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アナフィラキシーに対する対応プラクティカルガイド 日本麻酔科学会・31 ページ · 感染症・抗菌薬 · 周術期・麻酔
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アナフィラキシー

に対する対応

プラクティカルガイド

公益社団法人 日本麻酔科学会作成:安全委員会 アナフィラキシーに対する

対応プラクティカルガイド作成WG

WG 長 :森松 博史WG 委員:高澤 知規原  哲也光畑 裕正山浦  健萬  知子

制定日 2021年2月26日
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アナフィラキシー

に対する対応プラクティカルガイド目 次

総 論  6疫 学  11術前診断  12発症時診断(鑑別診断含む)  15治 療  22術後診断  25

1 2 3 4 5 6

はじめに  3エッセンシャルサマリー  4
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はじめに  3

本プラクティカルガイドは,すべてのアナフィラキシー患者を対象としたものではなく,あくまで麻酔中に発生するアナフィラキシーに関するものである。麻酔中の患者と一般的な患者との大きな違いは,アナフィラキシーの原因の違いと,アナフィラキシー発症時に静脈ルートや気道が確保できているか否かの違いである。また,フルモニタリング下にあるためバイタルサインの異常に気づきやすい反面,覆布がかかっている場合には皮膚症状の出現に気づきづらいことである。アナフィラキシーは比較的まれな病態であり,比較試験はほとんど皆無で,いわゆるエビデンスに基づいた吟味は難しい。したがって,本プラクティカルガイドではエビデンスレベルや推奨度を示さず,現時点での研究成果を述べるのみにとどめている。日本麻酔科学会は,今後も麻酔中のアナフィラキシーに関する調査を行っていく予定であり,その結果により本プラクティカルガイドも変更されていく可能性がある。

はじめに
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4  エッセンシャルサマリー

Key Sentences

治療

アナフィラキシーでは,迅速な診断と治療が救命の鍵である。アナフィラキシーショックでは,心肺蘇生に準じた治療が必要である。アナフィラキシー治療の第一選択薬は,アドレナリンである。アドレナリンは必要に応じて追加投与する。反復投与が必要なら,持続静脈内投与を開始する。低血圧:0.2μg/kg を静脈内投与する。循環虚脱:0.05 — 0.3 mg を静脈内投与する。静脈路がなければ,0.3 mg を筋注する(小児は0.01 mg/kg)。アナフィラキシー治療の第二選択薬として,副腎皮質ホルモン製剤や抗ヒスタミン薬がある。カテコラミン抵抗性の循環抑制には,バソプレシンの投与を考慮する。

診断術前

一般的な患者には,麻酔薬や製品に対してのアレルギーに関するスクリーニング検査を行う必要はない。以前の麻酔中にアレルギー反応のあった患者は,アナフィラキシーのリスク患者である。アトピーの患者や麻酔薬以外の薬へのアレルギーの既往のある患者では,麻酔中に使用する薬や製品に関するテストを行う必要はない。以前の麻酔中にアレルギー反応があった場合は,できるかぎり以前の麻酔記録を入手する。以前の麻酔中にアレルギー反応があった患者で麻酔記録が確認できない場合は,筋弛緩薬とラテックスの皮膚テストを行うことを推奨する。以前の麻酔中にアレルギー反応があった患者の緊急手術では,できるだけ局所麻酔で行うか,筋弛緩薬やモルヒネやペチジンなどのヒスタミン遊離作用のある薬は使用しない。発症時

昇圧薬抵抗性のショック時は,皮膚所見なしでもアナフィラキシーとして治療を開始する。皮膚所見がなくても,被疑薬があればアナフィラキシーを疑う。ショック時は,アナフィラキシー性急性冠症候群も鑑別に入れる。重症病態の鑑別と併存の可能性も考慮する。トリプターゼ・ヒスタミン検査用採血は,発症時と発症後基準値の2 時点で行う。術後

アナフィラキシーが発生したさいには,麻酔科医が主体性を持って,原因物質を同定するための検査を実施する。

エッセンシャルサマリー
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エッセンシャルサマリー  5

アナフィラキシー発生から4—6 週間後に,術後診断のゴールドスタンダードである皮膚テストを実施する。皮膚テストにはプリックテストと皮内テストがあり,プリックテストが陰性であった場合に皮内テストを実施する。パッチテストやリンパ球刺激試験(DLST)は,アナフィラキシーの診断ツールとして適切ではない。術後診断の精度を上げるため,好塩基球活性化試験(BAT)やヒスタミン遊離試験,アレルゲン特異的IgE の測定など,in vitro の検査を行うとよい。
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6  1.総 論

周術期の重篤な有害事象のひとつとして,アナフィラキシーが挙げられる。アナフィラキシーは,原因薬物が投与されたときに免疫学的反応または非免疫学的反応を呈し,治療が迅速に的確に行わなければ重篤な予後に至る急性期疾患である。麻酔科医はアナフィラキシーの診断・治療に習熟する必要がある。アナフィラキシーとは“アレルゲンなどの侵入により,複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され,生命に危機を与えうる過敏反応”をいい,“アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合をアナフィラキシーショック”と日本アレルギー学会は定義している1)。アナフィラキシーの欧米での定義は,World Allergy Organization(WAO)ガイドラインでは“Anaphylaxis is a serious allergic reaction that is rapid in onset and may cause death(アナフィラキシーは急速に発症し死に至ることもある重篤なアレルギー反応)”2)~4),American Academy of Allergy, Asthma & Immunology/American College of Allergy, Asthma & Immunology(AAAAI/ ACAAI)ガイドラインでは“An acute life-threatening systemic reaction with varied mechanisms, clinical presentations, and severity that results from the sudden release of mediators from mast cells and basophils(肥満細胞と好塩基球から突然放出される化学伝達物質により,さまざまな機序と臨床像,重篤度を伴う急性の生命を脅かす全身反応)”5),European Academy of Allergy and Clinical Immunology(EAACI)ガイドラインでは“A severe life-threatening generalized or systemic hypersensitivity reaction(急性の生命を脅かす全身性の過敏反応)”6)と定義されている。アナフィラキシーの用語を統一し,治療,研究,教育,臨床免疫学に使用することがEAACIにより提唱されている7)。アナフィラキシーを免疫学的アナフィラキシーと非免疫学的アナフィラキシーに分類し,免疫学的アナフィラキシー(immunologic anaphylaxis)には免疫グロブリン(immunoglobulin:Ig)E 介在性アナフィラキシー,または非IgE(IgG 介在性,免疫複合体補体介在性)アナフィラキシーが含まれる。免疫学的機序を介さない非特異的な反応を非免疫学的アナフィラキシー(non-immunologic anaphylaxis)とし,従来のアナフィラキシー様反応(anaphylactoid reaction)は使用しない。発症機序が明らかになるまで,すべての反応をアナフィラキシーとして扱う。日本をはじめ欧米各国でアナフィラキシーの発症頻度は以前に比べ増加している8)9)。オーストラリアでは,血管性浮腫3.0%/年,蕁麻疹5.7%/年,アナフィラキシー8.3%/年(食物抗原8.5%)の増加が見られ,その全体的な頻度は3.7/100,000(1993 — 4 年)から10.8/100,000(2004 — 5 年)と増加している10)。米国では,18 歳以下の小児での頻度は2000 年から2009 年では倍になっ

1 総論
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1.総 論  7

ている11)。アナフィラキシーショックでの不幸な予後を避けるためには,迅速にアナフィラキシーと診断し,適切かつ積極的な治療が必須である。アナフィラキシーの初期治療としては,救急蘇生時と同様に,気道の確保,呼吸の補助,循環の維持を図ることが重要であり,適切なアドレナリンの投与と高濃度酸素の吸入,十分な補液を行う。アナフィラキシーの治療原則は,以下のとおりである。❶アナフィラキシーであることを迅速に認識し診断し,迅速に治療を開始,❷アナフィラキシーと診断したならば仰臥位で下肢挙上,❸循環虚脱や重度な気管支痙攣の場合には心肺蘇生に準じた治療が必要であり,気道の確保,呼吸の管理,循環の管理〔救急蘇生のA(airway)B (breathing)C(circulation)⇒CAB の順〕,❹重篤な患者ではただちに第一選択薬であるアドレナリンを大腿外側に筋注する〔投与の遅れが死亡率の増加(30 分以内の投与で死亡率を低下)〕, ❺副腎皮質ホルモン製剤や抗ヒスタミン薬はあくまで第二選択薬,❻静脈路を確保,❼十分な補液を行う(aggressive fluid resuscitation),❽アナフィラキシーの機序確認のため,可能なかぎり経時的に採血をする(最低限ショック安定後βトリプターゼを測定する)。医薬品やラテックスでのアナフィラキシーの既往歴がある患者,もしくは特異IgE 抗体のある患者では,その抗原薬物(物質)の使用は禁忌である。アナフィラキシーの既往歴のある患者では,抗原物質の認識は,再度のアナフィラキシーを発症させないため必須である。アナフィラキシーの予防は,徹底した抗原の曝露の排除であることを銘記すべきである。日本での薬物アナフィラキシーの原因薬物は,8,348 症例の薬物アレルギーのアンケート調査の結果,解熱・鎮痛・非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)が2.89%,抗生物質1.25%,サルファ剤0.24%,局所麻酔薬0.16%,ワクチン0.16%,放射性造影剤0.14%の報告がある12)。薬事法に基づく薬剤副作用の報告によれば,2008 年での薬物誘発性アナフィラキシーの原因物質の中でもっとも多いのは,抗がん薬,造影剤,血液製剤である。一方,論文報告では抗生物質,NSAIDs,造影剤が多い13)。抗生物質では,セフトリアキソン,セファゾリン,セファクロルなどのセフェム系抗菌薬が多く,キノロン系のガレノキサシン,レボフロキサシンによるアナフィラキシー症例が増加している13)。フランスでの2002 — 2010 年間の333 名の薬物によるアナフィラキシーの頻度分析では,抗生物質(49.6%),筋弛緩薬・ラテックス・麻酔薬(それぞれ15%),NSAIDs(10.2%),アセトアミノフェン(3.9%),放射性造影剤(4.2%),免疫治療・ワクチン(3.9%)である14)。抗生物質では,アモキシリン(97 症例),他のペニシリン製剤(4 症例),セファロスポリン(41 症例),キニロン(15 症例),プリスチナミシン(7 症例)の順である。ポルトガルの統計では,薬物アナフィラキシーの47.9%の原因薬物がNSAIDs であり,25.6%がアナフィラキシーであった15)16)。これらの薬物には,シクロオキシゲナーゼ(COX)-1 抑制薬やアセトアミノフェンも含まれる。薬物アナフィラキシーは過小認識・評価されがちであり,一方,臨床症状に基づいては過大認識されている。薬物に対するIgE が関与しているアナフィラキシーは,典型的には1 時間以内に発症する。抗生物質を静脈投与する場合には,投与開始15 分間は厳密に観察する必要がある。心停止に至るような激烈なアナフィラキシーほど発症時間が早い17)。薬物によるアナフィラキシー
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8  1.総 論

発症までの時間は,病院内では5 分,病院外では10—20 分である。いかなる薬物がいかなる経路で投与されても,アナフィラキシーが発症する可能性があることを常に念頭に置く必要がある。麻酔中のアナフィラキシー治療は,一般的にガイドラインに示されているものと特に変わるものではない。原因と思われる薬物投与をすべて中止にして,100%酸素で換気を行う。手術の進行具合と患者の状態の判断により,手術チームとともに手術の続行が可能か否かを決定する。100%酸素の換気下で酸素飽和度をモニターし,低酸素血症を最大限防ぐ。血圧低下については,軽度の場合はエフェドリンやネオシネジンなどの昇圧薬を使用し,皮膚粘膜所見が全身的で,血圧低下が改善しないときには,アドレナリンを投与する。低血圧:0.2μg/kg を静脈内投与する。循環虚脱:0.05—0.3 mg を静脈内投与する。静脈路がなければ,0.3 mg を筋注する(小児は0.01 mg/ kg)。重症アナフィラキシーショックの生存症例では,口唇・顔面浮腫と四肢の浮腫が多いが,死亡症例では,喉頭・咽頭浮腫や舌の浮腫の発現頻度が高い18)。そのため,重篤なアナフィラキシーショックが術中見られたときには,術後早期の抜管には十分注意しなければならない。喉頭・咽頭浮腫の程度を確認したうえで抜管時期を決定する。もし,喉頭・咽頭浮腫が見られたときには,積極的な気道確保と人工呼吸を行い,浮腫の改善を確認したのちに抜管する。アナフィラキシーの予防のためには,既往歴の徹底的な検討が必須である。蕁麻疹,血管性浮腫,紅潮,瘙痒,上気道の閉塞または狭窄,消化器症状(嘔気・嘔吐,下痢),意識消失または意識消失になりそうになった,血圧低下,下気道の閉塞(気管支喘息様症状),めまいなどの症状発現の有無を確かめる。このような症状を呈したときの状態と,抗原物質(薬物や食物,昆虫刺傷など)との関連を検討する。既往歴を聴取するときには皮膚粘膜所見が重要であり,皮膚粘膜所見がないときにはアナフィラキシーではない可能性が高い。もし既往歴で疑わしい抗原物質があるときには,その物質および交差抗原性のある物質の曝露を避けることが最大の予防法である。抗原の徹底的な排除によってしか,アナフィラキシーを防ぐことができない。一般的には,薬物の非経口投与は経口投与に比べて,より重篤な反応を示す。薬物を静脈内投与したときには20— 30 分は観察下に置き,また経口投与では2 時間は経過観察する。麻酔前のH1・H2遮断薬とコルチコステロイドの前投薬はほとんど意味がなく,むしろアナフィラキシーが起こったときに,これらの薬物の前投薬により初期症状の発現が抑制され,アナフィラキシーの診断が遅れ,アナフィラキシーショックを重篤な状態でしか認識できないことがある。そのため,このような前投薬は行わないほうがよいとの意見もある19)。システマティックレビューでは,前投薬の有用性は疑われており,アレルギー反応の既往歴のある患者に対し,このような前投薬が有用であることを支持するような十分なデータはない。このような患者を治療するときに,医師は前投薬の効果を信頼すべきではないとされている20)。患者がアナフィラキシーと診断されたならば必ず原因物質の検索を行い,文書で危険性のある物質(薬物)を患者に教え,その抗原を避けることを患者に指導する。アナフィラキシーの臨床診断から治療を行い,状態が落ち着いた段階で,その反応が免疫学的アナフィラキシーか非免疫学的アナフィラキシーかの診断は必須である。反応の機序を確認することは,患者の将来的予後
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1.総 論  9

にとって重要である。もしIgE アナフィラキシーであれば,抗原物質を日常生活で排除する必要がある。また,薬物によるアナフィラキシーでは,可能なかぎり抗原となった薬物の確定が必要である。将来的な医療で使用できる薬物であるか否かを患者とともに医師が把握しておくことは重要である。免疫学的アナフィラキシーであれば,再度抗原物質に曝露されると,1 回目以上の激烈な反応を起こす可能性が高い。一方,非免疫学的アナフィラキシーでは,原因物質(薬物)に再度曝露されても,アナフィラキシーを起こすとはかぎらない。免疫学的アナフィラキシーであれば,原因物質によってアナフィラキシーを起こす可能性があることを明記した書類を常に身に着けておくことで,もしアナフィラキシーが不幸にして発症した場合には的確な治療を行うことができる。早期の検査では,その有害反応の原因が何であるかの検討のために採血を行う。有害反応発症後4—6 週で十分に抗体が回復したのちに,原因物質の確定検査を行う必要がある。アナフィラキシーショックの急性期の治療とともに,原因物質の確認をもってアナフィラキシーの治療が終了するともいえる。

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p.10
10  1.総 論

tig Allergol Clin Immunol 2014;24:40—8. 17) Pumphrey RS. Fatal anaphylaxis in the UK, 1992—2001. Novartis Found Symp 2004;257:116—28;discussion 128—32, 157—60, 276—85. 18) Greenberger PA. Anaphylactic and anaphylactoid causes of angioedema. Immunol Allergy Clin North Am 2006;26:753— 67. 19) Hepner DL, Castells MC. Anaphylaxis during the perioperative period. Anesth Analg 2003;97:1381—95. 20) Tramer MR, von Elm E, Loubeyre P, et al. Pharmacological prevention of serious anaphylactic reactions due to iodinated con-

trast media:Systematic review. BMJ 2006;333:675.
p.11
2.疫 学  11

2012—2016 年の日本麻酔科学会の偶発症例調査では,9,069,662 症例中400 症例のアナフィラキシーショックが報告され,その発生頻度は4.41/100,000 症例である。経年の発生頻度は4.75, 4.54,4.38,3.93,4.52/100,000 症例でほとんど変化がなかった。400 症例中,心停止に至った者は11 症例,高度低酸素,致死的不整脈など25 症例,それ以外の高度低血圧は364 症例であった。調査期間中の死亡症例は4 症例で,術中心停止症例2 症例,術中高度低血圧症例2 症例であった。高度低血圧症例で見ると男性が191 症例(52.2%),女性が173 症例(47.5%)であった。年齢別で見ると18 — 65 歳が177 症例(48.6%)でもっとも多く,続いて66 — 85 歳が151 症例(41.5%)で18—85歳の成人症例で9割を占めていた。手術部位別で見ると下腹部手術症例が88症例(24.2%)でもっとも多く,次いで上腹部68 症例(18.7%),心臓・血管64 症例(17.6%)であった。麻酔法別で見た場合,全身麻酔(吸入)が185 症例(4.28/100,000 症例),全身麻酔(吸入+硬・脊・伝麻)が101 症例(6.12/100,000 症例)であったが,麻酔法によるアナフィラキシーショック発生頻度は大きく変わらなかった。体位別で見た場合,仰臥位が272 症例でもっとも多く,次いで砕石位37 症例,側臥位36 症例であったが,その発生頻度は4.34,3.02,4.56/100,000 症例で大きく変わらなかった。麻酔薬関連のアナフィラキシーの原因薬物に関しては,フランスでの解析では,麻酔中の692症例(734 薬物)での薬物によるアナフィラキシーの頻度は,筋弛緩薬(61.6%),ラテックス(16.6%),抗生物質(8.3%),静脈内麻酔薬(5.1%),コロイド(3.1%),麻薬(2.7%),その他(2.6%)である1)。筋弛緩薬によるアナフィラキシーのリスクファクターは,男性(女性:オッズ比=0.4;95%信頼区間0.2 — 0.7;P=0.0004),緊急手術(オッズ比=2.6;95%信頼区間1.5 — 4.6; P=0.0007),高血圧の既往歴(オッズ比=2.5;95%信頼区間1.5 — 4.4;P=0.0010),心血管疾患(オッズ比=4.4;95%信頼区間2.4 — 8.1;P<0.0001),肥満(オッズ比=2.4;95%信頼区間1.1 — 5.3;P=0.0376),β遮断薬の服用(オッズ比=4.2;95%信頼区間1.8 — 9.8;P=0.0011)であった。肥満の男性で心疾患の既往歴があるβ遮断薬を服用している患者での緊急手術時の筋弛緩薬によるアナフィラキシーは,非常に危険性が高い2)。

参考文献1) Laxenaire MC. Epidemiology of anesthetic anaphylactoid reactions. Fourth multicenter survey(July 1994—December 1996). Ann Fr Anesth Reanim 1999;18:796—809. 2) Reitter M, Petitpain N, Latarche C, et al. Fatal anaphylaxis with neuromuscular blocking agents:A risk factor and management

analysis. Allergy 2014;69:954—9.

2 疫 学
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12  3.術前診断

1 術前診断

アナフィラキシーのリスク患者とは,以下のとおりである1)~5)。❶ 過去の麻酔中に投与された薬物に起因するアレルギーについて確定診断されている。❷ 過去の麻酔中にアレルギー症状が出現した。❸ 以前にラテックスに対してアレルギー反応があった。

2 術前のアレルギーテスト

麻酔の前には,アレルギーのリスクを体系的に調査するべきである。一般的な患者には,麻酔薬や製品に対してのアレルギーに関するスクリーニング検査を行う必要はない。アトピーの患者や麻酔薬以外の薬へのアレルギーの既往のある患者でも,麻酔中に使用する薬や製品に関するテストを行う必要はない。リスクのある患者では,麻酔を開始する前に感作の有無を調べる必要がある。薬物アレルギーの既往のある患者では,以前の麻酔記録を入手して,もし筋弛緩薬に対するアレルギーの場合は新しく使う可能性のある筋弛緩薬もテストする。以前の麻酔でアレルギー反応があった患者では,図に従って検査を進める。特に麻酔方法がよく分からない患者では,筋弛緩

Key Sentences

一般的な患者には,麻酔薬や製品に対してのアレルギーに関するスクリーニング検査を行う必要はない。以前の麻酔中にアレルギー反応のあった患者は,アナフィラキシーのリスク患者である。アトピーの患者や麻酔薬以外の薬へのアレルギーの既往のある患者では,麻酔中に使用する薬や製品に関するテストを行う必要はない。以前の麻酔中にアレルギー反応があった場合は,できるかぎり以前の麻酔記録を入手する。以前の麻酔中にアレルギー反応があった患者で麻酔記録が確認できない場合は,筋弛緩薬とラテックスの皮膚テストを行うことを推奨する。以前の麻酔中にアレルギー反応があった患者の緊急手術では,できるだけ局所麻酔で行うか,筋弛緩薬やモルヒネやペチジンなどのヒスタミン遊離作用のある薬は使用しない。

3 術前診断
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3.術前診断  13

薬とラテックスについて皮膚テストと免疫グロブリンE(immunoglobulin E:IgE)検査を行うことを推奨する。麻酔方法が分かっているときは,麻酔記録に記載してある薬物すべてとラテックスの皮膚テストを行う。緊急手術の場合は,ラテックスフリーで,局所麻酔で行う。もし全身麻酔を選択する場合は,筋弛緩薬とヒスタミン遊離作用のある薬は使わない。ラテックスアレルギーのリスクのある患者では,ラテックスに対する皮膚テストとIgE検査を行うことを推奨する。

3 特別な状況とアレルギーテスト

❶非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)の投与直後からの

アレルギー反応では,原則NSAIDs は投与しない。COX(シクロオキシゲナーゼ)-2 阻害薬は,多くの場合問題にならない。アセトアミノフェンは減量して投与できる。

臨床的にアレルギーか?

YES NO

以前の麻酔中にアレルギー

反応あり

予定手術

前回の麻酔記録を探す

緊急手術

ラテックスフリー局所麻酔でも全身麻酔でも筋弛緩薬やヒスタミン遊離作用の

ある薬を使用しない

すべての筋弛緩薬とラテックスを検査

(皮膚テスト,IgE検査)アレルギー検査記録あり

アレルゲンとして可能性のある薬物使用を回避,場合によっては

麻酔方法の変更も提案する

以前の麻酔で用いた薬すべてとラテックス(皮膚テスト,IgE検査)もし筋弛緩薬であれば,すべての筋弛緩薬をテスト(皮内テスト)もし局所麻酔薬であれば,皮膚テスト。もし陰性であれば皮下テスト

アレルギー検査

記録なし

図 アナフィラキシー高リスク患者における術前診断のフローチャート[Mertes PM, Malinovsky JM, Jouffroy L, et al. Reducing the risk of anaphylaxis during anesthesia:2011 Updated guidelines for clinical practice. J Investig Allergol Clin Immunol 2011;21:442—53 より改変転載]
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14  3.術前診断

❷モルヒネやコデインに対するアレルギーの場合は,モルヒネとコデインは投与しない。ほかの

オピオイドは投与できる。❸甲殻類や魚に対するアレルギーでは,ヨウ素含有薬物も安全に投与できる。❹プロタミンアレルギーの患者では,プロタミン投与は禁忌である。

参考文献 1) Sampson HA, Muñoz-Furlong A, Campbell RL, et al. Second symposium on the definition and management of anaphylaxis: Summary report―Second National Institute of Allergy and Infectious Disease⊘Food Allergy and Anaphylaxis Network Symposium. Ann Emerg Med 2006;47:373⊖80. 2) Kroigaard M, Garvey LH, Gillberg L, et al. Scandinavian Clinical Practice Guidelines on the diagnosis, management and follow-up of anaphylaxis during anaesthesia. Acta Anaesthesiol Scand 2007;51:655⊖70. 3) Harper NJN, Dixon T, Dugué P, et al. Working Party of the Association of Anaesthetists of Great Britain and Ireland. Suspected anaphylactic reactions associated with anaesthesia. Anaesthesia 2009;64:199⊖211. 4) Ewan PW, Dugué P, Mirakian R, et al. BSACI Guidelines for the investigation of suspected anaphylaxis during general anaesthesia. Clin Exp Allergy 2010;40:15⊖31. 5) Mertes PM, Malinovsky JM, Jouffroy L, et al. Reducing the risk of anaphylaxis during anesthesia:2011 Updated guidelines for

clinical practice. J Investig Allergol Clin Immunol 2011;21:442⊖53.
p.15
4.発症時診断(鑑別診断含む)  15

1 発症時期

周術期のアナフィラキシーの90%は導入時に発症している1)。その理由は,アナフィラキシーの原因となる筋弛緩薬,抗生物質,静脈麻酔薬,オピオイドなどの薬物投与や,ラテックス製手袋などの資材への曝露が麻酔導入時に集中するためである。通常,曝露から30 分以内に発症するが,早いと曝露から数秒あるいは数分で発症し急速に症状が悪化する場合もある。一方,時間単位で発症することもある。また,麻酔中に早期に治療が奏効し,曝露薬物・物質を排除しても,数分後から数十時間後に再度ショック症状が発症することもあり2),アナフィラキシー発症後は十数時間の監視が必要となる。

2 症状

アナフィラキシーの診断基準は,World Allergy Organization(WAO)と日本アレルギー学会のガイドラインに提示されているものが一般的である(表1)3)。全身麻酔下では,患者が自覚症状を訴えることができないので,腹痛や嘔吐のような消化器症状や,皮膚症状のうち自覚症状である瘙痒感や,呼吸困難感は検知できない。また,筋緊張低下,虚脱,失神,失禁などの随伴症状も隠される。区域麻酔で麻酔中意識が鮮明であれば,それらのうち一部の自覚症状の訴えがあるかもしれない。麻酔中のアナフィラキシーは,急激な血圧低下とエフェドリンやフェニレフリンなど麻酔中常用する昇圧薬に反応しないことで気づくことが多い。皮膚症状を伴うこともあるが,術中は覆布に隠され,初発症状として気づかないことも多く,昇圧薬抵抗性の循環虚脱によりアナフィラキ

Key Sentences

昇圧薬抵抗性のショック時は,皮膚所見なしでもアナフィラキシーとして治療を開始する。皮膚所見がなくても,被疑薬があればアナフィラキシーを疑う。ショック時は,アナフィラキシー性急性冠症候群も鑑別に入れる。重症病態の鑑別と併存の可能性も考慮する。トリプターゼ・ヒスタミン検査用採血は,発症時と発症後基準値の2 時点で行う。

4 発症時診断(鑑別診断含む)
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16  4.発症時診断(鑑別診断含む)

シーを疑ったあとに覆布をめくって皮膚所見を確認することもしばしばである。また,気管挿管中は上気道が確保されているので,咽頭・喉頭浮腫などで窒息することはないが,気管支痙攣により気道狭窄症状が発生する。喘息発作との鑑別も重要であるが,気管支痙攣をチューブトラブルと見誤ると,適切な対処が遅れて,特に小児では呼吸障害が重篤化する恐れがあるので,迅速かつ厳密な鑑別が必要である。成人の周術期のアナフィラキシーの約50%は血圧低下,循環虚脱,心停止などの初期症状によりアナフィラキシーと気づく4)。小児のアナフィラキシーは咽頭・喉頭浮腫,気管支痙攣などの呼吸器症状で気づくことが多く,血圧低下,循環虚脱などはあまりない5)。気管支痙攣の鑑別として喘息発作があるが,喘息の既往はアナフィラキシー発症および重篤化のリスクファクターであり,症状が併発することもある。また,気管支痙攣を気管チューブの閉塞,狭窄による喘鳴と見誤ると,対処が遅れて重篤な換気障害を招く危険性があるので,気道確保状態については常に留意しておく(表2)4)~7)。

表1 アナフィラキシーの臨床診断基準表1 .皮膚,粘膜または両者の症状・所見(例:全身的な蕁麻疹,瘙痒または紅潮,口唇・舌・口蓋垂の浮腫)を伴う急性(数分から数時間)に発症する疾病:同時に,少なくとも下記の1 つがあることa .呼吸器系症状・所見(例:呼吸困難,ラ音—気管支痙攣,喘鳴,最大呼気流速度の減少,低酸素血症) b .血圧低下や随伴症状〔例:筋緊張低下(虚脱),失神,尿失禁〕2 .患者に対しアレルゲンの可能性のある物質に曝露されたのち急激(数分から数時間)に発症する2 つ以上の下記の症状a .皮膚—粘膜の所見(例:全身的な蕁麻疹,瘙痒または紅潮,口唇・舌・口蓋垂の浮腫) b .呼吸器系症状・所見(例:呼吸困難,ラ音—気管支痙攣,喘鳴,最大呼気流速度の減少,低酸素血症) c .血圧低下,またはそれに伴う症状〔例:筋トーヌス低下(虚脱),失神,尿失禁〕d .持続的な消化器症状(痙攣様腹痛,嘔吐) 3 .患者に対し明らかな抗原物質の曝露後の血圧低下a .乳児と小児:収縮期血圧(年齢相当の)の低下,または収縮期血圧の30%以上の低下b .成人:収縮期血圧の90 mmHg 以下への低下,または個々の患者での通常血圧の30%以上の低下以上の3 基準のうち1 つが満たされていればアナフィラキシーの可能性が高い。[Sampson HA, Muñoz-Furlong A, Bock SA, et al. Symposium on the definition and management of anaphylaxis:Summary report. J Allergy Clin Immunol 2005;115:584—91 より改変転載]

表2 麻酔中のアナフィラキシー診断のための臨床症状臓器他覚所見(全身麻酔下)自覚所見(区域麻酔で意識があるとき)循環器症状(50%)小児20%急激な血圧低下,頻脈>徐脈,不整脈虚脱感,動悸,前胸部痛呼吸器症状(70%)小児90%喘鳴/気管支痙攣,呼気二酸化炭素波形の気道狭窄所見,従圧式人工呼吸時の1 回換気量減少,従量式人工呼吸時の最高気道内圧の上昇,上記に伴う低酸素血症(SpO2,PaO2 低下)嗄声,喉頭絞扼感,喘鳴,呼吸困難,呼吸停止皮膚・粘膜(90%)小児97%紅潮,紅斑,血管性浮腫,麻疹様発疹,眼瞼周囲の紅斑,浮腫,結膜紅斑,流涙,口唇・舌・口蓋垂の浮腫皮膚瘙痒感消化器症状(30%) ―持続的な仙痛発作,嘔吐中枢神経症状(35%)小児30% ―意識喪失,昏睡,痙攣随伴症状―失神,失禁[参考文献4)~7)のデータをもとに作成]
p.17
4.発症時診断(鑑別診断含む)  17

術中,原因不明の循環虚脱や気管支痙攣を来したときは,覆布をめくって皮膚所見を確かめるとともに,換気トラブルや心疾患などの重篤な状況,症状との鑑別を速やかに行う必要がある。アナフィラキシーでは,末梢血管拡張による全身性発赤や広範な蕁麻疹などの皮膚所見,眼瞼や口唇の血管性浮腫などの粘膜所見が見られることがほとんどであるが,循環虚脱時に交感神経が活性化し血管収縮が起きた場合は,鳥肌,乳首の起立,蒼白などの症状が先行することがある。アナフィラキシーの重症度分類を表38)に示す。

3 原因物質の同定

アナフィラキシーの臨床診断には,特徴的な症状を認めるとともに,誘因となった可能性の高いアレルゲンの同定も重要である。周術期のアナフィラキシーの原因として多いのは,筋弛緩薬,抗菌薬,ラテックス,クロルヘキシジンなどである。より頻度が低いのは,麻酔導入に使用する静脈麻酔薬,オピオイド,膠質輸液製剤などである。さらに頻度が低いものは,造影剤,血液製剤,薬液に含まれる保存剤,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),ポビドンヨードに含まれるポビドン,灌流液,局所麻酔薬,ヘパリンおよびその他の抗凝固薬,プロタミン,着色剤などである9)。麻酔導入から30 分以内の発症では,抗菌薬,筋弛緩薬,静脈麻酔薬が原因であることが多い。30 分以降の発症であれば,ラテックス,膠質輸液,輸血,プロタミン,着色剤などが原因であることが多い。

4 リスクファクター

アレルゲンの同定とともに重要なのは,事前にその患者のアナフィラキシーのリスクファク

表3 Ring and Messmer 重症度分類Grade 1皮膚粘膜所見:発赤,蕁麻疹,血管性浮腫を伴うか伴わないGrade 2中等度の多臓器にわたる所見:皮膚粘膜所見血圧低下,頻脈呼吸困難,換気困難消化器系の異常所見Grade 3重症:生命を脅かす1 臓器または多臓器所見循環虚脱徐脈,頻脈,不整脈気管支痙攣皮膚粘膜所見消化器系異常所見Grade 4心肺停止,心肺蘇生が必須[Dewachter P, Mouton-Faivre C, Emala CW. Anaphylaxis and anesthesia:Controversies and new insights. Anesthesiology 2009;111: 1141—50 より改変転載]
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18  4.発症時診断(鑑別診断含む)

ターを確認しておくことである。麻酔中のアナフィラキシーのリスクファクターは,女性,アナフィラキシーの既往,薬物アレルギーの既往,喘息,頻回の手術の既往,肥満細胞の異常に起因する疾患などである10)。筋弛緩薬,静脈麻酔薬のアナフィラキシーは女性患者が多い。重症化のリスクファクターは,高齢者,喘息,高血圧,アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンギオテンシンII拮抗薬,β遮断薬,カルシウムチャネル遮断薬などの降圧薬の内服や,基礎トリプターゼ値の高値,心血管疾患などである11)。

5 検査所見

アナフィラキシーの迅速な治療を行うために,発症時診断は臨床診断基準に基づいて行うが,確定診断の補助としては,発症時早期の血漿トリプターゼ,ヒスタミンの増加をとらえることが有用である。いずれも,発症直後と基準となる発症前あるいは後の値の2 時点での測定が必要である12)13)。アナフィラキシーの補助診断となる検査の主なものは,トリプターゼ(血漿/血清)とヒスタミン(血漿)である。発症後速やかな採血が必要である12)13)。トリプターゼは発症後15 分から3 時間の採取血液で,基準値から141%以上,あるいは絶対値として15—25μg/ml 以上の増加であれば免疫グロブリン(immunoglobulin:Ig)E 介在性アナフィラキシーの可能性が高い。基準値は発症前か発症後24 時間以降の値とする。ただし,トリプターゼは心筋梗塞,外傷,窒息状態でも増加する。また,小児や低血圧がない場合はトリプターゼが正常値であることが多い。血漿ヒスタミンは,発症後15—30 分で基準値に戻るので,血液検査で増加をとらえるには発症から5—10 分以内の採血が必要である。しかし,ヒスタミンの代謝産物であるN-メチルヒスタミンは,発症後30—60 分で尿中に排出され,数時間は検出が可能である12)~16)。

6 鑑別診断

麻酔中のアナフィラキシーの鑑別診断を表4 に示す。麻酔中のアナフィラキシーは,急激な血圧低下や換気障害で発症に気づくことが多く,迅速な対処(治療)が必要である。それゆえ,鑑別も迅速さが要求される。アナフィラキシーショックに類似する病態として,導入時には,鎮静・鎮痛薬による血圧低下,気管挿管操作などによる迷走神経反射などがあるが,これらは通常,エフェドリン,フェニレフリンなどの昇圧薬,アトロピンなどで迅速に緩解する。これらの治療に反応せず,さらに皮膚所見が認められれば,アナフィラキシーとして治療を開始する。そのさい,術前状態,深部静脈血栓塞栓症(VTE)リスクによっては,心原性ショック,肺塞栓(pulmonary embolism:PE)も鑑別疾患として考慮する(図)。導入直後の急激な換気障害が発症したとき,導入薬に起因する咽頭・喉頭浮腫あるいは気管支痙攣の可能性があり,このとき皮膚所見が見られればアナフィラキシーの診断基準を満たすの
p.19
4.発症時診断(鑑別診断含む)  19

で,治療を開始する。気管挿管前であれば,DAM(airway management guideline)のアルゴリズムに従って気道確保を行う。皮膚所見が見られなくても起因となる薬の投与が先行していれば,アナフィラキシーと診断してもよいが,鑑別としては喘息発作による気管支痙攣も考慮する必要がある。いずれにしても,アドレナリンの投与が治療となる。すでに気管挿管された状態で,換気障害が発症し,喘鳴を聴取し,気管支痙攣と判断したとき,皮膚所見があってもなくてもアナフィラキシーの可能性はあるが,気管チューブの閉塞,逸脱によるトラブルか否かを鑑別しなければならない。とくに,新生児や乳児の場合には注意が必要である(図)。麻酔維持中に急激な血圧低下があった場合,出血性ショック,循環血液量減少性ショック,心疾患・不整脈などによる心原性ショック,PE,心タンポナーデ,緊張性気胸などとの鑑別が必要である。昇圧薬に抵抗性で皮膚所見があれば,ただちにアナフィラキシーとして治療を開始する。皮膚所見がなくても,起因となる薬物の投与,ラテックスへの曝露,輸血などにより引き続いて起きた場合も,ただちにアナフィラキシーとして対処する。それと同時に,重篤な病態の鑑別が必要である。出血状況の確認,心電図の変化,聴診による喘鳴の聴取,場合によっては経胸壁・食道心エコー検査,胸部X 線写真撮影などを行う。前述のような病態とアナフィラキシーが併存することもあり,そのときは治療が多岐にわたることになる。いずれの場合も発症直後と発症後24 時間以降で余裕があれば,トリプターゼとヒスタミン検査用の採血を基準値と併せて2 時点で

表4 鑑別診断

鑑別すべき病態鑑別のポイント

血圧低下出血性ショック心原性ショック(心筋梗塞,心筋虚血,不整脈)肺塞栓心タンポナーデ緊張性気胸循環血液量減少性ショック導入時の静脈麻酔薬による低血圧薬物過量投与迷走神経反射肺水腫敗血症いずれもアナフィラキシーに特徴的な皮膚症状はなく,対応する治療に反応する。ただし,アナフィラキシーショック時のアレルギー性急性冠症候群では蕁麻疹が発症する。

カルチノイド症候群急激に皮膚の発赤が発症し,数秒から30 分持続する。麻酔が誘因の場合は長時間症状が持続し,血圧が低下する。ソマトスタチンが著効する。

気管支痙攣喘息発作通常,皮膚症状,血圧低下は生じない。ただし,アナフィラキシー経過中に喘息発作が起きることもある。気管チューブトラブル(閉塞,逸脱)通常皮膚症状はない。聴診,気管支鏡などで気道確保を確実に行うことが重要。皮膚紅潮,発赤レッドマン症候群バンコマイシン急速投与肥満細胞増多症内因性ヒスタミン過剰。オピオイド,非ステロイド性抗炎症薬,バンコマイシン,筋弛緩薬などが誘因となることがある。局麻時皮膚紅潮,呼吸困難不安発作/パニック発作蕁麻疹,血管浮腫,喘鳴,血圧低下は生じない。自律神経性てんかんてんかん発作に伴う。遺伝性血管浮腫(C1 抑制因子欠損)かゆみ,蕁麻疹はない。嘔気・嘔吐,腹痛,気道浮腫による呼吸困難。
p.20
20  4.発症時診断(鑑別診断含む)

行う。

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Summary report―Second National Institute of Allergy and Infectious Disease/Food Allergy and Anaphylaxis Network symposium. J Allergy Clin Immunol 2006;117:391—7.

図 発症時の鑑別のフローチャート

アナフィラキシー治療

急激な血圧低下昇圧薬効果なし皮膚所見

鑑別●薬物過量●循環血液量減少性ショック●迷走神経反射●心原性ショック●肺塞栓●心タンポナーデありなし

起因薬物・物質あり●導入薬●ラテックス曝露●輸血

アナフィラキシー

気道狭窄・換気困難気管挿管前

皮膚所見

鑑別●喘息●気管チューブの閉塞・逸脱あり

なし

起因薬物・物質あり

気管挿管(気道確保)

気管挿管中

チューブトラブル

チェック治療
p.21
4.発症時診断(鑑別診断含む)  21

5) Muraro A, Roberts G, Clark A, et al;EAACI Task Force on Anaphylaxis in Children. The management of anaphylaxis in childhood:Position paper of the European academy of allergology and clinical immunology. Allergy 2007;62:857—71. 6) Webb LM, Lieberman P. Anaphylaxis:A review of 601 cases. Ann Allergy Asthma Immunol 2006;97:39—43. 7) Mertes PM, Alla F, Tréchot P, et al. Groupe dʼEtudes des Réactions Anaphylactoïdes Peranesthésiques. Anaphylaxis during anesthesia in France:An 8-year national survey. J Allergy Clin Immunol 2011;128:366—73. 8) Dewachter P, Mouton-Faivre C, Emala CW. Anaphylaxis and anesthesia:Controversies and new insights. Anesthesiology 2009;111:1141—50. 9) Mali S. Anaphylaxis during the perioperative period. Anesth Essays Res 2012;6:124—33. 10) Reitter M, Petitpain N, Latarche C, et al;French Network of Regional Pharmacovigilance Centres. Fatal anaphylaxis with neuromuscular blocking agents:A risk factor and management analysis. Allergy 2014;69:954—9. 11) Simons FE, Ebisawa M, Sanchez-Borges M, et al. 2015 Update of the evidence base:World Allergy Organization anaphylaxis guidelines. World Allergy Organ J 2015;8:32. 12) Schwartz LB, Yunginger JW, Miller J, et al. Time course of appearance and disappearance of human mast cell tryptase in the circulation after anaphylaxis. J Clin Invest 1989;83:1551. 13) van der Linden PW, Hack CE, Poortman J, et al. Insect-sting challenge in 138 patients:Relation between clinical severity of anaphylaxis and mast cell activation. J Allergy Clin Immunol 1992;90:110. 14) van der Linden PW, Struyvenberg A, Kraaijenhagen RJ, et al. Anaphylactic shock after insect-sting challenge in 138 persons with a previous insect-sting reaction. Ann Intern Med 1993;118:161. 15) Smith PL, Kagey-Sobotka A, Bleecker ER, et al. Physiologic manifestations of human anaphylaxis. J Clin Invest 1980;66: 1072. 16) Halmerbauer G, Hauk P, Forster J, et al. In vivo histamine release during the first minutes after deliberate sting challenges cor-

relates with the severity of allergic symptoms. Pediatr Allergy Immunol 1999;10:53.
p.22
22  5.治 療

1 治療の原則

❶ 迅速な認識,診断,治療❷ 診断したら仰臥位で下肢挙上❸ 循環虚脱や重度な気管支痙攣では,心肺蘇生に準じた治療(気道確保,呼吸管理,循環管理) ❹ 重篤な患者では,ただちに第一選択薬のアドレナリンを0.2μg/kg 静注❺ 副腎皮質ホルモン製剤や抗ヒスタミン薬は,あくまで第二選択薬❻ 高濃度酸素の吸入❼ 静脈路の確保❽ 十分な輸液❾ 機序確認のために採血,蓄尿,βトリプターゼの測定

2 手術室におけるアナフィラキシーショックの治療

アナフィラキシー反応に加え,血圧低下が急激に起こり意識障害などを呈する病態をアナフィラキシーショックと呼び,生命維持において危険な状態である。手術の進行具合と患者の状態の判断により,手術チームとともに手術の続行が可能か否かを決定する。純酸素での換気により酸素飽和度のモニターを行い,低酸素血症を最大限防ぐ。アドレナリンを静脈内投与するさいには,循環動態を厳密にモニターする1)。重症アナフィラキシーショックの死亡症例では喉頭・咽頭浮腫や舌の浮腫の発現頻度が高い2)。術後早期の抜管には十分注意し,喉頭・咽頭浮腫の程度を確認したうえで抜管時期を決定する。

Key Sentences

アナフィラキシーでは,迅速な診断と治療が救命の鍵である。アナフィラキシーショックでは,心肺蘇生に準じた治療が必要である。アナフィラキシー治療の第一選択薬は,アドレナリンである。アナフィラキシー治療の第二選択薬として,副腎皮質ホルモン製剤や抗ヒスタミン薬がある。カテコラミン抵抗性の循環抑制には,バソプレシンの投与を考慮する。

5 治 療
p.23
5.治 療  23

❶ 原因と思われる薬物をすべて中止する。❷ 人手を集め,経過と治療内容を記録する。❸ 仰臥位で下肢を挙上する。❹ マスクで酸素投与(6 — 8 l/min),気管挿管されていれば100%酸素を投与する。❺ 静脈路がなければ確保する。❻ アドレナリン必要に応じて追加投与する。反復投与が必要なら,持続静脈内投与を始める。低血圧:0.2μg/kg を静脈内投与する。循環虚脱:0.05 — 0.3 mg を静脈内投与する。静脈路がなければ,0.3 mg を筋注する(小児は0.01 mg/kg)。❼ 喉頭・咽頭浮腫が進行すれば気管挿管する。❽ 輸液(血圧が回復するまで)最初の5 分間で5 —10 ml/kg小児は最初の1 時間で30 ml/kg

3 蘇生後の治療

1	)気管支拡張薬気管支痙攣による換気困難にはβ2 刺激薬の吸入を行う。

2	)副腎皮質ホルモン製剤治療の第2 段階で用いる。アナフィラキシー反応の遷延化を抑制できるかもしれない。最適な投与量に関するエビデンスはない。低血圧を避けるために緩除に投与する。ヒドロコルチゾンには,まれではあるがアナフィラキシーの報告がある3)4)。成人:ヒドロコルチゾン200 mg小児  12 歳以上:ヒドロコルチゾン200 mg 6 —12 歳:ヒドロコルチゾン100 mg 6 カ月— 6 歳:ヒドロコルチゾン50 mg 6 カ月以下:ヒドロコルチゾン25 mg

3	)抗ヒスタミン薬治療の第2段階で用いる。抗ヒスタミン薬だけでは救命できない。治療に用いる根拠は弱いが,薬理学的適用はある5)。H1遮断薬は,ヒスタミンを介した血管拡張と気管支収縮を軽減する。他のメディエータを介した反応は抑制できないが,抗ヒスタミン薬の安全性は高い。H2 遮断薬を常に併用する根拠はほとんどない。
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24  5.治 療

4	)心血管作動薬動物実験では,アドレナリンや輸液負荷に抵抗するショックに対するノルアドレナリン,バソプレシン,グルカゴン,アトロピンなどの有効性が示されている6)~10)。

4 アレルギー性急性冠症候群

肥満細胞の活性化によるアレルギー反応と,急性冠症候群が同時に発症する病態をKounis 症候群と定義し,1991 年にKounis とZavras によって報告された11)。肥満細胞から放出される種々のメディエータの中で,ヒスタミンは冠動脈攣縮作用を有しており,トリプターゼとキマーゼは冠動脈のプラークを不安定化させる。アレルギー反応が重篤であるほど急性冠症候群を併発する危険性が高く,発症すると死亡率も上昇するため,アナフィラキシーに対する迅速な対応が重要である。アナフィラキシーに対する治療と急性冠症候群に対する治療を同時に行うが,アドレナリンは心筋虚血と冠攣縮を増悪させやすいため,慎重に投与する12)。モルヒネは肥満細胞を刺激するため使用しない。

参考文献 1) Mertes PM, Malinovsky JM, Jouffroy L, et al. Reducing the risk of anaphylaxis during anesthesia:2011 Updated guidelines for clinical practice. J Investig Allergol Clin Immunol 2011;21:442—53. 2) Greenberger PA. Anaphylactic and anaphylactoid causes of angioedema. Immunol Allergy Clin North Am 2006;26:753—67. 3) Corominas N, Mañé JM, Codina C, et al. Hydrocortisone anaphylaxis:A new case report. Pharm Weekbl Sci 1992;14:93—4. 4) Hölz W, Ludwig A, Forst H. Anaphylactic shock following intravenous hydrocortisone succinate administration. Anaesthesist 2002;51:187—90. 5) Lin RY, Curry A, Pesola GR, et al. Improved outcomes in patients with acute allergic syndromes who are treated with combined H1 and H2 antagonists. Ann Emerg Med 2000;36:462—8. 6) Higgins DJ, Gayatri P. Methoxamine in the management of severe anaphylaxis. Anaesthesia 1999;54:1126. 7) Heytman M, Rainbird A. Use of alpha-agonists for management of anaphylaxis occurring under anaesthesia:Case studies and review. Anaesthesia 2004;59:1210—5. 8) Kill C, Wranze E, Wulf H. Successful treatment of severe anaphylactic shock with vasopressin. Two case reports. Int Arch Allergy Immunol 2004;134:260—1. 9) Schummer W, Schummer C, Wippermann J, et al. Anaphylactic shock:Is vasopressin the drug of choice? Anesthesiology 2004;101:1025—7. 10) Thomas M, Crawford I. Best evidence topic report. Glucagon infusion in refractory anaphylactic shock in patients on betablockers. Emerg Med J 2005;22:272—3. 11) Kounis NG, Zavras GM. Histamine-induced coronary artery spasm:The concept of allergic angina. Br J Clin Pract 1991; 45:121—8. 12) Kounis NG. Kounis syndrome:An update on epidemiology, pathogenesis, diagnosis and therapeutic management. Clin

Chem Lab Med 2016;54:1545—59.
p.25
6.術後診断  25

アナフィラキシーが発生したために手術が延期となったり,手術が遂行できたとしても将来麻酔を受ける可能性があったりするため,原因物質を同定する術後診断を行ったほうがよい。現在では,皮膚テストがゴールドスタンダードであるが,100%正しい診断ができるわけではない。可能であれば,in vivo の検査とin vitro の検査の両方を行って,診断の精度を高める努力をする。原因物質の同定が誤っていると,患者が再びアナフィラキシーを発症するリスクが高まるほか,本来であれば避ける必要のない薬物が使用できなくなるリスクがある。

1 in vivo の検査

1 )皮膚テスト諸外国のガイドラインすべてで,アナフィラキシーの確定診断ツールとして推奨されている1)~4)。フランスの調査では,薬物による重篤なアナフィラキシーのうち,72.9%は皮膚テストによって確定診断できたと報告されている5)。皮膚テストは他科の医師に依頼するだけでなく,麻酔科医自らによる皮膚テストの実施を考慮すべきである。その理由としては,将来の麻酔管理を考慮に入れた検査ができること,検査中に万が一アナフィラキシーが再発しても麻酔科医は対応できることが挙げられる。また,薬物投与とアナフィラキシー発生のタイミングから,被疑薬を絞り込むことは危険である。アナフィラキシー発生よりも前に投与した薬物は,すべて被疑薬に入れることを原則とする。陽性コントロールとしてヒスタミン二塩酸塩液(鳥居薬品,10 mg/

Key Sentences

アナフィラキシーが発生したさいには,麻酔科医が主体性を持って,原因物質を同定するための検査を実施する。アナフィラキシー発生から4—6 週間後に,術後診断のゴールドスタンダードである皮膚テストを実施する。皮膚テストにはプリックテストと皮内テストがあり,プリックテストが陰性であった場合に皮内テストを実施する。パッチテストやリンパ球刺激試験(DLST)は,アナフィラキシーの診断ツールとして適切ではない。術後診断の精度を上げるため,好塩基球活性化試験(BAT)やヒスタミン遊離試験,アレルゲン特異的IgE の測定など,in vitro の検査を行うとよい。

6 術後診断
p.26
26  6.術後診断

ml),陰性コントロールとして生理食塩液を用いる。抗ヒスタミン薬,抗うつ薬,副腎皮質ホルモン製剤は,皮膚テストの結果に影響を及ぼす可能性があるため,可能であればテストの数日前から投薬を中止する2)。皮膚テストは,非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs),デキストラン,造影剤に対しては無効な場合が多い4)。皮膚テストは,アナフィラキシーの発症から4—6 週間後に実施するとよい1)。これよりも前にテストしてもよいが,テスト結果は偽陰性の可能性が高いため,陽性が出た場合にかぎり,その後の治療の判断材料として利用できる1)。代替薬を探すために皮膚テストを行うことがあるかもしれない。しかし,以前の麻酔で患者に未使用の薬物に対して陰性結果が得られた場合でも,その薬が安全とは言い切れない。つまり,陰性の結果を判断材料に用いる場合は,患者に投与したことがある薬に限定したほうがよい。とくに,アナフィラキシーの原因が筋弛緩薬であると判明した場合は注意したほうがよい。日本で使用できる筋弛緩薬は,ロクロニウム,ベクロニウム,スキサメトニウムの3薬であるが,この3薬には抗原交差反応が指摘されている。実際に,ロクロニウムによるアナフィラキシーの患者で,ベクロニウムに抗原交差反応を示す患者は40%,スキサメトニウムに抗原交差反応を示す患者は44%と報告されている6)。また,皮膚テストに使用する薬の最高濃度には,注意を払う必要がある(表1)。使用する薬物の濃度が高いと,アレルギー歴のない健常人でも偽陽性が出ることがあるからである。(a)プリックテストプリックテストは通常,前腕の掌側を使用する4)。アルコール綿を用いると皮膚が赤くなる場合があるので,生理食塩液で軽く拭く。被疑薬を皮膚に垂らしたあと,同部位にランセット針(バイファケイテッドニードル,東京エム・アイ商会)を用いて小さな穴を開ける。判定は15 — 20 分

表1 皮膚テストに使用する薬の最高濃度

検査薬プリックテスト最高濃度

(mg/ml)皮内テスト最高濃度

(μg/ml)

ロクロニウム10 50ベクロニウム4 400スキサメトニウム10 100スガマデクス10 100ミダゾラム5 50プロポフォール10 1000チオペンタール25 2500モルヒネ1 5レミフェンタニル0.05 5ブピバカイン2.5 250レボブピバカイン7.5 750リドカイン10 1000メピバカイン20 2000ロピバカイン10 1000 [Mertes PM, Malinovsky JM, Jouffroy L, Working Group of the SFAR and SFA;Aberer W, Terreehorst I, Brockow K, et al, ENDA;EAACI Interest Group on Drug Allergy. Reducing the risk of anaphylaxis during anesthesia:2011 Updated guidelines for clinical practice. J Investig Allergol Clin Immunol 2011;21: 442—53 より転載]
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後に行う4)。膨疹が陰性コントロールより3 mm 以上大きいか,陽性コントロールの半分以上の大きさがある場合を陽性とする1)。原則として,被疑薬は最高濃度の1,000 倍希釈液から始める。20 分待っても陰性の場合は,さらに10 倍濃い検査液を用いて同様の検査を行う1)。(b)皮内テスト皮内テストは,プリックテストが陰性であった場合に行う。皮内テストは,前腕の掌側か背中の皮膚を使用する1)4)。0.02 — 0.05 ml(The British Society of Allergy and Clinical Immunology: BSACI のガイドラインでは0.03 ml3))の被疑薬を皮内に注入する1)4)。陽性コントロールとして1,000 倍に希釈したヒスタミン二塩酸塩液(10μg/ml)を用いる。陽性の判定は,諸国のガイドラインによってまちまちである。フランスのガイドラインによれば,薬物注入20 分後に膨疹が薬物注入直後と同等から2 倍の大きさであれば陽性と判定する1)。一方,イギリスのガイドラインでは,膨疹の大きさが薬物注入直後より3 mm 以上大きく,紅斑を伴う場合を陽性としている3)。

2 )チャレンジテストアレルギーの被疑薬を少量ずつ投与して反応を見る検査である7)。アナフィラキシーの再現など,合併症発生の危険性が高い。被疑薬が局所麻酔薬,抗菌薬,ラテックス,NSAIDs などでは,皮膚テストで陰性であった場合に行うことがある。しかし,検査による利益が危険性を上回る場合にのみ行うべきで,周術期のアナフィラキシーにおいてチャレンジテストの有用性は限定的である1)。抗菌薬やNSAIDs の一部では,代謝産物がアレルゲンとなる場合があり,チャレンジテストが唯一期待できる検査である。検査はアナフィラキシー発症から,少なくとも1 カ月以上経過してから実施したほうがよい。薬物の投与ルート(経静脈or 経皮or 経口)は,原則としてアナフィラキシー発症時と同じルートを利用する1)。

3 )パッチテストアレルギーの疑いのある物質を腕や背中に貼付して,皮膚の反応を調べる方法である。パッチテストは接触性皮膚炎や薬疹の検査であり,麻酔中のアナフィラキシーが疑われる場合には有用ではない4)。

2 in vitro の検査

1 )好塩基球活性化試験(basophil activation test:BAT)採取した末梢血にアレルゲンと思われる抗原を添加し,好塩基球の活性化をフローサイトメータで解析することにより,アレルゲンを同定するのがBAT である。活性化した好塩基球のマーカーとしては,CD63 とCD203c が代表的である。例えば,Allergenicity Kit®(Beckman Coulter社)を用いた測定法では,CD3,CRTH2,CD203c の組み合わせにより血球中から好塩基球を同定し,CD203c の発現量を測定できる。以前はCD63 が主流であったが,近年はCD203c を使用した報告が増加してきた8)。マーカーとしての優劣は,薬物によって異なる(表29)~30)参照)。検
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査に使用する血液検体は,採血後4 時間以内の新鮮なものを利用する31)。

2 )ヒスタミン遊離試験(histamine release test:HRT) HRT では,抗原刺激により好塩基球から遊離したヒスタミンの量をenzyme linked immunosorbent assay(ELISA)法で測定する。HRT は古くから行われていたが,必要な検体量が多いことや,採血後短時間で処理する必要があることなどから,広く普及していなかった。現在は,モノクローナル抗体を利用して全血から好塩基球を取り出し,その後に抗原と反応させるため,少量の血液で検査できるようになった。近年では,フローサイトメータを用いて,好塩基球から放出されたヒスタミンの量を定量化する方法も開発された32)。

3 )トリプターゼ,ヒスタミンの測定アナフィラキシーの確定診断に有用であるが,発症直後に行うべきものであり,本章では割愛する。

表2 BAT の感度・特異度

被疑薬対照検査活性化好塩基球のマーカー感度(%)特異度(%)患者数文献各種筋弛緩薬H CD63 64 81 26 9) CD45 43 96各種筋弛緩薬H±ST CD63 54 100 56 10)各種筋弛緩薬H CD63 79 100 31 11) CD203c 36 100各種筋弛緩薬H±ST CD63 36—86 93 92 12)ロクロニウムH±ST CD63 92 100 22 13)各種筋弛緩薬H±ST±IgE CD63 60 100 49ロクロニウムH CD63 80 96 104 14)各種筋弛緩薬H±ST CD63 68 100 56 15)アトラクリウムH±ST CD63 71 100 75 16)スガマデクスH±ST CD203c 88 100 8 17) CD63 75 100 βラクタムH CD63 50 93 88 18) βラクタムH+DPT CD63 39 93 53 19) βラクタムH±ST±IgE

±DPT CD63 49 91 110 20)

アモキシシリンH±ST CD203c 52 100 41 21) CD63 22 79 βラクタムH CD63 50 89—97 262 22) βラクタムH±ST±IgE CD63—CCR3 55 100 39 23) CD63—IgE 53 NAアモキシシリンH CD63 29 NA 14 24)アモキシシリンH±ST±DPT CD63 50 NA 61 25)アモキシシリンH±ST CD63 50 NA 30 26)セファゾリンH±ST CD203c 86 100 7 27) CD63 100 100各種造影剤H+ST CD63 100 100 3 28)各種造影剤H±ST CD63 46—62 89—100 40 29)各種造影剤H±DPT CD203c 63 100 28 30) H:History,ST:Skin test,IgE:Immunoglobulin E,DPT:Drug provocation test [Uyttebroek AP, Sabato V, Faber MA, et al. Basophil activation tests:Time for a reconsideration. Expert Rev Clin Immunol 2014;10:1325—35 より転載]
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4 )アレルゲン特異的IgE の測定アナフィラキシーの発症にIgE が関与しているケースでは,患者の血液からアナフィラキシーの原因物質(アレルゲン)に特異的な免疫グロブリン(immunoglobulin:Ig)E が検出できるはずである。特異的IgE を検出するためには,薬物を固相化し,患者の血漿と反応させる必要がある33)。アレルゲン特異的IgE 測定用の試薬は,かつては放射性同位元素を使用していたため, radioallergosorbent test(RAST)法と称されていたが,現在は放射性同位元素を用いず,蛍光物質によってIgE を同定する方法(CAP—fluorescence enzyme immunoassay:CAP—FEIA)や, IgE を認識する抗体を酵素で標識して定量するELISA 法が主流となっている。国内では複数の会社がアレルゲン特異的IgE 測定用の試薬を販売しているが,食物や植物,動物に対するアレルギーの検査用がほとんどである。サーモフィッシャーダイアグノスティックス株式会社で販売している試薬は,βラクタム系抗菌薬,スキサメトニウム,モルヒネ,クロルヘキシジン,プロタミンなどの周術期使用薬物に対する特異的IgE の測定が可能である。これまでの報告では,βラクタム系の抗菌薬に対する特異的IgE の測定は感度・特異度ともに高くはなく,それぞれ0 — 85%,52 — 100%であった34)。したがって,βラクタム系の抗菌薬に対する特異的IgE の測定は,ルーチンに行う必要はない1)。一方,筋弛緩薬に対する特異的IgE の測定は,感度・特異度は比較的高かったと報告されており,それぞれ38.5 — 92%,92 — 100%であった34)。ロクロニウムに対する特異的IgE 測定の報告は,研究用に開発されたキットを使用しており,今のところ国内で測定することは困難である。オピオイドに対する皮膚テストの有用性については明らかになっていないため,モルヒネに対する特異的IgE の測定については感度・特異度の報告がない。一方,筋弛緩薬によるアナフィラキシー患者の多くがモルヒネに対する特異的IgE を保有していたとの報告がある35)。実際に,モルヒネに対する特異的IgE の保有者は5 — 10%と報告されている。したがって,モルヒネに対する特異的IgE が検出できても,筋弛緩薬やオピオイドに対するアナフィラキシーの確定診断には利用できない34)。消毒薬のクロルヘキシジンに対する特異的IgE の測定は,感度・特異度ともに良好で,それぞれ84.2 — 91.6%,93.7 — 100%と報告されている36)37)。

5 )リンパ球刺激試験(drug-induced lymphocyte stimulation test:DLST) DLST は,物質の刺激によるリンパ球の幼若化反応を利用した検査であり,IV型(遅延型)アレルギーのさいに有用である。一方,アナフィラキシーの多くは,肥満細胞や好塩基球が主体となるI型アレルギーである。したがって,アナフィラキシーの患者にDLST を実施する意義は少ない。実際に,麻酔薬や筋弛緩薬に対するアナフィラキシー患者に行ったDLST では,よい結果が得られなかったと報告されている38)。

3 術後診断データの利用

アナフィラキシーの原因物質が同定できても,その情報が患者や麻酔科医に伝えられ,次回の麻酔管理に生かされなければ意味がない。術後診断の結果はカルテに記載するとともに,患者が
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別の医療施設で麻酔を受ける可能性を考えて,書面で患者に伝えるようにする1)。そのさいには,原因物質の一般名と商品名の両方を記載する。

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