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術中心停止 に対するプラクティカルガイド 公益社団法人 日本麻酔科学会 作成: 安全委員会 術中の心肺蘇生ガイドライン作成WG WG 長:髙橋 伸二 WG 委員: 加藤 里絵 小山 薫篠塚 典弘祖父江 和哉 高澤 知規田中 克哉矢野 隆郎 制定日 2021 年 2 月 26 日改訂日 2022 年 1 月 6 日
術中心停止 に対するプラクティカルガイド 公益社団法人 日本麻酔科学会 作成: 安全委員会 術中の心肺蘇生ガイドライン作成WG WG 長:髙橋 伸二 WG 委員: 加藤 里絵 小山 薫篠塚 典弘祖父江 和哉 高澤 知規田中 克哉矢野 隆郎 制定日 2021 年 2 月 26 日改訂日 2022 年 1 月 6 日
術中心停止 に対するプラクティカルガイド目 次 総論《はじめに》 3 気道管理 13 出血による心停止 16 右心不全/肺高血圧,肺塞栓症 19 術中の心原性ショックによる左心不全23 局所麻酔薬中毒による心停止 27 悪性高熱症患者の心停止 29 緊張性気胸と心タンポナーデ 31 アナフィラキシーによる心停止36 仰臥位以外での心停止 41 母体の心停止 46 小児周術期蘇生の特殊性52 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
1 総論《 はじめに 》 3 術中心停止の概況 手術対象人口の高齢化や医学技術の進歩により,以前と比較して重篤な症例の手術が増加している。日本麻酔科学会の偶発症例調査2009—2011 年1)によると,危機的偶発症による死亡率(全周術期死亡率:術後30 日以内)は3.93/1 万症例,麻酔関連周術期死亡率は0.07/1 万症例であった。全周術期死亡率は,2004—2008 年の5.56/1 万症例と比較して有意に低下している。2014—2016年の統計では,麻酔科管理症例での心停止発生率は,2014 年1.18/1 万から2015 年1.09/1 万, 2016 年1.04/1 万と徐々に減少し,30 日死亡も,それぞれ0.61/1 万,0.62/1 万,0.54/1 万と推移している。死亡の転機となった偶発症の原因1)は,術前合併症としての出血性ショック(26.2%),手術が原因の大量出血(16.8%),多臓器不全・敗血症(12.8%),循環器系合併症(12.0%)の順であった。この傾向は2014 から2016 年統計でも同様の傾向である。麻酔関連周術期死亡1)は, 32 症例報告され,薬物投与(過量・不適切)6 症例,誤嚥,換気不適切が各5 症例,麻酔薬過量投与4 症例,輸液・輸血管理の不適切3 症例であった。麻酔導入時の気道確保不適切による死亡は1 症例のみであった。神経系偶発症(脳・脊髄)ならびにその他の偶発症による死亡は,各1症例と3 症例が報告された。集計に用いられなかった施設からの報告に,麻酔管理が原因である死亡が11 症例含まれており,同原因の死亡は3 年間で合計47 症例報告された。死亡症例の年齢の分布は,心停止ならびに高度低酸素血症,周術期死亡は新生児でもっとも高く,その後は年齢とともに減少し,高齢者で再び増加することが示されている。1 万症例あたりの死亡率は,新生児17.0,85 歳以上10.15,65 歳以上85 歳未満で6.05,乳児は5.75 の順であった。諸外国での術中心停止の報告は,1 万症例あたり1.05—2.73 症例程度2)~4),周術期心停止では, 5.62—7.36 である5)6)。いったん心停止となったあとの死亡率は,53.3—70.9%である2)~9)。麻酔関連に限ると,1 万症例あたりの死亡は0.01—1.12 と報告されている5)9)10)。心停止の原因はさまざまであるが,大量出血,気道の問題,アナフィラキシー,薬物過量投与などの報告が多い9)10)。 日本麻酔科学会の方針 院外,院内における心停止への対応としては,米国心臓協会(American Heart Association: 総論《はじめに》
4 1 総論《 はじめに 》 AHA)が提唱する一次救命処置,二次救命処置があり,日本麻酔科学会も専門医資格取得の必須項目としている。これらの心停止に対するガイドラインをもとに,手術中の特殊性を考え合わせたプラクティカルガイドを作成することは,術中の心停止に対して,迅速かつ適切に対応するために有効である。院外,あるいは院内の偶発的な心停止と比べて,術中心停止は特殊である。バイタルサインがモニターされている,気道が確保されている,輸液路が確保されている,予兆から目撃されていることが多い。また,全身麻酔中では酸素消費量が低下しているため,臓器保護効果が得られる可能性があることも挙げられる。良好な予後が期待できるとはいえ,早期の心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation:CPR),早期の除細動など,通常の二次救命処置(advanced cardiac life support:ACLS)の手順を踏まえつつ,原因の早期診断,的確な治療が求められる。心停止に対しては,周術期に携わる麻酔科医,外科系診療科医,看護師,臨床工学技士などが,チームとしてアプローチすることが不可欠である。麻酔科医がチームリーダーとして活躍することを期待したい。 プラクティカルガイドの策定 本プラクティカルガイドは,周術期に携わる麻酔科医,外科系診療科医,看護師,臨床工学技士が治療指針を共有することにより,患者の予後が改善することを期待して策定された。内容は,総論と各論に分けた。各論では,心停止に陥りやすい病態,あるいは心停止の原因に対して,診断,治療法などを収載した。策定にあたっては,8 名のワーキングループメンバーが担当した。麻酔科学会ですでに明文化されたプラクティカルガイドやガイドラインとの関係においては齟齬が生じないようにした。本プラクティカルガイドの作成に関わったメンバーには,開示すべき利益相反はない。また,本プラクティカルガイドは,このプラクティカルガイドに沿っていない診療行為を否定するものではなく,法的責任の判断に用いることを目的に策定されてはいない。本プラクティカルガイドの心肺蘇生に関する知識は,今後も発展していくので適宜修正される必要がある。 術中心停止の範囲 本プラクティカルガイドは,周術期麻酔管理,とくに手術中の心停止,あるいは危機的状況を対象とする。 術中心停止の蘇生の基本11) 術中心停止であっても,病棟での心停止であっても,重要なことは早期発見,早期の心肺蘇生
1 総論《 はじめに 》 5 (CPR)の開始である。いったん心停止が診断されたら,絶え間ない胸骨圧迫が必要である。圧迫は胸骨下半分の位置で,圧迫のテンポは1 分間に100—120 回で,圧迫の深さは5—6 cm である。圧迫のたびごとに胸郭の戻りを確認する。気管挿管や高度な気道確保が得られていない間は,胸骨圧迫30 回に対して人工呼吸2 回を行う。換気は1 秒で,傷病者の胸の上がりを確認する。人工呼吸は過換気にならないように注意し,高度な気道確保後では,6 秒に1 回のテンポで非同期に実施する。静脈注射された昇圧薬は,胸骨圧迫なしには効果を示さない。循環時間の遅延を考慮し,静脈投与したあとには,生理食塩液20 ml で後押しする。 術中心停止の原因と予防 院外,院内の突然の心停止が虚血性心疾患を伴う心室細動が多いのに比べ,周術期の心停止の原因はさまざまである。イニシャルリズムが心室細動ではないことことも多い5)。心停止に陥る前に対処することが重要である。徐脈から発展する心停止の原因には,手術による迷走神経刺激,薬物の過量投与(麻酔薬,β遮断薬),心臓交感神経遮断(T1—T4),房室ブロックがある。一方,頻脈から心停止に陥る代表例は,大量出血による循環血液量減少性ショック,低酸素血症,アナフィラキシー,悪性高熱症がある。低酸素血症では,早期に頻脈を呈しても心停止直前は徐脈となることが多い。心室性,上室性の不整脈は,頻脈から心室細動や頻脈性の無脈性電気活動(pulseless electrical activity: PEA)となる。術中の心停止の原因では,困難気道・窒息などの気道の喪失,人工呼吸器の異常,重症喘息やもともとの低肺機能による低酸素症,術前からの低心機能の悪化,心筋梗塞,心タンポナーデ,緊張性気胸,麻酔薬の過量投与や脊髄くも膜下麻酔後の高位神経ブロックによる循環抑制,局所麻酔薬中毒,アナフィラキシー,肺塞栓症,悪性高熱症などが想定される。 術中心停止の予後 最近の報告でも,術中心停止は,院外心停止や院内の別の場所での心停止と比較して予後がよい6)。麻酔科医をはじめ,医療従事者が傍らに存在していること,モニターや気道,輸液路が確保されていることが多く,即時の対応が可能であることがその要因である。Ramachandran ら7)は,術中の心停止でのもっとも多いリズムは心静止であるが,その生存率は30.5—80%であり,院内心停止の蘇生率10%と比較して高いと報告している。術中心停止後の予後不良な因子として,高齢者,術前全身状態分類(ASA physical status)が高い,感染症の合併が挙げられている6)8)10)。 術中心停止の判断 一般的には,心停止は脈拍が触れないことで確認される。心停止の原因はさまざまであり,原
6 1 総論《 はじめに 》 因の診断,治療が必要である。根本的治療につなげるためには,まず,治療できるまで心肺蘇生を行うことが重要となる。自己心拍再開のための手順として,もっとも重要なのは胸骨圧迫であるが,術中心停止に対して胸骨圧迫が遅れることが指摘されている12)。胸骨圧迫などが遅れる要因に,胸骨圧迫の指示を出すべき麻酔科医が必死に循環虚脱の原因を解決しようとしていることが挙げられる。また,患者は全身麻酔で意識がなく,呼吸も調節されている。また,身体のほとんどを覆布によってドレーピングされている。手術によっては腹臥位であったり,側臥位であったりする。これらは,心停止の認識や心肺蘇生の開始に影響を与える。突然の循環虚脱は,心電図の異常,パルスオキシメータや観血的動脈ラインの圧波形の消失,呼気二酸化炭素モニターの低下などが参考となる。心停止あるいは危機的な虚脱と判断されたら,すばやく術者や外回り看護師に伝え,治療に協力してもらうことがもっとも重要である。 モニタリング モニタリング自体は治療にはならないが,心停止や循環虚脱,循環の回復を診断するのには役立つ。術前の評価で,患者の病歴,病勢,麻酔方法,術式を考慮し,必要に応じて侵襲的なモニタリングの使用を検討しておくことは心停止の早期診断,心停止の回避に有効である。ただし,侵襲的モニタリングの挿入などで,蘇生治療が遅れてはならない。観血的動脈ラインは,循環動態が不安定になる可能性がある場合,第一選択となる。中心静脈ラインは,中心静脈圧や静脈血酸素分圧を提供でき,カテコラミンなどの投与ルートとしても重要である。肺動脈カテーテルは,心拍出量,混合静脈血酸素飽和度などを提供し,心機能評価に役立つ。近年,手術室に経食道心エコーや経胸壁心エコー装置が配置され,非心臓手術おける使用にさいして,その有効性を示す論文が増えている13)。呼気二酸化炭素モニターは,適切な循環(胸骨圧迫の質)の評価にも使用され,気道確保のもっとも信頼できるモニターである14)15)。 術中心停止の対応(図1) 心停止が確認されたら,周囲に状況を簡潔に伝え,応援を要請し,ただちに胸骨圧迫を開始する16)。術者に手術の中断を依頼し,術野に異常がないかを尋ねる。出血なら圧迫止血を指示する。心電図を評価し,心室細動なら電気ショックの準備をする。電気ショック非適用なら,アドレナリンを投与する。薬物投与後は,生理食塩液で後押しすることを忘れない。アドレナリンがただちに投与できず,手元に昇圧薬がある場合には投与は容認される。100%酸素を投与し,用手的に換気し,気道内圧,換気量,呼気終末二酸化炭素(EtCO2)の波形や値を確認する。肺塞栓症では突然のEtCO2 の低下,気道の問題ではEtCO2 の波形や気道内圧の異常が心停止に先行する。緊張性気胸を除外するために,経胸壁超音波検査による肺エコー,聴診を実施する。直前に投与した薬物の種類,投与量を確認する。採血を実施し,心停止の原因を調べる。準備できしだい,12 誘
1 総論《 はじめに 》 7 導心電図,経食道心エコー(経胸壁でも可)を挿入し,心収縮,心腔内容量を確認する。心停止が遷延する場合は,ACLS に準じて治療を継続する(図2)。 1 )電気ショック適用のリズムショック適用のリズムなら,すばやく電気ショックを実施する。心室細動,無脈性心室頻拍に対して,2 相性の場合は機器の推奨ジュール数もしくは200 J で実施する。電気ショック実施後は2 分間のCPR を継続する。良好な予後を得るにはCPR で中にEtCO2 が20 mmHg を超えるとよい16)。アドレナリン1 mg を準備する。初回ショックの2 分間以内にアドレナリンを投与すると,かえって心拍再開率が低下する17)。2 分後,必要ならばジュール数を上げて電気ショックを行う。2 回目のショックの後にアドレナリン1 mg を投与する。絶え間ないCPR と原因の検索を平行して実施する。2 分後に電気ショック適用のリズムが継続していればショックを再開する。ショック後,アミオダロン300 mg を投与する。リドカイン1—1.5 mg/kg をアミオダロンの代用として使用してもよい。 2 )電気ショック非適用のリズムPEA に対しては,アドレナリン1 mg,あるいは準備されているエフェドリンやフェニレフリンでもよいから,すばやく投与する。心停止の治療と同時に原因の診断,治療を実施する。リズムチェックは2 分ごとに実施,質の高いCPR を維持する。早期に体外式膜型人工肺(extracorpo- 図1 術中心停止の初期対応アルゴリズム 循環虚脱,心停止の判断●患者の意識消失・パルスの消失 ●術者とのコミュニケーションと応援要請●リズムを同定するため心電図を評価●血圧とSpO2,EtCO2 をモニターする 集中治療へ目標体温管理を考慮 ●CPR の継続●原因がまったく想起できない場合採血や経食道心エコー検査を実施する●蘇生に難渋するならば ECMO を導入する いいえはい A:100% 酸素投与とともに気道を確認(DOPE の確認) B:出血なら圧迫止血を指示C:胸骨圧迫が可能なら開始,アドレナリンか準備されている昇圧薬の投与D:投与薬物の確認,アナフィラキシーショックか? E:肺塞栓症・心筋梗塞の発症か? DOPEの確認Displacement:気管チューブ抜管,位置異常Obstruction:気管チューブの閉塞,屈曲Pneumothorax:緊張性気胸Equipment failure:人工呼吸器や機器の故障 ●体位が仰臥位でない場合手術の進行状況を考えて,仰臥位に戻すことを考慮 ●手術の可否を検討●心停止の原因が想起される場合,原因を排除●採血や経食道心エコー検査を実施する 自己心拍が再開したか原因検索と治療循環血液量減少性ショック低酸素血症アナフィラキシー緊張性気胸心タンポナーデ肺塞栓症悪性高熱症薬物の過量投与(麻酔薬,β遮断薬)心臓交感神経遮断(T1‒T4)房室ブロック電解質異常
8 1 総論《 はじめに 》 real membrane oxygenation:ECMO)を確立するのにも手術室は有利であり,体外循環式心肺蘇生法(ECPR)を考慮することがAHA 心肺蘇生ガイドラインでもクラスIIb で推奨されている18)。術中心停止では,救命できる可能性が高いので,諦めずに蘇生を継続する19)。 蘇生後のケア 自己心拍が再開したら,呼吸,循環の適正化を図る。末梢動脈血酸素飽和度(SpO2)は94%以上,呼気終末二酸化炭素分圧(PETCO2)は35—45 mmHg を維持する。収縮期血圧90 mmHg を維持するように適切な輸液を実施し,必要なら昇圧薬の使用を考慮する。早い段階で術中,術後ともに目標体温管理を考慮する。AHA G2020 でも,最低24 時間,32°Cから36°Cにコントロールすることが推奨されている20)。心停止の原因を精査するために,12 誘導心電図,心臓超音波,胸部X 線写真,血液ガスの諸検査を実施する。原因疾患の治療を継続する必要があるなら,手術の進行程度に照らし合わせて各科専門医と相談し,以後のプランを決定する。心停止の原因が解除さ 図2 心停止治療のアルゴリズムROSC:return of spontaneous circulation(自己心拍再開),VT:ventricular tachycardia(心室頻拍),SVT:supraventricular tachycardia(上室性頻拍),CPR:cardiopulmonary resuscitation :100~120回/minの圧迫/毎回胸壁をもとの位置まで戻す/十分な圧迫(EtCO2>20 mmHgを目指す。EtCO2<10 mmHgではROSC の可能性が低い。観血的動脈圧をモニター中であれば拡張期動脈圧>40 mmHg を目指す)/中断をしない(人工呼吸中であれば)/過換気を避ける(1 回換気量6 ml/kg 以下,10 回未満) *‐:2 分間のCPR [Moitra VK, Einav S, Thies KC, et al. Cardiac arrest in the operating room:Resuscitation and management for the anesthesiologist:Part 1. Anesth Analg 2018;126:876—88 より改変転載] 質の高いCPR心停止・危機的状態の発生 適用非適用 * * ●緊急事態を術者に知らせる●応援要請●救急カート・除細動器を準備手術中断,麻酔薬中止,100% 酸素,輸液全開ECG,SpO2,EtCO2,血液の色心停止の宣言CPR 開始気道の確立,換気の維持(過換気を避ける)採血検査(余裕があるなら)原因を考える ●気道の問題●副交感神経の過剰●誤薬,薬物過量投与●大量出血●心筋虚血●静脈塞栓症,脂肪塞栓●緊張性気胸,心タンポナーデ●局所麻酔薬中毒●アナフィラキシー●高カリウム血症●悪性高熱症 ●リズムチェック●心エコーで原因を同定する●原因の治療●ECMO の導入,3サイクルでROSC を得られないなら考慮 ROSC・ECMO の導入循環の確立検査(採血,画像診断) ●蘇生後のケア ●原因の治療●目標体温管理32‒36 度,最低でも24 時間実施 ●120‒200 J(小児4 J/kg)ですばやくショック(中断を短く) ●リズムチェック●適用なら120‒200 J(小児4‒9 J/kg)ですばやくショック(中断を短く) ●アドレナリン1 mg 投与〔(小児0.01 mg/kg)3‒5 分ごと〕 ●リズムチェック●適用なら120‒200 J(小児4‒9 J/kg)ですばやくショック(中断を短く) ●アミオダロン300 mg(小児5 mg/kg)もしくはリドカイン1‒1.5 mg/kg iv以下を考慮する●トルサードドポアント,低マグネシウム血症を疑う場合は,マグネシウム2 g (小児25 mg/kg)iv ●カルシウム2 g iv,メチルプレドニゾロン1 g の投与●ECMO の導入,3サイクルでROSC を得られないなら考慮ショック適用かどうか* 質の高いCPR 2 分間または5 サイクル 質の高いCPR 2 分間または5 サイクル質の高いCPR 2 分間または5 サイクル ●アドレナリン1 mg 投与〔(小児0.01 mg/kg) 3‒5 分ごと〕
1 総論《 はじめに 》 9 れないかぎり,直後に再発することがある(図3)。 術中心停止への基本的な対応 1 )呼吸100%酸素で換気する。過換気を避ける。気道系の原因治療は,治療優先順位が高い。気道トラブルの場合は,日本麻酔科学会DAM アルゴリズムに従って酸素化を図る21)。胸骨圧迫が開始されたら,心停止の原因が内因性であっても気胸の発生を考慮しなければならない。酸素化が保てないときにはveno—venous(VV)ECMO を考慮する。CPR 中は人工呼吸器による機械換気を用いてもよいが,pressure controlled ventilation ではなくvolume controlled ventilation のほうが換気量が確保されると考えられる。 2 )循環血液量減少性ショック循環血液量減少性ショックに対しては,急速輸液を実施する。フェニレフリン,ノルアドレナリン,バソプレシンのような血管収縮薬を使用する。血管収縮薬の投与と並行して,不足した循環血液量を補う。血管収縮薬の投与のみで対応してはならない。貧血には輸血を実施する。術野 自己心拍の再開(ROSC),循環の確立 循環の最適化 ●収縮期血圧を≧90 mmHgに維持する●過不足のない輸液●ドパミンの点滴静注を5 μg/kg/minで開始●12 誘導心電図,経食道心エコー検査などを実施 原因の特定と治療の継続気道・換気の確立;気道内圧,換気量の確認100% 酸素で換気するリズムを同定するため心電図を評価観血的動脈圧とSpO2,EtCO2 のモニター ●速やかに手術を終了する 心停止の原因疾患の根本治療が必要? いいえはい 換気と酸素化の最適化●酸素飽和度を≧94% に維持する酸素投与●EtCO2 の値を35‒45 mmHgに調節●過換気にしない●血液ガスの評価 集中治療の実施 目標体温管理 32‒36 度を24時間以上継続原因疾患の根本治療・確定診断 ●冠動脈再灌流療法●肺動脈血栓除去術 原因検索と治療循環血液量減少性ショック低酸素血症アナフィラキシー緊張性気胸心タンポナーデ肺塞栓症悪性高熱症薬物の過量投与(麻酔薬,β遮断薬)心臓交感神経遮断(T1‒T4)房室ブロック電解質異常 図3 蘇生後ケアのアルゴリズムROSC:return of spontaneous circulation(自己心拍再開),T1—T4:第1 胸椎レベルから第4 胸椎レベル
10 1 総論《 はじめに 》 からの出血に関しては,外科医に圧迫止血を行うように指示し,バイタルサインを整えることを優先する。予後を悪化させる,アシドーシス,凝固異常,低体温を避けるようにダメージコントロール手術を考慮する22)。「危機的出血への対応ガイドライン」を参考に対応する23)。腹部大動脈瘤破裂において管理された低血圧と血液凝固因子を希釈しない輸液管理は,出血性ショックの管理に有効なことがあるが,通常の治療に比べて予後を改善するかどうかの結論は出ていない24)。 3 )心機能低下(a)左心機能低下評価には,心エコー,肺動脈カテーテル検査を施行する。原因には,虚血性心疾患,拡張型心筋症,僧帽弁疾患などがある。心収縮力の低下には,カテコラミンを使用する。後負荷を軽減し,左室容量を適正化する前負荷を考慮する。拡張能の障害は,ミルリノン,オルプリノンの投与によって状況が改善することがある。アドレナリンなど高濃度のカテコラミンに反応しない場合は,大動脈内バルーンポンプ(IABP)やECMO などの挿入を考慮する。(b)右心機能不全左心機能低下と同様に,経食道心エコーや肺動脈カテーテル検査で評価する。右心機能不全の原因は,右室収縮力の低下(右室梗塞など),右室容量負荷の増加(急性の三尖弁逆流,フォンタン循環の破綻など),右室後負荷の増大(肺塞栓症原発性肺高血圧など),右室拡張障害(心タンポナーデ,収縮性心外膜炎)がある。臨床所見としては,頸静脈の怒張,肝静脈のうっ滞,漏出性の胸腹水が認められる。治療は,右室後負荷の軽減,右室収縮力の増強,右室前負荷の適切なコントロールを目的とし,ホスホジエステラーゼ(PDE)III阻害薬とドブタミンの併用は肺血管抵抗の軽減と右室収縮力増強に有効である。肺高血圧の程度が高い場合は,プロスタグランジン製剤,一酸化窒素(NO)吸入,カルシウム(Ca)拮抗薬が有効である。肺動脈の上昇と体血圧の低下には,バソプレシンが効果的である。循環が保てない場合は,ECMO により右室負荷を軽減する。 4 )脊髄くも膜下麻酔関連心停止25)26)脊髄くも膜下麻酔では,薬物の過量投与,想定外の麻酔高への波及により,徐脈,低血圧,心停止が発生する。また,健康な患者でも突然の心停止に至る高度徐脈,血管拡張,低血圧が起こることが知られている。危険因子としては,❶T5 以上の高位脊麻,❷若年健常者(ASA 1),❸ β遮断薬使用,❹徐脈,❺頭部を挙上する体位変換や急激な体位変換,❻帝王切開時の仰臥位低血圧症候群,などが挙げられている。脊髄くも膜下麻酔ばかりでなく,硬膜外麻酔時のくも膜下誤注入でも発生する。薬物投与後は,1 分ごとに血圧などのバイタルサインを確認する。予防には,エフェドリンやアトロピンを使用する。
1 総論《 はじめに 》 11 5)小児の特殊性小児,とくに乳児は心停止に陥る頻度が高い。手術室以外での鎮静依頼も多く,リスクが高い。扁桃肥大,相対的に舌が大きいなど解剖学的に気道確保困難の要因を持つことがあり,緩徐導入時の息ごらえや換気困難から低酸素症に陥り,高度徐脈,心停止を来すことがある27)28)。心停止までの予備力は成人と比べ小さい。また,薬物の投与量のエラーが起こりやすい。詳細は本ガイド“12 小児周術期蘇生の特殊性”(p.52-9)の章を参照する。 まとめ 術中心停止の発生は,術前の患者の状態が悪い状況で起きやすいため,術前の評価が重要である。手術中にいったん心停止が発生した場合には,落ち着いて心肺蘇生を開始する。蘇生後に,手術の中止,縮小を総合的に判断する。蘇生後の脳保護を念頭に置き,目標体温管理を実施する。 参考文献1) 日本麻酔科学会安全委員会偶発症例WG.日本麻酔科学会偶発症例調査2009~2011:危機的偶発症に関する粗集計結果. https://nsas.anesth.or.jp/App/Datura/pdf/r20100301.pdf,2019 年1 月2 日10 時00 分. 2) Han F, Wang Y, Wang Y, et al. Intraoperative cardiac arrest:A 10-year study of patients undergoing tumorous surgery in a tertiary referral cancer center in China. Medicine(Baltimore)2017;96:e6794. 3) Hur M, Lee HC, Lee KH, et al. Te incidence and characteristics of 3-month mortality after intraoperative cardiac arrest in adults. Acta Anaesthesiol Scand 2017;61:1095—1104. 4) Constant AL, Montlahuc C, Grimaldi D, et al. Predictors of functional outcome after intraoperative cardiac arrest. Anesthesiology 2014;121:482—91. 5) Ellis SJ, Newland MC, Simonson JA, et al. Anesthesia-related cardiac arrest. Anesthesiology 2014;120:829—38. 6) Nunnally ME, OʼConnor MF, Kordylewski H, et al. Te incidence and risk factors for perioperative cardiac arrest observed in the national anesthesia clinical outcomes registry. Anesth Analg 2015;120:364—70. 7) Ramachandran SK, Mhyre J, Kheterpal S, et al. Predictors of survival from perioperative cardiopulmonary arrests:A retrospective analysis of 2,524 events from the Get With Te Guidelines—Resuscitation registry. Anesthesiology 2013;119:1322—39. 8) Kim M, Li G. Postoperative complications affecting survival after cardiac arrest in general surgical patients. Anesth Analg 2018; 126:858—64. 9) Braz LG, Módolo NS, do Nascimento P Jr, et al. Perioperative cardiac arrest:A study of 53,718 anaesthetics over 9 yr from a Brazilian teaching hospital. Br J Anaesth 2006;96:569—75. 10) Li G, Warner M, Lang BH, et al. Epidemiology of anesthesia-related mortality in the United States, 1999—2005. Anesthesiology 2009;110:759—65. 11) Kleinman ME, Brennan EE, Goldberger ZD, et al. Part 5:Adult Basic Life Support and Cardiopulmonary Resuscitation Quality:2015 American Heart Association Guidelines Update for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care. Circulation 2015;132:S414—35. 12) Mhyre JM, Ramachandran SK, Kheterpal S, et al;American Heart Association National Registry for Cardiopulmonary Resuscitation Investigators. Delayed time to defibrillation after intraoperative and periprocedural cardiac arrest. Anesthesiology 2010;113:782—93. 13) Breitkreutz R, Walcher F, Seeger FH. Focused echocardiographic evaluation in resuscitation management:Concept of an advanced life support-conformed algorithm. Crit Care Med 2007;35:S150—61. 14) Sandroni C, Santis PD, DʼArrigo S. Capnography during cardiac arrest. Resuscitation 2018;132:73—7.
12 1 総論《 はじめに 》 15) Sutton RM, French B, Meaney PA, et al;American Heart Associationʼs Get With Te Guidelines—Resuscitation Investigators. Physiologic monitoring of CPR quality during adult cardiac arrest:A propensity-matched cohort study. Resuscitation 2016; 106:76—82. 16) Moitra VK, Einav S, Ties KC, et al. Cardiac arrest in the operating room:Resuscitation and management for the anesthesiologist:Part 1. Anesth Analg 2018;126:876—88. 17) Andersen LW, Kurth T, Chase M, et al. Early administration of epinephrine(adrenaline)in patients with cardiac arrest with initial shockable rhythm in hospital:Propensity score matched analysis. BMJ 2016;353:i1577. 18) Brooks SC, Anderson ML, Bruder E, et al. Part 6:Alternative techniques and ancillary devices for cardiopulmonary resuscitation:2015 American Heart Association Guidelines Update for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care. Circulation 2015;132:S436—43. 19) Charlesworth M, Barker JM, Greenhalgh D, et al. Perioperative extracorporeal cardiopulmonary resuscitation:Te defibrillator of the 21st century?:A case report. A A Pract 2018;11:87—9. 20) Panchal AR, Bartos JA, Cabañas JG, et al. Part 3:Adult basic and advanced life support:2020 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care. Circulation 2020;142 Suppl 2:S366— 468. 21) 麻酔導入時の日本麻酔科学会(JSA)気道管理アルゴリズム(JSA—AMA).http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/201504 27-2zukei.pdf,2018 年1 月2 日11 時00 分. 22) Lamb CM, MacGoey P, Navarro AP, et al. Damage control surgery in the era of damage control resuscitation. Br J Anaesth 2014;113:242—9. 23) 危機的出血への対応ガイドライン.http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/kikitekiGL2.pdf,2019 年1 月2 日11 時00 分. 24) Moreno DH, Cacione DG, Baptista-Silva JC. Controlled hypotension versus normotensive resuscitation strategy for people with ruptured abdominal aortic aneurysm. Cochrane Database Syst Rev 2018;13;6:CD011664. 25) Brull R, MacFarlane AJR, Chanc VWS. Spinal, epidural, and caudal anesthesia, cardiac arrest. In:Gropper MA, Eriksson LI, Fleisher LA, et al, editors. Millerʼs Anesthesia. 9th ed. Philadelphia:Elsevier;2020. p.1442—3. 26) 横山和子,田村高子,益田律子.第5 章 生理,B 循環器系.横山和子監.益田律子,近江禎子,田村高子編著.脊髄くも膜下麻酔.東京:診断と治療社;2020.p.44—52. 27) Cote CJ, Notterman DA, Kaurl HW, et al. Adverse sedation events in pediatrics:A critical incident analysis of contributing factors. Pediatrics 2000;105:805—14. 28) Kaplan RF, Yang CI. Sedation and analgesia in pediatric patients for procedures outside the operating room. Anesthesiol Clin North Am 2002;20:181—93.
2 気道管理 13 ◑ 気道の異常事態に対する対処は最優先される。◑ 麻酔導入時の危機管理には,日本麻酔科学会策定の「気道管理ガイドライン」を参照する1)。 輪状甲状膜切開を含めてDAM アルゴリズムを用いた訓練を日ごろから実施しておく。◑ 術中に心停止となったら,100%酸素で換気する。用手的に換気し,胸部の挙上,換気抵抗, 胸部の聴診で換気を確認する。胸骨圧迫が適切ならばEtCO2 が10 mmHg 以上観察される2)。突然の高度な低酸素血症では,肺塞栓症を考慮する。可及的に体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)を確立する3)4)。 予防◑ 気管挿管前の評価を適切に行う。◑ 意識下挿管や事前の気管切開の計画や,リスクに応じて,気管支ファイバースコープ,輪状甲 状膜切開,気管切開,VV ECMO などを準備する。◑ 高リスク群では,専門医2 名以上で対応する。◑ 麻酔導入前に十分な酸素化を実施する。◑ 麻酔カートには声門上器具を常備する。ビデオ付き喉頭鏡も常備することが望ましい。 発生時の対応 アルゴリズム手順に沿って対応する(図)。◑ 心停止後の対応(レッドゾーンの対応) ◑ 事故抜管であるなら,声門上器具を挿入する。◑ 声門上器具を通しての気管挿管,声門上器具とファーバースコープを組み合わせての気管挿 管などを実施する。◑ 同一施行者による操作あるいは同一器具を用いた操作を,とくに直視型喉頭鏡,またはビデオ 付き喉頭鏡で3 回以上繰り返すことは避けるべきである。◑ 輪状甲状膜切開を実施する。または気管切開を実施する。◑ 気管切開や輪状甲状間膜穿刺の位置確認のガイドに超音波装置を使用することが推奨される。◑ 大口径の静脈留置針による穿刺や緊急ジェット換気は避けるべきである(エアートラッピン 気道管理
14 2 気道管理 グ,気胸,皮下気腫,縦隔気腫などを合併しやすい)。◑ 患者本人の気道,呼吸機能が著しく障害されている場合は,迅速にECMO を導入する。 エアートラッピングとauto-PEEP(positive end-expiratory pressure;呼気終末陽圧) auto-PEEP はPEA の原因になりうる内因性PEEP として知られている5)。重篤な喘息発作や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者では,呼気が終了する前に次の呼吸が発生し,気道に過剰な圧がかかる。結果として静脈還流が減少する6)7)。圧容量曲線などの呼吸メカニクスグラフィクスが解析に有効である8)。 参考文献1) 日本麻酔科学会.日本麻酔科学会気道管理ガイドライン2014(日本語訳):より安全な麻酔導入のために.http:⊘⊘www. anesth.or.jp⊘guide⊘pdf⊘20150427-2guidelin.pdf 2) Sandroni C, Santis PD, DʼArrigo S. Capnography during cardiac arrest. Resuscitation 2018;132:73⊖7. 3) Bartlett RH, Gattinoni L. Current status of extracorporeal life support(ECMO)for cardiopulmonary failure. Minerva Anestesiol 2010;76:534⊖40. 4) Charlesworth M, Barker JM, Greenhalgh D, et al. Perioperative extracorporeal cardiopulmonary resuscitation:Te defibrillator 図 心停止時の気道管理アルゴリズムDAM:difficult airway management,LMA:laryngeal mask airway,CTM:輪状甲状膜 輪状甲状膜からの気道確保 皮膚 :2-3 cm 縦切開CTM:1.5 cm 横切開 キットによるCTM 穿刺 or CTM 切開 異常事態の宣言救急カート,DAM カートを手配用手的に換気:気道内圧,換気量の確認,胸部聴診100% 酸素で換気する循環の維持 換気状態を評価し,V3(換気異常,気道確保困難,重篤な低酸素血症に進展,換気不能)である 事故抜管が疑われるDAM アルゴリズムに従いマスク換気から開始する いいえはい レッドゾーン いいえはい換気・酸素化が確立 CTM 同定が可能 気管切開 頸部切開 CTM 同定が可能 換気が確立 DAM アルゴリズムに従って一度再挿管を試みるLMA などの声門上器具を使用する酸素化が困難であるはいいいえ いいえ はい
2 気道管理 15 of the 21st century ?:A case report. A A Pract 2018;11:87⊖9. 5) Rogers PL, Schlichtig R, Miro A, et al. Auto-PEEP during CPR. An"occult"cause of electromechanical dissociation? Chest 1991;99:492⊖3. 6) Pepe PE, Marini JJ. Occult positive end-expiratory pressure in mechanically ventilated patients with airflow obstruction:Te auto-PEEP effect. Am Rev Respir Dis 1982;126:166⊖70. 7) Franklin C, Samuel J, Hu TC. Life-threatening hypotension associated with emergency intubation and the initiation of mechanical ventilation. Am J Emerg Med 1994;12:425⊖8. 8) Lu Q, Rouby JJ. Measurement of pressure⊖volume curves in patients on mechanical ventilation:Methods and significance. Crit Care 2000;4:91⊖100.
16 3 出血による心停止 学習項目 術中心停止の原因分析によると,大量出血は術中心停止の原因の第1 位である。出血時の対処は日本麻酔科学会の「危機的出血ガイドライン」に従って管理する(図)1)。出血による心停止が発生したら,外科医とのコミュニケーションを図り最善を尽くす。 予防大量出血のリスクがある患者では,18 G 以上の太い輸液ラインをできるだけ上肢に複数本確保することが推奨される。開心術手術では右上肢が重要である。血圧変動への対応,採血検査の目的で,観血的動脈ラインを留置することは推奨される。 心停止発生時 麻酔科医は,非常事態を宣言しコマンダーを指名する。コマンダーは,マンパワーの召集,輸血部門への“非常事態発生”の連絡を行う。止血状況,血行動態,検査データ,輸血製剤の供給体制を総合的に評価し,手術の継続,術式変更などを術者と協議する。 麻酔科医 ◑ 術者に圧迫止血を指示し,外科医,麻酔科医とも人手を集める。◑ 100%酸素を投与する。麻酔薬を中止,あるいは減量する。◑ 無脈性電気活動(PEA)にならないように昇圧薬を投与する。◑ 輸血が準備できるまで,細胞外液,人工膠質液などを輸液する。◑ 十分量の赤血球輸血,凝固因子を補充するための新鮮凍結血漿(FFP),血小板を投与する。◑ 循環動態,凝固系,酸素運搬能,体温管理,酸塩基平衡を維持する。◑ 緊急時には,表(おもて)試験の一致した血液,O 型Rh(-)などの輸血を考慮する。◑ 低カルシウム血症に対して,カルシウム製剤を投与する。輸血,輸液は加温し,低体温を防止 する。大量輸血中は血清カリウム値の上昇2),カルシウム値の低下3)に留意する。 出血による心停止
3 出血による心停止 17 ◑ 急速輸血装置,血液回収装置を準備,操作する。出血時には,低血圧,少量輸液で凝固因子の 希釈や出血の軽減を試みる管理があるが,予後に関して明確な結論は出ていない4)5)。 外科医 ◑ 圧迫止血,ガーゼパッキングなどの応急処置を講じる。多くの場合,圧迫によって循環動態の 安定を得ることができる。◑ 大動脈バルーン閉鎖術が可能かどうかを検討する。◑ ダメージコントロール手術が適切かどうかを検討する6)。◑ 状況を見て,家族への説明を考慮する。 看護師 ◑ 輸血オーダーの指示を受け,インシデントの発生に注意する。◑ 出血量の測定・記録を実施する。◑ 輸血・輸液療法を介助する。◑ 病棟や家族への連絡を調整する。 図 危機的出血への対応アルゴリズム CPR の開始胸骨圧迫・人工呼吸,過換気を避けるアドレナリン 1 mg 投与血管内容量の是正異型輸血でもよいので輸血する赤血球,新鮮凍結血漿,血小板は1:1:1の比で体温管理 非常事態宣言コマンダーの決定マンパワー確保 麻酔科医外科医とのコミュニケーション100%酸素で換気する麻酔薬の減量を考慮する血管内容量の適正化(最大限の輸血,輸液)心停止を避けるために昇圧薬を投与するアドレナリン 0.1-1 mgエフェドリン 20-40 mg,フェニレフリン 0.5-1 mg追加の静脈路を確保する採血検査,投薬(カルシウム,トラネキサム酸など)頸動脈の触知,SpO2,EtCO2 をモニタリング輸血部同型・適合血液の供給在庫量の把握と発注 コマンダーの責務止血状況確認(圧迫指示)血行動態マンパワーの結集役割分担の指示検査データ輸血製剤の供給手術継続の可否,術式の変更 外科医出血源の特定,止血処置圧迫止血ガーゼパッキング大動脈遮断出血が抑えられたら指示を待つ術式の検討(必要なら応援の要請)責任医師へ連絡家族への説明看護師・コメディカル出血量測定,記録輸血・輸液の解除急速輸液装置,血液回収装置の配置,操作家族への連絡 危機的出血の発生 循環の安定非常事態の解除 CPR の開始止血大動脈遮断体外循環ダメージコントロール手術心停止 術式の検討家族への説明 血液備蓄量,血液センターからの緊急搬送所要時間,夜間の輸血管理部門の体制などによって,赤血球製剤選択の範囲は異なる。注: 緊急度コードを用いた輸血管理部門への連絡と赤血球輸血(例) 患者,出血の状況出血しているが循環は安定 昇圧薬が必要な状態(産科危機的出血)心停止が切迫(危機的出血)緊急度コード III II I赤血球製剤の選択例 交差済同型血未交差同型血も可異型適合血(緊急O型血)も可
18 3 出血による心停止 臨床工学技士 ◑ 急速輸液装置,血液回収装置を準備し,操作する。 参考文献1) 日本麻酔科学会.危機的出血への対応ガイドライン.http:⊘⊘www.anesth.or.jp⊘guide⊘pdf⊘kikitekiGL2.pdf 2) Smith HM, Farrow SJ, Ackerman JD, et al. Cardiac arrests associated with hyperkalemia during red blood cell transfusion:A case series. Anesth Analg 2008;106:1062. 3) Howland WS, Schweizer O, Carlon GC, et al. Te cardiovascular effects of low levels of ionized calcium during massive transfusion. Surg Gynecol Obstet 1977;145:581⊖6. 4) Holcomb JB, Tilley BC, Baraniuk S, et al. Transfusion of plasma, platelets, and red blood cells in a 1:1:1 vs a 1:1:2 ratio and mortality in patients with severe trauma:Te PROPPR randomized clinical trial. JAMA 2015;313:471⊖82. 5) Delaney M, Stark PC, Suh M, et al. Massive transfusion in cardiac surgery:Te impact of blood component ratios on clinical outcomes and survival. Anesth Analg 2017;124:1777⊖82. 6) Lamb CM, MacGoey P, Navarro AP, et al. Damage control surgery in the era of damage control resuscitation. Br J Anaesth 2014;113:242⊖9.
4 右心不全/肺高血圧,肺塞栓症 19 学習内容 ここでは,術中心停止の特徴および初期対応の基本,そして右心不全/肺高血圧,肺塞栓症に伴う心停止を理解する。 術中心停止の特徴および初期対応の基本 術中の心停止の特徴としては多くの場合,1現病歴や既往歴が把握されていること,2モニター装着下,3目の前で発生,4麻酔薬や手術の影響を考慮,の4 つが挙げられる1)。しかしながら,一度,心停止となれば迅速な行動が要求され,ただちに胸骨圧迫を中心とした質の高い一次救命処置を開始,チームでアルゴリズムに基づいた蘇生を行うことが重要であることには変わりはない。蘇生チームのリーダーは,麻酔科医が適任である。心停止アルゴリズムでは,原因検索とその治療,アドレナリン投与,電気ショック適用リズムであれば除細動が基本となる2)。電気ショック非適用リズムでの原因検索では,出血(循環血液量減少)や低酸素血症を最初に鑑別(除外)するとともに,麻酔薬や手術の関与も考慮する必要がある3)~5)。術中は手術操作,電気メス,末梢循環不全などによる心電図やパルスオキシメータの誤認に加え,患者の訴えがないこと,調節呼吸が行われていること,体位やドレープで覆われ所見を取りにくいことなどから,心停止の発見が遅れる可能性がある。一般的には,心拍数が速い(→出血,緊張性気胸,心タンポナーデ,肺塞栓),遅い(→低酸素血症)が原因検索の手がかりのひとつになる2)が,術中は麻酔薬の影響で修飾される可能性がある。挿管されている場合は,EtCO2モニターが心停止,あるいは自己心拍再開の客観的かつ有用な指標になる2)。 右心不全/肺高血圧 右室機能評価の指標としては,頸静脈怒張,肝腫大,浮腫などの臨床所見に加え,断層心エコーでの右室面積変化率,三尖弁輪部移動距離,三尖弁輪部収縮速度,三尖弁逆流血流速度からの推定右室圧,下大静脈径,三次元心エコーでの右室容量,駆出率などがある6)。右室は後負荷の上昇で心拍出量が顕著に減少するため,肺血管抵抗上昇が急性右心不全の引金となる7)。 右心不全/肺高血圧,肺塞栓症
20 4 右心不全/肺高血圧,肺塞栓症 術中モニターとしては,肺動脈カテーテルや心エコーなどを使用し,心タンポナーデ,緊張性気胸,肺塞栓症,閉塞性肺疾患でのauto-PEEP,肺血管抵抗上昇を来す要因(低酸素血症,アシドーシスなど)など,治療可能な病態を鑑別する必要がある。両心不全としての右心不全/肺高血圧の可能性もある。外傷患者での心タンポナーデ,緊張性気胸,腹腔鏡手術での緊張性気胸,深部静脈血栓高リスク患者での肺血栓塞栓症などは,発見・治療開始が遅れれば重篤な結果を招きうる。心停止でなければ,右心不全アルゴリズムに沿った治療を開始する。アルゴリズムを図1 に示す。治療としては,原因(病態)への対処,輸液負荷,右室収縮力改善,冠動脈灌流圧維持,肺血管抵抗上昇に対するプロスタグランジン製剤,エンドセリン拮抗薬,ホスホジエステラーゼ(PDE)V阻害薬,可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬(リオシグアト)投与,一酸化窒素(NO)吸入を治療への反応を見ながら行うことになる。体外循環(right ventricular assist device: RVAD,extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)が適用となる場合もある8)。心停止になれば,成人心停止アルゴリズムに従う2)。 肺塞栓症 手術中に発生する肺塞栓症としては,血栓塞栓症,ガス塞栓症,脂肪塞栓症などがあるが,頻度としては血栓塞栓症がもっとも多い。肺血栓塞栓症の多くは深部静脈血栓症から発症することから,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)として一括されることがある。血栓 図1 右心不全アルゴリズムPEEP:positive end-expiratory pressure,CVP:central venous pressure,RVAD:right ventricular assist device,ECMO:extracorporeal membrane oxygenation 治療可能な病態の鑑別・治療(心タンポナーデ,気胸など) 低酸素血症・アシドーシス治療(可能であれば PEEP↓) 輸液・輸血考慮(時に CVP>12必要) 右心収縮力改善(ドブタミン/ミルリノン) 低血圧改善(バソプレシン/ノルアドレナリン) RVAD/ECMO 考慮 肺血管拡張薬考慮 (本文参照)
4 右心不全/肺高血圧,肺塞栓症 21 塞栓症では,血栓による機械的閉塞に加え,血栓から放出される体液性因子と低酸素血症からの肺動脈攣縮も加わり,肺動脈圧が上昇し,右心不全~両心不全を来す。局所的な気管支攣縮も低酸素血症の要因のひとつである。抗凝固薬投与,間欠的空気圧迫法(intermittent pneumatic compression:IPC)を行っても,発生を完全に予防することはできない9)。VTE のリスク評価は,リスクレベル(VTE 既往,血栓性素因,40 歳以上のがんの大手術など)や危険因子(VTE既往,血栓性素因,下肢麻痺,高齢,長期臥床,うっ血性心不全など)などから総合的に行う10)。肺塞栓症に特異的な症状・徴候はなく,急激に発症する低酸素血症,呼気終末二酸化炭素分圧(PETCO2)低下,低血圧,頻拍(時に不整脈,徐脈),気管支攣縮による気道内圧の上昇などがある。早期治療開始のためにも本症を疑い,迅速に鑑別診断する必要がある。手術中や循環動態が不安定な場合での診断には心エコーが有用である。ガス塞栓症は,腹腔鏡手術,座位,中心静脈穿刺時などで発生しうるが,ガス送気下の微小侵襲手術(minimally invasive procedures)でも注意が必要である。ガス塞栓症が疑われる場合は,送気中止,術野を生理食塩液でカバー,頭低位などを指示する。急性期PTE では,発症早期(1 時間以内)の全身管理が予後を改善しうる10)。内容としては,胸腔内圧を上げない(少なめの1 回換気量,PEEP 調整),過度の輸液負荷を避ける,ドブタミン・ノルアドレナリンなどでの循環動態維持,抗凝固療法〔未分画ヘパリン80 単位/kg→18 単位/kg/hr,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)確認〕,循環虚脱でのECMO(veno— arterial),外科的血栓摘除術の考慮などである10)。心停止になれば,成人心停止アルゴリズムに従う1)。肺塞栓症の治療アプローチを図2 に示す。 図2 肺塞栓症の治療アプローチECMO:extracorporeal membrane oxygenation 肺塞栓症疑い 右心不全アルゴリズム 心肺蘇生・ECMO 考慮 外科的血栓摘除術考慮 ガス塞栓:送気中止など 鑑別診断 ショック状態継続 抗凝固療法考慮
22 4 右心不全/肺高血圧,肺塞栓症 参考文献1) Moitra VK, Einav S, Ties KC, et al. Cardiac arrest in the operating room:Resuscitation and management for the anesthesiaologist:Part 1. Anesth Analg 2018;126:876—85. 2) American Heart Association. Te ACLS cases. Advanced Cardiovascular Life Support(ACLS)Provider Manual. Dallas: AHA;2016. p.43—154. 3) Sprung J, Warner ME, Contreras MG, et al. Predictors of survival following cardiac arrest in patients undergoing noncardiac surgery:A study of 518,274 patients at attending referral center. Anesthesiology 2003;99:259—69. 4) Pollard JB. Cardiac arrest during spinal anesthesia:Common mechanisms and strategies for prevention. Anesth Analg 2001: 92:252—6. 5) Kopp SL, Horlocker TT, Warner ME, et al. Cardiac arrest during neuroaxial anesthesia:Frequency and predisposing factors associated with survival. Anesth Analg 2005;100:855—65. 6) Tei C, Dujardin KS, Hodge DO, et al. Doppler echocardiographic index for assessment of global right ventricular function. J Am Soc Echocardiogr 1996;9:838—47. 7) Haddad F, Doyle R, Murphy DJ, et al. Right ventricular function in cardiovascular disease, Part ll:pathophysiology, clinical importance, and management of right ventricular failure. Circulation 2008;117:1717—31. 8) Ventetuolo CE, Muratore CS. Extracorporeal life support in critically ill adults. Am J Respir Crit Care Med 2014;190:497— 508. 9) Goldhaber SZ, Visani L, DeRosa M. Acute pulmonary embolism:Clinical outcome in the International Cooperative Pulmonary Embolism Registry(ICOPER). Lancet 1999;353:1386—9. 10) 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017 年改訂版,2018 年8 月31 日更新). http://j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_ito_h.pdf
5 術中の心原性ショックによる左心不全 23 学習項目 ここでは,心原性ショックの病態,急性冠症候群や心筋虚血の初期評価方法や対処法,心原性ショックによる左心不全の対応法について学ぶ。 病態心原性ショックは,心筋梗塞や心筋障害に伴う左室ポンプ障害である1)。左室収縮力低下により心拍出量(CO),1 回拍出量(SV)が低下し低血圧となり,それがさらに冠灌流圧を下げて心筋虚血を増強して心筋障害が悪化する。また,左室拡張機能障害により左室拡張末期圧(LVEDP)が上昇して,肺うっ血,低酸素血症となり心筋虚血を悪化させる。 術中の急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)および心筋虚血 心原性ショックのもっとも頻度が高い原因は心筋虚血であり,最重症であるACS では迅速な対応が求められる。一般的な救急現場でのACS の初期診療アルゴリズム2)では,虚血を示唆する胸部不快感が初発症状となり,そこから初期診療が開始されるが,全身麻酔中は患者の訴えはないのでバイタルサインから疑うことで初期診療が開始される。バイタルサインは絶えず観察しているので,初期治療が遅れないように注意する。以下に注意点を列挙する。◑ 術前の問診などで,心筋虚血のエピソードがある患者や,重症な大動脈弁狭窄症患者などのハ イリスク患者は,特に術中バイタルサインが安定するように全身管理する。◑ 術中の麻酔深度が極端に浅くならないように注意する。鎮痛不十分のためや,突然の大きな手 術侵襲後の血行動態の急激な変化を防ぐ。もし大きな血行動態の変動が起これば,その後のバイタルサインの観察はしっかり行う。◑ 心電図のST 変化を伴う頻脈や徐脈および低血圧を認めた場合は心筋虚血を疑う。一般的に, 術中モニタリングで用いられるII誘導は主に右冠動脈領域の評価に有用である。そのほかの冠動脈評価には,I誘導や5 極誘導心電図が必要である。◑ ST 変化や心筋虚血を疑ったさいは,応援要請や循環器内科に相談する。 術中の心原性ショックによる左心不全
24 5 術中の心原性ショックによる左心不全 ◑ 心筋虚血を疑うさいには,12 誘導心電図を施行する。◑ 同時に可能なら経食道心エコーや経胸壁心エコーで左室の壁運動異常,弁の異常,左室駆出率 などから心収縮力低下,左室流出路障害,経僧帽弁血流波形などから左室拡張能低下,心タンポナーデなどの有無を可及的速やかに評価する。◑ 左心不全によるショックは,心原性ショック以外にも循環血液量減少,心タンポナーデ,緊張 性気胸などにも起因するので,鑑別診断が必要である。◑ 12 誘導心電図でST 上昇または新規の左脚ブロックを認めた場合,ST 上昇型急性心筋梗塞 (ST—elevation type acute myocardial infarction:STEMI)である。速やかに循環器科医に連絡して,手術を可及的速やかに終了し,再灌流療法を優先する。◑ 12 誘導心電図でST 低下またはT 波の陰転を認めた場合,不安定狭心症(unstable angina: UA)または非STEMI(NSTEMI)である。外科医,循環器科医と協議して手術中止,縮小手術,継続を決定して,術後は集中治療室などでの管理を検討する。◑ 12 誘導心電図で正常または判定困難なST—T 変化を認めた場合,中・低リスクのUA である。 外科医,循環器科医と協議して手術中止,縮小手術,継続を決定して,術後は集中治療室などでの管理を検討する。◑ 手術中は過剰な酸素投与は避ける。STEMI では酸素飽和度90%,STEMI 以外では94%あれ ばよい。◑ アスピリンなどの抗血小板薬,未分画ヘパリンなどの抗凝固薬は,術野からの出血助長の可能 性があるので,外科医,循環器科医とよく協議する。◑ ニトログリセリンに関して,予防的投与に有効性はない3)。低血圧,勃起不全治療薬の使用患 者への使用は禁忌である2)。◑ モルヒネはSTEMI 患者に静脈内投与・点滴投与するべきである2)。NSTEMI を疑う患者で は,モルヒネの静脈内投与は,死亡率や心筋梗塞発症率の増加に関与することが報告されているので注意深く投与する4)。◑ 非ステロイド性抗炎症薬〔NSAIDs(アスピリンを除く)〕は,ACS を増悪させる可能性があ り,使用しない2)。 心原性ショックによる左心不全の対応 心原性ショックによる左心不全の対応を図5)に示す。心エコーや肺動脈カテーテルのような侵襲的なモニターが左室機能不全の処置を導いていく。循環血液量減少は左室機能低下患者のショックを誘発したり,左心不全を増強するので,薬物治療開始の前に循環血液量減少の評価と適正化が必要である。左心不全で循環血液量が満たされている低血圧患者は,陽性変力作用や後負荷軽減作用を持つ薬物を用いる1)5)6)。重度の左室拡張障害を伴う患者には,ミルリノンなどのホスホジエステラーゼ(phosphodiesterase)III(PDE III)阻害薬は心拍出量を改善する。PDE III阻害薬はcAMP の分解を減少させてプロテインキナーゼA(protein kinase A:PKA)活性を増加さ
5 術中の心原性ショックによる左心不全 25 せる。PKA の活性化は,心収縮力の増強,心筋の弛緩および血管平滑筋の弛緩を誘発する。これらの作用は,心不全患者でダウンレギュレーションされているβアドレナリン受容体とは無関係に作用するので,心収縮力と心拍出量が増加する。近年では,大動脈内バルーンパンピング,心室補助装置,体外式膜型人工肺などの体外生命維持装置は,回復の見込みが高い入院患者の左心不全,右心不全,心停止に用いられるようになった7)8)。 図 心原性ショックによる左心不全の処置アルゴリズムCVP:central venous pressure〔(mmHg)中心静脈圧〕,ECMO:extracorporeal membrane oxygenation(体外式膜型人工肺),Hct:hematocrit(ヘマトクリット),IABP:intraaortic balloon pump(大動脈内バルーンパンピング),LV:left ventricular(左室),LVAD:left ventricular assist device(左心補助装置),PPV: pulse pressure variation〔(%)脈圧変動〕,ScvO2:central venous oxygen saturation(中心静脈血酸素飽和度),SPV:systolic pressure variation〔(%)収縮期血圧変動〕,SvO2:mixed venous oxygen saturation(混合静脈血酸素飽和度), SVR:systemic vascular resistance〔(dyne・sec-1・cm-5)体血管抵抗〕,TEE: transesophageal echocardiography(経食道心エコー検査),TTE:transthoracic echocardiography(経胸壁心エコー検査) [Morita VK, Einav S, Thies KC, et al. Cardiac arrest in the operating room: Resuscitation and management for the anesthesiologist:Part 1. Anesth Analg 2018;126:876‒88 より改変転載] 低血圧?血管収縮または幅の狭い脈波(例:低心拍出量の高血圧患者)後負荷軽減ヒドララジンニカルジピンニトロプルシドニトログリセリン No 左室容量を評価(CVP,SPV,PPVなど) (LV充満不十分) CVP<12 または SPV/PPV>12 (目安) CVP>12 SvO2 または ScvO2 低値SPV/PPV>15(目安) Hct<目標赤血球輸血 膠質液心タンポナーデを除外緊張性気胸を除外 No Yes Yes CVP>12 SPV/PPV<15 (目安) (LV充満十分, 弱い収縮力) ドブタミンアドレナリン まだ低血圧性ショック?血管拡張 または幅の広い脈波? (例:SVR 150-400)バソプレシンノルアドレナリンアドレナリン+ドブタミン フェニレフリンSVR を正常下限に努力(例:SVR<800) エコー上拡張障害あり? ミルリノンIABP LVAD または ECMO Yes No Yes No 心筋や末梢組織に 虚血の兆候 左心不全はあるか?原因検索で TTE/TEE まだ低血圧性ショック?
26 5 術中の心原性ショックによる左心不全 参考文献1) Reynolds HR, Hochman JS. Cardiogenic shock;Current concepts and improving outcomes. Circulation 2008;117:686—97. 2) 第5 章 急性冠症候群.一般社団法人日本蘇生協議会監修.JRC 蘇生ガイドライン 2015.東京:日本蘇生協議会; 2015.p.291—344. 3) Fleisher LA, Fleischmann KE, Auerbach AD, et al. 2014 ACC⊘AHA guideline on perioperative cardiovascular evaluation and management of patients undergoing noncardiac surgery. A report of the American College of Cardiology⊘American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. Circuration 2014;130:e278—333. 4) Meine TJ, Roe MT, Chen AY, et al. Association of intravenous morphine use and outcomes in acute coronary syndromes:Results from the CRUSADE Quality Improvement Initiative. Am Heart J 2005;149:1043—9. 5) Moitra VK, Einav S, Ties KC, et al. Cardiac arrest in the operating room:Resuscitation and management for the anesthesiologist:Part 1. Anesth Analg 2018;126:876—88. 6) Topalian S, Ginsberg F, Parrillo JE. Cardiogenic shock. Crit Care Med 2008;36(1 Suppl):S66—74. 7) Shekar K, Mullany DV, Tomson B, et al. Extracorporeal life support devices and strategies for management of acute cardiorespiratory failure in adult patients:A comprehensive review. Crit Care 2014;18:219. 8) Ventetuolo CE, Muratore CS. Extracorporeal life support in critically ill adults. Am J Respir Crit Care Med 2014;190:497— 508.
6 局所麻酔薬中毒による心停止 27 学習項目 局所麻酔薬による神経ブロックが頻用されるようになり,局所麻酔薬の中毒の機会が増える可能性がある。局所麻酔薬中毒への対応は,日本麻酔科学会策定のプラクティカルガイドを参照する1)。 準備◑ 末梢神経ブロック時には,心電図,パルスオキシメータを装着し,血圧は5 分間隔で測定する。◑ 手術室内に局所麻酔薬中毒に対応するための脂肪乳剤を配置する。◑ 末梢神経ブロック時に患者の体重を考慮して,適切な薬物投与量とする。◑ 注入は,吸引試験後に少量ずつ投与する。 対応(図) 局所麻酔中毒を疑う以下の所見が認められたら,(1)—(9)の手順で対応する。疑う症候:舌・口唇の痺れ,興奮,めまい,呂律困難,視力・聴力障害,ふらつき,痙攣,意識障害,呼吸停止,心停止(1)局所麻酔薬投与の中止(2)応援の要請(3)気道確保,100%の酸素投与,必要なら通常のCPR を開始する(4)静脈路の確保(5)抗痙攣薬の投与(ベンゾジアゼピンが推奨される,プロポフォールは血圧低下に注意が必 要) (6)必要に応じてCPR を開始するアドレナリンは通常どおりに投与する局所麻酔薬中毒による心停止は,蘇生に時間を要することがあるが,諦めないで治療す ること2) 局所麻酔薬中毒による心停止
28 6 局所麻酔薬中毒による心停止 (7)不整脈の対応アミオダロンを優先するリドカインは用いない(8)脂肪乳剤の投与100 ml を1 分で投与,その後1000 ml/hr で投与5 分後,循環の改善がなければ100 ml を追加(ボーラス投与は3 回まで)プロポフォールを代用として投与しないこと(9)治療に反応しない,あるいは反応しにくい場合は,体外循環の確立を同時進行する 参考文献1) 公益社団法人日本麻酔科学会.局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド.2017 年6 月制定.http://www.anesth.or. jp/guide/pdf/practical_localanesthesia.pdf 2) McEvoy MD, Ties KC, Einav S, et al. Cardiac arrest in the operating room:Part 2—Special situations in the perioperative peri- od. Anesth Analg 2018;126:889—903. 図 局所麻酔薬中毒への対応アルゴリズム ABC:Airway/Breathing/Circulation蘇生を開始体外循環の準備蘇生を諦めない 局所麻酔薬中毒が疑われる 局所麻酔薬の投与中止 応援の要請ABCの確保 ベンゾジアゼピンが推奨血圧・心拍が不安定な場合,プロポフォールは使用不可 痙攣の治療 採血1.5 ml/kg(100 ml)を約1分かけて投与0.25 ml/kg/min(17 ml/min ≈ 1,000 ml/hr)で持続投与5分後,循環の改善が得られなければ再度1.5 ml/kg(100 ml)を投与持続投与量を2倍の0.5 ml/kg/min (2,000 ml/hr)に増量 5分後に再度1.5 ml/kg(100 ml)を投与(ボーラス投与は3回が限度)循環の回復・安定後もさらに10分間は脂肪乳剤の投与を継続する 1. 2. 3. 4. 5. 6 ※ 総投与量10 ml/kg以下で蘇生効果あり 小児も同様で効果あり 注:( )内は体重70 kgの場合の概算 不整脈の治療にはアミオダロンを優先する不整脈の治療目的でリドカインを用いない血圧の維持脂肪乳剤の投与
7 悪性高熱症患者の心停止 29 学習項目 悪性高熱症への対応アルゴリズムは,日本麻酔科学会策定のガイドラインを参照する1)。悪性高熱症はまれな疾患であるが,発症からの進行が急速であり適切な対応が要求される。悪性高熱症が疑われるときには,早期にダントロレンを投与することが重要である。 全般的な注意事項 [準備]ハイリスク患者を同定する。病院内のダントロレンの在庫数,使用期限を確認する。不足分のダントロレンの供給に関して,製薬業者,薬品問屋,近隣の病院などのネットワークを構築しておく。心停止,危機的状態に陥った場合は,通常のCPR に加えて次の手順を考慮する(図)。(1)原因となる揮発性吸入麻酔薬の中止と,静脈麻酔薬へ変更する(2)100%酸素を10 l/min 以上で回路内を洗い出す(3)分時換気量を2 倍にする(4)外科医に手術の早期中止を依頼(5)非脱分極性筋弛緩薬の投与(6)ダントロレンの早期投与(i)1 瓶20 mg を注射用蒸留水60 ml で溶解する(かなり溶けにくい,溶解液を40°C程度 に温めると溶解しやすい)2) (ii)1—2 mg/kg を15 分で投与する(7)体温の低下,EtCO2 の低下,筋強直の改善,心拍数の低下を指標に繰り返し投与する(8)体温を下げるため,冷却した生理食塩液を投与する(50—60 ml/kg) (9)体表クーリングは,体表面を露出し水などをかけつつ送風する(核心温が38°Cになったら 冷却は中止する) (10)対症療法(i)不整脈治療:カルシウム拮抗薬は投与しない(ダントロレンとの同時投与で心停止の報 告あり) (ii)高カリウム血症治療:1カルシウム(最大:塩化カルシウム2 g,グルコン酸カルシウ 悪性高熱症患者の心停止
30 7 悪性高熱症患者の心停止 ム3 g)/2グルコース-インスリン療法(インスリン10 単位に50%ブドウ糖液50 mlを1 時間で投与する)/3利尿薬(フロセミド0.5—1.0 mg/kg の投与) (iii)高クレアチニンキナーゼ,高ミオグロビン血症:1炭酸水素ナトリウム1 mEq/kg/hr で尿のアルカリ化を図る/2ハプトグロビン2 単位/kgを目安に4,000 単位まで投与する (iv)代謝性アシドーシス:炭酸水素ナトリウム1—2 mEq/kg の投与(11)観血的動脈圧ラインの挿入(12)採血(動脈血ガス,酸塩基平衡,乳酸,電解質,血糖,CK,ミオグロビン定性・定量),尿 検査:検査は,発症時,30 分後,4 時間後,12 時間後,24 時間後,48 時間後が望ましい(13)いったん症状が改善したのちに再発することがあるので,集中治療室などで慎重に管理す る 参考文献1) 日本麻酔科学会安全委員会悪性高熱症WG作成.悪性高熱症患者の管理に関するガイドライン2016―安全な麻酔管理のために―.2016 年8 月.http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/guideline_akuseikounetsu.pdf 2) Mitchell LW. Leighton BL. Warmed diluent speeds dantrolene reconstitution. Can J Anaesth 2003;50:127—30. A:悪性高熱症を疑う症状 *「安全な麻酔のためのモニター指針」を遵守したうえで,体温とEtCO2 の連続モニターがなされていること図中の肩文字A,B,C,D,Eは右のチェック項目に対応DIC:disseminated intravascular coagulation (注1) (注2) (注3) No Yes Yes Yes No No □ 説明のできない EtCO2 の高値□ 原因不明の頻脈□ 体温上昇速度≧0.5 °C/15 min □ 体温≧38.8 °C □ 開口障害□ 筋強直□ コーラ色の尿□ 代謝性アシドーシス(BE≦-8.0) □ PaCO2<EtCO2 B:対症療法(ただちに実施すべき) □ 緊急事態宣言□ 起因薬物の投与中止・静脈麻酔に変更□ 人手を集め,手術の早期終了を要請□ 高流量酸素投与・分時換気量を2倍以上で換気C:ダントロレン投与(ただちに実施すべき) □ 専用末梢ラインを確保□ 1瓶 20 mg あたり注射用蒸留水 60 ml で溶解□ 1 mg/kg(できれば 2 mg/kg)を15 分で投与□ 症状により適宜増減し,最大投与量は7 mg/kg までD:対症療法□ 動脈圧ラインを確保□ 冷却生理食塩液(最大50-60 ml/kg)を投与□ 体表冷却(室温を下げ,室温で送風) □ 不整脈治療(Ca 拮抗薬は投与しない) □ 他の対症療法:グルコース-インスリン療法,利尿,酸塩基平衡補正など□ (可能なら)気化器を取り外して麻酔回路を交換E:推奨する血液検査の種類と実施時期血液検査:血液ガス分析,血糖,電解質,乳酸,CK,ミオグロビン定性・定量(尿も),生化学(腎機能,肝機能),DIC 検査のための血液凝固系実施時期:発症時・30 分後・4・12・24・48 時間後を推奨 全身麻酔中である* 説明のできない EtCO2 の高値があるまたは悪性高熱症を疑う症状Aがある 対症療法B・Dダントロレン投与C 血液検査E 換気量を増加させても EtCO2 が 増加する 他に原因がある 原因病態治療 体温上昇が持続する 図 悪性高熱症の治療手順
8 緊張性気胸と心タンポナーデ 31 腹腔鏡下の手術などでは,通常は急激なバイタルサインの変化は少ない。しかし,急な頻脈を伴った血圧低下や酸素飽和度の低下,1 回換気量低下などの心停止・危機的状況が発生した場合は,総論に示されたアルゴリズムに従って“緊急事態を術者に知らせ”,単独での対応は難しいので“助けを呼ぶ”,心停止時の治療として“除細動器を準備”することも必要である。次に“100%酸素”での換気,“輸液全開”,バイタルサインの再チェックなどを行いつつ,“原因を考える”ことが迅速な対応につながる。特に閉塞性ショックである緊張性気胸や心タンポナーデにおいては,急速にショックが悪化し心停止に至る危険性が高いが,的確な対応によって改善する可能性は高い。的確な対応にはシミュレーション訓練を行うなどによるチームでの対応訓練が重要であり,そしてチームリーダーとしての麻酔科医の役割は最重要である。 緊張性気胸 1)全般的な注意事項本邦でも多数の症例報告1)~6)があるが,救命するためには診断および処置を迅速に行う必要がある7)。近年は,腹腔鏡,後腹膜鏡,胸腔内陽圧の胸腔鏡などによる加圧しての内視鏡操作を伴う手術が増えており,注意が必要である8)。 2)原因および診断と治療(a)原因周術期の緊張性気胸の発症原因の分析7)では,圧外傷を含めた外傷性のものが66%ともっとも多い。そのためか両側での発症も24.4%となっている。(b)診断緊張性気胸で得られる所見を表1 にまとめたが,近年では経胸壁超音波検査による肺エコー(図1)9)10)が有用であるとされている。挿管されている患者が低酸素血症や低血圧へ急変する主な原因は,下記のDOPE としてまとめられるが,麻酔中であればカプノグラフィが装着されていることが多く,その波形(カプノグラム)から多くの情報が得られる11)。◑ 気管チューブの位置異常(Displacement) ◑ 気管チューブの閉塞(Obstruction) 緊張性気胸と心タンポナーデ
32 8 緊張性気胸と心タンポナーデ ◑ 気胸(Pneumothorax) ◑ 機器の不具合(Equipment failure) (c)治療一般的なDOPE への対応手順は,用手換気で気道内圧と換気量との関係を確認しつつカプノグラフィで波形を確認することが推奨されるが,薬物の準備なども必要なので必ずしも用手換気にこだわる必要はないと考えられる。緊張性気胸に対する処置は,まず酸素化を図ることであり,胸腔からの速やかな脱気が重要である。緊急処置として推奨されているのは,第2 肋間鎖骨中線において第3 肋骨上縁から垂直に穿刺するアプローチによる脱気である。しかし,手術体位による臓器位置の変化や覆布などによって正確な位置を同定できない場合などがあり,必ずしもアプローチや手技は容易ではない。さらに診断が遅れた場合は予後不良となる場合も多く,治療は緊急処置を最優先とする。開胸中 表1 緊張性気胸の症候 1回換気量の低下脈圧の小さい低血圧頻脈(初期。低酸素が進行すると徐脈) 心電図変化:時計回り,または反時計回りの電気軸回転打診による鼓音頸静脈の怒張胸壁の動きの左右差気道内圧の急激な上昇低酸素気管の偏位皮下気腫聴診での呼吸音の減弱 図1 肺エコー[Cavayas YA, Girard M, Desjardins G, et al. Transesophageal lung ultrasonography:A novel technique for investigating hypoxemia. Can J Anaesth 2016;63:1266—76 より転載] (a)正常では,呼吸に合わせて肺臓側胸膜の移動が観察で き,M モードではseashore sign といわれる。(b)気胸では肺実質がないため,Mモードでは バーコードのように見える。
8 緊張性気胸と心タンポナーデ 33 であれば縦隔からの脱気も考慮すべきである。手術器材が使用できる場合は,それを使用することが望ましい。また,たとえ胸腔ドレーンが挿入してあっても診断から除外すべきでない12)。自発呼吸再開後にドレーンからの空気流入によって発症したという報告13)もあり,処置後の出血や肺損傷には注意が必要である。時間的制約もあるため,緊張性気胸への対応についてのシミュレーション訓練を行っておくことは,予後を改善するために非常に重要である14)。 心タンポナーデ 1)全般的な注意心タンポナーデは表2 のように,さまざまな原因で起こる。症状は表3 に示すが,いわゆるベックの三徴候(頸静脈怒張,低血圧,心音減弱)を呈さない症例が多い。原因として,術後やカテーテル操作に関わる症例が多い15)16)。心停止時のアルゴリズム〔“1 総論《はじめに》”の図2(p.8)を参照〕に従って治療を行うが,常に発症の可能性を念頭に置く必要がある。気腹による症例報告17)もある。 2)診断と治療(a)診断経胸壁ないしは経食道心エコー検査での診断が有用である15)18)。心囊液の貯留や下大静脈・肝 表2 心タンポナーデの原因 中心静脈カテーテル穿刺,挿入,抜去肺動脈カテーテル穿刺,挿入,抜去大動脈解離心膜炎外傷腎不全による尿毒症心肺蘇生での胸骨圧迫悪性新生物表3 心タンポナーデの症候 低血圧頻脈またはPEA頸静脈の怒張脈圧の狭小化心音の減弱 CPR でも触知されない脈拍 PEA:無脈性電気活動,CPR:心肺蘇生 図2 経食道心エコー検査による診断[McHugh SM, Wang X, Sullivan EA. Diagnosis of cardiac tamponade with transesophageal echocardiography following the induction of anesthesia for suspected testicular torsion. Ann Card Anaesth 2015;18:449—52 より転載] (a)里:心囊液の貯留(b)里:下大静脈の拡張,☆:肝静脈の拡張
34 8 緊張性気胸と心タンポナーデ 静脈の拡張(図2)のほかに,右心房の虚脱,右室の虚脱,左心室への流入血流低下や僧帽弁の開口遅延,僧帽弁E 波速度の低下,等容性拡張時間の延長などが見られる。(b)治療盲目的,ないしはエコーガイド下にドレナージを行うが,危険を伴う19)。治療方針は,病因,臨床症状,画像結果からスコア化して決める方法が提唱されている(表4)20)。この中でも重症胸部外傷,大動脈スタンフォードA 型解離,心室自由壁の破裂,医原性の出血でコントロールできないなどは,すべて緊急手術の適用である。 表4 スコア化による治療方針の決定 1 病因悪性新生物2 結核2最近の放射線治療1最近のウイルス感染1繰り返す心囊液貯留1慢性腎不全終末期1免疫不全1甲状腺機能亢進症・低下-1全身性の免疫疾患-1 2 臨床症状呼吸困難・頻呼吸1 起座呼吸3低血圧(収縮期血圧<95 mmHg) 0.5進行する洞性頻脈(心拍数に影響する薬物や甲状腺機能低下,尿毒症なし) 1乏尿1奇脈(>10 mmHg) 2心膜性の胸痛0.5心膜擦過音0.5急速に悪化する症状2ゆっくりした疾患の進行-1 3 画像結果胸部X 線写真での心拡大1 心電図変化0.5心電図の減高1心囊液貯留(>2 cm:拡張期) 3中等度の貯留(1—2 cm:拡張期) 1少量の貯留(<1 cm)外傷なし-1右心房の虚脱(心サイクルの1/3 以上) 1下大静脈>2.5 cm,心サイクルの50%以上虚脱1.5右室の虚脱2左房の虚脱1僧帽弁/三尖弁:呼吸性の流量変動1 swinging heart 1 1—3 の各スコアの合計が6 以上の場合は,適用外の場合を除いて心囊穿刺[Yerdel MA, Sen O, Zor U, et al. Cardiac tamponade as a life-threatening complication of laparoscopic antireflux surgery:The real incidence and 3D anatomy of a heart injury by helical tacks. J Laparoendosc Adv Surg Tech A 2018;28:1041—6 より改変転載]
8 緊張性気胸と心タンポナーデ 35 参考文献1) Yasumoto K, Kawaguchi T. Tension pneumothorax during general anesthesia. Masui 1975;24:183⊖6. 2) Hitomi K, Maeda L, Taniguchi A, et al. Two cases of tension pneumothorax caused by tracheal suction during the operation of pectus excavatum. Masui 1993;42:1517⊖20. 3) Bougaki M, Tarui K, Saito K, et al. Tension pneumothorax associated with re-intubation through percutaneous tracheostoma site. Masui 2006;55:626⊖9. 4) Isobe N, Sakaguchi H, Okano N, et al. Treatment of tension pneumothorax during total right breast extirpation and reconstruction with a flap of the latissimus dorsi muscle. Masui 2015;64:453⊖6. 5) Komasawa N, Ueki R, Kusuyama K, et al. Case of tension pneumothorax associated with asthma attack during general anesthesia. Masui 2010;59:614⊖7. 6) Morita M, Ikegami M, Tajima K, et al. Two cases of tension pneumothorax during posterior spinal fusion―Diagnosis and decision on emergency drainage―. Masui 2017;66:145⊖8. 7) Roberts DJ, Leigh-Smith S, Faris PD, et al. Clinical presentation of patients with tension pneumothorax:A systematic review. Ann Surg 2015;261:1068⊖78. 8) Inoue M, Nakasuji M, Kawasaki A, et al. Acute ventilatory failure during prone thoracoscopic esophagectomy with carbon dioxide insufflation in a patient managed by a single lumen tracheal tube. Masui 2015;64:833⊖6. 9) Shokoohi H, Boniface K. Hand ultrasound:A high-fidelity simulation of lung sliding. Acad Emerg Med 2012;19:E1079⊖ 83. 10) Cavayas YA, Girard M, Desjardins G, et al. Transesophageal lung ultrasonography:A novel technique for investigating hypoxemia. Can J Anaesth 2016;63:1266⊖76. 11) Bhavani-Shankar K, Moseley H, Kumar AY, et al. Capnometry and anaesthesia. Can J Anaesth 1992;39:617⊖32. 12) Osawa M, Ushida N, Kosukegawa K, et al. Tension pneumothorax induced during chest tube drainage following cardiac surgery. Nihon Kyobu Geka Gakkai Zasshi 1973;21:881⊖5. 13) Kato K, Nagaoka Y, Kobayashi T, et al. Tension pneumothorax manifested after extubation in a patient who underwent total gastrectomy. Masui 2003;52:777⊖9. 14) Kenny L, Teasdale R, Marsh M, et al. Techniques of training in the management of tension pneumothorax:Bridging the gap between confidence and competence. Ann Transl Med 2016;4:233. 15) Leiva EH, Carreno M, Bucheli FR, et al. Factors associated with delayed cardiac tamponade after cardiac surgery. Ann Card Anaesth 2018;21:158⊖66. 16) Tsang TS, Oh JK, Seward JB. Diagnosis and management of cardiac tamponade in the era of echocardiography. Clin Cardiol 1999;22:446⊖52. 17) Yerdel MA, Sen O, Zor U, et al. Cardiac tamponade as a life-threatening complication of laparoscopic antireflux surgery:Te real incidence and 3D anatomy of a heart injury by helical tacks. J Laparoendosc Adv Surg Tech A 2018;28:1041⊖6. 18) McHugh SM, Wang X, Sullivan EA. Diagnosis of cardiac tamponade with transesophageal echocardiography following the induction of anesthesia for suspected testicular torsion. Ann Card Anaesth 2015;18:449⊖52. 19) Tsang TS, Freeman WK, Barnes ME, et al. Rescue echocardiographically guided pericardiocentesis for cardiac perforation complicating catheter-based procedures. Te Mayo Clinic experience. J Am Coll Cardiol 1998;32:1345⊖50. 20) Ristic AD, Imazio M, Adler Y, et al. Triage strategy for urgent management of cardiac tamponade:A position statement of the European Society of Cardiology Working Group on Myocardial and Pericardial Diseases. Eur Heart J 2014;35:2279⊖84.
36 9 アナフィラキシーによる心停止 学習内容 アナフィラキシーの症状,アナフィラキシーの診断,アナフィラキシーによる心停止の頻度,アナフィラキシーのメカニズム,アナフィラキシーを起こしやすい周術期使用薬物,アナフィラキシーが発生したときの対処法などについて解説する。 全般的な注意事項 アナフィラキシーが発生したさいには,迅速な診断と適切な対応により,心停止を回避するため最大限の努力をする。心停止に陥った場合の対応は,ほかの原因による心停止と同様である。 1 )アナフィラキシーの症状アナフィラキシーの主な症状には,呼吸器症状,循環器症状,皮膚症状,消化器症状,神経症状がある。しかし,手術中であれば,消化器症状や神経症状が顕在化することは少ない。呼吸器症状には,気道内圧の上昇や動脈血酸素飽和度の低下などがある。循環器症状は,血圧の低下,頻脈,不整脈などである。皮膚症状には,紅斑や膨疹などがある。近年,英国で行われた大規模な疫学研究(2016 年に麻酔を受けた約313 万名が対象)によれば,アナフィラキシーの初発症状は,低血圧(46%),気管支痙攣(18%),頻脈(9.8%),動脈血酸素飽和度の低下(4.7%),徐脈(3%)の順に多かった1)。一方,アナフィラキシーの経過中に一度でも出現した症状の頻度としては,低血圧(100%),皮疹(56%),気管支痙攣/気道内圧の上昇(48%),頻脈(46%),チアノーゼ/動脈血酸素飽和度の低下(41%),カプノグラフィの波形異常(33%)の順に多かった。アナフィラキシーの症状としては皮疹がよく知られているが,半数近くの症例では一度も皮疹が出現しなかったことに注意すべきである。 2 )アナフィラキシーの診断アナフィラキシーの臨床診断基準は,米国の複数の学会が中心となって定めたものが一般的に使用されている2)。手術中のアナフィラキシーは,なんらかの薬剤投与後に発症することが多いため,アレルゲンとなる可能性のある物質への曝露ありと判断される。この場合,皮膚症状,呼吸器症状,循環器症状,消化器症状のうち2 つ以上が出現すれば,アナフィラキシーと診断でき アナフィラキシーによる心停止
9 アナフィラキシーによる心停止 37 る。 3 )アナフィラキシーによる心停止前述の英国の研究では,周術期にグレード3—5 の重篤なアナフィラキシーを発症した266 名の患者のうち,40 名(15%)が心停止した1)。心停止した40 名のうち31 名(78%)は救命することができた。心停止のタイミングは,ほとんどの症例(81%)で麻酔導入時か手術前であった。心停止時の心電図波形は,34 名が無脈性電気活動(PEA),4 名が無脈性心室頻拍(VT)/心室細動(Vf),2 名が心静止であった。心停止前に6 名の患者に不整脈が出現した。不整脈の内訳は, 4 名が徐脈,2 名がVf であった。研究期間中にアナフィラキシーにより死亡した10 名の患者のうち,9 名は術中に心停止していた。死亡した患者の心電図波形は,すべてPEA であった。9 名のうち2 名は心停止前に徐脈が出現していた。死亡した10 名のうち5 名は冠動脈疾患の既往があった。β遮断薬とアンギオテンシン変換酵素阻害薬(angiotensin converting enzyme inhibitor:ACE-I)を6 名の患者が内服していた。フランスで2011 年から2012 年にかけて行われた研究では,免疫グロブリンE(IgE)が関与するアナフィラキシー(後述)の患者489 名のうち,41 名(8.4%)で心停止した3)。この研究はグレード1—5 のアナフィラキシー患者が対象で,軽症者が含まれるため,英国の研究結果よりも,心停止の発生頻度が低かったと考えられる。日本麻酔科学会が2009年から2011年に行った偶発症例の調査では,237件のアナフィラキシーショックが報告されており,そのうち13 件(5.5%)で心停止した。術中発症の病態が原因の心停止211 件のうち,アナフィラキシーショックによるものは6.2%を占めた。このように,重篤なアナフィラキシーにおいて心停止はまれではないものの,フルモニタリングの状態で,麻酔科医がベッドサイドで対応できるため,多くの症例で救命できている。しかし,冠動脈疾患の既往があったり,β遮断薬やACE-I を内服中であったりする患者では,蘇生に反応せずに死亡するケースがあり,注意が必要である。また,心停止時の心電図波形がPEA の場合は,死亡するリスクが高い。 4 )アナフィラキシーのメカニズムアナフィラキシーの症状が出現するのは,肥満細胞や好塩基球から放出される化学物質(ヒスタミン,ロイコトリエンC4,プロスタグランジンD2,トリプターゼ,キマーゼ,レニン,血小板活性化因子,サイトカイン,ケモカインなど)が原因である。アレルゲンによる肥満細胞や好塩基球の刺激については,いくつかの異なる経路が関与している4)。その経路は,免疫学的機序によるものと,そうでないものに大別される。免疫学的機序によるが,IgE が関与しないものとしては,免疫グロブリンG(IgG)や補体が関与するものがある。一方,免疫学的機序によらないものとしては,肥満細胞や好塩基球が薬物によって直接活性化する経路がある。
38 9 アナフィラキシーによる心停止 5 )Kounis 症候群アナフィラキシーが発生したさい,心臓は炎症性メディエータの放出源であると同時に,標的臓器でもある。活性化した肥満細胞や血小板から放出されたメディエータによって,冠動脈の攣縮が誘発される病態が報告されている。このようなアレルギー反応に起因した急性冠症候群は, Kounis 症候群と呼ばれる5)。冠動脈の攣縮により,もともと存在した冠動脈プラークにびらんが形成されてプラークが破綻し,急性冠症候群に至るケースもある。アレルギー機序による冠動脈の攣縮を後方視的に立証することは難しく,正確な発生頻度は不明である。なかには,原因不明の術中心停止として扱われているケースがあるかもしれない。日本におけるKounis 症候群の認知度は低いが,近年では手術中にKounis 症候群を発症したとの報告が散見される6)。 6 )アナフィラキシーの原因薬物周術期にアナフィラキシーの原因となる薬物について,日本のデータは少ない。海外のデータを参考にすると,筋弛緩薬と抗菌薬が多いと推定される1)3)。筋弛緩薬や抗菌薬は手術開始前に投与されることの多い薬物である。とくに麻酔導入から手術開始前までは,アナフィラキシーによる心停止の発生を念頭に置くべきである。また,日本では,筋弛緩薬の拮抗薬によるアナフィラキシーが多いとするデータがある7)8)。筋弛緩薬の拮抗薬が原因の場合,症状の出現が抜管後で,新たに気管挿管が必要になる可能性がある。また,症状の発現が,リカバリー室や病棟になる可能性があり,とくに注意が必要である9)。 7 )アナフィラキシーの治療法手術中にアナフィラキシーが発生したときの対応について,アルゴリズムを示す(図)9)。手術中にアナフィラキシーを疑う症状が発生したら,早期に対応して,心停止を回避することが重要である。アナフィラキシー発症後,心停止にまで至った場合の治療は,ほかの原因による心停止の治療との差異はない。 8 )アドレナリンの投与についてアナフィラキシーに対する薬物治療の第一選択は,アドレナリンである。カナダで発生したアナフィラキシーによる死亡症例の解析では,92 症例のうち22 症例(24%)でしかアドレナリンが投与されていなかったことが判明している10)。また,日本医療安全調査機構は,注射薬によるアナフィラキシーに関わる死亡事例12例を分析し,心停止の前にアドレナリンが投与されたのは1 症例だけであったと報告している11)。多くの医師が,“アドレナリンは心肺蘇生時に使用する薬である”という認識を持っているため,心停止前に投与することに抵抗があるとみられる。しかし,アドレナリン投与の遅れは死亡につながる恐れがあり,アナフィラキシーを疑ったら,躊躇なくアドレナリンを投与するべきである10)11)。手術室外におけるアナフィラキシーでは,アドレナリンの筋肉注射が推奨される12)。一方,手術室において発生したアナフィラキシーでは,静脈注射を推奨するガイドラインが多い13)~16)。
9 アナフィラキシーによる心停止 39 その理由としては,以下の点が考えられる。1手術室では静注のためのルートがすでに確保されているケースが多い。2モニターが装着されているため,バイタルサインを確認しながら,少量ずつ投与することが可能である。心停止に至らないケースのアドレナリン投与量は,ガイドラインにより異なるため,表に示す。諸外国のガイドラインを踏まえ,日本麻酔科学会では“アナフィラキシーに対する対応プラクティカルガイド”で,アドレナリンの投与について以下のような推奨量を示す予定である。 表 諸外国のガイドラインにおけるアドレナリンの成人に対する推奨投与量 (静脈注射のみ抜粋)ガイドライン静脈内ボーラス投与静脈内持続投与文献番号AAGBI 50μg(初期量)重症例では繰り返し投与単回投与で効果がないときに考慮13 EAACI 10—20μg(グレード2*) 100—200μg(グレード3*)0.05—0.1μg/kg/min 14 SSAI 10—50μg(軽症—中等症) 100—1000μg(循環虚脱) 0.05—0.1μg/kg/min 15 ANZCA 20μg(グレード2*) 100—200μg(グレード3*) 3μg/min最大40μg/min 16 AAGBI:Association of Anaesthetics of Great Britain and Ireland EAACI:European Academy of Allergy and Clinical Immunology SSAI:The Scandinavian Society of Anaesthesiology and Intensive Care ANZCA:The Australian and New Zealand College of Anaesthetists *:Ring and Messmer の重症度分類(図参照) 図 手術中にアナフィラキシーが発生したときの対応[Takazawa T, Mitsuhata H, Mertes PM. Sugammadex and rocuronium-induced anaphylaxis. J Anesth 2016;30:290—7 より改変転載] 麻酔中の投与薬物によるアナフィラキシーが疑われる ●原因と思われる薬物投与の中止●アナフィラキシーが発生した事実の周知●100% 酸素投与●トリプターゼ・ヒスタミン測定用の採血 症状が重篤(グレード 2 または 3*) Yes ●アドレナリン静注●トレンデレンブルグ位●急速輸液 心停止(グレード 4*) ●胸骨圧迫の開始●アドレナリン1 mg 静注●心肺蘇生 ICU またはリカバリーで慎重に観察No 手術続行か中止の判断 原因薬物の同定など術後の評価 *:Ring and Messmerの重症度分類グレード 1:皮膚症状のみグレード 2:生命を脅かさない症状のみグレード 3:生命を脅かす症状ありグレード 4:循環不全,心停止,呼吸停止
40 9 アナフィラキシーによる心停止 ◑低血圧:0.2μg/kg を静脈内投与する。◑循環虚脱:0.05—0.3 mg を静脈内投与する。◑静脈路がなければ,0.3 mg を筋注する(小児は0.01 mg/kg)。◑必要に応じて追加投与する。反復投与が必要なら,持続静脈内投与を始める。アナフィラキシーの治療で副腎皮質ホルモン製剤や抗ヒスタミン薬が頻用されているが,これらの薬に即効性はなく,あくまでもセカンドラインの治療として位置づけられている13)~16)。したがって,アドレナリンの投与が必要なケースでは,副腎皮質ホルモン製剤や抗ヒスタミン薬の投与が優先されるべきではない。 参考文献1) Harper NJN, Cook TM, Garcez T, et al. Anaesthesia, surgery, and life-threatening allergic reactions:Epidemiology and clinical features of perioperative anaphylaxis in the 6th National Audit Project(NAP6). Br J Anaesth 2018;121:159—71. 2) Sampson HA, Munoz-Furlong A, Bock SA, et al. Symposium on the definition and management of anaphylaxis:Summary report. J Allergy Clin Immunol 2005;115:584—91. 3) Tacquard C, Collange O, Gomis P, et al. Anaesthetic hypersensitivity reactions in France between 2011 and 2012:Te 10th GERAP epidemiologic survey. Acta Anaesthesiol Scand 2017;61:290—9. 4) Simons FE. Anaphylaxis:Recent advances in assessment and treatment. J Allergy Clin Immunol 2009;124:625—36;quiz 37—8. 5) Kounis NG. Kounis syndrome:An update on epidemiology, pathogenesis, diagnosis and therapeutic management. Clin Chem Lab Med 2016;54:1545—59. 6) Sakamoto S, Horiuchi T, Takazawa T, et al. A case of rocuronium-induced anaphylaxis in a man with Kounis syndrome in which basophil activation test was valuable in determining the causative agent. Masui 2017;66:424—30. 7) Miyazaki Y, Sunaga H, Kida K, et al. Incidence of anaphylaxis associated with sugammadex. Anesth Analg 2018;126:1505—8. 8) Takazawa T, Miyasaka K, Sawa T, et al. Current status of sugammadex usage and the occurence of sugammadex-induced anaphylaxis in Japan. APSF Newsl 2018;33. 9) Takazawa T, Mitsuhata H, Mertes PM. Sugammadex and rocuronium-induced anaphylaxis. J Anesth 2016;30:290—7. 10) Xu YS, Kastner M, Harada L, et al. Anaphylaxis-related deaths in Ontario:A retrospective review of cases from 1986 to 2011. Allergy Asthma Clin Immunol 2014;10:38. 11) 一般社団法人日本医療安全調査機構 医一.注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析.医療事故の再発防止に向けた提言第3 号.2018 年1 月. 12) Simons FE, Ebisawa M, Sanchez-Borges M, et al. 2015 Update of the evidence base:World Allergy Organization anaphylaxis guidelines. World Allergy Organ J 2015;8:32. 13) Harper NJ, Dixon T, Dugue P, et al. Suspected anaphylactic reactions associated with anaesthesia. Anaesthesia 2009;64: 199—211. 14) Mertes PM, Malinovsky JM, Jouffroy L, et al. Reducing the risk of anaphylaxis during anesthesia:2011 Updated guidelines for clinical practice. J Investig Allergol Clin Immunol 2011;21:442—53. 15) Kroigaard M, Garvey LH, Gillberg L, et al. Scandinavian Clinical Practice Guidelines on the diagnosis, management and follow-up of anaphylaxis during anaesthesia. Acta Anaesthesiol Scand 2007;51:655—70. 16) Kolawole H, Marshall SD, Crilly H, et al. Australian and New Zealand Anaesthetic Allergy Group/Australian and New Zea- land College of Anaesthetists Perioperative Anaphylaxis Management Guidelines. Anaesth Intensive Care 2017;45:151—8.
10 仰臥位以外での心停止 41 全体的な注意事項 周術期は患者監視モニターが装着されていることが多く,スタッフも周囲にいることが多い。もし,心肺停止を認識したときには,できるだけ早期に躊躇なく蘇生処置を開始するが,周術期の心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation:CPR)処置は手術器具や体位などによって,さまざまな制限がかかることが多い。処置は,基本的に米国心臓協会(American Heart Association: AHA)の一次救命処置および二次救命処置のアルゴリズムに従って行う〔1 総論《はじめに》の図2(p.8)を参照〕。 質の高い心肺蘇生(CPR)処置 質の高いCPR 処置とは,AHA のガイドラインによって,下記のとおり定義されている。1.100—120 回/min の速度での圧迫2.成人においては5—6 cm,小児・乳児においては胸壁の厚みの1/3(それぞれ5 cm と4 cm) 3.圧迫ごとに胸壁をもとに戻す4.過換気を避ける5.圧迫の中断を最小限にする実際に行うには,手術台は狭く高さもあるため,蘇生処置を十分な体制で取るためには特別な考慮が必要である。目安として,2 分間の蘇生処置に反応がなければ,処置を継続しつつストレッチャーなどを用意して仰臥位に戻すことを考慮する。ただし,体位変換時は胸郭の圧迫が難しいため循環停止となり,この時間が長引くと神経学的予後の改善は難しくなる。筋弛緩薬使用によって呼吸は止まっていることも多く,各種モニターは装着済みであり,静脈ラインは確保済みであることが多い。処置は,あくまでも患者状態の改善を目指すべきであり,モニター数値の確認に時間を取られるなど,上記“質の高い心肺蘇生処置”を損なわないことが重要である。腹臥位や側臥位での心拍再開成功例の報告は多いが,必ずしも容易ではないので,臨機応変の対応が重要である1)。 仰臥位以外での心停止
42 10 仰臥位以外での心停止 心肺蘇生(CPR)処置における要素 1)心停止の確認心停止していなくとも,徐脈性の循環不全の場合は蘇生処置を考慮すべきである。 2)周囲の安全の確認手術器具や医療器機によって,周囲に安全なスペースを確保することが困難なことが多い。手術台を傾けている場合には,水平にして処置を行う。そして,可及的速やかに手術野を閉鎖し,覆布や懸架台などを除く必要がある。胸壁の圧迫に体側からのアプローチが困難な場合は,両膝を手術台に乗せて頭側や足側から行うなど工夫が必要である(図1)2)。 3)圧迫するさいの手の位置質の高いCPR 処置を行うための手の位置は,仰臥位では胸骨の下半分に両手を重ねるが,腹臥位では肩甲骨下縁を結んだ線上で圧迫すると効率がよい(図2)。創部の関係で正中圧迫が難しい場合は,図2 のように創部の両側を圧迫する3)。側臥位において,圧迫する位置は仰臥位と同様であるが,胸骨の圧迫だけでは十分な心拍出量を得にくいため,胸骨圧迫と同時に背部も圧迫する(図3)4)。仰臥位では背板を使うことが推奨されており,手術用のマットや体側支持器,専用の手術台な 図1 胸壁圧迫のアプローチ[Brown J, Rogers J, Soar J. Cardiac arrest during surgery and ventilation in the prone position:A case report and systematic review. Resuscitation 2001;50:233—8 より転載] RESCUER OVER THE HEAD CPR RESCUER STRADDLE CPR
10 仰臥位以外での心停止 43 図2 CRP 処置のための手の圧迫位置[Kwon MJ, Kim EH, Song IK, et al. Optimizing prone cardiopulmonary resuscitation:Identifying the vertebral level correlating with the largest left ventricle cross-sectional area via computed tomography scan. Anesth Analg 2017;124:520—3 より転載] Level of the spinous process of C7 vertebra Level of the medial angle of the scapula Level of the inferior angle of the scapula Level of the spinous process of vertebra connected with the most inferior rib Rescuer 1 Cardiac Compression Rescuer 2 Providing back support Back Support Cardiac Compression 図3 CRP 処置:側臥位圧迫法[Brown J, Rogers J, Soar J. Cardiac arrest during surgery and ventilation in the prone position:A case report and systematic review. Resuscitation 2001;50:233—8 より転載]
44 10 仰臥位以外での心停止 どは柔軟性があるため圧迫の効率が下がる。腹臥位でも胸骨部に枕などがあると効率が上がる(図4—a)5)が,腹臥位専用の手術台(図4—b)などでは適用困難である。 4)適切な圧迫のモニター圧迫の速度は,胸壁インピーダンスの変化をモニターできる心電図モニターであれば,それを参考にする。実際の胸骨圧迫の程度は,体位固定のマットなどにより圧迫効率が下がっている可能性が高い。呼気終末二酸化炭素濃度や動脈血の圧波形を参考にし,不十分な場合は,可及的速やかに仰臥位に戻す必要がある。適切に圧迫がされているかについては,EtCO2モニター20 mmHg 以上,拡張期動脈圧40 mmHg 以上,中心静脈酸素飽和度30%以上を目安とする6)。 5)換気を減らす通常の胸壁圧迫により期待できる心拍出量は通常の1/3~1/4程度とされており,血流のバランスから換気量はそれに応じて減らす必要があるのは仰臥位のときと同様である。 6)中断を最小限にする体位を仰臥位に戻す間は圧迫が中断することになり,その間は循環停止となる。蘇生率を改善するためには,安易に体位変換に時間をかけるべきではない。しかし“質の高い心肺蘇生処置”が行えないと判断したときは,速やかに仰臥位に戻す必要がある。 7)除細動除細動が適用であれば,除細動は非常に有効であるため体位の変更なく速やかに行うことが望ましい7)。その場合に,腹臥位や側臥位でのパドル装着は難しい場合が多く,除細動パッドの使 図4 CRP 処置:腹臥位[(a):Mazer SP, Weisfeldt M, Bai D, et al. Reverse CPR:A pilot study of CPR in the prone position. Resuscitation 2003;57:279—85 より転載/(b):村中製作所ホームページより転載] (b)腹臥位専用手術台 (a)枕を利用
10 仰臥位以外での心停止 45 用が望ましい。可能であれば,事前に除細動パッドを装着しておくことが有用である1)。 循環補助について ECPR〔体外循環式心肺蘇生(extracorporeal cardiopulmonary resuscitation)〕と称される補助循環(ECMO など)が利用できるならば,難治性の心停止症例での適用を考慮すべきである4)。 原因検索 手術内容と体位によって原因検索・治療が困難である場合には,仰臥位に戻す必要もあり,その決断も含めて緊急事態に備えた手術シミュレーション訓練を行っておくことは非常に重要である8)。 参考文献1) Brown J, Rogers J, Soar J. Cardiac arrest during surgery and ventilation in the prone position:A case report and systematic review. Resuscitation 2001;50:233—8. 2) Bhatnagar V, Jinjil K, Dwivedi D, et al. Cardiopulmonary resuscitation:Unusual techniques for unusual situations. J Emerg Trauma Shock 2018;11:31—7. 3) Kwon MJ, Kim EH, Song IK, et al. Optimizing prone cardiopulmonary resuscitation:Identifying the vertebral level correlating with the largest left ventricle cross-sectional area via computed tomography scan. Anesth Analg 2017;124:520—3. 4) Takei T, Nakazawa K, Ishikawa S, et al. Cardiac arrest in the left lateral decubitus position and extracorporeal cardiopulmonary resuscitation during neurosurgery:A case report. J Anesth 2010;24:447—51. 5) Mazer SP, Weisfeldt M, Bai D, et al. Reverse CPR:A pilot study of CPR in the prone position. Resuscitation 2003;57:279— 85. 6) Link MS, Berkow LC, Kudenchuk PJ, et al. Part 7:Adult advanced cardiovascular life support:2015 American Heart Association Guidelines Update for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care. Circulation 2015;132: S444—64. 7) Miranda CC, Newton MC. Successful defibrillation in the prone position. Br J Anaesth 2001;87:937—8. 8) Goldhaber-Fiebert SN, Macrae C. Emergency manuals:How quality improvement and implementation science can enable bet- ter perioperative management during crises. Anesthesiol Clin 2018;36:45—62.
46 11 母体の心停止 学習内容 妊婦の心停止時の蘇生法,および母体心停止の原因疾患について,非妊娠成人との違いを中心に解説する。 全般的な注意事項 手術室において母体心停止に遭遇するケースには,手術室外で母体が心停止に至り死戦期帝王切開を行う場合,母体重症および胎児機能不全の適用で緊急帝王切開となった妊婦が麻酔導入に前後して心停止に陥る場合,全身状態のよい妊婦が帝王切開中の児娩出後に心停止となる場合などがある。児の娩出後であれば,蘇生アルゴリズムは一般成人とほぼ同様である。妊娠20 週以降であれば,子宮左方移動と死戦期帝王切開が蘇生処置に加わる(図1)。手術室心停止の原因となる疾患は,一般成人とは大きく異なる。妊娠中の心停止では,母体管理が優先される。胎児への配慮は必要であるが,母体予後の改善のために胎児に不利な検査や治療を行うことはやむをえない。 母体心停止における心肺蘇生(図1)1) 1 )胸骨圧迫心停止と診断されたら,非妊娠成人と同様に胸骨圧迫を行う。 2 )人工呼吸妊娠中は酸素消費量が増加し機能的残気量が低下しており,低換気や無呼吸になったさいに低酸素血症になりやすい。また,母体の心停止の原因として,低酸素血症によるものは少なくない。妊婦の蘇生において,換気の確立は重要である。高度な気道確保が得られるまでは,胸骨圧迫30 回に対して人工呼吸を2 回行う。100%酸素を用いる。高度な気道確保の方法は,気管挿管が第一選択である。妊婦は下部食道括約筋の機能が低下しており,胃内容が逆流しやすい。さらに分娩中には胃内容排出時間が延長するため,誤嚥のリスクが高まる。妊婦では咽頭容積が減少し,気道粘膜の易出血性がある。気管挿管はビデオ 母体の心停止
11 母体の心停止 47 喉頭鏡を第一選択とし,気管チューブは細めのものを選択する。高度な気道確保後の人工呼吸は, 6 秒間ごとに1 回,胸骨圧迫と非同期で行う。 3 )子宮左方移動妊娠20 週以降(子宮底が臍高以上)の妊婦では,用手子宮左方圧排を行う(図2)。体軀傾斜による子宮左方移動は,効果的な胸骨圧迫を妨げやすいため推奨されない2)。 4 )除細動妊婦における除細動は,一般成人と同様に行う。妊娠子宮は電気を通しやすいため,子宮を挟むような位置にパッドを貼ることは禁忌である。 5 )薬物投与非妊娠成人と同様に,アドレナリンや抗不整脈薬の投与を行う。 図2 用手子宮左方圧排 図1 母体心停止における心肺蘇生VF:心室細動,VT:心室頻拍,ROSC:心拍再開 □ 胸骨圧迫□ 人工呼吸□ 用手子宮左方圧排(妊娠20 週以降) □ 除細動(VF/ 無脈性VT) □ アドレナリン1 mg を3‒5 分ごとに投与□ アミオダロン300 mg/ リドカイン1‒1.5 mg/kg (VF/ 無脈性VT) □ 心停止の原因検索・治療・羊水塞栓症・肺血栓塞栓症・周産期心筋症・産科出血・麻酔関連・高マグネシウム血症・大動脈解離・脳出血 □ 死戦期帝王切開( 妊娠20 週以降) 心肺蘇生処置を4 分間行ってもROSC がない場合
48 11 母体の心停止 6 )死戦期帝王切開(perimortem cesarean section)死戦期帝王切開は,母体救命目的の帝王切開であるが,環境の悪い母体内から外に出ることで児の予後改善も望むことができる。妊娠20 週以降の妊婦において,以上の心肺蘇生処置を4 分間行っても心拍再開(ROSC)が得られないときには死戦期帝王切開を考慮する3)4)。死戦期帝王切開の適用で手術室に入室した場合は,心肺蘇生処置のひとつとして,可能なかぎり速やかに手術を開始する。麻酔薬投与の必要はない。死戦期帝王切開後に合併症なく退院した母体の心停止から帝王切開開始までの時間は, 6±5.7 分と報告されている5)。心停止前の妊婦が帝王切開目的で手術室に入室したあとに心停止となった場合には,適切な心肺蘇生が開始できていれば,4 分間経過していなくても帝王切開を開始する。死戦期帝王切開を行うためには,産婦人科,救急部,麻酔科,手術室,新生児科などの関係部署と,その運用方法について取り決めておく必要がある。さらに,その取り決めにのっとって,シミュレーションを行うことを推奨する。 母体心停止の原因6) 1 )羊水塞栓症7)母体循環に流入した胎児成分がケミカルメディエータを誘導し,血管収縮性,血液凝固促進の物質が放出されて発症すると考えられている。破水が契機となり発症することが多い。肺動脈攣縮による低酸素血症,右心不全,不整脈,あるいは脳動脈攣縮による痙攣などを初発徴候とする。肺動脈攣縮が軽快したのち,左心不全や急性呼吸促迫症候群(ARDS)に進展することもある。また,線溶亢進型播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)による,産科出血が続発することが通常である。特異的な診断法は確立されておらず,除外診断によって診断される。遮光した血清を浜松医科大学に送付することで,のちに診断の助けとなる(http:// www2.hama-med.ac.jp/w1b/obgy/afe3/new1.html)。特異的な治療法はない。循環動態と酸素化能,血液凝固能(とくにフィブリノゲン値)を評価して,対症療法を行う。 2 )肺血栓塞栓症妊娠中は凝固能が亢進するため,肺血栓塞栓症のハイリスク群である8)。日本における妊娠関連の肺塞栓血栓症による死亡は産褥期がもっとも多いが,妊娠初期にも多い9)。診断と治療は一般成人に準ずる。肺血栓塞栓症の診断や治療では放射線が使用されることが多いが,50 mGy 以下の被曝量では胎児への影響は低く10)11),1 回の胸部コンピュータ断層撮影法(CT)検査の胎児被曝量は<1 mGy と考えられ12),胎児に悪影響を与えるとは考えにくい。ヨード性造影剤は胎児に移行するが,その影響は甲状腺機能低下の理論上の懸念があるのみである10)。妊婦では未分画ヘパリンの効果が得られにくく,非妊娠成人より多くの用量を要する13)。未分画ヘパリンの胎児移行性は非常に低い。
11 母体の心停止 49 3 )周産期心筋症妊娠終期から産後数週に多い。妊娠中から産後数カ月の心不全症状,LVEF<45%,かつほかに心不全の原因がないときに周産期心筋症と診断される14)。治療はほかの心不全治療に準じ,昇圧薬投与,大動脈内バルーンパンピング(IABP),体外式膜型人工肺(ECMO)である。 4 )産科出血産科出血は,妊娠関連の死亡やICU 入室の原因疾患として最多である15)16)。分娩直後に起こることが多い。産後子宮収縮不全,子宮破裂などの外傷,胎盤遺残,凝固障害が産科出血の原因である。産科出血は心停止前に診断に至ることが多いが,後腹膜出血は超音波検査でも診断が難しく見逃されやすい。重篤な産科出血の原因として,子宮型羊水塞栓症がある。このタイプの羊水塞栓症は,低酸素血症や循環虚脱を伴わず,子宮収縮不全と,子宮や産道からの非凝固性の出血として発症する17)。ほかに線溶亢進型DIC を起こしやすい産科疾患としては,常位胎盤早期剝離,死胎児症候群がある。これらの疾患では出血量に見合わないフィブリノゲン値の低下が特徴である。癒着胎盤,子宮破裂などを原因とした大量出血時にはDIC は惹起されないものの,希釈性凝固障害が生じる。いずれのタイプの凝固障害でも凝固因子の補充が重要であり,新鮮凍結血漿(FFP)を投与する。フィブリノゲンレベルは200 mg/dl を目標として補充を行う18)。適用外使用であるが,フィブリノゲン製剤,クリオプレシピテートは効率よくフィブリノゲンレベルを上げることができる。フィブリノゲン3 g の投与でおよそ100 mg/dl のフィブリノゲン上昇が期待できる19)。トラネキサム酸も産科出血の治療に有効である。1 g を静注し,出血が持続するようであれば,30 分後に1 g を追加投与する20)。そのほか,産科出血への対応は「産科危機的出血への対応指針」を参考にする21)。 5 )麻酔関連高位脊髄くも膜下麻酔,気道確保困難が麻酔関連の重篤な合併症として知られる22)。高位脊髄くも膜下麻酔は,硬膜外カテーテルの脊髄くも膜下迷入を原因とすることが多い。高位脊髄くも膜下麻酔が発生したら,循環と呼吸を維持しながら,麻酔薬の効果が消失するのを待つ。気道確保困難は,気道管理ガイドライン23)を参考に対処する。 6 )高マグネシウム血症切迫早産や妊娠高血圧症候群の治療薬として,硫酸マグネシウムが投与される。過量投与により筋力低下,意識障害,呼吸停止,重篤な不整脈を呈する。高マグネシウム血症を疑うときには, 8.5%グルコン酸カルシウム20—35 ml または2%塩化カルシウムを25—50 ml を2—5 分間で投与することを考慮する24)。
50 11 母体の心停止 7 )大動脈解離非妊娠女性に比べて妊婦に多い。妊娠第3 三半期から分娩直後にかけての発症が多い25)。 8 )脳出血妊娠高血圧腎症やHELLP 症候群は脳出血のリスク因子である26)。 参考文献1) Jeejeebhoy FM, Zelop CM, Lipman S, et al. Cardiac arrest in pregnancy:A scientific statement from the American Heart Association. Circulation 2015;132:1747—73. 2) Butcher M, Ip J, Bushby D, et al. Efficacy of cardiopulmonary resuscitation in the supine position with manual displacement of the uterus vs lateral tilt using a firm wedge:A manikin study. Anaesthesia 2014;69:868—71. 3) Katz V, Balderston K, DeFreest M. Perimortem cesarean delivery:Were our assumptions correct? Am J Obstet Gynecol 2005; 192:1916—20;discussion 1920—1. 4) Einav S, Kaufman N, Sela HY. Maternal cardiac arrest and perimortem caesarean delivery:Evidence or expert-based? Resuscitation 2012;83:1191—200. 5) Kobori S, Toshimitsu M, Nagaoka S, et al. Utility and limitations of perimortem cesarean section:A nationwide survey in Japan. J Obstet Gynaecol Res 2019;45:325—30. 6) Beckett VA, Knight M, Sharpe P. Te CAPS Study:Incidence, management and outcomes of cardiac arrest in pregnancy in the UK:A prospective, descriptive study. BJOG 2017;124:1374—81. 7) Sultan P, Seligman K, Carvalho B. Amniotic fluid embolism:Update and review. Curr opin anaesthesiol 2016;29:288—96. 8) Pomp ER, Lenselink AM, Rosendaal FR, et al. Pregnancy, the postpartum period and prothrombotic defects:Risk of venous thrombosis in the MEGA study. J Tromb Haemost 2008;6:632—7. 9) Tanaka H, Katsuragi S, Osato K, et al. Increase in maternal death-related venous thromboembolism during pregnancy in Japan (2010—2013). Circulation J 2015;79:1357—62. 10) ACOG Committee Opinion. Guidelines for diagnostic imaging during pregnancy and lactation. Obstet Gynecol 2016; 130:e210—7. 11) CQ103 妊娠中の放射線被爆の胎児への影響についての説明は? 日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会 産婦人科診療ガイドライン産科編2014 東京;2017:67—71. 12) 国際放射線防護委員会.ICRP Pulicaiton 84 妊娠と医療放射線.東京:丸善/日本アイソトープ協会;2002. 13) Brancazio LR, Roperti KA, Stierer R, et al. Pharmacokinetics and pharmacodynamics of subcutaneous heparin during the early third trimester of pregnancy. Am J Obstet Gynecol 1995;173:1240—5. 14) Sliwa K, Hilfiker-Kleiner D, Petrie MC, et al. Current state of knowledge on aetiology, diagnosis, management, and therapy of peripartum cardiomyopathy:A position statement from the Heart Failure Association of the European Society of Cardiology Working Group on peripartum cardiomyopathy. Eur J Heart Failure 2010;12:767—78. 15) 妊産婦死亡評価検討委員会,日本産婦人科医会.母体安全への提言2017.2018.p.8—15.http://wwwjaogorjp/wp/wpcontent/uploads/2018/09/botai_2017pdf(2018 年12 月28 日アクセス). 16) 妊産婦死亡症例検討委員会,日本産婦人科医会.母体安全への提言2016.2017.p.27—32.http://wwwjaogorjp/wp/wpcontent/uploads/2017/08/botai_2016_2pdf(2018 年12 月28 日アクセス). 17) Tamura N, Farhana M, Oda T, et al. Amniotic fluid embolism:Pathophysiology from the perspective of pathology. J Obstet Gynaecol Res 2017;43:627—32. 18) Collins PW, Bell SF, de Lloyd L, et al. Management of postpartum haemorrhage:From research into practice, a narrative review of the literature and the Cardiff experience. Intern J Obstet Anesth 2019;37:106—17. 19) Makino S, Takeda S, Kobayashi T, et al. National survey of fibrinogen concentrate usage for post-partum hemorrhage in Ja- pan:Investigated by the Perinatology Committee, Japan Society of Obstetrics and Gynecology. J Obstet Gynaecol Res 2015; 41:1155—60.
11 母体の心停止 51 20) WOMAN Trial Collaborators. Effect of early tranexamic acid administration on mortality, hysterectomy, and other morbidities in women with post-partum haemorrhage(WOMAN):An international, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2017;389:2105—16. 21) 日本産婦人科学会,日本産婦人科医会,日本周産期・新生児医学会ほか.産科危機的出血への対応指針2017.http:// wwwanesthorjp/guide/pdf/guideline_Sanka_kikipdf. 22) DʼAngelo R, Smiley RM, Riley ET, et al. Serious complications related to obstetric anesthesia:Te serious complication repository project of the Society for Obstetric Anesthesia and Perinatology. Anesthesiology 2014;120:1505—12. 23) Mushambi MC, Kinsella SM, Popat M, et al. Obstetric Anaesthetistsʼ Association and Difficult Airway Society guidelines for the management of difficult and failed tracheal intubation in obstetrics. Anaesthesia 2015;70:1286—306. 24) Vanden Hoek TL, Morrison LJ, Shuster M, et al. Part 12:Cardiac arrest in special situations:2010 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care. Circulation 2010;122:S829—61. 25) Kamel H, Roman MJ, Pitcher A, et al. Pregnancy and the risk of aortic dissection or rupture:A cohort-crossover analysis. Circulation 2016;134:527—33. 26) Yoshimatsu J, Ikeda T, Katsuragi S, et al. Factors contributing to mortality and morbidity in pregnancy-associated intracerebral hemorrhage in Japan. J Obstet Gynaecol Res 2014;40:1267—73.
52 12 小児周術期蘇生の特殊性 学習内容 小児は,全身麻酔の適用となる症例が多く,解剖学的および生理学的特徴から,全身麻酔関連の気道,呼吸,循環のトラブルが多い。代表的な原因,その対処法などについて解説する。 全般的な注意事項 前出の成人同様,迅速な診断と適切な対応により,心停止を回避するため最大限の努力をする。心停止に陥った場合の対応は,日本蘇生協議会(Japan Resuscitation Council:JRC)の「JRC 蘇生ガイドライン2015」第3 章の小児の蘇生(Pediatric Life Support:PLS)1)に原則準拠すべきである。小児周術期蘇生プラクティカルガイドに特化する内容としては,心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation:CPR)の効果判定目的のEtCO2,観血的動脈ライン,中心静脈ラインなどの術中モニタリングの利用,腹臥位など特殊な体位でのCPR や除細動,開胸心マッサージや体外循環を使用した体外循環式(extracorporeal)CPR(ECPR)による蘇生の適用などが挙げられる。 小児周術期心停止の原因 米国POCA(Pediatric Perioperative Cardiac Arrest)Registry の1998—2004 年のデータベース2)~4)と,Flick ら5)の三次小児専門施設1 施設における1998—2005 年間の92,881 人の小児周術期心停止症例のレビューによると,主な小児周術期心停止の原因は,循環血液量減少(出血,脱水),高カリウム血症(大量赤血球輸血),吸入麻酔導入(喉頭痙攣,相対的麻酔薬過剰),中心静脈ラインの合併症(静脈空気塞栓,心タンポナーデ,緊張性気胸)および種々の原因による低酸素血症が挙げられる。頻度は比較的まれになるが,局所麻酔薬中毒,悪性高熱症,およびアナフィラキシーも重要である。以下に代表的な原因疾患の各論を提示する。 1 )吸入麻酔導入時心停止小児全身麻酔は,ストレスとなる静脈路確保を回避してマスクによる吸入麻酔で開始されることが多い。吸入麻酔導入は,喉頭痙攣および相対的麻酔薬過剰から心停止となる可能性がある。吸入麻酔導入時に喉頭痙攣となったら,ただちに亜酸化窒素を中止し100%酸素による換気を開 小児周術期蘇生の特殊性
12 小児周術期蘇生の特殊性 53 始する。脈がまだ触知でき麻酔深度を深くできるのであれば,吸入麻酔は継続してもよい。換気を試みるさい,口咽頭エアウェイを用いて,持続陽圧を加えてもよい。患児が弛緩していれば,気管挿管を試みたほうがよい。輸液路確保もなく筋緊張があり気管挿管の妨げとなる場合は,アトロピン0.02 mg/kg とスキサメトニウム4 mg/kg(極量150 mg)の筋肉注射および頤下局所注入(口腔外頤下部より口腔底舌筋内へ局所注入)を考慮する6)。輸液路が確保されている場合は,より少ない量のスキサメトニウム(0.3—1.0 mg/kg)で,喉頭痙攣を解除できる。循環が安定していれば,静脈麻酔を試してもよい。作用発現時間と持続時間が長くなるが,非脱分極性筋弛緩薬も使用可能である。循環不良で薬物を循環させるため,胸骨圧迫が必要となることもある。静脈路が確保されず,心停止が持続する場合には,ただちに骨髄路を確保しCPR を開始する。相対的吸入麻酔薬過剰による心停止は,麻酔担当医が循環血液量減少(長期の絶食,下剤服用など)に気づかなかったり,麻酔深度の確認が不十分で長時間深麻酔にした場合に起こりえる。低体温,麻薬やクロニジンの併用,生後1 カ月以内の新生児の場合は,麻酔薬の効果が過剰となり心停止になる可能性がある。治療は,亜酸化窒素や吸入麻酔薬の中止と,100%酸素による補助換気である。脈が触れない場合は,胸骨圧迫を開始し,気管挿管すべきである。挿管刺激は交感神経を刺激し,血行動態が改善する可能性がある。また,気管挿管することにより,輸液路が確保されていない場合アドレナリン投与経路としても利用してもよい(0.1 mg/kg)が,効果は不確実である。挿管前の徐脈に関しては,アトロピンの筋注または頤下局所注入を行ってもよいが必須ではなく,静脈路および骨髄路を確保し「JRC 蘇生ガイドライン2015」徐脈のアルゴリズム1)に従うべきである。 2 )VP シャント機能異常による心停止小児の頭蓋内圧が亢進し心停止となった場合,脳神経外科医はただちにVP(ventriculo—peritoneal)シャントを何回か押して脳脊髄液の排液を促し,頭蓋内圧を下げなければならない。頭蓋内圧が亢進すると,蘇生中の脳血流が制限される。CPR 開始時にVP シャントを押すことが重要となる。頭蓋内圧亢進がない状態では,胸骨圧迫時に生じる胸腔内圧の1/3 が椎骨静脈や脳脊髄液を介して頭蓋内圧に加わる7)。この胸腔内圧の頭蓋内圧への加重が増えると,すでに頭蓋内圧が亢進している状態では,CPR 中の脳血流は大きく減少し8),最終的に自己心拍が再開したとしても,脳灌流は著明に低下したままであり転帰不良となる。蘇生中に髄液を除去する必要性が考慮される。 3 )後方脊椎癒合術および頭蓋顔面再建術中の心停止脊椎や頭蓋手術中の心停止には,循環血液量減少や静脈空気塞栓をよく合併する。循環血液量減少は,術中出血の過小評価と不十分な輸液による可能性がある。中心静脈ラインが挿入されていれば,前負荷のモニターと十分な輸液も可能である。全身麻酔下の幼児では,循環血液量低下でも頻脈にならない場合がある。2 歳以下の小児の頭蓋顔面手術中の循環血液量減少によると考えられる低血圧時,頻脈を合併しなかった報告がある9)。循環血液量低下と静脈空気塞栓の鑑別
54 12 小児周術期蘇生の特殊性 は,困難なことがある。両方とも急激に動脈圧が低下し,無脈性電気活動(pulseless electrical activity:PEA)の状態となる。PEA の場合は,EtCO2は消失する。呼気終末に窒素を認め,ドプラ心エコー図法で気泡を見つけたら,静脈空気塞栓を考える。中心静脈圧が上昇していれば肺血管の空気塞栓,一方,低下していれば循環血液量低下の可能性を考える。中心静脈圧が上昇し, PEA 様の病態となるもうひとつの可能性は,中心静脈ラインの合併症である心タンポナーデがある。静脈空気塞栓の治療は,まず執刀医に空気塞栓の発生を告げ,100%酸素を開始,亜酸化窒素および吸入麻酔を中止,空気の入り口を塞ぎ(術野を心臓より低くする,創部を灌流・被覆する,トレンデレンブルグ位・輸液負荷で血管内圧を上げる),肺循環への空気流入を抑制(右室系に空気を取り込む目的で左側臥位)および中心静脈ラインからの空気吸引である。CPR および血管作動薬投与を要することもある。腹臥位時に心停止になった場合,仰臥位に体位変換できるまで,腹臥位のまま胸骨圧迫を行うことを選択すべきである。背部圧迫は,体が胸骨下で支持されていれば有効かもしれない。背部正中切開例では,切開部の両端の肋骨上に手を置いて圧迫する。それ以外では,脊椎上に手を重ね圧迫する10)11)。胸骨下に拳または砂囊を置く方法も知られているが,胸骨下にものを置くことが有効かは不明である12)13)〔本ガイドの“10 仰臥位以外での心停止”(p.41-5)の章を参照〕。 4 )輸血関連高カリウム血症による心停止小児,とくに乳児は,大量赤血球輸血により高カリウム血症(>6 mEq/l または心電図変化)で周術期心停止となるリスクがある。致死的または非致死的輸血関連高カリウム血症が,多くの症例報告14)~18)や症例検討19)20)で示された。1 つの研究では,貯蔵血による輸血関連高カリウム血症は,周術期心停止の2 番目の原因とされた21)。さらに小児の非開心術周術期心停止の19%が,高カリウム血症によるとの報告がある20)。輸血関連高カリウム血症は,主に急速大量赤血球輸血で合併しやすく,通常速度の輸血では,カリウムの血中濃度に変化は少ない22)。投与される濃厚赤血球が古く,かつ移植片対宿主病(GVHD)抑制目的で照射済みであると,輸血関連高カリウム血症のリスクが上がる。貯蔵赤血球の細胞外液中のカリウム濃度は,貯蔵期間に比例し約1 mmol/day の速度で増加し続け,30 日後であれば平均38 mmol/l,CPDA-1 保存液で貯蔵した場合には最高78.5 mmol/l まで35—42 日で上昇する16)。赤血球製剤を照射すると,カリウム値は1日で>20 mEq/l 上昇することもある。急激に高カリウム血症が進行すると,心室性不整脈,心室細動または心静止となりやすい。高カリウム血症の治療には,カリウムを体外に排泄させるか,カリウムを細胞内に移動させるかの2つの方法がある。カリウムを体外に排除する根本治療には,時間がかかる場合が多い。利尿薬がよく効くには十分な腎循環が,ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(ケイキサレート®,SanofiAventis, Malvern, PA)が効くには十分な腸循環が必要である。血液透析が実施できれば根本治療になる。特にV—A(veno—arterial)ECMO の併用は,心停止状態でも,血液透析を併用することで体内のカリウムを除去できる。カリウムを細胞内に移動させ,細胞毒性を抑制する下記の方法は,即効性のある治療である。 カルシウムの静注:塩化カルシウム20 mg/kg またはグルクロン酸カルシウム60 mg/kg(静
12 小児周術期蘇生の特殊性 55 注,骨髄路投与) アルカリ化:過呼吸(ただちにT 波低下が観察できる),重炭酸ナトリウム1—2 mEq/kg(静注,骨髄路投与) ブドウ糖‒インスリン療法:25%ブドウ糖2 ml/kg+即効型インスリン0.1 U/kg β刺激薬の吸入(アルブテロールのネブライザー投与)による細胞内へのカリウム移動生理食塩液負荷+フロセミド投与による強制利尿 5 )局所麻酔薬中毒による心停止小児では通常,全身麻酔下に局所麻酔が施行されるため,血中濃度上昇による軽微な症状,あるいは中枢神経症状(興奮,混乱,筋肉のぴくつき,痙攣)がマスクされ,早期発見が困難なことがある。いきなりPR 間隔延長,進行性徐脈および伝導障害から始まる心電図異常から,血圧低下,心機能低下となり静止にまで進展しえる。痙攣出現時には,ただちにベンゾジアゼピンによる治療が推奨される23)。心停止時は,胸骨圧迫とアドレナリン投与を実施する。アドレナリンの投与量は,AHA(米国心臓協会)の蘇生ガイドラインに従い,米国局所麻酔学会(ASRA)の基準である<1μg/kg にはこだわらない23)。不整脈に関しては,アミオダロンが推奨されており,リドカインおよびプロカインアミドは,局所麻酔薬と同様のNa チャンネルブロック作用があり,毒性追加作用があるため推奨されていない。主に動物実験や症例報告に基づき,ブピバカイン中毒に推奨される治療のひとつとして,脂肪乳剤の投与がある24)25)。ブピバカイン26)27)やロピバカイン28)中毒の小児の治療に脂肪乳剤を使用した症例報告もある。脂肪乳剤によるレスキューは,アミド型局所麻酔薬(ブピバカイン,メピバカイン,ロピバカイン)だけではなく,ほかの薬物(ハロペリドール,三環系抗うつ薬,β遮断薬およびカルシウム拮抗薬)による潜在的な致死的心血管毒性に対しても有効である可能性がある29)。脂肪乳剤治療プロトコールでは,1.5 ml/kg の20%脂肪乳剤を1 分かけ急速投与し,血行動態が安定したら10 分間0.25 ml/kg/min で持続投与する。血行動態が不安定なままであれば,1.5 ml/kg 急速投与を追加し,持続投与速度を0.5 ml/ kg/min に増やす。初期治療の極量は,30 分間で10 ml/kg と推奨されている23)。V—A ECMO などでサポートしながら,局所麻酔薬が代謝されるのを待つ方法も考慮すべきである。CPR を継続しながらECMO 導入可能な施設まで転送し,生存回復した症例もある。プロポフォールは,脂肪乳剤の代用薬としては推奨しない。 6 )アナフィラキシーによる心停止麻酔された小児のアナフィラキシーは,皮膚の発赤などを伴わず,いきなり循環虚脱を呈する可能性がある〔本ガイドの“9 アナフィラキシーによる心停止:5)Kounis 症候群”(p.38)の項を参照〕。麻酔時の即時型過敏反応による死亡率は,3—9%の範囲である30)。アナフィラキシー症状には,血圧低下,紅斑,気管支痙攣,肺水腫,肺高血圧,不整脈,ピーク吸気内圧の上昇,低酸素血症,ストライダー,蕁麻疹,および血管浮腫がある。手術室でのアナフィラキシーのよくある原因は,成人・小児に差がなく,筋弛緩薬(63%),ラテックス(14%),睡眠薬(7%),抗
56 12 小児周術期蘇生の特殊性 生物質(6%),血漿代用薬(3%),および麻薬系薬物(2%)がある31)。治療法はアドレナリンを投与することである。循環が十分であれば0.01 mg/kg 筋注を1 回0.5 mg を上限に20 分ごとに投与,または0.1—1μg/kg/min の持続静注を施行する。多くの場合,輸液の20 ml/kg の急速投与が必要である。また,可能性のあるアレルゲンの投与中断,あるいはアレルゲンを除去する。麻酔薬の減量(当該麻酔薬がアレルゲンでない場合:開始直後でない)または中止,100%酸素投与,トレンデレンブルグ位変換などを実施し,手術中止を考慮する。2 次の治療として,抗ヒスタミン薬(H1遮断薬であるジフェンヒドラミン1—2 mg/kg を50 mg を上限に投与)やH2遮断薬であるラニチジン(1—2 mg/kg を50 mg を上限に投与),喘鳴にアルブテロール吸入,および副腎皮質ホルモン製剤(メチルプレドニゾロン2 mg/kg を上限60 mg,または水溶性ヒドロコルチゾン2 mg/kg を上限100 mg)などが挙げられるが,アドレナリンの投与を最優先することを忘れてはならない。血清トリプターゼ値は,肥満細胞の脱顆粒を示す有用な指標となる。血清トリプターゼ試験は,時間に制限があり6 時間以内の採血を要する。血漿ヒスタミン値測定により診断精度が上がるが,測定可能限界がより狭く,可能なら30 分以内の採血が必要で,長くてもせいぜい2 時間までである。 7 )開胸心マッサージ,ECPR による蘇生の適用いずれも術場ではより適用される可能性があるが,医療資源,関連外科系スタッフの技量の制限を強く受け,現在具体的なガイドラインは存在しない。開胸式CPR は,穿通性外傷など開胸が必要な場合に適用となる。また,著明な大動脈狭窄がある患者で,閉胸式CPR が無効な場合も適用となる可能性がある。小児にECPR を開始するさい,年齢・体のサイズに応じた特別な器具の準備と血液補填,カニューレの外科的挿入部位(総頸動脈など)により,特別なトレーニングを受けたスタッフが必要となる。カニューレ挿入中CPR 方法を変更している施設も一部あり(圧迫60 秒+挿入のための中断30 秒/サイクル),小児にECPR を開始するには,通常30~45 分かかる。早期に導入を決断する必要がある。2 回目のアドレナリン投与が必要となったとき(蘇生開始約5 分後)が,そのタイミングと考えられる32)。 周術期心停止時に使用頻度の高い薬物と機器 使用頻度の高い薬物を表1 に示す。CPR 中に末梢静脈や骨髄路から薬物投与する場合,必ず生理食塩液をフラッシュする。大腿静脈からの中心静脈ラインの先端が横隔膜以下であれば,心停止時横隔膜下の血流は著明に低下しており,薬物投与時は生理食塩液の後押し“フラッシュ”を要する。各薬物を投与するたびに生理食塩液フラッシュを追加する。1 回の生理食塩液の量は,最低0.25 ml/kg33)または乳児で5 ml,幼小児で10 ml,思春期で20 ml になる。また,骨髄路からの薬物投与には制限はなく,すべての薬物,例えばアドレナリン,アデノシン,および血液製剤も骨髄路から投与できる。表2,表3 に周術期危機的状態に使用する薬物(小児推奨量),小児周術期心停止に使用する機器・備品,および除細動器のキーポイントを示す。
12 小児周術期蘇生の特殊性 57 表1 周術期危機的状態に使用する薬物(小児推奨量) 薬物名使用推奨量適用ATP 0.1—0.3 mg/kg IV or IO 急速投与で開始し,効果がなければ増量できる(最大投与量0.3 mg/kg)上室性頻拍 アミオダロン1 回目5 mg/kg IV or IO 急速投与(極量300 mg),2 回目以降(15 分後)上記同量使用(最大総量15 mg/kg)心室細動/無脈性心室頻拍 2.5—5 mg/kg IV or IO 30 分以上かけて 注)プロカインアミドのようなQT 延長作用のある薬物併用に注意脈あり心室頻拍 アトロピン1 回目0.02 mg/kg IV or IO または0.04—0.06 mg/kg in 気管投与,1 回最大使用量:0.5 mg(小児),1 mg(思春期),反復使用量:同量,総使用量上限:1 mg(小児),3 mg(思春期)症候性徐脈 塩化カルシウム20 mg/kg IV or IO(極量2 g) ゆっくり静注,ラインがあれば中心静脈から投与,高カリウム血症による心停止であれば急速静注高カリウム血症,低カルシウム血症 ダントロレンできるだけ太い専用の末梢静脈路を確保し,1 瓶20 mg あたり注射用蒸留水60 ml で透明になるまで震盪溶解したら,少なくとも1.0 mg/kg を15 分程度で投与する。できれば2.0 mg/kgを15 分程度で投与することを推奨する。過換気に反応してEtCO2が低下し,筋強直が改善し,心拍数が低下するまで,適宜繰り返し投与する。最大7.0 mg/kg まで投与可能である。12時間は再燃の可能あり。悪性高熱症ジフェンヒドラミン1—2 mg/kg IV,IO,or IM(最大50 mg)4—6 時間ごと投与アナフィラキシーショックアドレナリン0.01 mg/kg IV or IO(最大1 mg)or 0.1 mg/kg in 経気管投与(最大2.5 mg)3—5 分ごと心停止グルコース0.5—1 g/kg IV or IO,新生児:10%液5—10 ml/kg,乳幼児: 25%液2—4 ml/kg,思春期:50%液1—2 ml/kg低血糖ヒドロコルチゾン2 mg/kg IV(最大100 mg)副腎不全インスリン0.1 単位/kg+25%ブドウ糖液2 ml/kg/30 min IV 30~60分ごと反復高カリウム血症 脂肪乳剤20% 1.5 ml/kg を1 分かけてボーラス投与後,循環が安定するまで0.25 ml/kg/min で10 分間持続投与。3—5 分後循環安定しなければ1.5 ml/kg を1 分かけてボーラス投与をもう一回し,持続投与を0.5 ml/kg/min に増量,極量は30 分で10 ml/kg局所麻酔薬中毒 リドカイン1 mg/kg IV or IO(最大100 mg)or 2—3 mg/kg 経気管支投与,維持20—50μg/kg/min IV or IO 持続投与,初回投与から15分以上経過してから注入開始する場合は1 mg/kg IV or IO(最大100 mg)を繰り返す心室細動/無脈性心室頻拍 硫酸マグネシウム25—50 mg/kg IV or IO(最大総量2 g),無脈性多源性心室頻拍またはトルサードドポアンツであれば急速投与,脈触知可能であれば10—20 分かけて投与低マグネシウム血症,トルサードドポアンツ ナロキソン0.1 mg/kg IV or IO,経気管投与or IM(最大20 mg):麻薬中毒量の場合,0.001—0.005 mg/kg IV,IO,or IM:治療量の麻薬を拮抗する場合麻薬中毒,拮抗 プロカインアミド0.25 mg/kg/min の速度で30—60 min(最大15 mg/kg),QT延長作用のある薬物併用に注意,アミオダロンとのルーチン併用はしない頻拍 重炭酸1 mEq/kg IV or IO 緩徐投与,高カリウム血症による心停止時には急速投与可,奇異性アシドーシスを回避するため十分な換気を確保高カリウム血症バソプレシン0.5 単位/kg IV or IO(最大40 units):心停止の場合,0.0003— 0.002 単位/kg/min 持続投与:カテコラミン抵抗性ショック心停止,カテコラミン抵抗性ショックIV:intravenous,IO:intraosseous,EtCO2:end-tidal CO2
58 12 小児周術期蘇生の特殊性 参考文献1) 第3 章 小児の蘇生(Pediatric Life Support:PLS).JRC 蘇生ガイドライン2015.http://www.igaku-shoin.co.jp/misc/kyo daku/kyodaku.html. 2) Morray JP, Geiduschek JM, Ramamoorthy C, et al. Anesthesia-related cardiac arrest in children:Initial findings of the Pediatric Perioperative Cardiac Arrest(POCA)Registry. Anesthesiology 2000;93:6—14. 3) Murat I, Constant I, Maudʼhuy H. Perioperative anaesthetic morbidity in children:A database of 24,165 anaesthetics over a 30-month period. Paediatr Anaesth 2004;14:158—66. 4) Newland MC, Ellis SJ, Lydiatt CA, et al. Anesthetic-related cardiac arrest and its mortality:A report covering 72,959 anesthetics over 10 years from a US teaching hospital. Anesthesiology 2002;97:108—15. 5) Flick RP, Sprung J, Harrison TE, et al. Perioperative cardiac arrests in children between 1988 and 2005 at a tertiary referral center:A study of 92,881 patients. Anesthesiology 2007;106:226—37;quiz 413—4. 6) Redden RJ, Miller M, Campbell RL. Submental administration of succinylcholine in children. Anesth Prog 1990;37:296— 300. 7) Guerci AD, Shi AY, Levin H, et al. Transmission of intrathoracic pressure to the intracranial space during cardiopulmonary resuscitation in dogs. Circ Res 1985;56:20—30. 8) Halperin HR, Tsitlik JE, Guerci AD, et al. Determinants of blood flow to vital organs during cardiopulmonary resuscitation in dogs. Circulation 1986;73:539—50. 9) Stricker PA, Lin EE, Fiadjoe JE, et al. Absence of tachycardia during hypotension in children undergoing craniofacial reconstruction surgery. Anesth Analg 2012;115:139—46. 10) Dequin PF, Hazouard E, Legras A, et al. Cardiopulmonary resuscitation in the prone position:Kouwenhoven revisited. Intensive Care Med 1996;22:1272. 11) Tobias JD, Mencio GA, Atwood R, et al. Intraoperative cardiopulmonary resuscitation in the prone position. J Pediatr Surg 表2 小児周術期心停止に使用する機器・備品 機器/備品概要モニター装置蘇生の必要性の早期認識のために使用/適用があれば侵襲的なモニタリングも行う/胸骨圧迫の有効性,気道維持,および自己心拍再開確認目的にEtCO2(波形表示・定量)血液製剤十分な量の補充用血液製剤が手元にある(できればクロスマッチ済み,必要なら室内に)静脈路輸液・薬物投与およびモニタリングが適切にできるアクセス/骨髄路も利用(導入時に静脈路がなかったり,静脈路確保が不可能であった場合に有用)救急カート麻酔カートに装備していない薬物・備品,薬物容量ガイド(患者用に算出,身長別,色別コード),確認事項チェック表やアルゴリズムのコピー,局所麻酔薬中毒用の脂肪乳剤,悪性高熱症キット除細動器電気ショックや除細動を要する不整脈治療用/自施設の除細動器に慣れておく/小児用パドルの適用を知っておく/術中不整脈が危惧される場合は,ドレープ前にパッドを貼付しておくECMO院内発生心停止でCPR に反応しない,治療可能なケースが適用/早期にプロセスを開始(血液を準備,回路を満たし,カニューレを準備,外科医を招集) EtCO2;end-tidal CO2,IO:intraosseous,CPR:cardiopulmonary resuscitation,ECMO:extracorporeal membrane oxygenation 表3 除細動器のキーポイント 体外式除細動JRC ガイドラインでは,初回も2 回目以降も,ともに4 J/kg とするが,成人量を上限とする。適用は,ショック適用リズム:心室細動と無脈性心室頻拍。単相性・2 相性の優位性は不詳。電気ショックを行ったあとはただちに胸骨圧迫を行う1 回ショック法が合理的体外式同期電気ショック血行動態が不安定な頻脈(上室性・心室頻拍),同期電気ショックを0.5—1.0 J/kg で施行するが,不成功の場合には2 J/kg まで上げて再度施行体内式除細動初回2—3 J(各除細動器の最低エネルギー量で開始)。開胸状態で施行。清潔なパドルを使用
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