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委員会報告
はじめに
慢性透析患者の食事摂取基準は日本腎臓学会の慢性腎臓病に対する食事療法基準2007 年版1)に掲載されており,日常診療における指標として広く用いられてきた.しかしながら昨今慢性腎臓病のステージ分類に変更があり,2007 年以降にいくつかの研究報告がなされたことから,日本腎臓学会の食事療法基準が改訂作業に入った.その一環として,近年透析患者の低栄養についての関心が高まっており透析患者の食事療法基準について,日本腎臓学会「慢性腎臓病に対する食事療法基準」作成委員会より「慢性腎臓病に対する食事療法基準2007 年版」1)の日本透析医学会本ワーキンググループでの再検討を依頼された.本稿に示す基準は2014 年に発行予定の日本腎臓学会慢性腎臓病に対する食事療法基準の一部をなすものであるが,同基準の解説には字数制限があるため,本基準作成の根拠である平成24 年6 月の第57 回日本透析医学会学術集会・総会における学会委員会企画「透析患者の食事療法基準」での発表内容と会場で行われたディスカッションの内容を本稿において解説する.
I.透析患者の食事摂取基準
1 .血液透析(週3 回)エネルギー 30~35 kcal/kg 注1)注2)たんぱく質 0.9~1.2 g/kg 注1)食塩 6 g 未満注3)水分 できるだけ少なく
カリウム 2,000 mg 以下リン たんぱく質(g)×15 mg 以下2 .腹膜透析エネルギー 30~35 kcal/kg 注1)注2)注4)たんぱく質 0.9~1.2 g/kg 注1)食塩 PD 除水量(L)×7.5+尿量(L)×5 g水分 PD 除水量+尿量カリウム 制限なし注5)リン たんぱく質(g)×15 mg 以下注1) 体重は基本的に標準体重(BMI=22)を用い
る.注2) 性別,年齢,合併症,身体活動度により異な
る.注3) 尿量,身体活動度,体格,栄養状態,透析間
体重増加を考慮して適宜調整する.注4) 腹膜吸収ブドウ糖からのエネルギー分を差し
引く.注5) 高K 血症を認める場合には血液透析同様に制
限する.
1 )エネルギー量エネルギー摂取過剰では肥満となり不足ではるい痩を招く.身体のエネルギー摂取量と消費量の均衡がとれていればエネルギー出納はゼロとなり体重(透析患者ではドライウエイト)の増減はきたさない.このようなエネルギー出納がゼロとなる確率が最も高くなると推定される,推定エネルギー必要量とは習慣的なエネルギー摂取量の1 日あたりの平均値と定義されてい
透析会誌47(5 ):287~291,2014
慢性透析患者の食事療法基準
日本透析医学会学術委員会ガイドライン作成小委員会栄養問題検討ワーキンググループ
中 尾 俊 之1菅 野 義 彦1長 澤 康 行2金 澤 良 枝3秋 葉 隆4佐 中 孜5渡 邊 有 三6政 金 生 人7友 雅 司8平 方 秀 樹9秋 澤 忠 男10水 口 潤11
1東京医科大学 2兵庫医科大学 3東京家政学院大学 4東京女子医科大学5仁生社江戸川病院 6春日井市民病院 7矢吹病院 8大分大学9福岡赤十字病院 10昭和大学 11川島病院
菅野 義彦 東京医科大学腎臓内科 〒160‒0023 東京都新宿区西新宿6‒7‒1 Yoshihiko Kanno Tel:03‒3342‒6111 Fax:03‒3342‒2650
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288 中尾ほか:慢性透析患者の食事療法基準
る2).推定エネルギー必要量を求めるには,基礎代謝量(basal energy expenditure:BEE)と身体活動レベル(physical activity level:PAL)から下記により算出するのが一般的である.侵襲のある場合はこれにストレス係数を乗じて算出する.推定エネルギー必要量(kcal/day)=BEE(kcal/
day)×PAL 係数 ....................................(1)健常者においては,日本人のBEE を測定した多くの報告にもとづいて,体重1 kg 当たりのBEE の代表値が求められ,これを基礎代謝基準値と呼び,表1 のように示されている2).基礎代謝量は実測するのが理想であるが,測定は容易ではなく,また個人内でも変動するために基礎代謝基準値から下記により算出して利用することが臨床上では現実的である. BEE(kcal/day)=基礎代謝基準値(kcal/kg/
day)×基準体重(kg) ..............................(2) PAL は,身体活動量の指標であり,身体活動にともなうエネルギー消費は食事誘発性体熱産生の影響も受ける2).慢性透析患者の安静時エネルギー代謝量を検討したこれまでの研究報告では,健常者の安静時エネルギー代謝量と同等であるとするもの,高値であるとするもの,低値であるとするもの,またさらに合併病態により異なるとするものなどさまざまであり一定していない3~8).さらに,保存期腎不全・慢性透析患者における身体活動にともなうエネルギー消費量や食事誘発性体熱産生,ストレス係数についての研究報告は見当たらない.これらのことから現時点での臨床現場での対処として,慢性透析患者の食事エネルギー量を最初は健常者で示されている値にもとづいて年齢,性別,身体活動レベルを勘案して処方し,食事指導後は患者の体重変化などを観察しながら適正量となっているかを経時的に評価しつつ調整を加えることを推奨する.慢性透析患者では肥満よりもるい痩のほうが強い予後不良要因とされているため,エネルギー摂取不足には細心の注意が必要である9).以上を考慮すると,外来維持透析患者では標準体重(body mass index=22 の体重)を基準とした推定エネルギー必要量(kcal/kg/day)は多くの場合30~35 kcal/kg/day となる.糖尿病を合併している場合は本学会の血液透析患者の糖尿病治療ガイド201210)に準じて適宜エネルギー制限を行う.また腹膜透析患者については本学会の2009 年度版腹膜透析ガイドライン11)に30~35 kcal/kg/day(標準体重)が示されており,これを改訂する根拠となる臨床研究は少ないので,これを踏襲した. 2 )たんぱく質
血液透析患者のたんぱく質摂取量は慢性腎臓病に対する食事療法基準2007 年版およびそれ以前の腎疾患患者の食事療法手引きにおいて1.0~1.2 g/kg/日が推奨されている1).2007 年版の作成時以降に血液透析患者の食事療法に関する臨床研究がいくつか発表されているが,研究が適切にデザインされておらず結果が評価できない,対象患者がわが国の平均的な血液透析患者と大きく異なっている等の理由で,改訂の根拠となりうるものは少ない.その中でShinaberger ら12)が53,933 人の血液透析患者に対して行った観察研究ではnormalized protein equivalent of nitrogen appearance(nPNA)で算出したたんぱく質摂取量により患者を10 段階に分類し,2 年間の生命予後を検討したところ,1.4 g/kg/日以上および0.8 g/kg/日未満のグループでは全死亡に対するハザード比が有意に高かった12).本研究を参考にした場合に新たな摂取基準として0.8 g/kg/日以上1.4 g/kg/日未満という数値が上がってくるが,食事摂取量には変動があるために本研究の上下限値をそのままわが国の食事指導の上下限値として適用することには問題があると思われる.下限については変動による摂取不足のリスクを回避するために一段階上の0.9 g/kg/日を提唱した.2007 年版では下限値を1.0 g/kg/日としているが,患者の平均年齢がさらに上昇したこと,残存腎機能を有する保存期からの移行期における指導を考慮して,0.9 g/kg/日を許容範囲とした.また上限値についてはリン摂取量が増加する危惧があるため1.2 g/kg/日を提唱する.摂取たんぱく質の内容はアミノ酸スコアが低くならないよう配慮する必要があるが,具体的な数値を示す根拠となる研究は見当たらない.この摂取量は本学会血液透析療法ガイドラインの定める週3 回4 時間の標準的な透析を行っている患者に対する数値とする.家庭透析などの普及により週あたりの透析量に関してバリエーションが発生している.これに合わせた形でそれぞれの施設で個々人の透析量に応じた食事指導が行われているようであるが,現段階では試行段階であり,基準として取りあげるだけのデータが蓄積されていないと考えられる.
表1 基礎代謝基準値(kcal/kg/day)2)
年齢(歳)男性女性70 以上21.5 20.7 50~69 21.5 20.7 30~49 22.3 21.7 18~29 24.0 22.1
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289 中尾ほか:慢性透析患者の食事療法基準
今回の報告に関して委員会では推奨摂取量の絶対的な数値よりも摂取状況のモニタリングを重視することが議論された.たんぱく質摂取のモニタリングとしてこれまで行われているのは,食事記録法および標準化蛋白異化率(normalized protein catabolic rate: nPCR)13)である.いずれの方法も煩雑な部分があり,多くの患者を管理する施設では日常的に施行してこれを評価するのは必ずしも現実的ではない.しかし患者に摂取量を指導しても実際に摂取しているかどうかを確認しなければ意味がないので,それぞれの施設で使いやすい評価法を用いて経時的に評価することが勧められる.多くの施設で定期的に測定している透析前の尿素窒素濃度もステロイド投与や消化管出血など他に影響する要素が安定しているという前提下では,ある程度の目安としてたんぱく質摂取量の指導に使用してよいと思われる.また腹膜透析患者においては本学会より2009 年度版腹膜透析ガイドラインが提唱されており11),その中ではたんぱく質摂取量として0.9~1.2 g/kg/日が示されているが,これを改訂する根拠となる臨床研究は少ないためこの数値を引き続き提唱する. 3 )食塩・水血液透析患者には高血圧の合併が多く,またCKDステージ5 であることを考えると,CKD 診療ガイド201214),日本高血圧学会ガイドライン200915)に示される一日6 g 未満の食塩摂取を推奨すべきであると考えられる.しかしながら血液透析患者の生理学的な特異性を考えると,一律に一日6 g 未満と設定することが本当に適切か否かを議論する必要がある.実際1997年に日本腎臓学会が提唱した腎疾患患者の食事療法手引きでは0.15 g/kg/日が示されている16).日本高血圧学会の委員会報告によればヒトの生体としての下限値は
1.5 g/日とされているが17),これは腎臓のもつナトリ
ウム保持能が機能していることを前提としていると考えられる.一方無尿の透析患者ではナトリウム保持能が失われており,血液透析による除水で蓄積したナトリウムを除去することになるが,経験的に水分摂取量は透析間の体重増加とほぼ等しいことがわかっている.血液透析患者の透析間の体重増加率と生命予後の関連が,2009 年度末の統計調査で報告されている18).栄養関連因子などを補正して有意に生命予後が悪化するのは,透析間の体重増加が3%未満の群である.これは体重60 kg の場合,中2 日で1.8 kg の体重増加,一日あたり600 g であるが,無尿の状態では10 g の食塩摂取が生理食塩水1,111 mL の摂取と等しいことから,5.4 g の食塩摂取による水分摂取量に相当する.つまり体重60 kgの患者では5.4 g未満の食塩摂取量では
栄養関連因子による予後不良のリスクを負うことになる.日本透析医学会の統計では全血液透析患者の平均ドライウェイトは男性60.6 kg,女性49.3 kg であることを考えると18),一律一日6 g 未満という制限には検討の余地があると思われる.一方,日本透析医学会の統計調査では体重減少率が7%を上回ると生命予後が悪化する.これは体重60 kgの透析患者において中2 日の体重増加が4.2 kg,一日あたり1.4 kg であり,推算した食塩摂取は一日12.6 gに相当する.これは栄養状態によってはかなり多い食塩摂取量まで許容される可能性を示しているが,透析量での補正のみでは体重減少率5%の増加から生命予後が悪化する傾向がみられる.つまり5%を超えたところからは透析時間の延長など透析量を増やす工夫が必要であり,これができなければ体重減少率5%以内の増加量,食塩摂取相当で一日9 g 未満にするのが望ましいということになる.しかし現時点では血液透析患者の食塩摂取量に関する議論が不十分であり,一日6 g 未満を一応の推奨値とせざるを得ないが,患者の体格,栄養状態,尿量,身体活動度によっては低栄養や心不全の原因となる危惧もあるため,補足として「尿量,身体活動度,体格,栄養状態,透析間体重増加を考慮して適宜調整する」を加えた.今後は特に体重あたりの摂取量を提唱できるようにデータを収集して議論を重ねるとともに関連学会にも検討をお願いしたいと考えている.腹膜透析患者においては,水分の摂取量は除水量と尿量の総和と等しいため,これを勘案して示されている腹膜透析ガイドラインの摂取量を適用する11). 4 )リンリン摂取量はたんぱく質摂取と相関しており(図1)19),たんぱく質1 g あたりリン量はおおよそ15 mgと概算できる.このことより,リンの摂取量のコントロールは,たんぱく質摂取量のコントロールと連動すると考えられ,リン摂取量の基準はたんぱく質摂取量に基づいて決定するのが妥当であり上記のように示した.しかしながら,食品の選び方によっては同程度のたんぱく質摂取量であっても,リン摂取量を少なくすることもできる.すなわち,食事からのリン供給源には,植物性食品に含有する有機リン,動物性食品に含有する有機リン,食品加工の際添加される無機リンの3 つがある.リンの生物学的利用率20)は植物性食品は20~ 40%,動物性由来食品は40~60%,無機リンは約100%と考えられている.同量のたんぱく質量を,植物
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性食品と動物性食品から摂取した場合を比較すると,生物学的利用率は植物性食品の方が低いので血清リンのコントロールには有利と考えられるが,アミノ酸スコアで比較すると植物性たんぱく質のアミノ酸スコアは動物性食品より劣る食品が多く,栄養学的には植物性たんぱく質を多く摂取することは好ましくない.一方,リン/たんぱく質比率を常用する食品を選択して日本食品標準成分表21)より,検討すると(表2),たんぱく質含有量の少ない植物性食品群(いも類,野菜類,果物類,きのこ類)では,リン/たんぱく質比率が20を超えるが,たんぱく質含有量およびリン含有量を動物性食品(食品100 g 中の含有量)と比較すれば絶対量は少ない.一方,たんぱく質源となる動物性食品の魚類,貝類,肉類,肉加工品類,卵類,および植物性食品の豆類のリン/たんぱく質比率は,13~17 程度に分布している.しかし,乳類はリン/たんぱく質比
率が平均25 となる.このように,食品個々のリン/たんぱく質比率は食品群により異なるので,単純に比率で食品を評価せず1 日の食事の総摂取量を評価してリンのコントロールを目指すことが重要である.また,食品添加物由来の無機リンの問題も注目を集めているが,日本食品標準成分表ではこれらの食品添加物も含めて分析値を示しており,添加物(無機リン)としてどれだけ含有されているかを食品個々に論じることは困難である.
ま と め
慢性透析患者に限らず食事摂取量には個人的変動や季節的変動がある.また地方や家庭による習慣や嗜好
図1 リン摂取量とたんぱく質摂取量の関係
表2 食品群別のリン/たんぱく質比率
食品群リン含有量(mg)たんぱく質量(g)リン/たんぱく質比穀類(n=15) 110.9±68.4 8.6±2.7 13.7±9.2いも類(n=5) 48.2±9.0 2.1±1.4 27.7±10.2豆類(n=12) 325.0±244.6 20.3±13.9 15.6±2.4種実類(n=7) 302.9±196.7 12.2±6.9 23.9±3.5野菜類(n=35) 53.7±43.8 2.4±2.6 26.7±9.3果実類(n=15) 17.1±7.6 0.7±0.3 26.9±10.9きのこ類(n=7) 91.1±30.3 3.2±1.4 29.8±8.8藻類(n=5) 286.4±269.1 16.3±15.4 16.0±9.4魚介類(n=50) 308.8±223.4 24.0±12.9 12.7±4.2貝類(n=9) 173.3±98.8 14.4±7.4 12.5±3.2えび・かにいか・たこ(n=10) 403.0±398.2 26.9±21.3 13.7±3.4水産練り製品(n=6) 111.7±49.7 11.7±49.7 9.7±4.5肉類(n=27) 179.1±64.4 17.9±4.2 11.0±7.4肉加工品(n=12) 247.5±85.6 20.6±11.3 13.2±4.6乳類(n=10) 308.1±323.7 12.1±10.9 25.3±6.9卵類(n=3) 253.7±286.7 13.1±3.1 16.7±16.8
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にも差が大きく,これらを画一的に管理するのは困難であるばかりでなく,患者のQOL にも大きな影響を及ぼす可能性がある.本来であれば食事指導の基準もわが国の慢性透析患者における明確なエビデンスに基づいて策定されるべきであるが,長期にわたる食事や栄養素の摂取量を介入条件とした臨床研究を行うことはコンプライアンスやその評価の点で非常に難しい.そのため現時点では透析医療のその他の領域で得られているようなエビデンスはわが国にはほとんどないといってよい.そのため今回の検討においても,一般的な知識や生活習慣や透析条件が大きく異なる海外のデータをもとに経験的に導き出された数値を利用せざるを得ない.慢性透析患者に対する食事摂取量で最も大切なことは透析量とのバランスであり,近年長時間透析など透析プログラムが多様化しているため,画一的食事基準を提示するだけでは不十分である.臨床現場では,透析量と食事摂取量,そしてその結果としての臨床所見,検査値を定期的に評価し,各職種が協力して各患者の生活に合わせた形で実行可能な指導を行う必要がある.
謝辞:本報告書につき査読をいただいた現在の日本透析医学会栄養問題検討グループメンバー(稲葉雅章,加藤明彦,神田英一郎,谷口正智,小田巻真理,瀬戸由美)に御礼申し上げます.
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