p.1
非がん性呼吸器疾患 緩和ケア指針 編 集 | 日本呼吸器学会・日本呼吸ケア・リハビリテーション学会合同 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021作成委員会 Non-malignant respiratory disease Palliative care statement 一般1
非がん性呼吸器疾患 緩和ケア指針 編 集 | 日本呼吸器学会・日本呼吸ケア・リハビリテーション学会合同 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021作成委員会 Non-malignant respiratory disease Palliative care statement 一般1
非がん性呼吸器疾患 緩和ケア指針 編 集 | 日本呼吸器学会・日本呼吸ケア・リハビリテーション学会合同 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021作成委員会 Non-malignant respiratory disease Palliative care statement 一般1
iii 序 1990 年にがん,HIV 感染症に対する「緩和ケア病棟入院料」の健康保険算定が開始されて以来,2016 年の「在宅緩和ケア充実診療所」の算定まで,がんに対しては緩和ケア病棟だけでなく,外来・在宅医療と緩和ケアの提供の場も多様になりました。2002 年WHO による緩和ケアの定義が発表され,そのなかで,緩和ケアの対象疾患ががんのみに限らないことが強調され1),わが国においても非がん性疾患に対する取り組みが始まりました。2018 年,厚生労働省健康局 がん・疾病対策課により,「循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制のあり方に関するワーキンググループ」の取りまとめが行われ,診療報酬改定では末期心不全に対する緩和ケアの算定が認められました。その後循環器疾患による心不全だけでなく,疾患軌道の類似した呼吸不全,脳血管疾患について緩和ケアの考え方が適応できるか意見を求められ,日本呼吸器学会および日本呼吸ケア・リハビリテーション学会員へ上記ワーキンググループの取りまとめの周知が求められ,各ホームページに掲載されました2)。 このような状況を踏まえ,2019 年日本呼吸器学会呼吸管理学術部会内に「非がん性呼吸器疾患による呼吸不全に対する緩和ケア検討会」が設置され,日本呼吸ケア・リハビリテーション学会「呼吸不全緩和ケア検討委員会」と合同で本指針を作成することが決定され,「非がん性呼吸器疾患 緩和ケア指針」作成委員会が結成されました。両学会と緩和医療の専門家からなる作成委員により1 年に及ぶ議論を繰り返し,エビデンスが乏しい領域ながら実臨床で有用な情報を伝えることのできる指針を目指しました。呼吸器専門医と緩和医療専門医,病院勤務医と在宅医療医,経験豊富な医師とエビデンスを熟知する若手医師,医師と看護師および理学療法士など,さまざまなコラボレーションによって現時点でのエビデンスと経験が凝集された指針になったものと自負しています。また本書の作成に関して多方面のサポートをいただいた日本呼吸器学会および日本呼吸ケア・リハビリテーション学会事務局,およびメディカルレビュー社の皆様にも同じチームメンバーとして多大な貢献をいただいたことに厚く御礼申し上げます。 時折しも歴史的なCOVID-19 パンデミックの最中に本指針は編集されたため,残念ながらCOVID-19 に伴う緩和ケアについては十分な検討をなしえませんでした。特に人と人とのコミュニケーションを阻害しかねない感染対策という重要なテーマは今後に残された大きな課題となりました。 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021 作成委員会 1)http://www.who.int/cancer/palliative/definition/en/ 2)http://www.thewhpca.org/resources/global-atlas-on-end-of-life-care
iv 序 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ iii指針使用上の注意 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ vi COI(利益相反)について ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ vii非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021作成委員会 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ viii 非がん性呼吸器疾患の終末期と最終末期(臨死期)の考え方 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 1 総論1.非がん性呼吸器疾患の緩和ケアの現状と課題 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 8 2.非がん性呼吸器疾患の緩和ケアの原則と考え方 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 14 症状の評価と対応1.症状(呼吸困難・咳嗽・喀痰) ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 24 2.その他(倦怠感・食欲不振・便秘・せん妄・不眠・不安・抑うつなど) ʜʜʜʜʜʜʜʜ 33 症状緩和の手段―呼吸管理― 1.酸素療法 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 40 2.NPPV ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 44 3.ハイフローセラピー(HFNC) ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 48 ―薬物療法― 1.オピオイド ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 52 2.その他 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 60 1)コルチコステロイド ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 60 2)ベンゾジアゼピン系薬 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 61 3)抗うつ薬 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 63 4)抗精神病薬 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 65 ―非薬物療法― 1.概説 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 68 2.呼吸リハビリテーション ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 70 3.栄養 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 81 第1章 第2章 第3章 「非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021」目次
v 4.その他の非薬物療法 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 89 1)送風(扇風機・経鼻カニュラ) ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 89 2)鍼治療 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 90 3)セルフマネジメント ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 91 4)心理療法 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 95 チーム医療1.多職種連携 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 102 2.地域連携 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 107 3.在宅における緩和ケア ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 111 エンドオブライフケアに関わる諸問題1.意思決定支援・ACP ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 120 2.看護ケア ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 127 3.最終末期の鎮静 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 135 疾患別の緩和ケア1.慢性閉塞性肺疾患(COPD) ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 142 2.間質性肺疾患(ILD) ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 149 3.気管支拡張症(BE) ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 156 索引 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 164 第4章 第5章 第6章
vi指針使用上の注意 1.本指針の目的 日本呼吸器学会・日本呼吸ケア・リハビリテーション学会としてCOPD,間質性肺疾患,気管支拡張症,非結核性抗酸菌症などの非がん性呼吸器疾患に対する緩和ケアについてのエビデンスの集積と専門家の意見集約を図る機会として本指針を提示する。がんと比べて緩和ケアの光の届いていない患者を救い,緩和ケアの啓発,オピオイドの安全な使用法の普及,今後の社会保険医療制度の指針につながると考えられる。 2.対象患者 COPD,間質性肺疾患,気管支拡張症,非結核性抗酸菌症などの非がん性呼吸器疾患を有する患者 3.使用者 対象患者を診療する呼吸器専門医,病院の呼吸ケアチームだけでなく,プライマリケア医,在宅医,在宅医療に係る医療スタッフに届く内容とした。 4.指針適用の注意点 本指針の内容については日本呼吸器学会および日本呼吸ケア・リハビリテーション学会における「非がん性呼吸器疾患の緩和ケア指針2021」作成委員会において作成し,パブリックコメント,外部評価委員の査読を経て,現時点でのエビデンスと臨床的知見をまとめたものであるが,診療指針の推奨は強制されるべきものではなく,診療行為の選択肢を示す一つの参考資料である。医療チームと患者・家族は協働して最良の治療を選択すべきであり,個々の患者の医学的・社会的な特性・個別性・多様性を考えながら,本指針に述べられたエビデンスや推奨事項を参考にして,治療方針が決定されることが望まれる。また,本指針の推奨は恒久的ではなく,治療法は今後の知見によって変わりうるものである。本指針は医療訴訟に利用されることを前提として作成は行っておらず,裁判の資料となるものではない。 5.定期的な再検討の必要性 5 年ごとに海外の動向も確認しながら見直しを行う(改定責任者:日本呼吸器学会 呼吸管理学術部会長,日本呼吸ケア・リハビリテーション学会 呼吸不全緩和ケア検討委員会委員長)。今後の改訂においては,オピオイドの使用法や時期など緩和ケアにおける具体的な課題については,デルファイ法等で学会としての推奨について検討したい。 6.利益相反 日本医学会が定めた「診療ガイドライン策定参加資格基準ガイダンス(平成29 年3 月)」に準拠したうえで作成された。本指針の作成にかかる費用は日本呼吸器学会・日本呼吸ケア・リハビリテーション学会より拠出された。本指針作成のどの段階においても,指針で扱われている内容から利害関係を生じうる団体からの資金提供は受けていない。指針の策定にかかる委員会には専門的知識や豊富な経験をもつ医師・医療スタッフが参画し,企業との利益相反関係が深い場合も多い。関係企業との利害関係の軽重を評価し,関係企業に有利となるようなバイアスリスクができる限り発生しないように,社会に対する説明責任が果たせるように対応した。 報告対象とする企業等(以下,報告対象企業等とする)は,医薬品・医療機器メーカー等医療関係企業一般並びに医療関係研究機関等の企業・組織・団体とし,医学研究等に研究資金を提供する活動もしくは医学・医療に関わる活動をしている法人・団体等も含めた。
vii ●COI(利益相反)について一般社団法人日本呼吸器学会及び一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会は,COI(利益相反)委員会を設置し,内科系学会とともに策定したCOI(利益相反)に関する当学会の指針ならびに細則に基づき,COI 状態を適正に管理している(COI(利益相反)については,学会ホームページに指針・書式等を掲載している)。 1 企業や営利を目的とした団体の役員, 顧問職の有無と報酬額(1 つの企業・団体からの報酬額が年間100 万円以上) 2 株の保有と, その株式から得られる利益(1 つの企業の年間の利益が100 万円以上, あるいは当該株式の5% 以上を有する場合) 3 企業や営利を目的とした団体から支払われた特許権使用料(1 つの特許権使用料が年間100 万円以上) 4 企業や営利を目的とした団体から会議の出席(発表)に対し, 研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当(講演料 など) (1 つの企業・団体からの年間の講演料が合計50 万円以上) 5 企業や営利を目的とした団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料(1 つの企業・団体からの年間の原稿料が 合計50 万円以上) 6 企業や営利を目的とした団体が提供する研究費(1 つの臨床研究(治験, 共同研究, 受託研究など)に対して支払われた総額が 年間100 万円以上) 7 企業や営利を目的とした団体が提供する奨学(奨励)寄付金(1 つの企業・団体から, 申告者個人または申告者が所属する講 座・分野または研究室に支払われた総額が年間100 万円以上) 8. 企業などが提供する寄付講座に申告者が所属している場合(申告者が実質的に使途を決定し得る寄付金の総額が年間100 万円以上) 9 研究とは直接無関係な旅行, 贈答品などの提供(1 つの企業・団体から受けた総額が年間5 万円以上) 〈利益相反開示項目〉該当する場合は具体的な企業名(団体名)を記載, 該当しない場合は「該当なし」を記載する。 〈開示すべきCOI がない委員〉(委員)桂 秀樹,門脇 徹,郷間 厳,合屋 将 ,近藤 康博,竹川 幸恵,武知由佳子,玉木 彰,坪井 知正,中田 隆文,長谷川智子,平原佐斗司,松田 能宣,宮川 哲夫,吉川 雅則,吉澤 孝之, (事務局)立川良, (編集協力者)井上真一郎,今戸美奈子,沖㟢歩,若林律子, (特別編集協力者)一和多俊男, (外部評価委員)荻野美恵子,田中 桂子,三浦 久幸,山口 崇 〈利益相反事項の開示〉 氏名利益相反事項 開示項目企業名 委員長富井 啓介4 日本ベーリンガーインゲルハイム(株),アストラゼネ カ(株),日本イーライリリー(株),帝人ファーマ(株) 6 帝人ファーマ(株),(株)フィリップス・ジャパン 委員井上 彰4アストラゼネカ(株),日本イーライリリー(株),第一三共(株),中外製薬(株),ファイザー(株),日本ベーリンガーインゲルハイム(株),MSD (株) 津田 徹4日本ベーリンガーインゲルハイム(株),アストラゼネカ(株),帝人ヘルスケア(株)西村 直樹6アストラゼネカ(株),グラクソ・スミスクライン(株) 福井 基成4 帝人ヘルスケア(株) 6 東レ(株) 堀江 健夫4アストラゼネカ(株)山内 基雄6 (株)小池メディカル氏名利益相反事項 開示項目企業名 編集協力者鈴木 雅雄7 (株)ツムラ特別編集協力者植木 純6バンドー化学(株)外部評価委員会田 薫子8 (公財)上廣倫理財団 大坂 巌4中外製薬(株),塩野義製薬(株),ムンディファーマ(株)
viii非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021 作成委員会 富井 啓介地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器内科(日本呼吸器学会呼吸管理学術部会長)津田 徹医療法人社団恵友会霧ヶ丘つだ病院(日本呼吸ケア・リハビリテーション学会呼吸不全緩和ケア検討委員会委員長) 井上 彰東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野桂 秀樹東京女子医科大学呼吸器内科学門脇 徹独立行政法人国立病院機構松江医療センター呼吸器内科郷間 厳地方独立行政法人堺市立病院機構堺市立総合医療センター呼吸器内科合屋 将公立学校共済組合 近畿中央病院呼吸器内科近藤 康博公立陶生病院呼吸器・アレルギー疾患内科竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪はびきの医療センター武知由佳子医療法人社団愛友会いきいきクリニック玉木 彰兵庫医療大学リハビリテーション学部理学療法学科坪井 知正独立行政法人国立病院機構南京都病院呼吸器センター中田 隆文医療法人杉の子会マリオス小林内科クリニック西村 直樹聖路加国際病院呼吸器センター呼吸器内科長谷川智子福井大学学術研究院医学系部門看護学領域平原佐斗司東京ふれあい医療生活協同組合梶原診療所福井 基成公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院呼吸器センター呼吸器内科堀江 健夫前橋赤十字病院呼吸器内科松田 能宣国立病院機構近畿中央呼吸器センター心療内科宮川 哲夫昭和大学大学院保健医療学研究科呼吸ケア領域山内 基雄奈良県立医科大学呼吸器内科学講座(呼吸器・アレルギー・血液内科)吉川 雅則奈良県立医科大学栄養管理部吉澤 孝之医療法人社団愛語会要町病院呼吸器内科 立川 良地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器内科 井上真一郎岡山大学大学院精神神経病態学教室今戸美奈子日本赤十字社高槻赤十字病院呼吸器センター沖㟢 歩国立がん研究センター中央病院支持療法開発センター鈴木 雅雄福島県立医科大学会津医療センター漢方医学講座若林 律子関東学院大学看護学部療養支援看護学 一和多俊男一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会 前理事長植木 純一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会 現理事長 会田 薫子東京大学大学院人文社会系研究科大坂 巌社会医療法人石川記念会HITO 病院緩和ケア内科荻野美恵子国際医療福祉大学医学部田中 桂子東京都立駒込病院緩和ケア科三浦 久幸国立研究開発法人国立長寿医療研究センター山口 崇公益財団法人甲南会甲南医療センター緩和ケア内科 委員長 委員(五十音順) 委員会事務局 編集協力者(五十音順) 特別編集協力者 外部評価委員(五十音順)
はじめに 非がん性呼吸器疾患(non-malignant respiratory disease;NMRD)では,疾患によって経過が異なり,終末期をいつからと考えるかは,肺機能の低下や症状の進行が比較的緩徐であること,予測できない急な増悪や回復があることから,きわめて困難な判断となる。そのため,本指針の作成にあたってはまず委員全体で共通認識を図るための議論を行い,概論的には終末期および最終末期(臨死期)を本章の定義とすることでコンセンサスが得られた。厚生労働省は,平成27 年3 月から「終末期医療」を『人生の最終段階における医療』と変更した。これは,最期まで尊厳を尊重した人間の生き方に着目した医療を目指すという考え方によるものであるが,この指針では「終末期」と統一した。 非がん性呼吸器疾患 非がん性呼吸器疾患は慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺疾患(ILD),気管支拡張症(BE),非結核 性抗酸菌症など,がん以外の慢性呼吸器疾患を包括する言葉として提唱されている。 終末期の疾患軌道 Lynn らは終末期の疾患軌道を「がんなどのモデル」「心肺疾患などの臓器不全モデル」「認知症・老衰モデル」の3 つに分類した(図1) 1)。がんは最後の1 ~2 ヵ月で全身的機能が低下する特徴から,予後予測が比較的容易である。心肺疾患などの臓器不全モデルでは増悪と改善を繰り返しながら徐々に全身的機能が低下し,終末期と増悪の区別も容易でないことから予後の予測が難しい。認知症・老衰モデルでは緩やかなスロープを下るように全身機能が低下する。 終末期 一般的には,適切な薬物・非薬物的治療を行っているにもかかわらず,症状のコントロールができ 非がん性呼吸器疾患の終末期と最終末期(臨死期)の考え方 本指針では非がん性呼吸器疾患の終末期像を中心に議論するが,終末期を明確に線引きすることは難しく,治療抵抗性の症状が続く場合などに早期から緩和ケアとACP を導入することが重要である。本指針における終末期とは,「1)日常生活で介助が必要,かつ,頻回の増悪,症状持続,著明なQOL 低下を認める。2)身体的特徴として,サルコペニアやフレイルの状態を伴うことが多い」と定義し,予後はおよそ半年から数年と推測される。本指針における最終末期とは,「症状緩和が主目標となる,死が差し迫った状態」と定義し,予後数日から1 週間程度と推測される。非がん性呼吸器疾患とともに歩んできた個々の「病みの軌跡」を医療チームが共有し,終末期の対応を考える。 サマリー
ず,増悪を繰り返し,本邦においても,二次的に進行性の身体的・精神的機能,QOL の著しい低下をきたした頃からを終末期とされてきた2〜5)。通常,著明なサルコペニアとフレイルの状態を伴い6),日常生活のほとんどに介助を要する。このような状態を医療・ケアチームが判断した時点からを終末期とされてきた3 −5)。実際には第1章の「2.非がん性呼吸器疾患の緩和ケアの原則と考え方」で述べるように, 1過去1年以内に複数回の増悪による入院,2 ADL の急激な低下(通院困難,あるいは訪問診療への切り替え,要介護状態となったときなど),3在宅酸素療法やNPPV などの導入,4フォローアップ中に著明な体重減少(10 %/6ヵ月)を認めたときなどが想定される。 海外の終末期のイメージでは,デンマーク呼吸器学会の非がん慢性進行性呼吸器疾患緩和ケアのポジションペーパーの基準を紹介する(表1,2)7)。COPDおよびILDいずれの終末期においても日常生活において他者の支援に依存した状態であり,増悪が繰り返し起こり,NPPV や酸素吸入が必要で低栄養もしくは重篤な併存症を有する状態である。 本指針においては,終末期について予後はおよそ半年から数年をイメージし,「1)日常生活で介助が必要,かつ,頻回の増悪,症状持続,著明なQOL 低下などを認める。2)身体的特徴として,サルコペニアやフレイルの状態を伴うことが多い」と定義し た。 最終末期 本指針における最終末期は,「症状緩和が主目標となる,死が差し迫った状態」と定義し,予後数日から1 週間程度をイメージする。ほかに治療法がない,もしくは希望されずに死が差し迫った臨死期であり,症状緩和がまず優先される状態である。「終末期」「最終末期」の判断と緩和ケアおよびアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning;ACP)との関係を図2に示す。ACP はなるべく早い時期から本人の意思を中心に継続的に行われるものであり,本来は終末期前から開始することが望ましい。このACP の過程のなかで,「終末期にむけての治療とケア等の選択に関する話し合い(エンド・オブ・ライフ・ディスカッション〔end of life discussion;EOLD〕)」をいつ開始するかは,患者の心身の状況に加えて,患者の置かれている社会的環境やその国や地域の医療のシステムや文化などによって異なる。終末期と認識した時点ではこれらの話し合いを始めることを意識し,これらの判断決定は医療・ケアチームで繰り返し話し合って決定する必要がある。またその決定は必要があれば話し合いでいつでも変更可能なものとする。 緩和ケア 「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002 年) 8)」緩和ケア関連団体会議による定訳9)によると,緩和ケアとは,生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOL を,痛みやそのほかの身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで,苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。・痛みやその他のつらい症状を和らげる・生命を肯定し,死にゆくことを自然な過程と捉える 高 身体の機能がん臓器不全 認知症・老衰 死亡 時間低 図1 終末期の疾患軌道 (文献2より引用改変)
表1 COPD 終末期定義の例(デンマーク呼吸器学会 非がん慢性進行性呼吸器疾患緩和ケア ポジションペーパーの基準より)数ヵ月以上にわたって息切れや衰弱のため他者による支援に依存している,かつ,少なくとも下記の2項目を満たす ・過去6 ヵ月にCOPD 増悪 and/or NPPV もしくは人工呼吸器を要する入院・在宅酸素療法,NPPV の継続・適切な栄養療法を行ってもBMI18 未満進行性もしくは新たに診断された重篤な併存症 (文献7より改変引用) 表2 ILD 終末期定義の例(デンマーク呼吸器学会 非がん慢性進行性呼吸器疾患緩和ケア ポジションペーパーの基準より)数ヵ月以上にわたって息切れや衰弱のため他者による支援に依存している,かつ,少なくとも下記の2 項目を満たす ・直近の1 年間で2 回以上の増悪や感染による呼吸器関連入院・安静時SpO2 <88 %・身体活動性低下(6 分間歩行距離<212 m)・肺高血圧症・FVC が予測値の50% 未満,あるいは過去6 ヵ月間で%FVC>10% もしくは%DLCO>15% の低下進行性もしくは新たに診断された重篤な併存症 (文献7より改変引用) 高いACP 緩和ケア最終末期判断 エンドオブライフケア グリーフケア オピオイドの開始判断 軽症中等症重症労作時の呼吸困難最重症安静時の呼吸困難 低い 死亡 身体機能終末期判断 図2 終末期へ向かう疾患軌道とACP・緩和ケア緩和ケアとACP はともに終末期以前から対象となる。終末期判断が見込まれるようになって以降オピオイドの開始判断がもたれる。またオピオイドも終末期判断以降で個別の状況に応じて投与が検討される。本指針では対象を終末期の患者としているが,緩和ケアとACP は本来,終末期以前から実施すべきものである。
・死を早めようとしたり遅らせようとしたりするも のではない・心理的およびスピリチュアルなケアを含む・患者が最期までできる限り能動的に生きられるよ うに支援する体制を提供する・患者の病の間も死別後も,家族が対処していける ように支援する体制を提供する・患者と家族のニーズに応えるためにチームアプ ローチを活用し,必要に応じて死別後のカウンセリングも行う・QOL を高める。さらに,病の経過にも良い影響を 及ぼす可能性がある・病の早い時期から化学療法や放射線療法などの生 存期間の延長を意図して行われる治療と組み合わせて適応でき,つらい合併症をよりよく理解し対処するための精査も含む ACP 1970 年代後半以降,米国では延命治療の伸展に伴い,終末期医療の希望を前もって患者が指示する事前指示(advance directive)が行われるようになった。しかし,指示する過程に対する配慮が充分でなかったため,1990 年代より患者の意向を聞きつつ,何が患者にとってよいことなのかを患者と医療者が共に考える協働意思決定(shared decision making)が行われるようになった。この過程では,患者の意向を表明し,尊重することが重要とされ,この過程がACP と呼ばれた。自らが望む人生の最終段階における医療・ケアについて,前もって考え,医療・ケアチームなどと繰り返し話し合い共有することである。厚生労働省では,広く国民に周知を求めるため,2018 年11 月ACP の愛称を「人生会議」と決定した。 エンドオブライフケア,EOLD エンドオブライフケアは誰もが遭遇するエンドオブライフについて事前に考えながら生活し,そのときが訪れたら,生きてきた日常性を保持しながら 尊厳をもってその人らしく生きること,生命・生活・人生の質(QOL)と価値を高め,ケアのプロセスにおいて家族を支えるグリーフケア(患者との死別に対するケア)を含めた医療モデルと生活モデルを統合したケアである(日本エンドオブライフケア学会)。さらに,EOLD は時間軸ではなく,図310)に示すように,ACP をも包括するようなさらに広い概念であり,定義もACP より曖昧である。ACP は,「将来に向け,あらかじめ早い段階から,意思決定能力低下時も,患者が語ったり書いたりしたものにより,患者の意思が尊重され,家族や医療スタッフも,患者にとっての最善のケアが選択されると思えるような対話のプロセス」,EOLD(エンド・オブ・ライフ・ディスカッション)については,国内外では明確なコンセンサスはないが,本指針においては「現在,差し迫った病状にあり,患者が望むケアの目標や願い,価値観を明らかにするような対話のプロセス」という定義を採用した。慢性呼吸不全増悪時に差し迫った病状での対話(EOLD)がなされ,その後,回復したときには,このEOLD が将来に向けてのACP のプロセスの一コマとなる11)。 オピオイドの使用開始に関しても一律に決められるものではなく,身体状況に比して呼吸困難の訴えが強い場合はオピオイド開始が相対的に早くなり,その逆であればオピオイドの使用は最終末期に至る直前まで不要の場合もある。また一旦,オピオイドを開始しても有効性が認められない場合は最終末期まで使用しない可能性もある。 病みの軌跡 慢性の病気をもつ患者が長年の生活のなかでその慢性疾患に関してどのような体験をし,どのような変化を辿ったかの行路であり,過去の出来事を振り返ってみたときに初めてわかるもの,とされている(図4)。看護師により聴取されることが多いが,医師を含む医療チームはそれぞれの患者の人生の歩みと慢性疾患の進行を考慮に入れて,終末期の対応を
エンド・オブ・ライフ・ディスカッション アドバンス・ケア・プランニング アドバンスディレクティブ 医療判断代理委任状リビングウイル 図3 終末期の意志決定の概念 (文献10より引用) 前軌跡期 急性期不安定期 下降期 個人の過去,現在,未来を捉え,チームで病みの軌跡を共有する COPD と診断 身体機能病気の進行活動範囲の縮小終末期最終末期 これまでやってきた仕事が継続できない 酸素がないと動けない 自宅に引きこもり NPPV 導入 HOT 導入 年2回の入院* 軌跡発現期 立ち直り期 クライシス期 安定期 意識レベル低下緊急入院 HOT:在宅酸素療法NPPV:非侵襲的陽圧換気療法 労作時呼吸困難で受診 図4 HOT+NPPV 療法となったCOPD 患者の病みの軌跡これまでどのような社会生活を送ってきたかに始まり,COPD と診断される「軌跡発現期」。在宅酸素療法が導入となるも,酸素を吸入する自分を受け入れることができないまま,入院が必要となる「急性期」。呼吸リハビリテーションを受けて,呼吸困難との付き合い方,セルフマネージメント能力の向上により,病気とともに生活することができる「安定期」。安静時の呼吸困難感が増強,自宅にこもるようになり,病みの行路や症状がコントロールされない「不安定期」。高炭酸ガス血症となり,意識レベルの低下により緊急入院となりNPPV 導入となる「クライシス期」。何度も不安定な時期と回復を繰り返し病状のさらなる進行や,自分の立ち位置を失うなど心理的状況の悪化をきたす「下降期」。この下降期から臨死期に向かうのか立ち直り期に向かうのか,管理により行路は変わる(*)。
考えたい。行路は,患者の治療・療養法の管理のあり方,適切なセルフマネジメントによって,急性増悪(急性期・クライシス期)を予防し,安定期を少しでも長く維持することができるという考えである。患者は自分が生きてきた出来事に病気を関連づけて捉えるなど,医療者とは時間経過の捉え方が違う。慢性期のケアでは医療者の視点から,患者の見ている世界をともに見ることも重要である12)。 ▪文 献1)Lynn J. Perspectives on Care at the Close of Life. Serving Patients Who May Die Soon and Their Families: The Role of Hospice and Other Services. JAMA. 2001;285:925-32. 2)桂秀樹.慢性閉塞性肺疾患の終末期医療と緩和ケアの意義. 日臨.2003;61:2212-9. 3)Wuyts WA, Peccatori FA, Russell AM. Patient-centred man- agement in idiopathic pulmonary fibrosis:similar themes in three communication models. Eur Respir Rev. 2014;23: 231-8. 4)Bourke S, Peel E. Palliative care of chronic progressive lung disease. Clin Med(Lond). 2014;14:325. 5)Lanken PN, Terry PB, Delisser HM, et al. An official American Thoracic Society clinical policy statement:palliative care for patients with respiratory diseases and critical illnesses. Am J Respir Crit Care Med. 2008;177:912-27. 6)三川浩太郎,秋山歩夢,辻村康彦,他.慢性閉塞性肺疾患に おけるサルコペニア患者の有病率および臨床的特徴について.日呼吸ケアリハ会誌.2020;29:304-10. 7)Marsaa K, Gundestrup S, Jensen JU, et al. Danish respiratory society position paper:palliative care in patients with chronic progressive non-malignant lung diseases. Eur Clin Respir J. 2018;5:1530029. 8)World Health Organization. WHO Definition of Palliative Care. http://www.who.int/cancer/palliative/definition/en/,(accessed 2020-06-29) 9)日本緩和医療学会.緒言・提言.2018.https://www.jspm. ne.jp/proposal/proposal.html.(閲覧:2020-6-29) 10)森田達也,白土明美(著),死亡直前と看取りのエビデンス.東京:医学書院;2015. 11)西川満則,高梨早苗,久保川直美,他.アドバンスケアプランニングとエンドオブライフディスカッション. 日老医誌. 2015;52:217-23. 12)Corbin JM, Strauss A.A nursing model for chronic illness management based upon the trajectory framework. Sch Inq Nurs Pract 1. Fall1991;5:155-74.
総 論 第 1 章
これまでにわかっていること 1.非がん性呼吸器疾患と緩和ケアのニーズ 非がん性呼吸器疾患(non-malignant respiratory disease;NMRD)とは,慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺疾患(ILD),気管支拡張症など慢性的に経過するがん以外の呼吸器疾患を包括する言葉として用いられる。 世界保健機関(WHO)と世界緩和ケア連合(WPCA)が2014 年に出した報告書「Global Atlas of Palliative care at the End of Life」では,世界で緩和ケアが必要な人のうちCOPD の割合は10.26 %で,がん,循環器疾患についで多い1,2)とされた(図1)。 先進国では死亡者の約6 割に緩和ケアが必要3)とされているが,緩和ケアを必要とする,およそ1 割が非がん性呼吸器疾患患者であろうと推定される。 がんに限らず,緩和ケアを提供する米国のホスピスプログラムにおいては,がん患者は約1/3,非がん性疾患患者は2/3 であり,非がん性疾患のニーズ が高い。さらに,ホスピスプログラムの対象者の約 11.0 %が呼吸器疾患であり,非がん性疾患のなかで は,心疾患(17.6 %),認知症(15.6 %)についで多い3)。非がん性呼吸器疾患の緩和ケアに要する日数は,がんのケアに要する日数より長くなる場合があることも報告されている(図2) 3)。 わが国の年間死亡数(2018 年)約136 万人のうち,悪性新生物によるものは約37 万人(27.4 %)である。一方,非がん性疾患である循環器系疾患・脳血管系疾患,呼吸器系疾患,神経系疾患,認知症,慢性腎不全を合わせると66 万人となり,年間死亡者の48.5 %に相当する4)。したがって,死亡前の緩和ケアを必要としている患者は,わが国でも,がん患者よりも非がん患者の方が多いことが考えられる。非がん性呼吸器疾患ではCOPD は18,577 名, ILD は19,321 名,その他の呼吸器疾患(誤嚥性肺炎を除く)14,998 名を合わせると,非がん性呼吸器疾患の死亡者数は52,896 名(全死亡の約3.9 %)と推 総論 1.非がん性呼吸器疾患の緩和ケア の現状と課題 第1章 サマリー 非がん性呼吸器疾患は慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺疾患(ILD),気管支拡張症(BE)など慢性的に経過するがん以外の呼吸器疾患を包括し,緩和ケアのニーズが高い。非がん性呼吸器疾患患者では,増悪により身体機能は改善,悪化を繰り返し,どの時点から緩和ケアを開始するか判断が難しい。呼吸リハビリテーションを積極的な回復ケアと捉えるだけではなく,緩和ケアと捉え,早期からの導入が重要であり,緩和ケアと呼吸リハビリテーションの目的は同じであることが広く知られるべきである。呼吸リハビリテーションの介入がないまま最終末期を迎えることがないよう,情報を密にし,患者を孤立させないことが重要である。
定4)される。 COPD を含む非がん性呼吸器疾患に適切な緩和ケアを届けることは国内外での緩和ケアおよび呼吸器病学の重要な課題の一つとなっている。 2.がん,非がん性疾患の疾患軌道と終末期 の判断,課題図3に示すように,がんでは比較的長い期間,身体機能は保たれ,最後の数ヵ月で急に身体機能が低下して死に至るため,比較的,予後の予測が可能である。一方,心不全,呼吸不全をはじめとした臓器不全では,増悪を繰り返し徐々に身体機能が低下す る。さらに,脳卒中,ILD のように初めての増悪を機に死に至る場合もある(図3) 5)。このような疾患軌道を辿るため,非がん性呼吸器疾患では,予後予測と,どの時点から緩和ケアを開始するかの判断が難しい6)。 日本緩和医療学会代議員に対するインターネット調査では,回答者の80 %は非がん性疾患に対する緩和ケアに自信がなく,その理由をがん患者の緩和ケアと比較すると「予後予測が難しい」「緩和ケアに関する診療加算が算定できない」「回復可能な状態 心血管疾患 38.47%がん 34.01% n=19,228,760 アルツハイマーとその他の認知症 1.65% 肝硬変 1.70%腎臓病 2.02%糖尿病 4.59% HIV/AIDS 5.71% COPD 10.26%多発性硬化症 0.04%関節リウマチ 0.27%パーキンソン病 0.48%多剤耐性結核菌症 0.80% 図1 人生の最終段階に緩和ケアを必要とする疾患別割合(成人) (文献2より改変引用) がん慢性腎臓病循環器疾患 認知症その他呼吸器疾患 脳卒中 ケアにかかる日数 0 20 40 60 80 100 120 平均値48.0平均値38.2 平均値81.9 平均値110.0 平均値70.0 平均値74.9 平均値82.4 中央値19.0中央値8.0 中央値30.0 中央値55.0 中央値19.0中央値20.0 中央値24.0 図2 2017年における主要疾患のケアにかかる日数 (文献3より改変引用)
かどうかの判断が難しい」「終末期かどうかの判断が難しい」「症状緩和のための薬物療法で適応外処方が多い」などの困難な理由を挙げていた。また,非がん性疾患は良性疾患としての位置づけであるため,患者と家族の認識や希望に乖離があることも挙げられている7)。非がんの緩和ケアには,がんの緩和ケアと各専門領域の学会との協働がこれから望まれる。 また,欧米の調査では,がんに比べて,非がん性疾患患者の多くが,苦痛を伴った最期を迎えていること8,9),米国の退役軍人を対象とした調査では,がんや認知症の患者に比べて腎不全,心不全などの患者は緩和ケアを受ける機会が少ないこと,遺族の満足度が低いことが明らかにされている10)。 非がん性呼吸器疾患では,アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning;ACP)をいつ始めるのか,医師と患者の意識の違いも問題となる。日本のCOPD 患者における終末期医療観,医師と患者間の話し合いの状況などについての質問票を用いた多施設横断研究では,医師患者間で終末期に ついて話し合ったことがあるかどうか?の問いに,主治医側が患者と話し合ったことがあると考えているのが54.4%であるのに対し,患者側が主治医と話し合ったことがあると考えているのは19.4% にとどまり,医師患者間のACP に対する医師患者間コミュニケーションのギャップが浮き彫りにされた。さらに侵襲的生命維持治療についての患者の希望に影響する因子の多変量解析では,COPD についての理解が因子として上がり,セルフマネージメント教育などの重要性が示唆された11)。 3.非がん性呼吸器疾患患者に対する緩和ケ アの課題欧米において1990 年代に行われた2 つの研究,英国のRSCD9),米国のSUPPORT8)によって非がん性疾患への緩和ケアのニーズが明らかになり,欧米で非がん性疾患の緩和ケアを推進する契機になった。 比較的長い間,身体機能は保たれる。 最後の2 ヵ月くらいで急速に身体機能が低下する。 急速な身体機能の悪化を伴う場合もある。 治療により症状や身体機能が改善することが多く,経過予測が難しい。 最後は比較的急速に身体機能が 低下する。 高い高い 低い 身体機能身体機能 低い時間経過死亡時間経過 (ILD,重度の神経症状が残存した脳卒中) 死亡 増悪と寛解を繰り返しながら,徐々に身体機能が悪化する。 がん心不全・呼吸不全・脳卒中などの臓器不全 図3 がんと臓器不全の疾病経過のイメージ (文献5より改変引用)
このRSCD のデータを用いて,肺がん患者と非がん性呼吸器疾患患者の苦痛や社会的支援などを比較した研究では,最期の1 年および1 週間において非がん性呼吸器疾患の患者のほうが呼吸困難や精神的症状を訴える患者が多く,苦痛の程度も強かったこと12)が明らかになった(表)。 また,米国のSUPPORT 研究においては,COPDの増悪で入院した終末期のCOPD 患者1,016 例のうち,3 分の2 に死亡前の3 ~6 ヵ月で呼吸困難がみられ,死亡直前に増加傾向がみられたことを報告している13)。また,終末期のCOPD 患者は,挿管や人工呼吸などの延命治療を望まず,緩和ケアを望んでいたにもかかわらず,肺がん患者に比べてICU でこれらの延命治療を受けて,苦痛のなかで死を迎えていた人が多かったとされている。 このような流れをうけ,2004 年の英国国立医療技術評価機構(NICE)のCOPD のガイドラインでは,進行したCOPD 患者に対しても,オピオイドの使用や学際的緩和ケアチームへのアクセスといった緩和ケアサービスが適切に提供されるべきであると報告した14)。 2005 年の米国胸部専門医会(ACCP)の立場声明15)では,急性増悪や慢性進行性の呼吸器疾患の患者と家族に対するエンドオブライフケアは呼吸器病学の不可欠の部分であると宣言している。 2007 年には米国胸部疾患学会(ATS)の声明では,呼吸器疾患の終末期の軌道や緩和ケアについての考え方,そして,意思決定支援,終末期呼吸器疾 患の症状コントロール,ビリーブメントケアに至るまで詳細に記載16)された。このように,今世紀に入り欧米では非がん性呼吸器疾患の終末期の緩和ケアの必要性について認識されるようになった。 わが国においては,2013 年に改訂された「COPD診断と治療のためのガイドライン第4 版17)(2013年)」で,初めて終末期の緩和ケアについて詳細に触れられたが,今回の指針作成を通じて,さらに議論されることになった。 4.早期緩和ケア導入の必要性と呼吸リハビ リテーション2002 年WHO の緩和ケアの定義は「病期に依らず早期に提供されるケア」とされた18)。緩和ケアの早期介入により,転移性非小細胞肺がん患者では, QOL と気分に有意な改善がもたらされ,終末期に積極的治療を受けることが少なく,生存期間も長かった19)。健康保険上も2014 年度から積極的な評価が行われている。 呼吸リハビリテーションにおいては,終末期に特化した呼吸リハビリテーションを行うのではなく,これまでの呼吸リハビリテーションの流れのなかで,終末期の対応を行う6)。終末期に至る前に,健康状態を改善させるための運動療法や身体活動性の向上,呼吸法,息切れを軽減させる動作の工夫,呼吸困難への対処方法,排痰手技などを体得しておく 表人生の最後の年に認められた症状 症状非がん性呼吸器疾患(n =87)肺がん(n =449) 全例(%)強い苦痛(%)全例(%)強い苦痛(%) 疼痛77 56 85 56呼吸困難94 76 78 60咳嗽59 46 56 40食思不振67 15 76 19便秘44 25 59 55不眠65 42 60 35うつ病態71 57 68 51 (文献12より改変引用)
ことが必要である20)。 呼吸リハビリテーションおよび緩和ケアは進行したCOPD 患者だけでなく,ILD や気管支拡張症などのほかの非がん性呼吸器疾患の患者にも重要である21,22)。呼吸リハビリテーションを積極的な回復ケアのみと捉えるのではなく,呼吸リハビリテーションと緩和ケアの目的はトータルペインや呼吸困難の軽減など,同一線上にあることが広く知られるべきである。在宅酸素療法はCOPD やILD の最重症の患者で導入されることになるが,導入の機会に呼吸器疾患のセルフマネージメント教育,呼吸リハビリテーションを行う必要がある。しかし,働き盛りであったり,時間がとれないなどの理由から,呼吸リハビリテーションを導入されないまま放置されている例が多いのも現状である。終末期の患者の不安を軽減するためにも,呼吸リハビリテーションは早期に導入がなされるべきであるが,呼吸リハビリテーションの介入がないまま最終末期を迎えることが多く,特にCOPD では情報不足のため,患者を孤立させないことが重要である。 5.がんと非がん性呼吸器疾患での医療供給 体制がん拠点病院を中心とする社会的インフラが整う一方,「外来緩和ケア管理料」は,緩和ケア病棟をもつ病院の20.5 %に,「在宅がん医療総合診療料」の届け出は同じく13.7 %にとどまっている23)。 非がん性呼吸器疾患により在宅酸素療法を受けている患者は,基幹病院だけでなく,在宅医療に力を入れている中小病院に多いことから,病院-在宅の連携が強固である必要がある。さらに,基幹病院の呼吸器内科では肺がん患者が多いこと,平均在院日数の縛りなどから,呼吸リハビリテーションのプログラムをもてないことからも,がんのように拠点病院だけを中心とする医療供給体制は組みにくい。今後の課題 COPD などの非がん性呼吸器疾患の苦痛は,終末期肺がん患者の苦痛に匹敵し,ときに肺がんを上回る。非がん性呼吸器疾患の緩和ケアは,疾患の頻度と苦痛の大きさから考えても,非がん性疾患の緩和ケアのなかで優先度の高い課題であり,呼吸器病学のなかでも不可欠な分野として位置づける必要がある。 一方,わが国においては,非がん性呼吸器疾患の終末期の苦痛や緩和ケアの課題に関する研究はまだ少ない。とりわけ,COPD 以外の非がん性呼吸器疾患に対する苦痛や緩和ケアの課題についてのエビデンスが少ない。また,実際の臨床場面において非がん性呼吸器疾患患者に十分な緩和ケアを届けるためのシステムや医薬品や医療機器の供給体制,専門職の教育に至るまで多くの課題がある。非がん性呼吸器疾患の終末期の患者に適切に緩和ケアを提供するための連携体制や教育などに関しての研究も必要になろう。 また,非がん性呼吸器疾患に対する教育・研修システムをこれからどのように構築していくかは課題の一つである。日本緩和医療学会代議員へ対するインターネットアンケート調査にあったように,がんの緩和ケアの専門家においても非がん疾患に対する緩和ケアに自信がなく,困難であるのが現状である。がんの緩和ケアの教育・研修システムと共通する部分と非がん,特に呼吸器疾患における呼吸リハビリテーションのプログラムと併せたシステムを構築する必要がある。 ▪文 献1)World Health Organization. Chronic obstructive pulmonary disease(COPD). 2017. https://www.who.int/news-room/ fact-sheets/detail/chronic-obstructive-pulmonary-disease- (copd),(accessed 2020-06-29) 2)Worldwide Palliative Care Alliance. Global Atlas of Palliative Care at the End of Life. 2014-1. http://www.who.int/nmh/ Global_Atlas_of_Palliative_Care.pdf, (accessed 2020-06-29)
3)National Hospice and Palliative Care Organization. NHPCO Facts and Figures. 2019-7. https://39k5cm1a9u1968hg74aj3x51wpengine.netdna-ssl.com/wp-content/uploads/2019/07/2018_ NHPCO_Facts_Figures.pdf, (accessed 2020-06-29) 4)厚生労働省.平成30年人口動態統計(確定数)の概況第7表 死 因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率(人口10万対).2019- 11. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei18/dl/11_h7.pdf, (閲覧:2020-06-29) 5)厚生労働省.循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制の あり方について.2018-4. https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/000468248.pdf, (閲覧:2020-06-29) 6)津田徹.VII.非がん性呼吸器疾患の緩和ケアとアドバンス・ ケア・プランニング.日内会誌.2018;107:1049-55. 7)大坂巌,坂下明大,木澤義之,他.わが国における非がん疾 患に対する緩和ケアの現状:日本緩和医療学会代議員を対象とした実態調査.Palliative Care Research. 2018;13:31-7. 8)A controlled trial to improve care for seriously ill hospitalized patients. The study to understand prognoses and preferences for outcomes and risks of treatments(SUPPORT). The SUPPORT Principal Investigators. JAMA. 1995;274:1591-8. 9)Addington-Hall JM, Karlsen S. Age is not the crucial factor in determining how the palliative care needs of people who die from cancer differ from those of people who die from other causes. J Palliat Care. 1999;15:13-9. 10)Wachterman MW, Pilver C, Smith D, et al. Quality of end-oflife care provided to patients with different serious illnesses. JAMA Intern Med. 2016;176:1095-102. 11)Fuseya Y, Muro S, Sato S, et al. Perspectives on End-of-Life Treatment among Patients with COPD: A Multicenter, Cross-sectional Study in Japan. COPD. 2019;16:75-81. 12)Edmonds P, Karlsen S, Khan S, et al. A comparison of the palliative care needs of patients dying from chronic respiratory diseases and lung cancer. Palliat Med. 2001;15:287-95. 13)Lynn J, Ely EW, Zhong Z, et al. Living and dying with chronic obstructive pulmonary disease. J Am Geriatr Soc. 2000; 48:S91-100. 14)Fallon M, O'Leary N. Palliative medicine in non-malignant disease. In:Hanks G, Cherny IN, Christakis AN, et al, editors. Oxford Textbook of Palliative Medicine. Oxford:Oxford University Press;2011. p.1181-94. 15)Selecky PA, Eliasson CA, Hall RI et. al, Palliative and end-oflife care for patients with cardiopulmonary diseases: American College of Chest Physicians position statement. Chest. 2005;128:3599-610. 16)Lanken PN, Terry PB, Delisser HM, et al. An official American Thoracic Society clinical policy statement:palliative care for patients with respiratory diseases and critical illnesses. Am J Respir Crit Care Med. 2008;177:912-27. 17)日本呼吸器学会COPD ガイドライン第4版作成委員会(編). COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第4版.東京:メディカルレビュー社;2013. 18)World Health Organization.WHO Definition of Palliative Care. http://www.who.int/cancer/palliative/definition/en/, (accessed 2020-06-29) 19)Temel JS, Greer JA, Muzikansky A, et al. Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2010;363:733-42. 20)植木純,神津玲,大平徹郎,他.呼吸リハビリテーションに関するステートメント.日呼吸ケアリハ会誌.2018;27:95- 114. 21)Halpin DMG, Seamark DA, Seamark CJ. Palliative and endof-life care for patients with respiratory disease. In:Bellia V, Antonelli Incalzi R, editors. Respiratory Diseases in the Elderly. Lausanne:European Respiratory Society Journals Ltd;2009. p.327-53. 22)Kreuter M, Bendstrup E, Russell AM, et al. Palliative care in interstitial lung disease:living well. Lancet Respir Med. 2017;5:968-80. 23)厚生労働省.中央社会保険医療協議会 総会(第425回)議事次第.https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000557315. pdf, (閲覧:2020-06-29)
これまでにわかっていること COPD などの非がん性呼吸器疾患の終末期の苦痛は,終末期肺がん患者の苦痛に匹敵し,ときにこれを上回る。 非がん性呼吸器疾患の緩和ケアにおいては,苦痛の評価法や苦痛緩和についての基本的考え方や苦痛の緩和法,予後予測,意思決定支援の方法に至るまで,がんの緩和ケアとは異なる点も少なくない。 1.非がん性呼吸器疾患の苦痛緩和の特徴1)症状緩和の原則 非がん疾患の緩和ケア,とりわけ心不全や非がん性呼吸器疾患などの臓器不全群では,終末期においても疾患の基本的治療の継続が重要である。非がん性呼吸器疾患の終末期の緩和ケアにおいても,基本的治療から緩和ケアにスイッチするのではなく,終 末期においても薬剤や呼吸リハビリテーションなど基本的な治療を継続し,そこに緩和ケア的手技を加えていくことが基本的考え方である。 例えば,COPD の終末期の緩和ケアにおいては, COPD のガイドラインに基づき長時間作動性抗コリン薬(LAMA)などの標準的な治療,酸素療法,コンディショニング(排痰ケア,呼吸補助など)を中心とした呼吸リハビリテーションを行い,そこに安楽な体位(ファーラー位など)や室内の十分な換気,顔面のクーリングや送風,音楽やリラクセーションなどの緩和的なケアを加える。とりわけ,呼吸リハビリテーションの継続は終末期の緩和ケアの重要な柱になる。 このような呼吸リハビリテーションや基本的ケアに加えて,モルヒネなどのオピオイドの投与,さらに必要に応じてベンゾジアゼピン系薬の投与など緩 総論 2.非がん性呼吸器疾患の緩和ケア の原則と考え方 第1章 サマリー COPD などの非がん性呼吸器疾患の終末期の苦痛は,終末期肺がん患者の苦痛に匹敵するため,適切な緩和ケアを提供する必要がある。非がん性呼吸器疾患の終末期の緩和ケアでは,可能な限り疾患の基本的治療やケア・リハビリテーションを継続し,ここにオピオイドなどの緩和ケア的手段を加える。呼吸困難などの苦痛の評価は主観的評価を基本とするが,認知症などの合併のため主観的評価が困難な場合は,客観的評価を併用する。COPD では,年単位の予後予測法が開発されているが,ほとんどの非がん性呼吸器疾患では正確な予後の予測は困難である。意思決定支援は,本人の意向を中心に据え,本人,家族・関係者,医療スタッフからなるチームで,なるべく早期から繰り返し行われることが望ましい。
和的薬剤を加えていくというのが緩和ケアの基本的考え方となる(図1) 1)。なお,図1に示されていないが,非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)やハイフローセラピー(HFNC)も呼吸困難の緩和に有効な場合があり,各事例で適応を検討する。 特発性肺線維症(IPF)の呼吸困難に対するシステマティックレビューでは,エビデンスレベルは弱いもののCOPD と同様に酸素やモルヒネ,呼吸リハビリテーションなどの有効性2)が示唆されている。 このような基本的考え方はCOPD 以外の非がん性呼吸器疾患の緩和ケアにおいても当てはまると考えられる。2)呼吸困難に対してのオピオイドの使用 オピオイドは標準治療では十分に緩和できない呼吸困難に対する治療の選択肢として挙げられる。とりわけ,病状の改善が見込めない最終末期においては,オピオイドの投与を検討する。 実際のオピオイドの導入においては,モルヒネ10 mg/ 日以下の定期投与(4 ~6 時間毎)で開始するか,モルヒネ2 ~3 mg/ 回の屯用から開始し,定期投与量を決めていく。依存性や血中濃度の安定性を考慮して,換算可能な用量まで増量した場合にはモルヒネ徐放性製剤の使用が望ましい(保険適用外)。 モルヒネ投与中は,呼吸数や可能であれば,動脈血二酸化炭素分圧をモニターする。少量からの投与であれば,二酸化炭素の蓄積することなく,呼吸困難を緩和できる症例が多い。モルヒネ30 mg/ 日(内服)より多い量では死亡リスクが高くなる可能性が示唆されているが,30 mg/日以下の投与では死亡率と相関しないことが明らかになっている3)。 経口摂取が困難となった場合には,シリンジポンプによる持続皮下注射を選択する。 モルヒネによって呼吸困難が緩和せず,とりわけ不安の強い場合には個別にベンゾジアゾピン系薬の使用が検討されるが,エビデンスに乏しく,より呼吸抑制を起こしやすいので注意を要する。 2.苦痛の評価に関する原則 呼吸困難の機序は複雑で,痛みのように神経経路は必ずしもはっきりしていない。また,呼吸困難 は,精神的な状態にも強く影響されるだけでなく,認知や表出の仕方にも個性がある。したがって,呼吸困難の評価においては,頻度や持続時間,増悪因子や緩和因子,関連する症状,呼吸困難の性状(大きな息をしたくなるなど)など包括的な評価が必要であるが,ここでは最も重要な呼吸困難の有無と程度に関する評価について述べる。 強い呼吸困難はCOPD の独立した予後因子であると同時に,患者の生活の質を落とす重要な症状であり,多くの呼吸器病患者のQOL の規定因子となっている。 近年,患者の症状やQOL に関する評価においては,「患者の報告するアウトカム評価(patient reported outcome;PRO)が医療の妥当性を検証する基準となると考えられており,緩和ケアの領域では以前よりその評価の基準を主観的評価に置いてきた。非がん性呼吸器疾患の呼吸困難の評価とその緩和ケアについての評価においても主観的評価が基本となる。 一方で,急性増悪や死期が迫った場面では,呼吸苦や意識の低下のために,患者は呼吸困難の有無やその程度を言葉で伝えることが困難となる。また, COPD 患者には高齢者が多いため,しばしば認知症 緩和薬物的手段 許容できるレベルの呼吸困難 モルヒネ用量調整± 抗不安薬 呼吸困難の持続あるいは悪化非薬物的手段(活動のペースに合わせた呼吸リハビリテーション,口すぼめ呼吸,送風,リラクセーション手技)呼吸困難の持続あるいは悪化COPD ガイドラインに基づいた最適な気管支拡張薬± 運動療法± 酸素の追加3 2 1 図1 重症COPD の呼吸困難のマネジメント (文献1より改変引用)
などの合併のために苦痛を表現することが困難となる。主観的評価が困難な場合は,苦痛の主観的評価に代わって客観的評価法を用いる。呼吸困難の客観的評価としては,Respiratory Distress Observation Scale(RDOS) 4)が有用である(p.24 第2 章「症状の評価と対応 1.症状(呼吸困難・咳嗽・喀痰)」の項を参照)。 3.予後予測の困難さと重要性1)非がん性呼吸器疾患の予後予測 非がん疾患においては正確な予後予測は困難であり,それは非がん性呼吸器疾患においても同様である。非がん性呼吸器疾患のなかでは,COPD とIPFで予後予測指標が開発されている。 呼吸機能(1 秒量),歩行距離,自覚的呼吸困難,やせ(栄養障害),精神症状(うつ,不安),最近の入院回数,合併症の有無などはCOPD の予後因子である。COPD の長期の予後予測指標はこれらを項目とし,点数化したものが多い。 COPDの予後予測スコアとして,肥満指数(BMI: B),気流閉塞度(the degree of airflow obstruction: O),呼吸困難(dyspnea:D),6 分間歩行試験で測定 する運動能力(exercise capacity:E)の4 つの変数を使用したBODEが開発5)されている(表1)。BODEは数年単位の予後スコアとしては有効である。 また,BODE より簡便な予後予測スケールとしてADO インデックスが開発6)されている。ADO は,年齢,呼吸困難,気流閉塞の各項目をスコア化したものである(表2)。ADO は,BODE と比べてエビデンスレベルは低いが,在宅患者で実施困難な体重測定や6 分間歩行試験といった項目がないため,スパイロメトリーさえできればADL の低下している在宅患者でも実施できる。 CODEX インデックスは,COPD 増悪による退院後3 ヵ月と1 年の両方の生存と再入院の有用な予測因子で,前述の指標よりも予測能力が優れている(表3) 7)。 さらに,医学的妥当性は十分検証されていないが,英国のGold Standards Framework(GSF)脚注の疾患別臨床指標(表4) 8)や米国のホスピス導入基準(表5) 9)は,医師がCOPD 患者が余命半年から1 年であると疑う指標として用いられており,医療者が 脚注Gold Standards Framework(GSF):2001年にDr.Keri Thomas によって開発された緩和ケアのプライマリケアモデルで,英国の国家政策の一部として採用され,全英に広がっている。GP が近い将来死に至る可能性のある患者(余命1年)を,疾患に関わらず同定し,そのことを患者と率直に話し合い,ACP を行い,患者を登録する。GSF の目的は,死が迫っているすべての患者に最高水準のケアを提供することである。 表1 BODE インデックス Points on BODE Index 0 1 2 3 %1 秒量≧65 50-64 36-49 ≦35 6 分間歩行距離(m) ≧350 250-349 150-249 ≦149修正MRC 息切れスケール0-1 2 3 4 Body-mass index >21 ≦21 (文献5より引用) BODE インデックスのスコア1 年死亡率2 年死亡率52 ヵ月死亡率 0-2 2 % 6 % 19 % 3-4 2 % 8 % 32 % 4-6 2 % 14 % 40 % 7-10 5 % 31 % 80 % (文献5より作成)
表4 GSF の疾患別臨床指標 ~COPD ~少なくとも以下の2 つを満たす ・重症のCOPD(FEV1.0 が予測値の30 %未満)・1 年以内にCOPD により3 回以上の入院・長期酸素療法が必要・MRC グレード4/5(平坦な道100m 程度で息切れがひどく外出できない)・右心不全の兆候と症状・ほかの症状: ほかの要素が合併(食思不振,集中治療室やNPPV 利用,耐性菌)・予後6ヵ月と予測されるCOPD に対する6 週間以上の全身ステロイド投与 (文献8より引用) 患者に最期の時間が近づいていることを認識するのに役立つかもしれない。 このように,COPD に対しての中長期の予後予測指標は開発されているが,短期(月単位)の信頼できる予後予測法は確立していない。 IPF は軌跡が多様であり,予後予測は困難な疾患である。IPF の予後予測スコアとして,GAP スコアやDu Bois による予後予測スコアがある。GAP スコ 表2 ADO インデックス 0 1 2 3 4 5 年齢40-49 50-59 60-69 70-79 80-89 90-呼吸困難(mMRC 息切れスケール) 0-1 2 3 4気流閉塞(%FEV1.0) (%)予測値の 65 %予測値の36-64 %予測値の 35 % ADO インデックスに基づく予測3年死亡率 (%) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 長期罹患の重症COPD 患者7.2 9.9 13.5 18.1 23.9 30.8 38.7 47.2 55.9 64.2 71.8中等症~重症COPD による初回入院患者3.0 4.0 5.4 7.3 9.8 12.9 16.9 21.8 27.6 34.3 41.7 (文献6より引用改変) 表3 CODEx インデックス 項目内容0 1 2 3 C(Comorbidities)合併症Charlson Comorbidity Index* 0-4 5-7 ≧8 O(Obstruction)気道閉塞%1 秒量≧65 50-64 36-49 ≦35 D(Dyspnea)呼吸困難mMRC 息切れスケール0-1 2 3 4 Ex(Exacerbation)増悪過去の重篤な増悪0 1-2 ≧3 *Charlson Comorbidity Index:併存疾患のスコアを合計して算出する (文献7より引用) スコア合併症 1 心筋梗塞,うっ血性心不全,末梢動脈疾患,脳血管疾患,認知症,慢性肺疾患,膠原病,消化性潰瘍,軽度の肝疾 患,糖尿病 2 片麻痺,中等度~重度の腎疾患,終末期臓器障害のある糖尿病,がん,白血病,リンパ腫 3 中等度~重度の肝疾患 4 転移性固形がん,AIDS (文献7より作成)
アは性別,年齢と生理学的指標(努力肺活量FVC と拡散能DLCO)を変数とするスコア10)で,1,2,3 年の死亡率が算出される。Du Bois による予後予測スコアは年齢,入院歴,努力肺活量と半年後のFVC (%予測値)の変化を変数とするスコア11)である。 いずれにしても,COPD を含む非がん性呼吸器疾患の予後を正確に予測することは困難であるが,医療者は正確な予後予測はできなくても,意思決定の支援を行わなくてはならない。そのためにはまず,医療者が患者が人生の最終段階にいるのではないかと積極的に疑うことが重要であると考えられている。 医療者の主観的評価(直観)が最も適正に緩和ケアのニーズのある人を拾い上げることができるという観点から,英国のプライマリケアでは終末期の患者の拾い上げに英国Gold Standards Flamework のSurprise Question を基本とした3 ステップ法(図2)が用いられている。この3 ステップ法は非がん性呼吸器疾患においても用いることが可能である。 4.早期からの緩和ケアとACP に関して1)早期からの緩和ケアの導入と一体的提供 緩和ケアは終末期になって導入されるものではなく,症状や苦痛が出現したらなるべく早期から適切に導入されるべきものである。非がん性呼吸器疾患においてもある時点で緩和ケアに切り替えるという発想ではなく,病の軌跡の進展に伴い,疾患特異的治療に呼吸リハビリテーション,さらには緩和ケアを個別のタイミングで重層的に重ねるように提供し ていく。そして,継続的なコミュニケーションとACP が全経過を通して貫かれていなければならない(図3) 12)。 つまり,主治医は常に病態・機能・緩和という3つの視点で評価し,医療を提供していくことが重要である。つまり,「病みの軌跡」の進展に伴って,どの段階においても1標準的な治療を行い,病態を安定させ,増悪を防止すること,2栄養や運動を軸とした呼吸リハビリテーションで機能を維持・向上させること,3苦痛を評価し,緩和すること,そして意思決定支援が個別の状況に応じて一体的に,統合的に提供されなければならない。2)ACP と緩和ケア導入のタイミング 近年早期からの緩和ケアの重要性が認識されており,非がん性呼吸器疾患においても早期からの緩和ケアの導入が望ましい。また,SUPPORT 研究の結果などから,終末期の話し合いは基本的には急性期ではなく,安定期に行うべきであり,COPD においても慢性期,安定期からの積極的なACP が推奨されている。 いわゆる「緩和ケアの導入」には,1終末期に向けての治療とケアなどの選択に関する話し合い(end of life discussion;EOLD)をいつから始めるのか? 2オピオイドなどの緩和ケア的な手段をいつ開始するのか? 3治療とリハビリ,緩和ケアのバランスを大きく緩和ケア中心にシフトする段階をいつにするのか、など多様な意味が含まれている。 表5米国メディケアのホスピス利用基準適切な治療にもかかわらず,身体・機能的状況が急速に低下 1.A とB を満たす重篤な呼吸器疾患A:ベッドや椅子に座っているB:終末期で進行性−気道感染や呼吸不全による救急外来受診頻度の増加,入院,往診の増加2.3 ヵ月以内の病院記録にて,安静時室内気PaO2 ≦55Torr. または酸素投与下にてSpO2 ≦88 %,またはPaCO2 ≧ 50Torr. 3.肺性心による右心不全4.10 %の体重減少/6 ヵ月5.安静時の頻脈100 /分以上 *1,2,3 を満たし,かつ4 あるいは5 を認める (文献9より引用)
ADL の著明な低下,一日の半分以上臥床,体重が10%以上低下, Alb≦2.5g/dl,予期せぬ入院の繰り返し *p.17 表4 参照 ステップ1驚きの質問(Surprise Question)をする 終末期ケアが必要な患者を早期に発見するための3 つのステップ 「その患者が,今から数ヵ月,数週間,数日のうちに亡くなるとしたら驚きますか?」 いいえわからない 全身的な衰弱微候がありますか?はい 定期的再評価 いいえ 定期的再評価 いいえ GSF(ゴールドスタンダードフレームワーク)を開始する定期的再評価 はい ステップ2 ステップ3疾患別の臨床微候*がありますか? はい わからない 図2 早期発見のために推奨される3つのステップの要約 (文献8より引用) 従来のケアモデル 診断治療可能な部分死 疾患特異的治療緩和ケアホスピス 新しいケアモデル患者・医療者のコミュニケーション(ACP)と協力支持緩和ケア 疾患特異的治療 死診断 強い呼吸困難に対する治療(薬物・行動変容)呼吸リハビリテーション(外来・在宅) 図3 COPD の予防的緩和ケア (文献12より引用)
エンドオブライフケア(end of life care;EOLC)の選択について議論するきっかけとなるべき特性としては,1FEV1 <30%,2酸素療法実施,3COPDの増悪のため1 回以上の入院,4左心不全またはほかの併存症,5体重減少または悪液質,6身体機能の低下,7要介護状態,870 歳以上13)が挙げられている。また,呼吸器疾患患者のEOLC に関する9つの文献のなかで一貫して使用されている専門的緩和ケアへの照会基準14)は, (1)FEV1 <30%(2)入院の増加(3)機能的な状態低下(4)長期酸素療法の4 つである。 これらをわが国の医療のコンテキストに当てはめると,1過去1 年以内に複数回のCOPD 増悪による入院,2ADL の急激な低下(通院困難,あるいは訪問診療への切り替え,要介護状態となったときなど),3在宅酸素療法やNPPV などの導入, 4フォローアップ中に著明な体重減少(10 %/6 ヵ月)を認めたときなどが想定される それぞれの地域の医療のコンテキストに応じて,どのタイミングで終末期に向けての話し合いを開始するかを事前に話し合っておく必要がある。 5.EOLC における倫理的配慮 EOLD で大切なことは,患者の尊厳と希望を最大限に尊重したうえで,その人らしく最期まで生きるために何が最善であるのかを,本人・家族を含めた医療・ケアチームで相談して,決定することである。非がん性呼吸器疾患は予後予測の不可知性が大きいため,悪性疾患に比べ,終末期の意思決定の支援は容易ではない(表6)。EOLD においては医療倫理的にも慎重な判断が求められることも多い。本人・家族と医療チームが十分話し合い,合意して最善のケアが決定されることにより,基本的な倫理的妥当性が歌づけられる。 EOLC で配慮すべきプロセスの基本指針を定めた,平成30 年「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(厚生労働省)の骨子は,以下のとおりである。 1 医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされたうえで,本人による意思決定を基本とす る。本人の意思確認ができない場合には,本人の推定意思を尊重し,本人にとって最善と思われる方針を考える。本人の意思は変わりうるため,家族も含めた医療・ケアチームで,繰り返し話し合いができるように支援する。2 医療・ケア行為の開始・不開始,医療・ケア内容の変更・中止などは,多職種から構成される医療・ケアチームによって,医学的妥当性を慎重に判断する。倫理的な視点からみれば,「患者の意思」(あるいは代理判断による推定意思)を最大限に尊重することを原則としたうえで,「医学的妥当性」と「医療チームの判断」を充足することが必要,と考えることができる。臨床倫理の4 原則は,自律尊重(患者の意思決定を尊重する),与益(患者の利益になるようにする),無危害(患者に害を与えない),正義(社会的な公平さ・適切さを保つ)であるが,「患者の意思」は自律尊重を,「医学妥当性」は与益・無危害を,「医療チームの判断」は正義を,それぞれ臨床的な文脈で翻訳したものといえる。DNAR(蘇生不要)などの治療制限指示に関する合意形成に際しても同様に意思決定支援チームで倫理的妥当性を確認することが必要である。 今後の課題 非がん性呼吸器疾患の苦痛の評価法,苦痛緩和の方法,とりわけ,呼吸リハビリテーションの終末期の緩和ケアへの効果,オピオイドの効果や使用基準などについてさらなる研究が必要である。 また,わが国の医療のコンテキストにおいて, EOLD をいつ始めるか,オピオイドをいつから開始するかなどのコンセンサスを作る研究が必要となる。海外では疾患を問わずモルヒネなどのオピオイドの使用が可能であるが,わが国ではモルヒネ徐放製剤はALS や筋ジストロフィー以外の非がん疾患には投与できない現状にあり,今後も検討が望まれ
る(p52 第3章「症状緩和の手段−薬物療法−1. オピオイド」の項を参照)。 ▪文 献1)Rocker G, Horton R, Currow D, et al. Palliation of dyspnoea in advanced COPD:revisiting a role for opioids. Thorax. 2009;64:910-5. 2)Ryerson CJ, Donesky D, Pantilat SZ, et al. Dyspnea in idio- pathic pulmonary fibrosis:a systematic review. J Pain Symptom Manage. 2012;43:771-82. 3)Ekström MP, Bornefalk-Hermansson A, Abernethy AP, et al. Safety of benzodiazepines and opioids in very severe respiratory disease:national prospective study. BMJ. 2014;348: g445. 4)Campbell ML, Templin T, Walch J. A Respiratory Distress Observation Scale for patients unable to self-report dyspnea. J Palliat Med. 2010;13:285-90. 5)Celli BR, Cote CG, Marin JM et al. The body-mass index, airflow obstruction, dyspnea, and exercise capacity index in chronic obstructive pulmonary disease. N Engl J Med. 2004;350:1005-12. 6)Puhan MA, Garcia-Aymerich J, Frey M, et al. Expansion of the prognostic assessment of patients with chronic obstructive pulmonary disease:the updated BODE index and the ADO index. Lancet. 2009;374:704-11. 7)Almagro P, Soriano JB, Cabrera FJ, et al. Short- and medium- term prognosis in patients hospitalized for COPD exacerbation:the CODEX index. Chest. 2014;145:972-80. 8)The Gold Standards Framework Centre In End of Life Care CIC, Thomas K, et al. Prognostic Indicator Guidance(PIG) 4th Edition Oct 2011. https://www.goldstandardsframework.org.uk/cd-content/uploads/files/General%20Files/ Prognostic%20Indicator%20Guidance%20October%202011. pdf(accessed 2020-06-16) 9)Abrahm JL, Hansen-Flaschen J. Hospice care for patients with advanced lung disease. Chest. 2002;121:220-9. 10)Ley B, Ryerson CJ, Vittinghoff E, et al.A multidimensional index and staging system for idiopathic pulmonary fibrosis. Ann Intern Med.2012;156:684-91. 11)du Bois RM, Weycker D, Albera C, et al.Ascertainment of individual risk of mortality for patients with idiopathic pulmonary fibrosis.Am J Respir Crit Care Med.2011;184:459-66. 12)Vermylen JH, Szmuilowicz E, Kalhan R. Palliative care in COPD:an unmet area for quality improvement. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2015;10:15 43-51. 13)Curtis JR. Palliative and end-of-life care for patients with severe COPD. Eur Respir J. 2008;32:796-803. 14)Advanced Respiratory Disease and Palliative Care Summary Report. http://hospicefoundation.ie/wp-content/ uploads/2013/11/00319-ARD-Paliative-Care-Report-Web. pdf(accessed 2020-06-16) 表6非がん性呼吸器疾患の終末期の意思決定を困難にする要因非がん性呼吸器疾患の特性・疾患の経過が多様で,予後予測が不確実・アドバンス・ケア・プランニングを開始するタイミングが分からない・増悪時の可逆性・非可逆性の判断が難しく,積極的治療が中止できない不十分なACP・患者・家族が病状を十分に理解していない場合がある・治療のよりどころとなる患者の価値観について,医療チームで共有ができていない治療制限に対する心理的負担・生死にかかわる事案に対して代理決定をする家族の心理的負担・治療手段があるのにそれを選ばないことに対する不安・葛藤
症状の評価と対応 第 2 章
これまでにわかっていること 1.呼吸困難 非がん性呼吸器疾患の終末期に最も多く出現し,その対応に最も苦慮する症状が呼吸困難である。SUPPORT研究のサブ解析ではCOPD終末期患者の死亡前に最も高頻度に出現する症状が呼吸困難で約2/3 の症例に認められた1 −4)。 非がん性呼吸器疾患の終末期に関する多施設でのアンケート調査では,終末期の診療に苦慮する疾患としてはCOPD が最も多く(81%),次いで間質性肺疾患(ILD) (69%),肺がん(63%)の順であった。COPD 終末期の対応に苦慮する症状で最も多いのが呼吸困難(84%)であり肺がんよりも出現頻度が高いことが示された5)。1)呼吸困難のメカニズム 呼吸困難は「呼吸時の不快な感覚」と定義される主観的症状であり6),低酸素血症(PaO2 <60 Torr)で定義される客観的病態の呼吸不全とは異なる。呼吸困難は痛みなどの感覚と同様に感覚受容器に入力された刺激が求心性神経路を経て大脳皮質の特定領域に伝えられ,呼吸困難という特異な感覚が発生す ると考えられる。呼吸困難の発生には呼吸調節機構が密接に関連しており,化学受容器(末梢化学受容器、中枢化学受容器によるPaO2 低下やPaCO2 上昇の感知)や機械受容器(肺刺激受容器,C 繊維受容器,肺伸展受容器など)が刺激されることにより発生する。呼吸困難発生のメカニズムに関してはこれまで多くの仮説が提唱されてきたが,いずれも呼吸困難のメカニズムを説明するには不十分であった。呼吸中枢から呼吸筋への運動指令(出力)と受容器から入ってくる求心性情報(入力)との間に解離あるいはミスマッチが存在する場合に呼吸困難が発生するという中枢−末梢ミスマッチ説(出力−再入力ミスマッチ説)もその一つである。 Bruera らは呼吸困難のメカニズムについて発生・認知・表出の3 段階理論を提唱した。主観的な苦痛症状である呼吸困難は,1何らかの外的刺激によって「発生」し,2大脳で「認知」され,3言語的・非言語的に「表出」されるという3 段階の経過を辿る。大脳高次機能がその過程に関与して,過去の経験や不安・抑うつ,社会文化的背景など多くの因子によって「修飾」を受けるため,その表出は個 症状の評価と対応 1.症状(呼吸困難・咳嗽・喀痰) 第2章 サマリー 呼吸困難の評価は主観的評価が主体であり,「Total Dyspnea」として多面的に捉えるのがよい。終末期の難治性呼吸困難の症状緩和は非薬物療法と薬物療法を段階的に行う。咳嗽・喀痰の評価は主観的評価が主体だが終末期患者で十分検証された尺度はない。咳嗽・喀痰に対しては薬物療法と排痰法などの呼吸リハビリテーションを行う。
人差が大きく多面的で複雑になる。呼吸困難の評価は「発生」や「認知」の段階では評価することができないため,複雑に修飾された患者の「表出」に基づいて行うこととなる7,8)。 さまざまな因子の影響を受けて表出された呼吸困難は単に身体的な側面だけでなく,精神的・社会的・スピリチュアルな側面を併せもった多面的なものであり,がん患者の疼痛を「Total Pain」として捉えられるのと同様に「Total Dyspnea」として多面的に捉えることが提唱されている(図1) 9,10)。2)呼吸困難の評価 呼吸困難は「空気飢餓感」「呼吸努力感」「締めつけ感」「頻呼吸感」「吸い込めない感覚」「窒息感」などさまざまに表現され,個人差が大きい。多くの場合,低酸素血症により呼吸困難が引き起こされるが,低酸素換気応答は個人差が大きいため必ずしも両者は一致しない。低酸素血症があっても呼吸困難が軽度なこともあり,逆に不安や緊張の高い患者ではPaO2 が正常であっても呼吸困難を強く訴えることがある。A.主観的評価法 呼吸困難の評価は主観的評価が主体で可能な限り患者自身による評価が基本となるが,現在まで妥当性と信頼性が十分に検証された評価尺度はない11)。現在推奨されている評価尺度について量的・質的・機能的側面に分類して解説する。 a.量的評価 呼吸困難の主観的な量(程度,強度)を測定する尺度で,代表的なものとしてNumerical Rating Scale (NRS), Visual Analogue Scale(VAS), 修正Borg スケール,修正MRC(modified British Medical Research Council)息切れスケールなどがある。これらの尺度は簡便で同一症例における呼吸困難の相対的な経時的推移を測定するのに適しているが,測定値が対象者の主観性に大きく左右されるため異なる群間の比較では信頼性に限界がある7,12 −14)(図2)。1NRS15,16) 0 と10 を最端とし,間に数値によるアンカーポイントが記載されている。VAS に比べ少ないサンプルサイズでの検出が可能であり,電話や口頭による調査にも使用できる。COPD,がん患者を対象とした 〈影響因子〉・過去の経験,刷り込み・不安・抑うつ・心理・社会的ストレス・身体化 〈影響因子〉・精神的要因・信仰・宗教観・性・年齢・教育・社会文化的背景発生 外的刺激→感覚受容器→呼吸中枢 認知(大脳皮質) Total Dyspnea 表出(訴え・表情) 修飾身体的側面 (b)Total Dyspnea (a)呼吸困難の発生・認知・表出のメカニズム 精神的側面 社会的側面スピリチュアルな側面 修飾 図1 呼吸困難のメカニズムとTotal Dyspnea (文献7-9より作成)
検討において,信頼性と妥当性が検証されている。2VAS17)水平あるいは垂直に引かれた100 mm の直線上でその両端に両極端の状態を記載し,患者は自分の状態が最も当てはまるポイントを線上にマークする。COPD を対象とした検討において妥当性と信頼性の検証がなされている。3修正Borg スケール18)垂直に引かれた線上を0 ~10 まで分類し(通常 0.5 を含むため12 段階に分類される),アンカーと なるポイントにはその状態を示す用語が記載されている。運動負荷時の呼吸困難の評価として妥当性と信頼性が検証され広く用いられているが,労作が困難となった終末期の患者に用いられることは少ない。4修正MRC 息切れスケール19)間接的に呼吸困難を評価する尺度。呼吸困難を生ずる日常での活動レベルを0 から4 の5 段階で評価するもので,健康関連QOL(quality of life:生活の質)や気流閉塞の重症度との相関が示されており, COPD の国際ガイドライン(GOLD)や日本のガイドラインでも広く採用されている12,28)。しかし労作困難となる終末期患者ではそのほとんどがgrade 4 となるため終末期での呼吸困難の評価に用いられることは少ない。 b.質的評価 呼吸困難の感覚は原因となる病態や呼吸困難をきたすメカニズムにより質的に大きく異なる。呼吸困難の出現する頻度や持続時間,増悪因子や緩和因子,関連する症状についてもできる限り患者自身の言葉で聞き取っておくことが必要となる。呼吸困難は1 つの感覚ではなくその認知・表出には個人差がある。呼吸困難を感覚的に描写する場合,空気飢餓感,努力感(呼吸時の労力感),絞扼感(胸が締め付けられる感覚),窒息感(息が詰まる感覚)などのいくつかのカテゴリーに分類される。そのため呼吸困難を質的に評価するには身体的側面と心理的・情緒的側面を含めた多面的に評価しなければならない。呼吸困難を質的に評価するスケールとしてDyspnea-12 がある。1Dyspnea-12(D-12) 20 −22)身体的コンポーネント(項目1 ~7)と情緒的コンポーネント(項目8 ~12)の計12 項目で構成される。各項目は0(none)から3(severe)の4 段階で回答(合計スコア0 ~36)し,呼吸困難が強いほどスコアが高くなる。COPD,ILD や肺がんなど多くの疾患で信頼性と妥当性が検証されている。 Numerical Rating Scale(NRS) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Visual Analogue Scale(VAS)100mm 息苦しさはない想像しうる最もひどい息苦しさ修正Borg スケールグレード 分類修正MRC 質問表 あてはまるものにチェックしてください(1 つだけ) 激しい運動をしたときだけ息切れがある。 平担な道を早足で歩く,あるいは緩やかな上り坂を歩くときに息切れがある。 息切れがあるので,同年代の人よりも平坦な道を歩くのが遅い,あるいは平坦な道を自分のペースで歩いているとき,息切れのために立ち止まることがある。平坦な道を約100 m,あるいは数分歩くと息切れのために立ち止まる。息切れがひどく家から出られない,あるいは衣服の着替えをするときにも息切れがある。 0 1 2 3 4 10.0 非常に強い 9.0 8.0 7.0 かなり強い 6.0 5.0 強い 4.0 やや強い 3.0 2.0 弱い 1.0 かなり弱い 0 何も感じない0.5 非常に弱い 図2 呼吸困難の主観的・量的評価尺度 (文献7,12より引用)
2Multidimensional Dyspnea Profile(MDP) 23,24) 感覚的側面と情動的側面の両面から呼吸困難を評価する。全体的な呼吸の不快感(1 項目),呼吸困難の感覚の質(5 項目),呼吸困難に対する情動反応(5項目)に関する計11 項目について,その強度を0 から10 の11 段階で回答する。信頼性と妥当性は臨床研究と基礎研究において検証され,日本語版も作成されている。 c.機能的評価 呼吸困難が身体機能や日常生活に及ぼす影響は各々の生活パターンにより大きく影響されるので,できる限りオープンクエスチョンで生活への支障の程度を尋ねるのがよい。呼吸困難は精神的影響を受けることが多く,不安・不眠・抑うつなどについて評価することも有用である。生活への影響として食事や排泄・睡眠などの基本動作や社会的参加への影響についても聞き取る。 機能的側面の評価尺度としてがん患者の包括的症状評価尺度として開発されたMD Anderson Symptom Inventory(MDASI) 25)を利用したり,非がん性呼吸器疾患のQOL評価尺度であるChronic Respira- tory Disease Questionnaire(CRQ) 26),St. George's Respiratory Questionnaire(SGRQ) 27),COPD対象に開発されたCOPD Assessment Test(CAT) 28)などを利用するのもよい。 B.客観的評価法 自己評価が困難な患者(全身状態不良,認知機能低下など)では,表情などの代理的指標や呼吸不全の指標であるSpO2,呼吸数,呼吸パターン,医療者・家族の評価などを参考にして総合的に判断する。自分自身で苦痛を訴えることができない患者における呼吸困難の客観的評価ツールとしてRespiratory Distress Observation Scale(RDOS) 29)がある。これは心拍数,呼吸数,落ち着きのなさ,奇異性呼吸パターン,呼吸補助筋の使用,呼気終末の呻吟,鼻翼の拡張,恐怖の表情の8 項目について0 ~ 2 点で採点する。合計が3 点以上であれば中等度以上の呼吸困難があり緩和のニーズがあると判断する(表)。 表Respiratory Distress Observation Scale(RDOS) 変数0 点1点2点 心拍数(回/ 分) <90 90-109 ≧110呼吸数(回/ 分) ≦18 19-30 >30静止することがない:目的のない動きなし時々軽度の動き頻繁な動き奇異性呼吸パターン:吸気時の腹部陥没なしあり呼吸補助筋の使用:吸気時の鎖骨挙上なしわずかな挙上明白な挙上呼気終末の呻吟:喉音なしあり鼻翼の拡張:鼻孔の不随意運動なしあり 恐怖の容貌なし両目を大きく開く顔面の筋緊張眉間の深いしわ口を開ける歯を噛みしめる (文献29より作成)
3)呼吸困難への対応 非がん性呼吸器疾患終末期の難治性呼吸困難に対する緩和ケアは,基礎疾患に対して標準的治療が最大限施行されていることが必須条件である。標準的治療が最大限施行されても呼吸困難が持続・悪化する場合には,症状緩和のための非薬物療法を上乗せする。これには高濃度酸素療法としてのリザーバーシステム(オキシマイザー,リザーバー付酸素マスク)やハイフローセラピー(HFNC),症状緩和を目的とした非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)や呼吸リハビリテーション,看護ケア,送風,心理療法,多専門職種による包括的緩和ケアなどが含まれる13,30)。非薬物療法による緩和ケアを行っても症状緩和が不十分な場合には,薬物療法としてオピオイド(モルヒネ,コデイン)や抗不安薬(ベンゾジアゼピン)の使用が考慮される(図3) 31)。COPD 終末期の難治性呼吸困難において,薬物療法の第一選択薬となるのはモルヒネの全身投与である。ベンゾジアゼピン系薬は用量依存性に死亡リスクを増大させるが,オピオイドはモルヒネ換算で30 mg までの低用量であれば死亡リスクに影響しないがことが報告されている32)。ILD 終末期の難治性呼吸困難に対する緩和ケアの検討はきわめて少なく,現在も一定のコンセンサスは得られていないが,酸素療法やモルヒネ,呼吸リハビリテーションなどの有用性が示されている33)。 米国胸部疾患学会(ATS)は呼吸困難危機Dyspnea Crisis の概念をワークショップレポートとして提唱した34)。Dyspnea Crisis は急性の呼吸困難発作で「進行した,しばしば終末期の疾患に認められる,患者やその家族では症状緩和が難しい,遷延した重症の安静時呼吸困難発作」と定義される。Dyspnea Crisis は心理的・社会的・スピリチュアルな過剰反応をきたし混乱状態をきたすことにより生じる。在宅で起こることが多いため,その対処法をあらかじめ家族や介護者に教育しておくことが必要であり,今後日本でも検討すべき課題である。2.咳嗽・喀痰 頻回の強い咳嗽や喀痰は終末期患者にとって日常生活や睡眠を妨げ,肉体的・精神的苦痛を招くばかりでなく,患者の体力を消耗させQOL を著しく低下させる。そのため終末期患者における咳嗽・喀痰の評価とその対応は,患者のQOL を改善させるためにも重要である。COPD では慢性の咳嗽と喀痰は約60 %の患者に認められる基本的な症状であり,死亡率や増悪のリスク,健康関連QOL との関連が示されている35 −37)。 気管支拡張症やびまん性汎細気管支炎では,慢性の咳嗽・喀痰とともに下気道感染を繰り返す結果,最終的には緑膿菌の持続感染をきたす。慢性の咳嗽・喀痰は呼吸困難とともに患者のADL(activity of daily living:日常生活動作)とQOL を低下させ不安・抑うつ症状を招く。 特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias;IIPs)では80% 以上の患者に咳嗽が認められる。IIPs では咳嗽に伴い急激な低酸素状態をきたすことが度々経験される。通常は乾性咳嗽であるが気道感染や慢性気道炎症を合併する場合は喀痰を伴うこともあるため注意を要する38)。 IIPs 終末期に対応が必要な症状として,呼吸困難(75 ~97%)に次いで多いのが咳嗽(60 ~65%)であ 許容できる呼吸困難レベル 呼吸困難の持続あるいは悪化 呼吸困難の持続あるいは悪化3 2 1 緩和薬物的手段モルヒネ用量調整± 抗不安薬 非薬物的手段(活動のペースに合わせた呼吸リハビリテーション,口すぼめ呼吸,送風,リラクセーション手技) COPD ガイドラインに基づいた最適な気管支拡張薬± 運動療法± 酸素の追加 図3重症COPD の呼吸困難のマネジメント (文献31より改変引用)
るが,IIPs 終末期に対する緩和ケアの介入については,前述したようにCOPD に比べるとエビデンスが乏しく,現在も一定のコンセンサスは得られていない39 -41)。1)咳嗽・喀痰の評価 主観的評価法として咳VAS,咳特異的QOL 質問表,CASA-Q 質問表,咳重症度日誌(CSD)などがあるが終末期患者における有用性については検討されていない。 客観的評価法として咳モニターがあるが終末期患者の咳嗽の評価には用いられない37)。 A.主観的評価法a.咳VAS42) 疼痛・呼吸困難の評価と同様に患者が100 mm のスケール上で咳の程度を表現する方法。簡便に評価でき反応性にも優れているため汎用されている。呼吸困難の評価と同様に,同一患者における経時的変化の評価には有用であるが,患者間での比較には適さない。 b.咳特異的QOL 質問表1Cough Specific Quality of Life Questionnaire (CQLQ) 43) 28 の質問項目と6 つの領域(身体的訴え,強い身体的訴え,精神・社会的問題,感情の安定,自身の安全に対する不安,機能障害)から構成される。慢性咳嗽患者における介入への反応性は良好であるが,急性咳嗽では検証されていない。2Leicester Cough Questionnaire(LCQ) 44,45) 19 の質問項目と3 つの領域(身体面,精神面,社会面)から構成されている。簡便で使い易く,COPDをはじめとする慢性咳嗽において,信頼性と妥当性が検証されている。最も頻用される咳特異的QOL質問表で世界各国で使用され日本語版の妥当性も検証されている。c.Cough and sputum assessment questionnaire (CASA-Q) 46,47)日常生活における咳と痰それぞれの頻度・重症度・インパクトについて評価するもの。20 の質問項目と4 つの領域(咳症状,咳インパクト,痰症状,痰のインパクト)から構成され,COPD において信頼性と妥当性が検証されている。 d.咳重症度日誌Cough Severity Diary(CSD) 48) 7 つの項目と頻度(3 項目),強度(2 項目),障害(2項目)の3 つの領域からなる日誌で咳の重症度とインパクトを評価するものだが,臨床的に有意な変化の最小値minimal clinically important differences (MCIDs)についての検証はなされておらず,使用実績も少ない。 B.客観的評価法 咳嗽頻度の客観的評価方法として咳モニターがあり,臨床試験の主要評価項目として使用される頻度が増えているが,日常の診療で使用できる機器はない。 2)咳嗽・喀痰への対応 COPD 患者の咳嗽・喀痰症状に対しては長時間作用性抗コリン薬(LAMA)吸入が主体となるが,呼吸困難の強い症例や増悪を繰り返すような症例にはLAMA/ 長時間作用性β2 刺激薬(LABA)配合薬が使用される。また喘息とのオーバーラップ(Asthma and COPD overlap;ACO)の場合には吸入ステロイド薬(ICS)を追加する。喀痰調整薬はCOPD 増悪を抑制させることが報告されている12,49 −51)。 マクロライド療法は慢性気道感染を併存しているCOPD 患者において喀痰症状の改善が期待される52)。 気管支拡張症やびまん性汎細気管支炎では慢性の下気道感染によって生じる咳嗽・喀痰増加に対してマクロライドや喀痰調整薬,気管支拡張薬吸入などの薬物療法とともに,排痰療法を主体とした呼吸リハビリテーションが行われる。マクロライドの長期
療法は抗炎症効果により,1急性増悪の頻度の低下,2呼吸困難の改善,3健康関連QOL の改善, 4呼吸機能の改善,5喀痰量の減少が期待できる53,54)。 気管支拡張症に対する呼吸リハビリテーションについては,COPD に対するエビデンスと比較すると少ないが,運動能力の向上,筋力増強,呼吸困難の軽減,健康関連QOL の改善が報告されている。特に排痰法による気道クリーニングは,大量の気道分泌物が下気道に貯留するのを防ぐことで喀出困難や呼吸困難を緩和させる。適切な排痰法の習得は体力の消耗を軽減させ,QOL を向上させることが期待される。患者自身が排痰法を修得し自宅で気道クリーニングを実践することは感染や増悪予防の観点からも有用である55 −58)。 IPF の咳嗽においては咳反射を抑制する直接的治療薬である中枢性鎮咳薬が一般的に用いられるが,その効果は限定的であり,十分に抑制できないことが多い。また抗線維化薬の鎮咳効果については評価が不十分である。 今後の課題 ・呼吸困難の評価は主観的評価が主体のため経時的 推移の評価はできるが,群間での比較に適した評価尺度はない。・終末期の呼吸困難を「Total Dyspnea」として捉 え多面的に評価する。・難治性呼吸困難に対するオピオイドの臨床的指針 は,これまでわが国では存在しなかった。本指針をベースとして(p.52 第3 章「症状緩和の手段-薬物療法-1. オピオイド」の項も参照),「どのような患者にオピオイドが有効なのか?」「いつから開始するのか?」「長期使用時の安全性と有効性」などについて今後明らかにしていく必要がある。・わが国で非がん性呼吸器疾患患者に現在使用でき るモルヒネは速放性製剤のみであり,今後欧米で使用されている徐放性製剤が使用できるようにな ることが望まれる。・咳嗽・喀痰の評価は主観的評価が主体であり,終 末期患者では検討されていない。・終末期の難治性咳嗽や喀痰への対応についてはほ とんど検証がされておらず,臨床的指針はない。 ▪文 献1)Lynn J, Ely EW, Zhong Z, et al. Living and dying with chron- ic obstructive pulmonary disease. J Am Geriatr Soc. 2000; 48:S91-100. 2)Edmonds P, Karlsen S, Khan S, et al. A comparison of the palliative care needs of patients dying from chronic respiratory diseases and lung cancer. Palliat Med. 2001;15:287-95. 3)Solano JP, Gomes B, Higginson IJ. A comparison of symptom prevalence in far advanced cancer, AIDS, heart disease, chronic obstructive pulmonary disease and renal disease. J Pain Symptom Manage. 2006;31:58-69. 4)平原佐斗司,苛原実,木下朋雄,他.非がん疾患の在宅ホス ピスケアの方法の確立のための研究.2006年度後期在宅医療助成・勇美記念財団助成.http://zaitakuiryo-yuumizaidan. com/data/file/data1_20100507092236.pdf,(閲覧:2020-07-08) 5)桂秀樹.慢性閉塞性肺疾患の終末期医療と緩和ケアの意義. 日臨.2003;61:2212-9. 6)Dyspnea. Mechanisms, Assessment, and Management:A Consensus Statement. American Thoracic Society. Am J Respir Crit Care Med. 1999;159:321-40. 7)特定非営利活動法人日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン 作成委員会(編).がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016年版.東京:金原出版株式会社;2016. 8)Bruera E. Management of Dyspnea. In:Berger AM, Portenoy RK,Weissman DE, editors. Principles and Practice of Palliative Care and Supportive Oncology, 2nd ed. pennsylvania: Lippincott Williams & Wilkins;2002. p.357-71. 9)Abernethy AP, Wheeler JL. Total dyspnoea. Curr Opin Sup- port Palliat Care. 2008;2:110-3. 10)Guozhang L. Management of Total Dyspnea. Clin Case Rep Rev. 2019;5:1-5. 11)Bausewein C, Farquhar M, Booth S, et al. Measurement of breathlessness in advanced disease:a systematic review. Respir Med. 2007;101:399-410. 12)日本呼吸器学会COPD ガイドライン第5版作成委員会(編). COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版2018. 東京:メディカルレビュー社;2018. 13)津田徹,平原佐斗司(編).非がん性呼吸器疾患の緩和ケア.東京:南山堂;2017. 14)Dorman S, Byrne A, Edwards A. Which measurement scales should we use to measure breathlessness in palliative care? A systematic review. Palliat Med. 2007;21:177-91.
15)Gift AG, Narsavage G. Validity of the numeric rating scale as a measure of dyspnea. Am J Crit Care. 1998;7:200-4. 16)Wilcock A, Crosby V, Clarke D, et al. Repeatability of breathlessness measurements in cancer patients. Thorax. 1999; 54:375. 17)Mador MJ, Kufel TJ. Reproducibility of Visual Analog Scale Measurements of Dyspnea in Patients with Chronic Obstructive Pulmonary Disease. Am Rev Respir Dis. 1992; 146:82-7. 18)Wilson RC, Jones PW. A comparison of the visual analogue scale and modified Borg scale for the measurement of dyspnoea during exercise. Clin Sci(Lond). 1989;76:277-82. 19)Bestall JC, Paul EA, Garrod R, et al. Usefulness of the Medical Research Council(MRC)dyspnoea scale as a measure of disability in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Thorax. 1999;54:581-6. 20)Yorke J, Moosavi SH, Shuldham C, et al. Quantification of dyspnoea using descriptors:development and initial testing of the Dyspnoea-12. Thorax. 2010;65:21-6. 21)Yorke J, Swigris J, Russell AM, et al. Dyspnea-12 is a valid and reliable measure of breathlessness in patients with interstitial lung disease. Chest. 2011;139:159-64. 22)Tan JY, Yorke J, Harle A, et al. Assessment of Breathlessness in Lung Cancer:Psychometric Properties of the Dyspnea-12 Questionnaire. J Pain Symptom Manage. 2017;53: 208-15. 23)Banzett RB, O'Donnell CR, Guilfoyle TE, et al. Multidimensional Dyspnea Profile:an instrument for clinical and laboratory research. Eur Respir J. 2015;45:1681-91. 24)Morélot-Panzini C, Gilet H, Aguilaniu B, et al. Real-life assessment of the multidimensional nature of dyspnoea in COPD outpatients. Eur Respir J. 2016;47:1668-79. 25)Okuyama T, Wang XS, Akechi T, et al. Japanese version of the MD Anderson Symptom Inventory:a validation study. J Pain Symptom Manage. 2003;26:1093-104. 26)Guyatt GH, Berman LB, Townsend M, et al. A measure of quality of life for clinical trials in chronic lung disease. Thorax. 1987;42:773-8. 27)Jones PW, Quirk FH, Baveystock CM, et al. A self-complete measure of health status for chronic airflow limitation. The St. George's Respiratory Questionnaire. Am Rev Respir Dis. 1992;145:1321-7. 28)Jones PW, Harding G, Berry P, et al. Development and first validation of the COPD Assessment Test. Eur Respir J. 2009;34:648-54. 29)Campbell ML, Templin T, Walch J. A Respiratory Distress Observation Scale for patients unable to self-report dyspnea. J Palliat Med. 2010;13:285-90. 30)Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD). Global Strategy for the Diagnosis, Management and Prevention of COPD. 2019 Report. https://goldcopd. org/wp-content/uploads/2018/11/GOLD-2019-v1.7-FI- NAL-14Nov2018-WMS.pdf,(accessed 2020-06-17). 31)Rocker G, Horton R, Currow D, et al. Palliation of dyspnoea in advanced COPD:revisiting a role for opioids. Thorax. 2009;64:910-5. 32)Ekström MP, Bornefalk-Hermansson A, Abernethy AP, et al. Safety of benzodiazepines and opioids in very severe respiratory disease:national prospective study. BMJ. 2014;348: g445. 33)Ryerson CJ, Donesky D, Pantilat SZ, et al. Dyspnea in idiopathic pulmonary fibrosis:a systematic review. J Pain Symptom Manage. 2012;43:771-82. 34)Mularski RA, Reinke LF, Carrieri-Kohlman V, et al. An official American Thoracic Society workshop report:assessment and palliative management of dyspnea crisis. Ann Am Thorac Soc. 2013;10:S98-106. 35)Putcha N, Drummond MB, Connett JE, et al. Chronic productive cough is associated with death in smokers with early COPD. COPD. 2014;11:451-8. 36)Burgel PR, Nesme-Meyer P, Chanez P, et al. Cough and sputum production are associated with frequent exacerbations and hospitalizations in COPD subjects. Chest. 2009;135: 975-82. 37)Deslee G, Burgel PR, Escamilla R, et al. Impact of current cough on health-related quality of life in patients with COPD. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2016;11:2091-7. 38)日本呼吸器学会咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019作成委員会(編).咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019.東京:メディカルレビュー社;2019. 39)有田健一,三戸晶子,梶原俊毅,他.研究・症例 過去20年間における肺線維症・間質性肺炎終末期の緩和医療に関する検討.日胸臨.2010;69:353-61. 40)Ahmadi Z, Wysham NG, Lundström S, et al. End-of-life care in oxygen-dependent ILD compared with lung cancer:a national population-based study. Thorax. 2016;71:510-6. 41)Lindell KO, Liang Z, Hoffman LA, et al. Palliative care and location of death in decedents with idiopathic pulmonary fibrosis. Chest. 2015;147:423-9. 42)Morice AH, Fontana GA, Belvisi MG, et al. ERS guidelines on the assessment of cough. Eur Respir J. 2007;29:1256-76. 43)French CT, Irwin RS, Fletcher KE, et al. Evaluation of a cough-specific quality-of-life questionnaire. Chest. 2002; 121:1123-31. 44)Birring SS, Prudon B, Carr AJ, et al. Development of a symptom specific health status measure for patients with chronic cough:Leicester Cough Questionnaire(LCQ). Thorax. 2003;58:339-43. 45)Berkhof FF, Boom LN, ten Hertog NE, et al. The validity and precision of the Leicester Cough Questionnaire in COPD patients with chronic cough. Health Qual Life Outcomes. 2012;10:4. 46)Crawford B, Monz B, Hohlfeld J, et al. Development and validation of a cough and sputum assessment questionnaire. Respir Med. 2008;102:1545-55. 47)Monz BU, Sachs P, McDonald J, et al. Responsiveness of the cough and sputum assessment questionnaire in exacerbations of COPD and chronic bronchitis. Respir Med. 2010;
104:534-41. 48)Vernon M, Kline Leidy N, Nacson A, et al. Measuring cough severity:development and pilot testing of a new sevenitem cough severity patient-reported outcome measure. Ther Adv Respir Dis. 2010;4:199-208. 49)Poole P, Chong J, Cates CJ. Mucolytic agents versus placebo for chronic bronchitis or chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2015;CD001287. 50)Zheng JP, Kang J, Huang SG, et al. Effect of carbocisteine on acute exacerbation of chronic obstructive pulmonary disease(PEACE Study):a randomised placebo-controlled study. Lancet. 2008;371:2013-8. 51)Malerba M, Ponticiello A, Radaeli A, et al. Effect of twelvemonths therapy with oral ambroxol in preventing exacerbations in patients with COPD. Double-blind, randomized, multicenter, placebo-controlled study(the AMETHIST Trial). Pulm Pharmacol Ther. 2004;17:27-34. 52)Yamaya M, Azuma A, Takizawa H, et al. Macrolide effects on the prevention of COPD exacerbations. Eur Respir J. 2012; 40:485-94. 53)Chalmers JD, Smith MP, McHugh BJ, et al. Short- and longterm antibiotic treatment reduces airway and systemic inflammation in non-cystic fibrosis bronchiectasis. Am J Respir Crit Care Med. 2012;186:657-65. 54)Wu Q, Shen W, Cheng H, et al. Long term macrolides for noncystic fibrosis bronchiectasis :A systematic review and meta-analysis. Respirology. 2014;19:321-9. 55)Ong HK, Lee AL, Hill CJ, et al. Effects of pulmonary rehabilitation in bronchiectasis:A retrospective study. Chron Respir Dis. 2011;8:21-30. 56)Lee AL, Hill CJ, Cecins N, et al. The short and long term effects of exercise training in non-cystic fibrosis bronchiectasis--a randomised controlled trial. Respir Res. 2014;15:44. 57)Zanini A, Aiello M, Adamo D, et al. Effects of Pulmonary Rehabilitation in Patients with Non-Cystic Fibrosis Bronchiectasis:A Retrospective Analysis of Clinical and Functional Predictors of Efficacy. Respiration. 2015;89:525-33. 58)Lee AL, Burge AT, Holland AE. et al. Airway clearance techniques for bronchiectasis. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015: CD008351.
これまでにわかっていること 非がん性呼吸器疾患の患者でも,終末期においては呼吸困難や喀痰,咳嗽などの呼吸器症状以外にさまざまな苦痛症状を生じることが報告されている。例えばCOPD の終末期には,以下のような発症頻度が報告されている:疼痛34 ~77%,疲労(倦怠感) 68 ~80%,混迷(せん妄)18 ~33%,食欲不振35 ~ 67%,抑うつ37 ~71%,不安51 ~75%,不眠55 ~ 65%,便秘27 ~44%1)。以下に,主な症状に対する評価と治療法について概説する。 1.倦怠感 倦怠感は「疲労や衰弱やエネルギーの欠乏などの主観的な感覚」と定義される。倦怠感は心身への強 いストレスをもたらし,患者のQOL を著しく低下させる2)。評価法としては,ほかの症状と同様にNRS やVAS などの主観的評価法や,Support Team Assessment Schedule(STAS)などの他者評価法があり,いずれも何らかの介入前後の変化を同一の指標で評価する。倦怠感の要因は,表1のように多岐に及び複数因子が関与することも多く,後述する低活動型せん妄との鑑別は特に重要である。治療法として,薬物療法の効果は限定的なため,まずは原因の除去・軽減が可能か検討し,加えて運動療法や環境調整,日常生活の工夫による負担軽減,気分転換や不安の聴取などで症状の改善を図る。月単位以上の予後が推察される場合には,がん領域では薬物療法としてステロイドの使用が検討され3,4),非がん性 症状の評価と対応 2.その他(倦怠感・食欲不振・便秘・ せん妄・不眠・不安・抑うつなど) 第2章 表1倦怠感の要因・廃用などによる筋力低下・他疾患による身体症状(貧血,感染〔発熱〕,脱水,代謝内分泌異常〔甲状腺機能異常,副腎不全,血糖異常,電解質異常〈低ナトリウム血症,高カルシウム血症,低カリウム血症〉〕)・精神症状:抑うつ,不安,睡眠障害,せん妄(低活動型せん妄)・臓器障害:肝機能障害,腎機能障害,心不全など・薬剤性:オピオイド,メトクロプラミド,向精神薬(ベンゾジアゼピン系),抗精神病薬(プロクロルペラジン,ハロペリドー ル,リスペリドンなど) サマリー 非がん性呼吸器疾患の終末期には,呼吸困難以外にもさまざまな苦痛症状に対する緩和ケアが必要とされる。便秘は食欲不振や腹痛などの消化管症状以外にせん妄の促進因子でもあるので,積極的な治療介入が必要である。終末期患者ではせん妄の合併を高頻度に認めるため,日常臨床におけるスクリーニングを欠かさず,原因の除去や治療を含めた早めの介入を行う。
呼吸器疾患の緩和ケアにおいても使用される場合がある(p.60 第3 章 「症状緩和の手段−薬物療法- 2. その他 1. コルチコステロイド」の項を参照)。 2.食欲不振 食欲不振は,倦怠感とともに悪液質症候群の主要な症状であり,非がん性呼吸器疾患の終末期患者においても多く認められる。悪液質は,慢性炎症に伴った体重減少,筋肉減少症(サルコペニア)をきたす病態であり,COPD でも20 ~40% に認められるとされている5)。可逆性の段階では,栄養士による栄養サポートやコルチコステロイドによって臨床症状とともにBMI やプレアルブミン値などの改善が期待できるが,予後が週単位(1 ヵ月未満)の不可逆性の段階になるとそれらへの反応も乏しくなる3)。その時期には,高カロリー輸液などを行っても喀痰の増加や浮腫が患者のQOL を損ねるだけで有用性はないため,ごく少量でも患者が好むものを経口摂取いただくのが妥当である。 3.便秘 便秘は,悪心・嘔吐,食欲不振,腹痛などの消化器症状や,腹部膨満による呼吸困難感の悪化などを引き起こして患者のQOL を低下させる。せん妄の促進因子としてもきわめて重要なので,軽視せずに積極的に治療する必要がある。便秘の原因のうち身体的なものとして,呼吸器疾患の増悪に伴うADL低下,長期臥床,経口摂取不良,脱水,抑うつなどが挙げられるが,併存疾患(糖尿病,甲状腺機能低下症,低カリウム血症,腹部手術の既往など)にも注意を要する。 薬剤性のものとして,呼吸困難・咳嗽に用いられるオピオイド(モルヒネ,コデイン)では便秘が必発と認識して対策を行う。排便の有無を毎日確認し,2 日以上排便がない場合は食事内容の工夫(食物繊維や水分の十分な摂取)と適切な排便環境の確保など非薬物的な介入を行ったうえで,必要に応じて適宜下剤を用いる。硬便に対しては浸透圧性下剤(酸化マグネシウム,ラクツロースなど),腹圧の低下や蠕動低下に起因するものであれば大腸刺激性下剤(センノシド,ピコスルファートなど)を用い, 両者の併用も有用である。オピオイド誘発性便秘の場合は,末梢性オピオイド受容体拮抗薬であるナルデメジンも候補となる3)。なお,便秘が悪化すると,直腸内に停留した便塊によって内肛門括約筋が反射的な弛緩状態となり,口側からくる軟便や液状便を漏出性に失禁する「溢流性便秘」を生じる。便秘が長く続いている患者に少量頻回の水様便が生じた際,単純に下痢と判断し下剤を止めると便秘はさらに悪化するので要注意である。頑固な宿便に対しては,摘便などの経直腸的処置や浣腸などの施行も検討すべきである。 4.せん妄 せん妄とは「急性に生じる意識障害を主体とした精神神経症状の総称」であり,後述のようにさまざまな疾患によって全身状態が悪化した際に生じることから,呼吸器疾患の終末期にも非常に多く認められる。転倒・転落などの事故や死亡率の増加につながるほか,患者自身にとっても恐怖感などの不快な感情をもたらし,つじつまの合わない言動やコミュニケーションの妨げは家族にとっても多大な精神的苦痛となるため,的確な評価と迅速な対応が求められる3)。せん妄のサブタイプとして,1不穏,焦燥や幻覚が強い過活動型,2無気力,活動量の低下,行動速度の低下が目立つ低活動型,3前2 型が混在する混合型に分類される。低活動型では,簡単な会話が成立して苦痛の訴えも少ないことから医療者から見逃されやすいとされるが,患者や家族の辛さは過活動型と同様との報告があり軽視してはならない。せん妄の発症には,表2に示す3 つの因子が関与するとされ,それらへのアプローチが予防や治療につながる6)。非がん性呼吸器疾患患者の多くは高齢者であるため,常にせん妄のハイリスク群との認識が重要である。 せん妄は,米国精神医学会の診断基準Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM)-5 に基づいて診断されるのが世界標準ではあるが,臨床的にはより簡便なConfusion Assess-
ment Method(CAM) (1急性発症と症状の変動,2注意力障害,3まとまりのない思考,4意識レベルの変化,のうち12の両者と34のどちらかを満たせばせん妄と判断)などが広く用いられ,さらに簡便なSingle Question In Delirium(SQID) (「家族から見ていつもの本人と様子が違いますか?」の質問で判断)もスクリーニング手段として有用とされる7)。なお,終末期に漠然とした苦痛(「あっちもこっちも痛い」など)を訴える患者に,安易に鎮痛薬などで対処しても改善せず,オピオイドを増量すると症状がむしろ増悪する場合がある。先述の倦怠感についても,今まで好きだったテレビが疲れて見られないというのは,注意力を保てなくなったサインであり,いずれも低活動型せん妄を念頭に置くことで正しく対処できる。なお,高齢者では認知症との鑑別も重要だが,表3に示すような特徴から判断する。ただし,認知症にせん妄が合併する場合や,幻視を認めることが多いLewy 小体型認知症はせん妄と判断されがちだが抗精神病薬に過敏性があることが多いため,鑑別が難しい場合は精神科医に相談する。 せん妄の対策で最も優先すべきは,直接因子への対処(感染症なら抗菌薬や抗ウイルス薬による治療,オピオイドなどの薬剤が原因と考えられるなら当該薬の減量・中止など)であり,非薬物療法としての環境調整もきわめて重要である(家族など本人にとって親しい人の付き添い,本人の好きな音楽をかける,写真やぬいぐるみを置く,眼鏡をかけて視力改善するなど) 8)。そのうえで,必要時には抗精神病薬を主とした薬物療法を併用するが,あくまで患者本人の苦痛の軽減を目的とし,少量・間欠的な投与(経口薬であればクエチアピンやリスペリドンの眠前投与,注射剤であればハロペリドール2.5 ~ 5mg を夜間のみ投与など)から開始する。変貌した患者を目にして動揺することが多い家族へのケアも きわめて重要であり,あくまで疾患による全身状態の悪化がもたらした症状であること(患者・家族には何の非もないこと),家族の付き添いは患者にとって安心につながることなどを丁寧に説明する。せん妄を発症するリスクが高い患者の場合は,パンフレットなどで事前に情報提供することも有用である。 5.不眠 不眠に悩む患者は多いが,呼吸困難や疼痛などの苦痛症状のために安眠が得られていない場合は,まずは当該症状の緩和に努める。現実的には,患者に心身の安静をもたらすため睡眠薬の併用を要する場合が多いが,一般的に広く用いられているベンゾジアゼピン系薬(ブロチゾラムなど)は,II型呼吸不全を伴う患者ではCO2 ナルコーシスを誘発する危険性があるため注意を要する。また,同薬はせん妄の直接因子にもなりうるため,全身状態が低下している患者への使用は避けるべきである(非ベンゾジアゼピン系に分類されるゾルピデムも作用機序としてはベンゾジアゼピン系薬剤と同様であり推奨されない)。せん妄リスクが高い患者に対する睡眠薬としては,せん妄の予防効果を示唆する報告もあるラメルテオンやスボレキサントなどが第一選択薬として推奨される9)。また,終末期には不眠がせん妄の一症状(昼夜逆転)である場合も多く,その際は鎮静作用が比較的強く半減期の短いクエチアピンを用いることもある。 6.不安・抑うつ 生命の維持に不可欠な呼吸の困難感を自覚しつつ,いずれは死に至る過程を意識せざるを得ない重 表2せん妄の3因子準備因子高齢,認知症,脳器質性疾患の既往,アルコール多飲,せん妄の既往促進因子(誘発因子)身体的苦痛(不眠,痛み,便秘,尿閉,視力・聴力低下,身体拘束など),精神的苦痛(不安,抑うつなど),環境変化(入院,ICU,騒音など)直接因子身体疾患,薬剤(オピオイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,ステロイド,抗ヒスタミン剤など),手術,アルコール
度の呼吸器疾患患者は,先述のとおり高頻度に不安を抱えている10,11)。不安は呼吸困難感をさらに増強させる悪循環を生じ,それらが正常範囲を超えて持続すると適応障害やうつ病へと移行する。抑うつの合併は,患者のQOL を著しく損ねるほか,適切な治療の継続や周囲との関わりが妨げられることなどから生命予後にも悪影響を及ぼすため,早期に専門的な介入が必要とされる。適応障害,うつ病の診断においても先述のDSM-5 を使用するのが原則だが,臨床現場においては簡便なスクリーニング法としてHospital Anxiety and Depression Scale(HADS), Patient Health Questionnaire-9(PHQ-9)などが広く用いられ,COPD 患者における有用性も報告されている12,13)。さらに簡便な方法としては2 質問法があり,1ここ1 ヵ月,気分が落ち込んだり憂鬱な気分になったか?2ここ1 ヵ月,何をしても楽しくないと感じるか?のどちらかが「はい」であれば,感度97%(特異度67%)で抑うつが疑われる14)。終末期患者においては,うつとせん妄の鑑別も重要であり表4に示すような特徴に注意する15)。各々への対処法は大きく異なるため,精神科医との連携が望ましい。 不安・抑うつへの対処においても,非薬物療法(心理社会的介入)の有用性が数多く示されている(認知行動療法についてはp.95 第3 章「症状緩和の手段-非薬物療法-4.その他4)心理療法」の項を参照)。運動と教育を統合した包括的リハビリテーションにより,COPD 患者における不安・抑うつ症状の改善が報告され,リラクセーションを目的とした行動療法である漸進的筋弛緩法は無作為化比較試験において抗不安薬と同等の効果を示している3,16)。近年注目されているマインドフルネスも COPD 患者における有用性が示されている17)。薬物療法としては,別項で述べられている抗うつ薬,抗不安薬などを適宜用いるが,後者については薬物依存や耐性,せん妄リスクなども懸念されることから,リスク&ベネフィットを慎重に判断したうえでの使用が求められる(現実には安易に長期間使用されている例が数多くみられる)。 今後の課題 非がん呼吸器疾患の緩和ケアに関するエビデンスはいまだ十分ではなく,これまで述べてきた事柄も「がん領域」におけるエビデンスに基づくものが多い。また,呼吸器疾患のなかでもCOPD 患者を対象とした検討が大半であり,ILD では十分な検討がなされていない。そして,ほとんどは海外の知見を外挿したもので,日本人患者における真の有用性は不明である。よって今後は,個々の症状緩和に関する評価や治療法の妥当性を,日本人患者を対象とした臨床研究から明らかにしていくことが求められる。 ▪文 献1)Solano JP, Gomes B, Higginson IJ. A comparison of symptom prevalence in far advanced cancer, AIDS, heart failure, chronic obstructive pulmonary disease and renal failure. J Pain Symptom Manage. 2006;31:58-69. 2)Radbruch L, Strasser F, Elsner F, et al. Fatigue in palliative care patients— an EAPC approach. Palliat Med. 2008;22: 13-32. 3)日本緩和医療学会(編).専門家をめざす人のための緩和医療 表3せん妄と認知症の違い せん妄認知症 発症様式急激(数時間から数日)潜在性(数ヵ月から数年)初発症状注意集中困難,意識障害近時記憶障害経過と持続動揺性(数日から数週間)慢性進行性覚醒水準動揺する正常思考内容豊富・無秩序貧困・不毛
学改訂第2版. 東京:南江堂;2019. 4)Bondly C, Jatoi A. Overview of the management of the an- orexia/weight loss syndrome. In:Bruera E, Higginson I, von Gunten CF, et al, editors. Textbook of Palliative Medicine and Supportive Care. Florida:CRC Press;2016. p.539-46. 5)Wagner PD. Possible mechanisms underlying the develop- ment of cachexia in COPD. Eur Respir J. 2008;31:492-501. 6)Lipowski ZJ. Delirium:Acute Confusional States. New York: Oxford University Press;1990. 7)Inouye SK, van Dyck CH, Alessiet CA, et al. Clarifying confu- sion:the confusion assessment method. A new method for detection of delirium. Ann Intern Med. 1990;113:941-8. 8)Hshieh TT, Yue J, Oh E, et al. Effectiveness of multicompo- nent nonpharmacological delirium interventions:A metaanalysis. JAMA Intern Med. 2015;175:512-20. 9)Hatta K, Kishi Y, Wada K, et al. Preventive effects of ramelt- eon on delirium:a randomized placebo-controlled trial. JAMA Psychiatry. 2014;71:397-403. 10)Yohannes AM, Alexopoulos GS. Depression and anxiety in patients with COPD. Eur Respir Rev. 2014;23:345-9. 11)De Vries J, Kessels BL, Drent M. Quality of life of idiopathic pulmonary fibrosis patients. Eur Respir J. 2001;17:954-61. 12)Baker AM, Holbrook JT, Yohannes AM, et al. Test Performance Characteristics of the AIR, GAD-7 and HADS-Anxiety Screening Questionnaires for Anxiety in Chronic Obstructive Pulmonary Disease. Ann Am Thorac Soc. 2018; 15:926-34. 13)von Siemens SM, Jörres RA, Behr J, et al. Effect of COPD severity and comorbidities on the result of the PHQ-9 tool for the diagnosis of depression:results from the COSY- CONET cohort study. Respir Res. 2019;20:30. 14)Arroll B, Khin N, Kerse N. Screening for depression in primary care with two verbally asked questions:cross sectional study. BMJ. 2003;327:1144-6. 15)O'Sullivan R, Inouye SK, Meagher D. Delirium and depression:inter-relationship and overlap in elderly people. Lancet Psychiatry. 2014;1:303-11. 16)Coventry PA, Hind D. Comprehensive pulmonary rehabilitation for anxiety and depression in adults with chronic obstructive pulmonary disease:Systematic review and metaanalysis. J Psychsom Res. 2007;63:551–65. 17)Farver-Vestergaard I, O'Toole MS, O'Connor M, et al. Mindfulness-based cognitive therapy in COPD:a cluster randomised controlled trial. Eur Respir J. 2018;51:1702082. 表4せん妄と抑うつとの鑑別 せん妄に特異的な特徴せん妄と抑うつ,両方にみられる特徴 経過の動揺性感情の変化 急性発症睡眠障害意識変容活動性低下身体的要因の存在無感情 失見当識焦燥思考のまとまりのなさ情報処理速度の低下 理解力低下記憶障害
症状緩和の手段 第 3 章
これまでにわかっていること 1.酸素療法の目的は低酸素血症の是正で あって,呼吸困難の改善ではない英国胸部学会(BTS)酸素療法ガイドライン1)は,上記見出しの文章で始まっており,これが酸素療法に対する現在の国際的な共通認識といえる。一般に酸素療法の適応と考えられるのは,PaO2 が60 Torr以下の急性呼吸不全や,長期酸素療法 (long term oxygen therapy;LTOT)による生命予後改善が示されている安静時低酸素血症(PaO2 55 ~60 Torr以下)を伴う慢性呼吸不全である2,3)。 一方で,上記の低酸素血症に至らない慢性呼吸不全においては,LTOT による予後の改善効果は証明されておらず4),本邦を含む多くの国でLTOT の適応から外されている(表)。しかしながら実地臨床では,全体の約1/3 の症例で安静時PaO2 >60 Torr の段階で在宅酸素の導入が行われている5)。その理由として,呼吸困難が強い(96%),運動時の低酸素血症(88%),睡眠時の低酸素血症(19%)の順に多くなっており,労作時低酸素血症をきたし,かつ呼吸 困難の強い症例を中心に在宅酸素が導入される場合があることが分かる。なお,肺高血圧症のある場合はPaO2 値に関わらず酸素吸入が有効であり,在宅酸素療法の適応として認められている(表)。 2.低酸素血症のない患者における酸素療法 の呼吸困難緩和効果終末期の非がん呼吸器疾患患者を対象として酸素療法の効果を検討した研究はきわめて限られている。2008 年の終末期患者を対象とするシステマティックレビュー6)では,無作為化比較試験であることを選択基準としたところ,がん,心不全,脊柱後弯症を対象とした研究しか集まらなかった。なお,このレビューは,酸素吸入の空気吸入・室内気に対する優位性は示されなかったと結論づけている。 その後2010 年にAbernethy らによる大規模な二重盲検無作為化比較試験の結果が発表された7)。安静時低酸素血症のない(PaO2 >55 Torr)難治性呼吸困難患者239 名(非がん患者を201 名含む)を,酸素 症状緩和の手段― 呼吸管理― 1.酸素療法 第3章 サマリー 酸素療法の目的は低酸素血症の是正であって呼吸困難の改善ではない。EBM の観点から,低酸素血症のない患者に対する酸素療法の呼吸困難緩和効果は明確ではないが,一部には有効な患者群も存在する。低酸素血症がなくても酸素療法の有効性が期待される場合には,投与期間を限定して酸素療法を試行し,有効性を判定することが望ましい。
または空気を鼻カニュラ2 L/ 分で吸入する2 群に振り分け,7 日間にわたって呼吸困難の程度をNumerical Rating Scale(NRS)で評価したところ,1酸素吸入と空気吸入の2 群間で呼吸困難の緩和効果に有意差を認めなかった,2ただし一部(40 〜52%)の患者では酸素でも空気でも吸入後に呼吸困難が緩和された,という結果が得られた。この研究は終末期患者だけを対象としたものではないが,参加者数が多く,日常生活における呼吸困難を測定するというデザインも優れており,質の高いエビデンスといえる。 さらに終末期の研究として,Campbell らは臨死期の呼吸困難のリスクが高い患者32 名(うち悪性腫瘍は肺がん3 名)を対象として,酸素吸入,空気吸入,吸入なしの3 つの介入による呼吸困難の変化をみるクロスオーバー試験を行った8)。その結果,3 つのどの介入によってもRespiratory Distress Observation Scale(RDOS) (p.24 第2 章「症状の評価と対応1.症状(呼吸困難・咳嗽・喀痰)」の項を参照),酸素飽和度,呼気終末二酸化炭素分圧において差を認めなかった。対象患者の84%は元々酸素吸入をしていたが,それらの患者では鼻カニュラからの酸素が止まっても空気に変わっても呼吸困難は悪化しなかったことになる。この結果は,臨死期においては酸素吸入も空気吸入も呼吸困難の緩和に寄与せず,低酸素血症がある場合でさえ酸素投与が必要とは限らないことを示唆している。ただし,3 名の被験者は吸入を止めたときに呼吸困難が悪化して試験が継続できなくなっており,酸素吸入を必要とする患者が少数ながら存在することも示している。 3.酸素吸入が有効な患者群も存在する 上記のとおり,低酸素血症がない患者における呼吸困難緩和効果に関して,集団としては空気に対する酸素の優位性を示す明確なエビデンスはないが, Abernethy らの研究に示されるように,酸素であれ空気であれ,気体の吸入の前後で呼吸困難が緩和する患者群は存在する7)。この研究では,介入前の酸素化の程度と酸素吸入の効果との間に関連はなかったことから,酸素(空気)投与前後で呼吸困難が改善する機序はPaO2 の上昇ではなく,心理的あるいは気流そのものによる効果であろうと推測される。 安静時低酸素血症がない場合に,どのような患者で酸素投与の有効性が期待できるかについてはまだ明らかではないが,少なくとも労作により呼吸困難が出現するCOPD や間質性肺疾患(ILD)患者は,酸素療法の有用性が期待できる一群に含まれると考えられる。例えば,低酸素血症のないCOPD 患者を対象とするシステマティックレビュー9)では,労作による呼吸困難を酸素が緩和することが示されている。ただし,ここに含まれた研究の多くでは人工的な運動負荷が行われており,結果をそのまま日常生活の呼吸困難に外挿することができるのか,解釈は慎重でなければならない。ILD においては,2016 年のシステマティックレビュー10)では酸素の労作時呼吸困難の緩和効果を確認することができなかった。しかしその後,2018 年に84 名のILD(fibrotic ILD)患者を対象として行われた労作時のみの酸素吸入と 表在宅酸素療法の保険適用基準1. 高度慢性呼吸不全PaO2 55 Torr(SpO2 88%)以下の者,およびPaO2 60 Torr(SpO2 90%)以下で睡眠時または運動負荷時に著しい低酸素血症をきたす者であって,医師が在宅酸素療法を必要であると認めた症例 2 肺高血圧症 3. 中枢性無呼吸を伴う慢性心不全NYHA III度以上の慢性心不全で,睡眠時のチェーンストークス呼吸がみられ,無呼吸低呼吸指数が20 以上であることが睡眠ポリグラフィー上で確認されている症例4. チアノーゼ型先天性心疾患ファロー四徴症,大血管転位症,三尖弁閉鎖症,総動脈幹症,単心室症などのチアノーゼ型先天性心疾患患者のうち,発作的に低酸素または無酸素状態になる患者について,発作時に在宅で行われる救命的な酸素吸入療法※1から3は,安定した病態にある退院患者および手術待機の患者について,在宅で患者自らが酸素吸入を実施するものをいう
酸素吸入なしの2 週間ずつのクロスオーバー試験(AmbOx 試験)の結果が発表され,酸素が労作時呼吸困難を緩和することが示された11)。ただしこの研究では対照群が吸入なしであり,盲検化されていないことが問題として指摘されている。 4.呼吸リハビリテーションへの橋渡し 呼吸困難に対する呼吸リハビリテーションの有用性は確立している(p.70 第3 章「症状緩和の手段−非薬物療法−2. 呼吸リハビリテーション」の項を参照)。したがって直接的に呼吸困難を緩和できなくても,運動耐容能を酸素が改善することで呼吸リハビリテーションの実施が容易となって継続できるのであれば,間接的に症状緩和をもたらすことが期待できる。しかしながら,安静時低酸素血症がない場合,運動時の酸素療法による運動耐容能改善効果は明確に示されていない。COPD を対象としたシステマティックレビューでは効果が認められなかった12)。一方,ILD のレビューでは,1 件は相反するデータのために結論づけられず10),1 件は酸素の有用性が示唆されるものの,エビデンスの総体としては不十分であった13)。このテーマに関しては,今後さらなるエビデンスの確立が求められる。 5.酸素療法が有効な患者のスクリーニング 低酸素血症がないにもかかわらず呼吸困難を訴える患者への酸素投与を推奨することは,evidencebased medicine(EBM)の観点からすると難しい。しかし,すべての患者に効果がないわけではなく,なかには恩恵を受けられる患者も存在する可能性がある。酸素療法が有効な患者を拾い上げるための実践的なアプローチとして,期間限定の酸素吸入の試行が提案されている14)。前述のAbernethy らの研究によると,半数近くの患者が気体の吸入に反応し,効果は比較的早期に現れ,55% は24 時間以内に,88%が72 時間以内に改善している7)。したがって長期間の試行は必要なく,3 日間も試行すれば,酸素療法が有効かおおむね判定できるということになる。ただし酸素(気体)吸入の呼吸困難緩和効果は,オピオイドに比べても小さいという報告もある15)。酸素療 法の前にまずは原疾患に対する治療を尽くすことが前提であり,オピオイドや手持ち扇風機による顔面への送風16,17)など,そのほかの緩和的手段も検討する必要がある。 6.酸素療法のデメリット 酸素療法は一般的には安全な治療と考えられているが,デメリットも知っておく必要がある。CO2 ナルコーシスのリスクや鼻腔の乾燥・出血は比較的よく認識されているが,費用や行動の制限といった患者の負担が見過ごされやすい。さらに近年,急性期の過剰な酸素投与が死亡率の増加などの弊害を引き起こすことに注目が集まっている18)。 そうした流れのなかで,急性期疾患に対する酸素療法においては,目標の酸素飽和度を低く設定しようとする動きがある。前述のBTS 酸素療法ガイドラインでは,高CO2 血症のリスクがなければSpO2 94 ~98% に,リスクがあればSpO2 88 ~92% に酸素飽和度の目標をおいていたが,より新しいガイドライン19)では目標の酸素飽和度をSpO2 90 ~94%とさらに低い数値を提唱している(ただし一酸化炭素中毒,群発頭痛,気胸など特定の疾患は除かれ,高CO2 血症のリスクがあれば従来どおりSpO2 88 ~ 92%)。これらのガイドラインは急性期疾患を対象としているので,そのまま慢性期・終末期の呼吸器疾患に当てはめられるかは現時点では不明である。しかし過剰な酸素投与のリスクは認識すべきであり,症状緩和の効果が乏しいのにも関わらず,漫然と投与を続けるようなことは慎みたい。とりわけ元々低酸素血症がなく,1 回換気量(あるいは吸気流速)が低下しているような患者に酸素を投与する場合には,吸入酸素濃度が容易に上昇し過剰な投与になりかねないため,症状緩和とのバランスを見極めながら慎重に流量を設定する必要がある。
今後の課題 ・どのような患者に酸素/ 空気吸入が有効か,とい う患者選択についてのさらなる検討が必要である。・例えば呼吸困難の質(呼吸努力〔work/effort〕,空 気飢餓感〔air hunger/unsatisfied inspiration〕,絞扼感〔tightness〕)による効果の違いの検討が必要である。・酸素投与により運動耐容能を改善できるか,より 強固なエビデンスを確立すべきである。・慢性期・終末期の呼吸器疾患患者における至適酸 素飽和度基準(とくに上限)を確立すべきである。 ▪文 献1)O'Driscoll BR, Howard LS, Earis J, et al. BTS guideline for oxygen use in adults in healthcare and emergency settings. Thorax. 2017;72 Suppl 1:ii1-90. 2)Long term domiciliary oxygen therapy in chronic hypoxic cor pulmonale complicating chronic bronchitis and emphysema. Report of the Medical Research Council Working Party. Lancet. 1981;1:681-6. 3)Continuous or nocturnal oxygen therapy in hypoxemic chronic obstructive lung disease:A clinical trial. Nocturnal Oxygen Therapy Trial Group. Ann Intern Med. 1980;93: 391-8. 4)Albert RK, Au DH,Blackford AL,et al. A Randomized Trial of Long-Term Oxygen for COPD with Moderate Desaturation. N Engl J Med. 2016;375:1617-27. 5)日本呼吸器学会肺生理専門委員会在宅呼吸ケア白書ワーキン ググループ(編).在宅呼吸ケア白書2010.東京:メディカルレビュー社;2010. 6)Cranston JM, Crockett A, Currow D. Oxygen therapy for dyspnoea in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2008; CD004769. 7)Abernethy AP, McDonald CF, Frith PA, et al. Effect of pal- liative oxygen versus room air in relief of breathlessness in patients with refractory dyspnoea:a double-blind, randomised controlled trial. Lancet. 2010;376:784-93. 8)Campbell ML, Yarandi H, Dove-Medows E. Oxygen is non- beneficial for most patients who are near death. J Pain Symptom Manage. 2013;45:517-23. 9)Ekström M, Ahmadi Z, Bornefalk-Hermansson A, et al. Oxy- gen for breathlessness in patients with chronic obstructive pulmonary disease who do not qualify for home oxygen therapy. Cochrane Database Syst Rev. 2016;11:CD006429. 10)Sharp C, Adamali H, Millar AB. Ambulatory and short-burst oxygen for interstitial lung disease. Cochrane Database Syst Rev. 2016;7:CD011716. 11)Visca D, Mori L, Tsipouri V, et al. Effect of ambulatory oxygen on quality of life for patients with fibrotic lung disease(AmbOx):a prospective, open-label, mixed-method, crossover randomised controlled trial. Lancet Respir Med. 2018;6: 759-70. 12)Ejiofor SI, Bayliss S, Gassamma A, et al. Ambulatory Oxygen for Exercise-Induced Desaturation and Dyspnea in Chronic Obstructive Pulmonary Disease(COPD):Systematic Review and Meta-Analysis. Chronic Obstr Pulm Dis. 2016;3: 419-34. 13)Bell EC, Cox NS, Goh N, et al. Oxygen therapy for interstitial lung disease:a systematic review. Eur Respir Rev. 2017; 26:160080. 14)Johnson MJ, Abernethy AP, Currow DC. The evidence base for oxygen for chronic refractory breathlessness:issues, gaps, and a future work plan. J Pain Symptom Manage. 2013;45:763-75. 15)Clemens KE, Quednau I, Klaschik E. Use of oxygen and opioids in the palliation of dyspnoea in hypoxic and non-hypoxic palliative care patients:a prospective study. Support Care Cancer. 2009;17:367-77. 16)Qian Y, Wu Y, Rozman de Moraes A, et al. Fan Therapy for the Treatment of Dyspnea in Adults:A Systematic Review. J Pain Symptom Manage. 2019;58:481-6. 17)Swan F, Newey A, Bland M, et al. Airflow relieves chronic breathlessness in people with advanced disease:An exploratory systematic review and meta-analyses. Palliat Med. 2019;33:618-33. 18)Chu DK, Kim LH, Young PJ, et al. Mortality and morbidity in acutely ill adults treated with liberal versus conservative oxygen therapy(IOTA):a systematic review and metaanalysis. Lancet. 2018;391:1693-705. 19)Siemieniuk RAC, Chu DK, Kim LH, et al. Oxygen therapy for acutely ill medical patients:a clinical practice guideline. BMJ. 2018;363:k4169.
これまでにわかっていること 1.NPPV の効果と治療目標 非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation;NPPV)は気管チューブの挿管をせず鼻もしくは鼻口マスクを密着して行う換気療法である。その生理学的特性として陽圧呼吸,換気補助,高濃度酸素投与ができるため, ・低酸素血症の改善・高CO2 血症の改善・呼吸仕事量の軽減・内因性PEEP の解除・前負荷,後負荷の軽減による心原性肺水腫の改善 などの効果が期待できる。急性期ではCOPD 増悪,心原性肺水腫などの病態で,慢性期でも拘束性肺疾患,神経筋疾患などの病態で使用され1),生存の改 善や急性増悪の減少に加え,呼吸困難の軽減やQOL の改善も示されていることから,緩和治療でもその効果が期待される。 気管挿管に比べると侵襲が少なく簡便で,自発呼吸を維持して患者と意思疎通可能な状態で実施できることから,あらゆる臨床場面での使用が検討されてきた。しかし終末期での導入は延命を希望しない患者にとって不本意な生命維持装置のようになることがある。NPPV を使用するときは,患者の希望,疾患背景や治療目標によりNPPV のゴールを決めておくことが望まれ,米国集中治療医学会(SCCM)タスクフォースは患者の治療目標によりNPPV の目標を3 つのカテゴリーに分類している(表) 1,2)。 ランダム化試験などに基づくエビデンスはカテゴリー1(制限なし)がほとんどで,カテゴリー2(挿管なし)は観察研究などで有用性を示唆するエビデンスはあるが,本指針の主対象であるカテゴリー3(症 症状緩和の手段― 呼吸管理― 2.NPPV 第3章 サマリー NPPV は簡便性から救命のためのみならず,DNI(Do Not Intubate;挿管なし)患者の代替治療や緩和治療としても期待される。急性期の患者,慢性期の患者,DNI オーダーの患者,終末期の患者のいずれにおいても,呼吸困難を中心とした症状の緩和に役立つと考えられる。非がん性呼吸器疾患の終末期において,症状緩和やQOL 改善を示した質の高いエビデンスは不足している。終末期症状緩和目的のNPPV 新規導入は,豊富なエビデンスを有するCOPD や拘束性肺疾患などで慎重に適応を検討する。NPPV がかえって苦痛になるときには,患者の自由意志で中断できるよう配慮する。
状緩和)では引用できるエビデンスはほとんどない。 2.カテゴリー1(制限なし),カテゴリー2 (挿管なし)におけるNPPV の症状緩和 効果非がん性呼吸器疾患においては終末期が明確に意識されることなく,最期の入院でも生存できると信じて積極的な治療を実施されていることが多く,結果的にはNPPV を使用しながら(離脱できずに)亡くなられていくことがある。実際ヨーロッパの大規模調査では末期慢性呼吸不全患者の約30% がNPPV を装着しながら亡くなっている3)。しかし多数存在するカテゴリー1 のエビデンスでも,多くは呼吸困難の改善やQOL の改善を示しており1),非がん性呼吸器疾患では疾患治療そのものが症状緩和につながるので,NPPV が結果的に緩和治療としての役割を担うこともありうる。より終末期に近い設定になるカテゴリー2,すなわちdo not intubate (DNI)患者における非がん性呼吸器疾患のNPPV の主要エビデンスは観察研究のみになる。そのなかでAzoulay らは,終末期にNPPV を使用した134 名の生存や生活の質(QOL)について前向き観察研究を行った4)。患者の25 %が90 日目まで生存し,生存者に電話インタビューを通じて健康関連QOL(SF- 36)を調査したところベースラインと比べて悪化していなかった。 この試験を含んだメタアナリシスで5),NPPVを受けたDNI 指示の患者の半数近くは,退院までならびに1 年後に生存し,前述の限られたデータ4)中心だがQOL の低下がないことが示された。これらを受けて設備の整った病棟でNPPV を提供することは,DNI 指示の患者にとって現実的なICU の代替手段になり得る,と結論付けられている。またQOLの低下がないという点からは,NPPV が緩和治療の一つとしても位置づけられることが示唆される。 3.参考:がん患者におけるカテゴリー3(症 状緩和)でのNPPV の効果がんによる末期呼吸不全に対しては,カテゴリー3 においても2 つのランダム化比較試験が存在する。Hui らは,進行がんで呼吸困難が持続する患者に無作為にNPPV かハイフローセラピーに割り付け,それぞれ2 時間後の呼吸困難の変化を評価した6)。両群とも呼吸困難は有意に改善したが,呼吸回数に有意な変化はなかった。本試験はランダム化第II相試験であり両群間の統計学検定をすることが目的ではないので,カテゴリー3 においてNPPV が優越性のあるデバイスかどうかは結論付けられていない。 Nava らは,余命6 ヵ月以内の固形がんで急性呼 表病態別のNPPV の目標設定 カテゴリー1 (制限なし)カテゴリー2 (DNI)カテゴリー3 (症状緩和) 定義制限なしDNI(挿管なし)症状緩和のみ 目標挿管リスク減少死亡率減少挿管しない範囲でカテゴリー1 と同じ特定の目的(家族到着までなど)オピオイドの副作用を最低限にしつつ安楽を最大限にする NPPV の終了補助換気なしで生命維持が得られるNPPV に耐えられない1 と同じNPPV をするほうがもっと苦痛もしくは本人がNPPV 中止希望コミュニケーションがとれなくなる失敗時の対応挿管人工呼吸緩和ケアに変更しNPPV なしによる症状緩和のみとするNPPV なしによる症状緩和 NPPV 実施場所ICU もしくは十分なモニターや慣れたスタッフのいる急性期病床ICU を含むさまざまな急性期病床急性期病床適切にトレーニングされたスタッフがいればホスピスでも可 (文献1,2より改変引用)
吸不全を呈する患者を無作為にNPPV か酸素療法(ベンチュリマスクかリザーバー付マスク)に割り付け,認容性,呼吸困難の改善(Borg scale で評価),オピオイド減量効果を評価した7)。この試験では,ランダム化前に全例5 〜10 分のNPPV トライアルを実施し,その段階で14.5%の患者が臨床試験に不同意になり,さらにNPPV 群の11% はNPPV を中断したのでNPPV 不耐の患者が一定数いることには配慮する必要があるが,完遂した患者では酸素療法に比べて有意に呼吸困難を改善し,48 時間のモルヒネ使用量は有意に少なかった。呼吸困難の改善については,PaCO2 ≧45 mmHg の患者でNPPV が酸素療法に比べて有意差をもって良好であることが示され,末期がんの患者においてはII 型呼吸不全の患者でNPPV のメリットをより享受できるのかもしれない。このことは,非がん性呼吸器疾患においても参考になる。 4.非がん患者におけるカテゴリー3(症状 緩和)でのNPPV の効果非がん性呼吸器疾患においてはカテゴリー3(症状緩和)において紹介できるほどのエビデンスは皆無といってよい。それでも,2017 年の欧州呼吸器学会/米国胸部学会(ERS /ATS)の非侵襲的換気療法(non-invasive ventilation;NIV)のガイドラインでは,緩和ケアを受けている患者の急性呼吸不全に対してNIV を使用すべきか,というクリニカルクエスチョンに対し,がんならびに非がんともに条件的推奨としている8)。2010 年のAmerican College of Chest Physicians(ACCP)の呼吸困難のマネジメントに関するステートメントでも,呼吸困難に対するNPPV 使用をエキスパートオピニオンとして推奨している9)。カテゴリー3 においては症状,主に呼吸困難の改善がゴールであり,生存の改善が目的ではない2,8)。非がん性呼吸器疾患の終末期のみを対象として症状の改善を示した質の高い臨床試験はないが,NPPV が本来もつ陽圧呼吸,換気補助,高濃度酸素投与などは強力であり,豊富なエビデンスを有するCOPD や,病態的にNPPV の効果が大いに期待できる拘束性肺疾患などを中心に終末期の症状緩 和目的でも慎重に使用が検討される。 終末期NPPV 導入の方法に,Quill らが提唱した時間制限付きトライアル(time-limited trial;TLT)がある10)。1 例報告ではあるが,蘇生希望のない重症COPD 増悪の患者に抗菌薬やステロイドの効果が出るまで48 時間だけ,とお互いに目標を設定してNPPV を装着した。時間の目標を決めておけば,患者が中止を願うときも制限時間が中止の後押しになるし,継続を願うように希望が変わるときも充分に考える時間が得られるので合理的かもしれない。 しかしNPPV 装着のままCO2 ナルコーシスが進行して意識レベルが低下し,比較的安楽に最終末期を迎える場合がある一方で,NPPV でCO2 が減少することにより意識が戻り,呼吸困難増強のためにNPPV を中止し,鎮静が必要になる場合もある。NPPV をするほうがより苦痛を感じるとき,本人がNPPV 中止を希望するとき,コミュニケーションがとれなくなったとき,鼻根部潰瘍などで認容できないとき,などに速やかに中止できるよう,患者の意思を尊重することが大切である2)。また各施設や病棟の体制に応じて柔軟かつ慎重な運用を行うことが肝要である。 5.慢性安定期におけるNPPV の症状緩和 効果上記カテゴリー1,2,3 のいずれにも該当しないパターンとして,COPD の慢性安定期11,12)や拘束性肺疾患で1)在宅NPPV を導入する場合がある。COPD では高CO2 血症を合併している重症例が対象で,主要評価項目として1 年生存の改善や一年間の再入院と死亡を減少する効果が示されている11)。そのなかでKöhnleinらは,副次的評価項目として健康関連QOL(SF-36)を評価し,そのなかの全体的健康感の項目のみNPPV 導入で有意に改善していることを示している11)。また疾患特異的QOL としてSt George's Respiratory Questionnaire(SGRQ)を評価し,NPPV 群が有意に良好であることを示している。またMurphy らは,NPPV 導入群において6 週
後のSevere Respiratory Insufficiency Questionnaire(SRI)が有意に改善していること,3 ヵ月後のSGRQ がNPPV 群で有意に良好であることを示している12)。これらのQOL改善効果は慢性安定期COPDのNPPV 在宅導入が緩和治療につながる可能性を示唆している。 6.まとめ 以上より,本指針では非がん性呼吸器疾患の緩和治療としてのNPPV は,急性期の患者,慢性期の患者,DNI オーダーの患者,終末期の患者のいずれにおいても,呼吸困難を中心とした症状の緩和に役立つと考える。その対象は,COPD や拘束性肺疾患が主となる。NPPV の開始と,かえってNPPV が苦痛になる場合の中止については,患者の意思を最大限に尊重することを原則としたうえで,各施設の体制に応じて柔軟かつ慎重に運用すべきである。 今後の課題 非がん性呼吸器疾患における終末期のQOL,亡くなりつつある方のQuality of Dying,亡くなった方のQuality of Death をアウトカムにしたエビデンスレベルの高い臨床試験(ランダム化比較試験など)が欠落しており,将来の課題である。また終末期にNPPV がフィットする患者群も同定する必要がある。さらには,緩和的な使用におけるNPPV の適切な設定も全く検討されておらず,将来の課題である。▪文 献 1)日本呼吸器学会NPPV ガイドライン作成委員会(編).NPPV (非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン 改訂第2版. 東京:南江堂;2015. 2)Curtis JR, Cook DJ, Sinuff T, et al. Noninvasive positive pres- sure ventilation in critical and palliative care settings:understanding the goals of therapy. Crit Care Med. 2007;35: 932-9. 3)Nava S, Sturani C, Hartl S, et al. End-of-life decision-making in respiratory intermediate care units:a European survey. Eur Respir J. 2007;30:156-64. 4)Azoulay E, Kouatchet A, Jaber S, et al. Noninvasive me- chanical ventilation in patients having declined tracheal intubation. Intensive Care Med. 2013;39:292-301. 5)Wilson ME, Majzoub AM, Dobler CC, et al. Noninvasive ven- tilation in patients with do-not-intubate and comfort-measures-only orders:a systematic review and meta-analysis. Crit Care Med. 2018;46:1209-16. 6)Hui D, Morgado M, Chisholm G, et al. High-flow oxygen and bilevel positive airway pressure for persistent dyspnea in patients with advanced cancer:a phase II randomized trial. J Pain Symptom Manage. 2013;46:463-73. 7)Nava S, Ferrer M, Esquinas A, et al. Palliative use of non- invasive ventilation in end-of-life patients with solid tumours:a randomised feasibility trial. Lancet Oncol. 2013; 14:219-27. 8)Rochwerg B, Brochard L, Elliott MW, et al. Official ERS/ATS clinical practice guidelines:noninvasive ventilation for acute respiratory failure. Eur Respir J. 2017;50:1602426. 9)Mahler DA, Selecky PA, Harrod CG, et al. American College of Chest Physicians Consensus Statement on the Management of Dyspnea in Patients With Advanced Lung or Heart Disease. Chest. 2010;137:674-91. 10)Quill CM, Quill TE. Palliative use of noninvasive ventilation: navigating murky waters. J Palliat Med. 2014;17:657-61. 11)Köhnlein T, Windisch W, Köhler D, et al. Non-invasive positive pressure ventilation for the treatment of severe stable chronic obstructive pulmonary disease:a prospective, multicentre, randomised, controlled clinical trial. Lancet Respir Med. 2014;2:698-705. 12)Murphy PB, Rehal S, Arbane G, et al. Effect of Home Noninvasive Ventilation With Oxygen Therapy vs Oxygen Therapy Alone on Hospital Readmission or Death After an Acute COPD Exacerbation:A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2017;317:2177-86.
これまでにわかっていること 1.HFNC が緩和ケアとして有用である理由 非がん性呼吸器疾患は急性増悪を繰り返す特徴があり,それが終末期に至る原因でもあり終末期における死因ともなる。ハイフローセラピー(high-flow nasal cannula;HFNC)は下記に示すような機序によって主として急性呼吸不全時の緩和ケアとして有用と考えられ,その理解と適切な使用は主として終末期を対象とする本指針においても重要と考えられる。1)高流量システムによる安定したFIO2 供給 HFNC は総流量30 L/ 分以上で使用すればいわゆる高流量酸素投与システムに相当し,患者の吸気流速によらず周囲の空気で希釈されることなく一定酸素濃度(FIO2)のガスを提供できる。しかも十分な酸素供給量が確保されれば,患者の状態によってFIO2は21 ~100% まで自由に設定できる。2)相対湿度100% の加湿 HFNC の高度加湿機能により,粘膜障害防止のみならず,粘膜線毛機能の最適化,気道分泌物の排出促進による気道浄化作用がもたらされ,喀痰量の多い非がん性呼吸器疾患の増悪抑制や肺機能,QOL の 改善1 −3)が期待できる。3)侵襲性の低いインターフェイス 使用する鼻カニュラは皮膚と密着させる必要がなく,リークをなるべく少なくするよう密着して使用するNPPV 用マスクと比べると患者の受け入れがよく,長時間の使用に耐えやすい4,5)。通常の酸素吸入用マスクと比べても患者不快やインターフェイスのずれが少なく4,5),会話や経口摂取など使用中のQOL 面でも優れていて継続しやすい。4)解剖学的死腔の洗い出し 20 ~60 L/ 分の高流量ガスによりガス交換に与らない死腔の空気が洗い出される。一回換気量が同じならばガス交換に有効な肺胞換気量を増やすこととなり,PaCO2 の低下をもたらす。その結果,より少ない一回換気量,呼吸数と呼吸仕事量で, 肺胞換気量とPaCO2 を維持することが可能であるため6 −9),呼吸困難や呼吸器筋疲労の軽減,ひいてはQOL の改善が期待される。5)呼気時陽圧換気 鼻カニュラから吹き入れられるガスと呼気ガスが拮抗して,呼気時に軽度ながら陽圧が発生する。その結果,肺胞虚脱防止のリクルートメント効果が得 症状緩和の手段― 呼吸管理― 3.ハイフローセラピー(HFNC) 第3章 サマリー HFNC は種々の生理学的特性によって呼吸困難の緩和が可能である。急性増悪時の緩和ケアにおいてHFNC の有効性を示すエビデンスはわずかであるが,日常臨床で広く使用されている。HFNC はコードステータスを設定して明確な目標をもって使用することが求められる。
られ,V/Q 比や肺の動的コンプライアンスが改善10,11)してガス交換能の改善が期待できる。 2.急性呼吸不全ないし急性増悪時の 緩和ケアとして現在までのところ緩和ケアとしてHFNC を用いた臨床研究はきわめて限られるが,そのなかでランダム化比較試験としてバンコクのRuangsomboonらの成績がある12)。何らかの基礎疾患(悪性腫瘍92%)を有するI型呼吸不全で救急受診した意識変容のないDNI 患者44 例を対象に,通常の酸素療法とHFNC を60 分ずつランダムにその順もしくはその逆でクロスオーバーしたもので,HFNC 使用時のほうが息切れスコア,呼吸数,モルヒネ使用量が有意に少なかった。また,がんによる急性呼吸不全を呈する患者を対象にしてHul らはNPPV とHFNCをランダムに割り付けて比較したところ,息切れの改善はほぼ同等であることを示した13)。2012 年,メイヨークリニックPeters らは,ランダム化比較試験ではないが,急性呼吸不全の緩和ケアとしてHFNCを用いて検討した14)。50 名のI型呼吸不全DNI 患者(肺線維症15,肺炎15,COPD12,がん7,血液がん7,うっ血性心不全3)を対象にして,HFNC 開始後に有意な酸素飽和度改善と呼吸数低下が得られ, NIV へ移行したのは18% のみと報告した。2018 年Koyauchi らは,ILD によるI型呼吸不全でDNI 患者84 名(HFNC 54, NPPV 30)について後ろ向きに解析したところ,HFNC 群はNPPV 群と比較して中断,中止率,有害事象が少なく,有意に経口摂取と死亡直前までの会話が維持されたことを示した15)。2019 年Ito らはILD 急性増悪に対する呼吸管理法の一つとしてHFNC を導入後,鎮静剤の使用,24 時間以上経口摂取できない頻度が減少したことを示した16)。 2015 年にIto らが施行した本邦のHFNC 使用実態調査では,年代別では80 歳代の使用が最も多く,また周術期を除くと半数以上の患者がDNI のコードであった(図) 17)。したがって2015 年の時点において既に多くの急性呼吸不全患者が,緩和ケアの一環として用いられていたことが推測される。一般的に HFNC はNPPV の前段階としての呼吸管理法との位置づけであるが,緩和ケアにおいてHFNC がNPPV あるいは一般的な酸素療法より優れるという明確なエビデンスはまだ得られていない。したがって使用方法が簡便で認容性が高いため漫然と使用されがちであるが,医療経済的な問題などを考慮して,NPPV と同様に目標を明確に設定してHFNC を行うべきである。コード設定としては挿管のみならずNPPV の実施についても事前意思確認が望ましく,それに基づくコードカテゴリー別の目標を第3章「症状緩和の手段−呼吸管理-2. NPPV」(p.44)の項で提示された米国集中治療学会タスクフォースの分類18)を改変して作成した(表)。ここではカテゴリー3 として挿管もNPPV もしないコードを新たに設定したため,HFNC が呼吸管理法の上限となり,HFNC で生命維持ができない場合は,カテゴリー4 の緩和ケアを目的として継続することになる。もし,HFNC に伴う苦痛が強い時は中止して,オピオイドや鎮静剤の増量が考慮される。 3.慢性呼吸不全安定期の緩和ケアとして 非がん性呼吸器疾患が緩徐に進行して終末期に至ると,呼吸仕事量の増大や低栄養に伴う呼吸筋力低下,呼吸筋疲労が進行し,夜間低換気から終日低換 不明 46 不明 26 DNI あり 124 DNI あり 116 DNI なし 162 全321 症例周術期・抜管後を除く 245 症例 DNI:do not intubate Code Status DNI なし 104 図HFNC 使用患者のコードステータス内訳(全国 22病院2015年1月~3月の実績) (文献17より作成)
気となり慢性II型呼吸不全が進行する。そのような状況においては,在宅NPPV によって病態の維持改善を図るのが一般的であるが,NPPV マスクの装着や圧不快のため継続できず,緩和ケアとして成り立たなくなることもある。一方HFNC は夜間在宅の使用によって慢性II 型呼吸不全を呈するCOPD の高炭酸ガス血症の改善,QOL の改善がもたらされ,かつ継続率も高いことが示されている19,20)。したがってNPPV が不耐の場合の代替治療,もしくはNPPVの適応となる前段階での治療として有望と考えられる。COPD に対するHFNC の作用機序は主として死腔の洗い出しや気道浄化作用によるものと考えられており,特に疾患特異的なものではない。そのためCOPD以外の慢性II型呼吸不全をきたす各種病態においても安定期の緩和ケアとして有効である可能性がある。ただし現時点で在宅使用は保険適応とされておらず,病院内の使用に限られる点に留意する必要がある。 今後の課題 非がん性呼吸器疾患の急性増悪時におけるHFNCの有効性は明らかであり,アドバンス・ケア・プランニングおよびエンド・オブ・ライフ・ディスカッ ションによってNPPV や挿管を拒否する患者に対する最終的な呼吸管理法となる。ただしHFNC は, 1オピオイドや鎮静剤の投与量をどの程度軽減できるのか,2オピオイドや鎮静剤の投与とHFNC のどちらを優先すべきなのかといった点は不明である。また緩徐に進行する慢性呼吸不全の安定期に対する呼吸リハビリテーションとの併用による有効性21)や在宅緩和ケアとしての位置づけの検討が必要である。 ▪文 献1)Hasani A, Chapman TH, McCool D, et al. Domiciliary hu- midification improves lung mucociliary clearance in patients with bronchiectasis. Chron Respir Dis. 2008;5:81-6. 2)Chidekel A, Zhu Y, Wang J, et al. The effects of gas humidi- fication with high-flow nasal cannula on cultured human airway epithelial cells. Pulm Med. 2012;2012:380686. 3)Rea H, McAuley S, Jayaram L, et al. The clinical utility of long-term humidification therapy in chronic airway disease. Respir Med. 2010;104:525-33. 4)Maggiore SM, Idone FA, Vaschetto R, et al. Nasal high-flow versus Venturi mask oxygen therapy after extubation. Effects on oxygenation, comfort, and clinical outcome. Am J Respir Crit Care Med. 2014;190:282-8. 5)Schwabbauer N, Berg B, Blumenstock G, et al. Nasal high- flow oxygen therapy in patients with hypoxic respiratory 表コードステータス別のHFNC 使用目標(NPPV の項で提示されたカテゴリー別の使用目標から改変) カテゴリー1カテゴリー2カテゴリー3カテゴリー4 定義制限なし挿管しない挿管もNPPV もしない症状緩和のみ 目標・挿管リスクを減らす・死亡率を減らす・挿管をしない範囲で1 と同じ・特定の目的のためわずか でも生存期間を延ばす・挿管およびNPPV をし ない範囲で1 と同じ・特定の目的のためわずか でも生存期間を延ばす・オピオイドの副作用を 最低限にしつつ安楽を最大限にする HFNC の終了・HFNC なしで生命維 持が得られる(成功)・HFNC では生命維持 できない(失敗)・HFNC なしで生命維持 が得られる(成功)・HFNC では生命維持で きない(失敗)・HFNC なしで生命維持 が得られる(成功)・HFNC では生命維持で きない(失敗)・HFNC をするほうが もっと苦痛,本人がHFNC 中止を希望 失敗時の対応・NPPV もしくは挿管 人工呼吸・NPPV・カテゴリー4 として HFNC 使用・HFNC なしによる症状 緩和 実施場所・ICU もしくは十分なモ ニターや慣れたスタッフのいる急性期病床・ICU もしくは十分なモニ ターや慣れたスタッフのいる急性期病床・急性期病床・急性期病床,適切にト レーニングされたスタッフがいればホスピスでも可 (文献18より改変引用)
failure:effect on functional and subjective respiratory parameters compared to conventional oxygen therapy and non-invasive ventilation(NIV). BMC Anesthesiol. 2014;14: 66. 6)Bräunlich J, Beyer D, Mai D, et al. Effects of nasal high flow on ventilation in volunteers, COPD and idiopathic pulmonary fibrosis patients. Respiration. 2013;85:319-25. 7)Fraser JF, Spooner AJ, Dunster KR, et al. Nasal high flow oxygen therapy in patients with COPD reduces respiratory rate and tissue carbon dioxide while increasing tidal and end-expiratory lung volumes:a randomised crossover trial. Thorax. 2016;71:759-61. 8)Möller W, Feng S, Domanski U, et al. Nasal high flow reduces dead space. J Appl Physiol(1985). 2017;122:191-7. 9)Biselli PJ, Kirkness JP, Grote L, et al. Nasal high-flow therapy reduces work of breathing compared with oxygen during sleep in COPD and smoking controls:a prospective observational study. J Appl Physiol(1985). 2017;122:82-8. 10)Parke RL, McGuinness SP. Pressures delivered by nasal high flow oxygen during all phases of the respiratory cycle. Respir Care. 2013;58:1621-4. 11)Mauri T, Turrini C, Eronia N, et al. Physiologic Effects of High-Flow Nasal Cannula in Acute Hypoxemic Respiratory Failure. Am J Respir Crit Care Med. 2017;195:1207-15. 12)Ruangsomboon O, Dorongthom T, Chakorn T, et al. High- Flow Nasal Cannula Versus Conventional Oxygen Therapy in Relieving Dyspnea in Emergency Palliative Patients With Do-Not-Intubate Status:A Randomized Crossover Study. Ann Emerg Med. 2020;75:615-26. 13)Hui D, Morgado M, Chisholm G, et al. High-flow oxygen and bilevel positive airway pressure for persistent dyspnea in patients with advanced cancer:a phase II randomized trial. J Pain Symptom Manage. 2013;46:463-73. 14)Peters SG, Holets SR, Gay PC. High-flow nasal cannula therapy in do-not-intubate patients with hypoxemic respiratory distress. Respir Care. 2013;58:597-600. 15)Koyauchi T, Hasegawa H, Kanata K, et al. Efficacy and Tolerability of High-Flow Nasal Cannula Oxygen Therapy for Hypoxemic Respiratory Failure in Patients with Interstitial Lung Disease with Do-Not-Intubate Orders:A Retrospective Single-Center Study. Respiration. 2018;96:323-9. 16)Ito J, Nagata K, Morimoto T, et al. Respiratory management of acute exacerbation of interstitial pneumonia using highflow nasal cannula oxygen therapy:a single center cohort study. J Thorac Dis. 2019;11:103-12. 17)Ito J, Nagata K, Sato S, et al. The clinical practice of high-flow nasal cannula oxygen therapy in adults:A Japanese crosssectional multicenter survey. Respir Investig. 2018;56:249- 57. 18)Curtis JR, Cook DJ, Sinuff T, et al. Noninvasive positive pressure ventilation in critical and palliative care settings:understanding the goals of therapy. Crit Care Med. 2007;35: 932-9. 19)Nagata K, Kikuchi T, Horie T, et al. Domiciliary High-Flow Nasal Cannula Oxygen Therapy for Patients with Stable Hypercapnic Chronic Obstructive Pulmonary Disease. A Multicenter Randomized Crossover Trial. Ann Am Thorac Soc. 2018;15:432-9. 20)Storgaard LH, Hockey HU, Laursen BS, et al. Long-term effects of oxygen-enriched high-flow nasal cannula treatment in COPD patients with chronic hypoxemic respiratory failure. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2018;13:1195-205. 21)Vitacca M, Paneroni M, Zampogna E, et al. High-Flow Oxygen Therapy During Exercise Training in Patients With Chronic Obstructive Pulmonary Disease and Chronic Hypoxemia:A Multicenter Randomized Controlled Trial. Phys Ther. 2020;100:1249-59.
これまでにわかっていること 本指針において,オピオイドはモルヒネもしくはコデインとする。 1.オピオイドの代謝 モルヒネおよびコデインの作用や毒性を理解するために,代謝について概説する。1)モルヒネ1) モルヒネは肝臓でグルクロン酸抱合されて,主にmorphine-3-glucuronide(M3G)とmorphine-6-glucuronide(M6G)に代謝される。全体の44 ~55 %がM3G,9 ~10% がM6G に代謝され,8 ~10% が未変化体として尿中に排出される。M3G には中枢性興奮作用があることが示唆され,ミオクローヌス,痛覚過敏などの神経毒性に関連する。M6G は強力な鎮痛作用とともに,悪心・嘔吐,傾眠・鎮静,呼吸抑制作用があり,特に腎機能低下患者では排泄が低下するために蓄積して毒性の増強に注意が必要であ る。2)コデイン1) コデインは,80% が肝臓でグルクロン酸抱合されてcodeine-6-glucuronide(C6G)に代謝されるが, 10% がCYP2D6 によってモルヒネへと代謝される。CYP2D6 阻害薬(ハロペリドール,パロキセチンなど)と併用すると,モルヒネへの代謝が阻害され鎮痛作用が減弱することがある。またCYP2D6 には遺伝子多型があることにも留意する必要がある。一部はN- 脱メチル化されてノルコデインとなってノルモルヒネに代謝される。腎機能低下患者では毒性の増強に注意が必要である。 2.オピオイドの作用機序 呼吸困難に対するオピオイドの作業機序に関しては,以下のような仮説が挙げられている2,3)。1分時換気量を減少させる,2安静時,労作時の酸素消費量を減少させる,3脳内の受容体に作用し,低酸素 症状緩和の手段― 薬物療法― 1.オピオイド 第3章 サマリー オピオイドは標準治療では十分に緩和できない呼吸困難に対する治療の選択肢として挙げられる。オピオイド投与前に,標準治療が十分になされていること,禁忌の有無,投与量に影響する因子の有無,患者や家族の同意を得ていることを確認する。経口モルヒネは約10mg/ 日以下から開始し,30mg/ 日を最大量の目安とする。モルヒネ注射剤持続注射は0.25mg/ 時から開始する。オピオイドを十分量使用しても効果がなければすみやかに中止する。オピオイド開始後は副作用のチェックを定期的に行う。
血症と高二酸化炭素血症に対する感受性を低下させる,4呼吸と気管支収縮効果に対するドライブを減少させる。ただし,その正確な作用機序については明らかになっていない。 3.非がん性呼吸器疾患患者の呼吸困難に対 するオピオイドJennignsらは呼吸困難を有する患者に対するオピオイドの効果を検討したプラセボ対照ランダム化比較試験をメタ解析した4,5)。このメタ解析ではオピオイドはプラセボに比べて有意に呼吸困難を改善し, COPD 患者を対象にしたサブグループ解析でも同様の結果であった。その後Barnes らが行った同様のメタ解析では,COPD 患者を対象にしたサブグループ解析でオピオイドはプラセボに比べて有意な呼吸困難改善効果を示さなかった6)。なお,これらのCOPD 患者のサブグループ解析ではオピオイドの全身投与と吸入投与が区別されていなかった。Ekstrom らはその後に行われたランダム化比較試験も加えて,COPD 患者を対象にした呼吸困難に対するオピオイドのメタ解析を行い,オピオイドは全身投与も吸入投与もプラセボに比べて有意に呼吸困難を改善すると報告した7)。ただし,このメタ解析に含まれた試験が小規模な試験が多かったことからCurrow らは労作時呼吸困難を有する患者(COPD患者が約6 割)を対象にモルヒネ徐放剤20mg/ 日もしくはプラセボ(モルヒネのレスキュー使用は許容)を7 日間内服させ,呼吸困難に対する効果を検討するランダム化比較試験を行った8)。この試験では両群間で呼吸困難改善効果に有意差は認めなかった。また,Verberkt らは労作時呼吸困難を有するCOPD患者を対象にモルヒネ徐放剤20 mg/ 日(経過中呼吸困難NRS で1 以上の改善がなければ30 mg/ 日に増量可)もしくはプラセボを4 週間内服しCOPD アセスメントテスト(CAT)スコアとPaCO2 に対する影響を検討するランダム化比較試験を行った9)。この試験ではモルヒネ群でプラセボ群に比べてCATスコアの有意な改善を認め,PaCO2 については両群間に有意な差を認めなかった。副次評価項目として過去24 時間の呼吸困難NRS の平均値および最悪値 の平均変化量が検討されたが,両者とも両群間に有意差を認めなかった。ただし,修正MRC(modified Medical Research Council;mMRC)息切れスケール3-4 のサブグループにおいてはモルヒネ群でプラセボ群に比べ,過去24 時間の呼吸困難Numerical Rating Scale(NRS)の最悪値の平均変化量が有意に改善した。 間質性肺疾患については、Kronborg-White らが労作時呼吸困難を有する線維化を伴う間質性肺疾患患者を対象にモルヒネ速放製剤1 回5 mg を1 日4回もしくはプラセボを7 日間内服させ、過去1 週間の呼吸困難VAS の変化を検討するランダム化比較試験を行った10)。この試験では両群間で呼吸困難改善効果に有意差は認めなかった。 労作時呼吸困難については,Abdallah らは進行したCOPD 患者を対象にモルヒネ速放製剤もしくはプラセボを投与し,一定負荷の心肺運動テストを行い,労作時呼吸困難に対する効果を検討するランダム化クロスオーバー試験を行った11)。この試験では労作時呼吸困難はプラセボ群に比べてモルヒネ群で有意に軽度であった。 このように非がん性呼吸器疾患に対するオピオイドの呼吸困難改善効果については一致した結果が得られていないが,オピオイドは標準治療では十分に緩和できない呼吸困難に対する治療の選択肢として挙げられる。ただし,病状の改善が見込めない最終末期を除いて,オピオイドは非がん性呼吸器疾患患者の呼吸困難に対する第一選択の治療ではないことを認識しておくべきである。 4.非がん性呼吸器疾患患者の呼吸困難に対 するオピオイドを使用する条件以下の条件を満たした場合に,オピオイドの使用を検討する。なお,非がん性呼吸器疾患患者に対してモルヒネの投与を開始する時は,非がん性呼吸器疾患のモルヒネの使用に習熟した医師が行う,もしくは習熟した医師に相談して開始することが望ましい。
1)原疾患および併存症に対する標準治療がな されている呼吸困難の原因となっている病態(原疾患や併存症)に対する標準的な薬物療法,非薬物療法が十分になされていることを確認する。2)オピオイドの禁忌がない オピオイドの禁忌には,オピオイドに対するアレルギー,麻痺性イレウス,オピオイド依存症などがある。高度の高二酸化炭素血症も禁忌として挙げられるが,病状が不可逆的な最終末期の患者の呼吸困難の緩和を目的として投与される場合はこの限りではないと考えられる。3)オピオイドの投与量に影響する因子の評価 が行われている肝機能,腎機能,呼吸機能,オピオイド使用の有無はオピオイドの投与量に影響する因子であり,それらの評価を行う。肝機能障害,腎機能障害を有する患者では,オピオイドの投与量を通常開始量よりも低用量にする必要がある。また,呼吸機能の低下している患者,特に高二酸化炭素血症を有する患者でも同様により低用量から開始する必要がある。また既に疼痛や咳嗽に対してオピオイドを使用している患者においては,オピオイドに対する耐性が生じている可能性もあり,呼吸困難に対して開始したオピオイドの効果が得られにくいかもしれないため,通常の開始量よりも多めの投与量が必要になる可能性がある。4)進行した病状である 投与する患者の病状を臨床所見,検査所見,画像所見などから総合的に判断して,原疾患が進行した病状であることを確認することが必要である。各種検査で病状と呼吸困難の程度が一致しない場合には,オピオイド以外で対処可能な併存症の有無を評価する。5)患者もしくは家族に対する説明と同意を得 ている患者に(患者に意思決定能力がないときには家族に)対して,以下の内容について説明を行い,同意(口頭同意もしくは文書同意)を得ることが望ましい。 ・オピオイドの使用目的・オピオイドの副作用 5.非がん性呼吸器疾患患者の呼吸困難に対 するオピオイドの使用方法1)種類a.オピオイド経口剤 経口内服可能な患者には,オピオイド経口剤(モルヒネもしくはコデイン)を使用する。依存性や血中濃度の安定性を考慮すると,モルヒネ徐放性製剤の使用が望ましい。ただし,2020 年11 月現在,本邦におけるモルヒネ徐放性製剤の効能・効果は,「激しい疼痛を伴う各種がんにおける鎮痛」であるため,現状では効能・効果に「激しい咳嗽発作における鎮咳」との記載のある速放性製剤であるモルヒネ塩酸塩の使用を検討する。 モルヒネ塩酸塩は散剤で使用することもあるが, mg 単位での容量調整が難しい場合には少量の水に溶かしたモルヒネ水として使用することもある。b.オピオイド注射剤 経口内服不可能な患者に対しては,モルヒネ注射剤を静脈注射もしくは皮下注射で持続投与する。2)開始場所 入院での開始が望ましいが,外来や在宅で開始する場合には効果や副作用の評価をこまめに行う。3)開始量,増量方法a.オピオイド経口剤 オピオイド経口剤は,モルヒネ10 mg/ 日以下から開始する。オピオイド依存予防の観点からは,原則レスキュー(屯用)の使用は行わないことが望ましいが,投与開始時には,モルヒネ2 ~5 mg/ 回の屯用の使用から開始し,定期投与量を決めていく方法もある。増量については2,3 日おきに増量前の投与量の50% を超えない範囲で20 mg/ 日まで増量する。さらに増量が必要な場合においても,最大投与量は30 mg/ 日までとする。ただし,最終末期ではさらに増量が必要な場合もある。
【解説】 Currow らはmMRC 息切れスケール3 もしくは4の労作時呼吸困難を有する患者(COPD 患者54 %,がん患者29 %,間質性肺疾患〔ILD〕患者12 %)を対象にモルヒネ徐放性製剤10 mg/ 日から開始し, 1 週間後に効果がなければ10 mg ずつ増量(最大30 mg/ 日)するPhase II dose increment study を行った12)。本研究では,62% の患者がベースラインから10% 以上の呼吸困難の改善が得られ,さらにその患者の70%(つまり全体の約43%)でモルヒネ投与量が10 mg/ 日であることが報告された。また,Matsuda らは安静時呼吸困難を有する日本人COPD 患者を対象にモルヒネ散1 回3 mg,1 日4 回(腎機能障害もしくは低体重患者では2 mg,1 日4 回)の呼吸困難に対する有効性を検討する前後比較試験を行い,2 日後の呼吸困難NRS がベースラインに比べて有意に低下することを報告した13)。上記の2つの研究結果から,経口モルヒネの開始量は10 mg/ 日以下が妥当と考えられる。 Ekström らは重症COPD 患者に対するベンゾジアゼピンとオピオイドの安全性を評価する前向きコホート研究を行い,経口モルヒネ換算で30 mg/ 日より多いオピオイド使用は死亡リスクとの関連を認めた14)。以上の報告から,経口モルヒネの最大投与量の目安として30 mg/ 日が妥当と考えられる。b.オピオイド注射剤 オピオイド注射剤は,モルヒネ注0.25 mg/ 時以下の投与速度から持続注射で開始する。多くは,かなり進行した病状で使用されるため,呼吸困難時には持続投与量の1 時間量を30 分〜60 分間を空けてレスキュー(屯用)投与する。呼吸困難の程度や病状に応じて,最短30 分~60 分毎に0.25 ~0.5 mg/時(=6 ~12 mg/ 日)ずつ持続投与量を増量する。最終末期のモルヒネの最大投与量については,増量後の呼吸困難の改善の有無,意識レベル,呼吸回数などを総合的に判断して決定する。【解説】 Takeyasu らは急性増悪を起こした終末期ILD 患者を対象にモルヒネ持続静脈注射の呼吸困難に対する効果を検討する後ろ向き研究を行った。22 例中17 例が開始後24 時間以内に呼吸困難の中等度以上の改善を認め,モルヒネ投与速度は,開始時中央値0.4(範囲0.2-0.8)mg/ 時,最大中央値0.8(範囲0.2-2.9)mg/ 時であった15)。Matsuda らは終末期特発性間質性肺炎患者を対象にモルヒネ持続皮下注射の呼吸困難に対する効果を検討する後ろ向き研究を行った。モルヒネ開始前に比べて4 時間後の呼吸困難は有意に改善し,モルヒネ投与速度は,開始時中央値0.25(四分位0.25-0.25)mg/ 時,2 時間後中央値0.25(四分位0.25-0.5)mg/ 時,4 時間後中央値0.5(四分位0.25-0.75)mg/時であった16)。このように質の高いエビデンスはないものの,モルヒネ注 0.25 mg/ 時の投与速度からの開始が妥当と考えら れる。4)開始後の評価方法a.効果の評価 オピオイド開始後は呼吸困難の改善の有無を必ず評価する。呼吸困難の評価には,原則として患者が口頭でも回答可能なNRS を使用するが,Visual Analogue Scale(VAS)での評価も選択肢である。ただし,NRS やVAS で呼吸困難を表現できない患者では改善の有無や表情の変化などから総合的に判断する。前述したCurrow らが行ったPhase II dose increment study において,約1/3 の患者は呼吸困難の改善が得られなかった。呼吸困難が改善し,有効量のモルヒネ徐放剤を3 ヵ月継続するPhase IV study に移行した52 例のうち3 ヵ月の時点でモルヒネが継続可能であった患者は24 名(46 %)であった(非継続患者28 例のうち14 例は副作用で中止,9例は患者希望で中止) 12)。このようにすべての患者で効果があるわけではないため,効果がないのに漫然と投与することを避け,増量による効果がない場合や,副作用が認容できない場合には中止する。また,原疾患に対する治療が奏功し,呼吸困難が改善した場合も減量もしくは中止する。ときに呼吸困難以外の症状(例えば不眠)に対してオピオイドを使用している場合にはオピオイドの不適切使用であるため,呼吸困難や咳嗽以外には使用しないことをしっ
かり説明する。b.副作用の評価 オピオイドによる副作用で頻度の高いものには,便秘,嘔気・嘔吐,掻痒感,めまい・ふらつき,眠気,せん妄が挙げられる。オピオイド開始後はこのような副作用の出現の有無を定期的に評価する。また,モルヒネを使用する場合には,腎機能の確認も重要である(p.52 1.1)モルヒネ参照)。 また,非がん性呼吸器疾患で問題となる副作用として,呼吸抑制,高二酸化炭素血症がある。II型呼吸不全患者においては,入院中などで可能であればオピオイド開始後に動脈血ガス分析による動脈血二酸化炭素分圧の評価が望ましい。ただし,予後が日単位の時期など苦痛緩和を最優先に考える時期であればこの限りではない。 オピオイドの乱用・依存についても経時的に評価をしておく必要がある。オピオイドの乱用は,「社会的規範から逸脱した目的や方法によるオピオイドの使用」,オピオイドの依存は,「オピオイド乱用の繰り返しの結果,薬物が欲しくてたまらないという渇望状態となり,止めようと思っても簡単には止められない状態」と定義されている17)。最も重要なことは,オピオイドの乱用・依存を起こさないことであり,そのためには適応患者の選定と開始後の評価が必須となる。 5)COVID-19 患者の呼吸困難に対するオピオ イドの使用方法COVID-19 は急性呼吸不全をきたす疾患であるため本来は,本指針の対象外であるが,2020 年の本邦を含む世界的大流行を鑑みて,その呼吸困難に対するオピオイドの使用方法について紹介する。CO- VID-19 患者の呼吸困難への対応については海外からレポートが複数公開されている18 −20)。しかし,医療事情の異なる海外の状況を踏まえた内容を本邦の診療にそのまま当てはめることは難しい。このような背景から,日本緩和医療学会からCOVID-19 患者の呼吸困難への対応に関する手引きが公開されている21)。ただしこの手引きの対象患者は挿管していない患者である。原則挿管人工呼吸管理を希望されない患者の呼吸困難に対するオピオイドの投与方法である。ただし,挿管人工呼吸管理を希望する患者においても,挿管前に生じた呼吸困難に対して初期投与量くらいの使用量は許容されると考えられる。 6.副作用対策 悪心・嘔吐や眠気については一般的に耐性を形成するため,症状の程度や発現時期を観察し,制吐剤の使用やオピオイドの継続可否について判断する。 表オピオイドによる副作用対策 副作用非薬物療法薬物療法 便秘水分や食物繊維の摂取,適度な運動末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(ナルデメジン),その他の便秘薬(浸透圧性下剤〔例:酸化マグネシウム〕,大腸刺激性下剤〔例:セ ンナ,ピコスルファート〕など) 嘔気・嘔吐オピオイド内服時間の工夫制吐剤(ドパミン受容体拮抗薬,消化管蠕動亢進薬,抗ヒスタミン薬など)掻痒感皮膚の保湿抗ヒスタミン薬,5-HT3 受容体拮抗薬眠気ほかの眠気の原因の除去せん妄ほかのせん妄の原因の除去,環境調整抗精神病薬呼吸抑制II型呼吸不全では酸素流量の調整オピオイド拮抗薬(ナロキソン)※口内乾燥部屋の加湿,ガムを噛む,水分摂取,口腔ケア人口唾液排尿障害ほかの抗コリン作用のある薬剤の中止コリン作動薬,α 1 受容体遮断薬ミオクローヌスベンゾジアゼピン系抗てんかん薬(クロナゼパム) ※予後が日単位の患者には積極的な適応はない
また,呼吸困難に対する効果が得られる範囲でオピオイドを減量する方法もある。副作用による苦痛が呼吸困難改善による利益を上回る場合には原則減量,中止が望ましい。個別の副作用への対策について表にまとめる。今後の課題 モルヒネ徐放製剤の非がん性呼吸器疾患に対する適応については,オーストラリアで10 mgと20 mgのモルヒネ徐放剤が非がん性呼吸器疾患を含む進行性疾患を有する患者のchronic breathlessness に保険適用となっている。本邦では,非がん性疾患のうち,神経難病については,2011 年厚生労働省から, 呼吸困難を有する非がん性呼吸器疾患患者 モルヒネ速放製剤2 ~5mg/ 回 モルヒネ速放製剤1 回2~3mg 1 日3~4 回モルヒネ徐放製剤1 回10mg 1 日1 回腎機能評価モルヒネを使用しない もしくはより低用量で使用するもしくは可能なら低腎機能でも使用可能な オピオイドを使用する 低腎機能あり(推定eGFR30mL/ 分未満)低腎機能なし(推定eGFR30mL/ 分以上) 効果副作用チェック 効果あり副作用なし効果なし副作用なし許容できない 副作用あり 減量もしくは中止20mg/ 日まで増量最大30mg/ 日まで同量で継続 処方医が非がん性呼吸器疾患患者に対するオピオイド使用に習熟している、もしくはそのような医師に相談している原疾患および併存症に対する標準治療がなされているオピオイドの禁忌がないオピオイドの投与量に影響する因子の評価が行われている進行した病状である患者もしくは家族から同意を得ている オピオイドの使用条件のチェック 図1 オピオイド経口剤の使用方法
『原則として,「モルヒネ塩酸塩【内服薬】・【注射薬】・【外用薬】」を「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」,「筋ジストロフィーの呼吸困難時の除痛」に対して処方した場合,当該使用事例を審査上認める。』,『原則として,「モルヒネ硫酸塩【内服薬】」を「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」,「筋ジストロフィーの呼吸困難時の除痛」に対して処方した場合,当該使用事例を審査上認める。』という通知が出されている。今 後,学会からの働きかけにより,非がん性呼吸器疾患患者の呼吸困難に対しても,モルヒネ徐放剤が査定されない改訂がなされることが望まれる。 非がん性呼吸器疾患の呼吸困難に対するオピオイドの有用性については疾患毎に有効性に違いがあるのか,2有効性が期待できる因子は何か,3オピオ 呼吸困難を有する非がん性呼吸器疾患患者 腎機能評価 モルヒネを使用しないもしくはより低用量で使用する 低腎機能あり(推定eGFR30mL/ 分未満)低腎機能なし(推定eGFR30mL/ 分以上) 開始初期は30 ~60 分おきに 効果副作用チェック 効果あり副作用なし効果なし副作用なし許容できない 副作用あり 減量もしくは中止を検討※ ※傾眠については症状緩和の観点から許容することもありうる 最短30 ~60 分おきに0.25 ~0.5mg/ 時ずつ増量同量で継続 処方医が非がん性呼吸器疾患患者に対するオピオイド使用に習熟している、もしくはそのような医師に相談している原疾患および併存症に対する標準治療がなされているオピオイドの禁忌がないオピオイドの投与量に影響する因子の評価が行われている進行した病状である患者もしくは家族から同意を得ている オピオイドの使用条件のチェック モルヒネ注0.25 ~0.5mg/ 時レスキューは1 時間量を早送り 図2 オピオイド注射剤の使用方法
イド間で有効性に違いがあるのか,を検討していく必要がある。また,オピオイドの副作用,特に長期投与に伴う副作用についても大規模な観察研究で明らかにしていくことが求められる。 ▪文 献1)日本緩和医療学会(編). 専門家をめざす人のための緩和医療 学改訂第2版.東京:南江堂;2019. 2)Rocker G, Horton R, Currow D, et al. Palliation of dyspnoea in advanced COPD:revisiting a role for opioids. Thorax. 2009;64:910-5. 3)Varkey B. Opioids for palliation of refractory dyspnea in chronic obstructive pulmonary disease patients. Curr Opin Pulm Med. 2010;16:150-4. 4)Jennings AL, Davies AN, Higgins JP, et al. A systematic re- view of the use of opioids in the management of dyspnoea. Thorax. 2002;57:939-44. 5)Jennings AL, Davies AN, Higgins JP, et al. Opioids for the palliation of breathlessness in terminal illness. Cochrane Database Syst Rev. 2001;CD002066. 6)Barnes H, McDonald J, Smallwood N, et al. Opioids for the palliation of refractory breathlessness in adults with advanced disease and terminal illness. Cochrane Database Syst Rev. 2016;3:CD011008. 7)Ekström M, Nilsson F, Abernethy AA, et al. Effects of opioids on breathlessness and exercise capacity in chronic obstructive pulmonary disease. Ann Am Thorac Soc. 2015;12: 1079-92. 8)Currow D, Louw S, McCloud P, et al. Regular, sustained-re- lease morphine for chronic breathlessness:a multicentre, double-blind, randomised, placebo-controlled trial. Thorax. 2020;75:50-6. 9)Verberkt CA, van den Beuken-van Everdingen MHJ, Schols JMGA, et al. Effect of Sustained-Release Morphine for Refractory Breathlessness in Chronic Obstructive Pulmonary Disease on Health Status:A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2020;180:1306-14. 10)Kronborg-White S, Andersen CU, Kohberg C, et al. Palliation of chronic breathlessness with morphine in patients with fibrotic interstitial lung disease-a randomised placebo-controlled trial. Respir Res. 2020;21:195. 11)Abdallah SJ, Wilkinson-Maitland C, Saad N, et al. Effect of morphine on breathlessness and exercise endurance in advanced COPD:a randomised crossover trial. Eur Respir J. 2017;50:1701235. 12)Currow DC, McDonald C, Oaten S, et al. Once-daily opioids for chronic dyspnea:a dose increment and pharmacovigilance study. J Pain Symptom Manage. 2011;42:388-99. 13)Matsuda Y, Morita T, Matsumoto H, et al. Morphine for dyspnoea in chronic obstructive pulmonary disease:a beforeafter efficacy study. BMJ Support Palliat Care. 2019 Nov 15;bmjspcare-2019-001929. doi:10.1136/bmjspcare-2019-001929. [Online ahead of print] 14)Ekström MP, Bornefalk-Hermansson A, Abernethy AP, et al. Safety of benzodiazepines and opioids in very severe respiratory disease:national prospective study. Version 2. BMJ. 2014;348:g445. 15)Takeyasu M, Miyamoto A, Kato D, et al. Continuous Intravenous Morphine Infusion for Severe Dyspnea in Terminally Ill Interstitial Pneumonia Patients. Intern Med. 2016;55: 725-9. 16)Matsuda Y, Maeda I, Tachibana K, et al. Low-Dose Morphine for Dyspnea in Terminally Ill Patients with Idiopathic Interstitial Pneumonias. J Palliat Med. 2017;20:879-83. 17)日本ペインクリニック学会非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン作成ワーキンググループ(編)非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン改訂第2版.東京:真興交易(株)医書出版部;2017. 18)ESMO. COVID-19 Palliative Care Pathways. 2020. https:// www.esmo.org/covid-19-and-cancer/covid-19-full-coverage/covid-19-useful-resources/covid-19-palliative-carepathways,(accessed 2020-6-17) 19)Bajwah S, Wilcock A, Towers R, et al. Managing the supportive care needs of those affected by COVID-19. Eur Respir J. 2020;55:2000815. 20)National Institute for Health and Care Excellence(NICE)in collaboration with NHS England and NHS Improvement. Managing COVID-19 symptoms(including at the end of life) in the community:summary of NICE guidelines. BMJ. 2020;369:m1461. 21)日本緩和医療学会COVID-19関連特別ワーキンググループ特設ホームページ.COVID-19患者の呼吸困難への対応(病院版)PDF 版.https://www.jspm-covid19.com/wp-content/ uploads/2020/05/COVID-19患者の呼吸困難への対応病院版_20200501.pdf(閲覧:2020-08-11)
これまでにわかっていること 1.コルチコステロイドの作用機序 コルチコステロイドは抗炎症作用,抗アレルギー作用,免疫抑制作用,さまざまな代謝作用を有する。呼吸困難,食欲不振・悪心,倦怠感に対するコルチコステロイドの正確な作用機序は不明であるが,おそらくホルモン補充効果と抗炎症作用が関係していると考えられる。 2.緩和治療としてのコルチコステロイドの エビデンス1)呼吸困難 呼吸器疾患の終末期症例を対象とした研究は検索できなかった。進行したCOPD 患者を対象に2 週間の経口コルチコステロイド(40 mg のプレドニゾン)投与を行ったランダム化比較試験では,呼吸困難の有意な改善は認められなかった1)。COPD 患者を対象に2 年間の吸入ステロイド単独群,吸入ステロイドと経口プレドニゾロン併用群,プラセボ群を比較したランダム化比較試験では,吸入ステロイドと経口プレドニゾロン併用群は吸入コルチコステロイド 単独群と呼吸困難の改善に有意な差を認めなかった2)。このように非がん性呼吸器疾患患者の呼吸困難の緩和のためのコルチコステロイドの全身投与の有効性は明らかにされていない。2)食欲不振・悪心 非がん性呼吸器疾患患者の食欲不振を対象にコルチコステロイドの全身投与の有効性は明らかにされていない。がん患者の食欲不振と体重減少の治療に関する系統的レビューでは,6 つのランダム化比較試験をもとにコルチコステロイドは食欲不振に対してその使用を支持するエビデンスを有すると述べられている3)。3)倦怠感 非がん性呼吸器疾患患者の倦怠感を対象にコルチコステロイドの全身投与の有効性は明らかにされていない。一方,進行がん患者を対象にデキサメタゾンとプラセボを比較したランダム化比較試験では,デキサメタゾン群ではプラセボ群に比べて有意に倦怠感が改善した4)。 症状緩和の手段― 薬物療法― 2.その他 第3章 1.コルチコステロイド 非がん性呼吸器疾患患者の呼吸困難に対するコルチコステロイドの有用性は明らかではないが,食欲不振・悪心,倦怠感に対する効果はある程度期待できる。コルチコステロイドには,体重増加,消化管出血,骨粗鬆症,緑内障,高血圧,糖尿病,せん妄,混乱,抑うつ,躁状態,易感染性といった副作用があるため,長期予後が予測できる患者には差し控えたほうがよい。 サマリー
3.コルチコステロイドの副作用 コルチコステロイドの一般的な副作用には,クッシング症候群様症状(満月様顔貌など),体重増加,易感染・感染症の悪化,糖尿病,消化性潰瘍・消化管出血,膵炎,精神障害(せん妄,混乱,抑うつ,躁状態など),骨粗鬆症,無菌性壊死,ミオパチー,緑内障,後嚢白内障,高血圧,浮腫などが挙げられる5,6)。 コルチコステロイドの全身投与は,一部の選択された患者では上記の症状緩和に役立つかもしれないが,長期使用になれば有害事象のリスクが増すため,疾患の重症度と生命予後を勘案して投与するかどうかが決定されるべきである5)。血糖降下薬や利尿薬,抗凝固薬など薬物相互作用にも注意が必要である(各薬剤添付文書を参照)。 4.非がん性呼吸器疾患の緩和治療としての 位置づけ非がん性呼吸器疾患の終末期において,治療の一環としてコルチコステロイドを使用する機会は多い。ただし,ILD に対する維持治療やCOPD 増悪に対して繰り返し短期使用する場合など,原疾患の治療として使用される場合を含んでおり,非がん性呼吸器疾患の純粋な症状緩和としてコルチコステロイドの有効性を示すエビデンスは乏しい。それでも,原疾患が安定すれば呼吸困難を緩和しうること,がん患者のエビデンスを外挿すれば食欲不振・倦怠感などの改善も期待できることなどから,一部の患者では症状緩和に役立つ可能性がある。デンマーク呼 吸器学会の提言では,エキスパートオピニオンとして,実臨床においてプレドニゾロン5 ~10 mg/ 日の低用量ステロイドを緩和目的で使用される場合があると記されている5)。本指針の作成委員会においても,非がん性呼吸器疾患の終末期においてステロイドが症状緩和に有効であることはしばしば経験されることが確認され,投与量としてはプレドニゾロン20 mg/ 日あるいはデキサメタゾン2 mg 以下から漸減し,効果の認められる最小量で維持するという使用法が提案された。一方で,長期使用になれば有害事象のリスクが増すため,疾患の重症度と生命予後を勘案して投与するかどうかを決定すべきである。緩和治療として実際に長期投与となるのは,呼吸不全が進行して回復の見込みやほかの治療手段が乏しくなった場合であることが多い。効果の認められない患者,感染症を有する患者,副作用のデメリットがメリットを上回る患者では,漫然とステロイドの長期投与を行うべきではない。 今後の課題 ・非がん性呼吸器疾患の呼吸困難,食欲不振・悪 心,倦怠感に対するコルチコステロイドの有効性および安全性,さらに,投与開始時期(病期)について明らかにする必要がある。 2.ベンゾジアゼピン系薬 ベンゾジアゼピン系薬は不安,不眠に有効な可能性がある。ベンゾジアゼピン系薬の呼吸困難に対する有効性を支持するエビデンスは乏しい。ベンゾジアゼピン系薬はさまざまな副作用のリスクを有する。ベンゾジアゼピン系薬を使用する場合には短期間の使用にとどめる。 サマリー これまでにわかっていること1.ベンゾジアゼピン系薬の作用機序 ベンゾジアゼピン系薬は中枢神経系のガンマアミノ酪酸(GABA) A 受容体にアゴニストとして働き,
脚注 ベンゾジアゼピン受容に作用する薬剤である,ベンゾジアゼピン系薬と非ベンゾジアゼピン系薬の総称。ベンゾジアゼピン系薬は, GABAA 受容体のベンゾジアゼピン結合部位(ベンゾジアゼピン受容体)に結合することで,GABA の結合が亢進されCl-チャネルが開口されることで過分極が進み,種々の神経活動が抑制される。一方,ベンゾジアゼピン骨格をもたない非ベンゾジアゼピン系薬は,ベンゾジアゼピン受容体のサブタイプのうちω1受容体に選択的に作用する。非ベンゾジアゼピン系薬にはゾルピデム,ゾピクロン,エスゾピクロンがあり,Z drug と呼ばれることもある。 催眠・鎮静作用,抗不安作用,筋弛緩作用,抗痙攣作用を起こす1)。 2.緩和治療としてのベンゾジアゼピン系薬 のエビデンス1)不安 COPD 患者に限定されていない成人全般性不安障害患者に対する薬物介入と心理的介入の有効性を検討したネットワークメタ解析でベンゾジアゼピン系薬はプラセボに比べて有効であった2)。ただし,非がん性呼吸器疾患患者の不安の緩和のためのベンゾジアゼピン系薬の有効性は明らかにされていない。2)不眠 COPD 患者の不眠に対するベンゾジアゼピン系薬の有効性を検討したメタ解析では,ベンゾジアゼピンは総睡眠時間,睡眠効率,睡眠潜時,覚醒回数/睡眠時間などの客観的な睡眠の質を大幅に改善したが,主観的な睡眠の質の改善は少なかった3)。3)呼吸困難 進行がんおよび非がん性呼吸器疾患患者の呼吸困難に対するベンゾジアゼピン系薬の有効性を調べたメタ解析では,COPD 患者においてベンゾジアゼピン系薬はプラセボと比較して有意な呼吸困難の改善を認めなかった4)。現時点では非がん性呼吸器疾患患者の呼吸困難に対するベンゾジアゼピン系薬の有効性を支持するエビデンスは乏しい。 3.ベンゾジアゼピン系薬の副作用 ベンゾジアゼピン系薬の代表的な副作用には,傾眠・持越し効果,めまい,ふらつき,筋弛緩,転倒,倦怠感,前向性健忘,せん妄,依存形成,呼吸抑制などが挙げられる。特に重症II型呼吸不全患者においてはCO2 ナルコーシスを起こすことがあるため注意が必要である。 COPD 患者の不眠に対するベンゾジアゼピン系薬のメタ解析では,睡眠中の経皮二酸化炭素分圧のわ ずかな上昇を除いて,呼吸器系のパラメーターの有害事象を認めなかった3)。COPD 患者を対象とした大規模後ろ向き研究で,ベンゾジアゼピン系薬を新規に開始した患者は外来患者のCOPD の増悪, COPD もしくは肺炎による救急室受診のリスクが使用していない患者に比べて高かった5)。長期酸素療法中のCOPD 患者を対象としたコホート研究で,高用量のベンゾジアゼピン系薬の使用は死亡の増加と関連していた。また,ベンゾジアゼピン系薬とオピオイドの併用では,低用量ベンゾジアゼピン系薬と高用量オピオイドの組み合わせ,ならびに,高用量ベンゾジアゼピン系薬と高用量オピオイドの組み合わせにおいて死亡の増加と関連していた。したがって,ベンゾジアゼピン系薬の使用が避けられない場合には低用量にとどめる必要がある。COPD 患者を対象としたベンゾジアゼピン受容体作動薬脚注の使用を調査したケースコントロール研究では,ベンゾジアゼピン受容体作動薬の使用は呼吸不全のリスクと関連していた6)。長期酸素療法中のILD 患者を対象としたコホート研究では,ベンゾジアゼピン系薬の使用は死亡の増加と関連していた7)。 4.非がん性呼吸器疾患の緩和治療としての 位置づけ不安に対して非がん性呼吸器疾患においてもベンゾジアゼピン系薬は有効である可能性があるが,先述した副作用のリスクを考慮すると,まずは心理療法などの非薬物療法を行い,それらが無効もしくは効果不十分な場合に使用を検討する。 不眠に対してもまずは睡眠衛生教育,認知行動療法などの非薬物療法が優先される。薬物療法についても,重症II型慢性呼吸不全を有する非がん性呼吸器疾患患者の不眠に対して睡眠薬を使用する場合には,ラメルテオンやスボレキサントのような呼吸抑
制をきたしにくい睡眠薬を優先的に使用することが望ましい。 呼吸困難に対しては標準治療および非薬物療法を行い,それらが無効もしくは効果不十分な場合にはオピオイドが優先される。効果および副作用を考慮すると呼吸困難に対してベンゾジアゼピン系薬を用いることは望ましくない。ただし,強い不安が呼吸困難に影響していると考えられる症例に使用することは許容されるだろう。 いずれの場合においてもベンゾジアゼピン系薬を使用する場合には,先述した副作用のリスクを踏まえ,開始後に効果がなければ中止することが望ましい。また,依存形成などの長期内服によるデメリットが多いことから,短期間の使用にとどめることが 重要である。 今後の課題 ・非がん性呼吸器疾患の不安に対するベンゾジアゼ ピン系薬の有効性および安全性・不眠に対するベンゾジアゼピン系薬とほかの睡眠 薬との有効性および安全性の比較・呼吸困難に対するベンゾジアゼピン系薬の有効性 を予測する因子(不安など) 3.抗うつ薬 非がん性呼吸器疾患患者の抑うつに対する抗うつ薬の効果についてはまだ十分なエビデンスがないが,大うつ病の診断基準を満たすようであれば使用を検討する。ベンゾジアゼピン系薬が使用しにくい非がん性呼吸器疾患患者の不安に対して薬物療法が必要な場合にはSSRI やミルタザピンといった抗不安作用を有する抗うつ薬の使用を検討する。非がん性呼吸器疾患患者の呼吸困難に対する抗うつ薬の効果についてはまだ十分なエビデンスはなく,今後の試験結果が待たれる。抗うつ薬には種類に応じたさまざまな副作用があるため,使用する際の患者選択,開始後の経過観察を丁寧に行う必要がある。 サマリー これまでにわかっていること 1.抗うつ薬の作用機序 代表的な抗うつ薬には,三環系抗うつ薬,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI),セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI),ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性薬(NaSSA)などがある。 三環系抗うつ薬はノルアドレナリンとセロトニンの再取り込み阻害作用のほかに,ムスカリンM1 受容体,ヒスタミンH1 受容体,アドレナリンα1 受容体の拮抗作用を有する。SSRI はセロトニントランスポーターに結合し,選択的にセロトニンの再取り込 みを阻害する。SNRI は選択的にセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害する。NaSSA はシナプス前膜にあるα2 受容体(自己受容体とヘテロ受容体)に対してアンタゴニストとして作用し,ノルアドレナリンとセロトニン(5-HT)の神経伝達を増強する。また,5-HT2 受容体と5-HT3 受容体を遮断する作用もあるため,抗うつ作用に関連する5-HT1A受容体のみを特異的に活性化し,抗うつ作用を示す。
2.緩和治療としての抗うつ薬のエビデンス1)抑うつ COPD 患者の抑うつに対する薬物療法の効果を調べた系統的レビュー・メタ解析では,1 つのランダム化比較試験で三環系抗うつ薬はプラセボに比べて有意に抑うつを改善し,2 つのランダム化比較試験のメタ解析でSSRI はプラセボと有意差がないことが示されており,COPD 患者の抑うつに対する抗うつ薬の効果について述べる十分なエビデンスがないと結論づけている1)。2)不安 COPD 患者の不安障害に対する薬物療法の効果を調べた系統的レビューでは,4 つの研究(SSRI 2件,三環系抗うつ薬1 件,アザピロン系薬1 件)が同定されたが,含まれた研究の質や症例数がメタ解析を行うのに十分ではなかったため,効果はわからないという結論であった2)。3)呼吸困難 慢性呼吸困難を有する患者(COPD が約7 割)を対象にSSRI であるセルトラリンとプラセボを比較したランダム化比較試験では,呼吸困難が15%以上改善した患者の割合は両群で有意差を認めなかった3)。重症呼吸困難を有する患者(COPD とILD が81%)を対象行われたミルタザピンのプラセボ対照ランダム化フィージビリティ試験が行われ,その実施可能性が確認されたため,第III相試験が行われる予定である4)。現時点では呼吸困難単独の症例に対する抗うつ薬を投与するエビデンスは十分とはいえず,今後の試験結果が待たれる。 3.抗うつ薬の副作用 三環系抗うつ薬の代表的な副作用には,抗コリン作用による口渇,便秘,排尿障害,眼圧上昇,せん妄,抗ヒスタミン作用による傾眠,ふらつきなどが挙げられる。また,起立性低血圧,頻脈,QT 延長,房室ブロックといった心血管系副作用も認める。このため各種合併症の多い高齢者では使用を控えるほうがよい。SSRI の代表的な副作用には,食欲不振や悪心(特に投与初期や増量時に認められ,継続使用で消失する),傾眠,口渇などが挙げられる。SNRI の代表的な副作用には,頭痛,口渇,悪心,排尿障害,傾眠などが挙げられる。NaSSA であるミルタザピンの代表的な副作用には,抗ヒスタミン作用による,傾眠,食欲増進による体重増加が挙げられる。傾眠作用は不眠患者では有利に働くが,日中の傾眠や倦怠感を生じることがあるため少量から開始することが望ましい。抗うつ薬のほかの副作用として賦活症候群,セロトニン症候群にも注意が必要である。賦活症候群は抗うつ薬投与後に不安,焦燥,パニック発作,不眠,易刺激性,衝動性などが起こる症候群である。セロトニン症候群は脳内のセロトニン機能の異常亢進によって,中枢・自律神経系の症状を呈する症候群であり,失見当識,錯乱,不安,焦燥,不眠,気分高揚,腱反射亢進,ミオクローヌス,筋強直,振戦,協調運動障害,発熱,下痢,発汗といった症状が出現する。 高齢COPD 患者を対象とした大規模コホート研究では,SSRI・SNRI の新規使用患者は非使用患者に比べて,COPD もしくは肺炎による入院,救急室受診,死亡との関連を認めた5)。4)非がん性呼吸器疾患の緩和治療としての位 置づけ上述のように非がん性呼吸器疾患患者の抑うつ,不安,呼吸困難に対して抗うつ薬を使用するエビデンスは十分とはいえない。ただし,実臨床では以下のような対応を行うこともある。 抑うつについては大うつ病の診断基準を満たすようであれば,抗うつ薬の使用を検討するのは妥当である。ただし,どの抗うつ薬が最も有効かについては明確ではないため,一般的には副作用プロフィールなどを考慮して選択されることが多い。 また,不安については重症II型呼吸不全でベンゾジアゼピン系薬が使用しにくい非がん性呼吸器疾患患者に対して薬物療法が必要な場合にはSSRI やミルタザピンといった抗不安作用を有する抗うつ薬の使用を検討する。パニック症と診断されるようであれば,SSRI の使用を検討する。 呼吸困難に対する抗うつ薬については,非薬物治
療やオピオイドが優先されるべきであると考えられるが,呼吸困難と大うつ病の合併例などでは使用を検討してもよい。いずれの場合も抗うつ薬の効果発現には週単位の時間がかかるため,予後が1 ヵ月以内と予想されるような患者において適応はないと考えられる。今後の課題 ・非がん性呼吸器疾患の呼吸困難,抑うつ,不安に 対する抗うつ薬の有効性と安全性について大規模なランダム化比較試験で明らかにする必要がある。・どの抗うつ薬がそれぞれの症状に最も有効かにつ いても明らかにする必要がある。 4.抗精神病薬 非がん性呼吸器疾患のせん妄に対する抗精神病薬の効果についてはまだ十分なエビデンスがない。非薬物療法が無効で,患者の苦痛が大きい,もしくは患者本人か他者に危険が及ぶと考えられる場合に使用を検討する。抗精神病薬は種類に応じたさまざまな副作用があるため,使用する際の患者選択,開始後の経過観察を丁寧に行う必要がある。 サマリー これまでにわかっていること 1.抗精神病薬の作用機序 非がん性呼吸器疾患患者の緩和ケアにおいて抗精神病薬を使用するのは主にせん妄に対してと考えられる。せん妄の病態生理はいまだ不明であるが,脳内神経伝達物質の不均衡によってせん妄が発症すると考えられている。特にアセチルコリンの欠乏,ドパミン・グルタミン酸・ノルアドレナリンの過剰が関与しているとの仮説がある。抗精神病薬はドパミンをはじめとする神経伝達物質の受容体を遮断することによって脳内神経伝達物質の不均衡を是正するという前提でせん妄に対して使用されている。 抗精神病薬は,強力なドパミンD2 受容体遮断作用を主なものとする定型抗精神病薬とD2 受容体遮断作用のほかに5-HT2A 受容体遮断作用などを有する非定型抗精神病薬がある。2.緩和治療としての抗精神病薬のエビデンス せん妄 非がん性呼吸器疾患患者のみならず,入院患者において抗精神病薬がせん妄の期間もしくは重症度を減らすという明らかなエビデンスは認めない1)。緩和ケアを受けているせん妄患者(大部分ががん患者)を対象に,ハロペリドール,リスペリドン,プラセボを比較したランダム化比較試験では,抗精神病薬群ではプラセボ群に比べてせん妄スコアが有意に高かった2)。 3.副作用と使用上の注意点 抗精神病薬の代表的な副作用には,錐体外路症状,傾眠,抗コリン性副作用(口渇,便秘,排尿障害,眼圧上昇,せん妄),心血管系副作用(起立性低血圧,QT 延長など)などが挙げられる。発熱,錐体外路症状,意識障害,自律神経症状,CK 上昇をきたす悪性症候群にも注意が必要である。 非定型抗精神病薬では錐体外路症状は問題になりにくいが,高血糖や体重増加などが問題となること
があり,オランザピンとクエチアピンは糖尿病患者に禁忌となっている。 また,認知症高齢患者では抗精神病薬が死亡リスクを上昇させることが報告されている3)。 4.非がん性呼吸器疾患の緩和治療としての 位置づけ先述した副作用のリスクも考慮すると,抗精神病薬は非薬物療法が無効で,患者の苦痛が大きい,もしくは患者本人か他者に危険が及ぶと考えられる場合に限定されるべきだろう。ただし終末期に強い呼吸困難があるなか,酸素投与デバイスを外したり,せん妄による体動で呼吸困難が悪化するような症例ではやむなく使用することも実臨床ではしばしば経験する。内服であれば抗精神病薬のなかでは比較的錐体外路症状が出にくく,鎮静作用が強いクエチアピン12.5 mg ~25 mg/ 回の使用を検討する。ただし,クエチアピンは糖尿病が禁忌であるため,糖尿病がある場合にはリスペリドン0.5 mg ~1 mg/ 回の使用を検討する。内服ができなければハロペリドール2.5 mg の点滴を行うが,鎮静作用は強くないため過活動が激しい場合には,呼吸抑制に注意しながらハロペリドールとベンゾジアゼピン系薬との併用(p.135 第5 章「エンドオブライフケアに関わる諸問題.3. 最終末期の鎮静」の項を参照)もしくはハロペリドールに比べて鎮静作用の強いクロルプロマジンを用いることもある。なお,2011 年に厚生労働省から,「クエチアピン,リスペリドン,ハロペリドール,ペロスピロンの4 剤について器質性疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性に対する適応外使用を審査上認める」という通知が出されている。ただし,保険適応外の使用であるため可能であれば患者もしくは家族に使用目的を説明することが望ましい。 今後の課題 ・非がん性呼吸器疾患患者のせん妄に対する抗精神病薬の有効性と安全性を大規模ランダム化比較試 験で明らかにする必要がある。 ▪文 献3-2-1.コルチコステロイド1)Eliasson O, Hoffman J, Trueb D, et al. Corticosteroids in COPD. A clinical trial and reassessment of the literature. Chest. 1986;89:484-90. 2)Renkema TE, Schouten JP, Koëter GH, et al. Effects of long- term treatment with corticosteroids in COPD. Chest. 1996; 109:1156-62. 3)Yavuzsen T, Davis MP, Walsh D, et al. Systematic review of the treatment of cancer-associated anorexia and weight loss. J Clin Oncol. 2005;23:8500-11. 4)Yennurajalingam S, Frisbee-Hume S, Palmer JL, et al. Reduc- tion of cancer-related fatigue with dexamethasone:a double-blind, randomized, placebo-controlled trial in patients with advanced cancer. J Clin Oncol. 2013;31:3076-82. 5)Marsaa K, Gundestrup S, Jensen JU, et al. Danish respiratory society position paper:palliative care in patients with chronic progressive non-malignant lung diseases. Eur Clin Respir J. 2018;5:1530029. 6)Fardet L, Kassar A, Cabane J, et al. Corticosteroid-induced adverse events in adults:frequency, screening and prevention. Drug Saf. 2007;30:861-81. 3-2-2.ベンゾジアゼピン系薬1)Currow DC, Agar MR. Benzodiazepine Prescribing in People with Chronic Obstructive Pulmonary Disease:Clinical Considerations. Drugs Aging. 2020;37:263-70. 2)Chen TR, Huang HC, Hsu JH, et al. Pharmacological and psychological interventions for generalized anxiety disorder in adults:A network meta-analysis. J Psychiatr Res. 2019; 118:73-83. 3)Lu XM, Zhu JP, Zhou XM. The effect of benzodiazepines on insomnia in patients with chronic obstructive pulmonary disease:a meta-analysis of treatment efficacy and safety. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2016;11:675-85. 4)Simon ST, Higginson IJ, Booth S, et al. Benzodiazepines for the relief of breathlessness in advanced malignant and nonmalignant diseases in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2016;10:CD007354. 5)Vozoris NT, Fischer HD, Wang X, et al. Benzodiazepine drug use and adverse respiratory outcomes among older adults with COPD. Eur Respir J. 2014;44:332-40. 6)Chen SJ, Yeh CM, Chao TF, et al. The Use of Benzodiazepine Receptor Agonists and Risk of Respiratory Failure in Patients with Chronic Obstructive Pulmonary Disease:A Nationwide Population-Based Case-Control Study. Sleep. 2015;38:1045-50. 7)Bajwah S, Davies JM, Tanash H, et al. Safety of benzodiaze-
pines and opioids in interstitial lung disease:a national prospective study. Eur Respir J. 2018;52:1801278. 3-2-3.抗うつ薬1)Pollok J, van Agteren JE, Carson-Chahhoud KV. Pharmaco- logical interventions for the treatment of depression in chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2018;12:CD012346. 2)Usmani ZA, Carson KV, Cheng JN, et al. Pharmacological interventions for the treatment of anxiety disorders in chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2011;CD008483. 3)Currow DC, Ekström M, Louw S, et al. Sertraline in symp- tomatic chronic breathlessness:a double blind, randomised trial. Eur Respir J. 2019;53:1801270. 4)Higginson IJ, Wilcock A, Johnson MJ, et al. Randomised, double-blind, multicentre, mixed-methods, dose-escalation feasibility trial of mirtazapine for better treatment of severe breathlessness in advanced lung disease(BETTER-B feasi- bility). Thorax. 2020;75:176-9. 5)Vozoris NT, Wang X, Austin PC, et al. Serotonergic antide- pressant use and morbidity and mortality among older adults with COPD. Eur Respir J. 2018;52:1800475. 3-2-4.抗精神病薬1)Burry L, Mehta S, Perreault MM, et al. Antipsychotics for treatment of delirium in hospitalised non-ICU patients. Cochrane Database Syst Rev. 2018;6:CD005594. 2)Agar MR, Lawlor PG, Quinn S, et al. Efficacy of Oral Risperi- done, Haloperidol, or Placebo for Symptoms of Delirium Among Patients in Palliative Care:A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2017;177:34-42. 3)Schneider LS, Dagerman KS, Insel P. Risk of death with atypical antipsychotic drug treatment for dementia:metaanalysis of randomized placebo-controlled trials. JAMA. 2005;294:1934-43.
呼吸器疾患などの患者において呼吸困難が持続・悪化する原因として,呼吸,思考・感情,機能の3つの悪循環が考えられている(図) 1 −3)。呼吸管理や薬物療法で改善が難しい呼吸困難などの症状に対しては,この3 つの側面から非薬物療法によるアプローチを考えるとよい。 まず,疾患の進行とともに身体活動性が低下したり,過度に家族などが介助を行ったりして,四肢や胸郭の筋肉,さらに呼吸補助筋の機能低下・廃用萎縮をきたす「機能の悪循環」を断ち切るためには,運動療法を中心としたリハビリテーションや歩行補助具の利用などが重要である。また,栄養面への介入も不可欠である。 また,呼吸数の増加,呼吸補助筋の利用,動的過膨張などにより非効率的な換気や換気仕事量の増加をきたしている「呼吸の悪循環」を改善するためには,呼吸リハビリテーションや扇風機(ファン),鍼治療などが考えられる4)。 強い呼吸困難や死に対する恐怖,過去の既往や経験などから不安を生じ,パニックに陥る「思考・感情の悪循環」に対処するためには,心理療法や音楽療法,アロマ療法などが考えられる5)。 なお,最近では,アロマ療法でも用いられるL- メンソールが上気道の冷感刺激を介して,呼吸を変えることなくCOPD 患者の呼吸困難を軽減することが報告されている6)。 セルフマネジメントにおいては,これら3つの悪循環を改善するためのさまざまな自己対処スキルが考えられている7,8)。▪文 献 1)Booth S, Burkin J, Moffat C, et al. Managing Breathlessness in Clinical Practice. London:Springer;2014. 2)Booth S, Johnson MJ. Improving the quality of life of people with advanced respiratory disease and severe breathlessness. Breathe(Sheff). 2019;15:198-215. 3)Spathis A, Booth S, Moffat C, et al. The Breathing, Thinking, Functioning clinical model:a proposal to facilitate evidencebased breathlessness management in chronic respiratory disease. NPJ Prim Care Respir Med. 2017;27:27. 4)Bausewein C, Booth S, Gysels M, et al. Non-pharmacological interventions for breathlessness in advanced stages of malignant and non-malignant diseases. Cochrane Database Syst Rev. 2008;CD005623. 5)津田徹,平原佐斗司(編). 非がん性呼吸器疾患の緩和ケア. 東京:南山堂;2017. 6)Kanezaki M, Terada K, Ebihara S. Effect of Olfactory Stimu- lation by L-Menthol on Laboratory-Induced Dyspnea in COPD. Chest. 2020;157:1455-65. 7)Wortz K, Cade A, Menard JR, et al. A qualitative study of patients' goals and expectations for self-management of COPD. Prim Care Respir J. 2012;21:384-91. 8)Benzo RP, Abascal-Bolado B, Dulohery MM. Self-manage- ment and quality of life in chronic obstructive pulmonary disease(COPD):The mediating effects of positive affect. Patient Educ Couns. 2016;99:617-23. 症状緩和の手段― 非薬物療法― 1.概説 第3章
呼吸思考・感情 機能 非効率な換気呼吸仕事量の増加 呼吸数増加呼吸補助筋の不適切な利用動的過膨張 心血管系および筋肉のデコンディショニング活動低下社会的孤立介助に依存不安,パニックに陥る失望,怒り,気分が落ち込む 感覚に絶えず注意がいく過去の経験に関する記憶死についての誤解と思い 呼吸困難 図呼吸困難を持続・悪化させる3つの悪循環 (文献1-3より改変引用)
これまでにわかっていること 1.呼吸リハビリテーション 米国胸部疾患学会/欧州呼吸器学会(ATS/ERS)は2013 年に呼吸リハビリテーションに関する国際的ステートメントを改訂1)した。呼吸リハビリテーションとは「徹底した患者のアセスメントに基づいた包括的な医療介入に引き続いて,運動療法,教育,行動変容だけではなく,慢性呼吸器疾患患者の身体および心理的な状況を改善し,長期の健康増進に対する行動のアドヒアランスを促進するために患 者個々の必要性に応じた治療が行われるものである」と定義されている。呼吸リハビリテーションは非がん性呼吸器疾患に対して,自覚症状の緩和,生活の質(QOL)の改善などの効果があり,包括的な介入で統合ケアとして実施され,軽症から重症までその有効性が報告されている。 本邦では2018 年に呼吸リハビリテーションに関するステートメントが改訂2)され,表1のように定義された。呼吸リハビリテーションは導入前後,および生活期において定期的な評価が行われ,包括的に実施される3)。さらに呼吸リハビリテーションは表2の項目で構成2)され,運動療法は中核となる項目であり,コンディショニングは運動療法を効率的にする役割があり,廃用症候群の予防や改善,症状の緩和にも効果が期待される。呼吸リハビリテーションは原則としてチーム医療であり,専門のヘルスケアプロフェッショナル,すなわち,医師,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,臨床工 症状緩和の手段― 非薬物療法― 2.呼吸リハビリテーション 第3章 サマリー 終末期における呼吸リハビリテーションの目的は,自覚症状の緩和,可能な限り自立できるADL の構築,介護者を含めた健康関連QOL の維持と改善である。呼吸リハビリテーションは可能な限り早期より開始し,シームレスに終末期においても継続される。呼吸リハビリテーションは経過とともに,ACP に従って適切に評価,修正され,患者と介護者による実践を基本とし,多職種で協働して実施される。プログラムはコンディショニングとADL 調整を中心に計画され,身体機能を維持するための軽い全身持久力トレーニング・筋力トレーニングが実施される場合もある。通常の運動療法の実施が困難な場合でもNMES は有効であり,今後の普及が望まれる。 表1本邦における呼吸リハビリテーションの定義呼吸器リハビリテーションとは呼吸器に関連した病気をもつ患者が,可能な限り疾患の進行を予防あるいは健康状態を回復・維持するため,医療者と協働的なパートナーシップのもとに疾患を自身で管理して自立できるよう生涯にわたり継続して支援していくための個別化された包括的介入である。 (文献2より引用)
学技士,管理栄養士,歯科医師,歯科衛生士,医療ソーシャルワーカー,薬剤師,保健師,臨床心理士・公認心理師,ケアマネジャーなどの参加により,あるいは必要に応じて患者を支援する家族やボランティアも参加し行われる。 呼吸リハビリテーションは生涯にわたり継続して実施される治療介入であり,適応となるすべての呼吸器に関連した病気をもつ患者に導入され,終末期までシームレスに実施される(図1)。呼吸リハビリテーションの導入時期は安定期の慢性閉塞性肺疾患(COPD)において,長時間作用型気管支拡張薬の使用と同時期とされ,酸素療法以前に導入される項目である5)。呼吸リハビリテーションの効果に関する研究は主にCOPD や間質性肺疾患(ILD)について行われ,その有用性(表3)が示されている2,6,7)が,終末期における呼吸リハビリテーションの研究は少な いのが現状である。 2.終末期における呼吸リハビリテーション の位置づけ終末期の呼吸リハビリテーションは,呼吸困難および咳嗽の軽減,気道のクリアランスを中心とした呼吸器症状の緩和に加え,全人的苦痛(トータルペイン)の軽減,および,廃用症候群の改善と予防を目的に実施され,プログラムは運動療法の適用を考慮するが,最重症例,および一部の重症例ではコンディショニングと日常生活動作(activity of daily living;ADL)トレーニングが主体となることもある8)。 デンマーク呼吸器学会の非がん慢性進行性呼吸器疾患緩和ケアのポジションペーパーによれば,理想 表2呼吸リハビリテーションの構成要素・運動療法(全身持久力トレーニング,筋力トレーニング)・コンディショニング・ADL トレーニング・セルフマネジメント教育・栄養療法・心理社会的サポート・導入前後,維持期(生活期)の定期的な評価 (文献2より作成) 急性期 導入回復期 維持期(生活期) 術後回復期周術期終末期 図1 生涯にわたり継続して実施する呼吸リハビリテーション (文献2より引用)
的な緩和ケアとリハビリテーションとは患者と介護者の包括的な評価に基づき,個々の患者のニーズに合わせて調整され,アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning;ACP)と組み合わせて実施され,身体能力を高めるための運動プログラム,身体機能の低下の防止,トレーニングやサポートにおける自立度の向上など,目的は多様である9)。 Higginsonらはがん,COPD(Medical Research Council dyspnea scale;〔MRC息切れスケール〕2 以上),慢性心不全,ILD などの呼吸障害を呈する疾患に対する理学療法,作業療法,緩和ケアの評価と管理を組み合わせたサービス(息切れ支援サービス:第4章「チーム医療 1. 多職種連携」の項〔p103〕を参照)に関するランダム化比較試験を報告している。この報告によれば,患者および家族に対する情報提供およびマネジメント教育,ペーシング指導,送風療法または水スプレー,リラックスするマントラ,パニックコントロールを含む息切れパックの効果と して非がん性呼吸器疾患アンケート,息切れの重症度,息切れによる障害の程度,移動能力,セルフケア,日常生活活動,痛みまたは不快感,抑うつ評価,健康関連QOL,および生命予後について改善したとしている10)。 Evans らは,COPD に対する呼吸リハビリテーションはベースラインの息切れの程度に関係なく漸増シャトルウォーキングテスト(Incremental Shuttle Walking Test;ISWT)の歩行距離が延長(表4)したとしている11)。 Rocker らによれば,重症COPD 患者の緩和ケアでは,気管支拡張薬,運動療法,必要に応じて酸素療法を実施し,症状が持続または悪化する場合,口すぼめ呼吸,送風療法,リラクセーションテクニック,動作における呼吸調節(ペーシング)を追加するとしている12)。 表3呼吸リハビリテーションの有益性1)COPD について(evidence の質6))・呼吸困難の軽減(evidence A)・運動耐容能の改善(evidence A)・健康関連QOL の改善(evidence A)・不安・抑うつの改善(evidence A)・入院回数および期間の減少(evidence A)・予約外受診の減少(evidence A)・増悪による入院後の回復を促進(evidence A)・増悪からの回復後の生存率を改善(evidence A)・下肢疲労感の軽減・四肢筋力と筋持久力の改善(evidence B)・ADL の向上・長時間作用性気管支拡張薬の効果を向上(evidence B)・身体活動レベル向上の可能性・協働的セルフマネジメントの向上・自己効力感の向上と知識の習得 2)ILD について(evidence の質7))・6 分間歩行距離の延長(moderate)・最大酸素摂取量の改善(low)・呼吸困難の改善(low)・健康関連QOL の改善(low) (文献2,6,7より作成) ◆表3のエビデンスレベルA:無作為化コントロール試験,多量のデータB:無作為化コントロール試験,限定的な量のデータC:無作為化試験,観察に基づく研究報告High:推定が変更される可能性が低いModerate:今後の調査により推定が変更される可能性があるLow:今後の調査により推定が変更される可能性が高い
ATS のステートメントによれば,COPD 患者において安静時に実行される口すぼめ呼吸は酸素飽和度を改善し,呼吸パターンをより遅く,より深くすることにより,二酸化炭素レベルを減らし,さらにリラクセーションにより呼吸困難の軽減を認めたとしている13)。 Uronis らはCOPD 患者の難治性呼吸困難とQOLを改善できる緩和ケアとして,非薬物療法では口すぼめ呼吸とポジショニングが有効であり,呼吸リハビリテーションに関して,通常は初期の段階に導入され,進行したCOPD 患者のケアにも役割を果たすとしている14)。さらに口すぼめ呼吸は重度の息切れに伴うパニック発作を回避するのに役立ち,最も一般的に使用される前傾姿勢で腕と上半身で体重を支えるポジショニングは呼吸筋機能を改善する可能性があるとしている。 Dowman らはILD における呼吸リハビリテーションは安全に実施され,6 分間歩行テスト(6-minute walk test;6MWT)の歩行距離(6-minute walk distance;6MWD)延長,最大酸素摂取量,QOL の改善を認め,サブ解析として特発性肺線維症において,さらに呼吸リハビリテーション終了後の呼吸困難の改善を認めている7)。 カナダのCOPD ガイドラインでは,進行したCOPD 患者に対する神経筋電気刺激(neuro-muscular electrical stimulation;NMES)と胸壁の振動は呼吸困難の緩和に効果があり,歩行補助具は患者に有益とし,呼吸リハビリテーションは早期より導入 され,終末期まで継続されるとしている15). Hill らはCOPD などの非がん性呼吸器疾患,慢性心不全,胸部がんの研究18 件により,NMES 単独使用で末梢筋と大腿四頭筋の筋持久力の増強,筋肉量の増加,6MWD の延長,運動強度の増強を認めている。さらに持久力運動との併用で離床までの期間の短縮,6MWD の延長を認めている。また,NMESによる有害事象はなく安全に実施できたと報告されている16)。 呼吸器疾患の症状緩和には標準的な疾患の治療が必要と考えられており,薬物療法を中心とした治療と,非薬物療法である呼吸リハビリテーションや酸素療法,その他のケアなどが組み合わされて包括的に実施される(図2) 12)。呼吸リハビリテーションは生涯にわたり継続して実施される治療介入であり,適応となるすべての患者に導入されることが望まれ,呼吸困難の軽減,身体活動性や健康状態の向上・維持を主な目標として維持期(生活期)で実施され,ACP にしたがって終末期まで継続されるシームレスな介入である2)。 3.評価 必須評価として,フィジカルアセスメント,スパイロメトリー,胸部単純X 線写真,心電図,呼吸困難(安静時,日常生活動作時,歩行時など),経皮的酸素飽和度(SpO2),ADL,身体活動量(歩数), 表4 労作時息切れ(MRC grade)別にみたCOPD 呼吸リハビリテーション前後の漸増シャトルウォーキングテスト(ISWT)の変化 MRC grade 2 3 4 5歩行距離の変化(m)平均(95% 信頼区間) 66(50–83) 63(50–75) 59(49–70) 54(43–64)効果サイズ0.61 0.65 0.58 0.62 P 値<0.0005 <0.0005 <0.0005 <0.0005 (臨床的に意義がある)48 m 以上の増加を達成した割合65% 58% 63% 50%歩行距離のベースラインからの変化(%) 26.5(20.0–33.1)% 37.1(28.0–46.3)% 68.5(39.8–97.0) 78.7(59.8–97.7) (文献11より引用)
フィールド歩行試験(6MWT,ISWT),握力,栄養評価が示されており2),終末期では健康関連QOL の評価も重要である。ただし,評価に協力が得られない場合や,実施困難な評価項目,特に患者の健康関連QOL に影響しない項目は測定すべきではない8)。 呼吸困難の評価は重要であるが,その表出は個別性が高く複雑で多面的側面を有する。評価法としては主観的評価法と客観的評価法があり,主観的評価法には量的評価(Numerical Rating Scale;NRS , Visual Analogue Scale;VAS,修正Borg スケール,修正MRC 息切れスケール),質的評価(Dyspnea-12),機能的評価(MD Anderson Symptom Inventory;MDASI,Chronic Respiratory Disease Questionnaire;CRQ,St. George's Respiratory Questionnaire;SGRQ,COPD Assessment Test; CAT)があり,客観的評価法にはRespiratory Distress Observation Scale;RDOS17)がある(詳細は, p.24 第2 章「症状の評価と対応 1. 症状(呼吸困難・咳嗽・喀痰)の項を参照)。また患者の訴えを参考に,呼吸困難を自覚する要因を探ることも必要である。呼吸困難の原因には不眠,不安,抑うつ,排泄の問題,および対人関係の変化による心理的苦痛の要因もあり,患者の苦痛に配慮した丁寧な問診が必要である。同時に呼吸困難を自覚する頻度,持続時 間,増悪因子,緩和因子についても評価する。終末期では意識レベルの低下や認知機能低下,呼吸困難などの呼吸器症状のために自覚症状の表現が不明瞭または困難となる場合があり,この場合は客観的評価法を使用し,さらに表情などの症状観察,バイタルサイン,医療者・家族の評価を参考に判断する。 4.終末期呼吸リハビリテーションの内容 呼吸リハビリテーションは各項目を単独で実施することは少なく,複合的にプログラムされることが多い。実施場所は医療機関,介護施設,在宅が想定されるが,いずれの場合も同様に計画され,実施環境に応じて実施方法を調整する(図3)。通院が困難な在宅患者では訪問リハビリテーションの適応を検討する。 終末期の時間は患者と家族にとって大切な時間であり,看取る介護者のQOL にも配慮が求められる。終末期の患者と家族との信頼関係の構築には,丁寧に傾聴する姿勢にも心がけるようにする。以下に述べる内容はできる限り患者と家族が実践できるように調整し,計画されるべきである。終末期では自己管理(セルフマネジメント)が困難な場合が多いことから,予後を見通し,ADL の継続と症状緩和に必要な呼吸リハビリテーションの内容を,介護者の介護負担に配慮して計画することが重要である(表5)。1)全身持久力トレーニング・筋力トレーニング 呼吸リハビリテーションの中核は運動療法(全身持久力トレーニング・筋力トレーニング)であるが,コンディショニング,ADL トレーニングを組み合わせて実施する。重症例では低強度の筋力・全身持久カトレーニングの実施を検討する。非がん性呼吸器疾患では身体機能の失調・低下(デコンディショニング)の状態,すなわち呼吸運動パターンの異常,身体の柔軟性の低下,筋力低下,姿勢の異常などを認め,終末期ではより重症となるためコンディショニングの併用は必須となる。2)コンディショニング コンディショニングは口すぼめ呼吸などの呼吸練 緩和薬物的手段 許容できるレベルの呼吸困難 モルヒネ用量調整± 抗不安薬 呼吸困難の持続あるいは悪化非薬物的手段(活動のペースに合わせた呼吸リハビリテーション,口すぼめ呼吸,送風,リラクセーション手技,胸壁振動,NMES)呼吸困難の持続あるいは悪化COPD ガイドラインに基づいた最適な気管支拡張薬± 運動療法± 酸素の追加3 2 1 図2 重症COPD の症状マネジメントと呼吸リハビリ テーションの位置づけ (文献12,15より作成)
高負荷 低負荷 全身持久力・筋力 トレーニング 軽症 重症 中等症 *終末期で想定されるプログラム コンディショニング応用 ADLトレーニング 基礎* 図3 非がん性呼吸器疾患の終末期における呼吸リハビリテーションの考え方患者個別に開始時の重症度,予想される経過,予後,ACP などを考慮し計画され,終末期では図内の重症にあたる内容が想定される。終末期にあっても増悪からの回復期や短期間でも安定期にある場合もあり,プログラムは柔軟に調整される。通院が困難な在宅患者は訪問リハビリテーションの適応を考慮する。ADL 再構築では可能な限り,患者と介護者が実践できるように調整,指導することで健康関連QOL が維持・向上されやすい。 (文献4より改変引用) 表5 非がん性呼吸器疾患の呼吸リハビリテーションにおける項目の代表的な目的 項目主な目的 1)運動療法全身持久力トレーニング運動耐容能の維持と向上,廃用症候群の予防と改善筋力トレーニング筋力低下している筋の筋力維持と向上,および筋力低下の予防2)コンディショニング呼吸練習運動耐容能の改善,呼吸困難の緩和,死腔換気率の減少,気道閉塞の是正,換気効率の改善,呼吸仕事量の軽減,QOL の改善,パニックコントロール安楽な体位呼吸困難の緩和,呼吸筋群および全身筋群の緊張緩和,横隔膜運動の向上,換気血流比不均衡分布の是正,身体の痛みの緩和,倦怠感の緩和リラクセーション呼吸努力の軽減,呼吸仕事量の軽減呼吸介助1 回換気量の増加,換気の改善,呼吸仕事量の軽減,呼吸補助筋のリラクセーション,呼吸困難の軽減,胸郭柔軟性の維持拡大,排痰排痰法喀痰喀出困難の改善,喀痰による呼吸困難の緩和,無気肺や気道感染症の予防と治療,肺機能の改善,酸素化能の改善,エネルギー代謝効率の改善,ADL 維持・向上 3)ADL トレーニング(ADL 再構築)環境調整(立ち上がりのための手すり,便器に肘掛けの手すりの設置,シャワーチェアーの利用,食事の際の肘掛け付きや背もたれ付きの椅子の利用など),動作の工夫(食事の際の安楽な姿勢,移動時に休める場所を増やす,シャンプーハットの利用など)により,動作における酸素消費と呼吸困難の改善,基本的な動作の自立,効率的な介護方法の構築,介護負担の軽減,健康関連QOLの維持4)NMES通常の運動療法が実施困難な重症患者における筋力の維持,向上 (文献4,21,23より作成)
習,安楽な体位,リラクセーション,呼吸介助,胸郭可動域練習,ストレッチング,体操,排痰法などが含まれ,デコンディショニングの状態を改善し,全身持久力トレーニング・筋力トレーニングを効率的に行うための介入と位置づけられているが,呼吸練習,安楽な体位,リラクセーション,呼吸介助は呼吸困難の改善効果がある。安楽な体位にて口すぼめ呼吸と呼吸介助を併用することにより,COPD の呼吸困難の軽減に有効であるとの報告を認める18)。コンディショニングは終末期には特に推奨される項目であるが,各項目で実施上の注意点もある。身体的な介入に加えて,意欲の向上や運動に対する不安感の軽減などの精神・心理的な介入としての役割もあり,必要例において運動療法前の短時間作用型気管支拡張薬の吸入も検討される。a.呼吸練習 COPD において,口すぼめ呼吸,腹式呼吸の呼吸練習や呼吸練習をその他のトレーニングに組み合わせることにより,運動耐容能の改善,呼吸困難の緩和,QOL の改善の効果が期待できる。効果には個人差があるため,呼吸練習を実施した後に個々の患者における適応について再評価する19)。 呼吸練習は呼吸パターンを意識的に変化させることによって呼吸仕事量の軽減を試みる方法で,呼気を長くゆっくりとした呼吸パターンに修正することにより死腔換気率の減少,気道閉塞の是正,換気効率の改善を図る。呼吸練習は呼吸困難の原因により適応とならない場合(主に急性疾患で感染症,心不全,喘息発作,気胸など)があり,さらに終末期では呼吸筋疲労,胸郭可動性の低下などにより,患者に過剰な努力が生じる場合や自覚症状が緩和されない場合もあり,適応に注意する。呼吸練習は労作時やパニック時の呼吸調整にも用いられ,過剰な呼吸努力に対して口すぼめ呼吸を行わせることで,呼気時間の延長,呼気量の増加,呼吸数の減少,吸気努力の削減が期待され,呼気に制限のある閉塞性換気障害に有用であるが,重度の拘束性換気障害では至適な呼吸数の確保を優先し,呼吸練習が適応とならない場合がある。労作時やパニック時の呼吸困難や不安感を回復させる方法として,呼吸練習に後述の安 楽な体位,および呼吸介助(後述)を組み合わせた,パニックコントロールがある(図4)。また,呼吸困難を自覚する動作において動作と呼吸を同期させることにより症状を緩和する方法としてペーシングがあるが,ペーシングの対象となる動作は患者で個別性が大きく,自ら呼吸をコントロールできる場合に適応となる(図5)。 b.安楽な体位 安楽な体位は患者ごと,さらに動作ごとで異なり,前傾姿勢,上肢で体幹を支える姿勢を基本に, (セミ)ファーラー位,左右の側臥位,座位,立位での前傾姿勢など,あらかじめ患者に合った姿位を確認することが重要である。前傾座位と前傾立位は上肢近位筋の呼吸運動ヘの補助作用と横隔膜運動の向上,および側臥位は片側肺障害による換気血流不均等分布の是正が期待される。また,呼吸筋を中心とした全身の筋群の緊張緩和に加え,痛み,全身倦怠,呼吸困難の緩和の効果も期待される。体位保持には電動ベッド,介護用マットレス,クッション,体交枕などを利用する場合もある。 c.リラクセーション 閉塞性換気障害では呼気時の気道抵抗に打ち勝つための努力呼気と肺の過膨張による吸気筋の短縮で,また,拘束性換気障害では胸膜や肺の間質の線維化などにより肺活量が低下し胸郭の可動性が制限されるため,呼吸仕事量を増大させ,呼吸仕事量の増大は呼吸筋の疲労を招く20)。このような呼吸努力の軽減を図る方法でリラクセーションを実施する。リラクセーションには呼吸法,安楽な体位,呼吸介助(後述),呼吸補助筋のマッサージやストレッチなどが含まれる。またJacobson 法,固有神経筋促通手技や,マインドフルネスやアロマセラピー,音楽療法などの支持療法も行われる。 d.呼吸介助 徒手にて胸郭運動を他動的に介助する手技で,患
者の胸郭に手掌面を当て,呼気に合わせて胸郭を生理的な運動方向に合わせて圧迫し,次の吸気時には圧迫を解放することを繰り返す。1 回換気量の増加,換気の改善,呼吸補助筋のリラクセーション,呼吸困難の軽減,胸郭柔軟性の維持拡大,排痰などの効果21)が期待できる。さらにセミファーラー位や前傾座位などの安楽な体位で,口すぼめ呼吸を併用すると効果的である。労作時の低酸素血症に対しても,呼吸に同調させて実施することで動脈血酸素飽和度の低下からの回復時間を短縮させる22)。呼吸介助は適応を見極め,適切な指導を行うことにより家族や看護師でも実施が可能であり,徒手的に実施されることから患者に安心感を得られやすく,在宅で応用できる場合もある。注意点としては正しい手技で実施すること,心不全や気胸などの呼吸困難の原因により適応とならないことがあり,効果が期待できない急速な呼吸困難には適切な処置が必要となる。 e.排痰法23) 気道内分泌物の排出を促す手段で,気道クリアランスとも呼ばれる。急性および慢性呼吸障害を問わず明らかな気道内分泌物の貯留を認め,自力での喀出を十分に行うことができない患者で,喀痰量の目安は30 mL/ 日以上が対象となる。非がん性呼吸器 疾患の終末期では気道内分泌物のコントロールが困難となる場合があり,排痰に多大な労力を費やすことで日常活動を制限され,さらに分泌物の貯留が呼吸困難の原因となっていることもある。排痰法の目的は,呼吸困難の軽減,無気肺や気道感染症の予防と治療,肺機能の改善,エネルギー代謝亢進の抑制,ADL の向上などである。排痰法には体位排痰法,自己排痰法,排痰器具を利用する方法,排痰手技がある。排痰器具には,呼気時に気道内に陽圧を加えて気道閉塞を防ぎ気道内分泌物の移動を促す呼気陽圧(positive expiratory pressure;PEP)療法や,PEP 療法に振動法を組み合わせた振動PEP 療法がある。器具は患者専用に購入していただき,使用方法を指導する。排痰器具により自己排痰が可能となる可能性があるが,適切に実施できる患者の能力が求められる。 終末期で自己排痰が困難となった場合,患者の負担にならない排痰法の選択が重要であり,体位排痰法に排痰手技を併用することが多い。排痰手技には呼吸介助,Squeezing などがあり,吸入療法を併用しながら行うとより有効である。 図4 座位でのパニックコントロールの例座位以外にもセミファーラー位,側臥位など患者個別にどの姿勢が呼吸困難を回復しやすいか,あらかじめ評価しておく。 (文献4より引用)
3)ADL トレーニング(ADL 再構築) ADL トレーニングの目的は基本的なADL を維持し,遂行に必要な身体機能を保つことであり,可能な限り早期より終末期を意識して,酸素消費を抑えて呼吸困難を軽減できる動作要領の指導や環境の整備のための作業療法が必要である。非がん性呼吸器疾患の終末期でも増悪後の回復期や安定期には心身機能の改善やADL の拡大が得られることもあるが,増悪を繰り返すことで徐々に身体機能が低下し,同時に身体活動性が制限される。呼吸困難とADL は密接な関係にあり,相互作用でさらに活動が制限される。呼吸困難,ADL の低下はいずれも心理的にも大きな影響を及ぼすことから,患者の健康関連QOL を維持するために,症状緩和のための ADL トレーニングは重要な役割を担う。終末期では以前のADL に回復できず,動作方法を修正・変更することや福祉用具,介護を導入・変更することがあり,長期的な生活を事前に想定し,繰り返し再構築する視点が重要となる。患者ごとにポイントとなる動作に対して前述の呼吸法を応用した動作法(ペーシング)を指導し,介助が必要な動作は介護者に介助法を指導し,酸素吸入,薬物療法を適切に実施させる。在宅酸素療法において患者が酸素吸入を処方通りに行っていない可能性があり,在宅人工呼吸器などを含め,日常的に使用しなければならない機器がある場合は,適切に使用するように指導を行 息を吸う1 2 3 4 5 6 a)歩行時の呼吸パターン 吐き出す吸う 1 4 3 2 2 3 4 1 1 吐き出す 吐き出す吸う 吸う 吸うb)階段昇降時の呼吸パターン(重症の場合) 図5 歩行,階段昇降時のペーシングの例呼吸法を目的の動作に同期させ実施する。ペーシングの対象となる動作は患者で個別性が大きく,自ら呼吸をコントロールできる場合に適応となる。 (文献4より引用)
う。動作中のパニックには,その動作に応じた体位と呼吸法を指導(パニックコントロール)する。呼吸困難を自覚しやすい動作には上肢を挙上する動作,上肢を利用した反復動作,腹部を圧迫する動作,一時的に息止めする動作がある24)。さらに終末期では座位や寝返りなどの基本的な起居動作でも強い呼吸困難を自覚することも多い。動作時の呼吸補助筋の活動を効果的にするための姿勢や,呼吸困難を回避するために動作を区切ること,福祉用具を利用した動作などの工夫と指導も効果的である。自力での活動が困難な場合の福祉用具や介護サービスとして,入浴における手すりや椅子などの設置,在宅では入浴車サービスの導入,排泄におけるポータブルトイレや採尿機の利用,電動ベッドやマットレスの利用,酸素ボンベを搭載できる歩行器や車椅子などを検討する。さらに必要に応じて身体介護の適応も検討する。在宅では介護保険制度のサービス利用もある。4)NPPV を併用した運動療法 呼吸リハビリテーションにおける非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)の併用は,運動療法実施中に換気補助として行う方法と,夜間のNPPV と運動療法を組み合わせる方法がある。NPPV ガイドライン(第2版)では,「運動中のNPPV は,特に高度の呼吸機能障害例において,運動強度・運動時間を向上させる」,「[夜間のNPPV と運動リハビリテーション(運動療法)の組み合わせは,高度の呼吸機能障害例の運動耐容能改善に有用である]がともにエビデンスレベルII(1 つ以上のランダム化比較試験),推奨度B(行うよう勧められる。中等度の根拠がある,または強い根拠があるが臨床の有効性がわずか)に位置づけている25)。 運動中のNPPV による換気補助は,4 〜8 週間の運動療法においても特に重症COPD おいて有用性が明らかになってきている。また夜間のNPPV による呼吸筋の休息と昼間の運動療法の組み合わせは,少数ながらランダム化比較試験があることから,運動耐容能の改善などの有効性は明らかであると思われる。ただし主たる対象は高二酸化炭素血症を呈する長期NPPV 適応症例あるいはその予備軍と考え られている。5)HFNC を併用した運動療法 ハイフローセラピー(HFNC)とNPPV は,通常の酸素療法では得られない呼吸筋仕事量の軽減効果を得ることができるが,運動療法中の併用はNPPV よりもHFNC が手技的に簡便である。 少なくとも3 ヵ月間の在宅酸素療法を実施している安定期COPD を対象とした多施設共同のランダム化比較試験では,エルゴメーターによる運動療法中のHFNC 併用群およびベンチュリマスク使用群で運動耐容能に与える効果を比較している26)。プライマリアウトカムであるendurance time,セカンダリアウトカムである6MWD は両群で改善し, 6MWD はHFNC 群で有意により大きく増加している。また低酸素血症を呈するCOPD 患者を対象とした自転車エルゴメーターによる定負荷運動時におけるendurance time をLTOT(3L/min)およびHFNC (60L/min)での2 条件で実施した研究では,HFNC群の方が有意にendurance time が延長し,低酸素や呼吸数,呼吸困難の軽減が得られたと報告している27)。このように運動療法とHFNC の併用は効果的であると考えられるが,今後HFNC 併用がより効果的となる病態や併用時の運動療法の内容等についてはさらなる検討が必要である。6)NMES NMES は電気刺激によって運動神経を介して脱分極を起こし,筋収縮を誘発するものである。COPD 患者を中心とした呼吸不全患者に対するNMES については多くの報告があり,Cochrane review では進行したCOPD 患者などの筋力低下に対して有効であると結論づけられている16)。一方,現状ではMNES機器は高価であり,普及には至っていない。またMNES の対象となる患者は進行したCOPD であることから栄養状態が不良である可能性があり,栄養療法との併用も含めて,適応について注意が必要である。
今後の課題 ・コンディショニングに関して,終末期における適 応と効果について,継続して検証が必要と考えられる。・NMES について,さらなる機器の開発や在宅での 実施,終末期における検討が必要と考えられる。・終末期の呼吸リハビリテーションは十分に普及し ているといえず,特に地域での医療連携と継続について充足が求められており,地域における課題と対策についてさらなる検討が必要と考えられる。 ▪文 献1)Spruit MA, Singh SJ, Garvey C, et al. An official American Thoracic Society/European Respiratory Society statement: key concepts and advances in pulmonary rehabilitation. Am J Respir Crit Care Med. 2013;188:e13-64. 2)植木純,神津玲,大平徹郎,他.日本呼吸ケア・リハビリテー ション学会,日本呼吸理学療法学会,日本呼吸器学会,呼吸リハビリテーションに関するステートメント.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌.2018;27:95-114. 3)木田厚瑞(著).包括的呼吸リハビリテーション- チーム医療 のためのマニュアル.東京:メディカルレビュー社;1998. 4)日本呼吸ケアリハビリテーション学会呼吸リハビリテーショ ン委員会ワーキンググループ,日本呼吸器学会呼吸管理学術部会,日本リハビリテーション医学会呼吸リハビリテーションガイドライン策定委員会,他(編). 呼吸リハビリテーションマニュアル―運動療法―第2版.東京:照林社;2012. 5)日本呼吸器学会COPD ガイドライン第5版作成委員会(編). COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版2018.東京:メディカルレビュー社;2018. 6)塩谷隆信,高橋仁美(編).呼吸リハビリテーション最前線 身 体活動の向上とその実践.東京:医歯薬出版株式会社;2014. 7)Dowman L, Hill CJ, Holland AE. Pulmonary rehabilitation for interstitial lung disease. Cochrane Database Syst Rev. 2014; CD006322. 8)桂秀樹.非がん性呼吸器疾患の症状と緩和.津田徹,平原佐 斗司(編).非がん性呼吸器疾患の緩和ケア.東京:南山堂; 2017.p.20-35. 9)Marsaa K, Gundestrup S, Jensen JU, et al. Danish respiratory society position paper:palliative care in patients with chronic progressive non-malignant lung diseases. Eur Clin Respir J. 2018;5:1530029. 10)Higginson IJ, Bausewein C, Reilly CC, et al. An integrated palliative and respiratory care service for patients with advanced disease and refractory breathlessness:a randomised controlled trial. Lancet Respir Med. 2014;2:979-87. 11)Evans RA, Singh SJ, Collier R, et al. Pulmonary rehabilitation is successful for COPD irrespective of MRC dyspnoea grade. Respir Med. 2009;103:1070-5. 12)Rocker G, Horton R, Currow D, et al. Palliation of dyspnoea in advanced COPD:revisiting a role for opioids. Thorax. 2009;64:910-5. 13)Mahler DA, Selecky PA, Harrod CG, et al. American College of Chest Physicians consensus statement on the management of dyspnea in patients with advanced lung or heart disease. Chest. 2010;137:674-91. 14)Uronis HE, Currow DC, Abernethy AP. Palliative management of refractory dyspnea in COPD. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2006;1:289-304. 15)Marciniuk DD, Goodridge D, Hernandez P, et al.Managing dyspnea in patients with advanced chronic obstructive pulmonary disease:a Canadian Thoracic Society clinical practice guideline. Can Respir J. 2011;18:69-78. 16)Hill K, Cavalheri V, Mathur S, et al. Neuromuscular electrostimulation for adults with chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2018;5:CD010821. 17)Campbell ML, Templin T, Walch J. A Respiratory Distress Observation Scale for patients unable to self-report dyspnea. J of palliat med 2010;13:285 289 18)Ichiba T, Miyagawa T, Kera T, Tsuda T:Effect of manual chest wall compression in participants with chronic obstructive pulmonary disease. J Palliat Med. 2010;13:285-90. 19)Holland AE, Hill CJ, Jones AY,et al.Breathing exercises for chronic obstructive pulmonary disease.Cochrane Database Syst Rev.2012;10 CD008250. 20)Laveneziana P, Albuquerque A, Aliverti A, et al.ERS statement on respiratory muscle testing at rest and during exercise. Eur Respir J. 2019;53:1801214. 21)神津玲.呼吸介助法.千住秀明,眞渕敏,宮川哲夫(監),他.呼吸理学療法標準手技.東京:医学書院;2008. p.92-5. 22)高橋仁美.呼吸介助.津田徹,平原佐斗司(編).非がん性呼吸器疾患の緩和ケア.東京:南山堂;2017. p.99-104. 23)伊澤和大,神津玲,山下康次,他.排痰法.千住秀明,眞渕敏,宮川哲夫(監),他.呼吸理学療法標準手技.東京:医学書院;2008. p.40-74. 24)日本呼吸ケア・リハビリテーション学会呼吸リハビリテーション委員会,日本呼吸器学会ガイドライン施行管理委員会,日本リハビリテーション医学会診察ガイドライン委員会・呼吸リハビリテーション小委員会,他(編).呼吸リハビリテーションマニュアル−患者教育の考え方と実践−.東京:照林社;2007. 25)日本呼吸器学会NPPV ガイドライン作成委員会(編).NPPV (非侵襲的陽圧換気療法)ガイドライン 改訂第2版. 東京:南 江堂;2015. 26)Vitacca M, Paneroni M, Zampogna E., et al. High-Flow Oxygen Therapy During Exercise Training in Patients With Chronic Obstructive Pulmonary Disease and Chronic Hypoxemia:A Multicenter Randomized Controlled Trial.Phys Ther. 2020;100:1249-59. 27)Bitos K, Furian M, Mayer et al. Effect of High-Flow Oxygen on Exercise Performance in COPD Patients. Randomized Trial. Front Med(Lausanne). 2021;7:595450.
これまでにわかっていること 1.非がん性呼吸器疾患と栄養障害 慢性呼吸不全を呈する非がん性呼吸器疾患の主要な基礎疾患として,COPD,ILD,肺結核後遺症が挙げられる。いずれにおいても低体重あるいは体重減少が認められる場合は予後不良である。特に, COPD 患者では,最も高率に体重減少が認められ,栄養障害が病態や予後と密接に関連している1)。栄養障害はCOPD の重要な併存症であることは広く認識されているが,近年の著しい患者の高齢化を踏まえて,サルコペニアとして捉えた治療戦略の構築が必要となっている。肺結核後遺症でも低体重が高率に認められ,特発性肺線維症では,経年的な体重減少が独立した予後因子として報告されている2)。非がん性呼吸器疾患に対する栄養療法の意義に関しては,ほとんどがCOPD を対象とした検討である。2.COPD における栄養障害 1)栄養評価 可能な範囲で多くの指標を用いて包括的な栄養評価を試みる。日本呼吸器学会が発行しているCOPD診断と治療のためのガイドライン第5 版3)では,推奨される栄養評価項目を,「必須の項目」,「行うことが望ましい項目」および「可能であれば行う項目」として段階的に記載している(表1)。これらの評価項目は,呼吸器疾患全般において適用可能と考えられる。安定期のCOPD 患者では,内臓蛋白では血清アルブミンの低下はなく,アルブミンよりも半減期の短いrapid turnover protein(RTP)の低下がみられる。血漿アミノ酸分析では,分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acids;BCAA)の低下が認められ,芳香族アミノ酸(aromatic amino acids; AAA)との比(BCAA/AAA 比)が低下する。体成分では脂肪量(fat mass;FM),除脂肪量(fat-free mass;FFM),骨塩量(bone mineral content; BMC)の低下がみられる1)。簡易栄養状態評価表Mini Nutritional Assessment R-Short Form (MNA R-SF)のスコアでは約半数で栄養学的リス 症状緩和の手段― 非薬物療法― 3.栄養 第3章 サマリー 非がん性呼吸器疾患では体重減少が高頻度に認められ,予後不良因子となる。COPD において体重減少は,疾患の終末像であるのみならず,COPD の発症と進展のリスクともなるため,早期の栄養学的介入が必要である。不可逆的悪液質と判断するまでは,積極的な栄養管理を行うべきであるが,明確な基準は存在しない。終末期における人工的水分・栄養補給は,患者や家族の意向に配慮する。
クが認められる4)。2)体重減少 body mass index(BMI)を指標とした場合,外来通院中のCOPD 患者を対象としたわが国の調査1)ではBMI <20kg/m2 の体重減少患者の頻度は約30 %であった。体重減少は気流閉塞の重症度と関連しており,軽症では17.4 %,中等症では26.8 %,重症では36.7 %,最重症患者では57.7 %に体重減少が認められた。COPD の自然歴において,体重減少がどの時期から出現するのか明確ではない。平成30年の国民健康・栄養調査5)では65 歳以上の高齢者におけるBMI ≦20kg/m2 の頻度は全体では15.8 %で,男性に限定すると10.3% であった。したがって,横断的にみると軽症COPD 患者でも同年代の一般対照と比較して高率に体重減少を合併していると推測される。近年,前向きコホート研究で低BMI 自体が喫煙歴を調整してもCOPD の有意な発症要因になること6)や,BMI と経年的なFEV1 の低下が相関しており,低BMI であるほどFEV1 の低下率が大きいことも報告されている7)。また,体重減少とCOPD のフェノタイプとの関連も示唆されている。気腫型COPD では約半数でBMI の低下が認めら れ,非気腫型よりもはるかに高率であり8),BMI の低下が気道病変の程度ではなく,気腫化の重症度と相関するとの報告もなされている9)。3)体重減少と臨床経過 軽症,中等症患者ではエネルギー消費量の増大があるものの,食事摂取量もむしろ増加しているとの報告もある10)。重症化に伴う経口摂取量の減少により負のエネルギーバランスが顕在化し,体重減少が進行すると想定される。体成分ではFM は軽度の体重減少患者から認められるが,FFM や骨塩量の減少は中等度以上の体重減少患者で明確となる1)。このことから,初期にはFM が減少し,その後FFMや骨塩量の減少が続発すると推定されるが,体重や体成分の変化と臨床経過との関連については今後さらに検討を要する。 増悪とは呼吸困難,咳嗽,喀痰などの症状が日常の生理的変動を超えて急激に悪化し,安定期の治療内容の変更を要する状態と定義されている3)。BMIやMNA R-SF のスコアが増悪の予測因子となる4)。増悪時には全身性炎症の悪化と同時に血清レプチン濃度が上昇し,摂取エネルギー量も減少する。その結果,負のエネルギーバランスが増悪して栄養障害が進行する。このようにCOPD の長期の臨床経過において,呼吸機能の悪化に加えて増悪も栄養障害の進行と密接に関与し,体重は“stepped decline”を呈すると考えられる。 3.呼吸器疾患と悪液質 慢性疾患の終末期に近い患者では,しばしば意図しない体重減少が認められ悪液質と呼ばれている。基礎疾患に関連して生ずる複合的代謝異常を呈する症候群であり,脂肪組織の減少の有無にかかわらず,筋肉量の減少が特徴とされる。多くの場合,食欲不振,炎症反応の亢進,インスリン抵抗性,蛋白異化の亢進などの代謝異常がみられ,死亡率の増加に結びつく。欧州静脈経腸栄養学会(ESPEN)においてがん患者の臨床的特徴から,前悪液質(pre-cachexia),悪液質(cachexia),不可逆的悪液質(re- 表1推奨される栄養評価項目●必須の評価項目・体重(%IBW,BMI)・食習慣・食事摂取時の臨床症状の有無 ●行うことが望ましい評価項目・食事調査(栄養摂取量の解析)・簡易栄養状態評価表(MNA R-SF)・%上腕囲(%AC)・%上腕三頭筋部皮下脂肪厚(%TSF)・%上腕筋囲(%AMC:AMC=AC -π× TSF)・体成分分析(LBM,FM など)・血清アルブミン・握力 ●可能であれば行う評価項目・安静時エネルギー消費量(REE)・Rapid turnover protein(RTP)・血漿アミノ酸分析(BCAA/AAA)・呼吸筋力・免疫能IBW:80≦%IBW <90:軽度低下,70≦%IBW <80:中等度低下, %IBW <70:高度低下BMI:低体重<18.5,標準体重18.5~24.9,体重過多25.0~29.9 (文献3より引用)
fractory cachexia)の3 段階の病期に分類した概念が提唱されている(図1) 11)。前二段階の緩和期においては可能な限り栄養状態の維持を目的に栄養療法を行う。不可逆的悪液質が臨床的に明確となった場合は,経口,経静脈を含めて積極的な栄養補給は行わず,残された身体機能に対する負荷を抑制する方向にギアチェンジを行う必要がある。 悪液質は主として,がん領域で評価されてきた病態であるが,重症COPD では,“呼吸器悪液質”とも称されるマラスムス型のタンパクエネルギー栄養障害を呈することが知られている。COPD においても,栄養障害を肺病変のフェノタイプと関連付けて,Cachexia(気腫型),Obesity(非気腫型),Sarcopenic obesity(病型と関連なし)などのメタボリックフェノタイプに分類して評価することが提唱されている12)。6 ヵ月で5% を超える体重減少をprecachexia,さらにfat-free mass index(FFMI:FFM〔kg〕/ 身長〔m〕2)の低下が加わった場合(男性< 17 kg/m2,女性< 15 kg/m2)をcachexia と定義している。すなわち,がん領域とは異なり,6 ヵ月で5% を超える体重減少を認めてもFFM の減少がなければPrecachexia と評価されている。 4.栄養療法1)栄養治療の原則 重症例や栄養障害が高度な例では栄養治療の効果が得られにくいため,食事指導を含めた早期の栄養学的介入を考慮する。特に,多職種からなる栄養サポートチーム(nutrition support team;NST)による介入が望ましい。体重減少患者(%IBW <90 %あるいはBMI <20 kg/m2)で食事摂取量を増やすことが困難な場合や進行性の体重減少が認められる場合には,経腸栄養剤による経口栄養補給療法を考慮すべきである。体重減少率が1 週間で2% 以上, 1 ヵ月で5 %以上,3 ヵ月で7.5 %以上,6 ヵ月で10 %以上であれば有意な体重減少と考える。FFM 減少患者やFFM の減少が予測される中等度以上の体重減少患者(%IBW= 実測体重/ 理想体重× 100 < 80 %)では栄養補給療法が必須となる(図2) 13)。栄養治療においては,治療計画の立案,治療の実施, 定期的なモニタリング,治療計画の変更という過程を繰り返して行うことによって最適な治療を行うことが可能となる。2)食事指導 食後に腹部膨満感や呼吸困難を訴えることが多いため,食事は4 ~6 回の分食として1 回あたりの食事量を少なくする。消化管でガスを発生しやすい食物や炭酸系飲料水の摂取は避けるように指導する。肺性心の合併による浮腫があれば,塩分は7 ~8 g/日に制限する。筋蛋白量の保持には,十分なエネルギーに加えて,十分な蛋白源の摂取が必要となる。プロテインスコアの高い良質の蛋白質や,BCAA の含有率が高い食品(牛肉,鶏肉,牛乳,チーズなどの乳製品など)の摂取が勧められる。カリウム,カルシウム,リン,マグネシウム,鉄などの電解質や微量元素は,呼吸筋や四肢運動筋の収縮力保持に重要であり十分な摂取を指導する。骨粗鬆症の合併頻度が高いことからもカルシウム摂取が重要であり,必要に応じてサプリメントによる補給も考慮する。3)栄養補給療法a.経腸栄養剤の投与法 少なくとも3 ヵ月以上の継続を目標とする。明らかな栄養状態の改善が得られない場合でも,栄養障害の進行を抑制する目的で可能な限り継続する9)。また,食事摂取量の維持や腹部膨満感の軽減のために,栄養剤の分割摂取や夕食以降の摂取を指導する。栄養障害を認めるCOPD 患者を対象としたメタアナリシスでは,経口栄養補給療法による総摂取エネルギー量,体重,FFM の増加および握力や,6 分間歩行距離と健康関連QOL の改善なども報告されている14)。 b.経腸栄養剤の選択 エネルギー組成や個別栄養素の含有率など個々に特徴を持った栄養剤のなかから,各症例で病態に適したものを選択する。患者の換気能力,抗炎症作用,アミノ酸組成などが選択基準として挙げられる(図3) 15)。その他,摂食調節からみた選択として,
正常死 体重減少≦5%食欲不振代謝異常を伴う体重減少≧5% BMI<20,体重減少>2%サルコペニア,体重減少>2%のいずれか 経口摂取不良全身炎症を伴うがん悪液質のさまざまな状態異化状態かつ治療抵抗性PS の低下生命予後<3 ヵ月 前悪液質(pre-cahexia)悪液質(cahexia)不可逆的悪液質(refractory cahexia) 積極的な栄養管理(経口栄養補給療法・経管栄養・輸液)可能な範囲の経口摂取 (少量維持輸液) 図1 悪液質の病期 (文献11より改変引用) 運動療法YES YES YES YES YES NO NO NO NO NO 栄養補給療法%IBW<80%進行性体重減少 経過観察進行性体重減少 栄養指導 体重減少(%IBW<90% or BMI<20kg/m2) 重症換気不全 脂質主体脂質 or 炭水化物主体●体重減少率=(通常体重-現体重) / 通常体重≧2% / 1週間≧5% / 1ヵ月≧7.5% / 3 ヵ月≧10% / 6 ヵ月 図2 栄養治療の適応に関するアルゴリズム (文献13より改変引用)
オクタン酸の含有量が多い栄養剤の投与は,摂食促進因子であるグレリンの血中濃度を上昇させる。近年1.5 kcal/mL ~4 kcal/mL の少量高カロリータイプの栄養剤も選択可能となっている。これらは基本的に脂質のエネルギー比率が高いため,エネルギー効率が高い。少量で高エネルギーの摂取が可能であるため,一定量以上の栄養剤の飲用が困難な場合に推奨される。栄養剤の選択にあたっては,病態に加えて患者の嗜好に合わせた栄養剤の選択や少量頻回の摂取,いわゆるsip feed「ちびちび飲み」がコンプライアンスの向上に寄与する16)。また,夕食以降の摂取を指導することによって食事摂取量の減少を回避する。 5.終末期における栄養管理1)経口摂取 非がん性呼吸器疾患では呼吸機能の低下や低酸素血症の進行に伴い,頻呼吸や努力様呼吸となる。このような場合,咀嚼や嚥下という食事中の行為に伴う呼吸困難が増悪し,食事摂取量の減少や食欲の低下につながる。COPD 患者では嚥下反射の低下がみ られ,誤嚥が増悪の発症要因になる17)。その場合,嚥下しやすい食事形態の考慮や経腸栄養剤の利用も積極的に行う。高炭酸ガス血症を伴う場合は,脂質のエネルギー比率の高い栄養剤が推奨される。食事中の酸素吸入や吸入流量の増加,休息をとりながら時間をかけて経口摂取するように指導するが,十分なエネルギー量の確保が困難な場合が多い。呼吸不全の進行により換気補助療法を導入している場合は,マスクの装着が必要となり,経口摂取がさらに困難となるが,可能であれば食事摂取時のみ,鼻カニューラに変更することも考慮する。特に,高流量の酸素が必要な場合には,リザーバー付のカニューラの使用やハイフローセラピーを検討する。2)経管栄養 呼吸器疾患では基本的には消化管は利用可能であることから,経口摂取が困難な場合は,経腸栄養(enteral nutrition;EN)を考慮する。経鼻胃管では可能な限り細径のチューブを用いて,先端部を十二指腸以遠に留置することが推奨されている。しか 経腸栄養剤の選択 HMB:β- ヒドロキシ-β- メチル酪酸 脂質主体炭水化物主体 脂質主体 ありなし 高炭酸ガス血症↓炎症性サイトカイン 抗酸化作用蛋白合成促進異化抑制作用摂取促進作用 換気能からの選択抗炎症作用からの選択アミノ酸組成からの選択摂取調節からの選択 ω3 脂肪酸ホエイペプチド カルニチン分岐鎖アミノ酸(BCAA) 特にロイシン HMBグレリン 図3 経口栄養補給療法 (文献15より改変引用)
し,NPPV 症例においては,経管栄養が喀痰貯留や誤嚥性肺炎など気道合併症を増加させる原因になる可能性が指摘されており,慎重に実施する必要がある18)。長期的には,経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy;PEG)も検討する。3)経静脈栄養 非がん性呼吸器疾患において,中心静脈栄養(total parenteral nutrition;TPN)は,ほとんどの場合,増悪時において選択されるが,在宅においても施行可能であり,home parenteral nutrition(HPN)と呼ばれる。HPN の適応は疾患を問わず医師が必要と認めた場合とされており,非がん性呼吸器疾患もHPN の適応となりうる。カテーテルの先端は上大静脈に留置されることが多く,中心静脈カテーテルや皮下埋め込み式のポートが用いられる。一般的にHPN は原疾患の治療を入院して行う必要がなく,病態が安定していて,HPN によってQOL が向上すると判断される場合に行う。4)不可逆的悪液質 呼吸不全領域においても,終末期の不可逆性悪液質の段階と判断すれば,経管栄養や経静脈栄養など積極的な栄養投与は行わず,食欲の刺激や嘔気予防などを行いながら可能な範囲の経口摂取を促すことになる。 今後の課題 1.積極的な栄養管理の適応とすべき病期 慢性呼吸不全において呼吸機能障害は不可逆的であることから,終末期の栄養管理をどの時点まで積極的に行うべきか判断が難しい。欧米で行われた在宅酸素療法あるいは換気補助療法を受けている慢性呼吸不全患者を対象とした検討では,経口テストステロン製剤および経腸栄養剤の投与と呼吸リハビリテーションの併用により,体重やFFM の増加,予後の改善がみられたと報告されている19)。しかし,進行した慢性呼吸不全患者における栄養療法の有効性に関して十分には検討されておらず,今後の課題 と考えられる。また,どの程度の栄養障害までならば,治療介入の意義があるかという観点からの検証も行われていない。基本的にはがんと同様に不可逆的悪液質と判断するまでは,栄養状態の維持・改善を目指すべきだと考えられるが,呼吸状態の悪化との兼ね合いもあり,積極的に栄養学的介入を行うか否かは,患者や家族の意向も踏まえたうえで決定せざるをえない。 2.人工的水分・栄養補給の可否 高齢者が経口摂取できなくなった場合に,人工的水分・栄養補給(artificial hydration and nutrition;; AHN)を導入するか否かについて,日本老年医学会が「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」を公表している20)。同ガイドラインではAHN 導入に関する意思決定プロセスを具体的に提示している(図4)。慢性呼吸不全の終末期に特化したガイドラインが存在しないが,慢性呼吸不全患者の多くは高齢者であり,呼吸機能の回復が期待できないという側面から同ガイドラインを適用する妥当性は高いと考える。一方,呼吸機能障害の重症度と,栄養障害の程度が乖離している場合もあり,少なくとも一時的なAHNがQOLの改善に寄与する患者も存在することから,慎重に適応を判断する必要がある。 3.管理栄養士の役割 栄養障害を認める呼吸器疾患患者に対する栄養食事指導は診療報酬上も認められており,徐々に浸透しつつある。しかし,終末期の呼吸不全における管理栄養士の役割については必ずしも明確ではない。強い呼吸困難や倦怠感,食思不振などにより経口摂取が困難な場合が多いが,食べることはQOL を維持するうえで重要な要素である。最後まで患者の症状や嗜好を考慮した個別対応を病院食の範囲内で提供を行う努力が求められる。緩和ケアチームとも連携しながら,経験を蓄積していく必要がある。
▪文 献1)吉川雅則,木村弘.1.栄養障害.日内会誌.2012;101:1562- 70 2)Nakatsuka Y, Handa T, Kokosi M, et al. The Clinical Signifi- cance of Body Weight Loss in Idiopathic Pulmonary Fibrosis Patients. Respiration. 2018;96:338-47. 3)日本呼吸器学会COPD ガイドライン第5版作成委員会(編). COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版2018.東京:メディカルレビュー社;2018. 4)Yoshikawa M, Fujita Y, Kimura H, et al. The Mini Nutri- tional Assessment Short-form predicts exacerbation frequency in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Respirology. 2014;19:1198-203. 5)厚生労働省.平成30年国民健康・栄養調査結果の概要. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000635990.pdf (閲覧:2020年6月18日) 6)Park HJ, Cho JH, Kim HJ, et al. The effect of low body mass index on the development of chronic obstructive pulmonary 口から食べられなくなった,必要量を摂れなくなった 経口だけでは,水分・栄養摂取が不十分 経口摂取の努力を続ける 何らかの工夫により,経口的に,ある程度 の水分・栄養の摂取が見込まれる 何らかのAHN を導入すれば 延命が見込まれる AHN により,それなりのQOL の達成が見込まれる ・候補となる選択肢の益と害を理解したうえで,本人の意思(推定を含め)と人生についての理解に照らして最善の道を,本人・家族および医療ケアチームで考える・AHN導入をめぐって候補となっている選択肢が何を目指すのか明確にする1生命維持により,本人のよい人生が当面続くことを目指す2本人が残された時間をできるだけ快適に過ごせることを目指す AHN 導入後も継続的にその効果と本人にとっての益を再評価し,AHN からの離脱や,AHNの中止ないし減量の可能性を含めて再検討する(本フローチャートのプロセスを辿り直す) 医学的に,AHN に延命効果 があるとは判断できない AHN により,本人のよい人生を支えうるQOL を達成できるか疑わしいAHN は本人の人生にとって 益となるとはいえない AHN を導入しないことを含め,候補となる選択肢を検討する 1と2が両立するのなら,何らかのAHN を導入する1の達成が疑わしい場合は,本人の人生にとって何が最善かを判断する1の達成が不可能なら, 2の達成を目指す 経口摂取の可能性を身体機能面とケアの実施可能性の面から十分に評価する 図4 人工的水分・栄養補給の導入に関する意思決定プロセスのフローチャート (文献20より改変引用)
disease and mortality. J Intern Med. 2019;286:573-82 7)Sun Y, Milne S, Jaw JE, et al. BMI is associated with FEV1 decline in chronic obstructive pulmonary disease:a metaanalysis of clinical trials. Respir Res. 2019;20:236. 8)Kitaguchi Y, Fujimoto K, Kubo K, et al. Characteristics of COPD phenotypes classified according to the findings of HRCT. Respir Med. 2006;100:1742-52. 9)Ogawa E, Nakano Y, Ohara T, et al. Body mass index in male patients with COPD:correlation with low attenuation areas on CT. Thorax. 2009;64:20-5. 10)Hunter AM, Carey MA, Larsh HW. The nutritional status of patients with chronic obstructive pulmonary disease. Am Rev Respir Dis. 1981;124:376-81. 11)Fearon K, Strasser F, Anker SD, et al. Definition and classification of cancer cachexia:an international consensus. Lancet Oncol. 2011;12:489-95. 12)Schols AM, Ferreira IM, Franssen FM, et al. Nutritional assessment and therapy in COPD:a European Respiratory Society statement. Eur Respir J. 2014;44:1504-20. 13)日本呼吸ケア・リハビリテーション学会呼吸リハビリテーション委員会,日本呼吸器学会ガイドライン施行管理委員会,日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会・呼吸リハビリテーションガイドライン策定委員会,他(編).呼吸リハビリテーションマニュアル―患者教育の考え 方と実践―.東京:照林社;2007. 14)Ferreira IM, Brooks D, White J, et al. Nutritional supplementation for stable chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2012;12:CD000998. 15)吉川雅則,木村弘.第10章各疾患の栄養管理. 呼吸不全と慢性閉塞性肺疾患. 岡田晋吾(編). キーワードでわかる臨床栄養令和版.東京:羊土社;2020.p337-43. 16)van den Berg GH, Lindeboom R, van der Zwet WC. The effects of the administration of oral nutritional supplementation with medication rounds on the achievement of nutritional goals:a randomized controlled trial. Clin Nutr. 2015; 34:15-9. 17)Terada K, Muro S, Ohara T, et al. Abnormal swallowing reflex and COPD exacerbations. Chest. 2010;137:326-32. 18)Kogo M, Nagata K, Morimoto T, et al. Enteral Nutrition Is a Risk Factor for Airway Complications in Subjects Undergoing Noninvasive Ventilation for Acute Respiratory Failure. Respir Care. 2017;62:459-67. 19)Pison CM, Cano NJ, Chérion C, et al. Multimodal nutritional rehabilitation improves clinical outcomes of malnourished patients with chronic respiratory failure:a randomised controlled trial. Thorax. 2011;66:953-60. 20)一般社団法人日本老年医学会(編).高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン―人工的水分・栄養補給の導入を中心として―2012年版.東京:医学と看護社;2012.
これまでにわかっていること 窓を開けて外の冷風を取り込むことで患者の強い呼吸困難が改善しうることは,これまでも経験上知られていた。その応用として,手持ち扇風機(handheld fan)を用いて冷風を顔面に当てることで呼吸困難が軽減されることが報告され,メタアナリシスでもその有効性が証明されている1,2)(図) 3)。その機序として,三叉神経第2・3 枝領域の顔面皮膚の冷却や鼻粘膜・上気道の気流受容体を介して中枢における呼吸困難の知覚を変化させることで,呼吸ドライブを低下させ,呼吸困難感を軽減することが考えられている3,4)。なお,足に風を当てても同様の効果は得られなかった。 日常生活において患者自らが比較的容易に行える方法であり,呼吸困難が強い場合は試みてよいと思われる。なお,手持ち扇風機でなくても,据え置き型の扇風機でも同様の効果は得られる。この手法は,The breathlessness support service など呼吸療法や理学療法,緩和ケアなどを複合した呼吸困難軽減プログラムのなかでも用いられており2,5),呼吸困難危機(dyspnea crisis:第2 章「症状の評価と対応 1 呼吸困難・咳嗽・喀痰」の項〔p28〕を参照)の対処法のなかにも含まれている5)。 その他に,経鼻カニュラを介して空気を流すだけで呼吸困難が軽減するという報告もある3)。ただし,低酸素血症を伴わない患者に空気の代わりに酸素を投与しても,運動時を除いて酸素の追加効果は得られない(p.40 第3 章「症状緩和の手段 −呼吸管理−1. 酸素療法」の項を参照) 3,6,7)。なお,最近,手持ち扇風機を用いて顔面へ送風することで,咳嗽が軽減するとの報告もなされている8,9)。 今後の課題 がんやCOPD 患者などにおいて,顔面に冷風を当てたり,経鼻カニュラを介して鼻腔内に気流を送り込んだりすることによって呼吸困難を軽減することは,コストもかからずに導入が容易であるため,すでに臨床現場で実際に応用されている。今後,呼吸困難が軽減する詳細なメカニズムを明らかにして,より効果的な送風方法や流量を検討する必要がある。さらにハイフローセラピーの有効性の一部に,同様の呼吸困難軽減のメカニズムが関わっている可能性があり,今後の検討が必要である。なお,包括的な呼吸困難軽減プログラムやセルフマネージメン 症状緩和の手段― 非薬物療法― 4.その他の非薬物療法 第3章 1.送風(扇風機・経鼻カニュラ) 手持ち扇風機などで顔面に冷風を送ることで,進行性呼吸器疾患患者における治療抵抗性の呼吸困難が改善することが証明されている。 サマリー
これまでにわかっていること 鍼治療は伝統医学の一つであり,その効果としては,鎮痛1),循環の改善2),筋緊張の緩和3),抗炎症4),筋萎縮の防止5)などが知られているが,近年,呼吸困難の軽減効果が注目されている6 −8)。代表的な効果である鎮痛の機序としては,鍼刺激によりポリモーダル受容器を介してAβ線維,A δ線維,C線維が刺激され中枢に伝達されることで鎮痛系が賦活されると考えられている9)。特にC 線維系が刺激されると中脳水道からの内因性オピオイドが賦活されて鎮痛効果が得られるが,鍼刺激による呼吸困難の軽減効果にもこの内因性オピオイドが関わっていると考えられる。また,呼吸困難は努力性呼吸を引き起こすために,呼吸(補助)筋疲労を生じて呼吸困難を増悪させるが,鍼刺激は脊髄反射により効率的に筋緊張を緩和し,また,筋血流を増加させることにより筋疲労の回復を促進すると考えられている2,3)。 呼吸器疾患領域において,鍼治療はこれまで気管支喘息やILD,COPD などの患者に対してその効果が検討されてきた10)。 1.呼吸困難の軽減効果 近年,特にCOPD 患者を対象にして,鍼治療による呼吸困難の軽減効果が検討されてきた。例えば,鍼治療とSham(偽鍼)治療を3 週間以上実施し,6 分間歩行試験やシャトル歩行試験における呼吸困難を修正Borg スケールやVAS で評価したランダム化比較試験が行われた。一部の研究では,日常における呼吸困難をVAS にて評価している。これら多くの研究で鍼治療による呼吸困難の有意な軽減効果が認められ,さらにメタアナリシスでもその有効性が示された6-8)(図1)。この呼吸困難軽減の機序については,上述の呼吸筋疲労の軽減,筋過緊張の改善,内因性オピオイドの賦活などが考えられている。 2.その他の効果 その他,鍼治療による運動耐容能11,12)やQOL12)の向上,抗炎症効果13),栄養の改善効果13)も示されている。一方で,鍼治療は1 秒量など呼吸機能に対しては大きな影響を与えない7)。 2.鍼治療 近年,鍼治療がCOPD 患者などの呼吸困難を有意に軽減することが示されており,今後,広く臨床応用されることが期待される。 サマリー トにおいても,より具体的な送風方法に関する患者教育の開発が必要と思われる。 2010 2015 2017 -7.00[-11.48,-2.52] -11.87[-19.35,-4.39] -15.30[-20.67,-9.93] -11.17[-16.60,-5.74] 2.286 3.815 2.74 -7 -11.87 -15.3 Galbraith 2010 Booth 2015 Wong 2017 合計(95%信頼区間)異質性:Tau2=14.53;Chi2=5.53,df=2(p=0.06);l2=64%全体の効果の検定:Z=4.03(p<0.0001) 研究平均の差標準誤差IV,Random,95%信頼区間IV,Random,95%信頼区間年平均の差平均の差 手持ち扇風機の介入がないほうが優れる手持ち扇風機が優れる -20 -10 0 10 20 図安静時の手持ち扇風機による呼吸困難改善効果メタアナリシスでもその有用性が証明された。 (文献3より引用)
今後の課題 今後,臨床応用されるためには,施術者の呼吸器疾患に対する理解を深め,施術方法の統一化・技術の標準化を図ることが重要である(図2)。特に,胸郭周囲への施術時に決して気胸を起こさないために 刺入深度を制限するガイド鍼の利用など有害事象に対する安全面の強化が求められる。また,COPD 以外の呼吸器疾患に関しても臨床研究を進める必要がある。 3.セルフマネジメント 慢性疾患患者のセルフマネジメントは,病気による影響を最小限にし,日々の生活をよりよいものにするために,患者が生涯にわたって取り組む課題である。非がん性呼吸器疾患患者のセルフマネジメントの効果として,呼吸困難の緩和やQOL の向上が報告されている。セルフマネジメントには多くの要因が影響しており,緩和ケアにおいても患者を包括的に支援していくことが重要である。 サマリー-4.84 0.4 -0.5 5.65 4.897 -0.4 -4.38[-6.60,-2.16] -4.00[-4.80,-3.20] -3.90[-5.43,-2.37] -2.40[-3.86,-0.94] -0.55[-1.45, 0.34] -0.50[-1.47, 0.47] -2.53[-4.07,-0.99] 146 4.4 1.9 4 1.9 1.8 1.5 24 30 33 12 31 16 -9.22 -3.6 -4.4 3.25 4.343 -0.9 Lewith 2004 Suzuki 2012 Feng 2016 Jobst 1986 Maa 1997 Deering 2011合計(95%信頼区間)異質性:Tau2=3.23;Chi2=52.91,df=5(p<0.00001);l2=91%全体の効果の検定:Z=3.22(p=0.001) 研究平均[1]標準偏差[1]標準偏差[1] Total平均[1] 3.4 1.2 2 1.75 1.8 1.6 24 32 32 12 31 25 156 Total 13.7% 18.2% 16.1% 16.3% 18.0% 17.8% 100.0% Weight IV,Random,95%信頼区間IV,Random,95%信頼区間[1] 対照群鍼治療群平均の差平均の差 対照が優れる鍼治療が優れる-10 -5 0 5 10 図1 3週間以上の鍼治療による呼吸困難改善効果メタアナリシスでもsham 群と比較して呼吸困難を有意に改善した。 (文献8より引用) 図2 鍼治療の刺鍼の代表例 (文献11より改変引用)
これまでにわかっていること 1.セルフマネジメントとは 慢性疾患患者のセルフマネジメントは,病気による影響を最小限にし,日々の生活をよりよいものにするために,患者が生涯にわたって取り組む課題とされ,その要素として「医学的管理を行う」「普段の活動や役割を保つ」「感情の変化に対処する」の3 つの課題と5 つのセルフマネジメントスキルが挙げられている1)(表1,2)。 患者のセルフマネジメント能力は,さまざまな要因によって影響を受けることが報告されており, COPD 患者においては,呼吸困難だけでなく,病気 に対する認識,不安,抑うつ,希望などの心理的要因,社会的孤立,社会的役割の喪失,ソーシャルサポート,ヘルスリテラシーなどの社会的要因,生きる意味,スピリチュアルティなどの実存的要因などが明らかになっている2)。緩和ケアにおいてもセルフマネジメントには,多くの要因が影響しており,患者を包括的に支援していくことが重要である。 2.セルフマネジメントの効果 非がん性呼吸器疾患患者のセルフマネジメントの効果として,患者が呼吸困難の悪循環を好循環に変換させ呼吸困難を軽減させることや3)呼吸困難のコントロール感が向上すること,QOL の向上や予後が改善することなどが報告されている4,5)。呼吸困難の緩和では,非薬物療法である呼吸リハビリテーションや運動,教育や行動変容によって改善することが報告されており6),セルフマネジメントは症状緩和において大きな効果をもたらすことが期待される。 3.セルフマネジメント支援の方法 呼吸ケアリハビリテーションステートメント7)において,「セルフマネジメント教育は,健康問題をもつ人が疾患に関連する知識を得るだけではなく,自身が多様な価値観に基づき達成目標や行動計画を医 表1セルフマネジメントとは 治療や療養法を続けるなど医学的管理を行う薬を飲む,正しく吸入薬を使用する,運動療法,定期受診,症状を正確に伝える,食生活の改善,禁煙・副流煙の回避,息切れのマネジメント,在宅酸素療法を取り入れる,増悪の早期発見と対処(アクションプラン)普段の活動や役割を保つ日常生活動作役割(家事・育児,仕事)趣味・生き甲斐となる活動慢性疾患がもたらす感情の変化に対処する怒り,将来への不安感と向き合う期待や目標への変更うつ,家族や友人との関係の変化など (文献1より作成) 表2セルフマネジメントスキル スキル内容介入 問題解決問題の明確化・目標設定・可能な解決策の模索・解決策の実行,評価困っていること,心配なことなど関心を示すことを丁寧に聴き,何が問題となっているのか,ともに考え適切な解決策をともに導く。解決策の実行,結果の評価も含む 意思決定酸素の流量調整,症状の変化に対する対応,在宅医療支援の導入,終末期の迎え方など日々のさまざまな行動を決めるために,必要な情報を提供する。病状,酸素の必要性,必要な酸素流量,低酸素による身体への影響などの理解を促す資源の活用インターネットや地域の情報などいかに資源を見つけて活用するか患者に応じた利用可能な資源(身体障害者手帳の取得や介護保険によるサービスの提供など)の情報提供 患者- 医療者のパートナーシップの形成医療者に症状や考えを伝え,納得して治療やケアを選択できる関係性HOT *を取り入れながら生活をするなかでの頑張り,苦悩など医師に伝達したり,自分で意見を伝えられるように支援する 行動を開始する選択したマネジメントの行動を実際に行う短期間のアクションプランを立てて実行することを含む実際行動に移すことの大変さに共感しながら,自己効力感への支援を行う*HOT:home oxygen therapy(在宅酸素療法) (文献1より作成)
療者と協働しながら作成し,問題解決のスキルを高め,自信をつけることにより健康を増進・維持するための行動変容をもたらす支援である」と定義されている。呼吸困難の増強や心理社会的,スピリチュアル的な問題を抱える終末期の患者が,呼吸困難のセルフマネジメントを行うためには早期からセルフマネジメント教育が必要である。 まず医療者は,患者が身体的・心理社会的問題を抱え,自身の価値観をも揺さぶられるなか,セルフマネジメント能力を身につけることは複雑で大変な努力を有することを理解しておく。そして,患者とパートナーシップを構築し,病いの体験やライフヒストリーなどについての対話により患者の価値観, 望む生活を明確にする。 次に,患者がつらいと感じている症状を患者自身がコントロールできると思える行動計画を患者とともに立案する。目標達成に向けてステップ・バイ・ステップ法で小さな目標を立て,患者個々に必要なテーラーメイドの知識と技術の提供および自己効力感の向上を図る。 自己効力感とは,「ある特定の行為を達成するのに必要な行動を体系的に実行していく自分の能力に対する信念」8)のことをいう。つまり,「自分はある行動をうまくできる」という自信のことである。患 ◆用語解説・学習性無力感:努力を重ねても望む結果が得られない経験・状況が続いた結果,何をしても無意味だと思うようになり,不快な状態を脱 する努力を行わなくなること。 ・行動形成(シェイピング法):目標とする行動の獲得に向けて,その行動を小さなステップに分けて,段階的に獲得へ導いていく方法。・アドボカシー:「権利擁護」のこと。弱い立場にある人の生命や権利,利益を擁護して代弁すること。・リフレイミング:ある枠組み(フレーム)で捉えられている物事を,枠組みを外して,違う枠組みでみること。リフレイミングにより物 事の意味を変化させポジティブなものにすることができる。 ・ヘルスリテラシー:健康面での適切な意思決定に必要な,基本的健康情報やサービスを調べ,理解し,効果的に利用する個人的能力の程 度を意味する。 表3自己効力に影響する4つの情報源と方路 情報源自己効力を高める情報自己効力を下げる情報方略遂行行動の達成・自分で行動し達成できたとい う成功体験の累積・失敗体験の累積・学習性無力感・行動形成(シェイピング法)・ステップ・バイ・ステップ法 代理的経験(モデリング)・自分と同じ状況で,同じ目標 をもっている人の成功体験や問題解決法を学ぶ・条件の揃っている人ができて いるのを見聞きする・モデリングの対象を選ぶ・方法論を教える 言語的説得・専門性に優れた魅力的な人か ら励まされたり褒められたりする・きちんと評価される・言葉や態度で支援され,「信じられている」「認められている」と感じる・課題となっている行動を推奨する文化(社会的雰囲気)がある・自己暗示をかける・やっていることを認めてもら えない・一方的に叱責される・無関心に示されたり無視され たりする・契約書(相互契約の確認書)を 取り交わす・クライアント自身がアクションプランを立てるのを援助する・アドボカシー・自己強化 生理的・情動的状態・課題を遂行したときに,生理 的・情動的に良好な反応が起こり,それを自覚する・「できない」という思い込みか ら解き放たれる・疲労,不安,痛み,緊張,空腹・マイナスの思い込み・気づきを高める・思い込みを論破する・リラクセーション・ポジティブシンキング・リフレイミング (文献9より引用)
自己効力感 結果への期待 危険性の認知目標意図行動計画 健康行動 外的な変動因と資源 行動コントロール 図1 健康行動過程からのアプローチ (文献10より引用) 呼吸思考・感情 機能 非効率な換気呼吸仕事量の増加 呼吸数増加呼吸補助筋の不適切な利用動的過膨張 心血管系および筋肉のデコンディショニング活動低下社会的孤立介助に依存不安,パニックに陥る失望,怒り,気分が落ち込む 感覚に絶えず注意がいく過去の経験に関する記憶死についての誤解と思い 呼吸困難 図2 呼吸困難を持続・悪化させる3つの悪循環 (文献3,11,12より改変引用)
今後の課題 セルフマネジメントの理解や指導力は,職種や施設間によって格差があり,医療者のスキルアップにより均てん化を図ることが,今後の普及に向けての一つの課題であろう。 また,非がん性呼吸器疾患の緩和ケアにおいて,セルフマネジメントがどのような役割を果たすのか,どのような効果をもたらすのかは,まだ十分に明らかになっておらず,研究を積み重ねることが必要である。これまでにわかっていること 認知行動療法はCOPD 患者の不安,抑うつ,QOLを改善し,救急部門の受診を減らすことが報告されている1)。認知行動療法は,「物事の捉え方」である認知と,行動の「役割や成り立ち」を理解して対応することで苦痛を緩和する心理療法である。非がん性呼吸器疾患患者においては,図12)に示すような思考,感情,行動,身体感覚が相互に影響する負の連鎖が存在する。非がん性呼吸器疾患に対する認知行動療法はこの負の連鎖を図22)に示すような正の連鎖に移行させるための複数の介入が含まれたパッケージ治療といえる。認知行動療法を実践している医療者の協力が得られる施設は限られると考えられるため,非専門家が日常臨床でそのエッセンスを活 者の自己効力感を高めるために成功体験,代理的経験,言語的説得,生理的・情動的状態の4 つの情報源をもとに働きかけると効果的である8)(表3) 9)。 患者が自己効力感を高められるよう,看護師は患者とともに行動計画を実施することが重要である(図1) 10)。 呼吸困難に対するセルフマネジメント支援を行うにあたっては,医療者は息切れを増強させている原因をアセスメントし,呼吸困難の3 つの悪循環のサイクル(図2) 3,11,12)のなかで優先的にかかわるべき主要なサイクルを同定し,そこに焦点を当てて介入していくことが重要である。呼吸困難が最もつらい終末期の患者では,まずどんな動作・行動で呼吸困難が生じるかを明らかにし,患者が呼吸困難の起きる動作・行動をコントロールできるようセルフマネ ジメント支援を行う。 また,呼吸困難の悪循環に対処するためには,心理社会的ケア,スピリチュアルケアにより尊厳の保障や自己価値が維持され,心の安寧が保たれることも大切である。このような対処をするためには,看護師の果たす役割は大きく,さらに精神・心理の専門家との協働(心理療法の依頼など)も重要である。 呼吸困難が増強することによって,咳や疲労感,不安などほかの症状が悪化することや,これらの症状が悪化することにより呼吸困難が増強することもあり13,14),非がん性呼吸器疾患をもつ患者の緩和ケアでは,呼吸困難だけでなく,包括的な症状緩和に対するセルフマネジメントが必要である。 4.心理療法 非がん性呼吸器疾患患者においては,思考,感情,行動,身体感覚が相互に影響する負の連鎖が存在する。認知行動療法はCOPD 患者の不安,抑うつ,QOL を改善し,救急部門の受診を減らす。本邦においては非がん性呼吸器疾患に対する心理療法に精通した臨床心理士・公認心理師がほとんどおらず,そのような心理職の育成や診療報酬加算といった今後の対応が望まれる。 サマリー
用できるように,非がん性呼吸器疾患に対する認知行動療法に含まれることの多い技法について概説する。ただし,この通りに行えばうまくいくというものは少なく,経験やトレーニングが必要である。また,本邦においては非がん性呼吸器疾患に対する心理療法に精通した心理職がほとんどいないことは大きな課題であり,そのような心理職の育成や診療報酬加算の要望といった今後の対応が望まれる。 1.心理教育 非がん性呼吸器疾患患者に不安(パニック発作を含む),抑うつの頻度が高いこと,身体症状と心理症状が相互に影響することを説明する。また,図1,図2のような図を示しながら,認知と行動のメカニズムを説明し,認知行動療法がどのような心理療法であり,どのように役立つかについて説明する。 2.呼吸法 呼吸をより効果的にコントロールする方法として,口すぼめ呼吸,腹式呼吸を習得してもらう。呼 吸法の習得は呼吸リハビリテーションで対応可能と考えられる。 ・口すぼめ呼吸 1鼻から息を吸う2遠くのロウソクを消すようなイメージで口をす ぼめる3口をすぼめた状態で息を長く,ゆっくりと吐く ・腹式呼吸 13 つ数えて,お腹を膨らませながら,鼻から息 をゆっくり吸う。2口から息をゆっくりと吐く。 3.リラクセーション法・腹式呼吸 上記参照 思考 行動 身体感覚感情 呼吸ができない危険だ息が止まる対処できない 不安いらいらコントロール感欠如 心拍が速くなるもしくは不整になる過換気になる汗をかいて震える じっとしている家にこもる息切れのする活動を 避ける 図1 認知モデル,負の連鎖 (文献2より改変引用)
・漸進的筋弛緩法 力を抜こうとすると却って力が入ってしまうことがある。漸進的筋弛緩法では,一度筋肉に力を入れ,緊張させてから力の抜き,緊張している状態とリラックスしている状態の違いに意識を向ける。上半身を中心とした漸進的筋弛緩法の例を挙げる。筋緊張の際に呼吸困難が悪化する症例では別のリラクセーション法を選択する。 1両手で握りこぶしを作る2両腕を曲げて反対の胸に押し当てる(胸の前で 腕をクロスさせる) 3両肩を上方に上げる(肩をすくめる) 4顔のパーツを中心に集める(目を閉じ,唇を尖 らせる) 5以上の状態で5 秒間維持する6上記の顔,首,肩,両腕の緊張を一気に緩め, 力を抜き,緊張が抜けてきた感覚を感じながら15 ~30 秒間過ごす。4.行動活性化・活動計画 非がん性呼吸器疾患が進行してくると,呼吸困難や酸素療法のために,これまで行うことができていた活動が制限されるようになる。できることが減ってくると,自信をなくし,自己効力感が低下し,意欲が減り,ますます行動範囲が狭くなる。行動活性化ではまず,現在の生活状況を確認してもらうために1 日どの時間にどのような活動をしているのかを記録してもらう。そのうえで,患者にとって達成感や楽しみが得られる活動を一緒に考え,無理のない範囲でそのような活動を増やしてもらう。一方で,呼吸困難が強いときに無理に体に負担のかかる活動をして疲弊してしまう場合もありうる。このような好ましくない行動を見直し,優先順位を考慮した,体調に応じた活動計画を立ててもらう。 5.エクスポージャー 非がん性呼吸器疾患患者が不安を惹起する状況および活動を回避していると,一時的には安心感が得 思考 行動 身体感覚感情 酸素は十分にある危険ではない息が止まることはない 対処できる 自信息切れへの恐れなし コントロール感 呼吸がだんだん落ち着いて体が落ち着いていく 息切れがするとしても活動的になる呼吸テクニックを使う 図2 認知モデル,正の連鎖 (文献2より改変引用)
られるものの,同様の状況に対してさらに不安が高まる,もしくは不安を惹起する状況がさらに拡大していくことがある。例えば,スーパーマーケットでパニック発作を起こしたことをきっかけに,スーパーマーケットに行くとパニック発作が起こるという誤った学習がされ,そこに行くことを回避するようになる。その誤った学習を修正するために,状況に応じた不安の程度を検討し,そして数値化(100 点満点中50 点など)して共有したうえで,不安を惹起する程度がそれほど強くない段階状況,活動に挑戦し,不安は出るが時間とともに落ち着いていくことを体験してもらい,徐々に慣れていってもらう。非がん性呼吸器疾患患者ではパニック発作に限らず,呼吸困難を惹起する状況および活動に対する不安とそのような活動の回避が認められる。日常生活動作に対する不安であれば呼吸リハビリテーションの活用で同様の効果が期待できるかもしれない。 6.認知再構成法 ある状況に対する偏った認知(思考)は感情,行動,身体感覚にネガティブな影響を及ぼす。例えば,労作後に呼吸困難を感じた時に,「この息苦しさはずっと続いて,自分ではコントロールできない」と考えると,不安になり,ベッドから動かなくなり,呼吸困難はより強く感じられるようになる。認知再構成法では,ある状況に対して頭のなかに浮かんだ思考(自動思考)を同定し,その思考が妥当な思考かどうかを検討し,その代わりとなるより適応的な思考を探し,その適応的な思考による気分の変化を確認する。上記のような例で「労作後の息苦しさだから,落ち着いてゆっくり呼吸をすれば,段々楽になってくるはずだ」と考えることができるようになれば,その後の悪循環が改善するかもしれない。この一連の過程を患者自身が行うことができるように治療者が協働していく。 7.問題解決技法 問題解決技法は,患者が圧倒されるような大きな問題を扱いやすくする方法を患者に伝える技法であり,単純化すると以下のような手順である。問題を 特定する,可能性がある解決方法をできるだけ多く挙げる,解決の見込みが高くかつ実施可能性の高い解決方法を選ぶ,行動計画を立てる(目標はできるだけ達成可能なように細かく分ける),実際に行動してみた体験を振り返る。例えば,「在宅酸素療法を開始して外出できなくなった」という問題が,「外出するときの近所の目が気になる」というように具体化され,「酸素ボンベを用意して車で郊外に行く」「酸素会社に連絡して内風呂のある旅館の個室を予約する」といった解決方法を複数挙げる,・・・といったものである。 また,近年認知行動療法にマインドフルネスを組み合わせたマインドフルネス認知療法の有効性も報告されている3)。マインドフルネスは,「今この瞬間の体験に意図的に意識を向け,評価判断せずに,注意を向けることによって得られる気づき」と定義されている。以下に挙げる一例の瞑想技法などの実践を通して,今この瞬間の身体感覚・思考・感情などに気づき,それらに囚われないようになり,あるがままに受容することで,悪循環が改善されることが期待される。例えば,呼吸困難があるときに「また明日も明後日もこんな息苦しさが続くのか」と未来のことを心配して不安になるのではなく,それらはただの思考や感情と受け止め,今の状態をあるがままに観察できると適切な対応につながり,その後続いて起こるかもしれない「もうどうしようもない」「もうだめだ」といった思考や,不安・抑うつといった感情,呼吸困難・動悸といった身体症状の悪化が防げるかもしれない。 1ボディスキャン 約30 分間,仰臥位もしくは座位で,目を閉じ,足先から頭まで順番に身体感覚に注意を向けて観察を行うという作業である。2歩く瞑想 歩くことの感覚に集中して適度な速さで歩く。動きに伴う身体感覚・思考・感情,およびその関連への気づきを得ることができる。
今後の課題 医療現場における臨床心理士・公認心理師の参画が十分ではなく,ほかの医療者が長時間・長期間の心理療法プログラムを提供することが困難な本邦の現状を踏まえると,実臨床で実施可能性の高い心理療法プログラムの開発およびその有効性の検討が望まれる。 ▪文 献3-4-1. 送風(扇風機・経鼻カニュラ) 1)Galbraith S, Fagan P, Perkins P, et al. Does the use of a hand- held fan improve chronic dyspnea? A randomized, controlled, crossover trial. J Pain Symptom Manage. 2010;39: 831-8. 2)Luckett T, Phillips J, Johnson MJ, et al. Contributions of a hand-held fan to self-management of chronic breathlessness. Eur Respir J. 2017;50:1700262. 3)Swan F, Newey A, Bland M, et al. Airflow relieves chronic breathlessness in people with advanced disease:An exploratory systematic review and meta-analyses. Palliat Med. 2019;33:618-33. 4)Burgess KR, Whitelaw WA. Reducing ventilatory response to carbon dioxide by breathing cold air. Am Rev Respir Dis. 1984;129:687-90. 5)Higginson IJ, Bausewein C, Reilly CC, et al. An integrated palliative and respiratory care service for patients with advanced disease and refractory breathlessness:a randomised controlled trial. Lancet Respir Med. 2014;2:979-87. 6)Abernethy AP, McDonald CF, Frith PA, et al. Effect of pal- liative oxygen versus room air in relief of breathlessness in patients with refractory dyspnoea:a double-blind, randomised controlled trial. Lancet. 2010;376:784-93. 7)Ekström M, Ahmadi Z, Bornefalk-Hermansson A, et al. Oxy- gen for breathlessness in patients with chronic obstructive pulmonary disease who do not qualify for home oxygen therapy. Cochrane Database Syst Rev. 2016;11:CD006429. 8)Kanezaki M, Ebihara S. Effect of facial skin cooling induced by a handheld fan on the cough reflex threshold and urge to cough induced by citric acid.ERJ Open Res. 2019;5:00089- 2019. 9)Sutherland AE, Carey M, Miller M. Fan therapy for cough: case report and literature review. BMJ Support Palliat Care. 2020:bmjspcare-2020-002363. Online ahead of print. 3-4-2. 鍼治療1)Vickers AJ, Linde K. Acupuncture for chronic pain. JAMA. 2014;311:955-6. 2)Ohkubo M, Hamaoka T, Niwayama M, et al. Local increase in trapezius muscle oxygenation during and after acupuncture. Dyn Med. 2009;8:2. 3)Kawakita K, Itoh K, Okada K. Experimental Model of Trigger Points Using Eccentric Exercise. Journal of Musculoskeletal Pain. 2009;16:29-35. 4)Torres-Rosas R, Yehia G, Peña G, et al. Dopamine mediates vagal modulation of the immune system by electroacupuncture. Nat Med. 2014;20:291-5. 5)Takaoka Y, Ohta M, Ito A, et al. Electroacupuncture sup- presses myostatin gene expression:cell proliferative reaction in mouse skeletal muscle. Physiol Genomics. 2007;30: 102-10. 6)Suzuki M, Muro S, Ando Y, et al. A randomized, placebo- controlled trial of acupuncture in patients with chronic obstructive pulmonary disease(COPD):the COPD-acupuncture trial(CAT). Arch Intern Med. 2012;172:878-86. 7)Coyle ME, Shergis JL, Huang ET, et al. Acupuncture thera- pies for chronic obstructive pulmonary disease:a systematic review of randomized, controlled trials. Altern Ther Health Med. 2014;20:10-23. 8)von Trott P, Oei SL, Ramsenthaler C. Acupuncture for Breathlessness in Advanced Diseases:A Systematic Review and Meta-analysis. J Pain Symptom Manage. 2020;59:327- 38.e3. 9)Okada K, Kawakita K. Analgesic action of acupuncture and moxibustion:a review of unique approaches in Japan. Evid Based Complement Alternat Med. 2009;6:11-7. 10)Suzuki M, Yokoyama Y, Yamazaki H. Research into acupuncture for respiratory disease in Japan:a systematic review. Acupunct Med. 2009;27:54-60. 11)Wang J, Li J, Yu X, et al. Acupuncture Therapy for Functional Effects and Quality of Life in COPD Patients:A Systematic Review and Meta-Analysis. Biomed Res Int. 2018; 2018:3026726. 12)Maekura T, Miki K, Miki M, et al. Clinical Effects Of Acupuncture On The Pathophysiological Mechanism Of Chronic Obstructive Pulmonary Disease During Exercise. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2019;14:2787-98. 13)Suzuki M, Muro S, Fukui M, et al. Effects of acupuncture on nutritional state of patients with stable chronic obstructive pulmonary disease(COPD):re-analysis of COPD acupuncture trial, a randomized controlled trial. BMC Complement Altern Med. 2018;18:287. 3-4-3. セルフマネジメント1)Lorig KR, Holman H. Self-management education:history, definition, outcomes, and mechanisms. Ann Behav Med. 2003;26:1-7. 2)Disler RT, Gallagher RD, Davidson PM. Factors influencing self-management in chronic obstructive pulmonary disease:an integrative review. Int J Nurs Stud. 2012;49:230-42.
3)Spathis A, Booth S, Moffat C, et al. The Breathing, Thinking, Functioning clinical model:a proposal to facilitate evidencebased breathlessness management in chronic respiratory disease. NPJ Prim Care Respir Med. 2017;27:27. 4)Higginson IJ, Bausewein C, Reilly CC, et al. An integrated palliative and respiratory care service for patients with advanced disease and refractory breathlessness:a randomised controlled trial. Lancet Respir Med. 2014;2:979-87. 5)Zwerink M, Brusse-Keizer M, van der Valk PD, et al. Self management for patients with chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014: CD002990. 6)McCarthy B, Casey D, Devane D, et al. Pulmonary rehabilita- tion for chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2015;CD003793. 7)植木純,神津玲,大平徹郎,他.日本呼吸ケア・リハビリテー ション学会,日本呼吸理学療法学会,日本呼吸器学会,呼吸リハビリテーションに関するステートメント.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌.2018;27:95-114. 8)Bandura A. Self-Efficacy:The Exercise of Control. New York:W. H. Freeman and Company;1997. 9)安酸史子(著). 糖尿病患者のセルフマネジメント教育―エン パワメントと自己効力改定2版.大阪:メディカ出版;2010. 10)アルバート・バンデューラ(編),本明 寛,野口 京(監訳),他.激動社会の中の自己効力.東京:金子書房;1997. 11)Booth S, Burkin J, Moffat C, et al. Managing Breathlessness in Clinical Practice. London:Springer;2014. 12)Booth S, Johnson MJ. Improving the quality of life of people with advanced respiratory disease and severe breathlessness.Breathe(Sheff). 2019;15:198-215. 13)Janssen DJ, Spruit MA, Uszko-Lencer NH, et al. Symptoms, comorbidities, and health care in advanced chronic obstructive pulmonary disease or chronic heart failure. J Palliat Med. 2011;14:735-43. 14)Brighton LJ, Miller S, Farquhar M, et al. Holistic services for people with advanced disease and chronic breathlessness:a systematic review and meta-analysis. Thorax. 2019;74: 270-81. 3-4-4. 心理療法1)Ma RC, Yin YY, Wang YQ, et al. Effectiveness of cognitive behavioural therapy for chronic obstructive pulmonary disease patients:A systematic review and meta-analysis. Complement Ther Clin Pract. 2020;38:101071. 2)Bove DG, Overgaard D, Lomborg K,et al. Efficacy of a Minimal Home-Based Psychoeducative Intervention Versus Usual Care for Managing Anxiety and Dyspnoea in Patients With Severe Chronic Obstructive Pulmonary Disease: A Randomised Controlled Trial Protocol. BMJ Open. 2015;5: e008031. 3)Farver-Vestergaard I, O'Toole MS, O'Connor M, et al. Mind- fulness-based cognitive therapy in COPD:a cluster randomised controlled trial. Eur Respir J. 2018;51:1702082.
チーム医療 第 4 章
これまでにわかっていること 1.非がん性呼吸器疾患緩和ケアに対する チーム医療のあり方第3 期がん対策推進基本計画(2018 年3 月)では「緩和ケアは,全人的なケアが必要な領域であり,多職種による連携を促進する必要がある。そのため,互いの役割や専門性を理解したうえで,協働することが可能な体制を整備する必要がある。」と述べられており,がん疾患に対する緩和ケアは多職種によるチームで取り組むことが必要条件とされている。非がん呼吸器疾患,特に慢性閉塞性肺疾患(COPD)においては,1998 年に木田により多職種チームからなる呼吸リハビリテーションの概念が提唱された1)。すなわち理学療法・運動療法・作業療法だけでなく,日常生活活動度を上げる社交活動の支援,酸素療法,吸入療法の指導,栄養指導,患者のセルフケアマネジメント能力を上げるための教育を合わせて行うことで,増悪の予防,呼吸困難の軽減, QOL の改善などが得られるとするもので,その内容は終末期に至るまでの前段階の緩和ケアに相当する。また特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fi- brosis;IPF)においても患者のQOL 改善を目指すbest supportive care は,呼吸器専門医,IPF 外来の専門看護師,理学療法士,作業療法士,栄養士,心理士などによる多職種IPF チームで担うことが提唱されている2)。間質性肺疾患(ILD)を例にあげると,ILD 患者には発症から終末期までの全経過を通じて多職種による支援が必要であり(図1),それは多職種による早期からの緩和ケアと位置づけられる3)。同じ非がん疾患である循環器疾患における緩和ケアは,既存の緩和ケアチームと心不全多職種チームが連携し,心不全多職種緩和ケアチームとして協働することが2018 年厚生労働省「循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制のあり方について」で提唱されている。そのなかでは患者や家族に緩和ケアを提供する方策として,同一医療機関内に緩和ケアチームと心不全多職種チームがある場合は,それらの院内連携に加えてかかりつけ医など地域の医療機関が連携する(図2)。緩和ケアはこのようなチーム医療を最終末期まで継続することで成り立つ。しかし,急性期医療の基幹病院では呼吸リハビリテーションを継続しにくく,がん拠点病院のよ チーム医療 1.多職種連携 第4章 サマリー 非がん性呼吸器疾患の緩和ケアにおいても多職種チーム医療は必須である。従来から行われている呼吸リハビリテーションを包括的に最終末期まで継続することが緩和ケアとなる。多職種連携を最終末期まで継続するためには,基幹病院のみに拠らない地域連携体制が必要である。終末期の呼吸困難緩和,ACP など緩和ケア固有の要素に対しては特にチーム医療が重要である。
うな緩和ケア提供体制は作りにくい。非がん性呼吸器疾患は長期酸素療法ないしNPPV 療法などを施行するため,基幹病院,地域の医療機関と在宅医療との連携システムの構築が必須である。 2.呼吸困難に対するチーム医療 呼吸困難は非薬物療法の項で述べられている通り,複数の要素から成り立つ症状である。そのため,多職種の専門医療従事者がチームとなって,薬物療法とさまざまな非薬物療法を組み合わせて治療しなければならない4)。英国のHigginson I. J. らの提唱する多職種の専門医療従事者による「息切れ支 援サービス」(第3 章「症状緩和の手段- 非薬物療法- 2.呼吸リハビリテーション」の項〔p72〕を参照)の内容を表1に示す5)。最初の外来において,呼吸器内科医と緩和ケア医が今まで施行されている治療と問題点を評価し,患者ないし家族には息切れセット(息切れに関する各種情報,その対処法,リラクゼーションCD,手持ち扇風機または水スプレー,呼吸を助けてリラックスさせる短い詩)を渡して,危機的状況における行動プランを指示する。理学療法士または作業療法士が2 〜3 週後に自宅を 間質性肺疾患の患者に必要なもの十分な情報専門家 疾患理解酸素吸入 終末期ケア心理・精神的援助迅速正確な診断 友人家族の関与と援助 症状緩和 治療運動療法 図1 ILD 患者のニーズ (文献3より改変引用)
訪問して,歩行や在宅医療に必要な物品,息切れに対する適応状況を評価して,セルフマネージメントの支援と運動療法の指導を行う。4 週後の外来で,緩和ケア専門医が今後の行動計画を確認するための最終外来の予約をする。 3.ACP におけるチーム医療 厚生労働省の2018 年改訂「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」における最も重要な原則は,「医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ,それに基 づいて医療・ケアを受ける本人が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い,本人による意思決定を基本としたうえで,人生の最終段階における医療・ケアを進めること」とされている。さらに,「本人の意思は変化しうるものであることを踏まえ,本人が自らの意思をその都度示し,伝えられるような支援が医療・ケアチームにより行われ,本人との話し合いが繰り返し行われること」も重要とされる。したがっ 表1息切れ支援サービスの内容 時間診察方法内容 Week 1クリニック受診検査呼吸器内科医との面談緩和ケア医との面談息切れセット(breathlessness pack) の提供Week 2-3自宅訪問理学療法士の評価と指導作業療法士の評価と指導 電話ソーシャルワーカーの評価と指導 Week 4-5 2 回目のクリニック受診緩和ケア医との面談*福井基成による翻訳から引用 (文献5より引用*) 心不全患者と その家族 同一医療機関内に緩和ケアチームがあるケースのイメージ 当該医療機関の既存の緩和ケアチームと心不全多職種チームの連携 心不全多職種 チーム 既存の緩和ケア チーム 地域の医療機関(かかりつけ医など) 図2 既存の緩和ケアチームと心不全多職種チームの連携イメージ
てアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning;ACP)の実践は患者,家族と医療・ケアチームで繰り返し行われなければならず,そのチーム構成は一般的には,担当の医師,看護師,それ以外の医療・介護従事者,医療ソーシャルワーカー(MSW)などであるが,精神科医・心療内科医および臨床心理士・公認心理師の参加ないしは相談が望まれ,今後それらの活躍の場が広がることが期待される。また,在宅や施設においては,担当の医師と看護師のほか,本人の心身の状態や社会的背景に応じて,ケアに関わる介護支援専門員,介護福祉士などの介護従事者のほか,ほかの関係者が加わることも想定される。 今後の課題 非がん性呼吸器疾患の緩和ケアとしての多職種によるチーム活動は必要と理解されながらも,実際にはほとんど行われていない現状である。まず各施設,各患者に多職種間連携がどうすれば可能となるか模索していくところから始めなければならない。その一つの試みとして外来患者対象のILD サポー トチームの例(神戸市立医療センター中央市民病院)を紹介する。一回の受診で通常の診察と看護師,薬剤師,管理栄養士などの多職種外来,ならびにリハビリテーション室などが自作の患者向けハンドブックと電子カルテを通じて相互に関わる体制としている。(図3,4)ただし疾患進行とともに通院困難となった場合のかかりつけ医など地域医療機関との連携は今後の課題である。 ▪文 献1)木田厚端(著).包括的呼吸リハビリテーション―チーム医療 のためのマニュアル.東京:メディカルレビュー社;1998. 2)Ferrara G, Luppi F, Birring SS, et al. Best supportive care for idiopathic pulmonary fibrosis:current gaps and future directions. Eur Respir Rev. 2018;27:170076. 3)Kreuter M, Bendstrup E, Russell AM, et al. Palliative care in interstitial lung disease:living well. Lancet Respir Med. 2017;5:968-80. 4)Yates P, Zhao I. Update on complex nonpharmacological in- terventions for breathlessness. Curr Opin Support Palliat Care. 2012;6:144-52. 5)Higginson IJ, Bausewein C, Reilly CC, et al. An integrated palliative and respiratory care service for patients with advanced disease and refractory breathlessness:a randomised controlled trial. Lancet Respir Med. 2014;2:979-87.
初 診診 断 終末期 医 師医 師医 師 医 師看護師 医 師栄養士 看護師理学療法士 理学療法士理学療法士 治療導入 酸素導入リハビリ開始医 師薬剤師 メディカルソーシャルワーカー IPF 患者を多職種が外来ベースで支援 図3 ILD サポートチームによる患者支援のイメージ患者は全経過を通じてその都度必要な支援を同日に多職種外来ないしリハビリ室などから受けることができる。電子カルテおよびそのテンプレートと自作の患者用ハンドブックを用いて共通認識と情報交換が可能。 病状の変化の報告 処方の提案栄養の提案 リハビリ状況の報告 HOT の提案 公的制度案内 栄養指導 定期リハビリ指導服薬指導副作用マネジメント HOT 指導生活の指導・相談アドバンス・ケア・プランニング(医師と協働) 薬剤師 医師 管理栄養士 理学療法士MSW看護師 HOT:home oxygen therapy(在宅酸素療法) 図4 外来ベースの多職種協働でIP 診療を支援する多職種がかかわるが,実際にチームが集合して個別の患者を診察するわけではない。医師の依頼を受けてそれぞれの部署が個別にサポートを行う。結果を共有して連携することで,有機的なチームの形を作っている。
これまでにわかっていること 1.チームによる定期的な振り返り 慢性疾患患者のケアにおいては,現在の状態について患者・家族と医療者がともに振り返る機会をもつことが勧められる。非がん性呼吸器疾患においても,患者を中心としたチームで療養のあり方を定期的に話し合うことは,将来に予測されるストレスフルな出来事に対する恐怖や不安を和らげるための心理的な準備となる。 話し合いの場での,医師からの説明には,治療の振り返り,現在の病状,予測される経過,ACP,蘇生等の希望などの内容を含んでいることが望ましい。また,患者・家族からは,患者の価値観,患者や家族の生活上の課題,望んでいる療養のあり方などについても率直に話し合うことが重要である。そのうえで,当面の治療とケアの目標を共有し,話し合った内容をカルテに記載し,残していく。また,このような話し合いを繰り返すなかで,患 者の現在あるいは未来のニーズを推定し,ニーズを達成するためのチームのあり方,専門医療機関と地域の連携のあり方についても検討する。 2.地域との連携の始め方 専門病院に通院中の非がん性呼吸器疾患患者も,なるべく早期から地域の在宅医や訪問看護師,ケアマネジャーなどの多職種と連携を図り,患者と家族を中心とした多職種チームを形成し,呼吸リハビリテーションから緩和ケアに切れ目なく関わることができる体制を構築することが望ましい。 最初の急性増悪後の退院前カンファレンスは, ACP の話し合いを始める適切なタイミングであると同時に,地域の専門職との連携を始める好機となる。 さらに,病期が進行し,原疾患の進行や高齢のため虚弱度が増し,通院の困難性や緊急受診が増加するなどの病状の不安定性が認められたら,緊急時の チーム医療 2.地域連携 第4章 患者中心のチームで定期的に療養のあり方を話し合うことが重要である。患者の価値観や望んでいる療養のあり方に基づいて,専門病院と地域・在宅医療との連携のあり方について検討する。退院時が地域との連携を始める好機である。病期が進行し,通院困難となったり,不安定性が増す時期には24 時間対応できる在宅医療との連携は必須となる。疾患管理の専門性が高い場合は病院を主体とした地域連携,高齢でmultimorbidity(多疾患併存状態),身体心理社会的な複雑性をもつ場合は,在宅に軸足をおいた地域連携が望ましい。地域との連携においては,地域の医療資源を十分把握し,地域の状況に応じて役割を調整しあうことが重要である。 サマリー
早期の対応ときめ細かい管理を目的に訪問看護ステーションや訪問診療など在宅医療の資源を積極的に活用すべきである。とりわけ,病状の不安定性が強い場合,または終末期となり,暮らしの場での看取りも視野に入れる場合は,訪問診療を導入し,二人主治医制を確立すべきである。 3.連携のあり方 非がん性呼吸器疾患患者は,暮らしの場と入院の場を行き来しながら,生活をするようになることが多い。頻回に入退院を繰り返す状況になれば,病院と地域・在宅医療との連携は必須であるが,連携のあり方は,患者の価値観に基づいた療養場所の希望,予測される予後と病の軌跡,希望する治療内容,家族の介護状況や家族の希望など,疾患や患者・家族の心身,社会的状況,制度的な制約などによって一人ひとり異なる。 病院と地域のどちらに軸足をおいた連携がよいかについては,さまざまな要素によって異なると考えられる(図1)。1)ACP に沿った療養希望の場所と連携 最も重視すべきは,十分な説明を受け,病状を理解した患者が表出する療養場所の希望である。つまり,療養の主体である本人が,「悪くなったらすぐに入院したい」と考えているのか,「極力入院したくない」「何があっても家で過ごしたい」と考えているかが最も重視されなくてはならない。 本人が意思を表出できない場合は,本人の推定意思を軸に「本人を人として尊重した意思決定の実現を支援するプロセス」を重ねてきた意思決定支援チームによる決定が重視される。2)主体的な状況,治療内容などに応じた選択 一般的には,疾患管理の専門性が高く,高度なデバイスを要する場合は,病院を主体とした地域連携が勧められる。一方,高齢でmultimorbidity(多疾患併存状態)にあり,身体心理社会的な複雑性をもつ患者・家族への対応では,在宅に軸足をおいた地域連携が望ましい。3)非がん性呼吸器疾患患者が利用できる地域 のリソース地域との連携のあり方を考える場合,地域の在宅 患者患者 療養の場,看取りの場の 本人・家族の希望地域・在宅 病院家族ホームヘルパーケアマネ ジャー 訪問看護訪問リハビリ 家族 薬剤師管理栄養士在宅医 歯科医師 ソーシャルワーカー 栄養士看護師 連携生活支援 専門医とそのチーム在宅医とそのチーム 超高齢期Multimorbidity身体心理社会的複雑性単一疾患高度なデバイス疾患管理の専門性 コンサルテーション リハビリ専門職 専門医 図1 非がん性呼吸器疾患の連携のあり方
医療・ケアのリソースを把握しておくことが重要である。非がん性呼吸器疾患患者が利用できる在宅医療・ケアのリソースの量や質は地域や医療機関などによってばらつきが大きい。しかし今世紀に入り,わが国の在宅医療は飛躍的に発展し,地域で非がん性呼吸器疾患の方や家族を支援できる力をもつ医療機関や地域も増えている。 一般的に在宅医は,がんやがん以外の緩和ケアの経験があり,疾患を問わず,プライマリな緩和ケアに習熟している医師が少なくない。また,総合医として身体・心理・社会的な複雑性をもつ患者や家族への対応にも長けている医師が多い。一方,呼吸器を専門とする医師でなければ,呼吸リハビリテーションへの理解は十分といえないかもしれない。看護師では,訪問看護で初めて呼吸リハビリテーションに接することが多いため,訪問看護の経験の長い訪問看護師は呼吸リハビリテーションに慣れているかもしれない。 自宅での療養の質を高めるためには急性期の対応が重要になる。訪問診療や訪問看護の導入は,医療へのアクセスビリティを改善し,急性増悪の初期対応を強化する。病状の不安定さが強い場合は,24 時間体制で患者の変化に対応できる在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションを積極的に活用する。 リハビリテーション専門職についても,呼吸リハビリテーションの経験のある理学療法士は,地域に増加しつつある。訪問リハビリを行う理学療法士 は,訪問看護ステーションや医療機関に所属しており,医療と連携した呼吸リハビリテーションを実施することが容易である。 このように,在宅医療において,呼吸リハビリテーションと緩和ケアを進めていくための医師―看護師―リハビリテーション専門職の基本職種によるチームを構築できる地域が多くなってきている。 管理栄養士や歯科医師・歯科衛生士,薬剤師もそれぞれ自宅に訪問し,在宅の非がん性呼吸器疾患患者の支援に関わっている。管理栄養士は主に診療所からの訪問で,介護保険の限度額の枠外(居宅療養管理指導)で定期的に訪問栄養指導の実施が可能である。今後,栄養ケアステーションなどの制度が普及すれば,管理栄養士が今より柔軟に在宅医療に関わることができるようになると期待される。薬剤師も介護保険の限度額の枠外(居宅療養管理指導)で定期的に訪問し,訪問薬剤指導による内服や吸入のアドヒアランスの向上に寄与することが期待される。医療用麻薬の調剤やクリーンベンチでの中心静脈輸液製剤の調剤が可能な調剤薬局も増加している。 歯科医師は口腔ケアや嚥下評価などで重要な役割を果たす。歯科衛生士による専門的口腔ケアにより,肺炎のリスクを低下させることが期待される。4)在宅で実施可能な手技・利用可能なデバイス 在宅医療との連携を推進するためには,在宅で可 表在宅医療で導入できる手技についてデバイス・治療手技実施状況,制度的制約酸素療法導入可能(酸素濃縮器では7 L 機まで),酸素供給デバイスとして,オキシマイザー®,オキシマスク® なども使用できるNPPV導入・管理は可能HFNC導入不可(保険算定不可)機械的咳介助(MI-E) NPPV・TPPV 実施中の神経難病などで保険算定可能非がん性呼吸器疾患の適応については明確に記載されていない*抗菌薬投与1 日2 回までの注射抗菌薬も投与は可能な場合が多い医療用麻薬(多くは保険適応外)在宅では,使用手続きが病院と比べて煩雑でなく,使いやすい持続皮下注(CSI)導入により,最終末期も対応可能鎮静実施可能*平成30 年度の診療報酬改定では「在宅人工呼吸を行っている神経難病などの患者」という記載とされている。
能な手技やデバイスなどについて理解する必要がある。在宅医療でも,経験の豊富な在宅療養支援診療所であれば,NPPV の導入は可能である。しかし,高度なデバイスの導入には制度的な制約も多く,ハイフローセラピーは制度的に導入できない。また,機械的咳介助導入(MI-E)はNPPV あるいは気管切開下陽圧換気(TPPV)導入中の神経難病では保険算定が可能であるが,非がん性呼吸器疾患では導入できない(表)。 地域の医療資源の乏しい地域では困難な内容もあるが,とりわけ都市部では,対応可能な医療機関を見つけることができる場合が多い。5)増悪時と最終末期の対応 増悪期に,在宅医と訪問看護師,理学療法士が協力して関わることで,入院を回避できることも少なくない。1 日2 回の注射薬の抗菌薬投与は,在宅医と訪問看護ステーションが協力して実施し,必要に応じて輸液の実施や酸素投与量の調整などを行う。在宅医は定期的な採血,必要に応じて胸部X 線検査を行い,増悪の経過をフォローできる。 急性期には訪問看護や訪問リハビリテーションは,2 週間を限度に医療保険に切り替えて(特別訪問 看護指示書など)集中的に介入することが可能である。 最終末期の緩和ケアでは,医療用麻薬の使用は熟練した在宅医であれば技術的に困難ではない。とりわけ,最終末期のオピオイドの持続皮下注(CSI)による苦痛の緩和や鎮静の実施も可能である。 また,非がん性呼吸器疾患に対するオピオイドの使用の手続きも病院ほど煩雑ではない。 今後の課題 非がん性呼吸器疾患に対しての専門病院と地域・在宅医療の連携モデルについて,今後地域差を考慮に入れながら,検討していく必要がある。 また,在宅医療における呼吸リハビリテーションの実施状況,非がん性呼吸器疾患の緩和ケアの実施状況などについて調査し,課題を明らかにしていく必要がある。
これまでにわかっていること 1.呼吸リハビリテーションと地域緩和ケア の融合の必要性COPD において,呼吸リハビリテーションが呼吸困難などの症状緩和ケアとして有用であることは明らかである1)。COPD に対する在宅ベースの呼吸リハビリテーションの効果として,呼吸困難の改善,健康関連QOL や運動耐容能の向上,%1 秒量の改善が示されている2)。ILDに対する呼吸リハビリテーションも,呼吸困難感,QOL,運動耐用能を有意に改善すると報告されている3 −6)。このように,症状緩和に大きな役割を果たす呼吸リハビリテーションは,非がん性呼吸器疾患に対する緩和ケアの全体と融合して,最終末期まで継続的に行うことが望まれる。非がん性呼吸器疾患の緩和ケアは,終末期にのみ緩和ケアのスペシャリストが行うものではなく,より早期から呼吸リハビリテーションを行うチームとして提供することが望ましい。 終末期には,緩和ケア的視点とスピリットに基づき,病態疾患管理・症状緩和ケア・心理社会的/ ス ピリチュアルケアの3 つの側面からアプローチすることが大切となる。在宅の非がん性呼吸器疾患の緩和ケアにおいては,図1に示すように,在宅チームが伴走(寄り添いながら,励まし,ともに歩む)しつつ病態疾患管理を徹底することが,症状緩和や心理社会的スピリチュアルケアにも繋がる7,8). このなかには,ケアの中心にいる患者自身が主体的に取り組む行動変容の概念も広く含まれる。 2.在宅管理の重要性 安定期における適切な在宅管理により,長期的なQOL の向上,増悪期では入院を回避できるなどの効果が期待できる9)。COPD においては,訪問リハビリテーションと通所リハビリテーションの短期的/ 長期的な効果はほぼ同等と報告された10,11)。また,安定期COPD に対する訪問看護は,死亡率や入院回数,運動耐用能の改善効果は認められていないものの,患者の疾患理解を深め,QOL を高める効果がある12 −14)。患者へのセルフマネジメント教育も重要であり,アクションプランを含めた呼吸リハビリ チーム医療 3.在宅における緩和ケア 第4章 サマリー 在宅における地域緩和ケアは,多職種連携で行われる呼吸リハビリテーションと融合したアプローチで行われることが望まれる。在宅ケアは,安定期から継続的に意思決定支援を行い,患者の価値観,家族の状況など総合的に判断しながら,患者の価値観に基づいた望む生き方への支援を多職種連携のチームで行うものである。ガイドラインに基づく疾病管理を含む呼吸リハビリテーションを行い,回復する余地があるかどうかを確認する。そのためには継続的な行動変容を促す在宅チームアプローチが望まれる。
テーションにより予定外受診や入院回数が減少することが示されている15)。 3.効果的な在宅ケアを行うための障壁 効果的な在宅ケアの提供には,成熟したチームアプローチが望まれる。在宅医,看護師,理学療法士,作業療法士,栄養士,ケアマネジャー,ヘルパーなど介護スタッフが患者の病状を理解し,機能的に連携できるチーム形成が理想的である。医師は時間的に制約されているため,地域のスタッフと直接連絡を取り合うことが困難な場合があり,地域連携には診療所の看護師の存在が欠かせない。 疾患や病態の理解がまだ不十分な点も問題点として挙げられる。例えばCOPD は,2000 年に行われたNICE study では,日本のCOPD の有病率は8.6% で530 万人と推定されたが,そのうち実際に診断されたのは20% に過ぎない16)。2017 年の厚労省の調査では,医療機関を利用しているCOPD の総患者数は22 万人であり,分母を530 万人(2000 年)としても4.2% と受療率はさらに低い17)。未だに多く のCOPD 患者が診断されておらず,たとえ診断されていても,呼吸リハビリテーションを受ける環境にない。在宅チームは,COPD に対する呼吸リハビリテーションの経験が少なく,その効果もいまだ十分に周知されていない。 ILD においても,入院中に運動療法やADL トレーニングを含む呼吸リハビリテーションを行う必要があるが,COPD と比べてもさらに浸透しておらず,重症例では入院中に床上安静を強いられて,十分なリハビリテーションを行えず退院することも少なくない。体動時の著しいSpO2 低下や気胸が併発していると,ADL の低い生活を余儀なくされ,積極的な呼吸リハビリテーションは行えず,著しいSpO2 の低下や気胸を起こさないようにする労作の工夫や環境調整にとどまることも少なくない。 気管支拡張症は,排痰の重要性が理解されていないことが多く,患者は排痰時にSpO2 が低下して息苦しくなるため,痰が出ないように浅い呼吸をして オピオイド 鎮静薬 患者教育セルフマネジメント抑うつへの内服・ケア 呼吸理学作業療法 排便コントロール NPPV HOT心循環管理栄養療法 感染管理薬物療法 症状緩和 訪問介護 ケアマネジャー 訪問看護 訪問リハビリ 医師 家族,友人 訪問薬剤師訪問栄養士入浴サービス 病態疾患 管理病態疾患 管理パニック コントロール 図1 呼吸器疾患への呼吸リハビリテーションと緩和ケアの融合モデル病態疾患管理が症状緩和,心理社会的スピリチュアルケアにもつながる。これらは慢性疾患管理を行う在宅で行われるもので,多職種連携チームが支えている。またインテグレーテッドケアとも呼ばれる。 (文献8より改変引用)
いることが多い。排痰の必要性を理解してもらい,自己排痰手技の指導やADL に応じてCOPD に準じた呼吸リハビリテーションを行う。 介護認定は基本的には疾病の重症度ではなく,あくまでも日常生活での介護度を基準に判定される。したがって,強い呼吸困難がありながらも,時間をかけて休みながらであれば介助なしで自分のことが行える非がん性呼吸器疾患患者では,要介護度の判定は低くなる傾向にあり,必要なサービスを受けることができない場合がある。例えば,在宅酸素療法を実施している患者で,修正MRC(modified Medical Research Council;mMRC)息切れスケール4 の重症例であっても,要介護1 または2 と過小評価されることが多く18),在宅人工呼吸療法(NPPV など)を行っていない限り,介護保険で行われる訪問看護や訪問リハビリテーションの両者を同時に利用できない。そこで,入浴介助が必要な場合やADL が低い場合には訪問看護を優先するなど,どちらのサービスを優先させるか,状況に応じて判断せざるを得ない。 4.在宅におけるACP(図2) 19) 在宅医療の場では,安定期から継続的に意思決定と意思表明の支援を行っていく。在宅におけるケアは患者の価値観,家族の状況など把握しながら,患 者の価値観に基づいた望む生き方への支援を多職種連携チームで行うものである。 安定期から定期的に在宅リハビリテーション会議やサービス担当者会議を行い,患者の希望や家族の状況などを踏まえて,実際のケア内容の評価を行う。そして,患者の希望が実現可能かどうか,総合的に判断してケア内容を適宜変更していく。また安定期から表明された患者の意思をチームで確認し,事前指示(advance directive;AD)として記載しておく。病状が重篤なほど,在宅チームは患者の日常生活を支える重要な担い手となる。患者の意思は揺れ動くものであり,適宜生活支援を行いながら,患者の望む生き方や治療などの内容を再確認することも重要である。 5.在宅における呼吸リハビリテーションの 現状と期待施設基準的に施設内リハビリテーションを提供できる診療所は少ないが,実際の在宅の現場では訪問リハビリテーションの導入は進んでいる。しかし3で記した障壁も存在するのは確かである。また, 2018 年から各地域で栄養ケア・ステーションが始動し,栄養士のいない診療所でも栄養指導ができる 内容的指示Living will, DNR代理意思決定者すでに指示された 内容を再度確認ACP= 話し合いのプロセス 定期的なリハビリテーション会議+サービス担当者会議 現在の病状と今後の見通しのみならず,本人の価値観・希望・人生や生活の意向を含み,心身状態の悪化など病状経過のなかで変化するものゆえ,繰り返し行う. ACP AD事前指示 慢性疾患管理 ACP ACP ACP ACP ACP 在宅におけるACP 図2 在宅におけるACP とAD定期的に行う話し合いのなかでACP は行われ,最終末期になるにつれ,AD に関する内容に重点が置かれる。 (文献19より改変引用)
ようになった。いずれも在宅では,より現実に即した実践的な指導が可能となりつつある。 また呼吸器内科を専門にする在宅療養支援診療所は少ないため,地域によっては急性期病院と在宅医の連携が必要となる。呼吸器内科医は地域からのコンサルテーションに迅速に応じ,二人主治医として継続的に関わり続けることが期待される。さらに,慢性疾患看護専門看護師,慢性呼吸器疾患看護認定看護師や呼吸ケア指導士と協働し,病診のケア連携,地域のケアレベルの向上のために9),病院内から病院外,地域へ活動が拡がることも期待される。地域の呼吸ケア研究会も啓発に大きな役割を果たす。 以下,症例のなかで,呼吸器内科を専門にする在宅療養支援診療所と地域の在宅スタッフが行う,包括的呼吸リハビリテーションと地域緩和ケアの融合の実際を紹介する。 【症例】終末期と考えられたCOPD 患者のV 字 回復(図3) 経過1:初診から肺炎での入院まで 初診時はすでに最重症COPD であった68 歳男性で,家族はおらず独居で他者との交流は少ない。喫煙歴40 本/ 日,47 年間,とび職を退職後,X-7 年に呼吸困難を自覚し,K 病院でCOPD +気管支喘息と診断された。吸入薬(吸入ステロイド+ 長時間作用型β2 刺激薬)が処方されたが自己中断し,X 年にCOPD 増悪をきっかけにK 病院に入院した。誤嚥性肺炎を繰り返し,非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)も実施したが,退院時は在宅酸素療法のみ導入された。 体重38.3 kg(BMI 15.1)とるい痩が著明で,少し 41.3 体重 35 BMI 15.1 栄養補助剤栄養指導 HOT NPPV+HOT NPPV 設定変更 栄養もしっかり摂る 呼吸苦で栄養摂れず食欲↑ 30 PaCO2 60 torr 50 40病院へ検査以外,全く外に出ず 訪問リハビリテーション 2 回/週訪問リハビリテーション 2 回/週 訪問看護 2 回/週4 回/週2 回/週訪問看護 2 回/週 X.3 月X+1.1 月X+1.10 月X+2.12 月X+3.10 月X+3.12 月X+4.3 月X+4.8 月X+4.11 月X+5.1 月X+5.2 月X+5.3 月 経過1経過2経過3 筋肉萎縮し寝たきり状態呼吸困難と腰痛で寝たきり状態→回復 COVID-19 で外出自粛中 外出 COPD 増悪気管支炎による 自宅で治療肺炎だが入院せず 大腸がん内視鏡下切除事業所の変更 退院 肺炎で入院 40 kg 40.4 38.2 36.8 38.4 39.5 40.5 35.0 38.5 32.4 図3 経過表
の労作後でも呼吸補助筋を使用した口すぼめ呼吸を行い,mMRC 息切れスケール4,GOLD グループDであった。住宅環境は悪く,副流煙が廊下階段に広がり,エアコン・エレベーターなしの簡易宿泊所であった。 初回往診時,吸入ステロイド+ 長時間作用型β2刺激薬に長時間作用型抗コリン薬を追加し,動く前にアシストユースを行うように短時間作用型β2 刺激薬を追加処方した。在宅での多職種連携チームは病院主導で組織し,訪問リハビリテーション,訪問看護はA 事業所となった。その後当クリニックより1 ~2 回/ 月の訪問栄養指導も開始した。 1 年経過後も呼吸リハビリテーションの効果は表れず,歩行時の呼吸法の習得が難しく,全く外出できずに3 畳一間でベッドの上で寝間着のまま過ごす生活で,呼吸器悪液質のらせん階段を落ちている状態であった。その後,エレベーターのある6 階の角部屋に引っ越したが,外出の機会は増えず,2 m 先の冷蔵庫にお茶を取りに行くだけで息が切れ,呼吸困難がひどく,実践の場で呼吸法が生かされず,体重減少と呼吸筋疲労がさらに悪化してPaCO2 > 60 torr となったために,NPPV の必要性について説明したが,入院中に施行したNPPV の印象が悪かったため拒否した。 X+3 年大腸がんが発見され,内視鏡的に切除した。体重はさらに1.8 kg 減少し,退院後PaCO2 > 65 torr になり,呼吸筋疲労の軽減を計るため,在宅でNPPV を導入した。NPPV を1 日4 時間以上装着するように指導を受けるもなかなか達成できず,訪問看護も問題意識を共有できないまま,チーム機能不全の状態であった。 訪問診療開始時から体重は理想体重の80% 未満であり,まず栄養剤を処方し栄養補給療法を開始した。その後,訪問栄養指導を行って,餅や米だけでなく卵や牛乳,ココアを追加,トマトや総菜にはマヨネーズやオリーブ油をかけ,BCAA が多い栄養補助食品を追加し,従来までの800 ~1200 kcal/ 日にプラス脂質とタンパク質で500 kcal 追加するよう指導した。しかし,1 年間で0.9 kg しか増えず,食習慣も変わらず,大腸がんを契機に体重は36.8 kg に低下した。 経過2:呼吸器悪液質からの復活 X+4 年,肺炎をきっかけに約2 ヵ月間入院し,体重は32.4 kg まで減少した。全身の筋肉も萎縮してトイレ歩行も困難となり,呼吸器悪液質のらせん階段をさらに落下していった。退院後,在宅緩和ケアと呼吸リハビリテーションに習熟した当院の訪問リハビリテーションとB 事業所の訪問看護に変更し,チームで伴走しつつ,継続的なリハビリテーションと緩和ケアを行った。労作に同期した呼吸法や短時間作用型β2 刺激薬のアシストユースの指導,自分で早期に異常に気付くようセルフマネジメント教育などに加え,NPPV と栄養療法も継続し,体重は半年で40 kg に増えて,呼吸法も習得できた。しかし屋内でできていた呼吸法が屋外では過緊張・恐怖感でできなくなっており,その障壁に対する周囲の理解が不十分であった。リハビリスタッフは,あきらめずに外出を拒む理由を尋ね,具体的な解決策を提示した。そして外出を促すため「私とデートしましょう。駅まで出かけませんか?」と言い換えると,目が輝き,「喫茶店でコーヒー飲みたいな。そして冬物買いたい。選んでくれよ。」と,そのようなやり取りを経ながら,自主トレも熱心に行い,6 階の廊下を歩いても緊張せず,呼吸法も忘れず行えるようになった。看取りも考えたどん底の肺炎から約2年後,初めて駅の大型ショッピングモールに行き,店内は車椅子で移動し,喫茶店で念願のコーヒーを飲み,冬物の洋服も購入した。 経過3:内因性PEEP への対処,腰痛への対処 X+5 年,気管支炎で往診を受け,抗菌薬の内服とコルチコステロイドの全身投与が行われたが,呼吸困難のため一日中NPPV の装着が必要となり,自分一人では,食事・内服・吸入などもできなくなった。診察では,不安による頻呼吸と呼吸音の減弱が見られ,動的肺過膨張の悪化が推察された。内因性PEEPの上昇のために元の設定PEEP 9 cmH2Oでは
足りず,呼吸補助筋の関与やNPPV のグラフィックモニターなどから判断してPEEP 14 cmH2O まで上げた結果,呼気努力の軽減が認められた。吸気努力も著しく,すでにrise time は最小であったため, IPAP を上昇させることで吸気速度の増加に対応したところ,呼吸努力,呼吸回数が軽減し,呼吸が楽になったと自覚できた。 また,筋肉が疲弊しているため腰痛が起こり,咳で激痛が走るため排痰も十分にできない状態となった。本人の希望で吸引器を導入し,連日の訪問看護で気管内吸引と栄養・水分補給のための点滴を行った。医師も腰痛に対し,NSAIDs,デュロキセチンの処方に加え,右腰方形筋の筋々膜性疼痛に対してトリガーポイントブロックを週2 回,2 週間繰り返し行うことで,腰痛も軽減していった。訪問介護も平日毎日入り,生活を支えた。約1 ヵ月後にはトイレ歩行,シャワー入浴も可能となった。 この症例を振り返って 本指針の冒頭で示されているように,実際の終末期の目安として1過去1 年以内に複数回の増悪による入院,2ADL の急激な低下(通院困難、あるいは訪問診療への切り替え,要介護状態となったときなど),3在宅酸素療法やNPPV などの導入,4フォローアップ中に著明な体重減少(10 %/6 ヵ月)を認めたときとすると,この症例での終末期は1, 2,3を満たし,4BMI=15.1 と著明なるい痩がすでに存在する68 歳の初診時からと考える。本症例はCOPD 終末期の患者に対し,COPD ガイドラインに基づく徹底した病態疾患管理を含む,呼吸リハビリテーションと地域緩和ケアの融合(図1)と,諦めない在宅チームの伴走と励ましにより,行動変容を促し,End of Life でもQOL とADL を高め,最終末期へと進むのをくい止めた症例である. 終末期に問うこと 患者にとって何が最善なのか? 呼吸困難を感じないように不快なことは避け,最低限の活動量のまま看取ることがよいのだろうか?COPD の患者は長い間の喫煙と,老化とともに進んで行くADL の 低下により,知らない間に日常活動度が低下する。動作による呼吸困難を恐れ,自宅に籠った生活となりがちである。これに対して,在宅チームが働きかけを行い,患者の行動変容を促さなければ,呼吸器悪液質のらせん階段を落ちていく。この経過をCOPD の自然経過として捉えてしまうと,新しい介入は行われず,最終末期へと向かってしまう。本症例のように,終末期でも回復の余地はないかどうかを問うてみることが望まれる。 今後の課題 非がん性呼吸器疾患への緩和ケアに対する海外からの報告は,モルヒネを使った症状緩和のみを行ったものが多い。しかし,わが国では在宅でも医療・介護保険制度のなかで訪問リハビリテーションを行うことができ,呼吸リハビリテーションと地域緩和ケアが融合したチームアプローチが可能である。わが国の在宅緩和ケアの効果を報告していくことが重要と考えられる。一方で,地域によっては訪問リハビリテーションを行うセラピストが少なく,訪問看護師が代わって呼吸リハビリテーションを行う現状もあり,地域緩和ケアが効果的に機能するにはまだ課題が多い。慢性疾患看護専門看護師,慢性呼吸器疾患看護認定看護師,呼吸ケア指導士は,院内にとどまらず,在宅での呼吸リハビリテーションの啓発と質の向上のために重要な役割を担うと期待され,これらの職種による活動と効果も併せて実証が望まれる。 ▪文 献1)McCarthy B, Casey D, Devane D, et al. Pulmonary rehabilita- tion for chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2015;CD003793. 2)Liu XL, Tan JY, Wang T, et al. Effectiveness of home-based pulmonary rehabilitation for patients with chronic obstructive pulmonary disease:a meta-analysis of randomized controlled trials. Rehabil Nurs. 2014;39:36-59.
3)Wytrychowski K, Hans-Wytrychowska A, Piesiak P, et al. Pulmonary rehabilitation in interstitial lung diseases:A review of the literature. Adv Clin Exp Med. 2020;29:257-64. 4)Dowman L, Hill CJ, Holland AE. Pulmonary rehabilitation for interstitial lung disease. Cochrane Database Syst Rev. 2014; CD006322. 5)Gomes-Neto M, Silva CM, Ezequiel D, et al. Impact of Pulmo- nary Rehabilitation on Exercise Tolerance and Quality of Life in Patients With Idiopathic Pulmonary Fibrosis:A SYS- TEMATIC REVIEW AND META-ANALYSIS. J Cardiopulm Rehabil Prev. 2018;38:273-8. 6)Huppmann P, Sczepanski B, Boensch M, et al. Effects of inpa- tient pulmonary rehabilitation in patients with interstitial lung disease. Eur Respir J. 2013;42:444-53. 7)林章敏.慢性呼吸器疾患の終末期医療─終末期の定義と医療 介入─.日呼吸ケアリハ会誌.2011;21:91-5. 8)武知由佳子,遠藤直子,丸山ゆかり,他.在宅訪問診療介入 のタイミングと終末期呼吸ケアのあり方.日呼吸ケアリハ会誌.2013:23:145-9. 9)日本呼吸器学会COPD ガイドライン第5版作成委員会.COPD (慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版.東京:メディカルレビュー社;2018. 10)Holland AE, Mahal A, Hill CJ, et al. Home-based rehabilitation for COPD using minimal resources:a randomised, controlled equivalence trial. Thorax. 2017;72:57-65. 11)Maltais F, Bourbeau J, Shapiro S, et al. Effects of home-based pulmonary rehabilitation in patients with chronic obstructive pulmonary disease:a randomized trial. Ann Intern Med. 2008;149:869-78. 12)Taylor SJ, Candy B, Bryar RM, et al. Effectiveness of innovations in nurse led chronic disease management for patients with chronic obstructive pulmonary disease:systematic review of evidence. BMJ. 2005;331:485. 13)Sridhar M, Taylor R, Dawson S, et al. A nurse led intermediate care package in patients who have been hospitalised with an acute exacerbation of chronic obstructive pulmonary disease. Thorax. 2008;63:194-200. 14)Wong CX, Carson KV, Smith BJ. Home care by outreach nursing for chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2012;2012:CD000994. 15)Howcroft M, Walters EH, Wood-Baker R, et al. Action plans with brief patient education for exacerbations in chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2016;12:CD005074. 16)Fukuchi Y, Nishimura M, Ichinose M, et al. COPD in Japan: the Nippon COPD Epidemiology study. Respirology. 2004; 9:458-65. 17)厚生労働省.平成29年(2017)患者の調査の概要.2019. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/17/dl/ kanja.pdf(閲覧:2020年6月22日) 18)池内智之,金田瑠美,進藤崇史,他.呼吸器疾患患者の特異的ADL は要介護度と比例しない.日呼吸ケアリハ会誌. 2018;27:153-6. 19)角田ますみ(編著). 患者・家族に寄り添うアドバンス・ケア・プランニング.東京:メジカルフレンド社;2019.
エンドオブライフケアに関わる諸問題 第 5 章
これまでにわかっていること 1.意思決定 エンド・オブ・ライフにおいては,呼吸機能の低下によるO2 の低下やCO2 の上昇,また腎機能の低下による尿毒症などにより判断能力が低下する。さらに慢性疾患患者は高齢者が多いため,慢性疾患を含む非がん疾患の終末期には認知機能が低下している場合が多く,意思決定能力が著しく低下している可能性が高い。そのため非がん患者の意思決定支援は,早期から多職種で関わっていく必要がある。意思決定の方法は,誰が決定を行うかによって大きく3 つに分けられる(表1) 1)。日本医師会総合政策研究機構の全国の20 歳以上の一般人への調査2)によ ると,治療方針の決定方法について,「医師の説明は聞かず医師に全て任せる」というパターナリズムが 1.1 %であるのに対して,「医師と相談しながら自分 で決める」というシェアード・ディシジョン・メイキング(shared decision making;SDM)と回答した者は50 % を超えており,日本においてもSDM が浸透してきていると推測される。しかし,その他の回答の約45 % が,「医師の説明を聞いて同意する」や「医師の説明を聞いて医師の判断に任せる」であり,インフォームド・ディシジョン・メイキング(informed decision making;IDM)のような積極的な意思決定ではなく,多くが消極的な意思決定であることが示唆されるのが現状である。 エンドオブライフケアに関わる諸問題 1.意思決定支援・ACP 第5章 サマリー 意思決定方法には,専門家が意思決定をする「パターナリズム」,医療者と患者が話し合い,協働して一緒に意思決定する「シェアード・ディシジョン・メイキング」,患者が自分でより主体的で自律的に意思決定を行う「インフォームド・ディシジョン・メイキング」がある。ACP とは医療者と患者との話し合いのプロセスであり,ACP によって人の価値観,不安や心配事,将来のケアへの希望などが明らかにされていく。ACP は,医療などについての選択が迫られる前に,意思決定能力が正常である時に行うことが推奨されている。患者の価値観の明確化と重要他者(いわゆる“患者とって大切な人”)との共有は,対話によって可能であり,患者の尊厳が守られ,残り少ない人生を最善の状態で送るために不可欠である。医療者は患者と家族の力を信じて,チームでACP 介入を行うことが重要である。日本における意思決定支援は,日本の文化,価値観と死生観などを考慮した患者・家族にとって大切な要因を明らかにする必要がある。今後の課題は,日本におけるACP 介入の直接的効果を検証することである。
SDM を推進するためには,単に情報提供を行って自分の好みや意向にあった意思決定を強いるのではなく,患者と医療者の良好な相互関係を築きながら,自己決定できる自律を支援しなければならないとされている3)。医療従事者と本人・家族の間で信頼関係を構築して,納得した意思決定をするプロセスとして捉える情報共有―合意モデル(図1) 4)が推奨されている。このモデルは,医療者から本人側への説明(医学的な= 生物学的biological 生命に関わる情報)と,本人から医療者側への説明(本人の人生や考え方についての命の物語biographical)を通して情報を共有する。そして,一方が他方に同意するのではなく,双方の合意を目指す。「説明と同意」で は,意思決定を「ここからここまでは医療が...ここから先は患者が」というように分担して行うという考え方であるのに対し,このモデルでの決定は両者が共同で行うものと捉え,「合意を目指すコミュニケーション」が必要であるとしている。「合意を目指す」ということは,本人側が納得して医療方針を選択することを含むので,医療者側は単に説明するだけでなく,本人が意思決定できるように支援することが重要である5)。 表1意思決定方法《Paternalism:パターナリズム》患者に選択肢を選ぶ能力がないという想定で,その機会を与えず,医師などの専門家が意思決定する方法。専門家主導の父権主義的な方法で,父親が小さな子どものためによかれと思って子どもの好み・意向をあまり聞かずに意思決定をすることからきている。《Shared Decision Making:SDM(シェアード・ディシジョン・メイキング)》医療者と患者が話し合い,協働して一緒に意思決定する方法。医療者は,患者が選択肢を比較して,自分の好み・意向と価値観にあった意思決定をするために必要なエビデンスに関する情報をできる限り提供しようとする。ともにもつ情報を共有し,選択肢を選ぶ理由も共有するパートナーとなる。《Informed Decision Making:IDM(インフォームド・ディシジョン・メイキング)》患者が自分でより主体的で自律的に意思決定を行う方法。医療者と一緒に決めるのではなく,情報源を主治医などに限定せず,多様な医療者の意見や医療者以外からも積極的に幅広く情報を収集する。 (文献1より改変引用) 本人家族 一般的価値観生物学的(biological)個々の価値観いのちの物語り的(biographical) 最善についての一般的判断Evidence Based最善についての個別化した判断人生計画・価値判断・ 選好の理由 適切な理解を伴う 意向の形成 Informed Consent合意 説明 説明 医療・ケアチーム 図1 意思決定プロセス:情報共有―合意モデル (文献4より引用)
1.ACP 1)ACP とは アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning;ACP)とは,人生の最終段階における生活や医療など,重要な意思決定をしなければならないときに推奨されるプロセスのことである。ACP について厚生労働省は,人生の最終段階を迎えた本人や家族などと医療・ケアチームが,最善の医療・ケアを作り上げるための合意形成のプロセスを示すものとして,「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」6)を2007 年に策定しており,2018 年に改定も行われている。また,狭義と広義のACP の考え方もあり,狭義では対象者本人が意思決定能力低下に備え準備するプロセスを示すのに対し,広義では意思決定が低下してもなお,本人の意思,推定意思,最善の利益を念頭に,意思決定を支援する対話のプロセスを示すとされている7)。 ACP の関連用語としてadvance directive(AD)があり,日本語では事前指示と呼ばれる。AD には,生命の危機に直面するような重篤な状態になったときに,本人が受けたい医療あるいは拒否する医療について,判断能力のある時期に前もって明確にしておく「内容的指示」と,本人の意思決定能力が低下,あるいは消失したときに,本人に代わって意思決定を代行する人を事前に指名しておく「代理人指示」がある8)。一般的に「内容的指示」に含む内容 としては,生命の危機に直面したときにどんな治療や処置を希望するか,またはしないか(Do Not Attempt Resuscitate:DNARなど心肺蘇生をしないという表明も含む)の意思の表明であり,これを文章にしたものをリビング・ウィル(Living will)と呼ぶ場合もある。しかし,近年はリビング・ウィルには医療行為だけでなく,療養場所や周囲からの配慮,自分の死後に家族や周囲の者に望むことなども含まれるようになってきている9)。図2に,ACP と関連する用語の関連性10)を示す。 リビング・ウィルと代理人指示を含むAD は, ACP により繰り返し行われる話し合いのなかで徐々に作り出されるものであるが,最終到達目標ではなく,いつでも変えられるものであることを,本人と家族に認識してもらわなければならない。特に文章化してしまうと,本人も家族もそれが最終決定のように感じてしまい,その書面に強く縛られることが予測される。大切なことは,人生について話し合うプロセスであり,自分の価値観や考えなど,最期までどのように生きたいか繰り返し考える過程であって,急いで結論を出すことではない。2)ACP の効果 80 歳以上の入院患者を対象に行われたオーストラリアのランダム化比較試験によると,ACP 介入群は非介入群に比べて,人生の最終段階における希望 代理人指示内容指示リビング・ ウィルDNAR 事前指示(AD) ACP 図2 ACP とその関連用語との関連 (文献10より改変引用)
が尊重され,残される家族のストレスや不安,うつ症状の程度も低く,満足度も高いことが明らかになった11)。また,Silvester らも,オーストラリアの高齢者施設での研究においてACP 介入により人生の最終段階の入院を減少させ,望む場所で最期を迎える傾向があったと報告しており12),ACP の有効性が検証されている。Chan らの香港における予後不良患者を対象とした研究においても,ACP の推進により病院再入院,入院期間の減少とQOL の向上を認め,その有効性が検証されている13)。3)ACP の開始時期 ACP の開始時期はできる限り早い時期が望ましく,意思決定能力が低下する前で,医療などについて選択を迫られることが起こる前に行うことが推奨されている。しかし,病状進行状況やフレイル進行期においても,ACP のプロセスを継続する好機は存在する7)。ACP 開始のポイントとしてACP が進んでいる英国のNHS では,1慢性疾患や予後不良の疾患の診断を受けたとき,2配偶者や家族など身近な人が亡くなったとき,3将来のことや定年後のことを考えたとき,4何か予期せぬことが起こったときなどが好時期であるとしている14)。また西川は,非がん呼吸器疾患患者の場合,1急性増悪からの回復期で次の急性増悪に備えるとき,2フレイルが進行し訪問看護が必要になったとき,3在宅酸素療法や人工呼吸療法が導入されるときなど,疾患の進行を感じながらも少し心穏やかでいられるタイミングを好時期としている7)。なお有田らのがん・非がん患者への調査では,病気の診断時と回答した者においては,事前指示表明の妥当な時期は,がん患者では約70 % に対して,非がん患者は約46 % と低い結果となっており15),非がん疾患患者は診断時だけでなく,タイミングを配慮しながらACP を少しずつ導入する方法が有効と思われる。4)ACP の内容 ACP の具体的支援内容は,1病状,予後,終末期医療と生活の変化の理解の促進,2今後の人生をどのように生きていきたいのか価値観を踏まえて患者・家族・医療者がともに検討できる機会の提供, 3患者の意思の確認,4家族と医療者の考え方の共 有の促進,5希望をできるだけ叶えるための具体策の相談や検討,6生き方を主体的に決めるように促し,支えることなどがある16)。表2に,ACP の活動指標16)について示す。 追野らは,病棟看護師が実際に行っている意思決定支援には,1患者の症状が増悪して制限がかかるなかでも患者の希望に添う,2良くならない疾患を抱える患者が最期をどう迎えたいか考えられる介入を行う,3家族に患者の最期を覚悟するように伝える,4徐々に悪くなっていく疾患についての情報を提供する,5患者の療養生活への思いを聴く,6病状が増悪しないで安楽に過ごすための関わることなどがあることを明らかにした17)。 田中らは,非がん性呼吸器疾患患者のACP を支える介入研究の海外文献を再検討して,ACP の実践おける重要な要素として,情報提供および記録の共有と関わる回数などが推奨されることを明らかにした18)。一方Zhouらは,ACPを阻害する要因として, 1患者・家族間の問題,2医師側の問題,3悪い知らせに対する恐れ,4時間的制約などを上げている19)。日本においては,1本人の意思,2家族の意向,3医学的な判断が意思決定支援に重要な要素とされおり,特に「本人の意思」においては,過去・現在・未来の時間軸を捉えることが重要としている20)。 非がん性呼吸器疾患患者自身の多かった事前指示は,1植物状態での人工呼吸器や栄養の中止,2コントロールされない症状に対する薬剤による意識レベルの低下,3終末期を過ごす場所,4代理人の指名,5病名告知などがあった15)。 しかし,医療者は,終末期において今後に起こりうることなどを話すことで患者に希望を失う懸念や,介入方法に関する知識不足のため積極的に介入できていないのが現状である。Bernacki らにより,「重篤な疾患をもつ患者との話し合いの手引き(Serious Illness Conversation Guide)」21)が開発され,木澤により日本語訳されている(表3) 22)。これは、重篤な疾患をもつ患者に対する具体的な問いかけを
示す手引きだが,ACP を実際に行うに当たり,どのような声かけをしてよいのかわからないときにも参考となるため,コミュニケーションのための有用なツールとして活用できる。5)ACP におけるチーム医療 ACP においては,「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」にあるように,医師をはじめとするチームで取り組むことが必要である。ACP のプロセスにおいて,患者の価値観の明確化および家族との共有は,患者が尊厳ある最善の生を生き抜くためには不可欠であり, ACP のプロセスのなかで最も重要である。ACP のプロセスを促進するには対話の技術が不可欠であり23-25),患者と家族の話を傾聴して共感することができる技術を有する看護師の役割は大きい。また,患者自身が自分の価値観に基づいて意思決定を行うためには心理的サポートが必要であるため,臨床心理士などの心理療法を行う医療者の役割も大きい。 今後の課題 日本において,ACP の介入要素が明らかにされていないため,日本の文化や価値観,死生観などを考慮したACP のプロセスはない。死生観は,生活習慣,文化と宗教に大きく影響を受ける26)。加えて, エンドオブライフケアにおける意思決定支援には,医療環境や医療保険制度の社会的要素も影響する可能性が大きいが,これらの要素の影響の程度や具体的な要因などについては明らかではない。また, ACP のあり方や意思決定への介入と効果について,疾患や年齢,性別など背景による影響要因の共通性や個別性も明らかになっていない。今後は,日本における意思決定支援や,ACP を推進するための研究が必要である。 日本においては,地域住民や患者を対象とした教育介入研究も散見するようになったが,現段階での研究は規模も小さく,介入方法が不明確なものが多く,方法も横断的調査であるため,今後は対象者や研究規模を拡大し,介入方法が明確な縦断的な研究を行って,ACP の直接的効果の検証が必要ある。 ▪文 献1)中山和弘.医療における意思決定支援とは何か.中山和弘, 岩本貴(編).患者中心の意思決定支援.東京:中央法規出版;2016. p.11-49. 2)日本医師会総合政策研究機構.第6回日本の医療に関する意識 調査.日医総研ワーキングペーパー.2017;384:76. 3)中山和弘.患者中心の意思決定支援.日本手術医学会誌. 2019;40:91-6. 4)臨床倫理プロジェクトサイト.意思決定プロセス―これから 表2 ACP の活動指標病状・治療目標の認識の確認1本人・家族の意思決定能力をアセスメントする,2本人・家族の病状・治療目標を確認する,3事前指示書の有無を確認する代弁者を決める1本人に自分の意思を代弁してくれる人を選択するよう促す,2代弁者とともに面談を行う,3代弁者の裁量権を尋ねる心配事を尋ねる1本人・家族の困っていること,心配事を聞く,2精神的なサポートを行う 価値観の確認1本人・家族の大切にしていることを聞く,2終末期に受ける可能性がある医療行為について説明する,3医療を受けない場合の選択肢とその経過について説明する,4受けたい医療行為・受けたくない医療行為を確認する,5生命に対する考え方を探求する 社会的支援・関係調整1療養場所の希望を聞く,2最期を迎えたい場所について聞く,3ソーシャルサポートを強化する,4利用できるサービスについて説明する,5家族との関係を調整する(面接時,家族も同席できるように調整する),6医療者と本人のコミュニケーションの促進を図る多職種連携1本人に関係する多職種でのカンファレンスを開催する,2必要時,多職種での面接の回数を増やす,3必要時,倫理委員会と連絡を取り合う (文献16より引用)
の考え方.http://clinicalethics.ne.jp/cleth-prj/cleth_online/ part1-3/now.html(閲覧:2020年6月22日) 5)清水哲郎.清水哲郎による臨床倫理のススメ(第5回)意思決 定プロセス(3)情報共有: 合意モデル.看護技術.2013;59: 70-4. 6)厚生労働省.人生の最終段階における医療・ケアの決定プロ セスに関するガイドライン.2018.https://www.mhlw.go.jp/ file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000197721.pdf (閲覧:2020年6月22日) 7)西川満則.予後予測と意思決定支援,意思決定支援概論.津田徹.平原佐斗司(編).非がん性呼吸器疾患の緩和ケア 東京:南山堂;2017. p.198-205. 8)片山陽子.アドバンス・ケア・プランニングの関連用語と概 念定義.西川満則,長江弘子,横江由理子(編).本人の意思を尊重する意思決定支援―事例で学ぶアドバンス・ケア・プランニング.東京:南山堂;2016. p.2-7. 9)阿部康之,木澤義之.アドバンス・ケア・プランニングと臨 床倫理.長江弘子(編).看護実践にいかすエンド・オブ・ライフケア第2版.東京:日本看護協会出版;2014. p.38-44. 10)吉澤明孝,吉澤孝之.慢性呼吸不全を含む非がん疾患におけ 表3重篤な疾患をもつ患者との話し合いの手引き話し合いの流れ患者に対する問いかけの例1. 話し合いを始める・目的を伝える・将来の意思決定のための準備・許可を求める「あなたが今後希望される医療やケアを提供することができるように, あなたの病気が 今後どうなっていくかをお伝えし,あなたにとってどんなことが重要かを前もってお聞きしておきたいと思うのですが,よろしいでしょうか?」 2. 患者の理解と意向を確認する「ご自分の病状についてどのように理解されていますか?」「今後,病気がどうなっていくかについて,どの程度お知りになりたいですか?」 3 今後の見通しを提供する「あなたの病状について,私が理解している範囲でお伝えしたいと思います...」 不確実性:「あなたの病気が今後どのように進行するか予測することは難しいと思います。できるだけ長く,病気が進行せずに元気で過ごしていただければよいなと思っているのですが,病状が急速に悪くなる可能性もあり,そのことを(とても)心配しています。そのもしものときに備えておくことが大事だと思うのです」または,時間的予後:「そうでないとよいのですが,残された時間が, (例:日単位~週単位,週単位~月単位,月単位から年単位の時間で示す)くらいになってきている可能性があることを心配しています」または,機能:「申し上げにくいのですが,あなたが感じているより事態は切迫しているのではないかと思います。そして,今後,もう少し難しい状況になる可能性があることを心配しています」 4. 大切なことについて聴く・目標・恐れと不安・強さの源・欠かせない能力・延命治療の範囲(トレード・オフ)・家族「万が一,病状がさらに進んだ場合のことを考えたいと思います。病状が進んだ場合,ど んなことが一番大切ですか?」「今後の病状に関して,一番不安に思っていることは何ですか?どんなことが心配ですか?」「これから病気と付き合っていくうえで,どのようなことがあなたの支えになると思われますか?」「あなたにとってとても大切で,これができないまま生きていくのは考えられないと思うのはどんなことですか?」( 例:口から食べられること,身の周りのことが自分でできること,家族とコミュニケーションが取れること,など)「病状がさらに進んだ場合,余命を伸ばすためならどの程度の治療であれば,たとえつらくてもやっていきたいと思いますか?」「ご家族は,あなたのご希望や大切にしたいことについてどのくらいご存知ですか?」 5. 話し合いを締めくくる・要約する・推奨事項を説明する・患者に協力することを伝える「あなたにとって...がとても大切だとおっしゃいましたね。それを考慮に入れると,現在 の病状では...をお勧めします」「こうすれば,あなたが大切にしたいことを今後の方針に反映できると思います」「この方針をどう思われますか?」「あなたの力になれるように,私も全力でお手伝いいたします」 6 話し合いの内容を記録する 7 主治医やほかの専門職に伝える (文献22より引用)
るエンドオブライフに向けた自己決定支援.日呼吸ケアリハ会誌. 2018;27:132-36. 11)Detering KM, Hancock AD, Reade MC, et al. The impact of advance care planning on end of life care in elderly patients:randomised controlled trial. BMJ. 2010;340:c1345. 12)Silvester W, Fullam RS, Parslow RA, et al. Quality of advance care planning policy and practice in residential aged care facilities in Australia. BMJ Support Palliat Care. 2013;3: 349-57. 13)Chan CW, Chui YY, Chair SY, et al. The evaluation of a palliative care programme for people suffering from life-limiting diseases. J Clin Nurs. 2014;23:113-23. 14)NHS. Planning for your future care, A guide. 2014. https:// www.england.nhs.uk/improvement-hub/wp-content/uploads/sites/44/2017/12/EoLC-Planning-for-your-futurecare.pdf(accessed 2020-06-22) 15)有田健一,舟木洋美,橋本和憲,他.研究・症例 終末期の事前指示に対する非癌性呼吸器疾患と肺癌患者の考え方.日胸臨.2015;74:210-9. 16)御子柴直子.アプローチ方法としてのアドバンス・ケア・プランニング.看護技術.2016;62:18-21. 17)追野真美,関彩子,石川春菜,他.COPD 患者がQOL を維持しながら過ごすための病棟看護師が行う意思決定支援.日看会論集:慢性期看.2019;49:215-8. 18)田中孝美,田中晶子,殿城友紀.慢性呼吸器疾患患者のアドバンス・ケア・プランニングを支える介入研究の文献レビュー.日看科会誌.2019;39:10-8. 19)Zhou G, Stoltzfus JC, Houldin AD, et al. Knowledge, attitudes, and practice behaviors of oncology advanced practice nurses regarding advanced care planning for patients with cancer. Oncol Nurs Forum. 2010;37:E400-10. 20)西川満則,三浦久幸.非がん・高齢者疾患のエンド・オブ・ライフケアにおける意思決定支援―地域におけるアドバンス・ケア・プランニングの進め方.ファルマシア.2017;53: 1177-81. 21)Bernacki R, Paladino J, Neville BA, et el. Effect of the Serious Illness Care Program in Outpatient Oncology:A Cluster Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2019;179: 751-9. 22)木澤義之.ACP の基本的な考え方とガイドライン解説.看護.2019;71:8-14. 23)濱口恵子,江口恵子.緩和ケアにおける倫理的配慮と看護師の役割.緩和医療学.2009;11:20-7. 24)高橋綾.対話を通じ価値観を理解,尊重することと他者をケアすること.緩和ケア.2018;28:85-9. 25)足立智孝.倫理的意思決定のためのナラティブ・アプローチ.日看倫理会誌.2013;5:103-6. 26)京田亜由美,神田清子,加藤咲子,他.死を意識する病を抱える患者の死生観に関する研究内容の分析.北関東医.2010; 60:111-8.
これまでにわかっていること 1.非がん性呼吸器疾患の終末期にある患者 の体験非がん性呼吸器疾患の終末期にある患者は,高度な呼吸困難や精神的な苦痛を認め1), 呼吸困難と不安は相互に影響し,また,不安と自尊心の低下は抑うつに影響する2)。Disler らは,進行したCOPD 患者の体験の22 論文のメタ解析を行い,1患者は病状を知ることと希望を保つことの間の葛藤,2息切れ,倦怠感,虚弱さに耐え続けること,3不安や社会的孤立,4希望の喪失といった心理的な衝撃を体験していることを示した3)。また,特発性肺線維症患者の体験の4 論文のメタ解析では,症状の負担と自立の喪失,治療による制限とともに生きることの受け入れ,家族役割の変更,実存的な苦しみととも に,自立した生活を維持することへの挑戦などの体験が示された4)。松本らは日本における重症COPD患者の希望を脅かす要素として,疾患に伴う身体的苦痛だけでなく,自分が一人の人間として尊重されず「病人」と型にはめた見方をされるといった周囲の医師や看護師,家族,社会の態度など,個人としての価値や人格を無視した周囲の対応も含まれると報告した5)。さらに,COPD 患者に対するACP は,予後の予測が困難であること,将来的に起こりえる状況を含む終末期医療の説明により患者が希望を失うのではないかとの医療者の懸念などのために,積極的には行われていない6,7)。そのため,患者は終末期の自分の人生と向き合うことができないことも少なくない。 このように,非がん性呼吸器疾患の終末期にある エンドオブライフケアに関わる諸問題 2.看護ケア 第5章 サマリー 非がん性呼吸器疾患の終末期にある患者の看護ケアは,患者が尊厳を維持し,最期の瞬間までその人らしく生ききることができるように支援することである。看護ケアを実施するにあたり,耐え難い呼吸困難やさまざまな喪失体験のなかを生きている患者の体験と価値観の理解が不可欠であり,ライフヒストリーや病いの体験を積極的に傾聴して,対話を重ねて理解を深める必要がある。症状マネジメントには限界があるが,「専心」を基盤として,誠実に患者と接することで,患者の心理社会的,スピリチュアルペインを減少させることが可能である。患者が自分の価値観に基づいて最善の意思決定をできるように支援するには,患者を理解することが不可欠である。終末期にある患者への看護ケアを確立するためには,看護ケアモデルの開発や,介入モデルの開発や介入への障壁を克服するための看護教育と支援方法の検討が必要である。
患者は,身体的・精神的・社会的・スピリチュアル的な多側面からなる全人的苦痛(図1)を伴った,終末期を自分らしく生きることが困難な状況を体験している。それは,自立・自律が脅かされ,人としての尊厳も脅かされることにつながっている。 2.非がん性呼吸器疾患の終末期にある患者 の看護ケア非がん性呼吸器疾患の終末期にある患者の看護ケアは,患者が尊厳を維持し,最期の瞬間までその人らしく生ききることができるように支援することである。看護の基盤となるものは「専心」で,「そこにその人のために私がいる。他者のために自己が存在する」という態度のことをいい,看護の本質である8)。患者は,呼吸困難をはじめとする全人的苦痛や苦悩に共感しながらそばにいる,専心する看護師との関係性のなかで,安寧の獲得や孤独感が癒され,持てる力を蘇らせたり,「生きる意味」に向けた視野を広げることが可能となる9)。呼吸困難をはじめとする症状マネジメントに限界があるなかで,「そばにいるだけで何もできなかった」と無力感に苛まれることがあるが,専心こそが,終末期患者に おいて重要な看護であると自らのケアの意味づけを行うことが大切である。1)患者の全人的理解 看護ケアの実践において看護師は,患者に寄り添いながら,積極的傾聴と対話により患者を理解しようとすることが不可欠である。特に患者のさまざまな体験や苦痛とともに価値観や希望を理解していくことは重要である。 看護師は,患者の病いの体験やライフヒストリーの語りから病みの軌跡を辿り,病気や療養法への思い,価値観や希望などを理解することができる10)。一方,患者は病いの体験やライフヒストリーを語ることで自己の価値観に気づく。また,患者の価値観を理解し,尊重することは対話のプロセスのなかで起こるものであり11),看護師のナラティブ能力は重要な役割を果たす12)。ナラティブ能力とは,患者の病いの物語を認識し,吸収し,解釈し,それに心動かされて行動するための能力といわれている13)。 看護師は,患者が望む生き方ができるように,看護師にできることをともに考えていきたい旨を説明 全人的苦痛 身体的苦痛 呼吸困難慢性疲労感ADL 低下 社会的苦痛仕事・家族役割の喪失経済的な問題など 精神的苦痛不安,うつ状態,苛立ち,孤独感,恐れ,怒りなど スピリチュアルペイン 自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛 図1 全人的苦痛
し,思いや希望など尋ねていく。そして患者に起こっている心理的な影響やニーズ・希望を理解し,患者の価値観に応じたケアを導き提供していく。患者の思いや希望・目標などを引き出す方法として,例えば下記の問いかけがある。・これから,どのように過ごしていきたいとお考え ですか・心地よいこと,気持ちが落ち着くこと,逆に不快 に思うことを教えていただけますか・何か気がかりなこと,ご心配なことはありますか 患者の価値観はさまざまであり,また患者は言語化しにくいこともある。Miyashita らの示した日本人のqood death(表1) 14)を参考に,尋ねることもよいと考える。例えば,今後の治療の選択を検討していく際に,患者に今後の生き方として大切にしたいことを尋ねると,対話のなかで「自然な形で過ごすこと」という思いとともに,「もう,精一杯生きた。これ以上喉に穴を開けて人工呼吸で生きていくのは嫌。諦めではなくもう十分頑張ったので自然に逝きたい」と語られることがある。2)症状緩和とセルフケア充足の支援 患者が最も苦痛とする呼吸困難の症状緩和として,包括指示の範囲で適確な臨床判断による酸素療法や人工呼吸器の管理,気道クリアランスへの支援,病態生理に伴う安楽な体位の提供などを行う。呼吸困難により制限される日常生活のなかで,食事や排泄など患者が自分で行いたいセルフケアを優先して行えるよう援助を行い,少しでも安楽で快適な生活環境を整える。呼吸リハビリテーションや呼吸 法,送風や低めの室温調整,行動のペースを調整すること,パニックコントロールなど呼吸困難への対処を患者・家族へ教育することも呼吸困難の緩和に有用である15,16)。また,患者が呼吸調整や動作要領の工夫などにより,自己で少しでも呼吸困難を軽減できたときには,「ご自分で調整できましたね」と称賛し,患者の自己コントロール感,自己効力感の向上へつなげる。呼吸困難に影響を及ぼす心理社会的苦痛,スピリチュアルペインについてもアセスメントを行い介入していく。特に不安が増強しやすい夜間の睡眠を確保するような支援も重要である。3)心理社会的・スピリチュアルケア Kreuter は,心理的問題への支援として,患者の尊厳を強めるように積極的に働きかけ,自尊心や自律心を維持できるようにすることが重要と述べている17)。慢性呼吸器疾患患者を含む非がん性疾患患者に対する熟練看護師の看護実践においても,1患者の自尊感情の回復や満足感などを得ることに着目しながら意思決定を支える関わり,2患者家族に添い彼らの生き方を尊重する関わりが行われている18)。患者が自分の人生を自分らしく生きていくためには,自分には価値があると思える状況で,さまざまな出来事に対して他者からの支配や制約を受けず,自分自身の価値観に基づいた意思決定や行動ができる状態が保たれる必要である。 スピリチュアルケアの基盤は,積極的に症状緩和を図るとともに,患者が医療者に大切にされている 表1日本人が共通して重要だと考える「望ましい死」 多くの患者が共通して大切にしていること人によって重要さは異なるが,大切にしていること・苦痛がない・望んだ場所で過ごす・医療者を信頼できる・希望や楽しみがある・負担にならない・家族とよい関係でいる・自分のことが自分でできる・落ち着いた環境である・人として大事にされる・心残りがない・できるだけの治療を受ける・自然なかたちで過ごす・伝えたいことを伝えておける・先々のことを自分で決められる・病気や死を意識しないで過ごせる・他人に弱った姿を見せない・価値を感じられる・信仰に支えられている (文献14より改変引用)
と実感し尊厳を維持できるように,尊敬の念を持って誠実に関わることである。また,患者の苦悩に共感を示しつつ,傾聴すること,ともにいること,そして患者にとっての快適さ(comfort)を追求し提供していくことが重要となる19)。 スピリチュアルペインについて,村田は「自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛」と定義し,時間存在,関係存在,自律存在の3 次元で示している20) 看護師は,スピリチュアルペインに対して村田の理論モデルの3 つの次元に基づく重点的なアセスメントを行い,3 つの柱の修復とバランスを検討しながら必要な支援を実施していく21)。 自律存在のスピリチュアルペインとは,終末期の患者はさまざまなことができなくなる(不能)ことを体験し,無価値,無意味として自己を捉え,自律性の喪失により苦悩することである。ケアとして「今の自分の肯定」,「自分らしさの保持」といったspiritual well being(患者のスピリチュアルな領域の良好さ)に向けた援助が必要となる(表2) 22)。 ・今の自分の肯定への支援22)ケアの視点は,生きる意味,価値,役割など自分らしさを再吟味する過程をともにすることである。例えば,1患者が役割を果たし充実していたと感じていた頃の回想により,自分が意味ある存在であったことを再認識し,過去と現在がつながっていることに気づいてもらう,2終末期という窮境のなか,自分のことでなく家族のことを思いやる,終末期であることを受け入れ自分らしく生きようとするなど,態度価値を有していることを言語化して伝えるなどである。態度価値についてフランクルは,どうすることもできない絶望的な運命に対してどんな態度をとるかという人間の尊厳の価値であり,これに生きる意味を見出すと説いた23)。・自分らしさの保持への支援22)ケアの視点は,患者のこうありたいと思う姿や本人なりの生活スタイルを助けることとコントロール感を維持することである。そのために,患者が大切にしたい行動の意味を理解し,患者の最善について家族を含めたチームで共有し,行いたいことが維持 できるように支援する。例えば,耐え難い呼吸困難のなかで,自己で排泄することを希望する患者がいるとする。このような患者の場合,生命の危険回避など安全・安楽から考えると,自己での排泄を容認することは,善行・無害の原則に反するように考えられる。しかし,これは医療者の視点からみた倫理的判断である。患者の価値観からこの行動を考えると,自己での排泄は,患者にとっての生きる希望の拠り所,生きている証を意味し,自分の身体機能の限界を査定しながら自己決定を行った結果であり,患者の視点からみた自律・善行で尊重されるべきである。看護師は,生理的欲求が充足されなければ全人的ケアは成立しない24)こと,排泄行動が尊厳の喪失と強く結びついている25)ことを理解しておく。そして患者にとっての善行は何かを考え,それを尊重するために害を最小限にするという考え方が重要である。例えば,労作前の適切な酸素流量調整,負担の少ないポータブルトイレ移動へのさりげないサポート,呼吸介助などである。 その他,時間存在の喪失,関係存在の喪失への支援については表2を参照。4)意思決定支援 終末期にある患者の意思決定支援とは,終末期医療についてだけでなく患者が日常生活をはじめさまざまな出来事に対して,自己の価値観に基づいた意思決定ができるように支援することである。 自立・自律が阻害されやすい終末期にある患者にとって,医療者が患者の価値観を理解し意思決定に基づいた行動の支持やケアを提供する態度は,患者自身が医療者に大切にされている実感を得るとともに自己コントロール感を認識し自尊感情を向上させ,尊厳ある最善の生を導くことにつながる。意思決定支援のためには,患者の価値観,希望の理解が不可欠である(前述したp.128 2.1)患者の全人的理解の項参照) 5)ACP Ora らは,COPD 患者に対する看護師による統合
的な緩和ケアの報告は非常に少ないが,そのなかにおいてはACP介入が多いことを示した26)。看護師のACP 介入の効果として,患者と医師や代弁者とのコミュニケーションの改善や,患者の不安の軽減やACP への積極的な取り組みがなされることを報告している27 −29)。竹川らは,看護外来における医師との協働に基づくACP 介入として,ACP の意義や終末期医療の理解を促す支援,患者の価値観の意識化と共有の促進などにより,患者・家族が主治医による病状や終末期医療の説明に不安を抱いても乗り越える力があることを報告している30)。 ・ACP の促進に向けた支援 ACP を促進するためには,ACP がコミュニケーションであることを理解することと対話を促進する技術が重要である。西川らは,コミュニケーションの基本スキルとして「反復」と「沈黙」の活用を推奨している31)。反復は,相手の言葉をしっかり受け止めその感情に向き合い,事実のみを返す。例えば,「寝たきりになったら生きている意味がない」と言われたら,「寝たきりになったら生きている意味がないと思われるのですね」と返す。「沈黙」は,相 手の心が整うのを待つことである31)。沈黙により患者は,思いに気づき言語化できるのである。この反復と沈黙の技術をもって対話を進めることが大切である。ACP 介入手順は,エンド・オブ・ライフ・ディスカッション(EOLD)期に用いられるものであるが,木澤が翻訳したACP 介入の具体的な手引きである「患者との話し合いの手引き(Serious illness Conversation Guide)」32)が参考になり参照されたい(第5 章「エンドオブライフケアに関わる諸問題1. 意思決定支援・ACP」表3〔p.125〕)。 a. パートナーシップの構築 話し合いの目的として,「あなたが望む生活を送ることを強く願っており,そのための医療や療養法などをチームで一緒に考え,全力で支援したい」と誠実に看護師の思いを伝える。 b.患者の価値観の明確化および家族との共有 このプロセスは,ACP のなかで最も重要である。「あなたが大切に思っていることや希望を私たちも 表2スピリチュアルペインの苦悩に応じたケア 各存在の意味患者の言葉苦悩の内容に応じたケアの視点spiritual well-being 時間存在将来の喪失が現在の無意味を生む・先が短いので何もす る気がしないし何をしても意味がない・これからのんびり過 ごそうと思っていたのに心残り患者の支えとなるような死や死後のイメージを育む将来の希望 死後にも遺していきたいものを遺せるように助ける希望を見出すことを助け,希望を支える今を生きる/意味生きたい希望,揺らぐ希望に寄り添う限られた生に対する自分の納得 関係存在他者の喪失が孤独・空虚の無意味を生む・孤独だ,自分一人で 取り残された感じ・誰も分かってくれな い家族や大切な人とのつながりを確かめ合える/再確認できるように助ける家族や大切な人とのつながり 超越的存在とつながること/つながりを再確認することを助ける超越的存在とのつながり他者との葛藤や罪意識と折り合う過程に寄り添う折り合い,和解 自律存在不能と依存が無価値・無意味・負担・迷惑という苦しみを生む・自分で自分のことが できなことがつらい・何の役にも立たない生きる意味,価値,役割など自分らしさを再吟味する過程をともにする今の自分の肯定 こうありたいと思う姿や患者なりの生活スタイルを保てるよう助ける自分らしさの保持 (文献22より作成)
大切にしながらケアをしたい」と誠意をもって思いを伝え,「大切なこと」について具体的に尋ねていく。対話を繰り返すことにより,患者の価値観の明確化および家族との共有が可能となり,これはスピリチュアルペインへの援助にもつながる。 c.ACP に取り組む患者の力を高める・看護師は患者に寄り添い,ともに考える存在であ ることを患者に伝える。・患者が人生で果たしてきた役割や出来事に耳を傾 け患者の人生を肯定する。・気持ちが揺らぐことは,意思の明確化に大切な過 程であることを伝え保障する。・医師との面談時は,患者が自分の価値観や思いを 伝えることができるように看護師は適宜アドボケーター(代弁者)となり支援する。・医師との面談後には,看護師は患者・家族がどの ように病状や終末期医療について理解し受け止めているのか,感情を含めて傾聴する。患者は自らの思いを語ることで,混乱を紐解き,自らの価値観や役割など踏まえて意思決定することができる。また不明な点など,補足説明を行い不安の軽減を図る。 d.家族など患者の価値観を知りうる人が代弁者に なれるよう支援する家族は,人工呼吸療法や鎮静剤などの終末期医療の選択を迫られた場合,生命の維持,余命に関わることであるため葛藤し苦悩する。看護師は,家族の葛藤・揺れに添いながら,患者の人生と意思の尊重が患者の尊厳を守ることにつながり,それが家族の大切な役割であること,医療チームもその責任を共有し全力で支えることを伝える。 e.チーム医療における看護師の役割 Hammes らは,ACP の促進を支える看護師の能力として,1患者と家族の情報ニーズをアセスメントすること,2患者の医学的な状態・治療法について的確な情報提供をすること,3傾聴すること,4情緒的サポートを行うこと,5コミュニケーションを 支えることなどを述べている33)。患者を生活者として捉え,これらの能力を有している看護師のACPのプロセス促進に対する役割は大きい。 終末期からACP が開始となる場合,患者は予後への不安を強く抱くことが多い。長江は「多くの人は人生の危機直面時,自分の生きる土台や人生の目的を求めていく本来の力がある」と述べている34)。医療者は,終末期医療の説明による患者の希望の喪失を懸念することもあるが,患者の力を信じて積極的に介入する必要がある。終末期の患者が本来の力を蘇らせ自己の価値観に基づいた意思決定を行うためには,心理学的サポートが必要となり,精神科医・心療内科医・臨床心理士・公認心理師との協働は重要であり,看護師はコーディネーターとしての役割も求められる。6)家族のケア 非がん性呼吸器疾患の終末期にある患者の家族は,大切な患者が呼吸困難の苦痛にあるなか,家族としてできることの限界を感じて不全感や無力感を抱いたり,患者との別離を思い悲しみや孤独感などのさまざまな感情を抱く。また,人工呼吸療法や鎮静剤を使うタイミングなど代弁者の役割を担うことへの苦悩もある。これらの苦悩に対して適切な対処ができないまま,患者が亡くなった場合,家族はさらに「悲嘆」に苛まれる。したがって,死別前からグリーフケアを意識してケアに当たることが大切である。 終末期にある患者への家族ケアには,家族は死にゆく人にとって最重要他者でありチームの一員の介護者としての家族の支援と,家族を失うという喪失体験をするケアの対象者としての支援がある35)。 介護者としての家族へのケアとして,全人的苦痛のなかで生きている患者にとって,家族が傍にいることが何よりも患者の安らぎにつながるという家族の存在の価値を伝える,看護師とともに行えるケアへの参加を促す,精一杯全力を尽くしていることを言語化して伝える,などを行う。 ケアの対象者としての家族へのケアとして,患者
の病状の変化に伴い,家族の感情や欲求の揺れに寄り添いながらその揺れを保障しつつ表出を促し,対話するなかで理解し共感すること,そして疲労を軽減しケアができるように支援すること36,37)が重要である。これらの支援により,患者家族にとって貴重な時間をともに過ごすこととなり,死別前から行うグリーフケアにもつながる。 今後の課題 非がん性呼吸器疾患の終末期患者の体験はさまざまな質的研究で明らかになっている。しかし,看護師による統合的な介入については,ACP に焦点を当てた介入研究が一部にあるに過ぎない。今後,より全人的に心理社会的,スピリチュアル的なニーズを扱う看護師主導のケアモデルを深く探索していく必要がある。 また,緩和ケアにおける医療者側の障壁として,緩和ケアに関する知識不足や患者に緩和ケアの話題を出すことへの個人的な抵抗感などが明らかになっており17),今後,これらの障壁を克服するための看護師に対する教育や支援方法の検討が必要である。 ▪文 献1)Edmonds P, Karlsen S, Khan S, et al. A comparison of the palliative care needs of patients dying from chronic respiratory diseases and lung cancer. Palliat Med. 2001;15:287-95. 2)Weaver TE, Richmond TS, Narsavage GL. An explanatory model of functional status in chronic obstructive pulmonary disease. Nurs Res. 1997;46:26-31. 3)Disler RT, Green A, Luckett T, et al. Experience of advanced chronic obstructive pulmonary disease:metasynthesis of qualitative research. J Pain Symptom Manage. 2014;48: 1182-99. 4)Igai Y. End-of-life trajectory of coping and self-care of pa- tients with idiopathic pulmonary fibrosis:A meta-synthesis using meta-ethnography. Jpn J Nurs Sci. 2019;16:47-61. 5)松本麻里,土居洋子.重症慢性閉塞性肺疾患患者の希望を脅 かす要素.日看科会誌. 2006;26:58-66. 6)Curtis JR. Palliative and end-of-life care for patients with severe COPD. Eur Respir J. 2008;32:796-803. 7)Curtis JR, Engelberg RA, Nielsen EL, et al. Patient-physician communication about end-of-life care for patients with severe COPD. Eur Respir J. 2004;24:200-5. 8)ミルトン・メイヤロフ(著),田村真,向野宣之(訳).ケア の本質―生きることの意味.東京:ゆみる出版;1987. 9)安酸史子,鈴木純恵,吉田澄恵(編).ナーシンググラフィカ 成人看護学(3):セルフマネジメント 第3版.大阪:メディカ出版;2015. 10)野川道子(編著).看護実践に活かす中範囲理論 第2版.東京:メヂカルフレンド社,2016. 11)高橋綾.対話を通じ価値観を理解,尊重することと他者をケアすること.緩和ケア.2018;28:85-89. 12)足立智孝.倫理的意思決定のためのナラティブ・アプローチ.日看倫理会誌.2013;5:103-6. 13)斎藤清二.医療におけるナラティブとエビデンス 改訂版―対立から調和へ.東京:遠見書房;2016 14)Miyashita M, Sanjo M, Morita T, et al. Good death in cancer care:a nationwide quantitative study. Ann Oncol. 2007; 18:1090-7. 15)Abernethy AP, Currow D. Palliative Care. In:Mahler DA, O'Donnell DE, editors. Dyspnea:Mechanisms, Measurement, and Management, Third Edition. Florida:CRC Press;2014. p.223-38. 16)Maddocks M, Lovell N, Booth S, et al. Palliative care and management of troublesome symptoms for people with chronic obstructive pulmonary disease. Lancet. 2017;390: 988-1002. 17)Kreuter M, Bendstrup E, Russell AM, et al. Palliative care in interstitial lung disease:living well. Lancet Respir Med. 2017;5:968-980. 18)谷本真理子,髙橋良幸,服部智子,他.一般病院における非がん疾患患者に対する熟練看護師のエンド・オブ・ライフケア実践.Palliat Care Res. 2015;10:108-15. 19)田村恵子.終末期患者のスピリチュアルペインとそのケア. Mod Physician. 2012;32:1143-46. 20)村田久行.終末期がん患者のスピリチュアルペインとそのケア.日ペインクリニック会誌.2011;18:1-8. 21)田村恵子,前滝栄子,今井堅吾,他.スピリチュアルペインのアセスメントとケア計画の立て方.田村恵子,河正子,森田達也(編).スピリチュアルケアの手引き.東京:青海社; 2012.p.27-52. 22)草島悦子,河正子,坂井さゆり.スピリチュアルケアにおける医療者の備えとケアの視点.田村恵子,河正子,森田達也(編).スピリチュアルケアの手引き.東京:青海社;2012. p.103-11 23)牧野智恵.病いを生きる人間の価値実現に関する考察:V.E.フランクル理論における「三つの価値」に焦点を当てて.石川看誌.2012;9:141-50. 24)山中源治.看護師の立場からICU でのend-of-life ケアを考える:必要なのはすべての医療者がよりよい"cure とcare" に思いをめぐらすこと.Intensivist. 2012;4:101-11. 25)嶋田由枝恵,宮脇美保子.日本人の「終末期がん患者のスピリチュアルペイン」概念分析.日看科会誌.2017;37:456-63. 26)Ora L, Mannix J, Morgan L, et al. Nurse-led integration of
palliative care for chronic obstructive pulmonary disease: An integrative literature review. J Clin Nurs. 2019;28: 3725-33. 27)Sinclair C, Auret KA, Evans SF, et al. Advance care planning uptake among patients with severe lung disease:a randomised patient preference trial of a nurse-led, facilitated advance care planning intervention. BMJ Open. 2017;7: e013415. 28)Houben CHM, Spruit MA, Luyten H, et al. Cluster-randomised trial of a nurse-led advance care planning session in patients with COPD and their loved ones.Thorax. 2019; 74:328-36. 29)Buckingham S, Kendall M, Ferguson S, et al. HELPing older people with very severe chronic obstructive pulmonary disease(HELP-COPD):mixed-method feasibility pilot randomised controlled trial of a novel intervention. NPJ Prim Care Respir Med. 2015;25:15020. 30)竹川幸恵,平田聡子,桑原田真弓,他.呼吸器看護専門外来におけるアドバンス・ケア・プランニング,支援内容と患者・家族の反応の分析.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌.2019;29 Suppl:261s. 31)西川満則,大城京子(著).コミュニケーションの基本.ACP入門 人生会議の始め方ガイド.東京:日経メディカル;2020. p88-114. 32)木澤義之,ACP の基本的な考え方とガイドライン解説.看護.2019;71(8):8-14. 33)Hammes BJ, Rooney BL, Gundrum JD. A comparative, retrospective, observational study of the prevalence, availability, and specificity of advance care plans in a county that implemented an advance care planning microsystem. J Am Geriatr Soc. 2010;58:1249-55. 34)長江弘子.エンド・オブ・ライフケアとgood death の概念.長江弘子(編).看護実践にいかすエンド・オブ・ライフケア第2版.東京:日本看護協会出版;2018. p.11. 35)長江弘子.エンド・オブ・ライフケアの意味するもの.家族看護.2014;23:10-9. 36)櫻井智穂子.エンド・オブ・ライフケアにおける家族の意思決定支援―最善のケアを導く「対話」と「プロセス」の重要性.家族看護.2014;23:44-9. 37)渡辺裕子.終末期患者の家族の看護.家族看護.2003;1: 6-11.
はじめに わが国では,がん患者を対象とした「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き」が,2018 年に日本緩和医療学会より発刊されている1)。本手引きは非がん性疾患を対象に含めないと記載されているが,非がん性疾患においても,この手引きなどを参考に施設ごとに取り決めをして鎮静が実施されているのが現状と思われる。他章でも繰り返し述べられているように,非がん性呼吸器疾患は予後予測が困難なことが特徴である。しかし,最終末期に関しては,呼吸様式の変化・意識レベルの低下・経口摂取困難・精神状態の悪化・臓器不全の出現などの徴候に基づいて,死が差し迫った状態であることが認識可能と考えられる2)。この段階においては,苦痛緩和のための鎮静や倫理的問題へのアプローチは,悪性疾患か否かにかかわらず同一であると考えられるため,本章の内容も前述の手引きに準拠した。末尾では緩和的鎮静も含めた終 末期治療における倫理的配慮についても付記した。 終末期治療における生命予後がより長いと考えられる終末期患者に対する鎮静(特に持続的な深い鎮静)については,患者の生命予後を短くする結果になった場合の倫理的妥当性が十分に議論されていないこともあり,本章の内容は最終末期のケアを想定している。ただし,後述の倫理的事項について十分な配慮を行ったうえであれば,間欠的鎮静や調節型鎮静に関しては,最終末期以外での使用を否定するものではない。 これまでにわかっていること 1.最終末期の鎮静 非がん性呼吸器疾患の最終末期では,呼吸困難を中心としたさまざまな苦痛が生じうる。非がん性疾患患者の最期の1 週間の症状を検討した報告では, エンドオブライフケアに関わる諸問題 3.最終末期の鎮静 第5章 サマリー 非がん性呼吸器疾患において,十分な緩和ケアを行っても改善が得られない治療抵抗性の苦痛が,呼吸困難を中心にみられることがある。最終末期における治療抵抗性の苦痛に対しては,苦痛緩和を目的とした鎮静が治療の選択肢となる。ミダゾラムが鎮静に使用する薬剤の第一選択薬である。持続鎮静の方法は,苦痛が緩和されるように鎮静薬を少量から調節して持続投与する調節型鎮静を原則とする。鎮静を行う際の倫理的要件として,相応性,医療者の意図,患者・家族の意思,医療チームの判断の4 要件を確認する必要がある。
非がん性呼吸器疾患においては全例で呼吸困難の出現があり,中等度以上の苦痛を感じる割合も50%とほかの非がん性疾患に比べて最も高かったとされる3)。このなかでも,薬物療法・非薬物療法を十分に行っても緩和できない苦痛(=治療抵抗性の苦痛)に対しては,苦痛緩和のための鎮静という手段が,患者にとって最善の治療となる場合がある。 苦痛緩和のための鎮静に関しては,呼吸器領域では主として肺がんについて検討がなされており,非がん性疾患の領域ではほとんど検討がなされていないのが実情である。これまで報告されている非がん性呼吸器疾患の緩和ケアのガイドラインにおいては,いずれのガイドラインも最終末期の鎮静に関する記述はない4 −6)。2018 年に発表されたCochrane Database of Systematic Review の成人の終末期疾患に対する鎮静の効果を検討した成績でも,検討文献の95% ががん患者に関するものであった7)。また,日本呼吸器学会のCOPD 診断と治療のためのガイドライン(第4 版)では,COPD の最終末期について,症状緩和ができないときの鎮静方法が記述されているが8),第5 版では,症状緩和ができないときに最終手段として鎮静を検討するとの記述があるのみである9)。 2.鎮静の実際1)鎮静薬の種類1) 実臨床で使用されている頻度の高い鎮静薬は,ベンゾジアゼピン系薬のミダゾラム(注射薬)で,ほかにベンゾジアゼピン系薬のフルニトラゼパム(注射薬)・ジアゼパム(坐薬)・ブロマゼパム(坐薬),バルビツール系睡眠薬であるフェノバルビタール(注射薬/ 坐薬)がある。オピオイドと抗精神病薬(ハロペリドール,クロルプロマジン,レボメプロマジン)は,本指針における鎮静薬には含めない。したがって,呼吸困難・せん妄の緩和のためにオピオイド・抗精神病薬を妥当な投与量に増量した結果として患者の意識が低下した場合は,本章の鎮静の概念には含まない。2)鎮静の分類1) 鎮静は鎮静薬の投与方法によって,間欠的鎮静と持続的鎮静との二つに大別される。後者はさらに調節型鎮静と持続的な深い鎮静に区別される。 ・間欠的鎮静: 一定期間の就眠を目的として鎮静薬 を間欠的に投与すること・持続的鎮静: −調節型鎮静:苦痛の強さに応じて,苦痛が緩和 されるように鎮静薬を少量から調節して持続投与すること。−持続的な深い鎮静: 苦痛が非常に強い場合に, 少量からの投与では十分に緩和できないという見込みのもとに,最初から深い鎮静状態とするように鎮静薬を調整して持続投与すること。 3)鎮静を行う際の基本的な考え方(図1) 1) 鎮静の対象になりうる耐え難い苦痛として,呼吸困難,せん妄,痛み,悪心,嘔吐,倦怠感などが挙げられるが,非がん性呼吸器疾患では呼吸困難が最も重要である。精神的苦痛・スピリチュアルペインは単独では鎮静の適応にならない。 鎮静を考慮する前にまず行うべきことは,十分な緩和治療が行われているかどうかの再検討である。すなわち,苦痛(主に呼吸困難)の治療が,精神的ケアも含めて十分に行われており,真に治療抵抗性であるかどうかをチームで再検討する。一時的な苦痛緩和が必要と考える場合には,患者の休息を確保するための夜間・日中の間欠的鎮静を検討する。 十分な見直しを行っても苦痛が緩和されない場合,患者の意思と状況の相応性から考えて最善の選択が何か検討する(相応性については後述のp.138 3 鎮痛薬の投与を行う倫理的要件を参照)。患者に よっては,意識が低下する可能性のある方法は希望せず,苦痛が持続したとしてもコミュニケーションがとれることを優先する場合もある。患者の価値観に基づく意思をよりどころにして相談することが基本である。 患者の意思と相応性に基づいて妥当と考えられる
場合,持続的な鎮静薬の投与を考慮する。選択の際には,苦痛を緩和できる範囲で意識水準や身体機能に与える影響が最も少ない方法を検討する。すなわち,一般的には調節型鎮静から開始し,それでも十分な効果が得られない場合は持続的な深い鎮静を行う。治療抵抗性が確実で持続的深い鎮静でなければ苦痛が緩和されないと見込まれる,かつ,副作用のリスクを許容しうる場合には,持続的深い鎮静を最初から行うことも検討しうる。4)薬剤の選択,治療効果,合併症1) 持続的鎮静にはミダゾラムが第一選択薬として推奨される(表1)。オピオイドは鎮静作用が弱く,蓄積により神経過敏を生じることがあるため鎮静には用いない(ただし,呼吸困難の苦痛緩和としては,適切な量を使用することは妥当である)。鎮静後は,苦痛の程度,意識水準,有害事象,鎮静以外の苦痛緩和の手段,病態,家族の希望などを定期的に評価する。そのうえで,苦痛が緩和され,意識レベルの低下,有害事象が最も少なくなるように投与量を増減 する。調節型鎮静に際して,「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き」では,苦痛の程度を評価する指標(Support team Assessment Schedule;STAS)を用いているが,本指針においては実臨床で頻用されているRichmond Agitation‒Sedation Scale(RASS)を用い,RASS 0 ~−2 の浅い鎮静を保つことを提案する(表2)。 鎮静は70% 以上の症例で苦痛緩和の効果があるとみなされている。持続的深い鎮静を受けた患者の2 ~4 %で鎮静薬の投与が原因となり死亡をきたした可能性があるが,集団として生命予後を短縮する効果は示されていない10)。したがって,もともと鎮静薬の投与を受ける最終末期の患者の生命予後が限られていることを考えれば,苦痛緩和のための鎮静が生命予後を極端に短くすることは少ないと考えられる。 治療抵抗性 耐え難い苦痛 患者の意思と相応性( 苦痛の強さ,治療抵抗性の確実さ,予測される生命予後,効果と安全性の見込み)持続的な鎮静薬の投与以外の苦痛緩和手段の見直し 1.苦痛に対する緩和ケア・せん妄の緩和ケア・呼吸困難の緩和ケア・痛みの緩和ケア・その他の苦痛の緩和ケア2.苦痛に対する閾値を上げ人生に意味を見出すための精神的ケア3.間欠的鎮静( 必要に応じて) 持続的な鎮静薬の投与 調節型鎮静持続的深い鎮静 原則的に状況に応じて(限定的) 治療抵抗性とはいえない 治療にもかかわらず苦痛が継続 妥当とはいえない 患者の意思と相応性からみて妥当であると考えられる 治療抵抗性である 図1 治療抵抗性の耐え難い苦痛を疑われた場合の対応についての基本的な考え方のフローチャート (文献1より引用)
3.鎮静薬の投与を行う倫理的要件1) 苦痛緩和のための鎮静が倫理的に妥当と考えられるのは,以下の4 要件をすべて満たす場合である。総論(第1 章「2. 非がん性呼吸器疾患の緩和ケアの原則と考え方」)で示された終末期倫理の要件(患者の意思,医学的妥当性,医療チームの判断)に基づくと,相応性と医療者の意図が「医学的妥当性」を充足する部分であり,ほか2 項目はそれぞれ「患者の 意思」「医療チームの判断」に相当する。1)相応性 患者の苦痛緩和を目指す諸選択肢のなかで,鎮静が相対的に最善と判断されることが必要である。鎮静は,患者の意識を下げ人間的な生活を難しくするという害を伴って,苦痛緩和という益を得るもので 表1鎮静に用いるミダゾラムの使用例間欠的投与 薬剤名投与経路製剤規格投与量特徴 ミダゾラム注射薬静脈・皮下10 mg/2 mL 【持続静脈内・持続皮下投与】0.5 ~1 mg/ 時間で開始し,患者の状態を観察しながら投与量を調整する。投与開始時に0.5 ~1 mg 程度早送り*してもよい。適宜生理食塩水で希釈する。 【単回皮下投与】初回は0.5 ~1 mg を皮下投与し,患者の状態を観察しながら,投与量を調整する。・作用発現が早く,作用持続時間が短い・長期投与によって耐性が生じやすい。投与 後に離脱症状(不安・焦燥)を生じる場合がある。・拮抗薬(フルマゼニル)がある。・無呼吸,呼吸抑制,舌根沈下,循環抑制(低血圧,ときに心停止)がある。特に,高齢者,麻薬性鎮痛薬との併用,呼吸予備力が低い,肝腎機能が低下している患者で生じやすい。・保険適用は全身麻酔時の導入および維持, 集中治療における人工呼吸中の鎮静である。 持続的投与 調整型鎮静持続的深い鎮静 導入・0.5 ~1 mg/ 時間で持続皮下・静注を開 始する。投与開始時に0.5 ~1 mg 程度の早送り*を行ってもよい。・15 ~30 分毎を目安に,目標(苦痛緩和)が得られているかと,全身状態の変化を評価する。・苦痛緩和が得られない場合は,0.5 ~1 mg 程度の早送り*を行い,持続投与量を数時間毎に30 ~50 %を目安に増量する。患者の状況によっては,早送りのみを行い持続投与量は増量しないで経過をみる。・ローディングドーズとして3 ~5 mg/ 時間で持続皮下・静注を開 始する。ローディング時間(通常は数時間)を待てないくらいに患者の苦痛が切迫している場合には,投与開始時に0.5 ~1 mg 程度の早送り*を行ってもよい。苦痛が軽減できない場合,2 ~5 分程度を空けて0.5 ~1 mg の早送りを苦痛が緩和するまで繰り返し行ってもよい。その際の総量は2 ~3 mg 程度を目安とする。・15 ~30 分毎を目安に,目標(深い鎮静)が得られているかと全身状態を評価する。・深い鎮静が得られない場合は,0.5 ~1 mg 程度の早送り*を行い,持続投与量を数時間毎に30 ~50 %を目安に増量する。患者の状況によっては,5mg/ 時間まで増量する。・目的とする鎮静レベルに到達すれば,持続投与量を1/2 ~1/3 に 減量して継続する(ローディングの終了)。 維持・いったん苦痛緩和が得られた場合は,数時 間毎に評価を行う。・苦痛緩和が不十分な場合は,持続投与量を数時間毎に30 ~50 %を目安に増量し,場合によっては0.5 ~1 mg 程度の早送り*を行ってもよい。・苦痛緩和が得られたが鎮静が深くなりすぎ た(鎮静を浅くすることが適切と考えられた)場合,持続投与量の減量,中止を行う。場合によっては,拮抗薬(フルマゼニル)の投与を検討する。・いったん深い鎮静が得られた場合は,数時間毎に評価を行う。・鎮静が不十分になった(深い鎮静が得られなくなった)場合は,持続投 与量を数時間毎に30 ~50 %を目安に増量し,場合によっては0.5 ~1 mg 程度の早送り*を行ってもよい。・苦痛緩和が得られたが鎮静が深くなりすぎた(鎮静を浅くすることが適切と考えられた)場合,持続投与量の減量,中止を行う。場合によっては,拮抗薬(フルマゼニル)の投与を検討する。・深い鎮静を目的として鎮静薬の投与を開始したが,鎮静薬を調節する 過程で十分な苦痛緩和が得られた場合には,目的を持続的深い鎮静ではなく調節型鎮静に変更することを検討する。 *静注の場合,早送りは1分程度かけて緩徐に投与する。早送り後5分間は慎重に観察する。患者の状態を観察しながら早送り量を調節する。 (文献1より改変引用)
ある。著しい苦痛があり,ほかの手段では緩和される見込みがなく,かつ患者の死期が迫っている場合(特に持続的な鎮静の場合)には,鎮静が相対的に最善の選択肢となりうるが,そうでない場合はほかの手段をとることが倫理的に妥当である。2)医療者の意図 鎮静を行う医療者の意図が苦痛緩和にあり,生命予後の短縮にはないことが明示される必要がある。生命予後の短縮を意図して鎮静を行うことは,倫理的に許容されない。3)患者・家族の意思 患者に意思決定能力がある場合,鎮静を希望する明確な意思表示があることが必要である。患者に意思決定能力がない場合は,患者の価値観や以前に患者が表明していた意思に照らし合わせて,当該の状況で苦痛緩和に必要な鎮静を希望するであろうことが推定できることが必要である。 家族がいる場合には,患者にとっての最善の治療手段をともに考え,家族の同意も得るように努める。家族には,“(集団として)鎮静が生命予後を短縮する効果は示されていない”こと,“鎮静は生命予後の短縮を意図するものではないが,苦痛の増強は病状の悪化によって生じているものであり,鎮静開始後数時間から数日以内に最期を迎える可能性が高い”ことを説明することが望ましい。患者・家族との話し合いによる意思決定のプロセスについては,その内容をカルテに記載しておくことが重要である。4)チームによる判断 意思決定は医療チームの合意として行い(多職種が同席するカンファレンスを行うことが望ましい),必要に応じて専門家や倫理チームにも助言を 表2緩和ケア用Richmond Agitation‒Sedation Scale(RASS)日本語版スコア用語説明+4好戦的明らかに好戦的,暴力的で,スタッフに危険が迫っている+3非常に興奮しているチューブやカテーテルを引っ張ったり抜く;攻撃的+2興奮している頻繁に目的のない動きがある+1落ち着きがない不安そうだが,動きは攻撃的でも活発でもない完全に意識清明ではない患者で,頻繁に動き,攻撃的でない 0 意識清明で落ち着いている -1傾眠完全に意識清明ではないが,呼びかけに覚醒状態(開眼・アイコンタクト)が続く(≧10 秒) -2浅い鎮静呼びかけに短時間覚醒し,アイコンタクトがある(<10 秒) -3中等度鎮静呼びかけに動きか開眼で反応するが,アイコンタクトはない-4深い鎮静呼びかけに反応はないが,身体刺激に動きか開眼がある-5覚醒不可能呼びかけにも身体刺激にも反応がないRASS 評価手順1. 患者を観察する・意識清明,落ち着きがない,または興奮がある Score 0 ~+4 2. 意識清明でない場合,患者の名前を呼び,目をあけてこちらを見るように言う・覚醒し,開眼・アイコンタクトが持続する Score -1・開眼・アイコンタクトがあるが,持続しない Score -2・呼びかけになんらかの動きがあるが,アイコンタクトはない Score -3 3. 呼びかけ刺激に反応がないとき,肩をゆすることで身体的に刺激する・身体刺激に何らかの動きがある Score -4・どの刺激にも反応しない Score -5 (今井堅吾,森田達也,森雅紀,他. 緩和ケア用Richmond Agitation-Sedation Scale(RASS)日本語版の作成と言語的妥当性の検討.Palliat Care Res 2016; 11: 331–36より引用) ̈́ | | `呼びかけ刺激| | ̈́ `身体刺激
求める。特に,患者・家族・医療者の間で鎮静の可否について意見の不一致がある場合には,繰り返し患者の最善について話し合う必要がある。在宅療養など担当医療者が限定されている場面でチームでの意思決定が現実的ではないときも,鎮静開始後の可能な限り早期にほかのチームメンバーと相談する。 今後の課題 非がん性呼吸器疾患に対する鎮静に関しては,これまで検討はほとんどなされておらず,悪性疾患における知見を参考にしているのが現状である。今後,非がん性呼吸器疾患の終末期・最終末期においても,呼吸不全を中心とする治療抵抗性の苦痛に対する適切な薬剤と,その効果・安全性について検討する必要がある。終末期と最終末期の境界は明確に分けられるものではないことを自覚したうえで,最終末期における持続的鎮静に関しては,その方法を標準化することが望ましい。適切な意思決定過程を記録し,医療チームとして倫理的妥当性を検証できる体制が必要であり,そのシステムを構築する具体的な手法について,経験の蓄積と共有が求められる。▪文 献 1)日本緩和医療学会ガイドライン統括委員会(編).がん患者の 治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き2018年度版.東京:金原出版;2018. 2)Domeisen Benedetti F, Ostgathe C, Clark J, et al. Interna- tional palliative care experts' view on phenomena indicating the last hours and days of life. Support Care Cancer. 2013; 21:1509-17. 3)平原佐斗司,苛原実,木下朋雄,他.非がん疾患の在宅ホス ピスケアの方法の確立のための研究.2006年度後期在宅医療助成・勇美記念財団助成.http://zaitakuiryo-yuumizaidan. com/data/file/data1_20100507092236.pdf,(閲覧:2020-07-08) 4)Mahler DA, Selecky PA, Harrod CG, et al. American College of Chest Physicians consensus statement on the management of dyspnea in patients with advanced lung or heart disease. Chest. 2010;137:674-91. 5)Qaseem A, Snow V, Shekelle P, et al. Evidence-based inter- ventions to improve the palliative care of pain, dyspnea, and depression at the end of life:a clinical practice guideline from the American College of Physicians. Ann Intern Med. 2008;148:141-6. 6)Lanken PN, Terry PB, Delisser HM, et al. An official American Thoracic Society clinical policy statement:palliative care for patients with respiratory diseases and critical illnesses. Am J Respir Crit Care Med. 2008;177:912-27. 7)Beller EM, van Driel ML, McGregor L, et al. Palliative phar- macological sedation for terminally ill adults. Cochrane Database Syst Rev. 2015;1:CD010206. 8)日本呼吸器学会COPD ガイドライン第4版作成委員会(編). COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第4版.東京:メディカルレビュー社;2013. 9)日本呼吸器学会COPD ガイドライン第5版作成委員会(編). COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版2018.東京:メディカルレビュー社;2018. 10)厚生労働省.人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン.2018.https://www.mhlw.go.jp/ file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf(閲覧:2020年6月23日)
疾患別の緩和ケア 第 6 章
1.疾患の特徴1)COPD の定義 COPD 診断と治療のためのガイドライン2018[第5 版]では,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease;COPD)を以下のように定義している。「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することなどにより生じる肺疾患であり,呼吸機能検査で気流閉塞を示す。気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に関与し起こる。臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰を示すが,これらの症状に乏しいこともある」1)。具体的には,長期の喫煙歴などの暴露因子があり,気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーで1 秒率(FEV1/FVC)が70 %未満であること,さらにほかの気流閉塞をきたしうる疾患を除外することでCOPD と診断される。2)COPD の疫学 わが国の推定罹患者は500 万人を超えるが,実際に治療されている人は数十万人である1,2)。厚生労働省の統計によると2018 年のCOPD による死亡者数は18,577 人と過去最高であり,男性での死亡順位は8 位である3)。3)COPD の特徴 特にCOPD 患者を苦しめる労作時呼吸困難の原因となる基本的病態としては,気流閉塞と,換気需要の増加の際に呼吸回数が増加し,その結果Air trappingが生じて肺内の残気量が増加していく動的肺過膨張が考えられている1)。 また,COPD は長期の喫煙歴がある中・高年者に発症するため,喫煙や加齢に伴う併存症が多くみられ,またCOPD 自体が肺以外にも全身へ影響をもたらして併存症を誘発すると考えられている1)。具体的には全身併存症として,栄養障害や骨格筋機能障害,心・血管疾患,骨粗鬆症などが,肺合併症として,喘息や肺がん,肺線維症,肺高血圧症,肺炎,気胸などが知られており,患者のQOL や予後に影響を及ぼす1)。 COPD が進行すると,息切れや咳・痰の増加,胸部不快感・違和感の出現や増強などを伴う増悪を繰り返し,患者のQOL や呼吸機能を低下させ,生命予後を悪化させる。4)COPD の管理・治療 COPD の安定期管理としては,禁煙やワクチン,気管支拡張薬の吸入など薬物療法,呼吸リハビリテーション,酸素療法や換気補助療法(NPPV)など 疾患別の緩和ケア 1.慢性閉塞性肺疾患(COPD) 第6章 サマリー COPD は増悪と回復を繰り返し,徐々に身体機能の低下をきたすため,その予後予測や終末期の認識は困難なことが多く,緩和ケアやACP の導入のタイミングも難しい。COPD 患者は,死亡する半年以上前から治療抵抗性の呼吸困難などで苦しんでおり,これらに対して医療者は早くから向き合い,積極的に呼吸リハビリテーションや緩和ケアを導入することが重要である。
が行われる。増悪時には,気管支拡張薬の投与やステロイド,抗菌薬が投与される。また酸素療法や換気補助療法も行われる。5)進行期COPD 患者の特徴と緩和ケア COPD が進行すると,これらの治療によってもコントロールが難しい呼吸困難などの症状,身体機能低下,繰り返す増悪,全身併存症や肺合併症により,患者のQOL はがん患者の終末期と同様あるいはそれより早くから低下する。特に呼吸困難は死亡する半年以上前から大半の患者で認められることが報告されている(図1) 4)。 このようなCOPD 患者に対して積極的にアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning;ACP)を行い,早期から緩和ケアサービスを提供することが提唱されている5)。しかし,進行したCOPD 患者のうち少数しかこれらのサービスを受けていないのが現状である6,7)。その一つの原因として,COPD では予後予測をすることが難しく,ある時点で終末期と明確に認識することが困難であることが挙げられる5)。また,呼吸器以外の原因で死亡することもしばしばみられる8)。繰り返す増悪においても,死に至ることもあれば,元の状態まで回復することもありその予後予測は難しい9)。ACP を導入するタイミングについては明らかなエビデンスがあるわけでないが,増悪などによる入院から回復した症状が安定している時期がよいとされている(図2) 10,11)。2.症例(図3) 70 歳台男性【主 訴】 呼吸困難【既往歴】 30 歳台 右気胸,50 歳台 狭心症,60 歳台 両側気胸 【職 業】 会社社長【喫 煙】 20 ~40 本/ 日×約40 年(60 歳台で禁煙)【身体所見】身長164 cm 体重40.5 kg BMI 15.1【呼吸機能】肺活量2.14 L,1 秒量0.54 L,1 秒率 26.7 % 臨床経過1 X 年末~X +1 年6 月 COPD でフォローされていたが,肺炎を繰り返し3 回入院した。 安静時SpO2 90 ~92 %,体動時は80 %前後まで低下するため,在宅酸素療法を勧めるが,受け入れず。 臨床経過2 X +1 年6 月~X +2 年2 月 X +1 年6 月 入院時に,説得のうえ在宅酸素療法を導入。 X +1 年7 月 呼吸不全悪化にて再入院。PaCO2 60 ~70 Torr に上昇しており,在宅人工呼吸療法(NPPV)を導入。 臨床経過3 X +2 年2 月~6 月 X +2 年2 月 肺炎を発症して再入院。NPPV では対応できず,1 週間挿管下人工呼吸を行う。 90 80 70 60 50 40 (%) 30 20 10 0 6 ヵ月- 3 ヵ月 3 ヵ月 - 1 ヵ月 1 ヵ月 - 3 日 3 日 - 死亡疼痛 錯乱呼吸困難 図1 COPD 患者における重度の身体症状特に呼吸困難は死亡する半年前から多くの患者で存在する。 (文献4より改変引用)
ACP ACP ACP 身体機能,運動,教育対症療法とサポート 低いperformance status死 高いperformance status 図2 非がん性呼吸器疾患患者の疾患軌跡と患者の状態に応じたマネジメントと緩和ケア定期的かつ早期からACP を繰り返し行うことで,その時点における治療ゴールを調整することが可能となる。 (文献11より改変引用) HOT 1 2 3 4 5 6 7 NPPV TIPPV抑うつ右心不全 胆道感染 図3 COPD 提示症例の経過肺炎などによる増悪( )を繰り返し,さまざまな併存症をきたすことで身体機能は徐々に低下していった。
X +2 年4 月~6 月 また挿管下人工呼吸になるのではないかと不安が募り,上気道炎など軽微な症状で3 回緊急入院となる。 X +2 年5 月から地元の診療所・訪問看護ステーションと連携するようになる。 臨床経過4 X +2 年6 月~X +3 年9 月 X +2 年9 月とX +3 年1 月の2 回入院したが,地元の診療所・訪問看護ステーションのきめ細かなサポートにより,体調は安定し入院頻度は減る。 臨床経過5 X +3 年9 月~X +4 年1 月 X +3 年9 月半ば,食欲低下とともに抑うつ状態となる。自暴自棄になりNPPV を行わなくなった。SpO2 低下と傾眠傾向のため,訪問看護ステーションからの連絡で再入院。PaCO2 は80 Torr 以上に上昇していた。 NPPV の設定変更と装着時間延長により,1 週間後にはPaCO2 70 Torr 前後に安定。呼吸リハビリテーションも開始し,10 月末に退院した。 臨床経過6 X +4 年1 月~3 月 X +4 年1 月中旬より鼻閉感あり。傾眠がちとなり,四肢・顔面浮腫があるとかかりつけ医より連絡があり,緊急入院となった。気管支肺炎に右心不全を併発していたが,抗生物質と利尿剤で改善した。鼻閉も鼻腔ケアと点鼻薬で改善した。PaCO2 は一時85 Torrまで上昇したが,その後69 Torrまで減少。 2 月初めに退院。その後は飲水量を制限し,体重が42 kg を超えると利尿剤を使用した。 臨床経過7 X +4 年3 月~7 月 X +4 年3 月頃より心窩部不快感を自覚。3 月末に見当識障害を認め,訪問看護師からの連絡で救急外来を受診した。γ-GTP,CRP 上昇を認め,胆道感染が疑われ入院となった。腹部エコーで総胆管結石を認めた。見当識障害もありNPPV が実施できないときもあったが呼吸状態は比較的安定していた。 4 月に内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)/内視鏡的逆行性胆管ドレナージ法(ERBD),内視鏡的乳 頭切開術(EST)を施行。絶食により体重は1 週間で 3.5 kg 減少した。EST 施行後も胆道感染は遷延した が,5 月末にようやく胆道感染は改善し外泊ができた。しかし,外泊後に肺炎を起こし呼吸状態が悪化した。終日NPPV を行うも呼吸状態はさらに悪化し,消化管出血も併発した。家族は気管内挿管を望まず,7 月上旬に永眠された。 死後に本人の手記が見つかった。「ムンクの叫びが私の脳裏に焼きついている。自分の心象の中に写る景色は,こちら側が〝正常〟,橋の向こう側が〝狂気〟という断崖である。狂気に辿り着くことで苦しみからの逃避ができないか。これは,神経内科の分野では〝鬱〟と診断されるかもしれない。しかし酸素療法の患者の多くが,必ず一度は経験する過程ではないかと思う。・・・・・・・・・・・・・ 健康な人は,患者は常に楽な方向に目を向けたがると言う。しかし,健康体の人も同じ環境に置かれぬ限り,患者の心の内面は永久に理解できない。怒り,悲しみ,寂しさ,嘆き,叫びをすべて心に封じ込めて,他人に幸せの笑顔をふりむける。これこそ仮面の狂気と呼ぶべきであろう。そのうちに総てが失われ,狂気の中で本当の自分さえ失ってしまうような気もする。」 【本症例を振り返って】 20 年近く前に経験した症例を提示した。この患者はわれわれに多くのことを問題提起し,その後の地域連携の強化,呼吸ケアリハビリテーションや非がん患者に対する緩和ケア,ACP 導入などについて取り組む原点となった。ここで改めて振り返ってみたい。●この患者における終末期はいつからであろうか? 臨床経過1,2の段階でも,例えばデンマーク呼吸器学会の非がん慢性進行性呼吸器疾患緩和ケアのポジションペーパー(「非がん性呼吸器疾患の終末期と最終末期(臨死期)の考え方」表1〔p.3〕を参照)における5 項目のうち,以下の4項目を満たしてい
る11)。 ・6 ヵ月以内にCOPD 増悪による少なくとも2 回 の入院,あるいはNPPV や人工呼吸器による治療を要する1 回の入院・在宅酸素療法を必要とする・継続した在宅NPPV 治療を必要とする・栄養補助食品を含めた適切な栄養にも関わらず BMI<18しかし,実際には臨床経過2の後も,比較的安定した時期も含めて死亡されるまで2 年以上の経過を辿ることになる。この経過すべてを終末期とすることは難しく,さらに,何度も肺炎や増悪をきたし,挿管下人工呼吸を行っても必ずしも死につながるわけでない。実際に死亡に至る契機になったのは胆道感染であった。ただし,上記のデンマーク呼吸器学会の終末期定義でも「数ヵ月以上にわたって息切れや衰弱のため他者による支援に依存している」ことが終末期の前提になっており,その意味では臨床経過7を終末期としうる。 本指針では終末期を,「1)日常生活で介助が必要,かつ,頻回の増悪,症状持続,著明なQOL 低下などを認める。2)身体的特徴として,サルコペニアやフレイルの状態を伴うことが多い」と定義し,予後はおよそ半年から数年とイメージしている(p.1「非がん性呼吸器疾患の終末期と最終末期(臨死期)の考え方」の項を参照)。この患者に適用すると,栄養状態が著しく悪化し,要介助状態が高まった臨床経過7が終末期にあたるかもしれない。 いずれにしてもCOPD 患者の長い経過において,予後を予測し,終末期を規定することにはしばしば困難を伴う。 ●患者の苦しみに向き合う 患者手記にあるように,薬物や在宅酸素療法,在宅人工呼吸療法などによっても軽減できない呼吸困難などの苦しみとそれがほかの人に理解されないという思いは長く続いている。この苦しみと隣り合わせに生き続ける患者の真の叫びを医療者は心にとどめるべきである。そして,この患者の苦悩を軽減するため,早期からの呼吸リハビリテーションおよび 心理面からのアプローチも含めた緩和ケアを積極的に行うことが重要である。●地域連携の強化 本患者は遠方からの通院患者であったため,地元の診療所や訪問看護ステーションとの連携を深めた。そのことが,増悪を早期に発見し,何度も患者を救うことにつながった。緩和ケアやACP の実施においても,地域の医療・介護関係者との密な連携が不可欠と思われる。 3.COPDにおける望ましい緩和ケアのあり方1)早期からの包括的な緩和ケア導入が望まれる 提示した症例からも明らかなように,COPD 患者の長い経過において,終末期を正確に規定することは難しい。しかし,終末期を認識することが大切なのではなく,患者を長く苦しめる呼吸困難などの症状を軽減し,健康QOL を向上させるような呼吸リハビリテーションと緩和ケアを早期から導入することが重要である(図4) 5)。2)ACP を繰り返し行い,患者の思いを共有する 最終末期の医療行為や療養場所などについて,患者・家族が医療・介護関係者と話し合いを行い,患者の思いや価値観を共有する,すなわちACP を行うことは重要なことである。しかし,COPD においては,がんと比べて患者や家族,そして医療者も死を明確に意識する機会が少ない。増悪時であってもその予後予測は難しく,提示した症例のように挿管下人工呼吸となっても回復する可能性が少なくない9,12)。そのため,患者が自宅での最期を希望していたとしても,実際に増悪した際,回復する可能性が残されている限り入院加療を選択せざるを得ないこともありえる。 以上を踏まえたうえで,在宅酸素療法や在宅人工呼吸療法を導入するときや,増悪を乗り切ったとき,在宅医療に移行するときなど,患者自身が病状の進行を感じてはいるが,症状が比較的安定し心穏やかにいられる時期にACP を行うことを考えるべきである。その際,まずはCOPD が増悪を繰り返し
て少しずつ呼吸機能や身体機能が低下していく疾患であることを説明したうえで,患者が今後の人生において「何を希望し,何を実現したいか」から話し合いを始めることが大切である。そのなかで希望実現に障壁として立ちはだかる呼吸困難などにどう対処したらよいかを患者・家族とともに検討していく。これらの延長上に最終末期の対応についての話し合いがあることが望ましい。3)患者を最も苦しめる呼吸困難などに向き合う 呼吸困難の原因となっているCOPD や併存症に対する標準的治療を行うことは当然である。また,運動療法を中心とした呼吸リハビリテーションに加えて,セルフマネージメント教育などを含む呼吸リハビリテーションをチームで行い,運動能力や身体活動,QOL を維持・向上することが大切である。さらに,在宅酸素療法や在宅人工呼吸療法などは低酸素血症や低換気状態を改善する治療法であるとともに,呼吸困難を軽減する緩和ケアの側面を有している。 これらを行ってもコントロールできない呼吸困難に対してオピオイドが有効であることが知られている13)。しかし,COPD 患者においてしばしば合併するII型呼吸不全においては,少量のオピオイドでもPaCO2 上昇をきたすことがあるので,投与には十分な観察と注意が必要である。 その他,呼吸困難を軽減するためにいくつかの非薬物療法やケアの有効性が報告されている14,15)。呼吸リハビリテーションにおいては,呼吸練習やコンディショニング,呼吸介助などが行われる。また,神経筋肉電気刺激(NEMS)などの有用性も報告されている。その他,手持ち扇風機(hand-held fan)などで冷風を顔に当てることで呼吸困難を軽減させることが知られ,実際に臨床応用されている。さらに鍼治療も研究段階ではあるが,呼吸困難を軽減することが示されている。詳しくは第3 章「症状緩和の手段-非薬物療法-」で詳述する。 疾患特異的治療従来のケアモデル 新しいケアモデル呼吸リハビリテーション(外来・在宅)支持緩和ケア 疾患特異的 治療 強い呼吸困難に対する治療 (薬物・行動変容) 患者・医療者のコミュニケーション(ACP)と協力 診断治療可能な部分死 緩和ケアホスピス 死診断 図4 COPD における早期からの包括的緩和ケア (文献3より改変引用)
一方で,COPD 患者は高頻度に不安や抑うつを伴い,QOL を低下させる7)。緩和ケアとしてこれらに対する心理療法などのアプローチも重要である16)。 4.今後明らかにすべきこと COPD 患者に対する緩和ケアに関しては,まだまだ検討・解決しなければならないことが残されている。今後,一人ひとりのCOPD 患者の苦しみと向き合うことで,新たな知見を積み上げていくべきと思われる。日本におけるCOPD 患者に関する今後の課題をいくつか挙げてみた。 ・日本人COPD 患者に対するより正確な予後予測 指標を作り上げるために,生涯にわたるCOPD 患者の前向きコホートが必要と思われる。・日本人COPD 患者におけるACP の有効性を示す ための臨床研究が必要と思われる。そのためには質の高いACP を提供するための医療者などの教育プログラムの構築も不可欠である。・COPD 患者を苦しめる呼吸困難や不安・抑うつを 軽減するために, −多職種チームによる緩和ケアプログラムの構築 とその有効性を示すための臨床研究が必要と思われる。その際は,精神科医,心療内科医,臨床心理士・公認心理師なども含めて心理面からのアプローチをより強化すべきと考える。−COPD 患者で最も問題となる呼吸困難を軽減す るために,日本人に適したオピオイドの導入手順と至適用量の検討が必要である。また,さらなる非薬物療法の開発・検証が必要である。 ▪文 献1)日本呼吸器学会COPD ガイドライン第5版作成委員会(編). COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版.東京:メディカルレビュー社;2018. 2)Fukuchi Y, Nishimura M, Ichinose M, et al. COPD in Japan: the Nippon COPD Epidemiology study. Respirology. 2004; 9:458-65. 3)厚生労働省.平成30年(2018)人口動態統計(確定数)の概 況.2019.https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/ kakutei18/index.html(閲覧:2020年6月24日) 4)Lynn J, Ely EW, Zhong Z, et al. Living and dying with chron- ic obstructive pulmonary disease. J Am Geriatr Soc. 2000; 48:S91-100. 5)Vermylen JH, Szmuilowicz E, Kalhan R. Palliative care in COPD:an unmet area for quality improvement. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2015;10:1543-51. 6)Bloom CI, Slaich B, Morales DR, et al. Low uptake of palliative care for COPD patients within primary care in the UK. Eur Respir J. 2018;51:1701879. 7)Gore JM, Brophy CJ, Greenstone MA. How well do we care for patients with end stage chronic obstructive pulmonary disease(COPD)? A comparison of palliative care and quality of life in COPD and lung cancer. Thorax. 2000;55: 1000-6. 8)Calverley PM, Anderson JA, Celli B, et al. Salmeterol and fluticasone propionate and survival in chronic obstructive pulmonary disease. N Engl J Med. 2007;356:775-89. 9)Steer J, Gibson GJ, Bourke SC. Predicting outcomes following hospitalization for acute exacerbations of COPD. QJM. 2010;103:817-29. 10)Seamark D, Blake S, Seamark C, et al. Is hospitalisation for COPD an opportunity for advance care planning? A qualitative study. Prim Care Respir J. 2012;21:261-6. 11)Marsaa K, Gundestrup S, Jensen JU, et al. Danish respiratory society position paper:palliative care in patients with chronic progressive non-malignant lung diseases. Eur Clin Respir J. 2018;5:1530029. 12)Breen D, Churches T, Hawker F, et al. Acute respiratory failure secondary to chronic obstructive pulmonary disease treated in the intensive care unit:a long term follow up study. Thorax. 2002;57:29-33. 13)Marciniuk DD, Goodridge D, Hernandez P, et al. Managing dyspnea in patients with advanced chronic obstructive pulmonary disease:a Canadian Thoracic Society clinical practice guideline. Can Respir J. 2011;18:69-78. 14)Bausewein C, Booth S, Gysels M, et al. Non-pharmacological interventions for breathlessness in advanced stages of malignant and non-malignant diseases. Cochrane Database Syst Rev. 2008;CD005623. 15)Booth S, Johnson MJ. Improving the quality of life of people with advanced respiratory disease and severe breathlessness. Breathe(Sheff). 2019;15:198-215. 16)Heslop-Marshall K, Baker C, Carrick-Sen D, et al. Randomised controlled trial of cognitive behavioural therapy in COPD. ERJ Open Res. 2018;4:00094-2018.
1.疾患の特徴1)はじめに 間質性肺疾患(interstitial lung disease;ILD)にはさまざまな病気が含まれる。自然に軽快し治癒するタイプから,比較的症状が軽く,ほとんど進行しないタイプ,緩徐ではあるが進行性に悪化し数年で亡くなるような慢性疾患,数日から数ヵ月で死亡する急性・亜急性経過のもの,さらに,慢性の経過中,急速に呼吸不全が悪化する“急性増悪”など,非常に多彩な経過を取りえる。そのなかでも,慢性線維化性のILD,特に,特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis;IPF) 1,2)は,悪性疾患に匹敵するほどの予後不良の進行性経過を示す重要な疾患である。最近提唱されている進行性線維化を呈するILD (progressive fibrosing interstitial lung disease; PF-ILD),あるいは,ILD の進行性フェノタイプ(progressive phenotype)にもIPF 同様に抗線維化 薬が有効であることが報告され注目を集めている3,4)。2)ILD の疾患概念 ILD とは,両肺野に病変が広がる種々の肺疾患の総称であり,病因や病態は多岐にわたる。原因が不明の特発性と,その他の原因の特定できるILD に大別される。原因の特定できるILD が除外できれば特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias;IIPs)を疑う。IIPs,特にIPF の診断においては高分解能CT による画像診断,外科的肺生検などによる病理診断が重要な役割を果たすが,近年は臨床医,画像診断医,病理医の意見交換による多分野での集学的検討(multidisciplinary discussion;MDD)が診断精度を高めるために重要とされている2)。3)経過,予後 IIPs のなかで最も予後不良であり,重要視すべき 疾患別の緩和ケア 2.間質性肺疾患(ILD) 第6章 サマリー 慢性線維化性ILD は,進行性経過をきたしうる疾患である。なかでも,IPF は,多くの悪性腫瘍の経過と同様に,初期診断時からの生存期間中央値3 〜4 年と予後不良の疾患である。IPF を含む慢性線維化性ILD の特徴は,予測できない疾患の経過であり,長期間の臨床的安定を示すものから,急速な呼吸不全の進行を伴う急性増悪までさまざまである。病気が進行するにつれて,慢性の咳や労作性呼吸困難が悪化し,酸素依存性になる。合併する抑うつ,不安および疲労は,重大な苦痛の悪化に繋がる可能性があり,しばしば症状の負担の増加および生活の質の低下に繋がる。薬物療法に加え,酸素療法,呼吸リハビリテーション,メンタルケアを含めた,生活の質を意識した終末期ケアが必要である。
IPF に関する疫学調査が北海道において行われた5)。2003 年から2007 年に特定疾患医療を受給したIPF 患者の検討で,発病率は10 万人対2.23 人,有病率10 万人対10.0 人であった。診断確定後の生存期間中央値は35 ヵ月であり,死亡原因としては急性増悪40%,慢性呼吸不全24%,肺がんが11% であった。多変量解析の結果,年齢,%VC,%DLcoは有意な予後因子であった。ILD 症例においては,各診断により予後は異なるが,個々の症例で疾患進行は異なっており,さらに経過中,急速に呼吸不全状態が悪化する“急性増悪”を併発する可能性があるため,個々の症例における予後予測は困難である。IPF で酸素療法を開始した症例の導入後の生存期間は約18 ヵ月と報告されており6),酸素療法を開始する時期が,ACP を考えるタイミングの1つになりうる。4)ILD の急性増悪 ILD の急性増悪が予後不良であることもその予後推定を難しくする。ILD の急性増悪はIPF の臨床経過から認識された病態であるが,その他のILD でも生じることが知られている。IPF の急性増悪の定義を下記に示す(表1) 1)従来急性増悪の原因は不明と定義されていたが,最近の国際ワーキンググループからの診断基準では,急性増悪を“原因不明”と“誘因”のあるもの(感染,手技・外科手術後,薬剤性,誤嚥性など)いずれも含まれるようにすることが提案されている7)。急性増悪の予後は不良であり,前述のごとく死因の約40% を占め5),発症頻度は診断 1 年目で8.6 ~14%,3 年目で21 ~23.9% と報告されている8,9)。しかしながら抗線維化薬が使用可能となってからの報告では,急性憎悪の頻度や予後の改善の影響からか,死因の約25 %まで減少している10)。 上述のように,ILD の疾患進行が個々の症例で異なること,安定期から急性増悪した際の突然の病状変化などにより,緩和ケア介入の導入タイミングの見極めが困難となっている。 2.症例 75 歳 女性【主 訴】 呼吸困難【既往歴】 特記すべき点なし【喫 煙】 非喫煙者【身体所見】身長153.7 cm 体重47.7 kg BMI 20.1【呼吸機能】努力性肺活量1.68 L(76.0%),1 秒率 96.4%,肺拡散能8.28 ml/min/mmHg (58.7%) 臨床経過1 X −2 年からX +1 年11 月 X −2 年よりILD と診断され当院呼吸器内科にて通院開始。当初は外科的肺生検を提案されたが,自覚症状をほとんど認めないため希望されず, 外来で経過観察が行われた。 X 年6 月に臨床・画像所見よりIPF と診断され,抗線維化薬(ニンテダニブ)が開始された。副作用と 表1 IPF の急性増悪の診断基準1.IPF の経過中に,1 ヵ月以内の経過で, 1 呼吸困難の増強2 HRCT 所見で蜂巣肺+新たに生じたすりガラス陰影・浸潤影3 動脈血酸素分圧の有意な低下(同一条件でPaO2 10 torr 以上) のすべてがみられる場合を「急性増悪」とする 2.明らかな肺感染症,気胸,悪性腫瘍,肺塞栓や心不全を除外する 参考所見:(1)CRP,LDH の上昇(2)KL-6,SP-A,SP-D などの上昇過去にIPF と診断されておらず,IPF の急性増悪で発症した症例に遭遇するが,原因不明で1ヵ月以内の経過で呼吸困難が増強し,HRCT 上,IPF として典型的な蜂巣肺所見+新たに生じたすりガラス陰影・浸潤影が認められ,低酸素血症が認められれば,急性増悪と診断可能と考えられる。 (文献1より引用)
して下痢が出現したが止痢薬(ロペラミド)併用にて改善した。その後内服を継続可能であったが病状は緩徐に進行した。 臨床経過2 X +1 年11 月~X +2 年2 月 X +1 年11 月,病状が緩徐に悪化し,呼吸困難も修正MRC(modified Medical Research Council; mMRC)息切れスケールとなった。安静時低酸素血症を認めないが,労作時の著明な低酸素血症(SpO2 72%)を認めた。入院のうえ,酸素投与の適応が検討され,自覚症状の改善効果が確認されたため,労作時の酸素投与が開始された。入院中に,ご本人ご家族とともにACP を行い,通院困難となった際には自宅での療養の希望が確認された。 臨床経過3 X +2 年2 月~X +2 年6 月 X +2 年2 月に,呼吸困難はmMRC4 となり,オピオイド導入目的に入院した。労作前の速放性モルヒネ5 mg の頓用では歩行時Borg7 →6,入浴時Borg8 →4 と改善を認めたため,徐放性モルヒネ10 mg/ 日の定期内服を開始し,呼吸困難のスケールであるDyspnea-12 スコアは30 →25 と改善を認めた。モルヒネによって軽度の眠気,便秘を認めたが,認容性は良好であった。その後も呼吸困難は経時的に悪化した。 臨床経過4 X +2 年6 月~X +2 年9 月 X +2 年6 月からは通院困難となり,往診医での療養を継続していたが,徐々に病状は進行性に悪化した。オピオイドの増量は眠気や食欲不振の悪化を恐れて希望されなかった。献身的な家族の介護を受けていたが,介護の必要度が増大した。入院加療も検討されたが,本人は自宅での療養を希望した。訪問看護師は患者だけではなく家族ケアも行っていた。X +2 年9 月パニック様の呼吸となりモルヒネおよびミダゾラムの静注が開始され,翌日自宅でご家族の見守るなか永眠された。 【本症例を振り返って】1診断,治療介入期:IPF は症状発症後3 ~4 年と 予後不良にも関わらず,病初期には症状が乏しいことが多い。予後不良であるため,診断がつき次第,抗線維化薬治療による疾患進行の抑制に努めることが望ましい。本症例のように,抗線維化薬使用時には副作用を認めることも多いが副作用対策にて継続可能であることも多い。ただし,抗線維化薬は疾患進行を緩やかにする効果を認めるものの,病状が完全に安定化するわけではないことに留意する必要がある。経過には個人差があるが確実に進行していくため,診断早期から数年にわたっての治療計画を意識する必要がある。2進行期:確実に予後不良となることが予想される一方,経過に個人差があるので,ACP を行うタイミングの判断は難しい。一般的には,酸素療法が導入される場合,mMRC 3 程度の呼吸困難を自覚した場合などがタイミングとなりうる。本症例でも,酸素投与の適応を入院で評価する際に時間を取り,ACPを開始した。3終末期:呼吸困難はmMRC4 程度となり,日常生活制限が強くなった。このような場合がオピオイド導入の一つのタイミングとなる。本症例では速放性モルヒネによる短期効果を確認できたため,徐放性モルヒネによる維持療法を導入した。オピオイドは有効性が担保されているわけではなく,便秘・食欲不振などの副作用をきたしうるため,症例ごとに慎重に適応を評価する必要がある。4最終末期:最終末期をどこで過ごすのかは大きな問題となる。一般的には悪性腫瘍と同様な対応が必要と考える。本症例においては,本人ならびに家族の希望と,往診医の受け入れがあり,在宅での看取りが可能であったが,多くは病院で最期を過ごすことが多い。 3.ILD における緩和ケアの実際1)急性増悪期の緩和ケア 急性増悪の対応としては,初期は各種治療への反応性を期待し,場合によっては呼吸管理を含め積極的に治療する。一方,もともと重症度が高い進行期
の場合は,症状緩和を中心とした選択をする場合がある。また,もともとは比較的重症度が低い人の場合でも,各種治療への反応性が不良の場合には,救命救急的な対応から緩和医療に移行を検討する。したがって,急性増悪患者の治療方針の決定には,事前のACP がきわめて有用であるものの,実際には事前にACP を行われていることは少なく,急性増悪時の判断となることがほとんどである。急性増悪診療には,各種治療選択と,治療反応性に合わせて緩和ケアの併用あるいは緩和ケアへの移行,という柔軟な臨床判断が必要である11)。2)進行期における治療介入の現状 ILD の終末期における対応が必要な主な自覚症状としては,呼吸困難(75 ~97 %),咳嗽(60 ~65 %),胸痛(24 ~51 %),不安(18 ~66 %),嘔気(5 ~14 %),食思不振(18 ~40%),倦怠感(29%)などがあるとされる12 −14)。 本邦の在宅酸素療法を行ったILD 63 名の後ろ向き検討では呼吸困難感に対する麻薬使用が死亡前14 日で8%,死亡前48 時間でも13% にとどまったとの報告がある12)。 277 名のIPF 症例の死亡時の治療内容を検討した後ろ向き検討でも緩和治療の介入が行われていたのは14% であり,その内71% が死亡1 ヵ月以内に介入されているとの結果であった13)。同様に緩和治療が重要となる肺がん症例との比較を行った検討では,ILD 症例285 名と肺がん症例10,822 名の比較で,死亡前に緩和治療が介入された症例は17% 対40% と有意にILD 症例で低く,終末期についての意思決定の相談が患者を交えて行われていた割合も41% と59% で有意に低かったとされ14),前述のように疾患進行が種々の症例で異なることから,介入の時期が遅れる傾向にあると考えられる。 現状では,疾患教育,コミュニケーション,およびACP の場の提供が不十分である。今後,病院のみならず,サポートグループや財団などによる情報提供が必要である。3)緩和ケアの実際 a.呼吸困難 ILD において,呼吸困難は,生活の質を規定する最も重要な因子である。 1オピオイドおよびベンゾジアゼピン オピオイドが13 ~49%,ベンゾジアゼピンなどの睡眠導入剤が18 ~42% で使用されている。鎮静薬の使用については死亡前の48 時間前後の短期間に限定されているケースが多い12,15)。慢性呼吸不全を呈する症例にオピオイドを使用する際は二酸化炭素貯留の可能性を考慮して使用する必要がある。緩和治療としてオピオイドを使用した終末期ILD 症例の後ろ向き検討では,使用前後でPaCO2 の上昇(一部で10 Torr 以上)が報告されている16,17)。呼吸困難は多くの症例で改善すると報告されており16 −18),呼吸数は減少することが多いが変わらないとする報告もある18)。最近のILD 症例におけるオピオイドおよびベンゾジアゼピンの安全性に関する検討では,オピオイドならびに少量のベンゾジアゼピンは予後ならびに再入院に影響を与えないと報告されている19)。一般的に,ILD へのオピオイドの使用は比較的安全に呼吸困難の緩和を期待できるが,一方で,進行例においてはCO2 貯留を助長する可能性もあり,終末期においては,リスク・ベネフィットを考え適応を決め,使用に際しては必要に応じ慎重なモニタリングを考慮する必要がある。 2酸素療法 ILD 終末期に対する酸素療法の位置づけは,安静時低酸素血症においては適応とされる2)。一方,労作時低酸素血症に対する適応についての適応は定かでなかったが,最近では有効性を示す報告が出された20)。急性増悪する呼吸困難に対して,労作時の呼吸困難や咳嗽などの改善を期待して導入されることが多い。一般にILD での労作時の低酸素血症はCOPD に比べて顕著である。一方,上肺優位型肺線維症に関しては,進行しても労作時の低酸素血症が目立たない場合もある。
3呼吸リハビリテーション 呼吸リハビリテーションが呼吸困難の改善,運動耐容能の改善,健康関連QOL の悪化抑制などに短期的には有効と報告されている21)。COPD に比べ長期的有効性は乏しいと報告されているが,最近では6 ヵ月リハビリテーションによる1 年間の長期効果が報告されている22)。一般的に,肺線維症では疾患の進行が速いため,効果の維持の障害となると考えられるが,最近の薬物療法の進歩により疾患進行の抑制が可能となれば,呼吸リハビリテーションの効果の維持がより期待される。IPF のような予後の厳しい病気の場合は,病気が進みすぎる前から呼吸リハビリテーションを行うほうが,有効性が高いと報告されている23)。 呼吸リハビリテーションは運動療法に限らない総合的ケアであり,コンディショニング,パニックコントロール,呼吸法,動作指導なども含まれる。早期導入のみならず,終末期にも適応可能である。安楽なADL 動作方法の指導や呼吸介助など症例に応じた対応が必要になると考えられる24)。急性増悪期には非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)やハイフローセラピー(HFNC)などの各種デバイスでの治療とともに,患者のモチベーションを保つためにも立位のトレーニングなどを検討してよい11)。 4その他 手持ち扇風機は,ILD の検討データはないが, COPD を含めた対象では有効性を示唆する報告があり25),簡便性からは試みてもよいと思われる。呼吸困難の原因となりうる合併症(肺高血圧症や閉塞性肺疾患など)を調べ,必要に応じ追加治療を検討する。 補足:呼吸管理・挿管人工呼吸管理 高度の呼吸困難を伴う状況においては,人工呼吸管理が生命維持のみならず症状緩和の観点から選択肢となりうるが,本疾患は進行性で予後不良であることから慢性経過の悪化に対する挿管人工呼吸管理 の選択は避けられる傾向にある。しかしながら,急性増悪時における挿管人工呼吸管理の生存率は適応を検討すれば50% 程度の生存率と以前ほど不良でないとの成績も報告されており,救命治療の観点からも慎重に適応決定をする必要がある21)。 ・NPPV NPPV は呼吸筋の負荷を減らし仕事量を減少させることや酸素化の改善などで呼吸困難を緩和させる可能性26)があるが,気胸・縦隔気腫発症のリスクを高める可能性もある。急性期,慢性期いずれにも使用可能である。現時点では,ILD 終末期への使用に関して明確なエビデンスはないが,着脱が容易であるため使用を試みてもよいと思われる。 ・ハイフローセラピー(HFNC) HFNCは通常の高流量酸素マスクやNPPVと比較し,不快感が少ないとの報告がある。ILD 症例を含むdo not intubate(DNI) *を表明している呼吸不全患者に対してHFNC を使用することで酸素化の改善,呼吸数の減少が得られたと報告された27)。 本邦からのILD に伴うI型呼吸不全患者の検討では,有害事象が少なく,経口摂取や死亡直前までの会話の維持など,緩和的観点からの有用性が報告されている28,29)。 b.咳嗽 咳嗽はILD の主症状の一つであり,ほかの呼吸器疾患と比べ難治性であることも多く,生活の質への影響も大きい。ILD における難治性咳嗽診療に際しては,胃食道逆流,睡眠時無呼吸症候群,喘息/ COPD,後鼻漏/ 副鼻腔炎,肺がん,気管支炎,ACE阻害薬などの要因についても検討する必要がある30)。 1コデインを含むオピオイドILD に対象を限定した検討はないが一般的に試みられ *DNI:挿管不要
ている31)。しかし,効果は限定的で一過性の場合が多い。 2コルチコステロイド終末期に使用される薬剤としては,エビデンスはほとんどないもののステロイドが最も多く使用されており,80% 程度で使用されている。ステロイドは,器質化肺炎や非特異性間質性肺炎においては,原疾患の治療に用いられる。IPF においてはカプサイシンによる咳反射感受性亢進の抑制効果からの鎮咳効果が報告されている32)が,感染や急性増悪のリスクを高める報告があるため,使用に際しては慎重に適応を検討する必要がある。 3抗線維化薬抗線維化薬による咳嗽の減少効果が報告されている33)。一方で,IPF の終末期に対する抗線維化薬の意義についての検討報告はなく,進行例においては副作用などにより使用継続が難しい場合があり,使用に際しても十分な副作用対策とモニタリングが必要である。 4その他の薬剤最近の少数例での無作為比較試験では,オメプラゾールによる咳嗽減少効果が示されたが,本薬剤の呼吸器感染症増加の懸念から,本薬剤の有効性についてはさらなる比較試験が必要である34)。また,ガバペンチンも症例報告レベルであるが有効性が示唆されている35)。 c.精神症状 ILD においては種々の合併症が報告されているが,そのなかで,抑うつ,不安,および疲労は,呼吸困難を含めた重大な苦痛の悪化に繋がり,しばしば症状の負担の増加および生活の質の低下をきたしうる36 −37)。また,患者のみならず,介護者においても肉体的のみならず精神的負担が大きい。したがって,患者本人,患者家族のメンタルケアが重要である。 4.今後明らかにすべきことILD の終末期に対する介入については,薬物療 法・非薬物療法いずれも明確なエビデンスは少なく,個々の症例で疾患進行にも差があることから,緩和ケアの介入が遅れる傾向にある。個々の症例について議論を行い,緩和ケアを行う必要性がある。 多くの課題があるが,特に今後明らかにすべき点として下記の4 つを提示する。 1) ACPを行う適切なタイミングが不明確である。2) オピオイド導入の適切なタイミングや,有効性 の予測が困難である。3) 早期緩和ケアについての認識は高まっている が,どのような対象をどのように紹介するが明らかでない。4) 急性増悪時の緩和ケアの適切な運用に関しての 検討が不十分である。 ILD は個々の症例での疾患進行や急性増悪の予測が容易ではないことから,時期を逸しないACP の導入が今後の課題である。オピオイドに関しては,どのような症状ならびに程度で導入するのが適切か,検討が必要である。また,早期緩和の意義についての検討も不十分であり,さらなる研究が必要と考えられる。急性増悪時の緩和ケアは検討がきわめて乏しく,その実態は明らかでないため,重要な検討課題である。適切な予後予測は,救命から終末期医療への切り替えの判断に有用であり,予後予測の精度向上が必要である。 ▪文 献1)日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成 委員会(編).特発性間質性肺炎診断と治療の手引き改訂第2版.東京:南江堂;2011. 2)Raghu G, Collard HR, Egan JJ, et al. An official ATS/ERS/ JRS/ALAT statement:idiopathic pulmonary fibrosis:evidence-based guidelines for diagnosis and management. Am J Respir Crit Care Med. 2011;183:788-824. 3)Flaherty KR, Wells AU, Cottin V, et al. INBUILD Trial Inves- tigators. Nintedanib in Progressive Fibrosing Interstitial Lung Diseases. N Engl J Med. 2019;381:1718-27. 4)Cottin V, Hirani NA, Hotchkin DL, et al. Presentation, diagnosis
and clinical course of the spectrum of progressive-fibrosing interstitial lung diseases. Eur Respir Rev. 2018;27:180076. 5)Natsuizaka M, Chiba H, Kuronuma K, et al. Epidemiologic survey of Japanese patients with idiopathic pulmonary fibrosis and investigation of ethnic differences. Am J Respir Crit Care Med. 2014;190:773-9. 6)Kataoka K, Oda K, Takizawa H, et al. Multi-institutional pro- spective cohort study of prognostic factors in patients with idiopathic pulmonary fibrosis receiving long-term oxygen therapy. Eur Respir J. 2019;54 suppl63:PA1723. 7)Collard HR, Ryerson CJ, Corte TJ, et al. Acute Exacerbation of Idiopathic Pulmonary Fibrosis. An International Working Group Report. Am J Respir Crit Care Med. 2016;194:265-75. 8)Kondoh Y, Taniguchi H, Katsuta T, et al. Risk factors of acute exacerbation of idiopathic pulmonary fibrosis. Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis. 2010;27:103-10. 9)Song JW, Hong SB, Lim CM, et al. Acute exacerbation of id- iopathic pulmonary fibrosis:incidence, risk factors and outcome. Eur Respir J. 2011;37:356-63. 10)Suzuki A, Kondoh Y, Brown KK, et al. Acute exacerbations of fibrotic interstitial lung diseases. Respirology. 2020;25:525-34. 11)速井俊策,近藤康博.3. 疾患ごとの呼吸不全末期の病態・治療・経過・予後 B. 間質性肺炎.津田徹,平原佐斗司(編).非がん性呼吸器疾患の緩和ケア.東京:南山堂;2017. p.51-5. 12)有田健一,三戸晶子,梶原俊毅,他. 研究・症例 過去20年間における肺線維症・間質性肺炎終末期の緩和医療に関する検討.日胸臨.2010;69:353-61. 13)Lindell KO, Liang Z, Hoffman LA, et al. Palliative care and location of death in decedents with idiopathic pulmonary fibrosis. Chest. 2015;147:423-9. 14)Ahmadi Z, Wysham NG, Lundström S, et al. End-of-life care in oxygen-dependent ILD compared with lung cancer:a national population-based study. Thorax. 2016;71:510-6. 15)Bajwah S, Higginson IJ, Ross JR, et al. Specialist palliative care is more than drugs:a retrospective study of ILD patients. Lung. 2012;190:215-20. 16)Tsukuura H, Nishimura K, Taniguchi H, et al. Opioid use in end-of-life care in patients with interstitial pneumonia associated with respiratory worsening. J Pain Palliat Care Pharmacother. 2013;27:214-9. 17)Takeyasu M, Miyamoto A, Kato D, et al. Continuous Intravenous Morphine Infusion for Severe Dyspnea in Terminally Ill Interstitial Pneumonia Patients. Intern Med. 2016;55:725-9. 18)Matsuda Y, Maeda I, Tachibana K, et al. Low-Dose Morphine for Dyspnea in Terminally Ill Patients with Idiopathic Interstitial Pneumonias. J Palliat Med. 2017;20:879-83. 19)Bajwah S, Davies JM, Tanash H, et al. Safety of benzodiazepines and opioids in interstitial lung disease:a national prospective study. Eur Respir J. 2018;52:1801278. 20)Visca D, Mori L, Tsipouri V, et al. Effect of ambulatory oxygen on quality of life for patients with fibrotic lung disease(AmbOx): a prospective, open-label, mixed-method, crossover randomised controlled trial. Lancet Respir Med. 2018;6:759-70. 21)Nishiyama O, Kondoh Y, Kimura T, et al. Effects of pulmonary rehabilitation in patients with idiopathic pulmonary fibrosis. Respirology. 2008;13:394-9. 22)Perez-Bogerd S, Wuyts W, Barbier V, et al. Short and long-term effects of pulmonary rehabilitation in interstitial lung diseases: a randomised controlled trial. Respir Res. 2018;19:182. 23)Holland AE, Hill CJ, Glaspole I,et al. Predictors of benefit following pulmonary rehabilitation for interstitial lung disease. Respir Med. 2012;106:429-35. 24)神津玲.4.症状緩和の方法 A.終末期の包括的呼吸リハビリテーション(6)運動療法(COPD/間質性肺炎).津田徹,平原佐斗司(編).非がん性呼吸器疾患の緩和ケア.東京:南山堂;2017.p.114-7. 25)Luckett T, Phillips J, Johnson MJ, et al. Contributions of a hand-held fan to self-management of chronic breathlessness. Eur Respir J. 2017;50:1700262. 26)Mahler DA, Selecky PA, Harrod CG, et al. American College of Chest Physicians consensus statement on the management of dyspnea in patients with advanced lung or heart disease. Chest. 2010;137:674-91. 27)Peters SG, Holets SR, Gay PC. High-flow nasal cannula therapy in do-not-intubate patients with hypoxemic respiratory distress. Respir Care. 2013;58:597-600. 28)Koyauchi T, Hasegawa H, Kanata K, et al. Efficacy and Tolerability of High-Flow Nasal Cannula Oxygen Therapy for Hypoxemic Respiratory Failure in Patients with Interstitial Lung Disease with Do-Not-Intubate Orders:A Retrospective Single-Center Study. Respiration. 2018;9:323-9. 29)Ito J, Nagata K, Morimoto T, et al. Respiratory management of acute exacerbation of interstitial pneumonia using highflow nasal cannula oxygen therapy:a single center cohort study. J Thorac Dis. 2019;11:103-12. 30)van Manen MJ, Birring SS, Vancheri C, et al. Cough in idiopathic pulmonary fibrosis. Eur Respir Rev. 2016;25:278-86. 31)Morice AH, Menon MS, Mulrennan SA, et al. Opiate therapy in chronic cough. Am J Respir Crit Care Med. 2007;175:312-5. 32)Hope-Gill BD, Hilldrup S, Davies C, et al. A study of the cough reflex in idiopathic pulmonary fibrosis. Am J Respir Crit Care Med. 2003;168:995-1002. 33)van Manen MJG, Birring SS, Vancheri C, et al. Effect of pirfenidone on cough in patients with idiopathic pulmonary fibrosis. Eur Respir J. 2017;50:1701157. 34)Dutta P, Funston W, Mossop H, et al. Randomised, doubleblind, placebo-controlled pilot trial of omeprazole in idiopathic pulmonary fibrosis. Thorax. 2019;74:346-53. 35)Mintz S, Lee JK. Gabapentin in the treatment of intractable idiopathic chronic cough:case reports. Am J Med. 2006;119:e13-5. 36)Matsuda T, Taniguchi H, Ando M, et al. Depression Is Significantly Associated with the Health Status in Patients with Idiopathic Pulmonary Fibrosis. Intern Med. 2017;56:1637-44. 37)Lee YJ, Choi SM, Lee YJ, et al. Clinical impact of depression and anxiety in patients with idiopathic pulmonary fibrosis. PLoS One. 2017;12:e0184300. 38)Ryerson CJ, Berkeley J, Carrieri-Kohlman VL, et al. Depression and functional status are strongly associated with dyspnea in interstitial lung disease. Chest. 2011;139:609-16.
1.疾患の特徴と終末期/ 最終末期の定義1)疾患概念 気管支拡張症(bronchiectasis;BE)は気道粘膜の微生物クリアランス機能の低下と気道内の分泌物貯留,細菌感染と炎症の持続により気道破壊が起こる,という悪循環を繰り返していく病態である1)。慢性の膿性痰を伴う咳,繰り返す気道感染,呼吸困難,喘鳴,喀血・血痰,胸痛,疲労感などが患者にとって苦痛となる2)。また末梢気道の粘液栓や無気肺,気管支壁破壊などが進行することにより換気血流比不均等,低酸素血症,高炭酸ガス血症が増悪する3 −5)。また後述の如く増悪をきたす疾患であり, COPD 同様慢性期(安定期)と増悪の病態・時相の違いを理解することがこの病態における緩和ケアにおいても重要である。2)疫学 わが国のNTM症においてMycobacterium avium complex 症(MAC 症)が多く増加傾向である6)ことが知られているが,NTM を含めた一般人口中のBEの頻度は正確に把握できていないため国内での正確 な発生数は不明である。英国ではCOPD 20 名に対してBEが1 名の割合との報告があり7),実臨床の感覚に近い。3)原因 BE はさまざまな原因からなるheterogeneous な疾患1)である。わが国のBE の原因報告(N=147)によると特発性(34%),副鼻腔気管支症候群(25%), NTM(18%),過去の感染(14%)が多く,また性別では女性が71% と多い8)。4)経過・予後 原因が多岐にわたるため病状の進展形式も多様であり,病変の広がりが少ない症例ではほとんど悪化せず安定した経過を辿ることもある。しかし多くの症例が前述のように慢性期(安定期)に咳・膿性痰などの症状が持続し,2回/ 年以上の増悪(表1A, B) 9,10)を経験している。増悪を繰り返しながら緩やかに呼吸機能が低下し,緩やかに重症化する,いわゆる“chronic respiratory diseases trajectory”の経 疾患別の緩和ケア 3.気管支拡張症(BE) 第6章 注 本項では非結核性抗酸菌症(non-tuberculous mycobacteriosis;NTM)をBE の一原因疾患として取り扱い,BE に対する対応を中心に記載する。なお,BE の原因疾患である嚢胞性線維症(Cystic fibrosis;CF)はわが国ではきわめてまれなため本ステートメントの対象としない. サマリー BE は慢性の膿性痰を伴う咳,繰り返す気道感染,呼吸困難,喘鳴,喀血・血痰,胸痛,疲労感などが患者にとって苦痛となるため,これらの症状が緩和ケアの対象となる。慢性期と増悪期ともに気道クリアランスが治療の中心であり,薬物療法・非薬物療法を組み合わせて行うことが重要である。
過11)を辿るとされる(p.8 第1 章「総論1.非がん性呼吸器疾患の緩和ケアの現状と課題」の項を参照)。閉塞性換気障害は進行性であり,1 秒量は約50 ml/ 年のペースで低下するとの報告もある4)(参考:日本人健常男性非喫煙者:22.2 ± 49.4 m/ 年で低下12)). BE の予後については最近の報告は欧米からのものしかなく追跡期間も5 ~10 年と幅があり死亡率は13 ~29.7% であった13 −15)。NTM のうちMAC 症は国内の報告があり,追跡期間4.3 年で16.6%16), 5 年で28%17)であった。国内の報告(N=147)では在宅酸素療法6%,在宅NPPV 2%,気管切開下陽圧呼吸1% であった8)。このデータからは慢性呼吸不全に陥る頻度は10% 程度と想定される。 2.症例 69 歳男性【主 訴】 呼吸困難【既往歴】 慢性副鼻腔炎【喫 煙】 なし【身体所見】身長168cm 体重54kg BMI 19【呼吸機能】肺活量 1.74 L(43.1%),1 秒量 0.78 L (23.7%),1 秒率 47.6%臨床経過1 X −30 年~X 年1 月 X −30 年に他院でびまん性汎細気管支炎と診断された。マクロライド少量療法が開始され長期間症状は落ち着いていたが,X −1 年7 月頃より慢性的な緑膿菌感染による痰の膿性化と喀量の増加ならびに労作時呼吸困難がみられるようになった。これらの症状が増悪してきたためX 年1 月当院を受診した。 臨床経過2 X 年1 月~X 年6 月 下気道感染の増悪と診断されX 年1 月に入院した。入院後抗菌薬の投与を行い,症状の改善が得られた。ただ安静時でもSpO2 90% 程度であり、軽労作により著明な低酸素血症がみられたため,在宅酸素療法(home oxygen therapy;HOT)を導入した。 臨床経過3 X 年6 月~8 月 退院後も徐々に労作時呼吸困難は増強し酸素流量も増えていたが,X 年6 月より頭痛・ふらつきがみられるようになった。労作時呼吸困難はさらに増悪し,動けない状態となったため救急搬送された。来院時動脈血液ガス分析でpH 7.336,PaCO2 70.6 TorrとII型呼吸不全を認めた。非侵襲的陽圧換気療法 B重症の増悪 右記の要因のいずれかがあること1.頻呼吸 2.急性呼吸不全3.慢性呼吸不全の増悪4.SaO2 もしくは呼吸機能の有意な低下,もしくは高CO2 血症 5.38 °C以上の発熱 6.喀血 最重症の増悪 右記の要因のいずれかがあること1.不安定な血行動態 2.精神状態の変化3.ICU もしくはintermediate care unit への入院の必要性 (文献10より引用) 表1重症BE 増悪の定義A BE 増悪:右記の症状のうち3 項目以上の悪化が48 時間以上続くとき1.咳 2.痰の量 および/ または粘稠度・膿性度3.呼吸困難および/ または運動耐用能4.疲労および/ または倦怠感5.喀血 加えて臨床医がBE の治療変更を余儀なくされること (文献9より引用)
(NPPV)の適応と考えられたが,喀痰量が非常に多く困難と考えられたため,ハイフローセラピー(HFNC)を開始した。抗菌薬の投与も行い,翌日には症状は改善傾向でPaCO2 も経時的に低下して1週間後には40 Torr台まで低下したためHFNCの使用は終了した。呼吸状態は改善したもののADL 低下を認めたため,リハビリ目的で他院へ転院した。その後自宅に退院したが,ベッド上での生活が中心となった。 臨床経過4 X 年8 月~X 年11 月 X 年8 月と11 月に下気道感染の増悪により入院した。抗菌薬の投与およびHFNC の使用により呼吸状態の改善が得られた。経時的に衰弱しており,本人と妻と今後の治療方針に関して十分な話し合いを行った。本人は病状や予後については理解良好であった。できるだけ自宅で過ごすことを希望され,急変時の心肺蘇生や気管挿管については希望しない,という意思表示があった。 臨床経過5 X 年11 月~X +1 年2 月 自宅で何とか生活をされていたが,X +1 年2 月呼吸困難の増悪により入院した。抗菌薬投与とHFNC を開始したが,呼吸困難は改善せず,PaCO2は60 ~70 Torr 台で推移した。HFNC を使用しても症状の改善が得られず,不快感も強かったためHFNC を中止した。安静時の呼吸困難も高度となったため本人と妻との話し合いの結果,症状緩和を最優先に行っていくこととした。呼吸困難緩和目的で塩酸モルヒネの持続皮下注を開始したが,さらに呼吸困難は悪化した。本人より「できるだけ楽にしてほしい」と希望があり,フェノバルビタール坐薬やミダゾラム持続静注を開始した。X 年3 月ご家族の見守るなか永眠された。 【本症例を振り返って】 本症例のようにBE のなかには,喀痰調整薬や気管支拡張薬,マクロライド系抗菌薬の投与など考えうる最大限の薬物療法や後述する非薬物療法を追加してもコントロール困難となるケースがある。この ようなケースでは病状が進行し,重症化すると増悪の回数が増加する。疾患の特性上その都度抗菌薬を投与するが,いずれ抗菌薬への反応が乏しくなり,増悪イベントの間隔が短くなっていき,提示の如く非常に厳しい臨床経過を辿る。増悪の繰り返しが呼吸機能,QOL/ADL の低下を招き,また繰り返す増悪イベントがブースト的に排痰困難や呼吸困難などの臨床症状を悪化させていくことが多い。 本症例は30 年来のびまん性汎細気管支炎を患っていた。経過を振り返るとHOT 導入時期がいわゆる終末期の入り口であったと考えられる。CO2 貯留傾向となると呼吸管理が必要となってくるが,喀痰量が多いことからNPPV 導入が困難なこともあり,このような場合にはHFNC が好まれる(医療者・患者ともに)。最終末期に近づいてくるとHFNC やNPPV などの呼吸管理デバイスが苦痛となることもある。その場合にはこれらの中止も検討されるべき事項であり,BE の終末期にも苦痛緩和目的でのオピオイドや鎮静薬などが必要となることもある。 3.緩和ケアの対象となる症状18)と治療1)症状総論 表2A,B18)に示す。慢性期・増悪時ともに咳・膿性痰が重要である。2)咳 表2A,Bの如く慢性期に最も多く,増悪時には増加することが多い。痰を喀出させようとする湿性咳嗽であるためさまざまな治療を組み合わせて排痰を促すことが基本であり,鎮咳薬のルーチン使用は推奨されない19)。3)排痰困難 咳同様にQOL を低下させる症状であり,高頻度の症状である。薬物療法だけではなく後述の気道クリアランス法や高頻度胸壁振動法(図1) 20)などの非薬物療法の併用も効果的である。4)呼吸困難・喘鳴 呼吸不全発症・増悪に伴う呼吸困難の出現に対し
ては酸素投与やHFNC,NPPV などによる呼吸管理を行う(事前のACP に基づく対応が望ましい)。 CF においては呼吸困難に対して薬物(オピオイドやベンゾジアゼピン)投与や起坐位,冷風をあてる,理学療法士による呼吸コントロール法などが有効であり19),BE/NTM においても試みてもよいと考えられる。またこのような状況においても気道クリアランス法は痰貯留軽減には有効であり可能な限り排痰促進を図ることが重要である。5)発熱,疲労・倦怠感 繰り返す発熱は慢性期にも頻度が高く,重症の増悪時は認められることが多い。病状の増悪では他の症状(表1A,B参照。痰量・痰の粘稠度の増加など)を伴うことが多い。それぞれの患者ごとに発熱時の対応(増悪として対応するかどうかも含めて)をあらかじめ決めておくとよい19)。増悪と判断される場合には過去の喀痰培養の結果や検出頻度の高い細菌をターゲットとした適切な抗菌薬投与を検討する19)。また年に3回以上増悪する症例は増悪予防として抗菌薬投与(国内ではマクロライド系抗菌薬)を検討する19,20). 6)血痰・喀血 対応は出血量によるが,ひとまず抗菌薬や止血剤の投与を行う19)。出血部位同定目的で気管支鏡を行い21),同定可能かつ症状が持続する場合には気管支動脈塞栓術を行う。喀血量が著しい場合や繰り返す場合には外科的切除を検討する19 −21)が,患者の栄養状態に注意を払い,術前の呼吸リハビリテーションの施行を考慮する20)。7)抑うつ・不安 抑うつや不安は健常人より頻度が高いことが報告されている18)。基本的には表2Aのような患者が訴える身体症状に十分な対応を行うことが重要であるが,CF においては呼吸困難や不安・恐怖感に対して認知行動療法が有効な場合があり22),BE/NTM においても同様の効果が期待される。8)緩和ケアの対象となる症状に対する治療(薬 物療法・非薬物療法) a.治療総論 BE/NTM における緩和ケアのポイントはCF 同様に症状の軽減,ADL・健康関連QOL の改善,増悪の予防22)である。咳・膿性痰が増悪時・慢性期問 B Feature %咳の増加61-88増悪する呼吸困難13-59膿性痰の増加39-55痰量の増加43-45発熱23-33喘鳴33-34胸痛14-18喀血5-16疲労45 表2慢性期(A)と増悪時(B)の症状A Feature %咳82-96膿性痰75-87呼吸困難60-72副鼻腔炎17-77疲労73繰り返す発熱70喀血26-51抑うつ20-34不安38-50胸痛10-19吸気時の異常呼吸音71-73喘鳴21-34ばち指2-5 (文献18より改変引用)
わず高頻度に認められる症状である。ほかにも表2 A,Bに記載の如く多彩な症状を呈する。適切な薬物療法と非薬物療法を組み合わせて対応することが重要である。緩和ケアにおいては特に排痰に力点を置く治療姿勢が最重要となる。 b.薬物療法1薬物療法総論 抗菌薬以外のエビデンスレベルは概して低い。しかしながら患者の病状に応じた適切な薬物の投与・組み合わせを行うことで症状が緩和されることが多く経験される。必要に応じて喀痰調整薬・気管支拡張薬の投与・併用を行っていくことが重要である。2喀痰調整薬 海外のガイドラインでは推奨されていないが,実臨床ではほとんどのケースで投与されており8),症状が改善することもよく経験される。BE/NTM で は粘液性の喀痰を呈することが多く,喀痰調整薬を適切に使い分けることで症状の改善が期待できる。気道分泌細胞正常化薬(フドステイン),喀痰溶解薬(ブロムへキシン,N- アセチルシステイン),粘液修復薬(カルボシステイン),粘液潤滑薬(アンブロキソール)などが用いられる23)。喀痰調整薬の投与に際しては基本的に1 剤から開始し,効果が乏しい場合には他剤に変更,または併用を考慮する23)。 また生理食塩水(等張・高張)のネブライザー吸入は咳ならびに排痰促進改善がもたらされることがあり19),検討すべき治療である。特に後述する気道クリアランス法との併用が効果が高いとされる19)。 3気管支拡張薬 慢性期におけるルーティンの投与は推奨されてい 体位喀痰問題呼吸理学療法 呼気流量の修正排痰機器運動耐容能低下呼吸筋力低下 遅い呼気流量 AD (自律性排痰法) ELTGOL (側臥位で声帯を開いてゆっくり呼出) ACBT (自動周期呼吸法) 咳ハフィング呼気陽圧マスク一時的呼気陽圧フラッター弁 アカペラ高頻度胸壁振動法 速い呼気流量呼気陽圧振動呼気陽圧身体活動カウンセリング 有酸素トレーニング筋力トレーニング吸気筋トレーニング 排痰体位 図1 フローチャート(気道クリアランス法/ 呼吸理学療法)用語の説明: AD(自律性排痰法):呼吸基準位のレベルを変え等圧点を移動させることにより,末梢より分泌物を移動させる。安静呼気位で深呼吸し末梢の分泌物を移動し,中等度吸気位で深呼吸し分泌物を中枢側へ集め,最大吸気位で深呼吸で喀出させる。それぞれを4~5回ずつ行う。ELTGOL(L'Expiration Lente Totale Glotte Ouverte en décubitus Latéral):側臥位で声門を開いてゆっくり残気量位まで呼気を行う。慢性気管支炎でクリアランスの改善が報告されている。ACBT(自動周期呼吸法):リラックスした腹式呼吸,痰のある肺野の深い部分呼吸をそれぞれ3~5回繰り返し,痰が上昇してきたら最後ハフィングで排痰する。ハフィング:声門を開いた状態で最大吸気位から最大呼出をする。咳の方が最大呼気流量は大きい。Temporary PEP(一時的呼気陽圧):呼気時にのみ1 cmH2O の非侵襲的な圧力をかけ呼気終了直前に停止する。この圧力の中断は気道の内圧を直ちに低下させ,粘液および分泌物を上気道に排出させる。吸入療法をしながら行い,沈着率の改善,酸素化の改善,急性増悪の改善などが報告されている。 (文献19より改変引用)
ないが,COPD や気管支喘息を合併している患者においてはそれぞれのガイドラインの推奨度に応じて積極的に投与する19 −21)。可能であれば気道可逆性試験を行い,陽性の患者においては投与を検討する19,21)。COPD や気管支喘息の合併がなく,気道可逆性を呈さない症例でも呼吸困難や排痰において気管支拡張薬が有効な場合があるため長時間作用型気管支拡張薬(β2 刺激薬/ 抗コリン薬)については試してみてもよい19)が,効果がない場合には中止する20)。また長時間作用型気管支拡張薬の合剤(β2 刺激薬+抗コリン薬)が有効な症例も経験する。BE/ NTM には適応外使用となるため投与する場合には十分なインフォームドコンセントが必要である。 国内では喘息の発作時の治療に準じて,増悪時の排痰促進効果を期待してネブライザー吸入として生理食塩水内に短時間作用型β2 刺激薬を加えることが多くみられる。効果が期待される患者群においては投与を検討してもよい。 4抗菌薬 適切な使用が原則だが,BE においては慢性期では増悪予防,増悪においては症状緩和に寄与する可能性が高い。年に3回以上の増悪を起こす症例においては前述のようにマクロライド系抗菌薬の投与を検討する19,20). また増悪時においては以前の喀痰培養で得られた情報をもとに,情報がない場合には経験的な抗菌薬の投与を行う19 −21)。抗菌薬の選択については各種ガイドラインを参照されたい19 −21)。 5オピオイドなど CF では呼吸困難に対して症状緩和目的で投与される場合がある22)が,本指針執筆時点ではBE/ NTM の緩和ケアにおけるオピオイド投与のエビデンスはなく,実臨床でも経験が乏しい。最終末期の症状緩和においては,呼吸困難に対するオピオイド,鎮静のためのミダゾラムの使用も考慮される。6鎮咳薬 中枢レベルで咳を抑制する中枢性鎮咳薬は湿性咳嗽では痰の排出を障害し,感染症の悪化や気流閉塞悪化の懸念があるため原則禁忌である23)。前述の喀痰調整薬,気管支拡張薬,抗菌薬などを適宜組み合わせた薬物療法と後述の非薬物療法も組み合わせて積極的な排痰を行うことにより咳のコントロールを行うことを重視すべきである。 c.非薬物療法1非薬物療法総論 BE/NTM では咳・膿性痰を呈する頻度が高く,気道クリアランス法や胸部理学療法の重要度が高い。図1に気道クリアランス法/ 理学療法のフローチャート20)を示す。熟練した理学療法士による介入が慢性期・増悪時ともに重要である。また気道クリアランス法における器具使用や高頻度胸壁振動法(high frequency chest wall oscillation;HFCWO)の併用も実臨床では有用なことがある。呼吸不全状態となった場合には呼吸困難緩和目的でさまざまな呼吸管理デバイスを用いた治療を行う。 2気道クリアランス法/ 理学療法 慢性的に湿性咳嗽を呈し,喀出が困難な症例においては経験十分な理学療法士から指導された気道クリアランス法を1 日1 ~2回行うことが望ましい19,20)。増悪時においては1 日1回理学療法士による気道クリアランス法が勧められる19)。 呼吸リハビリテーションは運動耐容能の低下した患者において患者の症状や身体能力や病状に合わせて定期的に行うことが強く勧められる20)。気道クリアランス法や理学療法が奏功しない,もしくは受け入れ困難の場合にはHFCWO や下記のOscillatory PEP を考慮する19)。 3HFCWO ベスト型のガーメントによるもの(スマートベスト®)やキュイラスを用いた方法(陰・陽圧体外式人工呼吸〔biphasic cuirass ventilation;BCV〕,RTX
レスピレーター®)がある。QOL の改善や痰喀出量増加を期待できる19)。 4振動呼気陽圧(oscillatory positive expiratory pressure; OPEP) アカペラ®,フラッター® などがあり,使用法を習得すれば自宅で行うことができる。QOL の改善や痰喀出量増加を期待できる19).(p.70 第3 章「症状緩和の手段−非薬物療法− 2.呼吸リハビリテーション」の項も参照) 5酸素療法 呼吸困難に低酸素血症が伴っている場合には積極的な投与を検討する。慢性期においてはCOPD と同様の導入基準で在宅酸素療法を検討する19)。増悪時にはCO2 貯留に注意しながら使用する24)。 6ハイフローセラピー(HFNC) HFNC は鼻カニュラを通じて高流量の酸素を投与することが可能なデバイスであり,そのほかに解剖学的死腔の洗い出し効果によるPaCO2 低下効果, PEEP 効果,相対湿度100% の加湿効果をもつ25)。特に加温加湿効果により粘膜障害防止のみならず粘膜線毛機能の最適化,気道分泌物の排出促進による気道浄化作用がもたらされる25)。慢性安定期のCOPD とBE を対象としたHFNC の加湿の上乗せ効果をみた研究では,HFNC を上乗せした群で増悪回数の減少や増悪までの期間延長,QOL の改善が認められた26)。CF の増悪時には動脈血液ガスの改善効果,呼吸回数,呼吸困難度,快適性はNPPV と同等であった27)ことが報告されておりBE/NTM の増悪時においても効果が期待される。このように現時点で慢性期・増悪時に十分なエビデンスやガイドラインなどの記載もないが,HFNC の気道クリアランス促進効果を期待した使用は今後拡大するものと思われる。 7非侵襲的陽圧換気療法(NPPV) NPPV により慢性期・増悪時問わず呼吸困難や呼吸不全の改善が期待される。呼吸困難などの症状を 伴ったり,入院を繰り返す慢性II 型呼吸不全を呈する症例で在宅NPPV の適応がある10,19)。増悪時にはCOPD 増悪の基準に準じて行うことが推奨されている24)。 また実臨床では最終末期の最期の呼吸管理(治療の上限)としてNPPV ではなくHFNC を使用することが増えてきている。最終末期の呼吸管理法選択には十分なインフォームドコンセントが重要であり, ACP を重ねることが重要である。 4.今後明らかにすべきこと そもそもnon-CF BE/NTM においては緩和ケアという概念が確立されておらず,薬物療法・非薬物療法ともにエビデンスが不足している。原因疾患も多岐にわたることから,緩和ケアの開始が遅れることが多い。多くの課題があるが,今後明らかにすべきこととして下記4 点を挙げたい。1) non-CF BE/NTM における終末期(最終末期)の 定義2) ACP の開始時期3) 薬物療法(喀痰調整薬・気管支拡張薬・マクロ ライドなど)による症状緩和効果4) 薬物・非薬物療法の優先順位や治療ステップ ▪文 献1)Shteinberg M, Flume PA, Chalmers JD. Is bronchiectasis re- ally a disease? Eur Respir Rev. Eur Respir Rev. 2020;29: 190051. 2)Wilson R. 1 Introduction. In:Chalmers J, Polverino E, Alib- erti S, editors. Bronchiectasis:The EMBARC Manual. Switzerland:Springer;2018. p.1-8. 3)Permut I, Criner GJ. Bronchiectasis and adult cystic fibrosis. In:Eliott M, Nava S, Schonhofer B, Eds. Non-Invasive Ventilation and Weaning - Principles and Practice-. London, UK:Hodder Arnold, 2010. p.421-6. 4)Martínez-García MA, Soler-Cataluña JJ, Perpiñá-Tordera M, et al. Factors associated with lung function decline in adult patients with stable non-cystic fibrosis bronchiectasis. Chest. 2007;132:1565-72. 5)King PT, Holdsworth SR, Freezer NJ, et al. Outcome in adult bronchiectasis. COPD. 2005;2:27-34. 6)Namkoong H, Kurashima A, Morimoto K, et al. Epidemiology
of Pulmonary Nontuberculous Mycobacterial Disease, Japan. Emerg Infect Dis. 2016;22:1116-7. 7)Chalmers JD, Sethi S. Raising awareness of bronchiectasis in primary care:overview of diagnosis and management strategies in adults. NPJ Prim Care Respir Med. 2017;27:18. 8)Kadowaki T, Yano S, Wakabayashi K, et al. An analysis of etiology, causal pathogens, imaging patterns, and treatment of Japanese patients with bronchiectasis. Respir Investig. 2015;53:37-44. 9)Polverino E, Rosales-Mayor E, Torres A. 15 Exacerbations of Bronchiectasis. In:Chalmers J, Polverino E, Aliberti S, editors. Bronchiectasis The EMBARC Manual. Switzerland: Springer;2018. p.205-22. 10)Martínez-García MÁ, Máiz L, Olveira C, et al. Spanish Guidelines on Treatment of Bronchiectasis in Adults. Arch Bronconeumol. 2018;54:88-98. 11)Marsaa K, Gundestrup S, Jensen JU, et al. Danish respiratory society position paper:palliative care in patients with chronic progressive non-malignant lung diseases. Eur Clin Respir J. 2018;5:1530029. 12)西辻雅,藤村政樹,織部芳隆,他.日本人健常男性における1秒量の経年変化と喫煙の影響―縦断的研究―.日呼吸会誌. 2003;41:691-5. 13)Goeminne PC, Nawrot TS, Ruttens D, et al. Mortality in noncystic fibrosis bronchiectasis:a prospective cohort analysis. Respir Med. 2014;108:287-96. 14)Loebinger MR, Wells AU, Hansell DM, et al. Mortality in bronchiectasis:a long-term study assessing the factors influencing survival. Eur Respir J. 2009;34:843-9. 15)King PT, Holdsworth SR, Freezer NJ, et al. Outcome in adult bronchiectasis. COPD. 2005;2:27-34. 16)Gochi M, Takayanagi N, Kanauchi T, et al. Retrospective study of the predictors of mortality and radiographic deterioration in 782 patients with nodular/bronchiectatic Mycobacterium avium complex lung disease. BMJ Open. 2015; 5:e008058. 17)Ito Y, Hirai T, Maekawa K, et al. Predictors of 5-year mortality in pulmonary Mycobacterium avium-intracellulare complex disease. Int J Tuberc Lung Dis. 2012;16:408-14. 18)Maselli DJ, Restrepo MI. 4 Clinical Aspects. In:Chalmers J, Polverino E, Aliberti S, editors. Bronchiectasis. The EM- BARC Manual. Switzerland:Springer;2018. p.39-49. 19)Hill AT, Sullivan AL, Chalmers JD, et al. British Thoracic Society Guideline for bronchiectasis in adults.Thorax. 2019; 74 Suppl 1:1-69. 20)Polverino E, Goeminne PC, McDonnell MJ, et al. European Respiratory Society guidelines for the management of adult bronchiectasis. Eur Respir J. 2017;50:1700629. 21)Al-Jahdali H, Alshimemeri A, Mobeireek A, et al. The Saudi Thoracic Society guidelines for diagnosis and management of noncystic fibrosis bronchiectasis. Ann Thorac Med. 2017; 12:135-61. 22)Bourke SJ, Quibell R. Part III Respiratory Disease, 10 Cystic Fibrosis. In:Bourke SJ, Peel T, editors. Integraded Palliative Care of Respiratory Disease. Switzerland:Springer;2019. p.159-72. 23)日本呼吸器学会咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019作成委員会(編).咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019.東京:メディカルレビュー社;2019. 24)Davidson AC, Banham S, Elliott M, et al. BTS/ICS guideline for the ventilatory management of acute hypercapnic respiratory failure in adults. Thorax. Thorax. 2016;71 Suppl 2: ii1-35. 25)富井啓介,門脇徹,北島尚昌,他.在宅ハイフローセラピーの現状.日呼吸ケアリハ会誌.2019;28:291-7. 26)Rea H, McAuley S, Jayaram L, et al. The clinical utility of long-term humidification therapy in chronic airway disease. Respir Med. 2010;104:525-33. 27)Sklar MC, Dres M, Rittayamai N, et al. High-flow nasal oxygen versus noninvasive ventilation in adult patients with cystic fibrosis:a randomized crossover physiological study. Ann Intensive Care. 2018;8:85.
A ADL トレーニング ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 78 advance care planning(ACP) ʜʜʜ 4,18, 105,113,122,130,131,132,133,146,154 advance directive(AD) ʜʜʜʜ4,113,122 C CO2 ナルコーシスʜʜʜʜʜʜʜʜ 35,42,46 COPD ʜʜʜ 1,2,3,5,11,14,28,29, 41,72,81,111,142,143, 144,145,146,147,148 COPD の予後予測スコアʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 16 D do not intubate(DNI)ʜʜʜʜʜ45,49,153 Dyspnea-12(D-12)ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 26 E end of life care(EOLC)ʜʜʜʜ 4,20,120, 127,131,135 end of life discussion(EOLD)ʜ 4,18,20,50 H HFNC 使用目標ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 50 high-flow nasal cannula(HFNC) ʜʜʜ 48, 49,50,153,162 I idiopathic interstitial pneumonias(IIPs) ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 28,149 idiopathic pulmonary fibrosis(IPF) ʜ 15, 30,102,149,150,151,152,153,154 ILD における難治性咳嗽ʜʜʜʜʜʜʜʜ 153 ILD の急性増悪ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 150 interstitial lung disease(ILD)ʜʜ 1,2,3, 41,73,102,103,105,106,112, 149,150,151,152,153,154 IPF の予後予測スコア ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 17 N NMESʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 79 non-malignant respiratory disease(NMRD) ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 1,8 noninvasive positive pressure ventilation (NPPV)ʜʜʜʜʜʜ 44,45,46,47,48, 49,50,153,162 NPPV 中止 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 46 NPPV の目標 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 44 Numerical Rating Scale(NRS)ʜʜ 25,33,74 O oscillatory positive expiratory pressure (OPEP)ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 160,162 R Respiratory Distress Observation Scale (RDOS)ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 16,27,74 Richmond Agitation-Sedation Scale(RASS) ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 137,139 Q QOLʜʜʜʜʜʜʜʜ 2,4,15,44,45,47, 50,70,72,73,74,75, 76,87,92,95,102,111 欧 文 索引
和 文 S shared decision making(SDM)ʜ 120,121 Surprise Questionʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 18 T Total Dyspnea ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 25 あ 悪液質ʜʜʜʜ20,34,81,82,83,84,115アドバンス・ケア・プランニング(ACP) ʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 4,18,105,113,122, 130,131,132,133,146,154 い 意思決定支援 ʜʜʜʜʜʜʜʜ20,108,120, 121,123,124,130 う 運動耐容能 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜ42,72,76,90 え 栄養治療の適応に関するアルゴリズムʜʜ 84栄養評価ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 81栄養療法ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 83エンドオブライフケア(EOLC)ʜʜ 4,20, 120,127,131,135エンド・オブ・ライフ・ディスカッション (EOLD)ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 4,18,20,50 お オピオイド ʜ4,15,28,35,52,53,54, 55,56,57,58,59,152,161オピオイドによる副作用対策ʜʜʜʜʜʜʜ 56オピオイドの呼吸困難改善効果 ʜʜʜʜʜ 53オピオイドの作用機序 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 52オピオイドの使用方法 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 54オピオイドを使用する条件ʜʜʜʜʜʜʜʜ 53 か 咳嗽・喀痰の評価ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 29咳嗽・喀痰への対応 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 29喀痰調整薬 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 160家族のケア ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 132看護ケアʜʜʜʜʜʜʜ 127,128,129,131,間質性肺疾患(ILD) ʜʜ 1,2,3,41,73, 102,103,105,106,112, 149,150,151,152,153,154 緩和ケアのニーズʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 8 き 気管支拡張症 ʜʜ 28,29,112,156,157, 158,159,160,161,162 気道クリアランス法 ʜʜʜʜʜʜʜ 160,161 け 経腸栄養剤 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 83倦怠感ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ33,34 こ 抗うつ薬ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 63,64,65抗精神病薬 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ65,66呼吸介助ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 76,147 V Visual Analogue Scale(VAS)ʜʜ 25,26, 33,74
呼吸困難ʜ 3,4,5,11,15,24,25,26, 27,28,40,45,48,60,62, 64,71,89,90,92,147,152呼吸困難に対するチーム医療ʜʜʜʜʜʜ 103呼吸困難の評価ʜʜʜʜʜʜʜ15,25,26,27呼吸困難のメカニズム ʜʜʜʜʜʜʜʜ24,25呼吸困難への対応ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 28呼吸リハビリテーションʜʜʜ 11,14,18, 70,71,72,73,74,75,76, 77,78,79,80,109,113,146,153呼吸リハビリテーションの構成要素ʜʜʜ 71呼吸リハビリテーションの有益性 ʜʜʜʜ 72呼吸練習ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 76コルチコステロイド ʜʜʜʜʜʜʜʜʜ60,61コンディショニング ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 74 さ 最終末期の定義ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 1,2,3在宅医療ʜʜʜʜʜʜʜʜ 107,108,109,110在宅ケアʜʜ 111,112,113,114,115,116在宅酸素療法の保険適用基準ʜʜʜʜʜʜʜ 41酸素療法ʜʜʜʜʜ40,41,42,43,152,162 し シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM) ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 120,121自己効力感 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 93事前指示(AD)ʜʜʜʜʜʜʜʜʜ4,113,122疾患軌道ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 1,2,3,9修正Borg スケールʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ25,26修正MRC(modified British Medical Research Council)息切れスケール ʜʜʜʜʜ25,26終末期の定義 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 1,2,3食事指導ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 83食欲不振ʜʜʜʜʜʜʜʜ 34,60,64,82,84人工的水分・栄養補給の導入に関する意思決 定プロセス ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 87人生の最終段階における医療・ケアの決定プ ロセスに関するガイドライン ʜ 20,104, 122,124振動呼気陽圧(OPEP)ʜʜʜʜʜʜ 160,162 す スピリチュアルケア ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 129 せ 生活の質(QOL) ʜʜʜ 2,4,15,44,45, 47,50,70,72,73,74,75, 76,87,92,95,102,111 咳(咳嗽)ʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 28,29,30,158セルフマネジメント ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 91専心 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 128全身持久力トレーニング・筋力トレーニング ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 74全人的苦痛 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 128せん妄ʜʜʜ 33,34,35,36,37,56,60, 61,62,64,65,66,137 そ 増悪 ʜʜʜ 2,3,9,10,17,18,21,46, 50,61,72,82,92,110,142, 143,144,156,157,159,161,162 送風(扇風機・経鼻カニュラ)ʜʜʜʜʜʜ 89 た 体重減少ʜʜʜʜʜʜʜʜ2,18,20,81,82, 83,84,115,116多職種連携 ʜʜʜʜʜʜʜʜ 102,103,104, 105,111,124 ち 地域連携ʜʜʜʜʜʜʜʜ 107,108,109,110チーム医療 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜ70,102,103, 104,105,107,111,124 治療抵抗性の苦痛ʜʜʜʜʜʜ 135,136,137
鎮静 ʜʜʜʜʜʜʜ46,109,110,135,136, 137,138,139,140鎮静薬の投与を行う倫理的要件 ʜʜʜʜ 138 て 低酸素血症 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜ24,40,41,42 と 特発性間質性肺炎(IIPs)ʜʜʜʜʜʜ 28,149特発性肺線維症(IPF)ʜʜʜ 15,30,102, 149,150,151,152,153,154 に 認知行動療法 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ95,98,159 は 排痰困難ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 158排痰法ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 29,30,77ハイフローセラピー(HFNC)ʜ 48,49,50, 153,162 鍼治療ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 90 ひ 非がん性呼吸器疾患(NMRD)ʜʜʜʜʜ 1,8非がん性呼吸器疾患の予後予測 ʜʜʜʜʜ 16非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)ʜ 44,45, 46,47,48,49,50,153,162非薬物療法によるアプローチʜʜʜʜʜʜʜ 68 ふ 不安 ʜʜ35,36,61,62,63,64,65,68, 69,94,95,96,97,98,127,128,129不眠 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ35,61,62,63 へ ベンゾジアゼピンʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 152ベンゾジアゼピン系薬 ʜʜʜ35,61,62,63便秘 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 34 ま マインドフルネスʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 98 み ミダゾラム ʜʜʜʜʜʜ 135,136,137,138 も モルヒネʜʜʜʜʜʜʜ 14,15,34,52,53, 54,55,56,57,58 や 病みの軌跡 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 4,5 よ 抑うつʜʜ 35,36,64,65,72,92,95,96 り リラクセーションʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 76倫理的配慮 ʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜʜ 20
© 日本呼吸器学会/© 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会/2021/ Printed in Japan 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針 2021 2021 年4月20日 第1 版発行 編 集 日本呼吸器学会・日本呼吸ケア・リハビリテーション学会合同非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針 2021 作成委員会発行者 日本呼吸器学会(代表) 横山 彰仁日本呼吸ケア・リハビリテーション学会(代表) 植木 純発行所 一般社団法人 日本呼吸器学会 〒113-0033 東京都文京区本郷3 丁目28 番8 号 日内会館7 階TEL:03-5805-3553(代) FAX:03-5805-3554 info@jrs.or.jp URL:https://www.jrs.or.jp/ 一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会 〒113-0033 東京都文京区本郷3 丁目28 番8 号 日内会館7 階TEL/FAX:03-6806-7703 info@jsrcr.jp URL:http://www.jsrcr.jp/ 制 作 株式会社メディカルレビュー社 〒113-0034 東京都文京区湯島3-19-11 湯島ファーストビルTEL:03-3835-3041(代) FAX:03-3835-3063 ● 本書に掲載された著作物の複写・複製・転載・翻訳・データベースへの取り込み、および送信(送信可能化権を含む)・上映・譲渡に関する許諾権は一般社団法人日本呼吸器学会および一般社団法人日本呼吸ケア・リハビリテーション学会が保有しています。
2021 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針 Non-malignant respiratory disease Palliative care statement