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産科危機的出血への対応指針 2022
2022年1月(改訂)
日本産婦人科医会日本周産期・新生児医学会
日本麻酔科学会日本輸血・細胞治療学会
日本IVR学会
(五十音順)
大量出血のリスクあるいは稀な血液型
あり
低い
なし
なし
なし
なし
あり
あり
あり
SI :1 以上(出血量:経腟1L、帝切2L 以上) ● 高次施設での分娩推奨● 自己血貯血の考慮● 分娩時血管確保● 血圧・心拍数・SpO2 モニタリング
● 高次施設への搬送考慮● 輸血の考慮、輸血準備開始● 血管確保(20ゲージ以上、横隔膜より頭側、複数) ● 十分な輸液(晶質液→人工膠質液) ● 血圧・心拍数・SpO2 モニタリング● 出血量・尿量チェック● Hb 値・血小板数チェック、凝固検査の採血● 出血原因の検索と除去● 酸素投与● 子宮腔内バルーンタンポナーデ● トラネキサム酸の投与
妊婦のSI :1は約1.5L、SI :1.5は約2.5L の出血量であることが推測される。
<産科医> ● マンパワーの確保● 麻酔科・救急科・ICU へ連絡● 輸血管理部門へ情報提供と発注輸液・輸血の指示・発注と実施● 出血・凝固系検査、各種採血● 出血状態の評価出血源の確認と処置● 血行動態の安定化輸液・輸血・昇圧剤の投与など● 家族への連絡・説明<助産師・看護師> ● 出血量の測定・周知・記録● バイタルサインの測定・周知・記録● 輸液・輸血の介助<輸血管理部門> ● 同型・適合血在庫の確認● 各種血液製剤の供給● 血液センターへの連絡、発注● コマンダーを決定● 赤血球製剤、新鮮凍結血漿、血小板濃厚液の投与● クリオプレシピテート、フィブリノゲン製剤の投与● 出血原因の検索と除去● 子宮圧迫縫合、Interventional Radiology、子宮摘出術など
出血持続バイタルサイン異常持続
危機的出血の宣言
通常の治療に戻る
患者看視は継続
SI (ショックインデックス)心拍数収縮期血圧
1直ちに輸血開始 2高次施設へ搬送
=分娩後異常出血
産科危機的出血を宣言
通常の分娩(出血量評価・バイタルサイン)
出血持続とバイタルサイン異常(乏尿、末梢循環不全)
or SI:1.5以上or 産科DIC スコア8点以上or フィブリノゲン150 mg/dL 未満
産科危機的出血への対応フローチャート
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分娩時あるいは分娩後の大量出血は、周産期管理の進歩によって、減少してきたものの、いまだ直接産科的死亡
の主要原因の一つである。
産科出血は、一般手術などの出血と比較して急速に全身状態の悪化を招きやすく、また、容易に産科DIC(播種性
血管内凝固症候群)を併発しやすい特徴がある。そのため、高次施設や他科と連携をとりながらの特別な対処を要する。
このような状況の下、より安全な母体管理の実現のために、関連5 団体と2017 年に改訂した「産科危機的出
血への対応指針」を周産期医療の進歩に即して修正・改訂した。
産科危機的出血の発生を回避するとともに、発生時に適切に対処できるように、本指針を参考として、施設状況
を反映させた院内マニュアルを整備し、シミュレーションをしておくことが望ましい。
産科出血の特徴
基礎疾患(常位胎盤早期剥離、妊娠高血圧症候群、
子癇、羊水塞栓、癒着胎盤など)を持つ産科出血では中
等量の出血でも容易にDIC を併発する。この点を考慮
した産科DIC スコアは有用といえる。輸液と赤血球輸
血のみの対応では希釈性の凝固因子低下を招きDIC に
伴う出血傾向を助長する。また、分娩では外出血量が少量でも生命の危機となる腹腔内出血・後腹膜腔出血を来
たす疾患(頸管裂傷、子宮破裂など)も存在するので、
計測された出血量のみにとらわれることなく、バイタル
サインの異常(頻脈、低血圧、乏尿)、特にショックイ
ンデックス(SI : shock index)に留意し管理する。
産科出血への対応
妊娠初期検査で血液型判定、不規則抗体スクリーニ
ングを、妊娠中の感作の可能性もあるので妊娠後期には
再度不規則抗体スクリーニングを行うことが望ましい。
いかなる分娩でも大量出血は起こり得るが、特に前
置・低置胎盤、癒着胎盤、巨大筋腫合併、多胎の可能
性がある症例等では高次施設での分娩、自己血貯血を
考慮する。分娩時には必ず血管確保、バイタルサイン
のチェックを行い、自施設の緊急時の輸血までの時間
を確認しておく。
経過中にSI:1 となれば一次施設では高次施設への搬
送も考慮し、新鮮凍結血漿の解凍を含め輸血の準備を
行う。晶質液だけでなく人工膠質液も投与し、血圧の
維持に努める。同時に、出血の原因を検索し、対応する。
バイタルサインだけではなく血小板数を評価し、後での
診断のためにフィブリノゲンを含めた凝固系検査の採
血をしておく。産科DIC では線溶が初期より亢進する
ことが多いのでトラネキサム酸1g をボーラス投与し必
要に応じて追加投与を行う。弛緩出血では子宮内バルー
ンタンポナーデを考慮し、高次施設に搬送の際にも実施
しておくことが望ましい。
各種対応にも拘わらず、SI:1.5 以上、産科DIC ス
コアが8 点以上(単独でフィブリノゲン150mg/dL未満)
となれば「産科危機的出血」をコマンダーは宣言し、
一次施設であれば高次施設へ搬送する。「産科危機的出
血」の対応を指揮するコマンダーは産科医、麻酔科医、救急医などで適切な人材を施設で事前に決めておくこ
とが望ましい。直ちに輸血を開始するが、産科出血の
特徴を考慮し、赤血球製剤、新鮮凍結血漿(FFP)を1:
1 に近い比率で投与し、血小板濃厚液は必要に応じて
追加する。また、肺水腫などを予防する観点から院内
作製クリオプレシピテート、フィブリノゲン製剤など
の投与も考慮する。大量輸液・輸血の際には、加温し
低体温に留意する。輸血療法以外にも止血のために子
宮圧迫縫合、IVR:Interventional Radiology(子宮動脈・
内腸骨動脈塞栓、総腸骨動脈・腹部大動脈バルーンな
ど)、子宮腟上部摘出術・子宮全摘術などを試みる。ま
た、これらの治療を実施中においても出血量の把握や
バイタルサインの観察ができる体制を維持することが
重要である。これらの治療によっても出血が持続し、
バイタルサインの異常が持続する場合には、「危機的出
血への対応ガイドライン」を参照して母体救命に努め
る。
「産科危機的出血」ではクロスマッチに固執せず、未
クロスマッチのABO 同型赤血球またはO 型赤血球な
どの異型適合血(いずれの場合も後追いでクロスマッ
チが必要)を輸血し、血小板あるいは新鮮凍結血漿は
下記の緊急時の適合血の選択を参照し使用する。ただ
し、赤血球の大量輸血時では高K 血症、FFP の大量投
与時では肺水腫を合併することがあり、生命の危機を
伴うので十分に留意する。
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以下に該当する項目の点数を加算し、8点~12点:DICに進展する可能性が高い、13点以上:DIC
基礎疾患(1項目のみ)点数臨床症状点数検査点数早 剥(児死亡) 5急性腎不全(無尿) 4 FDP :10μg/mL以上1〃 (児生存) 4〃 (乏尿) 3血小板 :10万/mm3以下1羊水塞栓(急性肺性心) 4急性呼吸不全(人工換気) 4フィブリノゲン:150mg/dL以下1〃 (人工換気) 3〃 (酸素療法) 1 PT :15秒以上1〃 (補助換気) 2臓器症状(心臓) 4出血時間 :5分以上1〃 (酸素療法) 1〃 (肝臓) 4その他の検査異常1 DIC型出血(低凝固) 4〃 (脳) 4〃 (出血量:2L以上) 3〃 (消化器) 4〃 (出血量:1 ~2L) 1出血傾向4子 癇4ショック(頻脈:100以上) 1その他の基礎疾患1〃 (低血圧:90以下)1〃 (冷汗) 1〃 (蒼白) 1
緊急時の適合血の選択
輸血製剤患者血液型赤血球液
(RBC)新鮮凍結血漿
(FFP)血小板濃厚液
(PC)
A A>O A>AB>B A>AB>B B B>O B>AB>A B>AB>A AB AB>A=B>O AB>A=B AB>A=B O Oのみ全型適合全型適合
危機的出血発生時の対応
基本的事項
1.非常事態宣言を躊躇しない▶ 通常の対応では救命できない
2.コマンダー中心の指揮命令系統▶ 多数のスタッフの組織的対応が不可欠
3.救命を最優先した輸血▶ 緊急度に応じて交差適合試験を省略
4.緊急度コードによる輸血部門管理への連絡▶ 情報の迅速かつ的確な伝達
5.ダブル・チェック▶ 緊急時のヒューマンエラーを回避
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販売名(一般名)略号貯蔵方法有効期間包装期待される輸血効果
(体重50kg)
照射赤血球液-LR「日赤」
(人赤血球液) Ir-RBC-LR-2 2~6°C採血後21日間血液400mLに由来する赤血球1袋(約280mL)左記製剤1袋でHb値は1.5g/dL上昇
新鮮凍結血漿-LR「日赤」
(新鮮凍結人血漿) FFP-LR240 -20°C以下採血後
1年間血液400mLに由来する血漿1袋(約240mL)左記製剤2袋で凝固因子活性は20~30%上昇(血中回収率を100%と仮定)
照射濃厚血小板-LR「日赤」
(人血小板濃厚液) Ir-PC-LR-10 20~24°C振とう保存採血後
4日間10単位1袋 約200mL (含有血小板数
2.0≦~<3.0×10 11)左記製剤1袋で血小板数は約4万/μL上昇
IVR:Interventional Radiologyについて
「産科危機的出血に対するIVR施行医のためのガイドライン2017(日本IVR学会編)http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/ Oce/20170518_Guideline.pdf」を参照
産科出血に対するIVRとして、動脈塞栓術とバルーン閉鎖術がある。動脈塞栓術の適応疾患には、弛緩出血、前置胎盤、癒着胎盤出血、癒着胎盤遺残による出血、子宮内反症、産道裂傷、子宮摘出後の出血などがある。産科危機的出血に対する塞栓術は、塞栓術の技術と知識を持った医師が施行することが肝要である。主たる出血源は子宮動脈であり、原則として両側子宮動脈の塞栓を行うが、卵巣動脈や子宮円索靱帯動脈をはじめとした側副血行路の考慮、血管撮影所見に応じた塞栓物質の選択など、技術的要因に留意する。塞栓物質の第一選択はゼラチンスポンジである。病態に応じて金属コイルやNBCAを用いる事があり、特にDICなど凝固能異常時にはNBCAの使用を考慮するが、NBCAによる塞栓術はカテーテル固着など特有の合併症がみられるため、十分な経験を有した医師が行うべきである。動脈塞栓術は、多職種の連携により、適応ならびに効果の有無の判断を迅速に行うことが肝要であり、速やかなIVRの実施、十分な輸血とIVRで効果不十分な場合には直ちに手術に移行可能な体制を構築しておく必要がある。動脈塞栓術の合併症として、稀ではあるが妊孕性の低下や子宮壊死、次期妊娠の遅延、次回産科危機的出血のリスクが報告されている。また子宮摘出など外科的アプローチに際し、総腸骨動脈・大動脈バルーン閉鎖術が出血コントロールに有用であるため必要に応じて実施する。IVR実施中においても出血量の把握やバイタルサインの観察ができる体制を維持することが重要である。
フィブリノゲン製剤使用に際して
羊水塞栓症、弛緩出血、常位胎盤早期剥離等における産科危機的出血に伴う、後天性低フィブリノゲン血症に対するフィブリノゲンの補充がフィブリノゲン製剤の適応となった。この適応拡大は、フィブリノゲン製剤の投与によって救える患者のために本製剤を用いるという強い意思が根底にあるものである。この適応拡大に際して、関連学会は以下のごとく取り組む。
使用施設
総合・地域周産期母子医療センターおよび大学病院での使用とする。なお、フィブリノゲン製剤の投与に先だってフィブリノゲン値の測定を行い、また投与後の適切な副作用観察ができる施設での使用に限定する。
使用実態の把握
使用例の全数登録制の導入を行う。日本産科婦人科学会への届け出を行う。使用例に生じた副作用については日本血液製剤機構に報告する。
使用方法の適切化
適応外の症例に対しては、学会が(患者背景などを)解析し、注意喚起を促す。
投与基準の明確化
原則としてフィブリノゲン値が150mg/dL未満であることを確認するまでは新鮮凍結血漿もしくはクリオプレシピテートによる凝固因子の補充が行われる。例外的に、持続する危機的出血で患者の生命に危険を及ぼすと判断される場合には検査結果を待たずにフィブリノゲン製剤の投与を行うことが許容される。