または低灌流 -S 361-
によるびまん性の脳虚血状態,鎮静薬の過剰投与や効果の遷延などの広義の敗血症関連脳障害が鑑別に挙がる 3)。 4興奮状態または過活動型せん妄と判断した場合,電解質異常,代謝異常の有無の確認と,せん妄を助長する薬剤や不必要なデバイスの有無を確認する。また,せん妄の原因がアルコール離脱やベンゾジアゼピン離脱であることが見逃されていることが多く,過去の服薬歴や飲酒量,最終飲酒を確認することが重要である 4)。 上記の1~4の中で挙げられた鑑別以外にも,敗血症に合併した脳神経疾患の合併を考えることが重要である。その中でも髄膜炎の合併は抗菌薬の種類や投与量の変更が必要となる場合があるため,特に診断が重要である。様々な中枢神経系以外の感染源による敗血症の中で,髄膜炎を合併することが稀ではないものは,細菌性肺炎,中耳炎,副鼻腔炎,そして感染性心内膜炎である 10)。感染性心内膜炎と髄膜炎の合併については,どちらが続発性であるかの区別が不可能な場合が多く,感染性心内膜炎に髄膜炎を合併する頻度は研究によって0~20% とばらつきがある 10, 11)。遠隔の感染源からの続発性髄膜炎の起因菌として頻度が高いものは,黄色ブドウ球菌と肺炎球菌である 10, 11)。1,025 人の髄膜炎患者を調査した後ろ向き研究では,感染性心内膜炎と髄膜炎を合併した症例のうち,原因菌として黄色ブドウ球菌(33%)と肺炎球菌(54%)が大部分を占めている 12, 13)。患者側のリスク因子として,アルコール依存患者,免疫不全患者が報告されている。 文 献 1) Oddo M, Taccone FS: How to monitor the brain in septic patients? Minerva Anestesiol. 2015; 81: 776-88. 2) Eidelman LA, Putterman D, Putterman C, et al: The spectrum of septic encephalopathy. Definitions, etioloqies, and mortalities. JAMA. 1996; 275: 470-3. 3) Sonneville R, Verdonk F, Rauturier C, et al: Understanding brain dysfunction in sepsis. Ann. Intensive Care. 2013; 3: 15. 4) Iacobone E, Bailly-Salin J, Polito A, et al: Sepsis-associated encephalopathy and its differential diagnosis. Crit Care Med. 2009; 37(10 Suppl): S331-6. 5) Gofton TE, Bryan Young G: Sepsis-associated encephalopathy. Nat Rev Neurol. 2012; 8: 557-66. 6) Polito A, Eischwald F, Maho AL, et al: Pattern of brain injury in the acute setting of human septic shock. Crit Care. 2013; 17: R204. 7) Sharshar T, Gray F, Poron F, et al: Multifocal necrotizing leukoencephalopathy in septic shock. Crit Care Med. 2002; 30: 2371-5. 8) Tokuda Y, Nakazato N, Stein GH: Pupillary evaluation for differential diagnosis of coma. Postgra Med J. 2003; 79: 49-51. 9) Claassen J, Taccone FS, Horn P, et al: Recommendations on the use of EEG monitoring in critically ill patients: Consensus statement from the neurointensive care section of the ESICM. Intensive Care Med. 2013; 39: 1337-51. 10) van de Beek D, de Gans J, Spanjaard L, et al: Clinical features and prognostic factors in adults with bacterial meningitis. N Engl J Med. 2004; 351: 1849-59. 11) Angstwurm K, Halle E, Wetzel K, et al: Isolated bacterial meningitis as the key syndrome of infective endocarditis. Infection. 2004; 32: 47-50. 12) Kanakadandi V, Annapureddy N, Agarwal SK, et al: The Austrian syndrome: A case report and review of the literature. Infection. 2013; 41: 695-700. 13) Lucas MJ, Brouwer MC, van der Ende A, et al: Endocarditis in adults with bacterial meningitis. Circulation. 2013; 127: 2056-62. -S 362-
CQ20:Patient- and Family-Centered Care 集中治療医学の発展とエビデンスの集積,診療ガイドラインの普及などにより,敗血症患者における比較的短期の生命予後は近年目覚ましく改善している 1)。一方で,敗血症患者を対象にした多国間共同ランダム化比較試験(RCT) 2)では,入院前の生活が自立していた2,130 名の患者のうち約3 分の1 が6 か月後以内に死亡し,6 か月後にQOL の測定を実施できた580名のうち41.6% の患者が自立した生活を送ることができない状況にあったと報告している。このような状況などを鑑み,米国集中治療医学会は,2012 年に集中治療後症候群(post intensive care syndrome: PICS)という重要な概念を提唱した 3)。PICS とは,集中治療室滞在中あるいは集中治療室退室後,さらには退院後に生じる身体機能・認知機能・精神の障害で,敗血症などの集中治療を必要とする重症患者の長期予後はもとより,家族の精神にも影響を及ぼす病態である。特に本邦は,総人口に占める65 歳以上の高齢者の割合が25% を超える世界でも類を見ない高齢化国家である 4)。救命率が上がるにつれ要介護者が増え続ける構図は社会的にみても決して健全な状態とはいえず,本邦における重要政策課題である健康寿命延伸の実現のためには,PICS をいかに予防・改善するのかが敗血症診療において今後ますます重要になることは明白である。 集中治療室に入室した呼吸不全またはショック患者406 名を対象にした多施設前向き観察研究 5)による と,退院後12 か月後に身体機能・認知機能・精神のいずれかに障害があった患者の割合は56.1% であり,身体機能障害があった患者の62.0% では,精神障害または認知機能障害が併存していた。精神障害に関して,集中治療室で24 時間以上の診療を受けた患者13,155 名を対象にした郵送法による質問紙調査 6)の結果では,集中治療室退室後3 か月または12 か月後に不安・うつ・心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder: PTSD)のいずれかがあった患者の割合は回答者4,943 名の55.2% にのぼり,そのうちの64.8%の患者では2つ以上の精神障害が併存していた。また,家族の精神障害であるPICS-F(post intensive care syndrome-family)の発生率(1~12 か月)は5~ 49% とされており 7),患者の精神障害の重症度と家族の精神障害の重症度は相関することが報告されている 8)。以上のようにPICS は,身体・認知・精神それぞれのドメイン間,患者・家族間などが影響し合い構成される複雑多様な病態であり,効果的な予防・対策方法については未だ明らかになっておらず,画一的な介入ではなく,有用性が示唆された複数の介入を束ねて実施するABCDEFGH バンドル 9)をはじめとする包括的ケアが提案されている。 ABCDEFGH バンドルにおける痛み・不穏・せん妄管理の向上などに関連し,集中治療室滞在中の早期離床・リハビリテーション,療養環境の調整,医療者と患者や家族との関わりなどに係る課題が浮き彫りにな Patient-and Family-Centered Care〔診療フロー〕 -S 363-
りつつある。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG) 2016 10)では世界に先駆けてPICS を独立した章として取り上げ,PICS 予防のための早期リハビリテーションに係る推奨について記載している。ガイドラインなどでの推奨や,早期離床・リハビリテーション加算の新設による診療報酬上の後押しもあり,日本集中治療医学会会員を対象にした調査(回答者453 名)によると,回答者の92.1% の施設で早期リハビリテーションが実施されていた 11)。一方で,回答者の約4 割の施設では,PICS やABCDEF バンドルという用語が周知・使用されていなかった 11)。集中治療の対象は,生活者たる人間である。また,集中治療室は集中治療の場であるが,患者にとっての療養生活の場でもある。多様な価値観や考え方をもつ患者の人間性を尊重した診療のために,集中治療室滞在中からどのような配慮が必要なのか,患者や家族との関わりはどうあるべきなのか,彼らの精神的なサポートのためには医療従事者は何を行うべきなのかなど,考えるべき臨床的課題は多い。これらの背景をもとに,J-SSCG 2020 では,「Patient- and Family-Centered Care」を新たに独立した章として取り上げた。「ICU-AW・PICS・早期リハビリテーション」の章では主に身体機能に関連した内容を扱い,「Patient- and Family-Centered Care」の章では,患者と家族の精神に関連した内容,集中治療室における療養環境や意思決定支援などに関する内容を扱う領域と位置づけている。本章では,多職種から成るワーキンググループでの議論により,20 を超えるCQ 案の中から厳選を重ね,2 つのBQ を含む6 つのCQ を取り上げた。これらはエビデンスに乏しい領域であるが,今後の敗血症診療,および集中治療の質を向上しうる,非常に重要な領域である。個々の患者と家族を前に,その人の人間性を尊重した「Patient- and Family-Centered Care」はどのようにあるべきかを模索するための礎となることを期待している。 文 献 1) Rudd KE, Johnson SC, Agesa KM, et al: Global, regional, and national sepsis incidence and mortality, 1990-2017: analysis for the Global Burden of Disease Study. Lancet. 2020; 395: 200-11. 2) Yende S, Austin S, Rhodes A, et al: Long-Term Quality of Life Among Survivors of Severe Sepsis: Analyses of Two International Trials. Crit Care Med. 2016; 44: 1461-7. 3) Needham DM, Davidson J, Cohen H, et al: Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit: report from a stakeholders’conference. Crit Care Med. 2012; 40: 502-9. 4) Nomura K, Koizumi A: Strategy against aging society with declining birthrate in Japan. Ind Health. 2016; 54: 477-9. 5) Marra A, Pandharipande PP, Girard TD, et al: Co-Occurrence of Post-Intensive Care Syndrome Problems Among 406 Survivors of Critical Illness. Crit Care Med. 2018; 46: 1393-401. 6) Hatch R, Young D, Barber V, et al: Anxiety, Depression and Post Traumatic Stress Disorder after critical illness: a UK-wide prospective cohort study. Crit Care. 2018; 22: 310. 7) Inoue S, Hatakeyama J, Kondo Y, et al: Post-intensive care syndrome: its pathophysiology, prevention, and future directions. Acute Med Surg. 2019; 6: 233-46. 8) Fumis RR, Ranzani OT, Martins PS, et al: Emotional disorders in pairs of patients and their family members during and after ICU stay. PLoS One. 2015; 10: e0115332. 9) Davidson JE, Harvey MA, Schuller J, et al: Post-intensive care syndrome: What is it and how to help prevent it. Am Nurse Today. 2013; 8: 32-8. 10) Nishida O, Ogura H, Egi M, et al: The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2016 (J-SSCG 2016). J Intensive Care. 2018; 6: 7. 11) 日本集中治療医学会PICS 対策・生活の質改善検討委員会:本邦の診療現場におけるpost-intensive care syndrome (PICS)の実態調査. 日集中医誌. 2019; 26: 467-75. -S 364-
CQ20-1:患者と家族に対する,PICS および PICS-F に関する情報提供の方法は? Answer:患者と家族等に,PICS およびPICS-F に関する情報を正確に,かつ継続して提供することが重要と考えられている。患者に関わるメディカルスタッフは,集中治療室入退室時にリーフレットを渡すなど,適宜情報を提供する動きが広まりつつある。さらに,集中治療室退室後の回診やフォローアップ外来の開設など,継続して情報を提供する取り組みが始まっている(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 日本集中治療医学会の会員を対象にした調査によると,PICS という用語や疾患概念が集中治療室で周知・使用されている割合は61% であった 1)。集中治療室で従事する多くの医療者がPICS を知らない状況において,患者や家族がPICS やPICS-F に関する情報を得ることは困難である。一方で,PICS やPICS-F は敗血症患者とその家族に高率に発症する 2)。そのため,多くの患者と家族は不十分な情報のなかでPICS とPICS-F に対峙し,様々な苦痛や不安・恐怖,治療に対する葛藤などを抱えながら生活を送っていると推察される。患者や家族に対してPICS やPICS-F に関する情報を正確に,かつ継続して提供することは, PICS やPICS-F が自分または大切な人だけに生じる特別な異常ではないことの理解や,安心などにつながる可能性がある 3)。また,PICS やPICS-F に関する事前の予測や早期発見,迅速な対応につながる可能性もある 3)。このように,PICS およびPICS-F に関する情報提供は重要であると考えられるが,どのような方法が効果的であるのかは明らかになっていない。しかし,今後の普及の可能性を考え,本ガイドラインのCQ として取り上げた。 (2)解説 集中治療室入退室時にリーフレットを渡すことは非常に簡便な情報提供の方法である。PICS やPICS-F の概要や症状,相談先などを記載したリーフレットをあらかじめ作成しておき,集中治療室入退室時などに患者や家族に手渡すことで適宜情報を提供する。その際に,一方向からの情報提供で終わることがないよう,患者・家族・医療者の双方向のコミュニケーションが重要となる。集中治療室の概要や医療機器などに関する情報を記載したリーフレットの提供が家族の理解や満足度を向上させたとする多施設ランダム化比較試験(RCT)がある 4)が,PICS やPICS-F に関する情報を 記載したリーフレットの提供について検証した研究はなく,今後の研究が待たれる。 集中治療室退室後の回診や訪問は,集中治療室の医師や看護師などが集中治療室退室後患者の病床に訪問して情報を提供する方法である。集中治療室退室後患者の46% が,悪夢や幻覚などの真実ではない妄想的記憶をもっていたことが報告されている 5)。集中治療室退室後の回診や訪問は,集中治療室での体験や治療の理解に関する齟齬や不明点を補うだけではなく,病状や機能障害について評価し,主治医などとの連携のもと,集中治療室への再入室の必要性や適切な専門外来などへの受診を早期に調整できる効果も期待される。集中治療室退室後訪問が集中治療室での体験についての理解を助けたと報告する質的研究 6)や,集中治療室退室後訪問に記憶のゆがみを補正するための支援プログラムを用いることによって,退院後の不安やうつ,ストレス障害を有意に改善させたとの報告 7)がある。 集中治療室退室後のフォローアップ外来は,この20 年でヨーロッパを中心に広がっている。2006 年時点で英国の30% の集中治療室では,集中治療室に3~ 4 日以上在室した患者を主な対象とし,フォローアップ外来が設置されていた 8)。フォローアップ外来で提供される主な医療は,スクリーニングツールを用いた身体・精神・認知機能やQOL などの評価,リハビリテーション,精神・認知機能のサポート,適切な専門外来の紹介,服薬管理などがある。フォローアップ外来の有用性については,英国の3 施設でのRCT によって検証されているが,退院12 か月後のQOL や不安・うつ・PTSD など,いずれにおいても有意な改善を認めなかった 9)。フォローアップ外来の形態や方法,対象患者などは十分に検証されておらず,今後の詳細な検証が必要である。また,本邦において普及するためには,診療報酬を始めとした医療制度の整備も不可欠である。 患者と家族に対する,PICS およびPICS-F に関する情報提供の有用性は,未だ十分に検証されていない。本邦の集中治療室における実施率も10% 未満と低率である 1)が,今後の研究次第によっては,実施が拡大されていくものと考える。 文 献 1) 日本集中治療医学会PICS 対策・生活の質改善検討委員会:本邦の診療現場におけるpost-intensive care syndrome(PICS)の実態調査. 日集中医誌. 2019; 26: 467-75. 2) Inoue S, Hatakeyama J, Kondo Y, et al: Post-intensive care -S 365-
syndrome: its pathophysiology, prevention, and future directions. Acute Med Surg. 2019; 6: 233-46. 3) Davidson JE, Harvey MA, Schuller J, et al: Post-intensive care syndrome: What is it and how to help prevent it. American Nurse Today. 2013; 8: 32-8. 4) Azoulay E, Pochard F, Chevret S, et al: Impact of a family information leaflet on effectiveness of information provided to family members of intensive care unit patients: a multicenter, prospective, randomized, controlled trial. Am J Respir Crit Care Med. 2002; 165: 438-42. 5) Myhren H, Tøien K, Ekeberg O, et al: Patients’ memory and psychological distress after ICU stay compared with expectations of the relatives. Intensive Care Med. 2009; 35: 2078-86. 6) Engström A, Andersson S, Söderberg S: Re-visiting the ICU experiences of follow-up visits to an ICU after discharge: a qualitative study. Intensive Crit Care Nurs. 2008; 24: 233-41. 7) 木下佳子: 記憶のゆがみをもつICU 退室後患者への看護支援プログラム開発とその有効性に関する研究. 日クリティカルケア看会誌. 2011; 7: 20-35. 8) Griffiths JA, Barber VS, Cuthbertson BH, et al: A national survey of intensive care follow-up clinics. Anaesthesia. 2006; 61: 950-5. 9) Cuthbertson BH, Rattray J, Campbell MK, et al: The PRaCTICaL study of nurse led, intensive care follow-up programmes for improving long term outcomes from critical illness: a pragmatic randomised controlled trial. BMJ. 2009; 339: b3723. CQ20-2:敗血症患者あるいは集中治療患者に対 して,ICU 日記をつけるか? Answer:成人の敗血症患者あるいは集中治療患者に対して,ICU 日記をつけることを弱く推奨する(GARDE 2D:エビデンスの確実性= 「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 集中治療室入室中の重症患者は深鎮静状態や強い侵襲下にあるため,集中治療室での記憶の一部ならびに全部が欠損することがある。実際にはなかったできごとが鮮明な記憶として思い起こされる妄想的記憶に悩まされることもある。これらは患者が集中治療室を退室した後も遷延し,心的外傷後ストレス障害(post traumatic stress disorder: PTSD)や急性ストレス障害(acute stress disorder: ASD)の発生に関連するとされる 1)。これら記憶障害に対する介入としてICU 日記 2)が提唱され,患者・家族におけるPTSD や不安,うつ症状の軽減や健康関連QOL の改善が報告されている 3)。しかし,現状では敗血症患者に対するICU 日記の有効性・有害性については定まっておらず,臨床現場でも介入方法に多様性がある。以上により,これら患者に対するICU 日記の有効性・有害性を明らかにすることは重要臨床課題であるといえる。 (2)PICO P (患者):18 歳以上の敗血症患者あるいは集中治 療患者I (介入):ICU 日記介入の実施C (対照):ICU 日記介入の非実施O (アウトカム):患者のPTSD およびASD 発症, 患者の不安(Hospital Anxiety and Depression Scale: HADS),患者のうつ(HADS),家族のPTSD およびASD 発症,家族の不安(HADS),家族のうつ(HADS),あらゆる有害事象(患者のストレス,日記記載に関する負担) (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が3 件 4-6)施行されており,これらを用いたメタ解析を実施した。なお,敗血症患者に限定したRCT は見つけられなかったため,対象患者は敗血症患者あるいは集中治療患者とした。 -S 366-
(4)益と害のバランス(Table 20-2-1)望ましい効果: 患者のPTSD 発症の効果推定値は1,000 人あたり51人少ない(95% CI: 123 人少ない~41 人多い)となる。また,HADS anxiety スコアが平均0.82 少ない(95% CI: 2.45 少ない~0.82 多い),HADS depression スコアが平均1.01 少ない(95% CI: 3.55 少ない~1.53 多い)となる。したがって,介入は,患者のPTSD,うつ,不安に対して小さな望ましい効果があるといえる。望ましくない効果: 1 つのRCT において,有害事象としてICU 日記がどれほど面倒かという項目を評価している。面倒さの度合いを10 段階評価して,全く面倒でない場合を0,最も面倒である場合は10 として計測し,家族(n = 78)ではmean(SD)が0.69(1.46),友人(n =4)では2.0(2.45),看護師(n =98)では1.6(0.19),医師(n =12)では1.75(1.48),看護師以外のメディカルスタッフ(n =6)では1.0(0.63)という結果となり,あまり面倒ではないという結果となっている。したがって,介入の望ましくない効果はわずかであると考えられた益と害のバランス: 本CQ においては,効果推定値が広く確実性は低いものの患者のPTSD,不安,うつ,家族のPTSD でICU 日記に優位な結果である一方,望ましくない効果が限定的であるため,おそらく介入が優位と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したすべてのアウトカムの効果推定値にばらつきがあるため,アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」である。 (6)価値観 敗血症患者,集中治療を要する患者に対するICU日記の介入における,各アウトカムに置く患者・家族の価値観に関するデータはない。本CQ のアウトカムは患者・家族のPTSD,不安,うつであり,重視するか否かの価値観にはばらつきが想定される。 (7)容認性 有害事象はリスクが低い可能性が高い。介入に伴う Table 20-2-1 エビデンスプロファイル -S 367-
コストは人件費のみである。その個人負担額を考えると,患者・家族の個人の視点からおそらく許容できるだろう。 (8)実行可能性 介入は多くの医療施設において実行可能である。 (9)判断の要約(Table 20-2-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択(7点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2016 7, 8)において,ICU 日記はPICS の予防方法としての記載にとどまっていた。また,新生児,小児,成人集中治療室における患者家族のためのガイドライン 9)において,家族の不安,抑うつ,PTSD を軽減するためにICU 日記介入を実施することを提案している(2C)。しかし,集中治療患者そのものに対するICU 日記介入の実施の推奨を検討するガイドラインは,現時点では存在しない。 (12)実施に関わる検討事項 ICU 日記介入の実施や評価の方法,医療スタッフのトレーニング・教育などの今後の検討が必要である。(13)今後の研究の可能性 以下の内容に関する検討が求められると考えられる。・ 集中治療を要する患者の中で敗血症患者に限定し たICU 日記による有効性の検証・ サンプル数が多い研究における有害事象の検証 文 献 1) Hatch R, Young D, Barber V, et al: Anxiety, Depression and Post Traumatic Stress Disorder after critical illness: A UK-wide prospective cohort study. Crit Care. 2018; 22: 310. 2) Bäckman CG, Walther SM: Use of a personal diary written on the ICU during critical illness. Intensive Care Med. 2001; 27: 426-9. 3) McIlroy PA, King RS, Garrouste-Orgeas M, et al: The Effect of ICU Diaries on Psychological Outcomes and Quality of Life of Survivors of Critical Illness and Their Relatives: A Systematic Review and Meta-Analysis. Crit Care Med. 2019; 47: 273-9. 4) Garrouste-Orgeas M, Flahault C, Vinatier I, et al: Effect of an ICU Diary on Posttraumatic Stress Disorder Symptoms Among Patients Receiving Mechanical Ventilation: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019; 322: 229-39. 5) Kredentser MS, Blouw M, Marten N, et al: Preventing posttraumatic stress in ICU survivors: A single-center pilot randomized controlled trial of ICU diaries and psychoeducation. Crit Care Med. 2018; 46: 1914-22. 6) Nielsen AH, Angel S, Egerod I, et al: The effect of familyauthored diaries on posttraumatic stress disorder in intensive care unit patients and their relatives: A randomised controlled trial (DRIP-study). Aust Crit Care. 2020; 33: 123-9. 7) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日集中医誌. 2017; 24: S1-232. 8) 西田修, 小倉裕司, 井上茂亮, 他, 日本版敗血症診療ガイドライン2016 作成特別委員会. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日救急医会誌. 2017; 28: S1-232. 9) Davidson JE, Aslakson RA, Long AC, et al: Guidelines for Family-Centered Care in the Neonatal, Pediatric, and Adult ICU. Crit Care Med. 2017; 45: 103-28. Table 20-2-2 判断の要約 -S 368-
CQ20-3:集中治療中の身体拘束(抑制)を避け るべきか? Answer:成人の敗血症患者あるいは集中治療患者に対して,集中治療中の身体拘束(抑制)を避けることを弱く推奨する(GARDE 2C:エビデンスの確実性= 「低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 身体拘束(抑制)とは「抑制帯等,患者の身体又は衣服に触れる何らかの用具を使用して,一時的に当該患者の身体を拘束し,その運動を抑制する行動の制限」をいう(厚生労働省通知令和2 年3 月5 日付保医発0305 第1 号別添1)。身体抑制は基本的人権や人間の尊厳を守ることを妨げる行為であり,倫理的に大きな問題とされながらも,多くの集中治療室で頻繁に実施されている介入である 1, 2)。敗血症患者あるいは集中治療患者は生命維持に係る種々の医療機器などを装着する患者が多く,身体抑制はこれらの医療デバイスの計画外抜去などから患者の安全を守るために実施されている 3, 4)が,それに関して検証したランダム化比較試験(RCT)はなく,身体抑制の有用性は明らかになっていない。一方で,身体抑制は,抑制部位の皮膚損傷などの身体障害 5)や,不動化や褥瘡,院内感染 6),せん妄 7, 8),PTSD などの精神障害 9),認知症等の認知機能障害 10)などの有害事象と関連することが報告されているが,その影響についても明らかではない。身体抑制は,その益も害も十分に検証されないまま,臨床において一般的に実施されている特殊な介入である。以上により,集中治療中の身体抑制についてはPatient-and Family-Centered Care において取り上げるべき重要臨床課題であり,本CQ では集中治療中の身体抑制を避けるべきかについて検証した。 (2)PICO P (患者):18 歳以上の敗血症患者あるいは集中治 療患者I (介入):集中治療室入室中に身体拘束(抑制)を 行わないC (対照):集中治療室入室中に身体拘束(抑制)を 行うO (アウトカム):せん妄発症,人工呼吸期間,ICU 滞在日数,デバイスの計画外抜去発生,身体抑制に対する患者や家族の思い,身体抑制に対する医療者の思い,身体抑制の代替法(3)エビデンスの要約 MEDLINE,CENTRAL,CINAHL,医学中央雑誌を用いた文献検索の結果,897 論文を抽出し,重複を削除した557 論文のタイトルと抄録を確認した。このうち,対象論文の可能性がある84 論文の全文原稿を確認し, 16 編の質的研究 11-26)と,15 編の観察研究 8, 27-40)を対象論文として選択した。質的研究に対してはConfidence in the Evidence from Reviews of Qualitative research(CERQual)アプローチによる質的エビデンスの統合を実施した。また,観察研究に対してはメタ解析を実施した。なお,敗血症患者に限定した研究は見つけられなかったため,対象患者は敗血症患者あるいは集中治療患者とした。 (4)益と害のバランス(Table 20-3-1) CERQual による質的エビデンス統合の結果,集中治療室で身体抑制を実施された患者は身体抑制について,覚えていない,安全確保のため問題ないとする一方で,人権や人間の尊厳を侵害するため実施すべきでないと考えていた(エビデンスの確信性:低)。家族は身体抑制を仕方ないと考えながらもかわいそうと感じ,医療者の丁寧な説明や身体抑制を最小限にする配慮をありがたいと感じていた(エビデンスの確信性:非常に低)。医療者は身体抑制の有害事象を危惧しながらも,安全確保のために,ジレンマのなかで無力感を感じながら実施していた(エビデンスの確信性:高)。医療者は身体抑制の代替法として,手厚い人員配置などの体制整備とともに,施設の体制によらない,生活者としての個人を尊重するケアが重要と考えていた(エビデンスの確信性:高)。 観察研究のメタ解析の結果,せん妄発症(10 観察研究:n =2,184)のオッズ比(95% CI)は0.09 (0.04~0.19),人工呼吸期間(2 観察研究:n =1,132)の差は 0.8 日短い(95% CI: 6.71 日短い~5.12 日長い), ICU 滞在日数(4 観察研究:n =1,105)の差は3.99日短い(95% CI: 7.91 日短い~0.07 日短い)と,デバイスの計画外抜去発生は1,000 人あたり64 人少ない(95% CI: 89 人少ない~2 人少ない)であり,介入群に優位な相関を示したが,ほとんどの一次研究のバイアスリスクは非常に深刻であったことから,介入とアウトカムの因果関係を示すことは困難である。 CERQual の結果では,集中治療中の身体抑制の実施は,患者の人権や尊厳の侵害,医療者の無力感や葛藤などの精神的負担に影響を与える可能性があるため,身体抑制を避けることは小さな益に資すると考えられる。望ましい効果は小さく,望ましくない効果は -S 369-
Table 20-3-1 エビデンスプロファイル【CERQual】 -S 370-
【観察研究】 -S 371-
明らかではないため,効果のバランスはおそらく介入が優位と判断した。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 CERQual の各レビュー所見のエビデンスの確信性は,「非常に低」から「高」に分類されている。異なる方向性を示すアウトカムはないため,重大なアウトカムに関するエビデンスの確実性における平均的なグレードである「低」を全体的なエビデンスの確実性とした。なお,観察研究のシステマティックレビューの結果からは介入とアウトカムの因果関係を示すことは困難であったため,推奨判断の根拠から除外した。 (6)価値観 患者や家族,医療者の多くが,安全確保のためには身体抑制は致し方ないと考えながらも,身体抑制はすべきではない,できる限り解除したい(してほしい)と考えていた。これは,身体抑制を避けることや,それによる人権や尊厳の堅持に対して置く相対的価値が高いことを示唆している。さらに近年,身体抑制は倫理的に問題とする考えが拡大しつつあり,診療報酬においても,身体抑制を避けた場合を評価する加算や,身体抑制を避ける取り組みを実施していることを入院基本料等加算の要件に追加するなど,これを後押ししている。以上により,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 集中治療中の身体抑制を避けることに際して,新たな薬剤の使用や医療器具などの購入は必要なく,診療 報酬点数にも変わりがないため,患者の視点からも,医療機関の経営者側の視点からも,おそらく許容できると考える。一方で,身体抑制を避けることによって,短期的には医療者の仕事量が増える可能性が考えられるが,身体抑制の代替法を各施設の実情に合わせて実施することにより,ある程度は許容可能と考えられる。 (8)実行可能性 CERQual の各レビュー所見における医療者が考える身体抑制の代替法は,各施設の実情によって実施可能な範囲が異なることが予測されるものの,各施設の実情に合わせてこれらの代替法を実施することで,現状以上に集中治療中の身体抑制を避けることは実行可能と考える。 (9)判断の要約(Table 20-3-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:83.3%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 PADIS Guideline 41)では,BQ として,成人重症患者における身体抑制の実施率,根拠およびアウトカム(益と害)について解説しているが,推奨の判断はしていない。 Table 20-3-2 判断の要約 -S 372-
(12)実施に関わる検討事項 重症患者全般における標準的な患者・家族中心のケアとして身体抑制を避けることが望まれるが,各施設の実情に合わせて代替法を実施するとともに,マニュアルなどを作成して行うことを考慮する必要がある。また,医療デバイスの計画外抜去などの有害事象に関するモニタリングが必要である。 (13)今後の研究の可能性 集中治療中の身体抑制を避けることの有用性や有害事象に関して検証したRCT が望まれる。また,集中治療中の身体抑制を避けることがむずかしい患者や療養環境の特徴,集中治療中の身体抑制を避けるために効果的な代替法に関して検証した研究が期待される。質的研究については,集中治療室において身体抑制を実施された患者やその家族を対象にした研究が少ないため,さらなる研究が求められる。 文 献 1) Unoki T, Sakuramoto H, Ouchi A, et al: Physical restraints in intensive care units: a national questionnaire survey of physical restraint use for critically ill patients undergoing invasive mechanical ventilation in Japan. Acute Med Surg. 2019; 6: 68-72. 2) Azizpour M, Moosazadeh M, Esmaeili R: Use of physical restraints in intensive care unit: A systematic review study. Acta Medica Mediterr. 2017; 33: 129. 3) 池添志乃, 田井雅子, 中野綾美, 他: 倫理的判断を基盤とした抑制についての調査−抑制実施時の倫理的判断と「説明」を重視する看護者の特徴−. 日看倫理会誌. 2011; 3: 64-70. 4) Benbenbishty J, Adam S, Endacott R: Physical restraint use in intensive care units across Europe: The PRICE study. Intensive Crit Care Nurs. 2010; 26: 241-5. 5) Kandeel NA, Attia AK: Physical restraints practice in adult intensive care units in Egypt. Nurs Heal Sci. 2013; 15: 79-85. 6) Baumgarten M, Margolis DJ, Localio AR, et al: Extrinsic risk factors for pressure ulcers early in the hospital stay: a nested casecontrol study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2008; 63: 408-13. 7) Mehta S, Cook D, Devlin JW, et al: Prevalence, Risk Factors, and Outcomes of Delirium in Mechanically Ventilated Adults. Crit Care Med. 2015; 43: 557-66. 8) Van Rompaey B, Elseviers MM, Schuurmans MJ, et al: Risk factors for delirium in intensive care patients: a prospective cohort study. Crit Care. 2009; 13: R77. 9) Jones C, Bäckman C, Capuzzo M, et al: Precipitants of posttraumatic stress disorder following intensive care: a hypothesis generating study of diversity in care. Intensive Care Med. 2007; 33: 978-85. 10) Brummel NE, Balas MC, Morandi A, et al: Understanding and reducing disability in older adults following critical illness. Crit Care Med. 2015; 43: 1265-75. 11) Chang CW, Chen YM, Su CC: Care needs of older patients in the intensive care units. J Clin Nurs. 2012; 21: 825-32. 12) Choe K, Kang Y, Park Y: Moral distress in critical care nurses: a phenomenological study. J Adv Nurs. 2015; 71: 1684-93. 13) Clukey L, Weyant RA, Roberts M, et al: Discovery of Unexpected Pain in Intubated and Sedated Patients. Am J Crit Care. 2014; 23: 216-20. 14) Dolan J, Dolan Looby SE: Determinants of nurses’use of physical restraints in surgical intensive care unit patients. Am J Crit Care. 2017; 26: 373-9. 15) Fowler SB: Impaired verbal communication during short-term oral intubation. Nurs Diagn. 1997; 8: 93-8. 16) Freeman S, Hallett C, McHugh G: Physical restraint: Experiences, attitudes and opinions of adult intensive care unit nurses. Nurs Crit Care. 2016; 21: 78-87. 17) Happ MB: Preventing treatment interference: The nurse’s role in maintaining technologic devices. Heart Lung. 2000; 29: 60-9. 18) Jiang H, Li C, Gu Y, et al: Nurses’perceptions and practice of physical restraint in China. Nurs Ethics. 2015; 22: 652-60. 19) Langley G, Schmollgruber S, Egan A: Restraints in intensive care units – A mixed method study. Intensive Crit Care Nurs. 2011; 27: 67-75. 20) Minnick A, Leipzig RM, Johnson ME: Elderly patients’ reports of physical restraint experiences in intensive care units. Am J Crit Care. 2001; 10: 168-71. 21) Via-Clavero G, Sanjuán-Naváis M, Romero-García M, et al: Eliciting critical care nurses’ beliefs regarding physical restraint use. Nurs Ethics. 2019; 26: 1458-72. 22) Sasaki R, Sekido K: Dilemmas Experienced by ICU Nurses When They Care for Patients with Symptoms of Delirium, Int Nurs Care Res. 2016; 15: 19-30. 23) 桑原美香: ICU 患者の身体抑制に影響する看護師の判断要因. 日クリティカルケア看会誌. 2015; 11: 57-65. 24) 至極友香子, 町田美佳, 岡眞由美, 他: 急性期に抑制を受ける患者家族の苦痛に影響する因子. 徳島赤十字病医誌. 2007; 12: 168-72. 25) 長澤静代, 黒田裕子: 集中治療室における患者管理の1 つとしての身体抑制を取り巻く看護師の判断と行動. 日クリティカルケア看会誌. 2009; 5: 25-32. 26) 長谷川沙希, 原祥子, 沖中由美, 他: ICU において抑制を受ける高齢患者に対する看護ケア. 老年看. 2012; 17: 28-36. 27) Chang LY, Wang KWK, Chao YF: Influence of physical restraint on unplanned extubation of adult intensive care patients: A casecontrol study. Am J Crit Care. 2008; 17: 408-15. 28) Chuang ML, Lee CY, Chen YF, et al: Revisiting Unplanned Endotracheal Extubation and Disease Severity in Intensive Care Units. PLoS One. 2015; 10: e0139864. 29) Gu T, Wang X, Deng N, et al: Investigating influencing factors of physical restraint use in China intensive care units: A prospective, cross-sectional, observational study. Aust Crit Care. 2019; 32: 193-8. 30) Hamilton D, Griesdale D, Mion LC: The prevalence and incidence of restraint use in a Canadian adult intensive care unit: A prospective cohort study. Can J Crit Care Nurs. 2017; 28: 25-33. 31) Kwizera A, Nakibuuka J, Ssemogerere L, et al: Incidence and risk factors for delirium among mechanically ventilated patients in an African intensive care setting: An observational multicenter study. Crit Care Res Pract. 2015; 2015: 491780. 32) Limpawattana P, Panitchote A, Tangvoraphonkchai K, et al: Delirium in critical care: a study of incidence, prevalence, and associated factors in the tertiary care hospital of older Thai adults. Aging Ment Health. 2016; 20: 74-80. 33) Luk E, Sneyers B, Rose L, et al: Predictors of physical restraint use in Canadian intensive care units. Crit Care. 2014; 18: R46. 34) Micek ST, Anand NJ, Laible BR, et al: Delirium as detected by the CAM-ICU predicts restraint use among mechanically ventilated medical patients. Crit Care Med. 2005; 33: 1260-5. 35) Öztürk Birge A, Bedük T: The relationship of delirium and risk factors for cardiology intensive care unit patients with the nursing workload. J Clin Nurs. 2018; 27: 2109-19. 36) Perren A, Corbella D, Iapichino E, et al: Physical restraint in the -S 373-
ICU: does it prevent device removal? Minerva Anestesiol. 2015; 81: 1086-95. 37) Rose L, Burry L, Mallick R, et al: Prevalence, risk factors, and outcomes associated with physical restraint use in mechanically ventilated adults. J Crit Care. 2016; 31: 31-5. 38) Sanson G, Khlopenyuk Y, Milocco S, et al: Delirium after cardiac surgery. Incidence, phenotypes, predisposing and precipitating risk factors, and effects. Heart Lung. 2018; 47: 408-17. 39) van der Kooi AW, Peelen LM, Raijmakers RJ, et al: Use of Physical Restraints in Dutch Intensive Care Units: A Prospective Multicenter Study. Am J Crit Care. 2015; 24: 488-95. 40) Wang J, Ji Y, Wang N, et al: Risk factors for the incidence of delirium in cerebrovascular patients in a Neurosurgery Intensive Care Unit: A prospective study. J Clin Nurs. 2018; 27: 407-15. 41) Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al: Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation / Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018; 46: e825-73. CQ20-4-1:睡眠ケアとして換気補助を行うか? Answer:成人の敗血症患者あるいは集中治療患者に対して,睡眠ケアとして換気補助の追加を行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 重症患者は,集中治療室という特殊な環境や昼夜を問わない医療介入,騒音,光など様々なストレスを受けている。これら環境要因のみならず,病態や薬剤など複合的な要因が,睡眠障害や不安,せん妄発症のリスクとなる。特に睡眠障害は,せん妄と関連し,長期にわたる認知機能障害と関連している可能性があり, PADIS ガイドライン 1)においても睡眠ケアの重要性が強調されている。人工呼吸管理中に換気補助の追加を行うことで,睡眠障害が改善するかどうかは不明であり,本ガイドラインに取り上げるべき重要臨床課題であるといえる。 (2)PICO P (患者):18 歳以上の敗血症患者あるいは集中治 療患者I (介入):換気補助の追加をするC (対照):換気補助の追加をしないO (アウトカム):客観的睡眠(量) (3)エビデンスの要約 MEDLINE,CENTRAL,医学中央雑誌を用いた文献検索の結果,451 論文を抽出し論文のタイトルと抄録を確認した。このうち,対象論文の可能性がある47 論文の全文原稿を確認し,PICO に合致した5 編のランダム化比較試験(RCT) 2-6)をメタ解析した。なお,敗血症患者に限定したRCT は見つけられなかったため,対象患者は敗血症患者あるいは集中治療患者とした。 (4)益と害のバランス(Table 20-4-1-1)望ましい効果: 客観的睡眠(量)(total sleep time / total recording time など)に関する効果推定値は,平均12.2 高い(4.12 高い~20.28 高い)であり,望ましい効果は「小さい」と考えられた望ましくない効果: 今回のPICO に合致した5 編のRCT において,人工呼吸管理中に換気補助を追加することの害について -S 374-
論じている論文がなく評価困難である。益と害のバランス: 介入による害を論じている論文がないが,臨床上,介入による害の発生は小さいと考えると,おそらく介入が優位ではないかと考える。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したアウトカムは客観的睡眠(量)のみであり,エビデンスは「非常に低」であるためアウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」である。 (6)価値観 敗血症患者あるいは集中治療患者において,睡眠ケアとしての人工呼吸器設定に関する患者・家族の価値観にばらつきはないと考えた。 (7)容認性 多くの人工呼吸器には換気補助を追加するモード(A / C,PCV など)が搭載されており,追加費用はかからないことが予想される。J-PAD ガイドライン 7) では,目標鎮静深度をRASS −2~0 としており,比較的浅い鎮静管理となるため,換気補助を追加するモード(A / C,PCV,PAV など)と追加しないモード(PSV,吹き流し)を比較した場合に,医療従事者の労力には差がないと考える。 (8)実行可能性 多くの人工呼吸器で換気補助を追加するモード(A / C,PCV など)が搭載されており,実行可能と考える。 (9)判断の要約(Table 20-4-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7.5,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:95.8%)。 Table 20-4-1-1 エビデンスプロファイル Table 20-4-1-2 判断の要約 -S 375-
(11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 PADIS ガイドライン 1)では,成人重症患者の睡眠を改善するために,夜間に[圧支持換気(PSV)に対して]補助 / 調整換気(A / C)が使用されるべきか?というCQ に対して,夜間は(PSV に対して)A / C を使用することを提案する(条件付き推奨,低い質のエビデンス)となっている。 (12)実施に関わる検討事項 推奨の実施においては,換気補助として人工呼吸器のどのモードを採用したのか,換気補助の介入時間,客観的睡眠時間を測定することが望まれる。 (13)今後の研究の可能性 以下の内容に関する検討が求められると考えられる。・ アウトカムとして客観的睡眠(質)の評価や問診 票を用いた睡眠の主観的評価の検証・ 換気補助の追加としてどの人工呼吸器モードが有 用なのか(PCV,A / C など)・ 換気補助を行うことによる害(換気補助を行うこ とでの横隔膜機能不全の発症率など) 文 献 1) Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al: Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation / Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018; 46: e825-73. 2) Alexopoulou C, Kondili E, Vakouti E, et al: Sleep during proportional-assist ventilation with load-adjustable gain factors in critically ill patients. Intensive Care Med. 2007; 33: 1139-47. 3) Andréjak C, Monconduit J, Rose D, et al: Does using pressurecontrolled ventilation to rest respiratory muscles improve sleep in ICU patients? Respir Med. 2013; 107: 534-41. 4) Bosma K, Ferreyra G, Ambrogio C, et al: Patient-ventilator interaction and sleep in mechanically ventilated patients: Pressure support versus proportional assist ventilation. Crit Care Med. 2007; 35: 1048-54. 5) Cabello B, Thille AW, Drouot X, et al: Sleep quality in mechanically ventilated patients: Comparison of three ventilatory modes. Crit Care Med. 2008; 36: 1749-55. 6) Roche-Campo F, Thille AW, Drouot X, et al: Comparison of Sleep Quality With Mechanical Versus Spontaneous Ventilation During Weaning of Critically Ill Tracheostomized Patients. Crit Care Med. 2013; 41: 1637-44. 7) 日本集中治療医学会J-PAD ガイドライン作成委員会: 日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン. 日集中医誌. 2014; 21: 539-79. CQ20-4-2:睡眠ケアとして非薬物的睡眠管理 (耳栓・アイマスク・音楽療法)を行うか? Answer:成人の敗血症患者あるいは集中治療患者に対して,睡眠ケアとして非薬物的睡眠管理を行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 重症患者は,集中治療室という特殊な環境や昼夜を問わない医療介入,騒音,光など様々なストレスを受けている。これら環境要因のみならず,病態や薬剤など複合的な要因が,睡眠障害や不安,せん妄発症のリスクとなる。特に睡眠障害は,せん妄と関連し,長期に渡る認知機能障害と関連している可能性があり, PADIS ガイドライン 1)においても睡眠ケアの重要性が強調されている。睡眠障害の予防として,耳栓やアイマスク,音楽療法,騒音低減プログラムなどの非薬物的睡眠管理が期待されており,せん妄予防には一定の効果が示されているが,睡眠促進効果やその他のPICS 予防の有用性は不明である。また,不安は闘病意欲を低下させるとともに,鎮静薬の投与量を増加させるが,この不安の軽減に音楽療法などが試みられ,一定の効果が示されている。以上により,本ガイドラインに取り上げるべき重要臨床課題であると考える。 (2)PICO P (患者):18 歳以上の敗血症患者あるいは集中治 療患者I (介入):非薬物的睡眠管理(耳栓・アイマスク・ 音楽療法) C (対照):通常のケアO (アウトカム):主観的評価,客観的睡眠(量) (3)エビデンスの要約 MEDLINE,CENTRAL,医学中央雑誌を用いた文献検索の結果,451 論文を抽出し論文のタイトルと抄録を確認した。このうち,対象論文の可能性がある47 論文の全文原稿を確認し,PICO に合致した4 編のランダム化比較試験(RCT) 2-5)をメタ解析した。なお,敗血症患者に限定したRCT は見つけられなかったため,対象患者は敗血症患者あるいは集中治療患者とした。 -S 376-
(4)益と害のバランス(Table 20-4-2-1)望ましい効果: 主観的評価(Verran and Snyder-Halpern Sleep Scaleなどを用いた患者へのアンケートなど)の効果推定値は,標準化平均(SMD)1.5 高い(95% CI: 1.11 高い~1.9 高い)である。客観的睡眠(量)(total sleep time / total recording time など)の効果推定値は,平均(MD)2.46 少ない(95% CI: 9.94 少ない~5.01 多い)である。したがって,望ましい効果は「小さい」と考えられた。望ましくない効果: 今回のPICO に合致した4 編のRCT において,睡眠ケアとしてアイマスク・耳栓・音楽療法を用いることの害について論じている論文がなく評価困難である。益と害のバランス: 介入による害を論じている論文がないが,臨床上,介入による害の発生はわずかであると考えると,介入がおそらく優位ではないかと考える。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したアウトカムの効果推定値は,1 つは効果あり,1 つは効果なしであるが,方向性は一致している(効果ありの方向)ため,効果ありの主観的評価のアウトカムの確実性を全体としては採用した。アウトカム全体にわたるエビデンスの確実性は「非常に低」である。 (6)価値観 敗血症患者あるいは集中治療患者において,睡眠ケアとしての非薬物的睡眠管理に関する患者・家族の価値観は不確実であり,ばらつきの可能性はあると考える。(7)容認性 耳栓やアイマスク,音楽療法に必要な機材は高価ではなく,また介入方法も比較的容易である。 (8)実行可能性 耳栓やアイマスク,音楽療法に必要な機材は高価ではないため実行可能と考える。 (9)判断の要約(Table 20-4-2-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7.5,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 PADIS ガイドライン 1)では,成人重症患者の睡眠を改善するために,騒音と光を低減する方法,音楽が夜間に(使用なしに対して)使用されるべきか?というCQ に対して,騒音と光の低減策を用いることを提案する(条件付き推奨,低い質のエビデンス),音楽を夜間に用いないことを提案する(非常に低い質のエビデンス)となっている。 (12)実施に関わる検討事項 推奨の実施においては,介入時間,客観的睡眠時間や問診票を用いた睡眠評価を測定することが望まれる。 (13)今後の研究の可能性 以下の内容に関する検討が求められると考えられる。・ 睡眠の質の評価として問診票を用いた主観的評価 のみならず,客観的睡眠の質を測定するパラメータの確立 Table 20-4-2-1 エビデンスプロファイル -S 377-
・非薬物的睡眠管理を用いることによる害の評価 文 献 1) Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al: Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation / Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018; 46: e825-73. 2) Demoule A, Carreira S, Lavault S, et al: Impact of earplugs and eye mask on sleep in critically ill patients: a prospective randomized study. Crit Care. 2017; 21: 284. 3) Ryu MJ, Park JS, Park H: Effect of sleep-inducing music on sleep in persons with percutaneous transluminal coronary angiography in the cardiac care unit. J Clin Nurs. 2012; 21: 728-35. 4) Su CP, Lai HL, Chang ET, et al: A randomized controlled trial of the effects of listening to non-commercial music on quality of nocturnal sleep and relaxation indices in patients in medical intensive care unit. J Adv Nurs. 2013; 69: 1377-89. 5) Yazdannik AR, Zareie A, Hasanpour M, et al: The effect of earplugs and eye mask on patients’ perceived sleep quality in intensive care unit. Iran J Nurs Midwifery Res. 2014; 19: 673-8. Table 20-4-2-2 判断の要約 -S 378-
CQ20-5:集中治療室における家族の面会制限を 緩和するべきか? Answer:成人の敗血症患者あるいは集中治療患者に対して,家族の面会制限を緩和することを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。 (1)背景および本CQ の重要度 集中治療室に入室中の患者は,心身ともに重篤な状態であり,家族の存在は大きく,患者と家族が接するための面会の機会は重要である。面会は患者のみならず家族のメンタルヘルスにも影響を与えており,面会時間を緩和することは,post intensive care syndromefamily(PICS-F)などの予防に有効である可能性がある。一方で,面会時間に寛容であることは,処置やケアを行うにあたり医療スタッフの負担が増加することとなる。また,感染症予防の観点から,面会時間を制限している施設もみられており,面会制限を緩和することに対して一定の見解は得られていない。以上により,本ガイドラインに取り上げるべき重要臨床課題であると考える。 (2)PICO P (患者):18 歳以上の敗血症患者あるいは集中治 療患者,およびその家族I (介入):面会時間の制限なしC (対照):面会時間の制限ありO (アウトカム):集中治療室感染患者のせん妄発 症,ICU 滞在日数,患者の抑うつ状態,家族の抑うつ状態・不安・満足度,集中治療室滞在中の新規感染症発症 (3)エビデンスの要約 PubMed,CENTRAL,医学中央雑誌を用いて文献検索を行い,1,259 論文を抽出,それらのタイトルと抄録を確認した。このうち,対象論文の可能性がある43 論文の全文を確認したところ,2 編 1, 2)のランダム化比較試験(RCT)が本CQ のPICO に合致した。また,工程の途中,本CQ のPICO に合致する1 編 3)のRCT が新たに出版された。それも含め,最終的に計3 編の論文からデータを抽出・統合した。なお,敗血症患者に限定したRCT は見つけられなかったため,対象患者は敗血症患者あるいは集中治療患者とした。(4)益と害のバランス(Table 20-5-1) 望ましい効果: 介入により,せん妄発症は1,000 人あたり68 人少ない(95% CI: 148 人少ない~132 人多い)。ICU 滞在日数は介入群,対照群いずれも中央値5.0(四分位範囲3.0~8.0)と同等である。また,患者の抑うつ状態に関する介入による効果はHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)スコア mean 0(95% CI: 0~0)である。家族の抑うつ状態に関し,HADS depression スコアの中央値(四分位範囲)は介入群 / 対照群の順で4.0 (2.0~8.0) / 5.0(2.0~9.0),家族の不安に関してHADS anxiety スコアの中央値(四分位範囲)は6.0(3.0~ 8.2) / 7.0(4.0~11.0)であった。HADS スコアが,0~ 7 =normal,8~10 =borderline abnormal,11~21 = abnormal と段階的に判定することを考慮すると,このmedian の差は,臨床的な望ましい効果とは考えることができない。上記を統合すると,介入による望ましい効果は小さいと考えられた。望ましくない効果: 望ましくない効果として集中治療室滞在中の新規感染症発症が評価されている。2 つのRCT(総症例数1,908 例)に基づき,面会制限を緩和することによる集中治療室滞在中の新規感染症発症の可能性は1,000人あたり4 人少ない(95% CI: 20 人少ない~20 人多い)であり,望ましくない効果はわずかであると考えられた。益と害のバランス: 面会制限の緩和により「せん妄発症率」に望ましい効果が小さいながら期待される。一方,この介入による望ましくない効果はわずかであると示唆される。エビデンスの確実性は非常に低いものの,以上から,おそらく介入(面会制限の緩和)が優位であると考えられる。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 今回採用したアウトカムのうち,効果推定値の方向性は一致していないため,最も低いアウトカムの確実性である「非常に低」を選択した。 (6)価値観 集中治療室における面会制限を緩和することによる望ましい効果は,今回採用したアウトカムのうち「せん妄発症率」において予期される。しかしながら,その効果は一部限定的であり,どの程度この効果を期待するかは,価値観によってばらつきがあると想定される。 -S 379-
(7)容認性 面会制限の有無そのものでは,費用に差は生じないことが予想される。 (8)実行可能性 介入は実行可能であるが,面会制限の有無による診療上の支障やリスク,医療スタッフへの負担は,施設・症例によって様々であることが想定される。また,緩和により診療やケアに支障を来す可能性がある。 (9)判断の要約(Table 20-5-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値7,見解不一致指数0.164 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:91.7%)。(11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 PADIS ガイドラインで 4)は,患者ストレスの減少,せん妄予防と管理のための非薬理学的介入における家族の役割について,さらなる研究の必要性について言及しているが,面会制限に関する具体的な推奨の判断はしていない。 (12)実施に関わる検討事項 なし。 (13)今後の研究の可能性 以下の内容に関する検討が求められると考えられる。・ 患者に関する望ましいアウトカム(せん妄発症, ICU 滞在日数,患者の抑うつ状態)に対する有効性のさらなる検証・ サンプル数が多い研究における有害事象の検証 文 献 1) Eghbali-Babadi M, Shokrollahi N, Mehrabi T: Effect of Table 20-5-1 エビデンスプロファイル -S 380-
family – patient communication on the incidence of delirium in hospitalized patients in cardiovascular surgery ICU. Iran J Nurs Midwifery Res. 2017; 22: 327-31. 2) Fumagalli S, Boncinelli L, Nostro AL, et al: Reduced cardiocirculatory complications with unrestrictive visiting policy in an intensive care unit: Results from a pilot, randomized trial. Circulation. 2006; 113: 946-52. 3) Rosa RG, Falavigna M, da Silva DB, et al: Effect of Flexible Family Visitation on Delirium Among Patients in the Intensive Care Unit: The ICU Visits Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019; 322: 216-28. 4) Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al: Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation / Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018; 46: e825-73. Table 20-5-2 判断の要約 -S 381-
CQ20-6:患者の価値観・考え方等を尊重した意 思決定支援の方法は? Answer:患者や家族等を含めた多職種カンファレンスなどで議論を重ね,患者の価値観や意向を尊重した意思決定を支援するなどの方法がある。患者の意思が不明確な場合には,家族等の代理意思推定者を慎重に見極め,患者本人の意思を推定する方法などが提案されている。患者の意思を尊重すると同時に,患者・家族等に医学的に正確な情報を提供することも重要である(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 医療の複雑化や患者の価値観・考え方,ライフスタイルの多様化に伴い,意思決定支援の重要性が増してきている。患者の知る権利・自己決定権・自律の原則の尊重が重要視され,従前の医療者主導のパターナリスティックな意思決定支援から,患者の意思を尊重したインフォームド・コンセントや事前指示書(advance directive: AD)による意思決定支援が推進された。しかし,特に救急・集中治療領域においては,病状や環境の変化が急激であることから,患者の価値観や意向も変化することが考えられ,これらの意思決定支援方法では十分な対応は困難であることが明らかになってきた。このような背景のなか,近年では,患者や家族等と医療者が治療・療養について話し合うプロセスである「共同意思決定(shared decision making: SDM)」と「人生会議(advance care planning: ACP)」が提案されている。SDM やACP の話し合いが家族の不安などを軽減させた報告もあり,今後の普及の可能性を考え,本ガイドラインのCQ として取り上げた。 (2)解説 本邦における調査では,多くの国民が自身の治療方針について医師との相談または説明を受けたうえで,自身で決定したいと望んでいた 1)。一方,本人や代理意思推定者によって治療方針が意思決定されたにもかかわらず,別の家族の意向が優先され,治療方針が変更となる事例も報告された 2)。このような背景を受けて,インフォームド・コンセントやAD による意思決定支援が推進されたが,AD の有用性を検証した大規模クラスターランダム化比較試験(RCT)では,ケアの質や患者の転帰などに有意な改善を認めなかった 3)。その理由として,実際の状況が複雑なため患者が予想すること自体が困難であること,その時点の意思決定が現在も同じであるか分からないことなどが挙げられた。特に救急・集中治療領域においては,病状 や環境の変化が急激であることから,この傾向が顕著であることが予測される。そのため,一時点でのインフォームド・コンセントやAD ではなく,経時的な話し合いが重要視されるようになった。 近年では,SDM とACP が提案されている。これらの方法は,患者や家族等(家族だけではなく,患者が信頼して自身の治療・療養を決めてほしいと思う知人・友人を含む)の意思決定を支えるプロセスであり,医療者は患者の状態と治療の選択肢・方法などのエビデンスとなる正確な情報を提供し,患者と家族等は患者自身の価値観や意向などの情報を提供するといった双方向の継続的な過程である。この過程では,患者本人による意思決定を基本とし,多職種カンファレンスなどで議論を重ね,方針の決定を行うことが提案されている 4)。患者にとっての最善について対話し,考えるプロセスがSDM であり,ACP の根幹を成す。患者の意思確認ができない場合には,家族等の代理意思推定者を慎重に見極め,患者の推定意思を尊重し,患者にとっての最善の方針をとる方法が提案されている。また,家族等が患者の意思を推定できない場合には,患者にとっての最善の方針をとることを基本とし,家族等を含めた多職種カンファレンスなどで十分に話し合う方法がある 4)。これらの方法は,一度意思決定されたら終了ではなく,時間の経過,心身の状態の変化,医学的評価の変更などに応じて,このプロセスを繰り返し行うことが重要とされる。また,このプロセスにおいて話し合った内容は,その都度,文書にまとめておくことが提案されている 4)。 なお,救急・集中治療医学の発展により,従来では救命不可能であった敗血症患者を救命できるようになってきている 5)。これに伴い,救急・集中治療領域における終末期も変遷してきており,終末期の判断のためには,主治医を含む複数の医師(複数科であることが望ましい)と看護師等からなる医療チームでの十分な検討が必要である 6)。終末期か否かの線引きはむずかしいが,明らかに救命可能な命を終末期に持ち込んだり,明らかな延命治療を救命と誤認したりすることがないよう,患者と家族等へ医学的に正確な情報を提供することが重要である。 このようなSDM やACP の話し合いは,死別後の家族のストレス・うつ・不安などを低減すると報告されている 7, 8)。SDM やACP の有用性は,未だ十分に検証されていないが,今後の研究や医療制度によって,実施が拡大されていくものと考える。 -S 382-
文 献 1) 江口成美, 出口真弓: 第5 回日本の医療に関する意識調査.日医総研ワーキングペーパー. 2014; 331: 18-9. Available online at: http: / /www.jmari.med.or.jp / download / WP331.pdf. Accessed October 26, 2019. 2) Molloy DW, Clarnette RM, Braun EA, et al: Decision making in the incompetent elderly: “The Daughter from California Syndrome”. J Am Geriatr Soc. 1991; 39: 396-9. 3) Connors AF, Dawson NV, Desbiens NA, et al: A controlled trial to improve care for seriously ill hospitalized patients. The study to understand prognoses and preferences for outcomes and risks of treatments (SUPPORT). The SUPPORT Principal Investigators. JAMA. 1995; 274: 1591-8. 4) 厚生労働省: 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン. Available online at: https: / / www.mhlw.go.jp / file / 04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku- Shidouka / 0000197701.pdf. Accessed October 26, 2019. 5) Kaukonen KM, Bailey M, Suzuki S, et al: Mortality related to severe sepsis and septic shock among critically ill patients in Australia and New Zealand, 2000-2012. JAMA. 2014; 311: 1308-16. 6) 日本集中治療医学会, 日本救急医学会, 日本循環器学会: 救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~. Available online at: https: / /www.jsicm. org / pdf / 1guidelines1410.pdf. Accessed October 26, 2019. 7) Detering KM, Hancock AD, Reade MC, et al: The impact of advance care planning on end of life care in elderly patients: randomised controlled trial. BMJ. 2010; 340: c1345. 8) Lautrette A, Darmon M, Megarbane B, et al: A communication strategy and brochure for relatives of patients dying in the ICU. N Engl J Med. 2007; 356: 469-78. -S 383-
CQ21:Sepsis treatment system 国内外で敗血症が注目され,臨床現場では重篤な感染症を診療する体制の構築が求められている。日本版敗血症診療ガイドライン(J-SSCG)2020 では,このような診療体制の変化に対応するために新たに敗血症診療システム(sepsis treatment system: STS)という項目を掲げ,敗血症の診療体制についてのCQ を提示することとした。STS の基本的な考え方は,敗血症を早期に認識・覚知し,適切な体制での診療が受けられることを可能にすることで,治療成績を向上させることにある。また,同時に一般市民や敗血症診療には普段関わらない一般医療従事者に対しても,敗血症という疾患の重篤性や適切な診療体制を構築する意義などを認知,認識するような啓発活動もガイドラインとしての重要な役割である。さらに,敗血症の診断と治療における質を担保するために,敗血症診療に関する評価をどのように行うべきかも重要である。本章ではこれらに関するCQ を提示する。 敗血症の早期認識のシステムに関するCQ として,「一般病棟,ER で敗血症を早期発見する方法は?」と「一般病棟で敗血症を疑う患者の病状変化に対応するrapid response system (RRS)の役割とはどのようなものか?」の2 つを提示した。敗血症の早期発見が可能になれば,輸液蘇生や抗菌薬投与などの早期の介入ができ,患者の転帰を改善する可能性がある 1)。早期発見ツールとしてquick SOFA 2)やnational early warning score (NEWS) 3)などのいくつかの早期警告スコアが提唱されている。各スコアには利点と欠点があることを理解したうえで,より現場で使いやすいスコアとして,敗血症早期発見システムの導入が望まれる 4)。敗血症早期発見システムを導入しても,主治医や担当医 のみが使用するのでは早期発見には限界がある。これらのシステムを有効に活用するためには医師のみならず,すべてのメディカルスタッフが早期発見ツールを駆使できる必要がある。特に患者に接することの多い一般病棟の看護師,理学療法士,臨床工学技士,薬剤師,栄養士などは敗血症の早期発見の重要なポジションである。バイタルサインの異常や何かおかしいなどといった懸念を感じるなかに敗血症が隠れている可能性もあり,患者の病状の変化を確実に報告し,その報告にすぐに対応できるシステムの構築が必要である。そのようなシステムの一つとしてRRS があり,敗血症診療にも利用できる。 敗血症を早期に疑い,集中治療を開始する診療体制などについて「初期輸液蘇生に不応の敗血症はどこで管理するか?」というCQ を重要な臨床課題として提示した。本邦では10 万人あたりの集中治療室ベッド数が欧米の10~30 床に対し,5 床と著しく少なく 5, 6),集中治療専門医も集中治療室ベッド数から算出した適正な4,000人に対し半分程度の充足率である。したがって,敗血症患者の生命予後,機能予後を改善するためには集中治療室に限定せずに集中治療が可能な施設や体制での診療が必要である。また,治療対象となる患者を選定するうえで質の高いエビデンスはなく,「初期輸液蘇生に不応」の場合を集中治療が可能な場所への搬送を検討する基準としたが,「不応」については厳格な基準を設けず,各施設の医療資源(診療体制)で判断することとした。また,小児でも初期輸液蘇生に不応と判断された時点で人工呼吸管理や循環作動薬の導入を考慮することが示唆されているように 4, 7),成人から小児にまで適応できる基準として提 Sepsis treatment system 〔診療フロー〕 -S 384-
示した。熟練したチームによる病院間搬送は治療戦略の一つであり,重症小児では搬送数の増加と良好な治療成績の関連が知られている。敗血症における転院搬送については,今後の検討課題である 8-14)。 集中治療室での加療の有効性については,観察研究ではあるが,重症敗血症 / 敗血症性ショックにおいて来院から集中治療室入室までの時間が1 時間遅れるごとに死亡率の調整オッズ比が1.11 上昇すると報告されている 15)。「集中治療ができる場所」の定義は患者因子と環境因子の相対的なものであるため明文化することはむずかしい。集中治療医の関わりと治療成績に関しては,high intensity モデルではlow intensity モデルに比べ,院内死亡率の低下や入院期間の短縮が期待されることが報告されている 16, 17)。しかし,集中治療医の介入と院内死亡率の上昇の関連を指摘する報告もある 18)。 敗血症診療における適切な治療の実施について,敗血症の早期認知と早期治療介入の観点から評価しなければならない。敗血症の初期診療における質評価指数(quality indicator: QI)を明確にし,診療プロセスを適切に評価することは,敗血症診療全体における質の向上に繋がる。そのため「敗血症初期診療の質評価指数(quality indicator)は何か?」というCQ を提示した。本邦では敗血症に特化したQI は十分には検討されていない。現在,米国連邦政府の保険福祉省がHospital Inpatient Quality Reporting Program (IQRP)の中で, Severe Sepsis and Septic Shock Early Management Bundle (SEP-1)を唯一敗血症診療でのQI として取り上げている 19)。SEP-1 では,従来の治療のプロトコル遵守率という評価ではなく,治療バンドルとして達成度から評価している。バンドルの項目としてSEP-1 には6 項目あるが,適宜修正変更されている。現在,3 時間以内の広域抗菌薬投与以外には敗血症の予後改善と関連する項目がみられず 20),バンドルの項目を新たに修正してさらにQI としての質の向上を行う過程にある 21)。本邦で行われたFORECAST 研究ではclosed ICU のほうが敗血症の3 時間バンドルの遵守率が高いとも報告されているように 22),本邦においてもQI 評価を目的とした検討が期待される。 以上のような敗血症の概念や早期発見・早期治療の重要性について,医療従事者および一般市民も広く認識していることが,敗血症の予防と予後の改善には重要と考えられ,世界的に敗血症の啓発活動が行われている。本ガイドラインでは「敗血症の啓発活動にはどのようなものがあるか?」というCQ を提示し,世界敗血症連盟(Global Sepsis Alliance: GSA) 23)と世界保健機関(World Health Organization: WHO) 24)との連携, そして本邦における学会の取り組みについて言及する。 文 献 1) Bhattacharjee P, Edelson DP, Churpek MM: Identifying Patients With Sepsis on the Hospital Wards. Chest. 2017; 151: 898-907. 2) Seymour CW, Liu VX, Iwashyna TJ, et al: Assessment of clinical criteria for sepsis for the third international consensus definitions for sepsis and septic shock (sepsis-3). JAMA. 2016; 315: 762-74. 3) Royal College of Physicians: National early warning score (NEWS) 2. Available online at: https: / /www.rcplondon.ac.uk / projects / outputs / national-early-warning-score-news-2. Accessed December 31, 2020. 4) Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al: Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Intensive Care Med. 2013; 39: 165-228. 5) 橋本悟: わが国の集中治療医学の現況とこれからの課題: 新専門医制度をふまえて(特集集中治療医学の課題と将来の展望). ICU とCCU. 2013; 37: 113-8. 6) 内野滋彦: わが国の集中治療室は適正利用されているのか.日集中医誌. 2010; 17: 141-4. 7) Davis AL, Carcillo JA, Aneja RK, et al: The American College of Critical Care Medicine Clinical Practice Parameters for Hemodynamic Support of Pediatric and Neonatal Septic Shock: Executive Summary. Pediatr Crit Care Med. 2017; 18: 884-90. 8) Tilford JM, Simpson PM, Green JW, et al: Volume-outcome relationships in pediatric intensive care units. Pediatrics. 2000; 106: 289-94. 9) Marcin JP, Song J, Leigh JP: The impact of pediatric intensive care unit volume on mortality: A hierarchical instrumental variable analysis. Pediatr Crit Care Med. 2005; 6: 136-41. 10) Pearson G, Shann F, Barry P, et al: Should paediatric intensive care be centralised? Trent versus Victoria. Lancet. 1997; 349: 1213-7. 11) Markovitz BP, Kukuyeva I, Soto-Campos G, et al: PICU Volume and Outcome: A Severity-Adjusted Analysis. Pediatr Crit Care Med. 2016; 17: 483-9 12) Ramnarayan P, Thiru K, Parslow RC, et al: Effect of specialist retrieval teams on outcomes in children admitted to paediatric intensive care units in England and Wales: A retrospective cohort study. Lancet. 2010; 376: 698-704. 13) Moynihan K, McSharry B, Reed P, et al: Impact of Retrieval, Distance Traveled, and Referral Center on Outcomes in Unplanned Admissions to a National PICU. Pediatr Crit Care Med. 2016; 17: e34-42. 14) Hamrin TH, Berner J, Eksborg S, et al: Characteristics and outcomes of critically ill children following emergency transport by a specialist paediatric transport team. Acta Paediatr. 2016; 105: 1329-34. 15) Li Q, Wang J, Liu G, et al: Prompt admission to intensive care is associated with improved survival in patients with severe sepsis and / or septic shock. J Int Med Res. 2018; 46: 4071-81 16) Pronovost PJ, Angus DC, Dorman T, et al: Physician Staffing Patterns and Clinical Outcomes in Critically Ill PatientsA Systematic Review. JAMA. 2002; 288: 2151-62. 17) Wilcox ME, Chong CA, Niven DJ, et al: Do intensivist staffing patterns influence hospital mortality following ICU admission? A systematic review and meta-analyses. Crit Care Med. 2013; 41: 2253-74. 18) Levy MM, Rapoport J, Lemeshow S, et al: Association between critical care physician management and patient mortality in the intensive care unit. Ann Intern Med. 2008; 148: 801-9. s
19) Faust JS, Weingart SD: The Past, Present, and Future of the Centers for Medicare and Medicaid Services Quality Measure SEP-1: The Early Management Bundle for Severe Sepsis / Septic Shock. Emerg Med Clin North Am. 2017; 35: 219-31. 20) Seymour CW, Gesten F, Prescott HC, et al: Time to treatment and mortality during mandated emergency care for sepsis. N Engl J Med. 2017; 376: 2235-44. 21) Marik PE, Farkas JD, Spiegel R, et al: POINT: Should the Surviving Sepsis Campaign Guidelines Be Retired? Yes. Chest. 2019; 155: 12-4. 22) Abe T, Ogura H, Shiraishi A, et al: Characteristics, management, and in-hospital mortality among patients with severe sepsis in intensive care units in Japan: the FORECAST study. Crit Care. 2018; 22: 322. 23) Global Sepsis Alliance: Available online at: https: / /www.globalsepsis-alliance.org / . 24) WHO: WHO 第70 回決議(A70 / 13 13 April 2017). Available online at: http: / /apps.who.int / gb / e/e_wha70.html. Accessed December 31, 2020. CQ21-1:一般病棟,ER で敗血症を早期発見す る方法は? Answer:一般病棟,ER で敗血症を早期に発見する方法として,quick SOFA(qSOFA)や早期警告スコアなどを用いたスクリーニング法がある(Table 21-1-1~ 21 -1-3)(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症を早期に発見し治療を開始することで,予後が改善する可能性がある 1)。特に一般病棟やER では敗血症を想起して発見することで,治療開始のタイミングを逃さないようにするべきである。敗血症の早期発見は,患者の予後を左右する敗血症診療の重要なポイントであり,本CQ を取り上げた。 (2)解説 敗血症の早期発見と早期介入は,死亡率改善には不可欠である。敗血症の早期発見が可能になれば,輸液蘇生や抗菌薬投与などの早期の介入ができ,患者の転帰を改善する可能性がある 2)。しかし,敗血症と敗血症以外の感染症で病態生理が大きく異なるわけではなく,時系列で変化するものである。よって,敗血症患者のみを抽出するような診断基準は極めてむずかしい。そのため,死亡率の高い,高度な医療を必要とする感染症群をどのように検出するかという観点で診断基準が作成されている。1991 年に全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome: SIRS)をもとにした敗血症の定義が提唱された。 SIRS は敗血症の早期発見のツールとしての特異度が低い点 3),また病棟の患者でSIRS の2 項目を満たす症例は約半数である点 4)などの問題点が指摘された。2016 年にSepsis-3 の定義とともに,病棟やER で敗血症を疑うスクリーニングツールとしてSIRS より項目数を減らしたqSOFA が提唱された 5)。qSOFA は, SIRS,logistic organ dysfunction system(LODS)やSOFA と比較して,敗血症の早期発見や院内死亡をより良く予測するスコアであると報告されている 5)。qSOFA は,病棟やER における敗血症患者の院内死亡率,急性臓器障害,集中治療室緊急入室に関して高い Table 21-1-1 quick SOFA項目測定値点数収縮期血圧≦100mmHg 1呼吸数≧22 回 / 分1意識の変容1 3 項目の中で2 点以上は敗血症を疑う -S 386-
診断特異性を示した 6)。また,院内死亡率の予測因子を評価した10 件の研究のメタ解析ではSIRS よりqSOFA が有用と報告されている[リスク比(RR)0.03, 95% CI: 0.01 多い~0.05 多い,P =0.002)] 7)。一方, qSOFA が敗血症を認識するのには感度が低い可能性もある 8)。さらに,rapid response system(RRS)は,院内における敗血症を含む急変事例を早期に発見・対応するシステムであり,その起動ツールのうちいくつかの指標を組み合わせ,スコア化して英国で発表されたnational early warning score(NEWS)も敗血症の早期発見のツールとして評価されている 9)。Redfern らは,一時感染患者の院内死亡の予測(area under ROC curve)ではNEWS が優れている(NEWS: 0.805 vs. qSOFA: 0.677)と報告 10)している。現時点では,早期発見のためのスクリーニングにはそれぞれの施設で実施可能なスコアリングを用いるのがよい。 文 献 1) Kadri SS, Rhee C, Strich JR, et al: Estimating Ten-Year Trends in Septic Shock Incidence and Mortality in United States Academic Medical Centers Using Clinical Data. Chest. 2017; 151: 278-85. 2) Bhattacharjee P, Edelson DP, Churpek MM: Identifying Patients With Sepsis on the Hospital Wards. Chest. 2017; 151: 898-907. 3) Kaukonen KM, Bailey M, Pilcher D, et al: Systemic inflammatory response syndrome criteria in defining severe sepsis. N Engl J Med. 2015; 372: 1629-38. 4) Churpek MM, Zadravecz FJ, Winslow C, et al: Incidence and prognostic value of the systemic inflammatory response syndrome and organ dysfunctions in ward patients. Am J Respir Crit Care Med. 2015; 192: 958-64. 5) Seymour CW, Liu VX, Iwashyna TJ, et al: Assessment of clinical criteria for sepsis: for the third international consensus definitions for sepsis and septic shock (Sepsis-3). JAMA. 2016; 315: 762-74. 6) Song JU, Sin CK, Park HK, et al: Performance of the quick Sequential (sepsis-related) Organ Failure Assessment score as a prognostic tool in infected patients outside the intensive care unit: A systematic review and meta-analysis. Crit Care. 2018; 22: 28. 7) Serafim R, Gomes JA, Salluh J, et al: A Comparison of the Quick-SOFA and Systemic Inflammatory Response Syndrome Criteria for the Diagnosis of Sepsis and Prediction of Mortality: A Systematic Review and Meta-Analysis. Chest. 2018;153: 646-55. 8) Anand V, Zhang Z, Kadri SS, et al: Epidemiology of Quick Sequential Organ Failure Assessment Criteria in Undifferentiated Patients and Association With Suspected Infection and Sepsis. Chest. 2019; 156: 289-97. 9) Royal College of Physicians: National Early Warning Score (NEWS) 2. Available online at: https://www.rcplondon.ac.uk/ projects/outputs/national-early-warning-score-news-2. 10) Redfern OC, Smith GB, Prytherch DR, et al: A Comparison of the Quick Sequential (Sepsis-Related) Organ Failure Assessment Score and the National Early Warning Score in Non-ICU Patients With/Without Infection. Crit Care Med. 2018; 46: 1923-33. Table 21-1-2 早期警告スコア national early warning score(NEWS)点数項目3 2 1 0 1 2 3 呼吸≦8 9~11 12~20 21~24 ≧25 SpO2 ≦91 92~93 94~95 ≧96酸素投与ありなし 体温≦35.0 35.1~36.0 36.1~38.0 38.1~39.0 ≧39.1血圧≦90 91~100 101~110 111~219 ≧220脈拍≦40 41~50 51~90 91~110 111~130 ≧131意識覚醒覚醒以外 Table 21-1-3 NEWSのスコアリング後の対応 NEWS スコアリングモニタリング頻度臨床的介入 0 点最低12 時間ごととりあえず経過観察1~4 点最低4~6 時間ごとリーダーに報告・相談 観察強化の指示 5~6 点もしくは1 項目でも 3 点以上がある場合最低1 時間ごと急変対応チームの要請急変しうる病態かどうかを判断 high care unit(HCU)への移動 7 点以上持続的モニタリング熟練した急変対応チームを即座に呼ぶ 緊急性の強化を行うICU などの高度ユニットへ s
CQ21-2:一般病棟で敗血症を疑 う患者の病状変 化に対応するrapid response system (RRS)の役割とはどのようなものか? Answer:Rapid response system(RRS)は,院内患者の病状変化を早期に覚知・対応するシステムであり,その導入により敗血症においても生命予後の改善が期待されるとの意見がある(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症を早期に覚知し治療介入することは,患者生命予後の改善に強く影響する重要課題である。病院の規模や診療体制にかかわらず,ER 患者や入院患者を注意深く観察し,敗血症へと進展している可能性を早期に認識できるシステムの構築が望ましい。実際には,種々のバイタルサインを含めた病状の変化を早期に認識し,対応するシステムであるRRS を用いた敗血症スクリーニングとその後の治療介入が有用であると考え,本CQ を取り上げた。 (2)解説 敗血症の死亡率は,SSCG による治療の標準化の普及などにより着実に低下している 1)。今後,さらに死亡率の軽減を図るためには,標準治療の遵守に加え,それ以外のアプローチも必要になってくる。 敗血症の標準治療の普及や遵守と共に重要なことは,早期の敗血症の認知と治療介入であり,予後改善には必要不可欠なものである 2)。2016 年の敗血症診断基準の変更により,敗血症は感染症を基礎として臓器障害へと進展した病態と定義されている(Sepsis-3)。Sepsis-3 では臓器障害の評価にSOFA スコアを用いるため,血液検査や血液ガス分析なども必要とし診断には時間を要するため,スクリーニングとしての使用は煩雑である。したがって,一般病棟やER のベッドサイドで簡便にスクリーニングする何らかの方法が必要となる。このような臓器障害へと進展する患者は,早期から何らかのバイタルサインの異常を示すことが多いため,敗血症を疑うためのベッドサイドでのスクリーニングツールとして単純なバイタルサイン(収縮期血圧,呼吸数,意識の変容)に基づいて評価するqSOFA が推奨されている。 一方,敗血症を含めた重症患者のバイタルサインの異常といった病状変化を早期に認知,介入し,重症化,特に心肺停止への進展を予防するシステムがRRS である。一般にRRS は,医師以外にも看護師,理学療法士,薬剤師,臨床工学技士といった多職種医療スタッフや医学生,患者家族などにより,患者の病 状変化を早期発見・介入するシステムである。海外では1980 年代から導入されてきたが,本邦では2000 年代に入り,医療安全全国共同行動“いのちをまもるパートナーズ”運動の行動目標に院内急変時の迅速対応システムの構築が推奨され,ようやく普及しつつある。 RRS 起動基準は各医療施設で異なることが予想されるが,呼吸,循環,意識などの単一あるいは複数のバイタルサインの異常を認知することで起動される。この中には,収縮期血圧,呼吸数,意識の変容といったqSOFA の項目が含まれることが多い。したがって,感染症を疑う場合のRRS 起動により敗血症のスクリーニングも可能である。また,RRS 起動基準には,複数のバイタルサインにそれぞれ固有の重みづけをしてスコアリングするEWS が用いられることも多い。英国の国民保健サービス(National Health Service: NHS)が提唱するRRS に用いられるNEWS では,感染症が疑われる患者において合計5 点以上,あるいは1項目でも3 点以上がある場合,敗血症を疑うことを提案している 3)。RRS と敗血症スクリーニングの有用性について検討したランダム化比較試験(RCT)は存在しないが,RRS 導入により早期に敗血症/ 敗血症性ショックに対する治療介入が可能となり,予後の改善につながった報告もみられる 4)。また,ER あるいは一般病棟で感染症を疑う患者の生命予後やICU への緊急入室を予測するスコアとして,RRS 起動で用いられるmodified early warning score(MEWS)やNEWSが,qSOFA やSIRS 項目と比べて優れているという報告もされている 5)。 RRS により一般病棟やER で早期に敗血症を認識することで,1 時間バンドルなどの推奨治療の達成を可能とし,その結果,敗血症の生命予後の改善につながる可能性が考えられる。 文 献 1) Kaukonen KM, Bailey M, Suzuki S, et al: Mortality Related to Severe Sepsis and Septic Shock Among Critically Ill Patients in Australia and New Zealand, 2000-2012. JAMA. 2014; 311: 1308-16. 2) Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al: Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Intensive Care Med. 2013; 39: 165-228. 3) NHS England: Sepsis Guidance implementation advice for adults. 2017. 4) Sebat F, Musthafa AA, Johnson D, et al: Effect of a rapid response system for patients in shock on time to treatment and mortality during 5 years. Crit Care Med. 2007; 35: 2568-75. 5) Churpek MM, Snyder A, Han X, et al: Quick Sepsis-related -S 388-
Organ Failure Assessment, Systemic Inflammatory Response Syndrome, and Early Warning Scores for Detecting Clinical Deterioration in Infected Patients Outside the Intensive Care Unit. Am J Respir Crit Care Med. 2017; 195: 906-11. CQ21-3:初期輸液蘇生に不応の敗血症はどこで 管理するか? Answer:初期輸液蘇生に不応の敗血症は集中治療ができる場所で管理する(Good Practice Statement)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症はどの診療科,医療施設でも遭遇しうる頻度の高い病態であり,様々な医療者が診療に携わる。患者が重症化した場合は高度な集中治療が必要となるが,敗血症の症状や重症度の幅は広く,その線引きは容易ではない。我が国では欧米に比べて集中治療医も集中治療病床数も少ないことが指摘されており 1, 2),一般病床で昇圧薬管理や人工呼吸管理などの重症患者管理が行われる例もある。適切な医療資源が提供されることにより,患者の生命予後,機能予後を改善する可能性があることを鑑み,本CQ を取り上げた。 (2)解説 敗血症は罹患率の高い疾患であるがゆえに,集中治療を専門としていない医療者も治療にあたる必要がある。一般病床でも治療可能な軽症例もあるが,重症化するとケアレベルの高い病床への移動が必要になり,患者の重症度を評価して適切な病床を選択する必要がある。診療に必要な医療資源(相応の診療スキルを備えたスタッフの人的配置や,モニタリング,人工呼吸器を含む機器など)が十分に提供できない環境では,患者の予後に悪影響が及ぶことが懸念される。適切な病床選択は,各施設の機能,規模,病床使用状況によって異なる相対的なものとなるため,一概に重症度と適切な病床区分を対応させることはできない 3)が,必要な集中治療を適切に提供するために,委員会では本CQ をGPS として推奨するに至った。なお,院外への搬送では移動中のリスク・距離・方法なども勘案する必要がある。 本推奨は初期輸液蘇生に不応の患者を対象としたが,対象を選定するうえで質の高いエビデンスは見当たらなかった。米国集中治療医学会のICU admission, discharge, and triage guidelines(ADT ガイドライン)では,集中治療室入室の推奨度2C(弱い推奨,低いエビデンスレベル)の例として生命の危険がある敗血症を挙げている 4)。本ガイドラインは集中治療室がない環境で診療している一般診療医療者も対象としていること,敗血症の表現型が多様であるため可能な限りシンプルな基準でなければ実用性がないことを考慮して,「初期輸液蘇生に不応の場合」を集中治療が可能 s
な場所へ搬送を検討する基準とした。敗血症性ショックを想定したが,定義上必要となる乳酸値測定ができない施設も多い状況も考慮した。また,「不応」は曖昧な表現であるが,各施設が持っている医療資源に応じて幅が必要であると判断して推奨文に使用した。不応という範疇には,持続性低血圧,意識障害の遷延,呼吸状態の悪化,乳酸クリアランス不良などが含まれる。ただし,重症度のみならず,必要となる医療資源や回復の見込みなどを総合的に判断することが重要である 4)。 また,小児の敗血症管理では,各種の診療アルゴリズムにおいて,初期輸液蘇生に不応と判断された時点で気管挿管・人工呼吸管理の開始や,中心静脈ラインを確保して循環作動薬の導入を考慮することが示唆されている 5, 6)。敗血症は多くの臓器系に機能障害を来す致死率の高い病態であり,本ガイドラインの小児章においても同様の診療アルゴリズムを提示したように,「初期輸液蘇生に不応」という目安をもって集中治療管理への移行を判断するのは妥当であろう。すなわち,院内の集中治療が可能な病床へ患者を転床するなり,重症小児の管理に長けた集中治療室が近隣に存在するのであれば,そこへの院外搬送を検討する。敗血症に限らず,重症小児患者の診療成績に関しては患者数の増加と良好な治療成績の関連が知られている 7-10)。また,重症小児患者を搬送するスキルと装備を備えたチームが従事すれば,生命予後は悪化しないとも報告されており 11-13),病院間搬送の適否や手段を検討する際に考慮されたい。 集中治療室での治療のメリットについてのエビデンスは観察研究に限られる。敗血症に限らない患者では,集中治療室満床により1 時間入室が遅れるごとに集中治療室死亡の調整リスク比(RR)が1.015 多い(95% CI: 1.006 多い~1.023 多い),一般病棟での病状悪化から集中治療室チームへの相談が遅れた群(> 7.7 時間)は遅れない群(<1 時間)に比べ30 日死亡 率が上昇し[調整オッズ比(OR)1.8 多い(95% CI: 1.1 多い~1.9 多い)],EWS で重症と判定されてから 集中治療室への移送が6 時間以上かかると院内死亡率が上昇(33.2% vs. 24.5%, P <0.001)し,1 時間ごとに院内死亡のOR が3% 上昇する,などといった報告が散見される 14-20)。この領域ではランダム化比較試験(RCT)が実質的に不可能であり,現時点のエビデンスによりADT ガイドラインでも重症患者を集中治療室で管理することのコンセンサスが得られている 4)。敗血症に関してはさらに限定的になるが,重症敗血症/ 敗血症性ショックにおいて来院から集中治療室入室までの時間が1 時間遅れるごとに死亡の調整 OR が1.11 上昇(95% CI: 1.006 多い~1.017 多い)すると報告されている 21)。「集中治療ができる場所」の条件,特に集中治療医の関わり方について委員会で議論されたが,患者因子と環境因子の相対的なもので明文化することはむずかしい。本邦の特定集中治療室管理料,小児特定集中治療室管理料,救命救急入院料の要件などは,1 つの基準となりうる。集中治療医の関わりについては,システマティックレビューでhigh intensity モデル(集中治療医が決定権を持つclosed ICU,ないし全症例で集中治療医へのコンサルトが必須)でlow intensity モデル(各科が独自に管理するopen ICU または集中治療医が不在)に比べ,院内死亡の低下(RR 0.83,95% CI: 0.70 多い~0.99 多い),入院期間の短縮(加重平均の 差 0.17 日少ない,95% CI: 0.31 日少ない~0.03 日多い)が報告されている 22, 23)。ただし,集中治療医の介入と院内死亡率の上昇の関連を指摘する報告もあり,集中治療医による過剰な検査や手技,患者情報の不十分な申し送りによる集中治療医の治療の質低下のリスクなどが指摘されている 24)。また,high intensity モデルの効果は,集中治療室の専門性,地域,研究された年代で差が見られる 23)。敗血症に関してのデータは極めて限定的だが,本邦の多施設研究(FORECAST)ではclosed ICU のほうが3 時間バンドルの遵守率が高い(調整OR: 2.84 多い,95% CI: 1.28 多い~6.28 多い)と報告されている 25)。 文 献 1) 橋本悟: わが国の集中治療医学の現況とこれからの課題─新専門医制度をふまえて─. ICU とCCU. 2013; 37: 113-8. 2) 内野滋彦: わが国の集中治療室は適正利用されているのか.日集中医誌. 2010; 17: 141-4. 3) Marshall JC, Bosco L, Adhikari NK, et al: What is an intensive care unit? A report of the task force of the World Federation of Societies of Intensive and Critical Care Medicine. J Crit Care. 2017; 37: 270-6. 4) Nates JL, Nunnally M, Kleinpell R, et al: ICU Admission, Discharge, and Triage Guidelines: A Framework to Enhance Clinical Operations, Development of Institutional Policies, and Further Research. Crit Care Med. 2016; 44: 1553-602. 5) Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Severe Sepsis and Septic Shock, 2012. Intensive Care Med. 2013; 39: 165-228. 6) Davis AL, Carcillo JA, Aneja RK, et al: The American College of Critical Care Medicine Clinical Practice Parameters for Hemodynamic Support of Pediatric and Neonatal Septic Shock: Executive Summary. Pediatr Crit Care Med. 2017; 18: 884-90. 7) Tilford JM, Simpson PM, Green JW, et al: Volume-outcome relationships in pediatric intensive care units. Pediatrics. 2000; 106: 289-94. 8) Marcin JP, Song J, Leigh JP: The impact of pediatric intensive -S 390-
care unit volume on mortality: A hierarchical instrumental variable analysis. Pediatr Crit Care Med. 2005; 6: 136-41. 9) Pearson G, Shann F, Barry P, et al: Should paediatric intensive care be centralised? Trent versus Victoria. Lancet. 1997; 346: 1213-7. 10) Markovitz BP, Kukuyeva I, Soto-Campos G, et al: PICU Volume and Outcome: A Severity-Adjusted Analysis. Pediatr Crit Care Med. 2016; 17: 483-9. 11) Ramnarayan P, Thiru K, Parslow RC, et al: Effect of specialist retrieval teams on outcomes in children admitted to paediatric intensive care units in England and Wales: A retrospective cohort study. Lancet. 2010; 376: 698-704. 12) Moynihan K, McSharry B, Reed P, et al: Impact of Retrieval, Distance Traveled, and Referral Center on Outcomes in Unplanned Admissions to a National PICU. Pediatr Crit Care Med. 2016; 17: e34-42. 13) Hamrin TH, Berner J, Eksborg S, et al: Characteristics and outcomes of critically ill children following emergency transport by a specialist paediatric transport team. Acta Paediatr. 2016; 105: 1329-34. 14) Mardini L, Lipes J, Jayaraman D: Adverse outcomes associated with delayed intensive care consultation in medical and surgical inpatients. J Crit Care. 2012; 27: 688-93. 15) Hersch M, Sonnenblick M, Karlic A, et al: Mechanical ventilation of patients hospitalized in medical wards vs the intensive care unit--an observational, comparative study. J Crit Care. 2007; 22: 13-7. 16) Young MP, Gooder VJ, McBride K, et al: Inpatient transfers to the intensive care unit: delays are associated with increased mortality and morbidity. J Gen Intern Med. 2003; 18: 77-83. 17) Chalfin DB, Trzeciak S, Likourezos A, et al: Impact of delayed transfer of critically ill patients from the emergency department to the intensive care unit. Crit Care Med. 2007; 35: 1477-83. 18) Churpek MM, Wendlandt B, Zadravecz FJ, et al: Association between intensive care unit transfer delay and hospital mortality: A multicenter investigation. J Hosp Med. 2016; 11: 757-62. 19) Cardoso LT, Grion CM, Matsuo T, et al: Impact of delayed admission to intensive care units on mortality of critically ill patients: a cohort study. Crit Care. 2011; 15: R28. 20) Robert R, Reignier J, Tournoux-Facon C, et al: Refusal of intensive care unit admission due to a full unit: impact on mortality. Am J Respir Crit Care Med. 2012; 185: 1081-7. 21) Li Q, Wang J, Liu G, et al: Prompt admission to intensive care is associated with improved survival in patients with severe sepsis and/or septic shock. J Int Med Res. 2018; 46: 4071-81. 22) Pronovost PJ, Angus DC, Dorman T, et al: Physician Staffing Patterns and Clinical Outcomes in Critically Ill Patients: A Systematic Review. JAMA. 2002; 288: 2151-62. 23) Wilcox ME, Chong CA, Niven DJ, et al: Do intensivist staffing patterns influence hospital mortality following ICU admission? A systematic review and meta-analyses. Crit Care Med. 2013; 41: 2253-74. 24) Levy MM, Rapoport J, Lemeshow S, et al: Association between critical care physician management and patient mortality in the intensive care unit. Ann Intern Med. 2008; 148: 801-9. 25) Abe T, Ogura H, Shiraishi A, et al: Characteristics, management, and in-hospital mortality among patients with severe sepsis in intensive care units in Japan: the FORECAST study. Crit Care. 2018; 22: 322. CQ21-4:敗血症初期診療の質評価指標(quality indicator)は何か? Answer:敗血症初期診療の質評価指標(quality indicator)として,血液培養の採取,乳酸値の測定,早期抗菌薬投与,初期輸液蘇生,反復した血管内容量と心機能の評価などの各項目の実施率がある(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症初期診療においては,早期発見と早期治療介入が重要である。そのため,敗血症に対する治療が適切に実施されているかどうかを,早期発見と早期治療介入の観点から評価する必要がある。敗血症初期診療における質評価指標(quality indicator: QI)を明らかにするために本CQ を取り上げた。 (2)解説 診療の質を改善するためには,適切な診療プロセスや望ましいアウトカムによって構成される診療のQI を用いて評価することが重要である。敗血症の従来の初期診療では,敗血症をより早期に発見し,early goaldirected therapy(EGDT)プロトコルに従った治療を進めることが有効と考えられ,過去のガイドラインでも推奨されてきた 1)。しかし,2014 年に報告されたProCESS trial などでEGDT プロトコルでは予後が改善しないことが確認された 2-4)。その結果を重視し,2015年に米国連邦政府の保健福祉省(Department of Health and Human Services: HHS)内にあるメディケア・メディケイドサービスセンター(Centers for Medicare & Medicaid Services: CMS)は,hospital inpatient quality reporting program(IQRP)において,severe sepsis and septic shock early management bundle (SEP-1)を敗血症診療におけるQI として取り上げた 5)。以降,従来のようなプロトコルによる治療戦略ではなく,治療バンドルの達成を進めるという戦略に変更されている。したがって,バンドルとして取り上げられる各項目は,敗血症における治療の質をモニタリングする点からも重要である。SEP-1 のQI には6 項目あり,敗血症発症から3 時間以内の1血液培養実施,2乳酸測定,3適切な抗菌薬投与,そして敗血症性ショックの場合は4 30mL / kg の輸液蘇生,さらに初期乳酸値が2.0mmol / Lを超える場合は6 時間以内において5乳酸値の反復測定,低血圧が遷延する場合の6血管作動薬の使用である 6)。また,SEP-1 には入っていないが,敗血症性ショックの初期対応では輸液だけでなく,超音波検査 s
などによる血管内容量と心機能の評価も必要な可能性がある 7)。 近年の報告では,抗菌薬投与をより早い1 時間以内で行った場合の死亡率の低下 8)や,早期の乳酸値測定が早期治療介入を促して患者の予後改善につながる可能性も指摘されている 9)。しかし,SEP-1 の各項目の達成度と敗血症の予後について調査した報告では, 3 時間以内の広域抗菌薬投与 10)以外のQI に関しては,治療効果改善の根拠に乏しいとされている 11)。また,早期の抗菌薬投与に関しても,適切な抗菌薬か否かの検証も今後必要である 12)。以上のように,国際的にも未だ適切なQI は明らかになっていないのが現状である。本邦においては敗血症診療に特化したQI の設定とその評価は十分に行われておらず,今後の課題といえる。 文 献 1) Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al: Surviving sepsis campaign: International guidelines for management of severe sepsis and septic shock, 2012. Intensive Care Med. 2013; 39: 165-228. 2) Yealy DM, Kellum JA, Huang DT, et al: A randomized trial of protocol-based care for early septic shock. N Engl J Med. 2014; 370: 1683-93. 3) Peake SL, Delaney A, Bailey M, et al: Goal-directed resuscitation for patients with early septic shock. N Engl J Med. 2014; 371: 1496-506. 4) Mouncey PR, Osborn TM, Power GS, et al: Trial of early, goaldirected resuscitation for septic shock. N Engl J Med. 2015; 372: 1301-11. 5) Faust JS, Weingart SD: The Past, Present, and Future of the Centers for Medicare and Medicaid Services Quality Measure SEP-1: The Early Management Bundle for Severe Sepsis/Septic Shock. Emerg Med Clin North Am. 2017; 35: 219-31. 6) The Joint Commission: Chart Abstracted Measures. Available online at: https://www.sepsiscoordinatornetwork.org/wp-content/ uploads/2018/05/Sepsis-Alliance-SEP-1-Core-Measure.pdf Accessed September 1, 2020. 7) Marik P, Bellomo R: A rational approach to fluid therapy in sepsis. Br J Anaesth. 2016; 116: 339-49. 8) Levy MM, Evans LE, Rhodes A: The surviving sepsis campaign bundle: 2018 update. Crit Care Med. 2018; 46: 997-1000. 9) Han X, Edelson DP, Snyder A, et al: Implications of Centers for Medicare & Medicaid Services Severe Sepsis and Septic Shock Early Management Bundle and Initial Lactate Measurement on the Management of Sepsis. Chest. 2018; 154: 302-8. 10) Seymour CW, Gesten F, Prescott HC, et al: Time to treatment and mortality during mandated emergency care for sepsis. N Engl J Med. 2017; 376: 2235-44. 11) Marik PE, Farkas JD, Spiegel R, et al: POINT: Should the Surviving Sepsis Campaign Guidelines be Retired? Yes. Chest. 2019; 155: 12-4. 12) Septimus EJ, Coopersmith CM, Whittle J, et al: Sepsis National Hospital Inpatient Quality Measure (SEP-1): Multistakeholder Work Group Recommendations for Appropriate Antibiotics for the Treatment of Sepsis. Clin Infect Dis. 2017; 65: 1565-9. CQ21-5:敗血症の啓発活動にはどのようなもの があるか? Answer:Global Sepsis Allianceと世界保健機関(WHO)を中心に,一般市民向けの「世界敗血症デー」のイベントや医療従事者向けのセミナーなどが行われている(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症診療ガイドラインを医療従事者や一般市民へ伝えることは,ガイドラインの作成と並ぶ重要な課題である。敗血症の知識を医療従事者や一般市民へ伝える啓発活動がどのように行われているのかを本ガイドラインの利用者が知ることは,本ガイドラインと敗血症の知識のさらなる普及につながると考え,CQ として取り上げた。 (2)解説 2002 年から始まったSurviving Sepsis Campaign は, 2004 年以降のSSCG を通して敗血症の概念や標準治療を世界に広めているが,ガイドラインだけでは敗血症の予防や早期発見には至らず,敗血症と気づかれないまま,多くの人々が命を落としていることが課題とされていた。2010 年に敗血症の概念と予防・早期発見について,医療従事者だけでなく一般市民にも広く伝えることを目的として,ヨーロッパを中心に「Global Sepsis Alliance: GSA(世界敗血症連盟) 1)」が結成された。 GSA では「Stop sepsis, Save lives!」のスローガンのもと,2020 年までの5 つの目標,1敗血症の罹患率を20% 下げる,2敗血症の救命率を10% 上げる, 3医療従事者,一般市民の敗血症の理解と認知度を高める,4敗血症のリハビリテーションを世界中で普及させる,5敗血症の予防と治療の効果を正確に評価する,を掲げて啓発活動を行ってきた。SSCG が標準治療の普及を目的とするのに対し,GSA では敗血症の予防・早期発見から治療までを一般市民や集中治療室以外の医療従事者にもわかりやすく伝えることを目的としている。このため,GSA は9 月13 日を「世界敗血症デー」と定め,この日に世界中で敗血症に関するイベントを開催してきた。GSA は世界保健機関(World Health Organization: WHO)にも協力を呼びかけ,2017年には,WHO の総会において,敗血症が「世界的に解決すべき緊急課題」として認定されている。 2020 年にGSA は2030 年までの新たな6 つの目標, 1感染症予防により敗血症の発症を減らす,2各国が -S 392-
政策として感染制御の3 本柱(感染予防,抗菌薬適正使用支援,敗血症の早期認知と管理)に取り組む, 3敗血症の早期発見と標準治療により子供から大人までの生存率を改善させる,4世界中の人々が適切なリハビリテーションを受けられるようにする,5一般市民から医療従事者まで,敗血症の認知度を上げる, 6敗血症による社会的負担と敗血症対策の評価を改善する,を示した。今後,この新たな目標に向けて, WHO と共に各国へ感染症予防と敗血症の対策を呼びかけていくことになる。 日本集中治療医学会では,GSA 委員会が中心となり,2013 年より「世界敗血症デー」に合わせた市民公開イベントや医療従事者を対象とした「敗血症セミナー」を開催してきた。2018 年からは日本救急医学会がGSA の活動に加わり,2019 年には日本感染症学会も加わった3 学会合同の「Japan Sepsis Alliance (JaSA)」へと発展している。JaSA では,敗血症セミナーや市民公開講座,ホームページ「敗血症.com 2)」などを通して,医療従事者と市民へ敗血症診療ガイドラインや敗血症の知識を伝える活動を行っている。 文 献 1) Global Sepsis Alliance. Available online at: https://www.globalsepsis-alliance.org/. Accessed August 31, 2020. 2) 日本集中治療医学会, 日本救急医学会, 日本感染症学会: 敗血症.com. Available online at: http://xn--ucvv97al2n.com/index. html. Accessed August 31, 2020. s
CQ22:ストレス潰瘍 敗血症患者などの重症患者においては,ストレス潰瘍に伴う上部消化管出血が問題となる。近年,全身管理の質の向上に伴い,上部消化管出血の発生率は2~ 5% まで低下してきた 1)。しかし,上部消化管出血の発生は死亡率の増加との関連が示唆されているため 2),ストレス潰瘍の予防は重要である。その予防方法として,胃酸分泌抑制薬,胃酸中和薬,胃粘膜防御因子増強薬といった抗潰瘍薬の投与がある。しかし,抗潰瘍薬の投与により,胃酸のpH の上昇に伴い胃内の細菌叢に変化が起こり,人工呼吸器関連肺炎の原因となる病原菌の胃や気管,気管支への定着が促進され,人工呼吸器関連肺炎の発症リスクが増加する可能性がある 3)。また,胃酸分泌抑制薬の中でもプロトンポンプ阻害薬(PPI)では,Clostridioides difficile 感染症のリスクが上昇する可能性もある 3)。このように抗潰瘍薬による予防にも益と害が存在するため, CQ22-1「敗血症患者に消化管出血の予防を目的とし た抗潰瘍薬の投与を行うか?」においてその検証を行った。今回のシステマティックレビューでは,ヒスタミンH2 受容体拮抗薬,PPI,スクラルファートが抗潰瘍薬として含まれているが,そのいずれが優れているかについては検討を行っていない。このうちどれが優れているかについては,ネットワークメタ解析において,PPI が最も上部消化管出血の予防効果が高いとされているが,肺炎のリスクを増加させる可能性も報告されているので参考にされたい 4)。 また,開始した抗潰瘍薬による予防をいつまで続けるべきかについても臨床上の重要な疑問である。そこでBQ としてCQ22-2「敗血症患者に対する抗潰瘍薬の中止の判断はどのようにするか?」を策定した。このCQ では,消化性潰瘍のリスクと抗潰瘍薬の必要性,抗潰瘍薬の副作用,経腸栄養と抗潰瘍薬との関係に着 目して情報提供を行った。 最後に,抗潰瘍薬の予防投与はすべての患者で一律に行われるべきものではない。SSCG 2016 5)や日本版重症患者の栄養療法ガイドライン 6)でも述べられているように,出血リスクの少ない患者においては,抗潰瘍薬の予防投与は推奨されていない。CQ22-2 において消化性潰瘍のリスク因子についても情報提供を行っているので,臨床の場で予防投与を行うべき患者かを検討する際に,役立てていただければ幸いである。 文 献 1) Zhou X, Fang H, Xu J, et al: Stress ulcer prophylaxis with proton pump inhibitors or histamine 2 receptor antagonists in critically ill adults - a meta-analysis of randomized controlled trials with trial sequential analysis. BMC Gastroenterol. 2019; 19: 193. 2) Krag M, Perner A, Wetterslev J, et al: Prevalence and outcome of gastrointestinal bleeding and use of acid suppressants in acutely ill adult intensive care patients. Intensive Care Med. 2015; 41: 833-45. 3) Toews I, George AT, Peter JV, et al: Interventions for preventing upper gastrointestinal bleeding in people admitted to intensive care units. Cochrane Database Syst Rev. 2018; 6: CD008687. 4) Alhazzani W, Alshamsi F, Belley-Cote E, et al: Efficacy and safety of stress ulcer prophylaxis in critically ill patients: a network meta-analysis of randomized trials. Intensive Care Med. 2018; 44: 1-11. 5) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. 6) 日本集中治療医学会重症患者の栄養管理ガイドライン作成委員会: 日本版重症患者の栄養療法ガイドライン. 日集中医誌. 2016; 23: 185-281. ストレス潰瘍〔診療フロー〕 -S 394-
CQ22-1:敗血症患者に消化管出血の予防を目的 とした抗潰瘍薬の投与を行うか? Answer:敗血症患者に消化管出血の予防を目的とした抗潰瘍薬の投与を行うことを弱く推奨する(GRADE 2B:エビデンスの確実性= 「中」)。 (1)背景および本CQ の重要度 敗血症患者など重症患者では,侵襲に伴うストレス潰瘍やそれに伴う出血を生じることがある。ストレス潰瘍の予防として,ヒスタミンH2 受容体拮抗薬,プロトンポンプ阻害薬(PPI),スクラルファートといった抗潰瘍薬が投与されるが,出血の予防という益がある一方で,肺炎,Clostridioides difficile 感染症の増加,薬剤の副作用としての汎血球減少といった害も懸念される。したがって,敗血症患者において,ストレス潰瘍による出血の予防のために抗潰瘍薬を投与するかどうかを検証することは重要と考えられ,臨床課題として取り上げた。 (2)PICO P (患者):成人集中治療患者I (介入):抗潰瘍薬の投与C (対照):プラセボまたは抗潰瘍薬の非投与O (アウトカム):消化管出血,病院死亡・全死亡,肺炎,Clostridioides difficile 感染症,あらゆる重 篤な副作用 (3)エビデンスの要約 システマティックレビューの結果,PICO に合致したランダム化比較試験(RCT)が30 編施行 1-30)されており,これらを用いたメタ解析を実施した。アウトカムに関しては,事前設定に基づいて検索し得た全RCT を対象としたもの,ならびにバイアスリスクが低いRCT に限定したものの2 通りを行った。エビデンスの確実性が高い解析を用いることと事前に設定していたため,バイアスリスクが低いRCT に限定したアウトカムを採用した。 (4)益と害のバランス(Table 22-1-1)望ましい効果: 消化管出血に関する効果推定値は,リスク差(RD) 1,000 人あたり44 人少ない (95% CI: 54 人少ない~28人少ない)(14 RCT,4,884 人)であり,死亡に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり3 人多い(95% CI: 22 人少ない~33 人多い)(8 RCT,4,314 人)である。介入による望ましい効果は「小さい」と考えられる。望ましくない効果: 肺炎に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり4 Table 22-1-1 エビデンスプロファイル -S 395-
人多い (95% CI: 16 人少ない~28 人多い)(8 RCT, 4,286 人),Clostridioides difficile 感染症に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり4 人少ない (95% CI: 9人少ない~5 人多い)(3 RCT,3,607 人),あらゆる重篤な副作用に関する効果推定値は,RD 1,000 人あたり5 人多い(95% CI: 6 人少ない~20 人多い)(7 RCT,4,143 人)である。介入による望ましくない効果はわずかであると考えられる。益と害のバランス: アウトカムの相対的価値を考慮しない場合でも,死亡に関する相対的価値を考慮した場合においても利益が害を上回っているため,おそらく介入が優位であると判断する。 (5)アウトカム全般に関するエビデンスの確実性 各アウトカムが益と害の異なる方向性を示しており,重大なアウトカムに関するエビデンスの確実性の中でも最も低いグレードを採用するため「中」とした。 (6)価値観 抗潰瘍薬の投与におけるアウトカムに関する価値観についてのデータはない。一般的に死亡や消化管出血に対して置く相対的価値は高く,そのばらつきは少ないことが予想される。 (7)容認性 ヒスタミンH2 受容体拮抗薬,PPI,スクラルファートは1 日の薬価が先発品で約80~850 円であり,容認されると考えられる。また,本薬剤を1~2 回 / 日,経 静脈あるいは経管(経口)投与する労力もわずかであり,容認されると考えられる。 (8)実行可能性 一般的な薬剤であり,どの病院においても実行可能性は高いといえる。 (9)判断の要約(Table 22-1-2) (10)推奨グレーディング決定の工程 修正RAND 法を用いた投票によって,中央値8,見解不一致指数0.015 の結果となり,委員会で採択された(7 点以上:100%)。 (11)関連する他の診療ガイドラインにおける推奨 SSCG 2016 31)では,消化管出血のリスク因子を有する敗血症または敗血症性ショック患者に対して,ストレス潰瘍予防の実施が強く推奨されている。一方で,消化管出血のリスク因子のない患者は,ストレス潰瘍予防を行わないことをbest practice statement として提示している。 (12)実施に関わる検討事項 いつまで抗潰瘍薬の投与を続けるかについては,各症例ごとに考慮する必要がある。その判断にどのようなものがあるかについては,CQ22-2 に記載した。 Table 22-1-2 判断の要約 -S 396-
(13)今後の研究の可能性 今後,抗潰瘍薬の投与終了時期に関する研究が行われることが望まれる。 文 献 1) Selvanderan SP, Summers MJ, Finnis ME, et al: Pantoprazole or Placebo for Stress Ulcer Prophylaxis (POP-UP): Randomized Double-Blind Exploratory Study. Crit Care Med. 2016; 44: 1824-50. 2) Lin CC, Hsu YL, Chung CS, et al: Stress ulcer prophylaxis in patients being weaned from the ventilator in a respiratory care center: A randomized control trial. J Formos Med Assoc. 2016; 115: 19-24. 3) Kaushal S, Midha V, Sood A, et al: A comparative study of the effects of famotidine and sucralfate in prevention of upper gastrointestinal bleeding in patients of head injury. Indian J Pharmacol. 2000; 32: 246-9. 4) El-Kersh K, Jalil B, McClave SA, et al: Enteral nutrition as stress ulcer prophylaxis in critically ill patients: A randomized controlled exploratory study. J Crit Care. 2018; 43: 108-13. 5) Nourian A, Mohammadi M, Beigmohammadi MT, et al: Comparing efficacy of enteral nutrition plus ranitidine and enteral nutrition alone as stress ulcer prophylaxis. J Comp Eff Res. 2018; 7: 493-501. 6) Groll A, Simon JB, Wigle RD, et al: Cimetidine prophylaxis for gastrointestinal bleeding in an intensive care unit. Gut. 1986; 27: 135-40. 7) Apte NM, Karnad DR, Medhekar TP, et al: Gastric colonization and pneumonia in intubated critically ill patients receiving stress ulcer prophylaxis: a randomized, controlled trial. Crit Care Med. 1992; 20: 590-3. 8) van den Berg B, van Blankenstein M: Prevention of stress-induced upper gastrointestinal bleeding by cimetidine in patients on assisted ventilation. Digestion. 1985; 31: 1-8. 9) Zinner MJ, Zuidema GD, Smith PL, et al: The prevention of upper gastrointestinal tract bleeding in patients in an intensive care unit. Surg Gynecol Obstet. 1981; 153: 214-20. 10) Hanisch EW, Encke A, Naujoks F, et al: A randomized, doubleblind trial for stress ulcer prophylaxis shows no evidence of increased pneumonia. Am J Surg. 1998; 176: 453-7. 11) Burgess P, Larson GM, Davidson P, et al: Effect of ranitidine on intragastric pH and stress-related upper gastrointestinal bleeding in patients with severe head injury. Dig Dis Sci. 1995; 40: 645-50. 12) Hastings PR, Skillman JJ, Bushnell LS, et al: Antacid titration in the prevention of acute gastrointestinal bleeding: a controlled, randomized trial in 100 critically ill patients. N Engl J Med. 1978; 298: 1041-5. 13) Metz CA, Livingston DH, Smith JS, et al: Impact of multiple risk factors and ranitidine prophylaxis on the development of stressrelated upper gastrointestinal bleeding: a prospective, multicenter, double-blind, randomized trial. Crit Care Med. 1993; 21: 1844-9. 14) Cloud ML, Offen W: Continuous infusions of nizatidine are safe and effective in the treatment of intensive care unit patients at risk for stress gastritis. The Nizatidine Intensive Care Unit Group. Scand J Gastroenterol Suppl. 1994; 206: 29-34. 15) Karlstadt RG, Iberti TJ, Silverstein J, et al: Comparison of Cimetidine and Placebo for the Prophylaxis of Upper Gastrointestinal Bleeding Due to Stress-related Gastric Mucosal Damage in the Intensive Care Unit. J Intensive Care Med. 1990; 5: 26-32. 16) Halloran LG, Zfass AM, Gayle WE, et al: Prevention of acute gastrointestinal complications after severe head injury: a controlled trial of cimetidine prophylaxis. Am J Surg. 1980; 139: 44-8. 17) Rixen D, Livingston DH, Loder P: Ranitidine improves lymphocyte function after severe head injury: Results of a randomized, double-blind study. Crit Care Med. 1996; 24: 1787-92. 18) Ben-Menachem T, Fogel R, Patel RV, et al: Prophylaxis for stressrelated gastric hemorrhage in the medical intensive care unit. A randomized, controlled, single-blind study. Ann Intern Med. 1994; 121: 568-75. 19) Martin LF, Booth FV, Karlstadt RG, et al: Continuous intravenous cimetidine decreases stress-related upper gastrointestinal hemorrhage without promoting pneumonia. Crit Care Med. 1993; 21: 19-30. 20) Reusser P, Gyr K, Scheidegger D, et al: Prospective endoscopic study of stress erosions and ulcers in critically ill neurosurgical patients: Current incidence and effect of acid-reducing prophylaxis. Crit Care Med. 1990; 18: 270-4. 21) Eddleston JM, Pearson RC, Holland J, et al: Prospective endoscopic study of stress erosions and ulcers in critically ill adult patients treated with either sucralfate or placebo. Crit Care Med. 1994; 22: 1949-54. 22) Krag M, Marker S, Perner A, et al: Pantoprazole in patients at risk for gastrointestinal bleeding in the ICU. N Engl J Med. 2018; 379: 2199-208. 23) Ruiz-Santana S, Ortiz E, Gonzalez B, et al: Stress-induced gastroduodenal lesions and total parenteral nutrition in critically ill patients: frequency, complications, and the value of prophylactic treatment. A prospective, randomized study. Crit Care Med. 1991; 19: 887-91. 24) Chan KH, Lai EC, Tuen H, et al: Prospective double-blind placebo-controlled randomized trial on the use of ranitidine in preventing postoperative gastroduodenal complications in highrisk neurosurgical patients. J Neurosurg. 1995; 82: 413-7. 25) Powell H, Morgan M, Li SK, et al: Inhibition of gastric acid secretion in the intensive care unit after coronary artery bypass graft. A pilot control study of intravenous omeprazole by bolus and infusion, ranitidine and placebo. Theor Surg. 1993; 8: 125-30. 26) Darlong V, Jayalakhsmi TS, Kaul HL, et al: Stress ulcer prophylaxis in patients on ventilator. Trop Gastroenterol. 2003; 24: 124-8. 27) Basso N, Bagarani M, Materia A, et al: Cimetidine and antacid prophylaxis of acute upper gastrointestinal bleeding in high risk patients. Controlled, randomized trial. Am J Surg. 1981; 141: 339-41. 28) Kantorova I, Svoboda P, Scheer P, et al: Stress ulcer prophylaxis in critically ill patients: a randomized controlled trial. Hepatogastroenterology. 2004; 51:757-61. 29) Pinilla JC, Oleniuk FH, Reed D, et al: Does antacid prophylaxis prevent upper gastrointestinal bleeding in critically ill patients? Crit Care Med. 1985; 13: 646-50. 30) 大塚敏文, 八木義弘, 島崎修次, 他: 脳血管障害, 頭部外傷による胃酸分泌亢進に対するファモチジン(F)注の抑制効果の検討 プラセボを対照とした二重盲検比較試験. 診療と新薬. 1991; 28: 1-12. 31) Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al: Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017; 43: 304-77. -S 397-
CQ22-2:敗血症患者に対する抗潰瘍薬の中止の 判断はどのようにするか? Answer:抗潰瘍薬中止の具体的な判断基準は不明である。臨床上の判断材料として,出血リスク因子が軽減した場合,汎血球減少や肝機能異常などの副作用を認めた場合,十分な経腸栄養が投与可能となった場合などが挙げられる(BQ に対する情報提示)。 (1)背景および本CQ の重要度 抗潰瘍薬投与により胃内pH が上昇し,消化管内の細菌叢に変化が生じることなどから,肺炎やClostridioides difficile 感染症のリスクが上昇することが報告されている 1-3)。したがって,抗潰瘍薬を漫然と継続することは避けるべきであり,コストの面も考慮し 3),不要と判断した場合は速やかに中止することが望ましい。しかし,現時点で,抗潰瘍薬中止の具体的な判断基準は不明であり,その背景知識について解説する本CQ の重要度は高い。 (2)解説1消化性潰瘍のリスクと抗潰瘍薬の必要性 生体にストレスが加わることによって消化性潰瘍が生じる。敗血症などの侵襲に伴って血小板減少やDICなど,止血凝固機能障害を伴うことも多く,潰瘍が形成されると出血を生じるリスクが高まる。消化管出血のリスク因子をTable 22-2-1 に示す 4)。病態が改善して回復期に入った場合,潰瘍形成のリスクが低減した場合,止血凝固機能障害が改善して出血のリスク因子が軽減した場合が,抗潰瘍薬の投与中止の一つの臨床上の判断材料になるかもしれない。一方で,ステロイドや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)など,潰瘍形成の副作用のある薬剤を投与している場合,抗凝固薬・抗血小板薬を投与している場合,潰瘍の既往のある場合,胃・十二指腸の血流障害が懸念される場合などは,抗潰瘍薬の中止は慎重に判断すべきであろう 5)。2抗潰瘍薬の副作用 抗潰瘍薬のうち,プロトンポンプ阻害薬(PPI)やヒスタミンH2 受容体拮抗薬などの薬剤の副作用として,汎血球減少や肝機能異常などが臨床的に問題となる 2, 6)。重症患者では同様の症状を呈する他の要因も存在するため鑑別を要する。PPI やヒスタミンH2 受容体拮抗薬が原因と考えられる場合は,薬剤投与の中止によって比較的速やかに回復することが多く,薬剤の中止から平均7 日で回復したとの報告もある 6)。このように,薬剤の副作用を認めた場合も中止の判断材料となるだろう。抗潰瘍薬による副作用が生じても,消化性潰瘍のリスクが高いと判断される場合には,別の系統の薬剤に変更(PPI →ヒスタミンH2 受容体拮抗薬など)し,リスクが低いと判断される場合には副作用が比較的少ない薬剤(胃粘膜保護剤など)に変更するなどの対応が必要である。 3経腸栄養と抗潰瘍薬との関係 胃内pH は空腹時に低下し,食事摂取後に上昇する。敗血症などの重症患者では様々なストレスに加えて,絶食に伴って胃内pH が上昇しなくなることが消化性潰瘍形成の一因になると考えられる。したがって,絶食中や経胃投与での経腸栄養投与量が少量にとどまっている時期には胃内pH が上昇しにくいため,抗潰瘍薬の投与は理にかなっている。食事と同様に胃内投与の経腸栄養にも胃酸を緩衝する効果があり,重症患者では経腸栄養剤の持続投与がヒスタミンH2 受容体拮抗薬やPPI よりもpH を上昇させる可能性も報告されている 3)。このことから,十分な経腸栄養が経胃投与できていれば胃内pH の上昇が見込まれるため,抗潰瘍薬の中止の判断材料になるだろう。実際,ICU 患者において,経腸栄養のみと経腸栄養に抗潰瘍薬を併用した場合の消化管出血の割合に有意差はなく,むしろ抗潰瘍薬を併用した群で肺炎の危険性が有意に高いことが最近のメタ解析で報告されている 1)。一方で,経腸栄養を経空腸投与する場合には,栄養剤による胃内pH の上昇は生じにくいと考えられるため,抗潰瘍薬の投与が必要となる可能性はあるが,明らかなエビデンスはない。 文 献 1) Huang HB, Jiang W, Wang CY, et al: Stress ulcer prophylaxis in intensive care unit patients receiving enteral nutrition: A systematic review and meta-analysis. Crit Care. 2018; 22: 1-9. 2) Barletta JF, Bruno JJ, Buckley MS, et al: Stress ulcer prophylaxis. Crit Care Med. 2016; 44: 1395-405. 3) Plummer MP, Blaser AR, Deane AM: Stress ulceration: Prevalence, pathology and association with adverse outcomes. Table 22-2-1 消化管出血のリスク因子 4)人工呼吸管理止血凝固障害血小板数5 万 / mm3 未満PT-INR 1.5 以上APTT 2 倍以上過去1 年以内の消化管潰瘍・出血の既往外傷性脳・脊髄損傷重症熱傷(体表面積>35%)薬剤非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)低用量アスピリン高用量糖質コルチコイド -S 398-
Crit Care. 2014; 18: 213. 4) 日本集中治療医学会重症患者の栄養管理ガイドライン作成委員会: 日本版重症患者の栄養療法ガイドライン: 病態別栄養療法. 日集中医誌. 2017; 24: 569-91. 5) Buendgens L, Koch A, Tacke F: Prevention of stress-related ulcer bleeding at the intensive care unit: Risks and benefits of stress ulcer prophylaxis. World J Crit Care Med. 2016; 5: 57-64. 6) Priziola JL, Smythe MA, Dager WE: Drug-induced thrombocytopenia in critically ill patients. Crit Care Med. 2010; 38(6 Suppl): S145-54. -S 399-
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-233 - 日本集中治療医学会雑誌 Vol. 28 Supplement 2021 年2 月25 日 発行編集人 発行者 製 作日本集中治療医学会機関誌編集・用語委員会委員長 谷口 巧 一般社団法人 日本集中治療医学会〔〒113-0033〕 東京都文京区本郷3-32-7 東京ビル8 階TEL.03-3815-0589 FAX.03-3815-0585 E-mail:jimu@jsicm.org Web site:http://www.jsicm.org/ 株式会社学研メディカル秀潤社〔〒141-8414〕 東京都品川区西五反田2-11-8 TEL.03-6431-1200(代表) FAX.03-6431-1214 E-mail:jjsicm@shujunsha.co.jp本書の著作権は一切学会が所有しています.したがって,当学会の許諾を得ないで本書を転載刊行することを禁じます. 日本版敗血症診療ガイドライン2020 特別委員会