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一般社団法人日本動脈硬化学会 低脂血症の診断と治療 2023 年版 動脈硬化性疾患予防のための 脂質異常症診療ガイド (2023年6月30日発行)
一般社団法人日本動脈硬化学会 低脂血症の診断と治療 2023 年版 動脈硬化性疾患予防のための 脂質異常症診療ガイド (2023年6月30日発行)
低脂血症の診断と治療 低脂血症の診断と治療 ◦ 続発性(二次性)低脂血症か原発性低脂血症かを鑑別診断する。◦ カイロミクロン・VLDL・LDL などのアポB 含有リポ蛋白が減少する低脂血症とHDL が減少する低脂血症に分けられるが、両方低下する場合もある。◦ 無βリポ蛋白血症(ABL)は、発育不全や脂溶性ビタミン欠乏に起因する多彩な症状を呈する。◦ 家族性低βリポ蛋白血症(FHBL)は無症状の場合が多い。APOB、PCSK9、ANGPTL3の3 種類の原因遺伝子が知られている。アポB 異常に起因するFHBL は脂肪肝を合併しやすく、PCSK9 異常に起因するFHBL は冠動脈疾患を発症しにくい。◦ HDL 欠損症の原因疾患には、アポA-I欠損症、Tangier 病、家族性レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、魚眼病がある。◦ 原発性低脂血症の分類 ポイント 表現型疾患名指定難病番号難病情報センターHP原発性脂質異常症研究班HP 低LDL血症、低TG 血症無βリポ蛋白血症(ABL) 264 https://www.nanbyou. or.jp/entry/4574 https://nanbyo-lipid.com/wp/ wp-content/themes/nanbyo_ lipid/pdf/disease07_02.pdf 家族性低βリポ蛋白血症(FHBL) 336* https://www.nanbyou. or.jp/entry/22449 https://nanbyo-lipid.com/wp/ wp-content/themes/nanbyo_ lipid/pdf/disease09_02.pdf 低HDL 血症タンジール病261 https://www.nanbyou. or.jp/entry/4586 https://nanbyo-lipid.com/wp/ wp-content/themes/nanbyo_ lipid/pdf/disease04_02.pdf 家族性レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、魚眼病259 https://www.nanbyou. or.jp/entry/4547 https://nanbyo-lipid.com/wp/ wp-content/themes/nanbyo_ lipid/pdf/disease02_02.pdf アポA-I欠損症N/A N/A N/A *FHBL1 ホモ接合体の場合
1 低脂血症の定義 明確な定義はないが、血清脂質が基準値を満たさない状態、すなわち、TC 120 mg/dL 未満、TG 30 mg/dL 未満、LDL-C 70 mg/dL 未満、HDL-C 40 mg/dL 未満のいずれかを満たす場合には低脂血症と診断できる。特に、LDL-C またはHDL-C の低下が重要である。 2 続発性低脂血症の鑑別 ・過去に測定した脂質値が正常または高値であることが確認できれば、続発性低脂血症である。・LDL-C 低下をきたす要因・疾患:重症肝疾患、甲状腺機能亢進症、副腎不全、吸収不良、栄養 不良、悪性腫瘍、骨髄増殖性疾患、慢性感染症、慢性炎症性疾患、Gaucher 病、血液疾患、薬剤(ニコチン酸誘導体)。・HDL-C 低下をきたす要因・疾患:喫煙、肥満、2 型糖尿病、慢性腎不全、栄養不良、Gaucher 病、血液疾患、薬剤(蛋白同化ステロイド、β遮断薬、プロブコール)。・続発性の要因がない低脂血症は遺伝性の低脂血症を疑い、以下の疾患を鑑別する。 3 アポB 含有リポ蛋白が減少する遺伝病 A. 無βリポ蛋白血症(Abetalipoproteinemia:ABL) (ABL, Bassen-Kornzweig 症候群:OMIM 200100) ■ 遺伝・疫学 ・MTTP 遺伝子の異常が原因となる。・常染色体潜性(劣性)遺伝を示す。ホモ接合体は重度の低脂血症を来たすが、ヘテロ接合体 (第1 度近親者など)の血清脂質やアポ蛋白B(Apolipoprotein B、以下アポB)濃度は一 般に正常である。・極めて稀。日本人の報告は約10家系。 ■ 成因 ・ミクロソームトリグリセライド転送蛋白(MTTP)の機能喪失型変異により、小腸上皮の原 始カイロミクロンと肝細胞の原始VLDL に脂質が転送されないため、カイロミクロンとVLDLが生成されない。 ■ 臨床症状・検査所見 ・血清TC と血清TG は著明に低下する。LDL-C やアポB は欠損レベルとなり、HDL-C も低値
低脂血症の診断と治療 となる。・出生時は無症状であるが、授乳開始後より、脂肪吸収障害に起因して、嘔吐・下痢・腹部膨 満が生じ、栄養障害による成長障害が見られる。消化器症状は、脂肪の多い食事を避けることにより、成長と共に軽減することが多い。・小腸上皮細胞に脂肪滴が充満し、消化管内視鏡では、十二指腸の絨毛上皮が白色~黄色調を 呈する(snow white duodenum)。・慢性の脂肪吸収障害により、脂溶性ビタミンであるビタミンE、A、D、K が低値を示す。特 にビタミンE やA の欠乏により、多彩な神経症状や眼症状を呈する。深部腱反射・振動覚・位置覚などが進行性に障害され、筋力低下も加わって、未治療では20~40歳までに脊髄小脳変性による歩行障害や、網膜色素変性症による夜盲症・失明を呈する。その他、ビタミンK欠乏による出血傾向や心筋症による不整脈死の報告もある。・有棘赤血球(acanthocyte)を50%以上の赤血球で認め、血沈が延長する。・VLDL の合成・分泌障害から、肝臓に脂肪が蓄積し脂肪肝になる。脂肪肝炎や肝硬変を併発 するケースもある。 ■ 診断 ・血中LDL-C 15 mg/dL 未満または血中アポB 15 mg/dL 未満(典型例ではアポB 5 mg/dL 未満)であり、消化器症状・神経症状・眼症状・有棘赤血球のいずれかを認め、他の低脂血症が除外できれば、ABL を疑う。その上で、MTTP 遺伝子変異を同定すれば、ABL の診断に至る。・後述する家族性低βリポ蛋白血症(FHBL)1 ホモ接合体との鑑別には、遺伝形式が参考にな る。すなわち、常染色体潜性(劣性)遺伝のABL の第1 度近親者には低脂血症を認めないが、常染色体共顕性(優性)遺伝のFHBL1 ホモ接合体の第1 度近親者には中等度の低脂血症を認める。・診断基準は難病研究班HP 参照 https://nanbyo-lipid.com/wp/wp-content/themes/ nanbyo_lipid/pdf/disease07_02.pdf ■ 治療 ・下痢を回避するために脂肪の摂取制限が必要である。乳児には中鎖脂肪酸トリグリセリド (MCT)のミルクを検討する。必須脂肪酸が不足しないように配慮する。・ビタミンE とビタミンA の大量補充療法を早期に開始すれば、これらの欠乏症に起因する症 状の進行を遅らせることができる。血中濃度をモニターしながら、ビタミンD・ビタミンKの補充も考慮する。・2015年から「指定難病」として、医療費給付の対象となっている。
B. 家族性低βリポ蛋白血症 (Familial Hypobetalipoproteinemia:FHBL) (FHBL1:OMIM 615558;FHBL2:OMIM 605019) 主な原因遺伝子として、APOB、angiopoietin-like 3(ANGPTL3)、proprotein convertase subtilisin/kexin type 9(PCSK9)の3 種類が知られている。 変異遺伝子呼称蛋白の機能遺伝様式 1 APOB家族性低βリポタンパク血症(FHBL)1アポB 含有リポタンパクの構成蛋白常染色体顕性(優性)遺伝 2 ANGPTL3家族性複合型低脂血症(FCHL)・FHBL2リポタンパクリパーゼ活性の抑制など常染色体顕性(優性)遺伝 3 PCSK9 LDL 受容体の分解促進 常染色体顕性 (優性)遺伝 ■ 遺伝・疫学 ・FHBL1 は常染色体共顕性(優性)遺伝を示す。ホモ接合体は重度の低脂血症を来たし、ヘテ ロ接合体(第1 度近親者など)では中等度の低脂血症を来たす。ヘテロ接合体は3,000人に1人と比較的高頻度だが、ホモ接合体または複合ヘテロ接合体は極めて稀で、日本人の報告は約10例。 ■ 成因 ・FHBL の過半数はFHBL1(APOB 遺伝子の変異)に起因する。変異のほとんどはフレームシ フト変異かナンセンス変異で、遺伝子の変異部位に従って不完全な短縮型アポB が生成され、VLDL やカイロミクロンの分泌障害と異化亢進に伴う低脂血症を呈する(アポB-48 より大きい変異であれば、カイロミクロンの分泌は保持される)。短縮型アポB を呈さないミスセンス変異による症例も一部報告されている。・FHBL2 はANGPTL3 の機能喪失型変異に起因する。海外では、FHBL の10%程度と推定さ れている。HDL-C も同時に低下するため、家族性複合型低脂血症(familial combined hypolipidemia)とも呼ばれる(HDL-C に関しては潜性(劣性)遺伝を示すと報告されている)。ANGPTL3 の欠損は、リポタンパクリパーゼ(LPL)と内皮リパーゼ(EL)の活性亢進を介して、低脂血症を発症すると考えられている。・PCSK9 の機能喪失型変異でも低LDL-C 血症を呈する。LDL 受容体の分解が減弱するために、 LDL 受容体機能が亢進し、LDL の異化が亢進する。 ■ 臨床症状・検査所見 ・FHBL1 ヘテロ接合体では、血中LDL-C 70 mg/dL 未満、血中アポB 50 mg/dL 未満程度の 中等度低脂血症を呈するが、概ね無症状である。LDL-C 低下に伴い、冠動脈疾患発症リスク
低脂血症の診断と治療 が約70%低下する。ただし、脂肪肝を伴うことが多く、肝硬変への進行例や肝癌合併例も報告されている。・FHBL1 ホモ接合体または複合ヘテロ接合体の重症型では、ABL の臨床症状に類似し、脂肪 吸収障害に起因する下痢、乳児期の発育障害、ならびに脂溶性ビタミンの欠乏による神経症状や眼症状などを呈する(A 項参照)。血清TC と血清TG は著明に低下する。LDL-C やアポB は欠損レベルとなり、HDL-C も低値となる。・ANGPTL3 変異のヘテロ接合体では、中等度の低脂血症を呈するが、HDL-C は保たれる。ホ モ接合体や複合ヘテロ接合体では、高度の低脂血症となり、HDL-C も低値となる。ANGPTL3の機能喪失型変異により、冠動脈疾患発症リスクが30~40%低下する。・アフリカ系アメリカ人にはPCSK9 にY142X やC679X のナンセンス変異保有者が多く、20~ 40%のLDL-C 低下に伴い、90%近く冠動脈疾患発症リスクが低下する。PCSK9 変異のホモ接合体または複合ヘテロ接合体患者では、ABL のレベルに近いLDL-C 低下を来たすが、臨床症状はほとんどなく、健康と言われている。 ■ 診断 ・FHBL では第1 度近親者にも低LDL-C 血症を認めるため、常染色体顕性(優性)遺伝様式の 低LDL-C 血症であればFHBL を考える。・FHBL1 の可能性がある場合、短縮型アポB の検索を試みる。SDS/PAGE 電気泳動またはウ エスタンブロットで短縮型アポB が検出されれば、そのサイズに対応した部位のAPOB 遺伝子の変異を検索する。ただし、アポB-30 よりも短い場合には血中に検出されないとされ、アポB のN 末端側30%に相当するエキソン1 ~25の塩基配列を決定する必要がある。・PCSK9 とANGPTL3 の血中濃度の測定が可能であるが、血中蛋白の欠損を認めないからと 言って、これらの遺伝子異常によるFHBL は除外できない。・APOB、ANGPTL3、PCSK9 の遺伝子変異を同定する。しかし、これらの遺伝子に変異を同 定できないFHBL も少なくない。・FHBL1 ホモ接合体または複合ヘテロ接合体は、重症例ではABL と同様の基準で診断される。 すなわち、血中LDL-C が 15 mg/dL 未満または血中アポB 15 mg/dL 未満(典型例ではアポB 5 mg/dL 未満)であり、消化器症状・神経症状・眼症状・有棘赤血球のいずれかを認め、他の低脂血症を除外した上で、APOB 遺伝子変異を同定すれば、診断に至る。・FHBL1(ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)の診断基準は厚労省HP 参照 https://www. nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/upload_files/File/336-202111-kijyun.pdf(2021年11月1 日付)。 ■ 治療 ・FHBL1 ホモ接合体または複合ヘテロ接合体の治療は、ABL に準じる(A 項参照)。・それ以外で、合併症がない場合には治療を要しない。ただし、FHBL1 で高度の脂肪肝を合併 する場合には、肥満の是正や脂肪の摂取制限を指導する。・FHBL1 ホモ接合体または複合ヘテロ接合体は、2021年から「指定難病」として、医療費給付 の対象となっている。
C. カイロミクロン停滞病(Chylomicron Retention Disease:CMRD) (CMRD, Anderson 病:OMIM246700) ■ 遺伝・疫学 ・SAR1B 遺伝子の異常が原因となる。・常染色体潜性(劣性)遺伝を示すため、第1 度近親者の血清脂質やアポB 濃度は正常である。・極めて稀。日本人の報告は数例。 ■ 成因 ・小胞体からゴルジ体にカイロミクロンを輸送するのに必要なsmall G 蛋白であるSAR1B の 欠損により、カイロミクロンが分泌されない。 ■ 臨床症状・検査所見 ・血清TC、LDL-C、アポB およびHDL-C は低値となるが、ABL やFHBL1 ホモ接合体または 複合ヘテロ接合体ほどのLDL-C、アポB の欠損レベルの低下はみられない。血清TG 値は正常である。・脂肪を経口負荷しても、血中TG 値の上昇がほとんど認められない。・ABL の臨床症状に類似し、脂肪吸収障害に起因する下痢、乳児期の発育障害、ならびに脂溶 性ビタミンの欠乏による神経症状や眼症状などを呈する(A 項参照)。CPK の上昇を認める場合が多い。肝腫大や脂肪肝を20%程度に認めるが、肝硬変への進行例の報告はない。心筋症合併の報告もある。・ABL と同様の消化管内視鏡所見が観察される。 ■ 診断 ・両親の血清脂質が正常で、乳児期に発育障害、脂肪吸収不全、下痢などがあり、血清TC と LDL-C が顕著に低下する一方、血清TG が正常範囲であればCMRD が強く疑われる。・SAR1B の遺伝子変異を同定する。 ■ 治療 ・ABL の治療に準じる(A 項参照)。 D. Smith-Lemli-Opitz(SLO)症候群 (RSH 症候群:OMIM270400) ■ 遺伝・疫学 ・DHCR7 遺伝子の異常が原因となる。・欧米では1 ~6 万出生に1 人程度と比較的高頻度の常染色体潜性(劣性)の奇形症候群であ るが、日本人における頻度は明らかではない。
低脂血症の診断と治療 ■ 成因 ・7- デヒドロコレステロール(7DHC)還元酵素(DHCR7)の先天的欠損の結果、コレステ ロールが欠乏し、7DHC が過剰蓄積する。 ■ 臨床症状・検査所見 ・血清LDL-C は正常範囲から 1 mg/dL の著明低下例まで様々である。・成長障害、小頭症、知的障害、狭額症、眼瞼下垂、鞍鼻、口蓋裂、多指症、合趾症、外性器 異常(男性)、中枢神経症状(難治性てんかん)、心奇形、気道奇形、尿路奇形などの種々の症状を合併する。 ■ 診断 ・第2 趾と第3 趾の合趾症、小頭症を伴う知的障害、眼瞼下垂、成長障害などがあれば本疾患 を疑う。・血中の 7DHC の増加を証明する。・DHCR7 の変異を同定する。 ■ 治療 ・コレステロール補充療法による神経症状の部分的な改善の報告はあるが、確立された治療法 はない。根治療法はなく、合併症に対して支持的に対応する。・二次的な副腎・性腺機能低下に対して、補充療法を行う。 4 HDL が低下する遺伝病 臨床的特徴の比較を表に示す。 表 HDL が低下する遺伝病の臨床症状の比較アポA-I欠損症Tangier 病古典的LCAT 欠損症魚眼病 原因遺伝子APOA1 ABCA1 LCAT LCAT角膜混濁+ + + +黄色腫+ - - -扁桃腫大- + - -末梢神経障害- + - - 腎障害- - + -早発性冠動脈硬化-~+ -~+ - -
原発性低HDL-C 血症の診断フローチャート Yes Yes No ・外科手術後、肝障害(特に肝硬変や重症肝炎、回復期を含む) 、全身性炎症性疾患の急性期、自己免疫疾患・過去6 か月以内にプロブコールの内服歴、特にフィブラート系薬 の併用(プロブコール服用中止後のフィブラート系薬処方も) アポA-Iの低下[アポA-I<60 mg/dL] ・アポリポタンパクA-I(アポA-I)の測定・遊離コレステロール(FC)の測定と コレステロールエステル比(CE/TC)の算出(※1) FC の相対的上昇なし[CE/TC 低下なし(70% 前後)] FC の相対的上昇[CE/TC の低下(65% 以下)] アポA-I<20 mg/dL LCAT 活性 低下(感度以下) 所見の確認1.角膜混濁2.貧血3.蛋白尿、腎機能障害 LCAT 欠損症の疑いアポA-I検出限界以下 タンジール病の疑い所見の確認1.オレンジ色扁桃腫大2.肝腫大または脾腫3.角膜混濁4.末梢神経障害5.心血管疾患アポリポタンパクA-I欠損症の疑い 所見の確認1.角膜混濁2.黄色腫3.心血管疾患 指定難病の可能性あり遺伝子診断を考慮 (専門医へ問い合わせ)アポA-I≥ 20 mg/dL HDL-C<25 mg/dL 二次性低HDL-C 血症の疑い ※2 ※3 ※1 CE/TC=(TC-FC)/TC×100(%)による計算値※2 タンジール病やアポリポタンパクA-I欠損症のヘテロ接合体の可能性あり※3 LCAT 活性の測定はコマーシャルベースには行われていない。測定が必要な場合は、厚生労働省政策研究 班「原発性脂質異常症に関する調査研究班」ホームページ(https://nanbyo-lipid.com/)の「お問い合わせ」の項で要相談
低脂血症の診断と治療 A. アポA-I欠損症 (OMIM618463) ■ 遺伝・疫学 ・臨床症状は、低HDL 血症、角膜混濁、黄色腫、心血管疾患・遺伝形式は、常染色体潜性(劣性)遺伝、血清脂質値は常染色体共優性遺伝。・極めて稀。70種類以上のアポA-I変異の報告がある。日本人の報告例は10例程度。 ■ 成因 ・血中の遊離アポA-IがABCA1 に結合することが、HDL 形成の第一段階である。ABCA1 は 細胞内からコレステロール搬出する機能を持ち、アポA-Iと結合することでコレステロールを付加してpreβ-HDL となる。本症ではアポA-Iの欠損または機能喪失によりHDL が産生されないため、血清HDL-C、アポA-I濃度が著しい低値となる。 ■ 検査所見・臨床症状 ・著明な低HDL-C 血症(HDL-C<25 mg/dL)で、血清アポA-Iは 20 mg/dL 未満アポA-I含有血清HDL の欠損、正常~低下したトリグリセライド、正常レベルのLDL コ レステロールを認める。・LCAT の活性が障害されるためアポA-I欠損症では遊離コレステロールが増加し、角膜混濁 や扁平黄色腫、早発性冠動脈疾患を認める。・障害の程度は変異部位や年齢性別により様々であり、鑑別には遺伝子診断を要する。・アポA-Iのミスセンス変異やナンセンス変異が低HDL-C 血症患者から見つかっている。ア ポA-Iの変異の一部にアミロイドーシスの合併が報告されているが、アミロイドーシスが主要な病態でありHDL-C 低値を伴わない場合は、全身性アミロイドーシス(指定難病28)にて取り扱う。173番目のアルギニンがシステインに置換するアポA-IMilano では低HDL-C血症を呈するが、これはHDL の異化亢進によるものであり、若年性冠動脈疾患の増加はなく、抗動脈硬化作用を示すことが報告されている。・特定のアポA-I変異は全身性アミロイドーシスの原因になる場合がある。 ■ 診断 ・APOA1 の遺伝子変異を同定する。 ■ 治療 ・遺伝子治療などの根本的な治療はなく、合併する動脈硬化性疾患の予防・治療が中心となる。 糖尿病(耐糖能異常)を合併することが多くその治療が重要であり、また高血圧、喫煙などの危険因子の管理も重要である。
B. Tangier 病(ABCA1欠損症) (指定難病261)(OMIM:205400) ■ 遺伝・疫学 ・臨床症状はオレンジ色扁桃腫大、肝腫大または脾腫、角膜混濁、末梢神経障害、心血管障害。 インスリン初期分泌能が低下するとの報告がある。・常染色体潜性(劣性)遺伝、血清脂質値は常染色体共優性遺伝。・極めて稀。100以上のABCA1 変異の報告がある。日本人の報告例は10家系程度。・HDL-C 値下位1 %未満の集団の10%にABCA1 変異が同定されている。 ■ 成因 ・細胞内の遊離コレステロールとリン脂質をアポA-Iに受け渡す輸送体、ATP binding cas- sette transporter A1(ABCA1)の変異による機能異常に起因する。 ■ 臨床症状・検査所見 ・血漿HDL-C は通常 5 mg/dL 以下(同定された症例の平均 3 ± 3 mg/dL)、アポA-Iは10 mg/dL 以下の著明な低値を示す。血漿LDL-C も平均正常値の37%程度に低下している。TGに富んだいわゆるレムナントリポ蛋白質粒子(VLDL からLDL への代謝の中間産物)の出現を認めることも報告されている。 ・ABCA1 遺伝子変異のヘテロ接合体では、血中HDL-C 及びアポA-I値は正常者の約50%に 低下することが多いが、HDL-C レベル低下の程度は一定していない。HDL 生合成の障害による細胞からのコレステロール搬出の低下により、種々の臓器において脂質の蓄積が認められる。代表的かつ典型的所見はいわゆるオレンジ扁桃である(図)。扁桃は分葉・腫大し、明るいオレンジ又は黄~灰色の表面を呈する。再発性扁桃炎や扁桃摘出の病歴がしばしば認め 図 オレンジ扁桃
低脂血症の診断と治療 られる。さらに、脾腫とそれに伴う血小板減少症と網状赤血球増加を認めることがある。約3 分の1 の症例に肝腫大も認められるが、肝機能障害は通常は認めない。その他の臓器へのコレステロール蓄積は、リンパ節、胸腺、腸管粘膜、皮膚などにもみられ、角膜へのコレステロール蓄積により角膜混濁を来す。・軽度から重症まで様々な末梢神経障害が報告されている。知覚障害、運動障害あるいは混合 障害が、一過性にあるいは持続性に出現する。深部知覚や腱反射の低下はまれで、脳神経を含む末梢神経の再発性非対称性障害や、下肢に強い対称性の末梢神経障害や脊髄空洞症様の末梢神経障害として出現する。・本邦のタンジール病患者35例中12例(34.3%)、海外での109例中34例(31.2%)が、何らか の心血管疾患を合併していると報告されている。血管内超音波法(IVUS:intravascular ultrasound)による観察では、びまん性の石灰化の強い冠動脈病変が報告や、全身性の強い動脈硬化病変を伴った症例の報告がある。 ■ 診断 ・HDL-C<25 mg/dL の場合、低HDL-C 血症の診断フローチャートに従って、二次性低HDL 血症を除外し、他の原発性低HDL 血症である、古典的レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、魚眼病、アポA-I欠損症を鑑別して診断する。遊離コレステロールは増加しておらず、アポA-Iが 20 mg/dL 未満であるが検出限界以下ではない場合、タンジール病が強く疑われる。・ABCA1 の遺伝子解析が、2021年4 月に保険収載されている。・診断基準は研究班HP 参照 https://nanbyo-lipid.com/wp/wp-content/themes/nanbyo_ lipid/pdf/disease04_02.pdf ■ 治療 ・現在のところ、遺伝子治療によるABCA1 の補充などの根治的治療法は未確立である。・粥状動脈硬化性疾患の著しい増加が主たる問題であるので、合併症としての動脈硬化性疾患 の有無を慎重に評価することが重要である。そのために、運動負荷心電図、経胸壁心臓超音波検査、冠動脈CT スキャンなどを含めた評価を行い、動脈硬化性疾患の発症防止と早期発見に努める。糖尿病(耐糖能異常)を合併することが多いことからその治療や、高血圧、喫煙などの危険因子の管理が重要である。・本症の血漿LDL-C レベルは一般に低いが、もしそうでない場合はスタチンあるいはその他の 薬剤でLDL-C レベルを低下させるべきである。・本症でしばしば認められる耐糖能異常は 75 g 経口ブドウ糖負荷試験を行うことにより、イ ンスリン初期分泌能の指標であるinsulinogenic index を評価する。・2015年から「指定難病」として、医療費給付の対象となっている。
C. 家族性レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ (LCAT)欠損症(指定難病259) (FLD, Norum 病:OMIM245900)、魚眼病(Fish eye disease, FED:OMIM136120) ■ 遺伝・疫学 ・常染色体潜性(劣性)遺伝を示すため、親族の血清脂質やLCAT 活性は一般に正常である。・有病率は100万人に1 人未満と稀である。世界で80家系程度が報告され、日本人ではFLD を 呈したLCAT 変異が15種類、FED を呈したLCAT 変異が5 種類報告されている。 ■ 成因 ・リポ蛋白に含まれる遊離コレステロールをエステル化する酵素であるLCAT が欠損する為に、 血清総コレステロールに占める遊離コレステロールの比が増加する。成熟HDL の形成が阻害され、アポA-Iの異化が亢進して、低HDL-C 血症(25 mg/dL 未満)をきたす。軽度の高TG 血症を伴う。 ■ 検査所見・臨床症状 ・古典的な家族性LCAT 欠損症(FLD)、魚眼病(Fish eye disease, FED)に共通して角膜混 濁が認められる。魚眼病(Fish eye disease, FED)は通常角膜混濁のみを認める。・LCAT はHDL 粒子のコレステロールをエステル化するα活性とVLDL やLDL 粒子のコレス テロールをエステル化するβ活性を示す。古典的な家族性LCAT 欠損症(FLD)はα活性とβ活性の両方を欠損し、魚眼病(Fish eye disease, FED)はα活性のみを欠損する。・古典的な家族性LCAT 欠損症(FLD)では溶血性貧血と進行性の腎機能障害を呈し、末期腎 不全に至る例もある。・HDL-C、アポA-I、アポA-II、LDL-C が低下する。遊離コレステロールの比やアポE が増 加し、Lp-X や大型TG rich LDL などの異常リポ蛋白が出現することがある。 ■ 診断 ・HDL-C の著しい低下を認め、血清コレステロールのエステル比の低下(正常70%)があれば、 LCAT 活性を測定する。LCAT の極度の低下または欠損が認められ、肝疾患などの続発性LCAT 欠損症や二次性低HDL コレステロール血症(薬剤性を含む)などを除外できれば家族性LCAT 欠損症が強く疑われる。・LCAT の遺伝子異常を同定する。・診断基準は研究班HP 参照 https://nanbyo-lipid.com/wp/wp-content/themes/nanbyo_ lipid/pdf/disease02_02.pdf ■ 治療 ・腎障害の進行を予防する目的に、食事性脂肪の摂取制限やアンギオテンシン変換酵素阻害薬 かアンギオテンシンII受容体拮抗薬の投与が効果のあった報告があるが、根本的な治療法ではない。
低脂血症の診断と治療 本書は、日本動脈硬化学会発行「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療ガイド2013年版改訂版(2017年3 月30日発行)第14章抜粋」を改訂したものである。 岡崎 啓明(自治医科大学 医学部内科学講座 内分泌代謝学部門)高橋 学(医療法人 長崎病院内科)若林 徹治(自治医科大学 医学部内科学講座 内分泌代謝学部門)小関 正博(大阪大学 大学院医学系研究科 循環器内科学)黒田 正幸(千葉大学 医学部附属病院未来開拓センター)多田 隼人(金沢大学附属病院 循環器内科/金沢大学大学院先進予防医学研究科 循環予防医学)斯波真理子(大阪医科薬科大学 循環器センター) ・自家脂肪細胞を用いた遺伝子治療によるLCAT の補充療法等の治験が進行中である。・2015年から「指定難病」として、医療費給付の対象となっている。