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重症心不全患者への在宅静注強心薬持続投与指針 第1版 日本心不全学会 日本在宅医療連合学会
重症心不全患者への在宅静注強心薬持続投与指針 第1版 日本心不全学会 日本在宅医療連合学会
目 次 指針作成メンバー ........................................................................................................................ 3 1. 在宅静注強心薬持続投与の役割 ............................................................................................. 4 2. 在宅静注強心薬持続投与の適応と実施要件 .............................................................................. 5 3. 退院までの手順 .................................................................................................................. 7 4. 在宅医の役割と実務 ............................................................................................................ 8 5. 訪問看護師の役割と実務 ...................................................................................................... 9 6. 薬剤師の役割と実務 ............................................................................................................ 9 7. 静注強心薬の種類と効果 ................................................................................................... 11 8. 輸液ポンプの使用 ............................................................................................................ 12 9. 日常生活における患者家族の注意点 .................................................................................... 13 10. 緊急時対応 ..................................................................................................................... 14 Q&A .................................................................................................................................... 15 Q1 在宅静注強心薬持続投与中のモニタリングの必要性は? Q2 在宅静注強心薬持続投与中の心不全治療薬の調整は? Q3 静注強心薬依存状態,減量離脱困難の判断は? Q4 在宅静注強心薬持続投与施行中の患者における終末期医療のプロセスはどうあるべきか? Q5 消毒やルート交換のタイミングは?
指針作成メンバー【作成委員】絹川弘一郎一般社団法人日本心不全学会 理事長坂田 泰史大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 教授波多野 将東京大学医学部附属病院 高度心不全治療センター 准教授肥後 太基ゆみのハートクリニック渋谷 院長山中 崇東京大学大学院医学系研究科 在宅医療学講座 特任教授◎ 弓野 大医療法人社団ゆみの 理事長 【協力委員】池亀 俊美榊原記念病院 副院長/主任看護部長井手口直子帝京平成大学 薬学研究科薬学専攻 教授伊東 紀揮医療法人社団ゆみの 統括看護部長大石 醒悟医療法人社団まほし会真星病院 循環器科 内科部長小野 宏志医療法人社団心 理事長勝眞久美子ななーる訪問看護ステーション 統括管理者菊池 規子東京女子医科大学病院 循環器内科 講師齋藤 慶子医療法人社団ゆみの 在宅療養支援室長狭間 研至一般社団法人日本在宅薬学会 理事長 【外部評価委員】安斉 俊久北海道大学大学院医学研究院 循環病態内科学 教授平原佐斗司東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所 研修・研究センター長安中 正和医療法人安中外科・脳神経外科医院 理事長山田 雅子聖路加国際大学大学院看護学研究科 教授山本 一博鳥取大学医学部統合内科医学講座 循環器・内分泌代謝内科 教授 ◎指針作成ワーキンググループ長(五十音順)
きる一方で,長期生命予後改善のエビデンスはなく,むしろ不整脈の誘発などによる予後悪化の可能性も報告されている。このことから,静注強心薬投与を行う場合には,これらの使用目的を十分に考慮したうえで実施することが重要である。 3)在宅静注強心薬持続投与の目的在宅静注強心薬持続投与の目的は,静注強心薬なしでは心不全の代償が困難な症例において,在宅療養への移行にあたって持続投与を継続することにより,QOL の維持,改善を目指すことである。したがって,本指針は入院中にドブタミン,ドパミン,ノルアドレナリンなどの静注強心薬の離脱が困難な重症心不全患者が,在宅でも同様の持続点滴を可能とし,適切な治療を継続できることを目的とする。また,まれなケースではあるが,心臓移植待機患者や補助人工心臓装着患者で在宅静注強心薬持続投与が考慮される可能性もある。 【参考文献】1) 日本循環器学会/ 日本心不全学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017 年改訂版).https://www.j-circ.or.jp/cms/ wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf 1)心不全診療における静注強心薬の位置づけ心不全診療において,急性心筋梗塞や劇症型心筋炎などによる新規発症の重症心不全や拡張型心筋症,または虚血性心筋症および弁膜症などによる慢性心不全の急性増悪で,低心拍出状態にともなう臓器低灌流による症状またはうっ血症状を認める場合に,静注強心薬の投与が考慮される。静注強心薬を使用する目的は血行動態と臓器低灌流の改善と安定であり,状態安定化後には離脱を目指す。しかしながら,一部の重症心不全症例では強心薬の減量や離脱が困難な静注強心薬依存の慢性心不全に移行することがあり,ステージD 治療抵抗性心不全と判断される。ステージD 治療抵抗性心不全は,「おおむね年間2 回以上の心不全入院を繰り返し,有効性が確立しているすべての薬物治療・非薬物治療について治療ないしは治療が考慮されたにもかかわらずニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類III 度より改善しない患者」と定義されている1)。このような患者では,補助人工心臓や心臓移植などを含む特別の治療,もしくは終末期ケアが適応になる。終末期ケアの1 つとして,心不全症状の緩和に静注強心薬が有益であれば使用も考慮される。 2)静注強心薬の使用目的ステージD 治療抵抗性心不全と判断された場合は,治療内容の見直しと最適化が必要である。そのうえで,低心拍出状態にともなった臓器低灌流による症状やうっ血症状を認める場合には,静注強心薬の適応を検討することになる。慢性心不全症例において実際に静注強心薬が投与される状況として表1 の5 つの場合が考えられる。静注強心薬の投与によって,少なくとも短期間は血行動態の改善や臨床症状,QOL の改善が期待で 1 在宅静注強心薬持続投与の役割 1 利尿薬抵抗性でうっ血が改善できない場合 2 低心拍出にともなう血行動態と各症状の改善,安定化を図る 場合 3 デバイス治療や弁膜症に対する侵襲的治療,補助人工心臓 や心臓移植など,次の治療までの血行動態の最適化と安定化を図る場合 4 補助人工心臓や心臓移植の適応検討前に臓器障害の可逆性 の評価が必要な場合 5 強心薬の減量・中止が困難,かつ次の積極的治療の選択肢や 適応がなくとも,身体症状を和らげ,quality of life(QOL)を改善させる緩和的治療を目指す場合 表1 静注強心薬が投与される状況
3 静注強心薬への依存状態であること。静注強心 薬依存状態とは,最大限の内科的治療がなされたうえで,低心拍出による末梢循環不全のためにドブタミン・ドパミン・ノルアドレナリン・フォスフォジエステラーゼ(PDE)III 阻害薬などの静注強心薬が必要な状態が少なくとも14 日以上持続しており,減量中止が困難であると確認されていること,あるいは明らかに重症で病態的に減量,中止が困難であると循環器専門医によって判断されていること。本指針における依存状態には,静注強心薬から離脱すると臓器障害が進行する場合や,離脱後1 ヵ月程度で入院を要する心不全増悪をきたす場合も含む。4 在宅療養に移行した場合,同居する家族など, 十分に支援できる介護者がいること。家族などの支援に加え,医療保険・介護保険・障害福祉サービスなどの公的サービスや,自費サービスなどによる十分な支援が得られること。5 患者または患者の家族や介護者などが,静注強 心薬療法の目的,治療の限界やリスクについて十分に理解したうえで,在宅での療養に主体的に参加し協力すること。6 患者または患者の家族や介護者などが,急変時 の対応方針,人生の最終段階における医療・ケアについて理解・承諾をしており,その内容について事前に関係する医師や看護師,ソーシャルワーカーや介護支援専門員などの介護従事者の多職種間で共有していること。文書化されていることが望ましい。 2)静注強心薬の投与方法に関する要件以下の1,2をいずれも満たしていること1 原則として,末梢挿入型中心静脈カテーテル (PICC)や皮下埋め込み型中心静脈アクセスポー ト(CV ポート)を含めた中心静脈カテーテルから投与を行うこと。2 輸液ポンプを用いて投与すること。 在宅静注強心薬療法の対象となるのは,静注強心薬依存状態の重症心不全患者のうち,医療機関の入院が長期にわたることでQOL が低下しており,在宅で静注強心薬治療を継続することでQOL の改善が期待でき,かつそれを強く希望する患者である。その実施にあたっては,以下の1)~4)の要件を考慮する必要がある(表2)。 1)患者選択基準と介護者の要件以下の1~6をいずれも満たしていること1 心不全ステージD であること。日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017 年改訂版)」において,ステージD 治療抵抗性心不全は,「おおむね年間2 回以上の心不全入院を繰り返し,有効性が確立しているすべての薬物治療・非薬物治療について治療ないしは治療が考慮されたにもかかわらずNYHA 心機能分類III 度より改善しない患者」と定義している1)。ただし,新規発症重症心不全で,静注強心薬から離脱できずに静注強心薬依存状態の慢性心不全へと移行した症例も含めるものとする。2 ガイドライン1, 2) に準拠した最適な内科的治療の 試みがなされていること。具体的には,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬・アンジオテンシンII 受容体拮抗薬(ARB)・アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)・β遮断薬・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)・選択的ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬(必要に応じて過分極活性化環状ヌクレオチド依存性チャネル4[HCN4]阻害薬)・可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬(ベルイシグアト)・利尿薬など,ガイドラインで推奨されている最大限の治療が実施,もしくは試みられているか検討されていること。デバイス治療や弁膜症に対する侵襲的治療に関しても,実施もしくは適応検討がなされていること。 2 在宅静注強心薬持続投与の適応と実施要件
科専門医,日本小児循環器学会専門医のいずれかが在籍し,当該患者の診療に実際に従事していること。当該医師は,がんや心不全の緩和ケアに関する研修を修了していることが望ましい。3 院内多職種により共同意思決定支援を行うとと もに,静注強心薬療法の在宅への移行について適応検討を行う体制を有すること。4 退院前には地域の医療介護職と十分な情報共有 の機会を設けること。 3)静注強心薬療法を開始する医療機関(以下, 導入医療機関)の要件以下の1~4をいずれも満たしていること1 入院機能を有し,24 時間の救急患者受入体制が 整備されていること。X 線透視装置などの,中心静脈カテーテルの留置や交換が可能な設備を有していること。2 静注強心薬療法に十分な経験を有する日本循環 器学会循環器専門医,もしくは日本心臓血管外 対象患者静注強心薬依存状態の重症心不全患者のうち,医療機関への入院が長期間にわたることでQOLが低下しており,在宅で静注強心薬治療を継続することでQOLの改善が期待でき,かつそれを強く希望し,以下の選択基準に該当する患者。1. 患者選択基準心不全ステージ分類ガイドラインに準拠した最適な内科的治療の実施NYHA心機能分類静注強心薬への依存状態 介護者の存在在宅静注強心薬療法に対する理解と協力人生の最終段階における医療・ケアに関する理解と共有2. 静注強心薬投与方法に関する要件投与経路投与方法3. 静注強心薬療法を開始する医療機関(導入医療機関)の要件入院機能と救急受入体制 専門医の在籍多職種による在宅療法移行の適応検討4. 患者の在宅療養を管理・支援する医療機関(管理・支援医療機関)の要件専門医の在籍 公的サービスなどの利用多職種による在宅管理体制 緊急時の連携体制の構築 モニタリングステージD治療抵抗性心不全ガイドラインで推奨されている最大限の治療が実施,もしくは試みられているか検討されていること。デバイス治療や弁膜症に対する侵襲的治療についても実施もしくは検討されていること。IV度低心拍出による末梢循環不全のために静注強心薬の減量,中止が困難であると循環器専門医によって判断されていること。同居する家族など,十分に支援できる介護者がいること。家族などの支援に加え,公的サービスや自費サービスなどによる十分な支援が得られること。患者または患者の家族などおよび介護者が,静注強心薬療法の目的,治療の限界やリスクについて十分に理解したうえで在宅での療養に主体的に参加し協力すること。患者または患者の家族などおよび介護者が,急変時の対応方針,人生の最終段階における医療・ケアについて理解・承諾をしており,その内容について関係する多職種間で共有していること。文書化されていることが望ましい。 原則として中心静脈カテーテル輸液ポンプ入院機能を有し,24時間の救急患者受入体制が整備されていること。X線透視装置などの中心静脈カテーテルの留置や交換が可能な設備を有していること。静注強心薬療法に十分な経験を有する日本循環器学会循環器専門医,もしくは日本心臓血管外科専門医,日本小児循環器専門医のいずれかが在籍し,当該患者の診療に実際に従事していること。多職種により共同意思決定支援を行うとともに,静注強心薬療法の在宅への移行について適応検討を行う体制を有すること。退院前には地域の医療介護職と十分な情報共有の機会を設けること。静注強心薬療法の十分な知識と経験を有している日本循環器学会循環器専門医,もしくは日本心臓血管外科専門医,日本小児循環器専門医のいずれかが在籍していること。同専門医はがんや心不全の緩和ケアに関する研修を修了していることが望ましい。医療保険,介護保険,障害福祉サービスなどの適切な公的サービスや自費サービスなどと十分に連携すること。多職種での在宅管理体制を構築すること。在宅の多職種は心不全に関する十分な知識と経験を有し,静注強心薬療法の経験を有することが望ましい。24時間対応や在宅看取りが可能であること。緊急時に備えて導入医療機関もしくは地域の中核医療機関との連携体制を構築していること。致死性不整脈や電解質異常などのモニタリング方法および対応については,在宅療養に携わる医師を含めた地域の多職種で方向性を決定しておくこと。致死性不整脈や電解質異常などのモニタリング方法について,地域多職種で方向性を決定しておくこと。
体制を有していること。5 中心静脈カテーテルの交換の必要性が生じた場 合の対応を含め,緊急時に入院受け入れを行う医療機関などとの十分な連携体制を構築していること。6 致死性不整脈や電解質異常などのモニタリング 方法および異常が確認された場合の対応については,在宅療養に携わる医師を含めた地域の多職種で方向性を決定しておくこと。 【参考文献】1) 日本循環器学会/ 日本心不全学会.急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017 年改訂版).https://www.j-circ.or.jp/cms/ wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf 2) 日本循環器学会/ 日本心不全学会.2021 年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療. https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/ JCS2021_Tsutsui.pdf 4)患者の在宅療養を管理・支援する医療機関 (以下,管理・支援医療機関)の要件以下の1~6をいずれも満たしていること1 静注強心薬療法の十分な知識と経験を有してい る日本循環器学会循環器専門医,もしくは日本心臓血管外科専門医,日本小児循環器学会専門医のいずれかが在籍していること。当該医師は,がんや心不全の緩和ケアに関する研修を修了していることが望ましい。2 医療保険,介護保険,障害福祉サービスなどの 適切な公的サービスや自費サービスなどと十分に連携すること。3 多職種(担当医・介護支援専門員・訪問看護師・ 薬局薬剤師・その他サービス事業所など)による在宅における静注強心薬療法の管理体制を構築すること。当該多職種は心不全に関する十分な知識と経験を有し,静注強心薬療法の経験を有することが望ましい。 在宅静注強心薬療法は退院後開始となるため,在宅での医療管理について,入院中から患者および患者の家族などへの説明と教育,またチーム医療を行うための準備が必要となる。患者・医療者双方が在宅静注強心薬療法を安心・安全に実施できるよう, 患者・代理意思決定者/家族の在宅療養への思いや希望を尊重することが重要である。退院までの手順を表3 に示す。 3 退院までの手順 表3 退院までの手順 1 入院前の状況の共有 2 人生の最終段階における意志決定支援 3 退院前カンファレンス 4 在宅サービスの活用5. 退院入院前の生活状況や患者の意向などについて,導入医療機関,管理・支援医療機関,介護支援専門員などと情報を共有する。「患者・家族など,あるいは必要があれば代理意思決定者」への人生の最終段階における意思決定支援を 実施する。退院前カンファレンスを実施する。カンファレンスの内容は以下の通りである。・参加者:患者,家族,導入医療機関スタッフ(担当医・看護師・ソーシャルワーカー,病院薬剤師など),管理・支援医療機関,介護支援専門員,訪問看護師,薬局薬剤師など・人生の最終段階における意思決定(アドバンス・ケア・プランニング:ACP)について・病態,予後,患者の希望,在宅静注強心薬療法の適応について・投与経路の選択について・輸液ポンプの選択と輸液やライン管理について:コストと交換頻度を考慮した輸液ポンプの選択と手技指導を行う・退院後の療養生活に必要な準備などについて・緊急時の対応計画について医療保険,介護保険,障害福祉サービスなどの適切な在宅サービス活用を検討する。退院当日は,導入医療機関,管理・支援医療機関,訪問看護事業者のいずれかの医療専門職が訪問し,在宅で患者が,在宅静注強心薬持続投与が安全に実施できるか確認する。
療的支援を介護サービスや福祉サービスと連携して行う。普段のかかわりの中でACP についても話し合う。「急変時の対応」も,訪問看護などとの協力のもとに行うことになる。在宅医はACP に基づき,あらかじめ急変時の治療方針についても相談しておく。そのうえで可能なかぎりの医学的および社会的情報を元に入院適応評価を行い,必要に応じて入院治療を担当する専門医に相談し,本人や家族への十分な説明と合意のうえで対応する。心不全による人生の最終段階の状況では「看取り」を求められることもある。オピオイドなどを用いた症状緩和を考慮する。多職種と協力して患者やその家族に対する心理的サポートも求められる。以上を表4 にまとめた。 在宅医の役割は,在宅静注強心薬持続投与を受けようとする患者の「退院支援」から始まる。入院治療を担当する専門医と在宅医は,患者やその家族,医療者間の合意形成に向けて十分な話し合いを行い,ACP を促進し本人が受けたいと思う医療・ケアを提供する。その過程において,共同意思決定支援(shared decision making)のプロセスを取ることが望ましい。「日常療養の支援」は,安全に在宅療養を継続していくために,包括的サポートを行うことである。病状や治療効果を定期的に評価・モニタリングして副作用や合併症を早期に発見し,対処する。必要に応じて静注強心薬の投与量の変更も行う。さらに,身体機能,認知機能や精神機能,および生活の状況を含む生活機能を包括的に評価して,患者の価値観や生き方に配慮しながら,一人ひとりにふさわしい医 4 在宅医の役割と実務 表4 在宅医の役割 1 退院支援 2 日常療養の包括的な支援 3 急変時の対応 4 看取り・疾患および病態を確認する。・静注強心薬投与の目的と治療方針を確認する。・患者やその家族,医療者間の合意形成に向けて十分に話し合い,ACP を促進する。 ・医学的対応を行う。・静注強心薬処方や輸液ポンプの管理を行う。・病状や治療効果の定期的な評価・モニタリングを行う。・強心薬投与にともなう副作用の監視と早期の対処を行う。・必要に応じて静注強心薬投与量の変更を行う。・軽微な合併症に対応する。・生活機能の包括的な評価を行う。・地域の多職種と連携し,一人ひとりにふさわしい支援を実施する。・ACP の確認と緩和ケアを実践する。・家族などの介護者のケアを行う。・患者・家族などと十分相談し,あらかじめ治療方針を決定しておく。・訪問看護などと協力して対応する。・必要に応じて入院治療を担当する専門医に相談する。・多職種と協力して患者・家族の心理的サポートを実施する。・人生の最終段階におけるケアを実践する。・症状緩和,あるいは苦痛の緩和を行う。
り,ここから適切なアセスメントのもとに看護ケアを行っていく。 2)在宅静注強心薬持続投与に対する看護ケア在宅静注強心薬持続投与患者に対する看護ケアに関する項目は表6 の通りである。 【参考文献】1) 社団法人全国訪問看護事業協会,財団法人日本訪問看護振興財団.訪問看護における静脈注射実施に関するガイドライン. https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/guide03.pdf 2) 日本がん看護学会,日本臨床腫瘍学会,日本臨床腫瘍薬学会.がん薬物療法に伴う血管外漏出に関する合同ガイドライン2023 年版 第3 版.金原出版,東京,2022. 訪問看護師,および医薬品卸担当者と連携し,患者が安心・安全に在宅療養を継続できるようにすることである。現状では,患者の意向,状況,医師の判断によっていくつかの連携のパターンがあり,多職種の役割を理解し,連携を進めることが重要である。 在宅静注強心薬持続投与を受ける患者に対する訪問看護師の役割は,正しく安全に強心薬が注入されるよう同居者らと協力して管理するとともに,トータルペインとしての苦痛を緩和し,望む生き方に沿った在宅療養が継続できるよう看護ケアを行うことである。なお,強心薬注入の管理については,「訪問看護における静脈注射実施に関するガイドライン」1)および「がん薬物療法にともなう血管外漏出に関する合同ガイドライン2023 年版」2) とともに,本指針の第8 項「輸液ポンプの使用」,巻末Q & A「Q5 消毒やルート交換のタイミングは?」を参照されたい。 1)心不全患者への看護ケア心不全患者に対する看護ケアは表5 の通りであ 1)薬剤師の役割保険医が投与できる注射薬を使用する際においては,保険薬局として医薬品や医療材料の供給,そして医師,看護師との連携を通じて患者を支えることが求められている。心不全の在宅静注強心薬療法においては,薬剤師の役割は薬学的専門性を発揮して専門医,在宅医, 6訪問看護師の役割と実務 薬剤師の役割と実務 表5 心不全患者への看護ケア・増悪要因に関する病態のモニタリング・セルフケア支援・社会福祉制度(介護保険や障害者総合支援法など)の活用支援・治療に対する意思決定支援・精神的苦痛への対応・家族への支援・点滴管理・内服薬の管理・保清(清拭,陰洗,足浴,洗髪)や日常生活援助(食事・排泄動作)・排便コントロール(摘便・浣腸・坐薬を含む)・症状に合わせた身体活動量の調整,症状緩和目的の呼吸筋を含むマッサージやストレッチ・身体機能維持のための機能訓練・緊急時対応表6 在宅静注強心薬持続投与に対する看護ケア ・初回導入時,導入医療機関の医師・看護師・ソーシャルワーカーや管理・支援医療機関の医師・看護師・薬剤師・訪問看護師・介護職・介護支援専門員らが連携し,療養支援が円滑にできるように調整する。・継続的な在宅静注強心薬持続投与を行うため,在宅医や専門医との連携を図る。・患者や同居者に在宅静注強心薬持続投与に必要な点滴管理,物品管理,観察などを指導する。・投与手順,物品表,観察記録表などを作成し,患者と同居者に共有する。・患者の療養環境(投与する環境,ポジショニング,褥瘡予防,排泄の配慮も含む)の確認とアドバイスをする。・患者のトータルペインを理解し,苦痛の緩和に向けて援助する。・ACPに配慮し,必要に応じて医師などへの代弁者となる。・病態の変化には特に注意し,異常の早期発見・早期対処に努める。
例)ヘパリン→血液凝固阻止剤,生食注→生理食塩水・ 消毒剤(カテーテル挿入部用),ドレッシング材 は医科で払い出されることが多い。・ カテーテル用クローズドシステム,交換用ルート(週1 回実施),フーバー針は特定保険医療材料と して薬局で払い出す。 2)薬薬連携在宅静注強心薬持続投与は,病院退院時から開始となるため,病院薬剤師と薬局薬剤師の薬薬連携がきわめて重要である。処方医へは薬剤の特性を含む薬学的観点からの助言を行い,適切な輸液管理に向けた支援を行う。在宅静注強心薬療法開始にあたり,院外処方の打診を受けた場合は,表7 の項目について確認する。図1に訪問薬剤管理指導での薬学的管理指導のフローを示す。また,薬剤師訪問は在宅訪問時,表8 の項目にも注意をはらい,得た情報は他の職種と共有する。 3)その他の医療材料などその他,本療法で用いられる薬剤や医療材料は,以下の通りである。・ 週1 回ルートフラッシュ用のヘパリン生食注シリン ジは,通常は以下のように注射剤として処方する。・年齢などの基本的な情報 ・通院困難と考えられる状況であるか・患者の病状と経緯・薬物療法の経過(入院中の処方,効果,副作用の発現状況など)・現在の療養状況(入院中または在宅療養中)・問い合わせ可能な担当病院薬剤師・処方発行元の医療機関(打診元の医療機関から処方が発行されるとは限らない)・訪問診療・訪問看護の利用予定・点滴療法を受ける場所(自宅,ショートステイ,特養など) 表8 薬剤師の在宅訪問時の確認事項 投与可否に関する情報の収集セルフケアについて食欲・胃腸内服薬の服薬管理と服薬指導副作用のチェック血圧,脈拍数,経皮的動脈血酸素飽和度(SPO2),投与部位に炎症が起きていないかなど 水分摂取量,塩分摂取量,体重確認,尿の回数と量,むくみの状況,息苦しさ食欲の低下や胃腸の不調定期薬,フロセミド,エチゾラムなど抗不安薬など動悸,頻脈,血圧の上昇(ルートフラッシュ時のミスによる血圧の急上昇に注意する) 薬剤師の役割(病院・薬局) 1 患者情報(病状と経緯) 2 薬物療法の経過3 投与経路,ポンプの種類4 内服薬処方内容5 訪問診療・訪問看護の予定などの伝達と確認 薬局薬剤師の役割1 処方薬の発注と調剤2 訪問看護師と訪問日調整3 訪問時,患者の状態チェック4 薬剤の適正使用,有効性,安全性チェック管理・支援医療機関担当医・介護支援専門員訪問看護師・その他 報告・情報共有 在宅へ 病院薬剤師の役割入院時の薬物療法のアセスメントと退院に向けての情報の整理 図1 在宅静注強心薬持続投与における退院までの薬学的管理指導フロー
脳,内臓の血流量も減少させるため,強心薬としての単独の使用は控える。他の強心薬の使用ならびに循環血液量の補正によっても血行動態の維持が困難な場合に他の静注強心薬と併用されることや,敗血症を合併した場合に少量で用いられることが多い。ミルリノンやオルプリノンなどのPDEIII 阻害薬は,カテコラミン受容体を介することなく強心作用と血管拡張作用を有することから,β遮断薬使用中の症例においてはよい適応と考えられる。ただし,血管拡張作用による血圧低下や頻脈性不整脈などへの注意が必要である。また腎排泄型であることから,腎機能障害を合併している場合にはより少量からの投与が望ましい。現在,わが国において在宅静注強心薬持続投与に用いられるのはドブタミンが主であるが,欧米ではミルリノンが用いられるケースが増加している1)。 2)投与経路静注強心薬は末梢静脈からの投与で血管炎のリスクが高いことから2),欧州心臓病学会(ESC)心不全部会の重症心不全患者における強心薬治療ステートメントでは,在宅での長期の投与を継続する場合,末梢挿入型を含めた中心静脈カテーテルからの投与を推奨している1)。 3)投与量表9 に添付文書上の投与量を記した。しかしながら,ESC のステートメント1) では,在宅静注強心薬療法はモニタリングができている環境と比較し 静注強心薬療法で主に用いられる薬剤は,カテコラミンと称されるドブタミン,ドパミン,ノルアドレナリンと,PDEIII 阻害薬のミルリノン,オルプリノンである。 1)薬剤の種類と効果ドブタミンは合成カテコラミン薬であり,β1, β2,α1 受容体刺激作用を有する。5 μg/kg/ 分以下の低用量ではβ2 受容体を介した軽度の末梢血管拡張作用による全身末梢血管抵抗低下,および肺毛細管圧の低下をもたらす。他のカテコラミン薬に比べ,心筋酸素消費量の増加も少なく,重症心不全に対する静注強心薬療法でもっとも広く使われる薬剤である。高用量ではα1 受容体刺激作用がβ2 受容体刺激作用を上回り,血管収縮作用を有する。ドパミンは内因性カテコラミンであり,ノルアドレナリンの前駆物質である。中等度の用量(2 ~10 μg/kg/ 分)ではβ1 受容体刺激作用と心臓および末梢血管からのノルアドレナリン放出増加により陽性変力作用,心拍数増加,α1 受容体刺激による血管収縮作用を示す。低用量ではドパミン受容体を介した腎血管拡張作用があり利尿効果や腎保護作用を期待されて使用されることもあるが,複数のランダム化試験ではその有用性は証明されていない。ノルアドレナリンは内因性カテコラミンであり, β1 刺激作用による陽性変力作用と陽性変時作用に加え,末梢血管のα1 受容体に作用して強力な末梢血管収縮作用を示す。平均動脈圧は増加するが,後負荷の増大や心筋酸素消費量の増加をきたし,腎, 7 静注強心薬の種類と効果 表9 おもな静注強心薬の種類と添付文書上の投与量 薬剤ドブタミン ドパミンノルアドレナリンミルリノンオルプリノン作用β1>β2>α1 低用量:D1>β1高用量:β1α1 β1>α1>β2 PDEIII 阻害PDEIII 阻害効果低~中等量:強心作用と軽度血管拡張作用高用量:強心作用と血管収縮作用低~中等量:強心作用高用量:強心作用と血管収縮作用 強心作用と血管収縮作用強心作用と血管拡張作用強心作用と血管拡張作用投与量原則1 ~5 μg/kg/ 分まで必要に応じて20 μg/kg/ 分まで1 ~5 μg/kg/ 分必要に応じて20 μg/kg/ 分まで 0.03 ~0.3 μg/kg/ 分 0.25 ~0.75 μg/kg/ 分 0.1 ~0.4 μg/kg/ 分
ある。その特徴を表10 に示した。 2)輸液ポンプ使用時の観察・ケア項目輸液ポンプ使用時の観察項目およびケア項目を以下に示す。1 点滴挿入部の腫脹や疼痛の有無,ドレッシング 剤のはがれがないかどうかを確認する。 1)輸液ポンプの選択使用する輸液ポンプは基本的に汎用輸液ポンプを選択することを推奨する。注射筒輸液ポンプ(シリンジポンプ)は交換頻度が高く,大抵の場合は医療者の訪問による交換が困難なためである。在宅静注強心薬持続投与に用いられる汎用輸液ポンプの選択としては,携帯型輸液ポンプと定置型輸液ポンプがperipherally inserted central catheter reduced the incidence of phlebitis in heart failure patients: a randomized trial. J Vasc Access 2023; 24: 942-947. PMID: 34812074 3) Rao A, Anderson KM, Mohammed S, et al. Chronic intravenous inotropic support as palliative therapy and bridge therapy for patients with advanced heart failure: a single-center experience. J Card Fail 2021; 27: 974-980. PMID: 34153459 4) Hauptman PJ, Mikolajczak P, George A, et al. Chronic inotropic therapy in end-stage heart failure. Am Heart J 2006; 152: 1096.e1-1096.e8. PMID: 17161059 5) Stevenson LW. Clinical use of inotropic therapy for heart failure: looking backward or forward? Part II: chronic inotropic therapy. Circulation 2003; 108: 492-497. PMID: 12885733 6) Hershberger RE, Nauman D, Walker TL, et al. Care processes and clinical outcomes of continuous outpatient support with inotropes (COSI) in patients with refractory endstage heart failure. J Card Fail 2003; 9: 180-187. PMID: 12815567 7) Gorodeski EZ, Chu EC, Reese JR, et al. Prognosis on chronic dobutamine or milrinone infusions for stage D heart failure. Circ Heart Fail 2009; 2: 320-324. PMID: 19808355 8) Martens P, Vercammen J, Ceyssens W, et al. Effects of intravenous home dobutamine in palliative end-stage heart failure on quality of life, heart failure hospitalization, and cost expenditure. ESC Heart Fail 2018; 5: 562-569. PMID: 29341466 9) Assad-Kottner C, Chen D, Jahanyar J, et al. The use of continuous milrinone therapy as bridge to transplant is safe in patients with short waiting times. J Card Fail 2008;14: 839- 843. PMID: 19041047 10) Hashim T, Sanam K, Revilla-Martinez M, et al. Clinical characteristics and outcomes of intravenous inotropic therapy in advanced heart failure. Circ Heart Fail 2015; 8: 880-886. PMID: 26179184 11) Harhash AA, Cassuto J, Hussein A, et al. Safety of outpatient milrinone infusion in end-stage heart failure: ICD-level data on atrial fibrillation and ventricular tachyarrhythmias. Am J Med 2020; 133: 857-864. PMID: 31883773 12) Pinney SP, Stevenson LW. Chronic inotropic therapy in the current era. Old wines with new pairings. Circ Heart Fail 2015; 8: 843-846. PMID: 26374915 kg/ 分以下,ミルリノンで0.325 μg/kg/ 分以下での投与が安全であったとする報告3) について触れられている。使用する際には原則的に低用量での使用が望ましい。ドブタミンとミルリノンの併用や内服強心薬との併用については報告が乏しく,今後の課題である。 4)安全性在宅静注強心薬療法は予後不良であるとする報告が相次いだ4-7)。しかし最近の欧米における緩和治療目的や心臓移植待機目的での在宅静注強心薬療法の研究では,QOL の改善8, 9) に加え,生命予後についても,β遮断薬の投与や植込み型除細動器の普及にともなって以前より改善し,比較的安全とする報告9-11) がなされ,在宅での静注強心薬療法の可能性が注目されつつある。これらの報告では,静注強心薬の投与量が以前の中等量以上と比較して低用量から中等量である点も注目すべきである。以前より良好な予後が報告されている要因として,静注強心薬の投与量の違いや在宅移行時の心不全の重症度の違いが示唆されている12)。在宅静注強心薬療法を患者や介護者が強く希望する場合には,心不全の重症度が進行して静注強心薬の投与量が増加する前に適応を検討することが望ましい。 【参考文献】1) Gustafsson F, Damman K, Nalbantgil S, et al. Inotropic therapy in patients with advanced heart failure. A clinical consensus statement from the Heart Failure Association of the European Society of Cardiology. Eur J Heart Fail 2023; 25: 457-468. PMID: 36847113 8 輸液ポンプの使用
表10 在宅静注強心薬持続投与に用いられる輸液ポンプの特徴 携帯型輸液ポンプ ・輸液バッグなどを使用できるスパイクセットと,カセットやユニットへ充填する充填型が選択できる・小型で軽量・充電や電池の使用が可能・材料費が比較的高額定置型輸液ポンプ ・輸液バッグを使用するスパイクタイプのみ・装置はシンプルで準備が容易・比較的入手しやすい・点滴棒などに固定する必要がある・材料費が安価 するかどうかによって使用するポンプを選定する。点滴スタンドを使用する場合,段差を乗り越える際の転倒や,患者自身が持ち上げて移動することのないように注意する。介護ベッドは,設置できない生活環境でないかぎり導入することが望ましい。さまざまな種類があるが,3 モーターベッドで細かい設定が可能なものを選ぶとよい。マットレスに関しては,起き上がり,立ち上がり動作が自立しているかどうか,褥瘡発生のリスクがあるかどうかによって,除圧の程度を決定する。運動耐容能,療養環境,日常生活自立度などによりトイレまでの歩行が困難,または推奨されない場合は,ポータブルトイレの導入が勧められる。しかし,療養環境上設置が困難な場合や患者自身が希望しない場合もある。その際は,車椅子でトイレまでの移動を介助する,トイレ内に置き手すりを設置するなど,環境を調整するなどの対応を行う。過剰な心負荷を避けるために,立ち上がる座面の 在宅静注強心薬持続投与を実施する時は,同居する家族など,十分に支援できる介護者を確保する。家族などの支援に加え,必要に応じて医療保険・介護保険・障害福祉サービスなどの公的サービスや自費サービスなどによる支援も活用して,安全に療養できるように努める。在宅静注強心薬持続投与開始時の日常生活自立度は,患者によってさまざまである。そのため,退院前カンファレンスなどで確認された院内での日常生活動作や,想定している療養環境,どのように過ごしたいか患者自身の意向を把握し,療養環境を調整することが望まれる。さらに,心不全症状を誘発しやすい日常生活動作を退院時に評価,もしくは情報共有を行い,適切な社会支援と環境調整を事前に行うことが重要である。 1)療養環境の整備患者自身の歩行が自立している場合は,生活動線の範囲内の段差の有無や,患者自身がポンプを運搬 9 日常生活における患者家族の注意点 2 ラインの接続が問題ないか,以下の項目を手で たどり確認する。・ 接続に間違いはないか,緩みはないか,屈曲は ないか,閉塞はないか・ 固定は問題ないか3 輸液ポンプに異常はないか観察する。・ コンセントは接続されているか,ポンプの作動 に問題はないか・ ポンプの位置は問題ないか(高さ,安定感など) 4 指示された投与量が守られているか確認する。・ 投与薬剤・投与速度・投与積算量・投与経路が5 投与薬剤の作用によるバイタル・症状の変化を チェックしモニタリングする。・ 血圧・脈拍測定・ IN/OUT バランス,尿量の変化・ 症状の変化:末梢冷汗,動悸,倦怠感,呼吸困 難感など6 点滴自己抜去の可能性がある場合は包帯での保 護(末梢ライン挿入部)など適宜対策を行う。7 使用している輸液ポンプの添付文書および取扱 説明書に準拠した管理を行う。
困難が増強する場合は,排泄直後に移動し始めるのではなく,落ち着くのを待ってから移動し始めることが重要である。更衣に関しては,ライントラブルが発生しないように,訪問看護師に介助してもらいながら行うことが望ましい。また上衣に関しては,袖口の広いものや前開きの衣服を着用することが望ましい。清潔保持は介助者による清拭を基本とし,必要に応じて足浴などを検討する。 3)在宅静注強心薬持続投与を安全に実施する ための注意点点滴の刺入部や点滴ラインは感染しないように,清潔に取り扱う。介護者がバイタルサインや体調の変化など,ふだんと違う状態に気づいた時は,すみやかに在宅医や訪問看護師に連絡し,対応方法を相談する。 と,立ち上がる場合に過剰な下肢筋力が必要とされ,さらに呼吸困難を誘発する可能性がある。そのため,立ち上がり動作を行う頻度の多いベッドや食卓,トイレなどの座面高も調整することが望ましい。 2)日常生活動作における注意点臥位からの起き上がり動作は,介護ベッドの背上げ機能を活用する形で努力的な動作とならないこと,特に呼吸を止めることがないように注意する。さらに,ライン挿入側の上肢を使って上半身を押し上げながら起き上がる(プッシュアップ)動作をすることがないように注意が必要である。座位からの立ち上がり動作に関しては,前述した通り低い座面から立ち上がらないようにする。具体的には,足底が床に接地し,膝関節が股関節より高い位置から立ち上がることがないように注意する。排泄動作は,過度な前屈姿勢による呼吸困難,怒 る。トラブルについては,一時的に強心薬の投与が中断されても,数時間単位であれば血行動態や全身状態に生命に関わる変化を生じない状態であることを念頭に対応することが求められる(表11)。 緊急時とは,注入が持続されたうえでの病態の急激な変化と,ポンプやカテーテルトラブルによる注入の中断が想定される。病態の変化には在宅医と訪問看護師が連携し,ACP に応じた対応が求められ 10 緊急時対応 表11 緊急時対応1 病態の急激な変化・事前に本人・家族の意思を重視したうえで対応を決めておく。・必要に応じて,患者宅近隣の入院対応が可能な救急医療機関を決めておく。・患者の自宅が専門医療機関の近隣であれば専門医療機関で対応するが,遠方の場合には,地域の中核病院と連携し対応する。2 ポンプやカテーテルトラブル・事前に同居者にポンプの扱いや輸液セットを観察するための指導を行っておく。・「閉塞アラーム」は指導を受けた同居者が輸液セットを観察して対応する。対応した後も鳴り続ける場合は医療者が対応する。・「気泡アラーム」「ドアオープン」は医療者の対応が好ましいが,可能であれば指導を受けた同居者が対応する。・輸液セットが破損した場合は,医療者がただちに新しい輸液セットに交換し,状態に変化がないかモニタリングする。同居者が発見した場合は医療者に連絡し,対応を依頼する。・中心静脈カテーテルなどの閉塞や抜去があり,訪問看護師が連絡を受けた場合は,管理・支援医療機関の医師と相談しながら対応する。・ポンプの異常停止を考慮し,可能であればポンプは予備を自宅に準備する。・不慮のカテーテル抜去がされた場合は,圧迫止血を同居者に指示する。
証明されていない一方で,アンジオテンシン変換酵素阻害薬に耐性があった患者が症候性低血圧または腎機能障害のために同薬を中止した場合に,予後が悪化したことが報告されています。また,β遮断薬についても,減量または中止が必要となるような患者は,継続できる患者よりも予後が悪いことが知られています。最近のレビューでも,急性非代償性心不全のため入院中の患者では,β遮断薬療法を維持した場合に良好な転帰が得られることが報告されています。よくある疑問に,陽性変力作用をきたす静注強心薬投与に対して,陰性に働く可能性のある神経体液性因子阻害薬を中止した方がよいのか,それとも,適切な血圧と腎機能を維持するために陽性変力性血行動態のサポートが必要な場合でも,神経体液性因子阻害薬を継続した方がよいのか,というものがあります。これらのことから,在宅においても薬剤投与にともなう有害事象が許容できるものであるか否かを慎重に評価し,減量・中止を検討する姿勢を持つことが望ましいものと考えられます。腎臓の効果的な自動調節には適切な血圧(平均動脈圧80 mmHg)が必要といわれています。このことは尿量が得られない際に降圧作用を持つ薬剤の減量・中止を検討する根拠となりうるものと考えられます。【参考文献】1) Kittleson M, Hurwitz S, Shah MR, et al. Development of circulatory-renal limitations to angiotensin-converting enzyme inhibitors identifies patients with severe heart failure and early mortality. J Am Coll Cardiol 2003; 41: 2029-2035. PMID: 12798577 2) Prins KW, Neill JM, Tyler JO, et al. Effects of beta-blocker withdrawal in acute decompensated heart failure. JACC Heart Fail 2015; 8: 647-653. PMID: 26251094 3) Vander AJ. Renal Physiology 5th ed. McGraw Hill, New York, 1995. p34 静注強心薬依存状態,減量離脱困難の判断は?静注強心薬は不整脈を誘発するなど予後を悪化させる可能性もあることから,その使用にあたっては漫然とした長期投与は厳に慎み,投 在宅静注強心薬持続投与中のモニタリングの必要性は?患者・家族の意思,臨床状況,地域のサポート体制により,在宅静注強心薬療法中のモニタリングをどこまで行うかは異なります。医師は医学的管理において血液検査(特に電解質モニタリング),心電図,心臓超音波検査,ホルター心電図などを適宜実施し,モニタリングをします。看護師は日々のバイタルサインや身体所見,生活状況などの情報を医師や薬剤師とも共有します。薬剤師は,強心薬以外の薬剤に関する情報も踏まえた所見を医師や看護師と共有し,チームによる総合的な判断を行います。また,植込み型心臓電気デバイス治療を受けた患者に関しては,病院と在宅医と連携し,積極的に植込み型デバイス遠隔モニタリングを行うことが望ましいでしょう。そのほか患者・家族に対して毎朝起床時の体重, 1 日1 ~2 回程度の血圧および脈拍の測定を指導し,担当医に報告するべき体重変化や血圧,脈拍の基準を定めておくのがよいと思われます。近年,腕時計型バイタルセンターなど,自宅で利用可能なモニタリングデバイスが普及しています。可能であればそのようなデバイスの活用も検討して下さい。【参考文献】1) Jordan L, Russell D, Baik D, et al. The development and implementation of a cardiac home hospice program: results of a RE-AIM analysis. Am J Hosp Palliat Care 2020; 37: 925- 935. PMID: 32421373 在宅静注強心薬持続投与中の心不全治療薬の調整は?心不全治療薬の多くは心保護薬として使用されているため,基本的には投与を継続することが望ましいものと考えられます。ただし,β遮断薬やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系薬剤など陰性変時変力作用を持つ薬剤も多くあり,徐脈や症候性低血圧,腎機能障害などが存在する場合には中止を検討する場合があります。ステージD の心不全に対するβ遮断薬やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系薬剤の役割は十分に Q&A Q1 A1 Q2 A2 Q3 A3
で,患者・家族への十分な説明により成り立つものです。患者・家族を中心にその思いを尊重するために,十分なコミュニケーションを図りつつ,多職種の医療従事者による密な連携を行い,方針を決定していく必要があります。【参考文献】1) 厚生労働省.人生の最終段階における医療の決定プロセスに 関するガイドライン.https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/ 0000197665.html 消毒やルート交換のタイミングは? 原則として1 週間に1 回を目途に,医師もしくは看護師が輸液セットの交換を実施します。刺入部については,トラブルが認められなければ同じタイミングで消毒を行います。 1)中心静脈カテーテル刺入部の消毒・ 消毒液は0.5%より高濃度のアルコール添加クロ ルへキシジンを用います。クロルへキシジンが禁忌である場合,ヨードチンキ,ヨードフォア, 70%アルコールを使用します。・ 週に1 回の消毒を基本とし,汚染が認められる場 合は適宜行います。・ 刺入部が観察できるよう,透明で半透過性のポリ ウレタン製のドレッシング材を使用します。・ 挿入直後で出血が多い場合,一時的にガーゼを使 用します。その場合は状況に応じて,おおむね2日ごとにドレッシング材を交換します。 2)中心静脈カテーテル刺入部の観察・ 刺入部に発赤・疼痛・腫脹がないか観察します。・ 患者本人や同居者にも刺入部を適宜観察し,異常 があれば医療者に報告するよう指導します。・ 患者や同居者から刺入部の異常が報告された場合 は,臨時に訪問して対応します。【参考文献】1) 米国疾病対策センター.血管内留置カテーテル由来感染の予防のためのCDC ガイドライン2011.https://www.infocdcwatch.jp/views/pdf/CDC_guideline2011.pdf 方で,減量および離脱(中止)が困難である強心薬依存状態が存在します。欧州心臓病学会ではその判断基準として,減量後72 時間以内の1症候性血圧低下,2推算糸球体濾過量(eGFR)の30%以上の低下,または肝酵素やプロトロンビン時間国際標準比(PT -INR)の上昇などの腎・肝機能障害の進行, 3うっ血の増悪によるニューヨーク心臓協会心機能分類IV 度の症状への進展や固定などが提言されています。これらの所見を認めた場合にはいったん減量を断念して減量前の投与量に戻して,不安定となっている要因(貧血,感染,不整脈など)に対して介入し,状態が安定したのちに再度の減量の可能性について検討することが望ましいものと考えられます。ただし,β遮断薬やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系薬剤の導入,増量中には,静注強心薬依存状態であるかどうかの判断は控えるべきです。 在宅静注強心薬持続投与施行中の患者における終末期医療のプロセスはどうあるべきか?在宅静注強心薬持続投与を行っている患者が最期を迎えるにあたっては,最期を自宅で迎えるのか,病院で迎えるのかを患者の意向を中心に考える必要があります。最期を迎えるにあたり,在宅静注強心薬持続投与を中止するか否かだけではなく,心肺停止時に蘇生行為を行うか否か,植込み型除細動器が装着されている場合には除細動機能を停止するか否か,貧血の際に輸血を行うか否か,などを考えることが必要です。これらを議論するにあたっては,予後を加味した治療継続のメリットと精神的,肉体的ストレスのデメリットを十分に検討し,患者・家族の希望を確認しながら,エンド・オブ・ライフのディスカッションに基づく終末期ケアの話し合いを重ねていくことが求められます。このプロセスにおいて倫理的背景,患者の判断能力なども考慮する必要があります。その判断は個々の状況に応じて,専門医・在宅医・訪 Q4 A4 Q5 A5
重症心不全患者への在宅静注強心薬持続投与指針 第1 版2024 年3 月25 日発行 編集 一般社団法人日本心不全学会,一般社団法人日本在宅医療連合学会「重症心不全患者への在宅静注強心薬持続投与指針」作成ワーキンググループ発行 一般社団法人日本心不全学会,一般社団法人日本在宅医療連合学会制作 ライフサイエンス出版株式会社〒156-0043 東京都世田谷区松原6 -8 -7電話 03-6275-1522 FAX 03-6275-1527 © 一般社団法人日本心不全学会,一般社団法人日本在宅医療連合学会