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透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言 透析会誌53(4):173~217,2020 透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言作成委員会
透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言 透析会誌53(4):173~217,2020 透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言作成委員会
【目 次】 序文176 緒言177 2014 年版 維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言作成の経緯179 透析の差し控えと継続中止についての世界とわが国の状況181 基本的な考え方184 提言作成の基本方針192 提言198 提言解説編200 おわりに210注釈211図 腎代替療法が必要に至った時点での意思決定プロセス214表 透析の見合わせについて検討する状態215参考資料 透析の見合わせに関する確認書216透析の見合わせに関する撤回書217略語集175 174 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
【略語集】 ACP advance care planning アドバンス・ケア・プランニング,人生会議AD advance directives 事前指示書CKD chronic kidney disease 慢性腎臓病CKM conservative kidney management 保存的腎臓療法eGFR estimated glomerular filtration rate 推算糸球体濾過量EOL end⊖of⊖life エンドオブライフESKD end⊖stage kidney disease 末期腎不全JSDT Japanese Society for Dialysis Therapy 日本透析医学会SDM shared decision making 共同意思決定QOL quality of life 生活の質RRT renal replacement therapy 腎代替療法 175 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
【序 文】 日本透析医学会(Japanese Society for Dialysis Therapy:JSDT)は,本提言を透析の開始と継続についての意思決定に際して,医療チームが,患者に最善の医療とケアを提供することを指向して作成した.疾病の診断と治療を目的に策定されたものとは異なり,患者自身の医学的状況,人生観,家族等の考え方等を考慮して策定されたものであり,多くの状況に適合する客観的証拠(エビデンス)ではなく,観察研究結果および世界とわが国における現時点でのコンセンサスを参考にした.本提言は,1971 年に設立された全国腎臓病協議会のモットー「いつでも,どこでも,誰もが安心して透析を受けられる」に配慮して,透析患者がどの透析施設でも安心して透析を受けられるように,医療チームが日常臨床の場でしばしば遭遇する判断に困窮する事例についての意思決定プロセスを示したものであり,法的解釈に準拠したものではない.また,本提言は,エビデンスに基づいた診療ガイドラインではなく,コンセンサスに基づいた提言である. 176 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
【緒 言】 厚生労働省(厚労省)は,最期まで本人の生き方を尊重し,医療とケアの提供について検討することが重要なため,2007 年に作成した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」1)を,2015 年に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」に名称を変更した2).2018 年には,高齢多死社会の進展に伴い,地域包括ケアシステムの構築に対応する必要があることや,人生の最終段階の医療とケアについて,患者にとって最良の選択を行うために繰り返し話し合うプロセスである共同意思決定(shared decision making:SDM)と本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセスであるアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)の概念を盛り込んだ「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に改訂した3).なお,厚労省は,国民にACP の普及を図るために,人生会議という愛称にした.さらに,本人の意思は変化しうるものであり,また,自らの意思を伝えられなくなる状況も想定して本人の意思を推定しうる者となる家族等の信頼できる者も含めて医療とケアの方針についての話し合いを繰り返し,本人の尊厳を追求し,自分らしく最期まで生き,より良い最期を迎えることが重要とした. JSDT が2014 年に「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」4)を公表した約2 年後の全国規模実態調査5)では,47.1%の透析施設が透析を見合わせた経験があり,見合わせた患者の89.7%が高齢者で,46.1%が認知症患者であり,7.5%が透析を開始⊘再開していた.提言に準拠しない見合わせを23.4%認め,人生の最終段階ではない患者本人の強い意思と家族等の同意による見合わせが行われており,医療チームが難しい判断を迫られ苦悩している現状も浮き彫りになった5).なお,透析見合わせは,透析を差し控える,または,透析の継続を中止するのではなく,透析を一時的に実施せずに,病状の変化によっては透析を開始する,または,再開する意味がある用語であり,現在は定着している.認知症については,日本神経学会が2017 年に「認知症疾患診療ガイドライン」6),厚労省が2018 年に「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」7)をそれぞれ公表した.認知機能が低下していても,人には意思があり,本人の意思決定は尊重されるべきであり,本人の意思決定能力を適切に評価しながら意思決定を支援することが重要である.厚労省のガイドラインは,認知機能の低下した人を支える周囲の人において行われる意思決定支援の基本的考え方や姿勢,方法,配慮すべき事柄等を整理して示し,認知機能の低下した人が,自らの意思に基づいた日常生活や社会生活を送れることを目指すものである.前提言は,人生の最終段階にあたる維持血液透析患者に対象を限定したため,今回,医療現場の状況も踏まえて,腹膜透析患者および末期腎不全(end⊖stage kidney disease:ESKD)と急性腎障害の血液透析導入期患者も対象に含めて,より良い医療とケアを提供することを目指して改訂を行った.本提言は, SDM に基づく決定およびACP の十分な実施も詳細に提示し,全国の透析施設で参考にできる内容とし,医療チームは,患者の意思を尊重し,その意向に寄り添いながら,本人が納得できる尊厳ある人生を送り,望む最期を迎えられることを目指した.本提言は,医療チームによるESKD 治療選択における腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)と保存的腎臓療法(conservative kidney management:CKM)8)に関する情報提供プロセス,および患者・家族等がCKM を選択した時の医療チームによる透析見合わせに関する意思決定プロセスを示したものであり,本提言をどのように使用するかは各施設の判断に委ねられている. 177 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
文献1) 厚生労働省.終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン. http:⊘⊘www.mhlw.go.jp⊘shingi⊘2007⊘05⊘dl⊘s0521-11a.pdf 2) 厚生労働省.人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン. https:⊘⊘www.mhlw.go.jp⊘file⊘04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka⊘0000079906.pdf 3) 厚生労働省.人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン. https:⊘⊘www.mhlw.go.jp⊘file⊘04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka⊘0000197701.pdf 4) 日本透析医学会.維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言.透析会誌2014;47:269⊖85. 5) 岡田一義.日本透析医学会「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」―その後の実態調 査―.日透析医会誌2019;34:110⊖6. 6) 日本神経学会.認知症疾患診療ガイドライン2017.東京:医学書院,2017. 7) 厚生労働省.認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン. https:⊘⊘www.mhlw.go.jp⊘file⊘06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku⊘0000212396.pdf 8) Oxford University Hospital Kidney Unit:A guide to conservative kidney management. https:⊘⊘www.ouh.nhs.uk⊘patient-guide⊘leaflets⊘files⊘37843Pmanagement.pdf 178 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
【2014 年版 維持 血液透析の開始と継続に関する 意思決定プロセスについての提言作成の経緯】 維持血液透析は患者の生活の質(quality of life:QOL)を向上させ,維持することに主目的があるが,臨床現場では,維持血液透析の開始または継続を見合わせざるを得ない事態に遭遇することがある.米国では,事前指示書(advance directives:AD)による延命治療の中止が法的に認められ1),国民がAD の内容に沿った医療とケアを受けることができる.それを受け,Renal Physicians Association とAmerican Society of Nephrology は,2000 年に「透析の開始と継続中止に関する共同意思決定:診療ガイドライン」を公表し,2010 年に改訂した2,3).わが国では,厚労省が終末期医療のあり方について検討を重ね,2007 年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を作成した4).その中で,医療行為の開始・差し控え・変更・中止の判断は医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきとされた.医療・ケアチームとしての判断と,患者の意思を尊重する基本方針は明示されたが,延命治療の差し控えによって起こるかもしれない法的責任については記載されなかった.学会からは,「救急医療における終末期医療に関する提言」5)が2007 年に日本救急医学会から示されただけであった.このような状況下,維持血液透析の開始および継続について,JSDT としてのコンセンサスを提示しなければならない時期にきていると判断し,2010 年に透析ガイドライン策定委員会の中にサブグループを構成した.まずは,本学会が独自に見解を提示することの是非について,学会員の意見を聴取することから活動は始まった.時期尚早であるとか,このような議論はすべきでないとする意見もあったが,困っている臨床現場のためにも見解を提示すべきという要望と賛同が大勢を占めた.サブグループによる会議は13回にわたって開催され,学会でのコンセンサスカンファレンスと公聴会を通じ,2014 年に提言として公表された5).診療ガイドラインという言葉を使用しなかった理由は,この問題に関しての学術的報告が少ない状況の下,エビデンスとはいえない意見を診療ガイドラインとすることに躊躇したことである.本提言の中では,医療チームによる丁寧な説明に対する患者・家族等の納得が,SDM となって医療行為に反映されるプロセスを提示した.また,維持血液透析の開始と継続に関連する医療行為に対しては「見合わせ」という用語を使用し,合意された事項は何時でも撤回・修正ができることも提示した.付記したいことは,この提言は患者の救命・治療に医療チームは献身的な支援を行うことを基調とした.そして,延命治療の中止が法律で規定されていないわが国では,治療の差し控えや中止という行為に対し,医療チームが法的に免責されてないことも繰り返し説明した.厚労省が示したガイドラインに則り,医療チームが医療とケアの方針決定に至る過程を重視していれば,民事および刑事責任を追及される可能性は低くなると思われる. JSDT としては,今後高齢化が進行するわが国において,人生の最終段階でどのような医療行為を望むか等について,国民の間での議論が活発になり,ある程度のコンセンサスが醸成されていく契機となればと考え,提言をまとめた次第である6). 文献1) Moss AH. Shared decision⊖making in dialysis:the new RPA⊘ASN guideline on appropriate initiation and withdrawal of treatment. Am J Kidney Dis 2001;37:1081⊖91. 179 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
2) Renal Physicians Association and American Society of Nephrology. Shared Decision⊖Making in the Appropriate Ini- tiation of and Withdrawal from Dialysis Clinical Practice Guideline Number 2, RPA, Rockville, MD(2000) 3) Renal Physicians Association. Shared Decision⊖Making in the Appropriate Initiation of and Withdrawal from Dialysis. Clinical Practice Guideline. Second edition. Rockville, Maryland 2010. 4) 厚生労働省.終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン. http:⊘⊘www.mhlw.go.jp⊘shingi⊘2007⊘05⊘dl⊘s0521-11a.pdf 5) 日本救急医学会.救急医療における終末期医療に関する提言(ガイドライン). http:⊘⊘www.jaam.jp⊘html⊘info⊘2007⊘info-20071116.htm 6) 日本透析医学会.維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言.透析会誌2014;47:269⊖85. 180 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
【透析の差し控えと継続中止についての世界とわが国の状況】 透析の差し控え(withhold)と継続中止(withdrawal)は,現在では,forgo と総称されている.海外では,1986 年に,将来の透析患者の高齢化に伴って,透析の継続中止が増加すると予測され1),1994 年には患者・家族等に対し維持透析の差し控えを助言する病態のリストが具体的に提示された2).米国における透析の差し控えと継続中止は,90 年代以降,患者の意思決定権の尊重と,それに伴うSDMとACP を重要視してきた.それに基づき,Renal Physicians Association とAmerican Society of Nephrology は,2000 年に「透析の開始と継続中止に関する共同意思決定:診療ガイドライン」を公表し,2010 年に改訂した3,4).以上の流れは,わが国でも議論されるようになり5),さらに発展してJSDT による提言につながった6).近年,透析領域では,SDM はRRT の選択,透析見合わせ時,透析見合わせ後の人生の最終段階の医療とケアの選択について話し合うACP に関して,広く行われようとしている.米国のThe United States Renal Data System の2000 年から2015 年までの統計では,透析の継続中止による死亡は,人種や年齢,性別,地域によっても異なるが,2000 年の時点で全体の19%に及び,2011年に25%とピークに達し,最新の2015 年のデータでも23%と報告されており,心血管病,感染症に次ぐ3 番目に多い死因であった7).英国では867 例の患者の12 年間にわたる観察で93 例(11%)が差し控えと継続中止を選択した8).1966 年では3⊘1,000 患者・年であった差し控えと継続中止が2010 年には48.6⊘1,000患者・年に増加した9). 2018 年のOxford University Hospital Kidney Unit のガイドライン10)でも提唱されているように,差し控えと継続中止の決断に至った場合もただ放置するのではなく,CKM を実施する必要がある.最近のカナダからの報告では,CKM は,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)ステージ5 におけるESKD治療選択肢の一つとされ,SDM と患者中心のケアにより,QOL,積極的な症状管理,ACP を重視し, ESKD の進行を遅らせるための介入が含まれているが,透析は含まれていない11).その内容にはさまざまなことが含まれ,高血圧,電解質異常等のCKD に伴う合併症への対処と,かゆみ,嘔吐等の症状への対処に大別され,いずれも薬物治療と,生活習慣,環境,補助療法を含む非薬物療法がある.これらの対策は,臨床的評価に基づき,ACP を念頭に計画され,修正されるべきとされる.CKM は,透析の恩恵を受ける可能性が低い患者および⊘または透析差し控えを選択する患者にとって適切な治療選択肢として認識されつつあるが,CKM の概念化および実施方法には依然として大きなばらつきがある12).また,CKM が比較的普及している英国においても,その内容とレベルはさまざまであると報告されている12).アジア圏においては,2004 年には香港から緩和医療を行った107 名の差し控えと継続中止患者の報告がある13).また,台湾においては,2000 年にアジア圏で初めて法的に延命治療中止の免責が認められ,2011年には透析の差し控えと継続中止のコンセンサスが形成され,同時にACP が法律に盛り込まれ,差し控えと継続中止について,緩和ケアと在宅医療の推進が重要と指摘されている14).隣国アジア圏における, 2000 年代に始まるこれらの変化は,わが国の今後の議論に影響を与えると思われる.差し控えと継続中止を選択しCKM が行われた患者とRRT を開始した患者の予後の比較についても複数の報告がある.オーストラリアのコホートの報告15)では,CKM によっても3 年以上の予後はあり,透析を開始した患者と比較して,病院より在宅やホスピスで緩和ケアを受けて亡くなることが多かった.一方,オランダの単一施設の報告16)では,80 歳以上の患者では両者の予後に差がみられず,70 歳以上では透 181 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
析を開始した患者の予後が良いが,心血管系合併症があると差はなくなった.このように,適切なCKMの選択により,透析に匹敵する予後を達成できる患者層がいる可能性がある.最近,CKM とRRT の比較に関するシステマティックレビューが行われ,生存率についてはRRT のほうが有意に良好であった17)が, QOL については同等あるいはCKM のほうが良好な傾向にあったことが報告されている18,19).ただし,これらのデータの解釈にあたって,注意すべきことは,欧米におけるRRT およびCKM の4 つの選択肢を含めたESKD 治療法の情報提供と選択は,推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate: eGFR)が15 mL⊘min⊘1.73 m2前後と早期に行われており,予後比較の結果をそのまま適用することは難しい.わが国では,非薬物療法を含む多職種の医療チームの協力体制は,透析予防とRRT においては始まっているが,CKM を選択して透析を見合わせた後のケアの内容とその実践については,わが国と欧米における患者の自律性,家族等の関係,社会保障制度,宗教そして透析医療の実態等の相違も考慮し,在宅医も含めてこれから作りあげる必要がある. 文献1) Neu S, Kjellstrand CM. Stopping long⊖term dialysis. An empirical study of withdrawal of life⊖supporting treatment. N Engl J Med 1986;314:14⊖20. 2) Hirsch DJ, West ML, Cohen AD, Jindal KK. Experience of not offering dialysis to patients with a poor prognosis. Am J Kidney Dis 1994;23:463⊖6. 3) Renal Physicians Association and American Society of Nephrology. Shared Decision⊖Making in the Appropriate Ini- tiation of and Withdrawal from Dialysis Clinical Practice Guideline Number 2, RPA, Rockville, MD(2000) 4) Renal Physicians Association. Shared Decision⊖Making in the Appropriate Initiation of and Withdrawal from Dialysis. Clinical Practice Guideline. Second edition. Rockville, Maryland 2010. 5) 大平整爾.透析の拒否・継続・中止.前田貞亮,大平整爾,三木隆己編著.高齢者の透析.東京:日本メディカルセン ター,1995;212⊖21. 6) 日本透析医学会.維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言.透析会誌2014;47:269⊖85. 7) Saran R, Robinson B, Abbott KC, et al. US Renal Data System 2018 Annual Data Report:Epidemiology of Kidney Disease in the United States. Am J Kidney Dis 2019;73(3S1):A7⊖A8. 8) Aggarwal Y, Baharani J. End⊖of⊖life decision making:withdrawing from dialysis:a 12⊖year retrospective single center experience from the UK. BMJ Support Palliate Care 2014;4:368⊖76. 9) Murphy E, Germain MJ, Cairns H, Higginson IJ, Murtagh FE. International variation in classification of dialysis with- drawal:a systematic review. Nephrol Dial Transplant 2014;29:625⊖35. 10) Oxford University Hospital Kidney Unit:A guide to conservative kidney management. https:⊘⊘www.ouh.nhs.uk⊘patient-guide⊘leaflets⊘files⊘37843Pmanagement.pdf 11) Davison SN, Tupala B, Wasylynuk BA, Siu V, Sinnarajah A, Triscott J. Recommendations for the Care of Patients Receiving Conservative Kidney Management:Focus on Management of CKD and Symptoms. Clin J Am Soc Nephrol 2019;14:626⊖34. 12) Okamoto I, Tonkin⊖Crine S, Bayner H, et al. Conservative care for ESRD in the United Kingdom:a national survey. Clin J Am Soc Nephrol 2015;10:120⊖6. 13) Chan CH, Noble H, Lo SH, Kwan TH, Lee SL, Sze WK. Palliative care for patients with end⊖stage renal disease:expe- riences from Hong Kong. Int J Palliat Nurs 2007;13:310⊖4. 14) Lai CF, Tsai HB, Hsu SH, Chiang CK, Huang JW, Huang SJ. Withdrawal from long⊖term hemodialysis in patients with end⊖stage renal disease in Taiwan. J Formos Med Assoc 2013;112:589⊖99. 15) Morton RL, Webster AC, McGeechan K, et al. Conservative Management and End⊖of⊖Life Care in an Australian Cohort with ESRD. Clin J Am Soc Nephrol 2016;11:2195⊖203. 16) Verberne WR, Geers AB, Jellema WT, Vincent HH, van Delden JJ, Bos WJ. Comparative Survival among Older Adults with Advanced Kidney Disease Managed Conservatively Versus with Dialysis. Clin J Am Soc Nephrol 2016;11: 633⊖40. 17) Wongrakpanich S, Susantitaphong P, Isaranuwatchai S, Chenbhanich J, Eiam⊖Ong S, Jaber BL. Dialysis Therapy and Conservative Management of Advanced Chronic Kidney Disease in the Elderly:A Systematic Review. Nephron 182 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
2017;137:178⊖89. 18) Tsai HB, Chao CT, Chang RE, Hung KY, COGENT Study Group. Conservative management and health⊖related qual- ity of life in end⊖stage renal disease:a systematic review. Clin Invest Med 2017;40:E127⊖34. 19) Ren Q, Shi Q, Ma T, Wang J, Li Q, Li X. Quality of life, symptoms, and sleep quality of elderly with end⊖stage renal disease receiving conservative management:a systematic review. Health Qual Life Outcomes 2019;17:78. 183 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
【基本的な考え方】 1.患者の意思の尊重厚労省は,本人の尊厳を追求し,自分らしく最期まで生き,より良い最期を迎えるために人生の最終段階における医療とケアをすすめていくことが重要と述べており1),本人の意思,意思決定能力を有さない場合には本人の推定意思を尊重する.日本老年医学会は,すべての人は,人生の最終局面である死を迎える際に,個々の価値観や思想・信条・信仰を十分に尊重した最善の医療およびケアを受ける権利を有するとして,2012 年に「高齢者の人生の最終段階の医療およびケア」に関する立場を表明した2).いかなる要介護状態や認知症であっても,高齢者には,本人にとって最善の医療とケアを受ける権利があることや高齢者の人生の最終段階の医療とケアは,わが国特有の家族観や倫理観に十分配慮しつつ,患者個々の死生観,価値観および思想・信条・信仰を十分に尊重して行わなければならないこと等である.この立場表明を基に同年,日本老年医学会は「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン―人工的水分・栄養補給の導入を中心として」を公表した3).理解力や認知機能が低下した高齢者等の透析患者が増加しているが,意思決定権は本人に帰属する.よって,これらの患者に対しても,説明と同意を基本として,患者は意思決定能力を有することを前提にして,厚労省の「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」4)に準拠して,意思決定を支援することが重要である.なお,最も重要なことは,理解力や認知機能が正常な時または軽度低下した早期に,本人と家族等が将来の医療とケアについて本人を主体に話し合うことである.医療チームの基本的な態度は,患者の発した言葉(感情)を大事にするとともに,患者の気持ち(真意)を探ることであり,コミュニケーションの中から,患者の価値観を引き出し,それを理解したうえで話し合うことである. 2.医師および医療チームの基本的姿勢医療法に準拠し,医師は患者の心身の状況を理解して,その状況に応じた適切な医療を提供する.日本医師会の「医師の職業倫理指針」5)に準拠し,医師は患者の利益を第一とし,患者の権利(公正な医療を受ける権利,医療を拒否する権利等)を尊重し,これを擁護するように努めなければならならない.医の倫理綱領に準拠し,医学および医療は,病める人の治療はもとより,人びとの健康の維持もしくは増進を図るもので,医師は責任の重大性を認識し,人類愛を基にすべての人に奉仕する.日本看護協会「看護者の倫理綱領」に準拠し,看護師は患者の自己決定を尊重し,そのための情報提供と決定の機会の保障に努めるとともに,常に温かな人間的配慮をもって対応する.医療チームを構成する多職種は,医師および看護師とともに,医療チームとして患者が納得できる人生を送れるように,患者の意向に寄り添い,本人が望む最期を迎えられるように支援する. 3.ESKD の治療選択5 学会が作製したパンフレット(2019 年版腎不全治療選択とその実際)6)では,腎移植,腹膜透析,血液透析の3 つの治療選択の情報が示されているが,透析によらないESKD の治療とケアであるCKM7,8)は含まれていない.ESKD は,腎臓の代償機構が破綻して尿毒症症状が出現した状態と考えるが,日本腎臓学 184 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
会は,CKD ステージ5 をESKD と定義している9).進行性に腎機能の低下がみられ,eGFR 30 mL⊘min⊘1.73m2 未満に至った時点で,RRT に関する情報を提供する.医療チームは,提案する治療のほかに代替治療法についての情報を患者に提供する必要があり, RRT の選択では腎移植,腹膜透析,血液透析に関する3 つの情報を提供するのが原則である.RRT を近い将来に開始すると思われる時点で,医療チームはRRT に関する情報とESKD の自然経過を説明する.その説明により,尿毒症症状が出現する前にRRT を選択する患者と選択しない患者に分かれる.しかし, RRT を選択しない患者の多くが強い尿毒症症状を経験すると,意思決定を変更してRRT を受け入れる. ESKD 治療選択で意思決定を変更する患者は,他疾患と比較してかなり多く,CKM の情報提供時期は慎重に判断する必要がある.透析の開始が必要なESKD に至った場合,RRT を選択していない患者は,その選択に直面する.RRTを開始するかどうか,開始するとしたらいつ,どの治療法(腎移植,腹膜透析,血液透析)を選択するか, RRT を開始しない場合にはどのような自然経過をたどるのか,これらの利益と不利益について説明し,患者がRRT を選択しないことを医療チームに申し出た場合には,医療チームはCKM についての情報を提供する. 4.透析見合わせの際のSDM とセカンド・オピニオン患者・家族等がCKM を意思決定した場合には,医療チームはSDM のプロセスに基づいた話し合いを患者・家族等3)とすすめ,患者・家族等が透析の見合わせ後にどのような治療とケアを選択するかを決定することになる.複数の選択肢があり,どの選択が本人にとって最良かを判断することは難しい.エビデンスに基づく医学情報を患者に伝え,患者の価値観,意向,懸念事項を引き出し,さらに医療チームの知識と経験に基づく提案と患者の思いを話し合うなかで,医療チームは,患者が理解しているかどうか確認しながらわかりやすく説明し,患者が最良と思う選択に至ることが望ましい10).患者が意思決定を変更しなければ,透析の見合わせに関する確認書を必要に応じて取得する.患者が定期的に通院している場合には,受診時に病状を確認し,必要とされる緩和ケアを提供するとともに,意思決定に変更がないか確認する.医療チームはCKM 選択の時に患者に寄り添い,可能な限り信頼関係を構築し,SDM により患者の意思決定過程を共有し,患者が最良の選択を行えるように支援する.患者が判断に迷う場合等,他の医療施設の専門医からセカンド・オピニオンを受けられることを説明する.医療とケアの選択を決定した後も,その後の経過が,患者にとって最良のものか,患者が意思決定した通りになっているかを再評価し,必要に応じて決定を見直す機会を持つようにする.医療チームは,患者が意思決定能力を有さない場合,家族等と話し合い,患者の意思決定を代諾する家族等を決める.家族等がいない場合または家族等が医療チームに判断を委ねる場合には,患者に残っている力を踏まえ,医療チームは介護従事者(介護福祉士,介護支援専門員等)または自治体の福祉担当者と相談し,最善の医療とケアを提供する.なお,介護従事者または自治体の福祉担当者と相談できない場合には,施設長に相談する. 5.SDM,AD とACP SDM とは,意思決定支援のひとつの方法であり,複数ある選択肢の中で,患者と医療チームが協働で患者にとって最良の医療とケアの決定を下すに至るために繰り返し話し合うプロセスである11).(1)エビデンスに基づく医学的情報,(2)医療チームの提案,(3)患者の価値観,意向,懸念事項等を患者・家族等・ 185 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
医療チームが共有することが重要である.なお,現時点ではSDM の日本語訳は確立しておらず,共同に決定に至るという点から「共同意思決定」,情報を共有するという点から「共有意思決定」,一緒になって取り組むという点から「協働する意思決定」等と訳されているが,本提言では現時点で多く使用されている「共同意思決定」を採択した. ADとは,将来意思決定ができなくなった状態に備えて前もって希望する医療とケアの内容に関しての意思を記載した書面であり,自律としての意思決定を尊重してもらう目的で作成する.本人および家族等,医療チームの繰り返しの話し合いを通じて作成したり,本人が一人で作成することもあるが,意思は変化し得ることから,適宜更新していくことが重要である. 2017 年にACP の概念を統一するコンセンサスカンファレンスが開催され,定義は今後も発展し変わっていくとしたうえで「ACP とは,年齢や疾病の時期にかかわらずすべての成人が個人的な価値観,人生の目的,将来の医療に関して理解し,共有することを支援するプロセスである.ACP の目的は,人々が重篤で慢性的な疾病を持って暮らす中で,自らの価値観,目的,選好に合致した治療を受けられるように支援することである.」と定義された12). 2018 年に改訂された厚労省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」1)にその概念が初めて盛り込まれた.ACP に「人生会議」という愛称をつけてACP の普及啓発活動が行われていることは周知のとおりである13).日本老年医学会は,2019 年にACP を「将来の医療・ケアについて,本人を人として尊重した意思決定の実現を支援するプロセスである.」と定義し,本人の意向に沿った,本人らしい人生の最終段階における医療・ケアを実現し,本人が最期まで尊厳をもって人生をまっとうすることができるよう支援することを目標とした14). ACP は単に,AD の作成や代諾者の指定等の人生の最終段階における医療に関連する一連の手続きを示すものではない.ACP をすすめるなかで,AD の作成,代諾者の指定,あるいは特定の医療行為の開始や中止の決定につながると考えられ,ACP は個人の価値観,目標,選好に合致した医療とケアを目指すSDMのプロセスを促進する15).指示内容の振り返りや更新が適宜行われることは言うまでもない. 6.代諾者患者が意思表示できない場合または患者に意思決定能力を有さない場合,患者の意思を推定できる家族等が医療とケアの代諾者にならざるをえないが,相続人を加えた話し合いが重要である.家族等がいない場合には,医療チームは,厚労省が2019 年に公表した「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」16)を参考にするが,わが国では,成年後見人と任意後見人は患者の医療とケアに同意する権限は現時点では認められていないため,医療チームが把握できる介護従事者や自治体の福祉担当者に相談することが望ましい.なお,戸籍を調べて,相続人が判明し連絡できる場合には,その同意は法的に重要な意味を持つ.家族等と合意形成ができない場合,家族等から協力が得られない場合,家族等に連絡できない場合には,医療チームは施設長に相談する. 7.人生の最終段階終末期の定義は,厚労省の「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン解説編」17)では,がんの末期のように,予後が数日から長くとも2~3 か月と予測ができる場合,慢性疾患の急性増悪を繰り返し予後不良に陥る場合,脳血管疾患の後遺症や老衰等数か月から数年にかけ死を迎える場合があり,どのような 186 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
状態が終末期かは,患者の状態を踏まえて,医療・ケアチームが適切かつ妥当に判断すべきとした.なお,日本医師会のグランドデザイン 2007―各論― では,終末期を広義と狭義に分けて,広義の終末期を(1)最善の医療を尽くしても,病状が進行性に悪化することを食い止められずに死期を迎えると判断される時期,(2)主治医を含む複数の医師および看護師,その他必要な複数の医療従事が判断し,患者もしくは患者が意思決定できない場合には患者の意思を推定できる家族等が(1)を理解し納得した時点で終末期が始まると定義し,狭義の終末期を臨死の状態で,死期が切迫している時期と定義した.本提言では,終末期ではなく近年の厚労省のガイドラインに従って「人生の最終段階」を使用する.どのような状態が人生の最終段階かは,透析関連合併症と他の疾病を含めた本人の全身状態を踏まえて,医師が適切に診断する.その診断後,患者,または意思決定能力を有さない患者の家族等が理解し納得した時点から人生の最終段階が始まる.透析を必要とするESKD は,それのみでは人生の最終段階とはいえない.しかし,医学的には人生の最終段階ではないが生命維持のために透析を必要とする患者が,CKM を選択して透析を見合わせた場合には,数日から数週で死亡する可能性が高い.透析の開始基準として, 1991 年度厚生科学研究腎不全医療研究事業研究報告書による慢性維持透析療法の導入基準18)を使用していたが,JSDT が2009 年に腹膜透析ガイドライン19),2013 年に維持血液透析ガイドライン20)を公表し,改訂した腹膜透析および血液透析の導入基準を示し,1991 年の基準よりも早期に導入を行うケースも増えている.また,透析患者でも,CKD の急性増悪や急性腎障害の場合には,透析からの離脱は可能なこともある.よって,意思決定能力を有する患者,または意思決定能力を有さない患者の家族等から医療チームに透析見合わせの申し出があった場合には,医師が生命維持のために透析を永続的に必要とするESKD と診断した時点から人生の最終段階となる.たとえ重度の認知機能障害を呈する状態であっても,それのみをもって人生の最終段階には該当しない.透析医は重症認知症患者と悪性腫瘍末期患者の透析見合わせを同程度に実施すると回答しているため21,22),人生の最終段階ではない意思決定支援が困難な認知症の人の医療とケアの方針は,家族等と医療チームが患者の事前指示(文書または口頭)と理由を確認し,透析見合わせの申し出が家族等の希望ではなく,本人の意思の代弁であることを判断する必要がある. 8.意思決定能力の評価患者の意思決定能力の評価は,患者・家族等・医療チームで行う.意思決定能力の評価が難しい場合には,より十分な時間をかけて,理解(意思決定のために必要な事項を理解している),論理的思考(決定内容は選択肢の比較や自分自身の価値判断に基づいている),認識(病気,治療,意思決定を自分自身の問題としてとらえている),表明(自分の考えや結論を伝える)を総合的に評価し,意思決定能力を判断する. 9.透析の見合わせ1)医療チームからの透析見合わせの提案透析の見合わせについて検討する状態(表)において,医療チームは意思決定能力を有する患者,または意思決定能力を有さない患者の家族等に,透析見合わせを提案することもできる.人生の最終段階の場合,意思決定プロセス(図)に準じて患者・家族等がCKM を選択し,患者・家族等と合意した時には,透析を見合わせる.透析の見合わせに関する確認書を患者・家族等(相続人を含む)から必要に応じて取得する.なお,意思決定能力を有していない患者が人生の最終段階ではない場合には,以下の3)に準じる. 187 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
2)意思決定能力を有する患者から透析見合わせの申し出を受けた場合医療チームは患者の意思と理由を確認する.患者が経験していない透析を拒否することはまれではなく,患者は当初は拒否しても定期的な通院を継続し,最終的には透析を受け入れることが多い.また,透析を継続している患者が透析見合わせを申し出ても,その後再開することもある.医師が患者を人生の最終段階と診断した場合,段階的に透析時間と回数を減らすことができることも説明し,患者・家族等と合意した場合には,意思決定プロセスに準じて透析を見合わせるが,受診時に病状を確認し,必要とされる緩和ケアを提供するとともに,意見決定の変更について確認する.透析の見合わせに関する確認書を患者・家族等(相続人を含む)から必要に応じて取得する.意思決定能力を有する患者には,人生の最終段階にあるかどうかにかかわらず,わかりやすい適切な説明を受け,自らの意思に基づき医療を受ける権利と拒否する権利がある.人生の最終段階ではない患者が透析の見合わせを申し出て,最終的にCKM を選択した場合,医師が生命維持のために透析を必要とするESKD と診断した時点から人生の最終段階となる.透析を見合わせなければ人生の最終段階にはならない患者の意思は,その時点での最終意思決定であり,尊重されなければならない.しかし,医療チームは,患者の意思は変わりうるものであることを常に認識し,透析を受け入れるための対応を続ける.人の尊厳の中では自律,すなわち自分のことは自分で決めることが最も重要な要素であり,患者・家族等・医療チームの間で十分な情報共有のもと繰り返し話し合ったCKM 選択の合意を尊重すべきである.透析の見合わせに関する確認書を患者・家族等(相続人を含む)から必要に応じて取得する.患者・家族等・医療チームの間で透析見合わせの合意が形成されない場合には繰り返し話し合い,合意形成に努める. 3)意思決定能力を有していない患者の家族等から透析見合わせの申し出を受けた場合意思決定能力を有していない患者の家族等から透析見合わせの申し出を受けた場合は,その家族等は,患者の医療とケアの代諾者にならざるをえないため,医療チームは,家族等に患者が意思決定能力を有する時に表明した事前指示(文書または口頭)と理由を確認し,透析見合わせの申し出が家族等の希望ではなく,本人の意思の代弁であることを判断する.医療チームは,家族等による意思決定が患者の人生の尊厳に値するものであり,家族等と十分な情報共有のもと繰り返し話し合ったCKM 選択の合意を尊重すべきである.それらを確認できたら,意思決定能力を有する患者からの透析見合わせの申し出と同様に対応し,透析の見合わせに関する確認書を必要に応じて取得する.患者の意思を推定できない場合,または,家族等と合意形成できない場合には繰り返し話し合い,合意形成に努める. 10.患者・家族等への説明医師には,患者・家族等に病状等を説明する義務があり,医師は,患者の病状や理解度を総合的に判断し,その時期,方法,程度,内容については適切に説明することが求められている.患者の意思決定を尊重し,患者に対して病状を適切にわかりやすく説明したのであれば,意思決定能力に問題がない限り,さらに家族等に必ずしも説明する義務はない.意思決定能力に問題がある場合には,家族等に説明する必要があるが,意思決定に問題がなくても,患者を支えるのは家族等であり,また家族等との紛争を回避するためには,患者の同意を得て,家族等に連絡することが望ましい.家族等による本人の意思推定の際には,医療チームは家族等の意思や希望を問うのではなく,患者の最も身近にいて生活を共にし,患者の意思を推定できる人として,「ご本人がもし意思表示できるとしたらどのようにおっしゃると思いますか?」等のように対応することが重要である. 188 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
患者が家族等への連絡を拒んだ場合には,患者が家族等に迷惑をかけたくないと思って連絡を拒む場合や家族等が患者の意思決定支援者となっていない場合があり,その理由を確認する.尿毒症症状を認める場合またはCKM を選択して透析を見合わせる場合には,家族等にとっての予期せぬ死を迎えることもある.人生の最終段階で余命が限られている患者本人にとって,家族等への説明により行われるであろう家族等の協力と配慮は,法的保護に値する利益であると考えられ,患者の家族等に連絡することを伝えたうえで,病状を家族等に説明しなければならない. 11.緩和ケアとエンドオブライフ(end‒of‒life:EOL)ケア緩和ケアとは,診断時から人生の最終段階までの疾患の全経過において,身体的,心理社会的およびスピリチュアルな痛みに対して症状緩和と予防を目的とした医療・看護・介護のことであり,患者・家族等の希望に沿って,外来,入院,介護医療院,施設,在宅のいずれでも受けることが可能である23).緩和ケアは,透析の見合わせを意思決定する前であっても,提供されるべきケアである.透析を見合わせて,在宅での看取りを希望した場合には,医療チームは在宅医に臨床経過,検査データ,意思決定の過程とACP に関する情報,患者・家族等の価値観,キーパーソン,認知症の有(治療歴)無についての情報提供と透析の見合わせに関する確認書の複写を提供し,在宅医に緩和ケアを引き継ぐ24).在宅医との連携を希望しない場合には,医療チームが緩和ケアを継続する.医療チームは,患者・家族等に緩和ケアについて十分説明し,今後予測される症状(全身劵怠感,かゆみ,浮腫,食欲不振,悪心,嘔吐,呼吸困難,意識障害等)に対して実施する医療とケアについて事前に具体的に説明する.厚労省のガイドラインでは,人生の最終段階における医療とケアにおいては,できる限り早期から身体的な苦痛等を緩和するためのケアが行われることが重要と記載されており,尿毒症による呼吸困難等は辛苦に耐え難い苦痛であり,緩和ケアの内容について患者の意思を確認することが重要である.なお,深い持続的鎮静を行う場合には,事前に患者・家族等から同意を取得することが望ましい. EOL ケアとは,診断名,健康状態,年齢にかかわらず,差し迫った死,あるいはいつかは来る死について考える人が,生が終わる時まで最善の生を生きることができるように支援することであり25),必要とする支援が円滑に提供されるためには,健康な時や病初期から患者・家族等と将来の医療とケアについて話し合っておくことが重要である. 12.小児小児に関しては,日本小児科学会が2012 年に公表した「重篤な疾患を持つ子どもの医療をめぐる話し合いのガイドライン」26)に準じて,医療チームと家族等を含むさまざまな立場の人がそれぞれの価値観を持ち寄って子どもの最善の利益を話し合ったうえで,CKM 選択を判断することが望ましい. 13.話し合いの記録医療チームは,すべての職種が医療とケアの選択に関連した患者・家族等・医療チームの発言について,話し合いの都度記録を残し,その内容を文書にまとめて,患者・家族等と共有する. 14.同意書と確認書同意とは,相手の考えや意見に賛成する,相手と同じ意思表示をする等の意味があり,一方の意見を受け取る場合に用いる.合意とは,お互いの意見が一致して,当事者同士が対等の立場で納得をしている状 189 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
態であり,SDM のプロセスに基づき,お互いに意見を出し合って,その考え方が一致または折り合っている場合に用いる.医療チームが透析についての十分な情報を提供し,その情報のもとに,患者が透析の開始を意思決定し,家族等も同意すれば,同意書を作成し,お互いに確認する.一方,患者が透析の見合わせの意思を示した場合,透析が患者にとって利益性が高いと判断している医療チームには同意できないこともあるものの,患者・家族等が意思決定した理由に合意できれば,確認書を作成しその意思を尊重する.患者・家族等と複数回十分に話し合い,CKM を選択した場合,その内容を診療録に記録するが,診療録は患者・家族等が同意した証明にはならないことに注意が必要である.各種書類については,後日,問題が発生した場合には,当事者間の意思・同意・合意を証明する有力な証拠となる.透析の開始同意書は取得し,透析の見合わせに関する確認書は必要に応じて取得する. 15.臨床倫理問題を担当するチームまたは部署の設置透析の開始と継続に関する意思決定をすすめるうえで医療チームが困難を感じることもある.医療施設内で医療チームとともに臨床倫理問題を担当するチームまたは部署を設置することが望ましい. 文献1) 厚生労働省.人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン. https:⊘⊘www.mhlw.go.jp⊘file⊘04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka⊘0000197701.pdf 2) 「高齢者の終末期の医療およびケア」に関する日本老年医学会の「立場表明」日本老年医学会https:⊘⊘www.jpn-geriat-soc.or.jp⊘tachiba⊘jgs-tachiba2012.pdf 3) 日本老年医学会.高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン 人工的水分・栄養補給の導入を中心として. https:⊘⊘jpn-geriat-soc.or.jp⊘proposal⊘pdf⊘jgs_ahn_gl_2012.pdf 4) 厚生労働省.認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン. https:⊘⊘www.mhlw.go.jp⊘file⊘06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku⊘0000212396.pdf 5) 日本医師会.医の職業倫理指針 第3 版.東京:日本医師会,2016. https:⊘⊘www.med.or.jp⊘doctor⊘member⊘000967.html 6) 日本腎臓学会,日本透析医学会,日本移植学会,日本臨床腎移植学会,日本腹膜透析医学会.腎不全治療選択とその実 際2019 年版. https:⊘⊘cdn.jsn.or.jp⊘jsn_new⊘iryou⊘kaiin⊘free⊘primers⊘pdf⊘2019allpage.pdf 7) Graham Warwick, Andrew Mooney, Lynne Russon, Rebecca Hardy:CLINICAL PRACTICE GUIDELINE:Planning, Initiating and Withdrawal of Renal Replacement Therapy. UK Renal Association 6th Edition Final Version. 2017;1⊖ 32 https:⊘⊘renal.org⊘guidelines⊘ 8) Oxford University Hospital Kidney Unit: A guide to conservative kidney management. https:⊘⊘www.ouh.nhs.uk⊘patient-guide⊘leaflets⊘files⊘37843Pmanagement.pdf 9) 日本腎臓学会.CKD 診療ガイド2012.東京:東京医学社,2012. 10) Eneanya ND, Goff SL, Martinez T, et al. Shared decision⊖making in end⊖stage renal disease:a protocol for a multi⊖ center study of a communication intervention to improve end⊖of⊖life care for dialysis patients. BMC Palliat Care 2015;14:30. 11) Agency for Healthcare Research and Quality. SHARE Approach Workshop Curriculum. https:⊘⊘www.ahrq.gov⊘ health-literacy⊘curriculum-tools⊘shareddecisionmaking⊘workshop⊘module1⊘shareworkshop-mod1slides.html#s8. 12) Sudore RL, Lum HD, You JJ, et al. Defining Advance Care Planning for Adults: A Consensus Definition From a Mul- tidisciplinary Delphi Panel. J Pain Symptom Manage 2017;53:821⊖32. 13) 厚生労働省.ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の愛称を「人生会議」に決定しました,2018. https:⊘⊘www.mhlw.go.jp⊘stf⊘newpage_02615.html 14) 日本老年医学会.ACP 推進に対する提言2019.https:⊘⊘www.jpn-geriat-soc.or.jp⊘proposal⊘acp.html 15) Seymour J, Horne G. ACP facilitating a process of shared decision making. In. Thomas K, Lobo B, ed. Advance Care Planning in End of Life Care p.20. Oxford Univ Pr. 2011. 16) 厚生労働省.身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン. https:⊘⊘www.mhlw.go.jp⊘content⊘000516181.pdf 190 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
17) 厚生労働省の「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン解説編」―終末期医療の決定プロセスの在り方に関す る検討会.平成19 年5 月.https:⊘⊘www.mhlw.go.jp⊘shingi⊘2007⊘05⊘dl⊘s0521-11b.pdf 18) 川口良人,二瓶宏,平沢由平,他.透析導入ガイドラインの作成に関する研究. 平成3 年度厚生科学研究・腎不全医療 研究事業報告書(班長:三村信英).千葉:国立佐倉病院,1992;125⊖32. 19) 日本透析医学会.2009 年版腹膜透析ガイドライン.透析会誌2009;42:285⊖315. 20) 日本透析医学会.維持血液透析ガイドライン:血液透析導入.透析会誌2013;46:1107⊖55. 21) 岡田一義,今田聰雄,海津嘉蔵,他.透析医への意識調査:維持血液透析患者の悪性腫瘍終末期における透析中止につ いて. 透析会誌2003;36:1315⊖26. 22) Okada K, Abe M, Yoshida Y, et al."Life with dignity"for terminal⊖stage dialysis patients with severe dementia in Japan:A new concept. Nihon University Journal of Medicine 2009;51:25⊖34. 23) OʼHare AM, Song MK, Kurella Tamura M, Moss AH. Research Priorities for Palliative Care for Older Adults with Advanced Chronic Kidney Disease. J Palliat Med 2017;20:453⊖60. 24) Bull R, Youl L, Robertson IK, Mace R, Challenor S, Fassett RG. Pathways to palliative care for patients with chronic kidney disease. J Ren Care 2014;40:64⊖73. 25) Izumi S, Nagae H, Sakurai C, Imamura E. Defining end⊖of⊖life care from perspectives of nursing ethics. Nurs Ethics 2012;19:608⊖18. 26) 日本小児科学会・倫理委員会小児終末期医療ガイドラインワーキンググループ.重篤な疾患を持つ子どもの医療をめぐ る話し合いのガイドライン.2012.http:⊘⊘www.jpeds.or.jp⊘saisin⊘saisin_120808.html 191 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
【提言作成の基本方針】 1.目的本提言の目的は,医療チームが,患者の意思を尊重し,その意向に寄り添いながら,本人が納得できる尊厳ある人生を送り,望む最期を迎えられる意思決定プロセスを提供することにある. 2.対象者(利用者) CKD 患者と透析患者を診療する医師,医療従事者(看護師,臨床工学技士,ソーシャルワーカー,栄養士,管理栄養士,薬剤師等),介護従事者(介護福祉士,介護支援専門員等)である. 3.対象患者小児から高齢者までのCKD 患者と透析患者である. 4.取り扱う臨床上の課題患者の意思を尊重し,本提言に準拠して透析を見合わせても,AD や延命治療の中止が法律的に規定されていないわが国において,患者が死亡した場合,医療チームは法的に免責されるわけではない. 5.普遍性の確保委員選出に関しては,JSDT に偏ることがないように日本腹膜透析医学会,日本透析医会,日本腎臓学会,日本小児腎臓病学会,日本腎不全看護学会,日本臨床工学技士会,日本在宅医療連合学会,腎臓病SDM 推進協会に協力を要請した.さらに,患者側の立場として全国腎臓病協議会ならびに腎臓サポート協会にも協力を要請した. 6.記載形式エビデンスが少ない領域のため,クリニカル・クエスチョン(CQ)形式ではなく,前提言と厚労省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を参考にした.なお,全員の意見が一致しない場合は,理事会で決議することとした. 7.文献検索PubMed および医学中央雑誌により2012 年4 月から2019 年6 月までに発表された英文および日本語の論文を対象とした.また,重要な論文についてはハンドサーチで検索した.検索に用いたkey word は,共同意思決定(shared decision making),血液透析(hemodialysis),腹膜透析(peritoneal dialysis),急性腎障害(acute kidney injury),事前指示書(advance directives),尊厳死(death with dignity),自己決定権(self⊖determination),終末期(terminal stage),アドバンス・ケア・プランニング,人生会議(advance care planning),エンドオブライフ・ケア(end⊖of⊖life care),緩和ケア(palliative care),見合わせ,差し控え,継続中止(forgo,withhold,withdrawal),高齢者(elderly),認知機能障害(cognitive impairment),認知症(dementia),保存的腎臓療法(conservative kidney management,conservative kidney care)等である.エビデンスがある論文を採択し,さらに,エビデンスが少ない文献または総説の 192 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
評価に関しては,偏りがないよう全体会議で討議した. 8.編集の独立性本提言の作成に要した費用は,すべてJSDT が負担しており,他の組織・団体・企業からの資金提供は一切なく,独立性を担保している. 9.作成経過このような作成方針のもとで合計17 回の会議を重ね,提言の改訂をまとめることができた.多忙な日々の中で,膨大な文献収集およびそれぞれの委員が所属する団体の立場に加え,医師,看護師,臨床工学技士,患者,医療ジャーナリスト,学者,弁護士の立場としても多様な意見が交わされる中で熱心な討議を行い,提言として成文化した. 10.査読方法外部査読として,日本腹膜透析医学会,日本透析医会,日本腎臓学会,日本小児腎臓病学会,日本腎不全看護学会,日本臨床工学技士会,日本在宅医療連合学会ならびに全国腎臓病協議会に査読者の推薦を依頼した.理事会による内部査読を依頼し,パブリックコメントを募集し,公聴会を開催後に再度理事会による内部査読を依頼した. 11.臨床活用のための工夫利用者の利便性を高め本提言の普及促進を図るため,JSDT ホームページに掲載し,透析専門医の受験および申請時に本提言を含む倫理についての教育講演聴講を義務付ける方向性で検討を開始した.また,医療従事者(看護師,臨床工学技士,ソーシャルワーカー,栄養士,薬剤師等)と介護従事者(介護福祉士,介護支援専門員等)が所属する団体に啓発活動を行い,本提言とそれらのホームページとリンクを張ることを依頼する. 12.今後の改訂予定提言は,2014 年に初版が示され,本提言は改訂第2 版にあたる.本提言に関する内容について,厚労省のガイドラインや学会による診療ガイドラインの新規作成や改訂,政府による法整備が行われ,基本的な考え方に大幅な修正が必要になった場合には見直しを行うことが必要である. 13.透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言作成委員会委員長 岡田一義 社会医療法人川島会川島病院腎臓内科副委員長 土谷 健 東京女子医科大学病院腎臓病総合医療センター血液浄化療法科副委員長 酒井 謙 東邦大学医学部腎臓学講座副委員長 倉賀野隆裕 兵庫医科大学医学部内科学講座腎・透析科委員 内田明子 社会福祉法人聖隷福祉事業団聖隷横浜病院看護部委員 鶴屋和彦 奈良県立医科大学腎臓内科学委員 友 雅司 大分大学医学部附属臨床医工学センター委員 中元秀友 埼玉医科大学病院総合診療内科 193 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
委員 濱田千江子 順天堂大学健康総合科学先端研究機構委員 深川雅史 東海大学医学部内科学系腎内分泌代謝内科顧問 川口良人 東京慈恵会医科大学顧問 渡邊有三 春日井市民病院統括顧問外部委員 会田薫子 東京大学大学院人文社会系研究科上廣死生学・応用倫理講座小川義龍 弁護士日本臨床工学技士会推薦 内野順司 医療法人社団誠仁会みはま病院ME 部日本腎臓学会推薦 岡田浩一 埼玉医科大学病院腎臓内科日本透析医会推薦 甲田 豊 医療法人社団甲田内科クリニック腎臓病SDM 推進協会推薦 小松康宏 群馬大学大学院医学系研究科医療の質・安全学講座日本腎不全看護学会推薦 佐藤久光 特定医療法人衆済会増子記念病院看護部日本小児腎臓病学会推薦 服部元史 東京女子医科大学病院腎臓病総合医療センター 腎臓小児科 全国腎臓病協議会推薦 馬場 享 全国腎臓病協議会腎臓サポート協会推薦 松村満美子 腎臓サポート協会日本在宅医療連合学会推薦 三浦久幸 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 在宅医療・地域医療連携推進部 日本腹膜透析医学会推薦 水口 潤 社会医療法人川島会川島病院腎臓内科 14.委員会・中間報告等の開催記録委員会・中間報告等の開催記録第1 回委員会2019 年4 月28 日第2 回委員会2019 年5 月26 日第3 回委員会2019 年6 月29 日第4 回委員会2019 年7 月21 日第5 回委員会2019 年8 月10 日第6 回委員会2019 年9 月15 日第7 回委員会2019 年10 月19 日第8 回委員会2019 年10 月27 日第9 回委員会2019 年11 月17 日第10 回委員会2019 年11 月30 日第11 回委員会2019 年12 月8 日第12 回委員会2019 年12 月22 日第13 回委員会2020 年1 月12 日第14 回委員会2020 年2 月2 日第15 回委員会(公聴会前) 2020 年2 月16 日第16 回委員会(公聴会後) 2020 年2 月16 日第17 回委員会2020 年3 月1 日第18 回委員会2020 年4 月4 日 194 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
中間報告記録第64 回JSDT 学術集会 緊急企画2019 年6 月28 日横浜JSDT 理事会にて提言案を報告2019 年12 月6 日全国腎臓病協議会と提言案の意見交換会 2019 年12 月22 日東京JSDT ホームページに提言案を掲載2020 年1 月20 日提言案に対する公聴会2020 年2 月16 日東京JSDT 理事会にて提言案を承認2020 年3 月27 日 15.外部査読委員外部査読委員日本小児腎臓病学会推薦 芦田 明 大阪医科大学医学部小児科学日本在宅医療連合学会推薦 蘆野吉和 鶴岡市立荘内病院外科腎臓病SDM 推進協会推薦 石田真理 東海大学医学部付属病院八王子病院腎内分泌代謝内科日本腎不全看護学会推薦 榊みのり 筑波大学附属病院看護部日本腎臓学会推薦 寺田典生 高知大学医学部内分泌代謝・腎臓内科学講座日本臨床工学技士会推薦 那須野修一 公益社団法人日本臨床工学技士会日本医師会推薦 羽鳥 裕 日本医師会全国腎臓病協議会推薦 松橋文昭 全国腎臓病協議会日本透析医会推薦 山川智之 特定医療法人仁真会白鷺病院外科日本腹膜透析医学会推薦 森石みさき 医療法人あかね会中島土谷クリニック(五十音順) 16.利益相反情報一般社団法人日本透析医学会は,今後,本学会が作成する臨床ガイドラインおよび提言については,作成ワーキンググループのメンバーが中立性と公明性をもって作成業務を遂行するために,実際または予想されうる問題となる利益相反状態を避けることに最大限の努力をはらっている*).すべてのワーキンググループのメンバーは可能性としてまたは実際に生じる利益相反情報の開示を行う書類(署名済み)を提出し,この書類は毎年更新され,情報は状況に応じて適宜変更される.これらのすべての情報は,以下のように「利益相反情報についての開示」に記載し,これを裏付けるすべての情報は日本透析医学会事務局が保管している.文献*) 日本透析医学会:日本透析医学会における医学研究の利益相反(COI)に関する指針. 2011: https:⊘⊘www.jsdt.or.jp⊘jsdt⊘1370.html 利益相反情報についての開示岡田一義 第一三共(株)(医療用医薬品の研究開発・製造および販売の会社),バクスター(株)(透析製 品,血漿たん白製剤,薬剤投与システムの輸入,製造,販売の会社),協和発酵キリン(株)(医療用医薬品の製造および販売の会社)から研究補助金を受領している.土谷 健 大塚製薬(株)(医薬品・臨床検査・医療機器・食料品の製造,製造販売,販売,輸出ならびに 195 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
輸入の会社), バイエル薬品(株)(医薬品,医療機器,動物用医薬品の開発・輸入・製造および販売の会社),中外製薬(株)(医療用医薬品の製造・販売および輸出入の会社),協和発酵キリン(株)(医療用医薬品の製造および販売の会社),鳥居薬品(株)(医薬品の製造・販売の会社)から会議出席,講演等の謝礼および研究補助金を受領している.酒井 謙 (株)ジェイ・エム・エス(医療機器,医薬品の製造・販売および輸出入の会社),キッセイ薬 品工業(株)(医薬品の研究,開発,製造,販売の会社),ノバルティスファーマ(株)(医薬品の開発,輸入,製造,販売の会社)の会議出席,講演等の謝礼を受領し顧問として報酬を受領している.倉賀野隆 裕 中外製薬(株)(医療用医薬品の製造・販売および輸出入の会社),バイエル薬品(株)(医薬 品,医療機器,動物用医薬品の開発・輸入・製造および販売の会社),小野薬品工業(株)(医療用医薬品を主体とする各種医薬品の研究,開発,製造,仕入および販売の会社),扶桑薬品工業(株)(医薬品・医療機器の開発・販売の会社)から会議出席,講演等の謝礼を受領している.鶴屋和彦 中外製薬(株)(医療用医薬品の製造・販売および輸出入の会社),協和発酵キリン(株)(医療 用医薬品の製造および販売の会社),サノフィ(株)(医薬品および医療機器の製造販売・輸入等の会社),武田薬品工業(株)(医薬品,医薬部外品等の製造・販売・輸出入の会社),バクスター(株)(透析製品,血漿たん白製剤,薬剤投与システムの輸入,製造,販売の会社),鳥居薬品(株) (医薬品の製造・販売の会社)から研究費の補助を受領し会議出席,講演等の謝礼を受領し寄附講座に所属している.中元秀友 東レ(株)(医薬品,医療製品の製造および販売の会社),キッセイ薬品工業(株)(医薬品の研 究,開発,製造,販売の会社),テルモ(株)(医療機器・医薬品の製造販売の会社),アステラス製薬(株)(医薬品の製造・販売および輸出入の会社),協和発酵キリン(株)(医療用医薬品の製造および販売の会社),中外製薬(株)(医療用医薬品の製造・販売および輸出入の会社),JCRファーマ(株)(医薬品の原料の製造,売買並びに輸出入医療用機器の会社),ベーリンガーインゲルハイム(株)(医薬品の製造,販売および輸入等の会社)から会議出席,講演等の謝礼を受領し研究補助金を受領している.濱田千江 子 公益財団法人神戸医療産業都市推進機構から研究補助金を受領している.深川雅史 協和発酵キリン(株)(医療用医薬品の製造および販売の会社),小野薬品工業(株)(医療用医 薬品を主体とする各種医薬品の研究,開発,製造,仕入および販売の会社),バイエル薬品(株) (医薬品,医療機器,動物用医薬品の開発・輸入・製造および販売の会社),鳥居薬品(株)(医薬品の製造・販売の会社),アステラス製薬(株)(医薬品の製造・販売および輸出入の会社),中外製薬(株)(医療用医薬品の製造・販売および輸出入の会社)から会議出席,講演等および原稿料の謝礼を受領し研究補助金を受領している.川口良人 中外製薬(株)(医療用医薬品の製造・販売および輸出入の会社)から旅費を受領している.会田薫子 公益財団法人上廣倫理財団の寄付講座に所属している.岡田浩一 協和発酵キリン(株)(医療用医薬品の製造および販売の会社),アレクシオンファーマ(株) (日本および外国における医薬品の製造・販売および輸入の会社),中外製薬(株)(医療用医薬品の製造・販売および輸出入の会社),鳥居薬品(株)(医薬品の製造・販売の会社),ファイザー(株)(医薬品の開発の会社),ベーリンガーインゲルハイム(株)(医薬品の製造,販売および輸入等の会社),武田薬品工業(株)(医薬品,医薬部外品等の製造・販売・輸出入の会社),アステ 196 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
ラス製薬(株)(医薬品の製造・販売および輸出入の会社),第一三共(株)(医療用医薬品の研究開発・製造および販売の会社),田辺三菱製薬(株)(医療用医薬品を中心とする医薬品の製造・販売の会社)から会議出席,講演等の謝礼を受領し研究補助金を受領している.小松康宏 中外製薬(株)(医療用医薬品の製造・販売および輸出入の会社),バクスター(株)(透析製 品,血漿たん白製剤,薬剤投与システムの輸入,製造,販売の会社)から会議出席,講演等の謝礼を受領している.佐藤久光 (株)日本メディカルセンター(書籍発行の会社)から会議出席の謝礼を受領している.服部元史 ファイザー(株)(医薬品の開発の会社)から研究補助金を受領している.水口 潤 協和発酵キリン(株)(医療用医薬品の製造および販売の会社),バクスター(株)(透析製品, 血漿たん白製剤,薬剤投与システムの輸入,製造,販売の会社),鳥居薬品(株)(医薬品の製造・販売の会社)から会議出席,講演等の謝礼を受領している.芦田 明 協和発酵キリン(株)(医療用医薬品の製造および販売の会社)から旅費等を受領している.石田真理 バクスター(株)(透析製品,血漿たん白製剤,薬剤投与システムの輸入,製造,販売の会社) から会議出席,講演等の謝礼を受領している.寺田典生 中外製薬(株)(医療用医薬品の製造・販売および輸出入の会社),大正製薬(株)(医療用医薬 品の研究開発・製造および販売の会社),日本ベーリンガーインゲルハイム(株)(医薬品の研究開発,輸入,製造,販売の会社),第一三共(株)(医療用医薬品の研究開発・製造および販売の会社),武田薬品工業(株)(医薬品,医薬部外品等の製造・販売・輸出入の会社),アステラス製薬(株)(医薬品の製造・販売および輸出入の会社),帝人ファーマ(株)(医薬品・医療機器の研究開発,製造,販売の会社)から会議出席,講演等の謝礼を受領し研究補助金を受領している.森石みさ き キッセイ薬品工業(株)(医薬品の研究,開発,製造,販売の会社),フレゼニウスメディカ ルケアジャパン(株)(人工透析装置,透析用ダイアライザー輸入,製造販売および腹膜透析液とその関連医療器具の輸出入,製造および販売の会社)から会議出席,講演等の謝礼を受領し研究補助金を受領している. (順不同) (ここにあげられていない委員には利益相反の事項は発生していない.) 17.委員長による総括透析の開始と継続についての意思決定プロセス指針を示したが,医師,医療従事者,介護従事者の倫理観および患者・家族等の意思も多様であり,SDM に基づく決定ならびにACP を十分に行い,患者の意思決定を尊重し,患者の意向に寄り添いながら,患者が納得できる尊厳ある人生を送れるように,医療とケアに従事しておられる皆様にこの提言がお役に立てれば幸いである. 2020 年4 月4 日 透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言作成委員会委員長 岡田一義 197 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
【提 言】 提言1 医療チーム注1)による患者の意思決定の尊重1)患者が意思決定した医療とケアの方針を尊重する. 2)患者から透析開始前に透析の開始同意書を取得する. 3)患者に事前指示書(advance directives:AD)注2)を作成する権利があることを説明する. 提言2 患者との共同意思決定(shared decision making:SDM) 1)患者に必要な情報を十分に提供する. 2)患者から十分な情報を収集する. 3)話し合いを繰り返して,患者が最良の選択を行えるように支援する. 4)患者に腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)に関する情報を十分に提供する. (1)適切な時期に,将来腎機能が悪化した時に必要なRRT に関する情報を提供する. (2) 近い将来,透析が必要になると思われる時点で,RRT に関する情報と末期腎不全(end⊖stage kidney disease:ESKD)の自然経過を説明する. 5) 透析の開始が必要な時点で,患者がRRT を選択しない場合,患者・家族等注3) (相続人注4)を含む)と 話し合いを繰り返し,合意形成に努める. (1) 保存的腎臓療法(conservative kidney management:CKM)と透析開始の利益と不利益を理解 できるまで話し合う. (2)意思決定プロセス(図)に準じて話し合う. (3) 患者がCKM を最終的に選択した場合,透析の見合わせ注5)に関する確認書(参考資料)を必要に 応じて取得する. (4)受診時に意思決定の変更について確認する. 6)患者が意思決定した医療とケアを受けられているか評価を行う. 提言3 患者とのアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP) 1)さまざまな機会に今後の医療とケアについて十分に話し合う. 2)意思決定プロセス(図)に準じて,患者が望む医療とケアについて十分に話し合う. (1)患者に透析の見合わせ後に出現が予測される症状と予後を説明する. (2)患者が在宅での看取りを希望した場合,在宅医と連携する. (3)患者の病状変化に応じて適宜意思を確認する. 提言4 医療チームによる人生の最終段階における透析見合わせの提案1)表に基づき,透析の見合わせを検討することもできる状態と判断する. 2)意思決定プロセス(図)に準じて対応する. 3)CKM を選択して透析を見合わせた後も適切に緩和ケアを行う. 198 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
提言5 意思決定能力を有する患者,または意思決定能力を有さない患者の家族等から医療チームへの透 析見合わせの申し出1) 意思決定能力を有する患者の意思,または意思決定能力を有さない患者の事前指示(文書または口頭) を確認する. 2) 人生の最終段階ではないと診断した場合,生命維持のために透析を永続的に必要とするESKD と診断 する. (1) 意思決定プロセス(図)に準じてCKM を選択して関係者全員が合意した場合には,透析の見合 わせに関する確認書を必要に応じて取得し,その後も適切に緩和ケアを行う. (2) 患者の意思を推定できない場合,または関係者全員が合意できない場合には,話し合いを繰り返 し,合意形成に努める. (3)受診時に意思決定の変更について確認する. 提言6 患者から家族等への病状説明拒否の申し出1)理由を把握し,患者の意思決定能力の有無を確認する. 2) 意思決定能力を有する場合には家族等への連絡は原則差し控えるが,有さない場合には家族等に連絡 する. 3) 尿毒症症状を認める場合,またはCKM を選択して透析を見合わせる場合には,患者に家族等に連絡す ることを伝えたうえで,病状を家族等に説明する. 提言7 医療チームと家族等による,理解力や認知機能が低下した患者の意思決定支援1)患者の意思を尊重して,意思決定を支援し,本人が望む最良の医療とケアを提供する. 2)意思決定が可能な段階で,家族等に患者とACP を行うことを促す. 199 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
【提言解説編】 【解説】 意思決定能力を有する患者には,人生の最終段階にあるかどうかにかかわらず,わかりやすい適切な説明を受け,自らの意思に基づき医療を受ける権利と医療を拒否する権利があることを認識し,患者が意思決定した医療とケアの方針を尊重する.意思決定能力を有さないが,意思決定能力を有する時期に意思決定した事前指示(文書または口頭)が存在し,そこに示された患者の医療とケア方針について,家族等の合意が得られれば尊重する.家族等が合意しない場合,医療チームは,患者の意思決定が尊重されるべきものであることを家族等に繰り返し説明し,合意が得られるように努力する. 患者は自分の治療を選択できる.その際に医療チームは,必要な情報を十分に説明し患者の理解を得たうえでの選択が望ましい.医療チームは意思決定能力を有する患者においては,患者自身から家族等同席のもとで透析開始前に同意書を取得する.意思決定能力を有さない患者の場合には,家族等は患者の医療とケアの代諾者にならざるをえず,家族等から同意書を取得する.その際に医療チームは,必要な情報を十分に説明し家族等の理解を得たうえでの選択が望ましい.家族等が来院できずに同意書を取得できない場合には,家族等に対して電話で説明した内容および同意した内容を診療録に記載する.家族等と連絡がとれない場合には,通常説明すべき事項を診療録に記載し,後日,再度説明して同意書を取得することが望ましい.後日の合意内容も診療録に記載する.血縁者や友人が全くいない者,戸籍も不明な独居者,血縁者から一切の連絡を拒まれている者等,同意書を作成する段階で患者本人以外の同意を取得することが不可能な場合については,その旨を診療録と看護記録に記載する. 患者がAD を作成していない場合,いついかなる状態であっても,本人が希望する医療とケアを将来に 200 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020 提言1 医療チーム注1)による患者の意思決定の尊重1)患者が意思決定した医療とケアの方針を尊重する. 2)患者から透析開始前に透析の開始同意書を取得する. 3)患者に事前指示書(advance directives:AD)注2)を作成する権利があることを説明する. 1)患者が意思決定した医療とケアの方針を尊重する. 2)患者から透析開始前に透析の開始同意書を取得する. 3)患者に事前指示書(advance directives:AD)注2)を作成する権利があることを説明する.
わたって医療チームから提供されるためには,その意思を示す根拠となるAD を作成する権利があり,作成した場合には定期的に見直し,いつでも撤回できることを説明する. 【解説】 治療方針等の決定にあたっては,SDM のプロセスをとることが望ましい.その際,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の診断,合併症,予後,各種治療法(生活習慣改善,食事・運動・薬物療法, RRT)の利益・不利益・生活に与える影響等に関して,わかりやすい言葉で説明し,理解を得る. 患者の話を傾聴し,患者がどの程度情報を理解しているかを確認するとともに,患者の価値観,意向,楽しみ,生きがい,気にしていること,わからないこと,経済不安,生活環境,親族関係,ストレス,医療とケアの希望等についての情報も収集する. 201 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020 提言2 患者との共同意思決定(shared decision making:SDM) 1)患者に必要な情報を十分に提供する. 2)患者から十分な情報を収集する. 3)話し合いを繰り返して,患者が最良の選択を行えるように支援する. 4)患者に腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)に関する情報を十分に提供する. (1)適切な時期に,将来腎機能が悪化した時に必要なRRT に関する情報を提供する. (2) 近い将来,透析が必要になると思われる時点で,RRT に関する情報と末期腎不全(end‒stage kidney disease:ESKD)の自然経過を説明する. 5) 透析の開始が必要な時点で,患者がRRT を選択しない場合,患者・家族等注3) (相続人注4)を含む) と話し合いを繰り返し,合意形成に努める. (1) 保存的腎臓療法(conservative kidney management:CKM)と透析開始の利益と不利益を 理解できるまで話し合う. (2)意思決定プロセス(図)に準じて話し合う. (3) 患者がCKM を最終的に選択した場合,透析の見合わせ注5)に関する確認書(参考資料)を必 要に応じて取得する. (4)受診時に意思決定の変更について確認する. 6)患者が意思決定した医療とケアを受けられているか評価を行う. 1)患者に必要な情報を十分に提供する. 2)患者から十分な情報を収集する.
効果的なコミュニケーションにより,疾患に対する患者の適応力の向上を支援し,患者が自身の病態と治療選択肢の利益および不利益を正確に理解できるまで質疑応答を繰り返す.患者の価値観や意向等を理解し,患者の利益に資する治療選択肢を提案し,合意形成を目指す.患者の最良の選択は,医学的・看護学的・介護学的に最良な医療とケアと異なる場合もあり,お互いの見解も理解し,患者がすべての情報を正しく理解したうえで,患者の価値観に合った最良の選択を行えるように支援する. 進行性に腎機能の低下がみられ,eGFR 30 mL⊘min⊘1.73 m2未満に至った時点で,将来腎機能が悪化した時に必要なRRT(腎移植,腹膜透析,血液透析)に関する情報を提供する.近い将来,RRT を開始すると思われる時点で,医療チームはRRT についての情報とESKD の自然経過を説明し,患者がそれぞれのRRT の利益と不利益およびRRT を行わないことの利益と不利益を理解できるまで話し合いを継続する.患者が自身の人生を納得して歩むことが重要であり,その選択を迷う患者に対しては,受診時に意思決定を支援する. 医療チームは,患者の生活全体を把握し,患者が抱える不安や諸問題を理解し,患者・家族等との話し合いを通じて,患者の利益に資する方策を模索し,関係者全員が納得することが重要である.患者が精神的・社会的問題を抱えている場合には,これらの問題を解決するための介入を検討することも重要である.また,医療チームは専門家として,病状や正確な情報をわかりやすく説明し,患者がその人らしい人生を生きていくのに必要な方策を考えて提案し,必要であればそれを受け入れ支援するための話し合いを繰り返したうえで合意に至るプロセスが求められる. 202 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020 3)話し合いを繰り返して,患者が最良の選択を行えるように支援する. 4)患者に腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)に関する情報を十分に提供する. (1)適切な時期に,将来腎機能が悪化した時に必要なRRT に関する情報を提供する. (2) 近い将来,透析が必要になると思われる時点で,RRTに関する情報と末期腎不全(end‒stage kidney disease:ESKD)の自然経過を説明する. 5) 透析の開始が必要な時点で,患者がRRT を選択しない場合,患者・家族等注3) (相続人注4)を含む) と話し合いを繰り返し,合意形成に努める. (1) 保存的腎臓療法(conservative kidney management:CKM)と透析開始の利益と不利益を 理解できるまで話し合う. (2)意思決定プロセス(図)に準じて話し合う. (3) 患者がCKM を最終的に選択した場合,透析の見合わせ注5)に関する確認書(参考資料)を必 要に応じて取得する. (4)受診時に意思決定の変更について確認する.
透析の開始が必要なESKD に至った時点で,RRT を選択していない患者は,その選択に直面する.RRTを開始するかどうか,開始するとしたらいつ,どの治療法(腎移植,腹膜透析,血液透析)を選択するか, RRT を選択しない場合にはどのような自然経過をたどるのか,これらの利益と不利益について説明する.患者がRRT を選択しないことを医療チームに申し出た場合には,医療チームはCKM についての情報を提供し,SDM のプロセスに基づいた話し合いを患者・家族等とすすめ,患者・家族等がCKM を選択して透析を見合わせた場合,尿毒症症状として呼吸困難,意識障害,肺水腫,不整脈等が起こり死亡する可能性,透析開始によりこれらの状況が回避できる可能性,透析に伴う苦痛が生じる可能性,緩和ケアで苦痛の軽減を図ることができる可能性,見合わせた透析の開始または継続を希望すれば実施すること,透析を実施しても死亡する可能性があること等を理解できるまで説明し,期間を限定した透析の開始についての情報も提供する.精神疾患等により意思決定能力に問題があると疑われる場合には,患者・家族等に専門医の受診を勧める.意思決定プロセスに準じて患者が意思決定する過程を共有し,CKM を最終的に選択した場合,患者・家族等から透析の見合わせに関する確認書を必要に応じて取得する.医療チームは,すべての職種が医療とケアの選択に関連した患者・家族等との話し合いの内容を記録し,その内容を文書にまとめて,患者・家族等と共有することが重要である.確認書を取得しても,病状の変化に応じて,適宜患者から意思を確認することが重要である.一つの例として,その確認書を参考資料として示した.確認書は強制的に取得するのではなく,患者の意思を尊重し,取得しないこともある.なお,家族等に看取りとグリーフケア注6)も含んだ心理的ケアを行うことも重要である.患者がCKM を最終的に選択した後も,定期的に通院している場合には,受診時に病状を確認し,必要とされる緩和ケアを提供するとともに,意思決定の変更について確認する.意思を変更し,透析の開始を申し出た場合には,口頭意思表示で透析を実施し,患者・家族等と今後の医療とケアの方針を再度話し合い,患者から撤回書を必要に応じて取得する.なお,患者にはセカンド・オピニオンを求める権利があり,セカンド・オピニオンについて説明する. 患者が医療とケアの方針を意思決定した後に,希望通りの医療とケアを受けられているか評価を行うことが重要である.また,透析を見合わせたことによる不安や病状の進行による症状の有無,それらに適切に対応しているかも評価する. 203 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020 6)患者が意思決定した医療とケアを受けられているか評価を行う.
【解説】 ACP とは,患者・家族等・医療チームが,年齢や疾病の時期にかかわらず,本人の価値観や人生の目的を理解して共有し,意思決定能力が低下する時に備えて,事前に人生の最終段階における医療とケアについて考える機会を持ち,本人を主体にこれらを計画する意思決定を支援する話し合いのプロセスである.医療チームは,ACP を適切な時期に実施し,本人の意思が尊重された医療とケアを受けるために早期から十分に話し合うことが重要であり,透析の開始時や病状の変化があった際に,ACP を十分に行う必要がある. 患者・家族等と意思決定プロセス(図)に準じて話し合いを繰り返して,患者の人生観,価値観,希望等を理解し,患者が重要と考える優先事項を把握し,患者の価値観に合うケアにより,患者の尊厳を保つことを目標にする.患者の意思を尊重した医療とケアを提供し,人生の最終段階に尊厳ある生き方を実現する.必要度の高くない薬物療法の中止や内服薬から注射薬や貼付薬への切り替え等についても事前に決定しておく.意思決定能力を有さない患者の場合には,家族等と十分に話し合う.透析の見合わせ後に出現が予測される症状と予後について患者・家族等へ説明し,人生の最終段階においては,できる限り早期から身体的な苦痛等を緩和するためのケアが行われることが重要であり,今後も必要に応じた緩和ケアが提供されることを担保する.なお,深い持続的鎮静を行う場合には,事前に患者・家族等から同意を取得することが望ましい.医療チームは,すべての職種が医療とケアの選択に関連した患者・家族等との話し合いの内容を記録し,その内容を文書にまとめて,患者・家族等と共有することが重要である.患者の全人的な苦痛(身体的な痛み,心理的な痛み,社会的な痛み,スピリチュアルな痛み注7))に対して,家族等とともに対応する.緩和ケアにより,身体的痛みを緩和し,心理的・社会的・スピリチュアルなニーズに耳を傾け,患者・家族等を支援する.必要に応じて,緩和ケアの専門知識を持つ専門家が関与 204 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020 1)さまざまな機会に今後の医療とケアについて十分に話し合う. 提言3 患者とのアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP) 1)さまざまな機会に今後の医療とケアについて十分に話し合う. 2)意思決定プロセス(図)に準じて,患者が望む医療とケアについて十分に話し合う. (1)患者に透析の見合わせ後に出現が予測される症状と予後を説明する. (2)患者が在宅での看取りを希望した場合,在宅医と連携する. (3)患者の病状変化に応じて適宜意思を確認する. 2)意思決定プロセス(図)に準じて,患者が望む医療とケアについて十分に話し合う. (1)患者に透析の見合わせ後に出現が予測される症状と予後を説明する. (2)患者が在宅での看取りを希望した場合,在宅医と連携する. (3)患者の病状変化に応じて適宜意思を確認する.
することが望ましい.患者・家族等と話し合い,患者が人生の最終段階でも尊厳を持ちながら好きな場所で最期を生きる選択肢を提供できるように努める.看取りの場所を確認し,在宅を希望した場合には,在宅医や介護従事者(介護福祉士,介護支援専門員等)と連携し,患者が尊厳を維持しながら最期を迎えられるように支援する.患者・家族等との話し合いを継続し,患者が意思決定した後も,患者から近接の意思に変化がないことを確認することが重要である.患者が意思決定能力を有さなくなった際には,意思決定能力を有した最も至近な時点での患者の意思を尊重する. 【解説】 人生の最終段階の状態では,患者の尊厳を考慮し,透析の見合わせが最善の治療選択肢の一つになりえると判断した時には,医療チームが意思決定能力を有する患者,または意思決定能力を有さない患者の家族等に提案し,意思決定プロセスに準じて対応する.また,透析の見合わせ以外にも,透析時間や回数の減少についての情報も提供する. 意思決定能力を有する患者が望む透析見合わせの意思決定を尊重し,意思決定プロセスに準じて対応する.患者・家族等と話し合いを繰り返しても合意を形成できない場合には,施設長に相談注9)し,合意形成に努める.意思決定能力を有するが,意思決定できない,または意思決定を迷う場合には,患者の求めに応じて,患者自らが主体的な意思決定ができるように支援する.そして,このプロセスにより決定された患者の意思を共有し,尊重する.意思決定能力を有さない患者において,家族等が患者の透析の見合わせの意思を推定し,医療チームと合意できる場合,家族等が患者の意思を尊重する過程を共有し,尊重する.その際に患者に残っている能力に応じた話し合いを行う.意思決定能力を有さない患者の家族等が,患者の透析の見合わせの意思を推定することができても,家族等として意思決定できない,または意思決定を迷う場合にも支援し,医療チームと合意に至れば,その過程を共有し,尊重する.意思決定能力を有さない患者の家族等が,患者の意思を推定することができない場合には,家族等と医 205 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020 提言4 医療チームによる人生の最終段階における透析見合わせの提案1)表に基づき,透析の見合わせを検討することもできる状態と判断する. 2)意思決定プロセス(図)に準じて対応する. 3)CKM を選択して透析を見合わせた後も適切に緩和ケアを行う. 1)表に基づき,透析の見合わせを検討することもできる状態と判断する. 2)意思決定プロセス(図)に準じて対応する.
療とケアについて十分に話し合う.医療チームと合意が得られれば,その決定された方針を尊重し,施設長に報告する.意思決定能力を有する患者,または意思決定能力を有さない患者の家族等が判断を医療チームに委ねる場合には,医療チームが最善の医療とケアの方針を検討し,その内容を説明し,患者・家族等との合意形成に努める.意思決定能力を有さない患者に家族等がいない場合には,医療チームが医療とケアの妥当性と適切性を判断して,患者に残っている力を踏まえ,把握できる介護従事者または自治体の福祉担当者と相談し,患者にとって最善と考えられる方針をとることを基本とする.介護従事者または自治体の福祉担当者と相談できない場合には,施設長に相談する.なお,戸籍を調べて,相続人が判明し連絡できる場合には,その同意は法的に重要な意味を持つことから,連絡が検討されてよい. 提言2 に準じて,透析の見合わせに関する確認書を患者・家族等から必要に応じて取得し,患者・家族等と今後の医療とケアについて提言3 に準じて本人を主体に話し合う.意思決定後も,患者の病状変化等に応じて,適宜その意思に変更がないか家族等とともに確認することが重要である.なお,緩和ケアは, CKD ステージにかかわらず症状に対して適切に対応したケアであり,透析の見合わせを意思決定する前であっても必要であり,状況に応じた適切な緩和ケアを継続して提供する. 【解説】患者には意思決定権があり,患者から透析見合わせの申し出があった場合には,提言2 に準じて話し合 206 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020 3)CKM を選択して透析を見合わせた後も適切に緩和ケアを行う. 提 言5 意思決定能力を有する患者,または意思決定能力を有さない患者の家族等から医療チームへ の透析見合わせの申し出1) 意思決定能力を有する患者の意思,または意思決定能力を有さない患者の事前指示(文書または 口頭)を確認する. 2) 人生の最終段階ではないと診断した場合,生命維持のために透析を永続的に必要とするESKD と 診断する. (1) 意思決定プロセス(図)に準じてCKM を選択して関係者全員が合意した場合には,透析の 見合わせに関する確認書を必要に応じて取得し,その後も適切に緩和ケアを行う. (2) 患者の意思を推定できない場合,または関係者全員が合意できない場合には,話し合いを繰 り返し,合意形成に努める. (3)受診時に意思決定の変更について確認する. 1) 意思決定能力を有する患者の意思,または意思決定能力を有さない患者の事前指示(文書または 口頭)を確認する.
いを繰り返し,その理由を確認する.透析の開始あるいは継続によって生命が維持できる患者がCKM を選択して透析の見合わせを望む場合には,治療の利益と不利益を理解できるように文書で説明し,AD を取得することが望ましい.意思決定能力を有さない患者の家族等から申し出があった場合には,患者が意思決定能力を有していた時のAD や口頭での意思表示と理由を確認する.医療チームは,患者が抱える不安や諸問題を理解し,生きがいを持てるように患者・家族等との話し合いを通じて,患者の利益に資する方策を模索する.患者が精神的・社会的問題を抱えている場合には,これらの問題を解決するための介入を検討することも重要である. 意思決定能力を有する患者には,人生の最終段階にあるかどうかにかかわらず,わかりやすい適切な説明を受け,自らの意思に基づき医療を受ける権利と医療を拒否する権利がある.人生の最終段階ではない患者が透析の見合わせを申し出た場合,医師が生命維持のために透析を永続的に必要とするESKD と診断した時点から人生の最終段階となる.その意思は,その時点での最終意思決定であり,尊重されなければならない.医療チームは,患者の意思は変わりうるものであることを常に認識し,透析を受け入れるための対応を続け,期間を限定した透析の実施についての情報も提供する.人の尊厳の中では自律,すなわち自分のことは自分で決めることが最も重要な要素であり,意思決定プロセスに準じて患者・家族等・医療チームの間で十分な情報共有のもと繰り返し話し合った結果,透析によらないESKD の治療とケアであるCKM を選択した意思決定についての合意は尊重されなければならない.患者・家族等から透析の見合わせに関する確認書を必要に応じて取得し,患者が望む緩和ケアを提供する.なお,緩和ケアは,透析の見合わせを意思決定する前であっても必要であり,状況に応じた適切な緩和ケアを提供する.医療チームは,すべての職種が医療とケアの選択に関連した患者・家族等との話し合いの内容を記録し,その内容を文書にまとめて,患者・家族等と共有することが重要である.意思決定能力を有さない患者の家族等の場合は,患者の医療とケアの代諾者にならざるをえない.患者の事前指示に沿った家族等の意思決定が患者の人生の尊厳に値するものであり,家族等・医療チームの間で十分な情報共有のもと繰り返し話し合った結果,CKM を選択した意思決定についての合意は尊重されなければならない.意思決定能力を有する患者からの透析見合わせの申し出と同様に対応し,透析の見合わせに関する確認書を必要に応じて取得し,患者が望むであろう緩和ケアを提供する.家族等・医療チームが患者の意思を推定できない場合には,患者の病状が理解できるように話し合い,患者にとっての最良の医療とケアを提供できるように話し合いを繰り返し,合意が得られればその決定された方針を尊重し,施設長に報告する.医療チームが患者・家族等と最終的に合意できない場合には,施 207 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020 2) 人生の最終段階ではないと診断した場合,生命維持のために透析を永続的に必要とするESKD と 診断する. (1) 意思決定プロセス(図)に準じてCKM を選択して関係者全員が合意した場合には,透析の 見合わせに関する確認書を必要に応じて取得し,その後も適切に緩和ケアを行う. (2) 患者の意思を推定できない場合,または関係者全員が合意できない場合には,話し合いを繰 り返し,合意形成に努める. (3)受診時に意思決定の変更について確認する.
設長に相談し,合意形成に努める.また,繰り返し話し合う時間的余裕がない場合等にも,施設長に相談する.定期的に通院している保存期ESKD 患者の中には,透析を受け入れたくない気持ちが強くCKM を望む患者もいるため,受診時に病状を確認し,必要とされる緩和ケアを提供するとともに,意思決定の変更について確認する.透析患者が来院しない場合,患者に連絡して理由を確認するとともに,家族等にも連絡し,可能な限りSDM に基づく決定を十分に行う必要がある.透析を拒否した場合には,数日から数週以内に死亡することと,透析の再開を希望した場合には施設に連絡することを患者・家族等に伝える.なお,患者・家族等と連絡がとれない場合や家族等がいない場合には,介護従事者や自治体の福祉担当者等に相談し,安否確認のために警察への連絡を検討する. 【解説】 患者が家族等への連絡を拒んだ場合には,患者が家族等に迷惑をかけたくないと思って連絡を拒む場合や家族等が患者の意思決定支援者となっていない場合があり,その理由を確認する.また,患者の意思決定能力の有無を確認し,家族等以外の大切な人の存在についても確認する. 患者本人に対して病状を説明し,適切な説明をしたのであれば,生死にかかわる病状でない限り,意思決定能力を有する場合には,さらに患者の家族等へ説明する義務はない.しかし,意思決定能力を有さない場合には,患者に家族等に連絡することを伝えたうえで,病状を家族等に説明する. 208 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020 3) 尿毒症症状を認める場合,またはCKM を選択して透析を見合わせる場合には,患者に家族等に連 絡することを伝えたうえで,病状を家族等に説明する. 提言6 患者から家族等への病状説明拒否の申し出1)理由を把握し,患者の意思決定能力の有無を確認する. 2) 意思決定能力を有する場合には家族等への連絡は原則差し控えるが,有さない場合には家族等に 連絡する. 3) 尿毒症症状を認める場合,またはCKM を選択して透析を見合わせる場合には,患者に家族等に連 絡することを伝えたうえで,病状を家族等に説明する. 1)理由を把握し,患者の意思決定能力の有無を確認する. 2) 意思決定能力を有する場合には家族等への連絡は原則差し控えるが,有さない場合には家族等に 連絡する.
わが国の社会的背景および家族等への説明により行われるであろう患者への協力と配慮は大切であり,本人の生死にかかわる病状においては,患者の拒否があっても患者に家族等に連絡することを伝えたうえで,病状を家族等に説明する. 【解説】 医療チームは家族等とともに,理解力や認知機能が低下した患者が尊厳をもって暮らしていくことを尊重し,厚労省の「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」に準じて,本人の表明した意思(意向・選好あるいは好み)を尊重する.理解力や認知機能の程度にかかわらず,本人には意思があり,意思決定能力を有することを前提にして,その時々の意思決定能力の状況に応じて本人の意思形成,意思表明,意思実現を支援する.意思決定能力は,理解力や認知機能の状態だけでなく,社会心理的・環境的・医学身体的・精神的・神経学的状態によって変動する可能性がある.本人の意思決定能力を固定的に考えずに,本人のその時々の意思決定能力の状況に応じて支援しなければならない.本人の理解力・認知機能・身体および精神状態を的確に示すような情報と,本人の生活状況等に関する情報が適切に提供されることにより,十分な判断資料に基づく適切な判断が行われることが重要である.したがって,意思決定能力の判定は,一度だけでなく繰り返し行うことが求められる.認知症が疑われる場合には家族等に相談し,認知症を専門に診療している医師または認知症サポート医等と連携することが望ましい.なお,意思の確認が難しい場合には事前指示(文書または口頭)を尊重する.医療チームと家族等は,本人の能力を最大限活かして,本人が望む最良の医療とケアを受けられるように支援する.なお,理解力や認知機能が正常な時または軽度低下した早期に,患者にAD を作成する権利があることを伝えることが重要である. 医療チームは,理解力や認知機能が低下した患者が自ら意思決定できる早期の段階で家族等に患者とACP を行うように促し,今後の見通しと人生の最終段階での医療とケアについて本人を主体に話し合い, AD を作成することが望ましい. 209 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020 提言7 医療チームと家族等による,理解力や認知機能が低下した患者の意思決定支援1)患者の意思を尊重して,意思決定を支援し,本人が望む最良の医療とケアを提供する. 2)意思決定が可能な段階で,家族等に患者とACP を行うことを促す. 1)患者の意思を尊重して,意思決定を支援し,本人が望む最良の医療とケアを提供する. 2)意思決定が可能な段階で,家族等に患者とACP を行うことを促す.
【おわりに】 透析の開始が必要ではない時点において,患者自らが医療チームに事前指示書(advance directives: AD)を提出した時および患者・家族等が透析の見合わせを申し出た時,または医療チームが透析の見合わせについて検討する状態(表)と判断した時に,医療チームが透析によらない末期腎不全(end⊖stage kidney disease:ESKD)の治療とケアである保存的腎臓療法(conservative kidney management:CKM)の情報提供を検討する.透析の開始が必要な時点において,患者が腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)を選択しない時および患者・家族等から透析見合わせの申し出があった時に医療チームからCKM の情報を提供する.CKM の情報を提供した後,患者・家族等とともに意思決定プロセスに準じて,共同意思決定(shared decision making:SDM)に基づく決定ならびにアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)を十分に行う.なお,CKM の申し出があった時には,医療チームは,患者の価値観や意向等を理解し,患者・家族等と本人が納得できる人生を送ることが望ましいことを十分話し合うことによって合意形成を目指し,患者が最良の選択を行えるように支援することが重要である. ESKD の治療選択の中に,RRT に加え,CKM の選択肢も含まれるとすれば,療法選択時に諸外国のように4 つの選択肢(腎移植,腹膜透析,血液透析,CKM)を示す必要がある.患者には知る権利があり,医療チームはすべての情報を提供しなければならず,患者の病状や理解度を総合的に判断し,その時期,方法,程度,内容については適切に説明することが求められている.今後,患者がCKM を選択して透析を見合わせた後のケアの内容とその実践については,わが国と欧米の相違も考慮し,在宅医も含めてこれから作りあげる必要がある.医療チームは,患者の意思を尊重し,その意向に寄り添いながら,本人が納得できる尊厳ある人生を送り,望む最期を迎えられるように支援するとともに家族等が良い最期であったと考えられるように,看取りとグリーフケアも含んだ心理的ケアも行うことが重要である.日本透析医学会(Japanese Society for Dialysis Therapy:JSDT)は,本提言の普及を図ることで,国民共通の問題としての人生の最終段階についての議論が深まり,より良い医療とケアが提供されることを祈念する. 210 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
【注 釈】 注1.医療チーム担当医師と看護師と臨床工学技士で構成する.可能であればこれら以外の医療従事者(ソーシャルワーカー,栄養士,管理栄養士,薬剤師等)および介護従事者(介護福祉士,介護支援専門員等)を加えて,医療・ケアチームとする.透析の見合わせについてのSDM を行う前には,可能であれば複数の医師で人生の最終段階を診断することが望ましい.チームを形成する時間のない緊急時には,生命の尊重を基本として,医師が医学的妥当性と適切性を基に判断し,その後,医療チームによって改めてそれ以後の適切な医療の検討がなされる.透析の開始と継続に関する意思決定をすすめるうえで医療チームが困難を感じることもあり,医療施設内で医療チームとともに臨床倫理問題を担当するチームまたは部署を設置することが望ましい. 注2.事前指示書(advance directives:AD)疾患の有無にかかわらず,将来,意思決定ができなくなった状態に備えて,自分の意思決定を尊重してもらうために,判断ができる間に前もって医療とケアの内容等に関しての意思を記載した書面であり,自律としての意思決定を尊重してもらう目的で作成する.リビング・ウイルは生前の意思とも訳されるが,自分がもしもの時に受ける医療とケアの内容について事前に医療チームに指示する書面で,少し漠然とした部分もあり,将来どのような状況になるのか具体的にきめ細かな指示は困難である.持続的代理制度に基づく代理人の選任は,将来意思決定ができなくなった状態に備えて,自分の意思決定権を代理人に委任しておくというもので,家族等がいない時や親族が多くて誰が中心人物(キーパーソン)か不明な場合もあり,選任されていると医療チームは相談しやすいが,わが国では法律で規定されたものではない.代理人の判断が真に自分の意思に沿うか,難しい問題もある. 注3.家族等厚労省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン解説編」は,今後,単身世帯が増えることも想定し,本人が信頼を寄せ,人生の最終段階の本人を支える存在として,法的な意味での親族関係のみを意味せず,より広い範囲の人(親しい友人等)を含み,複数人存在するとしている.なお,諸外国では,医療代理人(本人の意思を推定し代弁する者としてあらかじめ本人によって定められた人)も含まれる.少子高齢化が進み,単身世帯や頼れる親族がいない中で,認知症等で判断能力が不十分な人が増えており,厚労省は,身寄りがない人,家族等へ連絡がつかない状況にある人,家族等の支援が得られない人に対し,2019 年に「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」を公表した.医療機関における身寄りがない人への対応として,本人の判断能力が十分な場合と判断能力が不十分で,成年後見制度を利用している場合,判断能力が不十分で,成年後見制度を利用していない場合に分けて,具体的な対応を解説している.また医療に係る意思決定が困難な場合に求められることとして,患者の判断能力が不十分な場合でも適切な医療を受けられるよう,医療機関としての対応を示すとともに,成年後見人等に期待される具体的な役割についても整理している.なお,家族等がいる場合,相続人を加えた話し合いが重要である.家族等がいない場合,わが国では, 211 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
成年後見人と任意後見人は医療行為そのものに対する同意権限はないが,今後,制度が立法・改正される可能性はある.また,現行成年後見制度の下でも,例えば,医師が成年後見人ないし成年後見監督人として選任・重任される運用になれば,医療チームに対する同意に近い参考意見を述べられるケースも出てくると思われる.患者の医療とケアに同意する権利は現時点では認められていないため,生活保護受給,日常生活自立支援事業の利用,身元保証団体利用,介護・障害福祉サービス利用の有無を調べて,介護従事者(介護福祉士,介護支援専門員等)や自治体の福祉担当者に相談することが望ましいと考える. 注4.相続人推定相続人と法定相続人がある.推定相続人とは,将来相続が起こったとき(本人死亡の時)に遺産相続が推定される人のことである.本人死亡後は,法定の順位にて相続人が確定するが,本人死亡前には,第一順位の推定相続人として妻と子,第二順位の推定相続人として妻と親,第三順位の推定相続人として妻と兄弟姉妹がそれぞれ存在することになる.なぜ本人死亡前に相続人が確定できない(推定に止まる)かというと,本人死亡前に推定相続人が先に死亡するかもしれないからである.なお,推定相続人が,相続時において廃除や欠格事由に該当しなければ,そのまま法定相続人になる.いずれの推定相続人も,本人と同居していたり日常親しい関係にあったりすれば家族等と重なるので,推定相続人として特に意識する必要はない.しかしながら,本人と別居していたり,疎遠な関係である親族がいる場合には,推定相続人が存在することもある.この場合,いかに故人と疎遠であっても,本人が有する損害賠償請求権や,相続人独自の慰謝料請求権等を単独行使できるため,法的な権利行使をしてくる可能性があるのは専ら推定相続人といってよい.したがって,法的観点からすれば,医療チームが推定相続人全員の同意を取って医療を行えば,将来,法的賠償問題が発生する可能性はほぼないといってよい.本人と別居していたり,疎遠な関係である親族は,戸籍を調べなければ誰が推定相続人であるかは容易に判明しない.また突然の同意を求められても困惑するだけで積極的に応じないこともある.したがって,推定相続人全員の合意を得ることは,医療チームにとって貴重ではあるものの,現実的には困難である.なお,推定相続人が誰であるかは,後見人に問い合わせれば判明することもある.後見人は,重要な財産管理・処分行為を行うに先立って,推定相続人に意見照会することがあり,被後見人に利害のありそうな者を具体的に把握していることがあるからである.このため,現行制度の下では,後見人本人から医療チームに対する積極的な同意は期待できなくとも,後見人から推定相続人等に関する情報提供が期待できることもあり,この点で,後見人に対する問い合わせは全く無意味なものではないと思われる. 注5.透析見合わせ透析を差し控える,または,透析の継続を中止するのではなく,透析を一時的に実施せずに,病状の変化によっては透析を開始する,または,再開する意味がある用語であり,現在定着している. 注6.グリーフケア一般的に,大切な人を亡くした人がその悲嘆(grief)を乗り越え,死別に伴う苦痛や環境変化などを受け入れようとする過程を支援することを意味する.日本グリーフケア協会は,死別の経験により,亡くなった人を思い慕う気持ちを中心に湧き起こる感情・情緒と,この窮地をなんとかしようとする努力の間で揺れ動き,なんとも不安定な状態となり,同時に身体上にも不愉快な反応・違和感を経験するグリーフの状態にある人に,さりげなく寄り添い,援助することをグリーフケアと定義している. 212 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
注7.スピリチュアルな痛み世界保健機関の「がんの痛みからの解放と緩和ケア」では,スピリチュアル(spiritual)を「人間として生きることに関連した経験的一側面であり,身体感覚的な現象を超越して得た体験を表す言葉である.多くの人にとって『生きていること』が持つスピリチュアルな側面には宗教的な因子が含まれているが,『スピリチュアル』は『宗教的』と同じ意味ではない.スピリチュアルな因子は,身体的・心理的・社会的因子を包含した人間の『生』の全体像を構成する一因子とみることができ,生きている意味や目的についての関心や懸念とかかわっていることが多い.特に人生の終末に近づいた人にとっては,自らを許すこと・他の人々との和解・価値の確認等と関連していることが多い」と定義している.スピリチュアルな痛みを邦語に訳出することは難しく,霊的苦痛と訳す場合もあるが,実存的苦痛と捉え,具体的には,人生の意味または生きがいへの問い,孤独,不安,絶望,価値体系の変化,苦しみの意味,罪の意識,死への恐怖,神の存在への追求,死生観への悩み等が挙げられる. 注8.自治体の福祉担当者戸籍があっても血縁者がいない患者が死亡した時には墓地埋葬法,戸籍もわからない本人不詳者が死亡した時には行旅病人及行旅死亡人取扱法,血縁者がいても一切の連絡を拒否するとされた者が死亡した時には生活保護法にて,自治体の福祉担当者が遺体を埋葬することが許可されている.しかし,法律的に医療等の判断を行う際の意思決定の代諾者にはなりえないとされている. 注9.施設長に相談患者・家族等・医療チームの間で合意に至らない場合,複数の専門家からなる委員会を例外的に別途設置し,倫理委員会が常設されている医療機関では,倫理委員会での検討が望ましいが,医療機関の規模や人員によっては,本委員会を迅速に構成することは困難であることが多く,医療チームが本委員会の代行を行うように変更した.しかし,医療チームは,関係者間で合意が形成されない場合,繰り返し話し合う時間的余裕がない場合等には,施設長に相談する.施設長は複数の専門家からなる委員会または倫理委員会を開催し,その助言により医療とケアのあり方を見直し,合意形成に努める.なお,複数の専門家からなる委員会とは,医師・看護師・臨床工学技士に加えて,第三者として医療倫理に精通した専門家や,国が行う「本人の意向を尊重した意思決定のための研修会」の修了者からなる委員会を想定するが,状況に応じては,担当の医師・看護師・臨床工学技士以外の医療・介護従事者によるカンファレンス等を活用することも考えられる. 213 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020
214 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020 患者に意思決定能力はあるか? 患者の意思を代諾する家族等が定まっているか?治療法選択決定に関して合意が形成されたか? 治療方針の決定を下す時期にあること複数の選択肢があり、決定には医学的情報だけでなく、患者の価値観・意向を尊重することが重要であること患者・家族等と医療チームが共同で最善の選択を決定する こと委ねる場合には、医療チームは介護従事者または自治体の福祉担当者と最善の選択を決定すること 治療方針は共同意思決定プロセスを踏んでいるか? 1)患者と腎代替療法(腎移植、腹膜透析、血液透析)および保存的腎臓療法について十分に話し合ったか? 2)患者の価値観、意向、懸念事項を明らかにしたか? 3)患者に助言、提案を示したか? 4)家族等に患者が意思表示できるとしたらどのようにおっしゃると思いますかと確認したか? 5)患者にセカンドオピニオンを求められること、決定を保留で きること、決定を変更できることが十分に伝わっているか? • 患者の意思を代諾する家族等を定める. • 家族等がいない場合または家族等が医療チームに判断を委ねる場合には、患者に残っている力を踏まえ、医療チームは介護従事者または自治体の福祉担当者と相談できるか? いいえはい はい いいえ 腎代替療法の開始・継続 腎代替療法を選択 期間限定の透析試行後に 透析継続を決定 腎代替療法の種類を変更する必要があるか?決定が困難 はい 透析の見合わせを考慮する問題が生じているか? 腎代替療法の変更(血液透析⇔腹膜透析)透析の見合わせの理由は解決できないもので患者・家族等・医療チームが話し合い、合意したか?注2) 話し合いの継続による合意形成 在宅病院、施設 意思表示できる患者・家族等への確認• 人生の最終段階の認識• 出現が予測される症状と生命予後の理解• 苦痛緩和のための鎮静の効果と不利益の理解• 希望する医療とケアの内容• 看取りの場所 在宅医との連携 保存的腎臓療法の継続希望した緩和ケアとなっているかの定期的評価 看取りとグリーフケアの支援 定期的な評価 施設長に相談注1) 注1:本文注釈9を参照注2:解決可能な見合わせ理由として、通院困難、透析中の低血圧、穿刺痛などで、患者は苦痛と考えているが適切な介入により解決できる可能性があるもの はい いいえ 施設長に相談注1) いいえ施設長に相談注1) はい いいえ保存的腎臓療法を選択 はい はい いいえ 透析の見合わせ撤回の口頭意思表示または撤回書の提出はい いいえ はいはいいいえ はい • • • • 透析の見合わせ透析の見合わせに関する確認書を必要に応じて取得 家族等がいない場合または家族等が医療チームに判断を 図 腎代替療法が必要に至った時点での意思決定プロセス
215 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020 表 透析の見合わせについて検討する状態 1 透析を安全に施行することが困難であり,患者の生命を著しく損なう危険性が高い場合 1 生命維持が極めて困難な循環・呼吸状態等の多臓器不全や持続低血圧等,透析実施がかえって 生命に危険な状態2 透析実施のたびに,器具による抑制および薬物による鎮静をしなければ,安全に透析を実施で きない状態 2 患者の全身状態が極めて不良であり,かつ透析の見合わせに関して患者自身の意思が明示されて いる場合,または,家族等が患者の意思を推定できる場合1 脳血管障害や頭部外傷の後遺症等,重篤な脳機能障害のために透析や療養生活に必要な理解が 困難な状態2 悪性腫瘍等の完治不能な悪性疾患を合併しており,死が確実にせまっている状態3 経口摂取が不能で,人工的水分栄養補給によって生命を維持する状態を脱することが長期的に 難しい状態
216 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020 ■参考資料 透析の見合わせに関する確認書 説明日:西暦 年 月 日説明医師:同席者:氏名 (職種 )氏名 (職種 ) □ 1)私は、担当医( )ならびに医療チームから、私の現在の腎機能が末期の 状態で、現在の全身状態では腎代替療法(腎移植、腹膜透析、血液透析)の開始または継続を必要とする状態であることの説明を受け、不明な点を質問し、理解しました。□ 2)私は、透析を開始または継続しないことにより、透析医療に伴う苦痛や時間的拘束を避 けることはできるものの、近い将来以下の症状や病状が発生し、苦痛を和らげる処置が行われますが、死亡することについての説明を受け、不明な点を質問し、理解しました。□1 全身のむくみ・重篤な呼吸困難 □2 食欲不振・嘔気・嘔吐・下痢□3 貧血・出血 □4 しびれ・知覚障害・全身劵怠感□5 皮膚のかゆみ □6 痙攣・意識障害□ 3)私は、この決定に関しては、いつでも撤回することが可能であることの説明および撤回 時の状況によっては迅速・安全に透析が開始できない可能性があり、死亡する可能性がある説明も受け、不明な点を質問し、理解しました。□ 4)私は、上記の説明を受けてすべてを理解した上で、透析を開始しない、または継続しな いで、保存的腎臓療法を希望します。 西暦 年 月 日 患者本人署名(自筆):または代諾者(自筆): (ご関係: ) ご家族等署名(自筆): (ご関係: ) 患者名( )提出先: (病院・医院・クリニック)医師名
217 日本透析医学会雑誌 53 巻4 号 2020 透析の見合わせに関する撤回書 □私の意思が変わりましたので、□一時的な血液透析の開始または継続を希望します。□継続的な腎代替療法の開始または継続を希望します。□血液透析□腹膜透析□腎移植 西暦 年 月 日 患者本人署名(自筆):または代諾者(自筆): (ご関係: )患者名( )提出先: (病院・医院・クリニック)医師名( )