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2026 年3 月20 日発行
2024-2025 年度活動
2026 年改訂版
大型血管炎診療ガイドライン
JCS 2026 Guideline on Management of Large Vessel Vasculitis
合同研究班参加学会・研究班
日本循環器学会 日本医学放射線学会 日本眼科学会 日本胸部外科学会 日本血管外科学会
日本小児リウマチ学会 日本心臓血管外科学会 日本心臓病学会 日本腎臓学会
日本病理学会 日本脈管学会 日本リウマチ学会
厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患政策研究事業 難治性血管炎の医療水準・患者QOL 向上に資する研究班
班員
石井 智徳東北医科薬科大学東北医科薬科大学血液リウマチ科血液リウマチ科石津 明洋北海道大学大学院保健科学研究院北海道大学大学院保健科学研究院
病態解析学病態解析学
飯田 知弘上尾中央総合病院上尾中央総合病院
眼科眼科
青野 文香あけぼの会あけぼの会(高安動脈炎患者会) (高安動脈炎患者会)
大田 英揮東北大学病院東北大学病院放射線診断科放射線診断科喜古 崇豊福島県立医科大学福島県立医科大学循環器内科学講座循環器内科学講座
大河内 範子膠原病リウマチ血管炎膠原病リウマチ血管炎サポートネットワークサポートネットワーク
内田 治仁*岡山大学学術研究院医療開発領域岡山大学学術研究院医療開発領域
腎臓・糖尿病・内分泌内科腎臓・糖尿病・内分泌内科
杉原 毅彦東邦大学医学部内科学講座東邦大学医学部内科学講座
膠原病学分野膠原病学分野田村 直人順天堂大学医学部順天堂大学医学部
膠原病内科膠原病内科
重松 邦広国際医療福祉大学三田病院国際医療福祉大学三田病院
血管外科血管外科
佐田 憲映高知大学医学部医学科高知大学医学部医学科
臨床疫学講座臨床疫学講座
南木 敏宏*東邦大学医学部内科学講座東邦大学医学部内科学講座
膠原病学分野膠原病学分野新納 宏昭九州大学大学院医学研究院九州大学大学院医学研究院
医学教育学医学教育学
中野 優東京医科大学病院東京医科大学病院
心臓血管外科心臓血管外科
長坂 憲治東京科学大学東京科学大学市立青梅総合医療センター市立青梅総合医療センター
リウマチ膠原病科リウマチ膠原病科
宮前 多佳子東京女子医科大学附属東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター膠原病リウマチ痛風センター
小児リウマチ科小児リウマチ科矢嶋 宣幸昭和医科大学医学部昭和医科大学医学部内科学講座リウマチ膠原病内科学部門内科学講座リウマチ膠原病内科学部門
前嶋 康浩獨協医科大学日光医療センター獨協医科大学日光医療センター
心臓・血管・腎臓内科心臓・血管・腎臓内科
橋本 拓弥埼玉医科大学総合医療センター埼玉医科大学総合医療センター
血管外科血管外科班長
中岡 良和国立循環器病研究センター研究所国立循環器病研究センター研究所
血管生理学部血管生理学部吉藤 元京都大学大学院医学研究科京都大学大学院医学研究科
内科学講座臨床免疫学内科学講座臨床免疫学
(副班長) (副班長)渡部 芳子
川崎医科大学川崎医科大学総合臨床医学総合臨床医学(副班長) (副班長)
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外部評価委員
北岡 裕章高知大学医学部高知大学医学部老年病・循環器内科学老年病・循環器内科学
種本 和雄川崎医療福祉大学川崎医療福祉大学磯部 光章
榊原記念病院榊原記念病院天野 宏一埼玉医科大学総合医療センター埼玉医科大学総合医療センター
リウマチ・膠原病内科リウマチ・膠原病内科針谷 正祥国際医療福祉大学国際医療福祉大学リウマチ・膠原病内科学リウマチ・膠原病内科学
* ガイドライン作成に必要不可欠な人材であり,班員/ 協力員として参画したが,過去3 年間のCOI に「金額区分3/寄附講座所属」に該当する自己申告が含まれることから,ガイドラインの公正性および透明性を担保するため,ガイドライン策定に関する議決権は有しない.統括委員会,SR チーム,パネル会議メンバーは付表に記載する.
(五十音順,構成員の所属は2026 年3 月現在)
協力員
石﨑 淳愛媛大学医学部附属病院愛媛大学医学部附属病院第一内科第一内科(血液・免疫・感染症内科学) (血液・免疫・感染症内科学)石原 龍平大阪公立大学大学院医学研究科大阪公立大学大学院医学研究科
膠原病内科学膠原病内科学
有田 陽JCHO 大阪病院JCHO 大阪病院
循環器内科循環器内科
安倍 能之順天堂大学医学部順天堂大学医学部
膠原病内科膠原病内科
岩橋 徹東京医科大学東京医科大学心臓血管外科心臓血管外科上田 仁九州大学病院九州大学病院血液・腫瘍・心血管内科(第一内科)血液・腫瘍・心血管内科(第一内科)
岩田 直美あいち小児保健医療総合センターあいち小児保健医療総合センター
感染免疫科(小児科)感染免疫科(小児科)
伊藤 秀一横浜市立大学大学院医学研究科横浜市立大学大学院医学研究科
発生成育小児医療学発生成育小児医療学
鬼丸 満穂九州大学大学院医学研究院九州大学大学院医学研究院
病理病態学病理病態学門場 啓一郎京都大学大学院医学研究科京都大学大学院医学研究科
臨床免疫学臨床免疫学
大西 康博*岡山大学学術研究院医歯薬学域岡山大学学術研究院医歯薬学域
慢性腎不全総合治療学講座慢性腎不全総合治療学講座
梅澤 夏佳東京科学大学大学院医歯学総合研究科東京科学大学大学院医歯学総合研究科
膠原病・リウマチ内科膠原病・リウマチ内科
川添 麻衣東邦大学医学部内科学講座東邦大学医学部内科学講座
膠原病学分野膠原病学分野木田 節京都府立医科大学大学院医学研究科京都府立医科大学大学院医学研究科
免疫内科学免疫内科学
神山 裕二横浜市立大学大学院医学研究科横浜市立大学大学院医学研究科
発生成育小児医療学発生成育小児医療学
神谷 千津子国立循環器病研究センター国立循環器病研究センター循環器病周産期センター循環器病周産期センター
小林 一博藤田医科大学病院藤田医科大学病院
病理診断科病理診断科小林 大介新潟大学医歯学総合研究科新潟大学医歯学総合研究科
腎研究センター腎研究センター腎・膠原病内科学分野腎・膠原病内科学分野
倉田 厚東京女子医科大学東京女子医科大学
病理学病理学
木戸口 元気広島大学病院広島大学病院リウマチ・膠原病科リウマチ・膠原病科
眞田 創金沢大学附属病院金沢大学附属病院腎臓・リウマチ膠原病内科腎臓・リウマチ膠原病内科清水 優樹名古屋大学大学院医学系研究科名古屋大学大学院医学系研究科
循環器内科学循環器内科学
酒井 亮太埼玉医科大学総合医療センター埼玉医科大学総合医療センター
リウマチ・膠原病内科リウマチ・膠原病内科
酒井 良子明治薬科大学明治薬科大学公衆衛生・疫学公衆衛生・疫学
髙橋 啓東邦大学医療センター大橋病院東邦大学医療センター大橋病院
病理診断科病理診断科爲近 真也名古屋市立大学大学院医学研究科名古屋市立大学大学院医学研究科
呼吸器・免疫アレルギー内科学呼吸器・免疫アレルギー内科学
菅野 瑛梨東京女子医科大学病院東京女子医科大学病院膠原病リウマチ内科膠原病リウマチ内科
白井 剛志東北大学病院東北大学病院リウマチ膠原病内科リウマチ膠原病内科
半田 貴也神戸市立医療センター中央市民病院神戸市立医療センター中央市民病院
腎臓内科腎臓内科日和 良介京都大学大学院医学研究科京都大学大学院医学研究科
臨床免疫学臨床免疫学
西岡 典宏杏林大学医学部杏林大学医学部腎臓・リウマチ膠原病内科腎臓・リウマチ膠原病内科
中釜 瞬大阪公立大学大学院医学研究科大阪公立大学大学院医学研究科
ウイルス学分野ウイルス学分野
柳井 亮昭和医科大学医学部昭和医科大学医学部内科学講座リウマチ膠原病内科学部門内科学講座リウマチ膠原病内科学部門吉田 常恭Cedars Sinai Medical Center, Cedars Sinai Medical Center,
Kao Autoimmunity Institute Kao Autoimmunity Institute
宮脇 義亜岡山大学学術研究院医療開発領域岡山大学学術研究院医療開発領域
腎臓・糖尿病・内分泌内科腎臓・糖尿病・内分泌内科
本田 学島根大学医学部内科学講座島根大学医学部内科学講座膠原病・リウマチ内科学膠原病・リウマチ内科学渡部 龍大阪公立大学大学院医学研究科大阪公立大学大学院医学研究科
膠原病内科学膠原病内科学
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略語一覧 .................................................................................................... 6
改訂にあたって8 1. 血管炎の歴史と診療ガイドライン(CPG)作成の背景 ....................................8表1 CHCC 2012 における血管炎のカテゴリーと疾患名9
図1 CHCC 2012 における疾患分類とガイドラインで扱う疾患
10 2. CPG 作成の方針(対象疾患と手法について) ...................................... 10
表2効果の大きさの判定基準11表3推奨決定の4 要因12表4推奨の強さと定義12図2推奨の強さと方向12
3. CPG の使用法 .......................... 13図3本CPG の構成13 4. CPG の普及と改訂 ...................... 14
Part 1 診療ガイドライン(第1 章,第2 章) CQ と推奨一覧 .............................. 15
第1 章高安動脈炎(TAK) 16
図4 TAK の治療アルゴリズム16
CQ1 TAK の治療ではどのようなレジメンが有用か? ...................................... 17
CQ1-1 TAK の治療では,グルココルチコイド単独
とグルココルチコイド+トシリズマブのどちらが有用か? .................... 17 CQ1-2 TAK の治療では,グルココルチコイド+メ
トトレキサートとグルココルチコイド+ミコフェノール酸モフェチルのどちらが有用か? .............................. 21 CQ1-3 TAK の治療では,アバタセプトは有用か?
.................................. 23
第2 章巨細胞性動脈炎(GCA) 25 CQ2 GCA の治療ではどのようなレジメンが有用か? ...................................... 26図5 GCA の治療アルゴリズム25
CQ2-1 GCA の治療では,グルココルチコイド単
独とグルココルチコイド+トシリズマブのどちらが有用か? .................. 26 CQ2-2 GCA の治療では,TNF 阻害薬は有用か?
.................................. 28 CQ2-3 GCA の治療では,アバタセプトは有用
か? .............................. 31目次
p.4
CQ2-4 GCA の治療では,グルココルチコイド単
独とグルココルチコイド+メトトレキサートはどちらが有用か? .............. 33 CQ2-5 GCA の治療では,グルココルチコイドの
高用量治療は有用か? .............. 36 CQ2-6 GCA の治療では,IL-17 阻害薬は有用か?
.................................. 38
Part 2 高安動脈炎,巨細胞性動脈炎,バージャー病の基礎と臨床(第3 章~第5 章)第3 章高安動脈炎(TAK) 41 1. 疾患概念・疫学・細分類 .................. 41図6高安右人博士と花環状吻合を示す眼底所見42
図7血管病変の分布によるTAK の分類と頻度42
2. 発症機序 ................................ 42 3. 病理所見 ................................ 44図8 TAK の大動脈肉眼像,活動期44
図9 TAK の大動脈肉眼像,瘢痕期44図10 TAK の大動脈組織所見44
4. 症状 .................................... 45表5 TAK に伴う症状45
表6 TAK に伴う合併症と有症率46
5. 検査・画像所見 .......................... 46図11 TAK の画像所見47
図12 TAK のCT 所見47図13 TAK のガドリニウム造影MR angiography 所見47図14 TAK のMRI 所見47図15 TAK の18F-FDG PET-CT 所見48図16 TAK の眼底所見48
6. 診断基準 ................................ 48図17 TAK のフルオレセイン眼底造影所見49 7. 治療 .................................... 49表7 TAK の診断基準50 8. 予後 .................................... 56図18 TAK 周術期管理のまとめ56 9. 小児TAK ................................ 57
第4 章巨細胞性動脈炎(GCA) 58 1. 疾患概念・疫学・細分類・症状 ............ 58 2. 発症機序 ................................ 59 3. 病理所見 ................................ 59図19 側頭動脈の病理像1 60
図20 側頭動脈の病理像2 60図21 大動脈の病理像1 60図22 大動脈の病理像2 60
4. 検査・画像所見・眼科検査 ................ 61図23 浅側頭動脈のドップラー超音波画像(halo sign) 61
図24 ガドリニウム造影T1 強調像(冠状断)1 62図25 ガドリニウム造影T1 強調像(冠状断)2 62図26 同一患者の造影CT 63図27 GCA・PMR の18F-FDG-PET/PET-CT 63図28 GCA でみられた前部虚血性視神経症64
5. 診断・診断基準・寛解基準 ................ 64表8 GCA の分類基準(1990 年,ACR による) 65
表9 2022 年ACR/EULAR によるGCA の分類基準65
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6. 治療 .................................... 64 7. 予後 .................................... 69
第5 章バージャー病70 1. 疾患概念・疫学 .......................... 70 2. 発症機序 ................................ 70 3. 病理所見 ................................ 71表10 バージャー病の病理組織学的特徴71
図29 バージャー病の代表的な病理組織72図30 バージャー病の閉塞動脈に特徴的な病理組織像
(シェーマ図)
72 4. 症状 .................................... 71 5. 検査・画像所見 .......................... 73表11 バージャー病の身体診察73
表12 バージャー病の生理機能検査法73図31 バージャー病の動脈閉塞と側副血行路の様式74図32 バージャー病の下肢動脈血管造影所見74
6. 診断・診断基準 .......................... 74表13 バージャー病の診断基準75 7. 治療 .................................... 76 8. 予後 .................................... 77
第6 章大型血管炎診療に役立つコラム77 1. 結節性多発動脈炎(PAN) ................ 77表14 PAN の臨床症状78 2. 川崎病:乳幼児の血管炎から成人冠動脈疾患への連続体としての理解 ...................... 78 3. TAK,GCA のJPVAS 寛解基準と治療目標 .. 79表15 大型血管炎の治療原則79
図33 TAK,GCA の治療開始1 年後の治療目標達成に
向けたアルゴリズム
80 表16 TAK 寛解基準81表17 GCA 寛解基準81
4. TAK 患者と妊娠・出産 .................... 80 5. TAK に伴う肺高血圧症 .................... 82 6. 腎血管性高血圧とTAK .................... 83
第7 章市民・患者への情報提供85
付表1 班構成員 ............................................................................................ 88付表2 班構成員の利益相反(COI)に関する開示 .............................................................. 89文献........................................................................................................ 92
(無断転載を禁ずる)
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略語一覧
ABA abataceptアバタセプトACR American College of Rheumatology米国リウマチ学会ADA adalimumabアダリムマブADL activities of daily living日常生活動作ALARA As Low As Reasonably Achievable可能な限り低線量の原則ANCA antineutrophil cytoplasmic antibody抗好中球細胞質抗体AZA azathioprineアザチオプリンBNP B-type natriuretic peptide B 型ナトリウム利尿ペプチドCAA coronary artery aneurysm冠動脈瘤CABG coronary artery bypass grafting冠動脈バイパス術CD cluster of differentiation分化抗原CENTRAL Cochrane Central Register of Controlled Trialsコクラン・中央臨床試験登録CHCC Chapel Hill Consensus Conferenceチャペルヒルコンセンサス国際会議CPG clinical practice guideline診療ガイドラインCQ clinical questionクリニカルクエスチョンCRP C-reactive protein C 反応性蛋白CT computed tomographyコンピュータ断層撮影
CTZ certolizumab pegolセルトリズマブペゴル(CZP と同義) CY cyclophosphamideシクロホスファミドCyA cyclosporineシクロスポリン
CZP certolizumab pegolセルトリズマブペゴル(CTZ と同義) DC dendritic cell樹状細胞DCB drug-coated balloon薬剤溶出性バルーン
DCVAS Diagnostic and Classification Criteria for Vasculitis血管炎の診断・分類基準研究DES drug-eluting stent薬剤溶出ステントDSA digital subtraction angiographyデジタルサブトラクション血管造影
EGPA eosinophilic granulomatosis with polyangiitis好酸球性多発血管炎性肉芽腫症EMBASE Excerpta Medica dataBASE EPCR endothelial protein C receptor血管内皮細胞プロテインC 受容体
ESR erythrocyte sedimentation rate赤血球沈降速度ETN etanerceptエタネルセプト
EULAR European Alliance of Associations for Rheumatology欧州リウマチ学会EVAR endovascular aortic repair腹部大動脈ステントグラフト内挿術EVG Elastica van Giesonエラスチカ・ファン・ギーソンEVT endovascular treatment血管内治療FDG fluorodeoxyglucoseフルオロデオキシグルコースGC glucocorticoidsグルココルチコイドGCA giant cell arteritis巨細胞性動脈炎G-CSF granulocyte colonystimulating factor顆粒球コロニー刺激因子GLM golimumabゴリムマブ
GM-CSF granulocyte macrophage colony-stimulating factor顆粒球マクロファージコロニー刺激因子GPA granulomatosis with polyangiitis多発血管炎性肉芽腫症
GRADE Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation推奨の評価,開発および評価のためのグレーディングGRADEpro GDT GRADEpro Guideline Development Tool GRADE ガイドライン作成ツールGWAS genome-wide association studyゲノムワイド関連解析HE Hematoxylin-Eosinヘマトキシリン・エオジンHLA human leukocyte antigenヒト白血球抗原IFN γ interferon gamma(γ)インターフェロンガンマ(γ) IFX infliximabインフリキシマブIgG4 immunoglobulin G4免疫グロブリンG4 IL interleukinインターロイキンIVIG intravenous immunoglobulin免疫グロブリン静注療法JAK janus kinaseヤヌスキナーゼJCS Japanese Circulation Society日本循環器学会
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JPVAS Japan Research Committee of the Ministry of Health Labour and Welfare for Intractable Vasculitis厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患政策研究事業難治性血管炎の医療水準・患者QOL 向上に資する研究MAV mavrilimumabマブリリムマブMICS minimally invasive cardiac surgery低侵襲心臓手術MMF mycophenolate mofetilミコフェノール酸モフェチルMR magnetic resonance磁気共鳴MRA magnetic resonance angiography磁気共鳴血管撮影法MRI magnetic resonance imaging磁気共鳴画像法mTOR mechanistic target of rapamycinラパマイシン標的タンパク質MTX methotrexateメトトレキサートNK natural killerナチュラルキラーNNH number needed to harm NNT number needed to treat
NUDT15 nucleoside diphosphatelinked moiety X-type motif 15ヌクレオシド二リン酸結合モチーフ15 遺伝子PAN polyarteritis nodosa結節性多発動脈炎PCI percutaneous coronary intervention経皮的冠動脈インターベンションPDN prednisoneプレドニゾンPET positron emission tomography陽電子放射断層撮影PG prostaglandinプロスタグランジンPH pulmonary hypertension肺高血圧症
PMR polymyalgia rheumaticaリウマチ性多発筋痛症PSL prednisoloneプレドニゾロンPSV peak systolic velocity収縮期最高血流速度PubMed Public/Publisher MEDLINE QOL quality of life生活の質RCT randomized controlled trialランダム化比較試験RTX rituximabリツキシマブSEC secukinumabセクキヌマブSR systematic reviewシステマティックレビュー
SR-BI scavenger receptor class B type Iスカベンジャー受容体クラスB タイプI SSI surgical site infection手術部位感染TAC tacrolimusタクロリムスTAK Takayasu arteritis高安動脈炎TCZ tocilizumabトシリズマブTEVAR thoracic endovascular aortic repair胸部大動脈ステントグラフト内挿術Th T helperヘルパーT TNF tumor necrosis factor腫瘍壊死因子UC ulcerative colitis潰瘍性大腸炎UPA upadacitinibウパダシチニブUST ustekinumabウステキヌマブ
略語一覧(続き)
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改訂にあたって
1 血管炎の歴史と診療ガイドライン(CPG)作成の背景
血管炎は,血管壁に炎症を認める疾患の総称である.本疾患の概念は,1866年にKussmaulとMaierらが全身の筋痛,しびれ,蛋白尿を呈した27歳男性症例を結節性動脈周囲炎として発表したことに端緒を発する1).これが今日の結節性多発動脈炎(PAN)の発祥である.1890年にHutchinsonが初めて側頭動脈炎の症例報告を行い2),その後,Hortonらが側頭動脈炎の臨床像と病理学的特徴を報告したことで疾患概念が確立され3),これが巨細胞性動脈炎(GCA)の源流となっている.
1908年には高安右人が特異な眼底所見の花環状吻合を呈する22歳女性症例を報告した4).この報告により,後に上記疾患は大動脈とその主要分枝を主体とする血管炎であることがわかり,高安動脈炎(TAK)と呼称されるようになった.1967年に川崎富作らは冠動脈に血管炎を起こす疾患(川崎病)を小児の急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群として初めて報告した5).バージャー病(閉塞性血栓血管炎)は19世紀末から研究報告がなされ,Buergerにより多くの症例が集積され,病理学的研究が進められた6).
近年の血管炎研究・診療に大きな影響を与えたのは, 1982年のDaviesらによる抗好中球細胞質抗体(ANCA)の発見である7).1985年にWoudeらは,ANCAがWegener肉芽腫症(現在の多発血管炎性肉芽腫症[GPA])の診断や疾患活動性判定に有用であることを見出した8).ANCAの発見は血管炎研究を大きく進展させ,1994年に米国ノースカロライナ州チャペルヒルで開催されたチャペルヒルコンセンサス国際会議(CHCC)で,各血管炎の定義や主要な罹患部位による分類法(CHCC 1994)が提唱された9).また,ANCA関連血管炎という新しい概念が提唱された.本分類法はわかりやすく,世界中の医師・研究者に広く普及した.
血管炎は多臓器を障害するため,血管炎診療には多くの診療科の専門医が関与する.2007年,日本循環器学会(JCS)と厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班が中心になり合同研究班を立ち上げ(班長:尾崎承一), 2008年に「血管炎症候群の診療ガイドライン」を発刊した10).2013年には改訂版CHCC分類(CHCC 2012)が発表され,血管炎分類の変更,疾患名変更,疾患定義の修
正などが行われた(表1,図1)
11).これを踏まえて,2018
年には「血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版)」(JCS 2017GL)が刊行された(班長:磯部光章)
12).さ
らに,2023年には血管炎診療に関連する厚生労働省研究班3班(難治性血管炎に関する調査研究班,難治性腎疾患に関する調査研究班,びまん性肺疾患に関する調査研究班)合同でANCA関連血管炎の診療ガイドライン改訂が行われ「ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023」が発刊され,中小型血管炎領域の進歩を反映したガイドラインとして広く普及している13).一方,大型血管炎の領域においてはTAKおよびGCAに対して,抗インターロイキン(IL)-6受容体抗体のトシリズマブ(TCZ)が日本で2017年に追加承認され汎用されるようになり,大型血管炎の治療は大きく変容しつつある14, 15).
このような状況から,厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患政策研究事業 難治性血管炎の医療水準・患者QOL向上に資する研究班(JPVAS) (研究代表者:田村直人)が中心となり,同班の大型血管炎臨床分科会(分科会長:中岡良和)が主な調査研究の対象とするTAK,GCA,バージャー病の3疾患に焦点を当てて,JCSと厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班を主体とする合同研究班を立ち上げ(班長:中岡良和),日本リウマチ学会,日本腎臓学会など複数の学会の協力を得て,「血管炎症候群のガイドライン」の改訂を8年ぶりに行うこととなった.
本CPGの目的は,わが国の大型血管炎の診療レベルを標準化し,日本全国どこにおいても患者が同じような治療を受けられるようにすること,患者の生活の質(QOL)と予後を改善させることである.CPGの利用者は,大型血管炎の診療に関わる医師,医療専門職および大型血管炎の患者を想定している.
本CPGのタイトルは対象疾患を上記3疾患に絞ったことに基づき,「大型血管炎診療ガイドライン」に変更した(図1) 11).中型血管炎である結節性多発動脈炎(PAN)と川崎病は,循環器内科医が臨床現場で遭遇する可能性のある疾患であるが,「ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023」13)で記載がなされていないことを踏まえて,第6章
p.9
表1 CHCC 2012 における血管炎のカテゴリーと疾患名
CHCC2012 原文日本語訳
Large vessel vasculitis, LVV大型血管炎Takayasu arteritis, TAK高安動脈炎* Giant cell arteritis, GCA巨細胞性動脈炎* Medium vessel vasculitis, MVV中型血管炎Polyarteritis nodosa, PAN結節性多発動脈炎* Kawasaki disease, KD川崎病* Small vessel vasculitis, SVV小型血管炎Antineutrophil cytoplasmic antibody (ANCA)-associated
vasculitis, AAV抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎Microscopic polyangiitis, MPA顕微鏡的多発血管炎Granulomatosis with polyangiitis (Wegener’s), GPA多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症) Eosinophilic granulomatosis with polyangiitis, EGPA好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Churg-Strauss症候群) Immune complex SVV免疫複合体性小型血管炎Anti-glomerular basement membrane (anti-GBM) disease抗糸球体基底膜抗体病(抗GBM病) Cryoglobulinemic vasculitis, CVクリオグロブリン血症性血管炎IgA vasculitis (Henoch-Schönlein), IgAV IgA血管炎(Henoch-Schönlein紫斑病) Hypocomplementemic urticarial vasculitis, HUV (anti-C1q
vasculitis)低補体血症性蕁麻疹様血管炎(抗C1q血管炎) Variable vessel vasculitis, VVV多様な血管を侵す血管炎Behçet’s disease, BD Behçet’s病Cogan’s syndrome, CS Cogan症候群Single-organ vasculitis, SOV単一臓器血管炎Cutaneous leukocytoclastic angiitis皮膚白血球破砕性血管炎Cutaneous arteritis皮膚動脈炎Primary central nervous system vasculitis原発性中枢神経系血管炎Isolated aortitis限局性大動脈炎Vasculitis associated with systemic disease全身性疾患関連血管炎Lupus vasculitisループス血管炎Rheumatoid vasculitisリウマトイド血管炎Sarcoid vasculitisサルコイド血管炎Vasculitis associated with probable etiology推定病因を有する血管炎Hepatitis C virus-associated cryoglobulinemic vasculitis C型肝炎ウイルス関連クリオグロブリン血症性血管炎Hepatitis B virus-associated vasculitis B型肝炎ウイルス関連血管炎Syphilis-associated aortitis梅毒関連大動脈炎Drug-associated immune complex vasculitis薬剤関連免疫複合体性血管炎Drug-associated ANCA-associated vasculitis薬剤関連ANCA関連血管炎Cancer-associated vasculitisがん関連血管炎*本CPGで扱う疾患(Jennette JC, et al. 2013 11)より改変) Reproduced with permission of John Wiley & Sons, Inc. Copyright (2013) American College of Rheumatology.
p.10
で取り上げている(図1 11),第6章1.,第6章2.を参照).
本CPGは,大型血管炎に関して,わが国で初めて最新の臨床研究・臨床研究を含めたシステマティック・レビュー(SR)を行い,GRADEシステムによるエビデンスに基づいた治療推奨を記載したPart 1と,総説的にわかりやすく診療の現況などを取り入れて臨床に役立つ知見を記載したPart 2 で構成した.本CPGを身近に置いて,大型血管炎の診療と研究に役立てていただきたい.
2 CPG作成の方針(対象疾患と手法について)
2.1 対象疾患
原発性血管炎は一般にCHCC 2012分類11)を用いて表記され,罹患血管サイズに基づいて,大型血管炎,中型血管炎,小型血管炎に分類される.中型・小型血管炎のなかでもANCA関連血管炎については「ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023」13)が,結節性多発動脈炎およびリウマトイド血管炎は,厚生労働省難治性血管炎研究班によりGRADEシステムで作成された「抗リン脂質抗体症候群・好酸球性多発血管炎性肉芽腫症・結節性多発動脈炎・リ
ウマトイド血管炎の治療の手引き2020」16)がMindsガイドラインライブラリで一般公開されている17).これらのCPGを考慮し,前回のJCS 2017GLでは大型・中型・小型血管炎を対象としたが,今回は大型血管炎のみを対象とした.
大型血管は大動脈とその主要分枝およびこれに対応する静脈と定義され,大型血管炎にはTAKとGCAが含まれる(図1)
11).一方,バージャー病はCHCC 2012分類には記載されていないが,JCS 2017GLの対象範囲としているため,本CPGはJCS 2017GLに倣い,大型血管炎の2疾患およびバージャー病を対象疾患とした(図1)
11).
2.2 CPGの作成手法と構成
MindsはCPGを「健康に関する重要な課題について,医療利用者と提供者の意思決定を支援するために,SRによりエビデンス総体を評価し,益と害のバランスを勘案して,最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義している18). CPGは標準化された手法を用いた系統的な作成と一定の
図1 CHCC 2012 における疾患分類とガイドラインで扱う疾患(Jennette JC, et al. 2013
11)を参考に作図) CHCC 2012では血管炎を血管のサイズに基づいて分類する11).大型血管炎はTAKとGCAからなり,本ガイドラインの対象疾患はこの2疾患にバージャー病を加えた3疾患である.本CPGではTAKとGCAの治療に関してはSRを施行したことが特徴である.ANCA関連血管炎については「ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023」で詳説されているので参照されたい13).PANと川崎病は「ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023」で扱われていないが,本CPGの第6章1.と2.でそれぞれ概説している.
免疫複合体型小型血管炎クリオグロブリン血症性血管炎(CV) IgA血管炎低補体血症性蕁麻疹様血管炎(抗-C1q血管炎)
本ガイドラインの対象疾患ANCA関連血管炎顕微鏡的多発血管炎(MPA)多発血管炎性肉芽腫症(GPA)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)
結節性多発動脈炎(PAN)川崎病抗糸球体基底膜抗体病
(抗GBM病)
小型血管炎
中型血管炎
高安動脈炎(TAK)巨細胞性動脈炎(GCA)
大型血管炎+バージャー病
p.11
品質管理が重要であり,GRADEシステムあるいはMindsの手法での作成が提唱されている.今回,TAK,GCAについては初めてGRADEシステムを採用することとした.本CPGではGRADEシステムで作成した推奨およびその解説をPart 1に記載し,各疾患の診断と治療に必要な多岐にわたる情報をPart 2で提供した.一方,バージャー病はランダム化比較試験(RCT)がなくこれらの手法を用いた推奨作成ができないため,従来の解説・レビュー形式を採用しPart 2に収載した.
2.3 クリニカルクエスチョン(CQ)および推奨の作成手順
本CPGの作成体制として,全体を統括する統括委員会を設けた.統括委員会は前述の基本方針を決定するとともに,SRチーム,パネル会議を組織した.CQおよび推奨が決定するまでの概要は以下のとおりである.
統括委員会における重要臨床課題とアウトカムの予備検討の後,パネル会議では本疾患の診療にかかわる各領域の専門家と患者代表(2名)からなるパネリストが,重要臨床課題,アウトカムの重要性の決定とCQの選定を行った.重要臨床課題として「TAKの治療」,「GCAの治療」をあげた.患者にとって重要なアウトカムを「重大」(9~7点),「重要」(6~4点),「重要ではない」(3~1点)とし,「重大」「重要」なアウトカムについてはSRで評価することとした.パネリストはアウトカムの重要性について検討後,投票にて平均値・中央値を算出した.その結果,「重大なアウトカム」として「死亡」,「寛解」,「再燃」,「重篤な有害事象」,「手術(外科手術,血管内治療[EVT]を含む)を必要とする動脈関連病変」,「重要なアウトカム」として「重篤な感染症」,「患者QOL(Short Form 36-Item Health Survey: SF-36)」を採用した.続いてPICO(population, intervention, comparison, outcome)を考慮しCQを決定した. CQの決定後,独立したSRチームのもとでSRを行った.
作業に先だちコクランジャパンによるSR勉強会を実施し,メンバーはSRの遂行に必要とされる知識を習得した.2名1組からなるSRチームが各CQのSRを分担した.採用論文はRCTのみとし,検索対象データベースはPubMed, CENTRAL,EMBASE,医中誌,検索期間は2024年3月31日以前とした.検索対象文献は言語の制限は設けずすべての言語の文献を対象とした.不足する情報は必要に応じて著者へ問い合わせを行った.検索式の構築,文献検索に続いて一次スクリーニング,二次スクリーニングと進め,引用文献についてはコクランのバイアスリスク評価ツール(第2版) (RoB2)を用いてバイアスのリスク評価を行った. Cochrane’s Review Manager (RevMan) 19)およびGRADEガイドライン作成ツール(GRADEpro GDT) 20)にて評価し,結果をパネル会議に提出した.
エビデンスの確実性はGRADE working groupの提唱する方法(GRADEシステム)に従って評価した21).グレードを下げる5 つの要因として,1バイアスのリスク(risk of bias),2非一貫性(inconsistency),3非直接性(indirectness),4不精確さ(imprecision),5その他(other considerations)を評価した.不精確さに関して効果推定値の95%信頼区間(CI)が表2の基準を1つまたぐ場合は1段階,2 つ以上またぐ場合は2段階グレードダウンした.またがない場合には二値アウトカムでは最適情報量(optimal information size: OIS)の基準,連続アウトカムでは総サンプル数400以上を満たさない場合に1つダウングレードとした.
SR終了後にパネル会議が開催された.パネリストはSR結果に基づいて作成したEvidence to Decision テーブルを用いて推奨を決定する4つの要因(表3)
13, 21)を包括的に検
討し,推奨を決定した.討議と全員の承認による合意形成
表2効果の大きさの判定基準
アウトカム小さい効果中等度の効果大きい効果死亡±5 per 1000 ±12.5 per 1000 ±20 per 1000寛解±50 per 1000 ±125 per 1000 ±200 per 1000再燃±50 per 1000 ±125 per 1000 ±200 per 1000重篤な有害事象±20 per 1000 ±50 per 1000 ±80 per 1000手術を必要とする動脈関連病変±20 per 1000 ±50 per 1000 ±80 per 1000重篤な感染症±20 per 1000 ±50 per 1000 ±80 per 1000患者QOL ±MIDあるいはSMD=±0.2 ±MID×2.5あるいはSMD=±0.5 ±MID×4あるいはSMD=±0.8 MID: minimal important difference(最小重要差),SMD: standardized mean difference(標準化平均差)
p.12
とし,すべての推奨文が確定した後に,推奨文に対する同意度を調査した.推奨には「推奨の方向」「推奨の強さ」「エビデンスの確実性」の3つの要素があり,その組み合わせで表現される.「推奨の強さ」に関して本CPGでは,強い推奨を「推奨する」,弱い推奨を「提案する」と表現し,「エビデンスの確実性」については,前述のとおり効果推定値の確実性が高いほうから,「高」,「中」,「低」,「非常に低」とした.「推奨の強さ」とその定義を表4 13, 18, 21)に示す.な
お,推奨の強さ,エビデンスの確実性は連続体であることに注意されたい(図2)
13).
最終的に決定した推奨文について投票を行い,同意度を1~9点で点数をつけ,その平均値を算出した.投票前に,「1回目の投票で7点以上が70%以上の場合は合意が得られたと判断する」ことを決定した.また,「1回目で70%未
図2推奨の強さと方向(針谷正祥ほか.2023 13)を参考に作図)
行わないことを
強く推奨行わないことを
弱く推奨する(提案する)両者を弱く推奨する(提案する)行うことを弱く推奨する(提案する)行うことを強く推奨する
表3推奨決定の4 要因
要因説明
アウトカム全般にわたる全体的なエビデンスの確実性エビデンスの確実性が高いほど,推奨に確実性が増す利益と害のバランス利益との差が大きいほど,推奨の強さが強くなる可能性が高い患者の価値観や意向のばらつき価値観や意向のばらつきが少ないほど強く推奨できる資源(コストやリソース)必要とするコストが低く,リソースが少ないほど強く推奨できる(針谷正祥ほか.2023 13),GRADE Handbook 21)を参考に作表)
表4推奨の強さと定義
推奨の強さ表現定義説明
強い推奨~する/ ~しないことを推奨する介入による望ましい効果(利益)が望ましくない効果(害・負担・コスト)を上回る(~介入することを推奨),または下回る(~介入しないことを推奨)確実性が高い明確な根拠がない限り,ほとんどの環境でほぼ全員の患者が行うべき治療である
弱い推奨~する/ ~しないことを提案する介入による望ましい効果(利益)が望ましくない効果(害・負担・コスト)をおそらく上回る(~介入することを提案),または下回る(~介入しないことを提案)確実性が低い推奨の内容に従うことが提案されるが,実際の判断は現場の状況や患者の価値観に応じて決めるべきであり,推奨に反する判断をすることも許容される
いずれも提案する介入による望ましい効果(利益)が望ましくない効果(害・負担・コスト)を上回るとはいえない,または下回るとはいえない実際の判断は現場の状況や患者の価値観に応じて決めるべきであり,いずれの選択肢を用いることも許容される
(針谷正祥ほか.2023 13),Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 18),GRADE Handbook 21)を参考に作表)
p.13
満となったCQは修正文を見直して2回目の投票で3分の2以上にて合意形成する」としたが,1回目の投票ですべてのCQで7点以上が70%を超えた.推奨文の決定と同時に治療のアルゴリズムも改訂し,各推奨の解説を加えてCPGのPart 1を完成した.これらの手順は「ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023」13)に準じて進めた.
解説・レビュー形式からなるPart 2の作成のため,編集委員会を組織し,執筆項目と執筆者の決定と原稿の校正を行った.
2.4 外部評価
大型血管炎の診療・研究およびCPG作成に精通した5名の外部評価委員による「診療ガイドライン」(Part 1)のCQと推奨および「高安動脈炎,巨細胞性動脈炎,バージャー病の基礎と臨床」(Part 2)の査読を受けた.治療アルゴリズムの解釈,CQ2-5の付記内容,第6章4(TAK患者と妊娠・出産)におけるリスクの追記と回避対策など,多岐にわたる指摘があり各々修正・追記を行った.推奨の方向性・強さに関する指摘はなかった.外部評価および対応を「補足資料」としてまとめた.
2.5 CPGの作成資金とCOIの管理
JCSガイドライン委員会より規定に基づいて研究費が支給された.COIは日本医学会ガイダンスの規定に準拠して, JCSで管理された22).COIの基準に抵触する場合(金額区分3以上/寄附講座所属の申告がある場合)には,ガイドラインの推奨策定に関する議決権の行使はしないこととした.なお,ガイドライン作成組織構成員のCOIは巻末の付表に掲載した.
3 CPGの使用法
本CPGの対象疾患は,大型血管炎であるTAKとGCAに加え,国際的な血管炎分類には含まれないものの,末梢動脈疾患としてわが国において指定難病とされているバージャー病の3疾患である.この3疾患以外は本CPGでは原
則扱っていない.
次に,治療法を検討している疾患と本CPGで利用できる部分を確認されたい.TAKとGCAの治療の場合,本CPGで利用できる部分は「診療ガイドライン」(Part 1)のCQと推奨および「高安動脈炎,巨細胞性動脈炎,バージャー病の基礎と臨床」(Part 2)である.バージャー病の場合,本CPGで利用できる部分は「高安動脈炎,巨細胞性動脈炎,バージャー病の基礎と臨床」(Part 2)のみとなる(図3).
実際に使用される前に,以下の注意点をご確認いただきたい. ⚫ 本CPGは血管炎の専門医を主な利用者と想定している
が,血管炎診療にかかわる医療従事者や患者さんとその家族の方にも利用可能である.しかし,医療従事者以外の方には専門的な内容が多く含まれることをご理解いただきたい. ⚫ 本CPGは実際の治療を束縛するものではない.大型血
管炎の治療に精通した専門医や治療経験が豊富な医師は,CPGの推奨,提案とは異なる治療を行うことがある.また,CPGで示されているものは一般的な治療方法であり,必ずしも個々の患者さんの状況に当てはまるとは限らない.よって,臨床現場における最終的な判断は,主治医と患者さんが協働で行うものであることをご理解いただきたい. ⚫ 大型血管炎の診療経験,あるいは推奨される薬剤の使用
経験が少ない医師は,それらの経験が豊富な医師に可能であれば相談いただきたい.また,大型血管炎は多臓器病変を伴うため,各領域の専門医による集学的治療を必要とする. ⚫ 本CPGは保険適用外の薬剤についても記載している.
図3本CPG の構成バージャー病
本CPGの対象疾患高安動脈炎(TAK)巨細胞性動脈炎(GCA)
バージャー病高安動脈炎(TAK)巨細胞性動脈炎(GCA)
・高安動脈炎,巨細胞性動脈炎,バージャー病の基礎と臨床(Part 2)
本CPGで利用できる部分
・CQ と推奨(Part 1)・高安動脈炎,巨細胞性動脈炎,バージャー病の基礎と臨床(Part 2)
p.14
しかし,保険適用外の薬剤・治療は,一般には推奨できない.そのため,推奨および解説文では保険適用外であることを明記した.なお,本文中に示した薬価は2025年4月時のものである. ⚫ 本CPGは臨床現場で医師や患者さんが,適切な判断や
決断を下せるよう支援する目的で作成された.その目的から逸脱する医事紛争や医療裁判の資料としての利用はご遠慮いただきたい.
4 CPGの普及と改訂
4.1 CPGの利用の促進と阻害要因
CPGは広く普及させる必要がある.本CPGは,JPVAS, Mindsなどのウェブサイトでの公開も予定しており,また学会,研究会,講演会の開催などを通じて本CPGの利用を促進していく.
JPVASが行ったアンケート調査において,70%の医師がJCS 2017GLを実際に利用していることがわかった23).一方で,CPGによる推奨が実施されない,いわゆる「エビデンスプラクティス・ギャップ」が存在し,それは治療医のサブスペシャリティによって異なることが,ANCA関連血管炎の診療ガイドラインに関するアンケート調査で明らかとなっている24).
CPGには海外の研究が多く引用されていることが,実践との乖離を生んでいるとされ,わが国からのエビデンスが多く発信されることで,この要因を克服できると考えられる.
本改訂では,経験的な治療の実施や,海外CPGの利用への偏りといった,ガイドライン利用の阻害要因を軽減す
べく,関係各科の参加により各診療の実態を勘案し,海外のCPGにも配慮した内容となっている.
4.2 CPGのモニタリングと監査
本CPGの発行後,JPVASはモニタリングとして,専門医・非専門医を対象とするアンケート調査を行う予定である.基準として,本CPGの浸透度・利用状況,各推奨の遵守状況,各推奨のエビデンスプラクティスギャップとその理由,があげられる.
一方,本CPGを用いた診療内容の質を評価するための監査基準として,以下の医療の質指標(QI)を設定し評価に用いる.
1治療に用いる薬剤の種類および用法・用量2初期段階における治療目標(寛解)達成3 治療1年後の寛解維持かつグルココルチコイド(GC)
投与量基準値達成4免疫抑制薬関連副作用の頻度・重症度なお,寛解およびGC基準量は第6章3.(TAK,GCAのJPVAS寛解基準と治療目標)を参照されたい.これらの基準は今後の研究・検討によって改善・修正される可能性がある.多施設共同コホート研究などからデータを収集し,診療内容の質の変化を評価していく.
4.3 CPGの改訂手続き
JCSガイドライン委員会およびJPVASは,5年を目途に改訂の必要性について審議し決定する.また,新たなエビデンスの発表に応じてアップデートする.
p.15
Part 1 (第1章,第2章)
診療ガイドライン
CQ と推奨一覧
推奨の強さエビデンス
の確実性同意度*
平均(SD) 7 以上(%),最少
CQ1 TAK の治療ではどのようなレジメンが有用か?
CQ1-1 TAKの治療では,グルココルチコイド単独とグルココルチコイド+トシリズマブのどちらが有用か?
推奨)TAKの再燃時の治療では,グルココルチコイド単独よりも,グルココルチコイド+トシリズマブを提案する.付記:十分量のグルココルチコイドを併用する.トシリズマブは皮下注射で投与する.弱い非常に低8.27(0.75) 100,7
CQ1-2 TAKの治療では,グルココルチコイド+メトトレキサートとグルココルチコイド+ミコフェノール酸モフェチルのどちらが有用か?
推奨)TAKの治療では,グルココルチコイド+ミコフェノール酸モフェチルよりもグルココルチコイド+メトトレキサートを提案する.弱い非常に低8.09(0.79) 100,7
CQ1-3 TAKの治療では,アバタセプトは有用か?
推奨)TAKの治療では,グルココルチコイドにアバタセプトを併用しないことを推奨する.強い低8.36(0.77) 100,7
CQ2 GCA の治療ではどのようなレジメンが有用か?
CQ2-1 GCAの治療では,グルココルチコイド単独とグルココルチコイド+トシリズマブのどちらが有用か?
推奨)GCAの治療では,グルココルチコイド単独よりもグルココルチコイド+トシリズマブを提案する.付記:トシリズマブは皮下注射で投与する.弱い非常に低8.36(0.64) 100,7
CQ2-2 GCAの治療では,TNF阻害薬は有用か?
推奨)GCAの治療では,TNF阻害薬を投与しないことを提案する.弱い非常に低7.91(0.79) 100,7
CQ2-3 GCAの治療では,アバタセプトは有用か?
推奨)GCAの治療では,グルココルチコイド単独よりもグルココルチコイド+アバタセプトを提案する.弱い低7.73(0.86) 91,6
CQ2-4 GCAの治療では,グルココルチコイド単独とグルココルチコイド+メトトレキサートはどちらが有用か?
推奨)GCAの治療では,グルココルチコイド単独よりもグルココルチコイド+メトトレキサートを提案する.弱い非常に低7.91(1.08) 91,5
CQ2-5 GCA の治療では,グルココルチコイドの高用量治療は有用か?
CQ2-5-1 GCAの治療では,グルココルチコイド大量静注療法(GCパルス療法)は有用か?
推奨)新規発症のGCAの治療では,グルココルチコイド大量静注療法(GCパルス療法)を併用することを提案する.付記:急激に眼症状,神経症状が出現した症例において考慮する.それ以外の場合で,特に高齢者で感染症などのリスクが懸念される場合には,併用しないことも考慮する.弱い非常に低8.27(0.75) 100,7
CQ2-5-2 GCAの治療では,高用量グルココルチコイドと中等量グルココルチコイドのどちらが有用か?
推奨)新規発症のGCAの治療でグルココルチコイド大量静注療法(GCパルス療法)後に開始するグルココルチコイドの投与量は,高用量と中等量のいずれも提案する.弱い非常に低7.64(0.88) 91,6
CQ2-6 GCAの治療では,IL-17阻害薬は有用か?
推奨)GCAの治療では,セクキヌマブを投与しないことを提案する.弱い非常に低7.64(1.07) 91,5 *1~9点で同意度を評価し,その平均値を算出.7点以上が70%以上で合意と判定.
p.16
第1章 高安動脈炎(TAK)
TAKの診断
疾患活動性の評価
GCを早急に減量をする必要がある場合*1
GC+TCZ GC単独*3
GC漸減
1年後のGCをPSL換算で10 mg/日以下を目標に漸減する*7再燃
治療目標:1年後の寛解達成と寛解維持
再燃
疾患活動性の評価
GC+MTX (保険適用なし) (CQ1-2)
GC*4+TCZ*5
(CQ1-1) GC単独*4 GC*4+TNF阻害薬*6
(保険適用なし) GC*4+MTX (保険適用なし) GC*4+MMF (保険適用なし)
GC+MMF (保険適用なし) (CQ1-2)
MTX/MMFの併用が適切と判断される場合*2 MMFのほうが適切と判断される場合
TCZ以外のほうが適切と判断される場合
MMFのほうが適切と判断される場合
*1 GC関連の副作用の軽減が必要な場合,心臓血管外科関連などの手術を行うためのGC減量が早急に必要な場合1). *2 初発TAKに対するGC単独とGC+MTX/MMFを比較した研究はない(CQ1-2参照).GC単独での再燃率が高いことを考慮し,専門医の裁量
でMTX/MMFの併用を考慮してよい. *3 PSL換算で0.5~1 mg/kg/日を開始. *4 GCの増量を考慮すること. *5 再燃例ではTCZを考慮するが,使用する場合は安全性に十分に配慮する. *6 JSC 2017GLからエキスパートオピニオンとして腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬を採用した(第3章7.2.2を参照).その他にAZA,CY,TACま
たはCyA(保険適用なし)があげられる. *7 GC減量は,自覚症状,画像検査所見などを踏まえて疾患活動性を評価し,注意深く行うこと(第3章7.1.1.d.を参照).図4 TAK の治療アルゴリズム図には一般的な治療法を示してあり,個々の患者の状況に必ずしも当てはまるとは限らない.実線矢印,黄四角は,本CPGの推奨文で推奨・提案した治療またはその代替治療の流れを示す.再燃では太い矢印に沿った治療を最初に考慮する.点線矢印はそれ以外の治療の流れを示す.寛解の定義は疾患活動性に関する症状,徴候の消失+画像所見で活動性所見なし+CRP基準値範囲内,1年後のGCがPSL換算で10 mg/日以下.治療開始1年後に寛解に達した場合,その後GCの漸減を考慮する.詳細は第6章3.を参照.
p.17
1 Arita Y, Asano R, Ueda J, et al. Perioperative Management of
Takayasu Arteritis for Cardiac Surgery - Review and Single-Center
文献
Experience. Circ J 2025; 89: 1849-1856. PMID: 39523007
CQ1 TAKの治療ではどのようなレジメンが有用か?
1 背景
TAK患者では,罹病期間が長くなると脳虚血,視力障害,大動脈弁閉鎖不全症,大動脈瘤といった臓器合併症の保有率が上昇する1).GC単独や保存療法で加療された日本人患者120人の長期予後報告では,15年生存率は主要合併症(高安網膜症,高血圧,大動脈弁閉鎖不全症,動脈瘤)がある場合は66%,進行性経過の場合は68%,両方を有する場合は43%と,予後不良であった2).また,従来の免疫抑制薬で加療された日本人患者96人を中央値56ヵ月追跡した報告では,57人(59.4%)に再燃が認められた3).別の新規発症日本人患者129人の追跡でも,PSL 10 mg/日以下の投与で寛解状態にあったのは1年で51人(39.5%), 2年で33人(25.6%)であった4).このように,十分な効果を得られる治療薬がない現状において,TCZはわが国において保険が適用される唯一の生物学的製剤であり,その有効性・安全性を多角的に評価することの意義は大きい.
2 エビデンスの要約
TCZに関するSRの結果,再燃に対してGC増量で寛解を達成した患者にGC+プラセボとGC+TCZ皮下注射製剤を比較した1件(日本,多施設二重盲検,36人,追跡最大1年)のランダム化比較試験(RCT) 5)(CQ1-1-1)と,疾患活動性のある患者に対してGC+MTX+TCZ点滴静注製剤とGC+MTX+TNF阻害薬(アダリムマブ[ADA])皮下注射製剤)を比較した1件(中国,単施設オープンラ
解説ベル,40人,追跡1年)のRCT 6)(CQ1-1-2)が採用された.
CQ1-1-2は「GC単独とGC+TCZのどちらが有用か」の範
疇には属さないが,新たなCQを立てず,TCZに関連した事項としてCQ1-1に含めた.
CQ1-1-1に関しては,SRで採用した重大なアウトカムと
して,寛解,再燃,死亡,重篤な有害事象の発現,重要なアウトカムとして重篤な感染症の発現について評価した. CQ1-1-1で採用したRCTでは,PSL換算で少なくとも0.2 mg/kgのGCを投与中に再燃したTAKが対象で,再燃に対してGCが再燃時の投与量の少なくとも2倍に増量され寛解に達成した後に,GC+プラセボとGC+TCZ皮下注に割り付けられた.GC+プラセボとGC+TCZ皮下注との比較5)では,望ましい効果の重大なアウトカムである再燃について,TCZ皮下注の効果推定値は1000人あたり165人減少(373人減少~226人増加),NNTは6で優れた傾向にあった.寛解についての評価は行われていないが, 24週目における推定無再燃率に関するTCZ皮下注の効果推定値は,1000人あたり215人減少(150人減少~500人増加),NNTは4.65であった.
追加的考察として,再燃までの期間に関するハザード比はITT解析では0.41(95.41%CI:0.15~1.10;P=0.0596)で有意差はなかったが,per-protocol 解析では0.34 (95.41%CI:0.11~1.00;P=0.0345)で,P<0.05 であった.望ましくない効果の重大なアウトカムである重篤な有害事象について,TCZ皮下注の効果推定値は1000人あた
TAKの再燃時の治療では,グルココルチコイド単独よりも,グルココルチコイド+トシリズマブを提案する.付記:十分量のグルココルチコイドを併用する.トシリズマブは皮下注射で投与する. (推奨の強さ:弱い,エビデンスの確実性:非常に低,同意度:8.27) CQ1-1-1 TAKの治療では,GC単独とGC+TCZのどちらが有用か? CQ1-1-2 TAKの治療では,GC+MTX+TCZとGC+MTX+TNF阻害薬のどちらが有用か?
CQ 1-1 TAKの治療では,グルココルチコイド単独とグルココルチコイド+トシリズマブのどちらが有用か?
推奨
p.18
り55人減少(105人減少~449人増加),NNTは18.2であった.死亡と重篤な感染症の発生は両群とも認められなかった.サブグループ解析では,性別,ランダム化時のGC用量,罹病期間,ヒト白血球抗原-B*52(HLA-B*52)の有無にかかわらず,また,疾患修飾性抗リウマチ薬(disease modifying anti rheumatic drugs: DMARDs)/免疫抑制薬治療を受けたことのある患者においても,TCZの優位性が示された.パネル会議では,これらの追加的考察も踏まえてGC+TCZ皮下注の望ましい効果は「中」,望ましくない効果は「わずか」と判断した.
CQ1-1-2で採用した中国の単施設オープンラベル試験に
関しては,SRで採用した重大なアウトカムとして,再燃,重篤な有害事象の発現,重要なアウトカムとして患者QOL,重篤な感染症の発現について評価した.GC+ MTX+TCZ点滴静注とGC+MTX+ADA皮下注との比較6)では,望ましくない効果の重大なアウトカムである再燃(12ヵ月目)に関するTCZ点滴静注の効果推定値は, 1000人あたり11人(79人減少~580人増加)とわずかに増加,NNHは90.9であった.望ましい効果の患者QOLに関してはTCZ点滴静注のほうがやや優れる方向にあった.望ましくない効果の重大なアウトカムである重篤な有害事象(12ヵ月目)に関するTCZ点滴の効果推定値は,1000人あたり43人減少(90人減少~440人増加),NNTは23.3で1人の重篤な有害事象が減少した.
追加的考察として,本試験では,6ヵ月時点でPSL 15 mg/日まで減量を達成できTAKの疾患活動性が消失している患者の割合を比較しており,TCZ点滴静注の効果推定値は1000人あたり334人減少(523人減少~26人減少), NNHは2.99であった.
また,本試験では重要なアウトカムである重篤な感染症の発現を評価していないが,12ヵ月時点の重症感染症を評価しており,TCZ点滴静注の効果推定値は1000人あたり131人増加(98人減少~729人増加),NNHは7.6であった.すなわち,GC+MTX+TCZ点滴静注とGC+MTX+ ADA皮下注は,重大なアウトカムである再燃に関してその効果の差はわずかで,患者QOLと重篤な有害事象に関してはTCZ点滴静注のほうがやや優れる方向にあった.重症な感染症の発現に関しては,TCZ点滴静注のほうがADA皮下注よりやや劣る傾向にあった.重大なアウトカムである寛解については,本試験から評価することは困難であった.
追加的考察として,多施設合同後方視的研究で,TCZ点滴静注とTCZ皮下注の効果は差がないとの報告がある7).加えて,観察研究を主としたメタ解析の結果ではTCZと腫瘍壊死因子α(TNFα)阻害薬の効果は同等であるとの報告もある8).これらを踏まえて,パネル会議ではGC
+MTX+ADA皮下注と比較してGC+MTX+TCZの望ましい効果と望ましくない効果は,さまざまと判断した.
3 パネル会議
3.1 アウトカム全般に関するエビデンスの確実性はどうか?
GC単独療法とGC+TCZ皮下注のRCTにおいては,試験デザイン上,再燃患者の観察期間が短縮されるため,再燃,重篤な有害事象,重篤な感染症の発現についてバイアスのリスクがグレードダウンされ,各アウトカムについては症例数が少なく不精確さがグレードダウンされた.その結果,寛解と重篤な感染症発現のエビデンスの確実性は「低」,再燃と重篤な有害事象は「非常に低」,死亡は「中」であった.重大なアウトカムに対する介入の効果は,患者にとって望ましい効果が中程度に増加し,望ましくない効果はわずかと判断したことから,患者にとっての効果の方向は重大なアウトカム間で同じ方向であった.しかしながら,採用された臨床試験は1件であり,アウトカム全般のエビデンスの確実性は最も低いものを採用し,「非常に低」とした.
GC+MTX+TCZ点滴静注とGC+MTX+ADA皮下注とのRCTにおいては,再燃,重篤な有害事象,重症な感染症,患者QOLについて,単施設で実施され評価時期が前もって計画されておらず,評価指標にばらつきがあり,後から恣意的に決めた可能性があるためバイアスのリスクは深刻,症例数が少ないことに加え不精確さは深刻,すべてのアウトカムで確実性は「非常に低」であった.また本研究で実施された「6ヵ月時点でPSL 15 mg/日まで減量を達成できTAKの疾患活動性が消失している患者の割合」についてはプロトコールに定められておらず,恣意的に決められた指標である可能性を考慮し,寛解の代替アウトカムにならないと考えた.
3.2 利益と害のバランスはどうか?
GC単独療法とGC+TCZ皮下注のRCTでは,GC+ TCZ皮下注は望ましい効果について,重大なアウトカムである再燃と寛解の代替アウトカムとして評価した24週目における推定無再発率は,ともにGC単独療法よりも優れた傾向を示した.また,追加的考察として,再燃までの期間はTCZ皮下注のほうが長く,サブグループ解析では,性別,ランダム化時のGC用量,罹病期間,HLA-B*52の有無にかかわらず,また,DMARDs/免疫抑制薬治療を受けたことのある患者においても,TCZの優位性が示された.これらを踏まえ,GC+TCZ皮下注の望ましい効果は「中」とした.望ましくない効果については,GC+TCZ皮下注はGC 単独療法と比較して,重大なアウトカムである重篤な有害事象を抑制する傾向であった.死亡と重篤な感染症
p.19
は両群で認められなかった.以上から,TCZ皮下注の望ましくない効果は「わずか」とした.利益と害のバランスは, GC単独療法よりもGC+TCZ皮下注のほうがおそらく優れていると考えた.
GC+MTX+TCZ点滴静注とGC+MTX+ADA皮下注とのRCTでは,望ましい効果について,TCZ点滴静注はADA皮下注よりも,重大なアウトカムである再燃に関してはわずかに劣る傾向にあったが,重要なアウトカムである患者QOLに関してはやや優れる方向にあった.寛解については本試験から評価することは困難であった.追加的考察として,多施設合同後方視的研究と観察研究を主としたメタ解析の結果ではTCZとTNFα阻害薬の効果は同等であると報告され,これらから,予期される望ましい効果の程度は「さまざま」とした.望ましくない効果については,TCZ点滴静注はADA皮下注よりも,重大なアウトカムである重篤な有害事象をわずかに減少させる傾向にあったが,重要なアウトカムである重症な感染症はわずかに増加させる傾向にあった.望ましくない効果の程度は「さまざま」とした.以上から,両者のアウトカムに優劣をつけるのは難しかったため,TCZ点滴静注のADA皮下注に対する利益と害のバランスは「さまざま」と評価した.
3.3 患者の価値観や意向はどうか?
採用された論文では,患者の価値観や意向についての情報はなかった.パネル会議での患者の意見では,TCZ皮下注は薬価が高額だが保険適用で,特定疾患(特定医療費助成制度)や高額医療に対する医療費の補助(高額療養費制度)を受けられることから,望ましい効果が重要視された.医療費補助の金額は患者によってさまざまで,高額医療費の上限があっても負担が大きい場合もありうるが,価値観・意向にばらつきはおそらくないと考えられる. TCZ点滴静注とADA皮下注は,どちらも保険適用外で医療費補助も受けられず,高額な自己負担が発生する.一方で,患者からは,他に有効な治療法がない場合にはどちらも選択肢になりうるとの意見があった.こうした価値観・意向に,ばらつきはおそらくないと考えられる.
3.4 正味の利益とコストや薬価のバランスはどうか?
費用対効果を検討した研究エビデンスはなかった.TCZ皮下注の薬価は162 mgオートインジェクターが32,608円/キット(シリンジは32,485円/筒)であり,週1回投与で130,432円/月程度を要する.保険が適用され,特定医療費助成や高額療養費制度により,患者の負担は小さくはないものの一定までに抑えられる.
一方で,TCZ点滴静注用製剤はわが国ではTAKには保険が適用されず,薬価は点滴静注用80 mgは10,603円/瓶, 200 mgは24,711円/瓶,400 mgは53,025円/瓶である.本研究での用法・用量同様に,TCZ 1回8 mg/kgを4週間隔
で点滴静注する場合,体重50 kg(400 mg/月)では薬価は53,025円/月となり,月単位の薬価はTCZ皮下注より安価であるものの,すべて患者の自己負担となる.点滴には,医療機関側は点滴のためのスペースと人員の確保などが必要で,患者側にも通院負担が生じる.ADA皮下注製剤もわが国ではTAKには保険適用外で,薬価は40 mgペンで48,988円/キット(シリンジ51,553円/筒)であり,2週間ごとの使用で40 mgペンでは97,976円/月となり,月単位の薬価はTCZ皮下注より安価だが,TCZ点滴静注より高額である.ADA BS皮下注製剤の場合は,40 mgペンは22,633円/キット(シリンジ24,475円/筒),45,266円/月となり,TCZ点滴静注よりも安価である.ただしADA皮下注は,体重による用量調整でより高額になりうる.
月あたりの薬価ではTCZ皮下注は最も高額だが,保険適用で公費負担を受けられるため,患者負担額を抑えられる.しかしGC単独と比較すると,患者には少なからず医療費負担が増える.ただし,TCZが長期的に再燃,合併症,重篤な感染症,GCによる合併症を抑制すれば患者の健康面への利益は大きく,かつその治療に要するコストを抑制できれば,正味の利益が薬価コストを上回ると期待される.
3.5 推奨のグレーディング
CQ1-1-1に関するアウトカム全体に対するエビデンスの
確実性は「非常に低」であった.利益と害のバランスは, GC+TCZ皮下注のほうがGC単独療法よりもおそらく優れていると考えた.正味の利益とコストや薬価のバランスの観点からも,保険適用で利用可能なTCZ皮下注は優れていると考えられた.しかしながら現時点では,初発のTAKに対してのエビデンスはなく,再燃のTAKにおける2年以上の画像的なアウトカムの評価や長期成績は検討されていない.費用対効果のエビデンスもなく,「TAKの再燃時の治療では,GC単独よりも,GC+TCZを提案する(弱い推奨)」とした.
CQ1-1-2に関しては,アウトカム全体に対するエビデン
スの確実性は「非常に低」であった.寛解について評価することは困難であったことに加えて,望ましい効果の程度は「さまざま」,望ましくない効果についても「さまざま」で,利益と害のバランスは「さまざま」と判断したことから,患者にとっての効果の方向は重大なアウトカム間で同じ方向か異なる方向かの判断はつかなかった.本研究のエビデンスからTAKの治療では,GC+MTX+TCZとGC+ MTX+TNF阻害薬のどちらが有用かに関して推奨を決めることはできないと考え,パネル会議では推奨を作成しなかった.
p.20
1 Yoshifuji H, Nakaoka Y, Uchida HA, et al. Japan Research
Committee of the Ministry of Health, Labour, and Welfare for Intractable Vasculitis (JPVAS). Organ Damage and Quality of Life in Takayasu Arteritis― Evidence From a National Registry Analysis. Circ J 2024; 88: 285-294. PMID: 38123296 2. Ishikawa K, Maetani S. Long-term outcome for 120 Japanese patients with Takayasu's disease. Clinical and statistical analyses of related prognostic factors. Circulation 1994; 90: 1855-1860. PMID: 7923672 3. Mutoh T, Shirai T, Fujii H, et al. Insufficient Use of Corticosteroids without Immunosuppressants Results in Higher Relapse Rates in Takayasu Arteritis. J Rheumatol 2020; 47: 255-263. PMID: 31092708 4. Uchida HA, Nakaoka Y, Sugihara T, et al. Japan Research
文献
Committee of the Ministry of Health, Labour, and Welfare for Intractable Vasculitis (JPVAS). Clinical Characteristics and Treatment Outcomes of Patients With Newly Diagnosed Takayasu Arteritis in Japan During the First 2 Years of Treatment ― A Nationwide Retrospective Cohort Study. Circ J 2025; 89: 612-619. PMID: 39261026 5. Nakaoka Y, Isobe M, Takei S, et al. Efficacy and safety of tocilizumab in patients with refractory Takayasu arteritis: results from a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial in Japan (the TAKT study). Ann Rheum Dis 2018; 77: 348-354. PMID: 29191819 6. Wang J, Kong X, Ma L, et al. Treatment efficacy and safety of
adalimumab versus tocilizumab in patients with active and severe Takayasu arteritis: an open-label study. Rheumatology (Oxford)
4 関連する他のCPGなどの記載
「欧州リウマチ学会(EULAR)大型血管炎治療の推奨(2018年改訂)」では,根拠とした論文の多くが後方視的研究でエビデンスレベルは「低」としつつ,GCを減量すると寛解を維持できない患者に対して,TCZないしTNF阻害薬の併用を推奨した9).「米国リウマチ学会(ACR)大型血管炎の治療ガイドライン2021」10)は,現時点ではTAKにおけるTCZの有効性が確立されておらず,TNF阻害薬における臨床経験の蓄積が多いことがパネル会議のTNF阻害薬を支持した理由であり,疾患活動性患者に対する初期治療として,TCZよりも他の非GC免疫抑制療法(MTX,TNF阻害薬,AZAなど)を条件付きで推奨した(エビデンスレベルは「非常に低」~「低」).また,GC単独療法に抵抗性の場合は, TCZを追加するよりもTNF阻害薬を追加することを条件付きで推奨し,他の免疫抑制療法に対する反応が不十分な場合や,TNF阻害薬が使用できない患者にはTCZの使用を検討できるとした.その根拠として,TNF阻害薬はいくつかの観察研究で寛解を誘導し再燃を減少させていることがあげられる.TCZについては,CQ1-1-1 で採用可能なRCTは1件のみであったが,本RCTは症例数が十分ではなく統計学的な有意差はなかったものの,プラセボ群と比較してTCZ群は再燃までの期間が長くなる傾向がみられた.
5 治療のモニタリングと評価
TCZはIL-6シグナルを抑制することでC反応性蛋白(CRP)の上昇も抑制する.CRPが低値で推移することで疾患活動性評価や感染症の発現の評価が難しくなるため,再燃,感染症の発現,心血管病変の進行などについては,丁寧な症状の聴取や身体診察,画像評価を含むモニタリングが必要である.CQ1-1で根拠としたRCTがオープンラベルに移行して,TCZ皮下注を96週間投与されたTAK患者28人に対して,GCは減量できたものの4人で画像所見の悪化が認められた11). 6 今後の研究の可能性
多施設合同後方視観察研究の結果では,TCZ皮下注とTCZ点滴静注の効果は同等であった7).加えて,観察研究を主としたメタ解析の結果では,TCZとTNF阻害薬の効果は同等であった8).このことからは,TCZ皮下注とTCZ点滴静注とADA皮下注の有効性は,優劣がない可能性がある.保険適用があるのはTCZ皮下注のみであるが,薬価はTCZ点滴静注やADA皮下注のほうがやや安価であり,これらの有益性が示され保険が適用されれば,TCZ皮下注と大差がないか,やや安価で利用できる可能性がある.また,TCZ以外の生物学的製剤やヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のような分子標的薬とTCZを比較した良質なRCTによる,TAKにとって最適な治療薬の特定が望まれる.
現在,非ANCA関連血管炎(TAKを含む)患者を対象とし,リツキシマブ(RTX),TCZ,インフリキシマブ(IFX)およびプラセボを比較するRCT(Biologics in refractory vasculitis: BIOVAS)が進行中である.また,難治性または再燃性TAK患者を対象とし,IFXとTCZの有効性・安全性を比較評価するRCT(INfliximab and TOcilizumab in Refractory/relapsing TAKayasu arteritis: INTOReTAK)も進行中であり,どちらがより有効かが示される可能性がある.
7 採用論文
CQ1-1-1【RCT】Nakaoka Y, Isobe M, Takei S, et al.
Efficacy and safety of tocilizumab in patients with refractory Takayasu arteritis: results from a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial in Japan (the TAKT study). Ann Rheum Dis 2018; 77: 348-354.
CQ1-1-2【RCT】Wang J, Kong X, Ma L, et al. Treatment
efficacy and safety of adalimumab versus tocilizumab in patients with active and severe Takayasu arteritis: an openlabel study. Rheumatology (Oxford) 2024; 63: 1359-1367.
8 エビデンスプロファイル,Evidence to Decision
テーブル
CQ1-1の推奨作成関連資料(「補足資料」)を参照.
p.21
2024; 63: 1359-1367. PMID: 37540159 7. Mekinian A, Biard L, Lorenzo D, et al. French Takayasu network. Intravenous versus subcutaneous tocilizumab in Takayasu arteritis: multicentre retrospective study. RMD Open 2023; 9: e002830. PMID: 37321669 8. Misra DP, Singh K, Rathore U, et al. The effectiveness of tocilizumab and its comparison with tumor necrosis factor alpha inhibitors for Takayasu Arteritis: A systematic review and metaanalysis. Autoimmun Rev 2023; 22: 103275. PMID: 36652977 9. Hellmich B, Agueda A, Monti S, et al. 2018 Update of the EULAR recommendations for the management of large vessel vasculitis. Ann Rheum Dis 2020; 79: 19-30. PMID: 31270110 10. Maz M, Chung SA, Abril A, et al. 2021 American College of
Rheumatology/Vasculitis Foundation Guideline for the Management of Giant Cell Arteritis and Takayasu Arteritis. Arthritis Rheumatol 2021; 73: 1349-1365. PMID: 34235884 11. Nakaoka Y, Isobe M, Tanaka Y, et al. Long-term efficacy and safety
of tocilizumab in refractory Takayasu arteritis: final results of the randomized controlled phase 3 TAKT study. Rheumatology (Oxford) 2020; 59: 2427-2434. PMID: 31951279
TAKの治療では,グルココルチコイド+ミコフェノール酸モフェチルよりもグルココルチコイド+メトトレキサートを提案する. (推奨の強さ:弱い,エビデンスの確実性:非常に低,同意度:8.09)
CQ 1-2 TAKの治療では,グルココルチコイド+メトトレキサートとグルココルチコイド+ミコフェノール酸モフェチルのどちらが有用か?
推奨
1 背景
GCはTAKの寛解誘導に有効であるが,減量すると再燃が多く認められるため,寛解維持および再燃予防には免疫抑制薬の併用が必要となる.現状では,MTX,MMF, AZAなどの免疫抑制薬がGCの併用薬として使用されているが,これら従来の免疫抑制薬で治療された日本人患者96人を中央値56ヵ月追跡した報告では,57人(59.4%)に再燃が認められることが報告されている1).また,GCと併用する免疫抑制薬を選択するうえで,治療効果の向上に資する明確な指針は依然として存在しない.「EULAR大型血管炎治療の推奨(2018年改訂)」2)では,「TAKは約70%の症例で再燃する」とした2012年の日本からの報告3)を引用し,再燃の予防目的で治療初期から免疫抑制薬の併用を推奨している2).この推奨において,MTXは第一選択薬として記載されているものの,強固なエビデンスに基づいたものではないため,その有用性の検討は重要な課題である.一方,MMFに関するエビデンスは観察研究やケースシリーズに限られており,その有効性と安全性に関するより信頼度の高い評価が求められている.
以上より,TAKに対してMTXやMMFがGCの併用薬として安全かつ有効な治療選択肢なのかどうかについて検討することは,TAK患者の予後改善およびQOLの向上を目指すうえで,優先的に取り組むべき課題と考える.
2 エビデンスの要約
TAKの治療でGCと併用するMTXの有用性を検討するにあたり,1件の研究論文が採用された.同様に,MMFの有用性を検討するにあたっても1件の研究論文が採用さ
解説れたが,これら2件の研究は同一の論文であった4).この
臨床研究では,全患者に対してデフラザコート(PSL換算0.5 mg/kg/日)を1ヵ月間投与し,その後3週間ごとに3 mg/日ずつ減量して,12 mg/日に達した後は研究終了まで3週間ごとに1 mg/日ずつ減量した.MMF群では2 g/日, MTX群には最初の1ヵ月間を15 mg/週が,その後は20 mg/週が投与された.
作業の開始時にはMTX(CQ1-2)およびMMF(仮CQ1- 4)として文献検索を行ったが,採用された研究は同一であり,MTXあるいはMMFとプラセボの比較ではなく, GC+MTXとGC+MMFを比較していることから,GC単独とGC+MTXもしくはGC+MMFの有用性を評価することはできなかった.したがって,2つのCQを統合したうえで,TAKの治療においてGCと併用する薬剤としてMTXとMMFのいずれが有用かについて評価した.
重大なアウトカム(9ヵ月)を両群間で比較した結果は,以下のとおりである.死亡はMMF群の1人で認められ, MMFに対するMTXの効果推定値(1000人あたり)は26人減少(38人減少~210人増加)であるが,これは割り付け後MMF開始前の事象であった.一方,寛解に関してMMFに対するMTXの効果推定値(1000人あたり)は76人減少(353人減少~145人増加),NNHは13.2 で,同様に再燃の効果推定値(1000人あたり)は76人増加(115人減少~374人増加),NNHは13.2であった.手術を必要とする動脈関連病変はMMF群で1人認められ,MTXの効果推定値(1000人あたり)は26人減少(38人減少~210人増加),NNTは38.46 で,1人の侵襲を要する心血管病変が減少した.
p.22
重篤な有害事象はMMF群の1人であるが,内容は割り付け後MMF開始前の死亡であった(MTXの効果推定値は「死亡」に同じ).なお,重要なアウトカムである重篤な感染症は,両群を通してイベント数が0であった.
3 パネル会議
3.1 アウトカム全般に関するエビデンスの確実性はどうか?
SRの結果,バイアスのリスク,不精確さでダウングレードされ重大なアウトカムに関するエビデンスの確実性はいずれも「非常に低」となった.アウトカム全体のエビデンスの確実性は,重大なアウトカムで最も低いものを採用し,「非常に低」とした.
3.2 利益と害のバランスはどうか?
寛解・再燃はMMFのほうが優れる傾向にあったが,侵襲的治療を要する心血管病変の出現についてはMTXのほうが優れる傾向にあり,望ましい効果の程度は「さまざま」と判断された.一方,死亡・重篤な有害事象はMMF群で観察された1人のみであり,しかもこれは同一症例で割り付け後MMF開始前の事象であった.点推定値のみみればMTXのほうが優れる傾向にあり,望ましくない効果は「わずか」と評価されたが,両群に本質的な差はないと考えられた.望ましい効果は「さまざま」であり,望ましくない効果は「わずか」であり,利益と害のバランスに関して介入と比較対照は同等と判断した.
3.3 患者の価値観や意向はどうか?
MTX,MMFはいずれも妊娠を検討する時点で内服を避けるべき薬剤とされている.TAKは若年女性の罹患も多く,こういった妊孕性が重視される患者層はそうでない患者層と重視するアウトカムが異なる可能性がある.また,本研究では患者QOLという重要なアウトカムの評価ができていなかった.こうした課題はあるものの,病変の進行による虚血症状や薬剤性有害事象を回避したい点では,おおむね患者の価値観や意向にもばらつきはないと考えられ,患者代表のパネルからも同意が得られた.したがって,主要なアウトカムについて重要な不確実性またはばらつきはおそらくないと考える.
3.4 正味の利益とコストや資源のバランスはどうか?
これまでに費用対効果や資源利用についてエビデンスとして採用可能な研究はない.ただし,費用対効果について付記すると,MTXは内服の場合,MTX 2 mgは先発薬でも132.40円であり,8 mg/週の維持量で年間(52週)の薬価は27,539.20円である.一方,MMFは250 mgで先発品109.70円,後発品54.40円であり,1,000 mg/日の維持量では年間で先発品160,162円,後発品79,424円であることから,治療に要する経費としてはMMFのほうが高額と考えられる.また,資源利用について,MTXとMMFはどちらも内服薬であるため患者の負担が少なく,医療従事者の必
要資源も生じることはないと考えられる.
MTXおよびMMFは免疫抑制薬としてわが国で広く流通している薬剤であるものの,TAK患者への投与は保険適用外である.その一方,わが国でTAKに対する治療薬として最も使用頻度が高い免疫抑制薬はMTXであること, MMFも使用されていることが報告されている5).このTAKの後ろ向きコホート研究のデータによると,ベースラインにおけるMTXの使用例は12%(16/129症例),2年後のMTXの使用例は44%(57/129症例)であった.一方, MMFの使用例はベースラインではなかったが,2年後の使用例は2%(2/129症例)であった5).
3.5 推奨のグレーディング
前述のように,採用された研究はGC単独とGC+MTXもしくはGC+MMFの比較ではないことから,TAKの治療においてGCと併用する薬剤としてMTXとMMFのどちらが有用か,という観点で検討した.
利益と害のバランスはMTXとMMFは同等と考えられた.また,わが国においてTAK治療ではMTX,MMFともに使用されるがその頻度はMTXのほうがMMFよりも高いこと,薬価はMTXのほうがMMFよりも安価であることを考慮し,「TAKの治療では,GC+MMFよりもGC +MTXを提案する(弱い推奨)」となった.
なお,MTXでは副作用として消化器症状(口内炎,嘔気,下痢など),肝障害などが報告されている.望ましい効果は「さまざま」であったことを考慮すると,MTX不耐の場合には,同程度の有用性が期待できる薬剤としてMMFが選択されうる.
4 関連する他のCPGなどの記載
「EULAR大型血管炎治療の推奨(2018年改訂)」では, TAKの治療においては再燃を予防する目的ですべての症例でMTXやMMFなど免疫抑制薬の併用を推奨している2).「ACR大型血管炎の治療ガイドライン2021」では,活動性のTAK患者に対しては,GC関連の副作用を最小限に抑える目的で,GCと非GC系免疫抑制薬の併用が条件付きで推奨されている6).MTXについては,初期の非GC系免疫抑制薬としてしばしば使用されること,耐容性の高さから小児例での使用が好まれる傾向にあることが記載されている.
5 治療のモニタリングと評価
疾患活動性および治療効果の評価には,臨床症状や血液検査,画像検査などを用いる.有害事象である感染症合併やMTX,MMFに特異的な有害事象についてもモニタリングが必要である.
p.23
1 Mutoh T, Shirai T, Fujii H, et al. Insufficient Use of Corticosteroids
without Immunosuppressants Results in Higher Relapse Rates in Takayasu Arteritis. J Rheumatol 2020; 47: 255-263. PMID: 31092708 2. Hellmich B, Agueda A, Monti S, et al. 2018 Update of the EULAR recommendations for the management of large vessel vasculitis. Ann Rheum Dis 2020; 79: 19-30. PMID: 31270110 3. Ohigashi H, Haraguchi G, Konishi M, et al. Improved prognosis of Takayasu arteritis over the past decade Comprehensive analysis of 106 patients. Circ J 2012; 76: 1004-1011. PMID: 22301847 4. Padiyar S, Danda D, Goel R, et al. Clinical and angiographic
outcomes of mycophenolate versus methotrexate in South Asian patients of Takayasu arteritis: Results from an open-label, outcome-
文献
assessor blinded randomized controlled trial. Mod Rheumatol 2023; 34: 175-181. PMID: 36542822 5. Uchida HA, Nakaoka Y, Sugihara T, et al. Japan Research Committee of the Ministry of Health, Labour, and Welfare for Intractable Vasculitis (JPVAS). Clinical Characteristics and Treatment Outcomes of Patients With Newly Diagnosed Takayasu Arteritis in Japan During the First 2 Years of Treatment ― A Nationwide Retrospective Cohort Study. Circ J 2025; 89: 612-619. PMID: 39261026 6. Maz M, Chung SA, Abril A, et al. 2021 American College of
Rheumatology/Vasculitis Foundation Guideline for the Management of Giant Cell Arteritis and Takayasu Arteritis. Arthritis Rheumatol 2021; 73: 1349-1365. PMID: 34235884
6 今後の研究の可能性
TAKに対するGC併用療法において,MTXおよびMMFの有効性と安全性を明確に示す質の高い研究が求められている.具体的には,プラセボ対照試験におけるMTXのGCへの上乗せ効果の検証,より大規模かつバイアスリスクが低い方法を用いたMMFとMTXの比較,およびMTXと他の免疫抑制薬を比較したGCへの上乗せ効果の評価といった研究が期待される.
7 採用論文
【RCT】Padiyar S, Danda D, Goel R, et al. Clinical and angiographic outcomes of mycophenolate versus
methotrexate in South Asian patients of Takayasu arteritis: Results from an open-label, outcome-assessor blinded randomized controlled trial. Mod Rheumatol 2023; 34: 175-181.
8 エビデンスプロファイル,Evidence to Decision
テーブル
CQ1-2の推奨作成関連資料(「補足資料」)を参照.
1 背景
TAKは主に若年女性に発症することが多い全身性血管炎であり,大動脈およびその主要な分枝が影響を受ける疾患である.標準的な治療法としてGCが第一選択薬とされ,炎症を抑制し寛解を導入する役割を果たす.しかし,GCによる治療を行っても,すべての患者が寛解に達するわけではなく,寛解を維持できる患者は限られている.GC治療中の再燃率は約30%と報告されており1),このためGCに加え他の免疫抑制薬の併用が試みられることが多い.しかしながら,これらの治療法は後方視的研究や小規模な非盲検試験に基づくことがほとんどであり,エビデンスに乏しいのが現状である.特に,免疫抑制薬を含む治療薬の効果や安全性に関する確立されたエビデンスは非常に限られている.TAKに対するより安全で効果的な治療選択肢を
解説見つけ出すことは,依然として大きなアンメットニーズで
あり,治療戦略の進展が強く求められている.アバタセプト(ABA)はT細胞の共刺激阻害薬であり,免疫反応を抑制することで炎症を軽減する効果が期待されている.これまでにTAKに対するABAの研究報告がなされており,本CPG策定においてその有用性を検討した.
2 エビデンスの要約
SRの結果,TAK患者にABAを使用したRCTとしてLangfordらの研究2)が採用された.本研究は,活動性病変を伴う初発または再燃のTAKに対してGC+ABAで治療し,12週で寛解となった患者を対象にABAの有効性と安全性をプラセボと比較するデザインである.
GC(プレドニゾン[PDN]40~60 mg/日)+ABA(10 mg/kg)で開始し,ABAは1,15,29日および8週目に点滴静注し,PDNはプロトコールに従い12週で20 mg/日ま
TAKの治療では,グルココルチコイドにアバタセプトを併用しないことを推奨する. (推奨の強さ:強い,エビデンスの確実性:低,同意度:8.36)
CQ 1-3 TAKの治療では,アバタセプトは有用か?
推奨
p.24
1 Maksimowicz-McKinnon K, Clark TM, Hoffman GS. Limitations
of therapy and a guarded prognosis in an American cohort of Takayasu arteritis patients. Arthritis Rheum 2007; 56: 1000-1009. PMID: 17328078
文献
2 Langford CA, Cuthbertson D, Ytterberg SR, et al. Vasculitis Clinical
Research Consortium. A Randomized, Double-Blind Trial of Abatacept (CTLA-4Ig) for the Treatment of Takayasu Arteritis. Arthritis Rheumatol 2017; 69: 846-853. PMID: 28133931
で減量した.12週で寛解が確認された患者を対象にABAまたはプラセボを4週ごとに点滴静注し,GCを標準的な速度で減量し28週で0 mgとした.合計26人の患者がランダム化され,ABA群(11人)とプラセボ群(15人)に割り付けられた.重大なアウトカムに関して,死亡の発生はなかった.寛解(12ヵ月)に関してプラセボに対するABAの効果推定値は1000人あたり60人減少(250人減少~573人増加)であった.また,再燃(12ヵ月)に対するABAの効果推定値は,1000人あたり60人増加(227人減少~540人増加)であった.
なお,本研究は寛解者が対象であり脱落がなかったことから参加者数-寛解数=再燃数となり,寛解と再燃の検討は同じ結果となった.重篤な有害事象に関して発生割合の情報は得られなかったが,ランダム化後の発生件数はABA群で12件,プラセボ群で6件であった.同様に,重篤な感染症の発現は1000人あたり22人減少(176人減少~ 1000人増加)であった.手術を必要とする動脈関連病変の発症や患者QOLの評価に関しては報告されていなかった.
3 パネル会議
3.1 アウトカム全般に関するエビデンスの確実性はどうか?
不精確さの観点で2段階グレードダウンされた.アウトカム全般のエビデンスの確実性は最も低いものを採用し,「低」とした.
3.2 利益と害のバランスはどうか?
寛解,再燃に関してABAはプラセボに比べて優位性を示さなかった.点推定値ではABAはプラセボより再燃が多いが,広い信頼区間からはいずれがより効果的であるかを判断しがたかった.重篤な有害事象の発現割合は得られなかったが,発生件数はABA群で11人中12件,プラセボ群では15人中6件であった.重篤な感染症の発現は差がないと考えられた.以上より,ABAとプラセボの利益と害のバランスは同等であり,いずれも支持しないとした.
3.3 患者の価値観や意向はどうか?
患者の価値観や意向に関する情報はなかった.しかし,主要なアウトカムについて,重要な不確実性またはばらつきはおそらくないと考えられた.
3.4 正味の利益とコストや資源のバランスはどうか?
ABAとプラセボの利益と害のバランスは同等である. TAKにおいてABAの費用対効果に関するエビデンスはないが,わが国において60 kgの患者に対する4週に1回のABA点滴(3アンプル)の薬価は163,332円であり,特定医
療費(指定難病)受給者証のない患者にとっては負担が増加すると考えられた.また,点滴を行う負担も発生する.わが国ではABAはTAKに対して保険適用外であり薬剤の使用には施設間・医師間の差が生じることが考えられるなど,薬剤使用に関して課題がある.以上より,正味の利益とコスト,資源のバランスを考慮すると,コストのほうが大きいと判断された.
3.5 推奨のグレーディング
アウトカム全般のエビデンスの確実性は「低」であり, ABAとプラセボの利益と害のバランスは同等でいずれの介入も支持しない.すなわち,効果推定値の確実性が低いとはいえ,GCにABAを併用するメリットはないと想定される.さらに,ABAの薬価は高額であり,点滴による負担,わが国ではABAはTAKに対して保険適用外であることを考慮した.「TAKの治療では,GCにABAを併用しないことを推奨する(強い推奨)」でガイドラインパネルの意見は一致した.
4 関連する他のCPGなどの記載
TAKに対するABAの使用に関する他の診療ガイドラインは存在しない.
5 治療のモニタリングと評価
TAKの治療に際しては重篤な副作用や有害事象の発現に対するモニタリングが必要である.特に,感染症や重篤な有害事象の発現に関しては慎重に監視し,患者の安全を確保するための適切な対応が求められる.
6 今後の研究の可能性
現時点でのエビデンスが非常に限られているため,今後, TAKに対するABAの有効性と安全性を示す質の高い研究が求められる.特に,より大規模な臨床試験や長期的な追跡調査が必要である.
7 採用論文
【RCT】Langford CA, Cuthbertson D, Ytterberg SR, et al. Vasculitis Clinical Research Consortium. A Randomized, Double-Blind Trial of Abatacept (CTLA-4Ig) for the Treatment of Takayasu Arteritis. Arthritis Rheumatol 2017; 69: 846-853.
8 エビデンスプロファイル,Evidence to Decision
テーブル
CQ1-3の推奨作成関連資料(「補足資料」)を参照.
p.25
第2章 巨細胞性動脈炎(GCA)
*1 初発例はPSL換算で0.5~1 mg/kg/日,最大60 mg/日のGCを開始する.再燃時はGCの増量を考慮する. *2 初発例,再燃例ともにTCZを考慮するが,使用する場合は安全性に十分に配慮する. *3 本CPGでSRを実施した後にJAK阻害薬(ウパダシチニブ[UPA])の有効性が第3相試験で示された.今後のCPG改訂時に検討する.第4章
6.3.1を参照. *4 GC減量は,自覚症状,画像検査所見などを踏まえて疾患活動性を評価し,注意深く行うこと.第4章6.1.1.c.を参照.図5 GCA の治療アルゴリズム寛解定義は疾患活動性に関する症状,徴候の消失+画像所見で活動性所見なし+CRP基準値範囲内,1年後のGCがPSL換算で5 mg/日以下.治療開始1年後に寛解に達した場合,GCの漸減中止を考慮.詳細は第6章3. を参照.図には一般的な治療法を示してあり,個々の患者の状況に必ずしも当てはまるとは限らない.実線矢印,黄四角は,本CPGの推奨文で推奨・提案した治療またはその代替治療の流れを示す.太い矢印に沿った治療を最初に考慮する.点線矢印はそれ以外の治療の流れを示す.
GCAの診断あるいは再燃
疾患活動性の評価
GCパルス療法を開始,メチルプレドニゾロン0.5~1 g/日を3日間(CQ2-5)
GC単独*1
1年後のGCをPSL換算で5 mg/日以下を目標に漸減する*4再燃
治療目標:1年後の寛解達成と寛解維持
GC*1+TCZ*2 (CQ2-1) GC*1+ JAK阻害薬*3 GC*1+MTX (保険適用なし)
(CQ2-4) GC*1+アバタセプト
(保険適用なし)
(CQ2-3)
急激な眼症状,神経症状がある場合
TCZ以外のほうが適切と判断される場合
p.26
1 背景
GCAの治療では,しばしば長期のGCが使用されるが, GCの長期使用は,有害事象の発現と強く関連している.わが国の実臨床の分析では,初発のGCA患者119人のうち13人が24週までに寛解に至らず,寛解に到達しても28人が再燃したことが報告されている1).IL-6受容体阻害薬であるTCZについては,JCS 2017GL 2)作成と同時期に, Giant Cell Arteritis Actemra (GiACTA)試験の成績として米国リウマチ学会でその有用性が発表された.それに症例報告や小規模ケースシリーズの結果を加えて,JCS 2017GLでは,GC抵抗例やGCの早期減量を必要とする症例において,TCZの使用を推奨とした.
現在,TCZはGCAに対して保険適用されており,治療でTCZを併用することの有用性や安全性について検討することは重要である.今回のCPG作成においては, GRADEシステムを用いて,より科学的で透明性の高い方法でTCZの位置づけを明らかにし,CQと推奨に組み込むこととなった.
2 エビデンスの要約
SRの結果,2件の研究論文を採用した.1 つ目はVilligerらがGCAの治療におけるTCZの有効性と安全性を検討するために行った,単一施設での第2相プラセボ対照二重盲検RCTである3).本試験は50歳以上の新規または再燃GCA患者30人を対象として,PSL併用下でTCZ 8 mg/kgを4週ごとに投与する介入群とプラセボに割り付けられた.主要アウトカムの12週目の完全寛解率はTCZ群85%であり,プラセボ群40%と比較して高かった.副次アウトカムの52週目までの再燃なし生存率でも,TCZ群85%でプラセボ群20%と比較して有意に高かった.さらにTCZ群ではPSLの累積投与量も大幅に減少した.重篤な副作用の発生率は両群で同程度であったが,TCZ群では
解説感染症が多くみられた.
2つ目のGiACTA試験は,GCAの治療におけるTCZの有効性を検証する目的で行われた国際多施設共同第3相RCTである4).対象は新規診断または再燃性GCA患者で, 251人が組み込まれ,TCZ 162 mgを週1回または隔週での皮下注射と26週間のPDN漸減療法群(TCZ週1回群,隔週群),プラセボと26週間または52週間のPDN漸減療法のみを行った群(プラセボ26週群,52週群)の4群に割り振られた.主要アウトカムは52週時点での持続的寛解率であり,副次的アウトカムにはPDN総投与量,再燃率,安全性が含まれた.52週時点での持続的寛解率は,TCZ週1回群で56%,隔週群で53%であり,プラセボ26週群の14%,52週群の18%を上回った(P<0.001).また, TCZ群ではPDNの累積投与量が大幅に減少し,副作用の発生率も低く抑えられた.主要な副作用は感染症で,特にプラセボ群で重篤な感染症が多くみられた.
SRで採用した重大なアウトカムとして,寛解,再燃,心血管系手術あるいは血管内治療を必要とする動脈関連病変,死亡,重篤な有害事象,重要なアウトカムとして重篤な感染症,患者QOLについて評価した.TCZとプラセボとの比較では,望ましい効果の重大なアウトカムである寛解(52週)に関するTCZの効果推定値は1000人あたり347人増加し(183人増加~589人増加),NNTは2.9,再燃(52週)に関するTCZの効果推定値は1000人あたり409人減少(525人減少~12人減少)し,NNTは2.4であった.
心血管系手術あるいは血管内治療を必要とする動脈関連病変に関するTCZの効果推定値は,1000人あたり83人減少(99人減少~294人増加)し,NNTは12.0で1人の心血管系手術あるいは血管内治療を必要とする動脈関連病変が減少した.望ましい効果の重要なアウトカムであるQOLの指標として,52週でのShort Form 36 physical component summary(SF-36 PCS),SF-36 mental
CQ2 GCAの治療ではどのようなレジメンが有用か?
GCAの治療では,グルココルチコイド単独よりもグルココルチコイド+トシリズマブを提案する.付記:トシリズマブは皮下注射で投与する. (推奨の強さ:弱い,エビデンスの確実性:非常に低,同意度:8.36)
CQ 2-1 GCAの治療では,グルココルチコイド単独とグルココルチコイド+トシリズマブのどちらが有用か?
推奨
p.27
component summary(MCS),Global Visual Analogue Scale(VAS),Functional Assessment of Chronic Illness Therapy-Fatigue(FACIT-Fatigue)の,TCZとプラセボの平均変化量の差を評価したところ,SF-36 PCSは4.58 (95%CI:3.06~6.12),SF-36 MCS は2.07(95%CI:- 0.67~4.81),FACIT-Fatigueは5.72(3.02~8,42)で,プラセボよりTCZでQOL指標が改善しており,Global VASについても-15.7(95%CI:-22.82~-8.58)とTCZのほうが改善していた.
望ましくない効果の重大なアウトカムである死亡(52週)に関するTCZの効果推定値は,1000人あたり7人減少(9人減少~26人増加)し,NNTは142で1人の死亡が減少した.重篤な有害事象の発現(52週)に関するTCZの効果推定値は,1000人あたり94人減少(154人減少~0)し, NNTは10.6で1人の重篤な有害事象が減少した.望ましくない効果の重要なアウトカムである重篤な感染症の発現(52週)に関するTCZの効果推定値は,1000人あたり19人減少(55人減少~72人増加)し,NNTは52.6 で1人の重篤な感染症が減少した.
追加的考察として安全性に関しては,わが国ではTCZの保険適用後の市販後全例調査が報告されており,白血球または好中球減少が7.7%,重篤な感染症が6.0%を認めたことが報告されている5).
3 パネル会議
3.1 アウトカム全般に関するエビデンスの確実性はどうか?
SRの結果,採用された論文の寛解についてのエビデンスの確実性は「中」,再燃・重篤な有害事象・重篤な感染症の発現については「低」,心血管系手術・死亡では「非常に低」と判断された.今回の評価基準に沿って,アウトカム全体のエビデンスの確実性は最も低いものを採用し,「非常に低」とした.
3.2 利益と害のバランスはどうか?
望ましい効果について,新規発症GCAも含めて,重大なアウトカムである寛解(52週),再燃(52週)は,TCZのほうがプラセボより優れていた.心血管系手術あるいは血管内治療を必要とする心血管病変について,点推定値からはTCZが優れていた.重要なアウトカムである患者QOLについてもTCZが優れていた.重大なアウトカムである寛解および再燃に対する効果は大きいものであり,総合的に望ましい効果は「大きい」とした.望ましくない効果について,重大なアウトカムである重篤な有害事象の発現(52週)は,TCZのほうが優れていた.死亡(52週)は,TCZのほうが優れている傾向にあった.重要なアウトカムである重篤な感染症の発現(52週)についてもTCZのほうが優れている傾向にあった.重大なアウトカムである死亡,重篤な有害事象について,TCZのほうが望ましくない効果はすべ
て少ない方向であり,望ましくない効果は小さいとした.以上から,新規発症および再燃例に対して,望ましい効果と望ましくない効果のバランスとしては,「介入が優れている」とした.
3.3 患者の価値観や意向はどうか?
アウトカムの重要度の評価に関する研究はなかったが,おおむね患者の価値観や意向にもばらつきはないと考えられ,患者代表のパネルからも同意が得られた.ただし,推奨の作成には使用されていないが,重要なアウトカムであるQOLを重大なアウトカムと考える患者も想定し,重要な不確実性またはばらつきは「おそらくなし」と判断した.
3.4 正味の利益とコストや資源のバランスはどうか?
これまでに費用対効果や資源量についてエビデンスとして採用可能な研究はない.TCZ 162 mgオートインジェクターの薬価は32,608円/キットであり,130,432円/月が必要となる.このコストと再燃そのものに対する医療費や,再燃による障害における損失の比較が必要であるが,該当する研究がないため評価が困難であり,利益とコストのバランスは「さまざま」とした.
資源についても同様で,GCAは特定医療費助成制度の対象となるが,上限金額までのTCZの薬剤費増加分,自己注射指導などの資源が増加する.一方で,再燃による入院などの資源量増加も考慮する必要があり,現時点では比較が難しいが,TCZ群で増加することは間違いないため,「中等度の増加」と判断した.
3.5 推奨のグレーディング
重大なアウトカムである寛解・再燃に対して大きな効果があり,望ましくない効果もわずかであった.しかし,エビデンスの確実性は「非常に低」であるため,提案(弱い推奨)とした.強い推奨とするかどうかについてもパネル会議で議論したが,90%以上のGCAで実施すべき治療とはいえないとの意見があり,最終的に,「GCA治療では, GC単独よりもGC+TCZを提案する(弱い推奨)」と決定した.
4 関連する他のCPGなどの記載
「EULAR大型血管炎治療の推奨(2018年改訂)」では,難治性の病態または再燃例およびGC関連の副作用や合併症が懸念される場合にGCとTCZの併用が推奨されている6).一方,「ACR大型血管炎の治療ガイドライン2021」では,医師の経験や患者の状態,価値観や好みに応じてなどの条件付きではあるが,新規発症のGCAに対して,GCとTCZの併用が推奨されている7).
5 治療のモニタリングと評価
疾患活動性の評価には臨床症状や画像評価を用いる.
p.28
1 Sugihara T, Hasegawa H, Uchida HA, et al. Japan Research
Committee of the Ministry of Health, Labour, and Welfare for Intractable Vasculitis (JPVAS). Associated factors of poor treatment outcomes in patients with giant cell arteritis: clinical implication of large vessel lesions. Arthritis Res Ther 2020; 22: 72. PMID: 32264967 2. 日本循環器学会.血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版).https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/ JCS2017_isobe_h.pdf 3. Villiger PM, Adler S, Kuchen S, et al. Tocilizumab for induction and maintenance of remission in giant cell arteritis: a phase 2, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2016; 387: 1921-1927. PMID: 26952547 4. Stone JH, Tuckwell K, Dimonaco S, et al. Trial of Tocilizumab in
文献
Giant-Cell Arteritis. N Engl J Med 2017; 377: 317-328. PMID: 28745999 5. Harigai M, Miyamae T, Hashimoto H, et al. A multicentre, largescale, observational study of tocilizumab in patients with giant cell arteritis in Japan. Mod Rheumatol 2024; 34: 775-783. PMID: 37522620 6. Hellmich B, Agueda A, Monti S, et al. 2018 Update of the EULAR recommendations for the management of large vessel vasculitis. Ann Rheum Dis 2020; 79: 19-30. PMID: 31270110 7. Maz M, Chung SA, Abril A, et al. 2021 American College of
Rheumatology/Vasculitis Foundation Guideline for the Management of Giant Cell Arteritis and Takayasu Arteritis. Arthritis Rheumatol 2021; 73: 1349-1365. PMID: 34235884
薬剤の作用機序から血清CRP値がモニタリングの指標にならないことにも留意する.有害事象である感染症合併についてもモニタリングが必要である.
6 今後の研究の可能性
今回採用された研究には日本人が含まれていないため,日本人を対象とした比較研究が望まれる.
費用対効果を評価するうえでは,再燃やそれに伴う臓器障害による医療費負担を評価する必要がある.またTCZの長期的な有効性や安全性についての研究が望まれる. TCZ皮下注射の投与方法は週1回のほうが2週に1回よりよいか,TCZはプラセボと比較して長期的にもGCの累積投与量を減少できるか,寛解維持後にTCZの中止が可能かについては,今回採用したGiACTA試験のサブ解析で報告されており4),その内容は本CPGの第4章6.2で示し
ている.
7 採用論文
【RCT】Stone JH, Tuckwell K, Dimonaco S, et al. Trial of Tocilizumab in Giant-Cell Arteritis. N Engl J Med 2017; 377: 317-328.【RCT】Villiger PM, Adler S, K uchen S, et al. Tocilizumab for induction and maintenance of remission in giant cell arteritis: a phase 2, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2016; 387: 1921-1927.
8 エビデンスプロファイル,Evidence to Decision
テーブル
CQ2-1の推奨作成関連資料(「補足資料」)を参照.
1 背景
GCAは,高齢者に多くみられる大動脈やその分枝を侵す免疫介在性の炎症性疾患で,頭痛,視力障害,神経症状,顎の疼痛などをきたす.GCAに対する治療薬として従来からGCが使用されてきた.しかし,GCの減量過程における再燃は大きな問題であり,前向きコホート研究では平均21ヵ月のフォローアップ期間での再燃率は34%にも上るとされる1).また,GCAの再燃に伴う累積GC量の増加は骨粗鬆症などのGC関連有害事象の増加にも関与する2).したがって,これらの問題を克服するには新規薬剤
解説
GCAの治療では,TNF阻害薬を投与しないことを提案する. (推奨の強さ: 弱い,エビデンスの確実性:非常に低,同意度:7.91)
CQ 2-2 GCAの治療では,TNF阻害薬は有用か?
推奨
とGCの併用が望まれる.
2 エビデンスの要約
SRで採用した重大なアウトカムとして,寛解(52週),再燃(52週),心血管系手術あるいは血管内治療を必要とする動脈関連病変,死亡,重篤な有害事象の発現(52週),重要なアウトカムとして重篤な感染症の発現(52週),患者QOLについて評価した.GCAに対するTNF阻害薬のSRにて3件のRCTが採用された.1つ目が2007年に報告されたHoffmanらの研究であり3),GCAに対してIFXのPDNまたはPSLへの併用効果を検証した多施設二重盲検RCTである.診断後4週以内の新規発症GCA患者44人を対象
p.29
染症(22~26週)に関するTNF阻害薬群の効果推定値は, 1000人あたり18人減少(84人減少~189人増加)であった.
3 パネル会議
3.1 アウトカム全般に関するエビデンスの確実性はどうか?
重大なアウトカムである寛解,再燃,重篤な有害事象の発現,重要なアウトカムである重篤な感染症の発現において,バイアスのリスクは深刻と判断した.また,重大なアウトカムである死亡,寛解,再燃,重篤な有害事象,重要なアウトカムである重篤な感染症における介入の効果をみると,いずれも人数が少なく信頼区間が広く,不精確さについて非常に深刻と判断した.また,22~26週の重篤な有害事象は,非一貫性で深刻と判断した.エビデンスの確実性は,死亡については「低」,22~26週の再燃,52週の再燃,寛解,22~26週の重篤な有害事象,52週の重篤な有害事象,22~26週の重篤な感染症は「非常に低」となった.以上より,アウトカム全般のエビデンスの確実性は最も低いものを採用し,「非常に低」とした.
3.2 利益と害のバランスはどうか?
望ましい効果については,重大なアウトカムである寛解(22~26週),再燃に関してはTNF阻害薬群がプラセボ群よりもやや優れる傾向にあったが,効果推定値は小さく,得られる効果の程度より望ましい効果は「わずか」とした.一方,望ましくない効果については,重大なアウトカムである死亡はプラセボ群よりもTNF阻害薬群のほうが優れる方向にあり,重篤な有害事象の発現(22~26週)に関してはTNF阻害薬群のほうが優れる方向,重篤な有害事象の発現(52週)はプラセボ群のほうが優れる方向にあった.重大なアウトカムである重篤な感染症の発現(22~26週)に関しては,TNF阻害薬群のほうがわずかに優れる方向にあった.得られる効果の程度より,望ましくない効果は「さまざま」とした.以上より,望ましい効果と望ましくない効果のバランスは「介入も比較対照もいずれも支持しない」とした.
3.3 患者の価値観や意向はどうか?
アウトカムの重要度の評価に関する研究はなかったが,おおむね患者の価値観や意向にもばらつきはないと考えられ,患者代表のパネルからも同意が得られた.ただし,推奨の作成には使用されていないが重要なアウトカムであるQOLを重大なアウトカムと考える患者も想定し,重要な不確実性またはばらつきは「おそらくなし」と判断した.
3.4 正味の利益とコストや資源のバランスはどうか?
これまでに費用対効果や資源量についてエビデンスとして採用可能な研究はない.介入群でのTNF阻害薬は薬価として10万円/月程度かかるものが多く,医療費や自己負担の増加,自己注射指導のための資源利用が考えられる.
として,PDNまたはPSL 40~60 mg/日で寛解(≧1週)でランダム化を行った.IFX 5 mg/kgまたはプラセボは0,2, 6週,以後8週ごとに静脈内投与され,24週前の中止にむけてPDNまたはPSLは漸減された.今回のSRにて採用したアウトカムのうち本研究で解析可能だったものは,重大なアウトカムが再燃,寛解,重篤な有害事象,重要なアウトカムが重篤な感染症であり,TNF阻害薬群で16人,11人, 8人,3人,プラセボ群で8人,7人,4人,1人とすべてのアウトカムについて2群で有意差はなかった.
2 つ目は2008年に報告されたMartínez-Taboadaらの研究であり4),GCAに対してエタネルセプト(ETN)のPDNへの併用効果を検証した多施設二重盲検RCTである.糖尿病,骨粗鬆症,高血圧などのGC関連合併症をもつ生検診断のGCA患者17人を対象として,PDN≧10 mg/日で無症状にてランダム化を行った.ETN 25 mgまたはプラセボは2週ごとに皮下投与され,52週にむけてPDNは漸減された.アウトカムのうち本研究で採用可能だったものは,再燃,重篤な有害事象であり,TNF阻害薬群で4人,3人,プラセボ群で7人,3人とすべてのアウトカムについて2群で有意差はなかった.
3 つ目は2014年に報告されたSerorらの研究であり5), GCAに対してADAのPDNへの併用効果を検証した多施設二重盲検RCTである.新規GCA患者70人を対象として,PDNの投与量が≧1 mg/kg(≦ 2週の可能性あり)でランダム化を行った.ADA 40 mgまたはプラセボは2週ごとに皮下投与され,28週にむけてPDNは漸減された.アウトカムのうち本研究で採用可能だったものは,死亡,再燃,寛解,重篤な有害事象,重篤な感染症であり,TNF阻害薬群で1人,20人,20人,5人,3人,プラセボ群で2人,26人,18人,17人,5人とすべてのアウトカムについて2群間で有意差はなかった.
上記3件のRCTのデータを用いた統合解析の結果は, PDNまたはPSLとTNF阻害薬あるいはプラセボを併用した場合の比較にて,望ましい効果の重大なアウトカムについて,寛解(22~26週)に関するTNF阻害薬群の効果推定値は,1000人あたり48人増加(115人減少~284人増加),再燃は,22~26週で1000人あたり20人増加(140人減少~227人増加),52週で280人減少(544人減少~311人増加)であった.
望ましくない効果の重大なアウトカムである死亡(52週)に関するTNF阻害薬群の効果推定値は,1000人あたり26人減少(53人減少~254人増加),重篤な有害事象は,22 ~26週で1000人あたり170人減少(339人減少~436人増加),52週で43人増加(230人減少~1000人増加)であった.望ましくない効果の重要なアウトカムである重篤な感
p.30
1 FKermani TA, Warrington KJ, Cuthbertson D, et al. Vasculitis
Clinical Research Consortium. Disease Relapses among Patients with Giant Cell Arteritis: A Prospective, Longitudinal Cohort Study. J Rheumatol 2015; 42: 1213-1217. PMID: 25877501 2. Alba MA, García-Martínez A, Prieto-González S, et al. Relapses in patients with giant cell arteritis: prevalence, characteristics, and associated clinical findings in a longitudinally followed cohort of 106 patients. Medicine (Baltimore) 2014; 93: 194-201. PMID: 25181312 3. Hoffman GS, Cid MC, Rendt-Zagar KE, et al. Infliximab-GCA Study Group. Infliximab for maintenance of glucocorticosteroidinduced remission of giant cell arteritis: a randomized trial. Ann Intern Med 2007; 146: 621-630. PMID: 17470830 4. Martínez-Taboada VM, Rodríguez-Valverde V, Carreño L, et al. A
文献
double-blind placebo controlled trial of etanercept in patients with giant cell arteritis and corticosteroid side effects. Ann Rheum Dis 2008; 67: 625-630. PMID: 18086726 5. Seror R, Baron G, Hachulla E, et al. Adalimumab for steroid sparing in patients with giant-cell arteritis: results of a multicentre randomised controlled trial. Ann Rheum Dis 2014; 73: 2074-2081. PMID: 23897775 6. Hellmich B, Agueda A, Monti S, et al. 2018 Update of the EULAR recommendations for the management of large vessel vasculitis. Ann Rheum Dis 2020; 79: 19-30. PMID: 31270110 7. Maz M, Chung SA, Abril A, et al. 2021 American College of
Rheumatology/Vasculitis Foundation Guideline for the Management of Giant Cell Arteritis and Takayasu Arteritis. Arthritis Rheumatol 2021; 73: 1349-1365. PMID: 34235884
以上から,正味の利益とコストや資源のバランスは「中等度の増加」とした.
3.5 推奨のグレーディング
GCAのPDNまたはPSL治療へのTNF阻害薬の併用に関して,寛解や再燃にわずかな望ましい効果を認め,望ましくない効果は明らかではなかった.現状ではGC抵抗性のGCA患者に対しては保険適用であるTCZが使用されることが多いが,治療抵抗性の患者においてはケースバイケースで,TNF阻害薬が保険適用外で用いられる可能性はある.また高齢者が多いGCAにおいてはさまざまな合併症をもつことも多いため,十分な注意が必要である.
以上の議論を踏まえ,「GCAの治療では,TNF阻害薬を投与しないことを提案する(弱い推奨,エビデンスの確実性は非常に低)」でパネルの同意が得られた.
4 関連する他のCPGなどの記載
「EULAR大型血管炎治療の推奨(2018年改訂)」では, GC抵抗性での使用が考慮されるTAKと異なって,GCAでの使用については記載がみられない6).同様に,「ACR大型血管炎の治療ガイドライン2021」でも,TAKと異なってGCAでのTNF阻害薬の使用について記載はみられない7).
5 治療のモニタリングと評価
疾患活動性の評価には,臨床症状や血液検査(CRP値),画像評価などを用いる.有害事象である感染症合併やGC関連有害事象についてもモニタリングが必要である.
6 今後の研究の可能性
上記のエビデンスから,GCA患者に対するTNF阻害薬の有用性はIL-6阻害薬と異なって限定的である.ただ,特
定の患者サブグループ(特定のバイオマーカーを使用)に対して効果を発揮するかを明らかにする必要はある.最近GCAに側頭動脈病変を有さない大血管型GCAというサブグループの存在が指摘されており,そうしたサブグループへのTNF阻害薬の有用性については今後のさらなる検討が必要である.
7 採用論文
【RCT】Hoffman GS, Cid MC, Rendt-Zagar KE, et al. I n f l i x i m a b-G C A St u d y G r o u p. I n f l i x i m a b f o r maintenance of glucocorticosteroid-induced remission of giant cell arteritis: a randomized trial. Ann Intern Med 2007; 146: 621-630.【RCT】Martínez-Taboada VM, Rodríguez-Valverde V, Carreño L, et al. A double-blind placebo controlled trial of etanercept in patients with giant cell arteritis and corticosteroid side effects. Ann Rheum Dis 2008; 67: 625- 630.【R C T】S e r o r R , B a r o n G , H a c h u l l a E , e t a l . Adalimumab for steroid sparing in patients with giant-cell arteritis: results of a multicentre randomised controlled trial. Ann Rheum Dis 2014; 73: 2074-2081.
8 エビデンスプロファイル,Evidence to Decision
テーブル
CQ2-2の推奨作成関連資料(「補足資料」)を参照.
p.31
GCAの治療では,グルココルチコイド単独よりもグルココルチコイド+アバタセプトを提案する. (推奨の強さ:弱い,エビデンスの確実性:低,同意度:7.73)
CQ 2-3 GCAの治療では,アバタセプトは有用か?
推奨
1 背景
GCAは主に頭頚部動脈や大型血管に炎症を引き起こす自己免疫性疾患であり,特に高齢者において罹患率が高いことが知られている.標準的な治療法としてGCが用いられ,炎症を抑制し急性期の症状を改善する役割を果たす.しかし,GC単独療法では多くの患者で再燃が生じ,長期的な寛解を維持できる患者の割合は約50%にとどまると報告されている1).さらに,GCの長期使用は糖尿病,骨粗鬆症,感染症などの副作用を伴うため,GCを補完する治療法の必要性が高まっている.わが国ではTCZが承認されており,その有効性は広く知られているが,TCZ治療を受けても病勢を十分にコントロールできない患者が存在する2).このため,GCをスペアする新たな治療選択肢としてABAが注目されている.ABAはT細胞の共刺激阻害薬であり,免疫反応を抑制することで炎症を軽減する効果が期待されている.これまでにGCAに対するABAの研究報告がなされており,今回のガイドライン策定においてその有用性を検討した.
2 エビデンスの要約
SRの結果,GCA患者にABAを使用したRCTとしてLangfordらの研究3)が採用された.本研究は,2ヵ月以内に活動性病変を有する初発または再燃のGCAに対してGC +ABAで治療し,12週で寛解となった患者を対象にABAの有効性と安全性をプラセボと比較するデザインである. GC(PDN 40~60 mg/ 日)+ABA(10 mg/kg)で開始, ABAは1,15,29日および8週目に点滴投与し,PDNはプロトコールに従い12週で20 mg/日まで減量した.12週で寛解が確認された患者を対象にABAまたはプラセボを4週ごとに点滴投与し,GCを標準的な速度で減量し28週で0 mgとした.合計41人の患者がランダム化され,ABA群(20人)とプラセボ群(21人)に分けられた.重大なアウトカムに関して,死亡の発生はなかった.寛解(12ヵ月)に関してプラセボに対するABAの効果推定値は,1000人あたり167人増加(97人減少~723人増加)であった.また,再燃(12ヵ月)に対するABAの効果推定値は1000人あたり167人減少(373人減少~187人増加)であった.
解説本研究は寛解者が対象であり脱落がなかったことから参
加者数-寛解数=再燃数となり,寛解と再燃の検討は同じ結果となった.重篤な有害事象に関して発生割合の情報は得られなかったが,ランダム化後の発生件数はABA群で10件,プラセボ群で8件であった.重要なアウトカムである重篤な感染症に関しても発生割合の情報は得られなかった.ランダム化後の発生件数はABA群で2件,プラセボ群で0件であった.外科手術,血管内治療を要する動脈関連病変の発症はなかった.
なお,研究の主要評価項目である寛解期間(無再燃生存率)は,ABA群の中央値9.9ヵ月(12ヵ月での無再燃生存率48%),プラセボ群3.9ヵ月(同31%)であり,ABA群が有意に優れていた(寛解期間P=0.023,無再燃生存率P= 0.049).
3 パネル会議
3.1 アウトカム全般に関するエビデンスの確実性はどうか?
ABAとプラセボの比較に関して,不精確さの観点で2段階グレードダウンされた.アウトカム全般のエビデンスの確実性は,最も低いものを採用し「低」とした.
3.2 利益と害のバランスはどうか?
ABAとプラセボの比較に関して,寛解,再燃について,信頼区間が広いもののABA群がプラセボ群に比べて優れる傾向を示した.また,追加的考察ではあるが,論文の主要評価項目である寛解期間・12ヵ月後の無再燃生存率は, ABA群がプラセボ群よりも有意差をもって優れていた.有害事象の発生件数は両群間で差は認められなかった.以上の結果から,ABAとプラセボの利益と害のバランスを比較した場合,おそらく利益が害を上回ると考えられ, ABAによる介入のほうが優れているとした.
3.3 患者の価値観や意向はどうか?
患者の価値観や意向に関する情報はなかったが,このCQで評価された重要なアウトカムについては,不確実性やばらつきはないと考えられた.
3.4 正味の利益とコストや資源のバランスはどうか?
ABAとプラセボの利益と害のバランスについては,おそらくABAのほうが優れていると考えられる.医療費増分のコストに関してABAの費用対効果に関するエビデン
p.32
1 Dumont A, Parienti JJ, Delmas C, et al. Factors Associated with
Relapse and Dependence on Glucocorticoids in Giant Cell Arteritis. J Rheumatol 2020; 47: 108-116. PMID: 30877210 2. Samec MJ, Rakholiya J, Langenfeld H, et al. Relapse Risk and Safety of Long-Term Tocilizumab Use Among Patients With Giant Cell Arteritis: A Single-Enterprise Cohort Study. J Rheumatol 2023; 50: 1310-1317. PMID: 37321636 3. Langford CA, Cuthbertson D, Ytterberg SR, et al. Vasculitis Clinical
文献
Research Consortium. A Randomized, Double-Blind Trial of Abatacept (CTLA-4Ig) for the Treatment of Giant Cell Arteritis. Arthritis Rheumatol 2017; 69: 837-845. PMID: 28133925 4. Maz M, Chung SA, Abril A, et al. 2021 American College of
Rheumatology/Vasculitis Foundation Guideline for the Management of Giant Cell Arteritis and Takayasu Arteritis. Arthritis Rheumatol 2021; 73: 1349-1365. PMID: 34235884
スはない.わが国において60 kgの患者が4週に1回のABA点滴(3アンプル)を受けた場合,その薬価は1回あたり163,332円とされ,特定医療費(指定難病)受給者証のない患者にとって経済的負担が増加すると考えられる.また,点滴を行う負担も発生する.一方,ABAを使用せずに再燃が生じた場合には,追加の治療費用が発生する可能性も考慮する必要があるとの議論があった.さらに,わが国ではABAはGCAに対して保険適用外であり,薬剤使用に関して課題が残る.以上から,正味の利益とコスト,資源のバランスについては一概にいえないと判断された.
3.5 推奨のグレーディング
アウトカム全般のエビデンスの確実性は「低」であり, ABAとプラセボの利益と害のバランスについては,おそらくABAによる介入のほうが優れている.ABAの薬価,通院点滴を行う負担,保険適用外である点は考慮すべきではあるが,ABAを使用せずに再燃が生じた場合の追加治療費用も考慮する必要がある.
以上を踏まえ,ガイドラインパネルでは「GCAの治療では,GC単独よりもGC+ABAを提案する(弱い推奨)」とした.
4 関連する他のCPGなどの記載
「ACR大型血管炎の治療ガイドライン2021」4)の治療フローチャートでは,GCAに対して第一選択としてGCに加えTCZやMTXが推奨されている.それらの治療で効果が不十分な場合には,GCに加えてABAの使用がセカンドラインの選択肢として提案されている.この海外ガイドラインを参考にすると,本CPGでABAを条件付きで推奨することは共通性があると考えられる.
5 治療のモニタリングと評価
ABAの使用に際しては,有害事象の発生を慎重にモニタリングする必要がある.特に感染症や重篤な有害事象の
リスク管理が重要であり,患者の安全を確保するために継続的かつ適切なフォローアップが求められる.
6 今後の研究の可能性
現時点では,GCAに対するABAの有効性と安全性に関するエビデンスは限られている.今後,より大規模かつ長期的な観察を伴う質の高い臨床試験が実施され,ABAの効果と副作用に関するデータがさらに蓄積されることが望まれる.現在,ABAの有効性を検証する第3相二重盲検RCT「A Randomized Double-Blind, Placebo Controlled Trial of Abatacept (CTLA4-Ig) in Giant Cell Arteritis (ABAGART)試験(NCT04474847)」が,GC漸減を行いつつ,ABA皮下注とプラセボを比較するデザインで進行中である.今回採用した論文では,ABAの寛解維持における有用性が示唆されたものの,試験デザインの制約により寛解導入における有用性は示されていない.また,TCZとの有用性の違いや,ABAが特に有効とされる患者の特徴など,依然として解明すべき課題が残されている.
7 採用論文
【RCT】Langford CA, Cuthbertson D, Ytterberg SR, et al. Vasculitis Clinical Research Consortium. A Randomized, Double-Blind Trial of Abatacept (CTLA-4Ig) for the Treatment of Giant Cell Arteritis. Arthritis Rheumatol 2017; 69: 837-845.
8 エビデンスプロファイル,Evidence to Decision
テーブル
CQ2-3の推奨作成関連資料(「補足資料」)を参照.
p.33
GCAの治療では,グルココルチコイド単独よりもグルココルチコイド+メトトレキサートを提案する. (推奨の強さ:弱い,エビデンスの確実性:非常に低,同意度:7.91)
CQ 2-4 GCAの治療では,グルココルチコイド単独とグルココルチコイド+メトトレキサートはどちらが有用か?
推奨
1 背景
GCAは失明,血管狭窄,動脈瘤などの重篤な合併症につながる疾患である.寛解導入におけるGC反応性は比較的高いが,GC漸減過程での再燃はしばしば経験され,メタ解析の結果からは再燃率は47.2% 1)と報告されている.再燃は,GC中止やGC投与期間と関連しているが,結果的に長期GC投与が必要な症例も多く,再燃時にGC増量が必要になることを考慮に入れると累積GC投与量が大きくなる症例が多数存在する.必然的に多彩なGC関連有害事象に苛まれる患者も増え,寛解維持・GC減量効果に対するエビデンスが高い薬剤の必要性は高い.
2 エビデンスの要約
MTXに関するSRで採用した重大なアウトカムとして,寛解,再燃,心血管系手術あるいは血管内治療を必要とする動脈関連病変,死亡,重篤な有害事象,重要なアウトカムとして,重篤な感染症,患者QOLについて評価し,3件のRCTが採用された.
1 つ目はHoffmanらの2002年に報告された研究で2), GCAに対してGC治療に対するMTX併用の効果を検証した多施設二重盲検RCTである.新規発症GCA患者98人を対象として,PDN 1 mg/kg/日によるGC治療と同時に,プラセボあるいは0.15 mg/kg/週(0.25 mg/kg/週で増量し,最大15 mg/週とした)のMTXを併用し,この2群間における治療効果を比較した.GCはプロトコールの規定に沿って漸減し6ヵ月で中止,その後12ヵ月時点での各種アウトカムを評価した.この試験における評価項目は治療失敗率(2回以上の再燃か,GC増量でも改善しない再燃)および1回目の再燃率であったが,6ヵ月,12ヵ月時点での治療失敗率は,プラセボ群でそれぞれ35.4%(95%CI:19.2~ 51.6),77.3%(95%CI:61.9~92.8)に対して,MTX群は24.4%(95%CI:11.2~37.6),57.5%(95%CI:41.6~ 73.4)で,2群間に有意差はなかった(P=0.26).一方, 6ヵ月,12ヵ月時点での1回目の再燃率は,プラセボ群でそれぞれ66.1%(95%CI:50.2~82.0),91.3%(95% CI:80.6~100)に対して,MTX群は68.9%(95%CI: 54.8~82.9),74.8%(95%CI:61.2~88.4)で,こちらも2
解説群間に有意差はなくMTXの有効性を示せなかった(P=
0.31)が,12ヵ月時点でMTX併用が再燃を減少させる傾向はみられた.この試験のデータのなかで,SRにおいて重大なアウトカムとして評価に採用できたものは,死亡,再燃で,重大ではないが重要なアウトカムとしては重篤な感染症が採用された.
2つ目のRCTは2001年に報告されたJoverらの3)二重盲検RCTでMTX併用の有用性を評価している.新規発症GCA患者42人を対象として,60 mg/日のPDNによる治療開始と同時に,プラセボあるいはMTX 10 mg/週を併用し,プラセボ群とMTX群との間での治療効果を比較した. GCは漸減し6ヵ月で中止,24ヵ月で効果を評価するプロトコールで,主要評価項目は再燃数とPDNの総投与量であった.24ヵ月時点での1回でも再燃した患者の割合は,プラセボ群で84.2%,MTX群で45%となり2 つの群に有意差が存在した(P=0.02).一方,PDNの累積平均投与量は,プラセボ群で5489.5±1396 mg,MTX群で4187± 1529 mgであり,こちらも統計学的に有意であった(平均差:1302 mg[95%CI:350~2253 mg],P=0.009).この試験からは,死亡,再燃,1週時点での寛解が重大なアウトカム,重要なアウトカムとして重篤な感染症がSRに採用された.
3つ目の二重盲検RCTはSpieraによる2001年の報告である4).この試験は最終的に21人の新規発症患者が試験に登録され,PDN 1 mg/kg/日で加療開始され,4ヵ月をめどにGC中止可能患者はGCを中止するプロトコールであった.他の試験とは違い,MTX投与開始時期はGC治療開始と同時ではなく,PDN 30 mg/日に減量された時点でMTX治療が開始された.MTX投与量は,当初,7.5 mg/週で始め,最大20 mg/週まで増量された.主要評価項目はPDNの累積投与量であったが,プラセボ治療群とMTX治療群で,それぞれ累積投与量は6469 mg±2024および5908 mg±213となり,P=0.6で2群間に統計学的な有意差を認めなかった.この試験からは,重大なアウトカムとして再燃がSRに採用された.
上記3件の試験から採用されたデータを用いた統合解析の結果は,重大なアウトカムである寛解に関しては,評価
p.34
可能なデータはなかった.再燃(12~24ヵ月)に関しては3 つの試験が統合され,介入群(MTX)の効果推定値は, 1000人あたり192人減少(400人減少~108人増加)であった.一方で望ましくない効果の重大なアウトカムである死亡(12~24ヵ月)に関しては,介入群(MTX)の効果推定値は1000人あたり13人増加(13人減少~282人増加)であった.重大ではないが重要なアウトカムである重篤な感染症(12~24ヵ月)に関する介入群(MTX)の効果は, 1000人あたり47人減少(70人減少~65人増加)であった.
追加的考察として参照した報告に,MTXの有効性を検証した統合解析がある5).この統合解析においては,初回/2回目の再燃率の減少(NNT 3.6/4.7),GC減量効果(842 mg/48週),GC中止率の上昇が報告されている.
3 パネル会議
3.1 アウトカム全般に関するエビデンスの確実性はどうか?
MTX治療に関して採用されたアウトカムである,死亡,寛解,再燃,重篤な感染症のなかで,死亡,寛解,重篤な感染症の項目に関して不精確さでダウングレードされ,エビデンスの確実性は「低」となった.再燃においては,バイアスのリスク,不精確さ,非一貫性でダウングレードされ,エビデンスの確実性は「非常に低」となった.この結果,アウトカム全体のエビデンスの確実性は最も低いものを採用し,「非常に低」とした.
3.2 利益と害のバランスはどうか?
望ましい効果については,再燃に関してMTXで減少する方向にあり,点推定値は1000人あたり192人減少ではあったが,95%信頼区間は0 をまたいでいた.採用したRCTの試験間の結果にばらつきがあり,試験におけるGC減量プロトコール,患者選択などの影響を受けて結果が一貫していない可能性もあり,望ましい効果は「小さい」とした.望ましくない効果については,死亡はMTXで増加する方向にある一方で,重篤な感染症はMTXで減少する方向にあり,望ましくない効果は「さまざま」とした.以上より小さい望ましい効果が認められる一方で,望ましくない効果はさまざまであったことより,望ましい効果と望ましくない効果のバランスは「おそらく介入が優れている」とした.
3.3 患者の価値観や意向はどうか?
アウトカムの重要度の評価に関する研究はなかったが,おおむね患者の価値観や意向にもばらつきはないと考えられ,患者代表のパネルからも同意が得られた.ただし,推奨の作成には使用されていないが重要なアウトカムであるQOLを重大なアウトカムと考える患者も想定し,重要な不確実性またはばらつきは「おそらくなし」と判断した. 3.4 正味の利益とコストや資源のバランスはどうか?
これまでに費用対効果や資源量についてエビデンスとして採用可能な研究はない.介入群でのMTX総投与量は評価されていないが,12 mg/週の投与と仮定すると16,848~ 41,308円/年(10割負担)であり,費用負担は大きくないと考えられる.また,追加の検査や受診の増加などの必要性も必ずしも高くないと考えられ,資源量は「無視できるほどの増加や減少」とした.
3.5 推奨のグレーディング
MTX併用治療に関して,再燃に対して小さな望ましい効果を認め,望ましくない効果は明らかではなかった. MTXは,リウマチ膠原病診療において最も一般的に使用される薬剤であり,また,JPVAS後ろ向きコホートにおいて2007~2014年に新規に発症したGCA患者139人中20人(14.4%)で,寛解導入時からMTXが使用されており,再燃した41人中12人(29.3%)にMTXが開始されており,日本の実臨床においてGCAに最も多くの使用実績がある免疫抑制薬である6).
一方で,MTXはいくつもの禁忌があり,特に高齢者では重篤な有害事象が発現する割合が高い傾向にあり,用法・用量を間違える懸念もある薬剤で,高齢者が多いGCAにおいては慎重な使い方が必要となる.また保険適用外であることにも留意されたい.
以上の議論を踏まえ,「GCAの治療では,GC単独よりもGC+MTXを提案する(弱い推奨,エビデンスの確実性は非常に低)」でパネルの同意が得られた.
4 関連する他のCPGなどの記載
「EULAR大型血管炎治療の推奨(2018年改訂)」7)では,難治性あるいは再燃の患者,またはGC関連の副作用や合併症のリスクがある患者に対して,GCに加えて補助療法を行うことが推奨されている.補助療法としてTCZの信頼性が高い.しかしながら症例によってMTXはTCZの代替として使用することができると提案されている.「ACR大型血管炎の治療ガイドライン2021」8)では,新たに診断されたGCAの初期治療として,GC単独ではなくTCZを併用したGC療法が条件付きで推奨されており,推奨文本文にはMTXの推奨はされていない.しかしその推奨の解説で,TCZ+GC,MTX+GC,またはGC単独療法のいずれも選択肢となりうると提案されており,その選択は医師の経験や患者の臨床状態,価値観,意向に基づいて決定されるべきとしている.
一方,大血管病変をもつ場合はGC単独療法よりも免疫抑制薬の併用が提案されており,この場合,MTXはTCZの投与が難しい場合に検討されうる.再燃例においてはいくつかの臨床状況で分けられて記載されているが,GC増
p.35
1 Mainbourg S, Addario A, Samson M, et al. Prevalence of Giant Cell
Arteritis Relapse in Patients Treated With Glucocorticoids: A Meta- Analysis. Arthritis Care Res (Hoboken) 2020; 72: 838-849. PMID: 30951256 2. Hoffman GS, Cid MC, Hellmann DB, et al. International Network for the Study of Systemic Vasculitides. A multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled trial of adjuvant methotrexate treatment for giant cell arteritis. Arthritis Rheum 2002; 46: 1309- 1318. PMID: 12115238 3. Jover JA, Hernández-García C, Morado IC, et al. Combined treatment of giant-cell arteritis with methotrexate and prednisone. a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Ann Intern Med 2001; 134: 106-114. PMID: 11177313 4. Spiera RF, Mitnick HJ, Kupersmith M, et al. A prospective, doubleblind, randomized, placebo controlled trial of methotrexate in the treatment of giant cell arteritis (GCA). Clin Exp Rheumatol 2001; 19: 495-501. PMID: 11579707 5. Mahr AD, Jover JA, Spiera RF, et al. Adjunctive methotrexate for
文献
treatment of giant cell arteritis: an individual patient data metaanalysis. Arthritis Rheum 2007; 56: 2789-2797. PMID: 17665429 6. Sugihara T, Hasegawa H, Uchida HA, et al. Japan Research Committee of the Ministry of Health, Labour, and Welfare for Intractable Vasculitis (JPVAS). Associated factors of poor treatment outcomes in patients with giant cell arteritis: clinical implication of large vessel lesions. Arthritis Res Ther 2020; 22: 72. PMID: 32264967 7. Hellmich B, Agueda A, Monti S, et al. 2018 Update of the EULAR recommendations for the management of large vessel vasculitis. Ann Rheum Dis 2020; 79: 19-30. PMID: 31270110 8. Maz M, Chung SA, Abril A, et al. 2021 American College of Rheumatology/Vasculitis Foundation Guideline for the Management of Giant Cell Arteritis and Takayasu Arteritis. Arthritis Rheumatol 2021; 73: 1349-1365. PMID: 34235884 9. 日本リウマチ学会MTX診療ガイドライン小委員会.メトトレキ
サート(MTX)使用と診療の手引き2023年版.羊土社 2023.
量に加え免疫抑制薬の投与が提案されており,特にGC投与中に起こった頭蓋内症状を伴う再燃にはTCZ併用治療が優先され,TCZが何らかの理由で使用しにくい症例に対してMTXを投与することが検討できるとしている.
MTXの使用に関しては,「メトトレキサート(MTX)使用と診療の手引き2023年版」9)が日本リウマチ学会により作成されており,実際の治療にあたっては参照されたい.
5 治療のモニタリングと評価
疾患活動性の評価には臨床症状やCRP値,画像評価などを用いる.MTXを使用する場合,MTXによる有害事象のリスクに対するモニタリングも必要で,腎障害をはじめとして禁忌となっている事象を確認して投与する必要がある.また,血液障害,間質性肺炎,感染症,肝障害, MTX関連リンパ増殖性疾患などは予後に直結する有害事象であり,こちらも十分なモニタリングが必要である.
6 今後の研究の可能性
現在MTXが使われているGCA患者に対する,2年以上の長期にわたるMTXの有効性,および副作用などの研究が必要とされる.
さらに,GCAはGCの使用を中止することができる可能性が高い疾患であるが,単独GC治療が行われた場合のGC中止では非常に高い再燃率を認める1).このため,GC治療目標をGC中止とした場合には,多くの症例で何らかの免疫抑制薬の使用が必要となる.今後は,GC減量のために免疫抑制療法が必要な例はどういった症例か,また,
そのなかでも費用対効果に優れるMTXの併用で十分な効果が得られる例はどういった症例かなどの研究が進むことにより,GCA治療の個別化,最適化が進むことが期待される.
7 採用論文
【RCT】Hoffman GS, Cid MC, Hellmann DB, et al. International Network for the Study of Systemic Vasculitides. A multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled trial of adjuvant methotrexate treatment for giant cell arteritis. Arthritis Rheum 2002; 46: 1309-1318.【RCT】Jover JA, Hernández-García C, Morado IC, et al. Combined treatment of giant-cell arteritis with methotrexate and prednisone. a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Ann Intern Med 2001; 134: 106-
114 【RCT】Spiera RF, Mitnick HJ, Kupersmith M, et al. A
prospective, double-blind, randomized, placebo controlled trial of methotrexate in the treatment of giant cell arteritis (GCA). Clin Exp Rheumatol 2001; 19: 495-501.
8 エビデンスプロファイル,Evidence to Decision
テーブル
CQ2-4の推奨作成関連資料(「補足資料」)を参照.
p.36
1 背景
GC大量静注療法(GCパルス療法)は,経口GC療法と比較して疾患の急性期における活動性をより迅速かつ効果的に抑制できるか,累積GC用量を減らせるか,再燃防止にどの程度効果的であり,その効果が長期間持続するか,副作用や有害事象のリスクを増減させるかは不明である.
高用量GC療法は中等量GC療法と比べて,疾患の急性期における活動性をより迅速かつ効果的に抑制できるか,累積GC投与量を減らせるか,再燃防止にどの程度効果的であり,その効果が長期間持続するか,副作用や有害事象のリスクを増減させるかは不明である.
2 エビデンスの要約
GCパルス療法の検討に関しては,2件の研究が採用された.1 つは2000年に報告されたChevaletらの研究であり1),GCAに対するGCパルス療法の効果を検証した多施設RCTである.フランス国内の25施設で新たに診断されたGCA患者164人を対象とし,1GCパルス療法(メチルプレドニゾロン240 mgの単回投与)後に0.7 mg/kg/日のPDN経口投与(GCパルス+高用量群),2GCパルス療法後に0.5 mg/kg/日のPDN経口投与(GCパルス+中等量群),3GCパルス療法なしで0.7 mg/kg/日のPDN経口投与(GCパルスなしの高用量群),の3群に割り当てられた.今回のSRにおいて対象となっているアウトカムのうち本研究で採用可能だったのは,死亡のみであった.GCパルス療法+高用量群での死亡はなく,GCパルス+中等量群で4人の死亡,GCパルスなしの高用量群で1人の死亡が
解説確認されたが,そのうち2人はGCAに関連する合併症で
あり,3人は他の疾患や原因による死亡であった.
もう1つは2006年に報告されたMazlumzadehらが米国の単施設で行ったプラセボ対照二重盲検RCTである2).新規発症GCAと診断された27人について,14人がGCパルス療法(メチルプレドニゾロン15 mg/kg×3日間)群,13人がプラセボ群に割り付けられ,その後は全例が40 mg/日のPDN経口投与を開始し,臨床症状に基づき漸減された.主要アウトカムは36週時点でのPDN 5 mg/日以下での寛解達成率で,介入群71%に対し,比較群15%(P= 0.003)であった.この傾向は52週(介入群79%,比較群15%,P=0.001),78週(介入群86%,比較群33%,P= 0.006)でも維持された.副次アウトカムとして,介入群では累積PDN投与量が比較群よりも少なく(介入群5636 mg,比較群7860 mg,P=0.001),再燃率も低下した(P= 0.028).治療関連の有害事象に有意差はみられなかった.
重大なアウトカムである死亡に関してGCパルス療法ありの効果推定値(1000人あたり)は11人減少(15人減少~ 91人増加)で,NNTは90.9 で1人の死亡が減少した.寛解(52週)についてGCパルス療法ありの効果推定値(1000人あたり)は632人増加(60人増加~1000人増加),寛解(78週)では523人増加(40人増加~667人増加)で,NNTは1.91であった.重大なアウトカムである再燃(78週)に関して,GCパルス療法ありの効果推定値(1000人あたり)は212人減少(425人減少~111人増加)で,NNTは4.71で1人の再燃が減少した.
GC投与量については,GCパルス療法の検討でも用い
CQ2-5-1 GCAの治療では,グルココルチコイド大量静注療法(GCパルス療法)は有用か?
新規発症のGCAの治療では,グルココルチコイド大量静注療法(GCパルス療法)を併用することを提案する.付記:急激に眼症状,神経症状が出現した症例において考慮する.それ以外の場合で,特に高齢者で感染症などのリスクが懸念される場合には,併用しないことも考慮する. (推奨の強さ:弱い,エビデンスの確実性:非常に低,同意度:8.27)
CQ2-5-2 GCAの治療では,高用量グルココルチコイドと中等量グルココルチコイドのどちらが有用か?
新規発症のGCAの治療でグルココルチコイド大量静注療法(GCパルス療法)後に開始するグルココルチコイドの投与量は,高用量と中等量のいずれも提案する. (推奨の強さ:弱い,エビデンスの確実性:非常に低,同意度:7.64)
CQ 2-5 GCAの治療では,グルココルチコイドの高用量治療は有用か?
推奨
推奨
p.37
られたMazlumzadehらの研究が採用された2).重大なアウトカムである死亡に関して,GC中等量に対するGC高用量の効果推定値(1000人あたり)は73人減少(79人減少~53人増加),NNTは13.7で1人の死亡が減少した.死亡以外のアウトカムについては検討できなかった.
3 パネル会議
3.1 アウトカム全般に関するエビデンスの確実性はどうか?
SRの結果,GCパルス療法に関して,重大なアウトカムである死亡は,バイアスのリスク,不精確さでダウングレードされ,エビデンスの確実性は「非常に低」となった.寛解・再燃については,不精確さでダウングレードされ,エビデンスの確実性は「低」と判断された.アウトカム全体のエビデンスの確実性は最も低いものを採用し,「非常に低」とした.
GC投与量に関しては,検討可能なアウトカムは死亡のみであった.バイアスのリスク,不精確さでダウングレードされ,エビデンスの確実性は「非常に低」となった.
3.2 利益と害のバランスはどうか?
GCパルス療法における望ましい効果については,寛解(52週),再然(78週)から,GCパルス療法ありのほうが優れており,効果の点推定値が大きいので,望ましい効果は「大きい」とした.望ましくない効果については, GCパルスありでは死亡が減少する方向であったが得られる効果の点推定値は小さいので,望ましくない効果は「小さい」とした.以上から,望ましい効果と望ましくない効果のバランスとしては「おそらく介入が優れている」とした.
GC投与量に関しては,望ましい効果で評価対象となっているアウトカムの報告はなかった.望ましくない効果については,GC高用量,中等量の比較で,死亡に関するGC高用量の効果推定値は減少の方向であるが,信頼区間がすべての決断閾値をまたぐため,望ましくない効果は「わからない」とした.望ましい効果として評価可能なアウトカムがなく,望ましくない効果もわからないため,効果のバランスも「わからない」とした.
3.3 患者の価値観や意向はどうか?
アウトカムの重要度の評価に関する研究はなかったが,おおむね患者の価値観や意向にもばらつきはないと考えられ,患者代表のパネルからも同意が得られた.ただし,推奨の作成には使用されていないが,重要なアウトカムであるQOLを重大なアウトカムと考える患者も想定し,重要な不確実性またはばらつきは「おそらくなし」と判断した.
3.4 正味の利益とコストや資源のバランスはどうか?
これまでに費用対効果や資源量についてエビデンスとして採用可能な研究はない. GCパルス療法は,その実施に関する薬剤費の大きな差
異はないことから寛解・再燃への有効性を考慮し,介入の費用対効果がおそらくよいとした.投与量については,高用量は中等量と比較して望ましい効果が高い可能性が残る一方で,中等量ではGCの有害事象が低減される可能性がある.
GCパルス療法およびその後のGC内服投与も入院中に実施されることが想定され,薬剤費の大きな差異はないことから,資源量は「無視できるほどの増加や減少」とした.
3.5 推奨のグレーディング
GCパルス療法については,重大なアウトカムである寛解,再燃に対して大きな効果があり,望ましくない効果もわずかであった.しかし,エビデンスの確実性は「非常に低」であるため,弱い推奨とした.また,パネル会議の検討のなかで,エビデンスとしては得られていないものの,急激な眼症状,神経症状が出現する場合にはGCパルス療法を使用したほうがよいことを,付記として追記することで同意が得られた.また,それ以外の場合で,特に高齢者では感染症などのリスクが懸念される場合には,GCパルス療法を使用しないことを考慮することも加えた.
GC投与量については,望ましい効果として評価可能なアウトカムはなく,望ましくない効果もわからないため,効果のバランスは「わからない」とした.評価した研究の集団がGCパルス療法後の集団であることを考慮し,この推奨を当てはめる集団を限定することで,「GCAの治療では,GC量は高用量と中等量のいずれも提案する(弱い推奨)」ことで同意が得られた.
4 関連する他のCPGなどの記載
「EULAR大型血管炎治療の推奨(2018年改訂)」では,活動性のGCA症例に対しては基本的に高用量GCが推奨され,視力障害が出現した症例に対してはエビデンスが乏しいとの解説がつけられたうえで,GCパルス療法が推奨されている3).「ACR大型血管炎の治療ガイドライン2021」では,新規発症の視力障害を有するGCA症例ではGCパルス療法が提案されているが,頭蓋内病変を認めない場合はGCパルス療法よりも高用量GCでの治療を提案し,ルーチンでGCパルス療法を使用しないことが記載されている.また,新規発症例に対しては,中等量よりは高用量のGC投与が提案されている4).
5 治療のモニタリングと評価
疾患活動性の評価には臨床症状や血液検査(CRP値),画像評価などを用いる.有害事象である感染症合併やGC特異的な有害事象についてもモニタリングが必要である.
p.38
1. Chevalet P, Barrier JH, Pottier P, et al. A randomized, multicenter, controlled trial using intravenous pulses of methylprednisolone in the initial treatment of simple forms of giant cell arteritis: a one year followup study of 164 patients. J Rheumatol 2000; 27: 1484-1491. PMID: 10852275 2. Mazlumzadeh M, Hunder GG, Easley KA, et al. Treatment of giant
cell arteritis using induction therapy with high-dose glucocorticoids: a double-blind, placebo-controlled, randomized prospective clinical
文献
trial. Arthritis Rheum 2006; 54: 3310-3318. PMID: 17009270 3. Hellmich B, Agueda A, Monti S, et al. 2018 Update of the EULAR recommendations for the management of large vessel vasculitis. Ann Rheum Dis 2020; 79: 19-30. PMID: 31270110 4. Maz M, Chung SA, Abril A, et al. 2021 American College of
Rheumatology/Vasculitis Foundation Guideline for the Management of Giant Cell Arteritis and Takayasu Arteritis. Arthritis Rheumatol 2021; 73: 1349-1365. PMID: 34235884
1 背景
GCAは失明,血管狭窄,動脈瘤などの重篤な合併症につながる疾患である.寛解導入におけるGC反応性は比較的高いが,GC漸減過程での再燃はしばしば経験され,メタ解析の結果からは再燃率は47.2% 1)と報告されている. GCを減量し,かつ再燃を抑えることができる薬剤が必要とされ,現在,TCZおよびMTXが,この目的のために使用されている(CQ2-1,CQ2-4参照).しかしながら, TCZ,MTXによっても十分な効果が得られない患者や,何らかの理由でこれら薬剤の使用が難しい患者も存在しており,新たな薬剤の開発が必要とされている.病態生理学的には,GCAの病変は,外膜における活性化常在樹状細
解説胞と,IFNγを産生するヘルパーT細胞1型(Th1細胞)お
よびIL-17を産生するヘルパーT細胞17型(Th17細胞)の浸潤が特徴とされる.これらの病変にはIL-17Aが豊富に発現しており,その阻害がGCA患者に対する治療法となりうることを示唆している2, 3).
2 エビデンスの要約
IL-17阻害治療に関するSRの結果,2023年に報告されたVenhoffらによる,抗IL-17A抗体製剤セクキヌマブ(SEC)を用いた多施設,プラセボ対照二重盲検RCTが1件のみ採用された4).この試験は,GCAの新規発症または再燃例で,疾患活動性が認められる患者を対象とし,登録した52人の患者を,SEC群27人,プラセボ群25人に割り付け,GC治療に併用して試験薬を用いて治療し,2群間
GCAの治療では,セクキヌマブを投与しないことを提案する. (推奨の強さ:弱い,エビデンスの確実性:非常に低,同意度:7.64)
CQ 2-6 GCAの治療では,IL-17阻害薬は有用か?
推奨
6 今後の研究の可能性
多くのガイドラインで視力障害や頭蓋内病変を有する症例においてのGCパルス療法の使用が推奨されているが,そのエビデンスは十分ではない.非重症例でのGC減量効果を介した有害事象の低減効果や,GCパルス療法の有用性の評価も含めたエビデンスが望まれる.
今回の研究では,有害事象などの評価が行われていない.TCZなどの新規薬剤が使用可能な現在,GCパルス療法のエビデンスをどう活用するかに関しては,別に検討が必要である.
GC投与量による評価では,寛解,再燃などをアウトカムとした望ましい効果,および有害事象などの望ましくない効果の評価が必要である.また,GCパルス療法を併用しない場合や免疫抑制薬,TCZなどの生物学的製剤の併用時のGCの使用方法についての検討も望まれる. 7 採用論文
CQ2-5-1【RCT】Mazlumzadeh M, Hunder GG, Easley
KA, et al. Treatment of giant cell arteritis using induction therapy with high-dose glucocorticoids: a double-blind, placebo-controlled, randomized prospective clinical trial. Arthritis Rheum 2006; 54: 3310-3318.
CQ2-5-1,CQ2-5-2【RCT】Chevalet P, Barrier JH,
Pottier P, et al. A randomized, multicenter, controlled trial using intravenous pulses of methylprednisolone in the initial treatment of simple forms of giant cell arteritis: a one year followup study of 164 patients. J Rheumatol 2000; 27: 1484-1491.
8 エビデンスプロファイル,Evidence to Decision
テーブル
CQ2-5の推奨作成関連資料(「補足資料」)を参照.
p.39
の治療効果の違いを評価した.本試験のGC治療として,治療開始時はPSLで25~60 mg/日と投与量に制限はなくばらつきが認められていたが,GC漸減方法はプロトコールに定義されており,試験開始27週目には中止された.主要評価項目として設定されたのは28週目までの持続的な寛解維持率であった(持続的な寛解とは,28週目までに再燃がなく,かつプロトコールで定義されたGC減量投与スケジュールを遵守できていることとされた).
本試験はベイズ解析に基づいた統計解析が行われているが,28週まで持続的寛解を達成した患者の中央値は, SEC群で70%(95%信用区間(credible interval[CrI]): 52~85),プラセボ群で20%(95%CrI:12~30)であった.すなわち,28週まで持続的寛解を達成した患者の割合(事後中央値)は,SEC群で0~70%,プラセボ群で0~20%であり,その結果,リスク差(RD)は0.50(95%CrI:0.29~ 0.67),リスク比(RR)は3.43(95%CrI:2.10~5.87)となった.一方,有害事象の発生率はSEC群(27人中27人[100%])とプラセボ群(25人24人[96%])で同様であったと報告されている.
SRで採用した重大なアウトカムとして,寛解(52週),再燃(52週),心血管系手術あるいは血管内治療を必要とする動脈関連病変,死亡,重篤な有害事象の発現(52週),重要なアウトカムとして重篤な感染症の発現(52週),患者QOLについて評価した.寛解(52週)は前述した持続的な寛解を評価した.その結果,望ましい効果として,寛解に関する介入群(SEC)の効果推定値は52週における持続寛解では1000人あたり513人増加(71人増加~1000人増加),NNTは1.9 であった.また,再燃に関する介入群(SEC)の効果推定値は,52週において1000人あたり378人減少(498人減少~120人減少),NNTは2.6で1人の再燃が減少した.QOLに関する介入群(SEC)の効果推定値はPatient global assessment(PGA) (28週)では6.4減少(23.1減少~11.11増加)で,PGA(52週)では3.3減少(19.23減少~12.63増加)であった.心血管系手術あるいは血管内治療を必要とする動脈関連病変についての評価はされていなかった.
望ましくない効果に関しては,死亡(52週)に関する介入群(SEC)の効果推定値は1000人あたり28人減少(40人減少~250人増加),NNTは35.7で1人の死亡が減少した.重篤な有害事象の発現(52週)に関する介入群(SEC)の効果推定値は,1000人あたり216人減少(343人減少~70人増加),NNTは4.6で1人の重篤な有害事象が減少した.重篤な感染症が重大なアウトカムとして評価され,重篤な感染症の発現(52週)に関する介入群(SEC)の効果推定値は,1000人あたり34人増加(33人減少~728人増加), NNTは29.4であった.
追加的考察として,望ましい効果としては12週における寛解は1000人あたり336人増加(43人増加~792人増加), NNTは2.97で,28週における持続寛解では1000人あたり463人増加(96人増加~1000人増加),NNTは2.1 であった.28週における再燃(28週)では1000人あたり255人減少(365人減少~18人増加),NNTは3.9で1人の再燃が減少した.
3 パネル会議
3.1 アウトカム全般に関するエビデンスの確実性はどうか?
SEC治療に関して採用された重大なアウトカムである,死亡,寛解,再燃,重篤な有害事象の発現,重要なアウトカムである重篤な感染症の発現と,QOLにおける寛解の項目に関しては,不精確さでグレードダウンされエビデンスの確実性は「低」となった.一方で,死亡,再燃,重篤な有害事象,重篤な感染症,患者QOLの項目においては,バイアスのリスクおよび不精確さの両項目でダウングレードされ,エビデンスの確実性は「非常に低」となった.この結果,アウトカム全体のエビデンスの確実性は最も低いものを採用し,「非常に低」とした.
3.2 利益と害のバランスはどうか?
望ましい効果については,重大なアウトカムである寛解,再燃に関してSECのほうがプラセボより優れる方向にあり,それぞれにおいて効果推定値も大きかった.また重要なアウトカムであるQOLは,SECのほうがやや優れる方向にあった.これらの得られた効果の程度により,望ましい効果は「大きい」とした.望ましくない効果については,重大なアウトカムである死亡・重篤な有害事象はSECがプラセボより優れる方向にあり,得られる効果の程度により,望ましくない効果は「わずか」とした.以上より,望ましい効果と望ましくない効果のバランスは「おそらく介入が優れている」とした.
3.3 患者の価値観や意向はどうか?
アウトカムの重要度の評価に関する研究はなかったが,おおむね患者の価値観や意向にもばらつきはないと考えられ,患者代表のパネルからも同意が得られた.ただし,重要なアウトカムとして選定したQOLを重大なアウトカムと考える患者も想定し,重要な不確実性またはばらつきは「おそらくなし」と判断した.
3.4 正味の利益とコストや資源のバランスはどうか?
これまでに費用対効果や資源量についてエビデンスとして採用可能な研究はない.薬剤は,対照群は52ヵ月で0円, SEC群は52ヵ月でSEC(300 mg/回)138,249円×16回= 2,211,984円である.自己注射製剤であり,一部の患者では受け入れがたい可能性があり,また自己注射指導などの
p.40
1 Mainbourg S, Addario A, Samson M, et al. Prevalence of Giant Cell
Arteritis Relapse in Patients Treated With Glucocorticoids: A Meta- Analysis. Arthritis Care Res (Hoboken) 2020; 72: 838-849. PMID: 30951256 2. Espígol-Frigolé G, Corbera-Bellalta M, Planas-Rigol E, et al.
Increased IL-17A expression in temporal artery lesions is a predictor of sustained response to glucocorticoid treatment in patients with giant-cell arteritis. Ann Rheum Dis 2013; 72: 1481-
文献
1487. PMID: 22993227 3. Samson M, Corbera-Bellalta M, Audia S, et al. Recent advances in our understanding of giant cell arteritis pathogenesis. Autoimmun Rev 2017; 16: 833-844. PMID: 28564617 4. Venhoff N, Schmidt WA, Bergner R, et al. Safety and efficacy of
secukinumab in patients with giant cell arteritis (TitAIN): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2 trial. Lancet Rheumatol 2023; 5: e341-e350. PMID: 38251601
医療資源も必要とする.さらに,保険適用外の薬剤であり,保険診療として施行することはできない.必要資源量は「大きな増加」とした.一方,再燃が増加することで入院などの追加の医療費が発生することも考慮する必要があるが,該当する研究がないため評価が困難であり,利益とコストのバランスは「さまざま」とした.
3.5 推奨のグレーディング
SEC治療に関して,寛解,再燃に対して望ましい効果は「大きい」,死亡,重篤な有害事象に対して望ましくない効果は「わずか」であり,効果のバランスは介入群がおそらく優れているという結果が得られたが,エビデンスとしての確実性は「非常に低」と判断した.また,第3相試験の結果によっては益と害のバランスが変わる可能性があるとする意見もあった.さらに,実際の臨床においても,従来GCAにほぼ用いられることのない薬剤であり,SECの有効性を評価した観察研究など,追加的考察としてエビデンスを補完できる研究はなかった.またかなり高価な薬剤であり,かつ保険適用外の薬剤であることからから実施することは困難が予想され,実行可能性は「さまざま」であると判断した.
以上より,現時点ではSECの投与をGCA患者に実施することはごく一部と考えられ,「GCAの治療では,SECの投与は行わないことを提案する(弱い推奨,エビデンスの確実性は非常に低)」でパネルメンバーの同意が得られた.
ただし,パネル会議の議論において,効果のバランスは介入群がおそらく優れていることから,GC単独療法のみでの再燃ではなく,GCと他薬剤(TCZやMTXなど)との併用療法での効果が不十分であった場合や,他薬剤の使用が困難な患者に対しては,GCとの併用療法の1つとして考慮に入れることが可能な薬剤であると認識された.しかしながら,その後,推奨文案と解説文の確定作業を実施中に,第3相試験GCAptAIN(NCT04930094)で,論文化の前の段階であるが,SEC+26週のGC群とプラセボ+ 52週のGC群で主要評価項目の寛解維持率で有意差が認
められず,また,GC累積投与量には有意差がないことが示された.以上を踏まえて推奨は「SECを投与しないことを提案する」のままとした.
4 関連する他のCPGなどの記載
現在,他の診療ガイドラインにおいてSECに対する推奨の記載は存在しない.
5 治療のモニタリングと評価
疾患活動性の評価には臨床症状やCRP値,画像評価などを用いる.IL-17阻害薬での治療による修飾が検査値などに与える影響に関して情報が少なく,丁寧な症状の聴取や身体診察,画像評価を含むモニタリングが必要である.
6 今後の研究の可能性
2025年12月時において,SECは乾癬,乾癬性関節炎,強直性脊椎炎で保険適用があり,これらの疾患に対する有効性と安全性のエビデンスが蓄積している.また,IL-17阻害薬を用いた,GCAに対する2つのRCTが進行中であり,これらの結果が報告されることによりエビデンスの確実性が高まる可能性がある.また,GCAのなかで,現在の標準治療に抵抗性の患者に対する,IL-17阻害薬の有効性と安全性を確立するための研究,さらには,初発症例も含めてIL-17阻害薬の投与が適した患者を選択するための研究が進むことが期待される.
7 採用論文
【RCT】Venhoff N, Schmidt WA, Bergner R, et al. Safety and efficacy of secukinumab in patients with giant cell arteritis (TitAIN): a randomised, double-blind, placebocontrolled, phase 2 trial. Lancet Rheumatol 2023; 5: e341-e350.
8 エビデンスプロファイル,Evidence to Decision
テーブル
CQ2-6の推奨作成関連資料(「補足資料」)を参照.
p.41
1 疾患概念・疫学・細分類
1.1 疾患概念
TAKは大動脈とその主要分枝動脈(冠動脈を含む)や肺動脈に炎症をきたす大血管炎である.わが国では以前,大動脈炎症候群と呼称されていたが,2014年の「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)の成立に伴い,指定難病としての病名は高安動脈炎(TAK)に変更された.その理由は,欧米での呼称がTakayasu arteritisで普及していること,本症が大血管炎だけではなく,小血管,消化管,心臓,皮膚,眼,耳など多様な臓器・組織に病変を生じる全身性の疾患であること,そして発見者への畏敬の念による.
欧米では本症は少なく,逆に巨細胞性動脈炎(GCA)が多い.両疾患で巨細胞などの共通する病理学的所見がみられることもあり,両疾患の異同が問題とされることもあった.しかし,本症とGCAは発症する年齢と罹患血管の分布が異なり25),ゲノムワイド関連解析(GWAS)では,本症とGCAでは異なる遺伝子座位の相関が報告されており,両疾患でオーバーラップはみられない26).よって,本症とGCAは,共通する発症基盤を背景とする異なる疾患単位と考えられている.
人種や地域差があるが,わが国では若年女性に好発する27, 28).主徴は全身の炎症,血管炎による疼痛と血管狭窄・閉塞・拡張で,そのため炎症が鎮静化した後も血流障害による各種の臓器障害と動脈瘤,大動脈弁閉鎖不全症
第3章 高安動脈炎(TAK)
が問題となる27-29).一般的に炎症は年余に及ぶが,GCをはじめとする免疫抑制薬に反応する28, 29).自然軽快する症例もあるが,再燃も多くの症例でみられる.症状は多彩で非特異的であるが,画像診断の進歩もあり,早期診断が可能となり,予後は改善しつつある28, 30).本症は若年女性に発症が多いため,妊娠・出産も重要な問題であるが,疾患活動性と合併症の慎重な評価と管理のもとで妊娠と出産を進められる可能性のある疾患であることが,Miyamaeらの疫学調査で報告されている31).
1.2 歴史的経緯
本症の歴史的経緯は沼野が詳述している32-34).1824年の漢方医の山本鹿洲による「橘黄医談」に記載はさかのぼり35),左右上肢の脈拍の消失,微弱を示した45歳男性例が記されている.欧米では,1856年に両側上肢と左頚部の脈拍欠如をきたした22歳女性例が報告されている36).
高安右人は金沢大学眼科教授で,1908年に日本眼科学会にて“奇異なる網膜中心血管の変化の一例”として,花環状吻合の眼底所見を示した22歳女性の症例を報告した(図6) 37).1951年,東京大学の脳外科医の清水らは自験例を含む25例をまとめ,花環状吻合を示す眼底所見,脈拍減弱ないし欠損,頚動脈洞反射の亢進を3徴とする脈なし病(pulseless disease)として報告した38).その後,aortitis syndrome(大動脈炎症候群)という病名を上田英雄らが提唱し,普及した39).日本では1975年に難病の指定がなされ,調査研究が継続されている.2007年に尾崎承一らがCPGをまとめてJCSより刊行し10),2018年に磯部光章らが改訂版を刊行した12).
Part 2 (第3章~第5章)
高安動脈炎,巨細胞性動脈炎,バージャー病の基礎と臨床
p.42
1.3 疫学
1.3.1 年齢,性差,発生頻度
本症は厚生労働省の指定難病で,調査研究班による疫学的検討が進められている.現在の特定医療費(指定難病)受給者証保持者数は4000人強で,毎年の新規発症数は200~300人と推定される40).男女比は約1:6~9で女性に多く,女性の初発年齢は20歳前後にピークがみられるが,中高年で初発する例もまれではない28, 41).一方,男性では発症年齢のピークははっきりしない28).平成29(2017)年の疫学調査では,わが国の本症患者数は5320人と推定されている41).
1.3.2 地域差
世界的にはアジア,中近東に症例が多い.北米ではメキシコを除き報告は少ない.いずれの地域でも女性に多い傾向がみられるが,わが国での発症率が最も高い32).
1.4 分類
沼野らによる血管病変の分布による分類が汎用され(図7) 27, 29, 42),血管病変には狭窄,閉塞,拡張が含まれる.大きくは,弓部の三分枝に病変をもつ例と,横隔膜下にも病変をもつ例に分けられる.この分類は血管造影の所見をもとに大動脈内腔の狭窄,閉塞,拡張の分布を区分している.また,本症では壁肥厚も重要な血管病変と考えられ,再燃時には壁肥厚の出現が重要な指標となることも報告されているため43),壁肥厚にも留意する必要がある. 2 発症機序
明確な人種差と性差があるが,病因は不明である.遺伝的要因と環境要因が関連し,大動脈外膜の血管栄養血管(vasa vasorum)周囲から中膜にかけての炎症が引き起こされる.炎症の持続により内膜肥厚,中膜弾性板の破壊,外膜の線維化と肥厚をきたし,血管障害に至る.
2.1 遺伝的要因
HLAとの関連が報告されるが人種や地域により差異がある.そのなかでHLA-B*52は全世界に共通するリスクア
図6高安右人博士と花環状吻合を示す眼底所見(高安右人.1908 37)より) I型:大動脈弓分枝血管IIa型:上行大動脈.大動脈弓ならびにその分枝血管IIb型:IIa病変+胸部下行大動脈III型:胸部下行大動脈,腹部大動脈,腎動脈IV型:腹部大動脈,かつ/または,腎動脈V型:IIb+IV型(上行大動脈.大動脈弓ならびにその分枝血管,胸部下行大動脈に加え,腹部大動脈,かつ/または,腎動脈)
分類ごとの頻度
分類頻度(%) Type I 15.5~28.0 Type IIa 16.3~16.3 Type IIb 16.6~20.1 Type III 0.7~7.3 Type IV 2.3~5.9 Type V 25.8~44.9
沼野らによる血管造影所見に基づく分類.上記のローマ数字およびアルファベット小文字(I,IIa,IIb,III,IV,V)に,冠動脈病変ありの場合はC(+)を,肺動脈病変ありの場合はP(+)を付する.図7血管病変の分布によるTAK の分類と頻度(Watanabe Y, et al. 2015
27),Uchida HA, et al. 2025 29),Hata A, et al. 1996 42)を参考に作図)
I IIa IIb III IV V
病変部位による分類 42)
p.43
レルであり,わが国のTAKの約30~50%で陽性となる(日本人全体での保有率は約10~20%).HLA-B*52陽性例は大動脈弁閉鎖不全症の頻度が高く26),心不全,若年発症,1型以外の血管病変との関連が指摘されている44).わが国ではHLA-B*67との関連も報告され,TAKでの頻度は5.2%と低いが,オッズ比は4.94(HLA-B*52 は2.30~ 3.35)と高い45).GWAS研究によりIL12B遺伝子領域の遺伝子多型(オッズ比1.90)が同定され,大動脈弁閉鎖不全症や高疾患活動性との関連が報告された46).その他, LILRB3,IL6, IL1F10(IL-38)などの遺伝子多型との関連が報告されている44).さらに21番染色体長腕22の遺伝子多型が炎症性腸疾患や強直性脊椎炎とともにTAKにも関連し,ETS2の発現を介して単球・マクロファージの活性化に関与することが示された47).TAKは単一遺伝子疾患ではなく,各々の遺伝子多型は健常人にも認められるため,これらリスクの累積が発症に寄与すると考えられる.
2.2 環境要因
外的要因として感染症との関連が指摘されているが明確でない.結核やB型肝炎ウイルス,ワクチンとの関連について報告があるものの原因ではないと考えられるが,感染に対する宿主反応が誘因となる可能性がある.近年,TAKにおける腸内細菌叢の検討が進められた.中国からStreptococcus, Veillonella,Klebsiella,Escherichia属の増加,Dorea属の減少がTAK患者において認められること,また特定の細菌と臨床病型との関連が報告された48). Streptococcus,Veillonella属の増加,Dorea属の減少はわが国のTAKでも同様に報告され,異なる生活環境においても相同の変化が認められた49).またわが国より,TAKの腸内細菌叢においてStreptococcusとCampylobacter属を含む口腔内常在菌の増加がみられ,プロトンポンプ阻害薬の使用と関連すること,そのなかでもCampylobacter gracilisが大動脈瘤の形成・悪化に関連することが示された50).さらに,腸管内における口腔内常在菌の増加が,感染性心内膜炎といった合併症へ関与することも報告され51),腸内細菌叢異常がTAKの病態形成と合併症において重要な要素であることが明らかになっている.
2.3 血管傷害機序
詳細な機序は未解明であるが,以下の病態が考慮されている52, 53).
炎症はvasa vasorum周囲から始まり,熱ショックタンパク65および主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex: MHC)クラスI関連鎖Aの関与が報告されてい
る.遺伝的要因54)からも,分化抗原(CD8)陽性T細胞, γδT細胞,ナチュラルキラー(NK)細胞などによる細胞傷害活性,あるいはDCの活性化とそれに続く免疫細胞の誘導が初期の炎症反応となっている可能性がある.浸潤細胞にはCD4陽性T細胞,CD8陽性T細胞,γδT細胞, NK細胞,B細胞,単球,マクロファージ,好中球が含まれ,GCAに比してCD8陽性T細胞とB細胞がより多く, CD4/CD8比が低い55).病変部位においてはTNFα,IFN γ,IL-1,IL-6,IL-12,IL-17 を含むサイトカインが検出される56).
肉芽腫性炎症が典型的な病理所見となるが,Th1 やTh17介在性の免疫反応が炎症の基盤となると考えられており,IL-12Bがコードするp40(IL-12・23)の関連も示唆されている54).単球・マクロファージはサイトカイン,活性酸素,成長因子,マトリックスメタロプロテアーゼの産生などを介して病的作用を呈する53).多核巨細胞を伴う強い炎症は中膜の弾性板を破壊し,動脈の拡張を引き起こす.内膜過形成は,平滑筋細胞の遊走,筋線維芽細胞の増殖と線維化が寄与し,血管内腔を狭窄・閉塞させる.さらに,外膜は線維性肥厚や瘢痕化を起こし,TAKではGCAに比してより顕著となると報告される57).
TAKでは約50~80%において,血管内皮細胞に対する自己抗体である抗血管内皮細胞抗体が検出され,血管内皮細胞活性化やラパマイシン標的タンパク質(mTOR)経路の活性化など病原性が報告される58).近年,対応抗原として血管内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)とスカベンジャー受容体クラスBタイプI(SR-BI)が同定され,抗EPCR抗体と抗SR-BI抗体が各々,TAKの約1/3ずつの症例で認められ,異なる臨床特徴を有することが報告された59).両自己抗原は,血管内皮細胞活性化を抑制する作用を有しているが,自己抗体の存在により,その抑制機能が阻害され,血管炎症の持続に関連する可能性が示唆された.さらに,抗EPCR抗体陽性例は潰瘍性大腸炎(UC)の合併頻度が高く(37.5%),原発性UCにおいて抗EPCR抗体が約70~80%で陽性となることから,両疾患をスペクトラムとする自己抗体である可能性がある60, 61).TAKの外膜にはB細胞,濾胞DC,および高内皮静脈で構成される3次リンパ構造が形成され62),濾胞ヘルパーT細胞の関与も示されている63, 64).
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3 病理所見
TAKは大動脈とその主要分枝動脈が優位に侵襲される.外膜から中膜外側にかけて分布するvasa vasorumから始まる炎症が病変形成に重要と考えられ,外膜の炎症細胞浸潤と線維性肥厚,中膜の虫喰い状弾性線維破綻,中膜壊死,線維化を病理学的特徴とする.Nasu 65)は100例を超えるTAK剖検症例の病理組織学的検討から,1腕頭動脈や総頚動脈,鎖骨下動脈など大動脈弓部から分枝する動脈に病変が限局する型,2上行大動脈,大動脈弓部とともに同部からの分枝動脈が侵される型,3腹部大動脈とその分枝動脈が侵される型,4上行大動脈から腹部大動脈,そしてその分枝動脈が広範に侵される型の4型に分類した.わが国では上行大動脈から弓部大動脈,そしてその分枝動脈が侵襲される型が多い.
肉眼的所見:罹患動脈壁は高度に肥厚し,凹凸不整,斑状あるいは顆粒状の内腔面を呈する.病変と病変の間にはしばしば健常部が介在する(図8).外膜は境界不明瞭な線維性肥厚を示し剥離困難である.瘢痕期になると動脈壁は板状の石灰化を伴い,鉛管状を示す66, 67)(図9).
組織学的所見:活動期には外膜から中膜外側にかけて分布する栄養血管周囲に単核細胞を主とする炎症細胞浸潤が観察され,中膜弾性線維は外側から虫食い状に消失する(図10左).中膜には栄養血管閉塞による中膜梗塞や断片化した弾性線維を貪食した多核巨細胞を混ずる肉芽
腫性動脈炎がみられる65, 66)(図10右).Nasuはこれらを総称して閉塞性増殖性幹動脈炎と表現した.しかし,リンパ球や形質細胞が主体で,多核巨細胞に乏しい炎症や好中球優位の細胞浸潤からなる炎症像が観察されることもあるという.炎症の結果,中膜,外膜には線維化がもたらされるが,線維化病変の辺縁部に活動性炎症が存在することがある66).一方,内膜にも細胞線維性肥厚が生じるが,内膜変化は外膜側の炎症の結果生じた二次的,反応性変化と考えられている66, 67).瘢痕期になると外膜には広範な線維化が生じ,内腔が狭窄したvasa vasorumが混在する.中膜平滑筋細胞は消失し線維組織に置換されるが,活動
図8 TAK の大動脈肉眼像,活動期弓部,腹部大動脈病変部は赤褐色調,粗造な内腔面を呈する.10歳代男性.図9 TAK の大動脈肉眼像,瘢痕期
樹皮状の内腔面を呈する大動脈は石灰化を伴い鉛管状に硬くなる. 50歳代女性.
図10 TAK の大動脈組織所見左:中膜外側を主とした弾性線維の虫食い状消失(矢印).(エラスチカ・ファン・ギーソン[EVG]染色)右:病変は組織球,リンパ球,多核巨細胞からなる肉芽腫性炎症を呈する.(ヘマトキシリン・エオジン[HE]染色)
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期に侵食を免れた中膜弾性線維は線維化組織内に残存する.内膜肥厚は粥状動脈硬化症や高血圧などの因子が加わりさらに進行する.
剖検統計を用いたTAKの年代別推移の検討により,死亡時年齢のピークは1960年代の30歳代から2010年代の70歳代へと変化したことが明らかとなり,診断・治療技術の進歩による生命予後の著しい改善が示された.また,既往患者の高齢化に伴って悪性腫瘍合併例が増加したものの悪性腫瘍は死因には大きく関与しておらず,動脈炎後遺症および高齢化により生じる弁膜症や大動脈瘤などの心血管合併症が,いまなお死因に密接に関連していることが示された68).
鑑別診断には大型血管に多核巨細胞を混ずる肉芽腫性炎症を生じるGCAや限局性大動脈炎があげられる.臨床所見と併せた総合的判断が必要であるが,1大動脈壁肥厚はTAKでより高度である,2TAKは外膜から中膜外側にかけての炎症が高度なのに対してGCAや限局性大動脈炎では中膜中層に炎症の中心がある,3外膜線維化はTAKでより顕著である,などの組織学的特徴に留意することが重要である69, 70).一方,動脈炎瘢痕像を示す高齢者の場合には,粥状動脈硬化症や免疫グロブリン(Ig)G4関連疾患との鑑別が必要となる.
4 症状
TAKに伴う症状は,慢性炎症による全身症状と血管病変に起因する臓器症状に大別される.これらの症状の頻度には報告によるばらつきがあるが,概要を表5 27, 29, 71)に示す.全身症状は,原因不明の発熱,全身倦怠感,易疲労感,体重減少,疼痛などが約75%に認められる.一方,血管病変に起因する臓器症状は頭頚部から下肢にかけて,視力障害,顎痛,頚部痛,息切れ,間欠性跛行など多岐にわたる.上肢に関連する症状は多く認められ,主に痛みや疲労感,血圧左右差,脈拍触知不良が観察される27).頻度は高くないものの,結節性紅斑や関節炎など自己免疫疾患に類似した症状を合併する場合がある.また,約5%の症例ではUCを伴うことが報告されており72),腹痛や下痢などの腹部症状にも留意が必要である.これらの症状は非特異的であるため,他疾患と誤診され診断が遅れることも多い.全身の身体所見を丁寧に評価し,的確な診断につなげることが重要である.
TAKでは,大動脈弓およびその分枝血管の狭窄や閉塞による血流障害,さらに拡張病変に伴う動脈瘤形成が原因となり,全身臓器にさまざまな合併症を引き起こす.主な
合併症として,高血圧症,大動脈弁閉鎖不全症,脳梗塞,腎障害,冠動脈入口部狭窄に伴う虚血性心疾患,大動脈瘤,眼底異常所見などがあげられる(表6)
27, 29. 71, 72).特に,高
血圧症の合併の頻度は高く,大動脈弁輪の拡大や弁の変性による大動脈弁閉鎖不全症も同様に約40%の症例で合併する.また,虚血性心疾患を含む心不全を呈する症例も多く,注意が必要である.診断の遅れに伴い合併症の頻度は上昇するため,早期の診断と治療介入が重要である27).さらに,治療介入後であっても新たな合併症が生じる可能性があるため,全身の継続的なフォローアップが不可欠である.
表5 TAK に伴う症状
症状有症率(%)
全身67~75発熱21~35全身倦怠感,易疲労感,体重減少12~67全身の疼痛16血管雑音30頭頚部27~48頭痛8~26めまい9~31失神3~5頚部痛10顎痛,顎筋疲労1~5眼14~18視力低下,霧視,眼痛3~18失明0.1胸部24~38息切れ4~10胸部圧迫感2~13動悸2血痰1~2心雑音29上肢25~66易疲労感,冷感,しびれ,疼痛17~28血圧左右差30脈拍触知不良22下肢8~10間欠性跛行,易疲労感,冷感,しびれ,疼痛8~10 (Watanabe Y, et al. 2015
27), Uchida HA, et al. 2025 29), Mukoyama H, et al. 2021 71)を参考に作表)
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5 検査・画像所見
5.1 検査所見
現時点では,診断用に確立された血液検査マーカーはない.HLA-B*52 やHLA-B*67 との関連が知られており,診断の補助として用いられることがある.活動期には,赤血球沈降速度(ESR)の亢進,CRPの上昇,白血球増加,貧血,免疫グロブリンや補体の異常,血清アミロイドAやIL-6濃度の上昇などがみられる.CRPとESRは治療経過のモニタリングに有用だが,TCZ使用中の患者では,IL-6受容体の遮断によりCRP産生が抑えられるため,炎症があってもCRPが上昇しにくく,活動性評価には注意を要する. 5.2 画像所見
TAKの画像診断には,胸部単純X線,コンピュータ断層撮影(CT),磁気共鳴画像法(MRI),超音波, 18F-フルオロデオキシグルコース(FDG)陽電子放射断層撮影(PET)/PET-CT,血管造影などが用いられる(図11).なかでも,造影CTおよびMRIは,大動脈およびその主要分枝の形態評価が十分可能であり,初期評価法として推奨される73). 18F-FDG PET/PET-CTは,2018年よりわが国において,他の検査で病変の局在または活動性の判断のつかない大型血管炎患者に対し,保険適用となった.
長期経過観察を必要とする若年発症の疾患であり,可能な限り低線量の原則(ALARA)に従い,検査による放射線被曝を可能な限り抑えることが望ましい.
5.2.1 胸部単純X線
下行大動脈辺縁の波状化は,動脈硬化が乏しい若年症例において,TAKの特徴的所見である(図11a矢印).上行大動脈の拡張や肺動脈病変が強い症例では,肺血管影の減少を認めることがある74).慢性期には,大動脈辺縁の線状石灰化や大動脈弁閉鎖不全に伴う心拡大がみられる.大動脈狭窄所見が顕著な場合,肋間動脈からの側副血行発達を反映したrib notchingが認められる.
5.2.2 CT
CTでは,CT angiographyによる大血管全体の俯瞰や多断面での血管評価,付随臓器の評価が可能である75)(図11b矢印).肺動脈や冠動脈の評価も可能である76).壁を含む血管の詳細な評価にはthin sliceで再構成した画像が必須であり,初回評価には3相撮影が望ましい(図12).単純CTでは肥厚した動脈壁が内腔よりやや高吸収に描出され(図12a),造影早期相では内腔と肥厚した壁の良好なコントラストが得られる(図12b).造影後期相では肥厚した大動脈壁に「double ring-like pattern」が認められる(図12c).これは,中膜~外膜側が炎症により造影され,内膜側のムチン/ゼラチン様腫脹部分が低吸収域として描出されるためと考えられている74, 77–79).
慢性期の血管所見は多彩で,限局性~びまん性狭窄,閉塞や拡張,粗大な凹凸を伴う拡張,拡張の中に狭窄を伴う念珠状拡張などが認められる.動脈壁の石灰化は線状に連続した形態を呈する(図11b).また,狭窄や閉塞に伴う側副血行路の発達も確認できる74, 80).狭窄病変の頻度はGCAよりも高い81).
表6 TAK に伴う合併症と有症率
合併症有症率(%)
脳血管疾患脳虚血発作13脳梗塞4脳出血1眼疾患眼底所見異常9視力障害3~9心血管疾患高血圧36~39大動脈弁閉鎖不全症33~40虚血性心疾患11大動脈瘤9~15大動脈解離2腹部疾患潰瘍性大腸炎(UC) 5~6腎疾患腎障害11~12腎動脈狭窄13 (Watanabe Y, et al. 2015
27), Uchida HA, et al. 2025 29), Mukoyama H, et al. 2021 71), Terao C, et al. 2015 72)を参考に作表)
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これらの所見は,治療経過に伴い変化しうるため,血管所見のモニタリングにもCTは有用である43).
5.2.3 MRI
MRIでは被曝を伴わずに広範囲の血管病変を評価可能である(図13).造影磁気共鳴血管造影(造影MR angiography)では短時間でコントラストの良好な画像を取得でき,CTと同様に壁肥厚や壁の造影剤増強効果も評価可能である82, 83)(図14).非造影MR angiographyも大動脈とその主要分枝レベルの形態評価が可能で,腎機能低下や造影剤副作用歴のある症例でも使用できる.CTと比較した場合の欠点として,総検査時間の長さ,石灰化の検出能の低さ,空間分解能の低さ,MRI非対応デバイス埋
め込み症例への禁忌があげられる75).
5.2.4 超音波
超音波検査は評価可能な血管領域が限定されるが,簡便かつ無侵襲であり,特に頚動脈病変の検出に優れている. TAKでは総頚動脈に内膜-中膜複合体のびまん性・全周性肥厚がみられ,肥厚した壁は均一な高エコーを呈し,「マカロニサイン」とよばれる84, 85)(図11c矢印).腹部超音波検査は腹部血管病変,腎臓などの腹部実質臓器の評価に,心臓超音波検査は弁機能・心機能の評価に用いられる.
5.2.5 18F-FDG PET/PET-CT
18F-FDGは活動性炎症の存在する部位に集積するため,大血管への18F-FDG集積は大型血管炎の診断に有用な所見である86)(図15). 18F-FDG 集積の程度は,TAKの臨床的活動度と相関し,imaging biomarkerとしての役割が期
図11 TAK の画像所見a:胸部単純X線,b:CT angiography,c:超音波
a
b c
図12 TAK のCT 所見a:単純,b:造影早期相,c:造影後期相
a c b図13 TAK のガドリニウム造影MR angiography 所見
上行大動脈の軽度拡張と弓部3分枝近位部の閉塞を認める.
図14 TAK のMRI 所見左総頚動脈に壁肥厚と造影剤増強効果(矢印)を認める. a:単純T1強調画像,b:ガドリニウム造影T1強調像
a b
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待される86, 87).一方で,集積亢進と再燃予測に関しては,相反する結果が報告されている87, 88).
5.2.6 血管造影
かつて侵襲的血管撮影は本疾患の画像診断におけるgold standardであった89).現在は,術前精査,狭窄部の血管内圧較差評価,CT,MRIでは描出困難な小血管病変の評価,冠動脈評価などの目的で利用される90).
5.3 眼科検査
TAKにおける眼病変は,I,II,V型(図7) 27, 29, 42)でみられる27, 42, 91).これは眼動脈での血流量低下により眼組織の循環不全が生じるためで,高安網膜症(低灌流網膜症),虚血性視神経症,虹彩新生血管などがある.TAK患者の18~30%に霧視・視力低下,一過性視力障害や眼痛など,眼に関する自覚症状がみられる92, 93).内科的治療が進んだ現在,進行した病変をみることは少なくなった.
高安網膜症はTAKの患者の約13~15%に認められ93, 94),網膜血管の屈曲・蛇行,網膜静脈の拡張,網膜毛細血管瘤,網膜出血,軟性白斑などが観察される(図16).網膜に広汎に散在する毛細血管瘤と,眼虚血が進行して起こる網膜動静脈吻合は本症に特徴的な所見で,網膜動静脈吻合には「乳頭周囲の花冠状吻合」37)や「優先血行路」,「動静脈交叉部での吻合」がある95).フルオレセイン蛍光眼底造影では腕-網膜循環時間の延長,毛細血管の閉塞,毛細血管瘤,動静脈吻合などがみられ,進行すると網膜や視神経乳頭に新生血管が観察される(図17).Uyama, Asayamaは高安網膜症に対し,1期:網膜静脈の拡張,2期:毛細血管瘤の形成,3期:網膜細動静脈吻合の形成, 4期:合併症期(増殖網膜症や硝子体出血,白内障など)と病期を分類している96).また,眼動脈での血流量低下の
ため網膜循環だけでなく脈絡膜循環も同時に障害され,インドシアニングリーン蛍光眼底造影では脈絡膜循環遅延,脈絡膜動脈の拡張,多発充盈欠損,脈絡膜静脈の狭窄がみられる97).
虚血性視神経症は患者の3%程度で発症し93),視神経乳頭を栄養する血管の閉塞で急激な視力低下や視野欠損を生じる.蒼白な乳頭腫脹を示す前部虚血性視神経症と,発症から数ヵ月して乳頭の蒼白化を生じてくる後部虚血性視神経症があり,多くは前部虚血性視神経症である.
6 診断基準
今回のガイドライン改訂にあたり,厚生労働省難治性血管炎研究班・大型血管炎分科会において,JCS 2017GLの
図15 TAK の18F-FDG PET-CT 所見上行大動脈~弓部3分枝に集積を認める(矢印).
図16 TAK の眼底所見網膜静脈の拡張が著明で,網膜出血,軟性白斑がみられる.
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TAK診断基準の骨子は変更せず,医学の進歩を反映させて一部修正した新たな診断基準を作成した(表7).
診断は,画像診断(CT,MRI,超音波,PET-CT,胸部X線,血管造影)を中心に行う.表7のうち,A.症状から1項目以上の症状と,B.検査所見の大動脈,その主要分枝,肺動脈のいずれかまたは複数に検出される多発性またはびまん性の肥厚性病変,狭窄性病変(閉塞を含む)あるいは拡張性病変(瘤を含む)を認め,C.鑑別診断により他疾患を除外できる場合に,TAKと診断する.HLA-B*52またはHLA-B*67の保有は診断の参考所見となるが(保険適用外),本症の診療上有用な保険収載されたバイオマーカーは存在しない.表7で鑑別診断に大型血管炎がリストされているが,近年,CHCC 2012にも含まれるclinically isolated aortitis(CIA)の症例も散見されるため鑑別上,注意を要する.さらにANCA関連血管炎などでもまれに大型血管炎病変がみられることがある.特に留意すべき重症病態として,腎動脈狭窄による腎血管性高血圧(特に悪性高血圧) (第6章6.を参照),肺動脈炎に伴う肺高血圧症(PH) (第6章5.を参照),重度の大動脈弁閉鎖不全症,大動脈瘤は重篤な臨床経過をたどる可能性があり,早期診断と治療介入が求められる. 2018年4月より,病変の局在や疾患活動性の評価を目的
とした18F-FDG PET/CTが保険適用となった.2022年には,血管炎の診断・分類基準研究(DCVAS)に基づき, ACR/EULARの新たな分類基準が提唱された98).大型血管炎の画像所見が確認された60歳以下の患者において,複数の動脈領域の病変,左右対称性の血管病変(paired artery involvement: 左右頚動脈,左右鎖骨下動脈,左右腎動脈のうち少なくとも1つ),腹部大動脈に加えて腎動脈または腸間膜動脈の病変(r e n a l o r m ese n t e r ic involvement)が重視された点が特徴的で,TAK診断における血管病変の画像評価の重要性が改めて強調され,わが国においてTAKを診断する際にもこれらの知見が参考になると考えられる.
7 治療
7.1 GC・免疫抑制薬・抗血小板薬など
7.1.1 GC療法
a. 適応
TAKの急性炎症を迅速に抑制し,動脈狭窄,動脈瘤形成,大動脈解離といった重大な合併症を予防する目的でGCは第一選択薬として使用される.TAKの治療アルゴリズム(図4)を参照のこと.なお,症例の状態によっては,初期からGC単独ではなく,免疫抑制薬あるいは生物学的製剤の併用がありうるが,詳細は後述する. b. 初期投与量・維持期間
急性期には高用量のGCを使用する.「EULAR大型血管炎治療の推奨(2018年改訂)」では,TAK治療の開始用量としてPSL換算で40~60 mg/日が推奨されている99). JCS 2017GLでは,PSL開始用量として0.5~1 mg/kg/日×2~4週が推奨されていた
12). c. GCパルス療法
緊急性の高い症例や難治例が再燃した際には,GCの開始または増量に先行してGCパルス療法(メチルプレドニゾロン1 gまたは15 mg/kg×3日)が有効であったとの報告がある
100, 101). d. GCの減量
TAKの急性炎症が制御されて寛解状態となった場合, GCの副作用を最小限に抑えるためにPSLを徐々に減量する必要がある.一方,TAKは再燃しやすく,GC単剤によ
図17 TAK のフルオレセイン眼底造影所見網膜静脈の拡張と口径不同,毛細血管瘤がみられる.上方周辺部には網膜新生血管が生じている.
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る治療を行った場合には約7割の症例で再燃するため30), PSLの減量は再燃リスクとステロイド関連合併症のバランスを慎重に考慮しながら行う.日本人患者106人を対象とした後ろ向きコホート研究では,減量速度が1ヵ月あたり
1.2 mgより速いと再燃率が有意に高かったことが報告され
ている30).PSLの用量は患者の臨床症状,炎症マーカー,画像所見を指標として緩徐に減量する.JCS 2017GLでは, PSL 30 mg/日までは毎週 5 mg/日減量,PSL 20 mg/日までは毎週 2.5 mg/日減量し,月あたり1.2 mg/日を超えない
減量速度が推奨されていたが12),厚生労働省研究班で策定したTAK寛解基準102)においては,寛解条件の1つとして,治療開始1年後にPSL 10mg/日以下にまで減量することが含まれている(第6章3.を参照).ただし,活動性を認める場合はこのペースよりも遅く減量する必要がある. e. 維持量
最終的には再燃を抑制できる最小用量まで減量すること
表7 TAK の診断基準
A.症状*a (1) 全身症状:発熱,全身倦怠感,易疲労感,体重減少,リンパ節腫脹(頚部),若年者の高血圧(140/90 mmHg以上) (2) 疼痛:頚動脈痛
*b,胸痛,背部痛,腰痛,肩痛,上肢痛,下肢痛,関節痛(3) 眼症状:一過性又は持続性の視力障害,眼前暗黒感,失明,眼底変化(低血圧眼底,高血圧眼底) (4) 頭頚部症状:頭痛,歯痛,顎跛行
*c,難聴,耳鳴,耳閉感,めまい,ふらつき,失神発作,片麻痺(5) 上肢症状:しびれ感,冷感,挙上困難,上肢跛行
*d,上肢の脈拍並びに血圧異常(橈骨動脈の脈拍減弱,消失,20 mmHg以上の収縮期血圧左右差),脈圧の亢進(大動脈弁閉鎖不全症と関連する) (6) 下肢症状:下肢跛行,しびれ感,冷感,脱力,下肢の脈拍並びに血圧異常(下肢動脈の拍動亢進あるいは減弱,血圧低下,上下肢血圧差
*
e) (7) 胸部症状:息切れ,動悸,呼吸困難,血痰,胸部圧迫感,狭心症状,不整脈,心雑音(8) 腹部症状:腹痛(腹部アンギーナ),潰瘍性大腸炎の合併(9) 血管雑音:頚部,胸部,背部,腹部,腋窩上腕部,腸骨大腿部(10) 皮膚症状:結節性紅斑*a これらの症状は,他に明らかな原因がない場合とする*b 特に頚動脈の圧痛*c 咀嚼により痛みが生じるため間欠的に咀嚼すること*d 上肢労作により痛みや脱力が生じるため間欠的に労作すること*e 「下肢が上肢より10~30 mmHg高い」から外れる場合B.検査所見画像検査所見:大動脈,その主要分枝*a,肺動脈のいずれかまたは複数に検出される多発性*bまたはびまん性の肥厚性病変
*c,狭窄性病変(閉塞を含む)
*dあるいは拡張性病変(瘤を含む) *dの所見*a 大動脈の主要分枝:腕頭動脈,左・右鎖骨下動脈,左・右総頚動脈,腹腔動脈,上・下腸間膜動脈,左・右腎動脈,左・右総腸骨動脈,および左・右冠動脈. *b 多発性:大動脈(上行,弓部,胸部下行,腹部下行),上記の大動脈の主要分枝,肺動脈のうち,2 つ以上の動脈または部位,あるいは大動脈の2区域以上を指す. *c 肥厚性病変:超音波検査(総頚動脈のマカロニサイン),造影CTまたは造影MRI(多くは動脈壁全周性の造影効果),18F-FDG PET/CT(多くは動脈壁全周性のFDG取り込み)で描出される. *d 狭窄性病変,拡張性病変:胸部X線(下行大動脈の波状化),CT angiography,MR angiography,心臓超音波検査(大動脈弁閉鎖不全),血管造影で描出される.上行大動脈は拡張し,大動脈弁閉鎖不全を伴いやすい.慢性期には,CTにて動脈壁の全周性石灰化,CT angiography, MR angiographyにて側副血行路の発達が描出される.画像診断上の注意点:造影CTは,動脈相および平衡相の2相で撮影する.血管の構造的評価(狭窄・閉塞,拡張・瘤)のため,動脈相を用いて三次元画像処理を実施する.血管造影は,非侵襲的画像検査で十分に情報が得られない際や,血管内治療,冠動脈・左室造影などを同時に行う際に実施する. C.鑑別診断動脈硬化症,先天性血管異常,炎症性腹部大動脈瘤,感染性動脈瘤,梅毒性中膜炎,巨細胞性動脈炎,血管型ベーチェット病,IgG4関連大動脈周囲炎,Cogan症候群,薬剤性大動脈炎(特にG-CSF誘発性)診断のカテゴリーDefinite:Aのうち1項目以上+Bのいずれかを認め,Cを除外したもの(参考所見) 1. 血液・生化学所見:赤沈亢進,CRP高値,白血球増加,貧血2. 遺伝学的検査:HLA-B *52またはHLA-B
*67保有
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を目標とする.多くのプロトコールでは,PSL 5~10 mg/日が長期維持量とされるが103, 104),患者個々の病態により維持量は異なってくる.PSL中止を目指す「GCフリー寛解」については成功例の報告が散見される105, 106).一方, GC離脱により動脈瘤や主要動脈の狭窄・閉塞が進行する症例があることを念頭に置く必要がある. f. 再燃時のGC増量
GCを減量していく過程で再燃してしまった場合,PSLの初期導入量以上の用量で寛解導入治療を行うか,小幅な増量にとどめるかは各症例の重症度から判断する106, 107).ただし,再燃をきたしたTAK症例ではGC単独で病勢をコントロールすることが困難であることが多いため,免疫抑制薬やTCZを併用することが望ましい
108). g. GCの副作用管理
長期GC使用に伴い,骨粗鬆症対策として定期的な骨密度測定と適切な骨折リスク評価が必須であり,ビスホスホネートやカルシウム/ビタミンDの補充が推奨される.また,GCの代謝への影響により,高血圧や糖尿病を発症・増悪することがあるため,血圧や血糖値の定期的モニタリングと,必要に応じて治療介入を行う必要がある.さらに,免疫抑制作用により感染症リスクが高まるため,予防接種の推奨や日常生活での感染症予防策を徹底する必要がある109).
7.1.2 免疫抑制薬
免疫抑制薬は,長期のGC使用による副作用を軽減する「ステロイド節約薬」として,またGCとの併用で相乗効果を発揮する薬剤として使用される.免疫抑制薬2剤の併用や,生物学的製剤と免疫抑制薬を併用することもある110).「EULAR大型血管炎治療の推奨(2018年改訂)」では, TAK治療において再燃を予防する目的で当初から免疫抑制薬を併用するよう推奨している99).「ACR大型血管炎の治療ガイドライン2021」では,活動性のTAK患者に対してGC関連の副作用を最小限に抑える目的で,GCと非GC系免疫抑制薬を併用する治療が推奨されている
111). a. メトトレキサート(MTX)
わが国ではTAK治療薬としての保険適用がないものの, TAKにおいて最も使用頻度が高い免疫抑制薬(治療開始から2年後のMTX併用率は44%)であることが,国内で実施された後ろ向きコホート研究で明らかにされている29).開始用量は8 mg/週で,臨床反応や耐容性に応じて最大量16 mg/週に増量する12).MTX治療の課題としては,血管病変の進展を阻止できない可能性があることと,再燃が多いことがあげられる110). b. アザチオプリン(AZA)
TAK治療薬として保険適用を有している免疫抑制薬で,わが国では2番目に使用頻度が高い免疫抑制薬(治療開始から2年後のAZA併用率は20%)である29).MTXが効果不十分または副作用で使用できない場合のステロイド節約薬として用いられる103, 112).開始用量は1 mg/kg/日で,臨床反応や耐容性に応じて最大量2 mg/kg/日に増量する
12). c. シクロホスファミド(CY)
CYはTAK治療に使われた最古の免疫抑制薬であり, TAK治療薬として保険適用を有している.再燃を繰り返す難治性の場合や,動脈瘤や大動脈解離など生命を脅かす合併症を有するTAK患者に使用されることが多い105, 112).開始用量は1 mg/kg/日で,臨床反応や耐容性に応じて最大量2 mg/kg/日に増量するが,3ヵ月で他剤に切り替える必要がある
12). d. ミコフェノール酸モフェチル(MMF)
TAKに対するGCとの併用療法における,MTXとMMFの有用性を比較検討したインドから報告された52人の前向き試験では,両薬剤の効果について有意差は認められなかった.しかし重篤な有害事象などの望ましくない効果はMTXで少ない傾向があり,安全性においてはMTXがわずかに優勢であった113).このエビデンスに基づき, GCの併用薬として,MTXよりもMMFのほうが適切と判断される場合に使用することを,今回改訂した治療アルゴリズム(図4)で推奨している.MMFの開始用量は0.5 g/日で,臨床反応や耐容性に応じて最大量2.5 g/日に増量する12).わが国では,MMFにはTAK治療薬としての保険適用はない. e. カルシニューリン阻害薬
シクロスポリン(CyA)とタクロリムス(TAC)の2種類の薬剤がある.いずれもわが国ではTAK治療薬として保険適用はないが,MTXやAZAが無効,または不耐容の場合に用いられる.これらの薬剤を使用する際は高血圧,腎機能低下,血糖上昇,脂質異常症に注意して頻繁にモニタリングする必要があるが,TACはCyAと比較して腎毒性が低く,薬物相互作用も少ないため,長期使用において耐容性が高いことが利点である114).CyAの開始用量は2~ 5 mg/kg/日で,血中トラフ値100~200 ng/mLを維持するように用量を調整する12).TACの開始用量は0.05~
0.1 mg/kg/日で,血中トラフ値5~10 ng/mLを維持するよ
うに用量を調整する12).
7.1.3 抗血小板薬
抗血小板薬は,TAKの治療において,免疫抑制療法を補完する形で重要な役割を果たし,血栓症や虚血性合併
p.52
症のリスクを低減する.低用量のアスピリン(75~150 mg/日)は最も一般的に使用される薬剤であり,本剤を内服すると急性冠症候群,脳卒中,急性腸管虚血,急性下肢虚血などのイベントの発症は有意に抑制されることが報告されている115).クロピドグレル(75 mg/日)はアスピリンの代替または補完的に使用される.治療薬の適応および選択は患者の血栓リスク,出血リスク,動脈内腔の形態変化に基づき個別に判断する必要がある.
7.2 分子標的薬
TCZとTNF阻害薬は本CPGの治療アルゴリズム(図4)も参照されたい.アバタセプト(ABA)は,本CPGではGC併用に推奨しないとしている.本項では他報告のある分子標的薬と合わせて概説する.なお,TAKに対する保険適用がある分子標的薬はTCZのみであり,TNF阻害薬, JAK阻害薬,ABA,ウステキヌマブ(UST),RTX,SECはすべて保険適用外である(2025年12月現在).
7.2.1 TCZ
RCT 14)は第1章CQ1-1を参照.フランスの初発例での検討116)では,GC併用による寛解率は85%,6ヵ月に54%でGCが中止されたが,TCZ中止後に45%が再燃し,維持療法の必要性が示されている.わが国のTCZ単剤での治療報告117)では寛解維持が1/3例であり,GC併用が望ましい.再燃例におけるTCZ併用GC中止の研究118)では44%でGCが中止された.
TCZ使用時はCRPなど炎症反応が陰性化し,血液検査での活動性評価が困難となる.PET-CTが活動性評価で有用である可能性がある.TCZ使用時の血管病変悪化報告もあり119),速いGC減量を避け,定期的な画像評価を行う.ただし,PET-CTは頻回の検査はできず,CTやエコーでの壁肥厚による評価も補助的な役割にとどまっている.TCZ使用例において腸炎の発症120)や,血管術後例では感染性心内膜炎など心血管感染症に注意を要し51),炎症反応上昇が乏しく顕在化しにくい.そのため炎症性腸疾患合併例では特に注意を要する.また,TCZによる皮疹などの副作用にも注意を要する.
7.2.2 TNF阻害薬
モノクローナル抗体(IFX,ADA,ゴリムマブ[GLM]), Fab’とポリエチレングリコールの結合化合物(セルトリズマブ ペゴル[CTZ]),TNF受容体融合蛋白のETNなどがある.IFXの使用報告が最も多い.RCTは存在せず,多くの研究は複数のTNF阻害薬混在の報告である. a. 有効性
2004年の米国の活動再燃例15人におけるIFXとETN使用報告では107),10人が完全寛解しGC中止,4人が部分寛解でPDN量は半減,1人は不応であった.9人はTNF阻害薬増量を要し,2人はTNF阻害薬中止後,再燃した.長期フォロー121)にて,GC中止寛解が25人中15人(60%),7人(28%)がPDN 10 mg/日未満となった.免疫抑制薬は18人中半数で中止された.重症再燃は寛解例中4人に認めた.
2012年の米国からの20人(IFX:17,ADA:2,ETN: 1)における報告122)では,18人(90%)が寛解し10人(50%)で寛解維持,PDN使用例の半数がPDNを中止,寛解6人(33%)が再燃した.フランスの49人報告(TNF阻害薬80%,TCZ 20%) 123)では,寛解は治療6ヵ月で75%,12ヵ月で83%,12ヵ月のPDN量は15 mg/日から7.5 mg/日に有意に減少した.3年間の無再燃生存率は90.9%と,免疫抑制薬の58.7%より有意に高かった.ノルウェーの研究124)では,2年間の新規病変はTNF阻害薬10%,免疫抑制薬40%,PSL単独92%で,TNF阻害薬群は持続寛解率が高かった.バイオシミラーも報告されている125).フランスのIFXによる前向き研究126)では,治療抵抗23人でPDN量が比較され,開始時10 mg/日,12ヵ月で5 mg/日,24ヵ月で5 mg/日と有意な減量効果が得られた.
わが国の報告は症例報告127)や他薬剤を含む後方視的研究110, 128, 129) と,TCZ に比してエビデンスが乏しい. HLA-B*52陽性例でTCZよりTNF阻害薬が有効である可能性が報告された
130)が追試はない. b. TCZとの比較
中国の重度活動性40人におけるADA 21人とTCZ 19人の比較非盲検RCT(両群GCとMTXを併用)
131)では,6ヵ
月での有効率はADA群が有意に高く(86%対53%),PSL減量,9・12ヵ月有効率,再燃および副作用発生率に差は認めなかった.イタリアの継続率研究(50人,IFX 78.6%,開始時PSL 13.5 mg/日,85.2%が免疫抑制薬併用)
132)では,
GLM が最も高く(71.4%),以下IFX(69%),ADA (56.3%),TCZ(41.1%)であり,TNF阻害薬はTCZに比して有意に高かった.免疫抑制薬併用は継続率に正に相関した.欧州多施設研究にて209人の安全性と有効性が評価された133).免疫抑制薬はTNF阻害薬群の89%,TCZ群の48%で使用され,6ヵ月で各群66%と70%が完全奏効,継続率,治療中止,再燃発生率,有害事象は同等であった.トルコの111人の研究134)でも,3ヵ月と研究終了日での完全/部分寛解率,GC減量中止率,薬剤継続率は同等であった.
以上,わが国でのエビデンスは限定的であるが,国際的
p.53
にはTCZと同等の有効性と安全性が報告され,治療抵抗例の選択肢となる.MTXを含む免疫抑制薬の併用が多く,効果不十分例にはIFXが増量される.炎症性腸疾患や壊疽性膿皮症など合併症53)にも有効である.一方でTNF阻害薬使用時の薬剤性大動脈炎が報告されている135).妊娠時はETN,CZPの胎盤移行が少ないが,他のTNF阻害薬, TCZも有益性投与で使用報告があり,使用時は新生児の生ワクチン接種について注意が必要である.
7.2.3 JAK阻害薬
トファシチニブはUC合併例136, 137),中国のMTX 138)あるいはレフルノミド139)との比較試験にて有効性が報告されている.ウパダシチニブ(UPA)は症例報告140)のほかに第3相試験が進行中である.バリシチニブも報告がある141). TCZやTNF阻害薬の治療抵抗例,併存疾患により有効である可能性がある.
7.2.4 その他
a. アバタセプト(ABA)
第1章CQ1-3.を参照
142). b. ウステキヌマブ(UST)
有効例が報告されているが143, 144),第3相試験が中途終了となった
145). c. リツキシマブ(RTX)
イタリア146),欧州147),日本148)で有効性が報告される一方,フランスでの有効例は1/11人であった149).多剤抵抗例に対する有効性が報告されている. d. セクキヌマブ(SEC)
治療抵抗例のTNF阻害薬との比較150)は同等であった.
7.3 観血的治療,EVT
7.3.1 外科治療の原則
TAKに対する外科治療の適応は,基本的に非炎症性の狭窄・閉塞病変や動脈瘤型病変に準じる.手術の適応や,術式は,Uenoらの以下の臨床分類に基づいて決定する151).
・I型:弓部分枝閉塞型・II型:胸腹部閉塞型・III型:広範囲閉塞型・IV型:動脈瘤型また,大動脈弁,冠動脈,肺動脈にも病変が及ぶ.わが国では,観血的手術は良好な成績を示している.長期予後は比較的良好なので,若年発症患者も多く,長期予後を考慮した手術選択が必要である152).一方で,術後遠
隔期の再狭窄や吻合部動脈瘤といった疾患特有の合併症,さらに免疫抑制薬を使用中の感染症が問題となる場合がある.リスクに応じ,非観血的治療であるEVTが選択されることもある152-155).
術後,疾患活動性の悪化が,遠隔期の吻合不全や再狭窄のリスクに影響することが指摘されている.このため,治療後6~12ヵ月ごとに定期的に画像診断し,経過観察を行うことが重要である156).また,周術期に薬物治療を併用し,疾患活動性を抑制することで,治療成績の向上が期待される152, 153, 157-161).周術期の薬物管理については,次項の7.4 周術期の内科管理で詳述する.治療方針については,関連科(心臓血管外科,循環器内科,膠原病内科,放射線科,脳神経外科,神経内科など)との集学的対応が求められる.
7.3.2 各論
a. 弓部分枝閉塞型
頚動脈病変では,70%以上の狭窄や,狭窄前後の圧較差が50 mmHg以上の場合に手術適応とする報告がある.ただし,側副血行路の発達や,炎症の消退により,症状が軽快することもあり,狭窄の有無のみだけで適応は決まらない.薬物療法抵抗性の眩暈発作や欠神発作など,有症状例を手術適応とする152, 154, 162).
視力障害については,不可逆的な障害を避けるため,宇山分類の第2期(網膜小血管瘤期)から第3期(網膜血管吻合期)初期,または眼底血圧が150 mmHg前後の場合に外科的治療が適応とされる96).
鎖骨下-腋窩動脈病変では,上肢虚血,虚血性潰瘍・壊疽が手術適応となる.病変が長く,全周性病変である場合,原則としてバイパス術が適応とされる.バイパス術と血栓内膜摘除術の開存率を比較した報告では,5年間で67%対17%という結果が示されている163).人工血管よりも自家静脈を利用したバイパスの開存率が高く,Miyataらの報告によれば長期開存率は80%以上であり,第一選択とされる152).病変部の進展状況に応じて,バイパスの中枢側吻合を上行-弓部大動脈に行う症例もある.その場合,バイパス術後の脳神経学的合併症などの重大合併症の発生率はEVTよりも高いことが指摘されている160, 164).
一方でEVTは,バイパス術と比較して遠隔期の再狭窄率が53%と高いことが問題とされている156, 157, 164).再狭窄の原因として,病理学的に,全層性肉芽腫性炎症に伴う線維化や活動性炎症が起因するといわれる.EVTは病変長が5 cm以下,非活動期,周術期の免疫抑制薬使用下で施行が推奨されている164-166).
p.54
自己拡張型ステント,薬剤溶出性バルーン(DCB),およびカッティングバルーンを用いたEVTの報告もあるが,依然としてエビデンスは乏しい
167-169). b. 胸腹部閉塞型
胸腹部閉塞型は「異型大動脈縮窄症」とよばれ,胸部・腹部大動脈の狭窄,もしくは腹部臓器分枝血管の狭窄を特徴とする疾患である.異型大動脈縮窄症の治療では,上半身高血圧の降圧を目的とする治療や,末梢臓器への血液灌流改善を目的として,人工血管を用いた解剖学的または非解剖学的バイパス手術が行われる.術式の選択は病変部位や患者のリスクに応じて決定される.
従来の人工血管を用いた解剖学的バイパスや,大動脈-大動脈バイパス,腋窩-腸骨動脈/大腿動脈バイパス,上行-腹部大動脈バイパスなどの非解剖学的バイパスが行われる153, 170-172).非解剖学的バイパスの多くは大動脈遮断や人工心肺を必要とせず,低侵襲であるが,流量に限界がある.十分な太さの人工血管を用いて上行-腹部大動脈バイパスを行えば流量に関する懸念はないが,太い人工血管を上行大動脈に吻合する際には,人工心肺を用いたほうが安全性は高いとの意見もある173).若年症例には解剖学的修復が望ましいが,患部に直達する手術は侵襲が大きいため,患者の状態や疾患の状況などから症例ごとの判断が必要である.近年では,胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)/腹部大動脈ステントグラフト内挿術(EVAR)やバルーンカテーテル,カバードステントを用いたEVTの報告も増え,末梢動脈に比し低侵襲かつ,良好な結果が得られている156, 174).ただし,拡張時の破裂,大動脈解離がわずかに認められ,また,遠隔期再狭窄,ステントグラフトの位置異常(migration)などの遠隔期成績に関しては,今後の報告が待たれる.
腹部分枝狭窄では,腎動脈狭窄による薬物抵抗性腎性高血圧や,腹腔動脈・上腸間膜動脈狭窄による腹部アンギーナが治療の適応となる.血栓内膜摘除術は術後狭窄率が高いため,大動脈または腸骨動脈からのバイパスが基本的な治療法である175, 176).グラフトの選択肢としては,頚動脈の治療と同様に自家静脈の使用が推奨される.
Jungらの観血的治療とEVTのメタ解析によると,活動期,非活動期の両方とも遠隔期再狭窄率はEVTのほうが有意に高いと報告されている177).腎動脈はEVTの手技およびデバイスの向上により,初期成功率は95%以上に達し, 3ヵ月から2年以内の再狭窄率は20%以下と良好である.また,5年開存率は67~91%と報告されており,非侵襲性で再治療が可能な点や,再EVT介入による二次開存が期待できることから,腎性高血圧の治療選択肢の1つとされている153, 164, 178). c. 広範囲閉塞型
本病型は,頚部および弓部の分枝動脈狭窄と異型大動脈縮窄症を伴い,大動脈バイパスと分枝再建が必要である.患者は脳血流障害および高血圧を併発しており,特に弓部の分枝血行再建後には脳過灌流が起こる可能性がある.この結果,高次脳機能障害や脳出血が発症するリスクが考えられる.ゆえに,狭窄部位に応じた段階的な手術計画と,慎重な降圧管理が必要である.また,手術手技においては,弓部分枝および大動脈狭窄部位を考慮し,人工心肺からの送血部位を適切に選択することが求められる
179). d. 動脈瘤型
動脈瘤型の手術適応は通常の動脈瘤と同様であり,人工血管置換術が行われる.最も多い部位は上行大動脈および弓部大動脈であり,大動脈弁閉鎖不全を伴うことが多い179, 180).手術成績は通常の動脈瘤とほぼ同等とされる181, 182).吻合部には病変が残存している可能性もあり,遠隔期の吻合部仮性瘤を回避するため,帯状テフロンフェルト補強が併用される183).大動脈弁を含む基部病変は再手術を避けるため,弁輪の周りにフェルトを巻いて外から水平マットレスの糸を刺入する補強などの工夫がされる184).
TEVARの適応は,通常の動脈硬化性疾患に対する解剖学的適応(instruction for use: IFU)に準じる.上行大動脈や弓部病変を伴う症例,若年患者で弓部の角度が急峻な場合などは,人工血管置換術+Elephant trunk法やFrozen elephant trunk法を併用後にTEVARを行うハイブリッド法が採用される156).Ranneyらの報告では12年間の大動脈関連死亡回避率は96%であり,エンドリークによる再治療は7%と,従来のTEVARと同等の成績であり,動脈瘤型に関しては良好な成績が得られている
185). e. 心臓病変i. 大動脈弁閉鎖不全症・大動脈基部拡大
大動脈弁閉鎖不全症は,TAKの予後を左右する主要な合併症である.上行大動脈・大動脈基部拡大,冠動脈入口部狭窄を含む複合的な要因を考慮して,術式を決定する必要がある184, 186, 187).弁置換後は人工弁の縫合部離開が生じる可能性があるため,周術期の炎症コントロールを徹底することが重要である.炎症が制御困難な場合,大動脈基部の拡大がなくとも,大動脈基部置換術が検討される.単独大動脈弁置換と大動脈基部置換術とを比較したところ,遠隔期における弁周囲漏出(paravalvular leakage)は前者11%,後者3.7%,遠隔期残存大動脈拡大が9.5%,1.2%,術後30日以上の心イベント発生率は24.8%,8.1%と,大動脈基部置換のほうが有利であった184, 187-191).自己弁温存術式は遠隔期に大動脈弁が変性する患者が多いため,原
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則として推奨されておらず,非活動期の若年女性など適応は限られる153). ii. 冠動脈狭窄
TAKにおける冠動脈狭窄は,主に入口部や主幹部に発生し,有意狭窄や,狭心痛を伴う場合,冠血行再建術が推奨される153, 192-195).冠動脈バイパス術(CABG)は経皮的冠動脈インターベンション(PCI)に比し,長期的な開存率が高く,Huangらの報告によれば196),再狭窄率はPCIが39.3%に対し,CABGが8.7%であった177, 197, 198).このため, PCIよりCABGが推奨される.内胸動脈は将来的に鎖骨下動脈の狭窄が進行する可能性があるため,その点を考慮する必要がある.また,大伏在静脈や橈骨動脈を用いる場合,中枢吻合部である上行大動脈が病変部である可能性があり,症例ごとに適切なグラフト選択と吻合部位を検討することが重要である.入口部限局病変においては,内膜摘除術も選択肢として考慮される197).内膜摘除術後のパッチには,伏在静脈,自己心膜,内胸動脈などが用いられるが,遠隔期の石灰化が問題視される.もとよりTAKの病変が及びにくい外腸骨動脈や,浅大腿動脈をパッチとして使用する報告がある199, 200).
PCIでは主に薬剤溶出ステント(DES)が使用されている.Huoらの報告によれば,PCIの早期成績は安定しているが,平均追跡期間133ヵ月においてステント内狭窄率は43%であったと報告されている201).DCBのまとまった報告はまだなく,その使用成績は不明である. f. 肺動脈病変
薬物療法抵抗性のPH(第6章5.を参照)を伴う肺動脈狭窄病変や,破裂リスクの高い肺動脈瘤などに対して,外科的治療が検討される.術式としては,内膜摘除術,心膜パッチを用いた肺動脈形成術,人工血管置換術などがあげられる.
バルーン肺動脈拡張術(balloon pulmonary angioplasty: BPA)は狭窄性病変に対して良好な成績を示すとの報告があり,慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対する適応に準じて,区域動脈以下の病変や手術困難な症例に対する施行を考慮する202-204).
7.4 周術期の内科管理
7.4.1 疾患活動性と周術期合併症
TAKの疾患活動性が高い患者に対する観血的治療は,活動性の低い患者に比べて合併症の発症率が有意に高いと報告されている157, 158).また,炎症が残存している患者に対する冠動脈治療は予後不良である205).しかし,GCを投与されている患者に対してGCを中止して観血的治療を
行うことは,周術期に炎症再燃によりTAKの病態が悪化する可能性があるため,多くの場合は困難である.近年, TAKに対する心臓血管外科手術のレビュー論文が報告されており,GCの用量を減少させうるTCZを併用し,できる限りGC用量を減少させ外科的治療に臨むとよいとされている206).
7.4.2 GCの用量と周術期合併症
GCの投与量に関しては,術後感染症のリスクを考慮して,炎症の再燃が起こらない範囲内で低用量にするべきである.GCを長期投与されている患者に対する観血的治療では,創部の合併症が2~5倍であり用量依存的であると報告されている207).また,合併症の頻度はGCの用量,期間,併存疾患,手術の種類に依存する208).関節リウマチ患者161人を対象とした整形外科手術時のTCZ使用に関する多施設共同による検討(multicentre TOcilizumab in Perioperative Period study: TOPP Study)において,創傷治癒遅延群ではPSL投与量が7 mg,非遅延群では5.5 mgと報告されており,TAKにおいても創傷治癒および感染の観点からPSL 5 mg以下を目指すのが妥当な用量と推察される209).手術時に手術侵襲に伴う副腎不全が懸念される場合には,ステロイドカバーが行われることが一般的である210).
7.4.3 TCZ投与による創傷治癒遅延と休薬による再燃
先述のTOPP Studyでは,TCZ投与での創傷治癒遅延が報告されている209).一方,近年のメタ解析では,関節リウマチ患者における整形外科手術の際のTCZを含む生物学的製剤の使用は,手術部位感染(SSI)のリスクとはなるが,創傷治癒遅延や術後死亡のリスクにはならないと報告されている208).
生物学的製剤の休薬に伴う関節リウマチの再燃に関してもTOPP Studyで報告されており,再燃した患者は再燃しなかった患者に比べて,TCZの休薬期間が長いと報告されている.またCABG術後患者に対するTCZ休薬によるTAKの再燃と,TCZ早期再開による創傷治癒遅延も報告されている211).
7.4.4 周術期管理のまとめ
TAK患者の周術期管理では,免疫抑制薬の投与・休薬に伴う感染,再燃,創傷治癒遅延のリスクが問題となる.外科的手術は可能な限りTCZを併用しGC投与量を減少させ,かつTAKの疾患活動性を低下させてから行うほうがよい.また,術後は創傷が治癒するまでTCZを休薬する
p.56
期間を設け,その間の感染および再燃の早期発見に努めるべきである.
以下の患者は周術期合併症のリスクが高くなる.・ 疾患活動性が十分に抑制されずに手術を受けた患者.・ 手術前に高用量のGCを投与されている患者は,創傷
治癒の遅延とSSIを引き起こすリスクが高まる.・ TCZを休薬せず手術された患者は,SSIを引き起こす
リスクが高まる.・ 手術前にTCZを長期間休薬した患者は,術後にTAK
が再燃するリスクが高まる.・ 創傷が治癒する前にTCZ投与を再開すると,創傷治癒
の遅延を引き起こすリスクが高まる.したがって,周術期の合併症を減らすために,TAK患者の心臓血管手術前に以下の手順を考慮するとよい.
・ 外科的治療前にTCZを投与し,GCの投与量を可能な
限り減らす.・ 手術前にFDG-PETを実施して,活動性炎症がない,
あるいは改善傾向であることを確認する.・ 心臓血管手術の2~3週間前にTCZを休薬し,術後
2~3週間で創傷治癒確認後に再開する.・ 手術創の範囲と感染リスクを減らすために,低侵襲心
臓手術(minimally invasive cardiac surgery: MICS)を検討する.図18 206)にTAK周術期管理のまとめを提示する.なお,本項では,わが国においてTAKに保険適用がある生物学的製剤がTCZのみであること,また,TAK周術期のTCZ使用に関する総説206)や,関節リウマチ周術期におけるTCZ使用の検討(TOPP Study) 209)が報告されていることから,TCZの使用法について記載した.TCZ使用時はCRPなど炎症反応が陰性化し,血液検査での活動性評価が困難となることに注意が必要である.一方,本CPGの別項で提案されている他の免疫抑制薬・生物学的製剤については,現時点でエビデンスが不足しており,症例ごとに病勢,血管病変,薬物使用歴,感染リスクなどを総合的に考慮して,適応を判断すべきである. 8 予後
TAKは生命予後に影響を与える疾患であり,1994年にわが国のIshikawaらは15年生存率が82.9%であると報告している212).より近年(2013~2024年)の海外からの報告では10年生存率が89~97%,15年生存率が86%とやや高い水準になっているが,標準化死亡比は2.73~17.29と,やはり一般人口より生命予後不良である213-215).主要な死因は心血管イベント(うっ血性心不全,急性心筋梗塞,脳血管障害,腸管虚血,大動脈瘤破裂など)である212-214).死亡リスク因子としては大動脈弁閉鎖不全症,大動脈瘤,高血圧症,網膜症,心不全といった合併症の存在があげられている212-214, 216).また,TAK患者の約半数は診断時までに症状が進行しており,このような進行性の経過も死亡のリスク因子と報告されている212, 214, 216).Ishikawaらは合併症のある場合の15年生存率が66%,それに進行性の経過が加わると15年生存率が43%と報告している212).
TAKは機能予後にも影響を与える疾患である. Yoshifujiらの報告では,発症早期の患者の約4割,罹病期間20年以上の患者では約6割が日常生活動作(ADL)の低下を認めている28).機能障害のリスク因子として観察時の年齢のほかに脳梗塞,視力障害,虚血性心疾患をあげており28),これらの合併症を予防することが機能予後改善に重要と考えられる.TAKは女性の就業率にも影響を与えており28),さまざまな面で生活に影響を及ぼす疾患である. 2007年の米国の報告では,60%の患者でADLに影響のある跛行を認め,23%の患者で労務不能とされており,人種を問わず機能予後への影響は重大である105).
TAK患者は経過中にしばしば再燃を経験する.再燃率は43~96%と報告に幅があるが30, 105, 216),Ohigashiらは69%の患者が再燃寛解型の臨床経過を呈すると報告しており30),単相性の経過は多くないとしている.再燃の回数と機能障害は相関すると報告されており105),再燃を予防することも機能障害の予防に寄与すると考えられる.
図18 TAK 周術期管理のまとめ(Arita Y, et al. 2024 206)より)創傷治癒期
最終TCZ投与心血管手術(ステロイドカバー) TCZ投与再開
最少量のGCs 2~3週
手術前2~3週
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上記の報告はTAKが生命,機能予後へ重大な影響を与えうる疾患であることを強調するものであるが,1900年代の症例も数多く含む報告である.Ohigashiらは2000年以降に発症した症例においては,診断までの時間が短縮しており,予後が改善していることを報告している30).これは症状の発現から診断までに時間を要した症例ほど血管合併症が多いというWatanabeらの報告と合致しており27),疾患の認知度の向上や画像診断技術の進歩による早期発見が予後改善に寄与していると考えられる.免疫抑制薬を含む薬物療法の進歩により血管合併症や再燃を予防することで,今後さらなる予後の改善が期待される.
9 小児TAK
小児TAKは稀少疾患ではある.2016年の厚生労働科学研究の調査では,成人移行例を含む小児期発症のTAK患者は140人であり,半数の70人が16歳未満であった.わが国の小児TAKの有病率は不詳であるが,100人程度の小児患者が見込まれる.過去2回の調査では男女比1:4,発症年齢中央値は10~11歳,17人中9人がHLA-B*52陽性であった.初期症状は,発熱,倦怠感,腹痛,胸痛,関節痛,リンパ節腫脹などであるが,発熱が最も多く約80%の患者に認められ,不明熱の精査で診断されることもある27, 217, 218).一方,成人は1/3程度にしか発熱を認めず,頭頚部・上肢症状が診断契機になることが多い27).小児患者の半数以上は,腹部大動脈およびその分枝に病変を生じるV型が多く,頭頚部,上行大動脈,大動脈弓の病変が好発する成人と異なる217, 218).小児TAKに特化した診断基準はなく,成人に準じるが,小児慢性特定疾患の医療費助成のための診断基準が作成されている219).
急性期の検査所見は,CRP,血沈などの非特異的急性炎症マーカーの上昇を認めるが,慢性期には炎症値が正常化することが散見される.診断は成人同様に超音波検査, CT angiographyを含む造影CT,MRI,PET-CT(診断前は保険適用外)などを用いる.小児は腹部大動脈と分枝病変が多く,簡便かつ非侵襲的な超音波検査は診断・経過観察に有用である220).
小児に特化した治療エビデンスはなく,基本的には成人の治療に倣う.炎症の鎮静化のためのGCを治療の中心に据え,再燃防止やGCの減量のために,生物学的製剤や免疫抑制薬を積極的に併用する.成人例のPSL減量速度を小児に適応した場合,成長障害に留意を要する.成長障害を生じないPSL用量は2.5~3.75 mg/m 2/日であり,思春期では5 mg/日であっても成長抑制を生じうる221).小児で
は,速やかな炎症の抑制とPSL維持量を減らすことを期待し,GCパルス療法で開始されることが多い.初期治療に2,3コースのメチルプレドニゾロンパルス療法を導入,後療法をPSL 0.5~1 mg/kg/日で開始し,MTX(保険適用外だが「55年通知」222)で保険償還あり[10 mg/m 2/週,最大16 mg/週])またはAZA(1 mg/kg/日で開始,最大2 mg/ kg/日,分1~2),あるいはMMF(保険適用外,1回150~ 600 mg/m 2分2,最大2 g/日)を併用する.小児では経口MTXは嘔気のため忍容性が悪く,その場合は他剤を考慮する.AZAは使用前にNUDT15遺伝子の遺伝子多型検査を行う.
本症は再燃が多く,ステロイド依存性の高い疾患であり,初期からのTCZ併用を積極的に考慮する.重篤な慢性血管障害(狭窄,閉塞,瘤など)を合併した場合,GCに抵抗性や減量困難な場合,再燃した場合などはTCZを考慮する.TCZは体重30 kg以上の患児では162 mgを週1回皮下注を,30 kg未満には2週間隔で同量を投与する.保険適用はないが,全身型若年性特発性関節炎と同等の用法・用量で点滴製剤も使用可能である(1回8 mg/kgを2週間隔で点滴静注).TCZ開始後は,IL-6 により誘導されるCRP,血沈,補体,IgG,フィブリノーゲンなどの炎症マーカーは陰性化あるいは正常化するため,疾患活動性の把握は困難になる.再燃を見逃さないように,丁寧な問診と診察を心がける.また,潜在的に病変が進行する患者もいるため,定期的な画像評価を行う.
TNF阻害薬(ADA,IFX)はTCZと遜色ない治療効果がある可能性が高い(保険適用外) 223).
CYは,性腺障害や晩期発がんのリスクがあるため,最近では選択肢としての順位は下がっているが,広範囲な病変や重篤な病変を認める難治例,特に生物学的製剤使用困難例や効果不十分な症例に選択されることがある.小児では経口内服よりも静注療法を選択する(500 mg/m 2,2~ 4週間間隔,最大750 mg/回,合計6回まで).寛解達成後,半年~1年程度を目途に成長障害が生じない量までPSLの減量を試みる.
腎血管性高血圧下でのGCの使用は,可逆性後頭葉白質脳症による痙攣,高血圧性脳出血などの危険が高いため,小児の血圧の正常値を参考に降圧を行う.小児患者の半数以上が再燃をきたすため,長期間にわたる治療を必要とすることが多い.完全な治療中止は慎重に検討すべきであり,治療中止後も画像検査や血液検査を含めた定期的なフォローをすべきである.
高度の血管狭窄や拡張を伴い,血栓症の危険がある患者には少量アスピリン,チクロピジン,シロスタゾール,
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ワルファリンなどの抗血小板薬や抗凝固薬を投与する.狭窄・拡張病変や大動脈弁閉鎖不全を合併し,内科的治療が困難な患者には,成人患者と同様に炎症の鎮静化後に外科的治療を検討する.
近年,画像検査の進歩により早期診断が可能となり, TCZを含む新規治療により重篤な臓器障害を残す患者は減少し,短期的予後は改善している.しかしながら,TCZ承認前に,18歳未満で発症した236人(観察期間中央値9年)のうち,何らかの後遺症を残した患者は45%であった.
合併症として中等度以上の大動脈弁逆流13%,視力障害9%,脳血管障害6%,UC10%であった.40%の患者が生物学的製剤(TCZ,TNF阻害薬)を必要とし,20%の患者に外科治療が行われていた41).また,妊娠出産は,疾患活動性がなく,重篤な臓器障害を認めない患者では比較的問題が少ない.しかしながら,一部の患者は妊娠・出産を契機に再燃するため注意を要する31)(第6章4.を参照).
第4章 巨細胞性動脈炎(GCA)
1 疾患概念・疫学・細分類・症状
1.1 疾患概要
CHCC 2012にて疾患概念が定義された11).GCAは肉芽腫を特徴とする大型から中型の動脈を侵襲する原発性血管炎で,頭蓋領域血管(頚動脈,椎骨動脈の分枝)と大血管(大動脈とその主要分枝)に病変を有し,側頭動脈を傷害することが多く,リウマチ性多発筋痛症(PMR)をしばしば合併する.
なお,本CPGでは,浅側頭動脈を側頭動脈と記載する.
1.2 疫学
GCAの発症には年齢と人種が関わっており,発症年齢は50歳以上でピークは70歳代,北欧諸国や北米大陸出身者での発症率はそれ以外の国や地域と比べて高く,統合解析では50歳以上の人口10万人あたり10人とされている224).わが国のGCAの推定患者数は,2017年に行われた全国疫学調査41)において3200(95%CI:2830~3570)人,また,男女比は1:1.9 で女性が多く,発症年齢の中央値(四分位範囲)は74(67,79)歳であった.日本人においてはまれな疾患と考えられていたが,わが国の推定人数が10
年前の調査よりも約5倍に増加した.
1.3 細分類
頭蓋領域血管に病変が限局する場合に以前はcranial GCA,近年はlimited cranial GCAとよばれ,頻度は33%,大血管に病変を有するlarge-vessel GCA(LV-GCA)は頭蓋領域を伴うLV-GCAが55%,頭蓋領域を伴わないlimited LV-GCAが12%と報告されている225).コホート研究によって定義や画像評価の方法が異なることに注意する226, 227).大血管に病変を有する例では,PMRや全身症状を伴いやすい227).The Diagnostic and Classification Criteria for Vasculitisでは,側頭動脈病変の有無,大血管病変の有無で4つに細分類している228).
1.4 症状
GCAは罹患血管の部位により,全身症状(発熱,倦怠感,体重減少)をはじめさまざまな症状を呈する.JPVASで実施した多施設後ろ向きコホートに登録された139人の新規GCAの解析では,全身症状77.5%,頭蓋領域血管の症状(頭痛,側頭動脈の異常所見,顎跛行)77.7%,頚部痛10.3%,上下肢の跛行14.8%に認めた.CT,MRIによる大動脈と分枝の壁肥厚を主とする病変を52.5%に認めた229).大血管病変は治療反応性不良と関連することが報
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呈する256, 257).
近年,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM- CSF)がマクロファージの分化を促進し,血管炎症に寄与することが注目されている256).また,側頭動脈病変や大動脈病変,患者由来の末梢血CD4陽性T細胞において, JAK-signal transducer and activator of transcription経路が亢進しており258, 259),JAK阻害薬の有用性も期待されている.
3 病理所見
3.1 罹患動脈と側頭動脈生検
GCAでは筋型動脈,特に頚動脈の分枝(浅側頭動脈,後頭動脈,眼動脈,後毛様体動脈など)や,椎骨動脈が侵されやすい.また,大動脈,鎖骨下動脈,総腸骨動脈などの大型弾性型動脈が侵される場合も少なくない.病変は限局的であり,また分節的に存在する場合がある.そのため側頭動脈生検では,少なくとも1 cm以上の標本を採取して詳細な検討をすべきである.感度の観点から生検は可能な限り早期に,少なくとも治療開始後1週間までに行うべきとされる260).
3.2 組織所見261)
側頭動脈などの筋型動脈においては,内弾性板ならびに内膜寄りの中膜を中心に病変が形成される(図19) 261).炎症は肉芽腫性であり,組織球の増殖やリンパ球,形質細胞,マクロファージの浸潤がみられる.また,特徴的な所見としてLanghans型および異物型巨細胞が認められる(図20) 261).内弾性板は断裂消失し,その近傍に多核巨細胞が出現する傾向がある.弾性板の貪食像を認めることもある.フィブリノイド壊死や好中球の浸潤はほとんど認められない.内膜は非特異的な線維性肥厚を示し狭窄の原因となるが,これは中膜の炎症に伴う二次的な変化と考えられる.大動脈(弾性型動脈)においては,肉芽腫性の炎症が中膜の中層を中心に形成される.弾性線維は局所的に虫食い様に消失し(図21) 261),その部位に一致して組織球やリンパ球の浸潤,さらに多核巨細胞が認められる(図22) 261).外膜から進入するvasa vasorumに沿っても炎症がみられる.また,中膜中層の炎症が及んでいない部位に虚血性変化と考えられる平滑筋細胞の脱落が発生することがある.しか
告され229-232),動脈瘤の形成に至りうる233-236).一方でPET- CTで同定された大血管病変は治療反応性と関連しない可能性があり230, 237),大動脈病変の臨床的意義は今後の検討課題である.PMRとGCAの病態は関連が深く224), JPVASコホートでPMRの合併は41.7% 229),欧州のコホートでは40~60%と報告されている224).PMRは両肩関節と股関節の関節包外の炎症病変を特徴とし238-240),肩関節病変は必須で,股関節病変は50~70%程度認め,肩,股関節およびその周囲の持続性の疼痛あるいは朝のこわばりを認める.また,頚部痛,頚部のこわばりを認めることもある241, 242).
2 発症機序
GCAの原因は明らかではないが,遺伝的素因,環境因子,免疫異常などが考えられている.近年のGWASにより,遺伝的素因として,HLA-DRB1やHLA-DRA1などのHLA class IIに加え,plasminogen,好中球細胞外トラップ形成に関与するcoiled-coil domain containing 25 (CCDC25),血管新生に関与するmilk fat globule-EGFfactor 8(MFG-E8)やvitronectin(VTN)などが疾患感受性遺伝子として同定された243, 244).また,varicella-zoster virus,近年ではCOVID-19などの感染や腸内細菌の異常,喫煙などの環境因子も発症に寄与する可能性が示されている245, 246).
GCAはTAKと同様に全層性の血管炎症を認める.多核巨細胞は中膜に多く認められ,CD4陽性T細胞とともに肉芽腫を形成する247).この炎症の起点は,外膜に存在するDCと考えられており,toll-like receptorの刺激を受けると増殖・活性化し,IL-1,IL-6,IL-12,IL-18などのサイトカインや,C-C motif chemokine ligand(CCL)19 やCCL21といったケモカインを産生する248, 249).またCD80やCD86などの共刺激分子を発現し,ナイーブCD4陽性T細胞を主にTh1やTh17へ分化誘導する250, 251).また単球は血管局所でマクロファージに分化し,IL-1やIL-6といった炎症性サイトカインのみならず,多量の蛋白分解酵素(matrix metalloprotease-2, 9など)を産生し,血管壁を破綻させる252).マクロファージから放出された血管内皮増殖因子により,外膜における血管新生が促進される253).マクロファージにより産生されたIL-6は血管内皮増殖因子の産生を促進するだけでなく,Th17分化を促進する254, 255).血小板由来増殖因子などにより血管平滑筋や線維芽細胞が筋線維芽細胞に分化増殖し,内膜肥厚および内膜閉塞を
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し,このような部位では弾性線維は残存する.つまり,炎症がある部位では浸潤細胞が多数みられ,弾性線維が消失し,炎症がない部位では弾性線維が残り,細胞が消失するという対照的な像が交錯することになる. 3.3 TAKとの組織所見の比較
炎症像はTAKのほうがより多彩であり,TAKでは中膜外側から外膜が侵され,巨細胞を含む肉芽腫性炎症も引き起こされることがある.しかし,GCAのほうが巨細胞や肉
内弾性板の断裂,中膜における巨細胞を含む肉芽腫性炎,内膜の著明な線維性肥厚,内腔の狭窄,外膜の線維化がみられる.(EVG染色) I:内膜,M:中膜,A:外膜,IEL:内弾性板図19 側頭動脈の病理像1 (ウェブ版血管炎病理アトラス261)より)
内弾性板の石灰化ならびに断裂と,その周囲,特に中膜の内側に,組織球の増殖による肉芽腫性炎が認められる.また,多数のLanghans型ならびに異物型巨細胞がみられ,一部内弾性板を貪食している(挿入図).さらに,リンパ球やマクロファージの浸潤も認められる.この症例では中膜の外側に平滑筋細胞が残存している.(HE染色)(挿入図:EVG染色) IEL:内弾性板,C:石灰化,SMC:中膜外側の平滑筋細胞図20 側頭動脈の病理像2 (ウェブ版血管炎病理アトラス261)より)中膜中層に虫食い様に広範に弾性線維の消失が認められる.左上の挿入図は四角で囲った部位のHE像であるが,弾性線維が消失した部位には多核巨細胞を含む単核球の浸潤が認められ,弾性線維が残存している部位では平滑筋細胞が消失している.(EVG染色)(挿入図: HE染色)
図21 大動脈の病理像1 (ウェブ版血管炎病理アトラス261)より)
炎症の強い部位では組織球と多核巨細胞を主体とした肉芽腫性炎が認められる.また,リンパ球やマクロファージの浸潤もみられる.(HE染色)図22 大動脈の病理像2 (ウェブ版血管炎病理アトラス261)より)
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芽腫性変化がより顕著にみられる.
4 検査・画像所見・眼科検査
4.1 検査所見(血液)
GCAに特異的な血液検査マーカーはない.活動期には, ESRの亢進,CRPの上昇,慢性炎症性の貧血,低アルブミン血症,IL-6濃度の上昇などがみられる.治療前のESR≧ 50 mm/hまたはCRP≧1.0 mg/dLは,2022年ACR/EULAR分類基準の1項目として採用されている262).CRPやESRは,治療経過および再燃のモニタリングにも用いられる.
IL-6受容体阻害療法下ではCRP,フィブリノーゲンなどの炎症マーカーが使用できず,モニタリングの代替マーカーが必要である.最近では,再燃予測,鑑別診断,疾患活動性モニタリングのためのバイオマーカーが検討され,血清カルプロテクチン,オステオポンチンはIL-6受容体阻害の影響がなくGCA疾患活動性に相関している263, 264).しかし,これらを臨床現場でのルーチンの経過観察パラメータとするには十分なエビデンスはない.
4.2 画像所見
4.2.1 GCAの画像診断
GCAの画像診断には,CT,MRI,超音波, 18F-FDG PET/PET-CTなどが用いられる.それぞれの検査法は異なる特徴と利点・欠点をもつため,患者の病態に応じた適切な選択が求められる.特に,頭蓋領域の評価には超音波やMRIが望ましく,大型血管の広範囲評価にはMRI,CT,
18F-FDG PET/PET-CTが有用である.なお,各画像モダリティの特徴はTAKの画像診断の項(第3章5.)も参照されたい.
4.2.2 超音波
浅側頭動脈や鎖骨下動脈,腋窩動脈は体表に近いため,リニア型の高周波プローブを用いて,CTやMRIよりも高空間分解能の画像が取得できる.カラードップラー法では血管内腔と血管壁の優れたコントラストが得られ,血流評価が可能である.病変部では動脈壁の浮腫性腫脹が生じ,低輝度で均一な“halo sign”が認められる265)(図23).また,狭窄部ではパルスウェーブドップラー法での血流速度上昇や,カラードップラー法でのaliasingが認められる.メタ解析によると,GCAにおける超音波検査の診断能は,臨床的診断との比較で感度88%,特異度96% であった266, 267).検査範囲は診断能にも影響すると報告されている.側頭動脈,顎動脈,後頭動脈,顔面動脈といった頭蓋部の動脈のみを評価した場合と,これらに加えて鎖骨下動脈や腋窩動脈などの頭蓋部外の動脈も評価した場合を比較した結果,感度は80%から93%へ向上したが,特異度は97%と94%でほぼ同等であった266).さらに,超音波検査は治療効果の判定や再燃のモニタリングにおいても用いられ,halo signがこれらの評価に有用であると報告されている268).なお,GCAの壁肥厚所見と動脈硬化性変化(典型的には高輝度,不均一で非対称的な壁肥厚)との鑑別は重要である.
超音波検査は,簡便でアクセシビリティが高いことが診療上の大きな利点であるが,検査者の技量に依存することがある.また,大血管の広範囲な評価には不向きであり,全身の炎症の範囲を把握するには他の検査法が必要である.
図23 浅側頭動脈のドップラー超音波画像(halo sign)左:血管短軸断面,右:血管長軸断面
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4.2.3 MRI
MRIでは放射線被曝を伴わずに大血管やその分枝の形態評価が可能である.また,頭蓋領域の撮像では体幹部と比較して高空間分解能の画像が取得可能である(図24).ガドリニウム造影剤を使用して血管内腔の評価のみでなく,血管壁肥厚や壁の造影効果も評価できる.頭蓋領域の動脈や鎖骨下動脈では,血液と脂肪組織の信号が抑制されたblack-blood imagingを用いることで,血管壁の炎症を優れた組織コントラストで描出することができる267)(図24,25).ただし,CTと比較して検査に時間を要し,ペースメーカなどの金属デバイスを有する患者では禁忌となる場合がある.また,体幹部では呼吸や心臓の動きによるアーチファクトの影響を受けやすく,体動が大きな患者や息止め困難な患者では画質が劣ることがある.
4.2.4 CT
CTでは大血管およびその分枝の形態評価が可能であり,病変部の血管壁肥厚が認められる.また,画像を3次元に再構築したCT angiographyは,大血管やその分枝の全体像を把握することに適している.GCA患者の約45%に壁肥厚や造影効果が認められる269).動脈硬化性の壁肥厚や石灰化は不均一で局所的であるのに対し,GCAによる壁肥厚は全周性であり,鑑別点となる.ただし,高齢者では背景に動脈硬化性変化を伴っている頻度が高く,しばしば鑑別が難しいことがある(図26).
CTは短時間で広範囲の撮影が可能であり,金属や埋込デバイスを有する患者や動きが多い患者でも比較的良好な画質が得られる点でMRIより優れている.一方で,MRIと比較して組織コントラストの限界があり,GCAで侵されやすい頭蓋部の動脈や鎖骨下動脈などでは,壁の炎症所見を捉えにくいことがある.
4.2.5 18F-FDG PET/PET-CT
18F-FDG-PETにおけるGCAの診断能は,臨床診断を参照基準として感度76%,特異度95%と報告されている266) (図27).頭蓋領域の動脈の評価には十分ではないが270),大型血管の広範囲の炎症評価に有用である.なお,国内での本検査の保険適用は,TAKの項(第3章6.)を参照のこと.
4.3 眼科検査
GCAの眼病変として,視力予後に直結する前部/後部虚血性視神経症,網膜中心動脈閉塞症,毛様網膜動脈閉塞症が重要である271, 272).これらの病変により本症患者の
20~30%に霧視や視力低下がみられる271, 273, 274).そのほかに複視や一過性視力障害,視野欠損などがみられることがあり,複視の多くは虚血性外眼筋麻痺に伴う眼球運動制限によるが,脳神経虚血が関与している場合もある.
視力障害の最も多い原因である前部虚血性視神経症は,短後毛様体動脈の閉塞により起こると考えられている271, 272).急激な視力障害や視野障害を発症し,眼底検査では視神経乳頭の蒼白浮腫がみられる(図28) 275).前駆症状として一過性黒内障や複視を伴うことがある276).虚血性視神経症には,動脈炎性(本疾患によるもの)と,非動脈炎性(本疾患以外の原因によるもの)の2 つがあるが,
図24 ガドリニウム造影T1 強調像(冠状断)1両側浅側頭動脈に壁肥厚と増強効果を認める.
図25 ガドリニウム造影T1 強調像(冠状断)2大動脈弓部,左総頚動脈,左鎖骨下動脈に壁肥厚と壁の増強効果を認める.
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予後と治療を行ううえで鑑別は重要である.動脈炎性では視力低下がより重度である.さらに,動脈炎性による片眼発症の前部虚血性視神経症では,無治療の場合,短期間で高率に反対側の眼にも発症し両眼失明する可能性がある273, 277).虚血性視神経症の患者の診療には,眼底の視神経乳頭所見に加えて,頭痛や側頭動脈に沿った圧痛や硬結,拍動低下の確認,CRPとESRの亢進の有無を確認する必要がある.CRPの高値あるいはESRの亢進を示した場合,本疾患を含めた動脈炎性である感度は97~99%とされている276, 278, 279).
網膜中心動脈閉塞症と毛様網膜動脈閉塞症は,急激な視力低下や視野欠損を起こし,急性期の眼底検査で閉塞領域の網膜の白濁がみられる.また長後毛様体動脈や前眼部の虚血により低眼圧や前房内炎症細胞をみることもある280).
図26同一患者の造影CT a:軸位断像.左鎖骨下動脈起始部に全周性の壁肥厚を認める(GCAの所見). b:冠状断像.腹部大動脈に動脈硬化性の偏心性壁肥厚を認める.
a b
図27 GCA・PMR の18F-FDG-PET/PET-CT両側鎖骨下動脈,両側椎骨動脈,大動脈,両側内腸骨動脈に集積を認める.また,両側肩関節周囲,両側股関節周囲,両側恥骨筋付着部,両側坐骨結節,下位胸椎~腰椎の棘間靱帯,下位頚椎棘突起に集積を認める.
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5 診断・診断基準・寛解基準
わが国では,厚生労働省のGCA診断基準に1990年のACR分類基準281)が採用されている(表8) 282).現在のわが国の診断基準では,側頭動脈生検による血管炎の病理組織学的証明が診断時に重要で,病変が連続的ではないことから,最低1 cmの検体を採取することが推奨される99).しかし,側頭動脈生検が実施困難な症例や生検が陰性の症例もあり,そのような症例は診断基準を満たしても,頭痛や不明熱,慢性炎症を呈する疾患を慎重に除外する必要がある.
2022年にACR/EULARから提唱された分類基準(表9) 262)では,失明,顎跛行,PMRに認められる肩または首の朝のこわばりが加わり,側頭動脈生検の陽性所見が側頭動脈エコーによるhalo signによって代替可能になった.また,両側腋窩動脈の壁肥厚や狭窄, 18F-FDG PET/PET-CTによる胸部下行大動脈から腹部大動脈の活動性所見が新たに項目に加えられた.スコア化されており6点以上をGCAと分類する.EULARでは側頭動脈エコー,腋窩動脈エコーと18F-FDG PET/PET-CTがGCAの画像診断として推奨されている99, 267).
JPVASの多施設後ろ向きコホートでは,GCAの約半数に鎖骨下動脈,腋窩動脈,大動脈本幹などの大血管病変を合併した229, 232).国内の保険診療では,エコー,CT,あるいはMRIで初期評価を実施し,同定された大動脈病変の疾患活動性評価目的で18F-FDG PET/PET-CTが実施さ
れている.そこで,国内の保険診療にあわせて,大動脈病変を18F-FDG PET/PET-CT以外の画像診断で評価することを許容する修正分類基準をJPVASから提案し,TAKをコントロールとして2022年の分類基準の感度,特異度を検証したところ,感度82.0%,特異度96.1%と,1990年ACR分類基準より良好であった283).また,頭蓋動脈病変のないLV-GCAではPMRがGCAの診断において重要であった.PMRの特徴は肩または首のこわばりと疼痛で,起床時に強く,日中は症状が軽減する.股関節のこわばり,股関節周囲の疼痛を伴うこともある.症状は肩,股関節の動かしにくさ,こわばりを訴えるのみの場合があり注意が必要である.診断にはリウマチ専門医へのコンサルトが望ましい.
寛解基準については,臨床試験で用いられた基準15)があるが,統一されたものはなく,わが国ではJPVASが寛解基準15, 284)を提案した.GCAの頭蓋領域の病変と大血管病変の活動性所見と後遺症を定義し,活動性の症状の消失と1年後PSL換算で5 mg/日以下を1年後の寛解達成,治療目標と定めた284).また,大血管病変の疾患活動性の評価方法をTAKと併せて提唱した102)(詳細は第6章3.を参照).
6 治療
6.1 GC,免疫抑制薬,抗血小板薬など
早期の寛解達成と治療開始1年後の寛解維持が重要な治療目標であり,GCA自体あるいは薬剤関連の有害事象による不可逆な臓器障害を最小限にすることを目指す284). GCAの治療アルゴリズム(図5)を参照のこと.
6.1.1 GC療法
GCAにはGCが奏功し,第一選択薬である.失明などの虚血性合併症を予防するために可能な限り早期にGCを開始する285-290).側頭動脈生検などの検査のために治療開始を大幅に遅らせるべきではない
291-293). a. 初期投与
眼病変や中枢神経病変がある症例ではPSL 1 mg/kg/日(最大60 mg)で開始する.眼病変や中枢神経病変がない症例ではPSL 0.5~1 mg/kg/日(最大60 mg)で開始する.
図28 GCA でみられた前部虚血性視神経症(棚野一郎ほか.2011
275)より)視神経乳頭の蒼白浮腫がみられる.
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表9 2022 年ACR/EULAR によるGCA の分類基準本基準の適用を考慮する条件・ 中型血管炎または大型血管炎のいずれかであると診断した時に,患者がGCAであると分類するために以下の分類基準を適用する.・ 本基準を適用する前に,血管炎と紛らわしい他の診断は除外すること.絶対的必要条件診断時の年齢≧50歳
臨床的な項目スコア
肩または首の朝のこわばり+2突然の失明+3顎または舌の跛行+2新規の側頭部頭痛+2頭皮の圧痛+2側頭動脈の異常な診察所見*1 +2
血液,画像,病理検査の項目スコア
最大ESR≧50 mm/hまたは最大CRP≧1.0 mg/dL *2 +3側頭動脈生検の陽性所見または側頭動脈エコーにおけるhalo sign *3 +5両側腋窩動脈病変*4 +2大動脈全体のFDG-PET活動性*5 +2上記10項目の点数を合計し,6点以上がGCAの分類に必要である. *1: 診察における側頭動脈の脈拍の消失または減弱,圧痛,または,硬い索状の外観. *2: 血管炎に対する治療開始前のESRまたはCRPの最大値. *3: 側頭動脈生検における明らかな血管炎,または,側頭動脈エコーにおけるhalo sign.側頭
動脈生検における血管炎確診例を定義する特段の病理組織学的基準はない.DCVASコホートにおいて,巨細胞の存在,単核白血球浸潤,内弾性板の断片化は,それぞれ独立した血管炎を支持する病理組織学的所見と解釈されていた.halo signは,超音波検査における均一で低エコーの壁肥厚の存在と定義される. *4: 両側腋窩動脈病変は,CT angiography,MR angiography,カテーテル血管造影,エコー
における血管内腔の傷害(狭窄,閉塞または瘤),または,エコーにおけるhalo sign,または, PETにおけるFDGの取り込みによって定義される. *5: 胸部下行大動脈と腹部大動脈を合わせた領域全体の動脈壁への異常なFDGの取り込み(視
覚的に,肝への取り込みよりも強いもの). (Ponte C, et al. 2022 262)より) Reproduced with permission of John Wiley & Sons, Inc. Ponte C, et al., Ann Rheum Dis 2022; 74: 1881-1889., John Wiley and Sons, Copyright (2022) American College of Rheumatology.
表8 GCA の分類基準(1990 年,ACR による)
1.発症年齢が50歳以上臨床症状や検査所見の発現が50歳以上2.新たに起こった頭痛新たに出現したまたは新たな様相の頭部に限局した頭痛3.側頭動脈の異常側頭動脈の圧痛または動脈硬化に起因しない側頭動脈の拍動の低下4.赤沈の亢進赤沈が50 mm/h以上(Westergren法による) 5.動脈生検組織の異常単核球細胞の浸潤または肉芽腫を伴う炎症があり,多核巨細胞を伴う<診断のカテゴリー> Definite:5項目中少なくても3項目を満たす. *感度93%,特異度91% (厚生労働省282)より)
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b. GCパルス療法
特に眼病変や中枢神経病変がある場合には,経口GCに先行してGCパルス(メチルプレドニゾロン500~1000 mg/日,3日間)を考慮する(第2章CQ2-5 を参照) 291, 294). GCAは高齢者に多く,感染症を含むGC関連の副作用による合併症リスクを有しており,また,頭蓋虚血病変に対する有効性のエビデンスに乏しいことを考慮すると,GCパルス療法は全症例で日常的に実施されるべきではない. c. 減量速度
自覚症状,画像検査などを踏まえて疾患活動性を評価し,注意深くGCを減量する.初期投与量を2週間程度継続し,自覚症状や炎症所見が改善すればGCを減量する286).至適なGCの減量速度や投与期間は確立されていないが,わが国で実施したデルファイ法によるエキスパートオピニオンの集約では,治療開始1年後の治療目標としてPSL 5 mg/日以下が提唱された(第6章3.を参照) 284).寛解維持している場合はGCのさらなる減量や中止を目指す.本CPGでは,GC減量効果の高い薬剤(TCZ,MTX, UPAなど)を可能な限り初回治療時から併用することを提案しており,この点は欧米のガイドラインも同様である99, 111, 295).TCZはGiant Cell Arteritis Actemra(GiACTA)試験において,26週でGC減量・中止での寛解維持およびGC累積量の減少における有効性が証明されており(第2章CQ2-1を参照),TCZ併用下では6ヵ月以内でのGC減量・中止を目指すことが可能であるが,再燃への注意は必要である.TCZ併用下におけるGCのさらなる超短期投与に関するエビデンスはまだ乏しい296, 297).UPAもSELECT- GCA試験(6.3 を参照)において,26週でGC減量・中止での寛解維持およびGC累積量の減少における有効性が証明されており,UPA併用下でも6ヵ月以内でのGC減量・中止を目指すことが可能であるが,今後の日常臨床でのエビデンスの蓄積が待たれる. d. 再燃時
GCAはGCへの治療反応性が高いが,GC減量中や中止後に高率(24~75%)に再燃し229, 298-301),再燃はPSL 10 mg/日以下で多い298, 299, 302).再燃時の症状,徴候の大部分はPMRや頭痛を主体とする頭蓋症状であり,視力障害や中枢神経症状での再燃は少ない229).大血管病変を伴う場合には難治例・再燃例が多く,再燃時に症状,徴候がなくCRP上昇のみを認めることがあり,画像による評価が重要である229, 232, 303).
再燃例はGC増量や再開を要し,GCの投与期間延長と累積量の増加によりGC関連有害事象のリスクが高まるため300),再燃時にはGC増量だけではなく,GC減量と再燃抑制に有効である薬剤(TCZ,MTX,UPAなど)の調整が重要である(第2章CQ2-1,CQ2-4,本章6.2,6.3 を参
照).再燃時のGCの増量については,2018年のEULARの推奨で,視力障害,中枢神経症状,四肢跛行の新出・増悪などの虚血症状,および画像所見での進行性の動脈狭窄・拡張,または動脈解離を引き起こす活動性血管炎で再燃した場合には,GCを高用量の初期投与量に戻し,上記の症状を伴わないマイナーな再燃の場合,再燃前に有効であったGC量まで戻す,もしくは有効であったGC量にPSL換算で5~15 mg/日を上乗せすると記載されている99).しかし,注意点としては大血管病変で再燃すると無症状あるいは関節症状や全身症状のみのことがあり,再燃時は画像診断を実施し疾患活動性を十分に評価し,活動性の大動脈炎があればPSL換算で0.5 mg/kg以上のGCを検討する必要がある.TCZあるいはUPAを併用した場合には,6ヵ月を目安にGC減量・中止することが可能であるが(第2章CQ2-1,本章6.3を参照),再燃の可能性を考慮して疾患活動性を評価しながら減量する.TCZを開始し6ヵ月でGCを減量中止する場合の再燃リスク因子は,治療開始時のPSLの投与量が30 mg以下であることにも留意する
237). e. GC関連有害事象
GC関連有害事象は8割以上の患者に発生するため300, 304),慎重にモニタリングする必要がある.GC誘発性骨粗鬆症に関するガイドラインに従い骨粗鬆症治療薬を併用する305).感染症に関して各種ワクチン接種やsulfamethoxazole trimethoprim(ST合剤)の予防投与を考慮する306, 307).
6.1.2 免疫抑制薬
MTXはGC減量および再燃抑制効果を有し(第2章
CQ2-4を参照),TCZの登場前はGCに最もよく併用され
た薬剤である229).MTXとTCZの有効性を比較するRCT (NCT03892785)が進行中であり結果が待たれるが,GC減量および再燃抑制効果やエビデンスの確実性はMTXよりもTCZのほうが高いと考えられるため,TCZが適切でないと判断された場合,MTXの使用を考慮する.GCAに対するMTXの至適用量は検証されておらず,「関節リウマチにおけるメトトレキサート(MTX)使用と診療の手引き2023年版」を参照のうえ使用する308).MTXはわが国ではGCAに保険適用外であること,高齢で腎機能低下を伴う症例では副作用のリスクが高いことに留意する.
他の免疫抑制薬においては観察研究で有効性が報告されているのみであるが,AZA 309, 310),CY 311, 312),レフルノミド(保険適用外) 313, 314)が用いられることもある.
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6.1.3 抗血小板薬,抗凝固薬
GCAによる虚血性イベントの予防に関する抗血小板薬や抗凝固薬の有効性を評価したRCTは存在しない.いくつかの後ろ向き観察研究で虚血性視神経症を含む頭蓋虚血性合併症の予防に対する有効性が報告されているが315-317),有効性を示さなかった報告も多い318-321).抗血小板薬が将来の虚血性イベントを予防するという一貫した証拠はなく,GCA全患者に対して日常的に使用すべきではない99).椎骨動脈や頚動脈などの血管狭窄により虚血性合併症の発症リスクが高い患者では,出血性合併症のリスクも評価したうえで低用量アスピリンの使用を考慮する111).
6.2 IL-6阻害薬
GCAに対するIL-6受容体阻害薬の有効性は,GCによる初期治療の段階からTCZを開始するプロトコールにて2つのRCTにおいて示された.1つ目のRCTは単施設での第2相試験として2016年に報告され,GCにTCZ(8 mg/ kg)またはプラセボを4週間ごとに52週間投与された.主要評価項目である12週目の完全寛解率はTCZで有意に高く(TCZ群85%,プラセボ群40%),副次評価項目である52週目の無再燃率やGC減量・累積量においてもTCZが優れていた322).
2 つ目のRCT(GiACTA試験)は多施設の第3相試験として2017年に報告され,251人のGCA患者は4群(TCZ 162 mg週1回皮下注+26週GC[1. 週1回投与群],TCZ 162 mg隔週皮下注+26週GC[2. 隔週投与群],プラセボ+26週GC[3. プラセボ26週群],プラセボ+52週GC[4.プラセボ52週群])に割り付けられた.主要評価項目である52週目のGCフリー寛解率はTCZ(1. 週1回,2. 隔週)投与群で有意に高かった(1. 56%,2. 53%,3. 14%,4. 18%) 15).TCZの投与頻度では,週1回投与群が再燃患者にて両プラセボ群より再燃リスクが低く(隔週投与群では有意差なし),52週目のSF-36スコアも週1回投与群4.10,隔週投与群2.76の増加と,一部の指標では週1回投与群でより高い有効性が示唆された.本試験の事後解析では, GCA患者を,PMR症状のみ,頭蓋症状のみ,両方の症状を有する群に分類した結果,いずれの群でもTCZ投与群で52週目の持続寛解率は高く,再燃の発生割合も低かった323).
GiACTA試験では,52週間(パート1)に続き,215人が2年間(パート2)の長期試験に参加し,TCZ中止の可能性が検証された324).52週後に寛解にて無治療となったTCZ週1回投与群59人のうち25人(42%)は,パート2 も無治療にて寛解を維持した.しかし一方で,英国の多施設での
研究では,TCZ中止後1年間でGCA患者の35.4%,2年間で48.6%が再燃し,特に大血管病変例で多いとされているため325),TCZ中止には注意が必要である.
GCA患者の多くはGC単独で寛解が維持されるが投与量の漸減は必要である.GC関連の有害事象や長期治療にてGC-sparingを要する患者では,ACRならびにEULARガイドラインでTCZが第一選択薬として推奨されている.特に,前者では新規発症や頭蓋虚血症状をもつ患者ではGC+TCZ治療が推奨されている99, 111).GiACTA試験では,52週間のGC累積投与量の中央値は,TCZ週1回投与群と隔週投与群のいずれも1862 mgであり,プラセボ+26週GC群3296 mg,プラセボ+52週GC群3818 mgと比較して有意に低かった15).さらに,3年間では,TCZ週1回投与群2647 mg,TCZ隔週投与群3948 mg,プラセボ+26週GC群5277 mg,プラセボ+52週GC群5323 mgであった324).
GCの短期間投与では,8週間のGC投与とTCZ皮下注の併用によるオープン試験において52週目では77%の患者でGCフリー寛解を達成した297).また,3日間のGCパルス療法(メチルプレドニゾロン)に続くTCZ単独療法では,24週目と52週目で血管活動性スコア(PETVAS)の低下(-8.6,-10.4)と無再燃寛解(56%,47%)を認めた326).一方,わが国の多施設共同の大規模観察研究では, GC(< 10 mg/日)とTCZ併用にて94.2%の患者で無再燃であった327).GC併用の有無についてはさらなる検討が必要と思われる.
TCZの効果はGCAの寛解達成にとどまらない利点がある.GiACTA試験の事後解析では,1年後のHbA1c変化の中央値がTCZ+GC群で-0.5%,GC単独群で-0.1%であり,TCZ併用群では42.5%が糖尿病予備群から正常血糖値に移行した328).また,他の事後解析では,GC累積投与量はBMI上昇と関連していたが,52週間のTCZ投与はBMIとの関連を示さず,TCZ併用に伴うGC減量はBMIに有益な効果をもたらす可能性がある329).TCZ投与後の脂質異常症はよく知られているが,関節リウマチではTCZによるリポ蛋白関連パラメータの改善も報告330)があり,脂質プロファイルと心血管リスク因子は注意深くモニターが必要である.
EULAR勧告では,GCA診断の第一選択の画像診断法として超音波検査をあげているが,MRI, 18F-FDG PET/ CT,CT血管造影などはGCAの大血管病変と疾患活動性の評価に有用である267).後ろ向きRIGA試験では,GC単独療法と比較して,TCZ,GC+MTXで血管炎症の画像徴候が減少した331).GCA患者100人の前向き研究では,
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診断時の血管FDG PET検査陽性例では胸部大動脈が大きく増大し,本検査が大動脈瘤形成リスクの推定に役立つことが示唆された332).ただ,包括的なモニタリングを確実に行うためには,複数の評価方法を統合することが望ましい.
安全性では,TCZ投与のGCA患者の一部で注射部位反応や日和見感染などの軽度~中等度の有害事象が報告されている.GiACTA試験にて重篤な感染症はTCZの週1回投与群で7%,隔週投与群で4%に認めた.この発生率は,プラセボ群における発生率と比較して良好であり,プラセボ+26週GCで4%,プラセボ+52週GCで12%であった15).わが国の多施設共同の大規模観察研究では117人中,好中球減少症および白血球減少症7.7%,重篤な感染症6.0%,肝機能障害4.3%,悪性腫瘍1.7%,脂質プロファイル異常値1.7%,腸穿孔0.9%に認めた327).TCZを使用する場合は安全性への配慮が重要であり,関節リウマチに対するトシリズマブ使用ガイドライン(2017年3月21日改訂版) 333)に記載の投与禁忌,要注意事項を参考にしたうえで,TCZ以外のほうが治療選択肢として適切かどうかを判断する.
IL-6阻害はGCAに有効性の高い治療法ではあるが,適切な治療期間,休薬と再燃リスク,疾患活動性モニタリングのためのバイオマーカーや画像検査など,今後さらなる検討が必要である263, 264).
6.3 JAK阻害薬,GM-CSF阻害薬, アバタセプト,IL-17阻害薬
6.3.1 JAK阻害薬
JAK阻害薬は,GCAの病因に重要な役割を果たすJAK- STATシグナル伝達経路を標的とする.この経路は,IL-6やIFNγを含むさまざまなサイトカインのシグナル伝達に関与している.JAK酵素を阻害することで,GCA患者における炎症反応を調節できる可能性がある.
JAK阻害薬の1つであるUPAについては,GCAに対する第3相試験であるSELECT-GCAの結果が報告されている334, 335).24ヵ国で実施され,新規または再燃の50歳以上のGCA患者428人を解析した二重盲検RCTである本試験は,UPA 15 mg/日+GC 26週漸減(UPA 15 mg)群,UPA
7.5 mg/日+GC 26週漸減(UPA 7.5 mg)群,プラセボ+
GC 52週漸減群の3群に割り付けられ,12週目から52週目までの持続的な寛解達成率を主要評価項目とされた.主要評価項目はUPA 15 mg群 vs プラセボ群(46% vs 29%,P= 0.0019)でUPAがGCA患者において寛解を誘導し維持する効果があることが示唆された.そのほか,UPA 15 mg群はプラセボ群と比較しGCの総投与量が有意に少なく,
FACIT-Fatigueスコアが有意に低く,GCAの再燃率が低いことが示された.安全性としては,一般的にUPAの既知の安全性プロファイルと一致し,新たな安全性シグナルは確認されなかったものの,UPA 15 mg群で帯状疱疹と非悪性黒色腫の皮膚癌発生率が数値的に高かったことが明らかとなっている.これらの結果を受けてわが国では,2025年にUPAは「既存治療で効果不十分なGCA」に保険適用となった.
GCに加えてバリシチニブ(15人),トファシチニブ(10人),UPA(10人)で治療された再燃性GCAの患者35人に関するスペインの多施設後ろ向き研究では,中央追跡期間は11ヵ月(四分位:6~15.5ヵ月)で,57%が臨床的寛解を達成・維持し,46%が完全寛解(無症候性かつESRとCRPが正常)を達成・維持した336).11%の患者が重篤な有害事象によりJAK阻害薬を中止された.
スウェーデンから報告されたバリシチニブまたはトファシチニブが投与されたGCA 15人のケースシリーズでは, JAK阻害薬投与開始から3ヵ月および6ヵ月後にCRPの有意な減少がみられ,ESRも緩やかに減少し,PSLの1日投与量も3ヵ月および6ヵ月後に有意に減少した337).GCAの再燃は観察されず,2人がアスペルギルス感染症と腸球菌菌血症を合併したものの,JAK阻害薬は継続または再開され,最終フォローアップ時点で15人中12人(80%)がJAK阻害薬を継続していた.スペインと米国のケースシリーズでは,以前に他の免疫抑制療法で寛解導入に至らなかったGCA患者32人を後ろ向きに解析し,中央値6ヵ月の追跡で,72%が寛解を達成・維持したと報告している338).
JAK阻害薬は,GCA治療における新たな可能性を示している339, 340).特にSELECT-GCA試験でのUPAの結果は有望である.一方で,長期的な安全性データは依然として不足しており,高齢患者における感染症,心血管イベント,悪性腫瘍のリスクに注意が必要である.
6.3.2 GM-CSF阻害薬
GM-CSFは顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の略称である.当初は造血成長因子として同定されたが,単球,マクロファージ,DC,好中球,好酸球など,さまざまな免疫細胞の生存,増殖,活性化を促進し,DCのT細胞への抗原提示能力を向上させるなど,免疫系にも重要な役割を示す多機能性サイトカインである341).
GM-CSFの機能を阻害する抗体医薬として,GM-CSF受容体αサブユニットを標的とするモノクローナル抗体であるマブリリムマブ(MAV)が,GCAに対する第2相試験を終了している342, 343).北米,欧州,オーストラリアの50
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施設で実施された新規または再燃の50歳以上のGCA患者70人を解析した二重盲検RCTである本試験は,MAV 150 mg/2週+PDN 26週漸減群(MAV群)とプラセボ+PDN 26週漸減群に3:2で割り付けられた.主要評価項目は26週までのGCA再燃までの時間で,再燃率はMAV群 vs プラセボ群(19% vs 46.4%)であり,再燃までの時間中央値はMAV群で「未到達」 vs プラセボ群で25.1週(HR 0.38, P=0.026),26週時点の持続的寛解率はMAV群83.2% vsプラセボ群49.9%(P=0.0038)であった.有害事象発現率はMAV群78.6% vs プラセボ群 89.3%,重篤な有害事象もMAV群 4.8% vs プラセボ群 10.7%であり,新たな安全性シグナルは確認されなかった.
以上よりGCA患者におけるMAVは,疾患寛解の維持および再燃リスクの低減において,プラセボよりも有意に優れていることが示され,今後第3相試験などを経てさらなる有効性と安全性のデータの蓄積が期待される.
6.3.3 アバタセプト(ABA)
第2章CQ2-3解説を参照.
6.3.4 IL-17阻害薬
第2章CQ2-6解説を参照.
6.3.5 総括
2025年12月時点で,JAK阻害薬のUPAはGCAに対する治療薬として保険適用の追加承認がなされている.本章で扱った他の薬剤はGCAに対して保険適用外であるが,二重盲検RCTで有効性が期待されている薬剤を概説した. GCAに対してJAK阻害薬やABA,IL-17阻害薬,GM- CSF阻害薬は有望な治療選択肢ではあるが,いずれもRCTの数が少なく現在のエビデンスの確実性が比較的低く,長期的な有効性や安全性に関するデータの蓄積が求められる.特にJAK阻害薬では感染症や悪性腫瘍リスクが課題とされており,慎重な評価が必要である.今後,大規模試験や長期観察研究を通じて,各薬剤の最適な適応患者群が明確化されることで,GCA治療の選択肢がさらに広がることが期待される.
7 予後
GCAの予後に関して,以下のように4 つに大別して考える.・長期予後
・虚血による臓器障害:失明,脳梗塞,心筋梗塞など・大動脈瘤,その他の動脈瘤,動脈解離,動脈破裂など・ 治療関連合併症:長期のGC使用などの免疫抑制療法
による感染症や病的骨折など最近のメタ解析ではGCA患者の約半数が診断後2年以内に再燃することが報告されているが344),古くから,長期予後は悪くないことが報告されている345, 346).しかし,わが国の長期予後に関する疫学調査はまだ報告されておらず,明らかではない.
視力障害は最も重大な合併症であり,その発生頻度は30~40%である.そのうち,失明に至るのは5~15%程度と報告されている347).近年TCZが使われるようになり,視力障害や失明に至る症例が減少傾向であることが報告されている348).
GCA患者では心筋梗塞のハザード比が一般人口の2.06倍,脳梗塞が1.28倍,末梢動脈病変が2.13倍と報告されている.診断後1ヵ月以内に限ると,心筋梗塞が11.89倍,脳梗塞が3.93倍,末梢動脈病変が3.86倍と報告されており,診断直後が最も注意を要する349).
米国ミネソタ州の報告では,GCA患者では一般人口に比べ胸部動脈瘤の発症リスクが17.3倍,腹部大動脈瘤の発症が2.4倍と高かった350).そのうち,胸部大動脈瘤を有する患者の半数以上が胸部大動脈解離で死亡していた.英国の報告では,大動脈瘤の発症は一般人口の1.92倍のハザード比であった.特に喫煙男性で糖尿病を有する患者に多かった236).
近年,診断時に大動脈病変を伴うLV-GCAは,これまで考えられていたよりも高率で,50~70%程度と報告されている229).頭蓋症状が主要なタイプ(cranial GCA)に比べ失明の発生頻度は少ないが,再燃しやすく229-232),GC総投与量が多くなり,死亡率が高い229, 232, 351).一方で, LV-GCAのほうが5年生存率が高かったとするわが国の少数例の報告もあり352),今後のさらなる症例の蓄積が待たれる.
GCAは高齢者に多く,GCや免疫抑制薬の投与により,感染症(結核,非結核性抗酸菌症,ニューモシスチス肺炎, B型肝炎ウイルス再活性化など)や糖尿病,高血圧,脂質異常症,骨粗鬆症などの発症に注意を要する.
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第5章 バージャー病
1 疾患概念・疫学
バージャー病は大型血管炎に属する疾患ではないが, JPVASの大型血管炎臨床分科会の主な調査研究の対象がTAK,GCA,バージャー病の3疾患であることを踏まえて,本CPGの対象としている.わが国では指定難病であり,閉塞性血栓血管炎(thromboangiitis obliterans: TAO)ともよぶ.疾患名は報告者であるLeo Buerger(英語読みでバージャー,ドイツ語読みでビュルガー,1908年報告)の名前に由来する6).上肢・下肢遠位部の動脈と静脈に,分節的に炎症性の血栓閉塞を生じる慢性疾患である.発症は30~40歳代前後の男性に多く,喫煙との関連が深い.慢性動脈閉塞だが,しばしば急速に進行して四肢末端部に潰瘍や壊疽を生じる.経過中に時折,遊走性/逍遥性静脈炎を伴う.生命予後は一般的には良好だが,禁煙できなければ症状が進行することが多く,指趾や肢の切断に至ればQOLが著しく低下することも多い353).
わが国での発症率は,1970年代後半より急速に減少し, 2010年代前半では人口10万人あたり0.1人程度と推定される354).2019年度の特定医療費(指定難病)受給者証保持者数は2259人である.ただし2015年度以降,受給者証は重症度3度以上ないし軽症高額該当の患者のみが保持できるため,軽症を含めた実際の患者数はこの倍に近いと推測される.
典型的には若年発症で,ヘビースモーカーの男性に好発するが,壮年期の発症と推定される患者や,受動喫煙を含めた喫煙歴が明らかでない患者もある354).女性患者も増加傾向がみられ,女性喫煙者の増加との関連が示唆されている354-356).特異的診断マーカーや共通の診断基準がないため,患者の世界的な分布は定かでない.欧米では第二次世界大戦後に患者数が減少したが,血管造影が登場し誤診断が減ったためとされる357).日本を含め,従来発症が多いとされた韓国358),台湾359),タイ360),イスラエル361)からも患者の減少が報告されている.しかし,安価で悪質な自家製タバコや生タバコなどが多飲されるインドなどでは
患者数はまだ多い362).
2 発症機序
本疾患の原因は明らかでなく,その発症機序は解明されていない.特定の原因遺伝子は同定されていないが,地域による発症率の差が認められることから363),人種差あるいは何らかの環境要因との関連が示唆される.特に,喫煙は本疾患の発症や病状進行,転帰に強く関与しており,患者の大多数に受動喫煙を含めた喫煙歴が認められる353, 364-366).
最近の研究によると,ニコチンがチトクロームオキシダーゼの酵素分解を受けて生成される最終代謝物であるコチニンが,炎症を惹起することが発症要因となりうるとの因果関係が実験的に示された367).他の要因としては,歯周病菌368)をはじめ,リケッチア369)やグラム陰性バクテリア370)などによる感染との関連が報告されている.これらは慢性炎症から血管内皮細胞障害をもたらし,微小血栓を引き起こすことが発症誘因となることが想定される371, 372).
内因性の要因としては,HLAパターンと発症率に関連する報告373, 374)や,自己免疫反応として内皮細胞に対する抗体産生が本疾患に認められる375, 376)との報告がなされている.患者ではI型およびIII型コラーゲンに対する細胞性免疫が亢進していることも示されている377).疾患増悪時には溶血性貧血も発症することを示唆する報告があるが,本疾患の全身性炎症と溶血性貧血の誘発に自己抗原が関与しているのか,感染性抗原が関与しているのかは不明である378).
その他,血管内皮細胞障害や一酸化窒素の産生低下により血管弛緩能が低下することも発症誘因として示唆されている379-381).
また,病態生理学的特徴の1つに血管攣縮現象があり,患者では交感神経反応性が低下していることも示唆されている382, 383).
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3 病理所見
バージャー病では,下肢あるいは上肢,まれには内臓の中型血管が侵され,血栓が区域性の動脈閉塞をもたらし,その末梢の壊疽が認められる363, 384).1908年にBuergerが詳細な臨床病理学的記述を行った6).しかし20世紀中ごろに,バージャー病にみられる閉塞血管の変化は,血栓塞栓症や若年発症の動脈硬化と区別がつかないとして,独立した疾患概念としてのバージャー病に関して疑問が提出された385).近年では,バージャー病に特徴的な組織像について動脈硬化や血栓症と比較した再検討から,表10に示すような知見が報告されている6, 386-389).
図29にバージャー病の病理像を,図30に病理像をまとめた模式図を示す.バージャー病の急性期においては,好中球の集合した微小膿瘍と多核巨細胞が血管壁,特に内膜に見出されることがあるが6, 384),これらはまれにしか観察されないため,亜急性期あるいは慢性期でも残存している像がより意義がある.以前から指摘されていたように,バージャー病では内弾性板が圧排されずに保たれており,逆に,閉塞性動脈硬化症や血栓症では,粥腫や血栓によって肥厚した内膜が内弾性板を圧排する像が目立つ.さらには,バージャー病では内弾性板の二重化,過屈曲,亀裂などの所見も伴うことがある388).
バージャー病に特徴的な病理組織の1つに,動脈外膜の線維化があげられるが6),この所見はWesslerらによって,閉塞性動脈硬化症でも認められ,非特異的所見だとされた385).しかしながら,この所見はバージャー病に特異的といえないまでも特徴的で,閉塞性動脈硬化症で外膜に線維化が認められる場合には内膜や中膜にも線維化がみられる.一方,バージャー病では中膜の線維化を欠く外膜の線維化
が認められ,加えて外弾性板直下の浮腫が特徴的との見解もある386).また,再疎通血管の内皮細胞の玉ねぎ様の重層化と,vasa vasorumの内皮細胞の肥厚も特徴的とされる386).免疫組織化学的検索において,内弾性板に密着したマクロファージ・リンパ球の浸潤は,他の疾患には認められないバージャー病に特異的所見といわれるが,バージャー病のすべての患者で認められるわけではない387).
病理組織学的所見から考えられる経過としては,原因となる因子が血液の過凝固状態と相まって,あるいは単独で血管の内膜,特に内皮細胞を障害するという説が提示されている389, 390).一方では,血管壁内の主にvasa vasorumの障害が最初に起きて,血管内膜の障害は二次的だとの意見もある386, 387, 391).いずれの説においても,内膜の障害に引き続いて内腔の血栓性閉塞が起こると考えられている.また,バージャー病において抗エラスチン抗体や抗血管内皮抗体が上昇し375, 392),動脈内弾性板にリンパ球,補体,免疫グロブリンなどの集積が認められることが報告されたが389),これらは病変が進行した際に認められる二次的な所見の可能性もある387).
4 症状
初期症状は,固有趾動脈や弓状動脈といった遠位小動脈の虚血から始まり,病気の進行に伴い下腿三分枝のような近位動脈へと進展する.大動脈への進展はまれである.症状は病状の進行状況に応じて変化する.
初期段階では,四肢末端の虚血により手指や足趾の冷感,しびれなどの知覚異常や,皮膚の色調変化が現れる.色調変化は,動脈虚血によるチアノーゼと表在静脈炎に伴
表10 バージャー病の病理組織学的特徴
組織学的部位所見特記事項文献主に内膜微小膿瘍と多核巨細胞急性期の所見6, 386再疎通血管内皮細胞の肥厚と玉ねぎ様の重層化― 386内弾性板内弾性板の屈曲の保持過屈曲・二重化など6, 386, 388内弾性板マクロファージ・リンパ球の密着免疫グロブリンや補体の沈着も387, 389 vasa vasorum内皮細胞の肥厚― 386中膜外弾性板直下の浮腫― 386中膜・外膜中膜線維化を欠く外膜の線維化― 6, 386外膜CD4陽性Tリンパ球主体の浸潤vasa vasorum周囲387
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図29 バージャー病の代表的な病理組織A: 血管内膜に認められる,急性期のバージャー病に特徴的とされる多核巨細胞(矢印)を含む微小膿瘍(矢頭).HE染色. B: 内弾性板の屈曲は保たれ(矢頭),一部では過屈曲も認める(矢印).外膜の線維化が著明である. EVG染色. C: 内膜再疎通血管は,内皮細胞および周皮細胞が玉ねぎ様に重層化する(上向き矢印).外膜および中膜のvasa vasorum内皮細胞の肥厚がみられる(下向き矢印).外弾性板直下に浮腫が認められる(左向き矢印).矢頭は内弾性板を示す.Azan染色. D: CD4陽性Tリンパ球が,vasa vasorum周囲に浸潤し(矢印),内弾性板に密着して配列する(矢頭).
抗CD4抗体による免疫組織化学的検索.
A B
C D
図30 バージャー病の閉塞動脈に特徴的な病理組織像(シェーマ図)バージャー病の閉塞動脈に特徴的な病理組織像としては,1急性期では,好中球の集合した微小膿瘍と多核巨細胞が血管壁,特に内膜に見出されることがある.2内弾性板が圧排されずに屈曲が保たれ,過屈曲も認められる.これは,主たる鑑別となる閉塞性動脈硬化症や血栓症では,内弾性板が内膜に圧排されることと対照的である.3中膜の線維化を欠く外膜の線維化,4外弾性板直下の浮腫,5再疎通血管の内皮細胞の玉ねぎ様の重層化,6vasa vasorumの内皮細胞の肥厚がみられることも多い.これらは血管壁ないしは血管外からの炎症と,微小血管障害の像と考えられる.7免疫組織化学的に,内弾性板に密着したマクロファージ・リンパ球の浸潤が認められることがある.
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生労働省の医療費助成制度データベースに登録された新規患者89人を解析した結果では,上肢片側のみ12%,下肢片側のみ15%,両上肢19%,両下肢30%,3肢3%,4肢17%であった354).しかし,名古屋大学血管外科の検討では,無症状例でも血管造影上で90%以上に動脈造影異常が認められたと報告され393),必ずしも臨床症状と一致しているわけではなく,四肢すべての評価が望ましい363).
5 検査・画像所見
5.1 身体診察
表11にまとめる.アレンテスト,下肢挙上下垂テストなどの負荷試験で虚血の確認を行う.下肢挙上下垂テスト(Ratschow Test;下肢を挙上すると皮膚が蒼白になり,静脈溝が形成される.水平位に戻すと足が鮮やかな赤色に変化する)の陽性所見は他の末梢動脈疾患でも生じ,特異的ではない.
5.2 生理機能検査
特異的な検査は存在せず,他の末梢動脈閉塞疾患に準じた検査が実施される(表12).検査は,病変部の同定,進行度の評価,および治療効果の判定を目的とする.バージャー病では血管病変が四肢末端から発症する傾向があるため,足関節上腕血圧比(ankle brachial index: ABI)では異常所見が得られない場合がある.そのため,ドプラ聴診
う発赤が混在する形でみられる.罹患肢下垂時に,皮膚が暗赤色に変化する所見(dependent rubor)が認められる場合があるが,この所見は他の末梢動脈疾患でも生じ,特異的ではない.
間欠性跛行は膝窩動脈以下の病変では足底筋跛行から始まり,浅大腿動脈まで進展すると腓腹筋跛行,さらに腸骨動脈が侵されると大腿・臀筋跛行へと変化する.病状がさらに進行すると,手指や足趾に安静時疼痛が出現し,皮膚潰瘍や壊疽を生じることがある.潰瘍は外傷を契機に増悪する場合が多い.
また,四肢の表在静脈に血栓性静脈炎を伴い,これが再発性かつ移動性に発症することから,遊走性/逍遥性静脈炎と称される.
4.1 各症状の頻度
わが国におけるバージャー病の2013年特定医療費受給者証保持者6979人のうち,臨床調査個人票のデータが得られた3220人を解析した結果,初診時の臨床症状は冷感,しびれ感,レイノー現象が93%,間欠性跛行66%,安静時痛66%,潰瘍40%,壊死22%,遊走性/逍遥性静脈炎17%であった353).
一方,海外の報告では,French TAO Networkによる1970年から2016年までの調査で解析された224人の結果,四肢虚血73.3%,跛行52.8%,レイノー現象41.5%,潰瘍・壊死31.5%,四肢感染8.8%,遊走性/逍遥性静脈炎18.3%が認められた366).
上肢の罹患は動脈硬化性病変との鑑別に有用であるが,他の血管炎や血栓塞栓症,胸郭出口症候群との鑑別が必要である.臨床症状の分布は,2013年から2014年度に厚
表11 バージャー病の身体診察
視診指趾の萎縮,爪の発育不良,チアノーゼ,潰瘍,遊走性/逍遥性静脈炎による発赤,色素沈着聴診血管雑音(bruit),狭窄音の聴取触診四肢冷感,末梢動脈拍動の触知負荷試験アレンテスト,下肢挙上下垂テスト
表12 バージャー病の生理機能検査法
四肢血流ドプラ聴診器,足関節上腕血圧比(ABI)指趾血流足趾上腕血圧比(TBI),指尖容積脈波皮膚血流皮膚血流:皮膚灌流圧(SPP),経皮酸素分圧(tcPO2),サーモグラフィー,レーザードプラフローメーター
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り末梢,上肢では肘関節より末梢に病変がみられる.肢端に最も虚血所見が強く現れるため,詳細な病変部の同定や側副血行路の発達を確認するためには選択的カテーテル血管造影またはデジタルサブトラクション血管造影(DSA)を用いる395).特徴的な血管造影所見と実際のDSA画像を図31 396),32に示す.
病変は多肢に及ぶことが多い.動脈硬化性疾患との鑑別は,中枢動脈病変や石灰化,粥腫がないことで比較的容易である.糖尿病性末梢動脈閉塞では末梢動脈が先細りする.他の自己免疫疾患由来の血管炎では,びまん性の先細り(narrowing)や血管壁の不整(irregular luminal narrowing)を示すことが多い.一方,バージャー病では血管壁は平滑であるが,分節的な途絶やコルク栓抜き状の側副血行路(corkscrew collaterals)を認める.実際には,自己免疫性血管炎との鑑別は画像だけでは困難なことが多い397).
6 診断・診断基準
特異的診断マーカーがないため,臨床診断を行う.世界的に合意された診断基準はなく,さまざまな基準が提唱さ
器,指尖容積脈波,足趾上腕血圧比(toe brachial index: TBI),皮膚灌流圧(skin perfusion pressure: SPP)の測定が利用される.ただし,疼痛や潰瘍がある場合にはこれらの患部圧迫を要する計測が困難なことがあり,このような場合には,経皮酸素分圧(transcutaneous oxygen tension: tcPO2)が有用である.疼痛のために安静が保てずSPPが測定できない場合には,tcPO2やレーザードプラフローメーターが用いられる.レイノー現象の診断には冷水負荷によるサーモグラムを用いる.
5.3 血液学的検査
特有な項目はない.他の血管炎症候群や自己免疫疾患による血管炎の鑑別目的の自己抗体や補体の検査,動脈硬化性疾患の鑑別に脂質異常,糖尿病などの検査を行う394).
5.4 画像診断
画像診断では,通常の閉塞性動脈疾患検査に準じて,デュプレックスエコー,核磁気共鳴血管造影(MRA),および造影3次元コンピュータ断層撮影(three-dimensional computed tomography: 3DCT)を,動脈硬化性疾患との鑑別や治療効果判定を目的に選択する.下肢では膝関節よ
図31 バージャー病の動脈閉塞と側副血行路の様式(阪口周吉ら.1977
396)より抜粋) 1途絶(abrupt occlusion),2限局性狭窄(localized stenosis), 3虫喰い(moth-eaten),4不整(irregularity),5橋状の側副血行路(bridging collaterals),6コルク栓抜き状の側副血行路(corkscrew collaterals),7樹根状の側副血行路(tree root collaterals),8拡張(dilatation),9早期静脈出現(early venous filling)図32 バージャー病の下肢動脈血管造影所見
1コルク栓抜き状の側副血行路(corkscrew collaterals),2限局性狭窄(localized stenosis),3途絶(abrupt occlusion),4橋状の側副血行路(bridging collaterals),5樹根状の側副血行路(tree root collaterals)
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れている395, 398-401).これまで汎用されてきた塩野谷の診断基準398)すなわち「150歳未満の発症,2喫煙歴を有する, 3膝窩動脈以下の閉塞がある,4上肢の動脈閉塞がある,または遊走性/逍遥性静脈炎の既往がある,5喫煙以外に動脈硬化の危険因子を有さない,の5項目をすべて満たす」は臨床像としては典型的で,検査を必要とせず簡便だが,病気が進行し症状が出揃った状態ともいえる.
世界では早期診断のために診断基準を改善すべきとの意見が多く,わが国では2024年に指定難病の診断基準が改訂された(表13) 402).本疾患として相違ない症状を呈し,血管画像検査所見が本疾患の特徴と合致し,他の疾患と鑑別できれば,バージャー病の診断が可能である.
診断に必要な症状に加え,上肢動脈の罹患や,他の主要症状である遊走性/逍遥性静脈炎(皮下静脈の発赤,硬結,疼痛など)があれば,診断の有力な助けになる.膠原病やその類縁疾患など他の血管炎を,各疾患に関する診断
マーカーなどの検査で否定する13).心原性塞栓症,近位動脈瘤や粥腫からの塞栓症,反復外傷や振動病,薬物(大麻など)の影響などからも鑑別する.
2023年にInternational Consensus of VASが提唱した診断基準では,“definitive”には喫煙歴,典型的な血管造影所見,病理所見の3つすべてを満たすことが求められた.一方でさまざまな理由で検査を受けられない患者に配慮し,“suspected”として,喫煙歴が必須でかつ小項目(若年発症,両下肢の罹患,どちらかの上肢の罹患,遊走性/逍遥性静脈炎,浮腫状で赤-青紫色の指趾)のうち4つ以上を満たすという基準も設けられた395).患者のなかには壮年発症者や喫煙歴が明らかでない患者もいるが354, 359, 362, 403),真の発症時期や受動喫煙の有無の厳密な確認は難しい.また近年では高血圧,脂質異常,糖尿病など動脈硬化の危
表13 バージャー病の診断基準
診断:Definite本症発症時,A.のうち1項目以上およびB.のうち1を含む2項目以上を満たし,Cの鑑別すべき疾患を除外したもの. A. 症状診断に必要な症状1四肢の冷感,しびれ感,色調変化,チアノーゼ,レイノー現象2間欠性跛行3指趾の安静時疼痛4指趾の潰瘍,壊死B. 検査所見血管画像診断所見a:四肢末梢の動脈bを含む四肢動脈に検出される閉塞性病変.以下の所見がみられる. 1四肢末梢動脈病変に,動脈硬化性の壁不整がない(虫食い像,石灰化沈着など) 2多発的分節的閉塞3二次血栓の延長による慢性閉塞の像4閉塞が途絶状・先細り状5コイル状,樹根状,ブリッジ状の側副血行路a:デジタルサブトラクション(DSA)血管造影法,CT angiography,MR angiographyなどb:下肢では膝関節より末梢,上肢では肘関節より末梢の動脈C. 鑑別すべき疾患1. 閉塞性動脈硬化症2. 外傷性動脈血栓症3. 膝窩動脈捕捉症候群4. 膝窩動脈外膜嚢腫5. 膠原病および類縁疾患6. 血管ベーチェット病7. 胸郭出口症候群8. 塞栓症(心原性など)注釈:女性,喫煙歴が明らかでない患者,50歳以上の発症者,動脈硬化の危険因子(糖尿病,高血圧,脂質異常症など)を有する患者では,他疾患との鑑別をより厳密に行う.新規の認定審査には,血管画像検査の電子ファイルまたは報告書のコピーの提出を要する. (厚生労働省402)より)
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険因子の発現が若齢化している.これらの患者では,閉塞性動脈硬化との厳密な鑑別が求められる.
7 治療
7.1 保存的治療
7.1.1 禁煙
喫煙者では速やかな禁煙が重要である.節煙では合併症発症予防には不十分であるとの報告があることから,完全な禁煙を目指すことが推奨される404, 405).非喫煙者も受動喫煙の回避に取り組む.禁煙することにより下肢切断率の低下が期待されることが多施設研究から明らかにされた366).また,禁煙はバイパス術やEVTにおける手技成功率の向上や再灌流獲得率向上につながることも示されている406-408).
禁煙補助療法の際,ニコチン置換療法は疾患活動性を助長する可能性が指摘されているため409),禁煙補助薬としてバレニクリン酒石酸塩を優先的に使用するのが望ましい364).
7.1.2 生活指導
患肢の保温や清潔保持に努める.多職種によるフットケアと併せて患者教育も重要である.難治性潰瘍の形成につながる外傷(靴ずれや爪処置に伴う創形成)や下肢切断のリスク因子となる創部感染には日常から留意する366).
間欠性跛行を有する患者は,歩行訓練や運動療法により側副血行の発達促進などから血流改善をもたらし,歩行距離の増加などのQOL改善につながる可能性が示唆されている12, 410).
7.1.3 薬物療法
内服薬として,抗血小板薬のシロスタゾール,クロピドグレル硫酸塩,サルポグレラート塩酸塩が使用される.また,疼痛および冷感などの虚血性諸症状の改善目的のプロスタグランジン(PG)E1誘導体(リマプロストアルファデクス),抗血小板作用・末梢血管拡張作用・末梢血流増加作用を有するPGI2誘導体(ベラプロストナトリウム)も考慮される.注射剤として,四肢潰瘍ならびに安静時疼痛の改善目的の血管作動性薬PGE1製剤(アルプロスタジル)が用いられるが,有効性は少数の患者に限られる411).虚血性疼痛や神経障害性疼痛の治療には効果的な鎮痛
が重要である.非ステロイド性抗炎症薬のみならずオピオイド系鎮痛薬(トラマドール塩酸塩など)を含めた多剤内服を要することも少なくなく,ペインクリニックの専門家との共同治療が不可欠なことも多い.内服のみの鎮痛薬では疼痛管理が不十分な患者は,硬膜外麻酔や神経ブロックなども考慮される.また,脊髄刺激療法の可能性も示唆される412).
7.1.4 血管新生療法
2025年12月現在,保険適用はないが,次世代の治療として自己細胞を用いた血管新生療法が行われている.四肢切断術を除く他の治療選択肢が残されていない患者に対して,骨髄単核球細胞や脂肪由来間葉系幹細胞などを虚血組織へ移植することにより,患肢の血流の回復につなげ,四肢切断の回避や症状の軽減などが期待される413-415).
7.2 外科治療
7.2.1 外科的バイパス術
禁煙と薬物療法で症状の軽快が得られない,あるいは悪化する重度の虚血肢(安静時疼痛や潰瘍例)に対しては,可能であれば血行再建術を行う.典型的には下腿や足部動脈への血行再建術が必要である.しかしdistal runoffが不良であることが多く,吻合予定部動脈の局所の炎症,血栓形成,手術操作による血管攣縮も問題になりやすい.吻合先として適切な動脈がない,静脈病変のため良質な静脈グラフトが制限される,などの理由から閉塞性動脈硬化症と比較すると血行再建が困難な場合も多い416).術後は禁煙と薬物療法により厳格な患者管理を行えば,比較的良好な開存率が得られる407, 417, 418).また,近年(2000年以降)ではバイパス術の成績は改善しており,3年の一次開存率は60~80%,救肢率は90%と報告されている419, 420).その一方で,喫煙を継続した場合のバイパス術の成績は不良である407, 408).
7.2.2 EVT
バイパス術が困難な場合にはEVTも考慮してよい.しばしば反復治療を要するが,のちに閉塞しても潰瘍治癒と救肢に有効でありうる419-424).主にバルーン拡張術を対象としたSRでは,3年時点の二次開存率と救肢率はバイパス術と同等であったが,バルーン拡張術では頻回の追加治療を要している425).間欠性跛行症状に対する血行再建術の適応については慎重に判断する.
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7.2.3 外科的補助療法
血行再建術の適応のない,あるいは血行再建後でも改善傾向が不十分な重度の虚血肢,特に疼痛や限局した虚血性潰瘍には,交感神経切除術などの交感神経遮断手術も考慮してよい426).上肢では,星状神経節の下3分の1と第2,3胸部交感神経節の,下肢では第2,3腰部交感神経節の切除ないし遮断が行われている(保険収載されている術式は交感神経切除術).改善率は,冷感,安静時疼痛,潰瘍において約52~64%であった427, 428).薬物による交感神経節ブロックも行われている.筋血流量は増加しないため間欠性跛行には適応がない.
7.2.4 肢切断
これらの治療で改善しない潰瘍や疼痛,広範囲な壊死や荷重がかかる部位の壊死,制御できない感染を伴う場合などでは,肢切断もやむをえない.
8 予後
経過中に肢の大切断・足趾・手指の小切断のいずれかを要する患者は20~30%程度とされ366, 403, 429),2013年のわが国の患者のうち肢切断術後の患者は17%であった(自然脱
落を除く)
353).禁煙は肢切断のリスクを低減する366, 417).60歳を超えれば疾患の再燃による肢切断はまれである403, 417).ときに病理所見に基づく内臓動脈のバージャー病が報告されるが430, 431),通常は生命への直接的な影響はなく403, 417),一般人の生命予後と明らかな差はない358, 366, 432).わが国では2013年においては患者の66.9%が60歳以上, 9.5%が80歳以上であった353).生命予後が著しく不良との米国からの報告はあるが,対象に偏りがあるため参考にならない429).
肢切断は患者のQOLを低下させる.肢切断術後の患者は就労継続が難しいことが報告されており417),かつ小切断よりも大切断で就労割合が低い353).生命予後が比較的良好であるため,急性期に切断を回避できた症例に遠隔期に下肢閉塞性動脈硬化症を発症し,包括的高度慢性下肢虚血をきたす症例も報告されている433).長期的には喫煙に関連する動脈硬化性疾患,悪性腫瘍,慢性閉塞性肺疾患などの合併に注意を払って管理を行う403).
第6章 大型血管炎診療に役立つコラム
本章は大型血管炎に関するコラムで構成されるが,大型血管炎との鑑別が重要な中型血管炎として結節性多発動脈炎と川崎病を含めて解説する.
1 結節性多発動脈炎(PAN)
PANは,中型から小型動脈の血管壁に炎症をきたす疾患である.全国疫学調査により,わが国におけるPANの患者数は2200人と推計され434),まれな疾患である.男女
比は1:1.2とほぼ同数434),平均発症年齢は52.9歳で中高年に好発する435).海外ではB型肝炎ウイルス感染を契機に発症するという報告もあるが,わが国ではまれであり435),発症原因は不明である.
臨床症状は炎症による全身症状と,罹患血管の動脈瘤の形成・破裂による症状,狭窄や閉塞による臓器障害からなる.全身症状として,発熱,体重減少などが認められる.臓器症状としては,皮膚病変(皮下結節,網状皮斑,紫斑,潰瘍/梗塞)が多くみられる(表14) 435).関節痛,筋痛も高
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頻度にみられる.また,片側あるいは両側の腎動脈狭窄により腎血流量が低下し,レニン・アンジオテンシン系が活性化され高血圧が認められる.神経の栄養血管の虚血により多発単神経炎がみられ,腓骨・腓腹・正中・尺骨神経で生じやすい.腹腔動脈の狭窄により腹痛,下血,ときに腸管梗塞・穿孔をきたしうる.
心病変は病理学的には多くみられ,PAN患者の剖検例の半数に冠動脈炎の所見が認められたことが報告されている436)が,症状の出現頻度は低い.障害される血管は心筋内の動脈ではなく,心外膜下の冠動脈で,狭窄や閉塞に起因する心筋虚血を呈する.また,冠動脈炎や重症の腎血管性高血圧の結果,うっ血性心不全を呈する437).その他,精巣痛や睾丸炎を呈することもある.
血液検査ではCRP上昇,ESRの亢進がみられるが, PANに特異的な臨床検査は存在せず,一般的にANCAは陰性である.病変部位(皮膚,神経,筋,腎臓など)の生検により,中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎がみられる.血管造影検査では,主に腹部大動脈分枝に多発する小動脈瘤や狭窄・閉塞を認める.これらの所見は,より侵襲の少ないCT angiographyやMR angiographyで確認できることもある.冠動脈病変についても,冠動脈造影に加え,MR angiographyで小動脈瘤や狭窄・閉塞所見が得られることもある.
診断は,厚生労働省のPAN診断基準を基に行うが438),中・小動脈の壊死性血管炎所見に加えて,細・小動脈に炎症が及ぶ症例も存在するため,分類が困難な場合もある.なお症状が皮膚に限局し,有意な組織所見が得られ,全身症状やその他の臓器病変,異常動脈造影所見を伴わない例は,皮膚動脈炎(皮膚型PAN)と診断する439). PANの5年生存率は約80%と報告されているが,Five-
factor Score(FFS)により異なる440).FFSとはフランスの血管炎研究グループより報告された,PANおよびANCA関連血管炎の診断時における予後予測に有用とされる指標で,1心筋病変,2重症の消化管病変(出血,穿孔,梗塞,膵炎),3血清クレアチニン≧1.70 mg/dL,4年齢65歳超, 5耳鼻咽喉症状を有さない,の5項目が予後不良因子としてあげられている.ただしこれら5項目以外にも,多発単神経炎や四肢の虚血など重症と判断されうる臓器病変もあるため,注意が必要である.
治療については,「抗リン脂質抗体症候群・好酸球性多発血管炎性肉芽腫症・結節性多発動脈炎・リウマトイド血管炎の治療の手引き2020」441)を参照されたい.重症度(FFS)に応じた選択が推奨されるが,GCの副作用を最小限にするためにも,患者の年齢や臨床状態に応じて,免疫抑制薬を併用することが推奨される.
なお2014年に,PANに類似の血管炎症状を呈する遺伝性自己炎症性疾患として,adenosine deaminase 2(ADA2)欠損症が報告された442).繰り返す発熱や皮膚症状,通常10歳未満で発症する脳梗塞や脳出血,あるいはPAN類似の症状がみられる.まれな疾患であるがPANと鑑別を要する.
2 川崎病:乳幼児の血管炎から成人 冠動脈疾患への連続体としての理解
川崎病(Kawasaki disease)は,乳幼児に好発する急性発症の中型血管炎であり,小児における後天性心疾患の最
表14 PAN の臨床症状
臨床症状主要な徴候有症率(%)全身症状発熱,体重減少,高血圧64.5皮膚症状紫斑,皮下結節,網状皮斑,潰瘍/梗塞82.6関節・筋症状関節痛(関節炎)・筋痛(筋炎) 75.2神経症状脳梗塞,脳出血,多発単神経炎50.4呼吸器症状胸膜炎,間質性肺炎24.0心症状心不全,心外膜炎,伝導障害,心筋梗塞9.1腎症状急性/慢性腎不全8.3鼻・耳症状中耳炎,副鼻腔炎7.4消化器症状消化管出血,腹膜炎5.8眼症状視力低下,上強膜炎,虹彩炎・ぶどう膜炎6.6 (Kawazoe M, et al. 2022 435)を参考に作表)
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大の原因である.発熱,眼球結膜充血,口唇・四肢末端の変化,皮疹,非化膿性リンパ節腫脹などの症候を特徴とし,冠動脈瘤(CAA)を含む冠動脈病変の形成が最も多い合併症である.
疫学的には,出生数の減少にもかかわらず患者数は漸増を続けており,2018年には年間1万7364人,0~4歳人口10万人あたり359.1人と過去最高の罹患率を記録した443).わが国は世界でも川崎病の発症数が最多であり,小児のcommon diseaseといえる.しかし,1960年以前,国内には本症の報告はほぼなく,東京大学医学部附属病院に保管された戦前のカルテ検証などからも,その存在が否定的である444).本症はいまだ原因が解明されておらず,小児科学最大のミステリーの1つとされている.
診断は「川崎病診断の手引き」第6版に準じ,6つの主要症状のうち5つ以上を呈することで典型例とされる.不全型に分類される症例も一定数存在し,冠動脈病変の発見を契機に診断されることもある.不全型であっても冠動脈病変のリスクは高く,慎重な判断と適切な治療が求められる445).
急性期治療の基本は,免疫グロブリン静注療法(IVIG) 2 g/kgと中等量アスピリンである.急性期治療の目標は,冠動脈の拡張が出現し始める前の第9病日までの解熱であり,IVIG開始の遅延は予後に直結する.近年では,初回治療前にIVIG不応リスクを評価し(Kobayashiスコア446)など),ハイリスクと判断された例にはGCまたはCyAの併用療法が推奨されている.これにより不応例の減少とCAAの予防が期待される447).
CAAが形成された場合,長期にわたる予後管理が必要となる.特にZスコア≧10または絶対径8 mm以上の巨大瘤を有する例では,血栓形成や狭窄性病変を介した急性冠症候群のリスクが高い.退縮した瘤であっても血管構造の完全な正常化は期待できず,内膜肥厚や線維化が残存し,粥状動脈硬化に類似した病理変化を呈することが知られている448).
こうした背景のもと,2020年改訂の「川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン」では,Zスコアに基づく冠動脈病変の重症度分類と長期予後評価が導入された.抗血小板薬や抗凝固療法の適応,冠動脈CTや心エコーによるモニタリングに加え,循環器専門医による継続的管理が必要とされる449).
狭窄性病変や慢性完全閉塞に対しては,冠動脈血行再建術が考慮される.経皮的冠動脈形成術は短期的効果があるものの,若年例ではステント留置後の再狭窄や血管成長への影響を考慮する必要があるため,CABG,特に内胸動脈グラフトを用いた手術が中長期予後の観点から選択されることが多い.特に左前下行枝に狭窄を有する例や複数
病変例では,外科的治療が第一選択となる449).
近年注目されているのが,AYA(Adolescent and Young Adult)世代における移行医療である.小児期に診断された川崎病患者が成人期に至り,初めて冠動脈病変が問題となるケースが増加している.小児科から成人循環器診療への情報共有が不十分なことも多く,問診や画像診断によって既往の川崎病を適切に同定し,リスク層別化を行うことが重要である.
川崎病はもはや「小児期の疾患」にとどまらず,成人循環器診療における冠動脈疾患の1つとして捉えられるべき疾患である.冠動脈イベント予防のためには,小児科医と循環器内科・心臓血管外科医の連携による生涯管理体制の構築が求められている.
3 TAK,GCAのJPVAS寛解基準 と治療目標
2018年にEULAR 99)の推奨で寛解の概念が提唱されたが,具体的な提案はされていない.JPVAS大型血管炎臨床分科会では,寛解の概念を「寛解を維持することで,大型血管炎の疾患活動性に伴う臓器障害の進行と,大型血管炎に対する治療による将来の臓器障害の進行を抑制できる状態」と定め,2017年より,専門家およびTAKの患者会代表を含めたメンバーによる治療目標設定などに向けた活動を開始した.治療原則(表15)
102),寛解基準,治療目標,
治療目標達成のための治療アルゴリズム(図33)
102, 284)はデ
表15 大型血管炎の治療原則
治療原則
1. 患者と主治医の総意のもと大型血管炎の治療は決定される. 2. 早期の寛解達成と1年後の寛解維持は大型血管炎の重要な治療目標である. 3. 寛解達成,維持することで,大型血管炎自体あるいは薬剤の副作用による臓器障害の進行を最小限にすること目指す. 4. GCの減量による副作用の軽減と,GCの減量による大型血管炎の再燃とそれに伴う臓器障害の進行についてバランスをとることが必要である. 5. 患者と主治医が共通の治療目標を理解して,治療を継続することが大切である. 6. 大型血管炎の活動性に伴う症状,大型血管炎の後遺症に伴う症状,加齢や薬剤に関連した合併症を管理するため,複数の専門家によるチーム医療を必要とする. (Sugihara T, et al. 2022 102)を参考に作表)
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ルファイ法を用いて作成し,TAK(表16)
102)とGCA(表
17) 284)の寛解基準と治療目標を提唱した.
寛解基準は,症状/徴候,炎症所見,画像所見を含めた疾患活動性項目と,1年後のGCの投与量で構成される.疾患活動性項目に関して,活動性が消失していることとCRPの正常化で寛解達成の有無を判定する.活動性と後遺症を区別することが重要であり,評価日より6ヵ月前から症状,徴候,画像所見が悪化せず持続した場合は後遺症と定義し,活動性の所見に含めないことを提唱している.
治療初期は疾患活動性項目で寛解の有無を判断し,活動性の症状,徴候の出現,悪化,画像所見の悪化,新規出現があれば,CRP上昇の有無にかかわらず寛解未達成と判断し,本CPGで示した治療アルゴリズム(図4,図5)に沿って治療調整をする.CRP上昇のみを認め,症状,徴候,画像所見が改善,あるいは変化していない場合は, PET-CTを含めた画像所見と,臨床経過から総合的に判断し治療強化を検討する(図33)
102, 284).治療開始1年後の治
療目標として,疾患活動性項目での寛解達成と,TAKではPSL換算10 mg/日,GCAは5 mg/日以下を目標と提案した102, 284).
同分科会の対面会議での意見としては,TAKでは免疫抑制薬を併用しても動脈狭窄,動脈瘤の進行を伴って再燃することが多く,1年後にPSL換算で5 mg/日まで減量することは困難であること,TCZを使用してもGCAと同様
にGCを短期間で減量することは困難であること,小児と成人では目標とするGC量は異なることがあげられた.また,重要な点として,GC量は治療開始1年後での目標であり,治療開始1年以降はさらにGCを減量することを考慮する.
4 TAK患者と妊娠・出産
TAKは妊孕性を有する若年女性に好発し,その挙児希望や妊娠・出産に影響を及ぼすことも少なくない.妊娠・出産においては,疾患活動性への影響のみならず,大動脈解離や破裂,妊娠高血圧症候群,早産,低出生体重など,母児合併症リスクが高い.TAK診断時にすでに重篤な血管合併症を併発し妊娠をあきらめざるをえない例,妊娠継続時の疾患活動性や合併症が増悪する例も経験する.したがって,妊娠についての意思決定を支援するプレコンセプションカウンセリングや,精査・薬剤調整を含むプレコンセプションケアの取り組みが重要である.妊娠時には,産科,内科,新生児科,麻酔科など関連する専門科や多職種が連携した診療体制が必須である.
図33 TAK,GCA の治療開始1 年後の治療目標達成に向けたアルゴリズム(Sugihara T, et al. 2022 102),Sugihara T, et al. 2024 284)を参考に作図)
初期治療目標:寛解基準の疾患活動性項目**に関して寛解達成
TAK,GCAの診断あるいは再燃
治療調整
治療調整GC減量
* 図4,図5を参照** 「3. TAK,GCAのJPVAS寛解基準と治療目標」を参照
本CPGの治療アルゴリズム*に沿った治療の開始
寛解達成GC減量1年後の治療目標:疾患活動性項目に関して寛解維持かつ, TAKではPSL 10 mg/日以下,GCAではPSL 5 mg/日以下**
寛解未達成
疾患活動性の症状,徴候がある,あるいは画像所見での進行を認めるCRP上昇のみで,症状,徴候,画像所見での進行を認めない
臨床経過,画像診断,除外診断により疾患活動性を評価. PET-CTは可能であれば画像診断に含める
疾患活動性あり疾患活動性なし
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表17 GCA 寛解基準
疾患活動性項目a(後遺症による症状は含めないb)
A. 全身症状発熱,全身倦怠感,関節痛,PMR B. 頭蓋症状頭痛,側頭動脈圧痛,側頭動脈脈拍減弱,頭皮圧痛,視力低下,失明,一過性黒内障,顎跛行
C. 大動脈病変の症状・徴候血管痛:頚部痛,頚動脈圧痛,鎖骨下動脈領域の血管痛その他の血管炎による症状・徴候:上肢跛行,鎖骨下の血管雑音,血圧左右差,上腕動脈あるいは橈骨動脈の脈拍減弱・消失D. 炎症マーカーCRP,ESR
E. 画像所見CT,MRI,エコーによる動脈狭窄,動脈拡張あるいは動脈瘤の進行/新たな出現,動脈壁肥厚の新たな出現. PET-CTによる新たな病変の出現.カテーテルによる血管造影による動脈狭窄・動脈拡張あるいは動脈瘤の進行/新たな出現治療/ 併存症項目1年後のGC量PSL換算5 mg/日a 治療開始初期の治療目標は疾患活動性項目での寛解達成とする. b 疾患活動性は,血管炎による活動性の臨床症状,徴候と画像所見での進行の有無で評価する.治療開始後6ヵ月,症状,徴候,画像所見が悪化しないで持続した場合,活動性が残存しているか,後遺症なのかを判断するための総合的な評価を必要とする.後遺症の場合は,寛解基準の疾患活動性項目の症状,徴候は消失したと判断する. (Sugihara T, et al. 2024 284)より) Reproduced with permission of Oxford University Press on behalf of the Japan College of Rheumatology. Copyright (2024) Japan College of Rheumatology. Published by Oxford University Press. All rights reserved.
表16 TAK 寛解基準
疾患活動性項目a(後遺症による症状は含めないb)
A. 全身症状発熱,全身倦怠感,結節性紅斑B. 頭蓋症状頭痛,視力低下,一過性視力低下,失明,網膜血管疾患,難聴,失神,片麻痺,脳梗塞C. 8つの主要血管領域の症状/徴候
1 頚動脈
血管痛:頚部痛,頚動脈圧痛,鎖骨下動脈領域の血管痛,胸痛,背部痛その他の血管炎による症状・徴候:頚部血管雑音,上肢跛行,鎖骨下の血管雑音,血圧左右差,上腕動脈あるいは橈骨動脈の脈拍減弱・消失,鎖骨下動脈盗血症候群,大動脈本幹の病変に起因する高血圧,呼吸困難,肺高血圧,肺梗塞,腹部血管雑音,腎血管性高血圧,虚血性腎症,腎不全,腹痛,虚血性腸炎,下肢跛行,下肢動脈の脈拍減弱・消失
2 鎖骨下-上腕動脈
3 胸部大動脈
4 肺動脈
5 腹部大動脈
6 腎動脈
7 腸間膜動脈-腹腔動脈
8 腸骨-大腿動脈
D. 心病変の症状・徴候大動脈弁閉鎖不全症,冠動脈疾患,心筋梗塞E. 炎症マーカーCRP,ESR
F. 画像所見CT,MRI,エコーによる動脈狭窄,動脈拡張あるいは動脈瘤の進行/新たな出現,動脈壁肥厚の新たな出現.PET-CTによる新たな病変の出現.カテーテルによる血管造影による動脈狭窄,動脈拡張あるいは動脈瘤の進行/新たな出現治療/ 併存症項目1年後のGC量PSL換算10 mg/日a 治療開始初期の治療目標は疾患活動性項目での寛解達成とする. b 疾患活動性は,血管炎による活動性の臨床症状,徴候と画像所見での進行の有無で評価する.治療開始後6ヵ月,症状,徴候,画像所見が悪化しないで持続した場合,活動性が残存しているか,後遺症なのかを判断するための総合的な評価を必要とする.後遺症の場合は,寛解基準の疾患活動性項目の症状,徴候は消失したと判断する. (Sugihara T, et al. 2022 102)より) Reproduced with permission of Oxford University Press on behalf of the Japan College of Rheumatology. Copyright (2022) Japan College of Rheumatology. Published by Oxford University Press. All rights reserved.
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4.1 妊娠における合併症リスク
妊娠・出産時には,循環血漿量の増加や血管の脆弱化など,母体の心血管変化は著しい.そのため,事前に心血管病変の検査を行い,妊娠リスクの評価と必要に応じた介入を実施することが望ましい.母体側の合併症として,妊娠高血圧症候群,心不全,大動脈解離などがあげられる.なかでも妊娠高血圧症候群の合併率は高く,妊娠前からの高血圧有病率が30~45%であるのに加え,妊娠高血圧腎症の合併を8~23%で認める450).特に腹部大動脈や腎動脈狭窄例で重症化しやすい451, 452).大動脈弁閉鎖不全を有する症例では心不全に注意する.周産期に大動脈解離・破裂を合併したとの報告も散見される453-455).大動脈解離・破裂は母児生命に関わる重篤な合併症であるが,ハイリスクとなる具体的な血管径や発症時の疾患活動性などの詳細は不明である.
胎児側では,胎児発育不全,早産,周産期死亡のリスクが上昇する452, 456).これらの多くは血管狭窄による子宮胎盤血流障害や母体高血圧の影響と関連する.
厚生労働省の難治性血管炎に関する調査研究班による,妊娠第2三半期以降も妊娠が継続された51人68妊娠についての後方視的調査31)では,母体合併症は高血圧(21.5%)が最も多く,一部に重症感染症や動脈瘤拡大も認められた.人工妊娠中絶は3人で,いずれも母体状態や薬剤の胎児への影響が懸念されたことが理由であった.新生児のうち13人(20.9%)が早産,17人(28.8%)が低出生体重児であったが,重篤な先天異常は認められなかった31).
4.2 疾患活動性と薬物治療
疾患活動性が高い状態での妊娠は母児予後を悪化させる.妊娠前に寛解,もしくは活動性が低く維持されていることが重要である456).前述の研究調査では,TAK診断時と出産時年齢の中央値はそれぞれ22歳,31歳で,妊娠前治療ではPSLが78.5%に使用されており,一部では免疫抑制薬や生物学的製剤を併用していた.妊娠中も多くの症例がPSL(73.8%,中央値9 mg/日)で管理され,TAKの再燃は妊娠中に6.2%,出産後に12.3%に認めたが,多くは軽度であり,PSLの増量などで対応可能であった.以上の結果から,PSL10 mg/日以下で管理できれば,妊娠・出産は比較的安全に遂行できる可能性と,計画的な妊娠管理の重要性を指摘している31).
維持療法としてPSLやAZA,CyA,TACは妊娠中でも比較的安全に使用可能とされるが,MTXやMMFは催奇形性のリスクがあるため禁忌である.PSLは用量に応じて,
妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの母体合併症リスクと,胎児発育不全や早産などの胎児リスクが上昇する.全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)合併妊娠を対象にしたわが国のコホート研究では, PSLは10 mg/日以上で早産リスクの上昇が報告されており457),SLEや関節リウマチ(RA)罹患患者の妊娠,出産を考えた治療指針では,15 mg/日までで管理されていることが望ましいとしている458).生物学的製剤についてはエビデンスが限られるが,PSLとの併用により疾患活動性を抑制し,PSLの必要量を減らすことで胎児リスクも低下させ,より安全な周産期管理が可能となるかもしれない.
2017年に「既存治療(原則として経口グルココルチコイド)で効果不十分なTAK・GCA」に対してTCZが承認された.TAKに対する承認はわが国に限定されているが,妊婦・授乳婦に対しても,有益性投与として使用が認められている.実際に,妊娠中にTCZとGCの併用療法で管理され,出産に至った重症TAKの3症例の報告がある459). RCTなどによる質の高いエビデンスはまだ存在しないものの,TAKの疾患活動性を早期に抑制し,妊娠・出産といったライフイベントへの影響を最小限にとどめるという観点からは,TCZをはじめとした新たな治療選択肢の意義は大きいと考えられる.
このように,TAK合併妊娠の経験やエビデンスは少しずつ蓄積されている.今後,国際的なレジストリ研究や前向きコホートを通じて,リスク層別化や最適な管理法の確立が期待される.
5 TAKに伴う肺高血圧症
TAKに伴う肺高血圧症(PH)の正確な頻度は明らかではないが,肺動脈病変の合併率は6~15%と報告されており27, 71, 460-462),そのうちの半数以上でPHを合併している可能性が示唆されている463, 464).PHの原因は主に肺動脈の閉塞や狭窄による後負荷上昇であり,血管床減少に伴う肺動脈末梢のリモデリングも寄与している.症状としては息切れ,失神,易疲労感などの非特異的なものが多く,診断が遅れることがしばしばある.鑑別の際にはTAKに合併しやすい虚血性心疾患や弁膜症などの左心疾患だけではなく,PHも常に念頭におく必要がある.
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5.1 画像所見
肺動脈病変の画像診断には造影CT,肺動脈造影,MRIが用いられる.結合織様の病変による全周性の壁肥厚に伴い,肺動脈の閉塞や狭小化を認め,狭窄後拡張も観察される.右肺動脈における病変の頻度は左肺動脈よりも高く,主肺動脈から亜区域枝の領域まで多発性病変として認められることが多い463, 465).肺動脈病変があっても必ずしもPHを発症するわけではないが,経時的に顕在化する可能性があるため,定期的なフォローアップが必要である.
5.2 PHの診断
心エコーなど非侵襲的モダリティを用いた初期評価において,右室拡大,右心機能低下,三尖弁逆流速度の増加など,右心負荷を示唆する所見がある場合には,速やかに右心カテーテル検査を実施し,PHの診断を確定させることが重要である466).また,TAKに伴うPHの約10%では肺動脈楔入圧が15 mmHg以上に上昇しており467),左心疾患の要素も念頭に置く必要がある.
5.3 治療
まず,TAKの炎症活動性が認められる場合には,免疫抑制療法により炎症のコントロールを図る.TAKに伴うPHに対する治療エビデンスは未確立だが,肺血管拡張薬の使用やEVTが行われている.肺血管拡張薬は,血行動態の改善やB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の低下といった有効性が示唆されている467).単剤治療か併用療法を行うかは,PHの重症度と左心疾患の有無を考慮する必要がある.一方,肺動脈病変に対するEVTは,血行動態の改善に加え,長期予後の改善も報告されている468). EVTではステント留置が行われることが多いが,炎症が寛解していない状態での治療は再閉塞のリスク因子であり,事前に炎症の活動性の評価を行うことが重要である.抗凝固療法については,二次性血栓予防の目的で慣例的に使用されることが多い.しかし,喀血のリスクを高める可能性が示唆されており,適応は慎重に判断すべきである.
5.4 予後
PHを伴うTAKの3年予後は80%程度と報告されており, PHを伴わないTAKと比較して予後不良である464).主な死因はPHに伴う右心不全である.予後不良因子として,失神,BNPの上昇,右房圧の上昇があり,これらの所見
を認める場合には,特に注意深い経過観察と適切な治療介入が求められる.
6 腎血管性高血圧とTAK
腎血管性高血圧は腎動脈の狭窄あるいは閉塞による二次性高血圧であり,高血圧患者のうち約1%を占め,治療抵抗性高血圧や腎血流低下に伴う腎機能低下をきたしうる469).原因としては粥状動脈硬化が最も多く,次いで線維筋性異形成,血管炎,特にTAKがあげられる.TAKではわが国の調査において20~40%で高血圧症を,10~ 20%で腎動脈狭窄を合併していたと報告されており27, 29), 2022年に提唱されたACR/EULARの新分類基準や本CPGでも腎動脈病変は特に留意すべき罹患血管の1つとされた98).
腎血管性高血圧の診断について,粥状動脈硬化と血管炎の共通する所見として,腹部血管雑音のほか,高レニン高アルドステロン血症に伴う低カリウム血症や代謝性アルカローシスに注意する.画像検査としては腎動脈超音波の診断能は高く,安価で非侵襲的な評価が可能なことから,スクリーニングとして有用である469, 470).治療介入後のフォローアップでも有用と考えられる.日本超音波医学会による「超音波による腎動脈病変の標準的評価法」では,収縮期最高血流速度(PSV)180 cm/秒以上,腎動脈/大動脈PSV比3.5以上,狭窄後乱流などを基に腎動脈狭窄を総合的に判断するとされる471).
一方で超音波検査は施行者の技術に精度が依存し,肥満や腸管ガスにより腎動脈の描出困難な場合や腎動脈が複数本存在する破格もあるため,適宜CT angiographyやMR angiography を行う.そのほか,2018年4月より, TAKにおける病変局在や疾患活動性評価に18F-FDG PET/ CTが保険適用となり,早期の腎動脈病変同定が期待される.病変は片側性の場合も両側性の場合もある.粥状動脈硬化や線維筋性異形成との鑑別は,これらの画像検査からだけでは容易ではないことがある.血管内超音波検査(intravascular ultrasound: IVUS)により,粥状動脈硬化では腎動脈狭窄部の石灰化や不均一な壁肥厚が認められるのに対し,TAKでは全周性の均一な壁肥厚が認められることがあり,参考所見となる.
TAKによる腎血管性高血圧の治療は,基本的には免疫抑制薬などでTAKに起因する炎症を十分治療することによる狭窄の解除,および降圧薬による血圧コントロールが
p.84
中心となる.血圧コントロールが困難な例や腎機能低下が進行する場合には,血行再建術(経皮的バルーン血管形成術,大動脈-腎動脈バイパス術あるいは自家腎移植)を考慮する.
疾患活動性が高い場合は再狭窄のリスクがあり160),適切な免疫抑制療法により疾患活動性をコントロールすることで再狭窄リスクの低減が期待される167).ステント留置の有用性も示唆されるが,小児発症例や若年発症例ではその後の成長に伴うステント径不適合や,炎症再発・血管リモ
デリングなどによるステント内再狭窄,あるいは長期留置による物理的なステント破損が起こる場合があり,重篤な合併症の原因となりうる472, 473).DESの使用も含め,その開存率に対する遠隔成績についてはまだエビデンスが不足しているため,基本的にはステント留置の適応は厳密かつ慎重に判断する必要がある.
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第7章 市民・患者への情報提供
本ガイドラインは,高安動脈炎,巨細胞性動脈炎,バージャー病について診療指針を記述していますが,これらの疾患の検査や治療を受けられる患者さんやそのご家族にも病気のことをよく知っていただく必要があると考え,今回の改訂版から本章を設けました.本章を通じて,高安動脈炎,巨細胞性動脈炎,バージャー病という3 つの病気を市民のみなさんに認知していただき,これらの病気になってしまった際に,本ガイドラインが病気と上手に付き合っていく一助となることを心より願っています.
高安動脈炎はどのような病気ですか?
高安動脈炎は,心臓から出る太い血管(大動脈)やその分かれ道に,また患者さんによっては冠動脈や肺動脈にも炎症が起こる病気です.首や腕,腎臓などへ向かう血流が弱くなることで,めまい・ふらつき,脈が触れにくい,血圧の左右差,手足のだるさ・疲れやすさなどがみられます.原因ははっきりしていませんが,免疫の反応が強く働くことが関係すると考えられており,発熱や全身のだるさが出ることもあります.診断には血液検査と,超音波・CT・MRI・PET-CTなどの画像検査を組み合わせます.
高安動脈炎の治療にはどのような方法がありますか?
基本はステロイド薬で炎症を抑えます.再発予防やステロイドを減らす目的で,免疫抑制薬(例:メトトレキサート)や生物学的製剤(例:トシリズマブ)を用いることがあります.血管が狭くなったり,逆に広がったり(動脈瘤)している場合は,カテーテル治療や手術を検討します.治療中は定期的な血液検査・画像検査で病勢を確認し,薬の量や種類を調整します.
高安動脈炎患者の日常生活で気をつけることはありますか?
注意していただきたいことを次にまとめましたので参考にしてください.・感染対策:手洗い・うがいを習慣にして,必要なワクチンについて主治医に相談しましょう.・血圧管理:両腕での測定を定期的に行い,目標血圧値は主治医に確認しましょう.・運動・禁煙:無理のない範囲での運動を心がけましょう.禁煙は必須です.・妊娠・授乳:妊娠を希望する場合は事前に主治医へご相談ください.・受診の目安:強い胸痛・息切れ,片側の手足の急な脱力やしびれ,視力低下,発熱が続く
場合は早めに受診してください.
Q1
Q2
Q3
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巨細胞性動脈炎はどのような病気ですか?
巨細胞性動脈炎は,高齢の方に多く,全身の炎症によって起こる発熱,だるさ,体重減少と,個別の血管がつまって起こる症状の2つに分けられます.首から頭に通る側頭動脈の病変が多く,いままでに経験したことがないタイプの頭痛,頭の片側が痛い,食べ物を噛んでいるうちに顎が痛くなって噛み続けられなくなるなどの症状が出ます.側頭動脈以外に目に行く動脈にも病変が出ることがあり,その動脈がつまると,片方または両方の視力低下ないし失明が起こることがあります.
病気の血管を顕微鏡で観察すると巨細胞という核をたくさんもつ巨大な細胞がみられるため,巨細胞性動脈炎と名づけられました.心臓から出る太い血管(大動脈)やその分かれ道に炎症が起こることもあります.約40%でリウマチ性多発筋痛症を合併し,両肩の痛みやこわばりを認めます.原因ははっきりしていませんが,免疫の反応が強く働くことが関係すると考えられています.診断には血液検査と,超音波・CT・MRI・PET-CTなどの画像検査,側頭動脈生検による病理検査を組み合わせます.
巨細胞性動脈炎の治療にはどのような方法がありますか?
基本はステロイド薬で炎症を抑えます.ステロイドは効果がありますが30~50%程度の方はステロイド減量中に症状が再度悪化します.また,ステロイドの投与量が増えると副作用が出現しやすくなります.そこで,再発予防やステロイドを減らす目的で,生物学的製剤(例:トシリズマブ)を治療初期から用いることがあります.その他に免疫抑制薬(例:JAK阻害薬[例:ウパダシチニブ],メトトレキサート)などが使用されます.治療中は定期的な血液検査・画像検査で病勢を確認し,薬の量や種類を調整します.
巨細胞性動脈炎患者の日常生活で気をつけることはありますか?
注意していただきたいことを次にまとめましたので参考にしてください.・感染対策:手洗い・うがいを習慣にし,インフルエンザ,肺炎球菌,帯状疱疹など必要な
ワクチンについて主治医に相談しましょう.発熱時は早めに病院を受診しましょう.・高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理:主治医に確認しましょう.・骨粗鬆症の管理:カルシウム摂取,運動習慣,骨粗鬆症治療薬について主治医に確認しま
しょう.・運動・禁煙:無理のない範囲での運動を心がけましょう.禁煙は必須です.・受診の目安:発熱,頭痛,視力低下,顎の痛み,両肩の痛みを認める場合は早めに受診し
てください.
バージャー病はどのような病気ですか?
四肢の末梢血管に閉塞をきたす疾患で,その結果,四肢や手足・指趾の虚血症状(血液が十分供給されないために起こる組織の低酸素症状)が起こる病気です.病気の原因ははっきりしていませんが,喫煙との関連が深く,患者さんの多くは若年者で喫煙量の多い人です.症状としては,指趾の冷感やしびれ感,蒼白化,間欠性跛行(長い距離を歩くと足が痛み歩けなくな
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り,ひと休みすると痛みが治まり再び歩行できる),安静時疼痛(じっとしている時も痛む),さらには潰瘍(皮膚が欠損する)や壊死に陥ることもあります.また四肢の静脈にも炎症が生じ,静脈に沿って発赤や痛みを生じることもあります(遊走性/逍遥性静脈炎 ).検査には,上下肢の血圧や脈波の測定,皮膚の血流評価,CT・MRIや血管造影などの画像検査があります.
バージャー病の治療にはどのような方法がありますか?
禁煙することが基本です.手足を清潔な状態で保護し冷やさないようにします.適度な歩行運動も,歩行距離を保つ効果が期待できます.加えて,血流改善薬や,血栓予防のための抗血栓薬,痛みが強い場合には鎮痛薬を使用します.禁煙と薬物で効果が不十分な場合には,バイパス手術やカテーテル手術を検討します.手術が難しい場合には,交感神経ブロック・遮断手術,脊髄刺激療法など補助療法や,疼痛コントロールなどを行います.壊死になった部位には切断手術が必要です.
バージャー病患者の日常生活で気をつけることはありますか?
注意していただきたいことを次にまとめましたので参考にしてください.・喫煙はバージャー病の最大の危険因子です.禁煙し,受動喫煙も避けましょう.・手足の潰瘍を防ぐため,傷をつくらないように気をつけましょう.保温に努めましょう.
傷がなかなか治らないときは,受診しましょう.・将来の動脈硬化は手足の血流を悪化させます.生活習慣に気をつけ,動脈硬化の危険因子
である高血圧,糖尿病,脂質異常症などの予防や管理を行いましょう.
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付表1 2026 年改訂版大型血管炎診療ガイドライン:班構成員統括委員杉原 毅彦東邦大学医学部内科学講座膠原病学分野田村 直人順天堂大学医学部膠原病内科中岡 良和国立循環器病研究センター研究所血管生理学部長坂 憲治東京科学大学市立青梅総合医療センターリウマチ膠原病科
SRチーム石﨑 淳愛媛大学医学部附属病院第一内科(血液・免疫・感染症内科学)石原 龍平大阪公立大学大学院医学研究科膠原病内科学上田 仁九州大学病院血液・腫瘍・心血管内科(第一内科)門場 啓一郎京都大学大学院医学研究科臨床免疫学神山 裕二横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学喜古 崇豊福島県立医科大学循環器内科学講座木田 節京都府立医科大学大学院医学研究科免疫内科学木戸口 元気広島大学病院リウマチ・膠原病科小林 一博藤田医科大学病院病理診断科小林 大介新潟大学医歯学総合研究科腎研究センター腎・膠原病内科学分野酒井 亮太埼玉医科大学総合医療センターリウマチ・膠原病内科眞田 創金沢大学附属病院腎臓・リウマチ膠原病内科白井 剛志東北大学病院リウマチ膠原病内科菅野 瑛梨東京女子医科大学病院膠原病リウマチ内科爲近 真也名古屋市立大学大学院医学研究科呼吸器・免疫アレルギー内科学中釡 瞬大阪公立大学大学院医学研究科ウイルス学分野中野 優東京医科大学病院心臓血管外科西岡 典宏杏林大学医学部腎臓・リウマチ膠原病内科半田 貴也神戸市立医療センター中央市民病院腎臓内科日和 良介京都大学大学院医学研究科臨床免疫学本田 学島根大学医学部内科学講座膠原病・リウマチ内科学矢嶋 宣幸昭和医科大学医学部内科学講座リウマチ膠原病内科学部門柳井 亮昭和医科大学医学部内科学講座リウマチ膠原病内科学部門吉田 常恭Cedars Sinai Medical Center, Kao Autoimmunity Institute
パネル会議青野 文香あけぼの会(高安動脈炎患者会)石井 智徳東北医科薬科大学血液リウマチ科石津 明洋北海道大学大学院保健科学研究院病態解析学内田 治仁岡山大学学術研究院医療開発領域腎臓・糖尿病・内分泌内科大河内 範子膠原病リウマチ血管炎サポートネットワーク佐田 憲映高知大学医学部医学科臨床疫学講座新納 宏昭九州大学大学院医学研究院医学教育学橋本 拓弥埼玉医科大学総合医療センター血管外科前嶋 康浩獨協医科大学日光医療センター心臓・血管・腎臓内科宮前 多佳子東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター小児リウマチ科吉藤 元京都大学大学院医学研究科内科学講座臨床免疫学渡部 芳子川崎医科大学総合臨床医学
(五十音順,構成員の所属は2026年3月現在)
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付表2 2026年改訂版 大型血管炎診療ガイドライン:班構成員の利益相反(COI)に関する開示(2023年1月1日~2025年12月31日)
氏名参加者自身の申告事項配偶者・一親等親族または収入・財産を共有する者についての申告事項所属する組織・部門の長に関する申告事項(参加者が組織・部門の長と共同研究の立場にある場合)
顧問株保有・
利益特許使用料講演料原稿料研究費奨学寄附金寄附講座その他顧問株特許研究費奨学寄附金
班長:中岡 良和アッヴィ日本たばこ産業JSRアッヴィカネカ中外製薬アッヴィヤンセンファーマ副班長:吉藤 元グラクソ・スミスクライン班員:飯田 知弘バイエル薬品ノバルティスファーマ中外製薬参天製薬千寿製薬バイエル薬品中外製薬参天製薬班員:石井 智徳エーザイ旭化成ファーマグラクソ・スミスクライン日本ベーリンガーインゲルハイム大正製薬中外製薬アストラゼネカ田辺三菱製薬班員:石津 明洋医学生物学研究所生化学工業小野薬品工業リボミック班員:内田 治仁日本ベーリンガーインゲルハイムアストラゼネカ第一三共持田製薬テルモ日本ベーリンガーインゲルハイムオルバヘルスケアホールディングス班員:大田 英揮キヤノンメディカルシステムズ班員:佐田 憲映グラクソ・スミスクラインアストラゼネカ班員:田村 直人アストラゼネカアッヴィグラクソ・スミスクライン大塚製薬ユーシービージャパンキッセイ薬品工業Cel Exosome Therapeuticsあゆみ製薬旭化成ファーマ班員:長坂 憲治シミック全薬工業班員:南木 敏宏中外製薬日本ベーリンガーインゲルハイム中外製薬
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氏名参加者自身の申告事項配偶者・一親等親族または収入・財産を共有する者についての申告事項所属する組織・部門の長に関する申告事項(参加者が組織・部門の長と共同研究の立場にある場合)
顧問株保有・
利益特許使用料講演料原稿料研究費奨学寄附金寄附講座その他顧問株特許研究費奨学寄附金
班員:新納 宏昭田辺三菱製薬日本イーライリリーグラクソ・スミスクラインアストラゼネカ中外製薬大塚製薬ブリストル・マイヤーズ スクイブ旭化成ファーマエーザイ中外製薬日本ベーリンガーインゲルハイム班員:前嶋 康浩アストラゼネカ日本ベーリンガーインゲルハイムAlnylam Japan班員:宮前 多佳子中外製薬協力員:石﨑 淳グラクソ・スミスクラインアストラゼネカアッヴィ協力員:伊藤 秀一アストラゼネカアレクシオンファーマ日本イーライリリーアトムメディカル相原アレルギー科・小児科クリニックヤクルト・バイオサイエンス研究財団協力員:梅澤 夏佳ヒューマンライフコード協力員:大西 康博岡山西大寺病院協力員:神谷 千津子ヤクルト本社協力員:日和 良介日本医療研究開発機構協力員:渡部 龍日本イーライリリー旭化成ファーマグラクソ・スミスクラインアッヴィアッヴィ外部評価委員:天野 宏一アッヴィアストラゼネカ外部評価委員:磯部 光章バイオトロニックジャパンディーブイエックスボストン・サイエンティフィック ジャパン東レテルモ日本ライフラインエム・イー
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氏名参加者自身の申告事項配偶者・一親等親族または収入・財産を共有する者についての申告事項所属する組織・部門の長に関する申告事項(参加者が組織・部門の長と共同研究の立場にある場合)
顧問株保有・
利益特許使用料講演料原稿料研究費奨学寄附金寄附講座その他顧問株特許研究費奨学寄附金
外部評価委員:北岡 裕章アストラゼネカファイザーブリストル・マイヤーズ スクイブAlnylam Japanアレクシオンファーマバイエル薬品外部評価委員:針谷 正祥中外製薬アッヴィ※法人表記は略※以下の構成員については申告事項なし副班長:渡部 芳子班員:青野 文香班員:大河内 範子班員:喜古 崇豊班員:重松 邦広班員:杉原 毅彦班員:中野 優班員:橋本 拓弥班員:矢嶋 宣幸協力員:安倍 能之協力員:有田 陽協力員:石原 龍平協力員:岩田 直美協力員:岩橋 徹協力員:上田 仁協力員:鬼丸 満穂協力員:門場 啓一郎協力員:神山 裕二協力員:川添 麻衣協力員:木田 節
協力員:木戸口 元気協力員:倉田 厚協力員:小林 一博協力員:小林 大介協力員:酒井 良子協力員:酒井 亮太協力員:眞田 創協力員:清水 優樹協力員:白井 剛志協力員:菅野 瑛梨協力員:髙橋 啓協力員:爲近 真也協力員:中釡 瞬協力員:西岡 典宏協力員:半田 貴也協力員:本田 学協力員:宮脇 義亜協力員:柳井 亮協力員:吉田 常恭外部評価委員:種本 和雄
※本ガイドライン作成に掛かるすべての費用は日本循環器学会が負担しており,民間企業からの資金提供は受けていない.
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