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危機的出血への対応ガイドライン(2025) 日本麻酔科学会・2025・8 ページ · 周術期・麻酔
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公益社団法人 日本麻酔科学会一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会

I. はじめに

1.関連診療科・部門との多職種連携の重要性2 2.指揮系統の確立2 3.フィブリノゲン濃縮製剤や急速輸液・輸血装置の使用2

II. 輸血療法

1.血液製剤3 2.血漿分画製剤4 3.危機的出血での輸血療法4

III. 大量出血に伴う合併症

1.大量輸血に伴う主な急性合併症6 2.注意すべき輸血反応6

IV. 急速輸液・輸血装置

1.使用目的7 2.種類と特徴7

目 次策定2007年  4月改訂2007年11月改訂2025年  4月

危機的出血への対応ガイドライン
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危機的出血とは「心停止や高度な神経学的合併症,死亡に至る可能性のある出血」であり,救命を優先した迅速な対応が必要となる。手術には予測出血量に見合う血液準備・輸血体制を整えて臨むことが原則である。しかし,危機的出血は必ずしも出血量によらず,患者の全身状態や外科手技,緊急手術などさまざまな要因により常に発生する危険がある。

1.関連診療科・部門との多職種連携の重要性

危機的出血では患者の救命を最優先とした対応が必要であり,外科的応急処置に加え血行動態の安定化を目的とした体液管理や合併症対策を迅速に開始することが重要である。そのため麻酔科医師と外科系医師の連携のみならず,看護師,臨床工学技士,臨床検査技師などの多職種および手術室や輸血管理部門(輸血部,検査部など),血液センターなど多部門の連携が重要となる。関係者は院内の血液供給体制(血液搬送体制,院内備蓄体制,輸血管理部門の手続きに要する時間など),血液センターの供給体制,手術室での血液製剤保管体制や使用可能な輸液・輸血加温装置,急速輸液・輸血装置などについて熟知していることが必要である。

また「危機的出血時の対応」について輸血療法委員会などで自施設のマンパワーや設備,血液供給体制に沿った院内規定・マニュアルを作成し,日頃より関係部門とシミュレーションを実施しておくことが望ましい。

2.指揮系統の確立

危機的出血が発生した場合には,統括指揮者(コマンダー)

*を決定し,非常事態発生の宣言(マンパワー

招集,輸血管理部門・臨床検査部門へ「非常事態発生」の連絡)を行う。コマンダーは,止血状況,血行動態,検査データ,血液製剤の供給体制などを総合的に評価し,手術継続の可否・術式変更(IVR:Interventional Radiology も含め)などを術者と協議するとともに多職種との情報共有に努める。

* 担当麻酔科医師,麻酔科上級医師,担当科上級医師などが担当する。

3.フィブリノゲン濃縮製剤や急速輸液・輸血装置の使用

フィブリノゲンは止血に必須の凝固因子であるが,大量出血時は消費や希釈により早期に低下する。危機的出血では新鮮凍結血漿だけでなく乾燥人フィブリノゲン製剤やクリオプレシピテートなどのフィブリノゲン濃縮製剤の使用も考慮し,救命を優先した速やかな止血に努める。また,急速輸液・輸血装置を使用するなど迅速な血行動態の安定化を図る。

はじめにI
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危機的出血での血液製剤および血漿分画製剤の使用に際しては,厚生労働省による「血液製剤の使用指針」および「輸血療法の実施に関する指針」の改定版を参照する。また,日本輸血・細胞治療学会の「大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン」も参照可能である。危機的出血においては,緊急度に応じて交差適合試験の省略や異型適合血の使用を躊躇せず,救命を最優先する。出血早期には晶質液のみならず膠質液も使用してバイタルサイン維持に努め,状況に応じて以下の血液製剤および血漿分画製剤を用いた適切な輸血療法を開始する。

1.血液製剤

(1)赤血球製剤

危機的出血では,主に急性出血による赤血球の不足や赤血球の機能低下による組織への酸素供給低下を改善する目的で用いる。周術期貧血で推奨されるヘモグロビン(Hb)トリガー値は7 ~8 g/dL であるが,冠動脈疾患などの心疾患,肺機能障害や脳循環障害のある患者でのトリガー値は,Hb 10 g/dL 程度が推奨されている。輸血準備の時間に余裕がある場合は,交差適合試験と放射線照射を行った赤血球製剤を投与する。投与の必要性が急迫している場合,血液型が確定していない患者に対しては交差適合試験を省略したO 型赤血球製剤を使用し,血液型が確定している患者に対しては交差適合試験を省略したABO 同型もしくはO 型赤血球製剤を使用する(どちらを優先するかは,あらかじめ院内で取り決めておくことが望ましい)。ABO 同型血が不足する場合にはABO 異型適合血を用いる。赤血球製剤2 単位(280 mL)を体重60 kg の患者に輸血すると,その直後には輸血前Hb 値より1.3 g/dL 程度増加することが見込まれる。(2)新鮮凍結血漿

危機的出血では,主に複合型凝固異常に対する止血に用いる。新鮮凍結血漿の投与指標にプロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT),フィブリノゲン値などが用いられるが,投与トリガーとしてはどの検査値も十分ではないことに留意する。ただし,ほかに有用な指標がないため,出血中にこれらの検査値が悪化した場合には新鮮凍結血漿の投与を考慮すべきである。危機的出血においては,RBC: FFP 比は1:1(もしくはそれ以上)とすることが「血液製剤の使用指針」および「大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン」で推奨されている。新鮮凍結血漿4 単位(480 mL)にはフィブリノゲンが0.8 〜1 g 程度含まれる。(3)血小板製剤

止血困難な状態が継続し,血小板減少を認める場合には,止血と並行して血小板数を5 万/μL 以上に維持するように血小板輸血を行うことが「血液製剤の使用指針」では推奨されている。血小板製剤10 単位(200 mL)を体重60 kg の患者に輸血した場合,血小板数は3 万/μL 程度上昇することが見込まれる。

輸血療法II
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(4)クリオプレシピテート

クリオプレシピテートの作製体制が整備されている施設では,フィブリノゲン補充のために本製剤の使用も考慮される。クリオプレシピテートは新鮮凍結血漿由来なので,ABO 血液型を一致させることが望ましいが,危機的出血においては異型適合血の使用も許容される。また,クリオプレシピテートの使用において交差適合試験は不要である。新鮮凍結血漿4 単位(480 mL)より作製したクリオプレシピテートに含まれるフィブリノゲンは0.6 ~0.8 g 程度(供血者により個人差あり)である。症例により生体利用率や出血状況は異なるため,製剤投与後にもフィブリノゲン値を再検査し,その効果判定を行うことが必要である。3 ~5 バッグ(3 ~ 4 mL/kg)程度のクリオプレシピテートから開始し,投与後の止血状況に応じたフィブリノゲン値の管理を行うことが合理的である。

2.血漿分画製剤

(1)アルブミン製剤

危機的出血は循環血液量減少性ショックを呈する状態であり,等張アルブミン製剤を適宜投与することで,死亡率や合併症発生率を改善できる可能性がある。アルブミン製剤の投与量は血圧などのバイタルサインなどを参考にし,大量投与によって希釈性の凝固障害が生じることに留意する。(2)乾燥人フィブリノゲン製剤

フィブリノゲン値<150 mg/dL を来す低フィブリノゲン血症では,出血量や同種血輸血量が増加するとの報告があり,危機的出血に伴う低フィブリノゲン血症に対して乾燥人フィブリノゲン製剤の使用も考慮される。投与前には血漿または全血フィブリノゲン値測定,もしくは血液粘弾性検査などのpoint-of-care(POC)テストを用いたフィブリン重合能評価を行い,投与後も適切なモニタリングを行うことが推奨される。通常3 g の乾燥人フィブリノゲン製剤の投与により,100 mg/dL 程度のフィブリノゲン値上昇が期待されるが,危機的出血時には生体利用率が低下するため,製剤投与後にもフィブリノゲン値を再検査し,その効果判定を行うことが必要である。初回投与の目安は50 mg/kg 程度であり,その後の止血状況を評価しながらフィブリノゲン値の管理を行うことが合理的である。なお,出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に対する乾燥人フィブリノゲン製剤の投与は,産科危機的出血以外は適応外使用となるため(2025 年1 月現在),あらかじめ各施設で運用規則を定めておくことが望ましい。(3)プロトロンビン複合体製剤

危機的出血におけるプロトロンビン複合体製剤投与のエビデンスは限定的である。ワルファリン非服用患者が心臓血管外科手術で危機的出血に陥り,通常の止血療法に反応しない場合には,20 ~30 IU/kg の4 因子含有プロトロンビン複合体製剤を投与することが「大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン」では弱く推奨されている。

3.危機的出血での輸血療法

(1)回収式自己血輸血法

危機的出血で大量の赤血球製剤を要する場合,術中回収式自己血輸血が有効である(細菌または悪性腫瘍細
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胞の混入の可能性がある場合を除く)。また,自己血回収装置は生理食塩液で血液を洗浄するため,赤血球製剤を自己血回収装置に通して洗浄・再パックしてから投与することで赤血球製剤の大量投与による血清カリウム値上昇を軽減する可能性がある。(2)大量輸血プロトコール(massive transfusion protocol:MTP)

MTP は外傷を中心とした大量出血症例において赤血球製剤,新鮮凍結血漿,血小板製剤を一定の割合で投与し,血行動態の安定化とともに血液凝固能の回復・維持を図る輸血療法である。基本的な投与法として赤血球製剤:新鮮凍結血漿:血小板製剤の投与単位比1 :1 :1 が目安となるが,「大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン」では赤血球製剤に対する新鮮凍結血漿の投与比を1 以上とすることが推奨されている。同ガイドラインでは,大量出血患者におけるMTP の使用は,外傷領域で強く推奨され,心臓血管外科手術・産科手術・そのほかの領域では弱く推奨されている。(3)異型適合輸血

危機的出血において,ABO 同型血が不足する場合にはABO 異型適合血を用いる。各血液製剤での適合血の選択については対応フローチャートを参照する。

RhD 陰性患者の場合は,RhD 陰性を優先してABO 異型適合血を使用してもよい。RhD 陰性患者が抗D 抗体を保有していなければABO 同型RhD 陽性血を使用してもよいが,女児または妊娠可能な女性患者に RhD陽性血を輸血した場合は,できるだけ早くRhD 陰性の血液に切り替える。臨床的に意義のある不規則抗体が陽性の患者で,対応抗原陰性の血液準備が間に合わない場合には,ABO 同型血を輸血し,救命後に溶血性反応に注意しながら観察を続ける。ABO 異型適合輸血を行ったあとに,ABO 同型血の輸血に変更する場合には,「新たに採取した患者血液検体」を用いた交差適合試験(生理食塩液法による主試験)で適合が確認された血液製剤を用いる。
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大量出血に伴う合併症III

1.大量輸血に伴う主な急性合併症

(1)希釈性凝固障害(凝固因子・血小板数減少)

赤血球製剤や等張アルブミン製剤の大量投与によって生じる。(2)低体温

輸血用血液製剤の不十分な加温によって生じる。(3)電解質異常(高カリウム血症,低カルシウム血症など)

高カリウム血症は主に赤血球製剤の急速または大量投与によって生じる。ポンピングによる血球破壊も高カリウム血症の原因となる。低カルシウム血症は,血液製剤中のクエン酸が患者血中のイオン化カルシウムをキレートすることで生じる。

2.注意すべき輸血反応

(1)輸血関連急性肺障害(Transfusion-Related Acute Lung Injury:TRALI) (2)輸血関連循環過負荷(Transfusion-Associated Circulatory Overload:TACO)

輸血中や輸血後には,急性呼吸不全にも注意すべきで,TRALI やTACO の鑑別を必要とする場合がある。TRALI は急性呼吸促迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome:ARDS)の一種で,血漿成分を多く含む新鮮凍結血漿,血小板製剤での発症頻度が高く,TACO は急性非代償性心不全の一種で,赤血球製剤での発症頻度が高い。(3)遅発性溶血性反応

交差適合試験を省略した場合には,遅発性溶血性反応に注意する必要がある。(4)アレルギー反応(アナフィラキシーなど)

出血量に応じて輸血用血液製剤を投与しても,循環虚脱が遷延する場合にはアレルギー反応を疑う。手術中は覆布(ドレープ)により全身の皮膚粘膜症状が観察しにくく,また皮膚粘膜症状を呈さないアナフィラキシーも約30%程度の頻度で報告されており,注意が必要である。(5)その他

発熱,細菌感染,免疫抑制,輸血後移植片対宿主病(Graft-Versus-Host Disease:GVHD)など。

危機的出血の際は血行動態の安定化と血液凝固能の回復・維持を優先した輸血療法を行うとともに,これらの合併症・輸血反応の回避・軽減に努める。各合併症・輸血反応に対しては病態に応じた治療を行い,出血がコントロールされ血行動態が安定したあとは不必要な輸血を避ける。
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急速輸液・輸血装置IV

1.使用目的

大量出血に対して急速輸液・輸血を行い,血行動態の安定を図る。

2.種類と特徴

送血方式として,加圧式とローラーポンプ式の2 種類がある。(1)加圧式

血液または輸液バッグを加圧チャンバー内で加圧して送血する。2024 年4 月現在,対応機器として1 機種が国内で承認されている。

❶一体型回路であり,緊急時に迅速に準備可能である。❷循環水を使用した湿式加温方式である。❸280 ~300 mmHg まで加圧し送血するが,流量はローラークランプで手動調節する。❹流量のモニタリングはできない。❺ソフトバッグ以外の血液製剤や輸液製剤には対応していない。使用上の注意点

❶専用回路は循環水が流れる加温回路と輸液・輸血が流れる回路の二重構造になっているため,輸液・血

液を満たす前に,加温回路内を蒸留水または精製水で充填し輸液・輸血回路内への漏れがないことを確認する。❷ガスベントフィルタで除去しきれなかった空気が患者に投与される可能性があるため,投与前に輸液・

輸血バッグからすべての空気を除去する。❸加温回路と静脈路の間に気泡を認めた場合は送液しない。❹回収式自己血は血液用バック内に空気が含まれているため使用しない。❺血小板製剤,クリオプレシピテートの加温には使用しない。(2)ポンプ式

ローラーポンプで送血する。2024 年4 月現在,対応機器として2 機種が国内で承認されている。

❶専用回路の組み立てはディスプレイに表示されるインストラクションに従って行える。❷水を使用しない乾式加温方式である。❸ローラーポンプによる細かい流量調節が可能(機種により最小および最大流量は異なる)。

特徴

特徴
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❹送血圧を常にモニタリングし,300 mmHg を超えないように流量が制御される。❺回路内の気泡は再循環機構により自動排気され,患者側の気泡センサーが気泡を感知した場合はポンプ

が自動停止する。❻輸液・輸血残量や回路内圧を常時モニタリングし,異常時はアラームで警告する。❼タッチスクリーンに流量などの動作情報が表示され,パネルタッチで回路のセットアップ,送血操作が

可能である。使用上の注意点❶警報が繰り返し認められるときには,装置の使用を中止する。❷気泡の発生・混入・溶血などの発生が認められる際,本装置を止めるなど適切な対応を実施する。❸自然落差や他の圧力源による輸液と並行して使用しない(逆流の可能性)。❹血小板,クリオプレシピテートの加温には使用しない。

* 輸液・輸血用血液製剤の基本的取り扱いを理解し,機器の操作を事前に習得したうえで使用する。