p.1
熱中症診療ガイドライン 2024 日本救急医学会
熱中症診療ガイドライン 2024 日本救急医学会
i 熱中症診療ガイドライン2024 タスクフォースメンバー (〇:執筆担当者) 横堀 將司(担当理事)〇日本医科大学神田 潤 (タスクフォース長)〇帝京大学近藤 豊 〇順天堂大学若杉 雅浩〇富山県立中央病院五十嵐 豊日本医科大学池知 大輔日立総合病院石原 唯史〇順天堂大学浦安病院岩﨑 陽平東京医科歯科大学上野 哲 東洋大学遠藤 香織〇北海道大学岡田 遥平国立シンガポール大学 Duke-NUS Medical School岡野 雄一〇熊本赤十字病院奥田 拓史日本体育大学小野寺 隆太〇京都大学金子 仁 東京都立多摩総合医療センター狩野 謙一〇福井県立病院岸原 悠貴自治医科大学附属さいたま医療センター小平 博 兵庫県立淡路医療センター澤田 悠輔群馬大学須田 千秋佐久医療センター席 望〇さいたま赤十字病院田中 大貴〇長野県立こども病院寺住 恵子〇熊本赤十字病院長門 直 嶋田病院中島 聡志〇京都府立医科大学中村 聡志済生会宇都宮病院濱口 純 東京都立多摩総合医療センター本郷 貴識岡山大学宮本 颯真聖路加国際病院三好 ゆかり順天堂大学浦安病院安尾 俊祐〇京都桂病院山﨑 舞子藤沢湘南台病院山田 栄里前橋赤十字病院吉村 聡志洛和会音羽病院
ii 熱中症診療ガイドライン2024 目次 発刊によせて ................................................................................................................................ 1序 文.................................................................................................................................... 5前 文.................................................................................................................................... 5 CQ1-01日本救急医学会熱中症重症度分類・Bouchama 基準・J-ERATO スコアは予 後判定に有用か? ...................................................................................................... 18 FRQ1-02 熱中症の重症度の判定基準として、以下のものは有用か?(深部体温/意識 レベル/急性期DIC スコア/尿量/画像検査) ............................................................ 21 FRQ1-03 重症熱中症の治療において、バイオマーカーで臓器障害や抗炎症・凝固作用 の状態を把握することは有用か? ............................................................................ 23 BQ2-01熱中症の発症のリスクの減少に、いずれの因子を検討することが有用か? ....... 25 FRQ2-02 熱中症の発症および重症化リスクの減少に、暑熱順化は有用か?....................... 29 BQ2-03熱中症の発症のリスク判定に、WBGT は有用か? ................................................ 32 CQ3-01 Active Cooling は、点滴(水分補給)のみの治療に比べて有用か? ........................ 34 CQ3-02熱中症の治療において、いずれの冷却法が有用か? ............................................. 36 CQ3-03熱中症の治療において、目標体温を38.0°Cとすることは有用か? ...................... 38 CQ3-04熱中症の治療において、冷却の目標速度を設定することは有用か? ................... 41 BQ3-05熱中症の治療において、搬送前の冷却は有用か? ................................................. 43 CQ3-06熱中症の治療において、解熱薬は有用か? ............................................................ 45 BQ4-01熱中症患者への適正な初期輸液量の目安を設定することは有用か? ................... 47 CQ4-02病院前診療での早期輸液とORS のいずれが有用か? ........................................... 48 FRQ4-03 熱中症の治療において、いずれのORS 経口補水液(Oral Rehydration Solution(ORS))が有用か? ..................................................................................... 50 CQ4-04熱中症例で合併したDIC において、DIC 治療薬は有用か? ................................. 52 CQ4-05熱中症によるDIC でいずれのDIC 治療薬が有用か? ............................................ 50 BQ5-01熱中症の小児患者において、重症度の判定基準として、腋窩温は深部体温に 比べて有用か? .......................................................................................................... 56 CQ5-02熱中症の小児患者の治療において、いずれの冷却法が有用か? .......................... 59 FRQ5-03 熱中症の小児患者の治療において、目標体温を38.0°Cに設定することは有 用か? ......................................................................................................................... 62 BQ5-04小児の熱中症予防において、水分摂取量の目安を設定することは有用か? ....... 64 FRQ5-05 小児の熱中症予防において暑熱順化は有用か? ..................................................... 66 BQ5-06 小児の熱中症の発症のリスク判定に、WBGT は有用か? ...................................... 69 FRQ5-07 乳幼児の車内閉じ込めによる熱中症を予防するには、どの対策が有用か? ........ 71 Supplement HsS2020-23 の報告(速報版) ......................................................................... 73
発刊によせて 日本救急医学会 熱中症および低体温症に関する委員会(以下:熱中症委員会。設立当初は熱中症検討特別委員会)は 2006 年より全国の救命救急センター、日本救急医学会認定指導医指定施設、大学病院救急部などを対象に隔年で熱中症全国調査 Heatstroke STUDY (HsS)を行ってきた。本委員会が主導する HsS の結果は会員諸氏や市民に広く報告され、本邦における熱中症実態の把握やその予防、対策に大きな貢献をしてきた。また本委員会からは13 編の英文論文、2 編の英語版ガイドライン、8 編の和文報告がすでに発出されており、国内外の熱中症研究者に大きなインパクトを与えてきた。しかし、熱中症の予防、診断、治療に関するエビデンスは依然確立されておらず、日常診療におけるスタンダードが明確であるとは言い難かった。このため熱中症委員会では議論を重ね、今まで行われた HsS や過去に報告された国内外の知見を集積し、Clinical Question(CQ)形式の熱中症診療ガイドライン2015 を作成した。この熱中症診療ガイドライン2015 には熱中症の疫学や発生条件、診断基準、診断、予防や治療法、重症化の因子まで様々な内容が記載された。たとえば熱中症I度からIII度(2015)までの熱中症重症度分類は、現場で様子を見てよいか、あるいは医師への受診が必要か、そして入院が必要か、といった熱中症ケアのための指針を直接的に反映した重症度分類を提示し、医療者のみならず一般市民にもわかりやすいものとなった。また熱痙攣、熱失神、熱疲労、熱射病などの、重症度がわかりにくい医学用語を整理したことも画期的なことであった。総じて、熱中症診療ガイドライン2015 は診療に従事する医療者のみならず、熱中症患者さんに遭遇する可能性がある学校職員、介護職員、労働衛生に関わる職員、スポーツインストラクターなど、様々な職種の皆さまにも大きく役に立つものとなったのである。しかし2015 年の熱中症診療ガイドライン2015 作成からほぼ10 年が経過した。また近年の地球温暖化も相まってか、熱中症への関心が高まり、国内外からさらに多くの熱中症に関わる論文が発出されてきた。これに対して、改めて情報を整理したうえで新しい治療指針を作成するべきである、という思いが委員の中で共有され、今回のガイドライン作成に繋がったのである。また、昨今の「ガイドライン」はエビデンスの確実性のみならず、利益と不利益のバランス、患者の価値観や意向、コストや医療資源などを考慮し推奨の強さを記載することが求められてきている。医療が複雑化する中、医療従事者は皆、より実地的臨床判断に資する「虎の巻」を欲しているのかもしれない。今回、このような要望にも応え、また真の意味のガイドラインにも近づけるべく、Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation(GRADE)システムを参考にしたMedical Information Distribution Service(Minds)診療ガイドライン作成マニュアル2020 (Minds2020)による推奨作成を行った。残念ながら依然、熱中症治療に関わる介入研究、ランダム化比較試験は少なく、十分
な推奨が得られないCQ もあったが、将来的な課題としてFuture Research Question(FRQ)にまとめる、あるいは既知のもの、すでに一般化されているものはBackground Question (BQ)としてまとめ、今、何がわかっていて、何がわかっていないのかを明確にすることを心がけた。ちょうど本ガイドライン作成作業中の2023 年、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、“地球沸騰”の時代が到来した」と気候変動に伴う地球環境の危機を訴えた。確かに2023 年の夏は例年以上に暑く、本ガイドライン作成を行った神田潤ガイドラインタスクフォース長をはじめとする作成委員も皆、危機感にも似た使命感に後押しされつつ作成を急いでくれた。皆の心血が注がれた本ガイドラインが本邦さらには世界における熱中症予防と治療に貢献し、一人でも多くの患者さんの救命に繋がることを切に願うばかりである。最後に、Minds2020 に準拠した診療ガイドライン作成に不慣れであった委員を導き、本ガイドライン作成作業をご支援いただいた一般財団法人 国際医学情報センター(International Medical Information Center(IMIC))の加治様に心より御礼を申し上げ、ここに序文の結びとする。 2024 年7 月22 日 令和5 年度厚生労働行政推進調査事業 「『新しい生活様式』 に即した熱中症予防対策の評価及び推進のための研究」研究班 研究代表者 横堀 將司
序文 私は早朝、勤務前に運河沿いの遊歩道を愛犬レオンと散歩するのが日課になっていますが、夏の日差しが強くなる前の散歩中の仲間は、20 匹はくだりません。皆、愛犬の熱中症対策で、道路からの輻射熱を避けるために、学校や会社に行く前に早起きしてくるのです。しかしながら、犬の熱中症対策が認識されるようになるまで、社会全般の熱中症に対する意識が高まってきたのは、この数年のことです。 熱中症は、1908 年ロンドン五輪のドランド・ぺエトリ選手(トップでゴールしながらも係員に助けを受けて失格した「ドランドの悲劇」で有名)、1912 年ストックホルム五輪でのフランシスコ・ラザロ選手(史上初めて、オリンピック競技中に熱中症となり死亡)、金栗四三選手(日本初のオリンピック参加でしたが、熱中症でレース中に棄権)、最近では1984年ロサンゼルス五輪でのガブリエラ・アンデルセン選手など、マラソンを中心に古くから多くのエピソードがあり、その過酷さは十分に認識されていました。しかしながら、その対象はスポーツや労働など特殊な環境に限られており、日常生活でその猛威が振るわれているとは認識されていませんでした。2002 年に、New England Journal of Medicine でAbderrezak Bouchama の総説が発表され、熱中症の予防や診療の世界基準となったことで風向きが変わってきました。1999 年に我が国でも、熱中症重症度分類が提唱され、それまで熱失神(heat syncope)、熱痙攣(heat cramps)、熱疲労(heat exhaustion)、熱射病(heat stroke)などと表現されていたものが「熱中症」と統一されました。そして2006 年に、日本救急医学会が熱中症検討特別委員会を設置し、全国規模の熱中症調査(Heatstroke STUDY)を開始しました。Heatstroke STUDY の最大の功績は、日常生活の高齢者での非労作性熱中症が多く発生していることを明らかにしたことです。年々進行する我が国の高齢化現象、地球規模の温暖化現象と相まって、社会的な関心を呼び、熱中症の認知度は高まり、犬の熱中症対策まで認識されるようになるに至ったのは冒頭にふれたとおりです。Abderrezak Bouchama の総説から20 年が過ぎました。この間、日本救急医学会「熱中症検討特別委員会」は、環境因子による健康被害を総合的に研究する意図から「熱中症および低体温症に関する委員会」と名を変え、Heatstroke STUDY を継続的に実施するとともに「新型コロナウイルス感染症流行下の熱中症の診療の手引き」「熱中症予防に関する緊急提言」「節電状況下での熱中症対策」などを発信し、その折々での熱中症対策への注意を喚起してきました。しかしながら、2023 年の全国の熱中症搬送者数は91,467 人に上り、死亡者数についても毎年1,000 人を超える状況が続いております。この状況は改善傾向にはなく、熱中症対策においてはより新しいエビデンスが求められています。今回、日本救急医学会は、これまでに蓄積された知見を収集し、今後の診療の指針となる「熱中症診療ガイドライン2024」を発表します。熱中症および低体温症に関する委員会の
委員長として、このガイドラインが一日も早く医療者にとって馴染みのあるものとなり、熱中症予防と重症患者の治療に貢献することを強く望んでいます。 今後も熱中症に関するエビデンスが世界から発信され、定期的な診療ガイドラインの見直しも求められるでしょう。このガイドラインが医療現場に定着し馴染み深いものになるころには、また新しいガイドラインを編纂することとなると思います。私たち日本救急医学会は熱中症の診療と研究に邁進し、国民の健康に貢献すべく努力します。 ガイドラインの編集作業を全般的にサポートしていただいた国際医学情報センターの加治様、実際の執筆と文献評価にあたった熱中症ガイドラインタスクフォースの皆様、貴重なご意見を多く寄せてくださった日本救急医学会理事会、熱中症および低体温症に関する委員会、一般会員の皆様、さらには事務作業全般にサポートいただいた日本救急医学会事務局の山本様、ガイドラインの計画段階からご指導をいただいた帝京大学三宅康史先生と日本医科大学の横堀將司先生に深く感謝を申し上げます。皆様のお力でこのガイドラインは完成に至りました。改めて感謝申し上げます。 熱中症の予防は日中の暑熱環境下の活動をすべて停止し、クーラーの効いた部屋に避難すれば容易な話なのかもしれません。しかし、社会活動を維持するためには過酷な環境で作業を行う方も多くいらっしゃいます。 家族や仲間、社会の幸せや未来のために熱中症のリスクを負いながら、労働やスポーツ、日常生活を行うすべての皆様、熱中症となってしまった患者さん、そして患者さんを救命すべく、診療現場で獅子奮迅の働きを続ける医療従事者の皆様に、敬意と感謝を込め、この序文の結びといたします。 2024 年7 月3 日 日本救急医学会 熱中症および低体温症に関する委員会 熱中症診療ガイドライン2024 タスクフォース 委員長・タスクフォース長 神田 潤
前 文 1 ガイドラインサマリー 1.Active Cooling について(CQ3-01、CQ3-02、BQ4-01、CQ4-02、FRQ4-03、CQ5-02 など)熱中症診療ガイドライン2015 では、「体温管理」「体内冷却」「体外冷却」「血管内冷却」「従来の冷却法(氷囊、蒸散冷却、水冷式ブランケット)」「ゲルパッド法(Arctic Sun® , Medivance)」「ラップ法(水冷式 冷却マットで体幹および四肢を被覆する;Gaymer Medi- Therm® , Gaymar)」などと記載されていたが、本ガイドラインでは何らかの方法で、熱中症患者の身体を冷却することを、「Active Cooling」として、包括的な記載に統一する。Active Cooling には、従来のActive Cooling として、冷水浸水・アイスプール (Cold water immersion)、蒸散冷却(evaporative plus convective cooling)、胃洗浄(Cold water gastric lavage)、膀胱洗浄(Cold water bladder irrigation)、局所冷却(Ice packs)がある。また最近は、血管内体温管理療法 (Intravascular temperature management)、体外式膜型人工肺 (Extracorporeal membranous oxygenation)、腎代替療法 (Renal replacement therapy)、ゲルパッド法による水冷式体表冷却(the Arctic Sun temperature management system®)などの体温管理機器を用いる冷却方法が開発されている。ただし、冷蔵庫に保管していた輸液製剤を投与することや、クーラーや日陰の涼しい部屋で休憩することは「Passive Cooling」の範疇に含め、「Active Cooling」には含まない。冷蔵庫に保管していた輸液製剤を投与することは、薬剤メーカーで推奨された投与方法ではない。また、実際の液温は不明であり(輸液のパッケージが冷たいと感じられても、実際の液温は不明である)、重症熱中症患者への有効性を示すエビデンスはない。重症例(III~IV度、IV度は本ガイドラインから新出の概念)の治療法としては、Active Cooling を含めた集学的治療を行うことを推奨した。ただし、Active Cooling の中の個別の冷却方法を推奨はしない。軽症例(I~II度)は、クーラーや日陰の涼しい部屋で休憩するPassive Cooling と水分・電解質の補給で症状が軽快しうるが、改善に乏しい場合は、深部体温を測定したうえで、Active Cooling を行うべきである。経口補水液、DIC 治療薬、暑熱順化については十分な研究成果が得られておらず、今後の検討課題となる。 2.IV度の導入(日本救急医学会熱中症度重症度分類(2015)III度の細分化)について(CQ1-01)日本救急医学会が2015 年に発行した熱中症診療ガイドライン2015 で紹介した熱中症重症度分類2015 は、現在では救急医学にとどまらず、広く社会的に周知されている。一方で、
世界的には2002 年のNew England Journal of Medicine で示されたBouchama 基準(軽症群をHeat exhaustion(軽症)、重症群をHeat stroke(重症)と呼称)が標準になっている。しかし、これら重症度分類の有効性を直接検討したエビデンスはなかった。 最重症の定義は、熱中症重症度分類2015 のIII度(2015)としては、意識障害、肝障害、腎障害、DIC を認めたものとなっているのに対して、Bouchama 基準のHeat stroke(重症)としては、深部体温≧40°C、中枢神経障害、暑熱環境への暴露となっている。これらを比較すると、日本救急医学会重症度分類2015 は、軽度の意識障害(JCS2 程度)のみが該当する場合から昏睡・DIC などの多臓器不全を呈した致死的状況までを、III度(2015)として同じ範疇に扱う幅広い定義となっており、その中の重症例がBouchama 基準のHeat stroke(重症)に該当する構図となっていることになる。 2023 年の全国の熱中症搬送者数は91,467 人に上り、死亡者数についても毎年1,000 人を超える状況が続いており、この状況は改善傾向にはなく、重症例への対応が喫緊の課題であることは明らかである。こうした状況に鑑みて、これまでIII度(2015)としてきた重症群の中に、さらに注意を要する最重症群があり、この最重症群を「IV度」として同定し、Active Cooling を含めた集学的治療を早急に開始することを提唱することとした。 IV度は以下の如く、深部体温を用いて定義する。また、表面体温だけでも、迅速に対応するきっかけとなるようなqIV度も併せて提唱する。 IV度深部体温40.0°C以上かつGCS≦8 III度(2024) IV度に該当しないIII度(2015) qIV度表面体温40.0°C以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)かつGCS ≦8(も しくはJCS ≧100)【深部体温の測定不要】 熱中症ガイドライン2015 I度II度 熱中症ガイドライン2024 I度II度III度 (2024) IV度 Bouchama基準 重症 III度(2015) 軽症
2 診療アルゴリズム 表面体温にて、qIV度と考えた場合は、深部体温測定を行い、速やかに重症度を判断する。IV度と判断された場合、早急にActive Cooling を含めた集学的治療を実施する。I~III度(2024)の診療アルゴリズムについては、熱中症診療ガイドライン2015 を踏襲する形式で、本ガイドラインの推奨に従って改訂した。「冷所での安静」を「Passive Cooling」に、「体温管理」「体内冷却」「体外冷却」「血管内冷却」を「Active Cooling」に記載を統一した。ただし、CQ3-02 に従って、Active Coolingの個別の冷却法については、推奨の順位はないものとする。「Active Cooling」と「集中治療」「呼吸管理」「循環管理」「DIC 治療」は「Active Coolingを含めた集学的治療」と一括して記載した。ただし、CQ4-04 とCQ4-05 の通り、DIC 治療に明確な推奨は行わない。「水とNa の補給」は、CQ4-02 に合わせて、「水と電解質の補給」へ記載を変更した。 3 用語・略語一覧 用語 Active Cooling何らかの方法で、熱中症患者の身体を冷却すること。 熱中症診療ガイドライン2015 では、「体温管理」「体内冷却」「体外冷却」「血管内冷却」「従来の冷却法(氷囊、蒸散冷却、水冷式ブランケット)」「ゲルパッド法(Arctic Sun® , Medivance)」「ラップ法(水冷式 冷却マットで体幹および四肢を被覆する;Gaymer Medi-Therm® , Gaymar)」などと記載されていたのを「Active Cooling」に包括的に記載を統一する。ただし、Passive Cooling(冷蔵庫に保管していた輸液製剤を投与することや、クーラーや日陰の涼しい部屋で休憩すること)は含まない。
従来のActive Cooling Active Cooling のうち、高度な体温管理機器を用いない冷却方 法であり、冷水浸水 (Cold water immersion)、蒸散冷却(evaporative plus convective cooling)、胃洗浄(Cold water gastric lavage)、膀胱洗浄(Cold water bladder irrigation)、局所冷却(Ice packs)があげられる。 Passive Cooling冷蔵庫に保管していた輸液製剤を投与することや、クーラーや 日陰の涼しい部屋で休憩すること。熱中症診療ガイドライン2015 では「冷所での安静」と記載されていた。 熱中症重症度分類2015熱中症診療ガイドライン2015 で示された熱中症重症度分類。 熱中症診療ガイドライン2024 で示す重症度分類と混同しないように2015 を付記した。 III度(2015)熱中症診療ガイドライン2015 で示された熱中症重症度分類の III度。本ガイドライン(熱中症診療ガイドライン2024 で示すガイドラインと混同しないように2015 を付記) III度(2024) IV度に該当しないIII度(2015) IV度深部体温40.0°C以上かつGCS≦8 qIV度表面体温40.0°C以上(もしくは皮膚に明らかな熱感あり)かつ GCS ≦8(もしくはJCS ≧100)【深部体温の測定不要】 略語 95% CI 95% confidence interval ACE Angiotensin-converting enzyme ALT Alanine transaminase aOR Adjusted odds ratio ARB Angiotensin II receptor blocker AST Aspartate transaminase BQ Background Question BUN Blood urea nitrogen CK Creatine kinase COX Cyclooxygenase CPC Cerebral performance category CQ Clinical Question Cr Creatinine CRP C-reactive protein
DAMPs Damage-associated molecular patterns DIC Disseminated intravascular coagulation DPC Diagnosis Procedure Combination FDP Fibrin degradation products Fib Fibrinogen Fr French FRQ Future Research Question GCS Glasgow coma scale GRADE Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation HMGB-1 High-mobility group box 1 HsS Heatstroke STUDY ICU Intensive care unit IL Interleukin IMIC International Medical Information Center JAAM Japanese Association for Acute Medicine JAF Japan Automobile Federation JCS Japan coma scale J-ERATO スコアA novel Early Risk Assessment Tool for Detecting Clinical Outcomes in Patients with Heat-related Illness Lac Lactic acid L-FABP Liver-type fatty acid-binding protein MINDs Medical Information Distribution Service NGAL Neutrophil gelatinase-associated lipocalin NSAIDs Non-steroidal anti-inflammatory drugs ORS Oral rehydration solution PCT Procalcitonin pH Potential of hydrogen PICO Patients/Intervention/Comparison/Outcome PT Prothrombin time RCT Randomized controlled trial SSRI Selective serotonin reuptake inhibitor TF Tissue factor TNFα Tumor necrosis factor-α
WBGT Wet Bulb Globe Temperature WHO World Health Organization 4 作成組織・作成主体 1.作成組織 1.1 作成主体 日本救急医学会が作成主体となり、本ガイドラインを作成した。 1.2 ガイドライン統括委員会 日本救急医学会は、本ガイドラインの統括委員会として、横堀將司担当理事の下、熱中症診療ガイドライン2024 タスクフォースを設置した。熱中症診療ガイドライン2024 タスクフォースメンバーは日本救急医学会学会員より公募した。 1.3 ガイドライン作成グループ 熱中症診療ガイドライン2024 タスクフォースメンバーよりガイドラインの作成を担当する執筆担当者を選抜した。 1.4 システマティックレビューチーム 熱中症診療ガイドラインタスクフォースメンバー(執筆担当者を含む)がシステマティックレビューを担当した。個々のClinical Question(CQ)において、ガイドライン作成担当者とシステマティックレビュー担当者が重複しないようにした。 1.5 ガイドライン作成事務局 一般財団法人国際医学情報センター(International Medical Information Center (IMIC))にガイドライン作成事務局の業務を委託した。 2.作成経過 2.1 作成方針 本ガイドラインは2015 年に日本救急医学会が発行した熱中症診療ガイドライン2015 の後継となるガイドラインであり、Medical Information Distribution Service (Minds) 診療ガイドライン作成マニュアル2020 に従って、新規に編集作業を行った。2002 年にThe New England Journal of Medicine に掲載された総説1)が、現在の熱中症診療の世界的な基準となっていることを踏まえて、2002 年1 月1 日から2022 年12 月31日までに発行された文献を評価の対象とする方針とした。
2.2 使用上の注意 本ガイドラインの内容については、日本救急医学会が責任を有するが、個々の患者への適応については、医療者の責任の下で実施される。従って、日本救急医学会は、学会員および非学会員に本ガイドラインを遵守させる権利はなく、監視義務は存在しない。そして、医療者は本ガイドラインに従った医療行為を行う権利を有するが、本ガイドラインの遵守義務および患者への説明義務はない。医学の進歩は日進月歩であり、熱中症診療も例外ではない。2023 年以降発表の文献は、本ガイドラインの系統的検索の対象外であるが、必要と判断したものについては採用した。なお、熱中症診療への最新のエビデンスの提供が本ガイドラインの使命であるので、日本救急医学会は一定期間経過後に、本ガイドラインの改訂を実施する予定である。 2.3 利益相反 日本救急医学会を所管学会として、ガイドラインタスクフォースメンバーの利益相反状況を適切に収集・保管した。また、推奨決定投票にあたっては、個人的・経済的COI 申告項目として、1~4の項目について、各執筆担当者の利益相反の有無を確認し、利益相反がある場合は投票を棄権することとした。 ガイドラインタスクフォースメンバーに、該当する申告事項はなかった。1外部活動(診療活動を除く全てを記載) 有の場合:企業名、役割(役員・顧問等)、活動内容2産学連携活動の相手先のエクイティ エクイティ(equity とは、公開・未公開を問わず、株式、出資金、ストックオプション、受益権等をいう。 有の場合:企業名、エクイティの種類3申告研究者の産学連携活動にかかる受け入れについて・研究費開発費等:年間の合計受入れ額が同一企業等から200 万円を超える場合・学術研究助成金:年間の合計受入れ額が同一企業等から200 万円を超える場合・原稿執筆料等:年間講演料あるいは原稿執筆料が50 万円を超える場合・企業雇用者の受け入れ・企業からの労務・役務の提供・贈答、接遇、その他:年間に5 万円を超える場合4申告研究者の家族(一親等まで)のCOI 状態の有無申告者12の項目に準じる。 2.4 作成資金 令和5 年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)
「『新しい生活様式』に即した熱中症予防対策の評価及び推進のための研究」の助成を受けた。 2.5 組織編成 日本救急医学会 熱中症診療ガイドライン2024 タスクフォース(〇:執筆担当者) 氏名専門分野五十嵐 豊救急、脳神経外科池知 大輔救急、集中治療石原 唯史〇 救急、集中治療、小児科岩﨑 陽平救急、社会医学上野 哲労働衛生遠藤 香織〇 整形外科、スポーツ医学岡田 遥平救急、集中治療、外科岡野 雄一〇 救急、集中治療奥田 拓史救急小野寺 隆太 〇 救急金子 仁救急、集中治療狩野 謙一〇 救急、集中治療、外傷、呼吸療法神田 潤〇 救急、集中治療、臨床感染症、臨床栄養、労働衛生岸原 悠貴救急、集中治療小平 博外科、社会医学、総合診療近藤 豊〇 救急、集中治療、外科、高気圧環境・潜水医学、熱傷澤田 悠輔救急、外傷、スポーツ医学須田 千秋救急、外科席 望〇 救急田中 大貴〇 救急、小児科寺住 恵子〇 救急長門 直救急、内科、臨床感染症、アレルギー中島 聡志〇 救急、集中治療中村 聡志救急濱口 純救急、集中治療、呼吸療法本郷 貴識救急、集中治療宮本 颯真救急三好 ゆかり救急安尾 俊祐〇 救急、IVR山﨑 舞子救急、集中治療、内科、神経内科、脳卒中
山田 栄里救急横堀 將司〇 救急、集中治療、脳神経外科、外傷、脳神経外傷、神経救急吉村 聡志内科若杉 雅浩〇 救急、集中治療、麻酔科、高気圧潜水医学、社会医学 2.6 作成工程 文献検索にあたっては,表1~3 に示した検索式を用いて,MEDLINE,The Cochrane Library,医学中央雑誌Web の3 検索データベースより2002 年1 月1 日~2022 年12 月31 日までに報告された文献の検索を行い,6,176 論文が抽出された.さらに、重要と思われる2024 年までの文献を48 件追加した.一次スクリーニングでは,タイトルおよび抄録からCQ に合致していないものを除外し, 1,264 論文が選択された.二次スクリーニングでは,1,264 論文のフルテキストより各CQで採用された評価項目のいずれも評価されていない文献を除外した.システマティックレビュー作業、解説文執筆作業を経て、最終的に、ハンドサーチ文献を含め136 論文が採択、解説文に引用された. 2.7 外部評価 ガイドライン発表前に2024 年6 月6 日より17 日までパブリックコメントを募集した。ガイドライン公開後も、連絡先を明示して、外部評価を受け付ける。これらのガイドライン公開後の外部評価への対応は、日本救急医学会熱中症および低体温症に関する委員会が担当して、次版改訂の際に考慮する。表1 MEDLINE 検索式 表2 The Cochrane Library 検索式 FILE 'MEDLINE' ENTERED AT 14:58:27 ON 27 FEB 2023 L1 S (HEAT STRESS DISORDERS+NT/CT OR HEATSTROKE? OR HEAT(2W)STROKE? OR HEAT(2W)(ILLNESS OR ATTACK? OR CRAMP? OR EXHAUSTION?) OR SUNSTROKE? OR SUN(2W)STROKE? OR HEAT(2W)STRESS(2W)DISORDER?) OR (HOT TEMPERATURE+NT/CT AND *ACCLIMATIZATION+NT/CT) 13511 L2 S ((L1 AND HUMANS+NT/CT) OR (L1 NOT ANIMALS+AUTO/CT)) AND (ENGLISH OR JAPANESE)/LA AND 2002-2023/PY AND (20020101-20221231/UP OR 20020101-20221231/ED) 5531 L3 S L2 AND (*HEAT STRESS DISORDERS+NT/CT OR (HEAT? OR SUNSTROKE? OR SUN OR HOT OR HYPERTHERMIA?)/TI) 4447 #1 [mh "HEAT STRESS DISORDERS"[mj]] or HEATSTROKE*:ti OR (HEAT near/2 STROKE*):ti OR (HEAT near/2 (ILLNESS OR ATTACK* OR CRAMP* OR EXHAUSTION*)):ti OR SUNSTROKE*:ti OR (SUN near/2 STROKE*):ti OR (HEAT near/2 STRESS* near/2 DISORDER*):ti 173 #2 [mh "Hot Temperature"] and [mh Acclimatization[mj]] 21 #3 (HEATSTROKE* OR (HEAT near/2 STROKE*) OR (HEAT near/2 (ILLNESS OR ATTACK* OR CRAMP* OR EXHAUSTION*)) OR SUNSTROKE* OR (SUN near/2 STROKE*) OR (HEAT near/2 STRESS*)):ti,ab,kw 768 #4 #3 and HYPERTHERMIA*:ti 27 #5 #3 and STRESS*:ti 233 #6 #1 or #2 or #4 or #5 with Publication Year from 2002 to 2022, in Trials 329 #7 #1 or #4 or #5 with Cochrane Library publication date Between Jan 2002 and Dec 2022, in Cochrane Reviews, Cochrane Protocols, Clinical Answers, Editorials, Special Collections 1 #8 #6 or #7 330
表3 医学中央雑誌Web 検索式 #1熱中症/TH or 熱中症/AL or 熱射病/AL or 暑熱障害/AL or 熱ストレス症候群/AL or 熱疲 労/AL or 日射病/AL or 熱ストレス障害/AL or 高体温症/AL or heatstroke/AL or "heat stroke"/AL or "heat illness"/AL or "heat attack"/AL or "Heat Stress Disorder"/AL or "heat-stroke"/AL or "heat-illness"/AL or "heat-attack"/AL or "Heat-Stress Disorder"/AL or hyperthermia/AL or (高温/TH and 環境順化/MTH) 6,603 #2 (#1 not (CK=イヌ,ネコ,ウシ,ウマ,ブタ,ヒツジ,サル,ウサギ,ニワトリ,鶏胚,モルモット,ハ ムスター,マウス,ラット,カエル,動物)) or (#1 and CK=ヒト) 5,954 #3 #2 not PT=会議録 and DT=2002:2023 and (PDAT=2002/01/01:2022/12/31 or IDAT=2002/01/01:2022/12/31) and (LA=日本語,英語) 2,402 #4 #3 and (熱中症/MTH or 熱/TI or 暑/TI or 日射/TI or 高体温/TI or 高温/ti or heat/TI or hot/ti or hyperthermia/TI) 1,679
5 スコープ 1.疾患トピックの基本的特徴 1.1 臨床的特徴 熱中症の診断基準は「暑熱環境に居る、あるいは居た後」の症状として、めまい、失神(立ちくらみ)、生あくび、大量の発汗、強い口渇感、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、意識障害、痙攣、せん妄、小脳失調、高体温等の諸症状を呈するもので、感染症や悪性症候群による中枢性高体温、甲状腺クリーゼ等、他の原因疾患を「除外」したものとする。ただし、この「除外」は、他の原因疾患に熱中症が合併することを否定するものではない。熱中症の病態は「熱そのものによる暑熱障害(以後暑熱障害)」と水分摂取不足や発汗過多による「脱水」に大別される。高体温の遷延による神経細胞障害に伴う「暑熱障害」は高体温の遷延による神経細胞障害、「脱水」は水分摂取不足や発汗過多による循環血液量減少による影響である2)。そして、「暑熱障害」と「脱水」による細胞死や細胞の損傷に伴い放出されたDamage-associated molecular patterns (DAMPs))により、マクロファージ/単球が刺激されて、TNFα(Tumor necrosis factor α)、Interleukin (IL)-1β、IL-6 などの炎症性サイトカインの増加や組織因子(Tissue factor (TF))や活性化好中球による血管内皮障害により、Disseminated Intravascular Coagulation(DIC)を発症して、多臓器不全に至る3-5)。 1.2 疫学的特徴 地球温暖化の影響により世界各地で熱波が発生して、我が国でも年々最高気温の記録が更新されており、厚生労働省の人口動態統計(確定数)によると、熱中症の死亡者数は毎年1000 人を超える状況が続いており、改善傾向にはない。 総務省消防庁の全数調査によると、2023 年の全国の熱中症搬送者数は91,467 人に上っている。年齢区分別では、高齢者(満65 歳以上)が最も多く、次いで成人(満18 歳以上満65 歳未満、少年(満7歳以上満18 歳未満)、乳幼児(生後 28 日以上満7歳未満)の順となっており、発生場所別の救急搬送人員をみると、住居が最も多く、次いで道路、公衆(屋外)、仕事場(道路工事現場、工場、作業所等)の順となっている。 一方、救命救急センターへの入院症例を対象としたHeatstroke STUDY(HsS) 2020-21 では、65 歳以上が60%強、男性が70%弱、屋外発生が50%(日常生活が60%、労働が30%、スポーツが10%)、マスク着用は少数(不明例が多数)であった。 1.3 疾患トピックの診療の全体的な流れ 熱中症では、「暑熱障害」と「脱水」に応じた診療が必要である。軽症例では、クーラーや日陰の涼しい部屋で休憩するPassive Cooling と水分補給で症状が軽快するが、重症例に対しては、Active Cooling が必要になる。
Active Cooling としては、HsS2020-21 では、蒸散冷却法が60%、クーリングブランケットが10%、血管内冷却が10%に実施されている6)。また、DIC を発症するような重症例に対しては、アンチトロンビンやリコンビナントトロンボモジュリンなどの薬剤によるDIC治療が考慮されている。 2.診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項本ガイドラインは熱中症の診療と予防の全般をカバーしている。定義・重症度・診断、予防・リスク、冷却法、冷却法以外の治療(補液、DIC 治療薬)、小児関連の5 分野より24 個のClinical Question(CQ)を設定した。 3.システマティックレビューに関する事項熱中症診療ガイドライン2024 タスクフォースメンバーが2 名1 組で、CQ ごとにシステマティックレビューを行った。エビデンスレベルについては、 A(強い):効果の推定値に強く確信があるB(中等度):効果の推定値に中程度の確信があるC(弱い):効果の推定値に対する確信は限定的であるD(非常に弱い):効果の確定値がほとんど確信できないの4 段階で評価した。文献検索を含めたシステマティックレビューの経過については、各クリニカルクエスチョンの解説文に記載した。 4.推奨決定から最終化、導入方針までシステマティックレビューの結果がそろった段階で、執筆担当者14 名で推奨決定会議を行った。投票担当委員数の8割以上(12 名以上)の参加で会議成立とした。投票者の8割以上の同意の集約をもって、推奨の決定とした。投票の選択肢は、Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation (GRADE) グリッドに従い、 1)介入を行うことを強く推奨する。2)介入を行うことを弱く推奨(提案)する。3)介入を行わないことを弱く推奨(提案)する。4)介入を行わないことを推奨する。5)明確な推奨を提示しないの5 つとした。ただし、満場一致で合意した場合は、CQ からBackground Question (BQ)とFuture Research Question(FRQ)へ変更した。推奨決定会議の経過については、各CQ/BQ/FRQ の解説文に記載した。熱中症重症度分類IV度とqIV度の提唱については、その社会的影響の大きさに鑑みて、「CQ1-01 日本救急医学会熱中症重症度分類・Bouchama 基準・The Early Risk
Assessment Tool for Detecting Clinical Outcomes in Patients with Heat-related Illness (J-ERATO スコア)は予後判定に有用か?」において、「複数の重症度分類を利用して最重症(IV度)と判断される患者群を同定し、Active Cooling を含めた集学的治療を早急に開始することを弱く提案する。」ことを推奨決定会議にて全員一致で議決した上で、実際の導入の可否について、日本救急医学会理事会(2024 年5 月9 日)に諮り、承認された。 文献 1) Gaudio FG, Grissom CK. Cooling Methods in Heat Stroke. J Emerg Med 2016;50:607-16. 2) Bouchama A, Knochel JP. Heat stroke. N Engl J Med 2002;346:1978-88. 3) Bazille C, Megarbane B, Bensimhon D, et al. Brain damage after heat stroke. J Neuropathol Exp Neurol 2005;64:970-5. 4) Leon LR, Helwig BG. Heat stroke: role of the systemic inflammatory response. J Appl Physiol 2010;109:1980-8. 5) Iba T, Connors JM, Levi M, et al. Heatstroke-induced coagulopathy: Biomarkers, mechanistic insights, and patient management. 2022;44:101276. 6) Matsumoto H, Takeba J, Umakoshi K, et al. Successful treatment for disseminated intravascular coagulation (DIC) corresponding to phenotype changes in a heat stroke patient. 2019;7:2.
CQ1-01 日本救急医学会熱中症重症度分類2015・Bouchama 基準・J-ERATO スコアは予後判定に有用か? 推奨 2)介入を行うことを弱く推奨(提案)する。最重症(IV度)と判断される患者群を同定し、Active Cooling を含めた集学的治療を早急に開始することを弱く推奨する。 合意率エビデンスの強さ100%(13/13) D(非常に弱い):効果の確定値がほとんど 確信できない 解説 「日本救急医学会熱中症重症度分類・Bouchama 基準・J-ERATO スコアは予後判定に有用か?」という臨床疑問において、Patients/Intervention/Comparison/Outcome (PICO)を下記としてシステマティックレビューを実施した。 ・P:熱中症・I:日本救急医学会熱中症重症度分類・Bouchama 基準・J-ERATO スコアを利用した症 例・C:上記を利用しなかった症例・O:死亡率の低下、30 日後のCPC(神経予後)、人工透析などの後遺症(神経以外)、ICU 入院日数、入院日数 採用された文献は0 件であった。そのため、アウトカム全般に関する全体的なエビデンスの強さや、推奨の強さ、患者の価値観やコストについては解析することができず、委員会会議により弱い推奨を提示することとし、提案とした。Bouchama らは2002 年に熱中症を正確に診断するための基準を報告した。Bouchama 基準では、1) 深部体温≧40°C、2) 中枢神経障害、3) 暑熱環境への曝露の3 つを満たすものという明快で使いやすい定義であり、熱中症の診断基準として長年提唱されてきた1)。しかし、Bouchama 基準に含まれている臓器障害は中枢神経症状のみであり、その他の臓器障害に関する項目がないため、死亡患者においてどの程度、熱中症が関与しているかどうかを判断することが難しくなっている2)。日本救急医学会の提唱した熱中症診療ガイドライン2015 では、これらを一連のスペクト
ラムとして「熱中症」として総称するものとして定義した。さらには、中枢神経症状だけではなく、腎障害や肝障害、DIC なども重症度分類へ組み込み、熱中症を症候群として捉えて重症度を3 段階に分類したものが、「日本救急医学会熱中症重症度分類2015」である3,4)。これまで熱中症の予後評価に関する明確な基準は未開発であったが、2018 年にHayashida らが大規模な症例登録のデータを利用した観察研究で、重症度予測スコアであるJ-ERATO スコアを作成した5)。J-ERATO スコアは病院前で得られるデータ(1. 呼吸数≧22、2. 意識レベル(GCS) < 15、3. SBP<100mmHg、4. HR≧100、5. 体温≧38°C、 6 年齢≧65 歳)を利用しており、病院前から予後(入院: OR 2.43、ICU 入室:OR 3.73、 死亡:OR 1.65)を予測することができるとされている。これらの重症度分類は幅広く利用されており、熱中症診療に貢献していると考えられるが、その有効性やエビデンスは乏しい。熱中症重症度分類2015 において、III度(2015)に分類されるものには、軽度の意識障害(JCS≧2)からDIC を含めた多臓器不全までが含まれており、その程度は幅広い。そのため、同じIII度(2015)の重症度であっても、その程度に応じて必要な治療が異なってくる可能性がある。Kanda らが報告したHeatstroke STUDY では、ほとんどの患者が熱中症重症度分類2015 でIII度(2015)と診断された。その中でもBouchama 基準と合わせて、1) 体温40°C以上、2) 意識レベル(GCS≦8)を満たすものを最重症(IV度)として分類した場合に、最重症(IV度)と診断されたものでは、Active Cooling を実施しなければ死亡率が増加すると報告された6)。そのため最重症(IV度)として診断されうる患者を同定し、Active Cooling を含めた集学的な治療を速やかに導入することは、有用であると考えられる。本委員会では、熱中症重症度分類2015 でIII度(2015)と分類される患者群において、前述した最重症(IV度)にあたらないものをIII度(2024)と定義することとした。ただしIII度(2024)と分類された患者においても、Active Cooling の未実施を推奨するものではないことに留意する必要がある。今後、単独もしくはこれらを組み合わせた判定の有用性を検証する大規模多施設Randomized Controlled Trial (RCT)が望まれる。患者の重症度に応じた層別化を行い、これらの基準の有用性を評価することが重要である。 文献 1) Bouchama A, Knochel JP. Heat stroke. N Engl J Med 2002;346:1978-88. 2) Kondo Y, Hifumi T, Shimazaki J, et al. Comparison between the Bouchama and Japanese Association for Acute Medicine Heatstroke Criteria with Regard to the Diagnosis and Prediction of Mortality of Heatstroke Patients: A Multicenter Observational Study. Int J Environ Res Public Health 2019;16:3433. 3)三宅 康史, 有賀 徹, 井上 健一郎,他. 熱中症の実態調査 Heatstroke STUDY2006 最終報告. 日救急医会誌 2008;19:309-21.
4)三宅 康史, 横田 裕行, 奥寺 敬,他. 熱中症の実態調査 日本救急医学会 Heatstroke STUDY2012 最終報告. 日救急医会誌 2014;25:846-62. 5) Hayashida K, Kondo Y, Hifumi T, et al. A novel early risk assessment tool for detecting clinical outcomes in patients with heat-related illness (J-ERATO score): Development and validation in independent cohorts in Japan. PLoS One 2018;13:e0197032. 6) Kanda J, Nakahara S, Nakamura S, et al. Association between active cooling and lower mortality among patients with heat stroke and heat exhaustion. PLoS One 2021;16:e0259441.
FRQ1-02 熱中症の重症度の判定基準として、以下のものは有用か?(深部体温 /意識レベル/急性期DIC スコア/尿量/画像検査) 推奨 推奨決定会議にてFRQ に変更することに満場一致で合意した。 要約 深部体温・意識レベルは極力早期に評価し、病院内で急性期DIC スコア・尿量・画像検査を追加し、総合的な重症度評価を検討する。 (0)本CQ がFRQ となった経緯「熱中症の重症度の判定基準として、以下のものは有用か?(意識レベル/急性期DIC スコア/尿量/深部体温/画像検査)」という重要臨床疑問において、PICO を下記としてシステマティックレビューを実施した。 ・P:熱中症・I:1.意識レベル,2.急性期DIC スコア,3.尿量,4.深部体温,5.表面体温,6.画像検査を 使用した症例・C:上記を使用しなかった症例・O:死亡率の低下、30 日後のCPC(神経予後)、人工透析などの後遺症(神経以外)、ICU 入院日数の延長、入院日数(一般病棟)の延長 採用された文献は0 件であり、推奨を提示することができなかった。臨床所見及び検査項目を総合的に重症度判定基準として利用できるかどうかFRQ となった。 解説 熱中症は、以前は主に症状から分類され、熱失神(heat syncope)、熱痙攣(heat cramps)、熱疲労(heat exhaustion)、熱射病(heat stroke)などとして表現されてきたものを、1999年に発表された安岡分類1)をもとに熱中症重症度分類2015 として、重症度を3段階に分類するのが一般的になっている。この熱中症重症度分類2015 の最重症にあたるIII度(2015)においては、意識障害、肝・腎障害、DIC のいずれかを満たすものと定義されている2,3)。今回の検討では、これらの定義の評価項目である意識レベル、急性期DIC スコア、尿量、深部体温、表面体温、画像検査の使用についてシステマティックレビューを行ったが、個々
の項目を重症度の評価基準として、単独で推奨するエビデンスを見つけることはできなかった。深部体温については、CQ1-01 に従って、意識レベルと深部体温を加味して、Active Cooling を含めた集学的治療を早急に実施する必要性があり、IV度の可能性が大きいと考えられるqIV度では、深部体温を測定する必要がある。以上より、現状では、体温、意識障害、肝・腎障害、DIC などの熱中症重症度分類の評価項目から、重症度を総合的に判断することが望まれる。熱中症のシステマティックレビューは複数存在するもののRCT は十分数に満たないためエビデンスレベルは未だ低く、特に重症度判定や予後予測に直結する研究数自体が乏しい。今後エビデンスレベルの高い研究が待たれる現状に鑑みて、本CQ をFRQ とした。 文献 1)安岡 正蔵, 赤居 正美, 有賀 徹,他. 熱中症(暑熱障害)I~III度分類の提案 熱中 症新分類の臨床的意義. 救急医 1999;23:1119-23. 2)三宅 康史, 有賀 徹, 井上 健一郎,他. 熱中症の実態調査 Heatstroke STUDY2006 最終報告. 日救急医会誌 2008;19:309-21. 3)三宅 康史, 横田 裕行, 奥寺 敬,他. 熱中症の実態調査 日本救急医学会 Heatstroke STUDY2012 最終報告. 日救急医会誌 2014;25:846-62.
FRQ1-03 重症熱中症の治療において、バイオマーカーで臓器障害や抗炎症・ 凝固作用の状態を把握することは有用か? 推奨 推奨決定会議にてFRQ に変更することに満場一致で合意した。 要約 血液検査や身体所見等を利用して臓器障害を総合的に評価し、各重症度スコアを通して病態把握し治療戦略を練ることを検討する。 解説 (0)本CQ がFRQ となった経緯「重症熱中症の治療において、バイオマーカーで臓器障害や抗炎症・凝固作用の状態を把握することは有用か?」という臨床疑問において、PICO を下記としてシステマティックレビューを実施した。 ・P:熱中症・I:以下のバイオマーカーを使用した症例 1 アスパラギン酸アミノトランスフェナーゼ(Aspartate transaminase (AST)) 2 アラニンアミノトランスフェラーゼ(Alanine transaminase (ALT)) 3 尿素窒素(Blood urea nitrogen (BUN)) 4 クレアチニン(Creatinine (Cr)) 5 C 反応性蛋白(C-reactive protein (CRP)) 6 プロカルシトニン(Procalcitonin (PCT)) 7 クレアチニンキナーゼ(Creatine kinase (CK)) 8 Potential of hydrogen (pH) 9 乳酸(Lactic acid (Lac)) 10 プロトロンビン時間(Prothrombin time (PT)) 11 フィブリノーゲン(Fibrinogen (Fib)) 12 Dダイマー(D-dimer)/ Fibrin degradation products (FDP) 13 炎症関連タンパク質 (high-mobility group box 1 (HMGB-1)) 14 好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(Neutrophil gelatinase-associated lipocalin (NGAL))
15 尿中L 型脂肪酸結合蛋白(Liver-type Fatty Acid-Binding Protein (L-FABP)) ・C:上述のバイオマーカーを使用しなかった症例・O:死亡率の低下、30 日後の神経予後(Cerebral Performance Category (CPC))、人工 透析などの後遺症(神経以外)、Intensive Care Unit( ICU)入院日数の延長、入院日数(一般病棟)の延長 システマティックレビューを行った結果、推奨を提示することができなかった。一方で、バイオマーカーと臓器障害の関連を示唆した文献が散見されバイオマーカーによる病態把握の重要性も検討が必要であること、今後の研究が望まれることを加味して本CQ はFRQと変更となった。熱中症における臨床的特徴や危険因子をまとめた観察研究として、Shimazaki らは日本国内データから血小板低下は神経学的転帰不良の独立した予測因子で、血清Cr は神経学的転帰不良の予測因子とはならなかった1)。また、Iba らがまとめた日本の熱中症患者における凝固障害の総説において、熱中症患者の入院死亡率はDIC の有無と有意に関連しており、死亡率はDIC スコアが高くなるにつれて上昇したと報告した2)。熱中症を疑う場合に、1.AST、2.ALT、3.BUN、4.Cr、5.CRP、6.PCT、7.CK、8.pH、9.Lac、10.PT、11.Fib、12.D-dimer/FDP を診断補助の検査項目とし、今後も臓器障害や抗炎症・凝固作用の状態を把握して治療することは有用と考えられる。さらに、13.HMGB-1、14.NGAL、15.L-FABP は、熱中症による臓器障害を反映し早期診断や治療に有用となる可能性を持つバイオマーカーとして臨床応用が期待されるものの、未だエビデンスが乏しく、今後の更なる研究が待たれる項目である。臓器障害のバイオマーカーの熱中症の診断との関連性からは有用性を認めるものの、依然として臓器障害のバイオマーカーと熱中症予後との関連性は観察研究、総説などの文献が散見されるのみで、これらの上記重要臨床疑問に応えられる質の高い研究が待たれる。 文献 1) Shimazaki J, Hifumi T, Shimizu K, et al. Clinical characteristics, prognostic factors, and outcomes of heat-related illness (Heatstroke Study 2017-2018). 2020;7:e516. 2) Iba T, Connors JM, Levi M, et al. Heatstroke-induced coagulopathy: Biomarkers, mechanistic insights, and patient management. 2022;44:101276.
BQ2-01 熱中症の発症のリスクの減少に、いずれの因子を検討することが有用 か? 1 高齢者 2 施設入所、要介護、独居 3 小児 4 スポーツ選手 5 労働者(農林、土木、製造業などの肉体労働) 6 エアコンの未使用者および非設置者 7 心疾患 8 悪性腫瘍 9 精神疾患 10 糖尿病 11 降圧薬 12 利尿薬 13 向精神薬 推奨 推奨決定会議にてBQ に変更することに満場一致で合意した 要約 熱中症の発症リスクとして、年齢、性別、基礎疾患、薬剤の使用、社会経済的な背景などが挙げられる。これらのリスクを個々に評価するのは困難と考えられ、気象条件とともに総合的に判断するための補助的な位置づけと考える(BQ に対する情報提示)。 解説 (0)本CQ がBackground question (BQ)となった経緯本BQ は当初はCQ であった。システマティックレビューの結果、PICO に合致したRCTは過去に実施されておらず、採用された文献は0 件であった。その結果、「熱中症の発症のリスクの減少に、いずれの因子を検討することが有用か?(1. 高齢者 2. 施設入所、要介護、独居 3. 小児 4. スポーツ選手 5. 労働者(農林、土木、製造業などの肉体労働) 6.エアコンの未使用者および非設置者 7. 心疾患 8. 悪性腫瘍 9. 精神疾患 10. 糖尿病 11 降圧薬 12. 利尿薬 13. 向精神薬)」というCQ に対する推奨・非推奨を示すことは できなかった。しかしながら、観察研究レベルではリスク因子について評価されているもの
のもあり、本ガイドラインでリスク因子を提示することは有用と考えられるため、推奨決定会議で満場一致の合意を得て、本CQ はBQ に変更する方針となった。 (1)背景及び本CQ の重要度熱中症の発症には気象条件だけでなく、患者因子も重要である。人体には体温調節機能が備わっているため、暑熱環境であっても発汗や皮膚からの放散などにより体温上昇を防ぐことができる。しかし、種々の要因による体温調節機能の破綻や、調節範囲を超えた体温変動により、熱中症が発症しうると考えられる。気象条件以外の発症リスクを提示することで、熱中症の発症リスクを減らすことが期待されるため、本ガイドラインのBQ として取り上げることとした。 (2)解説熱中症の発症には気象条件だけでなく、患者因子も寄与する。肥満、運動不足、脱水、屋外労働、過度なスポーツ活動は労作性熱中症のリスクと考えられている1)。高齢は熱中症発症のリスクである2)。これは高齢により体温調節機能の低下が生じるという生理学的なメカニズムや、暑熱環境時での適切な行動(水分摂取など)がとれないこと、また暑熱環境にいることを認知できないことなどの複数の要因が関与すると考えられる3)。さらに、後述する基礎疾患や薬剤などのリスク因子も高齢者には併存していることが起因する。性別が熱中症の発症リスクであるかは分かっていない。米国における救急外来を対象とした観察研究では、熱中症による救急外来の受診患者は男性で多かった2)。しかし、これは男性と女性の身体的な差でなく、男性の方が暑熱環境やスポーツ活動に曝露されていることが多いという行動差を反映している可能性がある。米国の軍人を対象とした研究ではあるが、熱中症の発症リスクと性別に関連はないという研究4) や、熱中症の発症リスクの上昇と女性に関連があったという研究5)が報告されている。いくつかの基礎疾患や薬剤も熱中症のリスクとなる可能性がある。糖尿病・高血圧症・心血管疾患・呼吸器疾患は熱波時の入院数増加や死亡率増加と関連があることが報告されている6,7)。しかし、これらの研究は熱波により原疾患が悪化したことを反映しているだけの可能性もある。熱中症の発症リスクとなりうる薬剤を調査したオーストラリアの退役軍人を対象としたデータベース研究では、Angiotensin-converting enzyme (ACE)阻害薬/ Angiotensin II receptor blocker (ARB) 、利尿薬、β 遮断薬、Non-Steroidal Anti- Inflammatory Drugs (NSAIDs)、抗凝固薬、硝酸薬、抗精神病薬、Selective Serotonin Reuptake Inhibitor (SSRI)、抗うつ薬の内服が熱中症もしくは脱水症による入院増加と関連があった8)。熱中症による入院を検討したフランスの単施設の救急外来を対象とした小規模の観察研究では、抗うつ薬、抗てんかん薬、抗精神病薬、抗コリン薬、コリンエステラーゼ阻害薬の内服は熱中症による入院増加と関連があった9)。その他の薬剤として、アルコー
ル、α作動薬、抗ヒスタミン薬、リチウム製剤、甲状腺治療薬、アンフェタミン、コカインなども熱中症の発症リスクとなりうる可能性がある8,10)。また、社会経済的な要因も熱中症の発症リスクに関与している可能性がある。海外の研究であり日本とは社会情勢が異なるため外的妥当性は懸念されるものの、人種(非白人)、エアコンの未使用、低い教育レベル、低収入、独居、路上生活などは熱波中の死亡率上昇と関連があると報告されている3,11)。 文献 1) Roberts WO, Armstrong LE, Sawka MN, et al. ACSM Expert Consensus Statement on Exertional Heat Illness: Recognition, Management, and Return to Activity. Curr Sports Med Rep 2023;22:134-49. 2) Wu X, Brady JE, Rosenberg H, et al. Emergency Department Visits for Heat Stroke in the United States, 2009 and 2010. Inj Epidemiol 2014;1:8. 3) Kenny GP, Yardley J, Brown C, et al. Heat stress in older individuals and patients with common chronic diseases. CMAJ 2010;182:1053-60. 4) Giersch GEW, Taylor KM, Caldwell AR, et al. Body mass index, but not sex, influences exertional heat stroke risk in young healthy men and women. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 2023;324:R15-9. 5) Carter R 3rd, Cheuvront SN, Williams JO, et al. Epidemiology of hospitalizations and deaths from heat illness in soldiers. Med Sci Sports Exerc 2005;37:1338-44. 6) Semenza JC, McCullough JE, Flanders WD, et al. Excess hospital admissions during the July 1995 heat wave in Chicago. Am J Prev Med 1999;16:269-77. 7) Hoffmann B, Hertel S, Boes T, et al. Increased cause-specific mortality associated with 2003 heat wave in Essen, Germany. J Toxicol Environ Health A 2008;71:759-65. 8) Kalisch ELM, Pratt NL, Le Blanc VT, et al. Increased risk of hospital admission for dehydration or heat-related illness after initiation of medicines: a sequence symmetry analysis. J Clin Pharm Ther 2016;41:503-7. 9) Martin-Latry K, Goumy M-P, Latry P, et al. Psychotropic drugs use and risk of heat-related hospitalisation. Eur Psychiatry 2007;22:335-8. 10) Lipman GS, Eifling Kurt P, Ellis MA, et al. Wilderness Medical Society practice guidelines for the prevention and treatment of heat-related illness. Wilderness Environ Med 2013;24:351-61.
11) Semenza JC, Rubin CH, Falter KH, et al. Heat-related deaths during the July 1995 heat wave in Chicago. N Engl J Med 1996;335:84-90.(追加文献)
FRQ2-02 熱中症の発症および重症化リスクの減少に、暑熱順化は有用か? 推奨 推奨決定会議にてFRQ に変更することに満場一致で合意した。 要約 熱中症の発症および重症化リスクの減少に対して、暑熱順化が有用である可能性は示唆される。しかし、暑熱順化のための取り組み(暑熱順化アプローチ)の有効性および安全性を示すエビデンスは不足している。今後、質の高い研究が蓄積されることが期待される。そのため、本ガイドラインではFRQ として現状のエビデンスの提示をする。 解説 <背景>暑熱順化とは、熱ストレスに繰り返し曝露されることで熱耐性を向上させる生理的適応をもたらす過程のことである1,2)。暑熱順化の結果、暑熱環境での運動能力向上や労作性熱中症の予防につながる可能性が示唆されている3,4)。各種ガイドラインやコンセンサスステートメントなどで、暑熱順化アプローチの推奨はされているものの5-7)。前回の熱中症診療ガイドライン2015 では暑熱順化に対する項目はなかった8)。以上より、本ガイドラインで暑熱順化が熱中症の発症および重症化リスク減少に有用かを検討することは重要と考えた。<解説>今回、暑熱順化による望ましい効果は熱中症の発症率低下、入院率低下、死亡率低下で、望ましくない効果は熱中症の発症率増加と設定した。本ガイドライン作成目的に行ったシステマティックレビューにおいて、暑熱順化の有無による熱中症の発症率を評価した研究は見られなかった。熱中症の入院率および死亡率を評価した観察研究は1 件ずつ見られ、いずれも軍人の熱中症患者を対象として、暑熱順化が期待される群と、そうではない群に分けて比較しており、有効性を示唆する結果ではあったが、エビデンスの強さは非常に弱かった9,10)。システマティックレビューへの組み入れ対象でなかった研究で、暑熱順化が熱中症の発症予防に有用である可能性を示唆するいくつかの報告がある。一つ目は、Wet bulb globe temperature(WBGT)の地域差と熱中症発症率との関連を見た研究である。ある地域と比較した場合に、より温暖な地域の方が、同じ程度の熱中症発症率となるときにWBGT は最大で約4-5 度高かった11)。二つ目は、労作性熱中症発生時の気温と相対湿度の関係を月別(6月と7 月)に見た研究である。暑熱順化がまだ起きていない可能性のある6 月の方が、同じ
相対湿度の場合により低い気温で熱中症の患者が発生していた12)。三つ目は、米国のアメリカンフットボールの高校生選手を対象とした暑熱順化ガイドラインの遵守による熱中症発症率への影響を見た研究である。暑熱順化ガイドラインを完全にあるいは部分的に遵守していた場合、遵守していない場合と比較して、熱中症の発症率が約半数以下であった4,13)。暑熱順化による熱中症の発症率、入院率、死亡率の減少が示唆されていることから、熱中症の発症に注意しながら暑熱順化アプローチを行える場合には有用かもしれない。しかしながら、暑熱順化の有用性を示唆するエビデンスの強さはとても弱く、一般的にWBGT の上昇は熱中症の発症率を上昇させることや、暑熱順化アプローチ実施中の熱中症の発症率を評価できていないことから、推奨を提示するのは困難と判断した。暑熱順化アプローチを実施する場合、期間・方法としては定まったものはないが、7-14 日間・一定の強度で一定期間運動を行う方法が最も多く検討されている。その他には、自身の状態に合わせて運動強度を調整する方法や、積極的に運動せずに一定期間暑熱環境下に暴露される方法などもある3)。今後、一般市民を対象とした暑熱順化アプローチ(指導や教育、情報提示など)を介入としたRCT や観察研究などを行い、暑熱順化アプローチの有効性および安全性を示すことが期待される。 文献 1) Periard JD, Racinais S, Sawka MN. Adaptations and mechanisms of human heat acclimation: Applications for competitive athletes and sports. Scand J Med Sci Sports 2015;25 Suppl 1:20-38. 2) Adams WM, Hosokawa Y, Casa DJ, et al. Roundtable on Preseason Heat Safety in Secondary School Athletics: Heat Acclimatization. J Athl Train 2021;56:352- 61 3) Tyler CJ, Reeve T, Hodges GJ, et al. The Effects of Heat Adaptation on Physiology, Perception and Exercise Performance in the Heat: A Meta-Analysis. Sports Med 2016;46:1699-724. 4) Kerr ZY, Register-Mihalik JK, Pryor RR, et al. The Association between Mandated Preseason Heat Acclimatization Guidelines and Exertional Heat Illness during Preseason High School American Football Practices. Environ Health Perspect 2019;127:47003. 5) Racinais S, Hosokawa Y, Akama T, et al. IOC consensus statement on recommendations and regulations for sport events in the heat. Br J Sports Med 2023;57:8-25.
6)川原 貴, 伊藤 静夫, 井上 芳光,他. スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック (第5版). 日本スポーツ協会 2019;:.(追加文献) 7) Racinais S, Alonso J M, Coutts A J, et al. Consensus recommendations on training and competing in the heat. Br J Sports Med 2015;49:1164-73. 8)日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2015.(追加文献) 9) Stacey MJ, Parsons IT, Woods DR, et al. Susceptibility to exertional heat illness and hospitalisation risk in UK military personnel. BMJ Open Sport Exerc Med 2015;1:e000055. 10) Rav-Acha M, Hadad E, Epstein Y, et al. Fatal exertional heat stroke: a case series. Am J Med Sci 2004;328:84-7. 11) Ueno S, Hayano D, Noguchi E, et al. Investigating age and regional effects on the relation between the incidence of heat-related ambulance transport and daily maximum temperature or WBGT. Environ Health Prev Med 2021;26:116. 12) 中井 誠一. 【熱中症】熱中症をめぐる最近の動向と歴史的変遷. 公衆衛生 2015;79:366-72. 13) Casa DJ, Csillan D, Armstrong LE, et al. Preseason heat-acclimatization guidelines for secondary school athletics. J Athl Train 2009;44:332-3.(追加文献)
BQ2-03 熱中症の発症のリスク判定に、WBGT は有用か? 推奨 推奨決定会議にてBQ に変更することに満場一致で合意した 要約 熱中症の発症のリスク判定に、WBGT は広く普及している。熱中症の発症リスクの判定にWBGT の有用性を検討したRCT は存在しないものの、WBGT と熱中症の発症の関連を検討した疫学研究は報告されており、WBGT の測定は有用と考える。 解説 (0)本CQ がBQ となった経緯本BQ は当初はCQ であった。システマティックレビューの結果、PICO に合致したRCTは過去に実施されておらず、採用された文献は0 件であった。その結果、「熱中症の発症のリスク判定に、WBGT は有用か?」というCQ に対する推奨・非推奨を示すことはできなかった。しかし、PICO に合致したRCT のデザインは困難であり、かつ今後も実施は難しいと考えられた。さらに、これまでWBGT は労働環境や運動環境の指標として広く普及しており、本CQ の推奨文より「WBGT の測定を実施しなくてよい」と誤った解釈が起きうることが懸念された。委員会で協議の結果、本CQ はBQ に変更する方針となった。 (1)背景及び本CQ の重要度熱中症の発症には気象条件が重要であることは広く知られている。WBGT という指標は、黒球温度、湿球温度、乾球温度の3つの測定値より算出される。WBGT は国際的に普及し、労働環境や運動環境の指標として広く用いられている。WBGT による熱中症の発症リスクの精度を明確にすることで、熱中症の発症を減らすことが期待されるため、本ガイドラインのBQ として取り上げることとした。 (2)解説WBGT は労働環境や運動環境の指標として普及し、熱中症予防を目的に広く用いられている。WBGT と熱中症の発生の関連については、過去に複数の研究より報告されている。一般に、WBGT28 を超えると熱中症のリスクが増加すると考えられている1)。日本の救急搬送データからはWBGT28 を超えると熱中症による救急搬送患者が急速に増加することが報告されている2)。熱中症の予防および注意喚起を目的に、環境省は2019 年より全国を
対象にWBGT33 以上と予測された場合に熱中症警戒アラートを発信し、熱中症の危険性が極めて高い状況であることを呼びかけている3)。さらに、WBGT35 以上となった場合、熱中症による重大な健康被害の恐れがあるため、環境省は2024 年度より、都道府県内において、全ての暑さ指数情報提供地点における、翌日の日最高暑さ指数(WBGT)が35(予測値)に達する場合等に熱中症特別警戒アラートを発出することとしている4)。 以上より、WBGT の上昇は熱中症の増加と関連があると考えられ、熱中症の発症リスクの評価のためにWBGT の測定は有用であると本ガイドラインでは提示する。 文献 1) Armstrong LE, Casa DJ, Millard-Stafford M, et al. American College of Sports Medicine position stand. Exertional heat illness during training and competition. Med Sci Sports Exerc 2007;39:556-72. 環境省. 暑さ指数と熱中症救急搬送人員との関係. https://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_report.php (2024 年5 月29 日閲覧)環境省. 熱中症警戒アラート. https://www.wbgt.env.go.jp/about_alert.php(2024 年5 月29 日閲覧)熱中症予防情報サイト. https://www.wbgt.env.go.jp/about_special_alert.php(2024 年6 月21 日閲覧)
sss CQ3-01 Active Cooling は、点滴(水分補給)のみの治療に比べて有用か? 推奨 2)介入を行うことを弱く推奨(提案)する。 重症熱中症において死亡率を改善するためには、点滴加療だけでなく、早急にActive Cooling を含めた集学的治療を行うことを弱く推奨する。 合意率エビデンスの強さ 84.5%(11/13) B(中等度):効果の推定値に中程度の確信 がある 解説 熱中症の治療は、体温を素早く下げるためのActive Cooling と、脱水に対処するための水分補給が必要である。水分補給のみの治療では患者の予後を改善するのに不十分であると考えられているが、本ガイドライン前文に示した通り、深部体温測定とActive Cooling が確実に実施されている患者は多くない。Active Cooling の推奨を明確にすることで、熱中症の予後が改善されることを期待し本CQ を立案した。本CQ の作成をするにあたって、重症熱中症の死亡率の低下、30 日後CPC (神経予後)の改善、人工透析などの後遺症の改善を重要視した。 ・P:熱中症・I:Active cooling を伴った治療・C:点滴(水分補給)のみの治療・O:死亡率、30 日後 CPC(神経予後)の改善、人工透析などの後遺症(神経以外)の改善、 入院日数の短縮、冷却終了までの時間短縮 システマティックレビューを行った結果、上記のPICO に合致したRCT はなく、1 件の観察研究を採用した。Kanda らの報告によると、予後規定因子による多変量解析の結果、重症例では、水分補給のみの治療のAdjusted odds ratio (aOR)は3.29 (95%CI:1.21-8.90) であり、院内死亡率の上昇と有意に関連していた。その一方で軽度から中等度の症例では、Active Cooling は死
亡率の低下とは関連していなかった1)。Active Cooling を含めた集学的治療と重症熱中症患者の死亡率と関連しているとの報告は重要であり、推奨決定会議では、重症熱中症の患者に対してActive Cooling を含めた集学的治療を実施することを弱く推奨することとした。弱い推奨となった理由としては、エビデンスの強さがB(中等度)であったことである。採用した論文はHsS を解析したもので多施設間の観察研究であった。n 数は多いものの統一されたプロトコルがなく、介入群と対照群以外の治療の違いや、患者背景の違いなど治療に関する交絡因子も多く、バイアスリスクとしては高リスク、非直接性としては中リスクと判断し、非一貫性と出版バイアス、不精確性は低リスクであった。以上から全体のエビデンスの強さはB(中等度)とした。益と害のバランスとして、益が上回ると考える。益としては、Active Cooling による死亡率の低下が挙げられる。害としては過冷却による合併症などが挙げられているが、モニタリングと適切な目標温度の設定で過冷却は防げるものと考える。(目標温度の設定については CQ3−03 で後述する) 患者の価値観や好みとしても、死亡率を低下させることは重大なアウトカムで、一般的には価値観のばらつきは少ないと思われる。また、Active Cooling には比較的安価な蒸散冷却、氷嚢、水冷式ブランケットなどを用いる方法も含まれるので、各施設における実現可能性も高い。 文献 1) Kanda J, Nakahara S, Nakamura S, et al. Association between active cooling and lower mortality among patients with heat stroke and heat exhaustion. PLoS One 2021;16:e0259441.
CQ3-02 熱中症の治療において、いずれの冷却法が有用か? 1 冷水浸水 (Cold water immersion) 2 蒸散冷却法(Evaporative plus convective cooling) 3 胃洗浄(Cold water gastric lavage) 4 膀胱洗浄(Cold water bladder irrigation) 5 血管内体温管理療法 (Intravascular temperature management) 6 体外式膜型人工肺 (Extracorporeal membranous oxygenation) 7 腎代替療法 (Renal replacement therapy) 8 ゲルパッド法による水冷式体表冷却(The Arctic Sun temperature management system®) 9 クーリングブランケット(Cooling blankets) 10 局所冷却(Ice packs) 推奨 5)明確な推奨を提示しない熱中症治療における特定の冷却法について、明確な推奨を提示しない 合意率エビデンスの強さ92.3%(12/13) D(非常に弱い):効果の確定値がほとんど 確信できない 解説 6,176 件の文献から1 件の前向き観察研究を採用した。本CQ に対する推奨の作成にあたっては、熱中症に対する死亡率の低下、神経予後の改善、後遺症の改善を重要視した。採用した研究では重症患者のみを対象とし、熱中症の重症患者において、血管内体温管理療法(Intravascular temperature management)を従来の治療 (冷却した点滴+蒸散冷却法)に併用することによって、従来の治療のみ実施した患者に比べて入院中の重篤な有害事象の増加はなかったと報告されていた1)。しかし、死亡率、後遺症の改善について評価しておらず、神経予後の統計的な差がみられなかった。他に、熱中症の治療における冷水への浸漬は、毎分0.20〜0.35°Cの冷却速度を可能にするが、高齢者や患者の重症度、施設の設備によっては冷水への浸漬はモニタリングや急変時の対応が困難になるため、実施できない状況が存在する2)。しかし、熱中症患者全般の治療において、特定の冷却方法を支持する根拠は明らかではな
く、エビデンスの強さは弱く、益と害の偏りも明確ではないと判断した。また患者の状態、施設の状況により、治療のばらつきが生じると思われ、正味の利益がコストや資源に十分見合ったものかどうかについて十分に検討した報告はみられなかった。そのため、患者、施設の状況を踏まえて、治療法を選択、最適化し、かつ複数の治療法との併用を検討する必要があり、推奨文は熱中症治療における特定の冷却法について、明確な推奨を提示しないこととした。 文献 1) Yokobori S, Koido Y, Shishido H, et al. Feasibility and Safety of Intravascular Temperature Management for Severe Heat Stroke: a Prospective Multicenter Pilot Study. Crit Care Med 2018;46:e670-6. 2) Epstein Y, Yanovich R. Heatstroke. N Engl J Med 2019;380:2449-59.
CQ3-03 熱中症の治療において、目標体温を38.0°Cとすることは有用か? 推奨 2)介入を行うことを弱く推奨(提案)する。重症熱中症に対して、従来のActive Cooling(冷水浸水 (Cold water immersion)、蒸散冷却法、氷嚢など)では目標体温を38.0°Cとして速やかに冷却することを弱く推奨する。 合意率エビデンスの強さ92.3%(12/13) D(非常に弱い):効果の確定値がほとんど 確信できない 解説 熱中症において40.5°C上の深部体温が続くと、予後は悪化することが知られている。そのため迅速で効果的な冷却が必要となる1)。従来のActive Cooling では、深部体温が38.0°Cになるまで積極的な冷却処置を行うことが好ましいと報告されているが、目標体温の設定は報告によって異なってきた1,2)。これまで明確な目標温度が存在しないため、臨床の現場に少なからず混乱をもたらしてきた経緯がある。そこで今回、38.0°Cを目標体温に設定することで、安全かつ積極的な冷却が可能になることを期待して、本CQ を設定し、PICO を下記としてシステマティックレビューを行った。 ・P:Active Cooling が必要な重症熱中症患者・I:38.0°CでActive cooling を終了したもの・C:38.0°C以外で終了としたもの・O:死亡率、30 日後 CPC(神経予後)の改善、人工透析などの後遺症(神経以外)の改善、 入院日数の短縮、冷却終了までの時間短縮 結果として多くの文献が観察研究であり、設定温度も38.0°Cから38.6°Cまでばらつきがあった。採用したものは1 件のみであり、エビデンスの強さとしてはD であった。新規にメタアナリシスを行うのは困難であった。今回、38.0°CをActive cooling の目標温度に設定した報告はPasiri Sithinamsuwan 3)らのみで、この研究では38.0°Cまで冷却するのに3 時間以上かかった患者は、3 時間以内に達成した患者に比べ、DIC が有意に多く、転帰不良(死亡および神経論理学的後遺症)の割合が2 倍近く高い結果を示した。このことより早期に38.0°Cまで冷却することが、死亡率、神経学的予後、DIC の予後を改善する可能性が示された。
またHsS を解析した報告4)では、重症熱中症の生存群と非生存群を比較したところ、生存群では入院時体温の中央値が38.1°Cであったが、非生存群では39.8°Cで有意差を認めた。熱中症診療ガイドライン2015 においても、後遺症なく生存できたIII度(2015)熱中症を対照群とし、後遺症を生じた群と比較検討すると、38.0°C までの冷却時間は後遺症を生じた群で長く、有意差を認めている5)。これらより、38.0°Cを目標体温に設定することは妥当であると考える。益と害のバランスについて、益としては死亡率、30 日後 CPC(神経予後)の改善が見られた。害としては過冷却の可能性が指摘されているが、文献による報告はなかった。症例数が少なくエビデンスとしては非常に弱いが、益が害を上回ると判断している。患者の価値観や好みとしては、死亡率や合併症を下げる相対的価値は高いと考えられ、そのばらつきは少ないことが予想される。38.0°Cを目標に従来のActive Cooling を実施するコストに関する評価としては、コストに関する報告は存在せず評価できないと判断した。以上より、重症熱中症に対して、従来のActive Cooling では目標体温を38.0°Cとして速やかに冷却することを弱く推奨する。ただし、38.0°Cを目標に設定するのは従来のActive Cooling による過冷却を防ぐためであることに留意する必要がある。一方で、血管内冷却カテーテルを用いた深部冷却などに代表される高度な体温管理療法が可能であれば、38.0°Cに固執する必要はない。体温管理療法下では33°C〜36°Cを目標温度とした方が、臓器障害や神経学的予後を改善しえるとのいくつかのケースレポート6,7) が散見された。重症熱中症には高度な体温管理療法が有用である可能性が示唆され今後の検討が期待される。 文献 1) Epstein Y, Yanovich R. Heatstroke. N Engl J Med 2019;380:2449-59. 2) Lipman GS, Eifling KP, Ellis MA, et al. Wilderness Medical Society practice guidelines for the prevention and treatment of heat-related illness: 2014 update. Wilderness Environ Med 2014;25:S55-65. 3) Sithinamsuwan P, Piyavechviratana K, Kitthaweesin T, et al. Exertional heatstroke: early recognition and outcome with aggressive combined cooling--a 12-year experience. Mil Med 2009;174:496-502. 4) Shimazaki J, Hifumi T Shimizu K, Oda Yasutaka, et al. Clinical characteristics, prognostic factors, and outcomes of heat-related illness(Heatstroke Study 2017- 2018). Acute Med Surg 2020;7:1-9.
5)中村 俊介, 三宅 康史, 土肥 謙二,他. 熱中症による中枢神経系後遺症 Heatstroke STUDY 2006、Heatstroke STUDY 2008 の結果分析. 日救急医会誌2011;22:312-318. 6) Jung YS, Kim H-H, Yang HW, et al. Targeted temperature management in patients with severe heatstroke: Three case reports and treatment recommendations. Medicine (Baltimore) 2020;99:e23159. 7) Hong J-Y, Lai Y-C, Chang C-Y, et al. Successful treatment of severe heatstroke with therapeutic hypothermia by a noninvasive external cooling system. Ann Emerg Med 2012;59:491-3.
CQ3-04 熱中症の治療において、冷却の目標速度を設定することは有用か? 推奨 2)介入を行うことを弱く推奨(提案)する。冷却の目標速度を設定することを弱く推奨する。 合意率エビデンスの強さ92.3%(12/13) D(非常に弱い):効果の確定値がほとんど 確信できない 解説 中枢温が40.5°Cを超えて持続すると、予後は悪化する1)。迅速かつ効果的な冷却が必要である2)。本CQ に対する推奨の作成にあたっては、熱中症に対する死亡率の低下、神経予後の改善、後遺症の改善を重要視した。6,176 件の文献から1 件のシステマティックレビューを採用した3)。この研究では、32 のケースレポートおよびケースシリーズから521 人の労作性熱中症患者を対象とし、適切な冷却速度(>0.15 °C/分)と不十分な冷却速度(<0.15 °C/分)において、生存、合併症の発生について評価されている。冷却速度が不十分な場合、合併症の発生が4.57倍になることが報告されている3)。また、適切な冷却速度を有する治療法を受けた患者の死亡は0 例(0/521、0%)で、冷却が不十分で死亡した患者は23 例(23/521、4.41%)であった。しかし、ケースレポートおよびケースシリーズ研究の結果を統合しており、エビデンスレベルは低く、後遺症の改善や神経予後について記載されていなかった。 以上より、エビデンスレベルは低いが、熱中症の治療において、迅速な冷却が基本となり、不十分な冷却は合併症の発生や望ましくない結果につながる可能性があるため、冷却の目標速度を設定することを弱く推奨するとした。 文献 1) Epstein Y, Yanovich R. Heatstroke. N Engl J Med 2019;380:2449-59. 2) Zhong L, Wu M, Liu Z, et al. Risk Factors for the 90-Day Prognosis Of Severe Heat Stroke: a Case-Control Study. Shock 2021;55:61-6.
3) Filep EM, Murata Y, Endres BD, et al. Exertional Heat Stroke, Modality Cooling Rate, and Survival Outcomes: A Systematic Review. Medicina (Kaunas) 2020;56:589.
BQ3-05 熱中症の治療において、搬送前の冷却は有用か? 推奨 推奨決定会議にてBQ に変更することに満場一致で合意した。 要約 本BQ は当初CQ として設定されたが、システマティックレビューの結果、PICO に該当したRCT はなく、明確な推奨・非推奨を提示できなかった。しかし搬送前の冷却は広く一般で受け入れられていること、RCT はないが搬送前の冷却が、重症熱中症の改善につながったとされるケースレポートが多数あることからBQ に変更となった。 解説 熱中症は早期の認識と迅速な冷却が必要である。そのため、病院前の段階からの熱中症の認識、冷却の開始が重要である。病院前における冷却の効果が認識、実施されることにより、予後の改善が期待されることから、本CQ を設定し、PICO を下記としてシステマィックレビューを行った。 ・P:熱中症・I:搬送前冷却あり・C:搬送前冷却なし・O:重症熱中症の死亡率の低下、30 日後CPC(神経予後)の改善、人工透析などの後遺 症の改善、入院日数の短縮、合併症、冷却終了までの時間短縮 結果としてPICO に合致するようなRCT はなく、新規にメタアナリシス解析を行うことは困難であった。熱中症による臓器障害を抑制するためには早期の高体温状態からの解除(39°C以下)は重要であり、急速かつ効果的な冷却が必要となる1)。病院前の段階においても熱中症の病態は同様であり、早期の冷却は重要と考えられている。The American College of Sports Medicine の労作性熱中症に対するエキスパートコンセンサス声明では、病院前における管理として体温上昇の抑制、制限が最も大切な要素であるとしている2)。さらに、複数のレビューやガイドライン3-6)でも病院前での冷却を推奨する記載が見られた。Deshwal7)らや、Zeller8)らのケースシリーズ研究では、熱中症の発生現場で直ちに冷却処置を行ってから病院搬送したものは良好な転帰をもたらしたとの報告があったが、今回の
PICO には該当せず採択にはならなかった。しかし、これら以外にも多数のケースレポートで、病院前での熱中症の早期認識と冷却が良好な予後をもたらすことが示唆されている。 文献 1) Epstein Y, Yanovich R. Heatstroke. N Engl J Med 2019;380:2449-59. 2) Roberts WO, Armstrong LE, Sawka MN, et al. ACSM Expert Consensus Statement on Exertional Heat Illness: Recognition, Management, and Return to Activity. Curr Sports Med Rep 2021;20:470-84. 3) DeGroot DW, O'Connor FG, Roberts WO. Exertional heat stroke: an evidence based approach to clinical assessment and management. Exp Physiol 2022;107:1172-83. 4) Kinkade S, Warhol M. Beat the heat: Identification and Tx of heat-related illness. J Fam Pract 2018;67:468-72. 5) Rublee C, Dresser C, Giudice C, et al. Evidence-Based Heatstroke Management in the Emergency Department. West J Emerg Med 2021;22:186-95. 6) Lipman GS, Gaudio FG, Eifling KP, et al. Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Heat Illness: 2019 Update. Wilderness Environ Med 2019;30:S33-46. 7) Deshwal R, Tiwari D, Singh R. Clinical and Biochemical Characteristics of Exertional Heat Stroke among Paratroopers in Agra, India. J Assoc Physicians India 2017;65:57-61. 8) Zeller L, Novack V, Barski L, et al. Exertional heatstroke: clinical characteristics, diagnostic and therapeutic considerations. Eur J Intern Med 2011;22:296-9.
CQ3-06 熱中症の治療において、解熱薬は有用か? 推奨 3)介入を行わないことを弱く推奨(提案)する。熱中症の治療において、解熱薬を使用しないことを、弱く推奨する。 合意率エビデンスの強さ92.3%(12/13) D(非常に弱い):効果の確定値がほとんど 確信できない 解説 6,176 件の文献から本CQ に沿う文献は採用されなかった。本CQ に対する推奨の作成にあたっては、熱中症に対する死亡率の低下、神経予後の改善、後遺症の改善を重要視した。解熱薬である非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、アセトアミノフェンはアラキドン酸カスケードのシクロオキシゲナーゼ(Cyclooxygenase (COX))を阻害し、プロスタグランジン類の合成を抑制することで、解熱作用を発揮する。そのため、プロスタグランジンE2の合成により、視床下部の温度調節機構が正常より高い温度に設定される発熱に対して効果はあるが、異なる生理学的経路である熱中症の高体温への効果は明らかにされていない1)。また、アスピリンやアセトアミノフェンは肝臓や腎臓の障害を引き起こし、凝固障害を悪化させる可能性がある。サリチル酸は高体温を悪化させることがあり、熱中症に対して使用は避けるべきである1-4)。ダントロレンは、小胞体からのカルシウムイオンの放出を抑制することにより、筋硬直や筋緊張亢進を抑制する薬物であり、悪性高熱症の症例に有用である。しかし、熱中症の症例に対して有効とするエビデンスはみられていない1-4)。本CQ に沿う文献は抽出されなかったが、熱中症の診療において、冷却を促進する薬剤は明らかではなく、解熱薬は熱中症患者の臓器障害を悪化させる可能性があるため、解熱薬を使用しないことを弱く推奨するとした。一方で、体温が上昇している場合、鑑別診断は広範囲にわたり、感染症、内分泌・神経疾患、中枢神経系および中毒も含まれる。高体温の原因が明らかではなく、感染症が疑われるまたは合併している場合、解熱薬の使用を考慮しても良い。
文献 1) Asmara IGY. Diagnosis and Management of Heatstroke. Acta Med Indones 2020;52:90-7. 2) Gordon S. Heat illness in Hawai'i. Hawaii J Med Public Health 2014;73:33-6. 3) Epstein Y, Yanovich R. Heatstroke. N Engl J Med 2019;380:2449-59. 4) Lipman GS, Gaudio FG, Eifling KP, et al. Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Heat Illness: 2019 Update. Wilderness Environ Med 2019;30:S33-46.
BQ4-01 熱中症患者への適正な初期輸液量の目安を設定することは有用か? 推奨 推奨決定会議にてBQ に変更することに満場一致で合意した。 要約 熱中症患者は、脱水が明確にある場合が多く、治療方法として輸液療法を行うことが推奨されるが、適正な初期輸液量の目安について比較検討した文献がなく、初期輸液量を具体的に設定することについては、まだ十分な検討がなされていない。 解説 熱中症を発症した患者は、体内の熱を放散するために大量発汗や不感蒸泄が増大し、その結果、体内の脱水進行と末梢血管拡張による血管内容量が低下し、その後に臓器虚血や障害を来すとされている。多くの救急外来では、主に末梢点滴投与がなされるが、投与量の目安については、脱水及びショックを呈している患者に対し、意識レベルや血圧、心拍数をモニタリングしながら晶質液(乳酸リンゲル液以外)または等張塩化ナトリウム溶液による急速輸液1)や、尿量を0.5ml/kg/h 以上に維持できるように晶質液の投与(横紋筋融解症合併例は1-2L/h(最初の1 時間は積極的な輸液治療)、その後300ml/h で投与)2)などの報告がある。しかし、熱中症患者に対する輸液量について直接比較した文献がなく、点滴種類及び投与量について推奨する臨床的なエビデンスは現状では存在せず、まだ十分な検討がなされていない。今後初期輸液療法の適正輸液量の目安が明確になれば、救急現場での熱中症治療の指針として活用できることが期待される。 文献 1) Yeo TP. Heat stroke: a comprehensive review. AACN Clin Issues 2004;15:280- 93. 2) Epstein Y, Yanovich R. Heatstroke. N Engl J Med 2019;380:2449-59.
CQ4-02 病院前診療での早期輸液と経口補水液(Oral Rehydration Solution、 (ORS))のいずれが有用か? 推奨 5)明確な推奨を提示しない病院前診療での早期輸液とORS のいずれが有効か推奨しない 合意率エビデンスの強さ100%(13/13) D(非常に弱い):効果の確定値がほとんど 確信できない 解説 熱中症による臓器障害を抑制するためには早期の高体温状態からの解除(深部体温38.0°C以下へのActive Cooling)が重要であり、急速かつ効果的な冷却が必要となる。病院前において、救急現場や搬送中にショックが生じた場合に輸液やORS の経口摂取を行うことが推奨されるが、どちらが有用かについては、まだ十分な検討がなされていない。熱中症を発症した患者は、体内より熱を逃がすために発汗し、不感蒸泄が増大することで脱水が進行する。また、末梢血管拡張により血管内容量が低下することで、その後に臓器虚血や障害を来すとされている。熱中症が早期に診断され、速やかに冷却処置や輸液蘇生および電解質補充による管理が開始された場合に最も生命予後が良好であったとの報告1)もある。そのため迅速、急速かつ効果的な冷却が必要である。その方法としては、搬送よりも冷却を優先して現場で等張食塩水を静脈内投与すべき(1-2L/h)との報告2)や、患者を涼しい環境に移し、気道、呼吸、循環を管理し、冷水または氷水浸漬による急速冷却と静脈内補液を行った後に救命救急センターに搬送すべきとの報告3)もある。病院前においては、救急現場や搬送中に点滴加療とORS の経口摂取のどちらの対応も可能であり、現場で輸液開始後に救急搬送することを推奨する報告4)もあるが、その効果については明確ではない。病院前の段階で早期輸液とORS のいずれが有用か明確になれば、病院前における熱中症治療の指針として活用できることが期待される。以上より、CQ 立案に際し臨床的意義が大きいと考えられる。主要なアウトカムとして、死亡率、30 日後CPC(神経予後)の改善、人工透析などの後遺症(神経以外)の改善、入院日数の短縮、冷却終了までの時間短縮、を評価項目としたが、システマティックレビューを行った結果、熱中症患者に対する早期輸液とORS を比較している文献は検索できず、採用した文献は0 件であった。以上より、効果の推定値がほとんど確信できない為、エビデンスの強さは非常に弱い(D)とした。
益と害のバランス評価についても、輸液かORS について直接比較した文献がないため、有益有害の比較検討が困難と判断した。また輸液かORS のどちらを選択するかについては、本邦ではドクターヘリまたはドクターカー等により医師が出向く病院前救急診療においては保険診療内での点滴治療が可能であるが、救命救急士のみの状況では、特定行為としてのショック徴候のある患者に対する点滴投与しか施行できないことから、輸液かORS の選択は、地域性や担当医の意向で大きく差異が生じると考えられる。以上より、成人熱中症患者に対しての治療方法として救急現場や搬送中の点滴加療やORS の摂取が有用な可能性はあるが、どちらが有用かについて推奨する臨床的なエビデンスは現状では存在していない為、今後の研究課題と考えられる。 文献 1) Yeo TP. Heat stroke: a comprehensive review. AACN Clin Issues 2004;15:280- 93. 2) Epstein Y, Yanovich R. Heatstroke. N Engl J Med 2019;380:2449-59. 3) Sorensen C, Hess J. Treatment and Prevention of Heat-Related Illness. N Engl J Med 2022;387:1404-13. 4) Lipman GS, Gaudio FG, Eifling KP, et al. Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Heat Illness: 2019 Update. Wilderness Environ Med 2019;30:S33-46.
FRQ4-03 熱中症の治療において、いずれの経口補水液(Oral rehydration solution(ORS))が有用か? 推奨 推奨決定会議にてFRQ に変更することに満場一致で合意した。 要約 熱中症患者への治療方法として、水分の補給に加えて適切な電解質の補給が重要であり、WHO でも脱水時のORS 使用を推奨している。しかし、いずれのORS が有効かについては、まだ十分な検討がなされておらず、今後の研究課題である。 解説 熱中症では、水分とともにナトリウムなど電解質の喪失があるため、ナトリウム欠乏性脱水が主な病態であり、水分の補給に加えて適切な電解質の補給が重要とされている。熱中症の徴候を認めた際には、特に塩分と水分が適切に配合されたORS が適切とされている。世界保健機構(WHO)は脱水を有する患者が腸管から効率よくナトリウムと水分の吸収ができるナトリウムとブドウ糖の濃度を調整したORS の使用を推奨し、ORS の組成表も公表しており、災害現場でもORS が有効に活用されている。本邦でもORS の製品が複数市販されているが、熱中症患者に対してどのORS が有用かについては明確ではない。ORS の有効性が明確になれば、救急現場での熱中症治療の指針として活用できることが期待される。以上より、CQ 立案に際し臨床的意義が大きいと考えられる。主要なアウトカムとして、死亡率、30 日後CPC(神経予後)の改善、人工透析などの後遺症(神経以外)の改善、入院日数の短縮、冷却終了までの時間短縮の項目としたが、システマティックレビューを行った結果、熱中症患者に対するORS の種類を比較した文献は検索できなった。熱中症患者に対するORS の有用性については、健常被験者に対する暑熱環境下での運動後の筋痙攣について、天然水よりORS の方が筋痙攣の予防効果があったとの報告1)や、糖分のみ含有の水分摂取より糖分以外の複数電解質を含有した水分摂取の方が、血液検査(AST、BUN、Cr)値が有意に減少したとの報告2)のみであり、研究対象及び症例数からも有益有害の比較検討が困難と判断される。以上より、本邦では、成人熱中症患者に対しての治療方法として水分及び電解質補正目的でのORS の摂取が推奨されるが、どのORS が有用かについて推奨する臨床的なエビデンスは現状では存在せず、今後の研究課題である。
文献 1) Lau WY, Kato H, Nosaka K. Effect of oral rehydration solution versus spring water intake during exercise in the heat on muscle cramp susceptibility of young men. J Int Soc Sports Nutr 2021;18:22. 2) Wei C, Zhao S, Zhang Y, et al. Effect of Multiple-Nutrient Supplement on Muscle Damage, Liver, and Kidney Function After Exercising Under Heat: Based on a Pilot Study and a Randomised Controlled Trial. Front Nutr 2021;8:740741.
CQ4-04 熱中症例で合併したDIC において、DIC 治療薬は有用か? 推奨 5)明確な推奨を提示しない熱中症で合併したDIC において、DIC 治療薬が有用かについては、明確な推奨を提示しない。 要約 熱中症によるDIC は重症熱中症例に合併すると考えられ、DIC 合併例の死亡率は非合併例よりも高いとの報告もあるが、DIC の治療方法としてのDIC 治療薬投与の有用性については、まだ十分な検討がなされておらず、明確な推奨を提示しない。 合意率エビデンスの強さ100%(13/13) D(非常に弱い):効果の確定値がほとんど 確信できない 解説 熱中症によるDIC は重症熱中症例に合併すると考えられており、DIC 合併例の死亡率は非合併例よりも高いとの報告もある。しかし、DIC の治療方法として使用されているDIC治療薬(アンチトロンビンまたはトロンボモジュリン)の投与を行うことで生命予後や機能的予後(特に中枢神経障害)を改善させることができるかについては明確ではない。その為、DIC 治療薬の効果について明確になれば、救急現場での熱中症治療の指針として活用できることが期待される。以上より、CQ 立案に際し臨床的意義が大きいと考えられる。主要なアウトカムとして、死亡率、30 日後CPC(神経予後)の改善、人工透析などの後遺症(神経以外)の改善、入院日数の短縮の項目としたが、システマティックレビューを行った結果、熱中症患者に対するDIC 治療薬についてRCT を行った文献は検索できず、日本のDPC データを用いた後ろ向き観察研究が1件あるのみであった1)。その文献では、入院2 日以内にDIC 治療薬(アンチトロンビンまたはトロンボモジュリン)の投与群と非投与群の院内死亡率は、投与群18% に対して非投与群24%であり、リスク差は-6.5%(95% CI:-12‐-1.4)となったので、DIC 治療薬使用で有意に院内死亡率が低いと報告しているが、入院時体温が加味されていないこと、アンチトロンビンまたはトロンボモジュリン投与についてランダム化されていないこと、DPC データ上で診断のついた患者を対象とし、DICスコアを使用していないことから、背景因子の選択バイアスの可能性が高いと考えられる。
また、日本救急医学会が行っているHeatstroke STUDY 2020-23 の4 年分のデータ(合計3146 例)を調査し、急性DIC スコア4 点以上で退院時の転帰が明らかな479 例を分析したが、DIC 治療薬の使用例は30 例と少なく、DIC 治療薬の効果評価は困難であった。以上より、効果の推定値がほとんど確信できない為、エビデンスの強さは非常に弱い(D)とした。益と害のバランス評価についても、DIC 治療薬の使用可否、使用種類、使用期間については、担当医判断によるものであり不確実性が大きく、アンチトロンビンまたはトロンボモジュリン投与について比較した文献がないため、有益有害の比較検討が困難と判断した。以上より、DIC は重症熱中症例に合併して、DIC 合併例の死亡率は非合併例よりも高いとされており、その治療方法としてDIC 治療薬の使用が検討されるものの、DIC 治療薬が有効かについては、推奨する臨床的なエビデンスは現状では存在せず、まだ十分な検討がなされていないため、推奨を提示することはできなかった。 文献 1) Ohbe H, Isogai S, Jo T, et al. Treatment with Antithrombin or Thrombomodulin and Mortality from Heatstroke-Induced Disseminated Intravascular Coagulation: A Nationwide Observational Study. Semin Thromb Hemost 2019;45:760-6.
CQ4-05 熱中症によるDIC でいずれのDIC 治療薬が有用か? 推奨 5)明確な推奨を提示しないDIC を伴う成人熱中症患者に対するトロンボモジュリンとアンチトロンビンについての比較については、明確なエビデンスはなく、まだ十分な検討がなされていない。 合意率エビデンスの強さ100%(13/13) D(非常に弱い):効果の確定値がほとんど 確信できない 解説 熱中症によるDIC は、重症熱中症例に合併すると考えられており、DIC 合併例の死亡率は非合併例よりも高いとの報告もある。DIC 治療薬は主にアンチトロンビンとトロンボモジュリンがあるが、どちらが有効かについては明確ではない。その為、それぞれのDIC 治療薬の効果が比較できれば、救急現場での熱中症治療の指針として活用できることが期待される。以上より、CQ 立案に際し臨床的意義が大きいと考えられる。主要なアウトカムとして、死亡率、ICU 入室期間、DIC スコア(急性期DIC 診断基準)値の改善率、重篤有害事象としたが、システマティックレビューを行った結果、トロンボモジュリンとアンチトロンビンを直接比較検討した研究はなく、各々のDIC 治療薬投与群と非投与群との比較検討の報告の1件のみであった1)。院内死亡率は、トロンボモジュリン投与群ではリスク差が-5.5%(95%CI:-9.5‐-1.61) で、非投与群より有意に低かった。また、アンチトロンビン投与群では、リスク差が0.0%(95%CI:-5.5‐5.7)であり、有意差はなかった。以上より、トロンボモジュリンとアンチトロンビンについての比較については、明確なエビデンスはなく、効果の推定値がほとんど確信できない為、エビデンスの強さは非常に弱い(D)とした。益と害のバランス評価についても、トロンボモジュリンとアンチトロンビンの直接の比較がないので、有益有害の比較検討が困難と判断した。またトロンボモジュリンかアンチトロンビンのどちらを選択するかについては、いずれも本邦ではDIC 治療薬として保険診療内での治療方法であり、費用も双方ほぼ同等レベルであるが、どちらの薬剤を使用するかは、施設の薬剤採用の有無や担当医の意向で大きく差異が生じると考えられる。以上より、本邦では、DIC を伴う成人熱中症患者に対してアンチトロンビンおよびトロ
ンボモジュリンが選択されると考えられるが、現状ではどちらを選択すべきかを推奨する臨床的なエビデンスは存在せず、まだ十分な検討がなされていない。HsS の、調査項目には、入院1 日目と2 日目の血液凝固検査値や急性期DIC スコアが含まれており、今後DIC合併例を抽出し、該当症例におけるDIC 治療薬の使用状況の調査やその後の転帰についてのデータ解析が進めば、新たな臨床知見が得られる可能性がある。 文献 1) Ohbe H, Isogai S, Jo T, et al. Treatment with Antithrombin or Thrombomodulin and Mortality from Heatstroke-Induced Disseminated Intravascular Coagulation: A Nationwide Observational Study. Semin Thromb Hemost 2019;45:760-6.
BQ5-01 熱中症の小児患者において、重症度の判定基準として、腋窩温は深部 体温に比べて有用か? 推奨 推奨決定会議にてBQ に変更することに満場一致で合意した。 要約 重症度の判定としては正確な体温の評価が必要であり、測定が可能な環境であれば深部体温の測定を優先する。 解説 (0) 本CQ がBQ となった経緯「熱中症の小児患者において、重症度の判定基準として、腋窩温は深部体温に比べて有用か?」という臨床疑問において、PICO を下記としてシステマティックレビューを実施した。 ・P:小児(15 歳未満)熱中症・I:表面体温38°C未満(深部体温38°C以上)・C:表面体温38°C以上(深部体温38°C以上)・O:死亡率の低下、30 日後CPC など(神経予後)、人工透析などの後遺症(神経以外)、 ICU 入院日数の延長、入院日数(一般病棟)の延長 採用された文献は0 件であり、推奨を提示することはできなかった。しかし、委員会で臨床的認知度を加味し、本 CQ を BQ に変更する方針となった。 (1) 背景および本CQ の重要度熱中症診療は迅速かつ正確な診断と重症度判定が、患者への早期介入につながる。深部体温の測定は、表面体温の測定よりも侵襲度や合併症の問題が危惧されることがある。深部体温を利用した重症度判定と比較し、簡便に測定可能な表面体温(腋窩温)が有用かどうかを検証する本CQ は小児において重要度は高い。 (2) 解説重症度の判定基準として、簡便な腋窩温の測定が深部体温と同等もしくは有用とする質の高いエビデンスや推奨文献は認めず、体温測定精度を重視したシステマティックレビュ
ーでは腋窩温の精度は深部体温より劣ると報告されている1)。臓器障害と死亡率は高体温の持続時間に影響されるため、装置やスタッフの環境などが許せば深部体温を測定し、可能であれば冷却中は連続的にモニターを行う。深部体温測定法は直腸温を推奨する報告のほかに2-4)、膀胱温、食道温を推奨する報告もがあるが5)、直腸温と比較すると侵襲性が高くなる。膀胱温測定用のセンサー付きカテーテルは8Fr が最小であり、それ以下のサイズが必要な小児では使用できない。食道温は挿管中であれば比較的使用しやすい。これらから状況に応じたデバイスを選択する必要がある。また、赤外線法(前額、鼓膜、側頭動脈など)デバイスは直腸温との有意差はないと報告されている1,6)。前額温は暑熱環境下での深部体温の予測に有用と報告があり7,8)。鼓膜温は膀胱温との相関性に優れ、0.39°C相対的高温を示すため、熱中症に使用するリスクは少ない可能性がある。これらの報告から、国内周術期管理ガイドライン9)と同様に、熱中症診療においても、今後簡易的赤外線デバイスの選択余地が検討されうる。 文献 1) Valentina P, Davide P, Giorgio C, et al. The diagnostic accuracy of digital, infrared and mercury-in-glass thermometers in measuring body temperature: a systematic review and network meta-analysis. 2021;16:1071–83.(追加文献) 2) Bytomski JR, Squire DL. Heat illness in children. Curr Sports Med Rep 2003;2:320-4. 3) Miller KC, Casa DJ, Adams WM, et al. Roundtable on Preseason Heat Safety in Secondary School Athletics: Prehospital Care of Patients With Exertional Heat Stroke. J Athl Train 2021;56:372-82. 4) Adams WM. Exertional Heat Stroke within Secondary School Athletics. Curr Sports Med Rep 2019;18:149-53. 5) Divine JG, Daggy MW, Dixon EE, et al. Case Series of Exertional Heat Stroke in Runners During Early Spring: 2014 to 2016 Cincinnati Flying Pig Marathon. Curr Sports Med Rep 2018;17:151-8. 6) Susanna RD, Gillian AL, Jean VC, et al. In a systematic review, infrared ear thermometry for fever diagnosis in children finds poor sensitivity. 2006;59:354–7. 7) Kim S, Lee JY. Skin sites to predict deep-body temperature while wearing firefighters' personal protective equipment during periodical changes in air temperature. Ergonomics 2016;59:496-503.(追加文献)
8) Tanaka S, Nakagawa K, Ozone Y, et al. Evaluation of the physiological changes in prehospital health-care providers influenced by environmental factors in the summer of 2020 during the COVID-19 pandemic. Acute Med Surg 2021;8:e699. 9)安原 洋, 菊地 龍明, 最首 俊夫,他. 手術医療の実践ガイドライン(改訂第三版). 2019;40:i–S196.
CQ5-02 熱中症の小児患者の治療において、いずれの冷却法が有用か? 1 冷水浸水・アイスプール (Cold water immersion) 2 蒸散冷却法(Evaporative plus convective cooling) 3 胃洗浄(Cold water gastric lavage) 4 膀胱洗浄Cold water bladder irrigation) 5 血管内体温管理療法 (Intravascular temperature management) 6 体外式膜型人工肺 (Extracorporeal membranous oxygenation) 7 腎代替療法 (Renal replacement therapy) 8 ゲルパッド法による水冷式体表冷却(The Arctic Sun temperature management system®) 9 クーリングブランケット(Cooling blankets) 10 局所冷却(Ice packs) 推奨 5)明確な推奨を提示しない熱中症の治療において各冷却法の明確な推奨を提示しない。 合意率エビデンスの強さ100%(13/13) D 解説 (1) 背景及び本CQ の重要度重症熱中症ではActive Cooling を含めた早急な集学的治療が必要である。患者の重症度、状況にあわせて様々な冷却法が実施されている。従来のActive Cooling に加えて、血管内体温管理療法およびクーリングブランケットなどの高度な体温管理機器を用いる冷却法も開発されている。現時点ではどの冷却法が有効であるかは十分な検討がなされておらず、それらを明らかにする本CQ は重要な臨床課題である。 (2) 解説「熱中症の治療において、いずれの冷却法が有用か?」という臨床疑問において、PICOを下記としてシステマティックレビューを実施した。 ・P:小児熱中症患者・I:局所冷却(Ice packs)、蒸散冷却法(Evaporative plus convective cooling)、冷水浸
水・アイスプール (Cold water immersion)、クーリングブランケット(Cooling blankets)、ゲルパッド法による水冷式体表冷却(The Arctic Sun temperature management system® )、血管内体温管理療法 (Intravascular temperature management)、腎代替療法(Renal replacement therapy)、胃洗浄(Cold water gastric lavage)、膀胱洗浄(Cold water bladder irrigation)を実施した患者・C:Active Cooling を実施していない患者・O:死亡率の低下、30 日後CPC など(神経予後)、人工透析などの後遺症(神経以外)、 ICU 入院日数の延長、入院日数(一般病棟)の延長 採用された文献は0 件であり、推奨を提示することはできなかった。小児のActive Cooling では、病院前での救急現場における従来の氷嚢による局所冷却法(Ice pack)や蒸散冷却法(Evaporative plus convective cooling)の報告が散見される1- 6)。蒸散冷却法は合併症が少なく、局所冷却法(Ice pack)より冷却速度も速く(0.31°C/分)、効果的であると考えられる2)。冷水浸水・アイスプール (Cold water immersion)は、上述の冷却法よりも冷却速度は優れているが、設置環境と人員が整う場合に限り実施できる7,8)。病院においては、冷却と脱水補正のため、細胞外液の投与を開始し、Active Cooling を併用することが望ましい9)。集中治療時においては冷水浸水・アイスプール (Cold water immersion)と患者の診察、モニタリングは同時に施行できないため、蒸散冷却法が適するという報告がある10)。成人における実験研究を主としたシステマティックレビューでは、冷却温度1〜17°Cにおける冷水浸漬の有効性は他の体表冷却法と比較して冷却速度の短縮化を認めるという報告もある11)。コンピュータ制御による体温調整可能なクーリングブランケット(Cooling blankets)、ゲルパッド法による水冷式体表冷却(The Arctic Sun temperature management system®)は上述の治療と比較して衛生面や体温管理力が優れるが、コストは上述の治療と比較して高額となる。上述の体表から行うActive Cooling 全てにおいて、特に0〜10 歳の小児患者は体重に対する表面積が大きいので、十分な冷却効果が期待できる反面、熱中症の急速な体温低下の可能性があることに注意を要する10)。血管内体温管理療法 (Intravascular temperature management)は体温管理や体外冷却法などに比較して安定性において優れており、集中治療を要する重症熱中症患者に考慮されうる。しかしながら、我が国における血管内体温管理療法 (Intravascular temperature management)は身長100cm 以上の患者に適応が制限されている点や、処置自体が侵襲的である点、さらにそのカテーテルのサイズは9.3Fr と太いため、患児の血管径・血管長や走行に注意が必要である点を十分考慮する必要がある。腎代替療法(Renal replacement therapy)は、体温管理よりも重度熱中症に伴う急性腎障害に対して導入されている。近年サイトカイン抑制効果を期待した報告はあるもののエビ
デンスはない。胃洗浄(Cold water gastric lavage)や膀胱洗浄(Cold water bladder irrigation)については、小児利用例の採用文献が無いが、水中毒や誤嚥などのリスクを勘案する必要がある。 文献 1) Divine JG, Daggy MW, Dixon EE, et al. Case Series of Exertional Heat Stroke in Runners During Early Spring: 2014 to 2016 Cincinnati Flying Pig Marathon. Curr Sports Med Rep 2018;17:151-8. 2) Belval LN, Casa DJ, Adams WM, et al. Consensus Statement- Prehospital Care of Exertional Heat Stroke. Prehosp Emerg Care 2018;22:392-7. 3) Wexler RK. Evaluation and treatment of heat-related illnesses. Am Fam Physician 2002;65:2307-14. 4) Hadad E, Rav-Acha M, Heled Y, et al. Heat stroke : a review of cooling methods. Sports Med 2004;34:501-11. 5) Wagner C, Boyd K. Pediatric heatstroke. Air Med J 2008;27:118-22. 6) Danks DM, Webb DW, Allen J. Heat illness in infants and young children: a study of 47 cases. 1962. Wilderness Environ Med 2004;15:293-300; discussion 291-2. 7) Adams WM. Exertional Heat Stroke within Secondary School Athletics. Curr Sports Med Rep 2019;18:149-53. 8) Casa DJ, McDermott BP, Lee EC, et al. Cold water immersion: the gold standard for exertional heatstroke treatment. Exerc Sport Sci Rev 2007;35:141-9. 9) Epstein Y, Yanovich R. Heatstroke. N Engl J Med 2019;380:2449-59. 10) Fisher JD, Shah AP, Norozian F. Clinical Spectrum of Pediatric Heat Illness and Heatstroke in a North American Desert Climate. Pediatr Emerg Care 2022;38:e891-3. 11) Douma MJ, Aves T, Allan KS, et al. First aid cooling techniques for heat stroke and exertional hyperthermia: A systematic review and meta-analysis. Resuscitation 2020;148:173-90.
FRQ5-03 熱中症の小児患者の治療において、目標体温を38.0°Cに設定すること は有用か? 推奨 推奨決定会議にてFRQ に変更することに満場一致で合意した。 要約 可及的速やかに38.0°C以下を目安として治療することが妥当であると考えるが、目標体温を38.0°Cに設定するかは今後検討する必要性がある。 解説 (0) 本CQ がFQR となった経緯「熱中症の小児患者の治療において、目標体温を38°Cに設定することは有用か?」という臨床疑問において、PICO を下記としてシステマティックレビューを実施した。 ・P:小児(15 歳未満)熱中症・I:38.0°Cで積極的な冷却処置の中止・C:38.0°C以外で積極的な冷却処置の中止・O:死亡率の低下、30 日後CPC など(神経予後)、人工透析などの後遺症(神経以外)、 ICU 入院日数の延長、入院日数(一般病棟)の延長 採用された文献は0 件であり、推奨を提示することはできなかった。委員会では他ガイドラインの推奨度から成人同様の弱い推奨とするか検討したが、目標体温設定のみならず、小児のエビデンス不足を加味し、本 CQ は FRQ に変更する方針となった。 (1) 背景および本CQ の重要度熱中症において深部体温40.5°C以上の高体温が続くと、予後は悪化する。積極的な冷却処置を行うことが望ましいと報告されているが、目標体温の設定は報告によって異なる。目標体温を設定することで、安全に積極的な冷却が中止可能になることが期待され、熱中症の小児患者の治療において目標体温を38.0°Cに設定することが有用か検証する本CQ の重要度は高い。
(2) 解説深部体温が38.0~38.3°Cに達した時点で冷却を中止するという推奨もあるが1-4)。熱中症の小児患者の治療において目標体温を38.0°Cに設定する方がよいという質の高いエビデンスはない。一般的に直腸温で測定される深部体温の低下は、視床下部での実際の深部体温の低下よりも遅れるとされており5)、過冷却を防ぐために治療の目標体温は正常体温よりも高く設定されてきたが、成人における総説では科学的根拠はないとの記載もある6)。少なくとも高い深部体温で冷却中止を行う根拠はなく、過冷却のリスクに鑑みると可及的速やかに38.0°C以下を目安として冷却することは成人と同様で、妥当であると考えられる。特に0〜10 歳の小児患者は体重に対する表面積が大きいため、急速冷却法による急激な体温低下の可能性があるため注意を要する7)。一方で、小児における治療の目標体温は今回検索し得る範囲で質の高いエビデンスがないため、今後検討していく必要性がある。 文献 1) Wagner C, Boyd K. Pediatric heatstroke. Air Med J 2008;27:118-22. 2) Jardine DS. Heat illness and heat stroke. Pediatr Rev 2007;28:249-58. 3) Glazer JL. Management of heatstroke and heat exhaustion. Am Fam Physician 2005;71:2133-40. 4) Wexler RK. Evaluation and treatment of heat-related illnesses. Am Fam Physician 2002;65:2307-14. 5) Wyndham CH, Strydom NB, Cooke HM, et al. Methods of cooling subjects with hyperpyrexia. J Appl Physiol 1959;14:771-6. 6) DeGroot DW, O'Connor FG, Roberts WO. Exertional heat stroke: an evidence based approach to clinical assessment and management. Exp Physiol 2022;107:1172-83. 7) Fisher JD, Shah AP, Norozian F. Clinical Spectrum of Pediatric Heat Illness and Heatstroke in a North American Desert Climate. Pediatr Emerg Care 2022;38:e891-3.
BQ5-04 小児の熱中症予防において、水分摂取量の目安を設定することは有用 か? 推奨 推奨決定会議にてBQ に変更することに満場一致で合意した。 要約 必要水分量は個人で異なるため水分摂取の推奨量は設定できないが、小児においても水分摂取は熱中症予防・治療において重要である。 解説 (0) 本CQ がBQ となった経緯「小児の熱中症予防において、水分摂取量の目安を設定することは有用か?」という臨床疑問において、PICO を下記としてシステマティックレビューを実施した。 ・P:小児(15 歳未満)熱中症・I:一定期間、一定の水分を摂取するように規定した群(期間の長さや水分摂取量は問わ ない)・C:水分摂取に関する規定がない群・O:死亡率の低下、30 日後CPC など(神経予後)、人工透析などの後遺症(神経以外)、 ICU 入院日数の延長、入院日数(一般病棟)の延長 採用された文献は0 件であり、推奨を提示することはできなかった。しかし、委員会で水分摂取が重要であることの臨床的、社会的認知度を加味し、本 CQ は BQ に変更する方針となった。 (1) 背景及び本CQ の重要度熱中症予防において水分摂取は重要である。小児は成人と比較して脱水状態になりやすく、水分摂取量について検討した本CQ の重要度は高い。 (2) 解説熱中症の病態は脱水が深く関与し、体液量や不感蒸泄量などの理由から小児は成人と比較して脱水状態になりやすいため、水分摂取は熱中症予防・治療において重要である。小児
の水分摂取の推奨量はなく、輸液での必要水分量としてHolliday-Segar 法1)などの目安はあるが、脂肪量や暑熱順化の程度、発汗量や尿量などは個人で異なるため、状態に合わせた水分量の調整が必要である2)。乳幼児では成人よりも口渇感を生じにくく、口渇感が無くても水分摂取するよう推奨されている3,4)。運動時は口渇感を感じる前に2~3%の体重減少を来す可能性があり、小児では1~2%の体重減少でも有酸素運動のパフォーマンスが著しく低下すると報告されているため5)、運動時に限らず運動開始前も水分摂取が必要である。運動中の水分摂取量は9~12 歳で20 分毎に100~250mL、中高生では1 時間毎に1~1.5Lが推奨されているが6)、発汗量は運動強度や気象条件により異なるため、こまめな水分摂取を促し、水分を自由に摂取できる環境を整えることが重要であると考える。運動後の水分摂取は運動前後の体重測定が目安になり、約1kg の減少につき480ml の水分摂取を摂取し、2%以上の体重減少が続く場合は活動を控えるべきとする報告もある3)。脱水所見を認める場合は50~100ml/kg を3~4 時間で摂取し再評価を行うが、重度脱水の場合は初期から輸液療法が必要である。 文献 1) Holliday MA, Segar WE. THE MAINTENANCE NEED FOR WATER IN PARENTERAL FLUID THERAPY. Pediatrics 1957;19:823–32.(追加文献) 2) Naughton GA, Carlson JS. Reducing the risk of heat-related decrements to physical activity in young people. J Sci Med Sport 2008;11:58-65. 3) Bytomski JR, Squire DL. Heat illness in children. Curr Sports Med Rep 2003;2:320-4. 4) Wagner C, Boyd K. Pediatric heatstroke. Air Med J 2008;27:118-22. 5) Wilk B, Yuxiu H, Bar-Or OF. EFFECT OF BODY HYPOHYDRATION ON AEROBIC PERFORMANCE OF BOYS WHO EXERCISE IN THE HEAT. Med Sci Sports Exerc 2002;34:S48.(追加文献) 6) Bergeron MF, Devore C, Rice SG. Policy statement-Climatic heat stress and exercising children and adolescents. Pediatrics 2011;128:e741-7.
FRQ5-05 小児の熱中症予防において暑熱順化は有用か? 推奨 推奨決定会議にてFRQ に変更することに満場一致で合意した。 要約 小児熱中症予防に気象情報や運動負荷を加味した暑熱順化プログラムを検討する。 解説 (0)本CQ がFRQ となった経緯(成人FRQ2-2 も参照) PICO を下記としてシステマティックレビューを行った。 ・P:15 歳未満小児・I:暑熱順化有り・C:暑熱順化無し・O:熱中症での死亡率低下、熱中症の入院率の低下、熱中症の発生数の増加 採用した文献は0 件であった。特に、乳幼児向けプログラムや熱耐性試験などの定性的、定量的指標がなく、質の高いエビデンスは認めなかった。しかし、学童期以降の活動レベルの高い年代において、エキスパートオピニオン1-3)、日本スポーツ協会熱中症予防ガイドライン4)、後向き観察研究レベル5-8)で暑熱順化が推奨されている現状を加味し、推奨決定会議では、満場一致で FRQ に変更する方針とした。 (1) 背景及び本CQ の重要度成人FRQ2-2 に準じる。 (2) 解説学童期(6 歳以上)の熱中症予防に暑熱順化は有用であり、特に10 代では運動負荷を要する際に短期暑熱順化を利用することで重症化を予防できるとされる2,3)。暑熱ストレスに対する体温調節反応は、皮膚、血管の拡張による皮膚血流量の増加、発汗中枢の興奮性の向上による発汗量の増加及び発汗潜時の短縮、汗の塩分濃度減少が挙げられる4)。暑熱順化が熱中症を予防しうる根拠として、WBGT の地域差や経時変化と熱中症発症率との関連性を見た研究が挙げられる。国内で平均WBGT が最低である北海道と東京とを比
較すると、10 万人に1 人が熱中症を発症しうるWBGT には約 4 の地域差があり、暑熱順化が日常生活内でも示唆される5)。中井らの報告では、6 月と7 月の熱中症発生時気温・湿度をプロットした結果、暑熱順化が起こっていない6 月は比較的低温環境の30.0°C以下でさえも熱中症が発生する6)。このことから、運動機会での対策に加え、該当地域で急激にWBGT28 を超える前に暑熱順化プログラムを考慮する必要がある。ただし、乳幼児(6 歳未満)を中心としたプログラムのエビデンスはないため、中高生〜成人向けのプログラムを参照として徐々に運動強度や活動時間を増加させる。学童運動競技の国内熱中症発生リスクの高い競技としては、屋内外を問わず競技人口の多い球技と、陸上競技など屋外スポーツが多い3)。熱中症予防のための暑熱順化プログラムは各国で見解の表明1,7)があり、国内では2019 年日本スポーツ協会熱中症予防運動指針が挙げられる8)。具体的な内容として、パフォーマンス前の5〜14 日間の暑熱順化プログラムの遂行が推奨され、トレーニングを3 日間空けない事が望ましい。環境条件や個々の体力を考えて、最大酸素摂取量の50~75%の強度の運動を30~100 分実施し、強度及び運動継続時間は、順化が進むにつれて漸増させる。暑熱順化は1 週間しか効果が無く、永続的では無いことにも注意が必要であること、上述の研究結果同様にトレーニング開始2〜3 週間が熱中症発症リスクの高い期間であることを十分注意して実施する1,2,7)。暑熱順化や個人の熱耐性を推定する試験(熱耐性試験)は活動復帰の参考とされているが、暑熱環境下の労作性熱中症発症の予測や活動保証が得られるものかは結論が出ていない2,9)。上記現状を踏まえ、更なるエビデンスとなる研究成果を積み重ねる必要性がある。 文献 1) Casa DJ, DeMartini JK, Bergeron MF, et al. National Athletic Trainers' Association Position Statement: Exertional Heat Illnesses. J Athl Train 2015;50:986-1000. 2) Adams WM, Hosokawa Y, Casa DJ, et al. Roundtable on Preseason Heat Safety in Secondary School Athletics: Heat Acclimatization. J Athl Train 2021;56:352- 61 3) Roberts WO, Armstrong LE, Sawka MN, et al. ACSM Expert Consensus Statement on Exertional Heat Illness: Recognition, Management, and Return to Activity. Curr Sports Med Rep 2021;20:470-84. 4)川原 貴, 伊藤 静夫, 井上 芳光,他. スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック (第5版). 日本スポーツ協会 2019;:.(追加文献) 5)三宅 康史, 横田 裕行, 奥寺 敬,他. 熱中症の実態調査 日本救急医学会 Heatstroke STUDY2012 最終報告. 日救急医会誌 2014;25:846-62.
6) Ueno S, Hayano D, Noguchi E, et al. Investigating age and regional effects on the relation between the incidence of heat-related ambulance transport and daily maximum temperature or WBGT. Environ Health Prev Med 2021;26:116. 7)中井 誠一. 特集 熱中症 熱中症をめぐる最近の動向と歴史的変遷. 2015;79:366–372.(追加文献) 8)上野 哲. 年齢と体温調節機能との関連性. 日職災医会誌 2016;64:308–18.(追加 文献) 9) Laitano O, Leon LR, Roberts WO, et al. Controversies in exertional heat stroke diagnosis, prevention, and treatment. J Appl Physiol 2019;127:1338-48.
BQ5-06 小児の熱中症の発症のリスク判定に、WBGT は有用か? 推奨 推奨決定会議にてBQ に変更することに満場一致で合意した。 要約 熱中症発症リスクの判定にWBGT は有用である。 解説 (0)本CQ がBQ となった経緯(成人BQ2-3 も参照。) PICO を下記としてシステマティックレビューを行った。 ・P:15 歳未満小児・I:WGBT 測定あり・C:WGBT 測定なし・O:熱中症での死亡率低下、熱中症の入院率の低下、熱中症の発生数の増加 採用した文献は 0 件であった。しかし、成人同様に社会的認知度を加味し、BQ に変更する方針となった。 (1) 背景及び本CQ の重要度成人BQ2-3 に準じるが、熱中症発症には気象条件が重要であり、WBGT による熱中症の発症リスクの精度を明確にすることで、熱中症の発症を減らすことが期待される。 (2) 解説国内のWBGT と小児熱中症発生率や救急搬送率の相関データをまとめた文献が認められたため、本CQ はアウトカムを発生率に絞って論じる。国内主要政令7 都市におけるWBGT 別の100 万人あたりの熱中症救急搬送者数はWBGT25 位から増加が始まり、WBGT30 を超えると急激に増える。0~9 歳が最も低く、10 歳代で上昇し、誘因が学校や運動場でのスポーツによるものが多くなっている1)。オーストラリアで新生児(1 歳未満)を対象に気温やリスク因子と熱中症入院率の関係性の調査で、民族、出生地、暑熱持続時間における熱中症発症リスクは変わらないが、通年気温の97%以上となるWBGT30 を超える場合に入院件数が増加した報告がある (相対リスク 1.05、
(95% CI: 1.01-1.10) 2)。上記からも気温と相関のあるWBGT は熱中症発症リスク因子として利用しうる。しかし、熱中症発生率はFRQ5-5 にあるような暑熱順化を主とした地域要因の影響を強く受け、熱中症発生WBGT 最低の北海道と最高の東京ではWBGT に5 の相違を認めた3)。このような地域差は他国同様にも認められる4)。7-17 歳におけるWBGT28 以上となった場合に救急搬送発生を全域で見られるようになり、WBGT28 未満が日本国内で安全に活動できる指標として考えられる3)。小児に限った他リスク因子は、乳幼児はBQ5-4 で触れたとおり哺乳や飲水可能かどうかも強く影響する。熱中症発生の多い10 歳代は屋外、日向、運動強度を主要リスク因子として追加検討する5)。 文献 1)上野 哲, 早野 大輔, 野口 英一,他. 政令指定都市の救急搬送データを用いた仕事 場を中心とした熱中症の発生場所別分析. 労安全衛研 2021;14:119-128. 2) Zhiwei Xu, James Lewis Crooks, Deborah Black, et al. Heatwave and infants' hospital admissions under different heatwave definitions. 2017;229:525–530. (追加文献) 3) Ueno S, Hayano D, Noguchi E, et al. Investigating age and regional effects on the relation between the incidence of heat-related ambulance transport and daily maximum temperature or WBGT. Environ Health Prev Med 2021;26:116. 4) Fechter-Leggett Ethan D, Vaidyanathan Ambarish, Choudhary Ekta. Heat Stress Illness Emergency Department Visits in National Environmental Public Health Tracking States, 2005-2010. J Community Health 2016;41:57-69. 5)三宅 康史, 横田 裕行, 奥寺 敬,他. 熱中症の実態調査 日本救急医学会 Heatstroke STUDY2012 最終報告. 日救急医会誌 2014;25:846-62.
FRQ5-07 乳幼児の車内閉じ込めによる熱中症を予防するには、どの対策が有用 か? 推奨 推奨決定会議にてFRQ に変更することに満場一致で合意した。 要約 車内温度推移の啓発、車両施錠の安全性確保、車内安全装置設置の対策を講じることで、乳幼児の熱中症は予防可能かを検討する必要性がある。 解説 (0)本CQ がFRQ となった経緯PICO を下記としてシステマティックレビューを行った。・P:15 歳未満小児・I:車内閉じ込めによる熱中症に対する予防策あり・C: 予防策、対策無し・O:熱中症での死亡率低下、熱中症の入院率の低下、熱中症の発生数の増加採用した文献は0 件であった。委員会として推奨・非推奨を示すことはできなかったが、車内閉じ込めによる熱中症に対する予防策の立案は必須であり、本 CQ は FRQ に変更する方針とした。 (1) 背景及び本CQ の重要度2021 年7 月、2022 年9 月に送迎用バスでの幼児の車内閉じ込め死亡事案が発生し、その対策の必要性が社会で共有された。報道で紹介されている通り、閉じ込め対策が提唱されているが、その実効性について検証された文献をレビューすることは重要である。 (2) 解説車内閉じ込めによる乳幼児の熱中症死亡事故発生数は増加しており、近年着目されている。事故の要因として車内温度の急上昇が認知されていないことも挙げられる。前述の国内死亡事案以外にも毎年国内の乳幼児の置き去り死亡事案は発生しており、日本自動車連盟(JAF)で2022 年8 月1 日~8 月31 日の1 カ月間、JAF が出動した「キー閉じこみ」の救援のうち、子どもが車内に残されたままであったケースは全国で51 件であった。保護者の監督不行き届きの場合と、子供が偶然車内閉じ込めに遭う場合とがあり、米国の1998〜
2012 年の統計では前者が多い1)が、インド、ブラジルなどでは後者も多い2,3)。現在の解決策としては車内温度推移の啓発、車両施錠の安全性確保、車内安全装置設置が検討されている4,5)。まず、車内温度の啓発策について現状の対策を検討する。2012 年8 月22,23 日に車内温度推移の実証実験を行ったJAF ユーザーテストを参考とするが、気温35°Cで熱中症指標計を用いてWBGT の推移を算出した結果、エアコン停止からわずか15 分で危険域となる。置き去り予防自動検知も15 分後までとなり、本実験結果と同様の結果が他文献でも示されている1,6)。報告では少なからず保護者の無知による過失的小児置き去りのために発症することも少なくない7)。車両安全基準に関しては、例えば韓国においては、幼稚園バスに押しボタン等の設置を義務付けるなど、事故対策を法制化する動きもある。我が国においては、2022 年10 月12 日に「こどものバス送迎・安全徹底プラン~バス送迎に当たっての安全管理の徹底に関する緊急対策~」が取りまとめられた。同プランにおいては、「誰が運転・乗車するかにかかわらず、バスの乗車・降車時に、幼児等の所在の確認が確実に行われるようにする」ことを目的に、園によるマニュアルの運用等のソフトの対策とともに、ハードの対策として置き去り防止を支援する安全装置について検討することとされた。これを踏まえ、国土交通省において、2022 年12 月20 日に「送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置のガイドライン」が策定され、幼児等の所在の確認が確実に行われるようにするために最低限満たすべき要件等がとりまとめられている。 上記の解決策や啓発活動は、依然エビデンスとなるデータが不足しており、今回検索しうる範囲では、疫学研究や後ろ向き研究に留まった。 現時点では、依然、車内置き去りによる乳幼児の熱中症予防を検討する段階にあり、本ガイドラインでは、これをFRQ として記載を行なうこととした。今後は各省庁が連携した、新たな対策を講じることが待たれる。 文献 1) Tate RC, Selde W. Heat trap. How to treat vehicular hyperthermia in children. JEMS 2013;38:36-38; 40; 42. 2) Gulnaz FS, Mukesh VS, Anubha S, et al. Children Left Unattended in Parked Vehicles in India: An Analysis of 40 Fatalities from 2011 to 2020. J Trop Pediatr 2021;67:fmaa075.(追加文献) 3) Driely C, Andrew G. An Analysis of Children Left Unattended in Parked Motor Vehicles in Brazil. Int J Environ Res Public Health 2016;13:649.(追加文献) 4)日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会. Injury Alert(傷害速報)(No.043) 自動車内への閉じ込めによる傷害. 日小児会誌 2013;117:1826–8.(追加文献)
5) Ho K, Minhas R, Young E, et al. Paediatric hyperthermia-related deaths while entrapped and unattended inside vehicles: The Canadian experience and anticipatory guidance for prevention. Paediatr Child Health 2020;25:143-8. 6) Rossi J. No child locked inside. The role of EMS in raising awareness about the dangers of leaving children in hot vehicles. JEMS 2013;38:44-46. 7) Ferrara P, Vena F, Caporale O, et al. Children left unattended in parked vehicles: a focus on recent italian cases and a review of literature. Ital J Pediatr 2013;39:71.
Supplement HsS2020-23 の報告(速報版) 今回のガイドラインにおいては、深部体温や意識の早期評価に関するエビデンスは渉猟しえなかった。また、IV度とqIV度は、ガイドライン2024 で発表された新たな概念であり、その必要性を検証する文献は存在しない。そこで、このガイドラインでは、IV度とqIV度の有効性を検討するために、HsS2020-23 で収集・解析したデータを速報版として提示する。(今後日本救急医学会雑誌 英文版 Acute Medicine & Surgery に投稿予定) 1 IV度について熱中症で入院した3,146 件のうち、重症度と転帰(院内死亡の有無)が不明な408 例を除外した2,738 件を対象として、IV度に関する分析を行った(Figure.1 参照)。 IV度におけるActive Cooling 実施率は90%以上であった。一方、院内死亡率は、III度(2024)で6.4%であるのに対し、IV度では23.5%であった。肝障害、腎障害、DIC の比率も 登録3146 2020 1082 2021 660 2022 568 2023 836 除外408重症度不明162 転帰不明144 対象2738 I-II 83 III(2024) 2400 IV 255深部体温深部体温深部体温 40.0- 1 40.0- 108 40.0- 255 -39.9 10 -39.9 736 -39.9 0不明・未測定72不明・未測定1556不明・未測定0 Figure.1 HsS2020-23の検討対象例について
重症度が高くなるにしたがって、多くなっていた(Table.1)。また、I-II度の83 例を除外し、III度(2024)とIV度の2,655 例を対象として、単変量解析を行った。従属変数は院内死亡、共変量は重症度(III度(2024)とIV度)としたところ、IV度のIII度(2024)に対するオッズ比は4.5(95%CI:3.24-6.30)となった。以上より、IV度は、Active Cooling 実施率が90%以上であるにもかかわらず、III度(2024)に対する院内死亡のオッズ比が4.5 で、院内死亡率が23.5%にも上る、より重症な状況であることが明らかになった。 熱中症重症度分類(2024) I-II III(2024) IV 83 2400 255 転帰院内死亡0 153 60 0.0% 6.4% 23.5% q重症度IV 0 274 197 0.0% 11.4% 77.3% 不明0 60 13 0.0% 2.5% 5.1% 深部体温40.0- 1 108 255 1.2% 4.5% 100.0% -39.9 10 736 0 12.0% 30.7% 0.0% 不明72 1556 0 86.7% 64.8% 0.0% GCS 3-8 0 427 255 0.0% 17.8% 100.0% 9-14 0 1023 0 0.0% 42.6% 0.0% 15 83 855 0 100.0% 35.6% 0.0% 不明0 95 0 0.0% 4.0% 0.0% 肝障害0 1486 210 0.0% 61.9% 82.4% 不明0 19 1 0.0% 0.8% 0.4% 腎障害0 2054 240 0.0% 85.6% 94.1% 不明0 20 1 0.0% 0.8% 0.4% DIC 0 393 86 0.0% 16.4% 33.7% 不明0 689 140 0.0% 28.7% 54.9% Active Cooling実施25 1285 230 30.1% 53.5% 90.2% Table.1 熱中症重症度分類(2024)の各重症度の比較
2 qIV度について1の対象2,738 例のうち、qIV度に該当する471 例の深部体温毎の転帰とActive Coolingの実施状況の関係をTable.2 にまとめた。 qIV度では、深部体温の不明・未測定例が119 例(25.2%)に上った。深部体温40.0°C以上でActive Cooling の実施状況は90.9%で、院内死亡は21.2%であったのに対して、深部体温未測定例では、Active Cooling の実施状況は63.9%で、院内死亡は37.0%であった。今後は、qIV度に対して、深部体温測定を行い、Active Cooling を含めた集学的治療を進めるべく啓発を行う必要がある。深部体温 -39.9 40.0-不明・未測定 144 208 119 転帰院内死亡16 44 44 11.1% 21.2% 37.0% Active Cooling実施124 189 76 86.1% 90.9% 63.9% Table.2 qIV度の深部体温ごとの転帰とActive Cooling実施状況
本書の文章および図表の著作権は日本救急医学会に帰属する。日本救急医学会の承認を得た場合を除き、本書に記載されている文章および図表の転用や複製を禁ずる。 熱中症診療ガイドライン2024 編 集 日本救急医学会熱中症診療ガイドライン2024 タスクフォース タスクフォース長 神田 潤 発 行2024 年 7 月 24 日一般社団法人日本救急医学会 連絡先 日本救急医学会 熱中症および低体温症に関する委員会〒 113-0033 東京都文京区本郷 3-3-12 ケイズビルディング 3 階 TEL 03-5840-9870 FAX 03-5840-9876