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生物学的製剤と呼吸器疾患 協力 診療の手引き 日本呼吸器学会生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き作成委員会 一般社団法人 日本呼吸器学会 The Japanese Respiratory Society 一般社団法人 日本リウマチ学会一般社団法人 日本結核病学会一般社団法人 日本感染症学会 編集
生物学的製剤と呼吸器疾患 協力 診療の手引き 日本呼吸器学会生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き作成委員会 一般社団法人 日本呼吸器学会 The Japanese Respiratory Society 一般社団法人 日本リウマチ学会一般社団法人 日本結核病学会一般社団法人 日本感染症学会 編集
III 日本呼吸器学会生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き作成委員会 ●委員長徳田 均 *社会保険中央総合病院呼吸器内科(日本呼吸器学会) ●委員(五十音順) 門田淳一 大分大学医学部呼吸器・感染症内科学講座(日本感染症学会) 亀田秀人 東邦大学医学部内科学講座膠原病学分野(日本リウマチ学会) 須田隆文 浜松医科大学内科学第二講座(日本呼吸器学会) 高柳 昇 埼玉県立循環器・呼吸器病センター呼吸器内科(日本呼吸器学会) 田坂定智 慶應義塾大学医学部呼吸器内科(日本呼吸器学会) 舘田一博 東邦大学医学部医学科微生物・感染症学講座(日本呼吸器学会) 朝野和典 大阪大学医学部付属病院感染制御部(日本呼吸器学会) 針谷正祥 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科薬害監視学講座(日本リウマチ学会) 渡辺 彰 東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発研究部門(日本結核病学会) *2014 年4 月1日よりJCHO 東京山手メディカルセンターと改称
●COI(利益相反)について一般社団法人日本呼吸器学会は,COI(利益相反)委員会を設置し,内科系学会とともに策定したCOI(利益相反)に関する共通指針ならびに細則に基づき,COI 状態を適正に管理している。(COI(利益相反)については,学会ホームページに指針・書式等を掲載している。)以下に,生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き作成委員のCOI 関連事項を示す。1)研究助成金等に関する受入状況企業名:アステラス製薬(株),アボットジャパン(株),エーザイ(株),MSD(株),杏林製薬(株),塩野義製薬(株),第一三共(株),大正製薬(株),大正富山医薬品(株),大日本住友製薬(株),大鵬薬品工業(株),武田薬品工業(株),田辺三菱製薬(株),富山化学工業(株),中外製薬(株),ファイザー(株),ブリストルマイヤーズ(株),Meiji Seika ファルマ(株) 2)講演料・原稿料等の受入状況企業名:アステラス製薬(株),アボットジャパン(株),エーザイ(株),MSD(株),塩野義製薬(株),グラクソ・スミスクライン(株),第一三共(株),大正富山医薬品(株),大日本住友製薬(株),武田薬品工業(株),田辺三菱製薬(株),南江堂(株),中外製薬(株),ファイザー(株),ブリストルマイヤーズ(株),ヤンセンファーマ(株) 3)作成委員の個人的収入に関する受け入れ状況 本学会の定めた開示基準に該当するものはない。 以 上
V 難治性免疫性炎症性疾患の病態解明が進み,炎症の成立,維持に主要な役割を演じているサイトカインや分子が同定されるとともに,それらの物質を標的として,その作用をピンポイントでブロックする薬剤,いわゆる生物学的製剤が開発され,治療の現場に広く導入されるようになった。生物学的製剤とは,化学的に合成された化合物に対応する用語であり,ヒトなどの生物由来の材料(多くは免疫グロブリンまたはその遺伝子)を用い,最新の生物工学の手法を用いて造られる製剤のことである。関節リウマチを皮切りに,各種リウマチ性疾患,クローン病などの炎症性腸疾患,乾癬などの皮膚科疾患にまで適応は拡大されてきている。その治療効果はめざましく,最も対象患者数の多い関節リウマチの場合,従来の治療法が基本的に疾患活動性を抑えられず,苦痛を緩和するいわば“care”としての医療しかできなかったのに比べ,高率に疾患活動性を制御でき,一部の症例では“cure”すらをも目指しうるようになったと言われる。しかし光があれば必ず影もある。元々これら薬剤の標的となった,サイトカインや分子は,免疫の複雑なネットワークの中で重要な役割を演じているので,それらを抑制することで何らかの好ましからざる副反応が生じることは想像に難くない。その一つに感染症がある。最も頻用されるTNF 阻害薬について言えば,TNF- αは宿主の感染防御免疫の中で大きな役割を担うマクロファージの遊走,活性化に不可欠なサイトカインである。特に一般細菌,抗酸菌,真菌(ニューモシスチスなど)に対抗する初動システムとして重要とされる。これを阻害するTNF 阻害薬がRA 診療の場に導入されると,懸念されたとおり,結核症が多発した。わが国および海外では重症例(死亡例を含む)も少なからず出ている。またわが国においてはニューモシスチス肺炎も高い死亡率で患者を苦しめている。また生物学的製剤によりさまざまなサイトカインネットワークのゆらぎが起こることも考えられる。RA など免疫性炎症性疾患は高頻度に間質性肺炎(IP)を合併するが,これらのIP の多くは,何らかの免疫機序の異常で発生し,進展すると言われている。生物学的製剤の導入で,0.4~0.6%の頻度で亜急性~急性のIP が発生し(この中には薬剤性間質性肺炎,薬剤に誘発された既存のIP の増悪,基礎のIP の自然経過としての急性増悪,さらにはウイルスなどの同定困難な病原体の関与などがあり得るが,これを臨床の場で峻別することは決してやさしくない),その一部は重篤な経過をとっている。これは生物学的製剤により複雑なサイトカインネットワークの一部が動き,免疫システムのバランスが乱れ,揺らぎが起こり,それがこのような事態に関わっているものと推測される。このような重大な有害事象の発現はある程度予測,懸念され,これら薬剤の市販開始に当たっては,一定期間の全例調査が各製薬会社に義務づけられた。その結果,関節リウマチを中心に有害事象の頻度や特徴が明らかになり,これらについては広く周知の努力が行われた,また日本リウマチ学会などの関連学会は生物学的製剤の適正使用を促進するため,TNF 阻害薬使用ガイドラインをはじめとする各生物学的製剤使用ガイドラインを発表・改訂してきた。しかしこれで問題が解決したわけでないことは,2012 年に行われた厚生労働省研究班(山中班)の調査(大学病院など6施設の共同研究)で明らかになった。この研究は生物学的製剤を投与された2,697 人のRA 患者の予後を調査したもので,その結果,生物学的製剤投与による生命予後の悪化がないことは確認できた。しかし死亡が38 例あり,これを解析すると,肺炎が21.1%,間質性肺炎が18.4%,その他の呼吸器疾患を併せ実に死亡者の47.4%が呼吸器疾患で死亡していた。すなわち,肺合併症による死亡が深刻化し,生物学的製剤治療の大きな障害として立ちはだかっているという構図がはっきりしてきた。
VI今や肺合併症の予防と適切な治療が,生物学的製剤の安全な治療遂行のために不可欠であり,重 篤な細菌性肺炎,粟粒結核のような重い結核症,ニューモシスチス肺炎,薬剤性肺障害,間質性肺炎の急性増悪,いずれも呼吸器,感染症の専門家の助言,協力が必要とされる状況となってきた。しかし助言を求められる呼吸器科医,感染症科医の方にも戸惑いがある。呼吸器科,感染症科の診療領域では生物学的製剤は滅多に使われず,近年つぎつぎと導入され,今や9種類を越えた生物学的製剤という薬(その名称,作用機序,副作用など)を日常知る機会は少ない。またRA など免疫性炎症性疾患宿主の特性にもなじみが薄く,呼吸器合併症の治療にあたり従来の呼吸器領域での常識が通用せず戸惑うこともある。さらに生物学的製剤以外にもそれらの疾患に併用,使用されている各種免疫抑制薬にもなじみが薄い。このような中で急性に発症した重症の呼吸器合併症について診療を求められ,あるいは慢性感染症につき治療上の意見を求められる場は増えており,重要な情報の欠乏の中で困惑している呼吸器科医,感染症科医は多いことと推察される。残念ながらこれら難治性炎症性免疫性疾患を扱う学会(日本リウマチ学会,日本皮膚科学会,日本消化器学会,日本眼科学会など)と日本呼吸器学会,日本感染症学会とは,これまでこの問題について特に緊密に情報を交換してきたとは言えない。ようやく2010 年,2013 年の日本呼吸器学会学術講演会において,両他学会との共催のシンポジウムが持たれるなど,協力関係は始まったばかりである。しかも学会でこの企画に参加できなかったほとんどの呼吸器科医はいまだにこの問題の解決方法を知る機会がない。日本呼吸器学会では昨年8月,この問題に対処するために「生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き」作成委員会を立ち上げた。感染症・結核学術部会を中心に6 名,日本結核病学会から1名,日本感染症学会から1 名,日本リウマチ学会から2名,それぞれ正式派遣の委員が参加し,これまで数回にわたってこの問題の多様な側面について討議を重ねてきた。その共有された知識を元に,主題別に分担執筆し,その内容についてもコンセンサスを得るべく改めて討議し,ようやく呼吸器科医,感染症科医としても納得でき,リウマチ診療の現場でも受け入れられるものができたので,ここに手引き書として皆様にお届けする。ガイドラインとしてではなく手引き書としたのは,ひとえにこの領域におけるエビデンスの蓄積が少ないためである。本出版物は,呼吸器学会,感染症学会の会員のみならず,この問題に関わる多くの領域の医師(リウマチ診療に携わるリウマチ医,整形外科医,炎症性腸疾患を扱う消化器科医,乾癬を扱う皮膚科医,その他)にとっても有用な書となるよう,記述のスタイルにはQ&Aを導入するなど,わかりやすい記述を心がけた。現在手に入る限られた数の基本的文献に基づき,現時点でどこまでわかっているか,診断と治療,そして予防について何が言えるかをまとめることができたと思う。しかし記述の根拠についてはそのような制約があることもふまえ,本出版物は医療現場における診断,治療の参考であって,実際の診断,治療を規定するものではないことは強調しておきたい。もちろんこの分野は日進月歩であり,今後エビデンスが急速に整備されてくることが期待される。その状況を見つつ,本手引き書の内容は定期的に改訂されるべきものと考えている。この書物が免疫性炎症性疾患の診療に心を砕いている関係各方面において,現時点での知見をまとめた手引き書として役に立ち,また合併症に苦しむ患者さんに良い結果をもたらす一助となることを願ってやまない。 2014 年2 月 生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き作成委員会 委員長徳田 均
VII ■本書で用いた薬剤一覧D-ペニシラミンアザチオプリンアジスロマイシンアダリムマブアトバコンアバタセプトアモキシシリンアンピシリンイソニアジドイミペネムインフリキシマブウステキヌマブエタネルセプトエタンブトールカナマイシンガレノキサシンクラブラン酸クラリスロマイシンゴリムマブコルヒチンサラゾスルファピリジンシクロスポリンシクロホスファミドシプロフロキサシンシラスタチンストレプトマイシンスルタミシリンスルバクタムスルファメトキサゾールセフェピムセフトリアキソンセフピロムセルトリズマブペゴルタクロリムスタゾバクタムトシリズマブドリペネムトリメトプリムパズプロキサシンパニペネムピペラシリンピラジナミドプレドニゾロンベタミプロンベリムマブペンタミジンミゾリビンメチルプレドニゾロンメトトレキサートメロペネムモキシフロキサシンリツキシマブリファンピシンレボフロキサシンD-penicillamine azathioprine azithromycin adalimumab atovaquone abatacept amoxicillin ampicillin isoniazid imipenem infliximab ustekinumab etanercept ethambutol kanamycin garenoxacin clavulanic acid clarithromycin golimumab colchicine salazosulfapyridine cyclosporin cyclophosphamide ciprofloxacin cilastatin streptmycin sultamicillin sulbactam sulfamethoxazole cefepime ceftriaxone cefpirome certolizumabpegol tacrolimus tazobactam tocilizumab doripenem trimethoprim pazufloxacin panipenem piperacillin pyrazinamide prednisolone betamipron belimumab pentamidine mizoribine methylprednisolone methotrexate meropenem moxifloxacin rituximab rifampicin levofloxacin AZM ADA ABA AMPC ABPC INH IPM IFX UTK ETN EB KM GRNX CVA CAM GLM CyA CPA CPFX CS SM SBTPC SBT SMX CFPM CTRX CPR CZP TAZ TCZ DRPM TMP PZFX PAPM PIPC PZA PSL mPSL MTX MEPM MFLX RTX RFP LVFX
IX 2総論1 生物学的製剤概論 総論I 13総論2 生物学的製剤の投与対象となる疾患患者(宿主)の特性:関節リウマチを中心に 総論3 19背景要因としての既存の肺病変:気道病変を中心に 総論4 29なぜ生物学的製剤投与で感染症が起こりやすくなるか? はじめに......... 2 1 TNF 阻害薬......... 3 2 IL-6 受容体阻害薬......... 4 3 IL-12/IL-23 阻害薬......... 5 4 T 細胞共刺激分子阻害薬......... 5 5 B 細胞阻害薬......... 6 6 生物学的製剤の安全性......... 6おわりに......... 11 はじめに......... 13 1 RA をはじめとした IMID の病態と免疫異常......... 13 2 生物学的製剤に対する免疫応答......... 15 3 RA 患者の予後とその規定因子......... 16 4 RA の最新治療において呼吸器科医が留意すべき点......... 17おわりに......... 18 はじめに......... 19 1 RA と気道病変......... 20 2 中枢気道病変─気管支拡張症......... 20 3 末梢気道病変─細気管支炎(small airway obstruction)......... 23 4 気道病変と肺合併症......... 25おわりに......... 26 はじめに─易感染性の評価の困難性と限界......... 29 1 感染防御機構と微生物感染症の関係......... 30 2 呼吸器感染症の感染防御機構と生物学的製剤......... 30おわりに......... 34
X 各論1 38細菌感染症 各論II 各論2 49抗酸菌感染症 はじめに......... 38 Q1 RA 患者の注意すべき細菌感染症は? RA 患者には肺炎が多いか? 生物学的製剤を投与するとさらに頻度が増すか?......... 38 Q2 RA 患者の肺炎治療:初期対応,特に重症例に対する初期対応は?......... 39 Q3 RA 患者の肺膿瘍,膿胸,気管支拡張症急性増悪の初期対応は?......... 41 Q4 RA 患者の肺感染症の危険因子は何か? 予防は可能か?......... 43 Q5 感染終息後に生物学的製剤は使用再開できるか?......... 43おわりに......... 44 附 トシリズマブ使用下の急性肺感染症,まれに見られる特異な病像......... 45はじめに......... 45症 例......... 45考 察......... 46おわりに......... 48 a.結核症......... 49はじめに......... 49 Q1 RA 患者には結核が多いのか?......... 49 Q2 RA 患者に生物学的製剤を投与すると結核併発は多くなるのか?......... 50 Q3 結核併発のリスクは何か?......... 51 Q4 結核併発はどのように見つけるのか?......... 51 Q5 併発結核の治療はどうするか?......... 53 Q6 併発結核治療の際,生物学的製剤や副腎皮質ステロイド薬,MTX などはどうするのか?...... 54 Q7 結核併発の予防はどうするか?......... 55 Q8 併発結核への治療の終了後,生物学的製剤は再投与が可能か?......... 57おわりに......... 57 b.非結核性抗酸菌症......... 59はじめに......... 59 Q1 RA 患者におけるNTM 症の合併頻度はどれくらいか? そこに生物学的製剤が投与された場合の発症頻度は?......... 59 Q2 NTM 症の診断─RA 患者において特に注意を払うべき点は?......... 60 Q3 RA に合併したNTM 症の菌種,臨床経過,予後は? 非RA 患者と異なるのか? そこに生物学的製剤が加わった場合,どうなるのか?......... 62
XI 各論3 71ニューモシスチス肺炎 各論4 81間質性肺炎 Q4 治療はどうするのか? 薬剤は? 期間は?......... 65 Q5 発病の危険因子は何か? 予知できるのか?......... 66 Q6 NTM 症を合併している,あるいはその疑いがあるRA 患者には生物学的製剤は禁忌か? ......... 66 Q7 生物学的製剤使用中にNTM 症を発症した場合,生物学的製剤はいったん中止することになるが,感染収束後には再投与できるのか? メトトレキサートはどうか?......... 68おわりに......... 69 はじめに......... 71 Q1 ニューモシスチス肺炎(PCP)とはどのような感染症か?......... 71 Q2 PCP の病態は?......... 72 Q3 RA 患者のPCP の特徴とは?......... 72 Q4 生物学的製剤使用中のPCP の頻度と死亡率はどの程度か?......... 73 Q5 PCP を発症する危険因子は何か?......... 74 Q6 PCP の診断はどのように行うか?......... 74 Q7 PCP の治療はどのように行うか?......... 76 Q8 PCP の予防は可能か?......... 77 Q9 PCP 終息後に生物学的製剤の再開は可能か?......... 78おわりに......... 78 はじめに......... 81 Q1 RA に合併する間質性肺炎の頻度や分類,臨床像などは?......... 81 Q2 生物学的製剤と関連した薬剤性間質性肺炎の発症頻度や死亡率は?......... 82 Q3 どんな患者が生物学的製剤と関連した間質性肺炎を発症しやすいのか?......... 83 Q4 生物学的製剤を使ってどのくらいの期間で本剤と関連した間質性肺炎を発症するのか? ......... 84 Q5 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の発症時の症状は?......... 84 Q6 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の検査所見は?......... 84 Q7 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の画像所見は?......... 84 Q8 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の診断(鑑別診断を含む)は?......... 84 Q9 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の治療は?......... 85 Q10 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の予後は? また,予後不良因子は?......... 85 Q11 既存の間質性肺炎がある患者に生物学的製剤を投与できるか? またその場合,注意すべき点は?......... 85 Q12 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の予防は可能か?......... 86 Q13 生物学的製剤と関連した間質性肺炎を発症した患者に本剤の再投与は可能か?......... 86おわりに......... 86
XII 各論5 88生物学的製剤が使用される関節リウマチ関連以外の疾患と呼吸器合併症 はじめに......... 88 Q1 RA 関連以外のどのような疾患で生物学的製剤が使用されているのか?......... 88 Q2 上記疾患に生物学的製剤が使用される場合の副作用の種類と頻度の特徴は?......... 90 Q3 RA 関連疾患以外で生物学的製剤を使用する場合の注意点は?......... 90 Q4 生物学的製剤の有効性が期待されるその他の疾患は?......... 91 索引......... 93
I 1 2 3 4 総論 なぜ生物学的製剤投与で感染症が 起こりやすくなるか? 生物学的製剤概論 生物学的製剤の投与対象となる疾患患者(宿主)の特性:関節リウマチを中心に 背景要因としての既存の肺病変:気道病変を中心に
総論1 はじめに 生物学的製剤とは,分子生物学および遺伝子工学の手法を用いて作成されたモノクローナル抗体や融合蛋白などのリコンビナント蛋白製剤であり,関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA),クローン病,乾癬などの難治性免疫性炎症性疾患の治療薬として近年広く用いられている。現在わが国で免疫性炎症性疾患に承認されている生物学的製剤を表1 に示す1)2)。いずれの生物学的製剤も,それぞれの疾患の病態形成に重要な分子を標的とした分子標的治療薬である。 免疫性炎症性疾患に対してわが国で初めて承認された生物学的製剤はインフリキシマブ(infliximab: IFX)であり,2002 年にクローン病,2003 年にRA の保険適用を取得した。表2 に各生物学的製剤の適応を示す。 生物学的製剤概論 生物学的製剤とは,分子生物学および遺伝子工学の手法を用いて作成されたモノクローナル抗体や融合蛋白などの分子標的治療薬である。難治性免疫性炎症性疾患の切り札的な薬剤として近年広く用いられている。わが国ではTNF 阻害薬,IL-6 受容体阻害薬,T 細胞共刺激分子阻害薬,B 細胞阻害薬がさまざまな免疫性炎症性疾患の適用を取得している。いずれの生物学的製剤も既存の治療方法と比較して非常に優れた有効性を示す。生物学的製剤の使用中にはさまざまな有害事象が発現し,なかでも感染症は頻度および重症度から最も重要である。同じ生物学的製剤であっても,原疾患,年齢・合併症などの個々の患者の背景因子によって有害事象の発現リスクが変わることを踏まえて,リスク・ベネフィットバランスを最適化する使用方法を心がける必要がある。 表1 わが国で免疫性炎症性疾患に承認されている生物学的製剤分類一般名サイトカインまたはその受容体を標的とする製剤TNF 阻害薬キメラ型抗TNF 抗体インフリキシマブ(レミケードR) ヒト型抗TNF 抗体アダリムマブ(ヒュミラR)ゴリムマブ(シンポニーR) PEG 化ヒト化抗TNF 抗体セルトリズマブペゴル (シムジアR) TNF 受容体-Fc 融合蛋白エタネルセプト(エンブレルR) IL-6 受容体阻害薬ヒト化抗IL-6 受容体抗体トシリズマブ(アクテムラR) IL-12/23 阻害薬ヒト型抗ヒトIL-12/ IL-23p40 抗体ウステキヌマブ(ステラーラR) 細胞表面機能分子を標的とする製剤T 細胞共刺激分子阻害薬CTLA4-Fc 融合蛋白アバタセプト(オレンシアR) B 細胞阻害薬キメラ 型抗ヒトCD20 抗 体リツキシマブ(リツキサンR) TNF:tumor necrosis factor,IL:interleukin,CTLA4:cytotoxic T-lymphocyte antigen 4.
1 TNF 阻害薬 1-1 ●各TNF 阻害薬の特徴と用法・用量現在わが国では,インフリキシマブ,エタネルセプト(etanercept:ETN),アダリムマブ(adalimumab: ADA),ゴリムマブ(golimumab:GLM),セルトリズマブペゴル(certolizumabpegol:CZP)の5 種類のTNF 阻害薬が上市されている(表3)。インフリキシマブ,アダリムマブ,ゴリムマブは抗TNF モノクローナル抗体,セルトリズマブペゴルはポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG)化抗TNF モノクローナル抗体,エタネルセプトはTNF 受容体と ヒトIgG Fc 部分の融合蛋白である。各TNF 阻害薬の特徴を表3 に示す。各TNF 阻害薬について,表3以外の特記すべき事項を以下に述べる。a.インフリキシマブTNF と結合するFab 部分がマウスのアミノ酸配列(全体の約25%)を用いたキメラ型モノクローナル抗体である。TNF 阻害薬の中で唯一メトトレキサートとの併用が添付文書上義務付けられている。メトトレキサートで効果不十分なRA 患者では0,2,6 週に3mg/kg で点滴静注し,以降は8 週毎に投与を繰り返す。効果不十分の場合は10mg/kg/8 週までの増量あ 表3 国内で関節リウマチに承認されているTNF 阻害薬の特徴 分類抗TNF 抗体可溶性TNF 受容体一般名インフリキシマブアダリムマブゴリムマブセルトリズマブ ペゴルエタネル セプト 発売年2003 2008 2011 2012 2005標的分子TNF TNF TNF TNF TNF,LT投与経路静脈注射皮下注射皮下注射皮下注射皮下注射RA に対する用法・用量3~10mg/ kg/4~8 週1 回/2 週40~80mg/回1 回/4 週50~100mg/回200mg/2 週または400mg/4 週1~2 回/週10~50mg/週RA に使用時のMTX 併用必須併用可併用可併用可併用可 半減期8.1 日14 日12~13 日11 日4.8 日RA での抗体出現 頻度MTX 併用: 7~15%単独:44% MTX 併用:<5%単独:3.7% MTX 併用:0%単独:15.5% MTX 併用:1.2% (国内II/ III相) <5% RA:関節リウマチ,MTX:メトトレキサート,LT:リンホトキシン。 表2 わが国で免疫性炎症性疾患に承認されている生物学的製剤 IFX ADA GLM CZP ETN TCZ ABA RTX UTK 関節リウマチ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ×若年性特発性関節炎× ○ × × ○ ○ × × ×尋常性乾癬○ ○ × × × × × × ○関節症性乾癬○ ○ × × × × × × ×強直性脊椎炎○ ○ × × × × × × ×クローン病○ ○ × × × × × × ×潰瘍性大腸炎○ ○ × × × × × × ×ベーチェット病○ (眼) ○ (腸管) × × × × × × ×キャッスルマン病× × × × × ○ × × ×顕微鏡的多発血管炎,ウェゲナー肉芽腫症× × × × × × × ○ ×ウェゲナー肉芽腫症は現在granulomatosis with polyangiitis(多発血管炎性肉芽腫症)と呼ばれているが,公知申請ではウェゲナー肉芽腫症と記載されている。○保険適用取得すみ,×保険適用取得なし。IFX:インフリキシマブ,ADA:アダリムマブ,GLM:ゴリムマブ,CZP:セルトリズマブペゴル,ETN:エタネルセプト,TCZ:トシリズマブ,ABA:アバタセプト,RTX:リツキシマブ,UTK:ウステキヌマブ。
PEG 化した抗体製剤である。PEG 化のメリットとして血中半減期の延長,溶解度の向上,免疫原性の低下が挙げられる。また,炎症部位への集積・貯留能がほかの抗TNF 抗体よりも高いことが報告されている。Fc 部分を持たないため,胎盤通過性が低く,抗体依存性細胞傷害活性,補体依存性細胞傷害活性は示さない。既存治療で効果不十分なRA に対して,1 回400mg を初回,2 週後,4 週後に皮下注射し,以後1回200mg を2 週間の間隔で投与する。症状安定後には,1 回400mg を4 週間の間隔で皮下注射できる。e.エタネルセプトTNF 阻害薬の中で唯一の可溶性受容体製剤である。TNF 受容体にはI型とII型があり,エタネルセプトはII型TNF 受容体とIgG のFc 部分から構成される融合蛋白であり,既存治療で効果不十分なRA には10~25mg を1 日1 回,週に2 回,または25~50mgを1 日1 回,週に1 回,皮下注射する。多関節性若年性特発性関節炎では,0.2~0.4mg/kg を1 日1 回,週に2 回,皮下注射する。ただし,小児の1 回投与量は成人の標準用量(1 回25mg)を超えないようにする。 1-2 ●TNF 阻害薬の有効性TNF 阻害薬は長期罹患RA 患者・早期RA 患者のいずれに対しても,優れた臨床症状改善効果,身体機能改善効果,高い関節破壊進行抑制効果を有する2)~4)。RA 以外の適応疾患に対しても,既存治療で効果不十分な症例に対して優れた臨床症状改善効果が示されている5)~9)。 2 IL-6 受容体阻害薬 2-1 ●IL-6 受容体阻害薬の特徴と用法・用量現在承認されているIL-6 シグナル伝達阻害薬はトシリズマブ(tocilizumab:TCZ)のみである。トシリズマブは,抗体の相補性決定領域のみがマウス由来のアミノ酸配列を有するヒト化モノクローナル抗体である。IL-6 とIL-6 受容体(膜型および可溶性受容体の両者)の結合を阻害することによって,IL-6 による細胞内へのシグナル伝達を阻害する。既存治療で効果不十分なRA および多関節型若年性特発性関節炎では4 週 るいは6mg/kg/4 週までの投与間隔短縮と増量が可能である。既存治療で効果不十分なRA 以外の適応症では5mg/kg を0,2,6 週に投与し,以降8 週間隔で継続する。強直性脊椎炎では6 週間隔までの投与間隔の短縮が可能,クローン病では10mg/kg/8 週までの増量が可能である。b.アダリムマブ全アミノ酸配列がヒト由来の完全ヒト型モノクローナル抗体である。RA に対する国内臨床試験はメトトレキサートを含む疾患修飾性抗リウマチ薬(disease modifying antirheumatic drugs:DMARDs)非併用で行われたが,メトトレキサート併用により有効性が高まり,抗製剤抗体発現率・投与部位反応の発現率が低下するため,現在ではRA 患者では可能な限りメトトレキサートを併用することが推奨されている。既存治療で効果不十分なRA および強直性脊椎炎では40mgを2 週間隔で皮下注射し,効果不十分な場合は1 回80mg まで増量可能である(メトトレキサート非併用の場合)。既存治療で効果不十分な尋常性乾癬および関節症性乾癬では初回に80mg を投与し,以降は40mg を2 週間隔で皮下注射し,効果不十分な場合は1 回80mg まで増量可能である。既存治療で効果不十分なクローン病および潰瘍性大腸炎では初回に160mg,2 週間後に80mg,4 週間後以降は40mg を2週に1 回皮下注射する。多関節型若年性特発性関節炎では,体重15kg 以上30kg 未満の場合は20mg を,体重30kg 以上の場合は40mg を2 週に1 回皮下注射する。c.ゴリムマブヒト免疫グロブリン産生トランスジェニックマウスをヒトTNF で免疫して得られた完全ヒト型モノクローナル抗体であり,インフリキシマブよりも高いTNF 結合能を有する。現時点での保険適用は既存治療で効果不十分なRA のみであり,メトトレキサートを併用する場合は50mg を4 週に1 回皮下注射し,効果不十分の場合には100mg に増量可能である。メトトレキサートを併用しない場合は100mg を4 週に1回投与する。d.セルトリズマブぺゴル抗体が抗原と結合する相補性決定領域のみがマウス由来のヒト化抗TNF 抗体であり,そのFab 部分を
3-2 ●IL-12/IL-23 阻害薬の有効性国内第II/III相臨床試験では,中等症から重症の局面型皮疹を有する乾癬(尋常性乾癬,関節症性乾癬)患者157 名をウステキヌマブ45mg,ウステキヌマブ90mg,プラセボに無作為割り付け後,0 週,4 週に投与し,12 週間観察した。投与12 週後のPASI 50, PASI 75,PASI 90 はいずれもプラセボ群と比較して実薬群で有意に高値であった。継続投与試験においても,64 週まで継続的な臨床的有効性が認められた。乾癬に伴う爪病変,生活の質(quality of life:QOL)もウステキヌマブ投与により改善した13)14)。 4 T 細胞共刺激分子阻害薬 4-1 ●T 細胞共刺激分子阻害薬の特徴T 細胞が抗原提示細胞(antigen presenting cell: APC)によって活性化される場合には,T 細胞受容体とAPC 上の抗原ペプチド─主要組織適合性抗原(major histocompatibility complex:MHC)複合体との間のシグナル伝達のみでなく,共刺激シグナルが必要である。代表的な共刺激シグナル伝達経路は,T細胞上のCD28 と抗原提示細胞上のCD80 およびCD86 で構成される。一方,活性化T 細胞はcytotoxic T-lymphocyte antigen-4(CTLA-4)を発現する。CTLA-4 はCD28 よりも強固にCD80/86 に結合して,CD28-CD80/86 のシグナル伝達経路を阻害し,活性化T 細胞を抑制する4)。アバタセプト(abatacept:ABA)は,CTLA-4 の細胞外領域とヒトIgG1Fc 領域からなる融合蛋白であり,CD80/86 からのT 細胞共刺激シグナルを阻害する生物学的製剤である。既存治療で効果不十分なRAに対して体重60kg 未満の患者では500mg,60kg から100kg 以下の患者では750mg,100kg を超える患者では1,000mg を0 週,2 週,4 週に投与し,以降4週間隔で投与する。 4-2 ●T 細胞共刺激分子阻害薬の有効性アバタセプトは長期罹患RA 患者・早期RA 患者のいずれに対しても,優れた臨床症状改善効果,身体機能改善効果,高い関節破壊進行抑制効果を有する4)。 毎に8mg/kg を点滴静注する。2013 年に上市された皮下注製剤の場合は,1 回162mg を2 週間隔で投与する。副腎皮質ステロイド薬で効果不十分な全身型若年性特発性関節炎および既存治療で効果不十分なキャッスルマン病では2 週毎に8mg/kg を点滴静注し,症状により1 週間まで投与間隔を短縮できる。 2-2 ●IL-6 受容体阻害薬の有効性わが国で実施された第II相試験(SATORI 試験) 10)では,メトトレキサートで効果不十分のRA 患者を対象にプラセボ+メトトレキサートまたはトシリズマブ(8mg/kg/4 週)+プラセボが投与され,トシリズマブ群で有意な臨床症状改善作用が認められた。罹病期間6 カ月以上5 年未満のDMARDs で効果不十分な活動性RA 患者を対象とした無作為割付オープン試験(SAMURAI 試験) 11)により,トシリズマブ群(8mg/ kg/4 週)は既存治療群に比較して関節破壊スコアの増加および関節破壊が進行しなかった患者の割合を有意に抑制した。既存治療で効果不十分な多関節型若年性特発性関節炎に対する単群オープン試験により,非常に高い臨床的有効性が示された。また全身型若年性特発性関節炎に対してトシリズマブ8mg/kg/2 週投与を3 回実施し,その2 週間後の評価で症状の改善が認められた患者を二重盲検下でプラセボとトシリズマブに無作為に割り付けた試験では,トシリズマブで有意に高い改善維持率が示された9)。キャッスルマン病に対するオープン試験でも高い有効性が示されている12)。 3 IL-12/IL-23 阻害薬 3-1 ●IL-12/IL-23 阻害薬の特徴と用法・用量IL-12 とIL-23 の共通サブユニットであるp40 に特異的に結合するヒト型モノクローナル抗体として,ウステキヌマブ(ustekinumab:UTK)が承認されている。ウステキヌマブにより生体内でのIL-12,IL-23の作用が抑制される。皮下注射で投与し,半減期は約3 週間である。抗製剤抗体は0~11%の頻度で認められる。通常,1 回45mg を初回投与およびその4 週後に皮下投与し,以降12 週間隔で投与する。ただし,効果不十分な場合には1 回90mg に増量可能である。
versus Cyclophosphamide for ANCA-Associated Vasculitis:RAVE,Rituximab versus Cyclophosphamide in ANCA-Associated Renal Vasculitis: RITUXVAS)が行われ,リツキシマブ療法の有効性と安全性が報告された。RAVE 試験では,完全寛解率はリツキシマブ投与群で64%,シクロホスファミド(cyclophosphamide:CPA)投与群で53%であり,再燃例に対する寛解率はリツキシマブ投与群で67%,シクロホスファミド投与群で42%であった。RAVE試験において,リツキシマブ投与群はシクロホスファミド投与群とほぼ同等の寛解導入率を示し,再燃例に対してはシクロホスファミド投与群よりも優れている可能性が示唆された17)18)。RITUXVAS 試験では,治療開始後12 カ月での寛解率はリツキシマブ群(76%)と対照群(82%)の間では統計学的に有意差は認められず,両群ともに高い寛解導入率を示した19)。本邦では「難治性血管炎に関する調査研究班」がRituximab treatment of cyclophosphamide-resistant patients with ANCA-associated vasculitis(RiCRAV 試験)を実施し,7 例中5 例で短期的有効性が認められたが,長期的には1 例が感染症で死亡し残り4 例が再燃した。 6 生物学的製剤の安全性 6-1 ●全般的安全性生物学的製剤投与下では,感染症,投与時反応,投与部位反応,心不全悪化,免疫性炎症性疾患の誘発,脱髄疾患,薬剤性肺障害,臨床検査値異常等さまざまな メトトレキサートで効果不十分なRA 患者を対象にメトトレキサート併用下にアバタセプトまたはプラセボを投与した国内第II相試験では,アバタセプト群で有意に高い臨床症状改善効果が認められた。海外では長期罹患RA,早期RA を対象に臨床試験が実施され,アバタセプトの臨床症状・身体機能改善効果と関節破壊進行抑制効果が示された15)16)。 5 B 細胞阻害薬 5-1 ●B 細胞阻害薬の特徴現在国内で承認されているB 細胞阻害薬はリツキシマブ(rituximab:RTX)のみである。海外ではリツキシマブのほかに,抗BLyS 抗体のベリムマブ(belimumab)が全身性エリテマトーデスに対して承認されている。リツキシマブはB 細胞の細胞表面に発現されるCD20 を標的とするキメラ抗体であり,細胞傷害作用によって末梢血中のB 細胞を枯渇させる。海外ではTNF 阻害薬で効果不十分なRA に用いられているが,わが国ではRA に対する保険適用は取得されていない。一方わが国では,抗好中球細胞質抗体(anti-neutroplil cytoplasmic antibody:ANCA)関連血管炎のうちの多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)および顕微鏡的多発血管炎に対する公知申請が行われ,2013 年に承認された。 5-2 ●B 細胞阻害薬の有効性海外において2 つの大規模な臨床試験(Rituximab 図1 生物学的製剤使用下に認められる副作用感染症は頻度および重症度から,すべての生物学的製剤に共通した重要な副作用である。 高 低 低重症度 投与部位 反応 投与時反応間質性肺炎心不全増悪 臨床検査値異常 高 頻度感染症 自己免疫疾患 悪性腫瘍?
副作用が発現する。なかでも感染症は頻度および重症度から最も重要な副作用と位置づけられる(図1,表4, 5) 1)。生物学的製剤の臨床試験を対象にしたメタ解析では,対照群(プラセボ投与群)に対するすべての有害事象発現〔オッズ比(95%信頼区間),1.28(1.09~1.50)〕,有害事象による治療中止〔1.47(1.20~1.86)〕,重篤感染症発現〔1.37(1.04~1.82)〕,結核再活性化〔4.68(1.18~ 18.60)〕のリスクが対照群よりも有意に上昇していた20)。生物学的製剤は表2 に示すようにさまざまな疾患に使用されるが,対象疾患によってその安全性が変化することを知っておく必要がある。アダリムマブの71 本の海外臨床試験の重篤有害事象をさまざまな適応疾患の間で比較した研究では,重篤感染症の発現頻度が最も高く,疾患間の比較ではクローン病(6.7件/100 患者・年)とRA(4.6 件/100 患者・年)がほかの疾患よりも高かった。活動性結核,悪性腫瘍,死亡に至った有害事象の頻度はRA で最も高かった(表6) 21)。同様な傾向はわが国の全例市販後調査(postmarketing surveillace:PMS)の結果からも示されている。表4 RA の全例市販後調査における生物学的製剤の重篤副作用の頻度 インフリキシマブエタネルセプトアダリムマブトシリズマブアバタセプト n=5,000 n=13,894 n=7,740 n=7,901 n=3,985 第1 位感染症感染症感染症感染症感染症第2 位呼吸器・縦隔障害呼吸器・縦隔障害呼吸器・縦隔障害臨床検査呼吸器・縦隔障害第3 位全身障害全身障害全身障害胃腸障害胃腸障害(各製剤の適正使用情報より著者が作成) 表5 クローン病,乾癬の全例市販後調査における生物学的製剤の重 篤副作用の頻度 クローン病乾癬インフリキシマブアダリムマブインフリキシマブアダリムマブ n=2,927 n=1,729 n=761 n=752 第1 位感染症感染症感染症感染症第2 位胃腸障害胃腸障害全身障害全身障害第3 位免疫系障害全身障害血液障害傷害,中毒,処置 合併症臨床検査呼吸器,胸郭およ び縦隔障害皮膚・皮下組織 (各製剤の適正使用情報より著者が作成) 表6 原疾患の違いによるアダリムマブの重篤有害 事象の頻度の比較 RA JIA AS PsA Pso CD 重篤感染症4.6 2.0 1.4 2.8 1.7 6.7活動性結核0.3 0 0 0.2 0.1 <0.1日和見感染症<0.1 0 0 0 0 <0.1脱髄性疾患<0.1 0 <0.1 0 0 0.1ループス様症候群<0.1 0 0.1 0 0 0.1うっ血性心不全0.2 0 0.1 0 <0.1 0悪性リンパ腫とNMSC を除く悪性腫瘍0.9 0 0.2 0.2 0.6 0.5悪性リンパ腫0.1 0 <0.1 0.2 <0.1 <0.1死亡に至った有害事象0.8 0 <0.1 0.3 0.2 0.1数字は100 患者・年あたりの件数。NMSC:non-melanoma skin cancer,RA:rheumatoid arthritis, JIA:juvenile idiopathic arthritis,AS:ankylosing spondylitis, PsA:psoriatic arthritis,Pso:psoriasis,CD:Crohn’s disease. (文献21 より改変引用)
のいずれも起こり得る。投与前の結核スクリーニング(胸部単純X 線・CT,ツベルクリン反応,インターフェロンガンマ分泌試験,曝露歴・家族歴問診)を徹底し,必要に応じて潜在性結核に対する治療を実施する26)。PCP は欧米人に比較し,TNF 阻害薬使用日本人RA 患者で発現頻度が高く(0.2~0.4%),発症リスク因子として高齢,既存肺疾患,副腎皮質ステロイド併用が報告されている27)~29)。これらのリスク因子が重複する症例では予防投与を考慮する。非結核性抗酸菌症については最近日本人RA 患者での症例集積研究が報告されたが30),エビデンスはまだ不足している状況である。これらの呼吸器感染症については本書の該当する項目も参考にして戴きたい。その他の感染症として肝炎ウイルスおよびEpstein ─Barr ウイルス(EBV)感染症が重要である。 6-2 ●感染症RA 患者における生物学的製剤投与下の感染部位はいずれの薬剤においても,呼吸器が約50%,皮膚・軟部組織が20~25%と高く,泌尿器・消化器・敗血症・骨および関節がこれらに続いている22)~25)(図2)。感染症の中でも細菌性肺炎は最も頻度が高く,結核,ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia: PCP),非結核性抗酸菌症,帯状疱疹などの日和見感染も各生物学的製剤でほぼ同程度の頻度で発現し,注意が必要である(表7)。細菌性肺炎では,高齢,既存肺疾患,副腎皮質ステロイド併用,男性,関節破壊の進行(Steinbrocker’s stage III,IV)などが発症リスク因子として報告されている。結核は0.05~0.3%に発現し,肺外結核が約半数を占める。陳旧性病巣からの再燃または新規感染 図2 RA 全例市販後調査における各生物学的製剤投与下の感染症発現部位いずれの生物学的製剤においても,呼吸器感染症が約50%,皮膚・軟部組織感染症が約20 ~ 25% を占める。 2.0% 2.7% 4.8% 4.8% Koike, et al. submitted n=7,469 Koike, et al. J Rheumatol (in press) n=7,901 Takeuchi, et al. ADR 2008 n=5,000 2.1% 5.7% 5.2%アダリムマブ(563 件)インフリキシマブ(433 件)トシリズマブ(962 件) 56.0% 呼吸器感染症泌尿器感染症 敗血症その他皮膚感染症消化器感染症骨・関節感染症 19.9% 26.3% 54.1% 7.2% 5.3% 3.1% 1.6% 48.6% 24.7% 5.7% 10.9% 8.9% 表7 RA 全例市販後調査における重要な感染症の発現頻度 インフリキシマブエタネルセプトアダリムマブトシリズマブアバタセプト 症例数5,000 13,894 7,740 7,901 3,985肺炎(%) 2.2 1.3 1.3 1.5 0.7結核(%) 0.28 0.07 0.1 0.05 0.03 PCP(%) 0.44 0.18 0.3 0.2 0.1 NTM(%) 0.14 0.12 0.1 0.2 0.05帯状疱疹(%) 0.34 0.81 0.7 1.1 N.D. PCP:Pneumocystis pneumonia, NTM:non-tuberculous mycobacteria. (各製剤の適正使用情報より著者が作成)
から,インフリキシマブおよびエタネルセプト投与RA 患者における47 例のうっ血性心不全症例を報告した。このうち38 例は新規発現症例であり,その50%は既知の心血管疾患の危険因子を有さず,10 例は50 歳以下であり,16 例はTNF 阻害薬中止と心不全への加療で治癒あるいは改善したという経過から, TNF 阻害薬投与中のうっ血性心不全の発現に注意を喚起した。2004 年,Wolfe ら35)は,13,171 例のRA 患者と2,568 例の変形性関節症(osteoarthritis:OA)患者の2 年間の観察研究で,年齢・性別や心血管疾患の危険因子で調整したRA 患者の心不全のリスクはOA患者よりも高いことを示した。しかし,TNF 阻害薬(インフリキシマブ,エタネルセプト)投与RA 患者とTNF 阻害薬非投与RA 患者間では差を認めなかった。トシリズマブ投与中は,総コレステロール値,トリグリセリド値,LDL コレステロール値などの脂質検査異常の出現が比較的多く認められる36)。全例PMSでは虚血性心疾患は18 例(0.23%),心不全は11 例(0.14%)に認められたが,現時点ではトシリズマブ投与によって心不全・心機能障害のリスクが増加するエビデンスは得られていない25)。 6-5 ●脱髄性疾患多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)に対する可溶性TNF 受容体の有効性と安全性を検討した海外臨床試験において,MS の再燃頻度の増加と再燃までの期間の短縮が認められた。また,インフリキシマブの臨床試験中にも急速進行性のMS の発現が認められ,脱髄性疾患を有する患者や既往のある患者ではTNF阻害薬は投与禁忌となった。TNF 阻害薬承認後もまれではあるが,投与中の脱髄性疾患の再燃や新たな発現が認められている。これまでの症例報告では,エタネルセプト投与例では,視神経炎,MS,慢性炎症性脱髄性多発神経炎が,インフリキシマブ投与例では多発神経炎,多発性単神経炎,末梢神経障害,ギラン・バレー症候群が,アダリムマブ投与例ではギラン・バレー症候群,非特異的脱髄性疾患が報告されている。報告例の中には,薬剤の中止のみで軽快した症例もあるため,TNF 阻害薬投与にあたっては,留意が必要である37)。 B 型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)感染者における生物学的製剤投与中のHBV 再活性化や劇症肝炎の発現が死亡例も含めて報告されている。日本リウマチ学会「B 型肝炎ウイルス感染リウマチ性疾患患者への免疫抑制療法に関する提言」31)に従って,スクリーニング,モニタリング,予防投与を実施することが推奨されている。本邦のトシリズマブ治験において,初回トシリズマブ投与後に,EBV 再活性化と慢性活動性EBV 感染症様の病態を呈し,最終的にホジキンリンパ腫および血球貪食症候群で死亡したと考えられる症例が報告された32)。この症例では,トシリズマブ投与がEBV の爆発的な再活性化の契機になった可能性は高い。感染症に対するリスクマネジメントとして,投与前のリスク因子評価,ワクチン接種,化学予防,感染症リスク因子の軽減(糖尿病コントロール,非重篤感染症治療等)を行うことがガイドラインで推奨されている26)。生物学的製剤によって感染症の自覚症状が減弱され(マスキング),受診・治療開始後に急激にショックに陥る症例が報告されている33)。生物学的製剤投与下では初期症状が軽微あるいは非特異的であっても,常に感染症の併発とその急激な増悪を念頭に置き,丁寧な診察と適切・迅速な検査により診断および治療にあたること,本人および家族に異常があれば病院に連絡するようにあらかじめ説明しておくことが重要である。 6-3 ●投与時反応・投与部位反応投与時反応には,投与開始後24 時間以内に出現する発熱・血圧変動・呼吸困難などの急性投与時反応と,投与後24 時間から2 週間に出現する関節痛・筋痛・蕁麻疹・発熱・倦怠感といった遅発性投与時反応がある。インフリキシマブを長期間休薬後に再開する場合には重篤な投与時反応を発現しやすいため,慎重に投与する必要がある。投与部位反応はほとんどが非重篤であり,抗ヒスタミン薬の内服,局所投与で軽快する場合が多いが,時に薬剤中止に至る場合もある1)。 6-4 ●心不全・心機能障害2003 年,Kwon ら34)はFDA’s MedWatch program
PMS で報告された22)~25)。これらに加えて,臨床検査値異常として肝胆道系酵素上昇などが報告されている場合があるため,各薬剤の実際の肝胆道系の副作用頻度はもう少し高くなる。IL-12/IL-23 阻害薬であるウステキヌマブでは313 例中9 例で肝胆道系障害が報告され,5 例が重篤例であった。9 例中5 例(重篤3 例,非重篤2 例)でイソニアジド(isoniazid:INH)が要因として挙げられている。 6-9 ●血球減少TNF 阻害薬投与に関連した再生不良性貧血,汎血球減少などの血液疾患または血液学的異常,トシリズマブ投与に伴う血球減少が報告されている。トシリズマブ投与時には好中球の末梢への移動が減少し,投与後一過性の好中球減少がほとんどの症例で認められるが,これは感染症のリスク増加には繋がらない25)。RA 患者においては,一般人口に比して再生不良性貧血の発現頻度が高いとする報告があるが,併用されるメトトレキサートなどの免疫抑制薬との関連も考えられ,生物学的製剤との関連性は明確には示されていない37)。 6-10 ●悪性腫瘍TNF と腫瘍細胞あるいは腫瘍免疫との関連性から, TNF 阻害薬使用による悪性腫瘍発現頻度の増加の可能性が懸念され,検討されてきた。初期のメタ解析ではTNF 阻害薬使用による悪性腫瘍発現増加の可能性が示されたが,近年のメタ解析および観察研究では関連性は認められていない42)~44)。日本リウマチ学会が実施中のSECURE 研究においても同様な結果であった45)。一方,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)は2009 年8 月にTNF 阻害薬を使用した小児および青少年における悪性リンパ腫およびほかの悪性腫瘍の増加,小児,青少年および成人における白血病の増加に関する警告を発表しており,これらの年代の患者については引き続き検討する必要がある。日本リウマチ学会による生物学的製剤の使用ガイドラインでは悪性腫瘍合併例は投与禁忌である。固形癌根治後5 年以上経過していれば生物学的製剤の使用は可能とする考えが専門家の間では一般的である26)。 6-6 ●腸管穿孔トシリズマブの全例PMS において,腸管穿孔が13例(0.16%)報告されている25)。腸管穿孔は生物学的製剤投与においては,まれな合併症であるが,トシリズマブに比べるとほか3 つのTNF 阻害薬での頻度は低い。腸管穿孔がトシリズマブに特異的に発現する合併症か否かは明確ではないが,IL-6 は腸管粘膜の維持に必要と考えられており,トシリズマブ投与が憩室炎の初期症状をマスクしたり,その治癒機転を阻害したりすることによって腸管穿孔を招いた可能性は考えられる。 6-7 ●間質性肺炎生物学的製剤投与下の間質性肺炎または間質性肺炎の悪化として,インフリキシマブでは25 例(0.5%),エタネルセプトでは44 例(0.62%),アダリムマブ52例(0.7%),トシリズマブでは38 例(0.48%)が全例PMS で報告され22)~25),海外でもTNF 阻害薬使用患者における間質性肺病変の合併や悪化が報告されている38)。RA 治療中の間質性肺病変の出現・増悪時には感染症,原病による肺病変,薬剤性肺障害の鑑別が重要であるが,鑑別が容易でない症例も少なくない。実際,日本リウマチ学会エタネルセプト市販後特別調査委員会小委員会がエタネルセプト全例PMS に報告された間質性肺炎症例を検討したところ,画像が得られた17 例中6 例のみが薬剤性肺障害の可能性が高いとの結論が得られた39)。TNF 阻害薬あるいはメトトレキサートで治療中のRA 患者において,間質性肺炎の血清マーカーの一つであるKL-6 が,間質性肺病変や悪性腫瘍の出現・悪化と関係なく変動することが報告されている40)41)。RA 治療中にKL-6 が上昇した場合には,臨床症状,身体所見,呼吸機能検査,呼吸器画像所見などを含めて総合的に臨床的意義を判断することが必要である。 6-8 ●肝胆道系障害TNF 阻害薬,トシリズマブのいずれにおいても肝胆道系障害が報告されている。インフリキシマブでは21 例(0.42%),エタネルセプトでは269 例(1.9%),アダリムマブ96 例(1.2%),トシリズマブでは197 例(5.1%)の肝胆道系障害(器官別大分類による)が全例
合にはその有効性と安全性を熟知し,個々の患者におけるリスク・ベネフィットバランスを最適化する工夫が必要である。 おわりに わが国で免疫性炎症性疾患に使用されている生物学的製剤の概要を解説した。これらの薬剤を使用する場 1 )針谷正祥.生物学的製剤の適応と副作用.宮坂信之,編.よくわかる関節リウマチのすべて.大阪:永井書店,2009: 186. 2 )Takeuchi T, Kameda H. The Japanese experience with biologic therapies for rheumatoid arthritis. Nature reviews. Rheumatology 2010 ; 6 : 644 ─52. 3 )Smolen JS, Aletaha D, Koeller M, et al. New therapies for treatment of rheumatoid arthritis. Lancet 2007 ; 370 : 1861 ─ 74. 4 )Scott DL, Wolfe F, Huizinga TW. Rheumatoid arthritis. Lancet 2010 ; 376 : 1094 ─108. 5 )Agrawal U, Gupta M, Dube D, et al. Options and opportunities for clinical management and treatment of psoriasis. Crit Rev Ther Drug Carrier Syst 2013 ; 30 : 51 ─90. 6 )Danese S. New therapies for inflammatory bowel disease : from the bench to the bedside. Gut 2012 ; 61 : 918 ─32. 7 )Sieper J. Developments in therapies for spondyloarthritis. Nat Rev Rheumatol 2012 ; 8 : 280 ─7. 8 )Benitah NR, Sobrin L, Papaliodis GN. The use of biologic agents in the treatment of ocular manifestations of Behcet’s disease. Semin Ophthalmol 2011 ; 26 : 295 ─303. 9 )Ungar WJ, Costa V, Burnett HF, et al. The use of biologic response modifiers in polyarticular-course juvenile idiopathic arthritis : a systematic review. Semin Arthritis Rheum 2013 ; 42 : 597 ─618. 10)Nishimoto N, Miyasak a N, Yamamoto K, et al. Study of active controlled tocilizumab monotherapy for rheumatoid arthritis patients with an i nadequate response to methotrexate (SATORI) : significant reduction in disease activity and serum vascular endothelial growth factor by IL-6 re ceptor inhibition therapy. Mod Rheumatol 2009 ; 19 : 12 ─9. 11)Nishimoto N, Hashimoto J, M iyasaka N, et al. Study of active controlled monotherapy used for rheumatoid arthritis, an IL-6 inhibitor (SAMURAI) : evidence of clinica l and radiographic benefit from an x ray reader-blinded randomised controlled trial of tocilizumab. Ann Rheum Dis 2007 ; 66 : 1162 ─7. 12)Nishimoto N, Terao K, Mima T, et al. Mechanisms a nd pathologic significances in increase in serum interleukin-6(IL-6) and soluble IL-6 receptor after administration of an anti-IL-6 receptor antibody, tocilizumab, in pa tients with rheumatoid arthritis and Castleman disease. Blood 2008 ; 112 : 3959 ─64. 13)Igarashi A, Kato T, Kato M, et al. Efficacy and safety of ustekinumab in Japanese patients with moderate-to-seve re plaque-type psoriasis : long-term results from a phase 2/3 clinical trial. J Dermatol 2012 ; 39 : 242 ─52. 14)Nakagawa H, Schenkel B, Kato M, et al. Impact of ustekinumab on health-related quality of life in Japanese patients with moderate-to-severe plaque psoriasis : results from a randomized, double-blind, placebo-controlled phase 2/3 trial. J Dermatol 2012 ; 39 : 761 ─9. 15)Takeuchi T, Matsubara T, Nitobe T, et al. Phase II dose-response study of abatacept in Japanese patients with active rheumatoid arthritis with an inadequate response to methotrexate. Mod Rheumatol 2013 ; 23 : 226 ─35. 16)Matsubara T, Yamana S, Tohma S, et al. Tolerability and efficacy of abatacept in Japanese patients with rheumatoid arthritis : a phase I study. Mod Rheumatol 2013 ; 23 : 634 ─45. 17)Stone JH, Merkel PA, Spiera R, et al. Rituximab versus cyclophosphamide for ANCA-associated vasculitis. N Engl J Med 2010 ; 363 : 221 ─32. 18)Miloslavsky E, Specks U, Merkel P, et al. Clinical outcomes of remission induction therapy for severe ANCA-associated vasculitis. Arthritis Rheum 2013 ; 65 : 2441 ─9. 19)Jones RB, Tervaert JW, Hauser T, et al. R ituximab versus cyclophosphamide in ANCA-associated renal vasculitis. N Engl J Med 2010 ; 363 : 211 ─20. 20)Singh JA, Wells GA, Christensen R, et al. Adverse effects of biologics : a network meta-analysis and Cochrane overview. The Cochrane Library 2011 : DOI 10 1002/14651858. 21)Burmester GR, Panaccione R, Gordon KB, et al. Adalimumab : long-term safety in 23 458 patients from global clinical trials in rheumatoid arthritis, juvenile idiopathic arthritis, ankylosing spondylitis, psoriat ic arthritis, psoriasis and Crohn’s disease. Ann Rheum Dis 2013 ; 72 : 517 ─24. 22)Takeuchi T, Tatsuki Y, Nogami Y, et al. Postmarketing surveillance of the safety pr ofile of infliximab in 5000 Japanese patients with rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis 2008 ; 67 : 189 ─94. 23)Koike T, Harigai M, Inokuma S, et al. Postmarketing surveillance of the safety and effectiveness of etanercept in Japan. 文献
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総論2 はじめに 生物学的製剤の標的分子はサイトカイン,細胞表面分子など多岐にわたるが,免疫システムに関与している分子がほとんどである。したがって,生物学的製剤の適正使用にあたり,正常な免疫システムと病的に歪んだ免疫システムの理解が重要であるが,今なお未解明の部分が圧倒的に多いことも事実である。そこで本項では,まず生物学的製剤の対象となる関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)を中心とした免疫性炎症性疾患(immune-mediated inflammatory diseases: IMID)における免疫異常を概観する。次に,本来病原微生物に対処するために構築された免疫システムが,絶え間なく修飾を受け続ける自己抗原にも反応している有様,またそこに生物学的製剤がしばしば画期的な作用を,そして時には重篤な副作用を及ぼす過程を概観する。最後に,生物学的製剤の処方数および呼吸器合併症の患者数が最も多いRA 患者を例にとって,呼吸器科医にとって必要と思われる事柄を述べる。 1 RA をはじめとしたIMID の病態と免 疫異常 1-1 ●RA などの全身性リウマチ性疾患の概念RA は全身性エリテマトーデス,全身性強皮症,多発性筋炎・皮膚筋炎などとともに膠原病を代表する疾患であり,膠原病としての3 つの側面を有する。すな わち,臨床的には全身性のリウマチ性疾患(関節痛など運動器の疼痛を主徴とする)であり,病理組織学的には全身の結合組織や血管にフィブリノイド変性を認める結合組織疾患であり,そして病因論的には自己抗体の産生や自己反応性リンパ球の組織浸潤を認める臓器非特異的自己免疫疾患である。膠原病の詳細な病態は今なお不明であるが,上述の共通点の中にそれぞれ認められる相違にもとづいて異なる疾患概念が形成されている。例えば,RA では関節炎が最大の症状であり,自己抗体としてはリウマトイド因子や抗環状シトルリン化ペプチド抗体(抗CCP抗体)が多くの患者に認められる。他方,全身性強皮症では手指を中心とした皮膚や肺などの線維化が前景に立ち,自己抗体としては抗Scl-70(DNA トポイソメラーゼI)抗体や抗セントロメア抗体が多くの患者に認められる。多発性筋炎は近位筋優位の対称性筋力低下を主徴とし,自己抗体としては抗Jo-1 抗体が20~ 25%の患者に認められる。 1-2 ●免疫異常と病態の関連RA などの疾患における免疫異常の存在は,自己抗体の存在,自己抗体とHLA をはじめとした特定の遺伝子多型との密接な関連,T 細胞のサブセットやT細胞受容体レパートリーの偏りの存在,免疫細胞の刺激に対する反応性やシグナル伝達の異常などから明らかである1)。そして,免疫異常,特に自己抗体と臓器 生物学的製剤の投与対象となる疾患患者(宿主)の特性:関節リウマチを中心に 関節リウマチ(RA)をはじめとした生物学的製剤の投与対象疾患では,異常な免疫応答により臓器の炎症・障害が生じる。したがって,適切に治療されなければ予後不良の疾患である。生命予後の観点からは,一般人口と比較してRA 患者では平均して10 年程度短命であると報告されており,さらに関節などの臓器機能障害により生活の質(quality of life:QOL)を大きく低下させる。生物学的製剤は適正使用により生命予後や機能予後を改善させるが,生物学的製剤に対する宿主免疫応答の違いがしばしば製剤の有効性や安全性に影響を及ぼす。
障害パターンとの疫学的関連性は確立されているものの,病態生理学的な関連性はいまだ十分には解明されていない。しかしながら,いわゆるアレルギー反応と同様に,膠原病には免疫異常に伴う過敏反応としての側面が見られることは確かである。例えば,RA 患者の関節炎は関節負荷により増悪し,安静により軽減する。極端な例として,RA 患者が脳梗塞などにより片麻痺となった場合には,健側の関節炎(滑膜炎)は持続し,関節破壊が進行するものの,患側の関節炎は消失し,関節破壊も進行しないことが知られている。すなわち,RA は本来なら関節炎を生じない程度の日常的な関節負荷でも持続性関節炎が生じる病態と捉えることもできる。このことはリウマトイド結節と呼称される皮下結節にも当てはまり,本来なら皮下結節(いわゆるマメ,タコ)を形成しない程度の日常的な肘や手指の擦過で皮下結節が生じやすいこともRA 患者の臨床特徴の1 つである。 1-3 ●炎症反応や免疫応答の生じる場上述のように,RA をはじめとした膠原病では何らかの軽微な損傷が生じた場合に,通常の修復機転とは異なる生体反応が自己免疫と関連して惹起され,持続的な組織炎症が誘導される可能性が考えられている。その点において,摩擦などの機械的な損傷を生じやすい,または外界(病原体など)との接点に富む,など自己免疫炎症の場となりやすい特徴を有する臓器として,関節,皮膚,そして呼吸器などが挙げられよう。 実際にRA をはじめとした多くの膠原病において,これらの臓器病変が高頻度に認められ,間質性肺疾患はそのうちの1 つである。他方,免疫応答の生じる中枢である二次リンパ組織(リンパ球が生成される一次リンパ組織である骨髄や胸腺から移動したリンパ球が,抗原提示による活性化を生じる場)として,脾臓,リンパ節などが存在するが,外界との接点に富む部分には扁桃,粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue:MALT),気管支関連リンパ組織(bronchus-associated lymphoid tissue:BALT)などが存在し,リンパ濾胞を形成している。RA の滑膜組織にはしばしばリンパ濾胞形成が認められており,三次性リンパ組織あるいは異所性リンパ組織と呼ばれ,免疫応答のサテライトとして重要な役割を果たしていることが示唆される2)。このようなリンパ球の秩序だった集簇にはケモカインやリンフォトキシンが重要な役割を果たしており,炎症反応の生じる場に近い所属リンパ節のみならず,炎症の現場となっている組織自体においても,炎症反応の持続や増幅を可能にしている。近年,RA と肺に関する新たな知見が蓄積されつつある。例えば,喫煙による蛋白のシトルリン化が肺胞洗浄液中の細胞に認められ,“shared epitope”と称される特定のHLA-DR 配列と喫煙の組み合わせが,いずれも認めない場合に比べて21 倍のRA 発症リスクとなることが報告された3)。また,抗CCP 抗体やリウマトイド因子陽性の集団の一部において,RA 様の気道病変が関節炎に先行することも報告された4)。このように,肺はRA において炎症反応,免疫反応のいずれの場としても重要であることが再認識されている。 1-4 ●感染症とIMID の関連そもそも免疫システムは病原体に対する生体防御機構として成立し,進化を遂げている。したがって, IMID と感染症は密接に関連している(図1) 5)。まず, IMID の発症要因として,病原体に対する免疫応答が自己抗原に交差反応を生じることが一因として挙げられる。また,感染症に伴う自然免疫系の活性化が,自己抗原に対する免疫応答を潜在的なレベルから顕在化 図1 感染症とIMID の連動 1.病原体に対する免疫応答が自己抗原に交差反応2.自然免疫の活性化が自己免疫応答を増幅3.細胞・組織障害や自己抗原の修飾による自己免疫応答の開始や進展 1.免疫異常や免疫抑制治療による感染防御低下2.組織障害による感染の温床提供 1.炎症やIFN 高産生による感染防御 4.T 細胞サブセットやサイトカイン環境の変動によるIMID 改善(増悪)の可能性 感染症IMID
ダリムマブ,ゴリムマブなど)がある。また,サイトカイン受容体や細胞表面分子とFc 部分の融合蛋白製剤(-cept;エタネルセプト,アバタセプトなど)は,異種由来のアミノ酸配列を含まず,一般的に免疫原性は低い。ほかに免疫原性に関連する製剤要因として,アミノ酸に結合している糖鎖,PEG などの付加構造(セルトリズマブペゴルなど),免疫グロブリンのアロタイプなどが挙げられる(図2)。製剤に対する抗体が産生されると,免疫複合体の形成を介して主に以下の2 点で製剤の有用性が低下する。まず,製剤の網内系によるクリアランスが高まり,製剤の血中半減期の短縮・血中トラフ濃度の低下により,有効性持続期間が短縮する。ときどき二次無効の原因となる。次に,有害反応の発症であり,発熱,皮疹,時にはアナフィラキシー様の反応を惹起する。 2-2 ●Fc 部分とFc 受容体を介した反応前述の生物学的製剤を含んだ免疫複合体のクリアランスは,主にFc 受容体のうちFcRn(血管内皮細胞などに発現)を介して行われる。一方,マクロファージをはじめとした免疫系細胞にはIgG に対する受容体としてFcγRI,II,IIIが存在し,それぞれのFc 受容体の発現や機能,それを規定する遺伝的多型性なども重要である(図2)。例えば,FcγRIIIB が高親和性のNA1 アレルのホモ接合体の場合には,そうでない場合に比較してインフリキシマブの投与時反応リスクが4 倍に増加する6)。生物学的製剤,特に抗体製剤のFc 部分は抗体依存性細胞障害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)や補体依存性細胞 するまで増幅させるかもしれない。さらに感染症に伴う炎症による細胞・組織障害や自己抗原の修飾が,自己免疫応答の開始や進展につながる可能性も考えられる。もちろん,感染症とIMID が異なる免疫細胞サブセット(例えばTh1 とTh2 など)の優位性に関連するなら,感染症の罹患がIMID の活動性を逆に低下させる場合もあり得る。一方,IMID が感染症に及ぼす影響としては,疾患自体の免疫異常が感染症への罹患を高める可能性があり,さらにIMID による組織障害は感染の温床を提供する。しかし,IMID が必ずしも感染症リスクを高めるとは言えない。なぜなら,IMID による炎症やインターフェロン─α(interferon-α:IFN-α)の産生増加は,感染症に対する抵抗性に大きく寄与するからである。その結果,IMID 患者に感染症が合併するのは,疾患自体による免疫異常が顕著な,治療開始直前ではなく,むしろ生物学的製剤をはじめとした免疫抑制作用を有する薬剤による治療開始後に多いのが現状である。 2 生物学的製剤に対する免疫応答 2-1 ●免疫原性生物学的製剤がいずれかの構造部位に対する免疫反応を被投与者(宿主)に誘導するポテンシャルを免疫原性と呼ぶ。インフリキシマブ(infliximab:IFX)やリツキシマブ(rituximab:RTX)のようにFab 部分が異種動物(マウス)のアミノ酸配列となっているキメラ抗体(-ximab)では免疫原性が高く,生物学的製剤に対する抗体産生などの免疫反応を抑制する目的で,メトトレキサート(methotrexate:MTX)などの免疫抑制薬の併用投与(RA におけるインフリキシマブでは必須)や,メチルプレドニゾロン(methylprednisolone)の直前点滴静注(リツキシマブ)が施行される。免疫原性を低下させるために,Fab 部分の中で抗原結合に決定的な部位である相補性決定領域(complementarity determinant region:CDR)以外をヒト由来のアミノ酸配列としたヒト化抗体(-zumab;トシリズマブなど)があり,さらにCDR も含めてすべてをヒト由来のアミノ酸配列とした(完全)ヒト型抗体(-umab;ア図2 生物学的製剤に対する免疫反応を規定する因子 〈製剤要因〉キメラ部位の存在糖鎖修飾PEG などの付加構造Ig アロタイプ 〈患者要因〉Fc 受容体等の遺伝子多型IgG に対する自己抗体サイトカイン IgG 製剤 抗製剤抗体 Fc 受容体
る。まず,生命予後の観点から,一般人口と比較してRA 患者では平均して10 年程度短命であると報告されており9),特に重症度の高い患者集団では冠動脈の3 枝病変患者やホジキンリンパ腫のステージIVと同等とされる10)。もちろん,RA の軽症例は逆に予後良好であろうし,RA 患者の中には不幸にして治療薬の副作用として死亡に至る場合もあろう。日本人RA 患者の検討でも欧米と同様の結果が得られており,高齢男性,身体機能障害,血清リウマトイド因子陽性,間質性肺疾患の存在が生命予後不良因子であった11)。因果関係は明白でないが,全体としてはメトトレキサート投与患者の生命予後は良好で,副腎皮質ステロイド薬投与患者は不良であった。したがって,全体像を念頭に置きながらも,個々の患者においてリスク・ベネフィットバランスを勘案して治療が行われるのは当然である。こうした背景から,RA 治療においても糖尿病におけるHbA1c などと同様に,明確な目標を設定して治療を行う「目標達成型の治療(Treat to Target: T2T)」が提唱され全世界に普及している12)。そして,この中でも同時に,「RA 治療は患者とリウマチ医の合意に基づいて行われるべきである」という基本原則がまず述べられている(表)。その理由の1 つとして「治療目標の設定には,合併症,患者要因,薬剤関連リスクなどを考慮する」必要があるからである。 3-2 ●機能予後生命予後とともに看過してはならないのが,機能予後である。上述のT2T ステートメントでも,「RA の主要な治療ゴールは,症状のコントロール,関節破壊などの構造的変化の抑制,身体機能の正常化,社会活動への参加を通じて,患者の長期的な生活の質(quality of life:QOL)を最大限まで改善することである」という基本原則が述べられている。実際にRA 患者の多くが,同僚の手助けが必要,作業ペースの低下 障害(complement-dependent cytotoxicity:CDC)にも重要であり,製剤の有効性と安全性にも関連する。 2-3 ●自己抗体と生物学的製剤の関連生物学的製剤が免疫原性により抗体産生を誘発するのみならず,投与前から患者に存在する自己抗体が生物学的製剤にしばしば反応することに留意すべきである。特にRA で認められる自己抗体は,まさにIgGのFc 部分における変性などの修飾に対するリウマトイド因子など,生物学的製剤との結合性が容易に想定される。実際に,1 年間の継続投与後のインフリキシマブ血中トラフ濃度が低かった患者群では,開始前のリウマトイド因子が高値であった7)。安全性もまた然りであり,RA 患者では血清反応陰性の乾癬患者などに比較して投与時反応(点滴静注製剤)や投与部位反応(皮下注射製剤)が高率に生じることが知られており,その意味でも他疾患のようにインフリキシマブの単独投与(メトトレキサート非併用)は行われない。感染症とIMID の関連と同様,逆に生物学的製剤の投与が自己抗体の産生に影響を与える。リツキシマブの投与によりB 細胞を著減させれば自己抗体の産生が低下することは自明であるが,腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)は形質細胞様樹状細胞の分化やその細胞からのIFN-α産生を阻害する作用を有しており,TNF を標的とした生物学的製剤の投与により,それらの活性化を介して,一部の患者に抗核抗体や抗DNA 抗体が産生され,さらにその一部の患者ではループス様症状が認められることが知られている8)。 3 RA 患者の予後とその規定因子 3-1 ●生命予後RA は適切に治療されなければ予後不良の疾患であ 表 目標達成型の治療(Treat to Target)の基本原則A.RA の治療は,患者とリウマチ医の合意に基づいて行われるべきである。B. RA 治療の主要なゴールは,症状のコントロール,関節破壊などの構造的変化の抑制,身体機能 の正常化,社会活動への参加を通じて,患者の長期的QOL を最大限まで改善することである。C.炎症を取り除くことが,治療ゴールを達成するために最も重要である。D. 疾患活動性の評価とそれに基づく治療の最適化による目標達成型の治療(Treat to Target)は, RA のアウトカム改善に最も効果的である。
4-2 ●治療中止・終了時免疫抑制作用を有する製剤のうち,サイトカインやシグナル伝達の阻害を主な作用とする製剤(抗サイトカイン生物学的製剤やカルシニューリン阻害薬,キナーゼ阻害薬など)は,核酸代謝阻害薬(メトトレキサートなど)に比較して中止後に免疫系のリバウンド現象が生じやすい。したがって,感染症で入院した場合など,副腎皮質ステロイド薬は継続,その他の免疫抑制作用を有するRA 治療薬はいったん中止が一般的に行われてきたが,リバウンド現象が生じやすい薬剤の増加に伴い,個々の薬理特性と感染症の重症度,免疫抑制の程度を勘案した判断(特に休薬期間)が求められるようになりつつある。 4-3 ●薬剤と肺病変の因果関係前述のごとく免疫系に作用する薬剤の影響は多彩であり,薬剤の開始のみならず中止に伴う有害事象にも十分留意する必要がある。例えば,薬剤A から薬剤B に変更後に肺病変が発症または増悪した場合に,薬剤B の副作用を考慮するのは当然であるが,薬剤Aの中止に伴う事象である可能性も念頭に置かなければならない。薬剤A を減量した場合も同様である。時間的な前後関係が因果関係に直結しないことは自明であるが,時間的前後関係には開始や増量のみならず,中止や減量の影響の重大性は生物学的製剤を用いた医療において忘れてはならない。 など就労上の障害を感じている13)。関節機能障害には炎症による可逆的障害と関節破壊による不可逆的障害があり,T2T は後者が生じる前に関節を中心とした全身の「炎症を取り除くことが最も重要である」と述べている。 3-3 ●RA としての予後因子RA 患者の予後(主に関節破壊による機能障害)を規定する因子のうち,RA 自体に関連する要因としては,高疾患活動性のほかに,リウマトイド因子や抗CCP 抗体陽性,X 線における関節破壊像の存在やその進行,身体機能障害の存在,そして関節外症状の存在などが挙げられている14)。RA 以外の要因としては合併症の存在が重要である。合併症はそれ自体が生命予後に直結するのみならず,合併症のために薬剤関連リスクが上昇するために,積極的治療では副作用により,消極的治療を選択すればRA 自体により,生命予後が悪化するジレンマを形成する(図3)。 4 RA の最新治療において呼吸器科医が 留意すべき点 4-1 ●治療開始時RA は免疫性炎症性疾患(IMID)であり,特に生物学的製剤などの最新治療が考慮される患者では,関節機能予後や生命予後すら不良であることを認識する必要がある。したがって,呼吸器病変のリスクと比較すべきRA 自体のリスクの存在を念頭においた熟慮が求められる。スクリーニング検査としては,近年生物学的製剤15)~17)とメトトレキサート18)をはじめとした抗リウマチ薬との間の差異がなくなっている。すなわち,結核の既往や家族歴を含めた呼吸器疾患の問診,胸部の聴診,胸部X 線の撮影,ツベルクリン反応またはIFN-γ放出アッセイ(クォンティフェロンRTB),末梢血白血球数,末梢血リンパ球数,血中β-D-グルカン濃度,免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM)濃度の測定が,呼吸器領域では必要と考えられており,何らかの異常が認められた(疑われた)場合には,胸部高分解能CT 撮像と酸素飽和度のチェックが望ましい。図3 IMID の発症と進展 遺伝子多型や免疫反応シグナルの異常 自己抗体陽性などの自己免疫 関節,肺,腎などの持続性炎症 罹患臓器の機能障害 治療リスクの増大生命予後の短縮 環境要因
生じている様を概説した。これらを念頭に,疾患リスクと治療リスクを適正に評価し勘案することがリウマチ患者の診療に当たるリウマチ医,およびその肺合併症の診療に臨む呼吸器科医には求められている。 おわりに RA を中心に,免疫反応が病原体,修飾された自己抗原,投与された生物学的製剤などに対して時々刻々 1 )Weyand CM, Goronzy JJ. Developments in the scientific understanding of rheumatoid arthritis. Arthritis Res Ther 2009 ; 11 : 249. 2 )Takemura S, Braun A, Crowson C, et al. Lymphoid neogenesis in rheumatoid arthritis. J Immunol 2001 ; 167 : 1072 ─80. 3 )Klareskog L, Stolt P, Lundberg K, et al. A new model for an etiology of rheumatoid arthritis. Smoking may trigger HLA-DR (shared epitope)-restricted immune reaction to autoantigens modified by citrullination. Arthritis Rheum 2006 ; 54 : 38 ─46. 4 )Demoruelle MK, Weisman MH, Simonian PL, et al. Airways abnormalities and rheumatoid arthritis-related autoantibodies in subjects without arthritis : early injury or initiating site of autoimmunity? Arthritis Rheum 2012 ; 64 : 1756 ─61. 5 )亀田秀人.膠原病と感染症.化療の領域2012;28:50 ─5. 6 )Okuyama A, Nagasawa H, Suzuki K, et al. Fcγ receptor IIIb polymorphism and use of glucocorticoids at baseline are associated with infusion reactions to infliximab in patients with rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis 2011 ; 70 : 299 ─ 304. 7 )Takeuchi T, Miyasaka N, Tatsuki Y, et al. Inhibition of plasma IL-6 in addition to maintenance of an efficacious troug level of infliximab associated with clinical remission in patients with rheumatoid arthritis : analysis of the RISING Study. Ann Rheum Dis 2012 ; 71 : 1583 ─5. 8 )Palucka AK, Blanck JP, Bennett L, et al. Cross-regulation of TNF and IFN-alpha in autoimmune diseases. Proc Natl Acad Sci U S A 2005 ; 102 : 3372 ─7. 9 )Wolfe F, Mitchell DM, Sibley JT, et al. The mortality of rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum 1994 ; 37 : 481 ─94. 10)Pincus T, Brooks RH, Callahan LF. Prediction of long-term mortality in patients with rheumatoid arthritis according to simple questionnaire and joint count measures. Ann Intern Med 1994 ; 120 : 26 ─34. 11)Nakajima A, Inoue E, Tanaka E, et al. Mortality and cause of death in Japanese patients with rheumatoid arthritis based on a large observational cohort, IORRA. Scand J Rheumatol 2010 ; 39 : 360 ─7. 12)Smolen JS, Aletaha D, Bijlsma JW, et al. Treating rheumatoid arthritis to target : recommendations of an international task force. Ann Rheum Dis 2010 ; 69 : 631 ─7. 13)Verstappen SMM, Boonen A, Bijlsma JWJ, et al. Working status among Dutch patients with rheumatoid arthritis : work disability and working conditions. Rheumatology 2005 ; 44 : 202 ─6. 14)Singh JA, Furst DE, Bharat A, et al. 2012 update of the 2008 American College of Rheumatology recommendations for the use of disease-modifying antiehumatic drugs and biologic agents in the treatment of rheumatoid arthritis. Arthritis Care Res 2012 ; 64 : 625 ─39. 15)日本リウマチ学会.関節リウマチ(RA)に対するTNF 阻害薬使用ガイドライン(2012 年度改訂版).(http://www. ryumachi-jp.com/info/guideline_TNF_120704.html) 16)日本リウマチ学会.関節リウマチ(RA)に対するアバタセプト使用ガイドライン.(http://www.ryumachi-jp.com/info/ guideline_ABT_100930.html) 17)日本リウマチ学会.関節リウマチ(RA)に対するトシリズマブ使用ガイドライン(2013 年度改訂版).(http://www. ryumachi-jp.com/info/guideline_tcz_130524.html) 18)日本リウマチ学会MTX 診療ガイドライン策定委員会,編.投与開始前のスクリーニング検査.関節リウマチ治療におけ るメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン2011 年版.東京:羊土社,2011:32 ─4. 文献
総論3 はじめに 生物学的製剤が投与される疾患は多岐にわたる。免疫性炎症性疾患(immune-mediated inflammatory diseases:IMID)との包括名称で呼ばれることもあるその疾患とは,リウマチ性疾患として関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA),若年性特発性関節炎,強直性脊椎炎, 関節症性乾癬など,炎症性腸疾患としてクローン病(Crohn’s disease:CD)や潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC),そして皮膚科疾患として乾癬(尋常性乾癬,膿疱性乾癬,乾癬性紅皮症等)があり,さらにベーチェット病によるぶどう膜炎や腸管病変がある。これらの疾患すべてで,生物学的製剤投与が肺合併症を引き起こしているのかというと必ずしもそうではない。肺合併症はRA などリウマチ性疾患で圧倒的に多くみられ問題となっているが,ほかの疾患ではあまり問題となっていない。ひとつには投与対象となった患者数の違いもある。生物学的製剤を投与された,あるいはされているRA患者数は現在延べ20 万人に迫っていると推定され,一方その他の疾患では,以下インフリキシマブ(infliximab:IFX;最近までこれらの疾患の大部分に保険適用を有する唯一の薬であった)に限定してこれを見ると,CD は約2 万人,UC は5,800 人,ベーチェット病1,300 人,乾癬性疾患は2,800 人である。しかしやはり発生率そのものが異なる。結核症でこれを見ると,インフリキシマブの投与されたRA 患者の結核症は市販後調査(post marketing surveillance:PMS)では0.32%に発症しているが,炎症性腸疾患では,さほど多くはない。やはりインフリキシマブで見ると,2013 年2 月時点でCD では38 例(0.17%),UC では2 例(0.04%)の結核が発症しており,発症率にかなりの差がある。これにはわが国特有の結核蔓延事情が関与していることは別項に述べられているとおりである。生物学的製剤投与下に発症する結核症はその大部分が内因性再燃と考えられており,したがって投与される患者集団の結核の既感染率が問題となるが,RA ではその好発年齢層は50~70 歳代,その既感染率は10~50%, CD では好発年齢10~30 歳代で既感染率は3%以下と推計されている(いずれも2010 年頃の推計値)。この母集団の既感染率の差が,生物学的製剤投与下の結核発症リスクの差を説明し得ると考えられる。しかしほかの肺合併症についてはこのような説明は成り立たない。事実をニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia:PCP)について見ると, RA 患者における発症数,発症率は,先行5 薬剤のPMS で見ると41,042 人中104 例,0.25%であるが, CD では約22,000 例中5 例,0.03%(インフリキシマブ)と,数だけでなく,発症率も低い。これはRA 患者がほかの疾患患者より年齢が高いことだけで説明可能であろうか?生物学的製剤投与下のRA の肺合併症について行われた多くの臨床疫学的検討を通じて,PCP,細菌性肺 背景要因としての既存の肺病変:気道病変を中心に 関節リウマチ(RA)患者には,中枢気道病変としての気管支拡張症,末梢気道病変としてのさまざまな細気管支炎が高頻度に合併する。これらはRA という全身性の免疫性炎症性疾患の肺における現れ(関節外病変)として理解されている。一方これら気道病変は,間質性肺炎と並んで,RA 診療中に起こる細菌性肺炎,非結核性抗酸菌症などの感染症,その他各種肺合併症の危険因子でもある。一般的には早期からの積極的治療が推奨されている現在のRA 治療において,これら既存の肺疾患がある場合の治療選択をどのように判断または助言するのかは,今後のリウマチ診療に携わる者に求められる厳しい課題である。
炎,間質性肺炎(薬剤性を含む)のいずれにおいても,そのリスク因子として,高齢,副腎皮質ステロイド薬の使用と並んで,既存の肺疾患が挙げられている。すなわち既存の肺疾患がこれら多発するRA の肺合併症の共通のリスク因子として抽出されている。RA という宿主には,一般人口はもとより,ほかのIMID に比べてもずっと高率に慢性の肺病変(気道病変,間質性肺炎など)が見られる。その理由はいまだほとんど解明されていないが,その疫学的事実(後述)を知り,個々の患者におけるそれら合併症の有無を把握しておくことが,RA の肺合併症,そしてそこに生物学的製剤を投与して起こる合併症の理解と対策に不可欠である。本項では肺合併症の最大の危険因子としての既存肺病変について,特に気道病変(気管支拡張症,末梢気道病変)ついて述べる。間質性肺炎については別項に詳述される。 1 RA と気道病変 以前よりRA には気道病変が多いと言われてきた。気道病変としては,中枢側に発生する気管支拡張症(bronchiectasis)と,末梢気道に発生する細気管支炎(その細分類がいくつか提案されている)とがある。従来両者を一連のものとして捉える見方は希薄であった が,最近の研究は,両者がRA 特有の免疫異常が関与して形成される一連の病態として理解されるべきことを強く示唆している1)。RA は関節の滑膜炎を主座とした全身性の免疫性炎症性疾患である。この免疫性の炎症が関節外臓器において発現される場合,RA の関節外病変(extraarticular manifestation:EAM)と呼ばれ,血管炎,心筋炎,末梢神経炎,腎アミロイドーシスなどが知られている。呼吸器系のEAM としては,末梢気道病変,間質性肺炎,胸膜炎,肺や胸膜のリウマトイド結節などが取り上げられてきた。しかし中枢気道病変である気管支拡張症の位置付けはいまだ議論が煮詰まっていない。近年,RA に合併するシェーグレン症候群(Sjögren’s syndrome:SS)の影響も否定できないながら,気管支拡張症もRA のEAM の一つとして重視すべきという主張が見られるようになった2)3)。 2 中枢気道病変─気管支拡張症 気管支拡張症は,反復,慢性化する中枢気道の炎症により,気管支壁が肥厚,内径が拡大し,細菌の定着が起こり,さらに次の感染の母地となる病態である(図1)。古典的には,気管支拡張症は胸部単純X 線写真で 図1 気管支拡張症の病態気管支腔の拡大 気管支壁の肥厚 壁の脆弱化弾力線維の断裂,減少周囲肺への炎症の波及 粘液腺の増加 慢性炎症細胞の浸潤軟骨の菲薄化
2-1 ●気管支拡張症の病態気管支拡張症の病態についての最近の研究によれば,気道に定着した病因菌,肺炎球菌,緑膿菌等それ自体が気道を損傷するのではなく,それらを認識したマクロファージ,気道上皮細胞よりIL-8,TNF-αなどの種々の炎症性サイトカインが放出され,好中球を主体とした炎症細胞が動員され,それら炎症細胞から放出される活性酸素,matrix metalloproteinase (MMP)等により,気管支壁の支持構造である弾力線維,軟骨などが破壊され,気道の拡張が起こり,進行すると考えられている6)(図2)。また近年の研究は,これらの炎症過程が菌の定着がなくとも進行し得ることを示している7)。慢性炎症過程が気管支壁を破壊するというこの構図は,最初の引き金が何であれ,引き続いて起こる慢性炎症が関節滑膜を破壊するRA という疾患の病態と基本的に類似している。RA 患者について中枢気道の病態を調べた報告はまだないが,同様の慢性炎症過程が健常人よりも強く発現し,気管支壁の損傷が進行している可能性は十分に考えられる。今後の検討がまたれる。なお,以下にそのような機序を強く考えさせられた症例を提示する。症例:54 歳,男性。8 年前RA の診断。4 年前から計4 回,肺炎を起こした。その都度,発熱,咳,膿性痰,肺野のすりガラス影を呈し,当初病因菌として緑膿菌などが見いだされ,抗菌薬治療を行うも炎症が制 も明らかな肺の破壊を伴い,症状としても連日の咳,膿性痰に苦しむとの病像で語られてきた。しかし今日,このような古典的気管支拡張症の新規発生はまれであり,軽微な症状~無症状で,高分解能CT(high resolution computed tomography:HRCT)によってのみ診断される例が増えている。RA における気管支拡張症の頻度については,1990年代半ばにフランスのRemy ─Jardin らがHRCT を用いた検討で30%との数字を提出4),その後も各国から同様の数字が相次いで報告されている(25~41%)。わが国では,Mori らが連続126 例の患者についてRA の診断確定時にCT 検査を施行,全体で41%に気管支の壁肥厚,径の拡張が見られたと報告している5)。一般人口における気管支拡張症の頻度について国内で信頼できるデータは乏しいが,1~2%内外と推定され,その20~40 倍に達するRA 患者のこの高い頻度は決して偶然ではありえない。その成因についてはさまざまに議論されてきた。Mori らの報告では,気管支拡張は治療開始3 年以内の早期RA 患者においても34%にみられている。RA 治療期間のいまだ短い患者においても高率に観察されるというこの事実は,気管支拡張症の成立が治療の副産物ではなく,RA の病態そのものに深く根ざしたものであることを強く示唆している。 図2 サイトカインネットワークから見た気管支拡張症の病態(文献7 を基に作成) Pseudomonas H.influenzae Str.pneumoniae気道の慢性感染細菌→Mφ,上皮細胞 上皮傷害粘液過剰産生炎症(好中球主体) 繊毛クリアランス↓ 粘液栓の形成気道壁の損傷 気管支拡張IL-8 TNF-α LTB4 活性酸素elastase MMPs
2-2 ●気管支拡張症の診断─HRCT が必須上述のように近年は気管支拡張症が著しく軽症化している。胸部単純X 線写真で明らかな陰影があり,常時咳と膿性痰に悩むような古典的気管支拡張症は,今日ほとんど遭遇しない。HRCT でのみ診断し得る軽症例が増加している。気管支拡張症の好発部位は,右中葉,左舌区,左下葉であり,いずれも胸部単純X 線写真正面像では見落とされやすい部位である。これらより診断にはHRCT が必須である。放射線診断学的には気管支の内径が伴行する肺動脈よりも大きい場合,気管支拡張症と診断するというNaidich らの定義が広く承認されている8) (図4,5)。 2-3 ●気管支拡張症と末梢気道病変RA 患者の気管支拡張症は,細菌性肺炎の母地となり得るのみでなく,末梢気道病変を伴い,閉塞性肺機能障害を進行させる。一般の気管支拡張症患者においてもしばしばCT 上末梢気道病変が見られ,あるいは肺機能上の閉塞性障害が見られるといわれてきた6)。RA においても同様で,HRCT を用いた検討で, RA の気管支拡張症には19~48%に細気管支炎もしくは閉塞性障害が認められるとの報告がある9)。またRA 患者には肺機能上閉塞性障害を有する患者が多いことは以前より知られているが,喫煙の影響を除いてもそうした傾向は明らかで,そのような患者においては気管支拡張症の頻度が高い(71%)ことも報告されている9)。すなわち両者はしばしば併存するのであって,反復する気道の感染,菌の定着,そしてRA 特有 御できず,器質化肺炎(organizing pneumonia:OP)と判断,副腎皮質ステロイド薬を投与,ようやく収束,という経過であった。主要臨床検査値は,RF 314 IU/ml,MMP-3 207 ng/ml,抗CCP 抗体 375 IU/ml,KL-6 736 U/ml,喀痰 Pseudomonas 3+。CT(図3a)では両下葉背側に著明な気管支の壁肥厚と拡張,およびその周囲の浸潤影を認める。5 年前のCT(図3b)では該当部位にはごく軽度の気管支壁肥厚を認めるのみで,5 年間で急速に気管支拡張が進行してきたことがわかる。なお本患者は非喫煙者,職業は事務職,副鼻腔炎はなく,ほかに気道疾患のリスク因子はない。この間,上述のように患者は肺炎を繰り返し,そのいずれもが,抗菌薬のみでは制御不能で副腎皮質ステロイド薬の投与が必要であった,すなわち感染を契機として過剰な炎症が繰り返されたと考えられ,気管支拡張症の進展との間に何らかの関連が想定される。 a b 図3 5 年間で急速に進展したRA 患者の気管支拡張症a.第4 回入院時のCT:両下葉に広く著明な気管支壁の肥厚と拡張が見られる(矢印)。b.5 年前のCT:両下肺野の気管支壁肥厚(矢印)は,ごく軽度である。 図4 HRCT での気管支拡張症の診断(文献8 より改変引用) 正常気管支拡張症 気管支気管支 b≦a B/A 比:通常は0.7 b>a 肺動脈肺動脈 b b a a
の因子(過剰免疫)がそこに加わり,中枢気道にも末梢気道にも炎症を発生,持続させ,形態学的,機能的変化を惹起する可能性が想定されている1)。 3 末梢気道病変─細気管支炎 (small airway obstruction) RA 患者には末梢気道病変が多いことは以前より知られている。呼吸生理学的検討から,RA 患者にはしばしば肺機能上の閉塞性パターンが観察される。この頻度はRA の病期,罹病期間などと相関するといわれる。その病理学的実態は何らかの細気管支病変であろうと考えられている。この末梢気道病変の一部が,細気管支炎として画像,病理などの形態学的検討で確認できる。細気管支炎の頻度は,HRCT を用いた検討で,8~17%といわれ5),また,剖検肺では61%と報告されている10)。またHRCT では検出されず,肺機能検査のみで診断される末梢気道閉塞(small airway obstruction とも呼ばれる)は30%との報告もある1)。RA の細気管支炎については,病理学的な解析から,細胞性細気管支炎,濾胞性細気管支炎,閉塞性細気管支炎,細胞性破壊性細気管支炎,などの亜分類が提案されている(表)。 3-1 ●細胞性細気管支炎細胞性細気管支炎(cellular bronchiolitis)は濾胞性細気管支炎と一部オーバーラップする概念で,RA や SS,その他にさまざまな病態で見られる。気管支壁の全層にわたってリンパ球の浸潤,線維化などが起こり,高度になると内腔の狭窄を来す。非特異的な所見ではあるが,RA では剖検肺で22%に見られるとの報告がある10) (図6)。 正常 BR PA気管支拡張症 PA BR 図5 HRCT で見いだされる気管支拡張症 表 RA に合併する気道病変1.中枢気道病変:気管支拡張症2.末梢気道病変・細胞性細気管支炎(cellular bronchiolitis)・濾胞性細気管支炎(follicular bronchiolitis)・閉塞性細気管支炎(obliterative bronchiolitis)・small airway obstruction 図6 細胞性細気管支炎(cellular bronchiolitis)終末,呼吸細気管支壁の全層にわたる高度のリンパ球浸潤と線維化,内腔狭窄が見られる。膠原病,移植後,さまざまな慢性気道炎症においてみられる非特異的所見であるが,RA においてもしばしば見られ,濾胞性細気管支炎や細胞性破壊性細気管支炎と移行,混在する。
3-2 ●濾胞性細気管支炎濾胞性細気管支炎(follicular bronchiolitis)は細胞性細気管支炎とも移行する概念であるが,細気管支の壁にリンパ濾胞が形成され, 内腔が狭細化するもので11),剖検肺においてはRA 患者の22%に見られる10)。疾患名として使用する報告が散見されるが,それらによると,非常にまれな疾患で,画像診断上も肺 機能上も特徴的な像に乏しく,治療に対する反応もはっきりしないとされる。しかしRA 肺の病理所見としては頻度の高いものであり,病理所見名として使用すべきであろう。壁のリンパ濾胞〔健常人には見られず, RA,SS などにおいてのみ見られることから, inducible bronchus-associated lymphoid tissue (iBALT)とも呼ばれる〕に集積するリンパ球,形質細胞の役割については長らく不明であったが,近年の免疫学的研究により,種々の炎症性サイトカイン,ケモカイン,抗CCP 抗体等が産生,放出され,周囲肺に線維化をもたらし,宿主にとって傷害的に働いていることが明らかにされている12) (図7)。 3-3 ●閉塞性細気管支炎閉塞性細気管支炎(obliterative bronchiolitis)は狭窄性細気管支炎とも呼ばれ,気管支壁の慢性炎症により壁の構造は保たれたまま同心円状の狭窄を来し,呼吸障害を来すもので,まれな病態であり,予後は不良である13) (図8)。RA,SS,移植後等,免疫学的異常宿主においてのみ見られる。RA の場合は,治療薬D ─ペニシラミン(D-penicillamine)使用との関連が示唆されているが,まれな合併症なので確かではない。 3-4 ●細胞性破壊性細気管支炎細胞性破壊性細気管支炎(cellular and destructive bronchiolitis)は,近年閉塞性細気管支炎の一型として蛇澤,本間らによって提出された概念で14),細胞性細気管支炎と混在してみられる。細気管支に強いリンパ球性,時に好中球性の炎症がみられ,気管支構造は破壊され,ついには細気管支の完全な瘢痕性閉塞を来すものである(図9)。RA とSS に多く,臨床像は持続,進行する咳,膿性痰で,しばしば中枢気道の拡張を認める。最近,RA の閉塞性細気管支炎25 例の検討で, HRCT 上中枢側の変化として40%に気管支拡張症を, 96%に気管支壁の肥厚所見を合併し,また症状として息切れのほかに,咳,多量の痰が多かった,との報告があり15),その一部は本概念が妥当する可能性がある。このようにRA 患者の閉塞性細気管支炎については未解決のことが多く,中枢気道病変と併せて包括的に再検討することが求められている。 図7 濾胞性細気管支炎(follicular bronchiolitis)気道壁のリンパ濾胞の過形成とそれによる内腔狭窄を主徴とする。リンパ濾胞はbronchus associated lympoid tissue(BALT)の過形成とも呼ばれる。健常人には見られず,RA,SSなどの一部の免疫異常疾患のみに見られる。濾胞中に集まった成熟リンパ球,形質細胞からは炎症性サイトカイン,ケモカイン,抗CCP抗体などが産生されている。局所での過剰免疫反応であり,局所に炎症,線維化を起こし,肺傷害性に働く。 図8 閉塞性(狭窄性)細気管支炎(constrictive bronchiolitis)細気管支壁の肉芽組織の増生,あるいは線維化により,細気管支内腔が閉塞,狭窄する。気道の構造は保たれることが多い。RA,移植片対宿主病(graft versus host disease: GVHD),などの全身性の免疫異常を基礎に発症する。
れが原因で命を落としやすいとの報告である。しかしこれとは異なる数字がわが国から提出されている。高柳らは,自施設の気管支拡張症患者の10 年生存率は81.7%であるとし,決して生命予後は不良ではないとしている20)。対象が同じかどうかの問題はあるが,長期にわたる気道感染のコントロール,また急性増悪,肺炎を起こした際の迅速な対応がこの差を生み出していることも考えられる。 4-2 ●気管支拡張症とさまざまな肺感染症,肺合併症上述のように,気管支拡張症と,RA 患者の細菌性肺炎との密接な関係はほぼ明らかである。気管支拡張症には緑膿菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌などの各種細菌の定着が起こりやすいことからこれは理解しやすい。その他の感染症,PCP,薬剤性肺障害等との関係に またこれらの細気管支炎各亜型は,1 人のRA 患者の肺に併存することもしばしばで,その意味からも,疾患名としてではなく病理所見名として扱うのが妥当であろう。末梢気道病変による閉塞性肺機能障害は通常緩慢にしか進行しないが,閉塞性障害が高度となり呼吸不全となる症例も時に経験されるなど,患者の生命予後への意義はいまだ十分には解明されていない。またこれらRA の細気管支炎の治療としてはさまざまな試みがあるが,マクロライド療法の有効性についてはいくつかの報告があり,有効(症状緩和)率は限定されたもので,非RA 患者よりは低い。 4 気道病変と肺合併症 4-1 ●気管支拡張症と細菌感染症RA 患者に見られる肺炎などの呼吸器感染症は,RAの罹患歴が長く,進行した病期で,機能障害の強い患者において多いとは諸家が一致して指摘するところである16)。このような患者は日常生活動作(activities of daily living:ADL)が低く,また副腎皮質ステロイド薬などの免疫抑制薬を使われていることがその一因とされる。それらとともに,むしろそれ以上に,背景の肺病変,特に中枢気道病変が重要であるとの認識が広まりつつある。RA 患者に合併する肺感染症の実態について大規模な臨床的検討を行った高柳らの報告によると,細菌感染に限ると,肺炎46 例,気管支拡張症急性増悪7 例などについて,その92%において背景に何らかの慢性疾患,すなわち気管支拡張症,慢性間質性肺炎,肺気腫などが見られたとしている17) (図10)。また生物学的製剤投与下の細菌性肺炎リスクの検討で,気管支拡張症合併のRA 患者は非合併のRA 患者に比べ,肺炎を発症するリスクが8.7 倍だったとの報告もある18)。肺炎は生命予後に直結する。米国のSwinson らは気管支拡張症を有する患者の予後を検討し,その5 年生存率は68.8%と低く,肺炎など呼吸器感染症と心肺不全がその死因であったとしている19)。すなわち気管支拡張症を有するRA 患者は肺炎に罹患しやすく,そ図9 細胞性破壊性細気管支炎(cellular and destructive bronchiolitis)細胞性細気管支炎と併存する。RA,SS に多い。活動期には気道内腔に多数の好中球性の浸出性変化,また粘膜の潰瘍性変化(黒矢印)を見る。気管支構造(平滑筋,弾力線維)が完全に消失(矢頭),また中枢から末梢まで広い範囲に線維化,閉塞(赤矢印)が起こる。
ついては,肺気腫,間質性肺炎などと併せた「肺の既存病変」というくくりで調べられ危険因子であるとされているが,その中で気管支拡張症のみを抽出して調べた報告はない。一般に気管支拡張症には非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteriosis:NTM),真菌(アスペルギルス)の定着が起こりやすいといわれる。Pneumocystis jirovecii(以下Pneumocystis)の定着が多いかどうかは明らかでない。結核菌も気管支拡張症の部に定着しやすいということはなく,事実,結核症の発症と気管支拡張症とは無関係である。そこでこれらその他の感染症の中では気管支拡張症と密接に関連する疾患としてNTM 症が問題となるが,これは別項で詳述されるのでそちらを参照されたい。 4-3 ●末梢気道病変とさまざまな感染症疾患名として報告されている濾胞性細気管支炎,閉塞性細気管支炎が特に重篤な感染を起こしやすいとの報告はない。しかしNTM 症については,生物学的製剤投与下に発症した13 例を解析したMori らは,その大部分の例において気管支拡張症,細気管支炎などの気道病変が先行しており,まずそれら気道病変に環境常在菌であるNTM の定着が起こり,そこから発症してきたと推定している21)。おわりに 従来,RA の気道病変は,特に末梢気道病変については亜分類別に議論される傾向があったが,上述のように,気管支拡張症に末梢気道病変が高率に合併すること,また末梢気道病変には気管支拡張症あるいは気管支壁の肥厚など中枢気道病変が高率に合併することが次々と明らかとなり1)9),両者は統一した視点の元に,すなわちRA という宿主の過剰免疫の気道における現れとして理解される機運である(図11)。気道病変には病因性細菌,NTM などの定着が多いことが知られている。これが細菌性肺炎,NTM 症の発症の最大の危険因子である理由もここにある。また本項では取り上げなかったが,慢性間質性肺炎においても,細菌,NTM,Pneumocystis などの定着が起こりやすく,これらを考え併せることで,RA 患者の既存の肺病変(気道病変,間質性肺炎など)が,細菌性肺炎,PCP,さらには薬剤性肺障害,既存の間質性肺炎の急性増悪などに関わる機序についても解明の道が開けてくる可能性がある。これらを踏まえると,メトトレキサート(methotrexate:MTX)や生物学的製剤により治療を開始する前にはなるべくHRCT 検査を施行し,気道病変や間質性肺炎の存否,その広がり,重篤度を確認しておくことが,起こり得る合併症を予測し,起きた際の治療方針を決定するうえで有用と考えられる。 図10 肺炎とその基礎疾患としての気管支拡張症70 歳,女性。RA。右中葉の肺炎を発症。CT では中,下葉の浸潤影中,舌区などに気管支拡張(矢印)を認める。
コントロールされるようになるにつれ,これら関節外病変も着実に減少しつつあり,特に心血管系,腎疾患などでこの傾向が明らかである。しかし肺病変のみは増加傾向であると報告されている22)。その原因は不明であるが,肺という臓器は常に外界に曝されており,感染などによってRA の過剰免疫が誘発され,その結果炎症の激化とその遷延という形をとることも想定される。ここにRA の呼吸器合併症の難しさがある。感染をおそれ,メトトレキサートや生物学的製剤の投与を控えれば,気道病変は感染を反復しつつ悪化の一途をたどっていくであろう。構造破壊が高度となればさらに感染のリスクが増大し,感染もしくは心肺不全による死亡へとつながっていく。その悪循環を断つには,感染とは積極的に闘いつつ,メトトレキサートや生物学的製剤というRA の活動性を強力に制御し得る治療は極力継続するという戦略が求められる。このような取り組みによって,RA の合併症としての呼吸器感染症が制御できるようになるかどうかはいまだ実証されていないが,RA の根本的治療が可能になった今,取り組むべき課題と言えよう。 ただ,HRCT で気道病変や間質性肺炎が見いだされた場合の治療方針が問題となる。ここでは気道病変について述べる。気道病変は細菌性肺炎などのリスク因子であるから,メトトレキサートや生物学的製剤は投与を控えるべきであろうか?気道病変,特に気管支拡張症が細菌性肺炎のリスク因子であるといっても,重篤化し死亡につながるとの報告は少ない。今日抗菌療法の進歩により,慢性下気道感染症の急性増悪や軽症肺炎においても外来,入院での迅速な対応によりその制御は容易になりつつある。したがって重い気道病変の存在だけをもって 生物学的製剤の投与を控える必要はない。感染を繰り返し,増悪時の制御が困難な場合にのみ,慎重投与とすべきであろう。メトトレキサートについては細菌感染症のリスクを増すとのエビデンスはないので,控える必要はない(なお,感染症発症から治癒までの期間は控えるべきであることは言うまでもない)。RA は全身性の免疫性炎症性疾患であり,多くの臓器に関節外病変(extra-articular manifestation)を併発し,肺病変もその一つである。メトトレキサート,生物学的製剤の導入などでRA の疾患活動性がしっかり 図11 RA 患者の気道病変はRA の extra-articular manifestation(関節外病変)という考え方 RA 患者においては,さまざまな気道病変(気管支拡張症,細気管支炎,small airway obstruction)が高頻度に合併する。 外界との接点である気道において,侵入してくる異物,病因菌に対してRA という宿主特有の異常免疫が発動されるためと考えるとこの頻度は理解できる。気管支拡張症 細気管支炎 30 ~40% 10 ~20% small airway obstruction 8 ~30%
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総論4 はじめに─易感染性の評価の困難性と限界 「生物学的製剤の投与によって,感染症の発症のリスクは増加する」ということを疫学的に証明することは難しい。それには2 つの理由が指摘される。理由の第1 は,呼吸器感染症の原因微生物の確定診断は多くの場合不可能であるということによる。肺炎の診断に用いる痰の細菌学的検査では,常在細菌や外部環境からの汚染菌の混入を避けることができない。そのような検体を対象とするために,結核を除いて,真の原因微生物を特定することはできない。培養や菌体成分抗原,遺伝子で検出された細菌1)やPneumocystis jirovecii(以下Pneumocystis) 2)などの微生物は,定着なのか肺炎の原因微生物なのかの最終的な鑑別が困難である。培養の困難な微生物は,レジオネラやウイルス感染症のようにペア血清を用いた抗体価の有意な上昇によって診断される微生物感染症もあるが,確定診断には病理組織が必要となる場合もある。そのような検査は迅速性に乏しくかつ実施が困難である。第2 の理由は,感染症の発症のリスクの増加を科学的に証明するには,正確な疫学データの収集が必須となることに由来する。たとえば,結核症は,国や,国内でも地域による偏りがあり,若年者よりも高齢者に多い(平成23 年厚生労働省の結核登録者情報調査年報集計3)結果によると,結核罹患率は,全年齢層で10 万人対17.7 であり,20~29 歳では10.4 であるのに対し,60~69 歳では17.5,70~79 歳では36.6 と上昇する)。そのため,結核の発症率は地域性や性別,年齢階層をマッチさせた比較が必要である。さらに,生物学的製剤の治療は,製剤単独で投与されることはないため,基礎となるメトトレキサート(methotrexate: MTX)や副腎皮質ステロイド薬の影響も考慮する必要がある。ところが,生物学的製剤に上乗せされる副腎皮質ステロイド薬や疾患修飾性抗リウマチ薬(disease modifying anti-rheumatic drugs:DMARDs)の基礎的な治療における感染症発症に関する大規模な比較疫学データは,日本では集積されていない。そのため,正確に生物学的製剤による感染症の発症率を比較することはできないことになる。以上のような感染症発症に関する医学的,疫学的解析の限界を最初に提起しておく。しかし,一般的には,治験時および市販後調査(post marketing surveillance:PMS)や副作用報告などで集積された症例の傾向を基に判断し,生物学的製剤使用と副作用の発症に合理的な関連性があり,易感染性傾向にあると判断される原因微生物による感染症に関しては,臨床上十分な病態の理解と注意が必要であることは言をまたない。 なぜ生物学的製剤投与で感染症が起こりやすくなるか? 理論的には,生物学的製剤使用によって,感染症に対し防御的に働く免疫も抑制され,特有の感染症の発症率が高くなる。実際,治験や市販後調査において,結核症やニューモシスチス肺炎など健常人では発症しにくい感染症の発症が累積して報告されている。しかし,わが国にはそれを疫学的に確認するための基礎となるデータが存在しないため,生物学的製剤使用による特有の感染症の発症に関する上乗せ効果は正確には確認できていない。また,感染症の診断は多くの場合困難であり,特に呼吸器感染症の原因微生物の確定は結核などを除けば不可能であるため,真の発症率の確定もできない。そのような現状でも,結核などの特有の感染症が発症していることは確実であり,生物学的製剤使用による感染症発症の機序を理解することは,発症予防や適切な経験的治療を行うために重要な基礎知識となる。
1 感染防御機構と微生物感染症の関係 感染防御機構には,物理的,生物学的バリア機構とともに好中球,マクロファージ,NK 細胞が関与する自然免疫と,抗原抗体決定基特異受容体を備えるT細胞,B 細胞によって免疫応答が起こる獲得免疫がある(図1)。自然免疫を担うマクロファージやマスト細胞は, toll-like receptor(TLR)などのパターン認識受容体を介してリガンドと結合し,微生物の侵入を認識すると,TNF,IL-1,IL-6,IL-8 などの炎症性サイトカインを産生し,それらのサイトカインは血管透過性因子および走化因子として働き,貪食細胞を局所に集める。自然免疫系で排除されない微生物に対しては,獲得免疫系が作用を始める。微生物を認識した樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞(antigen presenting cell:APC)の表面に抗原エピトープが提示されると,MHC クラスIあるいはII分子に提示され,それぞれCD8+T 細胞,CD4+T 細胞に認識される(図2)。CD4+T 細胞は,ヘルパーT 細胞として, IFN-γやIL-2,TNF などを産生して細胞性免疫を担うTh1 型と,IL-4,IL-5,IL-6 などを産生して抗体産生を促進するTh2 型に分類される。CD8+T 細胞は, IL-2 の刺激を受けてperforin などのセリンプロテアーゼやTNF/TNF 受容体スーパーファミリーを介して標的細胞を排除する。微生物に対する有効な感染防御機構は,それぞれの微生物によって異なっている。そのため,感染防御機 構の障害が起こると,その機構によって防御されていた特異的微生物による感染症が発症しやすくなる。補体,貪食細胞,液性免疫,細胞性免疫のそれぞれの感染防御機構の不全によって発症しやすくなる代表的微生物感染症を表に示す。 2 呼吸器感染症の感染防御機構と 生物学的製剤 ここでは,生物学的製剤投与下で発症率が高くなると判断されている結核(抗酸菌),Pneumocystis,細菌性および細菌性肺炎のなかでも特に注意が必要なレジオネラのそれぞれの呼吸器感染症について,感染防御機構と生物学的製剤の関係を解説する。 図2 T 細胞の抗原認識による獲得免疫の成立 CD4+細胞CD8+細胞 TNF-α TNF-α TNF-α IFN-γ IFN-γ TNF-α Th1 IFN-γ MHC クラスII MHC クラスI 図1 呼吸器感染症に対する感染防御機構 自然免疫 獲得免疫 粘膜のバリア機構◆常在細菌などによる生物学的バリア◆上皮細胞,粘膜,綿毛運動による機械的バリア体液中の非特異的防御因子◆lgA,デフェンシン,ラクトフェリン,リゾチーム,補体,等◆好中球,マクロファージ,NK 細胞TLR を介したサイトカイン産生◆炎症性サイトカイン:TNF-α,IL-1,IL-6,IL-8,IFN-γ 抗原提示細胞◆肺胞マクロファージ,樹状細胞感作T 細胞の産生◆CD4+T 細胞-Th1,Th2,Th17,細胞調節性T 細胞(Treg),抗体産生,CD8+T 細胞-細胞障害性(Tc)細胞
ある肺胞マクロファージや樹状細胞が,主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex: MHC)拘束性に抗原提示を行い,リンパ球の認識を経て細胞性免疫が成立する。これによって活性化したマクロファージが結核菌の局在する病巣部分に集積し,類上皮細胞とそれらが合体して多核となった巨大化したラングハンス(Langhans)巨細胞が取り囲み,肉芽腫組織となって病巣は被包され,やがて乾酪化に陥る。中心部の結核菌は冬眠状態(dormancy)となり,感染症そのものは治癒し,結核菌に抵抗性を獲得するようになる4)。この肉芽は,Th1 細胞の産生するTNF やIFN-γ等のサイトカインによって維持されており,この状態の結核を臨床的に潜在感染(latent infection)と呼ぶ(図3)。小児や免疫の抑制された宿主では,結核菌がリンパ流や血流に流れ込み,粟粒結核,結核性髄膜炎など重症の結核へと進展する場合がある。臨床的には,感染の成立は必ずしも感染症としての発病を意味するものではない。結核菌感染に引き続き 2-1 ●結核症(Tuberculosis)結核菌(Mycobacterium tuberculosis)は,肺結核患者の咳とともに放出された飛沫(droplet)が空気中で乾燥し,直径5μm 以下の飛沫核(droplet nuclei)となり,空中を浮遊し,それを吸引することによる「空気感染(air-borne infection)」として感染する。感染性があるのは排菌のある肺結核の患者のみで,粟粒結核を含む肺外結核では,基本的にヒト─ヒト感染を起こさない。飛沫核は,肺胞まで到達し,そこで飛沫核内の結核菌は肺胞マクロファージに貪食され,マクロファージ細胞内で増殖を開始する。初感染時には,免疫が成立していないため結核菌が細胞内で増殖し,細胞は死滅し,結核菌は外へ放出されほかのマクロファージに貪食される経過をとる。さらに菌は増殖を続け,肺に定着し,初感染病巣を形成する(図3)。さらに一部の菌がマクロファージとともに肺門リンパ節まで移動し,リンパ節病巣を形成する。多くの症例では,この間に,結核菌の侵入を認知したAPC で 表 感染防御因子と対応する微生物 防御因子T 細胞B 細胞食細胞補体感染性微生物結核,抗酸菌,緑膿菌, CMV,EBV,カンジダ, Pneumocystis,クリプトコッカス,アスペルギルス肺炎球菌,インフルエンザ,菌b 型(Hib),レンサ球菌黄色ブドウ球菌,緑膿菌,カンジダ,ノカルジア,アスペルギルス骨髄炎菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌,淋菌,大腸菌 図3 感染から肉芽の形成まで結核菌は空気感染で肺胞に到達し,肺胞マクロファージ内で増殖し,肉芽を形成する。
4)。このようにして,TNF 阻害作用のある生物学的製剤投与下の結核は再燃発症する。また,その特徴は肺外結核が多いことである。 2-2 ●ニューモシスチス肺炎従来はPneumocystis carinii と呼称されていたが,ヒトに病原性を有するPneumocystis をほかの動物に感染するものと分けてPneumocystis jirovecii(以下Pneumocystis)と呼ぶことになった。Pneumocystis は,かつて原虫類に分類されていたが,遺伝子の解析により,今日では真菌であることが判明した。しかし,培養ができないため,結核菌に比べ感染応答の詳細な機序についての研究や薬剤感受性に関する研究などは進んでいない。臨床的に,ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia:PCP)の発症には,CD4+T細胞,肺胞マクロファージ,好中球およびこれらの細胞の産生する炎症性メディエータが関与していることがわかっている。リウマチ疾患患者においては,副腎皮質ステロイド薬,メトトレキサートがPCP の発症を誘発する。近年,生物学的製剤の投与によっても, PCP が発症することが明らかになっている。PMS を含めた生物学的製剤投与患者におけるPCP の発症率は0.2~0.3%であり,日本では実臨床の現場で結核の発症頻度より高い。PCP の発症は,小児期の早期にほとんどが抗体陽性となることから,結核菌と同様にいったん感染したPneumocystis が潜在感染状態となり,免疫抑制状態となったときに再燃発症すると考えられていた。しかし,近年の遺伝子解析によって,PCP の発症エピソードごとに異なる遺伝子型のPneumocystis によって発症すること13)14)などから,再感染発病であることが強く示唆されている。また,生物学的製剤によって発症するPCP はヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)感染患者に発症するPCP とは異なる病態であることが報告され,HIV 感染患者に比較して予後が不良である15)。また,生物学的製剤投与患者のPCP の発症頻度の増加には,コロナイゼーションの頻度の違いも指摘されており,生物学的製剤投与中にPneumocystis の定着が起こりやすい宿主側の環境となる可能性が示唆されている2)。 初期に発病する結核は1 次結核と呼ばれ,感染者の5%程度に起こると考えられている。症状,所見としては,胸部X 線の異常,排菌などを認めたときに結核症と診断され,治療の対象となる。BCG ワクチン接種による免疫賦与は,これら結核菌感染後の初期変化がリンパ行性,血行性に進展することを阻止することにより,主として小児の1 次結核の発病を抑制するとされる。成人が結核菌に感染した場合,小児に比べ免疫系が確立しているため,結核菌は肺野にとどまり増殖する。結核菌は分裂時間が長いため,結核症の発症は感染後3 カ月以降2 年以内となる。しかし,初感染で発病する人の割合は5%程度であり,残りの多くの場合は,成立した特異免疫によって肉芽に封じ込まれ,潜在結核となる。初感染を経て特異的細胞性免疫が成立した後にみられる成人の肺結核は,静菌状態の結核菌が冬眠状態から再び増殖した内因性再燃による発症である。結核菌に対する免疫が成立していると,強い防御反応が起こり,組織壊死から空洞を形成し,このとき結核菌は細胞外で爆発的に増殖し,気道と交通すると咳と痰とともに体外へ排菌をするようになり,他者への感染源となる。結核の空洞形成は感作された個体では死菌でも起こる5)ことから,免疫反応の関与が大きいと考えられており,これが治療によってかえって結核の病状が悪化する「初期悪化」の病態の一因と考えられている。一方,成人の肺結核発症において外来性再感染がどれだけ関連しているかについては明らかでないが,高齢者やHIV 感染者などのように免疫機能の低下がみられる場合や大量の菌の曝露があった場合は,外来性の再感染が発病に結びつくと考えられる。生物学的製剤投与時の結核の発症は生物学的製剤投与後3 カ月以内に起こることが多い6)ことから,多くの場合再感染ではなく,既存の潜在結核病巣からの再燃発症であると考えられている。TNF 阻害薬である生物学的製剤を投与すると肉芽の維持作用が破断し,肉芽によって閉じ込められていた結核菌が,再増殖し始めることによる再燃発症が起こる7)~12)。壊死部分が気道と交通すれば空洞が形成され,血管やリンパ管と交通すれば,全身へと感染病巣が広がっていく(図
推奨されている。生物学的製剤投与中の患者では,抗体の獲得について,正常と変わらないという報告18),減弱するという報告19),TNF 阻害薬とメトトレキサート併用群では減弱する20)など報告がなされており,いまだ一定した見解が得られていないが,生物学的製剤投与中でも肺炎球菌ワクチンの接種は無効であるとは言えず,必要な場合には積極的に接種すべきである。インフルエンザ菌のワクチンはHaemophilus influenzae type B(Hib)に対するワクチンであり,気道感染症を起こすnon-typable(無莢膜型)のH. influenzae には無効である。 2-4 ●レジオネラ肺炎最近,生物学的製剤に特異的に報告されている細菌性肺炎としては,重症のレジオネラ肺炎が注目されている21)~25)。レジオネラは,土壌やクーリングタワー,温泉などの水の中に生息し,エアロゾルとして肺胞まで吸入され,肺胞マクロファージや好中球中で増殖し,肺炎を引き起こす。したがって,結核菌と同様細胞内増殖菌である。レジオネラ肺炎は,TNF 阻害薬の投与によって発症の危険性が高くなることが指摘されており,たとえば,フランスからの報告では, TNF 阻害薬投与患者57,711 患者・年の観察で27 名のレジオネラ肺炎が発症し,一般人口との標準化罹患 2-3 ●細菌性肺炎生物学的製剤投与中の感染症としては,一般細菌による肺炎が最も高頻度である。細菌性肺炎は,肺胞内に侵入した細菌の増殖によって発症する。発症初期には好中球の浸潤が間に合わないため,肺胞内にうっ血した体液が肺胞孔を通過して隣の肺胞に流れていく(うっ血期)。24 時間以降には好中球が浸潤し,フィブリンの析出や好中球のDNAであるneutrophil extracellular traps(NETs)放出16)によって,肺炎の病変は限局されてくる。細菌の種類によっては壊死性となり,空洞形成,膿胸などが併発する。この病変局所への好中球の集積にはTNF, IL-1,IL-6,IL-8 等のサイトカインが重要な役割を担っており,例えばTNF は,局所の血管の透過性亢進血液中の単球や好中球の血管外へ移行,感染局所に集積を誘導する重要なサイトカインである。そのため,生物学的製剤投与下では感染症のなかでも細菌性肺炎の発症頻度が最も高く,重症化もしやすいと考えられる。原因となる細菌は,肺炎球菌,インフルエンザ菌,マイコプラズマ,黄色ブドウ球菌,クラミジアなど一般の肺炎の原因菌と同じであるが,生物学的製剤投与中の患者は医療関連肺炎として薬剤耐性菌,特に緑膿菌の関与も考慮する必要がある17)。細菌性肺炎の予防として肺炎球菌ワクチンの接種が TNF-α IFN-γ T 細胞 図4 潜在結核の再燃発症肉芽腫の中に囲い込まれていた結核菌が,TNF 阻害薬の影響で再活性化し結核症を発症する。 冬眠状態の結核菌をマクロファージとリンパ球が取り囲み,周囲は線維化する肉芽腫 肉芽が破たんし,結核菌が再活性化し,増殖し,組織から気道や血管に浸潤する TNF-α IFN-γ T 細胞
呼吸器の感染症として,特に生物学的製剤使用時に特異的に注意が必要な傾向は報告されていない。しかし,基礎に併用しているメトトレキサートや副腎皮質ステロイド薬の作用のため,サイトメガロウイルスやアスペルギルスによる呼吸器感染症は常に念頭に置いて診療すべきである。 おわりに 先にも述べたごとく,より正確な生物学的製剤と呼吸器合併症の関係を明らかにするには,わが国における健常人,生物学的製剤を使用していない患者,生物学的製剤を使用している患者,疾患,性別,年齢,居住地などの背景因子に基づく比較疫学が行われることが条件となる。しかし,臨床疫学的なデータ,および免疫学的な機序から,呼吸器感染症がより起こりやすくなっていることは明らかな事実であり,そのことを理解したうえで,生物学的製剤を使用し,感染症の発症を予期した診療を行うことで,予防や早期発見につながるものと期待される。 比(standardized incident ratio:SIR)は13.1(95%信頼区間:9.0 ─19.1,p<0.0001)であったと報告されている26)。治療において留意しておかなければならない点は,レジオネラは,細胞内増殖細菌のため,臨床で汎用されるペニシリン系,セフェム系,カルバペネム系などのβ─ラクタム系抗菌薬はいずれも細胞内に移行しにくいため無効であるという点である。レジオネラに対しては,細胞内移行の良好なマクロライド系,フルオロキノロン系を選択しなければ,重症肺炎となり,致死的となる。このため,生物学的製剤投与下の細菌性肺炎の発症を疑う場合,初期治療時の経験的抗菌薬選択には,マクロライド系やニューキノロン系抗菌薬の併用を行いレジオネラを考慮した選択が推奨される。レジオネラ肺炎の診断には尿中抗原キットが有用であるが,これはレジオネラ肺炎の原因の約半数を占めるLegionella pneumophila 血清型別1 のみしか検出できず,その他の血清型別のレジオネラは検出できないため,尿中抗原陰性であっても否定はできない。 2-5 ●その他呼吸器感染症ウイルスおよびPCP を除く真菌感染症については 1 )American Thoracic Society and Infectious Diseases Society of America. Guidelines for the management of adults with hospital-acquired, ventilator-associated, and healthcare-associated pneumonia. Am J Respir Crit Care Med 2005 ; 171 : 388 ─416. 2 )Wissmann G, Morilla R, Martín ─Garrido I, et al. Pneumocystis jirovecii colonization in patients treated with infliximab. Eur J Clin Invest 2011 ; 41 : 343 ─8. 3 )平成23 年厚生労働省の結核登録者情報調査年報集計.(http://www.pref.shimane.lg.jp/life/yakuji/kansensyo/kansen/ stoptb/index.data/H23nenpou.pdf) 4 )Cooper AM. Cell-mediated immune responses in tuberculosis. Annu Rev Immunol 2009 ; 27 : 393 ─422. 5 )Yamamura Y. The pathogenesis of tuberculous cavities. Advn Tuberc Res 1958 ; 9 : 13 ─37. 6 )Keane J, Gershon S, Wise RP, et al. Tuberculosis associated with infliximab, a tumor necrosis factor alpha-neutralizing agent. N Engl J Med 2001 ; 345 : 1098 ─104. 7 )Ehlers S. Role of tumour necrosis factor (TNF) in host defence against tuberculosis : implications for immunotherapies targeting TNF. Ann Rheum Dis 2003 ; 62 : ii37 ─42. 8 )Gardam MA, Keystone EC, Menzies R, et al. Anti-tumour necrosis factor agents and tuberculosis risk : mechanisms of action and clinical management. Lancet Infect Dis 2003 ; 3 : 148 ─55. 9 )Ehlers S. Tumor necrosis factor and its blockade in granulomatous infections : differential modes of action of infliximab and etanercept? Clin Infect Dis 2005 ; 41 : S199 ─203. 10)Jacobs M, Samarina A, Grivennikov S, et al. Reactivation of tuberculosis by tumor necrosis factor neutralization. Eur Cytokine Netw 2007 ; 18 : 5 ─13. 11)Miller EA, Ernst JD. Anti-TNF immunotherapy and tuberculosis reactivation : another mechanism revealed. J Clin Invest 2009 ; 119 : 1079 ─82. 12)Solovic I, Sester M, Gomez ─Reino JJ, et al. The risk of tuberculosis related to tumour necrosis factor antagonist 文献
therapies : a TBNET consensus statement. Eur Respir J 2010 ; 36 : 1185 ─206. 13)Keely SP, Stringer JR, Baughman RP, et al. Genetic variation among Pneumocystis carinii hominis isolates in recurrent pneumocystosis. J Infect Dis 1995 ; 172 : 595 ─8. 14)Zicklerova I, Uzlikova M, Nohynkova E. Molecular evidence of Pneumocystis jirovecii reinfection in a haemato-oncology patient. Scand J Infect Dis 2012 ; 44 : 705 ─7. 15)Mori S, Sugimoto M. Pneumocystis jirovecii infection : an emerging threat to patients with rheumatoid arthritis. Rheumatology (Oxford) 2012 ; 51 : 2120 ─30. 16)Brinkmann V, Reichard U, Goosmann C, et al. Neutrophil extracellular traps kill bacteria. Science 2004 ; 303 : 1532 ─5. 17)日本呼吸器学会医療・介護関連肺炎診療ガイドライン作成員会.医療・介護関連肺炎診療ガイドライン.東京:日本呼吸 器学会,2012. 18)Kaine JL, Kivitz AJ, Birbara C, et al. Immune responses following administration of influenza and pneumococcal vaccines to patients with rheumatoid arthritis receiving adalimumab. J Rheumatol 2007 ; 34 : 272 ─9. 19)Visvanathan S, Keenan GF, Baker DG, et al. Response to pneumococcal vaccine in patients with early rheumatoid arthritis receiving infliximab plus methotrexate or methotrexate alone. J Rheumatol 2007 ; 34 : 952 ─7. 20)Kapetanovic MC, Roseman C, Jönsson G, et al. Antibody response is reduced following vaccination with 7-valent conjugate pneumococcal vaccine in adult methotrexate-treated patients with established arthritis, but not those treated with tumor necrosis factor inhibitors. Arthritis Rheum 2011 ; 63 : 3723 ─32. 21)Li Gobbi F, Benucci M, Del Rosso A. Pneumonitis caused by Legionella pneumoniae in a patient with rheumatoid arthritis treated with anti-TNF-alpha therapy (infliximab). J Clin Rheumatol 2005 ; 11 : 119 ─20. 22)Tubach F, Ravaud P, Salmon ─Céron D, et al. Emergence of Legionella pneumophila pneumonia in patients receiving tumor necrosis factor-alpha antagonists. Clin Infect Dis 2006 ; 43 : 95 ─100. 23)Mancini G, Erario L, Gianfreda R, et al. Tuberculosis and Legionella pneumophila pneumonia in a patient receiving anti- tumour necrosis factor-alpha (anti-TNF-alpha) treatment. Clin Microbiol Infect 2007 ; 13 : 1036 ─7. 24)Beigel F, Jürgens M, Filik L, et al. Severe Legionella pneumophila pneumonia following infliximab therapy in a patient with Crohn’s disease. Inflamm Bowel Dis 2009 ; 15 : 1240 ─4. 25)Hofmann A, Beaulieu Y, Bernard F, et al. Fulminant legionellosis in two patients treated with infliximab for Crohn’s disease : case series and literature review. Can J Gastroenterol 2009 ; 23 : 829 ─33. 26)Dellamonica P, Bretagne S, Couret M, et al. Incidence and risk factors of Legionella pneumophila pneumonia during anti-TNF therapy : a prospective French study. Chest 2013(Epub ahead of print).
II 細菌感染症 附 トシリズマブ使用下の急性肺感染症,まれに見られる特異な病像1 2 3 4 5 各論 生物学的製剤が使用される関節リウマチ関連以外の疾患と呼吸器合併症 間質性肺炎 ニューモシスチス肺炎 抗酸菌感染症a. 結核症 b. 非結核性抗酸菌症
各論1 はじめに 生物学的製剤の副作用は,いずれの薬剤でも頻度が高い重篤副作用の第1 位が感染症である1)~9)。感染症発現部位はいずれの薬剤も呼吸器が最多であり,次いで皮膚・軟部組織が多い。つまり,呼吸器感染症が生物学的製剤の最も重要な副作用である。また,頻度の高さのみならず,直接死因になっているという点においても重篤な副作用である。そのため生物学的製剤投与例の肺炎の発症率低下(予防)・死亡率低下を図る必要がある。予防法として,肺炎発症リスク因子を複数有する症例では慎重に投与すること,ワクチン接種,生物学的製剤の効果発現後速やかに併用副腎皮質ステロイド薬を減量・中止することが挙げられる。また,肺炎の死亡率低下のため,治療薬としては一般細菌のみならず非定型病原体もカバーする薬剤を選択し,インフルエンザ流行期ではインフルエンザについても特段の配慮を行う。本項では細菌感染症について述べる。 Q1 RA 患者の注意すべき細菌感染症は? RA 患者には肺炎が多いか? 生物学的製剤を投与するとさらに頻度が増すか? 肺炎,肺膿瘍,膿胸,気管支拡張症急性増悪に注意する10)。関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)患者は一般人と比較して肺炎の頻度が高いことがコホート研究で明らかにされている11)。また,TNF A1阻害薬投与により重症感染症の頻度が増すことも明ら かにされている12)。一方,肺炎に限定してその頻度が増すかを検討した報告は多くなく,いまだ一致した見解は得られていない13)14)。 1 ●RA 患者と感染症RA 患者では,肺炎ならびに骨・関節・皮膚・軟部組織の感染が約2 倍高いことが1955~1994 年のコホート研究で示されている11)。コホートの40 年間のいずれの10 年単位でも感染症の頻度が高いことから,投与された薬剤の影響のみでなく,RA の存在そのもの(免疫反応の変容・活動性の低下・皮膚欠損などが関与)が感染のリスクを高めていると推察されている。 2 ●RA 患者の呼吸器細菌感染RA 患者の呼吸器感染症の内訳を検討した報告は限られている。呼吸器感染症を合併したRA 患者149 例の検討では,肺炎46 例(30.9%),肺膿瘍9 例(6.0%),気管支拡張症急性増悪7 例(4.7%),膿胸4 例(2.7%)であった10)。その他は抗酸菌症と真菌症である。 3 ●生物学的製剤投与例における死因としての肺炎の頻度日本の生物学的製剤を投与していないRA 患者の死因に占める肺炎の頻度は12.1%であるが,生物学的製剤投与例ではその頻度が21.1%に上昇し,一般人と比較すると肺炎の標準化死亡比が4.19 である15)。生物学的製剤投与例では,肺炎は頻度が高いのみならず死 細菌感染症 Q1 RA 患者の注意すべき細菌感染症は? RA 患者には肺炎が多いか? 生物学的製剤を投与するとさらに頻 度が増すか? Q2 RA 患者の肺炎治療:初期対応,特に重症例に対する初期対応は? Q3 RA 患者の肺膿瘍,膿胸,気管支拡張症急性増悪の初期対応は? Q4 RA 患者の肺感染症の危険因子は何か? 予防は可能か? Q5 感染終息後に生物学的製剤は使用再開できるか?
亡原因にもなっている。 Q2 RA 患者の肺炎治療:初期対応, 特に重症例に対する初期対応は? 重症度判定を迅速に行い,入院の必要性,集中治療室管理の必要性を判断する。一般細菌と非定型病原体の両方をカバーする抗菌薬を投与する。インフルエンザ流行期では迅速診断キットで検査を行い,陽性例では抗インフルエンザ薬を併用する。インフルエンザ肺炎例では個室管理を原則とする。 1 ●肺炎患者に対する初期対応まず肺炎の診断を行う。抗酸菌症(結核,非結核性抗酸菌症),真菌症(ニューモシスチス肺炎,アスペルギルス症,クリプトコッカス症など),薬剤性肺炎, RA 固有病変としての間質性肺炎などの可能性がないかを考慮する(図1)。そのうえで肺炎が疑われる場合,入院の必要性を判断する。 2 ●重症度判定入院の決定は重症度判定と社会的適応を考えて慎重 A2に行う。重症度判定は日本呼吸器学会(JRS)成人市中 肺炎診療ガイドライン(2005 年)のA-DROP システムを用いる(表)。1男性70 歳以上,女性75 歳以上,2 BUN 21mg/dl 以上または脱水あり,3SpO2 90%以下(PaO2 60Torr 以下),4意識障害,5血圧(収縮期) 90mmHg 以下の5 項目中,軽症は0 項目,中等症は1 または2 項目,重症は3 項目,超重症は4 または5項目満たす場合に判定される。ただし,ショックがあれば超重症と判定する。A-DROP システムの中等症は外来または入院治療を総合的に判断するとされているが,生物学的製剤投与例では急速に肺炎が悪化する例があるため,中等症以上は改善が得られるまで入院管理を行うことを推奨する。 3 ●想定すべき原因菌RA 患者の肺炎の原因菌が非RA 患者と異なるかは明らかにされておらず,緑膿菌の頻度が高い可能性が指摘されているのみである10)。生物学的製剤が投与されているRA 患者の肺炎の原因菌についても生物学的製剤が投与されていないRA 患者と異なっているかどうかは検討されていない。生物学的製剤の投与場所は大多数が外来または自宅である。生物学的製剤には免 図1 生物学的製剤投与中における発熱,咳,呼吸困難に対するフローチャート(関節リウマチに対するTNF 阻害薬・トシリズマブ・アバタセプト使用ガイドラインを一部改定) 発熱,咳嗽,呼吸困難(PaO2,SpO2 の低下) 胸部X 線,CT,身体所見,臨床検査 生物学的製剤いったん中止 細菌性肺炎または結核 薬剤性肺炎,リウマチ肺などニューモシスチス 肺炎(PCP) PCP 以外の非定型肺炎 実質性陰影間質性陰影 呼吸器内科医,放射線専門医の読影 すべて陰性喀痰培養,血液培養抗酸菌染色・培養 抗菌薬治療が無効ないし悪化で病原体不明 β─D─グルカン,PCRおよびほかの病原体すべて陰性β─D─グルカンまたはPCR 陽性β─D─グルカン, PCR とも陰性ほかの病原体検査で陽性 いずれかで陽性血中β─D─グルカン測定,可能なら誘発喀痰ないしBAL でPneumocystis菌体染色・PCR,インフルエンザ,マイコプラズマ,クラミジア,レジオネラの検査
速診断キットを用いて肺炎例すべてにインフルエンザ感染を調べる。トシリズマブ(tocilizumab:TCZ)投与中の肺炎のみが月別の肺炎数が集計されているが,実に1~3 月の3 カ月間に45%の患者が集中している4)。人工呼吸器管理や循環管理が必要ならば集中治療室で管理する。一般病棟入院例でもインフルエンザ肺炎例は個室管理とする。治療管理場所と緑膿菌リスク因子ありの有無でA~D 群の4 群に分類する。いずれの群に分類されても,インフルエンザ迅速診断キット陽性例では抗インフルエンザ薬の投与を行う。 5 ●A 群:外来治療症例既存肺疾患のない軽症例のみが対象である。肺炎球菌などの一般細菌と肺炎マイコプラズマを中心とした非定型病原体の両方をカバーする薬剤を投与する。 6 ●B 群:緑膿菌リスク(-)入院症例緑膿菌リスクのない中等症から重症の患者が対象となる。肺炎球菌などの一般細菌と非定型病原体の両方をカバーする薬剤を投与する。抗緑膿菌作用のないβ─ラクタム系薬とマクロライド系薬の組み合わせか注射用レボフロキサシン(levofloxacin:LVFX)を投与する。 7 ●C 群:緑膿菌リスク(+)入院症例緑膿菌リスクのある中等症から重症の患者が対象となる。肺炎球菌などの一般細菌,緑膿菌と非定型病原体をカバーする薬剤を投与する。抗緑膿菌作用のあるβ─ラクタム系薬とマクロライド系薬の組み合わせか, 疫抑制作用があるため投与例に発症した肺炎は市中肺炎ではなく医療・介護関連肺炎に分類される。しかし,耐性菌の占める頻度,非定型病原体の占める割合などは明らかにされていない。欧米では細胞内寄生菌であるレジオネラはTNF 阻害薬投与例の重要な原因菌であると報告されている16)17)。日本のアダリムマブ(adalimumab:ADA)投与例でも104 例の肺炎で原因菌が明らかなのは7 例のみであるが3 例がレジオネラ肺炎であった8)。想定すべき原因菌は,肺炎球菌,インフルエンザ桿菌,黄色ブドウ球菌,モラクセラ,クレブシエラ,緑膿菌などの一般細菌と肺炎マイコプラズマ,レジオネラ,肺炎クラミジアなどの非定型病原体,ならびにインフルエンザウイルスである。90 日以内に抗菌薬の投与を受けた既往があるか既存肺疾患が存在すれば緑膿菌リスクありと判定する。生物学的製剤は介護施設に入っている患者や経管栄養を受けている患者には多くの場合使用されていない。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylococcus aureus: MRSA)が検出された症例では生物学的製剤を投与されることは少ないと考えられ,想定すべき原因菌には含めない。ただし,MRSA が検出されている患者に投与した場合は想定に含める。一般病棟入院患者は緑膿菌のリスク因子の有無で2 群に分類し,重症・超重症例で人工呼吸器管理や集中治療室管理を要する場合は緑膿菌を含むすべての原因菌を想定する。 4 ●肺炎診断後のフローチャート(図2)院内感染対策も含め,インフルエンザ流行期では迅 表 日本呼吸器学会成人市中肺炎診療ガイドラインにおける重症度 分類(A-DROP 分類)─身体所見,年齢による肺炎の重症度分類─使用する指標A(Age):男性70 歳以上,女性75 歳以上D(Dehydration):BUN21mg/dl 以上,または脱水ありR(Respiration):SpO2 90%(≒PaO2 60Torr)以下O(Orientation):意識障害ありP(Blood Pressure):血圧(収縮期)90mmHg 以下重症度分類と治療の場の関係(生物学的製剤投与例に限定)軽 症:上記5 つの項目のいずれも満足しないもの→外来治療中等症:上記項目の1 つまたは2 つを有するもの→入院治療重 症:上記項目の3 つを有するもの→入院治療またはICU 入院超重症:上記項目の4 つまたは5 つを有するもの→ICU 入院ただし,ショックがあれば1 項目のみでも超重症とする治療の場は一部改訂。
Q3 RA 患者の肺膿瘍,膿胸,気管支 拡張症急性増悪の初期対応は? 臨床像と胸部CT で上記3 疾患を疑う。肺膿瘍,気管支拡張症急性増悪では抗菌薬投与前に喀痰の検査を行う。膿胸では胸水の検査を行う。以下に示す頻度の高い原因菌を想定して抗菌薬を開始する(図3)。 1 ●肺膿瘍の診断と治療発熱・喀痰があり,肺に空洞性病変を認めた場合肺膿瘍を疑う。結核・クリプトコッカス症・肺癌などとの鑑別のため,一般細菌・放線菌・ノカルジアを目的とした喀痰検査に加え,抗酸菌・真菌培養,インターフェロン─γ遊離試験キット(クオンティフェロンR TB,T ─スポットRTB)検査,クリプトコッカス抗原測定,喀痰細胞診,腫瘍マーカー測定などを追加し,鑑別診断困難例では気管支鏡検査も考慮する。空洞が A3 注射用ニューキノロン系薬とスルバクタム/アンピシリン(sulbactam:SBT/ampicillin:ABPC)の組み合わせを投与する。 8 ●D 群:重症・超重症で集中治療室管理を要する症例日本の超重症肺炎(現在の市中肺炎+医療・介護関連肺炎)の原因菌としては,インフルエンザウイルス,肺炎球菌,レジオネラ,緑膿菌の順であったと報告されている18)。生物学的製剤投与例での検討はなされていない。インフルエンザ迅速診断キット陽性であれば抗インフルエンザ薬の注射剤と上記3 菌種をカバーする抗菌薬を選択する。タゾバクタム/ピペラシリン(tazobatam:TAZ/piperacillin:PIPC),抗緑膿菌性カルバペネム系薬または抗緑膿菌性セフェム系薬のいずれか1 つと注射用ニューキノロン系薬または注射用アジスロマイシン(azithromycin:AZM)を投与する。 図2 生物学的製剤投与中の肺炎における抗菌薬選択の実際AMPC/CVA:アモキシシリン/クラブラン酸, SBTPC:スルタミシリン, CAM:クラリスロマイシン, AZM:アジスロマイシン, GRNX:ガレノキサシン, MFLX:モキシフロキサシン, LVFX:レボフロキサシン, CTRX:セフトリアキソン, SBT / ABPC:スルバクタム/アンピシリン, PAPM/BP:パニペネム/ベタミプロン, TAZ/PIPC:タゾバクタム/ピペラシリン, IPM / CS:イミペネム/ シラスタチン, MEPM:メロペネム, DRPM:ドリペネム, CFPM:セフェピム, CPR:セフピロム, CPFX:シプロフロキサシン, PZFX:パズフロキサシン。 肺炎診断:インフルエンザ流行期では迅速診断キットで検査を行い陽性なら下記薬剤に抗インフルエンザ薬を加える CTRX+マクロライド系薬(CAM or AZM) TAZ/PIPC+マクロライド 系薬(CAM or AZM) 抗緑膿菌性カルバペネム系薬(IPM/CS, MEPM or DRPM)+マクロライド系薬 (CAM or AZM) TAZ/PIPC 抗緑膿菌性カルバペネム系薬(IPM/CS, MEPM or DRPM) 抗緑膿菌性セフェム系薬(CFPM or CPR) ニューキノロン系薬(CPFX or PZFX) or 注射用AZM 抗緑膿菌性セフェム系薬(CFPM or CPR) +マクロライド系薬(CAM or AZM) ニューキノロン系薬(CPFX or PZFX) + SBT/ABPC SBT/ABPC+マクロライド系薬(CAM or AZM) PAPM/BP+マクロライド系薬(CAM or AZM) 注射用LVFX ●過去90 日以内に抗菌薬の投与がなく,既存肺疾患のない場合は,緑膿菌のリスクなし群と判断。 AMPC/CVA or SBTPC +マクロライド系薬(CAM or AZM) CTRX +マクロライド系薬(CAM or AZM) GRNX,MFLX or LVFX A群:外来治療B群:入院緑膿菌リスク(-) C群:入院緑膿菌リスク(+) D群:入院 重症で,人工呼吸器装着などの集中治療を考慮する状況 なしあり or or or or or + or or or or or
ことが多い。 2 ●膿胸の診断と治療発熱,胸痛などで受診し胸水を認めた場合に膿胸を疑う。RA 患者に胸水を認めた場合,RA に伴う胸膜炎,結核性胸膜炎や癌性胸膜炎などとの鑑別を行うため胸水検査を行う。胸水が肉眼的に膿性であるか,細菌が培養されれば膿胸と診断する。市中感染型の膿胸の原因菌としては,連鎖球菌属,嫌気性菌,ブドウ球菌が上位3 菌種であると報告されている。膿胸では胸腔ドレナージに加えスルバクタム/アンピシリンの投与を行う。難治例や超音波検査で胸水内に隔壁が形成されている場合は,内科的または外科的胸腔鏡を考慮し,これらの処置が可能な施設にコンサルトする。胸水から培養された細菌の薬剤感受性を確認し,スルバクタム/アンピシリンが無効であれば薬剤を変更する。 多発している場合には敗血症性肺塞栓症やノカルジア症などとの鑑別を要する。肺膿瘍の上位3 菌種は連鎖球菌属,嫌気性菌,Gemella 属であり,いずれも口腔内常在細菌である19)。一方,RA 患者の肺膿瘍の原因菌を検索した報告は9 例が集計されているのみであり10),上記3 菌種以上にクレブシエラと緑膿菌が多かったと報告されている。すなわち,肺膿瘍では既存肺疾患・糖尿病・アルコール多飲など緑膿菌やクレブシエラのリスクがあれば,タゾバクタム/ピペラシリンまたは抗緑膿菌性カルバペネム系薬であるイミペネム/シラスタチン(imipenem/IPM:cilastatin/CS),メロペネム(meropenem:MEPM),ドリペネム(doripenem: DRPM)を投与し,これらのリスク因子がなければスルバクタム/アンピシリンの投与を行う。治療薬で反応が得られず,喀痰検査でも原因菌が判明しない場合は気管支鏡検査や超音波ガイド下またはCT ガイド下生検で原因菌の確認を行う。2~3 週間の治療で改善後に再発した場合は放線菌やノカルジアが原因である 図3 生物学的製剤投与中の肺膿瘍・膿胸・気管支拡張症急性増悪における抗菌薬選択の実際と,改善が得ら れない場合の対処法肺膿瘍,膿胸,気管支拡張症急性増悪 疑い例 空洞性の病変あり肺膿瘍と診断鑑別:結核,クリプトコッカス症,肺癌など。多発空洞:敗血症性肺塞栓症やノカルジアも考慮喀痰培養検査:一般細菌,放線菌,ノカルジア,結核,真菌も培養する 難治例・再発例では,気管支鏡検査・針生検で原因菌を確認する。初期治療で改善し,中止後再発例では長期治療を要する放線菌・ノカルジアを考慮する。初期治療で改善が得られなければ,胸腔鏡下(内科的,外科的)治療を考慮する。培養菌の薬剤感受性を確認して抗菌薬を変更する。難治性では,培養菌の薬剤感受性を確認して抗菌薬を変更する。 胸水検査で膿胸と診断鑑別:RA 胸膜炎,結核性胸膜炎,癌性胸膜炎など。胸水培養検査:好気性菌,嫌気性菌,結核菌も培養する。気管支拡張症の画像診断に加え,発熱,膿性喀痰あるが,肺炎なしで診断。培養検査:生物学的製剤投与前に喀痰培養を行っておき,菌の種類と薬剤感染症を確認しておく。急性増悪時,抗菌薬投与前に喀痰培養を必ず実施する。 既存肺病変(-)糖尿病(-)アルコール多飲(-) 連鎖球菌属,嫌気性菌,Gemella 属を考慮 SBT/ABPC SBT/ABPC TAZ/PIPC or抗緑膿菌性カルバペネム系薬(IPM/CS, MEPM,DRPM) 左記の細菌に加えクレブシエラ,緑膿菌も考慮する胸腔ドレナージを考慮 連鎖球菌属,嫌気性菌,ブドウ球菌を考慮緑膿菌,インフルエンザ桿菌を考慮 TAZ/PIPC or抗緑膿菌性カルバペネム系薬(IPM/CS,MEPM,DRPM) orニューキノロン系薬(LVFX,CPFX,PZFX) 既存肺病変 or糖尿病 orアルコール多飲あり SBT/ABPC:スルバクタム/ アンピシリン,TAZ/PIPC:タゾバクタム/ ピペラシリン,IPM/CS:イミペネム/ シラスタチン, MEPM:メロペネム,DRPM:ドリペネム,LVFX:レボフロキサシン,CPFX:シプロフロキサシン,PZFX:パズフロキサシン。
3 ●気管支拡張症急性増悪の診断と治療膿性喀痰,発熱などで受診した患者の画像所見で気管支拡張症はあるが肺炎がない場合に気管支拡張症急性増悪と診断する。気管支拡張症急性増悪では緑膿菌やインフルエンザ桿菌などを想定するが,RA 患者の気管支拡張症急性増悪7 例の原因菌はすべて緑膿菌であったと報告されている10)。気管支拡張症急性増悪では抗緑膿菌活性のある抗菌薬の投与を行う。難治例では入院時の喀痰から培養された細菌の薬剤感受性を確認し薬剤を変更する。 Q4 RA 患者の肺感染症の危険因子は 何か? 予防は可能か? 高齢・既存肺疾患・副腎皮質ステロイド薬併用・Steinbrocker 病期分類III期以上などが生物学的製剤投与RA 患者の肺炎の危険因子である。インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンで感染率・感染症発症率・重症化率を低下させることが可能かもしれない。日本の各種生物学的製剤ガイドラインは,インフルエンザワクチンは可能な限り接種すべきであり,肺炎球菌ワクチン接種も考慮すべきであると記載している。 1 ●生物学的製剤投与例の肺炎の危険因子生物学的製剤投与例での肺炎危険因子が明らかにされている。インフリキシマブ(infliximab:IFX)では男性・高齢・Steinbrocker 病期分類がIII期以上,既存肺疾患ありである。エタネルセプト(etanercept: ETN)では男性・高齢・既存肺疾患あり・非重篤感染症合併あり・副腎皮質ステロイド薬併用ありである。アダリムマブでは65 歳以上・既存肺疾患あり・Steinbrocker 病期分類がIII期以上である。トシリズマブでは重篤な呼吸器感染症の危険因子は男性・体重40kg 未満・罹病期間10 年以上,既存肺疾患ありである。アバタセプト(abatacept:ABA)を慢性閉塞性肺疾患のある患者に投与すると,慢性閉塞性肺疾患の増悪や気管支炎を含む重篤な副作用が発現するリスクが増加する。日本のアバタセプト使用ガイドラインは慢性閉塞性肺疾患患者には十分に注意しながら投与することを推奨している。 A4 2 ●肺膿瘍・膿胸・気管支拡張症急性増悪の危険因子 市中感染型の肺膿瘍の基礎疾患は,多い順に歯周病,糖尿病,アルコール多飲である19)。膿胸の危険因子としてはアルコール多飲,糖尿病,悪性腫瘍,誤嚥傾向などが知られている。気管支拡張症の急性増悪は感冒を契機とすることが多い。 3 ●生物学的製剤投与例における肺感染症予防肺炎はリスク因子が明らかにされているので,リスク因子が複数存在する症例には生物学的製剤を慎重に投与する。病院受診時や人混みに出かけるときはマスクを着用し,帰宅時は手洗い・うがいを行う。歯周病のある患者ではその治療を先行し,以後口腔ケアに努める。慢性副鼻腔炎がある症例もその治療を先行する。糖尿病のコントロールも厳重に行う。アルコールは適量にし,禁煙を指導する。日本の各種生物学的製剤使用ガイドラインは,インフルエンザワクチンは可能な限り接種すべきであり,肺炎球菌ワクチン接種も考慮すべきであると記載している。また,感染症のリスク軽減のため生物学的製剤が有効な場合は,副腎皮質ステロイド薬の減量・中止を推奨している。これらの予防策をとっても完全に発症を抑えることは困難である。危険因子を有する症例に投与した場合は,感染症の早期発見に努める。生物学的製剤投与下の感染症は開始後6 カ月以内に多いことが明らかにされている。咳嗽・喀痰・発熱・倦怠感などを訴えた場合は胸部X 線撮影とSpO2 の測定を行い,早期発見に努める。 Q5感染終息後に生物学的製剤は 使用再開できるか? 肺炎・肺膿瘍治癒後に生物学的製剤の使用は可能である。しかし,既存肺疾患があり再投与で肺炎を繰り返した場合は投与を控える。膿胸症例でも膿胸腔が消失していれば再投与可能であるが,胸膜肥厚を伴った残存腔がある場合は慎重に投与する。気管支拡張症急性増悪例で治療後も咳嗽,喀痰が残存し,制御困難な慢性下気道感染症と判定される場合は投与には慎重であるべきである。 A5
投与がRA 患者の肺炎重症化や死亡率の高さに寄与しているかなどは明らかにされていない。今後,特に耐性菌の関与する頻度やその危険因子,インフルエンザ肺炎やレジオネラ肺炎などの頻度などを明らかにし,推奨治療のフローチャートを改定していきたい。 おわりに 生物学的製剤投与RA 患者は肺炎の頻度が高いのみならず,死亡原因としても肺炎の頻度が高いことが明らかにされている。一方,RA 患者の肺炎・生物学的製剤投与例に発症した肺炎の原因菌や,生物学的製剤 1 )Takeuchi T, Tatsuki Y, Nogami Y, et al. Postmarketing surveillance of the safety profile of infliximab in 5000 Japanese patients with rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis 2008 ; 67 : 189 ─94. 2 )Koike T, Harigai M, Inokuma S, et al. Postmarketing surveillance of the safety and effectiveness of etanercept in Japan. J Rheumatol 2009 ; 36 : 898 ─906. 3 )Koike T, Harigai M, Ishiguro N, et al. Safety and effectiveness of adalimumab in Japanese rheumatoid arthritis patients : postmarketing surveillance report of the first 3,000 patients. Mod Rheumatol 2012 ; 44 : 498 ─508. 4 )Nishimoto N, Ito K, Takagi N. Safety and efficacy profiles of tocilizumab monotherapy in Japanese patients with rheumatoid arthritis : meta-analysis of six initial trials and five long-term extensions. Mod Rheumatol 2010 ; 20 : 222 ─32. 5 )Koike T, Harigai M, Inokuma S, et al. Postmarketing surveillance of tocilizumab for rheumatoid arthritis in Japan : interim analysis of 3881 patients. Ann Rheum Dis 2011 ; 70 : 2148 ─51. 6 )田辺三菱製薬.レミケード.関節リウマチ使用成績調査(全例調査)報告書,2012. 7 )ファイザー,武田薬品工業.エンブレル適正使用情報Vol 9.全例調査結果について,2010. 8 )アボットジャパン,エーザイ.ヒューミラ適正使用情報.7740 例最終報告概要Vol 7,2012. 9 )中外製薬.アクテムラ全例調査最終報告「関節リウマチ」「多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎」. 10)高柳 昇,土屋 裕,徳永大道,ほか.関節リウマチに合併した肺感染症の検討.日呼吸会誌2007;45:465 ─73. 11)Doran MF, Crowson CS, Pond GR, et al. Frequency of infection in patients with rheumatoid arthritis compared with controls : a population-based study. Arthritis Rheum 2002 ; 46 : 2287 ─93. 12)Komano Y, Tanaka M, Nanki T, et al. Incidence and risk factors for serious infection in patients with rheumatoid arthritis treated with tumor necrosis factor inhibitors : a report from the Registry of Japanese Rheumatoid Arthritis Patients for Longterm Safety. J Rheumatol 2011 ; 38 : 1258 ─64. 13)Listing J, Strangfeld A, Kary S, et al. Infections in patients with rheumatoid arthritis treated with biologic agents. Arthritis Rheum 2004 ; 52 : 3403 ─12. 14)Hoshi D, Nakajima A, Inoue E, et al. Incidence of serious respiratory infections in patients with rheumatoid arthritis treated with tocilizumab. Mod Rheumatol 2012 ; 22 : 122 ─7. 15)Nakajima A, Saito K, Kojima T, et al. No increased mortality in patients with rheumatoid arthritis treated with biologics : results from the biologics register of six rheumatology institutes in Japan. Mod Rheumatol 2013 ; 23 : 945 ─52. 16)Hansen RA, Gartlehner G, Powell GE, et al. Serious adverse events with infliximab : analysis of spontaneously reported adverse events. Clin Gastroenterol Hepatol 2007 ; 5 : 729 ─35. 17)Tubach F, Ravaud P, Salmon ─Céron D, et al. Emergence of Legionella pneumophila pneumonia in patients receiving tumor necrosis factor-α antagonists. Clin Infect Dis 2006 ; 43 : e95 ─100. 18)高柳 昇,原健一郎,徳永大道,ほか.市中肺炎入院症例の年齢別・重症度別原因微生物と予後.日呼吸会誌2006; 44:906 ─15. 19)Takayanagi N, Kagiyama N, Ishiguro T, et al. Etiology and outcome of community-acquired lung abscess. Respiration 2010 ; 80 : 98 ─105. 文献
各論1 はじめに 生物学的製剤の中で,抗IL-6 受容体抗体トシリズマブ(tocilizumab:TCZ)は,関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)に対して先行のTNF阻害薬に劣らぬ疾患活動性抑制効果を示し,今やほかの生物学的製剤とまったく同等の位置づけでRA治療の現場に広く導入されつつある1)。安全性についてはわが国の市販後調査(7,901 例)を通じてデータが集積され,副作用として感染症が最も重要な有害事象であることが明らかとなっている2)。呼吸器感染症についてみると,肺炎,ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia:PCP)などの発症率はほかのTNF 阻害薬とほぼ同率であり,一方,結核症の発症は低率である。またもう一つの重篤な合併症としての間質性肺炎も他剤と同等の頻度でみられる。トシリズマブ使用患者の標準化死亡比は1.15であり,国内の代表的RA コホートであるIORRAのデータと変わるものではなく,安全性においてほかの薬剤と異なるところはないとされる3)。しかしその一方でほかの製剤にはない特異な事象として,電撃的な経過で呼吸不全あるいは循環虚脱を呈する例がいくつか報告されており4)~6),トシリズマブの作用機序との関連において関心が寄せられている。トシリズマブ使用中のRA 患者に,重症呼吸器感染症およびショックを呈し集中治療を要した症例6)を提示し,この問題を考察する。 症 例 症例:72 歳,女性。RA 罹患歴21 年。RA のStage III。現病歴:RA に対してメトトレキサート(methotrexate:MTX)4mg/週,プレドニゾロン(prednisolone:PSL)5mg/日などで治療されていた。入院3 カ月前からトシリズマブ(8mg/kg,4 週 毎)の投与が開始された。並行してメトトレキサートとプレドニゾロンは同量で継続された。トシリズマブは計4 回投与され,治療反応は良好であった(最終投与日は入院7 日前)。入院3 日前から軽度の食欲低下が出現した。入院当日午前9 時頃に,これといった症状もないまま近医を受診したところ, SpO2 の低下を指摘され,ただちに近くの総合病院を紹介され受診した。午前11 時30 分,著明な低酸素血症と胸部X 線写真上両側肺野のびまん性陰影を指摘され(図a),当院に救急転送された。当院に午後2 時15 分到着,ICU に緊急収容となった。入院時身体所見:体温37.8°C,血圧97/68mmHg,脈拍108/分,整,呼吸数43 回/分,意識清明。胸部;両側呼吸音減弱。異常呼吸音を聴取せず。四肢末梢に冷感なし。検査所見(表):白血球数は11,390/μl と増加を認めたが,炎症反応はCRP 1.1mg/dl と軽度上昇のみであった。血清β─D ─グルカン51.6pg/ml と高値で,KL-6 とSP-D の上昇を認めた。免疫能ではIgG値が軽度低下していた。血液ガス分析(O2 12L, リザーバーマスク投与下)では,pH7.41,PaO2 38Torr,PaCO2 35Torr と著明な低酸素血症を呈していた。入院時画像所見:前医胸部単純X 線写真(図a)のわずか7 時間後,気管内挿管後に撮影した胸部単純X 線写真(図b)では両肺びまん性の浸潤影が主となり画像所見は急激に悪化していた。入院後経過:来院後,低酸素血症が高度であったため,ただちに気管内挿管が行われ,人工呼吸が開始された。挿管直後から急激な血圧の低下が出現し,身体所見で四肢が暖かくwarm shock の状態であることから,敗血症性ショックを考え,補液とアルブミン製剤,カテコラミン(ドーパミン,ノルアドレナリンを併用)を投与したがなかなか血圧は上 附トシリズマブ使用下の急性肺感染症,まれに見られる特異な病像
昇せず循環維持は困難であった。また肺病変に関しては,PCP と細菌性肺炎の合併に伴う急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)の可能性を考えて,メロペネム(meropenem: MEPM),ST 合剤,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン500mg,3 日間)などを行った。PEEP を15cmH2O まで上げて管理につとめた結果,治療開始12 時間後にはPaO2 60Torr 以上まで改善した。血圧は徐々に上昇し循環不全から脱したが,ノルアドレナリンの投与は第4 病日まで必要であった。第4 病日から胸部陰影および酸素化は改善傾向となり,その後順調に改善し,入院第13 病日に抜管した。メロペネムは第7 病日で投与を終了しST 合剤は第27 病日で終了した。血清CRP は第2病日に7.8mg/dl といったん上昇したが第7 病日以降は陰性化が続いた。ステロイドパルス療法後,プレドニゾロン50mg/日で投与を開始し,徐々に維持量の5mg/日まで減量した。退院前の胸部単純X線写真およびCT で肺野はわずかな瘢痕を残してほぼ完全に正常化していた。入院第58 病日に独歩退院した。考 察 本症例では入院時呼吸不全,循環不全が急速に進行し,重篤化したため,胸部CT 撮影や気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage:BAL)などの肺病変に対する十分な検索を行うことができなかった。そのため,以下考察が不十分なものとなるが,肺病変の診断については,既存肺に間質性変化を認めなかったことから既存の間質性肺炎の増悪は否定的である。β─D ─グルカンが高値であったこと,ST 合剤と副腎皮質ステロイド薬投与による初期の治療反応が良好であったことからPCP を最も疑った。また,胸部単純X 線写真ですりガラス影に加えて浸潤影をも認めたこと,および吸引痰よりメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin sensitive Staphylococcus aureus:MSSA)が検出されていたことから細菌性肺炎も併発していたと推測した。以上から,本例の急激な画像所見の増悪はPCP と細菌性肺炎を契機としてARDS を起こしたものと推測した。本例の特異な点は,1発症時,肺炎としては極め 図 胸部画像所見a.転院前:両肺びまん性にすりガラス影および一部に浸潤影を認める。b.転院後:わずか7時間の間に両肺野の陰影は急速に濃くなり浸潤影となっている。 a b
て重篤であったにもかかわらず,症状がほとんどなかった,2数時間のうちに病状が電撃的に悪化した,3高度の循環不全を呈し,敗血症性ショックの病像であった。トシリズマブ投与下の肺炎症例についてこれまで4 例の報告がある4)5)。年齢は53~72 歳で高齢者が多かった。トシリズマブ投与回数は4 回~4 年4 カ月でさまざまであった。入院時に咳や痰などの気道感染症状を伴っていたのは5 例中1 例のみであり,トシリズマブ投与下の肺炎症例では肺炎を疑う症候が乏しいことが特徴と考えられる。報告例すべてで発症時のCRP は低値であり,トシリズマブ投与下ではその作用機序からCRP 産生が抑制されるため, CRP は肺炎診断の参考にならないことはすでに報告されている5)。近藤らは,経皮的動脈血酸素飽和度測定は肺炎発見に有用であることを指摘し,本例でも肺炎の発見契機となっていた。 トシリズマブが標的とするサイトカインIL-6 は,さまざまな生物学的活性を有するが,その一つとして発熱,全身倦怠感などの症候発現に関わっており,また咳嗽や喀痰などの症候にも関わるとされ,これを抑止するトシリズマブ投与下では肺炎を発症しても症状が発現しにくく4),受診の遅れ,あるいは臨床の場での見逃しにつながりやすいことは知られている。臨床医として注意を要する点である。また上記のように,CRP 値も上昇しないので,このことも臨床医は銘記しておくべきである。本例も重症化するまで症状が発現せず受診が遅れた可能性は高い。重症肺炎を来すもう一つの機序として,トシリズマブ投与により宿主の初期防御免疫が抑制され感染症そのものがより速やかに進行することも考えられ 表 入院時検査所見血算血清WBC 11,390×103/μl CRP 1.1mg/dl Ly 14.0% IgG 643mg/dl Eo 2.0% KL-6 860U/ml Seg 76.0% SP-D 283.0ng/ml RBC 589×104/μl β-D glucan 51.6pg/ml Hb 15.3g/dl endotoxin侑3pg/ml Ht 48.5% BNP 23.6pg/ml Plt 22.8×104/μl血液ガス分析(12L)生化学pH 7.41 TP 5.2g/dl PO2 38Torr Alb 3.3g/dl PCO2 35Torr AST 120IU/L HCO3 - 22.8mmol/L ALT 63IU/L BE -2.4mmol/L LDH 757IU/L尿所見CK 11IU/L蛋白 (±) Alp 251IU/L糖 (2+) T-Bil 0.8mg/dl潜血 (-) AMY 69IU/Lレジオネラ尿中抗原(-) UN 18mg/dl肺炎球菌尿中抗原 (-) Cr 0.8mg/dl細菌培養Glu 90mg/dl血液培養 (-)凝固系気道分泌物 MSSA 少数PT 12.9sec FDP 2μg/ml D-dimer 1.2μg/ml
る。IL-6 はCRP などの急性期蛋白の産生を介して抗菌活性を示す。CRP は炎症の指標として臨床上有用なマーカーであるが,その生物学的役割は,細菌に対しオプソニンとして食細胞の捕食を助ける,またマクロファージ,樹状細胞上のFcγ受容体に結合し,補体(古典経路)を活性化するなどが知られている。IL-6 欠損マウスに肺炎球菌を接種した実験で,菌のクリアランスは低下し,一方TNF-αの産生は亢進し,炎症は激化し,その結果マウスは早期に死亡するとの報告がある7)。これらの知見を踏まえると,トシリズマブ投与下でIL-6 の受容体シグナルが抑制され,CRP の産生が抑えられると,感染初期に宿主の免疫系が十分に発動されず,病因菌の活動を許し,またサイトカインバランスが崩れ,炎症が激化するなどの可能性が示唆される。本例に見られた深刻なショックは,血液培養で菌は検出されず,またエンドトキシンも検出されなかったが,病像は敗血症性ショックそのものであり,長時間にわたりノルアドレナリンの投与が必要であった。既報告例のうちFujiwara らの2 例でもショックを併発していた4)。敗血症性ショックモデル動物でIL-6 はショックに対して防御的に働くという報告があり8),IL-6 の抑制によりショックが重症化す る可能性も示唆される。またトシリズマブ投与下に腸管穿孔の報告が0.1%にみられることから2),本例においても腸管粘膜の障害が起こり,bacterial translocation が起こった可能性も考えられるが,推測の域を出ない。一方,トシリズマブ投与下になくとも,急速進行型の劇症肺炎の症例は,まれに救急や呼吸器の外来に受診することがある。CRP が遅れて上昇することもある。多くは基礎に糖尿病,高齢者などの宿主条件がある。また菌側の特殊条件(増殖力)もあり得ると言われている。本症例の病像,その成立期序を考えるうえで留意すべきことと言えよう。 おわりに トシリズマブの全般的安全性はTNF 阻害薬などと大差ないと考えられているが,より安全な使用のためには,本例のようなまれではあるが特異な急性呼吸・循環不全の病像を呈し得ることを臨床医は知っておくべきである。 1 )田中栄一,山中 寿.生物学的製剤大規模試験のエビデンス:我が国における試験を中心に IORRA 研究.日本臨 床2010;68:324 ─9. 2 )中外製薬.アクテムラR点滴静注用80mg, 200mg, 400mg 安全情報.全例調査の最終報告「関節リウマチ」「多関節に 活動性を有する若年性特発性関節炎」.中外製薬2013;3:18. 3 )Harigai M, Inokuma S, Ishiguro N, et al. Characteristics associated with better effectiveness and safety in Rheumatoid Arthritis patients treated with intravenous Tocilizumab : results from full analysis of all-patient postmarketing surveillance in Japan. Ann Rheum Dis 2013 ; 72(Suppl3) : 621. 4 )Fujiwara H, Nishimoto N, Hamano Y, et al. Masked early symptoms of pneumonia in patients with rheumatoid arthritis during tocilizumab treatment : a report of two cases. Mod Rheumatol 2009 ; 19 : 64 ─8. 5 )近藤直樹,藤沢純一,荒井勝光,ほか.トシリズマブ投与下に肺炎を生じた関節リウマチの2 例.臨床リウマチ 2011;23:323 ─2. 6 )大河内康実,徳田 均,花岡成典.トシリズマブ投与下の関節リウマチ患者に重症肺炎と高度の循環虚脱を合併し た1 例.臨床リウマチ2012;24:132 ─8. 7 )van der Poll T, Keogh CV, Guirao X, et al. Interleukin-6 gene-deficient mice show impaired defense against pneumococcal pneumonia. J Infect Dis 1997 ; 176 : 439 ─44. 8 )Barton BE, Jackson JV. Protective role of interleukin 6 in the lipopolysaccharide-galactosamine septic shock model. Infect Immun 1993 ; 61 : 1496 ─9. 文献
各論2 はじめに 関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)患者ではもともと感染防御免疫の低下があることや副腎皮質ステロイド薬や種々の免疫抑制的な薬剤の投与が行われてきたため,感染症の併発が多いと言われており,結核に関しても同様である。免疫抑制作用が強力な生物学的製剤,中でもTNF 阻害薬は,ヒトの結核免疫の根幹をなすTNF の活性を阻害するので,その投与によって結核の併発が増加するのは理論的にも予測されたことであり,実際もそうであった。しかも,わが国には特殊事情が存在する。過去の結核まん延の後遺症として,ちょうどRA 好発年齢層である中高年層における結核既感染率がわが国では高いため,欧米と比べて結核の併発が多く現れることが予測されていたのである。その対応として,結核を併発した際の診断のあり方が重要であるだけでなく,結核予防がとりわけ重要であるが,結核併発のリスク要因を知ることでそれが可能になる。本項では,生物学的製剤投与時の結核併発の状況,リスク因子,診断と治療の問題,予防のあり方などについて触れていく。Q1 RA 患者には結核が多いのか? RA 患者ではもともと結核の併発が多い。 欧米では以前から,RA 患者の感染併発のリスク自体が高いだけでなく,治療薬に免疫抑制的な薬剤が多いため感染併発のリスクはさらに高まるとされていた。ただ,結核に関して欧米諸国はわが国と異なって罹患率が低いだけでなく,結核既感染率そのものが低いため,わが国ほど深刻ではない。というのは,現代における結核の発病は,初感染後にすぐ発病する例よりは,若年時に多くは無症状で感染して鎮静化していた既感染病巣が,加齢に伴う免疫能や栄養等の低下や種々の免疫抑制的な薬剤の投与介入によって再燃して発病する例が圧倒的に多くなっているからであり,そのような集団が欧米ではわが国より早く減少してきたからである。一方わが国では,結核の罹患率や死亡率が減少し始めたのは1950 年代に入ってからであり,これは例えば米国からは30~40 年遅れている。現在のわが国では結核既感染のある集団が順調に減少しているとはいえ,減少の開始時点の遅れが影響して,2010 年代に入ってもRA の好発年齢層である50~70 歳代の10~ 50%に結核の既往があると推定されている。特に70 A1 抗酸菌感染症a.結核症 Q1 RA 患者には結核が多いのか? Q2 RA 患者に生物学的製剤を投与すると結核併発は多くなるのか? Q3 結核併発のリスクは何か? Q4 結核併発はどのように見つけるのか? Q5 併発結核の治療はどうするか? Q6 併発結核治療の際,生物学的製剤や副腎皮質ステロイド薬,MTX などはどうするのか? Q7 結核併発の予防はどうするか? Q8 併発結核への治療の終了後,生物学的製剤は再投与が可能か?
歳以上の集団の結核既感染率は50%を超えており, 30 歳未満の5%以下とは大きな違いである(図1)。このように過去に結核に感染し,結核病巣を一応は封じ込めていた個体がRA を発症し,免疫抑制的な治療が行われれば当然のことながら結核の併発は多くなる。生物学的製剤がわが国に導入される直前の2000 年代初頭におけるYamada らの研究1)では,RA 患者の結核併発率は0.08%(4/5044)であったが,これは当時のわが国の結核罹患率(人口10 万人の集団から1 年間に結核患者が新たに発生する数)の22.2(2005 年)と比べれば3~4 倍である。年齢調整後の正確な比較では,対一般人口の3.21 倍(男:10.59 倍,女:1.41 倍)という高い相対危険度であり1),わが国ではRA 患者の結核併発はもともと多かったと言えよう。 Q2 RA 患者に生物学的製剤を投与すると 結核併発は多くなるのか? 生物学的製剤投与中のRA 患者では結核併発が多くなる。 海外で生物学的製剤,特にTNF 阻害薬をわが国より先に導入した各国から結核併発率が報告されている。それによれば,TNF 阻害薬投与RA 患者では,一般人口に対して米国では8 倍2),韓国では30 倍3)という数字が報告されており,TNF 阻害薬非使用の A2 RA 患者に対して使用例では4 倍というスウェーデン の成績が報告されている4)。興味深いのはスペインのGómez ─Reino らの報告5)であり,一般人口に対して2000 年の53 倍が2001 年には11.7 倍と急減している。スペインでは,後述するような結核スクリーニングを中心とする結核対応策がこの時期にとられており,その効果がみられたと言える。わが国では,前述のYamada らの研究1)の時期に重なって生物学的製剤が導入され,2002 年のクローン病に引き続いてRA 患者への使用が2003 年に開始された。最初に導入されたのはインフリキシマブ(infliximab:IFX)であり,2003 年から市販後5,000例の全例調査が課された。その結果を見ると,登録2,000 番以降に結核の併発頻度が大きく低下している(表1)。この調査では,登録1,000 番までに結核の併発が6 例(0.6%)と多かったため,それらの例における結核併発の要因を解析した結果,結核の既往歴・家族歴,陳旧性結核の画像所見,ツベルクリン反応強陽性等が危険因子と判明した。そこで,本剤投与前にこれらをスクリーニングして有所見者では抗結核薬の予防投与を行うという対応策を2,000 番登録直前に示して介入したところ,それ以降の3,000 例からは結核併発が3 例と激減した6)。対応策の発表前後で併発率は0.55%(11/2000)から0.1%(3/3000)に低下したのであるが,後者の0.1%という数字は,前述のYamada らの報告1)の結核併発率の0.08%(4/5044)に近い数字で 図1 年齢階級別の結核既感染率の推計(結核研究所疫学情報センターの資料を元に作成) 100 % TNF 阻害療法の候補者 となるRA 患者 1940 年1960 年1980 年2010 年 2020 年 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 0 90 85 年齢(歳) 80 75 70 65 60 55 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 2000 年2000 年2000 年
ること,胸部X 線写真や胸部CT 画像における陳旧性結核の所見があること,ツベルクリン反応が強陽性であることやクォンティフェロンRTB(QuantiFERON- TB:QFT)などのinterferon-gamma release assay (IGRA)検査が陽性であることが知られている6)。海外の調査でも,硬結径が5mm 以上のツベルクリン反応成績やQFT 検査で0.35IU/ml 以上の陽性を示したのは,結核の高蔓延国出生歴あるいは6 カ月以上の居住歴,家族内での結核患者との接触歴,活動性結核の罹患歴,などであり,これらを結核併発の危険因子として挙げている7)。インフリキシマブの投与後に発症した結核症の1 例を図2 に示す。インフリキシマブ投与前の画像を見ると陳旧性結核の所見が認められるが,これには注意が払われなかったようである。後述する抗結核薬予防投与は行われずにインフリキシマブの投与が開始され,しばらく経過した後に結核を発症した。インフリキシマブの投与を中止するとともに抗結核薬が投与されて,幸いに改善が得られた。胸部画像を丹念に読むことの重要性を教えてくれる症例である。 Q4 結核併発はどのように見つけるのか? 臨床症状・所見,喀痰等の検査成績,画像所見等を総合的に検討する。 通常の結核症では肺結核が9 割前後を占め,その初 A4 ある。すなわち,TNF 阻害薬の導入前に綿密なスクリーニングと有所見例での予防投与を行って対応すれば結核の併発は増加しないとも言えるが,何もしなければ大きく増加するとも言える。なお,結核併発のリスクとしてはTNF 阻害薬とともに副腎皮質ステロイド薬も重要であり,副腎皮質ステロイド薬投与開始前にも同様の対応を行うべきと考える。インフリキシマブに限らず,市販直後の全例調査を課された製剤ではいずれも結核併発率はそう高くはないが,これにはインフリキシマブの経験が生きていると考えるべきである。ところが,全例調査が終了し,生物学的製剤の適応疾患が広がり,また皮下注射型の製剤が増え,使用症例数が増加するにつれ,結核の併発はむしろ拡大していて憂慮される事態となっているのが現状で,投与前のみならず投与中や後の綿密な経過観察が以前にも増して求められている。 Q3 結核併発のリスクは何か? 結核の既往歴・家族歴,陳旧性結核の画像所見,ツベルクリン反応強陽性などである。 先述のインフリキシマブの全例調査やその後に実用化されたエタネルセプト(etanercept:ETN),アダリムマブ(adalimumab:ADA),トシリズマブ(tocilizumab:TCZ)などの国内の全例調査から,結核併発の危険因子として,結核の既往歴・家族歴があ A3 表1 日本のインフリキシマブ市販後全例調査における重要な併発感染症発現推移 登録1~1000 番登録1001~2000 番登録2001~3000 番登録3001~4000 番登録4001~5000 番登録1~5000 番 細菌性肺炎30 例(3.0%) 14 例(1.4%) 22 例(2.2%) 12 例(1.2%) 30 例(3.0%) 108 例(2.2%) 結核6 例(0.6%) 5 例(0.5%) 0 例(0.0%) 2 例(0.2%) 1 例(0.1%) 14 例(0.3%)結核疑い1) 0 例(0.0%) 0 例(0.0%) 1 例(0.1%) 1 例(0.1%) 1 例(0.1%) 3 例(0.1%)ニューモシスチス 肺炎2) 6 例(0.6%) 1 例(0.1%) 3 例(0.3%) 6 例(0.6%) 6 例(0.6%) 22 例(0.4%)間質性肺炎4 例(0.4%) 5 例(0.5%) 8 例(0.8%) 2 例(0.2%) 6 例(0.6%) 25 例(0.5%) 1)実施した検査では結核菌は検出されていないが,主治医の判断を基に結核疑いとした。2)鏡検で虫体は確認されていないが,ほかの検査結果を総合してニューモシスチス肺炎疑いとした。(渡辺 彰.医学のあゆみ2007;221:405 ─9 より引用)
等の消化器症状がある例では便や内視鏡での採取検体等)からの結核菌の分離培養を行うが,喀痰では感染性の有無の確認のためにも迅速診断として抗酸菌塗抹検査も行う。喀痰の塗抹検査陽性が入院隔離の基準であるが,塗抹検査で陰性であっても患者の病態や社会的条件によっては入院治療を行うことがある。培養に長時間を要する従来の小川培地法に代わって微量液体培地法が普及している。核酸増幅法〔polymerase chain reactron(PCR)検査法等〕は迅速であるとともに,非結核性抗酸菌症との鑑別にも有用であるが,死菌も陽性になるほど鋭敏であるため治療効果判定には不適当である。ツベルクリン反応検査も重要であるが,免疫低下者では偽陰性が,BCG 接種者では偽陽性が時にあり,ほかの検査と組み合わせて総合的に診断する。結核菌感染に反応して体内で増加するイン 発症状は2 週間以上続く咳と痰,微熱,倦怠感等なので,生物学的製剤投与中は患者にあらかじめ話しておいて気を付けてもらうとともに,診察の都度,問診する。ただし,生物学的製剤投与中に併発する結核症の半分あるいは過半数は肺外結核であり,高熱,胸痛や腹痛,リンパ節腫脹などの症状や所見にも気を付けなければならない。診断のポイントは以下のとおりである。前述のように問診で症状を聞き出し,それらがあれば以下の検査を進めるが,結核に特徴的な画像所見(極めて多彩である)を胸部単純X 線写真や胸部CTで確認する(日本結核病学会の学会分類がある)とともに,結核菌の証明が重要である。薬剤感受性の確認のためにも適切な検体(呼吸器症状がある例では喀痰やその他の気道検体,胸膜炎の例では胸水,下痢や腹痛図2 症例1(59 歳女性,RA に合併した気管 支・肺結核例)の経過32 歳でRA を発症,2002 年にインフリキシマブを開始して寛解を維持していた。2007 年11 月初めから咳が出現,12 月初めから咽喉頭違和感と夜間38°Cの発熱あり,近医で抗菌薬を投与されるも改善が得られず,胸部単純X 線写真で両側異常陰影を認め,紹介されて受診した。胸部単純X 線写真(a)と胸部CT 写真(b)に両側の典型的な肺結核の所見があった。気管支鏡検査で左主気管支に潰瘍形成があり,洗浄液の抗酸菌塗抹検査が陽性となった。気管支・肺結核と診断してイソニアジドとリファンピシン,エタンブトールの投与を開始し,その後の経過は順調であった。なお,2 年前の胸部単純X 線写真(c)では陳旧性肺結核の所見(矢印)がある。 a b c
開始した。しかしこの時点でもなお菌は証明されず,診断が確定したのは実に2 カ月目であった。粟粒結核の診断の難しさを改めて教えてくれる症例であった。 Q5 併発結核の治療はどうするか? 結核の標準治療法を適用する。 結核症と診断した場合,ただちに保健所への届け出を行う。喀痰塗抹検査が陽性であれば結核病室での入院治療が必要である。塗抹検査が陰性でも病態によっては入院治療を行うことがあるが,周囲への感染性は低いので原則として外来治療を行う。なお,生物学的製剤や副腎皮質ステロイド薬投与継続の可否について A5 ターフェロン─γ(interferon-γ:IFN-γ)を測定するIGRA(QFT 検査やT-SPOT 等)は,BCG 接種の影響を受けないので結核感染と診断できるが,過去の感染か新規の感染かの区別は困難であるとともに,免疫低下者では偽陰性が時にあるので,やはり総合的な診断が必要である。なお,生物学的製剤投与中の結核には先述のように,粟粒結核,結核性胸膜炎や腹膜炎,リンパ節結核などの肺外結核が多いため,発熱や胸痛,腹痛その他の症状にも留意するとともに,何らかの症状があるときは適切な検査を施行する。図3 に診断に難渋したアダリムマブ投与下発症の粟粒結核の1 例を提示する。発熱が唯一の症状であり,当初はCT でも無所見で,結核も想定しさまざまな検査を行ったが陽性結果が得られず,2 週後に再度行ったCT 検査で初めて肺野に微細粒状影が多数出現,粟粒結核と診断,治療を a b c 図3 症例2(73 歳女性,RA に合併した粟粒結核例)の経過67 歳でRA を発症,プレドニゾロンとメトトレキサートの投与で改善が少なく,2 カ月前からアダリムマブを投与開始。2 週間前から38°Cの発熱が出現,精査加療目的で入院。入院時の胸部単純X 線写真(a)で両側肋骨骨折痕(矢印)以外に異常がなかったが,胸部CT (b)では左S6 に異常陰影があるため結核も想定して検索したが診断は確定しなかった。不明熱としてその後も原因検索中の第18 病日の胸部CT で両側の粟粒陰影が出現,粟粒結核として治療を開始した。治療開始1 カ月後にはまだ38°C台の発熱が続き,CT 画像(c)も悪化傾向であったが,2 カ月目でようやく改善し始め,この時初めて喀痰と胃液の培養で結核菌陽性と判明した。粟粒結核はCT でも当初は診断がつかない場合があるが,複数回の画像チェックが有用であり,週に1~2 回の胸部単純X 線写真撮影も有用である。
キサートなどは強力な免疫抑制作用を有する薬剤なので,抗結核薬投与開始後にはそれらを中止するのか? 継続するのか? については種々の意見があるが,これについては薬剤ごとに分けて考える。まず,メトトレキサートについては,結核治療薬との薬物相互作用は確認されておらず,主治医判断でよい。しかし発熱が持続している間は控えるのが無難であろう。一方,副腎皮質ステロイド薬は増量して継続すべきである。副腎皮質ステロイド薬に関してはやはり,免疫抑制作用の強い薬剤であるから投与中止して抗結核治療に専念すべきであるという意見もあるが,過剰免疫が病態の本質であるリウマチなどにおいては,副腎皮質ステロイド薬の投与中止によって,それまで抑制されていた免疫の強い発現を来して過剰な生体反応(リバウンド)が起こってリウマチ自体の増悪を来すので,ほかの免疫抑制的な薬剤を投与中止した分に見合うだけの量をむしろ追加しなければならない。リファンピシンによりステロイドの効果が減殺されるので,それも加味して倍量にして投与するという意見が多いが,3 倍量を投与するという意見もある。また,リウマチの病態のリバウンドだけでなく,併発した結核の病態のparadoxical reaction(初期悪化などとも言われたが,免疫再構築症候群として考えられている)を招いて予後を不良にすることもあるので,その意味でもやはり投与は続けるべきである。結核治療の際の副腎皮質ステロイド薬の併用については,厚生労働省の結核医療の基準/77(平成16 年6 月8 日厚生労働省告示第238 号)にも示されており,「重篤な滲出性病変を主体とする肺結核,気管支結核,粟粒結核,結核性の胸膜炎,髄膜炎,腹膜炎又は心膜炎等の治療上必要がある場合には,抗結核薬と併用して副腎皮質ホルモン剤を投与する。副腎皮質ステロイド剤の使用法は,症状に応じて決定するが...1 日20mg ないし30mg...」という文言が記載されている。粟粒結核などの重症結核の治療に際して,副腎皮質ステロイド薬を併用してparadoxical reaction の発現を抑制できることが多いことはこれまで多くの臨床経験が報告されている。生物学的製剤の投与についてはどうであろうか?特に結核免疫に対する強い抑制作用のある製剤であるから,結核併発の際にはすぐに中止すべきであるとい は,次項で取り上げる。結核の治療では標準治療法が定められている。すなわち,治療効果の増強と薬剤耐性発現抑制を目的として多剤併用による薬物療法を行うが,わが国では日本結核病学会の提唱した結核医療の基準(表2) 8)を受けて厚生労働省が定めた結核医療の基準9)によって標準治療が提唱されている。単剤投与では耐性の発現が容易に起こるが,多剤併用投与ではそれを抑制できる。このことからも,中途で1 剤ずつ追加併用するのではなく,開始時も終了時も同時に行う。原則として表2に示す(A)法を用いるが,ピラジナミド(pyrazinamide: PZA)投与不可の場合のみ(B)法を用い,連日投与する。薬剤感受性が不明かつ症状の改善が明らかでない場合には,薬剤感受性の判明,臨床的改善の確認までストレプトマイシン(streptomycin:SM)〔またはエタンブトール(ethambutol:EB)〕を継続する。治療効果の確保と薬剤耐性菌発現予防のためにも確実な服薬が不可欠であり,医療要員が服薬を確認して支援するDirectly Observed Treatment, Short ─Course (DOTS)が広く行われているが,長期間の投与を必要とするので,副作用の発現には細心の注意を払う。 Q6併発結核治療の際,生物学的製剤や副腎皮質 ステロイド薬,MTX などはどうするのか? 副腎皮質ステロイド薬は十分量を投与し,メトトレキサート(methotrexate:MTX)は中止するが,生物学的製剤については熟考が必要である。 生物学的製剤やそれと併用投与することの多い副腎皮質ステロイド薬,ほかの免疫抑制薬,メトトレ A6 表2 結核症の初回治療例の標準的治療法(A)法: RFP+INH+PZA にSM(またはEB)の4 剤併用で 2 カ月間治療後,RFP+INH で4 カ月間治療する(B)法: RFP+INH にSM(またはEB)の3 剤併用で2 カ月 間治療後,RFP+INH で7 カ月間治療する* 原則として(A)法を用い,PZA 投与不可の場合に限り(B) 法を用いる。** 薬剤感受性が不明かつ症状の改善が明らかでない場合に は,薬剤感受性の判明,臨床的改善の確認までSM(またはEB)を継続する。注) RFP:rifampicin,INH:isoniazid,PZA:pyrazinamide,SM: streptomycin,EB:ethambutol. (文献8 より引用)
う意見が多く,実際これまで,ほとんどが中止されてきた。しかし最近,副腎皮質ステロイド薬の場合と同様,生物学的製剤の中止によってリウマチの病態のリバウンドだけでなく,結核の病態の増悪を来すので継続すべきであるという意見が台頭してきた。これに関しては最近,いくつかの興味深い報告がある。生物学的製剤投与を中止して始めた抗結核療法により細菌学的には改善してもparadoxical reaction が見られたという例に対し,アダリムマブやインフリキシマブの投与が有効であったという報告10)11)や,通常の結核治療と比較して,最初の1 カ月間エタネルセプトを加えた群および大量の副腎皮質ステロイド薬を加えた群の菌陰性化率がいずれも有意に優れていたという報告12)がある。また,肺非結核性抗酸菌症においても,脊椎炎に対するエタネルセプト投与中に発症したMycobacterium marinum による腱鞘滑膜炎の治療反応性を高めるためにインフリキシマブを併用して有効を得たという報告13)もある。これらは,後者の意見を支持するものであり,考慮すべき重要な報告である。2011 年以降,わが国でも生物学的製剤投与下に発症した結核症の死亡例の報告が見られるようになり,医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)に報告された数だけでも10 例を超えている。個々の症例についての詳細な解析はなされていないが,一部については報告されており,多くは粟粒結核など全身性結核の様相を呈し,適切な抗結核療法を開始したにもかかわらず病状がコントロールできずに死亡に至った例のようである。少なくとも一部はparadoxical reaction がその機序と推定される。以上より,結核発症後の生物学的製剤の役割については副腎皮質ステロイド薬の投与に準じて考えることができる。すなわち,免疫の過剰な発現によって病態の攪乱が起こるのは粟粒結核などの全身性結核の症例が多いと考えられることから,併発した結核が粟粒結核などの全身性結核の場合で,適切な抗結核薬と十分な副腎皮質ステロイド薬が投与されているにもかかわらず病勢が悪化してparadoxical reaction が考えられる場合には,ほかの疾患の可能性を含めて十分な鑑別を行ったうえで,生物学的製剤の投与再開が考慮されてよい。一方,肺の局所にのみ活動性病巣がある結核の場合にはそこまで考えなくともよいと思われるが, paradoxical reaction を疑う現象(肺陰影の増悪,空洞化,胸水の出現,リンパ節腫大など)が見られたらやはり,ほかの疾患の可能性を含めて十分に鑑別すべきであり,結核の悪化と見誤ってはならない。いずれにしても,今後の症例のさらなる集積と解析を待って再検討する必要がある問題である。 Q7 結核併発の予防はどうするか? 生物学的製剤投与前にスクリーニングを行い,有所見者は潜在性結核感染(latent tuberculosis infection:LTBI)として治療する。 生物学的製剤投与時の結核併発のリスクは前述したとおりであるから,投与開始前にこれらをチェックするスクリーニング検査を行う(図4)。本人や家族の結核既往歴の確認では,高齢者ほど肺浸潤や初期浸潤,肺門リンパ腺炎など「結核」という術語を使わない名称で説明されている場合があるので留意したい。ツベルクリン反応検査とIGRA 検査では,BCG の影響を受けないIGRA 検査の方が正確で使いやすいという意見が多くなってきた。画像検査は極めて重要であり,問診結果やスクリーニング検査で少しでも疑わしい所見がある場合には胸部X 線検査のみならず胸部CT検査を積極的に併用する。単純X 線写真で一見無所見でも,CT 画像で疑わしい陰影を見ることがまれならずあるからである。これらのスクリーニング検査で活動性結核であることが判明したら結核の治療を優先する。治療のあり方については前々項(Q5 とA5)の内容に従う。結核が否定できた場合および,過去に結核の治療歴があってその治療が十分に行われている場合には生物学的製剤を開始してよいが,もちろん,結核を含めて種々の感染症併発の危険性はゼロではないので,経過中の綿密な観察が必要である。スクリーニング検査で一つでも陽性所見があればLTBI としてイソニアジド(isoniazid:INH)単独を6 カ月間投与する。RA 以外に糖尿病や腎疾患,その他の結核併発危険因子を有する場合は9 カ月間まで延長投与する。LTBI 治療の考 A7
え方の原則については,日本結核病学会治療委員会が『潜在性結核感染症治療指針』を2013 年に公表した14)ので,表3 に引用する。LTBI の治療を以前は「化学予防」あるいは「予防投与」と言っていた。その効果が100%でないことには留意すべきであるが,イソニアジドの予防投与の有用性を支持する複数のエビデンスがある。それらを基に米国15)やカナダ16)ではイソニアジド300mg/日の9 カ月間投与が勧められているが,28,000 名の規模で比較したInternational Union Against Tuberculosis(IUAT)の成績17)では6 カ月投与群と12 カ月投与群との間で発症予防効果に有意差がない(65%対75%,表4)こともあり,わが国の指針は6 カ月間投与を勧めてきた。ただし,先述のように種々の結核併発危険因子を有する場合は9 カ月間まで延長投与すべきであり,生物学的製剤の使用が普及したわが国の状況を踏まえた 先述の『潜在性結核感染症治療指針』14)でも同様の提唱を行っている。なお,IUAT の成績を見ると,服薬コンプライアンスの良好な例における予防効果が高いことがわかる17)ので,活動性結核の治療の場合と同様にLTBI の治療でも患者へは服薬遵守を推奨しなければならない。イソニアジド開始後3 週間経過したら生物学的製剤の投与を開始してもよいが,その後の経過観察は綿密に行う。イソニアジド投与に伴って発熱や発疹などのアレルギー反応が出現した場合にはいったん投与を中止し,少量から漸増して元の投与量まで戻す減感作療法が有効である18)。少数ながら肝機能障害などの副作用も見られ,しかも年齢の上昇とともに発現率は上昇するが,AST やALT が3 桁に達するまではイソニ 表3 LTBI(潜在性結核感染)の治療法 薬剤名標準量mg/kg/日最大量mg/body/日投与期間 (月)格付け*(エビデンス) ** HIV(-) HIV(+) イソニアジド5 300 9 A(II) A(II)イソニアジド5 300 6 B(I) C(I)リファンピシン10 600 4 B(II) B(III) * A:推奨,B:代替方法として選択可,C:A およびB を投与できないときに選択。** I:無作為割付臨床試験,II:無作為割付でない,もしくは,ほかの集団で実施された臨床試験,III:専門家の意見。注) 格付け,エビデンスは,CDC. Targeted tuberculin testing and treatment of latent tuberculosisinfection. American Thoracic Society. MMWR Recomm Rep 2000 ; 49 : 1 ─ 54 に拠る。(文献14 より改変引用) 図4 生物学的製剤投与時の結核予防対策 十分な問診,胸部X 線検査,胸部CT 検査,IGRA and/or ツベルクリン反応検査 結核に関する総合的評価 疑わしいもしくは不明 診断結果 TNF 阻害薬投与開始 呼吸器/ 放射線専門医の評価評価可能 活動性結核結核既感染(疑いを含む) 活動性結核に対する治療開始結核の既往歴は 認められない,あるいは,結核の確実な治療歴あり抗結核薬 *予防投与開始 *TNF 阻害薬投与に先立つ3 週間,抗結核薬(INH 等)の投与を行い,以後も計6~9カ月間並行して投与。
前項で,過去の活動性結核に対する治療歴が十分であると認められれば生物学的製剤の投与は可能であると述べたが,再投与についてもこれに準じて考えることができる。実際,海外の複数のガイドラインがこのような場合についての提言を行っている。American College of Rheumatology は結核の治療が終了した直後からの生物学的製剤の投与再開を提案し20),British Society of Rheumatology は結核治療終了後2 カ月を置いてからの生物学的製剤の投与再開を提案している21)が,個々の生物学的製剤の結核免疫抑制作用の強弱も勘案しながら患者にとってのリスクとベネフィットを十分に勘案することが必要である。そして,再開前には先述のスクリーニング要因を満たしておくことが必要であり,再開後は前回にも増して問診や画像診断を含む諸検査をより綿密に行うべきである。 おわりに わが国では,過去の高率のまん延の影響のため,高齢になるほど結核の既往を有する患者が多い。RA の好発年齢層にちょうど重なっており,生物学的製剤の投与を行う際には本項に示した注意点を守って安全に使用したい。 アジドの投与を続けることが実際には多い。詳しくは,日本結核病学会の「抗結核薬使用中の肝障害への対応について」19)を参照されたい。イソニアジドの投与がどうしても不可能な場合にはリファンピシンを投与する。明確な結核病巣があって病巣中の菌量が多い場合にリファンピシンを単独投与すると耐性化が早く見られるが,LTBI の場合にはたとえ結核菌が存在していても菌量は少量であるから,耐性化の危険性は少ないと考えられている。もちろん,綿密な観察が必要である。予防投与を行って生物学的製剤を投与されたRA 患者でその後,結核症が発現した例が少なからずある。予防投与の効果は100%ではないと言えるが,それら結核症を発症した例を見ると種々の問題点が見られる。すなわち,イソニアジドの投与量が不十分な例,投与期間が短い例,イソニアジド投与開始後の生物学的製剤投与開始までの期間が短い例等が目立ち,担当医側の不十分な対応や患者の服薬コンプライアンスの問題などが背景にあるので,これらを改善する努力が必要である。 Q8併発結核への治療の終了後,生物学的 製剤は再投与が可能か? 基本的に可能であるが,綿密な経過観察が必要である。A8 1 )Yamada T, Nakajima A, Inoue E, et al. Increased risk of tuberculosis in patients with rheumatoid arthritis in Japan. Ann Rheum Dis 2006 ; 65 : 1661 ─3. 2 )Wolfe F, Caplan L, Michaud K. Treatment for rheumatoid arthritis and the risk of hospitalization for pneumonia. Arthritis Rheum 2006 ; 54 : 628 ─34. 3 )Seong SS, Choi CB, Woo JH, et al. Incidence of tuberculosis in Korean patients with rheumatoid arthritis (RA) : effects of RA itself and of tumor necrosis factor blockers. J Rheumatol 2007 ; 34 : 706 ─11. 文献表4 胸部X 線写真で陳旧性所見あるいは不活動性所見を持 つ例に対する化学予防は効果がある 対象者数5 年間の発病数発病率発病防御率 プラセボ群6,990 人97 人14.3‰ 0% INH 12 週群6,956 76 11.3 21 INH 24 週群6,965 34 5.0 65(69) * INH 52 週群6,919 24 3.6 75(93) * *服薬コンプライアンスが良好な例のみでみた発病防御率。(文献17 より引用)
4 )Askling J, Fored CM, Brandt L, et al. Time-dependent increase in risk of hospitalization with infection among Swedish RA patients treated with TNF antagonists. Ann Rheum Dis 2007 ; 66 : 1339 ─44. 5 )Gómez ─Reino JJ, Carmona L, Descalzo MA. Risk of tuberculosis inpatients treated with tumor necrosis factor antagonists due to incomplete prevention of reactivation of latent infection. Arthritis Rheum 2007 ; 57 : 756 ─61. 6 )渡辺 彰.リウマチ医に必要な呼吸器合併症の知識:診断と治療の実際,結核,非結核性(非定型)抗酸菌症の予防と治療 の実際.リウマチ科2007;37:356 ─64. 7 )Matulis G, Jüni P, Villiger PM, et al. Detection of latent tuberculosis in immunosuppressed patients with autoimmune diseases : performance of a Mycobacterium tuberculosis antigen-specific interferon γ assay. Ann Rheum Dis 2008 ; 67 : 84 ─90. 8 )日本結核病学会治療委員会.「結核医療の基準」の見直し:2008 年.結核2008;83:529 ─35. 9 )厚生労働省.結核医療の基準(平成21 年1 月23 日改正).厚生労働省告示第16 号,2009 年1 月23 日. 10)Wallis RS, van Vuuren C, Potgieter S. Adalimumab treatment of life-threatening tuberculosis. Clin Infect Dis 2009 ; 48 : 1429 ─32. 11)Blackmore TK, Manning L, Taylor WJ, et al. Therapeutic use of infliximab in tuberculosis to control severe paradoxical reaction of the brain and lymph nodes. Clin Infect Dis 2008 ; 47 : e83 ─5. 12)Wallis RS. Reconsidering adjuvant immunotherapy for tuberculosis. Clin Infect Dis 2005 ; 41 : 201 ─8. 13)Garzoni C, Adler S, Boller C, et al. Possible role of anti-TNF monoclonal antibodies in the treatment of Mycobacterium marinum infection. Rheumatology (Oxford) 2010 ; 49 : 1991 ─3. 14)日本結核病学会予防委員会・治療委員会.潜在性結核感染症治療指針.結核2013;88:497 ─512. 15)American Thoracic Society. Diagnostic standards and classification of tuberculosis in adults and children. Am J Respir Crit Care Med 2000 ; 161 : 1376 ─95. 16)Long R, Chernick V, Elwood K. Treatment of tuberculosis disease and infection. In : Long R, editor. Canadian tuberculosis standards, 5th ed. Canadian Lung Association, Health Canada, 2000 : 83 ─109. 17)IUAT Committee on prophylaxis. The efficacy of varying durations of isoniazid preventive therapy for tuberculosis : five years of follow up in the IUAT trial. Bull World Health Organ 1982 ; 60 : 555 ─64. 18)日本結核病学会治療委員会.抗結核薬の減感作療法に関する指針.結核1997;72:697 ─700. 19)日本結核病学会治療委員会.抗結核薬使用中の肝障害への対応について.結核2007;82:115 ─8. 20)Singh JA, Furst DE, Bharat A, et al. 2012 update of the 2008 American College of Rheumatology recommendations for the use of disease-modifying antirheumatic drugs and biologic agents in the treatment of rheumatoid arthritis. Arthritis Care Res 2012 ; 64 : 625 ─39. 21)Ding T, Ledingham J, Lugmani R, et al. BSR and BHPR rheumatoid arthritis guidelines on safety of anti-TNF therapies. Rheumatology 2010 ; 49 : 2217 ─9.
各論2 はじめに 生物学的製剤,特にTNF 阻害薬の使用が広がる中で,その有害事象の一つとして世界各国で結核症が多発した。これはTNF が抗酸菌免疫において果たしている重要な役割からして理論的にも十分予測された事態であった。その多くは潜在性結核感染症(latent tuberculosis infection:LTBI)からの内因性再燃であることが判明し,対策として,生物学的製剤導入前にスクリーニング(ツベルクリン反応や胸部画像診断)を行ってLTBI を見いだし,それを治療するとの方針が打ち出され,その結果,生物学的製剤投与開始後の結核発症者数は著明に減少した。同じ抗酸菌感染症として,近年わが国を含む世界各国で増加の一途を辿っている非結核性抗酸菌症(nontuberculous mycobacteriosis:NTM 症)についても同様の問題が起こることが懸念された。日本リウマチ学会は国内外の専門家の意見を参考に,NTM 症は決定的に有効な治療薬剤がないことを重視し,起こり得る事態に先手を打って,NTM 症患者には生物学的製剤は原則として投与すべきでない,とガイドラインに記載した1)。その結果,NTM 症を合併した活動性コントロールが困難な関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)の患者は生物学的製剤の恩恵を受けられないことになり,そのような患者の治療をめぐっ て,なぜ生物学的製剤が投与禁忌なのか,そのエビデンスはどこにあるのかなどが盛んに議論されている。ガイドラインが制定された頃は,国内外の実態についての情報,臨床の場からの報告などが乏しかったが,その後急速に報告が相次ぎ,症例も蓄積されて,現在はある程度エビデンスに基づいて議論が行われる機運にある2)。以下,RA に合併したNTM 症(RA- NTM 症)の疫学,診断,臨床像,治療,予後,ならびに抗リウマチ薬,とりわけ生物学的製剤の適応をめぐって,現時点でのエビデンスを基に考察し,診断と治療の手引きとしたい。 Q1 RA 患者におけるNTM 症の合併頻度はどれくらいか? そこに生物学的製剤が投与された場合の発症頻度は? 疫学的データは乏しい。RA 患者全般について,国内のリウマチ専門施設から一時点での断面調査で,保菌(定着)者2.8%,発症者0.2%との報告がある。次に生物学的製剤を投与されたRA 患者については,日本の生物学的製剤全例市販後調査(post marketing surveillance:PMS)で0.05~0.2%(観察期間は6 カ月間)のNTM 症発症が報告されている。米国西海岸の一地域の医療保険データを用いた縦断 A1 抗酸菌感染症b.非結核性抗酸菌症 Q1 RA 患者におけるNTM 症の合併頻度はどれくらいか? そこに生物学的製剤が投与された場合の発症頻度 は? Q2 NTM 症の診断─RA 患者において特に注意を払うべき点は? Q3 RA に合併したNTM 症の菌種,臨床経過,予後は? 非RA 患者と異なるのか? そこに生物学的製剤が 加わった場合,どうなるのか? Q4 治療はどうするのか? 薬剤は? 期間は? Q5 発病の危険因子は何か? 予知できるのか? Q6 NTM 症を合併している,あるいはその疑いがあるRA 患者には生物学的製剤は禁忌か? Q7 生物学的製剤使用中にNTM 症を発症した場合,生物学的製剤はいったん中止することになるが,感染収束 後には再投与できるのか? メトトレキサートはどうか?
的疫学調査で,RA 患者のNTM 症発症率として19.2/105 患者年との報告がある。またそこに生物学的製剤が投与された場合は,105/105 患者年であり,発症率は5 倍であったとされている。 結核症と異なり,NTM 症は日本でも諸外国でも,全数報告あるいは登録の対象とはなっておらず,その実態把握は結核のようには簡単ではない。そのため疫学的研究は極めて少ない。わが国では三森らが都市部のリウマチ専門施設として,通院中の全RA 患者に慢性下気道症状の有無(問診)と検痰を行った結果を報告している3)。それによると,430 人のRA 患者中,慢性下気道症状を有するものは13%であった。全例に痰の提出を求め,109 例から痰が得られたが,気道症状なし群からは0 例,気道症状あり群から12 例でNTM 菌が検出され,これは全体の2.8%であった。また発症は1 名0.2%であった。日本の全例PMS では,先行5 薬剤〔インフリキシマブ(infliximab:IFX),エタネルセプト(etaner cept: ETN),アダリムマブ(adalimumab:ADA),トシリズマブ(tocilizumab:TCZ),アバタセプト(abatacept: ABT)〕の集計として,母数41,042 中45 名が発症4)と報告されている(筆者集計)。発症率はこれら5 薬剤の中では,抗酸菌免疫を阻害しないとされるトシリズマブも含めてほぼ同等であった。本格的な疫学調査としては米国からの報告がある。2012 年,米国西海岸の一地域の医療保険情報を用いた疫学的検討の結果が発表された5)。米国最大規模のマネジドケアKaiser Permanente の北加州支部(人口3.4×106 をカバー)の2000~2008 年の医療記録を調査し,TNF 阻害薬の投与を受けた症例8,418 例(うち61%がRA)を抽出,同じ時期のTNF 阻害薬非投与RA 患者,および一般人口について得られたデータと対比検討が行われた。TNF 阻害薬開始後,NTM 症18 例が発症,基礎疾患は全例RA,年齢中央値は68歳,TNF 阻害薬投与開始から1,027 日(中央値)で発症したとしている。NTM 症発症率(粗罹患率)は,一般人口(50 歳以上)に比して,RA 患者はその2 倍, TNF 阻害薬が投与されたRA 患者では10 倍であった。これは現在のところ世界で唯一の大規模な疫学調査 結果であり,医療保険データを用いているので拾いこぼしは少ないものと思われ,注目に値する。米国のNTM 症の疫学的状況(罹患率,菌種構成)はわが国とは異なるので数字の解釈には注意が必要だが,RA 患者におけるNTM 症の発症率が一般人口よりも高く, TNF 阻害薬投与RA 群が非投与RA 群の5 倍NTM症発症率が高かったとの数字は注目すべきであろう。わが国では全例PMS における生物学的製剤使用RA 患者のNTM 粗罹患率(108/105)は一般人口におけるNTM 罹患率(6.3/105)とには大きな差があり,これらの患者はNTM のハイリスク集団であることは間違いない。ただ,この罹患率の高さがRA という疾患に由来するのか,生物学的製剤の投与に由来するのかの検討はわが国では行われていない。 Q2 NTM 症の診断─RA 患者において特 に注意を払うべき点は? RA 患者にはNTM 菌の定着が少なくないので, NTM 症との診断は,日本結核病学会・日本呼吸器学会診断基準に則って厳格に行われるべきである。また画像診断には格別の配慮を要する。RA は固有の気道病変(気管支拡張症,細気管支炎)が多く, HRCT 上NTM 症の画像所見の一部と酷似し,鑑別は不可能だからである。 1 ●発症の診断一般にNTM 症の症状は咳,痰,発熱,体重減少など非特異的なもので,また無症状のことも少なくない。したがって診断には菌検査,画像診断が重要である。それら検査結果の解釈においては,日本結核病学会・日本呼吸器学会の診断基準6)を厳格に確認する必要がある。菌検査の解釈においては,RA 患者には少なからぬ頻度でNTM 菌の定着が見られることに留意する必要がある。これはRA 患者が気道病変を高頻度に合併し,そこに環境常在菌であるNTM 菌が定着するためと考えられる。したがって,上記診断基準,すなわち喀痰から2 回以上の培養陽性,あるいは気管支鏡検査で1 回以上の培養陽性を確認する必要がある。喀痰の A2
のような所見があったからといってただちにNTM 症と診断するのではなく,あくまで複数回の喀痰検査,あるいは気管支鏡検査の結果と総合し,あるいは,経過観察などを加えつつ,慎重に診断していく必要がある。また間質性肺炎合併例では蜂巣肺病変部の壁の肥厚やコンソリデーション陰影のこともあるのでやはり注意を要する(図2)。 2 ●生物学的製剤投与下の発症の診断菌の基準は上記と同じである。画像所見は,実際に生物学的製剤投与中に発症したNTM 症の画像所見を詳細に解析したMori らの報告(詳細は後述) 8)によれば,気管支拡張症や細気管支炎を中心に,空洞影,結節影,浸潤影など多彩だが,生物学的製剤投与下に特 培養陽性が1 回しか確認できない場合は診断基準を満たさず,colonization(定着)として扱うべきである。また喀痰にせよ,気管支洗浄液にせよ,PCR のみ陽性の場合は,PCR は死菌でも陽性に出るので,定着にも該当しない。画像診断においては,RA 患者の場合,特有の困難がある。診断基準には「HRCT 所見で, 結節性陰影,小結節性陰影や分枝状陰影の散布, 均等性陰影, 空洞性陰性,気管支または細気管支拡張所見のいずれかを示す」とされているが,気管支拡張所見や細気管支炎を示す分岐状陰影の散布はRA 固有の気道病変の画像所見と類似しており7)(図1),RA 患者でこのような画像所見があった場合,RA 固有の気道病変なのか, NTM 症なのかの鑑別は画像からは不可能である。こ 図1 RA 固有の気道病変73 歳,女性。15 年来のRA。舌区の気管支拡張症(矢頭)と両下肺野の小葉中心性粒状影,分岐状影(矢印)が見られる。気管支鏡検査とその後の長期観察で抗酸菌感染症は否定されており,RA 固有の気道病変である。RA 固有の気道病変はCT 画像上NTM 症と酷似し,その鑑別は困難。 図2 RA の間質性肺炎(UIP パターン)に合併したNTM 症67 歳,男性,6 年来のRA。右下葉の蜂巣肺の壁肥厚(矢頭)とコンソリデーション(矢印)が見られる。喀痰検査はガフキー8 号で,Mycobacterium avium が複数回培養された。
全例PMS で48 例のNTM 症発症患者が確認されているが,6 カ月の観察期間中での死亡は1 例もない。予後に関する日米の報告は大きく隔たっている。 1 ●NTM 症の予後,RA-NTM 症の予後一般にNTM 症の予後を論じる場合,菌種の違いは重要な因子である。有効な抗菌薬がなく制御は困難と言われる本症の中で,M.kansasii 症,M.szulgai 症, M.fortuitum 症は,既存薬の併用で制御が可能と言われ,一方M.abscessus 症はいかなる治療努力にもかかわらず予後不良と言われる。MAC 症はその中間と言われるが,臨床経過はさまざまであり,無治療でも長期間悪化のない症例,治療にもかかわらず進行する症例,治療で改善が得られたが中止後に悪化する症例などがある。特に結節・気管支拡張型の多くは経過が緩慢で5 年ないし10 年のオーダーで徐々に進展していく。わが国のMAC 症の予後については,国内の単一施設からの大規模な報告がある12)。634 例のMAC 症全般の予後は,死亡率として5 年:23.9%,10 年: 46.5%であり,MAC に直接関連した死亡に限定すると,5 年:5.4%,10 年:15.7%,であった。予後不良因子としては高齢,X 線病型(結節・気管支拡張型が良好,それ以外は不良),基礎疾患(全身,肺)あり, BMI 低値(18.5kg/m2 未満)の痩せ型,貧血,低蛋白血症など不良な全身状態,持続する炎症などが抽出され 有のパターンというものは認められなかった。ただし一部の症例で浸潤影,すりガラス影が優勢所見として見られ,通常例とは異なるニュアンスであった(図3)。 Q3 RA に合併したNTM 症の菌種,臨床経過,予 後は? 非RA 患者と異なるのか? そこに生物学的製剤が加わった場合,どうなるのか? 菌種:日本のNTM 症の菌種の内訳は約8 割がMAC 症(M y cobact e r i u m av i u m complex, M.avium および M.intracellulare),1 割がM. kansasii 症,その他1 割と報告されている9)。RA- NTM 症多数例の検討でも同様の比率であったとの報告が国内から出ている10)。 経過・予後:上記国内からの報告10)はRA- NTM 症の予後として,5 年生存率66.1% であり,NTM 症患者全般に比しやや不良であったとしている。生物学的製剤が使用されNTM 症を発症した場合の予後については,米国の自発報告に基づく調査で105例中9 例,9%が死亡したとの報告11),また米国西海岸での疫学調査で18 例中7 例,37%が死亡したとの報告5)がある。一方わが国の多施設共同研究では13例中死亡は1 例も認められなかった8)。またわが国の A3-1 A3-2図3 生物学的製剤投与下に発症したNTM 症RA 罹患歴22 年の60 歳代女性。エタネルセプト投与後2 年5 カ月で発症したM.avium 症。その前にインフリキシマブが5 カ月投与されており,TNF 阻害薬療法としては計3 年行われていた。左上葉に空洞を含む浸潤影,右上葉に空洞,浸潤影その周囲のすりガラス影,粒状影など多彩な像を呈する。通常,上葉に空洞を形成した場合,治癒まで平均3 年はかかると言われているが,本例の空洞は治療開始後6 カ月で閉鎖,その後の治療経過も順調であった。(文献8 より改変引用)
しかしこの報告の菌種別内訳を見ると,M.aviumが49%と最多であるが,M.abscessus 12%,M.fortuitum 2%,M.chelonae 2%などと,迅速発育菌が19%を占めている。特に予後の不良なことで知られるM.abscessus症が多く(わが国は2%以下),これが高い死亡率と結びついている疑いがあるが,菌種別の検討は行われていない。このため,この数字をわが国にそのまま当てはめることはできない。Winthrop らは次に米国西海岸の一地域で医療保険データを用いて疫学調査を行った5)。これは先に紹介したが,予後としては,生物学的製剤使用中に発症したNTM 症18 例中7 例(39%)が死亡,発症から死亡までは569 日(中央値)であったとしている。ただし死亡例について,NTM 症の進行による死亡か他病死かの検討は行われていない。また菌種別の検討は今回もなされていない。また生物学的製剤非使用のRA- NTM 症との対比も行われていない。わが国の研究としては,RA-NTM 症を検討した上記高柳らの報告の一部で触れられている。予後の検討の中で,生物学的製剤を含む治療薬剤別の解析結果が検討されており,副腎皮質ステロイド薬群とその他の薬剤の群が予後不良であった。生物学的製剤については,同薬投与前後に発症したNTM 症は6 例のみで,その生命予後は特に不良ではなかったが,症例数が少なく,明確な結論は得られていない(図4)。2011 年に行われたわが国の多施設共同研究では治療反応性と生命予後が検討されている8)。25 施設が参加,生物学的製剤投与下に発症したNTM 症で学会診断基準を満たした13 例について解析が行われた。うち2 例はNTM 症の診断,治療後に生物学的製剤治療が開始され,その後の発症であった。RA の病期の進んだ高齢女性が多く,使用薬剤はインフリキシマブ1例,エタネルセプト6 例,アダリムマブ2 例,トシリズマブ4 例,菌種はM.avium 11 例,M.intracellulare 1 例,M.abscessus 1 例であった。治療予後であるが,2 例(M.avium 1, M.abscessus 1)については生物学的製剤投与の中止のみでNTM 症に対しては無治療で経過が観察されたが,病変は不変であった。11 例に治療が行われ,全例治療は奏功し,菌の陰性化と陰影の改善が得られた。死亡例はなかった。 ている。RA-NTM 症についてはどうであろうか。同じ施設からRA-NTM 症(大部分は生物学的製剤非使用)の予後についてのまとまった報告が出ている10)。98 例のRA-NTM 症(生物学的製剤投与,非投与を併せて)の予後は,死亡率で見て5 年:33.9%,10 年:52.6%であり,MAC 症に限定した場合,5 年:32.8 %,10年:47.3%の死亡率であった。同じ施設の全般例についての上記の数字12)に比しやや不良であった。予後不良因子として,X 線病型,既存の肺疾患あり,炎症の持続などが抽出された。RA-MAC 症の予後が全般例に比しやや不良であった理由としては,RA 群において既存の肺疾患を有する比率が高かったこと,画像病型として結節・気管支拡張型以外が多かった,持続する炎症が挙げられている。死亡はすべてNTM 症の悪化によるものではない。98 例中38 例の死亡を症例ごとに検討すると,その死因は肺炎24%,間質性肺炎11%,その他の呼吸器疾患13%,呼吸器以外の疾患16%などで,NTM 症の進行によるものは16%であった。NTM 症そのもので死亡する率は低値ではあったものの,一般の日本人RA 患者集団の死亡率13)よりも明らかに高く,年齢や肺合併症の影響が考えられる。このように,RA 患者にNTM 症が発症した場合,既存の肺病変が多いこと,全身状態が不良なこと, RA それ自体や治療による免疫異常,持続する炎症が治療を困難にしている様子がこれらの研究から窺われる。RA-NTM 症を考える場合,これらRA 患者特有の併存病態に注意を払う必要がある。 2 ●生物学的製剤投与下発症のNTM 症の予後生物学的製剤投与下発症のNTM 症について最初に警告を発したのは米国のWinthrop らである11)。彼らは,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)に集積された自発報告例(Med Watch Database)の中から生物学的製剤投与下に発症したNTM 症239例を収集(1999~2006 年),105 例(確実76 例,疑い29 例)を選び出し検討した。予後の検討で,105 例中9 例が報告の時点で死亡しており,さらに観察期間を延長すればより多くの死亡が見いだされるであろうとして,重大な懸念を表明した。
かしNTM 症は緩慢な経過をとる疾患なので,その発症と生物学的製剤投与の時間的な前後は必ずしも本質的ではなく,投与後の発症例についての知見をNTM症と生物学的製剤投与の問題一般に拡張することは十分可能と考えられる。むしろ予後を左右するのは緊密な経過観察と,悪化が起こった場合の迅速な判断,治療開始である。以上を総合すると,RA-NTM 症の予後には,菌種, NTM 病変の病型と広がり,既存の肺病変の有無とその広がり,副腎皮質ステロイド薬などの免疫抑制薬の投与,炎症の持続,全身状態などさまざまな因子が関与すると考えられる。生物学的製剤投与がその予後不良因子の一つである可能性はあるが,わが国ではいまだ証明されてはいない。その中でわが国で頻度的に最も高いMAC 症については,まだ証拠の蓄積が十分とは言えないが,X 線病型が結節・気管支拡張型でその広がりが小範囲であり,全身状態が良好などの条件が満たされる場合,その治療反応性および生命予後は比較的良好であると考えられ,これを生物学的製剤が悪化させるとのエビデンスは今のところない。 また全世界からの症例報告(英文)を収集した文献的考察14)によると,TNF 阻害薬投与下の肺NTM 症は11 例報告があり,4 例の死亡が報告されているが,そのうち3 例は一般人でも予後の悪い迅速発育菌(M.abscessus 2 例,M.xenopi 1 例,M.peregrinum 1例)によるものであった。また肺外NTM 症は24 例報告されており,うち10 例はM.abscessus を含む迅速発育菌であったが,これらの報告例の中では死亡例は1例もなかった。これら内外の症例報告,米国,日本の多数例についての検討8)11)などを通じて,生物学的製剤投与下発症のMAC 症については,死亡例は文献上報告あるいは言及されていない。ただしMAC 症の予後は5~10 年のオーダーで検討されるべきもので,その意味では長期間観察した症例の蓄積はまだ十分とはいえない。 3 ●NTM 症と生物学的製剤─まとめ上記のように,生物学的製剤投与後の発症例については,菌種をMAC に限定すれば,治療反応性,予後は決して不良ではないとの報告が蓄積されている。一方NTM 症の診断が先行しながら生物学的製剤が投与され,経過で良好な予後が観察された例の報告はMori らの2 例,高柳らの3 例,計5 例しかない。し全例(n=102) MTX(n=32) steroid(n=28) TNF or IL-6 阻害薬(n =6) Others(n=36) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 0 5 10 15 20 25 30 NTM 診断後経過年数 生存率( % ) 死亡率生存時間Log-rank 群5 年10 年中央値検定全例34.5% 53.1% 8.92 年─ MTX 12.1% ─ ─ Referenceステロイド46.1% 76.9% 7.48 年p=0.012 TNF/IL-6 阻害薬20.0% ─ ─ p=0.745ほか46.5% 46.5% 11.70 年p=0.018図4 NTM 診断時のRA 治療薬別の予後(文献10 より改変引用)
る8)。2 例(M.avium 1, M.abscessus 1)については生物学的製剤投与の中止のみでNTM 症に対しては無治療で経過が観察されたが,病変は不変であった。11 例(すべてMAC)に治療が行われた。クラリスロマイシン,リファンピシン,エタンブトールが8 例に,うち2 例にはストレプトマイシンが5~20 カ月追加された。クラリスロマイシン,エタンブトール,リファンピシンのうちの2 剤とキノロン〔レボフロキサシン(levofloxacin:LVFX),モキシフロキサシン(moxifloxacin:MFLX)〕の併用も2 例で行われていた。全例治療は奏功し,菌の陰性化と陰影の改善が得られた。興味深いことに,上葉に空洞を有する例が2 例あったが,通常の宿主の場合このような例は難治で治療に3 年もしくはそれ以上を要すると言われているが,いずれも治療開始数カ月後に空洞の消失と菌陰性化が得られ,治癒過程はむしろ速やかであった(図3)。一般にTNF 阻害薬は抗酸菌に対する自然免疫を阻害するため,抗酸菌症を発症しやすくするので,その治療も難航することが予測されていたが,一部にせよ,むしろ速やかな改善が得られたことは注目に値する。Wallis は,結核症の治療を促進する手段を求めてタンザニアで行われた臨床試験の結果を発表している15)。彼らは結核症が難治であるのは,菌が肉芽腫内に保護されているためではないかと考え,肉芽腫形成を阻止,あるいは既存の肉芽腫を崩壊させる副腎皮質ステロイド薬,TNF 阻害薬(エタネルセプト)を抗結核薬に併用し,通常治療のみを受けた群と比較した。その結果,菌陰性化速度,陰影の消退速度でみるとステロイド高用量〔メチルプレドニゾロン(methyl predni solone:MPSL)100mg 連日1 カ月,その後漸減〕群が最も良好で,エタネルセプト投与群はそれに次いで改善速度が速く,通常治療群を上回っていた。結核症についての研究でありまた宿主条件も異なるので,ただちにNTM 症の臨床に応用すべき方法ではないが,抗酸菌症の治療における宿主免疫の関与を考えるうえで,示唆に富む研究であり,生物学的製剤投与下に発症したNTM 症の一部において,通常の宿主に見られない速やかな改善が見られた事実の説明になるかもしれない。ただし,このような方法は免疫状態の異なる患者群においては,重篤な播種性抗酸菌症を助長 Q4治療はどうするのか? 薬剤は? 期間は? 治療はRA 患者であれ,またそこに生物学的製剤が加わった状態であれ,特に一般人と変わるところはない。それぞれの菌種に対して標準的に使用される薬剤を選択する。治療期間については定説はないが,標準の菌陰性化後1 年間あるいは治療経過が難渋する場合,さらに6~12 カ月程度延長することも考慮される。しかし通常の宿主よりも順調に治癒に向かうこともある。 治療は日本結核病学会・日本呼吸器学会の肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解(2012 年改訂) 6)に従う。まず,この「見解」で記載しているのはMAC 症とM.kansasii 症のみである。これ以外のNTM 症では治療に関しての知見が不足しているため,2007 年の米国胸部学会の公式ガイドラインを参考に治療を行う,とされている。MAC 症治療の原則はクラリスロマイシン(clarithromycin:CAM),エタンブトール(etham butol:EB),リファンピシン(rifampicin:RFP)の3 薬剤による多剤併用療法である。必要に応じてストレプトマイシン(streptmycin:SM)またはカナマイシン(kanamycin: KM)の併用を行う。最適治療期間は研究課題の一つとされているが,菌陰性化後1 年,あるいは治療経過が難渋する場合,さらに6~12 カ月程度延長などが目安になる。M.kansasii 症は薬剤効果が高いNTM 症である。リファンピシン,エタンブトール,イソニアジド(isoniazid:INH),ストレプトマイシンなどのアミノグリコシド系薬,クラリスロマイシン,レボフロキサシンなどのフルオロキノロン系薬などが有効である。治療は菌陰性化後1 年間行う。ただしこれらは一般人についてのガイドラインであり,RA 患者においては上述のように既存の肺病変が広範囲である,あるいは全身状態が不良である場合,異なる治療反応性も予想されるので,期間などは柔軟に考慮されるべきである。生物学的製剤投与中に発症したNTM 症治療については上記国内共同研究がまとまった検討を行ってい A4
5)。この研究は,RA 固有の気道病変,間質性肺炎などには菌の定着が起こりやすく,あるいは一部ではすでに起こっており,それが,生物学的製剤投与下に発症してくるNTM 症の最大の危険因子であることを強く示唆している。気道病変の危険因子としては,進行した病期,抗CCP 抗体高値,リウマトイド因子高値が挙げられている16)。したがって,生物学的製剤投与開始前には,これらの危険因子を持ったRA 患者には可能な限りHRCT を施行し,気道病変などの有無をチェックし,画像上疑わしい例には複数回の検痰,もしくは気管支鏡検査などを施行すべきである。一度でも菌が証明された場合は,定着という判断でも,その後の増悪,発症があり得るので,生物学的製剤投与開始後も慎重に経過を観察する。具体的には年2 回および有症状時の胸部単純X 線撮影は必須であろう。近年開発されたMAC 症の血清診断法(抗GPL-core IgA 抗体;キャピリアMAC R)は感染と定着とを高い感度と特異度で鑑別診断することができ17),RA 患者集団においても有効であったとの報告がある18)。有望な分野であり,今後の蓄積がまたれる。 Q6 NTM 症を合併している,あるいはその疑い があるRA 患者には生物学的製剤は禁忌か? NTM 症と確診されている場合,原則禁忌であるが,菌種がMAC で,X 線病型が結節・気管支拡張型であり,肺の既存病変が軽度,全身状態が良好,抗NTM 治療が長期にわたって継続でき,治療反応性が良好であることが確認され,またRA の疾患活動性が高度で生物学的製剤の投与を強く必要とする場合に限り,リスク・ベネフィットバランスを十分検討したうえで生物学的製剤の開始を考慮してもよい。その場合呼吸器専門医の併診が望ましい。線維空洞型では禁忌である。疑い例については,より柔軟な対応でよい。 RA 患者には肺病変として気道病変,間質性肺炎が多いので,NTM 菌の定着,発症が起こりやすい。それらの肺病変は,罹患歴が長い,あるいは病期の進んだRA に多く,そのようなRA 患者はしばしば従来の A6 するリスクとなる可能性も否定できないことは論をまたない。 Q5発病の危険因子は何か? 予知できる のか? 既存の気道病変,間質性肺炎の存在が最大の危険因子である。生物学的製剤投与開始前に可能な限りHRCT を施行し,気道病変の有無をチェックし,疑わしい例には複数回の検痰,もしくは気管支鏡検査などを施行すべきである。一度でも菌が証明された場合は,定着という判断でも,慎重に経過を観察する。近年開発された血清診断は定着と発症の鑑別に有用である可能性があり,期待がもたれる。 生物学的製剤投与下に発症する結核症は,その大部分が,LTBI の内因性再燃であることが明らかとなり,スクリーニング法が確立し,該当者にイソニアジドの内服治療を行うことで,効果的な発病防止ができるようになった。しかし,NTM 症に関しては,内因性再燃なのか,外来性感染なのか,発病の危険因子は何なのかなどがこれまで明らかでなく,方策は立てられていなかった。内因性再燃か,外来性感染かについては,生物学的製剤投与開始からNTM 症発症までの期間が参考となる。Mori らの報告では8),検討対象13 例中,最短6週,最長8.5 年,中間値10 カ月であった。3 カ月以内が3 例,10~11 カ月が5 例,併せて12 カ月以内が8例,それ以降が5 例であった。その多くが内因性再燃と考えられている結核症の場合,生物学的製剤投与開始から3~6 カ月の発症が多く,1 年を超えての発症は少ない。同じ抗酸菌症として類比すると,上記の発症パターンのうち1 年以内の8 例は内因性再燃の可能性があり,それ以降の5 例は外来性感染の可能性が大きいと考えられる。既存病変の分析も重要である。発病前のCT は13例中12 例で撮影されており,発症時のCT と対比検討が行われた。発症前のCT ではその大部分に気管支拡張症,細気管支炎,結節,石灰化などの異常所見が認められた。発症時のCT ではこれらの所見の部分に一致して,浸潤影,粒状影などが出現していた(図 A5
6が問題となる。以下,NTM の状況を3 つに分け,生物学的製剤投与の可否を個別に検討する。ただしNTM の菌種としてはわが国の80%を占めるMAC(M.avium complex)に限定する。 1 ●NTM(MAC)定着のみこれについて,生物学的製剤の投与がどういう影響を与えるかについては,エビデンスはない。しかし禁忌とする積極的根拠もないので,生物学的製剤投与は差し支えない。しかし生物学的製剤投与開始後のNTM 症発症の可能性は高いと考えられ,その後の厳重な監視が必要である。少なくとも年2 回の胸部X線撮影,および咳,痰,血痰などの症状があるときはその都度胸部X 線撮影や検痰などを行う。 リウマチ治療薬に抵抗性で,疾患活動性の制御のために生物学的製剤を必要とする。これまで見てきたように,生物学的製剤投与下に発症したRA-NTM 症については,いくつかの条件を満たした場合,予後は必ずしも不良ではない。これを基礎におき,以下,NTM 症合併,あるいはその疑いが持たれるRA 患者で,生物学的製剤が強く必要とされる場合,すべてが禁忌であるかどうかを条件ごとに考察する。臨床の現場では,1診断基準を満たすNTM 症確定診断例のほかに,2画像から疑われるが菌は出ない, 3画像から疑われ,痰の検査を行ったところ,PCRでのみ陽性だった,4培養で1 回のみ陽性だった,5 NTM 症の既往がある,6NTM 症の治療を終えたばかりであるなどさまざまな状況が想定される。この中で23は,今の約束では,NTM 症とは言わず,また定着とも言わない。4が定着であり,14~ 図5 先行気道病変の上に発症したと考えられるNTM 症a.81 歳,女,RA 罹患歴8 年。エタネルセプト投与10 カ月で,咳,痰,血痰で発症したM.avium 症。発症前1 年のCT 所見。右上葉,下葉に気管支拡張症と粒状影(細気管支病変)が見られる。RA の気道病変と考えられるが,この時点で菌検査は行われておらず,菌の定着があったのか否かは不明。b.発症時のCT 所見:既存の気道病変の部に一致して新たに浸潤影,粒状影が出現してきている。生物学的製剤開始前に気道に定着していたNTM 菌が活動を開始したのか,新たに外来性に感染が起こったのかは不明。(文献8 より改変引用) a b
維空洞型は一般に極めて難治であり,予後も不良なので,禁忌である。ほかの菌種については,わが国で2 番目に多いM.kansasii 症は,一般に既存薬剤の適切な組み合わせによって制御は可能とされているが,RA に合併した場合の治療反応性,予後については,むしろ不良であったとの報告が1 編10)あるのみである。この不良な予後は合併疾患〔通常型間質性肺炎(usual interstitial pneumonia:UIP)など〕に影響された可能性があると考察されているが,RA 患者にはそのような既存肺疾患が多いことを考えると必ずしも偶然とはいえず,この報告しかない現時点では,慎重な対応が求められるというほかない。抗酸菌症治療に精通した専門家の指導下以外は原則として禁忌の中に含めることとする。M.abscessus 症は禁忌である。 Q7生物学的製剤使用中にNTM 症を発症した場合,生物 学的製剤はいったん中止することになるが,感染収束後には再投与できるのか? メトトレキサートはどうか? 病勢のコントロールに生物学的製剤が必須の症例で,良好なコンプライアンスを前提に適切な抗NTM 療法を一定期間併用すれば,生物学的製剤の再開も一つの選択肢となり得ることを示唆するいくつかの報告がある。 生物学的製剤投与を受けているRA 患者の多くはそれまでの疾患修飾性抗リウマチ薬(disease modifying anti-rheumatic drugs:DMARDs)に治療抵抗性で,生物学的製剤以外の治療の選択肢が限られていることが多い。多くの患者で生物学的製剤を中止するとRAは悪化し,日常生活に著しい障害が再発し,長期的な予後(関節の機能,そして全身の臓器病変)も再び悪化への道を辿る可能性がある。炎症を抑えるために副腎皮質ステロイド薬が使われれば,細菌感染を含む各種感染を起こしやすくなり,重篤な全身的な感染症を起こすことも少なくない。したがって生物学的製剤投与下にNTM 症を発症し,生物学的製剤の投与がいったん中止された後, NTM 症の治療が終了後の生物学的製剤の再投与の可能性が真剣に検討されるべきである。実際に再投与に A7 2 ●NTM(MAC)症の既往があるが,現時点ではNTM 症の診断基準を満たさない既往にNTM 症がある場合,現時点で保菌が続いているか否かは,やはり個々のケースにおいて,検痰,画像診断などで詳しく調べる必要がある。菌が証明されなければ,生物学的製剤の投与は可能,定着が見いだされれば1 に,再発が確認されれば3 に準じる。NTM 症の治療を終えたばかりの場合も,同じ手順を踏むことになる。しかしいずれの場合も,生物学的製剤を投与する場合は,定期的な胸部X 線撮影など厳重な経過観察が必須である。 3 ●NTM(MAC)症と確定診断された場合画像所見および喀痰から菌の培養陽性が2 回の診断基準を満たした場合,原則として早期に抗菌療法を開始する(病状により経過観察の選択もあり得る)。治療内容はA4 に述べた。クラリスロマイシンが治療の柱であるので,薬剤感受性検査で菌がクラリスロマイシン感性であることは確認しておいた方がよい。副作用(特に消化器系)で規則正しい服薬ができない例も少なくないので,注意深く見守る。治療が長期にわたって継続可能で,治療反応性が良好,菌所見および画像所見の安定が確認され,一方RA の疾患活動性が高度で生物学的製剤の投与を強く必要とする場合に限り,リスク・ベネフィットバランスを十分検討したうえで生物学的製剤の開始を考慮してもよいと考えられる。ただしMAC 症全般の比較的予後不良因子として, X 線病型(線維・空洞型),肺の既存疾患がある,高齢(70 歳以上),BMI 18.5kg/m2 以下,貧血,低アルブミン血症ありなどが判明しているので12),これらの条件をもつ患者は除外した方がよい。言い換えると,NTM 症合併と診断されたRA 患者への生物学的製剤投与は原則禁忌ではあるが,菌種がMAC 症で,X 線病型が結節・気管支拡張型であり,全身状態が良好で,肺の既存病変が軽度,抗NTM 治療が完了して良好な結果が得られた場合,もしくは治療が継続できており,治療反応性が良好であることが確認された場合,厳重な監視下(できれば呼吸器専門医の参加の下)に,生物学的製剤の治療は考慮され得る。これらの条件を満たさない場合,特に病型として線
2.生物学的製剤投与によりその発症が促進される可能性があり,生物学的製剤治療開始前に,可能な限りHRCT でスクリーニングを行い,疑わしい患者には,検痰などで定着あるいは発症の有無を確認しておく必要がある。2-1.スクリーニング検査で単なる定着であれば, 生物学的製剤投与を控える必要はない。しかし発症のリスクは高いと考えられるので,その後の厳重な監視が必須である。2-2.スクリーニング検査で発症が確認された場合 は,生物学的製剤の投与は行わず,NTM 症に対しては抗菌化学療法を行いその治療に努める(病状により経過観察の選択もあり得る)。2-3.発症の確認されたNTM 症を持つRA 患者に おいて,RA の活動性の制御のためにどうしても生物学的製剤の投与が必要と判断される場合,以下の条件をすべて満たす場合に限り,投与も考慮されてよい。・ 菌種:MAC,X 線病型:結節・気管支拡張症 型,肺の既存疾患が軽度,全身状態が良好(貧血,低アルブミン血症がない,BMI 18.5kg/m2以上)。・ 抗菌薬の服薬が安定的に継続できており,治療 効果が良好。・ 薬剤感受性検査でクラリスロマイシン耐性がな い。この場合,生物学的製剤開始時期は,NTM 症の十分な治療効果を見極めてからとする。3.生物学的製剤投与中にNTM 症を発症した場合は,生物学的製剤を中止して抗酸菌症の治療を行うが,その薬剤,期間などについては呼吸器学会・結核病学会のガイドラインに従う。特に治療反応性が不良である,あるいは予後が不良であるとのエビデンスはない。治療中はRA 患者特有のさまざまな併存疾患に最大限の注意を払う必要がある。3-1.NTM 症治療開始後の経過が順調であり,生物 学的製剤の再開がどうしても必要な場合の再開については,若干の成功例の報告はあるが,成功の条件,再開時期,どの生物学的製剤が安全かなどについては,定説がない。さらなる検討が必要である。 成功した症例の報告がいくつか存在する。英文の症例報告を検索したMori らは,肺外NTM症で,治療開始後病勢のコントロールのためどうしても必要でTNF 阻害薬を再開したところ,原疾患の良好なコントロールが得られ,かつNTM 症の悪化もなかったという7 症例(リウマチ性疾患5 例,クローン病2 例)を見いだしている14)。生物学的製剤再開時期は1 週後~9 カ月後とさまざまであるが,大部分の例でNTM 症に対する抗菌療法が併用されている。またわが国から2 例,興味深い症例報告がある。1例は63 歳,女性,トシリズマブ開始後ようやくRAの制御良好となり8.5 年継続後,72 歳時,M.avium症(上葉空洞形)を発症した。トシリズマブをいったん中止したが,患者の強い希望で,抗NTM 薬の効果を確認後,トシリズマブを再開,NTM 治療は1 年で終了,2 年経過後の時点でNTM も制御されRA も順調であった19)。もう一つの例は76 歳,女性,RA 罹患歴19 年,エタネルセプト開始後ようやくRA の制御が良好となった。開始3 年後M.intracellulare 症(結節/ 気管支拡張型)を発症,抗菌薬治療が開始されたが,患者はエタネルセプトの中止を肯わず(以前に別の理由でエタネルセプト中止後2 週で再燃を来した経験あり)。やむを得ずエタネルセプトを継続したところ,その後NTMの治療経過は良好で,RA も良好な状態が続いた14)。病勢のコントロールが生物学的製剤なくしては困難な症例で,厳重な監視下に良好なコンプライアンスを前提に適切な抗NTM 療法を一定期間併用すれば,生物学的製剤の再開(時には継続)も一つの選択肢となり得ることをこれらの報告は示している。なお,メトトレキサートについては,ほかのリウマチ治療薬と比し,特にNTM 症の予後を不良にするとのエビデンスはないので,注意深く観察しながら継続は可能であろう。 おわりに 1.重症のRA 患者(長い罹病期間,進行した病期)は高率に肺病変(気道病変,間質性肺炎など)を合併しており,環境常在菌であるNTM がそこに定着し,ある条件下にNTM 症を発症してくる。
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各論3 はじめに ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia: PCP)はヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)感染などにより細胞性免疫が高度に障害された状況で起きる日和見感染症として知られている1)。ほかに副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の長期投与,造血幹細胞移植,固形臓器移植を受けた患者にもPCP は発症し,しばしば致死的経過をとる。関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)では免疫抑制薬のメトトレキサート(methotrexate:MTX)が標準治療薬として広く使用されるほか,副腎皮質ステロイド薬やその他の免疫抑制薬もしばしば用いられる。関節の炎症を悪化させるサイトカインとしてTNF-αやIL-6 が知られており,生物学的製剤の治療標的となっているが,こうした炎症性サイトカインは宿主防御にも重要な役割を果たしている。メトトレキサートや生物学的製剤がRA の治療に用いられるようになって以降,RA 患者におけるPCP の合併が問題になっている。本項では生物学的製剤使用中のRA 患者におけるPCP の病態や診断,治療などについて概説する。Q1ニューモシスチス肺炎(PCP)とは どのような感染症か? 真菌(子嚢菌)の一種であるPneumocystis jirovecii(以下Pneumocystis)による肺炎であり,ヒトからヒトへ経気道的に感染し,免疫能が正常な宿主では無症候性保菌にとどまるものの,免疫不全者ではPCP を発症すると考えられている2)。 Pneumocystis は培養が困難なこともあり,詳細な生態は明らかになっていない。ただ環境中に発見されないことから,自然界にniche が存在するのではなく,ヒトの呼吸器官が唯一の棲息場所だと考えられている。生体内では90~95%が栄養体,残りが嚢子として存在しており,栄養体はI型肺胞上皮と高い親和性を示す2)。基礎疾患のない小児でPneumocystis の抗体価を測定すると,2 歳児の約半数,4 歳児の8 割程度が抗体陽性となる。このため,幼児期にPneumocystis に感染した後,菌が体内に潜在性に保持され,何らかの免疫抑制状態になったときに発症するという内因性再燃説が考えられてきた3)。しかし最近の研究から,PCP患者や無症候性キャリアなどが感染源(reservoir)となり,そこから周囲に感染が起こり,その中から一部の免疫低下者がPCP を発症するという外来性再感染 A1 ニューモシスチス肺炎 Q1 ニューモシスチス肺炎(PCP)とはどのような感染症か? Q2 PCP の病態は? Q3 RA 患者のPCP の特徴とは? Q4 生物学的製剤使用中のPCP の頻度と死亡率はどの程度か? Q5 PCP を発症する危険因子は何か? Q6 PCP の診断はどのように行うか? Q7 PCP の治療はどのように行うか? Q8 PCP の予防は可能か? Q9 PCP 終息後に生物学的製剤の再開は可能か?
説が有力になっている4)5)。その根拠として,1PCPを2 回以上発症したHIV 感染者において,各エピソードで検出されたPneumocystis の遺伝子型が異なっていること6),2腎移植病棟および外来での集団発症事例において各患者から検出されたPneumocystisの遺伝子型が一致したこと7),3PCP 患者と接触した健常な医療従事者の誘発喀痰からPneumocystis が検出され,遺伝子型が患者由来のものと一致したこと8)などが挙げられる。またPCR 法を用いた疫学的研究から,健常者でも70%前後がPneumocystis を保菌していることが明らかになっている9)。このため現在では,Pneumocystis はヒトからヒトへ経気道的に感染し,免疫能が正常な宿主では無症候性保菌にとどまり,多くは自然に除菌されるものの,免疫不全者では顕性感染として発症すると考えられる4)5)。RA 患者でも保菌が確認された後にPCP を発症した例が報告されている10)。Mori らはRA 患者82 名から採取した気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid:BALF)または誘発喀痰でPCR を施行し,9 名(11%)からPneumocystis DNA を検出したと報告している10)。このうち5 例はST 合剤の予防内服で陰転化し, 3 例は予防内服開始前(PCR の2~4 週後)にPCP を発症した。検査法の違いにより保菌率は異なるが,RA患者では一定の割合で気道・肺に定着があり,感染源となるほか,一部がPCP を発症すると考えられる。 Q2 PCP の病態は? Pneumocystis 自体の組織傷害性は低く,PCPにおける肺組織傷害は主に宿主側の免疫反応によるものであり,肺胞マクロファージのほか,CD4陽性T リンパ球,好中球,樹状細胞などさまざまな免疫担当細胞が関与している2)11)。 Pneumocystis が肺内で増殖を開始すると,肺胞マクロファージなどの免疫担当細胞がこれを認識し,免疫反応が開始される。マクロファージは抗原認識のほか,貪食,分解などPneumocystis のクリアランスにおいて重要な役割を果たしている。菌体の認識後にマクロファージや上皮細胞から放出される炎症性メディ A2エータのうち,IL-8 は好中球の遊走を促進し,好中 球から放出された蛋白分解酵素や活性酸素種により肺胞上皮細胞や血管内皮細胞が傷害される。すなわち好中球は肺組織傷害と関連があり,BALF 中のIL-8 濃度や好中球数がPCP の予後因子であることが知られている12)。 Q3 RA 患者のPCP の特徴とは? RA 患者のPCP は急速に発症し,強い酸素化障害を伴うのが特徴である。その一方で肺内の菌量が少ないため,診断が困難なことも多い。 PCP における肺組織傷害が主に宿主側の免疫反応によるものであるため,RA 患者をはじめとする非HIV 患者と後天性免疫不全症候群(acquired immune deficiency syndrome:AIDS)患者とでは病像が異なり,非HIV 患者のPCP は発症がより急性で,強い酸素化障害を伴うことが多い13)14)。一方,肺内の菌量はAIDS 患者に発症したPCP に比べて少ないとされ,鏡検によるPneumocystis の検出が困難な場合が多い(図1) 13)。本邦のインフリキシマブ(infliximab:IFX)の市販後調査(post marketing surveillance:PMS)によれば,PCP の発症時期は投与開始後1~2 カ月の間に集中し,平均70 日であった15)。これは,シクロホスファミド(cyclophosphamide:CPA)などの古典的免疫抑制薬で投与期間に比例してリスクが増大するパターンとは異なる。Kameda らは生物学的製剤使用中にPCP を発症した24 例(染色陽性の確実例13 例,PCR のみ陽性の疑診例11 例)を報告しているが,すべて生物学的製剤投与開始から3 カ月前後で発症しており,1 週間以内の急速な経過や発熱,呼吸困難などの臨床像は共通していた16)。RA 患者のPCP が重症化しやすい背景として,外来性因子に対する過剰な免疫反応が想定されていた。Tasaka らは基礎疾患として,自己免疫疾患,悪性腫瘍,HIV 感染をもつPCP 患者のBALF 中のサイトカイン濃度を測定,比較した17)。その結果,MCP-1, A3
Q4生物学的製剤使用中のPCP の頻度と 死亡率はどの程度か? 生物学的製剤に関する本邦のPMS では,使用された患者の0.2~0.4%程度にPCP がみられている。死亡率は10~29%と高いが,予後良好との報告もあり,施設間で差がある可能性が考えられる。 2000 年以降TNF 阻害薬などの生物学的製剤が導入され,治療中のPCP の発生が報告されるようになった。今のところPCP 患者の増加は日本からのみ報告され,米国における疫学調査ではPCP の増加は確認 A4 IL-8,IL-6 の濃度が基礎疾患によって異なり,いずれも自己免疫疾患の患者で高く,HIV 感染患者で低い傾向にあった(表1)。BALF 中のサイトカイン濃度とほかの指標との関連を調べたところ,IL-8,IL-6 の濃度がBALF 中の好中球分画と正の相関を示し,酸素化指数(PaO2/FIO2 比)とは負の相関を示した(図2)。またBALF 中のIL-8 とMCP-1 濃度は血清CRP と相関し,これらのケモカインが全身性の炎症と関連することが示唆された17)。すなわち,RA をはじめとする自己免疫疾患患者では,PCP における肺内での炎症性メディエータの産生が高度であり,AIDS 患者に比べてPCP が重症化しやすいこととの関連が考えられた。 図1 背景疾患による肺内の菌量の違いHIV 感染者では肺内の菌量が多く,悪性腫瘍や副腎皮質ステロイド薬投与中に発症した患者では菌量が少ない。(文献13 より引用) 菌数Cysts/ml AIDS血液悪性腫瘍固型癌ステロイド投与臓器移植後 1,000,000 100,000 10,000 1,000 100 10 表1 PCP 患者のBALF 中のサイトカイン濃度,酸素化指数,血清マーカーと基礎疾患との関連 自己免疫疾患(n=14)悪性腫瘍(n=10) AIDS (n=8) p 値* TNF-α(pg/ml) 6.8(2.3~13.7) 2.4(0.5~5.1) 4.1(2.7~6.0) 0.196 MCP-1(pg/ml) 2,252(1,758~2,826)379(143~2,072)715(473~1,049)0.003 HMGB1(ng/ml) 18.7(12.3~32.4) 15.7(3.2~20.6) 16.5(12.7~25.5)0.457 IL-8(pg/ml) 206(103~473) 70(34~122) 54(30~66) 0.001 IL-6(pg/ml) 281(63~622) 53(3~228) 35(19~57) 0.012 IFN-γ(pg/ml) 14(9~47) 26(6~165) 117(12~249) 0.417 PaO2/FIO2(mmHg) 220(155~270) 322(160~415) 338(237~425)0.030 CRP(mg/dl) 8.0(3.6~13.0) 5.7(1.3~12.1) 2.8(1.1~5.1) 0.069 LDH(IU/L) 528(326~719) 373(297~612) 441(301~549)0.563 KL-6(U/ml) 1,420(642~2,440)1,000(390~1,086)596(544~1,010)0.340数字は中央値(括弧内は四分位範囲)。*:Kruskal ─Wallis 検定(文献17 より引用)
を検討したところ,危険因子は,1年齢が65 歳以上, 2プレドニゾロン(prednisolone:PSL)換算で1 日6mg 以上の副腎皮質ステロイド薬の使用,3既存の肺病変の存在であり,この危険因子を2 つ以上有する患者と1 つ以下の患者とでは,PCP の累積発症率に有意な差があった(図3) 21)。このような危険因子を有する患者に生物学的製剤を開始した場合には,慎重な経過観察を行うべきと考えられる。 Q6 PCP の診断はどのように行うか? PCP の診断はBALF など呼吸器由来の検体から鏡検でPneumocystis を証明することがゴールド・スタンダードである1)4)。しかし非HIV 患者では肺内の菌量が少なく,呼吸不全も高度であることが多いため,画像所見や血清β─D ─グルカン高値,PCRによるPneumocystis DNA の検出などをもって診断することも多い14)。 1 ●症候PCP の症状に特異的なものはなく,発熱,咳嗽,呼吸困難が主な症状である。HIV 患者のPCP に比べて,非HIV 患者のPCP は症状がより重く,進行が急速である14)。理学所見にも特異的なものはなく,低酸素血症があっても聴診所見に異常がないことも多い。 A6 されていない。その理由は不明であるが,本邦ではPMS で全例調査が行われたことと関係があるのかも知れない。インフリキシマブ投与患者5,000 例を対象としたPMS では,使用例の0.4%にPCP が見られた18)。エタネルセプト(etanercept:ETN)のPMS では投与例の0.2%でPCP 発症がみられたが,そのうち24%が死亡したと報告されている19)。ほかの報告でも死亡率は10~30%程度と比較的高く,いったんPCPを発症すると重症化しやすいことが示唆される20)。一方,Kameda らの報告では,生物学製剤投与中に発症したPCP 患者24 例のうち,6 例(25%)で人工呼吸が必要であったものの,死亡は1 例(4%)であった16)。この死亡率の違いの要因としては,早期からPCP を疑って積極的に検索を行うかなど,施設による差が考えられる。 Q5 PCP を発症する危険因子は何か? RA 薬物療法に伴うPCP 発症の好発年齢は高齢者である。加えて,リウマチ肺や肺気腫など肺の構造改変を伴う合併症を有する患者や副腎皮質ステロイド薬服用患者などがPCP 発症のハイリスク群と考えられる。 インフリキシマブのPMS でPCP を発症した21 例 A5 図2 BALF 中の炎症性サイトカインと酸素化との関連BALF 中のIL-8 濃度(a)やIL-6 濃度(b)が高いほど,酸素化障害が強い。(文献17 より引用) 0 200 400 600 800 IL-8(pg/ml) PaO2/FlO2 1000 1200 1400 1600 500 400 300 200 100 450 350 250 ρ=-0.709 ρ<0.0001 a. 150 50 ρ=-0.694 ρ<0.001 0 100 200 300 500 400 600 700 800 900 IL-6(pg/ml) PaO2/FlO2 500 400 300 200 100 450 350 250 :AIDS :non-AIDS b. 150 50
2 ●菌体の検出Pneumocystis は真菌でありながら通常の方法では培養することができないため,呼吸器検体を染色(通常ギムザ染色またはグロコット染色)し,鏡検により菌体を確認することで確定診断を行う。しかしリウマチ性疾患患者のPCP では急速に呼吸不全が進行するため,気管支鏡などの侵襲的な検査が困難なことも多い。通常喀痰は乏しく,高調食塩水による誘発痰の検査が行われるが,喀痰の鏡検で菌体が検出されることは少ない。 3 ●画像所見高分解能CT(high resolution computed tomography:HRCT)では,両側肺野に比較的均一なすりガラス陰影(ground glass opacity:GGO)が見られる22)23)。これはメトトレキサートによる薬剤性肺炎(MTX 肺炎)と類似しており,生物学的製剤を使用中のRA 患者の多くにメトトレキサートが投与されていること考慮すれば,両者の鑑別が問題になる。MTX肺炎ではGGO の分布が小葉単位で,濃淡の境が明瞭かつ直線的である汎小葉性の分布を示すことが多い(図4a) 22)。またHIV 感染者におけるPCP では,びまん性のGGO が濃淡は伴うものの境界が不明瞭な分布を示す(図4b) 22)。生物学的製剤使用中に発症した PCP 患者24 例(確診13 例,疑診11 例)の検討では,全例で両側びまん性のGGO を呈したものの,汎小葉性の分布を呈するものは少なかった(図5) 16)。 4 ●β-D-グルカン血清β-D-グルカンは本邦で深在性真菌症の補助診断法として開発されたが,PCP の診断についても有用性が明らかになり,臨床の現場で頻用されている。しかしさまざまな要因で偽陽性になることや,ワコー法やMK 法など複数の測定法が存在し,測定結果が一致しないことなど問題も多い。また各測定法でカットオフ値が異なるうえ,そのカットオフ値も比較的少数のアスペルギルス症,カンジダ症などのデータをもとに設定されたものであり,PCP でのカットオフ値は不明であった。Tasaka らはPCP を疑ってBAL を施行した295 例(血液疾患102 例,HIV 16 例,膠原病51 例を含む)で血清マーカー(β-D-グルカン,KL-6, LDH)の有用性を検討した24)。最終的に57 例(うち膠原病11 例)がPCP と診断され,検討した血清マーカーのなかではβ-D-グルカン(ワコー法で測定)が最も信頼性が高く,カットオフ値は31.1 pg/ml が適当と考えられた。このカットオフ値での感度は92.3%, 図3 インフリキシマブ投与中のPCP の発症危険因子3 つの危険因子(1年齢65 歳以上,2プレドニゾロン換算で6mg 以上の副腎皮質ステロイド薬,3既存の肺病変の存在)のうち,2 つ以上を有する患者ではインフリキシマブ投与中のPCP の発症が有意に多い。(文献21 より引用) (Copyright © 2007 Massachusetts Medical Society. All rifhts reserved) 100 80 60 40 20 0 0 25 PCP の累積発症率(%) 50 75 100 p=0.002 危険因子3 つ(n=7) 危険因子2 つ(n=13) 危険因子1 つ(n=49) 危険因子なし(n=54) 125 治療期間(週)
特異度は86.1%と良好な成績であった。 5 ●PCR近年PCP の診断にPCR によるPneumocystis DNAの検出が用いられている。最近のメタ解析によれば,非AIDS 患者における感度は99%,特異度は92%と報告されている25)。PCR はBALF のみならず誘発喀痰やうがい液でもPneumocystis DNA を検出可能であるが,現時点では保険適用がないことやPneumocystisの定着のみでもPCR が陽性になることなどに注意が必要である。6 ●鑑別診断 RA 患者における呼吸器感染症の診断を困難にしている要因として,RA には間質性肺炎や気道病変,胸膜病変などの呼吸器病変が合併しやすいこと,メトトレキサートなどによる薬剤性肺炎も合併しやすいことが考えられる。PCP の診断に当たっては,呼吸器感染症のほか,このような非感染性呼吸器合併症との鑑別に留意する。 Q7 PCP の治療はどのように行うか? PCP の治療はST 合剤〔スルファメトキサゾール(sulfamethoxazole:SMX)とトリメトプリム(trimethoprim:TMP)を5:1 で配合〕が第1 選択であり,RA 患者などの非HIV 患者では2~3 週間の投与を行う。第2 選択薬としてはペンタミジン(商品名:ベナンバックスR)があるが副作用が多く,最近ではアトバコン(商品名:サムチレールR)が用いられることもある1)。 PCP 治療に用いられる主な薬剤を表2 に示した。ST 合剤は,経口投与が可能な患者であればトリメト A7 図4 メトトレキサートによる薬剤性肺炎およびAIDS 患者に発症にしたPCPのCT 所見a.MTX 肺炎ではすりガラス陰影(GGO)の分布が小葉単位で,濃淡の境が明瞭かつ直線的である汎小葉性の分布を示す。b.AIDS 患者では,びまん性のGGO が濃淡は伴うものの境界が不明瞭な分布を示す。(文献22 より引用) MTX 肺炎(汎小葉性) a HIV-PCP(小葉構造と無関係) b 図5 エタネルセプト投与中に発症したPCP のCT 所見44 歳,男性。エタネルセプト投与中にPCP を発症。CT では境界が不明瞭で小葉構造と無関係に分布する広汎GGO を認める。(文献16 より引用)
プリム20mg/kg/日+スルファメトキサゾール100mg/kg/日を,静注の場合はトリメトプリム15mg/kg/day +スルファメトキサゾール75mg/kg/日を1 日に3~4 分割して投与するのが一般的である。しかし,より低用量(トリメトプリム10mg/kg/日+スルファメトキサゾール50mg/kg/日)で同等の治療効果が得られたとの報告もあり,低用量のST 合剤でも治療できる可能性がある26)。ST 合剤の有効性は高いが,皮疹,肝機能障害,電解質異常などの副作用のため,しばしば休薬が必要になる。またトリメトプリムには尿細管からのクレアチニンの分泌を阻害する作用があり,腎機能障害を伴わない血清クレアチニンの上昇を来すことがある。第2 選択薬としてはペンタミジン(pentamidine)が用いられてきた。通常4mg/kg を1 日1 回点滴で投与するが,低血圧や低血糖,腎毒性など副作用が多いのが問題であった。アトバコン(atovaquone)は欧米では1990 年代から使用されていたが,本邦でも2012年4 月に保険収載された。懸濁液であり,成人には通常1 回5ml(750mg)を1 日2 回経口投与する。HIV 感染者では予防投与にも用いられるが,HIV 感染者以外では14 日間の使用制限がある。海外で行われたST 合剤との比較試験では,有効率について有意な差を認めなかった27)。しかし効果不足による無効率はアトバコンで高く,生存率はST 合剤群で有意に高かった27)。一方,有害事象による無効率はST 合剤で高かった。またペンタミジンとの比較試験では,有効性は同等であり,有害事象はアトバコンで有意に少なかった28)。現状では,軽症~中等症のPCP でST 合剤の投与が困難な場合の第2 選択薬というのがアトバコンの位置づけである。RA 患者のPCP では炎症反応が強いため,治療に あたっては早期に十分量の副腎皮質ステロイド薬の投与が必要になる。非HIV 患者のPCP への副腎皮質ステロイド薬投与についてはエビデンスが乏しいものの,中等症~重症(PaO2 ≦70Torr または A-aDO2 ≧ 35Torr)では投与が推奨される。 Q8 PCP の予防は可能か? RA 薬物療法の際のPCP 発症予防は保険適用であり,PCP 治療後やハイリスクの患者には予防投薬を行うことが望ましいが,具体的な適応や投薬期間などについてのコンセンサスはない。 HIV 感染患者のPCP 発症予防についてはエビデンスが確立しており,末梢血CD4 陽性リンパ球数減少(200/μl 以下)や口腔内カンジダ症の既往などを判断基準として,ST 合剤内服やペンタミジン吸入などの予防投薬が推奨される。ST 合剤の場合,1 錠/日を連日内服するが,4 錠/日を週2 回という方法もある。非HIV 患者でも,一般にプレドニゾロン換算で20mg/日以上の副腎皮質ステロイド薬治療を4 週間以上受け,加えて免疫不全を来すほかの要因(血液疾患,他の免疫抑制薬の使用など)がある患者では,PCP の予防が必要とされる5)。本邦でも高用量の副腎皮質ステロイド薬による治療を受けた膠原病患者に対してはPCP 発症予防が推奨されており,RA 薬物療法の際のPCP 発症予防が公知申請により保険適用になったが,具体的な適応や投与期間を示したガイドラインはない。 A8 表2 ニューモシスチス肺炎の治療に用いられる薬剤 薬品名投与量(1 日あたり)主な副作用スルファメトキサゾール・トリメトプリム (ST 合剤)トリメトプリムとして10~20mg/kg(3~4 分割)薬剤性過敏症症候群(皮疹,発熱など),アナフィラキシー様症状骨髄抑制,悪心・嘔吐,下痢,肝機能障害,高カリウム血症などペンタミジン4mg/kg(1 日1 回点滴)悪心・嘔吐,QT 延長,心室性不整脈,低血圧,高カリウム血症低血糖,高血糖,白血球減少,血小板減少,肝機能障害などアトバコン1,500mg(2 分割)皮疹,悪心・嘔吐,下痢,頭痛,不眠など副腎皮質ステロイドプレドニゾロン換算で0.5~1.0mg/kg (呼吸不全の程度によりメチルプレドニゾ ロンのパルス療法も考慮)高血糖,高血圧,骨粗鬆症,消化性潰瘍,動脈硬化,高脂血症満月様顔貌,易感染性,無菌性骨壊死,白内障,緑内障,浮腫低カリウム血症など
メタ解析の結果からは,ST 合剤の予防内服は有効であるものの,副作用を考慮するとPCP 発症リスクが3%を超えるときに行うべきとされている29)。しかし前述したように生物学的製剤使用中のRA 患者のPCP 発症頻度は0.2~0.4%程度である。また予防内服を行うことによるST 合剤に対する耐性株の出現も問題である30)。これらを考慮すれば生物学的製剤を使用している患者全例に予防投与をするのは現実的ではない。Komano らは,TNF 阻害薬療法を予定した患者が3 つの危険因子(高齢者,副腎皮質ステロイド薬併用,既存肺病変)を有する場合はST 合剤の予防投与が望ましいとしている15)。また生物学的製剤使用中に血清β-D-グルカンをモニターし,上昇が見られた場合にST 合剤を投与することも試みられているが,有用性についてはさらに検討が必要である31)。メトトレキサートや生物学的製剤の投与は長期にわたるため,予防投与の適応や投与期間は慎重に考慮しなければならない。 Q9 PCP 終息後に生物学的製剤の再開は 可能か? PCP 終息後に生物学的製剤の再開が可能かについては,現時点でエビデンスはない。ST 合剤の予防内服は必須と考えられるので,予防内服が副 A9作用なく安全に継続できることが確認できた時点で, リスク・ベネフィットを考慮して検討するべきであろう。 ■症例提示 63 歳,女性。9 年前から多関節炎を自覚し,7 年前に当院リウマチ内科でRA と診断され,ミゾリビン(mizoribine)が開始された。4 年前からはメトトレキサートが,2 年前からはタクロリムス(tacrolimus)が導入されたが,関節症状のコントロールが不良なため,5 週間前にインフリキシマブが開始された。3 週間前に2 回目の投与を受けたが,3 日前から発熱,呼吸困難が出現したため,入院となった。聴診では両下肺野を中心に吸気相後半のfine crackles を聴取。〈検査所見〉末梢血:WBC 4,800/μl(好中球80 %,リンパ球12%,単球7%,好酸球1%),RBC 3.95×106/μl, Hb 10.3mg/dl,Plt 190×103/μl。生化学:TP 6.5g/dl, ALB 3.6g/dl,BUN 11.9mg/dl,Cr 0.61mg/dl,AST 32 IU/L, ALT 25IU/L,LDH 230IU/L。免疫学: CRP 0.26mg/dl,KL-6 1,079U/ml,β-D-glucan 110.9pg/ml。動脈血ガス,room air:pH 7.456,PaO2 66.0Torr,PaCO2 34.3Torr,HCO3 - 23.8mmol/L。胸部CT(図6)では,小葉構造と無関係に分布するびまん性のGGO を認めた。入院後,BALF の鏡検でPCP と診断し,ST 合剤(バクタR9 錠/日,分3)とプレドニゾロン50mg/日を開始した。呼吸状態,画像所見とも順調に改善し,血清β-D-グルカン値も低下したため,14 日で治療を終了した。退院後もST 合剤の予防内服を継続している。 おわりに RA 患者のPCP は重症化しやすく,診断が困難なことも多い。生物学的製剤投与中にはPCP の発症リスクを念頭におき,少しでもPCP が疑われる場合には胸部CT や血清β-D-グルカンの測定などの検索を行うべきである。またPCP 治療後やハイリスク患者に対する予防投薬については,その適応や期間に関する指針の確立がまたれる。 図6 63 歳,女性:インフリキシマブ2 回投与後に発症したPCP のCT 所見両肺に境界が不明瞭で小葉構造と無関係に分布する淡いGGO を認める。なお両背側を中心とする胸膜肥厚は以前から認められていた。
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各論4 はじめに 各種の生物学的製剤が実臨床で広く使用されるようになり,多数例を対象とした市販後調査(post marketing surveillance:PMS)の結果によって本剤が薬剤性間質性肺炎を惹起し,その一部の症例においては致死的になることが明らかになってきた。また,関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)患者は,元々間質性肺炎(interstilial pneumonia:IP)を合併していることが少なくなく,このような患者に生物学的製剤を投与した場合,既存の間質性肺炎が増悪することも報告されている。しかし実臨床では,間質性肺炎の既往のある患者において,「生物学的製剤による薬剤性間質性肺炎」と「生物学的製剤によって誘発される既存の間質性肺炎の増悪」を鑑別することは困難であり, PMS においても同様に扱われている。したがって,本項では,これらの2 つをまとめて「生物学的製剤と関連した間質性肺炎」として解説する。まず,RA に合併する間質性肺炎を概説した後に,生物学的製剤と関連した間質性肺炎の頻度,危険因子,臨床像などについて述べる。Q1 RA に合併する間質性肺炎の頻度や 分類,臨床像などは? 1 ●疫学RA における間質性肺炎(RA-IP)の合併頻度は,その検索に用いる検査方法などによって4~68%と幅があるが1),高分解能CT(high resolution computed tomography:HRCT)を用いた前向き研究では20%前後と報告されている2)。また,最近の大規模な縦断的疫学調査によればRA-IP の年間累積発症率は0.35~ 0.41%であった3)4)。間質性肺炎合併の危険因子として,高齢,男性,喫煙,RA および血沈高値例などが挙げられている。また,経年的にみると,RA 患者における間質性肺炎の合併率は上昇しており,さらに生物学的製剤などの導入によってRA 全体の死亡率が低下しているにもかかわらず,RA-IP の死亡率(特に女性,高齢者)は上昇傾向にあることが報告された5)。 A1 間質性肺炎 Q1 RA に合併する間質性肺炎の頻度や分類,臨床像などは? Q2 生物学的製剤と関連した薬剤性間質性肺炎の発症頻度や死亡率は? Q3 どんな患者が生物学的製剤と関連した間質性肺炎を発症しやすいのか? Q4 生物学的製剤を使ってどのくらいの期間で本剤と関連した間質性肺炎を発症するのか? Q5 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の発症時の症状は? Q6 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の検査所見は? Q7 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の画像所見は? Q8 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の診断(鑑別診断を含む)は? Q9 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の治療は? Q10 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の予後は? また,予後不良因子は? Q11 既存の間質性肺炎がある患者に生物学的製剤を投与できるか? またその場合,注意すべき点は? Q12 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の予防は可能か? Q13 生物学的製剤と関連した間質性肺炎を発症した患者に本剤の再投与は可能か?
2 ●組織分類RA-IP は組織学的に,特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias:IIPs)の組織分類に準じて,通常型間質性肺炎(usual interstitial pneumonia: UIP),非特異性間質性肺炎(nonspecific interstitial pneumonia:NSIP),器質化肺炎(organizing pneumonia:OP),びまん性肺胞傷害(diffuse alveolar damage:DAD),リンパ球性間質性肺炎(lymphocytic interstitial pneumonia:LIP)等の組織パターンに分類されることが多い1)6)~9) (表1)。ただし,IIPs とは異なり,細気管支炎などの気道病変も含めて複数の組織パターンが混在し多彩な病理所見を呈することも多く,組織分類が難しいこともある。一般に膠原病に合併した間質性肺炎は組織学的にNSIP パターンを呈することが多いが,RA-IP は比較的UIP パターンが多いことが知られている1) (表1)。 3 ●臨床像UIP やNSIP などの大部分のRA-IP は慢性の経過を呈し,進行すると咳,労作時呼吸困難などがみられる。しかし,OP では急性から亜急性に発症し,発熱などの症状を呈することが多い。UIP やNSIP ではKL-6,SP-D が上昇する。BAL ではリンパ球分画が増加するとの報告もある7)。また,近年,RA-IP は,特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)と同様に,予後不良の急性増悪を起こすことも明らかになってきた10)。 4 ●治療と予後RA-IP の治療に関する質の高いエビデンスはない。実臨床では呼吸器症状を伴う進行例に対しては経験的 に副腎皮質ステロイド薬が投与されることが多い。副腎皮質ステロイド薬が無効な場合などは免疫抑制薬が併用される。予後に関しては,最近の大規模な縦断的研究によって,本症の予後は以前に考えられていたよりかなり不良であることが報告された。Early Rheumatoid Arthritis Study(ERAS)やRochester Epidemiology Project(REP)では,RA-IP の生存期間中央値は3 年, 5 年生存率は38%前後とIPF に匹敵するほど予後不良であった3)4)。また,一般に膠原病に合併した間質性肺炎は,IIPs とは異なり,UIP とNSIP の予 後は同等と考えられていたが,最近ではRA-IP においてはUIP の方が予後が不良とする報告が多い8)11)12)。特にHRCT 所見において画像上,蜂巣肺などのUIP パターンを呈す症例の予後は不良とされる11)12)。 Q2生物学的製剤と関連した薬剤性間質性 肺炎の発症頻度や死亡率は? 1 ●発症頻度生物学的製剤の種類によって頻度は多少異なるものの,PMS によれば本剤と関連した間質性肺炎の発症頻度は0.4~0.58%と報告されている13)~16) (表2)。長期使用調査では,インフリキシマブ(infiliximab: IFX)とエタネルセプト(etanercept:ETN)による発症率はそれぞれ0.4%と1.7%であったが,これらの頻 A2 表1 RA に合併した間質性肺炎の組織分類 組織パターン頻度 UIP (usual interstitial pneumonia) 22~64% NSIP (nonspecific interstitial pneumonia ) 33~88% OP (organizing pneumonia) 11~13% DAD (diffuse alveolar damage)まれ その他(LIP,unclassifiable interstitial pneumonia など) LIP:lymphocytic interstitial pneumonia. (文献1, 6~9 より引用)
1 ●トシリズマブ多変量解析などで間質性肺炎の発症危険因子を検討した研究はトシリズマブの報告しかない。この解析では,高年齢,間質性肺炎の既往・合併,喫煙歴が独立した本剤と関連した間質性肺炎の危険因子であった(表3)。特に間質性肺炎の既往・合併は8.395 と高いオッズ比であった14)。 2 ●その他の生物学的製剤エタネルセプトやアダリムマブ(adalimumab: ADA)と関連した間質性肺炎症例のPMS では,その34.0~63.0%に間質性肺炎の既往があった15)16)(表4)。また,BIOGEGAS project では38%に既存の間質性肺炎を認めている17)。したがって,やはり既存の間質性肺炎の存在は,トシリズマブに限らず,一般的に生物学的製剤と関連した間質性肺炎の危険因子と考えられる。 度の解釈に当たっては対象症例数が少ないことに留意する必要がある。 2 ●死亡率PMS では死亡率は7.5~20%と報告されている。中でもトシリズマブ(tocilizumab:TCZ)の死亡率は20%と高めである13~16) (表2)。ただし,本薬剤の投与患者はほかの生物学的製剤による治療歴を有する割合が高く,メトトレキサート(methotrexate:MTX)併用率が低く,副腎皮質ステロイド薬併用率が高いという特徴があり,死亡率をほかの薬剤と直接比較することはできない。また,スペインで行われた生物学的製剤に関するMedline-base の調査研究(BIOGEAS project)では死亡率は29~32%であった17)18)。 Q3どんな患者が生物学的製剤と関連した 間質性肺炎を発症しやすいのか? A3表2 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の頻度と転帰(PMS) 全例調査長期使用調査症例数IP 発症例死亡例症例数IP 発症例死亡例 インフリキシマブ7,522 34 (0.45%) 3 (8.8%)1,455 5 (0.4%) 0 (0%)エタネルセプト13,849 81 (0.58%) 10 (12.3%)679 9 (1.7%) 1 (11.1%)アダリムマブ7,740 53 (0.68%) 4 (7.5%)トシリズマブ7,901 35 (0.4%) 7 (20%) IP:interstitial pneumonia. (文献13~16 より引用) 表3 生物学的製剤(トシリズマブ)と関連した間質性肺炎の 発症危険因子(多重ロジステック解析) (PMS) 危険因子オッズ比95%信頼区間年齢(65 歳以上) 2.459 1.128 ─5.360 IP の既往・合併(あり) 8.935 4.187 ─19.067 喫煙歴(あり) 2.193 1.005 ─4.784調整因子:性別,年齢,間質性肺炎の既往・合併,喫煙歴,併用薬(メトトレキサート),併用薬(ステロイド薬)。IP:interstitial pneumonia. (文献14 より引用)
動することも知られている19)。 2 ●気管支肺胞洗浄液検査(BAL)気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage:BAL)所見が検討できた12 例中6 例(50%)においてリンパ球分画の増加を認めたとする報告がある17)。 Q7生物学的製剤と関連した間質性肺炎の 画像所見は? すりガラス影を呈することが多いが,網状影や浸潤影の報告もある。前述のBIOGEGAS project の報告では,HRCT 所見が検討できた36 例の中ですりガラス影が31 例(86.1%)と大部分を占め,次いで網状粒状影が7 例(19.4%),網状影が5例(13.9%),粒状影が2 例(5.6%)であった17)。既存に間質性肺炎が存在する場合は,元々ある蜂巣肺,網状影に加え,すりガラス影,時に濃厚影が加わる。 Q8生物学的製剤と関連した間質性肺炎の 診断(鑑別診断を含む)は? 生物学的製剤投与中の患者において,呼吸困難や咳嗽などの症状に加え,画像上,すりガラス影などの新たな陰影が出現した場合,本剤と関連した間質性肺炎を疑う。 1 ●鑑別診断(表5)鑑別すべき疾患として,1ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia:PCP)などの感染症,2 A7 A8 Q4生物学的製剤を使ってどのくらいの期間で 本剤と関連した間質性肺炎を発症するのか? PMS によれば,発症までの期間は平均69~97日間である(表4) 13)~16)。しかし,生物学的製剤投与後1 週間前後で間質性肺炎を発症した症例や, 200 日間前後で発症した症例も報告されている17)。 Q5生物学的製剤と関連した間質性肺炎の 発症時の症状は? 呼吸困難(32~86%),咳嗽(31~38%),発熱(25~44%)等がよく見られる症状である17)18)。その他に頻度は低いものの,胸痛,血痰等の症状も報告されている。 Q6生物学的製剤と関連した間質性肺炎の 検査所見は? 1 ●血液生化学検査間質性肺炎の血清マーカーであるKL-6 やSP-D が上昇する。しかし,全例で高値となるわけではなく, PMS では,エタネルセプトの間質性肺炎においてKL-6 を測定した44 例中15 例(34%)が,アダリムマブの間質性肺炎では47 例中15 例(31%)が正常値であった15)16)。また,KL-6 については,RA 患者では間質性肺炎の存在,あるいはその病勢などと無関係に変 A4 A5 A6表4 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の背景因子(PMS) 症例数年齢(歳) MTX 使用IP の既往発症までの 期間(日) インフリキシマブ34 63.5±8.8*全例3 (9%) 69±35 (21~153)エタネルセプト81 66.0±8.0 21 (25.9%) 51 (63.0%) 92±53 (6~194)アダリムマブ53 69.2±8.4 36 (67.9%) 18 (34.0%) 97±42 (23~188)トシリズマブ35 67.2 (48~84) ** 9 (25.7%) 21 (60.0%) 79 (11~197) *:SD,**:range,MTX:メトトレキサート,IP:interstitial pneumonia。(文献13~16 より引用)
1 ●予後と予後不良因子Q2 の回答にあるようにPMS では死亡率は7.5~ 20%である。予後不良因子としては,高齢(65 歳以上),生物学的製剤投与開始から間質性肺炎発症までの期間が長いこと,既存の間質性肺炎,免疫抑制薬の併用等が報告されている17)。 2 ●既存の間質性肺炎BIOGEAS project では,生物学的製剤と関連した間質性肺炎の死亡率は,間質性肺炎の既往のある患者で67%,既往のない患者で32%で前者において高率であった18)。さらに,The British Society for Rheumatology Biologics Register(BSRBR)の調査では,生物学的製剤は間質性肺炎の既往のあるRA 患者の総死亡率を上昇させないが,間質性肺炎関連死を3 倍に増加させることが報告されている21)。 Q11既存の間質性肺炎がある患者に生物学的製剤を投与 できるか? またその場合,注意すべき点は? 生物学的製剤は,基本的には間質性肺炎の既往のある患者は「慎重投与」となっており,その理由として本剤が「間質性肺炎を増悪または再発させることがある」と記載されている。間質性肺炎の既往のある患者に生物学的製剤を投与し,新たにすりガラス影などが出現した場合,それが1「本剤が誘発した既存の間質性肺炎の増悪」か,あるいは2「本剤による新たな薬剤性肺障害」が加わったのかを区別することは臨床的にはほとんど不可能である。したがって,生物学的製剤が実際どのぐらいの頻度で既存の間質性肺炎を増悪させるかは不明である。PMS などでは,1と2を合わせて本剤と関連した間質性肺炎として検討されていることが多い。その結果などから,Q3 とQ10 の回答にある A11 RA 固有の間質性肺炎,また,既存の間質性肺炎が存在する症例では3既存の間質性肺炎の増悪等が挙げられる。さらに,メトトレキサート等のほかの薬剤を投与している症例では,4生物学的製剤以外の薬剤による薬剤性間質性肺炎も鑑別しなければならない。実臨床ではこれらの鑑別が困難なことが少なくないが,1については,別項で解説されているように, β-D-グルカンの上昇やPneumocystis DNA のreal-time PCR などが補助的診断として役に立つ。2については,急性~亜急性に発症した症例においては,RA 固有の間質性肺炎ではOP 以外,急性発症する間質性肺炎はまれであるので画像所見や経気管支肺胞洗浄(transbronchial lung biopsy:TBLB)などが鑑別の参考となる(OP では斑状の濃厚影を呈し,TBLB で器質化病変を認めることが多い)。3,4については,臨床的に生物学的製剤による薬剤性間質性肺炎と区別することは難しいが,4の場合,各種薬剤の服用時期などを詳細に問診することが診断の一助となる。 Q9生物学的製剤と関連した間質性肺炎の 治療は? 本症が疑われた場合,基本的には被疑薬の生物学的製剤を速やかに中止する。副腎皮質ステロイド薬などの薬物治療に関してはエビデンスはないが,生物学的製剤を中止しても改善が乏しい症例,または呼吸不全を呈する症例に対しては副腎皮質ステロイド薬〔プレドニゾロン(prednisolone:PSL)0.5~1.0mg/kg/日等〕が投与されることが多い17)18)20)。重症呼吸不全例にはメチルプレドニゾロン(methyl prednisolone:MPSL) 1.0g/日×3 日間のパルス療法が行われることもある。少数例ではあるが,免疫抑制薬の併用や免疫グロブリン大量静注療法等の報告もみられる17)。 Q10生物学的製剤と関連した間質性肺炎の 予後は? また,予後不良因子は? A9 A10表5 生物学的製剤投与中のRA 患者 に発症した間質性肺病変の鑑別・生物学的製剤と関連した間質性肺炎・肺感染症(PCP など)・RA 固有の肺病変・既存の間質性肺炎の増悪・生物学的製剤以外の薬剤性間質性肺炎
ように,既存の間質性肺炎は本剤と関連した間質性肺炎の重要な発症危険因子であるとともに,予後不良因子であることが示されている。以上より,間質性肺炎の既往のある患者に対しては,生物学的製剤による利益がこれらの危険性─既存の間質性肺炎の増悪や薬剤性間質性肺炎の発症─を上回ると判断された場合に限って,十分なインフォームド・コンセントをしたうえで本剤の投与を考慮すべきである。なお,既存の間質性肺炎の広がり,重症度と,薬剤と関連して起こる間質性肺炎の発症率や予後との関係を定量的に検討した報告はない。すなわち,たとえばHRCT で初めて見いだされる小範囲の間質性肺炎なら安全であるとか,単純X 線写真でも明らかな間質性肺炎なら危険であるとかを言うためのデータはまったく蓄積されていない。今後の検討がまたれる。 間質性肺炎の既往のある患者に生物学的製剤を投与するときは,本剤と関連した間質性肺炎の発症を早期に発見するために,咳,呼吸困難などの症状の増悪に留意するとともに,定期的にKL-6 やSP-D などの血清マーカーを測定し,必要であれば胸部単純X 線写真のみでなく胸部CT(HRCT)の撮影も積極的に行うべきである。 Q12生物学的製剤と関連した間質性肺炎 の予防は可能か? 現時点で確立された予防法はない。したがって,実臨床では早期発見が重要となる。A12 Q13生物学的製剤と関連した間質性肺炎を 発症した患者に本剤の再投与は可能か? 間質性肺炎を引き起こした生物学的製剤の再投与が安全に行えるというエビデンスはない。したがって,原則的には同一薬剤の再投与は禁忌である。しかし,他系統の生物学的製剤は必ずしも禁忌とならない。同じ系統の異なった抗体製剤(例えば同じTNF 阻害薬)の再投与の安全性についてはまだ十分な知見が集積されておらず,慎重な配慮が必要である。 おわりに 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の頻度は本邦のPMS の結果を見る限り0.5%前後とそれほど高くはないが,その中では死亡例も少なくない。特に既存の間質性肺炎が存在する患者においては,本剤と関連した間質性肺炎の発症および死亡リスクが高まることに十分留意すべきである。そして実臨床で問題になることは,本剤と関連した間質性肺炎と,感染症,原疾患固有の肺病変の出現などとの鑑別が困難であり,診断が遅れる場合が多いことである。今後,さらに症例が蓄積され,生物学的製剤使用中の肺障害の鑑別診断や早期診断に関する知見が得られることが期待される。 A13 1 )Kim EJ, Collard HR, King TE Jr. Rheumatoid arthritis-associated interstitial lung disease : the relevance of histopathologic and radiographic pattern. Chest 2009 ; 136 : 1397 ─405. 2 )Dawson JK, Fewins HE, Desmond J, et al. Fibrosing alveolitis in patients with rheumatoid arthritis as assessed by high resolution computed tomography, chest radiography, and pulmonary function tests. Thorax 2001 ; 56 : 622 ─7. 3 )Koduri G, Norton S, Young A, et al. Interstitial lung disease has a poor prognosis in rheumatoid arthritis : results from an inception cohort. Rheumatology (Oxford) 2010 ; 49 : 1483 ─9. 4 )Bongartz T, Nannini C, Medina ─Velasquez YF, et al. Incidence and mortality of interstitial lung disease in rheumatoid arthritis : a population-based study. Arthritis Rheum 2010 ; 62 : 1583 ─91. 5 )Olson AL, Swigris JJ, Sprunger DB, et al. Rheumatoid arthritis-interstitial lung disease-associated mortality. Am J Respir Crit Care Med 2011 ; 183 : 372 ─8. 6 )Tansey D, Wells AU, Colby TV, et al. Variations in histological patterns of interstitial pneumonia between connective tissue disorders and their relationship to prognosis. Histopathology 2004 ; 44 : 585 ─96. 7 )Lee HK, Kim DS, Yoo B, et al. Histopathologic pattern and clinical features of rheumatoid arthritis-associated 文献
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各論5 はじめに 生物学的製剤は関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)関連疾患(RA,若年性特発性関節炎,強直性脊椎炎など)以外にも,炎症性腸疾患〔クローン病(Crohn’s disease:CD),潰瘍性大腸炎(ulerative colitis:UC)など〕,ベーチェット病,乾癬,キャッスルマン病,多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)などの疾患に対して有効である1)~3)。欧米ではすでに多くの生物学的製剤がこれら疾患に対する保険適用を取得しており広く臨床応用されている。本邦においても生物学的製剤の適用拡大が進み,またさらに新しい臨床治験が進行中である。現在のところ,RA 関連疾患以外で使用される生物学的製剤の保険適用疾患・症例数は限られている。しかし,今後順次その適用が拡大され症例数が増加していくことは確実であり,疾患ごとにみた生物学的製剤の副作用,特に呼吸器関連の副作用や感染症の発生動向には十分注意しておく必要がある。生物学的製剤の使用に関連する副作用を考える場合,以下の4 つの項目が重要である。すなわち,1疾患ごとに予想される免疫学的な異常・病態,2好発年齢,3副腎皮質ステロイド薬など免疫系に作用する薬剤の使用状況,4既存肺疾患合併の種類と頻度,である。以下,RA 関連疾患以外で生物学的製剤が使用される代表的な疾患を取り上げ,その疾患の特徴を述べるとともに生物学的製剤使用に伴う副作用の発現において注意すべきポイントを概説する。Q1 RA 関連以外のどのような疾患で 生物学的製剤が使用されているのか? 表2(p.3)に現時点の生物学的製剤ごとの適用疾患をまとめて示した。ここに示された疾患では,その病態にTNF-α,IL-6 などの炎症性サイトカインが重要な役割を果たしており,生物学的製剤がこれら因子を阻害することにより病態および臨床症状の改善がみられる。 1 ●クローン病(CD) 10~30 歳代にみられる原因不明の炎症性腸疾患で,回腸末端から盲腸にかけての炎症が特徴的である4)。欧米に比べてその頻度は低いものの,本邦でも3 万人以上の患者が報告されており,食生活の欧米化とともにその増加がみられている。CD では消化管以外にも,関節症状(関節痛・関節炎など),皮膚症状(結節性紅斑・壊疽性膿皮症・Sweet 病など),眼症状(虹彩炎など),原発性硬化性胆管炎などの合併症がみられる。治療としては栄養療法,薬物療法(副腎皮質ステロイド薬,免疫抑制薬,サリチル酸製剤など),外科治療などが行われてきたが,その効果は必ずしも満足できるものではなかった。現在,CD に対する治療薬として生物学的製剤の優れた有効性が報告されており5),本邦ではインフリキシマブ(infliximab:IFX)とアダリムマブ(adalimumab:ADA)が承認されている。 2 ●潰瘍性大腸炎(UC) UC は,主に大腸粘膜に潰瘍やびらんを生じる原因 A1 生物学的製剤が使用される関節リウマチ関連以外の疾患と呼吸器合併症 Q1 RA 関連以外のどのような疾患で生物学的製剤が使用され ているのか? Q2 上記疾患に生物学的製剤が使用される場合の副作用の種類と頻度の特徴は? Q3 RA 関連疾患以外で生物学的製剤を使用する場合の注意点は? Q4 生物学的製剤の有効性が期待されるその他の疾患は?
不明の炎症性腸疾患の1 つである6)7)。10~30 歳代ないし50~60 歳代が好発年齢であり,本邦では10 万人以上の患者が存在すると推定されている。一方,欧米における罹患数は約100 万人とされており,近年,さらにその増加が報告されている。潰瘍性大腸炎では基本的に大腸に限定して病変がみられ,緩解と再燃を繰り返すことが特徴である。また,大腸癌の合併頻度が高いことが知られており,大腸以外にも関節や皮膚,眼などに合併症がみられる(多発性関節炎・強直性脊椎炎,結節性紅斑,壊疽性膿皮症,原発性硬化性胆管炎,ぶどう膜炎など)。治療としては食事療法(高カロリー,高蛋白,低脂肪,低繊維食),薬物療法としては免疫抑制薬〔副腎皮質ステロイド薬,シクロスポリン(cyclosporin),アザチオプリン(azathioprine)など〕とともにサリチル酸製剤〔サラゾスルファピリジン(salazosulfapyridine)など〕が用いられてきた。生物学的製剤としてはインフリキシマブ,アダリムマブが保険適用を取得しており,その有効性が報告されている8)。 3 ●ベーチェット病原因不明の全身性炎症疾患の1 つであり,目,口,皮膚,外陰部,中枢神経系,消化管,関節などに多彩な症状がみられる9)10)。発症機序は不明であるが,好中球の異常集積による急性炎症の反復が特徴である。日本での患者数は約2 万人であり,30 歳代に発症のピークがみられる。臨床症状としては,眼症状(ブドウ膜炎),口腔粘膜症状(有痛性の口内炎),外陰部症状(潰瘍),皮膚症状(結節性紅斑,血栓性静脈炎,毛嚢炎様皮疹など)の頻度が高い。それ以外に,関節症状,副睾丸炎,消化器症状などがみられることもあるが,肺病変の合併はまれである。治療薬としては,好中球遊走の阻止を目的にコルヒチン(colchicine)が,また免疫抑制薬として副腎皮質ステロイド薬,シクロスポリンなどが投与されることが多い。難治性ブドウ膜炎に対してインフリキシマブが,腸管病変に対してアダリムマブが適用を取得している11)12)。 4 ●乾 癬発赤を伴うやや隆起性の発疹と白色の鱗屑(皮膚角質細胞が剥がれ落ちたもの)を特徴とする原因不明の皮膚疾患である13)。皮膚表皮細胞の増殖周期の短縮が 認められており,これが本症の発症に関与していると考えられている。一般に白色人種に高頻度でみられ,本邦における頻度は約0.1%とされている。好発年齢は30~40 歳代で男性に多い。治療としては外用療法として副腎皮質ステロイド薬,ビタミンD3 製剤,光線療法としてターゲット型紫外線療法などが行われる。内服療法としてはビタミンA 誘導体,シクロスポリン,メトトレキサートなどが使用される。生物学的製剤としてはインフリキシマブとアダリムマブが保険適用を取得している14)。最近になって,ウステキヌマブ(ustekinumab)が尋常性乾癬に対する保険適用を取得している。関節症性乾癬では上記乾癬症状に加えびらん性関節炎症状がみられ,また膿胞性乾癬では皮膚病変内に無菌性膿胞がみられることが特徴である。 5 ●キャッスルマン病慢性的なリンパ節腫大と強い炎症反応を特徴とする原因不明のリンパ増殖性疾患の1 つである15)。本邦では約1,500 例の報告がみられる。腫大したリンパ節から過剰なIL-6 が産生されており,これがCRP 上昇,免疫グロブリン上昇などの検査値異常を誘導し,発熱,貧血,食欲不振,体重減少などの臨床症状を引き起こす。アトピー性皮膚炎と同様な皮膚症状がみられることがある。治療としては限局性の場合には外科的切除,びまん性の場合には副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬が使用されることが多い。IL-6 阻害を目的に生物学的製剤としてトシリズマブが保険適用を取得している16)17)。 6 ●多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)上気道,肺,腎臓の中~小動脈の血管炎を特徴とする原因不明の疾患で,上気道や肺の肉芽腫形成,間質性肺炎,壊死性半月体形成性糸球体腎炎として発症する。臨床症状としては上気道症状(膿性鼻漏,鼻出血,難聴,耳漏など),肺症状(血痰,咳嗽,呼吸困難など),腎症状(血尿,乏尿,浮腫など)などがみられることが多い。その他にブドウ膜炎,角膜潰瘍などの眼症状,有痛性紅斑・紫斑などの皮膚症状,多発性関節痛,多発神経炎などを認めることもある。本邦では少なくとも1,500 人以上の患者が存在すると推定されて
が5.9%で最も頻度が高く,次いで胃腸障害5.4%,感染症関連5.2%の順であった。特に感染症の中では,帯状疱疹0.6%,敗血症0.6%,肺炎0.6%であり,肺結核も0.1%の頻度で報告されている。RA との比較においては,全体的な副作用発現率はRA が24.6%とやや低いものの,逆に感染症関連の副作用発現率は7.3%とRA 群で高いことが報告されている。一方,乾癬761 例,ベーチェット病は464 例といずれも症例数が少ない解析であり,この結果から疾患ごとのインフリキシマブの副作用発現の特徴に関して言及することは難しい。海外の臨床試験を対象にした各適用疾患における重篤有害事象発現頻度の比較も報告されている(p.7 表6)。今後の症例の蓄積の中で,疾患ごとの副作用の発現の種類と頻度,さらにはそのメカニズムに関して検討していく必要がある。 Q3 RA 関連疾患以外で生物学的製剤を 使用する場合の注意点は? A2 で述べたように,現在のところ,RA 関連疾患とそれ以外の疾患における生物学的製剤の副作用,特に呼吸器系副作用に関する情報は限られており,明確な差異を論じることは難しい。そのような状況の中でも,RA 関連疾患に対してCD,UC,乾癬,ベーチェット病などが比較的若年者に多くみられるという事実は重要である。特に,生物学的製剤投与下でみられる呼吸器感染症の中で最も重要な病原体である結核においては,老化に伴う細胞性免疫の低下がその発症に大きく関与している。また,併用薬として A3 おり,好発年齢は男性30~60 歳代,女性は50~60 歳代で性差はみられない。血液中の抗好中球細胞質抗体c-ANCA〔peroxidase-3(PR3)-ANCA〕が陽性になることが多い。治療としては副腎皮質ステロイド薬,シクロホスファミド(cyclophosphamide:CPA),アザチオプリン,メトトレキサートなどの免疫抑制薬が使用される。また本症では,免疫抑制治療に伴い二次性の呼吸器感染症の合併をみることが多く,ST 合剤などの予防内服が行われてきた。最近になって,本症に対するリツキシマブ(rituximab:RTX)の有効性が報告され治療薬としての保険適用を取得している。 Q2上記疾患に生物学的製剤が使用される 場合の副作用の種類と頻度の特徴は? 前述したように,生物学的製剤による呼吸器系副作用の発現に影響を与える因子としては,使用される疾患の免疫状態(異常),好発年齢(特に高齢者では結核との関連),併用薬として使用される薬剤(副腎皮質ステロイド薬,免疫抑制薬など),既存の肺病変の有無が重要となる。しかし残念ながら,本邦における上記疾患に対する生物学的製剤の使用は限られており,その副作用に関する報告も限定されたもののみとなっている。RA 関連疾患以外で最も多くの保険適用を取得しているインフリキシマブにおいて,CD,乾癬,ベーチェット病症例における副作用発現に関するデータが報告されている(表) 18)。これをみると, CD 2,820 症例における副作用発現率は25.2%であり,このうち全身障害および局所反応(発熱,倦怠感など) A2表 インフリキシマブ特定使用成績調査で報告された副作用状況 疾患関節リウマチクローン病乾癬ベーチェット病検討症例数7,522 2,820 761 464副作用発現症例数1.850 712 165 130 副作用発現率24.6 25.2 21.7 28.0全身障害(%) 383(5.1)166(5.9)30(3.9) 24(5.2)胃腸障害(%) 153(2.0)152(5.4)11(1.5) 12(2.6)感染症(%) 550(7.3)147(5.2)38(5.0) 41(8.8)血液障害(%) 9(0.1) 33(1.2) 2(0.3) 2(0.4)肝胆道系障害(%)107(1.4) 46(1.6)12(1.6) 3(0.6) 心臓障害(%) 34(0.5) 15(0.5) 0(0.0) 2(0.4)免疫系障害(%) 12(0.2) 21(0.7) 2(0.3) 2(0.4) (文献18 より引用)
に対する生物学的製剤の効果が検討されているが,残念ながら明らかな有効性は証明されていない。一方で,サルコイドーシス25)26),続発性アミロイドーシス27)28),地中海熱29)~31),中毒性表皮壊死症32)33)などに対する生物学的製剤の有効性が報告されている。また1 例報告ではあるが,結核性中枢神経系感染症の治癒後にみられた持続的炎症(副腎皮質ステロイド抵抗性)に対して,インフリキシマブの投与が効果的であった症例が報告されている34)。TNF-αやIL-6 などのサイトカインは感染そのものに対しては感染防御的に作用する有益なサイトカインである。しかし,病原体が排除されたあとの慢性炎症,あるいは感染を契機に誘導された過剰な免疫反応という視点からは有害に作用することが考えられる。生物学的製剤は過剰な炎症反応を抑制するという視点から,感染症を含め,さまざまな病態・疾患に対して新しい適応が見つかってくる可能性がある。ターゲット分子の異なる生物学的製剤の開発は加速度的に進んでおり,今後数年の間に新しい治療薬が続々と登場することが予想される。このような状況の中で,これら生物学的製剤をいかに効果的に利用するか,副作用を最小限に抑える使用法を確立するか,さらには新しい適応の可能性を見いだしていくかが今後ますます重要になってくるものと思われる。 使用される各種薬剤,特に副腎皮質ステロイド薬をはじめとする免疫抑制薬が感染症の発症に大きく影響を与えることは周知の事実であり,この点に関しては疾患ごとの併用薬の種類,投与量あるいは投与期間などの要因を含めてさらに解析していく必要がある。また,RA 関連疾患も含め,生物学的製剤が投与される疾患の発症病態,分子メカニズムの詳細は未解決の状態である。今後,疾患の発症機序の解明が進む中で,生物学的製剤の有効性メカニズムや疾患ごとの最適な治療法・投与法が明らかになることが期待される。 Q4生物学的製剤の有効性が期待される その他の疾患は? TNF-α,IL-6 などのサイトカインは,宿主のホメオスタシスの維持を含め,さまざまな疾患・病態で重要な役割を果たしている。これはRA 関連疾患をはじめとする炎症性疾患・膠原病に限らず,感染症やアレルギー疾患,さらには悪性腫瘍においても同様である。生物学的製剤の新しい適応を見いだすことを目的に多くの臨床研究が実施されている。これまでにシェーグレン症候群19),喘息20),皮膚筋炎21),膜型腎症22),慢性閉塞性肺疾患23),慢性心不全24)など A4 1 )Tracey D, Klareskog L, Sasso EH, et al. Tumor necrosis factor antagonist mechanisms of action : a comprehensive review. Pharmacol Ther 2008 ; 117 : 244 ─79. 2 )Taylor PC. Pharmacology of TNF blockade in rheumatoid arthritis and other chronic inflammatory diseases. Curr Opin Pharmacol 2010 ; 10 : 308 ─15. 3 )Thalayasingam N, Isaacs JD. Anti-TNF therapy. Best Pract Res Clin Rheumatol 2011 ; 25 : 549 ─67. 4 )Rieder F, Zimmermann EM, Remzi FH, et al. Crohn’s disease complicated by strictures : a systematic review. Gut 2013 ; 62 : 1072 ─84. 5 )Colombel JF, Sandborn WJ, Reinisch W, et al. SONIC Study Group. Infliximab, azathioprine, or combination therapy for Crohn’s disease. N Engl J Med 2010 ; 362 : 1383 ─95. 6 )Seidelin JB, Coskun M, Nielsen OH. Mucosal healing in ulcerative colitis : pathophysiology and pharmacology. Adv Clin Chem 2013 ; 59 : 101 ─23. 7 )Ford AC, Moayyedi P, Hanauer SB. Ulcerative colitis. BMJ 2013 ; 346 : f432. 8 )Danese S, Colombel JF, Peyrin ─Biroulet L, et al. Review article : the role of anti-TNF in the management of ulcerative colitis--past, present and future. Aliment Pharmacol Ther 2013 ; 37 : 855 ─66. 9 )Dalvi SR, Yildirim R, Yazici Y. Behcet’s Syndrome. Drugs 2012 ; 72 : 2223 ─41. 10)Krause I, Weinberger A. Behçet’s disease. Curr Opin Rheumatol 2008 ; 20 : 82 ─7. 11)Evereklioglu C. Ocular Behçet disease : current therapeutic approaches. Curr Opin Ophthalmol 2011 ; 22 : 508 ─16. 12)Yesudian PD, Edirisinghe DN, O’Mahony C. Behçet’s disease. Int J STD AIDS 2007 ; 18 : 221 ─7. 13)Weigle N, McBane S. Psoriasis. Am Fam Physician 2013 ; 87 : 626 ─33. 14)Galván ─Banqueri M, Marín Gil R, Santos Ramos B, et al. Biological treatments for moderate-to-severe psoriasis : indirect comparison. J Clin Pharm Ther 2013 ; 38 : 121 ─30. 文献
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欧文 和文 adalimumab(ADA)...83 A-DROPシステム...39 air-borne infection...31 bronchoalveolar lavage(BAL)...84 CRP...48 diffuse alveolar damage(DAD)...82 dormancy...31 Epstein-Barrウイルス(EBV)感染症...8 etanercept(ETN)...82 extra-articular manifestation ...20,27 Fc 受容体...15 HBV再活性化...9 HRCT...22,66 idiopathic pulmonary fibrosis(IPF) ...82 IGRA...51,53 IL-6...48,73 IL-8...72 infliximab(IFX)...82 interstilial pneumonia(IP)...81 KL-6...84 latent infection...31 lymphocytic interstitial pneumonia (LIP)...82 M.abscessus 症...68 M.kansasii症...68 MAC...67 nonspecific interstitial pneumonia (NSIP)...82 organizing pneumonia(OP)...82 paradoxical reaction...54 PCR...76 Pneumocystis jirovecii ...32 post marketing surveillance(PMS) ...59 quality of life(QOL)...13,16 RA固有の気道病変...61 small airway obstruction...23 SP-D...84 ST合剤...76 TNF阻害薬...60 tocilizumab(TCZ)...83 transbronchial lung biopsy(TBLB) ...85 Treat to Target(T2T)...16 tuberculosis...31 usual interstitial pneumonia(UIP) ...82 β-D-グルカン...74 あ~え悪性腫瘍...10アスペルギルス...34アダリムマブ...3,83アトバコン...76アバタセプト...5安全性...45易感染性...29一般細菌...39インフリキシマブ...2,82インフルエンザ...40ウェゲナー肉芽腫症...88,89ウステキヌマブ...5エタネルセプト...3,82 か潰瘍性大腸炎...88,90外来性感染...66核酸増幅法...52画像診断...61間質性肺炎...66,81関節外病変...20,27関節リウマチ...59乾癬...88,89,90感染防御機構...30肝胆道系障害...10 き期間...65気管支拡張症...20気管支拡張症急性増悪...43気管支肺胞洗浄...84気管支肺胞洗浄液...72危険因子...66器質化肺炎...82既存病変...66 気道病変...20,66機能予後...13,16キャッスルマン病...88,89キャピリアMAC...66急性呼吸窮迫症候群...46急性増悪...82菌種...64 く,け,こ空気感染...31クローン病...88,90経気管支肺胞洗浄...85結核...49結核既感染率...49結核症...31,49血球減少...10血清診断法...66結節・気管支拡張型...62ケモカイン...73減感作療法...56抗酸菌塗抹検査...52呼吸不全...46ゴリムマブ...3 さ細気管支炎...20細菌性肺炎...8,33再投与...68サイトメガロウイルス...34細胞性細気管支炎...23細胞性破壊性細気管支炎...24 し,す,せ自己抗体...13,16循環不全...46診断...60診断基準...60すりガラス陰影...75生物学的製剤...2,60生命予後...13,16,17セルトリズマブペゴル...3潜在感染...31潜在性結核感染...55全例市販後調査...7,59
た~と脱髄性疾患...9多発血管炎性肉芽腫症...88,89腸管穿孔...10治療...65治療反応性...63陳旧性結核...50通常型間質性肺炎...82定着...67冬眠状態...31投与時反応...9投与部位反応...9特発性肺線維症...82トシリズマブ...4,45,83 な,に,の内因性再燃...66ニューモシスチス肺炎...32,71膿胸...42は~へ 肺炎...25肺炎球菌ワクチン...33肺炎の危険因子...43肺外結核...32,52肺膿瘍...41非結核性抗酸菌症...59微生物感染症...30非定型病原体...39,40非特異性間質性肺炎...82びまん性肺胞傷害...82標準治療法...54副腎皮質ステロイド薬...51閉塞性細気管支炎...24閉塞性肺機能障害...22ベーチェット病...88,89,90ペンタミジン...76 ま~もマスキング...9メトトレキサート...27,69免疫原性...15,16 免疫再構築症候群...54免疫性炎症性疾患...19モノクローナル抗体...2 や,ゆ,よ薬剤...65薬剤性間質性肺炎...81薬剤性肺炎...75予後...63予防内服...78 り~ろリスク因子...8リツキシマブ...6リバウンド現象...17緑膿菌リスク...40リンパ球性間質性肺炎...82リンパ濾胞...14レジオネラ...40レジオネラ肺炎...33濾胞性細気管支炎...24
生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き定価3,000円(税別) 2014 年2 月28日 第1 版第1 刷発行2014 年11 月10日 第1 版第2 刷発行 編 集 生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き作成委員会発行者 日本呼吸器学会(代表)西村正治発 行 一般社団法人 日本呼吸器学会〒113ー0033 東京都文京区本郷3 丁目28 番8 号 日内会館7 階TEL:03ー5805ー3553(代)FAX:03ー5805ー3554 E-mail:info@jrs.or.jp URL http://www.jrs.or.jp/制 作 克誠堂出版株式会社印刷所 株式会社シナノパブリッシングプレス ●本書に掲載された著作物の複写・複製・転載・翻訳・データベースへの取り込み,および送信(送信可能化権を含む)・上映・譲渡に関する許諾権は一般社団法人日本呼吸器学会が保有しています。 ©日本呼吸器学会/2014/Printed in Japan
短縮版
II短縮版:生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き作成委員会 ●委員長徳田 均 地域医療機能推進機構東京山手メディカルセンター呼吸器内科(日本呼吸器学会) ●委員(五十音順) 門田淳一 大分大学医学部呼吸器・感染症内科学講座(日本感染症学会) 亀田秀人 東邦大学医学部内科学講座膠原病学分野(日本リウマチ学会) 須田隆文 浜松医科大学内科学第二講座(日本呼吸器学会) 高柳 昇 埼玉県立循環器・呼吸器病センター呼吸器内科(日本呼吸器学会) 田坂定智 弘前大学大学院医学研究科呼吸器内科学講座(日本呼吸器学会) 舘田一博 東邦大学医学部医学科微生物・感染症学講座(日本呼吸器学会) 朝野和典 大阪大学医学部付属病院感染制御部(日本呼吸器学会) 針谷正祥 東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターリウマチ性疾患薬剤疫学研究部門(日本リウマチ学会) 渡辺 彰 東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発研究部門(日本結核病学会)
●COI(利益相反)について一般社団法人日本呼吸器学会は,COI(利益相反)委員会を設置し,内科系学会とともに策定したCOI(利益相反)に関する共通指針ならびに細則に基づき,COI 状態を適正に管理している。(COI(利益相反)については,学会ホームページに指針・書式等を掲載している。)以下に,生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き作成委員のCOI 関連事項を示す。1)研究助成金等に関する受入状況企業名:アステラス製薬(株),アボットジャパン(株),エーザイ(株),MSD(株),杏林製薬(株),塩野義製薬(株),第一三共(株),大正製薬(株),大正富山医薬品(株),大日本住友製薬(株),大鵬薬品工業(株),武田薬品工業(株),田辺三菱製薬(株),富山化学工業(株),中外製薬(株),ファイザー(株),ブリストルマイヤーズ(株),Meiji Seika ファルマ(株) 2)講演料・原稿料等の受入状況企業名:アステラス製薬(株),アボットジャパン(株),エーザイ(株),MSD(株),塩野義製薬(株),グラクソ・スミスクライン(株),第一三共(株),大正富山医薬品(株),大日本住友製薬(株),武田薬品工業(株),田辺三菱製薬(株),南江堂(株),中外製薬(株),ファイザー(株),ブリストルマイヤーズ(株),ヤンセンファーマ(株) 3)作成委員の個人的収入に関する受け入れ状況 本学会の定めた開示基準に該当するものはない。 以 上
IV免疫性炎症性疾患の病態解明が進み,炎症の成立,維持に主要な役割を演じているサイトカイン や分子を標的としてその作用をブロックする生物学的製剤が治療の現場に広く用いられるようになった。関節リウマチ(RA)などのリウマチ性疾患,クローン病などの炎症性腸疾患,乾癬などの皮膚疾患などにおいてめざましい治療効果を上げている。しかしその一方でさまざまな有害事象が,各薬剤について行われた市販後全例調査(PMS)により明らかとなってきた。その中で頻度,重症度ともに最も重大なのが感染症である。これら薬剤の標的となるサイトカインや分子は,感染防御免疫において重要な役割を演じており,それをブロックすることで感染症が多発することは理論的に予測されていた。まずTNF 阻害薬において,細菌感染症,結核症,非結核性抗酸菌症,ニューモシスチス肺炎などが多発した。死亡も少なからず出ている。TNF 以外の作用点を持つほかの薬剤においても,頻度の違いはあるが,同様の感染症の多発が観察されている。感染症以外の有害事象としては,亜急性〜急性のびまん性肺障害が発生し,重篤な経過をとる例が多い。これら有害事象の多発を踏まえて,日本リウマチ学会などの関連学会は各生物学的製剤について使用ガイドラインを発表・改訂してきた。そのような中で2012 年に行われた多施設共同研究で,生物学的製剤を投与された2,697 人のRA患者で死亡が確認された38 例中47%の死因が肺疾患であった。すなわち,肺合併症が生物学的製剤治療の大きな障害として立ちはだかっているということが明らかとなってきた。今や肺合併症の予防と適切な治療が,生物学的製剤の安全な治療遂行のために不可欠であり、発生した合併症が重篤な場合,呼吸器,感染症の専門家の助言,協力が必要とされる状況となった。日本呼吸器学会では2012 年6 月,この問題に対処するために臨時の委員会を立ち上げた。感染症・結核の専門家6 名,また日本結核病学会から1 名,日本感染症学会から1 名,日本リウマチ学会から2 名,それぞれ正式に委員が参加し,10 名でこの問題に取り組んだ。この問題の多様な側面について十分に時間をかけて討議を重ね,各診療分野で利用可能な内容とすることができたので,2014 年2 月,全9 章,94 頁からなる手引き書として発刊した。日本呼吸器学会, 日本感染症学会, 日本結核病学会では全会員に頒布され,また日本リウマチ学会会員からは多数の購読を頂き,幸いに高い評価を頂くことができた。発刊後2 年を経て,この成果をさらに広く海外の診療現場にも広めたいと,英語版を作成することとなり,委員の方々の努力でまず日本語の短縮版を作成,これを英訳し,ウェブ上で公開することとなった。本書はその短縮された日本語版であるが,時間のゆとりがなくエッセンスのみ知りたいという日本の臨床現場にもご利用頂けることと思う。記述はRAを中心としたが,基本的な考え方は生物学的製剤を使用する各領域にもそのまま応用可能なものであり,十分有用な書であると信じる。この書物が免疫性炎症性疾患の診療に心を砕いている各方面において,診療の一助となることを願っている。 2016 年8 月生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き作成委員会 委員長徳田 均
V ■本書で用いた薬剤一覧D-ペニシラミンアザチオプリンアジスロマイシンアダリムマブアトバコンアバタセプトアモキシシリンアンピシリンイソニアジドイミペネムインフリキシマブウステキヌマブエタネルセプトエタンブトールカナマイシンガレノキサシンクラブラン酸クラリスロマイシンゴリムマブコルヒチンサラゾスルファピリジンシクロスポリンシクロホスファミドシプロフロキサシンシラスタチンストレプトマイシンスルタミシリンスルバクタムスルファメトキサゾールセフェピムセフトリアキソンセフピロムセルトリズマブペゴルタクロリムスタゾバクタムトシリズマブドリペネムトリメトプリムパズプロキサシンパニペネムピペラシリンピラジナミドプレドニゾロンベタミプロンベリムマブペンタミジンミゾリビンメチルプレドニゾロンメトトレキサートメロペネムモキシフロキサシンリツキシマブリファンピシンレボフロキサシンD-penicillamine azathioprine azithromycin adalimumab atovaquone abatacept amoxicillin ampicillin isoniazid imipenem infliximab ustekinumab etanercept ethambutol kanamycin garenoxacin clavulanic acid clarithromycin golimumab colchicine salazosulfapyridine cyclosporin cyclophosphamide ciprofloxacin cilastatin streptmycin sultamicillin sulbactam sulfamethoxazole cefepime ceftriaxone cefpirome certolizumabpegol tacrolimus tazobactam tocilizumab doripenem trimethoprim pazufloxacin panipenem piperacillin pyrazinamide prednisolone betamipron belimumab pentamidine mizoribine methylprednisolone methotrexate meropenem moxifloxacin rituximab rifampicin levofloxacin AZM ADA ABA AMPC ABPC INH IPM IFX UTK ETN EB KM GRNX CVA CAM GLM CyA CPA CPFX CS SM SBTPC SBT SMX CFPM CTRX CPR CZP TAZ TCZ DRPM TMP PZFX PAPM PIPC PZA PSL mPSL MTX MEPM MFLX RTX RFP LVFX
VI 2総論1 生物学的製剤概論 総論I 6総論2 生物学的製剤の投与対象となる疾患患者(宿主)の特性:関節リウマチを中心に 総論3 9肺合併症の背景要因としての既存の肺病変:気道病変を中心に 総論4 13なぜ生物学的製剤投与で感染症が起こりやすくなるか? はじめに......... 2 1 各生物学的製剤の特徴と有効性......... 2 2 生物学的製剤の安全性......... 3 はじめに......... 6 1 RA をはじめとした IMID の病態と免疫異常......... 6 2 生物学的製剤に対する免疫応答......... 6 3 RA 患者の予後とその規定因子......... 7 4 RA の最新治療において呼吸器科医が留意すべき点......... 7 はじめに......... 9 1 RA と気道病変......... 9 2 気管支拡張症......... 9 3 末梢気道病変─細気管支炎......... 10 4 気道病変と肺感染症......... 11 5 気道病変とRA の治療戦略......... 11 はじめに......... 13 1 生物学的製剤投与時に発症しやすい感染症......... 13
VII 各論1 16細菌感染症 各論II 各論2 19抗酸菌感染症 Q1 RA 患者の注意すべき細菌感染症は? RA 患者には肺炎が多いか? 生物学的製剤の投与でさらに頻度が増すか?......... 16 Q2 RA 患者の肺炎治療:初期対応,特に重症例に対する初期対応は?......... 16 Q3 RA 患者の肺膿瘍,膿胸,気管支拡張症急性増悪の初期対応は?......... 17 Q4 RA 患者の肺感染症の危険因子は何か? 予防は可能か?......... 18 Q5 感染終息後に生物学的製剤は使用再開できるか?......... 18 a.結核症......... 19 Q1 RA 患者には結核が多いのか?......... 19 Q2 RA 患者への生物学的製剤の投与で結核併発は多くなるのか?......... 19 Q3 結核併発のリスクは何か?......... 19 Q4 結核併発はどのように見つけるのか?......... 20 Q5 併発結核の治療はどうするか?......... 20 Q6 結核併発の予防はどうするか?......... 20 Q7 併発結核の治療の終了後,生物学的製剤は再投与は可能か?......... 20 b.非結核性抗酸菌症......... 22はじめに......... 22 Q1 RA 患者におけるNTM 症(RA-NTM 症)の合併頻度は? そこに生物学的製剤を投与した場合の発症頻度は?......... 22 Q2 NTM 症の診断─RA 患者において特に注意を払うべき点は?......... 22 Q3 RA-NTM 症の菌種は? 非RA 患者と異なるのか? RA-NTM 症の予後は? そこに生物学的製剤が加わった場合,どうなるのか?......... 22 Q4 治療はどうするのか? 薬剤は? 期間は?......... 23 Q5 発病の危険因子は何か? 予知できるのか?......... 23 Q6 NTM 症を合併している,あるいはその疑いがあるRA 患者には生物学的製剤の投与は禁忌か?......... 24 Q7 生物学的製剤使用中にNTM 症を発症した場合,生物学的製剤は感染収束後には再投与できるのか?......... 24
VIII 各論5 32生物学的製剤が使用される関節リウマチ関連以外の疾患と呼吸器合併症 各論4 29間質性肺炎 各論3 26ニューモシスチス肺炎 はじめに......... 26 Q1 PCP とはどのような感染症か?......... 26 Q2 PCP の病態は?......... 26 Q3 RA 患者のPCP の特徴とは?......... 26 Q4 生物学的製剤使用中のPCP の頻度と死亡率はどの程度か?......... 26 Q5 PCP を発症する危険因子は何か?......... 26 Q6 PCP の診断はどのように行うか?......... 27 Q7 PCP の治療はどのように行うか?......... 27 Q8 PCP の予防は可能か?......... 28 Q9 PCP 終息後に生物学的製剤の再開は可能か?......... 28おわりに......... 28 Q1 RA に合併する間質性肺炎の頻度や分類,臨床像などは?......... 29 Q2 生物学的製剤と関連した薬剤性間質性肺炎の発症頻度は?......... 29 Q3 どんな患者が生物学的製剤と関連した間質性肺炎を発症しやすいのか?......... 29 Q4 生物学的製剤を使ってどのくらいの期間で本剤と関連した間質性肺炎を発症するのか? ......... 30 Q5 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の発症時の症状は?......... 30 Q6 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の検査所見は?......... 30 Q7 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の画像所見は?......... 30 Q8 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の診断(鑑別診断を含む)は?......... 30 Q9 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の治療は?......... 30 Q10 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の予後は? また,予後不良因子は?......... 30 Q11 既存の間質性肺炎がある患者に生物学的製剤を投与できるか? またその場合,注意すべき点は?......... 31 Q12 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の予防は可能か?......... 31 Q13 生物学的製剤と関連した間質性肺炎を発症した患者に本剤の再投与は可能か?......... 31 はじめに......... 32 Q1 RA 関連以外のどのような疾患で生物学的製剤が使用されているのか?......... 32 Q2 上記疾患に生物学的製剤が使用される場合の副作用の種類と頻度の特徴は?......... 33 Q3 RA 関連疾患以外で生物学的製剤を使用する場合の注意点は?......... 33 Q4 生物学的製剤の有効性が期待されるその他の疾患は?......... 33
I 1 2 3 4 総論 なぜ生物学的製剤投与で感染症が 起こりやすくなるか? 生物学的製剤概論 生物学的製剤の投与対象となる疾患患者(宿主)の特性:関節リウマチを中心に 肺合併症の背景要因としての既存の肺病変:気道病変を中心に
総論1 はじめに 生物学的製剤とは,分子生物学および遺伝子工学の手法を用いて作成されたモノクローナル抗体や融合蛋白などのリコンビナント蛋白製剤である。現在わが国で免疫性炎症性疾患に承認されている生物学的製剤を表1 に,各製剤の適応を表2 に示す。1 各生物学的製剤の特徴と有効性 1-1 ●TNF 阻害薬a.各TNF 阻害薬の特徴1)インフリキシマブTNF と結合するFab 部分にマウスのアミノ酸配列を用いたキメラ型モノクローナル抗体である。関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)ではメトトレキサート(methotrexate:MTX)との併用が必要である。2)アダリムマブ全アミノ酸配列がヒト由来の完全ヒト型モノクローナル抗体である。メトトレキサートを併用・非併用で 生物学的製剤概論 表1 わが国で免疫性炎症性疾患に承認されている生物学的製剤分類一般名サイトカインまたはその受容体を標的とする製剤TNF 阻害薬キメラ型抗TNF 抗体インフリキシマブ(レミケード®,インフリキシマブBS) ヒト型抗TNF 抗体アダリムマブ(ヒュミラ®)ゴリムマブ(シンポニー®) PEG 化ヒト化抗TNF 抗体セルトリズマブペゴル (シムジア®) TNF 受容体-Fc 融合蛋白エタネルセプト(エンブレル®) IL-1 阻害薬抗IL-1b 抗体カナキヌマブ(イラリス®) IL-6 受容体阻害薬ヒト化抗IL-6 受容体抗体トシリズマブ(アクテムラR) IL-12/23 阻害薬ヒト型抗ヒトIL-12/ IL-23p40 抗体ウステキヌマブ(ステラーラR) IL-17 阻害薬ヒト型抗ヒトIL-17A モノ クローナル抗体セクキヌマブ(コセンティクス®)ヒト化抗ヒトIL-17A モノクローナル抗体イキセキズマブ(承認申請中)完全ヒト型抗IL-17 受容体抗体ブロダルマブ(承認申請中) 細胞表面機能分子を標的とする製剤T 細胞共刺激分子阻害薬CTLA4-Fc 融合蛋白アバタセプト(オレンシアR) B 細胞阻害薬キメラ型抗ヒトCD20 抗 体リツキシマブ(リツキサンR) TNF:tumor necrosis factor,IL:interleukin,CTLA4:cytotoxic T-lymphocyte antigen 4.
使用可能。3)ゴリムマブ完全ヒト型モノクローナル抗体であり,インフリキシマブよりも高いTNF 結合能を有する。メトトレキサートを併用・非併用で使用可能。4)セルトリズマブぺゴル抗体が抗原と結合する相補性決定領域のみがマウス由来のヒト化抗TNF 抗体のFab 部分をポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG)化した抗体製剤である。メトトレキサートを併用・非併用で使用可能。5)エタネルセプトエタネルセプトはII 型TNF 受容体とIgG のFc 部分から構成される融合蛋白であり,メトトレキサートを併用・非併用で使用可能。b.TNF 阻害薬の有効性TNF 阻害薬は長期罹患・早期RA 患者のいずれに対しても,優れた臨床症状改善効果,身体機能改善効果,高い関節破壊進行抑制効果を有する1)。RA 以外の適応疾患に対しても,既存治療で効果不十分な症例に対して優れた臨床症状改善効果が示されている。 1-2 ●IL-6 受容体阻害薬の特徴と有効性トシリズマブ(tocilizumab:TCZ)はヒト化抗IL-6受容体モノクローナル抗体であり,点滴静注および皮下注製剤がある。メトトレキサートを併用・非併用で 使用可能である。国内臨床試験では,メトトレキサートで効果不十分のRA 患者においてトシリズマブ群で有意な臨床症状改善作用2)および関節破壊進行抑制作用が認められた3)。 1-3 ●T 細胞共刺激分子阻害薬の特徴と有効性アバタセプト(abatacept:ABA)は,CTLA-4 の細胞外領域とヒトIgG1Fc 領域からなる融合蛋白であり,CD80/86 からのT 細胞共刺激シグナルを阻害する。点滴静注製剤および皮下注製剤があり,メトトレキサートを併用・非併用で使用可能である。長期罹患RA 患者・早期RA 患者のいずれに対しても,優れた臨床症状改善効果,身体機能改善効果,高い関節破壊進行抑制効果を有する4)〜6)。 2 生物学的製剤の安全性 2-1 ●全般的安全性頻度および重症度から感染症が最も重要な副作用と位置づけられる。生物学的製剤の臨床試験を対象にしたメタ解析では,対照群に対するすべての有害事象発現,有害事象による治療中止,重篤感染症発現,結核再活性化のリスクが対照群よりも有意に上昇していた7)。 表2 わが国で免疫性炎症性疾患に承認されている生物学的製剤 IFX ADA GLM CZP ETN TCZ ABA RTX UTK 関節リウマチ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ×若年性特発性関節炎× ○ × × ○ ○ × × ×尋常性乾癬○ ○ × × × × × × ○関節症性乾癬○ ○ × × × × × × ×強直性脊椎炎○ ○ × × × × × × ×クローン病○ ○ × × × × × × ×潰瘍性大腸炎○ ○ × × × × × × ×ベーチェット病○ (眼) ○ (腸管) × × × × × × ×キャッスルマン病× × × × × ○ × × ×顕微鏡的多発血管炎,ウェゲナー肉芽腫症× × × × × × × ○ ×ウェゲナー肉芽腫症は現在granulomatosis with polyangiitis(多発血管炎性肉芽腫症)と呼ばれているが,添付文書ではウェゲナー肉芽腫症と記載されている。○保険適用取得すみ,×保険適用取得なし。IFX:インフリキシマブ,ADA:アダリムマブ,GLM:ゴリムマブ,CZP:セルトリズマブペゴル,ETN:エタネルセプト,TCZ:トシリズマブ,ABA:アバタセプト,RTX:リツキシマブ,UTK:ウステキヌマブ。
2-5 ●脱髄性疾患脱髄性疾患を有する患者や既往のある患者ではTNF 阻害薬は禁忌である。TNF 阻害薬投与中の脱髄性疾患が報告されている。 2-6 ●腸管穿孔トシリズマブの全例市販後調査(post marketing surveillance:PMS)において,腸管穿孔が13 例(0.16%)報告されている11)。トシリズマブに比べるとほか3 つのTNF 阻害薬での腸管穿孔の頻度は低い。 2-7 ●間質性肺炎生物学的製剤投与下の間質性肺炎または間質性肺炎の悪化が全例PMS8)〜11),および海外で報告されている14)。RA 治療中の間質性肺病変の出現・増悪時には感染症,原病による肺病変,薬剤性肺障害の鑑別が重要である。TNF 阻害薬あるいはメトトレキサートで治療中のRA 患者において,間質性肺炎の血清マーカーの一つであるKL-6 が,間質性肺病変や悪性腫瘍の出現・悪化と関係なく変動する15)。 2-8 ●肝胆道系障害TNF 阻害薬,トシリズマブのいずれにおいても肝胆道系障害が報告されている8)〜11)。 2-9 ●血球減少TNF 阻害薬投与に関連した再生不良性貧血,汎血球減少などの血液学的異常,トシリズマブ投与に伴う血球減少が報告されている。トシリズマブ投与時には好中球の末梢への移動が減少し,投与後一過性の好中球減少が認められる11)。 2-2 ●感染症生物学的製剤投与下の感染部位はいずれの薬剤においても,呼吸器が約50%,皮膚・軟部組織が20〜25%と高く,泌尿器・消化器・敗血症・骨および関節がこれらに続いている8)〜11)12)。感染症の中でも細菌性肺炎は最も頻度が高く,結核,ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia:PCP),非結核性抗酸菌症,帯状疱疹などの日和見感染も各生物学的製剤でほぼ同程度の頻度で発現する(表3)。感染症に対するリスクマネジメントとして,投与前のリスク因子評価,ワクチン接種,化学予防,感染症リスク因子の軽減を行うことが推奨されている13)。生物学的製剤によって感染症の自覚症状がマスクされ,受診・治療開始後に急激にショックに陥る症例が報告されている。生物学的製剤投与下では初期症状が軽微あるいは非特異的であっても,急激な増悪を念頭に置き,診断および治療にあたることが重要である。 2-3 ●投与時反応・投与部位反応投与時反応には,投与開始後24 時間以内に出現する発熱・血圧変動・呼吸困難などの急性投与時反応と,投与後24 時間から2 週間に出現する関節痛・筋痛・蕁麻疹・発熱・倦怠感といった遅発性投与時反応がある。投与部位反応はほとんどが非重篤である。 2-4 ●心不全・心機能障害うっ血性心不全はTNF 阻害薬の禁忌に該当する。トシリズマブ投与中は,脂質検査異常の出現が高いが,トシリズマブ投与によって心不全・心機能障害のリスクが増加するエビデンスは得られていない11)。 表3 RA 全例市販後調査における重要な感染症の発現頻度 インフリキシマブエタネルセプトアダリムマブトシリズマブアバタセプト 症例数5,000 13,894 7,740 7,901 3,985肺炎(%) 2.2 1.3 1.3 1.5 0.7結核(%) 0.28 0.07 0.1 0.05 0.03 PCP(%) 0.44 0.18 0.3 0.2 0.1 NTM(%) 0.14 0.12 0.1 0.2 0.05帯状疱疹(%) 0.34 0.81 0.7 1.1 N.D. PCP:Pneumocystis pneumonia, NTM:non-tuberculous mycobacteria. (各製剤の適正使用情報より著者が作成)
年における悪性リンパ腫およびほかの悪性腫瘍の増加,小児,青少年および成人における白血病の増加に関する警告を発表しており,これらの年代の患者については引き続き検討する必要がある。固形癌根治後5年以上経過していれば生物学的製剤の使用は可能とする考えが専門家の間では一般的である13)。 2-10 ●悪性腫瘍近年のメタ解析,観察研究,日本リウマチ学会が実施中のSECURE 研究では生物学的製剤使用と悪性腫瘍の関連性は認められていない16)17)。一方,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)は2009 年8 月にTNF 阻害薬を使用した小児および青少 1 )Takeuchi T, Kameda H. The Japanese experience with biologic therapies for rheumatoid arthritis. Nature reviews. Rheumatology 2010;6:644 ─52. 2 )Nishimoto N, Miyasaka N, Yamamoto K, et al. Study of active controlled tocilizumab monotherapy for rheumatoid arthritis patients with an inadequate response to methotrexate (SATORI):significant reduction in disease activity and serum vascular endothelial growth factor by IL-6 receptor inhibition therapy. Mod Rheumatol 2009;19: 12 ─9. 3 )Nishimoto N, Hashimoto J, Miyasaka N, et al. Study of active controlled monotherapy used for rheumatoid arthritis, an IL-6 inhibitor (SAMURAI):evidence of clinical and radiographic benefit from an x ray reader-blinded randomised controlled trial of tocilizumab. Ann Rheum Dis 2007;66:1162 ─7. 4 )Scott DL, Wolfe F, Huizinga TW. Rheumatoid arthritis. Lancet 2010;376:1094 ─108. 5 )Takeuchi T, Matsubara T, Nitobe T, et al. Phase II dose-response study of abatacept in Japanese patients with active rheumatoid arthritis with an inadequate response to methotrexate. Mod Rheumatol 2013;23:226 ─35. 6 )Matsubara T, Yamana S, Tohma S, et al. Tolerability and efficacy of abatacept in Japanese patients with rheumatoid arthritis: a phase I study. Mod Rheumatol 2013;23:634 ─45. 7 )Singh JA, Wells GA, Christensen R, et al. Adverse effects of biologics: a network meta-analysis and Cochrane overview. The Cochrane Library 2012;20:155 ─66. 8 )Takeuchi T, Tatsuki Y, Nogami Y, et al. Postmarketing surveillance of the safety profile of infliximab in 5000 Japanese patients with rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis 2008;67:189 ─94. 9 )Koike T, Harigai M, Inokuma S, et al. Postmarketing surveillance of the safety and effectiveness of etanercept in Japan. J Rheumatol 2009;36:898 ─906. 10)Koike T, Harigai M, Ishiguro N, et al. Safety and effectiveness of adalimumab in Japanese rheumatoid arthritis patients: postmarketing surveillance report of the first 3,000 patients. Mod Rheumatol 2012;22: 498 ─508. 11)Koike T, Harigai M, Inokuma S, et al. Postmarketing surveillance of tocilizumab for rheumatoid arthritis in Japan: interim analysis of 3881 patients. Ann Rheum Dis 2011;70:2148 ─51. 12)Harigai M, Ishiguro N, Inokuma S, et al. Postmarketing surveillance of the safety and effectiveness of abatacept in Japanese patients with rheumatoid arthritis. Mod Rheumatol 2016;26:491 ─8. 13)Koike R, Takeuchi T, Eguchi K, et al. Update on the Japanese guidelines for the use of infliximab and etanercept in rheumatoid arthritis. Mod Rheumatol 2007;17:451 ─8. 14)Sen S, Peltz C, Jordan K, et al. Infliximab-induced nonspecific interstitial pneumonia. Am J Med Sci 2012;344:75 ─8. 15)Harigai M, Takamura A, Atsumi T, et al. Elevation of KL-6 serum levels in clinical trials of tumor necrosis factor inhibitors in patients with rheumatoid arthritis: a report from the Japan College of Rheumatology Ad Hoc Committee for Safety of Biological DMARDs. Mod Rheumatol 2013;23:284 ─96. 16)Mariette X, Matucci-Cerinic M, Pavelka K, et al. Malignancies associated with tumour necrosis factor inhibitors in registries and prospective observational studies: a systematic review and meta-analysis. Ann Rheum Dis 2011;70: 1895 ─904. 17)Harigai M, Nanki T, Koike R, et al. Risk for malignancy in rheumatoid arthritis patients treated with biological disease- modifying antirheumatic drugs compared to the general population:a nationwide cohort study in Japan. Mod Rheumatol 2016:1 ─9.(Epub ahead of print) 文献
総論2 はじめに 関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)をはじめとした生物学的製剤の投与対象疾患では,異常な免疫応答により臓器の炎症・障害が生じる。したがって,適切に治療されなければ予後不良の疾患である。生命予後の観点からは,一般人口と比較してRA 患者では平均して10 年程度短命であると報告されており,さらに関節などの臓器機能障害により生活の質(quality of life:QOL)が大きく低下する。生物学的製剤は適正に使用されれば生命予後や機能予後を改善させるが,生物学的製剤に対する宿主免疫応答の違いがしばしば製剤の有効性や安全性に影響を及ぼす。生物学的製剤の標的分子はサイトカイン,細胞表面分子など多岐にわたるが,免疫システムに関与している分子がほとんどである。したがって,生物学的製剤の適正使用にあたり,正常な免疫システムと病的に歪んだ免疫システムの理解が重要である。 1 RA をはじめとしたIMID の病態と免 疫異常 1-1 ●免疫異常と病態の関連RA などの疾患における免疫異常の存在は,自己抗体の存在,免疫関連遺伝子多型との密接な関連,T細胞のサブセットやT 細胞受容体レパートリーの偏り,免疫細胞の刺激に対する反応性やシグナル伝達の異常などから明らかである1)。そしてRA では免疫異常に伴う過敏反応として,通常関節炎を生じない程度の日常的な関節負荷でも持続性関節炎が生じ,通常皮下結節を形成しない程度の日常的な肘や手指の擦過で 皮下結節が生じやすい。 1-2 ●炎症反応や免疫応答の生じる場上述のように,RA をはじめとした膠原病では何らかの軽微な損傷が生じた場合に,通常の修復機転とは異なる生体反応が惹起され,持続的な組織炎症が誘導される可能性が考えられている。摩擦などの機械的な損傷や外界(病原体など)との接点に富む,自己免疫炎症の場となりやすい臓器として,関節,皮膚,気道,消化管などがある。外界との接点に富む部分には扁桃,気管支関連リンパ組織(bronchus-associated lymphoid tissue:BALT),粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue:MALT)などが存在し,リンパ濾胞を形成しているが, 同様に,RAの関節の滑膜組織にもしばしばリンパ濾胞形成が認められ(三次性リンパ組織あるいは異所性リンパ組織),免疫応答のサテライトとして炎症反応の持続や増幅を可能にしている。近年,抗CCP 抗体やリウマトイド因子陽性の集団の一部において,RA 様の気道病変が関節炎に先行することが報告され3),肺はRA において炎症反応,免疫反応のいずれの場としても重要であると考えられている。 1-3 ●感染症とIMID の関連免疫システムは病原体に対する生体防御機構として成立し,進化を遂げているため,免疫性炎症性疾患(immune-mediated inflammatory diseases:IMID)と感染症は複雑かつ密接に関連している1)。 生物学的製剤の投与対象となる疾患患者(宿主)の特性:関節リウマチを中心に
とである」という基本原則が述べられている7)。 3-2 ●RA としての予後因子RA 患者の予後因子のうち,RA 自体に関連する要因としては,高疾患活動性のほかに,リウマトイド因子や抗CCP 抗体陽性,X 線における関節破壊,身体機能障害,関節外症状などが挙げられている8)。RA以外の要因としては合併症の存在が重要である。合併症はそれ自体が生命予後に直結するのみならず,合併症のために薬剤関連リスクが上昇するため,積極的治療では副作用により,消極的治療ではRA 自体により,生命予後が悪化するジレンマを生む。 4 RA の最新治療において呼吸器科医が 留意すべき点 4-1 ●治療開始時RA は関節機能が予後不良であるだけでなく, 生命予後すら不良であることを認識する必要がある。したがって,呼吸器病変のリスクと比較すべきRA 自体のリスクを念頭においた熟慮が求められる。メトトレキサートや生物学的製剤開始前のスクリーニング検査としては,結核を含めた呼吸器疾患の問診,胸部の聴診,胸部X 線の撮影,IFN-γ遊離試験またはツベルクリン反応,血中β-D-グルカン濃度,末梢血白血球数,末梢血リンパ球数,免疫グロブリン濃度の測定が必要である。 4-2 ●治療の中止や減量における注意点免疫抑制作用を有する製剤のうち,サイトカインやシグナル伝達の阻害を主な作用とする製剤は,核酸代謝阻害薬に比較して中止後に免疫系のリバウンド現象が生じやすい。従来は患者が感染症で入院した場合,副腎皮質ステロイドは継続,その他の免疫抑制作用を有するRA 治療薬はいったん中止されてきたが,最近では個々の薬理特性と感染症の重症度,免疫抑制の程度を勘案した判断(特に休薬期間)が必要となっている。これに関連して,薬剤A から薬剤B に変更後に肺病変が発症または増悪した場合に,薬剤B の副作用を考慮するのは当然であるが,薬剤A の中止に伴う事象である可能性も忘れてはならない。薬剤A を 2 生物学的製剤に対する免疫応答 2-1 ●免疫原性生物学的製剤がいずれかの構造部位に対する免疫反応を被投与者(宿主)に誘導するポテンシャルを免疫原性と呼ぶ。製剤に対する抗体が産生されると,免疫複合体の形成を介して網内系によるクリアランスが高まり,製剤の血中半減期の短縮・血中トラフ濃度の低下により,有効性持続期間が短縮する。免疫原性による有害反応として発熱,皮疹,時にはアナフィラキシー様の反応がみられる。 2-2 ●自己抗体と生物学的製剤の関連生物学的製剤が抗体産生を誘発するのみならず,投与前から患者に存在するリウマトイド因子などの自己抗体が生物学的製剤にしばしば反応する。逆に生物学的製剤の投与が自己抗体の産生に影響を与える。B 細胞標的製剤により自己抗体の産生が低下する一方で,腫瘍壊死因子(tumor nectosis factor:TNF)を標的とした生物学的製剤の投与により,形質細胞様樹状細胞の分化やIFN-α産生の活性化を介して,一部の患者に抗核抗体や抗DNA 抗体が産生される4)。 3 RA 患者の予後とその規定因子 3-1 ●生命予後と機能予後RA は適切に治療されなければ予後不良の疾患である。まず,生命予後の観点から,一般人口と比較してRA 患者では平均して10 年程度短命であると報告されており5),特に重症度の高い患者集団では冠動脈の3 枝病変患者やホジキンリンパ腫のステージIVと同等とされる6)。こうした背景から,RA 治療においても糖尿病におけるHbA1c などと同様に,明確な目標を設定して治療を行う「目標達成型の治療(Treat to Target:T2T)」が提唱され全世界に普及しており,「RA の主要な治療ゴールは,症状のコントロール,関節破壊などの構造的変化の抑制,身体機能の正常化,社会活動への参加を通じて,患者の長期的な生活の質(quality of life:QOL)を最大限まで改善するこ
減量した場合も同様である。 1 )Weyand CM, Goronzy JJ. Developments in the scientific understanding of rheumatoid arthritis. Arthritis Res Ther 2009;11:249. 2 )Takemura S, Braun A, Crowson C, et al. Lymphoid neogenesis in rheumatoid arthritis. J Immunol 2001;167:1072 ─80. 3 )Demoruelle MK, Weisman MH, Simonian PL, et al. Airways abnormalities and rheumatoid arthritis-related autoantibodies in subjects without arthritis: early injury or initiating site of autoimmunity? Arthritis Rheum 2012; 64:1756 ─61. 4 )Palucka AK, Blanck JP, Bennett L, et al. Cross-regulation of TNF and IFN-alpha in autoimmune diseases. Proc Natl Acad Sci U S A 2005;102:3372 ─7. 5 )Wolfe F, Mitchell DM, Sibley JT, et al. The mortality of rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum 1994;37:481 ─94. 6 )Pincus T, Brooks RH, Callahan LF. Prediction of long-term mortality in patients with rheumatoid arthritis according to simple questionnaire and joint count measures. Ann Intern Med 1994;120:26 ─34. 7 )Smolen JS, Aletaha D, Bijlsma JW, et al. Treating rheumatoid arthritis to target: recommendations of an international task force. Ann Rheum Dis 2010;69:631 ─7. 8 )Singh JA, Furst DE, Bharat A, et al. 2012 update of the 2008 American College of Rheumatology recommendations for the use of disease-modifying antiehumatic drugs and biologic agents in the treatment of rheumatoid arthritis. Arthritis Care Res 2012;64:625 ─39. 文献
総論3 はじめに 生物学的製剤が投与される疾患は多岐にわたるが,その中で重い肺合併症が起きるのは関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA),クローン病(Crohn’s disease:CD)などに限られる。その理由はいくつか考えられるが,RA の場合,高率に合併する既存肺病変(気道病変,間質性肺炎)の関与が想定されている。本項ではその既存肺病変の中で特に気道病変について述べる。間質性肺炎(interstitial lung disease: ILD)については別項に記述される(各論第4 章)。 1 RA と気道病変 RA には気道病変が多いことは以前より知られていた。気道病変としては,中枢側に発生する気管支拡張症(bronchiectasis)と,末梢気道に発生する細気管支炎とがある。RA は全身性の免疫性炎症性疾患である。この炎症に由来する病変が関節外臓器に出現する場合,RA の関節外病変(extra-articular manifestation:EAM)と呼ばれる。近年,呼吸器系のEAM として,気管支拡張症とsmall airway disease を合わせ気道病変として,ILD とともに重視する流れがみられる1)2)。 2 気管支拡張症 気管支拡張症は,中枢気道の慢性炎症により,気管支壁が肥厚,内径が拡大し,細菌の定着が起こり,さらに次の感染の母地となる病態である。RA における気管支拡張症の頻度については,高分解能CT(high resolution computed tomography:HRCT)を用いた研究が多数あり,25〜41%との数字が報告されている3)。これは一般人口の10 倍あるいはそれ以上の高い頻度であり,決して偶然ではあり得ない。 2-1 ●気管支拡張症の成立機序一般宿主の気管支拡張症の成立機序については,近年の多数の研究がある。気道に定着した細菌を認識したマクロファージ,気道上皮細胞より種々の炎症性サイトカインが放出され,慢性の好中球性の炎症が起こり,気管支壁の支持構造である弾性線維,軟骨などが破壊され,気道の拡張が起こると考えられている4) (図1,2)。また最近はこの慢性炎症過程を,近年注目を集めているmicrobiome のdysbiosis とそれに対する宿主の歪んだ免疫応答dysregulation で説明する試みもなされている5)。RA 患者について中枢気道の免疫学的動態を調べた実証的研究はいまだ乏しいが,今後の展開が期待される。 2-2 ●気管支拡張症の診断─HRCT が必須RA 患者は,気道病変の存在にもかかわらず咳,痰などの症状を訴えることが少ない。また気管支拡張症は胸部単純X 線写真正面での発見は困難である。したがって気管支拡張症の診断にはHRCT が必須である。放射線診断学的にはNaidich らの定義が広く承認されている6)。 2-3 ●気管支拡張症と末梢気道病変RA 患者の気管支拡張症はしばしば末梢気道病変を伴い,進行性の閉塞性肺機能障害を伴う。中枢気道に起こる慢性の炎症(気道への菌の定着,RA 特有の過 肺合併症の背景要因としての既存の肺病変:気道病変を中心に
RA の細気管支炎については,病理学的な検討のうえに立って,いくつかの分類が提案されている。 3-1 ●細胞性細気管支炎(cellular bronchiolitis)気管支壁の全層にわたってリンパ球の浸潤,構造破壊,線維化などが起こる。高度になると内腔の狭窄を来す。 剰な免疫応答)が末梢気道にも同様に起こり,持続して形態学的,機能的変化を惹起すると考えられる7)。 3 末梢気道病変─細気管支炎 末梢気道病変はしばしば画像,病理などで細気管支炎として確認される。細気管支炎の頻度は,HRCTを用いた検討で,8〜17%といわれる3)。 図1 気管支拡張症の成立機序気管支腔の拡大 気管支壁の肥厚 壁の脆弱化弾力線維の断裂,減少周囲肺への炎症の波及 粘液腺の増加 慢性炎症細胞の浸潤軟骨の菲薄化 図2 RA における気管支拡張症の免疫学的病態 気道に定着する細菌 Pseudomonas H.influenzae Str.pneumoniae Mφ,上皮細胞 microbiome (常在細菌叢)炎症(好中球主体) 気道壁の損傷 気管支拡張IL-6 IL-8 TNF-α 活性酸素elastase MMPs
存率は68.8%と低く,肺炎など呼吸器感染症と心肺不全がその死因であったと報告されている。すなわち気管支拡張症を有するRA 患者は肺炎に罹患しやすく,それが原因で死亡しやすい。 4-2 ●末梢気道病変とNTM 症生物学的製剤投与下に発症した非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteriosis:NTM)症13 例を解析したMori は,その大部分の例において気道病変が先行しており,まずそれらの部位に環境常在菌であるNTM の定着が起こり,そこから発症してきたと推定している11)。すなわち,末梢気道病変は中枢気道病変とともに,NTM 症のリスク因子である。 5 気道病変とRA の治療戦略 以上のように,RA の気道病変には病因性細菌, NTM などの定着が多く,これが細菌性肺炎,NTM症の発症の重要な危険因子である。したがってメトトレキサート(methotrexate:MTX)や生物学的製剤による治療を開始する前には極力HRCT 検査を施行し,気道病変やILD の存否,その広がりを確認しておくことが望ましい。ここでHRCT で気道病変などが見出された場合のRA の治療戦略が問題となる。気道病変がある場合メトトレキサートや生物学的製剤は投与を控えるべきであろうか?今日抗菌療法の進歩により,慢性下気道感染症の急性増悪や軽症肺炎は外来,入院で迅速に対応すればその制御は決して困難ではない。したがって気道病変の存在だけをもってこれらの投与を控える必要はない。気道病変はRA のEAM の一つである。感染とは積極的に闘いつつ,メトトレキサートや生物学的製剤の投与を続けることで,肺の構造破壊の進行,感染のリスクの増大という悪性循環を断つことができる。 3-2 ●濾胞性細気管支炎(follicular bronchiolitis)細胞性細気管支炎とも移行する概念で,細気管支の壁にリンパ濾胞が形成され, 内腔が狭細化するもので11)ある。このリンパ濾胞に集積するリンパ球,形質細胞からは,種々の炎症性サイトカイン,ケモカイン,抗CCP 抗体などが産生される9)。 3-3 ●閉塞性細気管支炎(obliterative bronchiolitis) RA においては通常,移植後などにみられる狭窄性細気管支炎とは異なる病像がみられる。蛇澤は細胞性破壊性細気管支炎(cellular and destructive bronchiolitis)との概念を提出した9)。細気管支に強いリンパ球性,好中球性の炎症がみられ,気管支構造は破壊され,ついには細気管支の完全な瘢痕性閉塞を来すものである。 3-4 ●末梢気道病変の臨床的意義これらの細気管支炎各亜型は,1 人のRA 患者の肺に併存することがしばしばで,その意味から,疾患名としてではなく病理所見名として扱うことが適当である。RA の末梢気道病変は一部の患者において閉塞性肺機能障害をもたらすが,その発生リスクは一般人の 1.5 倍,それにより死亡するリスクは2 倍以上であ る2)。 4 気道病変と肺感染症 4-1 ●気管支拡張症と細菌感染症RA 患者の細菌性肺炎の92%において気管支拡張症などの背景病変がみられたとの報告がある10)。気管支拡張症は細菌感染症の危険因子として,高齢,副腎皮質ステロイド薬使用,RA の進行した病期などとともに重要である。気管支拡張症は生命予後にも直結する。米国での気管支拡張症を有する患者の予後の検討で,その5 年生
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総論4 はじめに 生物学的製剤使用によって,感染症に対し防御的に働く免疫も抑制され,特定の感染症の発症率が高くなる。治験や市販後調査(post marketing surveillance: PMS)において,結核やニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia:PCP)など健常人では発症しにくい感染症の発症が累積して報告されている。これらの感染症の診断は多くの場合困難であり,生物学的製剤使用による感染症発症の機序を理解することは,発症予防や適切な経験的治療を行うために重要な基礎知識となる。 1 生物学的製剤投与時に発症しやすい感 染症ここでは,生物学的製剤投与下で発症率が高くなると判断されている結核(抗酸菌),Pneumocystis jirovecii(以下Pneumocystis),細菌性および細菌性肺炎のなかでも特に注意が必要なレジオネラのそれぞれの感染症について,感染防御機構と生物学的製剤の関係を解説する。 1-1 ●結核症(Tuberculosis)飛沫核に含まれた結核菌は,空気感染によって肺胞まで到達し,肺胞マクロファージに貪食され,細胞内で増殖を開始し,初感染病巣を形成する。細胞性免疫が成立すると,活性化したマクロファージが結核菌の局在する病巣部分に集積し,肉芽組織となって病巣は被包され,やがて乾酪化に陥る。中心部の結核菌は冬眠状態(dormancy)となり,感染症そのものは治癒し,結核菌に抵抗性を獲得するようになる。この肉芽腫は,Th1 細胞の産生するTNF やIFN- γなどのサ イトカインによって維持されており,この状態の結核を臨床的に潜在感染(latent infection)と呼ぶ。生物学的製剤投与時の結核の発症は生物学的製剤投与後3 カ月以内に起こることが多い1)ことから,多くの場合再感染ではなく,既存の潜在結核病巣からの再燃発症であると考えられている。TNF 阻害薬である生物学的製剤を投与すると肉芽腫の維持作用が破綻し,肉芽腫によって閉じ込められていた結核菌が再増殖し始めることによる再燃発症が起こる2)〜7)。生物学的製剤投与下の結核は肺外結核が多いことも特徴的で, これは全身性の免疫抑制状態のためである。 1-2 ●ニューモシスチス肺炎PMS を含めた生物学的製剤投与患者におけるPCP肺炎の発症率は0.2〜0.3%であり,日本では実臨床の現場で結核の発症頻度より高い。PCP の発症は,再感染発病であることが強く示唆されている。生物学的製剤によって発症するPCP はヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)感染患者に発症するPCP とは異なるアレルギー病態であることも示唆され,HIV 感染患者に比較して予後が不良である8)。また,生物学的製剤投与患者のPCP の発症頻度の増加には, Pneumocystis の定着が起こりやすい宿主側の環境ができる可能性が示唆されている9)。 1-3 ●細菌性肺炎生物学的製剤投与中の感染症としては,一般細菌による肺炎が最も高頻度で起こる。細菌性肺炎は,肺胞内に侵入した細菌の増殖によって発症する。TNF は,局所の血管の透過性亢進,血 なぜ生物学的製剤投与で感染症が起こりやすくなるか?
レジオネラ肺炎は,TNF 阻害薬の投与によって発症の危険性が,一般人口との標準化罹患比(standardized incident ratio:SIR)は13.1(p <0.0001)であったとの報告もある10)。治療において留意しておかなければならない点は,レジオネラは,細胞内増殖細菌であるため,細胞内移行の良好なマクロライド系,フルオロキノロン系を選択しなければ制御できず,重症化し致死的となる。 1-5 ●その他呼吸器感染症ウイルスおよびPneumocystis を除く真菌感染症については呼吸器の感染症として,特に生物学的製剤使用時に特異的に注意が必要な傾向は報告されていない。しかし,基礎に併用しているメトトレキサートや副腎皮質ステロイド薬の作用のため,サイトメガロウイルスやアスペルギルスによる呼吸器感染症は常に念頭に置いて診療すべきである。 液中の単球や好中球の血管外への移行,感染局所に集積を誘導する重要なサイトカインである。生物学的製剤投与下では感染症のなかでも細菌性肺炎の発症頻度が日本では最も高く,重症化もしやすいと考えられる。原因となる細菌は,肺炎球菌,インフルエンザ菌など一般の肺炎の原因菌に加えて,医療関連肺炎として薬剤耐性菌,特に緑膿菌の関与も考慮する必要がある。細菌性肺炎の予防として肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されている。生物学的製剤投与中の患者では,抗体の獲得について,いまだ一定した見解が得られていない。 1-4 ●レジオネラ肺炎生物学的製剤に特異的に報告されている細菌性肺炎としては,重症のレジオネラ肺炎が注目されている。 1 )Keane J, Gershon S, Wise RP, et al. Tuberculosis associated with infliximab, a tumor necrosis factor alpha-neutralizing agent. N Engl J Med 2001;345:1098 ─104. 2 )Ehlers S. Role of tumour necrosis factor (TNF) in host defence against tuberculosis: implications for immunotherapies targeting TNF. Ann Rheum Dis 2003;62:ii37 ─42. 3 )Gardam MA, Keystone EC, Menzies R, et al. Anti-tumour necrosis factor agents and tuberculosis risk: mechanisms of action and clinical management. Lancet Infect Dis 2003;3:148 ─55. 4 )Ehlers S. Tumor necrosis factor and its blockade in granulomatous infections: differential modes of action of infliximab and etanercept? Clin Infect Dis 2005;41:S199 ─203. 5 )Jacobs M, Samarina A, Grivennikov S, et al. Reactivation of tuberculosis by tumor necrosis factor neutralization. Eur Cytokine Netw 2007;18:5 ─13. 6 )Miller EA, Ernst JD. Anti-TNF immunotherapy and tuberculosis reactivation: another mechanism revealed. J Clin Invest 2009;119:1079 ─82. 7 )Solovic I, Sester M, Gomez-Reino JJ, et al. The risk of tuberculosis related to tumour necrosis factor antagonist therapies: a TBNET consensus statement. Eur Respir J 2010;36:1185 ─206. 8 )Mori S, Sugimoto M. Pneumocystis jirovecii infection: an emerging threat to patients with rheumatoid arthritis. Rheumatology (Oxford) 2012;51:2120 ─30. 9 )Wissmann G, Morilla R, Martín-Garrido I, et al. Pneumocystis jirovecii colonization in patients treated with infliximab. Eur J Clin Invest 2011;41:343 ─8. 10)Dellamonica P, Bretagne S, Couret M, et al. Incidence and risk factors of Legionella pneumophila pneumonia during anti-TNF therapy:a prospective French study. Chest 2013;144:990 ─8. 文献
II細菌感染症1 2 3 4 5 各論 生物学的製剤が使用される関節リウマチ関連以外の疾患と呼吸器合併症 間質性肺炎 ニューモシスチス肺炎 抗酸菌感染症a. 結核症 b. 非結核性抗酸菌症
各論1 Q1 RA 患者の注意すべき細菌感染症は? RA 患者は肺炎が多いか? 生物学的製剤の投与でさらに頻度が増すか? 肺炎,肺膿瘍,膿胸,気管支拡張症急性増悪に注意する1)。関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)患者は一般人と比較して肺炎の頻度が高いことが多くのコホート研究で明らかにされている2)。また, TNF 阻害薬投与により重症感染症の頻度が増すことも明らかにされている3)。日本の生物学的製剤投与を受けていないRA 患者の死因に占める肺炎の頻度は12.1%であるが,生物学的製剤投与例ではその頻度が21.1%に上昇し,一般人と比較すると肺炎の標準化死亡比が4.19 である4)。生物学的製剤投与例では,肺炎は頻度の高い死亡原因である。 Q2 RA 患者の肺炎治療:初期対応,特に 重症例に対する初期対応は? 重症度判定を行い,入院の必要性,集中治療室管理の必要性を判断する。インフルエンザ流行期では迅速診断キットで検査を行い,陽性例では抗インフルエンザ薬を併用する。 1 ●肺炎患者に対する初期対応まず肺炎の診断を行う。抗酸菌症,真菌症,薬剤性肺炎,RA 固有病変としての間質性肺炎などの可能性がないかを考慮する。 2 ●想定すべき原因菌RA 患者の肺炎の原因菌が非RA 患者と異なるかは明らかにされておらず,緑膿菌の頻度が高い可能性が指摘されているのみである1)。欧米では細胞内寄生菌であるレジオネラはTNF 阻害薬投与例の重要な原因 A1 A2菌であると報告されている5)6)。 想定すべき原因菌は,肺炎球菌,インフルエンザ桿菌,黄色ブドウ球菌,モラクセラ,クレブシエラ,緑膿菌などの一般細菌と肺炎マイコプラズマ,レジオネラ,肺炎クラミジアなどの非定型病原体,ならびにインフルエンザウイルスである。一般病棟入院患者では緑膿菌のリスク因子の有無別に原因菌を想定する。集中治療室管理を要する重症・超重症例では緑膿菌を含むすべての原因菌を想定する。 3 ●肺炎診断後のフローチャート(図)院内感染対策も含め,インフルエンザ流行期では迅速診断キットを用いて肺炎例すべてにインフルエンザ感染の有無を調べる。治療管理場所と緑膿菌リスク因子ありの有無でA〜D 群の4 群に分類する。いずれの群に分類されても,インフルエンザ迅速診断キット陽性例では抗インフルエンザ薬の投与を行う。 4 ●A 群:外来治療症例既存肺疾患のない軽症例のみが対象である。肺炎球菌などの一般細菌と肺炎マイコプラズマを中心とした非定型病原体の両方をカバーする薬剤を投与する。 5 ●B 群:緑膿菌リスク(−)入院症例緑膿菌リスクのない中等症から重症の患者が対象となる。肺炎球菌などの一般細菌と非定型病原体の両方をカバーする薬剤を投与する。 6 ●C 群:緑膿菌リスク(+)入院症例緑膿菌リスクのある中等症から重症の患者が対象となる。肺炎球菌などの一般細菌,緑膿菌と非定型病原体をカバーする薬剤を投与する。抗緑膿菌作用のあるβ─ラクタム系薬とマクロライド系薬の組み合わせか,注射用ニューキノロン系薬とスルバクタム/ アンピシ 細菌感染症
リン(sulbactam:SBT/ampicillin:ABPC)の組み合わせを投与する。 7 ●D 群:重症・超重症で集中治療室管理を要する症例日本の超重症肺炎の原因菌としては,インフルエンザウイルス,肺炎球菌,レジオネラ,緑膿菌の順であったと報告されている7)。インフルエンザ迅速診断キット陽性であれば抗インフルエンザ薬の注射剤と上記3 菌種をカバーする抗菌薬を選択する。 Q3 RA 患者の肺膿瘍,膿胸,気管支拡張 症急性増悪の初期対応は? 上記3 疾患は臨床像と胸部CT から疑うことができる。肺膿瘍,気管支拡張症急性増悪では抗菌薬投与前に喀痰の検査を行う。膿胸では胸水の検査を行う。以下に示す頻度の高い原因菌を想定して抗菌薬を開始する。 A3 1 ●肺膿瘍の診断と治療 発熱・喀痰があり,肺に空洞性病変を認めた場合,肺膿瘍を疑う。一般細菌・放線菌・ノカルジアを目的とした喀痰検査に加え,抗酸菌・真菌培養などを追加する。肺膿瘍の上位3 菌種は連鎖球菌属,嫌気性菌, Gemella 属であり,いずれも口腔内常在細菌である8)。一方,RA 患者の肺膿瘍の原因菌を検索した報告は9 例が集計されているのみであり1),上記3 菌種以上にクレブシエラと緑膿菌が多かったと報告されている。 2 ●膿胸の診断と治療発熱,胸痛などで受診し胸水を認めた場合に膿胸を疑う。膿胸では胸腔ドレナージに加えスルバクタム/アンピシリンの投与を行う。難治例や超音波検査で胸水内に隔壁が形成されている場合は,胸腔鏡的治療を考慮し,これらの処置が可能な施設にコンサルトする。 3 ●気管支拡張症急性増悪の診断と治療膿性喀痰,発熱などで受診した患者の画像所見で気 図 生物学的製剤投与中の肺炎における抗菌薬選択の実際 インフルエンザ流行期では迅速診断キットで検査を行い陽性なら下記薬剤に抗インフルエンザ薬を加える CTRX+マクロライド系薬(CAM or AZM) TAZ/PIPC+マクロライド 系薬(CAM or AZM) 抗緑膿菌性カルバペネム系薬(IPM/CS, MEPM or DRPM)+マクロライド系薬 (CAM or AZM) TAZ/PIPC 抗緑膿菌性カルバペネム系薬(IPM/CS, MEPM or DRPM) 抗緑膿菌性セフェム系薬(CFPM or CPR) ニューキノロン系薬(CPFX or PZFX) or 注射用AZM 抗緑膿菌性セフェム系薬(CFPM or CPR) +マクロライド系薬(CAM or AZM) ニューキノロン系薬(CPFX or PZFX) + SBT/ABPC SBT/ABPC+マクロライド系薬(CAM or AZM) PAPM/BP+マクロライド系薬(CAM or AZM) 注射用LVFX 緑膿菌のリスク因子:既存肺疾患がなく,過去90 日以内に抗菌薬の投与がない場合は,緑膿菌のリスクなし群と判断。 AMPC/CVA or SBTPC +マクロライド系薬(CAM or AZM) CTRX +マクロライド系薬(CAM or AZM) GRNX,MFLX or LVFX A群:外来治療B群:入院緑膿菌リスク(-) C群:入院緑膿菌リスク(+) D群:入院 or or or or or + or or or or or一般病棟収容重症で集中治療室収容
危険因子を有する症例に投与した場合は,感染症の早期発見に努める。 Q5感染終息後に生物学的製剤は使用再開 できるか? 肺炎・肺膿瘍治癒後に生物学的製剤の使用は可能である。しかし,既存肺疾患があり再投与で肺炎を繰り返した場合は投与を控える。気管支拡張症急性増悪例で治療後も咳嗽,喀痰が残存し,制御困難な慢性下気道感染症と判定される場合は投与には慎重であるべきである。 A5 管支拡張症はあるが肺炎がない場合に気管支拡張症急性増悪と診断する。気管支拡張症急性増悪では緑膿菌やインフルエンザ桿菌などを想定する。 Q4 RA 患者の肺感染症の危険因子は何 か? 予防は可能か? 高齢既存肺疾患・ステロイド薬併用・Steinbrocker病期分類III期以上などが生物学的製剤投与RA患者の肺炎の危険因子である9)〜11)。インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンで感染率・感染症発症率・重症化率を低下させることが可能かもしれない。 A4 1 )高柳 昇,土屋 裕,徳永大道,ほか.関節リウマチに合併した肺感染症の検討.日呼吸会誌2007;45:465 ─73. 2 )Doran MF, Crowson CS, Pond GR, et al. Frequency of infection in patients with rheumatoid arthritis compared with controls: a population-based study. Arthritis Rheum 2002;46:2287 ─93. 3 )Komano Y, Tanaka M, Nanki T, et al. Incidence and risk factors for serious infection in patients with rheumatoid arthritis treated with tumor necrosis factor inhibitors:a report from the Registry of Japanese Rheumatoid Arthritis Patients for Longterm Safety. J Rheumatol 2011;38:1258 ─64. 4 )Nakajima A, Saito K, Kojima T, et al. No increased mortality in patients with rheumatoid arthritis treated with biologics: results from the biologics register of six rheumatology institutes in Japan. Mod Rheumatol 2013;23:945 ─ 52. 5 )Hansen RA, Gartlehner G, Powell GE, et al. Serious adverse events with infliximab: analysis of spontaneously reported adverse events. Clin Gastroenterol Hepatol 2007;5:729 ─35. 6 )Tubach F, Ravaud P, Salmon-Céron D, et al. Emergence of Legionella pneumophila pneumonia in patients receiving tumor necrosis factor–α antagonists. Clin Infect Dis 2006;43:e95 ─100. 7 )高柳 昇,原健一郎,徳永大道,ほか.市中肺炎入院症例の年齢別・重症度別原因微生物と予後.日呼吸会誌2006; 44:906 ─15. 8 )Takayanagi N, Kagiyama N, Ishiguro T, et al. Etiology and outcome of community-acquired lung abscess. Respiration 2010;80:98 ─105. 9 )Takeuchi T, Tatsuki Y, Nogami Y, et al. Postmarketing surveillance of the safety profile of infliximab in 5000 Japanese patients with rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis 2008;67:189 ─94. 10)Koike T, Harigai M, Inokuma S, et al. Postmarketing surveillance of the safety and effectiveness of etanercept in Japan. J Rheumatol 2009;36:898 ─906. 11)Koike T, Harigai M, Ishiguro N, et al. Safety and effectiveness of adalimumab in Japanese rheumatoid arthritis patients: postmarketing surveillance report of the first 3,000 patients. Mod Rheumatol 2012;44:498 ─508. 文献
各論2 Q1 RA 患者には結核が多いのか? RA 患者は結核を併発しやすい。 生物学的製剤導入直前の2000 年代初頭,日本の関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)患者の結核併発率は0.08%であった1)が,これは当時の一般人口の結核罹患率の3.21 倍であり1),RA 患者の結核はもともと多かった。近年の結核は,結核菌の初感染に引き続く発症よりは,若年時の感染後に成立した既感染病巣が加齢に伴う免疫能や栄養の低下,免疫抑制的な薬剤の投与などによって再燃して発病する例が多い。2010 年代の日本では,RA の好発年齢層である40〜60 歳代は,その10〜30%に結核の既感染があり,再燃発病のリスクが高い。RA 以外の生物学的製剤の対象疾患は,おのおのその好発年齢がRA とは大きく異なるため,結核併発率は疾患ごとに大きく異なる。 Q2 RA 患者への生物学的製剤の投与で結 核併発は多くなるのか? 生物学的製剤投与中のRA 患者では結核併発が多くなる。 TNF-α阻害薬投与中のRA 患者の結核罹患率は,使用開始直後,米国では一般人口の8 倍2),韓国では30 倍3),スウェーデンでは4 倍と報告された4)。スペインでは2000 年に一般人口に対して53 倍の結核罹患率が報告されたが,結核スクリーニングなどの対応策がとられ2001 年には11.7 倍と急減した5)。 A1 A2日本では,2003 年からRA 患者でインフリキシマ ブ(infliximab:IFX)の市販後5,000 例全例調査が行われ,登録2,000 番までに結核の併発が11 例あったが,その後の3,000 例で3 例と減った6)。初期の結核併発例の解析から危険因子を特定し,2,000 番登録前後から本剤投与前のスクリーニングで危険因子を認めた例に対する抗結核薬の予防投与実施を提案して介入した効果であり6),スクリーニングの重要性が理解できる。 Q3 結核併発のリスクは何か? 結核の既往歴・家族歴,陳旧性結核の画像所見,ツベルクリン反応強陽性などである。 日本では,インフリキシマブやエタネルセプト(etanercept:ETN),アダリムマブ(adalimumab: ADA)などの全例調査から結核併発の危険因子として,結核の既往歴・家族歴,胸部X 線写真や胸部CT画像における陳旧性結核の所見,ツベルクリン反応の強陽性,interferon-gamma release assay(IGRA)検査の陽性が知られた。欧米でも,ツベルクリン反応で5mm 以上の硬結や0.35IU/ml 以上のクォンティフェロン®TB(QuantiFERON-TB:QFT)検査の陽性を示したのは,結核の高蔓延国出生歴あるいは6 カ月以上の居住歴,家族内の結核患者との接触歴,活動性結核の罹患歴などであり,これらを結核併発の危険因子としている7)。 A3 抗酸菌感染症a.結核症
ので,これらの薬剤は続けるべきであり,最低限でもステロイド薬は継続すべきという意見が多い。Paradoxical reaction は,後天性免疫不全症候群(acquired immune deficiency syndrome:AIDS)の治療中に発現することのある免疫再構築症候群と同じ機序と考えられる。生物学的製剤の投与中止後にparadoxical reaction が起こり,同剤の再投与がそれを抑えて有効だったという報告が複数ある。肺非結核性抗酸菌症でも同様の報告がある。 Q6 結核の予防はどうするか? 生物学的製剤投与前にスクリーニングを行い,有所見者はLTBI として治療する。 生物学的製剤の投与前には,前述した結核併発リスクのスクリーニングを行う(図)。IGRA 検査とツベルクリン反応検査は可能な限り2 つを実施する。胸部X 線検査とともに胸部CT 検査を行うのが望ましい。単純X 線写真が一見無所見でも,CT 画像で疑わしい陰影を見ることがあるからである。スクリーニングで活動性結核が判明したら結核の治療を優先する。結核が否定できれば生物学的製剤を開始するが,スクリーニングで一つでも陽性所見があれば潜在性結核感染(latent tuberculosis infection: LTBI)としてイソニアジド(isoniazid:INH)単独を6〜9 カ月間投与する。イソニアジドの投与が不可能な場合にはリファンピシン(rifampicin:RFP)を投与する。ただし,LTBI 治療の効果が100%ではないことに留意すべきである。また,LTBI の治療でも服薬遵守は重要である。 Q7併発結核の治療の終了後,生物学的製 剤の再投与は可能か? 可能であるが,綿密な経過観察が必要である。 生物学的製剤の再投与は可能である。これについて,American College of Rheumatology は結核の治 A6 A7 Q4結核の併発はどのように見つけるの か? 臨床症状・所見,喀痰等の検査成績,画像所見等を総合的に検討する。 結核の初発症状は2 週間以上続く咳と痰,微熱,倦怠感等であり,生物学的製剤投与前やその後の診察の都度,患者に確認する。ただし,生物学的製剤投与中に発症する結核の過半数は肺外結核なので,高熱,胸痛や腹痛,リンパ節腫脹等にも留意すべきである。診断では,胸部単純X 線写真や胸部CT による結核病変の確認とともに,結核菌の証明を行う。薬剤感受性の確認のため適切な検体からの結核菌の分離培養を行い,感染性の確認のため喀痰の抗酸菌塗抹検査も行う。核酸増幅法〔polymerase chain reaction(PCR)検査法など〕は迅速であり,非結核性抗酸菌症の鑑別にも有用である。ツベルクリン反応検査も重要であるが,免疫低下者では偽陰性が,BCG 接種者では偽陽性が時にあり,ほかの検査と合わせて総合的に診断する。結核菌感染により体内で増加するIFN-γを測定するIGRA は,BCG 接種による偽陽性を除外できるが,過去の感染か新規の感染かの区別は困難であるとともに,免疫低下者で偽陰性が時にあるので,やはり総合的な診断が必要である。 Q5 併発結核の治療はどうするか? 結核の標準治療法を適用するが,生物学的製剤やステロイド薬投与の継続の可否を熟考する。 結核の治療では,治療効果の増強と薬剤耐性発現抑制を目的に多剤併用薬物療法が標準化されている。結核治療を行う際には,生物学的製剤や副腎皮質ステロイド薬,ほかの免疫抑制薬などの投与継続の可否について検討すべきである。最近では,これらの薬剤の投与中止は,抑制されていた免疫を再発現させて過度の生体反応を起こし,結核の病態のparadoxical reaction を招くとともにRA をも増悪させる例がある A4 A5
置いてからの投与再開を提案している9)。再開後は問診や画像診断を含む諸検査をより綿密に行う。 療が終了した直後からの投与再開8)を,British Society of Rheumatology は結核治療終了後2 カ月を 1 )Yamada T, Nakajima A, Inoue E, et al. Increased risk of tuberculosis in patients with rheumatoid arthritis in Japan. Ann Rheum Dis 2006;65:1661 ─3. 2 )Wolfe F, Caplan L, Michaud K. Treatment for rheumatoid arthritis and the risk of hospitalization for pneumonia. Arthritis Rheum 2006;54:628 ─34. 3 )Seong SS, Choi CB, Woo JH, et al. Incidence of tuberculosis in Korean patients with rheumatoid arthritis (RA):effects of RA itself and og tumor necrosis factor blockers. J Rheumatol 2007;34:706 ─11. 4 )Askling J, Fored CM, Brandt L, et al. Time-dependent increase in risk of hospitalization with infection among Swedish RA patients treated with TNF antagonists. Ann Rheum Dis 2007;66:1339 ─44. 5 )Gómez-Reino JJ, Carmona L, Descalzo MA. Risk of tuberculosis inpatients treated with tumor necrosis factor antagonists due to incomplete prevention of reactivation of latent infection. Arthritis Rheumatism 2007;57:756 ─61. 6 )Takeuchi T, Tatsuki Y, Nogami Y, et al. Postmarketing surveillance of the safety profile of infliximab in 5000 Japanese patients with rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis 2008;67:189 ─94. 7 )Matulis G, Jüni P, Villiger PM, et al. Detection of latent tuberculosis in immunosuppressed patients with autoimmune diseases: performance of a Mycobacterium tuberculosis antigen-specific interferonγassay. Ann Rheum Dis 2008;67: 84 ─90. 8 )Singh JA, Furst DE, Bharat A, et al. 2012 update of the 2008 American College of Rheumatology recommendations for the use of disease-modifying antirheumatic drugs and biologic agents in the treatment of rheumatoid arthritis. Arthritis Care Res 2012;64:625 ─39. 9 )Ding T, Ledingham J, Lugmani R, et al. BSR and BHPR rheumatoid arthritis guidelines on safety of anti-TNF therapies. Rheumatology 2010;49:2217 ─9. 文献図 生物学的製剤投与時の結核予防対策 十分な問診,胸部X 線検査,胸部CT 検査,IGRA and/or ツベルクリン反応検査 結核に関する総合的評価 疑わしいもしくは不明 診断結果 TNF 阻害薬投与開始 呼吸器/ 放射線専門医の評価評価可能 活動性結核結核既感染(疑いを含む) 活動性結核に対する治療開始結核の既往歴は 認められない,あるいは,結核の確実な治療歴あり抗結核薬 *予防投与開始 *TNF 阻害薬投与に先立つ3 週間,抗結核薬(INH 等)の投与を行い,以後も計6~9カ月間並行して投与。
各論2 はじめに 生物学的製剤,特にTNF 阻害薬の使用が広がる中で,その有害事象の一つとして非結核性抗酸菌症(nontuberculous mycobacteriosis:NTM 症)が多発している。発症はほぼ関節リウマチ(rheumotoid arthritis:RA)患者に限られている。NTM 症は十分に有効な治療薬剤がないので,NTM 症と診断されたRA 患者の生物学的製剤の投与の可否が問題となる。 Q1 RA 患者におけるNTM 症(RA-NTM 症)の合併頻度は? そこに生物学的製剤を投与した場合の発症頻度は? 生物学的製剤を投与されたRA 患者について,日本の生物学的製剤全例市販後調査(post marketing surveillance:PMS)で0.1%(観察期間は6カ月間)の発症が報告されている。米国の一地域の疫学調査で,RA 患者のNTM 症発症率は一般人口の2倍,そこに生物学的製剤が投与された場合はさらに5倍,一般人口の10 倍と報告されている1)。 A1 Q2 NTM 症の診断─RA 患者において特 に注意を払うべき点は? NTM 症との診断は,日本結核病学会・日本呼吸器学会の診断基準に則って厳格に行われるべきである2)。また画像診断上の問題として,RA 固有の気道病変(気管支拡張症,細気管支炎)とNTM 症とは画像所見が酷似し鑑別は不可能であることに留意すべきである3) (図1)。 Q3 RA-NTM 症の菌種は? 非RA 患者と異な るのか? RA-NTM 症の予後は? そこに生物学的製剤が加わった場合,どうなるのか? 菌種:日本のNTM 症の菌種の内訳は約89 %がMAC 症(Mycobacterium avium complex),4%がM. kansasii 症,3%がM. abscessus症と報告されている。RA-NTM 症についても同様の数字が報告されている。 日本国内からの報告ではRA-NTM 症の予後は,5 年生存率66.1%であり,一般の NTM 症患者に比しやや不良である。 A2 A3-1 A3-2 抗酸菌感染症b.非結核性抗酸菌症 図1 RA 固有の気道病変(気管支拡張症+細気管支炎) 73 歳,女性。慢性の咳と痰があり,過去2 回肺炎の罹患歴がある。広範な気管支拡張と細気管支炎の所見で, NTM 症との鑑別が問題となるが、画像からは困難。気管支鏡検査等でNTM 症は否定された。
生物学的製剤が使用されNTM 症を発症した場合の予後としては,米国の調査で37%が死亡したとの報告がある。一方わが国の多施設共同研究やPMS で死亡例の報告は1 例もない。 1 ●NTM 症の予後,RA-NTM 症の予後菌種の違いはNTM 症の予後を考える場合重要な因子である。NTM 症は一般的に有効な抗菌薬がなく制御は困難と言われるが,M. kansasii 症などは複数の抗菌薬の併用で制御が可能であり,一方M. abscessus症はいかなる治療努力にもかかわらず予後不良と言われる。MAC 症はその中間と言われるが,臨床経過はさまざまであり,一方で無治療でも長期間悪化のない症例があり,逆に治療にもかかわらず進行する症例もある。わが国のMAC 症の予後については,日本の一施設から,5 年後の死亡率23.9%であり,MAC 症に直接関連した死亡に限定すると5.4%との報告がある4)。予後不良因子としては高齢,X 線病型(結節・気管支拡張型が良好,それ以外は不良),基礎疾患あり,BMI 低値,貧血,低蛋白血症などが抽出されている。RA-NTM 症の予後については同じ施設から(大部分は生物学的製剤非使用)報告がある。98 例のRA- NTM 症の予後は,5 年後の死亡率33.9%であり,一般人よりやや不良であった。死亡は肺炎,間質性肺炎,呼吸器以外の疾患などによるものが多く,NTM症それ自身によるものは16%であった5)。 2 ●生物学的製剤投与下発症のNTM 症の予後生物学的製剤投与下発症のNTM 症について, Winthrop は,生物学的製剤使用中に発症したNTM症18 例中7 例(39%)が死亡したと報告している1)。日本の一施設の報告では,生物学的製剤投与下のNTM 症6 例の予後は特に不良ではなかったが,症例数が少なく,明確な結論は得られていない5)。2011 年に行われたわが国の多施設共同研究では13例について解析が行われた。11 例に治療が行われ,全例治療は奏功し,菌の陰性化と陰影の改善が得られた。死亡例はなかった6)。以上を総合すると,RA-NTM 症の予後には,菌種, NTM 病変の病型,全身状態などさまざまな因子が関与するが,生物学的製剤投与が予後不良因子であると はわが国ではいまだ証明されてはいない。 Q4治療はどうするのか? 薬剤は? 期 間は? 治療は特に一般人と変わるところはない。それぞれの菌種に対して標準的に使用される薬剤を選択する。治療期間については定説はないが,標準の菌陰性化後1 年間あるいは治療経過が難渋する場合さらに6〜12 カ月程度延長することも考慮される。しかし通常の宿主よりも順調に治癒に向かうこともある。 一般人と基本的には同じであるが,RA 患者においては既存の肺病変が広範囲,あるいは全身状態が不良である場合,異なる治療反応性も予想されるので,治療期間,薬剤は柔軟に考慮されるべきである。 Q5発病の危険因子は何か? 予知できる のか? 既存の気道病変,間質性肺炎の存在が最大の危険因子である。生物学的製剤投与開始前に可能な限りHRCT を施行し,既存病変の有無をチェックすべきである。 Mori らは13 例について,発症前のCT と発症時のCT とを対比した6)。発症前のCT ではその大部分に気管支拡張症,細気管支炎などの背景病変が認められていた。発症時にはこれらの所見の部分に一致して,浸潤影,粒状影などが出現していた(図2)。この研究は,RA 固有の気道病変,間質性肺炎などに菌の定着が起こりやすく,あるいはすでに起こっており,それが生物学的製剤投与下に発症してくるNTM 症の最大の危険因子であることを強く示唆している。気道病変の危険因子としては,進行したRA の病期,抗CCP 抗体高値などが挙げられている。したがって,これらの危険因子を持ったRA 患者に生物学的製剤投与を計画する場合,可能な限りHRCT を施行し,気道病変などの有無をチェックし,画像上NTM 症が疑わしい例には複数回の検痰などを施行す A4 A5
した場合,原則として早期に抗菌療法を開始する(病状により経過観察の選択もあり得る)。治療が長期にわたって継続可能で,良好な治療反応性が確認され,一方RA の疾患活動性が高度で生物学的製剤の投与を強く必要とする場合に限り,リスク・ベネフィットバランスを十分検討したうえで生物学的製剤の開始を考慮してもよい。ただしMAC 症の予後不良因子として,X 線病型(線維・空洞型),肺の既存疾患あり,高齢(70 歳以上),BMI 18.5 kg/m2 以下,貧血,低アルブミン血症などが判明しているので4),これらの条件をもつ患者は除外すべきである。 3 ●その他の菌種M. kansasii 症は,一般に既存薬剤の組み合わせで制御は可能とされているが,RA に合併した場合の治療予後については,不良であったとの報告が1 編5)あるのみである。したがって現時点では抗酸菌症治療の専門家の指導下以外は原則として禁忌の中に含める。M. abscessus 症は禁忌である。 Q7生物学的製剤使用中にNTM 症を発症 した場合,生物学的製剤は感染収束後には再投与できるのか? 良好なコンプライアンスで抗NTM 療法を一定期間併用すれば,病勢のコントロールに生物学的製剤が必須の症例では生物学的製剤の再開も一つの選択肢となり得る。 A7 べきである。菌が証明された場合は,定着であってもその後の発症があり得るので,生物学的製剤投与開始後も慎重に経過を観察する。 Q6 NTM 症を合併している,あるいはそ の疑いがあるRA 患者には生物学的製剤の投与は禁忌か? NTM 症と確診されている場合,原則禁忌であるが,菌種がMAC で,いくつかの条件が満たされ,またRA の疾患活動性が高度で生物学的製剤の投与を強く必要とする場合に限り,リスク・ベネフィットバランスを十分検討したうえで生物学的製剤の開始を考慮してもよい。 生物学的製剤投与下に発症したRA-NTM 症の予後は,一定の条件を満たす場合,必ずしも不良ではない。以下,菌種別に生物学的製剤投与の可否を個別に検討する。 1 ●MAC 定着のみ生物学的製剤投与は支障ない。しかし投与開始後のNTM 症発症の可能性は高いので,その後の厳重な監視が必要である。少なくとも年2 回の胸部X 線撮影,および咳,痰などの症状が出現したときはその都度胸部X 線撮影や検痰などを行う。 2 ●MAC 症と確定診断された場合日本結核病学会・日本呼吸器学会の診断基準を満た A6図2 RA のNTM 症はRA 固有の気道病変を母地として発症するa.発症前1 年のCT。右上葉の気管支拡張症(RA の気道病変)。b.発症時のCT。気管支拡張症の部に一致して浸潤影が出現。 a b
文献的考察によれば,肺外NTM 症で,TNF 阻害薬を再開し,NTM 症の悪化はなく,原疾患の良好なコントロールが得られたという症例報告が多い。また日本から肺NTM 症で成功裡に再開できた症例報告が複数ある。 生物学的製剤投与を受けているRA 患者の多くはそれまでの疾患修飾性抗リウマチ薬(disease modifying anti-rheumatic drugs:DMARDs)に治療抵抗性で,生物学的製剤以外の治療の選択肢が限られていることが多い。したがって感染収束後の生物学的製剤の再投与の可能性が検討されるべきである7)。 1 )Winthrop KL, Baxter R, Liu L, et al. Mycobacterial diseases and antitumour necrosis factor theRApy in USA. Ann Rheum Dis 2013;72:37 ─42. 2 )日本結核病学会非結核性抗酸菌症対策委員会・日本呼吸器学会感染症・結核学術部会.肺非結核性抗酸菌症診断に関する 指針.結核 2008;83:525 ─6. 3 )徳田 均.リウマチの肺合併症,特に気道病変の臨s 床的意義とその画像診断.臨放 2015;60:1085 ─96. 4 )Hayashi M, Takayanagi N, Kanauchi T, et al. Prognostic factors of 634 HIV-negative patients with Mycobacterium avium complex lung disease. Am J Respir Crit Care Med 2012;185:575 ─83. 5 )Yamakawa H, Takayanagi N, Miyahara Y, et al. Prognostic factors and radiographic outcomes of nontuberculous mycobacterial lung disease in rheumatoid arthritis. J Rheumatol 2013;40:1307 ─15. 6 )Mori S, Tokuda H, Sakai F, et al. Radiological features and therapeutic responses of pulmonary nontuberculous mycobacterial disease in rheumatoid arthritis patients receiving biological agents: a retorospective multicenter study in Japan. Mod Rheumatol 2012;22:727 ─37. 7 )Mori S, Sugimoto M. Is continuation of anti-tumor necrosis factor-α therapy a safe option for patients who have developed pulmonary mycobacterial infection?:case presentation and literature review. Clin Rheumatol 2012;31: 203 ─10. 文献
各論3 はじめに メトトレキサート(methotrexate:MTX)や生物学的製剤が関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)の治療に用いられるようになって以降,RA 患者におけるニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia: PCP)が問題になっている。本項では生物学的製剤使用中のRA 患者におけるPCP の病態や診断,治療などについて概説する。 Q1 PCP とはどのような感染症か? 真菌の一種であるPneumocystis jirovecii(以下Pneumocystis)による肺炎であり,ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)感染や造血幹細胞移植など細胞性免疫が高度に障害された状況で起きる日和見感染症である1)。Pneumocystis はヒトからヒトへ空気感染し,免疫能が正常な宿主では無症候性保菌にとどまるものの,免疫不全者ではPCP を発症すると考えられている2)。 Q2 PCP の病態は? Pneumocystis 自体の組織傷害性は低く,PCPにおける肺組織傷害は主に宿主側の免疫反応によるものであり,肺胞マクロファージのほか,CD4陽性T リンパ球,好中球,樹状細胞などさまざまな免疫担当細胞やそれらが産生する炎症性メディエータが関与している2)。 A1 A2 Q3 RA 患者のPCP の特徴とは? PCP における肺組織傷害が主に宿主側の免疫反応によるものであるため,RA 患者をはじめとする非HIV 患者のPCP では,後天性免疫不全症候群(acquired immune deficiency syndrome:AIDS)患者のPCP と比べ,発症がより急激で,呼吸不全を伴うことも多い3)4)。一方,非HIV 患者では肺内の菌量が少ないため,鏡検によるPneumocystis の検出が困難な場合が多い3)。 Q4生物学的製剤使用中のPCP の頻度と 死亡率はどの程度か? 生物学的製剤に関する本邦の全例市販後調査(post marketing surveillance:PMS)では,使用された患者の0.2〜0.4%程度にPCP がみられている5)6)。死亡率は10〜29%と高いが,予後良好との報告もあり,施設間で差がある可能性がある。 Q5 PCP を発症する危険因子は何か? インフリキシマブ(infiximab:IFX)のPMS でPCP を発症した21 例を検討したところ,危険因子は,1年齢が65 歳以上,2プレドニゾロン(prednisolone:PSL)換算で1 日6 mg 以上の副腎皮質ステロイド薬の使用,3既存の肺病変の存在であり,この危険因子を2 つ以上有する患者と1 つ以下の患者とでは,PCP の累積発症率に有意な差があった(図1) 7)。このような危険因子を有する患者に生物学的製剤を開始した場合には,慎重な経過観察を行うべきである。 A3 A4 A5 ニューモシスチス肺炎
Q6 PCP の診断はどのように行うか? PCP の診断は気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid:BALF)など呼吸器由来の検体から鏡検(通常ギムザ染色またはグロコット染色)でPneumocystis を証明することが原則である1)。しかし非HIV 患者では肺内の菌量が少なく,呼吸不全を伴うことが多いため,PCR 法やLAMP 法によるPneumocystis DNA の検出(保険適用なし)に加え,画像所見(図2)や血清β-D-グルカン高値などを総合的に判断して診断することも多い4)8)。RA には間質性肺炎や気道病変,胸膜病変などの呼吸器病変が合併しやすく,メトトレキサートなどによる薬剤性肺炎の合併も多いため,PCP の診断に際しては鑑別に注意が必要である。 Q7 PCP の治療はどのように行うか? PCP の治療はST 合剤〔スルファメトキサゾール(sulfamethoxazole:SMX)とトリメトプリム(trimethoprim:TMP)の合剤〕が第1 選択であり, A6 A7 RA 患者などの非HIV 患者では通常2〜3 週間の投与 を行う。ST 合剤の有効性は高いが,皮疹,肝機能障害,電解質異常などの副作用がある。第2 選択薬としてはペンタミジン(pentamidine)があるが,低血圧や低血糖,腎毒性など副作用が多い。中等症以下の場合,副作用の少ないアトバコン(atovaquone)が用いられることもある。RA 患者のPCP では炎症反応が強いため,中等症以上(PaO2 ≦70 Torr または A-aDO2 ≧35 Torr)の症例では早期から十分量の副腎皮質ステロイド薬を投与 図1 インフリキシマブ投与中のPCP の発症危険因子3 つの危険因子(1年齢65 歳以上,2プレドニゾロン換算で6mg 以上の副腎皮質ステロイド薬,3既存の肺病変の存在)のうち,2 つ以上を有する患者ではインフリキシマブ投与中のPCP の発症が有意に多い。(文献7 より引用) (Copyright © 2007 Massachusetts Medical Society. All rifhts reserved) 100 80 60 40 20 0 0 25 PCP の累積発症率(%) 50 75 100 p=0.002 危険因子3 つ(n=7) 危険因子2 つ(n=13) 危険因子1 つ(n=49) 危険因子なし(n=54) 125 治療期間(週) 図2 エタネルセプト投与中に発症したPCP のCT 所見44 歳,男性。エタネルセプト投与中にPCP を発症。CT では境界が不明瞭で小葉構造と無関係に分布する広汎GGO を認める。(文献8 より引用)
剤の予防内服は必須と考えられるので,予防内服が副作用なく安全に継続できることが確認できた時点で,リスク・ベネフィットを考慮して検討するべきであろう。 おわりに RA 患者のPCP は重症化しやすく,診断が困難なことも多い。生物学的製剤投与中にはPCP の発症リスクを念頭におき,少しでもPCP が疑われる場合には胸部CT や血清β-D-グルカンの測定などの検索を行うべきである。またPCP 治療後やハイリスク患者に対する予防投薬については,その適応や期間に関する指針の確立がまたれる。 する。 Q8 PCP の予防は可能か? RA 薬物療法の際のPCP 発症予防は保険適用であり,PCP 治療後やハイリスクの患者には予防投薬を行うことが望ましい9)。予防にはST 合剤が用いられるが,具体的な適応や投薬期間などについてのコンセンサスはない。 Q9 PCP 終息後に生物学的製剤の再開は 可能か? PCP 終息後に生物学的製剤の再開が可能かについては,現時点でエビデンスはない。ST 合 A8 A9 1 )Thomas CF, Limper AH. Pneumocystis pneumonia. N Engl J Med 2004;350:2487 ─98. 2 )Thomas CF Jr, Limper AH. Current insights into the biology and pathogenesis of Pneumocystis pneumonia. Nat Rev Microbiol 2007;5:298 ─308. 3 )Limper AH, Offord KP, Smith TF, et al. Pneumocystis carinii pneumonia. Differences in lung parasite number and inflammation in patients with and without AIDS. Am Rev Respir Dis 1989;140:1204. 4 )Tasaka S, Tokuda H. Pneumocystis jirovecii pneumonia in non-HIV-infected patients in the era of novel immunosuppressive therapies. J Infect Chemother 2012;18:793 ─806. 5 )Takeuchi T, Tatsuki Y, Nogami Y, et al. Postmarketing surveillance of the safety profile of infliximab in 5000 Japanese patients with rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis 2008;67:189 ─94. 6 )Koike T, Harigai M, Inokuma S, et al. Postmarketing surveillance of the safety and effectiveness of etanercept in Japan. J Rheumatol 2009;6:898 ─906. 7 )Harigai M, Koike R, Miyasaka N, et al. Pneumocystis pneumonia associated with infliximab in Japan. N Engl J Med 2007;357:1874 ─6. 8 )Kameda H, Tokuda H, Sakai F, et al. Clinical and radiological features of acute-onset diffuse interstitial lung diseases in patients with rheumatoid arthritis receiving treatment with biological agents: importance of Pneumocystis pneumonia in Japan revealed by a multicenter study. Intern Med 2011;50:305 ─13. 9 )Green H, Paul M, Vidal L, et al. Prophylaxis for Pneumocystis pneumonia (PCP) in non-HIV immunocompromised patients. Cochrane Database Syst Rev 2007;3:CD005590. 文献
各論4 Q1 RA に合併する間質性肺炎の頻度や分 類,臨床像などは? 1 ●疫学関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)における間質性肺炎(interstitial pneumonia:IP) (RA-IP)の合併頻度は,高分解能CT(high resolution computed tomography:HRCT)を用いた前向き研究では20%前後と報告されている1)。間質性肺炎合併の危険因子として,高齢,男性,喫煙,RA および血沈高値例などが挙げられている。 2 ●組織分類RA-IP は組織学的に,特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias:IIPs)の組織分類に準じて,通常型間質性肺炎(usual interstitial pneumonia: UIP),非特異性間質性肺炎(nonspecific interstitial pneumonia:NSIP),器質化肺炎(organizing pneumonia:OP)などの組織パターンに分類されることが多い2)。一般に膠原病に合併した間質性肺炎は組織学的にNSIP パターンを呈することが多いが, RA-IP は比較的UIP パターンが多いことが知られている。 3 ●臨床像UIP やNSIP などの大部分のRA-IP は慢性の経過を呈するが,OP では急性から亜急性に発症し,発熱などの症状を呈する。また近年,RA-IP は,特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)と同様に,予後不良の急性増悪を起こすことも明らかになってきた3)。 A1 4 ●治療と予後 RA-IP の治療に関する質の高いエビデンスはない。実臨床では呼吸器症状を伴う進行例に対しては経験的にステロイド薬が投与されることが多い。ステロイド薬が無効な場合などは免疫抑制薬が併用される。予後に関しては,最近の大規模な縦断的研究では, RA-IP の生存期間中央値は3 年,5 年生存率は38%前後とIPF に匹敵するほど予後不良であった4)5)。また,RA-IP においては,NSIP と比較しUIP の方が予後が不良とする報告が多い6)。 Q2生物学製剤と関連した薬剤性間質性肺 炎の発症頻度は? 生物学的製剤の種類によって頻度は多少異なるものの,市販後調査(post marketing surveillance: PMS)によれば本剤と関連した間質性肺炎の発症頻度は0.4〜0.68%と報告されている7)〜10)。 Q3どんな患者が生物学的製剤と関連した 間質性肺炎を発症しやすいのか? PMS では,トシリズマブ(tocilizumab)で,高年齢,間質性肺炎の既往・合併,喫煙歴が本剤と関連した間質性肺炎の危険因子であった8)。エタネルセプト(etanercept)やアダリムマブ(adalimumab)と関連した間質性肺炎は,その34.0〜63.0%に間質性肺炎の既往があった9)10) (表)。したがって,既存の間質性肺炎の存在は,トシリズマブに限らず,一般的に生物学的製剤と関連した薬剤性間質性肺炎の危険因子と考えられる。 A2 A3 間質性肺炎
Q4生物学的製剤を使ってどのくらいの期間で本 剤と関連した間質性肺炎を発症するのか? PMS によれば,発症までの期間は平均69〜97日間である(表)7)〜10)。しかし,生物学的製剤投与後1 週間前後で間質性肺炎を発症した症例や, 200 日間前後で発症した症例も報告されている11)。 Q5生物学的製剤と関連した間質性肺炎の 発症時の症状は? 呼吸困難,咳嗽,発熱などがよく見られる症状である11)12)。 Q6生物学的製剤と関連した間質性肺炎の 検査所見は? KL-6 やSP-D が上昇する。しかし,全例で高値となるわけではない9)10)。 Q7生物学的製剤と関連した間質性肺炎の 画像所見は? すりガラス影を呈することが多いが,網状影や浸潤影もみられる11)。すでに間質性肺炎が存在する場合は,元々ある蜂巣肺,網状影に加え,すりガラス影,時に濃厚影が加わる。 A4 A5 A6 A7 Q8生物学的製剤と関連した間質性肺炎の 診断(鑑別診断を含む)は? 本剤投与中の患者において,呼吸困難や咳嗽などの症状に加え,画像上,すりガラス影などの新たな陰影が出現した場合,本剤と関連した間質性肺炎を疑う。 Q9生物学的製剤と関連した間質性肺炎の 治療は? 本症が疑われた場合,被疑薬の生物学的製剤を速やかに中止する。副腎皮質ステロイド薬などの薬物治療に関してはエビデンスはないが,生物学的製剤を中止しても改善が乏しい症例,または呼吸不全を呈する症例に対しては副腎皮質ステロイド薬〔プレドニゾロン(predonisolone:PSL)0.5〜1.0 mg/kg/ 日等〕が投与されることが多い11)〜13)。重症呼吸不全例にはメチルプレドニゾロン(methylprednisolone: MPSL)1.0 g/ 日× 3 日間のパルス療法が行われることもある。少数例ではあるが,免疫抑制薬の併用や免疫グロブリン大量静注療法等の報告もみられる11)。 Q10生物学的製剤にと関連した間質性肺炎 の予後は? また,予後不良因子は? PMS では死亡率は7.5〜20%である。予後不良因子としては,高齢(65 歳以上),生物学的製剤投与開始から間質性肺炎発症までの期間が長いこと,既存の間質性肺炎,免疫抑制剤の併用などが報 A8 A9 A10 表 生物学的製剤と関連した間質性肺炎の背景因子(PMS) 症例数年齢(歳) MTX 使用IP の既往発症までの 期間(日) インフリキシマブ34 63.5±8.8*全例3 (9%) 69±35 (21〜153)エタネルセプト81 66.0±8.0 21 (25.9%) 51 (63.0%) 92±53 (6〜194)アダリムマブ53 69.2±8.4 36 (67.9%) 18 (34.0%) 97±42 (23〜188)トシリズマブ35 67.2 (48〜84) ** 9 (25.7%) 21 (60.0%) 79 (11〜197) *:SD,**:range,MTX:メトトレキサート,IP:interstitial pneumonia。(文献7〜10 より引用)
胸部CT(HRCT)の撮影も積極的に行うべきである。 Q12生物学的製剤と関連した間質性肺炎 の予防は可能か? 現時点で確立された予防法はない。 Q13生物学的製剤と関連した間質性肺炎を発 症した患者に本剤の再投与は可能か? 間質性肺炎を引き起こした生物学的製剤の再投与が安全に行えるというエビデンスはない。したがって,原則的には同一薬剤の再投与は禁忌である。しかし,他系統の生物学的製剤は必ずしも禁忌とならないが,その安全性についてはまだ十分な知見が集積されていない。 A12 A13 告されている11)。 Q11既存の間質性肺炎がある患者に生物学的製剤を投与 できるか? また,その場合,注意すべき点は? Q3 とQ10 の回答にあるように,既存の間質性肺炎は本剤と関連した間質性肺炎の重要な発症危険因子であるとともに,予後不良因子である。したがって,間質性肺炎の既往のある患者に対しては,生物学的製剤投与による利益がこれらの不利益を上回ると判断された場合に限って,十分なインフォームド・コンセントをしたうえで本剤の投与を考慮すべきである。本剤と関連した間質性肺炎の発症を早期に発見するために,咳,呼吸困難等の症状の増悪に留意するとともに,定期的にKL-6 やSP-D などの血清マーカーを測定し,必要であれば胸部単純X 線写真のみでなく A11 1 )Dawson JK, Fewins HE, Desmond J, et al. Fibrosing alveolitis in patients with rheumatoid arthritis as assessed by high resolution computed tomography, chest radiography, and pulmonary function tests. Thorax 2001;56:622 ─7. 2 )Lee HK, Kim DS, Yoo B, et al. Histopathologic pattern and clinical features of rheumatoid arthritis-associated interstitial lung disease. Chest 2005;127: 2019 ─27. 3 )Suda T, Kaida Y, Nakamura Y, et al. Acute exacerbation of interstitial pneumonia associated with collagen vascular diseases. Respir Med 2009;103: 846 ─53. 4 )Koduri G, Norton S, Young A, et al. Interstitial lung disease has a poor prognosis in rheumatoid arthritis: results from an inception cohort. Rheumatology(Oxford) 2010;49: 1483 ─9. 5 )Bongartz T, Nannini C, Medina-Velasquez YF, et al. Incidence and mortality of interstitial lung disease in rheumatoid arthritis: a population-based study. Arthritis Rheum 2010;62: 1583 ─91. 6 )Kim EJ, Elicker BM, Maldonado F, et al. Usual interstitial pneumonia in rheumatoid arthritis-associated interstitial lung disease. Eur Respir J 2010;35:1322 ─8. 7 )Takeuchi T, Tatsuki Y, Nogami Y, et al. Postmarketing surveillance of the safety profile of infliximab in 5000 Japanese patients with rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis 2008;67: 189 ─94. 8 )Koike T, Harigai M, Inokuma S, et al. Postmarketing surveillance of tocilizumab for rheumatoid arthritis in Japan: interim analysis of 3881 patients. Ann Rheum Dis 2011;70:2148 ─51. 9 )Koike T, Harigai M, Inokuma S, et al. Postmarketing surveillance of safety and effectiveness of etanercept in Japanese patients with rheumatoid arthritis. Mod Rheumatol 2011;21:343 ─51. 10)Koike T, Harigai M, Ishiguro N, et al. Safety and effectiveness of adalimumab in Japanese rheumatoid arthritis patients: postmarketing surveillance report of 7,740 patients. Mod Rheumatol 2014;24:390 ─8. 11)Perez-Alvarez R, Perez-de-Lis M, Diaz-Lagares C, et al. Interstitial lung disease induced or exacerbated by TNF- targeted therapies: analysis of 122 cases. Semin Arthritis Rheum 2011;41:256 ─64. 12)Ramos-Casals M, Perez-Alvarez R, Perez-de-Lis M, et al. Pulmonary disorders induced by monoclonal antibodies in patients with rheumatologic autoimmune diseases. Am J Med 2011;124: 386 ─94. 13)Sen S, Peltz C, Jordan K, et al. Infliximab-induced nonspecific interstitial pneumonia. Am J Med Sci 2012;344:75 ─8. 文献
各論5 はじめに 生物学的製剤は関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)関連疾患(RA,若年性特発性関節炎,強直性脊椎炎など)以外にも,炎症性腸疾患〔クローン病(Crohn’s disease:CD),潰瘍性大腸炎(ulerative colitis:UC)など〕,ベーチェット病,乾癬,キャッスルマン病,多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)などの疾患に対して有効である1)。欧米ではすでに多くの生物学的製剤がこれら疾患に対する保険適用を取得しており広く臨床応用されている。本邦においても生物学的製剤の適用拡大が進み,またさらに新しい臨床治験が進行中である。 Q1 RA 関連以外のどのような疾患で生物 学的製剤が使用されているのか? p. 3 表2 に現時点の生物学的製剤ごとの適応疾患をまとめて示した。 1 ●クローン病(CD) 10〜30 歳代にみられる原因不明の炎症性腸疾患で,回腸末端から盲腸にかけての炎症が特徴的である。欧米に比べてその頻度は低いものの,本邦でも3 万人以上の患者が報告されており,食生活の欧米化とともにその増加がみられている。治療としては栄養療法,薬物療法(副腎皮質ステロイド薬,免疫抑制薬,サリチル酸製剤など),外科治療などが行われてきたが,その効果は必ずしも満足できるものではなかった。現在,クローン病に対する治療薬として生物学的製剤の優れた有効性が報告されており2),本邦ではインフリキシマブ(infliximab:IFX)とアダリムマブ(adalimumab:ADA)が承認されている。 A1 2 ●潰瘍性大腸炎(UC) 主に大腸粘膜に潰瘍やびらんを生じる原因不明の炎症性腸疾患の1 つである。10〜30 歳代ないし50〜60歳代が好発年齢であり,本邦では16 万人以上の患者が存在すると推定されている。一方,欧米における罹患数は約100 万人とされており,近年,さらにその増加が報告されている。治療としては食事療法,薬物療法としては免疫抑制薬とともにサリチル酸製剤が用いられてきた。生物学的製剤としてはインフリキシマブ,アダリムマブが保険適用を取得しており,その有効性が報告されている3)。 3 ●ベーチェット病日本での患者数は約2 万人であり,30 歳代に発症のピークがみられる。臨床症状としては,眼症状(ブドウ膜炎),口腔粘膜症状(有痛性の口内炎),外陰部症状(潰瘍),皮膚症状の頻度が高い。難治性ブドウ膜炎に対してインフリキシマブが,腸管病変に対してアダリムマブが保険適用を取得している4)5)。 4 ●乾 癬発赤を伴うやや隆起性の発疹と白色の鱗屑を特徴とする原因不明の皮膚疾患である。一般に白色人種に高頻度でみられ,本邦における頻度は約0.1%とされている。好発年齢は30〜40 歳代で男性に多い。生物学的製剤としてはインフリキシマブとアダリムマブが保険適用を取得している6)。最近になって,ウステキヌマブが尋常性乾癬に対する保険適用を取得している。 5 ●キャッスルマン病慢性的なリンパ節腫大と強い炎症反応を特徴とする原因不明のリンパ増殖性疾患の1 つである。本邦では約1,500 例の報告がみられる。腫大したリンパ節から過剰なIL-6 が産生されており,これがCRP 上昇,免 生物学的製剤が使用される関節リウマチ関連以外の疾患と呼吸器合併症
疫グロブリン上昇などの検査値異常を誘導し,発熱,貧血,食欲不振,体重減少などの臨床症状を引き起こす。IL-6 阻害を目的に生物学的製剤としてトシリズマブが保険適用を取得している7)。 6 ●多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)中〜小動脈の血管炎を特徴とする原因不明の疾患で,上気道や肺の肉芽腫形成,間質性肺炎,壊死性半月体形成性糸球体腎炎として発症する。本邦では少なくとも1,500 人以上の患者が存在すると推定されている。血液中の抗好中球細胞質抗体が陽性になることが多い。最近になって,本症に対するリツキシマブの有効性が報告され治療薬として保険適用を取得している。 Q2上記疾患に生物学的製剤が使用される 場合の副作用の種類と頻度の特徴は? RA 関連疾患以外で最も多くの保険適用を取得しているインフリキシマブにおいて,CD,乾癬,ベーチェット病症例における副作用発現に関するデータが報告されている。これをみると,クローン病2,820 症例における副作用発現率は25.2%であり,このうち全身障害および局所反応(発熱,倦怠感など)が5.9%で最も頻度が高く,次いで胃腸障害 5.4%,感染症関連 5.2%の順であった。 特に感染症の中では,帯状疱疹0.6%,敗血症0.6%,肺炎0.6%であり,肺結核も0.1%の頻度で報告されている。 A2 Q3 RA 関連疾患以外で生物学的製剤を使 用する場合の注意点は? RA 関連疾患に対してCD,UC,乾癬,ベーチェット病などが比較的若年者に多くみられるという事実は重要である。特に,最も重要な感染症である結核においては,年齢が最大の発症因子であり,若年層では発症のリスクは低いとは言える。 Q4生物学的製剤の有効性が期待されるそ の他の疾患は? 生物学的製剤の新しい適応を見いだすことを目的に多くの臨床研究が実施されている。これまでにシェーグレン症候群,喘息,皮膚筋炎,膜型腎症,慢性閉塞性肺疾患,慢性心不全などに対する生物学的製剤の効果が検討されているが,残念ながら明らかな有効性は証明されていない。一方で,サルコイドーシス8),続発性アミロイドーシス9),地中海熱10),中毒性表皮壊死症11)などに対する生物学的製剤の有効性が報告されている。生物学的製剤は過剰な炎症反応を抑制するという視点から,感染症を含め,さまざまな病態・疾患に対して新しい適応が見つかってくる可能性がある。このような状況の中で,これら生物学的製剤をいかに効果的に利用するか,副作用を最小限に抑える使用法を確立するか,さらには新しい適応の可能性を見いだしていくかが今後ますます重要になってくるものと思われる。 A3 A4 1 )Tracey D, Klareskog L, Sasso EH, et al. Tumor necrosis factor antagonist mechanisms of action : a comprehensive review. Pharmacol Ther 2008 ; 117 : 244 ─79. 2 )Colombel JF, Sandborn WJ, Reinisch W, et al. SONIC Study Group. Infliximab, azathioprine, or combination therapy for Crohn’s disease. N Engl J Med 2010 ; 362 : 1383 ─95. 3 )Danese S, Colombel JF, Peyrin-Biroulet L, et al. Review article : the role of anti-TNF in the management of ulcerative colitis--past, present and future. Aliment Pharmacol Ther 2013 ; 37 : 855 ─66. 4)Evereklioglu C. Ocular Behçet disease : current therapeutic approaches. Curr Opin Ophthalmol 2011 ; 22 : 508 ─16. 5)Yesudian PD, Edirisinghe DN, O’Mahony C. Behçet’s disease. Int J STD AIDS 2007 ; 18 : 221 ─7. 6)Galván-Banqueri M, Marín Gil R, Santos Ramos B, et al. Biological treatments for moderate-to-severe psoriasis : indirect comparison. J Clin Pharm Ther 2013 ; 38 : 121 ─30. 7)Tanaka T, Kishimoto T. Targeting interleukin-6 : all the way to treat autoimmune and inflammatory diseases. Int J Biol Sci 2012 ; 8 : 1227 ─36. 文献
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短縮版:生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き 2017 年4 月20 日 第1 版第1 刷発行 編 集 生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き作成委員会発行者 日本呼吸器学会(代表)橋本 修発 行 一般社団法人 日本呼吸器学会〒113ー0033 東京都文京区本郷3 丁目28 番8 号 日内会館7 階TEL:03ー5805ー3553(代)FAX:03ー5805ー3554 E-mail:info@jrs.or.jp URL http://www.jrs.or.jp/制 作 克誠堂出版株式会社組 版 株式会社シナノパブリッシングプレス●本書に掲載された著作物の複写・複製・転載・翻訳・データベースへの取り込み,および送信(送信可能化権を含む)・上映・譲渡に関する許諾権は一般社団法人日本呼吸器学会が保有しています。©日本呼吸器学会/2017/Printed in Japan