p.1
岩崎 達雄岡山大学病院小児麻酔科岩本 眞理済生会横浜市東部病院
総合小児科
伊藤 秀一横浜市立大学医学部発生成育小児医療学
鮎澤 衛日本大学医学部小児科学系小児科学分野
坂本 喜三郎静岡県立こども病院
心臓血管外科白石 公国立循環器病研究センター
教育推進部
小垣 滋豊大阪大学大学院医学系研究科
小児科学
小山 耕太郎岩手医科大学循環器医療センター
循環器小児科
先崎 秀明埼玉医科大学総合医療センター
小児循環器科瀧聞 浄宏長野県立こども病院
循環器小児科
住友 直方埼玉医科大学国際医療センター
小児心臓科
須田 憲治久留米大学医学部
小児科学講座
土橋 一重昭和大学医学部小児科学講座豊島 勝昭神奈川県立こども医療センター
新生児科
土井 庄三郎東京医科歯科大学大学院小児・周産期地域医療学
建部 俊介東北大学大学院循環器内科学
堀米 仁志筑波大学大学院人間総合科学研究科
小児科前田 美穂
日本医科大学
小児科学
福嶌 教偉国立循環器病研究センター
移植医療部
中川 雅生京都きづ川病院
小児科
大崎 真樹静岡県立こども病院循環器集中治療科部門神山 浩日本大学医学部小児科学系小児科学分野
伊藤 直樹帝京大学医学部
小児科
石川 友一福岡市立こども病院
循環器科
髙井千夏国立成育医療研究センター
妊娠と薬情報センター高橋 健順天堂大学医学部附属順天堂医院
小児科・思春期科
鈴木 嗣敏大阪市立総合医療センター
小児不整脈科
島本 裕子国立循環器病研究センター
薬剤部班員
協力員
班長2019 年8 月7 日発行
山岸 正明京都府立医科大学小児心臓血管外科与田 仁志東邦大学医療センター
大森病院新生児科
山岸 敬幸慶應義塾大学医学部
小児科学教室
三浦 大東京都立小児総合医療センター
循環器科安河内 聰長野県立こども病院
循環器センター
2017‒2018 年度活動
先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018 年改訂版)
JCS 2018 Guideline on the Clinical Examinations for Decision Making of Diagnosis and Drug therapy in Pediatric Patients with Congenital Heart Disease and Cardiovascular Disorder
合同班研究参加学会
日本循環器学会 日本移植学会 日本胸部外科学会 日本小児科学会
日本小児血液・がん学会 日本小児脂質研究会 日本小児循環器学会 日本小児心電学会日本小児腎臓病学会 日本小児麻酔学会 日本小児臨床薬理学会 日本心エコー図学会日本心臓血管外科学会 日本心臓病学会 日本新生児成育医学会 日本成人先天性心疾患学会
日本川崎病学会 日本肺高血圧・肺循環学会 日本不整脈心電学会
p.2
外部評価委員
小野 稔東京大学大学院医学系研究科
心臓外科学木村 剛京都大学大学院医学研究科
循環器内科学
石川 司朗福岡市立こども病院
循環器センター
赤阪 隆史和歌山県立医科大学医学部
循環器内科
富田 英昭和大学横浜市北部病院小児循環器・成人先天性心疾患センター
(五十音順,構成員の所属は2019 年2 月現在)
村島 温子国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター森 善樹北里大学メディカルセンター
小児科
村上 智明千葉県こども病院
循環器内科
松裏 裕行東邦大学医療センター
大森病院小児科前田 恵理子
東京大学医学部放射線科医学教室増谷 聡埼玉医科大学総合医療センター
小児循環器科
深澤 隆治日本医科大学小児科学教室
武井 黄太長野県立こども病院
循環器小児科
目次
改訂にあたって13 1. はじめに ................................ 13 2. 本ガイドラインのおもな改訂点 ............ 13 3. 推奨レベルとクラス分類について .......... 14表1 推奨クラス分類14
表2 エビデンスレベル14表3 Minds 推奨グレード15表4 Minds エビデンス分類15
第1 章総論:診断と病態理解のための基本的事項16 1. 先天性心疾患の区分診断 .................. 16図1 先天性心疾患診断における5 ステップの区分診断法
16 図2 胸腔臓器と腹腔臓器の左右位置診断17表5 心房,心室,大血管の解剖学的特徴17図3 心房位の決定(解剖学的心耳形態による分類)
17 図4 解剖学的右室の特徴18図5 大血管位18図6 心房- 心室関係19図 7 心室- 大血管関係20図 8 区分診断の記載方法20
2. 発達にともなう循環動態,症候の変化 ...... 20
芳本 潤静岡県立こども病院
循環器科
p.3
2.1 出生前後の循環動態の変化,胎児循環から肺循環への移行 ........ 20図9 胎児循環(左)から胎外循環(右)への移行21 2.2 小児の正常値:心拍数,血圧,身長/ 体重 ........................ 22図10 成長曲線23 3. 小児期心疾患の基本的病態 ................ 22
3.1 先天性心疾患の基本的病態 .......... 22表 6 新生児・乳児期発症の先天性心疾患の病態24
表7 心不全の原因25
3.2 先天性心疾患の発症時期と症状 ...... 22表8 先天性心疾患の年齢別初発症状25
表9 チアノーゼの分類25表 10 小児心不全のロス分類25図11 新生児期・乳児期にみられるおもな先天性心疾患の症状と発症時期
26 表 11 学童期・思春期・成人期の症状26
第2 章総論:小児心疾患における検査法27 1. 症候別検査計画 .......................... 27
1.1 心雑音 ............................ 27図12 収縮期心雑音と拡張期心雑音27
図13 連続性心雑音(最強点と診断) 28表 12 心雑音が聴こえない先天性心疾患29
1.2 小児心不全の特徴 .................. 29図14 フォレスター分類30
図15 Nohria-Stevenson 分類30表 13 乳児および小児の心不全ステージングシステムの提案
30 1.3 チアノーゼ ........................ 30 1.4 小児高血圧の定義と特徴 ............ 31表14 3 歳未満でも血圧測定すべき場合31
表15 聴診法による血圧測定時の聴診音の変化31表16 日本人小児の血圧の統計値32表17 日本高血圧学会による小児の血圧基準値33表18 米国小児高血圧ガイドラインにおける50 パーセンタイル身長小児の性別・年齢別血圧基準値
33 1.5 小児期失神の定義と特徴 ............ 34表19 小児二次性高血圧の原因疾患(先天性心疾患以外)
34 1.6 小児薬物性心筋障害の定義と特徴 .... 36図16 小児がんの治療におけるアントラサイクリンの投与時期,総投与量別のフォローアップ期間
37 表20 アントラサイクリン換算表37
2. 小児における検査法(総論) .............. 38表21 小児循環器疾患の診断における心電図検査の適応の例
38 2.1 心電図(ホルター心電図を含む) ...... 38表22 小児における年齢別心電図正常値40
表23 接線法によるQT 延長の診断基準40表24 先天性心疾患および心筋症の診断における心電図の心房・心室負荷所見の特徴
41 図17 代表的心形態異常の典型的な心陰影図41
2.2 胸部単純X 線(検査) ................ 39表25 年齢・性別による心室負荷所見診断基準42
図18 大動脈弓と気管の偏位42図19 胸腹部単純X 線写真による内臓心房位の診断42
2.3 心エコー検査 ...................... 43図20 心エコーによる5 ステップ診断法における心房位の決定
p.4
図21 心室位の決定44図22 大血管位位置関係の決定(代表例) 45図23 心房心室接続の決定45図24 心室大血管接続の決定46図25 乳児先天性僧帽弁逆流47表26 胎児心エコー検査の適応48図26 先天性心疾患の診断における胎児心エコーの基本断面
49 2.4 CT 検査 ............................ 50表27 MDCT が診断と外科治療に有力な情報をもたらす代表的な疾患および病変
52 2.5 MRI 検査 .......................... 53 2.6 心臓カテーテル検査・心血管造影検査 56 2.7 核医学検査 ........................ 57表28 心臓核医学検査で使用する放射線医薬品の成人投与量,体内分布および物理的半減期
57 表 29 年齢別放射線被曝量の成人との比較58表30 小児における心筋血流イメージングの適応疾患59表31 放射線医薬品のクラス分類と基本量・最小量59表32 心臓検査に使用するクラスB の体重別係数59表33 核医学検査 (15 歳未満の小児に対する
テクネチウム心筋血流製剤による心筋血流イメージング)に関する推奨とエビデンスレベル
60 3. 小児における放射線被曝 .................. 60
3.1 小児の放射線被曝の現状 ............ 60 3.2 被曝の安全基準 .................... 61表34 医療被曝量を最適化するための一般撮影の診断参考レベル
61 表35 小児 CT の診断参考レベル61表36 血管造影領域での被曝線量最適化のための診断参考レベル
62 表37 32 cmファントムによる胸部の換算係数62
3.3 被曝の長期的影響 .................. 62 3.4 CT 被曝の低減 ...................... 63図 27 CT における線量と画質の関係の概念図63
図28 乳児のスカウト例63
第3 章総論:小児における薬物治療64 1. 小児薬物治療の基礎知識 .................. 64図29 薬物動態/ 薬力学と薬物効果の個体差64
1.1 臨床薬理学的観点に基づく薬物療法の考え方 .................. 64 1.2 処方箋記載法の標準化と臨床薬理学的観点 .................. 64 1.3 小児薬用量設定へのPK-PD 情報の利用状況 .......................... 65図30 FDA におけるPediatric Study Decision Tree 66
図31 年齢,身体サイズ,臓器機能の成熟による薬物クリアランスの変化
66 1.4 小児の薬物動態(PK)の発達変化 .... 66図32 薬物の体内動態67
図33 小児における臓器の成長と発達67表38 新生児・乳児期の単位臓器重量当たりの肝代謝および腎排泄活性の個体発生(ontogeny)
69 2. 妊娠と胎児の薬理学 .................... 71図34 妊娠時期と児への影響71
p.5
2.1 妊娠と胎児の薬理学 ................ 71図 35 血液と乳汁間における非結合型薬物の膜輸送72 2.2 母乳と乳児の薬理学 ................ 72表39 薬物の乳汁移行性における薬理学的パラメータ74 2.3 妊娠授乳期の薬物治療におけるリスク・ベネフィット評価の重要性....75 2.4 妊婦・授乳婦への薬物療法情報について ............................ 76表40 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(定義)
77 表41 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(抗凝固薬)
78 表42 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(降圧薬)
79 表43 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(利尿薬)
81 表44 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(抗不整脈薬)
82 表45 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(肺高血圧薬)
84 表46 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(抗心不全薬)
84 表47 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(その他)
85 3. 小児における鎮静薬...................... 77
3.1 小児検査における鎮静薬の使い方 .... 77表48 小児検査における鎮静時に確認するべき問診と身体所見
85 表49 小児の鎮静下での検査に関する推奨とエビデンスレベル
86 3.2 小児検査における麻酔法(麻酔薬,鎮静薬,周術期関連薬) .... 87
表50 セボフルラン麻酔による覚醒時興奮に関する推奨とエビデンスレベル
87 第4 章各論:疾患別検査計画93 1. 心房中隔欠損 ............................ 93
1.1 解剖・病態生理 .................... 93図36 心房中隔欠損の病型93 1.2 診断のための検査 .................. 93図37 心房中隔欠損の診断,病態把握,治療計画のため
の検査-学童心臓検診の流れに沿ったフローチャート-
94 1.3 病態把握のための検査 .............. 95 1.4 治療選択のための検査 .............. 96 1.5 成人期ASD ........................ 96 2. 心室中隔欠損 .......................... 96
2.1 解剖・病態生理 .................... 96図38 心室中隔欠損の分類(Soto 分類) 96
表51 心室中隔欠損の新しい分類の提唱97
2.2 診断のための検査 .................. 98図39 心室中隔欠損に対する診断・病態把握・治療計画のための検査
99 2.3 病態把握のための検査 .............. 98図40 急性血管反応性試験による手術適応の評価100 2.4 治療選択のための検査 ............ 101 3. 房室中隔欠損 ........................ 101
3.1 解剖・病態生理 .................. 101図41 ラステリ分類102
図42 房室中隔欠損に対する診断・病態把握・治療計画のための検査
p.6
3.2 診断のための検査 ................ 101 3.3 病態把握および治療選択のための検査 ............................ 102 4. 動脈管開存 ............................ 104
4.1 解剖・病態生理 .................. 104 4.2 診断のための検査 ................ 104 4.3 病態把握のための検査 ............ 104図43 動脈管の開存および血流の確認105 4.4 治療選択のための検査 ............ 105 5. 大動脈縮窄・大動脈離断複合 ............ 106
5.1 定義,解剖 ...................... 106図44 大動脈縮窄・大動脈離断の形態分類107
図45 限局型大動脈縮窄と大動脈離断断複合107
5.2 血行動態 ........................ 106 5.3 診断のための検査 ................ 106図46 大動脈縮窄・離断の診断検査と治療108 5.4 治療選択のための検査 ............ 107 6. 大動脈弁狭窄 .......................... 108
6.1 定義と形態的分類 ................ 108 6.2 診断のための検査 ................ 109図47 大動脈弁狭窄・閉鎖不全の検査と治療111 6.3 病態把握のための検査 ............ 109 6.4 治療選択のための検査 ............ 109 7. 肺動脈狭窄 ............................ 110
7.1 解剖,病態生理 .................. 110 7.2 診断のための検査 ................ 110 7.3 病態把握のための検査 ............ 111 7.4 治療選択のための検査 ............ 112図48 肺動脈弁狭窄の診断,病態把握,治療計画のための検査
112 8. エプスタイン異常 ...................... 113
8.1 解剖,病態生理 .................. 113図49 エプスタイン異常のカーペンティア分類113 8.2 診断のための検査 ................ 114図50 新生児・乳児早期のエプスタイン異常の診断検査と治療のアルゴリズム
114 図51 エプスタイン異常の診断,治療計画のアルゴリズム(幼児期以降)
115 8.3 外科治療の適応と方法⦆ ............ 115 9. 総肺静脈還流異常 .................... 115
9.1 解剖・病態生理 .................. 115図52 総肺静脈還流異常の分類116 9.2 診断・病態把握のための検査 ...... 116図53 総肺静脈還流異常の診断と治療117 9.3 治療選択のための検査 ............ 117 10. ファロー四徴症 ...................... 118
10.1 解剖・病態生理 .................. 118 10.2 診断のための検査 ................ 118 10.3 病態把握のための検査 ............ 118 10.4 治療選択のための検査 ............ 119図54 ファロー四徴症の検査と治療119
図55 ファロー四徴症における心内修復術前後120
11. 肺動脈閉鎖 .......................... 120
11.1 解剖・病態生理 .................. 120 11.2 診断のための検査 ................ 120 11.3 病態把握のための検査 ............ 121表52 肺動脈閉鎖における心エコー検査のチェックポイント
p.7
11.4 治療選択のための検査 ............ 121図56 肺動脈閉鎖の診断,病態把握,治療計画のための検査
122 12. 完全大血管転位........................ 123
12.1 解剖・病態生理 .................. 123 12.2 診断・病態把握のための検査 ...... 123図57 完全大血管転位の診断,病態把握,治療計画のための検査
124 12.3 治療選択のための検査 ............ 123図58 完全大血管転位に対する動脈側スイッチ手術(ジャテーン手術)
125 13. 修正大血管転位 ...................... 125
13.1 解剖・病態生理 .................. 125 13.2 診断のための検査 ................ 126 13.3 病態把握のための検査 ............ 126 13.4 治療のための検査 ................ 126図 59 おもに解剖学的心内修復術(DS 法)を行う方針の場合の検査および治療法
127 図 60 おもに機能的心内修復術(従来法)を行う方針の場合の検査および治療法
128 14. 総動脈幹遺残.......................... 128
14.1 解剖・病態生理 .................. 128 14.2 診断・病態把握のための検査 ...... 129図61 総動脈幹遺残の診断,病態把握,治療計画のための検査
129 14.3 治療選択のための検査 ............ 130 15. 三尖弁閉鎖 .......................... 130
15.1 疾患概念・定義 .................. 130図62 三尖弁閉鎖の解剖学的分類130 15.2 診断と治療のアルゴリズム ........ 131図63 三尖弁閉鎖の検査計画131 16. 左心低形成症候群 .................... 133
16.1 解剖・病態生理 .................. 133 16.2 診断と病態把握のための検査 ...... 133図64 左心低形成症候群の診断,病態把握,治療計画のための検査
135 16.3 治療選択のための検査 ............ 134 17. 無脾・多脾症候群(心房内臓錯位症候群) 135
17.1 解剖・病態生理 .................. 135 17.2 診断・病態把握のための検査 ...... 136図65 無脾・多脾症候群の治療のためのフローチャート
137 17.3 治療選択のための検査 ............ 138 18. 両大血管右室起始 .................... 138
18.1 解剖・病態生理 .................. 138図66 両大血管右室起始の定義138 18.2 診断,病態把握,術式選択のための検査 ............................ 139図67 両大血管右室起始の分類139
図68 両大血管右室起始の診断,病態把握,治療計画のための検査
140 第5 章各論:疾患別薬物治療141 1. 抗心不全治療 .......................... 141
1.1 強心剤(カテコラミン):急性心不全の治療の観点から ...... 141 1.2 強心作用を有する血管拡張薬 ...... 145図69 心不全の血管拡張薬の種類,特徴,適応147 1.3 強心作用を有さない血管拡張薬 .... 146 1.4 心筋保護薬 ...................... 148
p.8
1.5 β遮断薬 ........................ 149 1.6 利尿薬 .......................... 150 2. 虚血治療 .............................. 152
2.1 小児における虚血治療 ............ 152 2.2 小児における虚血治療薬 .......... 153表53 狭心症に適応のあるCa 拮抗薬(小児での狭心症適応はない)
154 表54 狭心症の適応がある硝酸薬とニコランジル156表55 狭心症の適応があるβ遮断薬(小児の狭心症適応はない)
158 3. 小児肺高血圧治療薬 .................... 160
3.1 はじめに ........................ 160 3.2 診断と分類 ...................... 161表56 肺高血圧の最新の臨床分類(ニース会議2018) 161 3.3 臨床症状や血管反応性の小児での特徴 ............................ 161 3.4 小児IPAH/HPAH の治療アルゴリズム ................ 162図 70 小児特発性/ 遺伝性肺動脈性肺高血圧の治療アルゴリズム
162 3.5 標的治療薬の投与方法 ............ 162 3.6 わが国で小児に承認されている標的治療薬 ...................... 163表57 わが国で小児に承認されている標的肺高血圧治療薬
163 3.7 標的治療薬 ...................... 163 3.8 おわりに ........................ 167 4. 抗血小板薬,抗凝固薬 .................. 167
4.1 はじめに ........................ 167 4.2 抗血小板薬 ...................... 167表58 抗血小板薬,抗凝固薬に関する推奨クラスとエビデンスレベル
168 図71 抗血小板薬の作用機序169
4.3 抗凝固薬 ........................ 170表59 各疾患におけるプロトロンビン時間国際標準比目標値
171 4.4 各疾患に対する抗血栓療法 ........ 173表60 川崎病における冠動脈瘤の重症度分類175 4.5 処置,手術,感染時の対応 ........ 176 5. 高脂血症治療薬 ........................ 176
5.1 小児の脂質異常症の定義・概念 .... 176表61 原発性脂質異常症の分類177
表62 脂質異常症(高脂血症)の表現型分類177表63 小児(小中学生)の脂質異常の基準(空腹時採血) 177
5.2 小児脂質異常症の対応 .............. 178表64 小児家族性高コレステロール血症の診断基準178
表65 成人(15 歳以上)家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体診断基準
179 図72 小児家族性高コレステロール血症診断のフローチャート
179 図73 小児家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体に
対する治療のフローチャート
180 表66 おもな続発性脂質異常症の成因181
6. 抗不整脈薬 ............................ 181
6.1 抗不整脈の適応と用法/ 用量 ...... 181 6.2 上室性期外収縮 .................. 185 6.3 心房細動・心房粗動 .............. 186 6.4 上室頻拍,心房頻拍 .............. 187
p.9
6.5 心室期外収縮,特発性非持続性心室頻拍 ........................ 188図74 特発性心室期外収縮/ 心室頻拍の診断アルゴリズム
189 図75 非持続性心室頻拍の急性期治療190図76 非持続性心室頻拍の予防190図77 持続性心室頻拍の停止(小児) 191
6.6 特発性持続性心室頻拍 ............ 190図78 持続性心室頻拍の予防(小児) 192 6.7 多形性心室頻拍(CPVT を含む) .... 193表 67 カテコラミン誘発性多形性心室頻拍の診断基準193
表68 カテコラミン誘発性多形性心室頻拍の亜型193表69 カテコラミン誘発性多形性心室頻拍の心室頻拍再発予防のための推奨とエビデンスレベル
194 6.8 QT 延長症候群 .................... 195表70 先天性QT 延長症候群のリスクスコア195
表71 先天性QT 延長症候群の診断基準196
7. 小児高血圧薬 .......................... 196
7.1 小児高血圧の一般的治療指標 ...... 196表72 各年齢層における高血圧の病因197
表 73 米国小児高血圧ガイドラインにおける50 パーセンタイル身長小児の性別・年齢別血圧基準値
197 表 74 米国の小児高血圧ガイドラインにおけるスクリーニング基準
198 7.2 薬物療法の治療方針 .............. 198 7.3 重症高血圧の治療 ................ 199図79 小児高血圧の治療方針199 7.4 二次性高血圧 ...................... 200表75 小児二次性高血圧の原因疾患201 7.5 小児高血圧に使用する降圧薬 ........ 202表76 小児高血圧に使用する降圧薬204
表77 小児腎不全におけるバイオアベイラビリティーの変化
213 表78 腎不全患者における薬物の尿中未変化体排泄率および腎機能別投与法の変更
214 表79 急性血管反応試験に用いられる薬剤217
8. 小児低血圧 ............................ 218
8.1 低血圧の分類 .................... 218 8.2 薬物療法(昇圧剤)⦆ .............. 218 9. 新生児/ 未熟児の循環作動薬 ............ 218
9.1 未熟児動脈管 .................... 219 9.2 未熟児/ 新生児の低血圧 .......... 220 9.3 新生児遷延性肺高血圧 ............ 221 10. 小児臓器移植の免疫抑制薬 ............ 223
10.1 疫学 ............................ 223 10.2 心臓移植 ........................ 223 10.3 肺移植 .......................... 224 10.4 免疫抑制療法の概略 .............. 224 10.5 小児の病態と特徴 ................ 224 10.6 免疫抑制療法の実際 .............. 225表80 CNI+ 代謝拮抗薬(MMF)+ ステロイドの3 剤併用の場合の目標血中濃度の目安(施設により多少異なる)
228 10.7 抗体関連型拒絶反応の治療 ........ 230表81 抗体関連型拒絶反応の治療の例231 11. 小児の薬物性心筋障害に対する治療—特に悪性腫瘍の治療による心機能障害— 232
p.10
11.1 はじめに ........................ 232 11.2 心血管系障害をきたしうる抗がん剤232表 82 心血管系障害をきたしうる抗がん剤233
図80 アントラサイクリン累積投与量と心筋症との関係233表83 アントラサイクリン系薬剤使用患者の心機能のフォローアップ
234 図81 心筋症の原因別生存曲線234
11.3 薬剤性心筋障害の治療 ............ 235 12. 感染性心内膜炎の予防薬・治療薬 ...... 235
12.1 疫学 ............................ 235 12.2 定義 ............................ 235 12.3 小児の病態と特徴 ................ 235 12.4 薬物療法の実際 .................. 236表84 小児感染性心内膜炎における抗菌薬の推奨236
表85 腎機能が正常な小児の感染性心内膜炎における抗菌薬の投与量
237 12.5 予防 ............................ 237
第6 章各論:小児の薬用量表238
表86 小児の薬用量239
付表 班構成員の利益相反(COI)に関する開示 ................................................................290
文献........................................................................................................292
(無断転載を禁ずる)
推奨とエビデンスレベル
p.11
ACD alveolar capillary dysplasia肺胞毛細血管異形成ACE angiotensin converting enzymeアンジオテンシン変換酵素ACNGA anatomically corrected malposition of the great arteries解剖学的修正大血管転換症ACS acute coronary syndrome急性冠症候群
AEC automatic exposure control自動露出機構
AMR antibody mediated rejection抗体関連型拒絶反応
APC atrio-pulmonary connection心房肺動脈吻合術
APD action potential duration活動電位持続時間
AR aortic regurgitation大動脈閉鎖不全
ART assisted reproductive technology生殖補助医療ARVC arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy不整脈源性右室心筋症AS aortic stenosis大動脈狭窄
ATL adult T-cell leukemia-lymphoma成人T 細胞型白血病
AVB atrioventricular block房室ブロックAVNRT atrioventricular nodal reentrant tachycardia房室結節リエントリー性頻拍AVRT atrioventricular reciprocating tachycardia房室回帰性頻拍AVSD atrioventricular septal defect房室中隔欠損
AVT acute vasoreactivity test急性血管反応性試験
BP blood prressure血圧
CDH congenital diaphragmatic hernia横隔膜ヘルニア
CHD congenital heart disease先天性心疾患
CKD chronic kidney disease慢性腎臓病
CLD chronic lung disease慢性肺疾患
CoA coarctation of aorta大動脈縮窄CPVT catecholaminergic polymorpnic ventricular tachycardiaカテコラミン誘発多形性心室頻拍CTEPH chronic thromboembolic pulmonary hypertension慢性血栓塞栓性肺高血圧cTGA corrected transposition of the great arteries修正大血管転位CTI cavotricuspid isthmus解剖学的峡部
CTR cardio-thoracic ratio心胸郭比
DCM dilated cardiomyopathy拡張型心筋症DIC disseminated intravascular coagulation syndrome播種性血管内凝固症候群DOAC direct oral anticoagulants直接作用型経口抗凝固薬DORV double outlet right ventricle両大血管右室起始
DRL diagnostic reference level診断参考レベルECMO extracorporeal membrane oxygenation体外式膜型人工肺EI exposure index線量指標
FFR fractional flow reserve血流予備量比
GFR glomerular filtration rate糸球体濾過量
HFO high frequency oscillation高頻度振動換気HIT heparin-induced thrombocytopeniaヘパリン起因性血小板減少症HIV human immunodeficiency virusヒト免疫不全ウイルス
HLHS hypoplastic left heart syndrome左心低形成症候群HPAH hereditary pulmonary arterial hypertension遺伝性肺動脈性肺高血圧IAA interruption of aortic arch大動脈離断複合
ICD implanted cardioverter defibrillator植込み型除細動器
ICE intracardiac echocardiography心腔内エコー
IE infective endocarditis感染性心内膜炎
iNO inhaled nitric oxide一酸化窒素吸入療法
INR international normalized ratio国際標準比IPAH idiopathic pulmonary arterial hypertension特発性肺動脈性肺高血圧ISA intrinsic sympathomimetic activity内因性交感神経刺激作用IVH intraventriculr hemorrhage脳室内出血
JET junctional ectopic tachycardia接合部異所性頻拍
LGE late gadolinium enhancement遅延ガドリニウム造影
LQTS congenital long QT syndrome先天性QT 延長症候群
LVEF left ventricular ejection fraction左室駆出分画M/P milk-to-plasma drug concentration ratio乳汁/ 血漿薬物濃度比MAC minimum alveolar concentration最小肺胞内濃度MACE major adverse cardiovascular events主要有害心血管イベントMAS meconium aspiration syndrome胎便吸引症侯群
MD multidetector多列検出器
MIT maximal intimal thickening冠動脈最大内膜厚
mPAP mean pulmonary artery pressure平均肺動脈圧NBTE nonbacterial thrombogenic endocarditis非細菌性血栓性心内膜炎
略語一覧
p.12
NEC necrotizing enterocolitis壊死性腸炎
NSF nephrogenic systemic fibrosis腎性全身性線維症NSVT non-sustained ventricular tachycardia非持続性心室頻拍OI oxygenation index酸素化指標
PA pulmonary atresia肺動脈閉鎖
PAH pulmonary arterial hypertension肺動脈性肺高血圧
PAP pulmonary artery pressure肺動脈圧PCH pulmonary capillary hemangiomatosis毛細血管性肺高血圧PCWP pulmonary capillary wedge pressure肺毛細血管楔入圧
PDA patent ductus arteriosus動脈管開存
PH pulmonary hypertension肺高血圧PISA proximal isovelocity surface area近位部等流速表面(PISA)法PML progressive multifocal leukoencephalopathy進行性多巣性白質脳症PO2 partial pressure of oxygen酸素分圧
POTS postural tachycardia syndrome体位性頻脈症候群PPHN persistent pulmonary hypertension in newborn新生児遷延性肺高血圧PRIS propofol infusion syndromeプロポフォール注入症候群PS pulmonary stenosis肺動脈狭窄PTLD posttransplant lymphoproriferative disorder移植後リンパ増殖性疾患PVC premature ventricular contraction心室期外収縮
PVOD pulmonary veno-occlusive disease肺静脈性肺高血圧
PVR pulmonary vascular resistance肺血管抵抗
RCM restrictive cardiomyopathy拘束型心筋症
RDS respiratory distress syndorome呼吸窮迫症候群RI-CAD radiation induced coronary artery disease放射線誘発性冠動脈疾患RID relative infant dose相対乳児摂取量
RIHD radiation-induced heart disease放射線誘発性心疾患
RVOTVT right ventricular outflow tract右室流出路心室頻拍
SNR signal to -noise ratio信号雑音比STIC spatio-temporal image correlation多断面表示による形態評価TA tricuspid atresia三尖弁閉鎖TAPVD total anomalous pulmonary venous drainage総肺静脈還流異常TDM therapeutic drug monitoring薬物血中濃度モニタリングTdP torsade de pointesトルサードドポアント
TEN toxic epidermal necrolysis中毒性表皮壊死融解症
TGA transposition of the great arteries完全大血管転位
TGF transforming growth factor形質転換増殖因子TID theoretic infant dose理論上の乳児薬物摂取量TOF tetralogy of Fallotファロー四徴症
TR tricuspid regurgitation三尖弁逆流TTP thrombotic thrombocytopenic purpura血栓性血小板減少性紫斑病VAC- TERL vertebrae, anus, cardiovascular tree, trachea, esophagus renal system, limb buds VACTERL 症候群VEGF vascular endothelial growth factor血管内皮増殖因子
VIF ventriculo-infundibular fold心室漏斗部襞壁VR volume renderingボリュームレンダリングVSD ventricular septal defect心室中隔欠損
WHMRA whole heart MR angiography全心臓冠動脈MRA
WPW Wolff-Parkinson-Whiteウォルフ・パーキンソン・ホワイト(WPW症候群)
p.13
改訂にあたって
1 はじめに
小児期心疾患,特に先天性心疾患については,現在では胎児期から診断され,一生を通じたいわゆる生涯医療の視点から,小児期―成人期―老年期というように,切れ目ない連続的かつ継続的な医療が必要とされている.このためには,小児期において,より正確な診断や長期的に有効な治療のための検査法を選択する必要があり,また診断後のより有効な治療法,特に薬物治療が不可欠である.
2018 年に「成人先天性心疾患診療ガイドライン」1)が刊行されたが,これは小児期の診断/ 治療後成人に到達した患者に対するガイドラインで,初期診断が中心となる小児期心疾患の診断・治療管理にそのまま応用することは難しい.「先天性心疾患の診断,病態把握,治療選択のための検査法の選択ガイドライン」は,2008 年に濱岡建城班長がまとめられてから10 年が経過し,その間心エコー/CT/ MRI などの画像診断のめざましい発達により,診断検査の内容や選択についても大きく進歩した.また,診断後の薬物治療に関しては,2011 年に佐地勉班長により「小児期心疾患における薬物療法ガイドライン」が発行され,小児期の薬物治療について概説されたが,その後肺高血圧の治療薬をはじめとしてさまざまな新しい薬物が発売され,小児でも使用できるようになった.ただ,小児適応を得ている薬物はまだ少ない.最近になって小児治験が少しずつ行われるようになり,小児適応を得る薬物が増えてきたが,全体に占める割合はまだ少ない.
このような状況の下,「先天性心疾患の診断,病態把握,治療選択のための検査法の選択ガイドライン」と「小児期心疾患における薬物療法ガイドライン」の2 つのガイドラインを最近の治験結果を加えて統合し,小児期心疾患の診断検査から薬物治療までを「先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン」にまとめることになった.この統合を反映し,本ガイドラインは総論と各論の2 部
構成となっている.総論(第1 ~3 章)では先天性心疾患を中心とした小児期心疾患の診断と治療選択のための検査について,最近の進歩も含めて再編し,各論(第4 ~6 章)では小児薬物治療の基本的な考え方と小児での薬物の使用方法と薬用量について,各疾患について臨床現場での現状を反映した形でまとめた.
本ガイドラインは旧版の作成基本方針を踏襲し,先天性心疾患や小児期心疾患に従事する一般循環器内科医や小児科医・新生児科医のみならず,産科医にも利用されることを想定して作成されている.
このため,先天性心疾患などの診断確定や治療適応決定のための基本的な検査法とその選択について,できるだけわかりやすい記載を心がけた.また,小児期薬物療法については,各疾患の治療のためのminimal requirement を基本とした内容とした.その上で,旧版から進歩した診断検査や治療については,必要と思われる限り最新の情報を加えた.さらに,各論では小児期心疾患,特におもな先天性心疾患の各疾患の診断と手術適応決定のための検査法について,必要な検査のアルゴリズムをできるだけフローチャートにし,ガイドライン利用者が利用しやすい形とした.同様に,抗がん治療にともなう心筋障害や移植医療前後の心機能評価も含めて,小児期特有の問題を中心に記載した.
2 本ガイドラインのおもな改訂点
最大の変更点は,2 つのガイドラインを統合し,小児期心疾患の検査診断から薬物治療までを1 つにまとめた点である.本来,臨床現場においては,診断のための検査と診断後の治療はそれぞれ独立して行われるものではなく,連続的に行われる.実臨床に対応するガイドラインとして活用してもらうことがその目的である.
前述のごとく,本ガイドラインは2 部構成となっている.総論では先天性心疾患を中心とした小児期心疾患の診断と
p.14
治療選択のための検査法とその選択法のアルゴリズムについて,各論では小児薬物治療の基本的考え方と小児での薬物の使用方法と薬用量について,実臨床の現状を反映した形でまとめた.
ただし,検査については,多様な小児期心疾患に加え,年齢や成長にともなう正常値および病態の変化に応じた検査法や選択法の変更など,検査法自体の多様性が大きいため,おもな先天性心疾患と小児期特有の管理が必要な不整脈などに限定した.小児における川崎病に関連する冠動脈疾患や心筋症,不整脈などの診断や薬物治療については,日本循環器学会の他のガイドラインを参照されたい.
今回の改訂の要点は以下の通りである. (1)先天性心疾患の診断の基本は,区分診断法である.こ
のため本ガイドラインでは,総論のはじめにすべての先天性心疾患診断の基本となる「区分診断法」について,解説を加えた.この区分診断法は,心エコー法, CT,MRI などすべての画像診断において基本となるものである. (2)総論においては,小児における検査法の基本について
記載するようにし,各疾患については各論でおもな先天性心疾患の診断,治療適応決定のための検査法の選択について,診断アルゴリズムをフローチャートにして記載するようにした. (3)小児の検査における特有の問題である「検査のための
鎮静方法」について,小児検査における深鎮静のガイドラインに基づいた記載を追加した. (4)同時に心カテーテル検査などでの小児麻酔について,
使用する麻酔薬とその使用方法について記載を追加した. (5)先天性心疾患においては,従来の心エコー法ばかりで
なく,CT やMRI でも3D 構築の有用性が報告されているため,3D による評価法について追記した. (6)小児放射線画像診断における被曝については,長期的
な被曝の問題について記載を追加した. (7) 小児薬物療法では,小児特有の薬理学的特徴,小児薬
用量の設定法,妊娠中の胎児への影響,母乳と乳児の薬理学などについて最新の知見をまとめた. (8)薬物治療各論においては,onco-cardiology として小
児癌治療における心筋障害の診断と治療について解説を加えた. (9)また小児における心移植,肺移植が実施可能となった
診療状況を踏まえ,移植後の免疫療法などについて解説を加えた. 3 推奨レベルとクラス分類について
小児先天性心疾患の診断検査,小児薬物療法のいずれも,検査法や薬物療法などについて検討した大規模多施設研究はない.またメタ解析やシステマティック・レビューがほとんどないため,いわゆる小児循環器専門医をはじめとする小児医療専門医の中でコンセンサスが得られている内容を中心にして,可能な限り多くの症例や厳正な臨床検討を基に書かれたレビューなどの文献を集めて記載するように心がけた.
ただ,項目によりいわゆるエキスパートコンセンサスに傾く傾向があるため,一般的なコンセンサスが十分でないものについてはその旨記載するようにした.また,小児の薬物療法に関しても,エビデンスレベルを示すことができる大規模臨床試験などのデータは残念ながらほとんどない.このため検査法に関しては「推奨クラス分類」のみを採用し,「エビデンスレベル」の設定は行わないこととした(表1,2).なお各論では,診断,病態把握,治療適応および選択に関して,一般的に行われる検査(クラスI,クラスIIa)の流れをフローチャートで示し,その解説を本文に示した.薬物療法についても,エビデンスレベルを示す
表1 推奨クラス分類
クラスI検査法・薬物治療法が有用かつ有効であるというデータおよび/ または一般的合意があるか,見解が広く一致しているクラスII検査法・薬物治療法の有用性に関して相反データおよび/ または意見の相違がある状態クラスIIa有用性かつ有効であるデータおよび/ または意見が多いクラスIIb有用性かつ有効であるデータおよび/ または確証が少ない
クラス III検査法・薬物治療法が有用かつ有効でなく,場合によっては有害であるというデータおよび/ または一般的合意がある状態
表2 エビデンスレベル
レベル A複数のランダム化比較試験,またはメタ解析で実証されたものレベル B単一のランダム化比較試験,または大規模な非ランダム化研究で実証されたものレベル C専門家,および/ または小規模臨床試験(後ろ向き試験および登録を含む)で意見が一致したもの
p.15
ことができる少数のものについては併記するようにした.
これらのクラス分類やエビデンスレベルについては,これまでの国内外の公表論文に基づいて執筆者が判断し,最終的には班員および外部評価員の査読会議により決定したものを記載することとした.
なお,公益財団法人日本医療機能評価機構のEBM 普及推進事業(Minds)による「Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007」2)では,推奨グレードとエビデンスレベルとして異なる記載が行われている.そこで本ガイドラインでは,特定の診断や薬物治療の内容について,可能な限り両者を併記し表としてわかりやすく表示するようにした(表3,4).従来のガイドラインのエビデンスレベルの表記では,ランダム化比較試験の結果は登録研究よりエビデンスレベルが高いという考えを基本としているのに対し, Minds では,エビデンスの基となった試験や研究の種類で分類しており,これらの表記内容は同一のものではない.さらに,本ガイドラインで扱っている内容については,エビデンスレベルを示すことができる項目が少ない.そのため,Minds 推奨グレードやMinds エビデンス分類は,あくまでも参考として記載したものである.
4 おわりに
今回のガイドライン作成にあたっては,日本小児循環器学会,日本循環器学会,日本心エコー図学会,日本小児腎臓病学会,日本移植学会,日本心臓病学会,日本心臓血管外科学会,日本小児科学会,日本医学放射線学会,日本小児血液・がん学会,日本小児脂質研究会,日本小児麻酔学会,日本小児臨床薬理学会,日本成人先天性心疾患学会,日本新生児成育医学会,日本肺高血圧・肺循環学会,日本川崎病学会,日本小児心電学会から推薦いただいた班員の協力を得て作成した.
本ガイドラインが,小児期心疾患の診断検査と薬物治療に関わるすべての医療従事者に活用されることを願っている.表4 Minds エビデンス分類
(検査・治療に関する論文のエビデンスレベルの分類)
Iシステマティック・レビュー/ ランダム化比較試験のメタ解析
II 1 つ以上のランダム化比較試験
III非ランダム化比較試験
IVa分析疫学的研究(コホート研究)
IVb分析疫学的研究(症例対照研究,横断研究)
V記述研究(症例報告やケースシリーズ)
VI患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見(Minds 診療ガイドライン選定部会.医学書院.2007 2)p.15 より改変)
表3 Minds 推奨グレード
グレード A強い科学的根拠があり,行うよう強く勧められる
グレード B科学的根拠があり,行うよう勧められる
グレード C1科学的根拠はないが,行うよう勧められる
グレード C2科学的根拠はなく,行わないよう勧められる
グレード D無効性あるいは害を示す科学的根拠があり,行わないよう勧められる推奨グレードは,エビデンスのレベル・数と結論のばらつき,臨床的有効性の大きさ,臨床上の適用性,害やコストに関するエビデンスから総合的に判断される(Minds 診療ガイドライン選定部会.医学書院.2007
2),p.16 より)
p.16
第1章 総論:診断と病態理解のための
基本的事項
1 先天性心疾患の区分診断
1.1 区分診断
1.1.1 先天性心疾患における区分診断法
先天性心疾患の診断においては,心臓発生に基づいた心臓血管系の解剖学的診断が基本となる.一見複雑にみえる先天性心疾患を正確に診断するためには,心臓を3 つの部分に分割して行う3 つの解剖学的形態診断(部位診断)と,それぞれの部分のつながりを診断する2 つの関係診断に分けて行う5 ステップの区分診断法(segmental approach)が非常に有用である(図1) 3–11).
3 つの部位診断とは,1心房位(解剖学的な右房と左房の診断),2心室位(解剖学的右室と左室の診断),3大血管位(解剖学的大動脈と肺動脈の診断)を決定することであり,2 つの関係診断とは1心房– 心室の連結関係,2心室– 大血管の連結関係を診断することである3–5).
区分診断法の基本は,体静脈が心臓に戻って肺循環および体循環に駆出される血液の流れに沿って診断し,心臓の
各部位の解剖学的特徴と定義をよく理解して部位診断を正確に行うことである(表5).この区分診断法は,先天性心疾患の解剖学的診断の基本であり,心エコーを含むすべての画像診断の基本として非常に重要である.
1.1.2 心臓各部位の解剖学的特徴
先天性心疾患の診断においては,1心臓の位置(左胸心[levocardia], 右胸心[dextrocardia],正中位[mesocardia])と,2心基部– 心尖の方向(左[left–ward],右[right–ward],中位[midline])をまず診断する.特に,心臓の位置と胃泡の位置が一致するかどうかは,内臓錯位症候群の診断のうえで重要である.
次に心臓の位置以外の胸腔臓器,腹腔臓器の左右の位置診断を行う.胸腔臓器においては肺の分葉,気管支の分岐様式,腹腔臓器では,胃泡の位置,肝臓の位置,脾臓の位置と異常,腸回転異常の有無などにより左右を診断する(図2).正常では,右側の肺葉は3 葉,左は2 葉に分割され,肝臓は右,胃泡は左,脾臓は左に位置する(正位[situs solitus]).この左右に関する鏡像が逆位(situs inversus)である.左右の臓器が右側相同となっているもの(無脾症候群)や,左側相同になっているもの(多脾症候群)を錯位(situs ambiguus)とよぶ(図2) 3, 10, 12, 13).
ステップ1
図1 先天性心疾患診断における5 ステップの区分診断法
関係診断部位診断
心房位の決定
心室位の決定
大血管位の決定心房―心室関係診断
心室―大血管関係診断
ステップ2
ステップ3ステップ4
ステップ5
p.17
a.心房位
解剖学的右房の特徴を表5 に示す.右心耳の形態は野球のキャッチャーミット状で,右心房体部と右心耳の境界に分界稜(crista terminalis)があり,心耳内に櫛状筋(pectinate muscle)を認める.また,下大静脈または奇静脈が連結しているのが特徴である.解剖学的右房が身体の右にあるのが正位,左側にあるのが逆位,両側の心耳が解剖学的右房形態(右側相同)または解剖学的左房形態(左側相同)を示すものを錯位とよぶ(図3)
11, 13).
b.心室位
心室位には以下の3 種類がある.右ループ: 解剖学的右室が右前に位置する心室の位置関
係
左ループ: 解剖学的右室が左前に位置する心室の位置関
係
x ループ: 2 つの心室内構造が明確に区別できない場合
心室位を決定するためには,二心室ある場合には解剖学的右室の同定が必要である.解剖学的右室の特徴は,表5のごとく,1房室弁の付着部位がより心尖側,2調節帯の存在,3肺動脈弁下円錐(conal septum)の存在,4房室弁– 半月弁の線維性結合がないことなどである(図4).
房室弁が流入する心室が1 つしかない単心室の場合は,主心室が解剖学的右室か解剖学的左室かは,1痕跡的心室(rudimentary chamber)の位置,2流出路腔(outlet chamber)の有無と位置,3漏斗部の有無などを基に,主心室が右室か左室か決定し,さらに心室のループを決定する3, 4, 13).
右室型単心室の場合は,痕跡的心室(左室の名残り)は主心室の後方に位置し,漏斗部が存在する.右室型単心室の心室ループは,痕跡的心室が主心室の左後方に位置するものが右ループ,右後方に位置するものが左ループである.
左室型単心室の場合は,痕跡的心室は後方にはなく流出路腔(outlet chamber:右室の名残り)が主心室の前方に表5 心房,心室,大血管の解剖学的特徴
1.心房
右房左房
下大静脈の流入*あり上大静脈の流入なし肺静脈の流入心耳形態*ミット状人差し指型心房中隔との関係心房中隔より
前方心房中隔より
後方
pectinate muscle * (+) (-) crista terminalis * (+) (-) 2.心室
右室左室
房室弁付着*低位(心尖側)高位漏斗部(円錐部) * (septal band & parietal band)ありなし房室弁- 半月弁線維性結合*なしあり調節帯(moderator band) *ありなし心室中隔面の粗い肉柱形態*ありなし乳頭筋1 個(中隔面) 2 個(自由壁から直接隆起)房室弁三尖弁僧帽弁3.大血管
大動脈肺動脈
弓の形成*ありなし頸部動脈の分岐*ありなし心室から起始直後の分岐なしあり*:特異的所見
図3 心房位の決定(解剖学的心耳形態による分類) (Anderson RH. 2010
13)より) Copyright (2010), with permission from Elsevier. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/B9780702030642000011
錯位右側相同錯位左側相同
正常(正位)逆位
図2 胸腔臓器と腹腔臓器の左右位置診断(Anderson RH. 2010
13)より) Copyright (2010), with permission from Elsevier. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/B9780702030642000011
正常(正位)鏡像(逆位)右側相同(錯位)左側相同(錯位)
RAA LAA LAA RAA
肝臓脾臓
胃泡肝臓対称肝
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位置し,漏斗部は存在せず房室弁と半月弁の間には線維性結合がある.左室型単心室の心室ループは,流出路腔が主心室の右前方にあるものが右ループ,左前にあるものが左ループである. c.大血管位
大動脈の診断は,表5 に示した1弓の形成,2頸部血管の分岐から判断する.上行大動脈が気管の左側を走行するのが左側大動脈弓,右側を走行するのが右側大動脈弓である.
大血管位は,肺動脈弁に対する大動脈弁の位置関係からd-position,l-position,a-position,x-position の4 種類に分類され,さらに大血管同士の走行関係からspiral, parallel,side-by-side の3 つに分類される (図5).
spiral 関係とは,正常心でみられるように肺動脈の右後方にある大動脈が,左前にある肺動脈とらせん状(spiral)に交叉することをいう.これに対して,大動脈と肺動脈が胸壁から同じ深さで横に並び平行に起始する場合をsideby-side 関係,大動脈が肺動脈より前方から平行に起始する場合をparallel 関係とよぶ. d.心房‒ 心室関係
心房と心室関係には,2 つのつながりの関係と5 つの解剖学的関係とがある.2 つのつながりの関係とは,以下の通りである(図6)
3, 4, 6, 12, 14).
1 房室接続一致(concordant connection):解剖学的右房
が解剖学的右室に,解剖学的左房が解剖学的左室につながるもの2 房室接続不一致(discordant connection):解剖学的右
房が解剖学的左室に,解剖学的左房が解剖学的右室につながるもの,代表例は修正大血管転換5 つの解剖学的関係とは,以下の通りである. 1 正常整列(usual alignment):心房中隔と心室中隔が一直線上に並び,右側の房室弁は右側の心房と心室の間
に位置し,左側の房室弁は左側の心房と心室の間に位置するものをいう.房室弁が1 つになった共通房室弁の場合もある. 2 両房室弁同室挿入(double inlet):心房中隔と心室中隔
の整列がずれており,片方の心室に両側の房室弁が挿入するものをいう.通常単心室とよばれることもある. 3 一側房室弁口閉鎖(unilateral atrio–ventricular atre-
sia):筋性閉鎖と膜性閉鎖がある.筋性閉鎖の場合には,心房中隔と心室中隔の整列がずれており,膜性閉鎖では心房中隔と心室中隔の整列の異常はみられない.閉鎖する房室弁により,三尖弁閉鎖と僧帽弁閉鎖が存在する. 4 一側房室弁両室挿入(straddling):overriding とstrad-
dling に分類される.overriding は房室弁の弁輪部のみが心室中隔上に騎乗する状態であるが,弁下組織はもう一方の心室には挿入されていない.straddling は房室弁の腱索が心室中隔を超えて反対側の心室中隔または房室弁の乳頭筋に挿入しているものをいう. 5 房室弁交叉(criss–crossing):2 つの房室弁が心房– 心
室接合部で互いに交叉する異常である.解剖学的つながりとしては,解剖学的右房から右室,左房から左室に
図4 解剖学的右室の特徴
大動脈肺動脈
右房室上稜(crista supraventricularis)
septoparoetal tarbeculation中隔縁柱(trabecular septomarginalis [septal band])
調節帯(moderator band)
paroetal band conal free wall
lancizi(乳頭筋)
三尖弁三尖弁 前乳頭筋
弁下円錐
N-spiral D-parallel side-by-side図5 大血管位
p.19
つながるconcordant criss–cross と,解剖学的右房から左室,左房から右室につながるdiscordant criss–cross がある.ただ最近,房室弁交叉は,心房- 心室間のrotationの結果をみているだけとする説が唱えられている. e.心室‒ 大血管関係
大血管が心室から起始する様式は,2 つのつながりの関係と5 つの解剖学的関係がある.2 つのつながりの関係は以下の通りである. 1 心室– 大血管接続一致(ventriculo–arterial concor-
dance) 2 心室– 大血管接続不一致(ventriculo–arterial discor-
dance)解剖学的関係には,以下の5 つがある(図7). 1 正常起始:肺動脈が解剖学的右室から,大動脈が解剖
学的左室から起始するもの2 大血管転換:肺動脈が解剖学的左室から,大動脈が解
剖学的右室から起始するもの3 両大血管右室起始:大動脈と肺動脈が両方とも解剖学
的右室から起始するもの4 両大血管左室起始:大動脈と肺動脈の両方が,解剖学
的左室から起始するもの5 単一動脈幹起始:左右心室に騎乗する1 本の大きな動
脈が両心室から起始するもの3 つの部位診断と2 つの関係診断からなる5 ステップの
区分診断を行えば,どのような複雑な先天性心疾患であっても解剖学的診断は可能である.
1.1.3 複雑心形態異常の表記方法
区分診断法を用いて複雑心形態異常を診断した結果を表記する方法として,{心房位,心室位,大血管位}の順に心血管部位診断を表すアルファベット(略語)を用いて表記すると,複雑な先天性心疾患でも主要血管構築を明確に示すことができる(図8).
心房位:S(正位[solitus]),I(逆位[inversus]),A (錯位[ambiguus])
正常(S)では右心房が脊柱の右側心室位:D(正位[右ループ]),L(逆位[左ループ])
正常(D)では解剖学的右心室が解剖学的左心室の右側大血管関係
N(正位[normal]):大動脈(Ao)が右後,肺動脈(PA)が左前IN(逆位[inverted normal]):Ao が左後,PA が右前D(transposition):大動脈が肺動脈の右側L(malposition):大動脈が肺動脈の左側
図6 心房- 心室関係濃灰色:解剖学的右室,淡灰色:解剖学的左室(Anderson RH. 2010
10)を参考に作図)
房室一致房室不一致共通房室口straddling
両房室弁挿入右側房室弁閉鎖左側房室弁閉鎖左側房室弁膜性閉鎖
p.20
たとえば,解剖学的右房が右側(S),解剖学的右室は左側(L),大動脈は肺動脈の左前方(L)に位置する場合は{S,L,L}の修正大血管転換と表記する.同じ修正大血
管転換でも,解剖学的右房が左側(I),解剖学的右室が右側(D),大動脈は肺動脈の右前(D)に位置する場合には{I,D,D}の修正大血管転換と表記する.この方法で表記
が困難なのはcriss–cross heart のみで,ほとんどの先天性心疾患は表記できる.房室弁交叉の場合は心房– 心室一致の房室弁交叉(concordant criss–cross),心房– 心室不一致の房室弁交叉(discordant criss–cross)と表記する3, 4, 9, 10, 12, 14).
2 発達にともなう循環動態, 症候の変化
2.1 出生前後の循環動態の変化, 胎児循環から肺循環への移行
2.1.1 胎児循環から出生後(胎外)循環への移行
循環動態は胎児期から発達にともない変化する.したがって,先天性心疾患の病態・循環動態を理解するためには,胎児循環から出生後(胎外)循環への移行の特徴を知る必要がある(図9)
15).
a.特徴
胎児循環では,胎児は臍帯血管を介して胎盤循環と交通しており,以下のような特徴をもつ16) . • 肺循環(呼吸機能)が未確立で,1 つの心内短絡(卵円孔[foramen ovale])と2 つの心外短絡(動脈管[duc-
tus arteriosus]と静脈管[ductus venosus])が存在する. • 心房中隔にある卵円孔は右房から左房へ弁状に開存す
る交通口で,動脈管は肺動脈から大動脈への短絡血管,静脈管は臍帯静脈から下大静脈への短絡血管である. • 酸素分圧は低く,心機能は未熟である.右室の後負荷
は胎児の体循環と胎盤循環を反映し,左室の後負荷は低く胎児の脳循環を反映する. b. 血行動態
胎盤で酸素化された血液(PO2=35 mmHg)は,臍帯静
図 7 心室- 大血管関係濃灰色:解剖学的右室,淡灰色:解剖学的左室(Anderson RH. 2010
10)を参考に作図)
正常心室- 大血管一致大血管転換心室- 大血管不一致両大血管起始単一動脈幹起始
RA LA RV LV RA LA
RV LV RA LA
RV LV RA LA
RV LV
RA LA RV LV RA LA
RV LV RA LA
RV LV RA LA
RV LV
Con Con Con Con
Con Con Dis Dis
Con Dis Dis Con
Con Dis Dis Con
図 8 区分診断の記載方法(Maleszewski JJ, et al. 2016
8)より) Copyright (2016), with permission from Wolters Kluwer.
Situs Solltus
Situs Inversus
Normal Comp
TGA Corr TGA Isol vent view
Inv normal Inv comp
TGA CIv corr
TGA
p.21
脈を介して胎児に流入する.約50% は静脈管を介して下大静脈へ流れ,残りの約50% は肝循環に入って酸素分圧が低下し,肝静脈から下大静脈に流れる.
静脈管を流れた酸素分圧の高い血液は,加速して下大静脈から右房へ流入し,卵円孔(図9:★印)を介して左房– 左室– 上行大動脈へ流れ,頸部動脈を介して脳や両上肢を灌流する.この結果肝臓,脳,両上肢には酸素分圧が高い血液が流れる.
上大静脈と冠状静脈洞の酸素分圧が低い混合血は,右房– 右室– 肺動脈– 動脈管– 下行大動脈へ流れる.肺動脈に流れた血液のうち約40% は両肺動脈へ,残り60% は動脈管を介して下行大動脈へ流れる.さらに,左右の腸骨動脈から起始する2 本の臍帯動脈を介して妊娠20 ~30週ごろから胎盤に血液が送られ,再び酸素化される.肺血流量増加にともない肺還流血が増加し,卵円孔を通過する血流は総心拍出量の34% から18% に低下する16) .
この結果として,大動脈峡部(弓部動脈起始後の大動脈弓と下行大動脈の間)の血流は少なくなる.また胎盤循環の血管抵抗は非常に低く,血流量は妊娠期間を通じて血管の成長と拡張により増加する. c.胎児の心機能
胎児心筋細胞では,筋小胞体は未発達で,細胞内貯蔵Ca2+が少なく,心筋収縮は細胞外から流入するCa2+に依存している.心収縮の特徴としては,成人に比べフランク・スターリング特性(前負荷増大により収縮力増加)が下方にずれており,一定の前負荷に対して,拡張末期径, 1 回拍出量,1 回仕事量が低い.すなわち,胎児心筋は硬くて効率が悪く,心拍出量を心拍数でまかなうので心拍数が多い17).また右室圧が高く,左室圧と等圧で,右室自由壁が厚い.拡張末期径,1 回拍出量,1 回仕事量は胎児期から発達するにつれて増加し,出生後も増加していく.心拍数は,出生後,成長発達にともなって低下する.出生後右室圧は低下し,右室自由壁は薄くなり,全体に軟らかく効率のよい心臓に成長していく.
2.1.2 出生時の循環動態の変化 (胎児循環から胎外循環への移行)
出生直後,臍帯動静脈の閉鎖・切断とともに胎盤循環は停止し,肺呼吸が開始される(図9).肺呼吸開始によりPaO2 が上昇,pH が正常化して,肺血管の弛緩拡張が起こり,肺血管抵抗が低下して肺血流量が増加し,さらにPaO2 が上昇して肺血管が拡張する. a.卵円孔の閉鎖
出生後肺循環が確立されると,肺から左房にもどる還流血が増加し,左房圧が上昇して卵円孔が閉鎖する.一方,右房圧は胎盤循環停止による右房還流減少と右室圧低下に
よって低下する.一次中隔組織が(上昇した左房圧に押されて)弁状に閉鎖した卵円孔は,生後3 ヵ月ごろまでに器質的に閉鎖し,卵円窩として残る.周囲はヒダで境界される. b.動脈管の閉鎖
妊娠30 週以降,動脈管内膜は肥厚し閉鎖の準備に入る.胎盤由来のプロスタグランジンが動脈管の内膜肥厚形成と胎内での動脈管拡張(平滑筋弛緩)の両方の機能を担っている.
出生後,胎盤循環の停止により,プロスタグランジンなどの血管拡張物質の血中濃度が低下する.呼吸開始によりPO2 が上昇し,アデノシン三リン酸(ATP)感受性K +チャンネルが抑制されて脱分極が起こり,引き続いて膜電位依存性Ca 2+チャネルが活性化されて細胞内のカルシウム濃度が上昇し,平滑筋細胞が収縮すると動脈管が機能的に閉鎖する.これは,満期産では通常12 ~15 時間以内に生じる.
その後,動脈管組織の構築変化により,内腔は狭小化して閉鎖し,索状の線維性組織となって解剖学的に閉鎖する.これらの閉鎖機転には血管内皮増殖因子(VEGF)や形質転換増殖因子(TGF)-βなどの増殖因子,ヒアルロン酸合成酵素(HAS2)によるヒアルロン酸産生増加が重要である.動脈管は最終的には動脈管索となる.
正常児の動脈管は,生後24 時間では20%,48 時間では80%,96 時間では100% が閉鎖するとされる.
図9 胎児循環(左)から胎外循環(右)への移行(吹田ちほ他.2007 15)より)動脈管
静脈管
臍静脈
臍臍動脈
胎盤動脈管索
静脈管索
肝円索
正中臍索
p.22
c.静脈管の閉鎖
静脈管も動脈管と同様の機序で出生後に収縮すると考えられているが,詳細は明らかではない.臍静脈は肝円索,静脈管は静脈管索とよばれる索状物となる.
2.1.3 出生後(胎外)循環
出生後,血液の循環は体循環と胎盤循環の並列循環から,体循環と肺循環の直列循環に移行する.全静脈血は右房に還流し右室へ,そして肺に拍出されて酸素化される.酸素化された血液は左房に還流し,左室から全身の組織に拍出される.胎盤循環(低い血管抵抗)の停止により,心臓の後負荷は増大する.胎児期に上半身に血液を送っていた左室は出生後全身に血液を送ることになるため,左室の心拍出量は出生後胎児期の約3 倍に増加する16) .
2.2 小児の正常値:心拍数,血圧,身長/体重
成長発達にともない,血圧は上昇し,心拍数,呼吸数は低下する18, 19).正常心拍数(/ 分)は,新生児では覚醒時100 ~205 回,睡眠時90 ~160 回,小児ではそれぞれ98 ~140 回,80 ~120 回,思春期では60 ~100 回,50 ~ 90 回,正常呼吸数(/分)は乳児では30 ~53 回,就学時小児では18 ~25 回,思春期では12 ~20 回,正常血圧は出生直後(12 時間以内,<1000 g)では収縮期39 ~59/拡張期16 ~36 mmHg,平均動脈圧は28 ~42 mmHg,乳児(1 ~12 ヵ月)ではそれぞれ72 ~104/37~56 mmHg, 50 ~62 mmHg,学童(6~9 歳)では97 ~115/57 ~76 mmHg,66 ~72 mmHg である.詳細は文献19),1.4 小児高血圧の定義と特徴の表16,18(血圧),2.1 心電図(ホルター心電図を含む)の表22(心拍数)を参照されたい.身長・体重の変化は成長曲線によりフォローアップするとよい(図10) 20).
3 小児期心疾患の基本的病態
3.1 先天性心疾患の基本的病態
先天性心疾患は,疾患ごとに典型的な発症時期が異なるだけでなく,年齢(新生児・乳児・幼児・学童期以降)により循環不全(心不全)の症状が異なるため,その年齢に適した問診や診察が必要である.臨床症状は肺静脈うっ血・体静脈うっ血・低心拍出症状,チアノーゼに区分でき,種々の代償機転としての身体所見を呈する.
各先天性心疾患の病態は,胎児循環から出生後(胎外)循環への移行にともなって発症する以下の基本病態の組み合わせである(表6) 17).
3.1.1 胎児特有の短絡が消失することによる重症化 (新生児期)
先天性心疾患の病型によっては,胎児循環時に存在する短絡が肺循環や体循環を確立するために不可欠な疾患が存在する.このような必須の短絡には1卵円孔,2動脈管,3静脈管がある.
卵円孔を介する短絡がなければ,僧帽弁閉鎖や完全型大血管転換では生存できない.逆に,三尖弁閉鎖では右房から左房に短絡する血流がなければ,体循環が成立しない.
肺動脈閉鎖では肺循環への血流は動脈管に依存し,大動脈離断や左心低形成症候群では体循環の血流は動脈管に依存する.門脈に異常肺静脈が還流する下心臓型総肺静脈還流異常では,静脈管に酸素化された肺静脈血還流が依存しており,閉鎖すると著しい肺静脈うっ血とチアノーゼを生じる.
3.1.2 短絡以外の小児の心不全の原因
小児期の心不全は,短絡,狭窄,逆流,不整脈,低酸素血症など多彩で,多様な病態と発達途中の心筋特性が組み合わさって心不全を呈する(表7) 21).すなわち,心筋収縮能低下が心不全の主病態ではない点は成人と対照的で,頻度は低いが房室弁逆流や半月弁逆流などのために心内腔の拡大から心房・心室期外収縮などの不整脈を生じて心機能を低下させ,心不全が増悪することもある.
3.2 先天性心疾患の発症時期と症状
3.2.1 先天性心疾患の症状
先天性心疾患の発症時期と初発症状は病型により異なる.重症の疾患であるほど発症年齢が低い.症状は大きくチアノーゼと心不全症状に分け,チアノーゼを主徴とする疾患,心不全症状を主徴とする疾患,そしてチアノーゼと心不全症状の両方を呈する疾患に分類すると理解しやすい22, 23).各年齢層での初発症状を表8 に,新生児期・乳児期にみられるおもな先天性心疾患の症状と発症時期を図11 24, 25) に示す.
3.2.2 チアノーゼ
チアノーゼとは皮膚・粘膜が青紫色を呈する所見で,皮
p.23
膚・粘膜における毛細管血の還元ヘモグロビンが5 g/dL以上,動脈血還元ヘモグロビンが3 g /dL 以上になった時に顕性化する.成因により中枢性(動脈血中に還元Hb が増加し,動脈血酸素飽和度が低下)と末梢性(動脈血酸素飽和度の低下はないが,末梢組織における酸素利用が相対的に亢進),さらに,まれではあるがヘモグロビン異常症(メトヘモグロビン血症など)に分類される(表9) 22).還元型ヘモグロビンの測定や酸素飽和度測定は,中枢性チアノーゼの有無を判断するにはもっとも適している23).一方,末梢性チアノーゼは低心拍出量症候群,寒冷曝露,静脈うっ滞,動脈閉塞や静脈閉塞性疾患,静脈圧上昇などで認められ,舌・歯肉にチアノーゼを認めず,保温や循環不全の治療で改善する.
中枢性チアノーゼのおもな原因として,以下のようなものがある. • 短絡によるチアノーゼ
心内短絡(チアノーゼ性心疾患)肺内動静脈短絡• 呼吸器疾患が原因で肺胞低換気による低酸素血症や高
炭酸ガス血症• 多血症にともなう還元型ヘモグロビン増加動脈血酸素飽和度が85% 以下にならないと,チアノー
ゼの存在が明らかにならないことが多い.同じ酸素飽和度であっても,高度の貧血や一酸化炭素中毒ではチアノーゼは顕性になりにくく,逆に多血症では容易に出現する.黄疸などの肌の色・色素沈着・光のあたり方によっては,低酸素血症があってもチアノーゼの判定が困難な場合があり26),経皮酸素飽和度モニターによる確認が重要である.乳幼児は成人に比し生理的に貧血傾向であるため,鉄欠乏性貧血を合併するといっそう低酸素血症に気づきにくくなる.
上肢と下肢で酸素飽和度の有意な差(10% 以上)がある分離性チアノーゼを認める場合には,動脈管開存に加え,肺高血圧27)・大動脈縮窄ないしは大動脈離断の合併が示唆される.大血管関係が正常な場合には下肢に,完全大血管転位をともなう場合には上肢にチアノーゼが増強する.ただし,生後1 時間までは生理的にも上下肢のチアノーゼの差がみられることがある21).ファロー四徴症をはじめとする心室中隔欠損+右室流出路狭窄の病態では,チアノーゼに加え低酸素発作(hypoxic spell)や胸膝位(squatting)を生じる.
低酸素血症が長期間持続するとばち状指を認めるように
図10 成長曲線(厚生労働省ホームページ20)より)
190 180
170 160
150 140
130 120
110 100
90 80
70 60
50 40
30 20
10 0
身長(cm)
体重(kg)
75 70
65 60
55 50
45 40
35 30
25 20
15 10
5 0 190 180
170 160
150 140
130 120
110 100
90 80
70 60
50 40
30 20
10 0
身長(cm)
体重(kg)
75 70
65 60
55 50
45 40
35 30
25 20
15 10
5 0
97 90 75 50 25 10 3体重(kg)
100 95
90 85
80 75
70 65
60 55
50 45
40 35
30 25
20 15
10 5 0体重(kg)
100 95
90 85
80 75
70 65
60 55
50 45
40 35
30 25
20 15
10 5 0
190 180
170 160
150 140
130
身長(cm) 190 180
170 160
150 140
130
身長(cm)
97 90 75 50 25 10 3
(平成16 年2 月作成) (平成16 年2 月作成)成長曲線(男子)成長曲線(女子)
身長
体重身長
体重
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 年齢(歳) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 年齢(歳)
97 90
75 50
25 3 10
p.24
なり,多血症を合併すると過粘稠症候群による頭痛や血栓症,高尿酸血症による痛風,喀血,吐血,血小板減少,凝固線溶系異常などを生じる.さらに,低酸素血症にともなう運動能低下に加え低酸素血症によるチアノーゼ性腎障害(蛋白尿や浮腫)や高ビリルビン血症,月経異常を生じうる28). 3.2.3 心不全
先天性心疾患における心不全の原因は,心筋障害にともなう心室収縮能の低下による場合もあるが,心室収縮能が保たれた状態での左右短絡や弁逆流による容量負荷,心室流出路閉塞による圧負荷によることが多い.冠動脈の先天異常では,急性心筋虚血による急性心不全を呈する例がある.
表 6 新生児・乳児期発症の先天性心疾患の病態
病態疾患分類循環不全症状の機序1 肺循環が確立できない三尖弁閉鎖不全(エプスタイン病,弁異形成)右室低形成肺動脈閉鎖+動脈管開存胎児循環遺残動脈管依存性右室前方拍出不全静脈還流障害肺血流低下- 低酸素血症- 心筋収縮低下2 体循環が確立できない左心低形成症候群重症大動脈弁狭窄大動脈縮窄・大動脈動脈管依存性低心拍出量左室後負荷不適合動脈管狭窄・閉塞にともなう下半身血流低下- 腎不全肺高血圧- 右室ポンプ機能不全肺血流量増加- 体血流量低下(並列循環)~左室容量負荷3 酸素化血液の体循環へ
の移行障害完全大血管転位
総肺静脈還流異常心房間交通障害(左- 右)
心房間交通障害(右- 左)低酸素血症- 心筋収縮低下左室流入血流減少による低心拍出
4 必須の心房間交通に障
害がある左心低形成症候群僧帽弁閉鎖+両大血管右室起始三尖弁閉鎖右室低形成
総肺静脈還流異常心房間交通障害(左- 右)
心房間交通障害(右- 左)肺静脈うっ血- 肺水腫- 肺高血圧- 右心不全
静脈還流障害- 体うっ血右房- 左房流入血流制限- 左室流入血流減少~低心拍出
5 肺血管抵抗低下にとも
なう肺血流量の増加心室,大血管レベルでの大欠損(心室中隔欠損,動脈管開存,大動脈肺動脈
開窓, 両大血管右室起始,完全大血管転位+心室中隔欠損, 三尖弁閉鎖+肺血流量増加,総動脈幹など)肺静脈閉塞 (僧帽弁狭窄,三心房心など)肺血流増加- 左室容量負荷肺高血圧- 右室ポンプ不全並列循環での肺血流量増加- 体血流量低下
肺静脈うっ血の増悪
6 発育にともなう進行な
いし心拍出量の増加僧帽弁閉鎖不全僧帽弁狭窄,三心房心逆流の進行- 左室容量負荷- 左室ポンプ機能不全~左室前方拍出低下肺静脈うっ血- 肺水腫- 肺高血圧- 右心不全7 漏斗部心筋肥厚増悪ファロー四徴症三尖弁閉鎖+肺動脈狭窄両大血管右室起始+肺動脈狭窄低酸素発作右室からの順行性肺血流量の低下- 低酸素血症8 冠動脈疾患冠動脈異常ブランド・ホワイト・ガーランド症候群冠動脈異常心筋虚血による心筋収縮低下9 心筋疾患心筋症心筋炎心収縮低下心筋拡張障害10 不整脈先天性完全房室ブロック頻拍誘発性心筋症著しい頻脈,心室頻拍徐脈による低心拍出心室への流入障害,心筋虚血(中澤誠. 2013 17)より改変)
p.25
心不全症状は,低心拍出による症状と肺静脈うっ血,体静脈うっ血による体液貯留の症状からなる.低心拍出への全身性の代償機転として,交感神経緊張による頻脈,皮膚蒼白,網状チアノーゼ,冷感,多汗がみられる.また中心臓器の血流増加からのうつ熱,腎血流低下による尿量減少,消化管血流低下による食思不振,嘔吐がみられる29).
心室中隔欠損や動脈管開存,総肺静脈還流異常などによる肺静脈うっ血は,肺浮腫から多呼吸,陥没呼吸を引き起こし,咳嗽,呼気性喘鳴を生じる.肺浮腫は呻吟,起座呼
表8 先天性心疾患の年齢別初発症状
肺血流増加肺血流減少低心拍出
新生児期・乳児早期多呼吸,陥没呼吸呼吸困難,喘鳴多汗哺乳不良チアノーゼ蒼白,末梢冷感冷汗,網状チアノーゼ弱い泣き声体重増加不良乳幼児期多呼吸易感染性,反復肺炎チアノーゼ低酸素発作蹲踞(しゃがみ込み)運動発達遅滞易疲労性顔色不良,やせ小児期運動能低下息切ればち状指運動能低下動悸思春期以降合併症による症状胸痛,失神発作,突然死,喀血,不整脈,出血傾向,痛風,痙攣など
表9 チアノーゼの分類
中枢性チアノーゼ
心血管系の異常チアノーゼ性先天性心疾患,肺動静脈瘻など肺機能障害肺胞低換気,肺胞気- 動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)開大環境要因低酸素分圧,高地など末梢性チアノーゼ心拍出量低下,寒冷曝露,動脈閉塞,静脈うっ滞などヘモグロビンの異常一次性・二次性メトヘモグロビン血症など(立野滋.2015 22)より改変)
表7 心不全の原因
1 心血管系の構造的異常
容量負荷
短絡性疾患心室中隔欠損,心房中隔欠損,動脈管開存,心内膜床欠損,大動脈縮窄複合など逆流性疾患半月弁逆流,房室弁逆流,エプスタイン病圧負荷肺動脈閉鎖・狭窄,大動脈弁閉鎖・狭窄,大動脈縮窄血流通過障害三尖弁閉鎖,僧帽弁閉鎖,肺静脈狭窄,総肺静脈還流異常,三心房心2 ポンプ機能の異常
心筋収縮性の低下心筋症,心筋炎,心内膜線維弾性症,冠動脈疾患,低酸素血症など心筋拡張障害心タンポナーデ,収縮性心膜炎,拘束性心筋症3 不整脈完全房室ブロック,洞不全,頻拍症4 心臓以外の原因肺性心,甲状腺機能亢進症,尿毒症,重症貧血,多血症など(中澤誠,服部恵子.心不全の治療.高尾篤良編「臨床発達心臓病学第2 版」中外医学社,1997,p.233 21)より改変)
表 10 小児心不全のロス分類
クラス症状
I無症状
II乳児では哺乳時の軽度の多呼吸または発汗小児・学童では労作時の軽度の努力呼吸体重増加不良・成長障害をともなわない
III乳児では哺乳時の著明な多呼吸または発汗.哺乳時間の延長小児・学童では労作時の著明な努力呼吸体重増加不良・成長障害をともなうIV安静時の多呼吸,陥没呼吸,呻吟,または発汗(Ross RD, et al. 1987
29)より) Copyright (1987), with permission from Elsevier.
p.26
吸,泡沫状の血痰をもたらし,中枢性チアノーゼの原因となる.体静脈うっ血は肝腫大や顔面浮腫,頸静脈怒張,下腿~全身の浮腫を生じる.腸管粘膜の浮腫により嘔吐や下痢がみられ,重篤例では蛋白漏出性腸症が生じる.胸水,腹水もみられる30).
乳幼児,小児,学童における心不全の重症度評価には,ロス分類が用いられることが多い(表10) 29).新生児期・乳児期の心不全でもっともよくみられる症状は,哺乳時の軽度の多呼吸,陥没呼吸と発汗である.症状が進むと哺乳時の多呼吸,陥没呼吸と発汗は著明となり,安静時にもこれらの症状がみられるようになる.哺乳時間は延長し,易疲労性,不機嫌,哺乳量減少,体重増加不良・成長障害がみられる24, 30).
血管輪や主肺動脈の拡張による気道狭窄から,吸気性喘鳴が聴かれる場合がある.また,主肺動脈拡張による反回神経麻痺から弱い泣き声や嗄声を呈する例がある.突然の蒼白や呼吸困難が急性心不全や冠動脈起始異常による心筋虚血の症状である場合がある.
幼児期の症状として食思不振,嘔吐,易疲労性,体重増加不良,やせがみられる.小児期には運動時の息切れや動悸,下肢の疲労,運動能の低下がみられるようになる.思春期以後は先天性心疾患の合併症による症状として,胸痛,失神,痙攣,喀血,出血傾向,痛風,不整脈,突然死などがある17, 31, 32)(表8,11) 17). 1 歳
左室低形成大動脈縮窄・離断肺動脈閉鎖/ 右室低形成
総肺静脈還流異常
大動脈転位(TGA)
重症大動脈弁狭窄
ファロー四徴症
心室中隔欠損完全型房室中隔欠損末梢脈減弱
末梢脈およびSpO2 の上下肢差
軽い強いチアノーゼ心身不全症状
PVO(+)
PVO(-) PVO(-)
TGA(I 型)
TGA(II 型) TGA(II 型)
TGA(III 型) TGA(III 型)
1 週1 月3 月
図11 新生児期・乳児期にみられるおもな先天性心疾患の症状と発症時期PVO:肺血管閉塞(中澤誠.2014
25)より)
表 11 学童期・思春期・成人期の症状
1.心内合併症の発現心室中隔欠損(I 型)の大動脈弁閉鎖不全,バルサルバ洞破裂ファロー四徴症などの大動脈基部拡大,大動脈弁閉鎖不全心内膜床欠損の僧帽弁逆流心房中隔欠損の三尖弁逆流修正大血管転位の三尖弁逆流単心室(右室型)の房室弁逆流2.肺血管閉塞性病変の進行アイゼンメンジャー症候群3.心筋障害圧容量負荷による肥大低酸素血症による心筋線維化開心術後の心筋障害4.成長にともなう疾患の進行ないし顕性化僧帽弁閉鎖不全(僧帽弁逸脱を含む)の逆流進行大動脈狭窄の狭窄進行,逆流併発肺動脈狭窄の jet lesion,漏斗部狭窄進行修正大血管転位の房室ブロック5.合併症細菌性心内膜炎による弁逆流,脳膿瘍チアノーゼ持続による多血症,腎機能低下,心筋障害,半月弁逆流,痛風などbulboventricular foramen(球室間孔)の狭小化6.術後遠隔期の遺残症・合併症ファロー四徴症の肺動脈弁逆流完全大血管転位の肺動脈狭窄,大動脈弁逆流,冠動脈閉塞大動脈縮窄症の高血圧ラステリ型手術後の導管狭窄フォンタン手術後の合併症術後遠隔期の心不全,不整脈,肺高血圧(中澤誠.2013 17)より改変)
p.27
第2章 総論:小児心疾患における検査法
1 症候別検査計画
1.1 心雑音
1.1.1 聴診の基本
心臓の聴診はまず心音,その後に心雑音を聴くことが基本である.また,はじめに「膜型」で聴診し,その後に「ベル型」で低調な(低周波数の)心音,心雑音に集中して聴診する.
聴診器を置く標準的な位置は,1胸骨左縁上部(肺動脈領域),2胸骨右縁上部(大動脈領域),3胸骨左縁下部(三尖弁領域),4心尖部(僧帽弁領域)の4 つである.心音では,I 音とII 音を,特にII 音の分裂と強さに注目
して聴診する.次いでIII 音とIV 音の有無,駆出性クリック(駆出音),非駆出性(収縮中期)クリック,開放音(オープニングスナップ),さらに心膜摩擦音の有無を聴く.
1.1.2 心雑音の聴診
心雑音の聴診では,まず心雑音がもっとも大きく聴かれる部位(最強点)と心雑音が存在する心周期を確認することに注意する.聴診器を置く上記の4 つの標準的な位置を指標に,聴診器を当てる部位を少しずつずらしながら(inch-by-inch)最強点を決める.さらに,心雑音がその最強点からどの方向に放散するかに注意する.
心雑音は,聴取される心周期から,収縮期心雑音,拡張期心雑音,そして収縮期から拡張期へ連続する,連続性心雑音に分類できる(図12,13)
24).
a.収縮期心雑音(図12A)
収縮期心雑音には駆出性心雑音と逆流性心雑音がある.
図12収縮期心雑音と拡張期心雑音(中澤誠.2018 24)より転載)
A駆出性:I 音から雑音開始に間があるB半月弁逆流:II 音に続く雑音
半月弁狭窄
弁下弁上狭窄
逆流性雑音:I 音に続いた雑音大動脈弁逆流
肺動脈弁逆流
房室弁狭窄:II 音から離れて低調・低温
II 音
I 音駆出音大動脈閉鎖音
肺動脈閉鎖音
p.28
i.駆出性心雑音
I 音の後に時間をおいてから始まるダイヤモンド型(crescendo-decrescendo)の雑音で,等容収縮期が終わり,駆出が開始した後の乱流によって生じる.駆出性クリックをともなう場合は半月弁狭窄,ない場合は半月弁上・弁下狭窄による.
肺動脈弁狭窄の心雑音は胸骨左縁上部から背部に放散することがある.一方,大動脈弁狭窄の心雑音は頸動脈に放散する.一般的に狭窄の度合いに応じて駆出性心雑音は大きく,持続時間は長く,心雑音のピークは収縮期後半に移動するが33–35),ファロー四徴症のように大きな心室間短絡をともなう例で,低酸素発作時のように流出路狭窄が高度の場合,駆出性心雑音は弱く,短く,ときには心雑音が消失する36).また,重症の流出路狭窄から心拍出量が減少し心不全に陥っている場合,駆出性心雑音の大きさ,持続時間,波形は重症度を反映しない. ii.逆流性心雑音
I 音から引き続き聞こえる雑音であり,心室間短絡・房室弁逆流による収縮期全体にわたり一定の強さである場合(plateau),全収縮期雑音(holosystolic murmur)または汎収縮期雑音(pansystolic murmur)という.この病態では等容収縮期は存在しない. b.拡張期心雑音(図12B)
拡張期心雑音には半月弁逆流による心雑音と房室弁狭窄による心雑音とがある. i.半月弁逆流による心雑音
II 音に続く早期漸減型(decrescendo)雑音であり,大動脈弁逆流または肺高血圧をともなった肺動脈弁逆流では高調である.肺高血圧のない肺動脈弁逆流では低調の心雑音である.軽症大動脈弁逆流では,前傾姿勢をとることでこの心雑音が明らかになることがある. ii.房室弁狭窄による心雑音
房室弁開放後,II 音からやや時間をおいてからはじまる低調な雑音で,拡張中期ランブルともよばれる.器質的な狭窄と通過血流増加による相対的な狭窄により生じ,相対的狭窄ではIII 音をともなう.正常洞調律の房室弁狭窄では,狭窄の程度にかかわらず,心房収縮にともない弁を通過する血流速度が上昇することから,拡張末期に雑音が増大する(拡張後期ランブル). c.連続性心雑音(図13)31)
連続性心雑音は,高圧の動脈系と低圧系の短絡により生じる.末梢脈の触知などの所見が心臓の聴診所見と合わない場合には,肺野や頭部など心臓以外での聴診が必要になる24).
心臓近傍では肺高血圧の強くない大動脈肺動脈短絡,大動脈- 右心系短絡がある.肝臓,頭部,末梢ではそれぞれの部位での動静脈瘻がある.これらの短絡性疾患では反跳脈を触知する24).
肺野での連続性雑音は末梢性肺動脈狭窄か肺動静脈瘻で聴かれ,後者ではチアノーゼをともなう.静脈コマ音は座位または立位で左右頸部での柔らかい拡張期にやや強く
主要大動脈肺動脈側副血行路(VSD+肺動脈閉鎖に合併) CoA(左肩甲骨内側)
静脈コマ音
右Blalock-Taussig 短絡術後
Waterston 術後
冠動脈瘻(右房へ)動脈管開存Blalock-Taussig 短絡術後
冠動脈瘻(主肺動脈へ) BWG 症候群(成人型)
心室中隔欠損(VSD)+大動脈弁閉鎖不全(本来はto and fro:しばしば連続的に聴こえる)
冠動脈瘻(右室へ)
末梢性肺動脈狭窄肺動静脈瘻肺野背中
図13 連続性心雑音(最強点と診断) (中澤誠.ベッドサイドの診断学.高尾篤良編「臨床発達心臓病学第2 版」中外医学社,1997,p.159 31)より改変)
p.29
なる連続性雑音で,頸部圧迫や臥位で減弱・消失する.まれに総肺静脈還流異常の体静脈還流部位に連続性雑音が聴かれる.血管狭窄では駆出性雑音がII 音を超えて連続性となることがあり,末梢の狭窄であればあるほど連続性になる24).
1.1.3 心雑音のない先天性心疾患
心雑音の聴かれない先天性心疾患は少なくなく,しばしば重症の病型である.この場合でも心音は異常である(表12) 24).
1.1.4 新生児期・乳児期の心雑音
生後6 時間以内に聴かれる心雑音は,多くの場合,房室弁の逆流(三尖弁逆流または僧帽弁逆流)や半月弁の狭窄(大動脈弁狭窄または肺動脈弁狭窄)による.生後6 時間以降に聴かれる心雑音は,肺血管抵抗の低下にともなう左右短絡疾患(心室中隔欠損,動脈管開存)または末梢性肺動脈狭窄によることが多い.心房中隔欠損の心雑音は新生児期・乳児期には聴こえないことがある24).
1.1.5 修復術後や成人期の心雑音
ファロー四徴症修復術後は,収縮期雑音と続発症である肺動脈弁逆流による拡張期雑音を認める.術後遠隔期には,大動脈拡張にともなう大動脈逆流による拡張期雑音を認める場合がある.漏斗部心室中隔欠損は,胸骨左縁第2 肋間
の全収縮期雑音を聴取するが,右冠尖逸脱が高度だと心雑音が消失する場合がある.漏斗部心室中隔欠損兼大動脈弁逸脱兼逆流では,往復(to and fro)雑音となり,反跳脈を認める場合がある1).
1.2 小児心不全の特徴
心不全とは,なんらかの心臓機能障害,すなわち,心臓の器質的および/ あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能(血液の駆出や充満)の代償機転が破綻した結果生じる臨床症候群と定義される.近年,日本循環器学会はこの定義を一般向けに改変し,「心不全とは,心臓が悪いために,息切れやむくみが起こり,だんだん悪くなり,生命を縮める病気」と発表している37).
心臓の機能障害は多くの要因,病因によってもたらされ,多様な症状を引き起こす.小児においては,先天性の心血管構造異常にともなう心不全が多くを占めるのが特徴といえる.症状として,哺乳障害や発育障害などは小児特有のものといえよう.小児心不全進展の過程においては,神経液性因子の活性化,血管内皮障害,酸化ストレス亢進,炎症性サイトカイン上昇など,成人における心不全と同様の病態生理が進行していることが報告されている37).
1.2.1 心不全の分類とステージング
心不全は,評価の内容,目的に応じてさまざまな分類がなされている.日常生活,身体活動制限などの症状に基づいた重症度分類はニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類38)やロス分類29)が汎用される.病態に応じた重症度分類には,フォレスター分類39)やNohria-Stevenson 分類40)が用いられている. a.NYHA 心機能分類
現実的な身体活動制限によって評価するという簡便さから,成人の心不全重症度分類に広く用いられている.心疾患はあるが身体活動に制限はない(クラスI),軽度ないし中等度の身体活動制限(クラスII),高度な身体活動制限(クラスIII),心疾患のためいかなる身体活動も制限(クラスIV)の4 つに分類する.身体活動の制限される度合いから求めた指標であるため,幼小児への適用は限定される. b.ロス分類
幼小児における心不全重症度評価のために考案された指標である(表10).1994 年にカナダ心臓血管協会により公的システムとして提唱され,National Cardiomyopathy Registry 41)やカルベジロールの多施設共同研究42)にも用いられている.ロス分類は血漿ノルアドレナリン濃度と正
表 12 心雑音が聴えない先天性心疾患
I. チアノーゼ群
完全大血管転位(心室中隔欠損をともなわない)総肺静脈還流異常(肺静脈閉塞をともなう型,主として下心臓型)左心低形成心室中隔欠損をともなわない肺動脈閉鎖(純型肺動脈閉鎖)心室中隔欠損をともなう肺動脈閉鎖(完全大血管転位,単心室,三尖弁閉鎖,両大血管右室起始などに合併するものを含む)総動脈幹遺残エプスタイン病II. 非チアノーゼ群
大動脈縮窄三心房心,僧帽弁上狭窄修正大血管転位(心内異常をともなわない)新生児期・乳児期の心房中隔欠損冠動脈異常(左冠動脈肺動脈異常など)高度肺高血圧をともなう左右短絡疾患(心室中隔欠損,房室中隔欠損,動脈管開存,大動脈肺動脈窓など) Uhl 病系統(体)動静脈瘻特発性心房拡張(中澤誠.ベッドサイドの診断学.高尾篤良編「臨床発達心臓病学第2 版」中外医学社,1997,p.159 31)より改変)
p.30
相関29),β受容体の密度とは逆相関することが示されており41),妥当性の根拠の1 つとされる. c.フォレスター分類
急性心筋梗塞における急性心不全の治療の方向性と予後を予測する目的で作成された分類で,病型の進行にともない死亡率が上昇することが示されている(図14).臓器灌流とうっ血を心拍出量と中心静脈圧で評価し分類するもので,急性心筋梗塞以外の心不全の病態把握にも有用であるが,観血的測定を必要とする. d.Nohria-Stevenson 分類
侵襲的測定値に基づくフォレスター分類より簡便にベッドサイドで利用できるように,身体所見から臓器灌流とうっ血を評価するもので,心不全患者のリスクプロファイルとして優れている(図15)
40).プロフィールA からL まで4
分類したところ,短期間での死亡(心臓移植を含む)はプロフィールC とB に多かった.
フォレスター分類やNohria-Stevenson 分類の概念は,小児においても十分適応可能と考える.
上記重症度分類はある時点での症候,病態に基づく評価であるが,成人における心不全の病期の進行については米国心臓病学会(ACC)/ 米国心臓協会(AHA)の心不全ステージ分類が用いられることが多い.このステージ分類は適切な治療介入を行うことを目的にされており,無症候であっても心不全進展の高リスク群であれば早期に治療介入することが推奨されている.
この成人用心不全分類システムは多少の変更により幼小児にもある程度適用しうる可能性があるが(表13) 43),病因,病態が多様で,エビデンスに基づいた心不全薬物療法がまだ確立されているとはいえない小児における応用にはまだ検討の余地がある. 1.3 チアノーゼ
チアノーゼの原因診断・病態評価のためには,以下のような検査を行う.
1.3.1 低酸素血症の診断
低酸素血症の有無を確認するには,パルスオキシメー
低灌流所見の有無dry‒warm
A wet‒warm
B
dry‒cold
L wet‒cold
C
なしあり
なし
あり
うっ血所見の有無うっ血所見起座呼吸頸静脈圧の上昇浮腫腹水肝頸静脈逆流
低灌流所見小さい脈圧四肢冷感傾眠傾向低Na 血症腎機能悪化
プロフィールA:うっ血や低灌流所見なし(dry-warm)プロフィールB:うっ血所見はあるが低灌流所見なし(wet-warm)プロフィールL:低灌流所見を認めるがうっ血所見はない(dry-cold)プロフィールC:うっ血および低灌流所見を認める(wet-cold)図15 Nohria-Stevenson 分類(Nohria A, et al. 2003
40)より改変) Copyright (2003) by the American College of Cardiology Foundation, with permission from Elsevier. https://www.sciencedirect.com/journal/journal-of-the-american-college-ofcardiology
2.2 0 18
肺動脈楔入圧(mmHg)
心係数
(L/ 分/m2)
I正常II
III失血性ショックを含む(hypovolemic shock) IV心原性ショックを含む(cardiogenic shock)
図14 フォレスター分類(Forrester JS, et al. 1976 39)より作図)
表 13乳児および小児の心不全ステージングシステムの提案
ステージ症状
A心不全に進展するリスクが増大しているが,正常な心機能を有し容量負荷を認めない患者例:心毒性を有する薬剤の使用歴,遺伝性心筋症の家族歴,単心室,修正大血管転位
B心形態異常あるいは低心機能であるが,心不全症状も心不全の既往もない患者例:左室拡大にともなう大動脈弁閉鎖不全,アントラサイクリンの使用歴があり,左室収縮能が低下しているC心不全の既往または症状を有する,構造的ないし機能的心膝病患者D強心剤の持続投与,機械的循環補助,心臓移植,あるいはホスピスケアを要する終末期心不全の患者(Rosenthal D, et al. 2004
43)より) Copyright (2004) International Society for Heart and Lung Transplantation, with permission from Elsevier. https://www.sciencedirect.com/journal/the-journal-of-heart-and-lungtransplantation
p.31
ターを用いた動脈血酸素飽和度の測定が容易である.しかし,末梢動脈拍動が微弱な症例や寒冷環境下などでは,酸素飽和度の低値がかならずしも中枢性チアノーゼを意味しないことがある.動脈血ガス分析は高炭酸ガス血症やメトヘモグロビン血症の有無確認に有用である.チアノーゼが肉眼的に明らかでなくても,末梢血血算により多血症を認めれば慢性の低酸素血症が示唆され,その原因を検索する必要がある.
1.3.2 先天性心疾患
低酸素血症が確認された場合には,胸部単純X 線写真と心電図が心疾患の診断と呼吸器の異常(無気肺・肺水腫・胸水など)の有無の確認に重要である.特徴的なX線所見を示すいくつかの先天性心疾患は,胸部単純X 線写真と心電図でほぼ診断が可能である44).さらに,その情報と心臓超音波検査(断層・カラードプラ・コントラストエコーなど)により比較的短時間で,ほとんどの先天性心疾患の診断が可能である.心臓超音波検査は短絡性先天性疾患や高度の狭窄性病変の診断,心機能低下,高度の弁逆流などの診断にきわめて有用である.
1.3.3 肺内動静脈短絡
肺内動静脈短絡が疑われるときには,コントラストエコーによりコントラストが左房まで到達することを確認するのが簡便である.肺血流シンチグラフィを用いても鑑別が可能であり,さらに短絡血流量の推定も可能とされる.しかし,新生児・乳児では適応と診断能に限界があり,コントラストエコーが有用である.
1.4 小児高血圧の定義と特徴
1.4.1 血圧測定の対象
小児の血圧測定は,年齢や体格が小さいほど経験,技術を要するため,一般的には行われにくい.しかしながら米国の小児高血圧の指針45)では,医療機関では3 歳以上の小児は血圧測定を行うべきで,さらに3 歳未満でも表14
に示すような例は血圧測定を勧めている.
1.4.2 血圧の測定方法
集中治療のモニタリングなどで行われる動脈ラインの確保による直接血圧測定についての記述は他に譲り,ここでは一般日常診療で行われる間接血圧測定法について解説する.
安静が保てる小児では,測定方法は成人と同じである.乳幼児では泣いていても血圧測定は不可能ではないが,精度と測定意義は低下する.保護者の協力を得てできるだけ安静状態に近づけ,膝の上に抱くなどの姿勢によって測定を試みる.
通常用いられるのは,従来は水銀血圧計が主体であったが,環境への毒性のため,アネロイド式あるいは自動電子式の使用が増加している.
カフ(マンシェット)は体格によって適切な大きさのものを使用しなくてはならない.3 ~6 歳では7 cm 幅,6 ~ 9 歳では9 cm 幅,9 歳以上は13 cm 幅(成人用)が適している46).
聴診法は,上腕動脈の拍動の上で,肘窩の中央からやや
表14 3 歳未満でも血圧測定すべき場合
早産児,低出生体重児,その他NICU 管理の既往先天性心疾患反復性尿路感染症,血尿,蛋白尿腎疾患,泌尿器疾患先天性腎疾患の家族歴固形臓器移植後悪性疾患,骨髄移植血圧上昇作用のある薬剤服用その他高血圧と関連する全身疾患(神経線維腫症,結節性硬化症など)頭蓋内圧亢進症状のある児(National High Blood Pressure Education Program Working Group on High Blood Pressure in Children and Adolescents. 2004 45)より)
表15 聴診法による血圧測定時の聴診音の変化
コロトコフ第1 相(K1)血流が始まるときの音始まりが最高血圧コロトコフ第2 相(K2)血流の音が雑音のように聞こえる相コロトコフ第3 相(K3)血流の音が大きい相コロトコフ第4 相(K4)血流がかすかになる相コロトコフ第5 相(K5)乱流が消失し音が聞こえなくなる相始まりが最低血圧(日本高血圧学会編.2019 49),福岡県薬剤師会ホームページ55)を参考に作表)
p.32
近位で,カフの下端より下に聴診器をあてる.カフ圧を十分上げて血流を遮断した後,カフ圧を下げて聴取されるコロトコフ音で測定する.コロトコフ音には5 つの相があり,動脈の血流を止めていたカフ圧を次第に下げたとき,脈拍音が表15 のような順番にあらわれる.コロトコフ第1 相(K1)の始まる圧力を収縮期血圧,同第5 相(K5)が始まる,すなわち音が消失する圧力を拡張期血圧とする.K5が0 mmHg まで聴取されることもあり,その場合は再度測定して,同様なら血流音が微かになるK4 を拡張期血圧とする.水銀血圧計とアネロイド式で行われる方法で,前者の方が細かい数値の測定に適している.
オシロメトリック法(圧脈波振動法)は自動電子式で使用される方法で,カフの減圧にともない血管の振動が血管雑音の発生・消失とほぼ同タイミングで変化する性質を利用し,微少振動を圧力センサーで検出し測定する.簡便で環境毒性がない.精度に問題が残っており,水銀血圧計で熟練者が若年成人を測定した場合,オシロメトリック式自動血圧計では拡張期血圧が60 mmHg 以下のレベルでは平均4.5 mmHg 高く表示されたという47).
一般的に自動電子血圧計で測定し,90 パーセンタイル以上の場合に,聴診法で再測定することが勧められる45).
正しい測定には,測定直前の食事,膀胱充満などを避け,寒冷,騒音を防ぐなど血圧に影響を与える環境条件を整える.5 分以上安静の後に座位で測定し,測定中の会話は避ける,上腕を締め付ける衣類は脱衣する,カフの位置を心臓と同じ高さに保つなどの注意が必要である. 1.4.3 血圧測定の部位
先天性心疾患を否定できている場合は,通常どちらかの上肢で測定すればよいが,先天性心疾患の中で特に大動脈縮窄があると,縮窄部より近位の動脈に高血圧を起こし,下肢の血圧は低下して上下肢の血圧差を生じる.通常は右上肢の高血圧に注意が必要であるが,右大動脈弓や鎖骨下動脈起始異常の場合には,左上肢の方が高い可能性もある.大動脈の異常をともなう疾患や術後では,血圧測定は両上肢で行うことが推奨される.先天性心疾患の場合には,やや熟練を要するが上下肢の血圧を測定することが推奨される.
1.4.4 血圧の基準値と高血圧の定義
a.基準値
小児の高血圧の基準値は,わが国では小中学生を対象に自動血圧計で測定し,性別年齢別の95 パーセンタイル値を血圧管理用の基準としている.参考値として,厚生労働省研究班48)で収集された各パーセンタイル値を示す(表16).
また,日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン2019 49)では,小児の高血圧基準に関して,血圧健診のデータをもとに高血圧基準を定めている(表17).これらの数値は同ガイドライン2014 50)から変更はなく,(財)予防医学協会が測定した約4 万人の小中学生の血圧値による高血圧出現率など,過去の報告とほぼ一致しているとされる.ただし,上記の厚労省研究班のデータに比べ,やや高めの数値を基準としており,厚生労働省のMinds ガイドラインライブラ
表16 日本人小児の血圧の統計値
収縮期血圧対象者数平均値90 パーセンタイ
ル値95 パーセンタイル値99 パーセンタイ
ル値拡張期血圧対象者数平均値90 パーセンタイ
ル値95 パーセンタイ
ル値99 パーセンタイ
ル値
男子(mmHg)幼児130 91 103 108 111男子(mmHg)幼児130 51 61 65 69
小1~2 171 94 106 110 118小1~2 171 53 64 67 71小3~4 176 96 108 114 124小3~4 176 54 64 67 77小5~6 193 100 114 117 127小5~6 193 55 66 69 72
中学237 104 118 122 130中学237 56 67 72 87高校575 117 128 131 140高校575 63 75 79 84
女子(mmHg)幼児124 93 105 107 115女子(mmHg)幼児124 50 62 64 70
小1~2 165 93 103 105 121小1~2 165 53 61 66 73小3~4 222 96 108 110 117小3~4 222 54 63 67 72小5~6 187 99 111 115 121小5~6 187 56 65 69 77
中学238 101 113 116 121中学238 55 65 67 74高校731 106 118 122 128高校731 61 73 76 82
(吉永正夫.2009 48)より抜粋)
p.33
リーは表17 の基準を掲示している46).
菊地らは,わが国の小児を延べ1 万人以上対象とした測定をもとに,性,年齢別の高血圧基準値を報告した51).この基準値は日本高血圧学会の基準より各年齢層で10 ~15 mmHg,特に小学校低学年の収縮期血圧は約20 mmHg低く,異常者が多くなる点から,同学会では基準として採用していない.
米国では2004 年に小児高血圧ガイドラインとして水銀血圧計の測定値から作成されたNational Health and
Nutrition Examination Surveys(NHANES)および1999 ~ 2000 年の測定値のデータベースから,性別・年齢・身長別に50,90,95,99 パーセンタイル血圧を基準値として示し45),その50 パーセンタイル身長での性別,年齢別の基準値としている(表18).2009 年の欧州小児高血圧治療ガイドラインでも,米国の基準を採用している52).わが国のデータ(表16)ともかなり近い値が報告されており,異常の有無は表16 を基準として判断し,治療介入の必要性は表17 を参考にするのが妥当と考えられる. b.評価と定義⦆
測定された血圧に対する評価は以下のように定義される44). 1 正常血圧: 収縮期,拡張期血圧ともに90 パーセンタイ
ル未満の場合2 前高血圧(prehypertension):収縮期,拡張期血圧の一
方または両方が90 以上 95 パーセンタイル未満または年齢の90 パーセンタイル未満でも120/80 mmHg を超える場合
表17 日本高血圧学会による小児の血圧基準値
収縮期血圧(mmHg)拡張期血圧(mmHg)
幼児≧120 ≧70
小学校低学年≧130 ≧80
高学年≧135 ≧80
中学校男子≧140 ≧85
女子≧135 ≧80
高等学校≧140 ≧85 (日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編.高血圧治療ガイドライン2019.p.165 より許諾を得て転載)
表18 米国小児高血圧ガイドラインにおける50 パーセンタイル身長小児の
性別・年齢別血圧基準値
男児女児
90th 95th 99th 90th 95th 99th
1 歳99/52 103/56 110/64 100/54 104/58 111/65 2 歳102/57 106/61 113/69 101/59 105/63 112/70 3 歳105/61 109/65 116/73 103/63 107/67 114/74 4 歳107/65 111/69 118/77 104/66 108/70 115/77 5 歳108/68 112/72 120/80 106/68 110/72 117/79 6 歳110/70 114/74 121/82 108/70 111/74 119/81 7 歳111/72 115/76 122/84 109/71 113/75 120/82 8 歳112/73 116/78 123/86 111/72 115/76 122/83 9 歳114/75 118/79 125/87 113/73 117/77 124/84 10 歳115/75 119/80 127/88 115/74 119/78 126/86 11 歳117/76 121/80 129/88 117/75 121/79 128/87 12 歳120/76 123/81 131/89 119/76 123/80 130/88 13 歳122/77 126/81 133/89 121/77 124/81 132/89 14 歳125/78 128/82 136/90 122/78 126/82 133/90 15 歳127/79 131/83 138/91 123/79 127/83 134/91 16 歳130/80 134/84 141/92 124/80 128/84 135/91 17 歳132/82 136/87 143/94 125/80 129/84 136/91 (National High Blood Pressure Education Program Working Group on High Blood Pressure in Children and Adolescents. 2004 45)より作表)
p.34
3 高血圧(hypertension):収縮期,拡張期血圧の一方ま
たは両方が95 パーセンタイル以上を日または週を変えて3 回以上認められた場合・ ステージI:収縮期,拡張期の一方または両方が95
パーセンタイルから99 パーセンタイル+5 mmHg の範囲内にある場合・ ステージII:収縮期,拡張期の一方または両方が99
パーセンタイル+5 mmHg を超える場合
1.4.5 高血圧の頻度
わが国の血圧健診では,小学校高学年~中学生の0.1 ~ 1%,高校生の約3% に高血圧が見出されるとされる.小児,思春期の高血圧の多くは本態性高血圧であり,肥満や家族歴と関連することが多い.二次性高血圧は,小児では成人よりも比較的有病率が高い.低年齢や重度の高血圧では二次性の可能性が高く,降圧薬治療が必要となることが多い.
1.4.6 原因疾患
各年齢層の高血圧の原因として,代表的なものを示す(表19) 49) .
先天性心疾患以外には,血圧健診で発見される高血圧は,多くは本態性高血圧に該当する病態である.小児本態性高血圧の診断は,年齢(思春期以降),高血圧は軽度であること,肥満,家族歴,および二次性高血圧を示唆する症状が欠如していることが重要である.
通常,小学校低学年以下は本態性と診断せず,年齢が低いほど,また血圧が高いほど二次性高血圧を考える.小児の二次性高血圧は腎臓に関係するものが60 ~80% を占め,なかでも膀胱尿管逆流にともなう瘢痕腎(逆流性腎症)や先天性腎尿路異常,あるいは血栓性疾患が基礎にあれば腎梗塞(腎動脈血栓症)による慢性腎不全が問題になる.腎血管性高血圧は比較的幼少期に多く,腎実質性と内分泌性はやや年長者に多い傾向がある54).管理と治療については,各論を参照されたい.
1.5 小児期失神の定義と特徴
1.5.1 定義
失神とは一過性の意識消失と脱力で,症状が短時間持続した後,自然かつ完全に元の状態に戻るものである.脳還流が一過性に低下することによって起こる.意識消失をきたすが,脳全体の低還流をともなわないものはその鑑別が必要となる.
1.5.2 特徴
失神はよくある症状で,救急来院患者の0.8 ~2.4% を占める56).真の発生率の評価は難しいが,15 歳前後で始めのピークがあり,70 歳以降に増加する.小児の15 ~ 25% が成人になるまでに1 回は経験するといわれる57).
原因は,すべての年齢層において血管迷走神経性失神が最多であるが,高齢になるにつれ心疾患による失神が増加する58).その予後は原因によって異なり,血管迷走神経性失神では生命に影響しないが,心疾患によるものでは1 年後の死亡率が30% にもなる59).
小児の失神の特徴としては,年長児や思春期に発生率が高く,6 歳未満では少ない.小児の失神は予後良好のものが大部分で,特に血管迷走神経性失神は健康な小児・思春期の失神の原因でもっとも多い.しかし,時に致死的な心疾患であったり,意識消失の原因として神経疾患・代謝疾患の徴候の場合があることを念頭に評価する.
1.5.3 失神・意識消失の原因
小児において,失神の原因となる疾患および意識障害をきたし失神との鑑別を要する疾患は以下のとおりである60). a.反射性(神経調節性)失神1 血管迷走神経性失神:感情ストレス(恐怖,疼痛,採
表19 小児二次性高血圧の原因疾患(先天性心疾患以外)
腎性高血圧(67~87%)腎血管性高血圧(5~10%)内分泌性高血圧(10%)腎実質性疾患ネフローゼ症候群低形成腎腎盂腎炎逆流性腎症多発性嚢胞腎溶血性尿毒症候群水腎症その他の先天異常線維筋異形成症候性(例:NF タイプ1)血管炎(例:高安病)腎静脈血栓症大動脈縮窄症腎動静脈瘻その他先天性副腎皮質過形成糖尿病褐色細胞腫クッシング症候群甲状腺機能亢進症高カルシウム血症
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血など),起立負荷2 状況失神:咳嗽,消化器系(嘔吐,排便,内臓痛),排
尿後,運動後,体を進展させる動作や髪を触る動作,食後など3 頸動脈洞症候群4 非定型(明瞭な誘因がない/ 発症が非定型) b.心原性(心血管性)失神1 不整脈
徐脈性:完全房室ブロック,洞機能不全(徐脈頻脈症候群を含む),ペースメーカ機能不全頻脈性:上室性(ウォルフ・パーキンソン・ホワイト[WPW]症候群ほか),心室性(特発性,器質的心疾患に続発,遺伝性不整脈;QT 延長症候群・カテコラミン誘発性多形性心室頻拍・ブルガダ症候群など)
薬剤誘発性の徐脈,頻脈(後天性QT 延長症候群含む) 2 器質的疾患(心疾患)閉塞性疾患(大動脈弁狭窄症・肺動脈弁狭窄症),肥大
型心筋症,肺高血圧症,冠動脈異常(先天性,川崎病後冠動脈疾患),その他の心筋虚血/ 梗塞,心筋炎/ そのほかの心筋異常,心臓腫瘤(心房粘液腫,腫瘍など),心膜疾患(タンポナーデ),鎖骨下動脈盗血症候群,肺塞栓症,人工弁機能不全c.起立性低血圧による失神1 循環血液量減少:出血,下痢,嘔吐,脱水症2 薬剤性:血管拡張薬,利尿薬,抗うつ薬,フェノチアジ
ン,アルコールd.脳低還流をともなわない意識消失(失神との鑑別を
要する疾患) 1 てんかん,片頭痛, 2 息止め発作(泣き入りひきつけ,憤怒痙攣ともよぶ) 3 過換気4 ヒステリー/ 転換性5 代謝性疾患(低血糖,低酸素血症,電解質異常) 6 貧血7 妊娠8 神経性食思不振症9 一酸化炭素中毒10 椎骨脳底動脈系の一過性脳虚血発作
1.5.4 診断のための検査計画
a.病歴と家族歴
発作時および発作前後の情報は鑑別診断に重要である57).運動・胸痛・動悸が関連した失神・臥位の姿勢でいるときに起こった失神や,前駆症状のない失神は心疾患や神経疾患が原因である可能性があり,基礎疾患の十分な評
価が必要である.
発症前の姿勢・行動(運動・食事・排泄・体を伸ばす動作など),意識消失していた時間,随伴症状(顔面蒼白・動悸・頭痛・過換気・嘔気・発汗・健忘・めまいなど),発作時の環境(高温・人混み・不快な刺激)について,目撃者および本人から聴取する.急に立ち上がる・長時間の立位・採血のようなストレス・空腹・人混みのなかなどの誘発因子や嘔気・顔面蒼白・発汗などの自律神経症状が前兆となることは,神経調節性失神の特徴である.これらがない場合は他の原因を考える.
既往歴では,以前に失神や失神前症状(意識を失いそうだと感じる一連の感覚でめまい・眼前暗黒感・脱力感・視力障害など)があるかどうかを聴取する.家族歴では若年性突然死(35 歳以下),乳児突然死症候群,不整脈,難聴,心疾患(心筋症・心肥大・先天性心疾患含む),代謝異常症の有無を確認する.
その他では中毒や薬物が原因の可能性を考慮し,入手できる可能性のある薬物・毒物,社会歴・生活歴を聴取する.思春期女子では妊娠の可能性を考え,月経歴も聴取する. b.12 誘導心電図
心原性失神の鑑別として必須の検査であり,失神患者全例に施行する.心電図異常があれば循環器専門医に紹介し,基礎心疾患の評価のための精査をすすめる.症状に応じて運動負荷心電図(特に労作時や運動時失神),ホルター心電図,心臓超音波検査を追加する.重症例では心臓カテーテル検査や心臓電気生理学的検査も必要となることがある. c.起立負荷試験
起立性低血圧や体位性頻脈症候群(POTS)の鑑別のために施行する.頻回に反復する失神の場合は患者や家族のストレスが大きく社会生活にも支障を及ぼすため,さらに評価をすすめることを検討する.起立耐性がないために起こる失神(血管迷走神経性,起立性低血圧,POTS など)の診療では,ティルトテストが診断・治療方針の選択に役立つことがある. d.尿中ヒト絨毛ゴナドトロピン(hCG)測定
思春期女子では妊娠が意識消失の原因となりうる. e.その他
神経疾患を疑う所見がある場合は脳波検査を行い,神経専門医へ紹介する.てんかん発作では失神前症状はなく,意識消失する時間が遷延することが多い.また発作時の強直肢位や顔色の紅潮・体の熱感(末梢循環は保持されている)などがみられる.
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1.6 小児薬物性心筋障害の定義と特徴
1.6.1 疾患概念
現在治療法の進歩により,多くの小児がん患者で長期間の生存が可能になった.その一方で,治療により心機能障害が生じ,心不全,不整脈および高血圧などの心血管障害に至ることもある.成人に達した小児がん経験者は,アントラサイクリン系抗がん剤投与歴や胸部放射線治療歴があると心毒性リスクがもっとも高くなる61, 62).そのため,用量,投与期間などにより慎重に検査や治療を行う必要がある.
1.6.2 疾患の解剖学的,血行動態的分類
a.小児がんの治療と心毒性発症の関係
心臓への影響があるおもな小児がん治療は,アントラサイクリン系抗がん剤,放射線療法,大量シクロホスファミドなどであるが,他にも心筋障害の原因となる薬剤もあり,注意を要する.使用率が高く,心毒性の出現をもっとも注意しなければならない薬剤はアントラサイクリン系抗がん剤である.
心筋障害の時期は,化学療法施行中のacute 期,終了後1 年以内のearly 期,終了後1 年以降のlate 期の3 つに分けられる.late 期の心不全発症率は,小児がん治療後も経年的に上昇する61).胸部放射線治療はおもに心臓の拡張機能障害をきたす可能性があり,アントラサイクリンとの併用により心毒性の発生リスクが高くなる.シクロホスファミドは通常化学療法および造血幹細胞移植を前提とした大量療法として用いられ,不整脈や出血性心筋心膜炎などが起こることがある63, 64).通常は急性期に発生し後遺症を残さず終息するが,重症化する場合もある63, 64).
小児がん治療により心筋障害が生じると,その後の心筋の成長が障害され,左室壁厚は必要十分な厚さとならない.その一方,成長にともない左室の内径は大きくなり,血圧の生理的上昇にともない左室内圧も上昇する.そのため左室心筋に負担がかかり,経年的に心筋のダメージが蓄積し,化学療法後長期間が経過してから心機能が低下する65). b.小児がんの治療による心毒性発症率
小児がん生存者3 万人以上を対象にした研究によると62),最長42 年間(中央値10 年)の観察期間中に,小児がん経験者の8.1% が心血管疾患と診断された.正常対照群と比較した相対危険度は,心不全で5.2,弁機能不全で4.6,脳血管疾患で3.7 と高く,アントラサイクリンに加えて放射線治療を行った症例の方が,心不全の発症率は高かった62).
小児がん経験者1,362 人を調べた結果では,治療後30年間で8 人に1 人は重度の心疾患となり,治療後35 年を経過しても心合併症は増加し続けた61).放射線治療のみの患者でも22% が拡張機能障害を示し,27.4% が運動耐容能の低下を示した61).従来,アントラサイクリン系薬剤はドキソルビシンに換算して300 mg/m2 以上の使用が危険であるとされていたが,より低用量でも心合併症を発症する危険性が示唆された61). c.心毒性の早期発見の重要性
アントラサイクリン心筋症による心不全を発症すると,死亡率は2 年で60% にも至る66).心不全の臨床徴候を認める前に心機能低下を発見することが重要である67, 68).そのため,治療終了後も定期的な心機能評価を行い,心機能低下を認めた場合は心保護薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬[ACE 阻害薬],アンジオテンシンII 受容体拮抗薬[ARB],β遮断薬など)投与の必要性を判断する必要がある68).
従来の心エコーによる化学療法後の心機能障害の検出は,おもに左室駆出率(LVEF)で定義されていた.しかしLVEF 低下後,心保護薬投与によりLVEF が正常化する症例は一部であり,大多数は改善に乏しい67).比較的新しい心機能検査方法であるスペックルトラッキング法を用い,LVEF が保たれた左室長軸方向ストレイン(GLS)で低下した症例では,β遮断薬が心機能改善に一定の効果を示した67).以上より,心機能低下の早期発見が重要とされる.
1.6.3 診断と治療
a.診断(検査を行うタイミング)
わが国では日本小児白血病リンパ腫研究グループより「小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン」69)が2013 年に発表されているが,その後多くの新しい知見が加わっており,改訂の必要がある.
このガイドラインでは,初期の検査時期を薬剤最終使用の1 ~3 ヵ月後,治療終了時としているが,投与前のデータと比較するために,小児がんの治療開始前の心機能も評価する68).その後は11 歳未満で投与を開始した症例, 21 歳以上で投与開始し,アントラサイクリン総投与量がドキソルビシンに換算して100 ~250 mg/m2 の症例,3同 250 mg/m2 以上の症例の3 群に分類される(図16,表20).次に各群の中で,治療開始時期により,検査期間と間隔を提唱している.フォローアップの期間は20 歳まで,もしくは治療終了後10 年間までとされている.
しかしながら,小児がん経験者においては30 歳以降で
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も心合併症が増加するため61),最近の論文37, 70)および欧州のガイドラインでは68),心毒性の高リスクの患者は継続的なフォローアップが推奨されている.心毒性の高リスク患者とは,アントラサイクリン総投与量がドキソルビシンに換算して250 mg/m2 以上,アントラサイクリンが5 歳未満で投与開始された場合,アントラサイクリンと胸部への放射線照射の両方を受けている場合,胸部への放射線照射を15 Gy 以上受けている場合,奮闘的な運動(ウェイトリフティングなど)を専門的に行う場合,妊娠時,出産後,先天性心疾患の存在,総赤血球輸血量40 単位または赤血球濃厚液100 mL/kg 以上の輸血歴,治療終了後1 年以上経過しても血清フェリチン1,000 mg/mL 以上の場合とされている71).
その他,より長期のフォローアップ期間,女児,シクロホスファミド,ビンクリスチン,ブレオマイシンなどの併用も心毒性のリスクが高いとされている71). b.評価項目
i.心機能
欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインでは,GLS が評価項目に加わった68).LVEF が正常下限より10% 以上低下した場合,もしくはGLS が治療前と比較して15% 以上低下した場合を心毒性の指標として用いることを推奨して
表20 アントラサイクリン換算表ドキソルビシンを1 とした時の心毒性
ATC 名略語心毒性換算ドキソルビシンDXR 1ダウノルビシンDNR 0.83イダルビシンIDA 5ミトキサントロンMIT 4ピラルビシンTHP 0.6エピルビシンEPI 0.67 (前田美穂他編.2013 69)より)
図16 小児がんの治療におけるアントラサイクリンの投与時期,総投与量別のフォローアップ期間(Zamorano JL, et al. 2016 68),前田美穂他編.2013 69)より作図) (その他の高リスク群も外来フォロー継続)
治療開始前
アントラサイクリン投与
最終使用後1 ~3 ヵ月
治療終了時
投与量にかかわらず
1 歳未満で開始
15 歳まで1 年に1 回
20 歳まで2 年に1 回
外来フォロー
継続ドキソルビシン換算100 ~250 mg/m
2 1 歳以上 5 歳未満で 開始
15 歳まで1 年に1 回5 歳以上10 歳未満で開始10 歳以上で開始
20 歳まで2 年に1 回20 歳まで2 年に1 回治療終了後
10 年まで2 年に1 回
外来フォロー
継続ドキソルビシン換算250 mg/m 2 以上
1 歳以上10 歳未満で開始10 歳以上で開始
20 歳まで2 年に1 回治療終了後
10 年まで1 年に1 回
外来フォロー
継続外来フォロー
継続
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いる.現在,2 次元超音波によるLVEF 計測より正確とされる,3 次元超音波によるLVEF 計測が可能となった.しかし,2 次元超音波のGLS の方が心毒性の鋭敏な評価方法として有用であり72),心エコーの機種間の計測値の相違や,検査者に新たな技術が要求されることを認識する必要がある68).
核医学およびMRI 検査も推奨されているが,被曝,コスト,鎮静などの問題で,頻繁に行うことは一般的に困難である.核医学的検査によりLVEF が50% 以下で,治療開始前に比べて10% 以上低下した場合は心毒性ありと判断される.また,MRI は他の検査で心機能が評価不可能な場合と,左室機能不全の確定診断時に有用とされている68). ii.血液検査
心毒性の診断のために血液検査による脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびNT-proBNP の計測が推奨されている.BNP,NT-proBNP が100 pg/mL もしくは400 pg/mL 以上の場合は精査あるいは専門医に紹介を,200 pg/mL もしくは900 pg/mL 以上の場合は原因検索,および症状をともなう場合は治療開始もしくは専門医に紹介することを推奨している69).また,トロポニンI や高感度トロポニンI の上昇を認めた場合は心機能が低下する可能性があるため,注意する必要がある73, 74). iii.その他の方法について
その他,冠動脈疾患,QT 延長を中心とした各種不整脈,心室機能不全の二次性に発生し得る弁機能不全,高血圧,肺高血圧,心外膜疾患,自律神経障害などに留意してフォローを行う68). c.治療i.心保護剤の投与
危険因子がある場合,もしくはアントラサイクリンをドキソルビシンに換算して250 ~300 mg/m2 投与の予定の場合,ACE 阻害薬もしくはβ遮断薬を化学療法の終了後1 ~ 5 年間の投与継続が推奨される68).また,以前に心毒性を認めた薬剤を再び使う場合には,ACE 阻害薬かβ遮断薬などの心保護薬を用いることが推奨されている68, 75).
しかしながら,危険因子がなく,かつアントラサイクリンの大量投与もしくは大量放射線照射がない場合に,ACE阻害薬,ARB,β遮断薬の投与を開始するべきか否かについては結論が出ていない68).心不全治療を要した場合は,たとえ治療後に状態が安定しており,今後化学療法が予定されていない症例でも,心不全治療の継続が推奨される68).なお,トラスツズマブによる心機能障害は一過性である場合が多いので,この限りではない68).
心毒性が発見されたら,なるべく早期のACE 阻害薬またはβ遮断薬,もしくはその両方の投与が推奨されてい
る68).併用投与は単独投与より予後がよいことが最近報告されている75, 76).また投与期間は化学療法中および完了1 ~5 年間の心保護薬の投与が推奨されている68). ii.化学療法の変更
治療中もしくは治療後に症状のある心不全を認めた場合には,化学療法の変更や中止について循環器の専門家と協議し決定する68, 75).しかしながら,ストレインのみが低下している無症状の患者に対して,化学療法の減量や中止をすべきではない67, 77, 78).
2 小児における検査法(総論)
2.1 心電図(ホルター心電図を含む)
心電図検査は循環器疾患の診断において,必要不可欠な検査である.その非侵襲性と簡便性,低コスト性から広く用いられている.また,機器のデジタル化にともない,非常に小型のモニター心電図や12 誘導心電図を計測する機械が広く普及している.おもな適応の例は表21 の通りである.
心電図を用いた検査は,標準12 誘導心電図,15 誘導心電図,ベクトル心電図,加算平均心電図,運動負荷心電図,薬物負荷心電図,ホルター心電図,イベントレコーダ,植込み型心電図などがある.検査によっては侵襲的であったり,危険をともなうものであったりすることから,検査を実
表21 小児循環器疾患の診断における心電図検査の適応
の例先天性心疾患頻脈性不整脈徐脈性不整脈刺激伝導障害心筋虚血心房・心室肥大心筋症心筋炎心外膜炎・心嚢液貯留チャネル病(QT 延長症候群,QT 短縮症候群,ブルガダ症候群,カテコラミン誘発性多形性心室頻拍など)電解質異常ペースメーカ作動のチェック
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施する際には適応と危険性を判断し,適切に実施することが肝要である.
2.1.1 心電図の種類
a.標準12 誘導心電図・15 誘導心電図
標準12 誘導心電図はもっとも普遍的に行われている心電図検査である.心電図検査の適応となる診断において,まず始めに行われるべきものであり,非常に多くの情報を得ることができる.小児においてはV3R,V4R 誘導を加えた15 誘導心電図をとることがある.また,ブルガダ症候群の診断においてはV1,V2 を1 肋間上で記録することがある.仰臥位での記録が原則であるが,小児では座位やだっこでの記録もやむを得ない場合がある.この場合筋電図などのノイズが乗りやすいため,状況によっては鎮静を考慮する. b.ベクトル心電図・加算平均心電図
現在ベクトル心電図のみを単体で検査することはなく,標準12 誘導心電図から仮想のベクトル心電図を計測することができる.また加算平均心電図はベクトル心電図を加算平均することで遅延電位(LP)を測定し,重症心室性不整脈や突然死の予知に用いられる.通常の12 誘導心電図に比べて検査時間が長いため,小児においては鎮静を要することがある. c.運動負荷心電図
マスター二階段試験,トレッドミル,自転車エルゴメータ負荷といった運動負荷を行い,心電図をとるものである.被検者の年齢や運動能力を加味して適応を決める必要があり,特にトレッドミル負荷を行う場合には,安全に実施するための対策を行わなければならない.また負荷により重篤な心室性不整脈が起こる可能性があり,心肺蘇生の準備が必要であると同時に十分な経験を持つ医師とともに行わなければならない. d.薬物負荷心電図
薬物を投与しながら行う心電図検査である.WPW 症候群の診断やブルガダ症候群の診断に用いられる.用いられる薬剤としてはアデノシン3 リン酸,ピルジカイニド,フレカイニド,プロカインアミド,アドレナリンなどがあげられる.薬物による副作用に注意するとともに,重篤な心室性不整脈が起こる可能性があり,心肺蘇生や特異的な治療薬(イソプロテレノール,β遮断薬など)を準備し,十分に経験と知識を持つ医師が行わなければならない. e.ホルター心電図,イベントレコーダ,植込み型心電
計12 誘導心電図記録中にはとらえられない心電図変化を記録する検査として,ホルター心電図,イベントレコーダ,植込み型心電計があげられる.
ホルター心電図は長時間連続した心電図を記録するもので,24 時間から1 週間記録できるものもある.イベントレコーダは症状や心電図変化をトリガーにして心電図を記録するもので,イベントの際に装着して記録する非ループ型と,長時間装着しておき,イベントがあった時点の前後の心電図を記録するループ型に分けられる.皮下に植込むループ型のイベントレコーダは,イベントだけでなく体動なども記録できたり,遠隔モニタリング可能なものもある.これらの心電計は失神の鑑別や頻脈性・徐脈性不整脈の診断に用いられる.
ホルター心電図の解析は通常コンピュータによる自動解析が行われる.小児や先天性心疾患をもつ患者の場合自動解析が困難な場合があり,評価や解釈には不整脈専門家が必要なことがある.
2.1.2 正常心電図の年齢・性別による変化
小児の心電図を解釈する上で留意しなければならないこととして,正常心であっても成長にともなって心電図が変化することがあげられる.すなわち,生直後の右室優位右軸偏位の心電図から,徐々に左室優位の心電図に変化する.また心拍数は徐々に遅くなり,PR 間隔やQRS 幅,QT 時間の絶対値は徐々に延長する.補正QT 時間の正常値は年齢によっては性差がある.おもな心電図の正常値,QT 時間の正常値を掲げる(表22,23) 79, 80).学校心臓検診では二次検査抽出のための基準81)が定められており,別途参照されたい.
2.1.3 心房負荷,心室負荷所見
心電図における心房・心室負荷所見は先天性心疾患や心筋症の診断に有用である.心房・心室負荷所見の特徴,および年齢・性別による心室負荷所見の診断基準を表24, 25 82, 83)にあげる.
2.2 胸部単純X 線(検査)
小児における先天性心疾患の有無について,胸部単純X線の正確性は低いことが報告されている84, 85).超音波診断装置などが普及している今日,先天性心疾患の診断という面での胸部単純X 線の重要性は低い.しかし,胸部単純X 線は簡便で安価な検査法であり,肺血流増多などの疾患の重症度評価や,経過観察において血行動態の変化をとらえる検査として,依然として重要と考えられる.
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2.2.1 検査の特性と技術的問題
撮影装置は広く普及しており,技術の進歩によって放射線被曝も著しく低下している.
乳幼児では呼吸を止めることができず,泣いたり体動が激しいことも多いため,適切な吸気時の写真を撮影することが困難である.正確な方向で撮影するため,姿勢を維持する工夫が必要である.乳児は臥位で撮影することが多いが,臥位での撮影や呼気撮影では心陰影が大きく写る.
新生児期から乳児期早期で胸腺が大きく心陰影と重なる場合や,側弯症の合併などで椎骨が重なる場合には,正しく心陰影を評価できないことがある. a.検査の臨床的意義
胸部単純X 線では心陰影,肺血管陰影,肺野・気管・気管支陰影,腹部臓器(肝臓や胃泡),骨格系(肋骨や脊柱)を評価する. b.心陰影
心陰影の位置,大きさ,形を確認する.通常心尖部は左下方を向いている.心臓の大部分が右胸郭内にある場合を右胸心(dextrocardia),中心にある場合を正中心あるいは中位心(mesocardia)という.全内臓逆位にともなう右胸心では心疾患の合併は少ないが,孤立性右胸心では心疾患の合併が疑われる.
心陰影の大きさは一般に心胸郭比(CTR)で評価される.乳幼児では心臓が水平位のため大きく計測されやすく, CTR の正常範囲は,小児や成人では50% 以下,新生児では60% 以下とされる86, 87).CTR は立位で十分な吸気時に撮影された画像でのみ評価されなければならない.ただし, CTR は心エコー検査における心内腔の計測値とは相関しないことが報告されている88).
心陰影は,心室中隔欠損などによる左室拡大では長軸に沿って心尖部方向へ伸びるように拡張するが,心房中隔欠損に代表される右室拡大では左肩から心尖部にかけて緩や
表23 接線法によるQT 延長の診断基準(QTcF 値:秒1/3)
小学1 年 男児同 女児0.430 0.430中学1 年 男子同 女子0.445 0.445高校1 年 男子同 女子0.440 0.455 Fridericia 補正{(QT 間隔)/(先行RR 間隔) 1/3 }を用いるQT 時間は接線法で計測する.他学年についてはデータがないので上記の値を参考にする. (吉永正夫他.2013
80)より)
表22 小児における年齢別心電図正常値
0~1 日1~3 日3~7 日7~30 日1~3ヵ月3~6 ヵ月6~12ヵ月1~3 年3~6 年6~9 年9~13 年13~18 年
心拍数(/ 分) 109~150
(131) 111~152
(132) 111~163
(137) 124~169
(148) 126~169
(148) 120~154
(135) 103~161
(130) 85~126
(105) 75~117
(94) 74~119
(94) 70~119
(91) 58~105
(80)
前額面QRS軸(度) 87~181
(124) 87~177
(122) 87~150
(118) 62~147
(109) 44~123
(79) 39~94
(64) 17~96
(60) 27~90
(63) 19~96
(66) 35~92
(67) 34~93
(66) 24~95
(67)
PR リードII 94~127
(112) 96~130
(112) 93~131
(111) 92~131
(111) 92~128
(108) 96~131
(111) 100~140
(118) 108~152
(126) 112~152
(129) 110~152
(131) 112~158
(134) 116~170
(140)
QRS 幅56~91
(70) 57~89
(71) 58~87
(72) 59~82
(71) 58~91
(74) 65~92
(78) 65~94
(79) 71~99
(84) 71~99
(86) 74~97
(86) 76~102
(89) 80~112
(96)
R 振幅,V1 0.39~1.65
(0.92) 0.35~1.51
(0.86) 0.44~1.51
(0.92) 0.33~1.35
(0.78) 0.26~1.00
(0.60) 0.16~1.25
(0.61) 0.20~1.17
(0.59) 0.16~0.92
(0.52) 0.12~0.78
(0.39) 0.08~0.77
(0.38) 0.09~0.68
(0.33) 0.06~0.74
(0.32)
S 振幅,V1 0.1~0.91
(0.36) 0.0~0.71
(0.24) 0.1~0.59
(0.23) 0.0~0.40
(0.19) 0.0~0.44
(0.18) 0.1~0.85
(0.32) 0.0~0.81
(0.36) 0.2~1.08
(0.57) 0.1~1.14
(0.59) 0.1~1.35
(0.7) 0.2~1.35
(0.73) 0.2~1.67
(0.84)
R 振幅,V6 0.15~1.13
(0.66) 0.25~1.23
(0.66) 0.30~1.21
(0.69) 0.28~1.48
(0.75) 0.31~1.83
(1.08) 0.80~1.93
(1.31) 0.64~2.01
(1.32) 0.74~1.92
(1.27) 0.71~2.23
(1.43) 0.82~2.34
(1.49) 0.70~2.12
(1.36) 0.58~1.93
(1.15)
S 振幅,V6 0.01~1.09
(0.47) 0.04~1.04
(0.47) 0.10~0.83
(0.43) 0.06~0.69
(0.38) 0.01~0.62
(0.27) 0.01~0.64
(0.26) 0.03~0.69
(0.31) 0.00~0.47
(0.17) 0.00~0.53
(0.23) 0.00~0.50
(0.2) 0.00~0.56
(0.18) 0.00~0.50
(0.18)
R/S 比,V1 0.75~16.55
(4.79) 0.64~22.75
(6.69) 1.20~17.53
(6.20) 0.68~18.83
(6.10) 0.09~14.51
(4.88) 0.75~9.67
(3.44) 0.55~11.72
(3.14) 0.31~2.23
(1.45) 0.20~3.25
(0.95) 0.15~1.74
(0.77) 0.12~1.34
(0.67) 0.09~1.06
(0.47)
R/S 比,V6 0.29~8.69
(3.06) 0.52~11.60
(2.97) 0.57~5.21
(2.42) 0.56~7.48
(2.98) 0.90~12.35
(5.16) 1.75~20.03
(6.69) 1.39~17.29
(5.85) 2.21~19.50
(8.93) 0.21~23.00
(9.27) 2.20~27.86
(11.35) -1.00~31.67
(11.00) 1.27~32.17
(11.66)
値は5% タイル~95% タイル(平均値) (Lue HC, et al. 2006
79)より作表)
p.41
かな弧を描くように,短軸方向へと突出する89).よく知られている特徴的な型を示す心疾患としては,木靴型(ファロー四徴症)や卵型(完全大血管転位),雪だるま(8 の字)型(総肺静脈還流異常で垂直静脈が無名静脈に還流する場合.Darling 分類Ia 型)などがある(図17) 89–92).大動脈を丹念に確認すれば,右大動脈弓の診断や年長例では3 の字サインから大動脈縮窄を診断することも可能である90, 91). c.肺血管陰影
肺血管陰影から肺血流の増加や減少,肺うっ血を診断する90, 91).肺血流増加群では肺門部の肺動脈は拡張し,肺血管陰影の増強は右肺動脈陰影が気管透亮像よりも拡大することや,血管陰影が肺野の末梢1/3 まで続くことから診断する.一方,肺うっ血では肺野全体がすりガラス様になる. d.肺野・気管・気管支陰影
肺野では,左房拡大や合併する気管病変による無気肺,肺の過膨張,および胸水貯留,横隔膜ヘルニア,肺分画症
などの心外合併症を診断する.肺葉間裂隙(hair line)が
図17 代表的心形態異常の典型的な心陰影図(中澤誠編.2005
89)より改変)
心房中隔欠損心室中隔欠損ファロー四徴症
完全大血管転位
(I/II 型)総肺静脈還流異常
(Ia 型)エプスタイン病
表24 先天性心疾患および心筋症の診断における心電図の心房・心室負荷所見の特徴
右房負荷P 波電気軸:+60°以上II,III,aVF で高く鋭いP 波II のP 波の幅;正常範囲V1 で高く鋭いP 波V1 で早い立ち上がりのP 波右房肥大(圧負荷)の時は高く,鋭く,立ち上がりの早いP 波で,右房拡大(容量負荷)の時は正常波高の尖ったP 波を示す傾向がある.高いP 波の目安はII で0.10 秒以上左房負荷P 波電気軸:+60°より左軸(ふつう+40 ~-30°) I,II で二峰性の幅広く低いP 波V1 で陰性P 波か陰翳部分が大きい二相性P 波V5,V6 で幅広く低い結節性P 波幅の広いP 波の目安はII で0.10 秒以上両房負荷II,IIIa,VF で幅広くかつ高いP 波V1 でP 波の陽性成分,陰性成分ともに顕著右室容量負荷V1 でrsRʼ,RSRʼ,slurred R,qR 型V5,V6 で幅広くスラーのあるS 波時計方向回転(水平面:移行帯左偏)右室圧負荷V4R~V2 でR,Rs,qR 型で高いR 波初期部分にノッチまたはスラーのあるR 波陽性T 波,ST 降下をともなったストレイン型T 波高いR 波の目安は1.5~2 mV 以上左室容量負荷V5~V7 で 高い変形のないR 波深いQ 波ST 軽度上昇高く鋭いT 波反時計方向回転R 波増高の目安は3~4 mV 以上深いQ 波の目安は0.5 mV 以上左室圧負荷I,II,aVF,V5,V6 で高いR 波V1,V2 で深いS 波I,V5~V7 でST 低下aVR,V1 でST 上昇aVR,陽性T 波aVL,V5~V7 でT 波平低化,陰転R 波増高の目安はV5~V7 で3~4 mV 以上両室負荷V4R~V2 でR,qR 型で高いR 波V5~V7 で高いR 波と深いS 波(柴田利満.心電図.高尾篤良編「臨床発達心臓病学第2 版」中外医学社,1997,p.164 82)より改変)
p.42
観察できれば,肺の分葉が診断できる.
気管は通常の左側大動脈弓では右方へ偏位するが,気管の偏位の方向から右側大動脈弓や大動脈離断,重複大動脈弓が示唆される(図18) 93).また,気管支の分枝の様式からは内臓逆位や心房内臓錯位症候群が診断される90, 91). e.内臓の位置
胃泡の位置と肝臓の形態は重要で,通常は胃泡の位置と心尖の向きは左であり,ともに右であれば内臓逆位,胃泡の位置と心尖の向きが逆の場合には心房内臓錯位症候群が疑われる90, 91).また,左右対称の肝臓からも心房内臓錯位症候群が疑われる(図19) 89). f.骨格系
骨格系の異常から心疾患の基礎疾患が疑われる場合がある.側弯症からはマルファン症候群,脊椎の異常からは
図18 大動脈弓と気管の偏位(中澤誠編.2005 89)より改変)
大動脈弓
左側大動脈弓右側大動脈弓大動脈離断重複大動脈弓
表25 年齢・性別による心室負荷所見診断基準
0~7 日8~30 日1ヵ月~ 2 歳3~11 歳12 歳以上
男女
(1)左側胸部誘導のST–T の肥大性変化+ + + + + + (2)左側胸部誘導の高いR 1 Rv6 ≧1.5 mV ≧2.0 mV ≧2.5 mV ≧3.0 mV同左≧2.5 mV
2 Rv5 ≧2.5 mV ≧2.5 mV ≧3.5 mV ≧4.0 mV 同左 ≧3.5 mV
(3)右側胸部誘導の深いS 1 Rv6 +|Sv1| * * ≧4.0 mV ≧5.0 mV同左≧4.0 mV
2 Rv5 +|Sv1| * * ≧5.0 mV ≧6.5 mV ≧6.0 mV ≧5.0 mV
3 |Sv1| ≧2.5 mV ≧2.0 mV * * * *
(4)II,III,aVF 誘導の高いR 1 RII およびRIII * * ≧2.5 mV同左同左同左
2 RaVF * * ≧2.5 mV 同左 同左 同左
(5)左側胸部誘導の深いQ |Qv5|<|Qv6|でかつ|Qv6| * * * ≧0.5 mV同左同左(6)左側胸部誘導のVAT 延長V5 またはV6 * * ≧0.04 秒≧0.05 秒≧0.06 秒同左(7)左軸偏差QRS 電気軸* * * 0°以上-30°以上同左1) ST -T の肥大性変化:V5 またはV6 で,高いR 波を認め,T 波が陰性または2 相性(-~+型)のもの,ST 区間は下り坂ないし水平のことが多い. 2) WPW 症候群や左脚ブロックがあれば,左室肥大の判定は困難である. 3) *印はその年齢ではとりあげない項目(大国真彦.1986
83)より)
図19 胸腹部単純X 線写真による内臓心房位の診断(中澤誠編.2005 89)より改変)
正位逆位左側相同右側相同
hair line
肝
脾胃?
複数の脾臓
肝肝肝
脾胃?
hair line
胃胃胃
p.43
VATER 症候群の合併を疑う90, 91).
また,年長例の大動脈縮窄では拡大した肋間動脈による肋骨下部侵食像(rib notching)が認められることがある90, 91).
2.2.2 問題点
胸部単純X 線(検査)は簡便な検査で,繰り返し行うことができるが,放射線被曝をともなうため必要最小限に行わなければならない.また,前述のように年少児では撮影条件を一定に保つことが難しいため,経時的な比較が困難な場合がある.
2.3 心エコー検査
心エコー検査は,心臓内部の正確な形態診断にもっとも優れた診断法である.経胸壁心エコー検査だけでなく,経食道心エコー検査や胎児心エコーは詳細診断や治療予測に有用で,多くの症例で施行されるようになった.
2.3.1 検査の特性と技術的問題
心エコーは,形態診断と血行動態評価に用いられる.ベッドサイドで簡便かつ非侵襲的に行うことができるため,新生児の重症例でも検査が可能である.先天性心疾患の診断能力がもっとも高く,診療において中心となる検査法である.複合心形態異常の診断には系統的な検査が必要で,立体構築をとらえるために区分診断法(segmental approach)が用いられる94–97).先天性心疾患の診断においては従来の断層心エコー検査が主体であり,複合心形態異常の診断では三次元の心臓を断面の組み合わせから頭の中で構築しなければならず,経験が必要である.
心臓用のセクタプローベは10 ~12 MHz(新生児用), 6 ~8 MHz(小児用),5 MHz 以下(成人用)があり,解像度,空間分解能を上げるため,体格に合わせてできるだけ高周波のものを使用する.また,フレームレートを上げて時間分解能を保つには,ズーム機能,画角調整などで調整するとよい.
プレセットの調整も重要で心内膜面,房室弁,心筋が明瞭に描出されるように,ゲインやダイナミックレンジなどを調整して施行するとよい.ハーモニックイメージは二次高調波信号をとらえてノイズを少なくする方法で,深度が深い場所など小児でも画質が向上することがあるので適切に用いるとよい.
2.3.2 経胸壁心エコー
a.形態診断
断層心エコー検査により,区分診断法を用いて診断する.区分診断法を行うには,多断面の観察とプローベをtilting
や平行移動し,解剖学的連続性を観察する必要がある.剣状突起下,左胸骨傍,右胸骨傍,心尖,鎖骨上から多断面を撮像する.
解剖学的な詳細な区分診断の解説は他章にゆずり,本章では,心エコーによる5 ステップの区分診断の実際について述べる(図20 ~24) 97). i.ステップ1:心房位
心房位は,剣状突起下の水平断面と矢状断面で診断する.水平断面で椎体の左右どちらに下大静脈と下行大動脈があるかを観察する.さらに,矢状断面で下大静脈が還流する心房が右房と診断してよい.下大静脈が左側にあれば,左側の心房が右房となり,心房逆位(I)となる.
椎体に対して同側に下大静脈と下行大動脈が並列走行していれば,内臓臓器錯位症候群の右側相同を疑い,下大静脈がなく,下行大動脈とその後方に奇静脈や半奇静脈を観察できれば左側相同を疑う.心房位は不定位(A)となる(図20).
ii.ステップ2:心室位
心室位は,短軸断面,四腔断面,長軸断面,それぞれで前述の心室の解剖学的特徴と位置をもって診断する.
短軸断面では,心室の位置を左右,後方どちらかにあるか,乳頭筋が自由壁もしくは中隔から起始しているか,中隔面が粗か平滑か,などを観察し,左室が右室の左にあれば右ループとなる(図21).
四腔断面では,房室弁の付着位置が心尖に近い,調節帯があるかで,右室と左室を評価でき,左右の心室を決定する.
長軸断面では,漏斗部,つまり動脈円錐を持つ心室が右室となる.短軸断面で右室が左右どちらかにあるかを観察する.
単心室では,痕跡的左室は後方に,流出路腔である右室は前方に存在し,左右を決定する.また,単心室に動脈円錐があり,房室弁から距離があれば,その心室は右室となり,痕跡的左室がわかりにくくても診断可能である. iii.ステップ3:大血管位
大血管位は,流出路および大血管のレベルの短軸断面や矢状断面を用いて診断する.大血管レベルの短軸で左右に分かれるのが肺動脈である.またarch を形成し,頸部動脈を分枝するのが大動脈である.
正常では,大動脈弁は右後方,肺動脈弁は左前方にあり,らせんを描いて心室から起始する.短軸断面で,肺動脈下の流出路は,大動脈弁の周りをまわるように走行し,肺動脈が起始する.しかし,前後が逆転し,大動脈が前方,肺動脈が後方になると両大血管は並行に走行することとな
p.44
心房位正位:S
心房位逆位:I
心房位不定:A
前前
尾側頭側左右
後後
IVC dAo
RA
IVC
IVC IVC
IVC IVC RA
RA
dAo
dAo dAo spine
spine
spine
脊柱より右側の断面
脊柱より左側の断面
脊柱より右側の断面
下行大動脈下大静脈並列走行
剣状突起下水平断面剣状突起下水平断面図20 心エコーによる5 ステップ診断法における心房位の決定(里見元義.2008 97)より改変)剣状突起水平断面でVC とdAo が脊柱のどちら側にあるかを判断し,矢状断面でIVCが実際に還流する心房qを右房とする.
IVC:下大静脈dAo:下行大動脈RA:右心房
る.このとき,大動脈が右前,肺動脈が左後ろにあればD型大血管転位,大動脈が左前,肺動脈が右後ろにあればL型大血管転位となる.また,大動脈と肺動脈が左右同列で並走することもある(図22). iv.ステップ4:心房- 心室関係
心房- 心室関係は,四腔断面で診断する.5 つの解剖学的関係と2 つのつながり関係がある.解剖学的関係は,整
列(房室中隔欠損などにおいて,四腔断面で心房中隔と心室中隔が相対している),房室交叉,一側房室弁両室挿入,両側房室弁同室挿入,一側房室弁閉鎖,つながり関係は,房室接続一致,房室接続不一致の2 つがある.たとえば,房室交叉は,四腔断面では心房- 心室接続がみえない.房
LV RV
LV
LV RV RV
RV
LV
図21 心室位の決定(里見元義.2008 97)より改変) RV:右室
LV:左室D-loop
L-loop
p.45
室弁が上下にあり,流入路が交叉しているように観察される.一側房室弁両室挿入は,どちらかの房室弁が両心室にまたがって存在し,腱索が両心室に挿入しているのが観察される(図23). v.ステップ5:心室- 大血管関係
心室と大血管の接続関係は,正常起始,大血管転位,両大血管右室起始,両大血管左室起始,単一動脈起始があ
る.心エコーでは,長軸断面をおもに利用して診断する.
大血管転位は大動脈が右室から,肺動脈が左室から起始する.しかし長軸断面でみると,大動脈弁が動脈円錐をもつため,三尖弁から離れ,肺動脈弁は僧帽弁と線維性連続をもち,弁のヒンジポイントが一致している.両大血管
RV
RV
RV
LV LV
LV
LV
LV RA
RA
RA RA
RA
OC
LA
LA
LA
LA LA
正常整列両側房室弁同室挿入三尖弁,僧帽弁が左室に挿入
房室交叉房室部分が上下で交叉している一側房室弁両室挿入三尖弁が両心室に挿入LA:左房
OC:流出路腔
図23 心房心室接続の決定(里見元義.2008 97)より改変)
図22 大血管位位置関係の決定(代表例) (里見元義.2008 97)より改変)
Ao Ao
Ao
Ao
正常大血管関係 D-spiral:N
D-parallel:D 型大血管転位L-parallel:L 型大血管転位
D-side by side:D 型大血管転位L-side by side:L 型大血管転位
正常大血管関係L-spiral: inverted normal “IL”
左右
後
前
PA Ao
Ao PA
PA PA
PA Ao:大動脈PA:肺動脈
p.46
右室起始は大動脈と肺動脈の両方が右室より起始し,大血管の150% が右室から起始する.長軸断面で後方の大血管が50% 以上心室中隔に騎乗している.非常にまれであるが,大動脈と肺動脈の両方が左室より起始する両大血管左室起始がある.単一動脈起始は心室からは1 本のみの大血管が心室中隔に騎乗して起始する(図24).
各弁の形態や心内腔の大きさ,壁厚,血管の径を観察,測定も不可欠である.小児における各種計測値の正常値に関して,欧米では大規模な検討が行われている95, 98–101).成人と異なり,複合心形態異常では心室容積や弁輪径,血管径が小さいことの評価も重要になる.たとえば,左右心室の大きさが違う場合には,2 心室型修復が可能であるのかどうか,小さな心室を正確に評価する必要が生ずる.こうした計測に心エコー検査は不可欠な方法になっている(クラスI).また,心室中隔欠損の欠損部位や欠損孔の径の診断や弁逆流の機序診断では,心エコー検査がもっとも優れている95, 102). b.血行動態診断
ドプラ法により血流波形や流速を測定することで弁や血管の狭窄の程度が確認でき,カラードプラ法により短絡や弁逆流などの異常血流がとらえられる. c.狭窄病変の評価
狭窄部を通過する最大血流速度から簡易ベルヌーイ式を用いて圧較差を推定することができる103).
d.弁逆流の評価
カラードプラ法により成人と同様に行う.逆流ジェット面積,逆流の幅,縮流(vena contracta)の幅を計測する半定量法や,ドプラ法の折り返し現象を利用した近位部等流速表面(PISA)法,パルスドプラと弁口面積を用いたvolumetric 法の定量法などがあり,小児でも応用可能である95). e.左右短絡の評価
右室流出路と左室流出路におけるパルスドプラ法による流速積分値(time velocity integral)と流出路径からそれぞれの1 回拍出量を算出し,その比から肺・体血流量比を求めることができる104).しかし誤差が大きいため,欠損孔の大きさや心房・心室の拡大の程度も合わせて評価するとよい. f.肺高血圧症の評価
連続波ドプラ法で求めた三尖弁逆流速度から簡易ベルヌーイ式を用いて右室右房圧較差を算出し,これに推定右房圧(通常10 mmHg)を加えて右室収縮期圧を求める方法が広く使われている105).心室中隔欠損や動脈管開存では,短絡血流速度から簡易ベルヌーイ式を用いて圧較差を算出し106),測定した体血圧から圧較差の差をとることで肺高血圧症の評価ができる.ただし,欠損孔が小さい場合
RV RV
RV
RV RV
正常大血管起始
両大血管右室起始
大血管転位
LV
LV
LV LV
LV
LA
LA RA
PA
PA
Ao
RA Ao
Ao
図24 心室大血管接続の決定(里見元義.2008 97)より改変)大血管転位:大動脈が解剖学的左室から起始する.
両大血管右室起始:両大血管が右室から起始する.
p.47
には短絡血流速度の正確な計測が難しいことがあるので,注意が必要である.また,心室短軸断面における心室中隔の湾曲を利用する方法や肺動脈弁のsystolic time integral (pre-ejection period/ejection time 比)から右室圧を推定する方法もある97). g.心機能評価
左室収縮機能の指標としてはLVEF,左室拡張機能の指標としてE/A 比などが広く用いられている(クラスIIa).心機能総合指標のテイインデックス,拡張機能評価に用いられる組織ドプラなどの心機能評価の一助となるが,正常値は成人と小児で多少異なり,注意が必要である107, 108).右室収縮能の指標としては確立された方法はないが,四腔断面や短軸断面の面積変化率(RVFAC)を用いることもある.心エコー検査の診断精度向上とともに,心臓カテーテル・心血管造影検査を行わず,心エコー検査だけで手術を行うことも増加してきている109, 110). h.問題点
ベッドサイドで簡単に行うことができ,多くの場合,確定診断を得ることができる.良質な画像は,エコーウィンドウに左右されるので多断面で診断する.区分診断法に習熟する必要がある.
2.3.3 経食道心エコー
経食道心エコーは,心内構造のほぼすべてと胸部大動脈の観察に適している.特に房室弁,流出路(半月弁および弁下)において,解剖学的異常による狭窄,逆流病変の詳細診断,静脈洞型,冠静脈洞型心房中隔欠損症や部分肺静脈還流異常の検出などに有用である.その他の場合でも,肥満や胸郭変形などの症例で経胸壁心エコーが入りにくいとき,感染性心内膜炎の弁や人工弁機能異常で診断が難しいときなどには,積極的に活用するとよい.また,カテーテル治療では,経皮的心房中隔欠損閉鎖術における適応判断,モニタリングに重要な役割をもち,その施行には専門的な技能を必要とする.
小児の心臓手術においては,術中モニタリング(体外循環離脱時の心機能や心内腔のエアーの存在),術前,術直後の房室弁および左室流出路の形態評価,術後残存シャントの有無,冠動脈狭窄の評価など広く用いられる95).
経食道心エコーのプローベは,径が5 mm 前後の新生児用,7 mm 前後の小児用,10~13 mm 前後の成人用があり,体格に合わせて挿入するプローベを選択する. a.合併症
小児では全身麻酔下で施行することがほとんどである.重篤な合併症はまれではあるが,その発生率は2~3% と成人と比較して高い.注意すべき合併症としては,プローベ操作による事故抜管,大動脈や左房の圧迫による血行動
態変化,気道圧迫,頻拍やブロックなどの不整脈などがあげられる.特に新生児や乳児期早期の症例には注意が必要で,なるべく細いサイズのものを選択して挿入する111, 112).
2.3.4 三次元心エコー
三次元(3D)心エコーは,経胸壁,経食道,経心膜などのアプローチがあり,ともに房室弁や心室中隔欠損などの心内構造の詳細把握,外科手術のガイドに有用である.通常の二次元(2D)心エコーと併用すると,診断精度の向上に役立つ(図25) 113).どれも限られたウィンドウからのアプローチとなること,小児は心拍が早く十分なvolume rate が得られないことなどから,かならずしも良好な画像が得られるわけではないものの,先天性心疾患の臨床活用については方法論が定まりつつある.
心内腔の容量測定では,右室,左室ともに小児では報告114, 115)があるものの,右室容量計測の実用性はまだ高くない.左室は,若干MRI と比較して小さめに算出されるが,左室容量やLVEF は良好な相関関係にあり,実用性も比較的高く,簡易に求めることができる115).
2.3.5 胎児心エコー
正確な出生前診断に基づいて,関係する多職種が連携して前方視的な医療を行うことは,小児の心疾患の診療において非常に重要であり,その診断において主要な役割を果たすのが胎児心エコーである(表26)
116).
左心低形成症候群や完全大血管転位を始めとする重症の先天性心疾患において,出生前診断により生命予後,あるいは術前状態や神経学的予後が改善されると報告されている117–121).近年では,左心低形成症候群に移行する重症大動脈弁狭窄や肺動脈閉鎖/ 正常心室中隔,狭小化もしくは閉鎖した心房間交通をともなう左心低形成症候群などに
図25 乳児先天性僧帽弁逆流左は心房側からみた僧帽弁で前尖が短く低形成である.右は実際の術中所見で一致している. (瀧聞浄宏.2016
113)より)
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対する胎児カテーテル治療なども行われている122–124).
胎児治療を行うためには正確な出生前診断が必須である.分娩施設の選択や出生直後の治療介入の準備,娩出時期,その後の手術などの治療計画,そして両親への説明と心理的ケアなどさまざまな面において,出生前診断の果たす役割は大きい.先天性心疾患の出生前診断に基づいたリスク分類と分娩後のケアレベルについての推奨が出されている125).
なお,日本胎児心臓病研究会/ 日本小児循環器学会の胎児心エコー検査ガイドラインでは胎児心臓スクリーニング
(レベル1)と胎児心精査(レベル2)に分けられているが126),本ガイドラインではおもに胎児心精査(レベル2)を対象とする. a.検査の特性と技術的問題
胎児心エコー検査は出生前診断であることから,検査を行う際には事前にインフォームドコンセントを得て行うことが望ましい126).インフォームドコンセントには,診断の不確実性や,患者(両親)の知らない権利を尊重して検査を受けない,あるいは検査結果の告知を受けない選択もあり得ることを含める126).
胎児循環では臍帯静脈からの酸素化血が下大静脈へ還流し,静脈管・卵円孔・動脈管が開存している.肺血管抵抗が高いために肺血流量は生後の10 ~20% とされ,体循環は臍帯動脈を介して血管抵抗の低い胎盤と接続している.このような出生後の循環と異なった胎児循環の特性を理解して検査を行い,そこから出生後の血行動態を予測しなくてはならない.
胎児心エコー検査による妊娠初期の胎児心疾患の検出は,妊娠10 ~12 週から可能な場合があるとされているが127),通常の胎児心臓スクリーニングは妊娠18 ~22 週ごろに初回の検査を行うことが推奨されている126, 128).また,妊娠中期には明らかでなかった異常が出現・悪化する場合もあるため129),30 週前後との2 回の検査が推奨されている126).
胎児心エコーでは,超音波診断装置の条件設定に専用の設定が必要である.胎児心エコー検査ではコンベックスもしくはセクタプローブが用いられる126).深部感度が得られる可能な限り高い周波数のプローブを選択するが,妊娠18~20 週台前半までは5~7.5 MHz,30 週以降では3.5 ~ 5 MHz,母体や胎児の条件が悪い場合には2.5~3.5 MHzの周波数を選択する126).速く動く胎児の心臓を観察するためには高いフレームレート(最低20~40 Hz)が必要で,画像の深度や画角を狭めたり,ズーム機能を利用し,スキャンラインの間隔を広げることで調整する.パーシステンス機能はオフあるいは低レベルとし,ダイナミックレンジを狭めたり,妊娠後期ではハーモニックを使用することで良質な画像が得られる126, 128).
画像は超音波診断装置の性能向上にともなって改善されているが,胎児心エコーでは胎児が小さい,胎位や胎動,羊水過多・過少,母体肥満などの要因のために必要な断面が観察できなかったり,解像度が低下して十分な診断ができない場合がある.
先天性心疾患の診断においては,胎児の左右を決定することが非常に重要であるが,胎児心エコーでは胎児を上か
表26 胎児心エコー検査の適応
高リスクで適応がある場合(絶対的リスク>2% と推定される)糖尿病合併妊娠妊娠初期に診断された糖尿病母体自己抗体(抗SSA/SSB 抗体)母体投薬ACE 阻害薬レチノイン酸妊娠後期のNSAIDs妊娠初期の母体風疹罹患胎児心筋炎が疑われる母体感染症高度生殖補助医療(ART)胎児の一親等にCHD を有する場合(両親,同胞にCHD を有する)胎児の一または二親等にCHD を合併するメンデル遺伝病を有する場合産科の超音波検査で胎児心臓異常が疑われる場合産科の超音波検査で心臓以外の胎児異常が疑われる場合胎児染色体異常胎児頻脈,胎児徐脈,または不整脈が頻回な場合,不整脈が長く続く場合胎児NT>95%(≧3 mm)一絨毛膜性双胎胎児水腫または腔水症低リスクだが適応がある場合(1% <絶対的リスク<2% と推定される)母体投薬抗痙攣薬リチウムビタミンA SSRIs(パロキセチンのみ)妊娠初期/ 中期のNSAIDs胎児の二親等に先天性心疾患を有する場合臍帯や胎盤に異常がある胎児腹部の静脈に異常がある胎児適応にならない場合(絶対的リスク≦1%) HbA1c <6% の妊娠糖尿病母体投薬SSRIs(パロキセチン以外)ビタミンK 拮抗薬(クマリン),ただし胎児の全身検査は推奨される風疹以外の母体感染症でseroconversion のみ認められる場合胎児の一親等あるいは二親等以外にCHD を有する場合CHD:先天性心疾患,NT:後頸部浮腫(日本胎児心臓病学会・学術委員会編.2016 116)より)
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ら見下ろすように描出する.具体的には胎児の長軸断面を頭側が画面の右になるように下行大動脈や脊柱が水平になるように描出し,プローブを反時計方向に90 度回転させて水平断面を描出する.脊柱を12 時方向とすると9 時方向が右,3 時方向が左となる126).
超音波検査は低侵襲の検査法とされるが,特に組織の障害にする感受性が高いとされる妊娠早期の場合,出力の高いドプラ法やハーモニック法を用いて頻回の検査を行うと胎児障害の潜在的な危険性がある.米国食品医薬品局からは,胎児超音波検査の際の超音波強度に関するガイドラインが出されている128). b.検査の臨床的意義i.先天性心疾患の診断
胎児心エコーの基本断面は,胎児の水平断面で心臓の四腔断面を描出し,それを上下にチルトもしくはスイープして描出する.腹部断面,四腔断面,流出路断面,threevessel view,three-vessel-trachea view(図26),および矢状断での大動脈弓/ 動脈管弓断面が基本断面となる.
2D 画像での心房内臓位,心臓の位置・軸・大きさ,心血管構造の形態診断に加えて,カラーフローマッピング,パルスドプラを用いた血流診断,心機能評価を行う.画像は動画クリップで記録することが望ましい.必須とされる
検査項目は,各ガイドラインによりそれぞれ若干異なっている126, 128, 130, 131).
胎児心エコーでは,卵円孔・動脈管の早期閉鎖や静脈管欠損など胎児期特有の疾患にも留意する必要がある. ii.不整脈の診断
胎児不整脈の診断においては,胎児心磁図や胎児心電図を用いると直接胎児心臓の電気活動を評価できるため,より正確で詳細な評価が可能であるが,特殊な装置を必要とするために検査が可能な施設は限られている128, 132).
胎児心エコーでは,心臓の壁運動や血流から心臓の機械的活動を評価して不整脈を診断する.診断にはM モードエコー法とドプラエコー法が用いられる.
M モードエコー法では四腔断面などで心房壁と心室壁の両方を通るようにカーソルを置き,心房と心室の収縮を同時に記録して診断する.カーソルを大動脈弁と心房壁に置き,大動脈弁の開閉を心室の収縮ととらえる方法もある126).
ドプラエコー法では,左室流入路と流出路,上大静脈と上行大動脈,肺静脈と肺動脈の血流を両方同時に記録できるようにパルスドプラのサンプルボリュームを設定し,心房(上大静脈の逆流波など)と心室(上行大動脈の駆出波
図26 先天性心疾患の診断における胎児心エコーの基本断面Ao:上行大動脈,DA:動脈管,DAo:下行大動脈,LA:左房,LV:左室,MPA:主肺動脈,RA:右房,RtPA:右肺動脈, RV:右室,SVC:上大静脈,Tra:気管
AAo 5 Three-vessel trachea view
4 Three-vessel view
3 流出路断面
2 四腔断面
1 腹部断面DA MPA
LA LV AAo
SVC Tra spine
DA
MPA
MPA DA
DAo RtPA
SVC
AAo
AAo
spine
spine DAo
LV
spine DAo
spine DAo
LA
IVC 5 4 3 2
1
RV RA
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など)の収縮を計測する128).房室ブロックの診断におけるPR 間隔の測定には組織ドプラ法を用いた方法も報告されている133). c.問題点
胎児心エコー検査には検査の限界,不確実性がある.これには胎児循環の問題,前記の胎児や母体の要因による画質や視野の問題,胎児の成長にともなう変化が含まれる126).また,軽症の疾患や冠動脈異常などは出生前診断が難しい128).
先天性心疾患患児の多くはリスクの低い母体から出生するため134),先天性心疾患の胎児診断率向上のためには,胎児スクリーニングの向上が必須となる.しかし,胎児スクリーニングにおける先天性心疾患の診断率は比較的最近の報告でも高いとはいえず,施設間や地域間にも格差を認める135–137).また,大動脈縮窄や総肺静脈還流異常などは,出生後早期に手術治療が必要でショックをきたすリスクが高く,より胎児診断の重要性が高い疾患と考えられるが,その胎児診断率は低い135, 138).総肺静脈還流異常においては“post-LA space index” を用いた胎児スクリーニングが報告されている139).また,多断面表示による形態評価(STIC)法を用いた胎児スクリーニングや遠隔診断の可能性が報告されており140, 141),このような簡便なスクリーニング法や技術の進歩にともなう胎児スクリーニングの向上が期待される.
わが国では在胎22 週未満で検査を行う場合にのみ,その結果によって妊娠の中断(人工妊娠中絶)が選択される可能性がある.検査の時期の選択や結果の説明に際しては留意する必要がある.
2.3.6 心腔内エコー
心腔内エコー(ICE)は先端に超音波素子を内蔵したカテーテルを用いて血管内・心腔内から心臓,大血管を観察する超音波診断装置で,カテーテル治療の際のガイドとしての有用性が報告されている.現在利用可能なICEカテーテルはアキュナビ(AcuNav ®)(Siemens Medical Solutions 社製)で,シャフト外径は2.8 mm(8 Fr),フェーズドアレイ方式のシングルプレーンであり,B モード,M モード,ドプラモード(カラー,パルス)の表示が可能である. a.検査の特性と技術的問題
カテーテル治療のガイドとしては経食道心エコーが用いられることが多いが,ICE を用いたガイドのメリットとしては,経食道心エコーとは異なり全身麻酔を必要とせずに長時間の手技が可能であること,カテーテルの術者がエコーを操作するために単独の術者でカテーテル手技とガイドの両方が可能であることがあげられる.
ICE カテーテルは先端を4 方向に屈曲させることが可能であるが,探触子面に対して前後左右に屈曲するため,透視下で操作を行う場合には探触子の方向によって屈曲方向が異なり,心内構造の描出操作には習熟が必要である.またICE カテーテルは先端が固いため,特に心腔内を操作する際には透視下で安全に行わなくてはならない142). b.検査の臨床的意義
ICE によるカテーテル治療のガイドは,経静脈的心房中隔穿刺143),心内膜心筋生検144),経皮的心房中隔欠損/ 卵円孔閉鎖術145, 146),経皮的心室中隔欠損閉鎖術147),経皮的動脈管閉鎖術148),高周波カテーテルアブレーション149),経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI) 150),経カテーテル的肺動脈弁留置術151),Mitra Clip ® による僧帽弁尖形成術152),僧帽弁バルーン拡大術153),経皮的左心耳閉鎖術154),人工弁周囲逆流閉鎖155)などの手技で報告されている.
ICE ガイドの有用性として,全身麻酔が不要であり,経食道心エコーと比較して手技時間が短いことが報告されている146, 156).画質・診断精度の優劣に関しては,治療手技・報告によってさまざまである. 近年ではリアルタイム3D ICE も実用化されており157),将来広く臨床応用され,経食道心エコー法に対するデメリットがさらに解消することが期待される.
また,ICE カテーテルは体重1.5 ~3 kg の新生児・乳児に対する術中経食道エコーへの応用も報告されている142, 158). c.問題点
現在利用可能なICE カテーテルは8 Fr 以上の太いシースを必要とするため,血管径の細い乳幼児の使用には適さない.
また,ICE カテーテルを使用する際には,経食道心エコーと異なりカテーテル本体のコストがかかる.全身麻酔なども含めた医療全体としてのコストについては,米国からの報告では有意差はないとされているが156),わが国からの報告はない.
2.4 CT 検査
近年の画像処理技術の目覚しい進歩により,断層心エコーや心血管造影などの2D 画像診断では十分に判断することができない大血管や心内の立体構築をわかりやすく描出する手段として,マルチスライス(MD もしくはMS) CT による3D 画像診断が重要な役割を果たすようになってきた.MDCT 検査は,撮影時間の短縮とともに患者への
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X 線被曝が大幅に減ったことから,複雑先天性心疾患における初期診断だけでなく,外科手術術式決定のための補助手段として,また術後の遺残病変および続発症の早期発見と再手術適応の決定において,幅広く用いられるようになってきた159).
しかしリスクが減少したとはいえ,MRI 検査と比較すると,MDCT 検査による被曝は,特に小児においては常に問題となる.また鎮静や造影剤のリスクにも留意が必要であることから,小児患者に対してMDCT 画像診断を実施する際には,事前に断層心エコーやMRI などの低侵襲な画像診断を優先し,MDCT 検査で得られる3D 画像情報が患者にもたらす利益が,患児への被曝や造影剤による不利益を明らかに上回る場合にのみ実施されるべきである160, 161).
2.4.1 検査の特性と技術的問題
小児循環器疾患に対するCT 撮影には,以下の4 つの要素が必要となる159). a.説明と同意
18 歳未満の小児の場合は,代諾者にMSCT 検査の必要性を説明し,X 線被曝,造影剤,鎮静のリスクと対策を説明するとともに,アレルギーなどの問診を行う. b.撮影計画
患者の年齢,診断,解剖学的異常に応じて,また被曝の軽減を考慮して撮影計画を立てる.小児への心血管CT 撮影でもっとも重要な部分である. c.撮影の実際
患児の病態と診断が必要な病変に応じて,造影剤注入のプロトコル,撮影タイミング,MDCT スキャン条件などを決定し,実行する. d.画像再構成
正確な診断に必要な解剖学的情報,手術に際して外科医が必要とする画像情報を考慮したうえで得られた画像情報を3 次元画像に再構成する.
できあがった画像を詳細に解析し,小児科医や外科医に必要な的確な診断情報をレポートとして提供する.
2.4.2 MDCT 装置
現在国内では,循環器診療を専門に扱う多くの施設で64 列もしくはより上位のMDCT 装置が導入されている.これらの装置では,小児期の先天性心疾患の解剖学的診断に必要な時間および空間分解能を十分に持ち合わせているだけでなく,撮影時間が短縮し,X 線被曝も低減している.またdual source CT や320 列CT などの新世代CT 装置では,時間および空間分解能はさらに向上し,短時間に良好な画像が撮影できるだけでなく,被曝量もさらに低減し
ている162, 163).その結果,心電図同期による心機能解析も比較的低被曝で実現することが可能となっている.
2.4.3 鎮静
MDCT の撮影時間が短縮されたため,小児患者に鎮静を行う必要性は大幅に減少した.しかしながら,撮影時の大きな体動は再撮影を必要とし,結果的に被曝増加に繋がるため,乳児および幼児では一般に鎮静下で撮影することが望ましい(クラスIIa).鎮静薬としては,トリクロホスナトリウム内服,抱水クロラール座薬,ミダゾラム静注,チオペンタールナトリウム静注などが使用される.MDCT撮影時には,MRI 検査時と同様に164),鎮静剤の呼吸抑制や造影剤アレルギーによる事故を防止するために,心電図モニターとともにパルスオキシメータを装着する(クラスIIa).
一方,体動の少ない一部の新生児や乳児では,吸引式固定バッグなどの固定具を用いて鎮静なしで撮影することが可能で165),鎮静にともなう呼吸抑制などのリスクを軽減することができる.
2.4.4 息止め
画像アーチファクトを最小限にとどめるために,呼吸調整が可能な年長児以降では息止めにより撮影することが望ましい.新生児や乳幼児では呼吸による胸郭の変動が少ないので,64 列より上位のMDCT 装置で撮影する際には,自発呼吸下でも心内および大血管の画像情報は十分に取得可能である.したがって,短時間で終了する先天性心疾患のMDCT 検査においては,全身麻酔下での呼吸管理は不要である(クラスIII) 165).
2.4.5 心拍調整
先天性心疾患における大血管および心内構造の解剖学的診断には,基本的にβ遮断薬を用いた心拍の調整は行わない.年長児以上で,心内の詳細な構造や冠動脈の起始および走行異常を明らかにしたい場合には,息止めとともにβ遮断薬の投与を考慮する(クラスIIb).
2.4.6 造影剤の投与
先天性心疾患では一般に造影剤を緩徐に投与し,注入終了数秒後から撮影を開始して,心臓大血管全体を隈なく解剖学的診断を行う方法が行われている.ただし,疾患によっては冠動脈など特定の部位に焦点を当てることを目的にして,造影剤をボーラスに投与することもある.造影剤の注入には,24 ゲージより太い注射針を使用している場
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合,インジェクターを用いる161).投与量は,患者の血行動態,心機能,腎機能にもよるが,おおむね1.5~2.0 mL/ kg の非イオン性造影剤をおおよそ0.1 mL/kg/秒で投与する159–161).新生児や乳児期早期では,安全のため造影剤を2 倍に希釈して投与することもある.
2.4.7 投与ルート
先天性心疾患では個々の患者により静脈還流が異なるため,各疾患に応じた投与ルートから造影剤を注入する.通常,右手背もしくは右前腕部の静脈から造影剤を投与し,上大静脈内に高濃度の造影剤が残らないよう注意する.フォンタン手術による右心バイパス手術を実施した患者では後期相も撮影し,すべての静脈から肺動脈へのルートが明らかになるよう工夫する161).
2.4.8 撮影条件
MDCT の管電圧は通常80 ~100 kVp で撮影が行われる.被曝低減のために低電圧で撮影することが望ましいが,診断に影響する画質の低下が生じない条件下での撮影を実施する.64 列より上位のMDCT 装置では,先天性心疾患の解剖学的診断に必要な時間および空間分解能が十分にあるため,患児への被曝軽減を考慮して,通常心電図非同期で撮影を行う.ただし心内構造の正確な形態診断や冠動脈病変の描出が必要な場合は,心電図同期による撮影を行う(クラスIIb).
2.4.9 画像再構成
先天性心疾患ではおもに,水平断像を基本として病変部を診断し,ボリュームレンダリング(VR)画像を再構成して大血管や心内の立体構造を表現する.VR を応用して心内および大血管内腔を表現するvirtual endoscopy 法も用いられる.
2.4.10 検査の臨床的意義
a.形態診断
おもに複雑先天性心疾患における大血管の3 次元構築,狭窄や圧迫の有無,気管との空間的位置関係の診断に有効である(クラスI).また心内構造では,心内rerouting に不可欠な,心室中隔欠損孔と両大血管起始部の空間的位置情報の診断にも有効である.
MDCT が診断と外科治療に有力な情報をもたらす代表的な疾患および病変を表27 に示す(クラスIIa) 159–161).断層心エコーでの描出と診断が可能な疾患や病変に対しては,MDCT 検査を優先させて行うべきではない(クラスIII).また年長児の術後評価では,被曝のないMRI を優先させる.
b.心機能解析
MDCT 撮影時に心電図同期をかけると心室壁運動の解析を行うことが可能である.しかしながら,通常心電図同期によりX 線被曝が2 ~3 倍に増大することから,基本的には心機能の解析は,3 次元エコーやMRI など侵襲性の低い他の撮像方法で行う.ただしdual source CT や320列CT などの新世代CT では,心電図同期による心機能解析が低被曝で実現可能であり,必要と判断された症例には心機能解析を実施する(クラスIIb) 162, 163). c.手術シミュレーションのための3D プリンティング
作成近年,MRI やMDCT による先天性心疾患の3 次元画像データから3D プリンティング技術を用いて心臓模型を作成し,複雑先天性心疾患の解剖学的診断とともに外科手術の術式決定と術前シミュレーションに役立てる報告がなされている166, 167).コントラストの良好なMDCT 画像は3Dプリンティング技術による心臓模型の作成に有用であるが,再構築した画像データの再現性の検証や,使用する3D プリンターの信頼度および精度など,約0.5 mm 以下の精度が要求される小児の先天性心疾患の外科手術シミュレーションに臨床応用するには,さらなる検討と改良が必要である.3D プリンティングによる心臓模型は,一般名称「立体臓器模型」として,MDCT の診断補助手段としてクラスI の医療機器承認がなされたが,先天性心疾患に対して保険適用されていない現時点では,外科シミュレーションは患者および代諾者の同意を得たうえで実施することが望ましい.
表27 MDCT が診断と外科治療に有力な情報をもたらす代
表的な疾患および病変・ 総(および部分)肺静脈還流異常の初期診断,術後肺静脈狭窄の診断・ 肺動脈狭窄/ 閉鎖での左右肺動脈の連続性および末梢肺動脈狭窄の診断・ 主要体肺側副動脈の起始と立体構築,気管との位置関係・ 大動脈縮窄および離断の診断と外科手術に必要な3 次元情報・ 左心低形成におけるノーウッド手術のデザイン決定・ 内臓錯位におけるグレン, フォンタン手術に必要な体静脈および肺動脈の空間的位置情報・ 両大血管右室起始における心内rerouting に必要な心室中隔欠損と両大血管の空間的位置関係・ 筋性部の多孔性心室中隔欠損の診断と外科手術に必要な3 次元情報・ 血管輪の診断と気管との空間的位置関係・ 冠動脈起始異常の診断と外科手術に必要な3 次元情報・ 心室内異常筋束による左右心室流出路狭窄の診断と切除術式の
決定
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2.4.11 問題点
a.X 線被曝のリスク
これまでに述べたように,X 線に対する感受性の高い小児患者に対するMDCT 検査を行う際には,X 線被曝を最小限にする努力が常に必要である.繰り返しになるが, MDCT 検査で得られる3D 画像情報がもたらす利益が,児への被曝や造影剤による不利益を明らかに上回る場合にのみ実施されるべきであり,単にコントラストのよいVR画像を手に入れたいという理由で,MDCT 検査を安易に実施するべきではない159–161).また検査終了の際には,CT dose index(CTDI)やCTDIvol(volumetric CTDI)を確認するとともに,検査を依頼した小児科医や心臓外科医にも被曝線量を報告し,放射線被曝リスクをフィードバックする努力が望まれる. b.造影剤のリスク
造影剤の副作用としては,蕁麻疹,喉頭浮腫,気管狭窄,血圧低下などの造影剤アレルギー反応,ならびに嘔気,嘔吐,不整脈,腎機能障害など造影剤の臓器への直接影響がある.過去に明らかな造影剤アレルギーの既往のある患者では,造影剤の使用は原則として控える(クラスIII).また,気管支喘息や食物アレルギーなどの強いアレルギー体質を持つ患者には,あらかじめステロイド剤を投与することが考慮される(クラスIIa) 159, 168).
造影剤誘発性腎障害は,MDCT 検査後3 日以内に血清クレアチニン値が25% 以上もしくは0.25 mg/kg 以上の上昇した場合と定義されている169).通常は2 週間で正常化することが多いが,検査前からの腎機能低下,腎毒性のある薬剤の内服時,脱水,重度な心不全の患者に造影剤を投与する際には,腎機能障害が助長される.これらの患者にやむをえず検査を行う場合は,あらかじめ点滴による水分補充を行うことが進められている(クラスIIa) 169).
2.5 MRI 検査
2.5.1 検査の特性と技術的問題
心臓MRI(CMR)はさまざまなプロトコルを有し,小児循環器疾患の診断および治療に寄与する幅広い情報を得ることのできる画像検査である170, 171).磁場を用いて画像化するため,以下のような特性を有する. a.利点• 被曝がなく,放射線感受性の高い小児に適す.すなわち
繰り返し撮影できる一方で定量評価に優れるため,経時的比較にきわめて有利である. • 心エコーと異なり可視範囲に制限がなく,撮影された画
像それぞれに位置情報が包含されている.同一検査内であれば異なる撮影断面同士の位置を対照することができる.可視範囲に制限のないこととあわせて心エコーにはない大きな利点であり,心臓内外の構造把握や至適基準とされる容積定量に寄与する. • 解剖・生理・組織と異なる臨床的側面からの情報を異な
るプロトコルで収集できる.心臓MRI 最大の特性であり,次項で各プロトコルについて記載する. b.技術的問題• 磁性体による制限がある.人工内耳や旧型ペースメーカ,
植込み型除細動器(ICD)などの埋込型医療機器(磁性体)を有する症例には禁忌である.また検査に支障はないが,血管閉塞コイルや胸骨ワイヤなど磁性体による画像欠損領域が生じるため,読影に際し注意を有する. • 機動性が低い.装置が大きく強磁場シールド内で検査を
行う必要があり,設置場所でしか検査ができない. • 心臓の動きや呼吸を同期して撮影する必要があり,長時
間検査となりやすい.小学校低学年以下の幼児では一般に鎮静や全身麻酔が必要となる.集中治療室(ICU)に入室するような重症児であっても,麻酔・撮影を専門とするチームで行われるCMR であれば有益情報が得られる安全な検査とされる172).また,同期のとりづらい不整脈が頻発している症例では画質が低下する場合がある.
2.5.2 検査の臨床的意義と適応
前述のごとく解剖・生理・組織と多面的評価が可能で被曝もないため,スクリーニングを含め,すべての心大血管異常(疑い例含め)に適応がある.ただし,ICU に入室するような重症例では移動や全身麻酔のリスクと得られる情報のベネフィットを慎重に検討する必要がある.
CMR の臨床的意義は解剖,生理(心機能血行動態),組織(病理,心筋性状)に大別される. a.解剖
解剖を知るために用いる撮影プロトコルは複数あるが,細部まで明瞭な静止画像を得るプロトコルとしてECGgated respiratory-navigated 3D 全心臓冠動脈MRA (WHMRA)があげられる.呼吸同期および心電図同期下にbalanced(steady state)シーケンスを用いて収集されたデータが,心血管内腔を高信号として画像化される.
通常非造影で撮影するが,体格の小さい小児の場合,造影剤投与後に撮影することで信号雑音比(SNR)を上昇させ,絶え間なく流れている肺静脈や動脈管など,非造影では低信号となる領域を通常の血管同様に高信号に描出しや
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すくなる.大血管や冠動脈,心内構造などの把握に威力を発揮し,3D 再構築も十分可能だが,空間分解能ではややCT に劣り,新生児期の術前詳細検査としては難もある.ただし,後述の造影3D-MRA および心エコーと組み合わせることで,必要十分な情報が得られる可能性が高い.なお,本撮影プロトコルの小児冠動脈描出については,慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018 年改訂版) 173)を参照されたい.
造影3D-MRA はガドリニウム造影剤を静脈投与しながらspoiled gradient echo pulse シーケンスを用いて撮影するプロトコルである(上述のWHMRA とは異なる).造影剤を用いると血液と周囲組織のコントラストが増大し,非造影では低信号となりがちであった流れの止まらない部位(modified BT shunt や肺静脈など)も明瞭に描出される. CT と異なり被曝による撮影制限がないので,注入開始後複数回撮影を繰り返し,得られた画像信号をすべて加重したものから造影前の画像信号を引き去り画像を再構成することで,造影部位と非造影部位のコントラストがより強調された,明瞭な心大血管像を得ることができる.ただ,コントラストはきわめて高いが空間分解能はWHMRA よりも低く,心電同期がなく呼吸停止も不十分になる(撮影時間が長くなる)ので,小児の冠動脈など2 mm 以下のきわめて小さな構造物描出は難しい.
心室容積・駆出率計測に用いるシネMR(後述)も上記解剖診断を補完するが,各スライスに厚み(通常5 ~8 mm 程度)があるため,冠動脈や主要体肺側副動脈など小血管の連続性および薄い心房中隔における欠損孔の有無などは判断を誤ることがあり,注意を要する. i.生理(心機能血行動態)
シネMR は心機能評価の基本となる画像で,血液と心筋のコントラストが良好なsteady state 系列のシーケンスを用いて一心周期全体の時相情報を収集するretrospective gating が一般的である.先天性心疾患領域では,基本断面(2 ch, 4 ch, 3 ch)に加えて両心室両心房すべてが含まれるshort axis,横隔膜から大動脈一次分枝が含まれる15 ~ 20 枚前後の水平断面像を網羅的に撮影し,心機能のみならず心大血管構築まで診断できるような撮影も行われる.死角のないきわめて明瞭な画像が得られる.解析ソフトにて心内膜面・心外膜面をトレースすれば心室容積や駆出率・心筋重量が得られ,容量評価の至適基準とされている.
flow measurement はシネMR に血流計測用傾斜磁場を付加した撮影法(phase contrast 法)で,対象とする血管に直行する断面を設定し,撮像断面に垂直方向の一心周期あたりの血流速度変化を計測することができるプロトコルである.心内短絡では主肺動脈および上行大動脈に断面を設定すれば肺体血流比の算出が可能となるが,部位や流れ
方によっては誤差が大きく,通常複数箇所での撮像で検証することが望ましい.
欧州小児心臓学会(AEPC)および欧州心血管磁気共鳴学会(EACVI)のエキスパートコンセンサスには,シャントの部位により異なるQp・Qs 計測部位が示されている170).また原則10 ヵ所の血流量を測定し,得られた値を方程式のごとく容積解析とも検証し,矛盾なく血行動態評価を完結する方法もある174).同様に半月弁逆流の定量も可能である.シネMR で求められた心室容積と組み合わせれば房室弁逆流量も正確に算出される.
これら上記2 つのプロトコルで得られる流量・容積データと前項の解剖情報を組み合わせることで,先天性心疾患をはじめとする心大血管構築異常に臨床上必要な情報収集が完了する. ii.組織(病理,心筋性状)
心筋性状を評価するプロトコルには遅延ガドリニウム造影(LGE)やperfusion, T1 および T2 weighted dark blood と称されるプロトコルがある.心筋に異常を疑う全症例が適応となるが,非造影プロトコルであるT1, T2 weighted dark blood に関してはスクリーニングとしても用いられる. iii.LGE
LGE は心筋浮腫や線維化を検出する強力な撮影プロトコルである.急性虚血や炎症にともなう浮腫や心筋線維化による間質腔の増加にともない,造影剤投与10~15 分後の平衡相において,細胞外液移行型のガドリニウム造影剤の間質分布容積が正常心筋よりも大きくなる(T1 緩和時間が短くなる).その際にinversion recovery 法を用いて正常心筋を無信号にするような反転時間(IT,null point)を設定することで病変とのコントラストを明瞭に描出する.虚血・非虚血とも有用で,正常心筋の信号が確実に低下していることが大前提である.さまざまな心筋疾患で浮腫・線維化の分布様式が異なるため,鑑別診断の有力な手がかりとなる.また,心筋バイアビリティや線維化の定量も可能である.
小児においても成人同様の撮影が可能だが,経験的に造影剤代謝が速く,成人に比し反転時間の延長が早い.撮影そのものに時間もかかるので,造影剤投与後数分から繰り返し撮影し,複数の反転時間で撮影した画像を比較対照することが望ましい. iv.perfusion
perfusion は造影剤を静注しながらダイナミック撮影を行い,造影剤の心筋分布first pass を観察するプロトコルである.血管拡張剤であるアデノシンを140μg/kg/分で
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持続負荷するstress perfusion と,負荷なしで撮影するrest perfusion を比較し誘発虚血を検出する.正常域は負荷により心筋血流が3~5 倍に増加するのに対し,冠動脈有意狭窄や微小循環障害にともなう血行障害を有する領域では負荷による増加がほとんどない.stress perfusion ではこの心筋血流の差を一過性の相対的造影不良域(虚血領域)として描出できる.負荷に用いる薬物はアデノシンが主流だが,ジピリダモールを用いる場合もある.成人領域ではメタアナリシスにて,心筋血流予備量比と比較して感度0.90,特異度0.85 と十分な虚血診断能を持つことが証明されている175).
また,内膜下虚血や多枝病変においては負荷心筋脳血流シンチグラフィ(SPECT)より高い診断能を有するとされる176).小児においても有用で,Vijarsorn らは冠動脈造影(CAG)と比較して陽性適中率80%, 陰性適中率88%,1年の追跡における主要有害心血管イベント(MACE)の陽性適中率78%, 陰性適中率98% であったと述べている177). v.T1 およびT2 weighed dark blood(T1 およびT2WDB)
T1WDB は心筋脂肪変性を検出し,不整脈原性右室心筋症の診断に,T2WDB は心筋浮腫や梗塞巣の検出に用いられる.いずれも非造影のspin echo 系プロトコルである. T2WDB の病変検出能はLGE に劣るが,両者を比較することで診断精度が上昇する. vi.臨床応用
CMR による心筋性状評価の臨床応用は鑑別診断,冠血行再建適応,各心筋疾患の心不全・突然死リスク層別化(管理適応に直結)などであり,小児も成人も同様である.具体例については各心筋疾患のガイドラインを参照されたい.
小児科としては川崎病後におけるCMR の包括的活用178)や,肥大型心筋症(HCM)とphenocopy の鑑別179),HCM の有害事象層別化180),心筋炎の予後予測181)などに加え,心臓腫瘍182)や血栓症183)の鑑別にも有用とされる.特にHCM では心臓突然死の独立した危険因子であることが判明し,ICD 植込みの1 つの基準として確立されつつある.
このように近年CMR 検査の重要性がますます高くなっており,幅広い活用が期待される. b.問題点
問題点はまず,前項であげた磁性体や鎮静である.心臓に限らず,MRI 検査前に埋込型医療機器(磁性体)の存在をスクリーニングしておく必要がある.病歴が定かでなくその存在がはっきりしない場合は,事前単純X 線撮影が有用である.鎮静については日本小児科学会・日本小児麻酔学会・日本小児放射線学会の「MRI 検査時の鎮静に関
する共同宣言」164)が参考になる.鎮静前の食止めから鎮静中の観察方法まで重厚な記載があるが,わが国の医療現状との乖離も指摘されており,今後効率的な形への改変が期待される.
ガドリニウム造影剤も問題となる場合がある.一般にヨード造影剤よりリスクは低いものの,血管外漏出,単純な膨疹からアナフィラキシーまで生じうるアレルギー反応に注意が必要で184–186),検査前に使用同意を書面で得るべきである.また,重篤な合併症として腎性全身性線維症(NSF)が報告されている.進行性で治療法がなく,致命的な皮膚・皮下組織・関節・骨格筋・内臓の広汎な線維化を特徴とする疾患である.糸球体濾過量(GFR)が30 mL/分/1.73 m2 未満の腎機能障害を有する場合に生じる.他の危険因子としては腎移植後や肝疾患の併存,炎症前状態などがあげられる187, 188).NSF はきわめてまれな疾患で,小児は成人よりさらに少ないとされている189).新生児や乳幼児では,腎機能が未成熟であるにもかかわらずNSF の発症が少ないため,高用量のガドリニウム造影剤を使用する施設があるが,必要最小限にとどめるべきであろう.
一方,近年,ガドリニウム造影剤が脳内貯留することが示されている190–192).金属ガドリニウムは有毒であるが,造影剤として投与した場合の毒性はNSF を除いて現時点で報告はない.Welk ら193)はガドリニウム造影剤を投与された9.9 万人と投与されていない14.6 万人を比較し,投与にともなうパーキンソン病発症率は上昇しなかったことを報告している.またMcDonald ら191)は,ガドリニウム造影剤を投与された剖検脳を病理的に検索したが,変性は認められなかったとしている.
欧州医薬品庁は2017 年3 月に線状型ガドリニウム造影剤の販売中止を示唆したが,米国食品医薬品局はその2 ヵ月後にガドリニウム造影剤によって健康被害が生じることはないと安全宣言を出し,識者間でも評価が定まっていない.今後の推移を慎重に見守る必要がある.
さらに安全面で注意を要することとしては,新生児や乳児では特に,撮影音による聴覚損傷を避けるための耳の保護を考慮することがあげられる194).乳児には耳栓をしたうえでヘッドホンを装着するなど,予防措置をとることが望ましい.また,体温の密な観察も重要である.乳幼児では検査の進行とともに低体温・高体温に傾く恐れがある195). c.その他
本ガイドラインではすでに臨床に活用され,コンセンサスが得られている事項について記載した.しかしながら技術革新は現在も進行中で,T1 mapping 196)や4D flow 197)と称される新しい撮影プロトコルの有用性が報告されてい
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るが,まだ一般臨床に使用するレベルには至っていない.今後の幅広い臨床経験蓄積が待たれるところである.
2.6 心臓カテーテル検査・心血管造影検査
心臓カテーテル検査・心血管造影検査は長い間,先天性心疾患診断のゴールドスタンダードの検査法として施行されてきた.しかし心エコー検査,CT,MRI などの非侵襲的検査法の進歩にともない,以前のようなルーチンの診断検査法として心臓カテーテルは施行されない198).最近ではカテーテル治療が増加し,その前提として施行されることが多くなってきている.
2.6.1 検査の特性と技術的問題
小児では鎮静,麻酔が必要で,気管内挿管をすることがある.対象疾患が複雑心形態異常を含む先天性心疾患が多く,各疾患の解剖と血行動態を熟知しておかなければならない.また血管が細く,術後症例も多いことから血管閉塞の問題も加わり,カテーテル挿入の血管穿刺にも技術を要することなどが一般成人と異なる.米国では技術に関することを含め,小児循環器科医フェローシップのトレーニングとして年間最低150 例,アドバンスコースではカテーテル治療を含め最低250 例施行することを推奨している199). a.検査の臨床的意義と問題点
心エコー検査,CT,MRI などの検査法が発達し,これらの非侵襲的検査法を用いることで解剖学的評価はほとんどの症例で可能となった.しかし心臓各部の内圧,血流量,血管抵抗などの正確な評価は心臓カテーテル検査でのみ可能であり,現在でも解剖学的評価も含めもっとも信頼のおける検査法である.
心臓カテーテル検査は,一般には比較的安全性の高い手技とされている.しかし侵襲的検査であり,放射線被曝,全身麻酔にともなうもの,低体温(特に小さな乳児),低酸素血症の増悪,不整脈,血管(心臓,弁も含む)の穿孔や損傷,出血,血栓,アレルギー反応(造影剤,薬剤などにより),腎障害(おもに造影剤使用による),中枢神経系の損傷など,一過性で軽症の合併症から外科的処置を必要とし,恒久的な障害を残す,あるいは死亡につながる重篤なものまで,さまざまな程度のリスク/ 合併症をともなう198, 200).
これらの合併症発症率は,カテーテル治療も含めて重篤なもので2% 前後(死亡は0.5% 未満),軽度な合併症は10% 未満との報告が多い201–205).診断の心臓カテーテル検査ではこれより低いと考えられるが,重要なことは死亡を含めゼロでないことを認識することである.年齢(新生児),また体重が軽いこと(<5 kg)が高リスクと考えられて
いる206, 207).これら以外に疾患重症度,術前の状態などの患者側の要因,術者の経験,施行施設,手技(右心臓カテーテルか左心臓カテーテルかなど)といった種々の因子がリスクとその発生率に影響する.
米国ではカテーテル治療に関し,多施設からデータを集めてリスクの層別化を行い,有害事象の発生を予測207–209),影響する因子を標準化し,重篤な合併症発生率を算出する試みが行われている210, 211). b.より安全に施行するための推奨i.カテーテル室
2 方向心血管撮影装置があり,酸素以外,空気の配管のある撮影室で,血圧,呼吸,酸素飽和度などのモニター機器,蘇生に必要な薬剤のある救急カート,除細動器,体外式ペースメーカは少なくとも常備されていることが望ましい.またカテーテル位置の確認や血管穿刺の際に心エコー検査が有用なこともあり,エコー機器,麻酔担当医,2 名以上の術者,看護師など,参加スタッフが余裕を持って動ける十分なスペースも必要である200). ii.術前の準備/ インフォームドコンセント
術前に理学所見,胸部単純X 線写真,心電図は当然のこと,心エコー検査,CT,MRI などの非侵襲的検査を施行し,その情報をもとに十分なプランを立てる(クラスI).検査をより安全に行うために,術者のみでなく,麻酔担当医,放射線技師,臨床生理検査技師や臨床工学技士,看護師など,実際に検査に参加する他職種が参加するカンファランスを行い,心臓カテーテルプランや予想される合併症に関する情報を共有することが望ましい212).合併症発生の場合に備え,バックアップの心臓血管外科医にもすぐに連絡が取れるようにしておくことが好ましい.
またインフォームドコンセントとして,術前に患者,家族には検査の必要性,代替可能な検査法,施行しない場合に予想される経過や事項,リスク/ 合併症などが記載された用紙を用い,十分に説明を行う(クラスI).この説明は術者自身が看護師などの第三者の同席で,しかもリスク/合併症は一般的なものでなく,その患者で特に予想されるものについて行うことが重要である. iii.麻酔
小児では鎮静が必要で,気管内挿管をともなう全身麻酔が必要な場合もある.米国の8 施設,13,611 例の心臓カテーテルの検討で鎮静,麻酔関連の合併症が0.69% に発症したとの報告213)があり,その麻酔管理が重要となる.したがって麻酔科医による麻酔が必要となるが,わが国では実際に麻酔科医が麻酔を行っているのは約40% 未満とされている212, 214).小児科医が施行する場合でも,麻酔科
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医のバックアップのもとで施行することが望ましい. iv.適応
AHA の診断カテーテル検査の推奨(クラスI)は,カテーテル治療を前提,または施行する際に形態,血行動態の評価目的(もし必要なら血管造影にて)で施行(レベルA),原発性肺高血圧症や肺高血圧をともなう先天性心疾患において,外科治療,内科治療介入の適否の評価には正確な肺血管抵抗の算出が必要であり,その肺血管抵抗の算出や肺高血圧の可逆性を評価する目的で検査を行う(レベルB),複雑な肺動脈閉鎖において,詳細な肺動脈,側副血管の肺区分への分布を評価する目的で行う(特に非侵襲的検査で不完全な評価しかできない時,レベルB)などである.クラスIIa は,フォンタン手術前の姑息手術後(Staged Fontan) の単心室血行動態疾患の患者において,肺動脈- 静脈圧較差,肺動脈圧,肺血管抵抗の評価目的で施行(レベルB),どのような先天性心疾患においても, 非侵襲的検査法で診断できない,または不完全な情報しか得られない時(レベルC),心筋炎,心筋症における評価目的での施行(レベルB)などである198).わが国でも参考にすべき推奨である.
2.7 核医学検査
2.7.1 小児で使用する放射線医薬品
心臓核医学検査で使用する放射線医薬品を表28に示す.核医学検査適正施行のコンセンサスガイドライン215)は,
被曝低減を考慮して心筋血流イメージングでは塩化タリウム(201Tl)よりもテクネチウム心筋血流製剤(99mTc セスタミビ,99m Tc テトロフォスミン)の使用を推奨している. 201Tl とテクネチウム標識心筋血流製剤(99mTc 製剤)を比較すると,梗塞の存在,範囲と程度,誘発虚血の診断,冠動脈領域の特定において同等の診断能があると認められている.99mTc 製剤は高血流域での心筋血流との比例性が201Tl よりも劣るとされているが,201Tl と99mTc セスタミビ, 99mTc テトロフォスミンの3 者は同様の診断精度を示す216).
2.7.2 放射線被曝
a.小児に関する疫学
米国では,18 歳未満の小児の0.7% に核医学検査が実施されている217).わが国の実施率は,15 歳以下の小児核医学検査は全核医学検査の3.4%,小児心臓核医学検査は全小児核医学検査の2.5% と,いずれも低率である218). b.乳幼児期の特殊性
表29 に心臓核医学検査に用いる放射線医薬品の標準成人投与量,実効線量および成人投与量に対する年齢別投与量,その年齢での実効線量を示す.201Tl では標準成人投与量での実効線量は16 MBq であるのに対して,1 歳では成人投与量の4 分の1 投与であるが,実効線量は52 MBqと莫大である.乳幼児では成人と比較して放射線医薬品の投与量は少ないが,実効線量は多い219).また201Tl は,心
表28 心臓核医学検査で使用する放射線医薬品の成人投与量,体内分布および物理的半減期
放射線医薬品名成人投与量
(MBq)分布物理的半減期
1.心筋血流イメージング
99mTc テトロフォスミン185~740心筋,肝臓,肺6.01 時間99mTc MIBI 370~555心筋,肝臓,肺6.01 時間Thallium chloride-201(201Tl) 74腎臓,心筋,肝臓,脾臓72.91 時間2.心筋脂肪酸代謝イメージング
I-123 betamethyl-iodophenyl-pentadecanoic acid (123I MIPP) 74~148心筋,肝臓,筋肉(脂肪酸代謝をしている臓器) 13.27 時間3.心臓交感神経機能イメージング
I-123 metaiodobendzylguanidine (123I MIBG) 111交感神経終末,カテコラミン産生細胞13.27 時間4.肺血流シンチグラフィ
99mTc MAA 37~370肺毛細血管に微小血栓,右左シャント存在下では脳表,腎に集積6.01 時間5.その他
Fluorodeoxyglucose(F-18) 74~370脳,心臓109.8 分
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筋血流負荷/ 安静プロトコルにおいて99mTc 製剤と比較して約8~10 倍程度の被曝線量が見込まれ220),小児への使用は推奨されない. c.放射線感受性
小児は放射線感受性が高いことを念頭において検査を実施すること. d.放射線被曝低減に向けて
放射線被曝量を最小限にするために,診断に有用な精度の高い画像の得られる最小限の線量投与の実践,体動制限,検査後の飲水と早期排尿,および心筋血流イメージングでは99mTc 製剤の使用が重要である221).
2.7.3 小児における適応疾患
a.心筋血流イメージング
先天性心疾患では冠動脈異常の診断と術前後評価,完全大血管転位症動脈スイッチ術後評価が主たる適応である.後天性心疾患では川崎病冠動脈障害の評価が主たる適応である.本イメージングの適応疾患を表30 に示す215). b.心筋脂肪酸代謝イメージング
重篤な冠動脈異常や川崎病冠動脈障害の3 枝病変など,心筋血流負荷検査実施リスクが非常に高いとされる場合を適応として,高度心筋虚血を安静検査により検出することを目的としている215).また,肥大型心筋症222),左室緻密化障害223)やアントラサイクリン系薬剤の心筋障害224)でも123I BMIPP の異常集積を認める. c.心臓交感神経イメージング
拡張型心筋症などの心不全評価に利用できる. d.肺血流シンチグラフィ
特発性肺動脈性肺高血圧症などの肺高血圧性疾患や先天性心疾患の右左シャントの有無の確認およびシャント率測定などに有用である215). 2.7.4 放射線医薬品の投与量
これまで小児投与量=成人投与量×(年齢+1)/(年齢+ 7)の式が推奨225)されてきたが,2013 年に日本核医学会が小児核医学検査適正施行コンセンサスガイドライン215)による小児核医学検査の適正投与量を提唱した.「投与量(MBq)=基本量×当該クラスの体重別係数」で算出される.基本量を表31 に,心臓検査に使用するクラスB の体重別係数を表32 に示す.
2.7.5 撮像の注意点と工夫
もっとも使用頻度の高い99mTc製剤による心筋血流イメージングについて述べる. a.検査日程計画
安静と負荷検査を同日で行う1 日法か,別の日に行う2日法かを決定する.1 日法は同日評価として高検査精度であるが,放射線被曝量増大や長い検査時間といった欠点がある.薬物鎮静が必要な乳幼児では1 日2 回の鎮静は不可能であり,2 日法が推奨される.反復検査を必要とする川崎病冠動脈障害などの評価では,放射線被曝低減目的で負荷検査のみの1 日法を実施し,前回安静検査との比較を行うことも可能である. b.検査前準備と指導
検査前絶食を徹底する.入院患者では輸液に糖を含まない指示に変更する.カフェインやアミノフィリンを含んだ嗜好品を摂取しないように指導する. c.検査中の工夫i.周囲集積による近接アーチファクトを軽減するため
の工夫1 99mTc 製剤投与から撮像開始まで60 分程度あけての撮
像226)
表 29 年齢別放射線被曝量の成人との比較
核種名検査方法標準成人投与量
(MBq)実効線量(mSv)
1 歳(成人の1/4量) 5 歳(成人の1/4量) 10 歳(成人の1/2量) 15 歳(成人の3/4量)成人
99mTc Tf安静/ 負荷1000 11 6 7 7 8 99mTc Tf安静555 6 3 4 4 4 99mTc MIBI安静/ 負荷1000 13 7 9 9 9 201Tl安静/ 負荷74 52 32 34 17 16 F-18FDG 370 8.8 4.6 6.7 7 7 123 I MIBG 111 1.9 1 1.4 1.4 1.4 123 I MAA 185 2.9 1.6 2.1 2.2 2 (近藤千里.2007 219)より改変)
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2 胆汁排泄促進による肝・胆嚢集積軽減目的で99mTc 製剤
投与後の高脂肪食(卵製品,ココアなど)摂食3 胃膨満による腸管近接アーチファクト軽減目的で撮像直
前のソーダ飲水227) 4 肝・胆嚢集積近接アーチファクト軽減目的で左上肢挙上
の背泳ぎ体位(Monzen 体位)での撮像228) ii.2 回目撮像時(1 日法)の干渉軽減1 1 回目と2 回目の99mTc 製剤投与間隔を3~4 時間以上
とする226) 2 99mTc 製剤による1 日法基本量で2 回目は1 回目の3 倍
投与215) iii.撮像時の体動アーチファクトの抑制215) 1 動画視聴2 家族,医師および検査技師による励ましd.薬物鎮静
体動アーチファクト軽減を考慮して,4 歳未満の乳幼児では薬物鎮静による撮像が望ましい.それ以上の幼児では撮像中の動画視聴や周囲からの励ましにより最低限の体動で検査を終了できることも多い.薬物鎮静の適応とリスクについて事前の情報交換を家族と十分にしておく必要がある.
2.7.6 薬物負荷の注意点
心筋血流イメージングでは安静撮像と運動もしくは薬物負荷撮像をすることになり,以下薬物負荷について述べる. a.使用薬物
わが国では核医学診断用医薬品としてアデノシンのみが認可されており,川崎病後冠動脈狭窄性病変の評価でアデ
ノシン薬物負荷の有用性報告がある229). b.アデノシンの投与方法
海外では0.14 mg/kg/分を6 分間かけて持続点滴静注としているが229, 230),わが国で負荷試験薬剤として認められている投与量は,0.12 mg/kg/分を6 分間かけて持続点滴静注し,開始3 分後に放射線医薬品を投与するというものである231).小児でもその方法に準ずる230, 232–234).アデノシン投与経路で本負荷法に習熟していない場合には,アデノシンを放射線医薬品投与経路は別々の上肢に独立してとるよう推奨する.同一経路の場合には,放射線医薬品投与時にアデノシンの急速流入による徐脈発生リスクを避ける
表30 小児における心筋血流イメージング
の適応疾患川崎病完全大血管転位症動脈スイッチ術後左冠動脈肺動脈起始症冠動静脈瘻体循環に駆出する解剖学的右心室右室圧負荷疾患拡張型心筋症肥大型心筋症心内膜線維弾性症糖原病神経筋疾患にともなう心筋症急性心筋炎後(日本核医学会,小児核医学検査適正施行検討委員会.
2013 215)より)表31 放射線医薬品のクラス分類と基本量・最小量
核種放射線医薬品クラス基本量(MBq)最小量(MBq) I-123 MIBG(心筋) B 7.9 16
BMIPP B 7.9 16
F-18 FDG B 18.0 26 Tc-99m MAA B 13.2 10
MIBI/ テトロフォスミン(安静/ 負荷心筋2 日法・最大*) B 63.0 80
MIBI/ テトロフォスミン(負荷心筋1 日法:1 回目
**) B 28.0 80
MIBI/ テトロフォスミン(負荷心筋1 日法:2 回目
**) B 84.0 160
*:体重の重い患児では従来投与量より多い傾向になるので,この量を最大限とし
て,より少量の投与を考慮. **:安静先行,負荷先行のいずれにも適用.2 回目量は1 回目の2~3 倍(日本核医学会,小児核医学検査適正施行検討委員会.2013
215)より抜粋)
体重(kg)クラスB 3 1 4 1.14 6 1.71 8 2.14 10 2.71 12 3.14 14 3.57 16 4 18 4.43 20 4.86 22 5.29 24 5.71 26 6.14 28 6.43 30 6.86体重(kg)クラスB
32 7.29 34 7.72 36 8 38 8.43 40 8.86 42 9.14 44 9.57 46 10 48 10.29 50 10.71 52~54 11.29 56~58 12 60~62 12.71 64~66 14.43 68 14
(日本核医学会,小児核医学検査適正施行検討委員会.2013 215)より抜粋)
表32 心臓検査に使用するクラスB の体重別係数
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ため,静脈留置針に直接付けた三方活栓側管にアデノシン投与経路を,他方に放射線医薬品投与経路を接続し,アデノシン注入を継続したうえで心拍変化をみながら約 10 秒間かけて放射線医薬品を注入する215). c.アデノシンの副作用
アデノシンの副作用は軽微であるが,発生率は高い235).乳幼児に対するアデノシンによる副作用の大規模な報告はないが,ほてり感は顔面紅潮として,他の症状は不機嫌,鎮静からの突然の覚醒や説明のつかない頻脈として表現される.気管支攣縮による喘息発作も重要な副作用であり,負荷前,中の聴診は必須である.副作用発現時には拮抗薬としてアミノフィリンを使用するが,アデノシンの半減期は10 秒以内と非常に短時間であるため,投与中止のみで症状の多くは1 分以内に消失し小児に対しても安全に施行できる229).
核医学検査に関する推奨とエビデンスレベルを表33 に示す. 3 小児における放射線被曝
3.1 小児の放射線被曝の現状
心疾患の児は,単純X 線写真,CT,カテーテル検査やカテーテル治療により放射線被曝の機会が非常に多い.児の生涯発癌リスクを考えるうえでは,1 検査あたりの被曝を低減するだけでなく,すべての撮像方法を総合した積算被曝量の低減が不可欠である.
胸部単純X 線写真の1 回あたりの表面入射線量は0.2 mGy と低い236).しかし撮像回数が多いため,単純X 線写真の積算被曝量だけでカテーテル治療1 回分,あるいはそれを大幅に超える被曝線量になりうることが報告されて
表33 核医学検査(15 歳未満の小児に対するテクネチウム心筋血流製剤による心筋血流イメージン
グ)に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベルMinds
推奨グレードMinds
エビデンス
分類
冠動脈病変のない川崎病で症状のないものIIb C C2 V
冠動脈病変退縮例の川崎病で症状のないものIIa C C1 V
冠動脈病変のある川崎病で症状のないものI B A IVb (安静時撮像のみ)冠動脈起始・走行異常の検索(特に術前症例に対して) IIa C C1 V冠動脈起始・走行異常の検索(ジャテーン術後,ロス術後を含む) I C B V
虚血イベントが疑われる全症例I B A IVb
塩化タリウムによる心筋血流イメージングIII C D V
心筋脂肪酸代謝イメージングIIa C C1 V
心臓交感神経イメージングIIb C C2 V
肺血流シンチグラフィIIa C C1 V
アデノシン負荷による心筋血流イメージングIIa C C1 V
p.61
いる237).単純X 線写真といえども,漫然と撮像することがないよう,1 回1 回の必要性をきちんと吟味することが肝要である.
小児の胸部CT は多列化,2 管球化,回転速度の上昇,逐次近似再構成法の進歩などにより,多くの施設で2.0 mSv 以下で撮像されるようになった238).2018 年現在,コントラストが高い動脈相のCT については,多くの最新機種では低管電圧を用い1.0 mSv 以下239, 240),一部の機種では胸部単純X 線写真撮像時の線量でも診断に十分な撮像が可能である241–243).
64 列CT しかなかった時代には,CT の1 検査あたりの被曝線量は血管造影を凌駕することもあり,生涯にわたる発癌の問題が指摘されていた244).しかし昨今では,CT 線量の低減と撮像機会が少ないことが相まって,生涯積算線量への寄与は血管造影や,単純X 線写真の1/10 以下と非常に低い237).ただし,被曝低減機構が搭載されていないCT を用いている,あるいは撮像機会が少ない施設では線量が高くなりがちである.既存の文献や次項を参考に,線量低減のための十分な事前準備を行うべきである.
カテーテル検査および治療は,1 回あたりの被曝量が単純X 線写真やCT と比べて非常に多く245),積算被曝量にもっとも大きな影響を与える.また,成人と異なり甲状腺や乳腺が照射野外に出ないため,透視のたびにリスク臓器が被曝することとなり,単純に小児の放射線感受性が成人より高いことにとどまらない影響がある.透視時間を必要最低限に絞るほか,できるだけ透視のパルスレートを下げる,可能であればリスク臓器を照射野外に外す,フットスイッチをこまめに切り,解剖の確認は透視画像ではなくラストイメージホールド(LIH)で行う,拡大はデジタルズームを利用する,寝台を管球から離して極力平面検出器
(FPD)に近づける,小さな子供ではグリッドを外すなど,線量低減のために工夫を重ねる余地がある246).
3.2 被曝の安全基準
3.2.1 診断参考レベル
医療被曝は国際的にも年々増加している.国際的には, 2007 年の国際放射線防護委員会(ICRP)勧告103 に基づき,患者の線量を医療目的とバランスが取れるよう最適化するために,診断参考レベル(DRL)を設定することが要件となっている247, 248).
DRL は,ある特定の画像化手法から患者が受ける線量レベルまたは投与された放射能(放射性物質の量)が,その手法にしては著しく高いかあるいは低いかを示すために用いられる.実際には複数の患者,またはある参考とする患者に対して観察された線量分布のパーセンタイル点に基づき,値が選択される.DRL は医療被曝に線量限度がないのと同様,線量限度とは異なる概念である.個々の検査が「超えてはいけない線量」ではなく,特に高い線量を用いている施設を特定して放射線防護を最適化するために,各国ごとに設定される236).
3.2.2 国内のDRL
国内では,関係する学会・協会の協力のもと2010 年に医療被曝研究情報ネットワーク(J-RIME)が発足し, 2015 年にはじめて診断参考レベルを策定した(通称 DRLs 2015 あるいは診断参考レベル 2015) 236).設定の詳細な経緯や根拠についてはそれを参照されたい.
小児に関係するDRLs2015 は,表34 ~37 236, 249)のごとく設定されている.部位ごと,機種ごとに自施設の曝射線量を集計し,標準的な体格の患者ではDRL を上回った場合,撮影プロトコルを管理することが望ましい.また, DRL はその性質上定期的な見直しが不可欠で,見直しの
表35 小児 CT の診断参考レベル
1 歳未満1~5 歳6~10 歳
CTDIvol(mGy) DLP(mGy・cm) CTDIvol(mGy) DLP(mGy・cm) CTDIvol(mGy) DLP(mGy・cm)
頭部38 500 47 660 60 850胸部11(5.5) 210(105) 14(7) 300(150) 15(7.5) 410(205)腹部11(5.5) 220(110) 16(8) 400(200) 17(8.5) 530(265) CTDIvol:CT dose index,DLP:dose length product注1) 16 cm ファントムによる値を示し,括弧内に32 cm ファントムによる値を併記した. (J-RIME.2015
236)より)
表34 医療被曝量を最適化するための一般撮影の診断参考
レベル
乳児胸部幼児胸部成人胸部正面
入射表面線量(mGy) 0.2 0.2 0.3 (医療被ばく研究情報ネットワーク[J-RIME].2015 236)より作表)
p.62
たびに高線量施設が是正されて数値が低下することを申し添えておきたい.
3.2.3 CT の実効線量
CT 撮像時には,装置が出力した放射線量の指標としてCT dose index(CTDIvol)やdose length product(DLP)が表示される.直径16 cm あるいは32 cm の円筒形ファントムを撮像した場合に,その中心部で測定された吸収線量に相当する.CTDIvol は1 cm あたりの曝射線量,DLP はCTDIvol に撮像長(cm)を乗じたもので,今回の撮像全体の曝射線量を表す.DLP に表37 249)の換算係数をかけ合わせると,実効線量(mSv)が求められる.
3.2.4 新しい線量指標
CTDIvol やDLP は,体格に応じた放射線感受性の差違は考慮していない.近年,体格差を考慮した線量指標として,米国医学物理学会(AAPM)が考案したsize specific dose estimate(SSDE)が普及しており,今後は国内でもSSDE を用いた線量管理がルーチンに行われることが期待される250, 251).SSDE は,スカウトから計測された体厚(AP)と体幅(LA)を用い,文献250 の換算表から体格別の変換係数を求め,CTDIvol に乗じることで算出する.
3.3 被曝の長期的影響
3.3.1 確定的影響と確率的影響
循環器診療における放射線被曝についてはすでにガイドラインが存在しており,特に血管造影の合併症に詳しい252).
放射線の影響は,大きく「確定的影響」と「確率的影響」に分けられる.「確定的影響」は,ある閾値を超えると急速に発生率が100% まで増加し,閾値より高い線量では線量
の増加にしたがって重症度が増すものであり,インターベンションにともなう皮膚障害や白内障が含まれる.「確率的影響」は,線量に比例して発生率が増加するが,重症度は線量に比例しないもので,発癌と遺伝的影響が含まれる.
現在のところ,ヒトに放射線を原因とする遺伝的影響が発生したという事実は確認されていない247, 248).通常は, CT や単純X 線写真に用いる線量で確定的影響が生じることはまずないため,本稿では小児期のCT 被曝による発癌リスクに特化して論じる.
3.3.2 低線量被曝の発癌リスク
小児は放射線感受性が高いうえに,平均余命が長い,つまり放射線による発癌が発現しうる期間が長いため,被曝の長期的影響を十分に考慮する必要がある.
低線量被曝の発癌リスクは,エビデンスレベルは弱いものの,広島・長崎の原爆被爆者のデータから外挿するのがもっとも信頼性が高いと考えられてきた.原爆被爆者のデータでは,全身に対する100 mSv 以上の急性被曝では,線量依存性に発癌が増加することが知られている.100 mSv 以下の被曝による発癌リスクを特定できるデータは得られていないが,従来は100 mSv 以上で得られている線量- 過剰発癌リスクグラフを外挿し,100 mSv 以下でも同様の線量- 過剰発癌リスク関係があると仮定する「閾値なし直線仮説(LNT)」を採用し,線量に応じた発癌リスクを計算してきた.米国科学アカデミー研究審議会内の,「電離放射線の生物影響に関する委員会(BEIR)」による低レベル放射線量と癌の発生確率に関するレポート(BEIR VII)
253)の年齢別・性別発癌リスク推定値に基づい
て,CT の形態 データ,撮像パラメータとモンテカルロシミュレーション から発癌リスクを推定した報告が多数存在する244, 254–262).
低線量域の発癌を疑問視する異論もあるが,近年では低線量領域でも実際に発癌しうるというエビデンスがいくつか報告されている.成人の低線量領域では,被曝量にしたがって白血病の発症リスクをわずかに増加させるとの観察研究が報告されている263).小児領域でも,欧州のCT 被曝レジストリーとがん登録を対応させ被曝による発癌率を推定した報告が散見され,エビデンスが蓄積されている264, 265).CT 装置の進歩により,被曝線量が低減されるとともに発癌リスクは低減しているが254),年齢が低いほど放射線の影響は大きく,女児は乳房がある分発癌リスクが高い257).前述のリスク推定によれば胸部を含む CT の発癌率が特に高いため,できる限り線量低減を図りたい257).
医療被曝は便益がリスクを上回る場合にのみ許容される
表37 32 cmファントムによる胸部の換算係数
0 歳児1 歳児5 歳児10 歳児成人
80 kV 0.082 0.053 0.034 0.025 0.015 100 kV 0.074 0.048 0.032 0.024 0.014 120 kV 0.071 0.047 0.031 0.023 0.015注)16 cm ファントムではこの半分となる(Deak PD, et al. 2010
249)より作表)
表36 血管造影領域での被曝線量最適化のための診断参考
レベル透視線量率20 mGy/分(IVR 基準点線量率) (J-RIME. 2005 236)より作表)
p.63
ため,線量に上限が設けられていない.上限がないからといって,適応をよく考えずに検査を行い,結果的にリスクに見合わないほど便益が少ない検査になってしまうことは許されない.また,小児の検査では,保護者や患児とのリスクコミュニケーションに際し特別な配慮を求められることが多い.小児医療被曝のリスクコミュニケーションについては,WHO による手引きが日本語でもインターネット公開されているため,参考にされたい263).
3.4 CT 被曝の低減
3.4.1 原則の考え方
CT の線量は,原理的にはいくらでも低減することができるが,線量低減にしたがいノイズが増え,ある線量以下では診断が不可能な画質となってしまう.一方,ある程度より高い線量では画質が飽和し,線量を上げても向上しなくなる.また,「見た目に美しい画質」と「診断に必要十分な画質」は異なり,多少ノイズが気になっても目的とする診断ができる最低限の線量がas low as reasonably achievable(ALARA)といえる(図27).
目的とする診断ができる最低限より線量を下げてしまうと,得られた画像での診断ができなくなり,「被曝損」となってしまう.このため施設の線量を下げる際には,一気に理論値や文献上の数値に設定するのではなく,ファントムを用いてノイズの許容範囲を求めつつ,臨床例で「診断可能な画質」を担保できていることを確認しながら,少しずつ調整する.
3.4.2 自動露出機構
小児の適正線量は,年齢ごとの体格の個人差が大きいため,自動露出機構(AEC)を用いる267).これは,位置決め画像から断面積とXY 方向の軟部組織量を推定し,設定した画質あるいはノイズが得られるようZ 軸方向およびXY 方向に管電流を変調させる技術であり,現代のCT の線量適正化において基幹的な技術となっている.メーカーや機種によって,ノイズ値と基準画像のどちらを設定するかが異なるので,機種ごとのメカニズムを熟知する.
AEC は位置決め画像の軟部組織量により曝射線量を決めるため,余計な軟部組織が映り込まないよう,小児専用の固定具を用いた患児の肢位に留意する(図28).位置決め撮影自体も無視できない線量となるため,撮像前にポジショニングや撮像範囲設定に十分な注意を払い,極力撮り直しを避ける.
3.4.3 パラメータ設定
小児はターゲットが小さいうえに呼吸静止できないことが多く,CT 線量は装置性能に大きく左右される.そのため,可能な限り面検出器CT や2 管球CT など,曝射時間が短く高度な線量低減技術を搭載したCT をできる限り用いたうえで,1 心拍で撮像する241–243, 268, 269).静脈相の必要性は検査ごとに検討する.
X 線の吸収特性から,ヨードのCT 値は,ヨード濃度が同じであれば33.2 keV までは電圧を下げるほどCT 値は高まるため,70 ~80 kVp の低管電圧を用いる270).さらにピッチを上げる,回転速度を最速にする,撮像範囲を必要最小限とする,適切な撮影視野を設定するなど,パラメータ設定からも線量低減を図る.逐次近似再構成は,高コントラスト領域では特に,良好な被曝低減・画質改善効果がみられるため積極的に用いる241).
画質見た目に美しい画質
診断に必要十分な画質
線量
この辺りを目指す画質は飽和.線量を上げても改善しない
これより線量を下げると画質が低すぎて診断に差し支える
図 27 CT における線量と画質の関係の概念図
図28 乳児のスカウト例A: よいスカウトの例.両手がしっかりと上がっている. B: 悪いスカウトの例.自然肢位のまま撮像されており,両腕両肘が
肩にかかっている.
A B
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第3章 総論:小児における薬物治療
1 小児薬物治療の基礎知識
1.1 臨床薬理学的観点に基づく 薬物療法の考え方
薬物療法は,基本的に臨床試験で得られる薬物の有効性と安全性,薬物動態(PK)などのエビデンスに基づいて行われる.添付文書の効能・効果,用法・用量,副作用,使用上の注意,相互作用,PK などは,これらのエビデンスに基づき記載されている.薬物療法を考えるうえで薬理学的に重要なことは,薬物に対する生体の反応性である. PK は投与された薬物の吸収,分布,代謝,排出(体内に現れ消失していく過程)を表現しているのに対し,作用部位での薬物濃度とその薬効(有効性,副作用)との関係,すなわち反応性を評価する研究が薬力学(PD)である.
PK/PD に影響を与える因子として疾病の特性,併用薬,環境的素因や遺伝的素因などがあるが,これらの因子が複雑に作用しあい,その結果,薬物の効果に個体差を生じる(図29).残念ながら作用部位での薬物濃度を測定するこ
とはできないため,測定可能な血中濃度を代用している.
成長期にある小児は,解剖学的にも生理・生化学的にも臓器の発達が未熟であり,薬物のPK は成人と異なる.特に新生児や乳幼児ではその差異が大きく,PK に関する臨床試験のデータがないと,用法・用量の設定を含め適正な薬物療法を行うことはできない.近年,欧米ではモデリング&シミュレーションなどのファーマコメトリックスを用いて小児の用法・用量を推定することがなされており,わが国でも実用化が期待されている271).しかし,有効性や安全性については臨床試験なしで評価することはできず,特に小児では薬物が成長に与える影響について十分な検討が必要である.
1.2 処方箋記載法の標準化と 臨床薬理学的観点
2010 年1 月29 日に内服薬処方箋の記載方法の在り方に関する検討会報告書(医政発0129 第3 号,薬食発0129第5 号) 272)が公表され,内服薬処方箋記載事項の標準化が提言された.その中で,1「薬名」は薬価基準に記載されている製剤名を記載すること,2「分量」は最小基本単位である1 回量を記載すること,3散剤および液剤の「分量」は製剤量(原薬量ではなく,製剤としての重量)を記載すること,4「用法・用量」における服用回数・タイミングは標準化を行い,情報伝達エラーを惹起する可能性のある表現法を排除し,日本語で明確に記載すること,「用法・用量」における服用日数は実際の投与日数を記載することとし,これらをあるべき基本的な姿としている.
内服薬処方箋の記載方法を標準化し統一することで,医療過誤の防止を図る.また臨床薬理学的な観点からは,医薬品の添付文書に準じて提示されているという点では意義があると考えられる.
しかし,小児の薬物療法においてこれらの記載方法が妥当か,すなわち,実際に小児への処方に適した記載法になっているかについては問題がある.たとえば散剤,液剤の分量を製剤量で記載する場合,同じ医薬品でも製剤によ
図29 薬物動態/ 薬力学と薬物効果の個体差
遺伝的素因環境的素因病態など
PK の個体差/PD の個体差薬物効果の個体差
その他の
素因併用薬(薬物相互作用)
p.65
り,単位重量あたりに含まれる有効成分量が異なる(濃度が異なる)ことがあるため,院外の調剤薬局を利用される場合にはどの製剤で調剤されるかの確認作業が必要となる.処方箋に記載された製品が調剤薬局にない場合には,薬剤師により濃度から分量の換算がなされなければならない.また,錠剤の粉砕化や脱カプセルなどの剤形変更による処方の場合,製剤量(製剤としての重量)を記載することは不可能となる.錠剤やカプセルの量(0.5 錠,1/2 カプセルなど)での記載でも正確に1 回量を記載することが困難な場合が生じる.こういった不具合は,これまでの有効成分量や力価を記載する処方では回避された問題である.
以上より,処方箋記載法の標準化を図ることは重要なことではあるが,小児領域では小児の薬物療法の現状を考慮した記載法が望ましい.
1.3 小児薬用量設定へのPK-PD 情報の 利用状況
臨床において小児患者に対して薬物治療を行う際,医薬品添付文書に小児薬用量の記載がないことは珍しいことではない.
小児薬用量を設定するためには最適な薬用量を検討する試験が必要であるが,医薬品開発において,成人と同じ試験計画を小児に対して実施することは倫理的,身体的に困難である.そのため,小児に対する適応を取得していない医薬品も多い.一方,近年の医薬品開発において,小児に対する科学的かつ倫理的な臨床試験計画の設定と小児薬用量の最適化を目的としたファーマコメトリクス(pharmacometrics)の活用が進んでいる.
1.3.1 小児医薬品開発におけるファーマコメトリクスの 活用
ファーマコメトリクスは,効率的な医薬品開発および/ または規制上の決定を支援するために医薬品,疾患,臨床試験の情報を定量化する科学として定義されている273).ファーマコメトリクスを臨床評価に応用するため,モデリング&シミュレーション(M&S)が用いられるのが特徴である.モデリングは薬物動態,薬効,安全性などを数理的に説明することを指し,例として濃度-反応モデルやPK/ PD モデル,曝露応答 (ER)モデルがあげられる.一方,シミュレーションはモデリングによって得られたモデルを用い,計算により結果を予測するものである.設定条件を変更することで多様な予測が可能となる.
また,小児への医薬品による不必要な曝露を最小限にし,小児医薬品開発の効率を高めるため,M&S では成人データや他の小児集団データの適切な外挿が認められているこ
とも特徴である.外挿とは,疾患の経過および期待される医薬品への反応が,小児および参照集団(成人または他の小児集団)の間で十分に類似していると推定できる場合に,小児集団における医薬品の有効かつ安全な使用を支持するエビデンスを提供する手段と定義される274).
米国食品医薬品局 (FDA)における小児医薬品承認申請時のPediatric Study Decision Tree では,小児の疾患プロセスに成人との類似性が仮定できる場合には成人の臨床試験成績を小児患者集団へ外挿可能としている(図30) 271, 273).欧州医薬品庁 (EMA)は特にM&S の活用を推奨しており,小児医薬品開発のための試験計画の最適化やデータ解析のツールとしてもM&S は有用だとしている275).
小児臨床試験計画においてPK を外挿する際には,小児特有の成長・発達について考慮する必要がある.たとえば,出生時点での肝臓および腎臓の薬物クリアランス機能は未成熟であるが,その後急速に発達し,体重あたりの薬物クリアランスは1 ~2 歳までに成人を上回る可能性がある.図31 に年齢,身体サイズ,臓器機能の成熟による薬物クリアランスの変化を示す271, 276).2 歳以下では身体サイズ,臓器の成熟度ともに上昇するため,薬物クリアランスは急激に上昇する.また,乳幼児では体重あたりに補正したクリアランス(CL[L/h/kg])は成人よりも大きな値を示す.
1.3.2 ファーマコメトリクスに基づいた 小児適応追加の事例
277)
アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)であるオルメサルタンは,2002 年に高血圧治療薬としてFDA により承認され,2010 年に米国の添付文書に小児(6~16 歳)の若年性高血圧症に対する適応が追加された.その際の小児臨床試験デザインと小児薬用量設定にファーマコメトリクスの手法が用いられた.
小児に対する臨床試験計画に際しては,成人患者でのオルメサルタンの体重あたりのクリアランスが小児にも適用可能との仮定に基づき,同効薬であるアムロジピンの小児臨床試験での患者背景を用いて高・中・低の3 用量での受信者動作特性曲線下面積(AUC)予測が行われた.さらに,成人でのAUC と降圧効果の関係を用いて小児での降圧効果をシミュレーションすることで,高・低の2 用量でも高・中・低の3 用量と同等の用量反応回帰直線が得られた.
続いて試験デザインごとに100 回のシミュレーションが行われ,成功確率が検討された結果,2 用量であっても1群あたりの例数を増やすことで成功確率の上昇と用量反応回帰直線の精度向上が期待される結果となった.これらの
p.66
検討結果に基づき修正された小児臨床試験プロトコルはFDA により承認されたが,この例ではM&S を用いることにより臨床試験に必要な小児の症例数を2/3 に減らし,試験デザインを最適化することが可能であったといえる.さらに,第I相試験と第III相試験で得られた採血データを用いて小児の母集団薬物動態(PPK)解析,ER 解析が実施され,これらの解析結果より体重別の小児薬用量が設定された.
このように欧米を中心にファーマコメトリクスを活用した小児薬用量の具体的な検討が進んでおり,わが国におい
てもそれを追う形で体制が検討されつつある.今後,さらに多くの薬物について小児薬用量が明確に設定されることが期待される.
1.4 小児の薬物動態(PK)の発達変化
投与された薬物の体内動態は吸収- 分布- 代謝- 排泄の4 つの過程に分けられる(図32).成人と小児を比較した
2 1.5 1 0.5
0 20 40 60 80 100 100(%) 80 60 40 20 0
postmenstrual age weeks
CL(L/時)
6
5
4
3
2
1
0
CL(L/時)
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 postnatal age, years 0.15 0.1
0.05
0 CL(L/時/kg)
CL(L/h/kg)
CL(L/h)actual:実線CL(L/h)size:点線
CL(L/h)actual Fmatメインの図は,身体サイズのみあるいは身体サイズと成熟度を考慮したCL を比較したものである(CLsize とCLactual).2 歳以下では身体サイズと成熟度の両方の上昇を反映してCL は急激に上昇する.また,乳幼児では体重当たりに補正するとCL (L/h/kg)は大きな値を示す.インセットの図はCLactual(実線)と成熟度(Fmat: 点線)の比較である.Fmat はサイズで標準化された成人の機能に対する相対割合を示す.
図31 年齢,身体サイズ,臓器機能の成熟による薬物クリアランスの変化(Holford N, et al. 2013 276)より) Copyright (2013) Wiley Periodicals, Inc. and the American Pharmacists Association, with permission from Elsevier.
図30 FDA におけるPediatric Study Decision Tree (矢野育子他.2016 271)より)小児と成人を比較して, (1)疾患の症状や進行具合は同様か? (2)薬物治療に対して同様の反応を示すのか?
小児の有効性を確認できる薬力学的な評価項目はあるか? (1)成人と同様の濃度であることを確認する
PK 試験を実施(2)適正用量での安全性試験を実施
用量を決定するためのPK 試験と安全性/ 有効性試験を実施(1)小児でのER を確認するためのPK/PD 試験を実施(2)目標濃度に達していることを確認するPK 試験を実施(3)適正用量での安全性試験を実施
どちらかが「いいえ」2 つとも「はい」
「いいえ」「はい」
小児と成人を比較して曝露応答(ER)は同様か?
「いいえ」「はい」
オプションA
オプションB
オプションC
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場合,体の大きさだけでなく,臓器の発達(消化管機能や腎機能),薬物代謝酵素の発現,体水分量・体脂肪量,皮膚の厚さなど薬物の体内動態に影響を及ぼす多くの相違点が存在する278).そのため,医薬品添付文書に小児薬用量の記載がない場合であっても,成人量からの安易な換算(体重6 kg の小児に対し,単に成人体重60 kg の1/10 だということを根拠に薬物を成人量の1/10 で投与するなど)は厳に慎むべきである.
また,特に低年齢の小児においては年齢による臓器の成長・発達の程度を考慮する必要がある.図33 に小児期における臓器の成長と発達について示す.質的変化である「発達」は肝臓における薬物代謝酵素の発現や腎臓における血流量の増加など臓器機能の成熟を示すが,これは2 歳ごろまでに成人とほぼ同じ程度にまで到達する,一方,量的変化である「成長」は臓器の大きさの変化であり,2 歳以降も体重が増加するにともない成長は続く.すなわち,2歳までの小児は成長.発達の2 種の因子が複合して薬物体内動態が大きく変動する時期であり,特に薬物投与量に留意が必要となる.臨床においては薬物血中濃度測定が可能な薬物は薬物血中濃度モニタリング(TDM)を実施するなど,慎重な薬物治療の実施が望まれる.
1.4.1 吸収(absorption)
薬物が投与部位から血液循環へ移行することを指し,注射薬を直接血管内に投与する場合には「吸収」という過程は存在しない.血管内投与以外では投与した薬物が100%吸収されることはなく,吸収は薬物の吸収率,薬物間相互作用など複数の因子によって規定される. a.経口投与
多くの薬物の消化管吸収過程は受動拡散である.消化管粘膜の絨毛形成はすでに胎生期に完了しているが,胃から小腸への排泄運動は未成熟である.新生児と乳児の薬物吸収速度は年長児よりも遅く,最高血中濃度到達時間は遅れる傾向がある.しかし,薬物の吸収総量は臨床的に問題となるほどの差はないとされる278).新生児から乳児期において薬物吸収を経時的に評価した研究は少ないが,フェノバルビタール,サルファ剤,ジゴキシンなどの受動的吸収を受ける薬物やキシロースなどの吸収は生後4 ヵ月までに成
熟する279).新生児では胃酸分泌が未発達であり胃内pHが高いため,イトラコナゾールなど溶解度が中性pH 付近で著明に低下する薬物では吸収が遅延または低下する可能性がある.一方,薬物自体が酸性条件下で不安定な薬物(ベンジルペニシリンベンザチン,アンピシリンなど)は,新生児での消化管吸収率が小児や成人よりも高い280).
薬物の消化管吸収速度は剤型により影響される.錠剤やカプセルの剤型で服用される薬物は,消化管内で崩壊と溶解の過程を経て初めて吸収される.したがって,一般的に液体の剤型(シロップ,懸濁剤)からの薬物吸収は固形剤型(錠剤,カプセル剤)より速い.学童期までの小児には液剤やドライシロップなどの剤型を用いることが多いが,成長にともない剤型を錠剤やカプセル剤へ変更する際には血中濃度の推移に変化が生じる恐れがある.
薬物間相互作用には吸収に影響を及ぼすものが報告され
図32 薬物の体内動態
1 absorption
吸収
組織内薬物
尿・胆汁・便への薬物/ 代謝物の排泄2 distribution
分布
3 metabolism
代謝
薬物投与
血中薬物
4 elimination
排泄
組織内代謝物
新生児(0~28 日)乳児(29 日~11ヵ月)幼児(1~6 歳)学童(6~12 歳)青年(12 歳~)
質的変化:発達(機能の成熟)量的変化:成長(臓器の大きさ)図33 小児における臓器の成長と発達
p.68
ている.一部の抗菌薬は2 価,3 価の金属カチオン(Al3+, Ca2+, Fe2+, Mg2+)と結合するため,このような抗菌薬と金属カチオン含有の薬物を同時に服用すると消化管内において難吸収性のキレートを形成し,抗菌薬の吸収が低下する.レボフロキサシンの場合,制酸剤に含まれる水酸化アルミニウムとの併用で血中濃度- 時間AUC が44% 低下,最高血中濃度(Cmax)が65% 低下することが報告されており,炭酸カルシウム,酸化マグネシウム,硫酸鉄などでもそれぞれAUC,Cmax の低下が観察されている281).
また,レボフロキサシン以外のキノロン系抗菌薬についても同様の吸収低下に注意が必要である.セフェム系抗菌薬ではセフジニルにおいて鉄剤との併用で吸収が約1/10に低下することが報告されている282).金属カチオンは医療用医薬品の制酸剤や緩下剤,鉄剤などのほか,市販のサプリメントにも含まれるため,注意が必要である.これらの抗菌薬と金属カチオンを含む薬物を併用する場合は,服用時間を2 ~4 時間以上ずらすことで吸収低下を軽減することができる. b.その他の投与経路i.筋肉内投与
薬物を筋肉内投与する場合,生理的なpH で溶解度が低い薬物(フェニトイン,ジアゼパムなど)は筋肉内で析出する.そのため,血管内への吸収速度に大きな個人差が生じることがある. ii.直腸内投与
坐薬による薬物の直腸内投与は,フェノバルビタール,アセトアミノフェン,アミノフィリンなどの薬物で行われている.直腸下部粘膜から吸収された薬物は門脈を経由せず大循環に到達するため,肝臓における初回通過効果を回避することができるという利点がある.一方,直腸粘膜の表面積は小腸よりも小さく,小児では排便回数が多いため吸収にばらつきが生じることがある. iii.経皮投与
薬物の経皮投与は皮膚湿疹などへの局所的な外用薬の使用,経皮吸収による薬物の全身投与を目的としたニトログリセリン,ツロブテロールなどの貼付製剤の使用などがあげられる.新生児期から乳児期の皮膚角質層の厚さは成人よりも薄く,また小児の皮膚血流は成人より多いため,小児における薬物の経皮吸収は成人と比較して良好である.そのため同一皮膚面積から吸収される体重あたりの薬物量は成人よりも多い.小児において局所消毒を目的とした消毒剤(ヘキサクロロフェン,ヨード)やその基剤(プロピレングリコール),薬物(サルファ剤,ジフェンヒドラミン,リドカイン,プロメタジン,ヒドロコルチゾンクリーム)などが経皮的に吸収されて中毒症状を生じた報告がある283).
iv.吸入投与
吸入投与による薬物の投与は気管支喘息に対するβアドレナリン作動薬やステロイドなどで広く用いられており,吸入投与では薬物を直接作用部位へ到達させるため,全身投与と比較して低い投与量で効果を得ることができる.吸収による血液循環への移行は少ないため血中濃度の上昇は軽微であり,全身への薬理作用の発現は少ないとされる一方,長期に渡る高用量の吸入βアドレナリン作動薬による循環器系副作用が報告されている.喘息発作時に使用するよう処方した吸入βアドレナリン作動薬を患者が自己判断で長期連用しないよう,指導することが必要である.
1.4.2 分布(distribution)
投与部位から吸収された薬物は主に血液循環に移行し全身組織に分布する.この際,薬物が血中濃度と同じ濃度で移行組織に分布すると仮定して算出した値が分布容積である.この値はあくまで見かけ上の値であり,実際の生理的容積を表すものではない.
薬物投与時,目標の薬物血中濃度を得るために必要な負荷投与量は分布容積を用いた以下の式で算出することができる.式中のΔ血中濃度は投与前値と目標血中濃度との差を示す.
(必要な薬物投与量)=分布容積×(Δ血中濃度)分布容積は「薬物の特徴」と「患者の状態」という2 つの因子によって規定され,その値から薬物の体内での拡がりをイメージすることができる.分布容積を規定する因子の1 つである「薬物の特徴」として,薬物の脂溶性・水溶性の例を以下に挙げる.アミオダロンやジゴキシンなどの脂溶性薬物では体組織(筋肉,脂肪)に分布するため分布容積は大きく,一方,アミノグリコシド系抗菌薬などの水溶性薬物では細胞外液のみに分布するため分布容積は小さくなる.成人におけるアミオダロンの分布容積は106 L/kgであり,体重60 kg の場合は6,360 L となることからも,分布容積が実際の値ではなく,仮想の値であることが理解できる.
一方,アミノグリコシド系抗菌薬であるゲンタマイシンの成人における分布容積は0.25 L/kg であり,アミオダロンと比較して非常に小さい値であることが分かる.他方の因子である「患者の状態」に関して,新生児および乳児では成人よりも体重あたりの体内水分量・細胞外水分量が多い278)ことがあげられる.アミノグリコシド系抗菌薬のように水溶性が高く血漿蛋白結合率の低い薬物の体重あたりの分布容積は新生児・乳児では成人よりも大きく,このよう
p.69
な薬物では小児薬用量を体重あたりの成人用量から換算して投与すると血中濃度(特にピーク濃度)が治療域を下回る可能性がある284).一方,脂溶性が高い薬物の体重あたりの分布容積は小児と成人で大きな差はない.
血漿中の薬物は,血漿蛋白と結合した「結合型」と結合していない「遊離型」が可逆的な平衡状態で存在しており,薬物の効果は作用部位に到達可能である「遊離型」薬物濃度と相関する.特に血漿蛋白結合率が高く(>90%),分布容積が小さい薬物は,血液中の薬物結合蛋白濃度の変動による影響を受けやすく,たとえば,薬物の結合率が90%から80% へ低下すると,薬効と相関する「遊離型」薬物の分率は10% から20% へ大幅に増加する.このような現象は血液中の薬物結合蛋白の濃度が低値の新生児(1 歳児と比較して血清アルブミン濃度は30%,α1 酸性糖蛋白濃度は50% 程度低値) 278)や低蛋白血症の小児で起こりやすい.臨床において実施するTDM は通常,総濃度(結合型+遊離型)を測定するため,血液中の蛋白濃度が正常な場合の値に測定値を換算するなど数値の解釈に注意が必要である.
1.4.3 代謝(metabolism)
小児の薬物代謝クリアランスの発達変化は,主として新生児から2 歳前後までの肝細胞あたりの酵素発現量が成人値に向かって増加する時期(質的成長期)と,それ以降の主として臓器サイズ発達により全身クリアランスが増加する時期(量的成長期)に分けて考えられる.以下に薬物代謝酵素の発達変化を第1 相反応(酸化反応が主体)と第2相反応(転移あるいは抱合反応が主体)について記載した(概要は表38).
a.質的成長期:新生児から2 歳前後i.第1 相反応(薬物酸化代謝酵素)
ヒトの薬物酸化代謝酵素でもっとも重要なものは3 種類のシトクロムP450(CYP)ファミリーである(CYP1, CYP2,CYP3).CYP3 群では,CYP3A7 が胎生早期から発現しているが,生後まもなくその発現量は減少し,生後1 年までにほとんど検出されなくなる.一方,成人型のCYP3A4 は出生時には発現量が少ないが,生後1~2 年後にかけて増加する285).CYP3A4 活性の指標であるミダゾラムの体重あたりの全身クリアランスは新生児から乳児期にかけて7 ~8 倍増加することが明らかとなっている286).
CYP2C 群の主要な分子種はCYP2C9,CYP2C19, CYP2C8 である.フェニトイン,ワルファリン,酸性非ステロイド性消炎鎮痛薬(ジクロフェナクなど)などを代謝するCYP2C9 は胎生25 週頃から発現した後,出生後急速に増加し,生後5 ヵ月頃までに約半数の小児が成人値に到
達する287).また,プロトンポンプ阻害薬,クロピドグレルなどの代謝に関与するCYP2C19 は,生後5 ヵ月以上かけて緩やかに発現量が増加する287).一方,テオフィリンおよびカフェインを基質とするCYP1A2 は発現が遅く,生後1~3 ヵ月目から発現が始まる288).
CYP2D6 は抗不整脈薬(フレカイニドなど),β遮断薬(メトプロロールなど)などの循環器薬物,抗うつ薬,抗精神病薬,抗てんかん薬,コデインなどの中枢神経作用薬の代謝に関係する.出生時にはほとんど活性がなく,生後2週間までは低いが,3 週目以降に活性が発達し10 歳までに成人値に達する289). ii.第2 相反応(抱合代謝酵素)
抱合酵素は酸化代謝酵素よりも分子種が多い.代表的な
表38 新生児・乳児期の単位臓器重量当たりの肝代謝およ
び腎排泄活性の個体発生(ontogeny)肝代謝代謝酵素CYP1A2出生時には活性がほとんどないが,生後1~3ヵ月から発現が始まり,4~5ヵ月に成人値となるCYP2C9出生時には活性が低いが,生後急速に活性は増加し,生後5ヵ月頃までに半数の小児でほぼ成人値となるCYP2C19出生時には活性が低いが,生後5ヵ月以上かけて緩やかに発現量が増加するCYP2D6出生時にはほとんど活性がなく,生後2 週間までは低いが,3 週目以降は遺伝子型に応じて活性が発達し,遺伝多型による活性の差異が明瞭となる.10 歳までに成人値に達するCYP3A4出生時には発現量が少ないが,生後1~2 年かけてゆっくりと成人値まで増加するCYP3A7胎生早期から発現するが,生後まもなく発現が減少し,生後1 年までにほとんど消失する抱合(転移)代謝酵素UGT1A1ヒトでは十分な研究がなされていないUGT1A4出生時は成人の50% 以下であるが,1.5 歳頃までにほぼ成人値まで発達するUGT1A6新生児~乳児期を通じて活性は低いUGT2B7新生児での活性は小児(10 歳前後)の20% 程度で,出生後2~6ヵ月で急速に増加する硫酸抱合酵素新生児でも成人値の70% 前後の活性があるN- アセチル化酵素出生時から生後2ヵ月までは低い.生後6ヵ月で遺伝多型の差異が出現し生後1~4 年で成人値となるメチル基転移酵素出生時にすでに成人値を示す腎排泄糸球体濾過速度 新生児期には成人の10~20% であるが,1 歳前後で成人値まで成熟する尿細管分泌機能 新生児期には低い.糸球体発達より発達は遅れ
るが1 歳前後で成人と同じになる
p.70
抱合酵素であるグルクロン酸転移酵素(UGT)は遺伝子構造からUGT1A(9 分子種)とUGT2B(7 分子種)のサブファミリーに分類される.
ビリルビンを抱合体謝するUGT1A1 は胎生期にほとんど活性がなく,出生時にはきわめて低値であり,出生後急速に増加する.生後数日から1 週間程の間に生理的高ビリルビン血症が出現するのは,このUGT1A1 の発現量により説明される.また,新生児にUGT の基質である抗菌薬のクロラムフェニコールを投与した場合,高頻度でGray症候群と呼ばれる重篤な中毒反応が報告されたのは,新生児期のUGT が低活性であることが理由である.クロラムフェニコールの代謝は生後6 ヵ月で成人値に達する290).
出生時の肝組織UGT1A4 活性は成人の50% 以下であるが,1.5 歳頃までにほぼ成人値まで発達する291). UGT1A6 活性は基質であるアセトアミノフェンのクリアランスで評価すると,新生児,乳児を通じて低い.抗がん剤イリノカテンなどの代謝に関係するUGT1A1 の発達変化についてはヒト肝臓試料での活性研究があるが292),in vivo での全身クリアランスについては情報がない.一方, UGT2B7 はモルヒネの代謝に関係する.モルヒネの全身クリアランスで評価した新生児のUGT2B7 活性は10 歳前後の小児の10 ~20% 程度にすぎず,出生後2 ~6 ヵ月で急速に増加することが知られている293).硫酸抱合酵素の活性は新生児でも十分に発現しているとされる. b.量的発達期:学童以降
主として学童から思春期の小児を対象とした薬物動態に関する研究(ワルファリン,ジソピラミド,テオフィリン,カルバマゼピンなど)では体重あたりに換算した小児薬用量が対応する成人量を2 倍程度上回ることが知られている278).この現象は,主として薬物の体内動態に関わる臓器(肝臓,腎臓)の重量と体重の比率が小児では成人より大きいことに由来する見かけの現象である.画像検査で計測した肝容積で標準化したいくつかの典型的な肝代謝型薬物の小児クリアランス値は成人値とほとんど差がない294, 295).
1.4.4 排泄(elimination)
腎臓組織におけるネフロンの形成は胎生期の早期から始まり,36 週にはほぼ完成し,さらに生後2 週間の間に急速に発達して8~12 ヵ月で完成する.このため,糸球体濾過率(GFR)は未熟児では0.6~0.8 mL/分/1.73 m2,満期産の新生児では2 ~4 mL/分/1.73 m2 と,満期産の新生児は未熟児と比較して大きな値を示す.その後1 歳前後には体表面積で標準化した値(mL/分/1.73 m2)は成人とほぼ同等となる278).尿細管分泌機能については,新生児期では未熟であるが糸球体濾過機能より遅れて生後1 年前後
に成熟する.
このような腎機能の発達変化は,主に腎糸球体濾過により排泄される水溶性薬物(アミノグリコシド系薬,ファモチジン,ラニチジンなど)の薬物体内動態に大きな影響を与えることが知られており278),たとえば,ゲンタマイシンの消失半減期は,未熟児では36~48 時間,新生児では24時間と,成人の2~4 時間と比較して著明に延長する296)この消失半減期の年齢にともなう変化は腎機能の発達変化に加え,年齢による体重・体表面積あたりの分布容積の違いにも依存している.
尿細管分泌機能には各種の有機アニオントランスポーターが関係しており,薬物によってはそのクリアランスが腎糸球体濾過速度を上回ることもある.尿細管分泌クリアランスの発達は腎糸球体濾過の発達よりも遅れるとされている.有機アニオントランスポーターの発達変化はパラアミノ馬尿酸(PAH)やブメタニド,フロセミドの腎クリアランスで評価されており,新生児の体重あたりのブメタニド全身クリアランスは成人の20% であるが,新生児から乳児期に3 倍以上の発達変化が観察される297).また,同様の変化がフロセミド,アンピシリン,ベンジルペニシリンなどで観察されている298).腎尿細管の有機カチオントランスポーターやPgP 活性の発達変化についてはいまだに情報が少ない.
1.4.5 小児の薬物感受性の成人との差異に関する知見
PD の発達変化については,PK よりも情報がはるかに少ない.新生児・乳児ではシクロスポリンによる免疫抑制作用,ワルファリンによる抗凝固作用,ランソプラゾールによる胃酸分泌抑制効果における感受性がより年長の小児や成人よりも高いとする報告がある278, 283, 298).また,結核に対する化学療法やバルプロ酸による肝障害の出現率は小児において成人よりも高いなど,副作用頻度にも成人との差異が報告されている278, 283).従来の研究では薬物応答性の発達変化は「投与量-効果関係」により評価されることが多かったが,今後は「血中濃度- 効果関係」に基づいて評価し,PD の発達変化を検討する必要があると考えられる.
p.71
2 妊娠と胎児の薬理学
2.1 妊娠と胎児の薬理学
2.1.1 妊娠時期と児への影響(図34)
a.受精からおよそ2 週間(およそ妊娠3 週まで)「all or none(全か無か)」の時期とよばれる299).この期間に受精卵が薬剤や放射線から障害を受けると,多数の細胞に損傷を受けた場合には胚死亡(広義の流産)となるが,わずかな細胞しか損傷を受けなかった場合には修復され,正常の発生を継続すると考えられている.すなわち,この時期にリスクに曝露されても,流産にならなかった場合には構造的先天異常(奇形)の形で残ることはないと考えられている. b.妊娠4 ~11 週
重要臓器が形成される時期で,先天異常の絶対過敏期となる.催奇形性の観点から,もっとも注意を払わなければならない時期である.妊娠8 ~11 週は口蓋や外性器が作られており,まだ慎重な対応を要する. c.妊娠中期以降
構造的先天異常の心配はなくなるが,胎児毒性という観点からの考慮が不可欠となる.この時期に注意が必要な薬剤としては非ステロイド性抗炎症薬の動脈管収縮,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の腎機能障害・羊水過少症が知られている.また,バルプロ酸をはじめいくつかの薬剤で児の神経発達への影響が疑われている.
胎児毒性が明らかな薬剤を避けるのはもちろんであるが,胎児毒性は長期的な観察が必要など,証明することは難しいため,胎盤移行性の高い薬剤の安易な投与は避けるべきである.また,同じ薬効であれば胎盤移行性の低い薬剤(後述)を選ぶべきであろう.
2.1.2 母体の薬物動態の変化300, 301)
妊娠中は生理学的,内分泌学的,代謝学的,免疫学的にダイナミックな変化をみる.特に前3 者は理論的には薬物動態に大きく関係するはずであるが,実際の臨床で妊娠中に薬用量の補正が必要となる場面は少ない. a.吸収
妊娠中はプロゲステロンの血中濃度が高いため,胃内容排出時間と消化管通過時間が延長する.したがって,理論的には薬剤の吸収が遅れて効果発現が遅くなる可能性がある.また,胃酸分泌が低下し胃内のpH が上昇するともい
図34 妊娠時期と児への影響
中枢神経系心臓四肢口唇耳眼歯口蓋外性器大異常
小異常機能的障害
p.72
われており,溶解と吸収が酸度に左右される薬剤では影響を受ける可能性もある. b.分布
妊娠中,循環血漿量は約1.5 倍になる.アルブミン濃度産生量は増すものの,相対的には低アルブミン血症となる.これらによって薬物分布容積が増大し,薬物総血中濃度が低下する可能性がある.ただし,遊離型薬物濃度の割合は増加するため,臨床現場で投与量の調整が必要となることは少ない. c.代謝
薬物代謝は第一相反応と第二相反応の2 段階で進む.第一相反応に重要なのがシトクロムP450(CYP)であり,妊娠中に活性が増加する代表的なものとしてCYP3A4, CYP2D6,CYP2C9 がある.これらのうち,多くの薬剤の代謝に関連するCYP3A4 はニフェジピン,ベラパミル,シクロスポリンなどを基質とするため,理論的にはこれら薬剤の濃度が低下する可能性がある.一方,妊娠中に活性が低下するCYP もある.第二相反応であるグルクロン酸抱合はエストロゲンによって増強する.そのため,投与量の調整が必要な抗てんかん薬もある. d.排泄
妊娠中は糸球体濾過量が約1.5 倍となる.したがって,腎排泄性の薬剤ではクリアランスが増加し,薬物の血中濃度が低下する可能性はあるが,このことを理由に投与量の調節が必要となる場面は通常ない.
2.1.3 薬剤の胎盤移行性
薬物が胎盤を移行するメカニズムは多くの場合が受動拡散であり,分子量が低い(500 以下),脂溶性が高い,イオン化傾向が低い,蛋白結合性が低いと移行しやすい.例外として,副腎皮質ホルモン剤であるプレドニゾロンは低分子でありながら,胎盤の17β-HSD2 で代謝されるので10% 程度しか移行しない.一方,近年多用されるようになった生物製剤のうち,免疫グロブリン製剤はFc 受容体を介して能動輸送で胎児に移行する.
2.1.4 胎児の薬物動態
母体に投与した薬物は臍帯静脈から胎児に入ることになる.臍帯静脈から胎児に入った血流の多くは肝に流れ,残りは静脈管を通って下大静脈にシャントする.これらが混ざって右心房に戻り,卵円孔と動脈管を通じて全身循環へと分布したのち臍動脈に戻る.胎児の薬物代謝能は低く,薬物は臍動脈から母体に戻って代謝されることになる.一部の薬剤は胎児の腎によって羊水中に排泄されるので,その嚥下によって再吸収される可能性がある.胎児の薬物分布には胎児型アルブミンは薬物との結合性が低いこと,胎
児の体水分率が低いことが影響していると推測される.
2.2 母乳と乳児の薬理学
「母体が飲食したものが母乳に出ること」は,広く一般にも認識されている.母乳が生成される過程において,薬物がどのように乳汁中に分泌され,それを摂取した乳児にどのように影響があるのかを,薬理学的観点から説明する.
2.2.1 薬物の要因
乳汁の合成と分泌を行う乳腺上皮細胞は一層の極性細胞で,薬物は細胞膜を濃度勾配にしたがう受動拡散(化合物の物理化学的性質にしたがう対称性輸送)により経細胞輸送される302).薬物や内因性生理活性物質の多くは,乳腺上皮細胞の基底膜側(baso-lateral)の細胞膜および頭頂側(apical)の細胞膜を,濃度勾配にしたがう受動拡散により移動する303).受動拡散は化合物の物理化学的性質にしたがう対称性輸送である(図35).
ここで細胞膜を透過できるのは,薬物分子のうち蛋白や脂質などの高分子に結合していない非結合型分子(unbound 型)である304).非結合型分子はさらにイオン型と分子型(非イオン型)から構成されるが,その構成比は薬物自身のpKa(酸解離定数)と周辺溶液のpH に依存して決定される.
一般に親水性のイオン型は膜を透過しにくく,疎水性である分子型が比較的自由に膜透過する.さらに,乳腺におけるトランスポーターによる物質輸送も近年研究が進んでおり,一部の薬物における能動輸送も確認されている.
乳汁Cm, total
図 35 血液と乳汁間における非結合型薬物の膜輸送血液および乳汁中の蛋白や脂質などの高分子に結合していない非結合型薬物のうち, 分子型が受動拡散により膜透過する
血液Cp, total
非結合型(unbound)
分子型←→イオン型非結合型(unbound)
イオン型←→分子型
トランスポーター
受動拡散薬
脂質
薬
薬
薬
薬蛋白蛋白
pH 7.4 pH 6.8
Cp, unbound Cm,unbound fp kf fm fm, total
p.73
a.分子量
低分子,特に分子量500 以下の化合物は分子量が小さく,単純拡散により母乳に移行しやすいことが知られている.たとえば,低分子ヘパリンは分子量が平均5,000 と大きく,母乳中の薬物濃度は検出限界以下であった305).未分画ヘパリンはさらに分子量が大きく,母乳移行性は低いと考えられている. b.塩基性
母体血漿と母乳間の薬物の受動拡散では,図35 に示すように分子型薬物のみが対象となり,平衡状態を呈している.イオン型薬物は荷電を有するため膜を通過できず,母乳中へ移行しない.母体血漿のpH は7.4 であるのに対し,母乳は6.8~7.2 と弱酸性に傾いている.そのため,塩基性薬物は乳汁側でより多くイオン型として存在してトラップされ,母体血漿中に戻りにくい.この母乳中に留まる現象はイオントラッピングとよばれ,結果として塩基性薬物は乳汁移行しやすい. c.脂溶性(疎水性)
脂質二重層からなる乳腺上皮細胞の細胞膜を通過するには,脂溶性薬物のほうが有利である.加えて,哺乳動物では一般に乳汁中の脂質濃度は母体血中のそれより高い.そのため,乳汁中に存在する脂肪滴に分配してトラップされ,乳汁移行しやすい.乳汁中薬物の疎水性の指標として,オクタノール/ 水分配係数が用いられる(図35 ではkf). d.蛋白結合率
薬物は,母体血中では血清アルブミンやα1 酸性糖蛋白質など結合して存在しているが,血漿蛋白に結合した薬物は半透膜である乳腺上皮細胞膜を通過できない.非結合型薬物か結合型かは,薬物固有の蛋白結合率(図35 のfp)で薬物ごとに決定される.血漿中蛋白結合率の低い薬物ほど非結合型が多く,乳汁移行しやすい. e.トランスポーター
受動拡散に対してトランスポーターを介した能動輸送の存在も知られてきた306).特に授乳期に多く発現しているトランスポーターとして,breast cancer resistance protein (BCRP;ABCG2)が知られている.BCRP は排泄トランスポーターであり,ビタミンB2,ビオチンなど内因性物質や,ニトロフラントインやシメチジンなどの薬物をATP のエネルギーを用いて積極的に乳汁中に輸送している307, 308).またorganic cation transporter(OCT)1 も授乳期に発現し,ビタミンB1 やシメチジン,テルブタリンなどの物質を能動輸送している309, 310).
2.2.2 新生児・乳児の要因
母乳から曝露を受けた薬物が薬効薬理作用を呈するには,まず新生児の腸管から吸収され,血流を経て標的臓器
に分布される必要がある.その後に薬物は代謝され,排泄されるが,そこには成人と異なる新生児固有のADME(吸収[absorption],分布[delivery],代謝[metabolism],排泄[excretion])が存在する. a.吸収
新生児の胃液のpH は,成人に比べ高い.したがって,酸に不安定な薬物は小児や成人よりも胃酸の影響を受けにくく,濃度が上昇しやすい.加えて,腸管自体の蠕動運動や粘膜自体の未熟性にともない,一般に新生児や乳児の生体内利用率(バイオアベイラビリティー)は,成人よりも低いことが多い.
さらに新生児は,腸管におけるβグルクロニダーゼ活性が高く,いわゆる「腸肝循環」の影響を受けやすい.肝臓での抱合におけるグルクロン酸転移酵素(UGT)活性自体は低く,グルクロン酸抱合能は成人より低いが,低いながらも抱合を受けて胆汁排泄された薬物の一部は,小腸粘膜の刷子縁で脱抱合を受け,再吸収されやすくなる.たとえば,母体への鎮痛剤や未熟児動脈管開存症として使用されるインドメタシンは,この腸肝循環により新生児からの排泄が遅延することがある.
吸収を高めるため,エステル化などの化学修飾を施した化合物もある.ACE 阻害薬のエナラプリルは,母体に投与した後にエステラーゼにより脱エステル化され活性体(エナラプリラート)となって降圧作用を発揮する.経母乳的に摂取するエナラプリラートあるいはエナラプリルは母体への投与量の0.16% と微量であり,乳児の全身循環に至る吸収量はきわめて微量である311).さらに,低分子ヘパリンなど分子量がきわめて大きな薬物は,仮に経母乳的に薬物を摂取しても,腸管からの吸収はまず期待されない. b.分布
体液分布において,新生児では体重の75% が水分である.細胞外液は体重の35% と非常に高い.成人になるにつれ総水分率は60% まで減少し,細胞外液も体重の20%まで低下する312).そのため,たとえば水溶性薬物においては,新生児で体重あたりの分布容積が大きくなる.
また結合蛋白濃度も,新生児のアルブミンは成人の80%,α1-酸性糖蛋白は成人の30% しかない.また,結合妨害物質(displacer)としての遊離脂肪酸やビリルビンが存在するため,非結合型薬物濃度が生理的に上昇しやすい.このような背景により,成人よりも薬効薬理作用が出やすい313). c.代謝・排泄
新生児の薬物クリアランスは未熟で,成人よりも一般に低い.肝臓の発達は,出生後週数で決定されるとされる.
p.74
表39 薬物の乳汁移行性における薬理学的パラメータ
• M/P 比=乳汁中薬物濃度÷ 血漿中薬物濃度• TID(mg/kg/日)=乳汁中薬物濃度× 母乳摂取量(mL/kg/ 日) • RID(%)=TID(mg/kg/日)÷ 母体薬物摂取量(mg/kg/日)× 100 • EI(%)=M/P × 10 ÷ 乳児クリアランス(mL/kg/ 分)
たとえば肝代謝におけるCYP チトクロームP450 発現は胎生期から1 歳までは成人よりも低く,肝組織あたりの総CYP 含量は1 歳で成人の25~50% といわれる.個々のCYP では,胎児期に発現して,内因性基質代謝に関与し,生後消失するもの(3A7),胎児期に発現なく,生後数時間で発現が上昇するもの(2D6,2E1),新生児期やそれ以降にやや遅れて発現が上昇するもの(1A2,3A4)など,チトクローム分画により異なる287, 314).
一方で,腎機能の発達は受胎後週数で決定され,発達速度は出生前後で変わらない.多くが糸球体濾過量(GFR)により決定されるためである315).詳細は前項(第3 章1.小児薬物療法の基礎知識)を参照されたい.
2.2.3 母体の要因
授乳と薬物療法の分野において,循環作動薬ではないが唯一の死亡例がある.出産後の鎮痛薬としてコデイン30 mg を長期間使用したところ,母体はコデインの代謝酵素CYP2D6 の超迅速代謝 (ultra-rapid metabolizer)であった.そのため母体血中でただちにモルヒネに代謝され,乳汁中に分泌されたことにより,新生児がモルヒネ中毒で死亡したものである.母乳中のモルヒネ濃度は87 ng/mL と非常に高く,一般的報告の4 ~40 倍に達していた316).
また,母体プロラクチン値の変動による母乳分泌量の変化をきたす薬剤がある.ブロモクリプチンメシル酸塩に代表される中枢ドパミン神経作動薬では,血中プロラクチン値が低下することで,乳汁分泌が抑制される.何らかの理由で積極的に母乳分泌を中止したい場合に,処方されることがある317).反対に制吐薬として処方されるドンペリドンやメトクロプラミドはドパミン受容体拮抗薬としてプロラクチン値を上昇させ,乳汁分泌を一時的に増やす作用がある.しかし,同剤の有する錐体外路症状や不整脈などの母体への副作用を考えると,母乳分泌を目的に使用すべきではない. a.母乳移行性における薬理学的パラメータ
こうした薬理学的に薬物と乳汁移行性を検討する場合,絶対的なパラメータはない.臨床では以下のパラメータが使用される(表39). i.乳汁/ 血漿薬物濃度(M/P)比
母乳中の薬物濃度を母体血漿中の薬物濃度で除した値はM/P 比とよばれ,薬物の物性としての母乳移行性の指標である.たとえばカプトプリル318),プロプラノロール319),ニフェジピン320)におけるM/P 比は,それぞれ0.03, 0.33 ~1.65,1.0 と低値である.一方でアテノロール321),ソタロール322)では1.5~6.8,5.4 と高値である.M/P 比はあくまで母体血漿薬物濃度と母乳中薬物濃度の比であり,物性として母体血液から乳汁にどのくらい移行するかを示した値にすぎない.M/P 比が高値であれば乳汁への移行性が高く,1 以上は母体血液から乳汁に濃縮される薬物とも表現できるが,この点と授乳の可否とは直接的な関連はない. ii.理論上の乳児薬物摂取量(TID)
TID は乳汁中薬物濃度と母乳摂取量(通常150 mL/kg/日)で決定されるため,混合栄養の指導など,母乳摂取量自体を減らすことで乳児曝露量を少なくすることが可能である.単位はmL/kg/日で示され,小児科医には単位体重あたりの曝露量(摂取量)として一見理解しやすい.しかし,母体に投与された検討薬剤そのものが,新生児や乳児,さらには小児領域で馴染みがなく,小児科医にとって使用経験が少ない薬剤も多い.そのためTID 値自体が高いのか低いのか,判断に迷うことも多い. iii.相対乳児摂取量(RID)
RID はTID を母体薬物摂取量で除した値である.RID <10% は体重あたりの投与量が母体の10% 未満であることを意味する.小児の代謝解毒能力が大人と等しいと仮定した場合においては,RID<10% の曝露量は比較的少ないと解釈され,授乳の可否を判断する際の1 つの目安となっている.通常,薬効薬理作用は用量に依存するため,乳児の曝露量はきわめて少ないと解釈できるからである.
カルシウム拮抗薬のニフェジピン323),ニカルジピン324)のRID はそれぞれ0.1% と0.073%,β遮断薬のプロプラノロール319, 325)のRID は0.1~0.9%,αβ遮断薬であるラベタロール325, 326)のRID は0.004 ~0.07% で,乳児への影響なしに授乳婦へ投与できる可能性が示されている.β遮断薬の中でもアテノロール325),アセブトロール327) のRID は順に5.7~19.2%,1.9~9.2% と高く,哺乳した乳
p.75
児に徐脈,低血圧,チアノーゼなどが認められたと報告されている.なお,わが国で使用率の高い長時間作動型カルシウム拮抗薬のアムロジピンではRID が3.4% と高くなく,乳児に対する安全性とともに,母乳育児と薬物療法の併用が可能であることも報告された328).
一方,抗不整脈薬であるアミオダロンは,RID が43.1%と非常に高い329).ヨード含有薬であるために,抗不整脈作用に加えヨード過剰摂取にともなう乳児の甲状腺機能異常が報告されている.現時点では併用困難と判断されることが多いが,心電図や甲状腺ホルモン値のモニタリングなどにより,期間を定めて使用した報告もある. iv.線量指標(EI)
乳児の薬物クリアランスをパラメータに取り入れた指標として,EI(%)が提唱されている.M/P 比に10 を積算し,乳児の薬物クリアランス(mL/kg/分)で除した式で表される.乳児のADME を考慮したより臨床に近い指標といえる.ただし乳児クリアランスが不明な薬物が多く, EI が明らかな薬物は限られている330).
2.2.4 あえて人工乳が選択される場合331)
母体への薬物療法のみを理由にした積極的な母乳の中止は,薬理学的な理由からはほとんどない.あえて人工乳が選択される,いわゆる「母乳禁忌」の状態は特殊な場合のみである.母乳を介する感染が知られる母体の成人T 細胞型白血病(ATL)や母体のヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染時(先進国のみ),母体が麻薬系薬物服用中,さらに検査や治療目的で母体が放射性同位元素や放射性活性物質の使用中などに限定される.
児側の要因としては,先天的な酵素欠損である古典的ガラクトース血漿や,それに準じる先天性門脈欠損症があげられる.フェニルケトン尿症など児の一部代謝性疾患では,管理下での母乳は可能である.国内ではATL に関して異論もまだ認めるが,近年の国外の流れはヒトT 細胞白血病ウイルス(HTLV)-1 およびHTLV-2 陽性母体では,たとえ搾母乳しても禁忌と判断されている.母体サイトメガロウイルス感染時は,1,500 g 未満などの低出生体重児でのリスク・ベネフィットの考慮が必要と考えられる.また母体の活動性結核やヘルペス感染時には,搾母乳を与えることで直接の感染を回避できる. 2.3 妊娠授乳期の薬物治療における リスク・ベネフィット評価の重要性
2.3.1 妊娠中ないしは妊娠する可能性のある女性に 薬剤を処方する際の考え方
そもそも薬剤は,「リスクを考慮しても,薬剤を投与することにより得られる効果が病態の改善にとって必要である」と判断したときに処方される.妊婦・授乳婦に対しても同様である.
妊婦・授乳婦で特別なのは,母親への薬剤投与により,薬剤を必要としていない胎児・乳児にも薬剤が投与されることである.児にとっては副作用リスクのみが負荷されてしまう.しかし,母体環境は胎児の成長・発達に重要なのは当然のことである.母体環境を向上させるため,必要な薬剤を使用しないことによるリスクがあることも認識しなければならない.
流産,先天異常の自然発生率(ベースラインリスク)は15%,3% 前後と考えられている.もしも先天異常を持つ児が出生した場合,妊娠初期に薬剤を使用していたとすると,それが催奇形性のないものであっても原因にされがちである.母親にとっては自分が薬剤を使用したことへの後悔となり,処方した医師にとっては後味の悪いものになる.
このような点からも,安易な薬剤の使用は避けるべきである.母体環境を向上させるために薬剤を使用したほうがよいときには,疫学研究でリスクが否定的と考えられるもの,疫学研究がない場合は使用経験の多そうなものを優先して使用する.また,患者には最新の確かな情報をわかりやすく説明するとともに,ベースラインリスクについて言及しておくことが必要である.
妊娠の時期と胎児への影響の関係については,受精からおよそ14 日間(~妊娠4 週0 日+α)は受精卵が薬剤などによる影響を受けた場合には流産してしまい,形態の異常として残ることがないと考えられる,「all or none(全か無か)」の時期299)について言及した(第3 章2.1 参照).薬剤のリスクとベネフィットのバランスをとる方法332)として,この理論も有用である.たとえば,ワルファリンは約25%に特有の先天異常が生じるといわれている.本剤を使用している女性が妊娠を希望した場合,妊娠前からヘパリン注射をするのは非現実的である.本剤を使用しながら妊娠に挑戦し,妊娠反応が陽性となったらすぐにヘパリンに切り替えるという方法がとられている.
p.76
2.3.2 安全性情報はどこに求めればよいか
第3 章2.4 を参照のこと.
2.3.3 安全性はどのように評価すればよいか
動物実験結果をヒトに適用する(外挿)ことには限界がある333).ヒトで使った場合に安全かどうかは,ヒトでの使用経験から判断するしかない.発売直後におけるヒトでの使用経験は症例報告である.類似したパターンの異常が複数出ればそれはリスクを示唆することになるが,単発的な異常や少数の健常児出産の報告はリスクや安全性の証左にはならない.そもそも安全である(リスクがない)ことの証明は「悪魔の証明」であり,実際は不可能である.
では,どのような場合に「リスクがなさそうだ」といえるだろうか.この領域でもっともエビデンスレベルが高いのは,前向きコホート研究ということになる334).一般的に, 300 例以上を対象とした研究でリスクが示されない場合に「先天異常のベースラインリスクよりも有意にリスクが上昇する可能性は低い」という表現をしている.しかし,現実には疫学研究が報告されていない薬剤も多い.疫学研究のない薬剤では,類薬で疫学研究があればそれを,そうでない場合にはこれまでのヒトでの経験を参考にすることになる.
2.3.4 授乳中の薬物使用についての考え方330)
母乳栄養には,児の感染症リスクの低下や認知能力向上などのメリットがあるばかりか,母親にとってもメタボリックシンドロームの予防など,多くのメリットが示されている.何よりも母児間の愛着形成の促進,衛生的かつ簡便,と母乳栄養のメリットは大きい.
わが国の添付文書には,薬剤が乳汁中に分泌されるデータがある場合は,新生児への有害事象の有無にかかわらず授乳中止とされているが,放射性物質,抗がん剤,一部の抗てんかん薬,ヨード製剤を除くと,母乳栄養との両立は可能である.現在行われている添付文書の記載要領の変更で,母乳栄養と薬物治療の両立がやりやすくなることを期待したい.
母乳と薬物に関する薬理学的な詳細は第3 章2.2 を参照のこと. 2.4 妊婦・授乳婦への薬物療法情報について
2.4.1 妊娠中ならびに授乳中の薬物療法情報源
a.わが国の医薬品添付文書
医薬品添付文書は,妊娠中・授乳中の薬剤の安全性に関してわが国における唯一の公的な評価基準であり,医師・薬剤師にその遵守が求められていることはいうまでもない.しかし,ほとんどの薬剤はヒトでのエビデンスに基づいて書かれてはいない.
2017 年6 月8 日,20 年ぶりに記載要領の変更が発出されたが,その際の留意事項として「『投与しないこと』及び『授乳を避けさせること』と記載する場合は,胎児又は哺乳する児の曝露量(特に局所適用製剤の場合),臨床使用経験,代替薬の有無などの臨床的影響を十分に考慮して記載すること,臨床使用経験,疫学的調査などの情報が臨床上有益な場合は,適正使用に関する情報として記載すること」という文面が付け加えられた.2019 年4 月から5 年かけて変更していくことになっている. b.米国の医薬品添付文書
米国食品医薬品局(FDA)カテゴリー(A,B,C,D, X)は,その不合理性のために2015 年に廃止された.新しいスタイルは「胎児へのリスク要約」「臨床的解釈」「根拠となるデータ」について,記述式での記載である.根拠となるデータの項目では,ヒトでのデータが動物実験データよりも優先されること,疫学研究の詳細を記述すること,動物実験結果は動物の種とヒト相当量との関係を記述すること,と指導されている.さらに新たな項目として,妊娠検査の必要性や医薬品に関する不妊の情報などが含まれる「生殖能力のある女性および男性」の内容が追加されている. c.産婦人科診療ガイドライン産科編
日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会が編集・監修した「産婦人科診療ガイドライン産科編2017」335)には,以下のように妊娠・授乳中の薬物治療に関係したクリニカルクエスチョン(CQ)が7 つ取り上げられている.このガイドラインはエビデンスに基づいて記載されており,3 年ごとに改訂されている.医薬品添付文書の次に公的なものとして位置付けられると考える.
CQ101妊婦・授乳婦の予防接種については?
CQ102インフルエンザワクチン・抗インフルエンザ
薬は?
CQ104-1妊娠中の薬剤についての説明は?
CQ104-2 妊婦禁忌でも投与できる薬剤は?
p.77
CQ104-3妊婦禁忌でもリスクが上昇しない薬剤は?
CQ104-4 有益性投与でも注意が必要な薬剤は?
CQ104-5授乳中の薬剤についての説明は?
d.Drugs in Pregnancy and Lactation(書籍) 336)
妊娠および授乳と薬物の分野における中心的な教科書であり,1983 年の第1 版から定期的に改訂されている.最新の第11 版では1,200 以上の薬剤の文献情報が収載されており,LWW 社の関連ウェブサイトから検索機能付きの本編全文へのオンラインアクセスが可能で,随時情報更新される.妊娠期,授乳期の使用に関する独自のリスク分類(妊娠期17 分類,授乳期9 分類)と要約が特徴で,大変参考になる. e.薬物治療コンサルテーション妊娠と授乳(書籍) 337)
トロント大学のマザーリスクと国立成育医療研究センターの妊娠と薬情報センターのメンバーが中心となって作成したもので,添付文書の記載ではなく疫学研究を優先した解釈がなされている.近々第三版が発刊される.Drugs in Pregnancy and Lactation 日本版と考えていただきたい.
2.4.2 授乳中の薬物使用に特化した情報源
a.米国小児科学会(AAP)による声明
2001 年に薬事委員会から発表され,わが国でも小児科医や産科医を中心に参照されてきたが,2010 年8 月に失効し改訂予定はない.この声明に基づいて,北米では授乳婦が薬物療法中であっても有効性が安全性を上回る際の授乳が推奨されてきた.FDA によるラベリングの変更にともない,現在では次に述べるLactMed にその役割が移行している. b.LactMed 338)
米国国立衛生研究所(NIH)の関連ウェブサイトにおいて2006 年から無料公開されているデータベースで,現在もっとも参考になる情報源である.LactMed はFDA のラベリングに準拠した記述式の記載であり,情報量も多い.更新も定期的に行われており,薬剤名を入力するだけで常に最新の知見を盛り込んだ情報を得ることができる.北米の市場にない薬剤は検索できないが,質・量ともに適切な情報を短時間で入手するツールとして有用である. c.Medications and Mothers’ Milk(書籍) 339)
授乳と薬に特化した教科書である.薬物半減期,酸解離定数, 母乳/ 血漿比,分子量,蛋白結合率などの物性および薬物動態パラメータが薬物ごとに一覧表として記載されている点が特徴である.また独自の5 段階のリスク分類を設けている. d.妊娠と薬情報センターウェブサイト340)
妊娠と薬情報センターでは,2007 年よりホームページ上で「授乳中に使用しても問題ないとされる薬剤」「授乳中
には使用できない薬剤」の表を無料公開してきた.その後, 2010 年,2018 年に改訂を行っている.2018 年の改訂では妊娠と薬情報センターでの相談例が多い薬剤についても追記された.当該薬剤の症例報告を重要な科学的根拠と位置づけ,評価が行われた.妊娠と薬情報センターでは乳汁中の薬物濃度測定にも積極的に取り組んでいる.その結果をこの表に組み込んでいく予定である.
上記説明にそった方法で各薬剤の妊娠中ならびに授乳中の安全性評価を表40 ~47 に示した.
3 小児における鎮静薬
3.1 小児検査における鎮静薬の使い方
乳幼児や知的障害をともなう小児では,安静を保ち確実に検査するため,薬剤による鎮静は必須である.鎮静は自然睡眠とは異なるため,仮に浅鎮静であっても呼吸停止・心停止のリスクを想定した安全管理体制が必要である.欧米の動向に続き341–343),わが国でもMRI 検査の鎮静管理が提言された2013 年ごろから, 鎮静の重要性が広く認識されるようになった344, 345).
小児循環器領域では,呼吸循環動態が不安定な乳幼児の検査も多く,安全かつ確実に実施できる鎮静が求められる.本項では,おもに心疾患に対するエコー,CT スキャ
表40 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(定義)
妊娠総合評価の定義
○: 疫学研究で安全性が示唆されるもの. △: ヒトでのデータは限られるが,類薬や経験からおそらく安全と考えられるもの. ▲: ヒトでのデータがないか限られていて,経験も少なくリスクが否定できないもの. ×: 催奇形性や妊娠転帰に影響する毒性のリスクが明らかであるもの.または,動物実験でリスクが強く疑われ,リスクを否定する疫学研究がないもの. -: デ-タは動物実験のみのもの.また,類薬がないか,類薬
での情報や経験が乏しく評価できないもの.
授乳総合評価の定義
○:疫学データ,使用経験,薬理学的特性からおそらく可能と考えられるもの. △:ヒトでのデータがないか限られており,推奨できる根拠に乏しいもの. ×:薬剤による毒性のリスクが明らかであるもの. -:ヒトでのデータがなく,リスクを評価できないもの.
p.78
表41 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(抗凝固薬)
分類一般名添付文書妊婦への
使用妊娠中投与の疫学研究評価妊娠総合
評価妊娠転帰への影響や
管理上の注意授乳総合
評価投与中の授乳
クマリン誘導体ワルファリン
禁忌第1 三半期:胎児ワルファリン症候群(骨・軟骨形成異常,IUGR,精神運動発達遅滞など)第2~3 三半期:出血性合併症による中枢神経系異常や死産率上昇×〇
未分画ヘパリンヘパリンおそらく安全である○〇低分子ヘパリンエノキサパリンおそらく安全である○〇
ダルテパリン禁忌おそらく安全である○〇
ヘパリノイドダナパロイドデータは限られるが,使用経験からおそらく安全と考えられる△〇抗血小板薬アスピリン(低用量)おそらく安全である○〇
ジピリダモールデータは限られるが,類薬と経験からおそらく安全と考えられる△〇チクロピジンデータは限られるが,類薬と経験からおそらく安全と考えられる△ △授乳児に出血性合併症の報告ありクロピドグレルデータは限られるが,類薬と経験からおそらく安全と考えられる△ △シロスタゾール禁忌データは限られる▲臨床的有用性で判断する△プラスグレルデータは限られるが,類薬からおそらく安全と考えられる△ △
合成Xa 阻害薬フォンダパリヌクスデータは限られるが,使用経験からおそらく安全と考えられる△〇直接Xa 阻害薬リバーロキサバン禁忌データは限られる▲臨床的有用性で判断する催奇形性との関連を示唆する報告はこれまでのところない母体, 胎児, 新生児の出血性合併症に注意を要する△
エドキサバンデータは限られる▲ △アピキサバンデータは限られる
▲ △
トロンビン直接阻害薬ダビガトランデータは限られる▲臨床的有用性で判断する母体, 胎児, 新生児の出血性合併症に注意を要する△ IUGR:子宮内胎児発育遅延, TTP:血栓性血小板減少性紫斑病
p.79
表42 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(降圧薬)
分類一般名添付文書妊婦への
使用妊娠中投与の疫学研究評価妊娠総合
評価妊娠転帰への影響や
管理上の注意授乳総合
評価投与中の授乳
中枢性交感神経抑制薬メチルドパおそらく安全である○〇
クロニジンデータは限られるが,類薬と経験からおそらく安全と考えられる△ △母乳移行量は少ないが,母乳産生へ影響するため推奨されない
β遮断薬β1 選択性, ISA(-)アテノロール第1 三半期:おそらく安全と考えられる第2~3 三半期:胎児体重,胎盤重量の減少, IUGR,徐脈,低血糖△催奇形性との関連は示されていない第2 三半期からの使用で胎児体重,胎盤重量との関連が示されているISA を持たない製剤で特に注意が必要との報告がある分娩直前の投与では,新生児のβ遮断作用出現に注意を要する△新生児で有害事象(チアノーゼ,徐脈,血圧低下)の報告があり,使用時には慎重な観察が必要
ビソプロロール禁忌データは限られる(類薬参照) △ △メトプロロール禁忌データは限られる(類薬参照) △〇ベタキソロール禁忌データは限られる(類薬参照) △ △
β1 選択性, ISA(+)アセブトロール
禁忌データは限られる(類薬参照) △ △母乳に移行しやすく,乳児に有害事象(低血圧,徐
脈)の報告があり,使用時には慎重な観察が必要
セリプロロール禁忌データはない(類薬参照) △ -ピンドロール禁忌データは限られる(類薬参照) △〇
β1 非選択性, ISA (-)プロプラノロール第1 三半期:おそらく安全と考えられる第2~3 三半期:胎児体重,胎盤重量の減少, IUGR,徐脈,低血糖△〇
ナドロールデータは限られる(類薬参照) △ △
αβ遮断薬ラベタロールおそらく安全である○〇
カルベジロール
禁忌データは限られるが類薬と経験からおそらく安全と考えられる△〇
アロチノロール禁忌データはない▲臨床的有用性で判断する-
IUFD:子宮内胎児死亡
p.80
分類一般名添付文書妊婦への
使用妊娠中投与の疫学研究評価妊娠総合
評価妊娠転帰への影響や
管理上の注意授乳総合
評価投与中の授乳
α遮断薬ウラピジルデータはない▲臨床的有用性で判断する-
ドキサゾシンデータはない
▲臨床的有用性で判断する△薬剤の母乳移行量は少ないが,活性代謝物の半減期が長く,移行の可能性があり,使用時には慎重な観察が必要
末梢血管拡張薬ヒドララジンおそらく安全である○第3 三半期の使用で新生児血小板減少の報告がある〇カルシウム拮抗薬ニフェジピン20 週未満は禁忌おそらく安全である○〇
二カルジピン内服薬は禁忌データは限られるが,類薬と経験からおそらく安全と考えられる△〇ジルチアゼム
禁忌データは限られるが,類薬と経験からおそらく安全と考えられる△〇
アムロジピン
禁忌データは限られるが,類薬と経験からおそらく安全と考えられる△〇
シルニジピン
禁忌データは限られるが,類薬からおそらく安全と考えられる△ -
ベニジピン
禁忌データは限られるが,類薬からおそらく安全と考えられる△ -
マニジピン
禁忌データは限られるが,類薬からおそらく安全と考えられる△ -
アゼルニジピン
禁忌データは限られるが,類薬からおそらく安全と考えられる△ -
硝酸薬硝酸イソソルビドデータは限られる△ -
ニトログリセリンデータは限られる△ -
ACE 阻害薬カプトプリル禁忌第1 三半期:おそらく安全である第2~3 三半期:腎機能障害, 羊水過少, 肺低形成, 頭蓋・顔面・四肢形成異常, IUGR, IUFD, 新生児死亡のリスク上昇初期△,中後期×妊娠が成立したらただちに他剤へ変更する※他のACE 阻害薬でも同様のリスクがあると考えられる〇
エナラプリル
禁忌初期△,中後期×〇
表42 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(降圧薬)(つづき)
p.81
分類一般名添付文書妊婦への
使用妊娠中投与の疫学研究評価妊娠総合
評価妊娠転帰への影響や
管理上の注意授乳総合
評価投与中の授乳
ARBカンデサルタン禁忌第1 三半期:おそらく安全である第2~3 三半期:腎機能障害, 羊水過少, 肺低形成, 頭蓋・顔面・四肢形成異常, IUGR, IUFD, 新生児死亡のリスク上昇初期△,中後期×妊娠が成立したらただちに他剤へ変更する※他のARB でも同様のリスクがあると考えられる〇
ロサルタン
禁忌初期△,中後期×〇
レニン阻害薬アリスキレン
禁忌データはない×第1 三半期に関する情報はない第2~3 半期にはACE阻害薬, ARB と同様のリスクがある可能性がある-
表43 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(利尿薬)
分類一般名添付文書妊婦への
使用妊娠中投与の疫学研究評価妊娠総合
評価妊娠転帰への影響や
管理上の注意授乳総合
評価投与中の授乳
利尿薬フロセミドおそらく安全である
△循環血漿量の減少による胎盤還流低下のリスクのため,妊娠中の高血圧や末梢浮腫には使用しない〇
スピロノラクトンデータは限られる
△初期に曝露した男児で外性器異常の報告がある抗アンドロゲン作用による可能性があるが,症例が少ないため関連は不明〇
ヒドロクロロチアジドおそらく安全である
○循環血漿量の減少による胎盤還流低下のリスクのため,妊娠中の高血圧や末梢浮腫には使用しない〇
表42 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(降圧薬)(つづき)
ン,MRI などを小児科医が行う際の鎮静を対象に,体制や薬剤について述べる.心臓カテーテル検査や集中治療の管理を目的とした麻薬,吸入薬などの深鎮静や全身麻酔の薬剤は,本ガイドラインの次項(3.2 小児検査における麻酔法)および各種ガイドライン341, 342, 346)を参照されたい.
3.1.1 鎮静下での検査の手順
a.検査時の鎮静の必要性
検査を行う際には,臨床的意義とリスクのバランスを勘案すべきである.リスクには,検査自体の疼痛・負荷・被曝などによるものと,鎮静・麻酔にともなうものがある.検査を施行する価値が高くても,リスクが高い際には実施
しないこともあるので,鎮静の必要性の判断は重要である.知的障害がなければ,MRI では7 歳以上,エコーでは3歳以上で鎮静が不要なことが多いとされている.鎮静が必要と判断した場合は,文書を用いて検査のリスク・ベネフィットを説明し,署名による同意を得る. b.検査に対する鎮静の計画341–345)
問診と身体所見でのおもな注意点を表48 に,推奨とエビデンスレベルを表49 に示す.心疾患以外では,ゼラチン・ラテックスを含むアレルギー,麻酔や鎮静による副作用の既往歴・家族歴,上気道閉塞や呼吸状態,精神運動発達障害などの評価が重要である.重症の心疾患・呼吸器
p.82
表44 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(抗不整脈薬)
分類一般名添付文書妊婦への
使用妊娠中投与の疫学研究評価妊娠総合
評価妊娠転帰への影響や
管理上の注意授乳総合
評価投与中の授乳
IAキニジンおそらく安全と考えられる○子宮収縮作用の報告がある〇
プロカインアミドデータは限られるが,使用経験からおそらく安全と考えられる△〇ジソピラミドデータは限られるが,使用経験からおそらく安全と考えられる△子宮収縮作用の報告があるが,症例が少ないため関連は不明〇シベンゾリンデータはないが,使用経験からおそらく安全と考えられる△ -
IBリドカインおそらく安全と考えられる(局所麻酔としての報告) ○〇
メキシレチンデータは限られるが,使用経験からおそらく安全と考えられる△〇フェニトインデータは限られる
▲過去にてんかん治療における妊娠中使用で先天異常発生リスク上昇が報告されたが,最新の報告では否定的〇
アプリンジン禁忌データはない▲ -
ICフレカイニド
禁忌データは限られるが,使用経験からおそらく安全と考えられる△〇
プロパフェノンデータは限られるが,類薬と経験からおそらく安全と考えられる△〇ピルジカイニドデータは限られるが,類薬と経験からおそらく安全と考えられる△ -
IIアテノロール第1 三半期:おそらく安全と考えられる第2~3 三半期:胎児体重,胎盤重量の減少, IUGR,徐脈,低血糖△催奇形性との関連は示されていない第2 三半期からの使用で胎児体重,胎盤重量との関連が示されているISA を持たない製剤で特に注意が必要との報告がある分娩直前の投与例では新生児のβ遮断作用出現に注意を要する△新生児で有害事象(チアノーゼ,徐脈,血圧低下)の報告があり,使用時には慎重な観察が必要
プロプラノロール第1 三半期:おそらく安全と考えられる第2~3 三半期:胎児体重,胎盤重量の減少, IUGR,徐脈,低血糖△〇メトプロロールデータは限られる(類薬参照) △〇
p.83
分類一般名添付文書妊婦への
使用妊娠中投与の疫学研究評価妊娠総合
評価妊娠転帰への影響や
管理上の注意授乳総合
評価投与中の授乳
II (つづき)ランジオロールデータはない(類薬参照) △ -
カルベジロール
禁忌データは限られるが,類薬と経験からおそらく安全と考えられる△〇
IIIアミオダロンデータは限られる
▲ヨウ素を含むため胎児甲状腺機能低下の可能性がある一過性甲状腺機能低下の報告があり,使用時には慎重な観察を要する×薬剤,ヨウ素は母乳に移行する.半減期が長いため乳児の甲状腺機能異常のリスクがあり,推奨されない
ソタロールデータは限られる
△ β遮断薬と同様のリスクの可能性がある△母乳移行量が多いため,使用時には慎重な観察が必要
IVベラパミル内服薬は禁忌データは限られるが,類薬と経験からおそらく安全と考えられる△〇
ジルチアゼム
禁忌データは限られるが,類薬と経験からおそらく安全と考えられ△〇
クラス外アデノシン薬効動態ならびに経験から安全と考えられる〇〇ジギタリス製剤ジゴキシンおそらく安全である○〇
表44 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(抗不整脈薬)(つづき)
疾患の症例では,麻酔科医による鎮静や入院による検査の実施も考慮する.
バックアップ体制としては,pediatric advanced life support(PALS)の資格と経験を有する医療従事者を,検査を行う者とは別に患者の監視に専任できるように配置する.鎮静の担当者は,小児麻酔科医や集中治療科医が適任であるが確保が難しく,小児科医だけでなく看護師・検査技師が担っているわが国の現状では,機器・器具や薬品の配置,人材配置,モニタリング,訓練・教育といった体制整備のほうが重要と考えられる.あらかじめ,緊急事態に備えた院内急変対応チームを構築しておく必要がある. c.検査前の鎮静の準備
検査当日は,チェックリストも用いた実施医や看護師による安全性の確認を行う.鎮静前の経口摂取は,全身麻酔と同様に「2-4-6 ルール」を適応し,誤嚥予防のため飲水を2 時間前,母乳を4 時間前,ミルクを6 時間前,食事を8 時間前までに終了とする.緊急の場合には,誤嚥の危険性を考慮し,患者のリスクと検査の緊急性,鎮静薬の施行時間によって,提供する鎮静レベルを調整する346).
d.鎮静下での検査中の体制
検査中は,専任者の監視の下で鎮静し厳重にモニタリングを行う.中等度の鎮静レベルでは,間欠的にバイタルサインを確認し,記録を残すことが望ましい.深い鎮静レベルでは,鎮静担当医は専念し,5 分ごとのバイタルサインの確認に加え,持続的な換気のモニタリングとして胸壁聴診器およびカプノグラフィーを使用する. e.検査後の注意
検査終了後の覚醒状態を診察し,覚醒遅延と判断した場合には間欠的に経過観察(必要により入院)し,回復を確認するまで十分に監視する.覚醒のポイントは,正常なバイタルサイン,安定した自発呼吸,意味のある発語,発達段階に応じた粗大運動,飲水可能などである.帰宅後も家族による観察を続け,心配なことがあれば来院するように指示する.
p.84
表45 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(肺高血圧薬)
分類一般名添付文書妊婦への
使用妊娠中投与の疫学研究評価妊娠総合
評価妊娠転帰への影響や
管理上の注意授乳総合
評価投与中の授乳
プロスタグランジン製剤ベラプロスト禁忌データは限られるが,薬理学的性質と使用経験からおそらく安全と考えられる△〇
エポプロステノール△〇トレプロスチニル△ △イロプロスト△ △セレキシパグデータはない▲臨床的有用性で判断する-
ERAボセンタン
禁忌データは限られる×動物実験でERA に共通の催奇形性が示されている(心血管,口蓋,下顎異常,甲状腺・胸腺異常など)重症肺高血圧で投与の有用性がリスクを上回らない限り,妊娠中は投与されない△
アンブリセンタン禁忌データはない× △マシテンタン禁忌データはない× △
PDE5 阻害薬シルデナフィルデータは限られる△ △
タダラフィルデータは限られる△ △
sGC 刺激薬リオシグアト禁忌データはない- - ERA:エンドセリン受容体拮抗薬, PDE5 阻害薬:ホスホジエステラーゼIII 阻害薬, sGC 刺激薬:可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬
表46 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(抗心不全薬)
分類一般名添付文書妊婦への
使用妊娠中投与の疫学研究評価妊娠総合
評価妊娠転帰への影響や
管理上の注意授乳総合
評価投与中の
授乳
PDE III 阻害薬ミルリノンデータは限られるが,使用経験からおそらく安全と考えられる△ △
オルプリノン禁忌データはない▲臨床的有用性で判断する-ピモベンダンデータはない▲臨床的有用性で判断する-
hAMPカルペリチドデータはない▲臨床的有用性で判断する-カテコラミンドパミン初期:データはない中期後期:データは限られるが,使用経験からおそらく安全と考えられる△〇
ドブタミンデータは限られるがおそらく安全と考えられる△〇
イソプロテレノールデータは限られるがおそらく安全と考えられる△〇
バソプレシン拮抗薬トルバプタン禁忌データはない- - PDE III 阻害薬:ホスホジエステラーゼIII 阻害薬, hANP:ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド
p.85
表47 妊娠と授乳における薬剤の安全性評価一覧表(その他)
分類一般名添付文書妊婦への
使用妊娠中投与の疫学研究評価妊娠総合
評価妊娠転帰への影響や
管理上の注意授乳総合
評価投与中の授乳
ペニシリン系アンピシリン○ ○
アモキシシリン○ ○
セファロスポリン系セフトリアキソンおそらく安全である○ ○アミノグリコシド系ゲンタマイシン初期:おそらく安全である中後期:他のアミノグリコシド系抗菌薬で聴覚神経への影響が報告されているが,本薬剤での報告はない初期○,中後期△ ○グリコペプチド系バンコマイシン初期:データなし中後期:データは限られる(感音性難聴や腎毒性はみられていない) △ ○
表48 小児検査における鎮静時に確認するべき問診と身体所見
おもな確認項目
全般バイタルサイン,鎮静時の有害事象,鎮静薬のアレルギー上気道閉塞吸気性喘鳴,いびき,肥満,扁桃肥大呼吸状態気道感染,気管支喘息,慢性肺疾患心不全,不整脈,血圧低下先天性心疾患,心筋疾患,不整脈,肺高血圧,冠動脈疾患鎮静の必要性自閉症スペクトラム,広汎性発達障害,精神運動発達遅滞鎮静薬の代謝低下重度の肝腎障害過鎮静のリスク低年齢,低出生体重児,重症心身障害児
3.1.2 鎮静に用いる薬剤 a.トリクロホスナトリウム
i.適応
脳波・心電図検査などにおける睡眠,不眠症ii.作用機序
抱水クロラールと同様に,体内で活性代謝物のトリクロロエタノールとなり,鎮静・催眠作用を現す. iii.用量・用法
経口投与で 20 ~80 mg/kg (シロップとして0.2~0.8 mL/kg)を使用し,総量の上限は 2 g(成人量1~2 g)とする.作用発現は30 ~60 分,持続時間は2 ~8 時間で,新生児では半減期が長いので慎重な観察を要する.実際には0.6~0.8 mL/kg を初回投与し,効果が不十分な際は30 分後に初回投与の半量程度を1 回のみ追加している施設が多い. iv.使用上の注意点
禁忌:本剤または抱水クロラールに対する過敏症の既往歴,急性間欠性ポルフィリン症.
注意:呼吸抑制などが起こることがあるので,患者の状態を十分観察する.抱水クロラールとの併用により過量投与になるおそれがある.肝・腎障害,呼吸機能低下,心疾患,不整脈などのある患者には慎重に投与する. v.副作用と対応
無呼吸,呼吸抑制,ショック,徐脈,悪心・嘔吐,運動失調,興奮などを起こすことがある.このような症状を認めた際は,投与を中止し適切な管理を行う. b.抱水クロラールi.適応
生理検査や画像検査などの実施時の鎮静・催眠,静脈注射が困難な痙攣重積状態.
p.86
ii.作用機序
生体内で変化したトリクロロエタノールが,活性代謝物質として中枢抑制作用を示す. iii.用量・用法
坐薬(250 mg と500 mg の製剤)として,30~50 mg/ kg を標準とし直腸内挿入する.年齢,症状,目的に応じて適宜増減し,総量の上限 は1.5 g とする. iv.使用上の注意
禁忌:本剤(カプセルのゼラチンを含む)またはトリクロホスナトリウムに対する過敏症の既往歴,急性間欠性ポルフィリン症.
注意:呼吸抑制などが起こることがあるので,患者の状態を十分観察する.トリクロホスナトリウムとの併用により過量投与になるおそれがある.肝・腎障害,呼吸機能低下,心疾患,不整脈などのある患者には慎重に投与する. v.副作用と対応
無呼吸,呼吸抑制,ショック,徐脈,下痢,めまい,運動失調,興奮などを起こすことがある.このような症状を認めた際は,投与を中止し適切な管理を行う. c.ミダゾラムi.適応
麻酔以外の保険適用は,集中治療における人工呼吸中の鎮静,歯科・口腔外科領域における手術および処置時の鎮静で,検査時の鎮静は適応外使用である. ii.作用機序
ベンゾジアゼピン系薬剤に属する.中枢神経系のガンマ-アミノ酪酸(GABA)受容体を賦活し鎮静効果を示す. iii.用量・用法
日本麻酔科学会ガイドライン346)による静注量は,6 ヵ月~5 歳は初回0.05 ~0.1 mg/kg,総投与量 0.6 mg/kgまで(最大6 mg),6 ~12 歳は0.025 ~0.05 mg/kg,0.4 mg/kg まで(最大10 mg)である.初回は2 ~3 分かけて投与し,さらに2 ~3 分にわたり鎮静作用を十分に評価してから,処置を開始もしくは再投与を行う.長時間の鎮静が必要な場合には,初回投与に続けて0.5 ~2 μ g/kg/ 分で持続投与する場合もある.同ガイドラインには経口,注腸,筋注,鼻腔内による投与方法も記載されているが,適
応外使用であることを認識するべきである.経口薬については,未承認薬・適応外薬検討会議から開発要請がかけられている.
添付文書上における人工呼吸中の鎮静に対する静注量は,修正在胎45 週以上(在胎週数+出生後週数)では,
0.06 ~0.12 mg/kg/ 時より持続静注を開始し,25% の範囲
内で適宜増減である.修正在胎45 週未満の小児のうち,修正在胎32 週未満では0.03 mg/kg/ 時,修正在胎32 週以上では0.06 mg/kg/ 時より持続静注を開始し,適宜増減する.
麻酔前投薬に用いる場合は346),経口投与では1 ~6 歳の小児に対して麻酔導入10 ~30 分前に通常0.5 mg/kg (0.2 ~1.0 mg/kg,最大投与量20 mg)を投与し,経直腸投与では1~6 歳の小児に対して麻酔導入30 分前に, 0.2 ~1.0 mg/kg(最大投与量20 mg)を投与する. iv.使用上の注意点
警告:呼吸および循環動態の連続的な観察ができる設備を有し,緊急時に十分な措置が可能な施設においてのみ用いる.低出生体重児および新生児に対して急速静注をしてはならない.
禁忌:本剤に対する過敏症の既往歴,急性狭隅角緑内障,重症筋無力症,ショック,昏睡など.
注意:6 ヵ月未満では,特に気道閉塞や低換気を発現しやすいため,少量ずつ漸増投与し,呼吸数・酸素飽和度を慎重に観察する.小児では,成人より高用量を必要とすることがあり,頻繁な観察が必要である.不随意運動,怒り,興奮などの逆説反応が起こりやすいという報告もある.呼吸予備力の制限,肝・腎障害,脳障害,重症心不全,水分・電解質障害などがある患者には,慎重に投与する. v.副作用と対応
連用により薬物依存を生じ,離脱症状を示すこともあるため,投与中止時は徐々に減量する.無呼吸,呼吸抑制,舌根沈下,アナフィラキシーショック,心停止,心室頻拍,悪性症候群などを認めた際は,減量・中止する.過量投与の際は拮抗薬のフルマゼニルの投与を考慮する.
表49 小児の鎮静下での検査に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベルMinds
推奨グレードMinds
エビデンス
分類
トリクロホスナトリウムまたは抱水クロラールの投与による鎮静下での検査I C B IVaミダゾラムの投与による鎮静下での検査IIa C B IVa
p.87
3.2 小児検査における麻酔法 (麻酔薬,鎮静薬,周術期関連薬)
この領域は不明な点も多く,日本麻酔科学会「麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン」346)も参照されたい.推奨とエビデンスレベルを表50 に示す.
3.2.1 セボフルラン
a.適応
全身麻酔の導入および維持. b.用量
麻酔導入時は通常5.0% までの濃度で行うが,実際には7.0~8.0% で急速導入を行うこともある.維持は,通常は他の麻酔薬と併用し,患者の臨床徴候を観察しながら最小有効濃度で外科的麻酔状態を維持する.小児の最小肺胞内濃度(MAC)は,新生児ならびに6 ヵ月未満の乳児では 3.2%,それより年長児(12 歳まで)では2.5% と,若干下がるのみである347).
成人では,主として肝のCPY2E1 を介して約3 ~5%のセボフルランが代謝される.代謝されたセボフルランは無機フッ素として尿中に排泄される346).亜酸化窒素,鎮痛薬,α2 アゴニスト,硬膜外麻酔の併用はMAC を下げる.単独でも筋弛緩作用を持つが,筋弛緩薬との併用によりその作用時間を延長させる. c.禁忌
悪性高熱症およびその疑いのある患者,本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者. d.副作用
重大なものに悪性高熱,横紋筋融解症,ショック,アナフィラキシー様症状がある.本剤の体内代謝産物である血清無機フッ素と二酸化炭素吸着剤との反応で生じるcompound A による腎機能への影響が懸念されてきたが,これらによるヒトでの腎障害を明らかにした報告はない346, 348).小児や若年者で痙攣の既往のあるものは痙攣誘発の可能性がある.子宮筋弛緩作用もある.本剤の投与により呼吸が抑制され,心係数,体血管抵抗の低下による血圧低下がみられる.麻酔からの覚醒時に興奮状態がみられることが多い349).
この抑制にはプロポフォール350),デクスメデトミジン351),オピオイド352),クロニジン353),ミダゾラム353)などが有用とする報告がある. e.使用上の注意点
気道刺激性が少なく吸入麻酔薬による緩徐導入に適しているが,血液/ ガス分配係数が0.63 と小さいため,吸入濃度増加時の血中セボフルラン濃度の上昇が急激である.血圧低下,呼吸抑制が起こりやすいことに注意する.
3.2.2 亜酸化窒素
a.適応
麻酔の導入および維持,鎮痛. b.用量
麻酔導入時は30% 以上の酸素と併用し,維持は本剤50~70% の濃度に加え,原則として他の吸入麻酔薬を併用して麻酔を維持する.強力な鎮痛薬であるが,鎮静・催眠作用は弱く,MAC は105 ~110% である354).そのため,本剤のみでは全身麻酔薬としては使用できず,吸入麻酔薬のような他の強力な全身麻酔薬の補助薬として使用される.
本剤は,吸収開始直後は大量に(約1,000 mL/分)吸収されるが,時間の経過とともに急速に減少する.20 ~30分でほぼ飽和に達し,以後はごくわずかしか吸収されない346). c.禁忌
特になし. d.副作用
嘔気・嘔吐. 末梢神経障害,長期使用により造血機能障害を起こすことがある.連続吸入は48 時間以内にとどめるのが望ましい355).ビタミンB12 欠乏症の患者では造血機能障害,神経障害を起こすことがある356). e.使用上の注意点
高濃度では心筋抑制作用を持つが,同時に交感神経も刺激するため,単独使用では血圧の低下は起こりにくい357, 358).本剤の血液/ガス分配係数は0.47 と窒素より34 倍大きいため,その投与により体内閉鎖腔内圧が上昇する.そのため,耳管閉塞,気胸,腸閉塞,気脳症など内腔
表50 セボフルラン麻酔による覚醒時興奮に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベルMinds
推奨グレードMinds
エビデンス
分類
セボフルラン麻酔による覚醒時興奮にはフェンタニル,プロポフォールが有効であるI A B I
p.88
に窒素を含む閉鎖腔を持つ患者への使用には注意を要する359, 360).人工心肺の使用など,空気塞栓を起こす可能性のある場合も重症化する可能性があるため使用を控える.
本剤の投与終了直後に十分な酸素投与がなされないと,拡散性低酸素血症を起こすことがある361)ため,投与終了後には純酸素を5 分以上投与する362, 363).職業的に長期間本剤に曝露された女性で自然流産率が高いことが報告されている364).麻酔ガス排出システムを整備することが望ましい.助燃性を持つためレーザー手術には使用しない方が望ましい.術後の嘔気・嘔吐のリスクが高い患者では使用を控えることも考慮する365).
3.2.3 フェンタニル
a.適応
全身麻酔における鎮痛,局所麻酔における鎮痛の補助,術後疼痛など激しい痛みに対する鎮痛. b.用量
麻酔導入時に他の静脈麻酔薬と併用して,あるいは吸入麻酔薬による全身麻酔や全静脈麻酔において鎮痛薬として使用される.小児の場合,全身麻酔の導入時には1 ~5 μg/kg を静注する.大量フェンタニル麻酔に用いる場合は,通常100μg/kg まで投与できる. 全身麻酔の維持には 1 ~ 5 μg/kg を間欠的に静注する.術後痛には,1~2μg/kgを緩徐に静注後,,1~2μg/kg/ 時で持続静注する.
成人では,最大鎮痛効果を生じるまでの時間は約5 分である366).作用時間は30 分~1 時間と短いが,反復投与により進行性に蓄積していく367).成人では大部分が肝で水酸化とN-非アルキル化の代謝を受け不活化され,6% が代謝されずに腎から排泄される368).小児の作用時間は成人より短い. c.禁忌
本剤に対し過敏症の既往のある患者. d.副作用
徐脈を起こすことがあり,必要に応じてアトロピンなどの迷走神経遮断薬やβ刺激薬を用いる.中等度の平均動脈圧と末梢血管抵抗の減少が小児で報告されている369).ただし,心筋収縮力の抑制はなく,血行動態が不安定な患者にも使用できる346).連用により身体的依存を生じ,投与中止により退薬症状が発現し得るので漸減する370).脳幹の呼吸中枢を介し,用量依存性に呼吸抑制を生じるが,ナロキソンで拮抗できる.単回多量投与により筋硬直を生じるが,筋弛緩薬の投与により緩解する.痙攣,気管支痙攣を起こすことがある.身体的依存,嘔気・嘔吐,便秘,尿閉,掻痒を生じる. e.使用上の注意点
心臓麻酔の導入に用いられることが多いが,導入時の単回多量投与による筋硬直は換気困難をもたらし,予備力の少ない小児では容易に低酸素血症を起こし非常に危険である.筋弛緩薬の準備など注意して用いることが望ましい.
3.2.4 モルヒネ
a.適応
麻酔時の補助鎮痛薬,術後疼痛など激しい痛みに対する鎮痛. b.用量
麻酔薬としては,通常0.01 ~0.03 mg/kg を静注する.術後痛に対して単回静注の場合,小児では0.05 ~0.1 mg/ kg,乳児では0.05 mg/kg を投与する.持続静注の場合,小児では10 ~40 μ g/kg/ 時(通常20 μ g/kg/ 時),乳児では5 ~15 μ g/kg/ 時で投与する.成人では,最大鎮痛効果を生じるまでの時間は約15 分である366).肝臓により代謝を受けるが,一部の代謝産物はμオピオイド受容体に作用し,強い鎮痛効果を示す371).大部分がグルクロン酸抱合体として,24 時間までに約90% が腎臓,約10% が胆道系より排泄される346). c.禁忌
重篤な呼吸抑制,重篤な肝障害のある患者,気管支喘息発作中の患者,慢性肺疾患に続発する心不全の患者,痙攣状態(癲癇重積症,破傷風,ストリキニーネ中毒)の患者(脊髄の刺激症状が現れる),急性アルコール中毒の患者(呼吸抑制を増強する),アヘンアルカロイドに対し過敏症の患者,出血性大腸炎の患者(症状の悪化,治療期間の延長をきたすことがある). d.副作用
脳幹の呼吸中枢に作用し,用量依存性に呼吸数の減少と二酸化炭素に対する感受性低下を特徴とする呼吸抑制を生じる.直接的な心筋抑制はないが,ヒスタミン遊離による末梢血管拡張,中枢作用による交感神経緊張低下,迷走・副交感神経緊張亢進によると思われる徐脈,用量依存性の血圧低下を起こす346).単回多量投与により筋硬直を生じるが,筋弛緩薬の投与により緩解する.身体的依存,嘔気・嘔吐,便秘,尿閉,掻痒,眠気を生じる.長期投与により嘔気・嘔吐,眠気には比較的耐性が生じやすいが,便秘には生じない.オッディ括約筋の痙攣により,胆道内圧が上昇する372). e.使用上の注意点
本剤の呼吸抑制のピークは静注後5 ~10 分であるが,鎮痛使用量での分時換気量の減少は約4 ~5 時間持続するため,投与後は十分な観察を行う.投与が長期にわたる
p.89
場合,便秘,嘔気・嘔吐を非常に高頻度に合併する.麻痺性イレウスに進展する危険性もあり緩下剤,制吐剤を予防的投与するのが望ましい346).
3.2.5 レミフェンタニル
a.適応
成人の全身麻酔の導入および維持における鎮痛.小児における全身麻酔の維持. b.用量
通常,小児の全身麻酔維持のための持続静注は0.25 μg/kg/分の速度で行うとされる.ただし,心機能の低下した患児ではより低用量から始め,バイタルや手術侵襲などに応じて投与量を調節するなど慎重に投与する.単回投与した場合は極度の徐脈を呈することがあるため,特に心拍出量が脈拍に依存している小児では慎重に行う.
全身麻酔薬,ベンゾジアゼピン系薬剤,バルビツール酸系薬剤など,中枢神経抑制作用を有する薬剤との併用で麻酔・鎮静などの作用が増強する373).また,β遮断薬,カルシウム拮抗薬など心抑制作用を有する薬剤との併用で,徐脈,血圧低下などの作用が増強することがある374).脂溶性が高く,血液脳関門をすみやかに通過し,作用発現が速い.代謝は血液・組織内の非特異的エステラーゼですみやかに行われ,かつ代謝産物は効力が低い.そのため血中の除去半減期は8 ~20 分と短時間であり,肝・腎機能に左右されない375, 376).
分布容積が小さく,再分布が早く,排泄半減期が短いため,持続投与時間に限らずcontext-sensitive half-time は3 ~5 分と一定している346).T1/2 はどの年齢群でも成人と同じである377). c.禁忌
フェンタニル系化合物に過敏症の既往がある患者.本剤は添加物としてグリシンを含むため,硬膜外およびクモ膜下への投与はできない. d.副作用
血圧低下と心拍数の低下があるため,アトロピンなどの迷走神経遮断薬やβ刺激薬が必要となることがある.脳幹の呼吸中枢に作用し,用量依存性に呼吸抑制を生じる.筋硬直を生じるが,筋弛緩薬の投与により緩解する.身体的依存,嘔気・嘔吐,便秘,尿閉,掻痒を生じる.約7~25% の症例にシバリングを生じるとされる378–380).シバリングの薬物治療としてはペチジン,デクスメデトミジン381),ケタミンが有効である382, 383). e.使用上の注意点
導入時の筋硬直は換気困難をもたらし,予備力の少ない小児では容易に低酸素血症を起こし非常に危険である.筋弛緩薬の準備など注意して用いることが望ましい.作用消
失がすみやかであるため,本剤投与中止前あるいは直後に鎮痛薬を投与し適切な術後疼痛管理を施行する384).BMI 25 以上の肥満患者では,実体重ではなく標準体重を基準にして投与量を決定することが望ましい385).
3.2.6 ケタミン
a.適応
添付文書では手術,検査および処置時の全身麻酔および吸入麻酔の導入薬であるが,鎮痛・鎮静効果を併せ持つことから,前投薬,全身麻酔時の鎮痛補助,処置・検査時の鎮静,術後の鎮痛・鎮静にも使用される386). b.用量
初回,筋注では5~10 mg/kg,静注では1~2 mg/kgを静注し,初回量と同量または半量を追加投与する.全身麻酔時の鎮痛補助目的には0.25~0.5 mg/kg を静注し,半量を30 分ごとに追加投与,あるいは0.25 ~0.5 mg/kg/時を持続静注する.筋注した場合は3~4 分で手術可能となり,15~30 分前後持続する.静注後は30 秒から1 分で意識消失し,10~20 分前後持続する.前投薬としては5~6 mg/kg を経口投与,あるいは5~10 mg/kg を経直腸投与する.
麻薬性鎮痛薬などの中枢神経抑制薬との併用で覚醒遅延を起こすこと,β遮断薬との併用で血圧降下作用が増強することがある.慢性・急性アルコール患者では麻酔効果が不十分なことがある346).ケタミンは,大部分が肝臓においてチトクロームP450 により代謝される.排泄相T1/2は3 ヵ月以下184.7 分,4 ~12 ヵ月65.1 分,4 歳31.6 分とされる346). c.禁忌
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者.脳血管障害,高血圧,脳圧亢進症および心代償不全の患者.痙攣発作の既往歴のある患者.添付文書では,外来患者も麻酔前後の管理が行き届かないため禁忌である. d.副作用
まれに急性心不全,また痙攣(喉頭痙攣,声門痙攣または全身痙攣など)が起こることがある.通常,呼吸抑制は軽度であるが,過量投与時や静注速度が速い場合には呼吸抑制,無呼吸または舌根沈下が起こりうる.15% 前後に夢のような状態,幻覚あるいは興奮,錯乱状態などの覚醒時反応が発生するとされる.通常は数時間で回復するが,まれに24 時間以内に再び現れることがある.
脳血管の炭酸ガスに対する反応性ならびに脳血流自己調節機序は温存されるが,脳血流は増加し387),20 分前後持続する頭蓋内圧上昇作用を示す346).
p.90
e.使用上の注意点
本剤による麻酔時には,喉頭痙攣を避けるため咽喉頭に機械的刺激を与えない,本剤による口腔内・気道分泌物増加を予防するためアトロピンを事前投与するなどの配慮を行う.覚醒時反応を予防するためにはジアゼパム,ドロペリドールなどの前投薬を,激しい覚醒時反応に対しては短時間作用型または超短時間作用型バルビツール酸系薬剤の少量投与,あるいはジアゼパムの投与が有効である.
ケタミンは心筋酸素消費量を増加させる一方,交感神経刺激作用により心拍出量,体血管抵抗は維持されるとされ,心不全患者の麻酔に有用な可能性がある388, 389).しかしながら,重症心不全患者のようにもともと交感神経が緊張している患児の場合は血圧の低下が問題となる場合がある.また,肺血管抵抗を上昇させる可能性もあるため,肺高血圧を合併している場合などには注意が必要である388, 390).
3.2.7 バルビツール酸 (チオペンタール,サイアミラール)
a.適応
全身麻酔の導入,局所麻酔薬中毒・破傷風・子癇などにともなう痙攣. b.用量
麻酔導入には,1 歳以上の健康な小児に対しては2.5%溶液で5~6 mg/kg のチオペンタールを静注する.乳児では7~8 mg/kg が必要な場合がある.痙攣重積発作には5 mg/kg を静注し,さらに必要に応じて2 mg/kg/ 時から持続投与を開始し,脳波で重積状態が消失するのを確認するまで,10 mg/kg/時まで徐々に増量する.
クマリン系抗凝固薬の抗凝固作用が減弱することがある.肝臓で代謝され,尿あるいは胆汁から排泄される.成人ではチオペンタール3~5 mg/kg を投与すると15~20分後に覚醒するが,このとき投与量の18% しか代謝されておらず,血中濃度の低下は再分布による346, 391).小児の排泄相T1/2 は約6.1 時間と成人の約半分である346). c.禁忌
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者.ショックまたは大出血による循環不全,重症心不全患者,急性間歇性ポルフィリン症患者(酵素誘導によりポルフィリン合成を促進し,症状を悪化させるおそれがある),アジソン病の患者(催眠作用が持続または増強するおそれがある.血圧低下を生じやすい.また,本疾患は高カリウム血症をともなうが,カリウム値が上昇するおそれがある.重症気管支喘息の患者も禁忌である. d.副作用
アナフィラキシー様症状を起こすことがある.末梢静脈の拡張,心機能の抑制により血圧が低下する.用量依存性
の呼吸抑制や,血管外漏出により局所刺激や壊死を起こすことがある.添付文書にある筋注によるリスク・ベネフィット比はきわめて高いと考えられる346). e. 使用上の注意点
乳児では,全身麻酔の導入に必要なチオペンタールの量には個人差が大きい.用量依存性に脳代謝を抑制し,脳血流と頭蓋内圧が低下するため頭蓋内圧の低下を目的として用いられることがあるが,バルビツール酸系薬物が外傷性脳損傷の神経学的予後を改善する文献的証拠は得られていない346, 392).
3.2.8 ジアゼパム
a.適応
小児の適応は麻酔前投薬,痙攣重積発作および痛みにともなう不安,不眠や緊張性頭痛,顎関節症,腰痛症などの筋緊張をともなう痛みおよび急性痛,神経障害性痛,癌性痛にともなう不安,不眠などである. b.用量
麻酔前投薬に用いる場合は,経口投与では麻酔1~1.5時間前に通常0.5 mg/kg(0.2 ~0.7 mg/kg,最大投与量10 ~15 mg),経直腸投与(溶液剤)では麻酔15 分~1 時間前に,通常0.5 mg/kg(0.3~1.0 mg/kg 393),最大投与量10 ~15 mg)を投与し,静注では 0.1~0.2 mg/kg を太い静脈から緩徐に投与する346).痙攣重積発作に用いる場合は,静注では0.2~0.5 mg/kg(最高10 mg)を必要に応じて2 ~4 時間ごとに繰り返す.経直腸投与では0.5 mg/kg を投与する394). 新生児では肝機能が未熟で代謝が遅く,血漿半減期は31±2 時間である395). c.禁忌
急性狭隅角緑内障の患者は本剤の弱い抗コリン作用により眼圧が上昇するおそれがある.重症筋無力症の患者は本剤の筋弛緩作用により症状が悪化するおそれがある.リトナビル(HIV プロテアーゼ阻害薬)はチトクロームP450に対する競合的阻害作用により,過度の鎮静や呼吸抑制を起こすことがあるので併用禁忌である. d.副作用
舌根沈下による気道閉塞,呼吸抑制,血圧低下,黄疸が起こりうるが,下記のように多くの薬物と相互作用があり副作用が顕著となる可能性がある.薬物依存症,離脱症状,刺激症状,錯乱症状が出ることがある. e.使用上の注意点
中枢神経抑制薬(フェノチアジン,バルビツレート,モノアミン酸化酵素阻害薬など)やアルコールとの併用では,作用増強を生じうる.シメチジン,オメプラゾール,アミ
p.91
オダロン,フルコナゾール,シプロフロキサシン,フルボキサミンとの併用では,クリアランスの低下による作用増強を生じうる.未熟児,新生児では効果が遷延しやすいうえ,個人差が大きいので投与は慎重に行う.筋注は疼痛が強い.
3.2.9 プロポフォール
a.適応
全身麻酔の導入および維持.小児には未承認である. b.用量
麻酔導入時には2 ~4 mg/kg の投与で入眠するが,一般に低年齢であるほど入眠に必要な投与量は増加する(乳児:3.8 mg/kg,10 ~16 歳:2.7 mg/kg).3 ~11 歳までの小児における麻酔維持は,2.5 mg/kg のボーラス投与後,最初の15 分間に15 mg/kg/ 時,次の15 分間に13 mg/kg/時,その後の30 分間に11 mg/kg/ 時,1~2 時間後までの1 時間に10 mg/kg/時,2~4 時間後は9 mg/kg/時で投与すると,初期のプロポフォール血中濃度は高めとなるものの,時間の経過とともに入眠濃度とされる3μg/mL に収束する346).
他の中枢神経抑制薬,アルコール,降圧薬,抗不整脈薬(β1 遮断薬)などとの併用により,相互に麻酔・鎮静作用,血圧低下作用,徐脈化を増強させる.作用時間,作用持続時間ともに短く,ミダゾラム,サイオペンタールに比較してcontext-sensitive half-time は投与時間による影響が少ない.大部分が肝で抱合を受け,腎より排泄される.代謝産物は不活性で,1% 以下が尿中に,2% が糞便中に未変化で排泄される346).肝,腎機能低下症例でも薬物動態に差は認められない396, 397).小児(4~12 歳)の排泄相T1/2は209 分である. c.禁忌
本剤または本剤の成分(ダイズ油,卵黄レシチン)に対し過敏症の既往歴のある患者.妊産婦,小児への長期大量投与. d.副作用
アナフィラキシー,低血圧,呼吸抑制,舌根沈下,重篤な徐脈,徐脈性の不整脈が合併することがある.本剤は
1.0 mL あたり約0.1 g の脂質を含有するため,脂質代謝障
害の患者または脂肪乳剤投与中の患者では血中脂質濃度が上昇する可能性がある. e.使用上の注意点
全身麻酔にプロポフォールを用いた場合,覚醒時興奮の発生率はセボフルランより低い349, 398). 早産児や生後1 週間以内の正期産児はプロポフォールクリアランスが低く,反復投与や持続静注の際には蓄積が起こりやすいと考えられる.投与の是非を含め慎重な判断が必要である346).
小児では全身麻酔は禁忌ではないが,大量のプロポフォール長期使用を発症要因として代謝性アシドーシス,横紋筋融解,高カリウム血症をともなう心不全を症状とするプロポフォール注入症候群(PRIS)
399)の発症に特に注
意が必要である.これは,プロポフォールが細胞内でミトコンドリアの活性を阻害し,脂肪酸の酸化が障害されることによるとされる400).このため,小児では人工呼吸中の鎮静目的での使用は禁忌である346, 401).
3.2.10 デクスメデトミジン
a.適応
成人および小児の集中治療における人工呼吸中および離脱後の鎮静.成人の局所麻酔下における非挿管での手術および処置時の鎮静,小児のMRI など検査時の鎮静にも有用であるが,未承認である402–404). b.用量
通常,6 歳以上の小児では0.2μg/kg/時で投与を開始し,至適鎮静レベルが得られるように0.2~1μg/kg/時で持続投与する.小児では初期負荷投与は行わないことも多い.修正在胎(在胎週数+出生後週数)45 週以上6 歳未満の小児には0.2μg/kg/時で投与を開始し,至適鎮静レベルが得られるよう,0.2~1.4 μg/kg/時で持続投与する.
肝臓で代謝され,成人での排泄相T1/2 は2.0 時間程度, 2 歳以上の小児も同等である405).肝機能低下症例ではクリアランスの低下がみられる404).また95% が腎臓から排泄されるため腎機能低下症例では代謝産物の蓄積が起こる可能性がある.そのため肝,腎機能障害の患者では投与量を減量することを考慮する404). c.禁忌
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者. d.副作用
低血圧,高血圧,徐脈,悪心・嘔吐,激越,発熱を起こすことがある.循環血液量低下症例,交感神経緊張状態の症例では高度な血圧低下を示す危険性が高い.心室細動から心停止を起こすこともある.冠動脈攣縮性狭心症を誘発する可能性がある346).
他の中枢神経系抑制剤との併用によって鎮静・鎮痛作用が増強し,血圧低下,心拍数低下,呼吸数低下などの症状が現れるおそれがある.カルシウム拮抗薬,β遮断薬との併用で高度徐脈を呈することがある. e.使用上の注意点
小児における徐脈発生率は3% とする報告がある406)が,低血圧,徐脈,呼吸抑制,悪心・嘔吐,激越,発熱の有害事象が成人よりも多く認められており,小児への投与はよ
p.92
り注意を要する .心拍出量が心拍数に依存している状態の小児(新生児など)では注意が必要である.投与中止により離脱症候群も認められる.麻酔前投薬407–409)として,またセボフルランの覚醒時興奮抑制に有用とする報告もあるが410, 411),適応外使用である. 集中治療室での本剤の使用は譫妄の発生率を低下させるとされる412, 413). 小児開心術後においても人工呼吸時間,譫妄の発生率の低下,オピオイドの使用量低下が報告されている414).区域麻酔と併用することによって鎮痛効果の延長がみられる415–418).
3.2.11 ロクロニウム
a.適応
全身麻酔時の筋弛緩,気管挿管時の筋弛緩. b.用量
成人の挿管時には0.6 mg/kg を静脈内投与し,術中必要に応じて0.1~0.2 mg/kg を追加投与する.持続注入により投与する場合は,7μg/kg/分の投与速度で持続注入を開始する.未熟児では分布容積が少なく,神経筋接合部が未熟であること,新生児では肝機能が発達していないことから力価が高く,通常,挿管時には低用量(0.3~0.6 mg/ kg)が投与される.成人に比べて作用発現時間も短い. 作用時間は新生児,乳児では小児に比して長いが,2 歳以上の小児では成人と比べ回復時間が早いとされる419, 420).
イソフルラン,セボフルランなど他の吸入麻酔薬,カリウム排泄型利尿薬,アミノグリコシド系,リンコマイシン系,ポリペプチド系などのアシルアミノペニシリン系の抗生物質,モノアミン酸化酵素阻害薬,プロタミン製剤,β遮断薬,リドカイン,ブピバカイン,メトロニダゾール,カルシウム拮抗薬,シメチジン,マグネシウム製剤,キニジン,キニーネ,リチウム製剤フェニトインにより作用は増強される.
カルシウム製剤,カリウム製剤,プロテアーゼ阻害薬や副腎皮質ホルモン薬,抗癲癇薬の長期投与により作用が
減弱することがある.ロクロニウムは体内で代謝されず,その70% 以上は胆汁中に,30% 以下が尿中に排泄される421)ため,肝,腎機能の低下した患者では作用が遷延する. c.禁忌
本剤の成分または臭化物に対し過敏症の既往歴のある患者.添付文書では本剤の拮抗薬であるスガマデクスが何らかの理由で使用できない重症筋無力症,筋無力症候群の患者も禁忌である. d.副作用
ショック,アナフィラキシー様症状,気管支喘息の患者では喘息発作,気管支痙攣, 横紋筋融解症の発症の可能性がある.筋弛緩作用の遷延がみられることがある.注射時に疼痛が認められ,小児では80% 以上に注入部の逃避反応がみられる422).この疼痛予防にはリドカイン,フェンタニルなどの併用が有効とする報告がある423, 424). 神経筋疾患の患者では作用の増強,減弱などさまざまな反応を示すため,十分注意して用いる.スガマデクスの使用が可能な重症筋無力症,筋無力症候群の患者は禁忌ではないが,このような患者へのスガマデクスの使用法は確立されているとはいい難く,その使用には十分な注意を要する.
安全で適切な投与を行い,本剤への拮抗薬を安全に使用するためには筋弛緩モニターを用いた客観的評価を行うことが望ましい.ただし,新生児,乳幼児では,通常の状態でもテタニー刺激によって減衰が生じることがあるとされ,新生児,乳幼児における本モニターの解釈には注意が必要である346). e.使用上の注意点
他の非脱分極性筋弛緩薬と同様に長期投与された重症の新生児,乳児に難聴を生じたという報告がある.
p.93
第4章 各論:疾患別検査計画
1 心房中隔欠損
1.1 解剖・病態生理
心房中隔欠損(ASD)とは,左右の心房を隔てている心房中隔に欠損のあるものをさす.心房中隔は一次中隔と二次中隔の2 つによって形成されるが,その形成過程の異常によって欠損孔が生じる.欠損部位により,1二次孔欠損, 2一次孔欠損,3静脈洞欠損(上位型,下位型),4冠静脈洞欠損に大別される(図36) 425).中隔がまったくないものを単心房という.卵円窩を含む心房中隔の一次中隔に欠損がある二次孔欠損がもっとも多い.一次孔欠損は心内膜床に繋がる一次中隔の欠損で,不完全型房室中隔欠損と同じ疾患である.静脈洞欠損は静脈洞の右房への不完全な吸収により生じるもので,そのうち下位型は非常にまれである425–427).
欠損孔を介する短絡量と方向は,欠損孔の大きさ,左右心房間の圧較差,左右心室のコンプライアンスの比率で決定される.短絡方向は肺血管閉塞病変が進行しアイゼンメ
ンジャー化していなければ,基本左- 右短絡で,解剖学的によほど小さくなければ左右心房間圧較差はない(圧較差のある小さなASD は抵抗性ASD とよばれる).
自然閉鎖もあり,5 mm 未満であれば自然閉鎖することが多い426, 427).しかし,欠損孔は体の成長とともに次第に大きくなることもあり,診断年齢が4 歳半,約3 年の経過観察期間の心エコー検査の検討で年間平均0.8 mm 大きくなったとの報告428)もある.小児期で8 ~10 mm 以上あれば閉鎖する可能性は少ない426–428).
また,左右心室のコンプライアンスとその比率は年齢,加齢によって変化し,同じ患者の生涯歴を観察すれば短絡量は変化する.新生児,乳児期早期では,出生後からの高い肺血管抵抗が正常に低下する過程にあり,右室コンプライアンスが低いので,それほど短絡量は多くない.幼児,小児期になるとしだいに右室コンプライアンスがよくなり,短絡量は増える方向へと進む.成人期,特に老年期になると動脈硬化,高血圧などで左室コンプライアンスが低下することが一助となり,短絡量は増加する.
一般に,欠損孔が大きくても小児期は無症状であるが,乳児期に心不全を呈する症例がある429, 430).成人期のASD は後述する.
1.2 診断のための検査(図37)
1.2.1 聴診
肺動脈弁領域である胸骨左縁第二肋間を中心とし,相対的肺動脈狭窄による駆出性収縮期雑音とII 音の固定性分裂を聴取する.
1.2.2 胸部単純X 線・心電図
胸部単純X 線検査では種々の程度の心拡大と,肺血流増加にともなう主肺動脈拡大(左第2 弓突出)や左右肺動脈の拡大を認めるが,本疾患特有ではない.
心電図検査では右軸偏位,軽度の1 度房室ブロック,不完全右脚ブロック(V1 誘導でrsr’,rsR’ またはqR パター
静脈洞欠損(上位型)
静脈洞欠損(下位型)
二次孔欠損本来の心房中隔
一次孔欠損
冠静脈洞欠損
図36 心房中隔欠損の病型(小山耕太郎.2018 425)より転載)
p.94
ンでLate R が高いことが多い)がみられ,学校心臓検診で検出されることが多い431).上記以外に孤立性陰性T 波, V4 の陰性T 波,crochetage パターン(II,III,aVF 誘導のQRSノッチ)がASD 検出の所見として重要である425, 431–433). 40 歳以降からは心房細動,心房粗動などの不整脈が上記所見に加わる434).
1.2.3 心エコー
診断的価値が高い検査法である(クラスI).二次孔欠損の場合は,四腔断面で欠損孔が描出される.ただし,心房
*
図37 心房中隔欠損の診断,病態把握,治療計画のための検査-学童心臓検診の流れに沿ったフローチャート- *: 経食道エコー検査で 閉鎖栓でのカテーテル治療の適応外となる,または手術への方針になることが多い所見38 mm 以上の欠損,辺縁(リム)が5 mm 未満(ただし前方リムは除く)前方リムの広範囲欠損:理由は心浸食(閉鎖栓による穿孔)が多い
心臓検診(ECG)不完全右脚ブロック1 度房室ブロック右軸変位
カテーテル治療(閉鎖栓による閉鎖)静脈洞欠損(+部分静脈還流異常)
冠静脈洞欠損
外科治療経過観察
ASD(+) ASD(-)
(+) (-)
(+) (-)
(+) (-)
心エコー検査中等度~高度の肺高血圧心エコー検査(多断面,コントラスト)
CT,MRI
聴診:収縮期駆出性雑音,拡張期ランブル,II 音固定性分裂X 線写真:心拡大,肺血管陰影増強,第2 弓突出(主肺動脈拡大) ECG:孤立性陰性T 波,V4(V4R ~V4)T 波陰性,crochetage
肺血管閉塞病変心エコー検査• 右室容量負荷(-) • 二次孔欠損(+) • サイズ<8 mm(5 ~6 mm が多い)
心エコー検査• 右室容量負荷(+)右室拡大心室中隔奇異性運動• 四腔断面で二次孔欠損(+)
経食道エコー検査
CT心臓カテーテル検査
負荷試験
p.95
中隔が超音波ビームと平行に入るため,特に心尖部からの四腔断面では正常でも欠損があるようにみえるので注意する.心窩部,傍胸骨左縁からの四腔断面などさまざまな断面で観察する.
短絡血流はカラードプラ法より描出できるが,コントラストエコー法を用い,右房内でnegative contrast をみることで左- 右短絡の欠損孔の診断精度は高くなる427, 435, 436).四腔断面で心房中隔に欠損を認めないにもかかわらず,右心系の拡大が強い場合は静脈洞型欠損や冠静脈洞欠損を考え,検索する.冠静脈洞欠損(unroofed coronary sinus)は左上大静脈遺残をともなうことがあり,左手からのコントラストエコーが有用である427, 435, 436).
その他,合併異常として肺動脈弁狭窄,部分肺静脈還流異常(特に静脈洞欠損上位型で右上肺静脈還流異常の合併) 425–427),年長児,成人で有病率が高いとされる僧帽弁逸脱と,それにともなう逆流の有無を検索する426, 437).
1.2.4 心臓カテーテル検査
右房での酸素飽和度のステップアップ,右室ないしは肺動脈造影で左房から右房が造影されることで診断される.また,左右の肺動脈造影を行うことで,部分肺静脈還流異常の合併も診断可能となる.しかし心エコー,CT などの非侵襲的検査で診断可能なことが多く,以前のように必須の検査にはならない(クラスIIa).検査適応は肺高血圧があり閉塞性病変が疑われたとき,または閉鎖栓を用いたカテーテル治療の場合となる.
1.2.5 MRI・3DCT
部分肺静脈還流異常の合併の有無,ASD の形態,部位の解剖学的診断に有用である.
1.3 病態把握のための検査(図37)
病態把握として,右心系への容量負荷と圧負荷(肺高血圧)の有無と程度をみることである.
1.3.1 聴診
短絡量が多いASD では相対的三尖弁狭窄を生じ,三尖弁領域の胸骨右~左縁下部で拡張期ランブルを聴取する.胸骨左縁第二肋間の肺動脈弁領域でII 音の亢進があれば肺高血圧の存在を,拡張期雑音(肺動脈弁逆流:Graham- Steell 雑音)を聴取すれはアイゼンメンジャー化していることを示唆する. 1.3.2 胸部単純X 線・心電図
胸部単純X 線検査での心拡大の程度は三尖弁逆流の有無にも左右されるので,かならずしもASD の大きさを反映していないが,一般に心拡大があれば肺体血流量比>1.5のASD と考える.また中枢の肺動脈が非常に太く,肺動脈末梢が細い,いわゆる肺野が明るい所見があれば,肺高血圧をともなう肺血管閉塞病変の合併を示唆する.
心電図検査の診断の項目にあげた所見は右心系の容量負荷により生じるもので,負荷のない小さな短絡ではみられない所見である.その意味で病態把握に役立つ.また右室肥大の存在は,肺動脈弁狭窄がなければ肺高血圧の存在を示唆する.
1.3.3 心エコー
ASD の形態は円形とは限らないので,一方向の長さが実際の大きさ(断面積)と一致しない.ただし,一般に小児期で8 mm 以上の長さの欠損孔があれば自然閉鎖もなく,閉鎖適応の大きさと考えて支障ない426, 427).また,右室の大きさは容量負荷の指標となる.
右室の大きさは,成人では心尖部四腔断面で拡張期の右室基部,基部と心尖部の中間部,基部から心尖部の長軸方向の3 部位を測定し,正常,軽度拡大,中等度拡大,重度拡大と判定するが438),小児でも同様の方法を推奨している101).
心室中隔の奇異性運動(M モードがわかりやすい) も,右室容量負荷の1 つの重要な所見である101, 425, 435, 436).肺体血流量比は右室流出路(主肺動脈),左室流出路(大動脈)径とその部の血流流速波形を用い計算可能436)だが,誤差が大きく参考程度にとどめる.三尖弁逆流があれば,連続波ドプラ法で右室・右房圧較差が概算でき,右室圧を推定できる(クラスIIa).
1.3.4 心臓カテーテル検査
肺体血流量比,肺動脈圧,肺血管抵抗などの指標を測定する,もっとも信頼性が高い検査法である(クラスI).フィック法を用いて体血流量を計算する際,混合静脈血が問題となるが,上大静脈の酸素飽和度,または(上大静脈の酸素飽和度× 3+下大静脈の酸素飽和度)/ 4 を混合静脈血の酸素飽和度として計算するのが一般的である439).肺高血圧があり肺動脈閉塞性病変が疑われるときは,酸素,一酸化窒素(NO),肺血管拡張薬投与などの負荷試験を行い,肺血管の反応性を判定する必要がある440, 441).
1.3.5 MRI・3DCT
phase-contrast cine MRI により肺体血流比が算出で
p.96
き442, 443),血流量定量の非侵襲的検査の主流になりつつある.3DCT での病態把握は難しい.
1.4 治療選択のための検査(図37)
1.4.1 心エコー検査
診断,病態把握のみならず治療方針決定に欠かせない検査である(クラスI).閉鎖適応を決定するものは,右室容量負荷と肺血管閉塞性病変の有無である.心エコー検査で肺高血圧の評価はある程度可能であるが,肺血管閉塞性病変の評価は困難で,心臓カテーテル検査を要する.外科治療かカテーテル治療かの選択は,経胸壁エコー以外に経食道エコー検査が重要かつ必要な検査法となる436, 444).
二次孔欠損で閉鎖栓を用いたカテーテル治療を予定した場合,欠損数,欠損部位と辺縁,中隔瘤の有無などの評価が必要となる.明瞭な画像が得にくい年長児,成人では経食道エコー検査の必要性はさらに増しており,3D 画像もカテーテル治療の適応決定や,合併症回避に重要な役割を果たしている444).
また,静脈洞欠損上位型の部分肺静脈還流異常の合併例では,ステントを用いたカテーテル治療の報告445)はあるが,外科治療となるのが一般であり,その選択をする意味で重要な検査法となる.
1.4.2 心臓カテーテル検査
肺体血流量比>1.5 でかつ肺血管閉塞病変がない(肺血管抵抗<4.0~5.0 Wood 単位・m2)場合が閉鎖適応とされる1, 440, 441).肺体血流量比に関しては,カテーテル治療である閉鎖栓治療が第一選択446)になりつつある現在では,有意な左- 右短絡でないと解釈されている1.5 未満でも閉鎖されることがある.また,以前は肺血管閉塞病変のため閉鎖適応外(肺血管抵抗>8.0 Wood 単位・m 2) 440, 441)とされていた,もしくはその境界域の患者においてtreat and repair という治療法が報告447, 448)され,その後本検査法は欠かせない検査となっている.
1.4.3 MRI・3DCT
3DCT は外科治療適応となる部分肺静脈還流異常合併の診断,またカテーテル治療では欠損孔の縁を含めて部位,形態評価に有用である.
1.5 成人期ASD
学校検診が整備された現在でも,成人になってはじめて発見される患者が少なからずいる.動悸,息切れ,易疲労
感などの症状,心房粗/ 細動などの不整脈で発見されるが,小児期からの状態に“ なれ” が生じて症状を自覚しにくいことが多い.人間ドックなどの心エコー検査で発見されることもしばしば経験する.静脈血栓などを原因とした脳塞栓(奇異性塞栓)の発症は,小さなASD でも生じ得るので精査する必要がある(クラスI).詳しくは成人先天性心疾患診療ガイドライン1)を参照されたい.
診断・病態把握・治療選択のための検査は,成人であっても基本的にすでに述べられたものと同じである.成人期での特徴は,経胸壁エコー検査では心房中隔周辺の十分な画像を得られないことが多く,経食道エコー検査が必要かつ有用である(クラスIIa)こと,また肺高血圧,肺血管閉塞性病変の有無の評価として,小児期に比較して心臓カテーテル検査の必要性が増すことがあげられる.
2 心室中隔欠損
2.1 解剖・病態生理(図38,表51)
心室中隔欠損(VSD)は左室と右室,または左室と右房が交通する疾患で,大動脈二尖弁と左上大静脈遺残を除くと,先天性心疾患のなかでもっとも有病率が高い(出生
図38 心室中隔欠損の分類(Soto 分類) (森善樹.2018 450)より転載)
O:流出路中隔T:肉(梁)柱部中隔
内側乳頭筋
傍膜様部欠損
三尖弁
房室中隔欠損肺動脈弁動脈下- 漏斗部中隔欠損
中隔縁柱
筋性部欠損
I:流入路中隔M:膜様部中隔
p.97
1,000 人につき1.56 ~53.2 人) 449, 450).
心室中隔は筋性部と膜様部からなり,筋性部はさらに流出部(漏斗部),流入部,肉柱部の3 つに分けられる. VSD の分類は数多くあり,わが国ではKirklin 分類451),東京女子医科大学分類452),Soto 分類453)が多く用いられている.図38 450)にSoto 分類を示す.最近,世界的な統一に向けた命名の提案がなされている(表51)
454).もっと
も多いのは傍膜様部欠損(perimembranous)であり,約50% を占める.日本人を含むアジア人には漏斗部欠損が多い(約30%)ことが特徴である.
VSD は,発生機序から単純穿孔型と整列異常型の2 つに分類できる.単純穿孔型は発生過程での心室中隔の形成や左右心室の肉柱形成が不完全に終わったもので,傍膜様部欠損と肉柱部欠損に多く認められる.いずれの場合も,小欠損孔なら自然閉鎖がみられる.
整列異常型は漏斗部中隔と肉柱部中隔の間が空間的にずれて形成されるもので,漏斗部中隔が前方にずれる前方偏位型(anterior malalignment)と,後方にずれる後方偏位型(posterior malalignment)がある.いずれも欠損孔は大きく,通常,自然閉鎖は望めない.前方偏位型では大動脈が心室中隔に騎乗し,右室流出路・肺動脈の狭窄や低形成をともなうとファロー四徴症となる.後方偏位型では肺動脈が心室中隔に騎乗し,左室流出路狭窄や大動脈弁狭
窄(二尖弁を含む),上行大動脈の低形成,大動脈縮窄・離断を合併しやすい.
短絡量は欠損孔の大きさと肺血管抵抗,体血管抵抗により決まる.欠損孔の大きさは大動脈弁輪径と比較するのが一般的で,欠損孔径が大動脈弁輪径と同等かそれ以上であれば,大欠損と判定する.大欠損例では,短絡量は肺血管抵抗と体血管抵抗の比で規定される.出生後の肺血管抵抗の低下にともない,短絡血流量は増加し,肺血流量の増加から左房・左室の容量負荷が生じる.左室拡張末期圧の上昇,左房圧の上昇,肺静脈圧の上昇へと進展し,多量の血流が肺動脈に流入することとも合わせ,肺高血圧を合併する.肺静脈圧の上昇から肺うっ血,肺浮腫を呈して肺でのガス交換にも影響を及ぼす.大欠損例で肺血管抵抗が高値の場合には肺高血圧は存在するが,肺血流量の増加は軽度にとどまるか消失する.新生児期早期や肺血管床の閉塞性病変が進行したアイゼンメンジャー症候群がこのような病態である.
欠損孔が大動脈弁輪径より小さい場合には欠損孔自体が抵抗となり,肺血流量は体血管抵抗に規定される.大動脈弁輪径の1/3 以下の小欠損は肺動脈圧の上昇はなく,肺体血流比(Qp/Qs)<1.5(左右短絡量33%)で,通常無症
表51 心室中隔欠損の新しい分類の提唱▲ Perimembranous central ventricular septal defect ▲ Inlet ventricular septal defect without a common atrioventricular junction • Inlet perimembranous ventricular septal defect without atrioventricular septal malalignment without a common atrioventricular junction • Inlet perimembranous ventricular septal defect with atrioventricular septal malalignment and without a common atrioventricular junction • Inlet muscular ventricular septal defect ▲ Trabecular muscular ventricular septal defect
• Trabecular muscular ventricular septal defect: midseptal • Trabecular muscular ventricular septal defect: apical • Trabecular muscular ventricular septal defect: postero-inferior • Trabecular muscular ventricular septal defect: anterosuperior • Trabecular muscular ventricular septal defect: multiple ▲ Outlet ventricular septal defect
• Outlet ventricular septal defect without malalignment・Outlet muscular ventricular septal defect without malalignment・Doubly committed juxtaarterial ventricular septal defect without malalignment • Outlet ventricular septal defect with anteriorly malaligned outlet septum・Outlet muscular ventricular septal defect with anteriorly malaligned outlet septum・Outlet perimembranous ventricular septal defect with anteriorly malaligned outlet septum・Doubly committed juxtaarterial ventricular septal defect with anteriorly malaligned fibrous outlet septum • Outlet ventricular septal defect with posteriorly malaligned outlet septum・Outlet muscular ventricular septal defect with posteriorly malaligned outlet septum・Outlet perimembranous ventricular septal defect with posteriorly malaligned outlet septum・Doubly committed juxtaarterial ventricular septal defect with posteriorly malaligned fibrous outlet septum (Franklin RCG, et al. 2017 454)より作表)
p.98
状に経過し,自然閉鎖も期待される.
膜様部の余剰組織(膜様部中隔瘤)や,三尖弁の組織の一部が伸びて傍膜様部欠損を覆うことで短絡血流が減少したり,自然閉鎖したりすることがある.傍膜様部欠損に三尖弁中隔尖の欠損や三尖弁の裂隙をともなった場合,VSDを通過して左室から右室に流入した短絡血流がさらに三尖弁を通過する血流となって右房に吹き込み,弁下型左室右房交通症となることがある.
また,まれに三尖弁中隔尖の付着部の上方にあたる房室中隔膜様部の欠損(Gerbode 欠損)により,左室から直接右房に短絡する弁上型左室右房交通症をみることがある449, 455–457).左室右房交通症では常に高圧の左室から低圧の右房に短絡が生じ,肺血管抵抗の高低は短絡の大きさに影響しない.短絡量の多い傍膜様部欠損に左室右房交通症が合併する場合は,左右両心室の容量負荷を呈し,四心腔すべてが拡大する.ASD と異なり,左房圧が上昇して肺うっ血をきたすことがある.左室右房交通症をともなった場合,自然閉鎖する可能性は小さく,左室右房交通症をともなわない場合よりも高率に感染性心内膜炎を合併するとされる458).
漏斗部欠損では,収縮期に大動脈弁が直下を通過する加速した短絡血流に吸い込まれる(Venturi 効果)ことで引き伸ばされて変形し,欠損孔にはまり込むこと(大動脈弁逸脱)がある.多くは漏斗部欠損に近接する大動脈弁右冠尖が逸脱するが,傍膜様部欠損に無冠尖逸脱が合併することもある.逸脱した弁尖は他の弁尖との間にずれを生じ,経年的に大動脈弁閉鎖不全が現れる.またバルサルバ洞が欠損孔から突出してバルサルバ洞動脈瘤を形成することがあり,右室流出路狭窄や動脈瘤破裂をきたすことがある.
2.2 診断のための検査(図39)
2.2.1 聴診
収縮期逆流性雑音を聴取する.心雑音の最強点が胸骨左縁第4 肋間であれば傍膜様部欠損が,胸骨左縁第2 肋間であれば漏斗部欠損が疑われる.
2.2.2 胸部X 線・心電図
両検査とも病態把握には重要であるが,VSD と診断するための特徴的所見はない.
2.2.3 心エコー
VSD の部位診断に不可欠である(図39).漏斗部欠損のうち肺動脈弁直下型は,大動脈基部短軸,右室流出路短軸,右室流出路長軸断面で肺動脈弁に接して欠損孔を認め
る.漏斗部筋性部型は,肺動脈弁とVSD の間,三尖弁とVSD の間,どちらにも心筋組織が存在する.大動脈弁逸脱は左室長軸断面で観察する.傍膜様部欠損は大動脈基部短軸断面で,三尖弁とVSD の間に心筋組織が存在しないことが特徴である.
四腔断面では房室弁レベルから大動脈弁方向へスキャンすると大動脈弁がみえ始め,すぐに欠損孔がみえる.大動脈基部短軸断面と僧帽弁レベルの左室短軸断面,四腔断面で観察し,欠損の進展方向(流入部,肉柱部,流出部)を診断する.
流出部へ進展していると左室長軸断面でも欠損を認める.傍膜様部欠損での膜様部中隔瘤は,欠損孔が自然閉鎖する可能性を示唆している449, 459).心尖方向の肉柱部欠損は通常の断面では見落とされることがある.カラードプラ法を用いて四腔断面,長軸断面における短絡血流を丹念に検索する.
2.2.4 心臓カテーテル検査
右心室から肺動脈での酸素飽和度上昇を認めるが,肺高血圧が高度であると,その上昇は軽微である.左心室造影で左心室から肺動脈が造影され診断される.しかし,現在は以前のように診断のための検査としてルーチンに施行されることはない.
2.2.5 MRI/CT
MRI により欠損孔の形態評価が可能である.心電図同期の造影CTは多発性の肉柱部欠損の描出に優れているが,被曝のリスクがある.
2.3 病態把握のための検査(図39,40)
2.3.1 聴診
軽症では全収縮期雑音を聴取するのみであるが,左右短絡量が中等度以上(およそQp/Qs>2.0)になると, 短絡量の増加による相対的僧帽弁狭窄を生じて全収縮期雑音に加えて心尖部で拡張期ランブルを聴取する449, 450).III 音をともなう.肺高血圧によるIIp の亢進をともなうようになる.肺高血圧が高度になると雑音は収縮期全体では聴取されなくなり, II 音は亢進とともに単一化する.アイゼンメンジャー化すると収縮期雑音を聴取しないことがある.
2.3.2 胸部X 線・心電図
胸部単純X 線では左心系の容量負荷により心拡大を認
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める.中等症以上では心拡大に加えて肺血管陰影の増強から肺うっ血像を認める.アイゼンメンジャー化すると心胸郭比は正常化するが,肺動脈末梢部陰影は減少する.心電図では左心室容量負荷により左室肥大所見を認める.肺高血圧の進行により両室肥大所見を認めるようになる.アイゼンメンジャー化すると右胸部誘導でストレイン型の
陰性T 波をともなう高度の右室肥大所見を呈するようになる449, 450).
図39 心室中隔欠損に対する診断・病態把握・治療計画のための検査
心不全徴候・体重増加不良の有無聴診(全収縮期心雑音,拡張期ランブル,II 音亢進,III 音)を含む身体所見
胸部X 線(心拡大,肺血管陰影増強の有無)
心電図(左室肥大,右室肥大の有無)
心エコー検査
部位診断欠損孔径の計測整列異常の有無合併病変の有無大動脈弁尖逸脱・大動脈弁閉鎖不全右室流出路狭窄,左室流出路狭窄など短絡量の評価右室圧の評価僧帽弁閉鎖不全など他疾患の精査
漏斗部欠損・傍膜様部欠損・流入部欠損・肉柱部欠損
MRI/CT の追加
VSD(+) VSD(-)
(+) (-)
漏斗部欠損・傍膜様部欠損大動脈弁逸脱大動脈弁閉鎖不全左房・左室の拡大右室圧上昇(ドプラ法)
心臓カテーテル検査
高肺血流肺動脈圧軽度~中等度上昇低肺血管抵抗低肺血流肺動脈圧高度上昇高肺血管抵抗
急性血管反応性試験
陽性(肺血管抵抗低下)陰性(肺血管抵抗変化なし)
手術内科治療肺高血圧症標的治療経過観察
肺高血圧症標的治療の効果判定
p.100
2.3.3 心エコー
左房,左室の拡大が明らかな場合は中等度以上の短絡と判断される449, 450, 459).肺高血圧の有無と程度は,左室短軸断面での心室中隔の形態から評価可能である.左室容量負荷増大により僧帽弁輪が伸展・拡大すると,カラードプラで僧帽弁閉鎖不全が確認される.連続波ドプラ法によりVSD を通過する短絡血流から左室- 右室圧較差を概算し,体血圧と比較することにより右室圧を推定する.また三尖弁逆流による右室- 右房圧較差の算出からも右室圧が推定できる449, 450, 459).
三尖弁逆流速度により右室圧を過大評価する可能性として,三尖弁中隔尖やGerbode 欠損を介した左室右房交通症がある459).VSD を通過する短絡血流から求めた右室圧と三尖弁逆流から推定される右室圧とは等しくなる.漏斗部欠損で大動脈弁の変形をともなっている場合は,カラー
ドプラ法により大動脈弁逆流の有無を検索する(図39).
2.3.4 心臓カテーテル検査
心内各部位の血液酸素飽和度と圧を測定し,肺血流量・抵抗,体血流量・抵抗,左右(右左)短絡率を算出して病態を検討する1).肺血管抵抗≧6 Wood 単位・m2 かつ肺血管抵抗/ 体血管抵抗比≧0.3 の場合は441, 460),肺血管床の閉塞性病変の進行度を検討するために一酸化窒素吸入による急性血管反応性試験(AVT)を行い,肺血管の反応性を判定する必要がある(クラスI,エビデンスレベルC) (図40)
441, 460).イロプロストの吸入が使用される場合も
ある441, 460, 461).
高濃度酸素を負荷する場合には溶存酸素の影響を無視できず,肺静脈血を含む酸素分圧の測定が必要であり,正確
図40 急性血管反応性試験による手術適応の評価(日本循環器学会.2017 441),Kozlik-Feldmann R, et al. 2016 460)より)
AVT 陽性: PVRI <6 Wood 単位· m 2 かつPVR/SVR <0.3
修復手術と支持療法
陰性
左右シャントのみの高肺血流,成長障害,酸素飽和度>95%
ASD/VSD/PDA などの単純シャント疾患複雑な心疾患では年齢,シャントの大きさや部位,そして合併症候群を考慮する
ありなし
修復手術心カテ
PVRI <6 Wood 単位· m
2 かつPVR/SVR <0.3グレーゾーン6 ≦PVRI ≦8 Wood 単位· m 2
0.3 ≦PVR/SVR ≦0.5 PVRI >8 Wood 単位· m
2 かつPVR/SVR >0.5
AVT 検討AVT 必須
陽性陰性
修復手術と術後支持療法フェネストレーション考慮肺高血圧症標的治療
再カテ
陽性
高リスク手術フェネストレーション考慮おそらく手術不可
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な計測がなされなければ血管反応性を誤って判断する可能性がある461).
VSD で右室内の肉柱(特に中隔縁柱)が発達して右室流出路狭窄をきたすことがあるので(右室二腔症),右心室内での圧変化に留意する.
2.3.5 MRI
Qp/Qs の評価,左室と右室の容積と機能の評価が可能である.大動脈弁閉鎖不全の逆流量の評価も可能である.
2.4 治療選択のための検査
2.4.1 聴診
全収縮期雑音に加えて,II 音亢進,拡張期ランブル,III音を聴取すれば,肺体血流比が2.0 を超えている可能性が高く,外科的治療を考慮する.II 音が亢進し収縮期雑音が乏しく,拡張期ランブルも聴取しない場合は肺血管床の閉塞性病変が進行している可能性があり,手術適応の検討は慎重に行う必要がある.
2.4.2 胸部X 線・心電図
心拡大および肺血管陰影増強がなく,心電図が正常であれば通常治療適応はない.胸部単純X 線で心拡大と肺血管陰影増強があり,心電図で左室肥大あるいは両室肥大所見を認めたら,手術を前提に心エコーやカテーテル検査を行う.
2.4.3 心エコー
左心室拡大,小さな左室- 右室圧較差,三尖弁逆流から推定される右室圧の上昇などでは外科的治療適応がある.心エコーによる肺体血流比は確定的なものではない.漏斗部欠損で大動脈弁逆流をともなえば手術適応があるが,最適な手術時期は定まっていない.また,大動脈弁変形が明確でない小欠損例の手術適応にはいまだ議論がある449, 450,457, 462–466).
2.4.4 心臓カテーテル検査
肺血管抵抗<6 Wood 単位・m2 かつ肺血管抵抗/ 体血管抵抗比<0.3 の小児は,他に修復術の危険因子がなければ修復術やインターベンションによる閉鎖の適応となる(クラスI,エビデンスレベルC) 441, 460).体重増加が順調であり肺体血流比が1.5 以下の場合は通常治療対象にならない1, 449, 450). 3 房室中隔欠損
3.1 解剖・病態生理
出生児の約0.02%,先天性心疾患の約5%,21 トリソミーの15 ~20% が房室中隔欠損(AVSD)である. AVSD は房室膜性中隔および房室筋性中隔の組織欠損で,以下の解剖学的特徴をともなう.両心室にまたがる共通房室弁をもつこと,心室中隔流入部欠損によるscooping(ほれ込み)があること,大動脈弁が房室弁に楔入せず上方に位置すること,そのため流入路より流出路が長くなり, goose neck サインがみられること,左側乳頭筋の位置が逆時計方向に移動していること,左側房室弁のクレフトが心室中隔に向かうことである.基本的に共通房室弁であることから,房室弁は中隔の同じ高さに付着する.
不完全型は,共通前尖と共通後尖がconnecting tongueで結合し,心房中隔一次孔欠損のみで心室間交通をともなわない.中間型はconnecting tongue をもつが,心室間交通をもつ.完全型は両心房,両心室間の交通と共通房室間孔が存在するものをいう.房室弁尖の形態と心室中隔上に位置する弁の腱索の挿入部位によりA,B,C の3 つに分類される(ラステリ分類).A 型が約60%,B 型が5%,C型が35% で,C 型は21トリソミーにみられ,21トリソミーでなければほぼA 型となる(図41)
467–473).
A 型は共通前尖が心室中隔直上で分割され,弁尖間交連を支える腱索が心室中隔に挿入し,B 型は分割された共通前尖の左室側弁尖が右室まで中隔をまたぎ,交連部からの腱索は右室の異常乳頭筋に挿入し,右側の前葉は小さくなる.C 型は共通前尖の大部分が右室側にまたがり,腱索は右室前乳頭筋に挿入しているため,心室中隔上で浮くような状態(free floating)になる.A 型では,中隔挿入する腱索の付近で膜様狭窄,線維筋性狭窄などの左室流出路狭窄を生じる場合がある(図42) 467–473).
主要合併異常は,動脈管開存,ファロー四徴症,両大血管右室起始症,大動脈縮窄,内臓錯位などがある.
3.2 診断のための検査(図41)
3.2.1 聴診
不完全型の場合は心房中隔二次孔欠損と同様,II 音の固
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定性分裂,胸骨左縁第2,3 肋間に収縮期駆出性雑音,胸骨左縁第3,4 肋間に拡張期ランブルを聴取する.完全型の場合は肺高血圧があるため,II 音の亢進があり,胸骨左縁下部でVSD による収縮期雑音を聴取する.さらに左右短絡の増加により胸骨左縁下部から心尖部で共通房室弁を通る拡張期ランブルを聴取する.左側房室弁の逆流が中等度以上あれば,心尖部に収縮期逆流性雑音を聴取する.収縮期雑音が減弱した場合には肺高血圧の進行に注意が必要である.
3.2.2 胸部単純X 線・心電図
胸部単純X 線検査では心拡大,肺動脈拡張,肺血管陰影増強を認める.心不全が進めば肺うっ血が認められる.さらに,アイゼンメンジャー化すると中枢肺動脈拡大,肺動脈末梢部陰影が減少する.心電図は特徴的で,房室結節を含む刺激伝導系の後下方偏位による左軸偏位,PQ 間隔延長を認める.不完全型では右室容量負荷による不完全右脚ブロックパターンを,完全型では,肺高血圧と左室容量負荷により両室肥大を示す.
3.2.3 心エコー
AVSD は心房・心室間交通,房室弁逆流が複合した疾患で,心エコーは診断上もっとも重要な検査である.まず一次孔欠損の有無,心室中隔欠損と房室弁の形態を精査する.AVSD が存在するなら基本的には三尖弁と僧帽弁は同じ高さにあり,左側房室弁に裂隙が存在する.ラステリ分類を行うには胸骨下や剣状突起下からの短軸像と心尖部からの四腔像が有用である.共通前尖の裂隙,腱索の心室中隔挿入の有無,両心室のバランスを観察し,さらに長軸断面で左室流出路狭窄の有無を検索する.カラードプラ法により房室弁逆流の有無と逆流部位を確認する.
3.2.4 心臓カテーテル検査
心室中隔流入部欠損(scooping)のため,左心室造影では流入路より流出路が長くなり,いわゆるグースネック像が特徴である.左室造影,右室造影で房室弁逆流を評価する.
3.3 病態把握および治療選択のための 検査(図42)
AVSD の病態把握による治療選択を行うためには,心房・心室への容量負荷の程度,左右心室のバランス,肺血流量増加と肺高血圧の程度,房室弁逆流の程度および部位を検討できる情報が必要である.完全型では,一般的に乳児期の心内修復術を目指し,不完全型では就学前5 ~6 歳前後での心内修復術が施行される.特にA 型のダウン症候群では生後早期から肺高血圧が進行するため,生後6 ヵ月以内には心内修復が必要となる.完全型のアンバランスな心室では,単心室治療を目指す場合がある.左右心室容量の評価,左側房室弁の狭小化があるかどうかの形態評価が重要となる.
3.3.1 胸部単純X 線・心電図
心拡大の程度,肺動脈拡張,肺血管陰影増強によって肺血流の増加や心不全の進行を考慮する.末梢肺動脈陰影の減弱は肺高血圧の進行を示唆し,注意をする.
3.3.2 心エコー
心エコー検査のポイントは,1心房位,心室位での短絡方向,2房室弁輪,両心室のバランス(弁輪から心尖部間での距離),3房室弁逆流の程度と部位,4両心室間圧較差,5左室流出路狭窄の程度などである.
完全型の場合,共通房室弁の逆流部位が心室中隔直上領域からであればパッチ逢着部分となるので,術後逆流の心配は少ない.心房中隔と心室中隔が異常配列である場合は,房室結節の位置異常に注意を要する.左室乳頭筋間距離が短い場合は,修復の際,裂隙を完全に閉じると弁口狭窄となる危険性が高くなる.弁口が1 つの心室に偏った場合はしばしば高度の片側心室低形成が生じることがあり,この場合2 心室修復が困難となる.房室弁,弁輪部の低形成があればまず肺動脈絞扼術を行い,単心室修復への適応を考慮する471, 473).
図41 ラステリ分類Ao:大動脈,SL:superior leaflet,IL:inferior leaflet,AB:anterior bridging leaflet,A:anterior leaflet,PB:posterior bridging leaflet矢印はanterior bridging leaflet(共通前尖)からの腱索
正常不完全型
完全型
乳頭筋心室中隔
ラステリA 型ラステリB 型ラステリC 型
SL
IL
AB A A
PB PB PB
Ao Ao
Ao Ao Ao
AB AB A
p.103
3.3.3 心臓カテーテル検査
肺血流量・抵抗,体血流量・抵抗,心室容量から治療方針を決定するために重要な検査である(クラスI).肺血管抵抗が8 単位・m2 を超える場合は,肺血管床の閉塞性病
変の進行度を検討するために酸素投与,一酸化窒素投与,血管拡張薬投与により肺血管の反応性を判定する(クラスIIa).さらに右心室・左心室造影を行って房室弁逆流の程
図42 房室中隔欠損に対する診断・病態把握・治療計画のための検査
汎収縮期心雑音の聴取
心電図
ラステリ分類
房室弁逆流
(+) (-)
高度増加中等度増加
肺動脈高血流・低抵抗肺動脈低血流・高抵抗
肺血管抵抗低下肺血管抵抗変化なし
手術
左軸偏位診断
病態把握
治療計画心エコーASD に準ずる
正常〜軽度増加
ドプラ法により右室の圧推定
完全型不完全型
酸素負荷
内科治療
心臓カテーテル検査
頭部X 線:心拡大,肺血管陰影増強
心電図:左室肥大,右室肥大
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度および心室容積を測定,特に片方の心室が小さい完全型の場合,左右心室容積の比較,左室流出路狭窄圧較差などの評価を行い,二心室修復に向かうか,単心室修復に向かうか手術方針を決定する(クラスI).
3.3.4 CT,MRI
3DCT では,大動脈縮窄などの左室流出路狭窄合併例では大動脈形成手術が必要となるため,術前評価として有用である.MRI も心室容量の評価には精度が高く,心臓カテーテル検査と合わせて治療方針を決定する目的で用いてもよい.
4 動脈管開存
4.1 解剖・病態生理
動脈管は,正常新生児では出生後1 ~2 日で中膜平滑筋層の収縮により機能的に閉鎖した後,通常は生後2 ~3 週で器質的に閉鎖する.閉鎖せず開いたままの状態のものを動脈管開存(PDA)とよぶ.早産児の生後早期のPDA と正期産児では病態,重症度,治療法も異なる.本項では正期産児のPDA,もしくは早産児の正期産の時期を超えて続くPDA について言及する.
高度の肺高血圧を合併する場合と細く心雑音のない場合を除き,左心系の容量負荷の解除,感染性心内膜・血管内膜炎の予防を目的として治療適応となる.
4.2 診断のための検査(図43)
4.2.1 聴診
胸骨左縁第2 肋間に最強点があり,II 音に一致してピークのある連続性雑音を聴取する.肺高血圧を合併すると拡張期雑音は減弱し,II 音の亢進がみられるようになる.肺高血圧が進行し肺血管抵抗が著しく上昇した場合には,収縮期雑音も減弱して肺動脈弁逆流による拡張期雑音を聴取することがある.
4.2.2 胸部単純X 線・心電図
細いPDA では胸部単純X 線,心電図ともに正常である.左右短絡量が増加すると上行大動脈の拡大,肺動脈の拡大,左室拡大による心陰影の拡大がみられ,肺血管陰影の増強が認められる.心電図では左側胸部誘導にR 波の増
高を認め,左房負荷所見がみられる.
4.2.3 心エコー
経胸壁エコーによって主肺動脈と下行大動脈間に動脈管が描出される.カラードプラ法では動脈管から主肺動脈へ向かう連続性モザイク像が検出される.大動脈縮窄などを含めた他の先天性心疾患の合併の有無を確認する.
年長児や成人では経胸壁エコーでの動脈管の直接描出は困難な場合があり,経食道エコーが必要になる場合がある(クラスIIa).
4.3 病態把握のための検査(図43)
4.3.1 酸素飽和度の上下肢差測定
動脈管が左右短絡であれば,酸素飽和度の上下肢差はない.肺高血圧を合併しアイゼンメンジャー化すると右左短絡が主体になり,下肢の酸素飽和度が上肢に比べて低値となる.
4.3.2 聴診・胸部単純X 線・心電図
左右短絡量が多いと心尖部に拡張期ランブルを聴取する.胸部単純X 線にて心拡大,肺血流増加所見,左第2弓の突出のみられる場合には,中等以上の左右短絡の存在が示唆される(クラスI).
4.3.3 心エコー
左右短絡量の増大にともない左心系の容量負荷による左房,左室内径の拡大,上行大動脈径の増大がみられる.左肺動脈では大動脈から肺動脈への短絡血流により拡張期血流速度の上昇が認められる.下行大動脈・腹部大動脈では大動脈から肺動脈への引き込み血流による拡張期逆流がみられる.左室はhyperdynamic な収縮像を呈する.肺高血圧をともなうと動脈管内の収縮期血流速度が減弱する.
アイゼンメンジャー化すると主肺動脈は拡張し,カラードプラ法で動脈管から大動脈への右左短絡が観察される.
4.3.4 心臓カテーテル検査・心血管造影
カテーテル治療を前提として施行される.心臓カテーテル検査では右室- 肺動脈- 下行大動脈にカテーテルが通過する.主肺動脈で酸素飽和度の上昇がみられる.大動脈造影では動脈管から肺動脈が造影される.短絡量の算出には左右肺動脈の酸素飽和度が用いられるが,右に比して左肺動脈の血流が増加している場合が多く,正確な算出は困難
p.105
である.
4.3.5 血液検査・バイオマーカー
血液検査でPDA を診断することはできないが,血液検査は,PDA と診断された患者において,重症度や臨床経過の評価,基礎疾患の診断のために行われる.PDA が重症になり,左心負荷や左心不全が生じると,脳性(B 型)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)やBNP 前駆体のN 端側フラグメント(NT-proBNP)が上昇する.
4.4 治療選択のための検査(図43)
正期産児では月齢3 ヵ月,早産児では分娩予定日からの修正月齢6 ヵ月までに動脈管が自然閉鎖することもあるため,心不全症状がなく緊急・準緊急的に治療を行う必要のない場合は経過観察が望ましい(クラスIIa).
正期産児のPDA に対するシクロオキシゲナーゼ阻害薬の治療効果や有害事象に関しては,質の高い科学的根拠は乏しい.生後6 ヵ月以降であれば,カテーテル治療は低侵襲的で望ましい治療として普及している.生後6 ヵ月未満のPDA については現在,外科手術が標準的である.外科
手術成績は良好であるが,偽性瘤,左反回神経麻痺,横隔神経麻痺,乳び胸など合併症の報告もまれにあり,左側開胸による術創が残る.今後新規デバイスの閉鎖栓の導入により,カテーテル治療の適応が拡大することが見込まれる.治療選択のための検査としては,肺高血圧の合併がないことの確認,治療の適応,治療方法の選択のためとなる.
4.4.1 聴診
連続性雑音を聴取する場合は治療適応がある.収縮期雑音のみの場合や,心雑音がなく右左短絡をともなう場合は,治療適応の検討には心臓カテーテル検査による肺血管抵抗の評価が必要である.
細い動脈管で心雑音のない場合(silent PDA)の治療適応については,統一した見解は得られていない.
4.4.2 胸部単純X 線・心電図
高齢者では瘤形成や動脈管に一致した石灰化像がみられる場合がある.心電図にて右室肥大を呈する場合は肺高血圧の合併が疑われる.
図43 動脈管の開存および血流の確認
治療法選択(3 ~6 ヵ月未満,
7 ~8 kg 未満)心エコー:動脈管の径,形態,血流方向聴診・胸部X 線・心電図・心エコー・BNP:PDA による心負荷の評価
手術経過観察
カテーテル治療閉鎖栓による経皮的塞栓
または手術
心雑音,心不全症状
動脈管の閉鎖
診断
病態把握心不全症状
ありなし
動脈管
聴診・胸部X 線・心電図・心エコー・心カテーテル・BNP: PDA による心負荷,肺高血圧の評価心エコー・心カテーテル・CT・MRI:動脈管の径・長さ・形態の評価
治療法選択心エコーで動脈管の開存・血流確認胸部X 線・心電図・心エコー:合併疾患の鑑別
径2.0 〜2.5 mm 未満径2.5 mm 以上形態でカテーテル不適例
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4.4.3 心エコー
動脈管の太さ(内径),長さなどによって治療法が異なるため,形態評価が重要である.最小内径が2.5 mm 以下の場合には経皮的コイル塞栓術が第一選択となる.形態や内径からコイル塞栓術が困難な場合は,プラグによる経皮的塞栓または手術が検討される.瘤形成をともなう場合や非常に短いウィンドウタイプでは,ステント・グラフト内挿術や外科手術が選択される(クラスIIa).
4.4.4 心臓カテーテル検査・心血管造影
カテーテル治療を前提とする場合や肺高血圧の評価が必要な場合に施行される.右左短絡が主体で高度の肺高血圧がみられる場合には治療適応がない.
4.4.5 3DCT・MRI
動脈管の形態評価に有用である.造影CT ならびにMRA では動脈管が複雑な形態の場合や気管,気管支,大動脈弓などとの空間的位置関係の診断に有用である.
5 大動脈縮窄・大動脈離断複合
5.1 定義,解剖
大動脈弓部および大動脈峡部の閉塞性病変により体循環の血流障害を生じる疾患で,多くの場合心内合併病変をともなうことが多い.大動脈峡部から下行大動脈の移行部に狭窄を生じたものを大動脈縮窄(CoA),弓部から大動脈弓峡部までの一部が欠損し,血管の連続性がないものを大動脈離断(IAA)という474–481).
大動脈縮窄と大動脈離断の形態分類は図44,45 のとおりで,大動脈離断の病型分類にはCeloria-Patton の分類が用いられる475).わが国ではA 型が多く,B 型では22q11.2欠失症候群の併発が多い.C 型はまれである481).
単独型と,心室中隔欠損や大血管転位などの合併心疾患をともなう複合型とがある.複合型では,下半身の体循環は動脈管に依存している.欧米の報告では,CoA の発生率は全先天性心疾患の5 ~8%,IAA は1.5% 程度とされている476–478, 481).日本小児循環器学会の調査(2015 年)では,CoA は2.5%,IAA は0.6% であった482). 5.2 血行動態
VSD などを合併して,下半身の体循環が動脈管に依存している大動脈縮窄複合・離断複合では,通常肺高血圧を合併している.上半身への血流は左室から酸素飽和度が高い肺静脈血が供給され,下半身への血流は体静脈血が動脈管開存を経由して供給される.このため,上肢の酸素飽和度が高く,下肢の酸素飽和度が低いdifferential cyanosis を呈する.大血管転換に合併した場合は上下肢の酸素飽和度は逆転し,上肢が低くなる.新生児期に動脈管の閉鎖によって動脈管を介する右左短絡が途絶すると,ショックにいたる474, 476–479, 481).
下半身の体循環が動脈管に依存しない単独型の大動脈縮窄・離断では,上肢の高血圧と上下肢の血圧差を生じることが特徴である.まれに大動脈縮窄の程度が重症であると,新生児期でも左室の後負荷不適合を生じて,左室収縮の低下や重症の僧帽弁閉鎖不全のため心不全を発症することがある474, 476–478).
5.3 診断のための検査(図46)
5.3.1 理学所見,聴診
理学所見が重要で,四肢の視診と脈の触診が有用である.四肢の爪床や皮膚のチアノーゼ,SpO2 と血圧の測定を行う.上半身の高血圧,上下肢の血圧差,下肢脈拍の減弱に加え,上下肢のdifferential cyanosis(上下肢の酸素飽和度が5% 以上異なるとき)で診断する.心聴診所見は,病態に応じた心音の異常,心雑音を聴取する474, 476, 478).
5.3.2 画像診断
確定診断のためには,画像診断が必要である.心エコーでは,心内形態異常の診断に加え,胸骨左縁上部,胸骨上窩からの大動脈弓部矢状断面で大動脈弓部の限局性狭窄や途絶がみられる.単純型縮窄ではカラードプラ法では狭窄部に一致してモザイクパターンが観察され,腹部大動脈のパルスドプラ血流パターンでは,収縮期の上行脚と拡張期の下行脚がなだらかとなり拡張期も血流が途絶しない特徴的な血流パターンが観察される483).複合型では,下行大動脈につながる動脈管と同部の右- 左血流短絡を認める.
大動脈弓全体の形態や頸部血管の分岐異常の診断のためには造影3DCT が有用で,立体的な構造の把握に優れている.特に,縮窄部や離断部の診断や隣接する動脈分枝や側副血行路の診断が可能である484, 485).
p.107
心臓MRI も大動脈弓全体の評価に有用である.造影剤を用いずに大動脈の壁構造や内腔情報が得られる利点があり,成人や腎機能低下症例に適しているが,小児においては検査に時間を要することや深鎮静を要する点が問題となることがある.
5.3.3 心臓カテーテル検査
単純型では,診断のためだけに新生児期や乳児期に行われることは少なく,バルーン拡大術などの治療目的で行われることが多い486–494).複合型では,心内修復術の適応決定を目的として,肺高血圧の評価や肺体血流比測定,心室容積測定のために行われることが多い474, 477, 495, 496).
5.4 治療選択のための検査
本疾患では,診断のための検査と治療選択のための検査は同時に行われる.
5.4.1 単純型
年齢に関係なく上肢の高血圧をともなう場合は治療適応である.また,縮窄部の血圧差が20 mmHg 以上は治療適応となる474, 476–478, 481).
治療にはバルーン拡大術,ステント留置術,カバードステント留置術,外科手術が行われている476–478, 486–488).年齢,PDA の有無,大動脈瘤や上行大動脈の瘤状変化などの合併によって大動脈解離や遠隔期の瘤形成のリスクを考
慮し,治療法が選択される.カテーテル治療と外科手術のいずれを選択するかは,患者の年齢や病変の形態,長期予後を踏まえた議論が必要である.バルーン拡大術は,急性期成績は外科手術と同等であるが,遠隔期に大動脈病変の合併が多いため,欧米では成人例に対してはカバードステント留置が推奨されている489–493).いずれにしても,生涯を通じた経過観察が必要である475).
5.4.2 複合型
新生児例では心エコーによる迅速診断が予後を決定する.ショック時に動脈管閉鎖をともなう場合はプロスタグランジンE1 療法の緊急的開始が必要である.太い動脈管開存がみられる場合は過剰なプロスタグランジンや高濃度
左鎖骨下動脈右鎖骨下動脈
左総頸動脈
肺動脈
右総頸動脈
A 型B 型C 型
限局型CoA管前型管後型
大動脈峡部低形成大動脈弓低形成
図44 大動脈縮窄・大動脈離断の形態分類
図45 限局型大動脈縮窄と大動脈離断複合
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の酸素の投与は禁忌で,過換気を避け,高呼気終末陽圧を用いた人工呼吸療法によるショックからの離脱と外科手術の早期施行が必要である(クラスIIa) 477, 480, 481).
複合型では,外科手術が第一選択である476–478, 480, 481).心内病変がVSD の場合は,大動脈弓形成とVSD 閉鎖を同時に行う一期的修復術を行うが,術前状態が悪い場合や大血管転位などの複雑な心異常を合併する場合は,新生児期に大動脈弓形成と肺動脈絞扼術を,成長してから心内修復術を行う2 期的手術を選択する495–497).
左室が低形成であったり,有意な左室流出路狭窄をともなう場合は,新生児期にノーウッド手術か両側肺動脈絞扼術+動脈管ステントまたはプロスタグランジンE1 によるPDA 維持を行う495–497).乳児期以後では左室容積やVSDの位置やサイズによりYasui 手術,または段階的フォンタン手術を行う477, 498, 499).
6 大動脈弁狭窄
6.1 定義と形態的分類
先天性の大動脈弁狭窄性病変には弁性,弁下部,弁上部狭窄がある500).弁性狭窄は交連部の癒合と弁尖数の異常による.二尖弁の約半数ではraphe(縫線)とよばれる線状の構造物を認める500, 501).前後型と左右型があり,左右型では大動脈縮窄の合併率が高い.弁下部狭窄は膜性
上肢高血圧,上下肢血圧差>20 mmHg が治療適応左室収縮低下の新生児,乳児例ではバルーン拡大術または外科手術年長例ではカバードステント治療図46 大動脈縮窄・離断の診断検査と治療
症状高血圧微弱下肢脈differential cyanosis心不全心拡大
ショック(+)
複合型
左室収縮低下
心臓カテーテル治療外科治療
ショックを合併する新生児複合型では,ショック離脱後にすみやかに外科治療
動脈管開存
プロスタグランジンE1 療法
動脈管狭窄・閉鎖
単純型
造影CT/MRI
心臓カテーテル検査
心エコー
ショック(-)
p.109
狭窄と全周性の線維筋性狭窄に分類される502).弁上狭窄はウィリアムス症候群にみられることが多く,時計型,膜型,低形成型,砂時計型がみられる503).
大動脈狭窄(AS)では左室の後負荷が増大し,求心性左室肥大をともなう.弁および弁下部狭窄は進行性のことが多い.重症例では左室圧の上昇により心内膜下虚血が生じ,収縮性が低下して左室腔が拡大し,心不全を呈する.新生児期から心不全を生ずる最重例では心内膜線維弾性症を合併することがある504).
大動脈閉鎖不全(AR)では左室の前負荷が増加し,左室容積の増大や左室仕事量の増大により遠心性肥大がみられる505).
6.2 診断のための検査(図47)
6.2.1 聴診
狭窄性病変では頸部に放散する胸骨右縁第2 ~第3 肋間に駆出性収縮期雑音を聴取する.胸骨上窩や頸動脈で振戦を触れることもある.閉鎖不全では,拡張期早期に吹鳴性拡張性雑音を聴取する.弁狭窄では収縮期駆出性クリックを聴取するが,弁上ならびに弁下狭窄では聴取しない506).
6.2.2 胸部単純X 線・心電図
胸部単純X 線は軽症例では正常のことが多い.重症例では心拡大,左房,上行大動脈の拡大がみられる.
心電図は軽症例では正常所見である.重症狭窄例では左室肥大所見を示すが,かならずしも重症度と一致しない.閉鎖不全では左室内腔の拡大を反映して心拡大,左側胸部誘導のR 波の増高がみられる507).
6.2.3 心エコー
狭窄ならびに閉鎖不全の診断に不可欠な検査法である508).弁狭窄では大動脈弁の肥厚,可動性の制限,収縮期のドーム形成,左室弁下部構造,弁輪径が評価できる.また弁尖の逸脱・変形の有無,上行大動脈拡大などが診断できる508–511).
閉鎖不全では,大動脈弁の左室への下垂,穿孔,心室中隔流出路欠損への逸脱による右室方向へのバルサルバ洞の変形などの有無が診断される511).カラードプラ法では狭窄部にモザイクパターンと流速の加速が,閉鎖不全では閉鎖不全部に一致して左室方向への逆流シグナルが検出できる508–511). 6.3 病態把握のための検査(図47)
6.3.1 胸部単純X 線・心電図
求心性左室肥大が進行すると,心尖部が丸くなる.心負荷が強いと左室拡大が進行し心拡大がみられる.左房圧が上昇すると肺静脈のうっ血像がみられるようになる.心電図上,左側胸部誘導のST 低下,陰性T 波をともなうストレインパターンを呈する場合は中等症以上の病変を示唆する.運動負荷にてST 低下やST-T 変化がみられる場合は心内膜下虚血が疑われ,狭窄では圧較差が中等症以上であることが多いとする報告がある.
6.3.2 心エコー
狭窄にともなう左室収縮期圧の推定にはGlanz らの式[左室収縮期圧(mmHg)=225×(収縮末期後壁厚)/(収縮末期内径)]が用いられる506).左室大動脈間の瞬時収縮期圧較差は連続波ドプラ法によって弁口通過血流の流速から簡易ベルヌーイ式[圧較差(mmHg)=4×最大流速(m/秒)2]を用いて推定される503, 506).ただし,弁下ならびに弁上狭窄では流速から推定される圧較差は過大評価されることが多い.
閉鎖不全の評価にはカラードプラ法による逆流ジェットの到達範囲,面積,左室流出路と逆流の幅の比,連続波ドプラ法による逆流速波形のpressure half-time などが有用な検査として行われる(クラスI) 508–510).
6.3.3 心臓カテーテル検査
左室- 大動脈間引き抜き圧記録によって,狭窄部に一致して圧較差がみられる.弁狭窄では心拍出量,心拍数,駆出時間から求めた収縮期血流量,左室- 大動脈間平均圧較差によってGorlin の式を用いて弁口面積を算出する.造影では弁形態,左室流出路狭窄の有無,弁輪形,左室機能が評価できる198, 503, 506).閉鎖不全の重症度分類には大動脈造影によるSellers 分類が用いられる.
6.4 治療選択のための検査(図47)
狭窄性病変では,圧較差によらず心不全,失神,心電図変化をともなう狭心痛などがある場合には治療適応である.また,体血流が動脈管に依存している新生児の重症大動脈弁狭窄症や大動脈弁狭窄症で左室収縮能の低下を認める場合,あるいはカテーテル検査で安静時の圧較差50 mmHg 以上は治療適応となる(クラスI) 198, 446),逆流では
p.110
有症状,著明な心拡大,心機能低下などがある場合が手術適応となる512).
6.4.1 心エコー
弁尖の肥厚,石灰化が高度の場合,経胸壁エコーでは評価が困難な場合は経食道心エコーが有用な検査として行われる(クラスIIb).小児例の弁性狭窄では,三尖構造で閉鎖不全のない場合にはバルーン形成術が第一選択となるため,術前の弁形態評価ならびに逆流の有無と程度の評価がきわめて重要である.弁下部および弁上狭窄では,外科治療が第一選択となる508).
6.4.2 心臓カテーテル検査
形態評価は心エコー検査の方が優れているが,血行動態診断や治療適応のための定性ならびに定量評価とカテーテル治療を目的として施行される198, 446, 508, 512, 513).
わが国では,圧較差75 mm Hg 以上,弁口面積0.5 cm2/ m2 以下,左室収縮不全がみられる場合は治療の絶対適応とされ,圧較差50~70 mmHg,弁口面積0.5~0.8 cm2/ m2 では運動制限を行い,症状の有無,経年変化を考慮して治療時期を決定することが勧められている506).ACC/ AHA のガイドラインの若年者の項では,有症状時,境界域の圧較差や臨床症状と心エコー所見に乖離が認められる場合には,検査の施行が推奨されている512, 513).弁下部,弁上狭窄では圧較差50 mmHg 以上が治療適応となる.弁置換やロス手術を考慮する場合は冠動脈造影を行い,冠動脈異常や走行を評価する514).
6.4.3 3DCT,MRI
大動脈の著しい拡大や,胸痛や背部痛と心エコー検査により大動脈解離の疑われる場合には,手術法の選択のために施行する514, 515)(クラスIIa).大動脈二尖弁にともなうバルサルバあるいは上行大動脈拡大が直径5.5 cm を超えた際には,置換手術が推奨されている(クラスI).
7 肺動脈狭窄
7.1 解剖,病態生理
右室流出路(肺動脈弁下),肺動脈弁,肺動脈弁上から肺動脈末梢に至る狭窄を総称して,肺動脈狭窄とよぶ.肺動脈弁狭窄がもっとも多い516, 517).肺動脈弁下狭窄は,右室漏斗部の異常筋肉や漏斗部中隔の前方偏位に起因し,も
ともと合併していた心室中隔欠損が自然閉鎖した後のことが多い.肺動脈弁狭窄は,弁交連部が癒合してドーム状となって狭窄を形成する.ときに,弁尖が厚くなって異形成弁とよばれる状態のこともある.肺動脈自体の狭窄は,弁の直上から末梢に至るどの部分でも発生しうる103, 104).末梢に多発することもある.弁直上狭窄はヌーナン症候群,末梢狭窄はウィリアムス症候群やアラジル症候群などに合併することがある518–521).
肺動脈狭窄の程度に応じて右室圧は上昇し,狭窄部で圧差を認める446, 513, 514).ただし,肺動脈末梢狭窄が片側のときや,多発しても限局的な場合には右室圧は上昇しないことがある.右室圧が上昇すると,右室肥大が発生し,右房圧上昇をきたすことがある.卵円孔が開存していれば右-左短絡が発生することがある516).
7.2 診断のための検査(図47)
7.2.1 聴診
肺動脈弁狭窄では,聴診で左第2 肋間に駆出性心雑音と収縮期駆出性クリックを認める.振戦を触れることもある.
7.2.2 胸部単純X 線,心電図
心電図で右軸偏位,右室肥大を認める516, 517).胸部単純X 線では通常心拡大はないが,肺動脈の狭窄後拡張のために左第2 弓突出を認める516, 517).
7.2.3 心エコー
心エコーでは右室流出路(肺動脈弁下),肺動脈弁,肺動脈弁上から分枝部までの解剖学的狭窄を描出できる.肺動脈弁狭窄では肺動脈弁のドーム形成を認める.狭窄部での血流の加速を認める.三尖弁逆流がある場合にはその流速から右室圧の上昇を推定できる(クラスI) 509, 517).
7.2.4 心臓カテーテル検査
心臓カテーテル検査により診断が確定するほか,右室圧,肺動脈圧,右房圧が測定できる.また心拍出量の測定により,低心拍出の有無がわかる.卵円孔が開存している場合には右- 左短絡の有無がわかる.心血管造影により狭窄部を描出できる513).
7.2.5 3DCT,MRI
3DCT やMRI により肺動脈末梢狭窄の有無が描出でき
p.111
る522–525).特に3DCT は肺動脈末梢狭窄の描出に有用である. 7.3 病態把握のための検査(図48)
7.3.1 胸部単純X 線,心電図
胸部単純X 線で心拡大を認めれば,狭窄は重症で,右
図47 大動脈弁狭窄・閉鎖不全の検査と治療
圧較差≧50 mmHgかつ逆流II 度以内
経過観察外科手術カテーテル治療
圧較差<50 mmHgあるいは逆流II 度以内圧較差≧75 mmHgあるいは逆流III 度以上運動制限
逆流なし
圧較差<50 mmHg
逆流あり
軽微中等以上
心臓カテーテル検査
心エコー
ST 変化なしST 変化あり
心電図
心拡大あり
左室肥大,ST 変化あり
運動負荷試験
心エコー
狭窄逆流
胸部X 線心電図異常失神・胸痛
心雑音
圧較差≧50 mmHg
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室収縮低下や三尖弁閉鎖不全,右房拡大の存在を示唆する.心電図の右室肥大の程度で,狭窄の重症度を推定できる.R 波が高く,T 波陽性なら中等度狭窄,T 波陰性でストレイン型なら重症狭窄を示唆する516, 517).
7.3.2 心エコー
狭窄部の最大流速 V(m / 秒)から,圧較差を推定する509, 517).
圧較差(mmHg)=4×V2弁狭窄では心エコーから求めた圧較差は,心臓カテーテル検査で測定した圧較差より若干(10 mmHg 程度)高い.弁下狭窄や弁上狭窄では心エコーは圧較差を過大評価する.三尖弁逆流の流速から求めた右室圧は心臓カテーテル検査で求めた値とよく一致する.心室中隔の形から右室圧を推定することもある.
7.3.3 心臓カテーテル検査
心臓カテーテル検査は,病態診断とともに治療の目的で施行されることが多い198, 446).右室圧と狭窄部圧差から重症度を決定する.心血管造影により狭窄の程度を描出する.右室造影から,右室の大きさ(右室低形成の有無),漏斗部狭窄の有無,右室収縮機能,三尖弁閉鎖不全の有無を評価する198, 446). 7.3.4 3DCT,MRI
MRI からは狭窄部の流速を,3DCT からは肺動脈末梢狭窄の程度が推定できる522, 523).近年,病態把握のためにMRI を行うことが進みつつある.
7.3.5 肺血流シンチグラフィ
片側肺動脈狭窄がある場合,左右の肺の血流分布から肺動脈末梢狭窄の程度が推定できる.
7.4 治療選択のための検査(図48)
治療の選択肢は無治療(経過観察),カテーテル治療,手術の3 つである.軽症の場合には治療,運動制限とも必要ない.
7.4.1 胸部単純X 線,心電図
胸部単純X 線で心拡大,心電図で右室肥大を認めれば治療が必要なことが多い(クラスII).
7.4.2 心エコー
心エコーは治療の選択上,もっとも有用な情報が得られる.肺動脈弁での圧較差が40 mmHg 以上は治療の適応である(クラスI) 198, 525).30 mmHg 未満は軽症で,治療の
図48 肺動脈弁狭窄の診断,病態把握,治療計画のための検査
カテーテル治療/ 手術経過観察生後6 ヵ月以降
心エコーによる圧較差
30 mmHg 未満30 ~40 mmHg
ECG
右室肥大(-)右室肥大(+)
カテーテル治療
無効有効
手術
新生児・乳児期早期
心エコー
RVp >LVp RVp <LVp 40 mmHg 以上
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適応とならない(クラスIIa).30~40 mmHg はいまだ議論のあるところである.肺動脈弁下狭窄と弁上(主肺動脈)狭窄はカテーテル治療の適応とならない198, 446, 516, 517 ).小児期以後で右室圧が50 mmHg 以下の場合には,狭窄は軽症と考えられる(クラスI) 198, 446).
7.4.3 心臓カテーテル検査
右室圧と狭窄部圧差から重症度を決定し,心血管造影による狭窄部位から治療法を選択する.中等症以上の弁狭窄に対しては,ほとんどの場合カテーテル治療で治療される198, 446, 526).新生児で肺血流が動脈管に依存している場合,右室機能低下をきたしている場合は治療適応となる198, 446).中等度の狭窄であれば1 ~5 歳が最適年齢である.高齢者でもカテーテル治療は可能で,小児から成人,高齢者まで年齢制限はない(クラスI) 198, 446).
なお,肺動脈末梢狭窄では外科治療を行っても再狭窄を起こすことがあり,この場合はカテーテル治療が第一選択となる198, 446).
7.4.4 3DCT,MRI
肺動脈分枝部より末梢の狭窄のみで他に合併異常がない場合,手術適応となることはほとんどない.3DCT は末梢肺動脈狭窄に対する治療の適応,可否を決定するうえで重要な検査である(クラスIIa).
8 エプスタイン異常
8.1 解剖,病態生理(図49)10, 527)
エプスタイン異常は三尖弁と右室流入部心筋形成異常を示す先天性心疾患で,全先天性心疾患の0.3 ~0.5%,生産児10,000 人中2.4 程度にみられる4, 528–533).
その解剖学的特徴は,三尖弁の中隔尖と後尖の弁尖付着位置が本来の弁輪部から右室側にずれて,内壁に貼り付いた状態(plastering)となっているため,三尖弁の閉鎖に支障をきたし三尖弁閉鎖不全を生じる.三尖弁の弁尖が貼りついた右室心筋壁は菲薄化(Uhl 化)して,右房化右室ともよばれる.エプスタイン異常は,三尖弁中隔尖と後尖の発生における右室心筋内層の浸食過程undermining (delamination)の異常のために生じる4, 528, 529, 532).
通常,さまざまな程度の三尖弁閉鎖不全と右房の拡大,右室収縮不全を示し,また機能的右室の狭小化,右室収縮不全による右心不全をともなう.卵円孔開存や心房中隔欠
損を合併すると右- 左短絡を生じ,チアノーゼを認める.
最重症例では,重度の三尖弁閉鎖不全のために右房/ 右室が拡大して肺を圧迫して肺低形成を生じたり,重度の弁逆流による低心拍出による胎児水腫のために胎内死亡する場合もある.新生児期には,肺低形成や心房間の右- 左短絡によるチアノーゼによる呼吸不全のため,死亡することもある.また重度の右心不全により機能的な肺動脈閉鎖となり,肺動脈血流が動脈管からの血流に依存する病態になることもある534–539). 軽症の場合は,無症状で一生を終えることもある.成人では,心雑音,労作時呼吸困難,動悸などを契機にみつかることが多い528, 529, 540).
図49 エプスタイン異常のカーペンティア分類三尖弁口よりplastering のために弁付着部がずれる(displacement)程度により右房化右室と三尖弁構造異常の程度も含めてA からD まで分類される. (上:Chauvaud S, et al. 1998
527),下:O’Leary PW, et al. 2010
528)より改変)上: Copyright (1998), by permission of Oxford University Press on behalf of The European Association for Cardio-Thoracic Surgery.下: Copyright (2010), with permission from Elsevier.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/ B9780702030642000370
タイプA
タイプCタイプB
タイプD
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8.2 診断のための検査(図50,51)
8.2.1 聴診
聴診でIII 音,IV 音の亢進による3 部調律,4 部調律,および収縮期逆流性雑音を聴取することがある.
8.2.2 胸部単純X 線,心電図
心電図の典型的な所見は,幅広いP 波とPR の延長,完全右脚ブロックでエプスタイン異常の75~92% にみられる533, 541).また10~30% にWPW 症候群を合併する.胸部単純X 線ではさまざまな程度の心拡大を認める.
8.2.3 心エコー
心エコーは本症の診断に非常に重要であり,診断に必須の検査である(クラスI).三尖弁中隔尖,後尖のplastering の診断に加え,三尖弁付着部位の本来の三尖弁輪部位から心尖側へのずれ(displacement index)が> 8 mm/m2 であることから確定診断する533, 541).同時に右房容積,右室容積と右室収縮,左室容積と左室収縮の測定,肺動脈弁狭窄や閉鎖および卵円孔開存や心房中隔欠損の合併などを診断する.カラードプラによる三尖弁閉鎖不全の重症度評価とともに,三尖弁逆流速度の測定は重要で
ある.右室機能の低下例では,三尖弁逆流波形は低流速の層流を示すことがある.
8.2.4 心臓カテーテル検査⦆
診断のためだけに心臓カテーテル検査をする必要はないが(クラスI),病態把握のために有用なことがある.心拍出量,右- 左短絡量,機能的右室の大きさや収縮機能を把握するうえで有用である(クラスIIa)
542).カテーテルによ
る心房中隔欠損の試験閉鎖が治療選択上有用なことがあり,必要に応じて行われる(クラスIIa)
543, 544).三尖弁逆
流が軽度で,かつ心房中隔欠損による右- 左短絡,ないし左- 右短絡が存在するときは,カテーテルによる試験閉鎖の後,閉鎖栓で閉じることもある544).
8.2.5 3DCT,MRI
MRI では,三尖弁のplastering の診断に加え,右室容積や右房容積,右室心筋菲薄化の程度,右室壁のUhl 化(脂肪変性)や線維化の程度などの解剖学的診断を行う.またこれに加え心係数の測定,三尖弁閉鎖不全の定量評価,短絡疾患を合併している場合は肺体血流比をphasecontrast 法を用いて計測する.肺動脈低形成を含めた肺動脈の形態診断や肺容積の測定には,MRI およびCT が有
図50 新生児・乳児早期のエプスタイン異常の診断検査と治療のアルゴリズム
心エコー
エプスタイン異常
肺動脈弁通過血流
解剖学的肺動脈閉鎖
三尖弁閉鎖+短絡手術
(Starnes 手術)
段階的フォンタン手術機能的肺動脈閉鎖
三尖弁逆流最大速度
≧2.5 ~3 m/ 秒
動脈管閉鎖肺血管拡張薬右室低形成ありTV z-スコア<-2右室低形成なし
動脈管依存性肺循環
二心室修復術(Cone 手術など)
p.115
用である545).
8.3 外科治療の適応と方法⦆
新生児期,乳児早期に著明な心拡大と三尖弁逆流による右心不全,低心拍出を示す症例中右室機能が悪い例では,段階的なフォンタン手術(一心室修復術)を前提に三尖弁を穴あきパッチで閉鎖するStarnes 手術を行う537, 538, 546– 549).両心室機能が保たれている症例では,二心室修復としてCarpentier 手術やCone 手術が行われる.幼児期以後のエプスタイン異常の外科治療適応と実際の手術の基本は,1心房間交通の完全閉鎖,2三尖弁形成術または三尖弁置換術による三尖弁閉鎖不全の治療,3WPW 症候群などの不整脈の解消,4右房化右室と拡大した右房の縫縮, 5合併症の治療(心房中隔欠損,心室中隔欠損,肺動脈弁狭窄など)で,術後の左室機能,右室機能の継続的な観察が必要である550–554). 9 総肺静脈還流異常
9.1 解剖・病態生理
9.1.1 発生異常
胎生28 日ごろに左心房後壁より共通肺静脈が萌出すると,肺原基周囲に発達する肺静脈叢と交通し,肺静脈血は左心房に還流するようになる.この交通が障害されると,肺静脈血はやむを得ず近傍の体静脈である左右上大静脈,無名静脈,冠静脈洞,下大静脈,門脈(卵黄静脈)と交通して右心房に還流し,総肺静脈還流異常が発症する.全先天性心疾患の約0.8% を占める.孤立性に発症する場合と,内臓錯位,特に右側相同に合併することがある.
図51 エプスタイン異常の診断,治療計画のアルゴリズム(幼児期以降)
初診
・ 三尖弁形成術(Cone 手術,Danielson 手術,Carpentier 手術)・ 三尖弁置換術・ 両大静脈肺動脈吻合手術・ 心房間交通閉鎖経皮的心房中隔欠損閉鎖術外科的心房中隔欠損閉鎖術・ 右房化右室縫縮・ 外科的不整脈手術副伝導路,心房粗動に対する冷凍凝固心房細動に対するメイズ手術
運動対応能低下チアノーゼ心不全
エプスタイン異常
症状あり
手術適応検討薬物治療アブレーション経過観察
胸部X 線心電図心エコー検査
不整脈症状なし
p.116
9.1.2 病態生理
全肺静脈血が右心房に還流するため,出生後数日より,高度の右心系の容量負荷による心不全,および心房レベルでの右左短絡によるチアノーゼが出現し,病態の主体となる.本来消退すべき共通肺静脈(および垂直静脈)では,その途中もしくは体静脈との結合部位において,周囲組織からの圧迫や不完全な結合により狭窄をともなうことが多い.このような症例では,生直後から著しい肺静脈還流障害をきたし,早急な治療が必要となる.
9.1.3 分類
還流部位により,以下の4 つに分類される555). I 型:上心臓型(47%,心臓より上部の体静脈に還流) Ia:無名静脈に還流(図52 左) Ib:上大静脈に還流II 型:傍心臓型(30%,心臓に還流)(図52 中) IIa:冠静脈洞に還流IIb:右心房に還流III 型:下心臓型(18%,門脈もしくは下大静脈に還流) (図52 右) IV 型:混合型(5%,以上が組み合わさったもの)
9.1.4 臨床症状
生後間もなくからチアノーゼ,多呼吸,呼吸困難を呈する.共通肺静脈もしくは垂直静脈に強い狭窄をともなう症例や,肺静脈血が類洞毛細血管を介して右心房に還流する下心臓型(III 型)では,肺静脈の還流が生後間もなくから障害されるため,著しい肺うっ血によるチアノーゼと呼吸困難を呈する. 9.2 診断・病態把握のための検査(図53)
9.2.1 胸部単純X 線
直接的な診断には至らないが,肺静脈狭窄のない総肺静脈還流異常では心拡大と肺血流の増加が,肺静脈狭窄例では出生後間もなくから著しい肺うっ血が認められるため,必要な検査である(クラスIIa).胸部単純X 線所見では,新生児呼吸窮迫症候群,胎児循環遺残,新生児遷延性肺高血圧との鑑別が必要となる.上心臓型(Ia 型)では,垂直静脈,無名静脈,右上大静脈の拡大により,特徴的な“ 雪だるま” 状の心陰影(snowman sign)がみられる.
9.2.2 心電図
右軸偏位,右室肥大がみられるが,新生児時期には典型的な所見が得られないことが多い(クラスIIb).
9.2.3 断層心エコー
診断的価値のある検査法である(クラスI).四腔断面にて右房右室の著明な拡大,共通肺静脈と左心房間の連続性の途絶,ドプラ断層にて共通肺静脈および垂直静脈から体静脈へ向かう血流シグナル,および心房間での右左短絡を確認する.さらに共通肺静脈もしくは垂直静脈の走行途中,もしくは体静脈流入部における狭窄の有無を確認する.
9.2.4 マルチスライス(MS)CT,MRI
共通肺静脈と左房との位置関係,垂直静脈の走行と気管,気管支,肺動脈,動脈管との空間的位置関係,狭窄部位を確認する.内臓錯位,特に右側相同では,共通肺静脈および垂直静脈の走行が不規則であるとともに,IV 型(混合型)を見逃さないためにも有用である(クラスIIa) 556).ただし,肺静脈狭窄により著しい肺うっ血をきたした症例では,CT 検査での造影剤の使用が肺うっ血や肺高血圧を悪化させる可能性が,また長時間を要するMRI 検査は患者の状態を悪化させる可能性があり,実施すべきでない(クラスIII).
9.2.5 心臓カテーテル検査
本疾患は侵襲の少ない断層心エコーおよびマルチスライスCT 検査により診断・病態把握が可能であるため,全身への侵襲が大きい心臓カテーテル検査および造影検査は,特に新生児や乳児においては行うべきではない(クラスIII).
図52 総肺静脈還流異常の分類
Ia 型IIa 型III 型
p.117
9.2.6 胎児心エコー
内臓錯位,特に右室型単心室をともなう右側相同は比較的容易にレベルI の胎児心エコーでスクリーニングされる.右側相同では総肺静脈還流異常を高率に合併するため,レベルII の胎児心エコー検査では肺静脈の還流部位を確認する努力を行う557).一方で,胎児期には他の先天性心疾患を合併しない総肺静脈還流異常の胎児診断は困難である.左心房と下行大動脈との間の距離や,左心房後壁と肺静脈との間の血流連続性の欠如から本疾患を疑い,最終的に垂直静脈や還流部位を同定する139).
9.3 治療選択のための検査
9.3.1 胸部単純X 線
胸部X 線写真正面像において,両肺野の著しいうっ血所見が患者の呼吸状態の悪化や低酸素血症とともに進行する場合は,緊急手術の対象となる(クラスIIa).
9.3.2 断層心エコー
緊急手術の適応となる肺静脈狭窄の診断に有用である.断層画像だけでなくドプラ断層を駆使することにより,共通肺静脈もしくは垂直静脈における狭窄の有無とその程度
を血流速度から判断する.また三尖弁逆流速から,肺うっ血にともなう肺高血圧の程度を推定する(クラスI).
9.3.3 マルチスライス(MS)CT,MRI
肺静脈の合流パターン,共通肺静脈の形態および左房との位置関係などが断層心エコーだけでは十分に把握できない場合,診断と外科治療法の選択のために有効である(クラスIIa).総肺静脈還流異常における術後死亡の危険因子として,手術時の低年齢,術前の肺静脈低形成および狭窄,複雑先天性心疾患の合併,術後の肺高血圧,術後の肺静脈閉塞性病変が,また術後の肺静脈閉塞性疾患の危険因子として,術前の肺静脈低形成および狭窄,左右肺静脈の連続性欠如があげられており,それらの診断にはマルチスライスCT やMR が有効である(クラスIIa)
558, 559).
右側相同に合併する総肺静脈還流異常や術後の再狭窄に対して,狭窄部位へのカテーテル治療が行われることがあるが,安全に実施するために,事前にMSCT による3次元画像診断を行うことは有効である560)(クラスIIb).
図53 総肺静脈還流異常の診断と治療
胎児心エコー
出生時チアノーゼ,呼吸困難
胸部X 線:肺うっ血,心拡大
断層心エコー
孤発性総肺静脈還流異常肺疾患
還流部位の確定と狭窄の有無
還流障害(+)
緊急手術
還流障害(-)
可及的手術
MSCT,MRIドプラ断層
右側相同他臓器の検査
p.118
10 ファロー四徴症
10.1 解剖・病態生理
10.1.1 解剖
ファロー四徴症は肺動脈狭窄,心室中隔欠損(VSD),大動脈騎乗,右室肥大の四徴を持つ代表的なチアノーゼ性先天性心疾患である.漏斗部中隔が右前方へ偏位したために生じた,大きなVSD と漏斗部狭窄が基本である561).
10.1.2 病態生理
大きなVSD と右室流出路狭窄の程度により,血行動態が規定される.右室流出路狭窄が軽度であれば,肺血流が増加して乳児期早期に心不全を生じることもある.右室流出路狭窄が強い場合には,VSD を介した右左短絡を生じ,静脈血が体循環に駆出され酸素飽和度の低下を生じる.
10.2 診断のための検査
10.2.1 診断のポイント
VSD の部位診断とサイズおよび個数,右室流出路狭窄の部位,形態および程度,肺動脈弁の形態と弁輪径,肺動脈の形態とサイズ,大動脈弓および大動脈分岐の形態,体肺側副血行路や他の異常血管の有無,冠動脈の起始と走行異常の有無について診断することが必要である.
10.2.2 聴診
肺動脈狭窄による駆出性収縮期雑音を聴取する.最強点は,漏斗部狭窄では胸骨左縁第3 肋間,肺動脈弁狭窄では胸骨左縁第2 肋間にある.心雑音は重症ほど減弱し,無酸素発作時には,VSD での右左短絡により静脈血のほとんどが大動脈より駆出されるため,心雑音を聴取しなくなる. II 音は,多くの例で肺動脈成分の減弱により単一となる.
10.2.3 胸部単純X 線・心電図
心陰影は正常かやや小さく,肺動脈の低形成による第2弓陥凹と心尖部挙上により木靴型となる.肺血管陰影は通常減少する.重症例ほど肺血管陰影は減弱し,心陰影も小さく木靴型心陰影も明らかになる.上行大動脈は拡大し,右大動脈弓が約25% にみられる.心電図では右軸偏位,
右室肥大が特徴的所見である.
10.2.4 心エコー
心エコーによるファロー四徴症の診断に必須の検査である(クラスI).左室長軸像では,大きなVSD と大動脈の騎乗を認め,大動脈弁と僧帽弁の線維性連続を保つ.大動脈基部短軸像では,漏斗部,肺動脈弁,主肺動脈の狭窄の程度が評価できる.冠動脈の異常も診断可能である.肺動脈弁輪部径は手術方法の決定に重要である98).
10.2.5 心臓カテーテル検査
診断のためだけに心臓カテーテル検査を施行することはほとんどない.心臓カテーテル検査は,右室流出路を刺激することにより無酸素発作を誘発する危険性もあり,手術前検査などの必須の場合以外は施行するべきではない.
10.2.6 3DCT,MRI
心エコーでは限界がある末梢肺動脈の描出が可能で,末梢肺動脈の狭窄や低形成の程度を評価できるので必要に応じて施行する(クラスIIb).
10.3 病態把握のための検査
10.3.1 胸部単純X 線
胸部単純X 線は,肺血流量の変化を把握するためのスクリーニング的な検査としては有用である.
10.3.2 血液検査
低酸素血症を代償するために多血症となるが,乳児期には,鉄欠乏のため相対的貧血になりやすい.還元ヘモグロビン5 g/dL 以上でチアノーゼは可視的になるが,貧血の存在はチアノーゼを過小評価する危険性もあり,血液検査は重要である.未手術の年長児では多血症が進行し,Ht 65% 以上では過粘稠となり,血栓症,末梢循環不全,腎障害などの危険性がある.
10.3.3 心臓カテーテル検査
右室は左室および大動脈圧と等圧であり,肺動脈圧は正常ないし低圧である.右室造影はもっとも重要な術前情報が得られ,頭側へ20 ~30 度傾けた正面像(cranial tilt)が,漏斗部狭窄,肺動脈弁輪径や弁形態,さらに末梢肺動脈狭窄まで描出するのに優れている.PA インデックスは{(右肺動脈径[mm]/ 2) 2 +(右肺動脈径[mm]/2) 2}×π/
p.119
(体表面積m2)で求められ,肺動脈の発達を表す指標であ
る562).さらに,左室造影による左室容積の評価563),大動脈造影による腕頭動脈分岐や冠動脈走行の確認などが重要である.大動脈造影で冠動脈走行が確認できない場合には,選択的な冠動脈造影を行った方がよい.また体肺側副血行路の描出は,心臓カテーテル検査がもっとも優れている(クラスI).
無酸素発作を誘発する可能性があるため,厳重な観察の下にできるだけ短時間で終了する.十分な鎮静と補液を行い,β遮断薬の内服は継続し,カテーテルによる漏斗部の刺激を避け,無酸素発作を誘発しないように心がける.検査施行中は,経皮酸素分圧,心拍数および心雑音の変化に十分な注意を払い,酸素吸入,静脈麻酔の追加および輸液速度の調整を行う.モルヒネなどの麻薬と昇圧剤は,必要に応じてすぐに投与できるように準備しておく. 10.4 治療選択のための検査(図54,55)
心内修復術や呼息術の選択,手術法の選択には,心エコー検査と心臓カテーテル検査が必須であり(クラスI), 3DCT およびMRI もそれらを補完する検査として有用である(クラスIIa).
心内修復術を行う場合,心室中隔欠損のパッチ閉鎖と右室流出路狭窄の解除を行う.著しい肺動脈弁輪低形成例(弁輪径のZ value が-3 以下)の場合には,一弁付
transannular patch の適応とする施設が多いが,transannular patch 後の肺動脈閉鎖不全症は予後に大きく関与するため563),慎重に決定する必要がある.一般的にPA インデックス>100 であれば心内修復術が可能とされるが,術後右室圧/ 左室圧<0.8 とするには,PA インデックス>150 が望ましい.しかし,このPA インデックスは末梢
図54 ファロー四徴症の検査と治療
新生児期
乳児期
1 ~2 歳動脈管依存性(+)プロスタグランジンE1
無酸素発作予防β遮断薬投与
鉄剤内服
インターベンション
シャント術
心内修復術(自己弁温存)心内修復術(transannular patch)
ファロー四徴症
動脈管依存性(-)
低酸素(-)
心エコー,CT
心エコー,CT
低酸素(+)
CT,MRI
シャント術肺動脈低形成(-)
肺動脈弁輪径 Z スコア>-3
末梢肺動脈狭窄(-)
心臓カテーテル検査
PA index <150
肺動脈弁輪径 Z スコア<-3
末梢肺動脈狭窄(+)
PA index >150肺動脈低形成(+)
p.120
の肺血管の発達を正確には反映していないため,他のデータも参考にして総合的に判断する.一般的に左室容積が80% 対正常以上であれば,心内修復術は可能とされている564).
手術時期は一般に1 ~2 歳で行われ,施設によってはより早く行われる場合もある.その他,冠動脈の走行,大動脈などの形態評価が重要である.
11 肺動脈閉鎖
11.1 解剖・病態生理
二心室を有し,心室中隔欠損をともなわない右室- 肺動脈間の閉鎖で,純型肺動脈閉鎖ともよばれる.肺動脈弁閉鎖には膜様閉鎖(70 ~80%)と漏斗部閉鎖の筋性閉鎖(20 ~30%)があり,右室や三尖弁の低形成をともなう場合が多い565–567).右室形態を流入部,肉柱部,流出部の三部分に分けるBull らのtripartile 分析法(三部分すべてあるtripartile,肉柱部への伸展を欠くbipartile,流出部のみのunipartile に分類)が治療方針の決定に役立つ568).
右室圧は上昇しており,しばしば左室圧を超える.右室内腔から冠動脈へ類洞を通じて繋がる異常交通が合併することがあり,これを類洞交通,あるいは心室冠動脈交通とよぶ.右室が低形成ほどその合併が多い.右室と交通のある冠動脈は蛇行,中内膜肥厚などの壁異常を合併しやすい.冠動脈狭窄,閉塞,途絶を呈し,かつ冠血流が右室からの収縮期血流に依存しているものを右室依存性冠循環という565–567).
肺循環は動脈管に依存し,出生後,動脈管の閉鎖とともに,低酸素血症が急激に進行する.逆に動脈管が太く肺血流量が多ければ低酸素血症,チアノーゼは軽い.体循環は
心房間交通に依存し,左心房で大静脈血と肺静脈血液が混和し,左室,大動脈へと流れる.左室には体循環と肺循環の両者の血液が流入するので,容量負荷として働く.右室圧上昇やエプスタイン異常合併により三尖弁逆流が合併することが多く,その程度に応じて右房,右室にも容量負荷が加わる.右室依存性冠循環では,冠動脈血の酸素化を悪化させ,心室機能障害の原因となり,自然予後や手術成績が悪い要因となっている569, 570).右室低形成をともなう重症肺動脈狭窄も同じ範疇に含めることが多い.
11.2 診断のための検査
11.2.1 聴診
動脈管の閉鎖による肺血流低下により,生後数時間から進行性のチアノーゼと多呼吸が進行する.出生直後には心雑音は聴取せず,動脈管が開存していれば,肺血管抵抗の低下とともに胸骨左縁上部に連続性雑音を聴取するが,本疾患特有のものではない.
11.2.2 胸部単純X 線・心電図・パルスオキシメータ
通常心拡大はない.心陰影は,肺動脈の低形成のため,主肺動脈の部分(左第2 弓)が陥凹し,肺血管陰影は減少する.心電図では右軸ないし正常軸で,同様に新生児期からチアノーゼを示す三尖弁閉鎖(左軸偏位)との鑑別点となる.右室低形成のため,右側胸部誘導のR 波が低く,rS 型で左室肥大所見(右室低形成)とP 波は増高し,右房肥大を呈する.X 線所見と合わせ,診断的価値が高い566).
パルスオキシメータでの経皮酸素飽和度(SpO2)は,低酸素血症を反映し96% 未満の低値をとる.これはチアノーゼ心疾患共通の所見で,本疾患特有ではない.
11.2.3 心エコー検査
診断には必須の検査である(クラスI).胎児期からの診断が可能である571).四腔断面で低形成の右室がみられ,左室は正常の大きさかやや大きい.心房中隔と心室中隔は一線上に並び,心房中隔は右房圧>左房圧を反映し,左房側に偏位していることが多い.右室形態のtripartile 分析がある程度可能で,胸骨左縁からの大動脈基部短軸断面で,漏斗部内腔の有無,すなわち漏斗部閉鎖か弁性閉鎖かを鑑別することが重要である.鑑別困難な場合はコントラストエコーが診断の一助となる565).類洞交通が合併している例では,カラードプラで右室心筋内に血流を確認できるが,右室依存性冠循環の診断は困難である.
図55 ファロー四徴症における心内修復術前後
心内修復術前心内修復術後
PA PA Ao Ao
RA
RV
LA
LV RA
RV
LA
LV
p.121
11.2.4 心臓カテーテル検査
新生児例では,生命維持に必要な動脈管開存を確実にするためプロスタグランジンE1 投与下で施行する.侵襲的検査であるが右室造影で右室形態と容積,三尖弁輪径,類洞交通の有無,また類洞交通があれば右室依存性冠循環か否か,三尖弁閉鎖不全の程度など,診断のみならず下記の病態把握,治療選択の情報が多い検査法である(クラスI).また左室あるいは大動脈造影で,動脈管から肺動脈が造影され,肺動脈の発達の程度を知ることができる.
11.3 病態把握のための検査
11.3.1 聴診
動脈管開存の雑音以外に,三尖弁閉鎖不全があれば,収縮期雑音を聴取する.低酸素血症が強いと心収縮性は低下し,ギャロップリズムになる.
11.3.2 胸部単純X 線・心電図・パルスオキシメータ
胸部単純X 線写真では,動脈管からの肺血流量の供給が少ないほど心陰影は小さく,肺血管陰影は減少する.三尖弁閉鎖不全を合併すれば,逆流の程度に応じて,右房,右室は拡大し,軽度から心胸比100% に近い著明な心拡大となることもある.三尖弁逆流合併では右室が大きい例が多く,心電図では右室肥大を呈し,右房負荷を反映する右房性P 波が著明となる565, 566).パルスオキシメータでのSpO2 が低いほど動脈管からの肺血流量が少ないことを意味し,動脈管開存の程度の指標となる(クラスIIa).
11.3.3 心エコー(表52)
心房間交通の約20% は二次孔欠損の心房中隔欠損であるが572),多くは卵円孔開存である.その大きさの程度に応じて,狭いほど右房は拡大し,心房中隔は左房方向へ偏位し,体静脈のうっ血がおこり,上下大静脈も拡大する.三尖弁輪径は右室容積とよく相関し,そのZ スコアは右室容積推定に用いられる(クラスIIa)
565, 569, 572).初期の三尖
弁輪径のZ スコアは冠動脈病変合併の予測573)に有用とされることから術式決定,その予後判定にも用いられ,また術後遠隔期の運動耐容機能のよい指標にもなる574).
11.3.4 心臓カテーテル検査
心エコー検査で右室形態が十分評価できない症例では右室造影で確定する.類洞交通の有無のみならず,右室依存性冠循環の診断には右室造影以外に冠動脈造影なども行われ,冠動脈病変の評価には必須の検査となる(クラスI).
上昇した右室圧の程度や正確な右房- 左房圧較差,右房圧測定が可能であり,著しい圧較差,右房圧が平均15 mmHg を超えるような場合はバルーン心房中隔切開術の適応となる566).
11.4 治療選択のための検査
初回手術の目的は,肺血流量を増加させ低酸素血症を改善し,なるべく早期に右室の減圧をはかり,右室からの順行性血流を確保し右室の成長を促すことである.初回手術,それに続く二期手術の術式選択で重要な点は,右室低形成の程度(形態,三尖弁輪径,右室容積)と冠動脈病変の有無である.肺動脈弁閉鎖で右室形態がtripartite,容積ないしは三尖弁輪径が十分であれば,通常冠動脈病変はなく,肺動脈- 右室の経路を作成し,二心室修復を目指す.初回手術としてカテーテル治療(肺動脈弁穿孔とバルーン弁形成術)か外科治療である肺動脈弁切開術が施行されるが,最近は多くの施設でカテーテル治療が選択されている575–577).低酸素血症の十分な改善がなければ外科的に大動脈- 肺動脈短絡術(Blalock-Taussig シャント,以下BTシャント)を追加する.カテーテル治療である動脈管へのステント留置も短絡手術に代わる1 つの選択肢である576).最終的には,いわゆる解剖学的修復術である弁形成術を含めた右室流出路作成術+心房中隔欠損閉鎖を行う.右室内腔狭小例では右室内肥厚心筋束を切除して,内腔拡大を行うオーバーホール術を行うこともある.
右室および三尖弁が極端に低形成な例では,最終手術としてフォンタン手術が選択され,初回手術として外科的にはBT シャントかカテーテル治療として動脈管にステント留置を行い,両側グレン手術後に最終手術であるフォンタ
表52 肺動脈閉鎖における心エコー検査のチェックポイント
形態診断
• 弁性閉鎖か漏斗部閉鎖か• 右室形態(tripartite か否か) • 三尖弁輪径(Z スコア) • 類洞交通の有無*血行動態評価
• 動脈管の大きさ• 心房間の大きさ(圧較差) • 三尖弁逆流の程度(右室圧の推定) • 右室容積** *:類洞交通(+)は右室依存性冠循環(+)と同じでない**:正確な右室容積算出は困難であり,参考程度にとどめ,三尖弁輪径(Z スコア)で推定する
p.122
ン手術へとむかう.
この中間の右室や三尖弁が中等度に低形成な症例には右室流出路再建+心房中隔欠損部分閉鎖,あるいは1.5 心室修復(右室流出路再建+グレン手術)を選択する施設が多くなっている574, 577, 578).施設ごとに新生児,乳児期での右室低形成の基準をもうけ,治療方針のプロトコルを作成し,そのプロトコルに従った結果,成績を報告している569, 577-579).そのうちYoshimura ら578)の右室造影から右室拡張期容積,右室流出路径,三尖弁輪径を測定し算出されるRVDI,RVD-TVI index を用いた治療方針のプロトコル
を図56 に示した.
11.4.1 心エコー
右室容積の算出は,最近の3D 心エコー法を用いると可能580)ではあるが,普及した方法とはいえない.上述したように三尖弁輪径をもってその推定をする.右室流出部を欠く漏斗部閉鎖か弁性閉鎖かを見極めることが重要である.二心室修復可能,またはその適応とされる基準として,
RVDI =RVEVD(%N)×TVD(%N)× RVOT(mm)×10
-5/ BSA RV-TV index =RVEDV(%N)× TVD(%N)× 10
-4
図56 肺動脈閉鎖の診断,病態把握,治療計画のための検査わが国ではPDA に対するステント治療は2018 年9 月時点では保険適用外となっている.各施設の倫理委員会の承認が必要となる治療法である. PVDI:右室発達係数,RVEDV:右室拡張末期容積,TVD:三尖弁輪径,RVOD:右室流出路径,BSA:体表面積(Yoshimura N. et al. 2003
578)を参考に作図)
新生児期初回手術
乳児期二期手術肺動脈弁裂開+シャント術(+動脈管開存ステント*)
肺動脈弁裂開術(+β遮断薬:RVDI <0.7) *カテーテル治療または手術
1.5 心室修復(右室流出路再建+両方向性グレン)
右室流出路再建+心房中隔欠損部分閉鎖
二心室修復(右室流出路再建+心房中隔欠損閉鎖)
パルスオキシメーター(SPO2),X 線,ECG,心エコー
PGE1 投与下で心臓カテーテル検査
卵円孔狭小(-)卵円孔狭小(+)心房中隔裂開術
肺動脈弁閉鎖漏斗部閉鎖シャント術(動脈管開存ステント*)
右室依存性冠循環(+)
RVDI <0.35
RVDI >0.35
心エコー,心臓カテーテル検査
RV,TV 成長
RV-TV index <0.2
RV-TV index <0.1フォンタン手術
0.2 <RV-TV index <0.4
RV-TV index >0.4
p.123
胎児エコーでは週数にかかわらず三尖弁輪径のZ スコア> -3 とする報告581),26~31 週では肺動脈弁輪径のZ スコア>-2.8 かつ三尖弁輪径/ 僧帽弁輪径比>0.7,31 週以降では三尖弁輪径のZ スコア>-3.9 かつ三尖弁輪径/ 僧帽弁輪径比>0.59 など,在胎週数により基準を設ける報告582)がある.出生後の新生児期においてもさまざまな基準の報告があるが,三尖弁輪径のZ スコアに関しては, >-2.5 であれば非常に小さいリスクで二心室修復が達成されるとの報告が多い572).
11.4.2 心臓カテーテル検査
わが国では右室容積算出に広く用いられている検査法である.右室造影で右室容積と三尖弁輪径の計測,類洞交通の有無,右室依存性冠循環か否かを判定する.ただし,約60% 対正常未満の中等度以上の右室低形成の場合は,誤差が非常に大きくなる577).また,造影での三尖弁輪径は心エコー検査で測定したものと多少異なり565),Z スコアに関しても,どの正常値を用いて算出したかによって違うので,判定に際し注意が必要である.また二期的手術以降では右室容積が発育していても右室拡張障害が残存していることが多く,二心室修復での最終手術において心房間短絡を閉鎖できるかの判定に必要な検査となる.右室が小さい,右室依存性冠循環などの理由でフォンタン手術適応となった場合においても,二期手術以降で大動脈-肺動脈側副血管の有無,肺動脈圧,肺血管抵抗などの算出のため必要となる.
11.4.3 MRI,3DCT
特にMRI は右室容積の計測(クラスIIa)に用いられる.
12 完全大血管転位
12.1 解剖・病態生理
右心室から大動脈が,左心室から肺動脈が起始する心疾患で,心房・心室関係が一致している(concordant)ものである.上下大静脈から還流する静脈血が右心房→右心室→大動脈と大循環に直接流れやすいため,チアノーゼを主症状としている.心房中隔欠損(VSD)と肺動脈狭窄(PS)の合併の有無により病型が分かれ,病型により経過や治療方針が異なるため病型診断が重要である.
I 型:VSD もPS もない(約50%). II 型:VSD はあるがPS はない(約25%).
III 型:VSD もPS もある(約25%).出生後早期にチアノーゼに気づかれ心エコーを中心とする諸検査により発見されることが多いが,胎児心エコー法の普及で,胎児診断・母体搬送される例も増えてきている.
12.2 診断・病態把握のための検査(図57)
胎児心エコー検査による胎児診断は,出生後の治療を適切に行うために重要かつ有用である.ポイントは,均等な4 chamber とthree vessel view で上大静脈- 大動脈- 肺動脈が一直線に並んでいないことや,それぞれの心室から起始している2 つの大血管が平行に走行していることに注視することで,診断されれば手術可能な施設に母体搬送し,小児循環器科医立会いの下に分娩に臨むことが望ましい.
出生直後にはチアノーゼで発見されることがほとんどで,診断上胸部単純X 線の“egg shape” などは参考になるが,心電図も含め特徴的な所見はない.ほとんどの場合,診断には心エコーが重要で必須の検査となる(クラスI).心エコーでの診断のポイントは正常な心房- 心室関係であり,かつ右心室から起始している血管がarch を形成する大動脈で,左心室から起始する血管がすぐに分岐する肺動脈であること.この2 本は通常のスパイラルでなく,パラレルな走行をし,弁の位置は右前- 左後であることがあげられる.
次に同じく心エコーで病型診断をする.大きなVSD の有無,左室流出路狭窄を含むPS の有無をみて前記のI・II・III 型とする.小さいVSD は血行動態に影響を与えないため,PS がなければI 型とする.PS は肺血管抵抗の高い新生児期早期には圧較差があてにならず判断が困難なことがあり,P 弁の形態や動き,弁輪径,弁下の形態から評価する.VSD がなくPS がある例はIV 型とするが,症例数が少ないため省略する.
12.3 治療選択のための検査
12.3.1 I 型の治療と検査
新生児早期に診断できた場合,まずチアノーゼの軽減,左室圧維持を目的にプロスタグランジンE1(PGE1)を使用するが,心エコーでPDA の太さ,卵円孔の大きさを評価することが必要である(クラスI).心エコーで卵円孔が小さくPGE1 投与でもチアノーゼの改善が得られなければ,心臓カテーテル検査の時期を早め,同時にバルーンカテーテルによる心房中隔欠損作成術(BAS)を行う.この場合
p.124
後の左室圧低下を懸念して小さめ(1~1.5 mL)のBASにする(BAS も含め,心臓カテーテル検査をせず心エコー検査のみで手術をする施設もある).
心エコーにて心室中隔の彎曲から左室圧および左室後壁厚を評価する.左室圧が等圧に近く左室後壁厚が3~3.5 mm 以上あれば生後1 ~2 週での動脈スイッチ術以下,ジャテーン手術(図58) 583)をめざす.それに備えて心エコーで冠動脈の起始の評価が必要である(クラスI).手術直前には心臓カテーテル検査を行い,冠動脈の走行や左室圧の評価をする.冠動脈の走行評価にはlaid back 位(40~45 °caudal tilt position,caudal view)での大動脈造影が有用である.
診断時期が遅れた例では左室圧の低下や左室後壁厚の菲薄化が心エコーで評価される.この場合II 期手術の方針となり,左室を鍛えるため肺動脈絞扼術と短絡術を行う.その後心エコーでの左室後壁厚の増大,心電図での左胸部誘導でのストレイン出現などを参考にし,さらに数週~1 ヵ月後にジャテーン手術を行う前に心臓カテーテル検査で再
評価をする(クラスI).
12.3.2 II 型の治療と検査
卵円孔の大きさと合併症の有無を心エコー,心臓カテーテル検査で評価する(クラスI).卵円孔が小さければBAS を行い,VSD 以外の合併がない場合1~2 ヵ月でのジャテーン手術を行う.生後数週以降は肺血流増加から心不全になり手術を早めることがあるが,胸部単純X 線,心電図,心エコーで評価し決定する(クラスI).
ときに合併症がある.大動脈縮窄などの大動脈弓異常を合併する場合,PGE1 を使用後,新生児早期に大動脈弓再建と肺動脈絞扼術を行う.このとき術前のMDCT による3次元構築は特に有用である.その後,胸部単純X 線,心電図,心エコーで経過観察し,心臓カテーテル検査で評価をしたうえで乳児期にジャテーン手術を行う(新生児期に大動脈弓再建とジャテーン手術を一期的に行う施設もあ
#) II 型,III 型で左右心室の不均衡や房室弁のstraddling などがあり2 心室修復ができない場合は,単心
室群治療に準じてグレン手術フォンタン手術などの右心バイパス手術(別項参照)を行う
図57 完全大血管転位の診断,病態把握,治療計画のための検査
胎児期
出産
新生児期
乳児期それ以降胎児心エコー
心エコー
VSDなしI 型VSDあり
左室圧低下
なしPGE1 PSありII 型PSありIII 型
心エコー,CT,カテーテル検査卵円孔狭小をともなう高度チアノーゼ例では,BAS
左室圧低下
あり大動脈弓異常
なし大動脈弓異常
ありPDA 依存
なしPDA 依存
あり
ジャテーン手術PAB +AP Shunt EAA +PAB AP Shunt
PGE1
心エコー,CT,MRI,カテーテル検査
ジャテーン手術ジャテーン手術心エコー,CT,MRI,カテーテル検査
ジャテーン手術PGE1
ラステリ手術Nikaidoh 型手術
p.125
る).
心エコー検査で左右心室の不均衡や房室弁のstraddlingなどがあり,2 心室修復ができない場合,1~2 ヵ月で肺動脈絞扼術を行う.胸部単純X 線,心電図,心エコーで経過観察し,直前に心臓カテーテル検査で肺動脈の発育を評価したうえで1~2 歳でグレン手術やフォンタン手術などの右心バイパス手術を行う.
12.3.3 III 型の治療と検査
心エコー,心臓カテーテル検査で評価し,卵円孔が小さければBAS を行う.PS が重症でなくPDA 依存でなければ胸部単純X 線,心電図,心エコーで経過観察し,直前に心臓カテーテル検査で評価し乳児期後期以降にラステリ手術や,ラステリ手術後の左室流出路狭窄懸念が強い例にはNikaidoh 手術を行う.PS が閉鎖も含め重症でPDA 依存であればPGE1 を使用後1 ヵ月前後に短絡術を行う.胸部単純X 線,心電図,心エコーで経過観察し,心臓カテーテル検査評価後,乳児期後期以降にラステリ手術やNikaidoh 手術583a),Nikaidoh 変法手術(half-turned
truncal switch 法583b)など)を行う.
II 型と同様,大動脈弓異常,心室の不均衡や房室弁のstraddling などの合併症をもつことがある.この場合, MDCT 心エコー,心臓カテーテル検査などで評価を行い, II 型と同様の治療をする.
13 修正大血管転位
13.1 解剖・病態生理
右房と解剖学的左室が連結し,左房と解剖学的右室が連結している,心房・心室関係の不一致(心房心室不一致)があり,かつ解剖学的左室から肺動脈が解剖学的右室から大動脈が起始する心室・大血管関係の不一致(心室動脈
TGA ではAO がMPA の前方に位置する
正面図
図58 完全大血管転位に対する動脈側スイッチ手術(ジャテーン手術)
側面図AO とMPA を切断し,左右冠動脈をそれぞれのバルサルバ洞からボタン状に大きく切り取る左右の冠動脈ボタンを肺動脈(新大動脈)に移植し,冠動脈ボタン切離で欠損した部分を自己心膜で再建.その後,切断していたAO とMPA の遠位部(頭側)の前後を入れ替えたうえで,AO とPA を再吻合,再建して手術終了
A B C
p.126
不一致)がある疾患である.
血行動態的には修正されており,静脈血が肺循環に動脈血が体循環に流れ,合併症がなければ無症状である.しかし,心室中隔欠損(VSD)を約80%,肺動脈狭窄(PS)を30 ~50%,その他三尖弁逆流(TR),房室ブロック(AVB)などをおもに合併し,その程度や組み合わせにより種々の症状を呈する.VSD とPS を合併するとチアノーゼを呈する.PS がなく大きなVSD や高度のTR,高度の房室ブロックを合併すると心不全症状を認める.また,合併症がなく小児期では無症状でも,体循環を右心室が担っているため,成人期にはTR の発生や右心不全の出現と進行があり584, 585),手術方針決定上課題になっている.心房内臓正位(SLL)が90~95%,逆位(IDD)が5~10%であるが,SLL の25% が右方転移を(IDD では左方転移を)示すことが多く,診断上重要である586).
13.2 診断のための検査
13.2.1 胸部レントゲン
出生後の診断のきっかけとして胸部単純X 線や心電図は重要である.胸部単純X 線で右胸心(約25%)や心陰影の左側を上行する大動脈を反映した左1,2,3 弓の一直線化が参考になる.
13.2.2 心電図
SLL の場合,心室中隔の右から左側前上方に向かう初期ベクトルを反映して,右側胸部誘導ではQ 波やQS complex が多く左側胸部誘導ではQ 波の欠如が多く,参考になる.III,aVf 誘導でのQ 波の増高,左軸偏位も特徴的である.
13.2.3 心エコー
本疾患に対しては区分診断法に基づき行うことが特に大切であり,心エコーは診断上もっとも重要である(クラスI).下大静脈と脊柱との位置を確認し,下大静脈が入っている心房を右房として心房内臓関係を判定する.心室は両房室弁の中隔への付着位置(三尖弁の方が心尖部側にある),心室中隔の肉柱の状態(右室が疎,左室が密),乳頭筋の特徴(左室は2 本で均等)などから,解剖学的左室・右室を同定し,心房との繋がりから心房心室不一致を診断する.
次に,大血管関係は短軸像で,心房内臓正位の場合左前・右後(逆位では右前・左後)の関係で後方血管が心臓からすぐ二方に分岐する肺動脈,前がより頭側でarch をつくる大動脈であると同定する.この血管と心室の繋がり
をみて,心室動脈不一致を診断する.
さらに,心エコーで合併するVSD,PS の有無と程度を明らかにし,左右心室の不均衡の有無,三尖弁のエプスタイン病や逆流(TR),straddling,大動脈弓異常などの合併症の有無や程度を診断する586).
13.3 病態把握のための検査
13.3.1 心エコー
心機能を評価するが,通常とは心室の位置が異なるために, 限界がある.肺動脈狭窄症がある場合は, 圧較差を計測する. 肺動脈弁と三尖弁の形態異常による弁狭窄および閉鎖不全を認める頻度が高いため,弁機能を評価する.
13.3.2 心臓カテーテル検査
診断の確定をするとともに,病態把握のために肺動脈,冠動脈の形態,体循環肺循環指標,左右心室容積および機能などの評価が行われる(クラスI).
13.3.3 三次元CT,MRI
3 次元構築により,複雑な形態を立体的に表示することが有用である.また心房や心室の容積を正確に評価可能である.
13.4 治療のための検査
治療のための検査は,選択する治療方法により内容が異なる. おもに解剖学的心内修復術(ダブルスイッチ[DS]法),もしくは機能的心内修復術(conventional repair [CR]CR 法)をめざす方法の2 種類がある587–590).以前は心室- 大血管の関係はそのままにVSD 閉鎖とPS 解除をCR 法として行ってきた.しかし,長期的に観察すると解剖学的右室が体循環を担当しているため,三尖弁逆流の出現と悪化や,右室自体の機能低下による心不全が問題となっている584, 585).
1990 年代からマスタード法またはセニング法によるatrial switch 手術と,ラステリ法またはジャテーン法によるarterial switch 手術を同時に行うDS 法が行われるようになった.これらの中長期予後が発表され,手術手技の改良にともない予後が改善し,DS 法の方向で治療すべきとの立場の文献も多くなっている588, 591, 592).しかし,DS 法を用いても,年長者では線維化なしに左室心筋重量を増やす能力は限られるため,細胞の成長の余地がある小児期に
p.127
行うのがもっとも成功率が高い593).一部の大きなVSD とPS をともなった症例を除き,左室のトレーニングを必要とした年長者や,十分にトレーニングを行えなかった症例は心機能低下の危険性があるとしている588, 592).また,DS法は心機能が十分に保たれているときにのみ考慮されるべきであるとされている588, 592).
13.4.1 解剖学的心内修復(DS 法)を目指す場合の検査法
図59 におもにDS 法を目指す方針の場合の検査および治療法のチャートを示したが,合併症によってはDS 法を行えないケースも含まれる.解剖学的心内修復術をめざす場合,まず左右心室が均衡か不均衡かを判断するため心エコー,心臓カテーテル検査で評価することが重要である(クラスI).
a.左右心室が不均衡である場合
2 心室修復はできないため,必要に応じて肺動脈絞扼術や短絡術を行う.乳児期後期-幼児期早期のフォンタン手術の前には,心臓カテーテル検査で肺動脈の発育度や肺血管抵抗などを評価し適応を判断する(クラスI). b.左右心室が均衡である場合
PS・PA の合併の有無,VSD の大きさや位置,房室弁の腱索との関係などを心エコー,心臓カテーテル検査で判断する(クラスI).解剖学左室からVSD を通して大動脈へのrerouting が可能か(心エコーが特に有用),また左室圧が高いかを評価する(クラスI).PS・PA があり,VSD が適当であればatrial switch 手術とラステリ手術を行うが,その前に心エコー,心臓カテーテル検査での評価が必要である(クラスI).
PS およびPA がない場合,VSD があるため左室圧が高ければそのまま,低い場合は肺動脈絞扼術を行い,atrial switch 手術とジャテーン手術を行う前に左室が鍛えられたことを確認するため,心エコーと心臓カテーテル検査を行う(クラスI).VSD とPS の合併症を認めない症例にも, DS 法をめざして肺動脈絞扼術を行う報告が増えている594).DS 法をおもにめざす場合でも原則的には10 歳以下の例に行い,心エコーで機能低下に注意し,心臓カテーテル検査で左室圧の上昇を確かめて行う必要がある.
図 59 おもに解剖学的心内修復術(DS 法)を行う方針の場合の検査および治療法
修正大血管転位症例
心エコー心臓カテーテル検査
atrial switch 手術+
ラステリ手術atrial switch 手術+
ジャテーン手術VSD 閉鎖手術+
PS 解除術フォンタン手術
心エコー,心臓カテーテル検査
心エコー心臓カテーテル検査
短絡手術
PS,PA の合併PS,PA の合併なし
心エコー心臓カテーテル検査肺動脈絞扼術
rerouting 不可能な
VSD LV 圧高いLV 圧低い心エコー心臓カテーテル検査
肺動脈絞扼術または
短絡手術
不均衡心室均衡心室
rerouting 可能な
VSD
p.128
13.4.2 機能的心内修復術(CR 法)をめざす場合の検査法
図60 におもにCR 法を目指す方針の場合の検査および治療法のチャートを示したが,合併症によってはCR 法を行えないケースも含まれる.
まず心エコー,心臓カテーテル検査で左右心室が均衡か不均衡かを判断し,不均衡である場合フォンタン手術を行うことはDS 法と同じである(クラスI). a.左右心室が不均衡である場合
フォンタン手術に向けて,手術直前には心臓カテーテル検査を施行し,その適応を判断する(クラスI). b.左右心室が均衡である場合
心エコー・心臓カテーテル検査でTR が軽度以下か中等度以上か,エプスタイン病の合併はないかを評価する(クラスI).TR が有意でなければ,VSD 閉鎖術・PS 解除術を行う.有意でありVSD とPS・PA の合併があれば, atrial switch 手術とラステリ手術を行う.またTR が有意であり合併がVSD だけなら肺動脈絞扼術を行い,次にatrial switch 手術とジャテーン手術を行う前に心エコーで左室が鍛えられたことを確認する. 14 総動脈幹遺残
14.1 解剖・病態生理
単一の大血管(動脈幹)が心室中隔に騎乗し,起始する.冠動脈,肺動脈が大動脈より分枝する.
病態の理解にはCollet-Edwards の分類,合併症の理解にはVan Praagh の分類が有用である(それぞれの詳細は専門書を参照されたい).半月弁(総動脈幹弁)は3 弁(69%)や4 弁(22%)が多く,弁逆流の合併が高率にみられる.合併症として大動脈弓離断(11~19%),肺動脈狭窄などがときにみられる.
臨床症状は,肺血流量と総動脈幹弁逆流(TrR)の程度で規定される.出生後,肺血管抵抗の低下とともに肺血流や心負荷が増加し呼吸・心不全症状が出現し,さらに増悪する.TrR が高度の場合は,生直後から心不全を呈し肺血流増加とともに悪化する.肺動脈狭窄をともなうとチアノー
図 60 おもに機能的心内修復術(従来法)を行う方針の場合の検査および治療法
修正大血管転位症例
心エコー心臓カテーテル検査
VSD 閉鎖+
PS 解除術VSD 閉鎖atrial switch 手術+
ラステリ手術フォンタン手術
TR 軽度以下
VSD(+) PS・PA の合併(-)
不均衡心室均衡心室
VSD(+) PS・PA の合併(+)心エコー心臓カテーテル検査
VSD(+) PS・PA の合併(+)
心エコー心臓カテーテル検査
atrial switch 手術+
ジャテーン手術
心エコー心臓カテーテル検査心エコー心臓カテーテル検査
TR 中等度以上
VSD(+)肺動脈絞扼術後心エコー心臓カテーテル検査
p.129
ゼはあるが,心不全症状は呈さない.
14.2 診断・病態把握のための検査(図61)
胸部単純X 線や心電図ではこの疾患の特徴的所見は少なく,肺血流量や弁逆流の増加により検査所見は規定される.
14.2.1 心エコー(クラスI)
胸骨左縁の左室長軸断面で,心室中隔に大血管が騎乗している所見が得られる.肺動脈閉鎖をともなうファロー四徴症でも同様の所見がみられるが,やや上方で大血管から肺動脈が分岐しているのがみえることにより鑑別される.半月弁位の短軸像により弁形態が把握でき,この位置と左
室長軸断面でドプラを併用し,総動脈幹弁の形態およびTrR の有無と程度を判定する.胸骨上窩からの断面で大動脈弓離断の合併の有無をみる.
14.2.2 CT(クラスI)
特に三次元構築は大血管の立体関係を把握するために有用である.また,総動脈幹と肺動脈との分岐関係,肺動脈と右室との距離,大動脈弓離断の有無と形態などを明らかにすることができる.
14.2.3 心臓カテーテル検査(クラスI)
造影により肺動脈の分岐形態や大動脈弓の形態を診断可
胎児期
図61 総動脈幹遺残の診断,病態把握,治療計画のための検査
VSD 閉鎖+ラステリ手術またはBarbero-Marcial 手術総動脈幹弁形成術
+姑息的右室流出路
形成術術総動脈幹弁形成術
+ VSD 閉鎖+ラステリ手術大動脈弓再建
+ VSD 閉鎖+ラステリ手術大動脈弓再建
+総動脈幹弁形成術
+ VSD 閉鎖+ラステリ手術
カテーテル検査心エコー,CT,カテーテル検査心エコー,CT,カテーテル検査
両側肺動脈絞扼術両側肺動脈絞扼術両側肺動脈絞扼術
なし
心エコー
あり
心エコー
なし
心エコー
あり
心エコー
心エコー,CT
なし心エコー,CT
あり
大動脈離断
心エコー
総動脈幹遺残
出生時
新生児期
乳児期早期
乳児期後期(総動脈幹弁形成術)
+ VSD 閉鎖+ラステリ手術
心エコー,CT,カテーテル検査
高度総動脈幹弁逆流高度総動脈幹弁逆流
p.130
能である.本症は肺動脈の閉塞性病変の進行が早く,肺血管抵抗値を算出することが重要である.
14.3 治療選択のための検査(図61)
総動脈幹遺残の診断をできるだけ早期(できれば胎児期や出生時期)に心エコーと3DCT で行い,重大な合併症,特に大動脈離断の合併とTrR の有無と程度を診断する(クラスI).
14.3.1 大動脈離断の合併がなく,TrR もない症例
乳児期早期にVSD 閉鎖に加えて右室流出路再建を行う.本症の右室流出路再建には人工血管を使用したラステリ手術,もしくは自己組織で右室流出路を形成する手術(Barbero-Marcial 手術)を選択する.TrR を合併し,乳児期早期に心不全コントロールが困難な症例では,カテーテル検査を行ったうえで総動脈幹弁形成術を行う.この際, 3D 構築を含めた心エコーの詳細な検討が有用である(クラスIIa).内科的治療により心不全コントロールが可能な症例では,両側肺動脈絞扼術を先行させることにより根治手術(ラステリ手術)を待機的に行うことができる.
14.3.2 大動脈離断が合併した場合
TrR がなければ両側肺動脈絞扼術を行って待機的に大動脈弓再建と心内修復を行うか,一期的に大動脈弓再建と心内修復を行う.TrR を合併した場合も前項と同様に両側肺動脈絞扼術を先行させてもよい.
15 三尖弁閉鎖
15.1 疾患概念・定義
三尖弁閉鎖(TA)は三尖弁を欠き,右房と右室の交通が遮断された心形態異常と定義される.種々の程度の右室低形成があり,かならず心房間における右左交通をともなう.多くは孤立性心形態異常として発症し,多重心形態異常をともなうものは20% 以下である.三尖弁を欠くので右室流入部が欠損し,肉柱部および漏斗部からなる低形成右室を認める.機能的単心室を構成する代表的疾患であり,全例フォンタン手術の適応であるが,主心室は左室であるという特徴を有する. 15.1.1 解剖学的分類
病型分類はKuhne により提案され,後に複数案に修正された595).現在は簡便なRao 分類が広く用いられる595).タイプI は正常大血管関係群で,TA の70~80% を占める.タイプII はd 型大血管転位群であり,12~25% を占める(図62) 596).タイプIII はまれで,3~6% に生じるとされる597).タイプI,II とも1肺動脈閉鎖,2肺動脈狭窄,3肺血流路に狭窄なし,の3 亜群に分類される.
合併異常として8% に大動脈縮窄を認め,左上大静脈遺残,心耳並列,右大動脈弓をともなうこともある598).体静脈血はすべて右房から心房間交通を経て左房に至り,肺静脈血流と完全に混合し,僧帽弁を経て左心室に流入する.
タイプI では,左室からの血液は直接,正常起始大動脈に駆出され,同時に心室中隔欠損(VSD)と低形成右室を経て肺動脈に駆出される.肺血流量は亜分類(VSD のサイズおよび肺動脈狭窄の有無)に依存する.肺血管抵抗低下にともない,新生児期にも高肺血流となる可能性がある.肺静脈血と体静脈血が完全に混合するためチアノーゼは必発で,その程度は肺血流量に依存する.狭小なVSD や肺動脈狭窄があると高肺血流とはならないが,チアノーゼは増強する.肺動脈閉鎖かつ正常心室中隔の症例では肺血流は動脈管を介して供給されるため,チアノーゼの程度は動脈管サイズに依存する598).
タイプII においては,左室から直接起始している肺動脈が通過障害をきたすことはまれであり,生後数週間以内に高肺血流となる.狭小なVSD や右室流出路狭窄が存在すると体血流が制限される.重度となると低血圧やショックおよび代謝性アシドーシスを呈する.
いずれの群でも狭小心房間交通は強い肝腫大を呈し,心拍出量および肺血流の減少をきたす.大動脈縮窄はタイプ
図62 三尖弁閉鎖の解剖学的分類(Allen HD, et al. 2012
596)より) Copyright (2012), with permission from Wolters Kluwer.
正常大血管関係群d 型大血管転位群
RA PA Ao
RV
LV RA PA
Ao
RV
LV
p.131
IIc に合併しやすく,下肢低血圧や還流低下を認める598).
15.2 診断と治療のアルゴリズム(図63)
全例フォンタン手術の適応であり,良好なフォンタン循環到達のため,以下のような臨床情報を正確に把握し治療を計画する必要がある.
15.2.1 身体所見
動脈血酸素飽和度低下が認められ.出生直後に気づかれずとも,1 週間以内にはほとんどがチアノーゼに気づか
れる.心雑音も通常存在する.左室の拍動は右室の拍動より強く,VSD があるとスリルをふれる.I 音は単一で強く, II 音も単一のことがある.高肺血流の場合,III 音や拡張中期ランブルを心尖部に聴取する.
肺動脈狭窄がない場合チアノーゼがはっきりしないこともあるが,肺血管抵抗減少にともない高肺血流性心不全症状が顕在化する.肺血流の乏しい症例ではチアノーゼは強く出現するが,高肺血流性心不全とはならない.
VSD が小さく右室流出路狭窄をともなう場合,無酸素
図63 三尖弁閉鎖の検査計画
(2 ~3 ヵ月)
(0 ~2 ヵ月)
(6 ~12 ヵ月)
(1 ~5 歳)
生涯のフォローアップ心エコーSpO2 MRI (時に心臓カテーテル検査)
肺血流動脈管依存性
Restricitive ASD
Inter stage
必要に応じSpO2,ECG, CXR,BNP,CT,MRI
新生児におけるチアノーゼ・心雑音・呼吸障害などの異常・胎児診断
プロスタグランジンE1心エコー,ECG
SpO2,心エコーTA
1st palliation (AP シャントまたはPA banding) (+arch repair,DKS など)心臓カテーテル検査インターベンション(BAS)
心エコー心臓カテーテル検査(インターベンション)
2nd palliation(BDG)
心エコー心臓カテーテル検査(インターベンション)
Fontan completion
心エコー胸部X 線SpO2
CT MRI
p.132
発作が生じることがある.タイプII においては高肺血流になることが多い.SpO2 や呼吸数は肺血流の多寡を判定する指標となる.また,肝腫大は狭小な心房間交通を示唆する.CoA がなければ四肢の動脈拍動は容易に触知される.
15.2.2 胸部単純X 線
血行動態評価に有用である.通常心陰影のサイズは正常範囲であるが,肺血流制限のないタイプIc およびIIc では肺血管抵抗低下にともない,心拡大をきたす.その場合肺血管陰影の増強もともなう.肺血流が制限されている場合,肺血管陰影は減少するが,心陰影サイズは正常のままである.年長児では心陰影右縁が右房拡大にともなって突出してくる.
15.2.3 心電図
心電図はチアノーゼを呈する新生児のなかで三尖弁閉鎖の児を鑑別するのに有用である.心房間交通の程度によらず右房負荷を呈し,肺血流増加例では両房負荷を呈する.
PR 間隔は多くの例で正常である.左軸偏位が特徴的で,特にタイプI では85% が左軸偏位を呈する.肺血流増加例ではV6 誘導におけるR 波増高および深いQ 波を認める.肺血流減少例では小さなR 波および浅いQ 波を認める.ときに年長児で左側胸部誘導の二相性もしくは陰性T 波を認める.ST 低下をともなうこともある.通常,洞調律であるが,心房細動や心房粗動などの心房性の頻脈を年長児,特に心房間交通が狭く右房圧が高い例で起こしやすい.
15.2.4 心エコー
TA の解剖学的情報は心エコーにて容易に得られる.心内異常はすべて診断可能とされる.三尖弁位に開存のない線状エコーを認めれば確定診断される.肺動脈閉鎖でなければ,2 つの半月弁と大血管の描出も容易である.カラードプラにて右房・右室間交通がないことも診断の一助となる.
初期管理は大血管関係によって変わるため,心エコーによる分岐部あるいは冠動脈起始からの肺動脈同定・大血管関係把握が病態評価においてきわめて重要である.2D での心房間交通描出やカラードプラでの心房間短絡量把握もBAS 適応決定に必須である.CoA など,他の合併心異常診断にも用いる.同様に2D およびドプラ法にてVSD の狭小程度や右室流出路狭窄・僧帽弁異常を評価する.
初回姑息術後の心エコーによる継続的な血行動態評価は非常に重要である.ドプラ法にて肺動脈圧推定が可能である.また最終手術後も血行動態評価の最重要ツールであり,心室機能・僧帽弁機能・右房から肺動脈までの血流通過障害などが評価できる.右房内血栓の描出にも役立つ.心房
性頻脈性不整脈を有する患者にとって,経食道エコーは心房内血栓の有無を検索する上では必須の検査である.ただし,成長し手術回数を重ねるにつれエコーウィンドウが制限され,限定的評価となる.
15.2.5 心臓カテーテル検査
心エコーにてTA の初期形態診断が可能であり,乳児期に形態診断目的の心臓カテーテル検査は通常行われなくなりつつある.
ただし新生児においては肺血流の供給源を明確にし,エコーでは判断しにくい病変を検索する意味で必要とされる場合がある.カテーテルは右房→左房→左室→左室より起始する大血管,と進める.大血管関係がd-TGA の場合,体血流路狭窄評価はきわめて重要であるが,VSD を通してカテーテルを右室から前方の大血管に進めるのは,VSDがよほど大きくない限り困難で,無理をする必要はなく,エコーと臨床症状で得られる所見で代用する.
すなわち,タイプI においては肺血流が十分制限されているか否かということ,タイプII においては体血流が左室に強い圧負荷をかけることなく維持できるかということを,最小リスクにて評価するべきである.通常右房圧は左房圧より若干高いが,心房間交通が狭小な場合,右房圧曲線a波の突出を認める.左室拡張末期圧は肺血流が多いと容量負荷により上昇することがある.タイプII の場合PS,がなければPH をともなう.
心臓カテーテル検査は,初回姑息術後,右心バイパス手術適応を決定するためにきわめて重要な検査である.もっとも重要なのは肺血管床・肺血管抵抗であり,右心バイパス循環成立の鍵を握る.初回姑息術として.シャント手術施行例ではシャントを通して直接肺動脈圧・酸素飽和度を測定できる.難しい場合は肺静脈楔入圧を計測することで肺動脈圧が正確に推定できる.肺動脈絞扼術を行った症例では,左室から絞扼部を超えて肺動脈へカテーテルを進めることが可能である.
また,肺動脈造影は肺血管床発育評価および初回姑息術後の肺動脈形態のゆがみの視認に適しており,この検査結果から次回手術時に肺動脈形成の必要性が判断される.年長児でフォンタン手術に到達していない例では体肺側副血行の評価にも有用で,コイルによる塞栓術が行われる.
15.2.6 CT
近年装置の改良が進み,特に高空間分解能・低被曝の装置では,大血管や冠動脈および心内構造把握のため初回姑息術前に撮影するメリットが大きい.右心バイパス術前に
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も心臓カテーテル検査による血管造影で不十分な肺動脈の立体構造描出に威力を発揮する.造影剤および被曝によるリスクを勘案せねばならず,施行前に得られる情報(ベネフィット)とのバランスを考慮する必要がある.
15.2.7 MRI
CT に空間分解能はやや劣るものの,造影剤を用いれば乳児期の大血管形態は明瞭に描出される.また関心領域血流量を計測できる唯一の画像診断法といえ,肺体血流比や弁逆流・左右肺動脈それぞれの血流量,体肺短絡血流量などを定量することで,循環動態把握に威力を発揮する.加えて正確な心室容積計測が可能で,フォンタン境界例の適応判断にも活用される.
被曝リスクはないものの,小さな体格・煩雑な手技による制限が大きく,乳幼児期はCT やカテーテルを補完する位置づけである.フォンタン術後から成人期の長期フォローアップに際しては,心エコーと並んで主力画像診断装置として用いられる.
15.2.8 血液検査
血漿BNP 値は心室負荷,特に壁応力を反映し,特に乳児期には突然死リスク評価要素の1 つである.初回姑息術後の2nd palliation のタイミングを決定するにあたっても参考になる.
16 左心低形成症候群
16.1 解剖・病態生理
左心低形成症候群(HLHS)は,左心房から大動脈に至る左心系構造物が低形成なために左室が機能せず,右室が体循環・肺循環を支える疾患である.体血流は主肺動脈から動脈管を経て供給されるため,生命の維持には,動脈管開存が必須である.また,肺静脈血流は,左房から心房中隔欠損を経て右房・右室へと流入するため,心房中隔欠損が小さいと肺静脈性肺高血圧を呈する.
左心系構造物の低形成程度が軽・中等度でも左心低形成症候群と拡大解釈する考えもあるが,ここでは厳格な解剖学的定義「HLHS とは,共通房室弁ではなく,正常な大血管関係を有し,有意な左心室低形成を示す心形態異常スペクトラムであり,大動脈弁・僧帽弁のいずれか,あるいは両方の低形成と,上行大動脈・大動脈弓の低形成を有する」を満たし,かつ「左心室に体循環を担わせる従来型治
療では心機能不全を救済できないため,ノーウッド手術(右室および主肺動脈に左心機能を代替させる姑息手術)を経てフォンタン循環を目指すか,あるいは心臓移植を選択するかの2 通りの治療法しか選択できない病態を持つ」群をHLHS と定義し,フォンタン循環を目指す治療について概説する.
16.2 診断と病態把握のための検査(図64)
16.2.1 胎児期(胎児エコー/ クラスIIa)
現在は妊娠16 ~18 週以降で胎児診断が可能となり,多くは胎児エコーで発見される.2D エコーにて拡大した右房・右室・肺動脈と,それに続く太い動脈管・小さく筋成分に富む左室を認め,低形成の大動脈弁・僧帽弁・上行大動脈,あるいはそれら左室成分の欠落を認めればHLHSの可能性が高い.大動脈弁閉鎖の症例ではカラードプラエコーにて細い上行大動脈を逆行する血流を認める.
16.2.2 出生後
出生後の症状発現は心房中隔欠損(ASD)の大きさ(通過障害程度)と動脈管開存度によりばらつきがある.1/4は24 時間以内に有症状となるが,多くは初期には通常新生児と変わらず,48 時間以降に症状が出現する. a.身体所見
restrictive ASD がある場合,強いチアノーゼ,呼吸障害を呈するが,non-restrictive ASD の場合は比較的血色がよい.動脈管開存(PDA)閉鎖傾向を認める場合は呼吸障害,末梢冷感・蒼白を呈する.聴診では大動脈弁欠損および肺高血圧による単一II 音,心室機能低下によるIII 音を聴取する.心雑音は一般的でなく,相対的肺動脈狭窄による収縮期駆出性雑音や重度三尖弁逆流にともなう収縮期逆流性雑音も聴取する.上下肢動脈は生後早期にはよく触れるが,動脈管閉鎖にともない減弱する.肝腫大はよくみられる. b.SpO2,SvO2
急性期,特にノーウッド手術の周術期管理に肺体血流比の推定,心拍出量の推定には,詳細かつ連続的なバイタルサインの測定が必要不可欠である.また,上大静脈に留置した中心静脈カテーテルから採血し,SvO2 をモニタリングすることで,心拍出量,組織の酸素需給バランスを推定することができるため,ショックの予防に頻用される(クラスI).
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c.胸部単純X 線,心電図
診断そのものよりも血行動態の評価に有用であり,頻用される(クラスI).心房レベルでの通過障害程度の程度を反映し,restrictive ASD の場合,正常サイズの心陰影およびpassive congestion を認めるが,肺疾患と誤診され診断遅れにつながることがある.non-restrictive ASD であればactive congestion および心拡大を認める.上行大動脈陰影欠損,右房の突出を認める.
心電図では右軸偏位,右室肥大を呈するが,正常新生児と明白な違いはない.右房拡大にともなうP 波増高を30 ~ 40% の患者に認める. d.心エコー
HLHS との診断は容易で,心機能・房室弁逆流・動脈管開存度など刻々と変化する血行動態評価のためにも繰り返し行える点で有用な検査である(クラスI).小さく壁肥厚した心尖部に達していない左室腔や,左室心内膜輝度上昇(線維化を反映)を認める.左房は小さいが,restrictive ASD があると拡大している.restrictive ASD に関連する肺静脈性肺高血圧の有無は予後に大きく影響する.supra notch view にて動脈管よりtransverse arch への逆行性血流を認めることも多く,左室が二心室修復に不適である根拠となる(クラスI).
通常,大動脈弁は閉鎖または狭窄し2 ~3 mm の上行大動脈を認め,大動脈縮窄や離断をよく認める.大動脈弓・下行大動脈の形態はsupra notch view にてよく観察される. PDA 開存度やPV の還流についても同じ断面で観察できる.
僧帽弁は閉鎖の頻度が高く,狭窄の場合も弁尖肥厚・付属器の低または無形成を認める(クラスI).critical AS との鑑別にLV 水平断面積(<1.5 cm2 ならHLHS),拡張末期流入部のサイズ(僧帽弁後尖ヒンジからapex<25 mmならHLHS),僧帽弁輪径(≦6 mm ならHLHS)を参考とする場合もある.
心室冠動脈交通のため,心室中隔壁内にカラードプラ信号を認めることがある.VSD はまれである. e.3DCT・MRI
3DCT により心エコー検査で判断の難しいaberrant right subclavian artery の有無や,CoA の位置・程度,また肺静脈・肺動脈などの形態・位置の情報を得ることが可能であり,積極的に施行される(クラスI).MRI はフォンタン循環完成前など,ある程度体格が大きくなった段階でより威力を発揮し,心エコーでの診断を補完するものとして有用である(クラスIIb). f.心臓カテーテル検査
心エコーの発達および3DCT の登場により,第一次姑息手術前の診断目的のカテーテル検査は肺静脈還流異常の診
断補助,および冠動脈異常診断など特殊な場合にのみ行われるようになり,実施率は激減した. g.血液検査
血漿BNP は,心不全の指標として,本症候群でも房室弁逆流の程度や心負荷・リスクなどを予測する重要な因子として頻用されるようになっている(クラスIIa).
16.3 治療選択のための検査(図64)
原則として,すべての症例が手術適応である.刻々と変化する血行動態・心機能を把握し即対応するという面をもつため,治療選択のための検査の多くは前項と重複する.出生後仮死やショックにより全身状態が不安定な場合や,出生体重が2,000 g に満たない場合は,第一次姑息術として人工心肺が不要な両側肺動脈絞扼術(bil.PAB)が第一選択とされる.
上記以外の比較的安定した症例では,第一次姑息術として一期的ノーウッド手術を選択する施設と,第一次姑息術としてbil.PAB を選択し,新生児期後期または乳児期早期に二期的にノーウッド手術を実施する施設がある.ノーウッド手術後は,乳児期中期に両方向性グレン手術,1 ~3 歳で右心バイパス手術(フォンタン手術など)に進むのが一般的である.
16.3.1 胎児エコー
診断そのものが治療の開始点となる.両親へのカウンセリングや分娩計画を立てるため,胎児エコーによるスクリーニングが重要である.
胎児HLHS においてはASD の評価は必須である.欠損孔そのもののサイズ測定は正確性を欠くため,肺静脈血流のドプラによる評価が簡潔で信頼性が高い検査として施行される(クラスIIa).通常の肺静脈血流は収縮期拡張期とも順行性血流で,心房収縮期にわずかな逆行性血流を認める.持続時間の短い順行性および逆行性血流があり,かつ拡張早期の心室流入波が非常に小さい場合にはrestrictive ASD であり,出生後ただちに呼吸管理・左房減圧が必要になる.restrictive ASD の出生前診断は,正確な出生前カウンセリング(PVO→PA 低形成→予後不良例あり)のためにも重要である.また,胎児AS はHLHS へ進展するリスクであることが明らかで,胎児エコーにて注意深く左室成長およびPFO やtransverse arch の血流パターンをフォローする必要がある.
こうした対応を適切に行うためにも,HLHS と診断した場合は手術可能な施設に母体搬送し,小児循環器科医立
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会いの下に分娩に臨むことが望ましい.
16.3.2 心エコー
大動脈径が2 mm 未満の場合は安定した冠動脈血流を確保するため,ノーウッド手術を選択することが多い.三尖弁逆流や右室機能障害が強い場合には,原則として両側肺動脈絞扼術を選択する.
16.3.3 心臓カテーテル検査
心臓カテーテルは,原則としてインターベンションを目的とした場合か,bi-directional Glenn(BDG) 手術あるいはフォンタン手術前の血行動態評価に際して行われる(クラスI).インターベンションには,新生児期のBAS やPDA へのステント留置,ノーウッド術後のBT シャントやRV-PA conduit の狭窄解除,大動脈弓再狭窄の解除,おもにフォタン手術前の体肺側副血管や静脈- 静脈シャントなどへの塞栓術がある.
16.3.4 血液検査
血漿BNP を1 つのガイドとして心不全治療を行うこともある(クラスIIa).
17 無脾・多脾症候群 (心房内臓錯位症候群)
17.1 解剖・病態生理
17.1.1 発生異常 初期胚の腹側中央に位置する原始結節では,繊毛の回転
図64 左心低形成症候群の診断,病態把握,治療計画のための検査
胎児期
出産
新生児期
1 〜2 歳それ以降
乳児期胎児心エコー手術可能な施設への母体搬送を判断
心エコー,SpO2,胸部X 線
PGE1
restrictive ASD なしrestrictive ASD あり
bil. PAB +PGE1 または
PDA ステントBAS またはASD 拡大術+bil, PAB +PGE1 またはPDA ステント三尖弁逆流やRV 機能障害が強い例,
ショック例にはbil, PAB が第一選択
心エコー,SpO2,胸部X 線
心エコー,CT,心臓カテーテル検査
ノーウッド手術周術期:心エコー,SpO2,SvO2心エコー,SpO2
心エコー,CT,MRI,心臓カテーテル(インターベンションを含む)
両方向性グレン手術
心エコー,CT,MRI,心臓カテーテル(インターベンションを含む)
右心バイパス術(フォンタン手術)
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により左向きの定常流が生じている.この流れにより左側決定因子が胚の左側に誘導され,内臓臓器の左右が決定する.これらの伝達物質の産生および機能が障害されるか,もしくは左向きの定常流に異常が生じると,心臓を含む内臓臓器の左右情報がランダム化し,心房内臓錯位症候群(右側相同もしくは左側相同)が発症する599).
17.1.2 解剖と分類
胸腹部の内臓臓器全般に幅広いスペクトラムの左右形態異常が発症する.内臓心房錯位は右側相同および左側相同に分類されるが,その診断は心耳形態に基づく心房位により決定される.すなわち,両側心房が右心耳形態の場合を右側相同,両側心房が左心耳形態の場合を左側相同とする600).実際には左右の心耳形態の判別が困難な症例も存在する.
17.1.3 病態生理
a.右側相同
典型例では,心血管病変として,右胸心,右室型単心室,単心房,閉鎖不全をともなう共通房室弁,肺動脈閉鎖もしくは高度狭窄,両大血管右室起始,総肺静脈還流異常,両側上大静脈がみられる.多くの症例は低肺血流をともなう単心室血行動態であり,新生児期乳児期に体肺短絡手術を行って肺血流を適切に維持する必要がある.一方,肺静脈閉塞性病変をともなう総肺静脈還流異常の合併は右側相同の予後に大きく影響するため,右側相同が診断された際には,共通肺静脈もしくは垂直静脈の狭窄の有無を明らかにする必要がある.また共通房室弁は,未発達な弁形態で中等度以上の房室弁閉鎖不全をともなうことが多い.
刺激伝導系の異常としては,両側洞房結節により2 種類のP 波がみられ,前後2 つの房室結節がsling を形成することにより上室性頻拍(房室結節間回帰性頻拍)を起こしやすい.右側相同の多くの症例は無脾のため,細菌感染に対する免疫力が低下する.特に肺炎球菌の重症感染症に陥りやすい. b.左側相同
典型例では,左室流出路狭窄をともなう完全型もしくは不完全型房室中隔欠損,奇静脈結合をともなう肝部下大静脈欠損,洞結節の低形成による洞機能不全,房室束の離断による完全房室ブロックがみられる.右側相同とは対照的に,高肺血流による肺高血圧を呈することが多い.不均衡な左右心室のため,2 心室修復が困難な症例も存在する. 17.1.4 臨床症状
a.右側相同
高度の肺動脈狭窄もしくは閉鎖をともなう単心室症例では,生下時よりチアノーゼがみられる.肺動脈狭窄が明らかでない高肺血流の単心室症例や,房室弁閉鎖不全により心不全をきたした症例では,多呼吸,呼吸困難,哺乳不良がみられる.肺静脈還流障害をともなう総肺静脈還流異常を合併する症例では,生後間もなくより肺うっ血により強いチアノーゼと呼吸困難を呈する. b.左側相同
房室中隔欠損により肺血流増加をきたす症例が多く,生後数日より多呼吸,哺乳障害が認められる.また完全房室ブロック合併例では,出生前より著しい徐脈が認められる.
17.2 診断・病態把握のための検査(図65)
17.2.1 経皮的動脈圧酸素飽和度
肺血流量の判断を非侵襲的に連続的にモニターでき,患者の血行動態のモニターとして有用である.ただし新生児では,肺の状態によっても値が左右される(クラスIIa).
17.2.2 血液検査
右側相同では,脾臓の欠如にともない赤血球にHowell- Jolly 小体が認められる.正常新生児にもみられることがあり,注意が必要である(クラスIIa).
血漿BNP 値は房室弁逆流などによる心不全マーカーとして,患者の病態把握に有用である(クラスIIa).新生児期には正常児でも高値を示すため,経時的変化により病態を判断する.
17.2.3 胸腹部X 線
胃泡の位置異常,対称肝,両側3 もしくは2 分葉肺,両側右もしくは左気管支形態の場合,内臓心房錯位を疑う(クラスIIa) 601).
17.2.4 心電図
心電図は基礎となる心疾患の診断に参考となる.右側相同では2 種類のP 波形およびQRS 波形がみられることがあり,上室性頻拍を起こしやすい.左側相同では,洞機能不全,房室ブロックがみられる(クラスIIa) 602).
17.2.5 断層心エコー
先天性心疾患の確定診断を行うとともに,腹部での大血
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管走行,肝臓の形態や脾臓の有無から,内臓錯位症候群を診断する(クラスI) 603–605).下行大動脈と下大静脈が椎体に対して同側に走行する所見(aortocaval juxta posotion)は右側相同に特徴的である.心大血管の構造異常として,上下大静脈と心房との位置関係,心房形態と心房中隔の有無,心室の形態,左右心室のバランス,房室弁形態と閉鎖不全,肺動脈狭窄/ 閉鎖,肺静脈還流異常と還流障害の有無,大動脈縮窄/ 離断,奇静脈/ 半奇静脈結合などを確認する. 17.2.6 マルチスライス(MS)CT,MRI
断層心エコー検査で診断困難な,肺動静脈,動脈管,体静脈の位置と走行,狭窄の有無,腹部臓器の形態と左右を診断する(クラスIIa) 606).肺静脈還流障害により強い肺うっ血をきたした新生児例や,房室弁閉鎖不全により重度の心不全をきたした症例には,造影剤を用いたMSCT 検査や長時間の鎮静を必要とするMRI 検査は行うべきでない(クラスIII).
図65 無脾・多脾症候群の治療のためのフローチャート
胎児心エコー,胎児徐脈
新生児期チアノーゼ,心雑音,呼吸障害
胸腹部X 線写真,心電図,心エコー,血液検査
内臓錯位疑い
心エコー精査
右側相同左側相同
肺静脈閉塞性病変をともなう
総肺静脈還流異常(-)
共通肺静脈左房吻合術
SPO2,心エコー,MSCT/MRI
肺血流減少適度な肺血流肺血流増加
体肺短絡手術肺動脈絞扼手術2 心室修復術
体重増加,SPO2,心エコー
心臓カテーテル検査,MSCT,MRI
グレン,フォンタン手術にむけた評価
2 心室血行動態単心室血行動態
肺静脈閉塞性病変をともなう
総肺静脈還流異常(+)
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17.2.7 心臓カテーテル検査
新生児の初期診断と病態把握は断層心エコーにより可能であるため,全身への侵襲が大きい心臓カテーテル検査および造影検査が行うことは少ない(クラスIIb).
17.3 治療選択のための検査
17.3.1 血液検査
血漿BNP 値の経時的変動は,臨床所見や他の画像検査所見とともに,心不全治療および外科的治療介入の目安となり得る(クラスIIa).
17.3.2 胸部単純X 線
肺血管陰影の減少や増大,心拡大や肺うっ血から,外科手術やカテーテル治療介入のタイミング決定に参考所見となる(クラスIIa).
17.3.3 断層心エコー
非侵襲的に繰り返し検査を行えるため,新生児期の治療方針の決定に有力な診断方法である(クラスI).肺動脈高度狭窄および閉鎖症例では,右室流出路から肺動脈の内径および動脈管の最小径によりプロスタグランジンE1 の投与量を決定し,その後の体肺短絡手術の時期を判断する.一方,肺血流増加症例では,体重および肺動脈径から肺動脈絞扼術の至適径を決定する.肺静脈還流障害をともなう総肺静脈還流異常合併例では,狭窄部での内径と流速により緊急手術を決定する.高度の房室弁閉鎖不全をともなう症例では,房室弁の形態や逆流部位から手術術式と時期を決定する.いずれの場合も患者の呼吸,脈拍,血圧,動脈血酸素飽和度,尿量などの全身所見と胸部単純X 線所見などを総合して判断する必要がある.
17.3.4 心臓カテーテル検査
新生児期の初期診断と治療方針の決定は非侵襲的な心エコー検査を中心として実施されるため,むしろ心臓カテーテル検査は行われないことが多い(クラスIIb).ただし,術後の肺動脈狭窄などでカテーテル治療が必要な症例では,同時に圧測定と造影検査を行って確実に病態を把握する.単心室血行動態患者におけるグレン手術やフォンタン手術に際しては,心臓カテーテル検査および造影検査を行い,肺動脈および体静脈の形態と走行を明らかにするとともに,肺動脈圧や肺血管抵抗値を計測して,手術適応を厳格に決定する必要がある(クラスI) 607). 17.3.5 マルチスライス(MS)CT,MRI 検査
肺動脈縮窄をともなう肺動脈閉鎖例における肺動脈形成術の術式決定,総肺静脈還流異常合併例での手術方針の決定などに有効である608) (クラスI).単心室血行動態におけるグレン手術やフォンタン手術(TCPC 手術)に際して,体静脈と肺動脈の位置関係を正確に把握し,静脈血,特に肝静脈血が左右肺に均一に分布して,肺動静脈瘻を発症しないように術式のデザインを決定するシミュレーションもなされつつある609).
17.3.6 電気生理学的検査
薬物治療に抵抗する不整脈,右心バイパス術後の血行動態に悪影響を及ぼす頻脈性不整脈がみられる場合には,電気生理学的検査を行ってカテーテルアブレーションを実施する(クラスIIa) 610).また心室のdyssynchrony をともなう心不全に対して心臓再同期療法を行う目的で電気生理学的検査が行われる611).
18 両大血管右室起始
18.1 解剖・病態生理(図66)
両大血管右室起始(DORV)は,1両大血管の150% (片方の大血管+もう一方の大血管の50% 以上)が右室から起始し,2半月弁と房室弁との間に筋性組織である心室漏斗部襞壁(VIF)が存在する,という2 つの条件を満たす疾患と定義される.大血管関係は定義には無関係である.
VIF が介在するため,半月弁と房室弁間には線維性連続がない.半月弁下には全周性に筋性組織が存在する.心室
図66 両大血管右室起始の定義
正常大血管型大血管転位型Ao:大動脈,P:肺動脈,M:僧帽弁,VIF:ventriculo-infundibular fold(心室漏斗部襞壁), RV:右心室,LV:左心室,MV:僧帽弁
PA Ao
VIF MV
RV LV PA Ao VIF
MV
LV RV
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中隔欠損(VSD)を合併する.VSD は大動脈弁下,肺動脈弁下,両大血管下,遠位などに存在する.心室- 大血管関係により正常大血管型と大血管転位型が存在する.心房位,心房- 心室関係はさまざまである.漏斗部中隔の前方あるいは後方偏位により,肺動脈狭窄や大動脈弁下狭窄を合併する場合がある.正常大血管型で肺動脈狭窄を合併しない症例では,VSD による左- 右短絡により高肺血流(肺高血圧)となる.正常大血管型で漏斗部中隔(IF)の前方偏位により肺動脈狭窄を合併した症例では肺血流低下(チアノーゼ)を呈する.大血管転位型ではチアノーゼを呈し,肺動脈狭窄を合併しない症例では,肺血流が増加し肺高血圧を呈する.
18.2 診断,病態把握,術式選択のための 検査(図67)
正常大血管型で肺動脈狭窄を合併しない症例では,肺高血圧をともなうVSD と同様の病態を示す.肺動脈狭窄を合併した場合は,肺血流減少によるチアノーゼを呈し,ファロー四徴症と同様の病態を示す.大血管転位型で肺動脈狭窄を合併しない症例(false
Taussig-Bing 異常)では,チアノーゼとともに肺高血圧のため,VSD をともなう完全大血管転位と同様の病態を示す.肺動脈狭窄を合併した場合は,肺血流減少によるチアノーゼを呈し,ファロー四徴症と同様の病態を示す.
18.2.1 聴診
肺動脈狭窄を合併するDORV は,胸骨左縁上部に駆出性収縮期雑音を聴取する.肺動脈狭窄を合併しないDORV は,肺血流は増加し,肺高血圧をともなったVSDに類似し,肺高血圧が進行すると,心雑音は聴取しなくなる.
18.2.2 胸部単純X 線・心電図
胸部単純X 線上,肺動脈狭窄を合併する例では,肺動脈部(左第2 弓)が陥凹し,肺血管陰影は減少する.肺動脈狭窄を合併しない例では,肺血管陰影は増強し,心拡大がある.心電図では,右室肥大所見あるいは両室肥大所見を示す.
図67 両大血管右室起始の分類
LV正常大血管型
大血管転位型
大動脈弁下VSD {SDN}DORV両大血管下VSD original Taussig-Bing肺動脈弁下VSD
後方TGA
肺動脈弁下VSD false Taussig-Bing両大血管下VSD
{SDL}DORV大動脈弁下VSD
ACMGA *
漏斗部中隔心室漏斗部襞壁(VIF) VSD大動脈肺動脈*:解剖学的修正大血管転換
T M
RV RV RV
RV RV RV
LV LV
LV LV
T M T M
T M T M T M
LV
p.140
18.2.3 心エコー
本症の形態診断における心エコー検査の意義はきわめて高い.大血管関係,漏斗部中隔の形態(VIF 付着部位), VSD の位置(大血管との関係),房室弁形態(腱索付着部位)などを検索する(クラスI).正常大血管型では後方血管である大動脈が僧帽弁に近接し,大血管転位型では後方血管である肺動脈が僧帽弁に近接する.正常大血管型,大血管転位型ともにVSD は1大動脈弁下(subaortic),2肺動脈弁下(subpulmonary),3両大血管下(doubly committed),4遠位(noncommitted)などに存在する.
18.2.4 心臓カテーテル検査
両大血管の位置関係,冠動脈形態,両心室容積を確認する.右室容積が十分あることは重要であり,右室造影での容積確認が必要である(クラスIIa).VSD が遠位型の場合,VSD と大動脈弁の距離が長いため,これらを結ぶ
長い心内トンネルが必要となる.このため,心室造影での確認が必要である(クラスI).
18.2.5 3DCT 検査
3DCT 検査は,心エコーのみでは判定できない心内形態の同定に非常に有用である.術式決定のためには3DCT 検査を行うことが好ましい.心室内血流転換パッチの縫合線の決定,両大血管下型VSD や遠位型VSD での術式決定(心室内血流転換あるいは動脈スイッチ)では3DCT 検査による確認が望ましい.
18.2.6 心エコーのチェックポイント(図67)
• 両大血管の空間的位置関係• VSD の位置,VSD と両半月弁との関係
・漏斗部中隔の形態
図68 両大血管右室起始の診断,病態把握,治療計画のための検査
心室内血流転換術
+右室流出路拡大形成術フォンタン手術[大血管関係]
心エコー,CT
正常大血管型
[漏斗部中隔形態,VSD 形態]
心エコー,CT
大動脈弁下VSD {SDN}DORV両大血管下VSD original Taussig-Bing肺動脈弁下VSD
後方 TGA
カテーテル検査
[肺動脈狭窄の有無,両心室容積,房室弁形態,冠動脈形態]
心室内血流転換術心室内血流転換術動脈スイッチ手術
肺動脈狭窄(+)右室狭小(+)房室弁形態異常± BT シャント
ラステリ手術またはaortic translocationフォンタン手術
大血管転位型
[漏斗部中隔形態,VSD 形態]
心エコー,CT
肺動脈弁下VSD false Taussig-Bing両大血管下VSD
{SDL}DORV大動脈弁下VSD
ACMGA*
カテーテル検査
[肺動脈狭窄の有無,両心室容積,房室弁形態,冠動脈形態]
動脈スイッチ手術心室内血流転換術心室内血流転換術
肺動脈狭窄(+)右室狭小(+)房室弁形態異常± BT シャント
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・両房室弁腱索の挿入部位(漏斗部中隔への挿入の有無) • 肺動脈狭窄の有無• 右室容積
18.2.7 形態と適応術式(図68)
a.正常大血管型{SDN}DORV:VSD から大動脈弁へ心室内トンネルを作成する心室内血流転換術の適応となる.PS 合併例では右室流出路拡大形成術を行う. original Taussig-Bing:VSD から大動脈弁へ心室内血流転換を行うKawashima 手術の適応となる.PS 合併例では右室流出路拡大形成術を行う.漏斗部中隔と三尖弁側VIF 間の距離が狭い場合は動脈スイッチ手術の適応となる場合もある.後方TGA:VSD を閉鎖し,動脈スイッチ手術を行う.
b.大血管転位型false Taussig-Bing:VSD を閉鎖し,動脈スイッチ手術を行う.漏斗部中隔の後方偏位により肺動脈狭窄を合併した症例ではラステリ手術,aortic translocation (Nikaidoh手術,half-turned truncal switch 手術)の適応となる.右室狭小例,remote VSD 例ではラステリ手術は不可能で,フォンタン手術の適応となる. {SDL}DORV:VSD から大動脈弁へ心室内血流転換を行うが,VSD 前方伸展が少ない症例ではVSD を閉鎖し,動脈スイッチ手術を行う.解剖学的修正大血管転換症(ACMGA):VSD を閉鎖することにより血行動態は修正される.
第5章 疾患別薬物治療
1 抗心不全治療
1.1 強心剤(カテコラミン): 急性心不全の治療の観点から
1.1.1 ドブタミン
ドブタミンは当初,循環不全に対する陽性変力カテコラミンとして開発された612).β刺激作用を有し,心収縮力の増大および末梢血管拡張と軽度の心拍数増加を引き起こす613).心筋血流の改善作用を併せ持ち,変時作用にともなう心筋酸素消費量増大と相殺する614).ドブタミンは,単独で陽性変力作用と体血管および冠血管拡張作用を併せ持つという,他のカテコラミンにはない特徴がある.この特性から,術後の体外循環離脱時や急性心不全初期治療について,乳児や学童でも汎用される615).先天性心疾患患児でも2~7.5μg/kg/分の投与で血圧,心拍出量,1 回
拍出量が増大し,肺毛細管楔入圧が低下する616).また変時作用が少ないという利点もある617). a.適応i.国内適応
急性循環不全における心収縮力増強として承認されている.小児投与に関しては,低出生体重児,新生児,乳児,幼児,小児に投与する場合に観察を十分に行い少量より慎重に開始すること,とある.また,開心術後に心拍数が多い小児に投与し,過度の頻拍をきたしたとの報告がある618). ii.国外での動向
米国では,小児に対する安全性および効能は確立されていない.成人に対しては心拍出量減少をともなう心不全への使用が承認されている.欧州では小児調査計画(PIP)が進行中である. b.用量
成人量として,通常1~5μg/kg/分を点滴静注する.小児用量は5~10μg/kg/分619),2~10μg/kg/分620),2 ~20 μg/kg/分621)とされている.投与量は患者の病態に応じ
p.142
て望ましい血行動態が得られるように増減する.15 ~20 μg/kg/分以上の投与では,さらなる血行動態の改善は望み難い622). c.小児での薬物動態
平均年齢5.2 歳の小児において,全身クリアランスは151 mL/分/kg(点滴静注7.47μg/kg/時),分布容積は1.13 L/kg,点滴静注終了後の血中濃度推移に関しては,2相性の消失がみられた患者と1 相性の消失がみられた患者の2 つに分けられる.分布相における半減期(t1/2α)は1.65分(両グループ間に差はあまりみられない),また消失相における半減期(T1/2β)は25.8 分であった623). d.相互作用
β遮断薬:本剤の効果の減弱・末梢血管抵抗の上昇が起こるおそれがある.アルカリ溶液内で不安定となるため炭酸水素ナトリウムとの混合は避ける. e.禁忌
閉塞性肥大型心筋症の患者(左室流出路狭窄が増強され症状を悪化するおそれがある).ドブタミン塩酸塩に対し過敏症の既往歴のある患者. f.副作用
承認時における安全性評価対象例521 例中,臨床検査値の異常変動を含む副作用は30 例(5.8%)に認められた.おもなものは頻脈12 例(2.3%),心室期外収縮12 例(2.3%),血圧上昇4 例(0.8%)であった.
再審査終了時における安全性評価対象例6,506 例中,臨床検査値の異常変動を含む副作用は166 例(2.55%)に認められた.おもなものは頻脈65 例(1.00%),心室期外収縮43 例(0.66%),上室期外収縮10 例(0.15%),洞頻脈10 例(0.15%)であった.
1.1.2 ドパミン
ドパミンは内因性の神経伝達物質として発見され624),後に昇圧作用625)と心臓への直接作用626)を有することが明らかになった.α,β,ドパミン受容体に対する刺激作用を有するが,用量によりその作用が変化する.0.5 ~3 μg/kg/分の低用量ではドパミン受容体刺激作用により腎血流,腸間膜血流が増加し,3 ~5μg/kg/分ではβ刺激作用により強心作用が優位となり,5 ~10μg/kg/分ではα作用による末梢血管収縮の影響が出始め,10μg/kg/分以上では体血管抵抗が上昇する619).このような用量相関関係から,低用量を腎用量,高用量を心臓用量とする使用法が一時広く用いられたが,その効果を実証した報告はなく,この概念は過去のものとなりつつある627).
ドパミンを投与した際に認められる生理的反応は,収縮性の増加,心拍数の増大,血管緊張の増大であり,体血管拡張を示唆する反応はまったくみられない.小児では
0.3 ~25μg/kg/分の投与で心拍数の増加はなく,平均血
圧および尿量が増加した628).また,心臓手術後の患児に8μg/kg/分で投与した場合,体血管抵抗の変化はなく,心拍出量と1 回拍出量が増加した.これらの効果はニトロプルシド併用により増強された629).フォンタン術後患者においても同様の効果が報告されている630). a.適応i.国内適応
成人では急性循環不全(心原性ショック,出血性ショック)で承認されているが,小児への投与は設定されていない(該当記載事項なし).ただし,国内承認申請時の臨床試験において5 歳以下25 例(15%),6 ~20 歳12 例(8%)の患者が含まれており,安全性に全体との差はないとされる. ii.国外での動向
米国では,小児での安全性および効能は確立されていない.使うとすれば初期量として2 ~5μg/kg/分で開始し, 5 ~10 μg/kg/ 分で維持し,最大30μg/kg/分とされる.欧州ではPIP が進行中である. b.用量
成人量として通常1 ~5μg/kg/分,最大20μg/kg/分で使用される.小児投与量は0.5~20μg/kg/分619),3~15 μg/kg/分620),0.5 ~10μg/kg/分622),3~10 μg/kg/分631)とされている.米国では初期量として2~5μg/kg/分で開始し,5 ~10μg/kg/分で維持,最大30μg/kg/分としている.投与量と血漿濃度の関係に個人差が大きく,原則的には血行動態をモニターして投与量を決定する622). c.小児での薬物動態
新生児患者11 例(在胎週数34 ± 4.5 週,日齢30.4 ± 18,出生体重2.38 ± 0.93 kg)に対し,ドパミン持続静注(5~20μg/kg/分)中の血漿ドパミン濃度0.013~0.3μg/
mL,クリアランス115 mL/kg/分,分布容積1.8 L/kg, T1/2,6.9 分(5~11 分)であった632).
小児患者17 例(年齢3 ヵ月~13 歳,体重5 ~73 kg)に対しドパミン持続静注(1 ~20μg/kg/分)後の血漿ドパミン濃度を測定し,半減期T1/2α=1.8 ± 1.1 分,T1/2β= 26 ± 14 分,分布容積2,952 ± 2,332 mL/kg,クリアランス454 ± 900 mL/kg/分であった.肝機能あるいは腎機能障害は薬物動態に影響しなかった633). d.相互作用• MAO 阻害薬:ドパミンの代謝が阻害され作用が増強か
つ延長• ドパミン持続静注中にフェニトイン静注で血圧低下• ドパミン受容体拮抗薬 作用減弱
p.143
e.禁忌
褐色細胞腫(カテコラミンを過剰に産生する腫瘍であるため,症状が悪化するおそれがある) f.副作用(有害事象)
1981 年3 月までの副作用頻度調査において2,389 例中副作用の発現例は240 例(10.0%)で254 件.おもなものは不整脈201 件(8.4%),四肢冷感12 件(0.5%),嘔吐11 件(0.5%)であった. g.使用上の注意事項
ドパミンはα作用を有し末梢血管を収縮させるため,国内では四肢冷感が0.5% に発現している.海外では末梢虚血と壊疽を生じ,四肢の切断を余儀なくされた4 例の報告がある634).糖尿病やしもやけなど,末梢虚血を起こしやすい素因のある患者には慎重に投与する必要がある.小児でも末梢静脈挿入式中心静脈用カテーテルの先端や末梢投与部位などで血管収縮から皮膚の虚血・チアノーゼが生じることがあり,注意を要する.また,アルカリ溶液内で不活化されるため,炭酸水素ナトリウムとの混合は避けるべきである.
1.1.3 アドレナリン
アドレナリンはα受容体およびβ受容体作動薬である. 0.01~0.02μg/kg/分といった低用量ではβ作用が優位となり,心拍数や心収縮性の増加,末梢血管抵抗の減少,心拍出量増大などが生じる.0.1μg/kg/分以上の高用量ではα作用が優位となり体血管抵抗を増大させ,同時に心筋酸素消費量を増大させる617). a.適応i.国内適応
複数の適応があるが,循環器領域の適応としては「各種疾患にともなう急性低血圧またはショック時の補助治療,心停止時の補助治療」に限定される.低出生体重児,新生児,乳児,幼児,小児では安全性が確立されていないため,少量から投与を開始するなど患者の状態を観察しながら慎重に投与する. ii.国外での動向
成人では心臓手術後の低心拍出量症候群時などに低用量で使用される.また,小児においても心臓手術後に0.05 μg/kg/分以下の低用量で使用されることが増えてきている619). b.用量i.成人
アドレナリンとして,通常成人1 回0.2~1 mg(0.2~1 mL)を皮下注射または筋肉内注射する.なお,年齢,症状により適宜増減する.蘇生などの緊急時にはアドレナリンとして通常成人1 回0.25 mg を超えない量を生理食塩液
などで希釈し,できるだけゆっくりと静注する.必要があれば5 ~15 分ごとにくりかえす. ii.小児
PALS の心肺蘇生ガイドラインでは,蘇生初期量0.01 mg/kg 静脈路あるいは骨髄針より注入し3 ~5 分おきに繰り返す,となっており,静脈路や骨髄針が困難な場合は0.1 mg/kg 気管内投与を推奨している635).JRC 蘇生ガイドライン2015 でも0.01 mg/kg 投与を3~5 分おきにくりかえす,とされている636).
急性心不全あるいは低心拍出症候群に対する持続点滴静注では0.05~0.15μg/kg/分617),0.01~0.5μg/kg/分619), 0.02~0.2μg/kg/分621)とされている. c.小児での薬物動態
重症小児患者に対する0.03 ~0.2 μg/kg/分のアドレナリン持続静注下の血漿アドレナリン濃度は4,360 ± 3,090 pg/mL(670 ~9,430)であり,用量と濃度は直線相関を示した.アドレナリンクリアランスレートは29.3 ± 16.1 mL/kg/分(15.6 ~79.2)で,血漿濃度に依存しなかった637). d.相互作用i.血圧異常上昇
MAO 阻害薬,三環系抗うつ薬(イミプラミン・アミトリプチリンなど),セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI,ミルナシプランなど),その他の抗うつ薬(マプロチリンなど),メチルフェニデート,分娩促進薬(オキシトシンなど),エルゴタミン製剤,抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミン・トリペレナミンなど),アメジニウムメチル硫酸塩. ii.頻脈・心室細動
ハロゲン含有吸入麻酔薬(ハロタン,イソフルラン,セボフルラン) iii.異所性不整脈
ジギタリス製剤冠不全発作:甲状腺製剤チロキシンなどiv.血圧上昇・徐脈
非選択性β遮断薬(プロプラノロールなど) v.血糖降下作用減弱
血糖降下薬(インスリンなど) vi.血圧上昇・頭痛・痙攣など
ブロモクリプチンvii.作用減弱
利尿薬e.禁忌
次の薬剤を投与中の患者・ ブチロフェノン系・フェノチアジン系などの抗精神病薬,
α遮断薬
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・ ソプロテレノールなどのカテコラミン製剤,アドレナリ
ン作動薬(ただし,蘇生などの緊急時はこの限りでない) f.副作用(有害事象) i.重大
肺水腫(初期症状:血圧異常上昇),呼吸困難,心停止(初期症状:頻脈,不整脈,心悸亢進,胸内苦悶)
ii.高頻度
心悸亢進,頭痛,めまい,不安,振戦,悪心・嘔吐,熱感,発汗g.使用上の注意事項
点滴静注で大量の注射液が血管外に漏出した場合,局所の虚血性壊死を生じるため,必要な場合はただちにフェントラミンで加療する638).また,炭酸存在下で不活化するため併用薬に注意を要する.
1.1.4 ノルアドレナリン
ノルアドレナリンは,強力なα1 受容体刺激作用とβ1 受容体刺激作用を有する.静脈内投与されると,α1 刺激作用により全身の血管が収縮して,末梢血管抵抗が上昇する. β1 刺激作用もあるが,トータルでの効果はα1 作用に相殺される.この末梢血管抵抗の上昇は,過度の血管拡張時には望ましい作用となるが,後負荷が上昇し心機能が低下している症例では血行動態を増悪させる可能性がある.健常人に投与した場合,収縮期血圧,拡張期血圧ともに上昇,腎血流は減少し,心臓の後負荷は増大する639).そのため小児の心原性ショックや低心拍出量症候群では使いにくい薬とされてきたが,低用量であれば術後の全身炎症性反応による循環不全の患者に対しては有用である619).
冠血流は直接の冠動脈拡張作用と血圧上昇により増加する.単剤もしくは陽性変力作用を有する薬剤とともに注意深く使用すれば,Fontan conversion 後の心室機能は保たれているが心拍出が乏しい症例,肺血流の減少した体肺シャント術後の乳児などで有用である615).またきわめて強いα作用のため,腎虚血を生じやすい点には留意する必要がある617). a.適応i.国内適応
各種疾患もしくは状態にともなう急性低血圧,またはショック時の補助治療(心筋梗塞によるショック,敗血症によるショック,アナフィラキシー性ショック,循環血液量低下をともなう急性低血圧ないしショック,全身麻酔時の急性低血圧など).小児適応なし. ii.国外での動向
小児での安全性および効能は確立されていない. b.用量
i.点滴静脈内注射
ノルアドレナリンとして,通常,成人1 回1 mg を250 mL の生理食塩液,5% ブドウ糖液,血漿または全血などに溶解して点滴静注する.一般に点滴の速度は1 分間につき0.5~1.0 mL であるが,血圧を絶えず観察して適宜調節する. ii.皮下注射
ノルアドレナリンとして,通常,成人1 回0.1~1 mg を皮下注射する.なお,年齢,症状により適宜増減する.
小児の持続点滴では0.01~0.5μg/kg/分619),0.1~0.5 μg/kg/分620),0.05 ~0.3μg/kg/分631),0.05 ~0.5μg/ kg/分640)の記載がある. c.小児での薬物動態
小児での報告なし.健常若年成人における半減期は2.4 ±0.7 分であった
637).
d.相互作用i.血圧異常上昇
MAO 阻害薬,三環系抗うつ薬(イミプラミン・アミトリプチリンなど),SNRI(ミルナシプランなど),その他の抗うつ薬(マプロチリンなど),メチルフェニデート,分娩促進薬(オキシトシンなど),エルゴタミン製剤,抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミン・トリペレナミンなど),アメジニウムメチル硫酸塩ii.冠不全発作
甲状腺製剤チロキシンなどiii.作用減弱
各種利尿薬e.禁忌
ハロゲン含有吸入麻酔剤投与中もしくは他のカテコラミン製剤投与中の患者f.副作用(有害事象)
本剤は使用成績調査などの副作用発現頻度が明確となる調査を実施していない.重大な副作用(発生率不明)として徐脈(アトロピンにより容易に回復する)がある. g.使用上の注意事項・ 静脈内に投与する場合には,血圧の異常上昇をきたさな
いよう慎重に投与すること・ 滴静注で大量の注射液が血管外に漏出した場合,局所
の虚血性壊死があらわれることがあるので,注意すること.原則として中心静脈ラインで維持投与する・ 本剤により,過度の血圧上昇を生じた場合には,α遮断
薬(フェントラミンメシル酸塩など)を使用すること
p.145
1.1.5 イソプロテレノール
イソプロテレノール(l-イソプレナリン)は1940 年にはじめて合成され,従来の生体由来のカテコラミンよりさらに強い強心作用と気管支拡張作用を有することが報告された.その後,光学異性体のl- イソプレナリンがより強い作用を有することが明らかになった.
β1 およびβ2 受容体に非選択的に作用し,強いβ作用を発現する.心拍出量増大(陽性変力作用:β1 作用),洞機能および房室伝導亢進による心拍数増加(陽性変力作用:β1 作用),骨格筋,内臓血管拡張作用(β2 作用),肺血管拡張作用(β2 作用),気管支拡張作用(β2 作用)を示す. a.適応i.国内適応
アダムス・ストークス症候群(徐脈型)の発作時(高度の徐脈,心停止を含む),あるいは発作反復時,心筋梗塞や細菌内毒素などによる急性心不全,手術後の低心拍出量症候群,気管支喘息の重症発作時.小児適応なし. ii.国外での動向
小児での安全性および効能は確立されていない. b.用量i.成人
イソプロテレノール塩酸塩として0.2~1.0 mg を等張溶液200 ~500 mL に溶解し,心拍数または心電図をモニターしながら注入する.成人の徐脈型アダムス・ストークス症候群においては,心拍数を原則として毎分50~60 に保つ.成人のショックないし低拍出量症候群においては,心拍数を原則として毎分110 前後に保つようにする. ii.小児
徐脈に対して0.05~0.05μg/kg/分619),0.05~0.5μg/kg/分620),0.01~0.2μg/kg/分621),0.01~1.0μg/kg/分622)といった用法が報告されている. c.小児での薬物動態
小児の静注半減期は4.2 ± 1.5 分641) d. 相互作用
β刺激薬(サルブタモール,プロカテロールなど),キサンチン誘導体(テオフィリン,アミノフィリン 水和物など),ステロイド剤,利尿薬,強心配糖体(ジゴキシン,ジギトキシン,ラナトシドC など),アセチルコリン,マオウe.禁忌・ 特発性肥大性大動脈弁下狭窄症の患者(心収縮力を増
強するため,左室流出路閉塞が増強され,症状を増強させるおそれがある)・ シギタリス中毒の患者(重篤な不整脈が起こる可能性がある)
・ カテコラミン(アドレナリンなど),エフェドリン,メチ
ルエフェドリン,メチルエフェドリンサッカリネート,オルシブレナリン,フェノテロール,ドロキシドパとの併用は避けること. f.副作用
承認時の臨床試験および市販後の副作用調査により報告された症例292 例中,9 例(3.1%) の副作用が認められている.・ 重大な副作用
心筋虚血,血清カリウム値の低下・ その他の副作用
頭痛,振戦,発汗,神経過敏,悪心・嘔吐,胃痛,下痢,鼓腸,心悸亢進,頻脈,顔面潮紅・蒼白,血圧変動,発疹g.使用上の注意事項・ 慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)・ 冠動脈疾患の患者(心筋虚血が起こるおそれがある)・ 甲状腺機能亢進症の患者(甲状腺機能亢進症にともなう
諸症状を悪化させるおそれがある)・ 高血圧の患者(血圧が上昇するおそれがある)・ うっ血性心不全の患者(不整脈を起こすおそれがある)・ 糖尿病の患者(血糖値を上昇させるおそれがある) h.重要な基本的注意
心室期外収縮や心室頻拍,さらに致死的不整脈を生ずることがあるので,このような場合には投与を中止するか,減量または点滴注入速度を遅くするなど,適切な処置をとること.炭酸水素ナトリウムのようなアルカリ剤と混合するとただちに紅色~褐色になるので,混合を避けること.
1.2 強心作用を有する血管拡張薬
1.2.1 薬剤の種類,特徴,適応(図69)
わが国で使用可能な強心作用を有するおもな血管拡張薬は,静注のPDE3 阻害薬(ミルリノン,オルプリノン),内服のカルシウム感受性増強薬・PDE3 阻害薬(ピモベンダン)である.いずれも成人での生命予後改善は示されておらず,小児で使用を推奨するための質の高い科学的根拠も見当たらないが,当座の血行動態改善目的に,わが国でよく使用されている.
これらの薬剤は,体・肺血管を拡張させて心室後負荷を低下させるとともに,収縮性を向上させる.そのため,純粋な強心薬と比し,心室機械効率の改善に優れ,酸素消費量を増加させにくい.適応は,血管を拡張させて後負荷を低下させながら強心作用も期待する心不全症例である.
p.146
1.2.2 適応の特徴,使用上の注意点と副作用
血管拡張作用があるため,投与前から低血圧があると,低血圧を悪化させる懸念が大きく,推奨しにくい.正常血圧でも低血圧の可能性があり,血圧をモニタリングする.不整脈発生の懸念がある.適正な電解質維持が使用にあたり重要である.これらの薬剤は,β受容体を介さずに作用するため,β遮断薬使用中でも収縮性増強効果を期待でき,重症例のβ遮断薬導入時の補助にも使用されている.血管拡張作用があるため,肥大型肥大型心筋症の使用には適さない.血管拡張薬には程度の差こそあれ,動脈管開存作用があるため,特に新生児期には注意が必要である.
先天性心疾患に起因する複雑な血行動態の心不全に対しては,体・肺血管のいずれに大きく作用するかで,肺体血流比が変化し得るため,かならずしも血行動態の改善につながらない可能性がある. PDE3 阻害薬は,カテコラミンと同様に心筋細胞内のカルシウム濃度を増加させるため,長期投与により細胞内Ca 2 + overload による心筋細胞のアポトーシス,壊死,不整脈誘発のリスクが増す.
Ca 感受性増強薬642)は,心筋線維ないしはクロスブリッジ連関に直接作用して変力作用を発揮する.そのため,カルシウム感受性増強薬は,細胞内カルシウム濃度を増加させることなく心筋収縮力を増加させることができる.ピモベンダン(クラスI)やレボシメンダン(未承認薬)はPDE3 阻害作用を併せ持つため,拡張機能障害を起こすことはないとされる.ピモベンダンはPDE3 阻害作用が強く,活動電位持続時間の延長によりQT 延長をきたす恐れがある.また,Ca 依存性カリウムチャネルを刺激して血管拡張作用も有する.
1.2.3 各薬剤の特性と使用法,用法・容量
静注のPDE3 阻害薬(ミルリノン,オルプリノン),内服のカルシウム感受性増強薬・PDE3 阻害薬(ピモベンダン)の3 剤は,いずれも腎排泄型であるため,殊に腎機能低下例では投与量に留意する. a.PDE3 阻害薬
現在,認可されているPDE3 阻害薬(静注薬)はミルリノンとオルプリノンである. i.ミルリノン
点滴投与量は患者の血行動態,臨床症状に応じて,1 分間あたり0.25~0.75 μg/kg の範囲で適宜増減できる. 添付文書には,この点滴投与に先行し,ミルリノンとして体重1kg あたり50μg を10 分間かけての静脈内投与法が記載されているが,血行動態の急激な変化を起こすことがあり,小児では推奨し難い.点滴投与量も,さらに少量からの開始もあり得る.
ミルリノンとの配合変化が確認されている薬剤として,以下のものがあげられる.フロセミド,ブメタニド,カンレノ酸カリウム,ピペラシリンナトリウム,ジベカシン硫酸塩,リン酸ピリドキサール,ジアゼパム,炭酸水素ナトリウム. ii.塩酸オルプリノン
オルプリノン塩酸塩水和物として,1 分間あたり0.1 ~ 0.3μg/kg を点滴静注する.なお,点滴投与量は患者の病態に応じて適宜増減し,必要ある場合には1 分間あたり0.4 μg/kg まで増量できる.
添付文書には,この点滴投与に先行し,体重1 kg あたり10 μ g を5 分間かけて緩徐に静脈内投与すると記載されているが,血行動態の急激な変化を起こすことがあり,小児では推奨し難い.点滴投与量も,さらに少量からの開始もあり得る.
塩酸オルプリノンとの配合変化が確認されている薬剤としてカンレノ酸カリウム,ウロキナーゼ,フロモキセフナトリウムがあげられる. b.カルシウム感受性増強薬i.ピモベンダン
急性心不全では,成人にはピモベンダンとして1 回2.5 mg を経口投与する.なお,患者の病態に応じ,1 日2 回経口投与することができる.また,必要に応じて,ジギタリス製剤などと併用する.慢性心不全(軽症~中等症)では,通常,成人にはピモベンダンとして1 回2.5 mg を1 日2 回食後に経口投与する.ただし,ジギタリス製剤,利尿薬などと併用する.
小児における適正な投与量の報告はみられず,成人量から換算して使用されている.
1.3 強心作用を有さない血管拡張薬
1.3.1 薬剤の種類,特徴,適応(図69)
活性化している神経体液性因子の抑制を目標とした心保護薬の一部(ACE 阻害薬,ARB)は血管拡張薬でもあり,これに関しては次項(1.4 心保護薬)を参照されたい.本項は,これらの心保護薬を除き,硝酸薬,ニトロプルシド, hANP,カルシウム拮抗薬などの強心作用を有さない血管拡張薬について記す.心不全における血管拡張薬の使用について,小児での使用を推奨するための質の高い科学的根拠は見当たらないが,当座の血行動態の改善を目的として使用されている.
血管拡張薬の使用にあたっては,血行動態の把握が重要
p.147
である.静脈拡張により充満圧を低下させるか,あるいは動脈拡張により後負荷を軽減させ,心拍出量を増加させることを目的として使用する.ニトログリセリンは静脈拡張作用が動脈拡張作用に比べより強く,ニトロプルシドは動静脈とも同等に拡張させる.血管拡張薬は心血管構造異常としての先天性心疾患に起因する複雑な血行動態の心不全に対しては,かならずしも血行動態の改善につながらない可能性がある.体肺いずれに大きく作用するかで,肺体血流比が変化し得る.血管拡張薬には程度の差こそあれ,動脈管開存作用もあるため,特に新生児期には注意が必要である.
1.3.2 各薬剤の特性と使用法,用法・用量
a.ニトログリセリン643)
生体内で血管拡張物質であるNO を生成し,グアニル酸シクラーゼの活性化を介して細胞内cGMP を増加させ,動脈および静脈を拡張させる.特に静脈拡張作用が大きい.静脈還流の減少から心臓への前負荷が減少し,心臓の仕事量が減り心筋の酸素需要が減少する.また,冠動脈を含む比較的太い動脈を拡張し,冠血管抵抗を減少させるとともに側副血行路も拡張するため冠動脈の血流量が増加し,心筋への酸素供給を増加させる.硝酸薬を24 時間以上持続して使用すると耐性を生じ,薬効が減弱する.8~12 時間の休薬により耐性は消失する.
労作性狭心症,冠攣縮性狭心症の発作時および発作予防に,また開心術後などの急性心不全治療に用いられる.
小児では左右短絡性先天性心疾患において,肺体血流比を変えずに心室充満圧を低下させるとされる.貼付型の剤型は小児では血中濃度の上昇がよくないことが知られている.
PDE5 阻害薬との併用は細胞内cGMP の増大を招き,硝酸薬の降圧効果が増強する可能性があることから,併用禁忌である.(慢性心不全の急性増悪期を含む)急性心不全への投与量は,“0.05 ~0.1μg/kg/分で投与を開始し,目的とする血行動態を得るまで血圧,左心室充満圧などの循環動態をモニターしながら5~15 分ごとに0.1~0.2 μg/kg/分ずつ増量し,最適点滴速度で維持する” と添付文書に記載がある.
小児心不全薬物治療ガイドライン643)では,一般的な使用量として1.0 ~20μg/kg/分と記載がある.これらを参考に,投与量を調整する. b.ニトロプルシドナトリウム
ニトロプルシドは短時間作用型の強力な血管拡張薬で,動脈・静脈ともに拡張させる.作用発現は早い.成人の急性心不全においては心拍出量を増加し,心室充満圧を低下させ,心房容積を減少させ,さらに僧帽弁・三尖弁逆流を改善する.成人においてニトロプルシドは大動脈弁644)および僧帽弁閉鎖不全において逆流量を減少させ,充満圧を低下させることが報告されている.
シアン中毒は長期使用の場合,特に肝腎機能低下あるい
図69 心不全の血管拡張薬の種類,特徴,適応*:心不全の適応(-)
強心作用の期待
直後の利尿作用強い動脈拡張心保護作用(内服)
ありなし
集中治療 あるいは 静注使用PDE3 阻害薬・ミルリノン・オルプリノン内服で使用PDE3 阻害薬・カルシウム感受性増強薬・ピモベンダン主として静脈拡張によるうっ血解除動脈と静脈の拡張
・ニトログリセリン・カルペリチド・ニトロプルシド・Ca 拮抗薬・ACE 阻害薬・ARB
心不全の血管拡張薬(血管を拡張させたい状況)
* 低血圧でないこと
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は低心拍出による肝還流の低下している患者に起こりやすく,注意が必要である.保険適用は,手術時の低血圧維持,手術時の異常高血圧の救急処置に限られている.
投与量は,0.5μg/kg/ 分の投与速度で投与を開始し,過度の血圧低下に注意しながら徐々に増量して目的値まで血圧を下げ,以後血圧をモニターしながら投与速度を調節する.通常,手術時の低血圧維持は2.5μg/kg/分以下,手術時の異常高血圧の救急処置2.0μg/kg/分以下の投与速度で目的とする血圧が得られ,それを維持することができる(添付文書).
c.ナトリウム利尿ペプチド製剤:カルペリチド(遺伝
子組み換えhANP) 643)カルペリチドは,利尿効果が期待できる血管拡張薬である.急性心不全(慢性心不全の急性増悪期を含む)に保険適用がある.カルペリチドは血管平滑筋細胞内でカルシウム濃度を低下させ,血管拡張作用を惹起する.また腎動脈拡張作用により腎血流を増加させ,Na や水の再吸収抑制による利尿効果,心肥大の抑制,心筋線維化抑制効果,レニンやアルドステロンの合成抑制作用などの心筋保護作用も有しており,心不全において減負荷効果を発現する.肺動脈楔入圧は低下し心拍出量は増加するが,心拍数は増加しない.カテコラミンなどの強心薬と併用されることが多い.
心不全における血行動態改善効果のほか,成人の慢性心不全における大規模臨床試験では死亡・心不全による再入院を有意に低下させることが報告されている645).投与初期に血圧低下があるため,低用量より開始する.
添付文書上の開始量である0.1μg/kg/分は開始量としては多すぎると考えられる.血行動態を観察しながら0.025~0.05μg/kg/分より開始し,可能なら0.1μg/kg/分まで増量して継続(最大0.2μg/kg/分まで増量可)する. d.カルシウム拮抗薬
おもに動脈拡張を惹起する.生後数ヵ月までの乳児には使用禁忌である.ニフェジピン,ニカルジピンなどのジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は強力な血管拡張作用を有する.心不全に対しては他の薬剤が選択の上位にあがり,カルシウム拮抗薬は心不全でなく高血圧での使用が一般的である(高血圧の項参照).
1.4 心筋保護薬
1.4.1 アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬
小児ではほとんどが心室駆出率の低下した収縮不全である一方,駆出心室は単心室であったり,右室であったりして大規模データがない.したがって,成人領域の大規模
データから有効性を推定することとなる. a.慢性左室収縮不全
慢性左室収縮不全に対するACE 阻害薬の効果はCONSENSUS 試験646),SOLVD 試験647)などでエナラプリルによる予後改善効果が報告され,メタ解析においても有効性が確認された648).理論的には,ACE の抑制のみではキマーゼなどの他の変換酵素をブロックすることはできないため,アンジオテンシンII(AII)産生を抑制することはできず,実際にACE 阻害薬長期投与ではAII 濃度はしばしば治療前のレベルに戻ることが知られている.それゆえ,ACE 阻害薬の慢性心不全予後改善効果は単にレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系の抑制のみでは説明できない.ACE はキニナーゼII でもあり,これを抑制することでブラジキニン系が活性化し,その結果一酸化窒素産生系・プロスタサイクリン(PGI2)産生系が亢進することが作用の一因であるといわれている. b.小児心不全
小児心不全においては,カプトプリルあるいはエナラプリルを投与したデータがほとんどである.国内ではシラザプリルを投与した報告も散見される649, 650).小児においても左室収縮不全649–652)の治療報告が多い.一方,乳児の単心室に対してのエナラプリルは無効であり653),さらに,フォンタン手術後では有害である可能性も示唆されている654).僧帽弁や大動脈弁逆流に起因する左心不全に対しては動物実験で有効性が証明されているが655),ヒトでの有効性については確定していない649, 656).また,ファロー四徴術後の右心不全に対しラミプリルやエナラプリルを投与した報告がある656–658).
さらに,左右短絡性疾患に起因する鬱血性心不全に対しても有効であるが659, 660),血行動態的には体血管抵抗を低下させて肺体血流比を改善するため,肺血管抵抗が相対的に高い症例ではむしろ肺体血流比が増加して心不全が増悪する可能性があり,注意を要する. c.副作用
副作用として,咳に関しては小児では少なく,投与継続で消失することが多い.咳はブラジキニン不活化によるキニン産生増加を意味し,心不全に対して有効であることを意味することから,可能であれば投与を継続するべきであろう.まれではあるが喉頭浮腫の報告があり,注意が必要である.また妊娠中は禁忌である. d.投与方法
投与方法に関しては1 日1 回投与よりも2 回投与の方が血行動態の変化はないものの,心不全予後規定因子の1 つであるノルエピネフリン値が低下することが報告されてい
p.149
る.
1.4.2 AII 受容体拮抗薬
RAA 系を抑制するもう1 つの薬剤はAII 受容体拮抗薬(ARB)である.これはAI 型受容体をブロックすることで
AI 型受容体の作用を抑制するのみならず,間接的にAII型受容体の作用を活性化し,一酸化窒素やブラジキニンを増加させる. a.心不全
心不全に対するARB の有効性に関するエビデンスは, ACE 阻害薬ほどではないが多数の報告がある.ELITE II試験ではARB(ロサルタン)がACE 阻害薬(カプトプリル)と同様に心不全患者の予後を改善することが示され661),また成人のCHARM-Alternative 試験でもARB (カンデサルタン)の心不全患者の死亡率,有害事象を減少させることが示された662).しかし,理論的にはACE 阻害薬よりRAA 系を効率よくブロックするにもかかわらず,心不全に対する効果としてはACE 阻害薬を超えるデータはない.
ACE 阻害薬とARB の併用に関して,Val-HeFT 試験ではACE 阻害薬を含めた標準的な心不全治療にARB(バルサルタン)を追加することで,全死亡率は変わらないが有害事象を減らすことができると示された. 663)CHARM- Added 試験では,ACE 阻害薬治療中の慢性心不全患者にARB(カンデサルタン)を併用した際の死亡率・予後を改善することが示された664) .
メタ解析では右室に対するAII 受容体拮抗薬の有効性が示唆されたが665),ごく最近の報告では,ファロー四徴術後の右心不全に対するロサルタンの投与は無効であった666). b.投与
成人では高血圧に合併した心不全が少なくないこと,および咳嗽というACE 阻害薬の副作用がARB では生じず,忍容性が高いことから,ACE 阻害薬に先んじて投与されることが多い.小児において心不全はむしろ血圧が低い状態であることがほとんどであることから,ACE 阻害薬を優先して投与することが多い.ACE 阻害薬とARB どちらが有効か,あるいはACE 阻害薬の中でどの薬剤がより効果が強いかなど強い関心を持たれているが,いずれも投与量が多いほど効果の強い薬剤であることから結論を導き出すのは容易ではない. 1.5 β遮断薬
1.5.1 安全性・有効性
心不全治療におけるβ遮断薬の安全性・有効性は,成人においてWaagstein ら667)が拡張型心筋症患者で心機能改善効果を報告して以来,複数の大規模臨床試験で慢性心不全における心不全改善・予後改善効果が示されている.成人を対象としたUS Carvedilol 試験でカルベジロール, CIBIS II 試験でビソプロロールフマル酸塩,MERIT-HF試験でメトプロロールコハク酸塩の効果が示され,さらにNYHA IV 度の重症心不全に対してCOPERNICUS 試験で死亡率改善効果,CAPRICORN 試験では症状を有しない左室駆出率低下患者に対する死亡率低下が示された.
1.5.2 薬理作用
β遮断薬のもつ複数の薬理作用(交感神経刺激抑制,心拍数抑制,不整脈抑制など)が心不全改善に有用であると考えられている.カルベジロールはβ受容体遮断作用とともにα受容体遮断作用と抗酸化作用を持つ.これらの薬剤はACE 阻害薬と異なり,心筋リモデリングを抑制するだけでなく逆リモデリング,すなわち左室リモデリングを逆行させ左室を小さくし,収縮性の改善をもたらすという特徴がある.この効果はACE 阻害薬を併用した際に,より効果が大きいことが知られている.
1.5.3 小児心不全
小児と成人では心不全の原因となる心疾患構成が異なり,上記の臨床試験の知見をそのまま小児に当てはめることはできない.小児心不全を対象としたもっとも大きな臨床試験では,β遮断薬の有効性は認められなかった42).しかし,この結果は小児心不全の多様性に起因すると考えられ,サブ解析で「左室を主心室にする症例」では有効である傾向が指摘された.
小児拡張型心筋症を対象とした少数例の臨床試験において,カルベジロールの有効性が示唆された668–670).まだ十分なエビデンスは確立されていないものの671),小児心不全のガイドラインにおいてもβ遮断薬の推奨が記載されている643, 672).小児領域ではカルベジロール,メトプロロールが用いられることが多いが673),海外で使われているメトプロロールコハク酸塩はわが国では販売されておらず,メトプロロール酒石酸塩のみであり,慢性心不全(成人)の保険適用があるのはカルベジロールとビソプロロールである.
p.150
1.5.4 投与
導入はごく少量から開始し,漸増することが望ましい.投与初期は心機能が低下する可能性があり,心機能が非常に悪い場合は入院して導入する.また,導入時の心機能低下にはβ受容体を介さないPDE3阻害薬の併用が望ましい.少量でも有効であるという報告がある一方,忍容性があれば投与量が多い方が有効であるという報告もある.
成人でカルベジロールを用いる場合は,初期用量を2.5 mg/日(分2)とし,重症例では1.25 mg/日とする.以後,
3.75 または5 mg/日→7.5 mg/日→10 mg/日→15 mg/日
→20 mg/日と増量する37).小児の用量として,0.1 mg/ kg/日(分2)から開始し,0.2~0.8(1.0)mg/kg/日(分2)までゆっくり増量(成人の最大量を超えない)との提案644, 673)がある一方,さらに少量(0.02 mg/kg/日 分2)から開始し,0.4 mg/kg/日で維持するとの報告もある674).小児では血中濃度が上昇しにくいという報告もある42).増量に際しては自覚症状,脈拍,血圧,心胸比,および心エコーによる心機能評価などを参考にし,心不全の増悪,過度の低血圧や徐脈の出現に注意する.
気管支喘息患児では原則禁忌であるが,使用する場合はβ1 選択性の高い薬剤を使用する.また心機能を落とすのみならず,心内伝導を抑制する薬剤であるので,伝導障害を併発している際には注意が必要である.
成人ではCIBIS-III 試験においてβ遮断薬とACE 阻害薬はどちらを先に導入しても全死亡,全入院などに変わりがなかったものの,低駆出率群ではβ遮断薬先行群で成績がよかったとされている.小児ではエビデンスはなく,β遮断薬を安全に導入するために,ACE 阻害薬を先に導入し心機能に余力を持たせた状態でβ遮断薬を導入することも考慮される.またVal-HeFT 試験ではACE 阻害薬, β遮断薬投与患者にARB 追加投与をすることで予後を悪化させる可能性が懸念された一方,CHARM-Added では3 剤併用で予後の改善が認められている.小児における3剤併用の効果は不明である.
(小児左室収縮不全に基づく心不全ステージB,C に対するβ遮断薬投与クラスIIa,エビデンスレベルC )
1.6 利尿薬
心不全の基本病態は低心拍出とうっ血であるが,利尿薬はうっ血を解除する目的で使用される薬剤である.うっ血では水・ナトリウム過多の状態であるにもかかわらず循環血液量は減少することから,生体は交感神経,RAA 系,アルギニンバソプレッシン系などを亢進させることで水・ナトリウムの再吸収が促進されるという悪循環に陥る.利
尿薬はこのうっ血を解除し,うっ血にともなうさまざまな症状を改善させることを目的とした心不全治療における中心的な薬物の1 つである644).
心不全におけるうっ血症状に対して投与される薬剤であり,心不全ステージ分類のステージC 以上において投与される.水を保持することで低心拍出を代償している場合もあり,病態をよく把握したうえでうっ血の解除を行う.
急性心不全治療においては,即効性があり強力なループ利尿薬であるフロセミドが使用されることが多い.アルドステロン拮抗薬は,従来ループ利尿薬使用時の低カリウム血症予防として投与されることが多かったが,近年では収縮不全を基盤とした慢性心不全に対する予後改善効果を目的として投与される.サイアザイド系利尿薬は心不全治療においてはループ利尿薬耐性に対して使用されることが多い.バソプレッシンV2 受容体拮抗薬は水利尿を惹起する.
1.6.1 ループ利尿薬
フロセミドに代表される臨床的にもっとも頻用される利尿薬である.アルブミンと強く結合して腎臓に至り,近位尿細管から分泌され,ヘンレの太い上行脚の尿細管腔側に存在するNa-K-2Cl 共輸送体を阻害しナトリウム再吸収を抑制することで利尿効果を惹起する. a.フロセミド
フロセミドはもっとも強力な利尿薬で,静注薬と内服薬が使用可能である.急性心不全治療においては静脈内投与から治療を開始し,内服へ移行することが多い.蛋白結合率が高く,すみやかに腎に到達することから即効性である.
フロセミドは即効性であるため,すみやかにうっ血を解除する.しかしその結果,急激な体液量減少を引きおこすが故に交感神経系およびRAA 系を亢進させる.また,フロセミドが阻害するNa-K-2Cl 共輸送体は緻密斑におけるCl イオンのセンサーであるため,尿細管- 糸球体フィードバックに影響し,体液量非依存性にもRAA 系を亢進させることで水・ナトリウムの再吸収が促進される.フロセミドは作用時間が短いことからこのリバウンドの影響は大きい.
フロセミドはすみやかにうっ血を解除しうる薬剤であるが,上記のように体液量依存性,非依存性に神経体液性因子を活性化する.そのため生命予後に与える影響については否定的で,使用量が多いほど生命予後が悪いと報告されていた675).しかしながら,DOSE 研究では60 日間の経過観察期間ではあるが,高用量群と低用量群で予後に差を認めなかった676).
p.151
i.投与
フロセミドの投与は,適応症例を選んですみやかなうっ血解除と改善後のすみやかな減量・中止が望ましい.長期投与が必要な場合,RAA 系の亢進を防ぐために静注で使用するのであれば持続静注あるいは分割静注,内服で投与するのであれば分割投与あるいは持続時間の長いトラセミド,アゾセミドへの変更が望ましい.RAA 系の抑制薬や塩分制限なども考慮する. ii.副作用
発生率が高い副作用として電解質異常がある.ナトリウム利尿を惹起するという作用機序から低ナトリウム血症をきたすことがあるが,心不全における低ナトリウム血症はかならずしもナトリウム量の不足を意味しないため,低ナトリウム血症におけるナトリウム投与に関しては慎重な判断が必要である.Na-K-2Cl 共輸送体阻害および二次性アルドステロン症のため,低ナトリウムのみならず低カリウム血症をきたすことがあり,カリウム投与あるいは後述するアルドステロン拮抗薬が併用されることがある.
二次性アルドステロン症では水素イオンの尿中排泄が亢進し,アルカローシスを引き起こす.Na-K-2Cl 共輸送体経由で尿細管細胞へ移動したカリウムはカルシウム・マグネシウムの再吸収に関連するが,この機序の破綻から低カルシウム血症・低マグネシウム血症を引き起こす.聴力障害,腎障害にも留意するが,特に抗生剤との併用時には注意が必要である. iii.用量
成人用量:内服40 ~80 mg/日,静注20 mg小児用量:内服0.5 ~4 mg/kg/日,静注1 ~2 mg/kg,持続静注0.05~0.1 mg/kg/時で開始,0.3 mg/kg/時まで. b.アゾセミド
フロセミドは即効性のある薬剤であるが,作用時間が短いため(成人40 mg 内服でtmax 1 ~2 時間,t1/2 0.35 時間),前述したようなリバウンドが生じ,1 日1 回投与では1 日尿量は変わらないという報告さえある677).アゾセミドは作用時間の長いループ利尿薬であり(成人60 mg 内服でtmax 3.3 ± 0.5 時間,t1/2 2.6 ± 0.2 時間),慢性期に利尿薬が必要な場合に都合のよい利尿薬である.生命予後に関してフロセミドより優位であるという報告がある678). i.用量
成人用量:60 mg/日,1 日1 回,経口小児用量:小児に対する投与量の参考となるデータに乏しい.成人ではアゾセミド30 mg がフロセミド20 mg に換算される. c.トラセミド
トラセミドも作用時間が長いループ利尿薬である(成人5 mg 内服でtmax 0.8 ± 0.3 時間,t1/2 2.4 ± 0.6 時間).アゾ
セミドと同様慢性期に使用する.また抗アルドステロン効果もあり,低カリウム血症をきたしにくい,予後改善効果が期待できるなどの特徴がある679). i.用量
成人用量:4 ~8 mg/日,1 日1 回,経口小児用量:小児に対する投与量の参考となるデータに乏しい.成人ではトラセミド4 mg がフロセミド20 mg に換算される.
1.6.2 アルドステロン拮抗薬
アルドステロン拮抗薬は集合管のミネラルコルチコイド受容体を抑制しナトリウム再吸収,カリウム分泌を阻害する.利尿効果は弱く,従来はループ利尿薬による低カリウム血症予防の目的で併用されていたが,今日では収縮不全における予後改善効果が報告され680),慢性心不全に対して積極的な投与が推奨されている681).
わが国ではスピロノラクトンとエプレレノンが使用可能である.うっ血性心不全に適応があるのは前者のみだが,後者も慢性心不全における予後改善効果が報告されている682).スピロノラクトンはミネラルコルチコイド受容体のみならず,アンドロゲン受容体,プロゲステロン受容体に対する親和性も高いため,用量依存性に女性化乳房,乳房痛,月経異常などの内分泌系副作用が出現しやすい.エプレレノンはミネラルコルチコイド受容体に対する親和性が高いため内分泌系副作用は少ない.スピロノラクトンの静注薬としてカンレノ酸カリウムも使用可能である. a.スピロノラクトン
成人用量:内服50 ~100 mg/日,分割投与小児用量:内服1 ~4 mg/kg/日,分1 ~4 b.エプレレノン
成人用量:内服:50 ~100 mg/日,1 日1 回小児用量:小児に対する投与量の参考となるデータに乏しい
1.6.3 サイアザイド系利尿薬
遠位尿細管のナトリウム- クロール共輸送体を阻害し,ナトリウム利尿を惹起する.小児では多くの場合,ループ利尿薬耐性に対して投与される.すなわちループ利尿薬の長期投与では,遠位尿細管におけるナトリウム再吸収が亢進するため利尿効果が減弱するが,サイアザイドを併用することにより遠位尿細管でのナトリウム排泄が増加し,利尿効果を増大することができる. a.ヒドロクロロチアジド
成人用量:内服25 ~100 mg/回,1 日1 ~2 回
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小児用量:内服2 ~3.5 mg/kg/日,分2 b.トリクロルメチアジド
成人用量:内服2 ~8 mg/日,分1 ~2小児用量:内服0.05 ~1.6 mg/kg/日,分1 ~2
1.6.4 バソプレッシンV2 受容体拮抗薬
わが国では,バソプレッシンV2 受容体拮抗薬トルバプタンが成人における心不全に対して投与が認められている.トルバプタンは集合管におけるV2 受容体を阻害し,水の血管内への移動を抑制することで水利尿を惹起する.
心不全においては有効循環血液量減少のため,浸透圧とはかならずしも関係せずにバソプレッシンが分泌され,低ナトリウム血症に陥りやすい.さらに,前述の利尿薬投与で低ナトリウム血症は増悪しやすい.低ナトリウム血症は心不全患者において全死亡・心血管死亡と強い相関がある683, 684).しかし,うっ血性心不全における低ナトリウム血症の多くは相対的な水過多に基づいており,多くの病態ではナトリウムも過多である.そのため,ナトリウム投与は悪循環を促進する可能性がありためらわれる.
バソプレッシンV2 受容体拮抗薬は水利尿を惹起し,低ナトリウム血症を改善する685).水利尿を引き起こすため高ナトリウム血症を引き起こす可能性があり,少量から開始し特に投与開始にあたっては頻回の血清電解質の確認が望ましい.
日本循環器学会・日本心不全学会から「バソプレッシンV2 受容体拮抗薬の適正使用に関するステートメント」により注意喚起がなされている.小児における投与データは少ない686). a.用量
成人用量:内服15 mg/日,分1小児用量:内服0.3~0.5 mg/kg/日,分1 半量程度から開始する.
2 虚血治療
2.1 小児における虚血治療
2.1.1 心筋虚血の病態
心筋虚血は,心筋の酸素需要に対して供給が不足した状態である.心筋の酸素需要を規定する因子には,心筋重量,心仕事量,心筋収縮性などがあげられる687).心仕事量は,収縮期血圧と心拍数の積で求められる二重積が指標とな
り,臨床的に重要である688).血圧や心拍数の上昇する労作は,酸素需要の増大につながる.一方,心筋酸素供給は,冠血流量と血液の酸素運搬能で決定される.冠血流低下のおもな原因には,動脈硬化による器質的な冠動脈狭窄と機能的冠攣縮が存在する.心筋虚血の治療は,供給の不足と需要の増大,双方の是正を図る必要がある.
2.1.2 虚血性心疾患の分類
虚血性心疾患の代表は,狭心症と心筋梗塞である.狭心症は,病態,発症様式,臨床経過などで分類される.病態として,器質的冠動脈狭窄による狭心症,冠攣縮性狭心症が重要である.発症様式は,労作性狭心症,安静狭心症,労作性兼安静狭心症がある.臨床経過からは,安定狭心症と不安定狭心症に分類される.急性冠症候群(ACS)は,冠動脈粥腫の破綻とそれに引き続く血栓形成により生じる,心筋の急性虚血を示す症候群である689).不安定狭心症は,急性心筋梗塞とともにACS に含まれる.
2.1.3 小児の虚血性心疾患の特徴
小児期の虚血性心疾患はまれであるが,原因は多彩である.成人と異なり,生活習慣病を基盤とした冠動脈硬化はほとんど認められない.先天性疾患に関連する虚血性心疾患には,左冠動脈肺動脈起始などの先天性冠動脈疾患690)や,先天性心疾患術後の冠動脈狭窄があげられる.肥大型心筋症は,微小血管障害から心筋虚血を示す.先天性冠動脈疾患や肥大型心筋症は,若年アスリートの心臓突然死の原因としてきわめて重要である691).小児の後天性虚血性心疾患には,川崎病後の冠動脈障害が多い.また,家族性高コレステロール血症のホモ接合例は,小児期より粥状動脈硬化が進行する.心移植後の冠動脈硬化症は,予後規定因子の1 つとして重要である.
2.1.4 虚血性心疾患の治療薬
安定した虚血性心疾患の治療の目的は,狭心症状の緩和による“ 生活の質” の改善と,ACS への進展予防および生命予後の改善にある.症状の緩和を目的とする抗狭心症薬には,カルシウム拮抗薬,β遮断薬,硝酸薬,ニコランジルがある.使用する薬剤の選択は,狭心症の病態,併存疾患および薬剤の副作用を考慮して行う.虚血性心疾患の予後改善には,高血圧,脂質異常,糖尿病,喫煙などの冠危険因子の予防と管理がきわめて重要となる692, 693). a.器質的冠動脈狭窄による狭心症
安定した器質的冠動脈狭窄による狭心症の第一選択薬はβ遮断薬である694, 695).β遮断薬は,β受容体遮断により
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労作時の心拍数,心筋収縮力,血圧を低下させる.心筋酸素需要の低下と拡張期時間延長による冠血流量の増加は,抗狭心症作用をもたらす.硝酸薬も労作性狭心症に用いられる.硝酸薬は強力な末梢血管拡張作用を有し,特に静脈拡張による前負荷軽減により心筋酸素需要を低下させる.また冠拡張作用により冠血流も増加させる. b.冠攣縮性狭心症
冠攣縮は,心臓の表面を走行する比較的太い冠動脈の一過性過収縮と定義される696).冠攣縮による心筋虚血は,冠攣縮性狭心症を生じる.この機序として,冠動脈平滑筋の過収縮と血管内皮機能障害があげられる.カルシウム拮抗薬は,細胞内Ca 流入を減少させ,血管平滑筋の過収縮を抑制する作用があるため,冠攣縮性狭心症の第一選択薬である.長時間作用型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は,冠攣縮性狭心症患者の症状および予後改善効果を有する.血管内皮機能障害の進展予防には,冠危険因子の是正と,喫煙,アルコール,寒冷,精神的ストレスなどの誘因の除去が重要である694). c.川崎病冠動脈後遺症i.川崎病冠動脈障害
川崎病冠動脈障害は,大量ガンマグロブリン療法により,急性期,後遺症とも著しく減少している697).しかし小児期に狭心症,ACS を生じる原因としてきわめて重要である.川崎病冠動脈後遺症は,第30 病日以降の時点で確認された画像診断上の冠動脈異常と定義される698).成人の冠動脈硬化と異なり,川崎病の冠動脈病変は,動脈瘤の形成,動脈瘤前後の狭窄,動脈瘤の血栓閉塞と再開通像などを特徴とし,線維性肥厚や硝子化,石灰化が著明である.また退縮例にも冠動脈狭窄や血管内皮機能障害が認められる699). ii.川崎病の心筋梗塞死亡
川崎病の心筋梗塞,死亡は冠動脈瘤,特に8 mm 以上の巨大瘤,合併例に生じることが多い.心筋梗塞は,川崎病罹患後1 年以内の発症が多い.また年長児や成人でも狭心症,ACS を発症する.したがって,川崎病冠動脈後遺症は,生涯にわたる虚血性心疾患のリスクを有する. iii.川崎病虚血性心疾患
川崎病虚血性心疾患の適切な薬物療法に関する大規模な研究は少ないが,日本循環器学会,米国心臓協会(AHA)より川崎病の遠隔期診療ガイドラインが策定されている699, 700) .アスピリンなどの抗血小板薬は,川崎病冠動脈後遺症の虚血性イベント抑制目的に使用される.中等度以上の冠動脈瘤や心筋梗塞合併例では,ワルファリンによる抗凝固療法を併用する.
川崎病の狭心症は,器質化血栓による狭窄,内膜機能障害による冠攣縮が関与し,労作時,安静時ともに生じうる.
抗狭心症薬の選択も,基本的には成人領域の狭心症治療を参考とし,カルシウム拮抗薬,β遮断薬,硝酸薬が用いられる699).
2.2 小児における虚血治療薬
2.2.1 カルシウム拮抗薬
a.適応
カルシウム拮抗薬は,血管平滑筋や心筋の膜電位依存性L 型Ca チャネルからのCa イオンの流入を抑制する701).カルシウム拮抗薬は,チャネル結合部位からジヒドロピリジン系,非ジヒドロピリジン系(ベンゾジアゼピン系,フェニルアルキルアミン系)に分類される.おもな抗狭心症効果は,冠動脈拡張による血流増加,冠攣縮の予防,末梢血管抵抗および血圧低下にともなう心筋酸素需要の低下によりもたらされる.特に冠攣縮性狭心症に対する効果が高く,治療の第一選択薬である696).
また,β遮断薬を使用しにくい呼吸器疾患(喘息・慢性閉塞性肺疾患)合併例もカルシウム拮抗薬が選択される.加えて,非ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬は,洞結節や心筋収縮の抑制により,抗狭心症効果を示す.代表的な薬剤にジルチアゼム,ベラパミルがある.非ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬は,上室性頻拍を有する患者によい適応となるが,うっ血性心不全や徐脈合併例,徐脈をきたす薬剤使用例(β遮断薬,ジゴキシン,アミオダロンなど)への併用は慎重に行う.短時間作用型カルシウム拮抗薬は,反射性頻脈や急激な血圧変動をきたす場合があり,長時間作用型カルシウム拮抗薬を使用することが多い.
川崎病の狭心症治療にもカルシウム拮抗薬が使用される.明らかなエビデンスは存在しないが,冠血流の増加と血圧・心拍数低下による心筋酸素需要の減少は,小児期の狭心症治療においても有効と考えられる.加えて,川崎病の狭心症・ACS の病態に冠攣縮の関与も想定されており702, 703),カルシウム拮抗薬がより有効である可能性がある.新生児,乳児はカルシウム拮抗薬への感受性が高く,徐脈や心停止などを生じる恐れがあるため禁忌である704).小児の適応はない(クラスIIb,小児でのエビデンスはない) (表53).
b.用量
成人の使用量を記載する.小児薬用量は成人量より体重換算にて求め使用する. • 短時間作用型カルシウム拮抗薬
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・ ニフェジピン:1 回10 mg を1 日3 回,症状に応じ適
宜増減・ ジルチアゼム塩酸塩:1 回30 mg を1 日3 回,効果不
十分は1 回60 mg を1 日3 回・ ベラパミル塩酸塩:1 回40 ~80 mg を1 日3 回,年
齢,症状により適宜増減• 長時間作用型カルシウム拮抗薬
・ ニフェジピン徐放錠:1 回20 mg を1 日2 回,症状に
応じ適宜増減・ 持続性ニフェジピン:1 回40 mg を1 日1 回,症状に
応じ適宜増減・ アムロジピンベシル塩酸塩:1 回5 mg を1 日1 回
・ エホニジピン塩酸塩エタノール付加物:1 回40 mg を
1 日1 回,症状に応じ適宜増減・ ニソルジピン:1 回10 mg を1 日1 回,症状に応じ適
宜増減・ ベニジピン:1 回4 mg を1 日2 回,朝夕.年齢,症
状で適宜増減c.禁忌
妊娠またはその可能性がある場合,本剤に薬剤過敏の既往がある場合,心原性ショック,重篤なうっ血性心不全,急性心筋梗塞,重度の肝腎機能障害などが禁忌である.非
表53 狭心症に適応のあるCa 拮抗薬(小児での狭心症適応はない)
分類薬剤名適応成人薬用量小児適応一般的な小児用法用量ジヒドロピリジン系Ca 拮抗薬ニフェジピン1 本態性高血圧症2 腎性高血圧症3 狭心症1~3 1 回10 mg,1 日3 回,症状に応じ適宜増減11~2 mg/kg/ 日,分3~4
ニフェジピン徐放剤1 本態性高血圧症2 腎性高血圧症3 狭心症3 1 回20 mg,1 日2 回,
症状に応じ適宜増減11~2 mg/kg/ 日, 分1
持続性ニフェジピン1 本態性高血圧症2 腎性高血圧症3 腎血管性高血圧症4 狭心症,異型狭心症4 1 回40 mg 1 日1 回,
最大1日1回60 mg成人量を参考として,体重換算にて使用する
アムロジピンベシル塩酸塩1 高血圧症2 狭心症2 1 回5 mg,1 日1 回投
与高血圧のみ適応1 6 歳以上,アムロジピンと
して2.5 mg を1 日1 回経口投与,年齢,体重,症状で適宜増減する(小児への投与は5 mg を超えない)
エホニジピン塩酸塩エタノール付加物1 高血圧症2 腎実質性高血圧症3 狭心症3 1 回40 mg,1 日1 回投
与.症状に応じ適宜増減成人量を参考として,体重換算にて使用する
ニソルジピン1 高血圧症2 腎実質性高血圧症3 腎血管性高血圧症4 狭心症,異型狭心症4 1 回10 mg,1 日1 回,
症状に応じ適宜増減成人量を参考として,体重換算にて使用する
ベニジピン1 高血圧症2 腎実質性高血圧症3 狭心症3 1 回4 mg,1 日2 回,
朝夕.年齢,症状で適宜増減成人量を参考として,体重換算にて使用する
ベンゾジアゼピン系Ca 拮抗薬ジルチアゼム塩酸塩1 本態性高血圧症2 狭心症,異型狭心症2 1 回30 mg,1 日3 回投
与,効果不十分は1 回60 mg,1 日3 回まで増量可,徐放カプセルは1日1 回100 mg,200 mg まで増量可1.5 mg/kg/ 日
フェニルアルキルアミン系Ca拮抗薬ベラパミル塩酸塩1 頻脈性不整脈 (心房
細動,心房粗動,発作性上室性頻拍) 2 狭心症,心筋梗塞
(急性期を除く),その他の虚血性心疾患2 1 回40~80 mg,1 日3
回投与.年齢,症状により適宜増減頻脈性不整脈のみ適応1 1 日3~6 mg/kg(ただし,
1 日240 mg を超えない)を,1 日3 回に分服
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ベンゾジアゼピン系は,洞不全症候群,2 度以上の房室ブロックも禁忌となる. d.副作用(有害事象)
めまい,ほてり,ふらつき,動悸,顔面紅潮,頭痛,末梢性浮腫などの循環器症状,悪心・嘔吐,便秘などの消化器症状が認められる. e.使用上の注意事項
投与を急に中止したときに症状が悪化することがあり,休薬する場合には徐々に減量する.降圧作用に基づくめまいが出現することがあるので,高所での作業,自動車運転など危険をともなう機械を操作する際には注意させる.新生児・乳児に対する使用は一般的に禁忌である.グレープフルーツジュースは,カルシウム拮抗薬の作用を増強させる可能性があり,注意を要する.
2.2.2 硝酸薬
a.適応
硝酸薬は,カルシウム拮抗薬,β遮断薬とともに狭心症治療の代表的薬剤である.速効性硝酸薬は狭心症発作寛解に,持続性製剤は発作予防に用いられる.ただしβ遮断薬と異なり,ACS への進展予防効果は認められない.硝酸薬のおもな抗狭心作用は,静脈拡張により静脈還流および心室容積の減少である705).前負荷の軽減は,心筋酸素需要の低下をもたらす.また冠血流の増加や,高用量で弱いながら動脈拡張による血圧低下も認められる.硝酸薬は,一酸化窒素(NO)を産生し,グアニル酸シクラーゼの活性化を介し細胞内サイクリックGMP を増加させる705).結果として,細胞内Ca イオン濃度が減少し,血管拡張作用を発揮する.
硝酸薬は,器質的冠動脈狭窄あるいは冠攣縮,いずれの狭心症の発作時および発作予防に有効である.代表的な薬剤としてニトログリセリン,硝酸イソソルビド,一硝酸イソソルビドがある.剤型には,注射剤,舌下錠,舌下スプレー,内服錠,貼布剤があり,狭心症発作の寛解,予防の目的により使い分ける.硝酸薬は,持続投与時による作用の減弱が認められ,耐薬性として知られる.休薬期間を設けるなど,投与方法の工夫が推奨される706).また頭痛の発生率が比較的高く,忍容性の低下につながる.
ニトログリセリン注射薬以外に小児の適応はない(クラスIIb,小児でのエビデンスはない)(表54). b.用量
成人の使用量を記載する.小児薬用量は成人量より体重換算にて求め使用する. i.狭心症発作時・ スプレー製剤は噴霧量の調整が困難で,小児には不向きである.
・ 1 回の狭心症発作に3 回まで投与しても効果があらわれ
ない場合や,発作が15 ~20 分以上持続する場合には心筋梗塞の可能性があり,医療機関に連絡することが重要である.・ ニトログリセリン:1 錠舌下投与または1 噴霧.数分間
で効果がない場合には,再度投与する(成人例).小児では体格に合わせ1/2 ないしは1/3 錠の舌下投与を行う.・ 硝酸イソソルビド:1 錠舌下投与または1 噴霧.数分間
で効果がない場合には,再投与を行う(成人例).小児では体格に合わせ1/2 ないしは1/3 錠の舌下投与を行う. ii.狭心症発作予防・ 長時間作用型硝酸薬が有効である.継続使用により耐薬
性を生じることがあるので,休薬時間を設定するなど,投与法を工夫する.・ ニトログリセリン貼付剤:1 回1 枚,1 日1 あるいは2 回(種類により異なる).・ 硝酸イソソルビド錠:1 回5~10 mg を1 日3~4 回投
与・ 硝酸イソソルビド徐放剤(カプセル・錠):1 日20 mg を
1 日2 回経口投与・ 硝酸イソソルビド貼付剤:1 回1 枚,24~48 時間ごと・ 一硝酸イソソルビド錠:1 回20 mg を1 日2 回c.禁忌
重篤な低血圧症または心原性ショック例,閉塞隅角緑内障例,頭部外傷または脳出血例,高度の貧血例,硝酸・亜硝酸エステル系薬剤に過敏症の既往例,PDE5 阻害薬およびグアニル酸シクラーゼ阻害薬を投与中例などへの使用は禁忌となる. d.副作用
頭痛・頭重感,熱感・潮紅・めまい・血圧低下・動悸・失神,胃部不快感など.スプレー製剤は口腔内・舌の刺激症状,貼布剤は接触性皮膚炎などの局所副作用を認める. e.使用上の注意事項
急に投薬を中止することにより症状の悪化が危惧されるため,徐々に投与量を減じる.過度の血圧低下が起こった場合には,ただちに本剤の投与を中止し,昇圧剤の投与など,必要な処置を行う.起立性低血圧を起こすことがあるので注意する必要がある.頭痛などの副作用による注意力・集中力・反射運動能力の低下が起こることがあるため,自動車の運転などの危険をともなう機械の操作に従事させないように注意する.
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2.2.3 β遮断薬
a.適応
β遮断薬は,器質的冠動脈狭窄による安定した労作性狭心症の第一選択薬である694, 695).βアドレナリン受容体の拮抗により,心拍数,運動時の血圧上昇,心筋収縮力を低下し,心筋酸素需要を減少させることで,抗狭心症作用を示す.また拡張期の延長は,冠血流の増加にも寄与する.
β遮断薬は,心臓選択性(β1),内因性交感神経刺激作用(ISA)の有無,脂溶性/ 水溶性,α受容体遮断作用有無などで細分類される.ISA のないカルベジロール,ビソ
プロロールは,左室駆出率の低下した心不全の予後を改善した707, 708).またβ遮断薬は,心筋梗塞後の死亡も減少させる692).したがってβ遮断薬は,心機能低下,心筋梗塞合併,頻脈を有する安定した狭心症によい適応となる.
一方,冠攣縮狭心症では,血管拡張作用の阻害(β2 遮断)や相対的α1 受容体活性化により,β遮断薬は病態を悪化させる恐れがある.器質的狭窄が併存する冠攣縮狭心症で,β遮断薬を使用する際には長時間作用型カルシウム拮抗薬の併用が推奨される696).非β1 選択性のβ遮断薬では
表54 狭心症の適応がある硝酸薬とニコランジル
分類薬剤名適応成人薬用量小児適応一般的な小児用法用量小児適応
硝酸薬ニトログリセリン舌下錠1 狭心症2 心筋梗塞3 心臓喘息4 アカラジアの一時的
緩解1 0.3~0.6 mg(本剤1
~2 錠)を舌下投与.数分間で効果がない場合には,0.3~0.6 mg (本剤1~2 錠)を追加投与成人量を参考として,体重換算にて使用する. 1/3~1/2 錠(小児以上) B
ニトログリセリン舌下スプレー1 狭心症発作の寛解1 1 回1 噴霧(ニトログ
リセリンとして0.3 mg)を舌下に投与する.効果不十分の場合は1 噴霧を追加投与成人量を参考として,体重換算にて使用するB
ニトログリセリン貼付剤1 狭心症2 急性心不全(慢性心
不全の急性増悪期を含む)製剤により2適応あり1 回1 枚,1 日1 回あるいは2 回(製剤により異なる),効果不十分の場合,1 日2 回成人量を参考として,体重換算にて使用するB
ニトログリセリン注射液1手術時の低血圧維持2手術時の異常高血の
救急処置3急性心不全(慢性心不全の急性増悪期を含む) 4不安定狭心症4 0.1~0.2 μg/kg/分で
開始.発作の経過および血圧をモニターし約5 分ごとに0.1~0.2 μg/kg/分ずつ増量し, 1~2 μg/kg/分で維持.効果がない場合, 20~40 μg/kg の静注(1~3 分かけ)を1 時間ごとに併用する小児薬用量記載あり1~5μg/kg/ 分(最大10 μg/kg/ 分) A
硝酸イソソルビド口腔内スプレー1 狭心症発作の寛解1 回1 噴霧(硝酸イソソルビドとして1.25 mg)を口腔内に投与.効果不十分の場合には,1 回1噴霧にかぎり追加成人量を参考として,体重換算にて使用するB
硝酸イソソルビドテープ剤1 狭心症2 心筋梗塞(急性期を
除く) 3 その他の虚血性心疾
患1 回1 枚(硝酸イソソルビドとして40 mg)を胸部,上腹部または背部のいずれかに貼付.貼付後24 時間または48 時間ごとに貼りかえる.症状により適宜増減する成人量を参考として,体重換算にて使用する. 1/4~1 枚/ 回,1 日1~ 2 回(40 mg/1 枚) B
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心臓外の副作用について注意する.これには気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患,低血糖,閉塞性動脈硬化症などがある.
小児の適応はない(クラスIIb,小児でのエビデンスはない)(表55). b.用量
比較的,小児循環器領域で用いられることが多い薬剤について,成人の狭心症,使用量を記載する.小児薬用量は,成人量より体重換算にて求め使用する.あるいは他の小児適応のある疾患の薬用量を参考にする.・ プロプラノロール塩酸塩:1 回10 mg,1 日3 回より経口
投与を開始,効果が不十分な場合は60 mg,90 mg と漸増する.・ カルテオロール塩酸塩:1 日10~15 mg を1 日2~3 回
に分割経口投与で開始.効果が不十分な場合には30 mgまで漸増する.・ カルベジロール:1 回20 mg を1 日1 回経口投与する.
年齢,症状により適宜増減.・ ビソプロロールフマル酸塩:5 mg を1 日1 回経口投与
する.年齢,症状により適宜増減.
表54 狭心症の適応がある硝酸薬とニコランジル(つづき)
分類薬剤名適応成人薬用量小児適応一般的な小児用法用量小児適応
硝酸薬(つづき)硝酸イソソルビド錠1 狭心症2 心筋梗塞(急性期を
除く) 3 その他の虚血性心疾
患1 1 回1~2 錠(硝酸イ
ソソルビドとして1 回5~10 mg)を1 日3 ~4 回経口投与,発作時には,1 回1~2 錠を舌下投与.年齢,症状により適宜増減成人量を参考として,体重換算にて使用する,0.5 ~1.0 mg/kg/日,分4 B
硝酸イソソルビド長時間作用型・徐放錠1 狭心症2 心筋梗塞(急性期を
除く) 3 その他の虚血性心疾
患1 1 回1 カプセルあるい
は1 錠(硝酸イソソルビドとして20 mg)を1 日2 回成人量を参考として,体重換算にて使用する. B
硝酸イソソルビド注射剤1 急性心不全2 不安定狭心症3 冠動脈造影時の冠攣
縮寛解2 原液あるいは希釈し,
硝酸イソソルビドとして2~5 mg/時を点滴静注する.病態に応じて適宜増減成人量を参考として,体重換算にて使用するB
一硝酸イソソルビド錠1 狭心症一硝酸イソソルビドとして1 回20 mg1 日2 回,効果不十分:1 回40 mg 1 日2 回まで増量可能,重症の労作狭心症または労作兼安静狭心症:1 回40 mg,1 日2 回成人量を参考として,体重換算にて使用するB
ニコランジルニコランジル錠1 狭心症1 日量15 mg を3 回に分割経口投与する.なお,症状により適宜増減成人量を参考として,体重換算にて使用するB
ニコランジル注射剤1 不安定狭心症2 急性心不全治療薬1 1 時間あたり2 mg の
点滴静注から投与を開始する.投与量は患者の病態に応じて適宜増減するが,最高用量は1 時間あたり6 mg まで成人量を参考として,体重換算にて使用するB
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表55 狭心症の適応があるβ遮断薬 (小児の狭心症適応はない)
分類薬剤名適応成人薬用量小児適応一般的な小児用法用量β遮断薬プロプラノール塩酸塩錠1 本態性高血圧症(軽
症~中等症) 2 狭心症3褐色細胞腫手術時4期外収縮(上室性,心室性),発作性頻拍,頻拍性心房細動(徐脈効果),洞性頻脈,新鮮心房細動,発作性心房細動の予防5片頭痛発作の発症抑制6 右心室流出路狭窄に
よる低酸素発作の発症抑制2 1 日30 mg より投与を
はじめ,効果が不十分な場合は60 mg,90 mg と漸増し,1 日3 回に分割経口投与する.年齢,症状により適宜増減する
4,6に適応あり成人量を参考として,体重換算にて使用する. 4小児には1 日0.5~2 mg/
kg を1 日3~4 回,低用量から開始.年齢,症状により適宜増減.効果不十分な場合には1 日4 mg/kg まで増量(1 日投与量として90 mg を超えない). 6 乳幼児には1 日0.5~2
mg/kg を1 日3~4 回,低用量から開始.年齢,症状により適宜増減.効果不十分な場合には1 日4 mg/kgまで増量
プロプラノロール塩酸塩徐放カプセル1本態性高血圧症(軽症
~中等症) 2狭心症2 1 日1 回1 カプセル(プ
ロプラノロール塩酸塩として60 mg)を経口投与成人量を参考として,体重換算にて使用する
プロプラノロール塩酸塩注射剤1狭心症2期外収縮(上室性,心
室性),発作性頻拍(上室性,心室性),頻拍性心房細動(徐脈効果),麻酔にともなう不整脈,新鮮心房細動,洞性頻脈3褐色細胞腫手術時1 回2~10 mg を,麻酔時には1~5 mg を徐々に静脈内注射なお,年齢,症状により適宜増減成人量を参考として,体重換算にて使用する
ニプラジロール1本態性高血圧症(軽症
~中等症) 2狭心症12 1 日6~12 mg を1 日2 回. 年齢,症状により適宜増減, 最高用量は1 日18 mg成人量を参考として,体重換算にて使用する
ナドロール1本態性高血圧症(軽症
~中等症) 2狭心症3頻脈性不整脈通常成人に1 回30~60 mg を1 日1 回経口投与する.年齢,症状により適宜増減成人量を参考として,体重換算にて使用する
カルテオロール塩酸塩錠,細粒,小児用細粒1心臓神経症(錠,細
粒) 2不整脈(錠,細粒) 3狭心症(錠,細粒) 4本態性高血圧症(軽症~中等症)(錠剤) 5ファロー四徴症にともなうチアノーゼ発作(小児用細粒のみ) 1~4 1 日10~15 mg より投与をはじめ,効果が不十分な場合には30 mg まで漸増し,1 日2~3 回に分割経口投与.年齢・症状に応じ適宜増減する5のみ低出生体重児および新生児を除いた小児適応あり5 乳幼児には1 日量として体
重1 kg 当たり0.1~0.15 g (カルテオロール塩酸塩として0.2~0.3 mg)を,朝・夕の2 回に分割経口投与する.なお,症状に応じて適宜増減
ピンドロール1本態性高血圧症(軽症
~中等症) 2狭心症3洞性頻脈2 1 回5 mg を1 日3 回投
与する.効果が不十分な場合は1 日量30 mg まで増量する.年齢・症状に応じ適宜増減する成人量を参考として,体重換算にて使用する
アテノロール1本態性高血圧症(軽症
~中等症) 2狭心症3頻脈性不整脈(洞性頻
脈,期外収縮) 1 回50 mg を1 日1 回投与する.年齢・症状に応じ適宜増減できるが,最高量は1 日量100 mg まで成人量を参考として,体重換算にて使用する
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表55 狭心症の適応があるβ遮断薬(小児の狭心症適応はない)(つづき)
分類薬剤名適応成人薬用量小児適応一般的な小児用法用量β遮断薬(つづき)ビソプロロールフマル酸塩規格により適応症が異なる1本態性高血圧症(軽症
~中等症) 2狭心症3心室性期外収縮次の状態で,ACE 阻害薬/ARB,利尿薬,ジギタリス製剤などの基礎治療を受けている患者4虚血性心疾患または拡張型心筋症に基づく慢性心不全5頻脈性心房細動2 5 mg を1 日1 回経口投
与する.年齢,症状により適宜増減する成人量を参考として,体重換算にて使用する.小児心不全に対する投与量の参考となるデータに乏しい.抗不整脈薬としての投与量は0.08~0.1 mg/kg/ 回 1 日1 回
メトプロロール酒石酸塩1 本態性高血圧症(軽
症~中等症) 2 狭心症3 頻脈性不整脈2 1 日60~120 mg を1 日
2~3 回に分割経口投与する.なお,年齢,症状により適宜増減する成人量を参考として,体重換算にて使用する.1 日1~2 mg/kg,2~3 回に分服
ベタキソロール塩酸塩1本態性高血圧症(軽症
~中等症) 2腎実質性高血圧症3狭心症310 mg を1 日1 回経口
投与.年齢,症状により適宜増減できるが,最高用量は1 日1 回20 mgまで成人量を参考として,体重換算にて使用する
セリプロロール塩酸塩1本態性高血圧症(軽症~中等症) 2腎実質性高血圧症3狭心症31 日1 回200 mg を食後経口投与.年齢,症状により適宜増減するが,1 日最高用量は400 mg まで成人量を参考として,体重換算にて使用するアセブトロール塩酸塩1 本態性高血圧症(軽
症~中等症) 2 狭心症3 頻脈性不整脈(洞性
頻脈,期外収縮,発作性上室性頻拍,新鮮心房細動,除細動後の洞調律の維持) 2 1 日300~600 mg を3
回に分けて食後に経口投与する.なお,年齢・症状により適宜増減する成人量を参考として,体重換算にて使用する
αβ遮断薬アロチノロール塩酸塩1 本態性高血圧症(軽
症~中等症) 2 狭心症3 頻脈性不整脈4 本態性振戦1 日20 mg を2 回に分けて経口投与.年齢・症状などにより適宜増減.効果不十分な場合は,1 日30 mg まで増量可能成人量を参考として,体重換算にて使用する
カルベジロール規格により適応症が異なる1 本態性高血圧症(軽
症~中等症) 2 腎実質性高血圧症3 狭心症次の状態で,ACE 阻害薬/ARB,利尿薬,ジギタリス製剤などの基礎治療を受けている患者3 成人1 回20 mg を1 日
1 回経口投与する.年齢,症状により適宜増減成人量を参考として,体重換算にて使用する.0.05 mg/ kg/回 1 日2 回から開始し, 0.1 ~0.4(0.5)mg/kg/ 回, 1 日2 回までゆっくり増量.成人の最大量を超えないことが原則であるが,欧米での成人目標量は25~50 mg/ 回 1日2 回である
p.160
・ メトプロロール酒石酸塩:1 日60~120 mg を1 日2 ~
3 回に分割経口投与.年齢,症状により適宜増減する. c.禁忌
気管支喘息・気管支痙攣例,糖尿病性ケトアシドーシス・代謝性アシドーシスがある例,心原性ショック例,高度の徐脈,非代償性の心不全例,強心薬または血管拡張薬を静脈内に投与する必要のある心不全例,肺高血圧による右心不全例,うっ血性心不全例,妊娠またはその可能性がある場合,β遮断薬に対する薬剤過敏の既往例には使用禁忌となる. d.副作用
徐脈,めまい・ふらつきなどの循環器症状.その他,倦怠感,悪心・嘔吐,頭痛,肝機能障害など. e.使用上の注意事項
長期投与の場合には定期的に心機能のチェックを行う.本剤使用中の狭心症の患者で急に投薬を中止した際に心筋梗塞を起こすことがあるので,休薬を要する場合には徐々に減量する.手術前48 時間は投与しないことが望ましい.めまい,ふらつきが現れることがあるので,本剤投与中の患者(特に投与初期)には,自動車の運転など危険をともなう機会の作業に注意させる.
2.2.4 ニコランジル
a.適応
ニコランジルはニコチン酸アミド誘導体であり,硝酸エステルおよびATP 感受性K+チャンネル開口作用を有する709).ニコランジルは冠血流増加,冠攣縮の予防,血圧低下をもたらし,抗狭心症効果を発揮する.その機序として,血管平滑筋細胞膜のK+透過性亢進(過分極)を介する細胞外から細胞内へのCa2+の流入抑制,血管平滑筋細胞内筋小胞体からのCa2+放出抑制,血管平滑筋細胞内cGMP 増加に由来する細胞内から細胞外へのCa2+の汲み出し促進作用などが想定されている696).
IONA study において,ニコランジルは心血管死,非致死性心筋梗塞,狭心痛による予定外の入院からなる複合エンドポイントを有意に改善した710).カルシウム拮抗薬に抵抗性の難治性冠攣縮性狭心症に対して,カルシウム拮抗薬
との併用療法,さらに低血圧,徐脈をともなう冠攣縮性狭心症にも有用とされる.しかしニコランジルとニトログリセリンを含む複数の硝酸薬併用は,冠攣縮性狭心症の心血管イベントを増加させたこと711)に注意が必要である.
小児の適応はない.(クラスIIb,小児でのエビデンスはない) (表54). b.用量
成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量より体重換算にて求め使用する.・ニコランジル錠:1 回5 mg を1 日3 回経口投与・ニコランジル注射薬:1 時間あたり2 mg の点滴静注か
ら投与を開始.最高用量は1 時間あたり6 mg までとする. c.禁忌
PDE5 阻害薬またはsGC 刺激薬を投与中の患者に対しては使用禁忌d.副作用(有害事象)
頭痛,嘔気・嘔吐,めまい,倦怠感など. e.使用上の注意事項
投与開始時には血管拡張作用による拍動性の頭痛を起こすことがあり,減量または中止する.
3 小児肺高血圧治療薬
3.1 はじめに
ガイドライン旧版が示された2011 年以後,今日までに2回のワールドシンポジウムの開催,5 剤の肺高血圧(PH)標的治療薬(以下,標的治療薬と略す)の新たな承認に加え,3 剤の標的治療薬がわが国ではじめて小児適応となった.欧米では成人を対象とした標的治療薬の大規模ランダム化比較試験が数多く行われ,種々のエビデンスが集積さ
表55 狭心症の適応があるβ遮断薬(小児の狭心症適応はない)(つづき)
分類薬剤名適応成人薬用量小児適応一般的な小児用法用量αβ遮断薬(つづき)カルベジロール(つづき) 4 虚血性心疾患または
拡張型心筋症に基づく慢性心不全5 頻脈性心房細動
ニコランジル錠1 狭心症1 日量15 mg を3 回に分割経口投与する.なお,症状により適宜増減成人量を参考として,体重換算にて使用する
p.161
れてきたが,わが国では成人においても小規模臨床試験のみで,小児では適応のない大部分の標的治療薬を成人の有効性や安全性を参考にオフラベルで使用している.
2013 年にニースで開催されたPH ワールドシンポジウム712)に引き続き,2015 年に米国心臓協会(AHA)/ 米国胸部学会(ATS)から小児PH ガイドライン713),続いて欧州心臓病学会(ESC)/ 欧州呼吸器学会(ERS)からおもに成人のPH ガイドライン714)が発表され,2016 年にはThe European Pediatric Pulmonary Vascular Disease Networkから,小児PH に関するエキスパートコンセンサス715)が示された.わが国でも日本循環器学会のPH ガイドライン441) が2018 年に改訂され,小児のガイドラインが特発性/ 遺伝性肺動脈性肺高血圧(IPAH/HPAH),先天性心疾患にともなうPH と新生児遷延性PH に関して成人とは別立てで改訂された.
2018 年12 月現在,わが国で使用可能な標的治療薬は経口薬8 剤,注射薬2 剤と吸入薬1 剤の計11 剤である.
3.2 診断と分類
2018 年2 月にニースで開催された第6 回PH ワールドシンポジウム(以下,ニース会議2018)で,PH の定義の変更(平均肺動脈圧[mPAP]>20 mmHg)が提案され,運動時PH(mPAP>30 mmHg)の重要性が再認識された.またPAH の診断基準も同様に,mPAP>20 mmHg,肺血管抵抗(PVR)>3 WU かつ肺動脈楔入圧≦15 mmHg と新しく提唱された.体血圧の低い小児では肺動脈圧も成人に比し低く,定義の変更はむしろ実臨床に即している.成人で提唱されたPVR>3 WU は,体表面積換算で肺血管抵抗係>1.73 WU・m2 となる.ニース会議2018 の詳細はERJ Express として発表された716).
分類も一部見直され(表56)
717),肺静脈/ 毛細血管性
肺高血圧(PVOD/PCH)をともなう肺動脈性肺高血圧(PAH)と新生児遷延性肺高血圧(PPHN)は,2003 年のヴェニス分類と同様に第1 群に復帰した.小児でみられる先天性後毛細血管閉塞性PH として肺静脈狭窄,三心房心,総肺静脈還流異常,僧帽弁/ 大動脈弁下,弁,弁上狭窄や大動脈縮窄を第2 群,発生・成長過程の肺障害によるPHとして気管支肺異形成,横隔膜ヘルニアや先天性囊胞状腺腫様異常などを第3 群,複雑な先天性心疾患にともなうPH として肺動脈欠損,主要大動脈肺動脈側副血行,単心室やScimitar 症候群などは第5 群に分類整理された.小児PH の90% 以上をIPAH/HPAH またはCHD-PAH が占めると従来されてきたが,実際には肺疾患や低酸素にともなうPH がPAH とほぼ同数あり,第1 群と第3 群をあわせて全体の90% 強を占めることが新たに示された.
3.3 臨床症状や血管反応性の小児での特徴
小児でも成人同様,運動時の息切れや易疲労感はもっとも発生率が高い.しかし小児では心拍出量が比較的維持され,浮腫を主とする右心不全症状は出現しにくく,日常生活では疾患に気付かれにくく発見が遅れやすい.一方,身体活動を自分で規制することがないため,過度な運動により失神が多く認められる718).わが国ではIPAH/HPAH の約30% が学校心臓検診の心電図異常で発見されている719).
IPAH/HPAH の病理学的変化は,小児では中膜平滑筋の肥厚所見が強く,成人のように内膜の線維化や叢状病変など非可逆性病変は少ない720).そのため,発見時の心臓カテーテル検査における血管反応性試験は陽性であることが多く,標的治療薬による治療の反応性も良好である718).血管反応性試験に使用するものとして,ニース会議2018 で推奨されたのは20~80 ppm の吸入一酸化窒素のみで,酸素を含む他の薬剤は十分なデータがないとされた.小児で多く認められる失神は,肥厚した中膜平滑筋の発作性収縮によるものと考えられる.
表56 肺高血圧症の最新の臨床分類(ニース会議2018)
第2 群 左心性心疾患による肺高血圧(1)駆出率の保たれた心不全(2)駆出率の低下した心不全(3)弁膜疾患(4)先天性後毛細管閉塞疾患第3 群 肺疾患および/ または低酸素血症による肺高血圧(1)閉塞性肺疾患(2)拘束性肺疾患(3)拘束性/ 閉塞性疾患を合併した他の肺疾患(4)肺疾患をともなわない低酸素血症(5)発達段階での肺疾患第4 群 肺動脈閉塞による肺高血圧症(1)慢性血栓塞栓性肺高血圧(2)その他の肺動脈閉塞性疾患第5 群 機序不明および/ または多因子機序による肺高血圧(1)血液疾患(2)全身性および代謝性疾患(3)その他(4)複雑先天性心疾患(Simonneau G, et al. 2019
717)より抜粋) Copyright ©ERS 2018. This article is open access and distributed under the terms of the Creative Commons Attribution Non-Commercial Licence 4.0. (https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/) https://erj.ersjournals.com/content/53/1/1801913
p.162
3.4 小児IPAH/HPAH の治療アルゴリズム
ニース会議2018 で提示された治療アルゴリズム(図70) 717)では,わが国で以前より行われてきた標的治療薬による初期併用療法が推奨された.高リスク児では非経口PGI2 を含む初期併用療法が,低リスク児でも経口/ 吸入薬の逐次/ 初期併用療法を考慮することが示された.血管反応性試験が陽性の場合には,欧米ではカルシウム拮抗薬が推奨される713, 721)が,血管反応性がどこまで維持されるかの保証もなく,わが国での使用はかなり限られ,標的治療薬の使用が一般的である.
治療開始時より専門施設への相談/ 紹介が推奨され,支持療法としての酸素,ジギタリスや利尿薬の投与とともに,抗凝固療法に関してもクラスIIb,レベルC とされ,有用性は不祥とされている713, 721).
以上の内科的治療抵抗性の症例には,欧米の治療アルゴリズムではPotts シャント術や心房中隔裂開術など外科手
術の適応も示されているが,わが国の報告はほぼ皆無である.脳死肺移植はドナー不足のわが国では非現実的であり,近親者からの生体肺移植が行われることが多い.
3.5 標的治療薬の投与方法
単剤では十分な治療効果が得られない場合が多く,わが国では10 年ほど前から2 剤,3 剤の異なる作用機序(プロスタサイクリン伝達経路薬,エンドセリン伝達経路薬,一酸化窒素伝達経路薬)をもつ治療薬の併用療法が推奨されてきた.併用療法には,逐次治療薬を追加する逐次併用療法(sequential combination therapy)と,初期から複数の治療薬をほぼ同時に併用する初期併用療法(upfront combination therapy)がある.
海外でもアンブリセンタンとタダラフィルを初期から併用したAMBITION 試験で,単剤治療に比して初期併用療
図 70 小児特発性/ 遺伝性肺動脈性肺高血圧の治療アルゴリズム(Rosenzweig EB, et al. 2019
717a)より) Copyright ©ERS 2019. This article is open access and distributed under the terms of the Creative Commons Attribution Non- Commercial Licence 4.0. (https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/) https://erj.ersjournals.com/content/53/1/1801916
Yes
推奨度・エビデンス
アンブリセンタン(IIa ~C),ボセンタン(I ~B),CCB(I ~C),エポプロステノール(I ~B),イロプロスト(IIb ~C),シルデナフィル(I ~B),タダラフィル(IIa ~C),トレプロスチニル(静注/ 皮下注) (IIb ~C / IIa 〜C),心房中隔裂開術(IIa ~C),Potts シャント術(IIb ~C)
反応良好,かつ1 歳以上反応不良
反応不良
低リスク(WHO 機能分類I ~II)高リスク(WHO 機能分類III ~IV)
肺移植
No
専門施設へ紹介
一般的支持療法:利尿薬,酸素,
経口抗凝固薬,ジゴキシン急性肺血管反応性試験
Ca 拮抗薬
改善反応性持続
Ca 拮抗薬
継続ERA またはPDE-5 阻害薬(経口)
イロプロスト(吸入)
再評価ならびに早期併用を考慮エポプロステノールまたはトレプロスチニル(静注/ 皮下注)ERA とPDE-5阻害薬(経口)の早期併用を考慮
心房中隔裂開術またはPotts シャント術
p.163
法では,死亡・PAH の増悪による入院・病状の進行など複合エンドポイントの発生リスクが50% 低下した722).またニューヨーク心臓協会(NYHA)/ 世界保健機関(WHO)機能分類IV 度のIPAH/HPAH 患者19 例で,ボセンタン,シルデナフィルとエポプロステノール3 剤の初期併用療法により血行動態と運動耐容能の改善が認められ,3 年生存率100% を達成したと報告された723).海外でも初期併用療法が推奨されるようになっている.
3.6 わが国で小児に承認されている 標的治療薬(表57)
441)
現在までに小児では3 剤のみ承認されている.承認順にボセンタン(2015 年9 月)
724),エポプロステノール(2017
年3 月)
725),シルデナフィル(2017 年9 月,商品名レバチオOD フィルム®,懸濁用ドライシロップ®)である.ボセンタンは1 錠30 mg の錠剤で,4 つ葉のクローバー形状で4 分割でき,水でただちに分散し甘みがあるため,小児でも服用しやすい.エポプロステノールは,室温安定性で真夏以外は保冷パックを必要としない.シルデナフィルは,フィルム剤は水なしでも服用可能なため外出先でも便利で,懸濁用ドライシロップ剤は散剤で甘みもあり,小児用とし
て工夫されている.この3 剤以外にも小児での臨床試験が実施,計画されている.
3.7 標的治療薬
3.7.1 ベラプロスト
PGI2 系(PGI2 誘導体)経口薬で抗血小板作用が強く,慢性動脈閉塞症にともなう潰瘍,疼痛,冷感の改善が当初適応症とされていたが,わが国では臨床試験後の1999 年9 月に初のPH 治療薬として効能追加された.2007 年12月に徐放製剤が承認され,投与回数の減少(1 日2 回)と1 日投与量の増加が可能となり,副作用の軽減と臨床効果の改善が認められた.
一方,欧州で行われた12 週間の臨床試験(ALPHA- BET)で有効性が確認された726)が,米国での長期臨床試験で効果が疑問視され727),欧米では承認に至っていない.小児では錠剤を粉砕して0.5 ~1.0μg/kg/日,分3 で開始し,副作用・忍容性に留意し最大3.0μg/kg/日,分3~4まで増量可能である.1 錠60μg の徐放製剤は粉砕せず,
表57 わが国で小児に承認されている標的肺高血圧治療薬
エンドセリン受容体拮抗薬
ボセンタンホスホジエステラーゼ5 阻害薬
シルデナフィルプロスタグランジンI2 製剤
エポプロステノール
薬剤(商品名)トラクリア小児用分散錠32 mgレバチオ錠20 mgレバチオOD フィルム20 mgレバチオ懸濁用ドライシロップ900 mgエポプロステノール静注用「ACT」0.5 mg,1.5 mg剤型十字の割線あり,1/2 ないし1/4 へ分割可能OD フィルム: 唾液のみ(水なし)で服用可懸濁液: 1 瓶について90 mL に水を加えて10 mg/mL の溶液となる専用溶解液(生理食塩水)で溶解適応1 歳以上,小児PAH 1 歳以上,小児PAH 1 歳以上,小児PAH用法・用量通常,乳児,幼児または小児には,ボセンタンとして1 回2 mg/kg を1日2 回朝夕,用時,少量の水に分散させ経口投与するただし,最大投与量は1 回120 mg, 1 日240 mg とする体重8~20 kg:1 回10 mg,1 日3回体重20 kg 超:1 回20 mg,1 日3回0.5~2 ng/kg/分から持続静注を開始1~4 週の間隔をおいて0.5~2 ng/ kg/分ずつ増量20~40 ng/kg/分を目安として最適投与速度を決定するおもな副作用頭痛,肝機能障害,筋肉痛頭痛,紅潮,腹痛,悪心頭痛,紅潮,下痢,顎痛,血小板減少小児での特徴など成人に比して肝機能障害の頻度が少ない小児でも自発陰茎勃起の報告あり血管拡張作用により過度の血圧低下が出現することがある観察を十分に行い,必要に応じて輸液やカテコラミンを併用する小児でも甲状腺機能亢進症の報告あり,定期的に検査を行う( 日本循環器学会.2017 441)より)
p.164
1 日2 回の内服で1 回1 ~3 錠で使用する.体血管拡張による頭痛の副作用のため増量は困難だが,錠剤の服用ができる年長小児では増量が比較的容易である.
禁忌は出血患者と妊婦で,重大な副作用として出血傾向,ショック,失神,意識消失,肝障害,間質性肺炎,狭心症と心筋梗塞が記されている.
小児ではNakayama らの報告がある728).推奨度とエビデンスレベルは,肺高血圧ガイドライン441)の小児IPAH/ HPAH ではクラスIIb,レベルC とされている.
3.7.2 エポプロステノール
PGI2 系持続静注薬で,肺移植へのブリッジ療法として登場し,世界的に承認された最初のPAH 治療薬である. 1990~2000 年にかけて行われた成人を対象とした3 つのランダム化比較試験で,効果が証明された729-731).わが国では臨床試験後の1999 年4 月に承認された.承認前から輸入により入手し,使用されていた.現在では肺移植よりも予後改善効果に優れていることが実証され,最強の治療薬として現在も位置付けられている.
半減期が3 ~5 分と非常に短く,中心静脈への持続静脈内投与が必要である.室温や日光に不安定で,アイスパックでの冷却と遮光が必要である.0.5~2 ng/kg/分の低用量から開始し,特に血圧低下の副作用に注意しながら, 1~4 週の間隔で0.5~2 ng/kg/分ずつ増量する.増量の上限は決められておらず,20 ~40 ng/kg/分の目標量を目安として最適投与速度を決定する.
1999 年以来小児でも多数使用されてきたエポプロステノールの有効性に関しては,多くの報告がされている732–734)が,小児適応は認められていない.禁忌は右心不全の急性増悪,重篤な左心機能障害,重篤な低血圧,増量時の肺水腫増悪患者で,重大な副作用として過度の血圧低下,低血圧性ショック,徐脈,意識喪失,意識障害が記されている.このほか頭痛,顔面紅潮や下痢など体血管拡張による共通の副作用以外に,顎関節痛,下肢痛,血小板減少や甲状腺疾患など特異的な副作用や,留置カテーテルによる感染,血栓や自然抜去など病状の悪化にもつながる合併症があり,管理には細心の注意が必要である.
わが国では2017 年3 月に,1 歳以上の小児PAH にエポプロステノール735)のみ承認された.推奨に関しては,高リスク症例に対してもクラスI,レベルB と最高の評価となっている713, 721).
3.7.3 ボセンタン
エンドセリン系薬剤で,血管平滑筋細胞に発現するETA受容体と,血管内皮細胞および肺高血圧患者では血管平滑筋細胞にも発現する,ETB 受容体の両者を非選択的に阻
害する.現在でもETA 受容体のみの阻害薬に対する優位性は不詳である.ランダム化二重盲検比較試験のBREATHE-1 試験で,PAH 患者の6 分間歩行距離とWHO 機能分類で有意な改善を認めた735).欧米で最初のエンドセリン系かつ経口標的治療薬として承認され,わが国では臨床試験後の2005 年4 月に承認された.
アイゼンメンジャー症候群に対する効果は,BREATHE- 5 試験のプラセボ対照二重盲検比較試験によりクラスI,レベルB の評価を得た736).その後2 ~12 歳のIPAH, HPAH 患者を対象としたFUTURE-1,FUTURE-2 試験で,ボセンタンの薬物血行動態,臨床的有効性と安全性が示された737, 738).また成人に比して肝機能障害の発生率が年少児ほど少ないため,小児での忍容性が高い可能性も示唆された.その後わが国でも臨床試験が行われ,1 歳以上の小児で承認された724).
投与量は1 回0.5~1 mg/kg を1 日2 回で開始し,4 週後に1 回1~2 mg/kg まで増量し,最大でも1 回120 mg, 1 日240 mg を超えないこととされている.禁忌は妊娠,中等度または重度の肝機能障害患者で,シクロスポリン,タクロリムスやグリベンクラミドとの併用は禁忌である.また併用でシルデナフィルの血中濃度を有意に下げる739)ため,相互作用に注意が必要である.
重大な副作用として重篤な肝機能障害,汎血球減少,心不全が記され,小児では少ないとされているがアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT),アルカリホスファターゼ(ALP),総ビリルビンが基準値の3 倍以上5 倍未満で減量,8 倍以上で中止するよう注意喚起されている.
小児では小児用分散錠が使用され小児適応がある.推奨クラスとエビデンスレベルは,米国ではクラスI,レベルB 713),欧州ではアイゼンメンジャー症候群に対してクラスI,レベルB,そうでない場合はクラスIIa,レベルB とされている721).
3.7.4 シルデナフィル
NO 系薬剤で,米国では2005 年にPAH に承認された.わが国では勃起不全に対して1999 年1 月に承認されていたが,PAH には臨床試験後の2008 年1 月に承認された.欧州では2011 年5 月に小児適応が承認された.米国では, 2012 年に1 ~17 歳の小児PAH に対するプラセボ対照二重盲検比較試験のSTART-1 で,シルデナフィルの有効性が示されたが,追跡研究のSTART-2 では高用量の予後が不良であった740).1 ~17 歳における小児PAH への高用量シルデナフィル(1 回投与量は体重<20 kg:20 mg,体
p.165
重20~45 kg:40 mg,体重>45 kg:80 mg,各1 日3 回)投与により,死亡リスクが高くなる可能性があることから,米国FDA は高用量を避けるべきとの見解を発表し,承認はされていない.2012 年には1 ~17 歳の小児への慢性的使用自体にFDA から強い警告が出された741).
わが国では2017 年9 月に1 歳以上の小児PAH に承認され,投与量は体重8~20 kg で1 回10 mg を1 日3 回,体重20 kg 以上で1 回20 mg を1 日3 回とされた.禁忌は重度の肝機能障害で,併用禁忌として硝酸薬などのNO 供与薬のほかに,CYP3A4 代謝によるQT 延長の恐れからHIV プロテアーゼ阻害薬,アゾール系抗真菌薬,抗C 型肝炎ウィルス薬,アミオダロンなどの抗不整脈薬が記載されている.また,ボセンタンとの併用でボセンタンの血中濃度が上昇し,シルデナフィルの血中濃度が低下する相互作用があり注意が必要である739).副作用としては体血管拡張による共通の副作用以外に,PDE6 阻害による色覚異常や羞明がある.
小児では懸濁液ドライシロップやOD フィルムなども使用でき,推奨度とエビデンスレベルは欧米でクラスI,レベルB とされている713, 721).
3.7.5 アンブリセンタン
エンドセリン系薬剤で,血管平滑筋細胞に発現するETA受容体を選択的に阻害する唯一の経口薬である.ボセンタンほど肝機能障害や薬物相互作用が起こりにくいのが特徴である.24 週間の臨床試験Aries-1,Aries-2 で効果が報告された742).わが国では臨床試験後の2010 年9 月に承認された.小児での至適投与量の報告はないが,小児PAH での後方視的な症例検討743)では,体重<20 kg で開始量2.5 mg,維持量5 mg,体重20~40 kg で開始量2.5~5 mg,維持量5~10 mg,体重>40 kg で開始量5 mg,維持量5 mg で,いずれも1 日1 回とされていた.平均投与量は0.19 ± 0.1 mg/kg/日で,用量5~10 mg/日の投与では肝機能障害例はなく,Cmax,AUC ともに成人と同様であった.末梢浮腫は小児ではまれであり,もっとも多いのは鼻閉であった.
アンブリセンタンはボセンタンと異なり,CYP ではまったく代謝されない.禁忌は重度の肝機能障害患者と妊婦で,重大な副作用として貧血,体液貯留,心不全と間質性肺炎が記載されている.
小児では承認されていないが,推奨クラスとエビデンスレベルは米国ではクラスIIa,レベルB 713),欧州ではクラスIIa,レベルC 721)とされている. 3.7.6 タダラフィル
NO 系薬剤で,シルデナフィルと同様PDE5 を阻害し,半減期が長いのが特徴で,投与は1 日1 回である.成人PAH ではPHIRST-1 とPHIRST-2 試験が行われ,20 mg/日よりも40 mg/日の投与群が若干NYHA-FC の増悪が少なかったが,6 分間歩行距離はおおむね両群とも,52 週後でも保たれていた744, 745).
わが国では臨床試験後の2009 年10 月に承認された.小児では少数例での使用経験が報告されている746).シルデナフィルからの移行症例が大部分で,シルデナフィル投与量3.4 ±1.1 mg/kg/日からタダラフィル投与量1.0 ± 0.4 mg/kg/日で,副作用や症状の増悪はなかった.血行動態は有意に改善し,服薬コンプライアンスの改善や安定した血中濃度維持が関係しているとされた.また年齢が3 ヵ月~17 歳の小児PAH における薬物動態の検討が行われ, 0.97 mg/kg/日の投与量で十分な有効血中濃度が得られ,ボセンタン併用下でも影響を受けないと報告されている747).禁忌は重度の肝・腎機能障害,併用禁忌はシルデナフィル同様,硝酸薬とNO 供与薬,強いCYP3A4 阻害薬と誘導薬,そして重大な副作用として過敏症の記載がある.
小児ではランダム化比較試験は行われておらず,推奨クラスとエビデンスレベルは米国ではクラスIIa,レベルB 713),欧州ではクラスIIa,レベルC 721)と評価されている.
3.7.7 トレプロスチニル
PGI2 系薬剤で,米国では2002 年に注射薬としてエビデンスが示されて748)承認され,その後吸入薬も承認されている.わが国では臨床試験後の2014 年10 月に注射薬(皮下と静脈内)として承認された.
唯一の持続皮下注製剤で,エポプロステノールに比し室温での安定性がよく,保冷は不要である.ポンプも小さく利便性に優れ,半減期が4.4 時間と長く,安全性も高い.エポプロステノールのような血小板減少の副作用は少なく,静脈内注射薬としても使用可能である.静脈内注射の用法はエポプロステノールに準じ,皮下注射では専用の穿刺針,接続ラインと専用のポンプが必要となる.用量は,力価がエポプロステノールの60~80% 程度と考えられているため,エポプロステノールと同等の治療効果を得るためには1.2~1.5 倍程度の投与量が必要となる.3~17 歳(平均11 歳)の小児における後方視的検討では,エポプロステノールからの変更は安全で可能であり749),有効性も示されている750).
禁忌は右心不全の急性増悪時,重篤な左心機能障害,重篤な低血圧の患者で,重大な副作用として血圧低下,失神,
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出血,血小板減少,好中球減少,甲状腺機能亢進症,血流感染と注射部位の局所反応が記載されている.皮下注射による穿刺部局所の疼痛は必発であり,穿刺部位,交換時期,ドライカテーテルの使用や鎮痛薬投与など疼痛対策が重要となる.血小板減少はエポプロステノールより少ない.欧米では皮下注射による疼痛の副作用にもかかわらず,静脈内注射より多く使用されている.上記の特徴を考慮し,エポプロステノールによる副作用出現時の移行,エポプロステノールからの離脱や,静脈内注射管理の困難例でよい適応と考えられる.
小児での使用は現在承認されていないが,米国では皮下/ 静脈内ともに高リスク群に対してもクラスI,レベルBとされ,エポプロステノールと同等と評価されている713).一方欧州ではクラスIIa/IIb,レベルC と評価されている721).
3.7.8 リオシグアト
NO 系薬剤で,PAH 患者にはPATENT-1 試験751)とPATENT-2 延長試験752)で,慢性血栓塞栓性肺高血圧(CTEPH)患者にCHEST-1 試験753)で,その効果と安全性が示された.CTEPH に承認されている唯一の標的治療薬である.わが国では2014 年1 月CTEPH に,2015 年2月PAH に承認された.
NO の血管内皮からの内因性産生量は患者の重症度,血管内皮機能障害の程度により個人差があるが,本薬剤は可溶性グアニル酸シクラーゼの直接刺激薬であり,患児の内因性NO 産生量にかかわらずcGMP の産生を促進させる.成人で最高1 回2.5mg を1 日3 回内服するが,効果と副作用発現には個人差があるため1 回1.0 mg の低用量から開始し,2 週間ごとに体血圧の低下に注意しながら0.5 mgずつ増量する.治療域に達するまでに時間を要する.
禁忌は妊婦,重度の肝機能障害・腎機能障害患者で,併用禁忌は硝酸薬,NO 供与薬やPDE5 阻害薬,そしてCYP の関係でアゾール系抗真菌薬やHIV プロテアーゼ薬である.重大な副作用として喀血,肺出血,そのほかの副作用として頭痛,めまいや消化不良がある.PDE5 阻害薬のシルデナフィル やタダラフィルからリオシグアトへの移行は可能であり,2~3 日のウォッシュアウト期間を設ける.併用は長期継続試験で有害事象が多発したため禁忌とされている.薬効に関するPDE5 阻害薬との比較は今後さらなる検討が必要である.
小児での使用は現在承認されておらず,2015 年のESC/ ERS ガイドラインでは成人WHO 肺高血圧機能分類(WHO-FC)II/III に対してクラスI,レベルB,同IV に対してクラスIIb,レベルC と評価されている.小児では調査中とされている721). 3.7.9 マシテンタン
エンドセリン系薬剤で,第III 相試験SERAPHIN 754)では主要評価項目として,ハードエンドポイントに近いmorbidity/mortality がはじめて取り入れられ,有効性と安全性が示された.わが国では臨床試験後の2015 年6 月に承認された.ボセンタンと同じ非選択的阻害薬で,受容体結合力や組織移行性に優れ,投与法と用量は簡便で,1 日1回10 mg の1 回用量を最初から投与する.ヘモグロビン減少が副作用として多い.禁忌は妊婦,重度の肝機能障害患者,併用禁忌は強いCYP3A4 誘導剤,重大な副作用は貧血で,そのほかの副作用として肝機能障害や浮腫も少なく,またシルデナフィル,シクロスポリンやタクロリムスなどCYP3A4 による代謝薬との併用も可能とされている.
小児での使用は現在承認されておらず,2015 年のESC/ ERS ガイドラインでは成人WHO-FCII/III に対してクラスI,レベルB,同IV に対してクラスIIb,レベルC と評価されている.小児では調査中とされている721).
3.7.10 イロプロスト
PGI2 系薬剤で,2002 年に18 歳以上で行われたプラセボ対照二重盲検比較試験(AIR 試験)結果が発表され,第12 週の複合評価項目(6 分間歩行距離,WHO-FC,臨床的悪化,死亡患者の割合)に基づくレスポンダーが,イロプロスト群で有意に高かった755).
わが国では国内臨床試験IBUKI study 756)で,18 歳以上の患者で12 週間のイロプロスト吸入投与後にPVRI とmPAP の低下,さらに吸入投与後5 分の心拍出量増加を認め有効性が示され,2016 年5 月に唯一の吸入薬として承認された.専用の携帯型吸人器を垂直に立てて保持し,1回2.5 または5.0μg を患者の忍容性に合わせて吸入する.イロプロストはアンプル中に液体として入っており(10μ g/1 mL),これをスポイトで吸引して薬液槽にセットする.吸入粒子径は肺胞への薬剤沈着に最適な大きさに調整され,患者のはじめの3 呼吸の圧と流量のモニタリングにより,患者の呼吸パターンに合わせ吸気前半で薬液を噴霧するよう調整される.持続時間が30~45 分と短いため,1日6~9 回吸入投与する.投与経路の点で肺血管への選択性は高い.1 回の吸入に通常4 ~10 分を要する.
即効性で持続時間が短いことから,より軽症例の外出前や運動前などに使用し,発作性肺血管収縮を抑制し病状の悪化を回避する補充療法的な使用が望ましく,他のPGI2製剤からの切り換えを安易に考えるべきではない.
禁忌は出血リスクが高い患者,肺静脈閉塞疾患を有するPH 患者,重度の冠動脈疾患または不安定狭心症の患者と
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6 ヵ月以内に心筋梗塞を発症した患者とされ,重大な副作用として出血,気管支喘息,過度の低血圧,失神,血小板減少と頻脈が記載されている.
小児での使用は承認されておらず,米国ではクラスIIa,レベルB,欧州ではクラスIIb,レベルC と評価されている.
3.7.11 セレキシパグ
PGI2 系薬剤で,国内で開発された薬剤である.国際共同二重盲検試験において,主要評価項目で対照群に比しイベント発生リスクを40% 抑制することが示された(GRI- PHON 試験)
757).わが国では臨床試験後の2016 年9 月に
承認された.経口投与可能なプロドラッグ型PGI2 受容体(IP 受容体)の選択的作動薬であり,体内で加水分解され,活性代謝産物(MRE-269)となり作用する.セレキシパグおよびMRE-269 は,各種プロスタノイド受容体のなかでも特にIP 受容体に対して高い選択性を有するため,ほかのPGI2 製剤よりも消化管障害などの副作用が少ないとされている.成人で最高1 回1,600μg を1 日2 回内服するが,1 回200μg の低用量から開始し,1 週間ごとに体血圧の低下に注意しながら200μg ずつ増量する.治療域に達するまでに時間を要する.
禁忌は重度の肝機能障害,肺静脈閉塞を有するPH 患者,併用禁忌はクロピドグレルとされ,重大な副作用は低血圧,出血,甲状腺機能異常とされている.そのほか頭痛,顎痛,嘔気や下痢などの腹部症状も少なからずある.
小児での使用は承認されておらず,2015 年のESC/ERSガイドラインでは成人WHO-FCII/III に対してクラスI,レベルB と評価されている.小児では調査中とされている721).
3.8 おわりに
わが国では1999 年にエポプロステノールが承認され,その後多くの有望な治療薬の使用が可能となり,選択肢が増えた.経口薬や吸入薬の選択肢が増えたことで,重症患児での静注/ 皮下注PGI2 製剤の使用が遅れることは許されず,稀少,難治かつ進行性疾患であることを鑑み,専門施設における早期診断と早期治療が望まれる.最大限の内科治療に対して抵抗を示す症例では,肺移植を考慮し適切な時期に移植施設への照会が必須となる.小児で承認されている薬剤はいまだ少なく,小児での臨床試験による適応拡大は喫緊の課題である. 4 抗血小板薬,抗凝固薬
4.1 はじめに
抗血栓薬は抗血小板薬と抗凝固薬に大別され,前者は急性心筋梗塞やアテローム血栓性血栓など動脈血栓に,後者は深部静脈血栓症や心房細動時の左房内血栓など静脈血栓に用いられる.抗血栓作用が不十分であれば血栓症のリスク,過剰であれば出血のリスクが高まるので,リスク・ベネフィットを勘案した治療法が原則である.しかし,小児領域では,血栓症自体が少ない,体格の相違,内服が不確実,薬効モタリングが困難といった問題もあり,エビデンスはほとんどない.
そこで,日本循環器学会の抗血小板・抗凝固療法ガイドライン(小児領域)
758),米国心臓協会(AHA) 759),米国胸
部医師学会(ACCP)
760)による小児の血栓症のガイドライ
ンを基に,各種ガイドライン699, 761-766),小児期心疾患を対象とした臨床研究を参考に執筆した.個々の症例に対し抗血栓・抗凝固療法を行うか否かは,本ガイドラインの推奨の有無にかかわらず,十分なインフォームドコンセントのもとに決定されるべきである.
4.2 抗血小板薬(表58)
わが国で使用可能な抗血小板薬について,適応,作用機序767)(図71),用量・用法,使用上の注意,副作用と対応について.添付文書および各種ガイドラインを参考にまとめた.
4.2.1 アスピリン
a.適応
心疾患に対する抗血栓薬としての保険適応は以下の通りで,原末は3のみである:1川崎病(心血管後遺症を含む),2狭心症,心筋梗塞,虚血性脳血管障害における血栓・塞栓形成の抑制,3冠動脈バイパス手術あるいは経皮経管冠動脈形成術施行後における血栓・塞栓形成の抑制.このほか,人工弁置換術後,体肺動脈シャント手術・フォンタン手術など先天性心疾患術後,経皮的心房中隔欠損閉鎖術後などカテーテル治療後に使用する. b.作用機序
シクロオキゲシナーゼ(COX)-1 を阻害することにより,
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血小板凝集作用を有するトロンボキサンA2 の産生を抑制して抗血小板作用を示す. c.用量・用法i.小児
3~5 mg/kg/日,1 日1 回経口投与(川崎病急性期では30~50 mg/kg/日,1 日3 回に分服). ii.成人
1 錠81 mg(腸溶錠では100 mg),1 日1 回経口投与. d.使用上の注意点i.禁忌
過敏症の既往,消化性潰瘍,出血傾向,アスピリン喘息など. ii.注意
消化性潰瘍の既往,出血傾向の素因,肝障害,腎障害,気管支喘息などがある場合は,慎重に投与する.ライ症候群との関連性が示唆されているので,15 歳未満の水痘,インフルエンザの患者には原則として投与しない.手術,心
臓カテーテル検査または抜歯前1 週間以内の患者では,失血量を増加させるおそれがある. e.副作用と対応
ショック,出血,中毒性表皮壊死融解症,再生不良性貧血・血小板減少・白血球減少,喘息発作,肝機能障害・黄疸,消化性潰瘍など重大な副作用がみられた場合は,投与を中止し適切な処置を行う.
4.2.2 ジピリダモール
a.適応
心疾患に対する抗血栓薬としての保険適応は,1狭心症,心筋梗塞,うっ血性心不全と2ワルファリンとの併用による人工弁置換術後である.このほか,川崎病,体肺動脈シャント手術・フォンタン手術など先天性心疾患術後に用いられ,川崎病冠動脈病変(後遺症)も保険償還対象になっ
表58 抗血小板薬,抗凝固薬に関する推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベルMinds
推奨グレードMinds
エビデンス
分類
機械弁置換手術後に対するワルファリン投与I B B III
機械弁置換手術後に対するワルファリンとアスピリンの併用IIa C C1 V
生体弁に対するアスピリン投与I C B V
体肺動脈シャント術後に対するアスピリン投与I B B III血栓症の危険因子を有するフォンタン手術後に対するワルファリン投与IIa B B IVaフォンタン手術後全例に対するワルファリン投与IIb B C1 II
フォンタン手術後全例に対するアスピリン投与IIa B C1 II
急性期川崎病に対するアスピリン投与I A A I
冠動脈瘤をともなう川崎病に対するアスピリン投与I C C1 V
巨大瘤をともなう川崎病に対するワルファリン投与IIa C C1 IVa中等瘤・巨大瘤をともなう川崎病に対するアスピリン以外の抗血小板薬の投与IIb C C1 V血栓症のリスクを有する再発性・持続性の心房粗細動に対するワルファリン投与I C C1 V
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ている. b.作用機序
血小板内のホスホジエステラーゼの阻害によりサイクリックAMP 濃度が上昇し,血小板抑制作用を示す.このほか,血管内皮細胞からのプロスタサイクリンの放出促進,血小板のトロンボキサンA2 合成の抑制,血中アデノシンの赤血球・血管壁細胞内へのサイクリックAMP の取込み抑制も関与する. c.用量・用法i.小児
2~5 mg/kg/日,1 日3 回に分割経口投与. ii.成人
1では1 回25 mg,1 日3 回経口投与,2では300 ~ 400 mg/日,3~4 回に分割経口投与. d.使用上の注意点i.禁忌
過敏症の既往,アデノシンとの併用. ii.注意
低血圧,重篤な冠動脈疾患では症状が悪化する可能性があり慎重に投与する.相互作用として,キサンチン系製剤は作用を減弱する.アデノシンは作用を増強し,完全房室ブロック・心停止などが発現することがある. e.副作用と対応
狭心症状の悪化,出血傾向,血小板減少・白血球減少,喘息発作,過敏症など重大な副作用がみられた場合は,投
与を中止し適切な処置を行う.
4.2.3 チクロピジン塩酸塩
a.適応
心疾患に対する抗血栓薬としての保険適応は,血管手術および血液体外循環にともなう血栓・塞栓の治療ならびに血流障害の改善のみである.このほか,川崎病冠動脈病変,体肺動脈シャント手術・フォンタン手術など先天性心疾患術後に用いられるが,小児の保険適応はない. b.作用機序
抑制性 G 蛋白質と共役するアデノシン二リン酸(ADP)受容体(P2Y12)を阻害し,アデニル酸シクラーゼに対する抑制を解除することにより,血小板内のサイクリックAMP 濃度が増加し血小板抑制効果を示す. c.用量・用法i.小児
2~5 mg/kg/日,1 日2 ~3 回に分割経口投与. ii.成人
200~300 mg/日,2 ~3 回に分割経口投与. d.使用上の注意点i.警告
血栓性血小板減少性紫斑病,無顆粒球症,重篤な肝障害などの重大な副作用が,おもに投与開始後2 ヵ月以内に
図71 抗血小板薬の作用機序アスピリンはCOX-1 の不可逆的な阻害により,トロンボキサンA2(TXA 2)の産生を抑制して抗血小板作用を示す.チクロピジンやクロピドグレルはアデノシン二リン酸(ADP)受容体(P2Y12)を阻害しアデニル酸シクラーゼ(AC)に対する抑制の解除により,ジピリダモールとシロスタゾールはホスホジエステラーゼ(PDE)の阻害により,いずれもサイクリックAMP(cAMP) 濃度を上昇させる.cAMP は,膜糖蛋白のGP IIb/IIIa(インテグリンαIIb/β3)の血小板凝集作用に必要な遊離Ca
2 +の細胞内顆粒からの放出を抑制する.このほか,トロンビン受容体(PAR-1, 4),トロンボキサン受容体(TP),GP IIb/III などに対する拮抗薬が存在する. (Kalantzi KI, et al. 2012
767)を参考に作図)
ジピリダモールシロスタゾールチクロピジンクロピドグレルトロンビン
濃染顆粒
血小板凝集
アスピリン遊離Ca2+ ADP PGY12
GP IIb/IIIa
PDE AC ATP cAMP 5’AMP
TXA2
PAR-4 PAR-1
AA ADP
TXA2 COX-1
TXA2
TP ADP
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発現し,死亡に至る例が報告されている.投与開始後2 ヵ月間は,これらの副作用に留意し2 週に1 回程度の血液検査を行う. ii.禁忌
出血,重篤な肝障害,白血球減少症,過敏症の既往など. iii.注意
月経期間中,出血傾向,肝障害(原則禁忌),白血球減少症の既往,高血圧などがある場合は慎重に投与する. e.副作用と対応
血栓性血小板減少性紫斑病,無顆粒球症,重篤な肝障害のほか,再生不良性貧血を含む汎血球減少症,赤芽球癆,血小板減少症,出血,中毒性表皮壊死融解症・Stevens-Johnson 症候群・多形滲出性紅斑・紅皮症,消化性潰瘍,急性腎不全,間質性肺炎,全身性エリテマトーデス様症状など重大な副作用がみられた場合は,投与を中止し適切な処置を行う.
4.2.4 クロピドグレル硫酸塩
a.適応
心疾患に対する抗血栓薬としての保険適応は,経皮的冠動脈形成術が適応される虚血性心疾患(急性冠症候群,安定狭心症,陳旧性心筋梗塞)のみである.このほか,川崎病冠動脈病変,先天性心疾患術後などに用いられるが,小児の保険適応はない. b.作用機序
クロピドグレルもチクロピジンもチエノピリジン系抗血小板薬に属し,作用機序も同様である. c.用量・用法i.小児
0.2~1.0 mg/kg/日,1 日1 回経口投与.0~24 ヵ月齢の乳幼児に対する研究では,0.2 mg/kg/日で十分な効果が得られた768). ii.成人
投与開始日に300 mg を1 日1 回経口投与した後,維持量として75 mg を1 日1 回経口投与. d.使用上の注意点i.禁忌
出血している患者,過敏症の既往,セレキシパグとの併用. ii.注意
出血傾向,重篤な肝障害,重篤な腎障害,高血圧の持続などがある場合は慎重に投与する.血栓性血小板減少性紫斑病,無顆粒球症,重篤な肝障害などの重大な副作用があり得るので,投与開始後2 ヵ月間は2 週に1 回程度の血液検査を行う. e.副作用と対応
出血,胃・十二指腸潰瘍,肝機能障害・黄疸,血栓性血小板減少性紫斑病,間質性肺炎・好酸球性肺炎,血小板減少・無顆粒球症・再生不良性貧血を含む汎血球減少症,中毒性表皮壊死融解症・Stevens-Johnson 症候群・多形滲出性紅斑・急性汎発性発疹性膿疱症,薬剤性過敏症症候群,後天性血友病,横紋筋融解症など重大な副作用がみられた場合は,投与を中止し適切な処置を行う.
4.2.5 その他
いずれも小児の保険適応はなく,用量・用法や安全性は確立されていない. a.フルルビプロフェン
かつて川崎病の肝機能障害時に用いられていたが,重篤な肝障害時には禁忌であり,免疫グロブリン療法との併用による冠動脈病変抑制に関するエビデンスはない. b.シロスタゾール
抗血小板薬作用でなく心拍数増加作用を期待して,小児でも適応外使用であるが洞機能不全に用いられることがある. c.プラスグレル
チエノピリジン系抗血小板薬で,小児での報告例はほとんどない.
4.3 抗凝固薬(表58)
4.3.1 ワルファリン
a.適応
保険適応は血栓塞栓症(静脈血栓塞栓症,心筋梗塞,肺塞栓症,脳塞栓症,緩徐に進行する脳血栓症など)の治療および予防である.川崎病冠動脈病変,フォンタン手術後などの血栓塞栓症にも用いられる. b.作用機序
ビタミンK 類似の構造を有し,肝臓におけるビタミンK依存性凝固因子(第II・VII・IX・X 因子)の生成を阻害することにより,抗凝固作用を示す. c.用量・用法i.小児
12 ヵ月未満:0.16 mg/kg/日,1 歳以上15 歳未満:0.04 ~0.10 mg/kg/日,1 日1 回投与ii.成人
1~5 mg,1 日1 回投与初回経口投与後,数日間かけて血液凝固能検査で目標治療域に入るように用量調節し,維持量を決定する.血液凝
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固能検査は,一般にプロトロンビン時間(PT)の国際標準比(INR)が用いられる(表59).ワルファリンに対する感受性には個体差が大きく,同一個人でも変化することがあるため,定期的にPT-INR を測定し, 維持量を調節する.抗凝固効果の発現を急ぐ場合には,初回投与時ヘパリンを併用し, PT-INR が治療域になったことを確認した数日後にヘパリンを中止する.
ゲノム薬理学の発達により,ワルファリン応答性の個人差に関わる影響因子として,CYP2C9 とVKORC1 の2 つの遺伝子多型が重要であることが明らかになった769, 770). CYP2C9 は生体内で薬理作用を示すS 体ワルファリンのおもな代謝酵素であるチトクロームP4502C9 を, VKORC1はワルファリンの標的分子であるビタミンK エポキシド還元酵素をコードする.日本人の小児を対象とした遺伝子多型に関する研究が進行中である. d.使用上の注意点i.禁忌
出血(出現の可能性を含む),重篤な肝障害・腎障害,中枢神経系手術・外傷後早期,過敏症の既往歴,妊婦・妊娠の可能性のある婦人(胎児の催奇形性,出血傾向のリスクがあるため)など. ii.注意(1) 肝炎,下痢,うっ血性心不全,敗血症,遷延性低血圧,
新生児(特にビタミンK 欠乏時),ビタミンK 摂取時,悪性腫瘍,甲状腺機能異常などの患者では慎重に投与する. (2) ワルファリンの効果は食事の影響を受けやすい.ビタ
ミンK を含有し減弱させる納豆,クロレラ食品,青汁は止め,緑黄色野菜の大量摂取も避ける.ビタミンK強化の人工乳では効果が減弱し,母乳栄養では効果が過剰となり得る.摂食不良の状態ではビタミンK が不足し効果が増強されるため,感冒時にもPT-INR の変化に注意する. (3) ワルファリンは多くの薬剤と相互作用を示すので,併用する際は添付文書や適正使用情報771)を参考に調整
する.一般に抗生剤,消化性潰瘍剤,解熱鎮痛剤,アミオダロンなどはワルファリンの効果を増強し,抗てんかん薬は減弱する. e.副作用と対応
出血性合併症,皮膚壊死,カルシフィラキシス(紫斑をともなう有通性皮膚潰瘍),肝機能障害,黄疸,過敏症など.凝固能が低下(PT-INR が上昇)した場合,ワルファリンを減量か一時中止し,PT-INR が治療域に入ったら低用量から再開する.出血症状が強い場合などはビタミンKを10~30 mg 静注する.急性の重篤な出血または重大な出血が予想される緊急の手術・処置では,より迅速に作用する乾燥濃縮人プロトロンビン複合体(PT-INR に基づき25~50 IU/kg 静注)を投与してもよい(小児の安全性は確立されていない).
4.3.2 ヘパリンナトリウム(未分画ヘパリン)
a.適応
汎発性血管内血液凝固症候群(DIC)の治療,血液透析・人工心肺などの体外循環装置使用時,血管カテーテル挿入時,輸血および血液検査時の血液凝固の防止,血栓塞栓症の治療・予防.小児にも頻用されるが保険適応はない. b.作用機序
アンチトロンビンIII を活性化し,トロンビンをはじめ第IXa~XIIa 因子およびカリクレインを阻害することによって血液凝固を抑制する. c.用量・用法
年齢,症状,目的に応じて,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)または活性化凝固時間(ACT)が対照値の2~3 倍になるように適宜用量をコントロールすると,添付文書に記載されている.本ガイドラインでは,わが国の成人のガイドライン761)を参考に,APTT の目標を対照値の1.5~2.5 倍とし,おおむね46~70 秒(2.0 倍とすれば50~60 秒程度)とすることを推奨する.米国の小児の
表59 各疾患におけるプロトロンビン時間国際標準比目標値
本ガイドラインACC/AHA
大動脈弁人工弁置換術後2.0~2.5 (術後3ヵ月未満は2.0~3.0) 2.0~3.0 (高リスク例は2.5~3.5)僧帽弁人工弁置換術後2.0~3.0 2.5~3.5フォンタン手術後2.0 前後(1.5~1.8 とする施設もある) 2.0~3.0川崎病による冠動脈巨大瘤2.0~2.5 2.0~3.0心房粗細動1.6~2.5 2.0~3.0
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ガイドライン760)におけるAPTT の目標値は,60~85 秒とより高値に設定されている. i.小児
当初から維持量10 ~20 単位/kg/ 時を持続静注する方法と,初期に50 単位/kg を10 分以上かけて単回静注した後に維持量を持続静注する方法があるが,添付文書上の記載ではない.出血のリスクを考慮し,5~8 単位/kg/時で開始しAPTT 値に応じ適宜増量している施設もある.米国の小児のガイドラインによれば760),まず75 単位/kg で単回静注し,1 歳未満は28 単位/kg/時,1 歳以上は20 単位/kg/時(年長児では18 単位/kg/時)で持続静注する. ii.成人
添付文書を要約すると,点滴静注法では10~30 単位/ mL に希釈し,1.5 mL/分前後で開始した後に1.0 mL/分(600~1,800 単位/時)前後で持続投与,間欠静注法では1 回5,000~10,000 単位を4~8 時間ごとに静注する.いずれもAPTT またはACT が2 ~3 倍になるようにコントロールする.皮下注や筋注でも投与可能である.わが国の成人のガイドラインでは761),まず80 単位/kg あるいは5,000 単位を単回静注した後,18 単位/kg/時の持続静注を開始し,APTT 1.5~2.5 倍を目標に調節する投与法を記載している.当初から維持量10,000~20,000 単位/日を持続静注するか,50 単位/kgを単回静注後に維持量を投与する方法もある772). d.使用上の注意点i.原則禁忌
出血(可能性を含む),重篤な肝障害,重篤な腎障害,中枢神経系の手術・外傷の直後,過敏症,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の既往. ii.注意
血液凝固能検査などの出血管理を十分に行う.脊椎・硬膜外麻酔あるいは腰椎穿刺などとの併用により血腫が生じる恐れがある.急に投与を中止すると血栓を生じる危険性があるので,徐々に減量する.抗凝血作用を急速に中和する場合には,プロタミン硫酸塩を投与する.投与後にHITが出現することがある.抗凝血薬,血栓溶解薬,抗血小板薬などとの相互作用に注意する. e.副作用と対応
ショック,アナフィラキシー,出血,血小板減少,HITなどにともなう血小板減少・血栓症のほか,過敏症,脱毛,白斑,出血性壊死,肝機能障害,骨粗鬆症,低アルドステロン症,局所の疼痛性血腫などがみられた場合は,投与を中止し適切な処置を行う. 4.3.3 低分子ヘパリン
a.適応
1血液体外循環時の灌流血液の凝固防止(血液透析), 2DIC,3下肢整形外科手術における静脈血栓塞栓症の発症抑制,4腹部手術における静脈血栓塞栓症の発症抑制,のうちダルテパリンは1と2,エノキサパリンは3と4が保険適応で,小児は適応外である. b.作用機序
アンチトロンビンIII と結合し,第Xa およびトロンビンを阻害することによって血液凝固を抑制する. c.用量・用法i.小児
米国のガイドラインによれば760),ダルテパリンは治療量129 ± 43 単位/kg,予防量92 ± 52 単位/kg を24 時間ごと,エノキサパリンは治療量1.0 mg/kg(2 ヵ月未満1.5 mg/kg),予防量0.5 mg/kg(同0.75 mg/kg) (1 mg は100単位に相当)を12 時間ごとに皮下注射する.わが国では小児の報告は少なく,成人でもダルテパリンは静注で用いられる. ii.成人
1では,体外循環開始時に15~20 単位/kg(出血性病変や出血傾向がある場合は10~15 単位/kg)を単回投与し,体外循環開始後は7.5 ~10 単位/kg/ 時(同,7.5 単位/kg/ 時)で抗凝固薬注入ラインより持続注入する.2では,1 日量75 国際単位/kg を24 時間かけて持続静注する.3と4では,1 回2,000 単位を原則として12 時間ごとに1 日2 回皮下注射する. d.使用上の注意点
ダルテパリンとエノキサパリンをまとめて記載するが,詳細な内容は添付文書を参照されたい. i.禁忌または原則禁忌
高度な出血症状,HIT の既往歴,過敏症の既往歴,重篤な肝障害,重篤な腎障害,急性細菌性心内膜炎,妊婦または妊娠している可能性のある婦人. ii.注意
出血の悪化がみられた場合は減量・中止する.脊椎・硬膜外麻酔あるいは腰椎穿刺などとの併用により血腫が生じる恐れがある(エノキサパリンでは警告).抗凝固作用を急速に中和する場合には,プロタミン硫酸塩を投与する.投与後にHIT が出現することがある.抗凝固薬,血栓溶解薬,抗血小板薬などとの相互作用に注意する. e.副作用と対応
ショック,アナフィラキシー,血腫・出血,血小板減少,血栓症,肝機能障害,黄疸,過敏症などがみられた場合は,
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投与を中止し適切な処置を行う.
4.3.4 その他
アンチトロンビンIII 製剤は,アンチトロンビンIII の先天性欠乏症や低下(正常の70% 以下)をともなうDIC に使用される.新生児を除く小児にも保険適応があり,ヘパリンの持続静注のもとに30 単位/kg を緩徐に(もしくは点滴)静注する.皮下注用のヘパリンカルシウム,アンチトロンビンIII のみに結合して抗凝固作用を発揮するダナパロイドとフォンダパリヌクスは,いずれも小児の適用はない.
ビタミンK に依存せず凝固因子を阻害する直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)として,ダビガトラン,リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンが開発され,おもに成人の心房細動における血栓塞栓症予防薬として普及している.ダビガトランは,プロトロンビン(第II 因子)から生成され,フィブリン塊の形成など凝固カスケードの中心となるトロンビン(第IIa 因子)の阻害薬である.リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンは,プロトロンビンをトロンビンに分解する第Xa 因子の阻害薬である.いずれのDOAC も小児適応はないが,オキサゾリジノン誘導体のリバーロキサバンは,深部静脈血栓症とフォンタン手術後に対する国際共同治験が進行中である.
4.4 各疾患に対する抗血栓療法
4.4.1 人工弁置換手術後
弁膜症の外科手術として形成術が困難な場合は,機械弁または生体弁による置換手術の適応である.小児では耐久性を考慮し,ほとんどの症例では機械弁が用いられる.いずれも,人工弁本体か周囲に血栓が付着するリスクがあり,人工弁の機能不全や他臓器の塞栓症の原因になる.血栓塞栓症のリスクの高い機械弁ではワルファリンによる抗凝固療法,低い生体弁ではアスピリンによる抗血小板療法が必須である.小児では人工弁置換手術後に関するエビデンスレベルの高いデータは乏しいので,米国とわが国の成人のガイドライン758, 761, 763)に基づき記載した.
機械弁では全例,PT-INR でモニタリングしてワルファリンを投与する.PT-INR の治療域は,ACC/AHA のガイドラインでは763)2.0~3.0(目標2.5)を基本に,高リスク群は2.5~3.5(目標3.0)に設定されている.血栓塞栓症のリスクは,大動脈弁に比し僧帽弁で高く人工弁が内膜化される数ヵ月以内も高いので,PT-INR をより高値に保つ必要がある.日本人の抗凝固療法に関しては,欧米よりも低いPT-INR で血栓塞栓症の予防効果が得られることが経
験的に知られている.そこで,わが国の成人のガイドラインでは758, 762),PT-INR 2.0~2.5 を基本に,高リスク群では2.0~3.0 に設定されている.
ワルファリンとアスピリンの併用は,ACC/AHA のガイドラインでは763),クラスI で人工弁置換全例に推奨されている.わが国の成人のガイドラインでは762),適切な抗凝固療法中であっても血栓塞栓症を発症した場合に,PT- INR の治療域を2.5~3.5 に上げるか,あるいはアスピリンかジピリダモールを併用すると記載されている.併用する際は出血性合併症のリスクに注意が必要である. a.機械弁
大動脈弁置換術後のPT-INR の治療域は,術後3 ヵ月未満では2.0 ~3.0,それ以降では2.0 ~2.5 とする758, 762).ただし,通常用いられる二葉弁ではなく,ボール弁やMedtronic Hall 弁以外のディスク弁では2.0~3.0 とする.また,心房細動,血栓塞栓症の既往,左心機能低下,凝固亢進状態といった血栓塞栓症の危険因子がある場合も2.0~3.0 が推奨される.
大動脈弁置換術後の小児を5 年以上観察した12 研究の496 例では,ワルファリン投与下で血栓塞栓症が0~5.3% /人・年(ボール弁を除くと0~1.3%/人・年),出血性合併症が0 ~2.3% /人・年(ボール弁を除くと1.0%/ 人・年未満)であった759).
僧帽弁置換術後のPT-INR の治療域は,術後期間や危険因子の有無にかかわらず,2.0~3.0 とする758, 762).僧帽弁置換術後の小児を5 年以上観察した8 研究(296 例)では,ワルファリン投与下で血栓塞栓症が0~1.2% /人・年,出血性合併症が0 ~1.4% /人・年であった759).
機械弁置換術後に抗凝固療法を行わずに抗血小板薬のみを用いた場合,出血性合併症は減少するが,血栓塞栓症のリスクが増大する.Bradley らは773),機械弁置換術を受けた小児28 例,30 手術例を対象に,ワルファリン単剤とアスピリン,ジピリダモール2 剤併用の非ランダム化比較試験を行った.ワルファリン群では有意に出血性合併症が多く(5/20 例 vs 0/10 例),血栓塞栓症は少なく(0/20 例vs 2/10 例), 出血性合併症は重篤でなかったが,血栓塞栓症は致死的であった.術後出血のリスクが特に高い場合,あるいは出血性合併症が発現した場合に,抗血小板療法を抗凝固療法の代替療法として行うこともあるが,一時的な措置に留める. b.生体弁
生体弁置換術後3 ヵ月以内は血栓塞栓症リスクが高いため774),ワルファリンによる抗凝固療法を行い,3 ヵ月以降は心房細動,血栓塞栓症の既往,左心機能低下,凝固
p.174
亢進状態といった危険因子があれば続行する(PT-INR
2.0 ~2.5) 758, 762).危険因子がなければ,3 ヵ月以降はアス
ピリンの低用量投与が推奨される763).
三尖弁置換術に対しては生体弁が用いられることが多い.この場合,ワルファリンを術後3~6 ヵ月間投与し,右室機能低下や他の危険因子がある際は以後も続行する.危険因子がなければ,低用量のアスピリンのみ投与する759).自己肺動脈弁使用の大動脈弁置換術(ロス手術)では,術後3 ヵ月~1 年間,ワルファリンとアスピリンを併用し,以後中止することが多い758).
4.4.2 体肺動脈シャント手術後
チアノーゼ性心疾患などでは姑息手術として,大動脈と分枝あるいは心室(左心低形成症候群の佐野手術)から肺動脈間に,ポリテトラフルオロエチレン(ゴアテックス®)を用いた導管をつけるシャント手術が行われる.代表的な手技は,鎖骨下動脈と同側肺動脈をつなぐBlalock-Taussig手術である.体肺動脈シャントの閉塞は術後の重大な合併症で,完全閉塞は致死的になり得る.シャント不全を9.3~9.7% に認めたという報告があり,約半数の原因が血栓症であった759).
体肺動脈シャント術直後の抗凝固療法については,適切な前方視的研究はないが,低用量のヘパリンを投与することが一般的である.慢性期には,通常アスピリンによる抗血小板療法を行う.Li らは775),1,004 例を対象とした前方視的観察研究によって,アスピリン服用群が非服用群に比し,血栓症が有意に低率で(ハザード比0.13),死亡率も抑制されることを示した.クロピドグレルに関する906例(約80% がアスピリン服用)の二重盲検試験では776),血栓症を含むエンドポイント発生率は実薬群で19.1%,プラセボ群で20.5% と有意差がなく,出血発生率も同等であった.
シャントの閉塞が生じた際は,まずヘパリン投与,体血圧上昇,人工呼吸器による全身管理を行い,カテーテルインターベンション,再手術,体外式膜型人工肺(ECMO)などを検討する.全身的な血栓溶解薬の投与は,出血のリスクが高いので推奨されない759).
4.4.3 フォンタン手術後
血栓症はフォンタン手術後に高率に出現し,予後を規定する重要な因子となる.その発生率は,本症に注目した報告では3~15%,全般的な術後成績の報告としては1~ 7% とされている759).わが国の単施設の研究では777), 11/412 例(3%)に血栓症が認められた.血栓症のリスクは,術後経過,術式,重症度,合併症,予防薬などの影響を受ける.フォンタン手術のリスクは,3~12 ヵ月後ま
で高く,一時低下するが,5~10 年後以降に再度上昇する759).血栓症の既往をはじめ,心房肺動脈吻合(APC),両側両方向性上大静脈吻合,血流のうっ滞をともなう低形成の心室,盲端の肺動脈幹などが危険因子として指摘されている759).この他,蛋白漏出性胃腸症,持続する胸水,長期臥床,心機能低下,不整脈,血栓誘発性の異物の使用,開窓術,Kawashima 法なども危険因子になる可能性がある.
フォンタン術後では,血栓症の予防のためにアスピリンまたはワルファリンの投与を行うべきであるが,両者の優劣については結論が出ていない.Monagle らは778),フォンタン術後に対するランダム化比較試験を行い,血栓症の割合はアスピリン群12/57 例(21%,投与量5 mg/kg)とワルファリン群13/54 例(24%,投与量0.1 mg/kg,PT- INR 2.0~3.0)で有意差がなかったことを報告した.両群とも予防効果が不十分であり,INR が治療域に達しないワルファリンの成績が不良であったことから,新規治療法の開発が提言されている.10 研究(1,200 例)を対象としたメタアナリシスでも779),血栓症の割合は無治療群17% に比べアスピリン群11%,ワルファリン群10% のほうが数値的には低かったが,有意差は認められなかった.
よって,抗凝固療法を術後3 ~12 ヵ月後まで続行した後,前述のような危険因子を有する症例に投与することが推奨される.危険因子がなくても,フォンタン手術後全例にワルファリンを継続している施設もある.適切なPT-INRは明らかでないが,弁膜症より低値とし,わが国では2.0前後を目標とする施設が多く780),1.5~1.8 を目標にしている施設もある.血栓塞栓症と出血合併症の発生率を含め,長期予後に与えるワルファリンの影響に関する前方視的研究が期待される.前述のように,フォンタン手術後に対するDOAC の治験が進行中である.
4.4.4 川崎病
急性期には,免疫グロブリン静注療法に,抗血小板作用と抗炎症作用を目的として30~50 mg/kg/日の中等量アスピリンを併用することが確立されている765).米国では80 ~100 mg/kg/日の高用量で投与されるが766),いずれが優位かどうかは明らかでない.解熱後は3~5 mg/kg/日の低用量アスピリンに変更し,冠動脈病変がなくても2 ~ 3 ヵ月は投与を続ける.
冠動脈病変が残存した場合,小動脈瘤(または拡大),中等瘤,巨大瘤という瘤の分類に,狭窄・閉塞および虚血の有無を組み合わせて管理する.瘤の重症度分類は,従来は内径の実測値が基準であったが,体表面積で補正したZ
p.175
スコアも普及してきた(表60)
699, 766, 781).冠動脈瘤を形成
した症例では,瘤の重症度にかかわらず抗血小板薬を継続する必要があり,低用量アスピリンが標準的治療である.冠動脈造影などの画像検査で瘤の退縮が確認できれば,アスピリンは中止してよい.ジピリダモール,パナルジン,クロピドグレルなど他の抗血小板薬の適応は確立されていないが,アスピリンが使用困難な場合の代替薬,中等瘤以上でアスピリンとの併用薬として用いられることがある.
ワルファリンの適応は,巨大瘤のほか,急性心筋梗塞既往,瘤内の血栓形成などである765).PT-INR 2.0~2.5 を治療域とし699),年齢(乳児では出血のリスクが高い)や病態により適宜調整する.実測値で中等瘤であっても,乳幼児(体表面積0.5 m2 未満)の内径6 mm 以上では心イベントが高率であり782),Z スコアも参考にワルファリンの適応を考慮する.Sugahara らは783),巨大瘤の心筋梗塞発症率は,ワルファリン(PT-INR 1.5~2.5)とアスピリン併用群では1/19 例(5.2%)と,アスピリン群の12/41 例(32.7%)に比べ有意に低かったと報告した.Suda らは784), 83 例の巨大瘤に対するワルファリン・アスピリンの併用療法を検討し,心筋梗塞の回避率は1 年で92.5%,10 年で91.0% と良好で,出血性合併症も1.7%/人・年であることを示した.この研究では,PT-INR は4 例を除き1.5~2.5を目標とし,心筋梗塞発症前の5/6 例は2.0 未満であった.
一方で,ワルファリン・アスピリン併用療法による心筋梗塞予防の限界781, 785),PT-INR のコントロールが困難で出血や血栓が高率といった問題786)も指摘されている.巨大瘤が長期に残存した場合,ワルファリン・アスピリン併用療法の妥当な継続期間については一定した見解はない.冠動脈病変の程度や慢性期治療だけでなく,性差や急性期治療の影響781, 787)も考慮した前方視的な研究によるエビデンスの構築が望まれる. 4.4.5 心房粗細動
心房粗細動,特に心房細動は高齢者に好発し抗凝固療法の方針が確立されているが,小児ではまれで,先天性心疾患術後にともなう心房粗動(本項では心房内リエントリー性頻拍を含む)が多い.小児の心房粗細動などの不整脈に対する抗凝固療法のエビデンスは乏しく,成人のガイドライン764)を参考に血栓予防が行われているのが現状である.ワルファリン投与時のPT-INR の治療域は,成人の心房細動では2.0~3.0,わが国では70 歳以上は1.6~2.6とされている.小児では確立されていないが,以前のガイドライン2)を参考に1.6~2.5 を基本とし,年齢や病態により適宜調整することを推奨する.
心房粗細動が新たに出現し,明らかに48 時間未満の発症であればカルディオバージョンを行ってもよい.48 時間以上持続していれば,経胸壁心エコーにより心房内血栓の有無を診断し,確定的でなければ経食道心エコーを実施する759).小児では経胸壁心エコーによる心房内血栓の検出の感度が高く788),経食道心エコーの侵襲が大きい.血栓がないか,あっても血行動態が不安定であれば,ヘパリン静注後にカルディオバージョンを行う.血栓があり血行動態が安定していれば,ワルファリンによる抗凝固療法を3 ~4 週間続けた後にカルディオバージョンを行う.カルディオバージョン後の抗凝固療法は,成人に準じ少なくとも4 週間続けることが一般的である759).
心房細動に対する継続的な抗凝固療法は,成人ではCHADS2 スコアなど脳梗塞のリスク評価に基づいて行われる764).小児では適切な評価基準がないが,心房粗細動が再発性・持続性の場合,血栓塞栓症の既往,体心房拡大,心室機能低下,チアノーゼ,フォンタン手術後,エプスタイン異常,人工弁置換術後などの危険因子があれば,ワルファリンによる抗凝固療法が推奨される759).心房粗細動
表60 川崎病における冠動脈瘤の重症度分類
日本循環器学会ACC/AHA
正常5 歳未満<3 mm,5 歳以上<4 mm *1 Z スコア<2
拡大
小瘤実測値≦4 mm の局所性拡大(5 歳以上<周辺冠動脈内径の1.5 倍) 2 ≦Z スコア<2.5 または初診時Z スコア<2 の際はフォロー中に1 以上の減少
2.5 ≦Z スコア<5
中等瘤4 mm <実測値<8 mm *2
(5 歳以上 周辺冠動脈内径の1.5~4 倍) 5 ≦Z スコア<10 かつ実測値<8 mm巨大瘤8 mm ≦実測値(5 歳以上 周辺冠動脈内径の4 倍<) 10 ≦Z スコアまたは8 mm ≦実測値*1:従来のガイドラインに記載はない*2:心エコーによる内径の実測値6 mm 以上では,巨大瘤に準じた管理を要する(日本循環器学会.2013
699),McCrindle BW, et al. 2013 766)より作表)
p.176
が発作性で再発がなく危険因子がなければ,長期の抗凝固療法は不要である.
4.4.6 心臓カテーテル検査・治療
心臓カテーテルによる診断とインターベンションにおける抗血小板薬,抗凝固薬について,米国のガイドライン759, 760)に基づき具体的な使用法を述べる.いずれもわが国の小児のデータは不十分であり,実際の治療方針は施設ごとに相違がある.
経動脈的アプローチでは,ヘパリンを100 単位/ kg(最大5,000 単位)投与し,活性化凝固時間(ACT>200 秒)をモニターし1 時間ごと(より長時間では30 分間ごと)に50~100 単位/kg 追加する方法が推奨されている.また,経静脈的アプローチでも,右左シャントがある,カテーテル治療を行う,長時間になると予想される例では,ヘパリン投与を考慮してもよい.
大腿動脈の閉塞により脈拍が触知できず下肢の虚血所見を認める場合は,12~48 時間以上ヘパリン投与を継続する.改善が得られなければ,血管エコーで評価した後,血栓溶解療法を開始することも妥当である.血栓溶解療法が禁忌あるいは下肢の虚血所見が切迫している場合は,外科的治療またはカテーテル治療を考慮する.
血管内ステントを挿入した際は,ヘパリンを100 単位/ kg 投与し,以後低用量のアスピリンを6 ヵ月間投与する.塞栓症のリスクが高い場合は3~6 ヵ月間,ワルファリンを加えてもよい.心房中隔欠損のカテーテル治療後も,同様にヘパリンを100 単位/kg 投与し,低用量のアスピリンを6 ヵ月間投与する.年長児や成人では,3~6 ヵ月間,クロピドグレルを加えることもある.
4.5 処置,手術,感染時の対応
処置・手術の際に,抗血小板薬・抗凝固薬を継続すれば出血や合併症のリスク,中止すれば血栓塞栓症のリスクが高まるので,個別にリスク・ベネフィットを判断する必要がある.以下にわが国の成人のガイドライン758) を参考に対応の原則を述べるが,小児に適応することの妥当性は明らかでない.
抜歯など歯科処置は,抗血小板薬や至適治療域にPT- INR がコントロールされていれば抗凝固薬の継続下に実施してよい.体表の小手術で術後出血への対応が容易な場合も,同様の対応で差し支えない.
消化管内視鏡による生検に準じる低リスク手技時およびポリペクトミーに準じる高リスク手技時も,ワルファリンを中止あるいは減量する(PT-INR≦1.5 に調整).抗血小板薬の休薬期間は,低リスク手技時ではアスピリン3 日間,
チクロピジン・クロピドグレル5 日間,両者の併用で7 日間,高リスク手技時ではアスピリン7 日間,チクロピジン・クロピドグレル10~14 日間を目安とする.
心臓血管外科手術など大手術の場合は,術前3~5 日までにワルファリンを中止し,ヘパリンによる術前の抗凝固療法に変更する.手術4 ~6 時間前からヘパリンを中止するか,手術直前に硫酸プロタミンでヘパリンの効果を中和する.術後は早期にヘパリンを再開し,病態が安定したらワルファリン療法を再開し,PT-INR が治療域に入ったらヘパリンを中止する.抗血小板薬に関しては,大手術の7~ 14 日前からアスピリン,チクロピジンおよびクロピドグレル,3 日前からジピリダモールおよびシロスタゾールを中止する.その間の血栓塞栓症のリスクが高い症例では,脱水の回避,輸液,ヘパリンの投与などを考慮する.
インフルエンザおよび水痘の罹患時には,ライ症候群との関連が否定できないため,アスピリンは中止する.アスピリンの作用の継続期間を考慮すると,中止期間の他剤への変更は通常不要であるが,リスクが高い症例では他の抗血小板薬の投与を考慮してもよい.感冒性胃腸炎などで摂食不良の際は,ワルファリンの効果が増強されるため,PT- INR の上昇に注意する.
5 高脂血症治療薬
5.1 小児の脂質異常症の定義・概念
血清脂質はおもに,コレステロール,トリグリセライド(TG),リン脂質,遊離脂肪酸(FFA)からなる.FFA 以外はアポリポ蛋白(アポ蛋白)と複合体を形成し,リポ蛋白として血中に存在している.リポ蛋白は比重の違いにより,カイロミクロン(CM),超低比重リポ蛋白(VLDL),中間比重リポ蛋白,低比重リポ蛋白(LDL),高比重リポ蛋白(HDL)に分類される.これらのリポ蛋白を構成する脂質とアポ蛋白の組成はそれぞれで異なる.
リポ蛋白の合成や分解・処理などのアンバランスから脂質異常症が生じる.脂質異常症は動脈硬化ならびに動脈硬化性疾患の大きな危険因子となるために重要となる.動脈硬化に関わる病理学的変化はすでに小児期から開始していることが報告されている.すなわち,脂質異常症は早期に発見し,適切な対応が求められる病態(疾患)である789).
p.177
5.1.1 分類
血清脂質値の高低からは,高リポ蛋白血症(高脂血症)と低リポ蛋白血症(低脂血症)に大別される.高コレステロール血症や高TG 血症を“ 高脂血症” と呼称しても問題ないが,現在は,一般に“ 脂質異常症(dyslipidemia)” が用いられている789).また,遺伝素因に基づいて発症する「原発性(一次性)」(表61)
789)と,他の疾患・要因のため
に生じる「続発性(二次性)」とに大別される.
増加するリポ蛋白の種類によりI~V 型に分類されている(Fredrickson 分類,世界保健機関[WHO]分類)(表
62 790)).I 型はCM,IIa 型はLDL,IIb 型はLDL と
VLDL,III 型はVLDL レムナントやCM レムナント,IV 型はVLDL,V 型はCM とVLDL が増加した病態である790).
I 型およびV 型は高度の高TG 血症を呈する.II 型はIIa 型とIIb 型に分類される.前者はコレステロールのみ増加するもので,後者はTG も増加する.III 型は小児期にはまれとされている.IV 型は,高CM 血症をともなわない内因性(肝臓由来)のVLDL 増加による高TG 血症で,肥満とインスリン抵抗性が関係する.
5.1.2 基準値
小児では血清脂質を調べられる機会が少ないため,異常に気づかれない場合が多い.特に冠動脈疾患や脂質異常症
の家族歴のある児では,異常の有無を早期に把握することが重要である.
小児(小中学生)の脂質異常の基準値を表63 789)に示す.これは,1990 年代の全国調査791)から設定されている.小児においては,種々のリスクについて明らかではないので,総コレステロール(TC),LDL コレステロール(LDL-C)およびTG は95 パーセンタイル値,HDL コレステロール(HDL-C)は5 パーセンタイル値に基づいている.年齢により多少の違いはあるが,1 つの値で代表されている.最近の調査でも脂質のレベルは以前と大差ない792).
乳幼児でも血清脂質は学童期とほぼ同程度であるので,この基準を用いることが可能である.ただし,乳児は母乳の影響を受け高値となりやすいので,異常が認められた場合は,母乳終了後に再検査する必要がある.
LDL-C は,空腹で測られていれば,また高TG(400 mg/dL 以上)でなければ,Friedewald 式([TC]- [HDL-C]-[TG/5])で間接的に求めることが推奨されている789).しかし,最近では直接法の精度も向上しているので,直接法による値でも十分な判断材料になる.直接法は食事の影響を受けにくいので利便性が高い.
小児のnon-HDL-([TC]-[HDL-C])は,LDL-C より10~15 mg/dL 高値である.成人の基準値は170 mg/dLとなっているが,小児では通常150 mg/dL 以上は高値と考えている792).
小児の食後TG 値については小林ら793)が生活習慣病検診で検討し,1 時間以内にその血中値は上昇し,3 時間までほぼ一定であり,その後低下することが判明している.食後TG の95 パーセンタイル値はおよそ200 mg/dL となる.
表61 原発性脂質異常症の分類
原発性高脂血症
• 原発性高カイロミクロン血症• 原発性高コレステロール血症• 家族性III 型高脂血症• 原発性高トリグリセライド血症• 原発性高HDL コレステロール血症原発性低脂血症
• 無βリポ蛋白血症(MTP 異常症) • 家族性低βリポ蛋白血症(アポBまたはPCSK9 異常症) • 家族性低HDL 血症その他の脂質異常症
• シトステロール血症,脳腱黄色腫症(日本動脈硬化学会編.2017 789)より抜粋)
表62 脂質異常症(高脂血症)の表現型分類
表現型I IIa IIb III IV V増加するリポ蛋白分画カイロミクロンLDL LDL VLDLレムナントVLDLカイロミクロン VLDLコレステロール→ ↑~↑↑↑ ↑~↑↑ ↑↑ → または↑ ↑トリグリセライド↑↑↑ → ↑↑ ↑↑ ↑↑ ↑↑↑ (日本動脈硬化学会編.2018 790)より)表63 小児(小中学生)の脂質異常の基準 (空腹時採血)
TC 220 mg/dL 以上LDL-C 140 mg/dL 以上TG 140 mg/dL 以上HDL-C 40 mg/dL 未満TC,LDL-C,TG は95 パーセンタイル値,HDL-C は5 パーセンタイル値から設定されている. (日本動脈硬化学会編.2017
789)より)
p.178
5.2 小児脂質異常症の対応
5.2.1 原発性脂質異常症
a.原発性高コレステロール血症
高コレステロール血症,特に高LDL-C 血症は,動脈硬化形成に関わる最大の危険因子であり,血中LDL-C レベルが高いほど冠動脈疾患の発生率が高いことが知られている.中でも“ 家族性高コレステロール血症(FH)” は, LDL-C が非常に高値となるため,早期から治療介入の必要性があり,小児期においてもっとも重要な疾患の1 つである.
FH については,2017 年,成人794)および小児795)の治療指針が続けて発表され,これらを基に動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017 年版789)も2012 年版以上に詳細に記された. i.家族性高コレステロール血症(FH)
FH は,LDL 受容体をコードするLDLR の異常により生じる常染色体優生遺伝のものが基本型であるが,LDL 受容体の分解に関わるproprotein convertase, subtilistin/ kexin type 9 (PCSK9)をコードするPCSK9 の異常によるものやアポリポ蛋白B-100 をコードするAPOB の異常,さらには常染色体劣性高コレステロール血症なども含めて考えている795).
一般に,病原性変異が1 つある場合にヘテロ接合体,両親由来の2 つある場合にホモ接合体となる.FH ホモ接合体でも父方および母方の遺伝子変異の違いにより,true homozygote(真性ホモ接合体),compound heterozygote (複合ヘテロ接合体),double heterozygote(ダブルヘテロ接合体)といった組み合わせが生じる795).
FH の有病率は,以前からホモ接合体が100 万人に1 人,ヘテロ接合体が500 人に1 人とされていた.しかし,日本人の遺伝子解析による調査では,ホモ接合体が17 万人に1 人,ヘテロ接合体が208 人に1 人と報告されている796).
現在,FH ヘテロ接合体の頻度は200~500 人に1 人としている795).
小児期のLDL-C レベルは若年成人の頸動脈中膜内膜肥厚(IMT)にもっとも関連する因子であり797),FH の動脈硬化の進展は非遺伝性高脂血症に比べて速く,FH ヘテロ接合体でもIMT 増加は10 歳前から始まり12 歳で有意となる.これは少なくとも正常児の5 倍以上速いと報告されている798).未治療では男性で30 ~50 歳,女性で50 ~ 70 歳に狭心症や心筋梗塞を発症することが多いとされるが789),さらに若年での危険性も指摘されている.
最近の考えでは,生涯にわたるLDL-C 曝露の累計が重要視されており,FH ではLDL-C 累積速度が速いわけである.しかし,LDL-C 低下療法によりその速度を抑えることが可能で,特に小児期からスタチン治療を行えば健常者と変わらないレベルにまでその総累積量を抑えることができると考えられている799).
小児のFH の診断基準を表64 795)に示す.成人(15 歳以上)では,LDL-C 180 mg/dL をカットオフ値とし,1高LDL-C 血症,2黄色腫,3家族歴のうち2 項目以上で診断する(表65 )
795).小児では,通常,黄色腫はみられ
ないので,LDL-C が健常児の95 パーセンタイル値である140 mg/dL 以上と家族歴で診断することになっている(図72 795)).
LDL-C の測定値も変動があるので複数回のチェックが必要である.黄色腫は成人以降に出現が多くなるが,小児期に黄色腫があれば重症FH と推測される.鑑別としては,シトステロール血症,脳腱黄色腫,リソソーム酸性リパーゼ欠損症および母乳性高コレステロール血症がある.
FH ホモ接合体の場合は,専門医とも相談しながら早急に対処しなければならない.スタチンを試しながら(効果があるタイプもある),しかし多くの場合薬剤のみでは十分な脂質低下が得られないので,LDL アフェレシスの準備を行う.動脈硬化進展阻止のためには小学校入学前からの導
表64 小児家族性高コレステロール血症の診断基準
1.高LDL-C 血症:未治療時のLDL-C ≧140 mg/dL (総コレステロール値≧220 mg/dL の場合はLDL-C を測定する) 2.FH あるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2 親等以内の血族)
• 続発性(二次性)高脂血症を除外し,2 項目が当てはまる場合,FH と診断する• 成長期にはLDL-C の変動があるため,注意深い経過観察が必要である• 小児の場合,腱黄色腫などの臨床症状に乏しいため,診断には家族FH について診断することが重要である.必要に応じて2 親等を超えた家族調査の結果も参考にする• 早発性冠動脈疾患は男性55 歳未満,女性65 歳未満で発症した冠動脈疾患と定義する• 黄色腫がある場合,LDL-C は非常に高値であること(ホモ接合体)が疑われる(日本小児科学会,日本動脈硬化学会編.2017 795)より)
p.179
入が必要とされている.また,心機能や冠動脈,弁などの精査も必要になる795).
FH ヘテロ接合体の場合,ホモ接合体でもそうであるが,第1 に食事や生活習慣の指導を行う.食事は伝統的な和食のパターンが推奨される.脂質の割合を減らし,種々のものをバランスよく食べることが推奨される.肥満であれば改善させる必要がある.また,喫煙・受動喫煙にも注意する.生活習慣の指導後もLDL-C 180 mg/dL 以上が持続する場合,男女の区別なく,10 歳を目安に薬物療法を考慮す
ることになる.第一選択薬はスタチンとなっている795).治療のフローチャートを図73 795)に示す.
スタチン(HMG-CoA 還元酵素阻害薬)は,コレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoA 還元酵素を阻害すると同時に,転写因子SREBP-2 活性化を介してLDL受容体合成を大きく高めるためにLDL-C 低下作用が強い.スタチンの冠動脈疾患に対する予防効果は多くの大規模臨
表65 成人(15 歳以上)家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体診断基準
1.高LDL-C 血症(未治療時のLDL-C 値180 mg/dL 以上) 2.腱黄色腫(手背,肘,膝などまたはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫3.FH あるいは早期性冠動脈疾患の家族歴(2 親等以内)
• 続発性高脂血症を除外した上で診断する• 2 項目以上でFH と診断する.FH ヘテロ接合体疑いは遺伝子検査による診断が望ましい• 皮膚結節性黄色種に眼瞼黄色腫は含まない• アキレス腱肥厚はX 線撮影により9 mm 以上にて診断する• LDL-C が250 mg/dL 以上の場合,FH を強く疑う• すでに薬物治療中の場合,治療のきっかけとなった脂質値を参考にする• 早発性冠動脈疾患は男性55 歳未満,女性65 歳未満と定義する• FH と診断した場合,家族についても調べることが望ましい• この診断基準はホモ接合体にもあてはまる(日本小児科学会,日本動脈硬化学会編.2017 795)より)
図72 小児家族性高コレステロール血症診断のフローチャート(日本小児科学会,日本動脈硬化学会編.2017 795)より)年に1 回程度フォローアップ
Yes
No
疾患の治療経過観察*
診断が難しい場合,専門医と相談
(遺伝子検査を考慮) FH の可能性は低いFH 疑い
*:LDL-C ≧180 mg/dL が持続する場合は専門医と相談
Yes No
No Yes
1.LDL-C ≧140 mg/dL 2.2 親等以内の家族歴(FH あるいは早発性冠動脈疾患)
項目1 と2 を満たす
ヘテロ接合体とホモ接合体の鑑別1 のみ2 のみ
詳細な家族調査によりLDL-C ≧180 mg/dL
の血族あり
高LDL-C 血症をきたす他疾患LDL-C <100
(mg/dL) LDL-C 100 ~140
(mg/dL) FH 疑い
FH の診断
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床試験で示されている.
スタチンは水溶性と脂溶性に大別される.わが国では現在6 種類のスタチン(プラバスタチン,シンバスタチン,フルバスタチン,ピタバスタチン,アトルバスタチン,ロスバスタチン)がある.後三者は高強度スタチンとよばれる.現在,ピタバスタチンには小児の保険適用がある.
大規模臨床試験でも重篤な副作用はないようであるが,横紋筋融解症(クレアチニンホスホキナーゼ[CK]値が正常上限の10 倍以上に上昇し,筋肉症状,ミオグロビン血症,腎障害がある)には注意しておく.また,糖尿病発症にも注意する.なお,催奇形性の可能性から妊娠中は禁忌となっている.併用薬がある場合には相互作用のチェックも必要である.
エゼチミブは,小腸粘膜のトランスポーター蛋白(NP- C1L1)とコレステロールミセルの結合を阻害する.脂溶性ビタミン吸収には影響ないとされている.海外では以前から使用されているが,わが国では2007 年から使用可能となった.米粒大の錠剤で年少児でも飲みやすいが,単独ではLDL-C 低下作用は弱い.
陰イオン交換樹脂(レジン)は,腸管で胆汁酸と結合し,脂質吸収阻害と胆汁酸再吸収を低下させる.その結果, LDL の肝への取り込みが亢進する.コレスチラミンとコレスチミドがあるが服薬しにくい難点がある.単独ではやはりLDL-C 低下作用は弱い. LDL-C の管理目標値は成人より少しマイルドに140
mg/dL 未満(小児の正常範囲内)としている.特に,冠動脈疾患の家族歴や本人に糖尿病がある場合には,140 mg/dL 未満に確実に低下させることが必要であろう795).
FH の治療において,通常のスタチンを用いてもLDL-C値の改善が十分でない場合,まずはそのスタチンを増量するか,あるいはより強力なスタチンに変更する.次に,高強度スタチンと他剤(エゼチミブ,コレスチミド,プロブコールなど)を併用する.スタチン増量で十分な効果が得られないのは,コレステロール吸収が高まることとPCSK9の発現も高まるためである.高強度スタチンとエゼチミブの併用で約50% の脂質低下が可能である.それ以上の低下が必要な症例では,LDL アフェレシスも考慮される.現時点では,PCSK9 抗体薬やミクロソームトリグリセライド転送蛋白阻害薬は小児では適応にならない795).
薬剤使用にあたっては十分な説明と同意が必要である.投与量は患児の年齢や検査値による.体格に合わせて成人量から換算するか,最低量から開始する.薬物療法中は血液生化学指標に加えて,成長発達や二次性徴についても観察していく795). ii.家族性複合型高脂血症(FCHL)
FCHL は,65 歳以下の心筋梗塞患者の基礎疾患として30% を占めるとされ,有病率は人口の約1% と高い789).常染色体優性遺伝形式をとるが遺伝子異常は解明されてい
図73 小児家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体に対する治療のフローチャート(日本小児科学会,日本動脈硬化学会編.2017 795)より)
*1: 1 ヵ月程度の指導後にLDL-C 値を評価する.180 mg/dL 未満であれば,定期的にフォローアップする*2: 生活習慣の指導を継続し,年に3 回程度,LDL-C 値を評価する*3: 第一選択薬はスタチンとする.最小用量から開始する.早発性冠動脈疾患の家族歴または糖尿病を合併している場合は,確実に管理目標値である140 mg/dL 未満を維持する
No Yes
10 歳以上10 歳未満FH の診断
No
Yes
Yes No No Yes
生活習慣の指導*
2 フォローアップ 生活習慣の指導*
1 LDL-C ≧180 mg/dL生活習慣の指導*
2 フォローアップ
経過中に2 回以上LDL-C ≧180 mg/d LDL-C ≧200 mg/dL
が2 回以上続く
専門医と相談(薬物療法を考慮)薬物療法開始*
3 生活指導継続
診断時LDL-C ≧180 mg/dL
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ない.FH 同様,家族歴を詳細に調べることが重要である. TC とTG の両者が高値となる.経過中,TG 値が変動するため表現型が変化することが多い(IIa 型~IV 型).IIb 型であればFCHL の可能性は高い.高アポB 血症が特徴的であり,酸化変性を受けやすいsmall dense LDL の増加をみる.治療については,小児期に積極的に薬物療法の必要性を示すエビデンスはない.また,FCHL ではメタボリックシンドロームとなりやすいため,肥満対策を含めたフォローアップが必要である. b.原発性高TG 血症
小児では,家族性リポ蛋白リパーゼ(LPL)欠損症が重要である.ホモ接合体は,きわめて高度の高TG 血症(4桁以上)を呈する.膵炎の合併が最大の問題点である.食事療法(乳児では中鎖脂肪酸ミルクを用いる)が基本となる.部分型の注意点は,早朝空腹時の採血ではTG 値はそれほど高値でないことがある.まず,食事指導(内容や摂り方,肥満予防)を行う.同様に膵炎には注意する.LPLを活性化するアポ蛋白C-II の欠損やアポ蛋白A-V 遺伝子変異も原因となる789).
5.2.2 続発性脂質異常症と注意点
続発性脂質異常症の原因はさまざまである(表66)
790).
原疾患を治療することで脂質異常が改善されることが多いので,原疾患をよくすることが基本となる.スタチンの多面的作用(pleiotropic effects)が原疾患に有益に作用する可能性はあるが,個々の疾患でのエビデンスに基づいて判断されるべきである.続発性脂質異常症で頻度が高いのは,肥満にともなうものであり,肥満症となる.甲状腺機能の検査も必須である.糖尿病
特に小児で問題となるのは,糖尿病でLDL-C が高値の場合である795).糖尿病は,高LDL-C 血症とともにそれ自体が動脈硬化の主要な危険因子である.糖尿病においては,
血糖コントロールのみでは動脈硬化性疾患の予防効果は少ないとされる.境界型でも健常者の1.5 倍,冠疾患のリスクが高く,さらに,糖尿病では心筋梗塞や脳卒中の予後が悪く,再発率も高いとされる789).国際小児思春期糖尿病学会(ISPAD)のガイドライン800)では,LDL-C 130 mg/dL以上が改善しない場合にはスタチン開始となっており,管理目標は100 mg/dL としている.わが国においては,現在小児期の薬物療法に関する明確な基準はない.食事療法と厳格な血糖管理を継続することが重要である801).循環器疾患
川崎病を発症したことで将来,通常より早期に動脈硬化になりやすいか,あるいは脂質異常症が川崎病既往者の動脈により強い影響があるのかはわかっていない802).しかしながら,特に冠動脈病変がある場合,また,川崎病に限らず心血管系の構造異常があり血管に負荷がかかる病態,高血圧などでは,脂質異常には注意が必要と考えられる.特にFH を合併している例では,血清LDL-C は基準値(140 mg/dL)以下にすべきであろう.
6 抗不整脈薬
6.1 抗不整脈の適応と用法/ 用量
6.1.1 Na チャネル遮断薬
a.速い解離速度を示すNa チャネル遮断薬i.リドカイン
適応疾患: おもに心室頻拍(心房筋に対しては作用が
弱い)
静注薬: 1 ~2 mg/kg を緩徐に静注持続静注: 1~3 mg/kg/時(15~50μg/kg/分) ii.メキシレチン
適応疾患:おもに心室頻拍(心房筋に対しては作用が弱
い),またQT 延長症候群(特にLQT3)
静注薬: 2 ~3 mg/kg を緩徐に静注持続静注: 0.4 ~0.6 mg/kg/ 時経口薬: 5 ~10 mg/kg/日b.中間の解離速度を示すNa チャネル遮断薬i.プロカインアミド
適応疾患: 期外収縮(上室性,心室性),発作性頻拍
(上室性,心室性),心房細動,心室不整脈
表66 おもな続発性脂質異常症の成因
甲状腺機能低下症ネフローゼ症候群原発性胆汁性肝硬変閉塞性黄疸糖尿病クッシング症候群褐色細胞腫肥満慢性腎臓病自己免疫性疾患(全身性エリテマトーデスなど)血清蛋白異常症薬剤性妊娠飲酒
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の予防
静注薬: 5 ~10 mg/kg を5 分かけて静注持続静注: 20~60μg/kg/分経口薬: 30 ~50 mg/kg/日N-アセチルプロカインアミド(NAPA)は,K チャネル遮断作用を有する. ii.ジソピラミド
適応疾患: 心房不整脈,心室不整脈や上室頻拍静注薬: 1 ~2 mg/kg を5 ~20 分かけて静注経口投与: 5~10 mg/kg/日抗コリン作用による心房頻拍時の心室レートの上昇や緑内障の悪化,排尿困難,便秘など.低血糖や無顆粒球症もみられることがある. iii.アプリンジン
適応疾患: 頻脈性不整脈静注薬: 1 ~1.5 mg/kg を5 分かけて静注経口薬: 1~1.5 mg/kg/日Ca チャネルとK チャネルの遮断作用と,洞結節細胞の第4相において過分極内向き電流を抑制する作用を有する. c.遅い解離速度を示すNa チャネル遮断薬i.フレカイニド
適応疾患: 頻脈性不整脈(発作性心房細動・粗動,発
作性上室性,心室性)
静注薬: 1~2 mg/kgを10分かけて静注経口薬: 3 ~5 mg/kg/日,50~150 mg/m2/日小児の適応が承認されている.小児における経口投与での半減期は1 ~12 歳が約8 時間,1 歳未満と12 歳以上では11 時間となっている803).強力なNa チャネル遮断作用と,弱いK チャネル遮断作用を有する.ミルクにより吸収が障害されるため,ミルクを飲む30~60 分以上前に内服するのが望ましい. ii.ピルジカイニド
適応疾患: 頻脈性不整脈(上室性および心室性)静注薬: 1 ~1.5 mg/kg,10 分かけて静注経口薬: 2 mg/kg/日純粋なNa チャネル遮断作用のみを有する
6.1.2 Ca チャネル遮断薬
ベラパミル,ジルチアゼムはおもにL 型Ca チャネルをブロックすることを目的に投与される.ベプリジルはCaチャネル遮断薬に分類されているが,L 型Ca チャネル抑制効果のみならず,遅延整流K + 電流の遅い成分(IKs),速い成分(IKr),心房筋に特異的な非常に速い活性化過程を示す遅延整流K+電流(IKur),アセチルコリン感受性K+電流(IK,ACh),Na 電流抑制など幅広い作用があり,III群薬に近い性質を持つ.
a.ベラパミル804, 805) i.適応疾患
心房細動,心房粗動,発作性上室頻拍,頻脈性不整脈ii.成人
静注薬: 5 mg を必要に応じ希釈し,5 分以上かけて
緩徐に静注する.
経口薬: 1 回40 ~80 mg を1 日3 回経口内服. iii.小児
静注薬: 0.1 ~0.2 mg/kg,希釈し5 分以上かけて緩徐
に静注する(ただし,1 回5 mg を超えない).
経口薬: 3 ~6 mg/kg/日を分3 経口内服. b.ジルチアゼム804, 806) i.適応疾患
頻脈性不整脈(上室性) ii.成人
静注薬:上室頻拍症の場合,10 mg を必要に応じ希
釈し,約3 分かけて緩徐に静注する.
iii.小児
静注薬: 0.1 ~0.2 mg/kg を希釈し,5 分以上かけて
緩徐に静注する.
c.ベプリジルi.適応疾患
持続性心房細動,頻脈性不整脈(心室性,他の抗不整脈薬が使用できないか,または無効の場合) ii.成人
経口薬: 50 ~100 mg/日,分2 iii.小児
経口薬: 1~2 mg/kg/日を分2 経口内服有効血中濃度は,感度以下でも有効な場合があり,患者の状態にあわせ少量から開始することが好ましい. d.Ca チャネル遮断薬使用上の注意,副作用i.禁忌
新生児,乳児期には禁忌とされる.ベラパミル,ジルチアゼムは陰性変力作用を有するため,心機能の低下をともなう患者には慎重投与が必要である.陰性変力作用を有する他薬剤との併用時にも注意を要する.またCa チャネル遮断薬の過量投与は,完全房室ブロック807),ショック808)や死亡の原因809, 810)になりうるので,投薬量,方法について詳細に保護者に説明を行うと同時に,誤飲予防の説明を行う. ii.注意
乳児期以降の患者においても心機能の低下した患者には注意を要する.またグレープフルーツはチトクロームP450の一種であるCYP3A4 の活性を阻害し,血中濃度を上昇
p.183
させ副作用の発現が高まる. iii.特異的作用
ベプリジルの特異的作用は,アミオダロンと同様,陰性変力作用は少ないが,心室筋のIKr,IKs を抑制することによるQT 延長に注意する必要がある.ベプリジルによるQT dispersion がβ遮断薬との併用で減少することが報告されておりトルサードドポアント(TdP)の発生が抑制される可能性811)がある.
6.1.3 K チャネル遮断薬
a.アミオダロンi.適応疾患
ほとんどの上室性,心室性頻脈性不整脈に対して有効である可能性があるが,後述のような副作用の問題があり,一般に他の抗不整脈薬が無効な場合や致死的な不整脈に対して用いる薬剤として位置づけられている.小児でも先天性心臓病術後を含むさまざまな不整脈に対する有効性が報告されている. ii.静注薬
初期投与量5 mg/kg(30 分以上かけて)または1 mg/ kg ボーラスを5 回まで(5 分以上間隔をあけて),維持量10 mg/kg/日iii.経口薬
初期投与量は10 ~20 mg/kg(分1~2),1~2 週間,維持量は5 ~10 mg/kg(分1~2). iv.有効血中濃度
500~1,000 ng/mL v.投与法
Saul ら812)の小児を対象としたアミオダロンの効果に関する前方視的研究(対象:日齢30~14.9 歳,中央値1.6歳の小児61 例[上室頻拍26 例,接合部異所性頻拍:JET 31 例,心室頻拍4 例])では,効果が出るまでの時間は1 mg/kg,5 mg/kg,10 mg/kg でそれぞれ28.2,2.6,2.1時間(中央値)で,初期投与量に比例すると報告され,初期投与量 1 mg/kg では十分な効果が得られないと結論している.副作用は87% に認められ,多い順に,低血圧,嘔吐,徐脈,房室ブロック,吐気であった.アミオダロン投与自体が原因となった可能性のある死亡が2 例あるため,小児では副作用の出現に十分注意すべきである.
以上より,小児の重症頻脈性不整脈に対する静注アミオダロンの投与法は,初期投与量5 mg/kg をゆっくり静注し,必要に応じて初期投与量と同量を1 ~2 回追加し,10 ~ 20 mg/kg/日を数日間維持する方法が適切と考えられる. vi.作用
K チャネル遮断作用は心房筋,心室筋,プルキンエ線維,洞結節,房室結節を含むすべての心筋細胞の活動電位持
続時間(APD),不応期を延長,Na チャネル遮断作用,β受容体遮断作用,Ca チャネル遮断作用としての性質をあわせもつ.他の抗不整脈薬にみられない特徴として,心収縮能の抑制が少ないこと,血中濃度の半減期が3~15 週間ときわめて長いことがあげられる.ほとんどが肝代謝である.
副作用は,心外毒性として肺線維症,甲状腺機能障害,角膜沈着,光線過敏,発疹,頭痛,嘔吐などがある.心電図変化としてはRR,PR,QRS,QT 時間の延長がみられ, TdP の発症がある. b.ソタロールi.適応疾患
心室頻拍,アミオダロンと同様である. ii.経口薬
1~2 mg/kg から始め,6 mg/kg まで増量(分2),または2 歳以上の小児に対して体表面積換算で90~100 mg/ m 2/日(分2)で開始し,最大250 mg/m 2/日.
新生児および6 歳以上では2 mg/kg/日で開始し,目標維持量は4 mg/kg/日,新生児を除く6 歳以下の乳幼児では3 mg/kg/日で開始し,目標維持量は6 mg/kg/日とされている813). iii.有効血中濃度
800~5,000 ng/mL iv.投与法
心筋の早く活性化される遅延整流K チャネル電流(IKr)を抑制してAPD を延長させ,心房筋,心室筋,房室結節,房室副伝導路(順行性,逆行性伝導の両者)の不応期を延長させる.ソタロールはK チャネル抑制に加えII 群(β受容体遮断薬)としての作用をあわせもつ. v.副作用
副作用としては疲労感,めまい,呼吸困難など.催不整脈性は約10% にみられ,徐脈814),もっとも重篤なものはQT 延長にともなうTdP がある.特に徐脈や低カリウム血症はTdP 発症の誘因となるため注意を要する. c.ニフェカラント(シンビット) i.適応疾患
先天性心疾患術後のJET に対する有効性などが報告されている815). ii.静注薬
初期投与量0.15~0.3 mg/kg(10 分かけて),維持量0.2~0.4 mg/kg/時iii.有効血中濃度
不明
p.184
iv.作用
純粋なIKr チャネル遮断作用を持つ.難治性の心室頻拍,心室細動に対して高い抑制効果があるとともに,心室細動に対する除細動閾値を低下させることが知られている816).副作用として問題になるのはIII 群薬に共通のものとしてQT 延長に起因するTdP や徐脈がある.
6.1.4 β受容体遮断薬
β受容体遮断薬にはβ1 受容体選択性(心臓選択性)と非選択性がある.
β1 受容体選択性薬剤としてはアテノロール,メトプロロール,ビソプロロールなど,非選択性としてはプロプラノロール,カルテオロール,ナドロールなどがある.
β1 選択性は,ランジオロールがβ1:β2 =277:1,ビソプロノール75:1,アテノロール35:1,メトプロロール20:1 とされており,ランジオロール,ビソプロノールが特に選択性は高い.
適応としては洞性頻拍や異所性心房頻拍のレートの減少,心房細動における房室伝導能の低下による心拍数の減少,房室回帰頻拍,房室結節リエントリー性頻拍の停止・予防を目的として使用される.また,カテコラミン誘発性多形心室頻拍,トリガードアクティビティが原因と考えられる右室流出路起源心室不整脈,先天性QT 延長症候群に対して有効である. a.プロプラノロールi.静注薬
0.05~0.1 mg/kg をゆっくり静注. ii.経口薬
1~4 mg/kg/日(分3 ~4) iii.有効血中濃度
50~100 ng/mL. iv.投与法
小児領域でもっとも使用頻度の高いβ遮断薬である.副作用としては,心収縮能低下,房室ブロック,低血糖,気管支攣縮,中枢神経症状などがある.中枢神経症状としては抑うつ症,睡眠障害などがある.気管支攣縮や低血糖の既往がある場合はビソプロノール,メトプロロールを,睡眠障害がある場合はアテノロールを使用することが推奨されている. b.ビソプロロールi.経口薬
0.1~0.2 mg/kg/日(分2) ii.投与法
内服薬ではもっとβ1 選択性が高い薬剤で,気管支喘息や低血糖のリスクがある症例にも使用できる.半減期は8.6 時間で,分1 もしくは分2 で使用可能である.水溶性
のアテノロールと異なり,脂溶性のため,臓器に浸潤して組織に作用しやすい.心不全に対する適応はカルベジロールとビソプロノールのみであることから,成人領域では心房細動のレートコントロール目的などで広く使用されており,小児での使用報告も散見されるようになってきている817, 818). c.アテノロールi.経口薬
0.5~2 mg/kg/日(分1) ii.有効血中濃度
200~500 ng/mL iii.副作用
初期に疲労感を訴えることがあるが,投与中止を必要とする例はほとんどない.水溶性で血液脳関門を通過しないため,中枢神経系の副作用はプロプラノロールよりも少ない. d.ナドロールi.経口薬
0.5~2.5 mg/kg/日(分1) ii.有効血中濃度
不明iii.副作用
水溶性で血液脳関門をほとんど通過しないため,中枢神経系の副作用はプロプラノロールよりも少ない. e.メトプロロールi.経口薬
1~2 mg/kg/日(分3) ii.有効血中濃度
50~100 ng/mL. iii.投与法
プロプラノロールと同様に脂溶性で血液脳関門を通過し,片頭痛の治療にも用いられる.副作用はプロプラノロールとほぼ同様であるが,発生率は低い. f.ランジオロールi.静注薬
2.5μg/kg/分で開始,数分ごと倍々にして最大80 μg/ kg/分. ii.推奨薬用量・副作用
初期量40μg/kg/分,維持量10μg/kg/分であるが819), 1~3μg/kg/分の低用量で開始して漸増し,10μg/kg/分で維持する方法でも早期に十分な心拍数低下効果が得られる.血圧低下の副作用は少ない. iii.投与法
わが国で開発されたβ1 選択性の高い超短時間作用性β
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遮断薬で,術中使用に加えて,2006 年に周術期管理における使用が認められた.小児心臓術後頻脈性不整脈の抑制効果が報告されている820).現在乳幼児に対する安全性について治験が行われている821). g.ATP i.適応疾患
房室回帰頻拍,房室結節リエントリー頻拍(一過性房室伝導抑制),Ca2+依存性のトリガードアクティビティーによる頻脈性不整脈(右室流出路起源心室頻拍,カテコラミン誘発性多型性心室頻拍[CPVT]など)に有効とする報告もある. ii.静注薬
0.2~0.4 mg/kg を急速静注.半減期が短く,できるだけ心臓に近い上肢末梢静脈から,後押しのための生理食塩水などを用いて急速静注する必要があり,末梢循環不全や三尖弁逆流があると十分な効果が得られないことがある. iii.投与法
アデノシンの抗頻脈性不整脈作用は,K+電流の透過性を高めてAPD を短縮するとともにL 型Ca チャネルの電流を抑制して,洞結節自動能の低下,房室結節伝導の抑制,心房自動能の抑制作用を発揮する.わが国で用いられるのはATP であるが,ATP は血中に投与されるとすみやかにアデノシンに代謝されて同様の効果を発揮する822). h.ジゴキシンi.適応疾患
房室回帰頻拍,房室結節リエントリー頻拍など房室伝導抑制を目的に使用される.ジゴキシンは副伝導路の不応期を短縮するため,早期興奮症候群(顕性WPW 症候群)がある場合に心房細動が出現すると偽性心室頻拍,突然死が起こることが懸念されるが811, 823),早期興奮症候群の有無にかかわらずジゴキシンの安全性を示す報告もある824, 825). ii.静注薬
乳幼児0.04 mg/kg を急速飽和,学童0.03 mg/kg を急速飽和(いずれもはじめに半量,つづいて残り半量を2 ~ 3 回に分けて6~8 時間ごとにゆっくり静注) iii.経口薬
乳幼児0.0075~0.01 mg/kg/日(維持量),学童0.005 ~ 0.0075 mg/kg/日(維持量)(分1 ~2). iv.有効血中濃度
0.5~2.0 ng/mL.ジゴキシンは治療域が狭いため血中濃度のモニターが重要である826).急速飽和が必要でないときは初めから維持量を投与する方が安全性は高い. v.作用
心筋のNa+/K+ ATPase 活性を抑制し,細胞内Na+濃度を上昇させ,その結果生じるNa+勾配がNa+-Ca2+交換
系に作用して細胞内Ca2+濃度を上昇させ,心筋収縮性を増強する一方,自律神経を介し,洞結節機能,房室伝導を抑制する.また心房筋のAPD,有効不応期を短縮させる. vi.注意
T1/2 は乳児で20 時間,小児では40 時間である.腎から排泄され,腎機能障害がある場合や腎機能が未熟な低出生体重児では投与量を減量する. vii.副作用
心症状としては洞性徐脈,房室ブロック,心房頻拍,心室不整脈など,心以外では悪心,嘔吐,めまい,色覚異常,筋力低下,食指不振,倦怠感などがある.このような症状がみられたときは血中濃度と血清電解質を測定し,特に低カリウム血症の補正を行う.一般に中毒は血中濃度2.0 ng/mL 以上で起きるが,小児(特に新生児)では中毒発現濃度が成人より高めである.
6.2 上室性期外収縮
6.2.1 病態・臨床的意義
基礎心疾患のない場合は予後良好であり,出現数が少なく無症状の場合には精査や治療の適応はない.頻発例,自覚症状の強い場合や他の不整脈のトリガーとなる場合に治療を考慮する.基礎心疾患がある場合にはその治療が優先され,誘因がある場合はその除去が優先される.
6.2.2 薬物治療の実際
基礎心疾患がなく自覚症状が強い症例では第一選択薬としてβ遮断薬,第二選択薬としてジソピラミド,シベンゾリン,ピルジカイドなどの遅い解離速度を示すNa チャネル遮断薬,第三選択薬としてプロパフェノンやアプリンジンなど中間の解離速度を示すNa チャネル遮断薬が推奨される.
軽度心機能低下では第一選択薬はβ遮断薬,第二選択薬は中間の解離速度を示すNa チャネル遮断薬,第三選択薬は遅い解離速度を示すNa チャネル遮断薬となる.中等度以上の心機能低下がある場合中間の解離速度を示すNaチャネル遮断薬の中から選択する.心不全合併例ではジギタリスや少量のβ遮断薬も考慮する.
上室期外収縮が他の不整脈(発作性心房細動,心房粗動など)のトリガーとなる場合や,フォンタン手術後例のように頻発する上室期外収縮により,血行動態や心機能に影響を及ぼす場合には,自覚症状の有無にかかわらず薬物治療を考慮する.心機能が正常の場合,第一選択薬はβ遮
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断薬,第二選択薬は遅い解離速度を示すNa チャネル遮断薬,第三選択薬が中間の解離速度を示すNa チャネル遮断薬となる.
6.3 心房細動・心房粗動
6.3.1 心房細動
a.病態・臨床的意義
心房が高頻度(250/分以上)に不規則・多源性に興奮する状態で,心房は有効な収縮が行えず,心拍出量は10 ~15% ほど低下する.心電図では基線の不規則で高頻度の細かな揺れを示し,細動波(f波)とよばれる.心室の興奮は不規則で,心拍数は房室伝導の状況によって異なる.
基礎心疾患のない小児や若年者の心房細動はまれで,通常は心房拡大や線維化をともなっているなど病的な心房や827),一部の遺伝性不整脈(遺伝性心房細動,ブルガダ症候群など)で認める.心房細動をきたしうる基礎疾患としては,弁膜疾患(僧帽弁狭窄症・僧房弁閉鎖不全症・大動脈弁閉鎖不全症など),心筋症(肥大型心筋症・拡張型心筋症・拘束型心筋症など),心不全,右房拡大をともなったフォンタン手術後例,甲状腺機能亢進症,高血圧などがある764).
心房細動では血行動態の障害と塞栓症が問題で治療の適応となる.心室の興奮が不規則で時に過剰な頻脈をきたす.頻脈が短ければ無症状のことが多いが,発作が長いと血行動態の破綻をきたし,動悸・倦怠感・食欲不振・胸部圧迫感・息切れ・失神・心不全・心停止などの症状を呈する.塞栓症は心房内での血液うっ滞により血栓形成が生じるために起こる.左房内の血栓は動脈塞栓の原因となるが,特に脳梗塞はもっとも重大な合併症である. b.心房細動の治療方針
基礎疾患のある場合は,その原因を改善する治療を優先する.肥大心や不全心ではアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII 受容体拮抗薬(ARB), β遮断薬などの使用,甲状腺機能亢進に対する治療,高血圧に対する降圧薬などである.僧帽弁閉鎖不全に対する僧帽弁形成術や僧帽弁置換術などの手術・フォンタン手術後の巨大右房に対する両大静脈肺動脈吻合術への変換(TCPC conversion)など外科的治療についても検討する.
c.薬物治療の実際
心房細動の治療には心室のレートコントロール,洞調律に戻すリズムコントロールおよび抗凝固療法を考慮する.血行動態が破綻して緊急治療が必須の場合は電気的除細動を行う.ただし抗凝固療法が不十分で血栓,塞栓症のリスクがある場合レートコントロールを優先する.
i.心室レートコントロール
デルタ波のある顕性WPW 症候群(副伝導路の順行性伝導がある)場合とそれ以外とで治療選択が異なる.成人で慢性期のレートコントロールの目標は,安静時心拍数60~80/分,中等度の運動時の心拍数90~115/分をめざすことが示されているが764),新生児・乳幼児では年齢に応じてそれよりも高い心拍数を目標となる.いずれにせよ,自覚症状が軽快するように心拍数の低下を志す.十分なレートコントロールが得られない場合は,他因子(貧血・甲状腺機能亢進症・感染症・痛み・気管支拡張剤用β刺激薬など)の関与を考慮する必要がある. (1)デルタ波のない場合
房室結節伝導の抑制をするには,内向きCa 電流を減少させる.Ca チャネルに直接作用するCa チャネル遮断薬,間接的にCa 電流を低下させるものとしてはβ遮断薬が交感神経刺激を受容体レベルで抑制して細胞内サイクリックAMP の減少を促す.またジギタリスは迷走神経を介してムスカリン(M2)受容体を刺激し,Ca 電流低下に作用する.ジギタリスは副交感神経系の活性時に効果を発揮するので,活動時の心拍抑制作用は弱い.したがって心機能が良好な場合はCa チャネル遮断薬やβ遮断薬を選択し必要に応じてジギタリスを併用する.心機能低下がある場合はジギタリスが第一選択となる.慢性心不全でカテコラミンが増加しコントロールが不十分な場合は少量のβ遮断薬の併用も有用である828).ただし,2 歳以下ではCa チャネル遮断薬は心血管系の虚脱をきたすため十分に注意して使用する829).急性期にはまず心拍数を90~100/分以下にすることを目標とする.急速な徐拍化が必要な場合は静注薬を用いる(クラスIIa,レベルC). (2)WPW 症候群の場合
レートコントロールの標的は副伝導路となり,Na チャネル遮断薬(ピルジカイド・フレカイニド・プロカインアミドなど)やK チャネル遮断薬(ニフェカラント・アミオダロン,これらは適応がない)を選択する.急速な徐拍化が必要な場合は静注薬を使用する.房室結節伝導を抑制するジギタリス・Ca チャネル遮断薬などは,副伝導路を介する心房からの興奮伝播を促進して心室細動への移行が危惧されるため禁忌となる.心室細動の予防的には副伝導路に対するカテーテルアブレーションが望ましい(クラスIIb,レベルC). ii.リズムコントロール(1)発作性心房細動
心房細動の持続が7 日以内の発作性心房細動では,Naチャネル遮断薬が停止に効果的で解離速度の遅いNa チャ
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ネル遮断薬(ジソピラミド・ピルジカイド・フレカイニドなど)の除細動効果が高い(クラスIIb,レベルC).
心房細動の予防と洞調律の維持には,アミオダロン,フレカイニド,プロパフェノン,ソタロールを用いる.イブチリドやドフェチリドの有効性の報告があるがわが国では使用不可である(クラスI,レベルA) 830). (2)持続性心房細動
心房細動が7 日以上持続し,リモデリングの進行した心房ではNa チャネル遮断薬の効果が低く,心機能低下例では副作用を呈しやすいといわれている.アミオダロン・ベプリジル・ソタロールなどのマルチチャネルブロッカーが持続性心房細動の停止に効果があることが示されている764)(クラス IIa ~IIb,レベルC). iii.抗凝固療法
塞栓症を起こしやすい危険因子を持っている場合は,原則ワルファリンを投与する.危険因子には塞栓・血栓症の既往,心不全,弁膜症,フォンタン手術後,高血圧などがある.PT-INR 2.0~ 2.5 を目標とする.心房細動が48 時間以上持続した症状では,血栓塞栓症の回避のために事前の十分な抗凝固療法が必要である.最低3 週間以上の十分なワルファリン療法または経食道心エコー検査で左心耳内血栓のないことを確認した後,ただちにヘパリン投与を開始して早期に除細動を行う.除細動後に新たに心房内血栓が形成される可能性があり,除細動後最低4 週間はワルファリンを投与し,4 週間洞調律が維持されていれば抗凝固療法を終了してもよい(クラスIIb,レベルC).
6.3.2 心房粗動
a.病態・臨床的意義
心房粗動は心房拍数が240~440/分の規則正しい上室頻拍で,心房拍数が240~340/分のタイプI と,340/分以上のタイプII に分類される.タイプI で多くみられる通常型は下壁誘導(II/III/aVF)にて陰性鋸歯状,V1 で陽性の粗動波を呈し,下大静脈と三尖弁輪間の解剖学的峡部(CTI)を含む三尖弁輪を興奮が反時計方向(心房中隔を上行し右房側壁を下行)に旋回する右房内マクロリエントリーを機序とする.この回路を逆方向(時計方向)に興奮が旋回すると下壁誘導で陽性,V1 で陰性の粗動波を呈する.これらは峡部依存性心房粗動とよばれ,峡部がカテーテルアブレーションのターゲットとなる831).
峡部に依存しない心房粗動の多くは,心房疾患や心臓手術後,カテーテル焼灼術後でみられる.右房壁の切開創,瘢痕組織を周回するリエントリー性頻拍832),左房天蓋依存性粗動,僧房弁周辺のマクロリエントリー833),2 つ以上のリエントリー回路が関与する複雑なマクロリエントリーであることもある.これらの回路の同定は電気生理学的検
査の心房マッピングによって行われる.
心房粗動の症候は粗動時の房室伝導に依存し,通常型の場合2:1 房室伝導では心室拍数は約150/ 分となり,動悸,息切れ,胸痛,心不全,血圧低下などをきたす.小児では房室伝導が良好な場合が多いため運動時や啼泣時は容易に1:1 伝導となり心室拍数が300/分にも達し,血圧低下や失神を呈する場合がある.安静時3~4:1 伝導で心室拍数が100/分以下では無症候の場合が多い.通常型以外のマクロリエントリーの心拍数は回路の周期によって異なる. b.薬物治療の実際i.血行動態が不安定な場合
血行動態が破綻している場合には,電気的除細動が優先される(クラスI,レベルB). ii.血行動態が安定している場合(1)レートコントロール
房室結節を抑制する薬物(β遮断薬・ジゴキシン・ベラパミル・ジルチアゼム)を投与する(クラスIIa,レベルC).
WPW 症候群にともなう心房粗動ではジゴキシン・ベラパミル・ジルチアゼムは避け,β遮断薬を用いる. (2)リズムコントロール:
第一選択としては心房筋の不応期延長を目的に中等度以上のK チャネル遮断作用を持つ薬物を選択する.わが国ではニフェカラントが静注可能である(ただし保険適用外).またイブチリドやドフェチリドの有効性の報告があるが(クラスI,レベルA),わが国では使用不可である.経口薬ではソタロールがある.また2014 年米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)/ 米国不整脈学会(HRS)ガイドラインでは経口のアミオダロン(クラスIIa,レベルA)があげられている830).
第二選択としては峡部の緩徐伝導に対する薬物として解離速度の遅いNa チャネル遮断薬(フレカイニド・プロパフェノン)を用いる(クラスI,レベルA).しかしフレカイニド静注薬の有効率は10~28% 程度である831) .
また,モニターで安全に停止することが確認された場合のみプロパフェノンかフレカイニドをβ遮断薬またはカルシウム拮抗薬と併用する(クラスIIa,レベルB) 830).
6.4 上室頻拍,心房頻拍
薬物療法は,発作停止目的と,頻拍発作予防目的に分けられる.15 kg 以上の体格の症例に対しては,カテーテルアブレーション治療も適応となるが834),15 kg 以下の症例
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や,アブレーション治療を希望しない症例,アブレーション治療不成功症例などでは抗不整脈薬による頻拍発作の予防が必要になる.
6.4.1 WPW 症候群(副伝導路にともなう房室回帰頻拍)
房室結節を標的とするか,副伝導路を標的とするかで薬物を選択する.頻拍停止目的の場合,頻拍予防目的の場合ともに,まず房室結節をターゲットにするのが一般的である.
6.4.2 頻拍停止目的
房室結節を標的とする場合,アデノシン三リン酸(ATP)急速静注,Ca チャネル遮断薬が有効である.ATP は急速静注後,ただちに一過性房室ブロックとなり効果が得られるが,胸痛や胸部違和感を生じることが多い835, 836).Caチャネル遮断薬のベラパミル静注,内服は,効果は緩徐だが,痛みをともなわないため,年長児や成人には広く使用されている837).ベラパミル静注は乳幼児には禁忌とされており,心機能低下症例には慎重投与が必要である.
頻拍が停止してもすぐに再開する場合は,ATP,ベラパミルではなく,副伝導路を標的とするNa チャネル遮断薬のフレカイニド,ピルシカイニドが有効である838).伝導遮断効果がすぐに消失しないため,頻拍停止後すぐに再発しないことが期待できる.
ランジオロール持続投与後にATP で頻拍を停止させる方法は,心機能低下症例には慎重投与が必要だが,ランジオロールによる房室結節の持続的な不応期延長効果が得られ,頻拍停止後の洞調律維持に有効なことがある.
6.4.3 頻拍予防目的
第一選択薬は,房室結節を標的として,安全性の高いβ遮断薬を使用する839).β遮断薬で頻拍が抑制できない場合は,副伝導路を標的として,Na チャネル遮断薬を使用する.乳幼児には散剤のあるフレカイニドが使用しやすい.年長児にはピルシカイニドも使用される.副伝導路を標的とする場合,β遮断薬は中止する方が頻拍抑制効果が高いことがある.
6.4.4 房室結節回帰性頻拍(AVNRT)
頻拍停止,頻拍予防ともに,房室結節が標的となる.頻拍停止にはATP 急速静注が有効である835, 836).Ca チャネル遮断薬のベラパミル静注,内服も有効である837).
頻拍が停止してもすぐに再発する場合は,房室回帰性頻拍(AVRT)と同様に,ランジオロール持続投与後にATPで頻拍を停止させる方法が有用である.頻拍予防には,β遮断薬,Ca チャネル遮断薬を用いる840).
6.4.5 心房頻拍
自動能亢進が機序のことが多く,薬物の静注により頻拍をただちに停止させることは困難なことが多い.まずはレートコントロールを目標として,心不全を惹起,増悪させない薬物療法を行う.
心機能低下をともない,すみやかな効果を必要とする場合,β遮断薬の静注が第一選択薬となる.第二選択薬として,アミオダロン,ニフェカラントも選択肢となる.いずれの静注薬も血圧を低下させショック状態になる可能性があり,投与は慎重に行う必要がある841).
心機能低下をともなわない場合,内服薬が選択肢となる.内服薬もβ遮断薬が第一選択薬となる.心拍数低下効果が高いビソプロノール,作用時間が短く安全性が高いプロプラノロールが用いられる.第二選択薬として,Na チャネル遮断薬(フレカイニド,プロパフェノン,プロカインアミド,キニジン),K チャネル遮断薬(ソタロール),アミオダロン,ベプリジルなどを用いる.
難治性不整脈の時は薬剤を組み合わせて使用することでコントロール可能になることもある.β遮断薬とアミオダロンの組合せや,β遮断薬とフレカイニド,ソタロールの組合せなどが有効なこともある.
心房頻拍の薬物療法は,リズムコントロールが理想的ではあるが,心機能低下をきたさないことがもっとも重要である.レートコントロールで心機能が保たれており心不全が増悪しないのであれば,リズムコントロールを目指して無理に薬物療法を強化することは,薬物による心機能低下をきたすリスクから推奨されない.
6.5 心室期外収縮, 特発性非持続性心室頻拍
6.5.1 疾患概念
心室期外収縮(PVC)は,新生児期を含め小児期から成人期に至るまで有病率の高い不整脈で,器質的心疾患をともなわず単発で数の少ないものは予後良好である.特に左室起源の右脚ブロック(RBBB)型は自然に減少する傾向がある842).右室流出路起源の左脚ブロック(LBBB)型も減少傾向は低いが,予後良好である.PVC が心拍数≧100~120/分で3 連発以上,30 秒未満持続するものを非持続性心室頻拍(NSVT)とよぶ.
小児期NSVT の多くは器質的心疾患をともなわない特発性であるが,他に先天性QT 延長症候群などのイオン
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チャネル病や,先天性心疾患術後,心筋症など器質的心疾患にともなう二次性のものがある.小児の単形性特発性NSVT で多いのは右室(まれに左室)流出路VT (RVOTVT)と左脚束枝起源特発性VT(ベラパミル感受性VT)であり,いずれも予後は良好なことが多い.前者は8 歳前後と一部乳児期に発生のピークがあり,発生機序はcAMP-mediated triggered activity で,安静時や運動後回復期に出現しやすいが運動誘発性もある.まれに早期の不整脈源性右室心筋症(ARVC)との鑑別が必要な場合がある843).後者は思春期以降に多く,発生機序は左室後枝領域のリエントリーで,ストレスや運動時に出現しやすい844).
6.5.2 診断,リスク評価と治療の適応
診断アルゴリズムを図に示した(図74)
845)
器質的心疾患をともなわず,ホルター心電図で出現率が全心拍の20% 未満,2 段脈・多形性・連発やNSVT の所見がないPVC,運動負荷で抑制されるPVC は経過観察のみでよい(クラスI,レベルB).
症状がなく,遅い心室拍数で出現率が低く,自然に停止するNSVT は経過観察することも可能であるが(クラスIIa,レベルB),以下の場合は薬物治療またはアブレーション治療の適応となる827) .・ PVC やNSVT の有病率が高く,心室機能障害(頻拍誘
発性心筋症)や心不全の原因となっている,または血行動態の悪化や心停止の既往があるもの(クラスI)・ 失神,めまい,動悸,胸痛,息切れなど症状のあるもの(クラスI)・ 運動負荷で再現性をもって,心室拍数200/ 分以上の
NSVT が誘発されるもの.または多形性NSVT が誘発されるもの
・ 運動とは無関係に心室拍数200/ 分以上のNSVT が頻回
にみられるもの・ 多形性NSVT が頻回にみられるもの
6.5.3 薬物治療
a.非持続性心室頻拍の停止(急性期治療)(図75) 827) i.左脚ブロック・下方軸型VT(RVOTVT)
アデノシン(ATP)の急速静注(特に持続性のとき)
846)
またはβ遮断薬,効果がなければジソピラミド,フレカイニドなど解離速度の遅いNa チャネル遮断薬を投与する827, 844, 847)(クラスIIa,レベルC) . ii.右脚ブロック・左軸偏位型VT(束枝内ベラパミル
感受性VT)第一選択はCa チャネル遮断(ベラパミル)静注である(クラスIIa,レベルC).効果がなければ副作用の少ないβ遮断薬,解離の遅いNa チャネル遮断薬(ジソピラミド848),フレカイニド849, 850)など)を静注する. iii.それ以外のVT
解離速度の速いNa チャネル遮断薬(リドカイン,メキシレチン)を静注する. 通常の抗不整脈薬が無効の場合にはIII 群の薬剤(アミオダロン,ソタロール,ニフェカラント)が適応になる(クラスIIa,レベルC)
827).
b.非持続性心室頻拍の予防(慢性期治療)(図76)827) i.左脚ブロック・下方軸型(RVOTVT)
β遮断薬,Ca チャネル遮断薬844),または解離速度の遅いNa チャネル遮断薬(ジソピラミド,フレカイニド)などを投与する847). ii.右脚ブロック・左軸偏位型
Ca チャネル遮断薬が第一選択となるが,20% 以上の例
図74 特発性心室期外収縮/ 心室頻拍の診断アルゴリズム
PVC VT
家族歴調査
2 次性PVC のスクリーニング経過観察症状あれば治療考慮RBBB家族歴調査
ベラパミル感受性VT
RVOTVT 2 次性VT のスクリーニング
単形性多形性
LBBB
下方軸上方軸
流出路VT脚枝間リエントリー
LVOTVT
予後不良全心拍の20% 以上左室機能障害二段脈/ 連発/NSVT予後良好
全心拍の20% 未満左室機能障害なし二段脈/ 連発/NSVT なし
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で効果がなく851),β遮断薬も用いられる844).それでも有効でないときは,Na チャネル遮断薬(メキシレチン852),ジソピラミド848),フレカイニド849, 850)など),またはIII 群薬などを投与する(クラスIIa,レベルC). iii.運動時や交感神経緊張時に出現するもの
β遮断薬,Ca チャネル遮断薬などが用いられる(クラスIIa,レベルC).ベラパミル感受性VT に多いが,RVOTVTやその他のVT にもある844) . iv.交感神経緊張とは無関係もしくははっきりしない場
合結合解離速度の遅いNa チャネル遮断薬(ジソピラミド,フレカイニドなど).通常の抗不整脈薬が無効の場合にはアミオダロン,ソタロール,ベプリジルが適応になる(クラスIIa,レベルC)
812, 853, 854) . 6.6 特発性持続性心室頻拍
6.6.1 疾患概念805, 855)
心室頻拍のうち心室拍数100 ~120/分以上の心室期外収縮の3 連発以上,または30 秒以上連続しない心室期外収縮の連発を非持続性といい,それ以上続く場合に持続性心室頻拍とよぶ.新生児と青年期に二峰性のピークを認め,運動負荷で心室期外収縮が消える場合には良性であることが多い.非持続性は比較的予後良好な症例も多いが,動悸,失神などの症状を訴える例や,長期間心室頻拍が持続すると心不全になる例もある.
頻拍の機序としては,異所性自動能亢進,トリガードアクティビティ,リエントリー性がある.心室頻拍のQRS
第二選択LBBB +RAD 型
(RVOTVT)治療適応ありの場合急性期治療(心室頻拍の停止)
RBBB +LAD (ベラパミル感受性)その他
ATP,β遮断薬Ca チャネル遮断薬Na チャネル遮断薬
(リドカイン,メキシレチン)
Ca チャネル遮断薬Na チャネル遮断薬(ジソピラミド,フレカイニドなど) β遮断薬Na チャネル遮断薬
(ジソピラミド,フレカイニドなど) III 群薬(アミオダロン,
ソタロール,ニフェカラント)
第一選択
図75 非持続性心室頻拍の急性期治療(日本小児循環器学会.2010 827)より改変)
第二選択
図76 非持続性心室頻拍の予防(日本小児循環器学会.2010 827)より改変)
β遮断薬Ca チャネル遮断薬
β遮断薬Na チャネル遮断薬
(ジソピラミド,フレカイニドなど)
Na チャネル遮断薬(ジソピラミド,フレカイニドなど) Ca チャネル遮断薬Na チャネル遮断薬
(メキシレチン,ジソピラミド,フレカイニドなど) III 群薬(アミオダロン,
ソタロール)ベプリジルなど
第一選択なしあり
β遮断薬Ca チャネル遮断薬
RBBB +LAD (ベラパミル感受性VT) LBBB +RAD 型
(RVOTVT)その他の型交感神経緊張にともなうVT の有無
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波形が左脚ブロック・右軸偏位(LBBB +RAD)型の場合は右室(まれに左室)流出路起源で遅延後脱分極(DAD)によるトリガードアクティビティも考えられているが,この形の心室頻拍は運動により誘発されるものもある.右脚ブロック・左軸偏位(RBBB+LAD)型の心室頻拍では,左室心尖部付近のリエントリーと考えられている.治療の適応は,1失神,めまい,心停止,心不全,頻拍誘発性心筋症など,症状を有する場合,2運動負荷で再現性をもって,心室拍数200 以上の心室頻拍が誘発される場合,3多形性心室頻拍が誘発される場合,4運動とは無関係に心室拍数200 以上の非持続性心室頻拍が繰り返し起こる場合,5多形性心室頻拍が頻回にみられるものとなる.なお, 症状が軽い場合や心室レートが少なければ心
室不整脈をすべて消失させる必要のない場合もあり,治療のゴールをどこに設定するかは治療前に検討しておくべきである.
6.6.2 治療
a.頻拍停止(図77)856)
血行動態が不安定な場合には緊急に電気的除細動を行う.右脚ブロック・左軸偏位(RBBB +LAD)型ではCa チャネル遮断薬静注,効果がなければβ遮断薬やIa 群薬(ジソピラミド857))やIc 群薬(フレカイニド849, 858)など)を静注する.左脚ブロック・右軸偏位(LBBB +
図77 持続性心室頻拍の停止(小児) (日本循環器学会.2009
856)より改変)改変点:治療の適応ありの場合の「Na チャネル遮断薬,リドカイン,メキシレチン」を削除,LBBB +RAD 型の第一選択を「ATP」から「Naチャネル遮断薬,フレカイニド,リドカイン,メキシレチン,ATP,β遮断薬,ランジオロール」へ変更,第二選択を「β遮断薬,Na チャネル遮断薬,ジゾピラミド,フレカイニド」から「Ca チャネル遮断薬」へ変更,その他の第一選択を「Na チャネル遮断薬,プロカインアミド」から「Na チャネル遮断薬,フレカイニド,リドカイン,メキシレチン」へ変更,「DC ショックまたはペーシング」の上に「アミオダロン,ニフェカラントを追加,intermediate~slow を削除
ありなし
経過観察
*:保険適用外
[第一選択] Ca チャネル遮断薬
[第二選択] β遮断薬Na チャネル遮断薬ジゾピラミドフレカイニドなど[第一選択] Na チャネル遮断薬
フレカイニドリドカインメキシレチン[第二選択]アミオダロンニフェカラントなど
薬剤抵抗性
DC ショックまたはペーシング
血行動態の悪化
持続性心室頻拍
DC ショック治療の適応
RBBB +LAD 型LBBB +RAD 型その他
[第一選択] Na チャネル遮断薬
フレカイイドリドカインメキシレチン
ATP * β遮断薬ランジオロール[第二選択] Ca チャネル遮断薬
アミオダロン,ニフェカラント
なしあり
p.192
RAD)ではIc 群薬(フレカイニド),Ib 群薬(リドカイン,メキシレチン),ATP,β遮断薬,効果がなければCa チャネル遮断薬を静注する.それ以外の心室頻拍にはIc 群薬(フレカイニド)もしくはIb 群薬(リドカイン,メキシレチンなど)の静注を試みる.効果があれば持続静注あるいは内服薬を使用する.通常の抗不整脈薬が無効の場合にはアミオダロンやニフェカラントが適応になる. b.薬物療法による頻拍予防(図78)856)
右脚ブロック・左軸偏位(RBBB +LAD)型ではCaチャネル遮断薬やβ遮断薬の投与を優先して行う.有効でなければI 群薬(メキシレチン859–861),ジソピラミド857),フレカイニド849, 858)など)を投与する.左脚ブロック・右軸偏位(LBBB+RAD)型では,β遮断薬,Ic 群薬849, 858, 862, 863)を投与する.Ca チャネル遮断薬も有効な場合がある.運動誘発性のものや交感神経緊張時に出現するものβ遮断薬864–867),Ca チャネル遮断薬など交感神経緊張とは無関係もしくははっきりしない場合Ic 群薬(フレカイニド).Ib 群薬(メキシレチン),通常の抗不整脈薬が無効の場合にはアミオダロン868–870),ソタロール850),ベプリジルが適応になる.
c.非薬物療法による頻拍治療
カテーテルアブレーションは個々の症例について適応を考慮すべきだが,右室流出路起源心室頻拍および左室束枝心室頻拍を筆頭とする単形性持続性心室頻拍はカテーテルアブレーションの治療成績,安全性が飛躍的に向上855)しているため,多くの症例で治療の第一選択と考えられる855).年齢,複雑心形態異常の術前後で解剖学的にアプローチが困難な場合などでも適応は拡大しているが,小児のカテーテルアブレーションに長けた施設と適応について検討する必要はある.除細動を要する致死的不整脈で薬剤やカテーテルアブレーションでも治療困難である場合には植込み型除細動器(ICD)を検討する.判断に悩む時には,3 ヵ月に限定されるが年長児以降であれば着用型除細動器も使用できる.
図78 持続性心室頻拍の予防(小児) (日本循環器学会.2009
856)より改変)改変点:RBBB +LAD 型第一選択から「プロカインアミド,ジソピラミド」を削除,LBBB +RAD 型第一選択を「β遮断薬,Ca チャネル遮断薬」から「Na チャネル遮断薬,フレカイニド,メキシレチン,β遮断薬」へ変更,第二選択を「Na チャネル遮断薬,ジソピラミド,プロカインアミド,フレカイニドなど」から「Ca チャネル遮断薬」へ変更,その他のいいえ/ 不明の場合を「Na チャネル遮断薬,ジソピラミド,フレカイニド」から「Na チャネル遮断薬,フレカイニド,メキシレチン」へ変更
アブレーション
いいえ不明はい
薬剤抵抗性
RBBB +LAD 型
交感神経緊張(運動,緊張,興奮)
ICD
アブレーション施行が困難な場合
難治性
持続性心室頻拍
LBBB +RAD 型
[第一選択] Ca チャネル遮断薬
[第二選択] β遮断薬Na チャネル遮断薬フレカイニドメキシレチンなど[第一選択] Na チャネル遮断薬
フレカイニドメキシレチン
β遮断薬[第二選択] Ca チャネル遮断薬β遮断薬Ca チャネル遮断薬
アミオダロンソタロールベプリジルNa チャネル遮断薬
フレカイニドメキシレチンその他
p.193
6.7 多形性心室頻拍(CPVT を含む)
6.7.1 CPVT
カテコラミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT)はきわめてまれな心室頻拍である858, 871). 器質的心疾患を認めず,心電図が正常な40 歳未満の患者で,運動もしくはカテコラミン投与により,他に原因が考えられない二方向性心室頻拍,多形性心室頻拍,多形性心室期外収縮が誘発される場合,および/ またはCPVT に関連する遺伝子変異を認める場合,CPVT と診断される.HRS,欧州不整脈学会(EHRA),アジア太平洋不整脈学会(APHRS),日本循環器学会による診断基準を示す(表67) 872, 873). 6.7.2 不整脈の機序
現在5 つの亜型が報告されており(表68)
873, 874),もっ
とも多いCPVT1 はRyR2 の遺伝子異常875, 876),次に多いCPVT2 は常染色体潜性遺伝で1p13-21 に存在するcalsequestrin 2(CASQ2)遺伝子異常が原因とされる877–880).これらの異常によりCa2+ハンドリングに異常をきたし,筋小胞体から大量のCa2+放出され遅延後脱分極を機序とする心室頻拍が起こる.TECRL 881),カルモジュリン882),トリアジン883)の異常によるCPVT3,CPVT4,CPVT5 も報告されており,Andersen-Tawail 症候群やLQT4 もCPVT関連疾患とされる874).
表 67 カテコラミン誘発性多形性心室頻拍の診断基準
1. 器質的心疾患を認めず,心電図が正常な40 歳未満の患者で,運動もしくはカテコラミン投与により,他に原因が考えられない二方向性VT,多形性PVC が誘発されるもの
2 発端者もしくはその家族に,CPVT に関連する遺伝子変異を認めるもの
3 発端者の家族に,心疾患を認めないにもかかわらず,運動により多形性PVC,二方向性VT もしくは多形性VT が誘発されるもの
4. 器質的心疾患,冠動脈疾患を認めず,心電図が正常な40 歳以上の患者で,運動もしくはカテコラミン投与により,他に原因が考えられない二方向性VT,多形性PVC,多形性VT が誘発されるもの1, 2, 3 は確定.4 は疑い(Priori SG, et al. 2013 872),日本循環器学会.2017
873)より) Copyright (2013) Heart Rhythm Society, with permission from Elsevier. https://www.sciencedirect.com/journal/heart-rhythm
表68 カテコラミン誘発性多形性心室頻拍の亜型
CPVT1 CPVT2 CPVT3 CPVT4 CPVT5 CPVT 関連疾患
ATS LQT4
割合(%) 50~ 60 1 <<1 <<1 <<1 <<1 <<1遺伝形式AD AR AR AD孤発例AD AD初発症状発現(歳) 10 7 10 4 - 2, 26 14, 9, 17 ?性差(M:F) 1:1 1:1 1:1 1:1 M =3 F >M? ?染色体遺伝子座1q43 1p13.1 7p22-p14 14q32.11 6q22.31 17q24.3 4q25-26原因遺伝子RyR2 CASQ2 TECRL CALM1 TRD KCNJ2 ANK2蛋白リアノジン受容体カルセクエストリンTECRLカルモジュリントリアジンKir2.1αアンキリンB突然死発生率(%) ≈10 ≈42 ≈75 ≈18 ≈25 ? ? AD:常染色体顕性遺伝,AR:常染色体潜性遺伝RYR2:リアノジン2,CASQ2:カルセクエストリン2,TECRL:trans-2.3-enoyl-CoA reductase like protein,CALM1:カルモジュリン1, TRDN:トリアジン,KCNJ2:K チャネル内向き整流サブファミリーJ メンバー2,ANK2:アンキリン2 (日本循環器学会.2017
873),Sumitomo N. 2016
874)より) ©2015 Japanese Heart Rhythm Society. Published by Elsevier B.V. This is an open access article under the CC BY-NC-ND license (http://creativecommons.org/ licenses/by-nc-nd/4.0/). https://doi.org/10.1016/j.joa.2015.09.008
p.194
6.7.3 治療
再発予防のための推奨を表69 に示す. a.頻拍の停止
CPVT は何らかのストレスによって心室頻拍(VT)となり,心室細動あるいはVT ストームに至ることもある.原因不明の心臓性突然死のうち1/7~1/8 は本疾患とする報告884)もある.二方向性心室頻拍, 多形性VT の停止には,頻拍機序がトリガードアクティビティであることからもATP 855, 869)やベラパミル858, 886)が有効である.またβ遮断薬としてプロプラノロール,ランジオロールも有効である886–888). 反対にカテコラミン,ニフェカラント,アミオダロン,Ia,b 群薬は無効である886, 887, 889, 890). 慢性期予防治療としてのフレカイニドの有効性からVT ストーム時にも使用され,有効性を示した報告889)もある.電気的除細動はVT では無効な傾向にあるが,心室細動では効果的なこともある.VT ストームには深鎮静が有効である884, 889, 890). b.頻拍の予防
以前から強い運動制限とストレス回避という生活指導と,高用量のβ遮断薬(プロプラノール,アテノロール)
855, 858, 872, 891),ベラパミル855)が使用されてきた.最近ではβ遮断薬でコントロール不十分な症例にフレカイニド
の追加が推奨されている855, 857, 891). また,いくつかのβ遮断薬については新たな報告が出ている.しかし,β遮断薬は第一選択薬でありながら不完全であり,4 年間の投与期間における不整脈再発率は19%,致死的イベント発生率は3% と決して低くない892). 予防治療はすなわち突然死予防であることから,遺伝子検査による確定診断時や臨床的に強く疑われる際には,積極的にβ遮断薬にフレカイニドを追加すべきという考え方もできるかもしれない.服薬遵守と薬効評価として定期的にホルター心電図や運動負荷心電図で評価を行うことが重要である. i.β遮断薬
他のβ遮断薬に対してナドロールの有効性が報告893, 894)されている一方で,有効性はないという報告895)もある. β遮断薬の中で唯一カルベジロールはRyR2 に作用することが報告896)されているが,他のβ遮断薬より有効であるという報告はない. ii.フレカイニド
β遮断薬でコントロール不十分な症例にはフレカイニドの追加が推奨される897–899). フレカイニド単独治療についても報告895, 900)されており,副作用などでβ遮断薬が投与
表69 カテコラミン誘発性多形性心室頻拍の心室頻拍再発予防のための推奨とエビデンスレベル
推奨クラスエビデンス
レベルMinds
推奨グレードMinds
エビデンス
分類
CPVT と診断されたすべての症例への以下の生活スタイルへの変更: 1競争的スポーツの制限もしくは禁止2トレーニング運動の制限もしくは禁止3ストレスの多い環境への関わりを制限I C B IVa CPVT と診断されたすべての症例へのβ遮断薬の投与I C B IVa CPVT と診断され,適切な薬物治療や左星状神経節切除術を行ったにもかかわらず心肺停止,再発する失神,多形性もしくは2 方向性VT を認める症例へのICD 植込みI C B V CPVT と診断され,β遮断薬の投与にもかかわらず再発する失神,多形性もしくは二方向性VT を認める症例へのフレカイニドの投与IIa C B III CPVT に関連する遺伝子異常が検出されているが,症状を認めないキャリア(潜在性遺伝子異常陽性例)へのβ遮断薬投与IIa C C1 IVa CPVT と診断され,何らかの理由によりβ遮断薬の投与が困難な症例におけるフレカイニド単独投与IIb C C1 V CPVT と診断され,高用量のβ遮断薬およびフレカイニドが投与されているがVT/VF のコントロールが不良な症例へのベラパミル投与IIb C C1 IVa CPVT と診断された無症状の症例に対する,他の治療なしでのICD植込み. III C D V CPVT 症例に対するプログラム刺激III C D V
p.195
できない場合にはフレカイニド単独投与も有効である可能性がある.フレカイニドと同じIc 群薬のプロパフェノンもリアノジン受容体遮断作用を有し,1 例ながら臨床的にも有効であった報告例がある901). iii.ベラパミル
少数例でβ遮断薬に追加することで効果があったことが報告902, 903)されているが,現時点での予防効果は限定的895)かつ短期であり,十分量の他の薬物治療および非薬物療法でコントロール不良な場合に投与を検討してもよいかもしれない. iv.非薬物療法
左星状神経節ブロックの有効性も報告されている904–906).また薬物抵抗性の心室頻拍,心室細動に対してICD の適応も考慮されるが855, 857, 891, 903),大規模なシステマティックレビュー907)では, CPVT 患者1,429 例のうち503 例のICD 植込み後患者において,20.8% に不適切作動,19.6%でVT ストームを経験していた.死亡は7 例(1.4%)で,そのうち4 例がICD によるVT ストームであった.心室頻拍ではわずか1.4% しか停止させられず,反対に心室細動では94.3% で停止が得られた.ICD では,頻回作動の危険性も報告908)されており,ICD を植込む際には厳格な適応判断907)と心室性不整脈からショック作動までの時間を長めにとる,不整脈を認識する心拍数を高く設定するなど慎重な設定を要する855, 857, 891, 892, 907, 909).
またICD の抗頻拍ペーシングのVT 停止率は12% と著しく低かった909). これまでの治療方針からは逆説的になるが,十分な薬物療法を背景とした運動を肯定的に捉えた報告や研究も散見される910–912). 薬物抵抗性,ICD の頻回作動,初発のPVC 波形が一定であった症例でカテーテルアブレーションによってコントロールされた報告913, 914)もある.
6.8 QT 延長症候群
6.8.1 疾患概念,定義
先天性QT 延長症候群(LQTS)は,心電図上QT 間隔の延長を示し,TdP とよばれる特徴的な多形性心室頻拍,失神,突然死をきたす遺伝性の症候群である.QT 延長とは通常Bazett の式(QTc=QT √RR)で心拍数補正された補正QT 間隔が440 ms 以上(小学校1 年生では430 ms以上,高校生以上の女性では450 ms 以上)の場合をいうが915),小児は心拍数が多く,過剰補正されるため,心拍数≧75/分のときはFridericia 補正(QTc=QT/ 3√RR)が適している.心電図診断においては,QT 間隔の延長だけでなく,T 波の形態異常に注目することが重要である916).
6.8.2 遺伝学的分類
心筋の活動電位を形成するイオンチャネルやこれと関連する細胞膜蛋白をコードする遺伝子変異によって発症する.多くは先天性聾をともなわず常染色体顕性遺伝形式をとるロマノ・ワード症候群であり,現在までにLQT1 型から15 型が知られている.臨床的にLQTS と診断される症例の約75% で遺伝子型が同定されるが,LQT1 型(KCNQ1変異),2 型(KCNH2 変異),3 型(SCN5A 変異)の3 者でその90% を占める.一方,先天性聾をともなうジャーベル・ランゲ-ニールセン症候群はKCNQ1 またはKCNE1の常染色体潜性遺伝形式をとる917).
6.8.3 診断と治療のアルゴリズム
先天性LQTS の臨床診断は,Schwartz らによって報告されたリスクスコアを用いて行う(表70)
827, 918).HRS/
EHRA/APHRS 合同ステートメントでは,このスコアを含めて,表71 872)に示した診断基準が提唱されている .
表70 先天性QT 延長症候群のリスクスコア918)
点数
1. 心電図所見A. QTc 値≧480 ms 460~479 ms 450~459 ms (男性) B. 運動負荷後4 分のQTc 値≧480 ms C. 倒錯型心室頻拍(Tdp) D. T 波交互脈E. ノッチのあるT 波(3 誘導以上) F. 年齢不相応の徐脈3 2 1 1 2 1 1 0.5 2. 臨床症状A. 失神ストレス時非ストレス時B. 先天性聾2 1 0.5 3. 家族歴A. LQTS の家族歴B. 30 歳未満の突然死1 0.5合計点数が≧3.5:診断確実(high probability) 1.5~3.0 点:疑診(intermediate probability) ≦1.0:可能性が低い(low probability) (Schwartz PJ et al. 2011
918)より) ©2011 American Heart Association, Inc. https://www.ahajournals.org/journal/circ
p.196
6.8.4 薬物治療
a.TdP 発生時の急性期治療i.硫酸マグネシウム
TdP の停止と急性期再発予防の第一選択薬は硫酸マグネシウムの静注(ボーラス3~12 mg/kg,さらに0.5~1 mg/分で持続点滴,血中濃度3~5 mg/dL)である(クラスI,レベルB) 919). ii.その他の薬物
メキシレチンまたはリドカイン,β遮断薬(プロプラノロール),カルシウム拮抗薬(ベラパミル)の静注がTdP停止に有効なこともある(クラスIIa,レベルB)
920).低K
血症はTdP 発生を助長するので是正する.TdP が持続してVF に移行した場合は,ただちに電気的除細動を行う.徐脈がQT 延長を増悪させTdP の発生を助長する場合には,一時的ペーシングで心拍数を増加させる. b.予防的治療i.β遮断薬
β遮断薬の内服はLQT1 とLQT2 では有意に心イベントリスクを低下させる(LQT 1 例で74% 921),LQT2 例で63% 922)).LQT3 の女性でも有効性が報告されている923).小児LQTS でも成人に準じ,失神の既往やVT/VF を認めた症例,無症候性でもQTc≧470 ms の場合はβ遮断薬の適応とされる(クラスI,レベルA).無症候性でQTc < 470 ms の場合もβ遮断薬の適応となる(クラスIIa,レベルB).特に小児のQT 延長症候群は運動やストレスが原因で失神が誘発されるものが大部分であるため,β遮断薬が第一選択薬となる.
β遮断薬の種類により効果に違いがあることが知られているが,どのβ遮断薬を第一選択にするかについて,エビデンスは少ない872).β1 選択性のアテノロールやメトプロロールよりも,β1 非選択性のプロプラノロールやナドロー
ルの有効性が高いとする報告が多い923).特にLQT2 に対してはナドロールが推奨されている925, 926). ii.Na チャネル遮断薬(メキシレチン)
メキシレチンは遅発性INa 遮断薬であり,Na チャネル機能亢進が原因のLQT3 例では,QT 間隔を短縮し927, 928),心イベントの予防に有効と考えられている(クラスIIa,レベルC)
929).QTc ≧500 ms のLQT3 で追加治療として推奨されている(クラスIIa,レベルB).
また,LQT7(Andersen-Tawil 症候群)例では,CPVTと同様にフレカイニドの有効性が示されている930).TdP の急性期治療においても有効である(クラスIIa,レベルC). iii.カルシウム拮抗薬(ベラパミル)
ベラパミルは早期後脱分極を抑制しTdP の発生抑制に寄与すると考えられる920, 931)が,LQTS におけるβ遮断薬のようなエビデンスはない.β遮断薬のみでは抑制できない例における併用療法,LQT8(Timothy 症候群)における有効例が報告されている932). iv.カリウム製剤
血清K 値を≧4.0 mEq/L に保つことにより,心イベントの抑制に貢献する.特にLQT2 で有効であったとの報告がある(クラスIIa,レベルC)
933).
7 小児高血圧薬
7.1 小児高血圧の一般的治療指標
7.1.1 疫学
わが国の血圧健診では小学校高学年から中学生の0.1 ~ 1%,高校生の約3% に高血圧が見出される934).一方,米国における小児高血圧の有病率は約2~5% である53).小児,思春期の高血圧の多くは本態性高血圧であり,肥満や家族歴と関連することが多い.二次性高血圧は成人ではまれであるが,小児では成人よりも比較的有病率が高い.低年齢や重度の高血圧では二次性の可能性が高く,原因の精査さらに降圧薬治療が必要である.小児高血圧の年齢層別の代表的な原因疾患を示す(表72)
54).
7.1.2 定義
わが国では,大規模データをもとに作成された小児の年齢・性別の血圧基準値が存在しない.そのため,本ガイド
表71 先天性QT 延長症候群 の診断基準
1.以下の場合,先天性LQTS と診断する: a) QT 延長をきたす二次性因子が存在しない状況で先天性
LQTS リスクスコア≧3.5 の場合,および/ または, b) 先天性LQTS 遺伝子に明らかな病的変異を認める場合,あるいはc) QT 延長をきたす二次性因子が存在しない状況で,繰り返
し記録した12 誘導心電図で,Bazett の補正式で求めたQTc ≧500 ms を示す場合2.病的遺伝子変異を認めず,QT 延長をきたす二次性因子が存在しない状況で,説明のつかない失神を認める症例において,繰り返し記録した12 誘導心電図で,QTc 480~499 ms を示す場合,先天性LQTS と診断しうる. (Priori SG, et al. 2013
872)より抜粋) Copyright (2013) Heart Rhythm Society, with permission from Elsevier. https://www.sciencedirect.com/journal/heart-rhythm
p.197
ラインでは小児高血圧の基準値を,2017 年版の米国小児高血圧ガイドラインにおける50 パーセンタイル身長小児の性別・年齢別血圧基準値を採用している(表73)
935).し
かしながら,低身長または高身長の場合は,今回の基準値よりも収縮期で3~5 mmHg,拡張期で1~2 mmHg 異なる場合があることを考慮すべきである.
2017 年の米国小児科学会の高血圧症の診療ガイドラインにならい,以下のように血圧の測定値を定義する935).正常血圧
1 歳以上13 歳未満:収縮期,拡張期血圧ともに90 パーセンタイル未満の場合. 13 歳以上:収縮期,拡張期血圧ともに120/80 mmHg 未
満の場合.高値血圧
1 歳以上13 歳未満:収縮期,拡張期血圧の一方または両方が,90 以上から95 パーセンタイル未満もしくは120/80 mmHg 以上から95 パーセンタイル未満の場合.
13 歳以上:拡張期血圧が80 mmHg 未満であるが,収縮期血圧が120 mmHg 以上129 mmHg 以下の場合.高血圧
収縮期,拡張期血圧の一方または両方が,日または週を変えて3 回以上下記の基準を満たした場合.ステージI
1 歳以上13 歳未満:収縮期,拡張期の一方または両方が,95 パーセンタイル以上95 パーセンタイル+12 mmHg未満の場合もしくは130/80 mmHg 以上139/89 mmHg 以下の場合.
13 歳以上:収縮期,拡張期血圧の一方または両方が, 130/80 mmHg 以上139/89 mmHg 以下である場合.ステージII
1 歳以上13 歳未満:収縮期,拡張期の一方または両方が,95 パーセンタイル+12 mmHg 以上の場合もしくは140/90 mmHg 以上の場合.
13 歳以上:収縮期,拡張期血圧の一方または両方が140/90 mmHg 以上の場合.
2017 年版の米国小児高血圧ガイドラインでは,水銀血
表72 各年齢層における高血圧の病因
年齢層病因新生児期大動脈縮窄症腎動脈血栓症腎動脈狭窄腎先天異常幼児期~6 歳腎実質性疾患大動脈縮窄症腎動脈狭窄
6~10 歳腎実質性疾患腎動脈狭窄本態性高血圧思春期以降腎実質性疾患本態性高血圧(Julie RI, et al. 2006 54),Matto TK, et al
949),Ellis D. 2009 956)より作表)
表 73 米国小児高血圧ガイドラインにおける50 パーセンタイル身長小児の性別・年齢別血圧基準値
年齢(歳)男児女児
90 th 95 th 95 th + 12 mmHg 90 th 95 th 95 th + 12 mmHg
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 100/53 102/56 103/59 105/62 106/65 107/68 109/70 110/71 110/73 112/74 114/75 117/75 121/75 126/77 128/79 129/80 131/81 103/55 106/59 107/62 108/66 109/69 111/71 112/73 114/74 115/76 116/77 118/78 121/78 125/78 130/81 132/83 134/84 135/85 115/67 118/71 119/74 120/78 121/81 123/83 124/85 126/86 127/88 128/89 130/90 133/90 137/90 142/93 144/95 146/96 147/97 100/56 103/60 104/62 106/65 107/67 108/69 109/70 110/72 111/73 112/73 114/74 118/75 121/76 122/76 122/77 123/77 124/77 103/60 106/64 108/66 109/69 110/71 111/72 112/73 113/74 114/75 116/76 118/77 122/78 124/79 125/80 126/81 127/81 127/81 115/72 118/76 120/78 121/81 122/83 123/84 124/85 125/86 126/87 128/88 130/89 134/90 136/91 137/92 138/93 139/93 139/93
(Flynn JT, 2017 935)より作表)
p.198
圧計を用いて測定した米国国民健康栄養調査(NHANES)による50,000 人の血圧データベースに1999 ~2000 年の測定値を追加し,性別・年齢・身長別に50,90,95 パーセンタイル,95 パーセンタイル+12 mmHg の血圧を基準値として示している935).ちなみに2009 年の欧州小児高血圧治療ガイドラインでは,2004 年版の同ガイドラインの血圧の基準値が採用されている52).2017 年版の米国のガイドラインにおける血圧基準値はウェブサイト935)で参照可能である.
一方,わが国における小児高血圧の基準値を表17 49)に,2017 年版の米国小児高血ガイドラインにおける,小児高血圧のスクリーニングに用いられる基準値を表
74 935)に示す.米国のガイドラインにおける高血圧判定基
準と薬物治療開始基準と比較して,1わが国では自動血圧計での血圧測定である,2身長の影響が考慮されていない,3米国では13 歳以上は一律120/80 mmHg 以上を介入基準としている,4血圧値による明確な治療基準が存在しない点などが異なる.
本ガイドラインでは,高血圧に対する薬物治療基準の設定にあたり,米国の小児高血圧ガイドラインの血圧値による治療基準を参考にしている.米国ガイドラインの50 パーセンタイル身長群における性別・年齢別血圧基準値は,わが国の血圧管理基準である性別・年齢別の95 パーセンタイル値と比較し,収縮期はほぼ同様であるが,拡張期は10 mmHg 以上高値となっている.今後わが国においても,年齢・性別・身長を基にした小児の血圧正常値の設定,測定方法の検討,それらを基にしたスクリーニングや治療基準の設定が必要である.参考)血圧測定法935)
・ 水銀血圧計を用いて聴診法での測定を原則とする.・ 5 分以上の安静後,肘を心臓の高さまで挙上し右腕で測
定する.・ 上腕周囲長の40% 以上の幅でカフは上腕周囲の80% 以
上を囲む長さとし,カフの幅と長さは1:2 以上とする.・ コロトコフ第1 音(K1)を収縮期血圧,K5 を拡張期血
圧とする.K5 が0 mmHg でも聴取される場合は再度測定し,同様であればK4 を拡張期血圧とする.・ Oscillometric 式自動血圧計で90 パーセンタイルを超え
る場合は聴診法にて再検する.・ 白衣高血圧や仮面高血圧の鑑別のため24 時間自動血圧
測定を用いることが推奨される.欧州小児高血圧ガイドラインには24 時間自動血圧測定の基準値が掲載されている52, 935, 936).
7.2 薬物療法の治療方針
本ガイドラインでは以下の項目を薬物療法の適用とする364, 52, 934, 935) 1 症候性高血圧2 二次性高血圧3 高血圧にともなう標的臓器障害(左室肥大や高血圧性
眼症,腎瘢痕などの臓器障害)の合併4 糖尿病や慢性腎疾患に合併する高血圧5 非薬物治療(食事・運動療法)後も持続する高血圧6 重度高血圧(ステージII 高血圧)
・ 前高血圧症(90 ~95 パーセンタイル):非薬物療法よ
り開始し90 パーセンタイル以下まで血圧を下げる・ ステージI で1~4のいずれも該当しない場合:非薬
物療法より開始する.ただし5に該当する場合は薬物療法の適応となる.・ ステージI で1~4のいずれかに該当する場合:薬物
療法と非薬物療法を同時に開始する.・ 6に該当する場合:非薬物療法とともに薬物療法を同時
に開始する.・ 血圧の目標値は90 パーセンタイル未満とし,13 歳以上
では130/80 mmHg 未満とする.・ 本態性高血圧では血圧上昇が緩徐である事が多く,食事
療法,運動療法などの非薬物療法がより重要となる.・ 薬物は単剤より開始し,血圧をみながら漸増する.最大
投与量まで到達または副作用が出現した場合は別な系統の第二選択薬を追加する.薬物はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬
表 74 米国の小児高血圧ガイドラインにおけるスクリーニ
ング基準
年齢血圧(mmHg)
男子女子収縮期拡張期収縮期拡張期1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 ≧13 98 100 101 102 103 105 106 107 107 108 110 113 120 52 55 58 60 63 66 68 69 70 72 74 75 80 98 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 114 120 54 58 60 62 64 67 68 69 71 72 74 75 80 (Flynn JT, 2017 935)より)
p.199
(ARB),β遮断薬,カルシウム拮抗薬,利尿薬が適応となる(薬品名,用量は7.5 小児高血圧に使用する降圧薬参照).・ 重度の症候性高血圧では静注薬を使用(次項参照).・ 二次性高血圧は治療法が原疾患によって異なるため7.4
二次性高血圧で後述する.・ 高血圧の治療方針をアルゴリズムに示す(図79) 935).
BMI の基準値は米国疾病対策予防センターの基準で85パーセンタイル未満とし,それ以上を過体重のリスクとして減量指導の適応とした936).
7.3 重症高血圧の治療
7.3.1 定義
重症高血圧とはステージII 以上の高血圧であり,かつ急激な上昇により症状を呈しているものを指す935, 937, 938).中でも生命の危険がともなう高血圧は,重篤な臓器障害をきたすため,より早期の介入が必要となる.
その重症度により下記のように分類している.・ 高血圧緊急症(hypertensive emergency):急性の臓器
障害をともない重篤な症状をきたす・ 高血圧切迫症(hypertensive urgency):急性の臓器障
害をともなわない・ 高血圧緊急症では,すぐに正常化させなくとも臓器障害
を防ぐためにすみやかな降圧が必要である939).病態的にも,切迫症ではカテコラミンやアンジオテンシンIIなどが産生され,それに反応してNO やPGI2 などの血管拡張成分の産生も起こり血管抵抗に急性の変化をきたす.一方,緊急症では血管内皮での炎症がおこり血管トーヌスの調整が破綻し,臓器血流の増加,動脈のフィブリノイド壊死をきたす.結果として血管透過性が亢進,血管周囲の浮腫とともに凝固系機能も亢進するため,播種性血管内凝固症候群(DIC)を惹起するとされる940).
7.3.2 臨床症状
頭蓋内圧亢進にともなう嘔吐・嘔気,頭痛,視覚異常,片麻痺,鼻出血,心不全,呼吸器症状,疲労,意識障害などがあげられる.
緊急症では,可逆性後頭葉白質脳症(posterior revers-
過体重はBMI 85 パーセンタイル以上とする
図79 小児高血圧の治療方針
BMI 正常過体重
薬物療法減量指導
+薬物療法過体重
薬物療法90 〜<95 パーセンタイル
または120/80 mmHg <90th%
90 〜<95 パーセンタイルまたは 120/80 mmHg
≧95 パーセンタイル持続過体重BMI 正常
6 ヵ月ごとにモニタリング減量指導
≧95 パーセンタイル血圧,身長,BMI 測定
高血圧ステージII高血圧ステージ I高値血圧正常血圧
減量指導3 回以上の血圧測定
非薬物療法食事,運動療法
基礎疾患の検索標的臓器障害の確認専門医への紹介を検討基礎疾患の検索標的臓器障害の確認
Yes No (本態性高血圧) 6 ヵ月ごとに血圧測定
非薬物療法食事,運動療法(必要に応じて)
基礎疾患の検索標的臓器障害の確認
BMI 正常
減量指導
p.200
ible encephalopathy syndorome)による痙攣・意識障害・視覚異常,脳梗塞・出血,心不全などの臓器障害をきたし,すみやかな介入を要するのに対して,切迫症では嘔気・嘔吐などの症状を呈する程度である.この場合は,数時間かけて血圧のコントロールを目指す941–943).
7.3.3 薬物療法の実際
溢水の所見が明らかである場合は,利尿薬を投与する.また,慢性的に高血圧がある場合,内膜下組織の細胞増生が起こっているため,急激な血圧低下は虚血をきたし,臓器障害を悪化させる可能性がある939).したがって,緊急高血圧管理では,降下速度を予想できるよう薬品は経静脈投与が基本である.降圧薬投与中は,脳梗塞や虚血性脊髄症・視神経症に注意を要する. a.降圧速度
一般に6 ~8 時間かけて1/4 ~1/3 を降下させ,48~ 72 時間かけてゆっくりと90 パーセンタイル以下の血圧に調節する941, 943, 944).脳血流や循環などへの影響を最小限に抑えるため,段階的な降圧を可能とする薬品を選択する.切迫症の中には慢性的に徐々に高血圧が進行した例や降圧薬の内服を継続している例もあるためより緩徐な降圧を要する. b.薬物療法
わが国では,以下の降圧薬を経静脈的に使用することが多い(クラスIIa,レベルC).欧米諸国では,ニカルジピンに加え,α / β遮断薬であるラベタロールの静注製剤が第一選択となっている945).ラベタロールは気管支喘息には使用できないものの,心拍出量にはほとんど影響せずに,数分で末梢血管抵抗を下げる降圧薬である.今後,わが国への導入が期待される.わが国では次の薬剤が用いられる. i.緊急症(1)ニカルジピン(1~3μg/kg/分)
特徴数分で効果が現れ,数時間で降圧目標に達する.ニトロプルシドよりも持続使用が可能であるうえ,欧米では早産児・新生児にも有効とされる946).
注意点反応性の頻脈,顔面紅潮,動悸,低血圧に注意. (2)ニトロプルシド(0.53~10μg/kg/分,0.2μg/kg/分ずつ増量.3 μg/kg/分以下で持続)
特徴数秒単位で効果を発揮し短時間作用型である.動脈,静脈ともに拡張作用を持つ.
注意点光により失活,脳血流と脳圧を亢進させる.72 時間以上の長期使用や肝・腎機能障害での使用の場合はシアンの上
昇に注意し,シアン中毒症状が出現した場合はチオ硫酸塩を併用する.2μg/kg/分以上の投与速度で投与する場合は,総投与量が500 μg/kg 以上になると体内における解毒処理能力を超えてシアンが生成されることが知られているため注意を要する. ii.切迫症
切迫症と判断され,急速な降圧を要さない場合は,内服薬投与も選択の1 つであるが,初期治療では切迫症でもニカルジピンが使われることが多い.二次性の場合はその病態に合わせて経口可能なら早期にその薬品を使用する.
その他,以下の薬品が使用可能である.ニフェジピン(0.25~0.5 mg/kg/回,経口)
注意点成人では重症高血圧への使用は脳梗塞と心筋虚血を惹起するため危険とされているが,小児では<0.25 mg/kgの少量投与では有効とする報告もある947).しかしながら,現段階ではより調節の容易な薬品が使用可能な場合は推奨されない(クラスIIa,レベルC).ヒドララジン(0.2~0.6 mg/kg/回静注,4 時間ごと)
注意点米国食品医薬品局(FDA)による投与量は1.5 ~3.5 mg/kg/日であるが,それ以下での使用を推奨948).反応性が不確定であり,作用が遷延するなど調節性に欠ける.ニカルジピンに比較して即効性には劣るが,効果が遷延するため少量から投与する.クロニジン(0.05~0.1 mg/kg/回,経口)
α2 アゴニストであるため一時的に血管トーヌスを亢進させ,その後血圧と脈拍が低下する.
注意点効果は不確定だが,30~60 分で効果が出現し8~24時間持続する.調節性に欠ける.
7.4 二次性高血圧
7.4.1 定義
さまざまな原疾患によって生じる高血圧で,代表的な疾患を表75 に示す.本ガイドラインでは,腎性高血圧,腎血管性高血圧,また糖尿病,褐色細胞腫,クッシング症候群,先天性副腎皮質過形成に合併した高血圧,遺伝性の高血圧を扱う.小児の高血圧における二次性高血圧の割合は報告により5 ~8 割程度となっており,低年齢であるほど二次性高血圧の割合が高くなる.もっとも多いのが腎性高血圧であり,その他内分泌性の高血圧や腎血管性高血圧な
p.201
どがあげられる949).
7.4.2 腎性高血圧
a.疫学
腎実質性高血圧は小児の二次性高血圧でもっとも多く,小児の二次性高血圧の70 ~80% を占めるとの報告もある949).また小児の慢性腎臓病(CKD)症例の5 割近くが高血圧を合併するとされる950). b.薬物治療の実際
第一選択としては,蛋白尿減少効果やCKD の進行抑制効果も期待できるACE 阻害薬やARB があげられる951). ACE 阻害薬とARB の併用療法については,蛋白尿の減少効果やCKD の進行の抑制効果の点でより有効だとする報告もあるが952–954),現時点では一定の見解は得られていない.利尿薬に関しては体液貯留がある症例で使用すべきだが,腎機能障害が進行した症例ではサイアザイド系利尿薬は効果が乏しく,フロセミドの方が好ましい.ACE 阻害薬やARB の単剤療法で効果が不十分である場合にはカルシウム拮抗薬の併用が推奨される.β遮断薬は小児の腎性高血圧治療における第2 選択薬に位置付けられている951).
降圧目標は各年齢の90 パーセンタイル以下とし(表73),本態性高血圧より厳格なコントロールで管理した方がよい951).最近は24 時間血圧計による管理も推奨されている.
7.4.3 腎血管性高血圧
a.疫学
5~10% は腎血管性高血圧によるといわれている.成人の腎血管性高血圧では動脈硬化性病変が基盤となるのに対し,小児では,線維筋異形成や神経線維腫症1 型,大動脈炎症候群,ウィリアムス症候群などが背景にある場合が多い.また新生児期の臍動脈カテーテル留置にともなう腎動脈血栓症の場合もある955). b.薬物療法の実際
レニン-アンジオテンシン系によらない降圧薬 (カルシウム拮抗薬,β遮断薬,利尿薬など) による治療に抵抗することが多く,まずACE 阻害薬やARB が考慮される.ただし両側性の腎血管病変がある症例においてはACE 阻害薬やARB の使用によるGFR の低下のリスクが高く,その使用は避けるべきである955–959).また脱水合併時にもGFR低下のリスクが高くなるので注意が必要である.
小児においてはカテーテル治療が可能な症例はその適応が考慮される955).特に,ACE 阻害薬やARB による治療で降圧効果が不十分な場合や副作用で使用しづらい場合は,積極的にカテーテル治療が考慮される.ただし末梢型の場合はその施行は困難である.
7.4.4 糖尿病に合併した高血圧
a.疫学
思春期の糖尿病症例は同年代の健常な児に比べ収縮期,拡張期血圧とも高い.特に2 型糖尿病症例においては,本態性高血圧の合併がよくみられ,思春期2 型糖尿病症例の2~3 割が高血圧を合併しているとの報告もある960–962). b.薬物療法の実際
小児の糖尿病に合併した高血圧の治療においては,糖尿病性腎症の発症や進行に対する抑制効果も期待できるACE 阻害薬が第一選択薬として用いられてきたが963, 952, 960, 963, 964),近年ARB に関しても小児における有効性と安全が報告されてきており,今後第一選択薬の1 つとなりうる.ACE 阻害薬とARB の併用療法については,現時点では一定の見解は得られていない.ACE 阻害薬やARB のみでは効果が不十分な場合はカルシウム拮抗薬やβ遮断薬が選択される.このうちβ遮断薬に関しては,低血糖時に症状をマスクする可能性があるため低血糖のリスクがある症例では使用を控えるべきであり,さらに一部のβ遮断薬は耐糖能の悪化の報告がある965–967).降圧目標は腎性高血圧と同様,本態性高血圧より厳格なコントロール
表75小児二次性高血圧の原因疾患
腎性高血圧 67~87%内分泌性高血圧 10%腎血管性高血圧 5~10%腎実質性疾患ネフローゼ症候群低形成腎腎孟腎炎逆流性腎症多発性嚢胞腎溶血性尿毒症候群水腎症その他の先天異常糖尿病褐色細胞腫クッシング症候群甲状腺機能亢進症高カルシウム血症線維筋異形成(例:NF タイプ1)血管炎(例:高安病)腎静脈血栓症大動脈縮窄症腎動静脈瘻その他先天性副腎皮質過形成遺伝性の高血圧症(ミネラルコルチコイド過敏症など)
p.202
を目指すべきである.
7.4.5 褐色細胞腫に合併した高血圧
a.疫学
褐色細胞腫に合併した高血圧は小児の高血圧の1% 程度を占め,また小児の褐色細胞腫症例の60~90% 以上が持続的な高血圧を合併しているといわれている.また小児の褐色細胞腫の40% 近くは遺伝的な素因を有するとされている968). b.薬物療法の実際968)
褐色細胞腫の治療の根幹は外科手術であるが,術中のリスクを最小限にするため,術前10~14 日前からカテコラミンの作用をコントロールするための薬物療法を行う968).小児における術前治療は確立されたものはないが,わが国では初期治療としてα遮断薬のドキサゾシンが使用されることが多い.β遮断薬は頻脈のコントロール目的で使用が考慮されるが,α受容体に対する非競合性の刺激作用を有するため,α遮断薬による治療が適切に行われてから開始すべきである.わが国ではプロプラノロールが使用されることが多い.α遮断薬のみでは十分な血圧コントロールが得られない場合の第二選択としてはカルシウム拮抗薬があげられる.
降圧目標は特に小児の場合,明確なものはない.現時点では正常血圧を目標とするのが妥当と思われる.
褐色細胞腫の患者においては慢性的な血管収縮による血管内用量の低下をきたしている場合が多く,必要に応じ術前に塩分や水分の負荷も考慮する.
7.4.6 クッシング症候群に合併した高血圧
a.疫学
クッシング症候群の75~80% で高血圧を合併するとされている.小児では下垂体腺腫や副腎腫瘍による内因性はまれであり,炎症性疾患などに対する治療や移植後の免疫抑制のための副腎皮質ステロイド薬投与による場合が多い956, 969). b.薬物療法の実際
ACE 阻害薬やARB,カルシウム拮抗薬,サイアザイド系利尿薬などを考慮する934).ミネラルコルチコイド受容体刺激により低K 血症を合併している場合には抗アルドステロン薬が有効である969).
7.4.7 先天性副腎皮質過形成に合併した高血圧
a.定義・病態
先天性副腎皮質過形成は副腎におけるステロイドホルモン合成系の酵素の遺伝子異常による疾患であるが,このうち11β水酸化酵素と17α水酸化酵素の異常の場合,副腎
でのグルココルチコイド合成のネガティブフィードバックが破綻した結果,ACTH の分泌亢進により血中DOC 濃度の上昇が生じ,Na,体液貯留と高血圧をきたす398). b.薬物療法の実際
いずれの場合も,グルココルチコイドの補充により高血圧やステロイドの異常状態は正常化する956, 969).
7.4.8 遺伝性の高血圧
a.定義・疫学
原発性グルココルチコイド抵抗性やグルココルチコイド奏功性アルドステロン症,apparent mineral corticoid excess syndrome,リドル症候群,hypertension exacerbarted by pregnancy などが含まれるが,いずれもまれな疾患である.ミネラルコルチコイド受容体やグルココルチコイド受容体の遺伝子異常,グルココルチコイドの代謝酵素の遺伝子異常などにより,ミネラルコルチコイド過剰症状としての高血圧をきたす956, 969). b.薬物療法の実際
ミネラルコルチコイド過剰症状に対して抗アルドステロン薬の投与を行う.また内因性コルチゾルの分泌抑制のためにグルココルチコイド投与を行うこともある.ただし,リドル症候群では抗アルドステロン薬は無効であり,トリアムテレンが著効する.またhypertension exacerbated by pregnancy においては,抗アルドステロン薬の投与により高血圧が悪化することがある956, 969).
7.5 小児高血圧に使用する降圧薬
降圧薬リストを作成するにあたり,わが国や欧米での小児適応のあるものを優先し,欧米のガイドラインやわが国の論文で多く採用されているものを追加した(表76).
970–975).
7.5.1 小児期腎不全患者への薬物療法
a.基本的事項
腎不全患者に,腎臓から排泄される薬物を常用量で用いると,薬物の蓄積により副作用の発生率が増大するため,腎機能,薬物の尿中排泄率に応じて薬剤の投与法の変更を行う必要がある.透析中の場合は透析の種類,透析方法,透析時間などにより薬物動態は複雑に変化する976–978) .なお出生時の糸球体濾過率は成人の約1/5,生後2 ヵ月で1/2 程度であり生理的に腎機能が低下しているため,保存期腎不全患者と同様の配慮が必要になる. b.薬物動態と腎機能
薬物動態は吸収,分布,代謝,排泄によって決まる.腎
p.203
不全患者では,腎からの排泄低下による影響がもっとも大きいが,吸収,分布,代謝にも変化をきたし,薬物動態に影響を及ぼすことがある. i.吸収
経口投与された薬物はその一部が消化管から吸収され,肝臓を通過する際にかなりの割合が代謝を受けた後に血中に移行する.薬物が経口・筋注・直腸内投与など非血管外投与された場合に,生化学的に利用できる量として循環血液中に移行する割合と,生物学的利用速度を合わせてバイオアベイラビリティーといい,消化管からの吸収と肝臓を初回通過したときの代謝率により決まる.一般的に,脂溶性の薬物は消化管からの吸収率は高く,水溶性の薬物は消化管からの吸収率が低い.腎不全患者では,一部の薬物でバイオアベイラビリティーが変化することが知られている.表77 にその薬物を示した. ii.分布
吸収された薬物の一部は血漿蛋白に結合して結合型となり,一部は,血漿蛋白に結合せず非結合型として存在する.一般的に,脂溶性の薬物は組織に移行しやすく,その分血中濃度は低くなるので,分布容積は大きい.水溶性の薬物や,蛋白結合率の高い薬物は細胞外液に多く分布しやすく,組織移行性は低い.そのため血中濃度は高くなるので,分布容積は小さくなる.腎不全患者で分布容積が変化する薬物がある.
アミノグリコシド系抗菌薬や多くのβラクタム系抗菌薬,多くの抗ウイルス薬などの水溶性薬物の分布容積は,浮腫や腹水のある患者では増加するため,分布容積の変化に応じた投与量設計が必要になる.たとえば,分布容積が0.3 L/kg の水溶性薬物を体重50 kg の患者にピークの血中濃度を10μg/mL になるように初回投与量を算出すると,上記の関係から初回投与量は0.3 L/kg×50 kg×10 mg/L =150 mg と算出される.しかし,この患者が浮腫により10 kg の体重増加があった場合は,薬物は増加した細胞外液10 L にも分布することから,150 mg 投与した場合の血中薬物濃度は150 mg /(15+10)L=6 mg/L と理論上低くなる.
一方,ジゴキシンは腎不全で特異的に分布容積が低下する薬物として知られている.通常の薬物投与に際しては腎不全患者でも初回負荷量を減量することはないが,分布容積が低下するジゴキシンの場合には通常の負荷量の50 ~ 70% に減量する必要がある.
また,腎不全患者では,血漿アルブミン値の低下,尿毒素物質の蓄積による薬物-蛋白の結合阻害,アルブミンの構造変化などにより蛋白結合率が低下する.蛋白結合率の変化は薬物の分布容積と非結合型の割合を増加させ,肝臓や腎臓からの排泄に大きく影響するため,腎不全患者での
薬物の臨床的な効果を予測することを困難にさせている.ジギトキシン,フェニトイン,バルプロ酸などの蛋白結合率の高い薬物を腎不全患者に投与する場合,総濃度が有効治療範囲内であっても蛋白結合率が低下して,非結合型の割合が高くなるため中毒作用が発現する可能性があり,注意が必要である.腎不全患者では多くの酸性薬物で蛋白結合率が低下する.ジソピラミドやリドカインはアルブミン以外の蛋白(α1-酸性糖蛋白:腎不全患者では健常者の2 倍)により強く結合するため,腎不全患者で蛋白結合率が高くなり,総濃度が有効治療域に入っていても十分な効果が得られないことがある. iii.代謝と排泄
脂溶性の薬物は,腎より直接排泄されることができないため,肝臓で水溶性の高い代謝物・抱合体になってから,多くは腎臓から排泄される.代謝物が不活性ならば腎機能が低下していても投与量の変更は不要であるが,代謝物に活性がある場合は投与量の変更が必要になる.たとえばジソピラミドの活性代謝物の強力な抗コリン作用・低血糖,アロプリノールの活性代謝物の肝障害,汎血球減少,剥離性皮膚炎,プロカインアミドの活性代謝物の催不整脈作用増強などが腎不全患者で問題となる.
水溶性の薬物は,腎排泄が代謝の中心であり,肝臓で代謝を受けずに腎臓から排泄されるため,腎不全患者では減量が必要である.基本的には,ほとんど肝代謝を受けない腎排泄型薬物は腎機能と,薬剤の特性をもとに腎不全患者に対する投与設計ができる.しかし,一部の薬物では経口薬のバイオアベイラビリティーの変化,血漿蛋白や組織蛋白との結合性の変化,組織移行性の変化,代謝物の蓄積による種々の影響を考慮する必要がある.
7.5.2 腎不全患者への薬物投与の基本
尿中への活性体の排泄率が高い薬物を腎不全患者に投与すると,血中消失半減期が延長する.よって,その程度に応じて投与間隔を延長させ,有効血中濃度に入るように1 回の投与量を設定する.小児腎不全患者に対する至適投与量は,ほとんどの薬物で明確な記載がない.この場合は,健康成人における薬物動態,おもに尿中活性体の排泄率,蛋白結合率を参考にして投与量を決定する.薬物によっては糸球体で濾過されるだけでなく,尿細管からの分泌や,再吸収,薬物の荷電や,尿pH が薬物排泄に影響を及ぼすことがある.通常,薬物の腎クリアランスはGFR と近似していると仮定して投与設計を行う. a.腎不全患者への適正投与の考え方
腎排泄型の薬剤は薬物の活性体(多くの場合は未変化
p.204
一般名アムロジピン
(クラスI,レベルB)ニフェジピン
(クラスIIa,レベルC)ニフェジピン徐放
(クラスIIa,レベルC)ニカルジピン
(クラスIIa,レベルC)
商品名ノルバスク
アムロジンアダラート
セパミットアダラートL
セパミットRペルジピン
剤形
錠:2.5・5 mg
OD 錠:2.5・5 mgカプセル:5・10 mg
細粒:1% 10 mg/g(1 g/包)
L 錠:10・20 mg R カプセル:10・20 mg R 細粒:2% 20 mg/g
注:2・10・25 mg/2・10・25 mL/A
適応
小児高血圧症(6 歳以上)なしなしなし成人高血圧症,狭心症本態性高血圧,腎性高血圧,狭心症本態性高血圧,腎性高血圧,狭心症手術時の異常高血圧の緊急処置,高血圧
性緊急症,急性心不全
投与経路/用法/ 用量
小児【経口】・ わが国の小児用量:1 日1 回2.5 mg,適宜増減,1 日最大5 mg・ 海外:2.5~5 mg/ 日45),分1 45)あるいは0.06~0.3/mg/kg/日,分1 52, 970) (→注意事項を参照)
【経口】
・0.25 mg/kg/ 回52)【経口】
・開始量:0.25~0.5 mg/kg/ 日,1 日1 ~2 回45, 52)・最大:3 mg/kg/日,60 mg/日まで45)
【静注】・1~3 μg/kg/分 45, 52)
成人【経口】1 日1 回,2.5~5 mg,最大投与量10 mg/ 日
【経口】1 回10 mg,1 日3 回(→注意事項を参照)
【経口】1 回10~20 mg,1 日2 回,最大:60 mg/日
【静注】・0.5 μg/kg/ 分より開始し,目標値まで血圧を下げ,以降血圧をモニターしながら0.5~6 μg/kg/分の速度で投与
血中濃度Tmax
小児(健常成人,5 mg 単回経口)Tmax:7~8
時間(高血圧症患者,外国人10 mg,経口)
Tmax:1 時間・(徐放)(健康成人10 mg,20 mg)
Tmax:3 時間成人20~30 分0.5~1 時間2~5 分
血中半減期T1/2
小児(健常成人:5 mg 単回経口)T1/2:39 時間,体重補正した小児でのクリアランスや分布容積は成人と同様971)
T1/2:α 相:1.03 ± 0.11 時間 β 相:
2.61 ± 0.22 時間・(徐放)(アダラートL10 mg 投与時)
T1/2:3.51 ± 0.60 時間健康成人に0.01~0.02 mg/kg 静脈内投
与した場合の血漿中未変化体濃度の半減期は53~60 分成人おもに肝代謝おもに肝代謝おもに肝代謝おもに肝代謝
おもな副作用
・カルシウム拮抗薬に共通の副作用として,動悸,頭痛,ほてり感,浮腫,歯肉増生や便秘など〈重大な副作用〉・肝機能障害,白血球減少,血小板減少・ニフェジピン:紅皮症・アムロジン:房室ブロック・ニカルジピン:麻痺性イレウス,低酸素血症,肺水腫,呼吸困難,狭心痛
カルシウム拮抗薬
表76小児高血圧に使用する降圧薬
p.205
一般名アムロジピン
(クラスI,レベルB)ニフェジピン
(クラスIIa,レベルC)ニフェジピン徐放
(クラスIIa,レベルC)ニカルジピン
(クラスIIa,レベルC)
注意事項/ 禁忌
〈注意事項〉・アムロジピンは,小児への1 日5 mg を超える投与量の試験は行われていない45)・JSH2019 では成人の高血圧に対し,ニフェジピン(通常)は急速かつ短期の降圧,血行動態の変化をきたすため,降圧剤としての使用は推奨されない. 舌下投与も行うべきではない,としている49)・ニフェジピン除放錠の場合は錠剤のまま服用が必要〈禁忌〉アムロジピン:妊娠または妊娠の可能性のある婦人に禁忌(ただし海外では禁忌ではなく,利益が害を上回る場合は使用可)ニフェジピン:妊娠20 週未満禁忌(ただし海外では禁忌ではなく,妊娠中も使用可能とされている)ニカルジピン:内服薬は妊娠または妊娠の可能性のある婦人に禁忌
カルシウム拮抗薬(つづき)
表76小児高血圧に使用する降圧薬(つづき)一般名ロサルタン
(クラスI,レベルB)カンデサルタン
(クラスI,レベルB)バルサルタン
(クラスI,レベルB)イルベサルタン
(クラスI,レベルB)
商品名ニューロタンブロプレスディオバンアバプロ
イルベタン剤形錠:25・50 mg錠:2・4・8・12 mg錠:20・40・80 mg錠:50・100 mg
適応
小児高血圧症(6 歳以上,CCr 30 mL/ 分
/1.73 m 2)高血圧症(1 歳以上,CCr ≧30 mL/分/
1.73 m 2)高血圧症(6 歳以上,CCr ≧30 mL/ 分
/1.73 m 2)高血圧症(6 歳以上,CCr ≧30 mL/ 分
/1.73 m 2)
成人高血圧,高血圧症および蛋白尿をともな
う2 型糖尿病における糖尿病性腎症高血圧症,腎実質性高血圧症,慢性心不
全
肺高血圧症高血圧症
投与経路/用法/ 用量
小児【経口】・開始量:0.7 mg/kg/日(50 mg/日まで),分1 45)・最大:1.4 mg/kg/日(100 mg/日まで) 45, 52)
【経口】1 歳以上6 歳未満:0.05~0.3 mg/kg/日 分1 6 歳以上の小児:2~8 mg/日 分1.必要に応じ12 mg まで増量する.腎障害をともなう場合は低用量から開始し,必要に応じて8 mg まで増量する.
【経口】・わが国の小児用量:<35 kg 1 日1 回20 mg,適宜増減,ただし<35 kg の場合1 日最大40 mg・海外:開始量:1.3 kg/ 日(40 mg まで),Dose range:1.3~2.7 mg/kg/日(160 mg/ 日まで),分1 45) (→注意事項を参照)
【経口】・6~12 歳:75~150 mg/ 日,13 歳以上:150~300 mg/日,1 日1 回45, 973) (→注意事項を参照)
成人【経口】1 日1 回,4~8 mg,最大投与量12 mg,腎実質性および腎障害をともなう場合は2 mg から開始し,最大用量8 mg 972)
【経口】
1 日1 回,40~80 mg,最大160 mg【経口】
1 日1 回,50~100 mg,最大投与量200 mg
アンジオテンシン受容体拮抗薬
p.206
血中濃度Tmax
小児(6~16 歳,高血圧の小児に≒0.7 mg/ kg を連続投与後の活性代謝物)Tpeak: 4.1 時間
(1~5 歳,0.2 mg/kg)Tmax:3.2 ± 1.0
時間971a) (1~16 歳,懸濁して投与4 mg/mL,2.0
mg/kg)Tmax:2.0 時間(2 mg/kg,定常状態)Tmax:(6~12 歳)
2.0 時間,(13~16 歳)1.5 時間973)
成人
血中半減期T1/2
小児活性代謝物:T1/2:5.6 ± 1.2 時間T1/2:5.7 ± 1.4 時間972) T1/2:3.7~5.3 時間(健常成人に100 mg 単回投与)T1/2: 13.6 時間成人おもに肝代謝,おもに糞中に排泄おもに肝代謝おもに肝代謝おもな副作用・ARB に共通の重大な副作用として,アナフィラキシー様症状,血管浮腫,肝炎,腎機能低下,低血糖,横紋筋融解,汎血球減少,ショック,失神,高K 血症
・バルサルタン,カンデサルタンでは,間質性肺炎,無顆粒球症の報告あり
注意事項/ 禁忌
〈注意事項〉・高K 血症や腎機能の悪化をきたすことがあるため定期的に血清K 値やCr 値を測定すること.・バルサルタンについて,日米の製剤ではバイオアベイラビリティーが異なり,わが国の製剤のほうが約1.6 倍血中濃度の上昇が大きいことに注意が必要である. また粉砕・懸濁して投与した場合,錠剤のまま投与よりもCmax は1.93 倍,AUC は1.56 倍高値であることを考慮し,剤形を変更する際には投与量に注意が必要・カンデサルタンのFDA の投与量は国内の成人への投与量よりも多く設定されている970).実際の投与に当たっては国内の成人の最大投与量を超えるべきではない.・イルベサルタンのFDA の投与量は国内の成人への投与量よりも多く設定されており,また4.5 mg/kg/日以下の投与量では降圧効果は認められないと記載されている.実際の投与に当たっては国内の成人の最大投与量を超えるべきではない.《禁忌》・重篤な肝機能障害,妊婦または妊娠の可能性のある婦人(妊娠可能年齢の女性では確実な避妊をすべきである)
一般名ロサルタン
(クラスI,レベルB)カンデサルタン
(クラスI,レベルB)バルサルタン
(クラスI,レベルB)イルベサルタン
(クラスI,レベルB)
アンジオテンシン受容体拮抗薬(つづき)
表76小児高血圧に使用する降圧薬(つづき)
p.207
一般名カプトプリル
(クラスIIa,レベルC)エナラプリル
(クラスI,レベルB)リシノプリル
(クラスI,レベルB)ベナゼプリル
(クラスI,レベルB)
商品名カプトリルレニベースロンゲス
ゼストリルチバセン剤形錠:12.5・25 mg錠:2.5・5・10 mg錠:5・10・20 mg錠:2.5・5・10 mg
適応
小児他の治療が無効の高血圧症に限る高血圧症(1ヵ月以上,CCr ≧30 mL/
分/1.73 m 2)高血圧症(6 歳以上,CCr ≧30 mL/ 分
/1.73 m 2)高血圧症(6 歳以上,CCr ≧30 mL/ 分
/1.73 m 2)
成人本態性高血圧症,腎性高血圧症,腎血管
高血圧症,悪性高血圧症本態性高血圧症,腎性高血圧症,腎血管
高血圧症,悪性高血圧症高血圧症,慢性心不全高血圧症
投与経路/用法/ 用量
小児【経口】・開始量:0.3~0.5 m/kg/ 回,分2~3 45, 52,)・最大:6 mg/kg/日(150 mg/日)826)
【経口】・わが国の小児用量:0.08 mg/kg/日を分1,適宜増減,1 日最大10 mg・海外:開始量0.08 mg/kg/日(5 mg/日まで),最大0.6 mg/kg/日(40 mg/日まで),分1~2 45, 52, 974)
【経口】・わが国の小児用量:0.07 mg/kg/日,分1,適宜増減,1 日最大20 mg・海外:開始量0.07 mg/kg/ 日(5 mg/日まで,最大0.6 mg/kg/日(40 mgまで),分1(懸濁して投与可)45, 52, 975)
【経口】経口・開始量:0.2 mg/kg/ 日(10 mg/日まで):最大:0.6 mg/kg/日(40 mg/日まで),分1 45)
成人【経口】1 回12.5~25 mg,1 日3 回,最大用量1 日 150 mg(腎障害を有する高血圧患者では適宜減量することが望ましい)
【経口】1 日1 回,5~10 mg(増減)(腎障害を有する高血圧患者では2.5 mg から開始することが望ましい)
【経口】10~20 mg(増減),分1(腎障害を有する高血圧患者では5 mg から開始することが望ましい)
【経口】5~10 mg,分1(増減)(腎障害を有する高血圧患者では2.5 mg から開始することが望ましい)
血中濃度Tmax
小児(健康成人50 mg 単回経口)Tmax:0.68
± 0.02 時間(2ヵ月~16 歳,0.07~0.14 mg/kg,反
復投与)活性代謝物エナラプリラトのTmax:3~4 時間973)
(6ヵ月~15 歳,0.1~0.2 mg/kg)
Tmax:5.0 から6.0 時間971b) (健常成人に5~10 mg 単回投与)
Tmax:1.2~1.5 時間
成人
血中半減期T1/2
小児(健康成人50 mg 単回経口)T1/2:0.43
± 0.02 時間(2ヵ月~16 歳,0.07~0.14 mg/kg,反
復投与)T1/2:14 時間974) (健常成人に2.5~20 mg 単回投与)T1/2
(α):4.5 ± 1.7 時間,T1/2(β):33.7 ± 10.3 時間971)
(健常成人に5~10 mg 単回投与) T1/2:3.7~4.0 時間
成人腎排泄,尿中への未変化体+代謝物の排
泄率は63%(24 時間)腎排泄.24 時間での尿中へのエナラプリ
ラト排泄:58.3~71.4% 970)腎排泄腎排泄
おもな副作用
・ACE 阻害薬に共通の副作用として,咳嗽《重大な副作用》・血管浮腫,高K 血症,腎機能低下,膵炎,Stevens-Johnson 症候群,中毒性表皮壊死症,天疱瘡様症状・カプトプリル,汎血球減少,無顆粒球症,狭心症,心筋梗塞,うっ血性心不全・エナラプリル ショック,心筋梗塞,狭心症,汎血球減少症,無顆粒球症,血小板減少,間質性肺炎,肝機能障害,肝不全,SIADH)・リシノプリル 溶血性貧血,血小板減少,肝機能障害,SIADH
アンジオテンシン変換酵素阻害薬
表76小児高血圧に使用する降圧薬(つづき)
p.208
一般名ヒドロクロロチアジド
(クラスI,レベルC)クロルタリドン
(クラスIIa,レベルC)トリアムテレン
(クラスIIa,レベルC)フロセミド
(クラスI,レベルC)スピロノラクトン
(クラスIIa,レベルC)商品名ニュートライドハイグロトントリテレンラシックスアルダクトンA剤形錠:25 mg錠:50 mgカプセル:50 mg錠:20・40 mg
細粒:4% 40 mg/g注20・100 mg/2・10 mL/A
錠:25・50 mg細粒:10% 100 mg/g
適応
小児高血圧症なしなし(浮腫のみ小児の適応あり)なし成人高血圧症,悪性高血圧,浮腫,
月経前緊張症高血圧症,心性浮腫(うっ血性
心不全),浮腫(肝性,腎性)本態性高血圧症,腎性高血圧症,
うっ血性心不全,浮腫(肝性浮,腎性)
悪性高血圧,腎性高血圧症,本態性高血圧症,うっ血性心不全,浮腫など
高血圧症,原発性アルドステロン症,うっ血性心不全,浮腫
投与経路/用法/ 用量
小児【経口】・開始量:1 mg/kg/日,最大3 mg/kg/日(50 mg/ 日まで),分1~2 45) (→注意事項を参照)
【経口】・開始量:0.3 mg/kg/日,最大: 2 mg/kg/日(50 mg/日まで),分1~2 回45) (→注意事項を参照)
【経口】・開始量:1~2 mg/kg/日,最大:3 ~4 mg/kg/ 日(300 mg/日まで),2~3 回45) (→注意事項を参照)
【経口】・開始量0.2~2.0 mg/kg/ 回,最大6 mg/kg/ 日,分1~2 回52)【静注】(緊急時)・0.5~5 mg/ 回52)
【経口】・開始量1 mg/kg/日,最大3.3 mg/kg/日(100 mg/ 日まで),分1~2 回45, 52)
成人【経口】1 回25~100 mg,分1~2 回(添付文書)・臨床試験から推奨される用量は1 日12.5 mg(1/2 錠)以下934)
【経口】1 日1 回50~100 mg(添付文書)・臨床試験から推奨される用量は1 日12.5 mg 以下(1/4 錠) 934)
【経口】1 日90~200 mg 分2~3(増減)(添付文書)・1 日1 回,50 mg(サイアザイド系との併用が望ましい)934)
【経口】・分1 40~80 mg【静注または筋注】・1 日1 回20 mg(増減),最大1 回500 mg 1 日10,000 mg まで
【経口】1 日50~100 mg,分服(増減)
利尿薬
一般名カプトプリル
(クラスIIa,レベルC)エナラプリル
(クラスI,レベルB)リシノプリル
(クラスI,レベルB)ベナゼプリル
(クラスI,レベルB)
アンジオテンシン変換酵素阻害薬(つづき)
表76小児高血圧に使用する降圧薬(つづき)注意事項・禁忌
《注意事項》・高K 血症や腎機能の悪化をきたすことがあるため定期的に血清K 値やCr 値を測定すること・腎障害を有する場合のACE 阻害薬の投与量は半分以下から開始,調節することが望ましい《禁忌》・妊婦または妊娠の可能性のある婦人.(妊娠可能年齢の女性では確実な避妊をすべきである)
p.209
血中濃度Tmax
小児(成人,50 mg)
Tmax:60~120 分(成人,50 mg)
Tmax:13.4 時間(成人100~200 mg)
Tmax:2~4 時間(成人,40 mg,普通製剤経口)
Tmax:1.7 ± 0.3 時間(成人,100 mg)Tmax:2.8 時間
成人腎排泄. 尿中への未変化体+活性代謝物の排泄は80%(8 時間後)
血中半減期T1/2
小児(成人(75 mg)T1/2:(α) 1.7 時間,T1/2(β) 13.1 時間
Tmax:13.4 時間(成人,50
mg)T1/2:血漿中44.1 時間(成人100~200 mg)
T1/2:100~120 分(成人,40 mg,普通製剤経口)
T1/2:0.35 時間(成人,100 mgT1/2:(α)1.8 時
間,(β)11.6 時間
成人腎排泄,尿中排泄率70%(4 日
間)腎排泄,尿中43.8%,糞中17.5
~31.2% (成人,40 mg 静注)T1/2:約0.5
時間肝代謝,肝および腎より排泄
おもな副作用
《重大な副作用》サイアザイド系および類似利尿薬に共通な重大な副作用として再生不良性貧血,壊死性血管炎,肺水腫,無顆粒球症,急性腎不全など・ヒドロクロロチアジドでは溶血性貧血,間質性肺炎,全身性エリテマトーデス(SLE)の悪化,アナフィラキシー様反応,注毒性表皮壊死症の報告あり・クロルタリドンでは膵炎,急性腎不全(間質性腎炎など)の報告あり
《重大な副作用》
急性腎不全・おもな副作用として,低K 血
症,高尿酸血症など《重大な副作用》・ショック,アナフィラキシー様症状,再生不良性貧血,汎血球減少症,無顆粒球症,赤芽球癆,水疱性類天疱瘡,難聴, Stevens-Johnson 症候群,心室性不整脈,間質性腎炎
重大な副作用》・電解質異常(高K 血症,低Na血症,代謝性アシドーシスなど),急性腎不全
注意事項・禁忌
《注意事項》・利尿薬を投与する場合には,投与開始直後およびその後も定期的に電解質をモニターすること・利尿薬はその他の高血圧治療薬の併用薬として有用である・スピロノラクトンやトリアムテレンなどカリウム保持性利尿剤は重度の高K 血症をきたすことがあり特にACE 阻害薬やARB と併用では注意が必要・クロルタリドンは,腎疾患患者において尿毒症を増悪しうるので腎機能低下患者では注意が必要である.・JSH2019 49)では成人の高血圧に対するヒドロクロロチアジド,クロルタリドン,トリアムテレンの投与量として添付文書よりも低用量を推奨している. 実際の投与に当たっては国内の成人の最大投与量を超えるべきではない.《禁忌》・無尿または急性腎不全・ヒドロクロロチアジドやクロルタリドン,フロセマイドでは,体液中のNa,K が明らかに減少している場合は禁忌・トリアムテレン,スピロノラクトンでは高K 血症は禁忌
表76小児高血圧に使用する降圧薬(つづき)利尿薬(つづき)一般名ヒドロクロロチアジド
(クラスI,レベルC)クロルタリドン
(クラスIIa,レベルC)トリアムテレン
(クラスIIa,レベルC)フロセミド
(クラスI,レベルC)スピロノラクトン
(クラスIIa,レベルC)
p.210
β遮断薬
表76小児高血圧に使用する降圧薬(つづき)一般名アテノロール
(クラスI,レベルC)メトプロロール
(クラスI,レベルB)プロプラノロール
(クラスIIa,レベルC)
商品名テノーミンロケン
ロプレソールインデラル剤形錠:25・50 mg錠:20・40 mg錠:10・20 mg
適応
小児高血圧症(12 歳以上)高血圧症(6 歳以上)なし成人本態性高血圧,狭心症,頻脈性不整脈本態性高血圧症,腎実質性高血圧,狭心症,頻脈性不
整脈本態性高血圧,褐色細胞腫の手術,発作性頻拍の予防
など
投与経路/用法/ 用量
小児【経口】・開始量0.5~1 mg/kg/日,最大2 mg/kg/日(100 mg/日まで),分1~2 回45, 52)
【経口】・開始量1~2 mg/kg/日,最大6 mg/kg/ 日(200 mg/日まで),分2 回45)
【経口】・開始量0.5~2 mg/kg/日,最大4 mg/kg/ 日,分3~4 826)
成人【経口】
1 日1 回25~50 mg,最大用量100 mg【経口】
1 日60~120 mg,最大量240 mg【経口】
1 日30~60 mg,1 日3 回,最大量1 日120 mg
血中濃度Tmax
小児(成人,50 mg)
Tmax:3.8 ± 0.4 時間(成人)Tmax:1~2 時間(成人,錠20 mg 経口投与)
Tmax:1.5~2 時間
成人
血中半減期T1/2
小児(成人,50 mg)
T1/2:10.8 ± 2.7 時間(成人,40 mg)T1/2:2.8 時間(成人,錠20 mg 経口投与)T1/2:3.9 ± 0.5 時間成人肝臓でほとんど代謝を受けない. 腎排泄肝代謝肝代謝. ほとんどが代謝体(活性あり)として尿中へ排泄おもな副作用(%)・β遮断薬に共通したおもな副作用として,徐脈,めまい,倦怠感など
《重大な副作用》・心不全症状の顕在化,悪化,伝導障害,気管支喘息症状の誘発,悪化など
注意事項・禁忌
《注意事項》・心拍は用量に依存する・運動機能を低下させる可能性あり・徐放性プロプラノロールの1 日1 回投与も可能である《禁忌》・気管支喘息,インスリン依存性の糖尿病患者,糖尿病ケトアシドーシスなど
p.211
一般名ドキサゾシン
(クラスIIa,レベルC)プラゾシン
(クラスIIa,レベルC)商品名カルデナリンミニプレス剤形錠:0.5・1・2・4 mg錠:0.5・1 mg
適応
小児なしなし成人高血圧症,褐色細胞腫による高血圧症本態性高血圧,腎性高血圧,前立腺肥大
にともなう排尿障害
投与経路/用法/ 用量
小児【経口】・開始量:1 mg/日,最大:4 mg/ 日,分1 45)
【経口】・開始量0.05~0.1 mg/kg/日,最大0.5 mg/kg/日,分1 45)
成人【経口】・1 日1 回1~4 mg,最大量8 mg(褐色細胞腫では最高用量12 mg)
【経口】1 日1.5~6 mg,分2~3 回
血中濃度Tmax
小児(成人,単回投与)
Tmax:1.6~1.7 時間(健康成人,2 mg 経口投与)Tmax:1.2 時
間
成人
血中半減期T1/2
小児(成人,単回投与)
T1/2:10~16 時間(健康成人,2 mg 経口投与)T1/2:2 時間成人肝代謝. ほとんど糞中へ排泄肝代謝. おもに糞便中に排泄おもな副作用(%)《重大な副作用》
・失神,意識喪失,狭心症注意事項・禁忌《注意事項》
・投与初期や増量後,特に初回投与後に低血圧や失神を起こすことがある・PDE5 阻害作用を有する薬剤を服用中は低用量から開始し慎重に用量調節を行う
α遮断薬
表76小児高血圧に使用する降圧薬(つづき)一般名クロニジン
(クラスI,レベルC)商品名カタプレス剤形錠:75・150 μg適応小児高血圧症(12 歳以上)成人本態性高血圧症,腎性高血圧投与経路/用法/ 用量
小児【経口】通常の管理》・12 歳以上:開始量0.2 mg/日,最大量2.4 mg/ 日,分3 45)《重症高血圧の管理》・0.05~0.1 mg/ 回,合計0.8 mg まで反復して投与可45)成人【経口】1 回0.075~0.15 mg,分3 回血中濃度Tmax
小児(外国高血圧患者,0.3 mg 経口投与) Tmax:90 分成人30~60 分
血中半減期T1/2
小児(外国高血圧患者,0.3 mg 経口投与) T1/2:約10 時間成人おもに腎排泄おもな副作用(%)《重大な副作用》
・幻覚,錯乱注意事項・禁忌《注意事項》
・急に中止した場合にリバウンドによる重度の高血圧をきたす可能性あり
中枢性α2 アゴニスト
p.212
一般名ヒドララジン(クラスI,レベルC)ニトロプルシド(クラスIIa,レベルC)商品名アプレゾリンニトプロ
剤形錠:10・25・50 mg散:10% 100 mg/g注:20 mg/A注:6・30 mg/2・10 mL/A
適応小児高血圧症なし
成人本態性高血圧,妊娠中毒症による高血圧症手術時の低血圧維持,手術時の異常高血圧の救急処置
投与経路小児経口静注または筋注静注
成人経口
投与経路/用法/ 用量小児【経口】《通常の管理》
・開始量0.75 mg/kg/日,最大7.5 mg/kg/日(200 mg/
日まで),分3~4 回52, 939)【静注または筋注】《重症高血圧の管理》0.2~0.6 mg/kg/回(静注ボーラスの場合4 時間ごとに投与)52)【静注】
・0.5~10 μg/kg/ 分45)
成人【経口】
・1 回20~50 mg,30~200 mg/日,分3~4 回【静注または筋注】・1 回20 mg を筋肉内または徐々に静脈内注射【静注】
0.5 μg/kg/分で開始し血圧をモニターしながら3 μg/kg/分を上限とし投与速度を調節
血中濃度Tmax小児( 外国高血圧患者,0.3mg 経口投与)Tmax:90 分(健常人)血中濃度は投与速度の増加にともなって上昇し,
投与終了後はすみやかに減少
成人・経口:30 分
・静注:10 分数秒以内
血中半減期T1/2小児( 外国高血圧患者,0.3 mg 経口投与)T1/2:約10 時間(健常人)T1/2:約1 分.(代謝物としてシアンが生成され
すみやかにチオシアンに代謝. シアンのT1/2:約12 分)
成人肝代謝.50~80% が尿中へ排泄おもに尿中に排泄
おもな副作用(%)《重大な副作用》
・SLE 様症状,うっ血性心不全,狭心症発作誘発,麻痺性
イレウス,呼吸困難,急性腎不全,溶血性貧血,汎血球減少,多発性神経炎,血管炎,劇症肝炎,重篤な肝障害《重大な副作用》
・過度の低血圧,リバウンド現象(中止時に急激な血圧上
昇など)
注意事項・禁忌《禁忌》
・虚血性心疾患,大動脈弁狭窄,心不全など《注意事項》
・過度の低血圧が急激に現れることがあり,血圧を連続的にモニターしながら慎重に投与すること・本剤の過量投与によりシアン中毒が現れることあり. 長
期の投与(72 時間以上)や腎不全患者への投与, sodium thiosulfate との併用時にはcyanide のモニターが必要
血管拡張薬
表76小児高血圧に使用する降圧薬(つづき)
注) 多くの降圧薬において,米国の成人に対する投与量はわが国の約2 倍に設定されている.わが国の小児に対する降圧薬の投与量を算出する
際には,わが国の成人用量の上限を超えないように注意が必要である.調べ得た範囲内では,わが国における小児高血圧症に対する適用・用量設定のある降圧薬はアムロジピン,バルサルタン,エナラプリル,リシノプリルのみである.
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体)の尿中排泄率および腎機能から適正投与量を推定する事ができる.腎機能の指標として,GFR,estimated GFR (eGFR),クレアチニンクリアランス(CCr),血清クレアチニン値(SCr)が用いられる.ICH ガイドラインE6 に腎機能低下の場合の記載が必要とされているにもかかわらず,わが国の医薬品添付文書に詳細な腎機能別の投与量が記載されている薬物は少なく,また海外で使用可能な医薬品も含め,慎重投与とされている医薬品が多くみられる(4.3抗凝固薬参照). b.尿中排泄率
活性体の尿中排泄率が40% 以上になると腎不全患者で蓄積されやすく,減量が必要になる.注意すべき点は,添付文書で記載されている尿中排泄率は尿中未変化体排泄率と単なる尿中排泄率があり,活性のない代謝物を含んでいるものがあることである.尿中への排泄物が活性のない代謝物の場合は腎不全患者でも減量の必要性はない.たとえばニフェジピンの尿中排泄率は70~80% と記載されているが,これらはすべて活性のない代謝物であるため,腎不全患者でも減量の必要性はない.
経口製剤の場合,吸収率が低い薬剤では,バイオアベイラビリティーを考慮せず尿中未変化体排泄率が記載されているため,吸収率を算定する必要がある.たとえば,アシクロビルを1 時間で静注した場合,68~76% が48 時間以内に未変化体として尿中に排泄される.アシクロビルを経口投与した場合,投与されたアシクロビルの15~30% が血中に取り込まれ,投与されたアシクロビルの12~25%が未変化体のまま尿中に排泄される.添付文書には,経口投与したアシクロビルの12~25% が未変化体として排泄させると記載されているため,内服薬の吸収,代謝を考慮しないと未変化体尿中排泄率が見かけ上低くなる. c.腎機能に応じた投与量,投与間隔の算出
腎機能障害患者に薬物を投与する場合は,身体所見から細胞外液量の評価を行う.初期投与において浮腫や腹水のある患者ではその増量が必要な場合があり,脱水の患者ではその減量が必要な場合がある.併用薬剤の確認も重要である.
薬物の尿中未変化体排泄率および患者の腎機能から,至適投与量を求める方法としてGiusti-Hayton 法がある.以
下に示す.
投与補正係数(R)=1-尿中未変化体排泄率×(1-腎不全患者のCCr またはGFR / 正常のCCr)正常のCCr として一般的に100 を用いることができる. R を用いた投与設計方式には投与量の変更と投与間隔の変更がある.
投与量の変更は,腎不全患者の投与量=常用量× R で求められる.
投与間隔の変更は投与間隔=通常投与間隔×1/R で求められる.小児領域では蓄尿によるCCr 測定は困難であり,実際には小児用 Schwartz の予測式によるeGFR が使用されることが多い.
以下にeGFR の計算式を示す.
eGFR(mL/分/1.73m 2)= k×身長(cm)/SCr (mg/dL)
k 値:2~12 歳0.55,13~21 歳女性0.55,13 ~ 21 歳男性0.70推定式によるGFR は実際の値から乖離しているという報告もあるが,蓄尿を必要とせず,簡便で実用的である. Schwartz の式に用いる血清クレアチニン値はJaffe 法による測定値を用いている.酵素法による測定値はJaffe 法による測定結果より0.1~0.2 mg/dL 程度低値を示すため,酵素法での測定値+0.2 mg/dL をJaffe 法による値と仮定して計算する.SCr 値が小数点以下一桁で表される場合は誤差を生じる可能性を考慮する.現在小児腎臓病学会で酵素法によるSCr を用いた新しい計算式が検討されている(正常クレアチニン値は学会ホームページ979)参照).
Giusti-Hayton 法による投与量推定計算式には尿中未変化体排泄率が必要になるが,わが国の医薬品添付文書には,尿中未変化体排泄率の記載がない薬物が多く,腎不全患者への投与量,投与間隔の変更は,海外のガイドラインや治験,各施設のデータから得られた情報をもとに行われていることが多い.表78 におもに循環器系に使用する一部の薬物の尿中未変化体排泄率および腎機能別の投与法の変更について記載したが,わが国の添付文書のほとんどは腎機能別の投与法の記載がなく,単に慎重投与となっているため投与法変更の参考にできなかった.そこで,海外の腎不全患者での薬物代謝や尿中未変化体排泄率のデータを元に表79 を作成した976–978).
有効濃度と中毒濃度が接近している有効安全血中濃度が狭い薬剤は,薬物血中濃度モニタリング(DM)を行うことが,副作用なしに有効な血中濃度を得るために有用である.
表77 小児腎不全におけるバイオアベイラビリティーの変
化低下する薬物変化しない薬物上昇する薬物フロセミドピンドロールクロキサシリンイソニアジドシメチジンジゴキシンラベタロールST 合剤オクスプレノロールプロプラノロールエリスロマイシン
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薬物尿中未変化体
排泄率
腎不全患者への修正エビデンスレベル
a)成人における治験(海外) b)成人での症例報告c)文献著者の見解
参考文献わが国の添付文書
(腎不全への投与)わが国の添付文書
(尿中排泄率) GFR(mL/ 分/1.73 m2) 30~50 10~29 <10
α2刺激
薬クロニジン40~60% 100% 100% (減量の報告
あり)
100% (減量の報告あり)
b) 976慎重投与大部分は未変化体で尿中に45% 排泄
A C E阻害薬
カプトプリル40~50% 75% 75% 50% a) 976慎重投与記載なしエナラプリル
60% 尿中排泄, 20% enalapril 75% 75% 50% a) 976 Ccr 30 mL/分以下または
SCr 3 mg/dL 以上の場合投与量減量または投与間隔の延長
記載なし
リシノプリル
ほぼ100% 50% 50% 25% a) 976 Ccr 30 mL/分以下またはSCr 3 mg/dL 以上の場合投与量減量または投与間隔の延長
おもに尿に未変化体として排泄
受 ア容 ン体 ジ拮 オ抗 テ薬 ンシン
カンデサルタン52% 100% 100% 100% (少量より開始) a) 976過度の降圧により腎機能
が悪化するおそれがあり成人で腎障害のある
患者へのデータあり
ロサルタン
12% 100% 100% 100% (少量より開始) a) 976高カリウム血症,腎機能
の悪化のおそれあり,血清クレアチニンが2.5 mg/dL 以上の場合には,投与量を減らすなど慎重に投与
成人で腎障害のある患者へのデータあり
バルサルタン
13% 100% 100% 100% (少量より開始) b) 976腎機能障害の悪化のおそ
れがあり,血清クレアチニン値が3.0 mg/dL 以上の場合には,投与量を減らすなど慎重に投与
記載なし
脈 抗薬 不
整プロカインアミド50~60%経口:6~12 時
間ごと経口:6~12 時
間ごと経口:8~24 時
間ごとc) 976記載なし記載なし
β遮断薬
アテノロール85~100%最大1 mg/kg
24 時間ごと(成人は50 mg)
最大 1 mg/kg
48 時間ごと最大1 mg/kg
48 時間ごとa) 976記載なし記載なしビソプロロール50% 100% 66% 50% c) 976記載なし47.8 ± 10.5% 外国のデータエスモロール10% 未満100% 100% 100% a) 976尿中排泄遅延1% 以下ラベタロール5% 未満100% 100% 100% a) 976慎重投与尿中排泄60% 抱合
体で排泄メトプロロール3~10% 100% 100% 100% a) 976記載なし変化体排泄は3~
5%
表78 腎不全患者における薬物の尿中未変化体排泄率および腎機能別投与法の変更
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β遮断薬(つづき)
プロプラノロール
1~5% 未満100%(内服ではバイオアベイラビテリティ上昇のため減量)
100% 100% a) 976記載なし投与量のほとんどは尿中排泄
拡 血張 管薬
ヒドララジン14% 8 時間ごと8 時間ごと12~24 時間ごとa) 976代謝排泄の遅延の可能性
あり.投与量間隔の調節投与量の50~80%
が尿中排泄(未変化体記載なし)ニトロプルシド10% 以下100% 100% 100% a)およびc) 976慎重投与未変化体尿中排泄ほ
とんどなし
製 P剤 G E
1 アルプロスタジル
80% は肺を通過中に酸化され代謝物は尿中排泄
100% 100% 100% c) 977慎重投与記載なし
Ca拮抗薬
アムロジピン10% 100% 100% 100% 3) 977慎重投与記載なしニカルジピン1% 以下100% 100% 100% 3) 976–978慎重投与記載なしニフェジピンほとんどなし100% 100% 100% 1) 976–978重篤な腎機能障害では慎
重投与未変化体尿中排泄ほ
とんどなし
配 強糖 心
体ジゴキシン大部分が未変化
体で尿中排泄75% 50% または36時間ごと25% または48時間ごと1) 976排泄遷延のため中毒を起
こす可能性あり大部分が未変化体で
尿中排泄
利尿薬
フロセミド50~70% 100% 100% 100% 1) 976–978記載なしヒドロクロロチアジド90% 100%推奨できない推奨できない1) 976無尿患者で禁忌,重篤な
腎臓障害で慎重投与記載なしスピロノラクトン10% 以下100% 100%推奨できない3) 976無尿患者で禁忌,重篤な
腎臓障害で慎重投与記載なし
その他の薬
ドブタミン10% 以下100% 100% 100% 3) 976記載なし記載なしドパミン3% 100% 100% 100% 3) 976記載なし記載なしエピネフリン大部分が代謝物
として尿中排泄100% 100% 100% 3) 976–978記載なし大部分が代謝物とし
て尿中排泄
ミルリノン85% 以上は未変化体で尿排泄0.33~0.43 μg/kg/ 分0.23~0.33 μg/kg/ 分0.2 μg/kg/ 分1) 976, 977腎臓機能低下では過量投
与に注意85% 以上は未変化体で尿中排泄
抗凝固薬
ジピリダモール不明100% 100% 100% 3) 976記載なし尿中未変化体なしヘパリン通常は少量100% 100% 100~50% 1) 976ワルファリンごくわずか100% 100% 100% 1) 976記載なし尿中未変化体はごく
わずか
薬物尿中未変化体
排泄率
腎不全患者への修正エビデンスレベルa)成人における治験(海外) b)成人での症例報告c)文献著者の見解
参考文献わが国の添付文書
(腎不全への投与)わが国の添付文書
(尿中排泄率) GFR(mL/ 分/1.73 m2) 30~50 10~29 <10
表78 腎不全患者における薬物の尿中未変化体排泄率および腎機能別投与法の変更(つづき)
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薬物尿中未変化体
排泄率
腎不全患者への修正エビデンスレベルa)成人における治験(海外) b)成人での症例報告c)文献著者の見解
参考文献わが国の添付文書
(腎不全への投与)わが国の添付文書
(尿中排泄率) GFR(mL/ 分/1.73 m2) 30~50 10~29 <10
表78 腎不全患者における薬物の尿中未変化体排泄率および腎機能別投与法の変更(つづき)非
NSAIDアセトアミノフェン
3% 100% 100% 8 時間ごと(投与間隔1.5~2倍)
1) 976記載なし
NSAIDアスピリン
2~30% 100% 100%避ける2) 976重篤な腎臓機能障害があるときは禁忌7.5.3 腎機能低下により注意が必要な薬剤
a.非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)
腎不全患者に投与すると腎機能のさらなる悪化を招くことがあるため使用を控える.また,CCr が10 mL/分未満の患者には禁忌となっている.NSAID による急性腎不全は腎血流低下による腎虚血によりおこり,肝硬変,ネフローゼ症候群,低血圧,脱水状態の患者で発症しやすい.腎機能障害を認めた場合には,ただちに薬剤を中止する980). b.アセトアミノフェン
尿中未変化体排泄率は低いが,腎不全患者では高濃度に胆汁排泄された抱合体が腸内細菌にて脱抱合され再び吸収されるため血中濃度が上がりやすい.連続投与する場合は減量が必要になる981). c.造影剤
重篤な腎障害がある患者への投与は原則禁忌である.非透析患者における造影剤による腎障害の予防法として,造影剤検査前後12 時間に生理食塩水1 mL/kg/時を輸液する,利尿薬やNSAID の使用を中止・禁止する,頻回の造影検査を控える,腎機能の厳密なモニターを行うなどが提言されている.透析には造影剤による腎障害を予防する効果は認められないが,造影剤による腎不全やその全身循環管理としての血液濾過や血液透析濾過は腎機能の長期予後や生命予後を改善させる可能性がある982). d.MRI 造影剤
重篤な腎障害のある患者にガドリニウム(Gd)造影剤を使用した場合に,腎性全身性線維症(NSF)の発症が報告されている.NSF はGd 造影剤の投与後に皮膚の腫脹や硬化,疼痛などにて発症する疾患で,進行すると四肢関節の拘縮を生じる.現時点での確立された治療法はなく,死亡例も報告されている.したがって,使用する前には腎機能を評価すべきである.
NSF 発症のリスクの高い腎不全患者,特に長期透析患者,GFR が30 mL/分/1.73m2 未満の保存期腎不全患者,急性腎不全患者には原則としてGd 造影剤を使用せず,他の検査法で代替すべきである.GFR が30 mL/分/1.73m2以上60 mL/分/1.73m2 未満の場合には,Gd 造影MRI 検査による利益と危険性とを慎重に検討したうえで,その使用の可否を決定する必要がある.使用にあたっては必要最少量を投与すべきである983). e.アロプリノール
腎機能障害のある患者では高い血中濃度が持続するので減量や投与間隔の延長を考慮する.プロベネシドやベンズブロマロンは腎結石や高度の腎障害のある患者では原則禁忌であり,GFR 30 mL/分以下の患者には無効である984).
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f.抗菌薬
多くの抗菌薬は腎排泄であるため,GFR 低下例では薬物の減量が必要である.
マクロライド系薬やミノサイクリンは肝排泄のため,腎不全患者での使用法の調節は不要とされている.βラクタム系薬,ニューキノロン系薬は腎機能が中等度に進行した場合に投与量の変更が必要になる.カルバペネム系薬は腎機能低下時に痙攣誘発の危険性が高まるため,より細かい配慮を必要とする.アミノグリコシド薬,グリコペプチド薬は腎機能障害の早期から用法が厳しく制限される.中毒域と治療域の近い薬剤であるため,TDM を行うことが望ましい.
腎機能障害がある場合の減量法として,初回に常用量を投与し,以後は血中濃度半減期ごとに維持量を投与する方法,血中半減期の2 ~3 倍に間隔をあけて,常用量を使用する方法,使用間隔は変えず,腎機能の程度に応じて1 回量を調節する方法がある.アミノグリコシドは,急性尿細管壊死を起こすことが知られており,患者の10~20% に発症する.バンコマイシンでは,間質性腎炎が知られており,一般的にトラフ値を10μg/mL 以下に保つことが望ましい.重症感染症など,症例に応じて投薬量を調節する.抗真菌薬のアムホテリシンB は腎毒性が高いことが知られている.抗ウイルス薬(ガンシクロビル,アシクロビル)は呂律困難や意識障害などの中枢神経障害,腎障害が出現しやすく,減量が必要である984).また,腎不全患者では,顆粒球減少,汎血球減少などの副作用を起こす可能性があるので注意を必要とする985–987). g.ジソピラミド・プロカインアミド
抗不整脈薬であるこれらの薬物は腎不全時に活性代謝物が蓄積しやすい薬物に分類されている.ジソピラミドの活性代謝物であるモノ-N-デアキルジソピラミドは強力な抗コリン作用と血糖降下作用をもち,プロカインアミドの活性代謝物であるN-アセチルプロカインアミドは催不整脈作用を増強させる. h.ジゴキシン
組織移行性が高く, 心筋や骨格筋に高濃度に分布し,その分布容積が大きいため透析で除去されない.そのためより慎重な投与設計が必要になる.尿中排泄率が70% と高い腎排泄型の薬物のため,腎不全患者では食欲低下,視覚障害,不整脈などの副作用が生じやすい.ジゴキシンは腎不全患者で分布容積が低下するため,初回負荷量を通常の50~70% に減量する必要がある.ジゴキシンの組織への分布速度は遅く,血中濃度が組織と平衡状態に達するのに6 時間程度要するため, 薬物血中濃度モニタリング(TDM)のための採血は服用から6~8 時間後に行う.クラリスロマイシン,ベラパミルなどのP 糖蛋白質阻害薬との併用により血中濃度が上昇するため注意が必要である. i.ACE 阻害薬・ARB
動脈閉塞や重篤で広範な微小血管変化をともなう腎疾患の場合,これらの薬物がアンジオテンシンの作用を阻害し血行動態を変化させことにより,突然の腎機能低下をもたらすことがある.そのため腎機能をモニターしながら少量から注意深く開始する必要がある.開始後に持続的な腎機能低下をきたした場合は使用の中止が必要である.
表79 急性血管反応試験に用いられる薬剤よく使用される薬剤
薬剤投与経路投与量Tmax T 1/2エポプロステノール静注0.5~2 ng/kg/分,無反応のとき,10~15 分ごとに1~2 ng/ kg/分漸増してもよいが,重症例では慎重投与.すみやか3~5 分酸素吸入100%,10 L/ 分,5~15 分〃一酸化窒素吸入10~80 ppm〃15~30 秒その他
薬剤投与経路投与量Tmax T 1/2アデノシン*静注50~100μg/kg/分から開始,2 分ごとに50μg/kg/分漸増し,最大200μg/kg/分すみやか5~10 秒シルデナフィル内服小児:0.5~0.6 mg/kg/dose 成人:25~50 mg/dose 50 分3.3 時間ニフェジピン内服成人:10~30 mg/dose 20~45 分2~5 時間Tmax:最高血中濃度到達時間,T1/2:半減期*わが国ではアデノシン三リン酸二ナトリウム(ATP)
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8 小児低血圧
8.1 低血圧の分類
小児低血圧で昇圧剤が必要となる低血圧症の分類として,以下の疾患があげられる. • 本態性低血圧
病因が認められない低血圧で症候性(二次性)低血圧を除外したもの• 症候性(二次性)低血圧
種々の基礎疾患により二次的に血圧が低下したもの• 起立直後性低血圧(instantaneous orthostatic hypoten-
tion)
起立性調節障害のサブタイプに分類されている.臥位や座位から起立時に失調症状があり,起立後血圧回復時間≧25 秒,または≧20 秒で起立直後の血圧低下≧ 60% のもの988). • 遷延性起立性低血圧(delayed orthostatic hypotension)
起立性調節障害のサブタイプに分類されている.起立3 ~10 分経過して収縮期血圧低下が臥位時の≧15%,または≧20 mmHg 988)
小児低血圧の定義(収縮期血圧)
635) は,正産期新生児
(0~28 日)では<60 mmHg,生後1~12 ヵ月では圧< 70 mmHg,1 ~10 歳では<70 mmHg+(2×年齢),>10歳では<90 mmHg である.収縮期血圧がこれより10 mmHg 下降すると,ショックなど注意を要する.
8.2 薬物療法(昇圧剤)⦆
昇圧剤のほとんどは,その作用機序によりα1 受容体刺激作用を介するものとβ受容体刺激作用を介するものとに大別される.前者は本態性低血圧や起立性調節障害(起立性低血圧)のように,血圧のみを上昇させたい場合に末梢血管への直接作用を期待して使用され,後者は心拍出量増加による昇圧を期待する場合に強心剤として使用されることが多い.α1 受容体直接作用による昇圧効果を示す薬剤として小児で使用されるものは,塩酸フェニレフリン,塩酸ミドドリンである989–991). 塩酸フェニレフリンは蘇生時の循環補助薬として用いられる.メシル酸ジヒドロエルゴタミンは,適応症によっては線維症や麦角中毒のリスクが指摘され,2017 年に製造中止となった.
また,硫酸アメジニウムは,末梢神経終末で競合してノルアドレナリンの再吸収を抑制し,交感神経機能亢進により昇圧効果を示す.
8.2.1 α1 受容体刺激薬塩酸ミドドリン
選択的α1 受容体直接刺激作用により末梢血管を収縮させて血圧を上昇させるとともに,静脈還流量を増やす作用がある.心臓や中枢神経への直接作用はほとんどない.本剤は活性本体をグリシンで修飾したプロドラッグであるが,経口投与で良好な吸収を示し,効果が持続するため,小児の起立性調節障害に対して使用しやすい.最近は,透析低血圧に対する有効性が注目されている(クラスI,レベルC)
989–991).
8.2.2 塩酸フェニレフリン
選択的α1 受容体刺激作用により末梢血管収縮をきたす.効果はエピネフリンの1/5 程度であるが,持続時間は長い.しかし,静注薬しかなく,各種疾患・状態にともなう急性低血圧またはショック時の補助治療として使用される(クラスIIa,レベルC).
8.2.3 メチル硫酸アメジニウム
ノルアドレナリンと競合して末梢神経終末に取り込まれ,ノルアドレナリンの神経終末への再取り込み,不活性化を抑制し,交感神経機能を亢進させる.本態性低血圧,起立性低血圧,透析施行時の血圧低下に適応があるが,小児の起立性調節障害にも適応外使用が記載されている(クラスI,レベルC)
992) .近年,末梢神経終末における選択的ノル
アドレナリン再取り込み抑制薬としては,アトモキセチンがあり,注意欠陥多動性障害に用いられるが,同薬剤は自律神経機能障害にともなう起立性低血圧に対して,ミドドリンよりも効果を示したという報告がある993).
9 新生児/ 未熟児の循環作動薬
動脈管は,機能的には生後10~15 時間で閉鎖し,内膜変化により生後数日以内に完全閉鎖するが994),早期産児では動脈管の閉鎖遅延傾向がある.新生児・未熟児の動脈管は開存している場合に心不全・肺高血圧の原因となりうるだけでなく,逆に動脈管の収縮にともない先天性心疾患が発症する場合がある.すなわち,肺血流を動脈管に依存している疾患群では高度のチアノーゼを,体血流を動脈管
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に依存している疾患群では高度の心不全(いわゆるductal shock)を生じる995).
新生児の血圧は在胎週数と日齢に依存することが知られている.しかし,周生期の状態や感染,動脈管を介する短絡,個体差,合併疾患の重篤度などさまざまな要因が影響するため,日齢と在胎週数ごとによる血圧の正常値は確立されていない.低血圧は,新生児・未熟児において組織灌流が低下し,主要臓器への血流が保てなくなる重要な問題であるが,特に未熟児において組織障害をきたす血圧の域値は明らかではない996).
新生児遷延性肺高血圧は周生期の低酸素や肺実質疾患などにより肺高血圧が出生後も遷延し,動脈管・卵円孔での右- 左短絡が持続して重篤な低酸素血症を認める病態である997).
9.1 未熟児動脈管
9.1.1 未熟児動脈管開存(PDA)の疫学
正期産児の動脈管は機能的には生後10~15 時間で閉鎖し,内膜変化により生後5~7 日で完全閉鎖する994).しかし,早産児では閉鎖遅延傾向があり,動脈管を介する左右短絡で容易に心不全に陥り,その生命予後に影響を与える.すなわち,心不全状態から全身状態の破綻,脳室内出血(IVH),壊死性腸炎(NEC),肺出血,腎不全など重大な合併症を招くのみならず,慢性肺疾患(CLD)や未熟児網膜症,低栄養など長期予後にも影響をもたらす可能性が指摘されている998).
9.1.2 診断指針
a.身体所見など
1胸部単純X 線による心胸郭比の拡大,2心雑音, 3心拍数増加,4脈拍(反跳脈の有無),5precordial pulsation などが代表的である(クラスIIa) 999).その他に6脈圧の開大,7胸部単純X 線上の肺うっ血,8呼吸不全・無呼吸,9乏尿,10体色不良,11肝腫大,12代謝性アシドーシスなどがあげられる(クラスIIb)
1000).しかし,
出生後早期や動脈管径が大きい場合,心雑音は聴取しないことがある.直接的な診断はパルスドプラ,カラードプラなどの心エコー検査によりなされる. b.心エコー所見
心エコーでは,1動脈管内径の大きさ,2パルスドプラによる動脈管内血流パターン,3M モード法による左房/大動脈径の比,4左房容積(/体重),5左室拡張期末期径,6左右肺動脈拡張期血流速度またはその収縮期血流速度との比,7下行大動脈や腎動脈の拡張期血流の途絶
または逆流などが観察項目としてあげられる(クラスI).
9.1.3 治療指針
プロスタグランジン合成阻害薬,すなわちシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害薬(インドメタシン,イブプロフェンなど)による薬物治療が有効であり,外科的結紮術が施行される前に試みられるのが一般的である.日本新生児成育医学会(旧日本未熟児新生児学会)における「医療の標準化検討委員会」から「根拠と総意に基づく未熟児動脈管開存症治療ガイドライン(J-PreP)」が2010 年に公開されている1001, 1002). a.COX 阻害薬による薬物学的閉鎖
治療が必要なPDA を症候性PDA とよぶ.現在,COX阻害薬による薬物学的閉鎖の主流といえる.わが国で保険適用があるCOX 阻害薬にはインドメタシンとイブプロフェンがある.インドメタシンは0.1~0.2 mg/kg を12~24時間間隔で3 回までの静注療法が一般的である1003, 1004).イブプロフェンの使用方法は初回10 mg/kg で,24 時間ごとに5 mg/kg を2 回投与の計3 回までの静注療法で, 2018 年に保険適用された.COX 阻害薬の副作用としては乏尿,時に腎不全,低血糖,出血傾向,消化管出血,時に消化管穿孔,NEC,非抱合型ビリルビンの上昇などがあげられる.イブプロフェン投与はインドメタシン投与と効果は同等で,消化管や腎臓への有害事象が少ない1005, 1006).
インドメタシン静注療法は,閉鎖についての有効性はあるものの,早期投与群で合併症が増加すると結論するものから,CLD 罹患率が低下すると結論するものまであり,結果は一定ではない.結論として,COX 阻害薬は経過観察に比し,有意に閉鎖率を上昇させ,外科治療の必要性を低下させた一方で,死亡率や精神運動発達には有意差を認めなかったとある1007).
症候性未熟児PDA に対する初期治療として,COX 阻害薬投与は経過観察(COX 阻害薬以外の内科的治療)よりも推奨される(クラスI,レベルA) 1006).
持続静注(0.4 mg/kg を36 時間かけて持続投与)と間欠的急速静注(初回0.2 mg/kg,以後0.1 mg/kg を2 回12 時間ごとに急速静注)を比較したシステマティックレビューでは,PDA の治療効果や副作用に差異はないものの,間欠的急速静注の方が,エコーにおいて腎・脳・上腸間膜動脈のドプラ動脈血流速度が一時的に低下するという1008).投与回数については12~24 時間間隔で4 回以上の連続投与は,動脈管収縮効果に差異はない一方で,消化管穿孔のリスクを約2 倍高める1006).ステロイド製剤とCOX 阻害薬の併用は消化管穿孔のリスクを高めるため,
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慢性肺疾患や晩期循環不全に対してステロイド製剤を投与している場合の未熟児PDA へのCOX 阻害薬投与は慎重にすべきである1003, 1004). b.予防的投与
症候化する前の予防的治療と,症候性PDA に対する治療のどちらがよりよい予後を得られるかについても議論があり,施設によりそれぞれ治療基準が設けられているのが現状である.
インドメタシン予防投与は症候性PDA の発症,動脈管結紮率,急性期の重度の脳室内出血(IVH のIII 度・IV度)などで有意な減少を認め,短期予後に関して有効である1009, 1010).長期的精神発達予後については改善傾向が認められる報告もあり1011),より低出生体重のグループにおいては脳性麻痺の減少を示している1012).しかし,長期的に神経発達障害の発生に関与せず,後遺症なき生存例の増加には寄与しなかったとの報告もある1013).インドメタシンと異なり,イブプロフェンの予防投与による脳室内出血予防効果は明らかでなく,肺高血圧を発症した報告があり,出生早期の脳室内出血予防としてのイブプロフェン投与は勧められない1004).
未熟児PDA 予防や脳室内出血予防のためのインドメタシンの生後早期予防的投与は勧められる.ただし,各施設の症候性PDA やIVH などの発症率や自施設で結紮術が可能かを踏まえたうえで,投与適応を決定することが必要である(クラスI,レベルB)
1001).
予防投与を行う場合,生後6 時間以内にインドメタシン
0.1 mg/kg/dose を,6 時間の持続静注により投与すること
が奨められる.閉鎖が得られない場合,24 時間ごとに3 回までの投与を考慮する(クラスI,レベルA)
1001).
c.外科的結紮術
わが国では結紮術は最終的な治療法である.結紮術可能な施設が限られている現状では早期に結紮術を選択する方法は浸透しにくい.しかし,薬物療法に固執するあまり手術の時期を失することも避けねばならない.手術適応は第一にCOX 阻害薬が無効な症例と,次にCOX 阻害薬の使用禁忌に相当する場合である(クラスIIa).心不全があり, NEC や腎不全を合併した状況では,施設ごとの手術に関わる総合的リスクを考慮したうえで,迅速に手術決定することを推奨する1001).(クラスIIa,レベルC).
わが国での周産期母子医療センターネットワークの観察研究では,手術件数の多い施設での手術治療ほど退院時死亡を少なくする可能性が報告された1014).COX 阻害薬と外科的治療との比較では死亡率や慢性肺疾患,壊死性腸炎,重篤な頭蓋内出血に頻度の差はないが,外科治療で気胸と未熟児網膜症の発生率が上がるとの報告がある1003). 9.2 未熟児/ 新生児の低血圧
9.2.1 疫学
新生児未熟児においても組織灌流が低下し,主要臓器への血流が保てない低血圧が問題となる1015).未成熟な心筋特性から,心拍出数依存で心拍出量を維持しているために徐脈は心拍出量低下につながる1016).前負荷や後負荷の増大への対応力に乏しいため,生後の胎児循環から新生児循環の移行における前負荷や後負荷の急激な変化に適応障害をきたし心不全を発症しやすい994).特に,病的な早産児は自動調節機能が未熟であり,脳血流に影響を与えやすくIVH や脳室周囲白質軟化症(PVL)の原因となる(クラスI)
1017, 1018).
9.2.2 診断基準
新生児の血圧は一様でなく,在胎週数や体重,カフの幅などさまざまな条件を考慮する.特に在胎週数による差異が大きいため,平均血圧が修正在胎週数より低い場合や収縮期血圧が40 mmHg 未満を低血圧とする報告が多い(クラスIIa)
1019, 1020).病的新生児においては血圧を観血的に正確に測ることが要求されるが,血圧以外の循環管理指標で血流量をみることが注目されている.血圧と心拍出量との関係はかならずしも正比例しない場合が特に生後24 時間以内では多く,これは末梢血管抵抗に左右されるためである1021).
循環血流量を指標にして循環管理をする方法として,近年,非侵襲的なパルスドプラ法による上大静脈(SVC)の血流測定が注目され,その80% が脳からの還流で,脳の低灌流を鋭敏に示すとされる(クラスIIb)
1022).新生児に
おいては出生直後にみられる低血圧の原因は,分娩に関連した出血やショックと,それに起因する心機能不全である.また,生後2 日以降の低血圧は早産児に特有な合併症,すなわち,NEC や敗血症,未熟児PDA に起因することが多くなる.その病態には副腎機能不全が関与し,薬物抵抗性の難治性低血圧となる場合もある1019).
9.2.3 新生児未熟児の低血圧の治療
治療法は病態に応じ,用量負荷,カテコラミン,ステロイドなどが中心となる. a.容量負荷
容量不足による低血圧では生理食塩水10~20 mL/kg (正常新生児の循環血液量は80 mL/kg)がまず推奨され
る1023)(クラスIIa,レベルB).生理食塩水はアルブミンと同等の効果があり,輸血製剤の感染のリスクを考慮しなく
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てもよい1024)(クラスIIb,レベルB). b.カテコラミン
アドレナリン受容体に結合してα1 刺激で末梢血管の収縮,β1 刺激で心筋収縮力の増強と心拍数の増加,β2 刺激で末梢血管の拡張(気管支の拡張),またドパミン受容体(DA)に結合してその刺激で腎動脈拡張などの作用を有す
る1025).一般に低血圧や心収縮力の低下で使用され,新生児領域ではもっとも使用頻度が高い. c.塩酸ドパミン
塩酸ドパミンは低用量(0.5~5μg/kg/分)で腎血流を増加させ(DA 作用),中等量(5~10μg/kg/分)で心収縮力を増強させ(β1 作用),高用量(10~20μg/kg/分以上)で末梢血管の収縮をきたす(α1 作用).一般的には1~5μg/kg/分で使用することが多い(クラスIIa,レベルB)
1020).高用量では血圧上昇がみられるが,かならずしも心拍出量や心機能の改善につながらない1026).α受容体刺激による血管収縮作用は血圧低下時に主要臓器への血流を確保するためには効果的であるが,心臓への後負荷増大や末梢循環不全をきたしうる.高容量になると頻脈や不整脈,麻痺性イレウスなどの有害事象が生じうる. d.塩酸ドブタミン
塩酸ドブタミンはβ1 への選択的作用が強く,心収縮力を増強させ,心拍出量が増加するため,収縮不良な心不全に有用である1015).塩酸ドパミン同様1~20μg/kg/分で使用することが多い(クラスIIa,レベルB).高用量で心拍出量やSVC 血流量の増加が認められた1021).塩酸ドパミンに比して,神経末端からノルエピネフリンの放出を促進する作用がない分,心拍数増加や不整脈をきたしづらい1025).しかし,塩酸ドパミンと塩酸ドブタミンとの比較では新生児期死亡率や脳室周囲白質軟化症や脳室内出血などの神経合併症では有意差はないとの報告がある1027).
わが国では,塩酸ドパミンと塩酸ドブタミンは1:1~2の比率で併用されることが多い1028).α作用(末梢血管収縮)をきたさず,DA 作用(利尿効果)とβ1 作用(心収縮力増強)を期待しての併用療法と考える. e.塩酸イソプロテレノール
塩酸イソプロテレノールはβ1β2 刺激作用が強く,心拍数の増加が著しいため徐脈傾向の心不全(房室ブロックなど)に使用される.力価は塩酸ドパミン,塩酸ドブタミンの100 倍であり,投与量は1/100 の0.01~0.2μg/kg/分で使用することが多い(クラスIIb,レベルC).頻脈傾向にある新生児期には使用しづらく,心拍数が180/分以上の時や血圧低下時には減量・中止する. f.アドレナリン
アドレナリンはもっとも強力な内因性カテコラミンである.心収縮力や心拍出量とともに心拍数の増加も著しい1001).低用量ではβ刺激作用があり,体血管や肺血管の拡張作用がある半面,高用量ではα作用が強くなり肺血管以上に体血管抵抗の増加をともなう1029).新生児領域におけるシステマティックレビューは少ない1030).新生児仮死に対する新生児蘇生法において推奨されているアドレナリンの用量は,静注で0.01~0.03 mg/kg,気管内投与で0.05~0.1 mg/kg であり,それぞれ生理的食塩水で10 倍希釈して使用する(クラスIIa,レベルB) 1031, 1032). g.ステロイド治療
新生児未熟児の難治性低血圧には相対的副腎機能不全が介在しているとの評価から,ステロイド補充療法が奏功する場合がある.ステロイド製剤には,浮腫の予防,循環血液量の維持,前負荷の動員,後負荷の過度低下を予防,心筋収縮力の増強といった心血管の安定化作用がある.心血管のα,β受容体の発現を誘導するgenomic effect は内因性カテコラミンやカテコラミン製剤の反応性を高める効果が期待される.グルココルチコイドは心筋のアドレナリン受容体を調節する作用があり,病的新生児で発生するカテコラミンのダウンレギュレーションを改善する作用があるというがその機序は不明な点が多い1033).
ハイドロコーチゾンは容量負荷やカテコラミンに不応性の難治性低血圧に有効である.通常,正常血圧を保つのにドパミンで15μg/kg/分以上必要な場合にカテコラミン不応性と解釈される1034).容量注入療法やカテコラミンの効果が乏しい状況や浮腫・低ナトリウム血症・臓器血流不良などの相対的副腎不全が背景にあると考える循環不全ではハイドロコーチゾン(2 ~5 mg/kg)が有効なことがある1034).ハイドロコーチゾンは心機能や臓器血流を改善しなくとも1 mg/kg の使用で血圧を上昇させる(クラスIIb,レベルB) 1035).
ステロイドを使用している新生児では高血糖や易感染性,骨粗鬆症,発育抑制などの副作用の発現に注意が必要である.また,ステロイドとインドメタシンの併用は消化管穿孔のリスクが高くなる(クラスIIb) 1034).
9.3 新生児遷延性肺高血圧
(3. 小児肺高血圧治療薬の項参照)
9.3.1 病態
正常児では出生後,第一啼泣とともに肺でのガス交換が始まり,急速に肺血管抵抗と肺動脈圧が低下することで肺
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循環が成立する.しかし,さまざまな理由で胎児期と同等の肺高血圧が遷延すると,胎児循環と同様に卵円孔または動脈管を介して右左短絡を呈しチアノーゼの原因となる1036).発生率は1~2/1,000 出生といわれ,早産児より正期産児,過期産児に多い1037).基本病態は肺動脈の小動脈中膜肥厚であり,そのために出生後も肺高血圧が遷延する.低酸素,アシドーシス,エンドセリン-1(ET-1)やトロンボキサンなどの炎症メディエーターが肺血管収縮作用を持つ1037).
9.3.2 原因疾患
明らかな肺病変を認めない一次性のものと,二次性のものがある.前者は肺病変が同定できないため,X 線上でも異常が認められない(”black lung” PPHN).後者では1肺実質病変(胎便吸引症侯群[MAS],呼吸窮迫症候群[RDS],先天性肺炎,気胸,dry lung syndrome)によるもの,2肺血管の発達異常(横隔膜ヘルニア[CDH],肺低形成,alveolar capillary dysplasia[ACD]),3出生時の適応障害や組織灌流異常(重症新生児仮死,低血糖,多血症,低Ca 血症,敗血症),4子宮内での動脈管早期収縮(COX 阻害薬などによる)などがある.割合としては圧倒的に二次性のものが多い(クラスI) 1020).
9.3.3 診断
呼吸障害やチアノーゼはきわめて重篤で,呼吸性・代謝性アシドーシスが進行する.人工換気で100% 酸素投与でもSpO2 やPaO2 の上昇が不良となる.PDA レベルでの右左短絡があれば上半身(pre-ductal)に比し下半身(post-ductal)のSpO2 がさらに低下する(differential cyanosis) (クラスIIa).臨床症状に加え,確定診断は心エコーによりチアノーゼ性心疾患を除外したうえで,PDA や卵円孔レベルでの右左短絡を証明する(クラスI) 1020).
9.3.4 治療
肺血管抵抗を下げ,かつ体血圧を正常に保つことにつきる.しかし,原疾患そのものの治療とアシドーシスなど破綻した代謝的異常の補正が不可欠であり,呼吸管理も重要となる. a.人工呼吸療法
通常の人工換気のほか,過換気療法,特に高頻度振動換気(HFO)が効果的である(クラスIIb,レベルA).これも過換気によるアルカリ化で肺血管抵抗を減じる効果があり,気胸予防の利点をともなう1037).わずかな誘因で肺血管が攣縮することから鎮静を保ち,minimal handling に努める.場合によってミダゾラムなどの鎮静剤や臭化ベクロニウムなどの筋弛緩剤,フェンタニルなどの麻薬静注も
考慮する(クラスIIb,レベルC). b.体血圧の管理
相対的に体動脈圧を上げる目的でカテコラミンの持続静注も有効である.また,容量負荷(輸血など)も低血圧時に有効である(クラスIIb,レベルC)
1038).
c.一酸化窒素吸入療法(iNO)(クラスI,レベルA).
NO の登場はPPHN の治療を飛躍的に向上させた.投与経路が吸入療法であるため,全身にではなく選択的に肺血管拡張作用をもたらし,もっとも期待できる科学的根拠が確かな治療である1023, 1039).実際の使用にあたっては人工呼吸器回路に接続し,吸入NO 濃度を20 ppm で開始し, 5 ppm 程度の有効最低量で維持する.リバウンドを生じないように5 ppm 以下の減量は慎重に行うことが勧められる.使用中のメトヘモグロビンのチェックは不可欠で副反応としてのメトヘモグロビン血症に留意する.環境汚染としてのNO2 のモニタリングもした方がよい.NO 吸入療法導入により,膜型人工肺(ECMO)の使用頻度が減少し1040), term/near-term の低酸素性呼吸不全児の死亡率とECMO導入率を減じ,NO 吸入療法の有効性が認めてられている1041).呼吸障害を合併する早産児において急性または慢性の肺高血圧症予防対策として一律にiNO を使用することは,かならずしも推奨されない1042). d.その他の血管拡張薬
作用機序としては1PGI2- サイクリックAMP(cAMP)経路(エポプロステノール),2NO-cGMP 経路(NO 吸入療法,PDE 5 阻害薬:シルデナフィル),3エンドセリン(ET)経路(ET 受容体拮抗薬:ボセンタン)の3 つに分類され,血管内皮や平滑筋をターゲットにしたものが肺高血圧治療薬といわれる1020). i.プロスタサイクリン(PGI2)製剤
静注薬のエポプロステノールと吸入製剤のイロプロストがある.PGI2 は強力な肺血管拡張作用と血管保護作用を有し1043),肺動脈性高血圧症においてはもっとも強力な薬剤で,わが国でも小児の使用と長期的な検討がなされ, その有効性と安全性が認容されている1044).新生児領域においても,NO 吸入療法の効果が少ないPPHN に対する有効性の報告がある1045, 1046).しかし,新生児領域での使用経験は少なく,PPHN について大量療法(30~120 ng/kg/分)の有効性を述べた報告がある(クラスIIb,レベルB) 1045). 使用時の低血圧に対しカテコラミンが必要となる.吸入PGI2 についてもiNO に抵抗性のPPHN 例の酸素化を改善する可能性が報告されている1047). ii.PDE5 阻害薬(シルデナフィル)
PDE 5 阻害薬であるシルデナフィルは肺動脈性高血圧症
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治療薬としての認可を得た経口薬であり,小児領域(1 歳以上かつ8 kg 以上)でも2017 年に懸濁用ドライシロップの保険適用となったが,新生児領域ではオフラベルである.しかしPPHN の有効性についての報告もある1048). Cochrane データベースでも,PPHN に対するシルデナフィルはプラセボに比べ酸素化を改善し,死亡率を低下させる可能性が示されている(クラスIIb,レベルB)
1049).半減
期が短いことから,4~6 時間ごとに経管投与で0.5~1.0 mg/kg/ 回の用量が用いられている1049).
iNO に比して特別な装置は不要であり,NO と同様にcGMP 経路で作用することからNO パスウェイ治療薬として NO 吸入療法が長期化した場合の代替・離脱方法として考慮される. iii.ET 受容体拮抗薬(ボセンタン)
ET 受容体拮抗薬であるボセンタンも作用機序は異なるものの,シルデナフィルと同様に肺動脈性高血圧症においてはその有用性が認められている.ただし,新生児PPHNでの報告例は少なく,効果は明らかでない1050).FUTURE4試験でも腸管吸収が疑問視され,PPHN での使用については否定的である(クラスIIb,レベルB)
1051).
iv.ミルリノン
PDE 3 阻害薬であるミルリノンは心臓や血管の平滑筋に分布するホスホジエステラーゼ(PDE)III を阻害することでcAMP の分解を抑制し,心筋収縮力増強作用と血管拡張作用を発揮するinodilator とされる1001).新生児(特に早産児)では心筋のPDEIII の発現が乏しいため,心筋収縮力増強効果は小児や成人よりは弱い可能性がある1001).一方,腎機能の機能不全や未熟性がある場合,血中濃度が高まりやすい.有害事象として血小板減少や不整脈がある.新生児遷延性肺高血圧症を含めた新生児における効果や有害事象の科学的根拠がまだ少ない現状である(クラスIIb,レベルC)
1052, 1053).
v.硫酸マグネシウム
硫酸マグネシウムの持つ血管拡張作用がPPHN に対して有効である可能性を説く報告はあるがCochrane データベースでは確立された使用法としては認められず,推奨はできないとしている(クラスIII,レベルC)
1054).
vi.膜型人工肺(ECMO)
以上の治療が無効で低酸素血症が持続する場合に適応となる.ECMO 導入の基準は以下のとおりである1055).
• 気道内圧(PIP)> 28 cmH2O(高頻度振動換気[HFO]ではMAP>15 cmH2O)でも管前SpO2<85%
• 適切な治療に抵抗性のPPHN かつ循環不全• 在胎週数>34 週• 体重>2 kg追加条項として,酸素化指標(OI)≧40 が続く場合,水
分負荷と強心薬に抵抗性の低血圧,12 ~24 時間の尿量が0.05 mL/kg/ 時間未満,代謝性アシドーシス(乳酸>5 mmol/L,pH< 7.15)の存在もあげられている.また肺胞─動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)600 mmHg 以上が4時間以上持続するような重症例もECMO を考慮する(クラスIIb,レベルB)
1056).ただし,ECMO 回路内のヘパリ
ン化が必要なため,早産児では頭蓋内出血のリスクが高い.また可逆性を考慮し人工換気が7 日以内などの条件を満たさないと使用しにくく,マンパワーも必要となる(クラスIIb,レベルB)
1057).
10 小児臓器移植の免疫抑制薬
10.1 疫学
欧米では,臓器移植は小児においても末期臓器不全の外科的治療として確立されている.わが国でも,1997 年10月に「臓器の移植に関する法律」が施行され,脳死での臓器提供による移植が可能になった.しかし,脳死臓器提供には本人の生前の書面による意思表示が必要であったため,15 歳未満の脳死臓器提供はなかった.そのため, 1999 年2 月に第1 例目の脳死臓器提供以来,改正法が施行された2010 年7 月までの脳死臓器提供86 例のうち, 20 歳未満の脳死移植は,肝移植11 例,腎移植6 例,心移植6 例,肺移植3 例,小腸移植2 例にとどまった.
この間,20 歳未満の肝臓・腎臓・肺の移植は生体間移植が主となり,生体間移植のできない心臓移植では,海外に生きる望みを繋いでいた.
2010 年7 月の改正法施行後は「本人の意思が不明な場合には,家族の書面による承諾で脳死臓器提供が可能」となり,臓器提供者(ドナー)の年齢制限がなくなった.これにより国内で体の小さな小児が心臓移植や肺移植を受けられる道が拓かれ,2011 年4 月に国内初の15 歳未満の脳死臓器提供が行われた.その後,2018 年12 月までに18歳未満の脳死下臓器提供が27 例(このうち6 歳未満9 例)となり,今後わが国においても小児移植医療が進展することが望まれる.
10.2 心臓移植
日本小児循環器学会移植委員会では,現行法施行以来,
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小児心臓移植適応症例について,評議員に対するアンケートの形で全国調査を行ってきた.その結果から,わが国で心臓移植を必要とする小児(18 歳未満)は毎年約50 例(10 歳未満は30 例)あり,拡張型心筋症(DCM),拘束型心筋症(RCM)が多かった1058).
1997 年10 月から2018 年12 月末までに国内で心臓移植を受けた小児(18 歳未満)は33 例(男児18 例,女児15例),移植時年齢は11.3±5.6 歳,原疾患はDCM 25 例, RCM 1 例,DCM/RCM 混合型2 例,拡張相肥大型心筋症1 例,心筋炎後心筋症2 例である.小児心臓移植33 例のドナーは,小児(18 歳未満)が22 例,成人が11 例である.26/33 例が移植前に補助人工心臓装着を必要とし,全体の移植待機期間は671 ±435 日(117 ~1764 日)と長期であった.2018 年12 月末現在,国内で心臓移植を受けた小児(18 歳未満)の10 年生存率は96.0% である1059).
10.3 肺移植
日本小児循環器学会移植委員会では,肺移植についても小児適応症例について全国調査を行ってきた.その結果から,わが国で肺移植が必要となる小児(18 歳未満)は毎年20~30 例あり,肺動脈性肺高血圧,アイゼンメンジャー症候群などの循環器疾患が多く,他に骨髄移植後の閉塞性細気管支炎,嚢胞性線維症,肺線維症,気管支肺異形成症などがある.
2016 年末までに国内で行われた肺移植(心肺同時移植3 例を含む)335 例中,20 歳未満は19 例(15 歳未満の小児は9 例)であり,最低年齢は4 歳11 ヵ月であった.10歳未満の移植後生存率は2 年で50%,10~19 歳の生存率は10 年で84% と報告されている1060).
10.4 免疫抑制療法の概略
臓器移植後の免疫抑制療法は,移植術後早期の導入療法(induction therapy)とその後の維持療法(maintenance therapy)に分けることが重要である.
10.4.1 導入療法
移植後早期には,移植臓器は他己として認識され,それを攻撃する細胞成分や抗体成分が産生される時期であり,いかに移植片(グラフト)を他己として認識させないようにするかが重要である.そのため,維持期に比して大量の免疫抑制薬を使用する.T リンパ球やインターロイキン2受容体(IL-2R)に対する抗体製剤を使用したり,大量のステロイドを使用したりすることが多い.組み合わせは臓器ごとに異なるが,カルシニューリン阻害薬(CNI),細胞
増殖阻害薬とステロイドの3 薬のうち,2~3 の薬を併用し,移植後早期は大量に投与して,移植後3~6 ヵ月に向けて減量する.この間に拒絶反応や感染症が多いので,移植臓器の定期的生検を行い,抗ウイルス薬,抗真菌薬,抗原虫薬などの併用が行われる.免疫抑制薬と抗菌薬との相互作用をよく知ることが重要で,抗菌薬の副作用も熟知しておくことが望ましい.
10.4.2 維持療法
移植後6 ヵ月が経過すると,拒絶反応,感染症の罹患率も低下し,免疫抑制薬もほぼ一定量に維持できるようになる.その後は,定期的な検査で,拒絶反応,感染症,薬剤の副作用をみながら徐々に減量していくことが多い.小児は成長障害の問題があるので,可能であればこの時期までにステロイドを中止する.なお,小児は体重増加も考慮して,薬剤の投与量を決めることが重要である.月に1 度外来で診察し,経過をみることが望ましい.小児は成人よりも感染症に罹患しやすいので,日常生活の管理が重要であり,家族,幼稚園・学校の先生(特に養護教員)との連携が重要である.
10.5 小児の病態と特徴
小児臓器移植後の成績を向上させるには,成人と同様,拒絶反応を有効に抑制・治療するとともに,免疫抑制薬の副作用を可及的に防止することが重要である.免疫抑制療法の基本方針は成人と大差はない.しかし,身体的・精神的発達を考慮しなければならないこと,悪性腫瘍,特に移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)の発生率・進行度が高いこと,ワクチン接種や日常生活管理などの感染症予防が重要であること,怠薬(ノンアドヒアランス)・思春期などの小児特有の精神的問題など,小児臓器移植に特有の課題も多い1061, 1062)
免疫抑制薬において成人では,多くの前方視的ランダム研究がある.しかし小児においては,世界全体の年間症例総数は500 例程度にすぎず1063),施設ごとの症例数も少ないため,大規模臨床試験で確かめられた免疫抑制療法はない.そのため,施設レベルの臨床経験や,後方視的な多施設研究から得られたデータを元に,下記のようなことがわかってきている.
第一に,成人に比してデータは少ないが,小児においても薬剤動態の研究も徐々に進み,おのおのの免疫抑制薬で薬剤投与量,薬剤効率,副作用などの個人差を説明できるようになってきた.人種間の薬剤代謝,効率についても,
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データが集まりつつある.
第二に,特定の免疫抑制薬の投与法の傾向が明らかになり,拒絶反応発生率は低下してきている1064).世界的には,抗T リンパ球抗体や抗IL-2R 抗体などによる導入療法を近年より行うようになってきている(2001 年37% から2009 年以降70.5% に上昇) 1063).カルシニューリン阻害薬(CNI)として,シクロスポリン(CsA)よりタクロリムス(FK)を使用する施設が増加している1063).維持療法として,一剤療法から,ミコフェノール酸モフェチル(MMF)とCNI の併用が予後,生存率の両面で有効であるという実証が多くあり,MMF はアザチオプリンより高価であるがより使用されている1065).
mammalian target of rapamycin 阻害薬(mTOR 阻害薬:シロリムス[SRL],エベロリムス[EVL])も併用薬として,その有効性や安全性が認められてきているが,まだ小児では確立されてはいない1066).成長や移植心冠動脈病変(CAV)の面からステロイドを離脱することの有効性が多くの施設で報告されている1067)が,今後の検討を要する.また,腎不全やPTLD 合併症例でCNI 非投薬の有効例も報告されてきているが,まだ有効性・安全性ともに確立されてはいない.
第三に,ABO 不適合移植,抗体関連型拒絶反応, PTLD などにおいて,B リンパ球や形質細胞を標的にした治療法にも注目が集まってきている.
最後に,免疫抑制薬のプロトコルの確立は重要であるが,実際の治療にあっては,患児おのおのに応じたテーラーメイドの治療がもっとも大切である.
10.6 免疫抑制療法の実際
ここでは心臓移植について薬物投与法・投与量を述べる.
10.6.1 導入療法
移植後早期に,T リンパ球やインターロイキン2 受容体に対する抗体製剤を使用し,大量のステロイドを使用することが多い.T リンパ球を標的とするポリクロナール抗体製剤(ウサギ抗ヒト胸腺細胞抗体など)や抗CD25 モノクローナル抗体 (バシリキシマブ)を使用することにより,急性拒絶反応の初発を遅らせ,CNI の投与開始を遅らせて移植後早期の腎機能障害を減少することができる1068, 1069).また,遠隔期でのステロイドの離脱を容易にすると考えられている1067).
成人において抗体製剤の使用が早期の感染症,遠隔期のCAV,感染症やPTLD に相関すると報告されている.一方,2,300 例以上の小児心臓移植例での後ろ向き研究では,抗体製剤が感染症や悪性腫瘍の発症と有意な相関はみられ
なかったとの報告もある1070).なお,抗体製剤の使用が, CAV の発症予防やグラフト機能や生存率の向上に寄与するか否かは不明である. a.抗インターロイキン2 受容体抗体(抗IL-2R 抗体) i.バシリキシマブ
活性化したT リンパ球表面に現れるインターロイキン2受容体α鎖(IL-2R:CD25)に対するヒト/ マウスキメラ型モノクローナル抗体で,IL-2R シグナルを競合的に阻害し,T リンパ球の増殖を阻害する.成人,小児1071)ともに有効性が証明されている.成人の心臓移植では,感染症による死亡,PTLD の発症については,サイモグロブリンより有効であると報告されているが,拒絶反応の予防・治療面では劣っていると報告されている.小児の心臓移植では,移植前にシムレクトを投与してCD25 陽性細胞を減少させると,急性拒絶反応が減少すると報告されている1071).
バシリキシマブ以外に,daclizumab という抗IL2R ヒト型モノクローナル抗体製剤もあるが,拒絶反応は減少したが生存率が低下したという報告があること,投与方法がバシリキシマブより複雑(2 週ごとに5 回静脈投与)であることなどから,心臓移植では使用されていない. (1)適応
腎臓移植では成人・小児ともに国内承認薬であるが,他の臓器移植では適応外である. (2)用量
2 ~15 歳児において,心臓移植当日と4 日目に,12 mg/ m2(最大20 mg)を 生理食塩液または5% ブドウ糖液で25 mL 以上に希釈し,30 分以上かけて静脈内投与する.
おもな薬剤相互作用:なし国内の新規幼児・小児生体腎移植患者(6 例,年齢1 ~ 12 歳,体重10.4~28.0 kg)を対象とした試験において,バシリキシマブを移植術前2 時間以内と移植術4 日後の2回,それぞれ10 mg ずつ静脈内投与したところ,血清中濃度(ELISA 法)は半減期7.1±2.1 日(平均±標準偏差)で減衰したが,初回投与日から40~52 日(中央値46 日)の期間,IL-2 受容体を完全抑制(IL-2 受容体α鎖(CD25)発現率が3% 以下)できる閾値濃度(0.2μg/mL)を上回った. (3)禁忌
成分に対する過敏症の既往(4)副作用
急性過敏症反応(アナフィラキシー),感染症, B 型肝炎の再燃,進行性多巣性白質脳症,BK ウイルス腎症,頭痛,発熱,発疹など. (5)使用上の注意
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体重10 kg 未満の小児に対する使用経験は少ない. b.ポリクロナール抗体製剤i. 抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン(サイモグロ
ブリン)ウサギから生成されたヒト胸腺細胞に対するポリクロナール抗体で,現時点において世界では小児臓器移植でもっとも用いられている抗体製剤である. (1)適応
わが国では造血幹細胞移植の移植前後の治療,固形臓器移植後の急性拒絶反応(ステロイド抵抗性の拒絶反応またはグラフト不全をともなう拒絶反応)の治療として承認されているが,世界では導入療法にも使用されている. (2)用量
1.5~3.0 mg/kg/日を3 ~7 日間,緩徐に静脈内持続投与 (最低6 時間以上かける).生理食塩液または5% ブドウ糖注射液500 mL で希釈して,中枢ルートから0.22μm膜フィルターを用いて投与することが望ましい1072).
おもな薬剤相互作用はない.小児における薬物動態を示す論文はない. (3)禁忌
本剤の試験投与でショック状態などの過敏症が認められた患者,重症感染症合併,弱毒生ワクチン投与中は禁忌.本剤またはウサギ血清製剤の投与歴のある患者も原則禁忌である. (4)副作用
アナフィラキシー(まれ),血清病,発熱,悪寒,筋肉痛,頭痛,発疹,腹痛,白血球・血小板減少,感染症,発熱性好中球減少症,進行性多巣性白質脳症,間質性肺炎,出血傾向を認めることがある.前治療(ステロイド,抗ヒスタミン薬,アセトアミノフェン)を行うことで投与時の副反応は軽減する. (5)使用上の注意事項
白血球数,分画,T リンパ球分画(特にCD3)をモニタリングするが,これらの値を見ながら投与量を変更するエビデンスはない.血小板数が中等度以上減少したときには減量する.
10.6.2 維持療法
ほとんどの施設で,維持療法はCNI(CsA またはFK)がベースであり,可能な範囲で以前よりは早期にCNI の投与量を減量する治療が世界的に行われている.まだ,CNI非投与の安全性は確立されていない.長期に拒絶反応歴がなく,進行性の腎機能障害を認める症例において,遠隔期にCNI を中止する例がある.
さまざまな報告(成人)・統計から,CNI と併用する細胞増殖阻害薬としては,AZP よりMMF の方が有効である
とされている.mTOR 阻害薬の方がMMF より安全かつ有効であるかどうかは今後の検討を要する.また,最近は,ステロイド維持療法はグラフト拒絶を抑制せず,維持療法ではステロイドを使用しない方が長期成績がよいという報告もあり1073),ステロイドによる副作用や成長を考慮して, 6 ヵ月以内にステロイドを中止する1067, 1074, 1075). a.カルシニューリン阻害薬(CNI) i.タクロリムス
タクロリムスは,タクロリムス結合蛋白12(FKBP-12)に結合して,DNA 転写やサイトカイン(IL2 など)産生に重要な役割を演じているカルシニューリン脱リン酸化酵素を阻害する.現在,欧米において小児心臓移植でもっとも一般的に用いられるCNI である1063). (1)適応
すべての臓器移植で拒絶反応の抑制薬として国内承認されている. (2)用量
移植直後に尿量が確保されるのを確認してから,経口または経管で投与を開始(0.05~0.3 mg/kg/日,分2,少量から漸増).モニタリングは,術後1 週間程度(血中濃度が目標濃度になることを確認するまで)は1 日に2 回測定する.心移植では,腎機能障害や種々の脳血管障害をきたしやすいので,血中濃度のトラフ値が15 ng/mL,高くても20 ng/mL を超えないことが望ましい.頭痛,痙攣や振戦などの症状が認められた場合には,精査を行う.血中濃度の安定を確認した後は,毎日(移植後2 週間程度),その後退院(平均5~7 週間)まで週に2 ~3 回,退院後3 ヵ月目までは週に1~2 回程度,3 ヵ月以降は月に1~2回の頻度でモニタリングを行う.拒絶反応が疑われる場合,種々の事情で血中濃度が安定しない場合(CYP3A5 遺伝子多型など)は,適宜測定回数を増やす.また,必要に応じて外来時であってもAUC を評価する. (徐放性製剤):心移植でのエビデンスが少ないため原則使用しない. (注射製剤):原則として静脈内投与は行わない.長期間経口または経管で投与できない時には,腎機能障害に注意しながら,少量から漸増する.経口製剤の1/5 の用量(移植直後は0.01 mg/kg/日から)を生理食塩液またはブドウ糖注射液で希釈して24 時間かけて点滴静注し,モニタリングしながら漸増する.経口製剤から注射製剤に切り替える場合は経口1 日投与量の1/5 ~ 1/3 量にして24 時間で投与する.
おもな薬剤との相互作用:CYP3A4/5 代謝の誘導または阻害を通じて多くの薬剤との相互作用を認めるため,他の
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薬剤を追加したり中止したりする際には注意する.・ 血中濃度を高める薬剤(CYP3A4 代謝阻害):マクロラ
イド系抗菌薬,アゾール系抗真菌薬,カルシウム拮抗薬,アミオダロン,オメプラゾール,ランソプラゾール,(グレープフルーツ)・ 血中濃度を低下する薬剤(CYP3A4 代謝誘導):リファ
ンピシン,抗てんかん薬・ 併用すると腎障害をきたしやすい薬剤:アミノ糖系抗菌
薬,アムホテリシンB,ST 合剤,mTOR 阻害薬(3)禁忌
成分に対する過敏症の既往.腎機能障害などをきたすので,CsA とは同時投与しないこと.ボセンタンおよびカリウム保持性利尿薬とは併用禁忌. (4)副作用
腎毒性,糖尿病,高血圧,高カリウム血症,低マグネシウム血症,頭痛,感覚異常,振戦,痙攣,脳症,感染症,リンパ腫などの悪性腫瘍,腹部臓器移植では濃度依存性に心筋肥大・心室不整脈をきたす. (5)使用上の注意
移植時期・拒絶反応歴・感染症歴に応じて,トラフレベルで投与量を綿密に調整する(5 ~15 ng/mL) (表80).
消化管吸収は食事の影響を受けるため,食後,食前,空腹時いずれかの一定条件で投与する.トラフ値が変動しないように,12 時間ごとの服用遵守を指導する.
下痢の時には,トラフ値が低下する場合もあるが,反対に上昇することがあるため測定頻度を高める.
タクロリムスの代謝酵素や薬剤排出トランスポーターには遺伝的多型があるため,投与量,薬剤効率には個人差が多い1076).CYP3A5*3/*3 はCYP3A5*1 キャリアに比較して,タクロリムスの投与量の減量を考慮する必要がある.
ジェネリックは血中濃度が安定せず,使用しないほうがよい.
注射製剤はPVC 製のチューブなどに吸着し,PVC の可塑剤であるDEHP が溶出するので,PVC 製の医療材料は使用しない. ii.シクロスポリン
シクロスポリンは真菌の代謝産物でT リンパ球の細胞質内のシクロフィリンに結合し,カルシニューリン脱リン酸化酵素を阻害する.その結果,T リンパ球の活性化や増殖に中心的な役割のあるサイトカイン(たとえばIL2)の転写を阻害する.従来の製剤は服用しにくく,血中濃度が安定しなかったため,マイクロエマルジョン化した製剤(ネオーラル)が現在用いられている.ジェネリックは血中濃度が安定せず,腎臓移植において拒絶反応の頻度が純正のものに比して有意に多かったと報告されている. (1)適応
すべての臓器移植で拒絶反応の抑制薬として国内承認されている. (2)用量
原則,移植前には投与しない.移植直後に尿量が確保されるのを確認してから,経口または経管で投与を開始(4~15 mg/kg/日,分2,少量から漸増).モニタリングは,
術後1 週間程度(血中濃度が目標濃度になることを確認するまで)は2 回/日で測定する.血中濃度の安定を確認した後は,毎日(移植後2 週間程度),その後退院(平均5 ~ 7 週間)まで週に2 ~3 回,退院後3 ヵ月目までは週に1 ~2 回程度,3 ヵ月以降は月に1 ~2 回の頻度でモニタリングを行う.拒絶反応が疑われる場合,種々の事情で血中濃度が安定しない場合は,適宜測定回数を増やす.また,必要に応じて外来時であってもAUC を評価する.
移植直後の静脈内投与は薬物性の腎機能障害発現の可能性が高く,原則行わない(静脈内投与は,長期に経口または経管投与ができない場合に限る).経口製剤から注射製剤への切り替えの際は,経口1 日投与量の1/2~1/3 量にして24 時間で投与する.切り替えから血中濃度が安定するまで12 時間ごとに測定を実施する.
おもな薬剤との相互作用:CYP3A4/5 代謝の誘導または阻害を通じて多くの薬剤との相互作用を認めるため,薬剤を追加したり中止したりする際には注意する.・ 血中濃度を高める薬剤(CYP3A4 代謝阻害):マクロラ
イド系抗菌薬,アゾール系抗真菌薬,カルシウム拮抗薬,アミオダロン,(グレープフルーツ)・ 血中濃度を低下する薬剤(CYP3A4 代謝誘導):リファ
ンピシン,抗てんかん薬・ 併用すると腎障害をきたしやすい薬剤:アミノ糖系抗菌
薬,アムホテリシンB,mTOR 阻害薬(3)禁忌
成分に対する過敏症の既往.なお,腎機能障害などをきたすので,タクロリムスとは同時投与しないこと.ボセンタンと併用禁忌. (4)副作用
腎毒性,高血圧,多毛,歯肉肥厚,高カリウム血症,低マグネシウム血症,高脂血症,振戦,痙攣,脳症,感染症,肝障害,膵炎,血栓性微小血管障害,リンパ腫などの悪性腫瘍
シクロスポリン特有のものに,多毛,歯肉肥厚がある.多毛による美容的問題が,特に女性や思春期の小児にとって,内服アドヒアランスを低下させることがある.また歯肉肥厚は,特に乳幼児の場合,その後の歯牙の発育に支障が生じ,症例によっては何度も歯肉切除術を余儀なくされ
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る場合もある.このような場合には,シクロスポリンからタクロリムスへ変更することで問題は解決される1077). (5)使用上の注意
移植時期・拒絶反応歴・感染症歴に応じて,トラフレベルで投与量を綿密に調整する(50~350 ng/mL) (表80).
C2(投与後2 時間目の血中濃度)でモニタリングする方がトラフより有効であるとされる報告(成人)があるが,小児では採血のタイミングが困難であり,あまり行われていない.
最近,1 日2 回投与より3 回投与の方が,免疫抑制効果・副作用の面で優れているとの報告もあり,乳幼児期には3回投与を行うこともある. iii. シクロスポリンとタクロリムスを切り替える際の換
算値タクロリムスとシクロスポリンの切り替えを行う場合は,腎機能障害を予防するため,いずれの場合も併用は避ける.タクロリムスからシクロスポリンに切り換える場合は,シクロスポリンの投与量はタクロリムスの20~25 倍とし,血中濃度はその時点のシクロスポリンの目標トラフ値とする.シクロスポリンからタクロリムスに切り替える場合のタクロリムスの投与量はシクロスポリンの1/20~1/25 とし,血中濃度はその時点のシクロスポリンの目標トラフ値とする. (ただし,タクロリムスの血中濃度はCYP3A5 の遺伝子多型の影響を受けるので,切り替え時の投与量の換算値は多型によって異なることも考慮する)
1078).
b.細胞増殖阻害薬(antiproliferative agents) i.アザチオプリン(AZP)
1960 年代から使用されている免疫抑制薬で,T およびBリンパ球内で6-メルカプトプリンに変換し,DNA 産生に必要なプリン体の合成を阻害する.非選択的な代謝拮抗薬なので骨髄抑制を起こしやすい. (1)適応
小腸移植を除く,すべての臓器移植で拒絶反応の抑制薬として国内承認されている. (2)用量
基本的には経口開始後,1~3 mg/kg/日,分2 で経口投与する.静脈内持続投与(2~3 mg/kg)はまれにしか行わない.
アンジオテンシン変換酵素阻害薬との併用で重度貧血をきたすことがある.骨髄抑制の作用のある薬剤との併用で骨髄抑制が増強する.アロプリノールは,キサンチン酸化酵素を阻害するためAZP が非活性代謝産物に変換されるのを抑制するので,アロプリノールと併用する際にはAZPの投与量を減らす. (3)禁忌
成分に対する過敏症の既往,骨髄抑制,重度白血球減少(4)副作用
白血球減少,貧血,血小板減少,嘔吐・吐き気,下痢,食指不振,肝毒性,膵炎(5)使用上の注意
AZP 代謝の中心的役割を持っているチオプリンS メチル転移酵素の遺伝子異常のある場合には,通常投与量でも致死的な骨髄毒性反応をきたすことがある.
胎盤を通過しないので,催奇性のあるMMF を投与している患者が妊娠する際には,AZP に一時的に変更するのが一般的である1079). ii.ミコフェノール酸モフェチル(MMF)
小児においてもCNI の併用薬としてもっとも繁用される代謝拮抗薬である.MMF は腸管で吸収された後に活性物質であるミコフェノール酸(MPA)に変換され,非競合的かつ可逆的にイノシン一リン酸脱水素酵素(IMDPH)を阻害する.IMDPH は,リンパ球が増殖するときのDNA複製で必須の,グアニンプリン合成de novo 経路の重要な酵素であるので,MMF はT およびB リンパ球両方の増殖を抑制する.成人のランダム化比較試験で,MMF はAZPより有意に心臓移植後の生存率が高いと報告されている1080).MMF はAZP に比して好中球抑制や脱毛は少ないが,消化器症状,特に下痢が多い.
表80 CNI+ 代謝拮抗薬(MMF)+ ステロイドの3 剤併用の場合の目標血中濃度の目安(施設により多少異なる)
タクロリムスシクロスポリントラフ値トラフ値C2 値AUC0-4
ng/mL ng/mL ng/mL ng·hr/mL
0~3ヵ月9~12 200~350 1000~1400 3000~3500 3~6ヵ月8~9 150~250 800~1200 2000~3000
6ヵ月から3~5 年6~8 100~200 600~1000 1500~2500 3~5 年以降5 前後80~100 600 前後1500~2000 (日本TDM 学会,日本移植学会.免疫抑制薬TDM 標準化ガイドライン2018[臓器移植編]第2 版.金原書店.2018 1078)より)
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(1)適応
小腸移植を除く臓器移植で拒絶反応の抑制薬として国内承認されている. (2)用量
移植術後,経口摂取可能になれば,25~50 mg/kg/日または1,200 mg/m2/日,分2(保険上の上限は3 g であるが,一般的に最大2 g 分2)で経口投与を開始する.
米国の添付文書でのMMF の投与量は,経口用懸濁剤液の600 mg/m2 を1 日2 回投与(最大でも1 日量として経口用懸濁剤液2,000 mg/10 mL まで)が推奨されている.体表面積が1.25~1.50 m2 の患者は,カプセル剤750 mg を1 日2 回投与,体表面積が1.50 m2 以上の患者は,カプセル剤1,000 mg 1 日2 回投与されることもある.
欧米の小児腎臓移植の報告では,6 歳未満で下痢が多い以外は,成人と薬物動態に大きな差はない.
おもな薬剤相互作用として,アルミニウム,マグネシウムを含有する制酸薬はMMF の吸収を低下させる.アシクロビル,ガンシクロビルは,腎排泄におけるミコフェノール酸のグルコン酸抱合に拮抗するためMPA の血中濃度を増加させる.コレスチラミン,シプロフロキサシン,アモキシシリン・クラブラン酸(合剤)は,MPA の腸肝再循環を阻害するので,MPA 血中濃度を低下させる.リファンピシンが肝代謝酵素を誘導することによりMPA の代謝が促進され,MPA の血中濃度が低下する. (3)禁忌
成分に対する過敏症の既往.催奇性が高いので,妊婦または妊娠している可能性のある婦人.白血球減少は相対的禁忌. (4)副作用
吐き気,嘔吐,下痢,腹痛,食思不振などの消化器症状が多い,消化器症状はMPA の腸肝再循環が原因と考えられ,症状が強い場合には,減量または変薬する.乳幼児の発育障害,白血球減少,貧血,B 型肝炎の再燃,進行性多巣性白質脳症にも注意する. (5)使用上の注意
クレアチニンクリランス25 mL/分以下の患者では,減量を考慮する.白血球減少(3,000/mm3 未満)の際には減量,休薬,顆粒球増殖因子投与などを行う.催奇性が報告されており1081),挙児希望の場合はAZP に変更する.小児では年齢(体表面積)に応じて,投与量の調節が必要である.
遺伝子多型の影響: 日本人では薬物動態に関連する遺伝子多型診断の必要はない.
MPA 血中濃度モニタリング(治療域,2~5μg/mL)を行う施設もあるが,有用性は明らかでない1082). iii.mTOR 阻害薬(エベロリムス:EVL)
放線菌Streptomyces hygroscopicus が産生するマクロライド系抗生物質で当初ラパマイシンと命名された免疫抑制薬シロリムス(SRL)は,細胞質内のイムノフィリンであるFKBP-12 と複合体を形成し,その複合体がmTORに結合して造血細胞(T 細胞・B 細胞)・血管平滑筋細胞などで細胞周期をG1 で停止させる.わが国ではSRL は市販されていない.EVL はSRL の40 位が2-hydroxyethyl基に置換された誘導体である.
維持期に導入する理由として,1CAV 進行,2腎障害の進行,3悪性腫瘍合併時などがあげられる.MMF から完全に変更する場合と追加する場合がある.de novo での使用は原則しない.
移植後早期はCNI,MMF,ステロイドの三薬併用療法を行い,中期遠隔期にMMF をEVL に変更するプロトコルが小児心臓移植施設で試みられつつある. (1)適応
心臓移植,腎臓移植の拒絶反応の抑制. (2)用量
基本的には経口開始後トラフレベルをモニタリングしながら,1~3 mg/m2/日,分2 で経口投与する.
CNI 併用時に推奨される血中トラフ濃度(C0)は3.0 ~ 8.0 ng/mL である.
CNI と併用する場合は,CNI 血中濃度が併用前の3/4~ 2/3,ときには1/2 になるようCNI 量を減ずる.
おもな薬剤相互作用は,CYP3A4 で代謝されるのでCNI と同じである. (3)禁忌
本剤または成分に対する過敏症の既往(4)副作用
高脂血症,血小板減少,白血球減少,貧血,関節痛,口内炎,創傷治癒遅延,下腿浮腫,まれに間質性肺炎を認める.de novo で使用した際に,創傷治癒不良・遅延,心嚢液・胸水貯留など. (5)使用上の注意
移植時期・拒絶反応歴・感染症歴に応じて,トラフレベル(3~8 ng/mL)で投与量を調整する.
EVL の消化管吸収は食事の影響を受けるため,食後または空腹時いずれかの一定条件で投与し,トラフ濃度を測定する.
EVL 投与開始4~5 日目にトラフレベル測定を開始し, 1 ヵ月目までの測定頻度は週1 回を目安とする.維持期および外来時での測定頻度は,エベロリムス導入後2~6 ヵ月は2 週間に1 回,6~12 ヵ月は月に1 回,12 ヵ月以後は2 ヵ月に1 回を目安とする.
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創傷治癒遅延があるため,EVL を服用している患児が他の疾患で侵襲の強い外科的処置が必要な際には,1 週間程度前から一時的にEVL を中止してMMF などに変更し(CNI に変更もあり),創傷治癒を確認した後,元に戻すことが必要である.
EVL は,AZP,MMF に比較して細菌性感染症が増加する一方,サイトメガロウイルス感染症を含むヘルペスウイルス感染症の発症率は低下する1083, 1084).他のウイルス(RS ウイルスなど)は遷延する可能性があるので注意を要する.真菌感染症には差がない.
腎毒性のあるCNI を減量しEVL を併用することで,心臟移植後の腎機能低下を防止する報告1085)があるが, EVL 併用開始は移植後5 年以内にすべきという報告1086)や,蛋白尿が150 mg/日以上認める例では有効性を認めないとの意見1087)があり,今後の検討が待たれる.
EVL 投与群では,冠動脈最大内膜厚(MIT),内膜面積・容積ならびにCAV 発症率(MIT 増加が0.5 mm 以上)がAZP やMMF に対して有意に減少したと報告された1083, 1084).今日ではmTOR 阻害薬がCAV の予防および治療薬として多くの施設で使われているが,今後さらなる検証が必要である.
mTOR 阻害薬は抗腫瘍効果をもつため,移植後遠隔期の重大合併症である悪性腫瘍への効果が期待されている.特にPTLD は小児や胸部臓器移植後に多く,PTLD の大部分はEpstein-Barr ウイルス(EBV)に関連しB リンパ球の増殖きたすが,EBV 感染細胞の増殖をEVL は抑制することが報告されている1088).
心嚢液貯留,胸水貯留,間質性肺炎は自然消失することもあるが,必要に応じて胸部CT 検査,KL-6 などの測定を行う. c.副腎皮質ステロイド
ステロイドはIL-1,IL-6 放出を直接的に,IL-2 放出を間接的に抑制するとともに,非特異的免疫抑制および抗炎症作用,単球遊走阻害,抗体産生抑制の作用を持つ.小児では成長障害の原因となるため可能な限り3 ~6 ヵ月以内に中止できるようにする.乳幼児期は,使用しない施設もある1074, 1075).ただし,ドナー特異的な抗体(特に抗HLA抗体)が陽性(virtual またはreal 交差試験陽性)例では,ステロイドは中止しない方がよい. (1)適応
すべての臓器移植後の拒絶反応抑制で適応承認されている. (2)用量
メチルプレドニゾロンを,ドナー側に執刀直前に20 mg/kg静脈内投与,レシピエント側に大動脈遮断解除直前に10 mg/kg 静脈内投与し,移植術後には2.5 mg/kg を8 時
間ごとに計3 回,静脈内投与する.その後,プレドニンを0.05~0.3 mg/kg/日,分2 で,経口または静脈内投与し,移植後経過(感染症・拒絶反応歴)をみながら徐々に減量する.
おもな薬剤相互作用として,バルビタール,フェニトイン,リファンピシンなどで作用が増強する. (3)禁忌
本剤に対する過敏症の既往(4)副作用
移植後早期の比較的多量のステロイド使用により耐糖能障害を悪化させた場合にはインスリンを一時的に使用する.
消化性潰瘍および穿孔,高用量使用での精神変調やうつ状態,骨粗鬆症,大腿骨および上腕骨などの無菌性骨頭壊死,満月様顔貌,体重増加,浮腫,高血圧,頭痛,高脂血症,創傷治癒不良,皮膚症状(ざ瘡,多毛,脱毛など),発育障害,副腎機能不全,緑内障などに注意する. (5)使用上の注意点
ワクチン接種の効果を減弱する可能性がある.ステロイド中止時に反動性の拒絶反応をきたすことがあるので,ゆっくり減量する.
患者を選択してステロイド無のプロトコルを行うことができるが,その際に移植後早期の拒絶反応の発生率を減らすには,抗体製剤による導入療法が有用である.
10.7 抗体関連型拒絶反応の治療(表81)
心臓移植における抗体関連型拒絶反応(AMR)は,ドナー心の血管内皮の抗原に対する抗体を産生するB リンパ球と,その抗体産生を助長する同種抗原反応性のT リンパ球により引き起こされる.
B リンパ球の受容体にドナー抗原が結合すると,B リンパ球が活性化,増殖,そして抗体を分泌する形質細胞に成熟する.抗体が結合した血管内皮で循環血液中の補体が活性化され,直接細胞を傷害し,炎症細胞を誘導し,貪食細胞関連型の細胞死に至る1089).この抗体関連型細胞障害が血管内皮を傷害し,微小血管の凝固閉塞,心筋虚血,さらには移植心機能障害を引き起こす.移植心不全に陥ると,強心剤,昇圧剤や,機械的循環補助を必要とする場合も少なくない.急性AMR の10~47% に循環不全をともなうと報告されている.
したがって,心不全症状(息切れ,多呼吸,起座呼吸,発作性夜間呼吸困難,頸静脈怒張,浮腫および腹満:乳幼児では,哺乳力低下,不機嫌,体重増加不良)や血行動態に異常を認めたり,さまざまな画像検査で心機能障害を認
p.231
めたりする場合には,AMR の可能性も疑い対応することが重要である1090).
小児心臓移植の候補者の多くは,移植前に輸血や同種心臓弁移植を受けていたり,補助循環装置が装着されていたりするため,自己以外のHLA に対して感作されている.特に既存の抗ドナー抗体を持っている場合に起こる超急性拒絶反応はきわめて予後が悪い.そのため,わが国ではドナーが出現した際にかならずT リンパ球の細胞障害性交差試験を施行し,T 細胞の交差試験で陰性の場合にのみ心臓移植を施行している.2016 年6 月末までに施行された284例で超急性拒絶反応は発症していない1091).
AMR は一般に移植心の予後不良を意味するが,AMRのスペクトラムは,移植心機能障害をともなわないAMRから循環の破綻をきたすようなAMR まで幅広く存在することがわかってきており,発症時期や合併症の有無によってリスクが異なる1092, 1093).病理組織学的にAMR の所見があっても,移植心機能障害をきたしていない場合があるが(subclinical AMR/asymptomatic AMR),その場合でも遠隔期に移植心冠動脈病変や心血管障害での死亡にいたるリスクが高くなることが報告されている1089, 1092, 1093). AMR の診断と治療介入の判断の詳細については成書を参照されたい.
10.7.1 超急性拒絶反応に対する治療
a.超急性拒絶反応の治療
診断後ただちに(時には手術室内で)開始するべきである.治療法には,1高用量ステロイドの静脈内投与,2血漿交換,3高用量免疫グロブリン療法,4サイモグロブリン,5CNI の静脈内投与およびMMF 投与,6強心剤および昇圧剤の投与,7機械的循環補助が含まれる(なお,腎機能障害を認めたときには,サイモグロブリンを使用してCNI は控える)
1094–1096). b. 超急性拒絶反応の診断の確定
術中の心筋生検で,超急性拒絶反応の診断を確定するべきである. c. すべての治療が奏功しない場合
もしすべての治療が奏功しない場合には,緊急の再心臓移植を考慮する.しかし,超急性拒絶反応に対する再心臓移植後の死亡率は高い.
10.7.2 抗体関連型拒絶反応に対する治療(表81)
抗体関連型拒絶反応に対する治療としては,以下があげられる. • 移植心の抗体関連型障害に対して,1高用量ステロイド
の静脈内投与,2抗胸腺細胞・リンパ球抗体製剤(サイモグロブリンなど)の投与1094–1096). • 循環血液中の抗HLA 抗体の量を減らし,再活性化を抑
制するため,1血漿交換1097), 2抗体吸着療法1098),3高用量免疫グロブリン療法1099). • 心拍出量と収縮期血圧を上昇させるため,1強心剤また
は昇圧剤の静脈内投与, 2機械的循環補助. • リツキシマブは,AMR 再発のリスクを減らすために追
加することができる1100, 1101). • AMR が疑われる場合には,心筋生検の評価に,補体分
解産物や考えられる抗体に対する免疫組織学的検査を加えて行う. • レシピエント血清中の抗ドナーHLA 抗体の有無,力価
および特異度をスクリーニングする. • 治療開始後1 ~4 週後に,経過観察のための心筋生検
の病理組織学的検査に免疫組織学的検査を加えて行う. • 維持免疫抑制療法の調整を考慮してもよい.これには,
現在の薬剤の増量,新しい薬剤に追加,または新しい薬への変更が含まれる.
表81 抗体関連型拒絶反応の治療の例
Therapeutic Modality Dose Frequency Duration Plasmapheresis 1~2 plasma Daily 3~5 days exchanges Every other day 1~2 weeks 3 times per week 1~4 weeks Once weekly 2~4 weeks IV immunoglobulin 1~4 weeks 100~1000 mg/kg 1~3 times per week, 1~4 weeks often given after each plasmapheresis Rituximab 375 mg/m 2 Once weekly 1~4 weeks IV Ig, intravenous immunoglobulin. (日本移植学会臓器移植抗体陽性診療ガイドライン策定委員編.メディカルレビュー社.2018 1102)より)
p.232
10.7.3 無症状の抗体関連型拒絶反応に対する治療
病理組織学的にAMR の所見があっても,移植心機能障害をきたしていない場合があるが,移植心冠動脈病変や心血管障害による死亡にいたることが知られている.しかし,どのような治療が予後を改善するかいまだ不明であり,無症状のAMR と診断された場合には,維持免疫抑制療法を適正に管理し,頻回のモニターが重要である1094–1096, 1102).
11 小児の薬物性心筋障害に対する治療 ― 特に悪性腫瘍の治療による
心機能障害―
11.1 はじめに
さまざまな薬剤が心筋障害をきたす可能性があり,心筋障害を含め薬剤による副反応が出現すれば,その誘因と考えられる薬剤を中止することが原則である.しかしながら,特に悪性腫瘍に対して用いられる薬剤は,原疾患に対する有効性とその副反応に対するリスクを勘案して用いられることから,心機能の異常を認めたからといってただちに中止することは難しい.また,近年は治癒したと考えられる小児がん患者が増加しており,長期予後的な観点から心血管機能異常を考えなければならない.事実,心血管合併症(冠動脈疾患,心不全など)が,小児がん経験者(サバイバー)の生命予後を左右する主因の1 つとされている1103).
小児がん経験者は健常者と比較して,うっ血性心不全が15 倍1104),心疾患関連死が7 倍1103)高いとされる.特にアントラサイクリン(ATC)系抗がん剤の累積投与量と心不全とには強い相関があり,胸部への放射線照射によりそのリスクはさらに高くなる71).小児がん経験者の約60%がATC 系抗がん剤と胸部への放射線照射の既往があるとされる1105, 1106).どの程度の心機能異常までならリスクとなる薬剤を使用継続できるという明確な定義は存在せず,心機能を詳細にモニターしながらその薬剤継続の可否を判断する以外ない.しかし,小児がん経験者では心毒性のある薬剤の使用から臨床的イベントを生じるまでに長期間経過することもまれではないため71),長期にわたる注意深い観察が必要となる.一方,心機能障害が同定された場合には根本的治療法はなく,β遮断薬やACE 阻害薬などの一般的心不全治療を行うこととなる. 11.2 心血管系障害をきたしうる抗がん剤
心血管系障害をきたしうるおもな抗がん剤を(表82)
1107)
にあげる.抗がん剤によるがん治療は多剤を用いることが多く,さらには胸部への放射線治療も相まって心血管系障害のリスクは高くなる.これらの薬剤の中で小児において使用されているのは,ATC 系抗がん剤,シクロホスファミド,シスプラチンであるが,特に問題となる薬剤はATC 系抗がん剤である.
11.2.1 ATC 系抗がん剤
ATC 系抗がん剤は小児がんにおいても広く使用されている.しかし,その急性・慢性心毒性のために臨床における使用は制限されてきた.心毒性の機序はおもに酸化還元反応を介し産生されるフリーラジカルが心筋を障害するものと考えられている1108, 1109).また最近では活性酸素シグナルに関する機序も発表されている1110).
心毒性は,通常可逆性で無症状の急性心毒性と,拡張型心筋症様病変に進展する不可逆性の慢性心毒性に大別される.長期予後の上で臨床的に問題となるのは慢性心毒性であり,ATC 系薬剤の総投与量が多いほど発症リスクが高くなる.成人における心不全の発症率は,ドキソルビシンの累積投与量が400 mg/m2 を超えると5%,500 mg/ m2 を超えると16%,550 mg/m2 を超えると26%,700 mg/m 2 を超えると48% とされている1111).このような成人のデータから,小児においても累積投与量が500 mg/m 2 を超えない範囲でATC 系薬剤を使用することが暗黙の了解であった.また最近では,小児がん経験者における心筋障害は,ドキソルビシン換算投与量で,201 ~250 mg/m2 では使用しないときの7.23 倍,251 ~300 mg/m2 では23.47倍,300 mg/m2 以上では27.59 倍発症するというデータも報告されている(図80)
1111a).
しかしながら,心不全の発症には個々人の心機能の予備能力にも影響されるので,累積量が一定量を超えないからといって,安心して使用できるということではない.実際にきわめて低い累積量においても,QT dispersion 1112)や運動負荷心エコー1113)により心臓の機能異常が検出できることが報告されている.したがってATC 系薬剤の初回投与から心筋細胞は障害を受けており,ATC 系薬剤の累積投与とともにその障害が拡大し,個々人の心機能の予備能力を超えた段階で心不全が発症すると考えるのが妥当である.
ATC 系薬剤には,ドキソルビシン(DXR,アドリアマイシン),ダウノルビシン,イダルビシン,ミトキサントロン,
p.233
ピラルビシン(THP-アドリアマイシン),エピルビシン,アクラルビシンなどがあげられる.それぞれの薬剤の心毒性には差があるために,DXR に換算して累積量を計算する必要がある.DXR を1.0 としたときに,ダウノルビシン0.83,イダルビシン 5.0,ミトキサントロン 4.0,ビラルビシン 0.6,エピルビシン 0.67 としDXR と換算する1114).このDXR 換算した累積投与量に応じた小児がん患者の心機能フォローアップの推奨方法が,小児がん治療後の長期フォローアップガイドラインに掲載されている(表83)
1114).た
だし,フォローアップ期間に関しては,記載した年齢(期間)以降もフォローアップすることが望ましい.
ATC 系抗がん剤の心毒性を軽減させる薬剤として,フリーラジカル生成を抑制するdexrazoxane 1115)がATC 系薬剤の予防的心筋保護薬として欧米では認められている.しかし効果は限定的であり,根本的にはATC 系薬剤の累積投与量を抑える以外にない.成人ではATC 系薬剤の中止基準として,1治療前にLVEF が50% 以上の症例であれば,投与前に比べLVEF の低下は10% 未満で,かつLVEF が50% 未満になるとき,2治療前にLVEF が30 ~ 50% であれば,治療前に比しLVEF が10% 以上低下する
か,もしくはLVEF が30% 未満となるとき,とされている1116).また,一般的にATC 系薬剤による心筋症の予後は虚血性心筋症などより悪いとされる(図81)
66).小児で
表 82 心血管系障害をきたしうる抗がん剤
心血管系障害薬剤頻度機序可逆性心不全アントラサイクリン蓄積毒性心筋細胞死不可逆的
シクロホスファミドまれ心筋炎部分的シスプラチンまれ不明不明トラスツブマブ報告により異なる収縮蛋白質の機能障害可逆的ラパチニブ報告ありベバシズマブ低い高血圧?報告ありスニチニブ低いミトコンドリア機能障害部分的ソラフェニブまれ不明イマチニブまれミトコンドリア機能障害可逆的
高血圧症すべての血管新生阻害薬中等度 用量依存性血管内皮障害不明心筋虚血ピリジン誘導体中等度血管攣縮可逆的血栓塞栓症シスプラチン中等度血管内皮細胞障害報告により異なる
すべての血管新生阻害薬中等度血管内皮細胞障害報告により異なる
不整脈/QT 症候群三酸化ヒ素まれHERG K + Block高い
ラパチニブまれHERG K + Block不明スニチニブまれHERG K + Block不明ニロチニブまれHERG K + Block不明ダサチニブまれHERG K + Block不明
(Suter TM, et al. 2013
1107)より) Translated and reproduced by permission of Oxford University Press/ on behalf of the European Society of Cardiology. OUP and the ESC are not responsible or in any way liable for the accuracy of the translation. The Japanese Circulation Society is solely responsible for the translation in this publication/reprint.
図80 アントラサイクリン累積投与量と心筋症との関係Reprinted with permission. ©2011 American Society of Clinical Oncology. All rights reserved. (Blanco JG, et al. J Clin Oncol 30(13); 2012: 1415–1421
1111a)より)
1 Odds Ratio
30 25
20 15
10
5 0 0 1-100 101-150 151-200 201-250 251-300 301+
Cumulative Anthracycline Exposure(mg/m 2)
27.59 23.47
7.23 3.69 3.85 1.65
for trend <.001
p.234
表83 アントラサイクリン系薬剤使用患者の心機能のフォローアップ
総投与量(ドキソルビシン換算)治療開始時期フォローアップ期間フォローアップ間隔
100~250 mg/m 2 1 歳以上5 歳未満15 歳まで1 年に1 回
16~20 歳(15 歳まで異常なしのとき) 2 年に1 回
5 歳以上10 歳未満20 歳まで2 年に1 回
10 歳以上治療終了後10 年まで2 年に1 回
250 mg/m 2 以上1 歳以上10 歳未満20 歳まで1 年に1 回
10 歳以上治療終了後10 年まで1 年に1 回
ATC 系薬剤の使用歴あり1 歳未満15 歳まで1 年に1 回
16~20 歳(15 歳まで異常なしのとき) 2 年に1 回
(JPLSG 長期フォローアップ委員会.2013 1114)より)
のATC 系薬剤の中止基準は発表されていないが,がん治療後の生存が成人より長いことを考えると,より厳しい中止基準が求められる.
11.2.2 放射線治療による心筋障害
心筋細胞は増殖能力の低い臓器であり,放射線治療の照射野に含まれたとしても急性の障害をきたすことは臨床的にはまれである.しかしながら,長期的には冠動脈疾患をはじめとするさまざまな心疾患を生じ1117),放射線誘発性心疾患(RIHD)とよばれている.RIHD が症状として出現するまでには,原因となる放射線照射から比較的長い時間を要することが多く,20 ~30 年後に発症することもあるので注意が必要である.RIHD はホジキンリンパ腫では放射線治療を受け完全寛解した患者の死因の25% を占めるとされている1117).RIHD 発症の危険因子には,総線量が多いこと(>30 ~35 Gy),1 回あたりの照射線量が多
いこと(>2 Gy/日),照射野に含まれる心臓の体積が大きいこと,心臓近傍の腫瘍に対する照射,照射時の年齢が若いこと,照射後の経過年月が長いこと,心毒性のある化学療法の併用(アントラサイクリン系抗がん剤など),心血管疾患の危険因子(糖尿病,喫煙など)の保有,最新ではない照射技術(CT プランニングを行っていないなど)があるといわれている1117).
心組織の中で血管内皮細胞は増殖能が比較的高い.このためRIHD として冠動脈疾患は放射線誘発性冠動脈疾患(RI-CAD)とよばれ,心臓が忍容できる放射線量よりもはるかに少ない量で発症しうる.ホジキンリンパ腫の経験者では健常人に比し,冠動脈バイパス術(CABG)が3.2 倍,経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が1.6 倍,植込み型除細動器(ICD)もしくはペースメーカ植込み1.9 倍,
図81 心筋症の原因別生存曲線(Felker GM, 2000
66)より) Copyright©2000 Massachusetts Medical Society. All rights reserved.
1.00 0.75
0.50 0.25
0.00 0 5 10 15
Cardiomyopathy due to HIV infection
Proportion of Patients Surviving
Years Peripartum cardiomyopathy
Idiopathic cardiomyopathy
Cardiomyopathy due to doxorubicin therapy Cardiomyopathy due to ischemic heart disease
Cardiomyopathy due to infiltrative myocardial disease
p.235
弁膜症手術9.2 倍,心膜手術12.9 倍,心不全が4.9 倍高いと報告されている1117).そして,RI-CAD 罹患率の絶対および相対リスクも治療終了後年々上昇し,治療終了20年を超えると,絶対リスク22.2 ~53.9,相対リスク3.1 ~
25.0 と高くなるとされている1117).15 歳未満で胸部の照射
を受けた経験者でも平均27 年の経過観察で平均死亡率が4.2 倍,心臓関連死は5.8 倍となっており,心臓関連死亡率は胸部への平均照射量と比例している(相対リスク: 1.0~4.9 Gy で3.0,>15 Gy で25.0) 1118).
RI-CAD の器質的狭窄病変は主要冠動脈枝の近位部や左冠動脈主幹部に多く発現するとされる1119).通常の動脈硬化病変とRI-CAD 病変との組織学的な差異についてはまだ十分に解明されていない.
11.3 薬剤性心筋障害の治療
可能な限りATC 系抗がん剤の使用量や胸部への放射線照射量を減じることが心筋障害発症予防には重要となる.欧米ではdexrazoxane がATC 系抗がん剤の心毒性予防に認められているが,わが国では認められていない.
心機能の異常は,BNP,NT-proBNP,トロポニン-I などのバイオマーカーでもとらえられるが,もっとも鋭敏なのは心エコー検査であり,ATC 系抗がん剤の使用中,胸部放射線治療中から定期的に心エコー検査により心機能をモニタリングすることが必要である.ATC 系抗がん剤や胸部放射線照射後の経過観察において心機能低下が疑われた場合には,通常の心不全治療ガイドラインに準じて対応する.慢性心不全の基本薬はACE 阻害薬,β遮断薬,抗アルドステロン薬,利尿薬などであるが,心筋の線維化による心機能低下の進行を抑えるためには,ACE 阻害薬とβ遮断薬は可能な限り増量する.小児においてもこれらの治療によりATC 系抗がん剤による心筋症の改善を認める症例報告1120)もあるが,ATC 系抗がん剤による心筋症の予後は虚血性心筋症よりも予後が悪いとされており66),ACE阻害薬やβ遮断薬を導入して心機能が回復した症例では治療強度を下げることには慎重であるべきである.
12 感染性心内膜炎の 予防薬・治療薬
1121)
12.1 疫学
一般小児における感染性心内膜炎(IE)は,成人における発症率(3~7/10 万人・年)
1122)に比較して少ないとさ
れているが,先天性心疾患(CHD)を有する小児におけるIE の発症率は人口10 万人・年あたり41と非常に高い1123). 1997~2001 年に日本小児循環器学会関連施設で入院加療したIE 患児の調査研究が報告されているが1124–1127) ,IEによる入院患者の比率はCHD 入院患者数の0.58% と,従来報告されているIE による入院患者比率0.022 ~ 0.078% 1128, 1129)に比較して高く,世界的にIE の発生率が上昇していると考えられる1128) .これは,リスクの高い修復術後患者が増加していることや,侵襲的な手技を用いて集中管理する期間が長い新生児,乳児期の心臓血管手術後患者数の増加が原因であると推測されている1129) .
12.2 定義
IE は,弁膜や心内膜,大血管内膜に細菌集簇を含む疣腫を形成し,菌血症,血管塞栓,心障害などの多彩な臨床症状を呈する全身性敗血症性疾患である.発症には弁膜疾患やCHD にともなう異常血流や,人工弁置換術後など異物の影響で生じる非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)が重要とされる.NBTE を有する例において,歯科的処置,耳鼻咽喉科的処置.婦人科的処置,泌尿器科的処置などにより一過性の菌血症が生じると,NBTE 部位に菌が付着,増殖し,疣腫が形成されると考えられている.しかしながら前述の全国調査において14% は基礎疾患を認めておらず1126) ,心疾患の既往がない例や小処置の既往なく発症する例,誘因のはっきりしない例も多い.
12.3 小児の病態と特徴
前述の全国調査1124–1127) によると,小児では基礎疾患判明例における基礎疾患のほとんどがCHD であり,既手術例が50% を占める.誘因が明らかな症例は33% と多くない.血液培養の陽性率は84% と成人例と同程度に高いが,疣腫が確認されているのは63% である.48% に合併症を認め,心不全23%,脳塞栓11%,全身塞栓20%,弁逆流の増悪31% であった.急性期に心臓手術を要したのは26% だが,基礎疾患が指摘されていなかった症例では52% に及ぶ1130) .死亡率は9% で手術死亡,感染死,心不全・腎不全死がそれぞれ1/3 ずつであった1131) .
診断には成人におけるDuke 診断基準1132, 1133) が小児でも使用され,70% を超える感度を示すが,小児においてはいくつか問題点がある.成人においても修正Duke 診断基準は診断初期の感度が低いことが指摘されているが, CHD 患児においては元々の構造異常あるいは外科的介入
p.236
の結果,病初期に疣腫の診断が難しい症例が少なくない.さらに血液培養においても,前述の全国調査では成人の陽性率に劣らない結果であったが,採血の困難性などのためか低い陽性率の報告も少なくない.
12.4 薬物療法の実際(表84 1121),85 1121))
12.4.1 レンサ球菌(Streptococcus)属
ペニシリンG(PcG)感受性レンサ球菌属の治療は,ベンジルペニシリン(PcG)が第一選択となる.PcG 低感受性株,耐性株に対しては,ゲンタマイシン(GM)を併用するが,これは相乗効果を期待したものでGM 自体の感受性は高くなく,また量も通常量である.
12.4.2 ブドウ球菌(Staphylococcus)属
わが国ではS. aureus(黄色ブドウ球菌)の多くがペニシリナーゼ産生株であるため,PcG やABPC は無効である場合が多く,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)に対してはセファゾリン(CEZ)を用いる.治療期間は血液培養が陰性化してから6 週間を原則とする.併用療法は,アミノグリコシド系薬を選択する.
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対しては,バンコマイシン(VCM)あるいはダプトマイシン(DPT)が第一選択薬となる.VCM,テイコプラニン(TEIC)を使用する際には,血中濃度を測定し投与量を調整する.
12.4.3 Enterococcus(腸球菌)
腸球菌はE. faecalis によるものが多く,ペニシリン感受性は良好であるが,E. faecium はほとんどがペニシリン非感性であるため菌種,感受性結果を確認する.βラクタムを含む多くの薬剤に抵抗性である.アンピシリンとアミノ
グリコシド系薬の併用療法を行うが(クラスI,レベルC),分離菌がGM に高度耐性(MIC>500μg/mL)の場合はアミノグリコシド系薬剤は選択されない.腸球菌は基本的にアミノグリコシド系薬に耐性であるためアミノグリコシド系薬剤に対する感受性試験はルーチンには行われていない.GM 高度耐性確認のための感受性試験は別途検査室に依頼する.ペニシリンアレルギーに対しては,VCM かTEIC を用いる.
12.4.4 グラム陰性菌(HACEK を含む)
起炎菌として頻度が高いとされるHACEK(Haemophilus, Acinetobacillus, Cardiobacterium, Eikenella, Kingella)は一般的にセフェム系に感受性が高く,セフトリアキソン(CTRX)が選択される.
HACEK 以外のグラム陰性菌では薬剤感受性の結果を参考に,治療薬を選択する.
12.4.5 真菌
カンジダ属(特にCandida albicans)が占める割合が高い.発生率は低いが治療は困難で死亡率も高い.抗真菌薬は,抗真菌活性の高いアムホテリシンB の脂質製剤であるリポ化アムホテリシンB を選択する.
12.4.6 エンピリック治療
エンピリック治療では以下の点に留意して抗菌薬を選択する1 急性発症か/ 亜急性発症か2 市中発症か/ 院内発症か(または医療関連感染の可能
性があるか) 3 敗血症としての重症度
表84 小児感染性心内膜炎における抗菌薬の推奨
原因菌抗菌薬
緑色レンサ球菌ペニシリンG ± ゲンタマイシン腸球菌(ペニシリン感性の場合)アンピシリン ± ゲンタマイシン黄色ブドウ球菌(メチシリン感性の場合)セファゾリン ± ゲンタマイシン黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性の場合)バンコマイシン ± ゲンタマイシングラム陰性菌(HACEK 以外)広域セフェム系薬 ± ゲンタマイシンHACEKセフトリアキソン血液培養陰性(術後例)バンコマイシン ± ゲンタマイシン血液培養陰性(非術後例)セファゾリン + ゲンタマイシン ±ペニシリンG 1126–1128)真菌リポ化アムホテリシンB (日本循環器学会.2017 1121)より抜粋)
p.237
4 自己弁か/ 人工弁か5 すでに抗菌薬が投与されていればその種類と臨床的効
果の関係以上から考えられる原因菌候補をカバーする.原因菌が判明したら標的治療を行う.72 時間以上培養結果が不明な場合には再評価する.抗菌薬を使用せず培養結果を待つ場合には患児の状態を十分に評価する.
12.4.7 培養陰性例に対する治療
わが国のIE の調査1124–1127) では血液培養陰性は,38/239例(15.9%)を占めていた.培養陰性の原因は, 1 原因菌が培養困難な菌種である(Coxiella 属,Barton-
ella 属など) 2 原因菌が栄養要求性の高いレンサ球菌,HACEK,真菌
などである3 血液培養採取前に抗菌薬がすでに投与されていた(菌
側の要因ではない) 3 の場合が多いが,すでにエンピリックな治療が開始され
ていれば,その反応を見ながら治療を進める.抗菌薬を一旦中止して血液培養を再検することもあるが,患児の状態次第である.抗菌薬投与歴がないにもかかわらず培養陰性であれば2をターゲットに治療を行うが,1の
可能性も常に考慮する.
12.5 予防
2007 年の米国心臓協会(AHA)ガイドライン1134) 改訂後,IE に対する抗菌薬の予防投与は世界的に完全に中止あるいは高度リスク患者のみに限定された.同ガイドライン改訂後遠隔期の成人における結果が報告され始めているが,英国での全国的な調査ではIE の発症が増加している1135) .小児に焦点を当てた,ガイドライン改訂後遠隔期の状況の報告はいまだ存在せず,従来わが国で推奨されている予防を継続することを推奨する.
歯科治療時の予防の対象は,口腔レンサ球菌であり感受性からはペニシリン系薬が第一選択(アモキシシリン50 mg/kg(最大2 g)処置1 時間前単回投与)となり,ペニシリンアレルギーを有する場合はマクロライド系薬が推奨される(クラリスロマイシン15 mg/kg[最大400 mg]またはアジスロマイシン15 mg[最大500 mg] 処置1 時間前単回投与).
表85 腎機能が正常な小児の感染性心内膜炎における抗菌薬の投与量
抗菌薬投与量注意アンピシリン1 回50 mg/kg, 1 日4~6 回ゲンタマイシン1 回1~2.5 mg/kg, 1 日3 回定期的に血中濃度を測定し,投与量・投与方法を計画することが望ましいセファゾリン1 回25 mg/kg, 1 日4 回セフェピム1 回50 mg/kg, 1 日3 回セフォタキシム1 回50 mg/kg, 1 日4 回セフタジジム1 回50 mg/kg, 1 日3 回セフトリアキソン1 回50 mg/kg, 1 日2 回ダプトマイシン1 回6 mg/kg, 1 日1 回(MRSA: 1 回6~10 mg/kg, 1 日1 回)テイコプラニン10 mg/kg q12 時間で3 回,以後10 mg/kg 1 日1 回.新生児では初回16 mg/kg,以後8 mg/kg 1 日1 回半減期が長いため(約50 時間),TDM はピーク:40μg/mL 程度.トラフ20μg/mL (できれば25μg/mL)を目安とする.バンコマイシン1 回15~20 mg/kg, 1 日4 回(13 歳未満).1 時間かけて点滴静注定期的に血中濃度を測定し,投与量・投与方法を計画することが望ましいリポ化アムホテリシンB 1 回2.5~5mg/kg, 1 日1 回(日本循環器学会.2017 1121)より抜粋)
p.238
第6章 各論:小児の薬用量表
小児期の新薬の臨床試験は限られており,世界的にも臨床評価ガイドラインがそろっていないため,質の高いエビデンスが少ない.また成人には適応があって広く使用されている薬剤であっても,小児の特殊性を理由に小児適応が確認されている薬剤が多い.この結果,多くの薬剤が成人量から体重換算や年齢換算により薬用量を設定し,小児期における心疾患治療薬として経験的に臨床使用されているのが実態である.
小児の薬用量を表86 45, 52, 643, 827, 935, 938, 1121, 1136–1140)に示す. できるだけ小児薬用量の基準を基に作成するよう努めたが,教科書に記載されている薬用量または過去のガイドラインで記載されている薬用量を基に記載せざるを得な
かった.したがって,ここに記載されている薬用量や投与方法はあくまでも目安である.個々の症例の身体発育,未熟性,人種差,腎機能や肝機能,脱水や発熱の有無,疾患の重症度,合併症,併用薬との薬物相互作用などリスクとベネフィットを考慮し,適宜担当医の判断に基づいて使用すべきと考える.
このような小児を取り巻く薬物治療の状況は早急に改善すべきであり,今後,各薬剤についてきちんとした臨床データに基づき小児薬用量が設定されることが必要である.
p.239
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物(ATP)
心不全(適応はないが,房室回帰頻拍,房室結節リエントリーに使用される)
0.05 mg/kg で急速静脈注射し,臨床効果が得られるまで0.05 ~0.3 mg/kgで追加投与する(最大投与量は18 mg) 1136) 0.1 mg/kg から開始し,効果がなければ0.3 mg/kg まで増量できる827)
禁忌:脳出血直後の患者
併用注意:ジピリダモール嘔気,紅潮,頭痛,め
まい,一過性心悸亢進,心ブロック
冠血管拡張作用に基づき,注射薬を心房(上室)頻脈に使用した場合には薬理的に同等と判断されることにより,保険適用.また発作性上室頻拍についても保険適用製剤によって濃度(mg/ mL)が異なるため,かならずmg を確認する
20~40 mg を急速静注なし(不整脈
に対する記載は成人に関してもない)
アスピリン1 川崎病(心血管後遺症を含む) 2狭心症,心筋梗塞などの血栓・塞栓形成の抑制(錠剤のみ) 3 冠動脈バイパス手術,経皮経管冠動脈形成術後の血栓・塞栓形成の抑制(錠剤のみ)
川崎病急性期では30~50 mg/kg/日, 3 回に分割川崎病解熱後の回復期から慢性期は,3 ~5 mg/kg/ 日,1日1 回
禁忌(川崎病に使用する場合):消化性潰瘍のある患者,出血傾向のある患者,アスピリン喘息(非ステロイド性抗炎症剤[NSAID]などによる喘息発作の誘発)またはその既往歴のある患者,出産予定日12 週以内の妊婦慎重投与:消化性潰瘍の既往のある患者,出血傾向のある患者,肝障害またはその既往歴のある患者,腎障害またはその既往歴のある患者,心機能異常のある患者,気管支喘息のある患者
ショック,出血,中毒性表皮壊死融解症,再生不良性貧血・血小板減少・白血球減少,喘息発作,肝機能障害・黄疸,消化性潰瘍など
ライ症候群との関連性を示す疫学調査報告があるので,15 歳未満の水痘,インフルエンザの患者には投与しないことを原則とする.手術などの観血的処置前1 週間以内の患者では,失血量を増加させるおそれがある
1 錠81 mg(腸溶錠では100 mg), 1 日1 回経口投与(川崎病では成人薬用量の定めがない)
あり(1のみ)
アゾセミド心性浮腫(うっ血性心不全),腎性浮腫,肝性浮腫
小児に対する投与量の参考となるデータに乏しいコメントに準じて,フロセミドの投与量を参考にする
禁忌:無尿の患者,肝性昏睡の患者,体液中のナトリウム,カリウムが明らかに減少している患者,スルホンアミド誘導体に対し過敏症の既往歴のある患者慎重投与:進行した肝硬変症のある患者,重篤な冠硬化症または脳動脈硬化症のある患者,重篤な腎障害のある患者,肝疾患・肝機能障害のある患者,本人または両親,兄弟に痛風,糖尿病のある患者,下痢,嘔吐のある患者,手術前の患者,セファロスポリン系抗生物質,アミノグリコシド系抗生物質,ジ
電解質異常無顆粒球症,白血球減少
成人ではアゾセミド 30 mg がフロセミド20 mg に換算される
60 mg/ 日,1 日1回なし
p.240
アゾセミド
(つづき)ギタリス剤,糖質副腎皮質ホル
モン剤,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH),サリチル酸誘導体またはNSAID の投与を受けている患者,減塩療法時の患者, 小児など
アテノロール
本態性高血圧症,狭
心症,頻脈性不整脈小児の頻脈性不整脈
(洞頻脈,期外収縮)に対して0.5~2 mg/kg を1 日1 回,および20 歳未満で体重が成人と同等の者の頻脈性不整脈(洞頻脈,期外収縮)に対して25~100 mg を1 日1 回小児の高血圧症に対して0.5~1 mg/kg,最大2 mg/kg(100 mg/ 日まで)分1~ 2
禁忌:糖尿病性ケトアシドーシス,代謝性アシドーシスのある患者,高度または症状を有する徐脈,房室ブロック(II,III 度),洞房ブロック,洞不全症候群のある患者,心原性ショックのある患者,高血圧による右心不全のある患者,うっ血性心不全のある患者,低血圧症の患者,重度の末梢循環障害のある患者(壊疽など),未治療の褐色細胞腫の患者慎重投与:気管支喘息,気管支痙攣のおそれのある患者,うっ血性心不全のおそれのある患者,低血糖症,コントロール不十分な糖尿病,長期間絶食状態の患者,重篤な肝,腎機能障害のある患者,甲状腺中毒症の患者,重度でない末梢循環障害を有する患者(レイノー症候群,間欠性跛行症など),徐脈,房室ブロック(I 度)のある患者,異型狭心症の患者
徐脈,心不全,心胸郭比増大,房室ブロック,洞房ブロック,失神をともなう起立性低血圧,呼吸困難,気管支痙攣,喘鳴,血小板減少症,紫斑病
小児の頻脈性不整脈につき,保険適用(薬用量記載あり)
50 mg を1 日1 回(最大投与量100 mg)
なし
アドレナリンキット(アドレナリン注):各種疾患にともなう急性低血圧またはショック時の補助治療,心停止の補助治療
蘇生初期量:0.01 mg/kg 静注.最大投与量は静注1 mg, 3~5 分おきに繰り返す1136)新生児の蘇生には0.01~0.03 mg/kg静注1137)低心拍出状態:0.05 ~1.0 μg/kg/ 分で持続静注643)
禁忌:次の薬剤を投与中の患者:ブチロフェノン系・フェノチアジン系などの抗精神病薬投与中,α遮断薬投与中(ただし,アナフィラキシーショックの救急治療時はこの限りでない).イソプレナリン塩酸塩などのカテコラミン製剤投与中,アドレナリン作動薬投与中(ただし,蘇生などの緊急時はこの限りでない)
肺水腫,呼吸困難,心
停止小児の現行適応症につ
き保険適用急性低血圧または
ショック時の補助治療,心停止の補助治療:0.2~1 mg/回を皮下注射または筋肉内注射蘇生などの緊急時: 0.25 mg/回を超えない量をできるだけゆっくりと静注.必要があれば,5~
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.241
アドレナリン
(つづき)狭隅角や前房が浅いなどの眼圧
上昇素因のある患者(点眼・結膜下注射使用時)原則禁忌:交感神経作動薬に対し過敏反応を示す患者,動脈硬化症の患者,甲状腺機能亢進症の患者,糖尿病の患者,心室頻拍などの重症不整脈のある患者,精神神経症の患者,コカイン中毒の患者慎重投与:ハロタンなどのハロゲン含有吸入麻酔薬投与中の患者,高血圧の患者,肺気腫のある患者,心疾患のある患者,小児など
15 分ごとに繰り返す
アトロピン硫酸塩水
和物迷走神経性徐脈およ
び迷走神経性房室伝導障害,その他の徐脈および房室伝導障害
0.01~0.02 mg/kgを静注643).必要な時には5 分以上の間隔をあけて同量を追加
禁忌:緑内障の患者,麻痺性イレウスの患者慎重投与:うっ血性心不全のある患者,重篤な心疾患のある患者,潰瘍性大腸炎の患者,甲状腺機能亢進症の患者,高温環境にある患者
ショック・アナフィラ
キシー様症状小児の現行適応症に付
き保険適用経口(末):1.5
mg/ 日,3 回に分割*注射液(キット): 0.5 mg/回を皮下または筋注*
なし
アプリンジン塩酸塩他の抗不整脈薬が使用できないか,または無効の頻脈性不整脈
静注:1~1.5 mg/ kg/回を5 分以上かけて経口:1~1.5 mg/ kg/日,3 回に分割827)
禁忌:重篤な刺激伝導障害(完全房室ブロックなど)のある患者,重篤なうっ血性心不全のある患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人慎重投与:基礎心疾患(心筋梗塞,弁膜症,心筋症など)のある患者,著明な洞性徐脈の患者,重篤な肝・腎機能障害のある患者,うっ血性心不全の患者,パーキンソン症候群の患者,血清カリウム低下のある患者
催不整脈作用,無顆粒球症,間質性肺炎,肝機能障害,黄疸
錠剤:1 日40 mgから始め,効果が不十分な場合は60 mg まで増量し,2 ~3 回に分割*静注:かならず5% ブドウ糖液などで10 倍に希釈し,血圧ならびに心電図監視下に,希釈液として1 回1 . 5 ~2 m L / k g (1.5 ~2 mg/kg)を5~10 mL/分の速度で徐々に静注.注入総量は希釈液として1 回100 mL (100 mg )まで
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.242
アミオダロン塩酸塩(注射液・錠剤共通)生命に危険のある次の再発性不整脈で他の抗不整脈薬が無効か,または使用できない場合:心室細動,血行動態不安定な心室頻拍(錠剤)心不全(低心機能),肥大型心筋症にともなう心房細動(注射液)電気的除細動抵抗性の心室細動あるいは無脈性心室頻拍による心停止
注:初期投与量5 mg/kg (30 分以上かけて)または1 mg/kg/回を5 回まで(5 分以上の間隔で)827) 2.5 ~5 mg/kg を30~60 分以上かけて投与.3 回まで繰り返し投与してもよい.以後,2~10 mg/kg/24 時間で持続投与1136)経口:初期投与量10~20 mg/kg (分1~2)を1~2 週間,維持量 5~10 mg/kg 1~2 回に分割827) 10 mg/kg/24 時間を1 日1~2 回に分けて4~14 日間,その後5 mg/kg/24時間に減量し数週間投与.発作がなければ2.5 mg/kg/24 時間に減量し維持1136)
禁忌:錠剤:ヨウ素に対する過敏症のある患者,2 度以上の高度房室ブロックのある患者,重篤な洞不全症候群のある患者,リトナビル,サキナビル,サキナビルメシル酸塩,スパルフロキサシン,モキシフロキサシン塩酸塩,バルデナフィル塩酸塩水和物,シルデナフィルクエン酸塩,トレミフェンクエン酸塩,テラプレビルまたはフィンゴリモド塩酸塩を投与中の患者静注:洞性徐脈,洞房ブロック,房室伝導障害(高度な房室ブロック,二束または三束ブロック)または洞不全症候群があり,ペースメーカを使用していない患者,循環虚脱または重篤な低血圧のある患者,リトナビル,サキナビル,サキナビルメシル酸塩,スパルフロキサシン,モキシフロキサシン塩酸塩,バルデナフィル塩酸塩水和物,シルデナフィルクエン酸塩,トレミフェンクエン酸塩,テラプレビルまたはフィンゴリモド塩酸塩を投与中,重篤な呼吸不全のある患者,ただし心停止時はこの限りではない慎重投与:錠剤:間質性肺炎,肺胞炎,肺線維症のある患者および肺拡散能の低下した患者,ならびに肺に既往歴のある患者,軽度の刺激伝導障害(I 度房室ブロック,脚ブロック)のある患者, 心電図上QT 延長のみられる患者,重篤なうっ血性心不全のある患者,重篤な肝,腎機能低下のある患者,甲状腺機能障害またはその既往歴のある患者
既存の不整脈の重度の悪化,torsade de pointes(TdP),心不全,徐脈,心停止,完全房室ブロック,血圧低下,甲状腺機能亢進症,甲状腺炎,甲状腺機能低下症,劇症肝炎,肝硬変,肝障害,間質性肺炎,肺線維症,肺胞炎,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH),肺胞出血,急性呼吸窮迫症候群
「難治性かつ緊急を要する場合の,心房細動または心房粗動」は保険適用とされているが,小児の適応はない主として肝代謝酵素CYP3A4 で代謝されるので,リトナビル,サキナビル,サキナビルメシル酸塩など併用禁忌,あるいは併用注意とされている医薬品が多くある.施設・患者限定などの警告がある.添付文書を確認して使用のこと
経口:400 mg/日,分1~2 で開始*, 1~2 週間,維持量は200 mg/ 日,分1~2 *静注:1に対して初期急速投与;125 mg(2.5 mL)を5% ブドウ糖100 mL に加え,容量型の持続輸注ポンプを用い, 600 mL / 時(10 mL/分)の速度で10 分間投与する投与方法(48 時間まで)負荷投与:750 mg (15 mL)を5% ブドウ糖液500 mLに加え,容量型の持続注入ポンプを用い33 mL/ 時の速度で6 時間投与する維持投与:17 mL/時の速度で合計42時間投与する1 6 時間の負荷投与後,残液を33 mL/ 時から17 mL/時に投与速度を変更し,18時間投与する2750 mg(15 mL)を5% ブドウ糖液500 mL に加え,容量型の持続注入ポンプを用い17 mL/時の速度で24 時間投与する
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.243
アミオダロン塩酸塩
(つづき)
静注:低血圧および非代償性心筋症のある患者,心電図上QT延長のみられる患者,重篤な心不全のある患者,重篤な肝,腎機能低下のある患者,間質性肺炎,肺胞炎,肺線維症のある患者および肺拡散能の低下した患者
追加投与:血行動態不安定な心室頻拍あるいは心室細動が再発し,本剤投与が必要な場合には追加投与できる.1 回の追加投与は本剤125 mg (2.5 mL)を5% ブドウ糖液100 mLに加え,容量型の持続注入ポンプを用い,600 mL/ 時(10 mL/分)の速度で10 分間投与する継続投与(3 日以降):48 時間の投与終了後,本剤の継続投与が必要と判断された場合は,継続投与を行うことができる.750 mg(15 mL)を5%ブドウ糖液500 mLに加え,容量型の持続注入ポンプを用い17 mL/ 時の速度で投与する
アムホテリシンB
(リポ化) (感染性心内膜炎の
場合:ただし適応症に感染性心内膜炎なし.真菌血症はある)
2.5 ~5 mg/kg,1日1 回1121)禁忌:白血球を輸注中の患者
慎重投与:腎障害のある患者,大豆アレルギーのある患者
ショック・アナフィラキシー,投与時関連反応,腎不全・中毒性ネフロパシーなどの重篤な腎障害,低カリウム血症,肝不全,黄疸,高ビリルビン血症などの重篤な肝機能障害,横紋筋融解症,無顆粒球症・白血球減少・血
真菌感染症には2.5 mg/kg を1 日1 回1~2 時間以上かけて点滴静注,最大5 mg/kg/日
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.244
アムホテリシンB (リポ化) (つづき)
小板減少,心停止・心不全・不整脈(心室頻拍,心室細動,心房細動など),敗血症・肺炎などの重篤な感染症,痙攣・意識障害などの中枢神経症状,中毒性表皮壊死融解症(TEN)・皮膚粘膜眼症候群(S t e v e n s - Johnson 症候群),肺水腫
アムロジピンベシル
塩酸塩1高血圧症
2狭心症
16 歳以上,アムロジピンとして2.5 mg を1 日1 回経口投与.年齢,体重,症状で適宜増減する(1 日5 mg を超えない)
禁忌:妊婦または妊娠している可能性のある婦人,ジヒドロピリジン系化合物に対し過敏症の既往歴のある患者慎重投与:過度に血圧の低い患者,肝機能障害のある患者,重篤な腎機能障害のある患者
肝機能障害,黄疸,血小板減少,白血球減少,房室ブロック
長時間効果が持続し,
血管選択性が高い22.5 ~5 mg,1
日1 回投与,1 日1 回10 mg まで増量可
あり(1のみ,ただし6歳以上の小児)
アメジニウムメチル
硫酸塩1本態性低血圧,2
起立性低血圧,3透析施行時の血圧低下の改善
1,2に対しては, 20 mg/ 日,2 回に分割*,3に対しては,透析開始時に1回10 mg *
禁忌:高血圧症の患者,甲状腺機能亢進症の患者,褐色細胞腫のある患者,狭隅角緑内障の患者,残尿をともなう前立腺肥大のある患者慎重投与:重篤な心臓障害のある患者
動悸,頻脈,血圧変動,めまい,立ちくらみ,排尿障害
起立性調節障害に対し
ても保険適応1,2に対しては
20 mg/ 日 ,2 回に分服*,3に対しては透析開始時に1 回10 mg *
あり(12のみ)(ただし,乳児および幼児に対する安全性は確立されていない)
アモキシシリン水和
物(感染性心内膜炎の
予防について,ただし予防の適応はない)
50 mg/kg(最大2 g) 処置1 時間前に1 回1121)
禁忌:伝染性単核球症のある患者慎重投与:セフェム系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者,高度の腎障害のある患者,経口摂取の不良な患者,または非経口栄養の患者,全身状態の悪い患者,肝機能障害のある患者
ショック,アナフィラキシー様症状,TEN, Stevens-Johnson 症候群,多型紅斑,急性汎発性発疹性膿胞症,紅皮症,肝障害,急性腎不全,偽膜性大腸炎,出血性大腸炎,間質性肺炎,好酸球性肺炎,無顆粒球症,白血球減少,血小板減少
2 g 処置1 時間前に1 回1121)感染性心内膜
炎の予防投与に対する適応はない
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.245
アンピシリンナトリ
ウム(感染性心内膜炎の
治療について) 100 ~200 mg/kg/日を3~4 回に分割し生理食塩液またはブドウ糖注射液に溶解し静注し,点滴静注による場合は,輸液に溶解して用いる.なお,症状・病態に応じて適宜増減とするが,投与量の上限は400 mg/kg/日まで新生児には50~ 200 mg/kg/ 日を2 ~4 回に分割し生理食塩液またはブドウ糖注射液に溶解し静注し,点滴静注による場合は,輸液に溶解して用いる小児感染性心内膜炎:アンピシリン: 1 回50 mg/kg,1日4~6 回感染性心内膜炎予防:経口摂取が困難なとき,50 mg/kg (最大2 g)1121)
禁忌:伝染性単核症のある患者原則禁忌:本剤の成分またはペニシリン系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者慎重投与:セフェム系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者,本人または両親,兄弟に気管支喘息,発疹,蕁麻疹などのアレルギー症状を起こしやすい体質を有する患者,高度の腎障害のある患者,経口摂取の不良な患者,または非経口栄養の患者,全身状態の悪い患者
ショック,アナフィラキシーStevens-Johnson 症候群,中毒性表皮壊死症(Lyell 症候群),無顆粒球症,溶血性貧血急性腎不全などの重篤な腎障害偽膜性大腸炎などの血便をともなう重篤な大腸炎
8~12 g/ 日,4~ 6 回に分割または持続投与1121)
あり
アンブリセンタン肺動脈性肺高血圧症体重<20 kg:開始量2.5 mg,維持量5 mg体重20~40 kg:開始量2.5~5 mg,維持量5~10 mg体重>40 kg:開始量5 mg,維持量5 ~10 mg でいずれも1 日1 回
禁忌:重度の肝障害のある患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人慎重投与:投与開始前のアミノトランスフェラーゼ(AST, ALT)のいずれかが基準値上限の3 倍を超える患者,中等度の肝障害のある患者,重度の貧血の患者,重度の腎障害のある患者,間質性肺炎の患者
貧血,体液貯留,心不
全,間質性肺炎5 mg を1 日1 回,症状に応じて1 回10 mg を超えない範囲で適宜増量
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.246
イソプレナリン塩酸
塩注射液:アダムス・
ストークス症候群(徐脈型)の発作時(高度の徐脈,心停止を含む),あるいは発作反復時,心筋梗塞や細菌内毒素などによる急性心不全,手術後の低心拍出量症候群,気管支喘息の重症発作時
0.01~1 μg/kg/ 分で静注643) 0.01~0.5 μg/kg/分で静注1138)
禁忌:特発性肥大性大動脈弁下狭窄症の患者,ジギタリス中毒の患者,カテコラミン製剤,エフェドリン,メチルエフェドリン,メチルエフェドリンサッカリネート,オルシプレナリン,フェノテロール,ドロキシドパとの併用は避ける慎重投与:冠動脈疾患の患者,甲状腺機能亢進症の患者,高血圧の患者,うっ血性心不全の患者,糖尿病の患者
重篤な血清カリウム値の低下,心電図でST上昇または低下をともなう心筋虚血(異型狭心症,非Q 波梗塞など)
小児の現行適応症につ
き保険適用点滴静注:0.2~1
mg を等張溶液200 ~500 mL に溶解し,心拍数または心電図をモニターしながら注入.徐脈型アダムス・ストークス症候群には心拍数を原則として毎分50~60回に保つ.ショックないし低心拍出量症候群には,心拍数を原則として毎分110 回前後に保つようにする緊急時:急速な効果発現の必要時には0.2 mg を等張溶液20 mL に溶解し,その2~20 mL を静注(徐々に),筋注または皮下注.心臓がまさに停止しようとしているときには0.02~0.2 mg *を心内に与えてもよい
なし
一酸化窒素1 新生児の肺高血圧をともなう低酸素性呼吸不全の改善2 心臓手術の周術期における肺高血圧の改善
1 20 ppm で開始し,開始後4 時間は20 ppm を維持する.酸素化の改善にともない5 ppm 程度の有効最低量で維持する.出生後7 日以内に吸入を開始し,通常,吸入期間は4 日間までとする
禁忌:右- 左シャントに完全に依存している心疾患を有する患者
高メトヘモグロビン血症,血小板減少症,徐脈,心停止,重篤なビリルビン血症,気胸
人工呼吸器回路などに
接続して使用する2 吸入濃度20
ppm で吸入を開始し,十分な臨床効果が得られない場合は40 ppm まで増量することができる
あり
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.247
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)一酸化窒素
(つづき) 2 吸入濃度10 ppm
で吸入を開始し,十分な臨床効果が得られない場合は20 ppm まで増量することができる.吸入期間は7日間程度までとする.離脱の際には,血行動態および酸素化の改善に従い,5 ppm まで漸減する.その後さらに漸減し,安全に離脱できる状態になるまで吸入を継続する
イブプロフェンLリ
シン未熟児動脈管開存症
で保存療法(水分制限,利尿薬投与など)が無効の場合
初回は10 mg/kg, 2 回目および3 回目は5 mg/kg を15分以上かけて24 時間間隔で静脈内投与1投与時間の上限の目安は1 時間,2無尿または著しい乏尿(尿量:0.6 mL/時/kg 未満)が明らかな場合は2 回目または3 回目の投与を行わないこと.3初回または2 回目の投与後,動脈管の閉鎖が得られた場合は,再開通の可能性と副作用のリスクを慎重に検討したうえで投与継続の要否を検討する
禁忌:動脈管依存性の先天性心疾患(肺動脈閉鎖,ファロー四徴症,大動脈縮窄症など)のある患者,重篤な腎機能障害のある患者,高度黄疸のある患者,消化管出血のある患者,壊死性腸炎またはその疑いのある患者,頭蓋内出血のある患者,血小板減少症の患者,血液凝固障害のある患者
急性腎障害,肺高血圧症,頭蓋内出血,消化管穿孔,壊死性腸炎,イレウス,血小板減少,胃腸出血,出血,肺出血
ステロイド製剤との併用は消化管穿孔のリスクを高める
あり
p.248
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)イロプロスト肺動脈性肺高血圧症1 回1.25 または2.5 μg で開始し1 回5 μg まで増量.1 日6~9 回吸入
禁忌:出血している,またはそのリスクの高い患者,肺静脈閉塞性疾患を有する肺高血圧症の患者,重度の冠動脈疾患または不安定狭心症の患者,6ヵ月以内に心筋梗塞を発症した患者,医師の管理下にない非代償性心不全のある患者,重度の不整脈のある患者,3ヵ月以内に脳血管障害(一過性脳虚血発作,脳卒中など)を発症した患者,肺高血圧症に関連しない心機能障害をともなう先天性または後天性心臓弁疾患のある患者慎重投与:気道疾患(急性気管支炎,急性肺感染症,慢性閉塞性肺疾患または重度の気管支喘息など)を合併している患者,低血圧の患者,肝障害のある患者,透析を受けている腎不全患者または腎障害のある患者(クレアチニン・クリアランス30 mL/分以下)
出血,気管支痙攣,過度の血圧低下,失神,血小板減少症,頻脈
イロプロストとして,初回は1 回2.5 μ g をネブライザを用いて吸入し,忍容性を確認したうえで2 回目以降は1 回5.0 μg に増量し,1 日6~9回吸入する.1 回5.0 μg に忍容性がない場合には,1回2.5 μg に減量する
なし
インドメタシン保存療法(水分制限,利尿薬投与など)が無効の未熟児動脈管開存症
患児の生後時間に応じ次記の用量を12 ~24 時間間隔で,3回静脈内投与する生後48 時間未満: 1 回目0.2 mg/kg, 2 回目0.1 mg/kg, 3 回目0.1 mg/kg生後2~7 日未満: 1 回目0.2 mg/kg, 2 回目0.2 mg/kg, 3 回目0.2 mg/kg生後7 日以上:1 回目0.2 mg/kg,2 回目0.25 mg/kg,3回目0.25 mg/kg追加投与:動脈管が
禁忌:動脈管依存性の先天性心疾患(肺動脈閉鎖,ファロー四徴症,大動脈縮窄症など)のある患児,重篤な腎機能障害のある患児,高度の黄疸のある患児,消化管出血のある患児,頭蓋内出血のある患児,血小板減少症の患児,血液凝固障害のある患児,壊死性腸炎またはその疑いのある患児
ショック,胃腸出血,下血,小腸および大腸などにおける消化管穿孔,イレウス,壊死性腸炎,急性腎不全,無尿,尿毒症,血尿,播種性血管内凝固症候群などの凝固障害,頭蓋内出血,肺出血,肺高血圧,低血糖
ステロイド製剤との併用は消化管穿孔のリスクを高める投与後に無尿または著明な乏尿(尿量:0.6 mL/kg/時未満)があらわれたら,腎機能が正常化するまで次の投与は行わない1 あるいは2 回目の投与後動脈管の閉鎖が得られた場合は,以後の投与は行わずに経過を観察しても差し支えない投与終了後48 時間以上経過して,動脈管が
あり
p.249
インドメタシン
(つづき)再開した場合,前記
の用量を12~24 時間間隔で1~3 回追加投与できる
閉鎖している場合は,追加投与の必要はない
エナラプリルマレイ
ン酸塩1 慢性心不全(軽症
~中等症):ジギタリス製剤,利尿薬などの基礎治療剤を投与しても十分な効果が認められない場合2 本態性高血圧症,腎性高血圧症,腎血管性高血圧症,悪性高血圧
1 0.1~0.4 mg/kg/日,分1~2,成人量(2.5 ~5 mg/ 日,10~40 mg/日まで増量)を超えない643) 2 生後1ヵ月以上の小児では 0.08 mg/kg,1 日1 回*. 1 日10 mg を超えない
禁忌:血管浮腫の既往歴のある患者,デキストラン硫酸固定化セルロース,トリプトファン固定化ポリビニルアルコールまたはポリエチレンテレフタレートを用いた吸着器によるアフェレーシス施行中の患者,アクリロニトリルメタリルスルホン酸ナトリウム膜を用いた血液透析施行中の患者,アリスキレンを投与中の糖尿病患者,妊娠または妊娠の可能性がある婦人慎重投与:両側性腎動脈障害のある患者または片腎で腎動脈狭窄のある患者,高カリウム血症の患者,重篤な腎機能障害のある患者,脳血管障害のある患者
ショック,心筋梗塞,狭心症,急性腎不全,汎血球減少症,無顆粒球症,膵炎,間質性肺炎,剥脱性皮膚炎, L y e l l 症候群, Stevens-Johnson 症候群,天疱瘡,錯乱,肝機能障害,肝不全,高カリウム血症, SIADH
小児の慢性心不全につき保険適用ACE 阻害薬,カリウム保持性利尿薬と併用する場合,高カリウム血症と腎機能障害に注意する
5~10 mg,1 日1回*
あり(2のみ) 1は保険適用
エプレレノン1 高血圧症2 基礎治療を受けている慢性心不全患者
小児に対する投与量の参考となるデータに乏しい
禁忌:高カリウム血症の患者もしくは本剤投与開始時に血清カリウム値が5.0 mEq/L を超えている患者,微量アルブミン尿または蛋白尿をともなう糖尿病患者,中等度以上の重度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス50 mL/分未満1,30 mL/分未満12)のある患者,重度の肝機能障害のある患者(Child- Pugh 分類クラスC の肝硬変に相当)のある患者,カリウム製剤,カリウム保持性利尿薬を投与中の患者,イトラコナゾール,リトナビルおよびネルフィナビルを投与中の患者慎重投与:軽度の腎機能障害のある患者,軽度~中等度の肝機能障害のある患者
高カリウム血症1 50 mg/日,1 日1 回,必要であれば100 mg/日,1 日1 回へ増量2 25 mg/日,1 日1 回,必要であれば投与開始から4 週間以降を目安に50 mg/日,1 日1 回へ増量.中等度の腎障害を有する患者には25 mg/日,隔日で開始し最大25 mg/日,1 日1 回まで
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.250
エベロリムス下記の臓器移植における拒絶反応の抑制心移植,腎移植,肝移植
血中濃度トラフ値をモニタリングしながら,0.5 ~1.5 mg/ m 2/ 回,1 日2 回経口投与するカルシニューリン阻害薬(CNI)併用時に推奨される血中トラフ濃度は 3.0~ 8.0 ng/mL である
禁忌:本剤の成分,シロリムスまたはシロリムス誘導体に対し過敏症の既往歴のある患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人慎重投与:肝機能障害のある患者,腎機能障害のある患者,感染症を合併している患者
悪性腫瘍,腎障害,移植腎血栓症,感染症,進行性多巣性白質脳症,BK ウイルス腎症,血栓性微小血管障害,溶血性尿毒症症候群,血栓性血小板減少性紫斑病,間質性肺疾患(間質性肺炎,肺臓炎),肺胞蛋白症,心嚢液貯留,高血糖,糖尿病の発症または増悪,肺塞栓症,深部静脈血栓症,急性呼吸窮迫症候群,高脂血症,白血球減少症
CYP3A4 またはPgp に影響を及ぼす薬剤により,本剤の血中濃度が上昇または低下する可能性があるので併用に注意する
心移植の場合通常,エベロリムスとして1.5 mg を,1日2 回に分けて経口投与する.なお,開始用量は1 日量として3 mg までを用いることができる*.患者の状態やトラフ濃度によって適宜増減する
小児への使用経験が少ない
エポプロステノール
ナトリウム肺動脈性肺高血圧症(エポプロステノー
ル「ACT」® の用法・用量)0.5~2 ng/ kg/分で開始し,十分な観察のもと,1 ~4 週の間隔で0.5 ~2 ng/kg/ 分ずつ増量し,20~40 ng/kg/分を目安として最適投与速度を決定する.その後は最適速度で維持し, 0.5~2 ng/kg/分ずつ増減し,適宜調整する
禁忌:右心不全の急性増悪時の患者,重篤な左心機能障害のある患者,重篤な低血圧の患者,用量設定時期(投与開始時)に肺水腫が増悪した患者慎重投与:高度に全肺血管抵抗が上昇している患者,低血圧の患者,小児など
過度の血圧低下や過度の徐脈に引き続き意識喪失などのショック状態,尿量減少,肺水腫,甲状腺機能亢進症
エポプロステノール「ACT」® のみ1 歳以上で小児適応あり
1 分間あたり2 ng/ kg の投与速度で精密持続.点滴装置(シリンジポンプまたは輸液ポンプ)により,持続静脈内投与を開始する.患者の状態(症状,血圧,心拍数,血行動態など)を十分観察しながら, 15 分以上の間隔をおいて1~2 ng/ kg/分ずつ増量し, 10 ng/kg/ 分までの範囲で最適投与速度を決定する.最適投与速度の決定にあたっては,増量時における潮紅(軽微なものを除く),頭痛,嘔気などの副作用の発現が重要な指標と
エポプロステノール「ACT」®のみ1 歳以上で小児適応あり
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.251
エポプロステノールナトリウム(つづき)
なる.このような症状が軽度でも認められた場合にはその後の増量を中止し, それらの症状が消失しない場合には15 分以上の間隔をおいて2 ng/kg/ 分ずつ減量すること.その後は最適投与速度で維持し,定期的に患者を観察し症状に応じて投与速度を適宜調節するが,その場合も患者の状態(症状,血圧,心拍数,血行動態など)を観察しながら,15 分以上の間隔をおいて1~ 2 ng/kg/分ずつ増減する
オルプリノン塩酸塩
水和物他の薬剤を投与して
も効果が不十分な急性心不全
10 μg/kg を5 分間かけて緩徐に静注,引き続き0.1~0.3 μ g/kg/分で点滴静注.病態に応じて適宜増減,0.4μg/kg/分まで増量可能(文献643 では当初から維持量の点滴静注を推奨し,ローディングはしてもよいと記載している)
禁忌:閉塞性肥大型心筋症の患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人慎重投与:重篤な頻脈性不整脈のある患者,重篤な冠動脈疾患のある患者,腎機能障害のある患者,著しく血圧の低い患者
心室細動,心室頻拍(TdP),低血圧,腎機能障害
小児の現行適応症に対し保険適用腎不全時は投与量を減量する.添付文書にある初期静脈内投与は推奨できない.未熟児では動脈管開存作用に注意
10 μg/kg を5 分間かけて緩徐に静注,引き続き0.1 ~0.3μg/kg/分で点滴静注.病態に応じて適宜増減, 0.4μg/kg/分まで増量可能
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.252
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)カプトプリル
本態性高血圧症,腎
性高血圧症,腎血管性高血圧症,悪性高血圧症
開始量:0.3~0.5 mg / kg / 回,2 ~3回に分割最大投与量:6 mg/kg/日(150 mg/日)45, 52)
禁忌:血管浮腫の既往歴のある患者,デキストラン硫酸固定化セルロース,トリプトファン固定化ポリビニルアルコールまたはポリエチレンテレフタレートを用いた吸着器によるアフェレーシス施行中の患者,アクリロニトリルメタリルスルホン酸ナトリウム膜を用いた血液透析施行中の患者,アリスキレンを投与中の糖尿病患者,妊婦または妊娠の可能性のある婦人慎重投与:両側性腎動脈障害のある患者または片腎で腎動脈狭窄のある患者,高カリウム血症の患者,重篤な腎機能障害のある患者,造血障害のある患者,全身性エリテマトーデス(SLE)などの免疫異常のある患者,脳血管障害のある患者,重篤な肝障害のある患者,消化性潰瘍またはその既往歴のある患者,光線過敏症の既往歴のある患者
血管浮腫,汎血球減少,無顆粒球症,急性腎不全,ネフローゼ症候群,高カリウム血症,天疱瘡様症状,狭心症,心筋梗塞,うっ血性心不全,心停止,アナフィラキシー, Stevens-Johnson 症候群,剥脱性皮膚炎,錯乱,膵炎
小児の高血圧症につき
保険適用12.5~25 mg/ 回, 1 日3 回.最大投与1 日150 mg (腎障害を有する高血圧患者では適宜減量することが望ましい)
なし
カルテオロール塩酸
塩1 心臓神経症(錠,
細粒) 2 不整脈(錠,細粒) 3 狭心症(錠,細粒) 4 本態性高血圧症(軽症~中等症) (錠剤) 5 ファロー四徴症にともなうチアノーゼ発作(小児用細粒のみ)
5に対し,乳幼児には0.1~0.15 g/kg/ kg/ 日(カルテオロール塩酸塩として0.2 ~0.3 mg/kg/日)を,朝・夕の2回に分割*
禁忌:気管支喘息,気管支痙攣のおそれのある患者,糖尿病性ケトアシドーシス,代謝性アシドーシスのある患者,高度の徐脈(著しい洞性徐脈),房室ブロック(II,III 度),洞房ブロック,洞不全症候群のある患者,心原性ショックの患者,肺高血圧による右心不全のある患者,うっ血性心不全のある患者,未治療の褐色細胞腫の患者慎重投与:甲状腺中毒症,特発性低血糖症,コントロール不十分な糖尿病,長期間絶食状態の患者(手術前後など),重篤な肝,腎機能障害,末梢循環障害(レイノー症候群,間欠性跛行
重大な副作用:低血糖,房室ブロック,洞不全症候群,洞房ブロック,洞停止,うっ血性心不全(またはその悪化),冠攣縮性狭心症,失神
β1 非選択性,内因性交感神経刺激作用(+).低血糖:小児で意識障害,痙攣があらわれることがある.十分な観察,適切な処置を行う(糖分の摂取,ブドウ糖の静注など).保護者に対し患児の状態(顔面蒼白,多量の発汗,不機嫌,意識状態など)を十分観察するよう注意を与えること
1~41 日10~ 15 mg より投与をはじめ,効果が不十分な場合には30 mg まで漸増し,2 ~3 回に分割*
あり(5のみ,ただし低出生体重児および新生児を除く)
p.253
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)カルテオロール塩酸
塩 (つづき)症など),徐脈,房室ブロック
(I 度),異型狭心症
カルベジロール(規格により適応症が異なる.4は1.25,2.5,10 mg錠) 1本態性高血圧症(軽症~中等症) 2 腎実質性高血圧症3 狭心症次の状態で,ACE阻害薬/ARB,利尿薬,ジギタリス製剤などの基礎治療を受けている患者4 虚血性心疾患または拡張型心筋症に基づく慢性心不全5 頻脈性心房細動
0.05 mg/kg/日(最大6.25 mg),2 回に分割から開始.2週間ごとに徐々に増量し,0.35 ~0.4 mg/kg/日,2 回に分割で維持* (文献643 では0.05 mg/kg/ 回,1 日2回から開始し,0.1 ~0.4(0.5) mg / kg/ 回,1 日2 回までゆっくり増量.成人の最大量を超えないのが原則であるが,欧米での成人目標量は25~50 mg/回, 1 日2 回)
禁忌:糖尿病性ケトアシドーシス,代謝性アシドーシスのある患者,気管支喘息,気管支痙攣のおそれのある患者,高度の徐脈(著しい洞性徐脈),房室ブロック(II,III 度),洞房ブロックのある患者,心原性ショックの患者,強心薬または血管拡張薬を静脈内投与する必要のある心不全患者,肺高血圧による右心不全のある患者,非代償性の心不全患者,未治療の褐色細胞腫の患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人慎重投与:特発性低血糖症,コントロール不十分な糖尿病,絶食状態,栄養状態が不良な患者,糖尿病を合併した慢性心不全,重篤な肝障害のある患者,重篤な腎機能障害のある患者,末梢循環障害のある患者(レイノー症候群,間欠性跛行症など),徐脈のある患者,房室ブロック(I度)のある患者,過度に血圧の低い患者
重篤な副作用:高度な徐脈,ショック,完全房室ブロック,心不全,心停止,肝機能障害,黄疸,急性腎不全,TEN,Stevens- Johnson 症候群,アナフィラキシーおもな副作用はめまい,頭痛,徐脈,低血圧,悪心など
小児の4に対し小児保険適用.重症心不全を有する幼児および小児において,本剤の投与により重篤な低血糖症状があらわれ,死亡に至った例も報告されている. β1 非選択性,内因性交感神経刺激作用(-)
1210~20 mg/回,1 日 1 回* 320 mg/ 回,1 日1 回* 4 1.25 mg/ 回,1日2 回* 食後経口投与から開始.1.25 mg/回,1 日2 回に忍容性がある場合には,1 週間以上の間隔で忍容性をみながら段階的に増量し,忍容性がない場合は減量する. 用量の増減はかならず段階的に行い,1 回投与量は1.25 mg, 2.5 mg,5 mg,10 mg のいずれかとし,いずれの用量においても,1 日2 回食後経口投与とする.通常,維持量と して2.5~10 mg/ 回を1 日2 回*食後経口投与5 5 mg, 1 日1 回から開始,効果が不十分な場合には10 mg,1日 1 回,2 0 mg,1 日1 回へ段階的に増量す
なし
p.254
カルベジロール
(つづき)る*.最大投与
量は20 mg を1日1 回 まで
カルペリチド急性心不全(慢性心不全の急性増悪を含む)
0.025 ~0.05 μ g/ kg/分より開始,0.1 μg/kg/分にて継続(最大0.2μg/kg/分まで増量可)643)
禁忌:重篤な低血圧,または心原性ショックのある患者,右室梗塞のある患者,脱水症状の患者慎重投与:低血圧の患者,右房圧が正常域にある患者,利尿薬が投与されている患者,脱水傾向にある患者,ネフローゼ症候群の患者,ヘマトクリット値が著しく高い患者,重篤な肝障害,腎障害を有する患者,PDE5 阻害薬(シルデナフィルクエン酸塩など)を投与中の患者
血圧低下,過剰利尿により電解質異常,心室不整脈,心室細動,赤血球増加,血小板増加,重篤な肝機能障害,重篤な血小板減少
投与初期の血圧低下に
注意日本薬局方注射用
水5 mL に溶解し,必要に応じて日本薬局方生理食塩液または5% ブドウ糖注射液で希釈し,カルペリチドとして1 分間あたり0.1μg/kg を持続静脈内投与する.なお, 投与量は血行動態をモニターしながら適宜調節するが,患者の病態に応じて1 分間あたり0.2 μg/kgまで増量できる
なし
カンデサルタンシレキセチル
1 高血圧症2 腎実質性高血圧症3 次の状態で,ACE阻害薬の投与が適切でない場合:慢性心不全(軽症~中等症)(OD 錠) (12 mg 錠,OD 12 mg 錠を除く)
1 歳以上6 歳未満: 0.05 ~0.3 mg/kgを1 日1 回6 歳以上: 2~8 mgを1 日1 回,必要に応じ12 mg まで増量腎障害をともなう場合には,低用量から開始し,必要に応じ8 mg まで増量643)
禁忌:妊婦または妊娠している可能性のある婦人,アリスキレンを投与中の糖尿病患者慎重投与:両側性腎動脈狭窄のある患者または片腎で腎動脈狭窄のある患者,高カリウム血症の患者,腎障害のある患者,肝障害のある患者
血管浮腫,ショック,失神,意識消失,無顆粒球症,急性腎不全,高カリウム血症,肝機能障害,黄疸,横紋筋融解症,間質性肺炎,低血糖
1 4~8 mg,1 日1 回,最大投与量 12 mg 2 2 mg から開始し最大投与量 8 mg 3 4 mg から開始し最大投与量 8 mg
あり(1のみ)
カンレノ酸カリウム経口抗アルドステロン薬の服用困難な次の症状(高アルドステロン症によると考えられる)の改善:原発性アルドステロン症,心性浮腫
小児に対する投与量の参考となるデータに乏しい
禁忌:無尿または腎不全の患者,腎機能の進行性悪化状態の患者,高カリウム血症の患者,エプレレノンまたはタクロリムスを投与中の患者,アジソン病の患者,てんかんなどの痙攣性素因のある患者
ショック,電解質異常(高カリウム血症,低ナトリウム血症,高ナトリウム血症,低クロール血症,高クロール血症など),不整脈など
小児の現行適応症に対
し保険適用1 回100 ~200 mg を1 日1~2回,ブドウ糖注射液,生理食塩液または注射用水10~ 20 mLに溶解して,ゆっくりと静脈内
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.255
カンレノ酸カリウム
(つづき) (うっ血性心不全),
肝性浮腫,開心術および回復術時における水分・電解質代謝異常
慎重投与:重篤な冠硬化症または脳動脈硬化症のある患者,肝機能障害のある患者,腎機能障害のある患者,減塩療法時
注射する*.なお, 1 日投与量として600 mg を超えない.また,投与期間は原則として2週間を超えない
クラリスロマイシン(感染性心内膜炎の予防について;ただし予防の適応はない)
15 mg/kg(最大400 mg) 処置1 時間前に1 回1121)
禁忌:ピモジド,エルゴタミン含有製剤,タダラフィル(アドシルカ),アスナプレビル,スポレキサント,ロミタピドメシル酸塩チカグレロル,イブルチニブ,バニプレビルを投与中の患者,肝臓または腎臓に障害のある患者で,コルヒチンを投与中の患者慎重投与:他のマクロライド系薬剤に対して過敏症の既往歴のある患者,肝機能障害のある患者,腎機能障害のある患者,心疾患のある患者,低カリウム血症のある患者
ショック,アナフィラキシー,QT 延長,心室頻拍(TdP を含む),心室細動,劇症肝炎,肝機能障害,黄疸,血小板減少,汎血球減少,溶血性貧血,白血球減少,無顆粒球症, T E N ,S t e v e n s - Johnson 症候群,多型紅斑,PIE 症候群,間質性肺炎,偽膜性大腸炎,出血性大腸炎,横紋筋融解症,痙攣,急性腎不全,尿細管間質性腎炎,アレルギー性紫斑病,薬剤性過敏症症候群
400 mg 処置1 時間前に1 回1121)感染性心内膜
炎の予防投与に対する適応はない
クロピドグレル硫酸
塩1経皮的冠動脈形成
術が適用される次の虚血性心疾患:急性冠症候群(不安定狭心症,非ST 上昇型心筋梗塞,ST 上昇型心筋梗塞),安定狭心症,陳旧性心筋梗塞,2虚血性脳血管障害(心原性脳塞栓症を除く)後の再発抑制,3末梢動脈疾患における血栓・塞栓形成の抑制
1.0 mg/kg/ 日,1日1 回(最大投与量75 mg/日) 0~24ヵ月の乳幼児は0.2 mg/kg/ 日, 1 日1 回
禁忌:出血している患者(血友病,頭蓋内出血,消化管出血,尿路出血,喀血,硝子体出血など),セレキシパグを投与中の患者慎重投与:出血傾向およびその素因のある患者,重篤な肝障害のある患者,重篤な腎障害のある患者,高血圧が持続している患者
出血,消化性潰瘍,肝障害・黄疸,間質性肺炎,好酸球性肺炎,血栓性血小板減少性紫斑病,血小板減少・無顆粒球症・再生不良性貧血を含む汎血球減少症,TEN,Stevens- Johnson 症候群,多形滲出性紅斑,急性汎発性発疹症,薬剤性過敏症症候群,後天性血友病,横紋筋融解症
1に対し,投与開始日に300 mg を1 日1 回経口投与した後,維持量として75 mg を1 日1 回経口投与
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.256
ゲンタマイシン硫酸
塩(感染性心内膜炎の
治療について) 2.0 ~2.5 mg/kg/回を 1 日2~3 回筋注または点滴静注*.点滴静注は30 分~ 2 時間かけて注入あるいは1~2.5 mg/kg/ 回,1 日3回1121)
禁忌:本剤の成分ならびに他のアミノグリコシド系抗生物質およびバシトラシンに対し過敏症の既往歴のある患者原則禁忌:本人またはその血族がアミノグリコシド系抗生物質による難聴またはその他の難聴のある患者慎重投与:腎障害のある患者,肝障害のある患者,重症筋無力症の患者,低出生体重児,新生児
ショック,急性腎不
全,第8 脳神経障害治療薬物モニタリング
(TDM)が望ましい3 mg/kg/ 日 を3回に分割して筋注または点滴静注.増量する場合は, 5 mg/kg/日を限度とし,3~4 回に分割投与
あり(ただし適応症に感染性心内膜炎なし.敗血症はあり)
シクロスポリン1 臓器移植における拒絶反応の抑制(腎,肝,心,肺,膵,小腸) 2 骨髄移植における拒絶反応および移植片対宿主病の抑制3 ベーチェット病(眼症状のある場合),およびその他の非感染性ぶどう膜炎(既存治療で効果不十分であり,視力低下のおそれのある活動性の中間部または後部の非感染性ぶどう膜炎に限る) 4 尋常性乾癬(皮疹が全身の30%以上に及ぶもの,あるいは難治性の場合),膿疱性乾癬,乾癬性紅皮症,関節症性乾癬5再生不良性貧血,赤芽球癆
1 心移植術後,目標血中濃度トラフ値は,移植後3ヵ月以内は200~ 350 ng/mL,6ヵ月以内は150~ 250 ng/mL,3~ 5 年以内は100~ 200 ng/mL,それ以降は80~ 100 ng/mL を目安とする
禁忌:タクロリムス(外用剤を除く),ピタバスタチン,ロスバスタチン,ボセンタン,アリスキレン,アスナプレビル,バニプレビル,グラゾプレビル,ペマフィブラートを投与中の患者,肝臓または腎臓に障害のある患者で,コルヒチンを服用中の患者併用禁忌:生ワクチン原則禁忌:神経ベーチェット病の患者
腎障害,高血圧,多毛,歯肉肥厚,高カリウム血症,低マグネシウム血症,高脂血症,振戦,脳症,感染症,肝障害,膵炎,リンパ腫などの悪性腫瘍
腎障害の副作用が相互に増強される可能性のある薬剤,本剤の血中濃度を上昇または低下させる薬剤との併用に注意するアトピー性皮膚炎については小児を対象とした臨床試験が実施されていないので,治療上の有益性が危険性を上回ると判断されない限り投与しない.その他の適応疾患については,低出生体重児,新生児または乳児に対する安全性は確立していないので,適応患者の選択を慎重に行い,投与する際には患者の状態を十分に観察する
心移植の場合通常,移植直後尿量が確保されてからシクロスポリンとして2~7.5 mg/kg/ 回を1 日2 回(少量から漸増)心移植の場合:前日から10~15 mg/kg/日,2 回に分割,以後徐々に減量し維持量は2 ~6 mg/kg/日*
あり(6のみ)1はなし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.257
シクロスポリン
(つづき) 6ネフローゼ症候群
(頻回再発型あるいはステロイドに抵抗性を示す場合) 7 全身型重症筋無力症(胸腺摘出後の治療において,ステロイド剤の投与が効果不十分,または副作用により困難な場合) 8 アトピー性皮膚炎(既存治療で十分な効果が得られない患者) 9 川崎病の急性期(適応外)ジゴキシン上室不整脈(心房細動・粗動による頻脈,発作性上室性頻拍)うっ血性心不全手術,急性熱性疾患,出産,ショック,急性中毒における心不全および各種頻脈の予防と治療
注射液:急速飽和療法新生児,未熟児: 0.03 ~0.05 mg / kg/日を3~4 回に分割,静注または筋注2 歳以下:0.04~ 0.06 mg/kg/日を3 ~4 回に分割,静注または筋注2 歳以上:0.02~ 0.04 mg/kg/日を3 ~4 回に分割,静注または筋注維持療法:飽和量の1/10~1/5 量を静注または筋注経口薬:急速飽和療法:2 歳以下:0.06 ~0.08 mg/kg/ 日を3~4 回に分服, 2 歳以上:0.04~
禁忌:房室ブロック,洞房ブロックのある患者,ジギタリス中毒の患者,閉塞性心筋疾患(特発性肥大性大動脈弁下狭窄など)のある患者慎重投与:急性心筋梗塞のある患者,心室期外収縮のある患者,心膜炎,肺性心のある患者, WPW 症候群のある患者,電解質異常のある患者,腎疾患のある患者,血液透析を受けている患者,甲状腺機能低下症のある患者,甲状腺機能亢進症のある患者
ジギタリス中毒:心症状では高度の徐脈,二段脈,多源性心室期外収縮,発作性心房頻拍,重篤な房室ブロック,心室頻拍症,心以外では非閉塞性腸間膜虚血,悪心,嘔吐,めまい,色覚異常,筋力低下,食思不振,倦怠感などがある.このような症状がみられたときは血中濃度と血清電解質を測定し,特に低カリウム血症の補正を行う.一般に中毒は血中濃度2.0 ng/mL 以上で起きるが,小児(特に新生児)では中毒発現濃度が成人より高めである
有効血中濃度:0.5~ 2.0 ng/mL.ジゴキシンは治療域が狭いため血中濃度のモニターが重要である.急速飽和が必要でないときは,はじめから維持量を投与する方が安全性は高い
静注: 急速飽和0.25 ~0.5 mg を4 時間ごとに静注維持 0.25 mg/ 日静注内服 : 急速飽和 初回0.5 ~1.0 mg,以後0.5 mg を6 ~8 時間ごとに経口投与維持 0.25 ~0.5 mg/日
あり
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.258
ジゴキシン
(つづき) 0.06 mg/kg/日を3 ~4 回に分服維持療法: 飽和量の1/5~1/3ジソピラミド徐放錠:頻脈性不整脈の状態で他の抗不整脈薬が使用できないか,または無効の場合カプセル剤:以下の状態で他の抗不整脈薬が使用できないか,または無効の場合(期外収縮,発作性上室頻脈,心房細動)注射液:緊急治療を要する以下の不整脈(期外収縮[上室,心室],発作性頻拍[上室,心室],発作性心房細・粗動)
静注:1~2 mg/kg (最大100 mg)を5~20 分かけて経口:5~10 mg/kg/日,3 回に分割827) 20~30 mg/kg/ 日(乳児),10~20 mg/kg/日(小児), 5 ~15 mg/kg/ 日(ティーンエイジャー)6 時間ごと(CR は12 時間ごと) 1139)
禁忌:高度の房室ブロック・洞房ブロックのある患者,重篤なうっ血性心不全のある患者,透析患者を含む重篤な腎機能障害のある患者(徐放錠のみ),高度な肝機能障害のある患者(徐放錠のみ),スパルフロキサシン,モキシフロキサシン塩酸塩,トレミフェンクエン酸塩,バルデナフィル塩酸塩水和物,アミオダロン塩酸塩,またはフィンゴリモド塩酸塩を投与中の患者,緑内障,尿貯留傾向のある患者慎重投与:基礎心疾患(心筋梗塞,弁膜症,心筋症など)のある患者,刺激伝導障害のある患者,治療中の糖尿病患者,重症筋無力症の患者,血清カリウム低下のある患者
心停止,心室細動,心室頻拍(TdP を含む),心室細動,心房細動,房室ブロック,洞停止,失神,心不全悪化など,低血糖,無顆粒球症,麻痺性イレウス,緑内障悪化,痙攣
小児の頻脈性不整脈に
つき保険適用静注:50 ~100
mg/回徐放錠:150 mg/回を1 日2 回カプセル剤:100 mg/回を1 日3 回
なし
ジピリダモール1 狭心症,心筋梗塞,うっ血性心不全2 ワルファリンとの併用による人工弁置換術後の血栓・塞栓の抑制3 川崎病冠動脈後遺症(添付文書に記載はないが保険適用)
2~5 mg/kg/日,3回に分割経口投与併用禁忌:アデノシン
慎重投与:低血圧の患者,重篤な冠動脈疾患疾患のある患者
狭心症状の悪化,出血傾向,血小板減少・白血球減少,喘息発作,過敏症など
川崎病冠動脈後遺症に
つき保険適用1 25 mg/回,1 日
3 回経口投与, 2 300 ~400 mg/日,3~4 回に分割経口投与
なし
シベンゾリンコハク
酸塩他の抗不整脈薬が使
用できないか,または無効の頻脈性不整脈
小児に対する投与量の参考となるデータに乏しい
禁忌:高度の房室ブロック,高度の洞房ブロックのある患者,うっ血性心不全,透析中の患者,緑内障,尿貯留傾向のある患者,
催不整脈作用:心室頻拍,上室不整脈,心室細動,ショック・アナフィラキシー,心不
適用外だが肥大型心筋症に使用されることがある
経口:300 mg/ 日から開始,450 mg/日まで増量可,分3 *
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.259
シベンゾリンコハク酸塩
(つづき)バルデナフィル塩酸塩,モキシ
フロキサシン塩酸塩,トレミフェンクエン酸塩,またはフィンゴリモド塩酸塩またはエリグルスタット酒石酸塩を投与中の患者慎重投与:基礎心疾患(心筋梗塞,弁膜症,心筋症など)のある患者,刺激伝導障害(房室ブロック,洞房ブロック,脚ブロックなど)のある患者,重篤な肝機能障害のある患者,腎機能障害のある患者,治療中の糖尿病患者,血清カリウム低下のある患者
全,低血糖,肝機能障害,黄疸,顆粒球減少,貧血,血小板減少,間質性肺炎
静注:1 回1.4 mg/kg 適宜増減,血圧および心電図監視下2~5 分かけて
硝酸イソソルビド錠剤1 狭心症2 心筋梗塞3 その他の虚血性心疾患徐放剤,徐放カプセル,貼付剤1 狭心症2 心筋梗塞(急性期を除く) 3 その他の虚血性心疾患注射液,キット1 急性心不全(慢性心不全の急性増悪期を含む) 2 不安定狭心症3 冠動脈造影時の冠攣縮寛解噴霧剤
1 錠剤:0.5~1.0 mg/kg/日,分2 徐放剤,徐放カプセル:1 回1 カプセルあるいは1錠(硝酸イソソルビドとして20 mg)を1 日2 回3 注射剤:原液あるいは希釈し,硝酸イソソルビドとして2 ~5 mg/ 時を点滴静注する.病態に応じて適宜増減4 噴霧剤:1 回1 噴霧(硝酸イソソルビドとして1.25 mg)を口腔内に投与.効果不十分の場合には,1 回1 噴霧にかぎり追加5 貼付剤:体格に合わせて1/4~1 枚
禁忌:重篤な低血圧または心原性ショックのある患者,閉塞隅角緑内障の患者,頭部外傷または脳出血のある患者,高度な貧血のある患者,ホスホジエステラーゼ5 阻害作用を有する薬剤(シルデナフィルクエン酸塩,バルデナフィル塩酸塩水和物,タダラフィル)またはグアニル酸シクラーゼ刺激作用を有する薬剤(リオシグアト)を投与中の患者注射剤については上記に加え,アイゼンメンジャー症候群または原発性肺高血圧症の患者,右室梗塞の患者,脱水症状のある患者,神経循環無力症の患者慎重投与:低血圧の患者,原発性肺高血圧症の患者,肥大型閉塞性心筋症の患者
肝機能障害,黄疸,頭痛,めまい,血圧低下,潮紅,動悸,脱力感,悪心・嘔吐,胃部不快感,食欲不振など
錠剤:1~2 錠(硝酸イソソルビドとして5~10 mg)を1 日3~4 回経口または舌下投与*,狭心症発作時には, 1~2 錠を舌下投与*徐放錠,徐放カプセル:20 mg/ 回, 1 日2 回かまずに経口投与*注射液:急性心不全には1.5~8 mgを点滴静注*,増量は10 mg/ 時まで.不安定狭心症には2~5 mg を点滴静注*噴霧剤:口腔内に1 回1 噴霧,効果不十分の場合には1 回1 噴霧に限り追加貼付剤:1 回1 枚
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.260
硝酸イソソルビド錠
(つづき) / 回,1 日1 ~2
回/ 日(40 mg/1枚)643)
を胸部,上腹部または背部のいずれかに貼付,24 時間または48 時間ごとに貼り替える*
ジルチアゼム塩酸塩錠剤,徐放カプセル剤:狭心症,異型狭心症,本態性高血圧症(軽症~中等症) 10 mg,50 mg 注射剤:頻脈性不整脈(上室性),手術時の異常高血圧の救急処置,高血圧性緊急症,不安定狭心症250 mg 注射剤:高血圧性緊急症,不安定狭心症
1 1.5 mg/kg/ 日,分3 2 静注薬;0.1~0.2 mg/kg を希釈し, 5 分以上かけて緩徐に静注する
錠剤,徐放カプセル禁忌:妊婦または妊娠している可能性のある婦人,重篤なうっ血性心不全の患者,2 度以上の房室ブロック(持続性の洞性徐脈[50 拍/ 分未満],洞停止,洞房ブロック)のある患者慎重投与:うっ血性心不全の患者,高度の徐脈(50 拍/ 分未満)またはI 度の房室ブロックのある患者,過度に血圧の低い患者,重篤な肝・腎機能障害のある患者注射剤禁忌:重篤な低血圧あるいは心原性ショックのある患者,2 度以上の房室ブロック,洞不全症候群(持続性の洞性徐脈[50 拍/ 分未満],洞停止,洞房ブロックなど)のある患者,重篤なうっ血性心不全の患者,重篤な心筋症のある患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人
錠剤,徐放カプセル:完全房室ブロック,高度徐脈,うっ血性心不全,Stevens-Johnson症候群,Lyell 症候群,紅皮症(剥脱性皮膚炎),急性汎発性発疹性膿胞症,肝機能障害や黄疸注射剤:完全房室ブロック,高度徐脈,心停止,うっ血性心不全
Ca 拮抗薬であり,新生
児での使用は避ける静注薬;上室頻拍
症:10 mg を必要に応じ希釈し,約3 分かけて緩徐に静注高血圧性緊急症: 1 分間に体重kg あたり5~15μg を点滴静注.目標値まで血圧を下げ,以後点滴速度を調節
なし
シルデナフィルクエ
ン酸塩肺動脈性肺高血圧症1 歳以上の小児体重8 kg 以上20 kg 以下の場合(ドライシロップのみ適応):通常,シルデナフィルとして1 回10 mg を1 日3 回経口投与する体重20 kg 超の場合:通常,シルデナフィルとして1 回20 mg を1 日3 回
禁忌:硝酸薬あるいは一酸化窒素(NO)供与薬(ニトログリセリン,亜硝酸アミル,硝酸イソソルビドなど)を投与中の患者,重度の肝機能障害のある患者,リトナビル含有製剤,ダルナビル含有製剤,インジナビル,イトラコナゾール,テラプレビルおよびコビシスタット含有製剤を投与中の患者,アミオダロン塩酸塩(経口薬)投与中の患者,可溶性グアニル酸シクラー
重大な副作用の記載はない頭痛,嘔吐,腹痛,鼻出血,筋関節痛,その他
1 回20 mg を1 日3 回経口投与あり(ドライ
シロップ:1歳以上8 kg以上,他の剤型:1 歳以上20 kg 以上)
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.261
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)シルデナフィルクエ
ン酸塩 (つづき)経口投与するゼ(sGC)刺激薬(リオシグア
ト)を投与中の患者
スピロノラクトン1 高血圧症(本態性,腎性など) 2 心性浮腫(うっ血性心不全),腎性浮腫,肝性浮腫,特発性浮腫,悪性腫瘍にともなう浮腫および腹水,栄養失調性浮腫3 原発性アルドステロン症の診断および症状の改善
1 1 ~3.3 mg / kg/日,分1~2,最大100 mg 21~4 mg/kg/日, 1~4 回に分割643)
禁忌:無尿または急性腎不全の患者高カリウム血症の患者,アジソン病の患者,タクロリムス,エプレレノンまたはミトタンを投与中の患者慎重投与:重篤な腎障害のある患者,減塩療法時,肝障害のある患者,乳児
電解質異常(高カリウム血症,低ナトリウム血症,代謝性アシドーシスなど)とこれにともなう不整脈,全身倦怠感,脱力,急性腎不全,TEN,Stevens- Johnson 症候群
小児の高血圧症に付き
保険適用50~100 mg/ 日,分割投与なし
セファゾリンナトリ
ウム(感染性心内膜炎の
治療について) 20~40 mg/kg/日, 2 回に分割50 mg/kg/日,3 回に分割に増量可最大100 mg/kg/日,分割投与25 mg/kg/回,1 日4 回(感染性心内膜炎に対して)1121)
原則禁忌:本剤の成分またはセフェム系抗生物質に対する過敏症の既往歴 のある患者慎重投与:ペニシリン系抗生物質に対し,過敏症の既往歴のある患者,本人または両親,兄弟に気管支喘息,発疹,蕁麻疹などのアレルギー症状を起こしやすい体質を有する患者,高度の腎障害のある患者経口摂取の不良な患者または非経口栄養の患者,全身状態の悪い患者
ショック,アナフィラキシー様症状,血液障害,肝障害,腎障害,大腸炎,皮膚障害,間質性肺炎,PIE 症候群,痙攣
1 g/ 日,2 回に分割1.5 ~3 g/ 日,3回に分割に増量可最大5 g/ 日分割投与2 g/回,1 日3 回(感染性心内膜炎に対して)1121)
あり
セフトリアキソンナ
トリウム水和物(感染性心内膜炎の
治療について) (20 ~60 mg / kg/
日,1~2 回に分割.最大120 mg/kg/日,2 回に分割) 50 mg/kg/回,1 日2 回(感染性心内膜炎に対して)1121)
禁忌:高ビリルビン血症の未熟児,新生児慎重投与:ペニシリン系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者本人または両親,兄弟に気管支喘息,発疹,蕁麻疹などのアレルギー症状を起こしやすい体質を有する患者,高度の腎障害のある患者,経口摂取の不良な患者または非経口栄養の患者,全身状態の悪い患者
ショック,アナフィラキシー汎血球減少,無顆粒球症,白血球減少,血小板減少,溶血性貧血劇症肝炎,肝機能障害,黄疸急性腎障害,間質性腎炎偽膜性大腸炎TEN,Stevens-Johnson症候群,急性汎発性発疹性膿疱
Enterococcus faecium
に対しては使用しない1 ~2g/ 日,1 ~2回に分割.最大4 g/ 日,2 回に分割2 g/回,1 日1 回(腸球菌や人工弁での併用の際は1 日2 回) (感染性心内膜炎に対して)1121)
あり(心内膜炎の適応はなし,敗血症はあり)
p.262
セフトリアキソンナトリウム水和物(つづき)
症間質性肺炎,肺好酸球増多症(PIE 症候群)胆石,胆嚢内沈殿物腎・尿路結石精神神経症状
セリプロロール塩酸
塩1 本態性高血圧症
(軽症~中等症) 2 腎実質性高血圧症3 狭心症
小児に対する投与量の参考となるデータに乏しい
禁忌:糖尿病性ケトアシドーシス,代謝性アシドーシスのある患者,高度の徐脈(著しい洞性徐脈),房室ブロック(II,III 度),洞房ブロック,洞不全症候群のある患者,心原性ショックの患者,うっ血性心不全,肺高血圧による右心不全の患者,未治療の褐色細胞腫の患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人慎重投与:気管支喘息,気管支痙攣のおそれのある患者,うっ血性心不全のおそれのある患者,甲状腺中毒症の患者,低血糖症,コントロール不十分な糖尿病,長期間絶食状態(手術前後など)の患者,重篤な肝,腎機能障害のある患者,末梢循環障害のある患者(レイノー症候群,間欠性跛行症など),徐脈,房室ブロック(I 度)のある患者,異型狭心症の患者,小児
房室ブロック,洞房ブロック,心不全
β1 選択性内因性交感神
経刺激作用(+) 1 2 100 ~200
mg を1 日1 回,最大400 mg を1 日1 回3 1 日1 回200 mg を食後経口投与.年齢,症状により適宜増減するが,1 日最高用量は400 mg まで
なし
セレキシバグ肺動脈性肺高血圧症小児に対する投与量の参考となるデータに乏しい
禁忌:重度の肝障害の患者,肺静脈閉塞性疾患を有する肺高血圧症の患者,クロピドグレル含有製剤投与中の患者慎重投与:低血圧の患者,出血傾向ならびに出血傾向素因のある患者,軽度肝障害または中等度肝障害のある患者,重度腎障害のある患者(透析中の患者を含む)
低血圧,出血,甲状腺
機能異常忍容性のあるところま
で,範囲内で増量する1 回0.2 mg を1 日2 回食後経口投与から開始.忍容性を確認しながら,7日以上の間隔で1回量として0.2 mgずつ最大耐用量まで増量して維持用量を決定.最高用量は1 回1.6 mgとし,1 日2 回食後に経口投与
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.263
ソタロール塩酸塩生命に危険のある再発性不整脈で他の抗不整脈薬が無効か,または使用できない心室頻拍,心室細動1 心電図上で心室細動が確認されている患者2 心電図上で心室頻拍が確認されている患者のうちで,器質的心疾患を有するか,または心室頻拍発作時に失神,急激な血圧下降などの血行動態の悪化の既往があるか,あるいは直流通電の処置を必要とした患者
経口薬:1~2 mg/ kg / 日から始め,6 mg/kg / 日まで増量(2 回に分割),または2 歳以上の小児に対して体表面積換算で,90 ~100 mg/ m 2/ 日(2 回に分割)で開始し,最大250 mg/m 2/ 日有効血中濃度:800 ~5,000 ng/mL 827)同GL では一部の上室不整脈への使用も記載されている
禁忌:心原性ショックの患者,重度のうっ血性心不全の患者,重篤な腎障害(クレアチニンクリアランス10 mL/ 分未満)のある患者,高度の洞性徐脈(50拍/ 分未満,高度の洞不全)のある患者,高度の刺激伝導障害(II~III 度の房室ブロック,高度の洞房ブロックなど)のある患者,気管支喘息,気管支痙攣のおそれのある患者,先天性または後天性のQT 延長症候群の患者,心筋抑制のある麻酔薬(シクロプロパンなど)を投与中の患者,アミオダロン塩酸塩(注射),バルデナフィル塩酸塩水和物,モキシフロキサシン塩酸塩,トレミフェンクエン酸塩またはフィンゴリモド塩酸塩を投与中の患者慎重投与:基礎心疾患(心筋梗塞,弁膜症,心筋症など)があり心不全をきたすおそれのある患者,急性心筋梗塞(発症後2週間以内)後で左室機能不全(LVEF 40%以下)をともなう患者,うっ血性心不全のある患者,刺激伝導障害(房室ブロック,洞房ブロック)のある患者,腎機能障害のある患者,心電図上QT 延長のみられる患者,血清カリウム,血清マグネシウムの低下のある患者,洞機能不全症候群の患者,糖尿病患者,甲状腺中毒症の患者,アナフィラキシーの既往のある患者,乾癬の患者
心室細動,心室頻拍, TdP,洞停止,完全房室ブロック,心不全,心拡大
心筋の早く活性化される遅延整流K チャネル電流(IKr)を抑制してAPD を延長させ,心房筋,心室筋,房室結節,房室副伝導路(順行性,逆行性伝導の両者)の不応期を延長させる.ソタロールはK チャネル抑制に加えII 群(β受容体遮断薬)としての作用を合わせ持つ.徐脈や低カリウム血症はTdP 発症の誘因となるため注意を要する
80~320 mg/ 日, 2 回に分割なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.264
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)タクロリムス水和物1 下記の臓器移植における拒絶反応の抑制腎移植,肝移植,心移植,肺移植,膵移植,小腸移植2 骨髄移植における拒絶反応および移植片対宿主病の抑制その他
1 心移植術後,バシリキシマブを併用し少量(0.025 mg/kg/ 回,1 日2 回)から開始し漸増.目標血中濃度トラフ値は,移植後3ヵ月以内は9 ~12 ng/mL, 6ヵ月以内は8~ 9 ng/mL,3 ~5年以内は6~8 ng/mL,それ以降は5 ng/mL 前後を目安とする
禁忌:シクロスポリンまたはボセンタン投与中の患者,カリウム保持性利尿薬投与中の患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人慎重投与:肝障害のある患者,腎障害のある患者,感染症のある患者,関節リウマチに間質性肺炎を合併している患者
ショック,感染症,急性腎不全,ネフローゼ症候群,糖尿病,高血糖,肝機能障害,黄疸,進行性多巣性白質脳症(PML),可逆性後白質脳症症候群,高圧性脳症などの中枢神経系障害,高尿酸血症,高カリウム血症,高コレステロール血症,心不全・不整脈・心筋梗塞・狭心症・心膜液貯留・心筋障害,脳血管障害,血栓性微小血管障害,汎血球減少症・血小板減少性紫斑病・無顆粒球症・溶血性貧血・赤芽球癆,イレウス,Stevens- Johnson 症候群,呼吸困難,間質性肺炎,リンパ腫などの悪性腫瘍,膵炎,BK ウイルス腎症
CYP3A4 で代謝される薬剤またはCYP3A4 の阻害作用を有する薬剤や飲食物との併用により,本剤の血中濃度が変化するため,血中濃度のモニターを行い,必要に応じ減量・休薬などの処置を行う
心移植の場合通常,初期にはタクロリムスとして1 回0.03 ~0.15 mg/ kg を1 日2 回経口投与する.また,拒絶反応発現後に本剤の投与を開始する場合には,通常,タクロリムスとして1 回0.075 ~0.15 mg/kg を1 日2 回経口投与する.安定すれば漸減し有効最少量で維持
心移植後小児への安全性は確立していないとの記載だが,体重当たりの投与量の記載がある
タダラフィル肺動脈性肺高血圧症1 mg/kg,1 日1 回
643)禁忌:硝酸薬または一酸化窒素
(NO)供与薬(ニトログリセリン,亜硝酸アミル,硝酸イソソルビドなど)を投与中の患者, sGC 刺激薬(リオシグアト)を投与中の患者,重度の腎障害のある患者,重度の肝障害のある患者,チトクロームP450 3A4 (CYP3A4)を強く阻害する薬剤(イトラコナゾール,リトナビル,アタザナビル,インジナビル,ネルフィナビル,サキナビル,ダルナビル,クラリスロマイシン,テラブレナビル)を投与中の患者,CYP3A4 を強く誘導する薬剤(リファンピシン,
過敏症(発疹,蕁麻疹,顔面浮腫,剥脱性皮膚炎,Stevens- Johnson 症候群)
40 mg,1 日1 回なし
p.265
タダラフィル
(つづき)フェニトイン,カルバマゼピン,
フェノバルビタール)を長期的に投与中の患者慎重投与:6ヵ月以内に脳梗塞・脳出血,コントロール不良の不整脈・低血圧・高血圧,α遮断薬投与中,網膜色素変性症,陰茎の構造上欠陥,持続勃起症素因,出血性疾患
ダプトマイシン(感染性心内膜炎の治療について)ダプトマイシンに感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による敗血症,感染性心内膜炎など1左心系感染性心内膜炎に対する本剤の有効性は認められていないため,右心系感染性心内膜炎にのみ使用すること2肺炎に使用しないこと
6 mg/kg,1 日1 回(MRSA に対しては6 ~10 mg / kg,1日1 回)1121)
慎重投与:腎機能障害がある患
者ショック・アナフィラ
キシー様症状,急性汎発性発疹性膿疱症横紋筋融解症,好酸球性肺炎,末梢性ニューロパシー,腎不全,偽膜性大腸炎
6 mg/kg,1 日1回8 ~10 mg/kg,1日1 回1121)
なし
チクロピジン塩酸塩1 血管手術および血液体外循環にともなう血栓・塞栓の治療ならびに血流障害の改善2 慢性動脈閉塞症にともなう潰瘍,疼痛および冷感などの阻血性諸症状の改善3 虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作[TIA],脳梗塞)にともなう血栓・塞栓の治療
2~5 mg/kg/ 日,1 ~2 回に分割
禁忌:出血している患者,重篤な肝障害のある患者,白血球減少症の患者原則禁忌:肝障害慎重投与:月経期間中の患者,出血傾向ならびにその素因のある患者,肝障害の既往歴のある患者,白血球減少症の既往歴のある患者,高血圧の患者,手術を予定している患者
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP),無顆粒球症,重篤な肝障害,再生不良性貧血を含む汎血球減少症,赤芽球癆,血小板減少症,出血,中毒性表皮壊死融解症・S t e v e n s - Johnson 症候群・多形滲出性紅斑・紅皮症,消化性潰瘍,急性腎不全,間質性肺炎,SLE様症状(発熱,関節痛,胸部痛,供水貯留,抗核抗体陽性など)
警告:血栓性血小板減少性紫斑病,無顆粒球症,重篤な肝障害が発現することがある
1 200 ~300 mg/日,2~3 回に分割2 300 ~600 mg/日,2~3 回に分割3 200 ~200 mg/日,2~3 回に分割(または200 mg,1 日1回) 4 300 mg,3 回に分割
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.266
チクロピジン塩酸塩
(つづき) 4 クモ膜下出血術後
の脳血管攣縮にともなう血流障害の改善テイコプラニン(感染性心内膜炎の治療について)本剤に感性のMRSAによる,敗血症,深在性皮膚感染症,慢性膿皮症,外傷・熱傷および手術創などの二次感染,肺炎,膿胸,慢性呼吸器病変の二次感染,その他
10 mg/kg を12 時間間隔で3 回,以後10 mg/kg を24 時間ごとに30 分以上かけて点滴静注*新生児(低出生体重児を含む)では初回のみ16 mg/kg,以後8 mg/kg 24 時間ごとに30 分以上かけて点滴静注1121)
原則禁忌:アミノグリコシド系抗生物質,ペプチド系抗生物質またはバンコマイシン類に対し過敏症の既往歴のある患者アミノグリコシド系抗生物質,ペプチド系抗生物質またはバンコマイシン類による難聴またはその他の難聴のある患者慎重投与:腎障害のある患者,肝障害のある患者,低出生体重児,新生児
ショック,アナフィラキシー様症状,第8 脳神経障害,TEN, Stevens-Johnson 症候群,紅皮症(剥脱性皮膚炎),無顆粒球症,白血球減少,血小板減少,急性腎不全,肝機能障害,黄疸
TDM が望ましいピーク:40 μ g/mL 程度,トラフ:20 μg/mL[できれば 25 μg/mL ]を目安とする)1121)
初日800 mg/ 日, 2 回に分割.2 日目以降400 mg,分1
あり(心内膜炎の適応はなし,敗血症はあり)
ドパミン塩酸塩急性循環不全(心原性ショック,出血性ショック),次のような急性循環不全状態に使用する:無尿,乏尿や利尿薬で利尿が得られない状態,脈拍数の増加した状態,他の強心・昇圧剤により副作用が認められたり,好ましい反応が得られない状態
1 1~5 μ g/kg/分,持続点滴で開始病態により20 μ g/ kg/分まで増量可
禁忌:褐色細胞腫慎重投与:末梢血管障害のある患者(糖尿病,アルコール中毒,凍瘡,動脈硬化症,レイノー症候群,バージャー病など),未治療の頻拍性不整脈または心室細動の患者
四肢冷感,末梢の虚
血,麻痺性イレウス使用量によって作用効
果が異なる1~5μg/kg/分を持続静注,最大 20 μg/kg/分*
あり
ドブタミン塩酸塩1 急性循環不全における心収縮力増強2 心エコー図検査における負荷
1 1~5 μ g/kg/ 分で点滴静注.適宜増減し必要ある場合は,20μg/kg/分まで増量可1 分間あたり1~ 20μg/kg 643)
禁忌:12肥大型閉塞性心筋症(特発性肥厚性大動脈弁下狭窄)の患者2 急性心筋梗塞後早期,不安定狭心症,左冠動脈主幹部狭窄,重症心不全,重症の頻拍性不整脈,急性心膜炎,心筋炎,心内膜炎,大動脈解離などの重篤な血管病変,コントロール不良の高血圧症,褐色細胞腫,高度な伝導障害,心室充
12不整脈,血圧低下,過度の血圧上昇,狭心痛,息切れ2 心停止,心室頻拍,心室細動,心筋梗塞,ストレス心筋症
1 1~5 μg/kg/ 分を点滴静注* 20 μg/kg/分まで2 5μg/kg/分,病態が評価できるまで10,20, 30,40 μg/kg/分と3 分ごとに増量
あり
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.267
ドブタミン塩酸塩
(つづき)満の障害(収縮性心膜炎,心
タンポナーデなど),循環血液量減少症慎重投与:重篤な冠動脈疾患のある患者,心房細動のある患者,高血圧症の患者
トラセミド心性浮腫(うっ血性心不全),腎性浮腫,肝性浮腫
小児に対する投与量の参考となるデータに乏しいコメントに準じて,フロセミドの投与量を参考にする
禁忌:無尿の患者,肝性昏睡の患者,体液中のナトリウム,カリウムが明らかに減少している患者,スルホンアミド誘導体に対し過敏症の既往歴のある患者,テルフェナジンを投与中の患者慎重投与:進行した肝硬変症のある患者,重篤な冠硬化症または脳動脈硬化症のある患者,腎障害のある患者,肝疾患・肝機能障害のある患者,本人または両親,兄弟に痛風,糖尿病のある患者,下痢,嘔吐のある患者,手術前の患者,ジギタリス剤,糖質副腎皮質ホルモン剤, ACTH またはグリチルリチン製剤の投与を受けている患者減塩療法時の患者,乳児
肝機能障害,黄疸,血小板減少低カリウム血症,高カリウム血症
成人ではトラセミド 4 mg がフロセミド20 mg に換算される
4~8 mg/日,1 日1 回なし
トリアムテレン
高血圧症(本態性,
腎性など),心性浮腫(うっ血性心不全),浮腫(肝性,腎性)
開始量: 1~2 mg/ kg/日,最大投与量: 3 ~4 mg / kg/ 日(300 mg/日まで), 2~3 回に分割935)
禁忌:無尿の患者,急性腎不全の患者,高カリウム血症の患者,腎結石およびその既往歴のある患者,インドメタシンまたはジクロフェナクを投与中の患者,テルフェナジンまたはアステミゾールを投与中の患者慎重投与:重篤な冠硬化症または脳動脈硬化症のある患者,重篤な腎障害のある患者,肝疾患・肝機能障害のある患者,減塩療法を受けている患者,乳児,葉酸欠乏または葉酸代謝異常のある患者,NSAID(インドメタシン,ジクロフェナクを除く)を
急性腎不全90~200 mg/日*,
2~3 回に分割なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.268
トリアムテレン
(つづき)投与中の患者,ACE 阻害薬また
はカリウム製剤を投与中の患者
トリクロルメチアジ
ド高血圧症(本態性,
腎性など),悪性高血圧,心性浮腫(うっ血性心不全),腎性浮腫,肝性浮腫,月経前緊張症
0.05~1.6 mg/kg, 1 日1~2 回643)
禁忌:無尿の患者,急性腎不全の患者,体液中のナトリウム,カリウムが明らかに減少している患者,チアジド系薬剤またはその類似化合物(たとえばクロルタリドンなどのスルホンアミド誘導体)に対する過敏症の既往歴のある患者慎重投与:進行した肝硬変症のある患者,重篤な冠硬化症または脳動脈硬化症のある患者,重篤な腎障害のある患者,肝疾患・肝機能障害のある患者,本人または両親,兄弟に痛風,糖尿病のある患者,下痢,嘔吐のある患者,高カルシウム血症,副甲状腺機能亢進症のある患者,ジギタリス剤,糖質副腎皮質ホルモン剤,ACTH の投与を受けている患者,減塩療法を受けている患者,乳児,交感神経切除後の患者
再生不良性貧血,低ナトリウム血症,低カリウム血症,間質性肺炎,肺水腫
添付文書には乳児は慎重投与の対象となっているが,幼児,小児に対しては特段の注意喚起なし.ただし,小児の用法・用量の記載はない
2~8 mg/ 日,1~ 2 回に分割小児適応は不
明
トルバプタン1 ループ利尿薬などの他の利尿薬で効果不十分な心不全における体液貯留(7.5 mg,15 mg錠,顆粒) 2 ループ利尿薬などの他の利尿薬で効果不十分な肝硬変における体液貯留(7.5 mg,顆粒) 3 腎容積がすでに増大しており,かつ,腎容積の増大速度が速い常染色
0.3~0.5 mg/kg/日1 日1 回,半量程度から開始する643)
禁忌12口渇を感じないまたは水分摂取が困難な患者,高ナトリウム血症の患者妊婦または妊娠している可能性のある婦人,無尿の患者,適切な水分補給が困難な肝性脳症の患者慎重投与12:血清ナトリウム濃度125 mEq/L 未満の患者,重篤な冠動脈疾患または脳血管疾患のある患者,高カリウム血症の患者,重篤な腎障害のある患者,肝性脳症を現有するかその既往のある患者
腎不全,血栓塞栓症,高ナトリウム血症,急性肝不全,肝機能障害,ショック,アナフィラキシー,過度の血圧低下,心室細動,心室頻拍,肝性脳症,汎血球減少,血小板減少
1では半量から開始115 mg/ 日 1 日1 回27.5 mg/ 日 1 日1 回
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.269
トルバプタン
(つづき)体優性多発性嚢胞
腎(7.5 mg,15 mg,30 mg 錠,顆粒)トレプロスチニル肺動脈性肺高血圧小児用量は確立していないが,50~80 ng/kg/分の皮下注または静注量で一般的に維持でき,エポプロステノール投与量の30~50% 増の投与量が必要とされる
禁忌:重度の肝・腎障害,妊婦または妊娠している可能性のある婦人,過敏症既往,硝酸剤・一酸化窒素供与薬・PDE5 阻害薬・アゾール系抗真菌薬・HIVプロテアーゼ阻害薬・オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル投与中の患者慎重投与:抗凝固療法中,肝・腎障害,収縮期血圧が95 mmHg未満の患者,高齢の患者
皮下注では注射部位の
疼痛や発赤は必発皮下注射穿刺部局所の
疼痛1.25 ng/kg/ 分の速度で開始し,十分な観察のうえで最初の4 週間は1週間あたり最大1.25 ng/kg/ 分で増量,その後は1週間あたり最大2.5 ng/kg/分で増量し最適速度を決定する
なし
ナドロール1 本態性高血圧症(軽症~中等症) 2 狭心症3 頻脈性不整脈
経口:0.5 ~2.5 mg/kg/日, 1 日1 回827)
禁忌:気管支喘息,気管支痙攣,慢性閉塞性肺疾患のおそれのある患者,糖尿病性ケトアシドーシス,代謝性アシドーシスのある患者,高度の徐脈(著しい洞性徐脈),房室ブロック(II,III度),洞房ブロック,洞不全症候群のある患者,心原性ショックの患者,肺高血圧による右心不全のある患者,うっ血性心不全のある患者,未治療の褐色細胞腫の患者,異型狭心症の患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人慎重投与:うっ血性心不全のおそれのある患者,甲状腺中毒症の患者,低血糖症,コントロール不十分な糖尿病,長期間絶食状態(手術前後など)の患者,重篤な肝障害のある患者,腎障害のある患者,末梢循環障害のある患者(レイノー症候群,間欠性跛行症など),徐脈,房室ブロック(I 度)のある患者,小児など
心不全β1 非選択性,内因性交感神経刺激作用(-).水溶性で血液脳関門をほとんど通過しないため,中枢神経系の副作用はプロプラノロールよりも少ない
1 回30 ~60 mgを1 日1 回*なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.270
ニカルジピン塩酸塩
散剤,錠剤,徐放カ
プセル:本態性高血圧症注射剤:1手術時の異常高血圧の緊急処置,2高血圧性緊急症,3急性心不全
1~3 μg/kg/ 分52, 935)
禁忌:散剤,錠剤,徐放カプセル:頭蓋内出血で止血が完成していないと推測される患者,脳卒中急性期で頭蓋内圧が亢進している患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人注射液:急性心不全において,高度な大動脈弁狭窄・僧帽弁狭窄,肥大型閉塞性心筋症,低血圧(収縮期血圧90 mmHg 未満),心原性ショックのある患者.急性心不全において,発症直後で病態が安定していない重篤な急性心筋梗塞患者慎重投与:散剤,錠剤,徐放カプセル:肝,腎機能障害のある患者,低血圧症の患者,緑内障の患者注射剤:脳出血急性期の患者,脳卒中急性期で頭蓋内圧が亢進している患者,肝・腎機能障害のある患者,大動脈弁狭窄症の患者,急性心不全において重篤な不整脈のある患者,急性心不全において血圧が低い患者
麻痺性イレウス,低酸素血症,肺水腫,呼吸困難,狭心痛,血小板減少,肝機能障害,黄疸
1 2~10 μ g/kg/分で投与開始,または10~30 μg/kg 静注2 0.5μg/kg/分で開始,0.5~6 μ g/kg/分3 1μg/kg/分で開始,0.5~2 μ g/ kg/分
なし
ニトログリセリン注射液1 手術時の低血圧維持2 手術時の異常高血圧の救急処置3 急性心不全(慢性心不全の急性増悪期を含む) 4不安定狭心症貼付剤1 狭心症2 急性心不全(慢性心不全の急性増悪期を含む)製剤により2適応あり
注射剤手術時の低血圧維持には1~5 μg/kg/分(最大20 μg/ kg/分)643)手術時の異常高血圧の救急処置には0.5 ~5μg/kg/分で開始し,目的値まで血圧を下げ,以後血圧をモニターしながら点滴速度を調節.急性心不全には0.05 ~0.1 μg/kg/ 分で開始し,目的とする血行動態を得るまで
禁忌:閉塞隅角緑内障の患者,硝酸・亜硝酸エステル系薬剤に対し過敏症の既往歴のある患者,高度な貧血の患者,ホスホジエステラーゼ5 阻害作用を有する薬剤(シルデナフィルクエン酸塩,バルデナフィル塩酸塩水和物,タダラフィル)またはグアニル酸シクラーゼ刺激作用を有する薬剤(リオシグアト)を投与中の患者慎重投与:新生児および乳幼児,メトヘモグロビン血症の患者,頭部外傷または脳出血の患者,著しく血圧の低い患者,肝障害のある患者
急激な血圧低下,心拍出量低下,頻脈,不整脈,PaO2 の低下,頭痛・頭重感,悪心・嘔吐,乏尿
メトヘモグロビン血症を起こしやすいので,新生児および乳幼児には慎重に投与する
以下で開始し,調節する.11~5 μg/kg/分,20.5 ~5μg/kg/分,3 0.05~0.1μg/kg/分,40.1~0.2μ g/kg/分
あり(注射液のみ)
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.271
ニトログリセリン
(つづき)血圧,左心室充満圧
などの循環動態をモニターしながら5~ 15 分ごとに0.1~ 0.2μg/kg/分ずつ増量し,最適点滴速度で維持貼付剤体格に合わせて1/4 ~1 枚/ 回 (1 ~2回/ 日)643)
ニトロプルシッドナ
トリウム水和物1 手術時の低血圧維
持2 手術時の異常高血圧の救急処置
持続静注:0.5~4.0
μg/kg/分643)禁忌:脳に高度な循環障害のあ
る患者,甲状腺機能不全のある患者,レーベル病(遺伝性視神経萎縮症),たばこ弱視あるいはビタミンB12 欠乏症の患者,重篤な肝機能障害のある患者,重篤な腎機能障害のある患者,高度な貧血の患者,ホスホジエステラーゼ5 阻害作用を有する薬剤(シルデナフィルクエン酸,バルデナフィル塩酸塩水和物,タダラフィル)またはグアニル酸シクラーゼ刺激作用を有する薬剤(リオシグアト)を投与中の患者慎重投与:頭部外傷または脳出血による血腫などの頭蓋内圧亢進症の患者,甲状腺機能の低下した患者,心機能障害のある患者,肝機能障害のある患者,腎機能障害のある患者,著しく血圧の低い患者,小児,極度な肥満の患者
過度の低血圧,頭痛,シアン中毒(96 時間以上の投与,4.0μg/ kg/分以上は注意),中止時のリバウンド
持続静注:12とも0.5μg/kg/分で投与を開始し,1 2.5μg/kg/分以下, 22.0 μ g/kg/ 分以下で目的血圧を維持
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.272
ニフェカラント塩酸
塩生命に危険のある次
の不整脈で,他の抗不整脈薬が無効か,または使用できない場合:心室頻拍,心室細動
静注薬:初期投与量0.15 ~0.3 mg/kg (10 分かけて) 維持量0.2 ~0.4 mg / kg/ 時827)
禁忌:QT 延長症候群の患者,アミオダロン注射剤を投与中の患者,フィンゴリモド塩酸塩を投与中の患者,エリグルスタット酒石酸塩を投与中の患者原則禁忌:妊婦または妊娠している可能性のある女性慎重投与:高度な洞性徐脈のある患者,刺激伝導障害(房室ブロック,洞房ブロック,脚ブロックなど)のある患者,血清カリウム低下のある患者,重篤な肝機能障害のある患者,重篤な腎機能障害のある患者
心室頻拍(TdP を含む),心室細動などの催不整脈作用
純粋なIKr チャネル遮断作用を持つ.難治性の心室頻拍,心室細動に対して高い抑制効果があるとともに,心室細動に対する除細動閾値を低下させることが知られている
0.3 mg/kg を5 分かけて静注0.4 mg/kg/ 時で維持
なし
ニフェジピンカプセル,細粒,Rカプセル,L 錠1 本態性高血圧症,腎性高血圧症2 狭心症R 細粒1 本態性高血圧症2 狭心症CR 錠1 高血圧症2 腎実質性高血圧症,腎血管性高血圧症3 狭心症,異型狭心症
カプセル, 細粒0.25 mg/kg/回R カプセル,L 錠, R 細粒0.25 ~0.5 mg/kg/日 1~2 回に分割で開始し,最大3 mg/ kg/日, 60 mg/日まで
禁忌:妊婦(妊娠20 週未満)または妊娠している可能性のある婦人,心原性ショックの患者急性心筋梗塞の患者(カプセルのみ)慎重投与:大動脈弁狭窄,僧帽弁狭窄のある患者,過度に血圧の低い患者,血液透析療法中の循環血液量減少をともなう高血圧患者,重篤な腎機能障害のある患者,重篤な肝機能障害のある患者,うっ血性心不全のある患者
紅皮症,無顆粒球症,,血小板減少,ショック,意識障害,肝機能障害,黄疸
小児の高血圧につき保
険適用カプセル, 細粒
1210 mg,1 日3 回* R カプセル,L 錠, R 細粒1 10 ~20 mg,1日2 回* 2 20 mg,1 日2回* CR 錠1220~40 mg 1日1 回*.ただし10~20 mg/日から投与開始(1では40 mg/回,1 日2 回まで増量可).3 40 mg,1 日1回* ,60 mg,1日1 回まで増量可
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.273
ノルアドレナリン各種疾患もしくは状態にともなう急性低血圧またはショック時の補助治療(心筋梗塞によるショック,敗血症によるショック,アナフィラキシー性ショック,循環血液量低下をともなう急性低血圧ないしショック,全身麻酔時の急性低血圧など)
0.05 ~1.0(~2.0) μg/kg/分643)禁忌:ハロゲン含有吸入麻酔剤
投与中の患者,他のカテコラミン製剤投与中の患者原則禁忌:コカイン中毒の患者,心室頻拍のある患者慎重投与:高血圧の患者,動脈硬化症の患者,甲状腺機能亢進症の患者,心疾患のある患者,徐脈のある患者
徐脈点滴静脈内注射:ノルアドレナリンとして,通常,成人1 回1 mg を250 mL の生理食塩液,5 %ブドウ糖液,血漿または全血などに溶解して点滴静注する.一般に点滴の速度は0.5 ~1.0 mL/分であるが,血圧を絶えず観察して適宜調節する皮下注射:ノルアドレナリンとして,通常,成人0.1~1 mg/回を皮下注射する*
不明
バシリキシマブ腎移植後の急性拒絶
反応の抑制幼児・小児にはバシ
リキシマブ(遺伝子組換え)として20 mg を総用量とし, 10 mg ずつ2 回に分けて静脈内に注射する.初回投与は移植術前2 時間以内に,2 回目の投与は移植術4 日後に行う.心臓移植の場合,2 ~15 歳において移植当日(体外循環離脱,止血確認後)と4 日目に12 mg/m 2/回(最大20 mg/回)を生理食塩液または5% ブドウ糖液で25 mL 以上に希釈し,30 分以上かけて静脈内投与する
禁忌:妊婦または妊娠している
可能性のある婦人感染症,急性過敏症反
応,進行性多巣性白質脳症,BK ウイルス腎症
腎移植では成人・小児ともに国内承認薬であるが,他の臓器移植では適応外である
20 mg,1 日2 回あり(腎移植)
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.274
バソプレシン注射液1 下垂体性尿崩症2 下垂体性または腎性尿崩症の鑑別診断3 腸内ガスの除去4 食道静脈瘤出血の緊急処置
適応外のカテコラミン不応性ショック・低血圧に対する使用0.0002 ~0.002 単位/kg/分を持続静注1140)
禁忌:冠動脈硬化症(心筋梗塞,狭心症など)の患者,急速な細胞外水分の増加が危険となるような病態(心不全,喘息,妊娠高血圧症候群,片頭痛,てんかんなど)のある患者,血中窒素貯留のある慢性腎炎の患者慎重投与:冠動脈硬化症以外の動脈硬化性疾患のある患者,高血圧をともなう循環器疾患のある患者,動脈硬化に起因しない虚血性心疾患のある患者
ショック,横紋筋融解症,心不全,精神錯乱,昏睡,水中毒,中枢性神経障害
適応外でカテコラミン不応性ショック・低血圧に対して使用されることがある
1 1 回2~10 単位を必要に応じて1 日2~3 回皮下または筋肉内注射する3 5~10 単位を皮下または筋肉内注射する4 20 単位を5%ブドウ糖液など100 ~200 mLに混和し,0.1 ~0.4 単位/ 分の注入速度で持続的に静脈内注射する
なし
バルサルタン高血圧症6 歳以上の小児に,体重35 kg 未満の場合20 mg を,体重35kg 以上の場合40 mg を1 日1 回経口投与*
禁忌:妊婦または妊娠している可能性のある婦人,アリスキレンを投与中の糖尿病患者(ただし,他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く)慎重投与:両側性腎動脈狭窄のある患者または片腎で腎動脈狭窄のある患者,高カリウム血症の患者,重篤な腎機能障害のある患者,肝障害のある患者,脳血管障害のある患者
血管浮腫,肝炎,腎不全,高カリウム血症,ショック,失神,意識消失,無顆粒球症,白血球減少,血小板減少,間質性肺炎,低血糖,横紋筋融解症,中毒性表皮壊死融解症,皮膚粘膜眼症候群,多形紅斑,天疱瘡,類天疱瘡
40~80 mg,1 日1 回,最大投与量160 mg
あり
バンコマイシン塩酸
塩適応菌種:バンコマ
イシンに感性のMRSA適応症:敗血症,感染性心内膜炎,外傷・熱傷および手術創などの二次感染,骨髄炎,関節炎,肺炎,肺膿瘍,膿胸,腹膜炎,化膿性髄膜炎
小児,乳児には,1日40 mg/kg を2~ 4 回に分割,それぞれ60 分以上かけて点滴静注*新生児には10~15 mg/kg/回とし,生後1 週までに対しては12 時間ごと,生後1ヵ月までに対しては8 時間ごと,それぞれ60 分以上か
原則禁忌:テイコプラニン,ペプチド系抗生物質,アミノグリコシド系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者,ペプチド系抗生物質,アミノグリコシド系抗生物質,テイコプラニンによる難聴またはその他の難聴のある患者慎重投与:腎障害のある患者,肝障害のある患者,低出生体重児,新生児
ショック,アナフィラキシー,急性腎不全,間質性腎炎,汎血球減少,無顆粒球症,血小板減少,TEN, Stevens-Johnson 症候群,剥脱性皮膚炎,薬剤性過敏症症候群,第8 脳神経障害,偽膜性大腸炎,肝機能障害,黄疸
TDM が望ましい(トラ
フ値15~20μg/mL) 2 g/日を1 回0.5 g,6 時間ごと,または1 回1 g,12時間ごとに分割して,それぞれ60分以上かけて点滴静注
あり
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.275
バンコマイシン塩酸塩(つづき)
けて点滴静注心内膜炎:15~20 mg/kg/ 回,1 日4回を1 時間かけて点滴静注(13 歳未満) 1121)
ビソプロロールフマ
ル酸塩規格により適応症が
異なる1 本態性高血圧(軽症~中等症) 2 狭心症3 心室期外収縮4 次の状態で, ACE 阻害薬/ ARB,利尿薬,ジギタリス製剤などの基礎治療を受けている患者:虚血性心疾患または拡張型心筋症に基づく慢性心不全5 頻脈性心房細動
抗不整脈薬としての投与量は0.08~0.1 mg/kg,1 日1 回643)
禁忌:糖尿病性ケトアシドーシス,代謝性アシドーシスのある患者,高度の徐脈(著しい洞性徐脈),房室ブロック(II,III 度),洞房ブロック,洞不全症候群のある患者,心原性ショックのある患者,強心薬または血管拡張薬を静脈内投与する必要のある心不全患者,肺高血圧による右心不全のある患者,非代償性の心不全患者,重度の末梢循環障害のある患者(壊疽など),未治療の褐色細胞腫の患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人慎重投与:気管支喘息,気管支痙攣のおそれのある患者,うっ血性心不全のおそれのある患者,甲状腺中毒症の患者,特発性低血糖症,コントロール不十分な糖尿病,長期間絶食状態(手術前後など)の患者,重篤な肝,腎機能障害のある患者,末梢循環障害のある患者(レイノー症候群,間欠性跛行症など),徐脈,房室ブロック(I 度)のある患者,過度に血圧の低い患者,異型狭心症の患者,乾癬の患者または乾癬の既往のある患者,高齢者
心不全,完全房室ブロック,高度徐脈,洞不全症候群
β1 選択性,内因性交感
神経刺激作用(-)内服1235 mg,
1 日1 回* 40.625 mg,1 日1 回を2 週間以上,忍容性あれば増量, 1.25~5 mg,1 日1 回52.5 mg,1 日1回で開始し,効果が不十分な場合には5 mg,1 日1 回へ増量貼付剤18 mg,1日1 回,胸部,上腕部または背部のいずれかに貼付し,貼付後24 時間ごとに貼り替える.年齢,症状により4 mg,1 日1 回から開始し,1 日最大量は8 mg 54 mg,1 日1 回から投与開始し,効果が不十分な場合には8 mg,1 日1 回に増量
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.276
ヒドララジン塩酸塩注射:高血圧性緊急症(子癇,高血圧性脳症など)内服:本態性高血圧症,妊娠中毒症による高血圧症
≪通常管理≫経口開始量: 0.75 mg/ kg/日,最大投与量: 7.5 mg/kg/日, (200 mg/日まで)3~4回に分割≪重症高血圧管理≫静注 または筋注0.2 ~0.6 mg/ 回,静注の場合,4 時間ごとに投与52, 938)
禁忌:虚血性心疾患のある患者,大動脈弁狭窄,僧帽弁狭窄および拡張不全(肥大型心筋症,収縮性心膜炎,心タンポナーデなど)による心不全のある患者,高度の頻脈および高心拍出性心不全(甲状腺中毒症など)のある患者,肺高血圧症による右心不全のある患者,解離性大動脈瘤のある患者,頭蓋内出血急性期の患者慎重投与;腎・肝機能障害のある患者,虚血性心疾患の既往歴のある患者,うっ血性心不全のある患者.脳血管障害のある患者
SLE 様症状,うっ血性心不全,狭心症発作誘発,麻痺性イレウス,呼吸困難,急性腎不全,溶血性貧血,汎血球減少症,多発性神経炎,血管炎,劇症肝炎,重篤な肝障害
注射:20 mg 筋注または静注内服:30 ~40 mg/ 日,3 ~4 回に分割から開始し漸次増量.維持量は各個人により異なるが20~50 mg/ 回,30~200 mg/日*
なし
ヒドロクロロチアジ
ド1 高血圧症(本態
性,腎性など),悪性高血圧2 心性浮腫(うっ血性心不全),腎性浮腫,肝性浮腫,月経前緊張症,薬剤(副腎皮質ホルモン,フェニルブタゾンなど)による浮腫
1 1 mg/kg/ 日,最大3 mg/kg/日分1~2 2 2 ~3.5 mg/kg/日,2 回に分割643)
禁忌:無尿の患者,急性腎不全の患者,体液中のナトリウム,カリウムが明らかに減少している患者慎重投与:進行した肝硬変症のある患者,重篤な冠硬化症または脳動脈硬化症のある患者,重篤な腎障害のある患者,肝疾患・肝機能障害のある患者,本人または両親・兄弟に痛風・糖尿病のある患者,下痢,嘔吐のある患者,高カルシウム血症・副甲状腺機能亢進症のある患者,ジギタリス剤・糖質副腎皮質ホルモン剤・ACTH の投与を受けている患者,減塩療法時の患者,乳児,交感神経切除後の患者
再生不良性貧血・溶血性貧血,壊死性血管炎,間質性肺炎・肺水腫,SLE の悪化,アナフィラキシー,低ナトリウム血症,低カリウム血症,急性近視・閉塞隅角緑内障
乳児は電解質バランスが崩れやすいため慎重に投与と記載あり
25~100 mg を1日1~2 回*なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.277
ピモベンダン急性心不全の状態で,利尿薬などを投与しても十分な心機能改善が得られない場合慢性心不全(軽症~中等症)の状態で,ジギタリス製剤,利尿薬などの基礎治療薬を投与しても十分な効果が得られない場合
小児投与量の参考となるデータに乏しい643)
慎重投与:肥大型閉塞性心筋症,閉塞性疾患の患者,急性心筋梗塞の患者,重篤な不整脈のある患者および高度の房室ブロックのある患者,重篤な脳血管障害のある患者,重篤な肝・腎障害のある患者
心室細動,心室頻拍,心室期外収縮,肝機能障害,黄疸
急性心不全:2.5 mg,1 日1~2 回慢性心不全:2.5 mg,1 日2 回食後*.ただし,ジギタリス製剤,利尿薬などと併用する
なし
ピルシカイニド塩酸
塩水和物錠剤,カプセル剤:
頻脈性不整脈(他の抗不整脈薬が使用できないか,または無効の場合)注射剤:緊急治療を要する頻脈性不整脈(上室および心室)
静注薬:1~1.5 mg/kg,10 分かけて静注経口薬:2 mg/kg/日,3 回に分割
禁忌:うっ血性心不全のある患者,高度の房室ブロック・高度の洞房ブロックのある患者慎重投与:基礎心疾患(心筋梗塞,弁膜症,心筋症など)のある患者,心不全の既往のある患者,刺激伝導障害(房室ブロック,洞房ブロック,脚ブロックなど)のある患者,著明な洞性徐脈のある患者,腎機能障害のある患者,重篤な肝機能障害のある患者,血清カリウム低下のある患者
心室細動,心室頻拍(TdP を含む),洞停止,完全房室ブロック,失神,心不全,急性腎不全,肝機能障害
小児の現行適応症につき保険適用(薬用量記載あり)純粋なNa チャネル遮断作用のみを有する
静注 : 期外収縮には0.75 mg / kg,頻拍には1.0 mg/ kg を血圧ならびに心電図監視下に10分で静注内服 : 150 mg/日, 3 回に分割*,最大225 mg/日
なし
フェニレフリン塩酸
塩1 急性低血圧または
ショック時の補助治療2 発作性上室頻拍3 局所麻酔時の作用延長
1に対して0.1~ 2.0μg/kg/分1136)適応外ではあるが,ファロー四徴症の低酸素発作に対し, 0.05 ~0.1 mg/kgで静注,0.1~0.5 μg/kg/分で持続静注643)
原則禁忌:心室性頻拍のある患者慎重投与:高血圧のある患者,動脈硬化症の患者,糖尿病または甲状腺機能亢進症の患者,心疾患のある患者,徐脈のある患者
胸内苦悶,呼吸困難,頭痛,悪心・嘔吐,手足のしびれ
適用外ながら,ファロー四徴症の低酸素発作に使用されることがある
1 回2~5 mg を皮下注または筋注* 1 回0.2 mg を注射液そのまま,または生理食塩水などに混入して静注.適宜増減するが,その範囲は0.1~ 0.5 mg.また反復投与を行う場合には,10~15 分おきに行うこと
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.278
プラゾシン塩酸塩1 本態性高血圧症,腎性高血圧症2 前立腺肥大にともなう排尿障害
0.05 ~0.1 mg/kg/日で開始し最大 0.5 mg/kg/ 日,1 日1回935)
慎重投与:ホスホジエステラーゼ5 阻害作用を有する薬剤を服用している患者,肝機能障害のある患者
失神・意識喪失,狭心
症121~1.5 mg/
日,2~3 回に分割から開始し,効果不十分であれば1.5 ~6 mg/日を2~3回に分割(1では1 日最大15 mg)
なし
フレカイニド酢酸塩静注:緊急治療を要する次の不整脈:頻脈性不整脈(症候性の発作性心房細動・粗動,発作性上室性頻拍,心室頻拍,および医師が生命に関わると判定した重症の心室期外収縮)内服:小児では頻脈性不整脈(発作性心房細動・粗動,発作性上室,心室)成人では頻脈性不整脈(発作性心房細動・粗動)および頻脈性不整脈(心室性)
内服:6ヵ月以上の乳児,幼児および小児には1 日50~ 100 mg/m 2(体表面積),6ヵ月未満の乳児には1 日50 mg/m 2(体表面積), 2~3 回に分割*.ただし,1 日最高用
量は200 mg/m 2 とする.静注:1~2 mg/kg, 100 ~150 mg/m 2緩徐に静注827)
禁忌:高度の房室ブロック,洞房ブロックのある患者,うっ血性心不全のある患者,心筋梗塞後の無症候性心室性不整脈あるいは非持続型心室頻拍のある患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人,リトナビルを投与中の患者,ミラベグロンを投与中の患者,テラプレビルを投与中の患者慎重投与:基礎心疾患(心筋梗塞,弁膜症,心筋症など)のある患者,刺激伝導障害(房室ブロック,洞房ブロック,脚ブロックなど)のある患者,著明な洞性徐脈のある患者,うっ血性心不全の既往歴のある患者,肝機能障害のある患者,重篤な腎機能障害のある患者,血清カリウム低下のある患者
肝機能障害,黄疸循環器:心室頻拍(TdP を含む),心室細動,心房粗動,高度房室ブロック,一過性心停止,洞停止(または洞房ブロック),心不全悪化,アダムス・ストークス発作
強力なNa チャネル遮断作用と,弱いK チャネル遮断作用を有する.ミルクにより吸収が障害されるため,ミルクを飲む30~60 分以上前に内服するのが望ましい
静注 : 1~2 mg/ kg を10 分で静注(総投与量150 mg/回まで)内服 :100 mg/ 日から開始,200 mg/日まで増量可, 2 回に分割
あり(内服のみ)
プロカインアミド塩
酸塩静注:期外収縮(上
室,心室),発作性頻拍(上室,心室),手術および麻酔にともなう不整脈,新鮮心房細動,陳旧性心房細動,心房粗動内服:期外収縮(上室,心室),急性心筋梗塞における心室性不整脈の予防,新鮮心房細動,発作性頻拍(上室,心室)の
静注薬:5~10 mg/kg を5 分かけて静注 持続静注, 20~60μg/kg/分経口薬:30~50 mg/kg/日827)
禁忌:刺激伝導系障害(房室ブロック,洞房ブロック,脚ブロックなど)のある患者,重篤なうっ血性心不全のある患者,モキシフロキサシン塩酸塩・バルデナフィル塩酸塩・アミオダロン塩酸塩(注射剤)・トレミフェンクエン酸塩を投与中の患者,重症筋無力症の患者慎重投与:うっ血性心不全のある患者,基礎心疾患(心筋梗塞,弁膜症,心筋症など)のある患者,低血圧の患者,重篤な肝・
SLE 様症状,無顆粒球症,心室頻拍,心室粗動,心室細動,心不全
陰性変力作用が少ない静注 : 0.2~1 g を50~100 mg/分*内服 : 250~500 mg/ 回を3~6 時間ごと*
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.279
プロカインアミド塩酸塩(つづき)
治療および予防,発作性心房細動の予防,電気ショック療法との併用およびその後の洞調律の維持, 手術および麻酔にともなう不整脈の予防,陳旧性心房細動
腎機能障害のある患者,気管支喘息のある患者,血清カリウム低下のある患者
フロセミド細粒,錠剤:高血圧症(本態性,腎性など),悪性高血圧,心性浮腫(うっ血性心不全),腎性浮腫,肝性浮腫,月経前緊張症,末梢血管障害による浮腫,尿路結石排出促進注射液,キット:高血圧症(本態性,腎性など),悪性高血圧,心性浮腫(うっ血性 心不全),腎性浮腫,肝性浮腫,脳浮腫,尿路結石排出促進100 mg 注射液:急性または慢性腎不全による乏尿
内服:高血圧症0.2 ~2.0 mg/kg/日,最大6 mg/kg/日,分1~2浮腫0.5~4 mg/kg/日, 1~4 回に分割静注:1~2 mg/kg/回持続静注:0.05~ 0.1 mg/kg/ 時で開始し0.3 mg/kg/ 時まで増量可能643)
禁忌:無尿の患者,肝性昏睡の患者,肝性昏睡をともなう腎不全の患者,体液中のナトリウム・カリウムが明らかに減少している患者,スルホンアミド誘導体に対し過敏症の既往歴のある患者慎重投与:進行した肝硬変症のある患者,重篤な冠硬化症または脳動脈硬化症のある患者,重篤な腎障害・肝機能障害のある患者,肝疾患,肝機能障害のある患者,本人または両親,兄弟に痛風,糖尿病のある患者,下痢・嘔吐のある患者,手術前の患者,ジギタリス剤・糖質副腎皮質ホルモン剤・ACTH またはグリチルリチン製剤の投与を受けている患者,減塩療法時の患者,小児など,SLE
ショック,アナフィラキシー,再生不良性貧血,汎血球減少症,無顆粒球症,血小板減少,赤芽球癆水疱性類天疱瘡,難聴,TEN,Stevens- Johnson 症候群,多形紅斑,急性汎発性発疹性膿疱症,心室不整脈(TdP),間質性腎炎,間質性肺炎,低K血症,高尿酸血症
添付文書に小児薬用量の記載はないが,小児などへの投与の欄には以下の記載がある1 低出生体重児: 生後数週間以内の呼吸窮迫症の低出生体重児では,動脈管開存のリスクが増加する可能性がある. 動脈管開存および硝子膜症のため浮腫を生じた重度の低出生体重児への投与による腎石灰化症の報告があり,慎重に投与2 乳児:電解質バランスが崩れやすいため慎重に投与
静注:20 mg/ 回, 1 日1 回内服:40 ~80 mg/回,1 日1 回
あり
プロプラノロール塩
酸塩注射液:狭心症,期
外収縮(上室,心室),発作性頻拍(上室,心室),頻拍性心房細動(徐脈効果),麻酔にともなう不整脈,新鮮心房細動,洞性頻脈,褐色細胞腫手術時内服
3 小児には0.5~2 mg/kg/日を低用量から開始 3~4回に分割*.4 mg/kg/日まで増量可能だが90 mg/日を超えない5 乳幼児には0.5~ 2 mg/kg/日を低用量から開始 3~
禁忌:気管支喘息,気管支痙攣のおそれのある患者,糖尿病性ケトアシドーシス,代謝性アシドーシスのある患者,高度または症候性の徐脈,房室ブロック(II,III 度),洞房ブロック,洞不全症候群のある患者,心原性ショックの患者,肺高血圧による右心不全のある患者,うっ血性心不全のある患者,低血圧症
うっ血性心不全(またはその悪化),徐脈,末梢性虚血(レイノー様症状など),房室ブロック,失神をともなう起立性低血圧,無顆粒球症,血小板減少症,紫斑病,気管支痙攣,呼吸困難,喘鳴
シロップ剤は乳児血管腫にのみ適用があり,他の病態(右心室流出路狭窄による低酸素発作の発症抑制や期外収縮)には適用外である
注射液:2~10 mg/回(麻酔時には1~5 mg/ 回)を緩徐に静注内服1 30~60 mg/ 日より開始最大120 mg/ 日,3回に分割23 30 mg/ 日よ
あり(内服3 56)
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.280
プロプラノロール塩酸塩(つづき)
1 本態性高血圧症(軽症~中等症) 2 狭心症,褐色細胞腫手術時3 期外収縮(上室,心室),発作性頻拍の予防,頻拍性心房細動(徐脈効果),洞性頻脈,新鮮心房細動,発作性心房細動の予防4 片頭痛発作の発症抑制5 右心室流出路狭窄による低酸素発作の発症抑制6 (シロップ剤)乳児血管腫
4 回に分割*. 4 mg/kg/日まで増量可能静注:0.05 ~0.1 mg/kg をゆっくり静注827)無酸素発作の治療:心電図モニター下で10 μg/kg を静注, 100 μg/kg まで注意して増量可643)
の患者,長期間絶食状態の患者,重度の末梢循環障害のある患者(壊疽など),未治療の褐色細胞腫の患者,異型狭心症の患者,リザトリプタン安息香酸塩を投与中の患者(6のみ:低血糖,コントロール不良の心不全)慎重投与:うっ血性心不全のおそれのある患者,甲状腺中毒症の患者,特発性低血糖症,コントロール不十分な糖尿病,絶食状態(手術前後など)の患者,重篤な肝・腎機能障害のある患者,重度でない末梢循環障害のある患者(レイノー症候群,間欠性跛行症など),徐脈のある患者,房室ブロック(I 度)のある患者,小児など(6 +潰瘍をともなう乳児血管腫,出生後5 週未満,PHACE症候群)
り開始,60,90 mg と漸増,3回に分割4 20~30 mg/ 日より開始,60 mg まで漸増,2 ~3 回に分割
ペニシリンG カリウム(ベンジルペニシリンカリウム)
(感染性心内膜炎の
場合) 5 万単位/kg/回,1日4~6 回1121)原則禁忌:本剤の成分またはペ
ニシリン系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者慎重投与:セフェム系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者,本人または両親・兄弟に気管支喘息・発疹・蕁麻疹などのアレルギー症状を起こしやすい体質を有する患者,高度の腎障害のある患者,心疾患のある患者
ショック,溶血性貧血・無顆粒球症,急性腎障害など重篤な腎障害,痙攣などの神経症状,偽膜性大腸炎などの血便をともなう重篤な大腸炎,TEN・Stevens-Johnson 症候群,出血性膀胱炎
400 万単位/ 回,1日6 回.最大500万単位/ 回,3,000万単位/ 日
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.281
ベプリジル塩酸塩水
和物1 持続性心房細動,
頻脈性不整脈(心室)(他の抗不整脈薬が使用できないか,または無効の場合) 2 狭心症
1~2 mg/kg/日 2 回に分割827)禁忌:うっ血性心不全のある患
者,高度刺激伝導障害(房室ブロック,洞房ブロック)のある患者,著明な洞性徐脈のある患者,著明なQT 延長のある患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人,リトナビル・サキナビルメシル酸塩・アタザナビル硫酸塩・ホスアンプレナビルカルシウム水和物・イトラコナゾール・テラプレビル・アミオダロン塩酸塩(注射)・エリグルスタット酒石酸塩)を投与中の患者慎重投与:基礎心疾患(心筋梗塞,弁膜症,心筋症など)のある患者,刺激伝導障害(房室ブロック,洞房ブロック,脚ブロックなど)のある患者,重篤な心室機能障害のある患者,過度に血圧の低い患者,重篤な肝・腎機能障害のある患者,血清カリウム低下やマグネシウム低下などの電解質異常のある患者, U 波を認めた患者,クモ膜下出血や頭蓋内出血の患者
QT 延長,心室頻拍(TdP を含む),心室細動,洞停止,房室ブロック,無顆粒球症,間質性肺炎
マルチ(Ca,Na,K)チャネル遮断薬ベプリジルの特異的作用は,アミオダロンと同様,陰性変力作用は少ないが,心室筋のIKr,IKs を抑制することによるQT 延長に注意する必要がある
持続性心房細動: 100 mg/日から開始し200 mg/日まで増量可.2 回に分割*頻脈性不整脈(心室)および狭心症: 200 mg/日 2 回に分割*
なし
ベラパミル塩酸塩静注:1頻脈性不整脈(発作性上室頻拍,発作性心房細動,発作性心房粗動)経口:1頻脈性不整脈 (心房細動,心房粗動,発作性上室頻拍) 2 狭心症,心筋梗塞
静注薬:0.1~0.2 mg/kg 希釈し5 分以上かけて緩徐に静注*(ただし,1 回5 mg を超えない)経口薬:3~6 mg/ kg/日,3 回に分割*. 240 mg/ 日を超えない
禁忌:重篤な低血圧あるいは心原性ショックのある患者,高度の徐脈・洞房ブロック・房室ブロック(II,III)のある患者,重篤なうっ血性心不全のある患者,急性心筋梗塞のある患者,重篤な心筋症のある患者,β遮断薬の静注を受けている患者,妊婦あるいは妊娠している可能性のある婦人
循環器障害,皮膚障害新生児期・乳児期は心抑制・心停止の可能性あり要注意基礎心疾患のある場合は,有益性がリスクを上回ると判断される場合にのみ投与
1 静注:5 mg/ 回を必要に応じて希釈し,5 分以上かけて徐々に静注12経口:40~ 80 mg/回,1 日回
あり(1のみ)
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.282
ベラパミル塩酸塩
(つづき) (急性期を除く),
その他の虚血性心疾患
慎重投与:注射剤:低血圧の患者,房室ブロック(I)のある患者,WPW・LGL 症候群のある患者,うっ血性心不全のある患者,基礎心疾患(心筋症,弁膜症,高血圧性心疾患など)のある患者,重篤な肝・腎不全のある患者,筋ジストロフィーのある患者,新生児および乳児錠剤:高度の徐脈(50 拍/ 分未満),または第1 度の房室ブロックのある患者,うっ血性心不全またはその既往歴のある患者,低血圧の患者,WPW・LGL 症候群のある患者,基礎心疾患(心筋症,弁膜症,高血圧性心疾患など)のある患者,重篤な肝・腎不全のある患者,筋ジストロフィーのある患者,新生児および乳児
ベラプロストナトリ
ウム1 慢性動脈閉塞症に
ともなう潰瘍,疼痛および冷感の改善2 原発性肺高血圧症
1 μg/kg/ 日 3 回に分割で開始し,最大3~5 μg/kg/ 日,3 ~4 回に分割643)
禁忌:出血している患者(血友病,毛細血管脆弱症,上部消化管出血,尿路出血,喀血,眼底出血など),妊婦または妊娠している可能性のある婦人慎重投与:抗凝固薬・抗血小板薬・血栓溶解薬を投与中の患者,月経期間中の患者,出血傾向ならびにその素因のある患者,高度の腎機能障害のある患者
出血傾向,ショック・失神・意識消失,間質性肺炎,肝機能障害,狭心症,心筋梗塞
1 120 μ g/ 日,3回に分割2 60 μg/ 日,3 回に分割から増量し最大180μg/日,3~4 回に分割
なし
ボセンタン水和物肺動脈性肺高血圧症(WHO 機能分類クラスII,III およびIV)全身性強皮症における手指潰瘍の発症抑制
乳児,幼児または小児には,2 mg/kg/回を1 日2 回投与する.最大投与量は1回120 mg,1 日240 mg とする
禁忌:妊婦または妊娠している可能性のある婦人,中等度あるいは高度の肝障害のある患者,シクロスポリンまたはタクロリムスを投与中の患者,グリベンクラミドを投与中の患者慎重投与:投与開始前のAST, ALT が基準値上限の3 倍を超える患者,低血圧の患者,ワルファリンを投与中の患者
重篤な肝機能障害,汎血球減少・白血球減少・好中球減少・血小板減少・貧血,心不全,うっ血性心不全
肝機能障害は小児では少ない,シルデナフィルの血中濃度が低下する肝機能障害が発現し得るため,肝機能検査をかならず 投与前に行い,投与中においても,少なくとも1ヵ月に1回 実施すること.なお,
62.5 mg/ 回,1 日2 回朝夕食後,5週目から125 mg/回,1 日2 回朝夕食後
トラクリア小児用分散錠のみ1 歳以上に適応あり
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.283
ボセンタン水和物錠
(つづき)投与開始3ヵ月間は2
週に1 回の検査が望ましい
マシテンタン肺動脈性肺高血圧症小児投与量の参考と
なるデータに乏しい禁忌:妊婦または妊娠している
可能性のある婦人,重度の肝障害のある患者,強いCYP3A4 誘導剤(リファンピシン,セイヨウオトギリソウ含有食品,カルバマゼピン,フェニトイン,フェノバルビタール,リファブチン)を投与中の患者慎重投与:投与前AST,ALT が基準値上限の3 倍を超える,透析中,重度の貧血,低血圧
貧血10 mg/ 回,1 日1回なし
ミコフェノール酸モ
フェチル1 腎移植後の難治性
拒絶反応の治療2 下記の臓器移植における拒絶反応の抑制腎移植,心移植,肝移植,肺移植,膵移植3 ループス腎炎
心臓移植術後,経口摂取可能になれば, 12.5 ~25 mg/kg/回(または600 mg/ m 2/ 回),1 日2 回(最大1 日2 g)を投与する.血中濃度モニタリング(治療域 2 ~5 μ g/mL)を行う施設もあるが,有用性は確立されていない
禁忌:妊婦または妊娠している可能性のある婦人慎重投与:重篤な消化器系疾患のある患者,重度の慢性腎不全患者,腎移植後臓器機能再開遅延患者
感染症,進行性多巣性白質脳症(PML),BKウイルス腎症,汎血球減少・好中球減少・無顆粒球症・白血球減少・血小板減少・貧血・赤芽球癆,悪性リンパ腫,リンパ増殖性疾患,悪性腫瘍(特に皮膚),消化管潰瘍・消化管出血・消化管穿孔・イレウス・重度の下痢,アシドーシス・低酸素症・糖尿病・脱水症,血栓症,重度の腎障害,心不全・狭心症・心停止・不整脈(期外収縮,心房細動,心房粗動,上室性・心室性頻脈),肺高血圧症,心嚢液貯留,肝機能障害・黄疸,肺水腫・無呼吸・気胸,痙攣・錯乱・幻覚・精神病,アレルギー反応・難聴
腎移植における拒絶反応の抑制: 低出生体重児,新生児,乳児および2 歳未満の幼児に対する安全性は確立していない本剤の血中濃度を上昇または低下させる可能性がある薬剤との併用に注意する警告:妊娠陰性を確認し投与前から投与中止6 週間は信頼できる確実な避妊法の実施を徹底,臓器移植においては免疫抑制療法および移植患者の管理に精通している医師・ループス腎炎においてはループス腎炎の治療に十分精通している医師のもとで行うこと
2 5 0 0 ~1 , 5 0 0 mg/回を1 日2回12 時間ごとに食後経口投与する
あり(2の一部(腎移植)と3)小児の心移植後については記載なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.284
ミドドリン塩酸塩起立性低血圧,本態
性低血圧経口:2 mg,1 日2
回*,小児の1 日最高量6 mg まで
禁忌:甲状腺機能亢進症の患者,褐色細胞腫の患者慎重投与:重篤な心臓障害のある患者,重篤な血管障害のある患者,重篤な腎障害のある患者,高血圧の患者,前立腺肥大にともなう排尿困難のある患者
発疹,頭痛,悪心・嘔吐,腹痛,心室期外収縮
プロドラッグ選択的α1 刺激薬適用外ながら,起立性調節障害に使用されることがある
経口:2 mg,1 日2 回,1 日8 mg まで
あり
ミルリノン次の状態で他の薬剤を投与しても効果が不十分な場合:急性心不全
50 μg/kg を10 分間かけて緩徐に静注,引き続き0.5μ g/kg/分で点滴静注.病態に応じて適宜増減(0.25~0.75 μg/ kg/分) (文献643 では当初から維持量の点滴静注を推奨し,ローディングはしてもよいと記載している)
禁忌:肥大型閉塞性心筋症のある患者慎重投与:重篤な頻脈性不整脈のある患者,腎機能の低下している患者,著しく血圧の低い患者,血清カリウム低下のある患者
心室頻拍(TdP を含む),心室細動,血圧低下,腎機能の悪化
小児の現行適応症に付き保険適用腎不全時は投与量を減量する.添付文書にある初期静脈内投与は推奨できない.未熟児では動脈管開存作用に注意
50μg/kg を10 分間かけて緩徐に静注,引き続き0.5 μg/kg/ 分で点滴静注.病態に応じて適宜増減(0.25 ~0.75μg/kg/分)
なし
メキシレチン塩酸塩1 頻脈性不整脈(心室) 2 糖尿病性神経障害にともなう自覚症状(自発痛,しびれ感) の改善(内服のみ)
静注:2~3mg/kg/回を緩徐に静注持続静注:0.4~ 0.6mg/kg/ 時827)内服:5~10 mg/ kg/日,3 回に分割
禁忌:重篤な刺激伝導障害(ペースメーカ未使用のII~III 度房室ブロックなど)のある患者,原則禁忌:(内服のみ)糖尿病性神経障害にともなう自覚症状(自発痛,しびれ感)の改善を目的として使用する場合:重篤な心不全を合併している患者慎重投与:基礎心疾患(心筋梗塞,弁膜症,心筋症など)のある患者,軽度の刺激伝導障害(不完全房室ブロック,脚ブロックなど)のある患者,著明な洞性徐脈のある患者,重篤な肝・腎障害のある患者,心不全のある患者,低血圧の患者,パーキンソン症候群の患者,血清カリウム低下のある患者,他の抗不整脈薬による治療を受けている患者
L y e l l 症候群・Stevens-Johnson 症候群・紅皮症,過敏症症候群,心室頻拍・房室ブロック,腎不全,幻覚・錯乱,肝機能障害・黄疸,間質性肺炎・好酸球性肺炎
小児の頻脈性不整脈(心室)につき保険適用(内服のみ薬用量記載あり) QT 延長症候群(3 型)に有効なことあり
1 静注:1 回投与法125 mg, 2~ 3 mg/kg を5~ 10 分かけて静注,効果の持続を期待する場合に0 . 4 ~0 . 6 mg/kg/ 時点滴静脈内投与内服:300 mg/ 日よりはじめ,最大450 mg,3 回に分割
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.285
メトプロロール酒石
酸塩1 本態性高血圧症
(軽症~中等症) 2 狭心症3 頻脈性不整脈
開始量1~2 mg/kg/日,最大6 mg/kg/日(200 mg/日)まで,分2
禁忌:本剤および他のβ遮断薬に対し過敏症のある患者,糖尿病性ケトアシドーシス,代謝性アシドーシスのある患者,高度の徐脈(著しい洞性徐脈)・房室ブロック(II,III 度)・洞房ブロック・洞不全症候群のある患者,心原性ショック,肺高血圧による右心不全,うっ血性心不全のある患者,重度重症の末梢循環障害(壊疽など)のある患者,未治療の褐色細胞腫の患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人慎重投与:気管支喘息・気管支痙攣のおそれのある患者,うっ血性心不全のおそれのある患者,甲状腺中毒症の患者,低血糖症・コントロール不十分な糖尿病・長期間絶食状態の患者,重篤な肝・腎障害のある患者,末梢循環障害(レイノー症候群,間欠性跛行症など)のある患者,小児
心原性ショック,うっ血性心不全・房室ブロック・徐脈・洞機能不全,喘息症状の誘発・悪化,肝機能障害・黄疸
β1 選択性,内因性交感神経刺激作用(-)プロプラノロールと同様に脂溶性で血液脳関門を通過し,片頭痛の治療にも用いられる.副作用はプロプラノロールとほぼ同様であるが,発生率は低い
1 60 ~120 mg /日,3 回に分割最大240 mg 2 60 ~120 mg /日,2~3 回に分割
なし
ランジオロール塩酸
塩1 手術時の次の頻脈
性不整脈に対する緊急処置:心房細動,心房粗動,洞性頻脈2 手術後の循環動態監視下における次の頻脈性不整脈に対する緊急処置:心房細動,心房粗動,洞性頻脈3 心機能低下例における次の頻脈性不整脈:心房細動,心房粗動
2.5 μg/kg/ 分で開始し,数分ごとに倍々にして最大80 μg/kg/分
禁忌:123共通:心原性ショックの患者,糖尿病性ケトアシドーシス・代謝性アシドーシスのある患者,房室ブロック(II以上)・洞不全症候群など,徐脈性不整脈患者,肺高血圧症による右心不全のある患者,未治療の褐色性細胞腫のある患者, 12:うっ血性心不全のある患者慎重投与:123共通:気管支痙攣性疾患の患者,コントロール不十分な糖尿病患者,低血圧症の患者,重篤な血液・肝・腎機能障害のある患者,末梢循環障害のある患者(壊疽,レイノー症候群,間欠性跛行など),
ショック,心停止,完全房室ブロック,洞停止,心不全
小児の12につき保険適用β1 選択性で超短時間作用性(半減期4 分)のため,用量調整しやすい
1 0.125 mg/kg/分,1 分間持続静注後,0.04 mg/kg/ 分で持続静注.投与中は心拍数,血圧を測定し,0.01 ~0.04 mg/kg/分の用量で適宜調節2 0.06 mg/kg/分, 1 分間持続静注後,0.02 mg / kg/分の速度で持続静注を開始.5~10 分で徐拍作用が得ら
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.286
ランジオロール塩酸塩(つづき)
大量出血や脱水症状などにより循環血液量が減少している患者,12:左室収縮機能障害のある患者,3:非代償性心不全の患者
れない場合は, 0.125 mg/kg/分の速度で1 分間持続静注した後,0.04 mg / kg/分の速度で持続静注.投与中は心拍数,血圧を測定し, 0 . 0 1 ~0 . 0 4 mg/kg/ 分の用量で適宜調節3 1 μg/kg/分の速度で持続静注を開始.投与中は心拍数,血圧を測定し,1~10 μg/kg/ 分の用量で適宜調節
リオシグアト1 外科的治療不適応または外科的治療後に残存・再発した慢性血栓塞栓性肺高血圧症2 肺動脈性肺高血圧症
小児投与量の参考と
なるデータに乏しい禁忌:妊婦または妊娠している
可能性のある女性,重度の肝機能障害(Child-Pugh 分類C)のある患者,重度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス15mL/ 分未満)のあるまたは透析中の患者,硝酸薬またはNO供与薬(ニトログリセリン,亜硝酸アミル,硝酸イソソルビド,ニコランジルなど)を投与中の患者,PDE5 阻害薬を投与中の患者,アゾール系抗真菌剤(イトラコナゾール,ボリコナゾール),HIV プロテアーゼ阻害剤(リトナビル,ロピナビル・リトナビル,インジナビル,アタザナビル,サキナビル),オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビルを投与中の患者慎重投与:抗凝固療法中の患者,軽度または中等度の肝機能障害(Child-Pugh 分類A またはB)
喀血・肺出血PDE5 阻害薬からリオシグアトへの移行は可能で,2~3 日のウォッシュアウト期間を設ける
用量調節期:1.0 mg/ 回,1 日3 回から開始,2 週間継続して収縮期血圧が95 mmHg 以上で低血圧症状を示さない場合には, 2 週間間隔で1 回用量を0.5 mg ずつ増量,最高用量は1 回2.5 mg,1日3 回まで.収縮期血圧が95 mmHg 未満でも低血圧症状を示さない場合は現行の用量を維持するが,低血圧症状を示す場合には1 回用量を0.5 mg ずつ減量する用量維持期:用量
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.287
リオシグアト
(つづき)のある患者,腎機能障害(クレ
アチニンクリアランス15~80 mL/ 分未満)のある患者,投与前の収縮期圧が95 mmHg 未満の患者
調節期に決定した用量を維持.最高用量は1 回2.5 mg,1 日3 回までとし,低血圧症状を示すなど,忍容性がない場合は, 1 回用量を0.5 mgずつ減量する
リシノプリル水和物1 高血圧症2 次の状態で,ジギタリス製剤,利尿薬などの基礎治療剤を投与しても十分な効果が認められない場合:慢性心不全(軽症~中等症)
1 0.07 mg/kg 1 日1 回*,最大投与量: 20 mg/ 日
禁忌:血管浮腫の既往歴のある患者(ACE 阻害薬などの薬剤による血管浮腫,遺伝性血管浮腫,後天性血管浮腫,特発性血管浮腫など),デキストラン硫酸固定化セルロース・トリプトファン固定化ポリビニルアルコールまたはポリエチレンテレフタレートを用いた吸着器によるアフェレーシスを施行中の患者,アクリロニトリルメタリルスルホン酸ナトリウム膜(AN69)を用いた血液透析施行中の患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人,アリスキレンを投与中の糖尿病患者(ただし,他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良の患者を除く)慎重投与:両側性腎動脈狭窄のある患者または片腎で腎動脈狭窄のある患者,高カリウム血症の患者,重篤な腎機能障害のある患者,脳血管障害のある患者
血管浮腫,急性腎不全,高カリウム血症,肝機能障害・黄疸,膵炎,TEN・Stevens- Johnson 症候群・天疱瘡様症状,溶血性貧血・血小板減少, SIADH
1 10 ~20 mg,1日1 回* (腎障害を有する高血圧患者では5 mg から開始することが望ましい) 2 5 ~10 mg,1日1 回* (腎障害では2.5 mgから開始)
あり(1)
リドカイン(静注用)期外収縮(心室,上室),発作性頻拍(心室,上室).急性心筋梗塞時および手術にともなう心室不整脈の予防
静注薬;1~2 mg/ kg 緩徐に静注持続静注;1~3 mg/ kg / 時(15~50μg/ kg/分)827)
禁忌:重篤な刺激伝導障害(完全房室ブロックなど)のある患者,本剤の成分・アミド型局所麻酔薬に対し過敏症の既往歴のある患者慎重投与:著明な洞性徐脈,刺激伝導障害のある患者,循環血
刺激伝導系抑制・ショック,意識障害・振戦・痙攣,悪性高熱
小児の現行適応症につき保険適用心房筋への効果は弱い
50 ~100 mg/ 回(1~2 mg/kg)を1~2 分で静注,5分後に同量追加可能10~20 分間隔で同量追加投与可能
なし
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)
p.288
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)リドカイン(静注用)
(つづき)液量が減少している患者,
ショック状態にある患者,あるいは心不全のある患者,重篤な肝機能障害または腎機能障害のある患者
だが,1 時間内の最大投与量は300 mg
ロサルタンカリウム1 高血圧症2 高血圧症および蛋白尿をともなう 2型糖尿病における糖尿病性腎症
開始量:0.7mg/kg (50 mg まで),1 日1 回最大:1.4 mg/kg/日(100 mg/日まで)52, 935)
禁忌:妊婦または妊娠している可能性のある婦人,重篤な肝障害のある患者,アリスキレンを投与中の糖尿病患者(ただし,他の降圧治療を行ってもなお血圧のコントロールが著しく不良な患者を除く)慎重投与:両側性腎動脈狭窄のある患者または片腎で腎動脈狭窄のある患者,高カリウム血症の患者,重篤な腎機能障害のある患者,肝機能障害またはその既往のある患者,脳血管障害のある患者,体液量が減少している患者(利尿降圧薬投与中,厳重な減塩療法中,血液透析中)
アナフィラキシー, 血管浮腫,急性肝炎または劇症肝炎,腎不全,低血糖,横紋筋融解,汎血球減少,ショック・失神・意識消失,高カリウム血症,不整脈,低ナトリウム血症
本剤内服中の妊娠可能年齢の女性では,確実な避妊をすべきである(ただし妊娠第1 三半期までの使用では,明らかに先天異常のリスクを増加させるものではないという報告もある)
1 25 ~50 mg,1日1 回,最大100 mg/日2 50 mg 1 日1 回,最大100 mg/ 日
なし
ワルファリンカリウ
ム血栓塞栓症(静脈血
栓塞栓症,心筋梗塞,肺血栓塞栓症,脳塞栓症,緩徐に進行する脳血栓症など)の治療および予防
12ヵ月未満:0.16 mg/kg/ 日,1 歳以上15 歳未満:0.04 ~0.10 mg/kg/日
禁忌:出血している患者(血小板減少性紫斑病,血管障害による出血傾向,血友病その他の血液凝固障害,月経期間中,手術時,消化管潰瘍,尿路出血,喀血, 流早産・分娩直後など性器出血をともなう妊産褥婦,頭蓋内出血の疑いのある患者など) ,出血する可能性のある患者(内臓腫瘍,消化管の憩室炎,大腸炎,亜急性細菌性心内膜炎,重症高血圧症, 重症糖尿病の患者など) ,重篤な肝障害・腎障害のある患者,中枢神経系の手術または外傷後日の浅い患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人,骨粗鬆症治療用ビタミンK2(メナテトレノン)製剤を投与中の患者,イグラチモ
出血,皮膚壊死,カルシフィラキシス,肝機能障害,黄疸
凝固能が低下した場合,ワルファリンを減量か一時中止し,低用量から再開する.出血症状が強い場合などはビタミンK を静注するワルファリンの効果は食事の影響を受けやすい.納豆などビタミンK を多く含有する食品では効果が減弱し,摂食不良時は増強する.ワルファリンは多くの薬剤と相互作用を示すので,併用時は注意する
1~5 mg,1 日1回投与あり
p.289
薬剤名適応一般的な
小児用法用量おもな禁忌・慎重投与おもな副作用などコメント成人薬用量小児適応
表86 小児の薬用量(つづき)ワルファリンカリウム(つづき)
ドを投与中の患者,ミコナゾール(ゲル剤・注射剤・錠剤)を投与中の患者慎重投与:肝炎,下痢,脂肪の吸収不全,慢性アルコール中毒,うっ血性心不全,敗血症,遷延性低血圧症のある患者および新生児のビタミンK 欠乏時など ,ビタミンK 摂取時など ,悪性腫瘍の患者,産褥婦,甲状腺機能亢進症,または甲状腺機能低下症の患者すべての薬剤において,含有している成分に対する過敏症あるいはその既往のある患者は禁忌. *:適宜増減
p.290
氏名参加者自身の申告事項配偶者・一親等親族または収入・財産を共有する者についての申告事項所属する組織・部門の長に関する申告事項(参加者が組織・部門の長と共同研究の立場にある場合)
顧問株保有・
利益特許使用料講演料原稿料研究費奨学寄附金寄附講座その他顧問株特許研究費奨学寄
附金
付表 先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物治療法ガイドライン:班構成員の利益相反(COI)に関する開示
(2016 年1 月1 日~2018 年12 月31 日)
班長:安河内 聰アクテリオンファーマシューティカルズジャパン班員:伊藤 秀一サノフィアレクシオンファーマアステラス製薬帝人ファーマファイザー班員:須田 憲治アクテリオンファーマシューティカルズ班員:住友 直方小野薬品工業班員:先崎 秀明旭化成アクテリオンファーマシューティカルズジャパン班員:山岸 敬幸アッヴィアクテリオンファーマシューティカルズジャパン協力員:前田 恵理子キヤノンメディカルシステムズ東芝メディカルシステムズハイメディックシーメンスヘルスケア協力員:増谷 聡日本新薬アクテリオン日立製作所日本血液製剤機構アッヴィバイエル薬品アクテリオン日本新薬帝人ファーマ協力員:村島 温子アステラス製薬田辺三菱製薬中外製薬アステラス製薬中外製薬協力員:森 善樹アクテリオンファーマシューティカルズジャパン外部評価委員:赤阪 隆史アステラスアムジェンバイオファーマアボットバスキュラージャパンセントジュードメディカルジャパン第一三共日本ベーリンガーインゲルハイム第一三共Infraredxアシストジャパンアステラス製薬セントジュードメディカルジャパンノバルティスファーマハートフロージャパンバイエル薬品ファイザー第一三共アボットバスキュラージャパンテルモグッドマンセントジュードメディカルジャパンボストンサイエンティフィックジャパン
p.291
班 員:鮎澤 衛班 員:岩崎 達雄班 員:岩本 眞理班 員:小山 耕太郎班 員:小垣 滋豊班 員:坂本 喜三郎班 員:白石 公班 員:瀧聞 浄宏班 員:建部 俊介班 員:土井 庄三郎班 員:土橋 一重班 員:豊島 勝昭班 員:中川 雅生班 員:福嶌 教偉班 員:堀米 仁志班 員:前田 美穂班 員:三浦 大班 員:山岸 正明班 員:与田 仁志協力員:石川 友一
協力員:伊藤 直樹協力員:大崎 真樹協力員:神山 浩協力員:島本 裕子協力員:鈴木 嗣敏協力員:髙井 千夏協力員:高橋 健協力員:武井 黄太協力員:深澤 隆治協力員:松裏 裕行協力員:村上 智明協力員:芳本 潤外部評価委員:石川 司朗外部評価委員:富田 英
氏名参加者自身の申告事項配偶者・一親等親族または収入・財産を共有する者についての申告事項所属する組織・部門の長に関する申告事項(参加者が組織・部門の長と共同研究の立場にある場合)
顧問株保有・
利益特許使用料講演料原稿料研究費奨学寄附金寄附講座その他顧問株特許研究費奨学寄
附金
外部評価委員:小野 稔サンメディカル技術研究所ニプロ河野製作所アステラス製薬エドワーズライフサイエンスエーザイサンメディカル技術研究所セントジュードメディカルジャパンテルモ河野製作所外部評価委員:木村 剛アボットバスキュラージャパンサノフィブリストル・マイヤーズスクイブ興和創薬第一三共日本ベーリンガーインゲルハイムEP クルーズIQVIA サービシーズジャパン大塚製薬イーピーエスアステラス製薬ボストンサイエンティフィックジャパンエムアイディ大塚製薬大日本住友製薬第一三共田辺三菱製薬日本ベーリンガーインゲルハイム武田薬品工業
法人表記は省略.上記以外の構成員については特に申告事項なし.
p.292
文献
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